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7,347 | ニシン目 | ニシン目(Clupeiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。2亜目に約7科80属400種が属する。イワシ・ニシン・サッパ・コノシロなど、漁業資源として重要な魚種を多数含んでいる。
ニシン目魚類には熱帯から温帯にかけての沿岸域に分布する種類が多く含まれるが、寒帯の海や汽水域に分布するニシン、産卵のため河川を遡上するエツなど遡河性の魚類もいる。また、日本産ではないが一生を淡水で過ごす種類もいる。日本の近海には26種が分布し、いずれも漁獲対象として重要である。体長10-30cmほどのものが多いが、オキイワシは全長1mほどになる。
体型は細長い円筒形のものや、植物の葉のように左右に平たいものがいる。胸鰭は腹側に偏り、背鰭は1つだけである。鰭は全て軟条からなり、棘条(とげ)は発達しない。各鰭は体に対して小さく、遊泳力が高い。速く泳ぐ時は体の後半部を激しく振って泳ぐ。アジ科魚類と同様に、稜鱗(りょうりん)と呼ばれる硬い突起をもつ独特な鱗を腹部にもつ種類が多い。体色は背面が青や灰色、体側から腹部にかけては銀白色になっているものが多く、これは光が差す水中で保護色となる。第四脳室外側陥凹(Recessus lateralis)と呼ばれる部位をもち、これは他の魚類にはみられないニシン目の解剖学的な特徴である。
群れを作って環境や季節に応じた回遊をしながら生活するものが多い。特にマイワシやニシンなどは海面が黒く染まるほどの大群を作ることがある。
おもな食べ物はプランクトンで、口を開けて海水ごと吸い込み、鰓にある鰓耙(さいは)でプランクトンを濾過摂食する。ニシン目魚類の歯はあまり発達していないが、プランクトンを捕捉する鰓耙は櫛状によく発達する。ただしオキイワシは犬歯状の鋭い歯を持ち、他の魚を捕食する。
天敵はイカ、サメ、アジ、カマス、マグロ、クジラ、イルカ、人間など多岐にわたり、海の食物連鎖で重要な位置を占める。これらの天敵に遭うと密集隊形を作り、一斉に同調して泳いで敵の攻撃をかわす。この時に他の個体とぶつかることはない。
多くが重要な食用魚となっており、巻き網や定置網、刺し網などで多量に漁獲される。食用の他にも釣り餌、飼料、肥料などに利用される。
デンティケプス亜目とニシン亜目の2亜目に分けられる。現生種は1種を除きすべてニシン亜目に所属している。
デンティケプス亜目 Denticipitoidei は1科のみからなる単型亜目である。デンティケプス科 Denticipitidae は1属1種。現生種としては Denticeps clupeoides のみで構成される。本種はナイジェリア・カメルーンの河川に分布し、体長6cm程度の小型の淡水魚である。頭蓋骨の表面は微細な突起で覆われる。完全な側線をもち、尾鰭の鰭条は16本。第四脳室外側陥凹の構造は、他のニシン目魚類と比べて原始的である。タンザニアの中新世の地層からは Palaeodenticeps tanganikae の化石が見つかっており、本科に属する絶滅種と考えられている。
ニシン亜目 Clupeoidei は約5科80属400種で構成される。デンティケプス亜目とは異なり側線はあまり発達せず、側線鱗ももたない。尾鰭を構成する鰭条は19本。本亜目の魚類は浮き袋の形態に多様性がみられ、細い管を介して内耳とつながるなど特殊な構造をもつ場合もある。
約17属150種で構成される。ほとんどは三大洋に広く分布する海水魚で、アンチョベータ・カタクチイワシ等重要な食用魚種を多数含んでいる。17種の淡水産種が知られ、南アメリカを中心に分布する。ニシン科とは異なり、本科魚類の化石種は極めて少数しか知られていない。上顎骨の後端は眼の位置よりもずっと後ろまで伸びている。吻(口先)はややとがり、下顎よりも前に突き出ていることが多い。
ウルメイワシ科 Dussumieriidae は2属14種からなる。かつてはニシン科に含まれていた。鰓条骨は11-18本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支える。前上顎骨は四角形。
キビナゴ科 Spratelloididae は2属8種からなる。かつてはニシン科やウルメイワシ科に含まれていた。鰓条骨は6-7本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支える。前上顎骨は三角形。
オキイワシ科 Chirocentridae は1属1-2種。体長1mに達することもある大型の捕食魚で、インド洋と西部太平洋に生息する。体は細長く、左右に平べったい。顎には牙のような鋭い歯を備える。腹鰭はごく小さく、腹部稜鱗は成魚ではほとんどみられない。
ヒラ科 Pristigasteridae は約10属40種からなる。世界の熱帯・亜熱帯海域に分布し、一部に淡水産種を含む。多くは上向きの口をもち、顎の歯は小さい。腹鰭をもたない種類がある。第三下尾骨に切れ込みをもつなど、他のニシン目魚類にはみられない骨格上の特徴がいくつかある。
ヒラはハモのように小骨が非常に多く、骨切りをしないと食べられないが、肉は美味であり、瀬戸内地方(特に岡山県)や九州北部で珍重される。
約50属200種で構成される。世界のほとんどの海域に分布し、水産資源として極めて重要な存在である。口は体の先端にあるか、やや上向きについている。歯の発達は悪く、プランクトン食性。少数の例外を除き、腹部に稜鱗をもつ。多くの種類は体長25cm未満。
次のような系統樹が得られている。 | [
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] | ニシン目(Clupeiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。2亜目に約7科80属400種が属する。イワシ・ニシン・サッパ・コノシロなど、漁業資源として重要な魚種を多数含んでいる。 | {{生物分類表
|名称 = ニシン目
|色 = 動物界
|画像=[[File: Anchovy closeup.jpg|250px]]
|画像キャプション = カタクチイワシ科の1種(''Anchovia clupeoides'')
|省略 = 条鰭綱
|亜綱 = [[新鰭亜綱]] {{Sname||Neopterygii}}
|上目 = [[ニシン上目]] {{Sname||Clupeomorpha}}
|目 = '''ニシン目''' {{Sname|Clupeiformes}}
|学名 = {{Sname|Clupeiformes}} {{AUY|Bleeker|1959}}
}}
'''ニシン目'''({{Sname|Clupeiformes}})は、[[硬骨魚綱|硬骨魚類]]の[[タクソン|分類群]]の一つ。2亜目に約7科80属400種が属する。[[イワシ]]・[[ニシン]]・[[サッパ]]・[[コノシロ]]など、[[漁業]]資源として重要な魚種を多数含んでいる<ref>{{Cite book|和書|title=改訂新版 世界文化生物大図鑑 魚類|publisher=世界文化社 |year=2004 |page=}}</ref>。
== 概要 ==
ニシン目魚類には[[熱帯]]から[[温帯]]にかけての沿岸域に分布する種類が多く含まれるが、[[寒帯]]の海や[[汽水域]]に分布する[[ニシン]]、[[産卵]]のため[[河川]]を遡上する[[エツ]]など遡河性の魚類もいる。また、日本産ではないが一生を淡水で過ごす種類もいる。[[日本]]の近海には26種が分布し<ref>『日本の海水魚』 pp.91-93</ref>、いずれも漁獲対象として重要である。体長10-30cmほどのものが多いが、[[オキイワシ]]は全長1mほどになる。
体型は細長い円筒形のものや、植物の[[葉]]のように左右に平たいものがいる。[[対鰭|胸鰭]]は腹側に偏り、背鰭は1つだけである。[[鰭]]は全て軟条からなり、棘条(とげ)は発達しない。各鰭は体に対して小さく、遊泳力が高い。速く泳ぐ時は体の後半部を激しく振って泳ぐ。[[アジ科]]魚類と同様に、'''稜鱗'''(りょうりん)と呼ばれる硬い突起をもつ独特な鱗を腹部にもつ種類が多い。体色は背面が青や灰色、体側から腹部にかけては銀白色になっているものが多く、これは光が差す水中で[[保護色]]となる。[[第四脳室]]外側陥凹(Recessus lateralis)と呼ばれる部位をもち、これは他の魚類にはみられないニシン目の[[解剖学]]的な特徴である。
[[File: Pacific sardine002.jpg |thumb|right|群泳する[[マイワシ]](''Sardinops sagax'')]]
[[群れ]]を作って環境や季節に応じた[[回遊]]をしながら生活するものが多い。特に[[マイワシ]]や[[ニシン]]などは海面が黒く染まるほどの大群を作ることがある。
おもな食べ物は[[プランクトン]]で、口を開けて海水ごと吸い込み、[[えら|鰓]]にある鰓耙(さいは)でプランクトンを[[濾過摂食]]する。ニシン目魚類の[[歯]]はあまり発達していないが、プランクトンを捕捉する鰓耙は[[櫛]]状によく発達する。ただしオキイワシは[[犬歯]]状の鋭い歯を持ち、他の魚を捕食する。
[[天敵]]は[[イカ]]、[[サメ]]、[[アジ]]、[[カマス]]、[[マグロ]]、[[クジラ]]、[[イルカ]]、人間など多岐にわたり、海の[[食物連鎖]]で重要な位置を占める。これらの天敵に遭うと密集隊形を作り、一斉に同調して泳いで敵の攻撃をかわす。この時に他の個体とぶつかることはない。
多くが重要な食用魚となっており、[[巻き網]]や[[定置網]]、[[刺し網]]などで多量に漁獲される。食用の他にも[[釣り餌]]、[[飼料]]、[[肥料]]などに利用される。
== 分類 ==
デンティケプス亜目とニシン亜目の2亜目に分けられる<ref name=Nelson2006>{{cite book|author= Nelson JS |title=Fishes of the world (4th edn) |publisher=John Wiley and Sons |location= New York |year=2006}}</ref>。現生種は1種を除きすべてニシン亜目に所属している。
=== デンティケプス亜目 ===
'''デンティケプス亜目''' Denticipitoidei は1科のみからなる[[単型 (分類学)|単型]]亜目である。'''デンティケプス科''' Denticipitidae は1属1種。現生種としては {{snamei||Denticeps clupeoides}} のみで構成される。本種は[[ナイジェリア]]・[[カメルーン]]の河川に分布し、体長6cm程度の小型の[[淡水魚]]である。[[頭蓋骨]]の表面は微細な突起で覆われる。完全な[[側線]]をもち、尾鰭の鰭条は16本。第四脳室外側陥凹の構造は、他のニシン目魚類と比べて原始的である。[[タンザニア]]の[[中新世]]の地層からは ''Palaeodenticeps tanganikae'' の[[化石]]が見つかっており、本科に属する絶滅種と考えられている。
=== ニシン亜目 ===
[[File: Knightia alta 01.jpg |thumb|right|ニシン科魚類の化石種(''Knightia alta'')。本属の化石は北アメリカ西部と中国から発見されている]]
'''ニシン亜目''' Clupeoidei は約5科80属400種で構成される。デンティケプス亜目とは異なり側線はあまり発達せず、側線鱗ももたない。尾鰭を構成する鰭条は19本。本亜目の魚類は[[浮き袋]]の形態に多様性がみられ、細い管を介して[[内耳]]とつながるなど特殊な構造をもつ場合もある。
==== カタクチイワシ科 ====
{{Main|カタクチイワシ科}}
[[File:Shirasu.jpg|thumb|right|[[カタクチイワシ]](''Engraulis japonicus'')。寿命は2年程度で、春と秋に産卵期を迎える]]
約17属150種で構成される。ほとんどは三大洋に広く分布する海水魚で、[[アンチョベータ]]・[[カタクチイワシ]]等重要な食用魚種を多数含んでいる。17種の淡水産種が知られ、[[南アメリカ]]を中心に分布する。ニシン科とは異なり、本科魚類の[[化石]]種は極めて少数しか知られていない。[[上顎骨]]の後端は眼の位置よりもずっと後ろまで伸びている。吻(口先)はややとがり、下顎よりも前に突き出ていることが多い。
* エツ亜科 Coiliinae - 5属47種。腹鰭の前後に稜鱗をもつ。臀鰭が長く、エツ属では尾鰭と連続する。
* カタクチイワシ亜科 Engraulinae - 11属92種。腹部の稜鱗は腹鰭の前方だけにある。臀鰭は短い。ほとんどの種類は南北アメリカ大陸の沿岸に分布する。
==== ウルメイワシ科 ====
[[ウルメイワシ科]] Dussumieriidae は2属14種からなる。かつてはニシン科に含まれていた<ref name="Ichthy1">{{Cite journal ja-jp||author=畑晴陵・本村浩之|year=2020|title=ニシン目の Dussumieriidae に適用すべき和名の検討|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/ichthy/1/0/1_11/_article/-char/ja/|journal=Ichthy, Natural History of Fishes of Japan|volume=1|publisher=鹿児島大学総合研究博物館|doi=10.34583/ichthy.1.0_11|pages=11-14}}</ref>。鰓条骨は11-18本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支える。前上顎骨は四角形。
* {{Snamei||Dussumieria}} [[ギンイワシ属]] - 7種 [[ギンイワシ]]
* {{Snamei||Etrumeus}} [[ウルメイワシ属]] - 7種 [[ウルメイワシ]]
==== キビナゴ科 ====
[[キビナゴ科]] Spratelloididae は2属8種からなる。かつてはニシン科やウルメイワシ科に含まれていた<ref name="Ichthy3">{{Cite journal ja-jp||author=畑晴陵・本村浩之|year=2020|title=ニシン目の Spratelloididae に対する標準和名キビナゴ科(新称)の提唱|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/ichthy/3/0/3_10/_article/-char/ja/|volume=3|publisher=鹿児島大学総合研究博物館|doi=10.34583/ichthy.3.0_10|pages=10-15}}</ref>。鰓条骨は6-7本で、腹部稜鱗はW字型で腹鰭を支える。前上顎骨は三角形。
* {{Snamei||Spratelloides}} [[キビナゴ属]] - 4種 [[キビナゴ]]
* {{Snamei||Jenkinsia}} - 4種
==== オキイワシ科 ====
[[ファイル:Chirocentrus dorab Pakistan.png|thumb|right|[[オキイワシ]] {{Snamei||Chirocentrus dorab}}]]
[[オキイワシ科]] Chirocentridae は1属1-2種。体長1mに達することもある大型の捕食魚で、インド洋と西部太平洋に生息する。体は細長く、左右に平べったい。顎には牙のような鋭い歯を備える。腹鰭はごく小さく、腹部稜鱗は成魚ではほとんどみられない。
* オキイワシ属 ''Chirocentrus''
==== ヒラ科 ====
[[File:Pellona flavipinnis.jpg|thumb|right|{{Snamei||Pellona flavipinnis}}]]
[[ヒラ科]] Pristigasteridae は約10属40種からなる。世界の[[熱帯]]・[[亜熱帯]]海域に分布し、一部に淡水産種を含む。多くは上向きの口をもち、顎の歯は小さい。腹鰭をもたない種類がある。第三下尾骨に切れ込みをもつなど、他のニシン目魚類にはみられない[[骨格]]上の特徴がいくつかある。
ヒラは[[ハモ]]のように小骨が非常に多く、[[骨切り]]をしないと食べられないが、肉は美味であり、[[瀬戸内地方]](特に[[岡山県]])や[[九州]]北部で珍重される。
* ヒラ亜科 Pelloninae - 5属26種。上顎の構造により分類される。
** {{Snamei||Pellona}} - 6種
** {{Snamei||Pliosteostoma}} - 1種
** {{Snamei||Chirocentrodon}} - 1種 [[イヌバニシン]]
** {{Snamei||Ilisha}} [[ヒラ属]] - 16種 [[ヒラ (魚)]]・[[オオメヒラ]]
** {{Snamei||Neoopisthopterus}} - 2種
* Pristigasterinae - 4属12種。第一[[肋骨]]にみられる突起が、他の硬骨魚類にはない特徴となっている。
** {{Snamei||Odontognathus}} - 3種 [[ギアナニシン]]
** {{Snamei||Opisthopterus}} - 6種
** {{Snamei||Pristigaster}} - 2種
** {{Snamei||Raconda}} - 1種
==== ニシン科 ====
{{Main|ニシン科}}
[[File: Sardinops melanostictus.jpg|thumb|right|[[マイワシ]](''Sardinops sagax'')。食用のみならず、飼肥料としての需要も大きい。寿命は5-6年ほど]]
[[File: Brevoortia tyrannus1.jpg |thumb|right|ニシンダマシ亜科[[スミツキニシン属]]の1種({{snamei||Brevoortia tyrannus}})]]
約50属200種で構成される。世界のほとんどの海域に分布し、水産資源として極めて重要な存在である。口は体の先端にあるか、やや上向きについている。歯の発達は悪く、プランクトン食性。少数の例外を除き、腹部に稜鱗をもつ。多くの種類は体長25cm未満。
* {{Sname||Clupeinae}} [[ニシン亜科]] - 6属15種 [[ニシン]]・[[タイセイヨウニシン]]・[[フエゴニシン]]等
* {{Sname||Ehiravinae}} - 11属31種
* {{Sname||Alosinae}} [[ニシンダマシ亜科]] - 4属32種 [[マイワシ]]等
* {{Sname||Dorosomatinae}} [[コノシロ亜科]] - 30属108種 [[コノシロ]]・[[サッパ]](ママカリ)等
== 系統 ==
次のような系統樹が得られている<ref name="Lavoué2014">{{citation|author=Lavoué, Sébastien, Peter Konstantinidis, and Wei-Jen Chen.|title=Progress in Clupeiform Systematics|work=Biology and Ecology of Sardines and Anchovies|year=2014}}</ref>。
{{clade| style=font-size:80%;line-height:100%
|1={{Clade
|1={{Snamei||Denticeps clupeoides}}
|2={{Clade
|1=[[カタクチイワシ科]]
|2={{Clade
|1=キビナゴ亜科
|2={{Clade
|1={{Clade
|1=ウルメイワシ亜科
|2=[[オキイワシ科]]
}}
|2={{Clade
|1=[[ヒラ科]]
|2=[[ニシン科]]
}}
}}
}}
}}
}}
}}
== 脚注 ==
<div class="references-small">{{Reflist|2}}</div>
== 参考文献 ==
{{commonscat|Clupeiformes}}
{{wikispecies|Clupeiformes}}
* 藍澤正宏ほか 『新装版 詳細図鑑 さかなの見分け方』 [[講談社]] ISBN 4-06-211280-9
* [[檜山義夫]]監修 『野外観察図鑑4 魚』 改訂版 [[旺文社]] ISBN 4-01-072424-2
* 内田亨監修 『学生版 日本動物図鑑』 北隆館 ISBN 4-8326-0042-7
* 上野輝彌・坂本一男 『新版 魚の分類の図鑑』 [[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]] 2005年 ISBN 978-4-486-01700-4
* 岡村収・尼岡邦夫監修(ニシン目執筆者:佐藤陽一) 『日本の海水魚』 山と溪谷社 1997年 ISBN 4-635-09027-2
== 外部リンク ==
* [http://www.fishbase.org/Summary/OrdersSummary.cfm?order=Clupeiformes FishBase - ニシン目] (英語)
{{DEFAULTSORT:にしんもく}}
[[Category:ニシン目|*]] | 2003-04-26T20:41:21Z | 2023-09-10T11:05:53Z | false | false | false | [
"Template:生物分類表",
"Template:Snamei",
"Template:Main",
"Template:Reflist",
"Template:Cite book",
"Template:Citation",
"Template:Sname",
"Template:Clade",
"Template:Cite journal ja-jp",
"Template:Commonscat",
"Template:Wikispecies"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%B7%E3%83%B3%E7%9B%AE |
7,351 | ジョイスティック | ジョイスティック(英: Joystick)は、スティック(レバー)を傾けることで方向入力が行える入力機器の総称。航空機などの機械への入力機器として利用されるほか、コンピュータへの入力機器としても使用される。
後述のとおり航空機を起源とした用語であり、ゲームの入力デバイスとしてはそれから応用されたものである(ゲーム用語を用いた比喩や冗談ではない。)。
航空機、産業機械、コンピュータ、自動車などの入力機器として使用される。
スティックを操作することによって片手で2軸あるいはそれ以上の操作ができるのが利点である。スティックは力を緩めたり手を離すと中立位置に戻る。上下左右あるいは前後左右に動く2軸式のスティックが多いが、1軸でもジョイスティックと呼ぶことがある。両手で1本ずつあるいはそれ以上のジョイスティックを操作する事もある。クレーン、ショベルカー等の産業機械においては、複数の単純なレバーで構成される入力機器を代替するためにジョイスティックが採用されることが多い。スティックはどれだけ傾いたか(アナログ量)をある程度の分解能で入力できるものと、単に傾いた方向を入力できるものの2つが存在するが、後者は特定のジャンルのゲーム用に採用されることが多い。
ゲーム用のジョイスティックは形状・用途により「フライトスティック」と「アーケードコントローラー(アケコン)」および「アナログスティック」に大別される。フライトスティックとアケコンはやや大型の本体を机上に置くか吸盤を吸着させるなどして固定しスティック部分を手で動かして操作する。アナログスティックは非常に小型で、スティック部分は指先だけで操作する。
ジョイスティックは航空機の操縦桿を起源とした入力機器である。ジョイスティックという単語が最初に使用されたのは20世紀初頭、フランスの飛行家ロベール・エスノー=ペルトリによると考えられているが、ロバート・ロレーヌ(英語版)、ジェームズ・ヘンリー・ジョイス、およびA. E. ジョージ(英語版)らとする主張もある。
電気式のジョイスティックはアメリカ海軍調査研究所のC. B. Mirickによって発明され、1926年に特許が取得されている。
ドイツでは1944年頃に電気式の2軸ジョイスティックが開発され、FuG 203 Kehl送信機に組み込まれてHs293やフリッツXの制御に使用された。これは母機の壁面などに設置され、水平に出ているスティックを上下左右に動かして操作した。Hs293用は航空機と同様にロール・ピッチを操作するものだったが、フリッツX用は単純に上下左右を指示するものだった。アメリカでは同じく1944年頃にAZONが開発され、制御装置にジョイスティックが使用された。ただしAZONはラダー操作による左右の制御のみ可能で、ピッチ方向の制御はジョイスティックではなく正確な投弾タイミングによって行われた。
1960年台に航空機の無線操縦用の装置としてジョイスティックは広く使用され、NASAのミッションでも使用されるようになる。
1962年に完成したコンピューターゲーム「スペースウォー!」にて、前後1軸・左右1軸の2つのレバー型スイッチを備えたジョイスティックのようなコントロールボックスが自作された。1969年に稼働したセガのエレメカ「ミサイル」では、スティック上にボタンの付いたジョイスティックが搭載されていた。1977年に発売されたゲーム機Atari 2600には、4方向のスティックと1つのボタンを備えたジョイスティックが同梱されていた。1978年に稼働したスペースインベーダーでは、最初は左右の移動に2つのボタンが使用されていたが、すぐに2方向のジョイスティックになった。1980年に稼働したパックマンでは4方向のジョイスティックが搭載された。コンピュータゲームにおける黎明期のジョイスティックは単純にスイッチやボタンや十字キーの操作をスティック(レバー)の操作に置き換えたものだった。
ゲームのコントローラとして主に使用されるため、「ゲーム用コントローラ」を意味する語として「ジョイスティック」が使われる場合も多く、パソコンでゲーム用コントローラを接続する部分は「ジョイスティック端子」と呼ばれた。ジョイスティック端子には、Atari 2600で使われた、俗に言う「アタリ規格(D-sub 9ピン)」や、のちにIBMが開発した「ゲームポート(D-sub 15ピン)」が用いられていたが、より手軽なUSBの普及によって代わられることになった。
フライトシミュレータやアクションゲームなどで使用される形式。レバー・ボタン一体型とも呼ばれる。ただしスティック(レバー)と一体化していないボタンも持つ製品が大半である。片手全体で握り込んで把持する大型のスティックと、1個から10個程度のボタンを持つ。通常は右手でスティックを持ち、右手の指でスティック上のスイッチ類を操作し、左手は土台上のスイッチ類を操作する。
スティックは主に操縦桿としての使用が想定されており、左右および上下に倒すことでx軸・y軸の変位(どれだけ傾けたか)が入力可能。繊細な操作に向いている。ボタンは特定の動作の実行(武器の発射など)、項目の選択に用いる(画像も参照のこと)。追加のスイッチ類としてスロットルやハットスイッチを備えた製品も多い。なお大型機の操舵輪を模した入力機器はフライトヨークと呼ばれ、フライトスティックやジョイスティックとは区別される。ゲーム用途ではヘリコプターのサイクリック・スティックの操作をジョイスティックで代用することが多い。
上位製品にはより実際の航空機に近づくよう、スロットルを分離し、スティックおよびスイッチ類を備えた独立の機器として用意した製品も存在する。このような上位製品のスロットルは追加操作用のパドルコントローラを備えたものも少なくない。スロットルのみ個別に販売している製品も存在する。
スティックをひねることによりz軸(ヨー軸)の入力が可能な3軸のスティックの製品も存在する。より実際の航空機に近づくよう、足でヨー軸を操作するペダル型の独立した入力機器も存在するが、これはジョイスティックに含まれず、実際の航空機の場合と同様にラダーペダルと呼ばれる。
スティックの傾きを検知するセンサとしては可変抵抗器(リニア型あるいはロータリー型のポテンショメータ)、光学式センサ、ホール効果を利用した磁気センサがある。可変抵抗器は経年劣化や摩耗によりセンタリングが狂ってしまうため、調整用のノブを備えていたりソフトウェア側で補正できるようになっていることがある。かつては可変抵抗式が主流だったが接触部の摩耗が問題となっており、1995年発売のMicrosoft製「Sidewinder Precision Pro」では非接触式の光学式センサが採用された。その後も非接触式センサの流れは続き、2021年現在では磁気センサが主流である。
アーケードゲームなどで、特にシューティングゲーム、アクションゲーム(格闘ゲーム)、パズルゲームなどで使用されている形式。アーケードスティック、レバー・ボタン分離型とも呼ばれる。レバーにはボタンが付かないため、細長い金属のレバー軸のてっぺんに持ち手(日本では球型が多い)が付いただけのシンプルな構造である。通常は左手でレバーを持ち、右手でボタンを操作する。 日本で球型の形状が多いのは、テンキーの方向入力をレバー操作に簡略化するための「自作コントローラー」の設計図を記載した雑誌があり、それがゲーム会社に採用されその形のまま普及したためである。
ゲームパッドの方向キーをレバーに置き換えた構造といえ、レバーとボタンは分離され横長の平面上に置かれる。レバーは基本的に8方向(上下左右およびその中間)の方角が入力可能で、レバーの傾きの変位は入力できない。素早い操作に向いている。各方向へ確実に入力するためレバーガイドを備えたものが多い。ゲームパッドと区別するため「レバーコントローラ」と呼称されることもある。
「フライトスティック」と比べて小型のレバーであるため、指先で包むように持つ形になる。持ち方には大きく分けて以下の5種類があるとされる。
入力機器というより非常に小型の部品であり、スティックは指先だけ(主に親指)で操作する。スティックを傾けるのではなく滑らせて(スライドさせて)操作する方式の製品も存在する。「アナログスティック」という名称はコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機)の業界で主に使われる。他の業界ではサムスティック、フィンガージョイスティック、フィンガーチップジョイスティック、指操作ジョイスティック、あるいは単にジョイスティックやスティックなどと呼ばれる。
1986年に発売されたファミリーコンピュータ向けコントローラBPS-MAXにはサイクロイドパッドというスライド可能なアナログスティック状の操作部があったが、十字キーの操作感を向上させるためのものであり電気信号としてはアナログ入力ではなかった。1989年に発売された各種PCおよびメガドライブ向けのゲームパッドXE-1APにはアナログ入力が可能で親指で操作するアナログスティックと言える操作部が搭載されていたが、当時は「アナログスティック」とは呼ばれていなかった。1996年発売のNINTENDO64には、標準コントローラにアナログスティックが搭載されており、多くの消費者が初めてアナログスティックに触れた。ただし3Dスティック(サンディスティック)と呼ばれていた。なおアナログスティックとしては異例の光学式センサが使用されていた。プレイステーションは1997年発売モデル(SCPH-7000)から、従来のコントローラにアナログスティックと振動機能を追加したDUALSHOCKを標準コントローラとして同梱し、このスティックは公式に「アナログスティック」と呼ばれた。
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[[画像:Joyopis.svg|thumb|upright|200px|ジョイスティックの構造: '''1.'''スティック、'''2.'''台座、'''3.'''トリガー、'''4.'''ボタン、'''5.'''連射スイッチ、'''6.'''スロットル、'''7.'''ハットスイッチ(POV)、'''8.'''吸盤]]
'''ジョイスティック'''({{lang-en-short|Joystick}})は、スティック(レバー)を傾けることで方向入力が行える[[入力機器]]の総称。[[航空機]]などの[[機械]]への入力機器として利用されるほか、[[コンピュータ]]への入力機器としても使用される。
後述のとおり航空機を起源とした用語であり、ゲームの入力デバイスとしてはそれから応用されたものである(ゲーム用語を用いた比喩や冗談ではない。)。
== 概要 ==
[[画像:Space Invaders.JPG|thumb|upright|200px|[[スペースインベーダー]]の筐体側面に設置された小さなジョイスティック。左右のみ操作可能。]]
航空機、[[産業機械]]、コンピュータ、自動車などの入力機器として使用される。
スティックを操作することによって片手で2軸あるいはそれ以上の操作ができるのが利点である。スティックは力を緩めたり手を離すと中立位置に戻る。上下左右あるいは前後左右に動く2軸式のスティックが多いが、1軸でもジョイスティックと呼ぶことがある。両手で1本ずつあるいはそれ以上のジョイスティックを操作する事もある。クレーン、ショベルカー等の産業機械においては、複数の単純な[[レバー (操作機具)|レバー]]で構成される入力機器を代替するためにジョイスティックが採用されることが多い。スティックはどれだけ傾いたか([[アナログ]]量)をある程度の[[分解能]]で入力できるものと、単に傾いた方向を入力できるものの2つが存在するが、後者は特定のジャンルの[[コンピュータゲーム|ゲーム]]用に採用されることが多い。
ゲーム用のジョイスティックは形状・用途により「[[ジョイスティック#フライトスティック|フライトスティック]]」と「[[ジョイスティック#アーケードコントローラー(アケコン)|アーケードコントローラー(アケコン)]]」および「[[ジョイスティック#アナログスティック|アナログスティック]]」に大別される{{efn2|初期の製品や一部の製品にはこれらに分類されないものも存在する。}}。フライトスティックとアケコンはやや大型の本体を机上に置くか[[吸盤]]を吸着させるなどして固定しスティック部分を手で動かして操作する。アナログスティックは非常に小型で、スティック部分は指先だけで操作する。
==歴史==
ジョイスティックは航空機の操縦桿を起源とした入力機器である。ジョイスティックという単語が最初に使用されたのは20世紀初頭、フランスの飛行家[[ロベール・エスノー=ペルトリ]]によると考えられているが<ref>{{cite news | last = Zeller Jr. | first = Tom | title = A Great Idea That's All in the Wrist | newspaper = New York Times | date = 2005-06-05 | url = https://www.nytimes.com/2005/06/05/weekinreview/05zeller.html?ex=1275624000&en=127d9054b0921b1d | accessdate = 2006-09-07 }}</ref>、{{仮リンク|ロバート・ロレーヌ|en|Robert Loraine}}、ジェームズ・ヘンリー・ジョイス<ref>{{lang-en-short|James Henry Joyce}}</ref>、および{{仮リンク|A. E. ジョージ|en|A. E. George}}らとする主張もある。
電気式のジョイスティックは[[アメリカ海軍調査研究所]]のC. B. Mirickによって発明され、1926年に特許が取得されている。<ref>{{cite web | title = A Timeline of NRL's Autonomous Systems Research | publisher = [[:en:United States Naval Research Laboratory]] | year = 2011 | url = http://www.nrl.navy.mil/media/publications/autonomous-systems-research-timeline/pages/NRL-Autonomous-Systems-Research-Timeline.pdf | accessdate = 2012-10-21 | archive-url = https://web.archive.org/web/20160303231914/http://www.nrl.navy.mil/media/publications/autonomous-systems-research-timeline/pages/NRL-Autonomous-Systems-Research-Timeline.pdf | archive-date = 2016-03-03 | url-status = dead }}</ref>
ドイツでは1944年頃に電気式の2軸ジョイスティックが開発され、FuG 203 Kehl送信機に組み込まれて[[Hs 293 (ミサイル)|Hs293]]や[[フリッツX]]の制御に使用された。これは母機の壁面などに設置され、水平に出ているスティックを上下左右に動かして操作した。Hs293用は航空機と同様にロール・ピッチを操作するものだったが、フリッツX用は単純に上下左右を指示するものだった<ref>{{cite book |author=William Wolf |year=2006 |title=German Guided Missiles: Henschel Hs 293 and Ruhrstahl SD 1400X |publisher=Merriam Press |location=Bennington, Vermont |isbn=978-1475140828 |page=13}}</ref>。アメリカでは同じく1944年頃に[[AZON]]が開発され、制御装置にジョイスティックが使用された。ただしAZONはラダー操作による左右の制御のみ可能で、ピッチ方向の制御はジョイスティックではなく正確な投弾タイミングによって行われた。
1960年台に航空機の無線操縦用の装置としてジョイスティックは広く使用され、[[アメリカ航空宇宙局|NASA]]のミッションでも使用されるようになる。
<!--
1974年に初飛行した[[F-16 (戦闘機)|F-16]]戦闘機はサイドスティック型のジョイスティックを搭載した[[フライ・バイ・ワイヤ]]システムで制御され、ケーブル(鋼索、操縦索)を使用せずに電気的に操縦する世界初の実用機となった。
-->
===コンピュータゲームにおいて===
1962年に完成した[[コンピューターゲーム]]「[[スペースウォー!]]」にて、前後1軸・左右1軸の2つのレバー型スイッチを備えたジョイスティックのようなコントロールボックスが自作された<ref>{{Cite magazine |author=<!--Staff writer(s); no by-line.--> |title=The Origin of Spacewar! |url=https://archive.org/stream/creativecomputing-1981-08/Creative_Computing_v07_n08_1981_August#page/n64/mode/1up |magazine=Creative Computing Magazine (August 1981) |volume=07 |issue=08 |pages=62 |publisher=Ziff-Davis |date=2020-04-11 |accessdate=2020-04-11}}</ref>。1969年に稼働したセガの[[エレメカ]]「ミサイル」では、スティック上にボタンの付いたジョイスティックが搭載されていた<ref>{{Cite book|title=The Sega Arcade Revolution, A History in 62 Games|last=Horowitz|first=Ken|publisher=[[:en:McFarland & Company]]|year=2018|isbn=9781476631967|ref=refHorowitz2018|page=11}}</ref>。1977年に発売されたゲーム機[[Atari 2600]]には、4方向のスティックと1つのボタンを備えたジョイスティックが同梱されていた。1978年に稼働した[[スペースインベーダー]]では、最初は左右の移動に2つのボタンが使用されていたが、すぐに2方向のジョイスティックになった。1980年に稼働した[[パックマン]]では4方向のジョイスティックが搭載された。コンピュータゲームにおける黎明期のジョイスティックは単純に[[開閉器|スイッチ]]やボタンや[[十字キー]]の操作をスティック(レバー)の操作に置き換えたものだった。
{{要検証|=[[コンピュータゲーム|ゲーム]]の[[ゲームコントローラ|コントローラ]]として主に使用されるため|date=2020年4月}}、{{要検証|=「ゲーム用コントローラ」を意味する語として「ジョイスティック」が使われる場合も多く|date=2020年4月}}、[[パーソナルコンピュータ|パソコン]]でゲーム用コントローラを接続する部分は「ジョイスティック端子」と呼ばれた。ジョイスティック端子には、[[Atari 2600]]で使われた、俗に言う「[[Atari 2600#コントローラ|アタリ規格]]([[D-subminiature|D-sub]] 9ピン)」や、のちに[[IBM]]が開発した「[[ゲームポート]]([[D-subminiature|D-sub]] 15ピン)」が用いられていたが、より手軽な[[ユニバーサル・シリアル・バス|USB]]の普及によって代わられることになった。
==フライトスティック==
[[画像:Saitek Joystick.JPG|thumb|upright|200px|フライトスティックの例]]
[[フライトシミュレーション|フライトシミュレータ]]や[[アクションゲーム]]などで使用される形式。レバー・ボタン一体型とも呼ばれる。ただしスティック(レバー)と一体化していないボタンも持つ製品が大半である。片手全体で握り込んで把持する大型のスティックと、1個から10個程度のボタンを持つ。通常は右手でスティックを持ち、右手の指でスティック上のスイッチ類を操作し、左手は土台上のスイッチ類を操作する。
スティックは主に操縦桿としての使用が想定されており、左右および上下に倒すことでx軸・y軸{{efn2|ロール軸・ピッチ軸に割り当てられることが多い。}}の変位(どれだけ傾けたか)が入力可能。繊細な操作に向いている。ボタンは特定の動作の実行(武器の発射など)、項目の選択に用いる(画像も参照のこと)。追加のスイッチ類としてスロットルやハットスイッチを備えた製品も多い。なお大型機の操舵輪を模した入力機器はフライトヨークと呼ばれ、フライトスティックやジョイスティックとは区別される。ゲーム用途ではヘリコプターのサイクリック・スティックの操作をジョイスティックで代用することが多い。
上位製品にはより実際の航空機に近づくよう、スロットルを分離し、スティックおよびスイッチ類を備えた独立の機器として用意した製品も存在する。このような上位製品のスロットルは追加操作用の[[パドルコントローラ]]を備えたものも少なくない。スロットルのみ個別に販売している製品も存在する。
スティックをひねることによりz軸(ヨー軸)の入力が可能な3軸のスティックの製品も存在する。より実際の航空機に近づくよう、足でヨー軸を操作するペダル型の独立した入力機器も存在するが、これはジョイスティックに含まれず、実際の航空機の場合と同様にラダーペダルと呼ばれる。
スティックの傾きを検知するセンサとしては可変抵抗器(リニア型あるいはロータリー型のポテンショメータ)、光学式センサ、ホール効果を利用した磁気センサがある。可変抵抗器は経年劣化や摩耗によりセンタリングが狂ってしまうため、調整用のノブを備えていたりソフトウェア側で補正できるようになっていることがある。かつては可変抵抗式が主流だったが接触部の摩耗が問題となっており、1995年発売のMicrosoft製「Sidewinder Precision Pro」では非接触式の光学式センサが採用された。その後も非接触式センサの流れは続き、2021年現在では磁気センサが主流である。
==アーケードコントローラー(アケコン)==
[[画像:Arcade controller.jpg|thumb|upright|200px|アケコンの例]]
[[画像:Umehara style.jpg|thumb|upright|[[梅原大吾|ウメハラ]]持ち]]
[[アーケードゲーム]]などで、特に[[シューティングゲーム]]、アクションゲーム([[対戦型格闘ゲーム|格闘ゲーム]])、[[パズルゲーム]]などで使用されている形式。アーケードスティック、レバー・ボタン分離型とも呼ばれる。レバーにはボタンが付かないため、細長い金属のレバー軸のてっぺんに持ち手(日本では球型が多い)が付いただけのシンプルな構造である。通常は左手でレバーを持ち、右手でボタンを操作する。 日本で球型の形状が多いのは、テンキーの方向入力をレバー操作に簡略化するための「自作コントローラー」の設計図を記載した雑誌があり、それがゲーム会社に採用されその形のまま普及したためである。
[[ゲームパッド]]の[[十字キー|方向キー]]をレバーに置き換えた構造といえ、レバーとボタンは分離され横長の平面上に置かれる。レバーは基本的に8方向(上下左右およびその中間)の方角が入力可能で、レバーの傾きの変位は入力できない。素早い操作に向いている。各方向へ確実に入力するためレバーガイドを備えたものが多い。ゲームパッドと区別するため「レバーコントローラ」と呼称されることもある。
「フライトスティック」と比べて小型のレバーであるため、指先で包むように持つ形になる。持ち方には大きく分けて以下の5種類があるとされる。
;ワイン持ち
:軸を人差し指と中指の間に挟み、持ち手を下から包み込むように持つ。[[ワイングラス]]を持った手(正確にはこれは[[スニフター|ブランデーグラス]]の持ち方である)を連想させるためこう呼ばれる。
;ぶっさし
:ワイン持ちとほぼ同義だが、軸を中指と薬指の間に挟む。
;かぶせ持ち
:ワイン持ちとは逆に、持ち手を上からすっぽりと握りこむ形。
;つまみ持ち
:持ち手を握らずに指先だけで持つ。操作方向が固定されているゲームには向いている。
;ウメハラ持ち
:ゲームスティックのレバーを薬指と小指で軸を挟みこんで、レバーの玉を左から包み込む様に持つ。有名ゲーマー[[梅原大吾]]の持ち方。
==アナログスティック==
[[画像:Playstation DualSense Controller.png |thumb|upright|200px|アナログスティック]]
入力機器というより非常に小型の部品であり、スティックは指先だけ(主に親指)で操作する。<br />スティックを傾けるのではなく滑らせて(スライドさせて)操作する方式の製品も存在する。<br />「アナログスティック」という名称は[[コンシューマーゲーム|コンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機)]]の業界で主に使われる。他の業界ではサムスティック、フィンガージョイスティック、フィンガーチップジョイスティック、指操作ジョイスティック、あるいは単にジョイスティックやスティックなどと呼ばれる。
1986年に発売された[[ファミリーコンピュータ]]向けコントローラBPS-MAXにはサイクロイドパッドというスライド可能なアナログスティック状の操作部があったが、十字キーの操作感を向上させるためのものであり電気信号としてはアナログ入力ではなかった。<br />1989年に発売された各種PCおよび[[メガドライブ]]向けの[[ゲームパッド]]XE-1APにはアナログ入力が可能で親指で操作するアナログスティックと言える操作部が搭載されていたが、当時は「アナログスティック」とは呼ばれていなかった。<br />1996年発売の[[NINTENDO64]]には、標準コントローラにアナログスティックが搭載されており、多くの消費者が初めてアナログスティックに触れた。ただし3Dスティック(サンディスティック)と呼ばれていた。なおアナログスティックとしては異例の光学式センサが使用されていた。<br />[[PlayStation (ゲーム機)|プレイステーション]]は1997年発売モデル(SCPH-7000)から、従来のコントローラにアナログスティックと振動機能を追加した[[DUALSHOCK]]を標準コントローラとして同梱し、このスティックは公式に「アナログスティック」と呼ばれた。
センサとしては2021年現在まで可変抵抗式のセンサが主流である。
== ギャラリー ==
{{Gallery
|title=様々な分野で使用されるジョイスティック
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|画像:AZON BC-1156 Control Lever.jpg|第二次大戦中に使用された誘導爆弾[[AZON]]用のBC-1156コントローラ。左右のみ操作可能。1944年頃。
|画像:Prototype Gemini Hand Controller.jpg|ロケットスラスターの手動操作用3軸コントローラのプロトタイプ。[[ジェミニ計画]]や[[アポロ計画]]で使用された。1962年頃。
|画像:Lee Archambault at the Canadarm2 controls on ISS.jpg|[[国際宇宙ステーション|ISS]]の[[カナダアーム2]]の操作パネル。ノートPC右側の垂直軸のものおよび、左側の水平軸のものがジョイスティック。
|画像:Excavator operator manual controls IMG 1089.JPG|[[油圧ショベル]]のもの。左右のスティックでブームやバケットおよび本体左右旋回を操作する。
|画像:US Navy 071009-N-1745W-089 A Puget Sound Naval Shipyard crane operator moves an emergency heavy lift crane from the flight deck of USS Abraham Lincoln (CVN 72) to the Naval Station Everett pier.jpg|多数のジョイスティックを使用して[[クレーン]]を操作するオペレータ。
|画像:2010-03-10 Rosenbauer Simba 8x8 innen 02.jpg|空港の消防車に搭載されたもの。放水ノズルの操作用。
|画像:Electric-powered_wheelchair_Belize2.jpg|電動車椅子のもの。
}}
{{Gallery
|title=コンピュータゲーム用のジョイスティック
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|画像:Atari-2600-Joystick.jpg|Atari 2600用。単純なスティックとボタン1個のみだったが広く使用された。1977年。
|画像:Joystick Flashfire.jpg|Flashfire製ジョイスティック。1980年代。
|画像:Ch products mach 2 joystick.jpg|CH Products Mach 2。1984年頃。アナログ入力が可能。
|画像:Joystick 01 KMJ.jpg|CH Products Flightstick Pro。1990年代。
|画像:Joystick - Microsoft Sidewinder Force Feedback Pro.jpg|Microsoft Sidewinder Force Feedback Pro。光学センサ使用。1997年。
|画像:HOTAS Cougar Throttle (7973432740).jpg|Thrustmaster HOTAS Cougarのスロットル部。[[F-16 (戦闘機)|F-16]]の操縦装置を再現した金属製の製品で、スティック部と合わせて28個ものボタンを備えた。2004年。
|画像:Thrustmaster T-Flight Hotas-X.jpg|Thrustmaster T-Flight Hotas-X。2014年。
|画像:EVO 2008 - Street Fighter IV.jpg|[[アーケードゲーム]]の入力機器。Street Fighter IV(格闘ゲーム)。
|画像:Neo-Geo-AES-Controller-FL.jpg|[[ネオジオ#家庭用ネオジオ:AES|ネオジオ:AES]]用。1991年頃。
|画像:PlayStation-Analog-Joystick.jpg|[[PlayStation (ゲーム機)|PlayStation]]用。1996年。
|画像:Sega-Dreamcast-Arcade-Stick.png|[[ドリームキャスト]]用。
|画像:Controle arcade Wii.jpg|[[Wii]]用。
|画像:N30 Arcade Stick (43025247905).jpg|N30 ARCADE STICK。PC、Mac、Nintendo Switch等、多数の機種に対応。
|画像:Dreamcast Twin Stick.png|ツインスティックと呼ばれる特殊なジョイスティック。ごく一部のゲームで使用される。
|画像:NES-MAX-Controller-FL.jpg|海外版BPS-MAX(NES MAX)に搭載されていたアナログスティックに似た形状の操作部。
|画像:N64-Controller-Gray.jpg|NINTENDO64のコントローラ。5が3Dスティック(アナログスティック)である。
|画像:PSX-Original-Controller.png|アナログスティックが搭載されていない時期のプレイステーションのコントローラ
|画像:PSX-DualShock.png|アナログスティックが搭載されるようになったプレイステーションのコントローラ(DUALSHOCK)
|画像:Korg Poly-61 (SN 107508) joy stick - rear.jpg|古い可変抵抗式のジョイスティックの分解写真。可動部の上と右に可変抵抗器が見える。アナログスティックは同様の構造。
}}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
{{commons|Joystick|ジョイスティック}}
*[[ゲームコントローラ]]
*[[操縦桿]] - ([[航空機]]、[[マニピュレーター]]、[[車椅子]]など)
*[[ゲームパッド]]
*[[スペースウォー!]](不特定多数の人に楽しまれたという点では世界初のテレビゲーム)
*[[パドルコントローラ]]
*[[ポインティングデバイス]]
{{Basic computer components}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:しよいすていつく}}
[[Category:ゲームコントローラ]]
[[Category:コンピュータゲームの周辺機器]]
[[Category:ポインティングデバイス]] | 2003-04-27T02:21:00Z | 2023-09-12T17:12:27Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF |
7,353 | ムジャーヒディーン | ムジャーヒディーン(アラビア語: مجاهدين、mujāhidīn)は、アラビア語で「ジハードを遂行する者」を意味するムジャーヒド(アラビア語: مجاهد、mujāhid)の複数形で属格ならびに対格語形。一般的には、イスラム教の大義に則りジハードに参加する戦士達(聖戦士)を指す。今日では、イスラム教により連携した民兵や軍閥を指すことが多い。
歴史的には、個々のムスリム(イスラム教徒)たちがジハードに対する意識を常に持っていたわけではなく、むしろ近代に至ってイスラム世界に対する侵略に対抗する民衆の抵抗運動において、ムジャーヒド意識が発揮されてきた。19世紀にインドで起こった対英ジハード「ムジャーヒディーン運動」は、その代表的なものである。
アフガニスタンで1978年にアフガニスタン人民民主党による共産政権が成立すると、各地で組織された反政府ゲリラが蜂起した。彼らは自分たちの闘争をアフガニスタンのイスラームを防衛するジハードと位置付け、自らムジャーヒディーンと名乗った組織にはブルハーヌッディーン・ラッバーニーが組織し、アフマド・シャー・マスードが軍事的に率いた「イスラーム協会」や、グルブッディーン・ヘクマティヤールが率いる「ヒズビ・イスラーミー(イスラーム党)」、毛沢東主義を掲げるアフガニスタン・ムジャーヒディーン自由の戦士戦線(英語版)などがあった。1979年にソ連軍が軍事介入すると、ムジャーヒディーンはこれにも対抗した。彼らはパキスタン軍統合情報局などからの支援を受け、ソ連軍に激しく抵抗した。アフガニスタンのムジャーヒディーンには、アフガニスタンのみならずイスラム世界の各地から志願兵として若者が集まってきたが、その中心人物がアブドゥッラー・アッザームで、ウサーマ・ビン=ラーディンもその志願兵の1人だったということが知られている。
アメリカもCIAを通じてこのようなゲリラ組織に武器や装備を提供していた(サイクロン作戦)。アフガニスタンのムジャーヒディーンは中国からも武器や訓練で援助されていた。ソ連軍の撤退以降、ムジャーヒディーン各派はアフガニスタンでの主導権をめぐり対立、軍閥化していった。後にパキスタン軍統合情報局が支援するターリバーンが台頭すると、ムジャーヒディーンの諸派は連合し北部同盟としてこれに対抗した。 | [
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] | ムジャーヒディーンは、アラビア語で「ジハードを遂行する者」を意味するムジャーヒドの複数形で属格ならびに対格語形。一般的には、イスラム教の大義に則りジハードに参加する戦士達(聖戦士)を指す。今日では、イスラム教により連携した民兵や軍閥を指すことが多い。 | {{Islam}}
'''ムジャーヒディーン'''({{Rtl翻字併記|ar|مجاهدين|mujāhidīn|n|区=、}})は、アラビア語で「[[ジハード]]を遂行する者」を意味するムジャーヒド({{Rtl翻字併記|ar|مجاهد|mujāhid|n|区=、}})の複数形で属格ならびに対格語形。一般的には、[[イスラム教]]の大義に則りジハードに参加する[[戦士]]達(聖戦士)を指す。今日では、イスラム教により連携した[[民兵]]や[[軍閥]]を指すことが多い。
== 歴史 ==
歴史的には、個々の[[ムスリム]](イスラム教徒)たちが[[ジハード]]に対する意識を常に持っていたわけではなく、むしろ[[近代]]に至って[[イスラム世界]]に対する侵略に対抗する民衆の抵抗運動において、ムジャーヒド意識が発揮されてきた。[[19世紀]]に[[インド]]で起こった対英ジハード「ムジャーヒディーン運動」は、その代表的なものである。
;[[中世]]
[[ファイル:Saladin the Victorious.jpg|thumb|150px|サラーフッディーン]]
*[[ムワッヒド朝]]
*[[サラーフッディーン]]
*[[アフマド・イブン・イブリヒム・アル=ガジー]]
*[[ティムール]]
*[[:en:Ulubatlı Hasan|Ulubatlı Hasan]]
;[[近代]]
*[[スレイマン1世]]
*[[バーブル]]
*[[アウラングゼーブ]]
*[[:en:Sheikh Mansur|Sheikh Mansur]]
*[[:en:Abdul-Aziz bin Muhammad|Abdul-Aziz bin Muhammad]]
;[[19世紀]]
[[画像:Imam Shamil.jpg|thumb|150px|イマーム・シャミール]]
*[[ウスマン・ダン・フォディオ]]
*[[ジャハーンギール・ホージャ]]
*[[:en:Muhammad Ahmad|Muhammad Ahmad]]
*[[メフメト5世]]
*[[シャミール]]
== 現代 ==
=== 闘争・紛争 ===
[[File:Afghan Muja crossing from Saohol Sar pass in Durand border region of Pakistan, August 1985.png|thumb|150px|[[デュアランド・ライン]]で戦うムジャーヒディーン戦士たち([[1985年]])]]
* [[:en:Bosnian mujahideen|Bosnian mujahideen]]および[[ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争]]
* [[カシミール紛争]]
* [[:en:Iraqi insurgency|Iraqi insurgency]]
* [[:en:Insurgency in the North Caucasus|Insurgency in the North Caucasus]]
* [[:en:Arab Mujahideen in Chechnya|Arab Mujahideen in Chechnya]]
* [[:en:Moro insurgency in the Philippines|Moro insurgency in the Philippines]]
* [[ソマリア内戦]]
* [[アル・シャバブ (ソマリア)|ハラカト・アル・シャバブ・ムジャーヒディーン]]
=== アフガニスタン紛争 ===
[[ファイル:Jamiat e-Islami in Shultan Valley 1987 with Dashaka.jpg|thumb|150px|ムジャーヒディーンの[[兵士]]達([[1987年]])]]
{{See also|アフガニスタン紛争 (1978年-1989年)|アフガニスタン紛争 (1989年-2001年)|アフガニスタン紛争 (2001年-2021年)}}
[[アフガニスタン]]で[[1978年]]に[[アフガニスタン人民民主党]]による共産政権が成立すると、各地で組織された反政府[[ゲリラ]]が蜂起した。彼らは自分たちの闘争をアフガニスタンの[[イスラーム]]を防衛する[[ジハード]]と位置付け、自らムジャーヒディーンと名乗った組織には[[ブルハーヌッディーン・ラッバーニー]]が組織し、[[アフマド・シャー・マスード]]が[[軍事]]的に率いた「イスラーム協会」や、[[グルブッディーン・ヘクマティヤール]]が率いる「ヒズビ・イスラーミー(イスラーム党)」、[[毛沢東主義]]を掲げる{{仮リンク|アフガニスタン・ムジャーヒディーン自由の戦士戦線|en|Afghanistan Mujahedin Freedom Fighters Front}}などがあった。[[1979年]]に[[ソビエト連邦軍|ソ連軍]]が軍事介入すると、ムジャーヒディーンはこれにも対抗した。彼らは[[軍統合情報局|パキスタン軍統合情報局]]などからの支援を受け、ソ連軍に激しく抵抗した。アフガニスタンのムジャーヒディーンには、アフガニスタンのみならず[[イスラム世界]]の各地から[[志願兵]]として若者が集まってきたが、その中心人物が[[アブドゥッラー・アッザーム]]で、[[ウサーマ・ビン・ラーディン|ウサーマ・ビン=ラーディン]]もその志願兵の1人だったということが知られている。
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]も[[中央情報局|CIA]]を通じてこのような[[ゲリラ]]組織に[[武器]]や装備を提供していた([[サイクロン作戦]])。<!--有名なものでは[[スティンガーミサイル|スティンガー対空ミサイル]]などが提供されていた。が、東側の兵器に比べメカニズムが高度かつ高価であるため、損耗しても修理や補充がきかず次々に失われていったようである。ただし、西側製の装備は上掲のスティンガー<ref>当時、旧ソ連製の[[SA-7]]はカンボジア駐留ベトナム軍から多数流出しており入手は容易だったが、SA-7には航空機からの[[フレア (兵器)|フレア]]放射で効果的に防御されてしまう欠点があり、駐留ソ連軍も早期にフレア投射による防御を行っていた事から、SA-7供与の効果は低いと考えられていた。また、ムジャーヒディーンによって撃墜されたヘリは中国製の高射機関砲によるものが大半と言われており、熱源追尾機能が正常に動作するスティンガーも初期に供与された数本だけで、拡散を恐れた示威的な要素が大きい供与だったとも言われている</ref>や通信機器<ref>ムジャーヒディーンが装備した無線機や建設用重機、ピックアップ・トラックなどは、大半が日本製のものだった。[[アフマド・シャー・マスード|マスード]]司令官などは、根拠地としたパンジシール渓谷から産出する宝石や貴石などを、日本の甲府へ持ち込んで現金化し、日本でこうした装備を購入していた</ref>など代替が難しいものに限られ、現実的には[[AK-47]]や[[RPG-7]]など旧ソ連系の兵器<ref>これらの兵器は、ソ連と対立しながらソ連系兵器体系を保持していた[[中華人民共和国]]から調達されていた。中東で唯一、ソ連系兵器を国産していた[[エジプト]]は、1981年に[[サダト]]大統領がイスラム原理主義者に暗殺され、国内でのテロ活動も頻発していたため、同じ原理主義者が多く参加していたムジャーヒディーンへの兵器供与には消極的だった</ref>が供与されていた。ムジャーヒディーンはこれらの援助に対する見返りの手段の一つとして、自分たちがソ連軍との戦闘で[[鹵獲]]した[[AK-74]]や[[GP-25]]・[[AGS-17]]・[[2B9 82mm自動迫撃砲|2B9自動迫撃砲]]などのソ連製の最新型歩兵用兵器のサンプルを提供した。-->アフガニスタンのムジャーヒディーンは[[中華人民共和国|中国]]からも武器や訓練で援助されていた<ref>S. Frederick Starr (2004). Xinjiang: China's Muslim Borderland (illustrated ed.). M.E. Sharpe. p. 158. ISBN 0-7656-1318-2. Retrieved May 22, 2012.</ref>。ソ連軍の撤退以降、ムジャーヒディーン各派はアフガニスタンでの主導権をめぐり対立、[[軍閥]]化していった。後にパキスタン軍統合情報局が支援する[[ターリバーン]]が台頭すると、ムジャーヒディーンの諸派は連合し[[北部同盟 (アフガニスタン)|北部同盟]]としてこれに対抗した。
== 関連団体 ==
{{See|イスラム主義}}
* [[アルカーイダ|アル=カーイダ]]
* [[ターリバーン]]
* [[モジャーヘディーネ・ハルグ|ムジャヒディン・ハルク]] - [[イラン]]の[[イスラム教社会主義|イスラーム社会主義]]を掲げる[[レジスタンス運動|反体制]]組織。
* [[ヒズブル・ムジャーヒディーン]]([[カシミール]]、[[パキスタン]])
* [[インディアン・ムジャーヒディーン]]([[インド]])
* [[アブ・サヤフ]]([[フィリピン]])
== 関連する作品 ==
* 『[[メタルギアソリッドV|メタルギアソリッドV ファントムペイン]]』
* 『[[コール オブ デューティ ブラックオプス2]]』
* 『[[チャーリー・ウィルソンズ・ウォー]]』
* 『[[ランボー3/怒りのアフガン]]』
* 『[[007 リビング・デイライツ]]』
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Mujahideen|ムジャーヒディーン}}
* [[イスラム主義]]
* [[アフガニスタンの軍事]]
* [[アブドゥル・ジャバル・サビト]]
* [[サイード・モハマッド・ハサン]]
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:むしやひていん}}
[[Category:イスラームと政治]]
[[Category:イスラーム用語]]
[[Category:アラビア語の成句]]
[[Category:アフガニスタン]]
[[Category:民兵]]
[[Category:第一次アフガニスタン紛争]] | null | 2023-06-17T07:43:49Z | false | false | false | [
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"Template:脚注ヘルプ",
"Template:Commons"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A0%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%92%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B3 |
7,355 | アーベル賞 | アーベル賞(アーベルしょう)は、顕著な業績をあげた数学者に対して贈られる賞である。
2001年、ノルウェー政府は同国出身である数学者ニールス・アーベルの生誕200年(2002年)を記念して、アーベルの名を冠した新しい数学の賞を創設することを公表し、そのためにニールス・ヘンリック・アーベル基金を創設した。
毎年、ノルウェー科学文学アカデミー(英語版)によって任命された5人の数学者からなる委員会が、受賞する人物を決定する。賞金額はスウェーデンのノーベル賞に匹敵し、数学の賞としては最高額である。この賞の主な目的は、数学の分野における傑出した業績に国際的な賞を与えることであり、社会における数学の地位を上げることや、子供たちや若者の興味を刺激することも企図している。
2003年4月、初めての受賞者が公表され、ジャン=ピエール・セールに送られることに決まった(賞金は600万ノルウェー・クローネ、約1億円)。
1936年から実施されているフィールズ賞も数学に関する賞であるが、フィールズ賞が4年に1度しか授与されず、しかも受賞までの業績に加え今後の活躍への期待も込めて40歳以下の若い数学者にのみ贈られる賞であるのに対し、アーベル賞はノーベル賞と同じく1年に1度で、受賞の対象は年齢を問わず、数学全般に関わる重要な業績を残した数学者に対して贈られる賞であり、賞金額もアーベル賞のほうが非常に高額で、その性格はフィールズ賞よりもノーベル賞に近いものとなっている。 | [
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] | アーベル賞(アーベルしょう)は、顕著な業績をあげた数学者に対して贈られる賞である。 | {{Infobox award
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}}
'''アーベル賞'''(アーベルしょう)は、顕著な業績をあげた数学者に対して贈られる賞である。
== 概要 ==
[[2001年]]、[[ノルウェー]]政府は同国出身である数学者[[ニールス・アーベル]]の生誕200年([[2002年]])を記念して、アーベルの名を冠した新しい数学の賞を創設することを公表し、そのためにニールス・ヘンリック・アーベル基金を創設した。
毎年、{{仮リンク|ノルウェー科学文学アカデミー|en|Norwegian Academy of Science and Letters}}によって任命された5人の数学者からなる委員会が、受賞する人物を決定する。賞金額はスウェーデンの[[ノーベル賞]]に匹敵し<ref group="注">ノーベル賞は6部門のうち[[ノーベル平和賞|平和賞]]のみノルウェー政府が授与主体であるが、賞金は全て[[スウェーデン・クローナ]]で贈られる。一方、アーベル賞は、ノルウェー政府が授与主体となり賞金も[[ノルウェー・クローネ]]で贈られる。</ref>、数学の賞としては最高額である。この賞の主な目的は、数学の分野における傑出した業績に国際的な賞を与えることであり、社会における数学の地位を上げることや、子供たちや若者の興味を刺激することも企図している<ref name="norway.or.jp">{{Cite web|和書| url=http://www.norway.or.jp/norwayandjapan/culture/education/prizes/abelprize/ | title=アーベル賞 | publisher=駐日ノルウェー王国大使館 | accessdate=2017-04-03}}</ref>。
[[2003年]]4月、初めての受賞者が公表され、[[ジャン=ピエール・セール]]に送られることに決まった(賞金は600万[[ノルウェー・クローネ]]<ref name="norway.or.jp" />、約1億円)。
=== フィールズ賞との違い ===
[[1936年]]から実施されている[[フィールズ賞]]も数学に関する賞であるが、フィールズ賞が4年に1度しか授与されず、しかも受賞までの業績に加え今後の活躍への期待も込めて40歳以下の若い数学者にのみ贈られる賞であるのに対し、アーベル賞はノーベル賞と同じく1年に1度で、受賞の対象は年齢を問わず、数学全般に関わる重要な業績を残した数学者に対して贈られる賞であり、賞金額もアーベル賞のほうが非常に高額で、その性格はフィールズ賞よりもノーベル賞に近いものとなっている。
{| class="wikitable"
!比較項目!!ノーベル賞!!アーベル賞!!フィールズ賞
|-
|第1回||[[1901年]]||[[2003年]]||[[1936年]]
|-
|実施間隔||1年||1年||4年
|-
|年齢制限||なし||なし||40歳以下
|-
|賞金額||約1億円||約1億円||約200万円
|}
==受賞者の一覧==
{| class="sortable wikitable" style="line-height:1.4em; font-size:95%; margin-right:0px;"
|-style="white-space:nowrap;"
! 年 !! 受賞者 !! 生没年 !! 国籍 !! 受賞理由
|-
| style="white-space:nowrap;" |[[2003年]]
|[[ジャン=ピエール・セール]]<br />Jean-Pierre Serre
| style="white-space:nowrap;" |[[1926年]] -
|{{FRA}}
|
|-
| rowspan="2" |[[2004年]]
|[[マイケル・アティヤ]]<br />Michael Francis Atiyah
|[[1929年]] - [[2019年]]
|{{UK}}
|rowspan="2"|[[トポロジー]] 、[[幾何学]]、および[[解析学]]を結びつけた[[指数定理]]の発見とその証明に対して、また[[数学]]と[[理論物理学]]の間に新しい掛け橋をつくる作業において 顕著な役割をはたした、その功績に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2004 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54446 | title=2004年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[イサドール・シンガー]]<br />Isadore Manual Singer
| style="white-space:nowrap;" |[[1924年]] - [[2021年]]
|{{USA}}
|-
|[[2005年]]
|[[ピーター・ラックス]]<br />Peter D Lax
|[[1926年]] -
|{{HUN}}
|
|-
|[[2006年]]
|[[レンナルト・カルレソン]]<br />Lennart Carleson
|[[1928年]] -
|{{SWE}}
|[[調和解析]]学と可微分[[力学系]]理論への深遠かつ影響力の大きい貢献に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2006 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54401 | title=2006年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2007年]]
||[[S. R. シュリニヴァーサ・ヴァラダン]]<br />S. R. Srinivasa Varadhan
|[[1940年]] -
|{{IND}}
|その[[確率論]]への基本的貢献、とりわけ[[大偏差]]に関する統一理論の創造に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2007 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54377 | title=2007年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
| rowspan="2" |[[2008年]]
|[[ジョン・G・トンプソン]]<br />John Griggs Thompson
|[[1932年]] -
|{{USA}}
|rowspan="2"|その[[代数学]]、特に現代[[群論]]の構築における重要な業績に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2008 | url=http://www.abelprize.no/c53074/binfil/download.php?tid=54347 | title=2008年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[ジャック・ティッツ]]<br />Jacques Tits
|[[1930年]] - [[2021年]]
|{{FRA}}
|-
|[[2009年]]
|[[ミハイル・グロモフ]]<br />Mikhael Leonidovich Gromov
|[[1943年]] -
|{{FRA}}<br />{{RUS}}
|[[幾何学]]への革命的な寄与に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2009 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54309 | title=2009年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2010年]]
|[[ジョン・テイト]]<br />John Tate
|[[1925年]] - [[2019年]]
|{{USA}}
|[[整数論]]への甚大且つ永続的な影響力に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2010 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54275 | title=2010年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2011年]]
|[[ジョン・ウィラード・ミルナー]]<br />John Willard Milnor
|[[1931年]] -
|{{USA}}
|その[[トポロジー]]、[[幾何学]]及び[[代数学]]における先駆的な発見に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2011 | url=http://www.abelprize.no/c53720/binfil/download.php?tid=53556 | title=2011年のアーベル賞<!-- titleがないとエラーが出るので、適当に --> | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2012年]]
|[[エンドレ・セメレディ]]<br />Endre Szemerédi
|[[1940年]] -
|{{HUN}}
|[[離散数学]]と[[理論計算機科学]]への貢献、{{仮リンク|加法的整数論|en|Additive number theory}}と[[エルゴード理論]]への影響に対して<ref>{{Cite web|和書| year=2012 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=54083 | title=2012の年アーベル賞 | format=PDF | publisher=| accessdate=2012-03-25}}</ref>。
|-
|[[2013年]]
|[[ピエール・ドリーニュ]]<br />Pierre Deligne
|[[1944年]] -
|{{BEL}}
|[[代数幾何学]]への発展性ある貢献と、[[数論]]、[[表現論]]、及び関連分野に変化をもたらした、その強い影響力に対して<ref>{{cite web | year=2014 | url=http://www.abelprize.no/c57681/binfil/download.php?tid=57770 | title=The Abel Prize 2013 | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2014年]]
|[[ヤコフ・シナイ]]<br />Yakov Sinai
|[[1935年]] - ||{{USA}}<br />{{RUS}}
|その[[力学系]]、[[エルゴード理論]]、[[数理物理学]]への基本的な貢献に対して<ref>{{cite web | year=2014 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=61133 | title=The Abel Prize 2014 | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
| rowspan="2" |[[2015年]]
|[[ジョン・ナッシュ]]<br />John Forbes Nash, Jr.
