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純粋経済学要論 | Da,b=Fa,b(pa,b, pc,b)Dc,b=Fc,b(pa,b, pc,b)が得られる。 同様にして(C)の所有者の全部のせり上げの傾向を表わす総需要の二つの方程式Da,c=Fa,c(pa,c, pb,c)Db,c=Fb,c(pa,c, pb,c)が得られる。 同様にして、最後に(A)の所有者の全部のせり上げの傾向を表わす総需要の二つの方程式Db,a=Fb,a(pb,a, pc,a)Dc,a=Fc,a(pb,a, pc,a)が得られる。 一〇七 その外に、(B)と(A)または(C)との交換の二つの交換方程式Db,a=Da,bpa,bDb,c=Dc,bpc,bが得られる。 また、(C)と(A)または(B)の交換の二つの交換方程式Dc,a=Da,cpa,cDc,b=Db,cpb,cが得られる。 最後に、(A)と(B)または(C)との交換の二つの交換方程式Da,b=Db,apb,aDa,c=Dc,apc,a |
純粋経済学要論 | が得られる。 結局、三商品のそれぞれで表わした価格六個と、相互に交換せられる三商品のそれぞれの交換合計量六個と合せて、十二個の未知数の間に、十二の方程式が成り立つ。 一〇八 いまある市場に、(A)、(B)、(C)、(D)……等m種の商品があるとする。この場合にも、二商品及び三商品の場合になしたと同じ推論――これを繰り返し述べるのは無用であろう――によって、まず(A)をもってする(B)、(C)、(D)……の有効需要の方程式 m-1 個Db,a=Fb,a(pb,a, pc,a, pd,a ……)Dc,a=Fc,a(pb,a, pc,a, pd,a ……)Dd,a=Fd,a(pb,a, pc,a, pd,a ……)……………………………………を得ることが出来る。また(B)をもってする(A)、(C)、(D)……の有効需要の方程式 m-1 個Da,b=Fa,b(pa,b, pc,b, pd,b ……) |
純粋経済学要論 | Dc,b=Fc,b(pa,b, pc,b, pd,b ……)Dd,b=Fd,b(pa,b, pc,b, pd,b ……)……………………………………を得る。更にまた(C)をもってする(A)、(B)、(D)……の有効需要の方程式 m-1 個Da,c=Fa,c(pa,c, pb,c, pd,c ……)Db,c=Fb,c(pa,c, pb,c, pd,c ……)Dd,c=Fd,c(pa,c, pb,c, pd,c ……)……………………………………を得ることが出来る。更にまた(D)をもってする(A)、(B)、(C)……の有効需要の方程式 m-1 個Da,d=Fa,d(pa,d, pb,d, pc,d ……)Db,d=Fb,d(pa,d, pb,d, pc,d ……)Dc,d=Fc,d(pa,d, pb,d, pc,d ……)……………………………………が得られる。このようにして、総数 m(m-1) 個の方程式が得られる。 |
純粋経済学要論 | 一〇九 他方、新しい説明を加えることなく、(A)と(B)、(C)、(D)……との交換の交換方程式 m-1 個Da,b=Db,apb,aDa,c=Dc,apc,aDa,d=Dd,apd,a…………………を立てることが出来る。また(B)と(A)、(C)、(D)……との交換方程式 m-1 個Db,a=Da,bpa,bDb,c=Dc,bpc,bDb,d=Dd,bpd,b…………………を立てることが出来る。更にまた(C)と(A)、(B)、(D)……の交換の方程式 m-1 個Dc,a=Da,cpa,cDc,b=Db,cpb,cDc,d=Dd,cpd,c…………………を立てることが出来る。更にまた(D)と(A)、(B)、(C)……の交換の方程式 m-1 個Dd,a=Da,dpa,dDd,b=Db,dpb,dDd,c=Dc,dpc,d…………………が得られる。すなわち総数 m(m-1) 個の交換方程式を立てることが出来る。 |
純粋経済学要論 | これら m(m-1) 個の交換方程式と m(m-1) 個の有効需要の方程式とを合せ、2m(m-1) 個の方程式が得られる。ところで未知数もまた 2m(m-1) 個である。けだし二つずつ互に交換せられるm種の商品に対しては、m(m-1) 個の価格と m(m-1) 個の交換合計量とがあるからである。 一一〇 交換の特殊の場合である二商品間の交換の場合及び三商品相互間の交換の場合には、問題は、幾何学的にも、代数的にも、解かれ得る。なぜならこれら二つの場合には、需要の函数が幾何学的に表現せられ得るからである。二商品の交換の場合には、需要函数は一変数の函数であって、二つの曲線によって表わされ得る。三商品の交換の場合には、需要函数は二つの変数の函数であって、六個の面積によって表わされ得る。前の場合の幾何学的解法は、曲線のうちに単に矩形を画くことにあるし、後の場合のそれは曲面と平面とを交わらしめて得る曲線のうちに矩形を画くことにある。 |
純粋経済学要論 | しかるに一般的な場合には、需要の函数は m-1 個の変数の函数であって、空間のうちには表わし得られない。この場合の問題が、幾何学的にではなく、代数的に提出し、解かれなければならない理由はここにある(一)。しかしここでも忘れてはならないが、問題を提出し、これを解くことは、与えられるいかなる場合にも、問題を実際に解くのではなくして、市場に経験的に与えられかつ解かれている問題の性質を科学的に解釈するというだけのことである。この観点から見ると、代数的解法は幾何学的解法と同等の価値があるという以上に、解析的解法を採用すれば、傑れた一般的で科学的な解法を採用したということが出来よう。 一一一 このようにして多数の商品の間の交換の問題は解けたように見える。しかし実は半ばしか解けていない。上に限定した条件の下では、市場に二つずつの商品の価格のある均衡があるわけである。だがそれは不完全均衡に過ぎない。市場の完全均衡(équilibre parfait)または一般的均衡(équilibre général)は、任意の二つずつの商品の一方で表わした価格が、任意の第三の商品で表わしたそれらそれぞれの商品の価格の比に等しくなければ、実現し得ない。 |
純粋経済学要論 | これを証明せねばならないが、そのために例えば多くの商品の中の(A)、(B)、(C)の三つを採り、価格 pc,b は、価格 pc,a と pb,a との比より大であるかまたはより小であると想像し、それからいかなる結果が生ずるかを見よう。 推論の正確を期するため、すべての商品(A)、(B)、(C)、(D)……等の交換が行われる市場として役立つ場所が、二商品ずつ交換せられる部分的市場に分れると想像する。他の表現をもってすれば、市場が、交換せられる商品の名称及び上に記した方程式のシステムによって数学的に決定せられる価格を指示する標識をもって区別せられる個の特別の市場に分たれると、想像する。しからば“互に逆数の価格 pa,b, pb,a で行われる(A)と(B)、(B)と(A)との交換”、“互に逆数の価格 pa,c, pc,a で行われる(A)と(C)、(C)と(A)との交換”、“互に逆数の価格 pb,c, pc,b で行われる(B)と(C)、(C)と(B)との交換”、があるわけである。 |
純粋経済学要論 | これだけを前提とし、もし、(B)及び(C)を欲する(A)の各所有者が右の第一及び第二の特別市場で、この(A)を(B)及び(C)と交換するに止まるとすれば、またもし、(A)及び(C)を欲する(B)の各所有者が右の第一及び第三の特別市場で、この(B)を(A)及び(C)と交換するに止まるとすれば、またもし(A)及び(B)を欲する(C)の各所有者が第二及び第三の特別市場で、この(C)を(A)及び(B)と交換するに止まるとすれば、均衡はこれらの状態の下において保たれる。だが容易に了解し得るように、(A)の所有者も、(B)の所有者も、(C)の所有者も、この交換の方法を採用しないであろう。彼らはいずれも、自分に最も有利であろう所の方法で交換を行うであろう。 一一二 そこで、まず α>1 であるとし、すなわちであると仮定する。 この方程式から、(B)で表わした(C)の真の価格は、pc,b ではなくして、であるという結果が出てくる。 |
純粋経済学要論 | なぜなら、商品(A、B)の市場において、(B)で表わした(A)の価格がであるときには、(B)ので、(A)のが得られるからであり、商品(A、C)の市場において、(A)で表わした(C)の価格がであるときは、(A)ので、(C)のが得られるからである。 また(A)で表わした(B)の真の価格も pb,a ではなくして、であるという結果が出てくる。なぜなら、商品(A、C)の市場において、(A)で表わした(C)の価格がであるときには、(A)ので、(C)のが得られ、商品(B、C)の市場において、(C)で表わした(B)の価格がであるときには、(C)ので、(B)のが得られるからである。 最後にはまた、(C)で表わした(A)の価格も pa,c ではなく、である。なぜなら、商品(B、C)の市場において、(C)で表わした(B)の価格がであるとき、(C)ので、(B)のが得られ、商品(A、B)の市場において、(B)で表わした(A)の価格がであるとき、(B)ので、(A)のが得られるからである。 |
純粋経済学要論 | 一一三 この点を具体的数字によって明らかにするため、pc,b=4, pc,a=6, pb,a=2 であると仮定すれば、α=1.33 となる。しからば式から、(B)で表わした(C)の真の価格は4ではなく、であるという結果が出てくる。なぜなら、商品(A、B)の市場において(B)で表わした(A)の価格がであるときは、(B)の3で、(A)の 3×2=6 が得られ、また商品(A、C)の市場において、(A)で表わした(C)の価格が6であるときには、(A)の6で、(C)のが得られるからである。 なおまた、(A)で表わした(B)の真の価格は2ではなく、であるという結果が出てくる。なぜなら、商品(A、C)の市場で、(A)で表わした(C)の価格が6であるときは、(A)の 1.50 で、(C)のが得られ、商品(B、C)の市場において、(C)で表わした(B)の価格がであるときは、(C)ので、(B)のが得られるからである。 |
純粋経済学要論 | 最後にまた(C)で表わした(A)の真の価格はではなくして、であるという結果が出てくる。なぜなら、商品(B、C)の市場において、(C)で表わした(B)の価格がであるときは、(C)ので、(B)のが得られ、商品(A、B)の市場においては、(B)で表わした(A)の価格がであるときは、(B)ので、(A)のが得られるからである。 一一四 そこで、(A)、(B)、(C)の各所有者のある者は、(A)と(B)との直接的交換を、躊躇なく、(A)と(C)及び、(C)と(B)との間接的交換に代え、またある他の者は、(B)と(C)との直接的交換を、躊躇なく、(B)と(A)及び(A)と(C)との間接的交換に変化せしめ、また他のある者は、(C)と(A)との直接的交換を、躊躇なく、(C)と(B)及び(B)と(A)との間接的交換に変化せしめる。この間接的交換は裁定(arbitrage)と呼ばれる。そして彼らは、かくして得らるる節約を、思うままに種々の欲望に配分し、出来るだけ最大量の満足が得られるように、ある商品を補足増加する。 |
純粋経済学要論 | 私共は、この最大満足の条件を示すことが出来る。それは、充された最後の欲望の強度の比が、裁定から生じた真の価格に等しいということである。しかしこの考察に入ることなく、この補充的需要は主たる需要のようになされるものであることを注意するので足るであろう。すなわちこの補充的需要の場合にも、(A)の所有者は、(A)と(C)、(C)と(B)とを交換し、(A)と(B)とを交換しない。(B)の所有者は、(B)と(A)、(A)と(C)とを交換し、(B)と(C)とを交換しない。(C)の所有者は、(C)と(B)、(B)と(A)とを交換し、(C)と(A)とを交換しない。このようにして、(A、B)の市場では、常に(A)の需要と(B)の供給とがあるが、(B)の需要と(A)の供給とはない。そこで pb,a は下落する。(A、C)の市場では、常に(C)の需要と(A)の供給があるが、(A)の需要(C)の供給はない。そこで pc,a は騰貴する。 |
純粋経済学要論 | (B、C)の市場では、常に(B)の需要と(C)の供給とがあるが、(C)の需要と(B)の供給とがない。そこで pc,b は下落する。 一一五 それで解るように、である場合には、市場の均衡は決定的すなわち一般的ではない。だから裁定が行われ、その結果 pc,b は下落し、pc,a は騰貴し、pb,a は下落する。また同時に解るように、である場合には、市場において裁定が行われ、その結果 pc,b は騰貴し、pc,a は下落し、pb,a は騰貴する。実際この場合には α<1 とすれば、すなわちαpb,cpa,bpc,a=1である。そこで次の結果が生ずる。(C)で表わした(B)の真の価格は、(C)と(A)とを交換し、(A)と(B)とを交換することを条件として、αpb,c であり、(B)で表わした(A)の真の価格は、(B)と(C)とを交換し、(C)と(A)とを交換することを条件として、αpa,b であり、(A)で表わした(C)の真の価格は、(A)と(B)とを交換し、(B)と(C)とを交換することを条件として、αpc,a である。 |
