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2 内容の取扱い に当たっての 配慮事項 321 中学校 第3学年 高等学校 入学年次 高等学校 その次の年次以降 領域  自己や仲間の課題を発見し,合理的な解決に向けて 運動の取り組み方を工夫するとともに,自己や仲間の 考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る 体つくり運動  技などの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解決 に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに,自己 の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る 器械運動  動きなどの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解 決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに,自 己の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る 陸上競技  泳法などの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解 決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに,自 己の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る 水泳  攻防などの自己やチームの課題を発見し,合理的な 解決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに, 自己や仲間の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため のチームや自己の課題を発見し,合理的,計 画的な解決に向けて取り組み方を工夫すると ともに,自己やチームの考えたことを他者に 伝える 球技  表現などの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解 決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに,自 己や仲間の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る ダンス  攻防などの自己や仲間の課題を発見し,合理的な解 決に向けて運動の取り組み方を工夫するとともに,自 己の考えたことを他者に伝える  生涯にわたって運動を豊かに継続するため の自己や仲間の課題を発見し,合理的,計画 的な解決に向けて取り組み方を工夫するとと もに,自己や仲間の考えたことを他者に伝え る 武道  文化としてのスポーツ の意義について, 自己の課 題を発見し, よりよい解決 に向けて思考し判断する とともに,他者に伝える  スポーツの文化的特性 や現代のスポーツの発展 について,課題を発見し, よりよい解決に向けて思 考し判断するとともに, 他 者に伝える  運動やスポーツの効果的な学習の仕方につ いて,課題を発見し,よりよい解決に向けて 思考し判断するとともに,他者に伝える 体育理論  豊かなスポーツライフの設計の仕方につい て,課題を発見し,よりよい解決に向けて思 考し判断するとともに,他者に伝える  (系統が見やすいよう,領域の順序を入れ替えている。 )
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第3章   各科目にわたる 指導計画の作成 と内容の取扱い 322 運動領域,体育分野,科目体育の「学びに向かう力,人間性等」系統表 領域 小学校 第5学年及び第6学年 中学校 第1学年及び第2学年 体つくり運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ 約束を守り助け合って運動をする ・仲間の考えや取組を認める ・場や用具の安全に気を配る ・体つくり運動に積極的に取り組む ・仲間の学習を援助しようとする ・一人一人の違いに応じた動きなどを認めようとする ・話合いに参加しようとする ・健康・安全に気を配る 器械運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ 約束を守り助け合って運動をする ・仲間の考えや取組を認める ・場や器械・器具の安全に気を配る ・器械運動に積極的に取り組む ・よい演技を認めようとする ・仲間の学習を援助しようとする ・一人一人の違いに応じた課題や挑戦を認めようとする ・健康・安全に気を配る 陸上運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ 約束を守り助け合って運動をする ・勝敗を受け入れる ・仲間の考えや取組を認める ・場や用具の安全に気を配る ・陸上競技に積極的に取り組む ・勝敗などを認め,ルールやマナーを守ろうとする ・分担した役割を果たそうとする ・一人一人の違いに応じた課題や挑戦を認めようとする ・健康・安全に気を配る 水泳運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ 約束を守り助け合って運動をする ・仲間の考えや取組を認める ・ 水泳運動の心得を守って安全に気を配る ・水泳に積極的に取り組む ・勝敗などを認め,ルールやマナーを守ろうとする ・分担した役割を果たそうとする ・一人一人の違いに応じた課題や挑戦を認めようとする ・ 水泳の事故防止に関する心得を遵守するなど健康・安全に 気を配る ボール運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ ルールを守り助け合って運動をする ・勝敗を受け入れる ・仲間の考えや取組を認める ・場や用具の安全に気を配る ・球技に積極的に取り組む ・フェアなプレイを守ろうとする ・作戦などについての話合いに参加しようとする ・一人一人の違いに応じたプレイなどを認めようとする ・仲間の学習を援助しようとする ・健康・安全に気を配る 表現運動系 ・運動に積極的に取り組む ・ 互いのよさを認め合い助け合って踊る ・場の安全に気を配る ・ダンスに積極的に取り組む ・仲間の学習を援助しようとする ・交流などの話合いに参加しようとする ・一人一人の違いに応じた表現や役割を認めようとする ・健康・安全に気を配る 武道 ・武道に積極的に取り組む ・相手を尊重し,伝統的な行動の仕方を守ろうとする ・分担した役割を果たそうとする ・一人一人の違いに応じた課題や挑戦を認めようとする ・禁じ技を用いないなど健康・安全に気を配る 体育理論 ・ 運動やスポーツが多様であることについての学習に積極的 に取り組む ・ 運動やスポーツの意義や効果と学び方や安全な行い方につ いての学習に積極的に取り組む
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2 内容の取扱い に当たっての 配慮事項 323 中学校 第3学年 高等学校 入学年次 高等学校 その次の年次以降 領域 ・体つくり運動に自主的に取り組む ・互いに助け合い教え合おうとする ・ 一人一人の違いに応じた動きなどを大切にしようとする ・話合いに貢献しようとする ・健康・安全を確保する ・体つくり運動に主体的に取り組む ・互いに助け合い高め合おうとする ・ 一人一人の違いに応じた動きなどを大切に しようとする ・合意形成に貢献しようとする ・健康・安全を確保する 体つくり運動 ・器械運動に自主的に取り組む ・よい演技を讃えようとする ・互いに助け合い教え合おうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切にしようとする ・健康・安全を確保する ・器械運動に主体的に取り組む ・よい演技を讃えようとする ・互いに助け合い高め合おうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切 にしようとする ・健康・安全を確保する 器械運動 ・陸上競技に自主的に取り組む ・ 勝敗などを冷静に受け止め,ルールやマナーを大切にしよ うとする ・自己の責任を果たそうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切にしようとする ・健康・安全を確保する ・陸上競技に主体的に取り組む ・ 勝敗などを冷静に受け止め,ルールやマナ ーを大切にしようとする ・ 役割を積極的に引き受け自己の責任を果た そうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切 にしようとする ・健康・安全を確保する 陸上競技 ・水泳に自主的に取り組む ・ 勝敗などを冷静に受け止め,ルールやマナーを大切にしよ うとする ・自己の責任を果たそうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切にしようとする ・ 水泳の事故防止に関する心得を遵守するなど健康・安全を 確保する ・水泳に主体的に取り組む ・ 勝敗などを冷静に受け止め,ルールやマナ ーを大切にしようとする ・ 役割を積極的に引き受け自己の責任を果た そうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切 にしようとする ・ 水泳の事故防止に関する心得を遵守するな ど健康・安全を確保する 水泳 ・球技に自主的に取り組む ・フェアなプレイを大切にしようとする ・作戦などについての話合いに貢献しようとする ・ 一人一人の違いに応じたプレイなどを大切にしようとする ・互いに助け合い教え合おうとする ・健康・安全を確保する ・球技に主体的に取り組む ・フェアなプレイを大切にしようとする ・合意形成に貢献しようとする ・ 一人一人の違いに応じたプレイなどを大切 にしようとする ・互いに助け合い高め合おうとする ・健康・安全を確保する 球技 ・ダンスに自主的に取り組む ・互いに助け合い教え合おうとする ・作品や発表などの話合いに貢献しようとする ・ 一人一人の違いに応じた表現や役割を大切にしようとする ・健康・安全を確保する ・ダンスに主体的に取り組む ・互いに共感し高め合おうとする ・合意形成に貢献しようとする ・ 一人一人の違いに応じた表現や役割を大切 にしようとする ・健康・安全を確保する ダンス ・武道に自主的に取り組む ・ 相手を尊重し,伝統的な行動の仕方を大切にしようとする ・自己の責任を果たそうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切にしようとする ・健康・安全を確保する ・武道に主体的に取り組む ・ 相手を尊重し,礼法などの伝統的な行動の 仕方を大切にしようとする ・ 役割を積極的に引き受け自己の責任を果た そうとする ・ 一人一人の違いに応じた課題や挑戦を大切 にしようとする ・健康・安全を確保する 武道 ・ 文化としてのスポーツの意 義についての学習に自主的 に取り組む ・ スポーツの文化的特性や現 代のスポーツの発展につい ての学習に自主的に取り組 む ・ 運動やスポーツの効果的な学習の仕方につ いての学習に主体的に取り組む 体育理論 ・ 豊かなスポーツライフの設計の仕方につい ての学習に主体的に取り組む (系統が見やすいよう,領域の順序を入れ替えている。 )
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第3章   各科目にわたる 指導計画の作成 と内容の取扱い 324 保健領域,保健分野,科目保健の「知識及び技能」系統表 小学校 第5学年 小学校 第6学年 中学校 第1学年 中学校 第2学年 保健領域・保健分野 ア  心の発達及び不安や 悩みへの対処について 理解するとともに,簡 単な対処をすること。   (ア)心の発達   (イ )心と体との密接な 関係   (ウ )不安や悩みなどへ の対処の知識及び技 能 ア  病気の予防について理 解すること。   (ア)病気の起こり方   (イ )病原体が主な要因と なって起こる病気の予 防   ・ 病原体が体に入るの を防ぐこと   ・ 病原体に対する体の 抵抗力を高めること   (ウ )生活習慣病など生活 行動が主な要因となっ て起こる病気の予防   ・ 適切な運動,栄養の 偏りのない食事をと ること   ・ 口腔の衛生を保つこ と   (エ )喫煙,飲酒,薬物乱 用と健康   ・健康を損なう原因   (オ )地域の保健に関わる 様々な活動 ア  健康な生活と疾 病の予防について 理解を深めること。   (ア )健康は,主体と 環境の相互作用 の下に成り立っ ていること。ま た,疾病は,主体 の要因と環境の 要因が関わり合 って発生するこ と。   (イ )年齢,生活環境 等に応じた運動, 食事,休養及び睡 眠の調和のとれ た生活 ア  健康な生活と疾病の予 防について理解を深める こと。   (ウ )生活習慣病などの予 防   ・ 運動不足,食事の量 や質の偏り,休養や 睡眠の不足などの生 活習慣の乱れが主な 要因   ・ 適切な運動, 食事, 休 養及び睡眠の調和の とれた生活の実践   (エ )喫煙,飲酒,薬物乱 用と健康   ・ 心身に様々な影響   ・ 健康を損なう原因   ・ 個人の心理状態や人 間関係,社会環境が 影響 ア  けがの防止に関する 次の事項を理解すると ともに,けがなどの簡 単な手当をすること。   (ア )交通事故や身の回 りの生活の危険が原 因となって起こるけ がの防止   ・ 周囲の危険に気付 くこと   ・ 的確な判断の下に 安全に行動するこ と   ・ 環境を安全に整え ること   (イ )けがなどの簡単な 手当の知識及び技能 ア  心身の機能の発 達と心の健康につ いて理解を深める とともに,ストレス への対処をするこ と。   (ア )身体機能の発達 と個人差   (イ )生殖に関わる機 能の成熟と適切 な行動   (ウ )精神機能の発達 と自己形成   (エ )欲求やストレス の心身への影響 と欲求やストレ スへの対処の知 識及び技能 ア  傷害の防止について理 解を深めるとともに,応 急手当をすること。   (ア )交通事故や自然災害 などによる傷害は,人 的要因や環境要因など が関わって発生するこ と。   (イ )交通事故などによる 傷害の防止   ・安全な行動   ・環境の改善   (ウ )自然災害による傷害 の防止   ・ 災害発生時と二次災 害   ・ 災害に備えておくこ と   ・安全に避難すること   (エ)応急手当   ・傷害の悪化の防止   ・ 心肺蘇生法などの応 急手当の知識及び技 能
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2 内容の取扱い に当たっての 配慮事項 325 中学校 第3学年 高等学校 入学年次及び次の年次 ア  健康な生活と疾病の予防について理解 を深めること。   (オ)感染症の予防   ・病原体が主な要因   ・発生源をなくすこと   ・感染経路を遮断すること   ・主体の抵抗力を高めること   (カ )健康の保持増進や疾病の予防のため の個人や社会の取組   ・保健・医療機関の有効利用   ・医薬品の正しい使用 ア 現代社会と健康について理解を深めること。   (ア)健康の考え方   ・国民の健康課題   ・主体と環境の相互作用   (イ)現代の感染症とその予防   ・ 個人の取組及び社会的な対策   (ウ)生活習慣病などの予防と回復   ・ 運動,食事,休養及び睡眠の調和のとれた生活   ・ 疾病の早期発見及び社会的な対策   (エ)喫煙,飲酒,薬物乱用と健康   ・個人や社会環境への対策   (オ)精神疾患の予防と回復   ・ 運動,食事,休養及び睡眠の調和のとれた生活   ・疾病の早期発見及び社会的な対策 保健分野・科目保健 ア 健康と環境について理解を深めること。   (ア )身体の適応能力とそれを超えた環境 による健康に影響,快適で能率のよい 生活を送る環境の範囲   (イ )飲料水や空気と健康との関わり,飲 料水や空気の衛生的管理   (ウ )生活によって生じた廃棄物の衛生的 な処理 ア  安全な社会生活について理解を深めるとともに,応急手当 を適切にすること。   (ア)安全な社会づくり   ・環境の整備と個人の取組   (イ)応急手当   ・傷害や疾病の悪化の軽減   ・正しい手順や方法   ・応急手当の速やかな実施 ア 生涯を通じる健康について理解を深めること。   (ア)生涯の各段階における健康   ・ 生涯の各段階の健康課題に応じた自己の健康管理及び環 境づくり   (イ)労働と健康   ・ 労働環境の変化に起因する傷害や職業病などを踏まえた 適切な健康管理及び安全管理 ア  健康を支える環境づくりについて理解を深めること。   (ア)環境と健康   ・ 人間の生活や産業活動は,自然環境を汚染し健康に影響 を及ぼすこと   ・ 学校や地域の環境を健康に適したものとするよう基準が 設定されていること   (イ)食品と健康   ・ 食品の安全性を確保する基準の設定   (ウ )保健・医療制度及び地域の保健・医療機関   ・ 保健・医療制度や地域の保健所,保健センター,医療機 関などを適切な活用   ・医薬品の有効性や安全性の審査   ・販売には制限があること   ・疾病からの回復や悪化の防止   ・医薬品の正しい使用   (オ )健康に関する環境づくりと社会参加   ・健康に関する環境づくり   ・適切な健康情報の活用
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第3章   各科目にわたる 指導計画の作成 と内容の取扱い 326 保健領域,保健分野,科目保健の「思考力,判断力,表現力等」系統表 小学校 第5学年 小学校 第6学年 中学校 第1学年 中学校 第2学年 保健領域・保健分野 イ  心の健康について, 課題を見付け,その解 決に向けて思考し判断 するとともに,それら を表現すること。 イ  病気を予防するため に,課題を見付け,そ の解決に向けて思考し 判断するとともに,そ れらを表現すること。 イ  健康な生活と疾病の 予防について,課題を 発見し,その解決に向 けて思考し判断すると ともに,それらを表現 すること。 イ  健康な生活と疾病の 予防について,課題を 発見し,その解決に向 けて思考し判断すると ともに,それらを表現 すること。 イ  けがを防止するため に,危険の予測や回避 の方法を考え,それら を表現すること。 イ  心身の機能の発達と 心の健康について,課 題を発見し,その解決 に向けて思考し判断す るとともに,それらを 表現すること。 イ  傷害の防止について, 危険の予測やその回避 の方法を考え,それら を表現すること。
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2 内容の取扱い に当たっての 配慮事項 327 中学校 第3学年 高等学校 入学年次及び次の年次 イ  健康な生活と疾病の予防について,課題を発見 し, その解決に向けて思考し判断するとともに, そ れらを表現すること。 イ  安全な社会生活について,安全に関する原則や 概念に着目して危険の予測やその回避の方法を考 え,それらを表現すること。 保健分野・科目保健 イ  健康と環境に関する情報から課題を発見し,そ の解決に向けて思考し判断するとともに,それら を表現すること。 イ  安全な社会生活について,安全に関する原則や 概念に着目して危険の予測やその回避の方法を考 え,それらを表現すること。 イ  生涯を通じる健康に関する情報から課題を発見 し,健康に関する原則や概念に着目して解決の方 法を思考し判断するとともに,それらを表現する こと。 イ  健康を支える環境づくりに関する情報から課題 を発見し,健康に関する原則や概念に着目して解 決の方法を思考し判断するとともに,それらを表 現すること。
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数学編 理数編 高等学校学習指導要領 (平成30 年告示) 解説 平成30 年7 月
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ま え が き  文部科学省では,平成30 年3 月30 日に学校教育法施行規則の一部改正と高等学校学習 指導要領の改訂を行った。新高等学校学習指導要領等は平成34 年度から年次進行で実施 することとし,平成31 年度から一部を移行措置として先行して実施することとしている。  今回の改訂は,平成28 年12 月の中央教育審議会答申を踏まえ,  ①  教育基本法,学校教育法などを踏まえ,これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積 を生かし,生徒が未来社会を切り拓 ひら くための資質・能力を一層確実に育成することを 目指す。その際,求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に 開かれた教育課程」を重視すること。  ②  知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成とのバランスを重視する平 成21 年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を 更に高め,確かな学力を育成すること。  ③  道徳教育の充実や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな 心や健やかな体を育成すること。 を基本的なねらいとして行った。  本書は,大綱的な基準である学習指導要領の記述の意味や解釈などの詳細について説明 するために,文部科学省が作成するものであり,高等学校学習指導要領第2 章第4 節「数 学」及び第3 章第9 節「理数」について,その改善の趣旨や内容を解説している。  各学校においては,本書を御活用いただき,学習指導要領等についての理解を深め,創 意工夫を生かした特色ある教育課程を編成・実施されるようお願いしたい。  むすびに,本書「高等学校学習指導要領解説数学編 理数編」の作成に御協力くださっ た各位に対し,心から感謝の意を表する次第である。   平成30 年7 月 文部科学省初等中等教育局長         橋 道 和  
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第1部 数学編 第1章 総説… ………………………………………………………………   1     ●    第1節 改訂の経緯及び基本方針… …………………………………   1 1 改訂の経緯… ……………………………………………………   1 2 改訂の基本方針… ………………………………………………   2     ●    第2節 数学科改訂の趣旨及び要点… ………………………………   6 1 数学科改訂の趣旨… ……………………………………………   6 2 数学科改訂の要点… ………………………………………………  8     ●    第3節 数学科の目標… ………………………………………………  23     ●    第4節 数学科の科目編成… …………………………………………  31 1 科目の編成… ……………………………………………………  31 2 科目の履修… ……………………………………………………  31 第2章 各科目… ……………………………………………………………  32     ●    第1節 数学Ⅰ… ………………………………………………………  32 1 性格… ……………………………………………………………  32 2 目標… ……………………………………………………………  32 3 内容と内容の取扱い… …………………………………………  34   (1)数と式… ………………………………………………………  34   (2)図形と計量… …………………………………………………  37   (3)二次関数… ……………………………………………………  41   (4)データの分析… ………………………………………………  43   [課題学習] … ………………………………………………………  49     ●    第2節 数学Ⅱ… ………………………………………………………  52 1 性格… ……………………………………………………………  52 2 目標… ……………………………………………………………  52 3 内容と内容の取扱い… …………………………………………  54   (1)いろいろな式… ………………………………………………  54   (2)図形と方程式… ………………………………………………  57   (3)指数関数・対数関数… ………………………………………  59   (4)三角関数… ……………………………………………………  62   (5)微分・積分の考え… …………………………………………  64   [課題学習] … ………………………………………………………  67     ●    第3節 数学Ⅲ… ………………………………………………………  71 1 性格… ……………………………………………………………  71
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2 目標… ……………………………………………………………  71 3 内容と内容の取扱い… …………………………………………  72   (1)極限… …………………………………………………………  72   (2)微分法… ………………………………………………………  76   (3)積分法… ………………………………………………………  79   [課題学習] … ………………………………………………………  82     ●    第4節 数学A… ………………………………………………………  86 1 性格… ……………………………………………………………  86 2 目標… ……………………………………………………………  86 3 内容と内容の取扱い… …………………………………………  88   (1)図形の性質… …………………………………………………  88   (2)場合の数と確率… ……………………………………………  91   (3)数学と人間の活動… …………………………………………  96   (4)履修上の注意事項… …………………………………………  99     ●    第5節 数学B… ……………………………………………………… 100 1 性格… …………………………………………………………… 100 2 目標… …………………………………………………………… 100 3 内容と内容の取扱い… ………………………………………… 102   (1)数列… ………………………………………………………… 102   (2)統計的な推測… ……………………………………………… 104   (3)数学と社会生活… …………………………………………… 110   (4)履修上の注意事項… ………………………………………… 113     ●    第6節 数学C… ……………………………………………………… 115 1 性格… …………………………………………………………… 115 2 目標… …………………………………………………………… 115 3 内容と内容の取扱い… ………………………………………… 117   (1)ベクトル… …………………………………………………… 117   (2)平面上の曲線と複素数平面… ……………………………… 120   (3)数学的な表現の工夫… ……………………………………… 125   (4)履修上の注意事項… ………………………………………… 128 第3章 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い… …………… 129     ●    第1節 指導計画作成上の配慮事項… ……………………………… 129 1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善… …… 129
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2  各科目の履修に関する配慮事項 (順序,系統性への配慮) … …………………………………… 130 3 教科内の科目相互・他教科等との関連… …………………… 131 4 障害のある生徒などへの指導… ……………………………… 132     ●    第2節 内容の取扱いに当たっての配慮事項… …………………… 133 1 言語活動… ……………………………………………………… 133 2 情報機器の活用等に関する配慮事項… ……………………… 133 3 用語・記号… …………………………………………………… 134 4 数学的活動の取組に関わる配慮事項… ……………………… 134     ●    第3節 総則に関連する事項… ……………………………………… 136 1  道徳教育との関連 (第1章総則第1款2 (2) の2段目) …………………………… 136 2 学校設定科目(第1章総則第2款3 (1) エ) … ……………… 136 3  必履修教科・科目の減単位 (第1章総則第2款3 (2) ア (ア) ) ……………………………… 137 4  学習指導要領で示されている内容を適切に選択して指導 する場合の配慮事項(第1章総則第2款3 (5) エ) … ……… 137 5  義務教育段階での学習内容の確実な定着 (総則第2款の4の (2) ) ………………………………………… 138
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第2部 主として専門学科において開設される教科「理数」編………… 141 第1章 総説… ……………………………………………………………… 143     ●    第1節 改訂の経緯及び基本方針… ………………………………… 143 1 改訂の経緯… …………………………………………………… 143 2 改訂の基本方針… ……………………………………………… 144     ●    第2節 理数科改訂の趣旨及び要点… ……………………………… 148 1 理数科改訂の趣旨… …………………………………………… 148 2 理数科改訂の要点… …………………………………………… 152     ●    第3節 理数科の目標… ……………………………………………… 154     ●    第4節 理数科の科目編成… ………………………………………… 155 1 科目の編成… …………………………………………………… 155 2 科目の履修… …………………………………………………… 155 第2章 理数科の各科目… ………………………………………………… 159     ●    第1節 理数数学Ⅰ… ………………………………………………… 159 1 性格… …………………………………………………………… 159 2 目標… …………………………………………………………… 159 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 159     ●    第2節 理数数学Ⅱ… ………………………………………………… 163 1 性格… …………………………………………………………… 163 2 目標… …………………………………………………………… 163 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 163     ●    第3節 理数数学特論… ……………………………………………… 168 1 性格… …………………………………………………………… 168 2 目標… …………………………………………………………… 168 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 168     ●    第4節 理数物理… …………………………………………………… 173 1 性格… …………………………………………………………… 173 2 目標… …………………………………………………………… 173 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 174     ●    第5節 理数化学… …………………………………………………… 177 1 性格… …………………………………………………………… 177 2 目標… …………………………………………………………… 177 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 178
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    ●    第6節 理数生物… …………………………………………………… 181 1 性格… …………………………………………………………… 181 2 目標… …………………………………………………………… 181 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 182     ●    第7節 理数地学… …………………………………………………… 185 1 性格… …………………………………………………………… 185 2 目標… …………………………………………………………… 185 3 内容とその取扱い… …………………………………………… 186 第3章 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い… …………… 189 1 指導計画作成上の配慮事項… ………………………………… 189   (1)主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善… … 189   (2)数学的分野における科目の原則履修… …………………… 190   (3)理科的分野における科目の原則履修… …………………… 190   (4)数学的分野における科目の履修順序… …………………… 191   (5)教科内の科目相互・他教科等との関連… ………………… 191   (6)障害のある生徒などへの指導… …………………………… 191 2 内容の取扱いに当たっての配慮事項… ……………………… 192   (1)数学的分野における科目の配慮事項… …………………… 192   (2)理科的分野における科目の配慮事項… …………………… 193   (3)生命の尊重と自然環境の保全… …………………………… 193   (4)コンピュータなどの活用… ………………………………… 194   (5)体験的な学習活動の充実… ………………………………… 194   (6)博物館や科学学習センターなどとの連携… ……………… 195   (7)科学技術と日常生活や社会との関連… …………………… 195   (8)事故防止,薬品などの管理及び廃棄物の処理… ………… 196
