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条文 (保証人の要件) - 第450条 - 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。 - 保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。 - 前二項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。 解説 - まず、債務者が保証人を立てる義務を負わない場合は、保証人に資格は不要である。 - 次に、債務者が保証人を立てる義務を負う場合とは、具体的には契約、法令、裁判所の命令の場合などがあげられる(例.第29条第1項:家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。)。 - この場合は、第1項各号の要件を満たす保証人を立てる必要が債務者に生じる。 - ただし、債権者自身が保証人を指名した場合には、保証人に以上の資格は要求されない。債権者の利益のために設けられた規定であるからである。 参照条文 - 民法第102条(代理人の要件)
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条文 (数人の保証人がある場合) - 第456条 - 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。 解説 保証人が複数人いる場合の、分別の利益について定めた規定である。 保証人間で特約がない場合、各保証人は平等の割合で分割された額の範囲で保証債務を負担する。 なお、以下に該当する場合は保証人は分別の利益を主張することができず、各保証人は主債務の全額について弁済する義務を負う。 - 主債務が不可分債務である場合。 - 保証人の債務が連帯保証債務である場合。 - 保証連帯(共同保証人間で連帯して主債務を保証する)の場合。
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条文 (主たる債務者について生じた事由の効力) - 第457条 - 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。 - 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。 - 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。 改正経緯 2017年改正により以下のとおり改正された。 - 第1項、時効概念の整理に伴う、用語の修正。 - (改正前)時効の中断は、 - (改正後)時効の完成猶予及び更新は、 - 保証人が、債権者に対抗できる事由を「相殺」のみから、抗弁一般に拡張した。 - (改正前)主たる債務者の債権による相殺をもって - (改正後)主たる債務者が主張することができる抗弁をもって - 第3項を新設。 - 主たる債務者の行為能力が制限されていることを理由として保証の目的が取り消しうる場合の取り扱いについては、民法第449条において規定。 - その他、主たる債務者が、債権者に対して対抗すべき権利を有する時、保証人はそれを行使又はそれを理由に履行を拒絶しうるかという論点は長く議論されており、起草者・有力説はこれを認めるべきとしていたが、反対の結論となる判決(大判昭和20年5月21日民集9)などもあり、解決が求められていた。 - この場合、 - 主たる債務者が追認などをして被保証債務が確定するまで拒絶でき、追認等により確定すると拒絶できなくなる。 - 主たる債務者が追認などをせず被保証債務が確定しない間は、保証を解除等しうる。 - 主たる債務者が追認などにかかわらず、保証を解除等しうる。 - 等の考え方があり(主たる債務者が対抗できる権利を有するのであれば、まず、それを行使すべきであり、保証を認める利益に欠ける)、第2説が有力であったが、第1説の考え方が採用された。 解説 保証人と債権者との関係についての規定である。
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条文 (連帯保証人について生じた事由の効力) 改正経緯 2017年改正前は以下の条項が規定されていた。 (連帯保証人について生じた事由の効力) - 第434条から第440条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。 連帯債務において、絶対効の働く場合が減らされたされたことに伴い、準用範囲が改正された。改正前の準用条項及び改正後の動向は以下のとおりである。 - 改正前・民法第434条(連帯債務者の1人に対する履行の請求) → 継承条文なく削除 - 改正前・民法第435条(連帯債務者の1人との間の更改)→ 民法第438条に継承 - 改正前・民法第436条(連帯債務者の1人による相殺等)→ 民法第439条に継承 - 改正前・民法第437条(連帯債務者の1人に対する免除) → 継承条文なく削除 - 改正前・民法第438条(連帯債務者の1人との間の混同)→ 民法第440条に継承 - 改正前・民法第439条(連帯債務者の1人についての時効の完成) → 継承条文なく削除 解説 連帯保証の場合も、連帯債務の効力についての規定が準用される。 - 第438条(連帯債務者の一人との間の更改) - 第439条(連帯債務者の一人による相殺等)第1項 - 第2項「前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」は、準用しない。 - 本条ではなく、第457条の適用か? - 第2項「前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」は、準用しない。 - 第440条(連帯債務者の一人との間の混同) - 第441条(相対的効力の原則) 但書の適用。 参照条文 - 民法第454条(連帯保証の場合の特則)
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条文 (主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務) - 第458条の3 - 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない。 - 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。 - 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない 。 解説 2017年改正により制定。 参照条文 - 民法第137条(期限の利益の喪失)
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条文 (委託を受けた保証人の求償権) - 第459条 - 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。 - 第442条第2項の規定は、前項の場合について準用する。 改正経緯 2017年改正により、第1項が以下のとおり改正された。なお、民法第442条第1項も同旨の改正がなされている。 - 求償権が認められる場合 - (改正前) - 過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたとき - (改正後) - 主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為(以下「債務の消滅行為」という。)をしたとき - (改正前) - 求償権が認められる範囲 - (改正前)規定なし - 主たる債務者に対して求償権を有する。 - (改正後) - 主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額(その財産の額がその債務の消滅行為によって消滅した主たる債務の額を超える場合にあっては、その消滅した額)の求償権を有する。 - (改正前)規定なし 解説 委託を受けた保証人についての求償権の規定である。 - 民法第442条(連帯債務者間の求償権) 参照条文 判例 - 配当異議 (最高裁判決 昭和59年05月29日)民法第442条、民法第501条 - 保証人と債務者との間に成立した求償権につき約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約と民法501条所定の代位の範囲 - 保証人と債務者との間に求償権について法定利息と異なる約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約がある場合には、代位弁済をした右保証人は、物上保証人及び当該物件の後順位担保権者等の利害関係人に対する関係において、債権者の有していた債権及び担保権につき、右特約に基づく遅延損害金を含む求償権の総額を上限として、これを行使することができる。 - 保証人と物上保証人との間に成立した民法501条但書5号所定の代位の割合と異なる特約の第三者に対する効力 - 保証人と物上保証人との間に民法501条但書5号所定の代位の割合と異なる特約がある場合には、代位弁済をした右保証人は、物上保証人の後順位担保権者等の利害関係人に対する関係において、右特約の割合に応じて債権者が物上保証人に対して有していた抵当権等の担保権を代位行使することができる。 - 保証人と債務者との間に成立した求償権につき約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約と民法501条所定の代位の範囲
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条文 (委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権) - 第459条の2 - 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。この場合において、主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - 前項の規定による求償は、主たる債務の弁済期以後の法定利息及びその弁済期以後に債務の消滅行為をしたとしても避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。 - 第1項の求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ、これを行使することができない。 解説 2017年改正により制定。 - 第1項 - 主たる債務の弁済期前に債務消滅行為をしたとき - 保証人は、場合によって、債権者及び主たる債務者の態様に左右される状況を回避すべく、主たる債務の弁済期が到来する前に弁済等による債務消滅行為をすることができる。 - その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。 - 弁済期前の債務消滅行為に費やした自己の財産について、保証人は、主たる債権者に対して、「利益を受けた限度(≒債務の減少分)」において求償できる。 - 主たる債務者が債務の消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - 主たる債務者が、相殺原因を有している場合は、債権者にその債務の履行を請求し、求償分に充当する。 - 主たる債務の弁済期前に債務消滅行為をしたとき - 第2項 - 求償の範囲は原則として、「利益を受けた限度(≒債務の減少分)」であるが、求償の提供が弁済期以後になった場合、その経過利息等は含まれる。 - 第3項 - 主たる債務者は、主たる債務の弁済期まで期限の利益を有しているのであるから、弁済期前に債務消滅行為があったとしても、弁済期まで求償に応じる義務はない。
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条文 - 第460条 - 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。 - 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。 - 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。 - 保証人が過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受けたとき。 改正経緯 2017年改正により、第3号が以下のものから現行のものに改正された。 - 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。 - 元は、超長期間において不安定である保証人を救済する趣旨のものであったが、このような場合、元本額の確定は期待されず、従って、求償額も確定しないということで、実務上もほとんど利用されることはなかったため本条件は削除された。現行第3号は、削除前条文の趣旨と全く独立した当然の事象を記した確認的条項である。 解説 委託を受けた保証人の事前求償権に関する規定である。 参照条文 判例 - 求償金 (最高裁判決 平成2年12月18日)民法第351条、民法第372条 - 物上保証人と求償権の事前行使の可否 - 物上保証人は、被担保債権の弁済期が到来しても、あらかじめ求償権を行使することはできない。
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条文 (主たる債務者が保証人に対して償還をする場合) - 第461条 - 前条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、主たる債務者は、保証人に担保を供させ、又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。 - 前項に規定する場合において、主たる債務者は、供託をし、担保を供し、又は保証人に免責を得させて、その償還の義務を免れることができる。 改正経緯 2017年改正において、第1項を以下のとおり改正。 - (改正前)前二条の規定により - (改正後)前条の規定により 即ち、改正前は、第460条に定める「委託を受けた保証人の事前の求償権」だけでなく、第459条に定める「委託を受けた保証人の求償権」まで、本条のスコープにしていたのだが、求償に応じた償還が保証債務の履行に充てられないという主たる債務者の危惧を解消する趣旨であり、第460条における事前の求償に応ずる場合は当てはまる一方で、債務の消滅行為後の求償である第459条においてそのような事態は想定し難いことから改正された。
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条文 - 第462条 - 第459条の2第1項の規定は、主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が債務の消滅行為をした場合について準用する。 - 主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - 第459条の2第3項の規定は、前二項に規定する保証人が主たる債務の弁済期前に債務の消滅行為をした場合における求償権の行使について準用する。 改正経緯 2017年改正により、以下の条文から改正され、第3項が新設された。 - (改正前第1項) - 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。 解説 主たる債務者の委託を受けない保証人(債権者と保証人との契約で保証契約は成立する)の求償権についての規定。 - 第1項 - 第459条の2第1項の規定 - 主たる債務の弁済期前に債務消滅行為をしたとき - その保証人は、主たる債務者に対し、主たる債務者がその当時利益を受けた限度において求償権を有する。 - 主たる債務者が債務消滅行為の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - 主たる債務の弁済期前に債務消滅行為をしたとき - 第459条の2第1項の規定 - 第2項 - 本項に規定する場合において、主たる債務者としては、意に反して保証がなされたのだから、当該債務消滅行為については関知すべきものではないとも言えるが、債権者にとっては債務消滅行為により満足を得ているので、主たる債務者が債務の存在を主張するなどして、さらに新たな債権債務関係を生じさせることの利益はなく、又、主たる債務者にとっても、当該債務について不利益が増大したという事情がないようであれば、保証に対して求償を認めるとの趣旨。これは、債権債務関係の移動(債権譲渡、債務引受)ともとりうるが、当事者である主たる債務者の合意を得ていないため、事務管理同様とし、その範囲での求償を認めている。 - (参考)民法第702条(管理者による費用の償還請求等) - 第3項 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定(事務管理者による有益な費用支出の償還 等)を適用する。 - (参考)民法第702条(管理者による費用の償還請求等) - 本項に規定する場合において、主たる債務者としては、意に反して保証がなされたのだから、当該債務消滅行為については関知すべきものではないとも言えるが、債権者にとっては債務消滅行為により満足を得ているので、主たる債務者が債務の存在を主張するなどして、さらに新たな債権債務関係を生じさせることの利益はなく、又、主たる債務者にとっても、当該債務について不利益が増大したという事情がないようであれば、保証に対して求償を認めるとの趣旨。これは、債権債務関係の移動(債権譲渡、債務引受)ともとりうるが、当事者である主たる債務者の合意を得ていないため、事務管理同様とし、その範囲での求償を認めている。 - 第3項 - 第459条の2第3項の規定 - 第1項の求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ、これを行使することができない。 - 主たる債務者は、主たる債務の弁済期まで期限の利益を有しているのであるから、弁済期前に債務消滅行為があったとしても、弁済期まで求償に応じる義務はない。 - 第1項の求償権は、主たる債務の弁済期以後でなければ、これを行使することができない。 - 第459条の2第3項の規定 参照条文 - 民法第459条(委託を受けた保証人の求償権)
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条文 (通知を怠った保証人の求償の制限等) - 第463条 - 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者にあらかじめ通知しないで債務の消滅行為をしたときは、主たる債務者は、債権者に対抗することができた事由をもってその保証人に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその保証人に対抗したときは、その保証人は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、主たる債務者が債務の消滅行為をしたことを保証人に通知することを怠ったため、その保証人が善意で債務の消滅行為をしたときは、その保証人は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。 - 保証人が債務の消滅行為をした後に主たる債務者が債務の消滅行為をした場合においては、保証人が主たる債務者の意思に反して保証をしたときのほか、保証人が債務の消滅行為をしたことを主たる債務者に通知することを怠ったため、主たる債務者が善意で債務の消滅行為をしたときも、主たる債務者は、その債務の消滅行為を有効であったものとみなすことができる。 改正経緯 2017年改正前の条文は以下のとおり (通知を怠った保証人の求償の制限) - 第443条の規定は、保証人について準用する。 - 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第443条の規定は、主たる債務者についても準用する。 - 改正前第2項についての改正前民法第443条(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)への当てはめ。 - 連帯債務者の一人(→保証人)が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者(→主たる債務者)に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者(→主たる債務者)は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者(→保証人)に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者(→保証人)に対抗したときは、過失のある連帯債務者(→保証人)は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 - →改正後第463条第1項に趣旨を継承 - 連帯債務者の一人(→主たる債務者)が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者(→保証人)に通知することを怠ったため、他の連帯債務者(→保証人)が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者(→保証人)は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。 - →改正後第463条第2項に趣旨を継承 - 連帯債務者の一人(→保証人)が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者(→主たる債務者)に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者(→主たる債務者)は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者(→保証人)に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者(→保証人)に対抗したときは、過失のある連帯債務者(→保証人)は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 解説 参照条文
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民法第465条 条文 (共同保証人間の求償権) - 第465条 - 第442条から第444条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 - 第462条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 解説 連帯債務者間の求償権の規定、委託を受けない保証人の求償権の規定は、共同保証人間の求償権にも準用されることを規定している。 - 民法第442条(連帯債務者間の求償権) - 民法第443条(通知を怠った連帯債務者の求償の制限) - 民法第444条(償還をする資力のない者の負担部分の分担) - 民法第462条(委託を受けない保証人の求償権) 参照条文 - 民法第456条(数人の保証人がある場合) 判例 - 求償金請求(最高裁判決 昭和46年03月16日)民法第442条 - 債権者に対する関係では主債務者であるが内部関係においては実質上の連帯保証人にすぎない者に対する他の連帯保証人の求償権 - 甲が債権者に対する関係では主債務者であるが、内部関係においては実質上の主債務者乙の連帯保証人にすぎない場合において、連帯保証人丙が債権者に対し自己の負担部分をこえる額を弁済したときは、丙は、甲に対し丙の負担部分をこえる部分についてのみ甲の負担部分の範囲内で求償権を行使することができる。 - 約束手形金(最高裁判決 昭和57年09月07日)民法第427条,民法第442条,手形法第17条,手形法第30条1項,手形法第47条1項,手形法第47条3項,手形法第49条,手形法第77条1項1号,手形法第77条1項4号,手形法第77条3項 - 約束手形の第一裏書人及び第二裏書人がいずれも保証の趣旨で裏書したものである場合に手形を受戻した第二裏書人に対し第一裏書人が負うべき遡求義務の範囲 - 約束手形の第一裏書人及び第二裏書人がいずれも振出人の手形債務を保証する趣旨で裏書したものである場合において、第二裏書人が所持人から手形を受戻したうえ第一裏書人に対し遡求したときは、第一裏書人は民法645条1項の規定の限度においてのみ遡求に応じれば足り、右の遡求義務の範囲の基準となる裏書人間の負担部分につき特約がないときは、負担部分は平等である。
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条文 (契約締結時の情報の提供義務) - 第465条の10 - 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。 - 財産及び収支の状況 - 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況 - 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容 - 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。 - 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。 解説 2017年改正にて新設。
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条文 (個人根保証契約の保証人の責任等) - 第465条の2 - 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 - 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。 - 第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。 改正経緯 貸金等根保証契約に関する規律が、個人である保証人の保護を目的に、平成16年(2004年)改正において導入、『第2目 貸金等根保証契約』に規定されたが、2017年改正により、負担債務の種類を貸金等に限定する制限を撤廃し、かつ、個人による根保証である旨を明確にするため名称を「貸金等根保証契約」から「個人根保証契約」に改めた。 2017年改正による改正は、以下のとおり。 - 見出し - (改正前)貸金等根保証契約の保証人の責任等 - (改正後)個人根保証契約の保証人の責任等 - 第1項 - 定義の改正 - (改正前)その債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、 - (改正後)保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、 - 用字の改正 - (改正前)従たるすべてのもの - (改正後)従たる全てのもの - 定義の改正 - 第2項/第3項 - (改正前)貸金等根保証契約 - (改正後)個人根保証契約 解説 根保証とは、一定の範囲で継続的に発生する不特定の債務を包括的に保証するという保証の形態をいう。身近な典型例としては、雇用や不動産賃貸時における「身元保証」がある。 根保証は、保証人の意図しない債務を負うリスクを有し、個人については、このリスクを回避させるため、保証人が個人である場合には、保証の限度額(極度額)を定め、かつ、書面等により交わされなければ無効とした。 2017年改正により、債務の範囲の制限がなくなったことにより、個人による「身元保証契約」は、雇用の場合も不動産賃貸の場合も「個人根保証契約」の範疇に入り、極度額を定め、書面等で取り交わすことが義務化された。 参照条文 - 2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 - 3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
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条文 (個人貸金等根保証契約の元本確定期日) - 第465条の3 - 個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその個人貸金等根保証契約の締結の日から5年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。 - 個人貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする。 - 個人貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から5年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前2箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から5年以内の日となるときは、この限りでない。 - 第446条第2項及び第3項の規定は、個人貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。 改正経緯 平成16年(2004年)改正、前条(第465条の2)において、「保証人が個人である根保証契約であって、その債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(貸金等債務)が含まれるもの」を「貸金等根保証契約」と定義していたが、2017年改正により、負担債務の種類を貸金等債務に限定する制限が撤廃されたことに伴い、本目を通じ律する「保証人が個人である根保証契約」を「個人根保証契約」に改め、改正前の「貸金等根保証契約」を「個人貸金等根保証契約」とした。 2017年改正による改正は、以下のとおり。 - 見出し - (改正前)貸金等根保証契約の元本確定期日 - (改正後)個人貸金等根保証契約の元本確定期日 - 第1項 - 定義の改正 - (改正前)貸金等根保証契約おいて - (改正後)個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(以下「個人貸金等根保証契約」という。)おいて - 用語の改正 - (改正前)貸金等根保証契約の締結の日から - (改正後)個人貸金等根保証契約の締結の日から - 定義の改正 - 第2項/第3項/第4項 - (改正前)貸金等根保証契約 - (改正後)個人貸金等根保証契約 解説 根保証契約は、主たる債務の元本が確定しなければ、保証人としては不安定な位置になるので、債権者に対して期日を決め元本を確定させる。 元本確定期日の定めのない個人貸金等根保証契約において、元本確定期日は当該契約締結日から3年を経過する日とする。期日を定める場合であっても最長5年とし、これに反する元本確定期日の約定は無効であり、即ち、元本確定期日の定めのない契約として取り扱われる。 元本確定期日到来前の更新は可能であるが、更新期間は、更新前契約の元本確定期日の日から5年を超えることはできない。 元本確定期日については、保証人に有利な条件を除き、書面等により取り交わされることを要する。 参照条文 身元保証ニ関スル法律 - 第一条 (略)身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス - 第二条 - 身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ期間ハ之ヲ五年ニ短縮ス - 身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
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条文 (個人根保証契約の元本の確定事由) - 第465条の4 - 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があ ったときに限る。 - 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。 - 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。 - 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。 - 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、 第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。 - 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。 - 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。 改正経緯 2017年改正前の条項は、以下のとおり。 (貸金等根保証契約の元本の確定事由) - 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。 - 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。 - 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたと き。 - 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。 改正概要 - 2017年改正により根保証対象の制限がなくなったが(民法第465条の2)、建物賃貸の保証などは主たる債務者の信用不安などを元本確定事由とするのは適当ではないため、期日到来前の元本確定事由を、「個人根保証契約」一般と、貸金等債務が含まれる「個人貸金等根保証契約」に分けて規定。前者については、保証人に関する民事執行等の事情及び主たる債務者又は保証人の死亡、後者については主たる債務者に関する民事執行等の事情を契機とした。
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条文 (保証人が法人である根保証契約の求償権) - 第465条の5 - 保証人が法人である根保証契約において、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない 。 - 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約は、その効力を生じない。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。 - 前二項の規定は、求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に求償権に係る債務が含まれる根保証契約の保証人が法人である場合には、適用しない。 改正経緯 2017年改正前の条項は、以下のとおり。 (保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権) - 第465条の5 - 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、第465条の2第1項に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第465条の3第1項若しくは第3項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。 解説 根保証契約の求償権保証の制限について定める。