純粋経済学要論 | そして(A)、(B)、(C)の価格について述べたことは、任意の三商品の価格についてもいい得ることは明らかである。故にもし、裁定が起らないことを欲し、市場における二つずつの商品の均衡が一般的均衡となることを欲すれば、任意の二つずつの商品の価格は、任意の第三の商品で表わしたそれぞれの価格の比に等しいという条件を入れてこなければならぬ。換言すれば、次の方程式を立てることが出来なければならぬ。このようにして、合計 (m-1)(m-1) 個の一般均衡の方程式がある。それには、逆数の価格の方程式個が陰伏的に含まれている。このようにすべての価格を表わす所の商品は価値尺度財(numéraire)である。 一一六 条件の方程式 (m-1)(m-1) 個を導き入れれば、先に述べた需要方程式と交換方程式の体系から、導入方程式に等しい数の方程式を減ぜねばならぬのは、もちろんである。これは、特殊の個々の市場に一般的市場を換えた場合に、各々の商品の間の個々の相互の需要と供給との均等を示す交換方程式に、他のすべての商品を反対給付とする各商品の需要または供給を示す次のような方程式を換えることによって、まさしく現われることである。 |
純粋経済学要論 | Da,b+Da,c+Da,d+ …… =Db,apb,a+Dc,apc,a+Dd,apd,a+ ……Db,a+Db,c+Db,d+ …… =Da,bpa,b+Dc,bpc,b+Dd,bpd,b+ ……Dc,a+Dc,b+Dc,d+ …… =Da,cpa,c+Db,cpb,c+Dd,cpd,c+ ……Dd,a+Dd,b+Dd,c+ …… =Da,dpa,d+Db,dpb,d+Dc,dpc,d+ ………………………………………………………………………………すなわち代って現われる方程式はm個である。しかしこれらm個の方程式は、縮減すれば、m-1 個となる。すなわち、一般均衡から引出した価格の値をそこに導き入れ、かつ簡単に、(A)で表わした(B)、(C)、(D)……の価格を pb, pc, pd ……で示せば、右のm個の方程式はとなる。そしてこれらの方程式の終りに位する m-1 個の方程式の中の第一の両辺に pb を乗じ、その第二の両辺に pc を、その第三に pd ……を乗じた後、これら m-1 個の方程式を加算し、両辺から同一の項を省略すれば、右のシステムの中の最初の式と同じ方程式が得られる。 |
純粋経済学要論 | だからこの最初の式は切り捨てられ得るのであり、従って右の方程式の体系は m-1 個の方程式の体系となる。これらの方程式は m-1 個の交換方程式として存在し、これらと、m(m-1) 個の需要方程式と (m-1)(m-1) 個の一般均衡の方程式とが加わって、合計 2m(m-1) 個の方程式となる。その根は、m種の商品相互で表わした価格 m(m-1) 個と、相互に交換せられるm種の商品の交換合計量 m(m-1) 個である。需要方程式が与えられたとき、価格が数学的にいかに生じてくるかは、これによって明らかになった。証明が未だ残っているのは、このような理論的解法を与えられた交換問題は、実際においてもまた市場において自由競争の機構によって同様に解決せられるということである。この点ははなはだ重要である。だがこの証明をするに先立ち、交換者が多数の商品の所有者である場合を考察してみよう。この場合もまた、最大満足の定理で簡単に容易に取扱い得る一般的場合である。 |
純粋経済学要論 | 註一 しかしこの幾何学的解法を私は附録1、価格決定の幾何学的理論に示しておいた。 第十二章 多数の商品の間の交換の問題の数学的解法の一般的方式。商品の価格の成立の法則要目 一一七 多数の商品の所有者の一般の場合。一一八 交換量の均等の方程式、極大満足の方程式、部分的需要または供給の方程式。一一九、一二〇、一二一、一二二 供給が所有量に等しい条件、その結果。一二三 全部需要及び供給の均等方程式。一二四 市場における多数商品の交換。一二五 叫ぶ価格、価値尺度財による価格は一般均衡を含む。最大満足の条件に適合する部分的需要または供給の計算によらない決定。一二六、一二七 全部需要または供給の不均等。一二八 価格が零から無限大まで変化するときの全部需要または供給の変化。一二九、一三〇 需要が供給を超過するとき価格を引上げ、供給が需要を超過するとき価格を引下げねばならぬ。 一一七 二商品相互間の交換の場合と同じく、いかなる数の商品間の交換の場合においても、部分的需要の方程式は、欲望の最大満足の条件によって、数学的に決定せられる。 |
純粋経済学要論 | ところでこの条件はいかなるものであるか。それは、常に、任意の二商品の稀少性の比が、これら二商品の一方で表わした他方の商品の価格に等しいということである。もしこれが相等しくないとしたら、この両者を交換すれば利益が得られる(第八〇節)。だが各交換者がただ一つの商品のみを所有し、かつ裁定をさせる目的で、人々が m 個の商品の二つずつの m(m-1) 個の価格を叫んだとし、もしこれらが一般均衡の条件に適ったものでないならば、それらの価格においては、各交換者に最大の満足は生じない。各交換者に最大の満足が生ずるのは、各交換者が需要する商品の稀少性の自分が所有する商品の稀少性に対する比が、裁定によって得られる真の価格に等しいときである。しかしもし、交換者が多数の商品の所有者であり、裁定が発生しないことを欲し、価値尺度財として採択せられた第m番目の商品で表わした m-1 個の商品の価格 m-1 個を叫ぶとすれば、任意の二商品の中の一方で表わした他方の価格は、価値尺度財で表わした二商品のそれぞれの価格の比に等しくなければならないから、各交換者に対し最大満足が生ずるのは、価値尺度財以外の商品の各々の稀少性と、この価値尺度財の稀少性との比が、叫ばれたそれぞれの価格に等しいときであることは明らかである。 |
純粋経済学要論 | 一一八 そこで、交換者(1)は、(A)の qa,1 量、(B)の qb,1 量、(C)の qc,1 量、(D)の qd,1 量……の所有者であるとする。またこの交換者に対する、ある期間における商品(A)、(B)、(C)、(D)……の利用曲線すなわち欲望曲線は、それぞれ r=φa,1(q), r=φb,1(q), r=φc,1(q), r=φd,1(q) ……であるとする。(A)で表わした(B)、(C)、(D)……の価格は、それぞれ pb, pc, pd ……であるとする。そして価格が pb, pc, pd ……であるとき、この交換者(1)が自分で所有していた量 qa,1, qb,1, qc,1, qd,1 …に加える所の(A)、(B)、(C)、(D)……のそれぞれの量を、x1, y1, z1, w1 ……とする。この加えられた量は正である場合がある。そのときには、それらは需要量を示す。またそれらは負であり得るが、その場合には、供給量を示す。 |
純粋経済学要論 | そしてこの交換者がある商品を需要するには、等価量の他の商品を供給せねばならないから、x1, y1, z1, w1 ……等の量のうちで、あるものが+であれば、他は-であること、またこれらの間に一般的に方程式x1+y1pb+z1pc+w1pd+ …=0が成立することは、明らかである。 また最大満足の状態が仮定せられているから、これらの量の間には、次の一組の方程式が明らかに存在する。φb,1(qb,1+y1)=pbφa,1(qa,1+x1) φc,1(qc,1+z1)=pcφa,1(qa,1+x1)φd,1(qd,1+w1)=pdφa,1(qa,1+x1)……………………………………すなわち m-1 個の方程式があり、これらは、前式と合せて、m個の方程式の一組となる。これらの方程式の中で、未知数 x1, y1, z1, w1 ……の m-1 個を順次に消去し、第m番目の未知数を諸価格の函数として示す方程式だけを残すことが出来る。 |
純粋経済学要論 | ところで、交換者(1)による(A)の需要または供給は、方程式x1=-(y1pb+z1pc+w1pd ……)によって与えられ、また、右のようにして、この交換者によってなされる(B)、(C)、(D)……の需要または供給の次の如き方程式が得られる。y1=fb,1(pb, pc, pd ……)z1=fc,1(pb, pc, pd ……)w1=fd,1(pb, pc, pd ……)………………………… 同様に交換者(2)、(3)……によってなされる(A)の需要または供給は、方程式x2=-(y2pb+z2pc+w2pd ……)x3=-(y3pb+z3pc+w3pd ……)…………………………………によって与えられ、また、これらの交換者によってなされる(B)、(C)、(D)……の需要または供給の次の方程式が得られる。y2=fb,2(pb, pc, pd ……)z2=fc,2(pb, pc, pd ……) |
純粋経済学要論 | w2=fd,2(pb, pc, pd ……)…………………………y3=fb,3(pb, pc, pd ……)z3=fc,3(pb, pc, pd ……)w3=fd,3(pb, pc, pd ……)………………………… このようにして、すべての交換者のせり上げへの傾向は、諸商品のこれらの人々の各々に対する利用と、これらの人々によって所有せられるこれら商品の量とから導き出される。それはとにかく、私共の研究を進行せしめるに先立って、ここにはなはだ重要な解説をしておかねばならぬことがある。 一一九 価格 pb, pc, pd ……がある値をとるとき、y1 が負であることがあり得る。これは、交換者(1)が商品(B)を需要しないで、供給する場合である。また y1 が -qb,1 に等しいことさえもあり得る。これは、この交換者が商品(B)を残しておかない場合である。y1 のこの値を、最大満足の m-1 個の方程式の体系に入れると、これらの方程式は、 |
純粋経済学要論 | φb,1(0)=pbφa,1(qa,1+x1)φc,1(qc,1+z1)=pcφa,1(qa,1+x1)φd,1(qd,1+w1)=pdφa,1(qa,1+x1)……………………………………となる。そしてこれらの方程式及び方程式x1+y1pb+z1pc+w1pd+ …… =qb,1pbから、pb, pc, pd …を消去すれば、方程式x1φa,1(qa,1+x1)+z1φc,1(qc,1+z1)+w1φd,1(qd,1+w1)+ …… =qb,1φb,1(0)が得られる。 この方程式は、次の言葉に飜訳し得べき条件方程式である。――多数の商品の中の一商品の供給がこの商品の所有量に等しいためには、需要せられる諸商品の欲望曲線の包む面積の部分で、既に所有せられる量によって充された欲望を表わす部分より上方にある部分のうちに、矩形を画き、これら矩形の面積の合計が、供給せられる商品の所有量を高さとし、この商品の最大の欲望の強度を底辺として作られた矩形の面積に等しくなければならぬ。 |
純粋経済学要論 | この条件は、充されることもあれば、充されないこともある。もしそうであるとすれば、交換者(1)による(B)の供給は、ある場合には、自分が所有する量 qb,1 に等しいことが可能である。だが、この供給は決してこの量より大ではあり得ない。故に、(B)の需要または供給の方程式において、pb, pc, pd ……が、負の y1 を qb,1 より大ならしめるようないかなる値をとるときも、この方程式は、方程式y1=-qb,1によって置き換えられねばならぬことを注意すべきである。 一二〇 だがこれのみではない。まず、pb, pc, pd ……が負の z1, w1 ……を qc,1, qd,1 ……より大ならしめる値をとる場合の、(C)、(D)……の需要または供給の方程式にも、同じことがいわれ得る。次に、これらの方程式が、方程式z1=-qc,1, w1=-qd,1によって置き換えられねばならぬ場合にもまさしく、(B)の需要または供給の方程式は、右の結果として修正せられねばならぬ。 |
純粋経済学要論 | よって、例えば z1=-qc,1 である場合には、交換者(1)による(B)の需要または供給の方程式の体系は次の如くである。x1+y1pb+w1pd+ …… =qc,1pcφb,1(qb,1+y1)=pbφa,1(qa,1+x1)φd,1(qd,1+w1)=pdφa,1(qa,1+x1)……………………………………すなわち全部で、m-1 個の方程式がある。これらの方程式の中で、x1, w1 ……等の m-2 個の未知数を順次に消去し、y1 を pb, pc, pd ……の函数として示す方程式しか残らないようにすることが出来る。w1=-qd,1 の場合も、同様である。最後にまた、商品(C)、(D)……等の中の一商品のみでなく、二個、三個、四個……等、一般に任意の多数の諸商品の供給が所有量に等しい場合にも同様であることは、この上の解説を俟たないで理解し得られよう。 一二一 私は、価値尺度財である商品(A)の需要及び供給の方程式については、何もいわなかった。 |