|[[1928年]] - [[2015年]]
|{{USA}}
|rowspan="2"|[[非線形偏微分方程式]]論とその幾何解析への応用への顕著にして独創的な貢献に対して<ref>{{cite web | year=2015 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=63548 | title=The Abel Prize 2015 | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[ルイス・ニーレンバーグ]]<br />Louis Nirenberg
|[[1925年]] - [[2020年]]
|{{USA}}<br />{{CAN}}
|-
|[[2016年]]
|[[アンドリュー・ワイルズ]]<br />Andrew Wiles
|[[1953年]] -
|{{UK}}
|[[数論]]に新時代を開いた、[[半安定楕円曲線]]の[[モジュラー性予想]]の方法による素晴らしい[[フェルマーの最終定理]]の証明に対して<ref>{{cite web | year=2016 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=67060 | title=The Abel Prize 2016 | format=PDF | accessdate=2017-04-03}}</ref>
|-
|[[2017年]]
|[[イヴ・メイエ]]<br />Yves Meyer
|[[1939年]] -
|{{FRA}}
|その数学的[[ウェーブレット]]理論の発展における重要な役割に対して<ref>{{cite web | year=2017 | url=http://www.abelprisen.no/binfil/download.php?tid=69551 | title=The Abel Prize 2017 | format=PDF | accessdate=2017-03-30}}</ref>
|-
|[[2018年]]
|[[ロバート・ラングランズ]]<br />Robert Langlands
|[[1936年]] -
|{{CAN}}<br />{{USA}}
|[[表現論]]と[[数論]]を結びつける、[[ラングランズ・プログラム|先見的なプログラム]]に対し<ref>{{cite web | year=2018 | url=http://www.abelprisen.no/binfil/download.php?tid=72999 | title=The Abel Prize 2018 | format=PDF | accessdate=2018-03-24}}</ref>
|-
|[[2019年]]
|[[キャレン・アーレンベック]]<br />Karen Uhlenbeck
|[[1942年]] -
|{{USA}}
|{{仮リンク|幾何学的偏微分方程式|en|Geometric analysis}}・[[ゲージ理論]]・[[可積分系]]における先駆的な偉業と業績の解析・幾何・数理物理に対する基本的な影響に対して<ref>{{cite web | year=2019 | url=http://www.abelprize.no/binfil/download.php?tid=74120 | title=The Abel Prize 2019 | format=PDF | accessdate=2019-03-20}}</ref>
|-
| rowspan="2" |[[2020年]]
|[[ヒレル・ファステンバーグ]]<br />Hillel Furstenberg
|[[1935年]] -
|{{ISR}}<br />{{USA}}
|rowspan="2"|[[確率論]]と[[力学]]に由来する手法の、[[群論]]・[[数論]]・[[組み合わせ論]]への使用の先駆的業績に対して<ref>{{cite web | year=2020 | url=https://www.abelprize.no/c76018/binfil/download.php?tid=76102 | title=The Abel Prize 2020 | format=PDF | accessdate=2020-04-04}}</ref>
|-
|[[グレゴリー・マルグリス]]<br />Grigory Margulis
|[[1946年]] -
|{{RUS}}<br />{{USA}}
|-
| rowspan="2" |[[2021年]]
|[[ラースロー・ロヴァース]]<br />László Lovász
|[[1948年]] -
|{{HUN}}<br />{{USA}}
|rowspan="2"|[[理論計算機科学]]と[[離散数学]]への基礎的な貢献と、それらを現代数学の中心的な分野に育てた指導的な役割に対して<ref>{{cite web |url=https://www.abelprize.no/c76389/seksjon/vis.html?tid=76390 |title=The Abel Prize Laureates 2021 |publisher=The Norwegian Academy of Science and Letters |access-date=3 April 2021 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20210324131323/https://www.abelprize.no/c76389/seksjon/vis.html?tid=76390 |archivedate=2021-3-24 |deadlinkdate=2021-10-28}}</ref>
|-
|[[アヴィ・ヴィグダーソン]]<br />Avi Wigderson
|[[1956年]] -
|{{ISR}}
|-
|[[2022年]]
|[[デニス・サリヴァン]]<br />Dennis Sullivan
|[[1941年]] -
|{{Flag|United States}}
|[[位相幾何学]]の幅広い業績、特に代数学、力学、幾何学といった関連分野への革新的な貢献に対して<ref>{{Cite web |title=Citation - Dennis Parnell Sullivan {{!}} The Abel Prize |url=https://abelprize.no/citation/citation-dennis-parnell-sullivan |website= |accessdate=2022-04-01 |publisher=THE ABEL PRIZE |archiveurl= |archivedate=}}</ref>
|-
|[[2023年]]
|[[ルイス・カッファレッリ]]Luis A. Caffarelli
|[[1948年]] -
|{{Flag|ARG}}
|自由境界値問題とモンジューアンペール方程式を含む非線型[[偏微分方程式]]の正則性理論への独創的な貢献<ref>{{Cite web |url=https://abelprize.no/citation/citation-luis-caffarelli |title=Citation - Luis A. Caffarelli |accessdate=2023-03-30}} The Abel Prize (2023/03/22)</ref><ref>{{Cite web |url=https://www.youtube.com/watch?v=bPmB2EQCyAs |title=The 2023 Abel Prize announcement |accessdate=2023-03-30}} The Abel Prize (YouTube: 2023/03/22)</ref>
|}
== 注釈 ==
<references group="注"/>
== 出典 ==
{{reflist|2}}
== 関連項目 ==<!--項目の50音順-->
* [[ガウス賞]]
* [[クラフォード賞]]
* [[コール賞]]
* [[ショック賞]]
* [[ネヴァンリンナ賞]]
* [[フィールズ賞]]
* [[数学ブレイクスルー賞|ブレイクスルー賞(数学部門)]]
* [[ラマヌジャン賞]]
==外部リンク==
* {{公式サイト|name=Home {{!}} The Abel Prize}} 公式ウェブサイト{{en icon}}
{{アーベル賞}}
{{数学}}
{{DEFAULTSORT:ああへるしよう}}
[[Category:ノルウェーの科学技術]]
[[Category:ノルウェーの賞]]
[[Category:数学の賞]]
[[Category:人名を冠した賞]]
[[Category:ニールス・アーベル]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-27T05:32:21Z | 2023-11-23T17:07:11Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E8%B3%9E |
7,356 | ポアンカレ予想 | (3次元)ポアンカレ予想(ポアンカレよそう、Poincaré conjecture)とは、数学の位相幾何学(トポロジー)における定理の一つである。
3次元球面の特徴づけを与えるものであり、定理の主張は
単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S に同相である
というものである。2014年現在まで7つのミレニアム懸賞問題のうち唯一解決されている問題である。
ポアンカレ予想は各次元で3種類(位相、PL、微分)があり、かなり解けているが 「4次元微分ポアンカレ予想」「4次元PLポアンカレ予想」「高次元微分ポアンカレ予想の残り少し」は未解決である。 これらは非常に重要な問題である。
ポアンカレ予想は、1904年にフランスの数学者アンリ・ポアンカレによって提出された。ポアンカレ予想は現在では「単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S に同相である」と表現される。すなわち、境界を持たない連結かつコンパクトな3次元多様体は、任意のループを1点に収縮できるならば、3次元球面 S と同相であるというものである。
ポアンカレ自身、デーン、ホワイトヘッド、古関健一、コリン・ルーケ (Colin Rourke)、イアン・スチュアート、ビング、などの数学者達がこの問題に挑戦した。初めに1932年ヘルベルト・ザイフェルトがザイフェルトファイバー空間の場合の証明をした。パパキリアコプロスは同値の予想を作ったがその度にマスキットなどに反証された。そしてロシアの数学者グリゴリー・ペレルマンは2002年から2003年にかけてこれを証明したとする一連の論文をプレプリントサーバarXivに投稿した。これらの論文について2006年の夏頃まで複数の数学者チームによる検証が行われた結果、証明に誤りのないことが明らかになった。ペレルマンはこの業績によって2006年のフィールズ賞が贈られたが、本人は受賞を辞退し、世間からは疑問の声が上がった。
3次元閉多様体の分類については1970年代に提唱されたウィリアム・サーストンの幾何化予想があり、これは3次元ポアンカレ予想を含意するものである。
ポアンカレ予想は上の形のまま一般化しても成り立たないが、ポアンカレ予想の同値な言い換えには次のようなものがある。
3次元ホモトピー球面(英語版)は S と同相である。
ここで n 次元ホモトピー球面とは、n 次元球面とホモトピー同値(ドイツ語版)な n 次元閉多様体のことである。一般の位相空間においてはホモトピー同値は同相よりも弱い概念であるが、その逆が3次元球面の場合には成り立つということである。そこで高次元には次のようにして一般化(英語版)できる。
n 次元ホモトピー球面は S と同相である。
このようにポアンカレ予想を n 次元に一般化すると n = 2 での成立は古典的な事実であり、n ≥ 4 の場合は20世紀後半に証明が得られていた。n ≥ 5 の時はスティーヴン・スメイルによって (Smale 1960)、n = 4 の時はマイケル・フリードマンによって (Freedman 1982) 証明された。2人とも、その業績からフィールズ賞を受賞している。スメイルの証明は微分位相幾何学的なものであったが、フリードマンの証明は純粋に位相幾何学的なものである。実際、フリードマンの結果はその直後にドナルドソンによる異種4次元ユークリッド空間(位相的には通常の4次元空間だが、微分構造が異なるもの)の発見へとつながった。以上よりオリジナルである3次元ポアンカレ予想のみを残し、高次元ポアンカレ予想は先に決着してしまった(微分同相については4次元ポアンカレ予想も未解決である)。
三次元球面(一般には三次元多様体)の「三次元」とは、異なる3つの方向(左右・上下・前後(あるいは奥行))に広がりをもつ、点の集まり(集合)を意味する。また、「球面」とは、「中心」に当たる点との超距離を一定に保った点の集まりである。2つを併せると、直観的には、3次元の小さなパーツを組み合わせて球面の形(ただしもちろん3次元)にしたものということができる。目に見える範囲で実存しイメージしやすいものとして我々のいる物理宇宙が挙げられ、たとえ話に用いられることがしばしばあるが、実際の宇宙は何次元なのかははっきりと判ってはいない。
NHKスペシャル『100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者 失踪の謎〜』では、ポエナル博士の説明を取材し「宇宙の中の任意の一点から長いロープを結んだロケットが宇宙を一周して戻って来たとする。ロケットがどんな軌道を描いた場合でもロープの両端を引っ張ってロープを全て回収できるようであれば、宇宙の形は概ね球体である(ドーナツ型のような穴のある形、ではない)といえるのではないか、というのが(3次元)ポアンカレ予想の主張である」と説明している。ただしこれは直観的な説明の一つではあるが厳密性には欠ける。もし球体形(円板形)であれば閉多様体でない。また3次元空間内の真部分集合で3次元多様体は閉多様体でない。
3次元球面と同相な多様体とは、きれいに「丸い」必要はなく、(「3次元」として)ヒョウタン、馬の鞍のように「くびれて」いたりしてもかまわない。(例えば、2次元では「コーヒーカップ」と「ドーナツ」は同相である。)。2次元の閉曲面の分類定理から類推されるように、球であるか否かは「穴」がないか・あるかにかかっている(「穴」の個数を種数という)。
「穴」があるかどうかは、例えば地球のような2次元球面の場合、我々は宇宙から3次元空間を通して目視することで確認することができる。しかし3次元球面の場合、外から目視して確認したくても、宇宙の外にはたどり着けていないから行うことはできず、「外因的な情報」ではなく「内在的な情報」のみから「穴」がないかあるかを確認することしかできない。そこで、判断したい場所にロープ(3次元球面上の(1次元)閉曲線)を這わせ、引っかからずに引き寄せることができるかどうかで「穴」がないかどうかを判断するという手法を採る。ポアンカレ予想は、3次元球面の任意の場所にロープを這わせても引っかかることが決してないという主張をしているのである(それ以外のものをさらに区別するには、別な方法を用いて、より詳しい情報を得なければいけない)。
2002年から2003年にかけて、当時ステクロフ数学研究所に勤務していたロシア人数学者グリゴリー・ペレルマンはポアンカレ予想を証明したと主張し、2002年11月11日に論文をプレプリント投稿サイトとして有名なプレプリントサーバarXivて公表した。そのなかで彼はリチャード・ストレイト・ハミルトンが創始したリッチフローの理論に「手術」と呼ぶ新たな手法を付け加えて拡張し、サーストンの幾何化予想を解決して、それに付随してポアンカレ予想を解決したと宣言した。サーストンの幾何化予想とは、任意の素な3次元多様体はいくつかの非圧縮トーラスにより、幾何構造をもつピース(閉領域)に分解されるというものである。さらに、幾何構造をもつ3次元多様体のモデルは8つあるというものである。また、サーストンの幾何化予想は、任意の素な3次元多様体は、いくつかのグラフ多様体と双曲多様体を非圧縮トーラスにより張り合わせて得られると言い換えることもできる。
ペレルマンは、特異点が発生する3次元多様体に対して、3次元手術つきリッチフロー (Ricci flow with surgery) を適用することによって幾何化予想を解決した。手術とは、有限時間で生成する特異点の直前でシリンダー状の部分の切り口 S に沿って球面状のキャップをかぶせてそこに標準解と呼ばれるものを貼ることである。ペレルマンは、この手術を特異点が生成する時空の点に限りなく近づける極限をとることにより、3次元リッチフローが有限時間での特異点を超えて標準的に延長することを証明した。
それ以来ペレルマン論文に対する検証が複数の数学者チームによって試みられた。原論文が理論的に難解でありかつ細部を省略していたため検証作業は難航したが、2006年5–7月にかけて3つの数学者チームによる報告論文が出揃った。
これらのチームはどれもペレルマン論文は基本的に正しく致命的誤りはなかったこと、また細部のギャップについてもペレルマンの手法によって修正可能であったという結論で一致した。これらのことから、現在では少なくともポアンカレ予想についてはペレルマンにより解決されたと考えられている。
ペレルマンは解法の説明を求められて多くの数学者達の前で壇上に立った。しかし、ほとんどの数学者がトポロジーを使ってポアンカレ予想を解こうとしており、聴講した数学者たちもほとんどがトポロジーの専門家であったため、微分幾何学を使ったペレルマンの解説を聞いた時、「まず、ポアンカレ予想を解かれたことに落胆し、それがトポロジーではなく(トポロジーの研究者にとっては古い数学と思われていた)微分幾何学を使って解かれたことに落胆し、そして、その解説がまったく理解できないことに落胆した」という。なお、ペレルマンの証明には熱量・エントロピーなどの物理的な用語が登場する。
2006年8月22日、スペインのマドリードで催された国際数学者会議の開会式においてペレルマンに対しフィールズ賞が授与された。しかしペレルマンはこれに出席せず、受賞を辞退した。
2006年12月22日、アメリカの科学誌「サイエンス」で科学的成果の年間トップ10が発表され、その第1位に「ポアンカレ予想の解決」が選ばれた。
アメリカにあるクレイ数学研究所 (CMI) はポアンカレ予想をミレニアム懸賞問題の一つに指定し、証明した者に100万ドル(約1億円)の賞金を与えると発表している。ここでペレルマンが本賞を受賞するのかどうかが一部の関心を呼んでいた。彼は賞金を受け取る条件である「査読つき専門雑誌への掲載」をしておらず、コーネル大学(サーストンが在籍していた)の運営している科学系論文投稿サイトarXivに投稿したのみであり、また彼の証明はあくまでも要領を発表したに過ぎないという説もあった。
この件に関し、CMI代表のジェームズ・カールソンは次のように述べている。
CMIの規定では受賞資格者は必ずしも専門誌に掲載された論文の直接的な執筆者に限られるわけではない。ペレルマンが変則的な発表手段を採り、arXivへの掲載のみに留めて専門誌に投稿していないというそのこと自体は、彼が受賞する上での障害とはならない。CMIは、いずれにしてもあらゆる素材を吟味して証明の成否を判定し、しかるのち初めて授賞を検討するようである。
2010年3月18日、クレイ数学研究所はペレルマンへのミレニアム賞授賞を発表した。これに関してペレルマンは以前、同賞を「受けるかどうかは、授賞を伝えられてから考える」と述べていたが、結局授賞式には出席しなかった。研究所の所長は「選択を尊重する」と声明を発表し、賞金と賞品は保管されるという。
2010年7月1日、ペレルマンは賞金の受け取りを最終的に断ったと報じられた。断った理由は複数あり、数学界の決定には不公平があることに対する異議や、ポアンカレ予想の解決に貢献したリチャード・S・ハミルトンに対する評価が十分ではないことなどを挙げている。さらに、このことについて本人は「理由はいろいろある」と答えた。 | [
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"text": "ポアンカレ予想は、1904年にフランスの数学者アンリ・ポアンカレによって提出された。ポアンカレ予想は現在では「単連結な3次元閉多様体は3次元球面 S に同相である」と表現される。すなわち、境界を持たない連結かつコンパクトな3次元多様体は、任意のループを1点に収縮できるならば、3次元球面 S と同相であるというものである。",
"title": "概説"
},
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"text": "ポアンカレ自身、デーン、ホワイトヘッド、古関健一、コリン・ルーケ (Colin Rourke)、イアン・スチュアート、ビング、などの数学者達がこの問題に挑戦した。初めに1932年ヘルベルト・ザイフェルトがザイフェルトファイバー空間の場合の証明をした。パパキリアコプロスは同値の予想を作ったがその度にマスキットなどに反証された。そしてロシアの数学者グリゴリー・ペレルマンは2002年から2003年にかけてこれを証明したとする一連の論文をプレプリントサーバarXivに投稿した。これらの論文について2006年の夏頃まで複数の数学者チームによる検証が行われた結果、証明に誤りのないことが明らかになった。ペレルマンはこの業績によって2006年のフィールズ賞が贈られたが、本人は受賞を辞退し、世間からは疑問の声が上がった。",
"title": "概説"
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"text": "3次元閉多様体の分類については1970年代に提唱されたウィリアム・サーストンの幾何化予想があり、これは3次元ポアンカレ予想を含意するものである。",
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"text": "ポアンカレ予想は上の形のまま一般化しても成り立たないが、ポアンカレ予想の同値な言い換えには次のようなものがある。",
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"text": "3次元ホモトピー球面(英語版)は S と同相である。",
"title": "概説"
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"text": "ここで n 次元ホモトピー球面とは、n 次元球面とホモトピー同値(ドイツ語版)な n 次元閉多様体のことである。一般の位相空間においてはホモトピー同値は同相よりも弱い概念であるが、その逆が3次元球面の場合には成り立つということである。そこで高次元には次のようにして一般化(英語版)できる。",
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"text": "n 次元ホモトピー球面は S と同相である。",
"title": "概説"
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"text": "このようにポアンカレ予想を n 次元に一般化すると n = 2 での成立は古典的な事実であり、n ≥ 4 の場合は20世紀後半に証明が得られていた。n ≥ 5 の時はスティーヴン・スメイルによって (Smale 1960)、n = 4 の時はマイケル・フリードマンによって (Freedman 1982) 証明された。2人とも、その業績からフィールズ賞を受賞している。スメイルの証明は微分位相幾何学的なものであったが、フリードマンの証明は純粋に位相幾何学的なものである。実際、フリードマンの結果はその直後にドナルドソンによる異種4次元ユークリッド空間(位相的には通常の4次元空間だが、微分構造が異なるもの)の発見へとつながった。以上よりオリジナルである3次元ポアンカレ予想のみを残し、高次元ポアンカレ予想は先に決着してしまった(微分同相については4次元ポアンカレ予想も未解決である)。",
"title": "概説"
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"text": "三次元球面(一般には三次元多様体)の「三次元」とは、異なる3つの方向(左右・上下・前後(あるいは奥行))に広がりをもつ、点の集まり(集合)を意味する。また、「球面」とは、「中心」に当たる点との超距離を一定に保った点の集まりである。2つを併せると、直観的には、3次元の小さなパーツを組み合わせて球面の形(ただしもちろん3次元)にしたものということができる。目に見える範囲で実存しイメージしやすいものとして我々のいる物理宇宙が挙げられ、たとえ話に用いられることがしばしばあるが、実際の宇宙は何次元なのかははっきりと判ってはいない。",
"title": "一般向けの説明"
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"text": "NHKスペシャル『100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者 失踪の謎〜』では、ポエナル博士の説明を取材し「宇宙の中の任意の一点から長いロープを結んだロケットが宇宙を一周して戻って来たとする。ロケットがどんな軌道を描いた場合でもロープの両端を引っ張ってロープを全て回収できるようであれば、宇宙の形は概ね球体である(ドーナツ型のような穴のある形、ではない)といえるのではないか、というのが(3次元)ポアンカレ予想の主張である」と説明している。ただしこれは直観的な説明の一つではあるが厳密性には欠ける。もし球体形(円板形)であれば閉多様体でない。また3次元空間内の真部分集合で3次元多様体は閉多様体でない。",
"title": "一般向けの説明"
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"text": "3次元球面と同相な多様体とは、きれいに「丸い」必要はなく、(「3次元」として)ヒョウタン、馬の鞍のように「くびれて」いたりしてもかまわない。(例えば、2次元では「コーヒーカップ」と「ドーナツ」は同相である。)。2次元の閉曲面の分類定理から類推されるように、球であるか否かは「穴」がないか・あるかにかかっている(「穴」の個数を種数という)。",
"title": "一般向けの説明"
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"text": "「穴」があるかどうかは、例えば地球のような2次元球面の場合、我々は宇宙から3次元空間を通して目視することで確認することができる。しかし3次元球面の場合、外から目視して確認したくても、宇宙の外にはたどり着けていないから行うことはできず、「外因的な情報」ではなく「内在的な情報」のみから「穴」がないかあるかを確認することしかできない。そこで、判断したい場所にロープ(3次元球面上の(1次元)閉曲線)を這わせ、引っかからずに引き寄せることができるかどうかで「穴」がないかどうかを判断するという手法を採る。ポアンカレ予想は、3次元球面の任意の場所にロープを這わせても引っかかることが決してないという主張をしているのである(それ以外のものをさらに区別するには、別な方法を用いて、より詳しい情報を得なければいけない)。",
"title": "一般向けの説明"
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{
"paragraph_id": 17,
"tag": "p",
"text": "2002年から2003年にかけて、当時ステクロフ数学研究所に勤務していたロシア人数学者グリゴリー・ペレルマンはポアンカレ予想を証明したと主張し、2002年11月11日に論文をプレプリント投稿サイトとして有名なプレプリントサーバarXivて公表した。そのなかで彼はリチャード・ストレイト・ハミルトンが創始したリッチフローの理論に「手術」と呼ぶ新たな手法を付け加えて拡張し、サーストンの幾何化予想を解決して、それに付随してポアンカレ予想を解決したと宣言した。サーストンの幾何化予想とは、任意の素な3次元多様体はいくつかの非圧縮トーラスにより、幾何構造をもつピース(閉領域)に分解されるというものである。さらに、幾何構造をもつ3次元多様体のモデルは8つあるというものである。また、サーストンの幾何化予想は、任意の素な3次元多様体は、いくつかのグラフ多様体と双曲多様体を非圧縮トーラスにより張り合わせて得られると言い換えることもできる。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
},
{
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"text": "ペレルマンは、特異点が発生する3次元多様体に対して、3次元手術つきリッチフロー (Ricci flow with surgery) を適用することによって幾何化予想を解決した。手術とは、有限時間で生成する特異点の直前でシリンダー状の部分の切り口 S に沿って球面状のキャップをかぶせてそこに標準解と呼ばれるものを貼ることである。ペレルマンは、この手術を特異点が生成する時空の点に限りなく近づける極限をとることにより、3次元リッチフローが有限時間での特異点を超えて標準的に延長することを証明した。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
},
{
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"text": "それ以来ペレルマン論文に対する検証が複数の数学者チームによって試みられた。原論文が理論的に難解でありかつ細部を省略していたため検証作業は難航したが、2006年5–7月にかけて3つの数学者チームによる報告論文が出揃った。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
},
{
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"text": "これらのチームはどれもペレルマン論文は基本的に正しく致命的誤りはなかったこと、また細部のギャップについてもペレルマンの手法によって修正可能であったという結論で一致した。これらのことから、現在では少なくともポアンカレ予想についてはペレルマンにより解決されたと考えられている。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
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"text": "ペレルマンは解法の説明を求められて多くの数学者達の前で壇上に立った。しかし、ほとんどの数学者がトポロジーを使ってポアンカレ予想を解こうとしており、聴講した数学者たちもほとんどがトポロジーの専門家であったため、微分幾何学を使ったペレルマンの解説を聞いた時、「まず、ポアンカレ予想を解かれたことに落胆し、それがトポロジーではなく(トポロジーの研究者にとっては古い数学と思われていた)微分幾何学を使って解かれたことに落胆し、そして、その解説がまったく理解できないことに落胆した」という。なお、ペレルマンの証明には熱量・エントロピーなどの物理的な用語が登場する。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
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"text": "2006年8月22日、スペインのマドリードで催された国際数学者会議の開会式においてペレルマンに対しフィールズ賞が授与された。しかしペレルマンはこれに出席せず、受賞を辞退した。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
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"text": "2006年12月22日、アメリカの科学誌「サイエンス」で科学的成果の年間トップ10が発表され、その第1位に「ポアンカレ予想の解決」が選ばれた。",
"title": "幾何化予想とペレルマン"
},
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"text": "アメリカにあるクレイ数学研究所 (CMI) はポアンカレ予想をミレニアム懸賞問題の一つに指定し、証明した者に100万ドル(約1億円)の賞金を与えると発表している。ここでペレルマンが本賞を受賞するのかどうかが一部の関心を呼んでいた。彼は賞金を受け取る条件である「査読つき専門雑誌への掲載」をしておらず、コーネル大学(サーストンが在籍していた)の運営している科学系論文投稿サイトarXivに投稿したのみであり、また彼の証明はあくまでも要領を発表したに過ぎないという説もあった。",
"title": "賞金100万ドル"
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"text": "この件に関し、CMI代表のジェームズ・カールソンは次のように述べている。",
"title": "賞金100万ドル"
},
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"text": "CMIの規定では受賞資格者は必ずしも専門誌に掲載された論文の直接的な執筆者に限られるわけではない。ペレルマンが変則的な発表手段を採り、arXivへの掲載のみに留めて専門誌に投稿していないというそのこと自体は、彼が受賞する上での障害とはならない。CMIは、いずれにしてもあらゆる素材を吟味して証明の成否を判定し、しかるのち初めて授賞を検討するようである。",
"title": "賞金100万ドル"
},
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"text": "2010年3月18日、クレイ数学研究所はペレルマンへのミレニアム賞授賞を発表した。これに関してペレルマンは以前、同賞を「受けるかどうかは、授賞を伝えられてから考える」と述べていたが、結局授賞式には出席しなかった。研究所の所長は「選択を尊重する」と声明を発表し、賞金と賞品は保管されるという。",
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"text": "2010年7月1日、ペレルマンは賞金の受け取りを最終的に断ったと報じられた。断った理由は複数あり、数学界の決定には不公平があることに対する異議や、ポアンカレ予想の解決に貢献したリチャード・S・ハミルトンに対する評価が十分ではないことなどを挙げている。さらに、このことについて本人は「理由はいろいろある」と答えた。",
"title": "賞金100万ドル"
}
] | (3次元)ポアンカレ予想とは、数学の位相幾何学(トポロジー)における定理の一つである。 3次元球面の特徴づけを与えるものであり、定理の主張は というものである。2014年現在まで7つのミレニアム懸賞問題のうち唯一解決されている問題である。 ポアンカレ予想は各次元で3種類(位相、PL、微分)があり、かなり解けているが
「4次元微分ポアンカレ予想」「4次元PLポアンカレ予想」「高次元微分ポアンカレ予想の残り少し」は未解決である。
これらは非常に重要な問題である。 | {{Infobox mathematical statement
| name = ポアンカレ予想<br />Poincaré conjecture
| image = P1S2all.jpg
| caption = 境界を持たない[[コンパクト (数学)|コンパクト]]な2次元曲面が、どのようなループであっても連続的に引き絞れば回収できるようであれば、その曲面は2次元球面に同相である。ポアンカレ予想は同様のことが3次元についても成り立つと主張する。
| field = [[幾何学的トポロジー]]
| conjectured by = [[アンリ・ポアンカレ]]
| conjecture date = 1904年
| first proof by = [[グリゴリー・ペレルマン]]
| first proof date = 2006年
| implied by = {{ubl|[[幾何化予想]]|{{仮リンク|ジーマン予想|en|Zeeman conjecture}}<ref>{{cite book|title=Algorithmic Topology and Classification of 3-Manifolds|volume=9|series=Algorithms and Computation in Mathematics|first=Sergei|last=Matveev|publisher=Springer|year=2007|isbn=9783540458999|pages=46–58|url=https://books.google.com/books?id=vFLgAyeVSqAC&pg=PA46|contribution=1.3.4 Zeeman's Collapsing Conjecture}}</ref>}}
| equivalent to = {{plainlist|
*{{仮リンク|球体空間形態予想|en|Spherical space form conjecture}}
*[[サーストンの幾何化予想]]{{enlink|Thurston elliptization conjecture|en}}}}
| generalizations = {{仮リンク|一般化ポアンカレ予想|en|Generalized Poincaré conjecture}}
| consequences =
}}[[画像:Poincare.jpg|thumb|予想の提唱者[[アンリ・ポアンカレ]]]]
(3次元)'''ポアンカレ予想'''(ポアンカレよそう、Poincaré conjecture)とは、[[数学]]の[[位相幾何学]](トポロジー)における[[定理]]の一つである。
[[三次元球面|3次元球面]]の特徴づけを与えるものであり、定理の主張は
{{Énoncé|2=
[[単連結空間|単連結]]な3次元[[閉多様体]]は3次元球面 {{math|''S''{{sup|3}}}} に[[位相同型|同相]]である
}}
というものである<ref name ="リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化">[http://www.math.tohoku.ac.jp/kiroku/meetings/2004/coeharu/LN/LN_toda.pdf 戸田正人 - リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化]</ref><ref>[http://cmup.fc.up.pt/cmup/preprints/2003-13.pdf Eduardo Francisco Rêgo - On the Mechanics of the Poincaré Conjecture an Heuristic Tour.]</ref>。[[2014年]]現在まで7つの[[ミレニアム懸賞問題]]のうち唯一解決されている問題である。
ポアンカレ予想は各次元で3種類(位相、PL、微分)があり、かなり解けているが
「4次元微分ポアンカレ予想」「4次元PLポアンカレ予想」「高次元微分ポアンカレ予想の残り少し」は未解決である。
これらは非常に重要な問題である<ref>[https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000351492 「多様体とは何か」(第5章に初心者向け解説有り)小笠英志 ブルーバックス・シリーズ 講談社]</ref><ref>[https://gendai.media/articles/-/99314 「ポアンカレ予想」はまだ解けてない!?小笠英志 講談社のweb記事 初心者向け解説]</ref><ref>[https://www.youtube.com/watch?v=ubnL9kmk_ss 天才少女(小1)が4次元微分ポアンカレ予想にアタック開始。 意気込みを語る動画]</ref>。
==概説==
[[File:Torus cycles.svg|thumb|図の[[トーラス]]上の2色のループは双方共に1点に収縮できない。よってトーラスは球と同相では無い。]]
ポアンカレ予想は、[[1904年]]にフランスの数学者[[アンリ・ポアンカレ]]によって提出された<ref>{{Cite web
|author = John Milnor
|authorlink = ジョン・ウィラード・ミルナー
|date = November 2003
|url = http://www.ams.org/notices/200310/fea-milnor.pdf
|title = Towards the Poincaré Conjecture and the Classification of 3-Manifolds
|publisher = [[アメリカ数学会|American Mathematical Society]]
|work = [[Notices of the American Mathematical Society|Notices of AMS]] Volume 50, Number 10
|format = PDF
|accessdate = 2015-07-18
}}</ref>。ポアンカレ予想は現在では「[[単連結空間|単連結]]な3次元[[閉多様体]]は[[3次元球面]] {{math|''S''{{sup|3}}}} に[[位相同型|同相]]である」と表現される<ref name ="リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化"/>。すなわち、[[境界付き多様体|境界を持たない]][[連結空間|連結]]<ref group="注">多様体が連結であることと[[連結空間#弧状連結|弧状連結]]であることは同値である。</ref>かつ[[コンパクト空間|コンパクト]]な3次元多様体は、任意の[[基本群#定義|ループ]]を1点に収縮できるならば、3次元球面 {{math|''S''{{sup|3}}}} と同相であるというものである。
ポアンカレ自身、[[マックス・デーン|デーン]]、[[J・H・C・ホワイトヘッド|ホワイトヘッド]]、古関健一、コリン・ルーケ (Colin Rourke)、[[イアン・スチュアート (数学者)|イアン・スチュアート]]、[[アーエイチ・ビング|ビング]]、などの数学者達がこの問題に挑戦した。初めに1932年ヘルベルト・ザイフェルトがザイフェルトファイバー空間の場合の証明をした。[[クリストス・パパキリアコプロス|パパキリアコプロス]]は同値の予想を作ったがその度にマスキットなどに反証された。そして[[ロシア]]の数学者[[グリゴリー・ペレルマン]]は[[2002年]]から[[2003年]]にかけてこれを証明したとする一連の論文<ref>[[#参考文献]]</ref>を[[プレプリントサーバ]][[arXiv]]に投稿した。これらの論文について[[2006年]]の夏頃まで複数の数学者チームによる検証が行われた結果、証明に誤りのないことが明らかになった。ペレルマンはこの業績によって2006年の[[フィールズ賞]]が贈られたが、本人は受賞を辞退し<ref name="Chang" />、世間からは疑問の声が上がった。
3次元閉多様体の分類については1970年代に提唱された[[ウィリアム・サーストン]]の[[幾何化予想]]があり、これは3次元ポアンカレ予想を含意するものである<ref>{{Cite web
|date = 2004-02
|url = http://www.ams.org/notices/200402/fea-anderson.pdf
|title = Geometrization of 3-Manifolds via the Ricci Flow
|publisher = [[アメリカ数学会|American Mathematical Society]]
|work = [[Notices of the American Mathematical Society|Notices of AMS]] Volume 51, Number 2
|author = Michael T. Anderson
|format = PDF
|accessdate = 2015-07-18
}}</ref>。
;次元の一般化
ポアンカレ予想は上の形のまま一般化しても成り立たないが、ポアンカレ予想の同値な言い換えには次のようなものがある。
{{Énoncé|2=
3次元{{仮リンク|ホモトピー球面|en|Homotopy sphere}}は {{math|''S''{{sup|3}}}} と[[同相]]である<ref>[http://www.komazawa-u.ac.jp/~w3c/lecture/pdf/waseda.pdf 小沢誠 - 幾何特論I(3次元多様体)p. 13]</ref>。
}}
ここで {{mvar|n}} 次元ホモトピー球面とは、[[超球面|{{mvar|n}} 次元球面]]と{{ill2|ホモトピー同値|de|Homotopieäquivalenz|preserve=1}}な {{mvar|n}} 次元閉多様体のことである。一般の[[位相空間]]においてはホモトピー同値は同相よりも弱い概念であるが、その逆が3次元球面の場合には成り立つということである。そこで高次元には次のようにして{{仮リンク|一般化ポアンカレ予想|en|Generalized Poincaré conjecture|label=一般化}}できる。
{{Énoncé|2=
{{mvar|n}} 次元ホモトピー球面は {{mvar|S{{sup|n}}}} と同相である。
}}
;歴史と背景
このようにポアンカレ予想を {{mvar|n}} 次元に一般化すると {{math|''n'' {{=}} 2}} での成立は古典的な事実であり、{{math|''n'' ≥ 4}} の場合は[[20世紀]]後半に証明が得られていた。{{math|''n'' ≥ 5}} の時は[[スティーヴン・スメイル]]によって {{harv|Smale|1960}}、{{math|''n'' {{=}} 4}} の時は[[マイケル・フリードマン]]によって {{harv|Freedman|1982}} 証明された。2人とも、その業績から[[フィールズ賞]]を受賞している。スメイルの証明は[[微分位相幾何学]]的なものであったが、フリードマンの証明は純粋に[[位相幾何学]]的なものである。実際、フリードマンの結果はその直後に[[サイモン・ドナルドソン|ドナルドソン]]による異種4次元[[ユークリッド空間]](位相的には通常の4次元空間だが、微分構造が異なるもの)の発見へとつながった。以上よりオリジナルである3次元ポアンカレ予想のみを残し、高次元ポアンカレ予想は先に決着してしまった([[微分同相写像|微分同相]]については4次元ポアンカレ予想も未解決である)。
== 一般向けの説明 ==
[[三次元球面]](一般には[[三次元多様体]])の「三次元」とは、異なる3つの方向(左右・上下・前後(あるいは奥行))に広がりをもつ、点の集まり([[集合]])を意味する。また、「球面」とは、「中心」に当たる点との超距離を一定に保った点の集まりである。2つを併せると、直観的には、3次元の小さなパーツを組み合わせて球面の形(ただしもちろん3次元)にしたものということができる。目に見える範囲で実存しイメージしやすいものとして我々のいる物理[[宇宙]]が挙げられ、たとえ話に用いられることがしばしばあるが、実際の宇宙は何次元なのかははっきりと判ってはいない。
NHKスペシャル『100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者 失踪の謎〜』では、[[ヴァレンティン・ポエナル|ポエナル]]博士の説明を取材し<ref>『100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者の光と影〜』[[NHK出版]]、2008年6月。pp. 35–60.</ref>「宇宙の中の任意の一点から長い[[ロープ]]を結んだ[[ロケット]]が宇宙を一周して戻って来たとする。ロケットがどんな軌道を描いた場合でもロープの両端を引っ張ってロープを全て回収できるようであれば、宇宙の形は概ね球体である([[ドーナツ]]型のような穴のある形、ではない)といえるのではないか、というのが(3次元)ポアンカレ予想の主張である」と説明している。ただしこれは直観的な説明の一つではあるが厳密性には欠ける。もし球体形(円板形)であれば閉多様体でない。また3次元空間内の真部分集合で3次元多様体は閉多様体でない。
3次元球面と同相な多様体とは、きれいに「丸い」必要はなく、(「3次元」として)ヒョウタン、馬の鞍のように「くびれて」いたりしてもかまわない。(例えば、2次元では「コーヒーカップ」と「ドーナツ」は同相である。)。2次元の閉曲面の分類定理から類推されるように、球であるか否かは「穴」がないか・あるかにかかっている(「穴」の個数を[[種数]]という)。
「穴」があるかどうかは、例えば地球のような2次元球面の場合、我々は宇宙から3次元空間を通して目視することで確認することができる。しかし3次元球面の場合、外から目視して確認したくても、宇宙の外にはたどり着けていないから行うことはできず、「外因的な情報」ではなく「内在的な情報」のみから「穴」がないかあるかを確認することしかできない。そこで、判断したい場所にロープ(3次元球面上の(1次元)閉曲線)を這わせ、引っかからずに引き寄せることができるかどうかで「穴」がないかどうかを判断するという手法を採る。ポアンカレ予想は、3次元球面の任意の場所にロープを這わせても引っかかることが決してないという主張をしているのである(それ以外のものをさらに区別するには、別な方法を用いて、より詳しい情報を得なければいけない)。
== 幾何化予想とペレルマン ==
[[画像:Perelman, Grigori (1966).jpg|thumb|[[グリゴリー・ペレルマン]](1993年)]]
2002年から2003年にかけて、当時[[ステクロフ数学研究所]]に勤務していたロシア人数学者[[グリゴリー・ペレルマン]]はポアンカレ予想を証明したと主張し、2002年11月11日に論文をプレプリント投稿サイトとして有名な[[プレプリントサーバ]][[arXiv]]て公表した。そのなかで彼は[[リチャード・ストレイト・ハミルトン]]が創始した[[リッチフロー]]の理論に「手術」と呼ぶ新たな手法を付け加えて拡張し、[[サーストンの幾何化予想]]を解決して、それに付随してポアンカレ予想を解決したと宣言した。サーストンの幾何化予想とは、任意の素な3次元多様体はいくつかの非圧縮トーラスにより、幾何構造をもつピース(閉領域)に分解されるというものである<ref name ="多様体の崩壊-ペレルマンの仕事まで">{{Cite web|和書
|date= 2005
|url= https://doi.org/10.11429/emath1996.2005.Spring-Meeting_24
|title= 多様体の崩壊-ペレルマンの仕事まで
|publisher= [[日本数学会]]
|author= 山口孝男
|authorlink= 山口孝男
|doi=10.11429/emath1996.2005.Spring-Meeting_24
|page= 29
|accessdate= 2015-07-17
}}</ref>。さらに、幾何構造をもつ3次元多様体のモデルは8つあるというものである<ref name ="多様体の崩壊-ペレルマンの仕事まで"/>。また、サーストンの幾何化予想は、任意の素な3次元多様体は、いくつかのグラフ多様体と双曲多様体を非圧縮トーラスにより張り合わせて得られると言い換えることもできる<ref name ="リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化"/><ref name ="多様体の崩壊-ペレルマンの仕事まで"/>。
ペレルマンは、特異点が発生する3次元多様体に対して、3次元手術つきリッチフロー (Ricci flow with surgery) を適用することによって幾何化予想を解決した<ref name ="本間泰史 - リッチフロー">[http://www.f.waseda.jp/homma_yasushi/kori/ricciflow_lect-ver2.pdf 本間泰史 - リッチフロー]</ref>。手術とは、有限時間で生成する特異点の直前でシリンダー状の部分の切り口 {{math|''S''{{sup|2}}}} に沿って球面状のキャップをかぶせてそこに標準解と呼ばれるものを貼ることである<ref name ="リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化"/><ref name ="本間泰史 - リッチフロー"/><ref>[http://www.ams.org/bookstore/pspdf/ulect-53-prev.pdf Lecture]</ref>。ペレルマンは、この手術を特異点が生成する時空の点に限りなく近づける極限をとることにより、3次元リッチフローが有限時間での特異点を超えて標準的に延長することを証明した<ref name ="リッチフローの基礎と三次元多様体の幾何学化"/><ref name ="本間泰史 - リッチフロー"/><ref>[http://www.ims.cuhk.edu.hk/~ajm/vol10/10_2.pdf HUAI-DONG CAO , XI-PING ZHU - A COMPLETE PROOF OF THE POINCARE AND GEOMETRIZATION CONJECTURES]</ref>。
それ以来ペレルマン論文に対する検証が複数の数学者チームによって試みられた。原論文が理論的に難解でありかつ細部を省略していたため検証作業は難航したが、2006年5–7月にかけて3つの数学者チームによる報告論文が出揃った。
* [[ブルース・クライナー]]と[[ジョン・ロット]], [https://arxiv.org/abs/math/0605667 ''Notes on Perelman's Papers''](2006年5月)
*: ペレルマンによる幾何化予想についての証明の細部を解明・補足
* [[朱熹平]]と[[曹懐東]]、[https://projecteuclid.org/journals/asian-journal-of-mathematics/volume-10/issue-2/A-Complete-Proof-of-the-Poincar%C3%A9-and-Geometrization-Conjectures/ajm/1154098947.full ''A Complete Proof of the Poincaré and Geometrization Conjectures - application of the Hamilton-Perelman theory of the Ricci flow''](2006年7月、改訂版2006年12月)
*: ペレルマン論文で省略されている細部の解明・補足
* [[ジョン・モーガン (数学者)|ジョン・モーガン]]と[[田剛]]、[https://arxiv.org/abs/math/0607607 ''Ricci Flow and the Poincaré Conjecture''](2006年7月)
*: ペレルマン論文をポアンカレ予想に関わる部分のみに絞って詳細に解明・補足
これらのチームはどれもペレルマン論文は基本的に正しく致命的誤りはなかったこと、また細部のギャップについてもペレルマンの手法によって修正可能であったという結論で一致した。これらのことから、現在では少なくともポアンカレ予想についてはペレルマンにより解決されたと考えられている。
ペレルマンは解法の説明を求められて多くの数学者達の前で壇上に立った。しかし、ほとんどの数学者が[[位相幾何学|トポロジー]]を使ってポアンカレ予想を解こうとしており、聴講した数学者たちもほとんどがトポロジーの専門家であったため、[[微分幾何学]]を使ったペレルマンの解説を聞いた時、「まず、ポアンカレ予想を解かれたことに落胆し、それがトポロジーではなく(トポロジーの研究者にとっては古い数学と思われていた)微分幾何学を使って解かれたことに落胆し、そして、その解説がまったく理解できないことに落胆した」という<ref>[[NHKスペシャル]] 2007年10月22日放送分 『100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者 失踪の謎〜』 より</ref>。なお、ペレルマンの証明には[[熱量]]・[[エントロピー]]などの物理的な用語が登場する。
2006年[[8月22日]]、[[スペイン]]の[[マドリード]]で催された[[国際数学者会議]]の開会式においてペレルマンに対しフィールズ賞が授与された。しかしペレルマンはこれに出席せず、受賞を辞退した<ref name="Chang">{{Cite web
|url = http://www.nytimes.com/2006/08/22/science/22cnd-math.html
|title = Highest Honor in Mathematics Is Refused
|last = Chang
|first = Keneeth
|publisher = [[The New York Times]]
|date = 2006-08-22
|accessdate = 2015-07-09
|quote = But Dr. Perelman refused to accept the medal, as he has other honors, and he did not attend the ceremonies at the International Congress of Mathematicians in Madrid.
}}</ref>。
2006年[[12月22日]]、アメリカの科学誌「[[サイエンス]]」で科学的成果の年間トップ10が発表され、その第1位に「ポアンカレ予想の解決」が選ばれた<ref>{{Cite web|和書|url= https://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0702/09/news029.html|title=難問奇問と天才奇人数学者 〜ポアンカレ予想の解決〜 |accessdate=2015-07-01}}</ref><ref>Breakthrough of the Year {{doi|10.1126/science.1138510}}</ref>。
== 賞金100万ドル ==
アメリカにある[[クレイ数学研究所]] (CMI) はポアンカレ予想を[[ミレニアム懸賞問題]]の一つに指定し、証明した者に100万ドル(約1億円)の賞金を与えると発表している。ここでペレルマンが本賞を受賞するのかどうかが一部の関心を呼んでいた。彼は賞金を受け取る条件である「査読つき専門雑誌への掲載」をしておらず、コーネル大学(サーストンが在籍していた)の運営している科学系論文投稿サイトarXivに投稿したのみであり、また彼の証明はあくまでも要領を発表したに過ぎないという説もあった<ref>[http://www.newyorker.com/magazine/2006/08/28/manifold-destiny Manifold Destiny]</ref>。
この件に関し、CMI代表の[[ジェームズ・カールソン]]は次のように述べている{{いつ|date=2015-07}}{{どこ|date=2015-07}}。
<blockquote>
CMIの規定では受賞資格者は必ずしも専門誌に掲載された論文の直接的な執筆者に限られるわけではない。ペレルマンが変則的な発表手段を採り、arXivへの掲載のみに留めて専門誌に投稿していないというそのこと自体は、彼が受賞する上での障害とはならない。CMIは、いずれにしてもあらゆる素材を吟味して証明の成否を判定し、しかるのち初めて授賞を検討するようである。
</blockquote>
[[2010年]][[3月18日]]、クレイ数学研究所はペレルマンへのミレニアム賞授賞を発表した<ref>{{Cite web
|url = http://www.claymath.org/millennium-problems/poincaré-conjecture
|title = Poincaré Conjecture
| date = 2010-03-18
|publisher = Clay Mathematics Institute
|accessdate= 2015-07-01
}}</ref>。これに関してペレルマンは以前、同賞を「受けるかどうかは、授賞を伝えられてから考える」と述べていたが、結局授賞式には出席しなかった。研究所の所長は「選択を尊重する」と声明を発表し、賞金と賞品は保管されるという<ref>{{Cite news
|title = 数学者ペレルマン、授賞式に姿見せず 懸賞金1億円
|date = 2010-06-08
|url = http://japanese.ruvr.ru/2010/06/08/9384710.html
|accessdate = 2015-07-01
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20100705120847/http://japanese.ruvr.ru/2010/06/08/9384710.html
|archivedate = 2010-07-05
}}</ref>。
2010年[[7月1日]]、ペレルマンは賞金の受け取りを最終的に断ったと報じられた。断った理由は複数あり、数学界の決定には不公平があることに対する異議や、ポアンカレ予想の解決に貢献した[[リチャード・S・ハミルトン]]に対する評価が十分ではないことなどを挙げている。さらに、このことについて本人は「理由はいろいろある」と答えた<ref>{{Cite news
|title = 変わり者数学者、やっぱり賞金拒否 ポアンカレ予想解決
|newspaper = 朝日新聞社
|date = 2010-07-02
|url = http://www.asahi.com/international/update/0702/TKY201007020006.html
|accessdate = 2015-07-01
|archiveurl = https://web.archive.org/web/20100704073921/http://www.asahi.com/international/update/0702/TKY201007020006.html
|archivedate = 2010-07-04
}}</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|40em}}
== 参考文献 ==
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== 関連文献 ==
{{雑多な内容の箇条書き|section=1|date=2018年5月}}
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|author = ドナル・オシア
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|date = 2007-06-25
|title = ポアンカレ予想を解いた数学者
|publisher = [[日経BP社]]
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*{{Cite book|和書
|author = 春日真人
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|title = 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影
|series = [[NHKスペシャル]]
|publisher = [[日本放送出版協会]]
|isbn = 978-4-14-081282-2
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|ref = 春日2008
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**{{Cite book|和書
|author = 春日真人
|date = 2011-06-01
|title = 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影
|series = 新潮文庫
|publisher = [[新潮社]]
|isbn = 978-4-10-135166-7
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}} - [[#春日2008|春日(2008)]]の文庫版。
*{{Cite book|和書
|author = マーシャ・ガッセン
|translator = [[青木薫]]
|date = 2009-11-15
|title = 完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者
|publisher = [[文藝春秋]]|isbn=978-4-16-371950-4
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|ref = ガッセン2009
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**{{Cite book|和書
|author = マーシャ・ガッセン
|others = 青木薫 訳、[[福岡伸一]] 解説
|date = 2012-04-10
|title = 完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者
|series = 文春文庫
|publisher = 文藝春秋
|isbn = 978-4-16-765181-7
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|month = 6
|title = リッチフローと幾何化予想
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*{{Cite journal|和書
|editor = 数学セミナー編集部 編
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|month = 1
|title = 解決!ポアンカレ予想
|journal = 数学セミナー
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|publisher = [[日本評論社]]
|url = https://www.nippyo.co.jp/shop/book/2996.html
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|editor = 数学セミナー編集部 編
|year = 2010
|month = 7
|title = ミレニアム賞問題 7つの未解決問題はどうなったか?