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条文 (公正証書の作成と保証の効力) - 第465条の6 - 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。 - 前項の公正証書を作成するには、次に掲げる方式に従わなければならない。 - 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。 - イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) - 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、その債務の全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。 - ロ 根保証契約 - 主たる債務の債権者及び債務者、主たる債務の範囲、根保証契約における極度額、元本確定期日の定めの有無及びその内容並びに主たる債務者がその債務を履行しないときには、極度額の限度において元本確定期日又は第465条の4第1項各号若しくは第2項各号に掲げる事由その他の元本を確定すべき事由が生ずる時までに生ずべき主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものの全額について履行する意思(保証人になろうとする者が主たる債務者と連帯して債務を負担しようとするものである場合には、債権者が主たる債務者に対して催告をしたかどうか、主たる債務者がその債務を履行することができるかどうか、又は他に保証人があるかどうかにかかわらず、その全額について履行する意思)を有していること。 - イ 保証契約(ロに掲げるものを除く。) - 公証人が、保証人になろうとする者の口述を筆記し、これを保証人になろうとする者に読み聞かせ、又は閲覧させること。 - 保証人になろうとする者が、筆記の正確なことを承認した後、署名し、印を押すこと。ただし、保証人になろうとする者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。 - 公証人が、その証書は前三号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。 - 保証人になろうとする者が、次のイ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を公証人に口授すること。 - 前二項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。 解説 2017年改正にて新設。
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条文 (保証に係る公正証書の方式の特則) - 第465条の7 - 前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が口がきけない者である場合には、公証人の前で、同条第2項第1号イ又はロに掲げる契約の区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事項を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、同号の口授に代えなければならない。 この場合における同項第二号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。 - 前条第1項の保証契約又は根保証契約の保証人になろうとする者が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第2項第二号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により保証人になろうとする者に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。 - 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。 解説 2017年改正にて新設。保証人になろうとする者が言語機能障害者又は聴覚障害者である場合に、公証人の口授又は読み聞かせに替える方法を規定したもの。
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条文 (公正証書の作成と求償権についての保証の効力) - 第465条の8 - 第465条の6第1項及び第2項並びに前条の規定は、事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権に係る債務を主たる債務とする保証契約について準用する。主たる債務の範囲にその求償権に係る債務が含まれる根保証契約も、同様とする。 - 前項の規定は、保証人になろうとする者が法人である場合には、適用しない。 解説 2017年改正にて新設。脱法行為を防止するため、事業資金等に対する保証の求償権にかかる債務に対する保証(再保証)契約の保証人が保証人が個人である場合、前2条を準用するもの。
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条文 (公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外) - 第465条の9 - 前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。 - 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者 - 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者 - イ 主たる債務者の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除く。以下この号において同じ。)の過半数を有する者 - ロ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者 - ハ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者 - ニ 株式会社以外の法人が主たる債務者である場合における イ、ロ又はハに掲げる者に準ずる者 - 主たる債務者(法人であるものを除く。以下この号において同じ。)と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者 解説 2017年改正にて新設。 事業資金等に対する保証に関する公正証書作成義務は、以下の場合、適用しない。各々、事業経営に従事する者であり、事業内容及び保証行為の意味を理解しており、保護の必要性が低いとの価値判断による。 - 主たる債務者が法人である場合 - その法人の経営に当たる者(理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者) - 大株主など、その法人の支配権を有する者 - その法人が、他の法人の支配権下にある場合(子会社、子法人)、支配権を有する法人(親会社、親法人)に対し支配権を有する者。法文上はさらにもう一代遡るが、それ以上であっても「法人格否認」等により同様の結論が得られるであろう。 - 主たる債務者が個人である場合 - 共同事業者(共同経営者) - 主たる債務者の配偶者で、事業に従事する者 参照条文 前三条
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民法第466条 条文 (債権の譲渡性) - 第466条 - 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。 - 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。 - 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。 - 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。 改正経緯 2017年改正により、以下のとおりの改正がなされた。 - 第2項は、以下の条文に替え、現行条文が置かれた。 - 第3項及び第4項を追加。 解説 第1項 - 民法では債権を財産権として捉え、原則として自由に譲渡できることを定めている。つまり債権は取引の対象となるのである。 - 債権譲渡とは、債権の性質を変えないで債権を移転することである。この点で、当事者間で債権の内容を変更する「更改」とは異なる。債権譲渡の定義は明文化されていないが「債権の同一性を保ったまま譲渡人から譲受人に債権を譲渡すること」をいう。譲渡人の資金繰りのために認められた制度である。 - 金融債権については、ファクタリングとして、事業化されている。 - 債権譲渡は、債権が譲渡されることにより債権者が交代するものであるが、逆に、債務者が交替するとして債務引受(次節)がある。双務契約などにおいては、債権者・債務者の両方の地位を兼ねることも少なくなく、この場合、債権譲渡と債務引受が複合する。この場合、「契約上の地位の移転」(民法第539条の2)を観念することになる。 債権譲渡の方法 - 債権譲渡の方法は、原則として債権の譲渡人と譲受人との間の合意(意思表示)があれば成立する。この際、債務者の承諾は不要である。なお、債権譲渡の「対抗要件」については民法第467条以降を参照。 - 他人に属する債権(最判昭和43年08月02日)や将来に向けての債権(最判平成11年01月29日)について譲渡を約することも有効である。 例外 債務の性質が譲渡を許さない場合 - 債務の「性質がこれを許さないとき」(但書)は、債権譲渡はできない(無効となる)。 - 引渡債務は、一般に譲渡可能であるが以下の場合などは制限される。 - 法律によって譲渡が禁止されている場合 - 扶養請求権(民法第881条) - 災害補償を受ける権利(労働基準法第83条) - 一部の興行のチケット(特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律)などがある。 - 判例 - 交互計算に組み入れられた各個の債権(大審院判決昭和11年3月11日民集15巻4号320頁) - 法律によって譲渡が禁止されている場合 - 行為債務・禁止債務は、債務である行為の対象が債権者等であって、その対象が変わることにより債務の給付をなすことが不能あるいは著しく困難になる類の債権は譲渡できない。 - 法律によって譲渡が禁止されている場合 - 雇用関係(民法第625条) - 引渡債務は、一般に譲渡可能であるが以下の場合などは制限される。 債権譲渡禁止特約 - 改正前は、第2項に「当事者間で債権譲渡禁止の特約(債権譲渡禁止特約)」を結んだ場合、債権譲渡を無効とし但し善意の第三者(判例により、善意につき重大な過失がないことまで拡張されていた)には対抗できないものとされていたが、2017年改正で、そのような場合にあっても譲渡は有効であると定められ、譲渡自由の例外ではなくなった。 第2項 既述のとおり、「譲渡制限の意思表示(債権譲渡禁止特約)」を無効とした。 譲渡禁止特約を認めるのは比較法的に珍しく、これが認められた趣旨は、明治初年民法制定以前は債権譲渡は債務者の同意を要するものとしていたこと、暴力組織などが債権を安く譲り受け『取立て屋』などが跋扈することを防止することにあるとされていたが、近年は、事務の煩雑さの抑制(預金債権が譲渡された場合、窓口での、譲渡確認が煩雑になる)、過誤払いの防止、相殺権の確保(銀行において、事業資金に関する継続的取引の多くは両建て取引)など、主に銀行などが債務者である場合に有利な制度になっており(例:商工中金の総合口座取引等規定集には譲渡・質入れ禁止の条文がいくつも規定されている。)[1]、債務者たる預金者が零細な企業等である場合、それらの企業にとっては資金調達の手段を狭めるなどの批判もあった。また、その解釈について、従来は「前項の規定は適用されない」と規定されており債権譲渡が無効であると定められていたので、「譲渡禁止特約は誰に対しても対抗できて譲受人に譲渡無効を主張できる」という物権的効力説が通説だった。これに対して少数説だった債権的効力説は譲渡禁止特約が譲受人に対抗できず譲渡人に債務不履行責任を問えるとしていた。 2017年改正によって、債権譲渡自由の原則を徹底した。 第3項 しかしながら、長年の取引慣習もあり、譲受人等が、『譲渡禁止特約』の存在を知っていながら(悪意)、又は、重大な過失によって知らなかった(『譲渡禁止特約』は慣習化しているので、譲り受け時に、その存在を確認しないと、重大な過失があったと解されうる。預金債権については、第466条の5参照)場合は、譲受人等に対して、債務者は履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済等債務消滅行為(両建て預金の相殺が典型)をもって、譲受者等に対抗しうるものとした。 したがって、実務上、改正前後に大きな差は生じていないとも言える。 第4項 第3項により債務の履行が拒否された場合、譲受人等を救済するため、債権譲渡により本来であれば権限のない譲渡人に対して、期間を定め債務者への履行を催告できるものとし、元々の債権者・債務者間で解決を促すものとし、その期間中に履行がなければ、履行の拒否はできなくなるものとした。 参照条文 判例 - 契約確認請求 (最高裁判決 昭和30年09月29日) - 債務を伴う契約上の地位の譲渡契約と債権者に対する効力 - 債務を伴う契約上の地位の譲渡契約は、債権者の承諾がないときは債権者に対し効力を生じない。 - 退職金請求(最高裁判決 昭和43年03月12日) 国家公務員等退職手当法第2条,労働基準法第11条,労働基準法第24条1項,労働基準法第120条 - 国家公務員等退職手当法に基づく退職手当の支払と労働基準法第24条1項の適用または準用の有無 - 国家公務員等退職手当法に基づいて支給される一般の退職手当は、労働基準法第11条所定の賃金に該当し、その支払については、性質の許すかぎり、同法第24条第1項本文の規定が適用または準用される。 - 右退職手当の受給権を譲り受けた者が国または公社に対し直接支払を求めることの許否 - 右退職手当の支給前に、退職者またはその予定者が退職手当の受給権を他に譲渡した場合において、譲受人が直接国または公社に対してその支払を求めることは許されない。 - 国家公務員等退職手当法に基づく退職手当の支払と労働基準法第24条1項の適用または準用の有無 - 執行異議(最高裁判決 昭和43年05月28日) 労働基準法第11条,労働基準法第24条1項 - 退職金の支払と労働基準法第24条第1項の適用 - 退職金は、労働基準法第11条にいう労働の対償としての賃金に該当し、その支払については性質の許すかぎり、同法第24条第1項本文の直接払の原則が適用される。 - 退職金債権の譲渡性の有無 - 退職金債権は同法第24条第1項本文にかかわらず譲渡することができる。 - 退職金の支払と労働基準法第24条第1項の適用 - 転付金請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)民法第467条,民法第560条 - 他人の有する債権を譲渡する契約をしてその譲渡通知をした者がその後同債権を取得した場合における右譲渡および通知の効力 - 他人の有する債権を譲渡する契約をし、その債権の債務者に対して確定日附のある譲渡通知をした者が、その後同債権を取得した場合には、なんらの意思表示を要しないで、当然に同債権は譲受人に移転し、右譲受人は、同債権の譲受をもつて、その後右譲渡人から同債権の譲渡を受けた第三者に対抗することができる。 - 転付預金債権支払請求(最高裁判決 昭和45年04月10日)民訴法600条1項,民訴法601条 - 譲渡禁止の特約のある債権に対する転付命令の効力 - 譲渡禁止の特約のある債権であつても、差押債権者の善意・悪意を問わず、転付命令によつて移転することができるものであつて、これにつき、民法466条2項の適用はない。 - 2017改正により条文に取り込まれた。 - 損害賠償請求 (最高裁判決 昭和46年04月23日)民法第601条 - 賃貸土地の所有者がその所有権とともにする賃貸人たる地位の譲渡と賃借人の承諾の要否 - 賃貸借の目的となつている土地の所有者が、その所有権とともに賃貸人たる地位を他に譲渡する場合には、賃貸人の義務の移転を伴うからといつて、特段の事情のないかぎり、賃借人の承諾を必要としない。 - 預金支払請求 (最高裁判決 昭和48年07月19日) - 民法466条2項但書(改正前)と重大な過失のある第三者 - 譲渡禁止の特約のある債権の譲受人は、その特約の存在を知らないことにつき重大な過失があるときは、その債権を取得しえない。 - 2017改正により条文(第3項)に取り込まれた。 - 転付債権請求(最高裁判決昭和52年03月17日)民法第119条,民法第467条 - 譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知つて譲り受けたのち債務者がその譲渡につき承諾を与えた場合と承諾後債権の差押・転付命令を得た第三者に対する右債権譲渡の効力 - 譲渡禁止の特約のある指名債権を譲受人が特約の存在を知つて譲り受けた場合でも、債務者がその譲渡につき承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡の時にさかのぼつて有効となり、譲渡に際し債権者から債務者に対して確定日付のある譲渡通知がされている限り、債務者は、右承諾後に債権の差押・転付命令を得た第三者に対しても債権譲渡の効力を対抗することができる。 - 債権取立 (最高裁判決 昭和53年02月23日)地方自治法第203条,民訴法618条1項5号 - 地方議会議員の報酬請求権の譲渡性 - 地方議会の議員の報酬請求権は、条例に譲渡禁止の規定がない限り、譲渡することができる。 - 供託金還付請求権確認、供託金還付請求権取立権確認(最高裁判決 平成9年06月05日) 民法第116条 - 譲渡禁止の特約のある指名債権の譲渡後にされた債務者の譲渡についての承諾と債権譲渡の第三者に対する効力 - 譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が特約の存在を知り、又は重大な過失により特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が債権の譲渡について承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法116条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできない。 - 供託金還付請求権確認 (最高裁判決 平成11年01月29日)健康保険法43条ノ9第5項,社会保険診療報酬支払基金法13条1項 - 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時における目的債権の発生の可能性の程度と右契約の効力 - 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時において目的債権の発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然には左右しない。 - 医師が社会保険診療報酬支払基金から将来支払を受けるべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約の効力を否定した原審の判断に違法があるとされた事例 - 医師が社会保険診療報酬支払基金から将来8年3箇月の間に支払を受けるべき各月の診療報酬債権の一部を目的として債権譲渡契約を締結した場合において、右医師が債務の弁済のために右契約を締結したとの一事をもって、契約締結後6年8箇月目から一年の間に発生すべき目的債権につき契約締結時においてこれが安定して発生することが確実に期待されたとはいえないとし、他の事情を考慮することなく、右契約のうち右期間に関する部分の効力を否定した原審の判断には、違法がある。 - 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時における目的債権の発生の可能性の程度と右契約の効力 - 譲受債権請求事件 (最高裁判決 平成12年04月21日) 民法第369条 - 既発生債権及び将来債権を一括して目的とするいわゆる集合債権の譲渡予約において譲渡の目的となるべき債権の特定があるとされる場合 - 甲が乙との間の特定の商品の売買取引に基づき乙に対して現に有し又は将来有することのある売掛代金債権を目的として丙との間で譲渡の予約をした場合、譲渡の目的となるべき債権は、甲の有する他の債権から識別ができる程度に特定されているということができる。 - 否認権行使請求事件(最高裁判決 平成16年07月16日)破産法第72条2号,民法第127条1項 - 債権譲渡人について支払停止又は破産の申立てがあったことを停止条件とする債権譲渡契約に係る債権譲渡と破産法72条2号による否認 - 債権譲渡人について支払停止又は破産の申立てがあったことを停止条件とする債権譲渡契約に係る債権譲渡は,破産法72条2号に基づく否認権行使の対象となる。 - 供託金還付請求権帰属確認請求本訴,同反訴事件(最高裁判決 平成21年03月27日) - 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することの可否 - 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することは,債務者にその無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,許されない。 - 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しない。 - 信義誠実の原則(第1条第2項)の範疇の一つである「禁反言の法理」に背く。 - 譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しない。 脚注 - ^ 星野英一 『民法概論Ⅲ』 良書普及会、1984年、201-202頁。ISBN 4-656-30200-7。
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条文 (譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え) - 第466条の4 - 第466条第3項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。 - 前項の規定にかかわらず、譲受人その他の第三者が譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった場合において、その債権者が同項の債権に対する強制執行をしたときは、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって差押債権者に対抗することができる。 解説 2017年改正にて新設。 譲渡禁止特約ある債権の差押・転付に関し、譲渡禁止特約を無効とする判例(最判昭和45年4月10日民集240頁)の法令化。
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条文 (将来債権の譲渡性) - 第466条の6 - 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。 - 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。 - 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第466条第3項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第1項)の規定を適用する。 解説 2017年改正にて新設。
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民法第467条 条文 (債権譲渡の対抗要件) - 第467条 - 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 - 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。 改正経緯 2017年改正により、以下のとおりの改正がなされた。 - 見出し - 改正により、債権概念が整理され、旧指名債権以外の債権は有価証券にまとめられたため、単に「債権」とした。 - (改正前)指名債権譲渡の対抗要件 - (改正後)債権譲渡の対抗要件 - 第1項 - 前条により、債権譲渡の対象に「将来債権」を含むことが明示されたことに伴う改正。 - (改正前)指名債権の譲渡は、 - (改正後)債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、 解説 - 債権(改正前は指名債権)の譲渡の対抗要件を定めた規定である。債務者に対する対抗要件と債務者以外の第三者に対するそれとで違いがある。 - 債権の二重譲渡の場合は、確定日付ある証書の到達の先後([[#二重譲渡|最判昭和49年3月7日])、又は、確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によつて優劣を決すると考えるのが判例である。 - 債務者の承諾の通知は、債権の譲渡人又は、譲受人のいずれに対するものでも良い。一方、譲渡の通知は必ず譲渡人から債務者に対して行う必要があり、譲受人が譲渡人に「代位」して債務者に通知しても無効である。もっとも譲受人が譲渡人に「代理」して債務者に通知するのは差し支えない。 債権譲渡の予約 - 現在他人が有する債権について、債権者が譲渡に先立って債務者に通知することにより、債権の譲渡がなされた際に、譲渡を予約することも有効とされる(最判昭和43年8月2日) 参照条文 - 民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) - 民法第377条(抵当権の処分の対抗要件) - 民法第364条(債権を目的とする質権の対抗要件) - 民法第466条(債権の譲渡性) (旧)民法第469条(指図債権の譲渡の対抗要件) - →第520条の2(指図証券の譲渡):対抗要件ではなく効力要件 - 民法第499条(任意代位) 判例 - 無記名定期預金請求(最高裁判決 昭和32年12月19日)民法第86条3項,民法第505条,民法第666条 - いわゆる無記名定期預金債権の性質 - いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく指名債権に属する。 - 無記名定期預金の債権者の判定 - 甲が乙に金員を交付して甲のため無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合、乙において右金員を横領し自己の預金としたものでない以上、その預入れにあたり、乙が、届出印鑑として乙の氏を刻した印鑑を使用し、相手方の銀行が、かねて乙を知つており、届出印鑑を判読して預金者を乙と考え、預金元帳にも乙を預金者と記載した事実があつたとしても、右無記名定期預金の債権者は乙でなく、甲と認めるのが相当である。 - 無記名定期預金の債権者でない者が単に届出印鑑を使用してなした相殺の効力 - 右無記名定期預金において、相手方の銀行は、無記名定期預金証書と届出印鑑を呈示した者に支払をすることにより免責される旨の特約がなされている場合、届出印鑑のみを提出した乙との間に、右無記名定期預金と乙の銀行に対する債務と相殺する旨の合意をしても、右銀行はこれによつて、甲に対する無記名定期預金払戻債務につき、免責を得るものではない。 - いわゆる無記名定期預金債権の性質 - 不動産所有権移転登記手続請求(最高裁判決 昭和35年04月26日)民法第579条,民法第581条1項,民法第129条 - 買戻特約の登記をしなかつた場合における不動産買戻権譲渡の方法 - 買戻の特約を登記しなかつた場合、不動産買戻権は売主の地位と共にのみ譲渡することができる。 - 買戻特約の登記をしなかつた場合における不動産買戻権譲渡の対抗要件 - 買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡を買主に対抗するには、これに対する通知またはその承諾を必要とし且つこれをもつて足りる。 - 買戻特約の登記をしなかつた場合における不動産買戻権譲渡の方法 - 強制執行異議(最高裁判決 昭和35年11月24日)民法第556条,不動産登記法第2条,不動産登記法第7条 - 仮登記によつて保全された不動産売買予約上の権利の譲渡と対抗要件 - 不動産売買予約上の権利を仮登記によつて保全した場合に、右予約上の権利の譲渡を予約義務者その他の第三者に対抗するためには、仮登記に権利移転の附記登記をすれば足り、債権譲渡の対抗要件を具備する心要はないと解すべきである。 - 売買予約上の権利の譲渡以前になされた仮差押の効力 - 右の場合において、仮登記後附記登記前に第三者により仮差押の登記がなされたとしても、その後右不動産につき売買予約完結の意思表示がなされ、これに基いて所有権移転の本登記がなされた以上、仮差押債権者はその仮差押をもつて所有権取得者に対抗することはできない。 - 仮登記によつて保全された不動産売買予約上の権利の譲渡と対抗要件 - 転付金請求(最高裁判決 昭和43年08月02日)民法第466条,民法第560条 - 他人の有する債権を譲渡する契約をしてその譲渡通知をした者がその後同債権を取得した場合における右譲渡および通知の効力 - 他人の有する債権を譲渡する契約をし、その債権の債務者に対して確定日附のある譲渡通知をした者が、その後同債権を取得した場合には、なんらの意思表示を要しないで、当然に同債権は譲受人に移転し、右譲受人は、同債権の譲受をもつて、その後右譲渡人から同債権の譲渡を受けた第三者に対抗することができる。 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和49年02月28日)手形法第11条 - 裏書によらない手形債権の譲渡の性質 - 約束手形の受取人甲が、乙からその手形の割引を受け、裏書をしないでこれを乙に交付したときは、甲は、指名債権譲渡の方法によつて乙に右手形債権を譲渡したものと解するのが相当である。 - 第三者異議(最高裁判決 昭和49年03月07日) - 指名債権の二重譲渡と優劣の基準 - 指名債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の問の優劣は、確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によつて決せられる。 - 民法467条2項の確定日付ある通知と認められた事例 - 債権者が、債権譲渡証書に確定日付を受け、これを即日短時間内に債務者に交付したときは、民法467条2項所定の確定日付ある通知があつたものと認めることができる。 - 指名債権の二重譲渡と優劣の基準 - 譲受債権(最高裁判決 昭和55年01月11日) - 指名債権が二重に譲渡され確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達した場合における譲受人の一人からする弁済請求 - 指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に債務者に到達したときは、各譲受人は、債務者に対しそれぞれの譲受債権全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由が存在しない限り、弁済の責を免れることができない。 - 供託金還付同意(最高裁判決 昭和58年06月30日)民法第364条1項 - 指名債権に対する質権設定を第三者に対抗しうる要件としての第三債務者に対する通知又はその承諾と質権者特定の要否 - 指名債権に対する質権設定を第三者に対抗しうる要件としての第三債務者に対する通知又はその承諾は、具体的に特定された者に対する質権設定についてされることを要する。 - 運送代金(最高裁判決 昭和61年04月11日)民事訴訟法第232条、民法第478条 - 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用 - 指名債権が二重に譲渡された場合に、民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済についても、同法478条の適用がある。 - 二重に譲渡された指名債権の債務者が対抗要件を後れて具備した譲受人に対してした弁済について過失がないというための要件 - 二重に譲渡された指名債権の債務者が民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信じてした弁済について過失がないというためには、対抗要件を先に具備した譲受人の債権譲受又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。 - 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用 - 供託金還付請求権確認請求本訴、同反訴(最高裁判決 平成5年03月30日)国税徴収法62条,国税徴収法67条 - 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合における差押債権者と債権譲受人との間の優劣 - 同一の債権について、差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合、差押債権者と債権譲受人とは、互いに自己が優先的地位にある債権者であると主張することができない。 - 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合と当該債権に係る供託金の還付請求権の帰属 - 同一の債権について、差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明であるため、第三債務者が債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する。 - 同一の債権について差押通知と確定日付のある譲渡通知との第三債務者への到達の先後関係が不明である場合における差押債権者と債権譲受人との間の優劣 - ゴルフ会員権地位確認請求本訴、同等請求反訴(最高裁判決 平成8年07月12日) - 預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡を第三者に対抗するための要件 - 預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡をゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをゴルフ場経営会社に通知し、又はゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りる。 - 取立債権(最高裁判決 平成10年01月30日) 民法第304条,民法第372条 - 抵当権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡 - 抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 - (原審判断) - 民法304条1項ただし書が払渡し又は引渡しの前の差押えを必要とする趣旨は、差押えによって物上代位の目的債権の特定性を保持し、これによって物上代位権の効力を保全するとともに、第三者が不測の損害を被ることを防止することにあり、この第三者保護の趣旨に照らせば、払渡し又は引渡しの意味は債務者(物上保証人を含む。)の責任財産からの逸出と解すべきであり、債権譲渡も払渡し又は引渡しに該当するということができるから、目的債権について、物上代位による差押えの前に対抗要件を備えた債権譲受人に対しては物上代位権の優先権を主張することができず、このことは目的債権が将来発生する賃料債権である場合も同様である。 - (最高裁判断) - 民法372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。 - 右のような民法304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。 - (原審判断) - 取立債権請求事件(最高裁判決 平成13年11月27日)民法第556条 - 指名債権譲渡の予約についての確定日付のある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することの可否 - 指名債権譲渡の予約についてされた確定日付のある証書による債務者に対する通知又は債務者の承諾をもって,当該予約の完結による債権譲渡の効力を第三者に対抗することはできない。 - 譲渡予約については確定日付ある証書により債務者の承諾を得たものの,予約完結権の行使による債権譲渡について第三者に対する対抗要件を具備していない譲受人は,債権の譲受けを第三者に対抗することはできない。