純粋経済学要論 | これは特殊な形をとる。だがまず明らかなことは、この方程式もまた、pb, pc, pd ……の値が負の x1 を qa,1 より大ならしめるものであるときは、方程式 x1=-qa,1 によって置き換えられねばならず、かつこの場合には、交換者(1)による(B)の需要または供給を示す方程式の体系は次のようなものとなることである。y1pb+z1pc+w1pd …… =qa,1pbφc,1(qc,1+z1)=pcφb,1(qb,1+y1)pbφd,1(qd,1+w1)=pdφb,1(qb,1+y1)………………………………………すなわち m-1 個の方程式があることに変りはない。これらの中で、z1, w1 ……等の m-2 個の未知数を順次に消去し、pb, pc, pd ……の函数としての y1 を与える方程式しか残らないようにすることが出来る。 一二二 需要または供給方程式がこれらの制限を満足するように、これらの方程式を組み立てることが多少困難であることはもちろんである。 |
純粋経済学要論 | けれども(A)で表わした(B)、(C)、(D)……のある価格 p'b, p'c, p'd ……が叫ばれたとき、すべての商品の需要量と供給量とは、供給量と所有量とが等しいとの事実の下に、完全に一定していることも明らかである。このことははなはだ重要である。私はこの点を明らかにしようと思う。 q=ψa,1(r), q=ψb,1(r), q=ψc,1(r), q=ψd,1(r) ……を交換者(1)に対する(A)、(B)、(C)、(D)……の利用方程式であって、量に関して解かれ、稀少性に関して解かれていないものであるとする。しからば、交換の後には、次の式が得られる。qa,1+x'1=ψa,1(r'a,1)qb,1+y'1=ψb,1(r'b,1)qc,1+z'1=ψc,1(r'c,1)qd,1+w'1=ψd,1(r'd,1)………………………その他交換せられる量の等価値の条件及び最大満足の条件(第一一八節)の結果として、方程式 |
純粋経済学要論 | qa,1+p'bqb,1+p'cqc,1+p'dqd,1+ ……=ψa,1(r'a,1)+p'bψb,1(p'bψb,1(p'br'a,1)+p'cψc,1(p'cr'a,1)+p'dψd,1(p'dr'a,1)+ ……が得られる。この最後の方程式は r'a,1 を与える。r'a,1を用いて、r'b,1, r'c,1, r'd,1 ……が得られ、従って x'1, y'1, z'1, w'1 ……が得られる。保留せられまたは獲得せられる商品は、充されるべき最初の欲望の強度が、価格と r'a,1 との積より大なるものである。 もし r'a,1 が(A)の最初の欲望の強度より大であれば、交換者(1)は価値尺度財である商品を需要もせねば、保留もしない。 一二三 交換者(1)、(2)、(3)……による(A)、(B)、(C)、(D)……の需要または供給の方程式は仮定によって右の制限を満足するために適当に組み立てられているから、x1+x2+x3+ ……の合計、y1+y2+y3+ ……の合計、z1+z2+z3 ……の合計、w1+w2+w3+ ……の合計を、それぞれ X, Y, Z, W ……で表わし、函数 fb,1, fb,2, fb,3 ……の合計、函数 fc,1, fc,2, fc,3 ……の合計、函数 fd,1, fd,2, fd,3 ……の合計を、それぞれ Fb, Fc, Fd, ……で表わそう。 |
純粋経済学要論 | 商品(A)、(B)、(C)、(D)……の需要と供給との均等条件は、私共が問題としている一般の場合には、方程式 X=0, Y=0, Z=0, W=0 ……によって表わされているから、均衡価格の決定に対して、次の方程式Fb(pb, pc, pd ……)=0Fc(pb, pc, pd ……)=0Fd(pb, pc, pd ……)=0…………………………すなわち m-1 個の方程式がある。ところで、pb, pc, pd ……は本質上正であるから、もしこれらの方程式が満足せられると、すなわち Y=0, Z=0, W=0 であると、明らかにX=-(Ypb+Zpc+Wpd+ ……)=0である。 一二四 このようにして、m商品の中の第m番目の価値尺度財として採用せられた商品で表わした m-1 個の商品の m-1 個の価格は、次の三つの条件によって数学的に決定せられる。(一)各交換者は、彼のすべての稀少性の比が価格に等しくて、欲望の最大満足を得ること、(二)価値尺度財で表わした各商品の価格で、有効全需要を有効全供給に等しからしめるものは、ただ一つしかないのであるから、各交換者は与えるものに比例して受けとらねばならぬし、受けとるものに比例して与えねばならぬこと、(三)二商品の互に他方で表わした均衡価格は、ある第三の商品で表わしたそれぞれの均衡価格の比に等しいから、裁定が起る余地がないこと。 |
純粋経済学要論 | そこで今は、既に科学的解法を見出した多数の商品間の交換のこの問題が、また市場においては競争の機構によって経験的に解かれているが、それがいかようにしてであるかを見ようと思う。 一二五 まず、価値尺度財を採用すれば、市場において、m個の商品の相互間の価格 m(m-1) 個は、減じて、m番目の商品で表わした m-1 個の商品の価格 m-1 個となる。このm番目の商品は価値尺度財である。そして他の商品相互の間の価格 (m-1)(m-1) 個は、それぞれ、一般均衡の条件によって価値尺度財で表わしたこれら商品の価格の比に等しいと考えられるべきである。p'b, p'c, p'd ……が(A)で表わした(B)、(C)、(D)……の価格 m-1 個であって、かつ偶然に叫ばれたものであるとすると、かく叫ばれたこれらの価格において各交換者は、(A)、(B)、(C)、(D)……の供給または需要を決定する。このことは、各交換者が別に計算することなく、ただ反省をなすことによって行われるのであるが、それでありながら、需要量と供給量とが相等しいことを示す方程式及び最大満足の方程式の体系により、また先にいったような制限によって補充せられた体系により計算したのと、全く同じように行われる。 |
純粋経済学要論 | いま、正または負の x'1, x'2, x'3, … y'1, y'2, y'3, … z'1, z'2, z'3 … , w'1, w'2, w'3 …を価格が、p'b, p'c, p'd ……であるときの部分的需要または供給であるとする。もし各商品の総需要と総供給とが相等しければ、すなわち直ちに明かであるように Y'=0, Z'=0, W'=0 となり、従って X'=0 となれば、交換はこれらの価格において行われ、問題は解かれるであろう。だが一般に各商品の総需要と総供給とは相等しくなく、であり、従ってであろう。かような場合には、人々は市場においていかに行動するか。需要が供給より大であれば、価値尺度財で表わしたこの商品の価格を騰貴せしめるであろうし、供給が需要より大であれば、価格を下落せしめるであろう。しからば理論的解法と市場の解法が同一であることを証明するにはいかなる証明を要するか。その答は簡単である。 |
純粋経済学要論 | すなわち市場における価格の騰落が、需要と供給の均等方程式の体系を、摸索によって解く方法であることを証明すればよい。 一二六 ここで思い起さねばならぬのは、方程式X'+Y'p'b+Z'p'c+W'p'd+ …… =0の存在である。ところで価格 p'b, p'c, p'd ……に対応する正の x, y, z, w ……のそれぞれの合計を D'a, D'b, D'c, D'd ……と呼び、負のそれぞれの合計の符号を変えたものを O'a, O'b, O'c, O'd ……と呼べば、右の方程式は次の形とすることが出来る。D'a-O'a+(D'b-O'b)p'b+(D'c-O'c)p'c+(D'd-O'd)p'd+ …… =0そして p'b, p'c, p'd ……は本質上正であるから、量 X'=D'a-O'a, Y'=D'b-O'b, Z'=D'c-O'c, W'=D'd-O'd ……のあるものが正であれば、あるものは負であり、その逆も真である。 |
純粋経済学要論 | 換言すれば、価格が p'b, p'c, p'd ……であるとき、ある商品の総需要が総供給より大であれば、他の商品の総供給は総需要より大であり、その逆もまた真である。 一二七 今、不等式をとり、これを次の形とする。ここで函数 Δb は正の y の合計すなわち Db を表わし、函数 Ωb は負の y の合計の符号を変えたものすなわち Ob を表わすものとする。pc, pd ……を捨象して、これらを一定とし、pb のみを決定すべき価格であるとして、(B)の需要と供給とが相等しくなるには、pb をゼロと無限大との間にいかに変化せしめることを要するかを求めてみよう。私共は函数 Fb も、函数 Δb も函数 Ωb も知らない。しかし、これらの函数に関して、今の問題とする操作において、いかにして pb が Fb をしてゼロを通らしめ、または函数 Δb と Ωb とを等しからしめる値――もしありとすれば――をとるに至るかを示すに充分な指示を、私共は、既に研究した交換の事実の性質から引出すことが出来る。 |
純粋経済学要論 | 一二八 まず函数 Δb について見るに、(A)、(C)、(D)……をもってする(B)の需要の函数は、pb=0 であるときすなわち(A)、(C)、(D)……で表わした(B)の価格がゼロであるとき正である。実際に、これらの価格がゼロであるときには、(B)の有効総需要は、総外延利用が所有総量に超過する量に等しい。この超過する量は、(B)商品が稀少であって社会的富の一部を成しているものならば、常に正である。pb が増大し、それと共に(A)、(C)、(D)……で表わした(B)のすべての価格もそれに比例して増大すれば、函数 Δb は減少する。けだしこれは減少函数の合計であるからである。この場合には、(B)商品は、商品(A)、(C)、(D)……と比較的にはますます高騰するわけである。実際にこの仮定において、他のすべての事情を同一であるとすれば、この需要が増加するであろうことは、許し難い。この需要は減少せざるを得ないのである。 |
純粋経済学要論 | そしてこの需要がゼロとなるには、pb はかなり大であるが、場合によっては無限大でもあると想像し得られる。換言すれば、(A)、(C)、(D)……で表わした(B)の価格がかなり高いときにしか、Δb はゼロとはならぬであろうと想像せられる。 次に函数 Ωb すなわち(A)、(C)、(D)……と交換せられる(B)の供給の函数は、pb=0 であるときはもちろん、pb が正のある値をとるときでも、換言すれば(A)、(C)、(D)……で表わした(B)の価格がゼロであるときはもちろん、正のある大きさをとるときでも、ゼロである。実際、(B)商品の需要がゼロであるためには、(A)、(C)、(D)……で表わした(B)の価格がかなり高いと常に想像し得たと同じく、(A)、(C)、(D)……に対する需要がゼロとなり従って(B)の供給もゼロとなるには、(B)で表わした(A)、(C)、(D)……の価格がかなり高いと想像することが出来る。 |
純粋経済学要論 | pb が増大し、これと比例して(A)、(C)、(D)……で表わした(B)のすべての価格が高くなるときには、函数 Ωb は、初めに増大し、次に減少する。けだしこの函数は初め増大し、次に減少する函数の合計であるからである。この場合には、商品(A)、(C)、(D)……は商品(B)と比較的には次第に安くなるわけであり、そしてこれらの商品の需要は、これらの需要に伴う(B)の供給と同時に順次に現われてくるのである。だがこの供給は無限には増加しない。少くともそれは所有全量より大なることの出来ない一つの最大を通過し、次に減少し、pb が無限となればすなわち(A)、(C)、(D)……が無償となれば、ついにゼロに帰る。 一二九 これらの条件のうちに、そして Ob がゼロであることを已める以前に Db がゼロとなって、解法不能となるのでなければ、――この場合は交換者の間に多数の商品を所有する者がある場合には現われ得ないのであるが―― Ob と Db とを相等しからしめる pb のある値が存在する。 |
純粋経済学要論 | この値を見出すには、もし価格が p'b であるとき、Y'>0 ならば、すなわち D'b>O'b ならば、p'b を増大せねばならぬし、もしまた価格が p'b であるとき Y'<0 ならばすなわち O'b>D'b ならば、p'b を減ぜねばならぬ。かようにして次の方程式が得られる。Fb(p''b, p'c, p'd ……)=0 この操作が行われると不等式は、となる。しかし価格が p'c であるとき、Z'>0 であれば、すなわち D'c>O'c であれば、p'c を増大し、また価格が p'c であるとき、Z'<0 であれば、すなわち O'c>D'c であれば、p'c を減少して、方程式Fc(p''b, p''c, p'd ……)=0を得ることが出来る。 同様にして、方程式Fd(p''b, p''c, p''d ……)=0が得られ、以下同様である。 一三〇 これらのすべての操作を行えば、が得られる。 |
純粋経済学要論 | ここでこの不等式が、当初の不等式より等式に近いことを証明せねばならぬ。ところで、p'b から、右の最後の不等式を等式たらしめる p''b への変化は直接的影響を生じ、少くとも(B)の需要についてはすべて同一方向の直接的影響を生ずることを思い、また反対に p'c, p'd から、先の不等式を等式より遠からしめる p''c, p''d への変化は間接的影響を生じ、少くとも(B)の需要については、互に反対の方向をとりつつある点まで相殺する影響をもつものであることを想えば、右の不等式が当初の不等式より均等により近いことは、確かであろう。この理由によって、新しい価格 p''b, p''c, p''d ……の体系は旧価格 p'b, p'c, p'd ……の体系より均衡に近いのであり、同じ方法を連続すれば、いよいよこれに近づくのである。 よって、価値尺度財を仲介として多数の商品の間に行われる交換の場合における均衡価格の成立の法則を、次の如く表現することが出来る。 |