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付録… ………………………………………………………………………… 199  ●    付録1:学校教育法施行規則(抄) ………………………………… 200  ●    付録2:高等学校学習指導要領 第1章 総則… ………………… 205  ●    付録3:高等学校学習指導要領 第2章 第4節 数学… ……… 223  ●    付録4:高等学校学習指導要領 第2章 第5節 理科… ……… 238  ●    付録5:高等学校学習指導要領 第3章 第9節 理数… ……… 272  ●    付録6:高等学校学習指導要領 第2章 第11 節 理数… …… 281  ●    付録7:高等学校学習指導要領 第2章 第10 節 情報… …… 285  ●    付録8:中学校学習指導要領 第2章 第3節 数学… ………… 292  ●    付録9: 小・中学校における「道徳の内容」の学年段階・ 学校段階の一覧表… ………………………………………… 304
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数 学 編 第1部
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1 1 改訂の経緯 及び基本方 針  今の子供たちやこれから誕生する子供たちが,成人して社会で活躍する頃には,我が国 は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少,グローバル化の進 展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化してお り,予測が困難な時代となっている。また,急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎え た我が国にあっては,一人一人が持続可能な社会の担い手として,その多様性を原動力と し,質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくこと が期待される。  こうした変化の一つとして,進化した人工知能(AI)が様々な判断を行ったり,身近 な物の働きがインターネット経由で最適化されるIoT が広がったりするなど,Society5.0 とも呼ばれる新たな時代の到来が,社会や生活を大きく変えていくとの予測もなされてい る。また,情報化やグローバル化が進展する社会においては,多様な事象が複雑さを増し, 変化の先行きを見通すことが一層難しくなってきている。そうした予測困難な時代を迎え る中で,選挙権年齢が引き下げられ,更に平成34(2022)年度からは成年年齢が18 歳へ と引き下げられることに伴い,高校生にとって政治や社会は一層身近なものとなるととも に,自ら考え,積極的に国家や社会の形成に参画する環境が整いつつある。  このような時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い, 他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を 実現し,情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中 で目的を再構築することができるようにすることが求められている。  このことは,本来我が国の学校教育が大切にしてきたことであるものの,教師の世代交 代が進むと同時に,学校内における教師の世代間のバランスが変化し,教育に関わる様々 な経験や知見をどのように継承していくかが課題となり,子供たちを取り巻く環境の変化 により学校が抱える課題も複雑化・困難化する中で,これまでどおり学校の工夫だけにそ の実現を委ねることは困難になってきている。  こうした状況の下で,平成26 年11 月には,文部科学大臣から,新しい時代にふさわし い学習指導要領等の在り方について中央教育審議会に諮問を行った。中央教育審議会にお いては, 2 年1 か月にわたる審議の末,平成28 年12 月21 日に「幼稚園,小学校,中学校, 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申) 」 (以下「平成28 年12 月の中央教育審議会答申」という。 )を示した。  平成28 年12 月の中央教育審議会答申においては, “よりよい学校教育を通じてよりよ い社会を創る”という目標を学校と社会が共有し,連携・協働しながら,新しい時代に求 められる資質・能力を子供たちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現を目指し,学習 第1 節 改訂の経緯及び基本方針 1 改訂の経緯 第1 章 総 説
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2 第1章 総 説 指導要領等が,学校,家庭,地域の関係者が幅広く共有し活用できる「学びの地図」とし ての役割を果たすことができるよう,次の6 点にわたってその枠組みを改善するとともに, 各学校において教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラ ム・マネジメント」の実現を目指すことなどが求められた。 ①  「何ができるようになるか」 (育成を目指す資質・能力) ②   「何を学ぶか」 (教科等を学ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教 育課程の編成) ③  「どのように学ぶか」 (各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実) ④  「子供一人一人の発達をどのように支援するか」 (子供の発達を踏まえた指導) ⑤  「何が身に付いたか」 (学習評価の充実) ⑥  「実施するために何が必要か」 (学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)  これを踏まえ,文部科学省においては,平成29 年3 月31 日に幼稚園教育要領,小学校 学習指導要領及び中学校学習指導要領を,また,同年4 月28 日に特別支援学校幼稚部教 育要領及び小学部・中学部学習指導要領を公示した。  高等学校については,平成30 年3 月30 日に,高等学校学習指導要領を公示するととも に,学校教育法施行規則の関係規定について改正を行ったところであり,今後,平成34 (2022)年4 月1 日以降に高等学校の第1 学年に入学した生徒(単位制による課程にあっ ては,同日以降入学した生徒(学校教育法施行規則第91 条の規定により入学した生徒で 同日前に入学した生徒に係る教育課程により履修するものを除く。 ) )から年次進行により 段階的に適用することとしている。また,それに先立って,新学習指導要領に円滑に移行 するための措置(移行措置)を実施することとしている。  今回の改訂は平成28 年12 月の中央教育審議会答申を踏まえ,次の基本方針に基づき 行った。 (1)今回の改訂の基本的な考え方  ①  教育基本法,学校教育法などを踏まえ,これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積 を生かし,生徒が未来社会を切り拓 ひら くための資質・能力を一層確実に育成することを 目指す。その際,求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に 開かれた教育課程」を重視すること。  ②  知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成とのバランスを重視する平 成21 年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を 更に高め,確かな学力を育成すること。  ③  道徳教育の充実や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな 心や健やかな体を育成すること。 2 改訂の基本方針
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3 1 改訂の経緯 及び基本方 針 (2)育成を目指す資質・能力の明確化  平成28 年12 月の中央教育審議会答申においては,予測困難な社会の変化に主体的に関 わり,感性を豊かに働かせながら,どのような未来を創っていくのか,どのように社会や 人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え,自らの可能性を発揮し,より よい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要であるこ と,こうした力は全く新しい力ということではなく学校教育が長年その育成を目指してき た「生きる力」であることを改めて捉え直し,学校教育がしっかりとその強みを発揮でき るようにしていくことが必要とされた。また,汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮 流を踏まえつつ,知識及び技能と思考力,判断力,表現力等とをバランスよく育成してき た我が国の学校教育の蓄積を生かしていくことが重要とされた。  このため「生きる力」をより具体化し,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力 を,ア「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得) 」 ,イ 「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判 断力・表現力等」の育成) 」 ,ウ「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか (学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵 かん 養) 」の三つの柱 に整理するとともに,各教科等の目標や内容についても,この三つの柱に基づく再整理を 図るよう提言がなされた。  今回の改訂では,知・徳・体にわたる「生きる力」を生徒に育むために「何のために学 ぶのか」という各教科等を学ぶ意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の 改善を引き出していくことができるようにするため,全ての教科等の目標や内容を「知識 及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で再 整理した。 (3) 「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進  子供たちが,学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代 に求められる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的に学び続けることができるよ うにするためには,これまでの学校教育の蓄積も生かしながら,学習の質を一層高める授 業改善の取組を活性化していくことが必要である。  特に,高等学校教育については,大学入学者選抜や資格の在り方等の外部要因によって, その教育の在り方が規定されてしまい,目指すべき教育改革が進めにくいと指摘されてき たところであるが,今回の改訂は,高大接続改革という,高等学校教育を含む初等中等教 育改革と,大学教育の改革,そして両者をつなぐ大学入学者選抜改革という一体的な改革 や,更に,キャリア教育の視点で学校と社会の接続を目指す中で実施されるものである。 改めて,高等学校学習指導要領の定めるところに従い,各高等学校において生徒が卒業ま でに身に付けるべきものとされる資質・能力を育成していくために,どのようにしてこれ までの授業の在り方を改善していくべきかを,各学校や教師が考える必要がある。  また,選挙権年齢及び成年年齢が18 歳に引き下げられ,生徒にとって政治や社会が一 層身近なものとなる中,高等学校においては,生徒一人一人に社会で求められる資質・能
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4 第1章 総 説 力を育み,生涯にわたって探究を深める未来の創り手として送り出していくことが,これ まで以上に重要となっている。 「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善(ア クティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)とは,我が国の優れた教育実践に見られ る普遍的な視点を学習指導要領に明確な形で規定したものである。  今回の改訂では,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進める際の指導 上の配慮事項を総則に記載するとともに,各教科等の「第3 款 各科目にわたる指導計画 の作成と内容の取扱い」等において,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して, その中で育む資質・能力の育成に向けて,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業 改善を進めることを示した。  その際,以下の点に留意して取り組むことが重要である。 ①  授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,生徒に目指す資質・能力を育 むために「主体的な学び」 , 「対話的な学び」 , 「深い学び」の視点で,授業改善を進める ものであること。 ②  各教科等において通常行われている学習活動(言語活動,観察・実験,問題解決的な 学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること。 ③      1 回1 回の授業で全ての学びが実現されるものではなく,単元や題材など内容や時間 のまとまりの中で,学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか,グループなどで対 話する場面をどこに設定するか,生徒が考える場面と教師が教える場面とをどのように 組み立てるかを考え,実現を図っていくものであること。 ④  深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になること。各教科等の 「見方・考え方」は, 「どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していく のか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ 本質的な意義の中核をなすものであり,教科等の学習と社会をつなぐものであることか ら,生徒が学習や人生において「見方・考え方」を自在に働かせることができるように することにこそ,教師の専門性が発揮されることが求められること。 ⑤  基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合には,それを身に付けさせる ために,生徒の学びを深めたり主体性を引き出したりといった工夫を重ねながら,確実 な習得を図ることを重視すること。 (4)各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進  各学校においては,教科等の目標や内容を見通し,特に学習の基盤となる資質・能力 (言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。以下同じ。 ) ,問題発見・解決能力等)や 現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のために教科等横断的な学習を充 実することや,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を単元や題材など内容 や時間のまとまりを見通して行うことが求められる。これらの取組の実現のためには,学 校全体として,生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育内容や時間の配分,必要な 人的・物的体制の確保,教育課程の実施状況に基づく改善などを通して,教育活動の質を 向上させ,学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求めら
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5 1 改訂の経緯 及び基本方 針 れる。  このため,総則において, 「生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目 標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の 実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な 体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織 的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マ ネジメント」という。 )に努める」ことについて新たに示した。 (5)教育内容の主な改善事項  このほか,言語能力の確実な育成,理数教育の充実,伝統や文化に関する教育の充実, 道徳教育の充実,外国語教育の充実,職業教育の充実などについて,総則や各教科・科目 等(各教科・科目,総合的な探究の時間及び特別活動をいう。以下同じ。 )において,そ の特質に応じて内容やその取扱いの充実を図った。
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6 第1章 総 説  平成28 年12 月の中央教育審議会答申では,各教科の目標や内容等に関する主な改善事 項が示されており,このたびの高等学校数学科の改訂は,これを踏まえて行われたもので ある。  高等学校数学科においては,数学的に考える資質・能力の育成を目指す観点から,現実 の世界と数学の世界における問題発見・解決の過程を学習過程に反映させることを意図し て数学的活動の一層の充実を図った。また,社会生活などの様々な場面において,必要な データを収集して分析し,その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりするこ とが求められており,そのような資質・能力を育成するため,統計的な内容等の改善・充 実を図った。このような改訂の方向は,現在,米国等で推進が図られているSTEM 教育 の動きと同一の方向であると考えられる。 (1)現行学習指導要領の成果と課題  平成28 年12 月の中央教育審議会答申では,算数科・数学科における平成20・21 年改 訂の学習指導要領の成果と課題について,次のように示されている。  今回の改訂では,これらの課題に適切に対応できるよう改善を図った。 第2 節 数学科改訂の趣旨及び要点 1 数学科改訂の趣旨 ○  現行の学習指導要領により,PISA2015 では,数学的リテラシーの平均得点は国 際的に見ると高く,引き続き上位グループに位置しているなどの成果が見られるが, 学力の上位層の割合はトップレベルの国・地域よりも低い結果となっている。また, TIMSS2015 では,小・中学生の算数・数学の平均得点は平成7 年(1995 年)以降 の調査において最も良好な結果になっているとともに,中学生は数学を学ぶ楽しさ や,実社会との関連に対して肯定的な回答をする割合も改善が見られる一方で,い まだ諸外国と比べると低い状況にあるなど学習意欲面で課題がある。さらに,小学 校と中学校の間で算数・数学の勉強に対する意識に差があり,小学校から中学校に 移行すると,数学の学習に対し肯定的な回答をする生徒の割合が低下する傾向にあ る。 ○  さらに,全国学力・学習状況調査等の結果からは,小学校では, 「基準量,比較 量,割合の関係を正しく捉えること」や「事柄が成り立つことを図形の性質に関連 付けること」 ,中学校では, 「数学的な表現を用いた理由の説明」に課題が見られた。 また,高等学校では, 「数学の学習に対する意欲が高くないこと」や「事象を式で 数学的に表現したり論理的に説明したりすること」が課題として指摘されている。
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7 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 (2)高等学校における数学教育の意義  数学教育において,小学校,中学校及び高等学校を通じて,心身の発達に応じ,社会生 活を営む上で必要な一般的な教養としての数学的資質・能力などを育て,将来,どのよう な進路に進んでも必要に応じ積極的に数学に関わる態度を身に付けさせることは重要であ る。ここでは3 つの観点から高等学校における数学教育の意義について述べる。 (実用的な意義)  数学は科学の言葉と言われる。それは,自然科学の様々な分野で事象が数学的に表現し 処理されて研究されることを表している。しかし,現在,数学は,自然科学のみならず, 社会科学や人文科学でも積極的に活用されている。これは,数学が抽象的で体系的である ことによる。抽象的であるがゆえにある条件を満たすあらゆる事柄に条件に基づいて得ら れた結果を適用することができ,体系的であるがゆえにその前提となる条件が明確でそれ を満たすか否かの判断がしやすいのである。このような特長により,数学は社会や生活の 中で重要な役割を果たしている。例えば,数学で用いられる論理的な表現を身に付けてお くことが法律の解釈では役に立つ。また,等比数列や指数関数についての知識等があれば 預貯金やローンなどの仕組みは理解しやすい。さらに,保険や金融の仕組みを正確に理解 したり,危険性の評価などを的確に行ったりするためには,確率や統計についての数学的 な考え方や知識等が必要になる。このように,高等学校で数学を学ぶことは,数学を活用 して社会をよりよく生きる知恵を得ることにつながるのである。 (陶冶的な意義)  数学は人間の思惟により創り出されるものであり,数学的な事実に関しては誰もが対等 な立場で議論をすることができる。そのような議論により,客観的かつ論理的に自分の考 えなどを説明する力は育成される。このようにして育成される力は,他教科などの学習や 生活などでも大いに役立つ。特に,グローバル化や情報化が進展する今日のような時代に おいて,異なった文化的背景や価値観をもった人たちと共に生きていく必要性の高まりを 考慮すると,数学の学習を通して育成される,自らの考えや判断の前提を明確にし,根拠 を示しながら考えや判断について的確な説明をして他に理解を得る力はとりわけ重要な力 であると言える。  また,数学の学習を通して,将来の学習や生活に数学を積極的に活用できるようにする とともに,知的好奇心,豊かな感性,想像力,直観力,洞察力,論理的な思考力,批判的 な思考力,粘り強く考え抜く力などの創造性の基礎を養うことも重要である。例えば,数 学の問題を解こうとして容易に解けないとき,具体的な数値や図形を使って考えたり,い くつかの場合を書き出してみたりして粘り強く考え続け,問題が解けたとき得られる喜び は大きな自信につながる。その自信が新たな問題に向かう意欲を育てることになるのであ る。問題がすぐには解けなくても粘り強く考え続けることで,いくつかの知識の理解が深 まることや新たな事実を発見することもあり得るだろう。 (文化的な意義)  文化に数学が果たしている役割も重要である。例えばゲームやパズルで数学的な見方・ 考え方が使われるものは少なくないが,そのようなゲームやパズルの構造や戦法などを考
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8 第1章 総 説 えることによって,数学的な思考を楽しみ,知的なよろこびを得ることができる。例えば, 二人一組で自然数を言い合う。1 から始めて連続した数を4 つまで言うことができ, “26” を言った方が負けになるとすると,このゲームは後手必勝である。この理由をゲームの構 造を考えることで数学的に説明することができる。簡単な構造のゲームであるが,その構 造を考えることで数学的な思考の有用さを感じ取ることができよう。世界の異なった地域 で同じようなゲームやパズルが考案されていることから,このような楽しみやよろこびは 人間の本性に根差したものと考えることもできる。  また,数学は,人類が生活や社会を発展させる中で継承され発展してきたものである。 現在も発展を続けており,我々もその発展に寄与することも重要である。  高等学校における数学教育においては,数学的な知識や技能の「量」だけでなく,どの ようにしてそれらの知識や技能を身に付けたのかなど学習の「質」を問う必要がある。そ れは,様々な場面で身に付けた知識や技能を活用しようとするとき,それらを身に付けた ときの学習の「質」が影響するからである。高等学校数学科では,数学の学習を単に知識 や技能などの内容の習得にとどめるのではなく,数学的活動を重視して創造性の基礎を養 い,すべての高校生の人間形成に資する数学教育を意図している。  ところで,現代では多くの問題が数学的に整理されコンピュータの活用によって解決さ れており,各分野で数学の果たす役割は極めて大きくなっている。そのため,数学教育で コンピュータなどを積極的に活用することも重要である。これまで,学校数学の問題は解 答の便宜のため簡単な数で解答できるように工夫されたものが多かった。しかし,コン ピュータなどが活用できるようになった現在では,高等学校数学においてもより現実の世 界を反映した問題を取り扱い,社会や生活との関連を重視した学習が可能となってきてい る。そのような学習は,数学の学習に対する関心や意欲が高くない生徒にも数学を学習す る意義を認識させ,意欲を高め数学的な力を伸ばすことにもつながると考えられる。 (1)数学科の目標の改善  高等学校数学科の目標は,平成28 年12 月の中央教育審議会答申の内容を踏まえるとと もに,高等学校における数学教育の意義を考慮し,小学校算数科及び中学校数学科の目標 との一貫性を図って下のように示されている。 2 数学科改訂の要点  数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力 を次のとおり育成することを目指す。 (1)数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数 学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付け るようにする。 (2)数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認
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9 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 ①目標の示し方  今回の改訂では,算数科・数学科において育成を目指す資質・能力を, 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱に沿って明確化 し,各学校段階を通じて,実社会等との関わりを意識した数学的活動の充実等を図ってい る。高等学校数学科の目標についても, 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で整理して示した。 ②数学科における「数学的な見方・考え方」  「数学的な見方・考え方」については,これまでの学習指導要領の中で, 「数学的な見 方や考え方」として教科の目標に位置付けられたり,評価の観点名として用いられたりし てきている。  今回の改訂では, 「見方・考え方」を働かせた学習活動を通して,目標に示す資質・能 力の育成を目指すこととした。これは,平成28 年12 月の中央教育審議会答申において, 「見方・考え方」は,各教科等の学習の中で働き,鍛えられていくものであり,各教科等 の特質に応じた物事を捉える視点や考え方として整理されたことを踏まえたものである。 高等学校数学科では, 「数学的な見方・考え方」については, 「事象を数量や図形及びそれ らの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」であると 考えている。  数学の学習では, 「数学的な見方・考え方」を働かせながら,知識及び技能を習得した り,習得した知識及び技能を活用して探究したりすることにより,知識は生きて働くもの となり,技能の習熟・熟達につながるとともに,より広い領域や複雑な事象の問題を解決 するための思考力,判断力,表現力等や,自らの学びを振り返って次の学びに向かおうと する力などが育成される。また,このような学習を通じて, 「数学的な見方・考え方」が 更に確かで豊かなものとなっていくと考えられる。 ③数学的活動の一層の充実  資質・能力を育成していくためには,学習過程の果たす役割が極めて重要である。算数 科・数学科においては,平成28 年12 月の中央教育審議会答申に示された「事象を数理的 に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決し,解決過程を振り返って 概念を形成したり体系化したりする過程」といった数学的に問題発見・解決する過程を学 習過程に反映させることを重視する。生徒が,目的意識をもって事象を数学化して自ら問 題を設定し,その解決のために新しい概念や原理・法則を見いだしたり学んだりすること で,概念や原理・法則に支えられた知識及び技能を習得したり,思考力,判断力,表現力 等を身に付けたり,統合的・発展的,体系的に考えて深い学びを実現したりすることが可 識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確 に表現する力を養う。 (3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的 論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めた り,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。
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10 第1章 総 説 能となる。更には,数学を既成のものとみなしたり,固定的で確定的なものとみなしたり せず,数学に創造的に取り組もうとする態度を養うことも期待される。  数学的な問題発見・解決の過程では,主として日常生活や社会の事象などに関わる過程 と,数学の事象に関わる過程の二つの問題発見・解決の過程を考え,これらの各場面にお いて言語活動を充実し,それぞれの過程を振り返り,評価・改善して学習の質を高めるこ とを重視している。算数科・数学科において,このような数学的活動は,小・中・高等学 校教育を通じて必要なものであり,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を育 成することを目指すことについて目標の柱書に明示することとした。 (2)数学科の科目編成  高等学校数学科は「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」 , 「数学Ⅲ」 , 「数学A」 , 「数学B」 , 「数学C」の 6 科目で編成した。従前と比較すると下の表のようになる。 改訂 従前 数学Ⅰ (3) 数学Ⅱ (4) 数学Ⅲ (3) 数学A (2) 数学B (2) 数学C (2) 数学Ⅰ (3) 数学Ⅱ (4) 数学Ⅲ (5) 数学A (2) 数学B (2) 数学活用 (2)  改善点としては, 「数学活用」を廃止して, 「数学C」を設けたことがあげられる。  「数学活用」は,生徒の数学的活動を一層重視し,具体的な事象の考察を通して数学へ の興味や関心を高め,数学をいろいろな場面で積極的に活用できるようにすることをねら いとして設けられた科目であった。しかし,実際に履修した生徒があまり多くなかったこ とに加え,今回「数学活用」のねらいを含む「理数探究基礎」及び「理数探究」が新設さ れることになったことから, 「数学活用」を廃止して「数学C」を新たに設け, 「数学活用」 の内容を「数学A」 , 「数学B」 , 「数学C」の各科目の性格を踏まえて,それらの科目に移 行することとした。  なお, 「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」 , 「数学Ⅲ」 , 「数学A」 , 「数学B」 , 「数学C」の各科目の性 格は次のとおりである。   「数学Ⅰ」 : 必履修科目として,中学校との接続に配慮するとともに,この科目だけで高 等学校数学の履修を終える生徒及び引き続き数学を履修する生徒の双方に配 慮した内容で構成し,すべての生徒の数学的に考える資質・能力の基礎を培 う。   「数学Ⅱ」 : 高等学校数学の根幹をなす内容で構成し,より多くの生徒の数学的に考える 資質・能力を養う。   「数学Ⅲ」 : 微分法,積分法の基礎的な内容で構成し,数学に強い興味や関心をもって更
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11 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 に深く学ぼうとする生徒や,将来数学が必要な専門分野に進もうとする生徒 の数学的に考える資質・能力を伸ばす。   「数学A」 : 「数学Ⅰ」の内容を補完するとともに,数学のよさを認識し,数学的に考え る資質・能力を培う。   「数学B」 : 「数学Ⅰ」より進んだ内容を含み,数学的な素養を広げるとともに,数学の 知識や技能などを活用して問題解決や意思決定をすることなどを通して数学 的に考える資質・能力を養う。   「数学C」 : 「数学Ⅰ」より進んだ内容を含み,数学的な素養を広げるとともに,数学的 な表現の工夫などを通して数学的に考える資質・能力を養う。 (3)各科目の内容  各科目の内容に関わる要点は次のとおりである。 ア 数学Ⅰ,数学Ⅱ,数学Ⅲ   (ア) 「数学Ⅰ」 (3 単位)  今回の改訂で,この科目は標準単位数も内容も従前から大きくは変更していない。必 履修科目であり,従前と同様, 「数学Ⅰ」だけで高等学校数学の履修を終える生徒に配 慮し, 「数学Ⅰ」に続けて高等学校数学を学ぶ生徒にはこの後の科目の内容と系統性を 考慮するとともに,すべての高校生に必要な数学的な素養は何かという視点で検討を行 い,内容を構成した。また,中学校数学が, 「A 数と式」 , 「B 図形」 , 「C 関数」 , 「D  データの活用」の4 領域で構成されることを踏まえ,次の①から④までの内容で構成す るとともに,引き続き課題学習を内容に位置付けることとした。  ① 数と式 ② 図形と計量 ③ 二次関数 ④ データの分析   [課題学習]  「データの分析」では,四分位数など(箱ひげ図を含む。 )を中学校に移行して, 「仮 説検定の考え方」を取り扱うこととした。仮説検定については「数学B」の「統計的な 推測」で取り扱うが,この科目の履修だけで高等学校数学の履修を終える生徒もいるこ とから,実際的な場面を考慮し,具体例を通して「仮説検定の考え方」を直観的に捉え させるようにした。   (イ) 「数学Ⅱ」 (4 単位)  今回の改訂で,この科目は課題学習を内容に位置付けたという点を除き標準単位数も 内容も従前から変更していない。 「数学Ⅰ」の内容を発展・拡充させることができるよ うにするとともに, 「数学Ⅲ」への学習の系統性を踏まえ,次の①から⑤までの内容で 構成するとともに,課題学習を内容に位置付けた。  ① いろいろな式  ② 図形と方程式  ③ 指数関数・対数関数  ④ 三角関数    ⑤ 微分・積分の考え   [課題学習]  「いろいろな式」では,従前に引き続き,三次の乗法公式や因数分解の公式に加えて 二項定理を取り扱う。
