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 文部科学省では,平成30 年3 月30 日に学校教育法施行規則の一部改正と高等学校学習 指導要領の改訂を行った。新高等学校学習指導要領等は平成34 年度から年次進行で実施 することとし,平成31 年度から一部を移行措置として先行して実施することとしている。  今回の改訂は,平成28 年12 月の中央教育審議会答申を踏まえ,  ①  教育基本法,学校教育法などを踏まえ,これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積 を生かし,生徒が未来社会を切り拓 ひら くための資質・能力を一層確実に育成することを 目指す。その際,求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に 開かれた教育課程」を重視すること。  ②  知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成とのバランスを重視する平 成21 年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を 更に高め,確かな学力を育成すること。  ③  道徳教育の充実や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな 心や健やかな体を育成すること。 を基本的なねらいとして行った。  本書は,大綱的な基準である学習指導要領の記述の意味や解釈などの詳細について説明 するために,文部科学省が作成するものであり,高等学校学習指導要領第4章「総合的な 探究の時間」について,その改善の趣旨や内容を解説している。  各学校においては,本書を御活用いただき,学習指導要領等についての理解を深め,創 意工夫を生かした特色ある教育課程を編成・実施されるようお願いしたい。  むすびに,本書「高等学校学習指導要領解説総合的な探究の時間編」の作成に御協力く ださった各位に対し,心から感謝の意を表する次第である。     平成30 年7月                      文部科学省初等中等教育局長  橋 道 和    ま え が き
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第1章 総説・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1   第1節 改訂の経緯及び基本方針・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1     1 改訂の経緯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1     2 改訂の基本方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2   第2節 総合的な探究の時間改訂の趣旨及び要点・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6     1 改訂の趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6     2 改訂の要点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 第2章 総合的な探究の時間の特質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8     1 探究が高度化し,自律的に行われること・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8     2  他教科・科目における探究との違いを踏まえること・・・・・・・・・ 10 第3章 総合的な探究の時間の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11   第1節 目標の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11   第2節 目標の趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12     1  総合的な探究の時間の特質に応じた学習の在り方・・・・・・・・・・・・ 12     2  総合的な探究の時間で育成することを目指す資質・能力・・・ 15 第4章 各学校において定める目標及び内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21   第1節 各学校において定める目標・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22   第2節 各学校において定める内容・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24   第3節  各学校において定める目標及び内容の取扱い・・・・・・・・・・・・・・・ 26 第5章 指導計画の作成と内容の取扱い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37   第1節 指導計画の作成に当たっての配慮事項・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37   第2節 内容の取扱いについての配慮事項・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47   第3節 総則関連事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 第6章 高等学校における総合的な探究の時間の意義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71   第1節 高等学校における総合的な探究の時間・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71     1  高等学校の生徒の発達の段階を踏まえた総合的な探究の時間の意義・・・・・・ 71     2  高等学校の生徒の発達の段階と総合的な探究の時間の目標と内容・ ・・・・・ 73     3 総合的な探究の時間と進路実現,学力育成・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 74   第2節  高等学校のカリキュラム・マネジメントと総合的な探究の時間・・・・・ 76     1  カリキュラム・マネジメントと総合的な探究の時間・・・・・・・・・ 76     2 各課程と総合的な探究の時間・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77     3 各学科と総合的な探究の時間・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77 第7章 総合的な探究の時間の指導計画の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79   第1節 総合的な探究の時間における指導計画・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79
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    1 指導計画の要素・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 79     2 全体計画と年間指導計画・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 80   第2節 各学校において定める目標の設定・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 83   第3節 各学校が定める内容の設定・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86     1 各学校が定める内容とは・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86     2 目標を実現するにふさわしい探究課題・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86     3  探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質 ・ 能力・ ・・・・・ 90     4 考えるための技法の活用・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95     5 内容の設定と運用についての留意点・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98   第4節 全体計画の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100 第8章  総合的な探究の時間の年間指導計画及び単元計画の作成・ ・・・・ 103   第1節  年間指導計画及び単元計画の基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・・ 103   第2節 年間指導計画の作成・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105     1 年間指導計画の在り方・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105     2 作成及び実施上の配慮事項・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105   第3節 単元計画の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110     1 単元計画の基本的な考え方・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 110     2 単元計画としての学習指導案・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 114   第4節 年間指導計画・単元計画の運用・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 116 第9章 総合的な探究の時間の学習指導・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117   第1節 学習指導の基本的な考え方・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117     1 生徒の主体性の重視・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117     2 適切な指導の在り方・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117     3 具体的で発展的な教材・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 118   第2節  総合的な探究の時間における「主体的 ・ 対話的で深い学び」 ・ ・・・ 120     1  「主体的な学び」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 120     2  「対話的な学び」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121     3  「深い学び」の視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 121   第3節  総合的な探究の時間における指導のポイント・・・・・・・・・・・・・・・ 123     1 学習過程を探究の過程にすること・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 123     2  他者と協働して主体的に取り組む学習活動にすること・・・・・・ 129 第10 章 総合的な探究の時間の評価・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133   第1節 学習評価の充実・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133   第2節 生徒の学習状況の評価・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 134
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    1  「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方・ ・・・・・・・ 134     2 評価規準の設定と評価方法の工夫改善・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 135     3 評価結果の単位の認定・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 136   第3節 教育課程の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 138     1  カリキュラム・マネジメントの視点からの評価・・・・・・・・・・・・・・・ 138 第11 章  総合的な探究の時間を充実させるための体制づくり・・・・・・・・ 139   第1節 体制整備の基本的な考え方・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 139   第2節 校内組織の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 140     1 校長のリーダーシップ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 140     2 校内推進体制の整備・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 141     3 教職員の研修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 144   第3節 年間授業時数の確保と弾力的な運用・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146     1 年間授業時数の確保と配当・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146     2 弾力的な単位時間の運用・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 146     3 授業時数に関する留意点・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 147   第4節 環境整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148     1 学習空間の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148     2 学校図書館の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 148     3 情報環境の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 149   第5節 外部との連携の構築・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 151     1 外部との連携の必要性・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 151     2 外部連携のための留意点・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 152
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付  録・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 155     付録1:学校教育法施行規則 (抄) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 156     付録2:高等学校学習指導要領 第1章 総則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 161     付録3:高等学校学習指導要領 第4章 総合的な探究の時間・ ・・ 178     付録4:中学校学習指導要領 第4章 総合的な学習の時間・ ・・・・・ 181     付録5:小・中学校における「道徳の内容」の学年段階・学校       段階の一覧表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 184
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1 1 改訂の経緯 及び基本方 針  今の子供たちやこれから誕生する子供たちが,成人して社会で活躍する頃には,我が国 は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想される。生産年齢人口の減少,グローバル化の進 展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境は大きく,また急速に変化してお り,予測が困難な時代となっている。また,急激な少子高齢化が進む中で成熟社会を迎え た我が国にあっては,一人一人が持続可能な社会の担い手として,その多様性を原動力と し,質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくこと が期待される。  こうした変化の一つとして,進化した人工知能(AI)が様々な判断を行ったり,身近 な物の働きがインターネット経由で最適化されるIoT が広がったりするなど,Society5.0 とも呼ばれる新たな時代の到来が,社会や生活を大きく変えていくとの予測もなされてい る。また,情報化やグローバル化が進展する社会においては,多様な事象が複雑さを増し, 変化の先行きを見通すことが一層難しくなってきている。そうした予測困難な時代を迎え る中で,選挙権年齢が引き下げられ,更に平成34(2022)年度からは成年年齢が18 歳へ と引き下げられることに伴い,高校生にとって政治や社会は一層身近なものとなるととも に,自ら考え,積極的に国家や社会の形成に参画する環境が整いつつある。  このような時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い, 他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を 実現し,情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中 で目的を再構築することができるようにすることが求められている。  このことは,本来我が国の学校教育が大切にしてきたことであるものの,教師の世代交 代が進むと同時に,学校内における教師の世代間のバランスが変化し,教育に関わる様々 な経験や知見をどのように継承していくかが課題となり,子供たちを取り巻く環境の変化 により学校が抱える課題も複雑化・困難化する中で,これまでどおり学校の工夫だけにそ の実現を委ねることは困難になってきている。  こうした状況の下で,平成26 年11 月には,文部科学大臣から,新しい時代にふさわし い学習指導要領等の在り方について中央教育審議会に諮問を行った。中央教育審議会にお いては,2 年1 か月にわたる審議の末,平成28 年12 月21 日に「幼稚園,小学校,中学校, 高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申) 」 (以下「平成28 年12 月の中央教育審議会答申」という。 )を示した。  平成28 年12 月の中央教育審議会答申においては, “よりよい学校教育を通じてよりよ い社会を創る”という目標を学校と社会が共有し,連携・協働しながら,新しい時代に求 められる資質・能力を子供たちに育む「社会に開かれた教育課程」の実現を目指し,学習 第1 章 総 説 第1 節 改訂の経緯及び基本方針 1 改訂の経緯
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2 第1 章 総 説 指導要領等が,学校,家庭,地域の関係者が幅広く共有し活用できる「学びの地図」とし ての役割を果たすことができるよう,次の6 点にわたってその枠組みを改善するとともに, 各学校において教育課程を軸に学校教育の改善・充実の好循環を生み出す「カリキュラ ム・マネジメント」の実現を目指すことなどが求められた。 ①  「何ができるようになるか」 (育成を目指す資質・能力) ②  「何を学ぶか」 (教科等を学ぶ意義と,教科等間・学校段階間のつながりを踏まえた教 育課程の編成) ③  「どのように学ぶか」 (各教科等の指導計画の作成と実施,学習・指導の改善・充実) ④  「子供一人一人の発達をどのように支援するか」 (子供の発達を踏まえた指導) ⑤  「何が身に付いたか」 (学習評価の充実) ⑥  「実施するために何が必要か」 (学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策)  これを踏まえ,文部科学省においては,平成29 年3 月31 日に幼稚園教育要領,小学校 学習指導要領及び中学校学習指導要領を,また,同年4 月28 日に特別支援学校幼稚部教 育要領及び小学部・中学部学習指導要領を公示した。  高等学校については,平成30 年3 月30 日に,高等学校学習指導要領を公示するととも に,学校教育法施行規則の関係規定について改正を行ったところであり,今後,平成34 (2022)年4 月1 日以降に高等学校の第1 学年に入学した生徒(単位制による課程にあっ ては,同日以降入学した生徒(学校教育法施行規則第91 条の規定により入学した生徒で 同日前に入学した生徒に係る教育課程により履修するものを除く。 ) )から年次進行により 段階的に適用することとしている。また,それに先立って,新学習指導要領に円滑に移行 するための措置(移行措置)を実施することとしている。  今回の改訂は平成28 年12 月の中央教育審議会答申を踏まえ,次の基本方針に基づき行 った。 (1)今回の改訂の基本的な考え方  ①  教育基本法,学校教育法などを踏まえ,これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積 を生かし,生徒が未来社会を切り拓 ひら くための資質・能力を一層確実に育成することを 目指す。その際,求められる資質・能力とは何かを社会と共有し,連携する「社会に 開かれた教育課程」を重視すること。  ②  知識及び技能の習得と思考力,判断力,表現力等の育成とのバランスを重視する平 成21 年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で,知識の理解の質を 更に高め,確かな学力を育成すること。  ③  道徳教育の充実や体験活動の重視,体育・健康に関する指導の充実により,豊かな 心や健やかな体を育成すること。 2 改訂の基本方針
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3 1 改訂の経緯 及び基本方 針 (2)育成を目指す資質・能力の明確化  平成28 年12 月の中央教育審議会答申においては,予測困難な社会の変化に主体的に関 わり,感性を豊かに働かせながら,どのような未来を創っていくのか,どのように社会や 人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え,自らの可能性を発揮し,より よい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要であるこ と,こうした力は全く新しい力ということではなく学校教育が長年その育成を目指してき た「生きる力」であることを改めて捉え直し,学校教育がしっかりとその強みを発揮でき るようにしていくことが必要とされた。また,汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮 流を踏まえつつ,知識及び技能と思考力,判断力,表現力等とをバランスよく育成してき た我が国の学校教育の蓄積を生かしていくことが重要とされた。  このため「生きる力」をより具体化し,教育課程全体を通して育成を目指す資質・能力 を,ア「何を理解しているか,何ができるか(生きて働く「知識・技能」の習得) 」 ,イ 「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判 断力・表現力等」の育成) 」 ,ウ「どのように社会・世界と関わり,よりよい人生を送るか (学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵 かん 養) 」の三つの柱 に整理するとともに,各教科等の目標や内容についても,この三つの柱に基づく再整理を 図るよう提言がなされた。  今回の改訂では,知・徳・体にわたる「生きる力」を生徒に育むために「何のために学 ぶのか」という各教科等を学ぶ意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の 改善を引き出していくことができるようにするため,全ての教科等の目標や内容を「知識 及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で再 整理した。 (3) 「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善の推進  子供たちが,学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代 に求められる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的に学び続けることができるよ うにするためには,これまでの学校教育の蓄積も生かしながら,学習の質を一層高める授 業改善の取組を活性化していくことが必要である。  特に,高等学校教育については,大学入学者選抜や資格の在り方等の外部要因によって, その教育の在り方が規定されてしまい,目指すべき教育改革が進めにくいと指摘されてき たところであるが,今回の改訂は,高大接続改革という,高等学校教育を含む初等中等教 育改革と,大学教育の改革,そして両者をつなぐ大学入学者選抜改革という一体的な改革 や,更に,キャリア教育の視点で学校と社会の接続を目指す中で実施されるものである。 改めて,高等学校学習指導要領の定めるところに従い,各高等学校において生徒が卒業ま でに身に付けるべきものとされる資質・能力を育成していくために,どのようにしてこれ までの授業の在り方を改善していくべきかを,各学校や教師が考える必要がある。  また,選挙権年齢及び成年年齢が18 歳に引き下げられ,生徒にとって政治や社会が一 層身近なものとなる中,高等学校においては,生徒一人一人に社会で求められる資質・能
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4 第1 章 総 説 力を育み,生涯にわたって探究を深める未来の創り手として送り出していくことが,これ まで以上に重要となっている。 「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善 (アクティブ・ラーニングの視点に立った授業改善)とは,我が国の優れた教育実践に見 られる普遍的な視点を学習指導要領に明確な形で規定したものである。  今回の改訂では,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進める際の指導 上の配慮事項を総則に記載するとともに,各教科等の「第3 款 各科目にわたる指導計画 の作成と内容の取扱い」等において,単元や題材など内容や時間のまとまりを見通して, その中で育む資質・能力の育成に向けて,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業 改善を進めることを示した。  その際,以下の点に留意して取り組むことが重要である。 ① 授業の方法や技術の改善のみを意図するものではなく,生徒に目指す資質・能力を育 むために「主体的な学び」 , 「対話的な学び」 , 「深い学び」の視点で,授業改善を進める ものであること。 ② 各教科等において通常行われている学習活動(言語活動,観察・実験,問題解決的な 学習など)の質を向上させることを主眼とするものであること。 ③ 1 回1 回の授業で全ての学びが実現されるものではなく,単元や題材など内容や時間 のまとまりの中で,学習を見通し振り返る場面をどこに設定するか,グループなどで対 話する場面をどこに設定するか,生徒が考える場面と教師が教える場面とをどのように 組み立てるかを考え,実現を図っていくものであること。 ④ 深い学びの鍵として「見方・考え方」を働かせることが重要になること。各教科等の 「見方・考え方」は, 「どのような視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していく のか」というその教科等ならではの物事を捉える視点や考え方である。各教科等を学ぶ 本質的な意義の中核をなすものであり,教科等の学習と社会をつなぐものであることか ら,生徒が学習や人生において「見方・考え方」を自在に働かせることができるように することにこそ,教師の専門性が発揮されることが求められること。 ⑤ 基礎的・基本的な知識及び技能の習得に課題がある場合には,それを身に付けさせる ために,生徒の学びを深めたり主体性を引き出したりといった工夫を重ねながら,確実 な習得を図ることを重視すること。 (4)各学校におけるカリキュラム・マネジメントの推進  各学校においては,教科等の目標や内容を見通し,特に学習の基盤となる資質・能力 (言語能力,情報活用能力(情報モラルを含む。以下同じ。 ) ,問題発見・解決能力等)や 現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力の育成のために教科等横断的な学習を充 実することや,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を単元や題材など内容 や時間のまとまりを見通して行うことが求められる。これらの取組の実現のためには,学 校全体として,生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育内容や時間の配分,必要な 人的・物的体制の確保,教育課程の実施状況に基づく改善などを通して,教育活動の質を 向上させ,学習の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントに努めることが求めら
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5 1 改訂の経緯 及び基本方 針 れる。  このため,総則において, 「生徒や学校,地域の実態を適切に把握し,教育の目的や目 標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと,教育課程の 実施状況を評価してその改善を図っていくこと,教育課程の実施に必要な人的又は物的な 体制を確保するとともにその改善を図っていくことなどを通して,教育課程に基づき組織 的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マ ネジメント」という。 )に努める」ことについて新たに示した。 (5)教育内容の主な改善事項  このほか,言語能力の確実な育成,理数教育の充実,伝統や文化に関する教育の充実, 道徳教育の充実,外国語教育の充実,職業教育の充実などについて,総則や各教科・科目 等(各教科・科目,総合的な探究の時間及び特別活動をいう。以下同じ。 )において,そ の特質に応じて内容やその取扱いの充実を図った。
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6 第1 章 総 説  平成28 年12 月の中央教育審議会答申において,学習指導要領等改訂の基本的な方向性 が示されるとともに,各教科・科目等における改訂の具体的な方向性も示された。今回の 総合的な学習の時間の改訂は,これらを踏まえて行われたものである。  総合的な学習の時間は,学校が地域や学校,児童生徒の実態等に応じて,教科・科目等 の枠を超えた横断的・総合的な学習とすることと同時に,探究的な学習や協働的な学習と することが重要であるとしてきた。特に,探究的な学習を実現するため, 「①課題の設定 →②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」の探究のプロセスを明示し,学習活動 を発展的に繰り返していくことを重視してきた。全国学力・学習状況調査の分析等におい て,総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒 ほど各教科の正答率が高い傾向にあること,探究的な学習活動に取り組んでいる児童生徒 の割合が増えていることなどが明らかになっている。また,総合的な学習の時間の役割は OECD が実施する生徒の学習到達度調査(PISA)における好成績につながったことのみ ならず,学習の姿勢の改善に大きく貢献するものとしてOECD をはじめ国際的に高く評 価されている。  その上で,課題と更なる期待として,以下の点が示された。  ・ 総合的な学習の時間を通してどのような資質・能力を育成するのかということや, 総合的な学習の時間と各教科・科目等との関連を明らかにするということについては 学校により差がある。これまで以上に総合的な学習の時間と各教科・科目等の相互の 関わりを意識しながら,学校全体で育てたい資質・能力に対応したカリキュラム・マ ネジメントが行われるようにすることが求められている。  ・ 探究のプロセスの中でも「整理・分析」 , 「まとめ・表現」に対する取組が十分では ないという課題がある。探究のプロセスを通じた一人一人の資質・能力の向上をより 一層意識することが求められる。  ・ 地域の活性化につながるような事例が生まれている一方で,本来の趣旨を実現でき ていない学校もあり,小・中学校の取組の成果の上に高等学校にふさわしい実践が十 分展開されているとは言えない状況にある。  ・ 各学校段階における総合的な学習の時間の実施状況や,義務教育9 年間の修了時及 び高等学校修了時までに育成を目指す資質・能力,高大接続改革の動向等を考慮する と,高等学校においては,小・中学校における総合的な学習の時間の取組の成果を生 かしつつ,より探究的な活動を重視する視点から,位置付けを明確化し直すことが必 要と考えられる。 第2 節 総合的な探究の時間改訂の趣旨及び要点 1 改訂の趣旨
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7 2 総合的な探 究の時間改 訂の趣旨及 び要点 (1)改訂の基本的な考え方  ・ 高等学校においては,名称を「総合的な探究の時間」に変更し,小・中学校におけ る総合的な学習の時間の取組を基盤とした上で,各教科・科目等の特質に応じた「見 方・考え方」を総合的・統合的に働かせることに加えて,自己の在り方生き方に照ら し,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら「見方・考え方」を組み合わせて 統合させ,働かせながら,自ら問いを見いだし探究する力を育成するようにした。 (2)目標の改善  ・ 総合的な探究の時間の目標は, 「探究の見方・考え方」を働かせ,横断的・総合的 な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見 し解決していくための資質・能力を育成することを目指すものであることを明確化し た。  ・ 教科・科目等横断的なカリキュラム・マネジメントの軸となるよう,各学校が総合 的な探究の時間の目標を設定するに当たっては,各学校における教育目標を踏まえて 設定することを示した。 (3)学習内容,学習指導の改善・充実  ・  各学校は総合的な探究の時間の目標を実現するにふさわしい探究課題を設定すると ともに,探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力を設定するよう改 善した。  ・ 課題の解決や探究活動の中で,各教科・科目等で育成する資質・能力を相互に関連 付け,実社会・実生活の中で総合的に活用できるものとなるよう改善した。  ・ 教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力を育成するため,課題を 探究する中で,他者と協働して課題を解決しようとする学習活動や,言語により分析 し,まとめたり表現したりする学習活動(比較する,分類する,関連付けるなどの, 「考えるための技法」を自在に活用する) ,コンピュータや情報通信ネットワークなど を適切かつ効果的に活用して,情報を収集・整理・発信する学習活動(情報や情報手 段を主体的に選択し活用できるようにすることを含む)が行われるように示した。  ・ 自然体験や就業体験活動,ボランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産活 動などの体験活動,観察・実験・実習,調査・研究,発表や討論などの学習活動を積 極的に取り入れること等は引き続き重視することを示した。  なお,本解説では,第2 章から第5 章までは,学習指導要領の文言を基にした解説を行 う。第6 章から第11 章までは,第5 章までの内容を踏まえた上で,各学校における指導 計画の作成,教育活動の実施に当たっての基本的な考え方やポイントを,その手順や方法, 具体例などを交えて解説する。 2 改訂の要点