純粋経済学要論 | ――多数の商品が与えられ、それらの交換は価値尺度財の仲介によって行われるとして、これらの商品に関し、市場の均衡があるべきためには、換言すれば価値尺度財で表わしたこれらすべての商品の静止的価格が存在するためには、これらの価格において、各商品の有効需要とその有効供給とが等しくなければならず、また等しければ足るのである。この均等が存在しない場合に、均衡価格に達するためには、有効需要が有効供給より大なる商品に価格の騰貴がなければならぬし、有効供給が有効需要より大なる商品に価格の下落がなければならぬ。 第十三章 商品の価格の変動の法則要目 一三一 多数商品間の交換の解析的定義。一三二 一般均衡状態における任意の二商品の稀少性の比率がすべての交換者について等しいこと。一三三、一三四 交換価値と稀少性の比例性、欲望曲線の不連続性の場合に関する留保、需要がゼロの場合、または供給が所有量に等しい場合に関する留保。 |
純粋経済学要論 | 一三五 平均稀少性。一三六 交換価値が不定かつ恣意的な条件。一三七 利用の変化及び量の変化による価格の変化、利用及び量の同時的変化による価格の固着性。一三八 供給と需要の法則について。 一三一 以上に述べてきた所によって明らかなように、多数の商品があるときも、二商品しか存在しないときと同じく、市場価格または均衡価格の成立の必要にしてかつ充分な要素は、所有者が所有する商品の量と、交換者に対するこれらの商品の利用方程式または欲望の方程式とであって、これらの方程式は常に曲線に表わされ得る。そしてこれらの構成要素から、(一)部分的及び総需要または供給の方程式、(二)市場価格すなわち均衡価格が出てくる。ただ、一方最大満足の条件と、他方任意の二商品間の価格がただ一つであってかつ総需要と総供給とが相等しくなければならぬという条件との二条件に、価格の一般均衡の条件を附け加えねばならぬ。 だから――自由競争によって支配される市場における多数の商品相互の間の交換は、これら商品の一種または多種またはすべての種類の所有者のすべてが欲望の最大満足を得ることの出来る行動である。 |
純粋経済学要論 | ただしこの欲望の最大満足とは、任意の二商品が共通で同一なる比率で互に交換せられるのみでなく、またこれら二商品が他の任意の第三の商品と交換せられて、これらの交換比率の比が最初の二商品間の交換比率に等しくなければならぬという条件の下における欲望の最大満足である。 一三二 もし価格を価値尺度財で表わして叫ぶとすると、一般均衡の条件はこの事実によって充される。換言すればこの一般均衡の条件が裁定の方法によって充されるわけである。今これらの行動の正確な結果を説明するのが便利であろう。 交換者(1)を(A)の所有者とし、交換者(2)を(B)の所有者とし、交換者(3)を(C)の所有者とし、ra,1, rb,1, rc,1, rd,1 …… ra,2, rb,2, rc,2, rd,2, …… ra,3, rb,3, rc,3, rd,3, ……をこれら三交換者に対する商品(A)、(B)、(C)、(D)、……の稀少性とし、かつしばらくこれらの稀少性は価格の変化に応じて変化する稀少性であるとする。 |
純粋経済学要論 | 裁定が起り得ないとの仮定の下においては、最大満足の条件は次の如く表わされる。 次に裁定が可能であると仮定し、ただ三つの商品(A)、(B)、(C)と三人の交換者(1)、(2)、(3)のみを考えてみる。価格は互に逆数であるから、裁定前には次のような関係がある。裁定後、一般均衡状態においては次のような関係が現われる。 だから、三商品(A)、(B)、(C)及び三交換者(1)、(2)、(3)についての推論が、すべての商品とすべての交換者にも拡張し得ることを知れば、次のことがわかる。市場が一般均衡状態にあるときは、任意の二商品の稀少性の比は、一方の商品で表わした他方の価格に等しいが、この比はこれら二商品のすべての所有者においても同一である。 一三三 va, vb, vc, vd ……を商品(A)、(B)、(C)、(D)……の交換価値とし、ra,1, rb,1, rc,1, rd,1 …… ra,2, rb,2, rc,2, rd,2 …… ra,3, rb,3, rc,3, rd,3 ……を交換者(1)、(2)、(3)に対する交換後におけるこれら商品の稀少性であるとすれば、交換後には、 |
純粋経済学要論 | である。これをまた次のように表わすことも出来る。 va:vb:vc:vd: ……::ra,1:rb,1:rc,1:rd,1: ……::ra,2:rb,2:rc,2:rd,2: ……::ra,3:rb,3:rc,3:rd,3: ……:: …………………………… ここまでは、交換方程式を作り、かつ解くに当って、無限小の量ずつ消費することの出来る商品、すなわち連続的な利用曲線または欲望曲線をもつ所の商品しか考えなかった。けれども、性質上ある単位ずつしか消費され得ない商品、すなわち不連続な利用曲線または欲望曲線をもつ商品の場合も考えねばならない。かかる場合はすこぶる多い。例えば家具、衣服の場合などである。第一のベッド、第一の衣服、第一足の靴等の利用と、同じ性質の第二の物の利用との間、またはこれら第二の物の利用と第三の物の利用との間には、常にかなりの強度の差がある。この差は時には著しく大である。跛者にとっての第一対の松葉杖、近視眼者にとっての第一対の眼鏡、職業音楽家に対する第一のヴァイオリンはいわば欠くことの出来ないものである。 |
純粋経済学要論 | 第二対の松葉杖、第二対の眼鏡、第二のヴァイオリンは、いわば、余分のものである。これらのすべての場合にあっては、二商品しか無かったときと同じく、多数の商品についても、稀少性の表の中に、充された最後の欲望の強度と充されない最初の欲望の強度との平均にほぼ等しい比例項を、特に注意線を引いて、記入せねばならぬ。 その上に、ここでもまた、一個または多数の項が、与えられた交換者の諸稀少性のうちに欠けていることがあり得る。これは、この交換者がある商品を所有していないのではあるが、市場価格ではこれを需要しない場合に、またはこれを所有しているが、所有する量の全部を供給する場合に、常に起ることである。富める者は、充された最後の欲望は多数であって、かつこれらの強度は大ではない。反対に貧しい者は、充された最後の欲望は少数であり、かつそれらの強度は大である。そしてここでもまた、二商品の場合と同じく、多数の商品の場合にも、右の表中に、括弧の中に入れて、消費せられた他の商品で表わした消費せられない商品の価格に前者の稀少性を乗ずることによって得られる項を記入することが出来るはずである。 |
純粋経済学要論 | これらの二つの留保をすれば、次の命題を立てることが出来る。――交換価値は稀少性に比例する。 一三四 一方において、(A)、(B)、(D)を無限小量ずつ消費せられ得る商品であるとし、従って、αr,1αq,1, αr,2αq,2, αr,3αq,3, βr,1βq,1, βr,2βq,2, βr,3βq,3, δr,1δq,1, δr,2δq,2, δr,3δq,3(第五図)を交換者(1)、(2)、(3)に対するこれらの商品の連続な利用曲線または欲望曲線であるとする。他方において、(C)は性質上一単位ずつしか消費し得られない商品であるとし、従って、γr,1γq,1, γr,2γq,2, γr,3γq,3 は交換者(1)、(2)、(3)に対するこの商品の不連続な利用曲線または欲望曲線であるとする。2, 2.5, 0.5 を(A)商品で表わした(B)、(C)、(D)の価格であるとする。 私の図の例においては、交換者(1)は富める人であり、(A)、(B)、(C)、(D)商品をそれぞれ 7, 8, 7, 6 量消費し、その結果それらの稀少性は弱いものとなり、それぞれ 2, 4, 6, 1 であるとし、かつ面積 Oqa,1ra,1αr,1, Oqb,1rb,1βr,1, Oqc,1rc,1γr,1, Oqd,1rd,1δr,1 によって表わされる相当に大きい有効利用の合計量を得ているとする。 |
純粋経済学要論 | 商品(A)、(B)、(D)の稀少性 2, 4, 1 は価格 1, 2, 0.5 に正確に比例する。(C)の稀少性 6 は、(C)の充された最後の欲望の強さ 6 と充されない最初の欲望の強さ 4 との中間の数、(次の表で下線を引いておいた)5=2×2.5 によって置き換えられねばならぬ。交換者(2)は貧しい人であって、(A)と(D)とをそれぞれ 3 と 2 の量を消費し、それらの稀少性は強くて 6 と 3 とであり、面積 Oqa,2ra,2αr,2, Oqd,2rd,2δr,2 によって表わされる多くない有効利用の合計量を得ている。しかしこの貧しい人は(B)も(C)も得ることが出来ぬ。なぜならこの人の稀少性の系列に現われるべき数 12=6×2, 15=6×2.5 はこれらの商品の充されるべき最初の欲望の強さ 8 と 11 を超えるからである。そして交換者(3)は中産者であって(A)、(B)、(D)をそれぞれ 5, 4, 3 量消費し、平均稀少性は 4, 8, 2 であり、面積 Oqa,3ra,3αr,3, Oqb,3rb,3βr,3, Oqd,3rd,3δr,3 によって表わされる有効利用のかなりの合計量を得ている。 |
純粋経済学要論 | しかしこの人は(C)をもっていない。なぜなら稀少性の系列中に現われるべき数字 10=4×2.5 はこの商品の充されるべき最初の欲望の強度 8 を超えるからである。有効稀少性でない可能的稀少性(raretés virtuelles)に相当する数を括弧の中に入れれば、次の表が得られる。 1:2:2.5:0.5::2:4:5:1::6:(12):(15):3::4:8:(10):2 一三五 平均稀少性の比は、既に知ったように、個人的稀少性の比と同一である。ただ平均を作るには、下線を引いた比例数と括弧内の比例数をも考慮中に置かねばならぬ。これだけの条件を付して、(A)、(B)、(C)、(D)……の平均稀少性を Ra, Rb, Rc, Rd, ……と呼べば、方程式に、方程式を置き換えることが出来る。これらの方程式は主要な経済問題の解決に全く決定的な役割を演ずる。 一三六 交換価値の性質はかくも複雑な事実であり、ことに多数の商品がある場合にそうであるが、交換価値の性格はここに初めて明らかになってきた。 |
純粋経済学要論 | va, vb, vc, vd ……はいかなるものであるかといえば、それ自身は、不定であり任意のものであるが、これらの項の比例は、均衡状態において、すべての交換者におけるすべての商品の稀少性の共通にして同一な比を示すものである。従って、これらの項の二つずつの比は、任意の交換者における稀少性の二つずつの比に等しく、数学的表現を与えることが出来る。だから交換価値は本質的に相対的な事実であり、その原因は、常にひとり絶対的事実である所の稀少性にある(一)。ところで、各交換者に対しては、いかなる場合にも、商品m個のm個の稀少性しかあり得ないと同じく、均衡状態にある市場には、いかなる場合にも、これらm個の商品の交換価値m個の不定項しかあり得ない。そしてこれらの項の二つずつ組合わされて、これら商品相互間の m(m-1) 個の価格が成立する。この事情があるにより、ある場合には、計算上に項の比を記す代りに、任意項それ自体を記すことが出来る。 |
純粋経済学要論 | あるいは更に一歩を進めて、均衡状態においては、各商品は、市場における他の一切の商品との関係において、ただ一つの交換価値しかもたないといいたい人もあろう。だがかかる表現は、価値を絶対的のものと考える見方に偏している。だから、ここに問題とせられた事実を表わすには、一般均衡の定理の中の用語(第一一一節)または交換の解析的定義の中の用語(第一三一節)を用いるに如くはない。 一三七 利用と所有量とは常に価格の成立の第一原因であって、また条件でもある。 いま均衡が成立し、商品(A)で表わした商品(B)、(C)、(D)の価格は pb, pc, pd ……であって、各交換者は(A)、(B)、(C)、(D)……等のそれぞれの量を所有、これらが各交換者に最大満足を与えると想像する。かつ利用の増減という表現を、常に欲望曲線の移動の意味にのみ用いることとする。この移動は、その結果として、交換後における充された最後の欲望の強度すなわち稀少性を増減する。 |
純粋経済学要論 | これだけを前提として、(B)の利用増加すなわち(B)の欲望曲線の移動が生じ、その結果ある交換者に対する(B)の稀少性の増加が生じたとする。しからばこれらの人々にとってはもはや最大満足ではあり得ない。これらの人々は、価格 pb, pc, pd ……で(B)を需要し、(A)、(C)、(D)……を供給するのが有利である。ところで、価格 pb, pc, pd ……ですべての商品(A)、(B)、(C)、(D)……の需要と供給とが均等していたとすれば、今やこれらの価値では、(B)の需要はその供給を超え、(A)、(C)、(D)……の供給は需要を超える。そこで pb は騰貴する。このときから、他の交換者にとっても、最大満足ではないであろう。そして、(A)で表わした(B)の価格が pb より大であれば、これらの人々は(B)を供給し、(A)、(C)、(D)……を需要するのが有利である。すべての商品(A)、(B)、(C)、(D)……の需要と供給とが相等しくなるとき、均衡は成立する。 |