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12 第1章 総 説   (ウ) 「数学Ⅲ」 (3 単位)  今回の改訂で,この科目は標準単位数を従前の5 単位から3 単位に減じるとともに, 「平面上の曲線と複素数平面」を「数学C」に移行した。数学に強い興味や関心をもっ て更に深く学習しようとする生徒や,将来数学が必要な専門分野に進もうとする生徒が 数学的に考える資質・能力を伸ばす科目として,次の①から③までの内容で構成すると ともに,課題学習を内容に位置付けた。  ① 極限    ② 微分法   ③ 積分法   [課題学習]  これらで取り扱う内容については,従前から変更はない。 イ 数学A,数学B,数学C  「数学A」 , 「数学B」及び「数学C」は,いずれも三つの内容からいくつかの内容を選 択して履修する科目である。今回,従前の「数学活用」の廃止に伴って「数学活用」の内 容を「数学A」 , 「数学B」 , 「数学C」の性格を踏まえて移行することとした。それぞれの 科目において,三つの内容のすべてを履修するときには3 単位程度の単位数を必要とする が,標準単位数は2 単位であり,生徒の特性や学校の実態,単位数等に応じて内容を適宜 選択して履修させることとしている。   (ア) 「数学A」 (2 単位)  今回の改訂で,従前の「数学活用」の「数学と人間の活動」を移行し, 「数学A」の 「整数の性質」を「数学と人間の活動」に含ませるとともに,従前に位置付けられてい た課題学習を削除した。この科目は, 「数学Ⅰ」の内容を補完するとともに,数学のよ さを認識し,数学的に考える資質・能力を培う科目として,次の①から③までの内容で 構成した。  ① 図形の性質   ② 場合の数と確率   ③ 数学と人間の活動  「場合の数と確率」では,期待値(平均値)を取り扱い,統計的な内容との関連もも たせる。また, 「数学と人間の活動」では,整数の約数や倍数,ユークリッドの互除法 や二進法,平面や空間において点の位置を表す座標の考え方なども取り扱い,人間が数 や空間などをどのように捉えてきたかを歴史的な視点なども交えて考察させることとし た。   (イ) 「数学B」 (2 単位)  今回の改訂で,従前の「数学B」の「ベクトル」を「数学C」に移行し, 「確率分布 と統計的な推測」を「統計的な推測」に名称を変更するとともに,従前の「数学活用」 の「社会生活における数理的な考察」の「社会生活と数学」及び「データの分析」を移 行して「数学と社会生活」としてまとめて「数学B」に位置付けた。この科目は, 「数 学Ⅰ」より進んだ内容を含み,数学的な素養を広げるとともに,数学の知識や技能など を活用して問題解決や意思決定をすることなどを通して数学的に考える資質・能力を養 う科目で,次の①から③までの内容で構成した。  ① 数列   ② 統計的な推測   ③ 数学と社会生活  「統計的な推測」では,区間推定及び仮説検定も取り扱う。また, 「数学と社会生活」
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13 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 では,散布図に表したデータを一次関数などとみなして処理することも取り扱うことと した。   (ウ) 「数学C」 (2 単位)  今回の改訂で, 「数学C」を新設し,従前の「数学Ⅲ」の「平面上の曲線と複素数平 面」及び「数学B」の「ベクトル」を「数学C」に移行するとともに,従前の「数学活 用」の「社会生活における数理的な考察」の「数学的な表現の工夫」を「数学C」に移 行した。この科目は, 「数学Ⅰ」より進んだ内容を含み,数学的な素養を広げるととも に,数学的な表現の工夫などを通して数学的に考える資質・能力を養う科目で,次の① から③までの内容で構成した。  ① ベクトル   ② 平面上の曲線と複素数平面   ③ 数学的な表現の工夫  「数学的な表現の工夫」では,工夫された統計グラフや離散グラフ,行列などを取り 扱う。
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14 第1章 総 説 中学校へ 従前学習指導要領 新学習指導要領 中学2年へ ← 数学Ⅰ 数と式 図形と計量 二次関数 データの分析 ・四分位数 数学Ⅱ いろいろな式 図形と方程式 指数関数・対数関数 三角関数 微分・積分の考え 数学Ⅲ 平面上の曲線と複素数平面 極限 微分法 積分法 数学A 場合の数と確率 整数の性質 ・有限小数,循環小数 図形の性質 数学B 確率分布と統計的な推測 ・期待値 数列 ベクトル 数学活用 数学と人間の活動 社会生活における数理的な考察 ・社会生活と数学 ・数学的な表現の工夫 ・データの分析 数学Ⅰ 数と式 図形と計量 二次関数 データの分析 ・仮説検定の考え方 数学Ⅱ いろいろな式 図形と方程式 指数関数・対数関数 三角関数 微分・積分の考え 数学Ⅲ 極限 微分法 積分法 数学A 図形の性質 場合の数と確率 ・期待値 数学と人間の活動 数学B 数列 統計的な推測 数学と社会生活 数学C ベクトル 平面上の曲線と複素数平面 数学的な表現の工夫 主な内容の移行
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15 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 数学Ⅰ      3単位 数学Ⅱ       4単位 数学Ⅲ     3単位 (1)数と式   数と集合   ・簡単な無理数の計算   ・集合と命題   式   ・式の展開と因数分解   ・一次不等式 (2)図形と計量   三角比   ・鋭角の三角比   ・鈍角の三角比   ・正弦定理,余弦定理   図形の計量 (3)二次関数   二次関数とそのグラフ   二次関数の値の変化   ・二次関数の最大・最小   ・ 二次関数と二次方程式,二次 不等式 (4)データの分析   データの散らばり   ・分散,標準偏差   データの相関   ・散布図,相関係数   仮説検定の考え方   [課題学習] (1)いろいろな式   式   ・多項式の乗法・除法,分数式    *二項定理   等式と不等式の証明   高次方程式など   ・複素数と二次方程式   ・高次方程式 (2)図形と方程式   直線と円   ・点と直線   ・円の方程式   軌跡と領域 (3)指数関数・対数関数   指数関数   ・指数の拡張   ・指数関数   対数関数   ・対数   ・対数関数 (4)三角関数   角の拡張   三角関数   ・三角関数   ・三角関数の基本的な性質   三角関数の加法定理    *2倍角の公式,三角関数の合成 (5)微分・積分の考え   微分の考え   ・微分係数と導関数    * 関数の定数倍,和及び差の導関 数   ・導関数の応用   積分の考え   ・不定積分と定積分   ・面積   [課題学習] (1)極限   数列の極限   ・数列{r n} の極限   ・無限等比級数の和   関数とその極限   ・分数関数と無理関数   ・合成関数と逆関数   ・関数の値の極限 (2)微分法   導関数   ・関数の和・差・積・商の導関数   ・合成関数の導関数   ・ 三角関数・指数関数・対数関数 の導関数   導関数の応用   ・ 接線,関数の値の増減,極大・ 極小,グラフの凹凸,速度・ 加速度 (3)積分法   不定積分と定積分   ・ 積分とその基本的な性質・置 換積分法・部分積分法   いろいろな関数の積分   積分の応用   ・面積,体積,曲線の長さ   [課題学習] 各科目の内容
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16 第1章 総 説 数学A     2単位 数学B     2単位 数学C      2単位 (1)図形の性質   平面図形   ・三角形の性質   ・円の性質   ・作図   空間図形 (2)場合の数と確率   場合の数   ・数え上げの原則   ・順列・組合せ   確率   ・確率とその基本的な法則    *余事象,排反,期待値   ・独立な試行と確率   ・条件付き確率 (3)数学と人間の活動   数量や図形と人間の活動   遊びの中の数学    * ユークリッドの互除法,二 進法,平面や空間における 点の位置 (1)数列   数列とその和   ・等差数列と等比数列   ・いろいろな数列   漸化式と数学的帰納法   ・漸化式と数列   ・数学的帰納法 (2)統計的な推測   確率分布   ・確率変数と確率分布    * 確率変数の平均,分散,標準 偏差   ・二項分布   正規分布   ・連続型確率変数   ・正規分布   統計的な推測   ・母集団と標本   ・統計的な推測の考え    *区間推定,仮説検定 (3)数学と社会生活   数理的な問題解決 (1)ベクトル   平面上のベクトル   ・ベクトルとその演算   ・ベクトルの内積   空間座標とベクトル   ・ 空間座標,空間におけるベク トル (2)平面上の曲線と複素数平面   平面上の曲線   ・二次曲線     (直交座標による表示)   ・媒介変数による表示   ・極座標による表示   複素数平面   ・複素数平面   ・ド・モアブルの定理 (3)数学的な表現の工夫   数学的な表現の意義やよさ   ・ 図,表,統計グラフ,離散グ ラフ,行列
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17 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 中学校数学科の内容の構成(下線は新設の内容を示す。 ) A 数と式 B 図形 第 1 学 年 正の数・負の数 ・正の数と負の数の必要性と意味 ・正の数と負の数の四則計算 ・正の数と負の数を用いて表すこと   (用語に「素数」を追加(←小5) )   (内容の取扱いに,自然数を素数の積として表すことを追加(←中3) ) 文字を用いた式 ・文字を用いることの必要性と意味 ・乗法と除法の表し方 ・一次式の加法と減法の計算 ・文字を用いた式に表すこと 一元一次方程式(比例式) ・方程式の必要性と意味及びその解の意味 ・一元一次方程式を解くこと 平面図形 ・基本的な作図の方法 ・図形の移動 ・作図の方法を考察すること 空間図形 ・直線や平面の位置関係 ・基本的な図形の計量 ・空間図形の構成と平面上の表現 第 2 学 年 文字を用いた式の四則計算 ・簡単な整式の加減及び単項式の乗除の計算 ・文字を用いた式で表したり読み取ったりすること ・文字を用いた式で捉え説明すること ・目的に応じた式変形 連立二元一次方程式 ・二元一次方程式の必要性と意味及びその解の意味 ・連立方程式とその解の意味 ・連立方程式を解くこと 基本的な平面図形と平行線の性質 ・平行線や角の性質 ・多角形の角についての性質 ・平面図形の性質を確かめること 図形の合同 ・平面図形の合同と三角形の合同条件 ・証明の必要性と意味及びその方法   (用語に「反例」を追加) 第 3 学 年 平方根 ・平方根の必要性と意味 ・平方根を含む式の計算 ・平方根を用いて表すこと   (内容の取扱いに,誤差,近似値, a×10n の形の表現を追加(←中1) ) 式の展開と因数分解 ・単項式と多項式の乗法と除法の計算 ・簡単な式の展開や因数分解   (内容の取扱いから,自然数を素因数に分解することを削除(→中1) ) 二次方程式 ・二次方程式の必要性と意味及びその解の意味 ・因数分解や平方完成して二次方程式を解くこと ・解の公式を用いて二次方程式を解くこと 図形の相似 ・平面図形の相似と三角形の相似条件 ・ 相似な図形の相似比と面積比及び体  積比の関係 ・平行線と線分の比 円周角と中心角 ・円周角と中心角の関係とその証明 三平方の定理 ・三平方の定理とその証明
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18 第1章 総 説 C 関数 D データの活用 ←現行「D資料の活用」の名称を変更 〔数学的活動〕 比例,反比例 ・関数関係の意味 ・比例,反比例 ・座標の意味 ・比例,反比例の表,式, グラフ データの分布の傾向 ・ヒストグラムや相対度数の必要性と意味 多数の観察や多数回の試行によって得られる 確率 ・ 多数の観察や多数回の試行によって得られ る確率の必要性と意味(←中2)   (用語に累積度数を追加)   ( 用語から,代表値, (平均値,中央値,最頻 値) ,階級を削除(→小6) )   ( 内容の取扱いから,誤差,近似値,a×10 n の 形の表現を削除(→中3) ) 各領域の学習やそれらを相互に関連付 けた学習において,次のような数学的 活動に取り組むものとする。 ア  日常の事象を数理的に捉え,数学的 に表現・処理し,問題を解決したり, 解決の過程や結果を振り返って考察し たりする活動 イ  数学の事象から問題を見いだし解 決したり,解決の過程や結果を振り返 って統合的・発展的に考察したりする 活動 ウ  数学的な表現を用いて筋道立てて 説明し伝え合う活動 一次関数 ・事象と一次関数 ・二元一次方程式と関数 ・ 一次関数の表,式,グラ フ データの分布の比較 ・四分位範囲や箱ひげ図の必要性と意味(追加) ・箱ひげ図で表すこと(追加) 場合の数を基にして得られる確率 ・確率の必要性と意味 ・確率を求めること   ( 「確率の必要性と意味」を一部移行(→中1) ) 各領域の学習やそれらを相互に関連付 けた学習において,次のような数学的 活動に取り組むものとする。 ア  日常の事象や社会の事象を数理的 に捉え,数学的に表現・処理し,問題 を解決したり,解決の過程や結果を振 り返って考察したりする活動 イ  数学の事象から見通しをもって問 題を見いだし解決したり,解決の過程 や結果を振り返って統合的・発展的に 考察したりする活動 ウ  数学的な表現を用いて論理的に説 明し伝え合う活動 関数y=ax 2 ・事象と関数y=ax 2 ・いろいろな事象と関数 ・ 関数y=ax 2 の表,式, グラフ 標本調査 ・標本調査の必要性と意味 ・標本を取り出し整理すること
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19 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 A 数と計算 B 図形 第 1 学 年 1 数の構成と表し方   個数を比べること/個数や順番を数えること/数の大小,順序と数直線/ 2位数の表し方/簡単な場合の3位数の表し方/十を単位とした数の見方 /まとめて数えたり等分したりすること 2 加法,減法   加法,減法が用いられる場合とそれらの意味/加法,減法の式/1位数の 加法とその逆の減法の計算/簡単な場合の2位数などの加法,減法 1 図形についての理解の基礎   形とその特徴の捉え方/形の 構成と分解/方向やものの位 置 第 2 学 年 1 数の構成と表し方   まとめて数えたり,分類して数えたりすること/十進位取り記数法/数の 相対的な大きさ/一つの数をほかの数の積としてみること/数による分類 整理/1 2 ,1 3 など簡単な分数 2 加法,減法   2位数の加法とその逆の減法/簡単な場合の3位数などの加法,減法/加 法や減法に関して成り立つ性質/加法と減法との相互関係 3 乗法   乗法が用いられる場合とその意味/乗法の式/乗法に関して成り立つ簡単 な性質/乗法九九/簡単な場合の2位数と1位数との乗法 1 三角形や四角形などの図形   三角形,四角形/正方形,長 方形と直角三角形/正方形や 長方形の面で構成される箱の 形 第 3 学 年 1 数の表し方  万の単位/10 倍,100 倍,1000 倍,1 10の大きさ/数の相対的な大きさ 2 加法,減法   3位数や4位数の加法,減法の計算の仕方/加法,減法の計算の確実な習 得 3 乗法   2位数や3位数に1位数や2位数をかける乗法の計算/乗法の計算が確実 にでき,用いること/乗法に関して成り立つ性質 4 除法   除法が用いられる場合とその意味/除法の式/除法と乗法,減法との関係 /除数と商が1位数の場合の除法の計算/簡単な場合の除数が1位数で商 が2位数の除法 5 小数の意味と表し方  小数の意味と表し方/小数の加法,減法 6 分数の意味と表し方  分数の意味と表し方/単位分数の幾つ分/簡単な場合の分数の加法,減法 7 数量の関係を表す式  □を用いた式 8 そろばん  そろばんによる数の表し方/そろばんによる計算の仕方 1 二等辺三角形,正三角形など の図形   二等辺三角形,正三角形/角 /円,球 小学校算数科の内容の構成(下線は主な新設の内容を示す)
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20 第1章 総 説 C 測定 D データの活用 〔数学的活動〕 第 1 学 年 1 量と測定についての理解の基 礎  量の大きさの直接比較,間接 比較/任意単位を用いた大き さの比べ方 2 時刻の読み方 時刻の読み方 1 絵や図を用いた数量の 表現  絵や図を用いた数量の 表現 ア  身の回りの事象を観察したり,具体物を操 作したりして,数量や形を見いだす活動 イ  日常生活の問題を具体物などを用いて解 決したり結果を確かめたりする活動 ウ  算数の問題を具体物などを用いて解決し たり結果を確かめたりする活動 エ  問題解決の過程や結果を,具体物や図な どを用いて表現する活動 第 2 学 年 1 長さ,かさの単位と測定  長さやかさの単位と測定/お よその見当と適切な単位 2 時間の単位 時間の単位と関係 1 簡単な表やグラフ 簡単な表やグラフ ア  身の回りの事象を観察したり,具体物を操 作したりして,数量や図形に進んで関わる活 動 イ  日常の事象から見いだした算数の問題を, 具体物,図,数,式などを用いて解決し,結 果を確かめる活動 ウ  算数の学習場面から見いだした算数の問 題を,具体物,図,数,式などを用いて解決 し,結果を確かめる活動 エ  問題解決の過程や結果を,具体物,図,数, 式などを用いて表現し伝え合う活動 第 3 学 年 1 長さ,重さの単位と測定  長さや重さの単位と測定/適 切な単位と計器の選択(メート ル法の単位の仕組み(←小6) ) 2 時刻と時間  時間の単位(秒)/時刻や時間 を求めること 1 表と棒グラフ  データの分類整理と表/ 棒グラフの特徴と用い方 (内容の取扱いに,最小 目盛りが2,5などの棒 グラフや複数の棒グラフ を組み合わせたグラフを 追加) ア  身の回りの事象を観察したり,具体物を操 作したりして,数量や図形に進んで関わる活 動 イ  日常の事象から見いだした算数の問題を, 具体物,図,数,式などを用いて解決し,結 果を確かめる活動 ウ  算数の学習場面から見いだした算数の問 題を,具体物,図,数,式などを用いて解 決し,結果を確かめる活動 エ  問題解決の過程や結果を,具体物,図,数, 式などを用いて表現し伝え合う活動
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21 2 数学科改訂 の趣旨及び 要点 小学校算数科の内容の構成(下線は主な新設の内容を示す) A 数と計算 B 図形 第 4 学 年 1 整数の表し方  億,兆の単位 2 概数と四捨五入 概数が用いられる場合/四捨五入/四則計算の結果の見積り 3 整数の除法  除数が1位数や2位数で被除数が2位数や3位数の除法の計算の仕 方/除法の計算を用いること/被除数,除数,商及び余りの間の関 係/除法に関して成り立つ性質 4 小数の仕組みとその計算  小数を用いた倍/小数と数の相対的な大きさ/小数の加法,減法/ 乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法 5 同分母の分数の加法,減法 大きさの等しい分数/分数の加法,減法 6 数量の関係を表す式  四則を混合した式や( )を用いた式/公式/□,△などを用いた式 7 四則に関して成り立つ性質 四則に関して成り立つ性質 8 そろばん そろばんによる計算の仕方 1 平行四辺形,ひし形,台形などの 平面図形  直線の平行や垂直の関係/平行四 辺形,ひし形,台形 2 立方体,直方体などの立体図形  立方体,直方体/直線や平面の平 行や垂直の関係/見取図,展開図 3 ものの位置の表し方 ものの位置の表し方 4 平面図形の面積  面積の単位(㎠,㎡,㎢)と測定 /正方形,長方形の面積(メート ル法の単位の仕組み(←小6) ) 5 角の大きさ  回転の大きさ/角の大きさの単位 と測定 第 5 学 年 1 整数の性質 偶数,奇数/約数,倍数 2 整数,小数の記数法 10 倍,100 倍,1000 倍,1 10,1 100 などの大きさ 3 小数の乗法,除法  小数の乗法,除法の意味/小数の乗法,除法の計算/計算に関して 成り立つ性質の小数への適用 4 分数の意味と表し方  分数と整数,小数の関係/除法の結果と分数/同じ大きさを表す分 数/分数の相等と大小 5 分数の加法,減法 異分母の分数の加法,減法 6 数量の関係を表す式 数量の関係を表す式 1 平面図形の性質  図形の形や大きさが決まる要素と 図形の合同/多角形についての簡 単な性質/正多角形/円周率 2 立体図形の性質 角柱や円柱 3 平面図形の面積  三角形,平行四辺形,ひし形及び 台形の面積の計算による求め方 4 立体図形の体積 体積の単位(㎤,㎥)と測定  立方体及び直方体の体積の計算に よる求め方(メートル法の単位の 仕組み(←小6) ) 第 6 学 年 1 分数の乗法,除法  分数の乗法及び除法の意味/分数の乗法及び除法の計算/計算に関 して成り立つ性質の分数への適用(分数×整数,分数÷整数(←小5) ) 2 文字を用いた式 文字を用いた式 1 縮図や拡大図,対称な図形 縮図や拡大図/対称な図形 2 概形とおよその面積 概形とおよその面積 3 円の面積 円の面積の求め方 4 角柱及び円柱の体積 角柱及び円柱の体積の求め方
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22 第1章 総 説 C 変化と関係 D データの活用 〔数学的活動〕 第 4 学 年 1  伴って変わる二つの数量  変化の様子と表や式,折 れ線グラフ 2 簡単な場合についての割 合  簡単な場合についての割 合 1 データの分類整理  二つの観点から分類する 方法/折れ線グラフの特 徴と用い方(内容の取扱い に,複数系列のグラフや組 み合わせたグラフを追加) ア  日常の事象から算数の問題を見いだして解決 し,結果を確かめたり,日常生活等に生かした りする活動 イ  算数の学習場面から算数の問題を見いだして 解決し,結果を確かめたり,発展的に考察した りする活動 ウ  問題解決の過程や結果を,図や式などを用い て数学的に表現し伝え合う活動 第 5 学 年 1 伴って変わる二つの数量 の関係 簡単な場合の比例の関係 2 異種の二つの量の割合  速さなど単位量当たりの 大きさ(速さ(←小6) ) 3 割合(百分率) 割合/百分率 1 円グラフや帯グラフ  円グラフや帯グラフの特 徴と用い方/統計的な問 題解決の方法(内容の取 扱いに,複数の帯グラフ を比べることを追加) 2 測定値の平均 平均の意味 ア  日常の事象から算数の問題を見いだして解決 し,結果を確かめたり,日常生活等に生かした りする活動 イ  算数の学習場面から算数の問題を見いだして 解決し,結果を確かめたり,発展的に考察した りする活動 ウ  問題解決の過程や結果を,図や式などを用い て数学的に表現し伝え合う活動 第 6 学 年 1 比例  比例の関係の意味や性質 /比例の関係を用いた問 題解決の方法/反比例の 関係 2 比 比 1 データの考察  代表値の意味や求め方(← 中1)/度数分布を表す 表やグラフの特徴と用い方 /目的に応じた統計的な 問題解決の方法 2  起こり得る場合 起こり得る場合 ア  日常の事象を数理的に捉え問題を見いだして 解決し,解決過程を振り返り,結果や方法を改 善したり,日常生活等に生かしたりする活動 イ  算数の学習場面から算数の問題を見いだして 解決し,解決過程を振り返り統合的・発展的に 考察する活動 ウ  問題解決の過程や結果を,目的に応じて図や 式などを用いて数学的に表現し伝え合う活動
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23 3 数学科の 目標  教科の目標の改善に当たっては,平成28 年12 月の中央教育審議会答申の内容を踏まえ るとともに,高等学校における数学教育の意義を考慮し,小学校,中学校及び高等学校で の教育の一貫性を図り児童生徒の発達に応じた適切かつ効果的な学習が行われるよう配慮 した。  今回の改訂では,高等学校数学科の目標を, (1) 知識及び技能, (2) 思考力,判断力,表 現力等, (3) 学びに向かう力,人間性等の三つの柱に基づいて示すとともに,それら数学 的に考える資質・能力全体を「数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して」育 成することを目指すことを柱書に示した。すなわち,高等学校数学科の目標をなす資質・ 能力の三つの柱は,数学的な見方・考え方と数学的活動に相互に関連をもたせながら,全 体として育成されることに配慮することが必要である。  ここでは,高等学校数学科の目標を,大きく六つに分けて説明する。 ① 「数学的な見方・考え方を働かせ」について  平成28 年12 月の中央教育審議会答申において, 「見方・考え方」が,各教科等の特質 に応じた物事を捉える視点や考え方として整理されたことを踏まえると, 「数学的な見方・ 考え方」は,数学の学習において,どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思 考を進めるのかという,事象の特徴や本質を捉える視点,思考の進め方や方向性を意味す ることと考えられる。また,答申において, 「既に身に付けた資質・能力の三つの柱によっ て支えられた「見方・考え方」が,習得・活用・探究という学びの過程の中で働くことを 通じて,資質・能力が更に伸ばされたり,新たな資質・能力が育まれたりし,それによっ て「見方・考え方」が更に豊かなものになる,という相互の関係にある」と示されたこと を踏まえ, 「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の三つの柱である「知 識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」の全ての 育成に働くものと考えられる。さらに, 「数学的な見方・考え方」は,数学の学習の中で 第3 節 数学科の目標  数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力 を次のとおり育成することを目指す。 (1)数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数 学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付け るようにする。 (2)数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認 識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確 に表現する力を養う。 (3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的 論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めた り,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。
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24 第1章 総 説 働かせるだけではなく,生活の中で数学を用いる場合にも重要な働きをするものと考えら れる。数学の学びの中で鍛えられた見方・考え方を働かせながら,世の中の様々な物事を 理解し思考し,よりよい社会や自らの人生を創り出していくことが期待される。  「数学的な見方・考え方」のうち, 「数学的な見方」は, 「事象を数量や図形及びそれら の関係についての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」であると考えられる。 また, 「数学的な考え方」は, 「目的に応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,論 理的に考え,問題解決の過程を振り返るなどして既習の知識及び技能を関連付けながら, 統合的・発展的に考えたり,体系的に考えたりすること」であると考えられる。以上のこ とから, 「数学的な見方・考え方」は, 「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目 して捉え,論理的,統合的・発展的,体系的に考えること」として整理することができる。  「数学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力を支え,方向付けるものであ り,数学の学習が創造的に行われるために欠かせないものである。また,生徒一人一人が 目的意識をもって問題を発見したり解決したりする際に積極的に働かせていくものである。 そのために,今回の改訂では,統合的・発展的に考えることを重視している。なお,発展 的に考えるとは,数学を既成のものとみなしたり,固定的で確定的なものとみなしたりせ ず,新たな概念,原理や法則などを創造しようとすることである。例えば,2 2=4,2 3=8 のように指数が正の整数の場合には2 を2 の指数で表された数 かず だけ掛け合わせることに よって計算がされる。ところで,2 2×2=2 3 であるので,2 2=2 3× 1 2     であることに着目すれ ば2=2 2× 1 2 ,2 0=2 1× 1 2 =1,2 −1=2 0× 1 2 =1 2     のように指数を正の整数から0 や負の整数 まで拡げることができる。また,このように表記をしても指数法則を満たすことは容易に 確認される。このように,累乗の表記においては指数部分の数の範囲を正の整数から整数 全体へ拡げることは発展的に考えることの例になっている。また,指数の範囲を正の整数 と整数全体に拡張することに対応して指数法則についても関連して広げて考えるようにす ることも必要になる。既習のものと新しく生み出したものとを包括的に取り扱えるように 意味を規定したり,処理の仕方をまとめたりすることが統合的に考えることになる。数学 の学習では,このように創造的な発展を図るとともに,創造したものをより高い,あるい は,より広い観点から統合して見られるようにすることが大切である。  数学的な見方・考え方を働かせることについては,例えば,数学Ⅱの「図形と方程式」 において, 「直線をx,y の一次方程式で表し,いくつかの一次方程式の関係を調べること を通して直線間の関係を考察する」ことを取り上げる。図形を点の集合と考え,点を座標 平面上の点とみて図形をx,y の方程式と対応させ,方程式の関係を考えることで2 直線 の平行と垂直などの図形の性質を明確に捉えることができる。このように,数学的な見 方・考え方を働かせる際には,未知の事象を考察するために新しい概念をつくることがあ り, 「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」が必要となる。さらに,新たな概 念や概念から生み出される知識や技能などを通して数学のよさを認識し,数学への関心を 高めいろいろな場面で数学を活用しようとするなどの「学びに向かう力,人間性等」と深 く関わっている。このように見方・考え方を働かせた活動を通して, 「知識及び技能」 , 「思
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25 3 数学科の 目標 考力,判断力,表現力等」及び「学びに向かう力,人間性等」が育成される。つまり, 「数 学的な見方・考え方」は,数学的に考える資質・能力の育成に関して,数学の様々な領域 において広く働かせるものであると言える。  また,数学的な見方・考え方は,数学の学習においてのみならず,他教科等の学習,日 常生活や社会における場面などでも広く生かされるものである。例えば,地中から発掘し たものなどについて炭素14 の含有量により年代測定をする考古学,糖分量により癌 がん を発 見する核医学,為替レートで経済状況を予測する経済学などでも活用されている。素数が 活用された暗号化技術はクレジットカードやインターネット通販など日常生活のみならず グローバル社会における情報セキュリティを確保するための基盤ともなっている。  数学の学習においては,数学的な見方・考え方を常に意識するとともに,数学的な見 方・考え方を働かせる機会を意図的に設定することも重要である。また,他教科等の学習 などを通して,数学的な見方・考え方は更に豊かなものになることに留意することも大切 である。 ② 「数学的活動を通して」について  数学的活動とは,事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的 に解決する過程を遂行することである。これは, 「数学学習に関わる目的意識をもった主 体的活動」であるとする従来の意味をより明確にしたものである。今回の改訂では,数学 的に考える資質・能力を育成する上で,数学的な見方・考え方を働かせた数学的活動を通 して学習を展開することを一層重視した。  数学的活動として捉える問題発見・解決の過程には,主として二つの過程を考えること ができる。一つは,日常生活や社会の事象などを数理的に捉え,数学的に表現・処理し, 問題を解決し,解決過程を振り返り得られた結果の意味を考察する過程であり,もう一つ は,数学の事象から問題を見いだし,数学的な推論などによって問題を解決し,解決の過 程や結果を振り返って統合的・発展的,体系的に考察する過程である。これら二つの過程 は相互に関わり合って展開される。数学の学習過程においては,これらの二つの過程を意 識しつつ,生徒が目的意識をもって遂行できるようにすること,各場面で言語活動を充実 し,それぞれの過程や結果を振り返り,評価・改善することができるようにすることが大 切である。これらの過程については,平成28 年12 月の中央教育審議会答申で示された次 ページのようなイメージ図で考えることができる。  イメージ図の左側の【現実の世界】の部分を含む過程は,日常生活や社会の事象などを 数理的に捉え,数学的に表現・処理し,問題を解決し,解決過程を振り返り得られた結果 の意味を考察する過程である。日常の事象や社会の事象などを数理的に捉える過程を,こ のイメージ図では「日常生活や社会の事象の数学化」としている。これは,現実世界の事 象を考察する際に,目的に応じて必要な観点をもち,その観点から事象を理想化したり抽 象化したりして,事象を数量や図形及びそれらの関係などに着目して数学の舞台にのせて 考察しようとすることである。数学的な見方・考え方を働かせ,事象を目的に応じて数学 の舞台にのせたものが,イメージ図の「数学的に表現した問題」である。そして,数学的 に表現した問題をより特定なものに焦点化して表現・処理し,得られた結果を解釈したり,
