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条文 (不当利得の返還義務) - 第703条 - 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 解説 本条では不当利得の一般類型たる要件と、善意の受益者の利得返還義務について規定している。不当利得の特殊類型については第705条ないし第708条に規定があり、悪意の受益者の返還義務については第704条に規定がある。 要件 他人の給付による受益 損失者の損失 受益と損失の因果関係 法律上の原因がないこと 効果 給付の目的物 果実 必要費・有益費 参照条文 - 民法第248条(付合、混和又は加工に伴う償金の請求) - 民法第704条(悪意の受益者の返還義務等) 判例 - 業務上横領、背任(最高裁判決 昭和29年11月05日)民法第192条,刑法第247条 - 貯蓄信用組合理事が組合名義で組合員以外の者から貯金を受入れた場合とその金銭所有権の帰属 - 貯蓄信用組合理事がその資格をもつて、組合の名において、組合に対する貯金として受入れたものである以上、たとえ、右貯金が組合員以外の者のした貯金であるが故に、組合に対する消費寄託としての法律上の効力を生じないものであるとしても、貯金の目的となつた金銭の所有権は組合に帰属する。 - 金銭は通常物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権は特段の事情のないかぎり金銭の占有の移転と共に移転するものと解すべきであつて、金銭の占有が移転した以上、たとえ、その占有移転の原由たる契約が法律上無効であつても、その金銭の所有権は占有と同時に相手方に移転するのであつて、こゝに不当利得返還債権関係を生ずるに過ぎない。 - 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和35年9月20日)借地法10条(現借地借家法14条),民法第709条 - 建物取得後借地法10条(現借地借家法14条)の買取請求権行使までの間における敷地不法占有と損害の有無。 - 借地法10条(現借地借家法14条)の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない - 借地法10条(現借地借家法14条)の買取請求権行使後における敷地占有と不当利得の成否。 - 借地法10条(現借地借家法14条)の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代金の支払を受けるまで右建物の引渡を拒むことができるが、これにより敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得としてその賃料相当額を返還する義務がある。 - 建物取得後借地法10条(現借地借家法14条)の買取請求権行使までの間における敷地不法占有と損害の有無。 - 不当利得返還請求(最高裁判決 昭和38年12月24日)民法第189条1項 - 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益と民法第189条第1項の適用の有無 - 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益については、民法第189条第1項の類推適用により同人に右利益の収取権が認められる余地はない。 - 銀行業者が不当利得した金銭によつて得た法定利率による利息相当額以内の運用利益につき返還義務があるとされた事例 - 第一項の運用利益が商事法定利率による利息相当額(臨時金利調整法所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内)であり損失者が商人であるときは、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと考えられる収益の範囲内にあるものと認められるから、受益者は、善意のときであつても、これが返還義務を免れない。 - 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益についての返還義務の範囲 - 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が右財産から当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべきであり、その範囲の収益が現存するかぎり、民法第703条により返還されるべきである。 - 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益と民法第189条第1項の適用の有無 - 養育料償還等請求(最高裁判決 昭和42年02月17日)民法第878条、民法第879条 - 過去の扶養料の求償と民法第878条および第879条 - 扶養権利者を扶養してきた扶養義務者が他の扶養義務者に対して求償する場合における各自の扶養分担額は、協議がととのわないかぎり、家庭裁判所が審判で定めるべきであつて、通常裁判所が判決手続で定めることはできない。 - 不当利得返還請求(ブルドーザー事件)(最高裁判決 昭和45年07月16日) - 賃借中のブルドーザーの修理を依頼した者がその後無資力となつた場合と修理者のブルドーザー所有者に対する不当利得返還請求 - 甲が乙所有のブルドーザーをその賃借人丙の依頼により修理した場合において、その後丙が無資力となつたため、同人に対する甲の修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、甲は乙に対し右修理による不当利得の返還を請求することができる。 - 不当利得返還等請求(最高裁判決 昭和46年04月09日) 民法第91条,商法第641条 - 保険金受領の際差し入れられた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言の効力 - 火災保険の保険金を受領するにあたり、保険契約者兼被保険者が保険者に対して差し入れた「後日保険者に保険金支払の義務のないことが判明したときは、いつさいの責任を負い、保険者に迷惑をかけない」旨の誓約文言は、保険者に対し、不当利得返還義務の範囲を特約するものであつて、有効である。 - 金員返還請求(最高裁判決 昭和49年09月26日) - 金銭を騙取又は横領された者の損失と騙取又は横領した者より債務の弁済を受けた者の利得との間に不当利得における因果関係がある場合 - 甲が、乙から騙取又は横領した金銭を、自己の金銭と混同させ、両替し、銀行に預け入れ、又はその一部を他の目的のため費消したのちその費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、これをもつて自己の丙に対する債務の弁済にあてた場合でも、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認めるに足りる連結があるときは、乙の損失と丙の利得との間には、不当利得の成立に必要な因果関係があると解すべきである。 - 騙取又は横領した金銭により債務の弁済を受けた者の悪意又は重過失と不当利得における法律上の原因 - 甲が乙から騙取又は横領した金銭により自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合において、右弁済の受領につき丙に悪意又は重大な過失があるときは、丙の右金銭の取得は、乙に対する関係においては法律上の原因を欠き、不当利得となる。 - 金銭を騙取又は横領された者の損失と騙取又は横領した者より債務の弁済を受けた者の利得との間に不当利得における因果関係がある場合 - 不当利得(最高裁判決 平成3年03月22日) 民事執行法第84条1項,民事執行法第85条,民事執行法第89条 - 債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対する抵当権者からの不当利得返還請求の可否 - 抵当権者は、債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができる。 - 保険金返還(最高裁判決 平成3年04月26日)民法第167条1項,商法第522条,商法第641条 - 商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に支払われた保険金に関する不当利得返還請求権の消滅時効期間 - 法定の免責事由があるにもかかわらず、商行為たる船体保険契約及び質権設定契約に基づき保険者から質権者に保険金が支払われた場合の不当利得返還請求権の消滅時効期間は、10年である。 - 不当利得返還(最高裁判決 平成3年11月19日) - 金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任 - 金銭の交付によって生じた不当利得の利益が存しないことについては、不当利得返還請求権の消滅を主張する者が主張・立証すべきである。 - 不当利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅と返還義務の範囲 - 不当利得をした者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は、返還義務の範囲を減少させない。 - 金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任 - 不当利得金(最高裁判決 平成7年09月19日) - 建物賃借人から請け負って修繕工事をした者が賃借人の無資力を理由に建物所有者に対し不当利得の返還を請求することができる場合 - 甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られる。 - 土地建物共有物分割等(最高裁判決 平成8年12月17日)民法第249条,民法第593条,民法第898条,民訴法第185条 - 遺産である建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人との間に使用貸借契約の成立が推認される場合 - 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。 - 以下の原審判断に対する判決 - 自己の持分に相当する範囲を超えて本件不動産全部を占有、使用する持分権者は、これを占有、使用していない他の持分権者の損失の下に法律上の原因なく利益を得ているのであるから、格別の合意のない限り、他の持分権者に対して、共有物の賃料相当額に依拠して算出された金額について不当利得返還義務を負う。 - 以下の原審判断に対する判決 - 約束手形金(最高裁判決 平成10年05月26日)民法第96条1項,民法第537条,民法第587条 - 甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消した場合の乙から甲に対する不当利得返還請求につき甲が右給付により利益を受けなかったものとされた事例 - 甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消したが、甲と丙との間には事前に何らの法律上又は事実上の関係はなく、甲が丁の言うままに乙に対して貸付金を丙に給付するように指示したなど判示の事実関係の下においては、乙から甲に対する不当利得返還請求について、甲が右給付によりその価額に相当する利益を受けたとみることはできない。 - (参考)債務不存在確認請求本訴,不当利得請求反訴事件 (最高裁判決 平成13年11月27日) - いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合に民法565条(旧)を類推適用して売主が代金の増額を請求することの可否 - いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,売主は民法565条(旧)の類推適用を根拠として代金の増額を請求することはできない。 - いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら,同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定にすぎないから,数量指示売買において数量が超過する場合に,同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない。 - いわゆる数量指示売買において数量が超過する場合,超過分は不当利得に当たらない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成16年11月05日) - 「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体に加入するに当たり全財産を出えんした者がその後同団体から脱退した場合に合理的かつ相当と認められる範囲で不当利得返還請求権を有するとされた事例 - 甲が,「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体乙に加入するに当たり,乙との約定に基づき乙に対し全財産を出えんし,その後乙から脱退した場合において,終生乙の下で生活を営むことを目的とし,これを前提として出えんをしたこと,脱退するまでの相当期間乙の下で生活をしていたこと,自己の提供する財産が乙や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で出えんをしたことなど判示の事情の下では,甲は,乙に対し,出えんした財産の総額,甲が乙の下で生活をしていた期間,その間に甲が乙から受け取った利得の総額,甲の年齢,稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし,甲の脱退の時点で甲への返還を肯認するのが合理的かつ相当と認められる範囲につき,不当利得返還請求権を有する。 - 預金払戻,不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成17年07月11日)民法第478条,民法第899条 - 銀行が相続財産である預金債権の全額を共同相続人の一部に払い戻した場合について他の共同相続人にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生するものとされた事例 - 甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということもできないことなど判示の事情の下においては,甲銀行が戊にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても,甲銀行には民法703条所定の「損失」が発生したものというべきである。 - 損害賠償請求事件(最高裁判例 平成18年12月21日)民法第362条 - 破産管財人が破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除した際に賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に敷金を充当する旨の合意をして上記賃料等の現実の支払を免れた場合において破産管財人は敷金返還請求権の質権者に対して不当利得返還義務を負うとされた事例 - 破産管財人が,破産者の締結していた建物賃貸借契約を合意解除するに際し,賃貸人との間で破産宣告後の未払賃料等に破産者が差し入れていた敷金を充当する旨の合意をし,上記賃料等の現実の支払を免れた場合において,当時破産財団には上記賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており,これを現実に支払うことに支障がなかったなど判示の事情の下では,破産管財人は,敷金返還請求権の質権者に対し,敷金返還請求権の発生が阻害されたことにより優先弁済を受けることができなくなった金額につき不当利得返還義務を負う。 - 不当利得返還請求事件(最高裁判決 平成19年03月08日) - 法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者が利得した物を第三者に売却処分した場合に負う不当利得返還義務の内容 - 法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は,利得した物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負う。 - 不当利得返還等請求事件(最高裁判決 平成21年01月22日)民法第166条1項,利息制限法第1条1項 - 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合における,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効の起算点 - 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,借入金債務につき利息制限法1条1項所定の制限を超える利息の弁済により過払金が発生したときには,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合は,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する。
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条文 (悪意の受益者の返還義務等) 解説 「受益者」の定義については、民法第703条を参照。 参照条文 判例 - 預ヶ金返還請求(最高裁判決 昭和30年5月13日) - 不当利得と法人の悪意。 - 法人の使用人が法人の目的の範囲外の取引をしたことに基き、法人に不当利得ありとされる場合において、右利得につき右使用人の悪意を以つて法人の悪意とすることはできない。 - (使用人が)単なる法人の使用人に過ぎないならば法人の目的の範囲外に属する事項について法人を代理するの権限のないことは勿論であつて、従つて代理権なきものの悪意を以て直ちに、本人の悪意と目すべき法的根拠を欠くからである。 - 不当利得返還等請求本訴,貸金返還請求反訴事件(最高裁判決 平成19年02月13日)利息制限法第1条1項,民法第488条,民法第404条,商法第514条 - 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否 - 貸主と借主との間で継続的に貸付けが繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生し,その後,第2の貸付けに係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1の貸付けに係る過払金は,第1の貸付けに係る債務の各弁済が第2の貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付けに係る債務には充当されない。 - 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率 - 商行為である貸付けに係る債務の弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当することにより発生する過払金を不当利得として返還する場合において,悪意の受益者が付すべき民法704条前段所定の利息の利率は,民法所定の年5分である。(商事法定利率が廃止されたたため、判例としての効力はない) - 貸主と借主との間で基本契約が締結されていない場合に第1の貸付けに係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払金が発生しその後第2の貸付けに係る債務が発生したときにおける第1の貸付けに係る過払金の同債務への充当の可否
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条文 (債務の不存在を知ってした弁済) - 第705条 - 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。 解説 - 債務が存在しない場合、その債務の弁済の対象として給付されたものを受領する資格はないため、それは不当利得となるので、一般原則に従い給付者は返還請求権を有するのが原則であるが、その弁済者が債務の不存在を知っていた場合は、公平の観点から返還請求権を有しないことを規定している。 - 判例(大判昭和16・4・19)によれば、過失により債務の不存在を知らなかった場合でも、給付者は返還を請求できる。 - ただし、債務の不存在を知りつつ弁済したことに、合理的な理由(自由意思によらずに給付した場合とか、賃料不払いを口実に建物明渡請求を恐れて支払った場合など)があれば、返還請求を否定されない。 - 合理的な理由で、やむをえず弁済したのであれば,不当利得の返還請求を妨げないと解されている。 参照条文 判例 - 債務不存在確認等請求 (最高裁判決 昭和43年11月13日)利息制限法第1条,利息制限法第4条 - 債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を任意に支払つた場合における超過部分の充当による元本完済後の支払額の返還請求の許否 - 利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つた債務者は、制限超過部分の充当により計算上元本が完済となつたときは、その後に債務の存在しないことを知らないで支払つた金額の返還を請求することができる。 - 過払金返還請求(最高裁判決 昭和44年11月25日)利息制限法第1条,利息制限法第4条 - 債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合と右制限に従つた元利合計額をこえる支払額に対する不当利得返還請求の許否 - 債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を元本とともに任意に支払つた場合においては、その支払にあたり充当に関して特段の意思表示がないかぎり、右制限に従つた元利合計額をこえる支払額は、債務者において、不当利得として、その返還を請求することができると解すべきである。
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条文 (他人の債務の弁済) - 第707条 - 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。 - 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。 解説 債務者でない者が錯誤によって弁済した場合の規定である。 不当利得の原則においては、弁済者は債権者に返還請求をできるが、一定の場合は債権者に返還請求できず、債務者への求償の行使というルートを使用して弁済の対象となった物を回収しなければならないことになる(債務者の無資力のリスクを負担する)。
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条文 (不法原因給付) - 第708条 - 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 改正経緯 現代語化前 - 不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ズ。但不法ノ原因ガ受益者ニ付テノミ存シタルトキハ此限リニ在ラス。 解説 意義 - 民法第703条以下に定める不当利得に該当する場合、即ち法律上の原因なく財産等が移転し、その結果、損失が発生したものがいる場合であっても、移転の原因が不法なものであるときは、原因のないことを理由に返還の請求を成すことはできない。 - 但し、衡平を斟酌し、不法の原因が、もっぱら「受益者」のみにある場合、例えば、不法原因について受益者が作出した場合、この限りでなく、不当利得として返還を請求することができる。 - 法は、不法をなすものには手を貸さないという「クリーンハンズの原則」の表明。 要件 - 給付が存在していること - 給付の原因が、不法なものであること。 - 「不法な原因」とは、公序良俗に反してなされた給付とされる(判例)。なお、強行規定に反しているだけでは、「不法」とまで言いえず、態様が倫理感覚に反していることが求められる(最判昭和37年03月08日)。 - 不法の原因に給付者が自らの意思で加担していること。 - 意思形成過程に瑕疵等があれば、錯誤などを理由として加担の意思の不存在を主張しうる。 具体例 - 典型例としては、賭博の支払返還がある。私的な賭博は違法であるから、それが原因で発生した債権債務関係は公序良俗違反として無効であり、これに基づく支払を受けた者は不当利得を得ている状態となっている。しかしながら、この給付は賭博と言う、不法な原因により給付されているため、本条項により返還を請求することはできない。 - しかし、これが、いわゆる「いかさま賭博」であった場合、これは一方的に負けることが確定しているのであるから、そもそも賭博ではなく「詐欺」の類である(刑法論としても同旨)。従って、これは、詐欺取消しの上、但書が適用され、返還を請求できる事例となる。 効果 - 不当利得として、返還を請求することはできない。 - 給付者は、物であれば所有権を失い、債権であれば、その権利を失う。 判例 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和28年01月22日)民法第90条 - 不法原因給付の返還の特約の効力 - 不法原因給付の返還の特約は、有効である。 - 元来本条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、先に給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、本条の禁ずるところでない。 - 不法原因給付の返還の特約は、有効である。 - 不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求と民法第708条 - 不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求には、民法708条は適用がない。 - 不法原因給付の返還の特約の効力 - 貸金請求(最高裁判決 昭和29年08月31日)民法第90条,民法第587条 - 消費貸借成立のいきさつに不法の点があつた場合における貸金返還請求と民法第90条および第708条の適用の有無 - 消費貸借成立のいきさつにおいて、貸主の側に多少の不法があつたとしても、借主の側にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比しきわめて微弱なものに過ぎない場合には、民法第90条および第708条は適用がなく、貸主は貸金の返還を請求することができるものと解するのを相当とする。 - 当初、貸主は借主と、不法な密輸を企てたが思いとどまり出資を拒絶、借主に懇願され経費の一部として金銭を貸与した。借主はこれを遊蕩に消費、返済を求めると不法の原因により給付された金銭であるとし返済を拒否した事案。 - 預金返還請求(最高裁判決 昭和30年10月07日 前借金無効判決)民法第90条 - 酌婦としての稼働契約に伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求の許容 - 酌婦としての稼働契約が公序良俗に反し無効である場合には、これに伴い消費賃借名義で交付された金員の返還請求は許されない。 - 売掛代金請求(最高裁判決 昭和37年03月08日)石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)1条,石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)11条,石油製品配給規則(昭和24年総理庁令、大蔵省令、法務庁令、文部省令、厚生省令、農林省令、商工省令、運輸省令、逓信省令、労働省令、建設省令1号)12条 - 石油製品配給規則違反の給付と不法原因給付の成否 - 石油製品配給規則第1条、第11条、第12条に違反し配給割当公文書と引換でなしにされた揮発油の譲渡といえども、必ずしも民法第708条にいわゆる不法原因給付に当るとはいえない。 - 統制法規に違反した行為が、民法708条の不法原因給付に当るものであるというためには、更に右違反行為が、当時の社会における倫理、道徳に反した醜悪なものであつた旨の首肯しうべき理由が示されなければならない。 - 「民法708条にいう不法の原因のための給付とは、その原因となる行為が、強行法規に違反した不適法なものであるのみならず、更にそれが、その社会において要求せられる倫理、道徳を無視した醜悪なものであることを必要とし、そして、その行為が不法原因給付に当るかどうかは、その行為の実質に即し、当時の社会生活および社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜悪なものと認められるか否かによつて決せらるべきものといわなければならない。」 - 統制法規に違反した行為が、民法708条の不法原因給付に当るものであるというためには、更に右違反行為が、当時の社会における倫理、道徳に反した醜悪なものであつた旨の首肯しうべき理由が示されなければならない。 - 債務不存在確認等請求(最高裁判決 昭和40年12月17日) - 不法な契約によつて生じた債権のためにされた抵当権設定登記の抹消請求と民法第708条の適用の有無。 - 賭博行為によつて生じた金銭債権のためにされた抵当権設定登記の抹消を請求するについては、民法第708条は適用されないものと解するのが相当である。 - 不法な契約によつて生じた債権のためにされた抵当権設定が無効であるので、それの表象である抵当権設定登記の抹消請求に民法第708条は適用されない。 - 所有権移転登記抹消請求(最高裁判決 昭和41年07月28日) 刑法第96条の2,民訴法58条,民訴法56条 - 債権者からの差押を免れるためにした不動産の仮装売買が不法原因給付にあたらないとされた事例 - 会社が債権者からの差押をうけるおそれがあつたので、第三者が当該会社の財産管理処分の任にあたつていた取締役と図り、会社所有の不動産につき売買を仮装して、自己の名義に所有権移転登記手続を経由した場合において、やがて会社に対し右不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたなど、判示事実関係のもとでは、第三者は民法第708条本文にいう不法原因給付を主張して不動産所有名義の返還請求を拒むことができない。 - 建物明渡等請求 (最高裁判決 昭和45年10月21日) - 不法の原因により未登記建物を贈与した贈与した場合その引渡は民法708条にいう給付にあたるか - 不法の原因により未登記建物を贈与した場合、その引渡は、民法708条にいう給付にあたる。 - 所有権に基づく返還請求と民法708条 - 建物の贈与に基づく引渡が不法原因給付にあたる場合に、贈与者は、目的物の所有権が自己にあることを理由として、右建物の返還を請求することはできない。 - 建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合における右建物の所有権の帰すう - 建物の所有者のした贈与に基づく履行行為が不法原因給付にあたる場合には、贈与者において給付した物の返還を請求できないことの反射的効果として、右建物の所有権は、受贈者に帰属するに至ると解するのが相当である。 - 建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合における受贈者に対する登記手続請求の許否 - 未登記建物の贈与が不法原因給付であつてその所有権が受贈者に帰属した場合において、贈与者が右建物につき所有権保存登記を経由したときは、受贈者が贈与者に対し建物の所有権に基づいて右所有権保存登記の抹消登記手続を請求することは、不動産物権に関する法制の建前からいつて許されるものと解すべきである。 - 不法の原因により未登記建物を贈与した贈与した場合その引渡は民法708条にいう給付にあたるか - 建物所有権移転登記手続等請求(最高裁判決 昭和46年10月28日) - 民法708条にいう給付と既登記建物の贈与に基づく引渡 - 不法の原因により既登記建物を贈与した場合、その引渡をしただけでは、民法708条にいう給付があつたとはいえない。 - 贈与が不法の原因に基づくものであり、同条にいう給付があつたとして贈与者の返還請求を拒みうるとするためには、本件のような既登記の建物にあつては、その占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手続が履践されていることをも要するものと解するのが妥当(上記判例と事情が異なるか?)。 - 預託金返還請求、民訴法第一九八条二項の申立(最高裁判決 平成9年4月24日)民法第708条,民法第715条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条 - 証券会社の従業員が顧客に利回り保証の約束をして株式等の取引を勧誘し一連の取引をさせた場合に右取引による顧客の損失について証券会社が不法行為責任を免れないとされた事例 - 証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が損失を被ったもので、顧客が右約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して右約束をさせたわけではないなど判示の事実関係の下においては、顧客の不法性に比し、証券会社の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、証券会社は、顧客に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない(不法原因給付としない)。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年06月10日)民法第709条(2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。 - いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例 - いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%〜数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
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条文 解説 債権の発生原因の一つである、不法行為の成立要件を規定している。 要件 故意または過失 - 不法行為においては加害者に「故意または過失」があることが要件とされている。この点で債務不履行(415条)や物権的請求権とは異なる。故意・過失の立証責任は原告側にあるので、請求権が競合する場合には、債務不履行責任の追及や物権的請求権の行使のほうが認められやすいといえる。 - 一方で、刑事法や英米法と異なり日本民法においては、不法行為が故意でなされた場合も過失でなされた場合も、結果についての責任は異ならないというのが、伝統的見解であって、故意論が展開される例は少なく、加害者の主観等については過失の有無が議論されることが法廷においても学説においても、ほとんどである。但し、近時の有力な学説では、故意をより重い責任要素で損害賠償の範囲や金額を過失に比べ拡大する(事実、慰謝料の算定などはその傾向がある)とするものもある。 過失 - 過失とは、予見可能な結果について、結果回避義務の違反があったことをいうと解されている。いいかえれば、予見が不可能な場合や、予見が可能であっても結果の回避が不可能な場合には過失を認めることができない。 - 結果回避義務については、専門的な職業に従事する者は一般人よりも高度の結果回避義務が要求されると考えられている。医療事故における医師の場合などがこれにあたる。 - また、取引等の相手が違法を犯すことについての回避義務について認められることもある(最判平成13年3月2日)。 特別法による修正 - 責任の軽減 - 失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)は「民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と規定する。 - この規定により、失火の場合は故意または重過失がない限り不法行為責任は負わない。木造家屋の多い日本では、失火による不法行為責任が過大になりやすいことにかんがみた立法である。 - 無過失責任 - 「故意または過失」を要件から省く立法的解決もあり、無過失責任と呼ばれる。無過失責任の代表例として、製造物責任法がある。製造物責任法3条は「製造業者等は(…)その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体または財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる」と定めている。これにより製造業者は、製造物から生じた拡大損害については無条件で責任を負うことになる。 権利侵害(侵害の違法性) - 侵害の対象となる権利は、明治以来判例によって拡大されてきた。生命、身体、有形の財産が侵害の対象となることは当初より争いはなかったが、著作権や人格権などの無体財産権の扱いは判例上変遷している。桃中軒雲右衛門事件においては、法律上規定のない権利は侵害対象にならないとされたが、大学湯事件においては「法律上保護される利益」が侵害対象であるとされ、老舗銭湯ののれんは法律上保護される利益に当たるとされた。 - その後、学説からは「権利侵害」とは侵害行為の違法性をいうのであり、「違法な侵害」であるかどうかに関して、「被侵害利益の重大性」と「侵害の態様」との相関関係によって判断すべきであるとする相関関係説が唱えられた。この理論に従えば、侵害が軽度のものであっても、被侵害利益が(生命など)重大であれば違法性が肯定されることになる。 - また、適法な権利行使(例えば工場の操業)であっても、周囲に与える影響が被害者にとって社会観念上の受忍限度を超える場合には不法行為になるという受忍限度論も提唱され、公害事件を通じて判例法理として定着している。 - 現在では、所有権、担保物権、債権、知的所有権、人格権など幅広い権利が被侵害利益となっているが、パブリシティー権(著名なものの名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利、判例参照)や環境権など、未だその権利性が争いの余地がある「権利」もある。 不法行為の成立を阻却する事由 責任能力 違法性阻却事由(法定) - 正当防衛および緊急避難 - 民法第720条参照 違法性阻却事由(その他) - 自力救済 - 正当業務行為 - - 被害者の承諾 損害の発生 - 財産的損害と精神的損害がある。 - 財産的損害は、積極的損害(直接の被害額)と消極的損害(不法行為がなければ得られたはずの利益=逸失利益)がある。 - 損害の内容については学説上対立がある。差額説は、不法行為によって減少した価値を金銭評価したものが損害の実質であるとする。損害事実説は、ある損害それ自体の内容を金銭評価したものが損害の実質であるとする。 - 精神的損害は、被害者の精神的苦痛である。 因果関係 侵害行為と損害との間に因果関係があるか、という要件である。 相当因果関係 - 不法行為において因果関係が持つ意味は、因果関係を認めうる範囲で加害者に賠償責任を負わせる点にある。ここで、いわゆる事実的因果関係(「あれなくばこれなし」の関係)を前提にすると、因果関係の範囲が広くなりすぎ、損害賠償の範囲が過大になりすぎることになる。 - したがって、不法行為法では、事実的因果関係が成立していることを前提にしつつ、民法第416条を準用し、損害賠償させるべき範囲をより狭く限定している。これを相当因果関係といい判例上確立した準則である(富貴丸事件:大連判大正15年5月22日)。ただし、相当因果関係の概念に関しては、学説において有力かつ強い批判がなされている。 不法行為と被害者の自殺 - 裁判において、従来、自殺は行為者の意思が大きく関与し、不法行為から、そのような意思の形成が生じるとは通常は認められず、加害者側において自殺を予見し又は予見しうる状況にあったと認めることは困難であるとして相当因果関係を認めることに慎重であったが、近年においては、当該不法行為により災害神経症状態を惹起し、統計的に自殺率の高いうつ病等を罹患、その後自殺した事例については、相当因果関係を認めるものもある。ただし、この場合であっても、被害者(自殺者)の性格的傾向等の心因的要因の寄与を認め、第722条2項を類推適用し、損害額を減額する傾向にある。 - 相当因果関係を認めない例 - 交通事故と被害者の自殺(最判昭和50年10月03日) - 教師の違法な懲戒と生徒の自殺(最判昭和52年10月25日) - 相当因果関係を認めた例 - 交通事故と被害者の自殺(最判平成5年09月09日) - 過重労働と自殺(最判平成12年03月24日 [通称:電通損害賠償事件]) 因果関係の立証責任 不法行為に基づく損害賠償請求を行うためには、原告側が侵害行為と損害の間の因果関係を立証しなければならない。しかし、公害事件や医療過誤事件など、一般市民である被害者には挙証が難しいケースも多い。このため、判例法理や立法的解決によって立証責任の軽減が図られてきた。 - 蓋然性説 - 因果関係の100%までを原告側で立証する必要はなく、蓋然性が認められる範囲まで立証すれば、その時点で因果関係が推定され、その後は被告側が反証に成功しない限り因果関係は肯定されるとする理論。 - 疫学的因果関係 - 公害など、多くの因子が被害に絡む場合に、侵害行為と被害発生との間に統計的な有意性が認められれば因果関係を肯定しようという理論。四日市ぜんそく訴訟で用いられた。 効果 - 損害賠償は金銭でなされるのが原則である(722条1項で417条を準用)。ただし、名誉毀損の場合は例外的に謝罪広告等の措置も請求できる(723条)。また、そのほか解釈として、原状回復・差止などが認められうる。 金銭賠償の原則 損害賠償の内容 - 賠償されるべき損害には財産的損害と精神的損害がある。 - 財産的損害には物理的な損害のほか、生命侵害、身体侵害などがある。著作権、特許権、債権などの財産権一般への侵害もある。それぞれについて積極損害と消極損害を観念しうる。 - 精神的損害からは、慰謝料請求権が生ずる。 損害賠償の範囲 - 不法行為から生じた全損害について賠償させるのは、被告にとって過酷であることから、相当因果関係説によって損害賠償の範囲が制限される。 - 判例は債務不履行責任における損害賠償の範囲の規定(416条)を不法行為に類推適用し、原則として「通常生ずべき損害」の賠償で足り、「当事者がその損害を予見し、または予見することができたとき」は「特別の事情によって生じた損害」まで賠償する必要があると考えている(富貴丸事件:大連判大正15年5月22日)。ただし、学説上は、有力な反対意見があり長年議論されている(判例;大隈健一郎裁判官反対意見参照)。 損害賠償の範囲内とされるもの - 訴訟に要する弁護士費用 - 訴訟遂行は一般人には困難であり、不法行為のように被害者に非がない案件について弁護士費用は損害の範囲に入る(判例)。 損害賠償額の算定 - 物の滅失に関する損害賠償額は、物の交換価格による。交換価格の算定基準時が問題になるが、原則として物の滅失時とする。ただし被害者があらかじめその物の転売を予定していて、滅失後に高騰することを「予見し、又は予見することができたとき」(416条2項)のであれば、騰貴時とすることも考えられる(富貴丸事件判決)。 - 生命侵害の場合には、積極損害(葬式費用など)よりも、消極損害(逸失利益)のほうがはるかに大きくなる。逸失利益は、被害者が生きていたならば得られた収入から、生活費を控除し、ここから中間利息を控除して(現在価値に割り引いて)算出する。中間利息の控除方式には、ホフマン式とライプニッツ式とがある。基準となる収入は、被害者の収入が明らかであればその額を用いるが、児童など、収入が明らかでないときは、賃金センサスに基づいた平均賃金を用いる。 - なお、過失相殺など損害賠償額の調整については722条2項を参照。 損害賠償の請求主体 - 財産的損害であれ、精神的損害であれ、第一義的な請求主体は被害者自身である。被害者が死亡した場合は、慰謝料請求権は当然に相続されると解されている。 - 生命侵害の場合、被害者の父母・配偶者・子は固有の慰謝料請求権を有する(711条)。 - 胎児も請求主体になる。胎児は、損害賠償請求権については「既に生まれたもの」とみなされる(721条)。これにより、たとえば父が不法行為により死亡した場合、死の時点で母胎にいた胎児は、出生後、損害賠償請求権を獲得する。権利能力の始期を定めた3条の例外を定めたものである。 不法行為による損害賠償債権の性質 - 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務、または、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務であれば、相殺の受働債権にならない(509条)。 名誉回復処分 - 民法第723条参照 原状回復・差止 不法行為の一般的効果として、金銭による損害賠償以外のものが解釈上認められるかが問題となる。金銭による損害賠償以外のものとしては、原状回復又は差止が想定しうる。 - 原状回復; 過去に発生した損害を除去し、損害の存在しなかった状態に戻すこと。 - 差止: 将来において損害を発生させるであろう行為を停止させること。 原状回復請求権 - 判例、通説ともに否定。 - 「金銭賠償の原則」が定立されており、原状回復の費用を見積もりそれに還元すれば足りるため。 差止請求権 - 判例は不分明であるが、どちらかと言えば否定的(事実上、不法行為の存在を前提として差し止めを認めた判例) - 学説上も賛否が分かれている。 参照条文 - 民法第710条(財産以外の損害の賠償) - 民法第711条(近親者に対する損害の賠償) - 国家賠償法第1条 - 外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律 - 主権免除 判例 - 所有権移転登記抹消等請求(最高裁判決 昭和30年5月31日)民法第177条 - 不動産の二重売買における第二の買主が悪意の場合と第一の買主に対する不法行為責任の有無 - 乙が甲から不動産を買い受けて登録を経ないうち、丙が甲から右不動産を買い受けて登記をなし、これをさらに丁に売り渡して登記を経たため、乙がその所有権取得を丁に対抗することができなくなつた場合において、丙がその買受当時甲乙間の売買の事実を知つていたというだけでは、丙は乙に対し不法行為責任を負うものではない。 - - 不動産の二重売買そのものは不法行為とは言えない。 - 一般に不動産の二重売買における第二の買主は、たとい悪意であつても、登記をなすときは完全に所有権を取得し、第一の買主はその所有権取得をもつて第二の買主に対抗することができないものと解すべきであるから、本件建物の第二の買主で登記を経た上告人(丙)は、たとい悪意ではあつても、完全に右建物の所有権を取得し、第一の買主たる被上告人(乙)はその所有権取得をもつて上告人および同人から更に所有権の移転を受けその登記を経た丁に対抗することができないことは、当然の筋合というべきである。 - 損害賠償請求 (最高裁判決 昭和32年01月31日)民法第189条,民訴法199条1項(現・民事訴訟法第114条),民訴法709条(→民事執行法) - 不法行為による物の滅失毀損と損害賠償額算定の基準時期 - 不法行為による物の滅失毀損に対する損害賠償の金額は、特段の事由のないかぎり、滅失毀損当時の交換価格により定むべきである。 - 売掛代金請求(最高裁判決 昭和32年3月5日)商法第42条(現24条),商法第38条(現第21条),民法第715条 - 所有権侵害の故意と特定人に対する所有権侵害の認識の要否。 - 不法行為者に所有権侵害の故意があるというためには、特定人の所有権を侵害する事実につき認識のあることを要するものではなく、単に他人の所有権を侵害する事実の認識があれば足りる。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和34年11月26日)民法第722条2項,民訴法185条(現247条) - 刑事判決における過失の有無の判断と民事判決 - 自動車運転者が業務上過失致死被告事件の判決で過失を否定された場合でも、不法行為に関する民事判決ではその過失を否定しなければならぬものではない。 - 建物収去、土地明渡請求(最高裁判決 昭和35年9月20日)借地法10条(現借地借家法14条),民法第703条 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年2月16日) 輸血取締規則(昭和20年厚生省令3号)2条,輸血取締規則(昭和20年厚生省令3号)3条,輸血に関し医師又は歯科医師の準拠すべき基準(昭和27年厚生省告示138号)2(1),輸血に関し医師又は歯科医師の準拠すべき基準(昭和27年厚生省告示138号)4,輸血に関し医師又は歯科医師の準拠すべき基準(昭和27年厚生省告示138号)5,輸血に関し医師又は歯科医師の準拠すべき基準(昭和27年厚生省告示138号)7,輸血に関し医師又は歯科医師の準拠すべき基準(昭和27年厚生省告示138号)11 - 給血者に対する梅毒感染の危険の有無の問診の懈怠と輸血による梅毒感染についての医師の過失責任。 - 給血者がいわゆる職業的給血者で、血清反応陰性の検査証明書を持参し、健康診断および血液検査を経たことを証する血液斡旋所の会員証を所持していた場合でも、同人が、医師から問われないためその後梅毒感染の危険のあつたことを言わなかつたに過ぎないような場合、医師が、単に「身体は丈夫か」と尋ねただけで、梅毒感染の危険の有無を推知するに足る問診をせずに同人から採血して患者に輸血し、その患者に給血者の罹患していた梅毒を感染させるに至つたときは、同医師は右患者の梅毒感染につき過失の責を免れない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年8月8日) - 第三者の詐欺による売買における売主の代金請求権の存在と右第三者に対する不法行為にもとづく損害賠償請求権の存否。 - 第三者の詐欺による売買により目的物件の所有権を喪失した売主は、買主に対し代金請求権を有していても、右第三者に対する不法行為にもとつぐ損害賠償請求権がないとはいえない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年9月26日)民法第416条2項 - 特別事情の予見可能ありとして、不法行為と損害との間に、相当因果関係の存在が認められた事例。 - 自動車運転手甲がガソリンを使用して自動三輪車のクラツチを洗滌するに際し、その作業を助けるため甲の傍近くから電灯を照射している乙がいる等判示の事情の存する場合においては、甲が、自己の過失によりガソリンの入つている罐に引火炎上させ狼狽してこれを投げすてたときは、右炎上したガソリン罐が乙にあたりその衣服を炎上させ乙に火傷を負わせて死にいたらしめるであろうことを予見しうるものであるから、甲の前記クラツチ洗滌行為と乙の死亡との間には相当因果関係が存すると解すべきである。 - 村道供用妨害排除請求(最高裁判決 昭和39年1月16日)民法第198条,民法第710条 - 村民の村道使用関係の性質 - 村民各自は、村道に対し、他の村民の有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行いうべき使用の自由権を有する。 - 村民の村道使用権に対する侵害の継続と妨害排除請求権の成否 - 村民の右村道使用の自由権に対して継続的な妨害がなされた場合には、当該村民は、右妨害の排除を請求することができる。 - 村民の村道使用関係の性質 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和39年7月28日)民訴法395条1項6号(現312条2項6号) - 医師の消毒の不完全を理由とする損害賠償の請求を認容する判決において右消毒の不完全部分を確定しないで過失を認定しても違法でないとされた事例。 - 注射の際の医師による消毒の不完全を理由とする損害賠償の請求を認容する判決において、右消毒の不完全が注射器具、施術者の手指もしくは患者の注射部位のいずれに存するかを確定しないで過失を認定しても、違法とはいえない。 - 原審において、感染経路を他の可能性を検討の上、「注射器具」「施術者の手指」「患者の注射部位」のいずれかまで絞り込んだが、いずれかは特定しなかった。いずれであっても医師の過失は認めうるので特定までは必要ないとの判断。 - 名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求(最高裁判決 昭和41年6月23日) - 公共の利害に関する事実の摘示と名誉毀損の成否 - 名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年3月15日)民法第695条、民法第696条 - 示談当時予想しなかつた後遺症等が発生した場合と示談の効力 - 交通事故による全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に、小額の賠償金をもつて示談がされた場合において、右示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求は、示談当時予想していた損害についてのみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた後遺症等については、被害者は、後日その損害の賠償を請求することができる。