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民法第468条 条文 (債権の譲渡における債務者の抗弁) - 第468条 - 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。 - 第466条第4項の場合における前項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合における同項の規定の適用については、同項中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。 改正経緯 2017年改正前の条文は以下のとおり (指名債権の譲渡における債務者の抗弁) - 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。 - 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。 - 改正前解説 - 債権譲渡が行われた場合、債務者は、譲渡人に主張できたことはすべて譲受人に主張できるのが原則である。しかし、債務者が異議のない承諾をした場合には、債務者が譲渡人に対して主張できたことも譲受人には主張できなくなる。もっとも、これは譲受人の保護のための規定であるから、譲渡人に対しては異議のない承諾後もなお主張は可能である。 - 対抗することができた事由 - 抗弁権、債権の成立・存続、行使を阻害する事由が、含まれる。 解説 - 2017年改正により、「異議をとどめない承諾」による抗弁権の制限条項を削除。債務者が真摯に債権譲渡を認めた場合と単に「債権譲渡を認めます」と通知しただけの判別は一律にはし難かった事による。 - 「譲渡禁止特約」を前提に債務者が債務を履行しない場合において、対抗要件具備時とは以下の場合をいう。 - 第466条第4項に定める譲受人等による「相当の期間を定めた譲渡人への履行の催告」がなされ、その期間内に履行がなく、債務者が履行を拒否できなくなった場合、債務者は相当の期間を経過した時 - 譲渡人について破産手続開始の決定があったときは、無条件に債務者にその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託させることができるが、この場合においては、債務者は譲受人から供託の請求を受けた時。 参照条文 - 民法第516条(債権者の交替による更改) 判例 - 転付金請求(最高裁判決 昭和32年07月19日)手形法第38条,民法第506条1項 - 弁済期到来前の受働債権の譲渡または転付と債務者の相殺 - 弁済期到来前に受働債権の譲渡または転付があつた場合でも、債務者が右の譲渡通知または転付命令送達の当時すでに弁済期の到来している反対債権を有する以上、右譲受または転付債権者に対し相殺をもつて対抗することができる。 - 受働債権の譲渡と債務者の相殺の意思表示の相手方 - 債務者が受働債権の譲受人に対し相殺をもつて対抗する場合には、その相殺の意思表示はこれを右譲受人に対してなすべきである。 - 弁済期到来前の受働債権の譲渡または転付と債務者の相殺 - 譲渡債権請求(最高裁判決 昭和42年10月27日) - 未完成仕事部分に関する請負報酬金債権の譲渡後に生じた仕事完成義務不履行を事由とする請負契約の解除をもつて右債権の譲受人に対抗することができるとされた事例 - 未完成仕事部分に関する請負報酬金債権の譲渡について、債務者の異議をとどめない承諾がされても、譲受人が右債権が未完成仕事部分に関する請負報酬金債権であることを知つていた場合には、債務者は、右債権の譲渡後に生じた仕事完成義務不履行を事由とする当該請負契約の解除をもつて譲受人に対抗することができる。 - 転付預金債権支払請求(最高裁判決 昭和50年09月25日)民法第511条,民訴法第601条,手形法第39条,手形法第50条,手形法第77条 - 金融機関が手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて転付された預金債権を相殺した場合と手形の返還先 - 金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。 - 譲受債権請求(最高裁判決 昭和50年12月08日) - 債権が譲渡される前から債権者に対して反対債権を有していた債務者が右反対債権を自働債権とし被譲渡債権を受働債権としてした相殺を有効と認めた事例 - 債権が譲渡され、その債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、右通知を受ける前に譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取締役である等判示の事実関係があるときには、右被譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わず、両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は、譲受人に対し、右反対債権を自働債権として、被譲渡債権と相殺することができる。 - 不動産所有権確認等(最高裁判決 平成4年11月06日) - 抵当権の被担保債権の消滅後の債権譲渡に対する異議をとどめない承諾と抵当権の帰すう - 抵当権の被担保債権が弁済によって消滅した後に譲渡され、債務者が異議をとどめないで債権譲渡を承諾した場合であっても、右弁済前の第三取得者に対する関係において、抵当権は復活しない。 - 根抵当権設定登記抹消登記手続請求本訴、貸金請求反訴(最高裁判決 平成9年11月11日) - 賭博債権の譲渡を異議なく承諾した債務者が右債権の譲受人に対して賭博契約の公序良俗違反による無効を主張することの可否 - 賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては、右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても、債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り、債務者は、右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができる。 - 不当利得返還請求(最高裁判決 平成27年6月1日) - 異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が,譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができる場合 - 債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができる
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条文 (債権の譲渡における相殺権) - 第469条 - 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。 - 債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。 - 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権 - 前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権 - 第466条第4項の場合における前二項の規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条第4項の相当の期間を経過した時」とし、第466条の3の場合におけるこれらの規定の適用については、これらの規定中「対抗要件具備時」とあるのは、「第466条の3の規定により同条の譲受人から供託の請求を受けた時」とする。 改正経緯 2017年改正前の条項は以下のとおり。有価証券概念が整理され、「指図債権」は「指図証券」として規定され、旧本条の趣旨は必要な改正を加え、民法第520条の2に継承された。 (指図債権の譲渡の対抗要件) - 指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 解説 改正第469条は相殺の担保的機能を定めた。はっきりいって定期預金口座のある銀行保護のために確立した最高裁判例を明文化したものである(口座開設者への融資金 > 預金の額(=もともとの預金の額 ー 譲渡の額) になるのは銀行にとって不愉快。それを容認するより相殺して譲受人からの引き出し要求をブロックしてしまう)。 第3項については、前条第2項の趣旨と同じ。
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条文 (併存的債務引受の要件及び効果) - 第470条 - 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。 - 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。 - 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。 - 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。 改正経緯 2017年改正前の条項は以下のとおり。有価証券概念が整理され、「指図債権」は「指図証券」として規定され、旧本条の趣旨は必要な改正を加え、民法第520条の10に継承された。 (指図債権の債務者の調査の権利等) - 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。 解説 債務引受概説 2017年改正までは、債権譲渡と呼応した「債務引受」についての規定はなかったが、それまでも、社会的必要性(借金の肩代わり、担保権のついた物件を譲り受け被担保債務を引き受ける、債務の引受で債務の履行に替える、等)があり、実際に行われた。その結果、訴訟にもあがり、判例の蓄積がなされ、学説上でも、肯定的に確立された。それらを、2017年改正で取り込み、「第五節 債務の引受け」を設けた。 債務引受には、以下の3種があるとされ、本改正においては「併存的債務引受」及び「免責的債務引受」が法制化された。 - 履行引受 - 債務の履行負担のみを引き受けるもの。 引受人と原債務者の内部関係でのみ引受けが行われ、債務者が債務を負担しつづけ、引受人は債権者に対して債務を負担しない。引受人が履行を怠った場合でも、債権者に対し債務不履行責任を負うのは履行を引き受けさせた債務者自身であり、引受人は債権者に対して何らの責任も負担しない。 - 併存的債務引受(本条及び第471条に規定) - 引受人が、債権者に対して、原則として原債務者と同じ内容の債務を負担し、債務者は同一の責任を負い続けるもの。 - 免責的債務引受(第472条ないし第472条の4に規定) - 引受人が、債権者に対して、原債務者の負っていた債務をそのまま負担し、原債務者は債務を逃れるもの。狭義には、これのみを「債務引受」という。 併存的債務引受 - 併存的債務引受は、引受人が、債権者に対して、原則として原債務者と同じ内容の債務を負担し、債務者は同一の責任を負い続けるものをいう。債権者や原債務について担保を提供していた者においては、原債務者に対する責任は変わらず追及できる一方、履行の相手方は単純に増加するため(連帯債務となる。判例(最判昭和41年12月20日民集20・10・2139)の取り込み、改正前は本判例に対して批判があったが、改正により連帯債務の相対的効力の原則が強化されたことによりその要因は解消された)、債権者や担保提供者の利益を害することはない。 - 債権者と引受人となる者との契約(債務者の合意も通知も不要、債務者の意思に反していても良い(判例 大判大正15年3月25日民集5・219))でも、債務者と引受人となる者との契約(効力は、債権者への通知等の後、承諾を得ることを要する)でも良い。 - 債務者と引受人となる者との契約は、債権者を第三者とする「第三者のためにする契約」であるので、当該条項が適用される。 参照条文 - 第5節 債務の引受け - 第三者のためにする契約 判例 - 貸金請求(最高裁判決 昭和41年12月20日) - 重畳的債務引受によつて連帯債務関係を生ずるか - 重畳的債務引受があつた場合には、特段の事情のないかぎり、原債務者と債務引受人との間に連帯債務関係が生ずるものと解するのが相当である。
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条文 (併存的債務引受における引受人の抗弁等) - 第471条 - 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。 - 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、 引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。 改正経緯 2017年改正前の条項は以下のとおり。有価証券概念が整理され、「記名式所持人払債権」は「記名式所持人払証券」として規定され、旧本条の趣旨は必要な改正を加え、第520条の18(第520条の10の準用)に継承された。 (記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等) - 前条の規定は、債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが、その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。 解説 - 引受人は、債務者が負担する同一の債務を負担するので、債務を負担した時に債務者が債権者に対して有していた抗弁を持って、債権者に対抗できる。 - 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、それが行使されていない場合であっても、その限度で履行を拒否できる。
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条文 (免責的債務引受の要件及び効果) - 第472条 - 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。 - 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。 - 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。 改正経緯 2017年改正前の条項は以下のとおり。有価証券概念が整理され、「指図債権」は「指図証券」として規定され、旧本条の趣旨は必要な改正を加え、第第520条の6に継承された。 (指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限) - 指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。 解説 制定経緯については、民法第470条#債務引受概説参照。 免責的債務引受は、引受人が、債権者に対して、原債務者の負っていた債務をそのまま負担し、原債務者は債務を逃れるもの。引受人の資力によっては、債権者や原債務について担保を提供していた者において、リスクが生じるものであるため、債権者が合意・了解していることが必須となる(担保の移転については、民法第472条の4参照)。 参照条文 - 民法第514条(債務者の交替による更改) 判例 - 更正登記手続請求(最高裁判決 昭和37年7月20日) - 免責的債務引受と抵当権の消滅。 - 免責的債務引受が行なわれたときは、右債務につき第三者により設定された抵当権は、設定者の同意がない限り、消滅する。 - 株主権確認等請求(最高裁判決 昭和46年3月18日) - 免責的債務引受契約の成立と第三者の設定した質権の移転の有無 - 免責的債務引受契約が債権者と引受人間の契約によつて成立したときは、第三者の設定した質権は特段の事情のないかぎり消滅し、引受人に移転することはない。
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条文 (免責的債務引受における引受人の抗弁等) - 第472条の2 - 引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。 - 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によ って債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。 解説 2017年改正において制定。 民法第471条(併存的債務引受における引受人の抗弁等) に、履行拒否の限度に「『免責的債務引受がなければ』これらの権利の行使によ って債務者がその債務を免れることができた限度」の条件が加わる。
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条文 (免責的債務引受による担保の移転) - 第472条の4 - 債権者は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない 。 - 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。 - 前二項の規定は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。 - 前項の場合において、同項において準用する第1項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。 - 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。 解説 2017年改正において新設。
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条文 (第三者の弁済) - 第474条 - 債務の弁済は、第三者もすることができる。 - 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。 - 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。 - 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。 改正経緯 2017年改正により以下のとおり改正された。 - 第1項 - (改正前)ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 - 当事者が反対の意思を表示:契約によって生じる債権の場合は、当事者間の特約による。 - (改正後)〈但書削除〉 - 「その債務の性質がこれを許さないとき」「当事者が反対の意思を表示したとき」 → 第4項に規定 - (改正前)ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 - 第2項 - (改正前)利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。 - 利害関係を有する第三者:物上保証人、担保不動産の第三取得者、賃借人、留置権者。 - (改正後)弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。 - 「利害関係を有しない第三者」→「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者」 - 「債務者の意思に反することを債権者が知らなかったとき」は、有効な弁済となる。 - (改正前)利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。 - 第3項及び第4項を新設。 解説 債務者以外の第三者による弁済がなされた場合について規定。 参照条文 - 民法第499条(弁済による代位の要件) - 民法第500条(同上) - 賃金の支払の確保等に関する法律第7条(未払賃金の立替払) 判例 - 転付債権請求(最高裁判決 昭和39年04月21日) - 民法第474条第2項にいう「利害ノ関係」を有する者の意義。 - 民法第474条第2項にいう「利害ノ関係」を有する者とは、弁済をするについて法律上の利害関係を有する第三者をいうものと解すべきである。
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民法第476条 条文 (弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等) - 第476条 - 前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。 改正経緯 2017年改正前は、本条に以下の制限行為能力者の弁済についての規定が置かれていたが削除され、旧民法第477条を、文言を微修正し繰り上げ。 (弁済として引き渡した物の取戻し) - 譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。
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条文 (預金又は貯金の口座に対する払込みによる弁済) - 第477条 - 債権者の預金又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。 改正経緯 2017年改正前は、以下の規定が置かれていたが、旧民法第476条削除に伴い、文言を微修正し繰り上げ。それに替えて現行規定を新設。 (弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等) - 前二条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
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条文 (受領権者としての外観を有する者に対する弁済) - 第478条 - 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。 改正経緯 2017年改正 以下のとおり改正。「準占有者」の内容を明確化した。 - 見出し - (改正前)債権の準占有者に対する弁済 - (改正後)受領権者としての外観を有する者に対する弁済 - 本文 - 債権の準占有者に対してした弁済は - 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、 本改正に伴い、類似条文の第480条は削除。 平成16年改正 民法現代語化改正に際し、改正前は明文の規定がなかった無過失の要件を、「確立された判例・通説の解釈」に基づき明文化した。 - (改正前の本条)債権ノ準占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ其効力ヲ有ス 解説 フランス民法第1240条に由来する。債務者は真の債権者に弁済しなければ債務不履行の責任を負う。「債権の準占有者」に弁済しても債務不履行の責任は免除されないのが原則である(その例外は免責証券所持人に対する弁済)。しかしこの原則を徹底すると、債権者が頻繁に代わる場合やその債権者が代理人を送った場合、債務者は「新債権者」、「債権者の代理人」の代理資格の有無をいちいち確かめなければならない。そこで民法は権利概観法理の考え方によって、その者がたとえ真の債権者、債権者の代理人でなかったとしても「債権の準占有者」であれば、弁済を有効とし債務不履行責任を負わせないことにした。債務者は外観さえ過失なく調査すればよくなったのである。 現代の決済制度との関連については善意支払を参照。 - 債権の準占有者 - 詐称代理人 - 取り消された債権譲渡の譲受人 「債権者」を本人、「第三者」を他人(無権代理人または表見代理人)、「その弁済をした者」を第三者(相手方)と考えると、表見代理(民法第110条)ににていることがわかる。もっとも、越権代理の場合は第三者の信ずべき正当な理由について立証責任を負うのに対して、478条の場合は弁済者の善意無過失について立証責任を負うという微妙な違いがある。 参照条文 判例 - 納品代金請求 (昭和37年08月21日) - 債権者の代理人と称して債権を行使する者に対する民法第478条の適用の有無 - 債権者の代理人と称して債権を行使する者についても民法第478条が適用される。 - 債権の準占有者に対する弁済と弁済者の善意無過失 - 債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには、弁済者が善意かつ無過失であることを要する。 - 債権者の代理人と称して債権を行使する者に対する民法第478条の適用の有無 - 債務不存在確認定期預金証書回復等請求(最高裁判決 昭和41年10月04日) - 定期預金の期限前払戻に民法第478条の適用があるとされた事例 - 定期預金契約の締結に際し、当該預金の期限前払戻の場合における弁済の具体的内容が契約当事者の合意により確定されているときは、右預金の期限前の払戻であつても、民法第478条の適用をうける。 - 普通預金払戻請求(最高裁判決 昭和42年12月21日) - 預金通帳を呈示しない無権限者の請求に対して銀行のした預金の払戻に過失がないとされた事例 - 無権限者が預金通帳を呈示しないで預金の払戻を請求し、銀行がその支払をした場合であつても、払戻請求書に押捺された会社代表者の印影が届出の印影と合致し、請求者が当該会社の代表者を補助して会社の設立事務に従事し、設立後は取締役の一員となつていたことを当該係員において知つているなど判示の事情があるときは、銀行がその者に預金の払戻を請求する代理権限があると信じたことに過失はない。 - 預金返還(最高裁判決 昭和59年02月23日) - 金融機関が記名式定期預金の預金者と誤認した者に対する貸付債権をもつてした預金債権との相殺につき民法478条が類推適用されるために必要な注意義務を尽くしたか否かの判断の基準時 - 金融機関が、記名式定期預金につき真実の預金者甲と異なる乙を預金者と認定して乙に貸付をしたのち、貸付債権を自働債権とし預金債権を受働債権としてした相殺が民法478条の類推適用により甲に対して効力を生ずるためには、当該貸付時において、乙を預金者本人と認定するにつき金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしたと認められれば足りる。 - 運送代金(最高裁判決 昭和61年04月11日)民法第467条 - 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用 - 指名債権が二重に譲渡された場合に、民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済についても、同法478条の適用がある。 - 二重に譲渡された指名債権の債務者が対抗要件を後れて具備した譲受人に対してした弁済について過失がないというための要件 - 二重に譲渡された指名債権の債務者が民法467条2項所定の対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信じてした弁済について過失がないというためには、対抗要件を先に具備した譲受人の債権譲受又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど対抗要件を後れて具備した譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることを要する。 - 指名債権が二重に譲渡された場合に対抗要件を後れて具備した譲受人に対してされた弁済と民法478条の適用
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条文 (受領する権限のない者に対する弁済) - 第479条 - 前条の場合を除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。 改正経緯 2017年改正にて、前条で「受領権者」を「債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者」と定義したことに伴い、以下のとおり改正。 - 見出し - (改正前)受領する権限のない者に対する弁済 - (改正後)受領権者以外の者に対する弁済 - 本文 - (改正前)弁済を受領する権限を有しない者 - (改正後)受領権者以外の者 解説 参照条文 判例
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条文 (差押えを受けた債権の第三債務者の弁済) - 第481条 - 差押えを受けた債権の第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。 - 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。 改正経緯 2017年改正にて、以下のとおり改正。「支払の差止め」という文言を明確化(「差押え」(民事執行法第145条以下)、「仮差押え」(民事保全法第20条以下、家事事件手続法第105条))した。 - 見出し - (改正前)支払の差止めを受けた第三債務者の弁済 - (改正後)差押えを受けた債権の第三債務者の弁済 - 第1項 - (改正前)支払の差止めを受けた - (改正後)差押えを受けた 解説 参照条文 判例
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条文 (代物弁済) - 第482条 - 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。 改正経緯 2017年改正により、以下のとおり改正された。 - 弁済の主体 - - (改正前)債務者が、 - (改正後)弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、 - 代物弁済が可能である条件 - - (改正前)債権者の承諾を得て、 - (改正後)債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、 - 弁済の態様 - (改正前)その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、 - (改正後)その弁済者が当該(=契約で定めた)他の給付をしたとき 解説 - 当初決められていた給付以外の給付でも弁済と同一の効力を得られる場合があることとそのための要件について規定している。 - 決済に際して、手形・小切手の発行又は既発手形等を裏書き譲渡する行為は、代物弁済と解されている(参考. 民法第513条#改正経緯)。 - 実際は、債権担保のために不動産を代替物とした、代物弁済の予約・停止条件付代物弁済契約となることが多く、この場合、担保物件法の範疇である。また、そのほとんどは、仮登記担保契約に関する法律で規律されている。 参照条文 - 仮登記担保契約に関する法律 - 第1条(趣旨) - この法律は、金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者又は第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記又は仮登録のできるもの(以下「仮登記担保契約」という。)の効力等に関し、特別の定めをするものとする。 - 第1条(趣旨) 判例 - 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和27年11月20日)民訴法第258条,民法第90条 - 代物弁済の予約が公序良俗に反すると認められる一事例 - 代物弁済の予約につき、後記事由(以下に記載)があるときは、公序良俗に反し無効である。 - 貸主が借主の窮迫に乗じ短期間の弁済期を定め、借主をして期限に弁済しないときは貸金額の数倍の価額を有する不動産を代物弁済とすることを約束せしめたときはその約束は公序良俗に反し無効であるといわねばならない(大阪高判昭和24年3月30日民集6巻10号1034頁) - 貸金請求(最高裁判決 昭和39年11月26日) - 民法第482条にいう「他ノ給付」が不動産の所有権を移転することにある場合と代物弁済成立の要件。 - 民法第482条にいう「他の給付」が不動産の所有権を移転することにある場合には、当事者がその意思表示をするだけではたりず、登記その他引渡行為を終了し、第三者に対する対抗要件を具備したときでなければ、代物弁済は成立しないと解すべきである。 - 債務不存在確認等(最高裁判決 昭和40年04月30日) - 不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済をする場合における債務消滅の要件。 - 不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済をする場合の債務消滅の効力は、原則として、単に所有権移転の意思表示をなすのみでは足らず、所有権移転登記手続の完了によつて生ずるものと解すべきである。 - 登記抹消請求 (最高裁判決 昭和41年11月18日) - 代物弁済予約上の権利は弁済による代位の目的となるか - いわゆる代物弁済予約上の権利は、民法第501条本文の「債権ノ担保トシテ債権者カ有セシ権利」にあたり、同条による代位の目的となる。 - 第三取得者の取得後に弁済をする保証人と民法第501条第1号所定の代位の附記登記の要否 - 担保権の目的である不動産の第三取得者の取得後に当該債務の弁済をする保証人は、民法第501条第1号所定の代位の附記登記をしなくても、右第三取得者に対して債権者に代位する。 - 代物弁済予約上の権利は弁済による代位の目的となるか - 所有権移転登記等請求(最高裁判決 昭和40年12月03日) - 実体関係に符合しないものとして仮登記が無効とされた事例。 - 代物弁済の予約をした債権者が、その妻名義で所有権移転請求権保全の仮登記をしたときは、その仮登記は順位保全の効力を有しない。 - 貸金請求(最高裁判決 昭和43年11月19日) - 不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済をする場合に債務消滅に関する特約が有効とされた事例 - 債務者が不動産所有権の譲渡をもつて代物弁済をする場合でも、債権者が右不動産の所有権移転登記手続に必要な一切の書類を債務者から受領しただけでただちに代物弁済による債務消滅の効力を生ぜしめる旨の特約が存するときには、債権者が債務者から右書類を受領した時に、代物弁済による債務消滅の効力が生ずる。 - 土地建物所有権移転登記等(最高裁判決 昭和56年07月17日)民法第395条 - 債権担保の目的でされた代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記と民法395条 - 債権担保の目的でされた代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記のある不動産につき設定された短期賃借権には、民法395条の規定は類推適用されない。 - 2003年(平成15年)改正により短期賃借権保護制度は廃止された。民法第602条