|journal = 数学セミナー
|volume = 増刊
|publisher = 日本評論社
|url = https://www.nippyo.co.jp/shop/book/5352.html
|ref = 数学セミナー編集部2010
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*{{Cite book|和書
|author = ジョージ・G・スピーロ
|others = 永瀬輝男・志摩亜希子監修、鍛原多惠子・坂井星之・塩原通緒・松井信彦訳|date = 2007-12-19
|title = ポアンカレ予想 世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者
|publisher = [[早川書房]]
|isbn = 978-4-15-208885-7
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|ref=スピーロ2007}}
**{{Cite book|和書
|author=ジョージ・G・スピーロ
|others=永瀬輝男・志摩亜希子監修、鍛原多惠子・坂井星之・塩原通緒・松井信彦訳
|date=2011-04-08
|title=ポアンカレ予想 世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者
|series=ハヤカワ文庫 NF373 〈数理を愉しむ〉シリーズ
|publisher = 早川書房
|isbn = 978-4-15-208885-7
|url = https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/90373.html
|ref = スピーロ2011
}} - [[#スピーロ2007|スピーロ(2007)]]の文庫版。
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|author = 戸田正人
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|isbn =
|ref = 戸田2007
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|author = 根上生也
|year = 2007
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|title = トポロジカル宇宙 ポアンカレ予想解決への道 完全版
|edition = 新版
|publisher = [[日本評論社]]
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|url = https://www.nippyo.co.jp/shop/book/3172.html
|ref = 根上2007
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|month = 12
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|publisher = [[朝倉書店]]
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|isbn = 4-254-11458-3
|url = https://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11458-4/
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|month = 10
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|chapter = フリードマン 4次元ポアンカレ予想の解決
|publisher = 日本評論社
|isbn = 978-4-535-78432-1
|url = https://www.nippyo.co.jp/shop/book/3161.html
|ref = 松本2007
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|author = 松本幸夫
|year = 2009
|month = 12
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|edition = 増補新版
|publisher = 日本評論社
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|title = ポアンカレの贈り物 数学最後の難問は解けるのか
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|isbn = 4-06-257322-9
|url = https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194283
|ref = 南&永瀬2001
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*{{Cite book|和書
|author=[[結城浩]]
|date=2018-04-23
|title=数学ガール ポアンカレ予想
|publisher=SBクリエイティブ
|series=「[[数学ガール]]」シリーズ6
|url=https://www.hyuki.com/girl/poincare.html
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|ref={{Harvid|結城|2018}}
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== 外部リンク ==
*{{Cite web|和書|url = https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/04/04.html |author = 松本幸夫 |title = ポアンカレ予想 |accessdate = 2015-07-01}}
*{{Kotobank|ポアンカレ予想}}
*[https://www.nhk.or.jp/special/detail/20071022.html 100年の難問はなぜ解けたのか〜天才数学者 失踪の謎〜]
*{{PDFlink|[http://kyokan.ms.u-tokyo.ac.jp/users/kokaikoz/milnor-j.pdf 「ポアンカレ予想」ジョン・ミルナー2000年3月]}}([[東京大学大学院数理科学研究科]]: 翻訳者不明)
*{{MathWorld|title=Poincaré Conjecture|urlname=PoincareConjecture}}
*[https://gendai.media/articles/-/99314 「ポアンカレ予想」はまだ解けてない!?小笠英志 講談社のweb記事 初心者向け解説]
*[https://news.yahoo.co.jp/articles/1765b3f28db2ff80c0d89138466bb3ac99dff9d8 yahoo news 記事「ポアンカレ予想」はまだ解けてない!? 小笠英志]
*[https://www.youtube.com/watch?v=ubnL9kmk_ss 天才少女(小1)が4次元微分ポアンカレ予想にアタック開始。 意気込みを語る動画。]
*[https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000351492 「多様体とは何か」(第5章に初心者向け解説有り)小笠英志 ブルーバックス・シリーズ 講談社]
{{ミレニアム懸賞問題}}
{{Normdaten}}
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[[Category:3次元多様体]]
[[Category:予想]]
[[Category:位相幾何学の定理]]
[[Category:ミレニアム懸賞問題]]
[[Category:アンリ・ポアンカレ]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:数学のエポニム]] | 2003-04-27T06:55:29Z | 2023-11-23T02:20:26Z | false | false | false | [
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7,357 | モノイド | 数学、とくに抽象代数学における単系(たんけい、英: monoid; モノイド)はひとつの二項演算と単位元をもつ代数的構造である。モノイドは単位元をもつ半群(単位的半群)であるので、半群論の研究対象の範疇に属する。
モノイドの概念は数学のさまざまな分野に現れる。たとえば、モノイドはそれ自身が「ただひとつの対象をもつ圏」と見ることができ、したがって「集合上の写像とその合成」といった概念を捉えたものと考えることもできる。モノイドの概念は計算機科学の分野でも、その基礎付けや実用プログラミングの両面で広く用いられる。
モノイドの歴史や、モノイドに一般的な性質を付加した議論などは半群の項に譲る。
集合 S とその上の二項演算 •: S × S → S が与えられ、以下の条件
を満たすならば、組 (S, •, e) をモノイドという。まぎれの虞のない場合、対 (S, •) あるいは単に S のみでも表す。 二項演算の結果 a • b を a と b の積と呼ぶ。手短に述べれば、モノイドとは単位元を持つ半群のことである。モノイドに各元の可逆性を課せば、群が得られる。逆に任意の群はモノイドである。
二項演算の記号は省略されることが多く、たとえば先ほどの公理に現れる等式は (ab)c = a(bc), ea = ae = a と書かれる。本項でも明示する理由がない限り二項演算の記号を省略する。
モノイド M の部分集合 N が M の部分モノイド (submonoid) とは、M の単位元を含み、閉性質: x, y ∈ N ならば xy ∈ N となるようなものをいう。これは M のモノイド演算の制限 •|N: N × N → M の像が im(•|N) ⊂ N を満たすということであり、従って •|N は N 上の二項演算を定め、部分モノイド N は明らかにそれ自身が一つのモノイドとなる。
部分集合 S がモノイド M の生成系 (generator) であるとは M の任意の元が S の元だけから二項演算を繰り返して得られることをいう(生成系に属する元を生成元という)。モノイド M がその部分集合 S で生成されるとき M = ⟨S⟩ などと書く。
M の各元 x に対し x = 1M を M の単位元とする規約を設けるならば、⟨S⟩ における S の元の冪が零となることも許し、⟨S⟩ は S を含む最小の部分モノイドを表す。
M が有限個の元からなる生成系をもつとき、有限生成 (finitely generated) あるいは有限型 (finite type) であるという。特に、M のただ一つの元 f で生成されるモノイド ⟨f⟩ は単項生成モノイドあるいは巡回モノイド (cyclic monoid) と呼び、集合としては f の冪全体の成す集合 {f, f, ...} に一致する。
演算が可換であるようなモノイドは、可換モノイド (commutative monoid) という(稀にアーベルモノイド (abelian monoid) ともいう)。可換モノイドはしばしば二項演算の記号を "+" として加法的に書かれる。任意の可換モノイド M は
として定まる代数的前順序 "≤" を持つ。可換モノイド M の順序単位 (order-unit) u ∈ M とは、M の各元 x に対して適当な正の整数 n をとれば x ≤ nu (右辺は n 個の u の和を表す)とできるようなものをいう。これは M が半順序可換群 G の正錐である場合にもよく用いられ、この場合には u を G の順序単位と呼ぶ。
いくつかの元については可換だが、必ずしもすべての元が可換でないようなモノイドはトレースモノイドという。トレースモノイドは並列計算の理論によく現れる。
与えられた代数系をモノイドにする操作や、既知のモノイドから新たなモノイドを作り出す操作がいくつか存在する。
固定された字母集合 Σ 上の有限文字列全体(空文字列を含む)は、連接を二項演算とし単位元を空文字列としてモノイドとなる。このモノイドを Σ* で表すと、これは Σ を生成系としてもち、公理の等式以外に元の間の関係式をもたないので Σ 上の自由モノイドと呼ぶ。自由モノイド(英語版)はモノイドの圏 Mon における自由対象(英語版)であり、その普遍性はモノイドの表示として理解することができる(後述)。
任意の半群 S は、S に属さない新たな元 e を(新たな)単位元として添加してモノイドにすることができる。すなわち、S ≔ S ∪ {e} とし、S の任意の元 s に対して e • s = s = s • e と定めるとき S はモノイドである。
S 上の左零半群(英語版)に単位元 e を添加したものは(find-first としても知られる)冪等モノイドであり、S 上の右零半群に単位元 e を添加したものは(find-last とも呼ばれる)反モノイドとなる。 二つの元 {<, >} を持つ左零半群に単位元 "=" を添加して得られる冪等モノイド {<, =, >} は順序の与えられた集合の元の列に対する辞書式順序のモデルを与える。
任意のモノイド (M, •) に対し、その反モノイド (opposite monoid) (M, •) とは、台集合と単位元は M と同じものとし、その演算を
と定めて得られるモノイドである(逆モノイド、逆転モノイド、反対モノイドなどともいう)。任意の可換モノイドは自分自身を反モノイドとして持つ。
二つのモノイド M, N に対して(より一般に、有限個のモノイド M1, ..., Mk に対して、あるいは無限族 {Mi}i∈I に対して)、それらの直積集合 M × N(あるいは M1 × ⋯ × Mk, ∏i∈I Mi)もまたモノイドとなる。モノイド演算および単位元は、成分ごとの積および成分ごとの単位元の組として与えられる。
与えられたモノイド M に対し、与えられた集合 S から M への写像の全体 Map(S, M) は再びモノイドとなる。単位元は任意の元を M の単位元へ写す定値写像で、演算は M の積から導かれる点ごとの積で、それぞれ与えられる。これは S で添字付けられたモノイドの族 {M}i∈S の直積モノイドと本質的に同じものである。
モノイド (M, •, 1M) 上の合同関係(モノイド合同)∼ とは、モノイド構造と両立する(すなわち、a ∼ b かつ c ∼ d ならば ac ∼ bd を満たす)同値関係を言う。モノイド M のモノイド合同 ∼ による剰余モノイドあるいは商モノイドは、各元 x ∈ M の属する同値類を [x] と書くとき、商集合 M/∼ に
で定まるモノイド演算を入れて得られるモノイド (M/∼, ∘, [1M]) を言う。
モノイド (M, •) を固定して、M の冪集合 P(M) を考える。P(M) の 部分集合 S , T {\displaystyle S,T} の間の二項演算 "∗" を
で定めれば、P(M) は自明モノイド {e} を単位元とするモノイドとなる。同じ方法で、群 G の冪集合は群の部分集合の積(英語版)に関するモノイドとなる。
モノイドにおいて、元 x の自然数冪を
と定義することができる。このとき、指数法則 x = x • x の成立は明らかである。定義から直接従うこととして、単位元 e が一意に存在するので、任意の x に対して x := e と定義すると、指数法則は任意の非負整数冪に対してなお有効である。
モノイドにおいては、可逆元(あるいは単元)の概念を定義することができる。モノイドの元 x が可逆であるとは xy = e かつ yx = e を満たす元 y が存在するときにいう。y は x の逆元と呼ばれる。y および z が x の逆元ならば、結合律により y = (zx)y = z(xy) = z となるから、逆元は存在すればただひとつである。
元 x が逆元 y を持つ場合には、x の負の整数冪を x := y および x := y • ... • y(n 個の y の積、n > 1)と定義することができて、先ほどの指数法則が n, p を任意の整数として成立する。このことが x の逆元がふつう x と書かれることの理由である。モノイド M の単元の全体は M の演算 • に関して単元群と呼ばれる群を成す。この意味で任意のモノイドは必ず少なくとも一つの群を含む(ただし、それが単位元のみからなる自明な群である場合もある)。
しかしながら、任意のモノイドが必ず何らかの群に含まれるとは限らない。例えば、b が単位元ではない場合にも a • b = a を満たすような二つの元 a, b をとることができるモノイドというものを矛盾なく考えることができるが、このようなモノイドを群に埋め込むことはできない。なぜなら、埋め込んだ群において必ず存在する a の逆元を両辺に掛けることにより b = e が導かれ、b が単位元でないことに矛盾するからである。モノイド (M, •) が消約律 (cancellation property) を満たす、あるいは消約的 (cancellative) であるとは
という条件を満たすときにいう。消約的可換モノイドは常にグロタンディーク構成によって群に埋め込むことができる。これは、整数全体の成す加法群(加法演算 "+" に関する群)を自然数全体の成す加法モノイド(加法演算 "+" に関する消約的可換モノイド)から構成する方法の一般化である。しかし、非可換消約的モノイドは必ずしも群に埋め込み可能でない。
消約的モノイドが有限ならば、実は群になる。実際、モノイドの元 x を一つ選べば、有限性より適当な m > n > 0 をとって x = x とすることができるが、これは消約律により x = e(e はモノイドの単位元)となり、x が x の逆元となる。
巡回モノイドの位数が有限な n であるとき、0 ≤ k ≤ n − 1 をみたす適当な k に対して f = f が成り立つ。実は、そのような k を定めるごとに位数 n の相異なるモノイドが得られ、逆に任意の巡回モノイドはそれらのモノイドのうちの何れか一つに同型となる。特に k = 0 の場合は、全ての f が逆元を持ち、(ただひとつの位数 n の)巡回群を定める。このとき f は巡回置換として
と表すことができ、モノイドの積と置換の積が対応する。
モノイドの右消約元の全体あるいは左消約元の全体は部分モノイドを成す(単位元を含むのは明らかだが、演算が閉じていることはそれほど明らかではない)。これは、任意の可換モノイドの消約元の全体はかならず群に延長することができるということを意味している。
モノイド M は、M の各元 a がそれぞれ
となる M の元 a をただひとつ持つとき、M を逆モノイド (inverse monoid) あるいは山田モノイドという。逆モノイドが消約的ならばそれは群を成す。
(M, •) をモノイドとする。集合 X への(左)M-作用 (M-act) あるいは M による左作用とは、集合 X と外部演算 .: M × X → X の組で、外部演算 "." が
という二つの条件を満たす(ただし e は M の単位元)という意味でモノイド構造と両立することをいう。これは群作用のモノイド論における類似物である。右 M-作用も同様に定義される。ある作用に関するモノイドは作用素モノイドとも呼ばれる。重要な例として、オートマトンに現れる状態遷移系が挙げられる。ある集合上の自分自身への写像から成る半群(変換半群)は、恒等変換を付け加えることで作用素モノイドにすることができる。
ふたつのモノイド (M, •), (M′, •′) の間のモノイド準同型 (monoid homomorphism) とは、写像 f: M → M′ であって、
を満たすものをいう。ここで、e および e′ はそれぞれ M および M′ の単位元である。モノイド準同型は簡単にモノイド射 (monoid morphisms) と呼ばれることもある。
半群準同型は単位元を保つことを要しないため、必ずしもモノイド準同型とはならない。これは群準同型の場合とは対照的な事実で、群の間の半群準同型はかならず単位元を保ち、したがって群準同型となることを、群の公理から示すことができる。モノイドではそのようなことは一般には望めないので、モノイド準同型の定義では「単位元を保つ」ことを改めて別に要請する必要がある。
全単射なモノイド準同型はモノイド同型と呼ばれる。ふたつのモノイドが同型であるとは、それらの間にモノイド同型が存在するときにいう。
モノイドは、群が生成系と基本関係による表示によって特定できるというのと同じ意味で、表示 (presentation) を持つ。すなわち、モノイドは生成系 Σ と Σ が生成する自由モノイド Σ 上の基本関係の集合を特定することによって決まる。任意のモノイドは、適当な自由モノイド Σ をその上のモノイド合同で割って得られる商モノイドになっていると言っても同じである。
実際、二項関係 R ⊂ Σ × Σ が与えられたとき、R の対称閉包 R ∪ R を
で定義される対称的関係 E ⊂ Σ × Σ に拡張できる。この E は
をみたし、さらに反射閉包および推移閉包をとることにより、モノイド合同が得られる。
典型的な状況では、関係 R は単に関係式の集合 R = {u1 = v1, ..., un = vn} として与えられ、例えば
は双巡回モノイド(英語版)の生成元と基本関係式による表示であり、また
は次数 2 のプラクティックモノイド(英語版)となる(位数は無限大である)。基本関係式は ba が a および b とそれぞれ可換になることを示すものとみることができるので、このプラクティックモノイドの任意の元は適当な整数 i, j, k を用いて ab(ba) の形に表される。
モノイドは圏の特別なクラスと看做すことができる。実際、モノイドにおいて二項演算に課される公理は、圏において(与えられたただ一つの対象を始域および終域とする射の集合だけで考えれば)射の合成に課される公理と同じである。すなわち、
もっとはっきり述べれば、モノイド (M, •) はただひとつの対象をもち、M の元を射として小さい圏を成す(射の合成はモノイド演算 • で与えられる)。
これと平行して、モノイド準同型は単一対象圏の間の函手とみなされる。ゆえに、今考えている圏の構成は(小さい)モノイドの圏 Mon と(小さい)圏の圏 Cat のある充満部分圏との間の圏同値を与えるものになっている。同様に、(小さい)群の圏は、Cat の(モノイドの圏とは別の)ある充満部分圏に同値である。
この意味では、圏論をモノイドの概念の一般化であると考えることができ、モノイドに関する定義や定理の多くを(ひとつまたはそれ以上の対象を持つ)小さい圏に対して一般化することができる。例えば、単一対象圏の商圏とは、剰余モノイドのことである。
モノイドの全体は(他の代数的構造がそうであるのと同様に)、モノイドを対象としモノイド準同型を射とする圏 Mon を成す。
また、抽象的な定義によって、各圏における「モノイド」としてモノイド対象の概念が定まる。通常のモノイドは(小さい)集合の圏 Set におけるモノイド対象である。
計算機科学において、多くの抽象データ型はモノイド構造を持つ。よくあるパターンとして、モノイド構造を持つデータ型の元の列を考えよう。この列に対して 「重畳」(fold) あるいは「堆積」(accumulate) の操作を施すことで、列が含む元の総和のような値が取り出される。例えば、多くの反復アルゴリズムは各反復段階である種の「累計」を更新していく必要があるが、モノイド演算の重畳を使うとこの累計をすっきりと表記できる。別の例として、モノイド演算の結合性は、多コアや多CPUを効果的に利用するために、prefix sumあるいは同様のアルゴリズムによって、計算を並列化できることを保証する。
単位元 ε と演算 • を持つモノイド M に対して、その列の型 M から M への重畳関数 fold は次のように定義される。
更に、任意のデータ型でもその元の直列化演算(serialization)が与えられれば同様に「重畳」することができる。例えば、二分木においては木の走査が直列化にあたるが、結果は走査が行きがけか帰りがけかによって異なる。
単純な構造化プログラミング言語自身は文やブロックの連接を演算としてモノイドをなす。 | [
{
"paragraph_id": 0,
"tag": "p",
"text": "数学、とくに抽象代数学における単系(たんけい、英: monoid; モノイド)はひとつの二項演算と単位元をもつ代数的構造である。モノイドは単位元をもつ半群(単位的半群)であるので、半群論の研究対象の範疇に属する。",
"title": null
},
{
"paragraph_id": 1,
"tag": "p",
"text": "モノイドの概念は数学のさまざまな分野に現れる。たとえば、モノイドはそれ自身が「ただひとつの対象をもつ圏」と見ることができ、したがって「集合上の写像とその合成」といった概念を捉えたものと考えることもできる。モノイドの概念は計算機科学の分野でも、その基礎付けや実用プログラミングの両面で広く用いられる。",
"title": null
},
{
"paragraph_id": 2,
"tag": "p",
"text": "モノイドの歴史や、モノイドに一般的な性質を付加した議論などは半群の項に譲る。",
"title": null
},
{
"paragraph_id": 3,
"tag": "p",
"text": "集合 S とその上の二項演算 •: S × S → S が与えられ、以下の条件",
"title": "定義"
},
{
"paragraph_id": 4,
"tag": "p",
"text": "を満たすならば、組 (S, •, e) をモノイドという。まぎれの虞のない場合、対 (S, •) あるいは単に S のみでも表す。 二項演算の結果 a • b を a と b の積と呼ぶ。手短に述べれば、モノイドとは単位元を持つ半群のことである。モノイドに各元の可逆性を課せば、群が得られる。逆に任意の群はモノイドである。",
"title": "定義"
},
{
"paragraph_id": 5,
"tag": "p",
"text": "二項演算の記号は省略されることが多く、たとえば先ほどの公理に現れる等式は (ab)c = a(bc), ea = ae = a と書かれる。本項でも明示する理由がない限り二項演算の記号を省略する。",
"title": "定義"
},
{
"paragraph_id": 6,
"tag": "p",
"text": "モノイド M の部分集合 N が M の部分モノイド (submonoid) とは、M の単位元を含み、閉性質: x, y ∈ N ならば xy ∈ N となるようなものをいう。これは M のモノイド演算の制限 •|N: N × N → M の像が im(•|N) ⊂ N を満たすということであり、従って •|N は N 上の二項演算を定め、部分モノイド N は明らかにそれ自身が一つのモノイドとなる。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 7,
"tag": "p",
"text": "部分集合 S がモノイド M の生成系 (generator) であるとは M の任意の元が S の元だけから二項演算を繰り返して得られることをいう(生成系に属する元を生成元という)。モノイド M がその部分集合 S で生成されるとき M = ⟨S⟩ などと書く。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 8,
"tag": "p",
"text": "M の各元 x に対し x = 1M を M の単位元とする規約を設けるならば、⟨S⟩ における S の元の冪が零となることも許し、⟨S⟩ は S を含む最小の部分モノイドを表す。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 9,
"tag": "p",
"text": "M が有限個の元からなる生成系をもつとき、有限生成 (finitely generated) あるいは有限型 (finite type) であるという。特に、M のただ一つの元 f で生成されるモノイド ⟨f⟩ は単項生成モノイドあるいは巡回モノイド (cyclic monoid) と呼び、集合としては f の冪全体の成す集合 {f, f, ...} に一致する。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 10,
"tag": "p",
"text": "演算が可換であるようなモノイドは、可換モノイド (commutative monoid) という(稀にアーベルモノイド (abelian monoid) ともいう)。可換モノイドはしばしば二項演算の記号を \"+\" として加法的に書かれる。任意の可換モノイド M は",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 11,
"tag": "p",
"text": "として定まる代数的前順序 \"≤\" を持つ。可換モノイド M の順序単位 (order-unit) u ∈ M とは、M の各元 x に対して適当な正の整数 n をとれば x ≤ nu (右辺は n 個の u の和を表す)とできるようなものをいう。これは M が半順序可換群 G の正錐である場合にもよく用いられ、この場合には u を G の順序単位と呼ぶ。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 12,
"tag": "p",
"text": "いくつかの元については可換だが、必ずしもすべての元が可換でないようなモノイドはトレースモノイドという。トレースモノイドは並列計算の理論によく現れる。",
"title": "モノイドの構造"
},
{
"paragraph_id": 13,
"tag": "p",
"text": "与えられた代数系をモノイドにする操作や、既知のモノイドから新たなモノイドを作り出す操作がいくつか存在する。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 14,
"tag": "p",
"text": "固定された字母集合 Σ 上の有限文字列全体(空文字列を含む)は、連接を二項演算とし単位元を空文字列としてモノイドとなる。このモノイドを Σ* で表すと、これは Σ を生成系としてもち、公理の等式以外に元の間の関係式をもたないので Σ 上の自由モノイドと呼ぶ。自由モノイド(英語版)はモノイドの圏 Mon における自由対象(英語版)であり、その普遍性はモノイドの表示として理解することができる(後述)。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 15,
"tag": "p",
"text": "任意の半群 S は、S に属さない新たな元 e を(新たな)単位元として添加してモノイドにすることができる。すなわち、S ≔ S ∪ {e} とし、S の任意の元 s に対して e • s = s = s • e と定めるとき S はモノイドである。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 16,
"tag": "p",
"text": "S 上の左零半群(英語版)に単位元 e を添加したものは(find-first としても知られる)冪等モノイドであり、S 上の右零半群に単位元 e を添加したものは(find-last とも呼ばれる)反モノイドとなる。 二つの元 {<, >} を持つ左零半群に単位元 \"=\" を添加して得られる冪等モノイド {<, =, >} は順序の与えられた集合の元の列に対する辞書式順序のモデルを与える。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 17,
"tag": "p",
"text": "任意のモノイド (M, •) に対し、その反モノイド (opposite monoid) (M, •) とは、台集合と単位元は M と同じものとし、その演算を",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 18,
"tag": "p",
"text": "と定めて得られるモノイドである(逆モノイド、逆転モノイド、反対モノイドなどともいう)。任意の可換モノイドは自分自身を反モノイドとして持つ。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "二つのモノイド M, N に対して(より一般に、有限個のモノイド M1, ..., Mk に対して、あるいは無限族 {Mi}i∈I に対して)、それらの直積集合 M × N(あるいは M1 × ⋯ × Mk, ∏i∈I Mi)もまたモノイドとなる。モノイド演算および単位元は、成分ごとの積および成分ごとの単位元の組として与えられる。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 20,
"tag": "p",
"text": "与えられたモノイド M に対し、与えられた集合 S から M への写像の全体 Map(S, M) は再びモノイドとなる。単位元は任意の元を M の単位元へ写す定値写像で、演算は M の積から導かれる点ごとの積で、それぞれ与えられる。これは S で添字付けられたモノイドの族 {M}i∈S の直積モノイドと本質的に同じものである。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "モノイド (M, •, 1M) 上の合同関係(モノイド合同)∼ とは、モノイド構造と両立する(すなわち、a ∼ b かつ c ∼ d ならば ac ∼ bd を満たす)同値関係を言う。モノイド M のモノイド合同 ∼ による剰余モノイドあるいは商モノイドは、各元 x ∈ M の属する同値類を [x] と書くとき、商集合 M/∼ に",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 22,
"tag": "p",
"text": "で定まるモノイド演算を入れて得られるモノイド (M/∼, ∘, [1M]) を言う。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "モノイド (M, •) を固定して、M の冪集合 P(M) を考える。P(M) の 部分集合 S , T {\\displaystyle S,T} の間の二項演算 \"∗\" を",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "で定めれば、P(M) は自明モノイド {e} を単位元とするモノイドとなる。同じ方法で、群 G の冪集合は群の部分集合の積(英語版)に関するモノイドとなる。",
"title": "モノイドの構成法"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "モノイドにおいて、元 x の自然数冪を",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "と定義することができる。このとき、指数法則 x = x • x の成立は明らかである。定義から直接従うこととして、単位元 e が一意に存在するので、任意の x に対して x := e と定義すると、指数法則は任意の非負整数冪に対してなお有効である。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "モノイドにおいては、可逆元(あるいは単元)の概念を定義することができる。モノイドの元 x が可逆であるとは xy = e かつ yx = e を満たす元 y が存在するときにいう。y は x の逆元と呼ばれる。y および z が x の逆元ならば、結合律により y = (zx)y = z(xy) = z となるから、逆元は存在すればただひとつである。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "元 x が逆元 y を持つ場合には、x の負の整数冪を x := y および x := y • ... • y(n 個の y の積、n > 1)と定義することができて、先ほどの指数法則が n, p を任意の整数として成立する。このことが x の逆元がふつう x と書かれることの理由である。モノイド M の単元の全体は M の演算 • に関して単元群と呼ばれる群を成す。この意味で任意のモノイドは必ず少なくとも一つの群を含む(ただし、それが単位元のみからなる自明な群である場合もある)。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "しかしながら、任意のモノイドが必ず何らかの群に含まれるとは限らない。例えば、b が単位元ではない場合にも a • b = a を満たすような二つの元 a, b をとることができるモノイドというものを矛盾なく考えることができるが、このようなモノイドを群に埋め込むことはできない。なぜなら、埋め込んだ群において必ず存在する a の逆元を両辺に掛けることにより b = e が導かれ、b が単位元でないことに矛盾するからである。モノイド (M, •) が消約律 (cancellation property) を満たす、あるいは消約的 (cancellative) であるとは",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "という条件を満たすときにいう。消約的可換モノイドは常にグロタンディーク構成によって群に埋め込むことができる。これは、整数全体の成す加法群(加法演算 \"+\" に関する群)を自然数全体の成す加法モノイド(加法演算 \"+\" に関する消約的可換モノイド)から構成する方法の一般化である。しかし、非可換消約的モノイドは必ずしも群に埋め込み可能でない。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "消約的モノイドが有限ならば、実は群になる。実際、モノイドの元 x を一つ選べば、有限性より適当な m > n > 0 をとって x = x とすることができるが、これは消約律により x = e(e はモノイドの単位元)となり、x が x の逆元となる。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "巡回モノイドの位数が有限な n であるとき、0 ≤ k ≤ n − 1 をみたす適当な k に対して f = f が成り立つ。実は、そのような k を定めるごとに位数 n の相異なるモノイドが得られ、逆に任意の巡回モノイドはそれらのモノイドのうちの何れか一つに同型となる。特に k = 0 の場合は、全ての f が逆元を持ち、(ただひとつの位数 n の)巡回群を定める。このとき f は巡回置換として",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "と表すことができ、モノイドの積と置換の積が対応する。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "モノイドの右消約元の全体あるいは左消約元の全体は部分モノイドを成す(単位元を含むのは明らかだが、演算が閉じていることはそれほど明らかではない)。これは、任意の可換モノイドの消約元の全体はかならず群に延長することができるということを意味している。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "モノイド M は、M の各元 a がそれぞれ",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "となる M の元 a をただひとつ持つとき、M を逆モノイド (inverse monoid) あるいは山田モノイドという。逆モノイドが消約的ならばそれは群を成す。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "(M, •) をモノイドとする。集合 X への(左)M-作用 (M-act) あるいは M による左作用とは、集合 X と外部演算 .: M × X → X の組で、外部演算 \".\" が",
"title": "モノイド作用と作用素モノイド"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "という二つの条件を満たす(ただし e は M の単位元)という意味でモノイド構造と両立することをいう。これは群作用のモノイド論における類似物である。右 M-作用も同様に定義される。ある作用に関するモノイドは作用素モノイドとも呼ばれる。重要な例として、オートマトンに現れる状態遷移系が挙げられる。ある集合上の自分自身への写像から成る半群(変換半群)は、恒等変換を付け加えることで作用素モノイドにすることができる。",
"title": "モノイド作用と作用素モノイド"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "ふたつのモノイド (M, •), (M′, •′) の間のモノイド準同型 (monoid homomorphism) とは、写像 f: M → M′ であって、",
"title": "モノイド準同型"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "を満たすものをいう。ここで、e および e′ はそれぞれ M および M′ の単位元である。モノイド準同型は簡単にモノイド射 (monoid morphisms) と呼ばれることもある。",
"title": "モノイド準同型"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "半群準同型は単位元を保つことを要しないため、必ずしもモノイド準同型とはならない。これは群準同型の場合とは対照的な事実で、群の間の半群準同型はかならず単位元を保ち、したがって群準同型となることを、群の公理から示すことができる。モノイドではそのようなことは一般には望めないので、モノイド準同型の定義では「単位元を保つ」ことを改めて別に要請する必要がある。",
"title": "モノイド準同型"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "全単射なモノイド準同型はモノイド同型と呼ばれる。ふたつのモノイドが同型であるとは、それらの間にモノイド同型が存在するときにいう。",
"title": "モノイド準同型"
},
{
"paragraph_id": 43,
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"text": "モノイドは、群が生成系と基本関係による表示によって特定できるというのと同じ意味で、表示 (presentation) を持つ。すなわち、モノイドは生成系 Σ と Σ が生成する自由モノイド Σ 上の基本関係の集合を特定することによって決まる。任意のモノイドは、適当な自由モノイド Σ をその上のモノイド合同で割って得られる商モノイドになっていると言っても同じである。",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "実際、二項関係 R ⊂ Σ × Σ が与えられたとき、R の対称閉包 R ∪ R を",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "で定義される対称的関係 E ⊂ Σ × Σ に拡張できる。この E は",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "をみたし、さらに反射閉包および推移閉包をとることにより、モノイド合同が得られる。",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
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"tag": "p",
"text": "典型的な状況では、関係 R は単に関係式の集合 R = {u1 = v1, ..., un = vn} として与えられ、例えば",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "は双巡回モノイド(英語版)の生成元と基本関係式による表示であり、また",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "は次数 2 のプラクティックモノイド(英語版)となる(位数は無限大である)。基本関係式は ba が a および b とそれぞれ可換になることを示すものとみることができるので、このプラクティックモノイドの任意の元は適当な整数 i, j, k を用いて ab(ba) の形に表される。",
"title": "生成元と基本関係"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "モノイドは圏の特別なクラスと看做すことができる。実際、モノイドにおいて二項演算に課される公理は、圏において(与えられたただ一つの対象を始域および終域とする射の集合だけで考えれば)射の合成に課される公理と同じである。すなわち、",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "もっとはっきり述べれば、モノイド (M, •) はただひとつの対象をもち、M の元を射として小さい圏を成す(射の合成はモノイド演算 • で与えられる)。",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "これと平行して、モノイド準同型は単一対象圏の間の函手とみなされる。ゆえに、今考えている圏の構成は(小さい)モノイドの圏 Mon と(小さい)圏の圏 Cat のある充満部分圏との間の圏同値を与えるものになっている。同様に、(小さい)群の圏は、Cat の(モノイドの圏とは別の)ある充満部分圏に同値である。",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "この意味では、圏論をモノイドの概念の一般化であると考えることができ、モノイドに関する定義や定理の多くを(ひとつまたはそれ以上の対象を持つ)小さい圏に対して一般化することができる。例えば、単一対象圏の商圏とは、剰余モノイドのことである。",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "モノイドの全体は(他の代数的構造がそうであるのと同様に)、モノイドを対象としモノイド準同型を射とする圏 Mon を成す。",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "また、抽象的な定義によって、各圏における「モノイド」としてモノイド対象の概念が定まる。通常のモノイドは(小さい)集合の圏 Set におけるモノイド対象である。",
"title": "圏論との関係"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "計算機科学において、多くの抽象データ型はモノイド構造を持つ。よくあるパターンとして、モノイド構造を持つデータ型の元の列を考えよう。この列に対して 「重畳」(fold) あるいは「堆積」(accumulate) の操作を施すことで、列が含む元の総和のような値が取り出される。例えば、多くの反復アルゴリズムは各反復段階である種の「累計」を更新していく必要があるが、モノイド演算の重畳を使うとこの累計をすっきりと表記できる。別の例として、モノイド演算の結合性は、多コアや多CPUを効果的に利用するために、prefix sumあるいは同様のアルゴリズムによって、計算を並列化できることを保証する。",
"title": "計算機科学におけるモノイド"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "単位元 ε と演算 • を持つモノイド M に対して、その列の型 M から M への重畳関数 fold は次のように定義される。",
"title": "計算機科学におけるモノイド"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "更に、任意のデータ型でもその元の直列化演算(serialization)が与えられれば同様に「重畳」することができる。例えば、二分木においては木の走査が直列化にあたるが、結果は走査が行きがけか帰りがけかによって異なる。",
"title": "計算機科学におけるモノイド"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "単純な構造化プログラミング言語自身は文やブロックの連接を演算としてモノイドをなす。",
"title": "計算機科学におけるモノイド"
}
] | 数学、とくに抽象代数学における単系はひとつの二項演算と単位元をもつ代数的構造である。モノイドは単位元をもつ半群(単位的半群)であるので、半群論の研究対象の範疇に属する。 モノイドの概念は数学のさまざまな分野に現れる。たとえば、モノイドはそれ自身が「ただひとつの対象をもつ圏」と見ることができ、したがって「集合上の写像とその合成」といった概念を捉えたものと考えることもできる。モノイドの概念は計算機科学の分野でも、その基礎付けや実用プログラミングの両面で広く用いられる。 モノイドの歴史や、モノイドに一般的な性質を付加した議論などは半群の項に譲る。 | {{about||一般の圏におけるモノイド|モノイド対象}}
{{代数的構造}}
[[数学]]、とくに[[抽象代数学]]における'''単系'''(たんけい、{{lang-en-short|''monoid''}}; '''モノイド''')はひとつの[[二項演算]]と[[単位元]]をもつ[[代数的構造]]である。モノイドは単位元をもつ[[半群]]('''単位的半群''')であるので、半群論の研究対象の範疇に属する。
モノイドの概念は数学のさまざまな分野に現れる。たとえば、モノイドはそれ自身が「ただひとつの対象をもつ[[圏 (数学)|圏]]」と見ることができ、したがって「集合上の写像とその[[写像の合成|合成]]」といった概念を捉えたものと考えることもできる。モノイドの概念は[[計算機科学]]の分野でも、その基礎付けや実用プログラミングの両面で広く用いられる。
モノイドの歴史や、モノイドに一般的な性質を付加した議論などは[[半群]]の項に譲る。
== 定義 ==
[[集合]] {{mvar|S}} とその上の[[二項演算]] {{math|•: ''S'' × ''S'' → ''S''}} が与えられ、以下の条件
; [[結合法則|結合律]]: {{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|a, b, c}} に対して、{{math|1=(''a'' • ''b'') • ''c'' = ''a'' • (''b'' • ''c'').}}
; [[単位元]]の存在: {{mvar|S}} の元 {{mvar|e}} が存在して、{{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|a}} に対して {{math|1=''e'' • ''a'' = ''a'' • ''e'' = ''a''.}}
を満たすならば、組 {{math|(''S'', •, ''e'')}} を'''モノイド'''という。まぎれの虞のない場合、対 {{math|(''S'', •)}} あるいは単に {{mvar|S}} のみでも表す。
二項演算の結果 {{mvar|''a'' • ''b''}} を {{mvar|a}} と {{mvar|b}} の'''積'''{{efn|用語を流用しているだけで[[積]]の項で扱われている意味での「積」とは無関係であることに注意。特にここでいう「積」は和を繰り返したもの(反復和)の意味ではないので、和が定義されている必要も無い。}}と呼ぶ。手短に述べれば、モノイドとは単位元を持つ半群のことである。モノイドに各元の[[逆元|可逆性]]を課せば、[[群 (数学)|群]]が得られる。逆に任意の群はモノイドである。
二項演算の記号は省略されることが多く、たとえば先ほどの公理に現れる等式は {{math|1=(''ab'')''c'' = ''a''(''bc''), ''ea'' = ''ae'' = ''a''}} と書かれる。本項でも明示する理由がない限り二項演算の記号を省略する。
== モノイドの構造 ==
=== 部分モノイド ===
モノイド {{mvar|M}} の部分集合 {{mvar|N}} が {{mvar|M}} の'''部分モノイド''' {{lang|en|(''submonoid'')}} とは、{{mvar|M}} の単位元を含み、[[閉性|閉性質]]: {{math|''x'', ''y'' ∈ ''N''}} ならば {{math|''xy'' ∈ ''N''}} となるようなものをいう。これは {{mvar|M}} のモノイド演算の制限 {{math|•{{!}}{{sub|''N''}}: ''N'' × ''N'' → ''M''}} の像が {{math|im(•{{!}}{{sub|''N''}}) ⊂ ''N''}} を満たすということであり、従って {{math|•{{!}}{{sub|''N''}}}} は {{mvar|N}} 上の二項演算を定め、部分モノイド {{mvar|N}} は明らかにそれ自身が一つのモノイドとなる。
=== モノイドの生成 ===
部分集合 {{mvar|S}} がモノイド {{mvar|M}} の'''生成系''' {{lang|en|(''generator'')}} であるとは {{mvar|M}} の任意の元が {{mvar|S}} の元だけから二項演算を繰り返して得られることをいう(生成系に属する元を生成元という)。モノイド {{mvar|M}} がその部分集合 {{mvar|S}} で生成されるとき {{math|1=''M'' = {{angbr|''S''}}}} などと書く。
: <math>\lang S\rang = \{s_{k_1}^{e_{k_1}}s_{k_2}^{e_{k_2}}\cdots s_{k_m}^{e_{k_m}}\mid \exists m\in\mathbb{N},(k_1,\ldots,k_m)\in\mathbb{N}^m,e_{k_j}\in\mathbb{N},s_{k_j}\in S\}.</math>
{{mvar|M}} の各元 {{mvar|x}} に対し {{math|1=''x''{{sup|0}} = 1{{sub|M}}}} を {{mvar|M}} の単位元とする規約を設けるならば、{{math|{{angbr|''S''}}}} における {{mvar|S}} の元の冪が零となることも許し、{{math|{{angbr|''S''}}}} は {{mvar|S}} を含む最小の部分モノイドを表す{{efn|そのような規約を入れない場合は、{{math|{{angbr|''S''}}}} が単位元を含むとは限らず、一般には部分モノイドとならないから、文脈には注意すべきである。}}。
{{mvar|M}} が有限個の元からなる生成系をもつとき、'''有限生成''' {{lang|en|(''finitely generated'')}} あるいは'''有限型''' {{lang|en|(''finite type'')}} であるという。特に、{{mvar|M}} のただ一つの元 {{mvar|f}} で生成されるモノイド {{math|{{angbr|''f''}}}} は'''単項生成モノイド'''あるいは'''巡回モノイド''' {{lang|en|(''cyclic monoid'')}} と呼び、集合としては {{mvar|f}} の冪全体の成す集合 {{math|{{mset|''f''{{sup|0}}, ''f''{{sup|1}}, …}}}} に一致する。
=== 可換モノイド ===
演算が[[交換法則|可換]]であるようなモノイドは、'''可換モノイド''' {{en|(''commutative monoid'')}} という(稀に'''アーベルモノイド''' {{en|(''abelian monoid'')}} ともいう)。可換モノイドはしばしば二項演算の記号を "+" として加法的に書かれる。任意の可換モノイド {{mvar|M}} は
: <math>x\le y \iff x+z = y\quad \exist z\in M</math>
として定まる'''代数的'''[[前順序]] "{{math|≤}}" を持つ。可換モノイド {{mvar|M}} の'''順序単位''' {{lang|en|(''order-unit'')}} {{math|''u'' ∈ ''M''}} とは、{{mvar|M}} の各元 {{mvar|x}} に対して適当な正の整数 {{mvar|n}} をとれば {{math|''x'' ≤ ''nu''}} (右辺は {{mvar|n}} 個の {{mvar|u}} の和を表す)とできるようなものをいう。これは {{mvar|M}} が[[順序群|半順序可換群]] {{mvar|G}} の正錐である場合にもよく用いられ、この場合には {{mvar|u}} を {{mvar|G}} の順序単位と呼ぶ。
=== 部分可換モノイド ===
いくつかの元については可換だが、必ずしもすべての元が可換でないようなモノイドは[[トレースモノイド]]という。トレースモノイドは[[並列計算]]の理論によく現れる。
== 例 ==
* 任意の[[一元集合]] {{math|{{mset|''x''}}}} は {{math|1=''x'' • ''x'' = ''x''}} と置くことによりモノイドとなる。これを'''自明なモノイド'''という。
* 任意の[[単位的環]]の元の全体は、加法あるいは乗法に関してそれぞれモノイドを成す。
** [[整数]]全体、[[有理数]]全体、[[実数]]全体、[[複素数]]全体は加法あるいは乗法に関してそれぞれモノイドを成す{{sfn|Jacobson|2009|p=29|loc=examples 1, 2, 4 & 5}}。
** 与えられた環に係数を持つ {{mvar|n}}-次[[正方行列]]の全体は行列の加法または行列の乗法に関してモノイドを成す。
* 任意の有界[[半束]]は[[冪等]]可換モノイドである。
** 特に、任意の有界[[束 (束論)|束]]は交わりについても結びについてもモノイドとなる(モノイドの単位元はそれぞれ束の最大元および最小元で与えられる)。したがって、束である[[ハイティンク代数]]や[[ブール代数]]はそのようなモノイド構造を持つ。
* ({{math|0}} を含む)[[自然数]]の全体 {{math|'''N'''{{sub|0}}}} は加法に関して {{math|[[0]]}} を単位元とするモノイドを成し、また乗法に関して {{math|[[1]]}} を単位元とするモノイドを成す。{{math|'''N'''{{sub|0}}}} の加法に関する部分モノイドは{{仮リンク|自然数半群|label=自然数モノイド|en|Numerical semigroup}} {{lang|en|(numerical monoid)}} と呼ばれる。{{math|'''N'''{{sub|0}}}} の {{math|0}} 以外の元([[正の整数]])からなる部分集合 {{math|'''N'''}} は乗法に関して {{math|1}} を単位元とする部分モノイドを成す。
* [[曲面|閉曲面]]の[[同相]][[同値類|類]]の全体は[[曲面#曲面の連結和|連結和]] "#" に関して可換モノイドを成す。単位元は通常の球面(2-球面)の属する同相類である。さらにいえば、トーラスの属する同相類 ''a'' と射影平面の属する同相類 ''b'' に対して、このモノイドの任意の元 ''c'' は ''c'' = ''na'' # ''mb'' の形に一意的に表される。ここで ''n'' は非負の整数で、''m'' は 0, 1, 2 の何れか(実は 3''b'' = ''a'' # ''b'' が成り立つ)である。
* 集合 {{mvar|S}} 上の自己写像([[変換 (数学)|変換]]){{math|''S'' → ''S''}} 全体の成す集合は、[[恒等写像]]を単位元とし[[写像の合成]]をモノイド演算としてモノイドになる。これを {{mvar|S}} 上の'''全変換モノイド''' (''full transformation monoid'') と呼ぶ。{{mvar|S}} が有限であることと {{mvar|S}} 上の全変換モノイドが有限であることは同値である。
== モノイドの構成法 ==
与えられた代数系をモノイドにする操作や、既知のモノイドから新たなモノイドを作り出す操作がいくつか存在する。
=== 自由モノイド ===
固定された字母集合 {{math|Σ}} 上の有限[[文字列]]全体(空文字列を含む)は、[[文字列結合|連接]]を二項演算とし単位元を[[空文字列]]としてモノイドとなる。このモノイドを {{math|Σ*}} で表す{{efn|与えられたモノイドの元からなる[[文字集合]] {{mvar|N}} から有限文字列全体を取り出す操作(ただし連接をモノイドの積で置き換える)を、その文字集合 {{mvar|N}} の生成する[[クリーネ閉包]] {{mvar|N*}} と呼び、"{{math|∗}}" で表すためクリーネスターとも呼ばれる。ただし、クリーネ閉包構成は一般には(もともと)[[形式言語]]の範疇で考えられるもっと広い概念である。}}と、これは {{math|Σ}} を生成系としてもち、公理の等式以外に元の間の関係式をもたないので {{math|Σ}} 上の'''自由モノイド'''と呼ぶ。{{仮リンク|自由モノイド|en|Free monoid}}は[[モノイドの圏]] {{math|'''Mon'''}} における{{仮リンク|自由対象|en|free object}}であり、その普遍性は[[#表示|モノイドの表示]]として理解することができる(後述)。
=== 1-添加 ===
任意の[[半群]] {{mvar|S}} は、{{mvar|S}} に属さない新たな元 {{mvar|e}} を(新たな)単位元として添加してモノイドにすることができる。すなわち、{{math|''S{{sup|e}}'' {{coloneqq}} ''S'' ∪ {{mset|''e''}}}} とし、{{mvar|S}} の任意の元 {{mvar|s}} に対して {{math|1=''e'' • ''s'' = ''s'' = ''s'' • ''e''}} と定めるとき {{mvar|S{{sup|e}}}} はモノイドである。
{{mvar|S}} 上の{{仮リンク|零半群|label=左零半群|en|Null semigroup}}に単位元 {{mvar|e}} を添加したものは(''find-first'' としても知られる)冪等モノイドであり、{{mvar|S}} 上の右零半群に単位元 {{mvar|e}} を添加したものは(''find-last'' とも呼ばれる)反モノイドとなる。
二つの元 {{math|{{mset|<, >}}}} を持つ左零半群に単位元 "{{math|{{=}}}}" を添加して得られる冪等モノイド {{math|{{mset|<, {{=}}, >}}}} は[[順序集合|順序の与えられた集合]]の元の列に対する[[辞書式順序]]のモデルを与える。
=== 逆転モノイド ===
任意のモノイド {{math|(''M'', •)}} に対し、その'''反モノイド''' {{lang|en|(''opposite monoid'')}} {{math|(''M''<sup>op</sup>, •<sup>op</sup>)}} とは、台集合と単位元は {{mvar|M}} と同じものとし、その演算を
: <math>x \stackrel{\text{op}}{{}\bullet{}} y := y \bullet x</math>
と定めて得られるモノイドである(逆モノイド{{efn|この名称は、逆半群 (inverse semi-group) であるようなモノイドとややこしい}}、逆転モノイド、反対モノイドなどともいう)。任意の[[#可換モノイド|可換モノイド]]は自分自身を反モノイドとして持つ。
=== 直積モノイド ===
二つのモノイド {{mvar|M, N}} に対して(より一般に、有限個のモノイド {{math|''M''{{sub|1}}, …, ''M{{sub|k}}''}} に対して、あるいは無限族 {{math|{{mset|''M{{sub|i}}''}}{{sub|''i''∈''I''}}}} に対して)、それらの[[直積集合]] {{math|''M'' × ''N''}}(あるいは {{math|''M''{{sub|1}} × ⋯ × ''M{{sub|k}}''}}, {{math|∏{{sub|''i''∈''I''}} ''M{{sub|i}}''}})もまたモノイドとなる。モノイド演算および単位元は、[[成分ごと]]の積および成分ごとの単位元の組として与えられる{{sfn|Jacobson|2009|p=35}}。
与えられたモノイド {{mvar|M}} に対し、与えられた集合 {{mvar|S}} から {{mvar|M}} への[[配置集合|写像の全体]] {{math|Map(''S'', ''M'')}} は再びモノイドとなる。単位元は任意の元を {{mvar|M}} の単位元へ写す[[定値写像]]で、演算は {{mvar|M}} の積から導かれる[[点ごとの積]]で、それぞれ与えられる。これは {{mvar|S}} で添字付けられたモノイドの族 {{math|{{mset|''M''}}{{sub|''i''∈''S''}}}} の直積モノイドと本質的に同じものである。
=== 商モノイド ===
モノイド {{math|(''M'', •, 1{{sub|''M''}})}} 上の[[合同関係]](モノイド合同){{math|∼}} とは、モノイド構造と両立する(すなわち、{{math|''a'' ∼ ''b''}} かつ {{math|''c'' ∼ ''d''}} ならば {{math|''ac'' ∼ ''bd''}} を満たす)[[同値関係]]を言う。モノイド {{mvar|M}} のモノイド合同 {{math|∼}} による剰余モノイドあるいは商モノイドは、各元 {{math|''x'' ∈ ''M''}} の属する同値類を {{math|[''x'']}} と書くとき、商集合 {{math|''M''/∼}} に
: <math>[x]\circ [y] := [xy]</math>
で定まるモノイド演算を入れて得られるモノイド {{math|(''M''/∼, ∘, [1{{sub|''M''}}])}} を言う。
=== 冪集合モノイド ===
モノイド {{math|(''M'', •)}} を固定して、{{mvar|M}} の[[冪集合]] {{math|''P''(''M'')}} を考える。{{math|''P''(''M'')}} の [[部分集合]] <math>S, T</math> の間の二項演算 "{{math|∗}}" を
: <math>S * T := \{s\bullet t \mid s \in S, t \in T\}</math>
で定めれば、{{math|''P''(''M'')}} は自明モノイド {{math|{{mset|''e''}}}} を単位元とするモノイドとなる。同じ方法で、群 {{mvar|G}} の冪集合は{{仮リンク|群の部分集合の積|en|Product of group subsets}}に関するモノイドとなる。
== 性質 ==
モノイドにおいて、元 ''x'' の自然数冪を
* ''x''<sup>1</sup> := ''x'',
* ''x''<sup>''n''</sup> := ''x'' • … • ''x'' (''n'' 個の ''x'' の積、''n'' > 1)
と定義することができる。このとき、[[指数法則]] ''x''<sup>''n''+''p''</sup> = ''x''<sup>''n''</sup> • ''x''<sup>''p''</sup> の成立は明らかである。定義から直接従うこととして、単位元 ''e'' が一意に存在するので、任意の ''x'' に対して ''x''<sup>0</sup> := ''e'' と定義すると、指数法則は任意の非負整数冪に対してなお有効である。
モノイドにおいては、[[可逆元]](あるいは[[単元 (代数学)|単元]])の概念を定義することができる。モノイドの元 ''x'' が可逆であるとは ''xy'' = ''e'' かつ ''yx'' = ''e'' を満たす元 ''y'' が存在するときにいう。''y'' は ''x'' の[[逆元]]と呼ばれる。''y'' および ''z'' が ''x'' の逆元ならば、結合律により ''y'' = (''zx'')''y'' = ''z''(''xy'') = ''z'' となるから、逆元は存在すればただひとつである<ref>Jacobson, I.5. p. 22</ref>。
元 ''x'' が逆元 ''y'' を持つ場合には、''x'' の負の整数冪を ''x''<sup>−1</sup> := ''y'' および ''x''<sup>−''n''</sup> := ''y'' • … • ''y''(''n'' 個の ''y'' の積、''n'' > 1)と定義することができて、先ほどの指数法則が ''n'', ''p'' を任意の整数として成立する。このことが ''x'' の逆元がふつう ''x''<sup>−1</sup> と書かれることの理由である。モノイド ''M'' の単元の全体は ''M'' の演算 • に関して[[単元群]]と呼ばれる群を成す。この意味で任意のモノイドは必ず少なくとも一つの群を含む(ただし、それが単位元のみからなる自明な群である場合もある)。
しかしながら、任意のモノイドが必ず何らかの群に含まれるとは限らない。例えば、''b'' が単位元ではない場合にも ''a'' • ''b'' = ''a'' を満たすような二つの元 ''a'', ''b'' をとることができるモノイドというものを矛盾なく考えることができるが、このようなモノイドを群に埋め込むことはできない。なぜなら、埋め込んだ群において必ず存在する ''a'' の逆元を両辺に掛けることにより ''b'' = ''e'' が導かれ、''b'' が単位元でないことに矛盾するからである。モノイド (''M'', •) が[[簡約法則|'''消約律''']] {{lang|en|(''cancellation property'')}} を満たす、あるいは'''消約的''' {{lang|en|(''cancellative'')}} であるとは
: ''M'' の任意の元 ''a'', ''b'', ''c'' に対し、''a'' • ''b'' = ''a'' • ''c'' が成り立つならば、常に ''b'' = ''c'' を帰結することができる
という条件を満たすときにいう。消約的可換モノイドは常に[[グロタンディーク構成]]によって群に埋め込むことができる。これは、整数全体の成す加法群(加法演算 "+" に関する群)を自然数全体の成す加法モノイド(加法演算 "+" に関する消約的可換モノイド)から構成する方法の一般化である。しかし、非可換消約的モノイドは必ずしも群に埋め込み可能でない。
消約的モノイドが'''有限'''ならば、実は群になる。実際、モノイドの元 ''x'' を一つ選べば、有限性より適当な ''m'' > ''n'' > 0 をとって ''x''<sup>''n''</sup> = ''x''<sup>''m''</sup> とすることができるが、これは消約律により ''x''<sup>''m''−''n''</sup> = ''e''(''e'' はモノイドの単位元)となり、''x''<sup>''m''−''n''−1</sup> が ''x'' の逆元となる。
巡回モノイドの位数が有限な ''n'' であるとき、0 ≤ ''k'' ≤ ''n'' − 1 をみたす適当な ''k'' に対して ''f''<sup>''n''</sup> = ''f''<sup>''k''</sup> が成り立つ。実は、そのような ''k'' を定めるごとに位数 ''n'' の相異なるモノイドが得られ、逆に任意の巡回モノイドはそれらのモノイドのうちの何れか一つに同型となる。特に ''k'' = 0 の場合は、全ての ''f'' <sup>''i''</sup> が逆元を持ち、(ただひとつの位数 ''n'' の)[[巡回群]]を定める。このとき ''f'' は[[対称群#巡回置換|巡回置換]]として<div style="margin: 1ex auto 1ex 2em"><math>
\begin{pmatrix}
0 & 1 & 2 & ... & n-2 & n-1 \\
1 & 2 & 3 & ... & n-1 & k
\end{pmatrix}
</math></div>と表すことができ、モノイドの積と[[写像の合成|置換の積]]が対応する。
モノイドの右消約元の全体あるいは左消約元の全体は部分モノイドを成す(単位元を含むのは明らかだが、演算が閉じていることはそれほど明らかではない)。これは、任意の可換モノイドの消約元の全体はかならず群に延長することができるということを意味している。
モノイド ''M'' は、''M'' の各元 ''a'' がそれぞれ
: ''a'' = ''a'' • ''a''<sup>−1</sup> • ''a'' かつ ''a''<sup>−1</sup> = ''a''<sup>−1</sup> • ''a'' • ''a''<sup>−1</sup>
となる ''M'' の元 ''a''<sup>−1</sup> をただひとつ持つとき、''M'' を'''逆モノイド''' {{lang|en|(''inverse monoid'')}} あるいは山田モノイドという{{efn|半群として、[[逆半群]]となるようなモノイドということ。逆半群は山田半群とも言われる{{harv|田村|1972}}。}}。逆モノイドが消約的ならばそれは群を成す。
== モノイド作用と作用素モノイド ==
(''M'', •) をモノイドとする。集合 ''X'' への(左)''M''-'''作用''' {{lang|en|(''M''-''act'')}} あるいは ''M'' による左作用とは、集合 ''X'' と外部演算 .: ''M'' × ''X'' → ''X'' の組で、外部演算 "." が
* ''X'' の任意の元 ''x'' に対して、 ''e''.''x'' = ''x'' が成り立つ。
* ''M'' の任意の元 ''a'', ''b'' と ''X'' の任意の元 ''x'' に対して、''a''.(''b''.''x'') = (''a'' • ''b'').''x'' が成り立つ。
という二つの条件を満たす(ただし ''e'' は ''M'' の単位元)という意味でモノイド構造と両立することをいう。これは[[作用 (数学)|群作用]]のモノイド論における類似物である。右 ''M''-作用も同様に定義される。ある作用に関するモノイドは'''作用素モノイド'''とも呼ばれる。重要な例として、[[オートマトン]]に現れる[[状態遷移系]]が挙げられる。ある集合上の自分自身への写像から成る半群(変換半群)は、恒等変換を付け加えることで作用素モノイドにすることができる。
== モノイド準同型 ==
ふたつのモノイド (''M'', •), (''M''′, •′) の間の'''モノイド準同型''' {{lang|en|(''monoid homomorphism'')}} とは、写像 ''f'': ''M'' → ''M''′ であって、
* ''M'' の任意の元 ''x'', ''y'' に対して ''f''(''x'' • ''y'') = ''f''(''x'') •′ ''f''(''y''),
* ''f''(''e'') = ''e''′
を満たすものをいう。ここで、''e'' および ''e''′ はそれぞれ ''M'' および ''M''′ の単位元である。モノイド準同型は簡単に'''モノイド射''' {{lang|en|(''monoid morphisms'')}} と呼ばれることもある。
[[半群準同型]]は単位元を保つことを要しないため、必ずしもモノイド準同型とはならない。これは[[群準同型]]の場合とは対照的な事実で、群の間の半群準同型はかならず単位元を保ち、したがって群準同型となることを、群の公理から示すことができる。モノイドではそのようなことは一般には望めないので、モノイド準同型の定義では「単位元を保つ」ことを改めて別に要請する必要がある。
[[全単射]]なモノイド準同型は[[モノイド同型]]と呼ばれる。ふたつのモノイドが同型であるとは、それらの間にモノイド同型が存在するときにいう。
== 生成元と基本関係 ==
モノイドは、群が[[群の表示|生成系と基本関係による表示]]によって特定できるというのと同じ意味で、'''{{visible anchor|表示}}''' {{lang|en|(''presentation'')}} を持つ。すなわち、モノイドは[[生成 (数学)|生成系]] Σ と Σ が生成する[[#自由モノイド|自由モノイド]] Σ<sup>∗</sup> 上の基本関係の集合を特定することによって決まる。任意のモノイドは、適当な自由モノイド Σ<sup>∗</sup> をその上のモノイド合同で割って得られる商モノイドになっていると言っても同じである。
実際、二項関係 ''R'' ⊂ Σ<sup>∗</sup> × Σ<sup>∗</sup> が与えられたとき、''R'' の対称閉包 ''R'' ∪ ''R''<sup>−1</sup> を
:<math>(x,y)\in E \iff \exist u,\exist v,\exist s,\exist t \in \Sigma^* \text{ s.t. } x = sut\land y = svt \land (u, v) \in R \cup R^{-1}</math>
で定義される対称的関係 ''E'' ⊂ Σ<sup>∗</sup> × Σ<sup>∗</sup> に拡張できる。この ''E'' は
: (''x'', ''y'') ∈ ''E'' かつ (''x''′, ''y''′) ∈ ''E'' ならば (''xx''′, ''yy''′) ∈ ''E''
をみたし、さらに反射閉包および推移閉包をとることにより、モノイド合同が得られる。
典型的な状況では、関係 ''R'' は単に関係式の集合 ''R'' = {''u''<sub>1</sub> = ''v''<sub>1</sub>, ..., ''u''<sub>''n''</sub> = ''v''<sub>''n''</sub>} として与えられ、例えば
:<math>\langle p,q \mid pq=1\rangle</math>
は{{仮リンク|双巡回モノイド|en|bicyclic monoid}}の生成元と基本関係式による表示であり、また
:<math>\langle a,b \mid aba=baa, bba=bab\rangle</math>
は次数 2 の{{仮リンク|プラクティックモノイド|en|plactic monoid}}となる(位数は無限大である)。基本関係式は ''ba'' が ''a'' および ''b'' とそれぞれ可換になることを示すものとみることができるので、このプラクティックモノイドの任意の元は適当な整数 ''i'', ''j'', ''k'' を用いて ''a''<sup>''i''</sup>''b''<sup>''j''</sup>(''ba'')<sup>''k''</sup> の形に表される。
== 圏論との関係 ==
モノイドは[[圏 (数学)|圏]]の特別なクラスと看做すことができる。実際、モノイドにおいて二項演算に課される公理は、圏において(与えられたただ一つの対象を始域および終域とする射の集合だけで考えれば)[[射 (圏論)|射]]の合成に課される公理と同じである。すなわち、
: モノイドはただひとつの対象をもつ圏(単一対象圏)と本質的に同じものである。
もっとはっきり述べれば、モノイド (''M'', •) はただひとつの対象をもち、''M'' の元を射として[[小さい圏]]を成す(射の合成はモノイド演算 • で与えられる)。
これと平行して、モノイド準同型は単一対象圏の間の[[函手]]とみなされる。ゆえに、今考えている圏の構成は[[モノイドの圏|(小さい)モノイドの圏]] '''Mon''' と[[圏の圏|(小さい)圏の圏]] '''Cat''' のある[[充満部分圏]]との間の[[圏同値]]を与えるものになっている。同様に、(小さい)群の圏は、'''Cat''' の(モノイドの圏とは別の)ある充満部分圏に同値である。
この意味では、圏論をモノイドの概念の一般化であると考えることができ、モノイドに関する定義や定理の多くを(ひとつまたはそれ以上の対象を持つ)小さい圏に対して一般化することができる。例えば、単一対象圏の商圏とは、剰余モノイドのことである。
モノイドの全体は(他の代数的構造がそうであるのと同様に)、モノイドを対象としモノイド準同型を射とする圏 '''Mon''' を成す。
また、抽象的な定義によって、各圏における「モノイド」として[[モノイド対象]]の概念が定まる。通常のモノイドは[[集合の圏|(小さい)集合の圏]] '''Set''' におけるモノイド対象である。
== 計算機科学におけるモノイド ==
{{see also|高階関数}}
計算機科学において、多くの[[抽象データ型]]はモノイド構造を持つ。よくあるパターンとして、モノイド構造を持つデータ型の元の[[列 (数学)|列]]を考えよう。この列に対して
「重畳」(fold) あるいは「堆積」(accumulate) の操作を施すことで、列が含む元の総和のような値が取り出される。例えば、多くの反復アルゴリズムは各反復段階である種の「累計」を更新していく必要があるが、モノイド演算の重畳を使うとこの累計をすっきりと表記できる。別の例として、モノイド演算の結合性は、多コアや多CPUを効果的に利用するために、[[prefix sum]]あるいは同様のアルゴリズムによって、計算を[[並列化]]できることを保証する。
単位元 ε と演算 • を持つモノイド ''M'' に対して、その列の型 ''M<sup>*</sup>'' から ''M'' への重畳関数 ''fold'' は次のように定義される。
:<math>\operatorname{fold}\colon M^{*} \to M</math>
:<math>\operatorname{fold}\, l = \begin{cases}
\varepsilon & \text{if } l = \operatorname{nil} \\
m \bullet \operatorname{fold}\, l' & \text{if } l = \operatorname{cons}\, m \, l'
\end{cases}</math>
更に、任意の[[データ型]]でもその元の直列化演算(serialization)が与えられれば同様に「重畳」することができる。例えば、[[二分木]]においては[[二分木#二分木を巡回する方法|木の走査]]が直列化にあたるが、結果は走査が行きがけか帰りがけかによって異なる。
単純な[[構造化プログラミング|構造化プログラミング言語]]自身は文やブロックの連接を演算としてモノイドをなす。
== 関連項目 ==
* [[モノイド圏]]
* [[モナド (圏論)]]
* {{仮リンク|クリーネ閉包の高さ最小化問題|en|Star height problem}}
* {{仮リンク|クリーネ代数|en|Kleene algebra}}
* [[一元体]]: 定式化に吸収元つきモノイドが利用される
* [[フロベニオイド]]
== 注 ==
=== 注釈 ===
{{reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{reflist}}
== 参考文献 ==
* John M. Howie, ''Fundamentals of Semigroup Theory'' (1995), Clarendon Press, Oxford ISBN 0-19-851194-9
* {{citation | last=Jacobson | first=Nathan | author-link=Nathan Jacobson | title=Lectures in Abstract Algebra | volume=I | publisher=D. Van Nostrand Company | date=1951 | isbn=0-387-90122-1}}
* {{Citation| last=Jacobson| first=Nathan| author-link=Nathan Jacobson| date=2009| title=Basic algebra| edition=2nd| volume = 1 | series= | publisher=Dover| isbn = 978-0-486-47189-1}}
* M. Kilp, U. Knauer, A.V. Mikhalev, ''Monoids, Acts and Categories with Applications to Wreath Products and Graphs'', De Gruyter Expositions in Mathematics vol. 29, Walter de Gruyter, 2000, ISBN 3110152487.