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8 第2 章 総合的な探 究の時間の 特質  今回の改訂では,高等学校の教育課程における「総合的な学習の時間」を「総合的な探 究の時間」に変更した。これは,本解説第1 章総説で解説したように,平成28 年12 月の 中央教育審議会答申において「高等学校においては,小・中学校における総合的な学習の 時間の取組の成果を生かしつつ,より探究的な活動を重視する視点から,位置付けを明確 化し直すことが必要と考えられる」とされたことを受けたものである。  本章では,新たに規定された総合的な探究の時間の特質について, 「探究が高度化し, 自律的に行われること」 , 「他教科・科目における探究との違いを踏まえること」の二つの 視点から解説する。  これまでの総合的な学習の時間は,生徒や学校,地域の実態等に応じて,生徒が探究的 な見方・考え方を働かせ,教科・科目等の枠を超えた横断的・総合的な学習や児童生徒の 興味・関心等に基づく学習を行うなど創意工夫を生かした教育活動の充実を図ることとし, 小学校第3 学年から高等学校修了時までの教育課程に位置付けられてきた。今回の改訂で は,高等学校については,総合的な探究の時間と名称が変更された。このことは,総合的 な学習の時間と総合的な探究の時間には共通性と連続性があるとともに,一部異なる特質 があることを意味している。そのことが最も端的に表れているのは,第1 の目標である。 第1 の目標 総合的な学習の時間 (平成29 年告示) 総合的な探究の時間 (平成30 年告示)  探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・ 総合的な学習を行うことを通して,よりよ く課題を解決し,自己の生き方を考えてい くための資質・能力を次のとおり育成する ことを目指す。 (後略)  探究の見方・考え方を働かせ,横断的・ 総合的な学習を行うことを通して,自己の 在り方生き方を考えながら,よりよく課題 を発見し解決していくための資質・能力を 次のとおり育成することを目指す。 (後略)  両者の違いは,生徒の発達の段階において求められる探究の姿と関わっており,課題と 自分自身との関係で考えることができる。総合的な学習の時間は,課題を解決することで 自己の生き方を考えていく学びであるのに対して,総合的な探究の時間は,自己の在り方 生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくような学びを展開していく。 第2 章 総合的な探究の時間の特質 1 探究が高度化し,自律的に行われること
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9 2 総合的な探 究の時間の 特質 課題と生徒との関係 (イメージ) 総合的な学習の時間 総合的な探究の時間 課題 よりよく課題 を解決する 課 題 を 設 定 し , 解 決 し て い く こ と で , 自 己 の 生 き 方 を 考 え て い く 課題 自 己 の 在 り 方 生 き 方 と 一 体 的 で 不 可 分 な 課 題 を 発 見 し , 解 決 し て い く 自己の生き 方を考えて いく 自己の在り方生き 方を考えながら, よりよく課題を発 見し解決していく  このことは,中央教育審議会答申において「高等学校における総合的な学習の時間にお いては,各教科・科目等の特質に応じた「見方・考え方」を総合的・統合的に働かせるこ とに加えて,自己の在り方生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付けなが ら「見方・考え方」を組み合わせて統合させ,働かせながら,自ら問いを見いだし探究す ることのできる力を育成するようにする。このため,高等学校の総合的な学習の時間につ いては,名称を「総合的な探究の時間」などに変更することも含め位置付けを見直す。 」 と指摘されたことを踏まえている。  高等学校においてこのような生徒の姿を実現していくに当たっては,生徒が取り組む探 究がより洗練された質の高いものであることが求められる。質の高い探究とは,次の二つ で考えることができる。  一つは,探究の過程が高度化するということである。高度化とは,①探究において目的 と解決の方法に矛盾がない(整合性) ,②探究において適切に資質・能力を活用している (効果性) ,③焦点化し深く掘り下げて探究している(鋭角性) ,④幅広い可能性を視野に 入れながら探究している(広角性)などの姿で捉えることができる。  もう一つは,探究が自律的に行われるということである。具体的には,①自分にとって 関わりが深い課題になる(自己課題) ,②探究の過程を見通しつつ,自分の力で進められ る(運用) ,③得られた知見を生かして社会に参画しようとする(社会参画)などの姿で 捉えることができる。  以上,述べてきたように,今回の改訂において名称を変更して特質をもたせたことには 次のような背景がある。一つは,この時期の生徒が,人間としての在り方を理念的に希求 し,それを将来の進路実現や社会の一員としての生き方の中に具現しようと求めているこ
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10 第2 章 総合的な探 究の時間の 特質 とである。二つは,小中学校の総合的な学習の時間における学びがこれらの特質の具体化 を可能としていることである。そして三つは,この時間における学びが社会的に期待され ているからである。  社会への出口に近い高等学校が,初等中等教育の縦のつながりにおいて総仕上げを行う 学校段階として,自己の在り方生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付け ながら,自ら課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することが求められてい る。  今回の改訂では,総合的な学習の時間の名称が総合的な探究の時間に変更されただけで はなく,古典探究や地理探究,日本史探究,世界史探究,理数探究基礎及び理数探究の科 目が新設された。これらは,当該の教科・科目における理解をより深めるために,探究を 重視する方向で見直しが図られたものである。総合的な探究の時間については,これらの 科目において行われる探究との違いを踏まえる必要がある。  具体的には,総合的な探究の時間で行われる探究は,基本的に以下の三つの点において 他教科・科目において行われる探究と異なっている。  一つは,この時間の学習の対象や領域は,特定の教科・科目等に留まらず,横断的・総 合的な点である。総合的な探究の時間は,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在 する事象を対象としている。  二つは,複数の教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に働かせて探究す るという点である。他の探究が,他教科・科目における理解をより深めることを目的に行 われていることに対し,総合的な探究の時間では,実社会や実生活における複雑な文脈の 中に存在する問題を様々な角度から俯 ふ 瞰 かん して捉え,考えていく。  そして三つは,この時間における学習活動が,解決の道筋がすぐには明らかにならない 課題や,唯一の正解が存在しない課題に対して,最適解や納得解を見いだすことを重視し ているという点である。  なお,実社会や実生活における課題を探究する総合的な探究の時間と,教科の系統の中 で行われる探究の両方が教育課程上にしっかりと位置付き,それぞれが充実することが豊 かな教育課程の実現につながると考えられる。 2 他教科・科目における探究との違いを踏まえること
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11 1 目標の構成  総合的な探究の時間のねらいや育成を目指す資質・能力を明確にし,その特質と目指す ところが何かを端的に示したものが,以下の総合的な探究の時間の目標である。 第1 目標  探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の 在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を 次のとおり育成することを目指す。   (1) 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課 題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。   (2) 実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情 報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。   (3) 探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新た な価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。  第1 の目標は,大きく分けて二つの要素で構成されている。  一つは,総合的な探究の時間に固有な見方・考え方を働かせて,横断的・総合的な学習 を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決して いくための資質・能力を育成するという,総合的な探究の時間の特質を踏まえた学習過程 の在り方である。もう一つは, (1) , (2) , (3)として示している,総合的な探究の時間を 通して育成することを目指す資質・能力である。育成することを目指す資質・能力は,他 教科等と同様に, (1)では総合的な探究の時間において育成を目指す「知識及び技能」を, (2)では「思考力,判断力,表現力等」を, (3)では「学びに向かう力,人間性等」を示 している。 第3 章 総合的な探究の時間の目標 第1 節 目標の構成
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12 第3 章 総合的な探 究の時間の 目標 (1)探究の見方・考え方を働かせる  探究の見方・考え方を働かせるということを目標の冒頭に置いたのは,探究の重要性に 鑑み,探究の過程を総合的な探究の時間の本質と捉え,中心に据えることを意味している。 総合的な探究の時間における学習では,問題解決的な学習が発展的に繰り返されていく。 これを探究と呼ぶ。なお,小中学校における総合的な学習の時間では, 「探究的な見方・ 考え方を働かせる」としているのに対して,総合的な探究の時間では「探究の見方・考え 方を働かせる」としている。  生徒は,①日常生活や社会に 目を向けた時に湧き上がってく る疑問や関心に基づいて,自ら 課題を見付け,②そこにある具 体的な問題について情報を収集 し,③その情報を整理・分析し たり,知識や技能に結び付けた り,考えを出し合ったりしなが ら問題の解決に取り組み,④明 らかになった考えや意見などを まとめ・表現し,そこからまた 新たな課題を見付け,更なる問 題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰り返していく。要するに探究とは,物事 の本質を自己との関わりで探り見極めようとする一連の知的営みのことである。  探究においては,次のような生徒の姿を見いだすことができる。事象を自己の在り方生 き方を考えながら捉えることで,感性や問題意識が揺さぶられて,学習活動への取組が真 剣になる。自己との関わりを意識して課題を発見する。広範な情報源から多様な方法で情 報を収集する。身に付けた知識及び技能を活用し,その有用性を実感する。議論を通して 問題の解決方法を生み出す。概念が具体性を増して理解が深まる。見方が広がったことを 喜び,更なる学習への意欲を高める。このように,探究においては,生徒の豊かな学習の 姿が現れる。ただし,この①②③④の過程を固定的に捉える必要はない。物事の本質を探 って見極めようとするとき,活動の順序が入れ替わったり,ある活動が重点的に行われた りすることは,当然起こり得ることだからである。  この探究のプロセスを支えるのが探究の見方・考え方である。探究の見方・考え方には, 二つの要素が含まれる。  一つは,各教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に働かせるということ である。総合的な探究の時間における学習では,各教科・科目等の特質に応じた見方・考 第2 節 目標の趣旨 1 総合的な探究の時間の特質に応じた学習の在り方 探究における生徒の学習の姿 ■ 日常生活や社 会に目を向け, 生徒が自ら課題 を設定する。 ■ 探究の過程を経由する。  ① 課題の設定  ② 情報の収集  ③ 整理・分析  ④ まとめ・表現 ■ 自らの考えや課題 が新たに更新され, 探究の過程が繰り返 される。 まとめ ・ 表現 課題の設定 情報の収集 整理・分析
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13 2 目標の趣旨 え方を,探究の過程において,適宜必要に応じて総合的・統合的に活用する。  例えば,実社会・実生活の中の課題の探究において,言葉による見方・考え方を働かせ ること(対象と言葉,言葉と言葉との関係を,言葉の意味,働き,使い方等に着目して捉 えたり問い直したりして,言葉への自覚を高めること)や,数学的な見方・考え方を働か せること(事象を,数量や図形及びそれらの関係などに着目して捉え,論理的,統合的・ 発展的に考えること)や,理科の見方・考え方を働かせること(自然の事物・現象を,質 的・量的な関係や時間的・空間的な関係などの科学的な視点で捉え,比較したり,関係付 けたりするなどの科学的に探究する方法を用いて考えること)などの各教科・科目等の特 質に応じた物事を捉える視点や考え方が,課題に応じて適宜組み合わされながら,繰り返 し活用されることが考えられる。実社会・実生活における問題は,そもそもどの教科・科 目等の特質に応じた視点や捉え方で考えればよいか決まっていない。扱う対象や解決しよ うとする方向性などに応じて,生徒が自覚的に活用できるようになることが大事である。  二つは,総合的な探究の時間に固有な見方・考え方を働かせることである。それは,特 定の教科・科目等の視点だけで捉えきれない広範かつ複雑な事象を多様な角度から俯 ふ 瞰 かん し て捉えることであり,また,実社会や実生活の複雑な文脈や自己の在り方生き方と関連付 けて問い続けるという,総合的な探究の時間に特有の物事を捉える視点や考え方である。 本解説第4 章で説明するように,探究課題は,一つの決まった正しい答えがあるわけでは なく,各教科・科目等で学んだ見方・考え方を総合的・統合的に活用しながら,様々な角 度から捉え,考えることができるものであることが求められる。そして,課題の解決によ り,自己の在り方生き方を考えながら,また新たな課題を見付け,よりよく解決していく ことを繰り返していくことになる。  このように,各教科・科目等における見方・考え方を総合的・統合的に活用して,広範 で複雑な事象を多様な角度から俯 ふ 瞰 かん して捉え,実社会・実生活の課題を探究し,自己の在 り方生き方を問い続けるという総合的な探究の時間の特質に応じた見方・考え方を,探究 の見方・考え方と呼ぶ。それは総合的な探究の時間の中で,生徒が探究の見方・考え方を 働かせながら横断的・総合的な学習に取り組むことにより,自己の在り方生き方を考えな がら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することにつながるの である。そして,学校教育のみならず,大人になった後に,実社会や実生活の中でも重要 な役割を果たしていくのである。  なお,総合的な探究の時間において,各教科・科目等における見方・考え方を総合的・ 統合的に活用するということは,社会で生きて働く資質・能力を育成する上で,教科・科 目等の学習と教科・科目等横断的な学習を往還することが重要であることを意味している。 系統的に構造化された内容を,それぞれの特質に応じた見方・考え方を働かせて学ぶ教 科・科目等の学習と,総合的な探究の時間において,各教科・科目等で育成された見方・ 考え方を,実社会や実生活における複雑な文脈の中に存在する問題において,総合的・統 合的に活用する教科・科目等横断的な学習の両方が重要なのである。このような教科・科 目等の学習と教科・科目等横断的な学習の両方が示されていることは,我が国の教育課程 の大きな特色であり,今回の改訂では改めてその趣旨を明示している。
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14 第3 章 総合的な探 究の時間の 目標 (2)横断的・総合的な学習を行う  横断的・総合的な学習を行うというのは,この時間の学習の対象や領域が,特定の教 科・科目等に留まらず,横断的・総合的でなければならないことを表している。言い換え れば,この時間に行われる学習では,教科・科目等の枠を超えて探究する価値のある課題 について,各教科・科目等で身に付けた資質・能力を活用・発揮しながら解決に向けて取 り組んでいくことでもある。  総合的な探究の時間では,各学校が目標を実現するにふさわしい探究課題を設定するこ とになる。それは,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に 対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基 づく課題,職業や自己の進路に関する課題などである。具体的には, 「自然環境とそこに 起きているグローバルな環境問題」 , 「地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組 織」 , 「文化や流行の創造と表現」 , 「職業の選択と社会貢献及び自己実現」などを探究課題 とすることが考えられる。こうした探究課題は,特定の教科・科目等の枠組みの中だけで 完結するものではない。実社会や実生活の中から見いだされた探究課題に教科・科目等の 枠組みを当てはめるのは困難であり,探究課題の解決においては,各教科・科目等の資 質・能力が繰り返し何度となく活用・発揮されることが容易に想像できる。 (3)自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していく  総合的な探究の時間に育成する資質・能力については,自己の在り方生き方を考えなが ら,よりよく課題を発見し解決していくためと示されている。このことは,小・中学校と は異なり,総合的な探究の時間は,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発 見し,解決していくような学びを展開していくことを明示している。  自己の在り方生き方を考えることについては,次の三つの角度から考えることができる。 一つは,人や社会,自然との関わりにおいて,自らの生活や行動について考えて,社会や 自然の一員として,人間として何をすべきか,どのようにすべきかなどを考えることであ る。二つは,自分にとっての学ぶことの意味や価値を考えることである。取り組んだ学習 活動を通して,自分の考えや意見を深めることであり,また,学習の有用感を味わうなど して学ぶことの意味を自覚することである。そして,これら二つを生かしながら,学んだ ことを現在及び将来の自己の在り方生き方につなげて考えることが三つ目である。学習の 成果から達成感や自信をもち,自分のよさや可能性に気付き,人間としての在り方を基底 に,自分の人生や将来,職業について見通し,どのように在るべきかを定めていくことで ある。つまり,総合的な探究の時間において,自己の在り方生き方を考えながら課題の解 決に向かうということは,生徒がこの三つを自覚しながら,探究に取り組むことを意味し ている。  よりよく課題を発見し解決していくとは,解決の道筋がすぐには明らかにならない課題 や,唯一の正解が存在しない課題などについても,自らの知識や技能等を総合的に働かせ て,目前の具体的な課題に粘り強く対処し解決しようとすることである。その際,生徒自 身が課題を発見することが重要であり,具体的には次の二点を押さえることが求められる。
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15 2 目標の趣旨 課題を発見するとは,一つは,自分と課題との関係を明らかにすることである。もう一つ は,実社会や実生活と課題との関係をはっきりさせることである。  こうしたよりよく課題を発見し解決していくための資質・能力は,試行錯誤しながらも 新しい未知の課題に対応することが求められる時代において,欠かすことのできない資 質・能力である。  また,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する一方,よりよく 課題を発見し解決していくには一定の資質・能力が必要となるという双方向的な関係に留 意する必要がある。課題についての一定の知識や,活動を支える一定の技能がなければ, 課題の解決には向かわない。解決を方向付ける, 「考えるための技法」や情報活用能力, 問題発見・解決能力を持ち合わせていなければ,探究のプロセスは進まない。その一方で, 探究を進める中で,知識及び技能は増大し,洗練され,精緻化される。言語能力や情報活 用能力,問題発見・解決能力も,より高度なものになっていく。つまり,既有の資質・能 力を用いて課題の発見や解決に向かい,課題の解決を通して,より高度な資質・能力が育 成されていくのである。  このような関係を教師が意識しておくことが,よりよい課題の発見や解決につながってい く。つまり,この時間の学習に必要な資質・能力とは何かを見極め,他教科等やそれまで の総合的な探究の時間の学習において,意図的・計画的に育成すると同時に,総合的な探 究の時間における探究活動の中でその資質・能力が高まるようにするということである。  総合的な探究の時間においては,こうした形で自己の在り方生き方を考えながら,より よく課題を発見し解決していくことが大切である。その際,具体的な活動や事象との関わ りをよりどころとし,また身に付けた資質・能力を用いて,よりよく課題を発見し解決し ていく中で多様な視点から考えることが大切である。また,その考えを深める中で,更に 考えるべきことが見いだされるなど,常に自己との関係で見つめ,振り返り,問い続けて いこうとすることが重要である。  総合的な探究の時間で育成することを目指す資質・能力については,他教科等と同様に, 総則に示された「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間 性等」という三つの柱から明示された。 第1 目標   (1) 探究の過程において,課題の発見と解決に必要な知識及び技能を身に付け,課 題に関わる概念を形成し,探究の意義や価値を理解するようにする。  総合的な探究の時間の内容は,後述のように各学校において定めるものである。このた め,従来は,この時間において身に付ける資質・能力として,どのような知識を身に付け ることが必要かということについては,具体的に示されてこなかった。しかし,総合的な 2 総合的な探究の時間で育成することを目指す資質・能力
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16 第3 章 総合的な探 究の時間の 目標 探究の時間の学習を通して生徒が身に付ける知識は質・量ともに大きな意味をもつ。探究 の見方・考え方を働かせて,各教科・科目等横断的・総合的な学習に取り組むという総合 的な探究の時間だからこそ獲得できる知識は何かということに着目することが必要である。 総合的な探究の時間における探究の過程では,生徒は,教科・科目等の枠組みを超えて, 長時間じっくり課題に取り組む中で,様々な事柄を知り,様々な人の考えに出会う。その 中で,具体的・個別的な事実だけでなく,それらが複雑に絡み合っている状況についても 理解するようになる。その知識は,教科書や資料集に整然と整理されているものを取り込 んで獲得するものではなく,探究の過程を通して,自分自身で取捨・選択し,整理し,既 にもっている知識や体験と結び付けながら,構造化し,身に付けていくものである。こう した過程を経ることにより,獲得された知識は,実社会や実生活における様々な課題の解 決に活用可能な生きて働く知識,すなわち概念が形成されるのである。  各教科・科目等においても, 「主体的・対話的で深い学び」を通して,事実的な知識か ら概念を獲得することを目指すものである。総合的な探究の時間では,各教科・科目等で 習得した概念を実生活の課題解決に活用することを通して,それらが統合され,より一般 化されることにより,汎用的に活用できる概念を形成することができる。  技能についても同様である。課題の解決に必要な技能は,例えば,インタビューのとき には,事前に聞くべきことを場合分けしたり分析方法を想定したりして計画する技能,資 料を読み取るときには,大事なことを読み取ってまとめたり他の資料と照合したりして吟 味する技能などが考えられる。こうした技能は,各教科・科目等の学習を通して,事前に ある程度は習得されていることを前提として行われつつ,探究を進める中でより高度な技 能が求められるようになる。このような必要感の中で,注意深く体験を積んで,徐々に自 らの力でできるようになり身体化されていく。技能と技能が関連付けられて構造化され, 統合的に活用されるようにもなる。  探究の意義や価値を理解するということは,探究はよいものだというようなことを生徒 が観念的に説明できるようになることを目指すものではない。総合的な探究の時間だけで はなく,様々な場面で生徒自らが探究を自律的に進めるようになることが,その意義や価 値を理解した証となる。そのためには,この時間で行う探究が,学習全般や生活と深く関 わっていることや学びという営みの本質であることへの自覚を大事にすることが欠かせな い。そのことを生徒が自覚することによって,自分自身の課題を自分で解決する学びを継 続するようになる。  一方で,身に付けた知識及び技能や思考力,判断力,表現力等が総合的に活用,発揮さ れることが,探究の意義や価値でもある。学んだことの有用性を実感するためにも,他教 科等とこの時間との資質・能力の関連を,生徒自身が見通せるようにする必要がある。そ のためにも,学習を進める中で,その関連を明示していくことや,学習においてどのよう な関連が実現されたのかを振り返り,自覚する機会を設けることが重要である。
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17 2 目標の趣旨 (2) 実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立て,情報 を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。  育成を目指す資質・能力の三つの柱のうち,主に「思考力,判断力,表現力等」に対応 するものとしては,実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を 立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現するという,探究の過程において発揮 される力を示している。  ここで重要なのが,実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題 を立てることである。問いや課題は,生徒がもっている知識や経験だけからは生まれない こともある。そこで,実社会や実生活と実際に関わることを求めている。その中で,過去 と比べて現在に問題があること,他の場所と比べてこの場所には問題があること,自己の 常識に照らして違和感を感じる問題があることなどを発見し,それが問題意識となり,自 己との関わりの中で課題につながっていく。こうして,問いや課題が定まると,探究がス タートする。ちなみに,探究のプロセスが繰り返される中で,はじめに立てた問いや課題 そのものが問い直されて,その質や精度が高まっていくことが思い描かれる必要がある。  探究の過程が動き始めると, 「知識及び技能」を活用して問いや課題を掘り下げていく。 具体的には,身に付けた「知識及び技能」の中から,当面する課題の解決に必要なものを 選択し,状況に応じて適用したり,複数の「知識及び技能」を組み合わせたりして,適切 に活用できるようになっていくことと考えることができる。なお,教科・科目等横断的な 情報活用能力や問題発見・解決能力を構成している個別の「知識及び技能」や,各種の 「考えるための技法」も,単にそれらを習得している段階から更に一歩進んで,課題や状 況に応じて選択したり,適用したり,組み合わせたりして活用できるようになっていくこ とが, 「思考力, 判断力,表現力等」の具体と考えることができる。こうしたことを通して, 知識や技能は,既知の限られた状況においてのみならず,未知の状況においても課題に応 じて自在に駆使できるものとなっていく。  このように, 「思考力,判断力,表現力等」は, 「知識及び技能」とは別に存在していた り, 「知識及び技能」を抜きにして育成したりできるものではない。いかなる課題や状況 に対しても, 「知識及び技能」が自在に駆使できるものとなるよう指導を工夫することこ そが「思考力,判断力, 表現力等」の育成の具体にほかならない。  そのためにも,情報活用能力や問題発見・解決能力を構成する個別の「知識及び技能」 , これまで身に付けてきた「考えるための技法」が自在に活用されるような機会を,総合的 な探究の時間や他教科等の中で,意図的・計画的・組織的に設けること等の配慮や工夫が 重要になってくる。あるいは,総合的な探究の時間においては,探究の過程を通すという この時間の趣旨を生かして,課題を解決したいという生徒の必要感を前提に,その解決の 過程に適合する「知識及び技能」を教師が指導するという方法もあり得る。  そのようにして身に付けた「知識及び技能」は,様々な課題の解決において活用・発揮 され,うまくいったりうまくいかなかったりする経験を経ながら,学んだ当初とは異なる 状況においても自在に駆使できるようになっていく。このことが,個別の「知識及び技
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18 第3 章 総合的な探 究の時間の 目標 能」の習得という段階を超えた, 「思考力,判断力,表現力等」の育成という段階である。  このような資質・能力については,やり方を教えられて覚えるということだけでは育ま れないものである。実社会や実生活の課題について探究のプロセス(①課題の設定→②情 報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現)を通して,生徒が実際に考え,判断し,表現 することを通して身に付けていくことが大切になる。  実社会や実生活には,解決すべき問題が多方面に広がって複雑に絡み合っている。その 問題は,複合的な要素が入り組んでいて,答えが一つに定まらず,容易には解決に至らな いことが多い。自分で課題を立てるとは,そうした問題と向き合って,自分で取り組むべ き課題を見いだすことである。この課題は,解決を目指して学習するためのものである。 その意味で課題は,生徒が解決への意欲を高めるとともに,解決への具体的な見通しをも てるものであり,そのことが主体的な課題の解決につながっていく。  課題は,問題をよく吟味して生徒が自分でつくり出すことが大切である。例えば,日頃 から解決すべきと感じていた問題を改めて見つめ直す,具体的な事象を比較したり,関連 付けたりして,そこにある矛盾や理想との隔たりを認識することなどが考えられる。また, 地域の人やその道の専門家との交流も有効である。そこで知らなかった事実を発見したり, その人たちの真剣な取組や生き様に共感したりして,自分にとって一層意味や価値のある 課題を見いだすことも考えられる。  課題の解決に向けては,自分で情報を集めることが欠かせない。自分で,何が解決に役 立つかを見通し,足を運んだり,情報手段を意図的・計画的に用いたり,他者とのコミュ ニケーションを通したりして情報を集めることが重要である。調べていく中で,探究して いる課題が,社会で解決が求められている切実な問題と重なり合っていることを知り,さ らにそれに尽力している人と出会うことにより,問題意識は一層深まる。同一の学習対象 でも,個別に追究する生徒の課題が多様であれば,互いの情報を結び合わせて,現実の問 題の複雑さや総合性に気付くこともある。  収集した情報は,整理・分析する。整理は,課題の解決にとってその情報が必要かどう かを判断し取捨選択することや,解決の見通しにしたがって情報を順序よく並べたり,書 き直したりすることなどを含む。分析は,整理した情報を基に,比較・分類したりして傾 向を読み取ったり,因果関係を見付けたりすることを含む。複数の情報を組み合わせて, 新しい関係性を創り出すことも重要である。  整理・分析された情報からは,自分自身の意見や考えをまとめて,それを表現する。他 者との相互交流や表現による振り返りを通して,課題が更新されたり,新たに調べること を見いだしたり,意見や考えが明らかになったりする。  これらの各プロセスで発揮される資質・能力の育成が期待されている。それは,探究の プロセスが何度も繰り返される中で確実に育っていくものと考えることができる。
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19 2 目標の趣旨 (3) 探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな 価値を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養う。  探究では,生徒が,身近な人々や社会,自然に興味・関心をもち,それらに意欲的に関 わろうとする主体的,協働的な態度が欠かせない。探究に主体的に取り組むというのは, 自らが設定した課題の解決に向けて真剣に本気になって学習活動に取り組むことを意味し ている。それは,解決のために,見通しをもって,自ら計画を立てて学習に向かう姿でも ある。具体的には,どのように情報を集め,どのように整理・分析し,どのようにまと め・表現を行っていくのかを考えて計画し,実際に社会と関わり,行動していく姿として 表れるものと考えられる。  課題の解決においては,主体的に取り組むこと,協働的に取り組むことが重要である。 なぜなら,それがよりよい課題の解決につながるからである。  総合的な探究の時間で育成することを目指す資質・能力は,自己の在り方生き方を考え ながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力である。こうした資質・能 力を育むためには,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,よりよい 解決に向けて主体的に取り組むことが重要である。他方,複雑な現代社会においては,い かなる問題についても,一人だけの力で何かを成し遂げることは困難である。これが協働 的に探究を進めることが求められる理由である。例えば,他の生徒と協働的に取り組むこ とで,学習活動が発展したり課題への意識が高まったりする。異なる見方があることで解 決への糸口もつかみやすくなる。また,他者と協働的に学習する態度を育てることが求め られている。この協働は,単に協力して事に当たるという意味ではなく,それぞれのよさ を生かしながら個人ではつくりだすことができない価値を生み出すことを意味している。  探究においては,このような,他者と協働的に取り組み,異なる意見を生かして新たな 知を創造しようとする態度が欠かせない。こうして探究に主体的・協働的に取り組む中で, 互いの資質・能力を認め合い,相互に生かし合う関係が期待されている。また,探究の中 で生徒が感じる手応えは,一人一人の意欲や自信となり次の課題解決を推進していく。  また,高校生の探究が,実際に社会を変える力となることも多い。探究を通して,生徒 は自分なりの世界観や価値観を築いていくとともに,地域の人々との協働によって,実際 に地域社会を変えていく。そうして,よりよい社会を実現することに向けて経験を深めて いく。  このように,総合的な探究の時間を通して,自ら社会に関わり参画しようとする意志, 社会を創造する主体としての自覚が,一人一人の生徒の中に徐々に育成されることが期待 されているのである。実社会や実生活の課題を探究しながら,自己の在り方生き方を問い 続ける姿が一人一人の生徒に涵 かん 養されることが求められているのである。  この「学びに向かう力,人間性等」については,よりよい生活や社会の創造に向けて, 自他を尊重すること,自ら取り組んだり異なる他者と力を合わせたりすること,社会に寄 与し貢献することなどの適正かつ好ましい態度として「知識及び技能」や「思考力,判断 力,表現力等」を活用・発揮しようとすることと考えることができる。とりわけ高等学校
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20 段階においては,探究がより自律的になることが期待されている。  これら育成を目指す資質・能力の三つの柱は,個別に育成されるものではなく,探究の 過程において,よりよい課題の解決に取り組む中で,相互に関わり合いながら高められて いくものとして捉えておく必要がある。 第3 章 総合的な探 究の時間の 目標