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26 第1章 総 説 類似の事象にも活用したりして適用範囲を拡 ひろ げる。  イメージ図の右側の【数学の世界】に含まれる過程は,数学の事象から問題を見いだし, 数学的な推論などによって問題を解決し,解決の過程や結果を振り返って統合的・発展的, 体系的に考察する過程である。数学の事象から問題を見いだす過程を,イメージ図では 「数学の事象の数学化」としている。これは,数学的な見方・考え方を働かせ,数量や図 形及びそれらの関係などに着目し,観察や操作,実験などの活動を通して,一般的に成り 立ちそうな事柄を予想することである。この予想した事柄に関する問いが「数学的に表現 した問題」となる。そして,数学的に表現した問題をより特定なものに焦点化して表現・ 処理したり,得られた結果を振り返り統合的・発展的に考察したりする。  このイメージ図は数学の問題発見・解決の過程全体を示しており, 「数学的活動を通し て」とは,単位授業時間においてこれらの過程の全てを学習することを求めるものではな いことに留意することが必要である。実際の数学の学習過程では,このイメージ図の過程 を意識しつつ,指導において必要な過程を遂行し,その結果,これらの過程全体を自立的, 協働的に遂行できるようにする。  例えば, 「数学B」の「数列」の「漸化式」の学習を考えてみる。 「ある薬は8 時間ごと, 1 日に3 回,1 錠ずつ服用するとする。また,1 錠には薬の有効成分が50mg 含まれており, 服用して8 時間後に有効成分の40%が残っているとする。このとき,この薬を飲み続け ると有効成分の残量はどのように変化するか?」という問題に対して,n 回目に薬を服用 した直後の有効成分の残量をan    mg とすると,a1=50,an+1=0.4an+50 という関係式(漸 化式)が得られる。この式から,a1,a2,a3…を求め,結果をグラフに表せば変化の様子 を捉えることができる。しかし,この数列の一般項を求めることができれば,例えば5 日 後の3 回目に薬を服用した直後の有効成分の残量をすぐに求めることができる。そこから 新たに「漸化式から一般項を求めるにはどうすればよいか?」という問題が派生する。こ
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27 3 数学科の 目標 のように問題を発展させながら新たな概念,知識や技能を学習していくのである。 ③ 「数学的に考える資質・能力を育成すること」について  「数学的に考える資質・能力」とは,高等学校数学科の目標で示された三つの柱で整理 された算数・数学教育で育成を目指す力のことである。これらの資質・能力は,数学的な 見方・考え方を働かせた数学的活動を通して育成することが必要である。また,これらの 資質・能力は,数学の学習の基盤となるだけではなく,教科等の枠を越えて全ての学習の 基盤として育んでいくことが大切である。  以下④から⑥では,高等学校数学で育成を目指す資質・能力の三つの柱について解説す る。 ④  「数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学 化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるよう にする。 」について  これは,育成を目指す資質・能力の柱の中の「知識及び技能」に関わるものである。知 識及び技能には,概念的な理解や数学を活用して問題解決する方法の理解,数学的に表 現・処理するための技能などが含まれる。  数学における基本的な概念や原理・法則を理解することは,数学における様々な知識の 裏付けとなり,技能の支えとなるものであり,深い学びを実現する上で欠かすことができ ないものである。基本的な概念や原理・法則を理解できるようにするためには,問題発 見・解決の過程において基本的な概念や原理・法則に基づく知識及び技能を,試行錯誤な どもしながら主体的に用いるとともに,日常生活や社会の事象などの考察に生かしたり, より広い数学的な対象について統合的・発展的に考察したりするよう配慮することが大切 である。数学的活動を通した概念や原理・法則の理解に裏付けられた発展性のある知識及 び技能こそが,生きて働く知識や技能なのである。  問題発見・解決の過程を遂行するためには,事象を数学化したり,数学的に解釈したり, 数学的に表現・処理したりすることが必要である。問題発見・解決の過程には,主として 日常生活や社会の事象などに関わる過程と,数学の事象に関わる過程がある。  日常生活や社会の事象などは,そのままでは数学の舞台にのせることはできないことが ある。そのため,事象を数学化する際には,事象に潜む関係を解明したり活用したりする などの目的に即して,事象を理想化したり単純化したりして抽象し,条件を数学的に表現 することなどが必要とされる。また,得られた数学的な結果について実際の問題に適合す るかどうかを判断するために,数学的な結果を具体的な事象に即して解釈することも必要 である。このような問題発見・解決の基礎をなす技能を身に付けることにより,事象を数 学の舞台にのせ,理論を構築して体系化し,条件が等しい事象について考察することがで きるようになるのである。  数学の事象から問題を見いだし考察する過程において,事象を数学化する際には,数量 や数式,図形などに関する性質や関係を調べる目的に即して,事象を一般化したり拡張し たり,条件を数学的に表現したりすることが必要とされる。また,数学的な推論に必要な 仮定や,それによって得られた結論を表現したり読み取ったりすることも必要である。こ
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28 第1章 総 説 のような問題発見・解決の基礎をなす技能を身に付けることにより,具体的な数学の問題 から,条件を変えたり,条件を弛 ゆる めたりするなどして新たに設定した問題へと統合的・発 展的に考察することができるようになる。更に,問題を解決して新たに得られた知識など をこれまで得られていた知識などと合わせ,批判的に検討することにより,知識などを体 系的に整理することができ,様々な場面で活用することができるものになるのである。  また,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能 は,数学的な概念や原理・法則と一体的なものとして学ばれるものであることにも留意す ることが大切である。例えば,二次不等式の解は二次関数のグラフを利用して求めること ができるが,二次関数のグラフを読むことができ,二次不等式の解とは何かが理解できて いなければ種々の二次不等式の解を正確には求めることは難しい。 ⑤  「数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関係を認識 し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現 する力を養う。 」について  これは,育成を目指す資質・能力の柱の中の「思考力,判断力,表現力等」に関わるも のである。思考力,判断力,表現力等は,問題を見いだしたり,知識及び技能を活用して 問題を解決したりする際に必要である。 「数学を活用して事象を論理的に考察する力」  数学を活用して事象を論理的に考察する力は,様々な事象を数理的に捉え,数学的に表 現・処理し,問題を解決し,解決過程を振り返り得られた結果の意味を考察する過程を遂 行することを通して養われていく。  数学が活用できるように事象を数学化するには,問題意識に基づき事象から条件や仮定 を設定し,数学の問題として表現することが必要である。また,問題の解決に当たっては, (問題の本質を把握し)解決の見通しをもつとともに,確かな根拠から論理的に考察する 力が必要である。そのため,直観力,洞察力,帰納的に推論する力,類推的に推論する力 や演 えん 繹 えき 的に推論する力を養うことも重要である。これらの二つの面を共に伸ばして問題の 発見と解決に役立てていくこと,得られた結果の意味を条件や仮定に即して考察する機会 を設けることが重要である。 「事象の本質や他の事象との関係を認識し統合的・発展的に考察する力」  事象の本質や他の事象との関係を認識し統合的・発展的に考察する力は,主に,数学の 事象から問題を見いだし,数学的な推論などによって問題を解決し,解決の過程や結果を 振り返って既習の知識や技能などとの関係も踏まえつつ統合的・発展的に考察する過程を 遂行することを通して養われていく。  数学の事象についての問題解決の指導に当たっては,振り返ることによる新たな問題の 発見を生徒に促すことが大切である。その際, 「得られた結果から他に分かることがない かを考えること」 , 「問題解決の過程を振り返り,本質的な条件を見いだし,それ以外の条 件を変えること」 , 「問題の考察範囲を拡 ひろ げること」 , 「 (事象を式で表したとき等しい式が 現れるなど)類似な事象の間に共通する性質を見いだすこと」などの新しい知識を得る視 点を明確にしつつ,さらなる活動を促すことも大切である。
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29 3 数学科の 目標 「数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表現する力」  数学では日常言語や数,式,図,表,グラフなどの様々な表現を用いる。数学的な表現 は物事の特徴を抽象し簡潔・明瞭に表すとともに,考察対象を一般的に表す。  また,数学的な表現は,例えば,式は数量や数量間の関係について一般的な表現を可能 にしたり形式的な操作を可能にしたりする,図は視覚的な把握を容易にして思考を容易に する,グラフは事象の変化の様子を視覚的に把握することを容易にするなど,それぞれに 長所がある。指導に当たっては,目的に応じて適切な数学的な表現を選択したり,一つの 対象の幾つかの数学的な表現を相互に関連付けたりすることを通して,事象の本質を捉え たり,理解や思考を深めたりするように配慮することが大切である。また,その際に,問 題解決の過程を振り返りながら,表現を自立的,協働的に修正・改善したり,議論の前提 を明確にしたりしながら,問題の特徴や本質を捉えることも大切である。 ⑥  「数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論 拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評 価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。 」について  これは,育成を目指す資質・能力の柱の中の「学びに向かう力,人間性等」に関わるも のである。高等学校数学科における学びに向かう力,人間性等は,現在及び将来にわたっ て数学を学んだり,数学を活用したり,数学と接したりするときの構え(基盤)となるも のである。 「数学のよさ」  様々な事象の考察や問題解決に数学を活用しようとする態度を育成するためには, 「数 学のよさ」を認識できるようにすることが大切である。 「数学のよさ」とは,例えば,条 件を満たす事象には得られた数学の結果を適用することができるなどの「数学における基 本的な概念や原理・法則のよさ」 ,数量の関係を方程式で表すことができれば,形式的に 変形して解を求めることができるなどの「数学的な表現や処理のよさ」や,数学的な見 方・考え方を働かせることのよさなどを意味する。また,数学が生活に役立っていること や数学が科学技術を支え相互に関わって発展してきていることなど,社会における数学の 有用性や実用性も含まれる。数学のよさを認識するためには,数学を学ぶ過程で,数学的 な知識及び技能を確実に用いることができるようになったり,思考力,判断力,表現力等 を発揮して適切かつ能率的に物事を処理できるようになったり,事象を簡潔・明瞭に表現 して的確に捉えることができるようになったりする成長の過程を適宜振り返るなどして自 覚することが大切である。 「粘り強く考え数学的論拠に基づいて判断しようとする態度」  数学の問題のみならず多くの問題は,単に公式を当てはめるなどして解くことができる ものを除き,解決の糸口を見いだすことが大切であるが,これが容易でないことが多い。 それゆえ,より分かりやすい具体的な問題に置き換えたり,類似の問題に当たったり,具 体的に多くの場合を書き出したり,コンピュータを利用してシミュレーションをしたりし て試行錯誤をすることになる。解決の糸口が見つかれば,式で表現して処理したり,論理 的に考察したりして結果を得ることができる。そして結果を得た後,結果の妥当性につい
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30 第1章 総 説 て判断する。大切なことは,粘り強く考え続けることであるが,一人一人の考えを受け入 れ,問題解決に生かしていこうとする学習集団でなければ粘り強く考え続ける態度は育ち にくい。そのような学習集団を育てるため,一人一人の考えを,正しいか正しくないかを 判断して正しくないときに切り捨てるのではなく,どうしてそのように考えたのかを確認 し,他の意見と比較するなどして自分の考えを改善させよりよい考えに進ませるようにす ることが大切である。 「問題解決の過程を振り返って考察を深めたり評価・改善したりしようとする態度」  問題解決の過程を経て結果が得られたとき,結果の妥当性を検討することが大切である。 その際,解決の方法などを見直し,より分かりやすく適切な表現はないか,別の解決方法 はないかなど,客観的に評価することが大切である。  問題解決の過程を振り返って,評価・改善しようとする態度を育成するためには,協働 的な活動を通して,生徒同士の多様な考えを認め合うことも重要である。ここでいう生徒 の多様な考えには,生徒の誤った考えなども含まれる。生徒の誤った考えは,どのような 誤解に基づいているのか,どこを改めれば正しい考えになるのか,などを考えさせること によってより深い理解に到達することが考えられる。 「創造性の基礎」  ここでいう創造性の基礎とは,知識及び技能を活用して問題を解決することの他に,知 的好奇心や豊かな感性,想像力,直観力,洞察力,論理的な思考力,批判的な思考力,粘 り強く考え抜く力などの資質・能力をいう。これらを養うためには,適切な問題を自立的, 協働的に取り組むとともに,解決した後,その過程を振り返って数学のよさを改めて認識 するとともに統合的・発展的,体系的に思考を深めることが大切である。
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31 4 数学科の 科目編成  高等学校数学は, 「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」 , 「数学Ⅲ」 , 「数学A」 , 「数学B」及び「数学C」 で編成する。  これらの科目の標準単位数は次のとおりである。 科 目 標準単位数 数学Ⅰ 3 数学Ⅱ 4 数学Ⅲ 3 数学A 2 数学B 2 数学C 2  「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」及び「数学Ⅲ」は,その内容のすべてを履修する科目であり, 「数 学A」 , 「数学B」及び「数学C」は,生徒の特性や学校の実態,単位数等に応じてその内 容を選択して履修する科目である。  また, 「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」 , 「数学Ⅲ」は,この順に履修することを原則としている。 「数学A」は「数学Ⅰ」と並行履修,又は「数学Ⅰ」の履修の後の履修が原則である。 「数 学B」及び「数学C」は, 「数学Ⅰ」の履修の後の履修が原則である。 「数学B」と「数学 C」の間に履修の順序は規定しておらず,生徒の特性や進路,学校の実態などに応じて, 例えば, 「数学B」と「数学C」を並行して履修することや「数学B」を履修せずに「数 学C」を履修することなども可能である。 第4 節 数学科の科目編成 1 科目の編成 2 科目の履修
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32 第2章 各科目  この科目は,高等学校数学科の共通必履修科目であり,この科目だけで高等学校数学の 履修を終える生徒と引き続き他の科目を履修する生徒の双方に配慮し,高等学校数学とし てまとまりをもつとともに他の科目を履修するための基礎となるよう, 「 (1) 数と式」 , 「 (2) 図形と計量」 , 「 (3) 二次関数」及び「 (4) データの分析」の四つの内容で構成している。こ れらの内容は,生徒が学習する際,中学校数学との接続を円滑にするとともに,中学校ま でに養われた数学的に考える資質・能力を一層伸長させることを意図して,中学校数学の 「A 数と式」 , 「B 図形」 , 「C 関数」 , 「D データの活用」の4 領域構成を継承している。  また,数学的活動を一層重視し,生徒の主体的・対話的な学びを促し,数学のよさを認 識できるようにするとともに,数学的に考える資質・能力を高めるよう課題学習を位置付 けている。 (1)知識及び技能  高等学校数学科の目標では,育成を目指す「知識及び技能」に関わる資質・能力を, 「数 学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学化したり, 第1 節 数学Ⅰ 1 性 格 2 目 標  数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力 を次のとおり育成することを目指す。 (1)数と式,図形と計量,二次関数及びデータの分析についての基本的な概念や原 理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数学化したり,数学的に解釈したり, 数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする。 (2)命題の条件や結論に着目し,数や式を多面的にみたり目的に応じて適切に変形し たりする力,図形の構成要素間の関係に着目し,図形の性質や計量について論理的 に考察し表現する力,関数関係に着目し,事象を的確に表現してその特徴を表,式, グラフを相互に関連付けて考察する力,社会の事象などから設定した問題について, データの散らばりや変量間の関係などに着目し,適切な手法を選択して分析を行い, 問題を解決したり,解決の過程や結果を批判的に考察し判断したりする力を養う。 (3)数学のよさを認識し数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論拠に基 づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評 価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。 第2 章 各科目
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33 1 数学Ⅰ 数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付ける」としている。そ れを「数学Ⅰ」の目標として具体的に示したものが「数学Ⅰ」の目標の (1) である。  「知識及び技能」に関しては,それを身に付ける過程において, 「思考力,判断力,表 現力等」とともに習得されるものであることに留意する必要がある。身に付ける過程の質 によって,個々の生徒が得る「知識及び技能」の質が決まるからである。  「知識」に関しては,学習するそれぞれの内容についての基本的な概念や原理・法則な どを確実に理解することが重要である。そのために,数学的活動を一層重視し,既習の知 識と関連付け,より深く,体系的に理解できるようにする。例えば,不等式の解の意味や 不等式の性質について理解するときには,未知数や変数としての文字の見方や,一元一次 方程式や連立二元一次方程式の学習を基に,類似点や相違点を明らかにしたり,新たな視 点を加えたりすることで,その理解をより深めていくことができる。  また, 「技能」に関しては,中学校数学科においても,事象を数学化したり,数学的に 解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けることが各学年で目標とされ ている。この科目においても,問題発見・解決の過程を一層自立的に遂行できるようにす るために,その基礎となる技能を身に付けることができるようにする。 (2)思考力,判断力,表現力等  高等学校数学科の目標では,育成を目指す「思考力,判断力,表現力等」に関わる資 質・能力を, 「数学を活用して事象を論理的に考察する力,事象の本質や他の事象との関 係を認識し統合的・発展的に考察する力,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確 に表現する力を養う」としている。それを「数学Ⅰ」の目標として具体的に示したものが 「数学Ⅰ」の目標の (2) である。  例えば, 「 (1) 数と式」では,命題の条件や結論に着目し,集合の考えを用いて論理的に 考察したり,既習の数や文字式の計算の方法と関連付けて,数や式を多面的にみたり目的 に応じて適切に変形したりできるようにする。 「 (2) 図形と計量」では,三角比を用いて図 形の構成要素間の関係を表現して,図形の性質や計量について論理的に考察できるように する。 「 (3) 二次関数」では,事象における関数関係を的確に表現するとともに,その特徴 を表,式,グラフを相互に関連付けて考察できるようにする。 「 (4) データの分析」では, 複数の種類のデータを,散らばりや変量間の関係などに着目し,適切な手法を選択して分 析を行い,問題解決したり,解決の過程や結果を批判的に考察し判断したりできるように する。 (3)学びに向かう力,人間性等  高等学校数学科の目標では,育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」に関わる資 質・能力を, 「数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く考え 数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めた り評価・改善したりしようとする態度を養う」としている。それを「数学Ⅰ」の目標とし て具体的に示したものが「数学Ⅰ」の目標の (3) である。
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34 第2章 各科目  生徒は「数学のよさ」を認識することで数学の学習への関心・意欲が高まり,数学的活 動に積極的に取り組もうとする態度,つまり数学を活用しようとする態度,粘り強く考え 数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めた り,評価・改善したりしようとする態度が育まれていく。したがって「学びに向かう力, 人間性等」に関わる資質・能力は, 「知識及び技能」と「思考力,判断力,表現力等」の 資質・能力を,どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であるととも に,これら二つの資質・能力に支えられているものでもある。  なお,中学校では,第3 学年において, 「数学的活動の楽しさや数学のよさを実感して 粘り強く考え,数学を生活や学習に生かそうとする態度,問題解決の過程を振り返って評 価・改善しようとする態度を養う」とし,義務教育9 年間の集大成として,生徒が自らの 資質・能力の高まりを実感できるとともに,持続可能なものに達することが目指されてい る。このような点を踏まえ, 「学びに向かう力,人間性等」に関わる資質・能力を一層重 視して養っていくことが求められる。 (1)数と式 3 内容と内容の取扱い (1)数と式  数と式について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指 導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア)数を実数まで拡張する意義を理解し,簡単な無理数の四則計算をすること。    (イ)集合と命題に関する基本的な概念を理解すること。    (ウ)二次の乗法公式及び因数分解の公式の理解を深めること。    (エ )不等式の解の意味や不等式の性質について理解し,一次不等式の解を求める こと。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア)集合の考えを用いて論理的に考察し,簡単な命題を証明すること。    (イ )問題を解決する際に,既に学習した計算の方法と関連付けて,式を多面的に 捉えたり目的に応じて適切に変形したりすること。    (ウ)不等式の性質を基に一次不等式を解く方法を考察すること。    (エ )日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,一次不等式を問題解決に活用 すること。
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35 1 数学Ⅰ [内容の取扱い]  数に関しては,中学校第1 学年で,取り扱う数の範囲を負の数まで拡張して,負の数の 必要性と意味,その四則計算について学習し,それらを具体的な場面で活用する力などを 養っている。第3 学年では,平方根を導入することで,数の範囲を無理数にまで拡張し, 既に学習した計算の方法と関連付けて,数の平方根を含む式の計算の方法を考察し表現す る力を養っている。これらを踏まえ, 「数学Ⅰ」では,中学校までに取り扱ってきた数を 実数としてまとめ,数の体系についての理解を深める。その際,実数が四則演算に関して 閉じていることや,直線上の点と1 対1 に対応していることなどについて理解するととも に,簡単な無理数の四則計算ができるようにする。  集合に関しては,中学校では,集合という用語は用いないものの,その考え方は,関数 関係の意味や変域,四角形の包摂関係などで用いている。また,命題に関しては,いろい ろな数の性質や図形の性質を証明することを通して,仮定と結論,逆,反例などについて 学習している。 「数学Ⅰ」では,集合と命題に関する基本的な概念を理解するとともに, それらを用いて論理的に考察し表現する力を培う。  式に関しては,中学校第1 学年で,文字を用いて数量や数量の関係及び法則などを式に 表現したり式の意味を読み取ったりすること,文字を用いた式が数の式と同じように操作 できることなどを学習し,具体的な場面と関連付けて,一次式の加法と減法の計算の方法 を考察し表現する力を養っている。第2 学年では,簡単な整式の加法・減法,単項式の乗 法と除法の計算について学習し,文字を用いて数量の関係や法則などを考察する力などを 養っている。また,数量や数量の関係を捉え説明するのに文字を用いた式が活用できるこ とや,目的に応じて簡単な式を変形することについて学習している。第3 学年では,単項 式と多項式の乗法,多項式を単項式で割る除法及び簡単な一次式の乗法の計算に公式を用 いる簡単な式の展開と因数分解について学習し,文字を用いた式で数量や数量の関係を捉 え説明する力などを養っている。これらを踏まえ, 「数学Ⅰ」では,式を,目的に応じて 一つの文字に着目して整理したり,一つの文字に置き換えたりするなどして既に学習した 計算の方法と関連付けて,多面的に捉えたり,目的に応じて適切に変形したりする力を培 う。また,不等式の解の意味や不等式の性質について理解するとともに,不等式の性質を 基に一次不等式を解く方法を考察したり,具体的な事象に関連した課題の解決に一次不等 式を活用したりする力を培う。 数を実数まで拡張する意義を理解し,簡単な無理数の四則計算をすること(ア (ア) , [内容 の取扱い] (2) )  中学校までに学習してきた自然数,整数,有理数及び無理数を実数としてまとめ,数を 拡張してきた基本的な考え方,実数が四則演算に関して閉じていること,実数が直線上の (2)内容の (1) のアの (ア) については,分数が有限小数や循環小数で表される仕組みを 扱うものとする。
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36 第2章 各科目 点と1 対1 に対応していることなどを取り扱い,数を実数まで拡張する意義や数の体系に ついての理解を深める。指導に当たっては,数が四則演算に関して閉じていることを調べ るなど数を拡張する際の考え方に着目させるようにする。併せて,ある自然数の平方根が 分数で表せないことや,分数が有限小数や循環小数で表される仕組みについても理解でき るようにする。また,根号の付いた数の加法及び減法,乗法公式などを利用した乗法,分 母が二項程度までの分数の形に表された数の分母の有理化などの簡単な無理数の四則計算 ができるようにする。 集合と命題に関する基本的な概念を理解するとともに,集合の考えを用いて論理的に考察 し,簡単な命題を証明すること(ア (イ) ,イ (ア) )  集合及び命題について学習することにより,数学的な表現の基礎を身に付け,数学の内 容をより深く厳密に扱うことができるようになる。また,数学の諸概念を多面的・統合的 にみることにもつながる。例えば,方程式や不等式の解を「解の集合」という視点で統合 的にみることができる。  集合については,基本的な事柄として,集合に関する用語・記号a∈A,A∩B,A∪B, A⊂B,A(A の補集合)などを取り扱う。ここでは集合の考えを用いて命題について学 習するのが主眼であり,要素の個数についての関係式n (A∪B) =n (A) +n (B) −n (A∩B) は, 「数学A」の「場合の数と確率」で取り扱う。  命題については,集合の包含関係と関連付けて理解できるようにする。例えば,命題 「x>2 ならばx>0 である。 」について,数の集合A= {x | x>2} ,B= {x | x>0} を考え,A⊂ B であることを,数直線を利用して理解させ,命題の真偽を取り扱うことなどが考えられ る。必要条件,十分条件や対偶などの指導においても,図表示による集合の包含関係と関 連付けるなどして,直観的に理解させることが大切である。また,ここでは簡単な命題の 証明も取り扱う。 「簡単な命題」とは,対偶を利用した証明や背理法による証明などの考 え方が容易に理解できるもので,生活の中で取り上げられるものであってもよい。中学校 で既に学習した数の性質や図形の性質を取り上げ,命題として表現させ,必要条件,十分 条件について考えたり,対偶を利用した証明や背理法による証明などを考えたりする活動 などが考えられる。例えば, 「n を整数とするとき,n 2 が偶数ならばn も偶数である」こ とを対偶を利用して証明したり, 「直線外の1 点からその直線に引ける垂線は1 本だけで ある」ことを背理法で証明したりすることなどが考えられる。 二次の乗法公式及び因数分解の公式の理解を深めるとともに,問題を解決する際に,既に 学習した計算の方法と関連付けて,式を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形したり すること(ア (ウ) ,イ (イ) )  小学校や中学校の学習において,数量や数量の関係を式に表したり,式を事象と関連付 けて解釈したりする力,式を用いて説明する力を養っている。ここでは,式の展開及び因 数分解において,式を目的に応じて変形したり,式を見通しをもって取り扱ったりするこ とができるようにし,式の見方を豊かにする。例えば,一つの文字に着目して式を整理し
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37 1 数学Ⅰ たり,一つの文字に置き換え複雑な式を簡単な式に帰着させたりするなど,式の変形の目 的と方法を一体として取り扱う。  なお,中学校で取り扱う乗法公式を除くとここで取り扱う新たな公式は   (ax+b) (cx+d) =acx 2+ (ad+bc) x+bd  のみで,三次の乗法公式は「数学Ⅱ」で取り扱うことに留意する。 不等式の解の意味や不等式の性質を理解し,不等式の性質を基に一次不等式を解く方法を 考察するとともに,一次不等式の解を求めること(ア (エ) ,イ (ウ) )  まず,不等式が大小関係についての条件を式に表したものであり,この条件を満たす変 数の値の集合が不等式の解であることを理解させる。その際,x にいろいろな数値を代入 して確かめたり,x を数直線上の点と対比させたりしながら,不等式の解の意味を捉えさ せるようにする。  また,一次不等式の解を求める方法については,一次方程式の解の求め方と対比させ, 次の不等式の性質を基に見いだしたり,式変形の根拠を明確に説明したりできるようにす る。 ①a>b ならばa+c>b+c ②a>b ならばa−c>b−c ③a>b,m>0 ならばma>mb,a m >b m ④a>b,m<0 ならばma<mb,a m <b m  連立一元一次不等式を指導する場合は,数直線にそれぞれの不等式の解の集合を表し, その共通部分を求めるなど丁寧な取扱いをすることが大切である。 日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,一次不等式を問題解決に活用すること(イ の (エ) )  日常の事象や社会の事象などと関連付けて不等式を活用することができるようにする。 例えば, 「40 名のクラスから3 名のクラス代表を選ぶ選挙を行うとき,最低何票入れば当 選するか」を調べることや,買い物や旅行等の計画を立てる際に,必要経費等の条件を連 立不等式に表して考えるなど,身の回りの問題を一次不等式を活用して解決する活動を行 うことなどが考えられる。  なお,数量や数量の関係を式に表すことについては,中学校までの学習において十分に は身に付いていない生徒がいる場合もある。適宜,数量の関係を図や表等を用いて表し, 自ら立式できるように指導することが大切である。 (2)図形と計量 (2)図形と計量  図形と計量について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の