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条文 - 第483条 - 債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。 改正経緯 2017年改正により以下のとおり改正された。特定物の引渡しについては、目的物は特定されているのだから、引渡し時の性状にかかわらず引渡しをもって弁済の結了とされていたが、一般に取引慣行他社会通念上維持されるべき品質は想定できるものであり、それが想定できない場合のみ、現状により引き渡せるものとした。 - (改正前)債権の目的が特定物の引渡しであるときは、 - (改正後)債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、 解説 特定物の引渡しを目的とする債務の引渡し方法(弁済方法)について規定。
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条文 (受取証書の交付請求等) - 第486条 - 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。 - 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。 改正経緯 2021年改正 『デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律』(令和3年法律第37号)制定に伴う改正 - 第2項を追加 2017年改正 2017年改正により、以下の条文から改正。受取証書交付の『同時履行』性を強調した。 - 弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。 解説 - 弁済がなされると債権は消滅する。この際、弁済者は、二重払いの危険を避け、または第三者弁済の場合の求償権や代位の行使を円滑にするため、弁済をしたことの証拠が必要となる。そこで、弁済がなされた場合に、弁済者は受領者に対して受取証書の交付を請求できることとしている。 - 受取証書とは、弁済を受領した旨を記載した書面を指し、一般的には領収書やレシートなどが該当する。一部弁済の場合でも弁済した部分についての受取証書の交付を請求できる。また、判例では弁済と受取証書の交付は同時履行の関係にあるとされ、正当な理由なく受取証書の交付を拒否された場合、弁済の提供を拒否できる。 参照条文 - 民法第487条(債権証書の返還請求) - 民法第533条(同時履行の抗弁) - 民事執行法第122条(動産執行の開始等) - 手形法第39条(受戻証券性、一部支払) - 小切手法第34条(受戻証券性、一部支払)
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条文 (債権証書の返還請求) - 第487条 - 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。 解説 弁済がなされると債権は消滅する。この際、弁済者は、二重払いの危険を避け、または第三者弁済の場合の求償権や代位の行使を円滑にするため、弁済をしたことの証拠が必要となる。そこで、弁済がなされた場合に、弁済者は受領者に対して債権証書の返還を請求できることとしている。 債権証書とは、債権の成立を証明する書面であり、債務者が作成して債権者が所持しているものである。たとえば金銭消費貸借契約なら借用証書がこれに該当する。 前条(受取証書)とは異なり、全部の弁済があった後でなければ債権証書の返還を請求することはできない。よって、一部弁済の場合には返還請求はできず、また弁済の提供と債権証書の返還は同時履行の関係に立たない。
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条文 (同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当) - 第488条 - 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 - 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 - 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。 - 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも第1項又は第2項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 - 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 - 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 - 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 - 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 改正経緯 2017年改正により、改正前第489条を吸収し以下のとおり改正。 - 見出し - (改正前)弁済の充当の指定 - (改正後)同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当 - 第1項 - (改正前)弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは - (改正後)弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第1項に規定する場合を除く。)は - 第4項 - 改正前、第489条(法定充当)を文言変更なく取り込み。 解説 本条から民法第491条までは、「弁済の充当」について定める。 - 民法第488条(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当) - 民法第489条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) - 民法第490条(合意による弁済の充当) - 民法第491条(数個の給付をすべき場合の充当) 弁済の充当とは、債務者が同一債権者に対して同種の数個の債務を負担しており、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りない場合に、いずれの債務に弁済をあてて債権を消滅させるかという問題をいう。 充当の順は以下のとおりである。 - 弁済の充当の順序に関する合意があるとき - その順序に従う。(民法第490条) - 合意がない場合 - 元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(民法第489条) - 費用→利息→元本 の順で充当する。 - 費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない場合 - 以下(2-2)による。 - 費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない場合 - 費用→利息→元本 の順で充当する。 - その他の場合(民法第488条) - 弁済者が指定 - 弁済者の指定がなければ、受領者が指定、但し、弁済者は異議を申し立てられる。 - 弁済者が異議を述べると弁済者が指定するのではなく法定充当になる(通説)。2-2-1で指定しないので、その機会を喪失したと解すべき。 - 受領者の指定がない、又は弁済者が異議を申し立てた場合は、以下の順による(法定充当)。 - 弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるもの - 履行遅滞の発生を回避する。 - 全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いもの - 「債務者のために弁済の利益が多いもの」とは、より多額の担保のついた債務である(通説)。 - (例) 優先する債務>劣後する債務 - 利息付き債務>無利息債務 - さらに、利率の大小で序列される。 - 単独債務>連帯債務 - 抵当権等物的担保権付きの債務>無担保債務 - 各事情を総合的に評価し判断(判例 最判昭和29年7月16日民集8-7-1350。一般に担保付き債権は無担保のものより金利が低いなど、各事情が相反する場合も多い)。 - (例) 優先する債務>劣後する債務 - 「債務者のために弁済の利益が多いもの」とは、より多額の担保のついた債務である(通説)。 - 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきもの - さらに、弁済期も同一な場合は、各債務の額に応じる。 - 弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるもの - 元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(民法第489条) 参照条文 相殺の充当 判例 - 不当利得請求事件(最高裁判決 平成15年07月18日)利息制限法第1条1項,利息制限法第2条,利息制限法第3条,民法第136条2項,旧・民法第489条(現本条),旧・民法第491条(現・民法第489条) - 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払ったことによって生じた過払金と他の借入金債務への充当 - 同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において,借主が一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,民法489条(旧)及び491条(旧)の規定に従って,弁済当時存在する他の借入金債務に充当され,当該他の借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を超える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない。 - 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件(最高裁判決 平成19年02月13日)利息制限法第1条1項 - 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否 - 貸主と借主との間で継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1の貸付けに係る過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されない。 - 損害賠償等請求事件(最高裁判決 平成19年06月07日)利息制限法第1条1項 - カードの利用による継続的な金銭の貸付けを予定した基本契約が同契約に基づく借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には弁済当時他の借入金債務が存在しなければこれをその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例 - 同一の貸主と借主との間でカードを利用して継続的に金銭の貸付けとその返済が繰り返されることを予定した基本契約が締結されており,同契約には,毎月の返済額は前月における借入金債務の残額の合計を基準とする一定額に定められ,利息は前月の支払日の返済後の残元金の合計に対する当該支払日の翌日から当月の支払日までの期間に応じて計算するなどの条項があって,これに基づく債務の弁済が借入金の全体に対して行われるものと解されるという事情の下においては,上記基本契約は,同契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。 - 不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成19年07月19日)利息制限法第1条1項 - 同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずに切替え及び貸増しとしてされた多数回の貸付けに係る金銭消費貸借契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含むものと解された事例 - 同一の貸主と借主の間で基本契約を締結せずにされた多数回の金銭の貸付けが,1度の貸付けを除き,従前の貸付けの切替え及び貸増しとして長年にわたり反復継続して行われており,その1度の貸付けも,前回の返済から期間的に接着し,前後の貸付けと同様の方法と貸付条件で行われたものであり,上記各貸付けは1個の連続した貸付取引と解すべきものであるという判示の事情の下においては,各貸付けに係る金銭消費貸借契約は,各貸付けに基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,当該過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。 - 不当利得返還等請求事件(最高裁判決 平成20年01月18日)利息制限法第1条1項 - 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否 - 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り,第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は,第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されない。 - 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当する旨の合意が存在すると解すべき場合 - 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において,下記の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。 - 記 - 第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間,第1の基本契約についての契約書の返還の有無,借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無,第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況,第2の基本契約が締結されるに至る経緯,第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等 - - 同一の貸主と借主との間で継続的に金銭の貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務について利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが,その後に改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され,この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合において,下記の事情を考慮して,第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず,第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができるときには,第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を第2の基本契約に基づく取引により生じた新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するものと解するのが相当である。 - 第1の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに対する利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金を,その後に締結された第2の基本契約に基づく継続的な金銭の貸付けに係る債務に充当することの可否 - 不当利得金返還等請求事件(最高裁判決 平成22年03月25日)地方自治法第242条の2第1項4号 - 市が,職員の福利厚生のための事業を委託している社団法人に支払った補給金のうち退職した職員に対する退会給付金等の給付に充てられた部分につき,同法人に対し不当利得金の返還請求権を有していた場合において,同法人から退会給付金制度の廃止により不要となった補給金を清算する趣旨で支払われた金員を上記不当利得金の返還債務に充当する旨の市と同法人との間の合意により,上記不当利得金の返還請求権が消滅するとされた事例 - 市が,職員の福利厚生のための事業を委託している社団法人に支払った補給金のうち退職した職員に対する退会給付金等の給付に充てられた部分につき,同法人に対し不当利得金の返還請求権を有していた場合において,同法人から退会給付金制度の廃止により不要となった補給金を清算する趣旨で支払われた金員を上記不当利得金の返還債務に充当する旨の市と同法人との間の合意が,債権の放棄を内容とするものとして議会の議決を要するとはいえず,公序良俗に反するともいえないなど判示の事情の下では,上記合意により上記不当利得金の返還請求権は消滅する。
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条文 (元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) - 第489条 - 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 - 前条の規定は、前項の場合において、費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。 改正経緯 2017年改正前は、以下の条項が定められていたが、本条項は前条に吸収され、代って、第491条から本条に移動となった。 (法定充当) - 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 - 一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 - 二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 - 三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 - 四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 解説 まず債務の費用の総額に充当(弁済額が総額に満たなければ488条に従って弁済者に指定させ、指定しなければ債権者、両者とも指定しなければ法定充当)し、次に利息の総額に充当(弁済額が総額に満たなければ、(省略))し、最後に元本に充当(弁済額が総額に満たなければ、(省略))する。 金銭消費貸借契約の場合、消費者金融業者が、契約締結費、弁済にかかる費用(印紙税など)のほか、「礼金」や「調査料」を「費用」として、元本と表向きの利息とともに請求していたが、「礼金」や「調査料」を利息制限法第3条によって表向きの金利に含めて計算することが定められた。つまり、 - 元本×表向きの金利+(「礼金」や「調査料」)=「みなし利息」。 - 契約締結費、弁済にかかる費用=真の費用。 この「みなし利息」が利息制限法にいう「利息」で、利息制限法の上限を超える部分については無効(利息制限法第1条)。弁済額は元本×利息制限法の上限の利率に充当されることになる。それを越える弁済は、たとえ債務者が「利息」充当を指定しても元本に充当される(判例)。(詳しくはw:グレーゾーン金利参照) 参照条文 判例 - 貸金請求 (最高裁判決 昭和39年11月18日)利息制限法第1条,利息制限法第2条,利息制限法第4条 - 債務者が任意に支払つた利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金は当然に残存元本に充当されるか。 - 債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息、損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法第491条(旧)により、残存元本に充当されるものと解すべきである。
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条文 (合意による弁済の充当) - 第490条 - 前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。 改正経緯 2017年改正により本条新設、改正前は以下の条項が定められていたが、民法第491条に移動。 (数個の給付をすべき場合の充当) - 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前二条の規定を準用する。 - 前二条 - 旧・民法第488条(弁済の充当の指定) - 旧・民法第489条(法定充当) - 前二条 - 月賦債務や継続的賃貸債務に関する規定 解説 参照条文 前二条
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条文 (数個の給付をすべき場合の充当) - 第491条 - 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前三条の規定を準用する。 改正経緯 2017年改正により、旧・第490条より移動。改正前は以下の条項が置かれていたが、第489条に移動した。 (元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当) - 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 - 第489条の規定は、前項の場合について準用する。 解説 参照条文 前三条
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条文 (弁済の提供の効果) - 第492条 - 債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。 改正経緯 2017年改正により、以下の文言から現行のものに改正された。「債務不履行」では履行不能の責任を免れることが弁済の提供の効果だとも読めるので、「債務を履行しないこと」と改正し履行不能の責任の問題を受領遅滞の効果であるとしたものである。 - 債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。 解説 「弁済の提供」とは「債務者が弁済を実現するためみずからできる限りの準備をして,債権者の受領 (協力) を求めること」である[1]。民法第533条の規定に従って「履行の提供」と呼ぶこともある。 弁済の提供の効果についての規定の一つである(ほかの規定は第533条)。弁済の提供の方法については、民法第493条に規定がある。 債務不履行によって生じる責任を免れるのは、原則として債務者が債権者に弁済した時である。しかし債務者が「できる限りの準備」をしたのに債権者の協力がなかった場合にも債務者が債務不履行による責任を負うのは不当である。この場合債権者は債務者に責任を問えないことを規定した。 また、給付債務に約定利息が発生する場合、債権者はこれも債務者に請求できないと解釈されている(そうでなければ履行遅滞の場合に遅延利息を請求するのを認めるのと同じだから)。
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条文 (弁済の提供の方法) - 第493条 - 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。 解説 弁済の提供の方法につき規定している。本文の場合を現実の提供、ただし書の場合を口頭の提供とよぶ。 参照条文 判例 - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和32年06月05日) - 弁済を受領しない意思が明確な債権者に口頭の提供をしない場合と債務不履行 - 債権者が契約の存在を否定する等、弁済を受領しない意思が明確と認められるときは、債務者は口頭の提供をしなくても債務不履行の責を免れる。 - 請求異議(最高裁判決 昭和35年11月22日) - 小切手による弁済提供と民法第493条。 - 金銭債務を負担する者が弁済のため同額の小切手を提供しても、銀行の自己宛小切手または銀行の支払保証のある小切手等支払の確実なものでないときは、特別の意思表示または慣習がない限り、債務の本旨に従つたものとはいえない。 - 建物取除、土地明渡等本訴並びに反訴請求(最高裁判決 昭和37年09月21日) - 小切手による弁済提供と民法第四九三条。 - 金銭債務の弁済のため、取引界において通常現金と同様に取り扱われている銀行の自己宛振出小切手を提供したときは、特段の事情のないかぎり、債務の本旨に従つた弁済の提供があつたものと認めるべきである。 - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和44年05月01日) - 債権者において弁済を受領しない意思が明確な場合でも弁済の提供をしない債務者は債務不履行の責を免れないとされた事例 - 弁済の準備ができない経済状態にあるため言語上の提供もできない債務者は、債権者が弁済を受領しない意思が明確な場合であつても、弁済の提供をしないかぎり、債務不履行の責を免れない。 - 弁済に関して債務者のなすべき準備の程度と債権者のなすべき協力の程度とは、信義則に従つて相関的に決せられるべきものであるところ、債権者が弁済を受領しない意思が明確であると認められるときには、債務者において言語上の提供をすることを必要としないのは、債権者により現実になされた協力の程度に応じて、信義則上、債務者のなすべき弁済の準備の程度の軽減を計つているものであつて、逆に、債務者が経済状態の不良のため弁済の準備ができない状態にあるときは、そもそも債権者に協力を要求すべきものではないから、現実になされた債権者の協力の程度とはかかわりなく、信義則上このような債務者に前記のような弁済の準備の程度についての軽減を計るべきいわれはない。
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条文 (供託) - 第494条 - 弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。 - 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。 - 債権者が弁済を受領することができないとき。 - 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。 改正経緯 2017年改正で、以下の条文より改正。趣旨の変更はない(なお、「弁済者」の初出が民法第480条となったことに伴い、文言が微修正されている)。 - 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。 解説 弁済供託の要件を3つあげている。 - 債権者の弁済受領拒絶(本条第1項第1号) - 受領遅滞の場合 - 債権者の受領不能(本条第1項第2号) - 債権者不確知(本条第2項) 参照条文 判例 - 不当利得返還 (最高裁判決 平成1年10月27日)民法第304条,民法第372条 - 抵当権の物上代位と抵当不動産について供託された賃料の還付請求権 - 抵当不動産が賃貸された場合においては、抵当権者は、民法372条、304条の規定の趣旨に従い、賃借人が供託した賃料の還付請求権についても抵当権を行使することができる。 - 所有権移転登記手続請求(最高裁判決 昭和44年05月30日) - 債務の一部ずつの弁済供託が債務全額に達した場合と供託の効力 - 債務の一部ずつの弁済供託がなされた場合であつても、各供託金の合計額が債務全額に達したときは、その全額について有効な供託があつたものと解するのが相当である。 - 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和50年11月20日) - 本人のためにすることを示さないでした代理人による弁済供託と民法100条但書の適用 - 供託者が、債務者の代理人としてする意思で、本人のためにすることを表示することなく、債権者を被供託者として弁済供託をした場合、被供託者において本人のためにされたものであることを知り又は知りうべきであつたときは、右弁済供託は債務者より債権者に対するものとしての効力を有する。
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条文 (供託の方法) - 第495条 - 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。 - 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。 - 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。 解説 参照条文 判例 - 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和50年11月20日) - 本人のためにすることを示さないでした代理人による弁済供託と民法100条但書の適用 - 供託者が、債務者の代理人としてする意思で、本人のためにすることを表示することなく、債権者を被供託者として弁済供託をした場合、被供託者において本人のためにされたものであることを知り又は知りうべきであつたときは、右弁済供託は債務者より債権者に対するものとしての効力を有する。
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条文 (供託に適しない物等) - 第497条 - 弁済者は、次に掲げる場合には、裁判所の許可を得て、弁済の目的物を競売に付し、その代金を供託することができる。 - その物が供託に適しないとき。 - その物について滅失、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。 - その物の保存について過分の費用を要するとき。 - 前三号に掲げる場合のほか、その物を供託することが困難な事情があるとき。 改正経緯 2017年改正で、以下の条文より改正。改正民法では滅失もしくは損傷のおそれのない目的物についても「価格の低落のおそれがあるとき」の自助売却を認めた。 - 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。 解説 受領遅滞・受領拒否に際して、保管等に困難があり、供託しても債権者等が受領した時に履行の満足を得られないおそれがある弁済の目的物については、裁判所の許可(弁済者と債権者の意見陳述の結果、許可あるいは不許可をする。)の下、これを競売により売却し代金を供託できる(非訟事件手続法第94条、非訟事件手続法第95条)。これを、「自助売却」という。なお、商人間の売買においては、同様の事態が生じた時、売主は、買主への通知のみで裁判所の許可なく競売に付せ、代金を供託しなくても良い(商法第524条)。
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条文 (供託物の還付請求等) - 第498条 - 弁済の目的物又は前条の代金が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。 - 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。 改正経緯 2017年改正で、以下のとおり改正。 - 見出し - (改正前)供託物の受領の要件 - (改正後)供託物の還付請求等 - 第1項を新設、それに伴い、旧本文が第2項となった。 - 新設第1項は従来規定がなかったが当然のこととされ、確認的に法文化された。 解説 参照条文 - 供託法第8条第1項 - 供託物ノ還付ヲ請求スル者ハ法務大臣ノ定ムル所ニ依リ其権利ヲ証明スルコトヲ要ス
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条文 (成年) - 第4条 - 年齢18歳をもって、成年とする。 改正経緯 2018年改正(平成30年法律第59号による改正)により、以下の条項から改正された(2022年4月1日施行)。 - 年齢20歳をもって、成年とする。 解説 成年となる年齢を定めた規定である。 民法第1編(総則)第2章(人)第3節(行為能力)の最初の条で、行為能力の制限の有無に関わる規定であり、続く第5条で未成年者の法律行為の制限が規定されている。また、同節の第7条から第21条まででは成年であっても精神上の障害により事理弁識能力に問題がある場合に法律行為を制限する制度(成年後見・保佐・補助)が設けられている。 なお、未成年・成年被後見人に対する後見人・後見監督人については民法第4編(親族)第5章(後見)に、保佐人・保佐監督人および補助人・補助監督人については同編第6章(保佐及び補助)に規定が置かれている。 参照条文 - 民法第731条(婚姻適齢)……2022年4月1日施行の改正により、男女とも18歳(成年)に達しなければ婚姻できないものと改められる。 - 民法第737条(未成年者の婚姻についての父母の同意)……2022年4月1日施行の改正により削除される。 - 民法第753条(婚姻による成年擬制)……2022年4月1日施行の改正により削除される。 - 民法第792条(養親となる者の年齢)……2022年4月1日施行の改正により、従前の「成年」が「20歳」に改められる。 - 民法第804条(養親が20歳未満の者である場合の縁組の取消し)……2022年4月1日施行の改正により、従前の「未成年」「成年」が「20歳未満の者」「20歳」に改められる。 - 皇室典範第22条 - 公職選挙法第9条(18歳選挙権) 参照法令 - 年齢計算ニ関スル法律 - 二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律……2022年4月1日施行の改正により未成年者喫煙禁止法から改められ、対象年齢は維持される。 - 二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律……2022年4月1日施行の改正により未成年者飲酒禁止法から改められ、対象年齢は維持される。 英文(出典等) Article 4 The age of majority is reached when a person has reached the age of 18.