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21 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容  各学校は,第1 に示された総合的な探究の時間の目標を踏まえて,各学校の総合的な探 究の時間の目標や内容を適切に定めて,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開する 必要がある。ここに総合的な探究の時間の大きな特質がある。こうした特質を踏まえ,今 回の改訂では,各学校において定める目標や内容についての考え方について, 「第3 指 導計画の作成及び内容の取扱い」から「第2 各学校において定める目標及び内容」へと 移すことで,より明確に示すこととした。  本章では,各学校において定める目標及び内容を設定していく際の基本的な考え方と留 意すべき点について述べる。なお,本章及び第5 章で解説する,学習指導要領第4 章総合 的な探究の時間の各規定の相互の関係については,下図のように示すことができる。 第4 章 総合的な探究の時間の構造イメージ 各学校における教育目標 各学校において定める目標 教科・科目を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力 その学校が総合的な探究の時間で育成することを目指す資質・能力 各学校において定める内容 第1の目標 探究課題の解決を通して育成を目指す 具体的な資質・能力 育まれ, 活用されるよ う にする こ と 知識及び技能 思考力, 判断力 表現力等 学びに向かう力, 人間性等 目標を実現するにふさわしい 探究課題 現代的な諸課題に対応する 横断的 ・ 総合的な課題 (国際理解, 情報, 環境, 福祉 ・ 健康など) 地域や学校の特色に応じた課題 生徒の興味 ・ 関心に基づく課題 職業や自己の進路に関する課題 第2の1 第2の2 第2の3 (1) 第2の3 (4) 第2の3 (4) 第2の3 (7) 第3の1 (4) 第3の2 (5) 第3の1 (4) 踏まえ て 踏まえ て 他教科等及び総合 的な探究の時間で習 得する知識及び技能 が相互に関連付けら れ, 社会の中で生き て働くものとして形 成されるようにする 他者と協働して課題を解 決しようとする学習活動 言語により分析し, まとめたり 表現したりするなどの学習活動 探究の過程において, コンピュータ や情報通信ネットワークなどを適切 かつ効果的に活用して, 情報を収 集・整理・発信するなどの学習活動 (情報や情報手段を主体的に選択 し活用できるよう配慮) 自分自身に関するこ と及び他者や社会と の関わりに関するこ との両方の視点を踏 まえる 探究の過程において 発揮され, 未知の条 項において活用でき るものとして身に付 けられるようにする 第 2 の 3 第2の3 (6) 例 言語能力 第3の2 (4) 第3の2 (4) 第3の2 (4) 情報活用能力 考えるための技法 (比較する, 分類する, 関連付けるなど) 自在に活用されるよ う にする こ と 学 校 が 設 定 す る 目 標 及 び 内 容 の 取 扱 い ( 第 2 の 3 ) 他 教 科 等 で 身 に 付 け た 資 質 ・ 能 力 内 容 の 取 扱 い ( 第 3 の 2 ) 指 導 計 画 ( 第 3 の 1 ) 目 標 ( 第 1 ) 学 校 が 設 定 す る 目 標 ( 第 2 の 1 ) 学 校 が 設 定 す る 内 容 ( 第 2 の 2 ) 相 互 に 関 連 付 け ,学 習 や 生 活 に お い て 生 か し ,そ れ ら が 総 合 的 に 働 く よ う に す る (5) 第 3 の 1 (4) 第4 章 各学校において定める目標及び内容
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22 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 第2 各学校において定める目標及び内容  1 目標    各学校においては,第1 の目標を踏まえ,各学校の総合的な探究の時間の目標 を定める。  各学校においては,第1 の目標を踏まえ,各学校の総合的な探究の時間の目標を定め, その実現を目指さなければならない。この目標は,各学校が総合的な探究の時間での取組 を通して,どのような生徒を育てたいのか,また,どのような資質・能力を育てようとす るのか等を明確にしたものである。  各学校において総合的な探究の時間の目標を定めるに当たり, 第1 の目標を踏まえとは, 本解説第3 章で解説した第1 の目標の趣旨を適切に盛り込むということである。  具体的には,第1 の目標の構成に従って,以下の二つを反映させることが,その要件と なる。   (1)    「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して」 , 「自 己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能 力を育成することを目指す」という,目標に示された二つの基本的な考え方を踏まえ ること。   (2)   育成を目指す資質・能力については, 「育成すべき資質・能力の三つの柱」である 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三 つのそれぞれについて,第1 の目標の趣旨を踏まえること。  各学校において定める総合的な探究の時間の目標は,第1 の目標を適切に踏まえて,こ の時間全体を通して各学校が育てたいと願う生徒の姿や育成を目指す資質・能力,学習活 動の在り方などを表現したものになることが求められる。  その際,上記の二つの要件を適切に反映していれば,これまで各学校が取り組んできた 経験を生かして,各目標の要素のいずれかを具体化したり,重点化したり,別の要素を付 け加えたりして目標を設定することが考えられる。なお,各学校における目標の設定に当 たって配慮すべき事項については,改めて本章第3 節で述べる。また,各学校における目 標の設定の手順や方法については,本解説第7 章第2 節で詳しく解説する。  各学校において目標を定めることを求めているのは,①各学校が創意工夫を生かした探 究や横断的・総合的な学習を実施することが期待されているからである。それには,地域 や学校,生徒の実態や特性を考慮した目標を,各学校が主体的に判断して定めることが不 可欠である。また,②各学校における教育目標を踏まえ,育成を目指す資質・能力を明確 に示すことが望まれているからである。これにより,総合的な探究の時間が各学校のカリ キュラム・マネジメントの中核になることが今まで以上に明らかとなった。そして,③学 校として教育課程全体の中での総合的な探究の時間の位置付けや他教科等の目標及び内容 第1 節 各学校において定める目標
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23 1 各学校にお いて定める 目標 との違いに留意しつつ,この時間で取り組むにふさわしい内容を定めるためである。この ように,各学校において総合的な探究の時間の目標を定めるということには,主体的かつ 創造的に指導計画を作成し,学習活動を展開するという意味がある。  なお,すでに本解説第3 章でも述べ,また第1 の目標にも明記されている通り,総合的 な探究の時間における目標は,小中学校における総合的な学習の目標とは,その構造にお いて大きく異なる。具体的には,小中学校の総合的な学習の時間の目標では, 「よりよく 課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目指す」こ ととしているのに対し,高等学校における総合的な探究の時間の目標では, 「自己の在り 方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を育成する ことを目指す」としている。これは,小中学校では,教師の指導も受けながら課題を設定 し,解決していくことにより,児童・生徒が結果として自己の生き方を考える契機となっ ていくことになる場合が多いのに対し,高等学校では,生徒自身が自己の在り方生き方と 一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくことが期待されることを意味している。 それにより,高等学校の総合的な探究の時間における探究が自己のキャリア形成の方向性 と関連付き,学ぶことと生きることの結び付きが推進される。各学校において総合的な探 究の時間の目標を設定するに当たっては,この点を踏まえ,十分留意することが欠かせな い。  このように,小中学校の総合的な学習の時間と高等学校の総合的な探究の時間ではその 目標に大きな違いがある。そのため,総合的な探究の時間を充実させるためには,小学校 や中学校等との接続を視野に入れ,違いを明確に意識すると同時に,連続的かつ発展的な 学習活動が行えるよう目標を設定することが重要である。
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24 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 第2 各学校において定める目標及び内容  2 内容    各学校においては,第1 の目標を踏まえ,各学校の総合的な探究の時間の内容 を定める。  各学校においては,第1 の目標を踏まえ,各学校の総合的な探究の時間の内容を定める ことが求められている。総合的な探究の時間では,各教科・科目等のように,どの学年で 何を指導するのかという内容を学習指導要領に明示していない。これは,各学校が,第1 の目標の趣旨を踏まえて,地域や学校,生徒の実態に応じて,創意工夫を生かした内容を 定めることが期待されているからである。  今回の改訂において,総合的な探究の時間については,内容の設定に際し, 「目標を実 現するにふさわしい探究課題」 , 「探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能 力」の二つを定める必要があるとされた。  目標を実現するにふさわしい探究課題とは,目標の実現に向けて学校として設定した, 生徒が探究に取り組むためのものであり,従来「学習対象」として説明されてきたものに 相当する。つまり,探究課題とは,探究的に関わりを深める人・もの・ことを示したもの である。具体的には,例えば「自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題」 , 「地 域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織」 , 「文化や流行の創造と表現」 , 「職業の 選択と社会貢献及び自己実現」などが考えられる。  一方,探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力とは,各学校において 定める目標に記された資質・能力を各探究課題に即して具体的に示したものであり,教師 の適切な指導の下,生徒が各探究課題の解決に取り組む中で,育成することを目指す資 質・能力のことである。  このように,総合的な探究の時間の内容は,目標を実現するにふさわしい探究課題と, 探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力の二つによって構成される。両 者の関係については,目標の実現に向けて,生徒が「何について学ぶか」を表したものが 探究課題であり,各探究課題との関わりを通して,具体的に「どのようなことができるよ うになるか」を明らかにしたものが具体的な資質・能力という関係になる。  なお,すでに本解説第4 章第1 節でも述べたように,総合的な探究の時間では,生徒自 身が自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくことが期待 されている。したがって,各学校において設定する内容,とりわけ探究課題については, 一人一人の生徒が自己の在り方生き方と一体的で不可分に結び付いた形で成立するような 課題を自ら発見していけるような幅の広さや奥行きの深さを受け止められるものとするこ とが望まれる。それは同時に,様々な生徒が抱く多様な課題に対する意識を生かすことが できるようなものであることも要請する。なお,この最後の点については,第3 指導計画 の作成と内容の取扱いの1 の (3) で述べられており,詳しくは本解説第5 章第1 節で改め 第2 節 各学校において定める内容
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25 2 各学校にお いて定める 内容 て解説する。  また,主に中学校までとの対比において,高等学校の総合的な探究の時間においては, 生徒が展開する探究の過程がより高度化し,探究が自律的に行われることが期待されてお り,育成を目指す具体的な資質・能力も,それにふさわしいものとする必要がある。  生徒が探究の過程を高度化させていくとは,①探究において目的と解決の方法に矛盾が ない(整合性) ,②探究において適切に資質・能力を活用している(効果性) ,③焦点化し 深く掘り下げて探究している(鋭角性) ,④幅広い可能性を視野に入れながら探究してい る(広角性)などの姿で捉えることができる。  探究が自律的なものとなるとは,①自分にとって関わりが深い課題になる(自己課題) , ②探究の過程を見通しつつ,自分の力で進められる(運用) ,③得られた知見を生かして 社会に参画しようとする(社会参画)などの姿で捉えることができる。  探究の質をより高度で自律的なものとするためには,各学校において設定する探究課題 がそれらを必然として生み出すようなものとなっているかの吟味が大切になってくる。ま た,各学校においては,内容を指導計画に適切に位置付けることが求められる。その際, 学年間の連続性,発展性や,小学校や中学校等との接続,他教科等の目標及び内容との違 いに留意しつつ,他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を明らかにして,内容を定 めることが重要である。なお,それぞれの設定に当たって配慮すべき事項等については, 改めて本章第3 節で述べる。また,各学校における内容の設定の手順や方法については, 本解説第7 章第3 節で詳しく解説する。
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26 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 第2 各学校において定める目標及び内容  3 各学校において定める目標及び内容の取扱い    各学校において定める目標及び内容の設定に当たっては,次の事項に配慮する ものとする。    (1) 各学校において定める目標については,各学校における教育目標を踏まえ, 総合的な探究の時間を通して育成を目指す資質・能力を示すこと。  各学校において定める目標については,各学校における教育目標を踏まえ,総合的な探 究の時間を通して育成を目指す資質・能力を示す必要がある。  各学校における教育目標を踏まえとは,各学校において定める総合的な探究の時間の目 標が,この時間の円滑で効果的な実施のみならず,各学校において編成する教育課程全体 の円滑で効果的な実施に資するものとなるよう配慮するということである。  第1 章総則第2 款の1 において,教育課程の編成に当たって,学校教育全体や各教科・ 科目等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,各学校の教育目標を 明確にすることが定められた。あわせて,各学校の教育目標を設定するに当たっては, 「第4 章第2 の1 に基づき定められる目標との関連を図るものとする。 」とされた。各学校 における教育目標には,地域や学校,生徒の実態や特性を踏まえ,主体的・創造的に編成 した教育課程によって実現を目指す生徒の姿等が描かれることになる。各学校における教 育目標を踏まえ,総合的な探究の時間の目標を設定することによって,総合的な探究の時 間が,各学校の教育課程の編成において,特に教科・科目等横断的なカリキュラム・マネ ジメントという視点から,極めて重要な役割を担うことが今まで以上に鮮明となった。  学校教育目標は,教育課程全体を通して実現していくものである。その意味で,総合的 な探究の時間も他教科等と同様,それぞれの特質に応じた役割を果たすことで,学校教育 目標の実現に貢献していくことに変わりはない。  その一方で,各学校において定める総合的な探究の時間の目標には,第1 の目標を踏ま えつつ,各学校が育てたいと願う生徒の姿や育成すべき資質・能力などを,各学校の創意 工夫に基づき明確に示すことが期待されている。つまり,総合的な探究の時間の目標は, 学校の教育目標と直接的につながるという,他教科等にはない独自な特質を有するという ことを意味している。このため,各学校の教育目標を教育課程で具現化していくに当たっ て,総合的な探究の時間の目標が各学校の教育目標を具体化し,そして総合的な探究の時 間と各教科・科目等の学習を関連付けることにより,総合的な探究の時間を軸としながら, 教育課程全体において,各学校の教育目標のよりよい実現を目指していくことになる。  また,総合的な探究の時間は,教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能 力を育むとともに,各教科・科目等で身に付けた資質・能力を関連付け,学習や生活に生 かし,それらが総合的に働くようにするものである。このような形で各教科・科目等の学 習と総合的な探究の時間の学習が往還することからも,総合的な探究の時間は教科・科目 第3 節 各学校において定める目標及び内容の取扱い
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27 3 各学校にお いて定める 目標及び内 容の取扱い 等横断的な教育課程の編成において重要な役割を果たす。  これらのことは,小中学校でも同様に重要ではあるが,高等学校の場合には,各学校が 果たすべき役割,独自性や持ち味,学校らしさといったものが明確である分,一層,切実 であり,有効であることも確かである。各学校が自校の特色や個性をしっかりと自覚し, これを主体的・創造的に学校教育目標,さらには総合的な探究の時間の目標に反映させ, さらに相互に緊密な連携を図ることにより,教育課程は有効に機能し,そのことは生徒の 学びや育ちの高まりへと着実に跳ね返っていく。このように,学校教育目標と総合的な探 究の時間の目標の間に緊密な連携を図ることには大きな意味がある。  こうしたことを踏まえ,各学校において定める目標を設定するに当たっては,第1 の目 標の趣旨を踏まえつつ,例えば,各学校が育てたいと願う生徒の姿や育成すべき資質・能 力のうち,他教科等では十分な育成が難しいものについて示したり,あるいは,学校にお いて特に大切にしたい資質・能力について,より深めるために,総合的な探究の時間の目 標に明記し,その実現を目指して取り組んでいったりすることなどが考えられる。  総合的な探究の時間を通して育成を目指す資質・能力を示すとは,各学校における教育 目標を踏まえて,各学校において定める目標の中に,この時間を通して育成を目指す資 質・能力を「三つの柱」に即して具体的に示すということである。  その際,既に学校教育目標の中に実現を目指す望ましい生徒の姿が具体的に描かれてい る場合には,そこから無理なく育成を目指す資質・能力を導き出すことができると思われ る。一方,実現を目指す生徒の姿が抽象的,一般的,概括的に描かれている場合には,育 成を目指す資質・能力を導き出すことが困難となる可能性がある。そのようなときは,校 長のリーダーシップの下,実現を目指す生徒の姿について改めて校内で議論し,育成を目 指す資質・能力をイメージできる程度に具体化したり鮮明化したりすることが考えられる。 この作業は,単に総合的な探究の時間の目標設定のみならず,学校の全ての教育活動の質 の向上に資するものである。総合的な探究の時間の目標設定を契機に,校内で一体となっ て取り組み,共通理解を図ることが期待される。  このように,学校教育目標の中に実現を目指す望ましい生徒の姿が具体的に描かれるこ とは,そこにその学校ならではの強調点,独自性などが明確に示されることを意味する。 したがって,それらを意識し,適切に反映させて育成を目指す資質・能力を記述していけ ば,自ずと,第1 の目標との対比において,いずれかの要素の具体化や重点化,あるいは 別の要素の付加が生じてくるであろう。  各学校においては,前回の改訂において定めてきた「学校の目標」や「育てようとする 資質や能力及び態度」を参考にし,実践から得られた知恵や経験を発展的に継承すること が大切である。その際,第1 の目標における(1) (2) (3)の記述からも分かるように, 従来「学習方法に関すること」として示してきたことが,今回の改訂では,主として(2) 「思考力,判断力,表現力等」に関わるものである。また従来「自分自身に関すること, 他者や社会との関わりに関すること」という二つで示してきたことが,今回の改訂では, 主として(3) 「学びに向かう力,人間性等」に関わるものである。これまでの実践を参考 に,適切な資質・能力を検討することが求められる。
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28 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 (2) 各学校において定める目標及び内容については,他教科等の目標及び内容との違 いに留意しつつ,他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を重視すること。  各教科・科目等は,それぞれ固有の目標と内容をもっている。それぞれが役割を十分に 果たし,その目標をよりよく実現することで,教育課程は全体として適切に機能すること になる。各学校においては,他教科等の目標及び内容との違いに十分留意し,目標及び内 容を定めることが求められる。その上で,各学校において定める目標及び内容については, 他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を重視することが大切である。  その際,特に注意を要する事柄として,すでに第2 章で述べた通り,科目名に探究を含 む,古典探究,日本史探究,世界史探究,地理探究,理数探究との間における違いがある。 これらの科目においても,その展開の中で生徒に実現する学びの様相や質としては探究を 目指す。その一方で,古典探究,日本史探究,世界史探究,地理探究については,当該科 目の領域範囲中で生じる鋭角的な質の探究を想定している。また,理数探究では,数学的 な見方・考え方や理科の見方・考え方を組み合わせるなどして働かせた探究を想定してい る。  総合的な探究の時間と他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を重視するとは,各 教科・科目等の目標に示されている,育成を目指す資質・能力の三つの柱ごとに関連を考 えることである。すなわち, 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向 かう力,人間性等」のそれぞれにおいて資質・能力の関連を考えることであり,その際, 各学校で定める目標及び内容が,他教科等における目標及び内容とどのような関係にある かを意識しておくことがポイントとなる。  総合的な探究の時間は,教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力を育 むとともに,各教科・科目等で身に付けた資質・能力を相互に関連付け,学習や生活に生 かし,それらが総合的に働くようにするものである。このような形で各教科・科目等の学 習と総合的な探究の時間の学習が往還することを意識し,例えば, 各教科共通で特に重視 したい態度などを総合的な探究の時間の目標において示したり,各教科・科目等で育成す る「知識及び技能」や「思考力,判断力,表現力等」が総合的に働くような内容を総合的 な探究の時間において設定したりすることなどが考えられる。  総合的な探究の時間で育成を目指す資質・能力と,他教科等で育成を目指す資質・能力 との共通点や相違点を明らかにして目標及び内容を定めることは,冒頭に示した教育課程 全体において各教科・科目等がそれぞれに役割を十分に果たし,教育課程が全体として適 切に機能することに大きく寄与する。そのためにも,総合的な探究の時間の目標及び内容 を設定する際には,他教科等の資質・能力との関連を重視することが大切なのである。  このことは,中央教育審議会答申において示されたカリキュラム・マネジメントの三つ の側面で考えるならば,特に「各教科・科目等の教育内容を相互の関係で捉え,学校の教 育目標を踏まえた教科・科目等横断的な視点で,その目標の達成に必要な教育の内容を組 織的に配列していくこと」という側面に深く関係するものと考えることができる。
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29 3 各学校にお いて定める 目標及び内 容の取扱い (3) 各学校において定める目標及び内容については,地域や社会との関わりを重視す ること。  各学校において目標や内容を定めるとは,どのような生徒を育てたいのか,そのために どのような資質・能力を育成するのか,さらに,それをどのような探究課題の解決を通し て,具体的な資質・能力として育成を実現していこうとするのかなどを明らかにすること である。ここでは,各学校において目標や内容を定めるに当たっては,地域や社会との関 わりを重視することが大切であることを示している。  地域や社会との関わりを重視するということには,以下の三つの意味がある。  一つ目は,総合的な探究の時間では,実社会や実生活において生きて働く資質・能力の 育成が期待されていることである。実際の生活にある課題を取り上げることで,生徒は地 域や社会において,何が本質的な課題なのかを明らかにし,発見した課題をよりよく解決 しようと真剣に取り組み,自らの能力を存分に発揮する。その中で育成された資質・能力 は,実社会や実生活で生きて働くものとして育成される。  二つ目は,総合的な探究の時間では,生徒が主体的に取り組む学習が求められているこ とである。地域や社会に関わる課題は,自己の在り方生き方と不可分に結び付いたものと して捉え,そこに意味のある課題を発見することが比較的容易であり,自己のキャリア形 成の方向性との関連も見えやすいなど,生徒の関心も高まりやすい。また,直接体験など も行いやすく,身体全体を使って,本気になって探究に取り組む生徒の姿が生み出される。 なお,その場合,自分が生活する地域で展開されていることが,表面的には異なるものの 他の地域においても生じていることに気付き,引き続き自分の課題として積極的に受け止 め,考え続けていこうとするようになることが期待される。つまり,地域での課題の発見 や解決に取り組んだ経験を,より普遍的で原理的な問題として捉えるとともに,そのより よい解決に主体的・協働的に取り組み続け,新たな価値を実現しようとする姿として育成 される。  三つ目は,総合的な探究の時間では,生徒にとっての学ぶ意義や目的を明確にすること が重視されていることである。自ら課題を発見し,また解決する過程では,地域の様々な 人との関わりが生じることも考えられる。そうした学習活動では, 「自分の力で解決する ことができた」 , 「自分の取組が地域を動かした」 , 「これからも地域づくりに参画し,さら によい地域にしていきたい」 , 「自分たちは地域や社会の未来に対して責任があるし,それ を果たしていくことは実にやりがいのあることだ」などの,課題の解決に取り組んだこと への自信や自尊感情,責任感が育まれ,地域や社会の一員であるとの意識も醸成されると ともに,自己の在り方生き方を深く省察するといったことが期待できる。  このように,各学校においては,これらのことに配慮しつつ,目標及び内容を定めるこ とが求められる。実際の生活の中にある問題や地域の事象を取り上げ,それらを実際に解 決していく過程が大切であり,そのことが総合的な探究の時間の充実につながる。  こうして行われる探究では,生徒が自ら設定した課題などを,自分と切り離して捉える ことを意味するものではない。自己の在り方生き方と一体的で不可分なものして捉え,考
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30 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 えることが期待されているのである。また,人や社会,自然を,別々の存在として認識す るのではなく,それぞれが複雑につながり合い,相互に影響し,依存しあいながら存在し ているものとして捉え,認識しようとすることにもつながる。総合的な探究の時間では, それぞれの生徒が具体的で関係的な認識を,自ら構築していくことを期待しているのであ り,そうして構築された社会・世界に対する認識との関わりにおいて,自己の在り方生き 方を求め,深めていくことを目指している。つまり,地域や社会との関わりを重視した探 究を深めていけばいくほど,自己の在り方生き方に関わる探究も深まりを見せてくるとい う関係にあると理解することが大切である。このように,地域や社会との関わりを重視し た探究を行うことに,総合的な探究の時間のもつ重要性がある。 (4) 各学校において定める内容については,目標を実現するにふさわしい探究課題, 探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力を示すこと。  各学校において定める内容について,今回の改訂では新たに, 「目標を実現するにふさ わしい探究課題」 , 「探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」の二つを 定めることが示された。  目標を実現するにふさわしい探究課題とは,目標の実現に向けて学校として設定した, 生徒が探究に取り組むためのものであり,従来「学習対象」として説明されてきたものに 相当する。つまり,探究課題とは,探究的に関わりを深める人・もの・ことを示したもの であり,例えば「自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題」 , 「地域の伝統や文 化とその継承に取り組む人々や組織」 , 「文化や流行の創造と表現」 , 「職業の選択と社会貢 献及び自己実現」などである。  ここでいう探究課題とは,指導計画の作成段階において各学校が内容として定めるもの であって,学習活動の中で生徒が自ら設定する「課題」のことではない。学校なり教師が, 探究を通して生徒にどのような資質・能力を育成したいと考えるかを,学習対象の水準で 表現したものである。つまり,単元なり1 単位時間の授業において,どのような教材なり 問題場面と生徒を出会わせ,生徒がどのような課題をもって探究を展開していくかを構想 する基盤となるものが内容としての探究課題である。  一方,探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力とは,各学校において 定める目標に記された資質・能力を,各探究課題に即して具体的に示したものであり,教 師の適切な指導の下,生徒が各探究課題の解決に取り組む中で,育成することを目指す資 質・能力のことである。   この具体的な資質・能力も, 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに 向かう力,人間性等」という資質・能力の三つの柱に即して設定していくことになる。  このように,総合的な探究の時間の内容は,探究課題と具体的な資質・能力の二つによ って構成される。そして,両者の関係については,目標の実現に向けて,生徒が「何を学 ぶか(どのような対象と関わり探究を行うか) 」を表したものが「探究課題」であり,各 探究課題との関わりを通して,具体的に「何ができるようになるか (探究を通して,どの
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31 3 各学校にお いて定める 目標及び内 容の取扱い ような生徒の姿を実現するか) 」を明らかにしたものが「具体的な資質・能力」という関 係になる。  第1 の目標は,各学校においてどのような内容を設定する場合であっても共通して育成 することを目指す資質・能力,望ましい生徒の成長の姿を記述している。一方,探究課題 と共に内容を構成する,具体的な資質・能力とは,特定の領域や対象に関わる探究課題の 解決を通して,どのような資質・能力の育成を目指すかを具体的に記述するものである。  当然のことながら,各探究課題にはその課題ならではの特質があるため,学校の目標に 示された資質・能力のうち,特定の要素や側面が特に効果的に育成できる可能性が高いと いったことが起こりうる。具体的な資質・能力の設定に当たっては,そのような探究課題 ごとの特質を踏まえ,各探究課題の解決を通して,設定した具体的な資質・能力が最も効 果的に育成されるよう工夫することが求められる。  なお,全体を見通した際に,目標で示した資質・能力のうち,特定の要素や側面の育成 に弱さや偏りが認められた場合には,探究課題それ自体の設定から見直すことも含めて, 内容の全体を見直していく必要がある。このように,探究課題と具体的な資質・能力は相 互に深く関連している。したがって,内容の設定に際しては,両者の間を行きつ戻りつし ながら柔軟に進める必要が生じることもある。  内容の設定において大切なのは,生徒が全ての内容に関わる学びを経験し終わった時に, 各学校において定める目標,その中に示した資質・能力が確かに実現されるよう,適切か つ効果的,効率的に内容を設定することである。 (5) 目標を実現するにふさわしい探究課題については,地域や学校の実態,生徒の特 性等に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題 に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・ 関心に基づく課題,職業や自己の進路に関する課題などを踏まえて設定すること。  目標を実現するにふさわしい探究課題とは,目標の実現に向けて学校として設定した, 生徒が探究に取り組むためのものであり,従来「学習対象」として説明されてきたものに 相当する。  目標を実現するにふさわしい探究課題については,地域や学校の実態,生徒の特性等に 応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横 断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題, 職業や自己の進路に関する課題など,横断的・総合的な学習としての性格をもち,探究の 見方・考え方を働かせて学習することがふさわしく,それらの解決を通して育成される資 質・能力が,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくこと に結び付いていくような,教育的に価値のある諸課題であることが求められる。  しかし,本項において挙げられているそれぞれの課題は,あくまでも例示であり,各学 校が探究課題を設定する際の参考として示したものである。これらの例示を参考にしなが ら,地域や学校の実態,生徒の特性等に応じて,探究課題を設定することが求められる。
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32 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容  例示されたこれらの課題は,第1 学年から第3 学年までの生徒の発達の段階において, 第1 の目標の構成から導かれる以下の三つの要件を,適切に実施するものとして考えられた。   (1)   探究の見方・考え方を働かせて学習することがふさわしい課題であること   (2)   その課題をめぐって展開される学習が,横断的・総合的な学習としての性格をもつ こと   (3)   その課題を学ぶことにより,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発 見し解決していくことに結び付いていくような資質・能力の育成が見込めること  以下に,例示した課題の特質について示す。  国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な 課題とは,社会の変化に伴って切実に意識されるようになってきた現代社会の諸課題のこ とである。そのいずれもが,持続可能な社会の実現に関わる課題であり,現代社会に生き る全ての人が,これらの課題を自分自身の在り方生き方との関わりで考え,問いを発し, よりよい解決に向けて行動することが望まれている。また,これらの課題については正解 や答えが一つに定まっているものではなく,従来の各教科・科目等の枠組みでは必ずしも 適切に扱うことができない。したがって,こうした課題を総合的な探究の時間の探究課題 として取り上げ,その解決を通して具体的な資質・能力を育成していくことには大きな意 義がある。  地域や学校の特色に応じた課題とは,町づくり,伝統文化,地域経済,防災,都市計画, 観光など各地域や各学校に固有な諸課題のことである。全ての地域社会には,その地域な らではのよさがあり特色がある。古くからの伝統や習慣が現在まで残されている地域,地 域の気候や風土を生かした特産物や工芸品を製造している地域など,様々に存在している。 これらの特色に応じた課題は,よりよい郷土の創造に関わって生じる地域ならではの課題 であり,生徒が地域における自己の在り方生き方との関わりで考え,問いを発し,よりよ い解決に向けて地域社会で行動していくことが望まれている。また,これらの課題につい ても正解や答えが一つに定まっているものではなく,従来の各教科・科目等の枠組みでは 必ずしも適切に扱うことができない。しかも,生徒にとっては,自分自身の取組が地域や 社会を変え,社会に参画し貢献していることを実感できる課題でもある。したがって,こ うした課題を総合的な探究の時間の探究課題として取り上げ,その解決を通して具体的な 資質・能力を育成していくことには大きな意義がある。  生徒の興味・関心に基づく課題とは,生徒がそれぞれの発達段階に応じて興味・関心を 抱きやすい課題のことである。個々の生徒が,日常の生活はもちろん各教科・科目等にお ける学習の進展に応じて興味・関心を抱いたり,各教科・科目等の学習を契機に生起した りすることも期待できる課題である。例えば,社会や時代の変化と流行の変遷との関連に ついて考えたり,社会の変化に対応した教育や保育の在り方について考えたりすることな どが考えられる。これらの課題は,一人一人の生活と深く関わっており,生徒が自己の在 り方生き方との関わりで考え,問いを発し,よりよい解決に向けて行動することが望まれ ている。