* {{cite book|和書|author=田村孝行|title=半群論|publisher=共立出版|year=2001|origyear=1972|others=(復刊)|isbn=9784320016767}}
== 外部リンク ==
* {{MathWorld | urlname=Monoid | title=Monoid}}
* {{PlanetMath| urlname=Monoid | title=Monoid | id=389}}
{{DEFAULTSORT:ものいと}}
[[Category:半群論]]
[[Category:数学的構造]]
[[Category:代数的構造]]
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7,358 | タイタン | タイタンはTitanの英語読み。ラテン語などではティタン、チタン、ティターン。古代ギリシア語ではティーターン(Τιτάν)。 | [
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チタン - チタニウムとも。原子番号22番の元素。
タイタン (衛星) - 土星の衛星の一つ。
タイタン (ロケット) - アメリカのICBM及び人工衛星打ち上げロケット。
タイタン (スーパーコンピュータ) - アメリカオークリッジ国立研究所のスーパーコンピュータ。2012年後半期(11月)のTOP500ランキングにおいて1位。
Nvidia Titan - 上記のコンピュータにあやかって命名。Geforceシリーズの最上位モデル
タイタン (映画) - Netflixの2018年配信の映画
タイタン・エアウェイズ - イギリスのチャーター機(航空機)運行会社
タイタン号 - オーシャン・ゲート社の潜水艇。約6m、重さ10t ⇒ 潜水艇タイタン沈没事故 マツダ・タイタン - マツダが販売している小型トラック(一部のモデルはいすゞ・エルフのOEM車)。
日産・タイタン - 日産自動車が北南米地域で製造・販売する自動車で、フルサイズ・ピックアップ。
タイタン (オートバイ) - アメリカの大型二輪車メーカー。
自動運転車開発プロジェクト「Titan」 - 米国IT企業のAppleによる自動運転自動車の開発プロジェクト ティターンズ - アニメ『機動戦士Ζガンダム』などの「ガンダムシリーズ」に登場する架空の軍隊。
タイタン - 『聖闘士星矢Ω』に登場するパラス四天王、その中で唯一、女神パラスを守護する刻闘士(パラサイト)。
手塚治虫の漫画『鉄腕アトム』に登場する架空のロボット、チータン。
ジャン・パウルの小説の原題。邦題は『巨人』。
横山光輝の漫画『マーズ』に登場する架空のロボット。及びそれを原案にしたテレビアニメ『六神合体ゴッドマーズ』に登場する六神ロボの1つ。
『超新星フラッシュマン』に登場する英雄タイタン。
ファイナルファンタジーシリーズに登場する召喚獣。
TRPGファイティング・ファンタジーの主な舞台となる架空の世界、およびその創造の主導をとったとされる神の名。
仮面ライダーストロンガーに登場するブラックサタンの幹部。仮面ライダーストロンガー#大幹部を参照
仮面ライダークウガに登場するフォームの一種、タイタンフォーム。強化系でライジングタイタンも存在する。仮面ライダークウガを参照
プロゴルファー猿に登場するゴルフのために開発されたロボット。
バトルフィールド4に登場する架空のニミッツ級航空母艦の名前。
バトルフィールド2142に登場する空中戦艦の名前。バトルフィールド4にも登場している。
タイタンフォール2に登場する架空の二足歩行型の大型機動兵器の総称
2019年の映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に登場するゴジラなどの大型怪獣の総称。 マーラー交響曲第1番の通称。上記のジャン・パウルの小説にちなんで名付けられたかつての表題による。
NWOBHM期のバンドの一つ、タイタン (Tytan)。 セガが発売したセガサターン互換のアーケードシステム基板のコードネーム、あるいは別名。愛称の由来は先述の土星の衛星から。⇒ST-Vを参照。
タイタン (芸能プロダクション) - 爆笑問題などが所属する芸能事務所。
スペースワールドのローラーコースター「タイタンMAX」の旧名称。
タイタン (アダルト) - アメリカのポルノ製作会社。
関西方言で「炊いた(煮た)もの」の意味、たいたん、煮物。 | '''タイタン'''は'''Titan'''の[[英語]]読み。[[ラテン語]]などでは'''ティタン'''、'''チタン'''、'''ティターン'''。古代[[ギリシア語]]では'''ティーターン'''('''Τιτάν''')。
*[[ティーターン]] - [[ギリシア神話]]に登場する[[神]]。巨神族。
*[[チタン]] - [[チタニウム]]とも。[[原子番号]][[22]]番の[[元素]]。
*[[タイタン (衛星)]] - [[土星]]の[[衛星]]の一つ。
*[[タイタン (ロケット)]] - [[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[大陸間弾道ミサイル|ICBM]]及び[[人工衛星]]打ち上げ[[ロケット]]。
*[[タイタン (スーパーコンピュータ)]] - [[アメリカ合衆国|アメリカ]][[オークリッジ国立研究所]]のスーパーコンピュータ。2012年後半期(11月)の[[TOP500]]ランキングにおいて1位。
**[[NVIDIA GeForce#GeForce GTX TITAN Series|Nvidia Titan]] - 上記のコンピュータにあやかって命名。Geforceシリーズの最上位モデル
*[[タイタン (映画)]] - [[Netflix]]の2018年配信の映画
*[[タイタン・エアウェイズ]] - [[イギリス]]の[[チャーター機]](航空機)運行会社
*[[潜水艇タイタン沈没事故#タイタン号|タイタン号]] - {{仮リンク|オーシャン・ゲート|en|OceanGate}}社の[[潜水艇]]。約6m、重さ10t ⇒ [[潜水艇タイタン沈没事故]]
;自動車・二輪車
*[[マツダ・タイタン]] - [[マツダ]]が販売している小型[[貨物自動車|トラック]](一部のモデルは[[いすゞ・エルフ]]の[[OEM]]車)。
*[[日産・タイタン]] - [[日産自動車]]が北南米地域で製造・販売する[[自動車]]で、フルサイズ・[[ピックアップトラック|ピックアップ]]。
*[[タイタン (オートバイ)]] - [[アメリカ合衆国|アメリカ]]の大型[[オートバイ|二輪車]]メーカー。
*自動運転車開発プロジェクト「Titan」 - 米国IT企業の[[Apple]]による自動運転自動車の開発プロジェクト
; フィクション
* [[ティターンズ]] - [[アニメ (日本のアニメーション作品)|アニメ]]『[[機動戦士Ζガンダム]]』などの「[[ガンダムシリーズ一覧|ガンダムシリーズ]]」に登場する[[架空]]の[[軍隊]]。
* タイタン - 『[[聖闘士星矢Ω]]』に登場するパラス四天王、その中で唯一、女神パラスを守護する刻闘士(パラサイト)。
* [[手塚治虫]]の[[漫画]]『[[鉄腕アトム]]』に登場する[[架空]]の[[ロボット]]、'''チータン'''。
* [[ジャン・パウル]]の小説の原題 ('''Der Titan''')。邦題は『巨人』。
* [[横山光輝]]の漫画『[[マーズ (漫画)|マーズ]]』に登場する架空のロボット。及びそれを原案にしたテレビアニメ『[[六神合体ゴッドマーズ]]』に登場する六神ロボの1つ。
* 『[[超新星フラッシュマン]]』に登場する英雄タイタン。
* [[ファイナルファンタジーシリーズ]]に登場する[[召喚獣]]。
* TRPG[[ファイティング・ファンタジー]]の主な舞台となる架空の世界、およびその創造の主導をとったとされる神の名。
* [[仮面ライダーストロンガー]]に登場するブラックサタンの幹部。[[仮面ライダーストロンガー#大幹部]]を参照
* [[仮面ライダークウガ]]に登場するフォームの一種、タイタンフォーム。強化系でライジングタイタンも存在する。[[仮面ライダークウガ]]を参照
* [[プロゴルファー猿]]に登場するゴルフのために開発された[[ロボット]]。
* [[バトルフィールド4]]に登場する架空の[[ニミッツ級航空母艦]]の名前。
* [[バトルフィールド2142]]に登場する空中戦艦の名前。バトルフィールド4にも登場している。
* [[タイタンフォール2]]に登場する架空の二足歩行型の大型機動兵器の総称
* 2019年の映画『[[ゴジラ キング・オブ・モンスターズ]]』に登場する[[ゴジラ (架空の怪獣)|ゴジラ]]などの大型怪獣の総称。
;音楽
*[[グスタフ・マーラー|マーラー]][[交響曲第1番 (マーラー)|交響曲第1番]]の通称(邦題:『巨人』)。上記のジャン・パウルの小説にちなんで名付けられたかつての表題による。
*[[NWOBHM]]期のバンドの一つ、[[タイタン (バンド)|タイタン]] ('''Tytan''')。
;その他
*[[セガ]]が発売した[[セガサターン]]互換のアーケードシステム基板のコードネーム、あるいは別名。愛称の由来は先述の土星の衛星から。⇒[[ST-V]]を参照。
*[[タイタン (芸能プロダクション)]] - [[爆笑問題]]などが所属する[[芸能事務所]]。
*[[スペースワールド]]の[[ローラーコースター]]「[[タイタンMAX]]」の旧名称。
*[[タイタン (アダルト)]] - アメリカの[[ポルノグラフィ|ポルノ]]製作会社。([[:en:Titan Media]])
*[[関西方言]]で「炊いた(煮た)もの」の意味、たいたん、[[煮物]]。
== 関連項目 ==
* [[タイタンズ (曖昧さ回避)]]
* [[タイタニック (曖昧さ回避)]]
{{aimai}}
{{デフォルトソート:たいたん}}
[[Category:英語の語句]]
[[Category:ラテン語からの借用語]] | 2003-04-27T09:20:07Z | 2023-12-13T07:48:09Z | true | false | false | [
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7,360 | クオリア | クオリア(英語: qualia〈複数形〉、quale〈単数形〉)または感覚質とは、『脳科学辞典』によれば、感覚的な意識や経験のこと、意識的・主観的に感じたり経験したりする質のこと。『広辞苑』によるとクオリアは「感覚的体験に伴う独特で鮮明な質感」であり、「脳科学で注目される」概念である。
神経科学者の土谷尚嗣らの論文によれば、クオリア(主観的意識)は理数系学問(自然科学)で観測・解明できないという見解が哲学・心理学・認知科学などから多く出ている。一方で神経科学などからは、クオリアを観測し解明を進めている研究が複数発表されている。
2016年、『脳科学辞典』で神経科学者の土谷尚嗣が執筆した項「クオリア」によると「脳科学では、クオリアはなんらかの脳活動によって生み出されていると考える」。また前掲書には、「哲学者は長くクオリアについて論じてきたが、クオリアという概念に意味があるかどうかですら、意見が分かれている」とある。
2009年、『スタンフォード哲学百科事典』で哲学者のマイケル・タイが言うにはクオリアとは、心的生活のうち、内観によって知られうる現象的側面である。
2009年に精神科医・神経科学者ジュリオ・トノーニと計算神経科学者デイヴィッド・バルドゥッツィは、意識の統合情報理論に基づく学術論文「クオリア:統合情報の幾何学」を発表した。この論文は幾何学的手法によって、クオリアの複合体である「クオリア空間(“qualia space”、略称は“Q”)」を、「神経生理学的データ(“neurophysiologic data”)」として計測した。前掲論文は例えば、次の通り述べている。
2017年に神経科学者・医用工学者ロジャー・D・オープウッドの学術論文は、「ECoGデータ(皮質脳波検査データ)」およびガンマ波振動とアトラクターを解析して、「クオリアは高確率で局所的皮質ネットワーク内における情報処理の結果である」と述べている。
2018年にIBM社が出願した情報工学の特許技術では「疲労、気分、および疼痛や苦痛の重症度」等といったクオリアを、「クオリアデータ(“qualia data”)」として情報処理している。
茂木健一郎は1997年に『脳とクオリア』を出版し、2002年にはその改訂版("updater")をWebページとして公開した。茂木のWebページによれば、クオリアは「私たちの心が感じることのできる質感」である。クオリアは2種類あり、一つは「ユニークで独立したある種の感じ」としての「感覚的クオリア」、もう一つは「『何かに向けられている』感覚」としての「志向的クオリア」だという。
茂木は2001年の『日本ファジィ学会誌』の論文で、クオリアの定量的研究について次のように述べている。
もしクオリアに関して物質的過程でない「隠れたパラメータ」を主張するならば、それは「心脳二元論を唱えているに等しい」、と茂木は言う。物質系には、原因と結果の「因果的必然性」がある。客観的な物質系は、定量的な変数(位置・速度・運動量など)によって決定されており、これが物質系の「因果的必然性」である。主観的なクオリアの「因果的必然性」は、物質系の「因果的必然性」に従っている。そして物質系の「因果的必然性」を表現する際は、定量的な記述(微分方程式・差分方程式・行列力学・セルオートマトン・経路積分など)が使われている。茂木によればクオリアの「因果的必然性」も、同様に厳密な原理に基づいているが、これを表現する記述方法はまだ見つかっていない。
なお、クオリアがニューロン活動に伴う現象として数学的形式化(定量化)されクオリア問題が解決されていくと、ヴィトゲンシュタイン以来の「言語論的転回」が起きると茂木は述べている。「ニューロンの活動も究極的にはシュレディンガー方程式のような定量的な法則によって支配されている」が、「そもそもニューロン活動を客観的に記述している時に用いている数学的フォーマリズム〔数学的形式〕とクオリアがどのような関係にあるのかが明らかにされなければ、問題の本質的な解決にならないだろう」。例えば数学的言語の一つに、「シュレディンガー方程式」がある。これに対しクオリアは「一見数学的フォーマリズム〔数学的形式〕に乗らず、一切の定量化を拒否しているかのように見える」。しかし人間の認知過程上では、「シュレディンガー方程式」は《白いクオリア(背景色)の上にある黒いクオリア(文字色)》として認知されている。つまりクオリアを表現しているという点では、自然言語として表現される風景(「木漏れ日」等)も、数学的言語として表現される「シュレディンガー方程式」も同様である。
つまりクオリアの表現という点から考えれば、実は「数学的言語」と「自然言語」との間に本質的な差は無い。クオリアが数学として解明されていけば、人間の知性(すなわち数学的言語と自然言語)を基礎から再検討することが近い将来必要になる、と茂木は結論している。
クオリアの問題は説明のギャップ、「クオリア問題」または「意識のハードプロブレム」などと呼ばれている。
クオリアという言葉は、「質」を意味するラテン語の名詞 qualitas (あるいは qualis) に由来する。この言葉自体の歴史は古く、4世紀に執筆されたアウグスティヌスの著作「神の国」にも登場する。しかし現代的な意味でこのクオリアという言葉が使われ出すのは、20世紀に入ってからのことである。
まず1929年、哲学者クラレンス・アーヴィング・ルイスが著作『精神と世界の秩序』において現在の意味とほぼ同じ形でクオリアという言葉を使用した。
その後、1950年代から1960年代にかけて、ルイスの教え子であるアメリカの哲学者ネルソン・グッドマンらによってこの言葉が広められた。
1974年、主観性の問題に関する有名な論文が現れる。アメリカの哲学者トマス・ネーゲルが提示した「コウモリであるとはどのようなことか」という思考実験において、物理主義は意識的な体験の具体的な表れについて、完全に論じ切れていない、という主張が強く訴えられた。1982年にはオーストラリアの哲学者フランク・ジャクソンが、マリーの部屋という思考実験を提唱し、普通の科学的知識の中にはクオリアの問題は還元しきれないのではないか、という疑念が提唱された。また1983年にはアメリカの哲学者ジョセフ・レヴァインが、脳についての神経科学的な説明と、私たちの持つ主観的な意識的体験の間には、ギャップがある、という説明のギャップの議論を展開する。こうしたネーゲル、ジャクソンの論文が登場しはじめた1970年代後半あたりから、徐々に科学や物理学との関連の中でクオリアの議論が展開されることが多くなった。
こうした流れの中で最も強い反響を得たのは、オーストラリアの哲学者デイヴィッド・チャーマーズの主張である。1995年から1997年にかけてチャーマーズは一連の著作を通じて、現在の物理学とクオリアとの関係について、ハードプロブレム、哲学的ゾンビといった言葉を用いて非常に強い立場での議論を展開する。今までの哲学者の議論がどちらかというと控えめな形での物理主義批判であったのに対し、チャーマーズは「クオリアは自然界の基本的な要素の一つであり、クオリアを現在の物理学の中に還元することは不可能である。意識の問題を解決するにはクオリアに関する新しい自然法則の探求が必要である。」という強い立場を前面に押し出す。このチャーマーズの立場は岩石やサーモスタットにさえ意識体験があるとする汎心論を含むほど強い立場であり、古典的なデカルト的実体二元論の復活だ、といった誤解による批判も含めて強い反論があった。こうした強い反応が出た背景には脳科学・神経科学が大きい注目を浴び始めていた時代的タイミングがあった。何にせよ、この議論は大きな反応を呼び、今まで一部の哲学者の間だけで議論されていたクオリアの問題が広い範囲の人々、哲学者のみならず、神経科学者や、エンジニア、理論物理学者などへ知れ渡る一つのきっかけとなる。
その後、ツーソン会議 (1994年-) や意識研究学会 (1994年-) などの国際的な研究会・学会も継続的に開催され、Consciousness and Cognition (1992年-) , Journal of Consciousness Studies (1994年-) , Pysche (1994年-) といった意識を専門的に扱う学術雑誌も号を重ねる。そして意識の問題を扱った数多くの書籍が出版されていく。これらによって意見の一致が見られるようになった、というわけではないが、さまざまな分野でどういう問題が議論されているのか、何が論点なのか、といった問題に関する情報についての相互理解は進むようになった。
哲学的な思索の歴史を振り返ると、類似の意味を持った概念は歴史上、いくども使われている。たとえばジョン・ロックが一次性質と対比させて使った二次性質という概念、カントが物自体という概念と対比して使った表象、論理実証主義者たちが使用したセンス・データ(感覚与件)の概念、また現象学における現象、そして仏教における六境、西田幾多郎における純粋経験等がある。これらは異なる文脈や意味で使用されてきた言葉だが、主観的な意識的な体験、意識的な現れ、のことを主に指す言葉として、それぞれの時代の議論の中で用いられた。
西洋哲学の歴史の中での扱いの変化を見ると、こうした意識へ表れるもの、というのは、長い間、もっとも確実で疑い得ないものとして扱われてきた。つまり主に認識論(正しい知識とは何か、確実な知識とは何か、ということを扱う哲学の一分野)の議論の中で、一番確実視される基盤的なものとして扱われることが長く続いた。たとえばカントは、世界の本当の所どうなっているかは分からない(物自体は知りえない)、しかし意識への表れ、表象については語りうる、といった認識論を展開した。20世紀前半の論理実証主義者らは、科学の認識論的な基礎付けは、さまざまな命題を最終的には感覚的な言明(赤い色が見える、など)に帰着させることで達成されるだろう、といった考え方をした。しかしこうした20世紀前半まで、西洋哲学の中で、そうした主観的で意識的な感覚というのがそもそも何なのか、という議論はさほど活発ではなく、問われることもそう多くなかった。 20世紀終盤になって出てきたクオリアに関する説明のギャップやハードプロブレムの議論は、認識論の文脈というより、主観的な意識的体験とは何のか、これは脳と同じものか、違う存在か、といった存在論的な議論が大きい比重を占めている。
人間の体験するクオリアは実に多彩であり、それぞれが独特の感じをもつ。たとえば視覚、聴覚、嗅覚からはそれぞれ全く違ったクオリアが得られる。どういった状態にクオリアがともない、またどういった状態にはともなわないのか、この点はしばしば議論の的となる。以下に、独特の質感を持つ、つまりクオリアを持つと多くの人が考えるものの例をあげる。
他にも冷熱体験や、さらには感情もクオリアをともなうと考えられている。
心的表象、意識的な思考、そして自分という感覚は、それが質感を持つかどうかについて議論が分かれる。
このようなクオリアの種類のことを感覚のモダリティーと呼ぶ。感覚のモダリティーは基本的にお互いに異なっているのだが、時には違ったモダリティーが混ざり合うこともあり、そのような現象は共感覚と呼ばれている。
Daniel Dennett はクオリアの要因として4つの特性を示した。 これによるとクオリアはつぎの4性質を備える。
クオリアがどういったものかであると定義するかには様々な考え方があるが、おおよそ次にあげるような性質があるものとして議論される。
クオリアの問題を扱った思考実験に以下のようなものがある。
たとえばリンゴの色について考えた場合、自然科学の世界では「リンゴの色はリンゴ表面の分子パターンによって決定される」とだけ説明する。つまり、リンゴ表面の分子パターンが、リンゴに入射する光のうち700ナノメートル前後の波長だけをよく反射し、それが眼球内の網膜によって受け取られると、それが赤さの刺激となるのだ、と説明する。そしてこの一連の現象のうち、
という点に関しては神経科学でも物理学でも哲学でも、専門分野の違いに関わりなく、ほぼすべての研究者の間で意見が一致する。
だがこうした物理学的・化学的な知見を積み重ねても最後のステップ、すなわち「この波長の光がなぜあの「赤さ」という特定の感触を与え、この範囲の光はどうしてあの「青さ」という特定の感触を与えるのだろうか」といった問題は解決されない。
この現在の自然科学からは抜け落ちている残されたポイント、すなわち「物理的状態がなぜ、どのようにしてクオリアを生み出すのか」という問題について、哲学者ディビッド・チャーマーズは1994年、ツーソン会議という意識をテーマとした学際的なカンファレンスで「それは本当に難しい問題である」として、その問題に「ハード・プロブレム」という名前を与えた。
向精神薬や大脳皮質への電気刺激の実験などからも分かるように、「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」の間には因果関係があると推測される。しかしながらそれが具体的にどのような関係にあるのかはまだ明らかではない。この「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」がどのような因果関係にあるのか、という問題に対しては、抽象的ではあるが様々な仮説が提唱されている。こうした「クオリアを整然とした自然科学(とりわけ物理学)の体系の中に位置づけていこう」という試みは、クオリアの自然化(英語: naturalization of qualia)と呼ばれ、心の哲学における重要な議題のひとつとなっている。
クオリアに関する議論は様々な論点が知られている。なかでも最も大きな論争となるのは、クオリアは現在の物理学の中でどこに位置づけられるのかという、形而上学的・存在論的な位置づけについての哲学的な議論である。この問題に対する考え方や分類は論者によって様々であり、一概に分類することはできない。しばしば、各人の立場は物理主義から二元論までの段階的なスペクトルのどこかに位置づけられるとも言われる。ここでは簡単に心身問題の伝統的な三つの立場、物理主義的立場(いわゆる唯物論的立場)、そして二元論的立場、そして観念論的立場、の三つに分けて説明する。現在の議論の中心は主に物理主義的な立場と二元論的な立場の間で行われている。哲学的な立場に関するより詳細な分類についてはチャーマーズによるA, B, C, D, E, Fの6分類などがある。
クオリアは何か非常に真新しく、現在の物理学の中には含まれていないもののように見えるが、そんなことはない、すでに含まれているのだ、という立場。こうした立場は一般に唯物論または物理主義的と呼ばれる。
この立場を取る世界的に有名な論者としてフランシス・クリック、ダニエル・デネット、チャーチランド夫妻(パトリシア・チャーチランド、ポール・チャーチランド)が、また日本語圏で有名な論者として信原幸弘、金杉武司がいる。この立場ではフロギストン、カロリック、生気といった科学史上の誤りを例にとって、クオリアもそうした例のひとつに過ぎないと考える。物理主義的立場には、同一説、機能主義、消去主義、表象説、高階思考説など様々なバージョンがある。
クオリアに関する物理主義的立場の代表的なものの一つが、志向説(表象説)である。その主要な論者はギルバート・ハーマン、マイケル・タイ、フレッド・ドレツキである。彼らによれば、クオリアは(あるいはクオリアの代わりにあるものは)、ある種の志向的内容(表象内容)である。このようにクオリアと志向性の関わりを積極的に提案する者はしばしば物理主義者であり、かつしばしば機能主義者であるが、必ずしもそうとは限らない。例えばデイビッド・チャーマーズは物理主義者ではないが、クオリアと志向性に密接な関わりがあると考えている。
クオリアは現在の物理学の範囲内には含まれていない、と考える立場。つまり既知の物理量の組み合わせでクオリアを表現することはできない、という立場。こうした立場は一般に二元論的と呼ばれる。ただし二元論と呼ばれてはいるが、霊魂や魂の存在を仮定するデカルト的な実体二元論を主張しているわけではない。この点を区別するために現代の意識に関する二元論のことを自然主義的二元論とも言う。
この立場は大きく次の二つに分かれる。ひとつは「物理学の拡張によって問題は解決される」という立場である。そしてもう一つは「そもそも私達人間の思考能力、認知能力の範囲内では、この問題は解けない」という立場である。
クオリアは現在の物理学に含まれていないから、クオリアを含んだより拡張された物理学を作ろう、という立場。世界的に有名な論者としてデイビッド・チャーマーズ、ロジャー・ペンローズが、またペンローズの流派に属する日本語圏で有名な論者として茂木健一郎がいる。この立場には二つの違った流れがある。
クオリアは現在の物理学に含まれておらず、ハードプロブレムは依然として残っているが、私たち人間の能力では、この問題は解くことができないだろう、と考える立場。一般に新神秘主義と呼ばれる。
代表的な論者にトマス・ネーゲル、コリン・マッギン、スティーブン・ピンカーなどがいる。ネーゲルは意識の主観性の問題を解決するには、宇宙に関する見方を根本的に変えるような概念枠の変化がない限り無理だろう、と考える。マッギンは、人間という種が持つ固有の認知メカニズムはある一定の能力的限界を持っており、そのキャパシティを超えた問題が人間には把握できない、という認知的閉鎖(英語: cognitive closure)の概念を軸に置く。そして意識の問題はそうした私たち人間のキャパシティの範囲を超えた問題、つまり解決できない問題なのだと考える。
主観性を思考の出発点に置きつつ物理主義と二元論の間の対立の構図を批判する立場がある。この立場から主張される主な論点として、物理主義も二元論もともに客観的な物理的実在を最初から前提している事についての批判、がある。たとえばマックス・ヴェルマンズ(Max Velmans)は再帰的一元論(英語: reflexive monism)と呼ぶ自身の立場の中で(2008年、Reflexive Monism)、客観的な物質概念は意識体験から得られたものであり、客観的な物質概念を最初から前提している立場は、それが物理主義的立場であれ二元論的立場であれ、そもそもの議論の前提がおかしいと主張する。こうした立場からの分析は現象学的アプローチ(Phenomenological approach)とも呼ばれる。
日本語圏では永井均がこれと似た主張を行う。永井は客観的な物質概念はもとより、現象意識という概念も一種の構成概念であるとし、まずあるのはたった一つの自分の主観性(永井は<私>、「これ」などと書く)だけである点を強調する。加えて永井は主観的な意識の問題は、「現在であること」(現在性、now)、「現実であること」(現実性、actuality)などと同じ、内容的規定性を持たないという点からくる問題だとする(「今」が人によって違っても何も違うと言える所がない、この世界が実在の世界でなくただの可能世界であっても何も違うと言える所がない、この世界から<私>が消え去っても何も違うと言える所がない)。それゆえに、この問題は真性の問題ではあるけれども、にもかかわらず公共的な言語の上では語ることができないもの(ウィトゲンシュタインが言うところの「語り得ないもの」)であり、言語で取り扱えないものだとする。
科学の立場からの研究においては、上に述べたようなクオリアに関する存在論的な議論(「この世界に本当にあるのは何か?」という議論)には直接関わらないのが一般的である。神経科学分野の有名な(非常に分厚い)教科書 カンデルの Principles of Neural Science では意識の主観性の問題に数ページを割いている。そこでは、科学者にはハードプロブレムに直接取り組む前にやるべき事がまだ数多くあるのでそこを研究していけばよい、ということを科学者としての一つの一般的姿勢として示している。フランシス・クリックは「ハードプロブレムに直接取り組むべきでない」こと、またクリストフ・コッホは「意識の神経相関物と意識体験の関係を仮定せず」に研究を行うことを書いている。こうした科学者の主張する内容にはいくつかの点があるが、主に次のようなものがある。
こうした考えを背景に科学者は意識体験に関する実証的な調査・研究を進めている。
意識と相関するニューロン(意識に相関した脳活動:NCC: neural correlates of consciousness 特定の意識体験を起こすのに必要な最小のニューロンのメカニズムとプロセス)を同定していく研究。クリストフ・コッホが有名である。
これはNCCの研究と並行するが、盲視、半側空間無視、共感覚、幻肢痛、といった様々な事例・症例の調査・研究をもとに質感の問題にアプローチしていくスタイル。ラマチャンドランが有名。
一般に科学者たちは哲学的な意味での自身の立場ははっきりと主張しないことが多い。科学者ならば全員が物理主義者なのだろう、とも思うかもしれないが、別にそういう分けではなく、各人のクオリアに対する哲学的な立場は様々である。たとえば運動準備電位の研究で有名なベンジャミン・リベットや、また睡眠の研究者であるジュリオ・トノーニのように、自然主義的二元論的な意識についての理論を発表している者もいるし、またヴィラヤヌル・ラマチャンドランのように自分は中立一元論者だとはっきり哲学的なポジションを明言しているような科学者もいる。
クオリアという主題には数多い論点があり、その全体をここで網羅しきることはできない。幾つかの代表的な論点を挙げる。
まず有名な論点として「そもそもクオリアなんてない」という非常に根本的な反論がある。こうした主張を強く行う人物として有名な哲学者としてダニエル・デネットがいる。デネットの立場は消去主義的唯物論(Eliminative materialism)、または消去主義(Eliminativism)と言われる。デネットが行う主張を左側として、デネットがその論敵としている対立側を右側として、両サイドがどういった点で対立し、そしてどういう点では一致しているのか、その状況を以下に簡単に一覧する。
デネットからすると、クオリアがある、などという主張は錯覚でしかなく、ハードプロブレムは完全な擬似問題である。しかし質感があると確信している側は、この問題を「錯覚」として消去しようという主張は、あり得ないとして拒絶する。この点についてデネットは、これほど強い錯覚が生じるのは、それを担っている一定の神経基盤があるからだろうと論じる。心理学者ニコラス・ハンフリーもデネットと似た立場を取る。ハンフリーによれば、ヒトにとって意識が不可解に思えるのは、そういう錯覚を生み出す機構が脳内にあるからであり、そして「不可解に思えること」それ自体が進化的な意味を持っている、とする。つまり意識が不可解に思えるという錯覚が、不滅の霊魂や来世といった信念の余地を残し、それにより知性を持った人間を完全な絶望からくる自殺から遠ざける、といった意味を持っただろうとする。つまり「意識を不可解であると誤解する機能」からの適応度の向上(残される子孫の数の増加)への寄与があったのではないか、とする。
逆にネド・ブロックなどは、デネットは認知に関わるある種の機能障害を持っているのではないか、という可能性を指摘する。ブロックがこうした主張を行う背景には一定の経験がある。ブロックは自身の教員としての経験から、現象性の問題を理解できない人が、なぜかは分からないが一定数いる、と語っている。ブロックによれば、大学初年度の学生に逆転クオリアの思考実験について説明すると、およそ3分の2の学生は「何を言ってるか分かる」と答えると言う。中には小さいころから自分でその問題を考えていた、という学生もいるという。しかし残りの3分の1の学生は「何の話をしているのか分からない」と答えると言う。ブロックは逆転クオリアの思考実験は、10歳に満たない自分の娘でも理解できたのに、なぜ一部の大学生に理解できないなどという事があるのか、と疑問を持つ。そしてブロックは、ある種の認知的な機能の違いが、現象性の問題の理解を妨げてるのではないかという可能性を指摘する。そしてそうした人の中から、デネットのような主張を行う人が出てくるのではないか、とする。そして、こうした機能的差異は実験的に研究できる対象であろうから、逆転クオリアのようなある種の思考実験への反応と、他のファクターとの相関を取って研究することが可能ではないか、と指摘する。
こうして両サイドの主張は真っ向から食い違っているものの、現象判断の過程、つまりクオリアについて判断している神経過程について科学的に研究することが重要だ、という点では、両サイドにいる多くの論者の考えは一致している。
クオリアの科学はどのようにすれば可能なのか。科学的方法論に基づいてクオリアを扱おうとすると出会う最大の困難は、実験で直接クオリアを測定できないことである(将来的にどうであるのかについてはクオリアに対して取る哲学的立場により帰結は異なる。物理主義的立場なら原理的には可能であろうし、二元論的立場ならその因果的な性質に応じて、可能または不可能である)。このことを「我々は意識メーター(consiousness meter)を持たない」などと比喩的に表現することもある。この他者の主観的経験を観測できないという問題は、歴史的には他我問題として議論されてきた(この観測不可能性を他者の内面の不存在にまで極端化した立場は独我論と呼ばれる)。例えば、単純に観測できそうな快感の度合いすら他者には観測できない。顔を歪め息も絶え絶えに体を痙攣させている女性がいるとしよう。一見、苦痛を感じてるように見えるが、実際にはA10神経が興奮しβエンドルフィンが多量に分泌され、激しい快感を覚えていることが分かる。ここまでは分かる。しかし、その快感がどのように感じられているのかが分からないのである。実際にオーガズムを感じたことのない女性には、それがどのようなものかが分からないということはとても多い。実際に感じるしか方法がない現在、どうすればクオリアや意識を科学の表舞台に引き上げられるのか、その方法論や哲学的基礎づけに関して様々な議論がなされている。
クオリアが存在論的な意味で何であるかとは別として、何がクオリアを持つのか、という問題がある。人間の大人は質感を持つことは一つの前提となるが、そこから距離を置いたものとしてよく議論されるのが以下の三つである。 | [
{
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"text": "クオリア(英語: qualia〈複数形〉、quale〈単数形〉)または感覚質とは、『脳科学辞典』によれば、感覚的な意識や経験のこと、意識的・主観的に感じたり経験したりする質のこと。『広辞苑』によるとクオリアは「感覚的体験に伴う独特で鮮明な質感」であり、「脳科学で注目される」概念である。",
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},
{
"paragraph_id": 1,
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"text": "神経科学者の土谷尚嗣らの論文によれば、クオリア(主観的意識)は理数系学問(自然科学)で観測・解明できないという見解が哲学・心理学・認知科学などから多く出ている。一方で神経科学などからは、クオリアを観測し解明を進めている研究が複数発表されている。",
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},
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"text": "2016年、『脳科学辞典』で神経科学者の土谷尚嗣が執筆した項「クオリア」によると「脳科学では、クオリアはなんらかの脳活動によって生み出されていると考える」。また前掲書には、「哲学者は長くクオリアについて論じてきたが、クオリアという概念に意味があるかどうかですら、意見が分かれている」とある。",
"title": "概要"
},
{
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"text": "2009年、『スタンフォード哲学百科事典』で哲学者のマイケル・タイが言うにはクオリアとは、心的生活のうち、内観によって知られうる現象的側面である。",
"title": "概要"
},
{
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"text": "2009年に精神科医・神経科学者ジュリオ・トノーニと計算神経科学者デイヴィッド・バルドゥッツィは、意識の統合情報理論に基づく学術論文「クオリア:統合情報の幾何学」を発表した。この論文は幾何学的手法によって、クオリアの複合体である「クオリア空間(“qualia space”、略称は“Q”)」を、「神経生理学的データ(“neurophysiologic data”)」として計測した。前掲論文は例えば、次の通り述べている。",
"title": "概要"
},
{
"paragraph_id": 5,
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"text": "2017年に神経科学者・医用工学者ロジャー・D・オープウッドの学術論文は、「ECoGデータ(皮質脳波検査データ)」およびガンマ波振動とアトラクターを解析して、「クオリアは高確率で局所的皮質ネットワーク内における情報処理の結果である」と述べている。",
"title": "概要"
},
{
"paragraph_id": 6,
"tag": "p",
"text": "2018年にIBM社が出願した情報工学の特許技術では「疲労、気分、および疼痛や苦痛の重症度」等といったクオリアを、「クオリアデータ(“qualia data”)」として情報処理している。",
"title": "概要"
},
{
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"tag": "p",
"text": "茂木健一郎は1997年に『脳とクオリア』を出版し、2002年にはその改訂版(\"updater\")をWebページとして公開した。茂木のWebページによれば、クオリアは「私たちの心が感じることのできる質感」である。クオリアは2種類あり、一つは「ユニークで独立したある種の感じ」としての「感覚的クオリア」、もう一つは「『何かに向けられている』感覚」としての「志向的クオリア」だという。",
"title": "概要"
},
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"text": "茂木は2001年の『日本ファジィ学会誌』の論文で、クオリアの定量的研究について次のように述べている。",
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{
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"text": "",
"title": "概要"
},
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"text": "もしクオリアに関して物質的過程でない「隠れたパラメータ」を主張するならば、それは「心脳二元論を唱えているに等しい」、と茂木は言う。物質系には、原因と結果の「因果的必然性」がある。客観的な物質系は、定量的な変数(位置・速度・運動量など)によって決定されており、これが物質系の「因果的必然性」である。主観的なクオリアの「因果的必然性」は、物質系の「因果的必然性」に従っている。そして物質系の「因果的必然性」を表現する際は、定量的な記述(微分方程式・差分方程式・行列力学・セルオートマトン・経路積分など)が使われている。茂木によればクオリアの「因果的必然性」も、同様に厳密な原理に基づいているが、これを表現する記述方法はまだ見つかっていない。",
"title": "概要"
},
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"text": "なお、クオリアがニューロン活動に伴う現象として数学的形式化(定量化)されクオリア問題が解決されていくと、ヴィトゲンシュタイン以来の「言語論的転回」が起きると茂木は述べている。「ニューロンの活動も究極的にはシュレディンガー方程式のような定量的な法則によって支配されている」が、「そもそもニューロン活動を客観的に記述している時に用いている数学的フォーマリズム〔数学的形式〕とクオリアがどのような関係にあるのかが明らかにされなければ、問題の本質的な解決にならないだろう」。例えば数学的言語の一つに、「シュレディンガー方程式」がある。これに対しクオリアは「一見数学的フォーマリズム〔数学的形式〕に乗らず、一切の定量化を拒否しているかのように見える」。しかし人間の認知過程上では、「シュレディンガー方程式」は《白いクオリア(背景色)の上にある黒いクオリア(文字色)》として認知されている。つまりクオリアを表現しているという点では、自然言語として表現される風景(「木漏れ日」等)も、数学的言語として表現される「シュレディンガー方程式」も同様である。",
"title": "概要"
},
{
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"text": "つまりクオリアの表現という点から考えれば、実は「数学的言語」と「自然言語」との間に本質的な差は無い。クオリアが数学として解明されていけば、人間の知性(すなわち数学的言語と自然言語)を基礎から再検討することが近い将来必要になる、と茂木は結論している。",
"title": "概要"
},
{
"paragraph_id": 13,
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"text": "クオリアの問題は説明のギャップ、「クオリア問題」または「意識のハードプロブレム」などと呼ばれている。",
"title": "概要"
},
{
"paragraph_id": 14,
"tag": "p",
"text": "クオリアという言葉は、「質」を意味するラテン語の名詞 qualitas (あるいは qualis) に由来する。この言葉自体の歴史は古く、4世紀に執筆されたアウグスティヌスの著作「神の国」にも登場する。しかし現代的な意味でこのクオリアという言葉が使われ出すのは、20世紀に入ってからのことである。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 15,
"tag": "p",
"text": "まず1929年、哲学者クラレンス・アーヴィング・ルイスが著作『精神と世界の秩序』において現在の意味とほぼ同じ形でクオリアという言葉を使用した。",
"title": "歴史"
},
{
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"tag": "p",
"text": "その後、1950年代から1960年代にかけて、ルイスの教え子であるアメリカの哲学者ネルソン・グッドマンらによってこの言葉が広められた。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 17,
"tag": "p",
"text": "1974年、主観性の問題に関する有名な論文が現れる。アメリカの哲学者トマス・ネーゲルが提示した「コウモリであるとはどのようなことか」という思考実験において、物理主義は意識的な体験の具体的な表れについて、完全に論じ切れていない、という主張が強く訴えられた。1982年にはオーストラリアの哲学者フランク・ジャクソンが、マリーの部屋という思考実験を提唱し、普通の科学的知識の中にはクオリアの問題は還元しきれないのではないか、という疑念が提唱された。また1983年にはアメリカの哲学者ジョセフ・レヴァインが、脳についての神経科学的な説明と、私たちの持つ主観的な意識的体験の間には、ギャップがある、という説明のギャップの議論を展開する。こうしたネーゲル、ジャクソンの論文が登場しはじめた1970年代後半あたりから、徐々に科学や物理学との関連の中でクオリアの議論が展開されることが多くなった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 18,
"tag": "p",
"text": "こうした流れの中で最も強い反響を得たのは、オーストラリアの哲学者デイヴィッド・チャーマーズの主張である。1995年から1997年にかけてチャーマーズは一連の著作を通じて、現在の物理学とクオリアとの関係について、ハードプロブレム、哲学的ゾンビといった言葉を用いて非常に強い立場での議論を展開する。今までの哲学者の議論がどちらかというと控えめな形での物理主義批判であったのに対し、チャーマーズは「クオリアは自然界の基本的な要素の一つであり、クオリアを現在の物理学の中に還元することは不可能である。意識の問題を解決するにはクオリアに関する新しい自然法則の探求が必要である。」という強い立場を前面に押し出す。このチャーマーズの立場は岩石やサーモスタットにさえ意識体験があるとする汎心論を含むほど強い立場であり、古典的なデカルト的実体二元論の復活だ、といった誤解による批判も含めて強い反論があった。こうした強い反応が出た背景には脳科学・神経科学が大きい注目を浴び始めていた時代的タイミングがあった。何にせよ、この議論は大きな反応を呼び、今まで一部の哲学者の間だけで議論されていたクオリアの問題が広い範囲の人々、哲学者のみならず、神経科学者や、エンジニア、理論物理学者などへ知れ渡る一つのきっかけとなる。",
"title": "歴史"
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"text": "その後、ツーソン会議 (1994年-) や意識研究学会 (1994年-) などの国際的な研究会・学会も継続的に開催され、Consciousness and Cognition (1992年-) , Journal of Consciousness Studies (1994年-) , Pysche (1994年-) といった意識を専門的に扱う学術雑誌も号を重ねる。そして意識の問題を扱った数多くの書籍が出版されていく。これらによって意見の一致が見られるようになった、というわけではないが、さまざまな分野でどういう問題が議論されているのか、何が論点なのか、といった問題に関する情報についての相互理解は進むようになった。",
"title": "歴史"
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{
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"text": "哲学的な思索の歴史を振り返ると、類似の意味を持った概念は歴史上、いくども使われている。たとえばジョン・ロックが一次性質と対比させて使った二次性質という概念、カントが物自体という概念と対比して使った表象、論理実証主義者たちが使用したセンス・データ(感覚与件)の概念、また現象学における現象、そして仏教における六境、西田幾多郎における純粋経験等がある。これらは異なる文脈や意味で使用されてきた言葉だが、主観的な意識的な体験、意識的な現れ、のことを主に指す言葉として、それぞれの時代の議論の中で用いられた。",
"title": "歴史"
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"text": "西洋哲学の歴史の中での扱いの変化を見ると、こうした意識へ表れるもの、というのは、長い間、もっとも確実で疑い得ないものとして扱われてきた。つまり主に認識論(正しい知識とは何か、確実な知識とは何か、ということを扱う哲学の一分野)の議論の中で、一番確実視される基盤的なものとして扱われることが長く続いた。たとえばカントは、世界の本当の所どうなっているかは分からない(物自体は知りえない)、しかし意識への表れ、表象については語りうる、といった認識論を展開した。20世紀前半の論理実証主義者らは、科学の認識論的な基礎付けは、さまざまな命題を最終的には感覚的な言明(赤い色が見える、など)に帰着させることで達成されるだろう、といった考え方をした。しかしこうした20世紀前半まで、西洋哲学の中で、そうした主観的で意識的な感覚というのがそもそも何なのか、という議論はさほど活発ではなく、問われることもそう多くなかった。 20世紀終盤になって出てきたクオリアに関する説明のギャップやハードプロブレムの議論は、認識論の文脈というより、主観的な意識的体験とは何のか、これは脳と同じものか、違う存在か、といった存在論的な議論が大きい比重を占めている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 22,
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"text": "人間の体験するクオリアは実に多彩であり、それぞれが独特の感じをもつ。たとえば視覚、聴覚、嗅覚からはそれぞれ全く違ったクオリアが得られる。どういった状態にクオリアがともない、またどういった状態にはともなわないのか、この点はしばしば議論の的となる。以下に、独特の質感を持つ、つまりクオリアを持つと多くの人が考えるものの例をあげる。",
"title": "様々なクオリア"
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{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "他にも冷熱体験や、さらには感情もクオリアをともなうと考えられている。",
"title": "様々なクオリア"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "心的表象、意識的な思考、そして自分という感覚は、それが質感を持つかどうかについて議論が分かれる。",
"title": "様々なクオリア"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "このようなクオリアの種類のことを感覚のモダリティーと呼ぶ。感覚のモダリティーは基本的にお互いに異なっているのだが、時には違ったモダリティーが混ざり合うこともあり、そのような現象は共感覚と呼ばれている。",
"title": "様々なクオリア"
},
{
"paragraph_id": 26,
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"text": "Daniel Dennett はクオリアの要因として4つの特性を示した。 これによるとクオリアはつぎの4性質を備える。",
"title": "定義と性質"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "クオリアがどういったものかであると定義するかには様々な考え方があるが、おおよそ次にあげるような性質があるものとして議論される。",
"title": "定義と性質"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "クオリアの問題を扱った思考実験に以下のようなものがある。",
"title": "クオリアに関する思考実験"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "たとえばリンゴの色について考えた場合、自然科学の世界では「リンゴの色はリンゴ表面の分子パターンによって決定される」とだけ説明する。つまり、リンゴ表面の分子パターンが、リンゴに入射する光のうち700ナノメートル前後の波長だけをよく反射し、それが眼球内の網膜によって受け取られると、それが赤さの刺激となるのだ、と説明する。そしてこの一連の現象のうち、",
"title": "自然科学との関係"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "という点に関しては神経科学でも物理学でも哲学でも、専門分野の違いに関わりなく、ほぼすべての研究者の間で意見が一致する。",
"title": "自然科学との関係"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "だがこうした物理学的・化学的な知見を積み重ねても最後のステップ、すなわち「この波長の光がなぜあの「赤さ」という特定の感触を与え、この範囲の光はどうしてあの「青さ」という特定の感触を与えるのだろうか」といった問題は解決されない。",
"title": "自然科学との関係"
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{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "この現在の自然科学からは抜け落ちている残されたポイント、すなわち「物理的状態がなぜ、どのようにしてクオリアを生み出すのか」という問題について、哲学者ディビッド・チャーマーズは1994年、ツーソン会議という意識をテーマとした学際的なカンファレンスで「それは本当に難しい問題である」として、その問題に「ハード・プロブレム」という名前を与えた。",
"title": "自然科学との関係"
},
{
"paragraph_id": 33,
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"text": "向精神薬や大脳皮質への電気刺激の実験などからも分かるように、「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」の間には因果関係があると推測される。しかしながらそれが具体的にどのような関係にあるのかはまだ明らかではない。この「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」がどのような因果関係にあるのか、という問題に対しては、抽象的ではあるが様々な仮説が提唱されている。こうした「クオリアを整然とした自然科学(とりわけ物理学)の体系の中に位置づけていこう」という試みは、クオリアの自然化(英語: naturalization of qualia)と呼ばれ、心の哲学における重要な議題のひとつとなっている。",
"title": "自然科学との関係"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "クオリアに関する議論は様々な論点が知られている。なかでも最も大きな論争となるのは、クオリアは現在の物理学の中でどこに位置づけられるのかという、形而上学的・存在論的な位置づけについての哲学的な議論である。この問題に対する考え方や分類は論者によって様々であり、一概に分類することはできない。しばしば、各人の立場は物理主義から二元論までの段階的なスペクトルのどこかに位置づけられるとも言われる。ここでは簡単に心身問題の伝統的な三つの立場、物理主義的立場(いわゆる唯物論的立場)、そして二元論的立場、そして観念論的立場、の三つに分けて説明する。現在の議論の中心は主に物理主義的な立場と二元論的な立場の間で行われている。哲学的な立場に関するより詳細な分類についてはチャーマーズによるA, B, C, D, E, Fの6分類などがある。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
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{
"paragraph_id": 35,
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"text": "クオリアは何か非常に真新しく、現在の物理学の中には含まれていないもののように見えるが、そんなことはない、すでに含まれているのだ、という立場。こうした立場は一般に唯物論または物理主義的と呼ばれる。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "この立場を取る世界的に有名な論者としてフランシス・クリック、ダニエル・デネット、チャーチランド夫妻(パトリシア・チャーチランド、ポール・チャーチランド)が、また日本語圏で有名な論者として信原幸弘、金杉武司がいる。この立場ではフロギストン、カロリック、生気といった科学史上の誤りを例にとって、クオリアもそうした例のひとつに過ぎないと考える。物理主義的立場には、同一説、機能主義、消去主義、表象説、高階思考説など様々なバージョンがある。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "クオリアに関する物理主義的立場の代表的なものの一つが、志向説(表象説)である。その主要な論者はギルバート・ハーマン、マイケル・タイ、フレッド・ドレツキである。彼らによれば、クオリアは(あるいはクオリアの代わりにあるものは)、ある種の志向的内容(表象内容)である。このようにクオリアと志向性の関わりを積極的に提案する者はしばしば物理主義者であり、かつしばしば機能主義者であるが、必ずしもそうとは限らない。例えばデイビッド・チャーマーズは物理主義者ではないが、クオリアと志向性に密接な関わりがあると考えている。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
{
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"tag": "p",
"text": "クオリアは現在の物理学の範囲内には含まれていない、と考える立場。つまり既知の物理量の組み合わせでクオリアを表現することはできない、という立場。こうした立場は一般に二元論的と呼ばれる。ただし二元論と呼ばれてはいるが、霊魂や魂の存在を仮定するデカルト的な実体二元論を主張しているわけではない。この点を区別するために現代の意識に関する二元論のことを自然主義的二元論とも言う。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"text": "この立場は大きく次の二つに分かれる。ひとつは「物理学の拡張によって問題は解決される」という立場である。そしてもう一つは「そもそも私達人間の思考能力、認知能力の範囲内では、この問題は解けない」という立場である。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
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"text": "クオリアは現在の物理学に含まれていないから、クオリアを含んだより拡張された物理学を作ろう、という立場。世界的に有名な論者としてデイビッド・チャーマーズ、ロジャー・ペンローズが、またペンローズの流派に属する日本語圏で有名な論者として茂木健一郎がいる。この立場には二つの違った流れがある。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
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"text": "クオリアは現在の物理学に含まれておらず、ハードプロブレムは依然として残っているが、私たち人間の能力では、この問題は解くことができないだろう、と考える立場。一般に新神秘主義と呼ばれる。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
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"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "代表的な論者にトマス・ネーゲル、コリン・マッギン、スティーブン・ピンカーなどがいる。ネーゲルは意識の主観性の問題を解決するには、宇宙に関する見方を根本的に変えるような概念枠の変化がない限り無理だろう、と考える。マッギンは、人間という種が持つ固有の認知メカニズムはある一定の能力的限界を持っており、そのキャパシティを超えた問題が人間には把握できない、という認知的閉鎖(英語: cognitive closure)の概念を軸に置く。そして意識の問題はそうした私たち人間のキャパシティの範囲を超えた問題、つまり解決できない問題なのだと考える。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "主観性を思考の出発点に置きつつ物理主義と二元論の間の対立の構図を批判する立場がある。この立場から主張される主な論点として、物理主義も二元論もともに客観的な物理的実在を最初から前提している事についての批判、がある。たとえばマックス・ヴェルマンズ(Max Velmans)は再帰的一元論(英語: reflexive monism)と呼ぶ自身の立場の中で(2008年、Reflexive Monism)、客観的な物質概念は意識体験から得られたものであり、客観的な物質概念を最初から前提している立場は、それが物理主義的立場であれ二元論的立場であれ、そもそもの議論の前提がおかしいと主張する。こうした立場からの分析は現象学的アプローチ(Phenomenological approach)とも呼ばれる。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "日本語圏では永井均がこれと似た主張を行う。永井は客観的な物質概念はもとより、現象意識という概念も一種の構成概念であるとし、まずあるのはたった一つの自分の主観性(永井は<私>、「これ」などと書く)だけである点を強調する。加えて永井は主観的な意識の問題は、「現在であること」(現在性、now)、「現実であること」(現実性、actuality)などと同じ、内容的規定性を持たないという点からくる問題だとする(「今」が人によって違っても何も違うと言える所がない、この世界が実在の世界でなくただの可能世界であっても何も違うと言える所がない、この世界から<私>が消え去っても何も違うと言える所がない)。それゆえに、この問題は真性の問題ではあるけれども、にもかかわらず公共的な言語の上では語ることができないもの(ウィトゲンシュタインが言うところの「語り得ないもの」)であり、言語で取り扱えないものだとする。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"text": "科学の立場からの研究においては、上に述べたようなクオリアに関する存在論的な議論(「この世界に本当にあるのは何か?」という議論)には直接関わらないのが一般的である。神経科学分野の有名な(非常に分厚い)教科書 カンデルの Principles of Neural Science では意識の主観性の問題に数ページを割いている。そこでは、科学者にはハードプロブレムに直接取り組む前にやるべき事がまだ数多くあるのでそこを研究していけばよい、ということを科学者としての一つの一般的姿勢として示している。フランシス・クリックは「ハードプロブレムに直接取り組むべきでない」こと、またクリストフ・コッホは「意識の神経相関物と意識体験の関係を仮定せず」に研究を行うことを書いている。こうした科学者の主張する内容にはいくつかの点があるが、主に次のようなものがある。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"text": "こうした考えを背景に科学者は意識体験に関する実証的な調査・研究を進めている。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"paragraph_id": 47,
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"text": "意識と相関するニューロン(意識に相関した脳活動:NCC: neural correlates of consciousness 特定の意識体験を起こすのに必要な最小のニューロンのメカニズムとプロセス)を同定していく研究。クリストフ・コッホが有名である。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"paragraph_id": 48,
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"text": "これはNCCの研究と並行するが、盲視、半側空間無視、共感覚、幻肢痛、といった様々な事例・症例の調査・研究をもとに質感の問題にアプローチしていくスタイル。ラマチャンドランが有名。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "一般に科学者たちは哲学的な意味での自身の立場ははっきりと主張しないことが多い。科学者ならば全員が物理主義者なのだろう、とも思うかもしれないが、別にそういう分けではなく、各人のクオリアに対する哲学的な立場は様々である。たとえば運動準備電位の研究で有名なベンジャミン・リベットや、また睡眠の研究者であるジュリオ・トノーニのように、自然主義的二元論的な意識についての理論を発表している者もいるし、またヴィラヤヌル・ラマチャンドランのように自分は中立一元論者だとはっきり哲学的なポジションを明言しているような科学者もいる。",
"title": "クオリアに関する様々な立場"
},
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"text": "クオリアという主題には数多い論点があり、その全体をここで網羅しきることはできない。幾つかの代表的な論点を挙げる。",
"title": "論点"
},
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"tag": "p",
"text": "まず有名な論点として「そもそもクオリアなんてない」という非常に根本的な反論がある。こうした主張を強く行う人物として有名な哲学者としてダニエル・デネットがいる。デネットの立場は消去主義的唯物論(Eliminative materialism)、または消去主義(Eliminativism)と言われる。デネットが行う主張を左側として、デネットがその論敵としている対立側を右側として、両サイドがどういった点で対立し、そしてどういう点では一致しているのか、その状況を以下に簡単に一覧する。",
"title": "論点"
},
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"tag": "p",
"text": "デネットからすると、クオリアがある、などという主張は錯覚でしかなく、ハードプロブレムは完全な擬似問題である。しかし質感があると確信している側は、この問題を「錯覚」として消去しようという主張は、あり得ないとして拒絶する。この点についてデネットは、これほど強い錯覚が生じるのは、それを担っている一定の神経基盤があるからだろうと論じる。心理学者ニコラス・ハンフリーもデネットと似た立場を取る。ハンフリーによれば、ヒトにとって意識が不可解に思えるのは、そういう錯覚を生み出す機構が脳内にあるからであり、そして「不可解に思えること」それ自体が進化的な意味を持っている、とする。つまり意識が不可解に思えるという錯覚が、不滅の霊魂や来世といった信念の余地を残し、それにより知性を持った人間を完全な絶望からくる自殺から遠ざける、といった意味を持っただろうとする。つまり「意識を不可解であると誤解する機能」からの適応度の向上(残される子孫の数の増加)への寄与があったのではないか、とする。",
"title": "論点"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "逆にネド・ブロックなどは、デネットは認知に関わるある種の機能障害を持っているのではないか、という可能性を指摘する。ブロックがこうした主張を行う背景には一定の経験がある。ブロックは自身の教員としての経験から、現象性の問題を理解できない人が、なぜかは分からないが一定数いる、と語っている。ブロックによれば、大学初年度の学生に逆転クオリアの思考実験について説明すると、およそ3分の2の学生は「何を言ってるか分かる」と答えると言う。中には小さいころから自分でその問題を考えていた、という学生もいるという。しかし残りの3分の1の学生は「何の話をしているのか分からない」と答えると言う。ブロックは逆転クオリアの思考実験は、10歳に満たない自分の娘でも理解できたのに、なぜ一部の大学生に理解できないなどという事があるのか、と疑問を持つ。そしてブロックは、ある種の認知的な機能の違いが、現象性の問題の理解を妨げてるのではないかという可能性を指摘する。そしてそうした人の中から、デネットのような主張を行う人が出てくるのではないか、とする。そして、こうした機能的差異は実験的に研究できる対象であろうから、逆転クオリアのようなある種の思考実験への反応と、他のファクターとの相関を取って研究することが可能ではないか、と指摘する。",
"title": "論点"
},
{
"paragraph_id": 54,
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"text": "こうして両サイドの主張は真っ向から食い違っているものの、現象判断の過程、つまりクオリアについて判断している神経過程について科学的に研究することが重要だ、という点では、両サイドにいる多くの論者の考えは一致している。",
"title": "論点"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "クオリアの科学はどのようにすれば可能なのか。科学的方法論に基づいてクオリアを扱おうとすると出会う最大の困難は、実験で直接クオリアを測定できないことである(将来的にどうであるのかについてはクオリアに対して取る哲学的立場により帰結は異なる。物理主義的立場なら原理的には可能であろうし、二元論的立場ならその因果的な性質に応じて、可能または不可能である)。このことを「我々は意識メーター(consiousness meter)を持たない」などと比喩的に表現することもある。この他者の主観的経験を観測できないという問題は、歴史的には他我問題として議論されてきた(この観測不可能性を他者の内面の不存在にまで極端化した立場は独我論と呼ばれる)。例えば、単純に観測できそうな快感の度合いすら他者には観測できない。顔を歪め息も絶え絶えに体を痙攣させている女性がいるとしよう。一見、苦痛を感じてるように見えるが、実際にはA10神経が興奮しβエンドルフィンが多量に分泌され、激しい快感を覚えていることが分かる。ここまでは分かる。しかし、その快感がどのように感じられているのかが分からないのである。実際にオーガズムを感じたことのない女性には、それがどのようなものかが分からないということはとても多い。実際に感じるしか方法がない現在、どうすればクオリアや意識を科学の表舞台に引き上げられるのか、その方法論や哲学的基礎づけに関して様々な議論がなされている。",
"title": "関連する話題"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "クオリアが存在論的な意味で何であるかとは別として、何がクオリアを持つのか、という問題がある。人間の大人は質感を持つことは一つの前提となるが、そこから距離を置いたものとしてよく議論されるのが以下の三つである。",
"title": "関連する話題"
}
] | クオリアまたは感覚質とは、『脳科学辞典』によれば、感覚的な意識や経験のこと、意識的・主観的に感じたり経験したりする質のこと。『広辞苑』によるとクオリアは「感覚的体験に伴う独特で鮮明な質感」であり、「脳科学で注目される」概念である。 神経科学者の土谷尚嗣らの論文によれば、クオリア(主観的意識)は理数系学問(自然科学)で観測・解明できないという見解が哲学・心理学・認知科学などから多く出ている。一方で神経科学などからは、クオリアを観測し解明を進めている研究が複数発表されている。 | <!--【Wikipedia:検証可能性】
>この文書はウィキペディア日本語版の方針です。多くの利用者に支持されており、すべての利用者が従うべきだと考えられています。
>記事には、信頼できる情報源が公表・出版している内容だけを書くべきです。 … 【出典が明示されていない編集は、誰でも取り除くことができます】(【出典のない記述は除去されても文句は言えません】)。(https://w.wiki/5dVs)-->
{{Otheruses|「感覚質」と呼ばれる主観的な感覚|その他のクオリア}}
{{複数の問題|出典の明記=2020年10月|独自研究=2020年10月|正確性=2020年10月}}
[[ファイル:Solid red.png|thumb|200x200px|この画像を見る者の網膜には波長 630-760 [[ナノメートル|nm]] の成分の際立つ光が十分な密度で届くはずであり、このときいわゆる「赤色」に対応するクオリアを体験するであろう。{{Efn2|カラーフィルターなどのスペクトルはこの波長とは、性格が異なり一致しないのが普通である{{要出典|date=2020年10月}}。}}|代替文=]]
'''クオリア'''({{lang-en|qualia}}〈複数形〉、{{en|quale}}〈単数形〉)または'''感覚質'''とは、『[[脳科学]]辞典』によれば、[[感覚]]的な[[意識]]や[[経験]]のこと{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}、意識的・[[主観]]的に感じたり経験したりする[[質]]のこと{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}{{Efn2|以下は、2016年の『脳科学辞典』で[[土谷尚嗣]]が執筆した項「クオリア」からの引用{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}。{{Quotation| クオリアは、我々の[[意識]]にのぼってくる[[感覚]]意識やそれにともなう[[経験]]のことである。脳科学では、クオリアはなんらかの脳活動によって生み出されていると考える。 …
クオリアとは、[[ラテン語]] qualiaで、単数形は a quale であり、我々が意識的に[[主観]]的に感じたり経験したりする「[[質]]」のことを指す。日本語では感覚質とも呼ばれる[註 1] 。一般に、[[夕焼け]]の赤い感じ、[[虫歯]]の痛み、などの[[比喩]]を使って説明されることが多い。 …
'''註釈'''<br>1. ↑ クオリアは「[[質感]]」と呼ばれることもある。しかし、材料の表面の触った感じ、見た目の感じ、の[[テクスチャ]]のことを特に「質感」と呼ぶことが多く、混乱を招くので、この項では質感という語は使わない。{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}}}}}。『[[広辞苑]]』によるとクオリアは「感覚的体験に伴う独特で鮮明な質感」であり、「脳科学で注目される」[[概念]]である{{Sfn|新村|2018|p=819}}。
[[神経科学者]]の[[土谷尚嗣]]らの論文によれば、クオリア(主観的意識)は[[理学|理数系学問]]([[自然科学]])で[[観測]]・[[wikt:解明|解明]]できないという見解が[[哲学]]・[[心理学]]・[[認知科学]]などから多く出ている{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}{{Sfn|三村|2013|p=24}}。一方で[[神経科学]]などからは、クオリアを観測し解明を進めている研究が複数発表されている{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=1}}{{Sfn|Orpwood|2017|p=1}}{{Sfn|Chalas|Fry|Gschwind|Houston|2018|p=10 (2)}}{{Efn2|{{詳細記事|クオリア#解析とデータ化}}2019年の土谷および西郷の論文によれば、「意識」という主観的[[概念]]を《科学で扱ったり観測したりすることはできない》と論じる哲学者・心理学者・認知科学者は今でも多い{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}。デネットやスローマンやスタノヴィッチのような哲学者は、そもそも「意識」という概念は定義不可能であると論じている{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}。
しかし土谷と西郷によれば、実践的な研究は以前から主観的意識を扱っており、それは二種類に大別されている{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}。一つは、主に[[臨床]]で使われる「[[意識障害#定量的な尺度|意識レベル]]」( 「意識の量」)であり、もう一つは「意識の中身」( 「クオリア」・「意識の質」)である{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}。土谷と西郷は、それらの意味での「意識」を「[[数学]]的に厳密に定義できるか」について研究し{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=463}}、数学の「[[圏論]]」を使うことで意識やクオリアを定義している{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=464}}。「意識の[[圏_(数学)|圏]]」の例としては、「意識レベルの圏」と「意識の中身の圏」がある{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=464}}。「圏論の数学的[[ツール]]をつかった主観意識の研究が枠組みとして定着すれば … 大きな[[ブレイクスルー]]につながると著者{{Interp|土谷・西郷|原文では「著者は考えている」|和文=1}}は考えている」という{{Sfn|土谷|西郷|2019|p=474}}。}}。
== 概要 ==
[[ファイル:Qualia of sound.jpg|thumb|350px|笛から発せられた空気振動(音)が、笛の音のクオリア「ピー」を発生させるまでの流れ(左端:笛、青:音波、赤:鼓膜、黄:蝸牛、緑:有毛細胞、紫:周波数スペクトル、橙:神経細胞の興奮、右端:笛の音のクオリア)。]]
=== 辞事典による定義・解説 ===
2016年、『脳科学辞典』で[[神経科学]]者の[[土谷尚嗣]]が執筆した項「クオリア」によると「[[脳科学]]では、クオリアはなんらかの[[意識に相関した脳活動|脳活動]]によって生み出されていると考える」{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}。また前掲書には、「[[哲学者]]は長くクオリアについて論じてきたが、クオリアという[[概念]]に[[意味]]があるかどうかですら、意見が分かれている」とある{{Sfn|土谷|2016|p=「クオリア」}}。