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年6月27日)国家賠償法第1条1項,不動産登記法施行細則第47条,民法第416条 - 偽造の登記済証に基づく登記申請を受理するについて登記官吏に過失があるとされた事例 - 登記申請書に添付されていた登記済証が偽造であつて、その作成日として記載されている日当時官制上存在しなかつた登記所名が記載され、同庁印が押捺されているにもかかわらず、登記官吏がこれを看過してその申請にかかる所有権移転登記手続をした場合には、右登記官吏に、登記申請書類を調査すべき義務を怠つた過失があるというべきである。 - 登記官吏の過失によつて無効な所有権移転登記が経由された場合に右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者が被つた損害との間に相当因果関係があるとされた事例 - 登記官吏の右過失によつて、無効な所有権移転登記が経由された場合には、右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者がその所有権を取得できなかつたために被つた損害との間には、相当因果関係があるというべきである。 - 偽造の登記済証に基づく登記申請を受理するについて登記官吏に過失があるとされた事例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年9月24日) - 交差点において追抜態勢にある自動車運転手の並進車に対する注意義務の範囲 - 交差点において追抜態勢にある自動車運転手は、特別の事情のないかぎり、並進車が交通法規に違反して進路を変えて、突然自車の進路に近寄つてくることまでも予想して、それによつて生ずる事故の発生を未然に防止するため徐行その他避譲措置をとるべき業務上の注意義務はないと解するのが相当である。 - 慰藉料並に損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年11月15日) - 交通事故により会社代表者を負傷させた者に対する会社の損害賠償請求が認められた事例 - 甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる。 - 損害賠償謝罪広告請求(最高裁判決 昭和43年12月24日)民訴法756条,民訴法745条2項 - 仮処分命令が不当であるとして取り消された場合において仮処分申請人に過失があるとはいえないとされた事例 - 会社を被申請人とする仮処分命令が、同会社に対しては被保全権利が存在しないとして取り消された場合においても、右会社の取締役が会社の営業と競合する事業を個人として営んでいたため、仮処分申請人が被申請人を右取締役個人とすべきであるにもかかわらず、これを右会社と誤認した等判示の事実関係のもとにおいては、右仮処分命令を取り消す判決が確定しても、この一事をもつて、ただちに右申請人に過失があつたものとすることはできない。 - 抵当権設定登記抹消登記手続等請求(最高裁判決 昭和44年2月27日) - 不法行為による損害と弁護士費用 - 不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和45年5月22日)民法第715条,手形法第43条 - 偽造手形の取得者の損害賠償請求権と手形法上の遡求権との関係 - 対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額につき、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、手形の所持人としてその前者に対し手形法上の遡求権を有することによつては、損害賠償の請求を妨げられることはない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年7月24日)民法第147条1号,民法第149条,所得税法第9条1項21号,民訴法235条(現147条) - 一部請求の趣旨が明示されていない場合の訴提起による時効中断の範囲 - 一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは、訴提起による消滅時効中断の効力は、右債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年4月5日)民事訴訟法第186条(現第246条),民事訴訟法224条1項(現第133条2項),民法第722条2項 - 身体傷害による財産上および精神上の損害の賠償請求における請求権および訴訟物の個数 - 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由として財産上の損害と精神上の損害との賠償を請求する場合における請求権および訴訟物は、一個である。(→過失相殺への適用) - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年6月7日)民法第416条,民事訴訟法第746条,民事訴訟法第755条,民事訴訟法第756条 - 不法行為による損害賠償と民法416条 - 不法行為による損害賠償についても、民法第416条の規定が類推適用され、特別の事情によつて生じた損害については、加害者において右事情を予見しまたは予見することを得べかりしときにかぎり、これを賠償する責を負うものと解すべきである。 - 大隅健一郎反対意見(適宜抽出引用及び改行) - 債務不履行の場合には、当事者は合理的な計算に基づいて締結された契約によりはじめから債権債務の関係において結合されているのであるから、債務者がその債務の履行を怠つた場合に債権者に生ずる損害について予見可能性を問題とすることには、それなりに意味があるのみならず、もし債権者が債務不履行の場合に通常生ずべき損害の賠償を受けるだけでは満足できないならば、特別の事情を予見する債権者は、債務不履行の発生に先立つてあらかじめこれを債務者に通知して、将来にそなえる途もあるわけである。これに反して、多くの場合全く無関係な者の間で突発する不法行為にあつては、故意による場合はとにかく、過失による場合には、予見可能性ということはほとんど問題となりえない。(略)その結果、民法416条を不法行為による損害賠償の場合に類推適用するときは、立証上の困難のため、被害者が特別の事情によつて生じた損害の賠償を求めることは至難とならざるをえない。 - そこで、この不都合を回避しようとすれば、公平の見地からみて加害者において賠償するのが相当と認められる損害については、特別の事情によつて生じた損害を通常生ずべき損害と擬制し、あるいは予見しまたは予見しうべきでなかつたものを予見可能であつたと擬制することとならざるをえないのである。そうであるとするならば、むしろ、不法行為の場合においては、各場合の具体的事情に応じて実損害を探求し、損害賠償制度の基本理念である公平の観念に照らして加害者に賠償させるのが相当と認められる損害については、通常生ずべきものであると特別の事情によつて生じたものであると、また予見可能なものであると否とを問わず、すべて賠償責任を認めるのが妥当であるといわなければならない。不法行為の場合には、無関係な者に損害が加えられるものであることからいつて、債務不履行の場合よりも広く被害者に損害の回復を認める理由があるともいえるのである。 - 不法行為による損害賠償責任が認められるためには、行為と損害との間に、その行為がなかつたならば当該損害は生じなかつたであろうという関係が存しなければならないが、かような事実的な因果の連鎖は際限のないものであるから、法律上の問題としては、右のような事実的因果関係の存在を前提としながら、そのうちどの範囲の損害を行為者に賠償させるのが妥当かという考慮が必要とされる。これがいわゆる法律上の因果関係の問題であるが、従来法律上の因果関係の問題として論じられていたものの中には、過失の問題、賠償額の算定(いかなる価格によるべきか、その価格の算定は何時を基準とすべきか)の問題など、本来因果関係の範疇の外にある問題が混入していることを注意しなければならない。また、行為との間に事実的因果関係のある損害につきどこまで行為者に賠償させるのが妥当かということは、いうまでもなく価値判断の問題であつて、事実として確定されるものではない。それは、各個の事件ごとに、その事実関係の中から、不法行為制度の基本理念である公平の観念に照らして導かれるべきものであつて、不法行為における損害賠償責任の正しい限界づけは、個々の判例の中から類型的に帰納されえても、一般的な公式によつて定められるべきものではない。 - 以上述べたところは財産的損害の賠償についてであつて、慰籍料については、裁判所が、諸般の事情を斟酌して、自由裁量により決することをうるものと考える。 - 大隅健一郎反対意見(適宜抽出引用及び改行) - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和49年3月22日) - 責任能力のある未成年者の不法行為と監督義務者の不法行為責任 - 未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。(民法第714条#解説参照) - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和49年6月27日) - 将来の支出が予想される手術費用の損害賠償が認められた事例 - 交通事故により顔面に負傷した被害者の傷痕及び大腿部の採皮痕がケロイド状醜痕としてのこり、これを除去するための美容的形成手術費等の将来の支出が治療上必要であり、かつ、確実と認められるときには、右支出による損害の賠償を現在の請求として求めることができる。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和49年06月28日)民法第509条 - 同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間における相殺の許否 - 双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和50年10月03日) 民法第416条 - 交通事故により負傷した被害者の自殺と事故との相当因果関係が否定された事例 - - (最高裁・原審が支持する原々審判決) - 事故と自殺の条件関係自体は推認できるが,仮に被害者の性格変化が自殺に影響を及ぼしていてもそのような性格変化が受傷から通常生じるとは認められず,加害者側において自殺を予見し又は予見しうる状況にあったと認めることは困難 - (最高裁・原審が支持する原々審判決) - 損害賠償請求([東大ルンバールショック事件])(最高裁判決 昭和50年10月24日)国家賠償法第1条1項,民訴法185条(現247条),民訴法394条(現312条1, 3項) - 医師が治療としてした施術とその後の発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定したのが経験則に反するとされた事例 - 訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確認を持ちうるものであることを必要とし,かつそれで足りる。 - 重篤な化膿性髄膜炎に罹患した三才の幼児が入院治療を受け、その病状が一貫して軽快していた段階において、医師が治療としてルンバール(腰椎穿刺による髄液採取とペニシリンの髄腔内注入)を実施したのち、嘔吐、けいれんの発作等を起こし、これにつづき右半身けいれん性不全麻癖、知能障害及び運動障害等の病変を生じた場合、右発作等が施術後15分ないし20分を経て突然に生じたものであつて、右施術に際しては、もともと血管が脆弱で出血性傾向があり、かつ、泣き叫ぶ右幼児の身体を押えつけ、何度か穿刺をやりなおして右施術終了まで約30分を要し、また、脳の異常部位が左部にあつたと判断され、当時化膿性髄膜炎の再燃するような事情も認められなかつたなど判示の事実関係のもとでは、他に特段の事情がないかぎり、右ルンバ一ルと右発作等及びこれにつづく病変との因果関係を否定するのは、経験則に反する。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和51年9月30日)予防接種法第2条2項,予防接種実施規則(昭和33年9月17日厚生省令第27号。ただし昭和45年7月11日厚生省令第44号による改正前のもの)4条 - インフルエンザ予防接の実施と医師の問診 - インフルエンザ予防接種を実施する医師が予診としての問診をするにあたつては、予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するために、接種直前における対象者の健康状態についてその異常の有無を概括的、抽象的に質問するだけでは足りず、同条掲記の症状、疾病及び体質的素因の有無並びにそれらを外部的に徴表する諸事由の有無につき、具体的に、かつ被質問者に的確な応答を可能ならしめるような適切な質問をする義務がある。 - 予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて実施されたインフルエンザ予防接種により接種対象者が死亡又は罹病した場合と結果の予見可能性の推定 - インフルエンザ予防接種を実施する医師が、接種対象者につき予防接種実施規則4条の禁忌者を識別するための適切な問診を尽くさなかつたためその識別を誤つて接種をした場合に、その異常な副反応により対象者が死亡又は罹病したときは、右医師はその結果を予見しえたのに過誤により予見しなかつたものと推定すべきである。 - インフルエンザ予防接の実施と医師の問診 - 損害賠償等(最高裁判決 昭和52年10月25日) - 高校教師の違法な懲戒権の行使と生徒の自殺との間の相当因果関係が否定された事例 - 高校生が、授業中の態度や過去の非行事実につき担任教師から三時間余にわたり応接室に留めおかれて反省を命ぜられたうえ、頭部を数回殴打されるなど違法な懲戒を受け、それを恨んで翌日自殺した場合であつても、右懲戒行為がされるに至つた経緯等とこれに対する生徒の態度等からみて、教師としての相当の注意義務を尽くしたとしても、生徒が右懲戒行為によつて自殺を決意することを予見することが困難な状況であつた判示の事情のもとにおいては、教師の懲戒行為と生徒の自殺との間に相当因果関係はない。 - 慰藉料(最高裁判決 昭和54年3月30日) - 妻及び未成年の子のある男性と肉体関係を持ち同棲するに至つた女性の行為と右未成年の子に対する不法行為の成否 - 妻及び未成年の子のある男性が他の女性と肉体関係を持ち、妻子のもとを去つて右女性と同棲するに至つた結果、右未成年の子が日常生活において父親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなつたとしても、右女性の行為は、特段の事情のない限り、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。 - 父親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の女性と同棲するかどうかにかかわりなく、父親自らの意思によつて行うことができるのであるから、他の女性との同棲の結果、未成年の子が事実上父親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被つたとしても、そのことと右女性の行為との間には相当因果関係がない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和56年7月16日)民法第715条,水道法第15条1項 - 違法建築物についての給水装置新設工事申込の受理の事実上の拒絶につき市が不法行為法上の損害賠償責任を負わないとされた事例 - 市の水道局給水課長が給水装置新設工事申込に対し当該建物が建築基準法に違反することを指摘して、その受理を事実上拒絶し申込書をその申込者に返戻した場合であつても、それが、右申込の受理を最終的に拒否する旨の意思表示をしたものではなく、同法違反の状態を是正して建築確認を受けたうえ申込をするよう一応の勧告をしたものにすぎず、他方、右申込者はその後一年半余を経過したのち改めて右工事の申込をして受理されるまでの間右申込に関してなんらの措置を講じないままこれを放置していたなど、判示の事実関係の下においては、市は、右申込者に対し右工事申込の受理の拒否を理由とする不法行為法上の損害賠償の責任を負うものではない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和57年7月1日) - 競業禁止契約の当事者でない第三者に対するパチンコ営業禁止の仮処分命令が債権侵害を理由に第三者の営業を禁止することは許されないとして取り消された場合において仮処分債権者に過失の推定を覆えすに足りる特段の事情がないとはいえないとされた事例 - 甲に対してパチンコ遊技場の経営権を譲渡しこれとの間で自己名義では同一町内でパチンコ営業をしない旨の競業禁止契約を締結した乙が、右契約に前後してかねて親交のあつた丙を勧誘してパチンコ営業をすることを決意させ、同一町内で土地建物を買い受け旧建物を解体して店舗用建物を建築し風俗営業の許可申請を警察に提出するなどの開業準備をさせたが、丙は右町内に住んだことやパチンコ営業をした経験がないため右開業準備もほとんど乙が丙から任されてしたもので、乙は、丙の氏名を表面に出さないで建物の建築請負契約を締結し、みずからパチンコ機械の注文をし、風俗営業の許可申請にも管理者として名を連ね、将来は責任者としてパチンコ営業をする予定になつており、また、丙は、甲と乙との間で建物建築に関して紛争が生じ、警察において事情聴取や話合いの機会がもたれた際も表だつた行動には出なかつたなどの判示の事情があるときには、甲が乙及び丙の両名を相手方として申請し発令を受けた右建物におけるパチンコ営業禁止の仮処分命令が、いわゆる債権侵害を理由にしては第三者たる丙のパチンコ営業を禁止することは許されないとして丙に関する部分が取り消されて確定したとしても、丙名義のパチンコ営業が実際には甲の乙に対する競業禁止契約に基づく権利の侵害行為にはあたらないもので甲において右事実を容易に知ることのできる事情があつたとか、又は、右の侵害行為がある場合に甲が第三者たる丙に対して営業禁止を請求する権利があると考えたことが実体法の解釈として不合理なものであるといえない限り、甲が丙を相手方としてパチンコ営業を禁止する仮処分を申請したことには過失の推定を覆えすに足りる特段の事情がないとはいえない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和58年9月6日) 民法第412条,自動車損害賠償保障法第3条 - 不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務が履行遅滞となる時期 - 不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は、当該不法行為の時に履行遅滞となるものと解すべきである。 - 当該不法行為時から法定利率による利息計算が始まる。 - 反論文掲載(最高裁判決 昭和62年4月24日)日本国憲法第21条,民法第1条,民法第709条,民法第723条,刑法第230条ノ2 - 新聞紙上における政党間の批判・論評の意見広告につき名誉毀損の不法行為の成立が否定された事例 - 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和63年9月6日) - 訴えの提起が違法な行為となる場合 - 訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。 - 損害賠償(最高裁判決 平成5年3月25日) - 危険物であることを知ってこれを運送する海上物品運送業者に対し右危険物の製造業者及び販売業者が危険性の内容等を告知する義務の有無 - 海上物品運送業者が危険物であることを知って運送品を運送する場合において、通常尽くすべき調査により、その危険性の内容、程度及び運搬、保管方法等の取扱上の注意事項を知り得るときは、右危険物の製造業者及び販売業者は、海上物品運送業者に対し、右の危険性の内容等を告知する義務を負わない。 - 損害賠償、同附帯(最高裁判決 平成5年6月11日)民法第623条,労働基準法第13条 - 管理者に準ずる地位にある職員が組合員バッジの取外し命令に従わないため点呼執行業務から外して営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令が違法とはいえないとされた事例 - 自動車営業所の管理者に準ずる地位にある職員が、取外し命令を無視して組合員バッジの着用をやめないため、同人を通常業務である点呼執行業務から外し、営業所構内の火山灰の除去作業に従事することを命じた業務命令は、右作業が職場環境整備等のために必要な作業であり、従来も職員が必要に応じてこれを行うことがあったなど判示の事情の下においては、違法なものとはいえない。 - 損害賠償反訴、同附帯(最高裁判決 平成5年09月09日)民法第416条 - 交通事故と被害者の自殺との間に相当因果関係があるとされた事例 - 交通事故により受傷した被害者が自殺した場合において、その傷害が身体に重大な器質的障害を伴う後遺症を残すようなものでなかったとしても、右事故の態様が加害者の一方的過失によるものであって被害者に大きな精神的衝撃を与え、その衝撃が長い年月にわたって残るようなものであったこと、その後の補償交渉が円滑に進行しなかったことなどが原因となって、被害者が、災害神経症状態に陥り、その状態から抜け出せないままうつ病になり、その改善をみないまま自殺に至ったなど判示の事実関係の下では、右事故と被害者の自殺との間に相当因果関係がある。 - 慰藉料(最高裁判決 平成6年2月8日) - ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合における損害賠償請求の可否 - ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。 - 損害賠償(最高裁判決 平成7年6月9日)民法第415条 - 診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準 - 新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、右治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情がない限り、右知見は当該医療機関にとっての医療水準であるというべきである。 - 昭和49年12月に出生した未熟児が未熟児網膜症にり患した場合につきその診療に当たった医療機関に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断に違法があるとされた事例 - 昭和49年12月に出生した未熟児が未熟児網膜症にり患した場合につき、その診療に当たった甲病院においては、昭和48年10月ころから、光凝固法の存在を知っていた小児科医が中心になって、未熟児網膜症の発見と治療を意識して小児科と眼科とが連携する体制をとり、小児科医が患児の全身状態から眼科検診に耐え得ると判断した時期に眼科医に依頼して眼底検査を行い、その結果未熟児網膜症の発生が疑われる場合には、光凝固法を実施することのできる乙病院に転医をさせることにしていたなど判示の事実関係の下において、甲病院の医療機関としての性格、右未熟児が診療を受けた当時の甲病院の所在する県及びその周辺の各種医療機関における光凝固法に関する知見の普及の程度等の諸般の事情について十分に検討することなく、光凝固法の治療基準について一応の統一的な指針が得られたのが厚生省研究班の報告が医学雑誌に掲載された昭和50年8月以降であるということのみから、甲病院に当時の医療水準を前提とした注意義務違反があるとはいえないとした原審の判断には、診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準についての解釈適用を誤った違法がある。 - 診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準 - 損害賠償(最高裁判決 平成8年1月23日)民法第415条 - 医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項と医師の注意義務 - 医師が医薬品を使用するに当たって医薬品の添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される。 - 預託金返還請求、民訴法第一九八条二項の申立(最高裁判決 平成9年4月24日)民法第708条,民法第715条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条 - 証券会社の従業員が顧客に利回り保証の約束をして株式等の取引を勧誘し一連の取引をさせた場合に右取引による顧客の損失について証券会社が不法行為責任を免れないとされた事例 - 証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が損失を被ったもので、顧客が右約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して右約束をさせたわけではないなど判示の事実関係の下においては、顧客の不法性に比し、証券会社の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、証券会社は、顧客に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成11年10月22日)国民年金法第30条,厚生年金保険法第47条,国民年金法第35条1号,厚生年金保険法第53条1号,民法第896条,国民年金法第33条の2,厚生年金保険法第50条の2,国民年金法第37条,厚生年金保険法第58条 - 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金を逸失利益として請求することの可否 - 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。 - 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金についての各加給分を逸失利益として請求することの可否 - 障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。 - 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金を逸失利益として請求することの可否 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成11年12月20日)民法第416条 - 交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合に死亡後の期間に係る介護費用を右交通事故による損害として請求することの可否 - 交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合には、死亡後の期間に係る介護費用を右交通事故による損害として請求することはできない。 - 交通事故で傷害を負い、その後遺障害のため他人の介護を要する状態にあったが、本件訴訟の係属中に胃がんにより死亡したという案件。 - 損害賠償等請求事件(最高裁判決 平成13年2月13日)著作権法第20条,著作権法第第7章権利侵害,民法第719条 - メモリーカードの使用がゲームソフトの著作者の有する同一性保持権を侵害するとされた事例 - パラメータにより主人公の人物像が表現され,その変化に応じてストーリーが展開されるゲームソフトについて,パラメータを本来ならばあり得ない高数値に置き換えるメモリーカードの使用によって,主人公の人物像が改変され,その結果,上記ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開されるなど判示の事実関係の下においては,当該メモリーカードの使用は,上記ゲームソフトを改変し,その著作者の有する同一性保持権を侵害する。 - 専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者の不法行為責任 - 専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用により,ゲームソフトの同一性保持権の侵害をじゃっ起したものとして,ゲームソフトの著作者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。(→共同不法行為) - メモリーカードの使用がゲームソフトの著作者の有する同一性保持権を侵害するとされた事例 - 著作権侵害差止等請求事件(最高裁判決 平成13年3月2日)著作権法第22条,著作権法第22条の2,著作権法第7章権利侵害,民法第719条 - 専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるカラオケ装置につきリース業者がリース契約を締結して引き渡す場合の注意義務 - カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負う。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成14年1月29日)民法第710条,刑法第230条の2第1項 - 通信社が新聞社に記事を配信するに当たりその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとはいえないとされた事例 - 通信社が,殺人未遂罪で逮捕された甲が7,8年前に自宅で大麻を所持しており,その事実を捜査機関が突き止めた旨の事実を記事にして配信し,新聞社がこれを掲載した場合に,甲が自宅に大麻を所持していた事実の裏付けになる資料は甲と離婚した乙の供述のみであること,捜査の対象となっていない大麻所持についての報道であること,甲以外の関係者からそのころの甲と大麻とのかかわりについて取材することが不可能であった状況がうかがえないこと,捜査官が甲の大麻所持についていかなる事実を把握し,どのような心証を持ち,どのように判断しているのかについての取材内容が明らかでないことなど判示の事情の下においては,乙の供述が一貫し,甲が大麻と深いつながりがあることを自ら認めており,記事作成の時点で甲が既に逮捕され,甲に対する取材が不可能であった等の事情が存するときであっても,通信社に上記配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものとはいえない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成15年11月14日)民法第415条 - 食道がんの手術の際に患者の気管内に挿入された管が手術後に抜かれた後に患者が進行性のこう頭浮しゅにより上気道狭さくから閉そくを起こして呼吸停止及び心停止に至った場合において担当医師に再挿管等の気道確保のための適切な処置を採るべき注意義務を怠った過失があるとされた事例 - 食道がんの手術の際に患者の気管内に挿入された管が手術後に抜かれた後に,患者が,進行性のこう頭浮しゅにより上気道狭さくから閉そくを起こし,呼吸停止及び心停止に至った場合において,上記抜管の約5分後に患者の吸気困難な状態が高度になったことを示す胸くうドレーンの逆流が生じたことなどから,その時点で,担当医師は,患者のこう頭浮しゅの状態が相当程度進行し,既に呼吸が相当困難な状態にあることを認識することが可能であり,これが更に進行すれば,上気道狭さくから閉そくに至り,呼吸停止,ひいては心停止に至ることも十分予測することができたなど判示の事情の下においては,担当医師には,上記時点で,再挿管等の気道確保のための適切な処置を採るべき注意義務を怠った過失がある。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成15年11月14日)建築士法第3条,建築士法第3条の2,建築士法第3条の3,建築士法(平成9年法律第95号による改正前のもの)18条,建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のもの)5条の2 - 建築士が建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をした場合における建築物の購入者に対する不法行為の成否 - 建築士は,その業務を行うに当たり,建築物を購入しようとする者に対する関係において,建築士が建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法5条の2の各規定等による規制の潜脱を容易にする行為等,その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない法的義務があり,故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には,その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,不法行為に基づく賠償責任を負う。 - 建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をした一級建築士が建築主に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執らずに放置した行為が当該建築主から瑕疵のある建物を購入した者に対する不法行為となるとされた事例 - 一級建築士又は二級建築士による設計及び工事監理が必要とされる建物の建築につき一級建築士が建築確認申請手続を代行した場合において,建築主との間で工事監理契約が締結されておらず,将来締結されるか否かも未定であるにもかかわらず,当該一級建築士が,建築主の求めに応じて建築確認申請書に自己が工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をし,工事監理を行わないことが明確になった段階でも,建築主に工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執らずに放置したこと,そのため,実質上,工事監理者がいない状態で建築された当該建物が重大な瑕疵のある建築物となったことなど判示の事情の下においては,当該一級建築士の上記行為は,建築士法3条の3及び建築基準法5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をしたものとして当該建物を購入した者に対する不法行為となる。 - 建築士が建築士法3条から3条の3まで及び建築基準法5条の2の各規定等による規制の実効性を失わせる行為をした場合における建築物の購入者に対する不法行為の成否 - 製作販売差止等請求事件(最高裁判決 平成16年2月13日)民法第198条,民法第199条,民法第206条,知的財産基本法第2条2項 - 競走馬の所有者が当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作,販売した業者に対しいわゆる物のパブリシティ権の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作,販売等の差止請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることの可否 - 競走馬の所有者は,当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作,販売した業者に対し,その名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作,販売等の差止請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできない。 - 現行法上,物の名称の使用など,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。上記各法律の趣旨,目的にかんがみると,競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても,物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき,法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく,また,競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為の成否については,違法とされる行為の範囲,態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において,これを肯定することはできないものというべきである。したがって,本件において,差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成19年7月6日) - 建物の設計者,施工者又は工事監理者が,建築された建物の瑕疵により生命,身体又は財産を侵害された者に対し不法行為責任を負う場合 - 建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者を含む建物利用者,隣人,通行人等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,これを怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負う。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成23年7月21日) - 「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の意義 - 「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年4月24日) - チーム医療として手術が行われる場合にチーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明に関して負う義務 - チーム医療として手術が行われる場合,チーム医療の総責任者は,条理上,患者やその家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有する。 - チーム医療として手術が行われるに際し,患者やその家族に対してする手術についての説明を主治医にゆだねたチーム医療の総責任者が,当該主治医の説明が不十分なものであっても説明義務違反の不法行為責任を負わない場合 - チーム医療として手術が行われ,チーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明を主治医にゆだねた場合において,当該主治医が説明をするのに十分な知識,経験を有し,同総責任者が必要に応じて当該主治医を指導,監督していたときには,当該主治医の上記説明が不十分なものであったとしても,同総責任者は説明義務違反の不法行為責任を負わない。 - チーム医療として手術が行われる場合にチーム医療の総責任者が患者やその家族に対してする手術についての説明に関して負う義務 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年6月10日)民訴法248条 - 採石権侵害の不法行為を理由とする損害賠償請求事件において,損害の発生を前提としながら,民訴法248条の適用について考慮することなく,損害額を算定することができないとして請求を棄却した原審の判断に違法があるとされた事例 - 採石権侵害の不法行為を理由とするXのYに対する損害賠償請求事件において,Xが採石権を有する土地でYが採石したとの事実が認定されており,これによればXに損害が発生したことは明らかである以上,上記採石行為の後,Yが当該土地につき採石権を取得して適法に採石したため,Yの違法な行為による採石量と適法な行為による採石量とを明確に区別することができず,損害額の立証が極めて困難であったとしても,民訴法248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて相当な損害額が認定されなければならず,損害額を算定することができないとしてXの請求を棄却した原審の判断には,違法がある。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成21年3月27日) - 全身麻酔と局所麻酔の併用による手術中に生じた麻酔による心停止が原因で患者が死亡した場合において,麻酔医に各麻酔薬の投与量を調整すべき注意義務を怠った過失があり,同過失と死亡との間に相当因果関係があるとされた事例 - 全身麻酔と局所麻酔の併用による手術を受けた65歳の患者が術中に麻酔の影響により血圧が急激に低下し,引き続き生じた心停止が原因となって死亡した場合において,次の(1),(2)などの事実関係の下では,各麻酔薬の投与量をどの程度減らすかについて麻酔医の裁量にゆだねられる部分があり,いかなる程度減量すれば死亡の結果を回避することができたといえるかが確定できないとしても,その投与量を適切に調整しても患者の死亡という結果を避けられなかったというような事情がうかがわれない以上,麻酔医には患者の年齢や全身状態に即して各麻酔薬の投与量を調整すべき注意義務を怠った過失があり,この過失と患者の死亡との間に相当因果関係がある。 - 全身麻酔薬プロポフォールについては,局所麻酔薬と併用投与する場合及び高齢者に投与する場合には血圧低下等の副作用が現れやすいので投与速度を減ずるなど慎重に投与すべきことが,局所麻酔薬塩酸メピバカインについては,重大な副作用として心停止等があり,高齢者には投与量の減量等を考慮して慎重に投与すべきことが,各能書に記載されていた。 - 麻酔医は,全身麻酔により就眠を得た患者に対し,能書に記載された成人に対する通常の用量の最高限度量の塩酸メピバカインを投与し,その効果が高まるに伴って低下した患者の血圧が少量の昇圧剤では回復しない状態となっていたにもかかわらず,プロポフォールを成人において通常適切な麻酔深度が得られるとされる速度のまま持続投与した。 - 損害賠償請求事件 (最高裁判決 平成23年4月26日)民法第416条 - 精神神経科の医師の患者に対する言動と上記患者が上記言動に接した後にPTSD(外傷後ストレス障害)と診断された症状との間に相当因果関係があるということはできないとされた事例 - 精神神経科の医師が,過去に知人から首を絞められるなどの被害を受けたことのある患者に対し,人格に問題があり,病名は「人格障害」であると発言するなどした後,上記患者が,精神科の他の医師に対し,頭痛,集中力低下等の症状を訴え,上記の言動を再外傷体験としてPTSD(外傷後ストレス障害)を発症した旨の診断を受けたとしても,次の1.,2.など判示の事情の下においては,上記の言動と上記症状との間に相当因果関係があるということはできない。 - 上記の言動は,それ自体がPTSDの発症原因となり得る外傷的な出来事に当たるものではないし,上記患者がPTSD発症のそもそもの原因となった外傷体験であるとする上記被害と類似し,又はこれを想起させるものでもない。 - PTSDの発症原因となり得る外傷体験のある者は,これとは類似せず,また,これを想起させるものともいえない他の重大でないストレス要因によってもPTSDを発症することがある旨の医学的知見が認められているわけではない。
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民法第710条 条文 (財産以外の損害の賠償) - 第710条 - 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。 解説 「財産以外の損害」についても不法行為責任により賠償されるべき損害に含まれることを規定している。 財産以外の損害とは、慰謝料など、精神的損害のことをさすのが通常であるが、広く無形的な損害も含まれると解されているため、法人や幼児など精神的苦痛を感じないであろう法主体にも、本条により賠償の対象となる損害が発生すると理解されている。 慰謝料請求権の相続の可否 生命侵害の場合に、被害者に固有の慰謝料請求権が発生し、これが相続されるという構成(相続構成)を取るべきかどうかは争いがある。判例は相続肯定説をとっている。その根拠としては、不法行為と被害者の死亡との間には(たとえ即死であっても一瞬の)時間があり、その間に被害者が慰謝料請求をすることを観念できること、また、被害者が障害を負った場合には慰謝料請求権が発生し、死亡した場合には発生しないとすると、障害より死亡のほうが賠償額が小さくなりかねないこと、等が挙げられる。なお、かつての判例では被害者が死亡の前に慰謝料請求の意思を表示している必要があるとされたが(残念事件 大審院判決昭和2年5月30日新聞2702号5頁)、現在の判例は、被害者の意思表示の有無に関わらず慰謝料請求権が発生するとしている(判例6)。 これに対し、生命侵害において被害者に固有の慰謝料請求権は相続されないとする見解(相続否定説)も有力である。その根拠としては、生命侵害の場合は711条が近親者に固有の慰謝料請求権を規定しているから、わざわざ被害者の慰謝料請求権まで相続させる必要はないこと、また相続肯定説をとると、被害者と生活関係上疎遠な相続人にも慰謝料が転がり込むこと(このことを称して「笑う相続人」という)、等が挙げられる。なお、この説によっても、被害者の逸失利益の相続を否定するものではない。 法人の名誉権 - 判例4参照 関連条文 判例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年2月1日)民法第709条 - 内縁関係を破綻させた第三者の不法行為の成否。 - 内縁の当事者でない者であつても、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させたものは、不法行為者として損害賠償の責任を負う。 - 謝罪広告請求(最高裁判決 昭和38年4月16日)民法第709条 - 他誌を誹謗する学界誌の記事につき名誉毀損の成立を否定した事例。 - 甲学界誌において掲載の承諾を得ている外国人学者の講演内容を、乙学界誌が、本人の承諾を得ずに原判示のような不明朗な手段で、通訳から講演訳文原稿を入手した上、甲誌に先がけて掲載発表する等原判決認定のような経緯があるときは、甲誌編集者らが乙誌を非難するのに「盗載」「犯罪的不徳行為」等の言辞を用いたとしても、乙誌の名誉信用を害するものとはいえない。 - 自己の正当な利益を擁護するためやむをえず他人の名誉、信用を毀損するがごとき言動をなすも、かかる行為はその他人が行つた言動に対比して、その方法、内容において適当と認められる限度をこえないかぎり違法性を缺くとすべきものであるから、本件被上告人らがE博士の承諾を得て、その講演内容をG会の機関誌であるG会雑誌に掲載する権利を有していた以上、右講演内容が先に他誌に掲載されたことにつき、真実を公表弁明して、その権利名誉を擁護するにあたり、被上告人らが採つた処置の方法・内容は、原判決の確定した客観的事情の下では、いまだ上告人らの名誉・信用を害したものとなすをえない。 - 村道供用妨害排除請求(最高裁判決 昭和39年1月16日)地方自治法(昭和38年6月8日法律99号による改正前のもの)10条、民法第198条、民法第709条 - 村民の村道使用関係の性質 - 村民各自は、村道に対し、他の村民の有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行いうべき使用の自由権を有する。 - 村民の村道使用権に対する侵害の継続と妨害排除請求権の成否 - 村民の右村道使用の自由権に対して継続的な妨害がなされた場合には、当該村民は、右妨害の排除を請求することができる。 - 村民の村道使用関係の性質 - 謝罪広告並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和39年1月28日)民法第723条 - 民法第710条は法人の名誉権侵害による無形の損害に適用があるか。 - 法人の名誉権が侵害され、無形の損害が生じた場合でも、右損害の金銭評価が可能であるかぎり、民法第710条の適用がある。 - 民法710条は、財産以外の損害に対しても、其賠償を為すことを要すと規定するだけで、その損害の内容を限定してはいない。すなわち、その文面は判示のようにいわゆる慰藉料を支払うことによつて、和らげられる精神上の苦痛だけを意味するものとは受けとり得ず、むしろすべての無形の損害を意味するものと読みとるべきである。従つて右法条を根拠として判示のように無形の損害即精神上の苦痛と解し、延いて法人には精神がないから、無形の損害はあり得ず、有形の損害すなわち財産上の損害に対する賠償以外に法人の名誉侵害の場合において民法723条による特別な方法が認められている外、何等の救済手段も認められていないものと論詰するのは全くの謬見だと云わなければならない。 - 名誉および信用毀損による損害賠償および慰藉料請求(最高裁判決 昭和41年6月23日) - 公共の利害に関する事実の摘示と名誉毀損の成否 - 名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。(→違法性阻却事由) - 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和42年5月30日) - 夫の負傷によつて妻の被つた精神的苦痛を理由とする妻の慰籍料請求が認められなかつた事例 - 夫が交通事故によつて負傷し後遺症があつても、それが原審認定の程度にとどまり、そのために不具者となつて妻の一生の負担となるほどのものではなく、その他原判決判示のような諸般の事情にあるときは、妻が夫の右負傷によつて被つた自己の精神的苦痛を理由として慰籍料を請求することはできない。 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年11月1日)民法第711条 - 不法行為による慰藉料請求権は相続の対象となるか - 不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 - 損害賠償請求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法第711条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権とは別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではない。 - 委嘱状不法発送謝罪請求(最高裁判決 昭和45年12月18日) - 民法723条にいう名誉の意義 - 民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年4月5日)民事訴訟法第186条(現第246条),民事訴訟法224条1項(現第133条2項),民法第722条2項 - 身体傷害による財産上および精神上の損害の賠償請求における請求権および訴訟物の個数 - 同一事故により生じた同一の身体傷害を理由として財産上の損害と精神上の損害との賠償を請求する場合における請求権および訴訟物は、一個である。(→過失相殺への適用) - 損害賠償(最高裁判決 昭和58年10月6日)民法第423条,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)570条1項,民訴法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)618条1項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)6条3項,破産法(昭和54年法律第5号による改正前のもの)283条1項後段[(現破産法第215条第1項後段] - 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権と行使上の一身専属性の喪失事由 - 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権は、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意若しくはかかる支払を命ずる債務名義が成立したなどその具体的な金額が当事者間において客観的に確定したとき又は被害者が死亡したときは、行使上の一身専属性を失う。 - 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失つた場合と破産法283条1項後段(破産手続終結の決定後の追加配当)の適用の有無 - 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失つた場合には、破産法283条1項後段の適用はない。 - 破産終結の決定がされた後に行使上の一身専属性を失なうに至つた慰藉料請求権については、破産財団に帰属しない。 - 名誉侵害を理由とする破産者の慰藉料請求権が破産終結決定後に行使上の一身専属性を失つた場合には、破産法283条1項後段の適用はない。 - 名誉侵害を理由とする慰藉料請求権と行使上の一身専属性の喪失事由 - 反論文掲載(最高裁判決 昭和62年4月24日)日本国憲法第21条,民法第1条,民法第709条,民法第723条,刑法第230条ノ2 - 新聞紙上における政党間の批判・論評の意見広告につき名誉毀損の不法行為の成立が否定された事例 - 新聞社が新聞紙上に掲載した甲政党の意見広告が、乙政党の社会的評価の低下を狙つたものであるが乙政党を批判・論評する内容のものであり、かつ、その記事中乙政党の綱領等の要約等が一部必ずしも妥当又は正確とはいえないとしても、右要約のための綱領等の引用文言自体は原文のままであり、要点を外したものといえないなど原判示の事実関係のもとでは、右広告の掲載は、その広告が公共の利害に関する事実にかかり専ら公益を図る目的に出たものであり、かつ、主要な点において真実の証明があつたものとして、名誉毀損の不法行為となるものではない。(→違法性阻却事由) - 損害賠償等(最高裁判決 平成元年12月21日)民法第709条,刑法第230条ノ2第1項,刑法第230条ノ2第3項 - 公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉侵害としての違法性を欠くとされた事例 - 公立小学校教師の氏名・住所・電話番号等を記載し、かつ、有害無能な教職員等の表現を用いた大量のビラを繁華街等で配布した場合において、右ビラの内容が、一般市民の間でも大きな関心事になつていた通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とする意見表明であつて、専ら公益を図る目的に出たものに当たらないとはいえず、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、論評としての域を逸脱したものでないなど判示の事実関係の下においては、右配布行為は、名誉侵害としての違法性を欠く。 - 慰藉料(最高裁判決 平成6年2月8日) - ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合における損害賠償請求の可否 - ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。(→違法性阻却事由) - 損害賠償(最高裁判決 平成7年9月5日)日本国憲法第19条 - 会社が職制等を通じて特定政党の党員又はその同調者である従業員を監視し孤立させるなどした行為が人格的利益を侵害する不法行為に当たるとされた事例 - 会社が、特定の従業員につき、同人らにおいて現実に企業秩序を破壊し混乱させるおそれがあるとは認められないにもかかわらず、特定政党の党員又はその同調者であることのみを理由として、職制等を通じて、職場の内外で継続的に監視する態勢を採った上、極左分子であるなどとその思想を非難して同人らとの接触、交際をしないよう他の従業員に働き掛け、同人らを職場で孤立させ、その過程の中で、退社後尾行したり、ロッカーを無断で開けて私物の手帳を写真に撮影したりしたなど判示の事実関係の下においては、右一連の行為は、職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害するとともに、その名誉を毀損し、プライバシーを侵害するものであって、人格的利益を侵害する不法行為に当たる。 - 損害賠償(最高裁判決 平成9年5月27日)民法第709条 - 新聞記事による名誉殿損によって損害の発生する時期 - 新聞記事による名誉段損にあっては、これを掲載した新聞が発行され、読者がこれを閲読し得る状態になった時点で、右記事により事実を摘示された人が当該記事の掲載を知ったかどうかにかかわらず、損害が発生する。 - 名誉殿損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことと名誉殿損による損害賠償請求権の消長 - 名誉殿損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことは、これにより損害が消滅したものとして既に生じている名誉殿損による損害賠償請求権を消滅させるものではない。 - 名誉殿損による損害について慰謝料の額を算定するに当たり損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことをしんしゃくすることの可否 - 名誉殿損による損害についての慰謝料の額は、損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことをしんしゃくして算定することができる。 - 新聞記事による名誉殿損によって損害の発生する時期 - 損害賠償(最高裁判決 平成9年9月9日)国家賠償法第1条1項,憲法第51条,衆議院規則45条1項 - 国会議員が国会の質疑等の中でした発言と国家賠償責任 - 国会議員が国会の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法1条1項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。 - 最高裁判所第三小法廷 平成10(オ)1081 損害賠償請求上告,同附帯上告事件 平成12年2月29日 判決 棄却 民集54巻2号582頁 民法710条 - 宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有している患者に対して医師がほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで手術を施行して輸血をした場合において右医師の不法行為責任が認められた事例 - 医師が、患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓のしゅようを摘出する手術を受けることができるものと期待して入院したことを知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど判示の事実関係の下においては、右医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成14年1月29日)民法第709条,刑法第230条の2第1項 - 通信社が新聞社に記事を配信するに当たりその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとはいえないとされた事例 - 通信社が,殺人未遂罪で逮捕された甲が7,8年前に自宅で大麻を所持しており,その事実を捜査機関が突き止めた旨の事実を記事にして配信し,新聞社がこれを掲載した場合に,甲が自宅に大麻を所持していた事実の裏付けになる資料は甲と離婚した乙の供述のみであること,捜査の対象となっていない大麻所持についての報道であること,甲以外の関係者からそのころの甲と大麻とのかかわりについて取材することが不可能であった状況がうかがえないこと,捜査官が甲の大麻所持についていかなる事実を把握し,どのような心証を持ち,どのように判断しているのかについての取材内容が明らかでないことなど判示の事情の下においては,乙の供述が一貫し,甲が大麻と深いつながりがあることを自ら認めており,記事作成の時点で甲が既に逮捕され,甲に対する取材が不可能であった等の事情が存するときであっても,通信社に上記配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものとはいえない。(→違法性阻却事由)