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33 3 各学校にお いて定める 目標及び内 容の取扱い  総合的な探究の時間は,生徒が,自ら学び,自ら考える時間であり,生徒の主体的な学 習態度を育成する時間である。また,自己の在り方生き方を考えながら探究できるように することを目指した時間である。その意味からも,総合的な探究の時間において,生徒の 興味・関心に基づく探究課題を取り上げ,その解決を通して具体的な資質・能力を育成し ていくことは重要なことである。  なお,生徒の興味・関心に基づく課題については,横断的・総合的な学習として,探究 の見方・考え方を働かせ,学習の質的高まりが期待できるかどうかを,教師が十分に判断 する必要がある。たとえ生徒が興味・関心を抱いた課題であっても,総合的な探究の時間 の目標にふさわしくない場合や十分な学習の成果が得られない場合には,適切に指導を行 うことが求められる。  職業や自己の進路に関する課題とは,中等教育の最終段階にある生徒にとって,自己の 在り方に関する思索を自身の進路に結び付け,自己の生き方について現実的に検討する上 で必要となる諸課題のことである。この時期の生徒は,人間としての在り方や将来の生き 方について,深く考えることを求めているとともに,就職や進学などについて,現実的に 検討することを迫られてもいる。職業や自己の進路について,この両面から思う存分,納 得がいくまで探究する機会を提供し,自己の中で統合できるまでに導くことは,生徒の人 間的成熟や安定の確保,自己の将来を力強く着実に切り開いていこうとする資質・能力の 育成において,極めて重要である。したがって,こうした課題を総合的な探究の時間の探 究課題として取り上げ,具体的な学習活動としていくことには大きな意義がある。  なお,このことについては,第1 章総則第2 の2「教科・科目等横断的な視点に立った 資質・能力の育成」の(2)と深く関わっている。
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34 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 (6) 探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力については,次の事項 に配慮すること。  ア 知識及び技能については,他教科等及び総合的な探究の時間で習得する知識及 び技能が相互に関連付けられ,社会の中で生きて働くものとして形成されるよう にすること。  イ 思考力,判断力,表現力等については,課題の設定,情報の収集,整理・分析, まとめ・表現などの探究の過程において発揮され,未知の状況において活用でき るものとして身に付けられるようにすること。  ウ 学びに向かう力,人間性等については,自分自身に関すること及び他者や社会 との関わりに関することの両方の視点を踏まえること。  探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力とは,各学校において定める 目標に記された資質・能力を,各探究課題に即して具体的に示したものであり,教師の適 切な指導の下,生徒が各探究課題の解決に取り組む中で,育成することを目指す資質・能 力のことである。  具体的な資質・能力については,他教科等と同様に, 「育成すべき資質・能力の三つの 柱」である「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性 等」に沿って設定していくが,その際,それぞれ以下の点に配慮する必要がある。   「知識及び技能」については,他教科等及び総合的な探究の時間で習得する「知識及び 技能」が相互に関連付けられ,社会の中で生きて働くものとして形成されるようにするこ とが大切である。今回の改訂では,資質・能力として各教科・科目等で身に付ける「知識 及び技能」については,具体的な事実に関する知識,個別的な手順の実行に関する技能に 加えて,複数の事実に関する知識や手順に関する技能が相互に関連付けられ,統合される ことによって概念として形成されるようにすることを重視している。こうした概念が理解 されることにより,知識や技能は,それが習得された特定の文脈に限らず,日常の様々な 場面で活用可能なものとなっていく。  総合的な探究の時間においても,個々の探究課題を解決しようとする中で,生徒は様々 な知識や技能を結果的に習得していくが,それらが統合されて概念的理解にまで達するこ とを目指すことが求められる。そのために,まずは内容の設定の段階において,どのよう な概念の形成を期待するのかということを明示する必要がある。   「思考力,判断力,表現力等」についても, 「知識及び技能」を未知の状況において活用 できるものとして身に付けるようにすることが大切である。そのためにも,様々に異なる 状況や複雑で答えが一つに定まらない問題に対して, 「知識及び技能」を繰り返し活用・ 発揮することが大切になる。その過程で,問題状況の特質や情報の性質,表現する相手や その目的等によって,どの「知識及び技能」が適切であり有効であるかなどに気付いてい く。そのような経験の積み重ねの中で,次第に未知の状況においても活用できるものとし て,思考力,判断力,表現力等は確かに育成されていく。  したがって,まずは内容の設定の段階において,探究課題の特質から想定される問題状
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35 3 各学校にお いて定める 目標及び内 容の取扱い 況,収集が可能な情報の性質,整理・分析において有効な観点,まとめ・表現において想 定される相手や目的などを十分に検討すべきである。また,その探究課題の解決において, どのような思考力,判断力,表現力等が求められるのか,効果的であるかを十分に予測し, その解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力として設定することが求められる。  例えば,省エネを実現する町の在り方を話し合う中で,資源節約グループが,電力の節 約のために夜間の活動を制限すべきと提案する。この提案に対し,LED 推進グループは 反対する。この話合いの中で,それぞれのグループは一面的な視点でしか対象を捉えてい なかったことを自覚していく。ここで教師が,エネルギーと生活にはどういう意味がある のか,同様の関係は他にもないか,それら全てを通して一貫した特徴は何か,といったこ とへと学びをもう一段進められるよう指導する。その結果,生徒は,資源やエネルギー, 産業や人間生活の関係などについての理解を深めながら, 「多様性(それぞれには特徴が あり,多種多様に存在していること) 」 , 「相互性(互いに関わりながらよさを生かしてい ること) 」 , 「有限性(物事には終わりがあり,限りがある) 」など,環境問題の本質に関す る概念的理解へと到達することができる。また,こうして概念的に理解された(概念とし て獲得された)知識は,省エネという具体的な文脈だけでなく,さらに別の環境問題や, 環境問題以外でも,今後出会う多様な事物・現象について考えるに当たって,存分に活 用・発揮できることも期待できる。  あるいは,福祉に関わる学習を進める中で,高齢者や障害者にとってよりよい介助や支 援の仕方は,障害の種類や程度,その人の身体の状態やその日の体調などによっても大き く変化することを経験する。しかし,更に様々な人に対する介助や支援を経験する中で, そこに一人一人の状況に応じた配慮が求められるということ(個別性)に気付くとともに, 状況は異なっても常に留意しなければならないこととして,相手の立場に立ち,相手の気 持ちに寄り添うことが大切であるという本質的な理解に結び付く。この段階まで学びを深 めることができたならば,次には,既に習得している様々な介助や支援に関する「知識及 び技能」を,新たに出会う未知の具体的な場面に応じて創意工夫しながら自在に発揮でき るようになる可能性は一気に高まってくる。   「学びに向かう力,人間性等」については, 「自分自身に関すること及び他者や社会との 関わりに関することの両方の視点を含む」ようにすることが求められる。先にも述べた通 り,このことは,従来「育てようとする資質や能力及び態度」として示してきた三つの視 点のうち, 「自分自身に関すること」及び「他者や社会との関わりに関すること」の二つ の視点の両方に関わるものである。  第1 の目標において, 「学びに向かう力,人間性等」に関しては, 「探究に主体的・協働 的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値を創造し,よりよい社会 を実現しようとする態度を養う」ことが示されている。 「他者や社会との関わり」として, 課題の解決に向けた他者との協働を通して,新たな価値を創造し,よりよい社会を実現し ようとする態度などを養うとともに, 「自分自身に関すること」として,探究に主体的・ 協働的に取り組むことを通して,探究の意義を自覚したり,自分のよさや可能性に気付い たり,学んだことを自信につなげたり,現在及び将来の自己の在り方生き方につなげたり
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36 第4 章 各学校におい て定める目標 及び内容 する内省的な考え方(Reflection)といった両方の視点を踏まえて,内容を設定すること が考えられる。  探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力の考え方については,本解説 第6 章第3 節の3 において更に詳しく解説する。 (7) 目標を実現するにふさわしい探究課題及び探究課題の解決を通して育成を目指す 具体的な資質・能力については,教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資 質・能力が育まれ,活用されるものとなるよう配慮すること。  目標を実現するにふさわしい探究課題及び探究課題の解決を通して育成を目指す具体的 な資質・能力については,教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力が育 まれ,活用されるものとなるよう配慮することが大切である。  第1 章総則第2 款の2 の (1) においても, 「学習の基盤となる資質・能力」として,言語 能力,情報活用能力(情報モラルを含む。 ) ,問題発見・解決能力等を挙げており,総合的 な探究の時間においても,教科・科目等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力とし ては,それぞれの学習活動との関連において,言語活動を通じて育成される言語能力(読 解力や語彙力等を含む。 ) ,言語活動やICT を活用した学習活動等を通じて育成される情 報活用能力,問題解決的な学習を通じて育成される問題発見・解決能力などが考えられる。  これらは,他教科等でも,その教科・科目等の特質に応じて展開される学習活動との関 連において育成が目指されることになる。総合的な探究の時間においては,生徒自らが課 題を設定して取り組む,実社会や実生活の中にある複雑な問題状況の解決に取り組む,答 えが一つに定まらない問題を扱う,多様な他者と協働したり対話したりしながら活動を展 開するなど,この時間ならではの学習活動の特質を存分に生かす方向で,教科・科目等を 越えた全ての学習の基盤となる資質・能力の育成に貢献することが期待されている。  総合的な探究の時間では,従来から,各学校において「育てようとする資質や能力及び 態度」の例として「学習方法に関すること」を挙げ,例えば,情報を収集し分析する力, 分かりやすくまとめ表現する力などを育成するといった視点を示してきたところであり, 今回の改訂により,改めてその趣旨が明確にされたと言える。  なお,このことについては,本解説第5 章第1 節の1 の (3) においても改めて説明する。
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37 1 指導計画の 作成に当た っての配慮 事項 第3 指導計画の作成と内容の取扱い  1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。    (1) 年間や,単元など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能 力の育成に向けて,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにする こと。その際,生徒や学校,地域の実態等に応じて,生徒が探究の見方・考え 方を働かせ,教科・科目等の枠を超えた横断的・総合的な学習や生徒の興味・ 関心等に基づく学習を行うなど創意工夫を生かした教育活動の充実を図ること。  この事項は,総合的な探究の時間の指導計画の作成に当たり,生徒の主体的・対話的で 深い学びの実現に向けた授業改善を進めることとし,総合的な探究の時間の特質に応じて, 効果的な学習が展開できるように配慮すべき内容を示したものである。  選挙権年齢や成年年齢の引き下げなど,高校生にとって政治や社会が一層身近なものと なる中,学習内容を人生や社会の在り方と結び付けて深く理解し,これからの時代に求め られる資質・能力を身に付け,生涯にわたって能動的に学び続けることができるようにす るためには,これまでの優れた教育実践の蓄積も生かしながら,学習の質を一層高める授 業改善の取組を推進していくことが求められている。  指導に当たっては, (1) 「知識及び技能」が習得されること, (2) 「思考力,判断力,表 現力等」を育成すること, (3) 「学びに向かう力,人間性等」を涵 かん 養することが偏りなく 実現されるよう,年間や,単元など内容や時間のまとまりを見通しながら,生徒の主体 的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うことが重要である。  主体的・対話的で深い学びは,必ずしも1 単位時間の授業の中で全てが実現されるもの ではない。年間や,単元など内容や時間のまとまりの中で,例えば,主体的に学習に取り 組めるよう学習の見通しを立てたり学習したことを振り返ったりして自身の学びや変容を 自覚できる場面をどこに設定するか,対話によって自分の考えなどを広げたり深めたりす る場面をどこに設定するか,学びの深まりをつくりだすために,生徒が考える場面と教師 が教える場面をどのように組み立てるか,といった観点で授業改善を進めることが求めら れる。また,生徒や学校の実態に応じ,多様な学習活動を組み合わせて授業を組み立てて いくことが重要であり,年間や,単元など内容や時間のまとまりを見通した学習を行うに 当たり基礎となる「知識及び技能」の習得に課題が見られる場合には,それを身に付ける ために,生徒の主体性を引き出すなどの工夫を重ね,確実な習得を図ることが必要である。 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を進めるに当たり,特に「深い学び」 の視点に関して,各教科等の学びの深まりの鍵となるのが「見方・考え方」である。各教 科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方である「見方・考え方」を,習得・活用・ 探究という学びの過程の中で働かせることを通じて,より質の高い深い学びにつなげるこ 第5 章 指導計画の作成と内容の取扱い 第1 節 指導計画の作成に当たっての配慮事項
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38 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い とが重要である。  総合的な探究の時間においては,第1 の目標に示された「自己の在り方生き方を考えな がら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」は,年間や,単元など内容 や時間のまとまりを見通した授業の積み重ねによって総合的に育成されていく。   「資質・能力」の育成のためには, 「主体的・対話的で深い学びの実現を図る」ことが鍵 となる。探究のプロセス(①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表 現)を充実させるとともに,その過程において,生徒や学校,地域の実態等に応じて,生 徒が探究の見方・考え方を働かせ,教科・科目等の枠を超えた横断的・総合的な学習や生 徒の興味・関心に基づく学習を行うなど,創意工夫を生かした教育活動を充実させること が大切である。このことは,第1 章総則第3 款の1 の (1) にも示されているように今回の 改訂における重要な改善点である。  その際, 「探究の過程」を通して,各教科・科目等における見方・考え方を総合的・統 合的に活用して,広範で複雑な事象を多様な角度から俯 ふ 瞰 かん して捉え,実社会・実生活の課 題を探究し,自己の在り方生き方を問い続けることが行われる。こうした総合的な探究の 時間に固有な学びの中では,一つの教科・科目等の枠に収まらない課題に取り組む学習活 動を通して,各教科・科目等で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活に 生かし,それらが生徒の中で総合的に働くようにすることが一層求められる。  したがって,総合的な探究の時間では,これまで以上に,生徒や学校,地域の実態等に 応じ,創意工夫を生かした教育活動の充実を図ることが欠かせない。  創意工夫を生かすとは,他校にはない特殊なもの,独創性の高いものを行うことが求め られているわけではない。生徒や学校,地域の実態に応じて,それぞれの学校の生徒にふ さわしい教育活動を適切に実施することが重要である。  ここで求められる実態とは,この時間の学習活動を適切に行うために十分考慮すべき実 態のことである。生徒の実態とは,知的な側面,情意的な側面,身体的な側面などに関す る生徒の実際の姿とこれまでの経験などが考えられる。学校の実態とは,課程や学科の特 色,生徒数や学級数などの学校の規模,職員数や職員構成,校内環境や学校の風土や伝統, 教育研究の積み重ねなどが考えられる。地域の実態としては,学校が設置されている地域 の山や川などの自然環境,町やそこにある機関,歴史や文化などの社会環境,そこに住む 人やその営み,思いや願いなどの人的環境などが考えられる。  例えば,上級学校に進学する生徒が多い普通科の高等学校では,国際理解,情報,環境, 福祉・健康などの現代的な諸課題に関する学習活動を展開する場合がある。そこでは,生 徒の進路希望と関連付けたフィールドワークを行うなどの取組が考えられる。就職を考え る生徒が多い専門学科の高等学校では,専門的な分野を生かした学習活動を展開する場合 がある。工業科であれば,地域の公園の再開発,食品加工科では地域の農産物を生かした 加工食品の開発などの学習活動を展開する場合がある。総合学科の高等学校では, 「産業 社会と人間」の学びを生かした学習活動を展開する。そこでは,生徒が興味・関心,進路 等に応じて設定した課題について,知識や技能の深化,総合化を図る取組が行われる。ま た,中山間地域の小規模の高等学校では,地域活性化などに関する学習活動を展開する場
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39 1 指導計画の 作成に当た っての配慮 事項 合がある。そこでは,小規模校のよさを生かして全校体制での探究活動を行い,地域住民 や行政へ提言するなどの取組が考えられる。さらに,連携大学や企業,海外の姉妹校など がある高等学校では,連携先と交流する学習活動を展開する場合がある。そこでは,大学 の教員から講義を受けたり,専門的な内容について学んだり,テレビ会議システムなどで 交流をしたりして探究を進めるといった取組が考えられる。このように各学校においては, 地域や学校,生徒の実態を的確に把握し,それらの要素を複合的に関連付け,各学校の生 徒にとって必要であると考えられる教育活動を展開していかなければならない。  なお,特色ある教育活動の創造につなげていくためにも,地域の実態把握が欠かせない。 教師自らが地域に興味をもち,地域を探索したりフィールド調査をしたり,実際に見たり 聞いたりして,地域と関わることが望まれる。また,生徒の実態把握に関しては,教科担 任や部活動顧問などの他の教師,保護者,生徒自身に対する様々な観点からの実態調査に 加えて,生徒に関わることの多い連携機関の職員や大学教員等からの情報を集めることも 有効である。 (2) 全体計画及び年間指導計画の作成に当たっては,学校における全教育活動との関 連の下に,目標及び内容,学習活動,指導方法や指導体制,学習の評価の計画など を示すこと。  総合的な探究の時間の目標は,第1 の目標を踏まえるとともに,育てたいと願う生徒の 姿を,育成を目指す資質・能力として各学校で定めることから,学校の教育目標と直接つ ながる。また,総合的な探究の時間の目標を実現するためには,各教科,特別活動を含め た全教育活動における総合的な探究の時間の位置付けを明確にすることが重要であり,そ れぞれが適切に実施され,相互に関連し合うことで教育課程は機能を果たすこととなる。 すなわち,学校の教育目標を教育課程に反映し具現化していくに当たっては,これまで以 上に総合的な探究の時間を教育課程の中核に位置付けるとともに,各教科・科目等との関 わりを意識しながら,学校の教育活動全体で資質・能力を育成するカリキュラム・マネジ メントを行うことが求められる。したがって,総合的な探究の時間が実効性のあるものと して実施されるためには,地域や学校,生徒の実態や特性を踏まえ,各教科・科目等を視 野に入れた全体計画及び年間指導計画を作成することが求められる。  全体計画とは,指導計画のうち,学校として,入学してから卒業するまでを見通して, この時間の教育活動の基本的な在り方を概括的・構造的に示すものである。一方,年間指 導計画とは,全体計画を踏まえ,その実現のために,どのような学習活動を,どのような 時期に,どのくらいの時数で実施するのかなどを示すものである。この二つの計画におい て,各学校が定める「目標」と,目標を実現するにふさわしい探究課題等からなる各学校 が定める「内容」を明確にすることが重要である。さらには,それらとの関連において生 み出される「学習活動」 ,その実施を推進していく「指導方法」や「指導体制」 ,生徒の学 習状況等を適切に把握するための「学習の評価」などが示されるべきである。  各学校においては,校長のビジョンとリーダーシップの下で総合的な探究の時間の全体
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40 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い 計画及び年間指導計画を作成しなければならない。これらの計画を作成することによって, 適切な教育活動が展開され,学校として行き届いた指導を行うことが可能となる。その際, これまでの各学校の教育実践の積み重ねや教育研究の実績に配慮して計画を作成すること が有効である。なお,各学校における目標及び内容,学習活動などの設定の手順や方法に ついては,本解説第7 章及び第8 章で詳しく解説する。  総合的な探究の時間の全体計画及び年間指導計画の作成に当たっては,第1 章総則第1 款の5 に示された,組織的かつ計画的に教育活動の質の向上を図っていく,カリキュラ ム・マネジメントを大事にする必要がある。カリキュラム・マネジメントについては,  ① 内容等を教科・科目等横断的な視点で組み立てていくこと  ② 教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと  ③ 教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図って いくこと  という三つの側面がある。  ①内容等を教科・科目等横断的な視点で組み立てていくことについては,目標及び内容, 学習活動などが,教科・科目等横断的な視点で連続的かつ発展的に展開するように,教 科・科目等間・学年間の関連やつながりに配慮することが大切である。例えば,1 学年で 身に付けた資質・能力が2 学年以降の学習によりよく発展するように配慮して作成するこ となどが考えられる。また,小中学校における総合的な学習の時間の取組との連続性,大 学や専門学校等における取組への発展的な展開のためには,高等学校段階でどのような学 習を行い,どのような資質・能力の育成を目指すのか,小中学校の全体計画や年間指導計 画も踏まえて高等学校の指導計画が作成されるよう,指導計画をはじめ生徒の学習状況な どについて,相互に連携を図ることが求められる。  ②教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくことに関しては,生徒や学校, 地域の実態を踏まえて総合的な探究の時間の指導計画を作成し,計画的・組織的な指導に 努めるとともに,目標及び内容,具体的な学習活動や指導方法,学校全体の指導体制,評 価の在り方,学年間・学校段階間の連携等について,学校として自己点検・自己評価を行 うことが大切である。そのことにより,各学校の総合的な探究の時間を不断に検証し,改 善を図っていくことにつながる。そして,その結果を次年度の全体計画や年間指導計画, 具体的な学習活動に反映させるなど,計画,実施,評価,改善というカリキュラム・マネ ジメントのサイクルを着実に行うことが重要である。指導計画の評価については,本解説 第10 章で解説する。  ③教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図ってい くことについては, 「内容」や「学習活動」 ,その実施を推進していく「指導方法」や「指 導体制」に必要な人的・物的資源等を,地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的 に組み合わせることが大切である。指導方法については本解説第8 章で,指導体制の整備 については本解説第11 章で,環境整備や外部連携などを含めて解説する。
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41 1 指導計画の 作成に当た っての配慮 事項 (3) 目標を実現するにふさわしい探究課題を設定するに当たっては,生徒の多様な課 題に対する意識を生かすことができるよう配慮すること。  総合的な探究の時間では,生徒自身が自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自 ら発見し,解決していくことが期待されている。学校が探究課題を設定するに当たっては, とりわけ,生徒の多様な課題に対する意識を生かすことが求められる。なぜなら,総合的 な探究の時間において生徒が立てる課題は,多様な広がりをもっているとともに,一人一 人の意識に応じたものであるからである。このように考えられる背景としては,一つは, より専門的な教科・科目等の学びが行われ,知識が幅広く獲得されるようになることが考 えられる。二つは,実社会や実生活の経験が豊かになり,身の回りの事象が広がるように なること,そして三つは,課題を将来の職業選択や進路実現に直接結び付けて自己の在り 方生き方を模索していくようになることが挙げられる。  例えば, 「自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題」を探究課題として設定 した場合,生徒一人一人は, 「過去と比べて地域の自然環境はどう変化してきているのだ ろうか」 , 「地域で暮らす人々は,地域の自然環境に対してどのような思いをもっているの だろうか」 , 「自然環境と地域産業にはどのような関わりがあるのだろうか」などのような 課題を導き出し,幅広く,複線的な探究を行っていくことが考えられる。  したがって,指導計画の作成に当たっては,一人一人の多様な学びを把握すること,一 人一人の活動を支える学習環境を整えること,他者と交流する場を設けることなどの配慮 が欠かせない。  高等学校においては,一人一人が個別の課題を立てて探究に取り組むいわゆる個人研究 が行われる場合も多い。そうした場合においても,生徒の多様な課題に対する意識を生か すためには,探究課題に幅をもたせ,生徒の多様な探究に十分応えられるようにしておく ことが必要である。 (4) 他教科等及び総合的な探究の時間で身に付けた資質・能力を相互に関連付け,学 習や生活において生かし,それらが総合的に働くようにすること。その際,言語能 力,情報活用能力など全ての学習の基盤となる資質・能力を重視すること。  今回の改訂では,これまで以上に総合的な探究の時間と各教科・科目等との関わりを意 識しながら,学校の教育活動全体で教科・科目等横断的に資質・能力を育成していくカリ キュラム・マネジメントが求められている。  他教科等及び総合的な探究の時間で身に付けた資質・能力を相互に関連付け,学習や生 活において生かし,それらが総合的に働くようにするとは,各教科・科目等で別々に身に 付けた資質・能力をつながりのあるものとして組織化し直し改めて現実の生活に関わる学 習において活用し,それらが連動して機能するようにすることである。身に付けた資質・ 能力は,当初学んだ場面とは異なる新たな場面や状況で活用されることによって,一層生 きて働くようになる。
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42 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い  これからの時代においてより求められる資質・能力は,既知の特定の状況においてのみ 役に立つのではなく,未知の多様な状況において自在に活用することができるものである ことが求められている。こうした資質・能力の獲得のためには,総合的な探究の時間の中 で,自分で課題を見付け,目的に応じて情報を収集し,その整理・分析を行い,まとめ・ 表現したり,コミュニケーションを図ったり,振り返ったりするなどの探究活動を行うこ とが重要である。そして,その過程において,各教科・科目等で身に付けた資質・能力や, それまでの総合的な探究の時間において身に付けた資質・能力を相互に関連付けるような 学びの展開が重要である。  例えば,エネルギーや環境の問題に関心をもち,課題の解決や探究活動を行った場合, 生徒は,地球温暖化,酸性雨,オゾン層の破壊,砂漠化などについて調査し,地球規模の 環境問題に起因する身近なエネルギーと環境・災害に関する課題を探究していく。ここで は,地理歴史科や公民科,理科で学習した資源と産業,政治,生態系とエネルギーなどに 関する知識が発揮されることで,豊富な情報が収集される。また,収集した情報は,数学 科や国語科,情報科で学習したことを生かして統計処理し,コンピュータなどでまとめた りして,深く分析していく。さらには,そうした結果を論文やレポート・報告書などにま とめたり,プレゼンテーションやポスター発表,ショートムービーや,総合芸術などとし て表現したりしていくことが考えられる。  このように,総合的な探究の時間において,各教科・科目等で身に付けた資質・能力が 存分に活用・発揮されることで,学習活動は深まりを見せ,大きな成果を上げる。そのた めにも,教師は各教科・科目等で身に付ける資質・能力について十分に把握し,総合的な 探究の時間との関連を図るようにすることが必要である。例えば,年間指導計画を工夫し 単元配列表を作成することで,各教科・科目等で学ぶ1 年間の学習内容や扱われる題材と, 総合的な探究の時間の内容や学習活動との関連を概観し,捉えることができる。なお,単 元配列表については,本解説第8 章第2 節2 の (3) で詳しく解説する。  このように,各教科・科目等で身に付けた資質・能力を関連付け,活用・発揮すること を経験することにより,日常の学習活動や生活における様々な課題に対する解決において も,各教科・科目等で身に付けた資質・能力等を働かせる生徒の姿が期待できる。  その際,言語能力,情報活用能力,問題発見・解決能力など全ての学習の基盤となる資 質・能力を重視することが大切である。言語能力とは,言語に関わる知識及び技能や態度 等を基盤に, 「創造的思考とそれを支える論理的思考」 , 「感性・情緒」 , 「他者とのコミュ ニケーション」の三つの側面の力を働かせて,情報を理解したり文章や発話により表現し たりする資質・能力のことである。情報活用能力とは,世の中の様々な事象を情報とその 結び付きとして捉えて把握し,情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して,問題を発 見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力のことである。 これらの能力は,総合的な探究の時間において探究を進める上で大変重要なものであると 同時に,全ての教科・科目等の学習の基盤となるものである。第1 章総則第2 款の2 の (1) においても, 「学習の基盤となる資質・能力」として, 「言語能力,情報活用能力(情 報モラルを含む。 ) ,問題発見・解決能力等」を挙げている。
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43 1 指導計画の 作成に当た っての配慮 事項  その他の学習の基盤となる資質・能力には,問題解決的な学習を通じて育成される問題 発見・解決能力,体験活動を通じて育成される体験から学び実践する力, 「対話的な学び」 を通じて育成される多様な他者と協働する力,見通し振り返る学習を通じて育成される学 習を見通し振り返る力等が挙げられる。 (5) 他教科等の目標及び内容との違いに留意しつつ,第1 の目標並びに第2 の各学校 において定める目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を行うこと。  各教科及び特別活動と総合的な探究の時間は,それぞれ固有の目標と内容をもっている。 それぞれが役割を十分に果たし,その目標をよりよく実現することで,教育課程は全体と して適切に機能することになる。互いの違いを十分に理解した上で,総合的な探究の時間 の目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を展開することが求められる。今回の改訂によ り総合的な探究の時間において明確にされた, 「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・ 総合的な学習を行うこと」という総合的な探究の時間の特質を十分に踏まえることが必要 である。  総合的な探究の時間については,探究に向けた質的な改善が図られてきているものの, 未だに特定の教科・科目等の知識や技能の習得を図る学習活動が行われていたり,修学旅 行や体育祭の準備などと混同された学習活動が行われていたりするなどの事例が見られる との指摘もある。これらについては,総合的な探究の時間としてふさわしくないものであ ることは言うまでもない。  総合的な探究の時間と特別活動との関連については,第1 章総則第2 款の3 の (3) のケ に, 「総合的な探究の時間における学習活動により,特別活動の学校行事に掲げる各行事 の実施と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な探究の時間における学習活動 をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えることができる」との 記述がある。これは総合的な探究の時間についての記述であり,探究であることが前提と なっている。総合的な探究の時間において探究が行われる中で体験活動を実施した結果, 学校行事として同様の成果が期待できる場合にのみ,特別活動の学校行事を実施したと判 断してもよいことを示しているものである。特別活動の学校行事を総合的な探究の時間と して安易に流用して実施することを許容しているものではない。  具体的には,総合的な探究の時間において,その趣旨を踏まえ,例えば,自然体験活動 や社会体験活動,あるいは就業体験やボランティア活動を探究の過程の中で行う場合にお いて,これらの活動は集団活動の形態をとる場合が多く,集団への所属感や連帯感を深め, 公共の精神を養うなど,特別活動の趣旨も踏まえた活動とすることが考えられる。  すなわち,  ・ 総合的な探究の時間に行われる自然体験活動や社会体験活動は,環境や自然を課題 とした探究活動,あるいは歴史や国際理解を題材とした探究活動として行われると同 時に, 「平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとと もに,よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体