2009年、『スタンフォード哲学百科事典』で哲学者の[[マイケル・タイ]]が言うにはクオリアとは、心的生活のうち、[[内観]]によって知られうる[[現象]]的側面である<ref name="SEP_QUALIA">{{Cite journal2 |last=Tye |first=Michael |editor=Edward N. Zalta |editor-link=エドワード・ザルタ |title=Qualia |journal=[[スタンフォード哲学百科事典|The Stanford Encyclopedia of Philosophy]] |edition=Summer 2009 |url=https://plato.stanford.edu/archives/sum2009/entries/qualia/ |quote=Philosophers often use the term ‘qualia’ (singular ‘quale’) to refer to the introspectively accessible, phenomenal aspects of our mental lives. In this standard, broad sense of the term, it is difficult to deny that there are qualia.}}</ref>。
=== 2000年代後半~2010年代の研究事例 ===
==== 解析とデータ化 ====
2009年に[[精神科医]]・神経科学者[[ジュリオ・トノーニ]]と[[計算神経科学者]]デイヴィッド・バルドゥッツィは、[[意識の統合情報理論]]に基づく学術論文「クオリア:統合情報の[[幾何学]]<!--"Qualia: The Geometry of Integrated Information"-->」を発表した{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=1}}。この論文は幾何学的<!--"geometric"-->手法によって、クオリアの複合体である「クオリア空間(“qualia space”、略称は“Q”)」を、「[[神経生理学]]的[[データ]](“neurophysiologic data”)」として[[計測]]した{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=1, 12}}。前掲論文は例えば、次の通り述べている{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=7}}。
{{Quote|4つの要素でできている系{{Interp|[[システム]] system|原文では「system」|和文=1}}におけるクオリア空間は、16[[次元]]である(このクオリア空間は、その[[複合体 (数学)|複合体]]において2{{exp|4}}個存在する可能状態のそれぞれに軸を持つ)。それら複数の軸はページ上で平らに置かれている。x{{sub|1}}=1000の状態に入ると、複合体はQ空間{{Interp|クオリア空間|原文では「Q-space」|和文=1}}の中でクアーリ{{Interp|クオリアの単数形 quale|原文では「quale」|和文=1}}または形状を生成する。{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=7}}{{Efn2|以下、2009年のトノーニとバルドゥッツィによる学術論文の原文の引用{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=7}}。{{Quotation|
Qualia space for a system of 4 elements is 16-dimensional (with an axis for each of the 2{{exp|4}} possible states of the complex); the axes are flattened onto the page. Upon entering state x{{sub|1}} <nowiki>=</nowiki> 1000, the complex generates a quale or shape in Q-space.{{Sfn|Tononi|Balduzzi|2009|p=7}}}}}}}}
2017年に神経科学者・[[医用工学者]]ロジャー・D・オープウッドの学術論文は、「[[:en:Electrocorticography|ECoG]]データ([[大脳皮質|皮質]][[脳波]]検査データ)」および[[ガンマ波]]振動と[[アトラクター]]を解析して、「クオリアは高確率で局所的皮質[[ニューラルネットワーク#歴史|ネットワーク]]内における[[情報処理]]の結果である」と述べている{{Sfn|Orpwood|2017|p=1}}{{Efn2|原文では“qualia are a likely outcome of the processing of information in local cortical networks”{{Sfn|Orpwood|2017|p=1}}.}}。
2018年に[[IBM]]社が出願した[[情報工学]]の[[特許]]技術では「[[疲労]]、[[気分]]、および[[疼痛]]や[[苦痛]]の重症度<!--“tiredness , mood , and severity of ache or pain”-->」等といったクオリアを、「クオリアデータ(“qualia data”)」として[[情報処理]]している{{Sfn|Chalas|Fry|Gschwind|Houston|2018|p=10 (2)}}。
=== 1990年代~2000年代前半の研究事例 ===
{{正確性|date=2020年10月|section=1}}
==== 解析の試み ====
[[茂木健一郎]]は1997年に『[https://www.nikkei-science.com/page/sci_book/52057.html 脳とクオリア]』を出版し{{Sfn|茂木|2002a|p= "books.html"}}、2002年にはその改訂版("updater")をWebページとして公開した{{Sfn|茂木|2002a|p= "books.html"}}{{Sfn|茂木|2002b|p="qualia.html"}}。茂木のWebページによれば、クオリアは「私たちの[[心]]が感じることのできる質感」である{{Sfn|茂木|2002c|p="qualia/qualia-j-0.html"}}{{要出典科学|date=2022年10月}}。クオリアは2種類あり、一つは「ユニークで独立したある種の感じ」としての「感覚的クオリア」、もう一つは「『何かに向けられている』感覚」としての「志向的クオリア」だという{{Sfn|茂木|2002c|p="qualia/qualia-j-0.html"}}{{要出典科学|date=2022年10月}}。
茂木は2001年の『日本[[ファジィ]]学会誌』の論文で、クオリアの定量的研究について次のように述べている{{Sfn|茂木|2001|p=356 (14)}}。
{{Quote|「[[定量的研究|数や量で表現]]できるような[[物理法則一覧|物質の性質]]に比較すると、クオリアは、[[定性的研究|曖昧なもの]]のように思われる。 … クオリアは、曖昧だからこそ、[[発火|ニューロンの発火]]頻度や、[[膜電位]]のような定量的な記述ができないのだ、そのように思いがちである。<br>
しかし、脳内にあるニューロンの発火パターンが生じた時に、私たちの心の中にどのようなクオリアが生じるかという[[対応原理]]は、実際には極めて厳密なものであると考えられる。現在{{Interp|2001年|原文では「現在、私たちが主観的に … 」|和文=1}}、私たちが主観的に体験するあらゆる[[心]]的[[表象]]は、脳内の[[ニューロン]]活動に伴って生じる「[[随伴現象説|随伴現象]]」(epiphenomenon)であるという説が有力である」{{Sfn|茂木|2001|p=356 (14)}}{{Efn2|茂木いわく、《心的表象はニューロン活動の随伴現象である》ということを言い換えれば、《ある心的表象を指定するのに必要十分な[[情報]]は、物質的過程(ニューロン活動)の[[時空間]]パターンの中に含まれている》となる{{Sfn|茂木|2001|p=356 (14)}}。}}。}}
もしクオリアに関して物質的過程でない「隠れた[[パラメータ]]」を主張するならば、それは「[[心身二元論|心脳二元論]]を唱えているに等しい」、と茂木は言う{{Sfn|茂木|2001|p=356 (14)}}。[[物理系|物質系]]には、原因と結果の「[[因果律|因果的必然性]]」がある{{Sfn|茂木|2001|pp=356-357 (14-15)}}。客観的な物質系は、定量的な[[変数]]([[位置]]・[[速度]]・[[運動量]]など)によって決定されており、これが物質系の「因果的必然性」である{{Sfn|茂木|2001|p=356 (15)}}。主観的なクオリアの「因果的必然性」は、物質系の「因果的必然性」に従っている{{Sfn|茂木|2001|p=356 (15)}}。そして物質系の「因果的必然性」を表現する際は、定量的な記述([[微分方程式]]・[[差分方程式]]・[[行列力学]]・[[セルオートマトン]]・[[経路積分]]など)が使われている{{Sfn|茂木|2001|p=356 (15)}}。茂木によればクオリアの「因果的必然性」も、同様に厳密な原理に基づいているが、これを表現する記述方法はまだ見つかっていない{{Sfn|茂木|2001|pp=356-357 (14-15)}}。
なお、クオリアがニューロン活動に伴う現象として数学的形式化(定量化)されクオリア問題が解決されていくと、[[ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン|ヴィトゲンシュタイン]]以来の「[[言語論的転回]]」が起きると茂木は述べている{{Sfn|茂木|2001|pp=361-362 (19-20)}}。「ニューロンの活動も究極的には[[シュレーディンガー方程式#時間に依存するシュレーディンガー方程式|シュレディンガー方程式]]のような定量的な法則によって支配されている」が、「そもそもニューロン活動を客観的に記述している時に用いている[[形式#数学用語|数学的フォーマリズム]]{{Interp|数学的形式|原文では「数学的フォーマリズムとクオリアが … 」|和文=1}}とクオリアがどのような関係にあるのかが明らかにされなければ、問題の本質的な解決にならないだろう」{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。例えば数学的言語の一つに、「シュレディンガー方程式」がある{{Sfn|茂木|2001|pp=361-362 (19-20)}}{{Efn2|茂木はシュレディンガー方程式を{{Indent|<math>i\hbar\frac{d\psi}{dt} = \hat{H}\psi\,</math>}}と表記している{{Sfn|茂木|2001|p=361 (19)}}。}}。これに対しクオリアは「一見数学的フォーマリズム{{Interp|数学的形式|原文では「一見数学的フォーマリズムに乗らず … 」|和文=1}}に乗らず、一切の定量化を拒否しているかのように見える」{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。しかし人間の認知過程上では、「シュレディンガー方程式」は《白いクオリア(背景色)の上にある黒いクオリア(文字色)》として認知されている{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。つまりクオリアを表現しているという点では、[[自然言語]]として表現される[[風景]](「[[木漏れ日]]」等)も、数学的言語として表現される「[[シュレーディンガー方程式|シュレディンガー方程式]]」も同様である{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。
つまりクオリアの表現という点から考えれば、実は「数学的言語」と「自然言語」との間に本質的な差は無い{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。クオリアが数学として解明されていけば{{Sfn|茂木|2001|pp=361-362 (19-20)}}、人間の[[知性]](すなわち[[数学]]的言語と[[自然言語]])を基礎から再検討することが近い将来必要になる、と茂木は結論している{{Sfn|茂木|2001|p=362 (20)}}。
;その他
クオリアの問題は[[説明のギャップ]]、「クオリア問題」または「[[意識のハードプロブレム]]」<ref name="Hard">[[デイヴィッド・チャーマーズ]]が[[ハード・プロブレム]]について論じた二本の論文。<small>「{{lang|en|Facing Up to…}}」に対して寄せられた様々な批判に答える形で出されたのが「{{lang|en|Moving Forward on…}}」</small>
*{{Cite journal2 |last=Chalmers |first=David J |year=1995 |title=Facing Up to the Problem of Consciousness |journal=Journal of Consciousness Studies |volume=2 |issue=3 |pages=200-219 |url=http://consc.net/papers/facing.html}}
*{{Cite journal2 |last=Chalmers |first=David J |year=1997 |title=Moving Forward on the Problem of Consciousness |journal=Journal of Consciousness Studies |volume=4 |issue=1 |pages=3-46 |url=http://consc.net/papers/moving.html}}</ref>などと呼ばれている。
== 歴史 ==
{{複数の問題|出典の明記=2022年10月|独自研究=2022年10月|正確性=2022年10月|section=1}}
{{要出典|範囲=クオリアという言葉は、「質」を意味する[[ラテン語]]の[[名詞]] {{lang|la|''qualitas''}} (あるいは {{lang|la|''qualis''}}) に由来する。この言葉自体の歴史は古く、4世紀に執筆された[[アウグスティヌス]]の著作「[[神の国 (アウグスティヌス)|神の国]]」にも登場する。しかし現代的な意味でこのクオリアという言葉が使われ出すのは、20世紀に入ってからのことである。|date=2022年7月}}
まず1929年、哲学者[[クラレンス・アーヴィング・ルイス]]が著作『精神と世界の秩序』<ref>{{Cite book2 |last=Lewis |first=C. I. |year=1929 |title=Mind and the World-order: an Outline of a Theory of Knowledge |publisher=Chrls Scribner's Sons.}}<br/>復刻版 {{Cite book2 |last=Lewis |first=C. I. |year=1991 |title=Mind and the World-order: an Outline of a Theory of Knowledge |publisher=Dover Pubns |ISBN=0486265641}}</ref>において現在の意味とほぼ同じ形でクオリアという言葉を使用した。
{{Quotation|与件(the given)の識別可能な質的特徴というものがたしかに存在する。それは異なる諸経験において復現(リピート)し、それゆえ、[[普遍者]]の一種である。それを私は「クオリア」と呼ぶ。そうしたクオリアは、この経験においてそしてあの経験において何度も認識されるという意味で普遍者ではあるのだが、しかし物体の性質とは区別する必要がある。 … クオリアは直接に経験され、与えられる。そして、いかなる誤りの可能性ももたない。というのもそれは純粋に主観的だからである。他方、物体の性質は客観的である。すなわち物体に性質を帰属させることは、誤りのある一つの判断である。物体を述定することで主張されるのは、ある単一の経験の中で与えられうるものを超越した事柄なのである。|ルイス『精神と世界の秩序』(1929年)<ref>Lewis, C. I. (1929), p.121.</ref>{{Sfn|柴田正良|2008|loc=柏端達也(訳)「第八章 痛みの志向性とその現象的側面についてすこし」p.174より}}}}
その後、1950年代から1960年代にかけて、ルイスの教え子であるアメリカの哲学者[[ネルソン・グッドマン]]らによってこの言葉が広められた<ref>{{Cite book2 |last=Goodman |first=NeLson |title=The Structure of Appearance}} 初版:{{lang|en|Harvard UP}}、1951年。第2版:{{lang|en|Indianapolis: Bobbs-Merrill}}、1966年。第3版:{{lang|en|Boston: Reidel}}、1977年。</ref>。
1974年、主観性の問題に関する有名な論文が現れる。アメリカの哲学者[[トマス・ネーゲル]]が提示した「[[コウモリであるとはどのようなことか]]」という思考実験において<ref name="bat_en"/><ref name="bat_ja"/>、物理主義は意識的な体験の具体的な表れについて、完全に論じ切れていない、という主張が強く訴えられた。1982年にはオーストラリアの哲学者[[フランク・ジャクソン]]が、[[マリーの部屋]]という思考実験を提唱し、普通の科学的知識の中にはクオリアの問題は還元しきれないのではないか、という疑念が提唱された<ref>{{Cite journal2 |last=Jackson |first=Frank |year=1982 |title=Epiphenomenal Qualia |journal=The Philosophical Quarterly |volume=32 |issue=127 |pages=127-136 |doi=10.2307/2960077}}</ref>。{{要出典|範囲=また1983年にはアメリカの哲学者ジョセフ・レヴァインが、脳についての神経科学的な説明と、私たちの持つ主観的な意識的体験の間には、ギャップがある、という説明のギャップの議論を展開する。こうしたネーゲル、ジャクソンの論文が登場しはじめた1970年代後半あたりから、徐々に科学や物理学との関連の中でクオリアの議論が展開されることが多くなった。|date=2022年7月}}
こうした流れの中で最も強い反響を得たのは、オーストラリアの哲学者[[デイヴィッド・チャーマーズ]]の主張である。1995年から1997年にかけてチャーマーズは一連の著作<ref name="Hard"/>{{Sfn|チャーマーズ|2001|p=不明}}を通じて、現在の物理学とクオリアとの関係について、[[ハードプロブレム]]、[[哲学的ゾンビ]]といった言葉を用いて非常に強い立場での議論を展開する。{{要出典|範囲=今までの哲学者の議論がどちらかというと控えめな形での[[物理主義]]批判であったのに対し、チャーマーズは「クオリアは自然界の基本的な要素の一つであり、クオリアを現在の物理学の中に還元することは不可能である。意識の問題を解決するにはクオリアに関する新しい[[自然法則]]の探求が必要である。」という強い立場を前面に押し出す。このチャーマーズの立場は岩石やサーモスタットにさえ意識体験があるとする[[汎心論]]を含むほど強い立場であり、古典的なデカルト的[[実体二元論]]の復活だ、といった誤解による批判も含めて強い反論があった。こうした強い反応が出た背景には脳科学・神経科学が大きい注目を浴び始めていた時代的タイミングがあった。何にせよ、この議論は大きな反応を呼び、今まで一部の哲学者の間だけで議論されていたクオリアの問題が広い範囲の人々、哲学者のみならず、神経科学者や、エンジニア、理論物理学者などへ知れ渡る一つのきっかけとなる。|date=2022年7月}}
その後、[[ツーソン会議]] (1994年-) や[[国際意識科学会|意識研究学会]] (1994年-) などの国際的な研究会・学会も継続的に開催され、[[:en:Consciousness and Cognition|Consciousness and Cognition]] (1992年-) , [[:en:Journal of Consciousness Studies|Journal of Consciousness Studies]] (1994年-) , [[:en:Psyche (journal)|Pysche]] (1994年-) といった意識を専門的に扱う[[学術雑誌]]も号を重ねる。そして意識の問題を扱った数多くの書籍が出版されていく。{{要出典|範囲=これらによって意見の一致が見られるようになった、というわけではないが、さまざまな分野でどういう問題が議論されているのか、何が論点なのか、といった問題に関する情報についての相互理解は進むようになった。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=哲学的な思索の歴史を振り返ると、類似の意味を持った概念は歴史上、いくども使われている。たとえば[[ジョン・ロック]]が一次性質と対比させて使った二次性質という概念、カントが[[物自体]]という概念と対比して使った[[表象]]、[[論理実証主義]]者たちが使用した[[センス・データ]](感覚与件)の概念、また[[現象学]]における現象、そして仏教における[[六境]]、[[西田幾多郎]]における[[純粋経験]]等がある。これらは異なる文脈や意味で使用されてきた言葉だが、主観的な意識的な体験、意識的な現れ、のことを主に指す言葉として、それぞれの時代の議論の中で用いられた。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=西洋哲学の歴史の中での扱いの変化を見ると、こうした意識へ表れるもの、というのは、長い間、もっとも確実で疑い得ないものとして扱われてきた。つまり主に[[認識論]](正しい知識とは何か、確実な知識とは何か、ということを扱う哲学の一分野)の議論の中で、一番確実視される基盤的なものとして扱われることが長く続いた。たとえばカントは、世界の本当の所どうなっているかは分からない(物自体は知りえない)、しかし意識への表れ、表象については語りうる、といった認識論を展開した。20世紀前半の論理実証主義者らは、科学の認識論的な基礎付けは、さまざまな命題を最終的には感覚的な言明(赤い色が見える、など)に帰着させることで達成されるだろう、といった考え方をした。しかしこうした20世紀前半まで、西洋哲学の中で、そうした主観的で意識的な感覚というのがそもそも何なのか、という議論はさほど活発ではなく、問われることもそう多くなかった。
20世紀終盤になって出てきたクオリアに関する説明のギャップやハードプロブレムの議論は、認識論の文脈というより、主観的な意識的体験とは何のか、これは脳と同じものか、違う存在か、といった存在論的な議論が大きい比重を占めている。|date=2022年7月}}
== 様々なクオリア ==
{{複数の問題|出典の明記=2022年10月|独自研究=2022年10月|正確性=2022年10月|section=1}}
{{要出典|範囲=人間の体験するクオリアは実に多彩であり、それぞれが独特の感じをもつ。たとえば視覚、聴覚、嗅覚からはそれぞれ全く違ったクオリアが得られる。どういった状態にクオリアがともない、またどういった状態にはともなわないのか、この点はしばしば議論の的となる。|date=2022年7月}}以下に、独特の質感を持つ、つまりクオリアを持つと多くの人が考えるものの例をあげる{{Efn2|こうした枚挙的な例示は様々な文献で見られるが、ここでの例示はチャーマーズの「{{lang|en|Conscious Mind}}」中での記述と、SEPにおける説明を基にしている{{要出典|date=2020年10月}}。}}。
[[ファイル:Ernst Mach Inner perspective.jpg|thumb|290x290px|[[エルンスト・マッハ]]が座椅子に腰かけ、左目だけを開けていたときの視覚体験。中央付近には右手に持った[[鉛筆]]、上にはマッハの眉毛、右側にはマッハ自身の鼻が、下にはマッハ自身の口ひげが描かれている。|代替文=]]
;視覚体験
:{{要出典|範囲=視覚体験の様々なクオリアのうち、色はその単純さから頻繁に議論の対象となり、特にリンゴの赤、空の青などがある。他に視野全体の明暗や、さらには奥行きともいわれる両目の視差や焦点のずれたときのぼやけた感じというのがクオリアに相当しうる。|date=2022年7月}}
;聴覚体験
:{{要出典|範囲=聴覚からもたらされるクオリアとして音色、音の高度、音程や和音、音が時間をかけて連なったときの音形、音楽を聞いたときにうける独特の感覚などがある。
;言語体験
:日本人に多いとされる[l]と[r]を区別できないという状態は、この2つの音または文字に対するクオリアが同一ということがありえる。[[ネコ]]の声をあらわす擬音は英語、[[ドイツ語]]、[[フランス語]]、[[中国語]]では[m]をふくむが,日本語では[n]をふくむ。これを同じ音に対しクオリアが異なる例とする説明はありえる。|date=2022年7月}}
;触覚体験
:{{要出典|範囲=触覚からもたらされるクオリアとしては、シルクの布を撫でた時に感じられるツルツルした感触、無精ひげの生えたあごを撫でた時に感じられるザラザラした感触、水を触ったときの感じ、他人の唇に触れたときの柔らかい感じなどがある。|date=2022年7月}}
:[[画像:(-)-menthol-3D-qutemol.png|thumb|250x250px|この形の分子を吸い込むと、メントールの香り、いわゆるミントの香りがする。|代替文=]]
;嗅覚体験
:{{要出典|範囲=嗅覚から得られるクオリアは、もっとも言葉で表現しにくい感覚のひとつである。朝、台所から流れてくる味噌汁の香り、病院に漂う消毒液の匂い、公衆便所の芳香剤の臭いなど。<!--- それぞれがどのような香りなのか説明してみろ、と言われても説明に困るのではないだろうか。---> 分子レベルのメカニズムとしては、臭いは鼻腔の奥の嗅細胞において検知される。ここで鍵と鍵穴の仕組みで、レセプターに特定の分子が結合した際に、特定の香りが体験される。しかしながら、ある特定の形状の分子が、なぜある特定の香りをともなっているのか、まだ分かっていない。また、[[マツタケ]]のにおいを芳香と感じる民族と悪臭と感じる民族があるように、民族により臭いのクオリアも違う可能性がある。|date=2022年7月}}
;味覚体験
:{{要出典|範囲=味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つの基本味から構成されていると考えられており、これらの組み合わせによって数々の食料・飲料品の味が構成されている。分子レベルのメカニズムは、嗅覚と同様に、舌にある味覚受容体細胞において、鍵と鍵穴の仕組みでレセプターに特定の分子が結合すると、特定の味が体験されることになる。しかしながら、嗅覚の場合と同様、ある特定の形状の分子が、なぜある特定の味をともなっているのか、まだ分かっていない。|date=2022年7月}}
;痛覚
:{{要出典|範囲=痛みの感覚は哲学者たちにとって、主観的な感覚について議論するための代表的な素材の一つとなっている。痛みに関する情報を伝達するC線維(疼痛)のような神経線維の活動電位と、火傷した皮膚のチリチリした痛みや、虫歯がもたらすズキズキとした感覚との間には、どういう関係があるのか。それは[[同一性]]の関係か、または別の種類のたとえば[[付随性]]といった関係か、といったことが議論される。ちなみに神経科学者の[[クリストフ・コッホ]]は虫歯になってその痛みに苦しんでいるときに、「歯痛がなぜ「痛い」のか、自分の持つ生理学の知識では理解できない」と思い、そこから意識の研究者となることを志したという。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=他にも冷熱体験や、さらには感情もクオリアをともなうと考えられている。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=心的表象、意識的な思考、そして自分という感覚は、それが質感を持つかどうかについて議論が分かれる。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=このようなクオリアの種類のことを'''感覚のモダリティー'''と呼ぶ。感覚のモダリティーは基本的にお互いに異なっているのだが、時には違ったモダリティーが混ざり合うこともあり、そのような現象は[[共感覚]]と呼ばれている。|date=2022年7月}}
== 定義と性質 ==
{{複数の問題|section=1|出典の明記=2020年10月|独自研究=2020年10月|正確性=2020年10月}}
Daniel Dennett はクオリアの要因として4つの特性を示した。
これによるとクオリアはつぎの4性質を備える。
* INEFFABLE, 言葉で表せない - 他者と伝達できない。その体験そのもの以外の何物によっても捉えられない。
* INTRINSIC, 内在的である - 相対的とか相関的なものではない。その体験自体とは別なこととの関係に依存しない。
* PRIVATE, 本人にしかわからない - クオリアについて人間相互で系統的に比較することはできない。
* directly or immediately apprehensible by consciousness, 知覚によって直接ないし即座に捉えられる - クオリアを体験することは、クオリアを体験する者を知り、なおかつそのクオリアについて知るべきすべてを知ることである。
クオリアがどういったものかであると定義するかには様々な考え方があるが、おおよそ次にあげるような性質があるものとして議論される。
; 言語化不可能({{lang-en-short|ineffable}})
: {{要出典|範囲=体験される質感そのものを言語化して伝えることは困難であるとされる。例えば生まれつきの色盲の人に「赤い」というのがどういうことか、「青い」というのがどういうことかを伝えようにも、言語化して質感そのものを伝えることには困難をともなう。質感そのものを言語として概念化しがたいことは、質感が'''言語という情報と直接的な因果関係がない'''({{lang-en-short|no conceptual}})ものだからという推測がある。|date=2022年7月}}
; 誤り不可能({{lang-en-short|incorrigible}})
: {{要出典|範囲=クオリアの性質として、それは誤り得ない(訂正を受けない)との主張がある。人は様々な錯覚を持ったり、また時に幻聴を聞いたり、外界の実在と対応しない人特有の様々な感覚を持つ。しかしそうした体験された感覚自体は、誤りえない実際の体験であるとの主張がある。|date=2022年7月}}
; 私秘的({{lang-en-short|private}})
: {{要出典|範囲=他者から観測できない個人的なものである、とされる。本人が特権的にアクセスできるという意味で'''特権的アクセス'''({{lang-en-short|privileged access}})という用語も存在する。|date=2022年7月}}
== クオリアに関する思考実験 ==
{{複数の問題|出典の明記=2022年10月|独自研究=2022年10月|正確性=2022年10月|section=1}}
[[ファイル:Inverted qualia of colour strawberry.jpg|thumb|right|250px|逆転クオリア (Inverted qualia) 同じ波長の光を受け取っている異なる人間は同じ「赤さ」を経験しているのか]]
クオリアの問題を扱った[[思考実験]]に以下のようなものがある。
; [[逆転クオリア]]
: 同等の物理現象に対して、異質のクオリアがともなっている可能性を考える思考実験。色についての議論が最も分かりやすいため、色彩について論じられることが最も多い。同じ波長の光を受け取っている異なる人間が、異なる「赤さ」または「青さ」を経験するパターンがよく議論される。'''逆転スペクトル'''とも呼ばれる<ref>{{Cite journal2 |last=Byrne |first=Alex |editor=Edward N. Zalta |title=Inverted Qualia |journal=The Stanford Encyclopedia of Philosophy |edition=Winter 2008 |url=http://www.illc.uva.nl/~seop/entries/qualia-inverted/}}</ref>。
; [[哲学的ゾンビ]]
: {{要出典|範囲=すべての面で普通の人間と何ら変わりないが、クオリアだけは持たない、という仮想の存在。心の哲学において、クオリアという概念を詳細に論じるためによく使われる。|date=2022年7月}}
; [[マリーの部屋]]
:{{要出典|範囲=生まれたときから白黒の部屋に閉じ込められている仮想の少女マリーについてのお話。マリーは白、黒、灰色だけで構成された部屋の中で、白黒の本だけを読みながら色彩についてのありとあらゆる学問を修める。その後、この部屋から解放されたマリーは色鮮やかな外の世界に出会い、初めて[[色]]、というものを実際に体験するが、この体験(色のクオリアの体験)は、マリーのまだ知らなかった知識のはずである。このことからクオリアが物理学的・化学的な現象には還元しきれないことを主張する。|date=2022年7月}}
; [[コウモリであるとはどのようなことか]]
:[[ファイル:Chalinolobus morio-Cayley.jpg|250x250px|代替文=|右]]
: [[コウモリ]]はどのように世界を感じているのか。コウモリは口から超音波を発し、その反響音をもとに周囲の状態を把握している([[反響定位]])。コウモリは、この反響音をいったい「見える」ようにして感じるのか、それとも「聞こえる」ようにして感じるのか、または全く違ったふうに感じるのか(ひょっとすると何ひとつ感じていないかも知れない)。こうしてコウモリの感じ方、といったことを問うこと自体は可能だが、結局のところ我々はその答えを知る術は持ってはいない。このコウモリの議論は、クオリアが非常に主観的な現象であることを論じる際によく登場する<ref name="bat_en">{{Cite journal2 |last=Nagel |first=Thomas |authorlink=トマス・ネーゲル |year=1974 |title=What Is it Like to Be a Bat? |journal=Philosophical Review |pages=435-450 |url=http://members.aol.com/NeoNoetics/Nagel_Bat.html}}</ref><ref name="bat_ja">{{Cite book | 和書 |author=トマス・ネーゲル |authorlink=トマス・ネーゲル |others=[[永井均]](訳) |title=コウモリであるとはどのようなことか |year=1989 |publisher=勁草書房 |ISBN=4-32-615222-2}}</ref>。
{{-}}
== 自然科学との関係 ==
{{複数の問題|section=1|出典の明記=2020年10月|独自研究=2020年10月|正確性=2020年10月}}
{{要出典|範囲=たとえばリンゴの色について考えた場合、自然科学の世界では「リンゴの色はリンゴ表面の分子パターンによって決定される」とだけ説明する。つまり、リンゴ表面の分子パターンが、リンゴに入射する光のうち700ナノメートル前後の波長だけをよく反射し、それが眼球内の網膜によって受け取られると、それが赤さの刺激となるのだ、と説明する。|date=2022年7月}}そして{{要出典|範囲=この一連の現象のうち、
* どのような分子がどのような波長の光をどれぐらい反射するのか([[光化学]])
* 反射した光は、眼球に入った後、どのようにして網膜の神経細胞を興奮させるのか(→網膜→錐体細胞→ロドプシン→レチナール)
* その興奮は、どのような経路を経て脳の後部に位置する後頭葉(視覚野)まで伝達されるのか(→視神経→視交差→視索→外側膝状体→視放線→視覚皮質)
* 後頭葉における興奮は、その後どのような経路を経て、脳内の他の部位に伝達していくのか(→腹側皮質視覚路、背側皮質視覚路)
という点に関しては神経科学でも物理学でも哲学でも、専門分野の違いに関わりなく、ほぼすべての研究者の間で意見が一致する。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=だがこうした物理学的・化学的な知見を積み重ねても最後のステップ、すなわち「この波長の光がなぜあの「赤さ」という特定の感触を与え、この範囲の光はどうしてあの「青さ」という特定の感触を与えるのだろうか」といった問題は解決されない。|date=2022年7月}}<!-- あとで別の場所に移します この問題は少なくとも数百年前から知られていたが、近年特に注目を集めるようになった。
[[トマス・ハクスリー]]の次の言葉
<blockquote>
''アラジンの魔法のランプをこするとなぜ魔人がでてくるのか、それは説明不可能である。同様に、神経組織への刺激がどのようにして意識の状態を生むのか、これもまた説明不可能である<ref>{{Cite book2 |last=Huxley |first=T.H. |last2=Youmans |first2=W.J. |title=The Elements of Physiology and Hygiene: A Text-book for Educational Institutions |year=1868 |page=78 |publisher=Appleton & Co. |url=https://books.google.co.jp/books?id=aVUAAAAAYAAJ&redir_esc=y&hl=ja}}</ref>。
</blockquote> -->
この現在の自然科学からは抜け落ちている残されたポイント、すなわち「物理的状態がなぜ、どのようにしてクオリアを生み出すのか」という問題について、哲学者[[ディビッド・チャーマーズ]]は1994年、ツーソン会議という意識をテーマとした学際的なカンファレンスで「それは本当に難しい問題である」として、その問題に「ハード・プロブレム」という名前を与えた<ref>「{{lang|en|Toward a Scientific basis for consciousness}}」米国 アリゾナ大学主催、1994年4月12 - 17日開催、米国アリゾナ州ツーソン市。 [http://www.conferencerecording.com/conflists/tsb94.htm サイト]</ref>。
向精神薬や大脳皮質への電気刺激の実験などからも分かるように、「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」の間には因果関係があると推測される。しかしながらそれが具体的にどのような関係にあるのかはまだ明らかではない。この「脳の物理的な状態」と「体験されるクオリア」がどのような因果関係にあるのか、という問題に対しては、抽象的ではあるが様々な仮説が提唱されている<ref>{{Cite journal2 |author=Anil K Seth |year=2007 |title=Models of consciousness |journal=[[Scholarpedia]] |volume=2 |issue=1 |page=1328 |doi=10.4249/scholarpedia.1328}}</ref>。こうした「クオリアを整然とした自然科学(とりわけ物理学)の体系の中に位置づけていこう」という試みは、'''クオリアの自然化'''({{lang-en|naturalization of qualia}})と呼ばれ、心の哲学における重要な議題のひとつとなっている<ref>{{Cite book |和書 |author=フレッド・ドレツキ |authorlink=フレッド・ドレツキ |others=[[鈴木貴之]](訳) |title=心を自然化する |year=2007 |publisher=勁草書房 |series=ジャン・ニコ講義セレクション2 |ISBN=978-4-326-19958-7}}</ref>。
== クオリアに関する様々な立場 ==
{{複数の問題|出典の明記=2022年10月|独自研究=2022年10月|正確性=2022年10月|section=1}}
クオリアに関する議論は様々な論点が知られている。なかでも最も大きな論争となるのは、クオリアは現在の物理学の中でどこに位置づけられるのかという、[[形而上学]]的・[[存在論]]的な位置づけについての哲学的な議論である。この問題に対する考え方や分類は論者によって様々であり、一概に分類することはできない。しばしば、各人の立場は物理主義から二元論までの段階的なスペクトルのどこかに位置づけられるとも言われる。ここでは簡単に[[心身問題]]の伝統的な三つの立場、[[物理主義]]的立場(いわゆる[[唯物論]]的立場)、そして[[二元論]]的立場、そして[[観念論]]的立場、の三つに分けて説明する。現在の議論の中心は主に物理主義的な立場と二元論的な立場の間で行われている。哲学的な立場に関するより詳細な分類については[[デイヴィッド・チャーマーズ|チャーマーズ]]による[[デイヴィッド・チャーマーズ#意識に関する立場の分類|A, B, C, D, E, Fの6分類]]<ref>{{Cite journal2 |author=David Chalmers |year=2003 |title=Consciousness and its Place in Nature |journal=The Blackwell Guide to Philosophy of Mind |editor=Stephen Stich, Ted A Warfield |series=Blackwell philosophy guides, 10 |ISBN=0631217754 |url=http://consc.net/papers/nature.pdf |format=PDF}}</ref>などがある。
=== 物理主義的立場 ===
{{main|物理主義}}
{{要出典|範囲=クオリアは何か非常に真新しく、現在の物理学の中には含まれていないもののように見えるが、そんなことはない、すでに含まれているのだ、という立場。こうした立場は一般に[[唯物論]]または[[物理主義]]的と呼ばれる。|date=2022年7月}}
この立場を取る世界的に有名な論者として[[フランシス・クリック]]<ref>{{Cite book |和書 |author=フランシス・クリック |authorlink=フランシス・クリック |title=DNAに魂はあるか―驚異の仮説 |year=1995 |publisher=講談社 |ISBN=4061542141}}({{要出典範囲|少し妙なタイトルだが、人間はニューロンのカタマリにすぎない、という主張を持つ一冊|date=2020年10月}})</ref>、[[ダニエル・デネット]]<ref>{{Cite book |和書 |author=ダニエル・デネット |authorlink=ダニエル・デネット |title=解明される意識 |year=1998 |publisher=[[青土社]] |ISBN=4-7917-5596-0}}</ref>、チャーチランド夫妻([[パトリシア・チャーチランド]]、[[ポール・チャーチランド]])が、また日本語圏で有名な論者として[[信原幸弘]]<ref>{{Cite book |和書 |author=信原幸弘 |authorlink=信原幸弘 |title=意識の哲学―クオリア序説 |year=2002 |publisher=[[岩波書店]] |ISBN2=4000265881}}</ref>、[[金杉武司]]<ref>{{Cite book |和書 |author=金杉武司 |authorlink=金杉武司 |title=心の哲学入門 |year=2007 |publisher=[[勁草書房]] |ISBN=978-4-326-15392-3}}</ref>がいる。この立場では[[フロギストン]]、[[カロリック]]、[[生気]]といった[[科学史]]上の誤りを例にとって、クオリアもそうした例のひとつに過ぎないと考える。物理主義的立場には、[[同一説]]、[[機能主義]]、[[消去主義]]、[[表象説]]、[[高階思考説]]など様々なバージョンがある。
==== 志向説(表象説)====
{{要出典|範囲=クオリアに関する物理主義的立場の代表的なものの一つが、志向説(表象説)である。その主要な論者は[[ギルバート・ハーマン]]、[[マイケル・タイ]]、[[フレッド・ドレツキ]]である。彼らによれば、クオリアは(あるいはクオリアの代わりにあるものは)、ある種の志向的内容(表象内容)である。このようにクオリアと志向性の関わりを積極的に提案する者はしばしば物理主義者であり、かつしばしば機能主義者であるが、必ずしもそうとは限らない。例えば[[デイビッド・チャーマーズ]]は物理主義者ではないが、クオリアと志向性に密接な関わりがあると考えている。|date=2022年7月}}
=== 二元論的立場 ===
{{main|自然主義的二元論}}
{{要出典|範囲=クオリアは現在の物理学の範囲内には含まれていない、と考える立場。つまり既知の[[物理量]]の組み合わせでクオリアを表現することはできない、という立場。こうした立場は一般に[[二元論]]的と呼ばれる。ただし二元論と呼ばれてはいるが、[[霊魂]]や[[魂]]の存在を仮定する[[ルネ・デカルト|デカルト]]的な[[実体二元論]]を主張しているわけではない。この点を区別するために現代の意識に関する二元論のことを[[自然主義的二元論]]とも言う。|date=2022年7月}}
{{要出典|範囲=この立場は大きく次の二つに分かれる。ひとつは「物理学の拡張によって問題は解決される」という立場である。そしてもう一つは「そもそも私達人間の思考能力、認知能力の範囲内では、この問題は解けない」という立場である。|date=2022年7月}}
[[ファイル:Tononi IITC 2.jpg|thumb|right|250px|[[ジュリオ・トノーニ]]の 意識の情報統合理論によれば、脳内で強く統合されたエレメント(皮質のミニコラム程度の大きさの要素)の特定の集まりが、コンプレックスと呼ばれる情報的な結合体を形成し、そのコンプレックス内での各エレメントの発火が単一のクオリアと非常に近い形で対応する、とする。そして、瞬間瞬間の意識体験は高次元空間(クオリア空間)上の一点で指定されるとする<ref name="Tononi_IITC" />。]]
[[ファイル:Conscious experience in Orch-OR theory.png|thumb|right|250px|[[ロジャー・ペンローズ|ペンローズ]]と[[スチュワート・ハメロフ|ハメロフ]]が提唱した客観収縮理論によると、[[波動関数]]が収縮する際に、意識体験(クオリア)が生まれる、とされる。]]
==== 物理学拡張派 ====
クオリアは現在の物理学に含まれていないから、クオリアを含んだより拡張された物理学を作ろう、という立場。世界的に有名な論者として[[デイビッド・チャーマーズ]]{{Sfn|チャーマーズ|2001|p=不明}}、[[ロジャー・ペンローズ]]<ref>{{Cite book |和書 |author=ロジャー・ペンローズ |authorlink=ロジャー・ペンローズ |others=[[林一]](訳) |title=心の影 意識をめぐる未知の科学を探る |publisher=[[みすず書房]]}} 一巻 {{ISBN2|4-622-04126-X}} 2001年、 二巻 {{ISBN2|4-622-04127-8}} 2002年4月</ref>が、またペンローズの流派に属する日本語圏で有名な論者として[[茂木健一郎]]<ref>{{Cite book |和書 |author=茂木健一郎 |authorlink=茂木健一郎 |title=脳とクオリア―なぜ脳に心が生まれるのか |1997 |publisher=[[日経サイエンス社]] |ISBN=4532520576}}</ref>がいる。この立場には二つの違った流れがある。
;1. 情報に注目する立場
:クオリアと物理現象の間をつなぐ項として、[[情報]]に注目している一連の研究の流れがある。[[ジョン・アーチボルト・ウィーラー]]の 「{{lang|en|it from bit}}」(すべてはビットからなる)という形而上学に影響を受けて主張された[[デイビッド・チャーマーズ]]の[[情報の二面説]]({{lang-en|dual-aspect theory of information}})や、[[ジュリオ・トノーニ]]の[[意識の情報統合理論]]<ref name="Tononi_IITC">{{Cite journal2 |last=Tononi |first=Giulio |authorlink=ジュリオ・トノーニ |year=2004 |title=An information integration theory of consciousness |journal=BMC Neuroscience |volume=5 |issue=42 |doi=10.1186/1471-2202-5-42}}</ref>のような数学的な構成を持った理論がある。トノーニは意識の単位は[[ビット]]だと主張する。
;2. 量子力学に注目する立場
:{{main|量子脳理論}}
:クオリアと[[量子力学]]における[[観測問題]]との間に何らかの関係があるのではないか、と考える一連の研究の流れがある。しばしば[[量子脳理論]]と一括りで表現されることもあるが、そうした理論の中で最も有名なものとして、[[ロジャー・ペンローズ]]と[[スチュワート・ハメロフ]]の提唱する波動関数の客観収縮理論(Orch-OR Theory)がある<ref>{{Cite journal2 |last=Hameroff |first=Stuart R. |authorlink=スチュワート・ハメロフ |last2=Penrose |first2=Roger |authorlink2=ロジャー・ペンローズ |year=1996 |title=Conscious events as orchestrated space-time selections |journal=Journal of Consciousness Studies |volume=3 |issue=1 |pages=36-53 |url=https://www.quantumconsciousness.org/sites/default/files/1996%20Hameroff_Penrose%20Conscious%20Events%20as%20Orchestrated%20Space%20Time%20Selections%20JCS%201996.pdf |format=PDF}}</ref><ref>{{Cite journal |和書 |author=スチュワート・ハメロフ |authorlink=スチュワート・ハメロフ |author2=ロジャー・ペンローズ |authorlink2=ロジャー・ペンローズ |editor=茂木健一郎(訳) |year=2006 |title=意識はマイクロチューブルにおける波動関数の収縮として起こる |journal=ペンローズの<量子脳>理論―心と意識の科学的基礎をもとめて |pages=139-194 |publisher=筑摩書房 |series=ちくま学芸文庫 |isbn=978-4480090065}}(上の論文の日本語訳)</ref>。この理論によれば、脳内で[[チューブリン]]という[[タンパク質]]の[[波動関数]]が収縮する際に、意識体験(クオリア)が生まれる、とされる。そしてこの収縮が連続して継起することで[[意識の流れ]]が生み出される、とされる。ただこれは理論物理学者が思考例として提示した仮説に過ぎないものであり、その内容はまだいたって概念的なものであって、数式や方程式の形で具体的に示されているわけではない。
==== ニューミステリアン ====
{{main|新神秘主義}}
{{要出典|範囲=クオリアは現在の物理学に含まれておらず、[[ハードプロブレム]]は依然として残っているが、私たち人間の能力では、この問題は解くことができないだろう、と考える立場。一般に[[新神秘主義]]と呼ばれる。|date=2022年7月}}
代表的な論者に[[トマス・ネーゲル]]、[[コリン・マッギン]]<ref>{{Cite book |和書 |author=コリン・マッギン |authorlink=コリン・マッギン |others=石川幹人(訳)、五十嵐靖博(訳) |title=意識の<神秘>は解明できるか |year=2001 |publisher=[[青土社]] |ISBN=4-7917-5902-8}}</ref>、[[スティーブン・ピンカー]]などがいる。ネーゲルは意識の主観性の問題を解決するには、宇宙に関する見方を根本的に変えるような概念枠の変化がない限り無理だろう、と考える<ref>{{Cite book |和書 |author=トマス・ネーゲル |authorlink=トマス・ネーゲル |others=中村昇(訳)、山田雅大(訳)、岡山敬二(訳)、齋藤宜之(訳)、新海太郎(訳)、鈴木保早(訳) |title=どこでもないところからの眺め |year=2009 |publisher=春秋社 |ISBN=9784393329047}}</ref><ref>{{Cite book |和書 |author=トマス・ネーゲル |authorlink=トマス・ネーゲル |others=[[永井均]](訳) |title=コウモリであるとはどのようなことか |year=1989 |publisher=[[勁草書房]] |ISBN=978-4326152223}}</ref>。マッギンは、人間という種が持つ固有の認知メカニズムはある一定の能力的限界を持っており、そのキャパシティを超えた問題が人間には把握できない、という[[認知的閉鎖]]({{lang-en|cognitive closure}})の概念を軸に置く。そして意識の問題はそうした私たち人間のキャパシティの範囲を超えた問題、つまり解決できない問題なのだと考える。
=== 観念論的立場 ===
{{main|観念論}}
主観性を思考の出発点に置きつつ物理主義と二元論の間の対立の構図を批判する立場がある。この立場から主張される主な論点として、物理主義も二元論もともに客観的な物理的実在を最初から前提している事についての批判、がある。たとえば[[マックス・ヴェルマンズ]]({{lang|en|Max Velmans}})は[[再帰的一元論]]({{lang-en|reflexive monism}})と呼ぶ自身の立場の中で(2008年、{{lang|en|''Reflexive Monism''}})<ref>{{Cite journal2 |last=Velmans |first=Max |year=2008 |title=Reflexive Monism |journal=Journal of Consciousness Studies |volume=15 |issue=2 |pages=5-50 |url=http://cogprints.org/6103/}}</ref>、客観的な物質概念は意識体験から得られたものであり、客観的な物質概念を最初から前提している立場は、それが物理主義的立場であれ二元論的立場であれ、そもそもの議論の前提がおかしいと主張する。こうした立場からの分析は[[現象学]]的アプローチ(Phenomenological approach)とも呼ばれる。
日本語圏では[[永井均]]がこれと似た主張を行う<ref>{{Cite book |和書 |author=永井均 |title=なぜ意識は実在しないのか |year=2007 |publisher=岩波書店 |ISBN=978-4000281577}}</ref><ref>{{Cite book |和書 |author=永井均 |coauthors=[[入不二基義]]、[[上野修 (哲学者)|上野修]]、青山拓央 |title=〈私〉の哲学を哲学する |year=2010 |publisher=講談社 |ISBN=978-4062165563}}</ref>。永井は客観的な物質概念はもとより、[[現象意識]]という概念も一種の構成概念であるとし、まずあるのはたった一つの自分の主観性(永井は[[<私>]]、「これ」などと書く)だけである点を強調する。加えて永井は主観的な意識の問題は、「現在であること」([[現在]]性、now)、「[[なぜ何もないのではなく、何かがあるのか|現実であること]]」([[現実]]性、actuality)などと同じ、内容的規定性を持たないという点からくる問題だとする(「今」が人によって違っても何も違うと言える所がない、この世界が実在の世界でなくただの可能世界であっても何も違うと言える所がない、この世界から<私>が消え去っても何も違うと言える所がない)。それゆえに、この問題は真性の問題ではあるけれども、にもかかわらず公共的な言語の上では語ることができないもの([[ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン|ウィトゲンシュタイン]]が言うところの「語り得ないもの」)であり、言語で取り扱えないものだとする。
=== 科学者 ===
{{複数の問題|section=1|出典の明記=2020年10月|正確性=2020年10月}}
[[ファイル:Neural Correlates Of Consciousness.jpg|right|thumb|500px|[[意識に相関した脳活動|NCC]] 探索の基盤となる枠組み。散歩しているイヌ(一番左)を見ている人(左から二つ目)の脳内で起きている様々な神経細胞の興奮(左から三つ目)の集まりのうち、その一部がNCCとして(図中の丸で囲まれている部分)、心に浮かぶイヌの像(一番右)つまり主観的な意識体験を生み出す役割を担っている、とする。[[クリストフ・コッホ]]に代表される一部の神経科学者たちは、こうした考え方のもと、NCCを発見・同定することを目指して研究を行っている。]]
科学の立場からの研究においては、上に述べたようなクオリアに関する[[存在論]]的な議論(「この世界に本当にあるのは何か?」という議論)には直接関わらないのが一般的である。神経科学分野の有名な(非常に分厚い)教科書 [[エリック・カンデル|カンデル]]の [[:en:Principles of Neural Science|Principles of Neural Science]] では意識の主観性の問題に数ページを割いている。そこでは、科学者には[[ハードプロブレム]]に直接取り組む前にやるべき事がまだ数多くあるのでそこを研究していけばよい、ということを科学者としての一つの一般的姿勢として示している<ref>{{Cite book2 |last=Kandel |first=Eric |authorlink=エリック・カンデル |last2=Schwartz |first2=James |last3=Jessell |first3=Thomas |title=Principles of Neural Science |year=2000 |publisher=McGraw-Hill Medical |edition=4 |page=398 |ISBN=978-0838577011}}</ref>。[[フランシス・クリック]]は「ハードプロブレムに直接取り組むべきでない」こと、また[[クリストフ・コッホ]]は「[[意識の神経相関物]]と意識体験の関係を仮定せず」に研究を行うことを書いている<ref>{{Cite journal2 |last=Crick |first=Francis |authorlink=フランシス・クリック |last2=Koch |first2=Cristof |authorlink2=クリストフ・コッホ |year=2003 |title=A framework for consciousness |journal=Nature Neuroscience |volume=6 |issue=2 |pages=119-126 |pmid=12555104 |doi=10.1038/nn0203-119}}</ref>。こうした科学者の主張する内容にはいくつかの点があるが、主に次のようなものがある。
* 意識の問題は実証的な[[科学]]の問題であり、哲学者がやるような椅子に腰掛けて思考実験や概念分析を繰り返すだけで前に進む問題ではない。
* 哲学者は歴史的に多くの問題を提起してきたが、それを自分たちで解決できたことはない。哲学者が議論を通して生み出す色々な概念は一定の有用性があるけれども、それだけではダメであり、意識について科学的に地道に研究していく必要がある。
* 意識についての科学研究はまだほとんど進んでいない。科学的に調査出来ることがまだまだ膨大にある現状で、たとえば[[新神秘主義]]のように意識の問題は解決できないといった立場を主張することなどは、時期尚早である。
こうした考えを背景に科学者は意識体験に関する実証的な調査・研究を進めている。
==== 意識に相関した脳活動の探索 ====
意識と相関するニューロン([[意識に相関した脳活動]]:{{lang|en|NCC: neural correlates of consciousness}} 特定の意識体験を起こすのに必要な最小の[[ニューロン]]のメカニズムとプロセス)を同定していく研究<ref>{{Cite journal2 |last=Mormann |first=Florian |last2=Koch |first2=Christof |title=Neural correlates of consciousness |journal=[[:en:Scholapieida|Scholarpedia]] |volume=2 |issue=12 |page=1740 |url=http://www.scholarpedia.org/article/Neural_correlates_of_consciousness}}</ref>。クリストフ・コッホ<ref>{{Cite book |和書 |author=クリストフ・コッホ |others=[[土谷尚嗣]](訳)、[[金井良太]](訳) |title=意識の探求―神経科学からのアプローチ |year=2006 |publisher=[[岩波書店]]}} 上巻:{{ISBN2|4000050532}} 下巻:{{ISBN2|4000050540}}</ref>が有名である。
==== 事例・症例の研究 ====
これはNCCの研究と並行するが、[[盲視]]、[[半側空間無視]]、[[共感覚]]、[[幻肢痛]]、といった様々な事例・症例の調査・研究をもとに質感の問題にアプローチしていくスタイル。[[ラマチャンドラン]]<ref>{{Cite book |和書 |authorヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン |authorlink=ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン |others=[[山下篤子]](訳) |title=脳のなかの幽霊、ふたたび―見えてきた心のしくみ |year=2005 |publisher=[[角川書店]] |ISBN=4047915017}}</ref>が有名。
一般に科学者たちは哲学的な意味での自身の立場ははっきりと主張しないことが多い。科学者ならば全員が物理主義者なのだろう、とも思うかもしれないが、別にそういう分けではなく、各人のクオリアに対する哲学的な立場は様々である。たとえば運動準備電位の研究で有名な[[ベンジャミン・リベット]]や、また睡眠の研究者である[[ジュリオ・トノーニ]]のように、[[自然主義的二元論]]的な意識についての理論を発表している者もいるし、また[[ヴィラヤヌル・ラマチャンドラン]]のように自分は[[中立一元論]]者だとはっきり哲学的なポジションを明言しているような科学者もいる。
== 論点 ==
{{複数の問題|section=1|出典の明記=2020年10月|独自研究=2020年10月|正確性=2020年10月}}
クオリアという主題には数多い論点があり、その全体をここで網羅しきることはできない。幾つかの代表的な論点を挙げる。
まず有名な論点として「そもそもクオリアなんてない」という非常に根本的な反論がある。こうした主張を強く行う人物として有名な哲学者として[[ダニエル・デネット]]がいる<ref>{{Cite book |和書 |author=ダニエル・C・デネット |authorlink=ダニエル・デネット |others=[[土屋俊]](訳)、土屋希和子(訳) |title=スウィート・ドリームズ |year=2009 |publisher=エヌティティ出版 |ISBN=978-4757160132}}</ref>。デネットの立場は[[消去主義的唯物論]]([[:en:Eliminative materialism|Eliminative materialism]])、または消去主義(Eliminativism)と言われる。デネットが行う主張を左側として、デネットがその論敵としている対立側を右側として、両サイドがどういった点で対立し、そしてどういう点では一致しているのか、その状況を以下に簡単に一覧する。
{| class="wikitable" border="1" style="width: 100%; word-break: break-all; word-wrap: break-all;"
|-
! 感覚質などない
! 感覚質はある
|-
| 脳のすべての過程は物理的・科学的な方法で説明、解明できる。
| 脳のすべての過程は物理的・科学的な方法で説明、解明できる。
|-
| それで、もう説明されずに'''残るものなどない'''。それで意識の全てが説明される。
| それでも説明されずに'''残るものがある'''。それがクオリアである。
|-
| 脳の過程で説明されないクオリアというのが何のことなのか、分からない。右のような考えは素朴な'''直感'''に基づいた、誤った考え、単なる'''錯覚'''である。
| 脳の過程より何より、クオリアが在ることほど、確実なことはない。左のような主張はどこかで'''現象性を密輸入'''しているか、'''自己欺瞞'''であるか、または神経系における何らかの'''機能的障害'''であろう。
|-
| 右のような奇妙な事をこれほど自信満々に言う人たちが、一体なぜいるのか。これには何らかの科学的な説明が必要だろう。
| 左のような奇妙な事をこれほど自信満々に言う人たちが、一体なぜいるのか。これには何らかの科学的な説明が必要だろう。
|-
| 現象判断の過程、つまりクオリアについて判断している神経過程について科学的に研究すべきである。
| 現象判断の過程、つまりクオリアについて判断している神経過程について科学的に研究すべきである。
|}
デネットからすると、クオリアがある、などという主張は錯覚でしかなく、[[ハードプロブレム]]は完全な[[擬似問題]]である。しかし質感があると確信している側は、この問題を「錯覚」として消去しようという主張は、あり得ないとして拒絶する。この点についてデネットは、これほど強い錯覚が生じるのは、それを担っている一定の神経基盤があるからだろうと論じる。心理学者[[ニコラス・ハンフリー]]もデネットと似た立場を取る<ref>{{Cite book |和書 |author=ニコラス・ハンフリー |authorlink=ニコラス・ハンフリー |others=[[柴田裕之 (翻訳家)|柴田裕之]](訳) |title=赤を見る―感覚の進化と意識の存在理由 |year=2006 |publisher=紀伊國屋書店 |ISBN=978-4314010177}}</ref>。ハンフリーによれば、ヒトにとって意識が不可解に思えるのは、そういう錯覚を生み出す機構が脳内にあるからであり、そして「不可解に思えること」それ自体が[[進化]]的な意味を持っている、とする。つまり意識が不可解に思えるという錯覚が、不滅の霊魂や来世といった信念の余地を残し、それにより知性を持った人間を完全な絶望からくる[[自殺]]から遠ざける、といった意味を持っただろうとする。つまり「意識を不可解であると誤解する機能」からの[[適応度]]の向上(残される子孫の数の増加)への寄与があったのではないか、とする。
逆に[[ネド・ブロック]]などは、デネットは認知に関わるある種の機能障害を持っているのではないか、という可能性を指摘する。ブロックがこうした主張を行う背景には一定の経験がある。ブロックは自身の教員としての経験から、現象性の問題を理解できない人が、なぜかは分からないが一定数いる、と語っている。ブロックによれば、大学初年度の学生に[[逆転クオリア]]の思考実験について説明すると、およそ3分の2の学生は「何を言ってるか分かる」と答えると言う。中には小さいころから自分でその問題を考えていた、という学生もいるという。しかし残りの3分の1の学生は「何の話をしているのか分からない」と答えると言う。ブロックは逆転クオリアの思考実験は、10歳に満たない自分の娘でも理解できたのに、なぜ一部の大学生に理解できないなどという事があるのか、と疑問を持つ。そしてブロックは、ある種の認知的な機能の違いが、現象性の問題の理解を妨げてるのではないかという可能性を指摘する。そしてそうした人の中から、デネットのような主張を行う人が出てくるのではないか、とする。そして、こうした機能的差異は実験的に研究できる対象であろうから、逆転クオリアのようなある種の思考実験への反応と、他のファクターとの相関を取って研究することが可能ではないか、と指摘する{{Sfn|ブラックモア|2009|loc=第一章 「ネッド・ブロック‐機能主義に反駁したいと思ってるんです」}}。
こうして両サイドの主張は真っ向から食い違っているものの、現象判断の過程、つまりクオリアについて判断している神経過程について科学的に研究することが重要だ、という点では、両サイドにいる多くの論者の考えは一致している。
== 関連する話題 ==
{{複数の問題|出典の明記=2022年10月|独自研究=2022年10月|正確性=2022年10月|section=1}}
=== 意識メーター ===
クオリアの科学はどのようにすれば可能なのか。[[科学的方法|科学的方法論]]に基づいてクオリアを扱おうとすると出会う最大の困難は、[[実験]]で直接クオリアを測定できないことである(将来的にどうであるのかについてはクオリアに対して取る哲学的立場により帰結は異なる。物理主義的立場なら原理的には可能であろうし、二元論的立場ならその因果的な性質に応じて、可能または不可能である)。このことを「我々は意識メーター(consiousness meter)を持たない」などと比喩的に表現することもある<ref>{{Cite book |和書 |author=クリストフ・コッホ |others=土谷尚嗣(訳)、金井良太(訳) |title=意識の探求―神経科学からのアプローチ |year=2006 |publisher=岩波書店}} 上巻:{{ISBN2|4000050532}} 下巻:{{ISBN2|4000050540}}</ref>。この他者の主観的経験を観測できないという問題は、歴史的には[[他我問題]]として議論されてきた(この観測不可能性を他者の内面の不存在にまで極端化した立場は[[独我論]]と呼ばれる)。例えば、単純に観測できそうな快感の度合いすら他者には観測できない。{{要出典|範囲=顔を歪め息も絶え絶えに体を痙攣させている女性がいるとしよう。一見、苦痛を感じてるように見えるが、実際にはA10神経が興奮しβエンドルフィンが多量に分泌され、激しい快感を覚えていることが分かる。ここまでは分かる。しかし、その快感がどのように感じられているのかが分からないのである。実際にオーガズムを感じたことのない女性には、それがどのようなものかが分からないということはとても多い。実際に感じるしか方法がない現在、どうすればクオリアや意識を科学の表舞台に引き上げられるのか、その方法論や哲学的基礎づけに関して様々な議論がなされている。|date=2022年7月}}
=== 何がクオリアを持つのか===
クオリアが存在論的な意味で何であるかとは別として、何がクオリアを持つのか、という問題がある。人間の大人は質感を持つことは一つの前提となるが、そこから距離を置いたものとしてよく議論されるのが以下の三つである。
; [[赤ん坊]]の意識
: {{要出典|範囲=ヒトは[[精子]]と[[卵子]]が結合した受精卵が[[細胞分裂]]を繰り返し成長していくことで人間の形となっていく。出産後もさらに大きい変化を続けて最終的に大人となる。この間のどの段階で意識体験が現れるか、また質感・クオリアが生まれるか。はっきりとした時点は明確ではない。|date=2022年7月}}
[[File:Elephants.jpg|thumb|どのような生物が質的経験を持つのだろうか。たとえば[[ゾウ]]は「[[痛み]]」の質感を経験するだろうか。またはそうした経験をしているのは人間だけだろうか。こうした問題についての議論にはっきりとした結論は出ていない。|代替文=|250x250ピクセル]]
; 動物の意識(Animal consciousness)
: [[系統学]]的にヒトに近い[[チンパンジー]]や[[ゴリラ]]などの霊長類から、[[イヌ]]、[[ネコ]]、[[コウモリ]]などの[[哺乳類]]、さらに[[トカゲ]]などの爬虫類、他にも[[イカ]]、[[タコ]]、[[ハエ]]、[[ゴキブリ]]、[[ミミズ]]、[[ミジンコ]]など地球上には様々な動物がいる。これら動物の中でヒト以外でクオリアを持つ動物はいるのか、いるとしたらそれはどれか、といった議論がある<ref>{{Cite journal2 |last=Allen |first=Colin |editor=Edward N. Zalta |title=Animal Consciousness |journal=The Stanford Encyclopedia of Philosophy |edition=Summer 2011 |url=http://plato.stanford.edu/archives/sum2010/entries/consciousness-animal}}</ref>。{{要出典|範囲=一般に高い[[知能]]を持つ生物を対象にして議論が行われることが多い。ちなみにそれぞれの生物が持つ独自の知覚世界は[[環世界]]と呼ばれる。<br/>神経学者の[[ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン|ラマチャンドラン]]はクオリアを持つには脳内で「感覚の[[表象]]」の表象、つまりメタ表象(Meta-representation)が実現されていることが必要であるとする。このメタ表象の機能は言語機能と密接に関わっているだろうとして、そこからクオリアを持つのはヒトのみであるだろうとする。こうした考えに対し、複雑な神経系を持つヒトのような生物だけでなく、より単純な生物まで広くクオリアが拡がっているとする考えもある。こうした立場の最たるものは一種の[[汎心論]]である。哲学者の[[デイヴィッド・チャーマーズ|チャーマーズ]]は生物のみならず[[岩石|岩]]やサーモスタットといった非生命的な物質にも、より単純ではあるが何らかの意識体験があるだろうとする。<br/>動物の意識の議論は学問的には、まず、宇宙の歴史のどの段階で意識体験が発生したか、という意識に関する歴史的な点についての問題である。ラマチャンドランのように、ヒトのような高等生物のみに質的経験があるとするならば、クオリアは宇宙の進化のある段階において、ある場所に初めて現れるものということになる。逆にチャーマーズのように汎心論的な立場を取れば、意識体験は宇宙が存在し始めた時から、ずっと存在し続けていたことになる。また動物の意識の議論は、[[動物倫理]]などの観点からも問題となる。つまり、もしある生物が[[痛み]]や[[苦しみ]]を体験しているなら、そうした生き物を苦しめるべきではない、といった道徳的な議論とつながる。|date=2022年7月}}
; 機械の意識(Machine consciousness、[[人工知能]]、[[人工意識]])
: 将来のコンピューターが会話を行い、センサーを通じて外部の光の[[波長]]を処理できたような場合に、その人工知能は赤さを感じることになるのか<ref>{{Cite book |和書 |author=柴田正良 |title=ロボットの心 |year=2001 |publisher=講談社 |series=講談社現代新書 |ISBN=4-06-149582-8}}</ref>。関連する思考実験として、[[中国脳]](人工知能に主観的意識体験は宿るのか)や、[[ジョン・サール|サール]]によって提出された[[中国語の部屋]]などがある。
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{複数の問題|section=1|出典の明記=2020年10月|独自研究=2020年10月|正確性=2020年10月}}
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 参考文献 ==
=== 辞事典 ===
;日本語辞典
* {{Cite book |和書
|last = 新村
|first = 出
|authorlink = 新村出
|title = [[広辞苑]]
|edition = 第七版
|date = 2018-01-12
|publisher = 岩波書店
|isbn = 978-4000801317
|ref = harv
}}
;脳科学・神経科学辞典
* {{Cite book|和書
|last = 土谷
|first = 尚嗣
|authorlink = 土谷尚嗣
|year = 2016
|chapter = クオリア
|title = 脳科学辞典
|editor = [[定藤規弘]](担当編集委員)・[[林康紀]](編集委員長)
|publisher = 京都大学大学院 医学研究科 システム神経薬理学分野
|doi = 10.14931/bsd.7155
|url = https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AF%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%A2
|accessdate = 2021-04-09
|ref = harv
}}
=== 理学・理工学・医療科学・医工学 ===
* {{Cite journal |和書
|last1 = 土谷
|first1 = 尚嗣
|last2 = 西郷
|first2 = 甲矢人
|authorlink2 = 西郷甲矢人
|title = 圏論による意識の理解(誌上討論:圏論的アプローチで意識は理解できるか)
|date = 2019
|publisher = 日本認知科学会
|journal = 認知科学
|volume = 26
|issue = 4
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|pages = 462-477
|ref = harv
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* {{Cite journal |和書
|last = 茂木
|first = 健一郎
|authorlink = 茂木健一郎
|title = クオリアと人間の知性
|date = 2001-08-15
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|publisher = 日本知能情報[[ファジィ]]学会
|journal = 日本ファジィ学会誌
|volume = 13
|issue = 4
|doi = 10.3156/jfuzzy.13.4_14
|pages = 356-363 (14-21)
|accessdate = 2022-06-30
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|last = Chalas
|first = Kathleen
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|first2 = Jonathan R.