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条文 (近親者に対する損害の賠償) - 第711条 - 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。 解説 不法行為責任の特別規定である。生命を侵害する不法行為が発生した場合において、近親者について発生する損害賠償(遺族の慰謝料請求権)権について規定している。条文上、近親者の範囲は「被害者の父母、配偶者および子」とされている。 本条の要件は判例法理によって拡張されつつある。 - 生命侵害以外への拡張 - 被害者が負った重い後遺障害によって、被害者の母親が生命侵害にも等しい精神的苦痛を受けたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(判例1)。 - 近親者の範囲の拡張 - 被害者の夫の妹が、被害者の全面的庇護の下に生計を維持していたケースで、本条の慰謝料請求権を認めた判例がある(判例4)。 また、第710条所定の慰謝料請求権(被害者本人について発生)が、生命侵害の場合に、死亡した被害者の相続人に相続されるかが問題になる。かりに相続されるとすれば、1.被害者が死亡前に損害賠償請求の意思を表示していたことを要するか否か、2.被害者に縁故の薄い相続人が突然多額の賠償金を相続することは公平か、が問題となる。 関連条文 関連判例 - 慰藉料、損害賠償請求(最高裁判決 昭和33年8月5日民集12-12-190) - 不法行為により身体を害された被害者の母の慰藉料請求が認容された事例。 - 不法行為により身体を害された者の母は、そのために被害者が生命を害されたときにも比肩すべき精神上の苦痛を受けた場合、自己の権利として慰藉料を請求しうるものと解するのが相当である。 - 損害賠償請求、同附帯控訴(最高裁判決 昭和42年6月13日) - 不法行為によつて身体を害された者の配偶者および子が自己の権利として慰藉料の請求ができないとされた事例 - 被害者が、不法行為によつて、全治まで1年以上を要する左大腿部骨折等の重傷をこうむり、手術等の治療をうけたが、現在においても、左下肢が約30度外旋位をとつて約3.5センチメートル短縮し、大腿囲、下腿囲とも狭少となり、股、膝関節の運動領域に障害を残し、正座は不能で、歩行も約1キロメートル以上は苦痛のため不可能な状態である等原審認定の事実関係(原判決およびその引用する第一審判決参照)のもとにおいては、まだ、被害者の配偶者および子は、自己の権利として慰藉料を請求することができるものとはいえない。 - 判例1の程度に達していないとされる例 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年11月1日)民法第710条 - 不法行為による慰藉料請求権は相続の対象となるか - 不法行為による慰藉料請求権は、被害者が生前に請求の意思を表明しなくても、相続の対象となる。 - 損害賠償請求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法711条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権とは別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではない。 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和49年12月17日民集28-10-2040) - 民法711条の類推適用により被害者の夫の妹に慰藉料請求権が認められた事例 - 不法行為により死亡した被害者の夫の妹であつても、この者が、跛行顕著な身体障害者であるため、長年にわたり被害者と同居してその庇護のもとに生活を維持し、将来もその継続を期待しており、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた等判示の事実関係があるときには、民法711条の類推適用により加害者に対し慰藉料を請求しうる。 - 不法行為による生命侵害があつた場合と民法711条所定以外の者の固有の慰藉料請求権 - 不法行為による生命侵害があつた場合、民法711条所定以外の者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうる。 - 民法711条の類推適用により被害者の夫の妹に慰藉料請求権が認められた事例 参考文献 - 加藤雅信『新民法体系5(第2版)事務管理・不当利得・不法行為』260頁、275頁
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条文 (責任無能力者の監督義務者等の責任) - 第714条 - 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 - 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。 解説 - 第712条に定める、責任無能力者(以下、「無能力者」と略)の不法行為につき、監督義務者(及びその代行者)の責任を定めた規定。 - 前二条(第712条、第713条)において、無能力者の不法行為について責任がないものとするが、無能力者を監督すべきものが、監督の不備により、無能力者の不法行為を引き起こしたと判断される場合には、同等の責任を負う旨を定めている。 - 法文上は、監督者責任は無能力者が責任を追わない場合にのみ生じる補充的責任である。しかしながら、これを徹底すると、 - 責任能力ある未成年者が不法行為を行った場合、監督義務の履行内容に関わらず、監督義務者への賠償請求はできないこととなる。ほとんどの場合、無資力である未成年者に対してのみ請求が認められるとすると被害者の保護に欠ける。 - 被害者が監督義務者に損害賠償を請求するには、無能力者であることを承継しなければならないが、その立証は困難である。 - 立証できない場合、改めて行為者である無能力者に対し賠償請求しなければならないが、相手方決定の危険を何ら責任のない被害者側に負わせることとなる。 - など不当な帰結が生じる。 - そこで、無能力者による加害行為が発生すれば、原則として監督義務違反が存在し、被害者は責任無能力の立証を要せず、監督義務懈怠の責任を問い得るとの学説が登場し、下級審での採用を経て、最高裁判所もこれを認め、判例となった(判例1)。 - なお、本判例において、 - 「監督義務者の義務違反(監督義務の懈怠)」とは、無能力者を監視するなどして個別の不法行為の発生を防止ないし回避する義務を指すものではなく、親権者が日常、未成年者である子を教育し監督する義務を指す。 - 「相当因果関係」とは、監督義務の懈怠と不法行為の事実的因果関係ではなく、監督義務の程度とその及ぶ範囲(法的評価)である。 - と理論づけられ、判例により「監督義務違反責任」とも言うべき新たな準則が構成されたものと考えられている(以上、平井)。 - したがって、監督義務者には、①法が元々予定する監督の対象者を監督し個別具体的に不法行為を回避する義務と②判例により定立された、日常、未成年者を教育し躾をする義務があることになる。①は不法行為事件の事情等により認否が判断されうるが、②は監督対象である未成年者の行為として広く認めうる。 - ただし書き以下は監督義務者に免責事由の証明責任を転換した中間責任、すなわち、過失責任と無過失責任の中間の責任とされている。監督者が過失のなかったことを証明できない場合は無過失責任を負わされるのと同様の結果となる。 参照条文 - 民法第709条(不法行為による損害賠償) 判例 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和49年3月22日)民法709条 - 責任能力のある未成年者の不法行為と監督義務者の不法行為責任 - 未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立する。 - 未成年者が強盗殺人を犯した事案 - 損害賠償(最高裁判決 昭和58年2月24日)民法713条,精神衛生法20条1項,精神衛生法20条2項,精神衛生法22条,精神衛生法23条,精神衛生法24条 - 他人に傷害を負わせた精神障害者の両親について民法714条の責任が否定された事例 - 既に成年に達しながら両親と同居している精神障害者が心神喪失の状況のもとで他人に傷害を負わせたが、当該傷害事件の発生するまでその行動にさし迫つた危険があつたわけではなく、右両親は老齢でその一方は一級の身体障害者であり、いずれも精神衛生法上の保護義務者にされることを避けて同法20条2項4号の家庭裁判所の選任を免れていたこともなかつた(両親には、あえて保護義務者選任を避ける意思はなかった。)等判示の事実関係のもとでは、右両親に対し民法714条の法定の監督義務者又はこれに準ずべき者としての責任を問うことはできない。 - 精神衛生法では、第20条で保護義務者を定め、第22条において「保護義務者は、精神障害者に治療を受けさせるとともに、精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督し、且つ、精神障害者の財産上の利益を保護しなければならない。」とされていた。なお、現行法である精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では、保護義務者の制度を定めていない。 - 損害賠償(最高裁判決 平成7年1月24日)失火の責任に関する法律 - 責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合における監督義務者の損害賠償責任と失火の責任に関する法律 - 責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、失火の責任に関する法律にいう重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、右監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、右火災により生じた損害を賠償する責任を免れると解すべきである。 - 10歳の児童が火遊びにより火災を起こした事案。 参考文献 - 平井宜雄『債権各論Ⅱ 不法行為』(1992年 弘文堂)
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条文 (使用者等の責任) - 第715条 - ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 - 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。 - 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。 解説 - 不法行為責任の特殊類型のうち、使用者責任と呼ばれる類型につき規定している。 - この責任の根拠としては、報償責任と危険責任という二つの見解が挙げられている。 - また、それぞれの要件・効果についての解釈論も多岐にわたっている。 要件 使用関係 「事業のために他人を使用する者」という要件。 - 事業 - 広く仕事という意味で、継続的か一時的であるかを問わず、営利か非営利かも問わない。強い意味はなく次の「使用関係・指揮命令関係」を成立させる枠としての設定である。 - 兄に命ぜられ、弟が兄所有の自動車で送った事案が事業と認められている(最判昭和56年11月27日) - 使用関係 - 被告と行為者の間に指揮命令関係があることを要する。「事業」がそうであるように継続的か一時的であるか、有償か無償かを問わず、指揮命令が強制力を有したものか否か、命令者が使用者を選任したものか否かも問わない。 - 雇用関係(企業と従業員)がある場合には問題なくこれが認められる。委任関係の場合は独立性が強いので原則として認められない。請負関係については第716条によって本条の適用が廃除されている。ただし、請負関係であっても、元請け・下請けのように実質的な指揮命令関係が認められる場合には、716条の適用を廃除し、本条を適用した判例もある(最判昭和37年12月14日、最判昭和45年2月12日)。 「事業の執行について」 - この要件につき、加害行為は、実際に被用者の職務の範囲内で生じなければならないのかという問題がある。特に取引行為的な不法行為(手形振出しの権限のない経理課長が偽造手形を振出して被害を与えた場合など)について問題になる。判例は外形標準説をとり、実際に被用者の職務の範囲内でなくとも、外形上職務の範囲内であると判断される行為であれば、この要件を満たすとしている。被害者側の信頼を保護する趣旨である。 - 一方、事実行為的な不法行為(交通事故など)については、そもそも外形に対する信頼といったものを観念できないから、別の法理が必要となる。この点につき、たとえば、事業の執行を契機とした暴行傷害について使用者責任を認めた例(最判昭和44年11月18日)、勤務時間外の帰宅途中、社用車で事故を起こした場合に使用者責任を認めた例(最判昭和37年11月8日)などがある。なお、通勤や出張などに自家用車を利用することは、一般的に事業の執行とはされない(最判昭和52年9月22日)が、通勤に利用している自家用車を、職場間の移動などに用いることを会社が認めている場合などにおいては事業執行性を認める例(最判昭和52年12月22日)もあり、又近時の下級審判決では自家用車による通勤時の事故に使用者責任を認めるものも少なくない。 被用者の不法行為 「被用者が…第三者に加えた損害」という要件である。被用者の行為が、一般不法行為(第709条)の要件を満たすことが必要であると解されている。 免責事由 1項但書は2つの免責事由を定めている。これら免責事由については被告(使用者)側に立証責任がある。いわゆる立証責任の転換を図ったものであり、中間責任を定めたものである。 - 「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき」 - 但書前段の免責事由である。使用者が監督過失がないことを立証できれば責任を免れるが、特に大規模な組織などではこの免責事由は認められにくいといわれる。 - 「相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」 - 但書後段の免責事由である。これは、監督過失と損害関係との間に因果関係がない場合を意味していると解されている。 効果 免責事由 使用者は被害者に対して全額賠償の責任を負う。不法行為をなした被用者とは不真正連帯責任となる。 求償 使用者責任が認められた場合も、被用者自身が免責されるわけではない。すなわち、使用者は被用者は被害者に対して賠償額について請求すること(求償)ができる。しかしながら、被用者に対して、賠償した全額を請求できるわけではなく、信義則上相当な限度で行使できる(最判昭和51年7月8日)。 関連条文 判例 - 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和30年12月22日) - 通商産業省の自動車運転手が大臣秘書官を私用のため乗車させて自動車を運転し他人を負傷させた場合と民法第715条 - 通商産業省の職員として専ら自動車の運転に従事する者が、従来通商産業大臣秘書官として常に当該通商産業省の自動者に乗車し、辞表提出後ではあつたがその辞令の交付なく未だその官を失つていなかつた者を乗車させて自動車を運転中、これを接触させて他人を負傷させたときは、たとえ右秘書官の私用をみたすため運転したものであつても、右事故は通商産業省の「事業ノ執行ニ付キ」生ぜしめたものと解するのが相当である。 - 売掛代金請求(最高裁判決 昭和32年3月5日) 商法第42条(現24条),商法第38条(現21条),民法第709条 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和32年4月30日)民法第509条 - 被害者に業務執行上の過失のある場合と民法第715条 - 被用者たる運転手甲が自動車を運転して当該自動車を輸送する業務に従事中、その過失により自動車を衝突させ同乗していた乙を死亡させたものであるときは、乙が自動車輸送業務の共同担当者たる被用者で右衝突事故の発生につき同人にも過失があつたとしても、使用者は乙の死亡につき民法第715条による損害賠償責任を免れない。 - 民法第715条による損害賠償義務者と相殺の許否 - 民法第715条により損害賠償義務を負担している使用者は、被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合でも、相殺をもつて対抗することはできない。 - 被害者に業務執行上の過失のある場合と民法第715条 - 慰籍料並に名誉回復請求(最高裁判決 昭和31年7月20日)民法第44条(削除済み;一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条に継承。「法人」の不法行為責任として一般化される) - 法人に対する民法第44条に基く請求と同法第715条に基く請求との訴訟物の異同 - 法人に対する民法第44条に基く損害賠償の請求と同法第715条に基く損害賠償の請求とは、訴訟物を異にする。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和34年4月23日) - 運転資格のないタクシー会社従業員の自動車運転行為が会社の「事業ノ執行」にあたるとされた事例。 - タクシー会社に自動車運転助手兼整備係として雇われ、会社からの注意にもかかわらず運転資格も持たないで、平素洗車給油等の目的で車庫から給油所まで短距離の間営業用自動車の運転をしていた者が、運転技術修得のため他の場所で同会社の営業用自動車を運転中、追突事故により他人に損害を与えたときは、右損害は同会社の「事業の執行ニ付キ」生ぜしめたものと解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年1月24日) - 労働基準法第79条の補償と民法第422条。 - 民法第715条の使用者責任の認められる事例。 - 専ら貨物運送を業とする会社の被用者である貨物自動車運転者が、貨物運送にあたりたまたま他人に同乗を許したため、運転者の過失により惹き起された事故において右の者が死亡するに至つた場合であつても、右同乗が運転者との個人的関係に基づくものでなく、荷受会社の集荷課長として積荷の受渡を便にするためのものであつたときは、右運送会社は民法第715条の責任を負うと解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年1月24日) - 下請負人の被用者の不法行為につき元請負人が民法第715条の責任を負うための要件 - 元請負人が下請負人に対し工事上の指図をしもしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合であつても、下請負人の被用者の不法行為が元請負人の事業の執行につきなされたものとするためには、直接間接に被用者に対し元請負人の指揮監督関係の及んでいる場合に加害行為がなされたものであることを要する。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和37年11月8日) - 会社の被用者が私用のために会社の自動車を運転した場合と民法第715条の「事業ノ執行」。 - 測量器械等の販売を業とする会社の商品の外交販売に従事し、仕事上の必要に応じ随時会社の自動車を運転使用できる被用者が会社の自動車を運転して私用に供した場合であつても、これを会社の「事業ノ執行」につきなされたものと認めるのを相当とする。 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和38年6月28日) - 民法第715条第2項の代監督者の責任を認めた事例。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和39年2月4日) - 会社の被用者が私用のため会社の自動車を運転中他人に加えた損害が民法第715条の会社の「事業ノ執行ニ付キ」生じたものとされた事例。 - 自動車の販売等を業とする会社の販売課に勤務する被用者が、退社後映画見物をして帰宅のための最終列車に乗り遅れたため、私用に使うことが禁止されていた会社内規に違反して会社の自動車を運転し、帰宅する途中追突事故を起す等判示事実関係のもとにおいて他人に加えた損害は、右会社の「事業ノ執行ニ付キ」生じたものと解するのが相当である。 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和40年11月30日) - 被用者の手形偽造行為が民法第715条にいう「事業ノ執行ニ付キ」なした行為にあたるとされた事例。 - 会社の会計係中の手形係として判示のような手形作成準備事務を担当していた係員が、手形係を免じられた後に会社名義の約束手形を偽造した場合であつても、右係員が、なお会計係に所属して割引手形を銀行に使送する等の職務を担当し、かつ、会社の施設機構および事業運営の実情から、右係員が権限なしに手形を作成することが客観的に容易である状態に置かれている等判示のような事情があるときは、右手形偽造行為は、民法第715条にいう「事業ノ執行ニ付キ」なした行為と解するのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決昭和41年6月10日)旧商法第23条(名板貸 現会社法第9条) - 自動車運送事業の営業名義を貸与した者が名義借受人の雇傭する運転手の過失による自動車事故について損害賠償責任があるとされた事例 - 免許を受けて自動車の運送事業を営む者が他人をして違法にその営業名義を使用して自動車運送事業を営ませた場合、名義貸与者とその借受人の事業の執行方法につき原判決確定の事実関係があるときは、名義借受人の雇傭する運転手がその事業の執行に関し第三者に加えた自動車事故による損害について、名義貸与者は賠償責任を負担する。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 昭和41年7月21日) - 民法第715条第1項の被用者にあたると認められた事例 - 土木工事請負人が道路工事に使用するため運転手助手づきの貨物自動車を借り受けた場合において、その助手が、請負人の現場監督の指揮に従い、貨物自動車の運転助手として砂利、土、石等の運搬に関与し、時には自ら貨物自動車を運転もし、これらの仕事については助手の雇主の指図をうけたことがなく、かつ請負人の飯場に起居していた等判示の事情があるときには、民法第715条の適用上、助手は土木工事請負人の被用者にあたると解するのが相当である。 - 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和42年5月30日) - 民法715条2項にいう「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは - 民法715条2項にいう「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に見て、使用者に代り現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり、使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、右代表者は同条項にいう代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について、代理監督者として責任を負わなければならないが、代表者が、単に法人の代表機関として一般的業務執行権限を有することから、ただちに、同条項を適用してその個人責任を問うことはできない - 法人の代表者は、現実に被用者の選任・監督を担当していたときにかぎり、当該被用者の行為について民法第715条第2項による責任を負う。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和42年6月30日)民法第442条、民法第719条 - 「失火ノ責任ニ関スル法律」と民法第715条 - 被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、被用者の選任または監督について重大な過失がなくても、民法第715条第1項によつて賠償責任を負う。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和42年11月2日) - 被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでない行為についての被害者の悪意・重過失と民法第715条 - 被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り、または少なくとも重大な過失によつてこれを知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法第715条により使用者に対してその取引行為に基づく損害の賠償を請求することができない。 - 相手方の故意のみでなく重大な過失によつても使用者が損害賠償の責を免れるのは、公平の見地に照らし、被用者の行為の外形に対する相手方の信頼が、重大な過失に基づくときは、法律上保護に値いしないものと認められるためにほかならないから、ここにいう重大な過失とは、取引の相手方において、わずかな注意を払いさえすれば、被用者の行為がその職務権限内において適法に行なわれたものでない事情を知ることができたのに、そのことに出でず、漫然これを職務権限内の行為と信じ、もつて、一般人に要求される注意義務に著しく違反することであつて、故意に準ずる程度の注意の欠缺があり、公平の見地上、相手方にまつたく保護を与えないことが相当と認められる状態をいう(下記最高裁昭和44年11月21日判決・判決文における言及) - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和44年11月18日) - 被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害にあたるとされた事例 - 使用者の施工にかかる水道管敷設工事の現場において、被用者が、右工事に従事中、作業用鋸の受渡しのことから、他の作業員と言い争つたあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合、これによつて右作業員の被つた損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたるというべきである。 - 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和44年11月21日) - 被用者の取引行為を職務権限内の行為と信じた相手方に重大な過失がないとされた事例 - 甲が、金融業者乙の被用者であるが代理権を有しない丙との間に、乙の不動産を買い受ける契約を締結し、代金を丙に支払うに際し、売買契約書等の表示、乙に対する登記抹消の訴に関する予告登記の存在、交渉中における代金減額の経過など、原判示のような丙の権限を疑うべき事情があるのにかかわらず、丙を乙の支配人と紹介した仲介人の言葉のみを信用し、丙の代理資格および売買の意思の有無につき乙に問い合わせるなどの調査をすることなく、丙にその権限があるものと信じて、右契約を締結し多額の代金を丙に支払つた場合であつても、甲がこのように信じたことにいまだ重大な過失があるとはいえず、甲は、乙に対し、民法715条に基づき損害賠償を請求することを妨げられない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和44年11月27日)民法第724条 - 使用者責任と民法724条の加害者を知ることの意義 - 使用者責任において民法724条の加害者を知るとは、被害者が、使用者ならびに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうと解するのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年2月12日) - 下請負人の被用者の加害行為につき元請負人の使用者責任が認められた事例 - 工事の元請負人甲がその従業員乙を工事の責任者として工事現場に詰めさせ、下請負丙の工事施行を指揮監督させ、かつ、丙の被用者で工事の現場責任者である丁に対しても甲の直接の被用者と同様の指揮監督をしていた場合には、甲は丁がその工事の施行中機械の操作をあやまつた過失によりともに作業をしていた戊に損害を与えた行為につき使用者としての責任を負担する。 - 約束手形金請求(最高裁判決 昭和45年5月22日) 民法第709条,手形法第43条 - 偽造手形の取得者の損害賠償請求権と手形法上の遡求権との関係 - 対価を支払つて偽造手形を取得した手形所持人は、その出捐と手形偽造行為との間に相当因果関係が認められるかぎり、その出捐額につき、ただちに損害賠償請求権を行使することができ、手形の所持人としてその前者に対し手形法上の遡求権を有することによつては、損害賠償の請求を妨げられることはない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和46年6月22日) - 被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害にあたるとされた事例 - すし屋の店員二名が、使用者所有の自動車を運転し、またはこれに同乗して、出前に行く途中、右自動車の方向指示器を点燈したまま直進したため、これと衝突しそうになつた他の自動車の運転者と口論になり、そのあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合、これによつて同人の被つた損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたるというべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年2月16日)商法第690条,船舶法第35条 - 商法690条と民法715条との関係 - 商法690条は、民法715条に対する特則として、船長その他の船員がその職務を行なうにあたり故意または過失により他人に加えた損害については、船舶所有者において、当該船員の選任・監督に関する過失の有無にかかわらず、その賠償の責に任ずべき旨を定めたものと解すべきである。 - 商法690条は民法715条の特別法の関係にあって、本条第1項但書の免責事由の適用を除外する。 - 商法第690条 - (本判決当時)船舶所有者ハ船長其他ノ船員ガ其職務ヲ行フニ当タリ故意又ハ過失ニ因リテ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ズ - (現在)船舶所有者は、船長その他の船員がその職務を行うについて故意又は過失によって他人に加えた損害を賠償する責任を負う。 - 商法第690条 - 商法690条は民法715条の特別法の関係にあって、本条第1項但書の免責事由の適用を除外する。 - 商法690条は、民法715条に対する特則として、船長その他の船員がその職務を行なうにあたり故意または過失により他人に加えた損害については、船舶所有者において、当該船員の選任・監督に関する過失の有無にかかわらず、その賠償の責に任ずべき旨を定めたものと解すべきである。 - 船員が職務を行なうにあたり他人に加えた損害にあたるとされた事例 - 漁船の船長兼漁撈長が、海上で右漁船によつて操業中、紛失した漁網の補充の用にあてて操業を継続するため、付近で操業中の他の漁船の漁網を窃取した場合、これによつて右漁網の所有者の被つた損害は、船員が職務を行なうにあたり他人に加えた損害にあたる。 - 商法690条と民法715条との関係 - 預金返還等請求(最高裁判決 昭和50年1月30日) 民法第666条 - 信用組合の内規に反し職員外の者が職員を通じてした職員定期預金の払戻に関する右職員の行為と民法715条の事業の執行 - 信用組合が職員に対して職員外の者に職員定期預金を利用させることを禁止しているのを知りながら職員外の者が右組合の営業部預金課員の勧誘により同人を通じて右定期預金をした場合でも、職員定期預金でなければ預金をしないことが明らかであつた等特段の事情のないかぎり、右預金契約は一般定期預金として有効に成立し、右預金の払戻に関する右職員の行為は、その限度において組合の事業の執行にあたると解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和51年07月08日) 民法第1条2項,民法第709条 - 使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例 - 石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和52年9月22日) - 会社の従業員が自家用車を用いて出張中に惹起した交通事故につき会社の使用者責任が否定された事例 - 甲会社の従業員乙が社命により県外の工事現場に出張するについて乙の自家用車を用いて往復し、その帰途交通事故を惹起した場合において、甲会社では、右事故の七か月前に開催された労働安全衛生委員会の定例大会の席上、従業員に対し、自家用車を利用して通勤し又は工事現場に往復することを原則として禁止し、県外出張の場合にはできる限り汽車かバスを利用し、自動車を利用するときは直属課長の許可を得るよう指示しており、乙は、このことを熟知していて、これまで会社の業務に関して自家用車を使用したことがなく、本件出張についても特急列車を利用すれば午後九時半ころまでには目的地に到達することができ、翌朝出張業務につくのに差支えがないにもかかわらず、自家用車を用いることとし、自家用車の利用等所定の事項につき会社に届け出ることもせずに出発した等、原判示の事情のもとにおいては、乙が右出張のため自家用車を運転した行為は、甲会社の業務の執行にあたらない。 - (参考) 損害賠償(最高裁判決 昭和52年12月22日) - 会社の従業員がその所有自動車を運転し会社の工事現場から自宅に帰る途中で起こした事故につき会社に自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任が認められた事例 - 会社の従業員が通勤のため利用しているその所有自動車を運転し、会社の工事現場から自宅に帰る途中で事故を起こした場合において、従業員がその所有自動車を会社の承認又は指示のもとに会社又は自宅と工事現場との間の往復等会社業務のためにもしばしば利用し、その利用に対して会社から手当が支給されており、事故当日右従業員が右自動車で工事現場に出かけたのも会社の指示に基づくものであるなど、判示の事情があるときは、会社は、右事故につき、自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任を負う。 - (参考) 損害賠償(最高裁判決 昭和52年12月22日) - 損害賠償本訴、同反訴(最高裁判決 昭和56年11月27日) - 兄が弟に兄所有の自動車を運転させこれに同乗して自宅に帰る途中で発生した交通事故につき兄弟間に民法715条1項にいう使用者・被用者の関係が成立していたとされた事例 - 兄が、その出先から自宅に連絡して弟に兄所有の自動車で迎えに来させたうえ、弟に右自動車の運転を継続させ、これに同乗して自宅に帰る途中で交通事故が発生した場合において、兄が右同乗中助手席で運転上の指示をしていた等判示の事情があるときは、兄と弟との間には右事故当時兄を自動車により自宅に送り届けるという仕事につき、民法715条1項にいう使用者・被用者の関係が成立していたと解するのが相当である。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和57年4月1日)国家賠償法第1条1項 - 公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめたが具体的な加害行為を特定することができない場合と国又は公共団体の損害賠償責任 - 国又は公共団体に属する一人又は数人の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、右の一連の行為のうちのいずれかに故意又は過失による違法行為があつたのでなければ右の被害が生ずることはなかつたであろうと認められ、かつ、それがどの行為であるにせよ、これによる被害につき専ら国又は当該公共団体が国家賠償法上又は民法上賠償責任を負うべき関係が存在するときは、国又は当該公共団体は、加害行為の不特定の故をもつて右損害賠償責任を免れることはできない。 - 保健所に対する国の嘱託に基づいて国家公務員の定期健康診断の一環としての検診を行つた保健所勤務の医師の行為に過誤があつた場合と受診者に対する国の損害賠償責任の有無 - 保健所に対する国の嘱託に基づいて地方公共団体の職員である保健所勤務の医師が国家公務員の定期健康診断の一環としての検診を行つた場合において、右医師の行つた検診又はその結果の報告に過誤があつたため受診者が損害を受けても、国は、国家賠償法1条1項又は民法715条1項の規定による損害賠償責任を負わない。 - 検診等の行為を公権力の行使にあたる公務員の職務上の行為と解することは相当でない。 - 検診等の行為が林野税務署長の保健所への嘱託に基づき訴外岡山県の職員である同保健所勤務の医師によつて行われたものであるとすれば、右医師の検診等の行為は右保健所の業務としてされたものというべきであつて、たとえそれが林野税務署長の嘱託に基づいてされたものであるとしても、そのために右検診等の行為が上告人国の事務の処理となり、右医師があたかも上告人国の機関ないしその補助者として検診等の行為をしたものと解さなければならない理由はない。 - 保健所に対する国の嘱託に基づいて地方公共団体の職員である保健所勤務の医師が国家公務員の定期健康診断の一環としての検診を行つた場合において、右医師の行つた検診又はその結果の報告に過誤があつたため受診者が損害を受けても、国は、国家賠償法1条1項又は民法715条1項の規定による損害賠償責任を負わない。 - 公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめたが具体的な加害行為を特定することができない場合と国又は公共団体の損害賠償責任 - 約束手形金、民訴法198条2項の原状回復申立(最高裁判決 昭和61年11月18日) - 被用者のした手形偽造行為が民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」した行為に当たるとされた事例 - 道路舗装工事の請負等を業とする株式会社甲の支店としての実質を有する戊営業所の所長乙の依頼に基づき、丙が、所長代理の肩書で同営業所に常駐し、主として官公庁発注の道路舗装工事について、入札業務、営業所長名義による請負契約の締結、工事代金の回収など、乙の権限に属する業務に従事し、右工事代金の回収等のための約束手形の授受をもその職務とし、入札参加書類等の作成のため営業所長印を任意使用することを任せられていた場合には、丙が、右営業所の取引先であり、自ら経営の実権を握つていた丁の資金繰り等のため、丁振出の約束手形を取引先に割り引かせて資金を作る目的のもとに、丁振出の約束手形に、右営業所長印等を冒用して「甲株式会社戊営業所長乙」名義の裏書を偽造したうえ、自己名義の第二裏書をして右手形を割引のため第三者に交付した行為は、甲の内部規程上は乙に手形行為の権限が与えられていなかつたとしても、その行為の外形から客観的に観察すると丙の職務の範囲内の行為というべきであり、民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」なされたものと認めるのが相当である。 - 損害賠償請求本訴、同反訴(最高裁判決 昭和63年7月1日) - 被用者と第三者との共同不法行為による損害を賠償した第三者からの使用者に対する求償権の成否 - 被用者と第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従つて定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。 - 求償金(最高裁判決 平成3年10月25日) - 共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲 - 共同不法行為の加害者の各使用者が使用者責任を負う場合において、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求償することができる。 - 加害者の複数の使用者間における各使用者の負担部分 - 加害者の複数の使用者が使用者責任を負う場合において、各使用者の負担部分は、加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定められる責任の割合に従って定めるべきである。 - 加害者の複数の使用者間における求償権の成立する範囲 - 加害者の複数の使用者が使用者責任を負う場合において、使用者の一方は、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、使用者の他方に対し、その負担部分の限度で、求償することができる。 - 共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲 - 預託金返還請求、民訴法第一九八条二項の申立(最高裁判決 平成9年04月24日)民法第708条,民法第709条,証券取引法(平成3年法律第96号による改正前のもの)50条1項,証券会社の健全性の準則等に関する省令(昭和40年大蔵省令第60号。平成3年大蔵省令第55号による改正前のもの)1条 - 証券会社の従業員が顧客に利回り保証の約束をして株式等の取引を勧誘し一連の取引をさせた場合に右取引による顧客の損失について証券会社が不法行為責任を免れないとされた事例 - 証券会社の営業部員が、株式等の取引の勧誘をするに際し、取引の開始を渋る顧客に対し、法令により禁止されている利回り保証が会社として可能であるかのように装って利回り保証の約束をして勧誘し、その旨信じた顧客に取引を開始させ、その後、同社の営業部長や営業課長も右約束を確認するなどして取引を継続させ、これら一連の取引により顧客が損失を被ったもので、顧客が右約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して右約束をさせたわけではないなど判示の事実関係の下においては、顧客の不法性に比し、証券会社の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、証券会社は、顧客に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を免れない。 - 損害賠償請求事件(通称 電通損害賠償)(最高裁判決 平成12年03月24日)民法第709条,民法第722条2項 - 長時間にわたる残業を恒常的に伴う業務に従事していた労働者がうつ病にり患し自殺した場合に使用者の民法715条に基づく損害賠償責任が肯定された事例 - 大手広告代理店に勤務する労働者甲が長時間にわたり残業を行う状態を一年余り継続した後にうつ病にり患し自殺した場合において、甲は、業務を所定の期限までに完了させるべきものとする一般的、包括的な指揮又は命令の下にその遂行に当たっていたため、継続的に長時間にわたる残業を行わざるを得ない状態になっていたものであって、甲の上司は、甲が業務遂行のために徹夜までする状態にあることを認識し、その健康状態が悪化していることに気付いていながら、甲に対して業務を所定の期限内に遂行すべきことを前提に時間の配分につき指導を行ったのみで、その業務の量等を適切に調整するための措置を採らず、その結果、甲は、心身共に疲労困ぱいした状態となり、それが誘因となってうつ病にり患し、うつ状態が深まって衝動的、突発的に自殺するに至ったなど判示の事情の下においては、使用者は、民法715条に基づき、甲の死亡による損害を賠償する責任を負う。 - 債務不存在確認請求事件(最高裁判決 平成15年3月25日) - 郵便局に所属する保険外務員が簡易保険の契約者に対し虚偽の事実を述べて資金の融通を受けることによって同契約者に加えた損害が民法715条1項にいう「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」に当たらないとされた事例 - 郵便局に所属する保険外務員が,簡易保険の契約者に対し,他の顧客に届けるべき満期保険金を盗まれ,これをその日のうちに届けなければ勤務先に発覚して免職になるなどの虚偽の事実を述べ,同契約者が簡易保険の契約者貸付けの方法により借り受けた資金の融通を受けることによって同契約者に加えた損害は,民法715条1項にいう「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」に当たらない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成16年11月12日) - 階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立しているとされた事例 - 階層的に構成されている暴力団が,その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認していたなど判示の事情の下では,同暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立している。 - 階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為が民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」した行為に当たるとされた事例 - 階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は,同暴力団が,その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認し,その資金獲得活動に伴い発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたなど判示の事情の下では,民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」されたものに当たる。 - 階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立しているとされた事例