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44 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い 験を積むことができる」旅行・集団宿泊的行事と,  ・ 総合的な探究の時間に行われる就業体験活動やボランティア活動は,社会との関わ りを考える探究活動として行われると同時に, 「勤労の尊さや生産することの喜びを 体得し,職場体験などの職業や進路に関わる啓発的な体験が得られるようにするとと もに,共に助け合って生きることの喜びを体験し,ボランティア活動などの社会奉仕 の精神を養う体験が得られる」勤労生産・奉仕的行事と,それぞれ同様の成果も期待 できると考えられる。このような場合,総合的な探究の時間とは別に,特別活動とし て改めてこれらの体験活動を行わないとすることも考えられる。  また,高等学校において,特に注意を要する事柄として,すでに第2 章で述べた通り, 総合的な探究の時間と同じく科目名に探究を含む,古典探究,日本史探究,世界史探究, 地理探究,理数探究との間における違いがある。これらの科目においても,その展開の中 で生徒に実現する学びの様相や質としては探究を目指す。その一方で,古典探究,日本史 探究,世界史探究,地理探究については,当該科目の領域範囲中で生じる鋭角的な質の探 究を行うこととしている。また,理数探究では,数学的な見方・考え方や理科の見方・考 え方を組み合わせるなどして働かせた探究を行うこととしている。 (6) 各学校における総合的な探究の時間の名称については,各学校において適切に定 めること。  総合的な探究の時間の教育課程の基準上の名称は「総合的な探究の時間」とするが,各 学校における教育課程,時間割上のこの時間の具体的な名称については,この規定に示す 通り,各学校で適切に定めるものとされている。  各学校において,この時間の目標や内容,学習活動の特質,学校の取組の経緯を踏まえ て,例えば,地域のシンボルや学校教育目標,保護者や地域の人々の願いに関連した名称 など,この時間の趣旨が広く理解され,生徒や保護者,地域の人々に親しんでもらえるよ うに適切な名称を定めればよい。 (7) 障害のある生徒などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに応じた指 導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。  障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの構築を目指し, 生徒の自立と社会参加を一層推進していくためには,通常の学級,通級による指導,特別 支援学校において,生徒の十分な学びを確保し,一人一人の生徒の障害の状態や発達の段 階に応じた指導や支援を一層充実させていく必要がある。  通常の学級においても,発達障害を含む障害のある生徒が在籍している可能性があるこ とを前提に,全ての教科等において,一人一人の教育的ニーズに応じたきめ細かな指導や 支援ができるよう,障害種別の指導の工夫のみならず,各教科等の学びの過程において考
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45 1 指導計画の 作成に当た っての配慮 事項 えられる困難さに対する指導の工夫の意図,手立てを明確にすることが重要である。  これを踏まえ,今回の改訂では,障害のある生徒などの指導に当たっては,個々の生徒 によって,見えにくさ,聞こえにくさ,道具の操作の困難さ,移動上の制約,健康面や安 全面での制約,発音のしにくさ,心理的な不安定,人間関係形成の困難さ,読み書きや計 算等の困難さ,注意の集中を持続することが苦手であることなど,学習活動を行う場合に 生じる困難さが異なることに留意し,個々の生徒の困難さに応じた指導内容や指導方法を 工夫することを,各教科等において示している。  その際,総合的な探究の時間の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内 容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,生徒の学習負 担や心理面にも配慮する必要がある。  総合的な探究の時間については,生徒の知的な側面,情意的な側面,身体的な側面など に関する生徒の実際の姿や経験といった,生徒の実態等に応じて創意工夫を生かした教育 活動を行うことが必要であることをこれまでも示してきた。探究するための資質・能力を 育成するためには,一人一人の学習の特性や困難さに配慮した学習活動が重要であり,例 えば,総合的な探究の時間における配慮として,次のようなものが考えられる。  ・ 様々な事象を調べたり,得られた情報をまとめたりすることに困難がある場合は, 必要な事象や情報を選択して整理できるように,着目する点や調べる内容,まとめる 手順や調べ方について具体的に提示するなどの配慮をする。  ・ 関心のある事柄を広げることが難しい場合は,関心のもてる範囲を広げることがで きるように,現在の関心事を核にして,それと関連する具体的な内容を示していくこ となどの配慮をする。  ・ 様々な情報の中から,必要な事柄を選択して比べることが難しい場合は,具体的な イメージをもって比較することができるように,比べる視点の焦点を明確にしたり, より具体化して提示したりするなどの配慮をする。  ・ 学習の振り返りが難しい場合は,学習してきた場面を想起しやすいように,学習し てきた内容を文章やイラスト,写真等で視覚的に示すなどして,思い出すための手掛 かりが得られるように配慮する。  ・ 人前で話すことへの不安から,自分の考えなどを発表することが難しい場合は,安 心して発表できるように,発表する内容について紙面に整理し,その紙面を見ながら 発表できるようにすること,ICT 機器を活用したりするなど,生徒の表現を支援す るための手立てを工夫できるように配慮する。  このほか,総合的な探究の時間においては,各教科・科目等の特質に応じて育まれる 「見方・考え方」を総合的・統合的に働かせるような学習を行うため,特別支援教育の視 点から必要な配慮等については,各教科・科目等における配慮を踏まえて対応することが 求められる。こうした配慮を行うに当たっては,困難さを補うという視点だけでなく,む しろ得意なことを生かすという視点から行うことにより,自己肯定感の醸成にもつながる ものと考えられる。
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46 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い  なお,学校においては,こうした点を踏まえ,個別の指導計画を作成し,必要な配慮を 記載し,他教科等の担任と共有したり,翌年度の担任等に引き継いだりすることが必要で ある。 (8) 総合学科においては,総合的な探究の時間の学習活動として,原則として生徒が 興味・関心,進路等に応じて設定した課題について知識や技能の深化,総合化を図 る学習活動を含むこと。  総合学科においては,総合的な探究の時間における学習活動として,従前から, 「生徒 の興味・関心に基づく課題,職業や自己の進路に関する課題について,知識や技能の深化, 総合化を図る学習活動」を含むこととしてきた。総合学科では,当初は「課題研究」が原 則履修科目とされてきた。総合学科の「課題研究」は,多様な教科・科目の選択履修によ って深められた興味・関心等に基づき,生徒自らが課題を設定し,その課題の解決を図る 学習を通して,問題解決能力や自発的・総合的な学習態度を育てるとともに,自己の将来 の進路選択を含め人間としての在り方生き方について考えさせることをねらいとした科目 であった。平成11 年の改訂で創設した総合的な学習の時間は,すべての学校で必置であ るとともに,そのねらいや学習活動は,課題研究の目標や内容を取り入れたものとするこ ととしてきた。  したがって,総合学科の総合的な探究の時間では「生徒の興味・関心に基づく課題,職 業や自己の進路に関する課題について,知識や技能の深化,総合化を図る学習活動」を行 うことにより,課題研究に相当する学習を行うことを示したものである。このことは,総 合学科において設定する課題としては, 「生徒の興味・関心に基づく課題」 「職業や自己の 進路に関する課題」を含むことを意味する。これらの課題を探究することで,知識や技能 の深化,総合化を図る学習活動が行われ,深い学びに向かうことが期待されている。  なお,総合的な探究の時間の標準単位数は,卒業までに3 〜6 単位配当することとされ ており,学校によっては,例えば総合的な探究の時間の授業時数として6 単位設定し,そ のうちの3 単位を課題研究的な学習活動に充て,残りの時間は国際理解,情報,環境,福 祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応 じた課題などについての学習活動に充てるなどが考えられる。総合学科において,総合的 な探究の時間の中で課題研究的な学習活動以外の活動に一定の時数を配当することも可能 である。  もちろん他の学科や他の探究課題においても同様に,目標を実現するにふさわしい探究 課題については,地域や学校の実態,生徒の特性等に応じて課題を設定することが求めら れる。
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47 2 内容の取扱 いについて の配慮事項 第3 指導計画の作成と内容の取扱い  2 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。   (1) 第2 の各学校において定める目標及び内容に基づき,生徒の学習状況に応じて 教師が適切な指導を行うこと。  総合的な探究の時間においては,生徒が自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体 的に判断するなど,生徒の主体性や興味・関心を十分に生かすことが望まれる。そのため にはより質の高い指導が必要である。しかし,課題設定や解決方法を教師が必要以上に教 え過ぎてしまうことによって,生徒が自ら学ぶことを妨げるような事例や,どのような活 動をするのかということに目を向け過ぎるあまり,総合的な探究の時間を通して育成を目 指す資質・能力が身に付いているのかが見えにくい事例も見られる。  生徒の学習状況に応じて教師が適切な指導を行うこととは,こうした反省に立って,各 学校で定めた総合的な探究の時間の目標及び内容に基づいて,育成を目指す資質・能力が 身に付いているのかを継続的に評価しながら,より質の高い資質・能力の育成に向けて自 立的な学習が行われるよう,必要な手立てを講じることを意味している。  探究のプロセスにおいて,生徒の知らない知識が必要になると考えられる場合には,教 師が提示したり説明したりすることが適切である。例えば,生徒が課題への取り組み方を 考えつかない場合には,これまでに取り組まれた好ましい事例を教師が示したり,より達 成しやすい小さな課題に分けて示したり,情報の整理・分析で迷っている場合には,図示 して比較したり分類したり関連付けたりすることなどを促し,生徒の思考を補助したりす ることが適切である。学習の場の設定,学習活動の目的をしっかりもたせること,学習の 状況についての価値付けや方向付け,課題の解決や探究活動が一段落したときの新たな方 向性の提示や次の課題の設定なども,必要に応じて教師が行うことが考えられる。また, 自らの学びを意味付けたり価値付けたりして自己変容を自覚するために振り返りの場面を 学習過程に計画的に位置付けることが適切である。  生徒の主体性を生かした学習と教師の適切な指導が相まってこそ,より質の高い学習が 実現され,総合的な探究の時間の目標が達成される。また,そのことが生徒の学習活動へ の満足感や達成感も高める。  なお,総合的な探究の時間の学習指導については本解説第9 章で,評価については本解 説第10 章で詳しく解説する。 (2) 課題の設定においては,生徒が自分で課題を発見する過程を重視すること。  総合的な探究の時間においては,学びが高度化するとともに,自律的になることが期待 されている。そのためには,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し, 解決していくような学びを展開していくことが欠かせない。したがって生徒一人一人にと 第2 節 内容の取扱いについての配慮事項
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48 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い っての「課題の設定」が極めて重要になる。  自分で課題を発見するとは,生徒が自分自身の力で課題を見付け設定することのみなら ず,設定した課題と自分自身との関係が明らかになること,設定した課題と実社会や実生 活との関係がはっきりすることを意味する。そのためにも,実社会や実生活と自己との関 わりから問いを見いだし,自分で課題を立てることが欠かせない。問いや課題は,既有知 識や既有の経験だけからは生まれないこともある。そこで,実社会や実生活と実際に関わ ることを大切にしたい。その中で,時間的な推移の中で現在の状況が問題をもっているこ と,空間的な比較の中で身の回りには問題があること,自己の常識に照らして違和感を伴 う問題があることなどを発見し,それが問題意識となり,自己との関わりの中で課題につ ながっていく。  発見する過程を重視するとは,生徒の中に生まれた問いや問題意識が切実な課題として 設定され,より明確な「質の高い課題」として洗練されていくプロセスや時間を重視する ことである。 「課題の設定」においては,課題に関することを幅広く調べたり,一人でじ っくりと考えたり,様々な考えをもつ他者と相談したりするなどして,行きつ戻りつしな がら,時間をかけて取り組むことを大切にしたい。こうして洗練された「質の高い課題」 は,より具体的な課題となり,生徒が自らの力で探究を進めるための原動力となるリサー チクエスチョンとなっている。また,自分自身を見つめて,自分で発見した課題は,自分 が何者であるかを教えてくれる鏡であり,将来の職業選択や進路実現にもつながる切実な ものになっているはずである。  このように高等学校においては,探究のプロセスの中でもとりわけ「課題の設定」を丁 寧に指導することを心がけたい。 「課題の設定においては,生徒が自分で課題を発見する 過程を重視」とあるが,課題の設定において,教師は必要に応じて適切に指導・助言する のは言うまでもない。自分で課題を発見する過程は,生徒にとっても重要な学習場面であ り,教師にとっては重要な指導対象となる。したがって,教師には適切な指導を行うこと が求められるとともに,課題を設定するための知識や技能を生徒に身に付けさせ,自分自 身で探究を進めることができるよう十分な時間をかけて指導することが重要である。  このことについては,グループ学習などでも同様であり,グループ等で設定する課題が, 生徒一人一人にとって,切実なものになっていなければならない。  なお,総合的な探究の時間における課題の設定については本解説第9 章第3 節で,教師 の指導体制については第11 章で詳しく解説する。 (3) 第2 の3 の(6)のウにおける両方の視点を踏まえた学習を行う際には,これらの 視点を生徒が自覚し,内省的に捉えられるよう配慮すること。  探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力を定める際, 「学びに向かう 力,人間性等」については, 「自分自身に関すること」 「他者や社会との関わりに関するこ と」の両方の視点を踏まえることが必要であり,学習活動においては,その視点を生徒が 自覚し,内省的に捉えられるようにすることを心がけなければならない。なぜなら,二つ
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49 の視点によって自他の存在や考えが明らかになり,自分自身の変容や他者や社会との関わ りに気付くことなどが期待できるからである。こうした学びが実現されるためにも,学習 活動に丁寧な振り返りを位置付けることが欠かせない。  振り返りは学習活動の節目や終末に行い,主たる学習活動やそこでの学びについて時間 を遡って見つめ直すことを行う。このことによって自らを内省し,省察することにつなが り,学びの意味や価値を生徒自身が自覚することに結び付く。そこでは,出来事を時間軸 に沿って考えたり,事象同士を関係付けて考えたり,事実の背景にある原因を明らかにし て考えたりしていく。また,それらを対象化して自らの学びをモニターしていく。そのた めにも,音声言語を使って意見交換したり,文字言語を使って表現したりする言語活動を 行うことを心がけたい。とりわけ,まとめたことや調べたことの概要を「書く」ことで, それぞれの場面では気付きにくかった二つの視点を生徒が自覚し,内省的に捉え,自らの 行為や態度へと高めていくことが期待できる。また,二つの視点などをポートフォリオの 項目に入れるなどして,生徒が自己の変容を認識できるようにしたり,ポートフォリオか ら生徒の変容を教師が読み取り,示すことで,生徒が気付かない自身の成長を実感できる ようにしたりすることなども考えられる。言語化の場面は定期的に設定するとともに,多 様な記録方法を用いるなどの工夫も考えられる。  その結果, 「自分自身に関すること」としては,自己理解や主体性,将来展望などの資 質・能力が, 「他者や社会との関わりに関すること」としては,他者理解や協働性,社会 参画などの資質・能力が育成され,発揮されていくようになる。  なお,二つの視点は深く関連し合っており,截 せつ 然と区別されるものではない。重要なこ とは,二つのバランスをとり,関係を意識することである。主体性と協働性とは互いに影 響し合っているものであり,自己の理解なくして他者を深く理解することは難しい。  高校生の時期は,自らの在り方生き方と本気で向き合おうとする時期である。 「自分の ことを知りたい」あるいは「社会との関わりで自分を価値付けたい」と思っている時期で もある。これらの視点を自覚し,内省的に捉えることで,潜在的に育成され高まりを見せ ようとしている資質・能力を顕在化し,確かに育成することになる。  なお,学びに向かう力,人間性等については,本解説第7 章で詳しく解説する。 (4) 探究の過程においては,他者と協働して課題を解決しようとする学習活動や,言 語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにする こと。その際,例えば,比較する,分類する,関連付けるなどの考えるための技法 が自在に活用されるようにすること。  総合的な探究の時間においては,探究の過程を質的に高めていくことを心掛けなければ ならない。本項では,そのために配慮する必要がある三つのことを示している。  第1 は,他者と協働して課題を解決しようとする学習活動を行うことである。  ここでは,他者を幅広く捉えておくことが重要である。共に学習を進めるグループだけ でなく,ホームルーム全体や他のホームルームあるいは学校全体,地域の人々,専門家な 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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50 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い ど,また価値を共有する仲間だけでなく文化的背景や立場の異なる人々をも含めて考える。 協働的に学習することの目的は,グループでよりよい考えを導き出すことに加えて,一人 一人がどのような資質・能力を身に付けるかということが重要である。  多様な他者と協働して学習活動を行うことには様々な意義がある。一つには,他者へ説 明することにより生きて働く知識及び技能の習得が図られる点である。他者と協働して学 習活動を進めていくためには,自分のもっている情報やその情報を基にした自分の考えを 説明する必要がある。説明する機会があることで知識及び技能が目的や状況に応じて活用 され,生きて働くものとして習得されていく。二つには,他者から多様な情報が収集でき ることである。様々な考えや意見,情報をたくさん入手することは,その後の学習活動を 推進していく上で重要な要素である。多様な情報があることで,それらを手掛かりに考え ることが可能になり,自己の考えを広げ深める学びが成立する。三つには,よりよい考え が作られることである。多様なアイデアや視点を組み合わせる等の相互作用の中で,グル ープとして考えが練り上げられると同時に,個人の中にも新たな考えが構成されていくの である。  他者と協働して学習活動を進めるには,互いのコミュニケーションが欠かせない。自分 の考えや気持ちなどを相手に伝えるとともに,相手の考えや気持ちなどを受け止めること も求められる。これらによって,双方向の交流が質の高い学習活動を実現する。そして, これらのプロセスを通じて,個別の知識及び技能が目的や状況に応じて活用され,生きて 働くものになり,未知の状況に対応できる思考力,判断力,表現力等や学びに向かう力が 育成されるのである。  これからの時代を生きる生徒にとっては,多様で複雑な社会において円滑で協働的な人 間関係を形成する資質・能力が求められる。このような資質・能力は,国や地域を越えて 常に重要である。総合的な探究の時間において課題の解決や探究活動を協働的に行うこと は,その資質・能力を育成する場としてふさわしい。これらのことは,個人研究等を中心 とした探究でも同様である。グループを再編成して,それぞれの研究についてディスカッ ションしたり,定期的に中間報告会などを実施したりして,協働的に活動する場面を多く 設定することが必要である。なお,グループ編成等では,必ずしも同じ分野の課題を扱う 生徒だけではなく,異なる分野の課題を扱う生徒も交えて協働的に活動することで,新た な分野への興味をもたせることもできるという利点もある。  協働的に課題解決を行う際には,各教科・科目等で身に付けた知識及び技能や思考力, 判断力,表現力等を活用できるようにすることに留意するとともに,考えを可視化するな どして生徒同士で学び合うことを促すなどの授業改善の工夫が必要である。それによって, 思考を広げ深め,新しい考えを創造する生徒の姿が生まれるものと考えられる。  第2 は,言語により分析し,まとめたり表現したりする学習活動を行うことである。本 解説第4 章第3 節で述べたように,今回の改訂において,言語能力は全ての学習の基盤と なる力として位置付けられている。探究の過程において,体験したことや収集した情報を, 言語により分析したりまとめたりすることは,自らの学びを意味付けたり価値付けたりし て自己変容を自覚し,次の学びへと向かうために特に大切にすべきことである。そのため
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51 には,分析とは何をすることなのか具体的なイメージをもつことが必要となる。例えば, 「考えるための技法」を活用し,集めた情報を共通点と相違点に分けて比較したり,視点 を決めて分類したり,体験したことや収集した情報と既有の知識とを関連付けたり,時間 軸に沿って順序付けたり,理由や根拠を示したりすることで,情報を分析し意味付けるこ となどが考えられる。また言語により分析する対象には,観察記録やインタビューデータ といった質的なものに加えて,アンケートや質問紙などにより収集した量的なデータも含 まれる。  言語によりまとめたり表現したりする学習活動では,分析したことを論文やレポートに 書き表したり,口頭で報告したりすることなどが考えられる。論文やレポートにまとめる ことは,それまでの学習活動を振り返り,自分の考えとして整理することにつながる。特 に,高等学校においては,論文やレポートでまとめたり表現したりすることが有効である。 また,論文は,探究の過程について考察したことを論じることによって,設定した課題に 対する自分の考えが明らかになるとともに,論文やレポート,報告書にまとめる手順や作 法についても実践的に習得することが期待できる。  それらの報告の場として,学年や学校全体でどのように学んできたか,それによって何 が分かったのかを共有する場面が想定される。参加者全員の前で行うプレゼンテーション や目の前の相手に個別に行うポスターセッションなど,多様な形式を目的に応じて設定す ることが考えられる。その際,報告することを探究の過程に適切に位置付けることが大切 である。  そこでは,発表の工夫をさせると同時に,聞いている生徒にも主体的に関わらせること が重要である。例えば,発表者となる生徒が要点を絞って伝えるための図や表の活用,視 聴覚機器やプレゼンテーションソフトウェアなどをツールとして利用することなどが考え られる。聞いている生徒には発表内容を深め,問題点に気付かせる「よい質問」をしたり, 発表者の学習成果を改善させるアドバイスをしたり,発表者の学習成果を自分の考えと比 較して生かしたりすることを目標とさせるなどの工夫が考えられる。その上で,発表後の 時間を十分確保して,交流したり,それぞれに自己評価したりして,新たな追究に向かわ せるなども考えられる。このようにして,言語を利用した協働的な学習によって,個人や グループごとに異なる学習活動の成果を共有したり,相互に関係付けたりすることが実現 する。  第3 は,これらの学習活動においては, 「考えるための技法」が自在に活用されるよう にすることを求めている。 「考えるための技法」とは,考える際に必要になる情報の処理 方法を,例えば「比較する」 , 「分類する」 , 「関連付ける」など,技法のように様々な場面 で具体的に使えるようにするものである。  生徒は,教科・科目等の学習場面や日常生活において,様々に思考を巡らせている。課 題について考える過程の中で,対象を分析的に捉えたり,複数の対象の関係について考え たりしている。しかし,生徒は自分がどのような方法で考えているのか,頭の中で情報を どのように整理しているのかということについて,必ずしも自覚していないことが多い。 そこで,学習過程において「考えるための技法」を意識的に活用させることによって,生 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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52 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い 徒の思考を支援すると同時に,別の場面にも活用できるものとして習得させることが重要 である。それにより,生徒は別の場面でも「考えるための技法」を適切に選択し活用して 課題解決することができるようになり,それが未知の状況にも対応できる思考力,判断力, 表現力等の育成につながるのである。  そのためには,各教科・科目等や総合的な探究の時間の学習において生徒に求める「考 えるための技法」を探究の過程において意図的,計画的に指導することが必要である。学 習活動において生徒に求められる「考えるための技法」は何か,それはどの教科・科目等 のどのような学習場面で活用できるのかを教師が想定しておくことで, 「考えるための技 法」の視点から各教科・科目等の学習を相互に関連付けることが可能になる。それにより, 教科・科目等の学習で習得した技法を活用して,総合的な探究の時間で課題解決を行った り,逆に総合的な探究の時間で自覚化した「考えるための技法」を教科・科目等の学習で 活用したりする場面を準備することができる。   「考えるための技法」を様々な場面で意識的に活用し,情報を整理・分析する学習経験 を積み重ねることで,生徒は「考えるための技法」を様々な場面で自在に活用可能なもの として習得することが可能になる。自在に活用するとは,生徒が自らの意思で場面や状況 に合わせて選択したり,適用したり,組み合わせたりして活用できるようになるというこ とである。そのため,総合的な探究の時間において, 「考えるための技法」を活用する場 面を準備する際には,探究の過程に適切に位置付け,習得した「考えるための技法」を探 究のプロセスで活用する場面と併せて指導することが必要である。   「考えるための技法」を指導する際には,比較や分類を図や表を使って視覚的に行う, いわゆる思考ツールといったものを活用することが考えられる。その際,例えば,比較す ることが求められる場面では複数の教科・科目等においても同じ図を思考ツールとして活 用するよう指導することで, 「考えるための技法」を,生徒が教科・科目等を越えて意識 的に活用しやすくなる。  各教科・科目等や総合的な探究の時間において, 「考えるための技法」を,実際の問題 解決の文脈で意識的に活用できるようにすることにより,他者と協働して課題を解決しよ うとする学習活動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動の質 が高まり,未知の状況にも対応できる思考力等の育成につなげることが重要である。  なお, 「考えるための技法」の具体的な例や活用方法については,本解説第7 章第3 節 の4 において解説する。 (5) 探究の過程においては,コンピュータや情報通信ネットワークなどを適切かつ効果 的に活用して,情報を収集・整理・発信するなどの学習活動が行われるよう工夫する こと。その際,情報や情報手段を主体的に選択し活用できるよう配慮すること。  生徒を取り巻く現代社会の日常生活において,コンピュータや携帯電話,スマートフォ ン,タブレット型端末などの情報機器の普及が目覚ましく,インターネットをはじめとす る情報通信ネットワークへのアクセスも容易になっている。また今後の技術革新の進展に
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53 伴い,情報機器の機能の高度化や情報通信ネットワークの高速化などが進むことが予想さ れる。このように「いつでも」 , 「誰でも」 , 「どこででも」 , 「瞬時に」多様な情報を得たり 情報を発信したりできる時代を生きる生徒には,コンピュータや情報通信ネットワークを, またそこから得られる情報を,適切かつ効果的に,そして主体的に選択し活用する力を育 てることが求められている。学校においても,情報機器ならびに情報通信ネットワークへ の入り口となる校内LAN などの整備が進められつつある。  総合的な探究の時間では,生徒の探究の過程において,コンピュータなどの情報機器や 情報通信ネットワークを適切かつ効果的に活用することによって,より深い学びにつなげ るという視点が重要である。  総合的な探究の時間においては, 「課題を設定する」 , 「情報を収集する」 , 「情報を整理 ・ 分析する」 , 「まとめ・表現する」という探究のプロセスを繰り返しながら課題の解決や探 究活動を発展させていく。これらのプロセスにおいて情報機器や情報通信ネットワークを 有効に活用することによって,探究がより充実するとともに,生徒にとって必然性のある 課題の解決や探究活動の文脈でそれらを活用することにより,情報活用能力が獲得され, 将来にわたり全ての学習の基盤となる力として定着していくことが期待される。  プロセスにおける情報機器や情報通信ネットワークの活用に当たっては,何のために情 報を収集したり整理・分析したりまとめたりしているのか,誰に対してどのような情報発 信を行うことを目指して情報を収集し,整理・分析してまとめようとしているのかといっ たことを,課題の解決や探究活動の目的を生徒自らが意識しながら,情報の収集,整理・ 分析,まとめ・表現を進めていくことが肝要である。  総合的な探究の時間においては,生徒の多様な体験を基に探究活動が展開されていくこ とが大切である。実際の見学や体験活動を基に学習課題を生成したり,地域に出てインタ ビューやフィールドワークを行い情報収集したり,劇を創作して表現したりするなど,こ れまでも大切にされてきた具体的な活動をこれからも大切にしながら,情報機器や情報通 信ネットワークを目的や状況に応じて選択し活用することが肝要である。  情報を収集・整理・発信するとは,探究活動の目的に応じて,本やインターネットを活 用したり,適切な相手を見付けて問合せをしたりして,学習課題に関する情報を幅広く収 集し,それらを整理・分析して自分なりの考えや意見をもち,それを課題の解決や探究活 動の目的に応じて身近な人にプレゼンテーションしたり,インターネットを使って広く発 信したりするような,コンピュータや情報通信ネットワークなどを含めた多様な情報手段 を,目的に応じて効果的に選択し活用する学習活動のことを指している。  情報の収集に当たっては,図書やインターネット及びマスメディアなどの情報源から必 要な情報を得るにはどのようにすればよいのか,ワークシートなど手書きの記録と併せて デジタルカメラやIC レコーダーなど情報を記録する機器を用いて情報収集するにはどの ようにすればよいのか,それぞれの長所や短所は何であり,目的や場面に応じてどのよう に使い分けるのかというような,活用する情報機器の適切な選択・判断についても,実際 の探究を通して習得するようにしたい。  また情報の収集においては,その情報を丸写しすれば,生徒は学習活動を終えた気にな 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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54 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い ってしまうことが危惧される。実際に相手を訪問し,見学や体験をしたりインタビューを したりするなど,従来から学校教育においてなされてきた直接体験を重視した方法による 情報の収集を積極的に取り入れたい。それらの多様な情報源・情報収集の方法によっても たらされる多様な情報を,整理・分析して検討し,自分の考えや意見をもつことができる ように探究の過程をデザインすることが大切である。  探究の過程においては,情報の収集に続く情報の整理も重視されるべきである。すなわ ち,入手した情報の重要性や信頼性を吟味した上で,比較・分類したり,複数のものを関 連付けたり組み合わせたりして,新しい情報を創り出すような「考えるための技法」を, 実際に探究の過程を通して身に付けるようにすることが大切である。  情報の発信に当たっては,発信した情報に対する返信や反応が得られるように工夫する ことが望ましい。同級生や地域の人々,他の学校の生徒たち,行政や地域社会,国内外の 人々から,自分の発信した情報に対する感想やアドバイスが返り,それを基にして改善し たり発展させたりするサイクルをうまくつくることで,情報活用の実践力が育つと考えら れる。またこのようなサイクルを進めることによって,目的に応じ,受け手の状況を踏ま えた情報発信を行おうとする,情報発信者としての意識の高まりが期待できる。一方,情 報を発信する学習においては,他者の作成した情報を参考にしたり引用したりすることが ある。この場合,情報の作成者の権利を尊重し,引用した情報であることが分かるように 転載し,出典を明記することが必要である。また,情報科において学習する「情報モラ ル」を踏まえ,情報の中には所定の手順を踏んで初めて引用を許されるものがあることに ついても十分に理解することが必要である。 (6) 自然体験や就業体験活動,ボランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産 活動などの体験活動,観察・実験・実習,調査・研究,発表や討論などの学習活動 を積極的に取り入れること。  総合的な探究の時間で重視する体験活動は,実社会・実生活の事物や現象に自ら働きか け,実感をもって関わっていく活動である。  前回の改訂において, 体験活動は言語活動と共に重要なものとして位置付けられた。また, 今回の改訂では,第1 章総則第3 款の1 の (5) において, 「生徒が生命の有限性や自然の大 切さ,主体的に挑戦してみることや多様な他者と協働することの重要性などを実感しなが ら理解することができるよう,各教科・科目等の特質に応じた体験活動を重視し,家庭や 地域社会と連携しつつ体系的・継続的に実施できるよう工夫すること」とされた。  生徒は,人々や社会,自然と関わる体験活動を通して,自分と向き合い,他者に共感す ることや社会の一員であることを実感する。また,自然の偉大さや美しさに出会ったり, 文化・芸術に触れたり,社会事象への関心を高め問題を発見したり,友達との信頼関係を 築いて物事を考えたりするなどして,喜びや達成感を味わう。  こうしたことから,総合的な探究の時間では,一定の知識を覚え込ませるのではなく, 探究課題の特質や,育成したい資質・能力を見通して,直接的な体験を探究の過程に,適