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条文 改正経緯 2017年改正により、以下の条文より改正。 (法定代位) - 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。 解説 - 「弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する」ことを「法定代位」といい、そうでない代位を「任意代位(民法第499条)」という。 - 正当な利益を有する者 - 任意代位は、債権譲渡同等の対抗要件を備えなければ、債務者を含む第三者に対抗できない。 要件 - 弁済をすることによって、保証債務が消滅するなど、正当の利益を有する者が、債務者に代って弁済を行なうこと。 効果 - 弁済によって、原債権者の有する債権は消滅する。 - 弁済者は、原債権者の有する債権をそのまま承継する(代位)。従って、弁済を行なった者を除く保証関係は承継されるし、債権者の承諾が不要であることから、債務者に対して明示的に催告(または、それに代る債務者の同意)が行なわれないのであれば、時効の進行は原債権者当時のものを起算点とする。 参照条文 判例 - 不当利得返還(最高裁判決 平成4年11月06日) 民法第392条,民法第501条 - 共同抵当権の目的不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合と後順位抵当権者の代位 - 共同抵当権の目的たる甲・乙不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合において、甲不動産の代価のみを配当するときは、甲不動産の後順位抵当権者は、民法392条2項後段の規定に基づき、先順位の共同抵当権者に代位して乙不動産に対する抵当権を行使することができる。
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条文 - 第501条 - 前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。 - 前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。 - 第1項の場合には、前項の規定によるほか、次に掲げるところによる。 - 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は、保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。 - 第三取得者の1人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。 - 前号の規定は、物上保証人の1人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。 - 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。 - 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、第三取得者とみなして第1号及び第2号の規定を適用し、物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなして第1号、第2号及び前号の規定を適用する。 改正経緯 2017年改正前の条文は以下のとおり。改正により「登記に付記」の要件が削除された。「付記」とは不動産登記法の付記登記のことであり(決して担保物権抹消登記ではない)、弁済した保証人が代位を付記登記していない場合、第三取得者の「被担保債権が消滅した」という信頼を保護するためであるが、付記登記がないからと言って第三者が被担保債権の消滅を信頼するのか疑問であり、さらに被担保債権の譲受人が付記登記なしで抵当不動産を取得した第三者に対抗できないものではないことによる。 - 前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては、次の各号の定めるところに従わなければならない。 - 保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。 - 第三取得者は、保証人に対して債権者に代位しない。 - 第三取得者の一人は、各不動産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。 - 物上保証人の一人は、各財産の価格に応じて、他の物上保証人に対して債権者に代位する。 - 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。 - 前号の場合において、その財産が不動産であるときは、第一号の規定を準用する。 解説 - 債務者に代わって債務を弁済した者の代位権につき、その優先順位等について規定している。 - 第三取得者が保証人に代位しないのは、抵当権の負担を覚悟で取得したからである。 - 計算方法は、まず求償額総額÷(保証人の人数+物上保証人の人数)=保証人一人あたりの求償額 - 求償額総額ー保証人一人あたりの求償額×保証人の数=物上保証人全員の求償額 - 物上保証人全員の求償額を資産の額で案分すれば物上保証人それぞれの求償額が算出できる。 参照条文 判例 - 登記抹消請求 (最高裁判決 昭和41年11月18日) - 代物弁済予約上の権利は弁済による代位の目的となるか - いわゆる代物弁済予約上の権利は、民法第501条本文の「債権ノ担保トシテ債権者カ有セシ権利」にあたり、同条による代位の目的となる。 - 第三取得者の取得後に弁済をする保証人と民法第501条第1号所定の代位の附記登記の要否 - 担保権の目的である不動産の第三取得者の取得後に当該債務の弁済をする保証人は、民法第501条第1号所定の代位の附記登記をしなくても、右第三取得者に対して債権者に代位する。 - 代物弁済予約上の権利は弁済による代位の目的となるか - 配当異議 (最高裁判決 昭和59年05月29日)民法第442条、民法第459条 - 保証人と債務者との間に成立した求償権につき約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約と民法501条所定の代位の範囲 - 保証人と債務者との間に求償権について法定利息と異なる約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約がある場合には、代位弁済をした右保証人は、物上保証人及び当該物件の後順位担保権者等の利害関係人に対する関係において、債権者の有していた債権及び担保権につき、右特約に基づく遅延損害金を含む求償権の総額を上限として、これを行使することができる。 - 保証人と物上保証人との間に成立した民法501条但書5号所定の代位の割合と異なる特約の第三者に対する効力 - 保証人と物上保証人との間に民法501条但書5号所定の代位の割合と異なる特約がある場合には、代位弁済をした右保証人は、物上保証人の後順位担保権者等の利害関係人に対する関係において、右特約の割合に応じて債権者が物上保証人に対して有していた抵当権等の担保権を代位行使することができる。 - 保証人と債務者との間に成立した求償権につき約定利率による遅延損害金を支払う旨の特約と民法501条所定の代位の範囲 - 求償債務履行 (最高裁判決 昭和61年02月20日)民事訴訟法第191条 - 代位弁済者の債権者から代位取得した原債権又はその連帯保証債権の給付請求を認容する場合と判決主文における求償権の表示 - 代位弁済者が債権者から代位取得した原債権又はその連帯保証債権の給付を求める訴訟において、裁判所が請求を認容する場合には、求償権の額が原債権の額を常に上回るものと認められる特段の事情のない限り、主文において、請求を認容する限度として求償権を表示すべきである。 - 配当異議 (最高裁判決 昭和61年11月27日) - 保証人・物上保証人の両資格を兼ねる者と弁済による代位の割合 - 保証人又は物上保証人とその両資格を兼ねる者との間の弁済による代位の割合は、両資格を兼ねる者も一人として、全員の頭数に応じた平等の割合であると解するのが相当である。 - 不当利得返還(最高裁判決 平成4年11月06日) 民法第392条,民法第500条 - 共同抵当権の目的不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合と後順位抵当権者の代位 - 共同抵当権の目的たる甲・乙不動産が同一の物上保証人の所有に属する場合において、甲不動産の代価のみを配当するときは、甲不動産の後順位抵当権者は、民法392条2項後段の規定に基づき、先順位の共同抵当権者に代位して乙不動産に対する抵当権を行使することができる。 - 求償金(最高裁判決 平成9年12月18日) - 担保権の設定された物件が弁済までの間に共同相続により共有となった場合における民法501条5号にいう「頭数」の意義 - 民法501条5号にいう「頭数」は、単独所有であった物件に担保権が設定された後、これが弁済までの間に共同相続により共有となった場合には、弁済の時における物件の共有持分権者をそれぞれ一名として数えるべきである。 - 精算金(最高裁判決 平成10年04月14日)民法第442条,民法第675条,商法第511条1項,和議法第5条,和議法第45条,和議法第57条,破産法第24条,破産法第26条,破産法第104条,破産法第32条 - 構成員に会社を含む共同企業体の債務と各構成員の連帯債務関係 - 構成員に会社を含む共同企業体の各構成員は、共同企業体がその事業のために第三者に対して負担した債務につき連帯債務を負う。 - 和議開始の申立てをした連帯債務者の一人に対し他の連帯債務者が右申立てを知って和議開始決定前の弁済により取得した求償権をもって相殺することの可否 - 連帯債務関係が発生した後に連帯債務者の一人が和議開始の申立てをした場合において、右申立てを知って和議開始決定前の弁済により求償権を取得した他の連帯債務者は、右求償権をもって和議債務者の債権と相殺することができる。 - 和議認可決定を受けた連帯債務者の一人に対し他の連帯債務者が和議開始決定後の弁済により取得した求償権をもってする相殺の要件及び限度 - 連帯債務者の一人について和議認可決定が確定した場合において、和議開始決定後の弁済により求償権を取得した他の連帯債務者は、債権者が全額の弁済を受けたときに限り、右弁済によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で右求償権をもって和議債務者の債権と相殺することができる。 - 構成員に会社を含む共同企業体の債務と各構成員の連帯債務関係 - 求償金請求事件(最高裁判決 平成18年11月14日)民法第147条,民法第155条(現・民法第154条),民事執行規則第171条 - 物上保証人に対する不動産競売の開始決定正本が主債務者に送達された後に保証人が代位弁済をした上で差押債権者の承継を執行裁判所に申し出たが承継の申出について民法155条(旧)所定の通知がされなかった場合における保証人の主債務者に対する求償権の消滅時効の中断の有無 - 債権者が物上保証人に対して申し立てた不動産競売の開始決定正本が主債務者に送達された後に,主債務者から保証の委託を受けていた保証人が,代位弁済をした上で,債権者から物上保証人に対する担保権の移転の付記登記を受け,差押債権者の承継を執行裁判所に申し出た場合には,上記承継の申出について主債務者に対して民法155条(旧)所定の通知がされなくても,上記代位弁済によって保証人が主債務者に対して取得する求償権の消滅時効は,上記承継の申出の時から上記不動産競売の手続の終了に至るまで中断する。 - 前渡金返還請求事件(最高裁判決 平成23年11月24日)民事再生法第85条1項,民事再生法第121条1項,民事再生法第121条2項 - 求償権が再生債権である場合において共益債権である原債権を再生手続によらないで行使することの可否 - 弁済による代位により民事再生法上の共益債権を取得した者は,同人が再生債務者に対して取得した求償権が再生債権にすぎない場合であっても,再生手続によらないで上記共益債権を行使することができる。
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条文 (一部弁済による代位) - 第502条 - 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。 - 前項の場合であっても、債権者は、単独でその権利を行使することができる。 - 前二項の場合に債権者が行使する権利は、その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について、代位者が行使する権利に優先する。 - 第1項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。 改正経緯 2017年改正により、以下の条文から改正された。 - 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する。 - 前項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない 解説 代位弁済のうち、一部弁済がなされた場合の法律関係の変動に関する規定である。 債権者だけでなく代位弁済者も債務者(とほかの保証人・物上保証人等)に権利を行使することになるが、それでは債権者の債権回収がうまくいかなくなる可能性がある。そこで債権者の権利の優先が規定された。 参照条文 判例 - 破産債権確定請求事件(最高裁判決 平成14年09月24日)破産法第24条,破産法第26条,民法第351条,民法第372条 - 債務者に対する破産宣告後に物上保証人から届出債権の一部の弁済を受けた破産債権者が権利を行使し得る範囲 - 債権の全額を破産債権として届け出た債権者は,債務者に対する破産宣告後に物上保証人から届出債権の弁済を受けても,その全部の満足を得ない限り,届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができる。
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条文 (債権者による債権証書の交付等) - 第503条 - 代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。 - 債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。 解説 代位弁済によって原債権やそれに附随する担保権が弁済者に移転し、弁済者は自らの求償権の範囲内で移転した権利を行使できる。この代位を容易にするため、弁済を受けた債権者に対して、代位者への協力義務を定めている。 参照条文 - 民法第487条(債権証書の返還請求)
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条文 (債権者による担保の喪失等) - 第504条 - 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。 - 前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。 改正経緯 2017年改正により以下のとおり改正。 - 第1項 - 適用の主体1 - (改正前)民法第500条の規定により代位をすることができる者 - 旧・500条(法定代位) - (改正後)弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。) - (改正前)民法第500条の規定により代位をすることができる者 - 適用の主体2 - (改正前)その代位をすることができる者は - (改正後)その代位権者は - 「代位権者が物上保証人である場合」について追加。 - 適用の主体1 - 第2項を追加。 解説 「取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるとき」とは、具体的には銀行の担保保存義務免除特約などをいう。これは、銀行が長期的な融資をおこなう際にする特約で、担保を差し替えたりして抵当権を放棄する場合に銀行が責任を免れるもののこと。それでもこの特約の主張が信義則違反・権利濫用になる場合がある。最高裁判例によれば「当該保証等の契約及び特約が締結された時の事情、その後の債権者と債務者との取引の経緯、債権者が担保を喪失し、又は減少させる行為をした時の状況等を総合して、債権者の右行為が、金融取引上の通念から見て合理性を有し、保証人等が特約の文言にかかわらず正当に有し、又は有し得べき代位の期待を奪うものとはいえないとき」は信義則違反・権利濫用でないという。第二項はこのような最高裁判例を明文化したものである。 判例 - 債権一部不存在確認請求(最高裁判決 昭和44年07月03日)民法第392条 - 先順位共同抵当権者が抵当権の一部を放棄した場合における次順位抵当権者との優劣 - 甲乙不動産の先順位共同抵当権者が、甲不動産には次順位の抵当権が設定されているのに、乙不動産の抵当権を放棄し、甲不動産の抵当権を実行した場合であつても、乙不動産が物上保証人の所有であるときは、先順位抵当権者は、甲不動産の代価から自己の債権の全額について満足を受けることができる。 - 不当利得返還(最高裁判決 平成3年09月03日) - 共同抵当の関係にある不動産の一部に対する抵当権の放棄とその余の不動産の譲受人が民法504条所定の免責の効果を主張することの可否 - 債務者所有の甲不動産と第三者所有の乙不動産とが共同抵当の関係にある場合において、債権者が甲不動産に設定された抵当権を放棄するなど故意又はけ怠によりその担保を喪失又は減少したときは、その後の乙不動産の譲受人も債権者に対して民法504条に規定する免責の効果を主張することができる。
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条文 (相殺の要件等) - 第505条 - 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 - 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。 改正経緯 2017年改正により、第2項を、以下のものから改正。 - 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 解説 期限の定めの無い債権は、自働債権としても受働債権としてもいつでも相殺できる。 相殺禁止特約については、原則有効・善意の第三者に対抗できない旨が定められていたが、第466条において、債権譲渡特約を原則無効とし、第3項で譲受人等が悪意又は重過失により善意の場合のみに対抗できる旨の改正がなされたことに平仄を合わせ、相殺禁止特約も同様とした。 参照条文 判例 - 給料等請求(最高裁判決 昭和31年11月02日)労働基準法第24条 - 賃金債権に対する相殺の許否 - 用者は、労働者の賃金債権に対しては、損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されない。 - 家屋収去土地明渡請求 (最高裁判決 昭和32年02月22日) - 抗弁権の附著する債権を自働債権とする相殺の許否 - 催告および検索の抗弁権の附著する保証契約上の債権を自働債権とする相殺は、許されない。 - 無記名定期預金請求(最高裁判決 昭和32年12月19日)民法第86条3項,民法第467条1項,民法第666条 - いわゆる無記名定期預金債権の性質 - いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく指名債権に属する。 - 無記名定期預金の債権者の判定 - 甲が乙に金員を交付して甲のため無記名定期預金の預入れを依頼し、よつて乙がその金員を無記名定期預金として預入れた場合、乙において右金員を横領し自己の預金としたものでない以上、その預入れにあたり、乙が、届出印鑑として乙の氏を刻した印鑑を使用し、相手方の銀行が、かねて乙を知つており、届出印鑑を判読して預金者を乙と考え、預金元帳にも乙を預金者と記載した事実があつたとしても、右無記名定期預金の債権者は乙でなく、甲と認めるのが相当である。 - 無記名定期預金の債権者でない者が単に届出印鑑を使用してなした相殺の効力 - 右無記名定期預金において、相手方の銀行は、無記名定期預金証書と届出印鑑を呈示した者に支払をすることにより免責される旨の特約がなされている場合、届出印鑑のみを提出した乙との間に、右無記名定期預金と乙の銀行に対する債務と相殺する旨の合意をしても、右銀行はこれによつて、甲に対する無記名定期預金払戻債務につき、免責を得るものではない。 - いわゆる無記名定期預金債権の性質 - 破産債権確定請求(最高裁判決 昭和36年05月31日) 労働基準法第24条,労働基準法第17条,民法第509条 - 労働者の賃金債権に対し不法行為を原因とする債権をもつてする相殺の許否。 - 労働者の賃金債権に対しては、使用者は、労働者に対して有する不法行為を原因とする債権をもつても相殺することは許されない。 - 給与支払請求(最高裁判決 昭和44年12月18日)労働基準法第24条1項,地方公務員法第25条1項 - 賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺と労働基準法24条1項 - 賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、かつ、あらかじめ労働者に予告されるとかその額が多額にわたらない等労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであるときは、労働基準法24条1項の規定に違反しない。 - 公立中学校の教員につき、給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる給与の支払請求権を受働債権としてした相殺が労働基準法24条1項の規定に違反しないとされた事例 - 公立中学校の教員に対して昭和33年12月15日に支給された勤勉手当中に940円の過払があつた場合において、昭和34年1月20日頃右教員に対し過払金の返納を求め、この求めに応じないときは翌月分の給与から過払額を減額する旨通知したうえ、過払金の返還請求権を自働債権とし、同年3月21日に支給される同月分の給料および暫定手当合計22,960円の支払請求権を受働債権としてした原判示の相殺は、労働基準法24条1項の規定に違反しない。 - 賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺と労働基準法24条1項 - 債務金請求(最高裁判決 昭和47年12月22日)民法第650条2項 - 民法650条2項前段の代弁済請求権と相殺 - 受任者が民法650条2項前段に基づいて有する代弁済請求権に対しては、委任者は、受任者に対する債権をもつて相殺することはできない。 - 損害賠償及び請負代金 (最高裁判決 昭和53年09月21日)民法第533条,民法第634条(旧) - 退職金等、同請求参加(最高裁判決 平成2年11月26日 ) 労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)第24条1項,民法第91条,破産法第72条,破産法第98条 - 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺と労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)24条・1項本文 - 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)24条・1項本文に違反しない。 - 使用者が労働者の同意の下に労働者の退職金債権等に対してした相殺が有効とされた事例 - 甲会社の従業員乙が、銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には乙の退職金等により融資残債務を一括返済し、甲会社に対しその返済手続を委任する等の約定をし、甲会社が、乙の同意の下に、右委任に基づく返済費用前払請求権をもつて乙の有する退職金債権等と相殺した場合において、右返済に関する手続を乙が自発的に依頼しており、右貸付けが低利かつ相当長期の挽割弁済の約定の下にされたものであつて、その利子の一部を甲会社が負担する措置が執られるなど判示の事情があるときは、右相殺は、乙の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものとして、有効と解すべきである。 - 使用者が労働者の同意の下に労働者の退職金債権等に対してして相殺が否認権行使の対象とならないとされた事例 - 甲会社の従業員乙が、銀行等から住宅資金の貸付けを受けるに当たり、退職時には乙の退職金等により融資残債務を一括返済し、甲会社に対しその返済手続を委任する等の約定をした場合において、甲会社が、乙の破産宣告前、右約定の趣旨を確認する旨の乙の同意の下に、右委任に基づく返済費用前払請求権をもつてした乙の有する退職金債権等との相殺は、否認権行使の対象とならない。 - 使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺と労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)24条・1項本文 - 取立債権請求事件(最高裁判決 平成13年03月13日) - 抵当不動産の賃借人が抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって賃料債権に物上代位権の行使としての差押えをした抵当権者に対抗することの可否 - 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。 - 物上代位権の行使としての差押えのされる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後においては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺することに対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理由はない。 - 抵当不動産の賃借人が賃貸人に対して有する債権と賃料債権とを対当額で相殺する旨を上記両名があらかじめ合意していた場合においても,賃借人が上記の賃貸人に対する債権を抵当権設定登記の後に取得したものであるときは,物上代位権の行使としての差押えがされた後に発生する賃料債権については,物上代位をした抵当権者に対して相殺合意の効力を対抗することができない。 - 否認権行使請求事件 (最高裁判決 平成13年12月18日)民法第506条1項 - 有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺をするに当たって同有価証券を占有することの要否 - 有価証券に表章された金銭債権の債務者は,同債権を受働債権として相殺をするに当たり,同有価証券を占有することを要しない。 - 有価証券に表章された金銭債権の債務者は,その債権者に対して有する弁済期にある自己の金銭債権を自働債権とし,有価証券に表章された金銭債権を受働債権として相殺をするに当たり,有価証券の占有を取得することを要しない。 - 有価証券に表章された債権の請求に有価証券の呈示を要するのは,債務者に二重払の危険を免れさせるためであるところ,有価証券に表章された金銭債権の債務者が,自ら二重払の危険を甘受して上記の相殺をすることは,これを妨げる理由がない。 - 賃料等請求事件(最高裁判決 平成21年07月03日) - 抵当不動産の賃借人が,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後に,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することの可否 - 抵当不動産の賃借人は,担保不動産収益執行の開始決定の効力が生じた後においても,抵当権設定登記の前に取得した賃貸人に対する債権を自働債権とし賃料債権を受働債権とする相殺をもって管理人に対抗することができる。
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条文 (相殺の方法及び効力) - 第506条 - 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。 - 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。 解説 相殺の方法と効力の発生時期などについて規定する。相殺の効力は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時(相殺適状)にさかのぼってその効力を生ずる。意思表示時でないことに注意を要する。 参照条文 判例 - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和32年03月08日)民法第541条 - 相殺の遡及効が契約解除に及ぼす影響の有無 - 賃貸借契約が、賃料不払のため適法に解除された以上、たとえその後、賃借人の相殺の意思表示により右賃料債務が遡つて消滅しても、解除の効力に影響はなく、このことは、解除の当時、賃借人において自己が反対債権を有する事実を知らなかつたため、相殺の時期を失した場合であつても、異るところはない。 - 転付金請求(最高裁判決 昭和32年07月19日)手形法第38条,民法第468条2項 - 弁済期到来前の受働債権の譲渡または転付と債務者の相殺 - 弁済期到来前に受働債権の譲渡または転付があつた場合でも、債務者が右の譲渡通知または転付命令送達の当時すでに弁済期の到来している反対債権を有する以上、右譲受または転付債権者に対し相殺をもつて対抗することができる。 - 受働債権の譲渡と債務者の相殺の意思表示の相手方 - 債務者が受働債権の譲受人に対し相殺をもつて対抗する場合には、その相殺の意思表示はこれを右譲受人に対してなすべきである。 - 弁済期到来前の受働債権の譲渡または転付と債務者の相殺 - 請求異議(最高裁判決 昭和36年04月14日)民法第508条 - 時効にかかつた譲受債権を自働債権として相殺することの許否。 - 消滅時効にかかつた他人の債権を譲り受け、これを自働債権として相殺することは許されない。 - 貸金(最高裁判決 昭和53年07月17日) - 対立する債権につき相殺計算をする場合の債権額確定の基準時 - 相殺の計算をするにあたつては、民法506条の規定に則り、双方の債権が相殺適状となつた時期を標準として双方の債権額を定め、その対当額において差引計算をすべきである。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和54年03月20日)旧・民法第634条2項(現・第636条及び第559条を通した第564条(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)の準用となる例) - 民法506条2項の法意 - 相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺をするに適するにいたつた時点に遡つて効力を生ずるものであり、その計算を双方の債務につき弁済期が到来し、相殺適状となつた時期を基準として双方の債権額を定め、その対等額において差引計算をすべきものである。 - 民法634条(旧)2項所定の損害賠償債権の発生時期及び期限の有無 - 民法634条(旧)2項の損害賠償債権は、注文者が注文にかかる目的物の引渡を受けた時に発生する期限の定めのない債権である。 - 民法506条2項の法意 - 請負工事代金請求、民訴法198条2項の裁判申立(最高裁判決 平成9年07月15日) 民法第412条,民法第533条,民法第634条2項,民訴法198条2項(現・民事訴訟法第260条),商法第514条 - 請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺がされた後の報酬残債務について注文者が履行遅滞による責任を負う時期 - 請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。
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条文 - 第508条 - 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。 解説 - 相殺についての特則規定である。 - 相殺適状に達している債権についての消滅時効の例外について定めている。相殺の期待を保護し、当事者間の公平を図るためである。 - 本条により、時効(除斥期間も含む;最判昭和51年03月04日)によって消滅した債権を自働債権として相殺するには、その消滅時効完成前に相殺適状にあったことが必要である。したがって、例えば消滅時効の完成した債権を譲り受けた者が、これを自働債権として相殺をすることはできない(最判昭和36年04月14日)。 参照条文 判例 - 請求異議(最高裁判決 昭和36年04月14日) 民法第506条 - 時効にかかつた譲受債権を自働債権として相殺することの許否。 - 消滅時効にかかつた他人の債権を譲り受け、これを自働債権として相殺することは許されない。 - 印刷代金および反訴請求(最高裁判決 昭和51年03月04日) 民法第637条 - 民法637条所定の期間の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺と同法508条 - 注文者が民法637条所定の期間(旧・瑕疵担保責任追求の除斥期間、現在、契約不適合責任においても継承)の経過した請負契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とし請負人の報酬請求権を受働債権としてする相殺については、同法508条の類推適用がある。