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条文 (注文者の責任) - 第716条 - 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない 解説 - 請負契約における注文者と請負人との関係は、民法第715条の使用者と被用者との関係のような指揮命令関係にあるわけではないため、請負人の行為につき注文者が責任を負わないのが原則である。 - 「注文又は指図についてその注文者に過失があった」ことの立証責任は被害者側にある。 関連条文 参考文献 - 加藤雅信『新民法大系5 事務管理・不当利得・不法行為(第2版)』(2005年、有斐閣)348頁 判例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年12月24日) - 請負人が第三者に損害を与えた場合において注文者に注文または指図について過失があるとされた事例 - 請負人の過失により建築中の建物が倒壊し、隣家の居住者に損害を与えた場合において、注文者が、土木出張所から建物の補強工作を完備するよう強く勧告を受けたにもかかわらず、請負人にその工作をさせることなく、所定の中間検査も受けないままで瓦葺作業に取りかからせたため、瓦の重みで右建物が倒壊するに至つた等判示の事情があるときは、右注文者に、注文または指図について過失があつたものというべきである。
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条文 (土地の工作物等の占有者及び所有者の責任) - 第717条 - 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 - 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 - 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 解説 土地の工作物等の占有者・所有者が負担する不法行為責任についての規定である。 要件 土地の工作物 土地の上に人工的に設置された物をいう。建物や道路などが代表的である。鉄道や電柱、塀なども含まれる。植物など天然のものはこれに含まれないことになるが、2項で「竹木」にも準用すると特に規定している。 設置又は保存の瑕疵 瑕疵とは、工作物が本来有しているべき安全性を欠いていることをいう。瑕疵は故意・過失によって生じたことを必要としない。 損害の発生 因果関係 前提として、瑕疵と損害の間に事実的因果関係があることを必要とする。瑕疵がなくても損害が生じていた場合には因果関係は否定される。瑕疵と不可抗力(地震など)が統合して損害をもたらした場合には相当因果関係の問題になる。 免責事由 - 占有者 - 占有者は、「損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」には賠償責任を免れる。「必要な注意」をしたことの立証責任は占有者にある。つまり中間責任が定められている。 - 所有者 - 占有者が責任を免れた場合には、所有者が賠償責任を負う。この賠償責任には免責事由がない。つまり無過失責任が定められている。 特別法による修正 国家賠償法第2条1項 は、「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる」とする。すなわち、国・公共団体には免責事由がなく、無過失責任が定められている。 効果 損害賠償責任 占有者または所有者が損害賠償責任を負う。損害賠償の範囲については第709条を参照。また、被害者の過失が加わって損害が生じた場合、過失相殺(第722条第2項)の適用もある。 求償権 第3項にいう「損害の原因について他にその責任を負う者があるとき」とは、具体的には、前所有者や、工作物の設置を請負った者に瑕疵の原因があるときを想定している。これらの者に対しては、717条に基づいて直接責任を追及することができないので、占有者または所有者が賠償したあとで求償することを認めたものである。なお、前所有者や工作物請負人は被害者に対する直接の不法行為責任を負う可能性が全くないわけではなく、第709条に基づく一般不法行為が成立する可能性は残る。 参照条文 - 民法第709条(不法行為による損害賠償) - 国家賠償法第2条 - 建物の区分所有等に関する法律第9条(建物の設置又は保存の瑕疵に関する推定) 判例 - 慰藉料等損害賠償請求(最高裁判決 昭和31年12月18日) - いわゆる接収建物の賃借人たる国と民法第717条にいう占有者 - 国が連合国占領軍の接収通知に応じ、建物をその所有者から賃借してこれを同軍の使用に供した場合には、国はその建物の設置保存に関する瑕疵に基因する損害につき、民法第717条にいう占有者としてその責に任ずべきである。 - 本条の占有者は直接占有者と間接占有者のいずれかを問わない。 - 損害賠償並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和37年4月26日)民法第711条,労働者災害補償保険法第12条第1項4号,労働者災害補償保険法第12条第1項第5号,労働基準法第79条,労働基準法第80条,労働基準法第84条第2項 - 民法第717条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当するとされた事例 - 炭坑の坑口附近に設置された捲上機の一部をなし、炭車を坑口に捲き上げるために使用される原判ワイヤロープ(原判決引用の第一審判決理由参照)は、民法第717条にいわゆる「土地ノ工作物」に該当する。 - 損害賠償並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和37年11月8日) - 電気工作物に瑕疵があるとされた事例。 - 3500ボルト以下の高圧架空送電線のゴム被覆が破損していたため感電事故が生じた場合、行政上の取締規定からは右電線にゴム被覆を用いることが必要でなく、また、終戦後の国内物資の欠乏からその電力会社管下の破損したゴム被覆高圧送電線を全部完全なものに取り替えることは極めて困難な状況にあつても、事故現場の電線の修補することが絶対不可能でないかぎりは、右送電線を所有する電力会社は、右事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和46年4月23日) - 踏切道の軌道施設に保安設備を欠く場合と民法717条の責任 - 土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備とあわせ一体としてこれを考察すべきであり、本来そなえるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあるものとして、民法七一七条所定の帰責原因になる。 - 踏切道の軌道施設に設置上のかしがあるとされた事例 - 電車の踏切において、横断者からみた踏切付近の見通しが判示のとおりであり、所定の速度で踏切を通過しようとする電車の運転者が、踏切上にある歩行者を最遠距離において発見してただちに急停車の措置をとつても、踏切を越える地点でなければ停止できないほど見通しが悪いうえ、一日につき、換算交通量700人程度、列車回数504回にのぼり、過去においても数度に及ぶ電車と通行人との接触事故があつたという事情のある場合には、少なくとも右踏切に警報機を設置していなかつたことは、土地の工作物たる軌道施設の設置にかしがあつたものというべきである。 - 踏切道の軌道施設に保安設備を欠く場合と民法717条の責任
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条文 (動物の占有者等の責任) - 第718条 - 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。 - 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。 解説 動物占有者、及び動物管理者とみなされた者については、上記の要件に基づき不法行為責任を負うことがある。 (動物の占有者等の責任) 動物占有者、及び動物管理者とみなされた者については、上記の要件に基づき不法行為責任を負うことがある。
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条文 (共同不法行為者の責任) - 第719条 - 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 - 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。 解説 要件 第1項前段 - 第1項前段は、数人が共同して他人に損害を与えた場合について規定する。この場合は、行為者それぞれに一般不法行為(第709条)の要件を満たす必要は無く、共同行為と結果(損害)との間に因果関係が見いだされれば、共同行為者各位の個別的な因果関係は必要ないと解するのが現在の通説及び判例の示すところである。 - また、「共同行為」といった場合、意思的関与が存在する場合とそうでない場合が考えられる。 - 意思的関与が存在する場合(主観的関連共同性、意思的共同不法行為) - 刑法犯における共犯のように、複数の行為者が共同する意思を持って不法行為を行なった場合、被害者は各行為者の関与度合いに関わらず、「一体」として行為がなされたとして損害賠償を請求でき、関与者は連帯して責任を負うことは、被害者救済の観点からも責任主義の観点からも異論のないところである。 - 共謀 - 共同行為の認識 - 教唆・幇助 - 意思的関与が存在しない場合(客観的関連共同性、関連的共同不法行為) - 概念の必要性 - 上記の意思的関与がある場合に関与者を「一体」ととらえて不法行為者として取り扱うことについては論をまたないが、意思的関与がない場合であっても、被害者救済の観点から、共同性を認めるべきとするのが現在の通説である。 - 「関連性」の認定 - 共同性を認めるにあたっては、各関与者のなした行為が、社会通念上「一体」と見做せる程度の関連性を持っており、その一体行為と発生損害の間に事実的因果関係が認めらられば、不法行為は成立し、原告(被害者)は、各関与者の行為の各々の関与の態様について立証することを要さない(参考判例、最判昭和62年01月22日、最判平成13年2月13日)。 - 概念の必要性 - 意思的関与が存在する場合(主観的関連共同性、意思的共同不法行為) 第1項後段 第1項後段は、数人が共同して他人に損害を与えたが、数人のうち誰が損害を与えたか不明である場合について説く。これは、一般不法行為(第709条)における因果関係の要件の修正であると解する説がある。すなわち、第709条の要件に従えば、数人のうち誰かが損害を与えたことは確実であるという場合であっても、個々の侵害行為と損害の間に因果関係が証明できなければ、不法行為責任を追及できなくなり、不当な結果を招く。そこで第719条はこの要件を修正し、個々の侵害行為と損害との間に事実的因果関係が証明できない場合であっても、数人の誰かが損害を与えたことさえ証明できれば、個々の行為者について因果関係が推定されるとしたものであると説かれる。 第2項 第2項は、直接行為者と侵害行為を共同しない者であっても、教唆者または幇助者に対しては共同行為者と認定することができるとしたものである。 効果 「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」という効果については、行為者同士がいわゆる改正後の連帯債務関係となると考えられている。ここから、いくつかの問題が生ずる。 求償権の獲得 共同行為者のうちの1人が全額を賠償した場合、その者は自己の寄与度を越える額について他の共同行為者に求償することができる。これは、不当利得から導かれる。たとえば、AとBが共同不法行為でCに100万円の損害を与え、AとBの過失割合が7:3である場合、Aが100万円全額をCに賠償すれば、Aは30万円についてBに対する求償権を獲得する。 免除の効果 連帯債務に関する改正後の民法の原則に従えば、連帯債務者の一人に対してした免除の効果は、相対効である。 そして、共同不法行為が改正後の連帯債務という構成をとるので、免除の相対効が認められる。すなわち、連帯債務においては、免除は相対効しかもたない。たとえば、AとBが共同不法行為でCに100万円の損害を与え、AとBの過失割合が7:3である場合、CがAに対して債務免除をしても、Bは100万円全額について賠償責任を負う。なお、このことと求償権とは別個独立の問題であり、Aが債務免除を受けても、Bが100万円全額を賠償した場合は、BはAに対して不当利得に基づく70万円の求償権を獲得する。 共同不法行為と過失相殺 - 絶対的過失相殺 - 共同不法行為者各自の過失割合と被害者の過失割合を加算して、全体における割合を算出する考え方である。 - たとえば、AとBが共同不法行為でCに100万円の損害を与え、AとBとCの過失割合が3:1:1である場合、Cの過失は1÷(3+1+1)で全体の1/5が過失相殺される。よってAとBは80万円の賠償責任を連帯して負うとする。 - 相対的過失相殺 - 共同不法行為者のそれぞれについて被害者の過失との過失相殺を行う考え方である。 - たとえば、AとBが共同不法行為でCに100万円の損害を与え、AとBとCの寄与度が3:1:1である場合、AとCの間では3:1の過失相殺を行うから、3÷(3+1)=3/4となり、AはCに対し75万円の賠償請求を負う。同様にBとCとの間では1:1の過失相殺を行い、BはCに対し50万円の賠償責任を負う。 絶対的過失相殺と相対的過失相殺のどちらの構成をとるかは、判例も結論が分かれているが、1件の交通事故でAB両名の行為が共同した場合などは絶対的過失相殺、Aが交通事故で損害を与え、Bがその後医療事故で損害を与えた場合などには相対的過失相殺の構成をとると説明される場合もある。 関連条文 - 民法第709条(不法行為による損害賠償) 判例 - 地上権設定登記手続、土地明渡及び建物収去土地明渡等請求(最高裁判決 昭和31年10月23日)不動産登記法第23条 - 他人が地上権を有する土地に無権原で建物を所有する者から建物を賃借して占有使用する場合と地上権者に対する不法行為の成否 - 他人が地上権を有する土地に無権原で建物を所有する者から建物を賃借して占有使用する者がある場合において、その物の右建物の占有使用と地上権者が右土地を使用できないこととの間には、特段の事情がない限り、相当因果関係はないと解するのが相当である。 - 無権限の土地上の建物の所有者とその賃貸人との間の共同不法行為を否定。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和43年04月23日) 民法第709条,国家賠償法第2条1項 - 共同行為者の流水汚染により惹起された損害と各行為者の賠償すべき損害の範囲 - 共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して流水を汚染し違法に損害を加えた場合において、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるときは、各自が、右違法な加害行為と相当因果関係にある全損害について、その賠償の責に任ずべきである。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 昭和43年06月27日)国家賠償法第1条1項,不動産登記法施行細則第47条,民法第416条 - 偽造の登記済証に基づく登記申請を受理するについて登記官吏に過失があるとされた事例 - 登記申請書に添付されていた登記済証が偽造であつて、その作成日として記載されている日当時官制上存在しなかつた登記所名が記載され、同庁印が押捺されている(重い職務上の過失)にもかかわらず、登記官吏がこれを看過してその申請にかかる所有権移転登記手続をした場合には、右登記官吏に、登記申請書類を調査すべき義務を怠つた過失があるというべきである。 - 登記官吏の過失によつて無効な所有権移転登記が経由された場合に右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者が被つた損害との間に相当因果関係があるとされた事例 - 登記官吏の右過失によつて、無効な所有権移転登記が経由された場合には、右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者がその所有権を取得できなかつたために被つた損害との間には、相当因果関係があるというべきである。 - 登記関係書類の偽造と登記申請書類の確認の不備を共同不法行為とする。 - 偽造の登記済証に基づく登記申請を受理するについて登記官吏に過失があるとされた事例 - 不当利益返還(最高裁判決 昭和57年03月04日) - 損害賠償(最高裁判決 昭和62年01月22日) 民法第709条 - レール上の置石により生じた電車の脱線転覆事故について置石をした者との共同の認識ないし共謀のない者が事故回避措置をとらなかつたことにつき過失責任を負う場合 - 中学生のいたずらによりレール上に置石がされたため生じた電車の脱線転覆事故について、甲が、自らは置石行為をせず、また、置石をした乙と共同の認識ないし共謀がなくても、事故現場において事前に、乙を含めて仲間とその動機となつた話合いをしたばかりでなく、その直後並行した他の軌道のレール上に石が置かれるのを現認していたものであつて、事故の原因となつた置石の存在を知ることができ、これによる脱線転覆事故の発生を予見すること及び置石の除去等事故回避の措置をとることが可能であつた場合には、甲は、当該措置をとるべき義務を負い、これを尽くさなかつたために生じた事故につき過失責任を免れない。 - 損害賠償請求本訴、同反訴(最高裁判決 昭和63年07月01日) 民法第442条,民法第715条 - 被用者と第三者との共同不法行為による損害を賠償した第三者からの使用者に対する求償権の成否 - 被用者と第三者との共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従つて定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和41年11月18日)民法第442条 - 被用者と第三者との共同過失によつて惹起された交通事故による損害を賠償した使用者の第三者に対する求償権の成否 - 使用者は、被用者と第三者との共同過失によつて惹起された交通事故による損害を賠償したときは、右第三者に対し、求償権を行使することができる。 - 右の場合における第三者の負担部分 - 右の場合における第三者の負担部分は、共同不法行為者である被用者と第三者との過失の割合にしたがつて定められるべきである。 - 被用者と第三者との共同過失によつて惹起された交通事故による損害を賠償した使用者の第三者に対する求償権の成否 - 求償金(最高裁判決 平成3年10月25日) 民法第442条,民法第715条 - 共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲 - 共同不法行為の加害者の各使用者が使用者責任を負う場合において、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、求償することができる。 - 加害者の複数の使用者間における各使用者の負担部分 - 加害者の複数の使用者が使用者責任を負う場合において、各使用者の負担部分は、加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定められる責任の割合に従って定めるべきである。 - 加害者の複数の使用者間における求償権の成立する範囲 - 加害者の複数の使用者が使用者責任を負う場合において、使用者の一方は、自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、使用者の他方に対し、その負担部分の限度で、求償することができる。 - 共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲 - 損害賠償(最高裁判決 平成10年09月10日)民法第437条、民法第437条、民訴法114条 - 甲と乙が共同の不法行為により丙に損害を加えたが、甲と丙との間で成立した訴訟上の和解により、甲が丙の請求額の一部につき和解金を支払うとともに、丙が甲に対し残債務を免除した場合において、丙が右訴訟上の和解に際し乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは、乙に対しても残債務の免除の効力が及ぶ。 - 損害賠償等請求事件(最高裁判決 平成13年2月13日)著作権法第20条,著作権法第第7章権利侵害,民法第709条 - 専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者の不法行為責任 - 専らゲームソフトの改変のみを目的とするメモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた者は,他人の使用により,ゲームソフトの同一性保持権の侵害をじゃっ起したものとして,ゲームソフトの著作者に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。 - 本件メモリーカードは,前記のとおり,その使用によって,本件ゲームソフトについて同一性保持権を侵害するものであるところ,前記認定事実によれば,上告人は,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,多数の者が現実に本件メモリーカードを購入したものである。そうである以上,上告人は,現実に本件メモリーカードを使用する者がいることを予期してこれを流通に置いたものということができ,他方,前記事実によれば,本件メモリーカードを購入した者が現実にこれを使用したものと推認することができる。そうすると,本件メモリーカードの使用により本件ゲームソフトの同一性保持権が侵害されたものということができ,上告人の前記行為がなければ,本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害が生じることはなかったのである。したがって,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた上告人は,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成13年03月13日)民法第722条2項 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において各不法行為者が責任を負うべき損害額を被害者の被った損害額の一部に限定することの可否 - 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできない。 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合の各不法行為者と被害者との間の過失相殺の方法 - 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されない。 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において各不法行為者が責任を負うべき損害額を被害者の被った損害額の一部に限定することの可否 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年02月28日) - 少年Aが少年B及び少年Cから暴行を受けて死亡したことについて,暴行が行われている現場に居た少年Y1,Y4及びY7がAを救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたとはいえないとされた事例 - 少年A(当時16歳)が,少年B(当時15歳)及び少年C(当時17歳)から暴行を受け,3時間余り後に救急車で病院に搬送されたが,6日後に死亡した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,暴行が行われている現場に居た少年Y1,Y4及びY7(いずれも当時15歳)は,同少年らにAが死ぬかもしれないという認識があったとしても,救急車を呼んだり,第三者に通報するなど,Aを救護するための措置を執るべき法的義務を負っていたということはできない。 - Y1らは,いずれも,B及びCがAに暴行を加えていることや暴行に及んだ経緯を知らずに,B及びCに呼び出されて暴行が行われている現場に赴いたものであり,暴行の実行行為や共謀に加わっていないのみならず,積極的に暴行を助長するような言動も何ら行っていない。 - Y1らが,救急車を呼ばず,第三者に通報もしなかったのは,このことがB及びCに発覚して後日同人らから仕返しをされることを恐れたからであり,Y1らとB及びCとの関係や暴行の経過等からすると,そのような恐れを抱くのも無理からぬものがあった。 - 暴行が終わった後に,Cの指示により,Y1は,Aの体を移動させ,さらに,Y1らは,Aが気絶しているのを見付かりにくくするためであることを認識しながら,Aを壁にもたれかけさせて座らせたが,これもB及びCに対する恐れからしたものであるし,現場の状況等に照らすと,このことによってAの発見及び救護が格別困難になったということもできない。
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条文 - 第720条 - 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。 - 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。 解説 民法上の正当防衛、及び緊急避難の要件と効果につき規定している。刑法上の正当防衛、及び緊急避難との違いに注意が必要である。 正当防衛 - 刑法における正当防衛は不正の侵害に対する侵害者に対する防衛行為であるが、民法においては防衛のための加害行為であって、その向かう先は侵害者(「反撃型避険行為」)だけではなく第三者の法益に及ぶ場合(「避難型避険行為」、多くは刑法における緊急避難に重なる)もある。 要件 - 「他人の不法行為」であること。 - 行為が外形的に違法なもの(権利侵害の危険の存在)であれば足り、その行為につき故意・過失/責任能力の存在は不要とされる。 - 「やむを得ず」なされたものであること。 - 加害行為以外に危険を回避する手段がないこと。 - 防衛される法益と侵害される法益に均衡が取れていること。 - 侵害者の有する法益に対しては均衡を必要としないとの学説もある。 効果 - 損害賠償の責任を負わない。 - 正当防衛が成立せず不法行為となる場合も、侵害行為について過失相殺されることがある。 緊急避難 - 刑法における緊急避難は危難を避けるために侵害者以外の法益を侵害することを指すが、民法においては、他人の物(家畜等動物も含む)から生じた危難を避けるために、その物を損壊することを言う。 要件 - 「他人の物から生じた急迫の危難」であること。 - 「他人の物から生じた」には自然現象も含む。 - 避難の要件は正当防衛に準じ、相当性を要する。 - 刑法における緊急避難が認められたからと言って、民法上緊急避難が認められるとは限らない。 効果 - 損害賠償の責任を負わない。 その他の違法性阻却事由 - 自力救済 - 正当業務行為 - 被害者の承諾 - 危険への接近理論 - 危難があると分かっていながら、あえて、その状況に接近した者は想定された危難を受任しなければならない(最判昭和56年12月16日 大阪国際空港夜間飛行禁止等)。 参照条文 関連判例 - 占有回収等請求(最高裁判決 昭和40年12月7日) - 私力の行使が許されないとされた事例。 - 使用貸借の終了した敷地上に建築された原判示仮店舗の周囲に、右敷地所有者(終了前の敷地使用貸主)が仮店舗所有者(終了前の敷地使用借主)の承諾を得ないで、板囲を設置した場合であつても、右仮店舗所有者が右板囲を実力をもつて撤去することは、同人が原判示の経緯で原判示旧店舗に復帰してすでに飲食営業を再開している等原判示の事実関係のもとにおいては、私力行使の許される限界をこえるものと解するのが相当である。 - 私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。 - 大阪国際空港夜間飛行禁止等(最高裁判決 昭和56年12月16日) - 国営空港に離着陸する航空機の騒音が一定の程度に達しており空港周辺地域の住民の一部により右騒音を原因とする空港供用の差止請求等の訴訟が提起されているなどの状況のもとに右地域に転入した者が右騒音により被害を受けたとして国に対し慰藉料を請求した場合につき右請求を排斥すべき事由がないとした認定判断に経験則違背等の違法があるとされた事例 - 当該空港に離着陸する航空機の騒音がその頻度及び大きさにおいて一定の程度に達しており、また、空港周辺住民の一部により右騒音を原因とする空港供用差止請求等の訴訟が提起され、主要日刊新聞紙上に当該空港周辺における騒音問題が頻々として報道されていたなど、判示のような状況のもとに空港周辺地域に転入した者が空港の設置・管理者たる国に対し右騒音による被害について慰藉料の支払を求めたのに対し、特段の事情の存在を確定することなく、転入当時右の者は航空機騒音が問題になつている事情ないしは航空機騒音の存在の事実をよく知らなかつたものとし、右請求を排斥すべき理由はないとした原審の認定判断には、経験則違背等の違法がある。
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民法第722条 条文 - 第722条 改正経緯 2017年改正において、以下のとおり改正。 見出し - (改正前)損害賠償の方法及び過失相殺 - (改正後)損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺 第1項 - (改正前)第417条の規定は - (改正後)第417条及び第417条の2の規定は 解説 第1項 - 不法行為においては原状回復ではなく金銭賠償が原則である(第417条)。名誉毀損の場合は例外的に原状回復としての謝罪広告等の請求が認められている(第723条)。 - 既に発生した損害については、支払われるまで法定利息が付利される一方、将来利益については法定利率による中間利息が控除される(第417条の2)。 - 損害賠償の支払い方法については一時金賠償が一般的であるが、後遺障害がある場合など事案によっては定期金賠償によることも可能である(最判昭和62年02月06日、民事訴訟法第117条)。 - 不法行為が将来にわたって継続することが予想される場合であっても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができないなどの事情の下では請求権としての適格性を有しない(最判昭和56年12月16日)。 第2項 - 本項は不法行為における過失相殺について定める。すなわち、「被害者に過失があったとき」には、それを勘案して、加害者の賠償責任を減額することが可能であるとする。 - 過失相殺については、債務不履行と異なり、その相殺は義務的ではない。 - 民法第416条の損害賠償の範囲の規定については、この条文に準用規定が存在せず問題になるが、通説はこれも不法行為に類推されると解している。ただし、これを否定する見解もある。否定説の根拠は、第416条は予見可能性の有無で損害賠償の範囲を決めているが、偶発性の高い不法行為には予見可能性の要求は妥当でない点にある。 - 「被害者に過失があったとき」という要件について解釈の余地がある。 過失相殺能力 - 被害者に過失を認めるためには、被害者の事理弁識能力を前提とする。たとえば、幼児が突然道路に飛び出したために交通事故に遭ったとしても、幼児には事理弁識能力がないから、幼児の過失を認めて過失相殺することはできない。ただし、この場合、未成年者は事理弁識能力を具えていれば足り、行為能力までも具えていることを要しない - 最判昭和39年06月24日 - 民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が(略)、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である。 - 最判昭和39年06月24日 被害者側の過失 - 条文上は「被害者に過失があったとき」としているが、判例はこれを拡張し、被害者「側」に過失があったときにも過失相殺を認めている。判例は「被害者側」たる者を「被害者と身分上ないし生活関係上一体をなす」者と定義し(最判昭和42年06月27日 判例A)、たとえば夫の運転する車に妻が同乗しており、別の車と衝突して妻が傷害を負った場合に、「被害者側の過失」の法理によれば運転者たる夫に過失があれば、これと加害者の過失とを相殺することができるとされている(最判昭和51年03月25日)。また、幼児の生命を害された慰藉料を請求する父母の一方に、その事故の発生につき監督上の過失があるときは、他の一方にも過失相殺の適用がある(最判昭和34年11月26日)。一方で、被害者たる幼児を監護していた保母の監護上の過失は、被害者の過失にあたらないとした(判例A)。 第2項の類推適用 被害者の素因 - 被害者側の身体的、心因的素因によって通常より被害が拡大した場合には、これを考慮して賠償額を減額することがある(最判平成12年03月24日)。もっとも「素因」は「過失」ではないので本条の直接適用ではなく類推適用といえる。過失相殺ではなく相当因果関係の判断のなかで被害者の素因を考慮する構成もある。 - 被害者の素因の法理は、被害者自身に直接の帰責性がないにもかかわらず賠償額を減額するものであるから、その適用には慎重であるべきであるとする学説もある。 好意関係 - たとえば、好意で車に同乗させた結果、運転者の過失によって事故に遭い、同乗者が被害を負った場合などに、本条を類推適用し、通常の損害賠償に比べて賠償額を減額すべきであるという考え方である。自動車事故の判例でこの法理を認めるものが多い。また、預かっていた近所の子供が目を離した間に水死したケースにつき、この法理を用いて賠償額の減額を認めた判例はよく知られている(隣人訴訟 津地判昭和58年2月25日)。 損益相殺 - 不法行為によって損害を被った被害者が、同じ原因によって利益を受けた場合、この利益を損害から控除する場合がある。これを損益相殺という。 - ただし、積極侵害又は精神的侵害に対する賠償からは控除できない(最判昭和62年7月10日)。また、保険の支払いなどがあっても損害賠償請求権自体が制限されるものではない(最判昭和37年04月26日) 不法行為により発生した利益とされる例 - 年金保険 - 年金受給者が死亡した場合、逸失利益は年金受給額によって算定される。一方、遺族は遺族年金を受け取ることができる。判例はこの場合に損益相殺を認め、逸失利益から遺族年金分を控除すべきだとしている(最判平成5年3月24日)。ただし、控除される額は「支給を受けることが確定した」額に限られる。 - 労災保険 - 勤務中に不法行為の被害を受けた場合、被害者には労災保険から給付がなされる。この労災保険についても、損益相殺の対象とすることが認められている(最判平成元年04月11日)。 不法行為により発生した利益ではないとされる例 - 生命保険 - 被害者が死亡した場合に遺族が受け取る生命保険金は、損益相殺の対象にならないとされる。これは、生命保険金がもともと保険料の対価であり、不法行為と同じ原因から生じた利益とはいえないからである(最判昭和39年9月25日)。 - 損害保険 - 物が損害を被った場合には被害者が損害保険金を受け取ることがある。この損害保険金は、損益相殺の対象にはならないとされる(最判昭和50年01月31日)。これも、保険料の対価という性質を有するためである。もっとも、損害保険の種類によっては、保険代位(保険法第25条, 旧・商法第622条第1項)が認められており、保険会社は支払った保険金について被害者の加害者に対する損害賠償請求権を獲得する。このため、被害者は事実上、利益の二重取りはできないことになる。 - 子の養育費 - 不法行為による子の死亡により、親が相続した子の将来の逸失利益から子の養育に要したであろう費用を控除することはできない(最判昭和53年10月20日)。 - 不法原因給付として返還請求を免れたもの - 損益相殺を認めると実質的に不法原因給付の返還を認めることになるため(最判平成20年6月10日)。 過失相殺と損益相殺の適用順序 過失相殺と損益相殺が競合する場合、まず過失相殺し、次に損益相殺すべきであるというのが判例の見解である(最判平成元年04月11日)。 参照条文 - 民法第418条(過失相殺) - 民法第723条(名誉毀損における原状回復) - 保険法第25条(請求権代位) - 保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。 - 当該保険者が行った保険給付の額 - 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額) - 前項の場合において、同項第1号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。 - 保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。 判例 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和34年11月26日) - 慰藉料を請求する父母の一方に過失のある場合と民法第722条条第2項 - 幼児の生命を害された慰藉料を請求する父母の一方に、その事故の発生につき監督上の過失があるときは、父母の双方に民法第722条条第2項の適用があるものと解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年1月24日) - 将来において得べき全利得を損害賠償として一時に支払を受ける場合とホフマン式計算法 - 将来数年間に得べき全利得を損害賠償として一時に支払を受けるため、中間利息の控除にホフマン式計算法を用いる場合には、一年ごとに得べき利得が確定されているかぎり、一年ごとに右計算法を適用して算出した金額を合算する方法によるのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和36年1月24日) - 死者の活動年令期の算定。 - 死者の活動年令期は、死者の経歴、年令、職業、健康状態その他の具体的事情を考慮して算定することができ、必ずしも統計による生命表の有限平均余命の数値に拘束されない。 - 損害賠償並びに慰藉料請求(最高裁判決 昭和37年04月26日)民法第711条,民法第717条,労働基準法第79条,労働基準法第80条,労働基準法第84条2項 - 労働者災害補償保険法による遺族補償費として受給者の財産的損害額をこえる金額が支給された場合と受給者以外の遺族の財産的損害賠償請求権の有無 - 労働者災害補償保険法に基づき妻に支給された遺族補償費の額が、妻の使用者に対して有する不法行為による財産的損害賠償請求権の額をこえる場合でも、妻以外の遺族はそのことと関係なく、使用者に対し、不法行為による財産的損害の賠償を請求することができる。 - 労働者災害補償保険法による遺族補償費の受給と遺族の慰藉料請求権の有無 - 労働者災害補償保険法に基づき遺族補償費が支給された場合でも、遺族は別に、使用者に対し、不法行為による損害賠償としての慰藉料を請求することができる。 - 労働者災害補償保険法による葬祭料の受給と遺族の損害補償請求権の有無 - 労働者災害補償保険法に基づき葬祭料が支給された場合でも、不法行為による遺族損害賠償請求権には消長をきたさない。 - 労働者災害補償保険法による遺族補償費として受給者の財産的損害額をこえる金額が支給された場合と受給者以外の遺族の財産的損害賠償請求権の有無 - 損害賠償等請求(最高裁判決 昭和39年06月24日) - 民法第722条第2項により被害者の過失を斟酌するについて必要な被害者の弁識能力の程度。 - 民法第722条第2項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しないものと解すべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和39年9月25日)旧・商法第673条 - 不法行為による死亡に基づく損害賠償額から生命保険金を控除することの適否。 - 生命保険金は、不法行為による死亡に基づく損害賠償額から控除すべきでない。 - 生命保険契約に基づいて給付される保険金は、すでに払い込んだ保険料の対価の性質を有し、もともと不法行為の原因と関係なく支払わるべきものであるから、たまたま本件事故のように不法行為により被保険者が死亡したためにその相続人たる被上告人両名に保険金の給付がされたとしても、これを不法行為による損害賠償額から控除すべきいわれはないと解するのが相当である。 - 慰藉料請求(最高裁判決 昭和42年06月27日) - 保育園の保母に引率された4歳の幼児が,保母の不注意により道路に飛び出してダンプカーにひかれた事案 - 被害者本人が幼児である場合と民法第722条第2項にいう被害者の範囲 - 被害者本人が幼児である場合における民法第722条第2項にいう被害者の過失には、被害者側の過失をも包含するが、右にいわゆる被害者側の過失とは、被害者本人である幼児と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失をいうものと解するのが相当である。 - 同条項にいう被害者の過失にあたらないとされた事例 - 保育園の保母が当該保育園の被用者として被害者たる幼児を監護していたにすぎないときは、右保育園と被害者たる幼児の保護者との間に、幼児の監護について保育園側においてその責任を負う旨の取極めがされていたとしても、右保母の監護上の過失は、民法第722条第2項にいう被害者の過失にあたらない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年07月24日)民法第709条,民法第149条,所得税法第9条1項21号,民訴法235条 - 得べかりし利益の喪失による損害額の算定と租税控除の要否 - 不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつては、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年04月05日)民事訴訟法第186条(現第246条),民事訴訟法224条1項(現第133条2項),民法第709条 - 不法行為による損害賠償の一部請求と過失相殺 - 不法行為に基づく一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。(訴訟物の個数) - 損害賠償、敷金返還請求(最高裁判決 昭和50年1月31日)民法第415条,商法第665条 - 不法行為又は債務不履行による家屋焼失に基づく損害賠償額から火災保険金を損益相殺として控除することの適否 - 第三者の不法行為又は債務不履行により家屋が焼失した場合、その損害につき火災保険契約に基づいて家屋所有者に給付される保険金は、右第三者が負担すべき損害賠償額から損益相殺として控除されるべき利益にはあたらない。 - 損害賠償請求](最高裁判決 昭和51年03月25日) - 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において夫にも過失があるときと民法722条2項 - 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において、右衝突につき夫にも過失があるときは、特段の事情のない限り、右第三者の負担すべき損害賠償額を定めるにつき、夫の過失を民法722条2項にいう被害者の過失として掛酌することができる。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和52年10月20日) - 不法行為の損害たる弁護士費用と過失相殺の規定の適用 - 不法行為による損害たる弁護士費用につき、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものとして算定された額に対してさらに過失相殺の規定を適用するのは相当でない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和53年10月20日)自動車損害賠償保障法第3条 - 死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定と将来得べかりし収入額から養育費を控除することの可否 - 交通事故により死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定については、幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきではない。 - 将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法とライプニツツ式計算法 - ライプニツツ式計算法は、交通事故の被害者の将来得べかりし利益を事故当時の現在価額に換算するための中間利息控除の方法として不合理なものとはいえない。 - 死亡した幼児の財産上の損害賠償額の算定と将来得べかりし収入額から養育費を控除することの可否 - 大阪国際空港夜間飛行禁止等(最高裁判決 昭和56年12月16日)国家賠償法第2条,民法第709条(,民法第720条) - 将来にわたつて継続する不法行為に基づく損害賠償請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格性を有するとされるための要件 - 現在不法行為が行われており、同一態様の行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点においてはじめてこれを認定することができ、かつ、右権利の成立要件の具備については債権者がこれを立証すべきものと考えられる場合には、かかる将来の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格性を有しない。 - 損害賠償(最高裁判決 昭和62年02月06日)国家賠償法第1条1項,民法第417条,民法第722条1項 - 公立学校における教師の教育活動と国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」 - 国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」には、公立学校における教師の教育活動も含まれる。 - 損害賠償請求権者が一時金による支払を訴求している場合と定期金による支払を命ずる判決の許否(旧判例) - 損害賠償請求権者が訴訟上一時金による支払を求めている場合には、定期金による支払を命ずる判決をすることはできない。 - 改正後民事訴訟法第117条により可能となった。 - 損害賠償請求権者が訴訟上一時金による支払を求めている場合には、定期金による支払を命ずる判決をすることはできない。 - 公立学校における教師の教育活動と国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」 - 損害賠償(最高裁判決 昭和62年7月10日)労働基準法第84条2項,労働者災害補償保険法第12条の4,労働者災害補償保険法第14条,労働者災害補償保険法第18条,厚生年金保険法第40条,厚生年金保険法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)47条,民法第710条 - 労働者災害補償保険法による休業補償給付若しくは傷病補償年金又は厚生年金保険法による障害年金を被害者の受けた財産的損害のうちの積極損害又は精神的損害から控除することの可否 - 労働者災害補償保険法による休業補償給付若しくは傷病補償年金又は厚生年金保険法による障害年金は、被害者の受けた財産的損害のうちの積極損害又は精神的損害から控除すべきでない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 昭和63年04月21日)民法第709条,民法第722条2項 - 身体に対する加害行為によつて生じた損害について被害者の心因的要因が寄与しているときと民法722条2項の類推適用 - 身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害が加害行為のみによつて通常発生する程度、範囲を超えるものであつて、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害賠償額を定めるにつき、民法722条2項を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができる。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成元年04月11日)民法第709条,労働者災害補償保険法第12条の4 - いわゆる第三者行為災害に係る損害賠償額の算定に当たつての過失相殺と労働者災害補償保険法に基づく保険給付額の控除との先後 - 労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成5年3月24日)民法第709条,地方公務員等共済組合法(昭和60年法律第108号による改正前のもの)78条,地方公務員等共済組合法(昭和60年法律第108号による改正前のもの)93条 - 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して取得した債権の額を加害者の賠償額から控除することの要否及びその範囲 - 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。 - 地方公務員等共済組合法(改正前)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合にその相続人が被害者の死亡を原因として受給権を取得した同法の規定に基づく遺族年金の額を加害者の賠償額から控除することの要否及びその範囲 - 地方公務員等共済組合法(改正前)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として同法の規定に基づく遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。 - (旧判例) 判例変更ではあるが、元々相続ではなく遺族年金等の受給権者であれば控除もありうるとはしている。 - 損害賠償代位請求、損害賠償請求(最高裁判決 昭和50年10月24日)国家公務員等退職手当法第2条1項1号,国家公務員共済組合法第88条,国家公務員災害補償法(昭和41年法律第67号による改正前のもの)15条 - 不法行為により死亡した国家公務員の得べかりし利益の喪失による損害賠償債権を相続した右公務員の死亡により遺族に支給される退職手当、遺族年金、遺族補償金の受給権者でない場合と相続した損害賠償債権額から右各給付相当額を控除することの可否 - 不法行為により死亡した国家公務員の給与、国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による退職給付の受給利益喪失による損害賠償債権を相続した者が、右公務員の死亡により遺族に給付される国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による遺族年金、国家公務員災害補償法による遺族補償金の受給権者でない場合には、右相続人の損害賠償債権額から右各給付相当額を控除すべきではない。 - 損害賠償代位請求、損害賠償請求(最高裁判決 昭和50年10月24日)国家公務員等退職手当法第2条1項1号,国家公務員共済組合法第88条,国家公務員災害補償法(昭和41年法律第67号による改正前のもの)15条 - 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して取得した債権の額を加害者の賠償額から控除することの要否及びその範囲 - 損害賠償(最高裁判決 平成7年1月30日)商法第3編第10章保険 - 被保険自動車に搭乗中交通事故により死亡した者の相続人が受領したいわゆる搭乗者傷害保険の死亡保険金を右相続人の損害額から控除することの要否 - 甲車を被保険自動車として締結された保険契約に適用される保険約款中に、被保険自動車に搭乗中の者がその運行に起因する事故により傷害を受けて死亡したときはその相続人に定額の保険金を支払う旨の定めがあり、甲車に搭乗中交通事故により死亡した者の相続人が右保険金を受領した場合、右保険金は、右相続人の損害額から控除すべきではない。 - 損害賠償(最高裁判決 平成8年2月23日)労働基準法第84条2項,労働者災害補償保険法第12条の4,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)23条1項,労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号)1条,労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号)2条 - 労働者災害補償保険特別支給金支給規則による特別支給金を被災労働者の損害額から控除することの可否 - 労働者災害補償保険特別支給金支給規則による特別支給金は、被災労働者の損害額から控除することができない。 - 損害賠償(最高裁判決 平成8年04月25日)民法第416条 - 後遺障害による逸失利益の算定に当たり事故後の別の原因による被害者の死亡を考慮することの許否 - 交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定に当たっては、事故後に別の原因により被害者が死亡したとしても、事故の時点で、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。 - 損害賠償(最高裁判決 平成8年05月31日 )民法第416条 - 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合に最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たり被害者の死亡を考慮することの許否 - 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合、最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない。 - 交通事故の被害者が事故後に死亡した場合に後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たり死亡後の生活費を控除することの許否 - 交通事故の被害者が事故後に死亡した場合、後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、事故と被害者の死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができる。 - 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合に最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たり被害者の死亡を考慮することの許否 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成11年10月22日)国民年金法第30条,厚生年金保険法第47条,国民年金法第35条1号,厚生年金保険法第53条1号,民法第896条,国民年金法第33条の2,厚生年金保険法第50条の2,国民年金法第37条,厚生年金保険法第58条 - 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合にその相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族基礎年金及び遺族厚生年金を控除すべき損害の費目 - 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成11年12月20日)民法第416条 - 交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合に死亡後の期間に係る介護費用を右交通事故による損害として請求することの可否 - 交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合には、死亡後の期間に係る介護費用を右交通事故による損害として請求することはできない。 - 損害賠償請求事件(通称 電通損害賠償)(最高裁判決 平成12年03月24日)民法第709条,民法第715条 - 業務の負担が過重であることを原因として心身に生じた損害につき労働者がする不法行為に基づく賠償請求において使用者の賠償額を決定するに当たり右労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等をしんしゃくすることの可否 - 業務の負担が過重であることを原因として労働者の心身に生じた損害の発生又は拡大に右労働者の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が寄与した場合において、右性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでないときは、右損害につき使用者が賠償すべき額を決定するに当たり、右性格等を、民法722条2項の類推適用により右労働者の心因的要因としてしんしゃくすることはできない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成13年03月13日)民法第722条2項 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において各不法行為者が責任を負うべき損害額を被害者の被った損害額の一部に限定することの可否 - 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害額を案分し,責任を負うべき損害額を限定することはできない。 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合の各不法行為者と被害者との間の過失相殺の方法 - 交通事故と医療事故とが順次競合し,そのいずれもが被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来しこの結果について相当因果関係を有する関係にあって,運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において,過失相殺は,各不法行為の加害者と被害者との間の過失の割合に応じてすべきものであり,他の不法行為者と被害者との間における過失の割合をしんしゃくしてすることは許されない。 - 交通事故と医療事故とが順次競合し運転行為と医療行為とが共同不法行為に当たる場合において各不法行為者が責任を負うべき損害額を被害者の被った損害額の一部に限定することの可否 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成16年12月20日)厚生年金保険法第58条 - 不法行為により死亡した被害者の相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族厚生年金を控除すべき逸失利益の範囲 - 不法行為により死亡した被害者の相続人がその死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,当該相続人がする損害賠償請求において,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を給与収入等を含めた逸失利益全般から控除すべきである。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成20年6月10日)民法第708条,(2につき)出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(平成15年法律第136号による改正前のもの)5条2項 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。 - いわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し,借主が貸付金に相当する利益を得た場合に,借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは,民法708条の趣旨に反するものとして許されないとされた事例 - いわゆるヤミ金融の組織に属する業者が,借主から元利金等の名目で違法に金員を取得して多大の利益を得る手段として,年利数百%〜数千%の著しく高利の貸付けという形をとって借主に金員を交付し,これにより,当該借主が,弁済として交付した金員に相当する損害を被るとともに,上記貸付けとしての金員の交付によって利益を得たという事情の下では,当該借主から上記組織の統括者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として当該借主の損害額から控除することは,民法第708条の趣旨に反するものとして許されない。 - 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不法行為の被害者が当該醜悪な行為に係る給付を受けて利益を得た場合に,被害者からの損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として被害者の損害額から控除することの可否
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条文 (名誉毀損における原状回復) - 第723条 - 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。 解説 名誉毀損の場合における原状回復措置を定めている。金銭賠償の原則の例外を定めた規定である。「名誉を回復するのに適当な処分」の具体例としては、謝罪広告などがある。 アクセス権・反論権 参照条文 判例 - 謝罪広告請求(最高裁判決 昭和31年7月4日)民訴法733条(現民事執行法第171条),日本国憲法第19条 - 謝罪広告を命ずる判決と強制執行 - 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあつては、民訴第733条により代替執行をなし得る。 - 右判決は憲法第19条に反しないか - 右判決は憲法第19条に反しない。 - 原判決の是認した被上告人の本訴請求は、上告人が判示日時に判示放送、又は新聞紙において公表した客観的事実につき上告人名義を以て被上告人に宛て「右放送及記事は真相に相違しており、貴下の名誉を傷け御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」なる内容のもので、結局上告人をして右公表事実が虚偽且つ不当であつたことを広報機関を通じて発表すべきことを求めるに帰する。されば少くともこの種の謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる原判決は、上告人に屈辱的若くは苦役的労苦を科し、又は上告人の有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない。. - 右判決は憲法第19条に反しない。 - 謝罪広告を命ずる判決と強制執行 - 名誉回復並びに損害賠償請求(最高裁判決 昭和41年4月21日)日本国憲法第19条,日本国憲法第21条1項 - 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決の合憲性 - 新聞紙に謝罪広告を掲載することを命ずる判決は、その広告の内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものにあつては、憲法第19条に違反しないことは当裁判所の大法廷の判決(項番1)の示すところであり、右のごとき判決が憲法第21条第1項に違反しないことは、右判決の趣旨に徴して明らかである(注、本件は新聞紙の発行人に対するものを含み、代替執行できない点が前記大法廷判決と異なることに留意のこと)。 - 委嘱状不法発送謝罪請求(最高裁判決 昭和45年12月18日) - 民法723条にいう名誉の意義 - 民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解すべきである。 - 反論文掲載(最高裁判決 昭和62年4月24日)日本国憲法第21条,民法第1条,民法第709条,民法第710条,刑法第230条ノ2 - 人格権又は条理を根拠とするいわゆる反論文掲載請求権の成否 - 新聞記事に取り上げられた者は、当該新聞紙を発行する者に対し、その記事の掲載により名誉毀損の不法行為が成立するかどうかとは無関係に、人格権又は条理を根拠として、右記事に対する自己の反論文を当該新聞紙に無修正かつ無料で掲載することを求めることはできない。 - 訂正放送等請求事件(最高裁判決 平成16年11月25日)放送法第4条 - 放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等が放送法4条1項の規定に基づく訂正又は取消しの放送を求める私法上の権利の有無 - 放送事業者がした真実でない事項の放送により権利の侵害を受けた本人等は,放送事業者に対し,放送法4条1項の規定に基づく訂正又は取消しの放送を求める私法上の権利を有しない。
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条文 (不法行為による損害賠償請求権の消滅時効) - 第724条 - 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 - 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。 - 不法行為の時から20年間行使しないとき。 改正経緯 2017年改正において、時効制度の整理が図られたことに伴い、以下の条項から改正。 (不法行為による損害賠償請求権の期間の制限) - 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。 解説 要件 「損害及び加害者を知った時」の意義 - 時効の起算点を意味している。 損害の了知 - 不法行為により損害を受けたことを認識した時点で足り、具体的な損害額を認識した時点であることを要さないと解されている(最判平成14年1月29日民集56-1-218)。 加害者の了知 - 加害者の住所氏名を的確に知り、損害賠償請求が事実上可能になった時点であると解されている(最判昭和48年11月16日民集27-10-1374)。 継続的不法行為 「3年間」の意義 「20年」の意義 参照条文 判例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和42年07月18日) - 不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行しないとされた事例 - 不法行為によつて受傷した被害者が、その受傷について、相当期間経過後に、受傷当時には医学的に通常予想しえなかつた治療が必要となり、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたつた等原審認定の事実関係のもとにおいては、後日その治療を受けるまでは、右治療に要した費用について民法第724条の消滅時効は進行しない。 - 損害賠償請求、同附帯控訴(最高裁判決 昭和43年06月27日)民法第147条1号、国家賠償法第1条、国家賠償法第4条 - 民法第724条の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」にあたるとされた事例 - 登記官吏の過失により虚偽の所有権移転登記がされ、これを信頼して土地を買い受け、その地上に建物を建築したものが、右事実関係を知り自己が右土地の所有権を取得しえないことを知つたときは、その時に、右建物を収去することによつて生ずる損害についてもその損害および加害者を知つたものと解するのが相当である。 - 一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴を提起した場合と右残部についての消滅時効中断の効力 - 不法行為に基づく損害賠償債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴を提起した場合、訴提起による消滅時効中断の効力はその一部の範囲においてのみ生じ、残部には及ばないと解するのが相当である。 - 民法第724条の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」にあたるとされた事例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和44年11月27日)民法第715条 - 使用者責任と民法724条の加害者を知ることの意義 - 使用者責任において民法724条の加害者を知るとは、被害者が、使用者ならびに使用者と不法行為者との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が使用者の事業の執行につきなされたものであると判断するに足りる事実をも認識することをいうと解するのが相当である。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和45年06月19日) - 不法行為による弁護士費用の損害賠償請求権の消滅時効が当該報酬の支払契約をした時から進行するものとされた事例 - 不法行為の被害者が弁護士に対し損害賠償請求の訴を提起することを委任し、成功時に成功額の一割五分の割合による報酬金を支払う旨の契約を締結した場合には、右契約の時が民法724条にいう損害を知つた時にあたり、その時から右請求権の消滅時効が進行するものと解して妨げがない。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和48年11月16日) - 民法724条にいう「加害者ヲ知りタル時」の認定事例 - 被疑者として逮捕されている間に警察官から不法行為を受けた被害者が、当時加害者の姓、職業、容貌を知つてはいたものの、その名や住所を知らず、引き続き身柄拘束のまま取調、起訴、有罪の裁判およびその執行を受け、釈放されたのちも判示の事情で加害者の名や住所を知ることが困難であつたような場合には、その後、被害者において加害者の氏名、住所を確認するに至つた時をもつて、民法724条にいう「加害者ヲ知りタル時」というべきである。 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和49年12月17日)民法第167条1項、商法第266条の3第1項 - 商法266条の3第1項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権(現会社法第429条に相当)の消滅時効期間 - 商法266条の3第1項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は10年と解すべきである。 - 最高裁の判断 - 民法724条が短期消滅時効を設けた趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に、予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるため、加害者は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場におかれるので、被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには、損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護することにあると解される。 - 最高裁の判断 - 損害賠償(最高裁判決 昭和58年11月11日) - 民法724条にいう「加害者ヲ知リタル時」の認定事例 - 交通事故の被害者が、加害者として取調べを受けたうえ業務上過失致死傷罪で起訴され、一審で有罪判決を受けたものの二審で無罪判決を受け、同判決が確定したなど、原判示の事情のもとにおいては、被害者に対する右無罪判決が確定した時をもつて、民法724条にいう「加害者ヲ知リタル時」というべきである。 - 国家賠償(最高裁判決 平成元年12月21日) - 民法724条後段の法意 - 民法724条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものである。(→2017年法改正により、時効の範疇とされたため、本判例は適用されない。) - 損害賠償(最高裁判決 平成6年01月20日) - 夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権の消滅時効の起算点 - 夫婦の一方の配偶者が他方の配偶者と第三者との同せいにより第三者に対して取得する慰謝料請求権については、一方の配偶者が右の同せい関係を知った時から、それまでの間の慰謝料請求権の消滅時効が進行する。 - 損害賠償(最高裁判決 平成10年06月12日)民法第158条 - 不法行為を原因として心神喪失の常況にある被害者の損害賠償請求権と民法724条後段の除斥期間(→2017年法改正により、時効の範疇とされ、本判例は条文に取り込まれた。) - 不法行為の被害者が不法行為の時から20年を経過する前6箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から6箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法第158条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じない。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成14年01月29日) - 民法724条にいう被害者が損害を知った時の意義 - 民法724条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。 - 原審における以下の判断を覆す。 - 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味するものと解するのが相当であり、被害者に現実の認識が欠けていても、その立場、知識、能力などから、わずかな努力によって損害や加害者を容易に認識し得るような状況にある場合には、その段階で、損害及び加害者を知ったものと解するのが短期消滅時効の起算点に関する特則を設けた同条の趣旨にかなう。 - 最高裁の判断 - 民法724条の短期消滅時効の趣旨は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うか等が不明である結果、極めて不安定な立場に置かれる加害者の法的地位を安定させ、加害者を保護することにあるが(上記項番6判例参照),それも,飽くまで被害者が不法行為による損害の発生及び加害者を現実に認識しながら3年間も放置していた場合に加害者の法的地位の安定を図ろうとしているものにすぎず、それ以上に加害者を保護しようという趣旨ではない。 - 原審における以下の判断を覆す。 - 損害賠償、民訴法第260条2項による仮執行の原状回復請求事件(最高裁判決 平成16年04月27日)国家賠償法第1条1項、鉱山保安法第1条、鉱山保安法第4条、鉱山保安法(昭和37年法第律第105号による改正前のもの)30条、じん肺法(昭和52年法律第76号による改正前のもの)2条1項1号,石炭鉱山保安規則(昭和61年通商産業省令第74号による改正前のもの)284条の2 - 通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例 - 炭鉱で粉じん作業に従事した労働者が粉じんの吸入によりじん肺にり患した場合において、炭鉱労働者のじん肺り患の深刻な実情及びじん肺に関する医学的知見の変遷を踏まえて、じん肺を炭じん等の鉱物性粉じんの吸入によって生じたものを広く含むものとして定義し、これを施策の対象とするじん肺法が成立したこと、そのころまでには、さく岩機の湿式型化によりじん肺の発生の原因となる粉じんの発生を著しく抑制することができるとの工学的知見が明らかとなっており、金属鉱山と同様に、すべての石炭鉱山におけるさく岩機の湿式型化を図ることに特段の障害はなかったのに、同法成立の時までに、鉱山保安法に基づく省令の改正を行わず、さく岩機の湿式型化等を一般的な保安規制とはしなかったことなど判示の事実関係の下では、じん肺法が成立した後、通商産業大臣が鉱山保安法に基づく省令改正権限等の保安規制の権限を直ちに行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 - 加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合における民法724条後段所定の除斥期間の起算点 - 民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する。 - 通商産業大臣が石炭鉱山におけるじん肺発生防止のための鉱山保安法上の保安規制の権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成17年11月21日)民法第166条1項、旧・商法第798条1項 - 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効の起算点 - 船舶の衝突によって生じた損害賠償請求権の消滅時効は、民法724条により,被害者が損害及び加害者を知った時から進行する。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成18年06月16日) - 乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染しB型肝炎を発症したことによる損害につきB型肝炎を発症した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となるとされた事例 - 乳幼児期に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染したX4及びX5がB型肝炎を発症したことによる損害については,(1)乳幼児期にB型肝炎ウイルスに感染し,持続感染者となった場合,HBe抗原陽性からHBe抗体陽性への変換(セロコンバージョン)が起きることなく成人期に入ると,肝炎を発症することがあること,(2)X4は,昭和26年5月生まれで,同年9月〜昭和33年3月に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染し,昭和59年9月ころ,B型肝炎と診断されたこと,(3)X5は,昭和36年7月生まれで,昭和37年1月〜昭和42年10月に受けた集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染し,昭和61年10月,B型肝炎と診断されたことなど判示の事情の下においては,上記集団予防接種等(加害行為)の時ではなく,B型肝炎の発症(損害の発生)の時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる。 - 損害賠償請求事件(最高裁判決 平成21年04月28日)民法第160条(→2017年法改正により、時効の範疇とされ、本判例は条文に取り込まれた。) - 被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出したため相続人がその事実を知ることができなかった場合における上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権と民法724条後段の除斥期間 - 被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じない。
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民法第725条 条文 (親族の範囲) 解説 - 「親族」の範囲を法定する規定である。戦後の民法改正においても明治民法の規定がそのまま受け継がれている。 - 民法のみならず、たとえば刑法の親族相盗例などの要件の解釈にも用いられる。 - この親族の範囲は法定された範囲でのみ認められるものである。例えば「勘当」などは法律上の効力を持たない。そのため、「親等」の数え方や、「血族」、「配偶者」、「姻族」の解釈が問題になる。また、「血族」は、養子縁組により親族となった「法定血族」も含まれ、その場合も6親等以内にあたる者、つまり、養親の5親等以内の血族が親族に該当する。 関連条文 参考 旧民法同条も同旨 - 左ニ掲ケタル者ハ之ヲ親族トス - 六親等内ノ血族 - 配偶者 - 三親等内ノ姻族
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条文 (親等の計算) - 第726条 - 親等は、親族間の世代数を数えて、これを定める。 - 傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。 解説 - 「親等」の数え方を定めた規定である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定がそのまま受け継がれている。 - 親族の範囲を確定するために必要な規定である(民法第725条参照)。 - 親等が問題になる民法上の規定としては、近親婚の禁止(民法第734条)、扶養義務(民法第877条)などがある。 関連条文 - 民法第725条(親族の範囲) 参考 旧民法同条も同旨 - 親等ハ親族間ノ世数ヲ算シテ之ヲ定ム - 傍系親ノ親等ヲ定ムルニハ其一人又ハ其配偶者ヨリ同始祖ニ遡リ其始祖ヨリ他ノ一人ニ下ルマテノ世数ニ依ル
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条文 - 第727条 - 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。 解説 - 養子縁組による親子関係が発生した際の、養子本人と「養親及びその(養親の)血族」間における親族関係の発生につき規定している。戦後の民法改正においても、明治民法の規定がそのまま受け継がれている。本条により、例えば、養親の実父は養子にとって、祖父(二親等の直系血族)となることを意味する。また逆に、例えば、自身の祖父母を養親として縁組した養子は、自身にとっておじ・おば(三親等の傍系血族)となるように、自身の血族の養子となった者も自身の親族となる。 - 一方、「養子の親族」と養親の関係については法律に規定はない。養子制度の趣旨として、養子の尊属までを親族の範囲に含めるものでないのは自明であると思われ、判例においても認められている(大審院決定大正13年7月28日)。一方、卑属については、養子縁組以前に生まれた直系卑属との間には、親族関係を生じないものとされている(大審院判決昭和7年5月11日)。 - 養子縁組そのものの効果については、民法第809条、民法第810条を参照。 参照条文 参考 明治民法同条も同旨 - 養子ト養親及ヒ其血族トノ間ニ於テハ養子縁組ノ日ヨリ血族間ニ於ケルト同一ノ親族関係ヲ生ス
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民法第728条 条文 (離婚等による姻族関係の終了) - 第728条 - 姻族関係は、離婚によって終了する。 - 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。 解説 - 姻族関係の終了原因について規定している。 - 「三親等内の姻族」に親族関係が発生することは民法第725条3号に規定があるが、姻族関係が終了すると、左の規定により発生していた親族関係も終了する。 - 明治民法においては、第729条において定める。ただし、「生存配偶者が姻族関係を終了させる意思の表示」に代えて、「家を去る」という概念が用いられている。 生存配偶者が姻族関係を終了させる意思の表示 この手続きは、以下のとおり戸籍法に定められている。 - 戸籍法第96条 - 民法第728条第2項の規定によつて姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。 参照条文 参考 明治民法において本条には以下の規定があった。 - 継父母ト継子ト又嫡母ト庶子トノ間ニ於テハ親子間ニ於ケルト同一ノ親族関係ヲ生ス - 現行民法においては、継親子、嫡母庶子関係(妻と婚外子の関係)は、当然に親族関係を構成しない。
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- 平成18年6月2日 法律50号(施行:平20年12月1日)により削除 条文 (残余財産の帰属) - 第72条 - 解散した法人の財産は、定款又は寄附行為で指定した者に帰属する。 - 定款又は寄附行為で権利の帰属すべき者を指定せず、又はその者を指定する方法を定めなかったときは、理事は、主務官庁の許可を得て、その法人の目的に類似する目的のために、その財産を処分することができる。ただし、社団法人にあっては、総会の決議を経なければならない。 - 前二項の規定により処分されない財産は、国庫に帰属する。 解説 参照条文 後継となる法令は以下のとおり。 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第239条 - 残余財産の帰属は、定款で定めるところによる。 - 前項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、その帰属は、清算法人の社員総会又は評議員会の決議によって定める。 - 前二項の規定により帰属が定まらない残余財産は、国庫に帰属する。 判例 - 債務仮差押(昭和32年11月14日)(最高裁判所判例集)
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民法第730条 条文 (親族間の扶け合い) - 第730条 - 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない。 解説 参照条文 参考 明治民法において本条には以下の規定があり、概ね民法第729条に継承された。 - 養子ト養親及ヒ其血族トノ親族関係ハ離縁ニ因リテ止ム - 養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者及ヒ其実方ノ血族ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム - 養子ノ配偶者、直系卑属又ハ其配偶者カ養子ノ離縁ニ因リテ之ト共ニ養家ヲ去リタルトキハ其者ト養親及ヒ其血族トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム - 「養親カ養家ヲ去リタルトキ」とは(一般に「去家」と言った)、「養親自身が婚姻または養子縁組によつてその家に入つた者である場合に、その養親が養家を去つたときの意と解すべき」とされる(最高裁判決昭和43年7月16日)
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条文 (婚姻適齢) - 第731条 - 婚姻は、18歳にならなければ、することができない。 改正経緯 2018年改正(平成30年法律第59号による改正)により、以下の条項から改正。なお、施行は2022年(令和4年←改正法:平成34年)4月1日である。 - 男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない。 - 明治民法においては、第765条において、男17歳・女15歳と規定されていた。又、第4条は「年齢二十歳をもって、成年とする。」と定めていたため、「未成年婚姻」という状況は発生しえ、その場合、父母等の同意が必要とされ(第737条)、未成年者は婚姻により成年と見做された(成年擬制 第753条)。2018年改正により、婚姻は、当事者の合意のみにより成立することとなり、又、成年となる年齢と婚姻適齢が一致したため、成年擬制は廃止されることとなった。 経過措置 2018年改正(平成30年法律第59号による改正)により、女の婚姻適齢が16歳から18歳に引き上げられたことを受けて民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)[1]によって経過措置が講じられた。同法附則第3条2項は「この法律の施行の際に十六歳以上十八歳未満の女は、新法第七百三十一条の規定にかかわらず、婚姻をすることができる。」、同条3項は「前項の規定による婚姻については、旧法第七百三十七条、第七百四十条(旧法第七百四十一条において準用する場合を含む。)及び第七百五十三条の規定は、なおその効力を有する。」と定めている。そのため、施行日である2022年(令和4年)4月1日時点で16歳以上18歳未満の女は、父母の同意を得ることで婚姻が可能であり、婚姻した際に未成年者は成年擬制がされる。 解説 法律上の婚姻適齢について定めた規定である。この規定に反した婚姻は、取り消されることがある。 参照条文 参考 明治憲法において、本条には以下の規定があった。 - 第七百二十九条第二項及ヒ前条第二項ノ規定ハ本家相続、分家及ヒ廃絶家再興ノ場合ニハ之ヲ適用セス - 「家ヲ去リタルトキ(去家)」により親族関係は消滅するが、「本家相続」・「分家」・「廃絶家再興」にあっては、これを適用しない。 脚注 - ^ https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_0021144.html 民法の一部を改正する法律案(平成30年法律59号) 法務省 2022年5月14日閲覧
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条文 (重婚の禁止) - 第732条 - 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。 解説 重婚の禁止を定めた規定であり、本条に反してなされた婚姻は取り消しうる。ここでいう重婚の対象は、法律上の婚姻であって、いわゆる重婚的内縁は問題とならない。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(明治民法第766条)がそのまま受け継がれている。 法律婚は戸籍制度に裏打ちされているので、既に配偶者のあるものが、別の相手との婚姻届を提出するだけでは、外見的であっても婚姻が成立することはなく、ありうるとすれば、戸籍事務の過誤や、前婚が虚偽の離婚届け等により解消されその間隙に婚姻届が受理された場合(前婚の離婚は無効なので依然として婚姻状態にある)など、きわめて、稀なケースである。 当事者の一方が日本以外の法に服する国際結婚については国際私法において解決すべき事案であって、法の適用に関する通則法第24条による。国際結婚に関して婚姻の成立は当事者双方が適法であることを、満たしていなければならない要件(双方的要件)であり、婚姻の成立には双方の本国法で当事者の一方の本国法が重婚を禁止している場合は、相手方の本国法上、重婚が許されていても、重婚は認められない。したがって、外国法に服する一方の当事者が、その本国法において、別の相手方と婚姻しているという法律関係が認められる場合、重婚となる。 関連条文 判例 - 婚姻取消 (最高裁判決 昭和57年09月28日)民法第744条、民法第749条 - 重婚における後婚の離婚による解消と後婚の取消の訴えの許否 - 重婚において、後婚が離婚によつて解消された場合には、特段の事情のない限り、後婚の取消を請求することは許されない。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス - 戸主ノ変更アリタル場合ニ於テハ旧戸主及ヒ其家族ハ新戸主ノ家族トス - 「家ニ在ル」;同一の戸籍にある
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条文 (再婚禁止期間) - 第733条 - 女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して100日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。 - 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。 - 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合 - 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合 改正経緯 2016年6月7日改正、即日施行。改正前の条項は以下のとおり。改正理由等は「解説」参照。 - 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。 - 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。 解説 女子の再婚禁止期間を定めた規定。明治民法の規定(旧・民法第767条)を戦後の民法改正において、そのまま継承した。女性のみに課される制限であって、日本国憲法第24条の両性の本質的平等に抵触するという指摘もあるが、本条の立法趣旨は「父性推定の重複を回避し父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあ」り、合理的な根拠に基づく法的取扱いの区別であって憲法に反するものではない旨確認されている(最判平成7.12.5 判時1563.81「平成7年判決」)。事実としては、戸籍上の夫婦関係があっても妻の性的生活がこれに拘束されるものではない一方で、現代においては、DNA鑑定など、状況の判断によらず確定的に父子関係を確定する手段もあるため、必ずしも女性に対する再婚の禁止によって父性の推定の重複を回避する必要性はないという指摘も強い。しかしながら、子の立場からは、父を確定するのに訴訟を待つという不安定な状態は好ましくないため、最高裁判所は依然本条項及び後述する民法第772条の合理性を認めている(最判平成27.12.16 民集69-8-2427 「平成27年判決」)。 しかしながら、本条の立法趣旨が「父性の推定の重複の回避」であるならば、明治民法以来の再婚制限期間は6ヶ月と、父性の推定を定めた民法第772条第2項における、「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」との定めは矛盾することとなる。なぜならば、婚姻を解消した夫(以下、「前夫」)については、「婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」が適用され、新たに婚姻した夫(以下、「後夫」)について「婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」を適用すると、前夫との離別後100日を経過せずに後夫と婚姻関係になることにより、「前夫の父性推定」と「後夫の父性推定」が重複し、立法趣旨である「父性の推定の重複の回避」が奏功しないこととなる。これを鑑み、2015年12月16日、最高裁判所大法廷は、再婚禁止期間の内、100日を超える部分について憲法違反であるとの判決を下した(平成25(オ)1079)。2016年6月7日、最高裁判決を受け、再婚禁止期間を6箇月から100日に短縮し、さらに重複が推定されない場合(①前婚の解消時に妊娠していない場合-制限の意味がない、②前婚解消後出産した場合-「前夫の父性推定」が確定する)には即時に再婚可能とした改正が行われ、同日施行された。 参照条文 判例 本節は憲法解釈の変遷として記載する。 - 損害賠償(最高裁判決平成7年12月5日 判時1563.81 「平成7年判決」)民法733条,国家賠償法1条1項,憲法14条1項 - 再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法733条は憲法14条1項に違反するか - 民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される以上、合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反するものではない。 - 再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法733条を改廃しない国会ないし国会議員の行為と国家賠償責任の有無 - 再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法733条を改廃しない国会ないし国会議員の行為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではない。 - 再婚禁止期間について男女間に差異を設ける民法733条は憲法14条1項に違反するか - 損害賠償請求事件(最高裁大法廷判決平成27年12月16日 「平成27年判決」)憲法14条1項,憲法24条,民法733条,民法772条,国家賠償法1条1項 - 民法733条1項の規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分と憲法14条1項、24条2項 - 民法733条1項の規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は憲法14条1項、24条2項に違反しない。 - 民法733条1項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分と憲法14条1項、24条2項 - 民法733条1項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分は,平成20年当時において、憲法14条1項、24条2項に違反するに至っていた。 - 立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける場合 - 法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがある。 - 国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないとされた事例 - 平成20年当時において国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことは, - 同項の規定のうち100日を超えて再婚禁止期間を設ける部分が合理性を欠くに至ったのが昭和22年民法改正後の医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等によるものであり, - 平成7年には国会が同条を改廃しなかったことにつき直ちにその立法不作為が違法となる例外的な場合に当たると解する余地のないことは明らかであるとの最高裁判所第三小法廷の判断が示され, - その後も上記部分について違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかった - など判示の事情の下では,上記部分が違憲であることが国会にとって明白であったということは困難であり,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。 - 平成20年当時において国会が民法733条1項の規定を改廃する立法措置をとらなかったことは, - 民法733条1項の規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分と憲法14条1項、24条2項 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 子ハ父ノ家ニ入ル - 父ノ知レサル子ハ母ノ家ニ入ル - 父母共ニ知レサル子ハ一家ヲ創立ス - 「家」;戸籍
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条文 (近親者間の婚姻の禁止) - 第734条 - 直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。ただし、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。 - 第817条の9の規定により親族関係が終了した後も、前項と同様とする。 解説 第1項は、戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第769条)をそのまま受け継がれている。 兄と妹、姉と弟、おばと甥、おじと姪は結婚できないが、父母や祖父母の養子、養親の実子等義理の関係であれば結婚できる。 参照条文 民法第744条(不適法な婚姻の取消し) 判例 - 遺族厚生年金不支給処分取消請求事件(最高裁判決 平成19年03月08日)厚生年金保険法第3条2項,厚生年金保険法第59条1項 - 厚生年金保険の被保険者であった叔父と内縁関係にあった姪が厚生年金保険法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たるとされた事例 - 厚生年金保険の被保険者であった叔父と姪との内縁関係が,叔父と先妻との子の養育を主たる動機として形成され,当初から反倫理的,反社会的な側面を有していたものとはいい難く,親戚間では抵抗感なく承認され,地域社会等においても公然と受け容れられ,叔父の死亡まで約42年間にわたり円満かつ安定的に継続したなど判示の事情の下では,近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという厚生年金保険法の目的を優先させるべき特段の事情が認められ,上記姪は同法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たる。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 父カ子ノ出生前ニ離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキハ前条第一項ノ規定ハ懐胎ノ始ニ遡リテ之ヲ適用ス - 前項ノ規定ハ父母カ共ニ其家ヲ去リタル場合ニハ之ヲ適用セス但母カ子ノ出生前ニ復籍ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
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民法第735条 条文 解説 戦後の民法改正においても、明治民法(旧・民法第770条)と同趣旨の規定を受け継いでいる。 例えば、前妻の母親と再婚する場合や、両親が離婚した後、父親に引き取られ、父親がその後二度再婚した場合、一人目の継母との結婚は認められない。 参照条文 民法第744条(不適法な婚姻の取消し) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 家族ノ庶子及ヒ私生子ハ戸主ノ同意アルニ非サレハ其家ニ入ルコトヲ得ス - 庶子カ父ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ母ノ家ニ入ル - 私生子カ母ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ一家ヲ創立ス - 庶子-嫡出ではないが、父の認知を受けた子 - 私生子-婚姻外で生まれ父の認知を受けない子 なお、第2項及び第3項は昭和17年(1942年)、以下のとおり改正されている。 - 嫡出ニアラサル子カ父ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ母の家母ノ家ニ入ル。母ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ一家ヲ創立ス。
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条文 - 第737条 削除(平成30年法律第59号による改正 2022年4月1日施行) 改正経緯 - 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。 - 父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様とする。 - 改正前条項に関する解説 - 未成年者の婚姻につき、原則として父母の同意を条件とする旨を定めた規定。明治民法においては、旧・民法第772条で未成年者に限らず男性は30歳、女性は25歳に達するまでは父母の同意を必要とし、父母を欠く未成年者については後見人等の合意を要した。さらに、戸主の同意が必要で、これを欠くと当該戸主の戸籍から除外された(旧・民法第750条)。 - 日本国憲法第24条により、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と定められたことにより、原則として、婚姻当事者以外の同意は婚姻の成立について不要になったが、本条項は未熟な判断から未成年者を保護するものとして認められていた。ただし、それを欠いた婚姻の届出が受理された場合であっても[1]、無効の原因はなく、第744条に列挙する取り消しうる不適法な婚姻に含まれていないため、取消すことはできない。 - 同意は父母の専属的権限であり、父母が死亡している場合(父母の双方が、行方不明、意思を表示できないときも同様)などに選任される未成年後見人には同意する権限がなく、未成年後見人の同意なしに婚姻できる。 - また家庭裁判所の許可も不要である[2]。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主ノ親族ニシテ他家ニ在ル者ハ戸主ノ同意ヲ得テ其家族ト為ルコトヲ得但其者カ他家ノ家族タルトキハ其家ノ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス - 前項ニ掲ケタル者カ未成年者ナルトキハ親権ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 脚注 - ^ 戸籍係が不注意で受理した場合の他、当事者が偽造した場合も含む。後者は、偽造者に、「有印私文書偽造罪(刑法第159条)」または「公正証書原本不実記載等の罪(刑法第157条)」が成立する可能性はあるが、届出の有効性は維持される。 - ^ 法務省通達 昭和23年5月8日民甲977号