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55 切に位置付ける必要がある。例えば,環境について学ぶ過程において自然に関わる体験活 動を行ったり,福祉について学ぶ過程においてボランティア活動など社会と関わる体験活 動を行ったり,地域について学ぶ過程においてものづくりや生産,文化や芸術に関わる体 験活動などを行うことが考えられる。  同様の趣旨から,総合的な探究の時間における学習活動は,以下のような学習活動を積 極的に行う必要がある。例えば,事象を精緻に観察すること,科学的な見方で仮説を立て, 実験し,検証すること,身に付けた知識や技能,考えを現実の場面に適用するなどの実習 を行うこと,学問的な調査研究の方法を知り,実際に事実を確かめるために調査したり, より詳しい事情を調べるためにインタビューをしたりするなどして,情報の収集を行うこ と。また,そうした情報を論理的・体系的にまとめて整理したり,関連付けたりする発表 や討論を行ったり,報告書を書いたりすること。これらの学習活動を積極的に取り入れる ことによって学習の深まりが期待できる。  例えば,環境汚染の問題を課題にした場合,環境を保全する取組の大変さや環境保全の 重要性を認識し,身近な環境汚染に対する関心等を高めることについては,不法投棄の現 場を視察したり,ゴミを片付けたりすること,身近な酸性雨の被害を調査することなどの 環境汚染の問題に関する体験活動を行うことが効果的であると考えられる。また,身の回 りの環境汚染の問題を科学的に認識するためには,ゴミが自然環境に及ぼす影響を調べた り,土壌に含まれる鉄イオンを検出する実験を行い,酸性雨によってアルミが溶出するよ うな事態について考察したり,国を超えて酸性雨が広がる現象について風向きと酸性雨の データを分析したりして,より深く環境汚染の問題を考えることも大切である。ゴミの不 法投棄や土壌汚染とその影響についての事例を集め,様々な汚染が複合的に人体に影響を 与えることについて調査する活動も考えられる。こうして体験したことや実験したこと, 調査したことなどで分かったことを発表・討論させることを通して,身の回りで起きてい る環境汚染の問題に対して,どのように行政や地域社会が対応すればよいのか,自分たち はどのような行動をとればよいのかを考えさせることにつながる。  なお,体験的な学習を展開するに当たっては,生徒の発達の特性を踏まえ,目標や内容 に沿って適切かつ効果的なものとなるよう工夫するとともに,生徒をはじめ教職員や外部 の協力者などの安全確保,健康や衛生等の管理に十分配慮することが求められる。 (7) 体験活動については,第1 の目標並びに第2 の各学校において定める目標及び内 容を踏まえ,探究の過程に適切に位置付けること。  総合的な探究の時間では体験活動を重視している。しかし,ただ単に体験活動を行えば よいわけではなく,それを探究の過程に適切に位置付け,価値ある体験活動とすることが 重要である。  探究の過程に適切に位置付けるとは,一つには,設定した探究課題に迫り,課題の解決 につながる体験活動であることが挙げられる。予想を立てた上で検証する体験活動を行っ たり,体験活動を通して実感的に理解した上で課題を再設定したりするなど,探究課題の 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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56 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い 解決に向かう学習の過程に適切に位置付けることが欠かせない。  二つには,生徒が主体的に取り組むことのできる体験活動であることが挙げられる。そ のためには,生徒の発達に合った,生徒の興味・関心に応じた体験活動であることが必要 となる。生徒にとって過度に難しかったり,明確な目的をもてなかったりする体験活動で は十分な成果を得ることができない。  こうした体験活動を行う際には,次の点に配慮したい。まずは,年間を見通した適切な 時数の範囲で行われる体験活動であることが挙げられる。十分な体験活動を位置付けるこ とは当然であるが,何のための体験活動なのかを明らかにし,その目的のために必要な時 間数を確保することが大切である。また,生徒の安全に対して,十分に配慮した体験活動 であることも挙げられる。体験活動は,それ自体が魅力的であり生徒の意欲を喚起するこ とが多い。また,屋外で行ったり,機材などを使ったりするダイナミックな活動であるこ とも多い。事前の準備や人的な手配などを丁寧に行い,十分な安全確保の中で体験活動の 魅力を存分に引き出すようにすることが望まれる。  このように意図的・計画的に体験活動を位置付けることによって,探究の過程は一層充 実し,総合的な探究の時間で育成を目指す資質・能力が確実に身に付くと考えられる。  なお,体験活動の具体例としては,例えば,職場での実習を通して実社会を垣間見るこ とにより勤労観・職業観を醸成する就業体験活動なども考えられる。この体験活動は,特 別活動として実施する勤労生産・奉仕的行事として行うことも考えられるが,総合的な探 究の時間に位置付けて実施する場合には,課題の解決や探究活動に適切に位置付く学習活 動でなければならない。  このように総合的な探究の時間において,学校行事と関連付けて体験活動を実施するこ ともあり得る。しかし,その場合でも,必ず総合的な探究の時間の目標及び内容を踏まえ たものであること,探究の過程に位置付いていることなどを満たさなければならない。そ の上で実際に総合的な探究の時間の要件を満たす活動の時数だけを正確に算出して,総合 的な探究の時間の時数として計上することが求められる。  平成21 年の学習指導要領解説において,文化的行事や健康安全・体育的行事の準備な どは総合的な探究の時間として適切ではないことが明記されたが,一方で十分な改善が図 られていないという指摘もある。総合的な探究の時間と特別活動との目標や内容の違いを 踏まえ,それぞれの時間にふさわしい体験活動を行わなければならない。  総合的な探究の時間と特別活動との関連を意識し,適切に体験活動を位置付けるために は,次のような点に十分配慮すべきである。例えば,修学旅行と関連を図る場合は,その 土地に行かなければ解決し得ない学習課題を生徒自らが設定していること,現地の学習活 動の計画を生徒が立てること,その上で,現地ではインタビューや調査等の機会を設ける など生徒の自主的な学習活動を保障すること,事後は,解決できた部分をまとめ,解決で きなかった部分を別の手段で追究する学習活動を行うことなど,一連の学習活動が探究と なっていることが必要である。こうしたことに十分配慮した上で,総合的な探究の時間と 特別活動とを関連させて実施することが考えられる。その際,総合的な探究の時間の目標 や内容に関わらない時間については,総合的な探究の時間に該当しないことは当然であり,
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57 適切な時数が配当されるよう十分に注意しなければならない。このことについては,本解 説第5 章第3 節総則関連事項に詳しく説明している。 (8) グループ学習や個人研究などの多様な学習形態,地域の人々の協力も得つつ,全 教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫を行うこと。  多様な学習形態の工夫を行うことは,生徒の様々な興味・関心や多様な学習活動に対応 し,主体的・対話的で深い学びを進めるために必要なことである。例えば,個々に行う個 人研究をはじめ,興味・関心別のグループ,表現方法別のグループ,調査対象別のグルー プなど多様なグループ編成や,ホームルームを越えた学年全体での活動,さらには教え合 いや学び合いの態度を育むために他学年の生徒が一緒に活動することにも考慮する必要が ある。  個人研究などの個々に行う学習は,一人一人が自己の課題と対峙し,自ら計画を立てて 調査し,分かったことを一人でまとめることが求められるため,自分で学習を進める力を 育むことができる。その反面,限られた時間で集められた資料だけで考えることになった り,考えが一面的になったりすることもある。そのような事態を回避するために,研究の 方法についての適切な指導や,定期的な目標設定と点検評価,学び合いによるアドバイス の機会を設定することなどが考えられる。  グループによる学習では,メンバー全員で計画を立てて役割分担をすることが求められ る。この中で,一人一人の個性を生かすことを学んだり,コミュニケーションの取り方を 学んだりすることが期待される。また,自分の役割を最後までやり遂げることも求められ る。一方で,一人一人の生徒に課題が設定されなかったり,役割に軽重がついたり,全員 の関心や意見が十分に反映されなかったりするということも考えられる。それぞれの役割 に応じた成果を定期的に報告させたり,メンバー同士で役割をどれくらい果たしているか を相互評価させたりする機会を設けることなどが考えられる。  ホームルーム全体での学習では,教師の指導の下,計画的に体験を行ったり,活発な討 論を行ったりする。また,それを基に新たな課題の解決に向かっていく学習活動の高まり も期待できる。しかし,一人一人が追究方法を考えたり,まとめの資料を作り上げたりす る側面が弱くなり,他者に依存することが危惧される。ホームルーム全体での学習と個々 に行う学習を組み合わせるような課題の設定や学習活動の工夫が考えられる。  複数の学年で一緒に学習を進めることは,上級生のリーダーシップを育み,教師から自 立して活動するようになったり,下級生にとっても各自の資質や能力だけでは経験できな いような学習活動を経験できたり,上級生の姿を見て, 「自分もこうありたい」 , 「自分な らこんなことができそうだ」という意欲を高めることができたりするという利点がある。 一方で,全員が学習内容を理解するための時間がかかったり,学習活動の管理が難しくな ったりすることも考えられる。下級生が学習活動を理解し,主体的に関われるようにする ためには,自分の役割や自分が考えたことなどを明確に記録し,定期的に報告させるなど の工夫が考えられる。 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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58 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い  総合的な探究の時間を充実させるためには,これらの学習形態の長所,短所を踏まえた 上で,学習活動に即して適切な学習形態を選択したり組み合わせたりする必要がある。ま た,人数と学習活動とは適正か,どれくらいの時間が必要か,事前にどのような活動を行 っておくかなどについて,しっかりとした計画を立てることも重要である。このような計 画の下でホームルームや学年,学科を越えた取組を進めることで,生徒の多様な興味・関 心や学習経験などを生かすことができる。  指導体制について工夫を行うことは,上のような多様な学習形態を支えるとともに,学 習の幅や深まりを生み出すことにつながる。  総合的な探究の時間は,保護者をはじめ地域の専門家,大学や企業など外部の人々の協 力が欠かせない。この時間を豊かな学習活動として展開していくためには,地域の人々を 積極的に活用することが必要である。教員だけでは展開できない多様な学習を行うことが できたり,多様な大人との「対話的な学び」 から生徒が成長できたりするという大きな意 義をもつ。その際, 「社会に開かれた教育課程」の視点から,学校と保護者とが育成を目 指す資質・能力について共有し,必要な協力を求めることも大事である。  また,この時間は特定の教師のみが担当するのではなく,全教師が一体となって組織的 に指導に当たることが求められる。このことは,横断的・総合的な学習を行うなどのこの 時間の目標からも明らかである。生徒の学習が一人一人のテーマに応じて多様に展開する 場合や,複合的な内容を含む場合などは,教師の専門性を積極的に生かし,それぞれの学 習活動の特性に応じた指導体制を工夫することが考えられる。この時間の企画・立案の段 階から,全教職員の連携協力体制を整え,一体となって取り組むことがとりわけ重要であ る。学校がどのような課題を取り上げ,また,生徒がどのような課題に取り組むのかが決 まれば,それにふさわしい学習活動は何であり,それにふさわしい指導体制はどうあるべ きか,それぞれの教師が自らできることは何かという観点から,おのずと教師それぞれの 役割分担が決まり,学校全体としての指導体制が固まっていく。高等学校においては,教 科担任制という指導体制にとらわれず柔軟な指導体制を組む必要がある。  例えば,自らの将来や進路についての研究では,生徒の興味・関心,希望に応じた様々 な学問領域についての資料収集や調査が必要となる。ホームルーム担任だけが受け持ちの 生徒の指導に当たるのではなく,一人一人の教職員の個性や経験を生かした指導体制を組 むことが望まれる。また,個人研究のようにテーマが多様に分散する場合でも,地域環境 については理科の教師,海外事情については地理歴史科や公民科,英語科の教師がそれぞ れ当たるなど,教師の専門性を生かした適切な分担をすることが重要である。さらには, ただ分担をするだけでなく,教師自身がその領域について知見を深めてよりよく指導でき るように準備することも求められる。  すなわち,この時間は特定の教師のみが担当するのではなく,全教師が一体となって指 導に当たることが重要である。このことは,横断的・総合的な学習を行うなどのこの時間 の目標からも明らかである。そのためには,同学年や異学年の教師が協働で計画や指導に 当たることはもちろん,校長,副校長,教頭,養護教諭,司書教諭,学校図書館司書,実 習助手,講師などもこの時間の指導に関わる体制を整え,全教職員がこの時間の学習活動
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59 の充実に向けて協力するなど,学校全体として取り組むことが不可欠である。その際,幅 広く外部にこの時間の学習の状況や成果を公表し,保護者をはじめ地域の人々からの評価 も得て,その後の実践に生かしていくなど,学校を取り巻く地域の理解と協力を得やすく することも大切である。  地域との連携に当たっては,コミュニティ・スクールの枠組みの積極的な活用や,地域 学校協働本部との協働を図ることなどが考えられる。地域の様々な課題に即した探究課題 を設定するに当たっては,教育委員会のみならず首長部局と連携することも大切である。  こうしたことの計画や準備を行う際には,全校的な組織をつくり,役割を分担する校内 の指導体制を確立することが重要である。例えば,校内推進委員会や校内評価委員会など の組織を校務分掌等として位置付け,中心的な役割を担うコーディネーターを配置するな どして指導体制を整え,総合的な探究の時間の充実に向けて取り組むことが考えられる。  なお,総合的な探究の時間における指導体制については,本解説第11 章で詳しく解説 する。 (9) 学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,図書館,博物館等の社会教育施 設や社会教育関係団体等の各種団体との連携,地域の教材や学習環境の積極的な活 用などの工夫を行うこと。  総合的な探究の時間における探究の過程では,様々な事象について調べたり探したりす る学習活動が行われるため,豊富な資料や情報が必要となる。そこで,学校図書館やコン ピュータ室の図書や資料を充実させ,タブレット型端末を含むコンピュータ等の情報機器 や校内ネットワークシステムを整備・活用することが望まれる。  学校図書館の「学習センター」 , 「情報センター」としての機能を充実させ,図書の適切 な廃棄・更新に努めること等により,最新の図書や資料,新聞やパンフレットなどを各学 年の学習内容に合わせて使いやすいように整理,展示したり,関連する映像教材やデジタ ルコンテンツを揃えていつでも利用できるようにしたりしておくことによって,調査活動 が効果的に行えるようになり,学習を充実させることができる。さらに,司書教諭,学校 図書館司書等による図書館利用の指導により,生徒が情報を収集,選択,活用する能力を 育成することができる。また,インターネットで必要なものが効率的に調べられるように, 学習活動と関連するサイトをあらかじめ登録したページを作って,図書館やコンピュータ 室などで利用できるようにしておくことも望まれる。  一方で,それらを用いて探究を進める学習の場面や時間を十分確保することや,そのた めの多様な学習活動を展開できるスペースを確保しておくことにも配慮が求められる。  また,総合的な探究の時間の学習活動が小学校や中学校,大学等の学習活動と相互に関 連付けられ連続的・発展的に展開できるようにしたり,地域をはじめ全国の学校間で共通 の課題を取り扱ったりするなど,他の学校との連携にも配慮する必要がある。例えば,近 隣の小学校の児童や中学校の生徒を学校に招いて,互いに学習成果を発表し合うことが考 えられる。高等学校の生徒は自分たちの調査結果を分かりやすく小・中学生に伝えたり, 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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60 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い 小・中学生の発表にコメントをしたりする場面を設けることが考えられる。一方,高等学 校の生徒が小学生の斬新な視点や直接体験に基づく新鮮な発想に驚かされることなども期 待できる。また,高等学校の総合的な探究の時間においては,生徒の興味・関心等に基づ き,高度で専門的な研究活動が行われることも十分に考えられる。その場合には,高等学 校の生徒が大学を訪問したり,大学の教員や大学生,大学院生などの指導を受けて研究を 行ったりするなど,高大連携を図ることも効果的であると考えられる。このように,異な る校種での交流や高等学校同士の連携によって,生徒の知識が整理されたり意欲が高まっ たりして学習活動が質的に高まっていくことなどが期待される。  異なる学校を結んで行う協働的な学習は,共に学習活動を進めるという意識や競い合う 意識を生んで学習意欲を高めたり,自分たちだけでは調べられない相手の地域の情報を得 たりするという利点がある。また,多様な他者と協働し,異なる意見や他者の考えを受け 入れる中で,多面的・多角的に捉えたり,考えたりすることにもつながる。その一方,場 合によっては交流が形骸化してしまう可能性があることも踏まえ,協働して計画を立案し, 実効性の高い連携を考えていく必要がある。  地域には,豊かな体験活動や知識を提供する公民館,図書館や博物館などの社会教育施 設等や,その地域の自然や社会に関する詳細な情報を有している企業や事業所,社会教育 関係団体や非営利団体等の各種団体があり,それらと連携することで総合的な探究の時間 の学習が地域や社会とのつながりを強くすることになる。例えば,地域の高齢化や社会保 障に関する課題についての学習活動では,公民館に集う高齢者から生き方や考え方につい て意見を聴取したり,地域の問題点を解決するために自分たちが考えた施策について,行 政の担当者と討論する時間を設けたりすることが考えられる。また,より包括的な問題状 況に関する課題についての学習活動については,町づくりや社会福祉に取り組むNPO な どとともに活動し,協議する場をもつことによって,生徒にとって実際の社会で必要とさ れる知識や技能が明確になり,学習することの意味や自らの将来展望なども明らかにする ことが考えられる。また,遺跡や神社・仏閣などの文化財,伝統的な行事や産業なども地 域の特色をつくっている。この時間が豊かな学習活動として展開されるためには,学習の 必然性に配慮しつつ,こういった施設等の利用を促進し,地域に特有な知識や情報と適切 に出会わせる工夫が求められる。また,大学等の研究機関の協力を得ることも有効である。 そのことで調査研究の方法や水準が高くなり,より本格的な探究につながり,また知識や 技能の深化・総合化にもつながると考えられる。  その際,見学などで施設を訪れることだけでなく,施設の担当者に学校に来てもらうこ とも方法の一つである。実際に来られないときには,手紙や電話,メールやテレビ会議シ ステムなどを使って,情報を提供してもらったり,生徒の質問に答えてもらったりするこ とも有効である。また,生徒が主体的に取り組む中で,一定の責任をもって継続的に施設 等にかかわる活動に発展することも考えられる。  その一方で,社会教育施設等を無計画に訪れるなどして,先方の業務に支障を来すこと などのないように配慮しなければならない。積極的に活用することと,無計画に利用する ことは異なる。また,外部人材の活用の際に,講話内容を任せきりにしてしまうことによ
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61 って,自分で学び取る余地が残らないほど詳細に教えてもらったり,内容が高度で生徒に 理解できなかったりする場合もある。また,特定のものの見方や個人の考え方だけが強調 されることも考えられる。学習のねらいについて,事前に十分な打合せをしておくことが 必要であり,外部人材に依存し過ぎることのないようにすべきである。  地域と学校の連携・協働の下,地域の住民が協力して未来を担う青少年の成長を支える とともに,地域を創造する活動も推進されている。また,地域の住民と生徒が地域の課題 に向き合い,多様な経験や技術をもつ地域の人材・企業等の協力を得ながら,課題解決に 向けて協働する活動を推進している地域もある。こうした地域のもつ教育力を活用するこ とは,この時間の目標をよりよく実現することにつながるだけでなく,更に次のような教 育的効果をもたらす。一つは,学習活動を地域の中で行ったり,その成果を保護者も含め た地域の人々に公開することにより,生徒が社会の一員であることを再認識したり,生徒 の学習意欲が向上したりすることになる。次には,学習活動を通して,生徒が地域の人々 と親密になったり,地域の教育機関の利用に慣れたり,地域の自然や文化財等に関心をも ったり,地域の伝統行事等に主体的に参加したりするようになり,生徒が地域への愛着を 高め,豊かな生活を送ることにつながる。さらには,郷土を創る次世代の人材育成や持続 可能な地域社会の形成にもつながるものと考えられる。  なお,地域の人々の協力や地域の教材,学習環境の活用などに当たっては,総合的な探 究の時間の学習に協力可能な人材や施設などに関するリスト(人材・施設バンク)を作成 したり,地域の有識者との協議の場などを設けたりする工夫も考えられる。また,地域に よっては,この時間のためにコーディネーターなどの交渉窓口が設置されている場合もあ る。平成29 年3 月の社会教育法の一部改正により,学校と地域の連携・協働(地域学校 協働活動)を推進するため,コーディネーター役となる地域学校協働活動推進員を置くこ とができることが明記された。このような制度を積極的に活用することが,充実した総合 的な探究の時間の実現につながる。また,平成20 年6 月の社会教育法の一部改正により, 学校が社会教育関係団体等の関係者の協力を得て教育活動を行う場合には,社会教育主事 がその求めに応じて助言を行うことができることとすることについても,地域の実情に応 じて活用を図ることが考えられる。 (10) 職業や自己の進路に関する学習を行う際には,探究に取り組むことを通して,自己 を理解し,将来の在り方生き方を考えるなどの学習活動が行われるようにすること。  職業や自己の進路に関する学習とは,成長とともに大人に近づいていることを実感する こと,自らの将来を展望すること,実社会に出て働くことの意味を考えること,どんな職 業があるのかを知り,どんな職業に就きたいのか,そのためにはどうすればよいのかを考 えることなどである。希望する職業に就くためには,進学先でどんな学問分野を学ぶ必要 があるのかを考えることも自己の進路に関する学習になる。このように,職業や自己の進 路に関する学習を行うことは,高校生にとって,とても関心の高いことであり,高校生の 発達にふさわしいものである。 2 内容の取扱 いについて の配慮事項
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62 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い  ここでいう進路に関する学習とは,単なる大学調べや講話を聴くことだけではなく,生 徒が自己の在り方生き方を自己の進路と結び付けて具体的,現実的なものとして考える学 習であり,自己の進路を力強く着実に切り拓 ひら いていこうとするための資質・能力の育成に 資する学習のことである。  高校生は,個々の個性に応じて,その力が大きく伸びるときである。様々な活動を通し て,自分の限界に挑戦して,将来社会の中で生きて働く力を伸ばせる機会をもつことが期 待される。また,社会のあるべき姿に関心をもち,様々な経験を通して考える機会が提供 されることも大切である。こうした時期に,働くことや職業を自分との関わりで考えるこ とや,自己の将来を展望しようとすることは,自己の在り方生き方を考えることに直接つ ながる重要な学習である。  その際,課題の解決や探究活動を通して行うことが欠かせない。生徒が自ら職業や自己 の進路に関わる課題を設定し,自らの力で解決に取り組み,その結果として生徒一人一人 が自己の在り方生き方を真剣に考える学習活動が展開されることが求められる。例えば, 就業体験活動や大学・企業等の訪問などを探究の過程に位置付ける場合においても,事前 に様々な職業や研究領域などを調べ,そこから生徒が見付けた課題について,体験する職 場や訪問する大学・企業等を探すことなどが考えられる。さらに,体験活動や訪問先にお いても,そこで働く人と直接関わったり,目的と照らし合わせて考えたりすることなども 大切になる。また,体験や訪問を終えた後も,単に感想を発表するだけでなく,課題や目 的に照らして何を考えたのか,さらにどのような課題が生まれてきたのかなどについて, レポートや論文にまとめたり発表したりして,さらに探究が連続することが重要である。  なお,大学進学希望者が多い高等学校においても,例えば大学・大学院等での学習や研 究経験を必要とする職業に焦点を当て,大学等の専門機関において実施する就業体験活動 (いわゆる「アカデミック・インターンシップ」 )を充実するなど,それぞれの高等学校や 生徒の特性を踏まえた多様な展開が考えられるが,総合的な探究の時間に位置付けなけれ ばならない。  このような学習活動を通して,生徒が自分自身の特徴を内省的にとらえたり,周囲との 関係で理解したりして,学ぶ意味や自分の将来,人生について考えることが期待される。  なお,総合的な探究の時間における就業体験活動と特別活動との関係が問題となる場合 がある。これについては,第1 章総則第2 款の3 (2) のエに「総合的な探究の時間におけ る学習活動により,特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施と同様の成果が期待できる 場合においては,総合的な探究の時間における学習活動をもって相当する特別活動の学校 行事に掲げる各行事の実施に替えることができる」との記述がある。この記述は,総合的 な探究の時間として,探究の過程に適切に位置付けて就業体験活動を実施した結果,勤労 の尊さや職業にかかわる啓発的な体験が得られるようにするという特別活動の学校行事の 成果が期待できる場合には,特別活動の勤労生産・奉仕的行事の実施に替えてもよいこと を示しているものである。特別活動の学校行事の実施が,そのまま総合的な探究の時間の 実施とみなされるものではないことに,留意する必要がある。大学訪問や企業訪問等につ いても同様であることは言うまでもない。
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63 3 総則関連事 項 (1)道徳教育との関連 (第1 章総則第1 款の2 (2)の2 段目)  学校における道徳教育は,人間としての在り方生き方に関する教育を学校の教育活 動全体を通じて行うことによりその充実を図るものとし,各教科に属する科目(以下 「各教科・科目」という。 ) ,総合的な探究の時間及び特別活動(以下「各教科・科目 等」という。 )のそれぞれの特質に応じて,適切な指導を行うこと。  高等学校における道徳教育については,各教科・科目等の特質に応じ,学校の教育活動 全体を通じて,生徒が人間としての在り方生き方を主体的に探求し,豊かな自己形成がで きるよう,適切な指導を行うことが求められている。  このため,各教科・科目等においても目標や内容,配慮事項の中に関連する記述があり, 総合的な探究の時間の目標との関連をみると,特に次のような点を指摘することができる。  総合的な探究の時間においては,目標を「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合 的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し 解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。 」と示している。  総合的な探究の時間の探究課題は,各学校で定めるものであるが,例えば,国際理解, 情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や 学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の進路に関する課 題などが考えられる。生徒が,これらの課題をめぐって展開される学習を通して,自己の 在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を身に 付けていくことにつながっていくことになる。  また,総合的な探究の時間においては,横断的・総合的な学習や探究を行うことを通し て,探究に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,新たな価値 を創造し,よりよい社会を実現しようとする態度を養うことも重要であり,このような資 質・能力の育成は道徳教育につながるものである。 (2)各学校の教育目標との関連 (第1 章総則第2 款の1) 1 教育課程の編成に当たっては,学校教育全体や各教科・科目等における指導を通 して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,各学校の教育目標を明確にするととも に,教育課程の編成についての基本的な方針が家庭や地域とも共有されるよう努め るものとする。その際,第4 章の第2 の1 に基づき定められる目標との関連を図る ものとする。  第1 章総則第2 款の1 において,教育課程の編成に当たって,学校教育全体や各教科・ 科目等における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,各学校の教育目標を 明確にすることが定められた。あわせて,各学校の教育目標を設定するに当たっては, 「第4 章第2 の1 に基づき定められる目標との関連を図るものとする。 」とされた。 第3 節 総則関連事項
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64 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い  各学校において,教育目標に照らしながら各教科等の授業のねらいを改善したり,教育 課程の実施状況を評価したりすることが可能となるよう,教育目標は具体性を有するもの であることが求められる。法令や教育委員会の規則,方針等を踏まえつつ,生徒や学校, 地域の実態を的確に把握し,第1 章総則第1 款3 に基づき,学校教育全体及び各教科等の 指導を通じてどのような資質・能力の育成を目指すのかを明らかにしながら,そうした実 態やねらいを十分反映した具体性のある教育目標を設定することが必要である。また,長 期的な視野をもって教育を行うことができるよう,教育的な価値や継続的な実践の可能性 も十分踏まえて設定していくことが重要である。   「社会に開かれた教育課程」の理念に基づき,目指すべき教育の在り方を家庭や地域と 共有し,その連携及び協働のもとに教育活動を充実させていくためには,各学校の教育目 標を含めた教育課程の編成についての基本的な方針を,家庭や地域とも共有していくこと が重要である。そのためにも,例えば,学校経営方針やグランドデザイン等の策定や公表 が効果的に行われていくことが求められる。  第4 章総合的な探究の時間第2 の1 に基づき各学校が定めることとされている総合的な 探究の時間の目標については,上記により定められる学校の教育目標との関連を図り,生 徒や学校,地域の実態に応じてふさわしい探究課題を設定することができるという総合的 な探究の時間の特質が,各学校の教育目標の実現に生かされるようにしていくことが重要 である。 (3)学習の基盤となる資質・能力の育成 (第1 章総則第2 款の2 (1)) (1) 各学校においては,生徒の発達の段階を考慮し,言語能力,情報活用能力(情報 モラルを含む。 ) ,問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力を育成して いくことができるよう,各教科・科目等の特質を生かし,教科等横断的な視点から 教育課程の編成を図るものとする。  第1 章総則第2 款の2 の (1) においては,生徒の日々の学習や生涯にわたる学びの基盤 となる資質・能力を,生徒の発達の段階を考慮し,それぞれの教科等の役割を明確にしな がら,教科等横断的な視点で育んでいくことができるよう,教育課程の編成を図ることを 示すとともに, 「学習の基盤となる資質・能力」として,言語能力,情報活用能力(情報 モラルを含む。 ) ,問題発見・解決能力等を挙げている。  総合的な探究の時間においても,教科等を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力と しては,それぞれの学習活動との関連において,言語活動を通じて育成される言語能力(読 解力や語彙力等を含む。 ) ,言語活動やICT を活用した学習活動等を通じて育成される情報 活用能力,問題解決的な学習を通じて育成される問題発見・解決能力などが考えられる。  これらは,他教科等でも,その教科・科目等の特質に応じて展開される学習活動との関 連において育成が目指されることになる。総合的な探究の時間においては,生徒自らが課 題を設定して取り組む,実社会や実生活の中にある複雑な問題状況の解決に取り組む,答 えが一つに定まらない問題を扱う,多様な他者と協働したり対話したりしながら活動を展開
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65 3 総則関連事 項 するなど,この時間ならではの学習活動の特質を存分に生かす方向で,教科・科目等を越 えた全ての学習の基盤となる資質・能力の育成に貢献することが期待されている。 (4)総合的な探究の時間の単位数 (第1 章総則第2 款の3 (2) ア (イ) ) (イ)総合的な探究の時間については,全ての生徒に履修させるものとし,その単位数 は, (1)のイに標準単位数として示された単位数の下限を下らないものとする。た だし,特に必要がある場合には,その単位数を2 単位とすることができる。  総合的な探究の時間は,全ての学校で教育課程上必置とされるものであり,その単位数 については3 〜6 単位を標準とされている。総合的な探究の時間が各学科に共通して全て の生徒に履修させる必要があることを踏まえ,その標準単位数は各学科に共通する各教 科・科目と併せて学習指導要領第1 章総則第2 款の3 (1) に規定するとともに,必履修教 科・科目を規定している第1 章総則第2 款の3 (2) のア (イ) にも全ての生徒に履修させるも のであることを明示している。総合的な探究の時間については,単位数の設定に幅をもた せることにより,各学科の裁量の幅が広がり, 「各学校が創意工夫を生かし,特色ある教 育,特色ある学校づくりを進めること」という平成11 年の教育課程の改善のねらいが一 層実現しやすくなることを意図している。  ただし,総合的な探究の時間は,各学校の同じ学科内においては,原則として同じ単位 数の学習活動を行うこととなる。  総合的な探究の時間については,各教科・科目やホームルーム活動の授業のように,年 間35 週行うことを標準とはしていない(総則第3 款の3 (3) ア) 。したがって,卒業まで の各年次の全てにおいて実施する方法のほか,特定の年次において実施する方法も可能で ある。また,一定の時数を週ごとに割り振り,年間35 週行う方法のほか,特定の学期又 は期間に行う方法を組み合わせて活用することも可能である。  また,総合的な探究の時間の単位の認定の要件については,各教科・科目と基本的に同 様である。すなわち,第一に生徒が学校が定める指導計画に従って学習活動を行うこと, そして,第二に,その学習活動の成果が総合的な探究の時間の目標に照らして満足できる と認められることが,単位の修得認定の要件となる。単位の修得認定に当たっては,各教 科・科目と同様,総合的な探究の時間における学習活動を2 以上の年次にわたって行った ときには各年次ごとに単位の修得を認定するものとし,また,学期の区分ごとに単位の修 得を認定することもできる。  なお,総合的な探究の時間については,学校教育法施行規則第98 条に規定する学校外 活動の単位認定を行うことはできないので,必ず学校での授業時数に組み込むことが必要 であり,単にレポートの提出や長期休業中の課題等として済ませることはできない。  総合的な探究の時間の標準単位数は第1 章総則第2 款の3 の表に3 〜6 単位と示されて いる。このため,各学校で総合的な探究の時間の単位数を定める場合には,原則として3 単位を下回らないことが求められる。他方,第1 章総則第2 款の3 (2) のアの (イ) には, 「た だし,特に必要がある場合には,その単位数を2 単位とすることができる」とある。これ
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66 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い は,総合的な探究の時間の目標の実現のためには,卒業までに履修する単位数として3 〜 6 単位の確保が必要であることを前提とした上で,各教科・科目において,横断的・総合 的な学習や探究が十分に行われることにより,総合的な探究の時間の単位数を2 単位とし ても総合的な探究の時間の目標の実現が十分に可能であると考えられ,かつ,教育課程編 成上,総合的な探究の時間の単位数を3 単位履修させることが困難であるなど,特に必要 とされる場合に限って,総合的な探究の時間を履修させる単位数を2 単位とすることがで きるという趣旨である。例えば,学校設定教科・科目において,横断的・総合的な学習や 探究が十分に行われる場合,又は他の教科・科目において,横断的・総合的な学習や探究 が十分に行われる場合など,2 単位とすることができるのは限定的であることに十分注意 しなければならない。  生徒に履修させる総合的な探究の時間の単位数については,各学校で十分に検討した上 で配当するとともに,教育課程における総合的な探究の時間の位置付けを明確にすること が必要であり,特に標準単位数を減ずる場合においては,その理由について,外部への説 明責任が果たせるよう,教職員の共通理解を図るとともに,減ずることと比較して同じ程 度の成果が期待できる学習活動が十分に行われることについて,各教科・科目の指導計画 において課題の解決や探究活動などを明示するとともに,総合的な探究の時間の全体計画 においても具体的に示すことなどが求められる。 (5)総合的な探究の時間と課題研究等との代替 (第1 章総則第2 款の3 (2) イ (ウ) ) (ウ)   職業教育を主とする専門学科においては,総合的な探究の時間の履修により,農 業,工業,商業,水産,家庭若しくは情報の各教科の「課題研究」 ,看護の「看護 臨地実習」又は福祉の「介護総合演習」 (以下「課題研究等」という。 )の履修と同 様の成果が期待できる場合においては,総合的な探究の時間の履修をもって課題研 究等の履修の一部又は全部に替えることができること。また,課題研究等の履修に より,総合的な探究の時間の履修と同様の成果が期待できる場合においては,課題 研究等の履修をもって総合的な探究の時間の履修の一部又は全部に替えることがで きること。  第1 章総則第2 款の3 (2) のイ (ウ) に, 「職業教育を主とする専門学科においては,総合 的な探究の時間の履修により,農業,工業,商業,水産,家庭若しくは情報の各教科の 「課題研究」 ,看護の「看護臨地実習」又は福祉の「介護総合演習」 (以下「課題研究等」 という。 )の履修と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な探究の時間の履修 をもって課題研究等の履修の一部又は全部に替えることができること。また,課題研究等 の履修により,総合的な探究の時間の履修と同様の成果が期待できる場合においては,課 題研究等の履修をもって総合的な探究の時間の履修の一部又は全部に替えることができ る」と示している。職業教育を主とする専門学科(以下「職業学科」という。 )において は, 「課題研究」 , 「看護臨地実習」 , 「介護総合演習」が,各学科の原則履修科目とされて いるが,これら「課題研究等」の科目は,各教科に関する課題を設定し,その課題の解決