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38 第2章 各科目 [内容の取扱い]  図形と計量について,中学校第3 学年では,相似な図形の性質を具体的な場面で活用す る力や,三平方の定理を具体的な場面で活用する力などを養っている。  ここでは,正弦,余弦及び正接の意味,三角比の相互関係などを理解できるようにする。 さらに,図形の構成要素間の関係を三角比を用いて表現し定理や公式を導く力,日常の事 象や社会の事象などを数学的に捉え,三角比を活用して問題を解決したりする力などを培 う。  なお,角度から三角比の値を求めたり,三角比の値から角度を求めたりする際に,コン ピュータなどの情報機器や三角比表を積極的に利用するものとする。 鋭角の三角比の意味と相互関係について理解すること(ア (ア) )  鋭角について,正弦,余弦及び正接を直角三角形 の辺の比と角の大きさとの間の関係として導入する。 その際,日常の事象や社会の事象などとの関連を図 り,三角比を新たに導入することの必要性と有用性 を認識できるようにする。例えば,階段やエスカ レータの踏 ふみ 面 づら と蹴 け 上 あ げから傾斜について考えたり, ある傾斜にするための踏面と蹴上げの長さについて 考えさせたりすることなどが考えられる。 (3)内容の(2) のアの (イ) については,関連して0° ,90° ,180° の三角比を扱うもの とする。 (ウ) 正弦定理や余弦定理について三角形の決定条件や三平方の定理と関連付けて理解 し,三角形の辺の長さや角の大きさなどを求めること。 イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。 (ア) 図形の構成要素間の関係を三角比を用いて表現するとともに,定理や公式として 導くこと。 (イ) 図形の構成要素間の関係に着目し, 日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え, 問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関 係を考察したりすること。 [用語・記号] 正弦,sin,余弦,cos,正接,tan [内容の取扱い] (3) 内容の(2)のアの(イ)については,関連して0°,90°,180°の三角比を扱うものと する。 図形と計量について,中学校第3学年では,相似な図形の性質を具体的な場面で活用す る力や,三平方の定理を具体的な場面で活用する力などを養っている。 ここでは, 正弦, 余弦及び正接の意味, 三角比の相互関係などを理解できるようにする。 さらに,図形の構成要素間の関係を三角比を用いて表現し定理や公式を導く力,日常の事 象や社会の事象などを数学的に捉え,三角比を活用して問題を解決したりする力などを培 う。 なお,角度から三角比の値を求めたり,三角比の値から角度を求めたりする際に,コン ピュータなどの情報機器や三角比表を積極的に利用するものとする。 鋭角の三角比の意味と相互関係について理解すること(ア(ア)) 鋭角について,正弦,余弦及び正接を直角三角形 の辺の比と角の大きさとの間の関係として導入する。 その際,日常の事象や社会の事象との関連を図り, 三角比を新たに導入することの必要性と有用性を認 識できるようにする。例えば,階段やエスカレータ の踏面 ふみづら と蹴上 け あ げから傾斜について考えたり,ある傾 斜にするための踏面と蹴上げの長さについて考えさ せたりすることなどが考えられる。 また,三角比における基本的な用語・記号の意味を確実に定着させるために,鋭角の三 角比の意味を多面的に理解できるようにする。例えば,∠C=90°の直角三角形ABC にお 踏面 蹴上げ 事項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア)鋭角の三角比の意味と相互関係について理解すること。    (イ )三角比を鈍角まで拡張する意義を理解し,鋭角の三角比の値を用いて鈍角の 三角比の値を求める方法を理解すること。    (ウ)正弦定理や余弦定理について三角形の決定条件や三平方の定理と関連付けて 理解し,三角形の辺の長さや角の大きさなどを求めること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )図形の構成要素間の関係を三角比を用いて表現するとともに,定理や公式と して導くこと。    (イ )図形の構成要素間の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に 捉え,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の 事象との関係を考察したりすること。 [用語・記号]  正弦,sin,余弦,cos,正接,tan
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39 1 数学Ⅰ  また,三角比における基本的な用語・記号の意味を確実に定着させるために,鋭角の三 角比の意味を多面的に理解できるようにする。例えば,∠C=90° の直角三角形ABC にお いて,sin  A=BC AB     を,AB の長さを1 としたときのBC の長さと考えることや,AB の長 さに対するBC の長さの割合と考えることなどが考えられる。  さらに,鋭角の三角比についての相互関係を取り扱い,三角比の値のいずれか一つが決 まれば,他の三角比の値を計算して求めることができることも理解させる。三角比の基本 的な相互関係には,次のものが考えられる。  sin  A=cos (90° −A)   cos  A=sin (90° −A)  tan  A=sin  A cos  A   sin 2A+cos 2A=1  1+tan 2A= 1 cos 2A 三角比を鈍角まで拡張する意義を理解し,鋭角の三角比の値を用いて鈍角の三角比の値を 求める方法を理解すること(ア (イ) , [内容の取扱い] (3) )  直角三角形の辺の比と角の大きさとの間の関係として導入した鋭角についての三角比を, 鈍角や0° ,90° ,180° の場合まで拡張する。  その際,鋭角で定義した三角比のどのような性質に着目し,どのような意味のものとし てこれらの角の三角比を定めるのかを理解できるようにする。例えば,座標平面の第1 象 限において,原点を一方の端点とする,長さαの線分OP があり,線分OP とx 軸とのな す角がθのとき,点P の座標が(αcosθ,αsinθ)と表されることに着目し,θが鈍角 になった場合にも,点P の座標が(αcosθ,αsinθ)と表されるようにするには,鈍角 の正弦や余弦をどのように定めればよいかを考察する活動などが考えられる。その際,三 角比を鈍角まで拡張する意義を,生徒がこれまでに学習している数や図形の性質に関する 拡張と対比するなどして理解させることも大切である。  なお,鈍角までの三角比の基本的な相互関係には,次のものが考えられる。  sin  A=sin (180° −A)   cos  A=−cos (180° −A)  tan  A=sin  A cos  A   sin 2A+cos 2A=1  1+tan 2A= 1 cos 2A  また,生徒の特性等により,まず鋭角の場合について正弦定理や余弦定理を取り扱った 後,鈍角の三角比への拡張を取り扱うことも考えられる。 図形の構成要素間の関係を三角比を用いて表現するとともに,定理や公式として導き,正 弦定理や余弦定理について三角形の決定条件や三平方の定理と関連付けて理解し,三角形 の辺の長さや角の大きさなどを求めること(ア (ウ) ,イ (ア) )  三角形ABC のそれぞれの辺と角との間に成り立つ基本的な関係として,  正弦定理   a sin  A = b sin  B = c sin  C =2R(ただし,R は△ABC の外接円の半径)  余弦定理  a 2=b 2+c 2−2bc cosA
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40 第2章 各科目  b 2=c 2+a 2−2ca cosB  c 2=a 2+b 2−2ab cosC を取り扱う。指導に当たっては,具体例を基に一般的に成 り立つ数学的な関係や性質を推測させるなどして,それら の関係や性質が成り立つことをどのように証明するかを考 えさせることが大切である。例えば,余弦定理では,二辺 の長さとその間の角の大きさが分かっている三角形につい て(右上図参照) ,三平方の定理を用いて残りの辺の長さを 求める活動の後,余弦定理へとつなげることなどが考えら れる。また,正弦定理では,三角形に外接する円をかくと (右下図参照) ,その周上の点においては,sin  A=sin  A′ = a 2R     が成り立つことを見いださせたりすることなどが考え られる。  なお,正弦定理については,中学校ではA=B=C の形 の連立方程式や三角形に外接する円を必ずしも取り扱って いないことに留意し,丁寧に扱うことが必要である。また,外心,内心及び重心の性質や 円に内接する四角形の性質などについては「数学A」の「 (1)図形の性質」で取り扱うの で,互いの内容の関連に配慮することも大切である。  さらには,導いた正弦定理や余弦定理を用いて具体的な三角形の辺の長さや角の大きさ を求めることができるようにする。これらの活動を通して,余弦定理が三平方の定理を一 般の三角形に拡張したものであることや,正弦定理や余弦定理の有用性を認識できるよう にする。さらに,2 辺とその間の角の大きさが分かっている三角形の面積の求め方を見い だすことを取り扱うことも考えられる。 図形の構成要素間の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題を 解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察した りすること(イ (イ) )  三角比や正弦定理,余弦定理などの活用場面として,平面図形や簡単な空間図形の計量 を取り扱う。その際,取り上げる場面などを工夫することによって,三角比や正弦定理, 余弦定理などが,図形の計量の考察や処理に有用であることを実感できるようにする。ま た,日常の事象や社会の事象などから図形的な関係を見いだしたり,見いだした関係を図 形に表し数学的な考察を通して得られた結果をもとの事象に基づいて解釈したりすること により,三角比や正弦定理,余弦定理などを日常の事象や社会の事象などの問題の解決に 活用する力を培う。  例えば,建造物や山,天体等を見込む角度や直接測定できない2 地点間の距離などを, 見いだした三角形の三角比を使って求める活動などが考えられる。  なお,空間図形については「数学A」の「 (1) 図形の性質」でも取り扱うので,互いの b2=c2+a2-2ca cosB c2=a2+b2-2ab cosC を取り扱う。指導に当たっては,具体例を基に一般的に 成り立つ数学的な関係や性質を推測させるなどして,そ れらの関係や性質が成り立つことをどのように証明する かを考えさせることが大切である。例えば,余弦定理で は,二辺の長さとその間の角の大きさが分かっている三 角形について(右上図参照),三平方の定理を用いて残 りの辺の長さを求める活動の後,余弦定理へとつなげる ことなどが考えられる。また,正弦定理では,三角形に外接 する円をかくと(右下図参照) ,その周上の点においては, sin𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴𝐴′ = 𝑎𝑎 2𝑅𝑅が成り立つことを見いださせたりすること などが考えられる。 なお,正弦定理については,中学校ではA=B=Cの形の 連立方程式や三角形に外接する円を必ずしも取り扱っていな いことに留意し, 丁寧に扱うことが必要である。 また, 外心, 内心及び重心の性質や円に内接する四角形の性質などについては「数学A」の「(1) 図形 の性質」で取り扱うので,互いの内容の関連に配慮することも大切である。 さらには,導いた正弦定理や余弦定理を用いて具体的な三角形の辺の長さや角の大きさ を求めることができるようにする。これらの活動を通して,余弦定理が三平方の定理を一 般の三角形に拡張したものであることや,正弦定理や余弦定理の有用性を認識できるよう にする。さらに,2辺とその間の角の大きさが分かっている三角形の面積の求め方を見い だすことを取り扱うことも考えられる。 図形の構成要素間の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題を 解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察した りすること(イ(イ)) 三角比や正弦定理,余弦定理などの活用場面として,平面図形や簡単な空間図形の計量 を取り扱う。その際,取り上げる場面などを工夫することによって,三角比や正弦定理, 余弦定理などが,図形の計量の考察や処理に有用であることを実感できるようにする。ま た,日常の事象や社会の事象から図形的な関係を見いだしたり,見いだした関係を図形に 表し数学的な考察を通して得られた結果をもとの事象に基づいて解釈したりすることによ り,三角比や正弦定理,余弦定理などを日常の事象や社会の事象の問題の解決に活用する 力を培う。 例えば,建造物や山,天体等を見込む角度や直接測定できない2地点間の距離などを, 見いだした三角形の三角比を使って求める活動などが考えられる。 なお,空間図形については「数学A」の「(1) 図形の性質」でも取り扱うので,互いの 内容の関連に配慮することも大切である。 D E B C A A A′
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41 1 数学Ⅰ 内容の関連に配慮することも大切である。 (3)二次関数  中学校では,具体的な事象の考察を通して,比例,反比例,一次関数及び関数y=ax 2 を取り扱い,変化や対応の特徴を見いだし,表,式,グラフを相互に関連付けて考察し表 現する力や,それらを用いて具体的な事象を捉え考察し表現する力を養っている。ただし, 関数y=ax 2 においては, 「二次関数」という用語は取り扱っていない。  ここでは,一般の二次関数を取り扱い,関数概念の理解を深め,二次関数の式とグラフ との関係について多面的に考察する力や,二つの数量の関係に着目し,二次関数を活用し て問題を解決したりする力を培う。 二次関数の値の変化やグラフの特徴を理解するとともに,二次関数の式とグラフとの関係 について,コンピュータなどの情報機器を用いてグラフをかくなどして多面的に考察する こと(ア (ア) ,イ (ア) )  中学校では,関数y=ax 2 を取り扱っているが,ここでは,一般の二次関数 について考 察する。二次関数のグラフについては,関数y=ax 2 のグラフの平行移動を取り扱った後で, y=a (x−p) 2+q の形に変形し,グラフの対称軸(直線x=p)や頂点(p,q)に着目して, 関数y=ax 2 のグラフとの位置関係を調べたり,コンピュータなどを活用して様々なグラ フをかき,その特徴を帰納的に見いだしたりする活動が考えられる。指導に当たっては, 表,式,グラフを相互に関連付けて多面的に考察できるようにすることが大切である。例 えば,コンピュータなどの情報機器を用いるなどして,y=ax 2+bx+c のa,b,c の変化に (3)二次関数  二次関数について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の事 項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア)二次関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。    (イ)二次関数の最大値や最小値を求めること。    (ウ )二次方程式の解と二次関数のグラフとの関係について理解すること。また, 二次不等式の解と二次関数のグラフとの関係について理解し,二次関数のグラ フを用いて二次不等式の解を求めること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )二次関数の式とグラフとの関係について,コンピュータなどの情報機器を用 いてグラフをかくなどして多面的に考察すること。    (イ )二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え, 問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象と の関係を考察したりすること。
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42 第2章 各科目 伴う,グラフの変化を考察することが考えられる。  なお,ここで,関数概念の理解を深める意味から,記号f (x) を使用することも考えられ る。 二次関数の最大値や最小値を求めること(ア (イ) )  二次関数のグラフを通して,関数の値の変化を考察し,二次関数の最大値や最小値を求 めることができるようにする。また,具体的な事象について,二次関数の最大・最小の考 えを用いて問題を解決できるようにする。 二次方程式や二次不等式の解と二次関数のグラフとの関係について理解し,二次関数のグ ラフを用いて二次不等式の解を求めること(ア (ウ) )  ここでは,まず,二次方程式ax 2+bx+c=0 の解が二次関数y=ax 2+bx+c のグラフとx 軸との共有点のx 座標で捉えられることを理解できるようにする。  さらに,二次不等式では,二次不等式の解の意味を理解し,二次関数y=ax 2+bx+c の グラフとx 軸との位置関係から二次不等式の解を求めることができるようにするとともに, グラフを活用することのよさを認識できるようにする。二次不等式は生徒にとって理解し にくい内容でもあるので,指導に当たっては,コンピュータなどの情報機器を用いるなど して,二次関数のグラフと二次不等式の解の関係を直観的に理解できるようにすることも 大切である。 二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題を解決し たり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりする こと(イ (イ) )  中学校において,具体的な事象の中から観察や操作,実験などによって取り出した二つ の数量について,事象を理想化したり単純化したりすることによって,それらの関係を関 数とみなし,そのことを根拠として変化や対応の様子を考察したり予測したりすることを 取り扱っている。ここでは,何を明らかにしようとするかという目的を明確にした上で, 二つの数量の関係に着目し,二次関数として捉え,関数の値の変化等を考察したり,関数 の最大値や最小値を求めたりすることができるようにする。  また,中学校第2 学年では,データを座標平面に表した際にほぼ一直線上に並ぶことを 基にして,二つの数量の関係を一次関数とみなし,考察することを取り扱っている。二次 関数についても,日常の事象や社会の事象などを考察の対象とする際には,同じように二 次関数とみなして考察をすることがある。しかし,二次関数とみなしてよいかは,一次関 数のように,データを座標平面に表した際にほぼ一直線上に並ぶかどうかで判断できない という難しさがある。そこで, (x,y)を  (x,y x )   や(x,     y    )と変換した点を座標平面 に表し,これらの点がほぼ一直線上に並ぶかどうかで,もとの(x,y)の関係を二次関数 とみなしてよいかを判断する考え方がある。生徒の特性等に応じてこのような考え方を取
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43 1 数学Ⅰ り扱うことも考えられる。 (4)データの分析  小学校算数科では, 「データの活用」領域に関係する内容として,データを分類整理す ることや,表やグラフに表すこと,相対度数や確率の基になる割合を取り扱っている。ま た,それらを活用して,日常生活の具体的な事象を考察し,その特徴を捉えたり,問題解 決したりする力を養っている。  中学校数学科では,上記の小学校算数科における学習の上に立ち,主に,次の内容を取 り扱っている。 ア  第1 学年では,目的に応じてデータを収集し,コンピュータを用いるなどしてデータ を表やグラフに整理し,データの分布の傾向を読み取り,批判的に考察して判断するこ と。 イ  第2 学年は,複数の集団のデータの分布に着目し,四分位範囲や箱ひげ図を用いて データの分布の傾向を比較して読み取り批判的に考察して判断すること。 ウ  第3 学年では,母集団から標本を取り出し,標本の傾向を調べることで母集団の傾向 を推定し判断したり,調査の方法や結果を批判的に考察したりすること。  これらを踏まえ,ここでは,データの散らばり具合や傾向を数値化する方法を考察する 力,目的に応じて複数の種類のデータを収集し,適切な統計量やグラフ,手法などを選択 して分析を行い,データの傾向を把握して事象の特徴を表現する力,不確実な事象の起こ りやすさに着目し,主張の妥当性について,実験などを通して判断したり,批判的に考察 したりする力などを培う。 (4)データの分析  データの分析について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次 の事項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア)分散,標準偏差,散布図及び相関係数の意味やその用い方を理解すること。    (イ )コンピュータなどの情報機器を用いるなどして,データを表やグラフに整理 したり,分散や標準偏差などの基本的な統計量を求めたりすること。    (ウ)具体的な事象において仮説検定の考え方を理解すること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア)データの散らばり具合や傾向を数値化する方法を考察すること。    (イ )目的に応じて複数の種類のデータを収集し,適切な統計量やグラフ,手法な どを選択して分析を行い,データの傾向を把握して事象の特徴を表現すること。    (ウ )不確実な事象の起こりやすさに着目し,主張の妥当性について,実験などを 通して判断したり,批判的に考察したりすること。 [用語・記号]  外れ値
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44 第2章 各科目  また,本科目の「 (4) データの分析」を含め統計的な内容は,共通教科情報の「情報Ⅰ」 の「 (4) 情報通信ネットワークとデータの活用」との関連が深く,生徒の特性や学校の実 態等に応じて,教育課程を工夫するなど相互の内容の関連を図ることも大切である。 データの散らばり具合や傾向を数値化する方法を考察し,分散,標準偏差,散布図及び相 関係数の意味やその用い方を理解すること(ア (ア) ,イ (ア) )  中学校では,データの散らばりをヒストグラムや箱ひげ図を用いて捉えたり,データの 散らばりの度合いを表す指標として範囲や四分位範囲を用いたりしている。 「数学Ⅰ」で は,そのようなデータの散らばりの度合いを数値化する方法を考察し,データの散らばり の度合いを表す新たな指標として分散及び標準偏差を取り扱う。その際,データの散らば りの度合いをどのように数値化するかを考えさせる。指導に当たっては,例えば,各デー タと平均値の差の和,各データと平均値の差の絶対値の和,各データと平均値の差の2 乗 の和,各データと中央値の差の和,各データと中央値の差の絶対値の和,各データと中央 値の差の2 乗の和,及び,これらのそれぞれをデータの総数で除した値などの考えを出さ せ,それぞれの考えの長所や短所などについて話し合った上で,分散及び標準偏差を取り 上げることも考えられる。なお,小学校,中学校において,データの分布に応じて適切な 代表値を選択することを大切にしていることを踏まえ,分散または標準偏差は,平均値と の差に基づいてデータの散らばりの度合いを表す指標なので,データの分布が概ね対称形 の場合に用いることが多いことや,データの分布が非対称形の場合,すなわち,代表値と して平均値より中央値のほうが適切な場合は,四分位範囲を用いるとよいことなどを取り 扱うことも考えられる。また,生徒の特性等に応じて,平均値の数学的な意味について, 少数のデータを例に考察することが考えられる。例えば,データd1,d2,d3,d4,d5 にお いて, (d1−p) 2+ (d2−p) 2+ (d3−p) 2+ (d 4−p) 2+ (d5−p) 2 の値を最小にするp の値が平均値 であることについて考察する。  データの相関については,散布図及び相関係数の意味を理解できるようにするとともに, それらを利用してデータの相関を的確に捉え説明できるようにする。その際,標準偏差や 分散の場合と同様に,相関係数を求める式に着目し,具体的な少数のデータを通して,そ の意味を理解できるようにする。また,相関と因果の違いについても具体例とともに取り 扱う。例えば, 1    ヶ月間に朝食を摂った日数の割合と数学のテストの得点の間に相関があっ たとしても,朝食を摂るだけで数学のテストの得点が上がるとは考えにくく,朝食と得点 の間に因果関係があると断定することはできない。相関と因果を混同して用いられること も多いので,生徒の分かりやすい例を用いて確実に理解できるようにすることが大切であ る。 目的に応じて複数の種類のデータを収集し,適切な統計量やグラフ,手法などを選択し, コンピュータなどの情報機器を用いるなどして,データを表やグラフに整理したり,分散 や標準偏差などの基本的な統計量を求めたりして分析を行い,データの傾向を把握して事 象の特徴を表現すること(ア (イ) ,イ (イ) )
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45 1 数学Ⅰ  小学校,中学校の「データの活用」領域においては, 「問題─計画─データ─分析─結 論」の五つの段階からなる統計的探究プロセスを意識した,統計的な問題解決の活動が大 切にされている。 問題 ・問題の把握     ・問題設定 計画 ・データの想定    ・収集計画 データ ・データの収集    ・表への整理 分析 ・グラフの作成    ・特徴や傾向の把握 結論 ・結論付け      ・振り返り  統計的探究プロセスとは,元々の問題意識や解決すべきことがらに対して,統計的に解 決可能な問題を設定し,設定した問題に対して集めるべきデータと集め方を考え,その計 画に従って実際にデータを集め,表などに整理した上で,集めたデータに対して,目的や データの種類に応じてグラフにまとめたり,統計量を求めるなどして特徴や傾向を把握し, 見いだした特徴や傾向から問題に対する結論をまとめて表現したり,さらなる課題や活動 全体の改善点を見いだしたりするという一連のプロセスをいう。これら一連のプロセスは 「問題」から「結論」に向けて一方向に進んでいくものではなく,計画を立てながら問題 を見直して修正を加えたり,グラフを作り直して分析したり,ときにはデータを集め直し たりするなど,相互に関連し行き来しながら進むものである。したがって,問題解決過程 において,自分たちがどの段階にあるかを把握することが大切である。中学校では,この ようなプロセスを通して,複数の集団のデータの分布に着目し,その傾向を比較して読み 取り批判的に考察して判断したり,不確定な事象の起こりやすさについて考察したりする 力などを養っている。  「数学Ⅰ」においても,可能な範囲で具体的な問題の解決を通して,このような統計的 探究プロセスを経験させるようにする。例えば,散布図及び相関係数を学習することを踏 まえ,問題場面に対する仮説を立て,データを収集しその仮説を検証していく活動(仮説 検証型アプローチ)や,データを分析し,これまでは気付いていなかった問題を発見し仮 説を形成する活動(仮説探索型アプローチ)を通して,問題の解決や改善を図るために, 現状のデータの分布を望ましいと考える方向に変えるための条件(要因)や改善策を探る ことが考えられる。その際,コンピュータなどの情報機器を積極的に用いるなどする。  また,統計的探究プロセスにおいて,目的やデータの種類に応じて適切な統計量やグラ フ,手法などを選択できるようにするために,小学校や中学校で学習した平均値,最小値, 最大値,中央値(メジアン) ,最頻値(モード) ,範囲,四分位範囲などの統計量や,棒グ ラフ,折れ線グラフ,ヒストグラム,箱ひげ図,散布図などのグラフを,どのようなデー タに対して,どのような目的で使用することが多いかについて整理したり,必要に応じて それらの精度を高めたりする方法を工夫することも大切である。小学校算数科では,文字 情報として得られる「質的データ」と数値情報として得られる「量的データ」の双方を, 中学校では,主に後者を取り扱っている。 「数学Ⅰ」では, 「質的データ」と「量的データ」
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46 第2章 各科目 の双方や,複数の「質的データ」や「量的データ」が紐付けられた複数の種類のデータを 取り扱う。そして,それらのデータを,散らばりや変量間の関係などに着目し,適切な手 法を選択して分析し,問題解決したり,解決の過程や結果を批判的に考察し判断したりす る力を培う。  例えば,質的データ間の関係を探る際には,データを漏れのないように分割した二次元 表(クロス集計表,分割表と呼ばれることもある。 )に整理したり,一旦整理したデータ を,さらに異なる性質(観点)で漏れのないように分類(分割)したりするとともに,割 合(確度・頻度)とデータの度数を相互に関連付けながら分析する。例えば,下の二次元 表は,合否が判定される試験において,ある本を使って学習をしたかどうかを尋ねた結果 を表している。この表を見ると,本の使用と合否に因果があるように思える。 合 否 使用有 65% 35% 使用無 49% 51%  同じデータを,学年に分けて集計し直すと下の表のようになる。このことからは,本の 使用の有無よりも,学年のほうが合否に影響していることが予想でき,また,度数を見る ことで,本の使用者自体が少なかったこともわかる。 合 否 1 学年 26% 74% 2 学年 77% 23%       合 否 有 1 学年 3 人 4 人 2 学年 8 人 2 人 無 1 学年 12 人 38 人 2 学年 32 人 10 人  なお,割合に関しては,これまで実施された大規模な調査において,高校生においても 理解が不十分な生徒が少なからずいることが指摘されている。生徒の実態に応じて,例え ば,先の表で,本を使用し合格した者の総受験者に対する割合や,合格者における1 学年 の生徒が占める割合などについて,何を1 とみたときの割合であるかを確認することも大 切である。  また,質的データと量的データ間の 関係を調べる際には,制御する要因が 質的データで,結果が量的データであ る問題場面では,右のように,箱ひげ 図を並列して比べる。例えば,クラス 対抗の大縄跳び大会で,あるクラスの 選手が1 列に並んで跳ぶのと,2 列に 並んで跳ぶのとでは,どちらがより多くの回数を連続で跳ぶと見込めるかについて,デー 法を選択して分析し,問題解決したり,解決の過程や結果を批判的に考察し判断したりす る力を培う。 例えば,質的データ間の関係を探る際には,データを漏れのないように分割した二次元 表 (クロス集計表, 分割表と呼ばれることもある。 ) に整理したり, 一旦整理したデータを, さらに異なる性質 (観点) で漏れのないように分類 (分割) したりするとともに, 割合 (確 度・頻度)とデータの度数を相互に関連付けながら分析する。例えば,下の二次元表は, 合否が判定される試験において,ある本を使って学習をしたかどうかを尋ねた結果を表し ている。この表を見ると,本の使用と合否に因果があるように思える。 合 否 使用有 65% 35% 使用無 49% 51% 同じデータを,学年に分けて集計し直すと下の表のようになる。このことからは,本の 使用の有無よりも,学年のほうが合否に影響していることが予想でき,また,度数を見る ことで,本の使用者自体が少なかったこともわかる。 合 否 合 否 1学年 26% 74% 有 1学年 3人 4人 2学年 77% 23% 2学年 8人 2人 無 1学年 12 人 38 人 2学年 32 人 10 人 なお,割合に関しては,これまで実施された大規模な調査において,高校生においても 理解が不十分な生徒が少なからずいることが指摘されている。生徒の実態に応じて,例え ば,先の表で,本を使用し合格した者の総受験者に対する割合や,合格者における1学年 の生徒が占める割合などについて,何を1とみたときの割合であるかを確認することも大 切である。 また,質的データと量的デー タ間の関係を調べる際には,制 御する要因が質的データで,結 果が量的データである問題場面 では,下のように,箱ひげ図を 並列して比べる。例えば,クラ ス対抗の大縄跳び大会で,ある クラスの選手が1列に並んで跳 ぶのと,2列に並んで跳ぶのと 10 20 40 30 1列 2列 向き 同じ 1列 2列 向き 異なる 回し手AB 回し手CD
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47 1 数学Ⅰ タをとって考察する場面では,並び方以外の要因,例えば,並び方が全員同一方向の場合 と真ん中で分かれる場合や,縄の回し手別にデータを分けて(層別して)比較することが 考えられる。  このような考察は,1 つのデータが,複数の種類のデータと紐付けられていることによ り可能になることである。したがって,データを収集する前に,分析の構想を練り,紐付 ける項目を洗い出すことが大切である。  量的データ間の関係を探る際には,散布図や相関 係数を用いる。その際,データ数が多い場合や離散 量のデータの場合,散布図で点が重なり傾向が十分 読み取れないことがあることから,それぞれの変量 の散らばりをヒストグラムや箱ひげ図で確認したり, 右の図のように散布図と箱ひげ図を組み合わせた図 を用いたりしながら分析することもできるようにす る。  量的データには,他の値から極端にかけ離れた データがあることがある。そのような値を「外れ値」 と呼ぶ。外れ値は除外すべき値と捉えがちだが,その背景を探ることも大切である。測定 ミスや入力ミスでなければ,そこに問題発見や問題解決の手がかりがあることもあるから である。例えば,販売実績が極めてよい販売員がいたとすれば,その販売員の工夫を探る ことで販売促進のための対策が見いだせる。ここでは,このように,データの分析におい て外れ値を見いだす意義を理解できるようにする。  なお,外れ値は, 通常四分位範囲の 1.5 倍以上離れた値 とされる(標準偏差 s を用いて,平均値 より±2s(事象によっては±3s)以上離れた値とされることもある) 。外れ値がある場合, 上図のような箱ひげ図が用いられることもあり,この場合, 「第1 四分位数−1.5×四分位 範囲」までの最小値から第1 四分位数まで と,第3 四分位数から「第3 四分位数+1.5 ×四分位範囲」までの最大値まで箱から線分が引かれる。  測定ミス・入力ミスなど原因が分かっているものは「異常値」と呼び,外れ値と区別す る。 具体的な事象において仮説検定の考え方を理解するとともに,不確実な事象の起こりやす さに着目し,主張の妥当性について,実験などを通して判断したり,批判的に考察したり すること(ア (ウ) ,イ (ウ) )  不確実な事象において,読み取った傾向をもとに合理的な判断や意思決定をしようとす る際には,同様の傾向が繰り返される(確率的事象)とみなし,データやそれに基づく確 では,どちらがより多くの回数を連続で跳ぶと見込めるかについて,データをとって考察 する場面では,並び方以外の要因,例えば,並び方が全員同一方向の場合と真ん中で分か れる場合や,縄の回し手別にデータを分けて(層別して)比較することが考えられる。 このような考察は,1つのデータが,複数の種類のデータと紐付けられていることによ り可能になることである。したがって,データを収集する前に,分析の構想を練り,紐付 ける項目を洗い出すことが大切である。 量的データ間の関係を探る際には,散布図 や相関係数を用いる。その際,データ数が多 い場合や離散量のデータの場合,散布図で点 が重なり傾向が十分読み取れないことがある ことから,それぞれの変量の散らばりをヒス トグラムや箱ひげ図で確認したり,右の図の ように散布図と箱ひげ図を組み合わせた図を 用いたりしながら分析することもできるよう にする。 量的データには,他の値から極端にかけ離 れたデータがあることがある。そのような値を「外れ値」と呼ぶ。外れ値は除外すべき値 と捉えがちだが,その背景を探ることが大切である。測定ミスや入力ミスでなければ,そ こに問題発見や問題解決の手がかりがあることもあるからである。例えば,販売実績が極 めてよい販売員がいたとすれば,その販売員の工夫を探ることで対策が見いだせる。ここ では, このように, データの分析において外れ値を見いだす意義を理解できるようにする。 なお,外れ値は, 通常四分位範囲の 1.5 倍以上離れた値 とされる(標準偏差 s を用いて,平均値 より±2s(事象によ っては±3s)以上離れた値とされることもある) 。外れ値がある場合,上図のような箱ひげ 図が用いられることもあり,この場合, 「第1四分位数-1.5×四分位範囲」までの最小値 から第1 四分位数まで と, 第3 四分位数から 「第3 四分位数+1.5×四分位範囲」 までの 最大値まで 箱から線分が引かれる。 測定ミス・入力ミスなど原因が分かっているものは「異常値」とよび,区別する。 具体的な事象において仮説検定の考え方を理解するとともに,不確実な事象の起こりやす さに着目し,主張の妥当性について,実験などを通して判断したり,批判的に考察したり すること(ア(ウ),イ(ウ)) 不確実な事象において,読み取った傾向をもとに合理的な判断や意思決定をしようとす る際には,同様の傾向が繰り返される(確率的事象)とみなし,データやそれに基づく確 外れ値 第1四分位数 第3四分位数 中央値 四分位範囲 * 第3四分位数+1. 5×四分位範囲 第1四分位数-1. 5×四分位範囲 では,どちらがより多くの回数を連続で跳ぶと見込めるかについて,データをとって考察 する場面では,並び方以外の要因,例えば,並び方が全員同一方向の場合と真ん中で分か れる場合や,縄の回し手別にデータを分けて(層別して)比較することが考えられる。 このような考察は,1つのデータが,複数の種類のデータと紐付けられていることによ り可能になることである。したがって,データを収集する前に,分析の構想を練り,紐付 ける項目を洗い出すことが大切である。 量的データ間の関係を探る際には,散布図 や相関係数を用いる。その際,データ数が多 い場合や離散量のデータの場合,散布図で点 が重なり傾向が十分読み取れないことがある ことから,それぞれの変量の散らばりをヒス トグラムや箱ひげ図で確認したり,右の図の ように散布図と箱ひげ図を組み合わせた図を 用いたりしながら分析することもできるよう にする。 量的データには,他の値から極端にかけ離 れたデータがあることがある。そのような値を「外れ値」と呼ぶ。外れ値は除外すべき値 と捉えがちだが,その背景を探ることが大切である。測定ミスや入力ミスでなければ,そ こに問題発見や問題解決の手がかりがあることもあるからである。例えば,販売実績が極 めてよい販売員がいたとすれば,その販売員の工夫を探ることで対策が見いだせる。ここ では, このように, データの分析において外れ値を見いだす意義を理解できるようにする。 なお,外れ値は, 通常四分位範囲の 1.5 倍以上離れた値 とされる(標準偏差 s を用いて,平均値 より±2s(事象によ っては±3s)以上離れた値とされることもある) 。外れ値がある場合,上図のような箱ひげ 図が用いられることもあり,この場合, 「第1四分位数-1.5×四分位範囲」までの最小値 から第1 四分位数まで と, 第3 四分位数から 「第3 四分位数+1.5×四分位範囲」 までの 最大値まで 箱から線分が引かれる。 測定ミス・入力ミスなど原因が分かっているものは「異常値」とよび,区別する。 具体的な事象において仮説検定の考え方を理解するとともに,不確実な事象の起こりやす さに着目し,主張の妥当性について,実験などを通して判断したり,批判的に考察したり すること(ア(ウ),イ(ウ)) 不確実な事象において,読み取った傾向をもとに合理的な判断や意思決定をしようとす る際には,同様の傾向が繰り返される(確率的事象)とみなし,データやそれに基づく確 外れ値 第1四分位数 第3四分位数 中央値 四分位範囲 * 第3四分位数+1. 5×四分位範囲 第1四分位数-1. 5×四分位範囲