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|last4 = Houston
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|title = Triggered Sensor Data Capture in a Mobile Device Environment; Application Number 15 / 355,262; Publication Number US20180144100 15/355262
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|url = https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22Triggered%20Sensor%20Data%20Capture%20in%20a%20Mobile%20Device%20Environment%22&btnG&lr&authuser=0
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|date = 2009-08-14
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|last = 茂木
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|title = Books Written by 茂木健一郎
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|date = 2002-05-20
|url = http://www.qualia-manifesto.com/books.html
|publisher = 茂木健一郎
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* {{Cite web |和書
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|first = 健一郎
|title = 「脳とクオリア」updater
|year = 2002b
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* {{Cite web |和書
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|title = 「脳とクオリア」updater 序章
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|date = 2002-05-20
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=== 人文科学・哲学 ===
* {{Cite book |和書 |author=柴田正良 |authorlink=柴田正良 |coauthors=美濃正、服部裕幸、月本洋、伊藤春樹、[[前野隆司]]、[[三浦俊彦]]、柏端達也、篠原成彦 |editor=長滝祥司(編) |title=感情とクオリアの謎 |year=2008 |publisher=昭和堂 |ISBN=978-4812208083 |ref=harv}}(感情およびクオリアについての、日本人哲学者および科学者らによる論文集。最後には対談も付けられている。各論文は独立しており、議論されている内容は様々である。)
* {{Cite book |和書 |last=チャーマーズ |first=デイビッド |authorlink=デイビッド・チャーマーズ |others=[[林一]](訳) |title=意識する心-脳と精神の根本理論を求めて |year=2001 |publisher=白揚社 |ISBN=4-8269-0106-2 |ref=harv}}(翻訳元は {{Cite book2 |title=The Conscious Mind: In Search of a Fundamental Theory |year=1996 |publisher=Oxford University Press}} ハードカバー版:{{ISBN2|0-19-511789-1}}、文庫本版:{{ISBN2|0-19-510553-2}}。[[意識のハードプロブレム]]について論じた一冊。この本の要旨は以下の三点。1. 脳に関する知見を現在の物理学の枠内で深めていっても、クオリアについての説明は出てこない(この論証に[[哲学的ゾンビ]]が使われる)。2. ゆえに現在の物理学は拡張されなければならない。3. この拡張は、物理状態とクオリアの間をつなぐ共通項として「情報」を基礎に置いていくようなものになるはずである。当書は現代科学と分析哲学についての一定の知識を前提とした上で、細かい論点についての議論が長々と続く大部の著作であり、初学者が読みきるのはおそらくあまり楽なものではない。)
* {{Cite book |和書 |last=ブラックモア |first=スーザン |authorlink=スーザン・ブラックモア |others=[[山形浩生]](訳)、守岡桜(訳) |title=「意識」を語る |year=2009 |publisher=NTT出版 |ISBN=4757160178 |ref=harv}}(翻訳元は {{Cite book2 |title=Conversations on Consciousness |year=2007 |publisher=Oxford University Press}} ハードカバー版:{{ISBN2|0195179595}}。意識に関する二つの大きな国際会議、[[ツーソン会議]]と[[ASSC]]の会場で、様々な分野の研究者20人にインタビューした記録をまとめた本。クオリア、ゾンビ、ハードプロブレム、自由意志について、それぞれの研究者に「あなたはどう思いますか」という形で質問をぶつける構成。ブラックモアは現代の意識研究に関する知識が豊富で、それぞれの相手に対しかなり突っ込んだインタビューを行っている。クオリアの問題に関し、現在いかに人々の間で意見が割れているか、それを知るうえで有用な一冊。)
* {{Cite book |和書 |last=ブラックモア |first=スーザン |others=筒井晴香(訳)、[[信原幸弘]](訳)、西堤優(訳) |title=意識 |year=2010 |publisher=岩波書店 |series=〈1冊でわかる〉シリーズ |ISBN=978-4000269018 |ref=harv}}([[オックスフォード大学出版局]]の [[:en:Very Short Introductions|Very Short Introductions]] シリーズの邦訳。翻訳元は {{Cite book2 |title=Consciousness: A Very Short Introduction |year=2005 |publisher=Oxford University Press |ISBN=9780192805850}} ハードプロブレムの解説から始まり、現代の意識研究に関する哲学的な議論および科学的な研究を手短にまとめている。イラストや写真も挟まれ、それほど前提知識を必要としない教科書的な構成となっている。当書は簡潔な構成だが、ブラックモアによる意識の解説書としてより詳細なものに {{Cite book2 |title=Consciousness: An Introduction |year=2011 |publisher=Oxford University Press |ISBN=978-0199739097}} がある。ただしこちらは2011年6月時点で未邦訳である。)
* {{Cite journal |和書
|last = 三村
|first = 尚彦
|authorlink = 三村尚彦
|title = 身体による「一人称的パースペクティブ」の拡張 ― 「二人称の科学」としての現象学 ―
|date = 2013
|publisher = 日本トランスパーソナル心理学/精神医学会
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|ref = harv
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==== 日本語のオープンアクセス文献 ====
* {{Cite journal |和書 |author=入不二基義 |authorlink=入不二基義 |year=1997 |title=Qualiaの不在 |journal=[[科学哲学 (学術雑誌)|科学哲学]] |volume=30 |pages=77-92 |publisher=日本科学哲学会 |doi=10.4216/jpssj.30.77 |ref=harv}}
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* {{Cite journal |和書 |author=村田徳幸 |date=2007-03 |title=科学的アプローチによるクオリア概念の再考 |journal=哲学誌 |volume=49 |pages=37-55 |publisher=東京都立大学哲学会 |naid=110006345356 |id={{hdl|10748/4524}} |ref=harv}}
== 関連項目 ==
* [[計算神経科学]]{{Ndash}}[[計算生物学]]{{Ndash}}[[データ科学]]{{Ndash}}[[医用生体工学|医工学/医用生体工学]]
** [[合理化]]{{Ndash}}[[計測]]{{Ndash}}[[定量的研究]]{{Ndash}}[[定量分析]]
*** [[意識の統合情報理論]]
* [[脳科学]]{{Ndash}}[[認知心理学]]
** [[共感覚]]{{Ndash}}異なるモダリティの感覚が混ざりあって体験される現象。
** [[盲視]]{{Ndash}}見えていないといいながら、視覚刺激に反応できる症状。
** [[幻肢痛]]{{Ndash}}手や足を失った人が、失った手足を痛いと感じる症状。
** [[両眼視野闘争]]{{Ndash}}左右の目に異なる映像を与えたとき、映像が交互に入れ替わりながら体験される現象。
* [[心理学]]{{Ndash}}[[心の哲学]]{{Ndash}}[[哲学]]
** {{仮リンク|主観主義|en|subjectivism}}{{Ndash}}[[主情主義]]{{Ndash}}[[主意主義]]
** {{仮リンク|客観主義|en|Objectivism (disambiguation)|preserve=1}}{{Ndash}}[[主知主義]]
*** [[主体と客体]]
** [[美意識]]
** [[紫色のクオリア]]{{Ndash}}クオリアと並行世界をテーマにしたSF作品。
== 外部リンク ==
'''日本語'''
* {{脳科学辞典|クオリア}}
'''英語'''
* {{SEP|qualia|Qualia}}
* {{IEP|qualia|Qualia}}
* {{PhilP|183|Qualia}}
{{Nervous system}}{{統計学}}{{心の哲学}}
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[[Category:クオリア|*]]
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7,361 | 東北本線 | 東北本線(とうほくほんせん)は、東京都千代田区の東京駅から岩手県盛岡市の盛岡駅を結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(幹線)である。
本線(首都圏では日暮里駅 - 田端駅 - 上中里駅 - 赤羽駅 - 浦和駅 - 大宮駅間、仙台地区では長町駅 - 仙台駅 - 東仙台駅間を経由)のほか、日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅間、赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間(埼京線の一部)、長町駅 - 東仙台駅間(通称:宮城野貨物線)、岩切駅 - 利府駅間(通称:利府線)の支線を持ち、これらの正式な線路名称は東北本線である。なお、2015年に開業した松島駅 - 仙石線高城町駅間の連絡線(仙石線・東北本線接続線)も同様に東北本線の一部区間として扱われている。
広義では、東北新幹線も東北本線に含める場合があるが、本項目では在来線としての東北本線について記す。新幹線については「東北新幹線」などの新幹線路線記事を、また在来線の地域ごとの詳細及び東北新幹線の八戸および新青森延伸に伴って第三セクター鉄道に移管された盛岡駅以北については以下の記事も参照。
東北本線は、もともと日本鉄道が建設した路線で、上野駅から青森駅までの線路と、上野駅と秋葉原駅間を短絡する貨物線の線路からなる、日本最長の営業キロを持つ路線であった。東京と青森の間を、大宮・宇都宮・郡山・福島・仙台・一関・盛岡・八戸を経由して、関東地方内陸部と東北地方内陸部を縦断して結んでいた。これはのちに開業する東北新幹線設置駅とも同様であり、ほぼ並走している。途中の沿岸区間は、岩沼 - 松島と八戸以北である。
1891年(明治24年)に全線開通、その後1925年(大正14年)の山手線環状運転開始時に敷設された東京駅 - 秋葉原駅間の電車線も東北本線に組み込まれ、営業キロが739.2 km と日本最長の路線となった。第二次世界大戦終結後の高度経済成長期には長距離の特急・急行列車が大幅増発されたが、1982年(昭和57年)に東北新幹線の大宮駅 - 盛岡駅間が開業すると、長距離列車は新幹線経由での運行に移行し、並行する東北本線在来線列車は中距離列車に置き換えられた。東北本線の旅客輸送は地域輸送中心の体制に移行しており、全線を走行する定期旅客列車は存在せず、栗橋駅 - 岩沼駅間、仙台駅 - 盛岡駅間には特急列車は運行されていない。2002年(平成14年)12月1日には同新幹線の盛岡駅 - 八戸駅間が開業、2010年(平成22年)12月4日には八戸駅 - 新青森駅間も開業し、その区間で並行する東北本線在来線はJR東日本から第三セクター会社(盛岡駅 - 目時駅間はIGRいわて銀河鉄道、目時駅 - 青森駅間は青い森鉄道)に経営が移管された。この結果、東北本線在来線は東京駅 - 盛岡駅間の全長535.3 km(支線含まず)の路線となり、山陰本線・東海道本線に次ぐ在来線で3番目に長い路線となった。
東北本線には旅客列車のほか、首都圏と沿線各地や北海道を結ぶJR貨物の貨物列車も多数運行されており、隅田川駅 - 札幌貨物ターミナル駅間は「北の大動脈」とも比喩されている。多くの貨物列車が東海道本線を経て東海道・山陽・九州方面と、IGRいわて銀河鉄道線・青い森鉄道線・海峡線を経て北海道方面と直通している。
電化方式は栃木県の黒磯駅を境に、同駅以南では直流電化 (1500 V)、以北では交流電化 (20 kV・50 Hz) となっており、普通列車は黒磯駅以南では直流電車、黒磯駅 - 白河駅間では交直流電車、新白河駅以北では交流電車がそれぞれ使用されている(使用車両節参照)。黒磯駅を越えて運転される在来線旅客列車は、臨時列車のみで、定期旅客列車は存在しない。
東北本線の線路名称上の起点は1925年以来東京駅であり、同駅は1991年以来東北新幹線の起点ともなっているが、旅客案内上や時刻表などで「東北本線」と呼ばれている中・長距離旅客列車は1960年代以前の一部の東海道線(東海道本線)直通列車を除いて長年にわたり、東京都台東区の上野駅を起点として運行されていた(後節を参照)。また1968年9月30日まで大宮駅 - 赤羽駅間は国電(京浜東北線)と列車が同じ線路を共用していたが、翌10月1日に電車線と列車線に分離が行われ現在の別系統での運転が完成した。東京駅 - 上野駅間の列車線は東北新幹線東京駅延伸による用地確保のため1973年に廃止され、それ以降は電車線を走行する東京近郊の近距離電車(運転系統としての中央線・山手線・京浜東北線)のみとなっていた が、廃止から42年後の2015年より同区間の列車線が再び敷設され上野東京ラインとして東海道線との相互直通運転が再開された。
現在「東北本線」と呼ばれる線路は、日本鉄道の時代は「奥州線」と呼ばれたり、地図上では「東北鉄道」などの記載も見られたりしたが、同社の定款では「第一区」から「第五区」、国有化直前時点の定款では仙台駅を境に「本線南区」・「本線北区」と称していた。国有化後の1909年(明治42年)10月12日には国有鉄道線路名称(明治42年鉄道院告示第54号)により、当線は主な経由地(福島県・宮城県・岩手県・青森県)の地方名として定着していた「東北」を冠し「東北線の部 東北本線」となった。この時「東北線の部」に属していた路線は東北本線、山手線、常磐線、隅田川線、高崎線、両毛線、水戸線、日光線、岩越線、塩釜線、八ノ戸線の11路線であり、東北本線はこの中の「本線」とされ「東北線の部」の幹線であった。主要経由地の4県は明治以前の令制国では陸奥国(奥州)の地域であったが、戊辰戦争の戦後処理の一環で明治政府が出羽国(羽州)と共に1868年(明治元年)に分割(「陸奥国 (1869-)」参照)、これに伴い民権派が薩長土肥を『西南』と呼んだのに対し、旧奥羽両国を指す新名称として明治10年代から使用し、当線の改称時には一般化していた「東北」が採用された。
現在の東北本線では、当路線内運行の列車のほか、当線経由で他線各地に向かう列車も運行されている(地域輸送を参照)。こと東京駅 - 大宮駅間ではかつての国電である近距離電車(山手線・京浜東北線・埼京線)がそれぞれ専用の線路で運行されており、旅客案内上では「東北本線」や「東北線」ではなくこれらの系統名称が使用されている。上野駅を発着する黒磯駅までの中距離列車に対してはかつて「東北線」と呼ばれていたが、国鉄分割民営化後の1990年(平成2年)3月10日に宇都宮線という愛称が与えられた(命名経緯については「宇都宮線#「宇都宮線」の愛称制定後」を参照)。また、山手線池袋駅や新宿駅を発着する中距離列車も運行されるようになり、これらは2001年(平成13年)に東海道本線・横須賀線への直通運転へと発展し湘南新宿ラインという愛称が与えられた。このほか中央本線(中央線)・常磐線(常磐線快速)・高崎線や武蔵野線の列車も当路線に乗り入れており、東京駅 - 上野駅間を経由して東海道線と宇都宮線・高崎線・常磐線を直通する系統は上野東京ラインと呼ばれている。
東北本線の線区上の起点は1925年(大正14年)以来東京駅であるが、1885年(明治18年)の開業以来1925年まで、東北本線在来線列車の始発駅は上野駅となっていた。貨物運輸のため上野駅 - 秋葉原駅間には貨物線が敷かれていたが、この区間はもともと江戸の下町に当たり線路敷設が避けられていたこともあって、はじめて旅客列車が発着するようになるのは1925年に山手線が現在のような環状運転を行うために電車線を敷設・開業してからのことで、それまでは山手線も上野駅を始発・終着駅として運転されていた。なお、4年後の1928年(昭和3年)には現在の宇都宮線にあたる東北本線の列車線が東京駅 - 上野駅間に複線で開業しており、路線としては名実ともに東京駅を起点とする形となった。戦後は東京駅 - 上野駅間列車線の単線化・回送線化や1973年(昭和48年)の列車線分断による東海道本線への直通列車の廃止などがあり東北本線列車線の列車は基本的に上野駅発着となる。以降、上野駅は北のターミナルとして、東北・信越地方や関東北部へ向かう列車の始発・終着駅としての歴史を刻み、現在も首都圏中距離電車のほか、常磐特急「ひたち」・「ときわ」などが上野駅ホームを発着している。
第二次世界大戦終結後の1946年(昭和21年)11月5日、GHQが東北本線方面に向かう占領軍専用列車を横浜駅発着で走らせて以来、東北新幹線東京駅乗り入れ工事が着手される1973年までは、上野駅発着の優等列車および朝夕の中距離列車の一部が東京駅や新橋駅、さらには神奈川県、静岡県方面から東海道本線経由で直通運転されたが、東北新幹線建設の際に東京駅 - 秋葉原駅間の列車線施設が新幹線用地とされ、以来電車線(山手線・京浜東北線の線路)のみが東京駅に繋がり、中・長距離定期列車はすべて元の上野駅(あるいは池袋駅・新宿駅)を始発・終着駅とするようになった。また、新幹線に流用されなかった秋葉原駅 - 上野駅間の線路は留置線・回送線として使われるようになった。
その後、東北本線中距離列車の運行区間を東京駅、品川駅方面へ延伸し、東海道本線と相互直通運転する計画が企画され、2015年(平成27年)3月14日から「上野東京ライン」として、列車線も、東北本線本来の起点である東京駅を経由して運転されている。
なお、当線の戸籍上の終点は盛岡だが、JRより経営分離された盛岡以北のいわて銀河鉄道線 (IGR) および青い森鉄道線内キロポストは従前のまま東京起点からの通算表示となっている(盛岡駅構内にIGR線用の、目時駅構内に青い森鉄道線用の各0キロポストは設置されていない)。
JR東日本の各支社の管轄区間は、以下のようになっている。
東北本線の沿線には、東京都台東区から埼玉県久喜市にかけての区間及び宮城県仙台市から栗原市にかけての区間を除く、ほぼ全ての区間にわたり国道4号が並行している。なお、東京都台東区から埼玉県川口市にかけては東京都道・埼玉県道58号台東川口線・東京都道306号王子千住夢の島線・国道122号、川口市からさいたま市にかけては埼玉県道35号川口上尾線・国道17号・国道463号・埼玉県道65号さいたま幸手線・埼玉県道164号鴻巣桶川さいたま線、さいたま市から久喜市にかけては埼玉県道3号さいたま栗橋線・国道125号が、また宮城県仙台市から栗原市にかけては国道45号・宮城県道8号仙台松島線・宮城県道35号泉塩釜線・国道346号・宮城県道19号鹿島台高清水線・宮城県道15号古川登米線・宮城県道29号河南築館線・宮城県道1号古川佐沼線・宮城県道36号築館登米線・国道398号・宮城県道・岩手県道183号若柳花泉線・国道342号・岩手県道・宮城県道187号大門有壁線が東北本線と並行している。
黒磯駅を出ると列車はすぐにデッドセクションを通過し、直流電化区間から交流電化区間に入る。その後那珂川を橋梁で通過し那須高原に入って行き、黒田原駅 - 豊原駅 - 白河駅にかけて、列車は関東地方の北の尾根で栃木県と福島県の県境となる那須・八溝の山間を抜けて行く。この付近は東北本線で最も標高の高い地域(標高約400m)である。余笹川の鉄橋を渡ると那須町役場のある黒田原駅となる。この駅は同じ町内の全国的観光地「那須高原」の喧騒さとは異なる、静かなたたずまいの小さな駅である。
豊原駅と白坂駅の間の県境を流れる川である黒川をまたぐ鉄橋は鉄道ファンの絶好の撮影地となっている。白坂からは東北地方・福島県に入る。白河地域は福島県中通り地方の最南端であるが、この標高のため中通り地方で一番春の訪れの遅い場所でもある。中通り地方の桜前線は県北の福島市より始まり白河市に向かって南下して行く。新白河駅はもともと磐城西郷駅と称していたが、東北新幹線の停車駅となるのに伴い名称も新白河駅へと改称した。所在地は白河市ではなく西白河郡西郷村である。
列車は新白河駅を経て白河駅へと到着する。新白河駅の東隣となる白河は古くは令制国時代に念珠ヶ関(ねずがせき)・勿来の関(なこそのせき)と共に、蝦夷(えみし)の侵入に備えた北方防衛の砦奥州三関の一つに数えられた白河の関が設けられた土地として知られ、古代街道の東山道にあって江戸時代には宿場町かつ城下町である。奥州街道の道中奉行管轄の終点と、延長部の起点との境となっており、現在も東北地方の玄関口に立地している。
列車はこの先、福島市の先まで丘陵地を縫うように進み標高を下げていく。沿線の平地には長閑な水田が広がり、国内第4位の米産出高を有する福島県(平成18年度農業センサス)の特徴的な風景が見られる。鏡石には文部省唱歌『牧場の朝』のモデルとなった岩瀬牧場があり、鏡石駅のホームには牧場の朝の歌詞を載せたパネルが展示されている。須賀川市に入ると徐々に住宅街が現れ、須賀川駅を通過すると再び水田と樹林の広がる郊外に入る。水郡線が右手より合流する安積永盛駅を通過すると左手に大きなイベントホールビッグパレットふくしまが現われ、都市部が目立ち始めると東北新幹線と接続し磐越西線、磐越東線、水郡線が発着する郡山駅に到着する。郡山市は明治以前は小さな宿場がある寒村に過ぎなかったが、明治初期の安積疏水の開削により現在では日本有数の米の生産地となり、何より県の中心に存在することから相次いで鉄路、道路、高速交通網の整備がなされ、南東北の一大交通拠点都市として発展した。
郡山駅を出ると列車は安積原野の起伏の有る丘陵の中を進み五百川の橋梁を渡る直前左手には郡山北部工業団地、右手に福島県農業総合センターの広大な敷地が、橋梁から五百川駅の手前では左側にビール醸造の巨大な銀色のタンク群が目に飛び込んでくると間も無く本宮駅となる。東北本線の車窓からよく目にした「酒は大七」の巨大文字看板の醸造元や「奥の松」で知られる二本松駅まで来ると高村光太郎の「智恵子抄」に詠われた安達太良山(活火山)が左手に迫る。
列車はこの後鬼婆(おにばば)伝説で有名な安達ヶ原、松川駅などを通過し福島盆地を眼下に見下ろしながら盆地底まで急勾配を下って福島駅に到着する。当駅から左手に見える山は同じく活火山の吾妻山。吾妻連峰の雪うさぎは春の田植えシーズンの到来を知らせてくれる。その麓の扇状地は桃など果物の産地として知られる。また、これらの活火山のため郡山から福島にかけては磐梯熱海温泉、岳温泉、高湯温泉、飯坂温泉ほか、有名な温泉が多い地域でもある。
福島駅を出ると、山形新幹線、福島交通飯坂線が左に折れ、東北新幹線は信夫山トンネルを通過する。東福島駅手前の矢野目信号場で阿武隈川沿いの経路を進む阿武隈急行線が東折する。列車はこの後霊山(りょうぜん)の岩山を右手に見ながら、盆地底の標高約50m付近から県境の標高約200mの貝田駅付近の国見峠まで上り勾配を進む。この地域はかつて生糸に代表される繊維産業が盛んな地域であり、眼下に信達平野を望みながら時折のどかな田園風景の中に桑畑を目にすることができる。
峠を越えると宮城県に入り、蔵王連峰を西に見ながら白石駅に到着する。この先大河原駅 - 船岡駅間では白石川と併走するが、このあたりの桜並木は「一目千本桜」と呼ばれ、観光名所であると共に有数の撮影スポットでもある(花見時期には列車の徐行も行われる)。槻木駅で再び阿武隈急行線と合流し、阿武隈川と共に高館丘陵と亘理地塁山地の間を抜けて仙台平野に出る。岩沼駅では右手より常磐線が合流。浜堤に沿って愛島丘陵東端を迂回し、名取駅に入ると仙台空港アクセス線が合流する。仙台市に入り、名取川を渡ると長町副都心、広瀬川を渡ると仙台市都心部に入ってビルが立ち並ぶ風景が見えてくる。両河川を渡る際には、左手の大年寺山にある複数のテレビ塔がライトアップされているのが視野に入り、日没後であっても仙台駅がもう近いことが分かる。
仙台駅を出ると宮城野橋(X橋)周辺の高いビル群が見える。七北田丘陵東端をかすめて七北田川を渡るとすぐ岩切駅で利府支線が左手に分岐し、東北新幹線との並走区間も終わる。陸前山王駅で仙台臨海鉄道・臨海本線が右手に分岐すると、陸奥国府・多賀城南大門前にあった条坊制都市の遺跡の上を突っ切り、松島丘陵に入る。ここから塩釜駅 - 松島駅間で仙石線とからまるように並走し、一瞬だけ海や日本三景の松島が見える。この区間で仙石線・東北本線接続線が右手に分岐する。松島丘陵を抜けると品井沼干拓地を通り、大松沢丘陵東端を越えて大崎平野に入る。左手に陸羽東線、右手に石巻線が分岐する小牛田駅を過ぎ、篦岳丘陵西端をかすめて北上すると築館丘陵の東端に入り、長沼とラムサール条約に登録されている伊豆沼・内沼の間を抜け、左手に栗駒山が見える栗原平野に入る。更に進むと石越駅へ。朝夕には仙台方面からの列車が当駅まで運行されている拠点駅であると共に、2007年3月までくりはら田園鉄道線の起点駅でもあった。栗原電鉄時代には、直流電化の電鉄線と東北本線との貨物交換用に、特注のディーゼル機関車が留置されており、連絡線も敷設されていた。
石越駅を過ぎると、宮城県と岩手県とを分ける丘陵地帯に入り、両県を行ったり来たりすることになる。岩手県の油島駅・花泉駅および清水原駅を過ぎて再び宮城県に戻ると、仙台を出てから旧・奥州街道の道筋と大きく離れていた当線は、宮城県栗原市に位置する有壁駅で再び旧・奥州街道(および東北新幹線)と並走し始める。岩手県に戻ると間もなく北上盆地に入り、同県南部の中心都市である一関市の一ノ関駅に到着。同駅は仙台駅以来の新幹線駅併設駅であり、大船渡線への乗り換えや、厳美渓、須川高原温泉、奥州三十三観音霊場などの名所へ向かう利用客で賑わう。
一ノ関駅を出ると、北上川西岸を延々と北上するルートとなる。次の平泉駅では奥州藤原氏の威光を伝える世界遺産・平泉への観光客が乗り降りする。その後、胆沢扇状地の扇端をなぞるように北上し、途中で奥州市の中心市街地にある水沢駅へ到着する。田園地帯を走り胆沢川を越えると、六原扇状地をなぞるように金ケ崎町を北上。旧仙台藩と旧盛岡藩との旧・藩境を越えて新幹線駅併設の北上駅に入る。北上駅を出るとすぐ秋田県・横手盆地へと向かう北上線が左手に分岐する。同駅周辺からは線形が直線の区間が多くなる。さらに北上して花巻駅に着くと、花巻温泉郷や宮沢賢治縁りの地に向かう観光客で賑わう。花巻市には同駅のほかに、釜石線と東北新幹線が交差する新花巻駅、岩手県唯一の空港・花巻空港に最寄りの花巻空港駅や似内駅がある。紫波中央駅付近から東北新幹線と並走するようになり、岩手山が左手に見えてくると盛岡駅に到着。同駅で田沢湖線(秋田新幹線)や三陸海岸方面へ延びる山田線が分岐する。なお、他区間に比べて線形が極めて良いため、東北地方では珍しく100km/h以上で走行する普通列車も多数存在する。
現在、長距離都市間輸送およびビジネス輸送の多くを東北新幹線が担っている。宇都宮線区間は東京への通勤路線および大宮・宇都宮の各都市圏路線として、その他の区間も郡山・福島・仙台・盛岡などの地域の中心都市の生活路線として運行体系が組まれており、寝台特急列車が臨時含め廃止された2016年以降、遠隔都市間を結ぶ在来線列車は臨時列車と貨物列車のみとなっている。
東京駅から黒磯駅までは直流、高久駅以北はすべて交流でそれぞれ電化されており、黒磯駅と高久駅の間にデッドセクションが設けられている。当該デッドセクションを挟み、直流電化区間と交流電化区間を直通する列車は、貨物列車のほか、旅客列車が臨時列車と黒磯駅 - 新白河駅・白河駅間において交直流電車で運行されている普通列車のみで、交流電化区間から宇都宮線区間である黒磯駅以南の直流電化区間への普通列車の乗り入れは行われていない。
電化前の最盛期には黒磯駅を跨ぐ直通普通列車が毎日15往復設定されていた(優等客車を連結した普通列車・夜行普通列車含む)が、1959年の黒磯駅以南の直流電化・同駅以北の交流電化後は毎日8往復へと減便され、代わって1965年・1968年には当時最新鋭の特急・急行用電車(483系・455系・485系・583系)が相次いで投入され、長距離特急・急行列車が増便された。それでもなお客車による普通列車の運用が残されていた時代には朝昼中心に毎日数本は直通普通列車(いずれも客車普通列車)が設定されていたが、1978年10月2日のダイヤ改正で特急・急行列車が大幅増便されたことに伴って、上野駅 - 黒磯駅間での客車普通列車の運行が消滅し、黒磯駅を跨いだ普通列車は、急行「なすの」の間合い運用の宇都宮駅 - 白河駅間の列車だけとなり、その後完全に消滅した。その後、1982年6月23日には東北新幹線が開業し、東北本線在来線を走る特急・急行列車は徐々に新幹線経由での運行に切り替えられ、空いた在来線には中距離普通列車が増発された。
現在、旅客が黒磯駅を跨いで普通列車を利用する場合は、同駅において同駅以南で運行される直流電車と同駅以北で運行される交直流電車との相互乗り換えが必要となっているが、普通列車の本数および所要時間に関しては、客車時代に比べて利便性が高くなっている。電化後も含め、客車による長距離普通列車が運行されていた時代の上野 - 仙台間の所要時間は9時間30分から10時間30分程度かかっていたが、2015年には途中駅で乗り換えが必要ではあるものの、同区間の所要時間は概ね6時間15分から40分程度、遅くても7時間30分以内に短縮された。しかし黒磯駅構内直流化に先立って行われた2017年10月の改正後は所要時間が増加した乗り継ぎ例もある。
東北新幹線が開業した1982年以前は、東北本線在来線が東京対東北・北海道へのメインルートであったことや、沿線諸都市連絡のために多くの長距離優等列車が運行されていた。新幹線の部分開業後は、並行区間の長距離列車が新幹線経由での運行中心となり、当線を経由して会津若松や山形などの各都市へ向かっていた列車は一部が新幹線直行特急へと発展を遂げたのを除いて、郡山駅などの各新幹線停車駅から乗り継ぎを行なう運行形態へと変更になったが、新幹線の終点から青森・北海道方面への連絡特急列車は残されていた。やがて東北新幹線の全線開業により、盛岡駅以北がすべてJR東日本から経営分離されると、在来線経由で運行されている優等列車は当線経由で他路線沿線を目的地とする列車のみとなり、現在に至っている。
首都圏と北海道を結ぶ夜行列車は2016年3月の北海道新幹線の開業により全廃された。なお、前述のように経営分離された盛岡駅 - 青森駅間はIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道の路線を走行するため、この区間を経由する場合の運賃・特急料金には両社の運賃と両社線内の特急料金が加算されるが、2016年3月改正時点では該当する定期旅客列車はない。
以下に東北本線で運行されている列車を挙げる。強調した区間が東北本線内を表す。東京駅 - 大宮駅間に乗り入れる高崎線直通列車については「高崎線」を、東京駅 - 日暮里駅間に乗り入れる常磐線の列車については「常磐線」を、過去の列車については「東北本線優等列車沿革」の各記事を参照。
東北本線の普通・快速列車は、主に宇都宮駅・黒磯駅・新白河駅・郡山駅・福島駅・仙台駅・小牛田駅・一ノ関駅でそれぞれ運行系統が分かれており、各区間内の需要に応じた区間列車が運転されている。このうち黒磯駅と一ノ関駅は、その前後にまたがって運行される定期列車は2023年11月現在ない。
前述のように、東京近郊では多数の運転系統が東北本線を走行している。運行形態の詳細については各路線・運転系統の記事を参照。
また、宇都宮線・高崎線および常磐線快速電車・常磐線では、上野駅を発着する従来からの系統に加えて、JR発足後に次の運転形態が新設されている。
「宇都宮線」の愛称を持つ東京駅・上野駅 - 黒磯駅間の中距離列車は直流電車で運行され、宇都宮駅を境に系統が分割されている。宇都宮駅以南を運行する列車については原則として東京駅方面(上野東京ライン)・上野駅発着と新宿方面発着(湘南新宿ライン)の2本立てで運行し、一部は古河駅・小金井駅で折り返す運転となっている。栃木県・茨城県・埼玉県から東京への通勤路線、そして宇都宮の近郊路線であり、グリーン車2両を連結した10両ないし15両編成の長編成列車を主体とに運行されている。2006年7月8日以前は、15両編成の列車は小金井駅以北への乗り入れが不可能であり小金井駅において分割・併合作業が多く行われていたが、同日以降は小金井駅 - 宇都宮駅間でも15両編成の乗り入れが可能となり小金井駅で分割・併合作業を行う列車は減少した。また、朝の下り方面と夕方以降は快速「ラビット」 も運転されている。
宇都宮駅 - 黒磯駅間は宇都宮の近郊路線であり、1時間に2 - 3本の運転である。早朝の1本の小山駅始発黒磯駅行きを除いて終日宇都宮駅発着であり、小山駅始発の列車を含めて3両または6両編成によるワンマン運転が実施され、普通列車グリーン車の営業も行われない。このほか、宇都宮駅 - 宝積寺駅間では烏山線の列車も運行されている。一方で、黒磯駅以北へ直通運転する列車は、黒磯駅 - 新白河駅間が交直流電車と気動車 の運用に切り替わった2017年(平成29年)10月以降においても設定されていない。
栃木県と福島県の県境域にわたる区間である。以前は交流電車中心に運用される新白河駅以北と一体的な運用が行われていたが、2018年(平成30年)1月1日から3日に行われた黒磯駅構内直流化に先立つ2017年(平成29年)10月14日に系統が分割され、交直流電車・気動車による折り返し運用に改められている。交流電車の運用は廃止されたため、理論上は黒磯駅以南への直通運転が可能であるが、黒磯駅構内直流化後においても、新白河駅より宇都宮線区間へ直通する列車は設定されていない。新白河駅以北へ直通する列車については、夜間留置の関係から朝に白河発黒磯行きが1本運行されているのみである。
運行本数は、1 - 2時間に1本程度である。
2020年3月14日のダイヤ改正からE531系付属編成によるワンマン運転が開始された。
この区間は福島県内の白河・須賀川・郡山・福島付近の短距離通勤通学輸送が主で、新白河駅・郡山駅・福島駅を始発・終着とする列車を中心に運行されている。概ね郡山駅で系統は分割されているが、朝夕の一部列車は直通運転する。
朝夕には福島以北に乗り入れる列車があるが、2013年(平成25年)3月16日のダイヤ改正で削減された。2021年(令和3年)3月13日のダイヤ改正では、下りの藤田以北への直通がなくなった。
運行本数は1時間に1本 - 2本程度である。朝晩には福島駅 - 松川駅間および郡山駅・福島駅 - 矢吹駅間の運用があるほか、夜間留置の関係上、朝に白河駅 - 新白河駅間、夜に郡山発白河行きの区間列車が各1本運行されている。このほか、安積永盛駅 - 郡山駅間には水郡線の普通列車が乗り入れる。
新白河駅 - 郡山駅間では、日中の一部列車がワンマンで運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。
福島県と宮城県の県境域にわたる区間である。日中は白石駅で系統が分断されているが、朝夕と深夜には藤田駅発着と仙台駅発着列車の運行がある。かつては終日にわたり仙台駅までの運行がなされ、昼前後の利用者の少ない閑散駅を通過する快速列車「仙台シティラビット」(3往復)が運行されていたが、2021年3月のダイヤ改正で普通列車に置き換わる形で廃止された。
運行本数は基本的に1時間に1本である。
この区間についても日中の一部列車がワンマンで運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。
宮城県仙台市の都市圏輸送区間である。宮城県内の通勤通学・仙台商圏の旅客が主体となっており、岩沼駅からは常磐線、名取駅からは仙台空港アクセス線系統の列車も乗り入れている。このほか槻木駅を介して阿武隈急行線と直通する列車も設定されている。基本的に仙台駅が始発・終点となる列車が多いが、ラッシュ時には仙台駅をまたいで南北に直通する列車も数本設定されている。かつては仙山線に直通する列車(2007年3月17日をもって廃止)も少数ながら運行されていた。
東北本線系統の1時間の運行本数は白石駅 - 仙台駅間が2 - 3本(昼間約20 - 30分間隔)である。また、岩沼駅 - 仙台駅間では常磐線から乗り入れる普通列車(1時間に1 - 2本)、名取駅 - 仙台駅間では仙台空港線直通の普通・快速列車(1時間に1 - 3本)も運行され、名取駅 - 仙台駅間ではこれらの直通列車を含むと1時間に日中5 - 6本、朝夕は最大10本程度の列車が運行される。
この区間も仙台圏の都市圏輸送を担っており、仙台駅 - 松島駅・小牛田駅・石越駅・一ノ関駅方面間の列車のほか、仙台駅 - 岩切駅間では朝夕に利府線(利府支線)との直通列車が、仙台駅 - 塩釜駅間では接続線を経由し仙石線・石巻線に直通する仙石東北ラインの快速・特別快速列車も運行される。
1時間に1 - 2本の運行であるが、仙台駅 - 塩釜駅間では仙石東北ライン(高城町駅経由石巻駅・女川駅発着)を含めて2-3本程度である(「仙石線#東北本線との直通運転」も参照)。
なお、仙石東北ラインの開業までは松島駅発着の区間列車が1時間に3本運行されていたが、開業後は朝1本の松島発仙台行きと夜2本の仙台発松島行きを除いて廃止されている。
宮城県北部と岩手県南部およびその県境部にわたる区間であり、運行本数は1時間に1本程度である。朝と夜に石越駅発着の仙台方面への直通列車が設定されている。一ノ関駅をまたいで直通する定期列車は設定されていない。
当区間の南側は小牛田までの運行がほとんどであり、仙台方面との直通列車は朝夕の数往復のみとなっている。2015年3月13日までは日中でも仙台方面との直通列車が運行されており、一部列車は小牛田駅で列車編成の連結・切り離しが行われていたが翌日のダイヤ改正で系統分割された。
朝晩の一部列車を除き、ワンマン運転による2両編成が大半を占める。
岩手県内の一関・水沢・北上・花巻・盛岡への通勤通学客輸送を主体とする区間である。運行本数は一ノ関駅 - 北上駅間が1時間に1本程度、北上駅 - 盛岡駅間が1時間に1 - 2本程度(30 - 60分間隔の運行)である。平日朝(6時台の日詰発は毎日運転)に日詰駅 - 盛岡駅間の区間列車が3.5往復、矢幅駅発着が1往復(IGRいわて銀河鉄道線直通)運行があり、平日朝は日詰駅 - 盛岡駅を中心に1時間あたり最大6本程度運転される。なお、2019年9月21日に岩手医科大学附属病院(盛岡市内丸)が矢巾町に新築移転したため、同日より平日朝に盛岡駅→日詰駅間で上り臨時列車が増発された。
日中時間帯を中心に一部列車は2両編成のワンマン運転となっている。朝夕は4両編成も多く運行される。
他路線との直通運転としては、花巻駅 - 盛岡駅間に釜石線直通列車が1日6往復(普通列車3往復および快速「はまゆり」3往復)乗り入れている。また平日の朝時間帯にはいわて銀河鉄道線に直通する列車が運行されており、滝沢駅発着が2.5往復、いわて沼宮内駅発着が1.5往復ずつのほか、花輪線鹿角花輪駅から上り1本が日詰駅まで乗り入れる。
朝の通勤時間に1日下り1本のみ運転されていた。水沢駅と盛岡駅の間を54分で結ぶ。
2023年(令和5年)3月17日をもって運転を終了した。
田端信号場駅 - 盛岡駅間では、JR貨物が第二種鉄道事業として貨物列車を運行している。
2014年3月ダイヤ改正 時点では、大宮操車場 - 盛岡貨物ターミナル駅間で1日約40往復(区間列車を含む)のコンテナ高速貨物列車が運行されており、臨時列車も設定されている。首都圏と東北各地や北海道を結ぶ貨物列車が多いが、東北本線貨物線(東北貨物線)から武蔵野線または山手貨物線、東海道本線支線(東海道貨物線)を経由して東海道本線沿線の名古屋圏や近畿圏などを発着する列車も設定されている。このほか、東京湾岸の根岸駅・川崎貨物駅・千葉貨物駅を発着する石油輸送列車が、宇都宮貨物ターミナル駅まで1日3往復、郡山駅まで1日2往復運行されている(いずれも定期列車の本数)。
東北本線内で定期貨物列車が発着する駅は、宇都宮貨物ターミナル駅・郡山貨物ターミナル駅・郡山駅・岩沼駅・仙台貨物ターミナル駅・水沢駅・盛岡貨物ターミナル駅である。また陸前山王駅からは貨物専用の仙台臨海鉄道に、小牛田駅からは石巻線の貨物列車に接続している。
なお仙台付近の長町駅 - 東仙台駅間では、旅客駅の仙台駅を経由しない貨物列車専用の支線(通称“宮城野貨物線”)を経由しており、仙台貨物ターミナル駅も同貨物線にある。
東京近郊の山手線・京浜東北線・埼京線などや、高崎線・常磐線直通列車の使用車両は当該記事を、特急列車については優等列車で挙げられている各項目を参照。
黒磯駅以南の直流電化区間は直流電車、同駅以北の交流電化区間は同駅 - 白河駅間で交直流電車、新白河駅以北で交流電車が使用される。また非電化線区に直通する列車には気動車などが使われる。
東北本線の建設計画は、明治初期に東京以北の鉄道敷設を主張する高島嘉右衛門の意を受けた右大臣岩倉具視が、当時イギリス留学中の蜂須賀茂韶および鍋島直大に諮り、1871年(明治5年)に「東京より奥州青森に至る鉄道」と「東京より越後新潟に至る鉄道」の必要性が政府に提言されたことに始まる。翌年にはこれに賛同した徳川慶勝ら華族による鉄道建設運動が始まり、国家予算に頼らない私設鉄道建設の機運高まる1880年(明治14年)、華族のみならず士族、平民にわたる人々の賛同を得て、以下のような全国への鉄道を建設することを目的とする、日本初の私鉄「日本鉄道会社」が設立された。
この第一番目の計画の背景として、明治新政府は北海道では1869年(明治2年)に開拓使を設置して開拓を進め、東北地方では1878年(明治11年)の土木7大プロジェクトなどで開発を推し進めており、それに必要な資材を輸送するために早急な鉄道建設が必要と考えていたことや、東北の物産を関東に運搬しさらに横浜港に接続する鉄道が望まれていたこと等が挙げられている。実際にはこの計画は上野駅 - 前橋駅(内藤分停車場)間と大宮駅 - 青森駅間の線路として建設、実現化された。当初、これらの路線は東京 - 高崎間が第一区線、第一区線の途上駅 - 宇都宮 - 白河間が第二区線、白河 - 仙台間が第三区線、仙台 - 盛岡間が第四区線、盛岡 - 青森間が第五区線とされ、この順番で建設が進められた。
第一区線はもともと京浜線(新橋 - 横浜間の鉄道)の間にある品川から山手を経て赤羽、川口と経る経路が計画されたが、起伏地の多いこの区間の建設には技術的に時間がかかることが想定されたため、まずは上野を起点とし赤羽に至る経路で建設することとなった。1883年(明治16年)7月28日、日本初の「民営鉄道」として上野駅 - 熊谷駅間が開業した。開業時の開設駅は上野駅(・王子駅)・浦和駅(・上尾駅・鴻巣駅・熊谷駅)で、現在は中距離列車の停車しない王子駅も含まれていた一方、大宮には駅が設置されなかった。翌1884年(明治17年)に高崎駅、前橋駅まで延長され、第一区線は全通した。高崎まで開通した同年6月25日には、明治天皇臨席のもと上野駅で開通式が行われ、この際に明治天皇は上野 - 高崎間を往復乗車した。
一方で、第二区線の敷設経路についてもいくつかの案(熊谷、大宮、岩槻分岐案)が提示されていた。当時、現栃木県域の実業家等は養蚕業および製糸業の中心地である両毛地区(現在の桐生市・足利市・佐野市付近)を経由して第二区線を建設することを求めて日本鉄道会社に出資し、また政府も養蚕・製糸業を殖産業に位置づけていたため、これを経る熊谷分岐案が最有力と見られていた。一方、もともと第一区線と第二 - 五区線は東京から個別の線路とすべきとの考えを持っていた当時の鉄道局長井上勝は、政府諮問に対し、第一区線を最短経路の赤羽 - 浦和 - 岩槻と敷き、第二区線は岩槻で分岐する岩槻分岐案を答申したアメリカ人鉄道技師クロフォードの意見、また第一区線を赤羽 - 浦和 - 大宮と敷き、第二区線は大宮で分岐する大宮分岐案を答申したイギリス人鉄道技術者ボイルの意見も含め、「足利方面には支線敷設が妥当」とする上申書を工部卿・佐々木高行に提出、宇都宮以北への最短ルートである大宮分岐案または岩槻分岐案が残り、最終的には井上勝の判断によって、平坦地を通り建設費用も格段に安く日本陸軍も支持していた大宮分岐案が採用された。この決定により、上野駅 - 前橋駅間の日本鉄道第一区線の大宮に大宮駅が開設され、この大宮駅を分岐点として第二区線が建設されることとなった。
第二区線の建設は急ピッチで進められ、まず、1885年(明治18年)7月に大宮駅 - 宇都宮駅間の営業が開始され、途中には蓮田・久喜・栗橋・古河・小山・石橋の各駅(停車場)が設置された。当時利根川の架橋が完了しておらず、この区間には渡船が運行され、栗橋駅 - 古河駅間の現在の利根川畔には中田仮停車場が設けられて利根川鉄橋の開通まで運用された。開通式は上野駅と宇都宮駅で行われ、当日は宮内卿伊藤博文、鉄道局長井上勝、東京府知事渡辺洪基が上野駅 - 宇都宮駅間を往復し、栃木県知事樺山資雄は一行を中田仮停車場にて出迎えた。また利根川鉄橋の開通時には明治天皇が上野駅 - 栗橋駅間を往復して利根川架橋を賞賛した。
以後、第二区線の残り区間および第三・第四・第五区線は引き続き段階的に那須、郡山、塩竈、一関、盛岡、青森へと延伸されていった。第三区線の北半分の区間においては、1882年(明治15年)11月30日に福島から仙台区(現・仙台市)を経て石巻湾(仙台湾)の野蒜築港に至る経路で測量が認可された。しかし、野蒜築港が1884年(明治17年)9月15日の台風で損壊して機能不全に陥ったため、1886年(明治19年)より松島湾(仙台湾)の塩釜港で建設資材の陸揚げが開始された。このため第三区線の北半分の区間は、仙台駅を過ぎて塩竈駅(後の塩釜線塩釜埠頭駅。現在の塩釜駅とは異なる)まで至る経路で1887年(明治20年)12月に開通した。盛岡駅までの第四区線は、野蒜築港の挫折を受けて野蒜を経由しない経路になったため、仙台駅 - 塩竈駅間の途中にある岩切駅から分岐して松島丘陵を越えて北上する経路で建設された。盛岡駅 - 青森駅間の第五区線も1891年(明治24年)9月に開通して上野駅 - 青森駅間全通となった(直通は1日1往復。片道約26時間半。運賃下等4円54銭)。
当線の上野駅 - 青森駅間の営業距離は新橋から東海道本線を経て山陽鉄道(現・JR山陽本線)岡山駅を過ぎた辺りまでとほぼ等しいが、山陽鉄道が倉敷まで開業したのが当線開通と同年の4月であったことを踏まえると、東京から北と西にほぼ等しい速度で鉄道が敷設されていったことが分かる。
1900年(明治33年)に大和田建樹が作詞した『鉄道唱歌』第3集奥州・磐城線編では、東北本線と常磐線の開通を以下のように祝って歌っている。
当時、当線は日本鉄道奥州線と言われており、現在の東北本線の名称となったのは日本鉄道が国有化された後の1909年(明治42年)のことである。
また、当線の東京近郊区間には上野駅 - 大宮駅間を中心に三等車のみの近距離区間列車が複数設定され、現在の京浜東北線(東北本線電車線)が赤羽駅以南区間で運行開始されるまで、首都圏近距離区間輸送も担っていた。この京浜東北線開業後の1929年(昭和4年)6月、日暮里駅から北東に分岐し貝塚操車場まで伸びていた回送線を赤羽駅まで延伸したうえで貝塚操車場を廃止、同所に尾久駅を設けて列車線とすることで、鶯谷駅・田端駅・王子駅を経由していた中・長距離列車と近距離電車線を相互に独立した形で運行させることが可能となり、同年6月20日より尾久駅経由の運輸が開始された。
第二次世界大戦中は戦時体制で運行本数は極限まで減らされたが、戦後はGHQの意図によって東京駅 - 上野駅間に東北本線の中・長距離列車が乗り入れ、青函連絡船・函館本線・室蘭本線等と一体化した東京 - 北海道間旅客輸送も行われた。さらに高度経済成長に伴う鉄道の高速化事業に乗り、当線も電化・複線化が進み、東京から宇都宮駅を経て栃木県の観光地(日光・那須方面)間を結ぶ中距離優等列車が当時最新型の157系「日光型」を使用して運行されたほか、当線の全線電化・複線化が完了した1968年(昭和43年)10月には「ヨンサントオ」と通称される白紙ダイヤ改正が実施され、これ以降東北本線にも485系電車や583系電車・455系電車・165系電車を用いた特急・急行列車が大増発された。
東北新幹線開業後は、長距離優等列車は新幹線経由で運行されることとなり、線路容量に余裕が生じた在来線では中距離普通列車が増発された。また、津軽海峡海底部に建設された青函トンネルの開通後は当線を経由して東京と北海道を結ぶ寝台特急列車や貨物列車が設定されるようになるという変化も起きた。1990年(平成2年)3月10日には、上野駅 - (日暮里駅) - 尾久駅 - 赤羽駅 - 黒磯駅間に「宇都宮線」の愛称が制定され、鉄道利用者がこの区間を「東北本線」や「東北線」と呼ぶことは少なくなった。
2002年(平成14年)12月1日に東北新幹線 盛岡駅 - 八戸駅間が開業した際、当線の盛岡駅 - 目時駅間はIGRいわて銀河鉄道に、目時駅 - 八戸駅間は青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管され、当線の本線は東京駅 - 盛岡駅間と八戸駅 - 青森駅間の2つに分かれることとなった。その後、2010年(平成22年)12月4日に東北新幹線 八戸駅 - 新青森駅間が開業して全通し、当線の八戸駅 - 青森駅間は青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管された。以降は、本線の正式な区間としては東京駅 - 盛岡駅間となり、一般的に「東北本線」の名称が用いられるのは黒磯駅 - 盛岡駅間となっている。
(貨)は貨物専用駅。それ以外の駅で◆・◇・■を付した駅は貨物取扱駅を表す(◇は定期貨物列車の発着なし、■はオフレールステーション)
ここではこの区間に存在する全駅の駅名と主要な駅(主に支線・他路線の分岐点や運行上の拠点駅)のキロ程のみを記す。各駅のキロ程・停車駅・接続路線・所在地などの詳細については各運転系統記事(上野東京ライン・宇都宮線・高崎線・湘南新宿ライン・埼京線・京浜東北線・山手線)を参照。なお田端信号場駅 - 大宮駅間の貨物施設に関しては東北貨物線を参照。
() 内は起点からの営業キロ
() 内は起点からの営業キロ
廃止区間にあったものを除く。
廃止区間にあったもの、駅に変更されたものを除く。
IGR転換区間
青い森鉄道転換区間 | [
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"text": "東北本線(とうほくほんせん)は、東京都千代田区の東京駅から岩手県盛岡市の盛岡駅を結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(幹線)である。",
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"text": "本線(首都圏では日暮里駅 - 田端駅 - 上中里駅 - 赤羽駅 - 浦和駅 - 大宮駅間、仙台地区では長町駅 - 仙台駅 - 東仙台駅間を経由)のほか、日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅間、赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間(埼京線の一部)、長町駅 - 東仙台駅間(通称:宮城野貨物線)、岩切駅 - 利府駅間(通称:利府線)の支線を持ち、これらの正式な線路名称は東北本線である。なお、2015年に開業した松島駅 - 仙石線高城町駅間の連絡線(仙石線・東北本線接続線)も同様に東北本線の一部区間として扱われている。",
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"text": "広義では、東北新幹線も東北本線に含める場合があるが、本項目では在来線としての東北本線について記す。新幹線については「東北新幹線」などの新幹線路線記事を、また在来線の地域ごとの詳細及び東北新幹線の八戸および新青森延伸に伴って第三セクター鉄道に移管された盛岡駅以北については以下の記事も参照。",
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"text": "東北本線は、もともと日本鉄道が建設した路線で、上野駅から青森駅までの線路と、上野駅と秋葉原駅間を短絡する貨物線の線路からなる、日本最長の営業キロを持つ路線であった。東京と青森の間を、大宮・宇都宮・郡山・福島・仙台・一関・盛岡・八戸を経由して、関東地方内陸部と東北地方内陸部を縦断して結んでいた。これはのちに開業する東北新幹線設置駅とも同様であり、ほぼ並走している。途中の沿岸区間は、岩沼 - 松島と八戸以北である。",
"title": "概要"
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"text": "1891年(明治24年)に全線開通、その後1925年(大正14年)の山手線環状運転開始時に敷設された東京駅 - 秋葉原駅間の電車線も東北本線に組み込まれ、営業キロが739.2 km と日本最長の路線となった。第二次世界大戦終結後の高度経済成長期には長距離の特急・急行列車が大幅増発されたが、1982年(昭和57年)に東北新幹線の大宮駅 - 盛岡駅間が開業すると、長距離列車は新幹線経由での運行に移行し、並行する東北本線在来線列車は中距離列車に置き換えられた。東北本線の旅客輸送は地域輸送中心の体制に移行しており、全線を走行する定期旅客列車は存在せず、栗橋駅 - 岩沼駅間、仙台駅 - 盛岡駅間には特急列車は運行されていない。2002年(平成14年)12月1日には同新幹線の盛岡駅 - 八戸駅間が開業、2010年(平成22年)12月4日には八戸駅 - 新青森駅間も開業し、その区間で並行する東北本線在来線はJR東日本から第三セクター会社(盛岡駅 - 目時駅間はIGRいわて銀河鉄道、目時駅 - 青森駅間は青い森鉄道)に経営が移管された。この結果、東北本線在来線は東京駅 - 盛岡駅間の全長535.3 km(支線含まず)の路線となり、山陰本線・東海道本線に次ぐ在来線で3番目に長い路線となった。",
"title": "概要"
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"text": "東北本線には旅客列車のほか、首都圏と沿線各地や北海道を結ぶJR貨物の貨物列車も多数運行されており、隅田川駅 - 札幌貨物ターミナル駅間は「北の大動脈」とも比喩されている。多くの貨物列車が東海道本線を経て東海道・山陽・九州方面と、IGRいわて銀河鉄道線・青い森鉄道線・海峡線を経て北海道方面と直通している。",
"title": "概要"
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"text": "電化方式は栃木県の黒磯駅を境に、同駅以南では直流電化 (1500 V)、以北では交流電化 (20 kV・50 Hz) となっており、普通列車は黒磯駅以南では直流電車、黒磯駅 - 白河駅間では交直流電車、新白河駅以北では交流電車がそれぞれ使用されている(使用車両節参照)。黒磯駅を越えて運転される在来線旅客列車は、臨時列車のみで、定期旅客列車は存在しない。",
"title": "概要"
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"text": "東北本線の線路名称上の起点は1925年以来東京駅であり、同駅は1991年以来東北新幹線の起点ともなっているが、旅客案内上や時刻表などで「東北本線」と呼ばれている中・長距離旅客列車は1960年代以前の一部の東海道線(東海道本線)直通列車を除いて長年にわたり、東京都台東区の上野駅を起点として運行されていた(後節を参照)。また1968年9月30日まで大宮駅 - 赤羽駅間は国電(京浜東北線)と列車が同じ線路を共用していたが、翌10月1日に電車線と列車線に分離が行われ現在の別系統での運転が完成した。東京駅 - 上野駅間の列車線は東北新幹線東京駅延伸による用地確保のため1973年に廃止され、それ以降は電車線を走行する東京近郊の近距離電車(運転系統としての中央線・山手線・京浜東北線)のみとなっていた が、廃止から42年後の2015年より同区間の列車線が再び敷設され上野東京ラインとして東海道線との相互直通運転が再開された。",
"title": "概要"
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"text": "現在「東北本線」と呼ばれる線路は、日本鉄道の時代は「奥州線」と呼ばれたり、地図上では「東北鉄道」などの記載も見られたりしたが、同社の定款では「第一区」から「第五区」、国有化直前時点の定款では仙台駅を境に「本線南区」・「本線北区」と称していた。国有化後の1909年(明治42年)10月12日には国有鉄道線路名称(明治42年鉄道院告示第54号)により、当線は主な経由地(福島県・宮城県・岩手県・青森県)の地方名として定着していた「東北」を冠し「東北線の部 東北本線」となった。この時「東北線の部」に属していた路線は東北本線、山手線、常磐線、隅田川線、高崎線、両毛線、水戸線、日光線、岩越線、塩釜線、八ノ戸線の11路線であり、東北本線はこの中の「本線」とされ「東北線の部」の幹線であった。主要経由地の4県は明治以前の令制国では陸奥国(奥州)の地域であったが、戊辰戦争の戦後処理の一環で明治政府が出羽国(羽州)と共に1868年(明治元年)に分割(「陸奥国 (1869-)」参照)、これに伴い民権派が薩長土肥を『西南』と呼んだのに対し、旧奥羽両国を指す新名称として明治10年代から使用し、当線の改称時には一般化していた「東北」が採用された。",
"title": "概要"
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"text": "現在の東北本線では、当路線内運行の列車のほか、当線経由で他線各地に向かう列車も運行されている(地域輸送を参照)。こと東京駅 - 大宮駅間ではかつての国電である近距離電車(山手線・京浜東北線・埼京線)がそれぞれ専用の線路で運行されており、旅客案内上では「東北本線」や「東北線」ではなくこれらの系統名称が使用されている。上野駅を発着する黒磯駅までの中距離列車に対してはかつて「東北線」と呼ばれていたが、国鉄分割民営化後の1990年(平成2年)3月10日に宇都宮線という愛称が与えられた(命名経緯については「宇都宮線#「宇都宮線」の愛称制定後」を参照)。また、山手線池袋駅や新宿駅を発着する中距離列車も運行されるようになり、これらは2001年(平成13年)に東海道本線・横須賀線への直通運転へと発展し湘南新宿ラインという愛称が与えられた。このほか中央本線(中央線)・常磐線(常磐線快速)・高崎線や武蔵野線の列車も当路線に乗り入れており、東京駅 - 上野駅間を経由して東海道線と宇都宮線・高崎線・常磐線を直通する系統は上野東京ラインと呼ばれている。",
"title": "概要"
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"text": "東北本線の線区上の起点は1925年(大正14年)以来東京駅であるが、1885年(明治18年)の開業以来1925年まで、東北本線在来線列車の始発駅は上野駅となっていた。貨物運輸のため上野駅 - 秋葉原駅間には貨物線が敷かれていたが、この区間はもともと江戸の下町に当たり線路敷設が避けられていたこともあって、はじめて旅客列車が発着するようになるのは1925年に山手線が現在のような環状運転を行うために電車線を敷設・開業してからのことで、それまでは山手線も上野駅を始発・終着駅として運転されていた。なお、4年後の1928年(昭和3年)には現在の宇都宮線にあたる東北本線の列車線が東京駅 - 上野駅間に複線で開業しており、路線としては名実ともに東京駅を起点とする形となった。戦後は東京駅 - 上野駅間列車線の単線化・回送線化や1973年(昭和48年)の列車線分断による東海道本線への直通列車の廃止などがあり東北本線列車線の列車は基本的に上野駅発着となる。以降、上野駅は北のターミナルとして、東北・信越地方や関東北部へ向かう列車の始発・終着駅としての歴史を刻み、現在も首都圏中距離電車のほか、常磐特急「ひたち」・「ときわ」などが上野駅ホームを発着している。",
"title": "概要"
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"text": "第二次世界大戦終結後の1946年(昭和21年)11月5日、GHQが東北本線方面に向かう占領軍専用列車を横浜駅発着で走らせて以来、東北新幹線東京駅乗り入れ工事が着手される1973年までは、上野駅発着の優等列車および朝夕の中距離列車の一部が東京駅や新橋駅、さらには神奈川県、静岡県方面から東海道本線経由で直通運転されたが、東北新幹線建設の際に東京駅 - 秋葉原駅間の列車線施設が新幹線用地とされ、以来電車線(山手線・京浜東北線の線路)のみが東京駅に繋がり、中・長距離定期列車はすべて元の上野駅(あるいは池袋駅・新宿駅)を始発・終着駅とするようになった。また、新幹線に流用されなかった秋葉原駅 - 上野駅間の線路は留置線・回送線として使われるようになった。",
"title": "概要"
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"paragraph_id": 12,
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"text": "その後、東北本線中距離列車の運行区間を東京駅、品川駅方面へ延伸し、東海道本線と相互直通運転する計画が企画され、2015年(平成27年)3月14日から「上野東京ライン」として、列車線も、東北本線本来の起点である東京駅を経由して運転されている。",
"title": "概要"
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"paragraph_id": 13,
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"text": "なお、当線の戸籍上の終点は盛岡だが、JRより経営分離された盛岡以北のいわて銀河鉄道線 (IGR) および青い森鉄道線内キロポストは従前のまま東京起点からの通算表示となっている(盛岡駅構内にIGR線用の、目時駅構内に青い森鉄道線用の各0キロポストは設置されていない)。",
"title": "概要"
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"text": "JR東日本の各支社の管轄区間は、以下のようになっている。",
"title": "路線データ"
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{
"paragraph_id": 15,
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"text": "東北本線の沿線には、東京都台東区から埼玉県久喜市にかけての区間及び宮城県仙台市から栗原市にかけての区間を除く、ほぼ全ての区間にわたり国道4号が並行している。なお、東京都台東区から埼玉県川口市にかけては東京都道・埼玉県道58号台東川口線・東京都道306号王子千住夢の島線・国道122号、川口市からさいたま市にかけては埼玉県道35号川口上尾線・国道17号・国道463号・埼玉県道65号さいたま幸手線・埼玉県道164号鴻巣桶川さいたま線、さいたま市から久喜市にかけては埼玉県道3号さいたま栗橋線・国道125号が、また宮城県仙台市から栗原市にかけては国道45号・宮城県道8号仙台松島線・宮城県道35号泉塩釜線・国道346号・宮城県道19号鹿島台高清水線・宮城県道15号古川登米線・宮城県道29号河南築館線・宮城県道1号古川佐沼線・宮城県道36号築館登米線・国道398号・宮城県道・岩手県道183号若柳花泉線・国道342号・岩手県道・宮城県道187号大門有壁線が東北本線と並行している。",
"title": "沿線概況"
},
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"paragraph_id": 16,
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"text": "黒磯駅を出ると列車はすぐにデッドセクションを通過し、直流電化区間から交流電化区間に入る。その後那珂川を橋梁で通過し那須高原に入って行き、黒田原駅 - 豊原駅 - 白河駅にかけて、列車は関東地方の北の尾根で栃木県と福島県の県境となる那須・八溝の山間を抜けて行く。この付近は東北本線で最も標高の高い地域(標高約400m)である。余笹川の鉄橋を渡ると那須町役場のある黒田原駅となる。この駅は同じ町内の全国的観光地「那須高原」の喧騒さとは異なる、静かなたたずまいの小さな駅である。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 17,
"tag": "p",
"text": "豊原駅と白坂駅の間の県境を流れる川である黒川をまたぐ鉄橋は鉄道ファンの絶好の撮影地となっている。白坂からは東北地方・福島県に入る。白河地域は福島県中通り地方の最南端であるが、この標高のため中通り地方で一番春の訪れの遅い場所でもある。中通り地方の桜前線は県北の福島市より始まり白河市に向かって南下して行く。新白河駅はもともと磐城西郷駅と称していたが、東北新幹線の停車駅となるのに伴い名称も新白河駅へと改称した。所在地は白河市ではなく西白河郡西郷村である。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 18,
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"text": "列車は新白河駅を経て白河駅へと到着する。新白河駅の東隣となる白河は古くは令制国時代に念珠ヶ関(ねずがせき)・勿来の関(なこそのせき)と共に、蝦夷(えみし)の侵入に備えた北方防衛の砦奥州三関の一つに数えられた白河の関が設けられた土地として知られ、古代街道の東山道にあって江戸時代には宿場町かつ城下町である。奥州街道の道中奉行管轄の終点と、延長部の起点との境となっており、現在も東北地方の玄関口に立地している。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "列車はこの先、福島市の先まで丘陵地を縫うように進み標高を下げていく。沿線の平地には長閑な水田が広がり、国内第4位の米産出高を有する福島県(平成18年度農業センサス)の特徴的な風景が見られる。鏡石には文部省唱歌『牧場の朝』のモデルとなった岩瀬牧場があり、鏡石駅のホームには牧場の朝の歌詞を載せたパネルが展示されている。須賀川市に入ると徐々に住宅街が現れ、須賀川駅を通過すると再び水田と樹林の広がる郊外に入る。水郡線が右手より合流する安積永盛駅を通過すると左手に大きなイベントホールビッグパレットふくしまが現われ、都市部が目立ち始めると東北新幹線と接続し磐越西線、磐越東線、水郡線が発着する郡山駅に到着する。郡山市は明治以前は小さな宿場がある寒村に過ぎなかったが、明治初期の安積疏水の開削により現在では日本有数の米の生産地となり、何より県の中心に存在することから相次いで鉄路、道路、高速交通網の整備がなされ、南東北の一大交通拠点都市として発展した。",
"title": "沿線概況"
},
{
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"text": "郡山駅を出ると列車は安積原野の起伏の有る丘陵の中を進み五百川の橋梁を渡る直前左手には郡山北部工業団地、右手に福島県農業総合センターの広大な敷地が、橋梁から五百川駅の手前では左側にビール醸造の巨大な銀色のタンク群が目に飛び込んでくると間も無く本宮駅となる。東北本線の車窓からよく目にした「酒は大七」の巨大文字看板の醸造元や「奥の松」で知られる二本松駅まで来ると高村光太郎の「智恵子抄」に詠われた安達太良山(活火山)が左手に迫る。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "列車はこの後鬼婆(おにばば)伝説で有名な安達ヶ原、松川駅などを通過し福島盆地を眼下に見下ろしながら盆地底まで急勾配を下って福島駅に到着する。当駅から左手に見える山は同じく活火山の吾妻山。吾妻連峰の雪うさぎは春の田植えシーズンの到来を知らせてくれる。その麓の扇状地は桃など果物の産地として知られる。また、これらの活火山のため郡山から福島にかけては磐梯熱海温泉、岳温泉、高湯温泉、飯坂温泉ほか、有名な温泉が多い地域でもある。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 22,