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条文 (成年被後見人の婚姻) - 第738条 - 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。 解説 - 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第774条)がそのまま受け継がれ、成年後見制度の開始により現行の表記に改められた。 - 成年後見人には成年被後見人について広範な代理権と取消権を有するが、婚姻については一身専属権であり、なによりも本人の意思を尊重すべきであるから、成年後見人は代理権や取消権を行使できない。なお、婚姻の意思が成年被後見人の真意によるものか否かは別論であって、真意によるものではないと判断される場合、婚姻の無効(民法第742条)を適用しうる。 - 条文上は規定されていないが、勿論解釈により被保佐人、被補助人が婚姻をするには、その保佐人、補助人の同意を要しないとされる。 本条を準用する制度 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ其配偶者又ハ養親ノ親族ニ非サル自己ノ親族ヲ婚家又ハ養家ノ家族ト為サント欲スルトキハ前条ノ規定ニ依ル外其配偶者又ハ養親ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス - 婚家又ハ養家ヲ去リタル者カ其家ニ在ル自己ノ直系卑属ヲ自家ノ家族ト為サント欲スルトキ亦同シ
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条文 (婚姻の届出) - 第739条 - 婚姻は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 - 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。 解説 - 婚姻の成立について規定している。戦後の民法改正においても、明治民法と同趣旨の規定(旧・民法第775条)が受け継がれている。 - 日本国では形式婚主義を採用していて、婚姻を成立させるには戸籍法所定の要件を満たした届け出をしなければいけない。 - 戸籍法第25条以下に届け出に関し、具体的に手続きが定められている。本条第2項は口頭の届出を認めるが、戸籍法第28条によれば「やむを得ない事情」があるときしか口頭での届出は認められない。 本条を準用する制度 参照条文 判例 - 婚姻届受理後に当該受理を争う例は少ないが、準用する協議離婚や養子縁組・離縁について受理後の届出の効果に関する判例は散見される。民法第764条#判例、民法第799条#判例を参照。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、戸籍法第19条に継承された(効果は異なる)。 - 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者ハ離婚又ハ離縁ノ場合ニ於テ実家ニ復籍ス
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条文 (婚姻の届出の受理) 改正経緯 2022年改正 令和4年法律第102号による改正により、第733条(再婚禁止期間)が削除されるため、以下のとおり改正される(2024年(令和6年)4月1日施行)。 2018年改正 平成30年法律第59号による改正により、第737条(未成年者の婚姻についての父母の同意)が削除され、以下のように変更 解説 - 婚姻の届出(前条)の受理に以下の無効要件がないことを確認する義務があることを規定。明治民法第776条を継承。いずれも無効要件であるので、離婚と異なり、過誤などにより違反して受理されても、婚姻の効力が発生するものではない。 - 民法第765条第2項 - 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない。 - 民法第765条第2項 - 民法第731条(婚姻適齢) - 民法第732条(重婚の禁止) - 民法第733条(再婚禁止期間) - 民法第734条(近親婚の禁止) - 民法第735条(直系姻族間の婚姻の禁止) - 民法第736条(養親子間の婚姻の禁止) 関連条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 前条ノ規定ニ依リテ実家ニ復籍スヘキ者カ実家ノ廃絶ニ因リテ復籍ヲ為スコト能ハサルトキハ一家ヲ創立ス但実家ヲ再興スルコトヲ妨ケス
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条文 (外国に在る日本人間の婚姻の方式) - 第741条 - 外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては、前二条の規定を準用する。 解説 外国における日本人間の婚姻の届出の方式を定めた条文である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第777条)がそのまま受け継がれている。 関連条文 - 戸籍法第40条 - 外国に在る日本人は、この法律の規定に従つて、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。 - 戸籍法第42条 - 大使、公使又は領事は、前二条の規定によつて書類を受理したときは、遅滞なく、外務大臣を経由してこれを本人の本籍地の市町村長に送付しなければならない。 - 民法第801条(外国に在る日本人間の縁組の方式) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ更ニ婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ婚家又ハ養家及ヒ実家ノ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス - 前項ノ場合ニ於テ同意ヲ為ササリシ戸主ハ婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ復籍ヲ拒ムコトヲ得
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民法第743条 条文 (婚姻の取消し) 改正経緯 令和4年法律第102号による改正により、第746条(再婚禁止期間内にした婚姻の取消し)が削除されるため、以下のとおり改正される(2022年(令和6年)4月1日施行)。 解説 婚姻の取消手続きについて定める。「婚姻の無効(第742条)と異なり、取消しが成立するまで、婚姻は有効であり婚姻の効果が生じる。戦後の民法改正において、明治民法の規定(旧・民法第779条)が継承されたものではあるが、手続きは一部異なる。 要件 ※詳細は各条の解説を参照。 - 婚姻が取り消しうるものであること。 - 各当事者、各当事者の親族、検察官から、その取消し請求の訴えが家庭裁判所になされること。 効果 婚姻の効果が喪失するが、取消し請求の訴えの判決確定の日から将来に向かってのみその効力を生ずる(第748条1項)。詳細は同条の解説を参照。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 家族ハ戸主ノ同意アルトキハ他家ヲ相続シ、分家ヲ為シ又ハ廃絶シタル本家、分家、同家其他親族ノ家ヲ再興スルコトヲ得但未成年者ハ親権ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス
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条文 (不適法な婚姻の取消し) - 第744条 - 第731条から第736条までの規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。 - 第732条の規定に違反した婚姻については、前婚の配偶者も、その取消しを請求することができる。 改正経緯 2022年改正により第733条が廃止削除されたことにより、第2項を以下の条項から改正。 解説 第731条から第736条までに規定する婚姻障害のある婚姻の取消しの手続きについて定める。本条は旧・民法第780条を継承。 婚姻の取消しは、家庭裁判所に対する訴訟のみによる(形成訴訟)。 取消請求権者は以下のとおり。 - 婚姻の当事者 - 当事者の親族 - 検察官 - ただし、当事者の一方が死亡した場合、取消請求権を失う。反対解釈をすると、検察官以外は、当事者の一方が死亡した場合でも婚姻の取消しを請求することができる。しかしながら、婚姻の取消しは遡及効がないため、実効性については疑問。 - 重婚の場合の当事者の配偶者、 再婚禁止期間の婚姻における前配偶者 参照条文 - 民法第731条(婚姻適齢) - 民法第732条(重婚の禁止) 民法第733条(再婚禁止期間) - 民法第734条(近親者間の婚姻の禁止) - 民法第735条(直系姻族間の婚姻の禁止) - 民法第736条(養親子等の間の婚姻の禁止) 参考文献 - 泉久雄『親族法』85頁(有斐閣、1997年) 判例 - 婚姻取消 (最高裁判決 昭和57年09月28日)民法第732条、民法第749条 - 重婚における後婚の離婚による解消と後婚の取消の訴えの許否 - 重婚において、後婚が離婚によつて解消された場合には、特段の事情のない限り、後婚の取消を請求することは許されない。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 法定ノ推定家督相続人ハ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立スルコトヲ得ス但本家相続ノ必要アルトキハ此限ニ在ラス - 前項ノ規定ハ第七百五十条第二項ノ適用ヲ妨ケス
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民法第745条 条文 (不適齢者の婚姻の取消し) - 第745条 - 第731条の規定に違反した婚姻は、不適齢者が適齢に達したときは、その取消しを請求することができない。 - 不適齢者は、適齢に達した後、なお3箇月間は、その婚姻の取消しを請求することができる。ただし、適齢に達した後に追認をしたときは、この限りでない。 解説 婚姻適齢に達しない者の婚姻の取消しについて定める。婚姻不適齢者が婚姻適齢に達することにより、婚姻障害原因が消滅するためである。明治民法の規定(第781条)を継承する。 - 当事者が婚姻適齢に達した場合、不適齢者以外の者(不適齢者の配偶者をも含む)は婚姻の取消しを請求できない。 - 不適齢者自身は、適齢に達した後、3ヶ月間は取消権が留保される。ただし、その期間中に、婚姻を追認した場合は、取消権を喪失する。 なお、2018年に廃止された未成年者婚において父母の同意を欠く場合は、取消しうる婚姻ではないとされた。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 夫カ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立シタルトキハ妻ハ之ニ随ヒテ其家ニ入ル
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民法第746条 条文 (再婚禁止期間内にした婚姻の取消し) - 第746条 - 民法第733条の規定に違反した婚姻は、前婚の解消若しくは取消しの日から起算して100日を経過し、又は女が再婚後に出産したときは、その取消しを請求することができない。 改正経緯 2016年改正にて、以下の通り改正。改正理由等については、第733条・解説を参照。 - (改正前)前婚の解消若しくは取消しの日から起算して6箇月を経過し、 - (改正後)前婚の解消若しくは取消しの日から起算して100日を経過し、 解説 再婚禁止期間の立法趣旨は「父性の推定の重複の回避」であり(旧・第782条を継承)、その懸念がなくなった場合に取消しに意味はなくなる。従って、以下の場合には、取り消し得ない。 - 再婚禁止期間(100日間)を徒過したとき(第772条参照) - 女が再婚後出産したとき 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス
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民法第747条 条文 - 第747条 - 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 - 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後3箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。 解説 - 婚姻の取消手続きを定めた規定の一である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第785条)がそのまま受け継がれている。 - 客観的な婚姻障害と異なり、当事者の意思にかかる事項であるので、取消し請求権者は当事者のみであり、当事者の親族や検察官を含まない。また、詐欺の発見もしくは強迫状態から脱却した後3ヶ月を経過又は追認したときは、取消権は消滅する。 - 詐欺・強迫により形成された意思は「婚姻をする意思」であり、単に「婚姻を届け出る意思」ではない。詐欺・強迫により「婚姻をする意思」が形成されていない場合はそもそも無効である。 - 例えば、相手が保有する財産を横領することが目的で、夫婦としての生活の意思のない者が、詐欺により婚姻の届を出した場合(いわゆる「結婚詐欺」の一例)、騙された側は、詐欺により「婚姻をする意思」が形成されているが、騙した側には、そもそも「婚姻をする意思」はないので、この婚姻は「取消しうる」のではなく、「無効」であると言え、本条の期間や請求権者の制限を受けない。 - また、「強迫」により「婚姻をする意思」が形成されたならば、そもそも、真意によるものでないことが当事者に自覚できているのであるから、無効原因となりうる[1]。 本条を準用する制度 参照条文 - 民法第764条(婚姻の規定の準用) 脚注 - ^ 羽村省太郎 (1971年). “結婚の無効 : 強度の強迫による結婚無効の一事例の紹介”. 岡山理科大学紀要,7,29-39. 岡山理科大学. 2021年10月13日閲覧。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主ハ其家族ニ対シテ扶養ノ義務ヲ負フ
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民法第748条 条文 (婚姻の取消しの効力) - 第748条 - 婚姻の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。 - 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない。 - 婚姻の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う。 解説 婚姻の取消しの効力は、将来に向けてのみ生じ、過去(婚姻成立から取消しまで)に生じた法律関係に遡及しない旨を定める。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第787条)がそのまま受け継がれている。 - 期間中に生まれた子は嫡出子となり、取消し後も、それを理由として嫡出であることは否定されない。再婚禁止期間違反の場合、前婚解消後300日を経過しないうちに、後婚が成立して200日が経過する状態が発生しうるが、この期間中に出産された子は、前婚の夫又は後婚の夫の両方いずれかに対して嫡出の推定が働く。 - 取消しうる婚姻が取消されないうちに、当事者の一人が死亡した場合、もう一人の当事者は、相続における配偶者の地位を得る。重婚の場合は等位の相続者となる。 - 取消しうる婚姻を前提とした財産関係の変動は、不当利得の法理により清算される。第3項前段の規定は相手方の善意悪意にかかわらず適用される。相手方悪意の場合も婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならないことになる。 - その他、離婚の効果が準用される(詳細次条)。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス - 戸主又ハ家族ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ戸主ノ財産ト推定ス
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条文 (離婚の規定の準用) - 第749条 - 第728条第1項、第766条から第769条まで、第790条第1項ただし書並びに第819条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定は、婚姻の取消しについて準用する。 解説 婚姻の取消しは、離婚と類似する。そのため、従来の身分関係の処理をする離婚の規定が準用されている。戦後民法制定時に、家制度の廃止、夫婦・父母同権の思想から離婚時の取り扱いが大きく変わったのに伴い新設された。 - 準用のあてはめ - 姻族関係の終了(民法第728条第1項準用) - 姻族関係は、婚姻の取消しによって終了する。 - 子の監護に関する事項の定め等(民法第766条準用) - 父母の婚姻が取消されたときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。 - 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。 - 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。 - 復氏等(民法第767条準用) - 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、婚姻の取消しによって婚姻前の氏に復する。 - 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、婚姻の取消しの日から三箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、婚姻の取消しの際に称していた氏を称することができる。 - 財産分与(民法第768条準用) - 婚姻の取消しをした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。 - 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、婚姻の取消しの時から二年を経過したときは、この限りでない。 - 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。 - 復氏の際の権利の承継(民法第769条準用) - 婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条第1項の権利(系譜、祭具及び墳墓の所有権他祖先を祭祀する権利)を承継した後、婚姻の取消しをしたときは、当事者その他の利害関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。 - 子の氏(民法第790条第1項ただし書準用) - 子の出生前に父母の婚姻が取消されたときは、婚姻の取消しの際における父母の氏を称する。 - 子の親権者(民法第819条準用) - (第2項準用)婚姻の取消しの場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。 - (第3項準用)子の出生前に父母の婚姻が取消された場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。 - (第5項準用)前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。 - (第6項準用)子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる 関連条文 - 戸籍法第19条【離婚・離縁等による復氏者の籍】 判例 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 家族ハ戸主ノ意ニ反シテ其居所ヲ定ムルコトヲ得ス - 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ戸主ノ指定シタル居所ニ在ラサル間ハ戸主ハ之ニ対シテ扶養ノ義務ヲ免ル - 前項ノ場合ニ於テ戸主ハ相当ノ期間ヲ定メ其指定シタル場所ニ居所ヲ転スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ家族カ其催告ニ応セサルトキハ戸主ハ之ヲ離籍スルコトヲ得但其家族カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス
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民法第750条 条文 解説 民法上の氏の変更に関する規定の一つである。 夫婦同氏の原則を定めており、いわゆる選択的夫婦別氏制度は現行の民法では認められていないが、特定の社会的活動の場において通称として旧姓を利用することまで禁止する趣旨ではない。 旧民法では、結婚は妻が夫の家に入ること、という伝統的な考え方を反映して、妻が夫の氏を称する、と定められていたが(旧・民法第788条)、両性の本質的な平等(日本国憲法第24条)の成立後に改正され、上記のように改められている。 婚姻届には、夫婦の称する氏を記載しなければならない(戸籍法参照)。 なお、この条文には、結婚を期に新たに第三の氏を称することを禁止する意味もある。 現在、婚姻後も夫婦共に氏を変えない制度対応(夫婦別姓)を求める議論がなされている。なお、国際結婚においては別姓が認められている。 関連条文 - 民法第767条(離婚による復氏等) 判例 - 損害賠償請求事件(夫婦別姓を求めたもの 最高裁判決 平成27年12月16日 民集第69巻8号2586頁)憲法13条1項、憲法14条1項、憲法24条 - 民法750条と憲法13条 - 民法750条は憲法13条に違反しない。 - 氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり,一定の統一された基準に従って定められ,又は改められるとすることが不自然な取扱いとはいえないところ,氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる。以上のような現行の法制度の下における氏の性質等に鑑みると,婚姻の際に「氏の変更を強制されない自由」が憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとはいえない。 - 民法750条は憲法13条に違反しない。 - 民法750条と憲法14条1項 - 民法750条は憲法14条1項に違反しない。 - 本件規定は,夫婦が夫又は妻の氏を称するものとしており,夫婦がいずれの氏を称するかを夫婦となろうとする者の間の協議に委ねているのであって,その文言上性別に基づく法的な差別的取扱いを定めているわけではなく,本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではない。我が国において,夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても,それが,本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。 - 民法750条は憲法14条1項に違反しない。 - 民法750条と憲法24条 - 民法750条は憲法24条に違反しない。 - 氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下においても,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。 - 夫婦が同一の氏を称することは,家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義がある。夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすい。 - 本件規定の定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは,夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。 - 婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。しかし,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得る。 - 上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。 - 民法750条は憲法24条に違反しない。 - 民法750条と憲法13条 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』33頁、65頁、89-100頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス - 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得 - 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル
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民法第751条 条文 (生存配偶者の復氏等) - 第751条 解説 婚氏続称制度を構成する条文の一つである。戦後改正により新設された。明治民法において夫(婿養子の場合、妻)の死亡は妻(婿養子)の復姓の理由にはならず、「去家(旧・第729条)」を要した。 第2項は祭祀財産の承継者(民法第897条)が復氏した場合の祭祀財産等の帰趨に関しての規定である。 - 準用のあてはめ - 祭祀権の承継(民法第769条準用) 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』89-100頁、156頁-157頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主カ其権利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族会之ヲ行フ但戸主ニ対シテ親権ヲ行フ者又ハ其後見人アルトキハ此限ニ在ラス - 戸主が行為能力を失った場合 - 親権者又は後見者 - 親族会 - の順で、これを代理する。 - 戸主が行為能力を失った場合
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民法第752条 条文 (同居、協力及び扶助の義務) - 第752条 - 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。 解説 - 婚姻の効果である夫婦の同居義務、協力義務、扶助義務についての規定。明治民法第789条及び同第790条を継承する。 - 民法上は明記されていないが、夫婦間の基本的な義務として貞操義務もあると解されている。貞操義務違反(姦通、不貞行為)は離婚原因を構成し、不法行為にもなる判例1。 - 同居義務違反があった場合、同居請求がなしうる。請求の具体的な内容は夫婦間の協議、又は審判により定める。夫婦間の合意がある場合は別居も許される。 - 本条から夫婦の各当事者は、同居請求権を有するが、同居を命ずる審判があっても、直接強制も間接強制もなしえない。 - 協力義務と扶助義務については、両者を峻別して理解するのではなく、夫婦間であらゆる面において相互に連携して行う夫婦間の協力扶助義務と一括してとらえるのが普通である。この夫婦間の協力扶助義務は、一方向的な扶養義務とは異なり常に双方向的であることが特徴であるが、扶養義務と全く同様に自己と同程度の生活を対象者に保障することを要求する義務でもある。 - 婚姻費用との関係については、民法第760条を参照。 参照条文 判例 - 損害賠償請求(最高裁判決 昭和38年2月1日)民法第709条, 民法第710条 - 内縁関係を破綻させた第三者の不法行為の成否。 - 内縁の当事者でない者であつても、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させたものは、不法行為者として損害賠償の責任を負う。 - 内縁ですら、これを破綻させたものは不法行為を構成するのだから、法律婚においても当然不法行為となる。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』89-100頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には「普通隠居」の要件に関する以下の規定があった。 - 戸主ハ左ニ掲ケタル条件ノ具備スルニ非サレハ隠居ヲ為スコトヲ得ス - 満六十年以上ナルコト - 完全ノ能力ヲ有スル家督相続人カ相続ノ単純承認ヲ為スコト
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民法第753条 条文 - 第753条 削除(平成30年法律第59号による改正 2024年4月1日施行) 改正経緯 2018年改正により、成人年齢が18歳に引き下げられ、婚姻適齢が男女とも18歳に改正されたものが2022年4月1日に施行、2022年4月1日から2024年3月30日までの期間にこの条文が適用されるのは女性のみとなり、2024年3月31日にこの条文は削除となる。 (婚姻による成年擬制) - 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。 参照条文 - 民法第737条(未成年者の婚姻についての父母の同意) 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』89-100頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定「法定隠居」があった。 - 戸主カ疾病、本家ノ相続又ハ再興其他已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ爾後家政ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ前条ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ隠居ヲ為スコトヲ得但法定ノ推定家督相続人アラサルトキハ予メ家督相続人タルヘキ者ヲ定メ其承認ヲ得ルコトヲ要ス
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民法第754条 条文 - 第754条 - 夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 解説 夫婦生活の自主性を尊重し、国家からの干渉を最小限度にとどめることを宣言した規定と理解されている。 フランス民法の1096条1項が母法であると目されており、明治民法第792条に継承されたものであるが、母法においては贈与契約の自由な撤回を規定するにとどまるに対し、日本民法においては夫婦間の契約一般にその範囲が拡張されているのが特徴である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定がそのまま受け継がれている。 夫婦間での取消権の濫用に対処するため、婚姻関係が実質的に破綻している場合など、一定の事由が存在する場合は、取消し権の行使が制約されるとするのが判例である。弊害が大きいため、立法論としても、削除論が優勢である。 参照条文 判例 - 山林所有権移転登記手続履行請求(最高裁判決 昭和42年02月02日) - 「婚姻中」とは、単に形式的に婚姻が継続しているだけではなく、実質的にもそれが継続していることをいうものと解し、本条の適用を否定したもの。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』89-100頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 戸主カ婚姻ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ前条ノ規定ニ従ヒ隠居ヲ為スコトヲ得 - 戸主カ隠居ヲ為サスシテ婚姻ニ因リ他家ニ入ラント欲スル場合ニ於テ戸籍吏カ其届出ヲ受理シタルトキハ其戸主ハ婚姻ノ日ニ於テ隠居ヲ為シタルモノト看做ス
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民法第755条 条文 (夫婦の財産関係) 解説 本条から第762条までにおいて、婚姻による夫婦の財産関係について規律する。 比較法的には、婚姻関係が成立すると、夫婦の財産が原則として共有となる「夫婦共有制」や、明治民法のように原則として夫のみに帰属する制度(明治民法第798条から第807条まで、特に第801条参照)などがあるが、現代民法は、憲法第13条及び第24条第2項に基づき、夫婦各々に財産が属し、婚姻費用を各々で分担するという別産・別管理制が採用されている(法定財産制度 第762条)。 夫婦間において、婚姻費用の負担の取り扱いについて、婚姻の届出前の契約により法定財産制度を適用しないことも可能であり、これは「夫婦財産契約」と呼ばれ、明治民法にも存在する規定(旧・第793条)であるが、日本の婚姻慣習において馴染みがない制度であり、また、対抗要件を得るのに登記が必要であり、変更も許されないなど柔軟性に欠けることもあって締結される実例はきわめて少ない。 参照条文 - 民法第754条(夫婦間の契約の取消権) - 民法第756条(夫婦財産契約の対抗要件) - 民法第758条(夫婦の財産関係の変更の制限等) - 民法第759条(財産の管理者の変更及び共有財産の分割の対抗要件) - 民法第760条(婚姻費用の分担) - 民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任) - 民法第762条(夫婦間における財産の帰属) 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』101-121頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 女戸主ハ年齢ニ拘ハラス隠居ヲ為スコトヲ得 - 有夫ノ女戸主カ隠居ヲ為スニハ其夫ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但夫ハ正当ノ理由アルニ非サレハ其同意ヲ拒ムコトヲ得ス
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民法第756条 条文 - 第756条 - 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。 解説 夫婦財産契約の第三者対抗要件が登記であることを定めた規定である。明治民法第794条を継承。婚姻の届出までに登記をしておく必要がある。 登記は、夫婦となるべき当事者の氏を称するべき方の住所地の登記所で(外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律5条)、当事者双方が夫婦財産契約登記規則に定められた情報を提供して申請する(外国法人の登記及び夫婦財産契約の登記に関する法律7条、8条)ことでする。 夫婦財産契約登記件数は累計でも極めて少数である。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 無能力者カ隠居ヲ為スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス
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民法第758条 条文 (夫婦の財産関係の変更の制限等) - 第758条 - 夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。 - 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。 - 共有財産については、前項の請求とともに、その分割を請求することができる。 解説 原則として夫婦財産契約は一旦婚姻が成立したあとでは変更することができない(1項)。しかし、契約内に変更する方法を定めていた場合には、それに従って変更することができる(759条はこの変更ができることを前提としてる)。また、変更する方法を定めていない場合であっても、一方が他方の財産を管理している場合において、その管理が失当であったことによって、財産が危うくなったときには、家庭裁判所に自らその管理をすること請求することができる(2項)し、さらに共有財産の分割請求をもすることができる(3項)。 この請求により家事審判法に基づく審判がなされるが、この審判は訴訟性のあるもの(家事審判法第9条第1項乙類2号)に分類されており、調停を先に行わなければならないこととされている(家事審判法第17条、第18条)。 明治民法第796条を継承。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)45頁-66頁(山脇貞司執筆部分) - 泉久雄『親族法』101-121頁(1997年、有斐閣) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。 - 隠居者ノ親族及ヒ検事ハ隠居届出ノ日ヨリ三个月内ニ第七百五十二条又ハ第七百五十三条ノ規定ニ違反シタル隠居ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 - 女戸主カ第七百五十五条第二項ノ規定ニ違反シテ隠居ヲ為シタルトキハ夫ハ前項ノ期間内ニ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
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条文 (婚姻費用の分担) - 第760条 - 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。 解説 日本の民法において夫婦の財産関係は、別産・別管理制(第762条)が原則であり、配偶者の財産(資産・収入など)を一方の配偶者が自由に処分できるものではない。しかしながら、婚姻生活をするに際して、例えば、夫が勤め人で、妻が専業主婦の場合、夫が生活費を渡す場合であっても、妻が家計を管理する場合であっても、生活上の一般的な支出については、ことさらに、委任などの法律構成をとらず、また、扶養義務の履行等の形式にとらわれず、いずれの所有であるかなどを意識せずに消費することができる。 この費用の分担は、まず夫婦間の合意により決められ、明示がなければ収入など夫婦の生活態様に応じて分担されるものとされる。さらに、その負担方法は、金銭の負担だけでなく、家事や育児の担当などの労働による負担によるものも含まれると解されている。婚姻生活に必要とされた応分の支出は相互に債権債務関係はなく、婚姻費用から購入した物品(家具・家電、乗用車など婚姻生活を維持するのに必要な物品)は、等分負担による一種の共有物と解される。従って、これらの物品は、離婚時等に負担額にかかわらず等分分割される。 婚姻費用の分担が問題となるのは、婚姻生活が破綻し離婚等にあって、分担により負担すべき費用が支出されていなかった場合であり、離婚後にあっても、財産分割とは別に請求権が独自に存続する(最高裁決定令和2年1月23日)。 なお、婚姻費用の分担について定めた明治民法第798条においては、妻が戸主である場合を除き、夫が負担するものとされていた。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。戸主制廃止に伴い廃止。 - 隠居ノ取消前ニ家督相続人ノ債権者ト為リタル者ハ其取消ニ因リテ戸主タル者ニ対シテ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得但家督相続人ニ対スル請求ヲ妨ケス - 債権者カ債権取得ノ当時隠居取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタルトキハ家督相続人ニ対シテノミ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得家督相続人カ家督相続前ヨリ負担セル債務及ヒ其一身ニ専属スル債務ニ付キ亦同シ
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条文 (日常の家事に関する債務の連帯責任) - 第761条 - 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。 解説 前条の「婚姻費用は夫婦で分担される」 趣旨に従い、『日常の家事』に関する法律行為については夫婦が連帯責任を負う旨を定めた。即ち、『日常の家事』に関する法律行為については夫婦がの一方の行為について、もう一方が履行等の責任を負う。なお、明治民法第804条においては、日常の家事について妻は夫の代理人とみなすという構成によっていた。戦後改正においても、判例[判例 1]により夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解すべきとされている。 「日常の家事」の範囲 具体的問題となるのは、「日常の家事」の範囲であるが、判例[判例 1]においては、「個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべき」としている。 - 「日常の家事」の範囲とされるもの - 衣食に関する費用、家電製品・家具等の購入費用 - 移動等に用いる自家用車 - 医療費、交際費、娯楽費 - 夫婦の子の教育費ほか養育に関する費用 - 専ら居住に関する土地・家屋の賃貸費などの費用、持ち家等の改修費など。 - 「日常の家事」の範囲外とされるもの - 居住する家屋の住宅ローンなど(共有でない場合、所有権者である夫婦いずれかの債務であって、もう一方には及ばない) - 判例 代理の解釈 夫婦の一方が日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、判例[判例 1]は「その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法第110条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法110条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である」としている。 即ち、夫婦のいずれかを一方の当事者とする法律行為において当然に代理法理を援用すべきではなく、第三者に対して日常の家事に関する法律行為であると客観的に信じられる場合に限って権限踰越の表見代理は認められるべきであり、一般的に日常の家事の範囲外と観察される場合、表見代理の適用はない[判例 2][判例 3]。 参照条文 - 民法第110条(権限外の行為の表見代理) - 民法第752条(同居、協力及び扶助の義務) - 民法第754条(夫婦間の契約の取消権) - 民法第755条(夫婦の財産関係) - 民法第760条(婚姻費用の分担) - 民法第762条(夫婦間における財産の帰属) 判例 - ^ 1.0 1.1 1.2 土地建物所有権移転登記抹消登記手続請求 (最高裁判決 昭和44年12月18日) - ^ 2.0 2.1 最高裁判決 昭和43年7月19日 判時528.35 - ^ 3.0 3.1 貸金請求 (最高裁判決 昭和45年2月27日) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。戸主制廃止に伴い削除廃止。 - 隠居又ハ入夫婚姻ニ因ル戸主権ノ喪失ハ前戸主又ハ家督相続人ヨリ前戸主ノ債権者及ヒ債務者ニ其通知ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ其債権者及ヒ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス
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条文 (夫婦間における財産の帰属) - 第762条 - 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。 - 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。 解説 - 夫婦の財産のあり方を法定した規定(法定財産制度)の一つである。 - 夫婦であるといっても、それぞれが独立した個人であるから、婚姻前から有する財産や、婚姻中であっても自己の名で得た財産は、それぞれの単独名義の財産(特有財産)となる。しかし、夫婦は共通した生計のもと共同生活を営む(民法第752条)ため、ある財産がどちらに属するか判明しない場合もある。その場合は、夫婦の共有に属するものと推定されることになる。 - 明治民法においても、第807条において、「妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財産及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス」と定められ、単独で所有する「特有財産」とされた。なお、帰属の不分明な財産は家に属するものとされた。 - 「自己の名で得た財産」の解釈については、以下の判例等を参考。 参照条文 - 民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任) 判例 - 土地所有権移転登記手続請求(最高裁判決 昭和34年07月14日) - 登記簿上の所有名義人と特有財産。 - 夫婦間の合意で、夫の買い入れた土地の登記簿上の所有名義人を妻としただけでは、土地を妻の特有財産と解すべきではない。 - 所得税審査決定取消事件(最高裁判決 昭和36年9月6日)憲法24条,所得税法1条1項,所得税法9条本文 - 民法第762条第1項の憲法第24条適否。 - 民法第762条第1項は憲法第24条に違反しない。 - 憲法24条の法意は、民主主義の基本原理である個人の尊厳と両性の本質的平等の原則を婚姻および家族の関係について定めたものであり、男女両性は本質的に平等であるから、夫と妻との間に、夫たり妻たるの故をもつて権利の享有に不平等な扱いをすることを禁じたものであつて、結局、継続的な夫婦関係を全体として観察した上で、婚姻関係における夫と妻とが実質上同等の権利を享有することを期待した趣旨の規定と解すべく、個々具体の法律関係において、常に必らず同一の権利を有すべきものであるというまでの要請を包含するものではない。 - 民法762条1項の規定をみると、夫婦の一方が婚姻中の自己の名で得た財産はその特有財産とすると定められ、この規定は夫と妻の双方に平等に適用されるものであるばかりでなく、所論のいうように夫婦は一心同体であり一の協力体であつて、配偶者の一方の財産取得に対しては他方が常に協力寄与するものであるとしても、民法には、別に財産分与請求権、相続権ないし扶養請求権等の権利が規定されており、右夫婦相互の協力、寄与に対しては、これらの権利を行使することにより、結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないよう立法上の配慮がなされている。 - 民法第762条第1項は憲法第24条に違反しない。 - 所得税法が夫婦の所得を合算切半して計算することにしていないことの憲法第24条適否。 - 所得税法が夫婦の所得を合算切半して計算することにしていないからといつて憲法第24条に違反しない。 - 民法第762条第1項の憲法第24条適否。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。戸主制廃止に伴い削除廃止。 - 新ニ家ヲ立テタル者ハ其家ヲ廃シテ他家ニ入ルコトヲ得 - 家督相続ニ因リテ戸主ト為リタル者ハ其家ヲ廃スルコトヲ得ス但本家ノ相続又ハ再興其他正当ノ事由ニ因リ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス
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条文 (協議上の離婚) - 第763条 - 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。 解説 - 日本の民法には離婚の方式として以下のものが定められている。 - 協議離婚(本条) - 調停離婚(家事事件手続法第244条、同法第268条 調停前置主義;同法第257条) - 審判離婚(家事事件手続法第284条・第285条・第286条・第287条) - 裁判離婚(民法第770条) - 本条においては、協議離婚について定める。 - 協議離婚の成立要件は、夫婦双方の離婚の合意を届け出ることのみである(離婚成立の形式的要件:民法第765条)。明治民法においては、第808条において、同旨に規定されていた。比較法的に、最も簡便な離婚成立要件とされ、離婚に際しての子の親権者の所在を除いて(民法第819条)、財産分割・財産分与や親権を有さない親による養育費の支払いなどについて合意していることも要件となっていないため、しばしば、離婚後の争いとなる。 - 離婚成立の実質的要件である離婚意思の解釈については争いがある。下記判例を参照。 関連条文 判例 - 離婚届出無効確認請求(最高裁判決 昭和34年08月07日)民法第742条、民法第764条、民法第802条 - 合意により協議離婚届書を作成した一方の当事者が、届出を相手方に委託した後、協議離婚を飜意し、右飜意を市役所戸籍係員に表示しており、相手方によつて届出がなされた当時、離婚の意思を有しないことが明確であるときは、相手方に対する飜意の表示または届出委託の解除の事実がなくとも、協議離婚届出が無効でないとはいえない。 - 離婚無効確認請求(最高裁判決 昭和38年11月28日)民法第764条、民法第739条 - 妻を戸主とする入夫婚姻をした夫婦が、事実上の婚姻関係は維持しつつ、単に、夫に戸主の地位を与えるための方便として、協議離婚の届出をした場合でも、両名が真に法律上の婚姻関係を解消する意思の合致に基づいてこれをしたものであるときは、右協議離婚は無効とはいえない。 参考 明治憲法において、本条には以下の規定があったが、家制度廃止に伴い削除。 - 戸主カ適法ニ廃家シテ他家ニ入リタルトキハ其家族モ亦其家ニ入ル
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条文 (離婚の届出の受理) - 第765条 - 離婚の届出は、その離婚が前条において準用する第739条第2項の規定及び第819条第1項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。 - 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離婚は、そのためにその効力を妨げられない。 解説 - 離婚の届出の際にも、婚姻の届出の際に必要な民法第739条2項の規定の様式を遵守することが要求される。また、民法第819条1項により、子の親権者を定めておくことが必要であり、市町村の戸籍係はこれを確認した上で届出を受理をする義務を負う(明治民法第811条を継承)。ただし、第1項の規定に違反して受理されても離婚の効力には影響はない。 - 第739条第2項(婚姻の届出) - 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。 - 民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者) - 第739条第2項(婚姻の届出) 参照条文 - 民法第763条(協議上の離婚) 参考 明治憲法において、本条には以下の規定があった。 - 男ハ満十七年女ハ満十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス - 婚姻適齢については、民法第731条に定める。