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48 第2章 各科目 率や確率分布等を用いることによって,不確実性の度合いを評価することがある。中学校 第1 学年では,多数の観察や多数回の試行によって得られる結果を基にして,不確実な事 象の起こりやすさの傾向を読み取り表現する力を養っている。これを踏まえ, 「数学Ⅰ」 では,不確実な事象の起こりやすさに着目し,実験などを通して,問題の結論について判 断したり,その妥当性について批判的に考察したりできるようにする。  例えば, 「ある新素材の枕を使用した30 人のうち80%にあたる24 人が以前よりよく眠 れたと回答した」という結果に対して,新素材の枕を使用するとよく眠ることができると 判断できるか,という問題に取り組ませることを考える。この問題を解決するために,こ の結果が偶然に起こりえた可能性はどのくらいあるのかを,コイン等を使った実験を多数 回繰り返して考察する。つまり,以前よりよく眠れた場合とそうでない場合が起こる可能 性が半々だとしたとき,24 人以上がよく眠れたと回答することがどの程度起こるかを考 える。実験として,コインが表 おもて になった場合を「以前よりよく眠れた場合」とし,コイン を30 回投げるという試行を繰り返す。実験結果を表やグラフなどに整理し,24 枚以上表 になった回数の相対度数p を「起こりえないこと」の尺度として用いることで, 「30 人中 24 人以上がよく眠れたと回答することが,無作為性(ランダムネス)だけで説明できる 可能性はp しかないように思われる。 」という,判断の根拠が得られたことになる。この 「起こりえないこと」かどうかの基準として,平均から2s(s は標準偏差)あるいは3s 離 れた値を用いることが考えられる。この考え方を数学的に精緻化していくと, 「帰無仮説: 新素材の枕はよく眠れる効果がなかった」を確率分布を用いて検定する「数学B」の内容 につながる。  指導に当たっては,生徒が意欲をもって学習を進めることができるように,テーマを適 切に選び,具体的な事象に基づいた取扱いをすることとともに,多くのデータを取り扱う 場合や実験においては,コンピュータなどの情報機器を積極的に用いるようにすることが 大切である。また,Σは「数学B」で取り扱うことに留意する。 [内容の取扱い]  「数学Ⅰ」の (1) から (4) までの内容は,中学校数学の「A 数と式」 , 「B 図形」 , 「C 関 数」 , 「D データの活用」の4 つの領域を継承して構成している。   (1) から (4) までの4 つの内容の指導に当たっては,関連する中学校の内容を確認すると ともに,生徒が身に付けている知識や技能を把握し,必要に応じて中学校の学習内容を補 いながら指導するようにする。 (1)内容の (1) から (4) までについては,中学校数学科との関連を十分に考慮するもの とする。
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49 1 数学Ⅰ [課題学習] [内容の取扱い]  中学校において,課題学習は, 「実施に当たっては各学年で指導計画に適切に位置付け るものとする」とされている。 「数学Ⅰ」においても, (1) から (4) までのそれぞれの内容 と関連する課題を設け,適切な時期や場面を考慮し,指導計画に適切に位置付ける。各内 容の学習の早い時期に位置付けることも考えられる。  課題については,各内容で学習する内容を総合したり日常の事象や他教科等での学習に 関連付けたりするなどして見いだされるものや,生徒の疑問を基にしたものなどを設定す る。  通常の授業においても生徒の「主体的・対話的で深い学び」として数学的活動を充実さ せていくことが求められており,課題学習ではその実現を一層図ることにねらいがある。 例えば,課題を理解する,結果を予想する,解決の方向を構想する,解決する,解決の過 程を振り返ってよりよい解決を考えたり,さらに課題を発展させたりする,という一連の 過程に沿って,必要な場面で適切な指導を工夫するとともに,適宜自分の考えを発表した り議論したりするなどの活動を取り入れるよう配慮する。 課題学習の例  ここでは,課題学習の例を, (1) から (4) までの内容ごとに示す。 〈数と式〉  生徒の身近にある無理数として,黄金比やコピー用の用紙の横と縦の長さの比を取り上 げ,無理数に関する理解を深め,関心を高めることが考えられる。  黄金比は,ユークリッド原論における比例論の立場では, 「線分を二つに分けて,全体 の大きい方に対する比が,大きい方の小さい方に対する比に等しくなるようにする」こと として定義されるが,身の回りの形や歴史的な建造物などにも見られるものである。身の 回りにあるものから黄金比をもつ形を探したり,黄金比に関係のある話題を調べたりする ことが考えられる。また, 「 (4) データの分析」に関連付けて,人々が黄金比を美しいと感 じるかどうかを,実際にデータを収集し検証することも考えられる。   (1) から (4) までの内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発 展させたりするなどした課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識 させ,学習意欲を含めた数学的に考える資質・能力を高めるようにする。 (4)課題学習については,それぞれの内容との関連を踏まえ,学習効果を高めるよう 指導計画に適切に位置付けるものとする。
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50 第2章 各科目 〈図形と計量〉  正弦定理や余弦定理を活用して,新たな性質を見いだす学 習が考えられる。例えば,1 つの頂点O に3 つの直角が集 まっている直角三角錐OABC において,△OAB,△OBC, △OCA,△ABC の面積をそれぞれS1, S2, S3, S4 とするとき,  S1 2+S2 2+S3 2=S4 2 が成り立つこと(四平方の定理と呼ぶこともある)を導くこ とが考えられる。  また,日常の事象や社会の事象などに対して三角比を活用する学習も考えられる。例え ば,路面に描かれた「とまれ」などの表示や図柄に関する探究や,自動車のドアミラーの 角度に関する探究,指や拳を用いた距離や角度の概測に関する探究などが考えられる。こ れらの学習では,事象を数学的に捉える力を培うことを意図し,生徒自らが,理想化や抽 象化をし,図形を見いだす活動を行わせるようにすることが大切である。 〈二次関数〉  二次関数のグラフの平行移動について,コンピュータなどの情報機器を用いて,統合 的・発展的に探究する学習が考えられる。例えば,y=ax 2+bx+c のa,b,c の値を連続的 に変化させ,そのときのグラフの様子を観察したり, 方程式や不等式の解との関係について考察したりする。 その際,右のような表をもとに,y=x 2+bx と,y=x 2 とy=bx の関係を探究し,b の値の変化に伴う,グラ フの変化の理由を説明したりすることも考えられる。  また,二次関数y=a (x−p) 2+q のグラフがy=ax 2 をx 軸方向にp,y 軸方向にq だけ平 行移動したグラフであることと関連付けて,y=ax+b がy=ax をx 軸方向にどれだけ平行 移動したグラフであるかを考えたり, 「 (1)数と式」の学習を発展させ,y= | x | のグラフ とその平行移動について探究したりすることが考えられる。  日常の事象や社会の事象などを,二次関数を用いて考察する学習も考えられる。例えば, 身近な事象として,文化祭で模擬店を開設して食品を販売し,利益を寄付するためにその 利益を最大にすることを取り上げる。食品の値段を上げると売れる食品の数は一定の割合 で減少すると仮定して,純利益と食品の値段の関係を二次関数で表し,純利益が最大にな るように食品の値段と売れる数を決定する活動が考えられる。  他に,自転車や自動車の速度と制動距離に関するデータから,速度と制動距離や停止距 離の関係を二次関数に表し,速度の出し過ぎによる危険性や車間距離の重要性について探 究することも考えられる。 〈データの分析〉  今回の学習指導要領の改訂において重視された統計に関わる学習の「数学Ⅰ」でのまと めと位置付け,生徒の身近な問題について,目的に応じて複数の種類のデータを収集し, として定義されるが,身の回りの形や歴史的な建造物などにも見られるものである。身の 回りにあるものから黄金比をもつ形を探したり,黄金比に関係のある話題を調べたりする ことが考えられる。また, 「(4) データの分析」に関連付けて,人々が黄金比を美しいと感 じるかどうかを,実際にデータを収集し検証することも考えられる。 <図形と計量> 正弦定理や余弦定理を活用して,新たな性質を見いだす 学習が考えられる。例えば,1つの頂点O に3つの直角が 集まっている直角三角錐OABC において, △OAB, △OBC, △OCA, △ABC の面積をそれぞれS1, S2, S3, S4 とするとき, C O B A x −2 −1 0 1 2 y=x 2 4 1 0 1 4 y=2x −4 −2 0 2 4 y=x 2+2x 0 −1 0 3 8
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51 1 数学Ⅰ 適切な手法を用いて分析を行い,それらを用いて問題解決したり,解決の過程や結果を批 判的に考察したりする一連の活動を行うことが考えられる。  例えば,スマートフォン等の携帯端末の利用の影響について,次のようなデータを収集 し,分析することが考えられる。根拠を明確にしながら得られた結論を発表させ,データ の収集時期や対象者等を考慮し,過度に一般化した結論になっていないかどうかを批判的 に検討する。さらに,他の集団のデータと比較することも考えられる。 No 性別 所属の部 使用時間 (分) 読書 (分) テレビ視聴 (分) 家庭学習 (分) 睡眠時間 (分) 1 2 3  他に,部活動の練習時間の影響について探究することも考えられる。
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52 第2章 各科目  この科目は, 「数学Ⅰ」を履修した後に,履修させることを原則としている。この科目 は,より多くの生徒が,高等学校数学の根幹をなす内容について学習し数学的に考える資 質・能力を育てるため, 「数学Ⅰ」の内容を発展,拡充させるとともに, 「数学Ⅲ」への学 習の系統性に配慮し, 「 (1) いろいろな式」 , 「 (2) 図形と方程式」 , 「 (3) 指数関数・対数関 数」 , 「 (4) 三角関数」及び「 (5) 微分・積分の考え」の五つの内容で構成している。  また,この科目には「数学Ⅰ」と同様に,数学的活動を一層重視し,生徒の主体的な学 習を促し,数学のよさを認識できるようにするとともに,数学的に考える資質・能力を高 めるよう,課題学習を位置付けている。 (1)知識及び技能  「知識及び技能」に関しては,それを身に付ける過程において, 「思考力,判断力,表 現力等」とともに習得されるものであることに留意する必要がある。身に付ける過程の質 によって,個々の生徒が得る「知識及び技能」の質が決まるからである。  「知識」に関しては, 「数学Ⅰ」と同様に,学習するそれぞれの内容についての基本的 な概念や原理・法則を体系的に理解することが重要である。そのために,新しく学習する 第2 節 数学Ⅱ 1 性 格 2 目 標  数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力 を次のとおり育成することを目指す。 (1)いろいろな式,図形と方程式,指数関数・対数関数,三角関数及び微分・積分の 考えについての基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに,事象を数 学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付け るようにする。 (2)数の範囲や式の性質に着目し,等式や不等式が成り立つことなどについて論理的 に考察する力,座標平面上の図形について構成要素間の関係に着目し,方程式を用 いて図形を簡潔・明瞭・的確に表現したり,図形の性質を論理的に考察したりする 力,関数関係に着目し,事象を的確に表現してその特徴を数学的に考察する力,関 数の局所的な変化に着目し,事象を数学的に考察したり,問題解決の過程や結果を 振り返って統合的・発展的に考察したりする力を養う。 (3)数学のよさを認識し数学を活用しようとする態度,粘り強く柔軟に考え数学的論 拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり, 評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。
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53 2 数学Ⅱ 概念や原理・法則などを一方的に提示するのではなく,数学的活動を重視し,既習の知識 と関連付け,より深く体系的に理解できるようにする。例えば, 「いろいろな式」の学習 では,小学校で学習した整数の除法や分数の計算と関連付けて,多項式の除法や分数式の 計算の方法を考える数学的活動を取り入れることで,計算の方法について理解を深めるこ とができるようにする。  また, 「技能」に関しては,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・ 処理したりするための技能を身に付けることが重要である。例えば, 「図形と方程式」の 学習では,円と直線の位置関係を考察するために,座標を設定して円や直線をそれぞれ方 程式で表現したり,方程式を解いてその解の意味を解釈したりする技能を身に付けるよう にする。 (2)思考力,判断力,表現力等  「数学Ⅱ」において育成を目指す「思考力,判断力,表現力等」に関わる資質・能力を 具体的に示している。  例えば, 「 (1) いろいろな式」の学習では,実数の性質や等式の性質,不等式の性質など を基に,等式や不等式が成り立つことを論理的に考察し,証明できるようにする。 「 (2) 図 形と方程式」の学習では,座標平面上の図形について構成要素間の関係に着目し,それら を方程式を用いて表現し,図形の性質や位置関係について考察できるようにする。 「 (3) 指 数関数・対数関数」の学習では,二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象な どを数学的に捉えて問題解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の 事象との関係を考察したりできるようにする。 「 (4) 三角関数」の学習では,三角関数に関 する様々な性質について考察するとともに,三角関数の加法定理から新たな性質を導くこ とができるようにする。 「 (5) 微分・積分の考え」の学習では,関数の局所的な変化に着目 し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉えて問題解決したり,解決の過程を振り 返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりできるようにする。 (3)学びに向かう力,人間性等  「数学Ⅰ」の目標 (3) では,育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」に関わる資質・ 能力を, 「数学のよさを認識し,数学を活用しようとする態度,粘り強く考え数学的論拠 に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・ 改善したりしようとする態度を養う」としている。 「数学Ⅱ」では,このことを踏まえて, 粘り強く「柔軟に」考え,数学的論拠に基づいて判断しようとする態度を養うこととした。 また,数学のよさを認識し数学を活用しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考 察を深めたり,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養うことについては 「数学Ⅰ」と同様であるが,全体を通して質的な向上を目指している。
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54 第2章 各科目 (1)いろいろな式  式の計算に関しては,中学校第2 学年で単項式どうしの乗法と除法を,中学校第3 学年 で単項式と多項式の乗法,多項式を単項式で割る除法,一次式と一次式の乗法及びそれを 用いた式の展開と因数分解を取り扱い,既に学習した計算の方法と関連付けて,計算の方 法を考察し表現する力を養っている。また, 「数学Ⅰ」では,   (ax+b) (cx+d) =acx 2+ (ad+bc) x+bd を用いた式の展開と因数分解を取り扱い,式を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形 したりする力を養っている。  方程式に関しては,二次方程式について,中学校第3 学年で因数分解や解の公式によっ て解くことができるようにするとともに,二次方程式を解く方法を考察し表現する力を 養っている。また, 「数学Ⅰ」では,二次方程式の解と二次関数のグラフとの関係を取り 扱っている。  これらを踏まえ, 「数学Ⅱ」では,多項式の乗法と除法及び分数式の四則計算の方法に ついて理解し,これらの計算ができるようにするとともに,式の計算の方法を既に学習し 3 内容と内容の取扱い (1)いろいろな式  いろいろな式について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができる よう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )三次の乗法公式及び因数分解の公式を理解し,それらを用いて式の展開や因 数分解をすること。    (イ )多項式の除法や分数式の四則計算の方法について理解し,簡単な場合につい て計算をすること。    (ウ)数を複素数まで拡張する意義を理解し,複素数の四則計算をすること。    (エ)二次方程式の解の種類の判別及び解と係数の関係について理解すること。    (オ )因数定理について理解し,簡単な高次方程式について因数定理などを用いて その解を求めること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )式の計算の方法を既に学習した数や式の計算と関連付け多面的に考察するこ と。    (イ )実数の性質や等式の性質,不等式の性質などを基に,等式や不等式が成り立 つことを論理的に考察し,証明すること。    (ウ )日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,方程式を問題解決に活用する こと。 [用語・記号]  二項定理,虚数,i
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55 2 数学Ⅱ た数や式の計算と関連付け多面的に考察する力を養う。また,数の範囲を複素数まで拡張 することにより,二次方程式がいつでも解をもつことを理解できるようにするとともに, 因数定理などを用いて高次方程式の解を求めることを通して,方程式についての理解を深 める。さらに,等式や不等式が成り立つことを証明するなどの活動を通して,等式や不等 式についての理解を深めるとともに論理的に考察し表現する力を養う。 三次の乗法公式及び因数分解の公式を理解し,それらを用いて式の展開や因数分解をする とともに,式の計算の方法を既に学習した数や式の計算と関連付け多面的に考察すること (ア (ア) ,イ (ア) )  次の公式を用いた式の展開と因数分解を取り扱う。   (a+b) 3=a 3+3a 2b+3ab 2+b 3   (a−b) 3=a 3+3a 2b+3ab 2−b 3   (a+b) (a 2−ab+b 2) =a 3+b 3   (a−b) (a 2+ab+b 2) =a 3−b 3  中学校第3 学年及び「数学Ⅰ」で取り扱った公式が分配法則などの計算法則をもとに導 かれたことを振り返りながら,ここでも同様に公式が導かれることを理解できるようにす る。また, (a+b) 3 の公式を導く過程を振り返り, (a+b) n の各項の係数について,組合せ の考えを用いるなどして多面的に考察することを通して「二項定理」を導き,式の展開に ついての理解を深めるようにする。このとき,記号nCr については, 「数学A」の「 (1) 場合の数と確率」で取り扱うこととなっているが,この内容を履修していないことも考え られるので,指導に当たっては配慮が必要である。 多項式の除法や分数式の四則計算の方法について既に学習した数や式の計算と関連付け多 面的に考察して理解し,簡単な場合について計算をすること。 (ア (イ) ,イ (ア) )  多項式の除法や分数式の四則計算の方法について理解し,簡単な場合について計算がで きるようにする。ここでいう「簡単な場合」とは,分数式の分母の次数が二次程度までの もののことである。指導に当たっては,数の計算の場合と対比するなどして多面的に考察 することが大切である。  例えば,x 2+5x+8 をx+2 で割る除法の計算は,小学校で取り扱った158÷12 の筆算の 計算と関連付けて,その方法を考察する。また,多項式の除法の計算結果を式で表す方法 についても,整数の除法の場合の表し方と関連付けて考察する。 x+3 x+2   )     x 2+5x+8 x 2+2x 3x+8 3x+6 2  商x+3 余り2 x 2+5x+8= (x+2) (x+3) +2       13 12   )     158 12 38 36 2 商13 余り2 158=12×13+2
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56 第2章 各科目 数を複素数まで拡張する意義を理解し,複素数の四則計算をするとともに,二次方程式の 解の種類の判別及び解と係数の関係について理解すること(ア (ウ) (エ) )  「数学Ⅰ」では,実数の範囲で二次方程式を取り扱った。ここでは,数の範囲を実数か ら複素数へと拡張し,複素数の四則計算ができるようにする。また,複素数の範囲で実数 係数の二次方程式の解の公式や解の種類の判別を取り扱う。複素数の範囲では二次方程式 は常に解をもつので,そのことを通して数を複素数まで拡張する意義を理解できるように するとともに, 「数学Ⅰ」で取り扱った二次関数のグラフと二次方程式の解との関係を振 り返り,二次方程式が虚数解をもつ場合も含めて二次関数のグラフと二次方程式の解との 関係を統合的に考察する力を養う。  また,二次方程式における解と係数の関係の指導に当たっては,生徒の特性等に配慮し, 具体的な二次方程式の二つの解を用いて基本対称式の値を計算してそれが二次方程式の係 数で表されることを確認させたり,二次方程式の解の公式を用いて和及び積を計算して解 と係数の関係を導かせたりする。そして,いろいろな二次方程式について,二つの解につ いての対称式の値を求める活動などを通して,解と係数の関係のよさを認識できるように する。 因数定理について理解し,簡単な高次方程式について因数定理などを用いてその解を求め ること(ア (オ) )  多項式A を多項式B で割ったときの商をQ,余りをR とすると,A=BQ+R(R の次 数<B の次数)という関係式が成り立つ。この関係式に基づき剰余の定理や因数定理を導 く。その上で,因数定理や因数分解の公式を用いて因数分解できるような簡単な高次方程 式や,x 4+x 2−2=0 のような複二次方程式も取り上げ,解を求めることができるようにす る。 実数の性質や等式の性質,不等式の性質などを基に,等式や不等式が成り立つことを論理 的に考察し,証明すること(イ (イ) )  等式については,中学校第1 学年で等式の基本的な性質と一元一次方程式,第2 学年で 連立二元一次方程式,第3 学年で二次方程式を取り扱っている。また,不等式については, 「数学Ⅰ」で不等式の基本的な性質,一次不等式及び二次不等式を取り扱っている。ここ では,等式や不等式の基本的な性質,実数の性質,絶対値の性質,相加・相乗平均の関係 などを用いて,等式や不等式が成り立つことを証明する。そして,これらの活動を通して, 等式や不等式についての理解を深めるととともに,等式や不等式が成り立つことを論理的 に考察し表現する力を養う。指導に当たっては,一つの式の証明について複数の証明方法 を取り上げ,それらを対比させるなどの活動を取り入れることが大切である。  なお,等式の証明に関連して恒等式の未定係数法を取り扱うことも考えられる。 日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,方程式を問題解決に活用すること(イ (ウ) )  日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,方程式を問題解決に活用するような問題
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57 2 数学Ⅱ を取り扱う。  例えば,縦の長さが高さよりも2cm 短く,横の長さが高さよりも3cm 長い直方体の形 状で,容積が350cm 3 の箱を作るとき,箱の縦の長さ,横の長さ,高さを求める問題が考 えられる。このような問題の解決を通して,事象を数学的に考察する力を養う。 (2)図形と方程式  図形に関しては,これまでにその性質や計量について学習している。また,座標や式に 関わる内容について,中学校第1 学年では,原点O で直交した2 本の数直線によって平 面上の点が一意的に表されることや,座標を用いて比例,反比例の関係をグラフに表すこ とを取り扱っている。第2 学年では,一次関数のグラフが直線であることや,二元一次方 程式ax+by+c=0(b≠0)を関数を表す式とみることを取り扱っている。第3 学年では, 関数y=ax 2 のグラフが,y 軸を対称軸とする線対称な曲線であることを取り扱っている。 また, 「数学Ⅰ」では,一般の二次関数のグラフの性質について考察している。ただし, いずれの場合も関数についての考察や理解を中心とした取扱いである。  ここでは,平面図形とそれを表す方程式や不等式との関係を取り扱う。座標を用いて, 直線や円などの基本的な平面図形の性質や関係を数学的に表現して調べる解析幾何学にお ける方法を理解し,その有用性を認識するとともに,それらをいろいろな事象の考察に活 用する力を養う。また,図形を条件を満たす点の集合とみることについても理解できるよ うにする。 (2)図形と方程式  図形と方程式について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次 の事項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )座標を用いて,平面上の線分を内分する点,外分する点の位置や二点間の距 離を表すこと。    (イ)座標平面上の直線や円を方程式で表すこと。    (ウ)軌跡について理解し,簡単な場合について軌跡を求めること。    (エ )簡単な場合について,不等式の表す領域を求めたり領域を不等式で表したり すること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )座標平面上の図形について構成要素間の関係に着目し,それを方程式を用い て表現し,図形の性質や位置関係について考察すること。    (イ )数量と図形との関係などに着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に 捉え,コンピュータなどの情報機器を用いて軌跡や不等式の表す領域を座標平 面上に表すなどして,問題解決に活用したり,解決の過程を振り返って事象の 数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりすること。
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58 第2章 各科目 座標を用いて,平面上の線分を内分する点,外分する点の位置や二点間の距離を表すとと もに,座標平面上の直線や円を方程式で表すこと(ア (ア) (イ) )  平面上の直交座標について取り扱い,座標を用いることによって平面上の点が一意的に 表現できることを確認するとともに,二点間の距離や線分を内分する点,外分する点と座 標との関係について理解できるようにする。内分する点,外分する点の指導に当たっては, これらを別々のものとみるのではなく,線分を与えられた比に分ける点として統合的に捉 えたりして理解できるようにすることも大切である。  また,直線を方程式で表すことについて取り扱う。直線の式については,中学校で,二 元一次方程式ax+by+c=0(b≠0)を一次関数の式とみて方程式のグラフをかくことや, 連立二元一次方程式の解と二直線の交点の座標との関係について取り扱っている。これら の考えを発展させて,すべての直線が二元一次方程式で表されることについて理解を深め るようにする。  さらに,円を方程式で表すことについて取り扱う。円を定点からの距離が一定である点 の集合と考えて,その方程式を導き,円の方程式についての考察を進める。なお,中学校 では,図形を条件を満たす点の集合としてみることは,必ずしも取り扱っていないことに 配慮する必要がある。 座標平面上の図形について構成要素間の関係に着目し,それを方程式を用いて表現し,図 形の性質や位置関係について考察すること(イ (ア) )  直線の方程式をもとに,二直線が平行であるための条件や垂直であるための条件につい て考察したり,円の方程式と直線の方程式をもとに,円と直線の位置関係について考察し たりする。さらには,点と直線の距離について考察したり,座標を用いて三角形や四角形 の性質を証明したりすることも考えられる。図形の性質の証明の指導に当たっては,座標 を用いない初等幾何による方法も取り上げて,二つの方法を比較することも大切である。 例えば,三角形の性質の1 つである「中線定理」を取り上げ,座標を用いた証明と,座標 を用いずに三平方の定理を用いた証明方法を比較する活動が考えられる。  このような活動を通して,座標を用いた方法についての理解を深め,論理的に考察し表 現する力を養うとともに,座標を用いた方法のよさを認識できるようにする。 軌跡について理解し,簡単な場合について,軌跡を求めるとともに,不等式の表す領域を 求めたり領域を不等式で表したりすること(ア (ウ) (エ) )  図形を与えられた条件を満たす点の集合としてみることについての理解を深める。  方程式を満たす点の集合が座標平面上の軌跡を表すことを理解し,軌跡が直線や円また はそれらの一部となるような簡単な場合について,実際に軌跡を求めることができるよう にする。指導に当たっては,コンピュータなどの情報機器を用いて,軌跡を確認したり, 条件を変更したときに軌跡がどのようになるかを予想し検証したりする活動を通して,条 件と得られる軌跡の関係を直観的に理解できるようにすることも大切である。  また,不等式を満たす点の集合が座標平面上の領域を表すことを理解し,領域の境界線
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59 2 数学Ⅱ が直線あるいは円となるような簡単な場合について,幾つかの不等式で表される領域を求 めたり,逆に,領域を不等式で表したりすることができるようにする。 数量と図形との関係などに着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,コン ピュータなどの情報機器を用いて軌跡や不等式の表す領域を座標平面上に表すなどして, 問題解決に活用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係 を考察したりすること(イ (イ) )  日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,軌跡や不等式の表す領域を問題解決に活 用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したり することを取り扱う。  例えば,ある製品A,B を1 個作るのに必要な原料a,b の量,原料a,b の1 日当たり の使用限度量,製品A,B を販売したときの1 個当たりの利益が下の表のように定められ ているとき,利益を最大にするには,1 日に製品A,B を何個ずつ作ればよいかを考える 線形計画法の問題を取り扱う。問題の解決に当たっては,コンピュータなどの情報機器を 用いるなどして不等式の表す領域を表すとともに,解決にはグラフのどのような部分を詳 細に検討する必要があるかを見通したり,元の事象における解の意味を考えたりすること が大切である。  このような問題の解決を通して,事象を数学的に考察したり,解決の過程を振り返って 考察を深めたりする力を養う。 製品A 製品B 1 日の使用限度量 原料a 1kg 2kg 200kg 原料b 3kg 1kg 400kg 1 個当たりの利益 2000 円 1000 円 (3)指数関数・対数関数 (3)指数関数・対数関数  指数関数及び対数関数について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとと もに,次の事項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )指数を正の整数から有理数へ拡張する意義を理解し,指数法則を用いて数や 式の計算をすること。    (イ)指数関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。    (ウ )対数の意味とその基本的な性質について理解し,簡単な対数の計算をするこ と。    (エ)対数関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。