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条文 - 第509条 - 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。 - 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務 - 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。) 改正経緯 2017年改正により、以下の条文から改正。改正前は不法行為により生じた債権一般を受動債権とすることを禁じていたが、過失によって損害を与えた場合には、それを禁じるまでの倫理的根拠は希薄である一方、不法行為によるものでなくても生命や身体に対する侵害(債務不履行など、例.医療過誤)により生じた債務は、被害者救済の観点から適当でないことからの改正である。 - 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 解説 - 相殺についての特則規定である。 - 損害賠償等、不法行為等によって生じた債権を受動債権とする相殺を禁じている。不法行為の被害者に現実の弁済による損害の填補を受けさせることと、不法行為の誘発を防止することを目的としている。なお、反対解釈により、不法行為によって生じた債権を自働債権とする相殺は許容される。 参照条文 判例 - 家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和42年11月30日) - 不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行為以外の原因による債権を受働債権とする相殺の許否 - 民法第509条は、不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補をうけしめるとともに、不法行為の誘発を防止することを目的とするものであり、不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし、不法行為による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止するものではないと解するのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和32年04月30日) 民法第715条 - 被害者に業務執行上の過失のある場合と民法第715条 - 被用者たる運転手甲が自動車を運転して当該自動車を輸送する業務に従事中、その過失により自動車を衝突させ同乗していた乙を死亡させたものであるときは、乙が自動車輸送業務の共同担当者たる被用者で右衝突事故の発生につき同人にも過失があつたとしても、使用者は乙の死亡につき民法第715条による損害賠償責任を免れない。 - 民法第715条による損害賠償義務者と相殺の許否 - 民法第715条により損害賠償義務を負担している使用者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合でも、相殺をもつて対抗することはできない。 - 被害者に業務執行上の過失のある場合と民法第715条 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和49年06月28日)民法第709条 - 同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否 - 双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。 - 約束手形金、貸金等反訴 (最高裁判決 昭和54年03月08日),民訴法601条 - 不法行為の加害者が被害者に対する自己の債権を執行債権として自己に対する被害者の損害賠償債権について受けた転付命令の効力 - 不法行為の加害者が被害者に対する自己の債権を執行債権として自己に対する被害者の損害賠償債権について受けた転付命令は、民法509条の規定を潜脱するものとして無効である。
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民法第511条 条文 (差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止) - 第511条 - 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。 - 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。 改正経緯 2017年改正により、以下のとおり改正 - 見出し/第1項 用語の改正 - (改正前)支払の差止めを - (改正後)差押えを - 第1項に以下の文言を確認的に付加。 - 「差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。」 - 第2項を新設。 解説 相殺することができない場合について定めた規定の一つである。 - 無制限説 - 第三債務者は、差押債務者に対して、差押え時に反対債権を有していれば、対抗できるとする。 - 第三債務者の保護を重視する、判例の立場。 - 制限説 - 第三債務者は、差押債務者に対して、差押え時に反対債権を有すだけでは対抗できず、反対債権の弁済期が差押え債権の弁済期より先に到来する場合に限り、対抗できるとする。 - 差押え債権者による差押えの実効性を重視する。 参照条文 - 民法第505条(相殺の要件等) 判例 - 預金返還請求(最高裁判決 昭和39年12月23日)民訴法598条1項 - 債権差押の第三債務者が差押前に取得し差押後に相殺適状を生じた反対債権と被差押債権との相殺の効力。 - 甲が乙の丙に対する債権を差し押えた場合において、丙が差押前に取得した乙に対する債権の弁済期が差押時より後であるが、被差押債権の弁済期より前に到来する関係にあるときは、丙は右両債権の差押後の相殺をもつて甲に対抗することができるが、右両債権の弁済期の前後が逆であるときは、丙は右相殺をもつて甲に対抗することはできないものと解すべきである。 - 相殺に関する契約の対外的効力。 - 債権者と債務者の間で、相対立する債権につき将来差押を受ける等の一定の事由が発生した場合には、両債権の弁済期のいかんを問わず、直ちに相殺適状を生ずる旨の契約および予約完結の意思表示により相殺することができる旨の相殺予約は、相殺をもつて差押債権者に対抗できる前項の場合にかぎつて、差押債権者に対し有効であると解すべきである。 - 債権差押の第三債務者が差押前に取得し差押後に相殺適状を生じた反対債権と被差押債権との相殺の効力。 - 定期預金等請求(最高裁判決 昭和45年06月24日)民訴法598条1項 - 債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力 - 債権が差し押えられた場合において、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたときは、その債権が差押後に取得されたものでないかぎり、右債権および被差押債権の弁済期の前後を問わず、両者が相殺適状に達しさえすれば、第三債務者は、差押後においても、右反対債権を自働債権として、被差押債権と相殺することができる。 - 相殺に関する合意の差押債権者に対する効力 - 銀行の貸付債権について、債務者の信用を悪化させる一定の客観的事情が発生した場合には、債務者のために存する右貸付金の期限の利益を喪失せしめ、同人の銀行に対する預金等の債権につき銀行において期限の利益を放棄し、直ちに相殺適状を生ぜしめる旨の合意は、右預金等の債権を差し押えた債権者に対しても効力を有する。 - 債権の差押前から債務者に対して反対債権を有していた第三債務者が右反対債権を自働債権とし被差押債権を受働債権としてする相殺の効力 - 転付預金債権支払請求(最高裁判決 昭和50年09月25日)民法第468条,民訴法第601条,手形法第39条,手形法第50条,手形法第77条 - 金融機関が手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて転付された預金債権を相殺した場合と手形の返還先 - 金融機関が預金者から第三者に転付された預金債権を右預金者に対する手形貸付債権又は手形買戻請求権をもつて相殺した結果預金債権が転付前に遡つて消滅した場合には、金融機関は、手形貸付けについて振り出された手形又は買戻の対象となつた手形を右預金者に返還すべきであり、預金債権の転付を受けた第三者に返還すべきではない。 - 取立債権請求事件 (最高裁判決平成14年03月28日) - 賃料債権に対する抵当権者の物上代位による差押えと当該債権への敷金の充当 - 敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
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条文 (相殺の充当) - 第512条 - 債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と、債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思表示をした場合において、当事者が別段の合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。 - 前項の場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときであって、当事者が別段の合意をしなかったときは、次に掲げるところによる。 - 第1項の場合において、相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときは、前項の規定を準用する。 改正経緯 2017年改正により、以下の条文から改正。 - 第488条から第491条までの規定は、相殺について準用する。 解説 「相殺の充当」について定める。2017年改正前は「弁済の充当」を準用していたが、弁済の充当に認められる当事者一方の選択の余地を無くした。 以下の順による。 - 当事者の合意(第490条参照) - 相殺適状の順 - すべての債務を消滅させるのに足りない場合 - 元本のほか利息及び費用を支払うべきとき - 費用→利息→元本 の順で充当する。 - 費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない場合 - 以下(3-2)による。 - 費用、利息又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない場合 - 費用→利息→元本 の順で充当する。 - その他の場合(民法第488条第4項各号の準用) - 当事者一方のために相殺の利益が多いもの(第2号準用) - 当事者一方のために相殺の利益が相等しいときは、相殺適状が先に到来したもの又は先に到来すべきもの(第3号準用) - 相殺適状の到来期も同一な場合は、各債務の額に応じる(第4号準用) - 元本のほか利息及び費用を支払うべきとき 参照条文 判例 - 定期預金払戻(最高裁判決 昭和56年07月02日) 旧・民法第489条(現・民法第488条),旧・民法第491条(現・民法第489条) - 自働債権又は受働債権として数個の元本債権があるにもかかわらず当事者が相殺の順序の指定をしなかつた場合における相殺充当の方法 - 自働債権又は受働債権として複数の元本債権を含む数個の債権があり、当事者のいずれもが右元本債権につき相殺の順序の指定をしなかつた場合には、まず元本債権相互間で相殺に供しうる状態となつた時期の順に従つて相殺の順序を定めたうえ、その時期を同じくする元本債権相互間及び元本債権とこれについての利息、費用債権との間で民法第489条(旧)、民法第491条(旧)の規定の準用により相殺充当を行うべきである。
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民法第513条 条文 (更改) - 第513条 - 当事者が従前の債務に代えて、新たな債務であって次に掲げるものを発生させる契約をしたときは、従前の債務は、更改によって消滅する。 - 従前の給付の内容について重要な変更をするもの - 従前の債務者が第三者と交替するもの - 従前の債権者が第三者と交替するもの 改正経緯 2017年改正 以下の条文から改正。 - 当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。 - 条件付債務を無条件債務としたとき、無条件債務に条件を付したとき、又は債務の条件を変更したときは、いずれも債務の要素を変更したものとみなす。 - 第1項:「更改」の定義が「債務の要素を変更する」契約からわかりやすい表現に変更された。なお、現在では第二号は債務引受により、第三号は債権譲渡により取って代われつつある。 - 第2項は条件の変更が更改とされるのが合理的でないので削除。 2004年改正 かつて「債務ノ履行に代ヘテ為替手形ヲ発行スル」ことも債務の要素の変更であると規定されていたが、判例・通説はこの場合を代物弁済と解していたため、成文法と解釈との乖離が存在していた。2004年(平成16年)の民法改正においてこの部分の記述は削除された。 解説 債権の消滅事由の一つである更改についての定義規定である。債権が消滅するのは更改の時で、代物弁済のように債権が消滅するのに「他の給付(物の引渡しや登記移転)」までは必要でない。
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条文 (債務者の交替による更改) - 第514条 - 債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。この場合において、更改は、債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。 - 債務者の交替による更改後の債務者は、更改前の債務者に対して求償権を取得しない。 改正経緯 2017年改正により以下のとおり改正。 - 第1項 - (改正前)ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。 - (改正後)この場合において、更改は、債権者が更改前の債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。 - 改正前は原債務者に拒否する権利があったが、改正により免責的債務引受(民法第472条)にあわせ通知で足りるようになった。 - 第2項 新設 - 更改の切断の効果を明確にした。 解説 債務者が代わり、元の債務者は債権債務関係から離脱することになるため、2017年改正により成文化された免責的債務引受(民法第472条)と類似するが、もともと、「債務引受」を認められなかった時代に代替手段として案出された制度であるため(フランス法由来)、制度上の不備が多く(「更改」は、更改前後の権利関係が切断されるため当事者間又は当事者の一方が期待する法律関係が形成されない)、判例上「債務引受」が認められるようになってからは、更改の意味は大幅に減少した。2017年改正で債務引受が成文化された後、さらに適用局面は減少すると考えられる。
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条文 (債権者の交替による更改) - 第515条 - 債権者の交替による更改は、更改前の債権者、更改後に債権者となる者及び債務者の契約によってすることができる。 - 債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。 改正経緯 2017年改正前は、第2項のみの本文であったが、第1項を新設し、第2項に繰り下げた。 解説 債権者の交替は、「債権譲渡」により達成することができ、前条同様更改前の権利関係が切断されるなど、当事者にあまり利点のない制度であるため、稀用の法制度と言える(前条同様、債権譲渡が認められていなかった時代の便法として発達したもの)。 債権譲渡に比べ各種の手当がなされていないため、債務者保護の観点から、新旧債権者と債務者の3者間契約によるべきものとされ、かつ、それを第三者に対抗させるには確定日付ある証書にてなられることを要する。
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条文 (更改後の債務への担保の移転) - 第518条 - 債権者(債権者の交替による更改にあっては、更改前の債権者)は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。 - 前項の質権又は抵当権の移転は、あらかじめ又は同時に更改の相手方(債権者の交替による更改にあっては、債務者)に対してする意思表示によってしなければならない。 改正経緯 2017年改正前の条文は以下のとおり。旧債務の担保が新債務の担保にスライドしても、債務者所有にかかる物上担保であれば、旧債務者、新債務者にとって不利益はないし、質権または抵当権の後順位担保権者も順位が変わらなければ不利益はないので、(更改前の)債権者のみの意思表示で担保を移転することができることになった。 解説 更改によって旧債務は消滅するので、担保権もそれに伴って消滅するのが原則であるが、当事者間で特約を結べば、旧債務の担保として設定された質権、抵当権を更改後の新債務に移すことができることを定めている。担保物権の随伴性の要件を緩和する特例である。しかし、元本確定前の根抵当権については随伴性が否定されるので、元本確定前の根抵当権を新債務に移すことはできない(民法第398条の7第3項)。 但書第三者とは、物上保証人等である。 なお、人的担保である保証人、連帯保証人も更改によって責任が消滅するため、効果を継続したければ新たな契約を締結する必要がある。
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条文 (免除) - 第519条 - 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。 解説 債権者が、対価なく債権者へ債務履行を求めることを放棄すること。債権の消滅原因のうち、弁済以外のものの一つである。債権者一方の単独行為であり、債務者の意思は関与しない。 参照条文 判例 - 退職金請求(最高裁判決 昭和48年01月19日)労働基準法第11条,労働基準法第24条1項,民法第91条 - 賃金にあたる退職金債権放棄の効力 - 賃金にあたる退職金債権放棄の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、有効である。 - 賃金にあたる退職金債権の放棄が労働者の自由な意思に基づくものとして有効とされた事例 - 甲会社の被用者で西日本における総責任者の地位にある乙が、退職に際し、賃金にあたる退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合において、乙が退職後ただちに競争会社に就職することが甲に判明しており、また、乙の在職中における経費の使用につき書面上つじつまの合わない点から甲が疑惑をいだいて、その疑惑にかかる損害の一部を填補させる趣旨で退職金債権の放棄を求めた等判示の事情があるときは、右退職金債権放棄の意思表示は、乙の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したものとして、有効とすべきである。 - 賃金にあたる退職金債権放棄の効力
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条文 (混同) 解説 賃借人が賃借物件を買い受け、賃貸人の地位を継承した場合のように、債権についての混同が発生する場合を定めた規定である。 「その債権が第三者の権利の目的であるとき」とは、たとえば債権に質権が設定されている場合などである。 参照条文 - 民法第179条(混同) (混同) 賃借人が賃借物件を買い受け、賃貸人の地位を継承した場合のように、債権についての混同が発生する場合を定めた規定である。 「その債権が第三者の権利の目的であるとき」とは、たとえば債権に質権が設定されている場合などである。
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条文 (指図証券の債務者の調査の権利等) - 第520条の10 - 指図証券の債務者は、その証券の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。 改正経緯 2017年改正にて新設。 改正前、「指図債権」として以下の条項を定め取り扱われていたものについては、有価証券である「指図証券」として概念することとし、その趣旨を継承した。 (指図債権の債務者の調査の権利等) - 第470条 - 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。 解説 参照条文 - 手形法第40条第3項(手形法第77条により約束手形に準用) - 満期ニ於テ支払ヲ為ス者ハ悪意又ハ重大ナル過失ナキ限リ其ノ責ヲ免ル此ノ者ハ裏書ノ連続ノ整否ヲ調査スル義務アルモ裏書人ノ署名ヲ調査スル義務ナシ - 小切手法第35条 - 裏書シ得ベキ小切手ノ支払ヲ為ス支払人ハ裏書ノ連続ノ整否ヲ調査スル義務アルモ裏書人ノ署名ヲ調査スル義務ナシ
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条文 (記名式所持人払証券の譲渡) - 第520条の13 - 記名式所持人払証券(債権者を指名する記載がされている証券であって、その所持人に弁済をすべき旨が付記されているものをいう。以下同じ。)の譲渡は、その証券を交付しなければ、その効力を生じない。 解説 - 記名式所持人払証券とは、債権者を指名する記載とともに、所持人に弁済をすべき旨が付記されている有価証券であり、裏書の連続と持参呈示のいずれに対する弁済も有効となる。規定は、2017年改正にて新設された。 - 記名式所持人払証券は、裏書の制度を有するが、譲渡にあたって証券の交付が要件とされ(本条)、かつ善意取得が認められる(第520条の15)。したがって、裏書の「権利移転的効力」はない。また、所持人が権利者として推定される(第520条の15)ため、裏書の「資格授与的効力」もない。このような性質から、大方の機能は、無記名証券(第520条の20)に等しい。同等の性質を有する小切手である「選択持参人払式小切手」は持参人払式小切手とみなされている(小切手法第5条第2項)。 - 但し、裏書人には遡求義務はあるものとされ、「担保的効力」は有している。 参照条文 - 第520条の2(指図証券の譲渡)
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条文 (記名式所持人払証券の善意取得) - 第520条の15 - 何らかの事由により記名式所持人払証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。 解説 - 2017年改正にて新設。 - 所持人の裏書の連続を要しない。 参照条文 - 第520条の5(指図証券の善意取得) - 小切手法第21条 - 事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
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条文 (その他の記名証券) - 第520条の19 - 債権者を指名する記載がされている証券であって指図証券及び記名式所持人払証券以外のものは、債権の譲渡又はこれを目的とする質権の設定に関する方式に従い、かつ、その効力をもってのみ、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。 - 第520条の11及び第520条の12の規定は、前項の証券について準用する。 解説 - 「債権者を指名する記載がされている証券であって指図証券及び記名式所持人払証券以外のもの」とは、権利の行使に証券を要するが流通を予定しない証券をいう。規定については2017年改正にて新設。 - 譲渡については債権譲渡の方法により、質権の設定については実行を除いて動産質の取り扱いとなる。 - 準用規定 - 参照条文 - 手形法第11条【裏書禁止手形】
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条文 (指図証券の譲渡) - 第520条の2 - 指図証券の譲渡は、その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、その効力を生じない。 改正経緯 2017年改正にて新設。 改正前、「指図債権」として以下の条項を定め取り扱われていたものについては、有価証券である「指図証券」として概念することとし、譲渡の裏書は対抗要件ではなく効力要件となった。 (指図債権の譲渡の対抗要件) - 第469条 - 指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 解説 指図証券の譲渡は、「裏書」及び「証券の交付」が効力要件である。 - 次の場合を考える。譲渡人G1が指図債権をG2とG3に二重譲渡した。このうちG1はG2に債権譲渡したことを債務者Sに通知したが、G3に債権譲渡したことは通知せず、G3は、「Sが債務を負担する」という文句のあるG1の裏書きのある指図証券を所持している。履行期にG3が証券を呈示して弁済を請求し、G2も履行を催告した。Sはどうすればよいか。 - 事例の場合G2への指図債権の債権譲渡は無効である。 裏書の効力は権利移転的効力・資格授与的効力・担保的効力があるが、改正民法には資格授与的効力(第520条の4)が定められている。ただし残り二つは解釈上認められる(はずである)。資格授与的効力は裏書の連続により所持人に証券上の権利があることが法律上の推定を受けることをいう。 - 次の場合を考える。裏書が連続していない証券の所持人がその証券を呈示して債務者が「不連続の裏書に資格授与的効力がない」ことを理由に弁済を拒絶した。 - この場合所持人は裏書の実質的な連続を立証すれば債務者に債務の履行を求めることができる。 - 次の場合を考える。Sが債務を負担する証券がGに裏書きされた。しかしGは紛失してしまい、Iが所持しており裏書人欄にはG・Hによる裏書の連続があった。Gは証券を呈示しなければSからの弁済を受けることができない。そこでGは証券の紛失を主張して指図債権譲渡の事実を否定しIに証券の返還を請求した。 - この場合資格授与的効力があるのでIはGへの返還義務を負わない。ただしGはIがHが無権利者であったことを知っていたか知らなかったことについて重過失があったことを立証すれば返還してもらえる。
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条文 (無記名証券) - 第520条の20 - 第2款(記名式所持人払証券)の規定は、 無記名証券について準用する。 改正経緯 2017年改正前は、第86条第3項に「無記名債権は動産とみなす。」と規定され、物権に関する規定が適用されていた。当無記名債権を無記名証券とした。 解説 - 無記名証券とは、債務者が記載されず証券の呈示のみで債券の弁済が受けられる証券をいう。各種切符、入場券の類を言う。無記名証券は、流通において動産と同一に取り扱われる。証券性は公示催告手続きにより除権が可能なことが挙げられるが、あくまでも理念的なものである。 - 準用規定 - 第520条の13 - →「証券の交付」が効力要件となる。 - 第520条の14 - →所持人は権利者と推定される。 - 第520条の15 - →善意取得 - 第520条の16 - →人的抗弁の制限。 - 第520条の17 - 第520条の18 参照条文 判例 - 債券金額支払請求(最高裁判決 昭和44年6月24日) - いわゆる学校債券が無記名証券にあたるとされた事例 - 学校法人が設備拡充資金の借入れを目的とし、一般の起債の方法により作成、発行した左記の学園債券は、無記名証券にあたる。 - 無記名定期預金請求(最高裁判決 平成11年04月16日) - いわゆる無記名定期預金債権の性質 - いわゆる無記名定期預金債権は無記名債権でなく指名債権に属する。 - 「無記名定期預金」は制度廃止された。
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条文 (指図証券の善意取得) - 第520条の5 - 何らかの事由により指図証券の占有を失った者がある場合において、その所持人が前条の規定によりその権利を証明するときは、その所持人は、その証券を返還する義務を負わない。ただし、その所持人が悪意又は重大な過失によりその証券を取得したときは、この限りでない。 解説 2017年改正にて新設。 参照条文 手形法第16条第2項 - 事由ノ何タルヲ問ハズ為替手形ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ所持人ガ前項ノ規定ニ依リ其ノ権利ヲ証明スルトキ(裏書の連続)ハ手形ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ所持人ガ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ - 事由ノ何タルヲ問ハズ小切手ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ其ノ小切手ヲ取得シタル所持人ハ小切手ガ持参人払式ノモノナルトキ又ハ裏書シ得ベキモノニシテ其ノ所持人ガ第十九条ノ規定ニ依リ権利ヲ証明スルトキハ之ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ悪意又ハ重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
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条文 (指図証券の譲渡における債務者の抗弁の制限) - 第520条の6 - 指図証券の債務者は、その証券に記載した事項及びその証券の性質から当然に生ずる結果を除き、その証券の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。 改正経緯 2017年改正にて新設。 改正前、「指図債権」として以下の条項を定め取り扱われていたものについては、有価証券である「指図証券」として概念することとし、その趣旨を継承した。 (指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限) - 第472条 - 指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。 解説 有価証券の一般的性質である、『人的抗弁の切断』を定めたもの。 参照条文 - 第468条(債権の譲渡における債務者の抗弁) 人的抗弁の切断 - 手形法第17条 - 為替手形に依り請求を受けたる者は振出人其の他所持人の前者に対する人的関係に基く抗弁を以て所持人に対抗することを得ず但し所持人が其の債務者を害することを知りて手形を取得したるときは此の限に在らず - 手形法第77条 - 小切手法第22条
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民法第521条 条文 (契約の締結及び内容の自由) - 第521条 - 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。 - 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項を改正の上第523条に移動、現行条項を新設した。 改正前条項 - (承諾の期間の定めのある申込み) 解説 従来から、「契約自由の原則」は、「所有権の絶対性」「過失責任主義」とともに、民法上の当然の大原則と理解されていたが、法文中には存在していなかったところ、2017年改正に伴い明文化した。 改正検討段階では、以下の派生原理を条文化することが検討されていたが見送られた。 - 履行請求権の限界事由が契約成立時に生じていた場合の契約の効力 - 契約当事者の相手方に対する付随義務及び保護義務 - 情報の質及び量並びに交渉力の格差がある当事者間で締結される契約に関する信義則等の適用に当たっての考慮要素 - 契約交渉段階における契約締結の自由と契約交渉の正当な理由のない破棄の責任 - 契約締結過程における情報提供義務