純粋経済学要論 | だから、右に仮定した人々に対する(B)の利用の増大は、その結果として、(B)の価格を騰貴せしめる。それはまた、その結果として、(C)、(D)……の価格を変化せしめ得る。だがまず、もし(B)以外の商品が市場に多数存在し、従って(B)と交換せられるそれらの各々の量が極めて小であるとすると、(C)、(D)……等の価格の変化は、(B)の価格の変化より著しくない。かつ、(C)、(D)……の価格のこれらの変化が騰貴となって現われるかまたは下落となって現われるかは、何ものも示してくれない。否、騰貴または下落が起るであろうことさえも、何ものも示してくれない。このことは、補充的交換が行われて新しい均衡が成立したときの稀少性の地位を研究すれば了解することが出来る。補充的な交換によって、(B)の稀少性の(A)の稀少性に対する比は、すべての交換者において必然的に増加する。すなわち各交換者におけるこの比の増加は、(B)利用が変化せず、(B)を再び売って、(A)、(C)、(D)……を買い戻す人にあっては、(B)の稀少性の増加と(A)の稀少性の減少によって生ずる。 |
純粋経済学要論 | またこの比の増加は、(B)の利用が増加し、従って(B)を買戻し、(A)、(C)、(D)……を再び売る人においては、(A)の稀少性の増加と(B)の稀少性のより強い増加によって生ずる。また各交換者における(C)、(D)……の稀少性の(A)の稀少性に対する比について見るに、これらの比のうちのあるものは増加し、他のある比は減少し、またある比は変化しない。従って、(C)、(D)……の価格のうち、あるものは騰貴し、あるものは下落し、またあるものは変化しない。要するに、(B)の稀少性はすべての交換者において増加し、その平均稀少性は増加するけれども、(A)、(C)、(D)……の稀少性は、ある交換者においては増加し、ある者においては減少して、その平均稀少性は変化しないことを注意すべきである。我々は、もし欲するならば、各型の交換者につき、右に述べた減少をグラフで表わすことが出来る。例えば第五図において、(B)の利用は交換者(1)において増加したから、この交換者は(B)を買戻し、(A)、(D)を売る。 |
純粋経済学要論 | 交換者(2)は何事もしない。交換者(3)は(B)を再び売って、(A)、(D)を買戻す。これらが(B)の利用の増加の結果である。この利用の減少はこれと反対の結果、すなわち(B)の価格の下落と(C)、(D)……の価格の僅少な変化を生ぜしめることは明らかである。 所有量の増加がその結果として稀少性を減少せしめ、またこの所有量の減少がその結果として稀少性を増加せしめることを知るには、欲望曲線を見るに如くはない。かつ稀少性が減少しまたは増加すれば、価格は下落しまたは高騰することは、右に見てきた如くである。故に所有量の変化の結果は、利用の変化の結果と単純にかつ全く反対であって、従って、私共は、求める法則を次の言葉でいい表わすことが出来る。 交換が価値尺度財の仲介で行われる市場において、多数の商品が均衡状態において与えられたとして、もし他のすべての事情が同一であって、これらの商品の中の一商品の利用が交換者の一人または多数に対し増加しまたは減少すれば、価値尺度財で表わしたこの商品の価格は増大しまたは減少する。 |
純粋経済学要論 | またもし他のすべての事情が同一であり、これらの商品の中の一商品の量が所有者の一人または多数において増加しまたは減少すれば、この商品の価格は減少しまたは増加する。 ここで注意せねばならぬが、価格の変化は必然的にこれらの価格の原因に変化があったことを示すにしても、価格に変化が無いのは必ずしもこれらの価格の要因に変化がないことを示すものではない。けだし、私共は、何らの他の証明をしないでも、直ちに次の二命題を立言することが出来るからである。 多数の商品が与えられ、これらの商品の中の一商品の量が交換者または所有者の一人または多数において変化しても、稀少性が変化しないとすれば、この商品の価格は変化しない。 すべての商品の利用と量とが交換者または所有者の一人または多数において変化しても、稀少性の比に変化が無いとすれば、これらの商品の価格は変化しない。 一三八 これが均衡価格の変動の法則である。これを均衡価格成立の法則(第一三〇節)と結合すれば、経済学上需要供給の法則と称せられる法則の科学的形式が得られる。 |
純粋経済学要論 | この法則は最も根本的な法則でありながら、今日まで、無意味なまたは誤った表現しか与えられていなかった。ある人は「物の価格は需要供給の比によって決定せられる」といって、特に価格の成立のみを見ている。またある人は「物の価格は需要に正比例して変化し、供給に反比例して変化する」といって、むしろ価格の変動を見ている。だが、実は一つのものに過ぎない所のこれらの二つの表現に、何らかの意味を与えようとすれば、まず需要と供給との定義を与えねばならない。ところで供給を定義して有効供給の意味としても、また所有量または存在量としても、また需要を定義して有効需要の意味としても、または外延利用としても強度利用としても、あるいはまた外延と強度の双方を含む利用としても、あるいは可能的利用としても、比という語を商(quotient)という数学的意味に解すれば、価格が需要の供給に対する比でもなければ、また供給の需要に対する比でもないことは明らかであり、また価格が需要に正比例し供給に反比例して変化もせねば、供給に正比例し需要に反比例して変化もしないことは明らかである。 |
純粋経済学要論 | 故に経済学の根本法則は、今日まで、単に証明せられなかったのみでなく、また正しく認識せられず、方式化せられなかったと、いっても過言ではない。なお附言しておきたいが、ここに問題となった法則またはこれを構成する二つの法則を証明するには、有効需要と有効供給とを定義し、有効需要と有効供給とが価格に対してもつ関係を研究し、稀少性の定義を下し、稀少性と価格との関係をも研究することが必要である。そしてこれらのことは、数学的用語と方法と原理に頼ることなくしては、為し得られるものではない。そこで結局、数学的形式は純粋経済学に対して単に可能な形式に止まるのではない、必要にして欠くべからざる形式である。なお、このことについては、ここまで私に追随してきた読者は少しの疑をも挟まないであろうと、私は思う。註一 相対的で客観的な交換価値と絶対的で主観的な稀少性との区別は、交換価値と使用価値との区別をそのまま正確に表わしている。 |
純粋経済学要論 | 第十四章 等価値配分の定理。価値測定の手段と交換の仲介物とについて要目 一三九 交換者間の商品の分配の変化。所有量の等価値の条件。総存在量の同一の条件。一四〇 極大満足の条件に合致する部分的需要または供給。一四一 各交換者の需要量と供給量は常に等価値である。一四二 全ての商品の総需要と総供給は常に等しい。一四三 この場合所有量の等価値と総量の等量という二つの条件により市場価格は変化しない。一四四 二つの条件の必要。一四五 価値尺度財、単位、単位の変化。一四六 価格の合理的な表現、通俗の表現、通俗の表現の二重の誤謬。(1)単位の価値は固定かつ不変の価値ではない。(2)単位の価値なるものは存在しない。一四七 単位は一定量の尺度財の価値ではなく、この量そのものである。一四八 貨幣。一四九、一五〇 貨幣を媒介とする富の交換。 一三九 商品(A)、(B)、(C)、(D)……が(1)、(2)、(3)……の交換者によってそれぞれ qa,1, qb,1, qc,1, qd,1 …… qa,2, qb,2, qc,2, qd,2 …… qa,3, qb,3, qc,3, qd,3 ……ずつ所有せられているとすれば、これらの商品のそれぞれの合計は次の如くである。 |
純粋経済学要論 | Qa=qa,1+qa,2+qa,3+ ……Qb=qb,1+qb,2+qb,3+ ……Qc=qc,1+qc,2+qc,3+ ……Qd=qd,1+qd,2+qd,3+ ……………………………………そして所有量のこれらの条件と、利用方程式または欲望方程式によって決定せられた可能的利用の条件との下に、これらの商品は、一般均衡価格 pb, pc, pd ……で互に交換せられる。 今これらの同じ商品(A)、(B)、(C)、(D)……が、同じ交換者(1)、(2)、(3)……の間に、以前とは異る有様に配分せられると想像する。しかし同時に、これらの交換者の各々が所有する新しい量 q'a,1, q'b,1, q'c,1, q'd,1 …… q'a,2, q'b,2, q'c,2, q'd,2 …… q'a,3, q'b,3, q'c,3, q'd,3 ……の価値の合計は、元の所有量の価値は合計に等しいとする。 |
純粋経済学要論 | すなわち次の如くであるとする。qa,1+qb,1pb+qc,1pc+qd,1pd+ …… =q'a,1+q'b,1pb+q'c,1pc+q'd,1pd+ ……[1] qa,2+qb,2pb+qc,2pc+qd,2pd+ …… =q'a,2+q'b,2pb+q'c,2pc+q'd,2pd+ …… qa,3+qb,3pb+qc,3pc+qd,3pd+ …… =q'a,3+q'b,3pb+q'c,3pc+q'd,3pd+ …… ………………………………………… かつ、商品の存在合計量は変化しないと仮定する。すなわち(A)、(B)、(C)、(D)……の合計量は次の如くであると仮定する。Qa=q'a,1+q'a,2+q'a,3+ ……Qb=q'b,1+q'b,2+q'b,3+ ……[2] Qc=q'c,1+q'c,2+q'c,3+ …… Qd=q'd,1+q'd,2+q'd,3+ …… |
純粋経済学要論 | ……………………………… 所有量のこれらの新条件と可能的利用の元の条件との中においては、均衡価格は、理論的にも実際においても、依然として、pb, pc, pd ……であろうと、私は主張する。 一四〇 すべての交換者の中から、その一人(1)を捕え、この人は、これらの価格で、(A)、(B)、(C)、(D)……をそれぞれ x'1, y'1, z'1, w'1 ……量だけ獲得し、総計して次の量を所有するに至ったと仮定する。q'a,1+x'1=qa,1+x1q'b,1+y'1=qb,1+y1[3] q'c,1+z'1=qc,1+z1 q'd,1+w'1=qd,1+w1 …………………………これによって、この交換者は欲望の最大満足を得るのである。なぜなら、彼は次の方程式の体系によって欲望の満足を得るからである。φb,1(q'b,1+y'1)=pbφa,1(q'a,1+x'1)φc,1(q'c,1+z'1)=pcφa,1(q'a,1+x'1) |
純粋経済学要論 | φd,1(q'd,1+w'1)=pdφa,1(q'a,1+x'1)………………………………………… 交換者(2)、(3)……もまた、右の価格で、商品(A)、(B)、(C)、(D)……のそれぞれ x'2, y'2, z'2, w'2 …… x'3, y'3, z'3, w'3 ……を獲得し、次の合計量を得れば、彼らの欲望の最大満足を得ることが出来る。q'a,2+x'2=qa,2+x2q'b,2+y'2=qb,2+y2q'c,2+z'2=qc,2+z2q'd,2+w'2=qd,2+w2[3] …………………………q'a,3+x'3=qa,3+x3q'b,3+y'3=qb,3+y3q'c,3+z'3=qc,3+z3q'd,3+w'3=qd,3+w3………………………… ここでなお証明が残っているのは、(一)右に定められた条件において、これらの交換者はかくの如き量を需要しまたは供給し得ること、(二)これらの同じ条件において、各商品の有効総需要はその有効総供給に等しいことである。 |
純粋経済学要論 | 一四一 ところでまず、方程式の体系[1]によって、方程式qa,1-q'a,1+(qb,1-q'b,1)pb+(qc,1-q'c,1)pc+(qd,1-q'd,1)pd+ …… =0が得られる。この方程式は、体系[3]によって、次の形に置き換えられる。x'1-x1+(y'1-y1)pb+(z'1-z1)pc+(w'1-w1)pd+ …… =0そして既にx1+y1pb+z1pc+w1pd+ …… =0であるから、またx'1+y'1pb+z'1pc+w'1pd+ …… =0である。同じ理由によってx'2+y'2pb+z'2pc+w'2pd+ …… =0x'3+y'3pb+z'3pc+w'3pd+ …… =0…………………………………………である。従って。交換者(1)、(2)、(3)……によって需要せられる商品(A)、(B)、(C)、(D)……の量の合計の価値は、これらの人々によって供給せられるこれらの商品の量の合計の価値に等しい。 |