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条文 (離婚後の子の監護に関する事項の定め等) - 第766条 - 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。 - 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。 - 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。 改正経緯 2011年(平成23年)改正以前の条項は以下のものであったが、同改正により、子の監護について従来より詳細に取り決めをしておくこと、そして、「子の利益」が最も強調されるべき、等の事項が盛り込まれた。 - 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。 - 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。 - 前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。 解説 国会質疑 - 平成二十五年六月二十六日(水曜日)に行われた第183回国会 本会議においてみんなの党代表渡辺喜美衆議院議員より,民法766条について下記の質問がなされた。 - 「前回も伺いましたが、ハーグ条約については、安倍総理より、早期締結を目指す旨の答弁があり、これによって、国際的な子供の連れ去りは解決に向かうと期待されます。一方、国内においては、子供の連れ去り問題に対処するため、既に民法第七百六十六条が改正されました。しかし、その運用においては、法改正の趣旨が徹底されておりません。 - 離婚相談を受けた弁護士の中には、まず子供を連れ去れ、もう一方の親から引き離せ、虚偽でもDVの主張をしろと指導し、金もうけをする者がいると言われています。この背景には、既成事実を追認し、子供を連れ去った親に親権、監護権を与える裁判所の運用があります。拉致司法と国内外で批判される実態です。条約批准を機に、裁判官等に対し、改めて、国内の民法七百六十六条の立法趣旨の徹底を図るべきと考えますが、総理の御見解を伺います。」 - これに対し,安倍晋三内閣総理大臣は下記の通り答えた。 - 「民法第七百六十六条は、離婚の際に面会交流や養育費の分担について取り決めることが子の利益の観点から重要であることに鑑み改正されたものであり、引き続き、その趣旨を広く一般に周知徹底してまいります。」 参照条文 - 第771条(協議上の離婚の規定の準用) 判例 - 面接交渉の審判に対する原審判変更決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年05月01日)民法第818条3項,民法第820条,家事審判法第9条1項乙類4号 - 婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合に子と同居していない親と子の面接交渉について家庭裁判所が相当な処分を命ずることの可否 - 婚姻関係が破綻して父母が別居状態にある場合に、子と同居していない親と子の面接交渉につき父母の間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、民法766条を類推適用し、家事審判法9条1項乙類4号により、右面接交渉について相当な処分を命ずることができる。 - 家事審判法第9条1項乙類4号は、2013年家事事件手続法の施行に伴い廃止され、当該条項は、家事事件手続法第39条及び同条項が指し示す家事事件手続法別表2第3項「子の監護に関する処分」に継承された。 参考文献 - 『「子の利益」だけでは解決できない親権・監護権・面会交流事例集』(新日本法規出版株式会社 平成31年2月) - 編著/森公任、森元みのり 参考 明治憲法において、本条には重根禁止に関する以下の規定があった。戦後民法では民法第731条に継承された。 - 配偶者アル者ハ重ネテ婚姻ヲ為スコトヲ得ス
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条文 (離婚による復氏等) - 第767条 - 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。 - 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。 解説 婚姻によって改姓した者は、離婚によって復氏するのが原則であるが、一定の要件により届けることにより離婚の際に称した氏を称することもできるとされている。 - 戸籍法第19条【離婚・離縁等による復氏者の籍】 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第733条に継承された。 - 女ハ前婚ノ解消又ハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ経過シタル後ニ非サレハ再婚ヲ為スコトヲ得ス - 女カ前婚ノ解消又ハ取消ノ前ヨリ懐胎シタル場合ニ於テハ其分娩ノ日ヨリ前項ノ規定ヲ適用セス
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条文 (財産分与) - 第768条 - 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。 - 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。 - 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。 解説 - 日本の婚姻制度において夫婦の財産関係は別産・別管理制が採用されており(民法第755条)、原理的には、離婚に伴った金銭等のやり取りは発生しないはずである。しかしながら、婚姻中に得られた財産で、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されており(民法第762条第2項)、少なくとも、この共有を分割する必要がある。 - そして、何よりも「婚姻中自己の名で得た財産(民法第762条第1項)」で占有・名義等が夫婦の一方になっているものであっても、その取得については他方による貢献(共同就労は勿論、家事労働の提供等を含む)が不可欠であったと認められる場合が少なくなく、それは実質的な共有財産であって、その財産形成にかかる貢献相当額について、財産分与を請求できるとする趣旨である。なお、家制度・家督財産制度が原則である明治民法には本条項に相当する条文はない。 - 離婚において最も重要な論点のひとつであり、裁判離婚においては、「付帯処分」についての裁判として、子の監護案件とともに判決を要する事項であるが、協議離婚においては親権が決定されていることが必須である一方で、離婚自体の成立要件とはなっていない。 財産分与の算定 慰謝料と財産分与 偽装離婚と財産分与の効果 参照条文 判例 - 慰籍料請求 (最高裁判決 昭和31年02月21日)民法第709条,民法第710条,民法第771条 - 離婚と慰藉料請求権 - 夫婦がその一方甲の有責不法な行為によつて離婚のやむなきに至つたときは、その行為が必ずしも相手方乙の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為にはあたらない場合でも、乙は、その離婚のやむなきに至つたことについての損害の賠償として、甲に対し慰藉料を請求することができる。 - 離婚の場合における慰藉料請求権と財産分与請求権との関係 - 慰藉料を請求することができる場合において、財産分与請求権を有することは、慰藉料請求権の成立を妨げるものではない。 - 離婚と慰藉料請求権 - 財産分与審判に対する即時抗告事件(広島高裁決定 昭和38年06月19日) - 内縁と財産分与 - 内縁の夫婦関係についても財産分与に関する規定が準用される。 - 離婚等(最高裁判決 昭和53年11月14日)民法第771条 - 離婚訴訟における財産分与と過去の婚姻費用分担の態様の斟酌 - 離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるにあたつては、当事者の一方が婚姻継続中に過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。 - 所有権確認等(最高裁判決 昭和55年07月11日)民法第423条 - 協議・審判等による具体的内容形成前の財産分与請求権に基づく債権者代位権行使の許否 - 協議あるいは審判等によつて具体的内容が形成される前の財産分与請求権を保全するために債権者代位権を行使することは許されない。 - 詐害行為取消(最高裁判決 昭和58年12月19日)民法第424条 - 離婚に伴う財産分与と詐害行為の成否 - 離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない。 - 配当異議事件(最高裁判決 平成12年03月09日) - 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が詐害行為に該当する場合の取消しの範囲 - 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意は、民法768条3項の規定の趣旨に反してその額が不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきである。 - 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意と詐害行為取消権 - 離婚に伴う慰謝料として配偶者の一方が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額を支払う旨の合意は、右損害賠償債務の額を超えた部分について、詐害行為取消権行使の対象となる。 - 離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が詐害行為に該当する場合の取消しの範囲 - 財産分与審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件(最高裁判決 平成12年03月10日)民法第896条 - 内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に民法768条の規定を類推適用することの可否 - 内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、民法768条の規定を類推適用することはできない。 参考 明治民法においては、本条に以下の条文があったが、家族法改正に伴い継承なく削除・廃止された。 - 奸通ニ因リテ離婚又ハ刑ノ宣告ヲ受ケタル者ハ相奸者ト婚姻ヲ為スコトヲ得ス
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条文 (離婚による復氏の際の権利の承継) - 第769条 - 婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条第1項の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の利害関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。 解説 - 民法第897条(祭祀に関する権利の承継) 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第734条に継承された。 - 直系血族又ハ三親等内ノ傍系血族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス但養子ト養方ノ傍系血族トノ間ハ此限ニ在ラス
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条文 (裁判上の離婚) - 第770条 - 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。 - 配偶者に不貞な行為があったとき。 - 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 - 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。 - 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。 - その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 - 裁判所は、前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。 解説 - 婚姻を継続できない原因があり、当事者間の協議で合意できない場合、夫婦の一方は裁判の訴えを提起できる。訴訟手続については、人事訴訟法の規定が適用される(人事訴訟法第2条1号)。なお、明治民法においては、第813条から第818条までの6か条にわたって定めていた。 - 調停離婚(家事事件手続法第244条、同法第268条、旧法:家事審判法第21条第1項) - 審判離婚(家事事件手続法第284条・第285条・第286条・第287条、旧法:家事審判法第24条) - 調停の大部分は合意がなされたが、細部において合意が得られない場合、家庭裁判所は、職権により審判をなし離婚を成立させることができる(調停に代わる審判)。このような状況になることは少なく、適用例も少ない。審判に不満である場合は異議を申し立てることができ、異議が受容された場合、裁判に移行する。 - 裁判離婚(本条) - 調停不調の場合、裁判手続きに移行する。 - 移行後も、当事者間の合意を尊重し、迅速に進行させる観点から、裁判上の和解(和解離婚)又は一方の請求に対する認諾(認諾離婚)を勧奨する場合がある(人事訴訟法第37条)。 - 訴訟で離婚請求を認容する場合は以下の離婚原因が存在することを要する。 - 配偶者に不貞な行為があったとき。 - 配偶者から悪意で遺棄されたとき。 - 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。 - 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。 - その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。 - 「離婚原因」については、それを作出した側からの離婚請求は認められないものと解されている。 - 裁判においては、以下の事項に関する「付帯処分」についての裁判を必須とする(人事訴訟法第32条) - 子の監護者の指定その他の子の監護に関する処分 - 財産の分与に関する処分 - 厚生年金保険法第78条の2第2項の規定による処分 - 「標準報酬改定請求」について、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定める。 - 判決に不服がある当事者は控訴することができる。控訴判決に不服がある場合、上告も可能であるが、この種の案件が上告で覆されることは極めて稀である。 参照条文 判例 - 離婚請求(最高裁判決 昭和36年04月25日) - 離婚原因に関する当事者の主張の解釈 - 本条第1項第4号の離婚原因を主張して離婚の訴を提起したからといつて、反対の事情のないかぎり同条項第5号の離婚原因も主張されているものと解することは許されない。 - 本条第1項第5号の離婚原因の成立を認め得ないとされた事例。 - 妻が精神病にかかつているけれども回復の見込がないと断じ得ないため本条第1項第4号の離婚原因を認め得ない場合に、右精神病治療のため相当長期入院加療を擁するところ夫の財政状態および家庭環境が原判示の如くであるというだけの理由で、同条項第5号の離婚原因の成立を認めることは相当でない。 - 離婚等請求(最高裁判決 昭和48年11月15日) - 不貞な行為の意義 - 不貞な行為とは、配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいい、相手方の自由な意思にもとづくものであるか否かは問わない。 - 離婚(最高裁判決 昭和62年09月02日) 民法第1条2項 - 長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求 - 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦がその年齢及び同居期間と対比して相当の長期間別居し、その間に未成熟子がいない場合には、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできない。 - 有責配偶者からの離婚請求が長期間の別居等を理由として認容すべきであるとされた事例 - 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦が36年間別居し、その間に未成熟子がいないときには、相手方配偶者が離婚によつて精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情のない限り、認容すべきである。 - 離婚請求(最高裁判決 昭和33年07月25日) - 民法第770条第1項第4号と同条第2項の法意。 - 民法第770条第1項第4号と同条第2項は、単に夫婦の一方が不治の精神病にかかつた一事をもつて直ちに離婚の請求を理由ありとするものと解すべきでなく、たとえかかる場合においても、諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途に、その方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第735条に継承された。 - 直系姻族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス第七百二十九条ノ規定ニ依リ姻族関係カ止ミタル後亦同シ
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条文 解説 - 裁判上の離婚において、以下の条項につき、それぞれ離婚の効果一般についての規定であるため、準用する。明治民法第819条を継承。 - 以下適用につき当てはめる。各々、協議等により定めることが規定されているが、裁判上の離婚においては、離婚判決の付帯処分とすることができる。 - 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等) - 子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項を、判決で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。 - 第767条(離婚による復氏等) - 第768条(財産分与) - 第769条(離婚による復氏の際の権利の承継) - 婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条第1項の権利(祭祀に関する権利)を承継した後、離婚をしたときは、その権利を承継すべき者を定めなければならない。 - 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等) - 一方、民法第764条(婚姻の規定の準用)や民法第765条(離婚の届出の受理)は、離婚の意思表示や届出を前提とする規定であることから、裁判上の離婚の規定への準用はなされない。 参照条文 判例 - 慰籍料請求(最高裁判決 昭和31年02月21日) - 離婚と慰藉料請求権 - 夫婦がその一方甲の有責不法な行為によつて離婚のやむなきに至つたときは、その行為が必ずしも相手方乙の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為にはあたらない場合でも、乙は、その離婚のやむなきに至つたことについての損害の賠償として、甲に対し慰藉料を請求することができる。 - 離婚の場合における慰藉料請求権と財産分与請求権との関係 - 前項の場合において、乙が甲に対し、財産分与請求権を有することは、慰藉料請求権の成立を妨げるものではない。 - 離婚と慰藉料請求権 - 離婚等(最高裁判決 昭和53年11月14日)民法第768条3項,人事訴訟手続法第15条 - 離婚訴訟における財産分与と過去の婚姻費用分担の態様の斟酌 - 離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるにあたつては、当事者の一方が婚姻継続中に過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができる。 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第736条に継承された。 - 養子、其配偶者、直系卑属又ハ其配偶者ト養親又ハ其直系尊属トノ間ニ於テハ第七百三十条ノ規定ニ依リ親族関係カ止ミタル後ト雖モ婚姻ヲ為スコトヲ得ス
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民法第772条 条文 (嫡出の推定) - 第772条 - 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。 - 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 - 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。 - 前三項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。 改正経緯 2022年改正にて以下の条文から改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。 - 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 解説 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第820条)がそのまま受け継がれている。 婚姻関係が解消された場合、実際に婚姻中に懐胎したか否かを立証することは容易とはいえないため、子の利益のために2項以下の推定規定が置かれている。嫡出性が推定された子については、嫡出否認の訴えによらない限り、父子関係を否定することはできない。 もっとも、父の行方不明や事実上の別居状態にあったなどの事情がある場合は、形式上懐胎期間中に生まれた子であっても、推定は及ばないことになる(推定のおよばない嫡出子)。夫の生殖能力が無いことや、血液型の関係で夫の子ではありえない場合については見解が分かれている。 内縁関係が先行したため婚姻成立から200日以内に生まれた子は、嫡出推定規定の恩恵にあずかれないが、出生と同時に嫡出子の身分を取得する(推定されない嫡出子)と解し(大審院昭和15年1月23日連合部判決民集19巻54頁)、ただし、その父子関係を否定するためには嫡出否認の訴えによるまでもないともするのが判例であった(大審院昭和15年9月20日民集19巻1596頁)。学説上はこの類型の子にも一定の条件を満たせば嫡出性を推定してもよいと考える見解が有力であった。2022年民法改正において、女性の再婚禁止期間に関する民法第733条の削除にあわせて、判例法理その他を取り込んだ改正がなされた。 参照条文 - 民法第774条(嫡出の否認) 判決 - 子認知請求(最高裁判決 昭和29年01月21日)民事訴訟法第259条、人事訴訟法第31条 - 内縁の妻が懐胎した子と父の推定 - 内縁の妻が内縁関係成立の日から200日後、解消の日から300日以内に分娩した子は民法第772条の趣旨にしたがい内縁の夫の子と推定する。 - 認知請求(最高裁判決 昭和41年02月15日) - 内縁関係成立の日から200日後婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は民法第772条所定の嫡出の推定を受けるか - 婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻に先行する内縁関係の成立の日から200日後に生まれたものであつても、民法第772条所定の嫡出の推定は受けない。 - 認知請求(最高裁判決 昭和44年05月29日) - 婚姻解消後300日以内に出生した子が嫡出の推定を受けないとされた事例 - 離婚による婚姻解消後300日以内に出生した子であつても、母とその夫とが、離婚の届出に先だち約二年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、夫婦の実態が失われていた場合には、民法772条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。 - 認知請求(最高裁判決 昭和44年11月27日)民法第787条 - 民法772条の類推適用により父性の推定を受ける子についても、認知の訴の提起にあたつては、出訴期間の制限に関する同法787条但書の適用がある。 - 親子関係不存在確認請求事件 (最高裁判決 平成18年7月7日)民法1条3項,人事訴訟法2条2号 - 戸籍上の父母とその嫡出子として記載されている者との間の実親子関係について父母の子が不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例 - 戸籍上AB夫婦の嫡出子として記載されているYが同夫婦の実子ではない場合において,Yと同夫婦との間に約55年間にわたり実親子と同様の生活の実体があったこと,同夫婦の長女Xにおいて,Yが同夫婦の実子であることを否定し,実親子関係不存在確認を求める本件訴訟を提起したのは,同夫婦の遺産を承継した二女Cが死亡しその相続が問題となってからであること,判決をもって実親子関係の不存在が確定されるとYが軽視し得ない精神的苦痛及び経済的不利益を受ける可能性が高いこと,同夫婦はYとの間で嫡出子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに,同夫婦は死亡しており,Yが養子縁組をして嫡出子としての身分を取得することは不可能であること,Xが実親子関係を否定するに至った動機が合理的なものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記の事情を十分検討することなく,Xが同夫婦とYとの間の実親子関係不存在確認請求をすることが権利の濫用に当たらないとした原審の判断には,違法がある。 - 損害賠償請求事件(最高裁大法廷判決平成27年12月16日)憲法14条1項,憲法24条,民法733条,民法772条,国家賠償法1条1項 - 本件規定〔民法733条1項〕のうち100日超過部分については,民法772条の定める父性の推定の重複を回避するために必要な期間ということはできない(かっこ内は注釈)。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁
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民法第773条 条文 改正経緯 令和4年法律第102号による改正により、第733条(再婚禁止期間)が削除されるため、再婚禁止期間違反婚姻に替え重婚違反婚姻(第732条)に関して以下のとおり改正される(2024年(令和6年)4月1日施行)。 解説 - 「父を定める訴え」の規定。戦後の民法改正においても、明治民法第821条の規定がそのまま受け継がれている。原意は、再婚禁止期間違反婚姻(民法第733条)により嫡出推定が重複し、第772条(嫡出の推定)が有効に機能しない場合に、裁判所が父を定める規定である(人事訴訟法などを参照)。再婚禁止期間は廃止されたが、重婚の場合も同様の事態は発生しうるため、適用局面を改めた。 - 離婚後、妻が他の男性と同棲し設けた子について、民法第733条を類推適用し「父を定める訴え」を提起することを認めるのが判例であるが(大判昭11年7月28日民集15巻1539頁)、嫡出推定の重複が発生しえない事例まで拡張して適用することには疑義が呈されている。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)115頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があったが、家制度廃止に伴い継承なく削除された。 - 継父母又ハ嫡母カ子ノ婚姻ニ同意セサルトキハ子ハ親族会ノ同意ヲ得テ婚姻ヲ為スコトヲ得
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民法第774条 条文 (嫡出の否認) - 第774条 - 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。 改正経緯 2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 第772条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。 - 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。 - 第1項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 - 第772条第3項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 - 前項の規定による否認権を行使し、第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者は、第1項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。 改正理由 - 2022年改正前は嫡出であることを否認する権利は夫のみが有し、夫以外の第三者が主張することはできないのが原則であり、その出訴期間についても,民法第777条により,否認権者が子の出生を知った時から1年以内と厳格な制限があった。 - これは、民法第772条で推定される父子関係を早期に確定し,子の地位を安定させ,家庭の平穏を守るためとされ、また,夫のみが否認権者とされていることについては,夫は、妻が懐胎した子との生物学上の父子関係について判断できる立場に通常はあること、また、その夫が嫡出否認の訴えを提起することなく提訴期間を経過した場合には,夫は父としての責任を自覚し、夫による子の養育を期待することができると考えられたことによるものと考えられる。 - しかしながら、夫のDVなどにより、離婚の手続きを経ずに夫の元を逃れた妻が別の男性との間に子ができた場合において、夫が嫡出否認をしないと嫡出推定が機能してしまうため、出生届を出さず子どもが無戸籍になるケースが相次いでいるなどの問題があり、「嫡出否認の権利を夫のみに認めるのは憲法違反である」との主張もあった[1]。2022年改正にあたって、生まれた子について出生届の提出がされることを確保し、無戸籍者が発生することを防止する観点からは、母による出生届の提出を確保することが重要であり、そのためには、嫡出推定を受ける夫以外の者の子を出産した女性が、自らのイニシアティブで父子関係を否定する方法を認めることが有益であると考えられ、また、嫡出否認の訴えの出訴権者が父に限られていることに対しては、推定される父と生物学上の父が一致しない場合に生じ得る問題は多様であるにもかかわらず、父の意思のみによって否認することができるとするだけでは、適切な解決を図ることができない場合があるとの考察から、子の立場に立った否認権を認めることが有益であると判断され、改正されるに至った[2]。 解説 - 夫は婚姻の状況から、子の嫡出が推定されるが、当然、婚姻という法的な状況が即ち実際の父子関係を決めるわけではないため、子の父は嫡出を否認することができる。これは、明治民法の規定(旧・民法第822条)がそのまま戦後の民法改正においても、受け継がれていた。2022年改正で嫡出の推定(第772条)の局面が拡大したことにともない、否認の要件が拡充された。 - 父子関係を否定の機能を有する法制度として、判例により認められた「親子関係不存在確認の訴え」があるが、民法第772条の嫡出の推定を受ける子については、親子関係不存在確認の訴えではなく嫡出否認の訴えによらなければならない。 否認権者 - 夫 - 子(第1項 022年改正により追加) - 母(第3項 022年改正により追加) - 第2項により「親権を行う母」は子の否認権を行使することができるため、本項に定められる母は「親権を行わない母」となろう。 - 父や親権を有する者等が否認しない時などに、自身の権利として否認することができるが、子の利益を害する時は否認権を行使できない。父等が否認しないのは、父としての養育等の義務を負う意思の発現であり、その能力があると認められ、一方で否認を求める母にその能力がないのであれば、否認を認めないことが、子の養育には利益となる趣旨である。第2項にこの制限が記されていないのは、「親権」「後見」が、当然に子の利益に資することを前提とするものであるからである。 - 前夫 - 子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(第4項 022年改正により追加) - 嫡出推定は及ばないが、子の父以外で母の妊娠中に婚姻関係にあった者は、自分の実子である場合もあり、固有の否認権を有する。ただし、「親権を行わない母」同様、子の利益を害する時は否認権を行使できない。 - 否認権を行使して、その結果、民法第772条第3項及び第4項により子の父となった時、当該前夫は自ら否認をなすことができない。自らが父になる意思がないのに、他の当事者が行使しない否認権を行使することは却って法的な安定を損なうだけとなるからである。 参照条文 判例 - 認知請求(最高裁判決 昭和44年05月29日) - 婚姻解消後300日以内に出生した子が嫡出の推定を受けないとされた事例 - 離婚による婚姻解消後300日以内に出生した子であつても、母とその夫とが、離婚の届出に先だち約2年半以前から事実上の離婚をして別居し、まつたく交渉を絶つて、夫婦の実態が失われていた場合には、民法772条による嫡出の推定を受けないものと解すべきである。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第738条に継承された。 - 禁治産者カ婚姻ヲ為スニハ其後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 註 - ^ なお、最高裁判所は令和2年2月5日判決で、国会の立法裁量に委ねられるべき事項であり違憲ではないとした(日本経済新聞(令和2年2月7日)『嫡出否認「夫のみ」合憲が確定 最高裁が上告退ける』)。 - ^ 法務省 法制審議会民法(親子法制)部会第3回会議(令和元年10月15日開催)
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民法第775条 条文 (嫡出否認の訴え) 改正経緯 2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 次の各号に掲げる否認権は、それぞれ当該各号に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う。 - 父の否認権 子又は親権を行う母 - 子の否認権 父 - 母の否認権 父 - 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母 - 前項第1号又は第4号に掲げる否認権を親権を行う母に対し行使しようとする場合において、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。 解説 - 民法第774条により否認権の行使方法、及び行使の相手方についての規定である。明治民法第823条を継承。 - 出訴期間については、民法第777条を参照。 - 子が死亡している場合は、嫡出否認の訴えにより親子関係を否定することはできない。 - 妻の再婚によって嫡出推定が重複するような場合においては、「父を定める訴え」によって父親を決定することになる。 - 妻が産んだ子ではなく、他人の子が戸籍上嫡出子とされているような場合においては、嫡出否認の訴えによる必要はなく、「父子関係不存在確認の訴え」を使えばよいと解されている。 - 具体的な挙証の問題については、裁判官の自由な心証に委ねられる(自由心証主義) 参照条文 参考判例 - 最判昭49.10.11 父母でない者の嫡出子として戸籍に記載されている者は、その戸籍の訂正をまつまでもなく、実父又は実母に対し認知の訴を提起することができる。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第739条に継承された。 - 婚姻ハ之ヲ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス - 前項ノ届出ハ当事者双方及ヒ成年ノ証人二人以上ヨリ口頭ニテ又ハ署名シタル書面ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス
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民法第776条 条文 (嫡出の承認) - 第776条 - 夫は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。 改正経緯 2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、それぞれその否認権を失う。 解説 - 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第824条)がそのまま受け継がれている。 - 嫡出の「承認」がなされた場合においては、民法第777条の出訴期間内であっても、嫡出否認の訴えを提起することは許されない。 - 出生届けの提出や命名は「承認」にはあたらないと解されている。出生届を出すことは戸籍上の義務であるからである(戸籍法第52条、第53条)。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第740条に継承された(太字は現行法にも残るもの)。 - 戸籍吏ハ婚姻カ第七百四十一条第一項、第七百四十四条第一項、第七百五十条第一項、第七百五十四条第一項、第七百六十五条乃至第七百七十三条及ヒ前条第二項ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス但婚姻カ第七百四十一条第一項又ハ第七百五十条第一項ノ規定ニ違反スル場合ニ於テ戸籍吏カ注意ヲ為シタルニ拘ハラス当事者カ其届出ヲ為サント欲スルトキハ此限ニ在ラス - (適法要件) - 明治民法第741条第1項(他家入籍者がさらに他家に移るときの実家の戸主の同意) - 明治民法第744条第1項(法定推定家督相続人の他家入籍・新家創立の禁止) - 明治民法第750条第1項(婚姻に関する戸主の同意) - 明治民法第754条第1項(戸主が婚姻し他家に入る際の戸主の隠居) - 明治民法第765条(婚姻適齢) - 明治民法第766条(重婚の禁止) - 明治民法第767条(再婚禁止期間) - 明治民法第768条(姦通の相手方との婚姻の禁止) - 明治民法第769条(近親婚の禁止) - 明治民法第770条(直系姻族間の婚姻の禁止) - 明治民法第771条(養親子間の婚姻の禁止) - 明治民法第772条(父母の同意) - 明治民法第773条(継父母等不同意時の親族会の同意) - 明治民法第775条(婚姻の届出)
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民法第777条 条文 (嫡出否認の訴えの出訴期間) - 第777条 - 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。 改正経緯 2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。出訴期間は3年に延長された。 - 次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、それぞれ当該各号に定める時から3年以内に提起しなければならない。 - 父の否認権 父が子の出生を知った時 - 子の否認権 その出生の時 - 母の否認権 子の出生の時 - 前夫の否認権 前夫が子の出生を知った時 解説 - 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第825条)がそのまま受け継がれている。 - 父又は母が民法第776条の「承認」をした場合は、各々において出訴期間内であっても嫡出否認の訴えを提起することはできない。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第741条に継承された。 - 外国ニ在ル日本人間ニ於テ婚姻ヲ為サント欲スルトキハ其国ニ駐在スル日本ノ公使又ハ領事ニ其届出ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ前二条ノ規定ヲ準用ス
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民法第778条 条文 (嫡出否認の訴えの出訴期間) 改正経緯 2022年改正にて改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 現行条項は、明治民法第826条第2項を継承し、嫡出否認の訴えは出訴期間が短く、夫が行為能力を欠き訴えを提起することが不可能又は著しく困難な状況にある場合に、その期間を経過してしまう不都合を回避するために規定されていたが、①否認権者が拡大されたこと、②出訴期間が延長されたこと、③そもそも、後見制度が本条が立法された当時に比べ充実しており、本人の行為能力に依拠する必要性が薄いことなどから、廃止削除されることとなり、代わって、第772条改正に伴い、嫡出否認により嫡出が推定されることとなった父に関する出訴期間について以下のとおり新設された。 - 第772条第3項の規定により父が定められた子について第774条の規定により嫡出であることが否認されたときは、次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める時から一年以内に提起しなければならない。 - 第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者の否認権 - 新たに子の父と定められた者が当該子に係る嫡出否認の裁判が確定したことを知った時 - 子の否認権 - 子が前号の裁判が確定したことを知った時 - 母の否認権 - 母が第1号の裁判が確定したことを知った時 - 前夫の否認権 - 前夫が第1号の裁判が確定したことを知った時 - 第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者の否認権 解説 参照条文 判例 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)97頁-104頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)194頁-204頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第737条に継承された。 - 婚姻ハ左ノ場合ニ限リ無効トス - 人違其他ノ事由ニ因リ当事者間ニ婚姻ヲ為ス意思ナキトキ - 当事者カ婚姻ノ届出ヲ為ササルトキ但其届出カ第七百七十五条第二項ニ掲ケタル条件ヲ欠クニ止マルトキハ婚姻ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
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民法第778条の2 条文 (嫡出否認の訴えの出訴期間) - 第778条の2 - 第777条(第2号に係る部分に限る。)又は前条(第2号に係る部分に限る。)の期間の満了前6箇月以内の間に親権を行う母、親権を行う養親及び未成年後見人がないときは、子は、母若しくは養親の親権停止の期間が満了し、親権喪失若しくは親権停止の審判の取消しの審判が確定し、若しくは親権が回復された時、新たに養子縁組が成立した時又は未成年後見人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、嫡出否認の訴えを提起することができる。 - 子は、その父と継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは、第777条(第2号に係る部分に限る。)及び前条(第2号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、21歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができる。ただし、子の否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害するときは、この限りでない。 - 第774条第2項の規定は、前項の場合には、適用しない。 - 第777条(第4号に係る部分に限る。)及び前条(第4号に係る部分に限る。)に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、子が成年に達した後は、提起することができない。 解説 - 2022年改正にて新設(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 子の否認権行使は、通常、親権を行う母、親権を行う養親及び未成年後見人が行使することが想定されるが、期間満了6ヶ月以内において、それらを欠く状況が生じた場合、その状況が回復した後6ヶ月間出訴期間が延長される(第1項)。 - 子は、父と継続して生活した期間が3年を下回る場合、21歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができる。18歳に達するまでは未成年であり、18歳に達してから、3ヵ年の出訴期間を与えたものである(第2項)。否認権行使が、父の利益を著しく害するときは否認権の行使は認められない。否認が、子の利益を害して行使され得ないことに呼応するものであるが、父の利益は、一般に社会的弱者であり保護を要する子の利益とは、位相を異にして理解すべきであり、例えば、被扶養の期待利益などを、父としての十分な振る舞い(成長するまで、不足のない養育費の提供を行なった等)の上で、父の利益と言えるかはは疑問であり、今後の動向を注視する必要がある。 - 前夫は子が成年に達した後は、嫡出否認の訴えを提起することができない。
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民法第779条 条文 (認知) - 第779条 - 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。 解説 - 任意認知について定めた規定である。明治民法第827条を継承。 - 血縁による父子関係については、嫡出子としての推定を受けられる場合はその規定によるが、非嫡出子である場合など、嫡出の推定を受けられない場合には、認知の有無が問題になる。 - なお、条文上は、「その父」だけでなく「又は母が」とあるが、母子関係については、分娩の事実によって客観的に親子関係が判断できるため、法的な親子関係の発生のためには認知は必要ないと理解されている(最高裁判例昭和37年4月27日民集16巻7号1247頁)。ただし、大審院時代の判例や一部の学説には、法律上の母子関係の発生についても認知が必要であると解する見解もある。 - よって、非嫡出子は、認知がなくても母に対しては親子関係であることを主張できることになる(実母が死亡のケースでは検察官が相手方となる)(最高裁判例昭和49年3月29日月報26号847頁)。 参照条文 - 民法第772条(嫡出の推定) - 民法第774条(嫡出否認の訴え) - 民法第780条(認知能力) - 民法第781条(認知の方式) - 民法第782条(成年の子の認知) - 民法第783条(胎児又は死亡した子の認知) - 民法第784条(認知の効力) - 民法第785条(認知の取消しの禁止) - 民法第786条(認知に対する反対の事実の主張) - 民法第787条(認知の訴え) - 民法第788条(認知後の子の監護に関する事項の定め等) 判例 - 親子関係不存在確認(最高裁判決 平成7年07月14日)民法第817条の2、民法第817条の9, 民訴法第2編第1章訴,民訴法420条1項3号,民訴法429条,人事訴訟手続法第2章親子関係事件ニ関スル手続,家事審判法9条1項甲類8号の2 - 子を第三者の特別養子とする審判の確定と子の血縁上の父が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴えの利益 - 子を第三者の特別養子とする審判が確定した場合には、原則として、子の血縁上の父が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴えの利益は消滅するが、右審判に準再審の事由があると認められるときは、右訴えの利益は失われない。 - 子の血縁上の父であると主張する者が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴えを提起するなどしていたにもかかわらず右訴えの帰すうが定まる前に子を第三者の特別養子とする審判がされた場合における準再審の事由の有無 - 子の血縁上の父であると主張する甲が戸籍上の父と子との間の親子関係不存在の確認を求める訴えを提起するなどしており、子を第三者の特別養子とする審判を担当する審判官も甲の上申を受けてそのことを知っていたにもかかわらず、右訴えの帰すうが定まる前に子を第三者の特別養子とする審判がされた場合において、甲が子の血縁上の父であるときは、甲について民法817条の6ただし書に該当する事由が認められるなどの特段の事情のない限り、右審判には、家事審判法9条、非訟事件手続法25条、民訴法429条、420条1項3号の準再審の事由がある。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。本条の趣旨は、民法第743条に継承された。 - 婚姻ハ後七条ノ規定ニ依ルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス
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民法第780条 条文 (認知能力) 解説 戦後の民法改正においても、明治民法第828条と同趣旨の規定が受け継がれている。 身分法上の行為には制限行為能力制度による保護の要請よりも行為者本人の意思がより尊重される傾向にある。 認知については意思能力があれば足りると解されている。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、廃止された戸主の請求権を除き民法第744条に継承された。 - 第七百六十五条乃至第七百七十一条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ各当事者、其戸主、親族又ハ検事ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但検事ハ当事者ノ一方カ死亡シタル後ハ之ヲ請求スルコトヲ得ス - 第七百六十六条乃至第七百六十八条ノ規定ニ違反シタル婚姻ニ付テハ当事者ノ配偶者又ハ前配偶者モ亦其取消ヲ請求スルコトヲ得
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民法第781条 条文 (認知の方式) - 第781条 解説 戦後の民法改正においても、明治民法(旧・民法第829条)と同趣旨の規定が受け継がれている。 任意認知の場合は、届出によって行うことになる(要式行為)。 母の非嫡出子としての出生届が提出されている場合は、父が認知の届出をすることになる。 その子が別人の嫡出子とされていたり、別人より認知を受けている場合は、原則として、親子関係不存在確認の判決を取得した上で戸籍を訂正し、認知の届出をすることが必要になる。 遺言による場合は、認知の届出をするのは遺言執行者である(戸籍法第64条)。 それ自体は無効な届出(嫡出子としての出生届や養子縁組届)が、認知の届出とみなされるか否か(無効行為の転換)、という論点が存在する。 参照条文 判例 - 妻以外の女が産んだ非嫡出子を、いったん他人夫婦の嫡出子として届け出た上、その他人夫婦の代諾によって、自己の養子とした場合には、縁組届の効力も、認知の効力もない。(大判昭4.7.4) - 貸金(最高裁判決 昭和53年02月24日)戸籍法第52条 - 嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、又は嫡出でない子としての出生届がされた場合において、右各出生届が戸籍事務管掌者によつて受理されたときは、その各届は、認知届としての効力を有する。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第745条に継承された。 - 第七百六十五条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ不適齢者カ適齢ニ達シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス - 不適齢者ハ適齢ニ達シタル後尚ホ三个月間其婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ得但適齢ニ達シタル後追認ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
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民法第782条 条文 (成年の子の認知) - 第782条 - 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。 解説 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(第830条)がそのまま受け継がれている。 父親の側からする、いわゆる任意認知については、一定の場合に制約が生じる。この規定は、扶養目的などの利己的な動機に基づく認知を制約することを目的としている。 承諾がない認知一般について、承諾権者側から取消しの訴えをする場合に関しては、立法の不備が指摘されている。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第746条に継承された。 - 第七百六十七条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ前婚ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ経過シ又ハ女カ再婚後懐胎シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス