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67 3 総則関連事 項 を図る学習を通して,専門的な知識・技能の深化・総合化,問題解決能力の育成や自発的, 創造的な学習態度などを育てる上で大きな成果をあげている。また,総合的な探究の時間 が目標としているものと軌を一にしているものと言える。したがって,総合的な探究の時 間の履修をもって, 「課題研究等」の履修の一部又は全部に替えることができるとし,逆 に, 「課題研究等」の履修をもって総合的な探究の時間における履修の一部又は全部に替 えることができるとしている。  ただし,相互の代替が可能とされるのは, 「同様の成果が期待される場合」とされてお り, 「課題研究等」の履修によって総合的な探究の時間の履修に代替する場合には, 「課題 研究等」を履修した成果が総合的な探究の時間の目標から見ても満足できる成果を期待で きるような場合である。同様に,総合的な探究の時間の履修によって「課題研究等」の履 修に代替する場合には,総合的な探究の時間における学習活動の成果が「課題研究等」の 目標,内容等から見て満足できる成果を期待できるような場合である。  例えば,職業学科における課題研究においては, 「調査,研究,実験」 , 「作品製作」 , 「産業現場等における実習」 , 「職業資格の取得」等の内容に関わる課題を設定し,学習を 行うこととされており,その際,個人又はグループで適切な課題を設定させることとされ ている。総合的な探究の時間の目標から見ても満足できる成果を期待できるような場合と は,例えば, 「調査,研究,実験」や「作品製作」においては,将来の進路希望や興味・ 関心等に基づき,研究や作品の製作を行う, 「産業現場等における実習」においては,自 己の適性を発見し,将来の職業の選択に役立てる実習を行う, 「職業資格の取得」におい ては,将来の進路を踏まえた職業資格の取得に取り組むなど,総合的な探究の時間の目標 である「よりよく問題を解決する資質や能力を育成する」ことや「自己の在り方生き方を 考えることができるようにする」ことに資する学習活動を行う場合が考えられる。  いずれの内容においても,生徒同士の協働的な学習を位置付ける,地域や産業界で活躍 する人材との交流を行うなどして,様々なものの考え方や生き方に触れ,自己の在り方生 き方について考えながらよりよく課題を解決する資質・能力を身に付けることなどが期待 される。  また,本規定においては,一部又は全部に替えることができるとされており,例えば, 学校において総合的な探究の時間に課題研究的な学習活動と横断的・総合的な課題につい ての学習活動の両方を行い,課題研究的な学習活動に相当する部分のみを「課題研究等」 の科目と代替するということは可能である。  なお,総合的な探究の時間の履修によって, 「課題研究等」の科目の履修に替えた場合 には, 「課題研究等」の科目の履修そのものを行っていないことから,この場合の総合的 な探究の時間の単位数を,専門学科における専門教科・科目の必修単位数(第1 章総則第 2 款の3 の (2) イ (ア) )に含めることはできないことに留意する必要がある。  このように第1 章総則第2 款の3 の (2) イ (ウ) は, 「総合的な探究の時間の履修と同様の 成果が期待できる場合」において適用できる規定であり,総合的な探究の時間の目標を満 たすものでなければ代替することはできない。具体的には,検定試験や資格取得を主目的 とした学習活動などを行う中で,生徒が主体的に課題設定や学習計画の立案,成果のまと
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68 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い めや発表を行うことなく,単なるスキルの習得等を目指した学習活動については,総合的 な探究の時間としてふさわしくないものと言える。 (6)総合的な探究の時間の実施による特別活動の代替 (第1章総則第2款の3 (3) ケ) ケ 総合的な探究の時間における学習活動により,特別活動の学校行事に掲げる各行 事の実施と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な探究の時間における 学習活動をもって相当する特別活動の学校行事に掲げる各行事の実施に替えること ができる。  総合的な探究の時間に行われる学習では,教科・科目等の枠を超えて探究する価値のあ る課題について,各教科・科目等で身に付けた資質・能力を活用・発揮しながら解決に向 けて取り組んでいく。このような総合的な探究の時間の重要性を踏まえ,各教科・科目等 との関係については, 「他教科等の目標及び内容との違いに留意しつつ,第1 の目標並び に第2 の各学校において定める目標及び内容を踏まえた適切な学習活動を行うこと。 」と 記述し,各教科・科目等と連携しながら,課題の解決や探究活動を行うという総合的な探 究の時間の特性を十分に踏まえた活動を展開する必要を示した。同様に,言語活動の充実 との関係では, 「探究の過程においては,他者と協働して課題を解決しようとする学習活 動や,言語により分析し,まとめたり表現したりするなどの学習活動が行われるようにす ること。その際,例えば,比較する,分類する,関連付けるなどの考えるための技法が自 在に活用されるようにすること。 」との規定を置いた。  これらを前提としつつ,総合的な探究の時間においては,自然体験や就業体験活動,ボ ランティア活動などの社会体験,ものづくり,生産活動などの体験活動を積極的に取り入 れることの必要性を明らかにしつつ,その際は,体験活動を課題の解決や探究活動の過程 に適切に位置付けることを求めている。  このように,総合的な探究の時間において,その趣旨を踏まえ,例えば,自然体験活動 や社会体験活動,あるいは就業体験やボランティア活動を探究の過程の中で行う場合にお いて,これらの活動は集団活動の形態をとる場合が多く,集団への所属感や連帯感を深め, 公共の精神を養うなど,特別活動の趣旨も踏まえた活動とすることが考えられる。  すなわち,  ・ 総合的な探究の時間に行われる自然体験活動や社会体験活動は,環境や自然を課題 とした探究活動,あるいは歴史や国際理解を題材とした探究活動として行われると同 時に, 「平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとと もに,よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体 験を積むことができる」旅行・集団宿泊的行事と,  ・ 総合的な探究の時間に行われる就業体験活動やボランティア活動は,社会との関わ りを考える探究活動として行われると同時に, 「勤労の尊さや生産することの喜びを 体得し,職場体験などの職業や進路に関わる啓発的な体験が得られるようにするとと もに,共に助け合って生きることの喜びを体験し,ボランティア活動などの社会奉仕
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69 3 総則関連事 項 の精神を養う体験が得られる」勤労生産・奉仕的行事と,  それぞれ同様の成果も期待できると考えられる。このような場合,総合的な探究の時間 とは別に,特別活動として改めてこれらの体験活動を行わないとすることも考えられる。  なお,本項の記述は,総合的な探究の時間においてその趣旨を踏まえると同時に,特別 活動の趣旨をも踏まえ,総合的な探究の時間において体験活動を実施した場合に特別活動 の代替を認めるものであって,特別活動において体験活動を実施したことをもって総合的 な探究の時間の代替を認めるものではない。また,総合的な探究の時間において体験活動 を行ったことのみをもって特別活動の代替を認めるものでもなく,望ましい人間関係の形 成や公共の精神の育成といった特別活動の趣旨を踏まえる必要があることは言うまでもな い。このほか,例えば,補充学習のような専ら特定の教科・科目の知識・技能の習得を図 る学習活動や体育祭のような特別活動の健康安全・体育的行事の準備などを総合的な探究 の時間に行うことは,総合的な探究の時間の趣旨になじまないことは,第4 章総合的な探 究の時間に示すとおりである。 (7 )理数探究基礎及び理数探究の履修による総合的な探究の時間の代替 (第1 章 総則第2 款の3 (3) コ) コ 理数の「理数探究基礎」又は「理数探究」の履修により,総合的な探究の時間の履 修と同様の成果が期待できる場合においては, 「理数探究基礎」又は「理数探究」の履 修をもって総合的な探究の時間の履修の一部又は全部に替えることができる。  理数科では, 「数学的な見方・考え方や理科の見方・考え方を組み合わせるなどして働 かせ,探究の過程を通して,課題を解決するために必要な資質・能力」を育成することを 目指すものであり,総合的な探究の時間は「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合 的な学習を行うことを通して,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し 解決していくための資質・能力」を育成することを目指すものである。いずれも,複数の 教科等の見方・考え方を組み合わせるなどして働かせ,探究の過程を通して資質・能力を 育成するものであることから方向性は同じであると言える。そのため,理数科に属する科 目である「理数探究基礎」又は「理数探究」を履修することにより,総合的な探究の時間 の履修と同様の成果が期待できる場合においては,総合的な探究の時間の履修の一部又は 全部に替えることができるとしている。  なお,代替が可能とされるのは, 「同様の成果が期待できる場合」とされており, 「理数 探究基礎」又は「理数探究」の履修によって総合的な探究の時間の履修に代替するために は, 「理数探究基礎」又は「理数探究」の履修の成果が,総合的な探究の時間の目標等か らみても満足できる成果が期待できることが必要であり, 「理数探究基礎」又は「理数探 究」の履修をもって,自動的に代替が認められるものではない。  総合的な探究の時間では, 「自己の在り方生き方」を考えながら,よりよく課題を発見 し解決していくための資質・能力を育成することを目指しており,総合的な探究の時間に
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70 第5 章 指導計画の 作成と内容 の取扱い おいて生徒が設定する課題は,自己の在り方生き方を考えながら,自分にとって関わりが 深いものであることが求められる。そのため, 「理数探究基礎」又は「理数探究」の履修 により, 「総合的な探究の時間の履修と同様の成果が期待できる」ためには,例えば,生 徒が興味・関心,進路希望等自己の在り方生き方に応じて課題を設定するなどして,観察, 実験,調査等や事象の分析等を行い,その過程を振り返ったり,結果や成果をまとめたり するなど,総合的な探究の時間の目標である「自己の在り方生き方を考えながら,よりよ く課題を発見し解決していくための資質・能力」の育成に資する学習活動を,探究の過程 を通して行うことが求められる。 (8)通信制の課程における特例(第1 章総則第2 款の5 (3)) (3) 理数に属する科目及び総合的な探究の時間の添削指導の回数及び面接指導の単位 時間数については,1 単位につき,それぞれ1 回以上及び1 単位時間以上を確保し た上で,各学校において,学習活動に応じ適切に定めるものとする。  総合的な探究の時間の添削指導の回数及び面接指導の単位時間数については,1 単位に つき,それぞれ1 回以上及び1 単位時間以上を確保した上で,各学校において,学習活動 に応じ適切に定めることとしている。  総合的な探究の時間における目標や内容の取扱い等については,通信制の課程において も,全日制・定時制の課程と同様,第4 章の規定が適用される。したがって,問題解決能 力や学び方,ものの考え方などの育成をねらいとして,観察・実験・実習,調査・研究, 発表や討論などを取り入れながら,各学校の創意工夫を生かして特色ある教育活動を行う こととなる。  通信制の課程においては,これらの学習活動を添削指導及び面接指導により行うことと なる。観察・実験・実習,発表や討論などを積極的に取り入れるためには,面接指導が重 要となることを踏まえ,1 単位につき,それぞれ1 回以上及び1 単位時間以上を確保した 上で,各学校において,学習活動に応じ適切に定めることが重要である。
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71 1 高等学校に おける総合 的な探究の 時間  高等学校では,学校教育法に示された教育の目的や目標の実現に向けた教育活動が展開 される。一方,各高等学校は,その学校の設置目的などにより課程や学科などが多様であ り,学校独自の特色ある教育課程が編成されている。特に,総合的な探究の時間では,第 4 章総合的な探究の時間第2 の1 及び2 に各学校において第1 の目標を踏まえて目標及び 内容を定めること,また,第3 の1 の(1)に,生徒や学校,地域の実態等に応じて,生 徒が探究の見方・考え方を働かせ,教科・科目等の枠を超えた横断的・総合的な学習や生 徒の興味・関心等に基づく学習を行うなど創意工夫を生かした教育活動の充実を図ること が示されていることなどから,各学校においては,第1 に示した総合的な探究の時間の目 標を踏まえつつ,課程や学科をはじめとした学校の特色,生徒の特性等に応じた教育活動 を行うことが求められる。  本解説第6 章〜第11 章は,第1 の目標を踏まえて設定した各学校の目標及び内容を適 切に実現していくために,高等学校における総合的な探究の時間の意義,全体計画の作成, 年間指導計画の作成や単元計画の作成,学習指導の進め方,評価の在り方,指導体制の整 備等について,その基本的な考え方やポイントを,手順や方法,具体例などを交えて解説 する。各学校においては,以下に記す本解説6 章以降を参考にして,これまでの総合的な 学習の時間の取組を見直すとともに,総合的な探究の時間としての具体的な改善を進める ことが期待される。  この章では,まず第1 節において,高等学校における総合的な探究の時間の意義につい て高等学校の生徒の発達の段階との関係で記述し,第2 節においては,各学校で多様に編 成される高等学校の教育課程についてカリキュラム・マネジメントの視点から,課程や学 科の違いを踏まえた留意点を記述している。  高等学校の段階になると,生徒には,個人差はあるものの一般的に次のような特徴が見 られると考えられる。  多くの生徒は,思春期特有の混乱した状況から脱しつつ,大人の社会を展望するように なり,自分は大人の社会でどのように生きるのかという課題に出会う。進学や就職といっ たそれぞれの人生を左右する重大な岐路に立って,進学を過度に意識してその準備に追わ れたり,実社会に出ていくことに不安を抱いたり,中には自らの将来について真剣に考え ることを放棄して目の前の楽しさだけを追い求めることに陥る者もいる。大きく力が伸び る高校生の時期において,社会の中で責任をもって生きることへの目を開かせていくこと が大切である。  高校生の時期は,本来,個々の生徒の個性に応じて,その力が大きく伸びるときである。 第6 章 高等学校における総合的な探究の時間の意義 第1 節 高等学校における総合的な探究の時間 1 高等学校の生徒の発達の段階を踏まえた総合的な探究の時間の意義
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72 第6 章 高等学校におけ る総合的な探究 の時間の意義 しかし 実際には,進学準備などで自他共に制約を課している面もある。様々な活動を通 して,自らの限界に挑戦して,将来社会の中で生きて働く力を伸ばせる機会をもつことが 期待される。また,社会の在るべき姿に関心をもち,様々な経験を通して考える機会が提 供されることも大切である。  様々な国際調査によれば,日本の高校生は, 「自分を価値ある人間だ」という自尊心や 「自分自身に満足している」という自己肯定感を持っている割合が諸外国に比べて低く, また, 「自らの参加により社会現象が変えられるかもしれない」という意識が低いことな ども指摘されている。大きく力が伸びる高校生の時期は,先述したように,社会の中で責 任をもって生きることに着目させることが大切であり,加えて生きることの意味について 思い悩み,自分と他者や社会との関係について考えを深めていくべきなのである。  この時期において,人に尽くしたり社会に役立つことのやりがいを感じたりできるよう な体験をすることが重要である。人に尽くし社会に役立つことを実行することは決して簡 単ではなく,様々な工夫や努力,時間などを要するが,苦労した分,やりがいがあること などに気付かせることが大切である。また,単に「よいこと」だから行うという以上に,相 手との関わりの中で喜ばれ,やりがいを感じる相互連関が生まれることが重要である。  受験準備のみに追われたり,実社会に出ていくことに不安を抱いたり,今の楽しさに流 されたりすることの危機を乗り越えようとするこの時期の生徒を支えるため,自分の個性 を見出し,自分は世界でたった一人のかけがえのない存在であることを自覚できる機会が 得られるようにすることも重要である。他者と比較して優劣を競うのではなく,自分は独 自に自分であり,自分なりにできることがあると分かることが大切であり,自分で選び, 自分で発想できる時間が用意され,精一杯の自分の力を発揮できる活動を用意することが 望まれる。  近年,選挙権年齢が引き下げられ,更に平成34(2022)年度からは成年年齢が18 歳へ と引き下げられることに伴い,生徒にとって政治や社会が一層身近なものとなっているこ とから,全ての生徒には,社会で求められる資質・能力を自ら育み,生涯にわたって探究 を深めていこうとする未来の創り手としての自覚をもつことがこれまで以上に求められて いる。  このような生徒の発達の段階とその状況に照らして考えれば,総合的な探究の時間は, 高等学校の教育課程において,自然や社会との深いつながりや質・量ともに豊かな体験を 意図的,計画的,組織的に提供し,そこで出会う教育的に価値ある諸課題の探究に,各教 科・科目等で学んだ知識や技能をも活用しながら,主体的,創造的,協働的に取り組む機 会を得られることからも極めて重要な意義を有する。これにより,生徒には,人間として の在り方を理念的に希求し,それを将来の進路実現や社会の一員としての生き方の中に具 現すべく模索するとともに,学校での学習を自己の在り方生き方との関わりにおいて深化, 総合化することが期待されている。
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73 1 高等学校に おける総合 的な探究の 時間  生徒の発達の段階を踏まえ,高等学校の総合的な探究の時間は次のような特徴を有する。  まず,第1 の目標において,小・中学校では「自己の生き方」であったところが,高等 学校では 「自己の在り方生き方」となっている点が重要である。  高等学校の段階の生徒は,自分の人生をどう生きればよいか,生きることの意味は何か ということについて思い悩む時期である。また,自分自身や自己と他者との関係,さらに は,広く国家や社会について強い関心をもち,人間や社会の在るべき姿について考えを深 める時期でもある。それらを模索する中で,生きる主体としての自己を確立し,自らの人 生観,世界観ないし価値観など,自分なりの種々のものの見方や考え方を形成し,主体性 をもって生きたいという意欲を高めていく。  自然や社会との深いつながりや豊富な体験を契機に様々な問題と出会い,その解決に取 り組む学習が,自己の在り方生き方をより深く内省的に捉えていくことにもつながるもの と考えられる。  また,目標では,生徒が自己の在り方生き方を考えながら, 「よりよく課題を発見し解決 していく」ことを示している点も高等学校の生徒の発達の段階を考えたときに重要である。  本解説第3 章でも述べたとおり,総合的な探究の時間に育成する資質・能力については, 自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくためと示されてい る。このことは,総合的な探究の時間は,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を 自ら発見し,解決していくような学びを展開していくことを明示している。実社会や実生 活には,解決すべき問題が多方面に広がって複雑に絡み合っており,その問題は,複合的 な要素が入り組んでいて,容易には解決に至らないことが多い。しかし,高等学校の生徒 は,実社会や実生活との関わりの中で,人間としての在り方生き方についてより深く内省 的に考え,このような問題にも向き合うようになっている。そうした複雑な問題と向き合 って,自分で取り組むべき課題を見いだすことは,自己の在り方生き方を模索していこう とすることでもある。  さらに,各学校において内容を設定する際の参考として第4 章総合的な探究の時間第2 の3 の (5) に例示された探究課題,すなわち,現代的な諸課題に対応する横断的・総合的 な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題,職業や自己の 進路に関する課題なども,高等学校の生徒の発達の段階と深く関わっている。  これまで述べてきたように,この時期の生徒は,人間としての在り方や将来の生き方に ついて,理想的,理念的に深く考えることを求めているとともに,就職や進学を控え,現 実的,実際的に検討することを迫られてもいる。職業や自己の進路について,この両面か ら思う存分,納得がいくまで探究する機会を提供し,自己の中で統合できるまでに導くこ とは,生徒の人間的成熟や安定の確保,自己の将来を力強く着実に切り開いていこうとす る資質・能力の育成において,極めて重要である。職業や自己の進路に関する課題とは, このような高等学校の生徒の発達の段階に応えるべく,例示された課題である。  また,生徒が希求する人間としての在り方は,進路実現のような個人的な生き方として 2 高等学校の生徒の発達の段階と総合的な探究の時間の目標と内容
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74 第6 章 高等学校におけ る総合的な探究 の時間の意義 の具現化に加えて,社会の一員としてどう生きていくかという側面においても具現化され ることが求められる。国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応す る横断的・総合的な課題とは,このようなことを踏まえ例示された課題である。したがっ て,これらを取り上げて探究課題を設定し,あるいは学習指導を行う場合には,小・中学 校のように,各課題について実際的な課題の解決や探究活動に取り組むだけでなく,さら に進んで,それらを自己の在り方生き方との関わりにおいて考え,深めることが大切であ る。  さらに,生徒が人間としての在り方を模索し,それを将来の進路実現や社会の一員とし ての生き方の中に具現化するためには,実社会,実生活とのつながりを感じながら学ぶこ とがより一層重要であり,各教科・科目等における学習をより発展させていくことが大切 である。  地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関心に基づく課題は,このような考えの 下,設定されたものである。そして,各学科に共通する各教科(以下「共通教科」とい う。 ) ,専門教科の双方における学習の進展に応じて生徒が興味・関心を抱いた課題や,学 習を契機に進路について具体的に考える中で必要性を感じて設定した課題について,社会 とのつながりの中で探究を深め,知識や技能の深化,総合化を図ることを目指している。 こうして,学ぶことの意義を実感し,高等学校の生徒としての日々の生活を充実させると ともに,生涯にわたって学ぶことと生きることとを結び付けていけるようになることを意 図して例示された課題である。  これらからもわかるように,高等学校の総合的な探究の時間は,生徒の発達の段階を踏 まえて,自然や社会とのつながりの中で人間としての在り方を真摯に希求することをその 基底に据えている。そして,そのような理想的,理念的な在り方が,職業選択や進路実現 に関わる模索や横断的・総合的な課題を解決しようとする取組を通して個人的な生き方と して,あるいは社会の一員としての生き方として具現化されていくことを目指している。 さらに,学校での各教科・科目等の学習を社会とのつながりにおいて深化,総合化するこ とで,学ぶ意義を実感し,高校生としての今をより充実させることも目指している。  高等学校の総合的な探究の時間では,人間としての在り方を真摯に希求することを基底 に据えながら,自分の個性の伸長や自己実現などとの関連から,進学や就職などに関わる 個人としての生き方や現代社会の諸課題に関わる社会の一員としての生き方などについて 考えることが大切である。このように自己の在り方生き方を考えることは,社会とのつな がりを求める高校生にとっては欠かすことのできない重要な学習である。  例えば,生徒一人一人が自己の希望する進路に沿った就業体験を中心として,課題の解 決や探究活動を展開することが考えられる。ここでは,自己の希望する進路について,近 隣の大学・専門学校等を訪問したり,関係施設・機関等で就業体験をしたりするなどして, 当該進路について調査し,さらに他の生徒とそれぞれの希望する進路に関して調査した内 3 総合的な探究の時間と進路実現,学力育成
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75 1 高等学校に おける総合 的な探究の 時間 容について意見交換するなどして,理解を深めていくことが考えられる。こうした学習で は,友達も含め様々な人との関わりを通じて,自己の将来や就職に対する目標が明らかに なり,大きく成長していくことが期待できる。  また,地球規模の環境と地域の身近な自然環境を対象に,課題の解決や探究活動を展開 することも考えられる。ここでは,フィールドワークによる調査や地域の環境保全の取組 などに参画することも考えられる。こうした学習に取り組むことで,地域に限らず地球規 模の環境問題をより深く学び,環境問題の解決に寄与したいと願い,自らの進学先を決定 していくことも期待できる。  このように,実社会や実生活との関わりを重視した総合的な探究の時間に真剣に取り組 むことは,生徒一人一人の進路意識を明確にさせるものと考えられる。その結果として, 自らの関心事,自分自身の適性,身に付けた知識や技能などに応じて進路実現を果たそう とする生徒の育成が期待できる。このことは,第1 章総則第5 款の1 の (3) に「生徒が自 己の在り方生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動全体 を通じ,組織的かつ計画的な進路指導を行うこと」と示されたこととも軌を一にする。  これまでも述べてきたが,総合的な探究の時間を通して,生徒に学習に対して自ら前向 きに取り組み,積極的に解決を図ろうとする態度を育成することが求められている。また, 総合的な探究の時間における課題の解決や探究活動では,各教科・科目で身に付けた知識 や技能が繰り返し活用される。すなわち,総合的な探究の時間では生徒が学ぶ意義を実感 し意欲的に取り組むとともに,探究の過程において,知識や技能を確実に習得していくこ とにもつながる。このことは,一方で知識や技能を,実社会や実生活において活用できる ものとしていくことにもなる。  また,課題の解決や探究活動の過程で育成される資質・能力は,就職先や進学先におい ても極めて重要であり,そうした資質・能力の育成がこれからの社会において強く求めら れている。  なお,総合的な探究の時間では,生徒が自ら設定した学習課題や学習対象などを,自分 と切り離すのではなく,自分や自分の生活との関わりの中で捉えるとともに,人や社会, 自然をそれぞれがつながり合い関係し合うものとして捉え,主体的に学習を進めていくこ とを期待しているものであり,変化の激しい時代においてますます重要な役割を果たすも のである。
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76 第6 章 高等学校におけ る総合的な探究 の時間の意義  総合的な探究の時間は,生徒が探究の見方・考え方を働かせながら横断的・総合的な学 習に取り組むことにより,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決 していくための資質・能力を育成するものであり,変化の激しい社会においてますます重 要な役割を果たす。そのためには,総合的な探究の時間を教育課程の中核に据えて,学習 の効果の最大化を図るカリキュラム・マネジメントを確立することが大切である。  第1 章総則第2 款の1 において,教育課程の編成に当たって,学校教育全体や各教科等 における指導を通して育成を目指す資質・能力を踏まえつつ,各学校の教育目標を明確に することが定められた。あわせて,各学校の教育目標を設定するに当たっては, 「第4 章 第2 の1 に基づき定められる目標との関連を図るものとする。 」とされた。各学校におけ る教育目標には,地域や学校,生徒の実態や特性を踏まえ,主体的・創造的に編成した教 育課程によって実現を目指す生徒の姿等が描かれることになる。各学校における教育目標 を踏まえ,総合的な探究の時間の目標を設定することによって,総合的な探究の時間が, 各学校の教育課程の編成において,特に教科等横断的なカリキュラム・マネジメントとい う視点から,極めて重要な役割を担うことが今まで以上に鮮明となった。これは,各教科 等を含めた全教育活動における総合的な探究の時間の位置付けを明確にすることであり, それぞれが適切に実施され,相互に関連し合うことで教育課程は機能を果たすこととなる。 すなわち,学校の教育目標を教育課程に反映し具現化していくに当たっては,これまで以 上に総合的な探究の時間を教育課程の中核に位置付けるとともに,各教科・科目等との関 わりを意識しながら,学校の教育活動全体で資質・能力を育成するカリキュラム・マネジ メントを行うことが求められる。  特に高等学校は,生徒の実情や地域から期待される役割などにおいて非常に多様であり, 総合的な探究の時間においてどのような資質・能力の育成を目指すのかということがその 高等学校のいわばミッションを体現するものとなるべきであり,学校全体で教職員が連携 してその実現に向かっていくことが必要である。  今回の改訂では,総合的な学習の時間の名称が総合的な探究の時間に変更されただけで はなく,古典探究や地理探究,日本史探究,世界史探究,理数探究基礎及び理数探究の科 目が新設された。これらは,当該の教科・科目における理解をより深めるために,探究を 重視する方向で見直しが図られたものである。総合的な探究の時間については,これらの 科目において行われる探究との違いを踏まえる必要がある。実社会や実生活における課題 を探究する総合的な探究の時間と,教科の系統の中で行われる探究の両方が教育課程上に しっかりと位置付き,それぞれが充実することが豊かな教育課程の実現につながる。 第2 節 高等学校のカリキュラム・マネジメントと総合的な探究の時間 1 カリキュラム・マネジメントと総合的な探究の時間
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77 2 高等学校のカリ キュラム ・ マネ ジメントと総合 的な探究の時間  高等学校には,全日制の課程,定時制の課程及び通信制の課程があるが,特に定時制の 課程においては,教育活動を行う時間帯が,夕方から夜間という場合が多く,体験活動を 円滑に行うためには,関係施設や各種団体等とのより一層緊密な連携を図っておくことが 期待される。また,定時制や通信制の課程の中には,いろいろな経験や特技,知識・技能 をもった生徒も在籍していることから,そのような生徒の経験を生かすなどして,互いに 学び合う授業展開も考えられる。  さらに,通信制の課程においては,体験的な学習の機会が少なくなりがちであると考え られることから,可能な範囲で体験活動を積極的に位置付けるなど,社会と関わり,社会 において自立的に生きるために必要な力を育む学習として総合的な探究の時間を計画する ことが大切である。  また,通信制の課程における総合的な探究の時間では,自ら課題を設定し,自学自習で 課題の解決を進めていく個人研究の学習形態となることが多いと考えられるが,そこでは, 生徒が一人で課題の設定をすることが難しい状況も想定されることから,過去の個人研究 における課題をまとめた冊子などを用意し,課題について十分な検討を行うことも考えら れる。個人研究では,協働的に学習を行うことが難しい状況も想定されることから,面接 指導や学校行事の際に協働的に学習する場面を設定したり,地域の人との関わりを通して 協働的に学習活動が進められるよう配慮したりすることも考えられる。特に,面接指導に おいては,観察・実験・実習,発表や討論などを積極的に取り入れることが重要である。  高等学校には,普通科,専門学科及び総合学科がある。これらの別を問わず全ての学科 に,総合的な学習の時間が創設されて以来,この時間において自己の在り方生き方や進路 について考察する学習の充実に取り組んできた。例えば,普通科では,職業に関する学科 や総合学科において原則履修科目とされている「課題研究」のような,生徒が主体的に設 定した課題について知識・技能の深化・総合化を図る学習や,総合学科において原則履修 科目とされている,自己の在り方生き方や進路について考察する学習である「産業社会と 人間」などの取組も参考にしながら,一層の充実に向けて実践を重ねてきている。  また,専門学科においては,総合的な探究の時間について課題研究等により代替してい る場合も多いと考えられるが,共通教科を含め様々な教科に関わる横断的・総合的な学習 を総合的な探究の時間として位置付けて取り組むことも考えられる。  さらに,総合学科においては,産業社会における自己の在り方生き方について考えさせ, 社会に積極的に寄与し,生涯にわたって学習に取り組む意欲や態度を養うといったことを ねらいとする「産業社会と人間」を全ての生徒に原則として入学年次に履修させることと されているが,この「産業社会と人間」の目標,内容は,総合的な探究の時間と共通する 面を有していると考えられる。したがって,総合的な探究の時間においては, 「産業社会 2 各課程と総合的な探究の時間 3 各学科と総合的な探究の時間
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78 第6 章 高等学校におけ る総合的な探究 の時間の意義 と人間」と総合的な探究の時間を関連付け,キャリア教育の柱として意図的計画的な指導 を行うことも考えられる。  なお,第3 の1(8)に, 「総合学科においては,総合的な探究の時間の学習活動として, 原則として生徒が興味・関心,進路等に応じて設定した課題について知識や技能の深化, 総合化を図る学習活動を含むこと」としていることにも十分配慮する必要がある。
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79 1 総合的な探 究の時間に おける指導 計画  本章から第11 章までにおいては,各学校で定めた目標及び内容を適切に実施していく ための全体計画の作成,年間指導計画や単元計画の作成,評価の在り方,学習指導の進め 方,指導体制の整備等について,その基本的な考え方やポイントを,手順や方法,具体例 などを交えて解説する。各学校においては,本章以降を参考にして,これまでの総合的な 学習の時間の取組を見直すとともに,総合的な探究の時間としての具体的な改善を進める ことが期待される。  教育課程には,その学校における教育活動の計画が,全領域,全学年にわたって記され る。指導計画とは,この教育課程の部分計画であり,例えば,第1 学年の指導計画,国語 科の指導計画,4 月の指導計画といった具合に,教育課程を構成する特定の部分について, その教育活動の計画を必要に応じて示したものである。総合的な探究の時間も教育課程を 構成する一部であるから,その指導計画は当然必要である。第4 章総合的な探究の時間第 3 の1 の (2) 「全体計画及び年間指導計画の作成に当たっては,学校における全教育活動 との関連の下に,目標及び内容,学習活動,指導方法や指導体制,学習の評価の計画など を示すこと」が,このことを明確に示している。  この記述にあるように,総合的な探究の時間の指導計画の作成に際しては,以下の六つ について考える必要がある。   (1) この時間を通してその実現を目指す「目標」 。   (2) 「目標を実現するにふさわしい探究課題」及び「探究課題の解決を通して育成を目 指す具体的な資質・能力」からなる「内容」 。   (3) 「内容」との関わりにおいて実際に生徒が行う「学習活動」 。これは,実際の指導計 画においては,生徒にとって意味のある課題の解決や探究活動のまとまりとしての 「単元」 ,さらにそれらを配列し,組織した「年間指導計画」として示される。   (4) 「学習活動」を適切に実施する際に必要とされる「指導方法」 。   (5) 「学習の評価」 。これには,生徒の学習状況の評価,教師の学習指導の評価, (1) 〜 (4) , (5)の適切さを吟味する指導計画の評価が含まれる。   (6) (1) 〜 (5)の計画,実施を適切に推進するための「指導体制」 。  本章以下では,本解説第6 章までを踏まえ,各学校においてどのように指導計画の作成 を進めていくべきかについて,これら六つの事項に即して,より具体的,実践的に解説を 加えていく。その際, (1) , (2)については本章で, (3)については第8 章で, (4)につ いては第9 章で, (5)については第10 章で, (6)については第11 章で主に解説する。 第7 章 総合的な探究の時間の指導計画の作成 第1 節 総合的な探究の時間における指導計画 1 指導計画の要素