純粋経済学要論 | 一四二 他方、体系[3]の方程式を適当に互に加算すれば、x'1+x'2+x'3+ …… =qa,1+qa,2+qa,3+ …… -(q'a,1+q'a,2+q'a,3+ ……)+x1+x2+x3+ ……が得られる。そして既に、X=x1+x2+x3+ …… =0が得られ、かつq'a,1+q'a,2+q'a,3+ …… =qa,1+qa,2+qa,3+ ……であるから、X'=x'1+x'2+x'3+ …… =0が得られる。のみならず、同様にしてY'=y'1+y'2+y'3+ …… =0Z'=z'1+z'2+z'3+ …… =0W'=w'1+w'2+w'3+ …… =0であり、従って、各商品の全部有効需要と全部有効供給とは相等しい。 一四三 故に価格 pb, pc, pd ……は、配分の変化の前と同じく、変化の後においても、また均衡価格である。そして市場における競争の機構は、要するに、計算を行って価格を実際的に決定することに他ならないのであるから、次の結果が生ずる。 |
純粋経済学要論 | ――多数の商品が均衡状態において市場に与えられたとし、もし、これらそれぞれの量の商品をいかように配分しても、これらの交換者の各々によって所有せられる量の合計の価値が常に相等しければ、これらの商品の市場価格は変化しない。 一四四 この証明の全過程中、私は Qa, Qb, Qc, Qd ……が変化しないと仮定した。従って所有者例えば(1)によって所有せられる商品(A)、(B)、(C)、(D)……の量が、等価値条件の範囲内において、増加しまたは減少したとすれば、商品の全合計量が一定であるとの条件を充すには、他の所有者の一人または多数例えば(2)または(3)によって所有せられるこれらの商品の量は、同じ条件の範囲内において、減少しまたは増加せねばならないのは、明らかである。けれども、もし商品が市場に著しく多量に存在し、かつ交換者が多数であれば、あるただ一人の所有者によって所有せられる商品の量の変化は、等価値の条件の範囲のうちに現われる変化である限り、他の所有者の何人の所有量にもそれに相応した変化が無いならば、価格に対し目立つほどの影響をもたないものであり、この所有者の特殊な地位もまた市場の一般的地位も何ものも変化しないと考え得られることは、明らかである。 |
純粋経済学要論 | これは、ある場合によく利用せられる大数法則の一応用である。しかしながらここでは、私は数学的厳密性の領域のうちに止っていたいと思う。だから価格が絶対に変化しないと立言し得るためには、所有量の価値が等しいとの条件と存在の合計量が一定であるとの条件の二つが充されていると、仮定せねばならない。 一四五 市場の一般均衡の定理は、次の言葉で表現し得られる。 ――市場の均衡状態においては、二商品ずつ行われるm個の商品の交換を支配する m(m-1) 個の価格は、これらm商品の中の任意の m-1 個の商品と第m番目の商品との交換を支配する m-1 個の価格によって間接的に決定せられている。 よって一般的均衡状態においては、すべての商品の価値を、これらの商品の中の一商品の価値に関係せしめて、市場の地位を完全に確定することが出来る。この一商品は価値尺度財と呼ばれ、その量の単位は測定単位(étalon)と呼ばれる。 |
純粋経済学要論 | 今(A)、(B)、(C)、(D)……の価値を(A)の価値に関係せしめたと仮定すれば、次の一系列の価格が得られる。pa,a=1, pb,a=μ, pc,a=π, pd,a=ρ …… もしこれらの商品の価値を(A)に関係せしめないで、(B)の価値に関係せしめたとすれば、次の一系列の価格が得られる。 よって――ある価値尺度財で表わした価格を、他の価値尺度財で表わした価格に変更するには、これらの二財中の前者によって表わした価格を、この元の尺度財で表わした新価値尺度財の単位の価格で除せばよい。 一四六 この体系において、(A)が銀であり、九〇%銀半デカグラム(五グラム)が銀の量の単位であり、(B)が小麦であってヘクトリットルがこの小麦の量の単位であるとする。市場において、一般的均衡状態の下に、小麦の一ヘクトリットルが一般に九〇%銀二四半デカグラム(一二〇グラム)と交換せられる事実は、方程式pb,a=24 |
純粋経済学要論 | によって表わされる。これは次のようにいい表わされ得る。――「銀で表わした小麦の価格は二四である。」――もし量の単位を明らかにすれば、――「小麦一ヘクトリットルの価格は九〇%銀の二四半デカグラムである。」――または、「小麦は一ヘクトリットルで九〇%銀の二四半デカグラムの価値がある。」といい得る。この表わし方と、私が一般的考察をなしたとき(第二九節)実際の慣習から借りた表わし方――「小麦は一ヘクトリットルで二四フランの価値がある。」――との間には、九〇%銀の半デカグラムという語をフランという語で置き換えてあると無いとの差異がある。この差異は充分な注意を払って論究せられねばならぬ。 フランという語は、大多数の人々の考では、メートル、グラム、リットルという語と類似したものである。ところでメートルは二つの事柄を表わしている。まず第一は子午線のある分数の長さを表わし、第二に長さの一定不変の単位を表わしている。 |
純粋経済学要論 | 同様にグラムという語もまた二つの事柄を表わしている。まず最大密度の蒸溜水のある量の重量を表わし、第二に重量の一定不変の単位を表わす。リットルも容量に関し、同様に二つの事柄を表わしている。通常の人々にはフランもまたこれと同じように見えるのである。すなわちフランという語は、第一にある品位の銀のある量の価値を表わし、第二に価値の一定不変な単位を表わしているように見える。 この考え方のうちには区別すべき二つの点が含まれている。(一)フランという語は九〇%銀の半デカグラムの価格を示すこと、(二)単位として採られたこの価格は一定不変であること。この第二の点は重大な誤謬であって、いかなる経済学者もこの誤謬に陥ってはいない。経済学をいかにわずかにせよ研究した人は、メートルとフランの間に本質的な差異があって、メートルは長さの一定不変な単位であり、フランは一定でも不変でもなく、人々により多少の意見の差こそあれ認められる事情により、時と処によって変化するものであることを、認める。 |
純粋経済学要論 | だからこの点を論駁して、時を空費する必要もなかろう。 だがこの第二の点を別としても、なお第一の点が残っている。すなわちメートルが子午線の四分の一の百万分の一の長さであるように、フランも九〇%銀の半デカグラムの価値であるという点が残っている。この見方をとっている経済学者は、フランは変化するメートルであるが、しかしとにかくメートルであるという。だがもしすべての長さが絶えず、物体の膨脹収縮により、変化運動をなしているとすれば、私共はこれらの長さをこの限界の内においてしか測定することが出来ないが、この限界内ではこれを測定し得る。ところがすべての価値は、既に知ったように、変化の運動を絶えず続けている。だから時と処とを問わず、価値を相互に比較することは出来ない。だが与えられた処と与えられた時においては、これらの価値を相互に比較し得ないのではない。私共はかかる条件の下において価値を計るのである。 この体系において、(A)は銀であり、九〇%銀の半デカグラムは銀の量の単位であり、(B)は小麦であり、ヘクトリットルは小麦の量の単位であるから、次の方程式を立てることが出来ると、人々は信じている。 |
純粋経済学要論 | va=1 フランそして市場において、小麦の一ヘクトリットルが一般に九〇%銀の二四半デカグラムに交換される事実は、方程式vb=24 フランによって表わされる。この方程式は次の如くいい表わされる。――「小麦は一ヘクトリットルで二四フランの価値がある。」 しかしながら問題となるこの第二点は、第一点と同じく、誤である。この関係においても、第一点の関係においてと同じく、価値と長さ、重量、容積との間には何らの類似もない。与えられた長さ例えば家の間口の長さを測るときには、三つの事柄がある。この間口の長さ、子午線の四分の一の百万分の一、及び第一の長さの第二の長さすなわち尺度に対する比が、それである。価値がこれに類似し、与えられた位置と時とにおいて与えられた価値例えば一ヘクトリットルの小麦の価値を同様に測り得るためには、価値にも三つの事柄がなければならぬ。小麦の一ヘクトリットルの価値、九〇%銀半デカグラムの価値、第一の価値が第二の価値すなわち尺度に対する比。 |
純粋経済学要論 | ところでこれら三つの事柄のうち、第一と第二は存在しない。第三のみが存在する。私の分析はこのことを完全に証明した。価値は本質的に相対的なものである。もちろん相対的価値の背後には絶対的なあるもの、すなわち充された最後の欲望の強度、すなわち稀少性がある。けれども絶対的であって相対的でないこれらの稀少性は、主観的であり、個人的であって、現実的でもなく、客観的でもない。それらは私共のうちにあって、事物のうちにあるのではない。故にこれらを交換価値に置き換えることは出来ない。そこで、稀少性なるものも存在せねば、九〇%銀の半デカグラムの価値なるものも実在せず、フランという語は実在しないものの名称であるということになる。科学が認めなければならぬこの真理をセイは完全に認めたのであった。 一四七 だがそうだからといって、価値と富とを測定し得ないということにはならない。ただ私共の尺度の単位はある商品のある量でなければならず、商品のこの量の価値であってはならぬという結果が出てくるのみである。 |
純粋経済学要論 | 例の如く(A)を価値尺度財とし、(A)の量の単位を測定単位とする。価値は自ら測定せられる。なぜなら価値の比は交換せられた商品の量に反比例して直接に現われるから。かくて、(B)、(C)、(D)……の価値の(A)の価値に対する比は、(B)の一、(C)の一、(D)の一に交換せられた(A)の単位数、すなわち(A)で表わした(B)、(C)、(D)……の価格に現われる。 これらの条件の下で、(A)で表わした(B)、(C)、(D)……の価格を簡単に pb, pc, pd ……で表わし、Qa,1 をQa,1=qa,1+qb,1pb+qc,1pc+qd,1pd+ ……となるように、交換者(1)によって所有せられる(A)、(B)、(C)、(D)……の量の価値の合計に等しい(A)の量とする。私共は、等価値配分の原理により、qa,1, qb,1, qc,1, qd,1 ……を変化せしめることが出来る。もし配分せられた新しい量が、右の方程式を(同時に商品の合計量が等しいとの条件をも)満足すれば、これは交換者(1)に、市場において pb, pc, pd ……の価格で、この価格においての最大満足を得せしめる所の(A)、(B)、(C)、(D)……の量を獲得せしめる。 |
純粋経済学要論 | 故に商品のこの種々なる量の総量と最大満足を与える量とを表わす所の Qa,1 は、交換者(1)が所有する富の量でもある。 同一の条件の下において、Qa,2=qa,2+qb,2pb+qc,2pc+qd,2pd+ ……Qa,3=qa,3+qb,3pb+qc,3pc+qd,3pd+ ……であるとする。Qa,2, Qa,3 ……は交換者(2)、(3)……によって所有せられる富の量である。これらの量は同じ種類の単位から成立しているから、Qa,1 とも、また Qa,2, Qa,3 ……相互の間でも比較せられ得る。 最後に Qa, Qb, Qc, Qd ……を市場に存在する(A)、(B)、(C)、(D)……の総量であるとし、かつQa=Qa,1+Qa,2+Qa,3+ …… =Qa+Qbpb+Qcpc+Qdpd+ ……であるとする。Qa は市場に存在する富の総量である。そしてこの量は、Qa,1, Qa,2, Qa,3 ……に比較することも出来、また Qa, Qbpb, Qcpc, Qdpd ……に比較せられることも出来る。 |
純粋経済学要論 | 一四八 以上に述べたことが価値及び富の測定の手段の真の役割である。だが一般に価値尺度財として役立つ商品はまた貨幣(monnaie)としても役立つものであって、交換の媒介たる職分をつくす。その場合には価値尺度財の単位は貨幣の単位となる。価値尺度財たる職能と交換の媒介たる職能とは異る二つの職能であって、兼ねられていても、明らかに区別せられなければならない。私は価値尺度財たる職分を説明した後を承けて、交換の媒介物たる職能の概念を明らかにせねばならない。 (A)を交換の媒介物として役立たしめるために指定せられた商品であるとする。また例の如く、pb=μ, pc=π, pd=ρ ……であるとする。最大満足の条件により、これら一般均衡価格においては、商品(A)、(B)、(C)、(D)……の有効に供給せられた量に等しい有効に需要せられる量 M, P, R …… N, F, H …… Q, G, K …… S, J, L ……がある。 |
純粋経済学要論 | そして直接交換の仮定においては、この交換は次の方程式に従って行われる。Nvb=Mva, Qvc=Pva, Svd=Rva ……Gvc=Fvb, Jvd=Hvb, Lvd=Kvc …… 一四九 しかし実際に近いように貨幣を介在せしめる仮定においては、これと異る。(A)を貨幣とし、(B)を小麦とし、(C)をコーヒーとする。実際においては、小麦の生産者は、小麦を貨幣と交換に売り、コーヒーの生産者も同様である。かようにして得られる貨幣でコーヒーを購い、小麦を購う。これがここで私が仮定しようとすることである。(A)の所有者は、商品である貨幣を所持する事実によって、仲介者となる。(B)の所有者は、売ろうとする(B)のすべてを、価格 μ で(A)の所有者に売り、買おうとするすべての(C)、(D)、……等を価格 π,ρ ……で買う。これらの操作は方程式(N+F+H+ ……)vb=(M+Fμ+Hμ+ ……)va |