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条文 (契約の成立と方式) - 第522条 - 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。 - 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。 改正経緯 2017年改正により、隔地者間の契約の成立時期について発信主義を採っていた旧民法第526条第1項が削除され、契約の成立についても原則として到達主義(第97条第1項)を採ることとなり、承諾の意思表示についてのみ、延着について他の意思表示と異なる扱いをする必要はないことから以下の条項が継承なく削除され、現行条項が新設された。 (承諾の通知の延着) - 前条第1項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。 - (注)「前条」旧民法第521条(改正民法第523条)「承諾の期間の定めのある申込み」 - 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第1項の期間内に到達したものとみなす。 解説 「申込み」と「承諾」によって契約が成立するという基本的な法理を明文化するものである。 申込みは、相手方に申込みをさせようとする行為にすぎない「申込みの誘引」と異なり、承諾があればそれだけで契約を成立させるという意思表示であるため,契約内容を確定するに足りる事項が提示されている必要がある。例えば、店頭等における価格を示した物の販売は、物の提供者が売却を「申込み」しており、購入者が購入を「承諾」すれば契約は成立するが、オークションのように価格の提案を購入者側がする場合、申込者と承諾者の立場が逆転する。
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条文 (承諾の期間の定めのある申込み) - 第523条 - 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。 - 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項を第524条に移動、改正前第521条の規定内容に一部改正を加え移動した。 改正前条項 - (遅延した承諾の効力) - 申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。 改正後条項 - 2017年改正前第521条(承諾の期間の定めのある申込み) 第1項に、以下の改正を行った。 解説 承諾の期間を定めて契約の申込みをした場合の規律を定めた規定である。 参照条文 - 民法第525条(承諾の期間の定めのない申込み) 商法第507条(対話者間における契約の申込み) - →削除:民法第525条に規定 - 商法第508条(隔地者間における契約の申込み) - 商法第509条(契約の申込みを受けた者の諾否通知義務)
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条文 (承諾の期間の定めのない申込み) - 第525条 - 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。 - 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。 - 対話者に対してした第1項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない 。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項に改正を加え第526条に移動、改正前第524条の規定内容から移動した。 改正前条項 - (申込者の死亡又は行為能力の喪失) - 民法第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 改正後条項 - 2017年改正前第524条(承諾の期間の定めのない申込み) には以下のとおり規定されていた。 - 承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。 - 元は、隔地者との契約の成立について規定していたが、改正により、隔地者間契約以外にも拡張した。 - 撤回権の留保を但書として加えた。 - 対話(契約交渉)中の申込みの扱いについて規定した。 解説 相当の期間とは、申込みを受けた者が諾否を決めるのに考える時間と、承諾の通知が到着するのに通常必要とされる時間の合計。 参照条文 民法第521条(承諾の期間の定めのある申込み) 商法の以下の条項は、本条に吸収され、2020年4月1日本条施行にともない削除 - 商法第507条(対話者間における契約の申込み) - 商人である対話者の間において契約の申込みを受けた者が直ちに承諾をしなかったときは、その申込みは、その効力を失う。
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条文 (申込者の死亡等) - 第526条 - 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項のうち第1項を削除し(契約の成立時期に関する発信主義の特則の廃止)、第2項を第527条に移動、改正前第525条の規定内容から移動した。 改正前条項 - (隔地者間の契約の成立時期) - 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。 - 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。 改正後条項 - 2017年改正前第525条(申込者の死亡又は行為能力の喪失) には以下のとおり規定されていた。 - 民法第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 - (旧)民法第97条第2項 - 隔地者に対する意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、又は行為能力を喪失したときであっても、そのためにその効力を妨げられない。 - (旧)民法第97条第2項 - 民法第97条第2項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 - (改正の概要) - 要件1 - 「申込者が反対の意思を表示した場合」を削除 - 旧.民法第97条第2項(現.第3項)は、申込みの場合以外であっても当事者の反対の意思表示によって適用を排除できると考えられるため、申込みの場面において特に明示する必要がない。 - 申込者が意思能力を喪失した場合を付加、一時的なものを除外するために「常況にある者」とした。 - 民法第97条改正とあわせ、「行為能力の喪失」を「行為能力の制限を受けたとき」とした。 - 「申込者が反対の意思を表示した場合」を削除 - 要件2 - 「申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき」を追加。 - 「相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合」を「相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったとき」とした。 - 効果 - 民法第97条適用排除から、端的に無効に。 - 要件1 解説 申込者が、申込後、相手方の承諾を受領するまでに死亡等をした場合の申込みの効力について規定する。 以下の、事情が発生した時は、申し込みを無効とする。 - 要件1 申込者に生じた事由 - 要件2 申込みに関する事由 - 申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき - 相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったとき 参照条文 - 第97条第3項 - 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
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条文 (承諾の通知を必要としない場合における契約の成立時期) - 第527条 - 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項を削除し、第527条第2項(第1項は削除)の条項を移動した。 (申込みの撤回の通知の延着) - 申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。 - 承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。 - 削除の理由 - 契約の成立時期に関する発信主義の特則(旧第526条)の廃止に伴う。発信主義の下では、承諾者自身は、「承諾の発信」と「申込みの撤回の到達の先後」を把握して契約の成否を知り得ることから、申込みの撤回が延着した場合に承諾者がそれを通知しなければ無効とされていた。これに対して、到達主義を採るとすれば、契約の成否は申込者が認知する「承諾の到達」と承諾者が認知する「申込みの撤回の到達」の先後で決まることになるが、承諾者はその先後関係を知ることができないため、妥当な条項とは言えなくなったことによる。。 解説 民法第97条(隔地者に対する意思表示)の例外規定である。 契約は双方行為であり申込みの意思表示の存在と承諾の意思表示の存在が成立要件である。申込みの意思表示を受けた者が承諾の通知をしなかった場合、国際物品売買契約に関する国連条約18条1項後段において「Silence or inactivity does not in itself amount to acceptance. (沈黙又はいかなる行為も行わないことは、それ自体では、承諾とならない。)」という原則が定められているので、契約が成立しないはずであるが、これについての例外を定めた。
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条文 (申込みに変更を加えた承諾) - 第528条 - 承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。 解説 契約の成立の際のルールを定めた規定の一つである。 当初の申込者は変更を加えた「承諾」(申込み)に対し、承諾するかどうかの選択権を得ることになる。 (申込みに変更を加えた承諾) 契約の成立の際のルールを定めた規定の一つである。 当初の申込者は変更を加えた「承諾」(申込み)に対し、承諾するかどうかの選択権を得ることになる。
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条文 (懸賞広告) - 第529条 - ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者がその広告を知っていたかどうかにかかわらず、その者に対してその報酬を与える義務を負う。 改正経緯 2017年改正で以下の条文から改正 - ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。 (改正点) - 「懸賞広告者」の定義の制限を外した。 - 広告の存在を知らない行為者も報酬の権利を得るものとした。 - 学説上議論のあったところであるが、懸賞広告を「単独行為」類似の行為として、上記のように規定した。 解説 参照条文 懸賞広告関連条項 - 第529条の2(指定した行為をする期間の定めのある懸賞広告) - 第529条の3(指定した行為をする期間の定めのない懸賞広告) - 第530条(懸賞広告の撤回) - 第531条(懸賞広告の報酬を受ける権利) - 第532条(優等懸賞広告) 不当景品類及び不当表示防止法(景表法) - 第4条(景品類の制限及び禁止) - 内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。
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条文 (懸賞広告の撤回の方法) - 第530条 - 前の広告と同一の方法による広告の撤回は、これを知らない者に対しても、その効力を有する。 - 広告の撤回は、前の広告と異なる方法によっても、することができる。ただし、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。 改正経緯 2017年改正により、以下の条項から改正 - 前条の場合において、懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。 - (注)前条:民法第529条 - 前項本文に規定する方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができる。この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。 - 懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定する。
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条文 (同時履行の抗弁) - 第533条 - 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 改正経緯 2017年改正で、括弧書き部分を追加。 解説 - 同時履行の抗弁権を定めた条文。 - 双務契約において、当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利(抗弁権)を同時履行の抗弁権という。 - 双務契約には、当事者の公平を図るという観点から、一方の債務の履行と他方の債務の履行は互いに同時履行の関係に立つという履行上の牽連関係が認められるという点に根拠をもつ権利である。 参照条文 - 第2編 物権 第7章 留置権(第295条~第302条) - 引渡しに対して、同時履行を求める。 - 民法第546条(契約の解除と同時履行) - 民法第576条(権利を取得することができない等のおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶) - 借地借家法第31条(建物賃貸借の対抗力等) - 仮登記担保契約に関する法律第3条(清算金) 判例 - 家屋所有権確認等請求(最高裁判決 昭和28年06月16日)旧民法第886条3号,旧民法第887条,民法第121条,民法第546条 - 未成年者の親権者母が親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したことによる原状回復義務と同時履行。 - 親権者母が、親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したときは、その原状回復義務については民法第533条を準用すべきである。 - 無権代理により家屋譲渡契約を取消し、原状回復を求めたのに対して、相手方が代金返済を求め同時履行の抗弁をした事例 - 未成年者の取消は特に未成年者の利益を保護する為めのものであるから、未成年者に対しては相手方は同時履行の抗弁を主張し得ないものであるとする考え方もないではない。しかし未成年者は随意に一方的に取消し得るのであり、しかも現存利益だけの返還をすればいいのであるから、これによつて十分の保護を受けて居るのである。これに反し相手方は取消されるか否か全く未成年者の意思に任されて居り非常に不利益な位地にあるのであるから、それ以上更に先履行の不利益を与えて迄未成年者に不公平な利益を与える必要ありとはいえない。(右は専ら未成年者の取消に関するものであり、他の原因による取消については何等判断を示すものではない) - 無権代理により家屋譲渡契約を取消し、原状回復を求めたのに対して、相手方が代金返済を求め同時履行の抗弁をした事例 - 家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和29年07月22日)借家法第5条,民法第295条 - 造作買取請求権行使の場合における造作代金支払義務と家屋明渡義務との関係――留置権または同時履行抗弁権の成否 - 造作の買収を請求した家屋の賃借人は、その代金の不払を理由として右家屋を留置し、または右代金の提供がないことを理由として同時履行の抗弁により右家屋の明渡を拒むことはできない。 - 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和29年07月27日)民法第541条 - 反対給付の提供をしないでした催告にもとづく解除の効力 - 双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。 - 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和36年06月22日)民法第541条 - 契約解除と同時履行の関係に立つ反対給付の履行の提供の時期。 - 双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。 - 登記抹消手続等本訴請求、所有権移転登記手続等反訴請求(最高裁判決 昭和47年09月07日)民法第96条,民法第121条,民法第546条 - 売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務と同時履行 - 売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。 - 第三者の詐欺により売買契約が取り消された事例。但し、買主は、おそくとも売買契約締結までの間には、売主がDに欺かれて本件土地を売り渡すものであることをそれとなく知つたにもかかわらずあえて売買契約を締結しており、善意の第三者とならず、当該売買契約は取り消されている。 - 相手方の態様によって同時履行とするか否かを判断して然るべき。詐欺・強迫による取消しの相手方をことさらに保護する必要はない(クリーンハンズの原則、第295条第2項参照)。 - 第三者の詐欺により売買契約が取り消された事例。但し、買主は、おそくとも売買契約締結までの間には、売主がDに欺かれて本件土地を売り渡すものであることをそれとなく知つたにもかかわらずあえて売買契約を締結しており、善意の第三者とならず、当該売買契約は取り消されている。 - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和49年09月02日)民法第619条2項 - 賃借家屋明渡債務と敷金返還債務との間の同時履行関係の有無 - 家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、特別の約定のないかぎり、同時履行の関係に立たない。 - 土地所有権移転登記請求(最高裁判決 昭和50年03月06日)民法第423条 - 土地の売主の共同相続人がその相続した代金債権を保全するため買主に代位して他の共同相続人に対し所有権移転登記手続を請求することの許否 - 買主に対する土地所有権移転登記手続義務を相続した共同相続人の一部の者が右義務の履行を拒絶しているため、買主が相続人全員による登記手続義務の履行の提供があるまで代金全額について弁済を拒絶する旨の同時履行の抗弁権を行使している場合には、他の相続人は、自己の相続した代金債権を保全するため、右買主が無資力でなくても、これに代位して、登記手続義務の履行を拒絶している相続人に対し買主の所有権移転登記手続請求権を行使することができる。 - 工事代金 (最高裁判決 平成9年02月14日)民法第1条2項,民法第412条,民法第634条 - 請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否 - 請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。 - 請負工事代金請求、民訴法一九八条二項の裁判申立(最高裁判決 平成9年07月15日) 民法第412条,民法第506条2項,民法第634条2項,民訴法198条2項,商法第514条 - 請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償債権との相殺がされた後の報酬残債務について注文者が履行遅滞による責任を負う時期 - 請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う。 - 自動車代金等請求事件(最高裁判決 平成21年07月17日) 民法第1条2項 - 自動車の買主が,当該自動車が車台の接合等により複数の車台番号を有することが判明したとして,錯誤を理由に売買代金の返還を求めたのに対し,売主が移転登録手続との同時履行を主張することが信義則上許されないとされた事例 - Xが,Yから購入して転売した自動車につき,Yから転売先に直接移転登録がされた後,車台の接合等により複数の車台番号を有するものであったことが判明したとして,Yに対し錯誤による売買契約の無効を理由に売買代金の返還を求めた場合において,Yは本来新規登録のできない上記自動車について新規登録を受けた上でこれをオークションに出品し,XはYにより表示された新規登録に係る事項等を信じて上記自動車を買い受けたものであり,上記自動車についてのXからYへの移転登録手続には困難が伴うなどの判示の事情の下では,仮にYがXに対し上記自動車につきXからYへの移転登録請求権を有するとしても,Xからの売買代金返還請求に対し,Yが上記自動車についての移転登録手続との同時履行を主張することは,信義則上許されない。
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条文 - 第534条 削除 改正経緯 2017年改正により、継承条文なく削除 (債権者の危険負担) - 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 - 不特定物に関する契約については、第401条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。 解説 危険負担の債権者主義についての規定。任意規定であるので、特約によりこの条文の適用を排除することも可能であり、法実務では排除する特約を設けることが一般的であった。 契約締結と同時に、目的物が支配の下になく管理が現実的にできない債権者が目的物の滅失又は損傷の危険を負担するとの帰結が不当であるとして、かねてから批判されていた。改正前までは、その適用場面を目的物の引渡時以降とする有力な学説があり、これを踏まえ、第3節売買の民法第567条に「目的物の滅失等についての危険の移転」について定めたため、本条を削除した。
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条文 - 第535条 削除 改正経緯 2017年改正により、継承条文なく削除。改正前条文は以下のとおり。 (停止条件付双務契約における危険負担) - 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。 - 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。 - 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。 解説 危険負担につき、停止条件付双務契約における準則を定めた規定であった。 - 停止条件付双務契約 - 「東京に、転勤したら東京にある家屋を買う。」というような契約。 - 1項の場合 - 転勤が未定の間に、家屋が類焼で全焼して滅失した場合は、買い手が東京への転勤が決まったとしても、家屋を引き渡すという債務を負う売り手は、代金を請求できない。 - → 前条の特則であるから、前条削除に伴い削除。 - 転勤が未定の間に、家屋が類焼で全焼して滅失した場合は、買い手が東京への転勤が決まったとしても、家屋を引き渡すという債務を負う売り手は、代金を請求できない。 - 2項の場合 - 転勤が未定の間に、家屋が類焼で半焼となり損傷した場合は、買い手が東京への転勤が決まったときは、家屋を引き渡たせという債権を持った買い手は、代金を支払わなければならない。 - → 前条の特則であるから、前条削除に伴い削除。 - 転勤が未定の間に、家屋が類焼で半焼となり損傷した場合は、買い手が東京への転勤が決まったときは、家屋を引き渡たせという債権を持った買い手は、代金を支払わなければならない。 - 3項の場合 - 転勤が未定の間に、家屋が売り手の不注意で失火し半焼となり損傷した場合は、買い手が東京への転勤が決まったときは、家屋を引き渡たせという債権を持った買い手は、家屋の引渡を請求しても、契約を解除してもよい。引越しの準備をしたというような損害があれば、請求できる。 - → 債務不履行の一般則に帰結するので不要として削除。 - 転勤が未定の間に、家屋が売り手の不注意で失火し半焼となり損傷した場合は、買い手が東京への転勤が決まったときは、家屋を引き渡たせという債権を持った買い手は、家屋の引渡を請求しても、契約を解除してもよい。引越しの準備をしたというような損害があれば、請求できる。 参照条文 - 民法第536条(債務者の危険負担等)
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条文 (債務者の危険負担等) - 第536条 - 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。 - 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 改正経緯 2017年改正 以下の条文から改正。 - 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 - 主体を債務者から債権者とする。 - 前二条 - ともに削除された。従って、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」は、無条件に債務者が危険を負担する。 - 想定された適用局面 - 家屋の賃貸借の場合、類焼で家屋が全焼し家屋を貸すという債務を履行することが出来なくなった時は、債務者である家主は、家賃という反対給付を受け取ることが出来ない。 - 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 - 主体を債務者から債権者とする。趣旨について改正前後で変更はない。 - 適用局面 - 債権者である賃借人の失火で全焼したときは、家主は家賃を請求することが出来る。 2004年改正(現代語化) 現代語化改正において、以下の文言から改正。第2項は反対給付の債権者・債務者の立場を入れ替えた表現とした。 - 前二条ニ掲ケタル場合ヲ除ク外当事者双方ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ有セス - 債権者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ失ハス但自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス 解説 危険負担の債務者主義について定めた規定。 第1項(当事者双方の責めに帰することができない事由による不履行の場合)関連 当事者双方の帰責事由によらない履行不能の場合に債務者の反対給付を受ける権利も消滅する旨を定める民法第536条第1項については もともと同条が「前二条に規定する場合」以外の場面を対象としていることから、この規定を適用して処理される実例が乏しく,判例等も少ないことが指摘されている。 その上、同条が適用されると想定される個別の契約類型において、危険負担的な処理(双方の責めに帰することができない事由で債務の一部ないし全部の履行ができなくなった場合の費用等の負担の処理)をすることが適当な場面については、契約各則においてその旨の規定を以下のとおり設けた。 - 賃貸借 民法第611条(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)、民法第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了) - 雇用 民法第624条の2(履行の割合に応じた報酬) - 請負 民法第634条(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬) - 委任 民法第648条(受任者の報酬) また,それ以外の同条第1項の適用が問題となり得る場面については、今回の改正により履行不能による契約の解除の要件として、債務者の帰責事由(旧・第543条ただし書)を不要としたため、債権者は債務の不履行を理由に契約の解除をすることにより自己の対価支払義務を免れることができるようになり、機能の重複が見られるようになった。 実際の適用場面を想定しにくい本条第1項を維持し、機能の重複する制度を併存させるよりも、法制度の簡明化を目的に、本項を削除し、解除に一元化する案も有力であったが、解除制度と危険負担制度とが併存する現行の体系の急激な変更を懸念する声も多く、削除は見送られた。従って、改正後も適用局面は限定されるものと予想される。 第2項(債権者の責めに帰すべき事由による不履行の場合の解除権の制限)関連 債務者の履行がない場合において、その不履行が契約の趣旨に照らして債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は契約の解除をすることができない(民法第543条)。その帰結として反対給付を受ける権利は消滅しないという効果を導く。改正前後に趣旨の変更はないが、改正前の「反対給付を受ける権利を失わない」との文言については、これによって未発生の反対給付請求権が発生するか否かが明確でないとの指摘があったことを踏まえ、「債権者は、反対給付の履行を拒むことができない」という規定に改めた。 なお、第1項同様、賃貸借、雇用、請負、委任については、各則における規定が優先される。 参照条文 - 民法第567条 - 売買契約において、売主が引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主の受領遅滞により、当事者双方の責めに帰することができない事由によって目的物の滅失等が生じた場合、買主はその目的物に関して、売主に契約不適合の責任を追及することはできない(危険負担が移転する)。 判例 - 解雇無効確認等請求(最高裁判決 昭和37年07月20日)労働基準法第26条,労働基準法第24条1項 - 使用者の責に帰すべき事由によつて解雇された労働者が解雇期間内に他の職について利益を得た場合、使用者が、労働者に解雇期間中の賃金を支払うにあたり、右利得金額を賃金額から控除することの可否およびその限度。 - 使用者の責に帰すべき事由によつて解雇された労働者が解雇期間内に他の職について利益を得た場合、使用者が、労働者に解雇期間中の賃金を支払うにあたり、右利得金額を賃金額から控除することはできるが、その限度は、平均賃金の4割の範囲内にとどめるべきである。 - 労働基準法第26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業に関して、平均賃金の6割以上の支払いを課しており、使用者に支払いを免除される限度は4割とした。 - 請負代金請求(最高裁判決 昭和52年02月22日)民法第632条 - 注文者の責に帰すべき事由により仕事の完成が不能となつた場合における請負人の報酬請求権と利得償還義務 - 請負契約において仕事が完成しない間に注文者の責に帰すべき事由によりその完成が不能となつた場合には、請負人は、自己の残債務を免れるが、民法536条2項により、注文者に請負代金全額を請求することができ、ただ、自己の債務を免れたことにより得た利益を注文者に償還すべきである。 - 雇用関係存在確認等(最高裁判決 昭和62年04月02日)労働基準法第12条1項,労働基準法第12条4項,労働基準法第24条1項,労働基準法第26条 - 使用者がその責めに帰すべき事由による解雇期間中の賃金を労働者に支払う場合の労働基準法12条4項所定の賃金と労働者が解雇期間中他の職に就いて得た利益額の控除 - 使用者が、その責めに帰すべき事由による解雇期間中の賃金を労働者に支払う場合、労働基準法第12条4項所定の賃金については、その全額を対象として、右賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に労働者が他の職に就いて得た利益の額を控除することができる。 - 賃金(通称 ノースウエスト航空賃金請求)(最高裁判決 昭和62年07月17日)労働基準法第26条 - 労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」と民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」 - 労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む。 - 部分ストライキのため会社が命じた休業が労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」によるものとはいえないとされた事例 - 定期航空運輸事業を営む会社に職業安定法44条違反の疑いがあつたことから、労働組合がその改善を要求して部分ストライキを行つた場合であつても、同社がストライキに先立ち、労働組合の要求を一部受け入れ、一応首肯しうる改善案を発表したのに対し、労働組合がもつぱら自らの判断によつて当初からの要求の貫徹を目指してストライキを決行したなど判示の事情があるときは、右ストライキにより労働組合所属のストライキ不参加労働者の労働が社会観念上無価値となつたため同社が右不参加労働者に対して命じた休業は、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」によるものということができない。 - 労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」と民法536条2項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」