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民法第783条 条文 (胎児又は死亡した子の認知) - 第783条 - 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。 - 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。 改正経緯 2022年改正にて第2項に以下の条文を追加し、現在の第2項の条項を第3項に繰下げ(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 前項の子が出生した場合において、第772条の規定によりその子の父が定められるときは、同項の規定による認知は、その効力を生じない。 解説 - 戦後の民法改正においても、明治民法第831条の規定がそのまま受け継がれている。 - 父親の側からする、任意認知については、一定の場合において制約を受けることがある。第1項の規定は、母親の名誉を守ることと、母親の確認を経ることにより実体的真実を担保することを目的としている。 - 胎児の段階で行なった認知は出生後、嫡出推定(第772条)がなされる時は、無効となる(第2項)。 - 第3項(→第2項)の規定は、反対解釈をすると、直系卑属を残さずに死亡した子については認知ができないことを意味する。また、成年の直系卑属については、「成年の子の認知(第782条)」7の趣旨と同様の問題が生じる。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には「父母の同意なき婚姻の取消し」に関する以下の規定があったが、戦後改正において削除された。 - 第七百七十二条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得同意カ詐欺又ハ強迫ニ因リタルトキ亦同シ
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民法第784条 条文 (認知の効力) - 第784条 - 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。 解説 - 戦後の民法改正においても、明治民法第832条の規定がそのまま受け継がれている。 - 認知の効力とは、婚外子と認知した父の親子関係を発生させることであるが、嫡出子としての身分を取得させるまでのものではない(準正が生じる場合は別)。親権や氏も父に当然に移転するわけではなく、父と母との協議や審判が必要となってくる。 - 「出生の時にさかのぼる」ことの実質的な意味は母が出生から認知時までの養育費を求償できることにある。 - ただし書きについては、相続の場合は特則である民法第910条が適用されるため、実務的な影響は少ないとされる。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 判例 - 土地持分所有権確認等(最高裁判例 昭和54年03月23日)民法第910条 - 母の死亡による相続について、共同相続人である子の存在が遺産の分割その他の処分後に明らかになつたとしても、民法784条但書、910条を類推適用することはできない。 参考 明治民法において、本条には「父母の同意なき婚姻の取消し(旧・民法第783条)」に関する以下の規定があったが、戦後改正において削除された。 - 前条ノ取消権ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス - 同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者カ婚姻アリタルコトヲ知リタル後又ハ詐欺ヲ発見シ若クハ強迫ヲ免レタル後六个月ヲ経過シタルトキ - 同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者カ追認ヲ為シタルトキ - 婚姻届出ノ日ヨリ二年ヲ経過シタルトキ
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民法第785条 条文 - 第785条 - 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。 解説 戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第833条)がそのまま受け継がれている。 一度した認知は詐欺や強迫があった場合でも取り消すことはできないとする規定であるが、認知した親子関係が真実でない場合には認知は無効となり、無効を挙証することは科学的方法を用いれば容易であるため、問題は少ないであろうと理解されている。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第747条に継承された。 - 詐欺又ハ強迫ニ因リテ婚姻ヲ為シタル者ハ其婚姻ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 - 前項ノ取消権ハ当事者カ詐欺ヲ発見シ若クハ強迫ヲ免レタル後三个月ヲ経過シ又ハ追認ヲ為シタルトキハ消滅ス
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民法第786条 条文 (認知に対する反対の事実の主張) - 第786条 - 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。 改正経緯 2022年改正にて以下の条文に改正(2024年(令和6年)4月1日施行)。 - 本条は、生物学上の父子関係がないにもかかわらず認知がなされた場合には、真実と異なる(認知に対して反対の事実)ため無効を主張しうる旨を定めたもので(但し、形成無効であり、無効判決を要する:大審院判決大正11年3月27日)、明治民法第834条の規定をそのまま継承したものである。時期に関わらず、いつでも主張することができ、主張が可能な者は「子その他の利害関係人」であり、利害関係人には認知をした本人も含まれると解されていた(判例1参照)。 - しかしながら、認知者との間に生物学上の父子関係がない場合は、広く利害関係人からいつでも認知無効の訴えを提起され、父子関係が否定されるおそれがあり、子の地位がいつまでも安定しない結果となっており、嫡出否認の否認権者及び否認期間について厳格な制限が設けられている嫡出子との均衡を欠くとして、これらの規律を見直し、認知無効の訴えについても、提訴権者や提訴期間について制限を設けることが必要であるとの見解から[1]、2022年改正において、以下のとおり改正された。 - 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(民法第783条第1項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から7年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第3号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 - 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時 - 認知をした者 認知の時 - 子の母 子の母が認知を知った時 - 子は、その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは、前項(第1号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、21歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない。 - 前項の規定は、同項に規定する子の法定代理人が第1項の認知の無効の訴えを提起する場合には、適用しない。 - 第1項及び第2項の規定により認知が無効とされた場合であっても、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。 解説 参照条文 判例 - 認知無効,離婚等請求本訴,損害賠償請求反訴事件(最高裁判決 平成26年1月14日) - 認知者が血縁上の父子関係がないことを理由に認知の無効を主張することの可否 - 認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができ,この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異ならない。 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には婚姻届の受理に関する以下の規定があった。趣旨は、民法第740条に継承された。 - 戸籍吏ハ婚姻カ第七百四十一条第一項、第七百四十四条第一項、第七百五十条第一項、第七百五十四条第一項、第七百六十五条乃至第七百七十三条及ヒ前条第二項ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス但婚姻カ第七百四十一条第一項又ハ第七百五十条第一項ノ規定ニ違反スル場合ニ於テ戸籍吏カ注意ヲ為シタルニ拘ハラス当事者カ其届出ヲ為サント欲スルトキハ此限ニ在ラス
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民法第787条 条文 (認知の訴え) - 第787条 - 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。 解説 - 認知には任意認知と強制認知とがある。この規定は強制認知の場合についての規定である。細部の部分については人事訴訟法も参照する必要がある。 - 認知の訴えは子からの認知請求権の存在を前提とする。認知請求権を放棄することは許されないと考えられている(判例)。 - 父の死亡後の認知の訴えも一定の場合には可能である。民法立法当時明治民法第835条においては死後認知は認められていなかったが、1942年(昭和17年)の改正により認められた。認知制度の立法主義に関しての意思主義から事実主義への変更と理解されている。戦後の民法改正においても、この規定を踏襲している。 - 認知の訴えは古くは給付訴訟と考えられていたが、現在は形成訴訟と考えるのが判例である(判例)。しかし、確認訴訟と考える学説も存在する。 判例 - 認知請求(最高裁判決 昭和29年4月30日民集8巻4号861頁) - 認知の訴の性質 - 認知の訴は、現行法上これを形成の訴と解すべきものである。 - 認知の訴につき言い渡された判決は、第三者に対しても効力を有するのであり、そして認知は嫡出でない子とその父母との間の法律上の親子関係を創設するものである。 - 認知請求(最高裁判決 昭和37年4月10日民集16巻4号693頁) - 子の父に対する認知請求権は、放棄することができるか。 - 子の父に対する認知請求権は、その身分法上の権利たる性質およびこれを認めた民法の法意に照らし、放棄することができないものと解するのが相当である。 - 認知請求権は長年月行使しない場合、行使できなくなるものか。 - 認知請求権はその性質上長年月行使しないからといつて行使できなくなるものではない。 - 子の父に対する認知請求権は、放棄することができるか。 - 認知請求(最高裁判決 昭和44年11月27日) - 認知請求(最高裁判決 平成18年9月4日) - 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子(死後懐胎子)と当該男性との間における法律上の親子関係の形成の可否 - 保存された男性の精子を用いて当該男性の死亡後に行われた人工生殖により女性が懐胎し出産した子と当該男性との間に,法律上の親子関係の形成は認められない。 - 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは,明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため, - 親権に関しては,父が死後懐胎子の親権者になり得る余地はない。 - 扶養等に関しては,死後懐胎子が父から監護,養育,扶養を受けることはあり得ない。 - 相続に関しては,死後懐胎子は父の相続人になり得ない。 - 代襲相続は,代襲相続人において被代襲者が相続すべきであったその者の被相続人の遺産の相続にあずかる制度であることに照らすと,代襲原因が死亡の場合には,代襲相続人が被代襲者を相続し得る立場にある者でなければならないと解されるから,被代襲者である父を相続し得る立場にない死後懐胎子は,父との関係で代襲相続人にもなり得ない。 - このように,死後懐胎子と死亡した父との関係は,上記法制が定める法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地のないものである。そうすると,その両者の間の法律上の親子関係の形成に関する問題は,本来的には,死亡した者の保存精子を用いる人工生殖に関する生命倫理,生まれてくる子の福祉,親子関係や親族関係を形成されることになる関係者の意識,更にはこれらに関する社会一般の考え方等多角的な観点からの検討を行った上,親子関係を認めるか否か,認めるとした場合の要件や効果を定める立法によって解決されるべき問題であるといわなければならず,そのような立法がない以上,死後懐胎子と死亡した父との間の法律上の親子関係の形成は認められないというべきである。 - 「父子関係」の存在がもたらす、法的効果を列挙している。項番1、2については「生前懐胎・死後出生子」についても当てはまるが、項番3、4については、相続人の地位が認められている。 - 民法の実親子に関する法制は,血縁上の親子関係を基礎に置いて,嫡出子については出生により当然に,非嫡出子については認知を要件として,その親との間に法律上の親子関係を形成するものとし,この関係にある親子について民法に定める親子,親族等の法律関係を認めるものである。ところで,現在では,生殖補助医療技術を用いた人工生殖は,自然生殖の過程の一部を代替するものにとどまらず,およそ自然生殖では不可能な懐胎も可能とするまでになっており,死後懐胎子はこのような人工生殖により出生した子に当たるところ,上記法制は,少なくとも死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定していないことは,明らかである。すなわち,死後懐胎子については,その父は懐胎前に死亡しているため, 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には婚姻の取消しに関する以下の規定があった。趣旨は民法第748条に継承された。 - 婚姻ノ取消ハ其効力ヲ既往ニ及ホサス - 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知ラサリシ当事者カ婚姻ニ因リテ財産ヲ得タルトキハ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ其返還ヲ為スコトヲ要ス - 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタル当事者ハ婚姻ニ因リテ得タル利益ノ全部ヲ返還スルコトヲ要ス尚ホ相手方カ善意ナリシトキハ之ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
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民法第788条 条文 - 第788条 - 第766条の規定は、父が認知する場合について準用する。 解説 - 民法第766条とは「離婚後の子の監護に関する事項の定め等」に関する規定である。 - 認知とは、父子関係の存在を発生させる制度にすぎず、親権に関しては依然として生母のみが保有するからであり、その監護に関する事項について、離婚後の子と同様の措置をとる必要があるからである。 参照条文 - 民法第766条 - 民法第779条 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には認知に関する以下の規定があった。家制度廃止に伴い削除され、氏の取り扱いについては、民法第750条に定められた。 - 妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル - 入夫及ヒ婿養子ハ妻ノ家ニ入ル
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民法第789条 条文 (準正) - 第789条 解説 - 準正の規定である。婚外子の保護のための規定と理解され、婚外子の親達の婚姻を促す狙いもあるとされる。戦後の民法改正においても、明治民法第836条と同趣旨の規定が受け継がれている。 - ローマ法の Matrimonium subsequens legitimos facit. (事後の婚姻は準正する)に由来する。 - 第1項を婚姻準正、第2項を認知準正と呼ぶ。準正の効力発生時は、いずれも婚姻時であり、第2項の場合は、婚姻時に遡及すると考えるのが通説である。これは、認知の効力は、出生の時に遡及するから(784条)、準正の要件が具備されるのは婚姻の時であること、準正制度の趣旨が父母の婚姻によって嫡出でない子をなるべく嫡出化しようとする点にあることを理由としている。これに対し、第2項の場合は文言を重視して、認知の時から効力が発生するとする見解もある。 - 2項は、婚姻成立後に父のほか母の認知も必要とするようにも読めるが、法律上の母子関係は、分娩の事実によって当然に生ずると解されることから(最判昭37.4.27)、父の認知のみで足りるとされる。 - 第3項は、死んだ子に直系卑属があり、その子について代襲相続権の発生が問題となる場合に意味を持つ規定である。 - 比較法的には裁判準正と呼ばれる制度もあるが、日本の民法上は規定が存在しない。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)105頁-116頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)204頁-220頁 参考 明治民法において、本条には夫婦の同居義務に関する以下の規定があった。趣旨は、明治民法第790条と合わせて民法第752条に継承された。 - 妻ハ夫ト同居スル義務ヲ負フ - 夫ハ妻ヲシテ同居ヲ為サシムルコトヲ要ス
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民法第790条 条文 (子の氏) - 第790条 解説 - 認知された子であっても、嫡出でない子は、母の氏のままである。 - 非嫡出子に関しては、嫡出子との間に相続上の差異がなくなったため、嫡出/非嫡出の差異が生ずる数少ない法制の一つ。 参照条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)138頁-140頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)33頁-37頁 参考 明治民法において、本条には夫婦の協力義務に関する以下の規定があった。趣旨は、同居義務を定めた明治民法第789条と合わせ民法第752条に継承された。 - 夫婦ハ互ニ扶養ヲ為ス義務ヲ負フ
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民法第791条 条文 (子の氏の変更) - 第791条 - 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。 - 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。 - 子が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。 - 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。 解説 - 子の氏の変更についての規定である。 - 氏の変更は、一定の身分関係の変動により当然に発生するものであるが、そういった身分関係の変動を前提とせずに、氏を変更することができる場合の要件をこの規定は定めている。 - 従前の氏(氏の変更が発生する以前に称していた氏)への変更を復氏と呼ぶ。 - (適用例) - 第1項が想定する典型例 - 未成年の子:○川●子のある夫婦(夫:○川△男、妻C:○川▲子(旧姓:◇山))が離婚(多くの場合、夫が戸籍の筆頭者、以下それを前提とする)。この場合、妻▲子のみが夫△男の戸籍から除籍され、新たに戸籍を構成するか、親の戸籍に属することとなり、▲子は◇山に復氏する[1]。 - ここで、●子の親権が母親▲子に帰属したものとする。しかし、この事実だけでは、●子は依然として、父親△男の戸籍に属し、法律上は父の氏○川を称することとなる。 - そこで、母親である▲子(この場合、本条第3項により●子の法定代理人として行動している)は、子供の住所地を管轄している家庭裁判所に「子の氏の変更許可申請書」に離婚後の自分の戸籍謄本と、元の夫△男の戸籍謄本(●子の親権者の記載がある)を証拠として添えて提出、家庭裁判所より、本条第1項に基づく氏の変更の審判を得る。 - 家庭裁判所の許可審判書の謄本と子供の入籍届けを市区町村役場に提出し、●子は◇山●子となる。 - 第2項が想定する典型例 関連条文 参考文献 - 『民法(5)親族・相続(第3版)』有斐閣新書(1989年、有斐閣)138頁-140頁(川田昇執筆部分) - 泉久雄『親族法』(1997年、有斐閣)33頁-37頁 参考 明治民法において、本条には妻が未成年時の取り扱いに関する以下の規定があったが継承なく廃止された。 - 妻カ未成年者ナルトキハ成年ノ夫ハ其後見人ノ職務ヲ行フ 脚注
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条文 (養親となる者の年齢) - 第792条 - 20歳に達した者は、養子をすることができる。 改正経緯 2018年改正(平成30年法律第59号)により、以下の条文から改正 - (改正前)成年に達した者は、養子をすることができる。 解説 養子縁組の当事者、養親についての規定である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(民法第837条)がそのまま受け継がれている。 養親となる者は成年者(満20歳以上)でなければならない。未成年者は養親となることができない。民法では成年者以外の要件を定めていないので、配偶者のない者でも、また成年被後見人であっても単独で養親となることができる[1]。 参照条文 判例 脚注 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第754条に継承された。 - 夫婦間ニ於テ契約ヲ為シタルトキハ其契約ハ婚姻中何時ニテモ夫婦ノ一方ヨリ之ヲ取消スコトヲ得但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス
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条文 (尊属又は年長者を養子とすることの禁止) - 第793条 - 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。 解説 長幼の秩序を乱さないため、倫理的・道義的な側面から、養子となる者についての禁止規定である。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・第838条)がそのまま受け継がれている。 尊属は直系・傍系を問わない。よって養子となる者が年少者であっても傍系尊属にあたるならば養子縁組は禁止される。 年長者は、一日でも早く出生していれば該当する。よって養子となる者が養親となる者と同年齢であっても構わない。 養親または養子が夫婦共同で縁組をする場合には、夫婦いずれもこの要件を満たしていなければならない。 参照条文 - 民法第805条(養親が尊属または年長者である場合の縁組の取消し) 判例 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第755条に継承された。 - 夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル
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条文 - 第794条 - 後見人が被後見人(未成年被後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後、まだその管理の計算が終わらない間も、同様とする。 解説 後見人が、被後見人を養子にする場合、利益相反のおそれがあるため慎重を期する必要がある(継承元である明治民法第840条においては、禁じられていた)。一方で、被後見人が未成年である場合など、育成の観点から否定のみすべきものではないため、戦後改正において家庭裁判所の関与によりこれを認めた。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第756条に継承された。 - 夫婦カ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタルトキハ婚姻ノ届出マテニ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
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条文 - 第795条 - 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。 改正経緯 1987年(昭和62年)改正により、明治民法第841条を継承した、未成年に限らず共同縁組が原則であった以下の条項を改正。 - 配偶者のある者は、その配偶者とともにしなければ、縁組をすることができない。但し、夫婦の一方が他の一方の子を養子とする場合は、この限りでない。 解説 「家」における秩序を考慮すると、養親が夫婦であるとき、片方が養親ではないという事態は望ましくないものであり、明治民法においては共同縁組が原則であったが、養子制度自体は養親子間の経済関係に帰結できるため、養親が未成年者である場合を除き、反対解釈として単独縁組を可能とした。一方、未成年者の養子には、「未成年者の養育」という重要な要素があるため、裁判所の許可(第798条)を要するなど要件を厳格にしており、配偶者がある者が未成年者を養子にする場合は、共同縁組を必須とした。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第757条に継承されたが、1989年(平成元年)廃止削除された。 - 外国人カ夫ノ本国ノ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタル場合ニ於テ婚姻ノ後日本ノ国籍ヲ取得シ又ハ日本ニ住所ヲ定メタルトキハ一年内ニ其契約ヲ登記スルニ非サレハ日本ニ於テハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
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条文 (配偶者のある者の縁組) - 第796条 - 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。 改正経緯 1987年(昭和62年)改正により、明治民法第842条を継承した、共同縁組に際して一方が意思表示できない場合の規定である以下の条項を改正。成人の養子は単独縁組が可能となったが、その際においても、配偶者の同意は必要としたもの。 - 前条の場合において、夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、他の一方は、双方の名義で、縁組をすることができる。 解説 一方の配偶者が縁組を行うと、相続分に変動があるため、配偶者の同意を必要とした。 一方の配偶者の同意のないまたは同意が詐欺・強迫により形成された養子縁組は、取り消すことができる(第806条の2)。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第758条に継承された。 - 夫婦ノ財産関係ハ婚姻届出ノ後ハ之ヲ変更スルコトヲ得ス - 夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ財産ヲ管理スル場合ニ於テ管理ノ失当ニ因リ其財産ヲ危クシタルトキハ他ノ一方ハ自ラ其管理ヲ為サンコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 - 共有財産ニ付テハ前項ノ請求ト共ニ其分割ヲ請求スルコトヲ得
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条文 (十五歳未満の者を養子とする縁組) - 第797条 - 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。 - 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときも、同様とする。 改正経緯 2011年(平成23年)改正により、親権停止の審判の制度が設けられたことから、第2項後段の部分を追加。 解説 養子となる者の承諾に関する規定。明治民法第843条を継承。なお、父母の同意については、明治民法第844条に別の観点から定められていた。 養子となる者が15歳未満であるときは、承諾権者は原則として子の法定代理人である。これを反対解釈すれば、15歳を超えれば、養子となるもの本人が承諾の意思表示をすることが可能であり、かつ、養子縁組には本人の承諾が必須となる。なお、養子となる者が未成年である場合、次条により、原則として家庭裁判所の許可を要するものとされているので、養子となる者の意思又はその法定代理人の承諾は裁判所において確認される。 第2項は養子縁組がなされると養親が親権者となり、監護権者は監護権を奪われることとなるので、その同意を得ることとされた。したがってその同意は元々親権を持っていた父母が監護権者を務める場合に限り必要となる。 法定代理人の他に「養子となる者の父母でその監護をすべき者」がある場合や親権が停止された父母がある場合、養子縁組には法定代理人の他その父母の同意が必要となる。 参照条文 判例 - 養子縁組無効確認請求 (最高裁判決 昭和27年10月03日) - 他人の子を実子として届け出た者の代諾による養子縁組の追認の許否 - 他人の子を実子として届け出た者の代諾による養子縁組も、養子が満15年に達した後これを有効に追認することができる。 - 右追認は、明示または黙示の意思表示をもつて養子から養親の双方に対し、養親の一方が死亡した後は他の一方に対してすればたりる。 - 養子縁組無効確認請求(最高裁判決 昭和39年09月08日)旧民法843条 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第759条に継承された。 - 前条ノ規定又ハ契約ノ結果ニ依リ管理者ヲ変更シ又ハ共有財産ノ分割ヲ為シタルトキハ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
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条文 (未成年者を養子とする縁組) - 第798条 - 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。 解説 未成年者である養子の福祉の観点から、家庭裁判所の許可を原則として必要とする。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は親権が濫用されるおそれがないと考えられるので除外されている。戦後大改正時に規定された。 参照条文 - 民法第807条(養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し) 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第760条に継承された。
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条文 (婚姻の規定の準用) 解説 婚姻に関する以下の事項について準用する。明治民法第847条を継承。 - 成年被後見人(旧制・禁治産者)の養子縁組(養親・養子とも)においては、後見人同意を必要としない(民法第738条準用)。婚姻同様、身分に関する法律行為であり、なによりも本人の意思を尊重すべきであることを理由とする。養子縁組の意思が成年被後見人の真意によるものではないと判断される場合、縁組の無効(民法第802条)を適用しうる。 - 養子縁組は縁組の届出を成立要件とする(民法第739条準用)。 参照条文 - 民法第802条(縁組の無効) 判例 - 身分関係不存在確認請求 (最高裁判決 昭和25年12月28日) - 【事件の概要】 - 甲は配偶者A(訴訟時故人)と図り、他人であるBCの子である乙を甲とAの間の嫡出子として出生届をなしたが、A死亡後、甲は乙との間の親子関係不存在訴訟を提起。下級審にて甲の請求が判決で認められたのに対して、乙が上告した案件。 - 虚偽の嫡出子出生届をした者の嫡出親子関係不存在の主張の適否 - 子でない者が戸籍上嫡出子として記載されている場合に、その記載が親の虚偽の嫡出子出生届に基くものであるからといつて、その親の親子関係不存在の主張が禁止されることはない。 - 身分関係は、実体的真実を基礎とすべきであるので、信義誠実則の一つである「禁反言則」の適用はない。 - 虚偽の嫡出子出生届と養子縁組の成否 - 養子とする意図で他人の子を嫡出子として届けても、それによつて養子縁組が成立することはない。 - 父母一方の死亡と嫡出親子関係不存在確認訴訟の適否 - 父母一方の死亡後は、生存者単独で嫡出親子関係不存在確認の訴訟を提起することができる。 - 嫡出親子関係不存在確認の請求と子の承諾の要否 - 嫡出親子関係不存在確認の請求には、子の承諾(又は同意)を要しない。 - 【事件の概要】 - 相続回復、所有権更正登記手続請求 (最高裁判例 昭和50年04月08日)民法第739条、民法第802条 - 虚偽の嫡出子出生届と養子縁組の成否 - 養子とする意図で他人の子を嫡出子として出生届をしても、右出生届をもつて養子縁組届とみなし、有効に養子縁組が成立したものとすることはできない。 参考 明治民法において、本条には、夫又は女戸主は、配偶者の固有財産に関して収益のために利用できる旨(使用貸借の規定が準用される)の以下の規定があった。家制度廃止に伴い継承なく削除された。 - 夫又ハ女戸主ハ用方ニ従ヒ其配偶者ノ財産ノ使用及ヒ収益ヲ為ス権利ヲ有ス - 夫又ハ女戸主ハ其配偶者ノ財産ノ果実中ヨリ其債務ノ利息ヲ払フコトヲ要ス
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民法第79条 条文 - 第79条 - 削除 改正経緯 2006年(平成18年)の改正により、民法の第1編 総則の法人関係の規定の多くが削除、本条も、以下の条項が規定されていたが削除された。 (債権の申出の催告等) - 清算人は、その就職の日から二箇月以内に、少なくとも三回の公告をもって、債権者に対し、一定の期間内にその債権の申出をすべき旨の催告をしなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。 - 前項の公告には、債権者がその期間内に申出をしないときは、その債権は清算から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、清算人は、知れている債権者を除斥することができない。 - 清算人は、知れている債権者には、各別にその申出の催告をしなければならない。 - 第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。 平成18年の改正により、民法の第1編 総則の法人関係の規定の多くが削除された。 この規定は、改正以前は民法第927条と民法第957条から準用されていたが、平成18年改正により削除となったため、代わりに民法第927条に第2項から第4項が新設され、民法第957条からの準用対象も民法第927条に置き換えがなされた。
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条文 (後見開始の審判) - 第7条 - 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。 解説 - 成年後見開始のための要件について規定している。 - 未成年後見人、未成年後見監督人が請求権者にあることから未成年に対する後見開始の審判も認められる。これは、未成年者が成人したときに財産行為が引き続き行えるように配慮するためである。 - 「事理を弁識する能力」(事理弁識能力)とは意思能力を指す。 参照条文 - 後見関連 - 民法第11条(保佐開始の審判) - 民法第15条(補助開始の審判) - 知的障害者福祉法第28条
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条文 (縁組の届出の受理) 解説 - 縁組の届出(前条での民法第739条準用)の受理に以下の無効要件がないことを確認する義務があることを規定。明治民法第846条を継承。いずれも無効要件であるので、離縁と異なり、過誤などにより違反して受理されても、縁組の効力が発生するものではない。 - 民法第813条第2項 - 離縁の届出が前項の規定に違反して受理されたときであっても、離縁は、そのためにその効力を妨げられない。 - 民法第813条第2項 - 民法第792条(養親となる者の年齢) - 民法第793条(尊属又は年長者を養子とすることの禁止) - 民法第794条(後見人が被後見人を養子とする縁組) - 民法第795条(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組) - 民法第796条(配偶者のある者の縁組) - 民法第797条(十五歳未満の者を養子とする縁組) - 民法第798条(未成年者を養子とする縁組) 参照条文 判例 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。家制度廃止に伴い継承なく削除された。
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条文 (外国に在る日本人間の縁組の方式) - 第801条 - 外国に在る日本人間で縁組をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合においては、第799条において準用する第739条の規定及び前条の規定を準用する。 解説 外国における日本人間の婚姻の届出の方式を定めた条文である。戦後の民法改正においても、明治民法第850条)を継承する。 参照条文 - 戸籍法第40条 - 外国に在る日本人は、この法律の規定に従つて、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事に届出をすることができる。 - 戸籍法第42条 - 大使、公使又は領事は、前二条の規定によつて書類を受理したときは、遅滞なく、外務大臣を経由してこれを本人の本籍地の市町村長に送付しなければならない。 - 民法第741条(外国に在る日本人間の婚姻の方式) 判例 参考 明治民法において、本条には夫婦の財産管理に関する以下の規定があった。夫婦財産の別産・別管理制確立により、継承なく削除された。 - 夫ハ妻ノ財産ヲ管理ス - 夫カ妻ノ財産ヲ管理スルコト能ハサルトキハ妻自ラ之ヲ管理ス
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民法第804条 条文 (養親が20歳未満の者である場合の縁組の取消し) - 第804条 - 第792条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、20歳に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 改正経緯 2018年改正(平成30年法律第59号)により、但書が以下より改正。 - ただし、養親が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 解説 手続きの過誤等により、養親適齢に達しない者が養親となったの縁組の取消しについて定める。養親不適齢者が適齢に達することにより、縁組障害原因が消滅するためである。明治民法の規定(第853条)を継承する。 - 養親となった未成年の保護のための規定であるので、養子の側からの取消しは認められていない。 - 養親が適齢に達した場合、達した後6ヶ月間は取消権が留保される。ただし、その期間中に、縁組を追認した場合は、取消権を喪失する。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。趣旨は、民法第761条に継承された。 - 日常ノ家事ニ付テハ妻ハ夫ノ代理人ト看做ス - 夫ハ前項ノ代理権ノ全部又ハ一部ヲ否認スルコトヲ得但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
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条文 (養子が尊属又は年長者である場合の縁組の取消し) - 第805条 - 第793条の規定に違反した縁組は、各当事者又はその親族から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。 解説 尊属又は年長者を養子とする縁組が誤って受理された場合等についての取消し規定。明治民法第854条を継承する。縁組の他の取消し規定と異なり期間の定めがないので、縁組が継続している限りいつでも取消しを請求できる。 参照条文 判例 - 養子縁組取消(最判昭和53年7月17日) - 養子夫婦の一方が養親夫婦の一方より年長であることを理由に縁組を取り消す場合における取消の限度 - 養子夫婦の一方が養親夫婦の一方より年長であることを理由に縁組全部の取消が請求された場合には、年長の養子と年少の養親との間の縁組だけを取り消せば足りる。 - 本来、養子縁組は、個人間の法律行為であつて、夫婦が共同して他の夫婦と養子縁組をする場合にも、夫婦各自について各々別個の縁組行為があり、各当事者ごとにそれぞれ相手方との間に親子関係が成立することを理由とする。 参考 明治民法において、本条には夫の妻の財産管理に関する以下の規定があった。戦後改正において継承なく削除された。 - 夫カ妻ノ財産ヲ管理シ又ハ妻カ夫ノ代理ヲ為ス場合ニ於テハ自己ノ為メニスルト同一ノ注意ヲ為スコトヲ要ス
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民法第807条 条文 (養子が未成年者である場合の無許可縁組の取消し) - 第807条 - 第798条の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養子が、成年に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。 解説 - 未成年者を養子とする縁組については、裁判所の許可を要する(第798条)が、これを欠いて受理された場合や家庭裁判所の許可審判謄本などが偽造されて届出がなされた場合、①養子本人、②養子の実方の親族、③養子に代わって縁組の承諾をした者のいずれかから、縁組の取り消しを請求できる。明治民法においては、第857条に取り消しうべき縁組の取り消しについての手続きについて定めていた。 - ただし、養子が成年に達した後、6ヶ月を経過した時又は6ヶ月経過前に追認をした場合、取り消しができなくなる。 - 反対解釈をすると、養子が成年に達するまでは、取り消しが可能であり、追認は効果を有さない。 参照条文 参考 明治民法において、本条には以下の規定があった。現行第762条に「夫婦間における財産の帰属」として継承されたが、帰属不分明な財産については夫婦の共有となった。 - 妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財産及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス - 夫婦ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ夫又ハ女戸主ノ財産ト推定ス
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民法第808条 条文 (婚姻の取消し等の規定の準用) - 第808条 - 第747条及び第748条の規定は、縁組について準用する。この場合において、第747条第2項中「3箇月」とあるのは、「6箇月」と読み替えるものとする。 - 第769条及び第816条の規定は、縁組の取消しについて準用する。 解説 - 養子縁組の取り消しについては、一部婚姻の取消し・離婚・離縁に関する規定を準用する。戦後の民法改正においても、明治民法の規定(旧・民法第859条)の趣旨を受け継ぐものであり、成立要件について婚姻と効果について離縁の類似性にもとづくものである。 - 準用される条項は以下のものであり、以下読み替える。 - 詐欺又は強迫による縁組の取消し(第747条準用) - 詐欺又強迫によって縁組をした者は、その縁組の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 - 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。 - 縁組の取消しの効力(第748条準用) - 縁組の取消しは、将来に向かってのみその効力を生ずる。 - 縁組の時においてその取消しの原因があることを知らなかった当事者が、縁組によって財産を得たときは、現に利益を受けている限度において、その返還をしなければならない。 - 縁組の時においてその取消しの原因があることを知っていた当事者は、縁組によって得た利益の全部を返還しなければならない。この場合において、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責任を負う。 - 縁組の取消しによる復氏の際の権利の承継(第769条) - 養子が、第897条第1項の権利(系譜、祭具及び墳墓の所有権他祖先を祭祀する権利)を承継した後、縁組の取消しをしたときは、当事者その他の利害関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。 - 縁組の取消しによる復氏等(第816条) - 養子は、縁組の取消しによって縁組前の氏に復する。ただし、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。 - 縁組の日から7年を経過した後に前項の規定により縁組前の氏に復した者は、離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる。 - 縁組から取り消し原因である詐欺の発見又は強迫からの免脱まで7年以上経過していることとなり現実的とは言い難いが規定上はこのとおり。 参照条文 - 戸籍法第19条【離婚・離縁等による復氏者の籍】 参考 明治憲法において、本条あった、協議離婚に関する規定は第763条に継承された。 - 夫婦ハ其協議ヲ以テ離婚ヲ為スコトヲ得
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条文 (嫡出子の身分の取得) - 第809条 - 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。 解説 - 明治民法第860条を継承。なお、養子が養親の嫡出子である身分を得たからと言って、実親の嫡出子の身分を失うわけではなく、実親との間の扶養の義務や相続関係は依然として残る。すなわち、養子は実親・養親ともの子としての相続の身分を有するし、養子が子なく、実親及び養親よりも先に亡くなった場合、実親と養親は、養子の法定相続人となる。なお、特別養子の場合は、実親の嫡出の身分を失う(民法第817条の9)。 参照条文 判例 参考 明治民法において、本条には離婚に関する父母等の同意についての以下の規定があった。家制度廃止に伴い継承なく廃止された。
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条文 (協議上の離縁等) - 第811条 - 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。 - 養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。 - 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。 - 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。 - 第2項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。 - 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。 解説 - 養子縁組は当事者(養親・養子)の協議のみで解消(離縁)することができる。明治民法第862条を継承するものである。ただし、離婚と異なり、養子の身分に関する行為能力がない場合や養親子の一方の死亡後の離縁が想定されるため、未成年者の福祉の観点などから、協議の内容に関して要件が追加されている。 - 離縁において、養子が15歳未満である場合 - 養子ではなく離縁後に法定代理人となるべき者(多くの場合、養子の実親)と養親の間で協議をする。 - この場合で、養子の実親が離婚をしている場合は、離縁後、養子であったものの親権者を協議で定めなければならない。本協議が不調又は不能の場合、家庭裁判所は協議に代わる審判を行うことができる。 - 実親等法定代理人になるべき者がいない(実親がいても法定代理人とするのに不適当な場合を含む)場合は、家庭裁判所が、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。 - 養親子の一方が死亡した後、生存当時者が離縁を望む場合、家庭裁判所の許可を得て、離縁をすることができる。 参照条文 - 戸籍法第72条【当事者死後の離縁】 参考 明治民法において、本条には離婚の届出の受理に関する以下の規定があった。戦後改正において、民法第765条に継承された。 - 戸籍吏ハ離婚カ第七百七十五条第二項及ヒ第八百九条ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス - 戸籍吏カ前項ノ規定ニ違反シテ届出ヲ受理シタルトキト雖モ離婚ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ
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条文 (婚姻の規定の準用) 解説 - 婚姻の規定の一部が協議上の離縁に適用されることを規定、明治民法864条を継承する。なお、離婚に関する準用規定(民法第764条)も同旨である。 - 協議上の離縁と婚姻とは共に身分行為であり、また合意の成立と届出が要件とされている点で共通する。 - 準用による読替え - 民法第738条(成年被後見人の婚姻) - 成年被後見人が離縁をするには、その成年後見人の同意を要しない。 - 離縁は身分行為であるので、成年被後見人であってもその成年後見人の同意を要しない。 - 成年被後見人が離縁をするには、その成年後見人の同意を要しない。 - 民法第739条(婚姻の届出) - 離縁は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 - 届出主義 - 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。 - 離縁は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。 - 民法第747条(詐欺・強迫による婚姻の取消し) - 詐欺又は強迫によって離縁をした者は、その離縁の取消しを家庭裁判所に請求することができる。 - 前項の規定による取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。 - 民法第738条(成年被後見人の婚姻) 参照条文 判例 参考 明治憲法において、本条には離婚後の親権の指定に関する以下の規定があった。戦後民法では、「家」の概念を取り除いて民法第766条に継承された。 - 協議上ノ離婚ヲ為シタル者カ其協議ヲ以テ子ノ監護ヲ為スヘキ者ヲ定メサリシトキハ其監護ハ父ニ属ス - 父カ離婚ニ因リテ婚家ヲ去リタル場合ニ於テハ子ノ監護ハ母ニ属ス - 前二項ノ規定ハ監護ノ範囲外ニ於テ父母ノ権利義務ニ変更ヲ生スルコトナシ