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"text": "福島駅を出ると、山形新幹線、福島交通飯坂線が左に折れ、東北新幹線は信夫山トンネルを通過する。東福島駅手前の矢野目信号場で阿武隈川沿いの経路を進む阿武隈急行線が東折する。列車はこの後霊山(りょうぜん)の岩山を右手に見ながら、盆地底の標高約50m付近から県境の標高約200mの貝田駅付近の国見峠まで上り勾配を進む。この地域はかつて生糸に代表される繊維産業が盛んな地域であり、眼下に信達平野を望みながら時折のどかな田園風景の中に桑畑を目にすることができる。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "峠を越えると宮城県に入り、蔵王連峰を西に見ながら白石駅に到着する。この先大河原駅 - 船岡駅間では白石川と併走するが、このあたりの桜並木は「一目千本桜」と呼ばれ、観光名所であると共に有数の撮影スポットでもある(花見時期には列車の徐行も行われる)。槻木駅で再び阿武隈急行線と合流し、阿武隈川と共に高館丘陵と亘理地塁山地の間を抜けて仙台平野に出る。岩沼駅では右手より常磐線が合流。浜堤に沿って愛島丘陵東端を迂回し、名取駅に入ると仙台空港アクセス線が合流する。仙台市に入り、名取川を渡ると長町副都心、広瀬川を渡ると仙台市都心部に入ってビルが立ち並ぶ風景が見えてくる。両河川を渡る際には、左手の大年寺山にある複数のテレビ塔がライトアップされているのが視野に入り、日没後であっても仙台駅がもう近いことが分かる。",
"title": "沿線概況"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "仙台駅を出ると宮城野橋(X橋)周辺の高いビル群が見える。七北田丘陵東端をかすめて七北田川を渡るとすぐ岩切駅で利府支線が左手に分岐し、東北新幹線との並走区間も終わる。陸前山王駅で仙台臨海鉄道・臨海本線が右手に分岐すると、陸奥国府・多賀城南大門前にあった条坊制都市の遺跡の上を突っ切り、松島丘陵に入る。ここから塩釜駅 - 松島駅間で仙石線とからまるように並走し、一瞬だけ海や日本三景の松島が見える。この区間で仙石線・東北本線接続線が右手に分岐する。松島丘陵を抜けると品井沼干拓地を通り、大松沢丘陵東端を越えて大崎平野に入る。左手に陸羽東線、右手に石巻線が分岐する小牛田駅を過ぎ、篦岳丘陵西端をかすめて北上すると築館丘陵の東端に入り、長沼とラムサール条約に登録されている伊豆沼・内沼の間を抜け、左手に栗駒山が見える栗原平野に入る。更に進むと石越駅へ。朝夕には仙台方面からの列車が当駅まで運行されている拠点駅であると共に、2007年3月までくりはら田園鉄道線の起点駅でもあった。栗原電鉄時代には、直流電化の電鉄線と東北本線との貨物交換用に、特注のディーゼル機関車が留置されており、連絡線も敷設されていた。",
"title": "沿線概況"
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"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "石越駅を過ぎると、宮城県と岩手県とを分ける丘陵地帯に入り、両県を行ったり来たりすることになる。岩手県の油島駅・花泉駅および清水原駅を過ぎて再び宮城県に戻ると、仙台を出てから旧・奥州街道の道筋と大きく離れていた当線は、宮城県栗原市に位置する有壁駅で再び旧・奥州街道(および東北新幹線)と並走し始める。岩手県に戻ると間もなく北上盆地に入り、同県南部の中心都市である一関市の一ノ関駅に到着。同駅は仙台駅以来の新幹線駅併設駅であり、大船渡線への乗り換えや、厳美渓、須川高原温泉、奥州三十三観音霊場などの名所へ向かう利用客で賑わう。",
"title": "沿線概況"
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"text": "一ノ関駅を出ると、北上川西岸を延々と北上するルートとなる。次の平泉駅では奥州藤原氏の威光を伝える世界遺産・平泉への観光客が乗り降りする。その後、胆沢扇状地の扇端をなぞるように北上し、途中で奥州市の中心市街地にある水沢駅へ到着する。田園地帯を走り胆沢川を越えると、六原扇状地をなぞるように金ケ崎町を北上。旧仙台藩と旧盛岡藩との旧・藩境を越えて新幹線駅併設の北上駅に入る。北上駅を出るとすぐ秋田県・横手盆地へと向かう北上線が左手に分岐する。同駅周辺からは線形が直線の区間が多くなる。さらに北上して花巻駅に着くと、花巻温泉郷や宮沢賢治縁りの地に向かう観光客で賑わう。花巻市には同駅のほかに、釜石線と東北新幹線が交差する新花巻駅、岩手県唯一の空港・花巻空港に最寄りの花巻空港駅や似内駅がある。紫波中央駅付近から東北新幹線と並走するようになり、岩手山が左手に見えてくると盛岡駅に到着。同駅で田沢湖線(秋田新幹線)や三陸海岸方面へ延びる山田線が分岐する。なお、他区間に比べて線形が極めて良いため、東北地方では珍しく100km/h以上で走行する普通列車も多数存在する。",
"title": "沿線概況"
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{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "現在、長距離都市間輸送およびビジネス輸送の多くを東北新幹線が担っている。宇都宮線区間は東京への通勤路線および大宮・宇都宮の各都市圏路線として、その他の区間も郡山・福島・仙台・盛岡などの地域の中心都市の生活路線として運行体系が組まれており、寝台特急列車が臨時含め廃止された2016年以降、遠隔都市間を結ぶ在来線列車は臨時列車と貨物列車のみとなっている。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "東京駅から黒磯駅までは直流、高久駅以北はすべて交流でそれぞれ電化されており、黒磯駅と高久駅の間にデッドセクションが設けられている。当該デッドセクションを挟み、直流電化区間と交流電化区間を直通する列車は、貨物列車のほか、旅客列車が臨時列車と黒磯駅 - 新白河駅・白河駅間において交直流電車で運行されている普通列車のみで、交流電化区間から宇都宮線区間である黒磯駅以南の直流電化区間への普通列車の乗り入れは行われていない。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "電化前の最盛期には黒磯駅を跨ぐ直通普通列車が毎日15往復設定されていた(優等客車を連結した普通列車・夜行普通列車含む)が、1959年の黒磯駅以南の直流電化・同駅以北の交流電化後は毎日8往復へと減便され、代わって1965年・1968年には当時最新鋭の特急・急行用電車(483系・455系・485系・583系)が相次いで投入され、長距離特急・急行列車が増便された。それでもなお客車による普通列車の運用が残されていた時代には朝昼中心に毎日数本は直通普通列車(いずれも客車普通列車)が設定されていたが、1978年10月2日のダイヤ改正で特急・急行列車が大幅増便されたことに伴って、上野駅 - 黒磯駅間での客車普通列車の運行が消滅し、黒磯駅を跨いだ普通列車は、急行「なすの」の間合い運用の宇都宮駅 - 白河駅間の列車だけとなり、その後完全に消滅した。その後、1982年6月23日には東北新幹線が開業し、東北本線在来線を走る特急・急行列車は徐々に新幹線経由での運行に切り替えられ、空いた在来線には中距離普通列車が増発された。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "現在、旅客が黒磯駅を跨いで普通列車を利用する場合は、同駅において同駅以南で運行される直流電車と同駅以北で運行される交直流電車との相互乗り換えが必要となっているが、普通列車の本数および所要時間に関しては、客車時代に比べて利便性が高くなっている。電化後も含め、客車による長距離普通列車が運行されていた時代の上野 - 仙台間の所要時間は9時間30分から10時間30分程度かかっていたが、2015年には途中駅で乗り換えが必要ではあるものの、同区間の所要時間は概ね6時間15分から40分程度、遅くても7時間30分以内に短縮された。しかし黒磯駅構内直流化に先立って行われた2017年10月の改正後は所要時間が増加した乗り継ぎ例もある。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "東北新幹線が開業した1982年以前は、東北本線在来線が東京対東北・北海道へのメインルートであったことや、沿線諸都市連絡のために多くの長距離優等列車が運行されていた。新幹線の部分開業後は、並行区間の長距離列車が新幹線経由での運行中心となり、当線を経由して会津若松や山形などの各都市へ向かっていた列車は一部が新幹線直行特急へと発展を遂げたのを除いて、郡山駅などの各新幹線停車駅から乗り継ぎを行なう運行形態へと変更になったが、新幹線の終点から青森・北海道方面への連絡特急列車は残されていた。やがて東北新幹線の全線開業により、盛岡駅以北がすべてJR東日本から経営分離されると、在来線経由で運行されている優等列車は当線経由で他路線沿線を目的地とする列車のみとなり、現在に至っている。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "首都圏と北海道を結ぶ夜行列車は2016年3月の北海道新幹線の開業により全廃された。なお、前述のように経営分離された盛岡駅 - 青森駅間はIGRいわて銀河鉄道と青い森鉄道の路線を走行するため、この区間を経由する場合の運賃・特急料金には両社の運賃と両社線内の特急料金が加算されるが、2016年3月改正時点では該当する定期旅客列車はない。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "以下に東北本線で運行されている列車を挙げる。強調した区間が東北本線内を表す。東京駅 - 大宮駅間に乗り入れる高崎線直通列車については「高崎線」を、東京駅 - 日暮里駅間に乗り入れる常磐線の列車については「常磐線」を、過去の列車については「東北本線優等列車沿革」の各記事を参照。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "東北本線の普通・快速列車は、主に宇都宮駅・黒磯駅・新白河駅・郡山駅・福島駅・仙台駅・小牛田駅・一ノ関駅でそれぞれ運行系統が分かれており、各区間内の需要に応じた区間列車が運転されている。このうち黒磯駅と一ノ関駅は、その前後にまたがって運行される定期列車は2023年11月現在ない。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "前述のように、東京近郊では多数の運転系統が東北本線を走行している。運行形態の詳細については各路線・運転系統の記事を参照。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "また、宇都宮線・高崎線および常磐線快速電車・常磐線では、上野駅を発着する従来からの系統に加えて、JR発足後に次の運転形態が新設されている。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "「宇都宮線」の愛称を持つ東京駅・上野駅 - 黒磯駅間の中距離列車は直流電車で運行され、宇都宮駅を境に系統が分割されている。宇都宮駅以南を運行する列車については原則として東京駅方面(上野東京ライン)・上野駅発着と新宿方面発着(湘南新宿ライン)の2本立てで運行し、一部は古河駅・小金井駅で折り返す運転となっている。栃木県・茨城県・埼玉県から東京への通勤路線、そして宇都宮の近郊路線であり、グリーン車2両を連結した10両ないし15両編成の長編成列車を主体とに運行されている。2006年7月8日以前は、15両編成の列車は小金井駅以北への乗り入れが不可能であり小金井駅において分割・併合作業が多く行われていたが、同日以降は小金井駅 - 宇都宮駅間でも15両編成の乗り入れが可能となり小金井駅で分割・併合作業を行う列車は減少した。また、朝の下り方面と夕方以降は快速「ラビット」 も運転されている。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "宇都宮駅 - 黒磯駅間は宇都宮の近郊路線であり、1時間に2 - 3本の運転である。早朝の1本の小山駅始発黒磯駅行きを除いて終日宇都宮駅発着であり、小山駅始発の列車を含めて3両または6両編成によるワンマン運転が実施され、普通列車グリーン車の営業も行われない。このほか、宇都宮駅 - 宝積寺駅間では烏山線の列車も運行されている。一方で、黒磯駅以北へ直通運転する列車は、黒磯駅 - 新白河駅間が交直流電車と気動車 の運用に切り替わった2017年(平成29年)10月以降においても設定されていない。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "栃木県と福島県の県境域にわたる区間である。以前は交流電車中心に運用される新白河駅以北と一体的な運用が行われていたが、2018年(平成30年)1月1日から3日に行われた黒磯駅構内直流化に先立つ2017年(平成29年)10月14日に系統が分割され、交直流電車・気動車による折り返し運用に改められている。交流電車の運用は廃止されたため、理論上は黒磯駅以南への直通運転が可能であるが、黒磯駅構内直流化後においても、新白河駅より宇都宮線区間へ直通する列車は設定されていない。新白河駅以北へ直通する列車については、夜間留置の関係から朝に白河発黒磯行きが1本運行されているのみである。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "運行本数は、1 - 2時間に1本程度である。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "2020年3月14日のダイヤ改正からE531系付属編成によるワンマン運転が開始された。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "この区間は福島県内の白河・須賀川・郡山・福島付近の短距離通勤通学輸送が主で、新白河駅・郡山駅・福島駅を始発・終着とする列車を中心に運行されている。概ね郡山駅で系統は分割されているが、朝夕の一部列車は直通運転する。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "朝夕には福島以北に乗り入れる列車があるが、2013年(平成25年)3月16日のダイヤ改正で削減された。2021年(令和3年)3月13日のダイヤ改正では、下りの藤田以北への直通がなくなった。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "運行本数は1時間に1本 - 2本程度である。朝晩には福島駅 - 松川駅間および郡山駅・福島駅 - 矢吹駅間の運用があるほか、夜間留置の関係上、朝に白河駅 - 新白河駅間、夜に郡山発白河行きの区間列車が各1本運行されている。このほか、安積永盛駅 - 郡山駅間には水郡線の普通列車が乗り入れる。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "新白河駅 - 郡山駅間では、日中の一部列車がワンマンで運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "福島県と宮城県の県境域にわたる区間である。日中は白石駅で系統が分断されているが、朝夕と深夜には藤田駅発着と仙台駅発着列車の運行がある。かつては終日にわたり仙台駅までの運行がなされ、昼前後の利用者の少ない閑散駅を通過する快速列車「仙台シティラビット」(3往復)が運行されていたが、2021年3月のダイヤ改正で普通列車に置き換わる形で廃止された。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "運行本数は基本的に1時間に1本である。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "この区間についても日中の一部列車がワンマンで運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "宮城県仙台市の都市圏輸送区間である。宮城県内の通勤通学・仙台商圏の旅客が主体となっており、岩沼駅からは常磐線、名取駅からは仙台空港アクセス線系統の列車も乗り入れている。このほか槻木駅を介して阿武隈急行線と直通する列車も設定されている。基本的に仙台駅が始発・終点となる列車が多いが、ラッシュ時には仙台駅をまたいで南北に直通する列車も数本設定されている。かつては仙山線に直通する列車(2007年3月17日をもって廃止)も少数ながら運行されていた。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "東北本線系統の1時間の運行本数は白石駅 - 仙台駅間が2 - 3本(昼間約20 - 30分間隔)である。また、岩沼駅 - 仙台駅間では常磐線から乗り入れる普通列車(1時間に1 - 2本)、名取駅 - 仙台駅間では仙台空港線直通の普通・快速列車(1時間に1 - 3本)も運行され、名取駅 - 仙台駅間ではこれらの直通列車を含むと1時間に日中5 - 6本、朝夕は最大10本程度の列車が運行される。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "この区間も仙台圏の都市圏輸送を担っており、仙台駅 - 松島駅・小牛田駅・石越駅・一ノ関駅方面間の列車のほか、仙台駅 - 岩切駅間では朝夕に利府線(利府支線)との直通列車が、仙台駅 - 塩釜駅間では接続線を経由し仙石線・石巻線に直通する仙石東北ラインの快速・特別快速列車も運行される。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "1時間に1 - 2本の運行であるが、仙台駅 - 塩釜駅間では仙石東北ライン(高城町駅経由石巻駅・女川駅発着)を含めて2-3本程度である(「仙石線#東北本線との直通運転」も参照)。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "なお、仙石東北ラインの開業までは松島駅発着の区間列車が1時間に3本運行されていたが、開業後は朝1本の松島発仙台行きと夜2本の仙台発松島行きを除いて廃止されている。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "宮城県北部と岩手県南部およびその県境部にわたる区間であり、運行本数は1時間に1本程度である。朝と夜に石越駅発着の仙台方面への直通列車が設定されている。一ノ関駅をまたいで直通する定期列車は設定されていない。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "当区間の南側は小牛田までの運行がほとんどであり、仙台方面との直通列車は朝夕の数往復のみとなっている。2015年3月13日までは日中でも仙台方面との直通列車が運行されており、一部列車は小牛田駅で列車編成の連結・切り離しが行われていたが翌日のダイヤ改正で系統分割された。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "朝晩の一部列車を除き、ワンマン運転による2両編成が大半を占める。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "岩手県内の一関・水沢・北上・花巻・盛岡への通勤通学客輸送を主体とする区間である。運行本数は一ノ関駅 - 北上駅間が1時間に1本程度、北上駅 - 盛岡駅間が1時間に1 - 2本程度(30 - 60分間隔の運行)である。平日朝(6時台の日詰発は毎日運転)に日詰駅 - 盛岡駅間の区間列車が3.5往復、矢幅駅発着が1往復(IGRいわて銀河鉄道線直通)運行があり、平日朝は日詰駅 - 盛岡駅を中心に1時間あたり最大6本程度運転される。なお、2019年9月21日に岩手医科大学附属病院(盛岡市内丸)が矢巾町に新築移転したため、同日より平日朝に盛岡駅→日詰駅間で上り臨時列車が増発された。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "日中時間帯を中心に一部列車は2両編成のワンマン運転となっている。朝夕は4両編成も多く運行される。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "他路線との直通運転としては、花巻駅 - 盛岡駅間に釜石線直通列車が1日6往復(普通列車3往復および快速「はまゆり」3往復)乗り入れている。また平日の朝時間帯にはいわて銀河鉄道線に直通する列車が運行されており、滝沢駅発着が2.5往復、いわて沼宮内駅発着が1.5往復ずつのほか、花輪線鹿角花輪駅から上り1本が日詰駅まで乗り入れる。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "朝の通勤時間に1日下り1本のみ運転されていた。水沢駅と盛岡駅の間を54分で結ぶ。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "2023年(令和5年)3月17日をもって運転を終了した。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "田端信号場駅 - 盛岡駅間では、JR貨物が第二種鉄道事業として貨物列車を運行している。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "2014年3月ダイヤ改正 時点では、大宮操車場 - 盛岡貨物ターミナル駅間で1日約40往復(区間列車を含む)のコンテナ高速貨物列車が運行されており、臨時列車も設定されている。首都圏と東北各地や北海道を結ぶ貨物列車が多いが、東北本線貨物線(東北貨物線)から武蔵野線または山手貨物線、東海道本線支線(東海道貨物線)を経由して東海道本線沿線の名古屋圏や近畿圏などを発着する列車も設定されている。このほか、東京湾岸の根岸駅・川崎貨物駅・千葉貨物駅を発着する石油輸送列車が、宇都宮貨物ターミナル駅まで1日3往復、郡山駅まで1日2往復運行されている(いずれも定期列車の本数)。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "東北本線内で定期貨物列車が発着する駅は、宇都宮貨物ターミナル駅・郡山貨物ターミナル駅・郡山駅・岩沼駅・仙台貨物ターミナル駅・水沢駅・盛岡貨物ターミナル駅である。また陸前山王駅からは貨物専用の仙台臨海鉄道に、小牛田駅からは石巻線の貨物列車に接続している。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "なお仙台付近の長町駅 - 東仙台駅間では、旅客駅の仙台駅を経由しない貨物列車専用の支線(通称“宮城野貨物線”)を経由しており、仙台貨物ターミナル駅も同貨物線にある。",
"title": "運行形態"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "東京近郊の山手線・京浜東北線・埼京線などや、高崎線・常磐線直通列車の使用車両は当該記事を、特急列車については優等列車で挙げられている各項目を参照。",
"title": "使用車両"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "黒磯駅以南の直流電化区間は直流電車、同駅以北の交流電化区間は同駅 - 白河駅間で交直流電車、新白河駅以北で交流電車が使用される。また非電化線区に直通する列車には気動車などが使われる。",
"title": "使用車両"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "東北本線の建設計画は、明治初期に東京以北の鉄道敷設を主張する高島嘉右衛門の意を受けた右大臣岩倉具視が、当時イギリス留学中の蜂須賀茂韶および鍋島直大に諮り、1871年(明治5年)に「東京より奥州青森に至る鉄道」と「東京より越後新潟に至る鉄道」の必要性が政府に提言されたことに始まる。翌年にはこれに賛同した徳川慶勝ら華族による鉄道建設運動が始まり、国家予算に頼らない私設鉄道建設の機運高まる1880年(明治14年)、華族のみならず士族、平民にわたる人々の賛同を得て、以下のような全国への鉄道を建設することを目的とする、日本初の私鉄「日本鉄道会社」が設立された。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "この第一番目の計画の背景として、明治新政府は北海道では1869年(明治2年)に開拓使を設置して開拓を進め、東北地方では1878年(明治11年)の土木7大プロジェクトなどで開発を推し進めており、それに必要な資材を輸送するために早急な鉄道建設が必要と考えていたことや、東北の物産を関東に運搬しさらに横浜港に接続する鉄道が望まれていたこと等が挙げられている。実際にはこの計画は上野駅 - 前橋駅(内藤分停車場)間と大宮駅 - 青森駅間の線路として建設、実現化された。当初、これらの路線は東京 - 高崎間が第一区線、第一区線の途上駅 - 宇都宮 - 白河間が第二区線、白河 - 仙台間が第三区線、仙台 - 盛岡間が第四区線、盛岡 - 青森間が第五区線とされ、この順番で建設が進められた。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "第一区線はもともと京浜線(新橋 - 横浜間の鉄道)の間にある品川から山手を経て赤羽、川口と経る経路が計画されたが、起伏地の多いこの区間の建設には技術的に時間がかかることが想定されたため、まずは上野を起点とし赤羽に至る経路で建設することとなった。1883年(明治16年)7月28日、日本初の「民営鉄道」として上野駅 - 熊谷駅間が開業した。開業時の開設駅は上野駅(・王子駅)・浦和駅(・上尾駅・鴻巣駅・熊谷駅)で、現在は中距離列車の停車しない王子駅も含まれていた一方、大宮には駅が設置されなかった。翌1884年(明治17年)に高崎駅、前橋駅まで延長され、第一区線は全通した。高崎まで開通した同年6月25日には、明治天皇臨席のもと上野駅で開通式が行われ、この際に明治天皇は上野 - 高崎間を往復乗車した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "一方で、第二区線の敷設経路についてもいくつかの案(熊谷、大宮、岩槻分岐案)が提示されていた。当時、現栃木県域の実業家等は養蚕業および製糸業の中心地である両毛地区(現在の桐生市・足利市・佐野市付近)を経由して第二区線を建設することを求めて日本鉄道会社に出資し、また政府も養蚕・製糸業を殖産業に位置づけていたため、これを経る熊谷分岐案が最有力と見られていた。一方、もともと第一区線と第二 - 五区線は東京から個別の線路とすべきとの考えを持っていた当時の鉄道局長井上勝は、政府諮問に対し、第一区線を最短経路の赤羽 - 浦和 - 岩槻と敷き、第二区線は岩槻で分岐する岩槻分岐案を答申したアメリカ人鉄道技師クロフォードの意見、また第一区線を赤羽 - 浦和 - 大宮と敷き、第二区線は大宮で分岐する大宮分岐案を答申したイギリス人鉄道技術者ボイルの意見も含め、「足利方面には支線敷設が妥当」とする上申書を工部卿・佐々木高行に提出、宇都宮以北への最短ルートである大宮分岐案または岩槻分岐案が残り、最終的には井上勝の判断によって、平坦地を通り建設費用も格段に安く日本陸軍も支持していた大宮分岐案が採用された。この決定により、上野駅 - 前橋駅間の日本鉄道第一区線の大宮に大宮駅が開設され、この大宮駅を分岐点として第二区線が建設されることとなった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "第二区線の建設は急ピッチで進められ、まず、1885年(明治18年)7月に大宮駅 - 宇都宮駅間の営業が開始され、途中には蓮田・久喜・栗橋・古河・小山・石橋の各駅(停車場)が設置された。当時利根川の架橋が完了しておらず、この区間には渡船が運行され、栗橋駅 - 古河駅間の現在の利根川畔には中田仮停車場が設けられて利根川鉄橋の開通まで運用された。開通式は上野駅と宇都宮駅で行われ、当日は宮内卿伊藤博文、鉄道局長井上勝、東京府知事渡辺洪基が上野駅 - 宇都宮駅間を往復し、栃木県知事樺山資雄は一行を中田仮停車場にて出迎えた。また利根川鉄橋の開通時には明治天皇が上野駅 - 栗橋駅間を往復して利根川架橋を賞賛した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "以後、第二区線の残り区間および第三・第四・第五区線は引き続き段階的に那須、郡山、塩竈、一関、盛岡、青森へと延伸されていった。第三区線の北半分の区間においては、1882年(明治15年)11月30日に福島から仙台区(現・仙台市)を経て石巻湾(仙台湾)の野蒜築港に至る経路で測量が認可された。しかし、野蒜築港が1884年(明治17年)9月15日の台風で損壊して機能不全に陥ったため、1886年(明治19年)より松島湾(仙台湾)の塩釜港で建設資材の陸揚げが開始された。このため第三区線の北半分の区間は、仙台駅を過ぎて塩竈駅(後の塩釜線塩釜埠頭駅。現在の塩釜駅とは異なる)まで至る経路で1887年(明治20年)12月に開通した。盛岡駅までの第四区線は、野蒜築港の挫折を受けて野蒜を経由しない経路になったため、仙台駅 - 塩竈駅間の途中にある岩切駅から分岐して松島丘陵を越えて北上する経路で建設された。盛岡駅 - 青森駅間の第五区線も1891年(明治24年)9月に開通して上野駅 - 青森駅間全通となった(直通は1日1往復。片道約26時間半。運賃下等4円54銭)。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "当線の上野駅 - 青森駅間の営業距離は新橋から東海道本線を経て山陽鉄道(現・JR山陽本線)岡山駅を過ぎた辺りまでとほぼ等しいが、山陽鉄道が倉敷まで開業したのが当線開通と同年の4月であったことを踏まえると、東京から北と西にほぼ等しい速度で鉄道が敷設されていったことが分かる。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "1900年(明治33年)に大和田建樹が作詞した『鉄道唱歌』第3集奥州・磐城線編では、東北本線と常磐線の開通を以下のように祝って歌っている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "当時、当線は日本鉄道奥州線と言われており、現在の東北本線の名称となったのは日本鉄道が国有化された後の1909年(明治42年)のことである。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "また、当線の東京近郊区間には上野駅 - 大宮駅間を中心に三等車のみの近距離区間列車が複数設定され、現在の京浜東北線(東北本線電車線)が赤羽駅以南区間で運行開始されるまで、首都圏近距離区間輸送も担っていた。この京浜東北線開業後の1929年(昭和4年)6月、日暮里駅から北東に分岐し貝塚操車場まで伸びていた回送線を赤羽駅まで延伸したうえで貝塚操車場を廃止、同所に尾久駅を設けて列車線とすることで、鶯谷駅・田端駅・王子駅を経由していた中・長距離列車と近距離電車線を相互に独立した形で運行させることが可能となり、同年6月20日より尾久駅経由の運輸が開始された。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 78,
"tag": "p",
"text": "第二次世界大戦中は戦時体制で運行本数は極限まで減らされたが、戦後はGHQの意図によって東京駅 - 上野駅間に東北本線の中・長距離列車が乗り入れ、青函連絡船・函館本線・室蘭本線等と一体化した東京 - 北海道間旅客輸送も行われた。さらに高度経済成長に伴う鉄道の高速化事業に乗り、当線も電化・複線化が進み、東京から宇都宮駅を経て栃木県の観光地(日光・那須方面)間を結ぶ中距離優等列車が当時最新型の157系「日光型」を使用して運行されたほか、当線の全線電化・複線化が完了した1968年(昭和43年)10月には「ヨンサントオ」と通称される白紙ダイヤ改正が実施され、これ以降東北本線にも485系電車や583系電車・455系電車・165系電車を用いた特急・急行列車が大増発された。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 79,
"tag": "p",
"text": "東北新幹線開業後は、長距離優等列車は新幹線経由で運行されることとなり、線路容量に余裕が生じた在来線では中距離普通列車が増発された。また、津軽海峡海底部に建設された青函トンネルの開通後は当線を経由して東京と北海道を結ぶ寝台特急列車や貨物列車が設定されるようになるという変化も起きた。1990年(平成2年)3月10日には、上野駅 - (日暮里駅) - 尾久駅 - 赤羽駅 - 黒磯駅間に「宇都宮線」の愛称が制定され、鉄道利用者がこの区間を「東北本線」や「東北線」と呼ぶことは少なくなった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 80,
"tag": "p",
"text": "2002年(平成14年)12月1日に東北新幹線 盛岡駅 - 八戸駅間が開業した際、当線の盛岡駅 - 目時駅間はIGRいわて銀河鉄道に、目時駅 - 八戸駅間は青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管され、当線の本線は東京駅 - 盛岡駅間と八戸駅 - 青森駅間の2つに分かれることとなった。その後、2010年(平成22年)12月4日に東北新幹線 八戸駅 - 新青森駅間が開業して全通し、当線の八戸駅 - 青森駅間は青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管された。以降は、本線の正式な区間としては東京駅 - 盛岡駅間となり、一般的に「東北本線」の名称が用いられるのは黒磯駅 - 盛岡駅間となっている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 81,
"tag": "p",
"text": "(貨)は貨物専用駅。それ以外の駅で◆・◇・■を付した駅は貨物取扱駅を表す(◇は定期貨物列車の発着なし、■はオフレールステーション)",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 82,
"tag": "p",
"text": "ここではこの区間に存在する全駅の駅名と主要な駅(主に支線・他路線の分岐点や運行上の拠点駅)のキロ程のみを記す。各駅のキロ程・停車駅・接続路線・所在地などの詳細については各運転系統記事(上野東京ライン・宇都宮線・高崎線・湘南新宿ライン・埼京線・京浜東北線・山手線)を参照。なお田端信号場駅 - 大宮駅間の貨物施設に関しては東北貨物線を参照。",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 83,
"tag": "p",
"text": "() 内は起点からの営業キロ",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 84,
"tag": "p",
"text": "() 内は起点からの営業キロ",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 85,
"tag": "p",
"text": "廃止区間にあったものを除く。",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 86,
"tag": "p",
"text": "廃止区間にあったもの、駅に変更されたものを除く。",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 87,
"tag": "p",
"text": "IGR転換区間",
"title": "駅一覧"
},
{
"paragraph_id": 88,
"tag": "p",
"text": "青い森鉄道転換区間",
"title": "駅一覧"
}
] | 東北本線(とうほくほんせん)は、東京都千代田区の東京駅から岩手県盛岡市の盛岡駅を結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(幹線)である。 本線のほか、日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅間、赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間(埼京線の一部)、長町駅 - 東仙台駅間、岩切駅 - 利府駅間の支線を持ち、これらの正式な線路名称は東北本線である。なお、2015年に開業した松島駅 - 仙石線高城町駅間の連絡線(仙石線・東北本線接続線)も同様に東北本線の一部区間として扱われている。 広義では、東北新幹線も東北本線に含める場合があるが、本項目では在来線としての東北本線について記す。新幹線については「東北新幹線」などの新幹線路線記事を、また在来線の地域ごとの詳細及び東北新幹線の八戸および新青森延伸に伴って第三セクター鉄道に移管された盛岡駅以北については以下の記事も参照。 上野東京ライン
宇都宮線
京浜東北線
埼京線
いわて銀河鉄道線
青い森鉄道線 | {{Otheruseslist|日本の鉄道路線で、東京駅 - 盛岡駅間を結ぶ本線と付随する支線群|タイの鉄道路線|東北本線 (タイ)|東北本線(新幹線を含む付随する支線群)を中核とする鉄道路線群の総称の「東北線」|国鉄・JR線路名称一覧#東北線の部}}
{{Infobox 鉄道路線
|路線名=[[File:JR logo (east).svg|35px|link=東日本旅客鉄道]] 東北本線
|路線色=mediumseagreen
|画像=E721 Nagamachi Station.jpg
|画像サイズ=300px
|画像説明=東北本線を走行する[[JR東日本E721系電車|E721系]]電車<br />(2021年2月7日 [[長町駅]])
|通称='''路線愛称・通称'''
* 東北線([[東京駅]] - [[盛岡駅]]間)
* [[宇都宮線]](東京駅 - [[尾久駅]] - [[黒磯駅]]間の[[電車線・列車線|列車線]])
* [[京浜東北線]](東京駅 - [[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]間の[[電車線・列車線|電車線]])
* [[東北貨物線]]([[田端駅]]([[田端信号場駅]]) - 大宮駅間の[[貨物線]])
* [[埼京線]]([[赤羽駅]] - [[武蔵浦和駅]] - 大宮駅間)
* [[東北本線#支線|宮城野貨物線]]([[長町駅]] - [[仙台貨物ターミナル駅]] - [[東仙台駅]]間)
* [[利府線]]([[岩切駅]] - [[利府駅]]間)
* [[仙石東北ライン#仙石線・東北本線接続線|仙石線・東北本線接続線]]([[松島駅]] - [[高城町駅]]間)
'''路線系統名'''<ref group="†" name="同一線路上">駅案内等で直通先の路線名をそのまま使用しているもの(東京駅 - [[田端駅]]間の[[山手線]]や[[安積永盛駅]] - [[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]間の[[水郡線]]など)は除く。</ref>
* [[上野東京ライン]](宇都宮線の[[東海道線 (JR東日本)|東海道線]]直通列車<ref group="†" name="UTL">狭義においては東京駅 - 上野駅間の路線系統名であるが、東北本線(宇都宮線)系統の列車は、本線の宇都宮駅まで走行するため、広義においては東京駅 - 尾久駅 - 宇都宮駅間となる。</ref>)
* [[湘南新宿ライン]](宇都宮線の[[横須賀・総武快速線|横須賀線]]直通列車)
* [[仙台空港アクセス線]]([[名取駅]] - [[仙台駅]]間の[[仙台空港鉄道]]直通列車)
* [[仙石東北ライン]](仙台駅 - [[塩釜駅]]間の[[仙石線]]直通列車)
|国={{JPN}}
|所在地=[[東京都]]、[[埼玉県]]、[[茨城県]]、[[栃木県]]、[[福島県]]、[[宮城県]]、[[岩手県]]
|種類=[[日本の鉄道|普通鉄道]]([[在来線]]・[[幹線]])
|起点=[[東京駅]]
|終点=[[盛岡駅]]
|駅数=150駅(支線、貨物駅含む)
|電報略号=トホホセ
|路線記号 =<ref group="†" name="同一線路上" />{{plainlist|
* [[File:JR JU line symbol.svg|20px|JU]](東京駅 - 尾久駅 - 大宮駅間の列車線)
* [[File:JR JK line symbol.svg|20px|JK]](東京駅 - 大宮駅間の電車線)
* [[File:JR JS line symbol.svg|20px|JS]](赤羽駅 - 大宮駅間の貨物線)
* [[File:JR JA line symbol.svg|20px|JA]](赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間)
}}
|開業=[[1883年]][[7月28日]]
|全通=[[1891年]][[9月1日]]
|休止=
|廃止=
|所有者=[[東日本旅客鉄道]](JR東日本)
|運営者=東日本旅客鉄道(全線)<br />日本貨物鉄道([[田端信号場駅]] - 盛岡間・長町駅 - 東仙台駅間)
|車両基地=
|使用車両=[[#使用車両|使用車両]]を参照
|路線距離={{plainlist|
* 535.3 [[キロメートル|km]](東京駅 - 盛岡駅間)
* 7.6 km(日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅間)
* 18.0 km(赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間)
* 6.6 km(長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅間)
* 4.2 km(岩切駅 - 利府駅間)
* 0.3 km(松島駅 - 高城町駅間)
}}
|軌間=1,067 [[ミリメートル|mm]]
|線路数=[[複々線]]以上(東京駅 - 大宮駅間ほか)、[[複線]](大宮駅 - 盛岡駅間ほか)、[[単線]](支線):詳細は本文の[[#路線データ|路線データ]]節を参照
|電化区間=全線
|電化方式=[[直流電化|直流]]1,500 [[ボルト (単位)|V]](東京駅 - 黒磯間)<br>[[交流電化|交流]]20,000 V 50 [[ヘルツ (単位)|Hz]](黒磯駅 - 盛岡駅間)<br />いずれも[[架空電車線方式]]
|最大勾配=
|最小曲線半径=
|閉塞方式= [[#路線データ|路線データ]]参照
|保安装置= [[#路線データ|路線データ]]参照
|最高速度=120 [[キロメートル毎時|km/h]](東京駅 - 盛岡駅間)
|路線図=[[File:JR Tohoku Main Line linemap.svg|200px]]<br />{{smaller|青線の区間は[[IGRいわて銀河鉄道]]<br />および[[青い森鉄道]]に経営移管された区間}}
}}
'''東北本線'''(とうほくほんせん)は、[[東京都]][[千代田区]]の[[東京駅]]から[[岩手県]][[盛岡市]]の[[盛岡駅]]を結ぶ[[東日本旅客鉄道]](JR東日本)の[[鉄道路線]]([[幹線]])である。
本線([[首都圏 (日本)|首都圏]]では[[日暮里駅]] - [[田端駅]] - [[上中里駅]] - [[赤羽駅]] - [[浦和駅]] - [[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]間<ref group="†">[[電車線・列車線|電車線]]、すなわち[[山手線]](ただし、東京駅 - [[田端駅]]間のみで専用線を走行)・[[京浜東北線]]が走る区間</ref>、仙台地区では[[長町駅]] - [[仙台駅]] - [[東仙台駅]]間を経由)のほか、日暮里駅 - [[尾久駅]] - 赤羽駅間<ref group="†">列車線、本来の東北本線の列車(現在の宇都宮線)が走る区間</ref>、赤羽駅 - [[武蔵浦和駅]] - 大宮駅間([[埼京線]]の一部)、長町駅 - 東仙台駅間(通称:'''[[東北本線#支線|宮城野貨物線]]''')、[[岩切駅]] - [[利府駅]]間(通称:'''[[利府線]]''')の支線を持ち、これらの正式な線路名称は東北本線である<ref name="teishajo">『停車場変遷大事典 国鉄・JR編』1998年(JTB発行)</ref>。なお、[[2015年]]に開業した[[松島駅]] - 仙石線[[高城町駅]]間の連絡線([[仙石東北ライン#仙石線・東北本線接続線|仙石線・東北本線接続線]])も同様に東北本線の一部区間として扱われている<ref>国土交通省鉄道局監修『平成二十六年度 鉄道要覧』電気車研究会・鉄道図書刊行会 p.21</ref>。
広義では、[[東北新幹線]]も東北本線に含める場合がある<ref name="teishajo" />{{Refnest|group="†"|国鉄時代からの「[[国鉄・JR線路名称一覧|線路名称]]」及びJR発足以降の「JR線路名称公告」による場合。なお、国土交通省鉄道局監修『[[鉄道要覧]]』及び国鉄分割民営化時に当時の[[運輸省]]に提出された「事業基本計画」では全線を東北本線とは別の路線として記載している<ref>国土交通省鉄道局監修 『鉄道要覧』各年度版「東日本旅客鉄道株式会社 東北新幹線」掲載頁 電気車研究会・鉄道図書刊行会</ref>。}}が、本項目では[[在来線]]としての東北本線について記す。新幹線については「[[東北新幹線]]」などの新幹線路線記事を、また在来線の地域ごとの詳細(直通路線系統などは[[#東京地区の電車特定区間|後節]]を参照)及び東北新幹線の八戸および新青森延伸に伴って[[第三セクター鉄道]]に移管された盛岡駅以北については以下の記事も参照。
* [[宇都宮線]](東京駅 - 尾久駅 - [[黒磯駅]]間)
* [[いわて銀河鉄道線]](盛岡駅 - [[目時駅]]間)
* [[青い森鉄道線]](目時駅 - [[青森駅]]間)
== 概要 ==
東北本線は、もともと[[日本鉄道]]が建設した路線で、[[上野駅]]から[[青森駅]]までの線路と、上野駅と[[秋葉原駅]]間を短絡する貨物線の線路からなる、日本最長の[[営業キロ]]を持つ路線であった。[[東京都|東京]]と[[青森市|青森]]の間を、[[さいたま市|大宮]]・[[宇都宮市|宇都宮]]・[[郡山市|郡山]]・[[福島市|福島]]・[[仙台市|仙台]]・[[一関市|一関]]・[[盛岡市|盛岡]]・[[八戸市|八戸]]を経由して、[[関東地方]]内陸部と[[東北地方]]内陸部を縦断して結んでいた。これはのちに開業する[[東北新幹線]]設置駅とも同様であり、ほぼ並走している。途中の沿岸区間は、[[岩沼市|岩沼]] - [[松島町|松島]]と八戸以北である。
[[1891年]]([[明治]]24年)に全線開通、その後[[1925年]]([[大正]]14年)の[[山手線]]環状運転開始時に敷設された[[東京駅]] - 秋葉原駅間の[[電車線・列車線|電車線]]も東北本線に組み込まれ、営業キロが739.2 km と日本最長の路線<!--当時はまだ新幹線はないので(新幹線に対する)在来線という呼び方はない。-->となった。[[第二次世界大戦]]終結後の[[高度経済成長]]期には長距離の[[特別急行列車|特急]]・[[急行列車]]が大幅増発されたが、[[1982年]]([[昭和]]57年)に[[東北新幹線]]の[[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]] - [[盛岡駅]]間が開業すると、長距離列車は新幹線経由での運行に移行し、並行する東北本線在来線列車は中距離列車に置き換えられた。東北本線の旅客輸送は地域輸送中心の体制に移行しており、全線を走行する定期旅客列車は存在せず、栗橋駅 - 岩沼駅間、仙台駅 - 盛岡駅間には特急列車は運行されていない。[[2002年]]([[平成]]14年)12月1日には同新幹線の盛岡駅 - 八戸駅間が開業、[[2010年]](平成22年)12月4日には八戸駅 - [[新青森駅]]間も開業し、その区間で並行する東北本線在来線はJR東日本から[[第三セクター]]会社(盛岡駅 - [[目時駅]]間は[[IGRいわて銀河鉄道]]、目時駅 - 青森駅間は[[青い森鉄道]])に経営が移管された。この結果、東北本線在来線は東京駅 - 盛岡駅間の全長535.3 km(支線含まず)の路線となり、[[山陰本線]]・[[東海道本線]]に次ぐ在来線で3番目に長い路線となった。
東北本線には旅客列車のほか、首都圏と沿線各地や[[北海道]]を結ぶJR貨物の[[貨物列車]]も多数運行されており、[[隅田川駅]] - [[札幌貨物ターミナル駅]]間は「北の大動脈」とも比喩されている<ref>[[国土交通省]]資料 鉄道:我が国の鉄道貨物輸送『鉄道貨物輸送へのモーダルシフト』</ref>。多くの貨物列車が東海道本線を経て東海道・山陽・九州方面と、IGRいわて銀河鉄道線・青い森鉄道線・[[海峡線]]を経て北海道方面と直通している。
電化方式は[[栃木県]]の[[黒磯駅]]を境に、同駅以南では[[直流電化]] (1500 V)、以北では[[交流電化]] (20 kV・50 Hz) となっており、普通列車は黒磯駅以南では直流電車、黒磯駅 - 白河駅間では[[交直流電車]]、新白河駅以北では[[交流型電車|交流電車]]がそれぞれ使用されている([[#使用車両|使用車両]]節参照)。黒磯駅を越えて運転される在来線旅客列車は、臨時列車のみで、定期旅客列車は存在しない。
東北本線の線路名称上の起点は1925年以来東京駅であり、同駅は[[1991年]]以来東北新幹線の起点ともなっているが、旅客案内上や時刻表などで「東北本線」と呼ばれている中・長距離旅客列車は1960年代以前の一部の[[東海道線 (JR東日本)|東海道線]](東海道本線)直通列車を除いて長年にわたり、東京都[[台東区]]の上野駅を起点として運行されていた([[#東北本線の起点|後節]]を参照)。また[[1968年]]9月30日まで大宮駅 - 赤羽駅間は[[国電]](京浜東北線)と列車が同じ線路を共用していたが、翌10月1日に電車線と列車線に分離が行われ現在の別系統での運転が完成した。東京駅 - 上野駅間の列車線は東北新幹線東京駅延伸による用地確保のため[[1973年]]に廃止され、それ以降は電車線を走行する東京近郊の近距離電車(運転系統としての[[中央線快速|中央線]]・[[山手線]]・[[京浜東北線]])のみとなっていた<ref name="teishajo"/> が、廃止から42年後の2015年より同区間の列車線が再び敷設され'''[[上野東京ライン]]'''として東海道線との[[直通運転|相互直通運転]]が再開された。
=== 線路名称と愛称、路線系統名称 ===
現在「東北本線」と呼ばれる線路は、日本鉄道の時代は「奥州線」と呼ばれたり<ref name="yashu-tetsudo">大町雅美著『郷愁の野州鉄道 -栃木県鉄道秘話-』(随想社刊)</ref><ref>[[鉄道唱歌]] 第三集 『奥州線・磐城線編』</ref>、地図上では「東北鉄道」などの記載も見られたりしたが<ref name="yashu-tetsudo" /><ref>大日本帝国 陸地測量部 明治25年測図「喜連川」</ref>、同社の定款では「第一区」から「第五区」<ref>『[{{NDLDC|805522/2}} 日本鉄道株式会社 明治三十四年年報]』(国立国会図書館デジタルコレクション)</ref>、国有化直前時点の定款では[[仙台駅]]を境に「本線南区」・「本線北区」と称していた。国有化後の[[1909年]](明治42年)[[10月12日]]には'''国有鉄道線路名称'''(明治42年鉄道院告示第54号)により、当線は主な経由地([[福島県]]・[[宮城県]]・[[岩手県]]・青森県)の地方名として定着していた「東北」を冠し「東北線の部 東北本線」となった<ref name="kokuji-54go">鉄道院告示第54号 国有鉄道線路名称 明治四十二年十月十二日</ref>。この時「東北線の部」に属していた路線は東北本線、[[山手線]]、[[常磐線]]、[[常磐線|隅田川線]]、[[高崎線]]、[[両毛線]]、[[水戸線]]、[[日光線]]、[[磐越西線|岩越線]]、[[塩釜線]]、[[八戸線|八ノ戸線]]の11路線であり、東北本線はこの中の「本線」とされ「東北線の部」の[[幹線]]であった<ref name="kokuji-54go" /><ref>[[原口隆行]]著、[[宮脇俊三]]編 『時刻表でたどる鉄道史』 明治42年1909年の項 1998年(JTB発行)</ref>。主要経由地の4県は明治以前の[[令制国]]では[[陸奥国]]([[陸奥国|奥州]])の地域であったが、[[戊辰戦争#戦後処理|戊辰戦争の戦後処理]]の一環で[[明治政府]]が[[出羽国]]([[出羽国|羽州]])と共に1868年(明治元年)に分割(「[[陸奥国 (1869-)]]」参照)、これに伴い[[民権派]]が[[薩長土肥]]を『西南』と呼んだのに対し、旧奥羽両国を指す新名称として明治10年代から使用し、当線の改称時には一般化していた「東北」が採用された<ref name="kokuji-54go" />。
[[ファイル:Tōhoku Main Line.JPG|200px|thumb|right|赤羽駅 - 大宮駅間の三複線([[蕨駅]])]]
現在の東北本線では、当路線内運行の列車のほか、当線経由で他線各地に向かう列車も運行されている([[#地域輸送|地域輸送]]を参照)。こと東京駅 - 大宮駅間ではかつての[[国電]]である近距離電車([[山手線]]・[[京浜東北線]]・[[埼京線]])がそれぞれ専用の線路で運行されており、旅客案内上では「東北本線」や「東北線」ではなくこれらの[[鉄道路線の名称#路線の系統名称・愛称|系統名称]]が使用されている。上野駅を発着する[[黒磯駅]]までの[[中距離電車|中距離列車]]に対してはかつて「東北線」と呼ばれていたが、[[国鉄分割民営化]]後の[[1990年]](平成2年)3月10日に'''[[宇都宮線]]'''という[[鉄道路線の名称#路線の系統名称・愛称|愛称]]が与えられた(命名経緯については「[[宇都宮線#「宇都宮線」の愛称制定後]]」を参照)<ref>『とちぎ20世紀 下巻』下野新聞とちぎ20世紀取材班編、2001年(下野新聞社発行)</ref><ref>東日本旅客鉄道 「2010年度 会社要覧」</ref>。また、山手線[[池袋駅]]や[[新宿駅]]を発着する中距離列車も運行されるようになり、これらは[[2001年]](平成13年)に[[東海道本線]]・横須賀線への直通運転へと発展し'''[[湘南新宿ライン]]'''という愛称が与えられた。このほか[[中央本線]]([[中央線快速|中央線]])・[[常磐線]]([[常磐快速線|常磐線快速]])・[[高崎線]]や[[武蔵野線]]の列車も当路線に乗り入れており<ref group="†" name="formal">正式には山手線は[[品川駅]] - [[新宿駅]] - [[田端駅]]間の路線であり、京浜東北線は[[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]] - [[東京駅]] - [[横浜駅]]間の[[電車線・列車線|電車線]]の通称、埼京線は[[大崎駅]] - [[池袋駅]] - [[赤羽駅]] - [[武蔵浦和駅]] - 大宮駅間の通称である。また中央本線・常磐線の正式な起点はそれぞれ[[神田駅 (東京都)|神田駅]]・[[日暮里駅]]である。東京駅 - 大宮駅間の山手線・京浜東北線・中央線・常磐線の線路、赤羽駅 - 大宮駅間の埼京線の線路はすべて東北本線に含まれている。</ref>、東京駅 - 上野駅間を経由して[[東海道線 (JR東日本)|東海道線]]と宇都宮線・高崎線・常磐線を直通する系統は'''[[上野東京ライン]]'''と呼ばれている。
=== 東北本線の起点 ===
東北本線の線区上の起点は[[1925年]](大正14年)以来[[東京駅]]であるが、[[1885年]](明治18年)の開業以来1925年まで、東北本線在来線列車の始発駅は[[上野駅]]となっていた。貨物運輸のため上野駅 - [[秋葉原駅]]間には貨物線が敷かれていたが、この区間はもともと[[江戸]]の下町に当たり線路敷設が避けられていたこともあって、はじめて旅客列車が発着するようになるのは1925年に[[山手線]]が現在のような環状運転を行うために[[電車線・列車線|電車線]]を敷設・開業してからのことで、それまでは山手線も上野駅を始発・終着駅として運転されていた。なお、4年後の[[1928年]](昭和3年)には現在の[[宇都宮線]]にあたる東北本線の列車線が東京駅 - 上野駅間に複線で開業しており、路線としては名実ともに東京駅を起点とする形となった。戦後は東京駅 - 上野駅間列車線の単線化・回送線化や1973年(昭和48年)の列車線分断による東海道本線への直通列車の廃止などがあり東北本線列車線の列車は基本的に上野駅発着となる。以降、上野駅は'''北のターミナル'''として、東北・信越地方や関東北部へ向かう列車の始発・終着駅としての歴史を刻み、現在も[[首都圏 (日本)|首都圏]]中距離電車のほか、常磐特急[[ひたち (列車)|「ひたち」・「ときわ」]]などが上野駅ホームを発着している。
[[第二次世界大戦]]終結後の[[1946年]](昭和21年)[[11月5日]]、[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]が東北本線方面に向かう[[連合軍専用列車|占領軍専用列車]]を[[横浜駅]]発着で走らせて以来、[[東北新幹線]]東京駅乗り入れ工事が着手される1973年までは、上野駅発着の優等列車および朝夕の中距離列車の一部が東京駅や[[新橋駅]]、さらには[[神奈川県]]、[[静岡県]]方面から東海道本線経由で直通運転されたが、東北新幹線建設の際に東京駅 - 秋葉原駅間の[[電車線・列車線|列車線]]施設が新幹線用地とされ、以来電車線(山手線・京浜東北線の線路)のみが東京駅に繋がり、中・長距離定期列車はすべて元の上野駅(あるいは[[池袋駅]]・[[新宿駅]])を始発・終着駅とするようになった<ref>[[原口隆行]]著『時刻表でたどる特急・急行史』(JTB発行)</ref><ref>日本交通公社『時刻表』各号</ref>。また、新幹線に流用されなかった秋葉原駅 - 上野駅間の線路は[[車両基地|留置線・回送線]]として使われるようになった。
その後、東北本線中距離列車の運行区間を東京駅、品川駅方面へ延伸し、東海道本線と[[直通運転|相互直通運転]]する計画が企画され<ref>東日本旅客鉄道 会社概要 2010年版</ref>、[[2015年]](平成27年)3月14日から「[[上野東京ライン]]」として、列車線も、東北本線本来の起点である東京駅を経由して運転されている<ref group="報道" name="jreast20141219">{{Cite_press_release|title=2015年3月ダイヤ改正について|url=http://www.jreast.co.jp/press/2014/20141222.pdf|publisher=東日本旅客鉄道|format=PDF|date=2014-12-19|accessdate=2014-12-30}}</ref>。
なお、当線の戸籍上の終点は盛岡だが、JRより経営分離された盛岡以北の[[いわて銀河鉄道線]] (IGR) および[[青い森鉄道線]]内[[距離標|キロポスト]]は従前のまま東京起点からの通算表示となっている(盛岡駅構内にIGR線用の、目時駅構内に青い森鉄道線用の各0キロポストは設置されていない)。
== 路線データ ==
*管轄・路線距離([[営業キロ]]): 全長572.0 km(支線含む)
**東日本旅客鉄道([[鉄道事業者|第一種鉄道事業者]]):
***東京駅 - 盛岡駅 535.3 km
****国有鉄道線路名称上は東京駅 − 神田駅間1.3 kmは[[中央本線]]と[[中央本線#他線との重複区間|重複]]していた。『[[鉄道要覧]]』では中央本線は神田駅起点であり重複していない。
***日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅 7.6 km
***赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅 18.0 km([[埼京線]])
***長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅 6.6 km(通称:宮城野貨物線)
***岩切駅 - 利府駅 4.2 km(通称:[[利府線|利府支線]])
***松島駅 - 高城町駅間 0.3 km(通称:[[仙石東北ライン#仙石線・東北本線接続線|仙石線・東北本線接続線]])
**[[日本貨物鉄道]]([[鉄道事業者|第二種鉄道事業者]]):
***田端駅 - 盛岡駅 (528.2 km)
***長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅 (6.6 km)
*[[軌間]]:1067 mm
*駅数:
**旅客駅:145駅(支線含む。起終点駅および仙台貨物ターミナル駅を除く)
***東北本線所属の旅客駅に限定した場合、上記駅数から東京駅(東海道本線所属<ref name="teisya">停車場変遷大辞典 国鉄・JR編(JTB発行)</ref>)・神田駅(中央本線所属<ref name="teisya" />)・高城町駅(仙石線所属<ref name="teisya" />)を除外した142駅となる。また、名目上旅客併設駅だが実態は貨物専用となっている仙台貨物ターミナル駅を加えると143駅となる。
**貨物駅:5駅(仙台貨物ターミナル駅以外の旅客併設駅を除く)
*複線区間:
**[[複々線]]以上:
***東京駅 - 大宮駅間
***日暮里駅 - 尾久駅間
**[[複々線#三線|複単線]]:
***東仙台駅 - 東仙台信号場間
**[[複線]]:
***大宮駅 - 東仙台駅間
***東仙台信号場 - 盛岡駅間
***尾久駅 - 赤羽駅間
***赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間
***長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅間
**[[単線]]:いずれの区間も支線
***岩切駅 - 利府駅間
***松島駅 - 高城町駅間
*電化区間:松島駅 - 高城町駅間を除く全線
**[[直流電化|直流]]1,500 V:
***東京駅 - 黒磯駅間
***日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅間
***赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間
**[[交流電化|交流]]20,000 V 50 Hz:
***黒磯駅 - 盛岡駅間
***長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅間
***岩切駅 - 利府駅間
**[[デッドセクション]]:黒磯駅 - 高久駅間、車上切替式
*[[閉塞 (鉄道)|閉塞方式]]
**東京駅 - 田端駅 - 大宮駅間の電車線(山手線・京浜東北線)
**:[[閉塞 (鉄道)#列車間の間隔を確保する装置による方法|列車間の間隔を確保する装置]]([[鉄道に関する技術上の基準を定める省令|鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準]]第54条第2項第2号に規定される、一段ブレーキ制御方式の[[自動列車制御装置]])による方法<ref group="†">先行列車は固定閉塞で捕捉するが、自列車は閉塞単位で減速・停止するのではなく、先行列車のいる閉塞の手前で停止するように制御される。JR東日本では同項第3号による方式と合わせて「ATC方式」と呼称している。</ref>
**赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間(埼京線)
**:列車間の間隔を確保する装置(鉄道に関する技術上の基準を定める省令の解釈基準第54条第2項第3号に規定される、車上設備により列車の位置に応じた列車の運転速度を指示する制御情報を発生させる方式の自動列車制御装置)による方法<ref group="†">いわゆる[[移動閉塞]]方式。JR東日本では同項第2号による方式と合わせて「ATC方式」と呼称している。</ref>
**利府支線:[[閉塞 (鉄道)#特殊自動閉塞式|特殊自動閉塞式]](軌道回路検知式)
**上記以外:[[閉塞 (鉄道)#自動閉塞式|自動閉塞式]]<!-- 塩釜駅 - 高城町駅間が単線なので(複線)とは書かない -->
*[[自動列車保安装置|保安装置]]<ref>[https://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2018/all.pdf サステナビリティレポート2018] 34頁 - JR東日本、2018年9月</ref>
**[[自動列車制御装置#D-ATC|D-ATC]]
***東京駅 - 田端駅 - 大宮駅間の電車線(山手線・京浜東北線)
**[[ATACS]]
***赤羽駅 - 武蔵浦和駅 - 大宮駅間(埼京線)
**[[自動列車停止装置#ATS-P形(デジタル伝送パターン形)|ATS-P]]
***東京駅 - 日暮里駅 - 尾久駅 - 赤羽駅 - 黒磯駅
***田端信号場駅 - 赤羽駅 - 大宮駅間(東北貨物線)
**[[自動列車停止装置#ATS-Ps形(変周地上子組合せパターン型)|ATS-Ps]]
***白石駅 - 小牛田駅間
**[[自動列車停止装置#ATS-S改良形|ATS-S<small>N</small>]]
***黒磯駅 - 白石駅間
***小牛田駅 - 盛岡駅間
***長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅間
***岩切駅 - 利府駅間
<!-- 松島駅 - 高城町駅は駅構内同士が接しており駅間が存在しない -->
*最高速度:<!--各車両が出しうる最高速度ではなく、軌道等地上設備が許容する最高速度-->
**東京駅 - 盛岡駅間 120 km/h
**田端信号場駅 - 赤羽駅間(東北貨物線) 95 km/h
**赤羽駅 - 大宮駅間(東北貨物線) 120 km/h
**長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台駅間(宮城野貨物線) 100 km/h
**岩切駅 - 利府駅間(利府支線) 95 km/h
*[[運転指令所]]:
**東京駅 - 黒磯駅間 東京総合指令室(東京駅 - 那須塩原駅間[[東京圏輸送管理システム|ATOS]])
**黒磯駅 - 石越駅間 仙台総合指令室 ([[列車集中制御装置|CTC]])
**石越駅 - 盛岡駅間 盛岡総合指令室 (CTC)
**田端信号場駅 - 大宮駅間(東北貨物線) 東京総合指令室 (ATOS)
**長町駅 - 仙台貨物ターミナル駅 - 東仙台信号場間(宮城野貨物線) 仙台総合指令室 (CTC)
**岩切駅 - 利府駅間(利府支線) 仙台総合指令室 (CTC)
*** 運転取扱駅(駅が信号を制御、運行を管理):黒磯駅、郡山駅、福島駅、小牛田駅、一ノ関駅、盛岡駅
*** 準運転取扱駅(入換時は駅が信号を制御):岩沼駅、仙台貨物ターミナル駅
* 旅客運賃・乗車券関連
** 旅客運賃体系:電車特定区間を除いて[[幹線#国鉄再建法上の幹線|幹線]]運賃
** [[大都市近郊区間 (JR)#東京近郊区間|東京近郊区間]]([[旅客営業規則]]による):東京駅 - 黒磯駅間(尾久駅経由の支線および武蔵浦和駅経由の支線〈埼京線〉を含む)
** [[大都市近郊区間 (JR)#仙台近郊区間|仙台近郊区間]](旅客営業規則による):矢吹駅 - 平泉駅間、岩切駅 - 利府駅、松島駅 - 高城町駅間
** [[電車特定区間]]:東京駅 - 大宮駅間(尾久駅経由の支線および武蔵浦和駅経由の支線〈埼京線〉を含む)
*** 東京駅 - 田端駅間は[[東京山手線内]]にも含まれる。
** [[ICカード|IC]][[乗車カード]]対応区間:
*** [[Suica]]首都圏エリア:東京近郊区間に同じ
*** Suica仙台エリア:[[矢吹駅]] - [[小牛田駅]]間、一ノ関駅、平泉駅、岩切駅 - 利府駅間、松島駅 - 高城町駅間
*** Suica盛岡エリア:北上駅 - 盛岡駅間
JR東日本の各支社の管轄区間は、以下のようになっている。
* 赤羽駅以南、埼京線 赤羽駅 - [[浮間舟渡駅]]間:[[東日本旅客鉄道首都圏本部|首都圏本部]]
* [[川口駅]] - [[豊原駅]]間、埼京線 [[戸田公園駅]] - [[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]間:[[東日本旅客鉄道大宮支社|大宮支社]]
* [[白坂駅]] - [[石越駅]]間(宮城野貨物線含む)、利府支線、仙石線・東北本線接続線:[[東日本旅客鉄道東北本部|東北本部]]
* [[油島駅]] - 盛岡駅間:[[東日本旅客鉄道盛岡支社|盛岡支社]]
== 沿線概況 ==
{| {{Railway line header|collapse=yes}}
{{UKrail-header2|停車場・施設・接続路線|mediumseagreen}}
{{BS-table}}
* {{small2|[[仙台市交通局]]([[ファイル:Sendai City Subway Logo.svg|16px]][[仙台市地下鉄|地下鉄]]・[[仙台市電|市電(廃止)]])は図上表記を省略し記号のみ記載}}
----
{{BS3||KBHFa|O2=HUBaq|KBHFa|O3=HUBeq|0.0|[[東京駅]]||}}
{{BS3||LSTR|O2=POINTERg@fq|LSTR|||この区間は[[宇都宮線]]を参照|}}
{{BS3||LSTR|LSTR|O3=POINTERg@fq|||[[東北新幹線]]|}}
{{BS3|exELC|BHF|STR|163.3|[[黒磯駅]]|''{{BSsplit|[[デッドセクション]]|(地上切替)-2018}}''|}}
{{BS5||ELC|STR+GRZq|STR||||[[デッドセクション]]{{BSsplit|↑[[直流電化|直流1500V]]|[[交流電化|交流20kV50Hz]]↓}}}}''
{{BS5|||hKRZWae|hKRZWae|||那珂川橋りょう|[[那珂川]]|}}
{{BS5|||eABZgl|eKRZo|exSTR+r||''旧線''||}}
{{BS5|||STR|TUNNEL2|exSTR||||}}
{{BS5||exSTR+l|eKRZ|eKRZ|exSTRr||||}}
{{BS3|exSTR|BHF|STR|167.3|[[高久駅]]||}}
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{{BS3|exSTR+l|eABZgr|STR||||}}