純粋経済学要論 | (Fμ=Gπ)va=Gvc, (Hμ=Jρ)va=Jvd ……によって表わされる。 (C)、(D)……の所有者も同様の行動をなすであろう。それらは方程式(Q+G+K+ ……)vc=(P+Gπ+Kπ+ ……)va(Gπ=Fμ)va=Fvb, (Kπ=Lρ)va=Lvd ……(S+J+L+ ……)vd=(R+Jρ+Lρ+ ……)va(Jρ=Hμ)va=Hvb, (Lρ=Kπ)va=Kvc ……によって表わされる。 一五〇 私はここで、媒介者としての(A)の買とまた売とは、この商品それ自体の価格には何らの影響を与えることなしに行われると仮定した。実際においては、事情はこれと全く異る。各交換者は交換の目的で自分のために貨幣の貯蔵をもち、従ってこれらの条件の下において、商品を貨幣として用いるときは、この価値は影響を受ける。このことについては後に研究するであろう。しかしこの研究を留保しても、貨幣の介在と通貨の介在との間に完全な類似があることが解るであろう。 |
純粋経済学要論 | 実際二つの方程式からを引出し得ると同様に、また二つの方程式(Fμ=Gπ)va=Gvc, (Gπ=Fμ)va=Fvbから、Gvc=Fvbを引出すことが出来る。よって、欲するならば、価値尺度財を捨象して、間接的価格から直接的価格に達し得ると同様に、貨幣を捨象して、間接的交換から直接的交換に到ることが出来る。 第十五章 商品の購買曲線と販売曲線。価格曲線要目 一五一 多数商品の場合は二商品の場合に帰着する。(A)、(B)、(C)、(D)……間の一般均衡。(B)の出現。(B)による(A)、(C)、(D)……の部分的需要曲線。(A)、(C)、(D)……による(B)の部分的需要曲線。(A)、(C)、(D)……の所有者及び(B)の所有者の場合。購買曲線と販売曲線。一五二 比例的減少の条件。一五三 (B)の供給が総存在量に等しい場合。一五四 価格の曲線。一五五 購買曲線と販売曲線は交換方程式から導き出すことが出来る。 |
純粋経済学要論 | 一五六 一般に唯一の市場価格が存在する。 一五一 私が交換方程式に与えた解(第一二七――三〇節)から既に、一商品を価値尺度財として採用すれば、その結果として、多数の商品の交換の場合をある点まで二商品相互の間の交換の場合に帰せしめることが出来、一般均衡の市場価格の決定を簡単にすることが出来るということが出てくる。ここでもまた私は、この単純化が、純粋理論の見地からも、応用理論の見地からも、実践の見地からも、はなはだ重要なことを力説せねばならない。けだし価値尺度財を用いるこの仮定に立てば、我々はますます実際に近づいてくるからである。 (A)を価値尺度財とする。一方において、商品(A)、(C)、(D)……の有効に需要せられた量をそれらの有効に供給せられた量に等しく、P', Q', R', S', K', L' ……であるとし、(A)で表わした(C)、(D)の一般均衡価格 pc=π, pd=ρ で交換せられ、または交換せられようとしているとする。 |
純粋経済学要論 | 他方、市場に(B)商品が現われて、商品(A)、(C)、(D)……と交換せられるとする。 これだけを前提として、多数の者のうちから(B)の一所有者を採って考える。もし、(A)で表わした(B)の価格 pb すなわち(B)で表わした(A)の価格において、この所有者が(B)の ob 量を供給するとすれば、彼はこれと交換に、(A)の da=obpb 量を受けるであろう。そして(A)で表わした(C)、(D)……の価格を知っているから、彼はこの(A)の量を、(A)と(C)と(D)……との間にいかに配分すべきかを、よく理由を知って、決定することが出来る。他の言葉でいえば、決定した価格 π, ρ ……を使っている故に、彼が知らねばならぬのは、決定すべき価格 pb だけである。だが彼はこの価格について可能なあらゆる仮定を作ることが出来、かつこれらの仮定の各々に対して、せり上げの傾向をあるいは pb の函数としての(B)の供給曲線により、あるいはの函数としての(A)需要曲線 adap(第七図)によって表わすことが出来る。 |
純粋経済学要論 | 実際においても事は全くこのように行われる。市場に新しい商品が現われると、この商品の所有者らはその量のどれだけを犠牲にし、他の商品の量のどれだけを得べきかを決定し、自分の商品の供給をその価格を基礎として調整する。 他方、多数の者のうち、(A)、(C)、(D)……のすべてを所有する者を採って考えてみる。もし、この所有者が(A)で表わした(B)の価格 pb で、(B)の db 量を需要すれば、この人はこれと交換に oa=dbpb に等価値な(A)、(C)、(D)…の量を与えねばならぬ。そして(A)で表わした(C)、(D)の価格をよく知っているのであるから、この人は、よく理由を知って、この(A)の量を(A)、(C)、(D)をもっていかに構成すべきかを決定し得るであろう。他の言葉でいえば、決定した価格 π, ρ ……を知っているのであるから、彼が知らないのは、決定すべき pb だけである。しかし彼は、この価格については可能なすべての仮定をなすことが出来、これらの仮定の各々に対し、せり上げの傾向を pb の函数としての(B)の需要曲線 bdbp によって表わすことが出来る。 |
純粋経済学要論 | ここでもまた、実際においても事は全くこのように行われる。市場に新しい商品が現われると、他の商品の所有者らは、この新しい商品のどれだけの量を得、他の商品のどれだけの量を犠牲にすべきかを決定しながら、この商品の需要をその価格を基礎として調整する。 私は、交換者が(B)の所有者であると同時に(A)、(C)、(D)……の所有者である場合についていわなかった。しかしこの場合もまた二商品相互の間の交換の理論によってあらかじめ知られている。かかる交換者は二つの曲線、すなわちある価格に対する(A)の需要曲線または(B)の供給曲線と、それらの価格の逆数の価格に対する(B)の需要曲線または(A)の供給曲線を作らねばならぬ(第九四節)。そしてこれらの二曲線が先の曲線に加えられる。 部分的需要曲線が加えられて、総需要の曲線 AdAp, BdBp(第八図)となる。(A)の需要曲線 AdAp からは、(B)の供給曲線 NP が導き出される。 |
純粋経済学要論 | この供給曲線はまたこの同じ商品の部分的供給曲線の合計により、直接にも得られる。価値尺度財でなされる(B)の需要の曲線である所の逓減曲線 BdBp は購買曲線(courbe d'achat)と呼ばれ、価値尺度財と交換になされる(B)の供給の曲線である NP は初めゼロから逓増し、次に逓減してゼロに(無限遠点において)終り、販売曲線(courbe de vente)と呼ぶことが出来る。これら二曲線の交点(B)は、価格 pb=μ を決定する。 一五二 だがこの最初の決定は決定的であろうか。ここに二商品相互の間の交換に存在しない問題が現われてくる。市場に(B)が現われる以前に存在した一般均衡においては、価格 π, ρ と、この価格において交換せられるべき量 P', Q', R', S', K', L' ……との間には次の関係があった。P'=Q'π, R'=S'ρ, K'π=L'ρ ……(B)の出現の後にもこの均衡が存在するためには、価格 μ, π, ρ と量 M, N, P, Q, R, S, F, G, H, J, K, L ……(第一四八節)との間に、μの決定方法によって有効に得られる関係 |
純粋経済学要論 | M=Nμ, Fμ=Gπ, Hμ=Jρ ……がなければならないのみでなく、また次の関係が成立せねばならぬ。P=Qπ, R=Sρ, Kπ=Lρ ……ところでこれらの後の方程式を最初の方程式と比較して、容易にが得られる。 よって、――一般均衡状態における市場に新しい一商品が現われるとすると、この商品の価格は価値尺度財でなされるこの需要と価値尺度財と交換になされるその供給との均等によって決定するのであるから、市場の一般均衡が妨げられず、定まった価格が決定的であるためには、市場に新商品の出現する以前及び後において、元の商品の相互の需要または供給が同じ比例を保っていなければならぬ。 この条件は、新商品が現われる場合にも、または元の商品の一つが価格騰貴をなす場合にも、絶対的に充されることはほとんどない。従って価格μで(B)の需要と供給とは等しく、価格 π, ρ における(A)、(C)、(D)……の需要と供給とは不均等となるであろう。 |
純粋経済学要論 | 従って一般的な場合であっては、需要が供給より大となった商品の価格を騰貴せしめねばならぬし、供給が需要より大となった商品の価格を下落せしめねばならぬ(第一三〇節)。かくて(B)の価格がμとは少しく異る一般均衡状態に達するのである。 今問題となる条件は絶対的にはほとんど全く充されないのみでなく、また商品(B)が他のある商品(C)または(D)の職能を果しこれらに代用され得て、後者の価格を著しく下落せしめる場合を想像することが出来る。これは日々私共が見る所である。だがこの特別な場合を除き、(B)が独特の商品であるとすれば、または先に市場にあった商品のうちで、商品(B)により何ら特別な競争を受けないような商品だけしか考えないとすれば、かつこれらの商品が多数であってまた量においても多量であるとすれば、先にいったようにして作られた(B)の販売曲線及び購買曲線から生ずる価格μは、ほぼ決定的な価格であろうことを、容易に認めることが出来よう。 |
純粋経済学要論 | 実際この場合には、(B)と交換せられる(A)、(C)、(D)……の供給となるために向けられるこれらの商品の部分は、これら多数の商品中の各々から借りられるのではあるが、しかしこれらは極めて小さい部分であり、ことにこれら商品の各々の量に比較してはいよいよ小さい部分である。だからこれらの部分は、(B)と他のすべての商品との交換の当初の割合を著しく変化せぬであろう。 一五三 当面の問題である特殊な場合で、極めて簡単ではあるが、特に考える価値のある場合がある。それは、市場に現われた新商品のすべての所有者が、この商品のみの所有者であってもまたは同時に他の古い商品の所有者であっても、とにかく新商品のすべての量、存在するすべての量を、いかなる価格においても供給する場合である。この場合に起るせり上げの特殊な形態は、この商品の全量が一度に供給せられると仮定すれば、競売のそれである。この場合には、市場価格は、数学的には、距離 OQb を(B)の存在量に等しからしめるような点 Qb を通って引かれ、価格の軸に平行な直線 Qbπb と購買曲線 BdBp との交点πによって決定せられる。 |
純粋経済学要論 | この場合に販売曲線となるものはこの平行線である。かく簡単な場合は実際においては極めてしばしばである。なぜなら商品の大部分は生産物であり、かつ一般には、生産者はその生産物の全量を売るかまたは自分のためには極めて僅少の量をしか保留しないからである。これらの条件の下においては購買曲線は極めて著しい性質をもつ。それは存在する全量の函数としての価格曲線となる。けだしこの曲線の横坐標は縦坐標によって表わされる存在の全量の函数としてのこの商品の価格を与えるからである。 一五四 (B)を介在せしめ、pb を決定するために、(A)、(C)、(D)……の間に当初の均衡が成立したと仮定する代りに、(C)を介在せしめ、pc を決定するために、当初の均衡が(A)、(B)、(D)……の間に成立したと仮定し、または(D)を介在せしめ、pd を決定するために、当初の均衡が(A)、(B)、(C)……の間に成立したと仮定することも出来よう。 |
純粋経済学要論 | 従って、各商品はそれぞれの購買曲線をもつものと考え得られ、かつこの曲線は、もし供給を存在の全量に等しいと想像し、かつ大数法則に基いて、前後の需要または供給が比例せねばならぬという条件をも捨象すれば、価格の曲線となる。購買曲線と考えらるべきこの曲線の一般的方程式は D=F(p) となる。価格の曲線と考えられるこの同じ曲線の一般的方程式は Q=F(p) である。もしこれを価格について解かれていると仮定すれば、p=F(Q)となる。この方程式こそは、まさしく、「富の理論の数学的原理の研究」(一八三八年刊)の中にクールノーが先駆的に立てて、需要の方程式または販売の方程式(équation de la demande ou du débit)と呼んだものである。それが利用せられ得る範囲ははなはだ広い。 一五五 また販売曲線と購買曲線とを、次のようにして交換方程式に結び付けることが出来る。 (A)を価値尺度財とする。 |
純粋経済学要論 | そして一方に商品(A)、(C)、(D)……があって、(A)で表わした(C)、(D)……の決定した一般均衡価格 pc=π, pd=ρ ……で互に交換せられまたは交換せられようとしていると仮定する。他方に(B)が市場に現われ、商品(A)、(C)、(D)……と交換せられようとしていると仮定する。 (B)が現われると、理論的には、新しい未知数 pb と一つの方程式Fb(pb, pc, pd ……)=0を新に導き入れた交換方程式の体系を新に作らねばならぬ(第一二三節)。ところで先にしたように(第一二七、一二八節)、正のyの合計すなわち Db を函数 Δb で示し、負のyの合計を正に変化したものすなわち Ob を函数 Ωb で表わせば、右の方程式を、次の形とすることが出来る。Δb(pb, pc, pd ……)=Ωb(pb, pc, pd ……)だがもし既に決定した価格の変動及び有効需要供給の変動を抽象して、それらを常数と考えれば、この方程式の左辺は |