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条文 (第三者の権利の確定) - 第538条 - 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。 - 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第1項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。 改正経緯 2017年改正により第2項が新設された。 解説 第三者のためにする契約に関する諸規定の一つである。 前条により第三者の権利が発生した後の場面における規定である。当事者は、本来契約上の相手当事者に対してのみ権利義務関係にあるものの、第三者のためにする契約においては、発生した第三者の権利も考慮する必要があるからである。
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条文 (契約上の地位の移転) - 第539条の2 - 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。 改正経緯 2017年改正により新設 解説 - 債権者としての地位については「債権譲渡」、債務者としての地位については「債務引受」に従い、第三者に移転することができるものであるが、契約上の地位については、契約の内容により双務的なものはもちろん片務的なものであっても、契約が完遂されるまでの過程においては、当事者の片方を債権者又は債務者と確定させる取り扱いは適当でない一方で、契約当事者は容易に変わりうる現実にあわせ、「契約上の地位の移転」が認められることが判例(最判昭和30年09月29日)・通説であり、これを2017年改正で成文化した。 - 本条で、契約上の地位が有効に移転したことを前提に、契約における債権・債務を鑑み、債権者・債務者を各局面につき分別し、「債権譲渡」「債務引受」各々の規律を評価することとなる。 参照条文 - 第605条の2(不動産の賃貸人たる地位の移転) 債権譲渡 - 第466条以下 債務引受 判例 - 契約確認請求 (最高裁判決 昭和30年09月29日) - 債務を伴う契約上の地位の譲渡契約と債権者に対する効力 - 債務を伴う契約上の地位の譲渡契約は、債権者の承諾がないときは債権者に対し効力を生じない。 - ゴルフ会員権地位確認請求本訴、同等請求反訴(最高裁判決 平成8年07月12日) - 預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡を第三者に対抗するための要件 - 預託金会員制ゴルフクラブの会員権の譲渡をゴルフ場経営会社以外の第三者に対抗するには、指名債権の譲渡の場合に準じて、譲渡人が確定日付のある証書によりこれをゴルフ場経営会社に通知し、又はゴルフ場経営会社が確定日付のある証書によりこれを承諾することを要し、かつ、そのことをもって足りる。 - 過払金返還等請求,民訴法260条2項の申立て事件 (最高裁判決 平成23年3月22日)民事訴訟法第260条 - 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合における,借主と上記債権を譲渡した業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転の有無 - 貸金業者が貸金債権を一括して他の貸金業者に譲渡する旨の合意をした場合において,上記債権を譲渡した業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんにより,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が上記債権を譲り受けた業者に当然に移転すると解することはできない。
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条文 (催告による解除) - 第541条 - 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。 改正経緯 2017年改正により、但書を追加。また、見出しを「履行遅滞等による解除権」から「催告による解除」に改正。 付随的義務違反等の軽微な義務違反が解除原因とはならないとする判例法理(最判昭和36年11月21日民集15巻10号2507頁等)に基づき、一定の事由がある場合には解除をすることができない旨の阻却要件を付加した。 解説 債務不履行のうち、履行遅滞の場合における、法定解除権の成立要件を定めている。 要件 履行遅滞 - 履行遅滞の要件 - 履行が可能であるが、履行しないこと - 履行が不能な場合は原始的不能または後発的不能の問題になる。後発的不能の場合は、債権者に帰責事由がある場合(543条)を除いて法定解除権が発生する。 - 履行期の徒過(412条) - 違法性 相当の期間を定めた催告 - 「相当の期間」がどの程度の長さかについては取引慣行によって定めるべきとされる。 - 履行の準備をしている者が、履行するために必要な期間であり、一般的に2~3日。 相当期間内に履行がないこと 期間内に履行があった場合には解除権は発生しない。 効果 - 法定解除権が発生する。解除権の行使は相手方に対する意思表示によってする(540条1項)。 - 解除の効果については545条に規定があり、相互に原状回復義務が発生するとともに、損害が発生した場合は損害賠償請求権も発生する。 継続的契約への適用 賃貸借契約の場合に本条の適否が問題とされる。同じく継続的契約である雇用契約に近づけて考える見解(628条類推説)も有力であるが、判例は541条を適用しつつ信頼関係破壊法理により修正する。 参照条文 判例 - 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和29年07月27日)民法第533条 - 反対給付の提供をしないでした催告にもとづく解除の効力 - 双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。 - 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和31年12月06日) - 催告後相当期間の経過後にした解除の効力 - 債務者が履行の催告に応じない場合に、債権者が催告のときから相当期間を経過した後にした解除の意思表示は、催告期間が相当であつたかどうかにかかわりなく、有効である。 - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和35年12月09日) - 調停申立の取下と調停申立による催告の効力。 - 調停申立が取り下げられても、その調停申立による催告の効力は当然には消滅しない。 - 所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和36年06月22日)民法第533条 - 契約解除と同時履行の関係に立つ反対給付の履行の提供の時期。 - 双務契約上の債務が同時履行の関係に立つ場合、右契約を解除しようとする当事者の債務の履行の提供は、催告に指定された履行期日にこれをすれば足りる。 - 土地所有権確認等請求(最高裁判決 昭和36年11月21日) - いわゆる附随的義務の不履行と契約の解除。 - 当事者の一方が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠つたにすぎないような場合には、特段の事情がないかぎり、相手方は、その義務の不履行を理由として当該契約を解除することができない。 - 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和37年03月29日)民法第612条,民法第613条 - 賃料延滞による賃貸借の解除と転借人に対する催告の要否 - 適法な転貸借がある場合、賃貸人が賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。 - 建物収去土地明渡請求(最高裁判決 昭和44年05月30日)民法第1条2項 - 賃料延滞を理由とする無催告解除が信義に反し許されないとされた事例 - 土地賃貸人が、2ケ月分合計3000円の賃料の延滞を理由として、無催告解除の特約に基づき、賃借人に対し、右2ヶ月目の賃料の履行期を徒過した翌日に、賃貸借契約解除の意思表示を発信した場合において、賃借人が賃借以来これまで11年余の間賃料の支払を怠つたことがなく、右賃料延滞は、賃貸人の娘婿が賃借土地に隣接する賃貸人所有の土地上に建物の建築工事を始め、賃借土地から公道へ至る通行に支障を来たさせて賃借人の生活を妨害したことに端を発した当事者間の紛争に基因するものであり、賃貸人が、右妨害を止める配慮をせず、かえつて右紛争に関する和解のための第三者のあつせんが行なわれている間にこれを無視して右解除の意思表示をしたものである等の事情があるときは、右解除は、信義に反し、その効果を生じないものと解すべきである。 - 建物収去土地明渡等(最高裁判決 昭和56年06月16日)民法第166条1項 - 継続した地代不払を一括して一個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効の起算点 - 継続した地代不払を一括して一個の解除原因とする賃貸借契約の解除権の消滅時効は、最後の地代の支払期日が経過した時から進行する。 - 建物明渡等(最高裁判決 昭和59年12月13日)公営住宅法第22条,民法第601条 - 公営住宅の明渡請求と信頼関係の法理の適用 - 公営住宅の入居者が公営住宅法22条1項所定の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときは、事業主体の長がした明渡請求は効力を生じない。 - 更正登記手続等(最高裁判決 平成1年02月09日)民法第907条、民法第909条 - 遺産分割協議と民法541条による解除の可否 - 共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が右協議において負担した債務を履行しないときであつても、その債権を有する相続人は、民法541条によつて右協議を解除することができない。 - 遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきである。 - 損害賠償等(最高裁判決 平成8年11月12日) 民法第3編第2章契約 - 同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することのできる場合 - 同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった二個以上の契約から成る場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて、社会通念上、甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には、甲契約上の債務の不履行を理由に、その債権者は、法定解除権の行使として甲契約と併せて乙契約をも解除することができる。 - いわゆるリゾートマンションの売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合にその要素たる債務である屋内プールの完成の遅延を理由として買主が右売買契約を民法541条により解除することができるとされた事例 - 同一当事者間でいわゆるリゾートマンションの区分所有権の売買契約と同時にスポーツクラブ会員権契約が締結された場合において、区分所有権の得喪と会員たる地位の得喪とが密接に関連付けられているなど判示の事実関係の下においては、屋内プールの完成の遅延という会員権契約の要素たる債務の履行遅滞を理由として、区分所有権の買主は、民法541条により右売買契約を解除することができる。 - 同一当事者間で締結された二個以上の契約のうち一の契約の債務不履行を理由に他の契約を解除することのできる場合
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条文 (催告によらない解除) - 第542条 - 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。 - 債務の全部の履行が不能であるとき。 - 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 - 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。 - 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。 - 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。 - 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部を解除することができる。 - 債務の一部の履行が不能であるとき。 - 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 改正経緯 2017年改正により、以下に示す改正前条文と旧第534条(履行不能による解除権)を移動し、催告を必要としない解除の要件を定めた。改正前条文の趣旨は、改正第1項第4号に吸収され、その他履行不能による解除については、履行不能に関して債務者に帰責事由があることの条件が除かれ、履行不能の事実のみで足りることとなった。また、解除権の及ぶ範囲を画した。 (定期行為の履行遅滞による解除権) - 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。 旧第534条は以下のとおり。 (履行不能による解除権) - 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 解説 履行不能又はそれに準ずべき状況(当事者一方の履行拒絶、定期行為の履行遅滞等)にあっては、民法第541条の催告なしで、直ちに契約の全部又は一部を解除できる。改正前は、そのような状況に至った事情について、債務者に責任があることが要件であったが、改正により、その要件は除かれ履行不能の事実で足りることとなった。なお、本条にいう履行不能は、後発的不能、すなわち契約成立後に不能となったことを必要とする。 履行期前の当事者一方の履行拒絶については、判例は、履行不能を柔軟に認定して、早期に契約関係から離脱して代替取引を可能にするとの要請に応えてきたと指摘されており(大判大正15年11月25日民集5巻763頁等)、それを取り込んだ。これを理由とする解除も、債務不履行による契約の解除であるとして、解除した者は履行に代わる損害賠償請求権を行使することができる。 参照条文 判例 改正前第543条関連 - 所有権移転登記及び仮登記抹消登記手続請求 (最高裁判決 昭和46年12月16日)民法第415条 - 不動産の二重売買における一方の買主のための仮登記の経由と他方の買主に対する履行不能の成否 - 甲が乙に対して不動産を売り渡した場合において、所有権移転登記未了の間に、その不動産につき、丙のために売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたというだけでは、いまだ甲の乙に対する売買契約上の義務が履行不能になつたということはできない。
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民法第543条 条文 (債権者の責めに帰すべき事由による場合) - 第543条 - 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。 改正経緯 2017年改正により新設 改正前条文は以下のものであり、本条の趣旨は、債務者の帰責事由を要件から除いて、民法第542条に承継された。 (履行不能による解除権) - 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 解説 2017年改正において債務不履行を原因とする解除に関しては、原則として債務者における帰責事由を評価せず、債務が履行されていないと言う事実のみで足りるとした。しかしながら、信義誠実の原則の観点から、債務不履行が債権者の帰責事由による場合は解除権がないものとした。 この場合の危険負担については、民法第536条参照。 参照条文 前二条
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条文 (解除権の不可分性) - 第544条 - 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 - 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 解説 - 契約の一方当事者が数人ある場合に、法律関係が複雑になるのを防ぐために、解除権の不可分性について定めた規定である。 - 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる事になる。 - 但し、共有物の賃貸契約において共有者に解除権が発生する場合において、544条の解除権不可分の原則は適用されず、共有者全員の一致で行なう必要はない。共有者の共有持分の過半数で解除権の行使を決する事が出来る(民法第252条 最判昭和39年2月25日)。 参照条文 判例 - 家屋明渡等請求(最高裁判決 昭和36年12月22日) - 賃借人の相続人が数名ある場合と解除の意思表示。 - 賃借人が死亡し、相続人として妻および子がある場合は、特段の事情の認められないかぎり、子のみに対する賃貸借解除の意思表示を有効ということはできない。 - 建物収去土地明渡並びに参加訴訟(最高裁判決 昭和37年4月19日) - 共同相続人の一人に対する賃借解約の効力 - 土地賃借権が共同相続された場合、その共同相続人の一人に対してなされた賃貸借解約の意思表示は、その効力がない。 - 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和39年2月25日)民法第252条 - 共有物を目的とする貸借契約の解除と民法第544第1項の適用の有無。 - 共有物を目的とする貸借契約の解除は、共有者によつてされる場合は、民法第252条本文にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当すると解すべきであり、右解除については、民法第544条第1項の規定は適用されない。 - 建物収去土地明渡等請求、建物収去土地明渡請求附帯控訴(最高裁判決 昭和43年4月12日)民法第612条 - 相続による土地の共同賃借人のうちの一人がした賃借権の無断譲渡を理由に他の賃借人に対しても、賃貸借の解除ができるか - 賃貸人が、相続により土地の共同賃借人となつた甲乙に対し、甲のした賃借権の無断譲渡を理由として賃貸借解除の意思表示をした場合、乙は右無断譲渡行為を知らず何らこれに関与していなかつたとしても、解除権不可分の原則が働くのであるから、右解除の効果は乙についても生ずるものといわなければならない。
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条文 (解除の効果) - 第545条 - 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。 - 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。 - 第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。 - 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 改正経緯 2017年改正において、第3項を新設。それに伴い、旧第3項を第4項に繰り下げ。 解説 解除の効果について規定している。解釈については争いがあり、直接効果説と間接効果説、それらを折衷する見解とに分かれている。 - 直接効果説 - 解除によって契約は当初から存在しないことになり、契約から生じた効果は遡及的に消滅するとする。 - 判例・通説は直接効果説に立っている。 - 既履行債務は契約が遡及的に消滅すると考える結果、不当利得となり、原状回復義務は不当利得返還義務として構成される。 - 損害賠償は、解除により契約が存在せず、損害賠償請求権の根拠が無くなるので、第4項で特に認めたとする。 - 間接効果説 - 解除によっては、契約自体は消滅せず、直接的効果は原状回復義務が発生するだけであり、未履行債務については、債務者に履行拒絶権が発生する新たな物権変動が生じると捉え、契約関係がなくなるのは原状回復されたことによる間接的な効果である。 - 物権変動の独自性を認める場合は親和的である。 - 既履行債務は、契約があり当然には消滅しないので、本条で特別に原状回復義務を定めたとする。 - 損害賠償は、契約が存在するから、損害賠償の請求は当然であり、第4項は注意的に規定したとする。 - 折衷説 - 間接効果説を前提に、未履行債務は将来に向かって消滅すると考える。 解除の効果 契約は解除されると以下の四つの効力が発生する。 - 未履行債務などの、契約による法的拘束からの解放(契約の遡及消滅につき大判大9・4・7) - 2017年改正で「当事者の一方がその解除権を行使したときは,各当事者は,その契約に基づく債務の履行を請求することができないものとする」旨の条項新設案があったが見送られた。 - 既履行債務に対する原状回復義務の発生。(本条第1項) - 上記で償いきれない損害がある時は、損害賠償請求権が発生。(本条第4項) - 但し、上記の効果により第三者を害する事はできない。(本条第1項但書) 契約の遡及消滅 原状回復義務 まだ履行されていない債務(未履行債務)は消滅する。 既に履行された債務(既履行債務)については、履行を受けた当事者は原状回復義務を負担する(本条第1項)。 金銭の返還については、受領の時から利息が発生する(本条第2項)。一方、金銭以外のものを返還するときは,その給付を受けたもの及びそれから生じた果実を返還しなければならないものとする(本条第3項)。 相互に原状回復義務を負うときは、両者の義務は同時履行の関係に立つ(546条で533条を準用)。 損害賠償請求権 第4項は「解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。」と定める。直接効果説に立てば、契約は遡及的に消滅するのであるから、債務不履行に基づく損害賠償請求権も発生しないかに思われる。そこで、第4項は履行利益の賠償を定めたものと解することができる。 解除と第三者保護 解除前の第三者 契約当事者が目的物を解除前に第三者に譲渡していた場合、第三者はこの目的物の所有権を失うのかが問題となる。 - 直接効果説 - 解除によって契約が遡及的に消滅する結果、所有権も当然に原所有者に復帰するから、解除前の第三者は帰責事由なくして所有権を失うことになりかねない。この結果は不当であるから、本条第1項但書は「ただし、第三者の権利を害することはできない」として遡及効を制限する規定を置いたと考えられる。ただし判例は、第三者は保護されるためには対抗要件(動産なら引渡し、不動産なら登記)を備える必要があると解している。 - 間接効果説 - 解除によって物権を売主に復帰させる新たな意思表示が行われることになるが、目的物が第三者に譲渡されている場合にはこの意思表示は無効であり、第三者の権利は影響を受けないから、本条第1項の第三者保護は当然のことを定めたに過ぎないと考える。 解除後の第三者 - 解除後、原状回復義務が履行される前に目的物を譲り受けた第三者は、所有権を有効に取得できるかが問題となる。この場合は、所有権は解除によってすでに復帰しているから、原状回復義務者から第三者への譲渡は二重譲渡になる。したがって対抗問題として処理し、対抗要件(動産なら引渡し、不動産なら登記)を先に備えた方が所有権を有効に取得すると考えられる(最判昭和33年06月14日)。 参照条文 - 民法第557条(手付) 判例 - 不動産所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和33年06月14日) 民法第177条,民法第423条 - 不動産の売買の合意解除の場合と未登記の転得者の債権者代位による登記請求の許否 - 甲乙間になされた甲所有不動産の売買が契約の時に遡つて合意解除された場合、すでに乙からこれを買い受けていたが、未だ所有権移転登記を得ていなかつた丙は、右合意解除が信義則に反する等特段の事情がないかぎり、乙に代位して、甲に対し所有権移転登記を請求することはできない。 - 不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ない - 家屋明渡請求(最高裁判決 昭和34年09月22日) 民事訴訟法第186条,民法第541条 - 債務額をこえる催告が有効と認められた事例。 - 催告金額が真の債務額金325,000円を金50,000円超過していても、特段の事情がないかぎり、右催告は契約解除の前提たる効力を失わない。 - 当事者が不法占拠もしくは損害金という語を用いてした請求を不当利得返還の請求と解して認容することの適否 - 当事者の陳述中に不法占拠もしくは損害金という語が用いられていても、その求めるところは買主が売買契約後解除までの間所有者として目的物を使用収益した利益の償還にあることが明らかであるときは、その請求を一種の不当利得返還の請求と解して認容することを妨げない。 - 債務額をこえる催告が有効と認められた事例。 - 登記抹消請求(最高裁判決 昭和35年11月29日)民法第177条 - 予告登記の存在と民法第177条。 - 不動産売買契約が解除され、その所有権が売主に復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、たまたま右不動産に予告登記がなされていても、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。 - 建物退去土地明渡請求(最高裁判決 昭和38年02月21日)民法第601条 - 土地賃貸借の合意解除は地上建物の賃借人に対抗できるか。 - 土地賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約を合意解除しても、土地賃貸人は、特別の事情がないかぎり、その効果を地上建物の賃借人に対抗できない。 - 上告人(土地賃貸人)と被上告人(地上建物の賃借人)との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用收益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによつて勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもつて賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもつて第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法第398条、民法第538条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。(昭和9年3月7日大審院判決、民集13巻278頁、昭和37年2月1日当裁判所第一小法廷判決、最高裁判所民事裁判集58巻441頁各参照)。 - 物件引渡等請求(最高裁判決 昭和40年06月30日)民法第446条,民法第447条 - 売買契約解除による原状回復義務と保証人の責任。 - 特定物の売買契約における売主のための保証人は、特に反対の意思表示のないかぎり、売主の債務不履行により契約が解除された場合における原状回復義務についても、保証の責に任ずるものと解するのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和51年02月13日) 民法第561条 - 売買契約が民法561条により解除された場合と目的物の引渡を受けていた買主の使用利益返還義務 - 売買契約に基づき目的物の引渡を受けていた買主は、民法561条により右契約を解除した場合でも、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還しなければならない。 - 土地所有権移転登記抹消登記手続(最高裁判決 平成2年09月27日)民法第907条,民法第909条 - 遺産分割協議と合意解除及び再分割協議の可否 - 共同相続人は、既に成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる。
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条文 解説 - 解除がなされると、譲渡を内容とする契約であれば、解除前の状態に回復する請求(原状回復請求)がなされるが、双務契約である場合、お互いに原状回復義務を有することとなる。売買契約における物の返還に対する代金返却が典型である。 参照条文 - 民法第533条(同時履行の抗弁) 判例 - 家屋所有権確認等請求(最高裁判決 昭和28年06月16日)民法第533条、民法第121条 - 未成年者の親権者母が親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したことによる原状回復義務と同時履行。 - 親権者母が、親族会の同意を得ないでした家屋譲渡契約を取り消したときは、その原状回復義務については民法第533条を準用すべきである。(詳細は民法第533条判例欄参照) - 登記抹消手続等本訴請求、所有権移転登記手続等反訴請求(最高裁判決 昭和47年09月07日)民法第96条,民法第121条,民法第533条 - 売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務と同時履行 - 売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。(詳細は民法第533条判例欄参照)
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条文 (解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅) - 第548条 - 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。 改正経緯 2017年改正前は、以下のとおりの2項構成であったが、解除権者の行為を主観的要件に集約し、第2項の趣旨を旧第1項の但書として統合した。 (解除権者の行為等による解除権の消滅) - 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。 - 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。 改正検討においては、例えば、売買契約の目的物に瑕疵があった場合、買主がそれを知らないまま加工等したときにも解除権が消滅するなど、その帰結が妥当でない場合があるとの指摘があり、また、民法第545条において、「金銭以外のものを返還する場合において,その給付を受けたもの等を返還することができないときは、その価額を償還する」旨の改正(金銭賠償への転換)が検討されており、当該改正が採用された場合、解除権者が加工等をした場合であっても、目的物の価額返還による原状回復で処理をすれば足りるため、解除権を否定するまでの必要はないとの理由で本条は削除されることが提案されていたが、「金銭賠償への転換」が採用されなかったため、残存するととし、解除権者において加工の事実のみならず、主観的要件により解除権消滅の要件を厳格化した。 解説 参照条文 - 民法第545条(解除の効果)