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80 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成  第4 章総合的な探究の時間第3 の1 の (2)では,総合的な探究の時間の指導計画のうち, 学校として全体計画と年間指導計画の二つを作成する必要があること,及びその作成に当 たっての要素を示している。  全体計画とは,指導計画のうち,学校として,この時間の教育活動の基本的な在り方を 示すものである。具体的には,各学校において定める目標, 「目標を実現するにふさわし い探究課題」及び「探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」で構成す る内容について明記するとともに,学習活動,指導方法,指導体制,学習の評価等につい ても,その基本的な内容や方針等を概括的・構造的に示すことが考えられる。  一方,年間指導計画とは,全体計画を踏まえ,その実現のために,どのような学習活動 を,どのような時期に,どのように実施するか等を示すものである。具体的には,1 年間 の時間的な流れの中に単元を位置付けて示すとともに,学校における全教育活動との関連 に留意する観点から,必要に応じて他教科等における学習活動も書き入れ,総合的な探究 の時間における学習活動との関連を示すことなどが考えられる。このように,全体計画を 単元として具体化し,1 年間の流れの中に配列したものが年間指導計画であり,年間指導 計画やそこに示された個々の単元の成立のよりどころを記したものが全体計画であり,こ の二つは関連し対応する関係にある。したがって,各学校においては,それぞれを立案す るとともに,二つの計画が関連をもつように,十分配慮しながら作成に当たる必要がある。 以上のことからも分かるように,指導計画を構成する上記六つの要素については,指導計 画のどこかで示していればよく,したがって全体計画と年間指導計画の少なくとも一方に おいて明示することで足りると考えられる。  なお,指導計画を構成する上記六つの要素のうち, (1)については,学校を単位として 設定するものとするが, (2) 〜 (6)については,学校を単位として設定する場合のほか, 課程や学科ごとに設定することも考えられる。 (2) 〜 (6)を課程や学科ごとに設定する場 合には,全体計画についても, 課程や学科ごとの作成を要する。 2 全体計画と年間指導計画
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81 1 総合的な探 究の時間に おける指導 計画 〈目標と内容と学習活動の関係〉 各学校における教育目標 各学校において定める目標 学習活動(単元) 各学校において定める内容 第1の目標 探究課題の解決を通して育成を目指す 具体的な資質・能力 目標を実現するに ふさわしい探究課題  また,本章及び第8 章で主に扱う上記(1) 「目標」 , (2) 「内容」 , (3) 「学習活動(単 元) 」の相互の関係については,上図のように示すことができる。この図にあるように, 各学校は,まず第1 の目標を踏まえるとともに,各学校における教育目標を踏まえ,学校 の総合的な探究の時間の目標を設定する。  次に,それらを踏まえ,内容として, 「目標を実現するにふさわしい探究課題」及び 「探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」を設定する。  本解説第4 章でも述べた通り,各学校の「目標を実現するにふさわしい探究課題」の設 定に際しては,第2 の3 の (5)に示された四つの課題が参考になる。また, 「探究課題の 解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」の設定に際しては,第2 の3 の (6)に示 された三つの柱,すなわち, 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向 かう力,人間性等」に配慮して設定する。その際,第2 の3 の (2)に示された,各学校に おいて定める目標及び内容については,各教科・科目等の目標及び内容との違いに留意し つつ,各教科・科目等で育成を目指す資質・能力との関係を重視することが望まれる。さ らに,第2 の3 の (7)に示す通り, 「目標を実現するにふさわしい探究課題」及び「探究 課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」については,教科・科目等を越え た全ての学習の基盤となる資質・能力が育まれ,活用されるものとなるように配慮するこ とが大切である。  この「目標を実現するにふさわしい探究課題」及び「探究課題の解決を通して育成を目 指す具体的な資質・能力」の二つをよりどころとして,実際に教室で日々展開される学習 活動,すなわち単元が,計画,実施される。
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82 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成  なお,指導計画を作成する際には,責任者としての校長の指導ビジョンとリーダーシッ プの下,全教職員がそれぞれの特性と専門性を発揮しながら自律的,協働的,創造的に行 うことが重要である。そのための校内外の体制づくり等については,本解説第11 章で更 に詳しく解説する。
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83 2 各学校にお いて定める 目標の設定  各学校においては,第1 の目標を踏まえ,各学校の総合的な探究の時間の目標を定め, その実現を目指さなければならない。この目標は,各学校が総合的な探究の時間での取組 を通して,どのような生徒を育てたいのか,また,どのような資質・能力を育てようとす るのかなどを明確にしたものである。  各学校において総合的な探究の時間の目標を定めるに当たり, 「第1 の目標を踏まえ」 とは,本解説第3 章で解説した第1 の目標の趣旨を適切に盛り込むということである。  具体的には,第1 の目標の構成に従って,以下の2 点を踏まえることが必要となる。   (1) 「探究の見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通すこと」 , 「自 己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し解決していくための資質・能 力を育成すること」という,目標に示された二つの基本的な考え方を踏襲すること。   (2) 育成を目指す資質・能力については, 「育成すべき資質・能力の三つの柱」である 「知識及び技能」 , 「思考力,判断力,表現力等」 , 「学びに向かう力,人間性等」の三 つのそれぞれについて,第1 の目標の趣旨を踏まえること。  各学校において定める総合的な探究の時間の目標は,第1 の目標を適切に踏まえて,こ の時間全体を通して,各学校が育てたいと願う生徒像や育成を目指す資質・能力,学習活 動の在り方などを表現したものになることが求められる。  各学校においては,第1 の目標の趣旨をしっかりと踏まえつつ,地域や学校,生徒の実 態や特性を考慮した目標を,創意工夫を生かして独自に定めていくことが望まれている。  その際,第1 章総則第2 の1 にあるように各学校における教育目標を踏まえることが極 めて重要になる。教育目標を資質・能力の三つの柱を視点に分析することによって育てた いと願う生徒像を明らかにし,その姿の実現に向けた資質・能力を構造的に位置付けるこ となどが求められる。  上記の点を適切に反映した上で,これまで各学校が取り組んできた経験を生かして,各 目標の要素のいずれかを具体化したり,重点化したり,別の要素を付け加えたりして目標 を設定することが考えられる。  目標の記述の仕方については決まった型があるわけではないが,例えば,以下のような 示し方が考えられる。 【設定例】  探究の見方・考え方を働かせ,地域や社会の人,もの,ことに関わる総合的な学習 を通して,自己の在り方生き方を考えながら,適切で論理的な課題の発見と解決がで きるようにするために,以下の資質・能力を育成する。   (1) 地域や社会の人,もの,ことに関わる探究の過程において,課題の解決に必要   な知識及び技能を身に付けるとともに,地域や社会の特徴やよさに気付き,それ らが人々の関わりや協働によって支えられていることに気付く。 第2 節 各学校において定める目標の設定
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84 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成 (2) 地域や社会の人,もの,ことと自分自身との関わりから問いを見いだし,その解 決に向けて仮説を立てたり,調査して得た情報を基に分析したりする力を身に付け るとともに,論理的にまとめ・表現する力を身に付ける。 (3) 地域や社会の人,もの,ことについての探究活動に主体的・協働的に取り組むと ともに,互いのよさを生かしながら,持続可能な社会を実現するために行動し,社 会に貢献しようとする態度を育てる。  この例では, 「地域や社会の人,もの,ことに関わる」ことを明記することで,目標の 具体化を図っている。  また,第1 の目標における「よりよく課題を発見し解決していく」について,その中身 を「適切で論理的な課題の発見と解決」として重点化している。同様に(2)においても, 「仮説を立てたり」や「分析したり」及び「論理的にまとめ・表現する力を身に付ける」 と対応した重点化が図られている。  さらに, (1)では,第1 の目標における「課題に関わる概念を形成し,探究の意義や価 値を理解するようにする」を「地域や社会の特徴やよさに気付き,それらが人々の関わり や協働によって支えられていることに気付く」と具体化している。  また, (3)では, 「学びに向かう力,人間性等」について, 「持続可能な社会を実現する ために行動し,社会に貢献しようとする態度を育てる」を付加している。  各学校における目標の設定に際しては,既に各学校において機能している目標について は,第1 の目標及び各学校における教育目標を踏まえ検討するところから始めることも考 えられる。どちらにしても,各学校における実践の成果を発展させるという姿勢で取り組 むことが大切である。実際の作業を進めていく中で多くの学校が直面するのは,詳しく書 こうとすればするほど文章が長くなってしまい,全体としての意味の把握が難しくなると いう問題である。重要なことは,適切な分量の中で各学校が大切にしたいことを,分かり やすい表現で盛り込むように工夫することである。そのためにも,具体的な生徒の姿をイ メージしながら,各学校の実態に応じた目標の記述となるよう,校内での議論を尽くして いくことが重要である。  ここまで述べてきた目標を作成する作業に先立って,各学校においては,総合的な探究 の時間で育成したいものを明確化する必要がある。具体的には,各学校における教育目標 ないしは育てたい生徒像のうち,他教科等で実現を目指している部分を確認した上で,総 合的な探究の時間で育てたい生徒の姿を明らかにしていく。  その際,以下の点について考慮することが重要である。  ・ 生徒の実態  ・ 地域,社会の実態  ・ 学校の実態  ・ 生徒の成長に寄せる保護者の願い  ・ 生徒の成長に寄せる地域の願い  ・ 生徒の成長に寄せる教職員の願い
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85 2 各学校にお いて定める 目標の設定  これらは既に校内で明らかにされ,学校教育目標や育てたい生徒像の中に盛り込まれて いるはずである。今回の改訂により,改めて示された目標の趣旨を踏まえて,その観点か ら検討し直す必要がある。
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86 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成  本解説第4 章でも述べた通り,この時間の内容は, 「目標を実現するにふさわしい探究 課題」及び「探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力」を各学校が定め る。つまり, 「何を学ぶか」とそれを通して「どのようなことができるようになるか」と いうことを各学校が具体的に設定するということであり,他教科等にない大きな特徴の一 つである。このことはこれまでの総合的な学習の時間の考え方を転換するものではないが, 今回の改訂全体として, 「何ができるようになるか(育成を目指す資質・能力) 」と,その ために「何を学ぶか(学習の内容) 」と「どのように学ぶか(学習方法) 」のいずれもが重 要であることを明示したことを受け,総合的な探究の時間の内容の設定においてもその趣 旨を明確にしたものである。  各学校が設定する内容は,探究課題としてどのような対象と関わり,その探究課題の解 決を通して,どのような資質・能力を育成するのかを記述する。このように,両者は互い に関係していると同時に,両者がそろって初めて,各学校が定める目標の実現に向けて指 導計画は適切に機能する。  目標を実現するにふさわしい探究課題とは,目標の実現に向けて学校として設定した, 生徒が探究に取り組むためのものであり,従来「学習対象」と説明してきたものに相当す る。生徒が課題について探究することを通して学ぶという学習過程も重要であることを明 確にするために,今回の改訂では「探究課題」として示した。  目標を実現するにふさわしい探究課題については,本解説第4 章第3 節で解説したよう に,学校の実態に応じて,例えば,国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸 課題に対応する横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題,生徒の興味・関 心に基づく課題,職業や自己の進路に関する課題など,横断的・総合的な学習としての性 格をもち,探究の見方・考え方を働かせて学習することがふさわしく,それらの解決を通 して育成される資質・能力が,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発見し 解決していくことに結び付いていくような,教育的に価値のある諸課題であることが求め られる。探究の見方・考え方を働かせて学習することがふさわしいということは,一つの 決まった正しい答えがあるわけでなく,様々な教科・科目等で学んだ見方・考え方を総合 的・統合的に活用しながら,様々な角度から捉え,考えることができるものであることが 求められるということである。  しかし,それぞれの課題はあくまでも例示であり,各学校が探究課題を設定する際の参 考として示したものである。これらの例示を参考にしながら,各学校の総合的な探究の時 間の目標や,生徒,学校,地域の実態に応じて,探究課題を設定することが求められる。 第3 節 各学校が定める内容の設定 1 各学校が定める内容とは 2 目標を実現するにふさわしい探究課題
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87 3 各学校が定 める内容の 設定  例示されたこれらの課題は,生徒の発達の段階において,第1 の目標から導かれる以下 の三つの要件を適切に実施するものとして考えられ,示されている。   (1) 探究の見方・考え方を働かせて学習することがふさわしい課題であること   (2) その課題をめぐって展開される学習が,横断的・総合的な学習としての性格をもつ こと   (3) その課題を学ぶことにより,自己の在り方生き方を考えながら,よりよく課題を発 見し解決していくことに結び付いていくような資質・能力の育成が見込めること  以下に,例示した課題の特質について示す。 現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な課題  国際理解,情報,環境,福祉・健康などの現代的な諸課題に対応する横断的・総合的な 課題とは,社会の変化に伴って切実に意識されるようになってきた現代社会の諸課題のこ とである。そのいずれもが,持続可能な社会の実現に関わる課題であり,現代社会に生き る全ての人が,これらの課題を自分のこととして考え,よりよい解決に向けて行動するこ とが望まれている。また,これらの課題については正解や答えが一つに定まっているもの ではなく,従来の各教科・科目等の枠組みでは必ずしも適切に扱うことができない。した がって,こうした課題を総合的な探究の時間の探究課題として取り上げ,その解決を通し て具体的な資質・能力を育成していくことには大きな意義がある。  これらを参考に探究課題を設定する場合,例えば,以下のようなことが考えられる。  ・ 国際理解:外国人の生活者とその人たちの多様な価値観  ・ 情報:情報化の進展とそれに伴う経済生活や消費行動の変化  ・ 環境:自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題  ・ 福祉:高齢者の暮らしを支援する福祉の仕組みや取組  ・ 健康:心身の健康とストレス社会の問題 など  一方,ここに示した課題を全て取り上げる必要はない。地域や学校,生徒の実態に応じ て,取り組みやすい課題や特に必要と考えられる課題に重点的に取り組むことも考えられ る。あるいは,生徒の多様な意識を生かすことも大切である。なお,課題の設定に際して は,持続可能な開発目標(SDGs)の17 の目標を参考にすることも考えられる。また,例 示以外の課題についての学習活動を行うことも考えられる。例えば,以下に示すように, 資源エネルギーや食のほか,科学技術,理科,数学,美術教育などを横断的・総合的に取 り扱った課題を設定することなども考えられる。  ・ 資源エネルギー:社会生活の変化と資源やエネルギーの問題  ・ 食:食の問題とそれに関わる生産・流通過程と消費行動  ・ 科学技術:科学技術の発展と社会生活や経済活動の変化 など 地域や学校の特色に応じた課題  地域や学校の特色に応じた課題とは,町づくり,伝統文化,地域経済,防災,都市計画,
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88 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成 観光など,各地域や各学校に固有な諸課題のことである。全ての地域社会には,その地域 ならではのよさがあり特色がある。古くからの伝統や習慣が現在まで残されている地域, 地域の気候や風土を生かした特産物や工芸品を製造している地域など,様々に存在してい る。これらの特色に応じた課題は,よりよい郷土の創造に関わって生じる地域ならではの 課題であり,生徒が地域における自己の在り方生き方との関わりで考え,よりよい解決に 向けて地域社会で行動していくことが望まれている。また,これらの課題についても正解 や答えが一つに定まっているものではなく,既存の各教科・科目等の枠組みでは必ずしも 適切に扱うことができない。しかも,生徒にとっては,自分自身の取組が地域や社会を変 え,社会に参画・貢献していることを実感できる課題でもある。したがって,こうした課 題を総合的な探究の時間の探究課題として取り上げ,その解決を通して具体的な資質・能 力を育成していくことには大きな意義がある。  これらを参考に探究課題を設定する場合,例えば,以下のようなことが考えられる。  ・ 町づくり:地域活性化に向けた特色ある取組  ・ 伝統文化:地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織  ・ 地域経済:商店街の再生に向けて努力する人々と地域社会  ・ 防災:安全な町づくりに向けた防災計画の策定 など 生徒の興味・関心に基づく課題  生徒の興味・関心に基づく課題とは,生徒がそれぞれの発達段階に応じて興味・関心を 抱く課題のことである。個々の生徒が,日常の生活はもちろん各教科・科目等における学 習の進展に応じて興味・関心を抱いたり,各教科・科目等の学習を契機に生起したりする ことも期待できる課題である。これらの課題は,一人一人の生活と深く関わっており,生 徒が自己の在り方生き方との関わりで考え,よりよい解決に向けて行動することが望まれ ている。  総合的な探究の時間は,生徒が自己の在り方生き方を考えながら,自ら学び,自ら考え ることを目指した時間であり,生徒の主体的な学習態度を育成する時間である。その意味 からも,総合的な探究の時間において,生徒の興味・関心に基づく探究課題を取り上げ, その解決を通して具体的な資質・能力を育成していくことは重要なことである。  なお,生徒の興味・関心に基づく課題については,横断的・総合的な学習として,探究 の見方・考え方を働かせ,学習の質的高まりが期待できるかどうかを,教師が十分に判断 する必要がある。たとえ生徒が興味・関心を抱いた課題であっても,総合的な探究の時間 の目標にふさわしくない場合や十分な学習の成果が得られない場合には,適切に指導を行 うことが求められる。  これらを参考に探究課題を設定する場合,例えば,以下のようなことが考えられる。  ・ 文化の創造:文化や流行の創造や表現  ・ 教育・保育:変化する社会と教育や保育の質的転換  ・ 生命・医療:生命の尊厳と医療や介護の現実 など
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89 3 各学校が定 める内容の 設定 職業や自己の進路に関する課題  職業や自己の将来に関する課題とは,自己の在り方に関する思索を自身の進路に結び付 け,自己の生き方について現実的,実際的に検討する上で必要となる諸課題のことである。 本解説第6 章第1 節でも述べたように,この時期の生徒は,人間としての在り方や将来の 生き方について,理想的,理念的に深く考えることを求めているとともに,就職や進学を 控え,現実的,実際的に検討することを迫られてもいる。職業や自己の進路について,こ の両面から思う存分,納得がいくまで探究する機会を提供し,自己の中で統合できるまで に導くことは,生徒の人間的成熟や安定の確保,自己の将来を力強く着実に切り開いてい こうとする資質・能力の育成において,極めて重要である。  これらを参考に探究課題を設定する場合,例えば,以下のようなことが考えられる。  ・ 職業:職業の選択と社会貢献及び自己実現  ・ 勤労:働くことの意味や価値と社会的責任  なお,参考として示した四つの課題は,互いにつながり合い,関わり合っている課題で あり,それぞれの学習活動の広がりと深まりによって,しばしば関連して現れてくるもの である。  各学校において,横断的・総合的な課題,地域や学校の特色に応じた課題の趣旨を踏ま えて内容を設定する場合には,それぞれの地域における現実の生活との関わりにおいて, 各課題がどのような具体的な現れ方をしているか,また各課題に関わって人々や機関がど のように考え,あるいはどのように行動しているか,その実態を幅広く正確に把握する必 要がある。その際,客観的な把握と同時に,それらが生徒にとってどのように映っている か,生徒の実感や興味・関心の観点からも捉えておく必要がある。  また,生徒の興味・関心に応じた課題,職業や自己の進路に関する課題の趣旨を踏まえ て内容を設定する場合には,各課題に関わって生徒が何を感じ,どのように考え,あるい はどのように行動しているか,その実態を幅広く正確に把握する必要がある。  各学校においては,以上のような検討を踏まえて,何が内容として適切であるかを判断 することになる。この時,扱いたいと考える内容はどうしても多くなりがちだが,限られ た時数の中で適切に扱うことが可能な内容には,おのずと限界がある。各学校で定めた目 標や生徒の実態等に配慮し,全体としてのバランスをとりながら,優先順位を考え取捨選 択することで,質と量の双方において適切な内容を選定することになる。  ここまで述べてきたように,探究課題とは,生徒が探究的に関わりを深める人・もの・ ことを示したものであり,例示された課題を更に具体化したものである。
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90 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成 四つの課題 探究課題の例 横断的・総合的な課 題 (現代的な諸課題) 外国人の生活者とその人たちの多様な価値観 (国際理解) 情報化の進展とそれに伴う経済生活や消費行動の変化 (情報) 自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題 (環境) 高齢者の暮らしを支援する福祉の仕組みや取組 (福祉) 心身の健康とストレス社会の問題 (健康) 社会生活の変化と資源やエネルギーの問題 (資源エネルギー) 食の問題とそれに関わる生産・流通過程と消費行動 (食) 科学技術の発展と社会生活や経済活動の変化 (科学技術)  など 地域や学校の特色に 応じた課題 地域活性化に向けた特色ある取組 (町づくり) 地域の伝統や文化とその継承に取り組む人々や組織 (伝統文化) 商店街の再生に向けて努力する人々と地域社会 (地域経済) 安全な町づくりに向けた防災計画の策定 (防災)  など 生徒の興味・関心に 基づく課題 文化や流行の創造や表現 (文化の創造) 変化する社会と教育や保育の質的転換 (教育・保育) 生命の尊厳と医療や介護の現実 (生命・医療)  など 職業や自己の進路に 関する課題 職業の選択と社会貢献及び自己実現 (職業) 働くことの意味や価値と社会的責任 (勤労)  など  探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力とは,各学校において定める 目標に記された資質・能力を各探究課題に即して具体化したものであり,生徒が各探究課 題の解決に取り組む中で,教師の適切な指導により実現を目指す資質・能力のことである。 したがって,探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力には,各学校の目 標が実現された際に現れる望ましい生徒の成長の姿が示されることになる。各学校におい て定める目標と,探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力の二つにより, この時間の教育活動を通して「どんな子供を育てたいか」を明示することになる。  これまでは,総合的な学習の時間において「育てようとする資質や能力及び態度」とし て,育成を目指す資質・能力・態度としては, 「学習方法に関すること」 , 「自分自身に関 すること」 , 「他者や社会との関わりに関すること」の三つの視点を参考にして例示されて いた。この視点は,全国の実践事例を整理する中で見いだされてきたものであるとともに, OECD が示した主要能力(キー・コンピテンシー)にも符合している。各学校においては, 3 探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力
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91 3 各学校が定 める内容の 設定 三つの視点を参考にして「育成を目指す資質・能力」を明らかにし,その育成に向けて取 り組み,成果を挙げてきた。  今回の改訂では,こうした趣旨を受け継ぎつつ,資質・能力の三つの柱に沿って,この 時間における探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力について各学校で 明らかにしていく。 (1)知識及び技能  探究の過程において,それぞれの課題についての事実的知識や技能が獲得される。この 「知識及び技能」は,各学校が設定する内容に応じて異なる。このため,学習指導要領に おいては,習得すべき知識や技能については示していない。一方,事実的知識は探究のプ ロセスが繰り返され,連続していく中で,何度も活用され発揮されていくことで,構造化 され生きて働く概念的な知識へと高まっていく。  総合的な探究の時間では,各教科・科目等の枠を超えて,知識や技能の統合がなされて いくことにより,概念的な知識については,教科や分野などを越えて,より一般化された 概念的なものを学ぶことができる。  例えば,  ・ それぞれには特徴があり,多種多様に存在している(多様性)  ・ それぞれに違いがあり,個別のよさをもっている(独自性)  ・ 互いに関わりながらよさを生かしている(相互性)  ・ 力を合わせ,目的の実現に向けて取り組む(協働性)  ・ 物事には終わりがあり,限りがある(有限性)  ・ 新しいものを創り出し,生み出していく(創造性) などである。探究の過程により,どのような概念的な知識が獲得されるかということにつ いては,何を探究課題として設定するか等により異なる。例えば, 「外国人の生活者とそ の人たちの多様な価値観」を探究課題として設定した場合は,  ・  「世界各地には,それぞれの文化や伝統があり,それを大切にして生活しているこ と(独自性) 」  ・  「文化的背景の多様性を受け入れつつ,様々な立場の人が支え合い,協力し合って いること(協働性) 」  ・  「文化や伝統,生活様式の違いを生かした新しい価値を生み出していること(創造 性) 」 などが考えられる。また, 「自然環境とそこに起きているグローバルな環境問題」を探究 課題として設定した場合は,  ・  「生物はそれぞれに異なる生態的特徴をもっており,それは生育環境に影響を受け ていること(多様性) 」  ・  「自然環境は互いに関わり関係しながら,国を越えて地球規模でつながっているこ
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92 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成 と(相互性) 」  ・  「自然環境は様々な要因で変化する可能性があり,限りがあること(有限性) 」 などが考えられる。  この例では,直接的に学習で関わる対象は「外国人の生活者とその暮らしや価値観」 「自然環境とその変化や現状」であるが,それを探究することを通して獲得される概念は, 対象に限定された概念だけではなく,広く持続可能な社会づくりに関わる様々なテーマに ついて考える際にも使うことができる概念的な知識となりうる。各学校が目標や内容を設 定するに当たっては,どのような概念的な知識が形成されるか,どのように概念的な知識 を明示していくかなどについても検討していくことが重要である。  技能についても,探究のプロセスが繰り返され,連続していく中で,何度も活用され発 揮されていくことで,自在に活用できる技能として身に付いていく。各学校においては, 探究の過程に必要な技能の例を明示していくことなども考えられる。 (2)思考力,判断力,表現力等   「思考力,判断力,表現力等」の育成については,課題の発見と解決に向けて行われる 横断的・総合的な学習や探究において,①課題の設定,②情報の収集,③整理・分析,④ まとめ・表現の探究のプロセスが繰り返され,連続することによって実現される。この探 究の過程では, 「探究の見方・考え方」を働かせながら,それぞれのプロセスで期待され る資質・能力が育成される。  この資質・能力については,これまで各学校で設定する「育てようとする資質や能力及 び態度」の視点として「学習方法に関すること」としていたことに対応している。  こうした探究の過程において必要となる資質・能力を育成することは,総合的な探究の 時間が,各教科・科目等の学習過程の質的向上に資することを意味する。  重要なことは,課題の発見と解決に向けて必要となる「思考力,判断力,表現力等」は, 実際に課題の解決に向けた学習をする中で,探究のプロセスの各段階において必要となる 「思考力,判断力,表現力等」を実際に使うような学習を行うことで,成長していくもの であるということである。総合的な探究の時間において育成することを目指す「思考力, 判断力,表現力等」を,探究のプロセスの各段階で整理すると次のようになる。  こうした「思考力,判断力,表現力等」は,この探究課題ならばこの力が育まれるとい ったような対応関係があるものではなく,複数の単元を通して,さらには学年や学校段階 をまたいで,探究の過程を行うことで,時間をかけながら徐々に育成していくものである。  このため,それぞれの探究の過程で育成される資質・能力について,生徒の発達の段階 や,課題の解決や探究活動への習熟の状況,その他生徒や学校の実態に応じた設定をして いくことが重要である。
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93 3 各学校が定 める内容の 設定 探究の過程における思考力,判断力,表現力等の深まり (例) ①課題の設定 ②情報の収集 ③整理・分析 ④まとめ・表現 よ り複雑な問題状況 確かな見通し,仮説 例) ▪ 複雑な問題状況の中か ら適切に課題を設定する ▪ 仮説を立て,検証方法 を考え,計画を立案する  な ど よ り効率的・効果的な手段 多様な方法からの選択 例) ▪ 目的に応じて手段を選択 し,情報を収集する ▪ 必要な情報を収集し,類 別して蓄積する  な ど よ り深い分析 確かな根拠付け 例) ▪ 複雑な問題状況におけ る事実や関係を把握し, 自分の考えを もつ ▪ 視点を定めて多様な情 報を分析する ▪ 課題解決を目指して事 象を比較したり,因果 関係を推測したりして 考える  な ど よ り論理的で効果的な表現 内省の深ま り 例) ▪ 相手や目的,意図に応じ て論理的に表現する ▪ 学習の仕方や進め方を振 り返り,学習や生活に生 かそ う とする  な ど  例えば,課題の設定については,生徒の課題の解決や探究活動への習熟が高まるにつれ て,問題状況を単純なものからより複雑なものへとしたり,解決の手順等について教師が あらかじめ示すことを段々と少なくし,生徒自身が見通しや仮説を立てることに比重を移 したりして,質を高めていくことが考えられる。  同じように,情報の収集においては,多様な方法からより効率的・効果的な手段を選択 できるようにしたり,整理・分析においては,より深く分析したり,より確かな根拠付け が行われるよう質を高めていくことが考えられる。  まとめ・表現については,相手や目的に応じてより分かりやすく伝わるように,より論理 的で効果的な表現を工夫したり,学習を振り返る中で,より物事や自分自身に関して深い 気付きとなるよう内省的な考え方が深まるようにしたりしていくことが考えられる。 (3)学びに向かう力,人間性等   「学びに向かう力,人間性等」は,本解説第3 章で解説したとおり,今回の改訂では, 第4 章総合的な探究の時間第2 の3 の (6)において, 「学びに向かう力,人間性等につい ては,自分自身に関すること及び他者や社会との関わりに関することの両方の視点を踏ま えること」と示した。  自分自身に関することとしては,自己理解や主体性,将来展望などに関わる心情や態度, 他者や社会との関わりに関することとしては,他者理解や協働性,社会参画などに関わる 心情や態度が考えられる。  一方,自分自身に関することと他者や社会との関わりに関することとは截 せつ 然と区別され るものではなく,例えば,社会に参画することや社会への貢献のように,それぞれは,積 極的に社会参画をしていこうという態度を育むという意味においては他者や社会との関わ りに関することである。また,探究を通して学んだことと他者理解とを結び付けながら自 分の将来や進路について夢や希望をもとうとすることは,自分自身に関することとも深く
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94 第7 章 総合的な探究 の時間の指導 計画の作成 関わることであると考えることもできる。  重要なことは,自分自身に関することと他者や社会との関わりに関することの二つのバ ランスをとり,関係を意識することである。主体性と協働性とは互いに影響し合っている ものであり,自己の理解なくして他者を深く理解することは難しい。  このように,各学校において育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」を設定するに 当たっては,従来,各学校が定めることとされてきた自分自身に関することと他者や社会 との関わりに関することを参考に,両者のつながりを検討することも大切になる。 学びに向かう力,人間性等 例) 自己理解・他者理解 例) 主体性・協働性 例) 将来展望・社会参画 自分自身に 関すること 探究を通して,自己を見つ め,自分の個性や特徴に向 き合おうとする 自分の意思で真摯に課題に 向き合い,解決に向けた探 究に取り組もうとする 探究を通して,自己の在り 方生き方を考えながら,将 来社会の理想を実現しよう とする 他者や社会と の関わりに 関すること 探究を通して,異なる多様 な意見を受け入れ尊重しよ うとする 自他のよさを認め特徴を生 かしながら,協働して解決 に向けた探究に取り組もう とする 探究を通して,社会の形成 者としての自覚をもって, 社会に参画・貢献しようと する  総合的な探究の時間において育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」は, 「思考力, 判断力,表現力等」にも増して,様々な学習活動を通して,時間を掛けながらじっくりと 養い育んでいくものと考えることができる。すなわち,確かに育んでいこうとする心情や 態度を,学年や学校段階に応じて,段階的かつ明確に設定しようとすることは難しい。そ うした特性を踏まえた上で,学年が上がったり,難易度の高い探究活動を行ったりする中 で, 「学びに向かう力,人間性等」は,例えば,以下のような視点と方向性で高まりなが ら,ゆっくりと着実に育んでいくことが期待される。  一つは,より複雑な状況や多様で異なる他者との間においても発揮されるようになるこ とである。例えば,他者理解という視点で言えば,異なる立場,異なる考え方をもつ相手 のことを認め,理解しようとすることができるようになることであり,自己理解について は,様々に困難な状況に挑戦する中で自分を客観的に見つめ,自分らしさを発揮できるよ うになることなどが考えられる。状況や場面が変わる中でも,それらは確かに発揮できる ように育成されることが期待される。  二つは,より自律的で,しかも安定的かつ継続的に発揮されるようになることである。 自らの意志で自覚的に,しかも粘り強く発揮し続けられるようになることが期待される。  三つは, 「自分自身に関すること」 , 「他者や社会との関わりに関すること」は互いにつ ながりのあるものとなり,両者が一体となった資質・能力として発揮され,育成されるよ うになることである。  このように,各学校において育成を目指す「学びに向かう力,人間性等」を設定するに