純粋経済学要論 | Δb(pb, π, ρ ……)となり、一変数 pb の減少函数である。これは、幾何学には、購買曲線 BdBp(第八図)によって表わされる。右辺はΩb(pb, π, ρ ……)となり、同じ変数 pb の函数であって、初めゼロから増大し次に減少してゼロ(無限遠点において)となる函数である。これは、幾何学的には販売曲線 NP によって表わされる。二つの曲線 BdBp と NP との交点は価格 pb=μ を、少くとも近似的に決定する。 私は後に、同様な方法で、価格曲線を生産方程式に結び付けるであろう。 一五六 なおこの章を了えるに当って、先に論及した一点について、興味ある註釈を加えておかねばならぬ。すなわち市場に商品が大量に存在する場合には、これら商品の各々の販売曲線は、全部または一部、存在の全量の並行線と一致しないとしても、最も低い価格と最も高い価格の中間の価格の大部分では、それに近づくことは明らかである。 |
純粋経済学要論 | 従って一般に、多数の商品の相互の交換の場合には、二商品相互の交換の場合に見るように(第六八節)、可能な多数の均衡価格はあり得ない。 第十六章 交換価値の原因についてのスミス及びセイの学説の解説と駁論要目 一五七 価値の源泉の問題の主要な三つの解答。一五八 スミスの学説すなわち労働価値説。この学説は労働のみが価値を有することを表明するに止り、何故に労働が価値を有するかを説明せず、従ってまた、一般に事物の価値がどこから生ずるかを説明しない。一五九、一六〇 セイの学説、すなわち利用価値説、利用は価値の必要条件であるが充分条件ではない。一六一 稀少性の学説。一六二 ゴッセンの極大満足の条件、それが指示する極大利用は自由競争における極大利用ではない。一六三 ジェヴォンスの交換方程式。それは二人の交換者の場合にしか適用されない。一六四 限界効用。 一五七 経済学のうちには、価値の原因の問題について、主な三つの解答がある。 |
純粋経済学要論 | その一はスミス、リカルド、マカロックのそれであり、イギリス的解答であり、価値の原因を労働に求めるものである。この解答は余りに狭隘であって、真に価値をもっているものにも、価値の存在を拒否している。その二はコンジャック、セイのそれであり、価値の原因を利用に置く。いずれかといえば、これはフランス的解答である。この解答は余りに広汎に過ぎ、実際に価値をもたない物にも、価値を認めている。最後にその三は適切なものであり、ブルラマキ(Burlamaqui)及び私の父オーギュスト・ワルラス(Auguste Walras)の解答であって、価値の原因を稀少性に置く。 一五八 スミスはその学説を国富論の第一編第五章に、次の言葉でいい表わしている。「すべての物の真の価格、すべての物がこれを獲ようとする人に真実に費さしめる所のものは、彼がこれを獲るために費さなければならぬ労働と苦痛とである。すべての物が、これを獲得した人またはこれを処分しようとする人またはこれをある他の物と交換しようとする人に対し値する所は、この物の所有が彼をして省くことを得させる苦痛と面倒、または他の人に課することを得させる苦痛と面倒である。人が貨幣または商品で購う物は、私共が私共の額に汗して得る所の物と同じく、労働によって得られる。この貨幣と商品とは実にこの苦痛を省くものである。それらは労働のある一定量の価値を含む。これを私共は、等しい量の労働の価値を含むと考えられる物と交換する。労働は最初の貨幣であり、すべての物の購買に支払われる貨幣である。世界のいかなる富も、原本的には労働をもってしか購い得ない。これらを所有する者またはこれらを新しい生産物と交換しようとする人に対してのこれらの価値は、これらが購買し、支配せしめるであろう所の労働量とまさしく相等しいのである。」 |
純粋経済学要論 | この理論に対しては、多数の論駁があったが、これらは一般に適切ではなかった。スミスの理論は、その本質において、価値があり交換せられるすべての物は、労働が種々な形式をとったものであり、労働のみが社会的富のすべてを構成すると主張するものである。そこで人々は、価値があって交換せられる物でありながら、労働によって成立していない物を示し、あるいはまた、労働以外に社会的富を構成する物があることを示して、スミスのこの理論を拒否しようとする。だがこの論駁も合理的ではない。労働のみが社会的富を構成するかまたは労働は社会的富の一種を構成するに過ぎないかは、私共には余り関係のない問題である。それらのいずれの場合にも、何故に労働には価値があり、また何故に労働は交換せられるのであるか。ここに私共の関する問題があるのであるが、スミスはこの問題を提出もしなければ、解決もしなかった。ところで労働が価値あり、交換せられるものであるとしたら、それは、労働が利用をもちかつ量において限られているからである、すなわち労働が稀少であるからである(第一〇一節)。 |
純粋経済学要論 | 故に価値は稀少性から来るものであり、稀少なすべての物は労働を含むと否とにかかわらず、労働のように価値をもち、交換せられる。だから価値の原因を労働であるとする理論は、余りに狭隘であるというよりは、全く内容の無い理論であり、不正確な断定であるというよりは、むしろ根拠のない断定である。 一五九 次に第二の解答について見るに、セイは彼の著作の「経済学問答」(Catéchisme d'économie politique)の第二章において、次のように書いている。「何故に一つの物の利用はこの物に価値を生ぜしめるかといえば、物がもっている利用は、この物を望ましい物とならしめ、かつこの物の獲得のために人々をして犠牲を払わしめるからである。何らの役にも立たぬ物を獲得するために、何らかの物を与えようとする人はない。これに反し、自分が欲望を感ずる物を獲得するためには、人々は、自分が所有する物のある量(例えば貨幣の一定量)を与える。価値を生ぜしめるものはこれである。」 |
純粋経済学要論 | これは、確かに価値の原因の証明の一つの試みである。だがこの試みは成功していないといわねばならぬ。「物の利用はこの物を望ましいものとならしめる」ことはもちろんである。かつ「この利用は、人々をして、この物を所有するためにある犠牲を払わしめる。」しかしこれは一様にはいわれ得ない。利用は、人々がこの利用を得るために犠牲を費さねばならないときにのみ、人々をしてこれを払わしめるに止まる。「人は、何らの役にも立たないものを得るためには何ものも与えようとはしない。」これはもちろんである。「反対に、人は、欲望を感ずる物を得るためには、自分が所有する物のある量を与える。」だがこれは、この物を得るに何物かを交換に与えねばならない場合に、いわれ得ることである。だから利用は価値を創造するには足りない。価値の創造には、更に、利用のある物が無限量に存在せず、稀少であることを必要とする。この理論は事実によっても証明せられている。 |
純粋経済学要論 | 呼吸せられる空気、帆船の帆を膨脹せしめる風、風車を廻転せしめる風、作物果実を成長せしめ光沢を与えてくれる太陽の光線、水、熱せられた水が提供してくれる蒸気、その他多くの自然力は、利用があり、また必要でもある。けれどもこれらの物は価値をもっていない。なぜなら、それらが充分に存在さえすれば、何ものも与えることなく、また交換に何らの犠牲を払うことなく、欲するままに得られるからである。 コンジャックとセイとは共にこの批難に遭遇した。そして二人は各々異る形でこれらに答えた。コンジャックは空気、光、水を非常に利用のあるものと見、これらの物は実際において何らかの費用を要するものであると主張しようと企てている。ところでこの費用とは何か。これを得るに必要な努力であるという。コンジャックによれば、呼吸の行動、物を見るために眼を開く行動、川で水を汲むために屈身する行動等は、これらの財に対して支払う犠牲である。この幼稚な議論は、我々の想像以上にはなはだしばしば主張せられている。 |
純粋経済学要論 | けれども、もしこれらの行動を経済的犠牲と呼ぶとしたら、本来の意味の価値という語に対しては他の言葉を見出さねばならぬことは明らかである。私が肉を肉屋に求めるとき、衣服を洋服屋に求めるとき、私はこれらの目的物を得る努力と犠牲とを提供する。しかしこのほかに、私は、これとは全く異る犠牲を払っている。すなわち貨幣の一定量を私のポケットから引出して、商人の利益となるようにしている。 セイは別な形で答えている。空気、太陽の光線、河川の水は利用がある、だからそれらは価値をもっているのである。それらは無限の価値をもつほど利用があり、必要であり、欠くべからざるものである。我々が何ものをも与えないで、それらの物を得られるのは、まさにこの理由に基く。私共がこれらの物に対して何物をも支払わないのは、これらの物に対しその価格を支払うことが出来ないからである。この説明は巧妙ではあるが、不幸にして、空気、光線、水が代償を支払われる場合がある。 |
純粋経済学要論 | それは、これらの物が例外的に稀少な場合である。 一六〇 私共は、スミスとセイのうちに、さほどの苦心をすることなく、二つの特徴的な節を見出すことが出来た。けれども事実において、これらの著者は、価値の起源にわずかに触れたに過ぎないで、共に、私共が指摘したような不充分な理論のうちに閉じこもっていたといわねばならぬ。先に引用した句の後の方では、セイは利用学説に労働価値説を混えた。だがセイは稀少性学説に左袒しているようである。スミスは、むしろ幸なことには、土地を労働と同じく富のうちに加えて、矛盾を犯している。ひとりバスチアのみは、イギリス派の理論を組織化しようとして、実際的事実に反するような結論をも自ら承認し、また他の人々をして承認せしめようとした。 一六一 最後に、ブルラマキが「自然法原論」(Eléments du droit naturel)の第三編第十一章に述べた稀少性理論があるが、これははなはだ優れたものである。 |
純粋経済学要論 | 「物の固有の内在的価格(prix propre et intrinsèque)の基礎は、第一に、この物が生活上の必要、便利、享楽に役立つ適性、一言でいえばこの物の利用と稀少性とである。「第一に、物の利用というとき、私は、それによって、現実の利用に限らず、宝石の利用のように勝手気ままな利用、好奇心を充す利用に過ぎない利用をも意味せしめているのである。だから、何らの用途のない物は何らの価格を有しないと一般にいわれ得る。「ところで利用がいかに現実に存在しても、利用のみでは物の価格を生ぜしめるに足りない。その物の稀少性もなければならぬ。すなわちこの物の獲得の困難、人々が欲するだけの量を容易に得ることが出来ない困難さをも考えねばならない。「なぜなら、人々が一つの物についてもつ欲望はその価格を決定するどころか、人間生活に最も必要な物が、水のように最も廉価であることは、普通に見る所であるから。「だがまた稀少性のみでも、物に価格を生ぜしめるには不充分である。 |
純粋経済学要論 | 物に価格があるには、この物にまず何らかの用途がなければならぬ。「これらが物の価値の真の基礎であるから、価格を増加しまたは減少するものもまた、種々に結合せられたこれらの同じ事情である。「もしある物の流行が去り、または人々がこの物を重んぜぬようになれば、この物は、以前いかに高価であっても、廉価となる。反対に、費用がほとんどかかっていないありふれた物も、稀少となれば、直ちに価格をもち始め、時にはすこぶる高い価格となることは、例えば乾燥した土地における水、包囲下のまたは航海中のある場合における水に見る如くである。「一言でいえば、物の価格を高からしめるすべての特殊事情は、この物の稀少性に関係がある。例えば製作の困難なこと、製品の精緻なこと、製作者が名匠であることの如きがこれである。「自分が所有するある物に対し、ある特殊な理由により、例えばこの物がある人の大きな危険を避けるとか、またはそれがある顕著な事実の記念物であるとか、あるいはまた名誉の象徴であるとかの理由により、この人が、普通に人々が与える以上の評価をなすとき、この価格は好尚の価格または愛著の価格(prix d'inclination ou prix d'affection)と呼ばれるのであるが、この価格もまた右の理由と同じ理由に帰せられ得る。」 |
純粋経済学要論 | これが稀少性学説である。ジェノベエジ僧正(Abbé Genovesi)は前世紀の中頃この学説をナポリにおいて教え、シニオル(N. W. Senior)は一八三〇年頃これをオックスフォードにおいて教えた。しかしこれを真に経済学に導き入れた者は私の父である。父は「富の性質と価値の原因について」(De la nature de la richesse et de l'origine de la valeur. 1831.)と題した著書の中に、必要なすべての展開を加えながら、これを特別な方法で説明している(一)。通常の論理では、父がこの書物でなした以上のことを何人もなし得ぬであろう。そしてより深い研究をなすには、私が用いたように、父も数学的分析の方法を用いざるを得なかったであろう。 一六二 だが同じ目的のために、この数学的分析の方法を用いたのは私のみではない。ある著者は私より先にこの方法に拠っている。 |