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60 第2章 各科目  「数学Ⅰ」では,二次関数を取り扱い,関数概念の理解を深めるとともに,二次関数の 式とグラフとの関係について多面的に考察する力を養っている。  ここでは, 「数学Ⅰ」での指導を踏まえて指数関数及び対数関数を取り扱い,これらの 関数の特徴を捉えるとともに,関数についての理解を一層深め,具体的な事象の考察に活 用できるようにする。  なお,理科の各科目を履修するに当たり指数関数や対数関数を早めに学んでおく方がよ い場合は,指数関数及び対数関数を他の内容より早く履修させることも考えられる。 指数を正の整数から有理数へ拡張する意義を理解し,指数法則を用いて数や式の計算をす ること(ア (ア) )  指数を正の整数から有理数まで拡張することを取り扱い,拡張された指数の意味を理解 し,指数法則を用いて数や式の計算ができるようにする。指導に当たっては,拡張された 指数の定義を形式的に説明するのではなく,正の整数の場合に成立した指数法則が,有理 数まで拡張しても同様に成立するように定義されることを調べる活動を通して,有理数へ 拡張する意義を理解できるようにすることが大切である。  なお,指数関数を取り扱うには,指数を実数まで拡張することが必要であるが,そのこ とに触れる場合には直観的に理解できる程度とする。 指数関数の式とグラフの関係について,多面的に考察し,指数関数の値の変化やグラフの 特徴について理解すること(ア (イ) ,イ (イ) )  指数関数は,y=2 x やy= ( 1 2) x などのように,底が簡単な数値で与えられているものを 取り扱う。その際,二次関数の変化と指数関数の変化を比較するなどして,表,式,グラ フを相互に関連付けて多面的に考察できるようにする。 x 0 1 2 3 4 5 y=x 2 0 1 4 9 16 25 +1 +3 +5 +7 +9   x 0 1 2 3 4 5 y=2 x 1 2 4 8 16 32 +1 +2 +4 +8 +16  また,コンピュータなどの情報機器を用いるなどして,いろいろな指数関数の式とグラ  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア)指数と対数を相互に関連付けて考察すること。    (イ )指数関数及び対数関数の式とグラフの関係について,多面的に考察すること。    (ウ )二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え, 問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象と の関係を考察したりすること。 [用語・記号]  累乗根,loga  x,常用対数
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61 2 数学Ⅱ フの関係を考察することを通して,グラフについての理解を深めたり,二次関数のグラフ の平行移動と式の関係に着目し,統合的・発展的に考察したりできるようにすることも考 えられる。 指数と対数を相互に関連付けて考察し,対数の意味とその基本的な性質について理解し, 簡単な対数の計算をすること(ア (ウ) ,イ (ア) )  対数の必要性を理解できるようにすることが大切である。例えば2 x=4 を満たす実数x は2 であるが,2 x=3 を満たす実数x はこれまで学習した数を使って簡単に表すことがで きない。そこで対数という概念を導入し,2 x=3 を満たす実数x を記号log を使ってlog23 と表す。また,このとき,2 1=2,2 2=4 であるので,x が増加するにつれて2 x が単調に増 加することを考えれば,1<log23<2 である。このように,対数の意味について丁寧に指 導することを通して,対数の値の大きさに関する感覚も養う。  また,対数の基本的な性質を,指数と対数を相互に関連付けて考察できるようにする。 例えば,指数法則a x×a  y=a x+y を基に,logaXY=logaX+logaY が導かれることを取り扱っ た上で,他の指数法則a x÷a  y=a x−y や (a x) y=a xy からどのような性質が導かれるかを考察す ることが考えられる。さらに,導いた対数の基本的な性質を用いて,簡単な対数の計算が できるようにする。 対数関数の式とグラフの関係について,多面的に考察し,対数関数の値の変化やグラフの 特徴について理解すること(ア (エ) ,イ (イ) )  指数関数の場合と同様に,底が2 や10 などの簡単な数値で与えられている対数関数を 取り扱う。逆関数については, 「数学Ⅲ」の「 (1)極限」の内容であるので,ここでは指 数関数と対数関数の関係については,定義の段階でy=loga  x がx=a  y のことであるとして 捉える程度とする。指導に当たっては,指数関数と対数関数の変化を表やグラフを基に比 較するなどして多面的に考察することを通して,対数関数の変化やグラフの特徴について 理解できるようにする。また,指数関数の場合と同様に,コンピュータなどの情報機器を 用いていろいろな対数関数の式とグラフの関係を考察することを通して,グラフについて の理解を深めることも大切である。このとき,指数関数のグラフと対数関数のグラフが直 線y=x に関して線対称な位置にあることを確認することも考えられる。 二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題解決に活 用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したり すること(イ (ウ) )  バクテリアの増殖や放射性物質の崩壊など,自然現象の中に見られる生成や発展,減衰 の様子は指数関数で表されることが多い。また,音の強さの単位(デシベル)や星の明る さの単位(等星) ,地震の規模を表す尺度(マグニチュード)など,人間の感じ方に関係 する尺度に対数が活用されている。このような日常の事象や社会の事象などを,二つの数 量の関係に着目し数学的に捉え,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学
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62 第2章 各科目 的な特徴や他の事象との関係を考察したりする力を養う。  例えば,ある薬を飲んだときの1 時間後の薬の体内残量が80%であるとき,体内残量 が50%以下になるのは薬を飲んでおよそ何時間後になるかを考える活動が考えられる。 この際,変化の様子を捉えたり,対数の計算をしたりするために,コンピュータなどの情 報機器を積極的に用いるようにする。さらには,体内残量の割合を変えたときに,体内残 量が50%以下になる時間がどのように変化するかを発展的に考察する活動も考えられる。  また,具体的な事象の中から観察や操作,実験などによって取り出した二つの数量につ いて,事象を理想化したり単純化したりすることによって,それらの関係を指数関数とみ なす活動を行うことも考えられる。指数関数とみなしてよいかどうかを吟味する際には, 片対数方眼紙を使用することも有効である。  このような問題の解決を通して,指数関数及び対数関数の有用性を認識するとともに, 事象を数学的に考察したり,解決の過程を振り返って考察を深めたりする力を養う。 (4)三角関数  「数学Ⅰ」の「 (2) 図形と計量」では,0° から180° までの正弦,余弦,正接を三角比と して取り扱っている。また,この角の範囲で,正弦,余弦,正接の相互関係についても取 り扱っている。しかし, 「数学Ⅰ」での三角比は,あくまでも図形の計量を目的としたも のであり,関数としての取扱いではない。  ここでは,角の範囲を一般角まで拡張した上で,三角関数の意味を理解し,それらのグ ラフを通して周期性などの三角関数の特徴について理解できるようにする。また,三角関 (4)三角関数  三角関数について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の事 項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )角の概念を一般角まで拡張する意義や弧度法による角度の表し方について理 解すること。    (イ)三角関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。    (ウ)三角関数の相互関係などの基本的な性質を理解すること。    (エ )三角関数の加法定理や2 倍角の公式,三角関数の合成について理解すること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )三角関数に関する様々な性質について考察するとともに,三角関数の加法定 理から新たな性質を導くこと。    (イ)三角関数の式とグラフの関係について多面的に考察すること。    (ウ )二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え, 問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象と の関係を考察したりすること。
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63 2 数学Ⅱ 数の重要な性質の一つである加法定理について理解し,加法定理を基に三角関数に関する 新たな性質を導く力や,三角関数を具体的な事象の考察に活用する力を養う。 角の概念を一般角まで拡張するする意義や弧度法による角度の表し方について理解すると ともに,三角関数に関する様々な性質や式とグラフの関係について多面的に考察し,三角 関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること(ア (ア) (イ) ,イ (ア) (イ) )  角を変数とする三角関数を取り扱うために,角の範囲を一般角まで拡張するとともに, 角の大きさを表す方法として度数法とは異なる弧度法を取り扱う。その際,具体的な事象 を取り上げるなどして,角の概念を一般角まで拡張することや弧度法を用いる必要性と弧 度法の基本的な考え方を理解できるようにする。また,扇形の弧の長さや面積を求めるな どの活動を通して,弧度法に関する理解を深めることも考えられる。  その上で,一般角の正弦,余弦,正接を定義して,三角関数を導入する。指導に当たっ ては,一般角を変数とする三角関数が, 「数学Ⅰ」で定義した三角比の自然な拡張になっ ていることを確認することが大切である。  また,三角関数の変化の特徴である周期性,原点やy 軸及びx 軸との対称性について考 察して理解できるようにするとともに,三角関数の表,式,グラフを相互に関連付け,関 数の式の中の係数の意味を多面的に考察する。指導に当たっては,コンピュータなどの情 報機器を用いるなどしていろいろな三角関数の式とグラフの関係を考察し,三角関数の式 における定数とグラフとの関係についての理解を深めることが大切である。 三角関数の相互関係などの基本的な性質や加法定理を理解し,三角関数の加法定理から2 倍角の公式や三角関数の合成などの新たな性質を導き,理解すること(ア (ウ) (エ) ,イ (ア) )  三角関数の相互関係などの基本的な性質を取り扱う。 「数学Ⅰ」で取り扱った基本的な 性質を振り返って,同様の性質が一般角を変数とする三角関数の場合にも成り立つことを 確認する。  また,三角関数の重要な性質の一つとして加法定理を取り扱い,三角関数の基本的な性 質や加法定理を基にして, 2 倍角の公式及び三角関数の合成asinθ+bcosθ= a 2+b 2 sin (θ+α) などを導く力を養う。指導に当たっては,例えば,既知の角の大きさの三角関数の値を基 に,新たな角の大きさの三角関数の値を求めるなど,加法定理などの必要性が感じられる 場面を設定することが大切である。なお,加法定理に関連して,平面上の点の原点を中心 とする回転移動を取り扱うことも考えられる。 二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題解決に活 用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したり すること(イ (ウ) )  回転運動や波動など,周期性のある事象はすべて三角関数で表される。このような事象 における二つの数量の関係に着目し,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の 数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりする力を養う。
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64 第2章 各科目  例えば,回転運動をする例として観覧車を取り上げ,回転の半径や回転の速さが与えら れているときに,観覧車に乗ってある高さ以上にいる時間の長さを考えたり,一定時間に おける高さの変化を比較したりすることが考えられる。さらに,回転の半径や速さを変え たときに,ある高さ以上にいる時間の長さがどのように変化するかを発展的に考察するこ とも考えられる。 (5)微分・積分の考え [内容の取扱い]  微分と積分の概念は,いろいろな事象を数理的に取り扱うのに有用である。  関数に関しては,中学校第2 学年で一次関数は変化の割合が一定であることを,第3 学 年で関数y=ax 2 は変化の割合が一定でないことを取り扱い, 「数学Ⅰ」で一般の二次関数 について,変化やグラフの特徴を調べて二次関数の値の変化について理解を深めている。 ここでは,簡単な多項式で表される関数(以下「多項式関数」という。 )に限定して,瞬 (5)微分・積分の考え  微分と積分の考えについて,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに, 次の事項を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )微分係数や導関数の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の導関数 を求めること。    (イ )導関数を用いて関数の値の増減や極大・極小を調べ,グラフの概形をかく方 法を理解すること。    (ウ )不定積分及び定積分の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の不定 積分や定積分の値を求めること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア)関数とその導関数との関係について考察すること。    (イ )関数の局所的な変化に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え, 問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象と の関係を考察したりすること。    (ウ )微分と積分の関係に着目し,積分の考えを用いて直線や関数のグラフで囲ま れた図形の面積を求める方法について考察すること。 [用語・記号]  極限値,lim (1)内容の (5) のアの (ア) については,三次までの関数を中心に扱い,アの (ウ) につい ては,二次までの関数を中心に扱うものとする。また,微分係数や導関数を求める 際に必要となる極限については,直観的に理解させるよう扱うものとする。
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65 2 数学Ⅱ 間の速さや面積などの具体的な事象の考察を通して微分と積分の考えを理解し,その考え の有用性を認識できるようにするとともに,微分と積分の考えを活用して問題を解決する 力などを養う。  なお,指数関数,対数関数,三角関数,分数関数及び無理関数などの関数の微分法,積 分法については, 「数学Ⅲ」で取り扱う。 微分係数や導関数の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の導関数を求めること (ア (ア) , [内容の取扱い] (1) )  これまでの内容をさらに発展,拡充させ,多項式関数の値の変化などについて考察する。 微分係数や導関数の指導に当たっては,関数f (x) の与えられたx の値における微分係数や x=a における微分係数を定義に基づいて求めたり,具体的な事象における瞬間の速さや 接線の傾きなどと関連付けて考察したりすることが大切である。このような活動を通して, 微分係数や導関数の意味について理解できるようにする。ただし, [内容の取扱い] (1) に 示されているように,極限については,コンピュータなどの情報機器を用いるなどして, 値が一定の値に近づくことを観察し直観的に理解できるようにする。また,導関数につい ての性質を基に,関数の定数倍,和及び差の導関数を求めることができるようにする。  なお,ここで取り扱う関数は, [内容の取扱い] (1) に示されているように,三次までの 多項式関数が中心である。 関数とその導関数との関係について考察し,導関数を用いて関数の値の増減や極大・極小 を調べ,グラフの概形をかく方法を理解すること(ア (イ) ,イ (ア) )  関数とその導関数との関係を考察し,多項式関数f (x) の増加,減少及び極値を調べ,そ のグラフの概形をかく方法を理解できるようにする。指導に当たっては,関数の値の増加, 減少と導関数の関係について,接線の傾きなどと関連付けて,視覚的,直観的に考察した り,導関数のグラフと元の関数のグラフを関連付けて考察したりすることを通して,グラ フの概形をかく方法を理解できるようにする。このような活動を通して,導関数の理解を 深めるとともに,導関数の有用性を認識できるようにする。  また,グラフの概形を観察して,区間が制限された関数の最大値や最小値について考察 する。この際,生徒の特性等によっては, 「数学Ⅰ」で取り扱った二次関数の最大値や最 小値を求める問題を振り返り,同じ問題を導関数を用いて求めることで理解を深めること も考えられる。 関数の局所的な変化に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題解決に 活用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察した りすること(イ (イ) )  具体的な事象について,二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数 学的に捉え,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象 との関係を考察したりする力を養う。
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66 第2章 各科目  例えば,正方形状の厚紙の四隅から同じ大き さの正方形を切り抜いて,ふたのない直方体の 箱を作るとき,箱の容積を最大にするには,ど のような形状の箱にすればよいかを考える問題 を取り扱う。さらには,元の正方形の大きさを変えた場合に,容積が最大となる箱の形状 はどのようになるかを,統合的・発展的に考察することも考えられる。  このような問題の解決を通して,微分の考えの有用性を認識するとともに,事象を数学 的に考察したり,解決の過程を振り返って考察を深めたりする力を養う。 不定積分及び定積分の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の不定積分や定積分 の値を求めるとともに,微分と積分の関係に着目し,積分の考えを用いて直線や関数のグ ラフで囲まれた図形の面積を求める方法について考察すること(ア (ウ) ,イ (ウ) , [内容の 取扱い] (1) )  微分の逆の演算としての不定積分について取り扱う。ま た,不定積分の性質を基に,関数の定数倍,和及び差の不 定積分を求めることができるようにする。定積分の指導に 当たっては,具体的なイメージを与えるために,面積を求 める例などと関連付けて導入することが大切である。例え ば,区間a≦x≦b でf (x) ≧0 のとき,関数y=f (x) のグラ フ,直線x=a,x=t (a≦t≦b)及びx 軸で囲まれる部分の 面積をS (t) とすると,S′ (t) =f (t) であることが分かり,定積分が面積を表していることを 導くことができる。  他に,区分求積法の考えに基づいて定積分を定義することも考えられる。この場合は, コンピュータなどの情報機器を用いて直観的に理解できるよう工夫する。  さらには,いろいろな直線や関数のグラフで囲まれた図形の面積 を求める方法について考察できるようにする。例えば,図のような 放物線とみなすことができる曲線と直線で囲まれた左右対称の窓の 面積を求める問題を取り上げることが考えられる。放物線と直線で 囲まれた部分の面積を求めるには,座標を設定して放物線の式を求 めるなど数学化して,定積分の考えを用いて面積を求めることが必 要である。  このように,いろいろな図形の面積を,定積分を計算して求める活動を通して,積分の 考えの有用性を認識するとともに,事象を数学的に考察する力を養うことが大切である。  なお, [内容の取扱い] (1) に示されているように,ここで取り扱う被積分関数は二次ま での多項式関数が中心である。 りすること(イ(イ)) 具体的な事象について,二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数 学的に捉え,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象 との関係を考察したりする力を養う。 例えば,正方形状の厚紙の四隅から同じ大きさ の正方形を切り抜いて,ふたのない直方体の箱を 作るとき,箱の容積を最大にするには,どのよう な形状の箱にすればよいかを考える問題を取り扱 う。さらには,元の正方形の大きさを変えた場合 に,容積が最大となる箱の形状はどのようになるかを,統合的・発展的に考察することも 考えられる。 このような問題の解決を通して,微分の考えの有用性を認識するとともに,事象を数学 的に考察したり,解決の過程を振り返って考察を深めたりする力を養う。 不定積分及び定積分の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の不定積分や定積分 の値を求めるとともに,微分と積分の関係に着目し,積分の考えを用いて直線や関数のグ ラフで囲まれた図形の面積を求める方法について考察すること(ア(ウ),イ(ウ) ,[内容の 取扱い](1)) 微分の逆の演算としての不定積分について取り扱う。ま た,不定積分の性質を基に,関数の定数倍,和及び差の不定 積分を求めることができるようにする。 定積分の指導に当た っては, 具体的なイメージを与えるために, 面積を求める例 などと関連付けて導入することが大切である。 例えば, 区間 a≦x≦b でf(x)≧0 のとき,関数y=f(x)のグラフ,直線x=a, x=t(a≦t≦b)及びx 軸で囲まれる部分の面積をS(t)とする と,S'(t)=f(t)であることが分かり,定積分が面積を表していることを導くことができる。 他に,区分求積法の考えに基づいて定積分を定義することも考えられる。この場合は, コンピュータなどの情報機器を用いて直観的に理解できるよう工夫する。 さらには,いろいろな直線や関数のグラフで囲まれた図形の面積 1m 1m 2m x a S (t) y=f (x) t b 関数の局所的な変化に着目し,日常の事象や社会の事象などを数学的に捉え,問題解決に 活用したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察した りすること(イ(イ)) 具体的な事象について,二つの数量の関係に着目し,日常の事象や社会の事象などを数 学的に捉え,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象 との関係を考察したりする力を養う。 例えば,正方形状の厚紙の四隅から同じ大きさ の正方形を切り抜いて,ふたのない直方体の箱を 作るとき,箱の容積を最大にするには,どのよう な形状の箱にすればよいかを考える問題を取り扱 う。さらには,元の正方形の大きさを変えた場合 に,容積が最大となる箱の形状はどのようになるかを,統合的・発展的に考察することも 考えられる。 このような問題の解決を通して,微分の考えの有用性を認識するとともに,事象を数学 的に考察したり,解決の過程を振り返って考察を深めたりする力を養う。 不定積分及び定積分の意味について理解し,関数の定数倍,和及び差の不定積分や定積分 の値を求めるとともに,微分と積分の関係に着目し,積分の考えを用いて直線や関数のグ ラフで囲まれた図形の面積を求める方法について考察すること(ア(ウ),イ(ウ) ,[内容の 取扱い](1)) 微分の逆の演算としての不定積分について取り扱う。ま た,不定積分の性質を基に,関数の定数倍,和及び差の不定 積分を求めることができるようにする。 定積分の指導に当た っては, 具体的なイメージを与えるために, 面積を求める例 などと関連付けて導入することが大切である。 例えば, 区間 a≦x≦b でf(x)≧0 のとき,関数y=f(x)のグラフ,直線x=a, x=t(a≦t≦b)及びx 軸で囲まれる部分の面積をS(t)とする と,S'(t)=f(t)であることが分かり,定積分が面積を表していることを導くことができる。 他に,区分求積法の考えに基づいて定積分を定義することも考えられる。この場合は, コンピュータなどの情報機器を用いて直観的に理解できるよう工夫する。 さらには,いろいろな直線や関数のグラフで囲まれた図形の面積 1m 1m 2m
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67 2 数学Ⅱ [課題学習] [内容の取扱い]  課題学習の実施については, 「数学Ⅰ」での取扱いと同様に, (1) から (5) までのそれぞ れの内容と関連する課題を設け,適切な時期や場面を考慮し,指導計画に適切に位置付け る。各内容の学習の早い時期に位置付けることも考えられる。  課題については,各内容で学習する内容を総合したり日常の事象や他教科等での学習に 関連付けたりするなどして見いだされるものや,生徒の疑問を基にしたものなどを設定す る。  通常の授業においても生徒の「主体的・対話的で深い学び」として数学的活動を充実さ せていくことが求められており,課題学習では一層その実現を図ることが重要である。例 えば,課題を理解する,結果を予想する,解決の方向を構想する,解決する,解決の過程 を振り返ってよりよい解決方法を考えたり,さらに課題を発展させたりする,という一連 の過程に沿って,必要な場面で適切な指導を工夫するとともに,適宜自分の考えを発表し たり議論したりするなどの活動を取り入れるよう配慮する。 課題学習の例  ここでは,課題学習の例を, (1) から (5) までの内容ごとに示す。 〈いろいろな式〉  ある大きさの長方形を折り込んで作られる飲料用の紙パックについて,容積が240cm 3 になるような縦の長さ,横の長さ,高さを求めることが考えられる。  例えば,右図で,底面の縦の長さをxcm とすると,この紙パックの容積は,側面と底 面にある三角形は直角二等辺三角形であることを基にして,次のようにx の三次式で表す ことができるパックジュースの底面の縦の長さをxcm,横の長さをycm,高さをzcm とお くと,容積V は,  V=x y z … (a) また,  2x+2y+1=21 ⇨ y=10−x … (b)  x+z+2=18 ⇨ z=16−x … (c)   (1) から (5) までの内容又はそれらを相互に関連付けた内容を生活と関連付けたり発 展させたりするなどした課題を設け,生徒の主体的な学習を促し,数学のよさを認識 させ,学習意欲を含めた数学的に考える資質・能力を高めるようにする。 (2)課題学習については,それぞれの内容との関連を踏まえ,学習効果を高めるよう 指導計画に適切に位置付けるものとする。
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68 第2章 各科目   (a)に(b) (c)を代入して,  V=x (10−x) (16−x)  したがって,x の三次方程式の問題に帰着できる。また, 「 (5) 微分・積分の考え」に関 連付けて,x の変化に伴う容積の変化や,元の長方形の大きさを変えたときに得られる容 積の最大値について考察することも考えられる。 例えば,右図で,底面の縦の長さをxcm とすると,この紙パックの容積は,側面と底面 にある三角形は直角二等辺三角形であることを基にして,次のようにx の三次式で表すこ とができるパックジュースの底面 の縦の長さをx cm,横の長さをy cm,高さをz cm とおくと,容積V は, V=x y z ・・・(a) また, 2x +2y+1=21 ⇨ y=10−x・・・(b) x + z +2=18 ⇨ z=16−x・・・(c) (a)に(b)(c)を代入して, V=x (10−x) (16−x) したがって,x の三次方程式の問題に帰着できる。また,「(5) 微分・積分の考え」に関 連付けて,x の変化に伴う容積の変化や,元の長方形の大きさを変えたときに得られる容 積の最大値について考察することも考えられる。 <図形と方程式> 次の場面で,1日当たりに見込まれる総利益P の最大値について考察することが考えら れる。 ある製作所では,新たに〇〇と△△を製造すること になった。 それぞれ製造工程が2つあり, 1個当たりの 所要時間及び利益は, 右のようになることが見込まれて いる。 工程1, 工程2には順序性はない。工程1には1 日のべ7時間,工程2には1日のべ14 時間とることが できる。 ただし, 両製品とも整数個単位でしか製造でき ない。 これは「整数計画法」と呼ばれることのある問題であり,条件を不等式の領域で表した 後,領域内のいくつかの点について吟味する必要がある。 さらには,それぞれの製品の1個当たりの利益やそれぞれの工程に当てることのできる 最大時間が変わった場合について発展的に考察することも考えられる。 ○○ △△ 工程1 工程2 2時間 3時間 2時間 5時間 利益 4千円 5千円 x y z 直角二等辺 三角形 21cm のりしろ 1cm E A D H 18cm の り し ろ F B C G のりしろ x x y z 〈図形と方程式〉  次の場面で,1 日当たりに見込まれる総利益P の最大値について考察することが考えら れる。  ある製作所では,新たに〇〇と△△を製造することになっ た。それぞれ製造工程が2 つあり,1 個当たりの製造所要時 間及び利益は,右のようになることが見込まれている。工程 1,工程2 には順序性はない。工程1 には1 日のべ7 時間, 工程2 には1 日のべ14 時間とることができる。ただし,両 製品とも整数個単位でしか製造できない。  これは「整数計画法」と呼ばれることのある問題であり,条件を不等式の領域で表した 後,領域内のいくつかの点について吟味する必要がある。  さらには,それぞれの製品の1 個当たりの利益やそれぞれの工程に当てることのできる 最大時間が変わった場合について発展的に考察することも考えられる。 〈指数関数・対数関数〉  身近な事象として,100℃に温めた液体を室温20℃の部屋に放置したときに,この液体 が30℃まで冷めるのにかかる時間を予測することが考えられる。  まず,実際に,液体を冷まし始めてからの時間と液体の温度を調べ,時間をx 分,温度 をy℃として,座標平面に表し,時間と温度の関係がどのような関数になるのかを予測す る。  生徒同士の議論を通すなどして,最終的には,室温20℃に限りなく近づくことから,y =20 を漸近線にもつ指数関数であるとみなして,y=30 となるx の値を求める。 ○○ △△ 工程1 工程2 2 時間 3 時間 2 時間 5 時間 利益 4 千円 5 千円
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69 2 数学Ⅱ  なお,指数関数の式を作るには,片対数グラフを利用することが考えられる。  指数関数の式が,y=20+ka x(k:定数)であるとすると,y−20=ka x だから,両辺の常 用対数をとって,  log10 (y−20) =log10ka x=xlog10a+log10k=Ax+K(A=log10a,K=log10k) ここで,log10 (y−20) =Y とすれば,  Y=Ax+K となり,Y はx の一次関数になる。したがって,対数目盛の軸にlog10y を,もう一方の軸 にx をとれば,グラフは直線となるので,この直線(一次関数)の式を求め,それをもと に指数関数の式を作ればよい。  このように,片対数グラフを用いて問題を解決することを通して,対数のよさを認識で きるようにする。 〈三角関数〉  y=sin mx+sin nx(m,n は整数)のグラフについて,コンピュータなどの情報機器を 利用するなどしながら,その周期や最大値・最小値の特徴などについて探究することが考 えられる。さらに,見いだした特徴がy=sin mx+cos nx やy=cos mx+cos nx の場合に成 り立つかを考察したり,音などの現象に照らして解釈したりすることも考えられる。 〈微分・積分の考え〉  ある立体に内接する別の立体の体積が最大となる場合を調べることが考えられる。  例えば,半径が一定の球に内接する円柱の中で,体積が最大となる円柱の形状を考察す る。そして,円柱の形状が, (底円の直径) : (高さ) =     2    :1 である場合に体積が最大と なることを確認した後に,内接する立体を,円すいや正四角柱,正四角すいなどの別の立 体に変えたとき,体積が最大となる立体の形状がどうなるかを考察する。さらには,外側 の立体を,半球や円すいなどの別の立体に変えたとき,体積が最大となる立体の形状がど うなるかを考察する。 <指数関数・対数関数> 身近な事象として,100℃に温めた液体を室温20℃の部屋に放置したときに,この液体 が30℃まで冷めるのにかかる時間を予測することが考えられる。 まず,実際に,液体を冷まし始めてからの時間と液体の温度を調べ,時間をx 分,温度 をy℃として,座標平面に表し,時間と温度の関係がどのような関数になるのかを予測す る。 生徒同士の議論を通して,最終的には,室温20℃に限りなく近づくことから,y=20 を 漸近線にもつ指数関数であるとみなして,y=30 となるx の値を求める。 なお,指数関数の式を作るには,片対数グラフを利用することが考えられる。 指数関数の式が,y=20+kax (k:定数)であるとすると,y−20=kax だから,両辺の常用 対数をとって, log10(y−20) =log10kax =xlog10a+log10k =Ax+K(A=log10a,K=log10k) ここで,log10(y−20) =Y とすれば, Y=Ax+K となり,Y はx の一次関数になる。したがって,対数目盛の軸にlog10y を,もう一方の軸 にx をとれば,グラフは直線となるので,この直線(一次関数)の式を求め,それをもと に指数関数の式を作ればよい。 このように,片対数グラフを用いて問題を解決することを通して,対数のよさを認識で きるようにする。 <三角関数> y=sin mx+sin nx (m, n は整数) のグラフについて,コンピュータなどの情報機器を利用す るなどしながら,その周期や最大値・最小値の特徴などについて探究することが考えられ る。さらに,見いだした特徴がy=sin mx+cos nx やy=cos mx+cos nx の場合に成り立つかを 考察したり,音などの現象に照らして解釈したりすることも考えられる。 <微分・積分の考え> ある立体に内接する別の立体の体積が最大となる場合を調べることが考えられる。 例えば,半径が一定の球に内接する円柱の中で,体積が最大となる円柱の形状を考察す る。そして,円柱の形状が,(底円の直径):(高さ)=√2:1 である場合に体積が最大となる ことを確認した後に,内接する立体を,円すいや正四角柱,正四角すいなどの別の立体に 変えたとき,体積が最大となる立体の形状がどうなるかを考察する。さらには,外側の立 体を,半球や円すいなどの別の立体に変えたとき,体積が最大となる立体の形状がどうな るかを考察する。 √2 1 これらについて,個人やグループで探究したり,探究した内容について互いに説明した り,レポートにまとめたりするなどの活動が考えられる。
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70 第2章 各科目  これらについて,個人やグループで探究したり,探究した内容について互いに説明した り,レポートにまとめたりするなどの活動が考えられる。
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71 3 数学Ⅲ  「数学Ⅲ」は, 「数学Ⅱ」を履修した後に,履修させることを原則としている。この科 目は,数学に強い興味や関心をもってさらに深く学習しようとする生徒や,将来,数学が 必要な専門分野に進もうとする生徒が数学的に考える資質・能力を伸ばすため, 「数学Ⅱ」 の内容を発展,充実させるとともに,内容相互の関連を重視し「 (1) 極限」 , 「 (2) 微分法」 及び「 (3) 積分法」の三つの内容で構成している。  また,この科目には「数学Ⅰ」 , 「数学Ⅱ」と同様に,数学的活動を一層重視し,生徒の 主体的な学習を促し,数学のよさを認識できるようにするとともに,数学的に考える資 質・能力を高めるよう,課題学習を位置付けている。 (1)知識及び技能  「知識及び技能」に関しては,それを身に付ける過程において, 「思考力,判断力,表 現力等」とともに習得されるものであることに留意する必要がある。身に付ける過程の質 によって,個々の生徒が得る「知識及び技能」の質が決まるからである。  「知識」に関しては, 「数学I」 , 「数学Ⅱ」と同様に,学習するそれぞれの内容につい ての概念や原理・法則を体系的に理解することが重要である。そのために,新しく学習す る概念や原理・法則などを一方的に提示するのではなく,数学的活動を重視し,既習の知 識と関連付け,より深く体系的に理解できるようにする。例えば, 「 (1)極限」における 簡単な分数関数と無理関数のグラフの学習では,二次関数y=ax 2 とy=a (x−p) 2+q のグ 第3 節 数学Ⅲ 1 性 格 2 目 標  数学的な見方・考え方を働かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力 を次のとおり育成することを目指す。 (1)極限,微分法及び積分法についての概念や原理・法則を体系的に理解するととも に,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技 能を身に付けるようにする。 (2)数列や関数の値の変化に着目し,極限について考察したり,関数関係をより深く 捉えて事象を的確に表現し,数学的に考察したりする力,いろいろな関数の局所的 な性質や大域的な性質に着目し,事象を数学的に考察したり,問題解決の過程や結 果を振り返って統合的・発展的に考察したりする力を養う。 (3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度,粘り強く柔軟に考え 数学的論拠に基づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を 深めたり,評価・改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う。
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72 第2章 各科目 ラフの位置関係を基に分数関数や無理関数のグラフの平行移動を考察する数学的活動を取 り入れ,分数関数と無理関数のグラフの特徴や関数の式と平行移動との関係について理解 を深めることができるようにする。  また, 「技能」に関しては,事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・ 処理したりするための技能を身に付けることが重要である。例えば, 「微分法」の学習で は,事象における二つの数量の関係に着目して関数の式を求め,微分するなどしてその関 数のグラフをかき,関数の値の変化を的確につかむ技能を身に付けることができるように する。 (2)思考力,判断力,表現力等  「数学Ⅲ」において育成を目指す「思考力,判断力,表現力等」に関わる資質・能力を 具体的に示している。  例えば, 「 (1) 極限」の学習では,式を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形したり して,極限を求める方法を考察することができるようにする。 「 (2) 微分法」の学習では, 関数の連続性と微分可能性,関数のグラフの形状とその導関数や第二次導関数の関係につ いて考察することができるようにする。 「 (3) 積分法」の学習では,微分法と積分法の関係 を基に図形の面積や立体の体積,曲線の長さを求める方法を考察できるようにする。 (3)学びに向かう力,人間性等  「数学Ⅱ」の目標 (3) では,育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」に関わる資質・ 能力を, 「数学のよさを認識し数学を活用する態度,粘り強く柔軟に考え数学的論拠に基 づいて判断しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・改善 したりしようとする態度や創造性の基礎を養う」としている。 「数学Ⅲ」では,このこと を踏まえて,極限,微分法,積分法について「数学Ⅱ」の学習内容より深い内容を取り扱 いながら, 「積極的に」数学を活用する態度を養うこととした。また,数学のよさを認識 し,数学を活用しようとする態度,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり,評価・ 改善したりしようとする態度を養うことについては「数学Ⅱ」と同様であるが,全体を通 して質的な向上を目指している。 (1)極限 3 内容と内容の取扱い (1)極限  数列及び関数の値の極限について,数学的活動を通して,次の事項を身に付けるこ とができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )数列の極限について理解し,数列 {r n} の極限などを基に簡単な数列の極限を
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73 3 数学Ⅲ  極限に関しては, 「数学Ⅱ」の「 (5) 微分・積分の考え」において,微分係数を求める過 程で直観的に理解させている。数列に関しては, 「数学B」の「 (1) 数列」で取り扱ってい るが,この内容を履修していないことも考えられるので,指導に当たっては配慮が必要で ある。関数については, 「数学Ⅰ」で二次関数を取り扱い, 「数学Ⅱ」で三角関数,指数関 数・対数関数及び三次までの多項式関数を中心に取り扱っている。  これらを踏まえ,ここでは,微分法,積分法の基礎を培う観点から極限の直観的な理解 に重点を置きながら数列の極限を取り扱うとともに,取り扱う関数を簡単な分数関数や無 理関数にまで広げて関数概念の理解を一層深め,多項式関数,分数関数,無理関数,三角 関数,指数関数及び対数関数の関数値の極限を求めることができるようにする。また,関 数値の極限の考えを用いて関数の連続性について考察できるようにする。なお,数列の極 限については,数列 {r n} が収束するための条件などを基にして簡単な数列の極限を求める ことができるようにするとともに,無限等比級数の収束,発散についても理解できるよう にする。 数列の極限について理解し,数列 {r n} の極限などを基に簡単な数列の極限を求めるととも に,式を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形したりして,極限を求める方法を考察 すること(ア (ア) ,イ (ア) )  ここでは,数列 {r n} が収束するためのr の条件はr=1 又は | r | <1 であることや,数列の 極限に関する基本的な性質を理解し,これらを用いて簡単な数列の極限を求めることがで きるようにする。ここでいう「簡単な数列」とは,等差数列や等比数列,一般項が分数で 表される数列など,直観的に極限が求められるものである。これらの数列の極限について,式 を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形したりして,極限を求められる方法を考察でき 求めること。    (イ )無限級数の収束,発散について理解し,無限等比級数などの簡単な無限級数 の和を求めること。    (ウ )簡単な分数関数と無理関数の値の変化やグラフの特徴について理解すること。    (エ )合成関数や逆関数の意味を理解し,簡単な場合についてそれらを求めること。    (オ)関数の値の極限について理解すること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )式を多面的に捉えたり目的に応じて適切に変形したりして,極限を求める方 法を考察すること。    (イ )既に学習した関数の性質と関連付けて,簡単な分数関数と無理関数のグラフ の特徴を多面的に考察すること。    (ウ )数列や関数の値の極限に着目し,事象を数学的に捉え,コンピュータなどの 情報機器を用いて極限を調べるなどして,問題を解決したり,解決の過程を振 り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりすること。 [用語・記号]  ∞
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74 第2章 各科目 るようにする。例えば,数列(2n+1) (n−1) n (n+2) の極限を求めるために,(2+1 n) (1−1 n) 1+2 n と変形する意味について考察することなどが考えられる。 無限級数の収束,発散について理解し,無限等比級数などの簡単な無限級数の和を求める こと(ア (イ) )  無限等比級数が収束する場合と発散する場合のそれぞれについて,公比が満たす条件に ついて理解できるようにする。また,無限等比級数が収束する場合について,その和の公 式を導き,それを用いて具体的な問題の解決ができるようにする。なお,ここでいう「簡 単な無限級数」とは,その初項から第n 項までの和が,ア (ア) の簡単な数列で表わされる ものである。  ここでは,例えば,循環小数を分数で表わすことを題材として,これを等比級数の収束 の観点から考察することも考えられる。また,特別な場合として0.999…=1 などの等式 について極限の観点から考察することも考えられる。さらに,一定の規則に基づいて作ら れる図形の面積の和や図形の辺の長さの和などを取り扱うことも考えられる。指導に当 たっては,生徒が関心や意欲をもって取り組むことのできる題材を工夫することが大切で ある。 簡単な分数関数と無理関数の値の変化やグラフの特徴について理解し,既に学習した関数 の性質と関連付けて多面的に考察するとともに,合成関数や逆関数の意味を理解し,簡単 な場合についてそれらを求めること(ア (ウ) (エ) ,イ (イ) )  分数関数は,分母が一次式のものを取り扱う。例えば,y=x−1 x−2     について漸近線の方程 式などを求め,グラフの概形をかくことができるようにする。また,無理関数は,ここで は根号の中の式が一次式で表されるものを取り扱う。例えば,関数y= x+1 のグラフは, 関数x=y 2−1 のグラフのy≧0 の部分であることを理解させ,グラフの概形をかくことが できるようにする。  また,分数関数と無理関数をコンピュータなどの情報機器を用いてグラフに表すなどし て,表,式,グラフを相互に関連付けて多面的に考察できるようにするとともに,見いだ した特徴を,例えば,二次関数y=ax 2 とy=a (x−p) 2+q のグラフに関する性質と関連付 けて,統合的・発展的に考察できるようにする。  また,合成関数や逆関数の意味を理解できるようにするとともに,多項式関数,分数関 数や無理関数などを用いて,合成関数や逆関数を求めることができるようにする。合成関 数については,例えばy= 1 x+2     は,u=x+2 と置き換えることによってy=1 u     に帰着でき ることなどを理解できるようにする。また,逆関数については,元の関数が1 対1 の対応 であるとき,y の値域を定義域としてy からx への対応を考えることによって逆関数が定 義できることや,逆関数のグラフと元の関数のグラフが直線y=x に関して線対称の位置
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75 3 数学Ⅲ にあることなどを理解できるようにする。また,対数関数が指数関数の逆関数であること もここで触れる。 関数の値の極限について理解すること(ア (オ) )  関数値の極限に関連するものとしては, 「数学Ⅱ」の「 (5)微分・積分の考え」の「ア (ア) 」で多項式関数の微分係数を求める際に, f    ′ (a) =lim f (a+h) −f (a) h を取り扱っている。  ここでは,多項式関数,分数関数,無理関数,三角関数,指数関数及び対数関数につい て,x の値を限りなくa に近付けたときのf (x) の極限やx の値を限りなく大きくしたとき のf (x) の極限について理解できるようにする。また,三角関数の極限では, lim sinθ θ =1 を取り扱う。この式から,θの値が0 に十分近いときには,sinθの値とθの値はほぼ等 しくなることも分かる。  関連して関数の連続性についても取り扱う。特に,指数関数と対数関数については,定 義域内の任意の値に対して連続であることを,コンピュータなどの情報機器を用いるなど して直観的に理解できるようにする。  指導に当たっては,式を変形せずに極限を予想したり,式の一部を変えたときの極限の 変化を予想したりした後,極限を求めさせるなどして,関数の値の極限についての直観的 な理解を深めることも大切である。その際,コンピュータなどの情報機器を用いてグラフ をかき,グラフの変化の様子と合わせて極限について考察することも考えられる。 数列や関数の値の極限に着目し,事象を数学的に捉え,コンピュータなどの情報機器を用 いて極限を調べるなどして,問題を解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な 特徴や他の事象との関係を考察したりすること(イ (ウ) )  具体的な事象について,漸化式を用いて表現したり,コンピュータなどの情報機器を用 いたりして一般項や極限を調べ,問題解決したり,他の事象との関係を考察したりするこ とができるようにする。  例えば, 「積み立てと複利計算」などを取り扱うことが考えられる。また,次ページの コッホ雪片やシェルピンスキーのギャスケットなどのフラクタル図形の周の長さや面積を 求めることも考えられる。 h→0 θ→0
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76 第2章 各科目 例えば,「積み立てと複利計算」などを取り扱うことが考えられる。また,コッホ雪片 やシェルピンスキーのギャスケットなどのフラクタル図形の周の長さや面積を求めること も考えられる。 これらの活動を通して,事象を数学的に捉え,問題解決をしたり,他の事象との関係を 考察したりする力を伸ばす。 (2) 微分法 (2) 微分法 微分法について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の事項を 身に付けることができるよう指導する。 ア 次のような知識及び技能を身に付けること。 (ア) 微分可能性,関数の積及び商の導関数について理解し,関数の和,差,積及び商 の導関数を求めること。 (イ) 合成関数の導関数について理解し,それを求めること。 (ウ) 三角関数, 指数関数及び対数関数の導関数について理解し, それらを求めること。 (エ) 導関数を用いて,いろいろな曲線の接線の方程式を求めたり,いろいろな関数の 値の増減, 極大・極小, グラフの凹凸などを調べグラフの概形をかいたりすること。 イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。 (ア) 導関数の定義に基づき,三角関数,指数関数及び対数関数の導関数を考察するこ と。 (イ) 関数の連続性と微分可能性,関数とその導関数や第二次導関数の関係について考 察すること。 (ウ) 関数の局所的な変化や大域的な変化に着目し,事象を数学的に捉え,問題を解決 したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察し たりすること。 [用語・記号] 自然対数,e,変曲点 [内容の取扱い]  これらの活動を通して,事象を数学的に捉え,問題解決をしたり,他の事象との関係を 考察したりする力を伸ばす。 (2)微分法 [内容の取扱い] (2)微分法  微分法について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の事項 を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )微分可能性,関数の積及び商の導関数について理解し,関数の和,差,積及 び商の導関数を求めること。    (イ)合成関数の導関数について理解し,それを求めること。    (ウ )三角関数,指数関数及び対数関数の導関数について理解し,それらを求める こと。    (エ )導関数を用いて,いろいろな曲線の接線の方程式を求めたり,いろいろな関 数の値の増減,極大・極小,グラフの凹凸などを調べグラフの概形をかいたり すること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )導関数の定義に基づき,三角関数,指数関数及び対数関数の導関数を考察す ること。    (イ )関数の連続性と微分可能性,関数とその導関数や第二次導関数の関係につい て考察すること。    (ウ )関数の局所的な変化や大域的な変化に着目し,事象を数学的に捉え,問題を 解決したり,解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係 を考察したりすること。 [用語・記号]  自然対数,e,変曲点 (1)内容の (2) のイの (ウ) については,関連して直線上の点の運動や平面上の点の運動 の速度及び加速度を扱うものとする。
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77 3 数学Ⅲ  「数学Ⅱ」の「 (5) 微分・積分の考え」の「ア (ア) 」では三次までの多項式関数を中心に, 関数の定数倍,和及び差の導関数を求めること,導関数を用いて関数値の増減を調べグラ フの概形をかいたりすることなどを取り扱い,関数とその導関数との関係を考察する力を 養っている。また, 「数学Ⅱ」の「 (5) 微分・積分の考え」の「ア (イ) 」では,平均変化率 を基にして,微分係数が接線の傾きを表すことや,多項式関数について,そのグラフの接 線の傾きを求めることを取り扱っている。  これらを踏まえ, 「数学Ⅲ」では,微分の公式を発展させ,和,差,積,商及び合成関 数の微分法を取り扱い,多項式関数だけでなく,分数関数,無理関数,三角関数,指数関 数及び対数関数の導関数について理解できるようにする。また,これらの関数について, 接線の方程式を求めたり,関数の値の増減,極大・極小,グラフの凹凸などを調べグラフ の概形をかいたりできるようにするとともに,関数の局所的な変化や大域的な変化に着目 し,事象を数学的に捉え,問題を解決する力を伸ばす。また,微分法の有用性を認識でき るようにするとともに,微分法を速度・加速度などの考察にも活用できるようにする。接 線と関連付けて,一次の近似式を取り扱うことも考えられる。 微分可能性,関数の積及び商の導関数,合成関数の導関数について理解し,関数の和,差, 積及び商の導関数,合成関数の導関数を求めること(ア (ア) (イ) )  関数の定数倍,和,差,積及び商の導関数の公式を導くとともに,微分係数が,x の増 分とy の増分の比の近似になっていることを踏まえて,合成関数の導関数の公式を導き, それらの公式を用いていろいろな関数の導関数が求められるようにする。  指導に当たっては, 「数学Ⅱ」では,多項式関数のうち三次までのものを中心に取り扱っ ていることを踏まえ,まず, (x n) ′ =nx n−1(n は自然数)が成り立つこと及び一般の多項式 関数の導関数の求め方を確認する。そして,商の導関数の公式により,n が任意の整数で あってもこの公式が成り立つことや,合成関数の公式によりn が任意の有理数のときに も成り立つことを示し,分数関数や無理関数の導関数を求められるようにする。  なお,分数関数の導関数については,その計算が複雑になり過ぎない程度の関数を取り 扱うよう配慮する。また,ここで逆関数の導関数を取り扱うことが考えられる。 導関数の定義に基づき,三角関数,指数関数及び対数関数の導関数を考察して,理解し, それらを求めること(ア (ウ) ,イ (ア) )  三角関数,指数関数及び対数関数の導関数について理解し,導関数を求めることができ るようにする。  指導に当たっては,導関数の定義に基づいて導関数を導く活動を行うことが大切である。 例えば,sin  x の導関数は,三角関数の加法定理と次の三角関数に関する極限の式 lim sin  x x =1,lim 1−cos  x x =0 を利用して導くことができる。三角関数の和を積に変換する公式を利用して導くこともで x→0 x→0
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78 第2章 各科目 きる。cos  x の導関数も同様に導くことができるが,cos  x=sin (x+π 2) を利用して導くこと もできる。また,tan  x の導関数については,tan  x=sin  x cos  x     を利用して導くことができる。  また,指数関数及び対数関数については,lim (1+x) 1 x=e を用いて,対数関数の導関数 を定義に従って導く。さらに,指数関数が対数関数の逆関数であることを用いると,指数 関数の導関数を導くことができる。  このように,三角関数,指数関数及び対数関数の導関数については,定義に基づいて求 められるようにし,それぞれの導関数について変化の様子などを考察できるようにする。  ここで対数微分法を取り扱うことも考えられる。  なお,自然対数の底e は, 「数学Ⅲ」ではじめて取り扱う。その際,極限lim (1+1 n) n 及 びlim (1+x) 1 xが収束することを,コンピュータなどの情報機器を用いるなどして直観的に 理解させるようにする。この式を, 1 年間の合計金利が一定のとき, 1 年, 1 月, 1 日, 1 分,…, と限りなく短い時間ごとに限りなく小さい期間で金利が発生するとしたら,預けたお金は 何倍になるかを考えることと関連付けることで生徒の興味を高めることも考えられる。こ の極限値がe である。 関数の連続性と微分可能性,関数とその導関数や第二次導関数の関係について考察すると ともに,導関数を用いて,いろいろな曲線の接線の方程式を求めたり,いろいろな関数の 値の増減,極大・極小,グラフの凹凸などを調べグラフの概形をかいたりすること(ア (エ) ,イ (イ) )  「数学Ⅱ」では,微分係数の正・負の符号によって多項式関数の増加・減少を直観的に 捉えている。関数値の増減は,最大・最小の問題とも結び付き,導関数の応用として中心 的な位置を占めるものである。  関数の局所的性質について理解できるようにするために,事象の変化を微分係数と捉え ることを題材にすることも考えられる。例えば,1 辺が1.00cm の立方体の各辺の長さを, すべて0.03cm ずつ長くしたときの立方体の体積を計算する。結果として, (1.03) 3= 1.0927cm 3 より,約1.09cm 3 となるが,ここでは,微分を,立方体が膨張していくという事 象の変化と捉え微分係数がx の増分Δx に対するy の増分Δy の比の近似を与えていること, つまり近似的にΔy≒f    ′ (x) Δx であることを理解できるようにする。  また,関数f (x) = | x | は,連続であるけれどもx=0 において微分可能ではない。一方,   g (x) = 0    (x<0) x 2(x≧0) を考えれば,g (x) は連続であり,x=0 においても微分可能である。このように,関数が連 続であっても微分可能ではない点を含む関数の例や,いくつかの関数を組合せて作られた 関数の例などを取り扱い,微分係数と座標平面上のグラフとの関係をより深く理解できる ようにする。  「y′ >0 ならば関数y は増加する」という事実は,平均値の定理を用いて示すことがで x→0 n→∞ x→0
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79 3 数学Ⅲ きる。ただし,指導においては,生徒の特性などに応じてコンピュータなどの情報機器を 用いるなどして関数の接線を引き,関数の接線の傾きが変化していく様子と関連付けて考 察することを通して直観的に理解できるようにすることも大切である。  関数の大域的性質について理解できるようにするために,関数のグラフの全体的な形状 をより正確に捉える方法について考察する。ここでは,第二次導関数,変曲点やグラフの 漸近線も取り扱う。また,導関数の値の意味を振り返り,第二次導関数の値が何を表すか を考察することを通して,関数のグラフの形状が特徴付けられることを理解できるように する。また,コンピュータなどの情報機器を用いるなどして関数のグラフをかき,導関数 や第二次導関数によって知ることができる関数のグラフの形状との関係を考察し,関数の グラフのかき方の一般的な方法などについての理解を深めるようにする。 関数の局所的な変化や大域的な変化に着目し,事象を数学的に捉え,問題を解決したり, 解決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりすること (イ (ウ) , [内容の取扱い] (1) )  事象を数学的に捉え,問題を解決することを通して,微分法の有用性を認識できるよう にする。例えば,円柱型の缶の容積が一定のときに,缶の表面積を最小にするには,缶の 底面の直径と高さの比をどのようにすればよいかを考える活動が考えられる。また,解決 の過程を振り返り,条件を変えるなどして缶の底面の直径と高さの比がどのように変化す るかを考察することなどが考えられる。  また, [内容の取扱い] (1)にあるように,直線上の点の運動や平面上の点の運動につ いて,速度及び加速度と点の位置を表す関数の導関数との関係を理解できるようにする。 速度,加速度は,自然科学への応用として最も身近なものの一つである。ここでは,直線 上の点の運動や平面上の点の運動が考察の対象となるが,動点の位置が時刻の関数となっ ている場合,速度,加速度の大きさや方向を視覚的にとらえるため,それをベクトルで表 すことが考えられる。ただし,ベクトルは「数学C」の「ベクトル」の内容であり,この 内容を履修していないことも考えられるので,指導に当たっては配慮が必要である。 (3)積分法 (3)積分法  積分法について,数学的活動を通して,その有用性を認識するとともに,次の事項 を身に付けることができるよう指導する。  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。    (ア )不定積分及び定積分の基本的な性質についての理解を深め,それらを用いて 不定積分や定積分を求めること。    (イ )置換積分法及び部分積分法について理解し,簡単な場合について,それらを 用いて不定積分や定積分を求めること。    (ウ )定積分を利用して,いろいろな曲線で囲まれた図形の面積や立体の体積及び
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80 第2章 各科目 [内容の取扱い]  微分法と同様に, 「数学Ⅱ」の「 (5) 微分・積分の考え」の内容を発展,充実させて取り 扱う。特に,積分法の基本的な性質や置換積分法及び部分積分法について理解できるよう にするとともに,その有用性を認識し,図形の面積や立体の体積を求めることなどに活用 できるようにする。不定積分の計算のために,例えば,分数関数を部分分数に分解したり, 三角関数の積を和に直したりする公式などが必要になる場合には,適宜補充して指導する。  なお,平面上の曲線は「数学C」の「 (2) 平面上の曲線と複素数平面」の内容であり, この内容を履修していないことも考えられるので,指導に当たっては配慮が必要である。 不定積分及び定積分の基本的な性質についての理解を深め,それらを用いて不定積分や定 積分を求めること(ア (ア) )  「数学Ⅱ」の「 (5)微分・積分の考え」を踏まえ,不定積分及び定積分の意味や不定積 分の線形性についてまとめるとともに,次のような定積分の基本的な性質を取り扱う。    b a f (x) dx= b a f (t) dt, a b f (x) dx=− b a f (x) dx    b a{hf (x) +kg (x) } dx=h b a f (x) dx+k b a g (x) dx(h,k は定数)  「 (2) 微分法」で,多項式関数,分数関数,無理関数,三角関数,指数関数及び対数関 数などの微分を取り扱っている。これらの公式からいろいろな関数の不定積分の公式を導 く。積分は微分の逆演算であるという考え方については,既に「数学Ⅱ」で取り扱ってい るが,ここで取り扱う題材の難易や考え方の深まりからみて,単に「数学Ⅱ」の延長上に あるというだけでなく,発展的な構成になっているという認識が必要である。 (2)内容の (3) のアの (イ) については,置換積分法はax+b=t,x=asinθと置き換え るものを中心に扱うものとする。また,部分積分法は,簡単な関数について1 回の 適用で結果が得られるものを中心に扱うものとする。 曲線の長さなどを求めること。  イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。    (ア )関数の式を多面的にみたり目的に応じて適切に変形したりして,いろいろな 関数の不定積分や定積分を求める方法について考察すること。    (イ )極限や定積分の考えを基に,立体の体積や曲線の長さなどを求める方法につ いて考察すること。    (ウ )微分と積分との関係に着目し,事象を数学的に捉え,問題を解決したり,解 決の過程を振り返って事象の数学的な特徴や他の事象との関係を考察したりす ること。
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81 3 数学Ⅲ 置換積分法及び部分積分法について理解し,簡単な場合について,それらを用いて不定積 分や定積分を求めるとともに,関数の式を多面的にみたり目的に応じて適切に変形したり して,いろいろな関数の不定積分や定積分を求める方法について考察すること(ア (イ) , イ (ア) , [内容の取扱い] (2) )  合成関数の微分法から得られる置換積分法,積の微分法から得られる部分積分法を取り 扱う。これらの方法を用いれば,直接は求めることができない不定積分や定積分が比較的 簡単に求められる場合があることを理解し,簡単な場合について不定積分や定積分を求め ることができるようにする。ただし, [内容の取扱い] (2)に示されているように,置換 積分法はax+b=t, x=asinθと置き換える程度のものを中心に取り扱うものとする。また, 部分積分法は,簡単な関数について1 回の適用で結果が得られるものを中心に取り扱うも のとする。  また,関数の式を多面的に見たり目的に応じて適切に変形したりして,いろいろな関数 の不定積分や定積分を求める方法について考察する力を伸ばす。指導に当たっては,生徒 の特性等を踏まえ,適切な問題に取り組ませるようにするとともに,式のどのような点に 着目し,どのような変形や置き換えをすれば不定積分や定積分を求めることができるかを 見通すことができるようにすることが大切である。そのような活動を行うことで,技能を 身に付けるだけではなく,式変形などにおいても数学的な考え方のよさや面白さが感じら れるようになると考えられる。 極限や定積分の考えを基に,立体の体積,曲線の長さなどを求める方法について考察する とともに,定積分を利用して,いろいろな曲線で囲まれた図形の面積や立体の体積,曲線 の長さなどを求めること(ア (ウ) ,イ (イ) )  いろいろな曲線で囲まれた図形の面積や立体の体積,曲線の長さなどを求める方法につ いて考察する力を伸ばす。  面積については, 「数学Ⅱ」で簡単な二つの曲線で囲まれた図形の面積を取り扱ってい る。ここでは,いろいろな曲線で囲まれた図形の面積を求めることを取り扱う。また,サ イクロイドのように,媒介変数で表された曲線によって囲まれた図形の面積を求めること も考えられる。  体積については,例えば,曲線で囲まれた図形の面積を求めた方法を基にして,簡単な 角錐などの体積を求める方法について考察することが考えられる。さらに,閉区間[a, b] において,曲線y=f (x) とx 軸とで囲まれた図形をx 軸の回りに回転させてできる立体の 体積V が次の公式で求められることを導く。 V=π b a{  f (x) } 2dx  (a<b)  また,曲線の長さについては,媒介変数表示された分かりやすい曲線を基に曲線の長さ の求め方を考察する。ここで取り扱う曲線の例としては,円弧やサイクロイド,アステロ イドなどが考えられる。なお,簡単な式で表される曲線であっても容易に積分によってそ の長さを求められない場合があることに留意する。