{{BS3|exBHF|BHF|tSTRa|{{BSkm|171.5|0.0*}}|[[黒田原駅]]||}}
{{BS3|exDST|STR|LSTR|3.4*|''黒川信号場''|-1920|}}
{{BS3|exBHF|BHF||176.7|[[豊原駅]]||}}
{{BS3|exSTR|hSTRa|||||}}
{{BS3|exhKRZWae+GRZq|hKRZW+GRZq|||黒川橋りょう|[[黒川 (那珂川水系)|黒川]]{{BSsplit|↑[[栃木県]]|[[福島県]]↓}}|}}
{{BS5||exSTRl|ehKRZe|exSTRq|exSTR+r||||}}
{{BS5|||ABZgl|STR+r|05=exSTRc1|exSTR||||}}
{{BS5||exSTR+l|eKRZ|eKRZ|exSTRr||||}}
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{{BS5||exSTR|BHF|O3=HUBaq|BHF|O4=HUBeq||185.4|[[新白河駅]]||}}
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{{BS5|exSTRq|exKRZ+xr|eABZg+r|LSTR||||''[[白棚線]]''|}}
{{BS3|exBHF|BHF||188.2|[[白河駅]]||}}
{{BS3|exSTRl|eABZg+r|||||}}
{{BS|BHF|192.9|[[久田野駅]]||}}
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{{BS|BHF|197.4|[[泉崎駅]]||}}
{{BS|BHF|203.4|[[矢吹駅]]||}}
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{{BS3||BHF|LSTR|215.1|[[須賀川駅]]||}}
{{BS3|STR+r|STR|STR|||[[水郡線]]<ref group="*">愛称:奥久慈清流ライン</ref>|}}
{{BS5|STR+l|KRZu|KRZu|STRr||||東北新幹線|}}
{{BS5|STR|STRl|ABZg+r||||||}}
{{BS5|STR||BHF|||221.8|[[安積永盛駅]]||}}
{{BS5|STR||DST|||223.4|[[郡山貨物ターミナル駅]]||}}
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{{BS5|STRl|KRZu|KRZu|STR+r|||||}}
{{BS3|KRWgl+l|KRWgr+r|STR||||}}
{{BS5||STR|BHF|O3=HUBaq|BHF|O4=HUBq|uexKBHFa|O5=HUBeq|226.7|[[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]||}}
{{BS5||DST|STR|STR|uexSTR||郡山車両センター||}}
{{BS5||KRWl|KRWg+r|STR|uexSTR|| 郡山派出||}}
{{BS5||KRW+l|KRWgr|O3=ABZgl|KRZo|uxmKRZ|||[[磐越西線]]|}}
{{BS5||hKRZWae|hKRZWae|hKRZWae|uexSTR|||[[逢瀬川]]|}}
{{BS5||STRr|STR|STR|uexSTR|||[[磐越東線]]<ref group="*">愛称:ゆうゆうあぶくまライン</ref>|}}
{{BS5||uexSTRq|emKRZ|emKRZo|uexSTRr|||''[[三春馬車鉄道]]''|}}
{{BS3|STR+l|KRZu|STRr||||}}
{{BS3|LSTR|BHF||232.4|[[日和田駅]]||}}
{{BS|hKRZWae|||[[五百川]]|}}
{{BS|BHF|236.9|[[五百川駅]]||}}
{{BS|BHF|240.7|[[本宮駅 (福島県)|本宮駅]]||}}
{{BS|hKRZWae||||}}
{{BS2|BS2+l|BS2+r||||}}
{{BS2|TUNNEL1|STRf||大山トンネル||}}
{{BS2|BS2l|BS2r||||}}
{{BS|BHF|246.6|[[杉田駅 (福島県)|杉田駅]]||}}
{{BS3|LSTR|BHF||250.3|[[二本松駅]]||}}
{{BS3|tSTRa|BHF||254.5|[[安達駅]]||}}
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{{BS3|tSTR+l|KRZt|tSTRr||||}}
{{BS3|tSTR|BHF||264.0|[[金谷川駅]]||}}
{{BS3|tSTR|ABZg2u|tSTRc3||||}}
{{BS3|tSTR|TUNNEL1|tSTR+4ue||||}}
{{BS3|tSTR|TUNNEL2|STRf||||}}
{{BS3|tSTR|tSTRa|STR||||}}
{{BS5||tSTRl|tKRZt|KRZu|O4=PORTALr|STR+r||||}}
{{BS5|||tSTRe|STRf|STR|||}}
{{BS5|||TUNNEL1|O3=STRc2|STR3|STR||||}}
{{BS5|||ABZg+1|STRc4|STR||||}}
{{BS5|||BHF||STR|269.4|[[南福島駅]]||}}
{{BS7|d|O1=uexvSTR+l-|uexlBHF|O2=HUBa||STR||STR|d|||[[福島交通]]:''[[福島交通飯坂東線|飯坂東線]]''|}}
{{BS7|uexdLSTR|uexKBHFa|O2=HUBlf|KBHFa|O3=HUBq|BHF|O4=HUBq|KBHFa|O5=HUBq|BHF|O6=HUBeq|d|272.8|[[福島駅 (福島県)|福島駅]]||}}
{{BS5|uexLSTR|KRWgl|KRWg+r|O3=eKRWgl|eKRWg+r|O4=exSTRc2|ABZg3||||}}
{{BS5|uexHST|HST|STR+c2|KRZ3+1u|STR+c4|||[[曽根田駅]]|}}
{{BS5|uexLSTR|STR+c2|KRZ3+1u|STR+c4|STR||||}}
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{{BS5|STR+1|uexSTR+4u|O2=STR+c4|STR|exSTRl|exKBSTeq||''[[福島総合運輸区|福島機関区]]''||}}
{{BS5|STR2|LSTRl|O2=STRc3|KRZu|||||福島交通:[[福島交通飯坂線|飯坂線]]|}}
{{BS5|STRc1|STR+4|DST|||277.4|[[矢野目信号場]]||}}
{{BS5|STR+l|KRZo|ABZgr|||||[[阿武隈急行線]]|}}
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{{BS7|uexvSTRl-|O1=uexvSHI2l-|uexdSTRq|emKRZo|emKRZo|d|||||福島交通:''[[福島交通飯坂東線|飯坂東線]]''|}}
{{BS7|uexKBHFe|c|STR|BHF|c|||281.9|[[伊達駅]]||}}
{{BS3|STRl|KRZu|STR+r||||}}
{{BS3|uexSTR+r|STR|STR|||福島交通:''飯坂東線''|}}
{{BS3|uexKBHFe|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBeq|STR|285.9|[[桑折駅]]||}}
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{{BS|BHF|294.9|[[貝田駅]]||}}
{{BS|STR+GRZq|||{{BSsplit|↑福島県| [[宮城県]]↓}}|}}
{{BS|BHF|298.6|[[越河駅]]||}}
{{BS3||eDST|LSTR|303.7|''[[中目信号場]]''|-1966|}}
{{BS3|STR+l|KRZu|STRr||||}}
{{BS3|HST|STR||||[[白石蔵王駅]]|}}
{{BS3|tSTRa|BHF||306.8|[[白石駅 (宮城県)|白石駅]]||}}
{{BS3|tSTR|BHF||311.0|[[東白石駅]]||}}
{{BS3|tSTR|TUNNEL1|||||}}
{{BS3|tSTRe|eDST||313.9|''津田仮信号場''|-1911|}}
{{BS3|STRl|KRZu|LSTR+r||||}}
{{BS|BHF|315.3|[[北白川駅]]||}}
{{BS3||BHF|O2=HUBaq|exKBHFaq|O3=HUBeq|320.1|[[大河原駅 (宮城県)|大河原駅]]|''[[仙南温泉軌道]]''|}}
{{BS5|LSTR||BHF|||323.1|[[船岡駅 (宮城県)|船岡駅]]||}}
{{BS5|STRl|STRq|ABZg+r|||||阿武隈急行線|}}
{{BS3|exSTR+r|STR||||''[[角田軌道]]''|}}
{{BS3|exKBHFe|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBeq||327.7|[[槻木駅]]||}}
{{BS3|STRq|ABZg+r||||[[常磐線]]|}}
{{BS|eABZg+r|||''[[日本製紙]] 専用鉄道''|}}
{{BS|BHF|334.2|[[岩沼駅]]||}}
{{BS|BHF|337.9|[[館腰駅]]||}}
{{BS3|STRq|ABZg+r||||[[仙台空港鉄道]]:[[仙台空港鉄道仙台空港線|仙台空港線]]|}}
{{BS3|exKBHFeq|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBeq||341.4|[[名取駅]]|''[[増東軌道]]''|}}
{{BS3||STR|LSTR|||東北新幹線|}}
{{BS3||BHF|STR|344.1|[[南仙台駅]]||}}
{{BS3||hKRZWae|hKRZWae|||[[名取川]]|}}
{{BS3||BHF|STR|346.3|[[太子堂駅]]||}}
{{BS5|||STR|STR|exSTR+l|||''[[秋保電気鉄道]]''|}}
{{BS5|||BHF|O3=HUBaq|STR|O4=HUBq|exKBHFe|O5=HUBeq|{{BSkm|347.3|0.0#}}|[[長町駅]]|[[ファイル:Sendai City Subway Logo.svg|16px|link=仙台市地下鉄|仙台市地下鉄]][[仙台市地下鉄南北線|南北線]][[ファイル:BSicon exTRAM.svg|14px|link=仙台市電|仙台市電]](長町駅前駅)|}}
{{BS3||hKRZWae|hKRZWae|||[[広瀬川 (宮城県)|広瀬川]]|}}
{{BS5|STR+l|STRq|ABZgr|STR|||[[#支線|宮城野貨物線]]||}}
{{BS5|STR|exKDSTa|STR|STR||1.4|''仙台市場駅''||}}
{{BS5|eKRWg+l|exKRWr|eBHF|STR||348.8|''行人塚駅''|-1944|}}
{{BS5|DST||STR|STR||{{BSkm|3.8#|0.0}}|[[仙台貨物ターミナル駅]]||}}
{{BS5|LSTR||eBHF|STR||349.9|''三百人町駅''|-1944|}}
{{BS3|uexKBHFeq|STR|STR|||''[[木道社]]''|}}
{{BS3|exSTR+l|eABZgr|STR|||||}}
{{BS5||exSTR|O2=HUBrg|BHF|O3=HUBq|BHF|O4=HUBq|HUBlg|351.8|[[仙台駅]]|[[ファイル:Sendai City Subway Logo.svg|16px|link=仙台市地下鉄|仙台市地下鉄]]{{BSsplit|[[仙台市地下鉄南北線|南北線]]|[[仙台市地下鉄東西線|東西線]]}}[[ファイル:BSicon exTRAM.svg|14px|link=仙台市電|仙台市電]]([[仙台駅前駅]])|}}
{{BS5|tBHFq|O1=exSTRc2|P1=HUBaq|tSTRq|O2=exSTR3|P2=HUBtr|KRZt|KRZt|tSTRq|O5=HUB|||[[仙石線]]|}}
{{BS5|exABZq1|exBHFq|O2=exSTRc4|P2=HUBe|extSTRaq|O3=STR2u|extSTRq|O4=STR3|extKBHFeq|O5=HUBe|||''仙石線 旧線''|}}
{{BS5|||STR+1|STR+4u|||||}}
{{BS5||STR+l|KRZo|ABZgr|||||}}
{{BS3|STR|STR|eBHF|353.2|''小田原東丁駅''|-1944|}}
{{BS5|LSTR|STRl|KRZo|KRZu||||[[仙山線]]|}}
{{BS5|STRl|STRq|KRZo|ABZg+r|||||}}
{{BS3||STR|BHF|{{BSkm|355.8|6.6#}}|[[東仙台駅]]||}}
{{BS3||STR|DST|357.5|[[東仙台信号場]]||}}
{{BS3||hKRZWae|hKRZWae|||[[七北田川]]|}}
{{BS3||STR|BHF|{{BSkm|359.9|0.0*}}|[[岩切駅]]||}}
{{BS3||STR+c2|ABZg3||||}}
{{BS3|STRc2|KRZ3+1o|STR+c4|O3=POINTERg@fq||「[[利府線]]」||}}
{{BS5||STR+1|STRl|O3=STRc4|KRZu|STR+r|O5=LSTRq||||}}
{{BS5||STR||BHF|STR|2.5*|[[新利府駅]]||}}
{{BS5||STR||STR|KBSTe|||[[新幹線総合車両センター]]|}}
{{BS3|BHF||STR|362.2|[[陸前山王駅]]||}}
{{BS3|ABZgr||STR|||[[仙台臨海鉄道]]:[[仙台臨海鉄道臨海本線|臨海本線]]|}}
{{BS3|BHF||STR|363.5|[[国府多賀城駅]]||}}
{{BS3|eABZgr||STR|||''[[塩釜線]]''|}}
{{BS3|STR||KBHFxe|4.2*|[[利府駅]]||}}
{{BS3|BHF||exSTR|365.2|[[塩釜駅]]||}}
{{BS3|TUNNEL2||exSTR||||}}
{{BS3|TUNNEL1||exSTR||塩釜トンネル||}}
{{BS3|TUNNEL2||exSTR||||}}
{{BS5|LSTR|eBHF||exSTR||369.1|''北塩釜信号場''|-1962|}}
{{BS5|TUNNEL2|TUNNEL2||exSTR|||||}}
{{BS5|HST|STR||exSTR||||[[陸前浜田駅]]|}}
{{BS5|STR2u|STR3||exSTR|||||}}
{{BS5|STR+1|STR+4u||exDST||9.9*|''[[赤沼信号場]]''|-1962|}}
{{BS5|TUNNEL1|TUNNEL2||exSTR|||||}}
{{BS5|tSTR2ua|STR3|O2=POINTERg@fq||exSTR||||仙石線|}}
{{BS5|STR+1|tSTR+4u||exSTR|||||}}
{{BS5|TUNNEL1|tSTRe||exSTR|||||}}
{{BS5|TUNNEL1|TUNNEL1||exSTR|||||}}
{{BS5|HST|STR||exSTR||||[[松島海岸駅]]|}}
{{BS5|TUNNEL1|TUNNEL1||exSTR|||||}}
{{BS5|KRWg+l|KRWgr||exSTR||||[[仙石東北ライン|仙石線・東北本線接続線]] 2015-|}}
{{BS5|STRr|BHF||exSTR||375.2|[[松島駅]]|(2)|}}
{{BS3|STR|exKBHFa|O2=HUBaq|exBHF|O3=HUBeq|15.8*|''松島駅''|(1) -1962|}}
{{BS3|exSTRq|O1=STR2|exSTRr|O2=STRc3|P2=exSTRc2|exSTR3|||''[[松島電車]]''|}}
{{BS3|STRc1|ABZ+4x1|exSTRc4||||}}
{{BS|BHF|377.2|[[愛宕駅 (宮城県)|愛宕駅]]||}}
{{BS|TUNNEL1|||}}
{{BS|BHF|{{BSkm|381.6|21.2*}}|[[品井沼駅]]||}}
{{BS|BHF|386.6|[[鹿島台駅]]||}}
{{BS3||BHF|O2=HUBaq|uexKBHFaq|O3=HUBeq|391.5|[[松山町駅]]|''[[松山人車軌道]]''|}}
{{BS3||BHF|O2=HUBaq|uexKBHFa|O3=HUBeq|395.0|[[小牛田駅]]||}}
{{BS3|STRq|ABZglr|uxmKRZ|||←[[石巻線]]/[[陸羽東線]]<ref group="*">愛称:奥の細道 湯けむりライン</ref>→|}}
{{BS3||STR|uexSTRl|||''[[古川馬車鉄道]]''|}}
{{BS|eDST|398.4|''谷地中信号場''|-1948|}}
{{BS|BHF|401.1|[[田尻駅]]||}}
{{BS3|exSTR+r|STR||||''[[仙北鉄道]]'':''登米線''|}}
{{BS3|exBHF|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBeq||407.8|[[瀬峰駅]]||}}
{{BS3|exSTRl|eKRZu|exSTRq|||''仙北鉄道'':''築館線''|}}
{{BS|BHF|411.5|[[梅ケ沢駅]]||}}
{{BS|BHF|416.2|[[新田駅 (宮城県)|新田駅]]||}}
{{BS|eDST|419.6|''畑岡信号場''|-1950|}}
{{BS3||STR|exSTR+l|||''栗原電鉄''(旧経路)|}}
{{BS3||BHF|O2=HUBaq|exBHF|O3=HUBeq|423.5|[[石越駅]]||}}
{{BS3||eABZgl|exABZql|||''[[くりはら田園鉄道線]]''(新経路)|}}
{{BS|STR+GRZq|||{{BSsplit|↑宮城県| [[岩手県]]↓}}|}}
{{BS|BHF|427.0|[[油島駅]]||}}
{{BS|BHF|431.2|[[花泉駅]]||}}
{{BS|BHF|434.4|[[清水原駅]]||}}
{{BS|STR+GRZq|||{{BSsplit|↑岩手県| 宮城県↓}}|}}
{{BS5|exSTR+l|exSTRq|eABZgr||LSTR||||}}
{{BS5|exSTR||BHF||STR|{{BSkm|437.8|0.0*}}|[[有壁駅]]||}}
{{BS5|exSTR|STR+l|KRZu|STRq|STRr||||}}
{{BS5|extSTRa|tSTRa|O2=POINTERg@fq|tSTRa|||||第二有壁トンネル 宮城県↑|}}
{{BS5|extSTR+GRZq|tSTR+GRZq|tSTR+GRZq|O3=POINTERg@fq||||大沢田トンネル||}}
{{BS5|extSTRe|O1=POINTERg@fq|tSTRe|tSTRe||||''有壁トンネル''|岩手県↓|}}
{{BS5|exSTRl|eKRZo|eABZg+r||||||}}
{{BS3|STR|eDST||441.7|''真柴信号場''|1943-1957|}}
{{BS3|KRZo|ABZg+r||||[[大船渡線]]<ref group="*">愛称:ドラゴンレール大船渡線</ref>|}}
{{BS3|BHF|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBeq||445.1|[[一ノ関駅]]||}}
{{BS3|LSTR|BHF||448.0|[[山ノ目駅]]||}}
{{BS|BHF|452.3|[[平泉駅]]||}}
{{BS|eDST|456.3|''[[衣川信号場]]''|-1966|}}
{{BS|TUNNEL1|||}}
{{BS|BHF|459.9|[[前沢駅]]||}}
{{BS|BHF|465.1|[[陸中折居駅]]||}}
{{BS3||BHF|O2=HUBaq|exKBHFa|O3=HUBeq|470.1|[[水沢駅]]||}}
{{BS3||eKRZ|exSTRr|||''胆江軌道''|}}
{{BS|BHF|477.7|[[金ケ崎駅]]||}}
{{BS|BHF|481.1|[[六原駅]]||}}
{{BS3|LSTR|eDST||483.7|''[[北上操車場|北上信号場]]''||}}
{{BS3|BHF|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBq|exKBHFa|O3=HUBeq|487.5|[[北上駅]]||}}
{{BS3|STR|STR|exSTRl|||''[[和賀軽便鉄道]]''|}}
{{BS3|LSTR|ABZgl||||[[北上線]]|}}
{{BS|BHF|492.2|[[村崎野駅]]||}}
{{BS|eDST|496.9|''飯豊信号場''|-1952|}}
{{BS6|exSTR+l|exABZ+rml|emKRZu|uexdHSTq|exSTR+r|O5=uexSTRq|uexdSTRq|||''西花巻駅'' ''[[花巻電鉄]]'':''軌道線''|}}
{{BS5|exSTR|O1=POINTERg@fq|exSTR|STR|exBS2+l|exBS2c4|||''[[岩手軽便鉄道]]''|}}
{{BS5|exSTR|exKBHFe|O2=HUBaq|BHF|O3=HUBq|exBHF|O4=HUBeq||500.0|[[花巻駅]]||}}
{{BS5|exLSTR||STR|exSTRl||||''花巻電鉄'':''鉄道線''|}}
{{BS5|eABZqr|LSTRq|ABZgr|||||[[釜石線]]<ref group="*">愛称:銀河ドリームライン釜石線</ref>|}}
{{BS|BHF|505.7|[[花巻空港駅]]||}}
{{BS|BHF|511.4|[[石鳥谷駅]]||}}
{{BS3|LSTR|BHF||516.8|[[日詰駅]]||}}
{{BS3|STR|BHF||518.6|[[紫波中央駅]]||}}
{{BS3|STR|BHF||521.5|[[古館駅]]||}}
{{BS3|STR|BHF||525.1|[[矢幅駅]]||}}
{{BS3|STR|DST||528.8|[[盛岡貨物ターミナル駅]]||}}
{{BS3|STR|BHF||529.6|[[岩手飯岡駅]]||}}
{{BS3|STR2|STR3u|||||}}
{{BS3|STR+1u|STR+4||||東北新幹線|}}
{{BS3|BHF|STR||533.5|[[仙北町駅]]||}}
{{BS3|STR2u|STR3|||||}}
{{BS3|STR+1|STR+4u|||||}}
{{BS3|BHF|O1=HUBaq|BHF|O2=HUBq|KBHFa|O3=HUBeq|535.3|[[盛岡駅]]||}}
{{BS3|KRZo|exKRWl|O2=ABZgr|eKRWg+r|||[[山田線]]|}}
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|}
東北本線の沿線には、[[東京都]][[台東区]]から[[埼玉県]][[久喜市]]にかけての区間及び[[宮城県]][[仙台市]]から[[栗原市]]にかけての区間を除く、ほぼ全ての区間にわたり[[国道4号]]が並行している。なお、東京都台東区から埼玉県[[川口市]]にかけては[[東京都道・埼玉県道58号台東川口線]]・[[東京都道306号王子千住夢の島線]]・[[国道122号]]、川口市から[[さいたま市]]にかけては[[埼玉県道35号川口上尾線]]・[[国道17号]]・[[国道463号]]・[[埼玉県道65号さいたま幸手線]]・[[埼玉県道164号鴻巣桶川さいたま線]]、さいたま市から久喜市にかけては[[埼玉県道3号さいたま栗橋線]]・[[国道125号]]が、また宮城県仙台市から栗原市にかけては[[国道45号]]・[[宮城県道8号仙台松島線]]・[[宮城県道35号泉塩釜線]]・[[国道346号]]・[[宮城県道19号鹿島台高清水線]]・[[宮城県道15号古川登米線]]・[[宮城県道29号河南築館線]]・[[宮城県道1号古川佐沼線]]・[[宮城県道36号築館登米線]]・[[国道398号]]・[[宮城県道・岩手県道183号若柳花泉線]]・[[国道342号]]・[[岩手県道・宮城県道187号大門有壁線]]が東北本線と並行している。
=== 東京駅 - 黒磯駅間 ===
{{See|宇都宮線#沿線概況|京浜東北線#沿線概況}}
=== 黒磯駅 - 新白河駅間 ===
黒磯駅を出ると列車はすぐに[[デッドセクション]]を通過し、[[直流電化]]区間から[[交流電化]]区間に入る。その後[[那珂川]]を橋梁で通過し[[那須高原]]に入って行き、[[黒田原駅]] - [[豊原駅]] - [[白河駅]]にかけて、列車は[[関東地方]]の北の尾根で[[栃木県]]と[[福島県]]の県境となる[[那須岳|那須]]・[[八溝山|八溝]]の山間を抜けて行く。この付近は東北本線で最も[[標高]]の高い地域(標高約400m)である。[[余笹川]]の鉄橋を渡ると[[那須町]]役場のある[[黒田原駅]]となる。この駅は同じ町内の全国的観光地「那須高原」の喧騒さとは異なる、静かなたたずまいの小さな駅である。
豊原駅と[[白坂駅]]の間の県境を流れる川である[[黒川 (那珂川水系)|黒川]]をまたぐ鉄橋は鉄道ファンの絶好の撮影地となっている。白坂からは[[東北地方]]・福島県に入る。白河地域は福島県[[中通り]]地方の最南端であるが、この標高のため中通り地方で一番[[春]]の訪れの遅い場所でもある。中通り地方の[[桜前線]]は県北の[[福島市]]より始まり[[白河市]]に向かって南下して行く。新白河駅はもともと磐城西郷駅と称していたが、東北新幹線の停車駅となるのに伴い名称も新白河駅へと改称した。所在地は白河市ではなく[[西白河郡]][[西郷村]]である。
=== 新白河駅 - 郡山駅間 ===
列車は[[新白河駅]]を経て[[白河駅]]へと到着する。新白河駅の東隣となる白河は古くは令制国時代に[[念珠ヶ関]](ねずがせき)・[[勿来|勿来の関]](なこそのせき)と共に、[[蝦夷]](えみし)の侵入に備えた北方防衛の砦[[奥州三関]]の一つに数えられた[[白河の関]]が設けられた土地として知られ、古代街道の[[東山道]]にあって[[江戸時代]]には[[宿場町]]かつ[[城下町]]である。[[奥州街道]]の[[道中奉行]]管轄の終点と、延長部の起点との境となっており、現在も東北地方の玄関口に立地している。
列車はこの先、福島市の先まで丘陵地を縫うように進み標高を下げていく。沿線の平地には長閑な[[水田]]が広がり、国内第4位の米産出高を有する福島県(平成18年度農業センサス)の特徴的な風景が見られる。鏡石には<!--JR東日本の一部の駅の[[発車メロディ]]に使われている-->[[文部省唱歌]]『[[牧場の朝]]』のモデルとなった[[岩瀬牧場]]があり、[[鏡石駅]]のホームには牧場の朝の歌詞を載せたパネルが展示されている。須賀川市に入ると徐々に住宅街が現れ、[[須賀川駅]]を通過すると再び水田と樹林の広がる郊外に入る。[[水郡線]]が右手より合流する[[安積永盛駅]]を通過すると左手に大きなイベントホール[[ビッグパレットふくしま]]が現われ、都市部が目立ち始めると東北新幹線と接続し[[磐越西線]]、[[磐越東線]]、水郡線が発着する[[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]に到着する。[[郡山市]]は[[明治]]以前は小さな宿場がある寒村に過ぎなかったが、明治初期の[[安積疏水]]の開削により現在では日本有数の[[米]]の生産地となり、何より県の中心に存在することから相次いで[[鉄道路線|鉄路]]、[[道路]]、高速交通網の整備がなされ、南東北の一大交通拠点都市として発展した。
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ファイル:20090321那須岳Tagged.jpg|東北本線が通過する那須高原エリア
ファイル:KagamiishiBirdView.jpg|画面中央左右の直線が[[鏡石町]]の東北本線
ファイル:20090905須賀川郡山市街Tagged.jpg|[[須賀川市]]街を通過する東北本線
ファイル:NasuShiobaraKuroisoTagged.jpg|[[黒磯駅]]を出ると直ぐに[[那珂川]]が作る深い[[渓谷]]の橋梁を渡る。(2006年12月)
ファイル:ShirakawaCity.jpg|白河市郊外を通過する東北本線。(2007年1月)<br/>[[:ファイル:ShirakawaCityTagged.jpg|解説付き画像]]
ファイル:BigPaletteFukushima.jpg|[[ビッグパレットふくしま]]。東北本線と国道4号の間に立地する。(2007年3月)
ファイル:KoriyamaCity.jpg|郡山駅航空写真。郡山ビッグアイが駅そばに見える。(2006年11月)
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=== 郡山駅 - 福島駅間 ===
郡山駅を出ると列車は安積原野の起伏の有る丘陵の中を進み[[五百川]]の橋梁を渡る直前左手には郡山北部工業団地、右手に[[福島県農業総合センター]]の広大な敷地が、橋梁から[[五百川駅]]の手前では左側にビール醸造の巨大な銀色のタンク群が目に飛び込んでくると間も無く[[本宮駅 (福島県)|本宮駅]]となる。東北本線の車窓からよく目にした「[[大七酒造|酒は大七]]」の巨大文字看板の醸造元や「[[奥の松酒造|奥の松]]」で知られる[[二本松駅]]まで来ると[[高村光太郎]]の「[[智恵子抄]]」に詠われた[[安達太良山]]([[活火山]])が左手に迫る。
列車はこの後[[鬼女|鬼婆]](おにばば)伝説で有名な[[安達ヶ原]]、[[松川駅]]などを通過し[[福島盆地]]を眼下に見下ろしながら[[盆地]]底まで急勾配を下って[[福島駅 (福島県)|福島駅]]に到着する。当駅から左手に見える山は同じく活火山の[[吾妻山]]。吾妻連峰の[[吾妻小富士#雪うさぎ|雪うさぎ]]は春の[[田植え]]シーズンの到来を知らせてくれる。その麓の[[扇状地]]は[[モモ|桃]]など[[果物]]の産地として知られる。また、これらの活火山のため郡山から福島にかけては[[磐梯熱海温泉]]、[[岳温泉]]、[[高湯温泉]]、[[飯坂温泉]]ほか、有名な[[温泉]]が多い地域でもある。
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ファイル:AdataraSan&Tohokusen.jpg|[[安積原野]]を進む東北線<br />奥は安達太良山
ファイル:AdzumaKofuji&YamagataShinkansen.jpg|[[山形新幹線]]と<br />奥は[[吾妻小富士]]
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=== 福島駅 - 仙台駅間 ===
福島駅を出ると、[[山形新幹線]]、[[福島交通飯坂線]]が左に折れ、東北新幹線は[[信夫山]]トンネルを通過する。[[東福島駅]]手前の[[矢野目信号場]]で阿武隈川沿いの経路を進む[[阿武隈急行線]]が東折する。列車はこの後[[霊山 (福島県)|霊山]](りょうぜん)の岩山を右手に見ながら、盆地底の標高約50m付近から県境の標高約200mの[[貝田駅]]付近の[[国見峠 (宮城県・福島県)|国見峠]]まで上り勾配を進む。この地域はかつて生糸に代表される[[繊維]]産業が盛んな地域であり、眼下に[[福島盆地|信達平野]]を望みながら時折のどかな田園風景の中に[[桑]]畑を目にすることができる。
峠を越えると[[宮城県]]に入り、[[蔵王連峰]]を西に見ながら[[白石駅 (宮城県)|白石駅]]に到着する。この先[[大河原駅 (宮城県)|大河原駅]] - [[船岡駅 (宮城県)|船岡駅]]間では[[白石川]]と併走するが、このあたりの桜並木は「一目千本桜」と呼ばれ、観光名所であると共に有数の撮影スポットでもある([[花見]]時期には列車の徐行も行われる)。[[槻木駅]]で再び阿武隈急行線と合流し、[[阿武隈川]]と共に[[高館丘陵]]と[[亘理地塁山地]]の間を抜けて[[仙台平野]]に出る。[[岩沼駅]]では右手より[[常磐線]]が合流。[[浜堤]]に沿って[[愛島丘陵]]東端を迂回し、[[名取駅]]に入ると[[仙台空港アクセス線]]が合流する。[[仙台市]]に入り、[[名取川]]を渡ると[[長町副都心]]、[[広瀬川 (宮城県)|広瀬川]]を渡ると[[仙台市都心部]]に入ってビルが立ち並ぶ風景が見えてくる。両河川を渡る際には、左手の[[大年寺山#テレビ塔|大年寺山にある複数のテレビ塔]]が[[ライトアップ]]されているのが視野に入り、日没後であっても仙台駅がもう近いことが分かる。
<gallery>
ファイル:P4120288.JPG|[[白石川]]一目千本桜と並走する東北本線。
ファイル:JR Tohokuline nearminamisendaista 130728.jpg|沿線には田園風景が広がる(名取 - 南仙台間)
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=== 仙台駅 - 一ノ関駅間 ===
[[仙台駅]]を出ると[[宮城野橋]](X橋)周辺の[[仙台市の高層ビルの一覧|高いビル群]]が見える。[[七北田丘陵]]東端をかすめて[[七北田川]]を渡るとすぐ[[岩切駅]]で[[利府支線]]が左手に分岐し、[[東北新幹線]]との並走区間も終わる。[[陸前山王駅]]で[[仙台臨海鉄道]]・[[仙台臨海鉄道臨海本線|臨海本線]]が右手に分岐すると、[[陸奥国|陸奥]][[国府]]・[[多賀城]]南大門前にあった[[条坊制]]都市の遺跡の上を突っ切り、[[松島丘陵]]に入る。ここから[[塩釜駅]] - [[松島駅]]間で[[仙石線]]とからまるように並走し、一瞬だけ海や[[日本三景]]の[[松島]]が見える。この区間で[[仙石東北ライン|仙石線・東北本線接続線]]が右手に分岐する。松島丘陵を抜けると[[品井沼]]干拓地を通り、[[大松沢丘陵]]東端を越えて[[大崎平野]]に入る。左手に[[陸羽東線]]、右手に[[石巻線]]が分岐する[[小牛田駅]]を過ぎ、[[篦岳丘陵]]西端をかすめて北上すると築館丘陵の東端に入り、[[長沼ダム|長沼]]と[[ラムサール条約]]に登録されている[[伊豆沼]]・内沼の間を抜け、左手に[[栗駒山]]が見える栗原平野に入る。更に進むと[[石越駅]]へ。朝夕には仙台方面からの列車が当駅まで運行されている拠点駅であると共に、[[2007年]]3月まで[[くりはら田園鉄道線]]の起点駅でもあった。[[くりはら田園鉄道|栗原電鉄]]時代には、直流電化の電鉄線と東北本線との貨物交換用に、特注の[[ディーゼル機関車]]が留置されており、連絡線も敷設されていた。
石越駅を過ぎると、宮城県と[[岩手県]]とを分ける丘陵地帯に入り、両県を行ったり来たりすることになる。岩手県の[[油島駅]]・[[花泉駅]]および[[清水原駅]]を過ぎて再び宮城県に戻ると、仙台を出てから旧・[[奥州街道]]の道筋と大きく離れていた当線は、宮城県[[栗原市]]に位置する[[有壁駅]]で再び旧・奥州街道(および東北新幹線)と並走し始める。岩手県に戻ると間もなく[[北上盆地]]に入り、同県南部の中心都市である[[一関市]]の[[一ノ関駅]]に到着。同駅は仙台駅以来の新幹線駅併設駅であり、[[大船渡線]]への乗り換えや、[[厳美渓]]、[[須川高原温泉]]、[[奥州三十三観音霊場]]などの名所へ向かう利用客で賑わう。
[[File:JRLinesMatsushima.svg|thumb|300px|left|松島駅付近の路線図]]
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ファイル:JR tohokuline near kokufutagajo 20160130.jpg|国府多賀城 - 塩釜間
ファイル:JR tohokuline near semine 20160515.jpg|田尻 - 瀬峰間
ファイル:Ichinoseki sta2.jpg|一ノ関駅付近
</gallery>{{Clearleft}}
=== 一ノ関駅 - 盛岡駅間 ===
一ノ関駅を出ると、[[北上川]]西岸を延々と北上するルートとなる。次の[[平泉駅]]では奥州藤原氏の威光を伝える[[世界遺産]]・[[平泉]]への観光客が乗り降りする。その後、[[胆沢扇状地]]の扇端をなぞるように北上し、途中で[[奥州市]]の中心市街地にある[[水沢駅]]へ到着する。田園地帯を走り[[胆沢川]]を越えると、六原扇状地をなぞるように[[金ケ崎町]]を北上。旧[[仙台藩]]と旧[[盛岡藩]]との旧・藩境を越えて新幹線駅併設の[[北上駅]]に入る。北上駅を出るとすぐ[[秋田県]]・[[横手盆地]]へと向かう[[北上線]]が左手に分岐する。同駅周辺からは[[線形 (路線)|線形]]が[[直線]]の区間が多くなる。さらに北上して[[花巻駅]]に着くと、[[花巻温泉郷]]や[[宮沢賢治]]縁りの地に向かう観光客で賑わう。[[花巻市]]には同駅のほかに、[[釜石線]]と東北新幹線が交差する[[新花巻駅]]、岩手県唯一の空港・[[花巻空港]]に最寄りの[[花巻空港駅]]や[[似内駅]]がある。[[紫波中央駅]]付近から東北新幹線と並走するようになり、[[岩手山]]が左手に見えてくると[[盛岡駅]]に到着。同駅で[[田沢湖線]]([[秋田新幹線]])や[[三陸海岸]]方面へ延びる[[山田線]]が分岐する。なお、他区間に比べて線形が極めて良いため、東北地方では珍しく100km/h以上で走行する普通列車も多数存在する。
[[ファイル:Mt. Iwate and Morioka.jpg|thumb|none|150px|北上川河畔から見た盛岡駅周辺と岩手山]]
{{-}}
== 運行形態 ==
現在、長距離都市間輸送およびビジネス輸送の多くを[[東北新幹線]]が担っている<ref group="†">しかし、並行在来線は、東京駅 - 上野駅 - 盛岡駅間については東北本線として、盛岡駅 - 目時駅間は[[IGRいわて銀河鉄道]][[いわて銀河鉄道線]]、目時駅 - 青森駅間は[[青い森鉄道]][[青い森鉄道線]]として現存しており、区間によっては直通列車がなく乗り継ぎが必要となるものの、新幹線を使わず在来線のみでも長距離移動が可能。</ref>。[[宇都宮線]]区間は[[首都圏 (日本)|東京]]への通勤路線および[[さいたま市|大宮]]・[[宇都宮市|宇都宮]]の各都市圏路線として、その他の区間も郡山・福島・仙台・盛岡などの地域の中心都市の生活路線として運行体系が組まれており、寝台特急列車が臨時含め廃止された2016年以降、遠隔都市間を結ぶ在来線列車は[[臨時列車]]と[[貨物列車]]のみとなっている。
東京駅から[[黒磯駅]]までは直流、[[高久駅]]以北はすべて交流でそれぞれ電化されており、黒磯駅と高久駅の間に[[デッドセクション]]が設けられている<ref>[https://toyokeizai.net/articles/-/181018?page=3 「黒磯直流化」でJR東が新規投入する車両は?] 東洋経済オンライン 2018-10-27閲覧。</ref>。当該デッドセクションを挟み、直流電化区間と交流電化区間を直通する列車は、貨物列車のほか、旅客列車が臨時列車と黒磯駅 - 新白河駅・白河駅間において[[交直流電車]]で運行されている普通列車のみで、交流電化区間から宇都宮線区間である黒磯駅以南の直流電化区間への普通列車の乗り入れは行われていない。
電化前の最盛期には黒磯駅を跨ぐ直通普通列車が毎日15往復設定されていた(優等客車を連結した普通列車・夜行普通列車含む)が、[[1959年]]の黒磯駅以南の直流電化・同駅以北の交流電化後は毎日8往復へと減便され、代わって[[1965年]]・[[1968年]]には当時最新鋭の特急・急行用電車([[国鉄485系電車#483系|483系]]・[[国鉄457系電車#455系・475系|455系]]・[[国鉄485系電車|485系]]・[[国鉄583系電車|583系]])が相次いで投入され、長距離特急・急行列車が増便された。それでもなお客車による普通列車の運用が残されていた時代には朝昼中心に毎日数本は直通普通列車(いずれも客車普通列車)が設定されていたが、[[1978年]][[10月2日]]のダイヤ改正で特急・急行列車が大幅増便されたことに伴って、上野駅 - 黒磯駅間での客車普通列車の運行が消滅し、黒磯駅を跨いだ普通列車は、急行「なすの」の間合い運用の宇都宮駅 - 白河駅間の列車だけとなり、その後完全に消滅した。その後、[[1982年]][[6月23日]]には東北新幹線が開業し、東北本線在来線を走る特急・急行列車は徐々に新幹線経由での運行に切り替えられ、空いた在来線には中距離普通列車が増発された。
現在、旅客が黒磯駅を跨いで普通列車を利用する場合は、同駅において同駅以南で運行される直流電車と同駅以北で運行される交直流電車との相互乗り換えが必要となっているが、普通列車の本数および所要時間に関しては、客車時代に比べて利便性が高くなっている。電化後も含め、客車による長距離普通列車が運行されていた時代の上野 - 仙台間の所要時間は9時間30分から10時間30分程度かかっていたが、2015年には途中駅で乗り換えが必要ではあるものの、同区間の所要時間は概ね6時間15分から40分程度、遅くても7時間30分以内に短縮された。しかし黒磯駅構内直流化に先立って行われた2017年10月の改正後は所要時間が増加した乗り継ぎ例もある{{Refnest|group="†"|上野7時57分(土休日8時00分)発だと2015年6月時点で仙台14時13分着、2018年3月改正時点で13時55分着となり、むしろ所要時間が短縮され6時間を切った例もある<ref>『JTB時刻表』2015年7月号、pp.573,585 および『JTB時刻表』2018年3月号、pp.579,591</ref>。}}。
=== 優等列車 ===
東北新幹線が開業した[[1982年]]以前は、東北本線在来線が東京対東北・北海道へのメインルートであったことや、沿線諸都市連絡のために多くの長距離優等列車が運行されていた。新幹線の部分開業後は、並行区間の長距離列車が新幹線経由での運行中心となり、当線を経由して会津若松や山形などの各都市へ向かっていた列車は一部が[[新幹線直行特急]]へと発展を遂げたのを除いて、郡山駅などの各新幹線停車駅から乗り継ぎを行なう運行形態へと変更になったが、新幹線の終点から青森・北海道方面への連絡特急列車は残されていた。やがて東北新幹線の全線開業により、[[盛岡駅]]以北がすべてJR東日本から経営分離されると、在来線経由で運行されている優等列車は当線経由で他路線沿線を目的地とする列車のみとなり、現在に至っている。
首都圏と北海道を結ぶ[[夜行列車]]は2016年3月の[[北海道新幹線]]の開業により全廃された。なお、前述のように経営分離された盛岡駅 - 青森駅間は[[IGRいわて銀河鉄道]]と[[青い森鉄道]]の路線を走行するため、この区間を経由する場合の運賃・特急料金には両社の運賃と両社線内の特急料金が加算されるが、2016年3月改正時点では該当する定期旅客列車はない。
以下に東北本線で運行されている列車を挙げる。'''強調'''した区間が東北本線内を表す。東京駅 - 大宮駅間に乗り入れる高崎線直通列車については「[[高崎線]]」を、東京駅 - 日暮里駅間に乗り入れる常磐線の列車については「[[常磐線]]」を、過去の列車については「[[東北本線優等列車沿革]]」の各記事を参照。
* 特急[[日光 (列車)|「日光」「きぬがわ」「スペーシアきぬがわ」]] : [[新宿駅]] - '''田端駅(通過) - 大宮駅 - 栗橋駅(通過)''' - [[東武日光駅]]間
* 特急「[[ひたち (列車)|ひたち]]」:品川駅 - '''東京駅 - 上野駅 - 日暮里駅(通過)''' - [[いわき駅]] - '''岩沼駅(一部停車) - 仙台駅'''間
=== 地域輸送 ===
東北本線の普通・快速列車は、主に[[宇都宮駅]]・[[黒磯駅]]・[[新白河駅]]・[[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]・[[福島駅 (福島県)|福島駅]]・[[仙台駅]]・[[小牛田駅]]・[[一ノ関駅]]でそれぞれ運行系統が分かれており、各区間内の需要に応じた区間列車が運転されている。このうち黒磯駅と一ノ関駅は、その前後にまたがって運行される定期列車は2023年11月現在ない。
==== 東京地区の電車特定区間 ====
前述のように、東京近郊では多数の運転系統が東北本線を走行している。運行形態の詳細については各路線・運転系統の記事を参照。
* [[宇都宮線]](東北線) : 東京都心と[[小山駅]]・宇都宮駅方面とを結ぶ中距離列車。[[日暮里駅]](通過) - [[赤羽駅]]間は[[尾久駅]]経由。京浜東北線などと並行する[[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]以南では一部の駅のみ停車する。詳細は後述。
* [[高崎線]] : 東京都心と[[熊谷駅]]・[[高崎駅]]方面とを結ぶ中距離列車。大宮駅以南では宇都宮線に乗り入れ、同一の線路を走行。
*[[常磐快速線|常磐線快速電車]]・[[常磐線]] : 東京都心と[[松戸駅]]・[[取手駅]]・[[土浦駅]]方面とを結ぶ路線。上野駅 - 日暮里駅間は東北本線上に敷設された専用線路を走行。
* [[京浜東北線]]<ref group="†" name="formal" /> : 東京駅 - 大宮駅間の[[電車線・列車線|電車線]]で運行される近距離電車。東海道本線電車線および[[根岸線]]と一体化し大宮駅 - 大船駅間を結ぶ。日暮里駅 - 赤羽駅間は[[田端駅]]経由。各駅停車が基本だが、[[1988年]]より日中に東京都心部で快速運転を行っている<ref name="rp200309-046">『鉄道ピクトリアル』2003年9月号 46-52頁「JR各社の快速運転状況 JR東日本 東京圏」</ref>。
* [[山手線]]<ref group="†" name="formal" /> : 東京都中心部を環状運転する電車。東京駅 - 田端駅間で東北本線電車線を走行する。全電車各駅停車。
* [[埼京線]]<ref group="†" name="formal" /> : 赤羽駅 - [[武蔵浦和駅]] - 大宮駅間の東北新幹線沿いに建設された東北本線の別線(通勤新線)と[[赤羽線]]・山手貨物線と一体化して大崎駅・新宿駅 - 大宮駅間を結ぶ。[[東京臨海高速鉄道りんかい線|りんかい線]]・[[川越線]]・東海道本線[[品鶴線]]・[[東海道貨物線]]・[[相鉄新横浜線]]・[[相鉄本線|本線]]([[相鉄・JR直通線]])との直通運転も行う。
* [[中央線快速|中央線]]<!--快速だけでなく早朝夜間に各駅停車も走行--> : 東京都心と[[多摩地域]]を結ぶ路線。東京駅 - [[神田駅 (東京都)|神田駅]]間は東北本線上に敷設された専用線路を走行。
また、宇都宮線・高崎線および常磐線快速電車・常磐線では、[[上野駅]]を発着する従来からの系統に加えて、JR発足後に次の運転形態が新設されている。
* [[湘南新宿ライン]] : [[東北貨物線]]と[[山手線#山手貨物線|山手貨物線]]・東海道本線品鶴線を使用して[[池袋駅]]・[[新宿駅]]・[[渋谷駅]]を経由し、高崎線と[[東海道線 (JR東日本)|東海道線]][[大船駅]]以西の相互間、東北本線(宇都宮線)大宮駅以北と[[横須賀線]]との相互間をそれぞれ直通運転する。[[2001年]]12月より運行を開始した<ref group="報道" name="jreast2001">{{Cite_press_release|title=2001年12月 ダイヤ改正について III. 首都圏輸送|url=http://www.jreast.co.jp/press/2001_1/20010914/06.html|publisher=東日本旅客鉄道|date=2001-09-21|accessdate=2012-05-26}}</ref>。
* [[上野東京ライン]] : 上野駅 - 東京駅間に整備された列車線経由で東北本線(宇都宮線)・高崎線と東海道線との相互直通運転、および常磐線から東海道線[[品川駅]]までの乗り入れを行う。[[2015年]]3月改正より運転されている<ref group="報道" name="jreast20141219" />。
===== 系統別停車駅比較表 =====
<div style="font-size:75%;">
* 直通先は'''正式路線名である'''。
* ●:全列車停車、▲:快速は通過、▼:平日ダイヤの快速は通過、━:全列車通過、=:経由せず
* 中央線と埼京線はここでは省略する。
{|class="wikitable" rules="all"
|- style="text-align:center;"
!colspan="2"|系統
!直通先
|style="width:1em;"|東京駅
|style="width:1em;"|神田駅
|style="width:1em;"|秋葉原駅
|style="width:1em;"|御徒町駅
|style="width:1em;"|上野駅
|style="width:1em;"|鶯谷駅
|style="width:1em;"|日暮里駅
|style="width:1em;"|西日暮里駅
|style="width:1em;"|田端駅
|style="width:1em;"|尾久駅
|style="width:1em;"|上中里駅
|style="width:1em;"|王子駅
|style="width:1em;"|東十条駅
|style="width:1em;"|赤羽駅
|style="width:1em;"|川口駅
|style="width:1em;"|西川口駅
|style="width:1em;"|蕨駅
|style="width:1em;"|南浦和駅
|style="width:1em;"|浦和駅
|style="width:1em;"|北浦和駅
|style="width:1em;"|与野駅
|style="width:1em; line-height:1.1em;"|さいたま新都心駅
|style="width:1em;"|大宮駅
!直通先
|- style="background:#fd8;"
!rowspan="3"|上野駅<br />発着列車・<br />上野東京<br />ライン
!宇都宮線
|style="text-align:right;"|[[伊東線]] - 東海道本線||●||━||━||━||●||━||━||=||=||▲||=||━||━||●||━||━||━||━||●||━||━||▲||●||東北本線
|- style="background:#fd7;"
!高崎線
|style="text-align:right;"|伊東線 - 東海道本線||●||━||━||━||●||━||━||=||=||▲||=||━||━||●||━||━||━||━||●||━||━||▲||●||高崎線 - [[上越線]] - [[両毛線]]
|- style="background:#cef;"
!常磐線
|style="text-align:right;"|東海道本線||●||━||━||━||●||━||●||colspan="16"|松戸方面||常磐線( - [[成田線]]我孫子支線)
|- style="background:#fcc;"
!rowspan="2"|湘南新宿<br />ライン
!宇都宮線
|style="text-align:right;"|[[横須賀線]] - [[東海道本線]](含[[品鶴線]])||rowspan="2" colspan="8" style="text-align:center;"|[[山手線#山手貨物線|山手貨物線]]<br />[[新宿駅|新宿]]・[[池袋駅|池袋]]経由||━||=||━||━||━||●||━||━||━||━||●||━||━||━||●||東北本線
|- style="background:#fcc;"
!高崎線
|style="text-align:right;"|東海道本線(含品鶴線)||━||=||━||━||━||●||━||━||━||━||●||━||━||━||●||高崎線 - 上越線 - 両毛線
|- style="background:#9ef;"
!colspan="2" style="white-space:nowrap;"|[[京浜東北線]]
|style="text-align:right;"|[[根岸線]] - 東海道本線||●||●||●||▼||●||▲||▲||▲||●||=||●||●||●||●||●||●||●||●||●||●||●||●||●||-
|- style="background:#dfb;"
!colspan="2"|[[山手線]]
|style="text-align:right;"|山手線 - 東海道本線||●||●||●||●||●||●||●||●||●||colspan="14"|池袋方面||山手線
|}
</div>
<!-->宇都宮線・高崎線の王子駅・東十条駅や湘南新宿ラインの田端駅などについて、線路構造上の通過駅ではなく、運賃計算上の通過駅に基づいて記述した。また、川崎駅経由の東海道本線との区別のため、湘南新宿ラインについては便宜的に「品鶴線」を追加した。<-->
==== 東京駅 - 黒磯駅間(宇都宮線) ====
{{Main|宇都宮線}}
「宇都宮線」の愛称を持つ東京駅・上野駅 - 黒磯駅間の中距離列車は直流電車で運行され、[[宇都宮駅]]を境に系統が分割されている。宇都宮駅以南を運行する列車については原則として東京駅方面(上野東京ライン)・上野駅発着と新宿方面発着(湘南新宿ライン)の2本立てで運行し、一部は[[古河駅]]・[[小金井駅]]で折り返す運転となっている。[[栃木県]]・[[茨城県]]・[[埼玉県]]から[[東京特別区|東京]]への通勤路線、そして[[宇都宮市|宇都宮]]の近郊路線であり、[[グリーン車]]2両を連結した10両ないし15両編成の長編成列車を主体とに運行されている。2006年7月8日以前は、15両編成の列車は[[小金井駅]]以北への乗り入れが不可能であり小金井駅において分割・併合作業が多く行われていたが、同日以降は小金井駅 - 宇都宮駅間でも15両編成の乗り入れが可能となり小金井駅で分割・併合作業を行う列車は減少した。また、朝の下り方面と夕方以降は快速「ラビット」<ref group="†">他に平日には通勤快速が運転されていたが、2021年3月13日のダイヤ改正をもって終了。</ref> も運転されている。
宇都宮駅 - 黒磯駅間は宇都宮の近郊路線であり、1時間に2 - 3本の運転である。早朝の1本の[[小山駅]]始発黒磯駅行きを除いて終日宇都宮駅発着であり、小山駅始発の列車を含めて3両または6両編成による[[ワンマン運転]]が実施され、普通列車グリーン車の営業も行われない。このほか、宇都宮駅 - 宝積寺駅間では[[烏山線]]の列車も運行されている。一方で、黒磯駅以北へ直通運転する列車は、黒磯駅 - 新白河駅間が交直流電車と気動車<ref group="†" name="kuroso-dc">気動車(キハ110系)の運用は2020年3月14日のダイヤ改正をもって終了。</ref> の運用に切り替わった2017年(平成29年)10月以降においても設定されていない。
==== 黒磯駅 - 新白河駅間 ====
栃木県と福島県の県境域にわたる区間である。以前は交流電車中心に運用される新白河駅以北と一体的な運用が行われていたが、2018年(平成30年)1月1日から3日に行われた黒磯駅構内直流化に先立つ2017年(平成29年)10月14日に系統が分割され、交直流電車・気動車<ref group="†" name="kuroso-dc" />による折り返し運用に改められている。交流電車の運用は廃止されたため、理論上は黒磯駅以南への直通運転が可能であるが、黒磯駅構内直流化後においても、新白河駅より宇都宮線区間へ直通する列車は設定されていない。新白河駅以北へ直通する列車については、夜間留置の関係から朝に[[白河駅|白河]]発黒磯行きが1本運行されているのみである。
運行本数は、1 - 2時間に1本程度である。
2020年3月14日のダイヤ改正からE531系付属編成によるワンマン運転が開始された。
==== 新白河駅 - 福島駅間 ====
この区間は福島県内の[[白河駅|白河]]・[[須賀川駅|須賀川]]・郡山・福島付近の短距離通勤通学輸送が主で、新白河駅・郡山駅・福島駅を始発・終着とする列車を中心に運行されている。概ね郡山駅で系統は分割されているが、朝夕の一部列車は直通運転する。
朝夕には福島以北に乗り入れる列車があるが、2013年(平成25年)3月16日のダイヤ改正で削減された。2021年(令和3年)3月13日のダイヤ改正では、下りの藤田以北への直通がなくなった。
運行本数は1時間に1本 - 2本程度である。朝晩には福島駅 - 松川駅間および郡山駅・福島駅 - [[矢吹駅]]間の運用があるほか、夜間留置の関係上、朝に白河駅 - 新白河駅間、夜に郡山発白河行きの区間列車が各1本運行されている。このほか、[[安積永盛駅]] - 郡山駅間には[[水郡線]]の普通列車が乗り入れる。
新白河駅 - 郡山駅間では、日中の一部列車が[[ワンマン運転|ワンマン]]で運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。
==== 福島駅 - 白石駅間 ====
福島県と宮城県の県境域にわたる区間である。日中は白石駅で系統が分断されているが、朝夕と深夜には藤田駅発着と[[仙台駅]]発着列車の運行がある。かつては終日にわたり仙台駅までの運行がなされ、<!--[[高速バス]]路線([[仙台 - 福島線]])<ref group="†">このほか、福島県内区間または郡山・須賀川方面と宮城県間には[[福島交通]]が運行する[[福島 - 郡山線]]や、福交・[[宮城交通]]・[[ジェイアールバス東北|JRバス東北]]共同運行の[[仙台 - 郡山線|仙台 - 郡山・須賀川線]]高速バスも運行されている。</ref>との競争が激しい区間であることから-->昼前後の利用者の少ない閑散駅を通過する快速列車「[[仙台シティラビット]]」(3往復)が運行されていたが、2021年3月のダイヤ改正で普通列車に置き換わる形で廃止された。
運行本数は基本的に1時間に1本である。
この区間についても日中の一部列車が[[ワンマン運転|ワンマン]]で運行されている(多客が発生する場合は、ワンマンを解除し、車掌が乗務する)。
==== 白石駅 - 仙台駅間 ====
[[宮城県]][[仙台市]]の[[都市圏]]輸送区間である。宮城県内の通勤通学・仙台[[商圏]]の旅客が主体となっており、[[岩沼駅]]からは[[常磐線]]、[[名取駅]]からは[[仙台空港アクセス線]]系統の列車も乗り入れている。このほか[[槻木駅]]を介して[[阿武隈急行線]]と直通する列車も設定されている。基本的に[[仙台駅]]が始発・終点となる列車が多いが、ラッシュ時には仙台駅をまたいで南北に直通する列車も数本設定されている。かつては[[仙山線]]に直通する列車(2007年3月17日をもって廃止)も少数ながら運行されていた。
東北本線系統の1時間の運行本数は白石駅 - 仙台駅間が2 - 3本(昼間約20 - 30分間隔)である。また、岩沼駅 - 仙台駅間では常磐線から乗り入れる普通列車(1時間に1 - 2本)、名取駅 - 仙台駅間では[[仙台空港鉄道仙台空港線|仙台空港線]]直通の普通・快速列車(1時間に1 - 3本)も運行され、名取駅 - 仙台駅間ではこれらの直通列車を含むと1時間に日中5 - 6本、朝夕は最大10本程度の列車が運行される。
==== 仙台駅 - 小牛田駅間 ====
{{Main2|岩切駅から分岐して利府駅に至る通称「利府線」の区間|利府線|陸前山王駅から分岐していた塩釜線|塩釜線}}
この区間も仙台圏の都市圏輸送を担っており、仙台駅 - 松島駅・小牛田駅・石越駅・一ノ関駅方面間の列車のほか、仙台駅 - 岩切駅間では朝夕に[[利府線]](利府支線)との直通列車が、仙台駅 - 塩釜駅間<ref group="†">正式には松島駅までが本線走行区間の扱いだが、仙石東北ラインの列車は松島駅に停車しない。</ref>では接続線を経由し[[仙石線]]・[[石巻線]]に直通する[[仙石東北ライン]]の快速・[[特別快速]]列車も運行される。
1時間に1 - 2本の運行であるが、仙台駅 - 塩釜駅間では仙石東北ライン(高城町駅経由石巻駅・女川駅発着)を含めて2-3本程度である(「[[仙石線#東北本線との直通運転]]」も参照)。
なお、仙石東北ラインの開業までは松島駅発着の区間列車が1時間に3本運行されていたが、開業後は朝1本の松島発仙台行きと夜2本の仙台発松島行きを除いて廃止されている。
==== 小牛田駅 - 一ノ関駅間 ====
宮城県北部と岩手県南部およびその県境部にわたる区間であり、運行本数は1時間に1本程度である。朝と夜に[[石越駅]]発着の仙台方面への直通列車が設定されている。[[一ノ関駅]]をまたいで直通する定期列車は設定されていない。
当区間の南側は小牛田までの運行がほとんどであり、仙台方面との直通列車は朝夕の数往復のみとなっている。2015年3月13日までは日中でも仙台方面との直通列車が運行されており、一部列車は小牛田駅で列車編成の連結・切り離しが行われていたが翌日のダイヤ改正で系統分割された。
朝晩の一部列車を除き、ワンマン運転による2両編成が大半を占める。
==== 一ノ関駅 - 盛岡駅間 ====
岩手県内の[[一関市|一関]]・[[奥州市|水沢]]・[[北上市|北上]]・[[花巻市|花巻]]・[[盛岡市|盛岡]]への通勤通学客輸送を主体とする区間である。運行本数は一ノ関駅 - 北上駅間が1時間に1本程度、北上駅 - 盛岡駅間が1時間に1 - 2本程度(30 - 60分間隔の運行)である。平日朝(6時台の日詰発は毎日運転)に日詰駅 - 盛岡駅間の区間列車が3.5往復、矢幅駅発着が1往復(IGRいわて銀河鉄道線直通)運行があり、平日朝は日詰駅 - 盛岡駅を中心に1時間あたり最大6本程度運転される。なお、2019年9月21日に[[岩手医科大学附属病院]](盛岡市内丸)が[[矢巾町]]に新築移転したため、同日より平日朝に盛岡駅→日詰駅間で上り臨時列車が増発された<ref group="報道" name="jr-morioka20190911">{{PDFlink|[https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1568178256_1.pdf 東北本線盛岡駅〜日詰駅間の臨時列車運転について]}} - 東日本旅客鉄道株式会社 盛岡支社、2019年9月11日、同月18日閲覧</ref>。
日中時間帯を中心に一部列車は2両編成のワンマン運転となっている。朝夕は4両編成も多く運行される。
他路線との直通運転としては、花巻駅 - 盛岡駅間に釜石線直通列車が1日6往復(普通列車3往復および快速「[[はまゆり (列車)|はまゆり]]」3往復)乗り入れている。また平日の朝時間帯には[[いわて銀河鉄道線]]に直通する列車が運行されており、[[滝沢駅]]発着が2.5往復、[[いわて沼宮内駅]]発着が1.5往復ずつのほか、[[花輪線]][[鹿角花輪駅]]から上り1本が日詰駅まで乗り入れる。
===== 快速「アテルイ」 =====
朝の通勤時間に1日下り1本のみ運転されていた。水沢駅と盛岡駅の間を54分で結ぶ。
[[2023年]](令和5年)[[3月17日]]をもって運転を終了した。
* 停車駅
*: [[水沢駅]] → [[金ヶ崎駅]] → [[六原駅]] → [[北上駅]] → [[村崎野駅]] → [[花巻駅]] → [[矢幅駅]] → [[仙北町駅]] → [[盛岡駅]]
* 使用車両
*: 同区間の普通列車と同じく、[[JR東日本701系電車|701系]]電車を使用。全車自由席・禁煙車。
* 沿革
** [[1993年]][[3月18日]] - 気動車で<ref>『JTB時刻表』1993年3月号 p.581</ref> 休日運休(平日・土曜日のみ運転)の臨時列車として水沢発盛岡行きの快速列車の運転を開始<ref name="iwate19930318" group="新聞">“快速列車が出発 JRダイヤ改正 水沢-盛岡、13分短縮”. [[岩手日報]] (岩手日報社): p.3 (1993年3月18日 夕刊)</ref>。停車駅は北上駅・花巻駅・仙北町駅のみ{{R|iwate19930318|group="新聞"}}。
** [[1995年]]ごろ - 電車に置き換え、定期列車化(引き続き休日運休)、停車駅に矢幅駅を追加<ref>『JTB時刻表』1995年4月号</ref>。
** [[2001年]][[12月1日]] - ダイヤ改正に伴い、[[アテルイ]]没後1200年記念事業の一環として快速列車の愛称を「アテルイ」とした{{要出典|date=2023年3月31日 (金) 15:11 (UTC)}}<!-- 2017年に東洋経済オンラインに掲載された記事(https://toyokeizai.net/articles/-/181203?page=2)で、「地元の英雄としての顕彰運動の一環で命名」との旨記載があったため、当該記述が虚偽である可能性は低く除去は不要と思料します。鉄道関連書籍や、「アテルイを顕彰する会」発行の「阿弖流為復権 〜アテルイ没後1200年顕彰事業関係報告集〜」などに当たる必要があると思われます。 -->。
** [[2010年]][[12月4日]] - ダイヤ改正により、平日・土曜日のみ運転から毎日運転となる。(運転日に日曜・祝日を追加)
** [[2020年]][[3月14日]] - ダイヤ改正に伴い、新たに金ケ崎駅・六原駅・村崎野駅が停車駅となった<ref group="報道">{{Cite press release|和書|url=https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1576221963_1.pdf|title=2020年3月ダイヤ改正|format=PDF|publisher=東日本旅客鉄道盛岡支社|date=2019-12-13|accessdate=2019-12-14|archiveurl=https://web.archive.org/web/20191213235852/https://www.jr-morioka.com/cgi-bin/pdf/press/pdf_1576221963_1.pdf|archivedate=2019-12-14}}</ref>。
** [[2023年]][[3月18日]] - ダイヤ改正に伴い廃止<ref name=":0">[https://www.jreast.co.jp/press/2022/morioka/20221216_mr01.pdf 2023年ダイヤ改正] - 東日本旅客鉄道株式会社 盛岡支社、2022年12月16日</ref>。
=== 貨物列車 ===
[[田端信号場駅]] - [[盛岡駅]]間では、JR貨物が第二種鉄道事業として[[貨物列車]]を運行している。
2014年3月ダイヤ改正<ref name="tt_freight">{{Cite_journal|和書|author=|year=2014|title=|journal=貨物時刻表 平成26年3月ダイヤ改正|issue=|pages=|publisher=鉄道貨物協会}}</ref> 時点では、[[大宮操車場]] - [[盛岡貨物ターミナル駅]]間で1日約40往復(区間列車を含む)の[[日本のコンテナ輸送#鉄道コンテナ|コンテナ]][[高速貨物列車]]が運行されており、臨時列車も設定されている。首都圏と東北各地や北海道を結ぶ貨物列車が多いが、東北本線貨物線([[東北貨物線]])から[[武蔵野線]]または[[山手線#山手貨物線|山手貨物線]]、[[東海道本線]]支線([[東海道貨物線]])を経由して東海道本線沿線の名古屋圏や近畿圏などを発着する列車も設定されている。このほか、[[東京湾]]岸の[[根岸駅 (神奈川県)|根岸駅]]・[[川崎貨物駅]]・[[千葉貨物駅]]を発着する[[石油]]輸送列車が、[[宇都宮貨物ターミナル駅]]まで1日3往復、[[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]まで1日2往復運行されている(いずれも定期列車の本数)。
東北本線内で定期貨物列車が発着する駅は、宇都宮貨物ターミナル駅・[[郡山貨物ターミナル駅]]・郡山駅・[[岩沼駅]]・[[仙台貨物ターミナル駅]]・[[水沢駅]]・盛岡貨物ターミナル駅である。また[[陸前山王駅]]からは貨物専用の[[仙台臨海鉄道]]に、[[小牛田駅]]からは石巻線の貨物列車に接続している。
なお仙台付近の[[長町駅]] - [[東仙台駅]]間では、旅客駅の仙台駅を経由しない貨物列車専用の支線(通称“宮城野貨物線”)を経由しており、仙台貨物ターミナル駅も同貨物線にある。
== 使用車両 ==
東京近郊の[[山手線]]・[[京浜東北線]]・[[埼京線]]などや、[[高崎線]]・[[常磐線]]直通列車の使用車両は当該記事を、特急列車については[[#優等列車|優等列車]]で挙げられている各項目を参照。
[[黒磯駅]]以南の直流電化区間は直流電車、同駅以北の交流電化区間は同駅 - 白河駅間で[[交直流電車]]、新白河駅以北で[[交流型電車|交流電車]]が使用される。また非電化線区に直通する列車には気動車などが使われる。
=== 東京駅 - 黒磯駅間 ===
{{Main|宇都宮線#使用車両}}
* [[上野東京ライン]][[普通列車|普通]]・[[宇都宮線#快速「ラビット」|快速]]<br />[[湘南新宿ライン]]普通・[[快速列車|快速]]
** [[JR東日本E231系電車|E231系]] - [[小山車両センター]]・[[国府津車両センター]]所属
** [[JR東日本E233系電車|E233系]] - 小山車両センター・国府津車両センター所属
* 末端区間運用車([[小山駅]] - [[宇都宮駅]] - 黒磯駅)
** [[JR東日本E131系電車|E131系]] - 小山車両センター所属
* その他の路線からの直通
** [[JR東日本EV-E301系電車|EV-E301系]] - 小山車両センター所属
*** [[烏山線]]との直通運転列車として宇都宮駅 - [[宝積寺駅]]間で運用。
=== 黒磯駅 - 新白河駅間 ===
* 普通列車
** [[JR東日本E531系電車|E531系]] - [[勝田車両センター]]所属
=== 新白河駅 - 一ノ関駅間 ===
* 普通列車
** [[JR東日本E531系電車|E531系]] - 勝田車両センター所属
***(黒磯駅 - )新白河駅 - [[白河駅]]間での運用が1往復存在する。
** [[JR東日本701系電車|701系]] - [[仙台車両センター]]所属
** [[JR東日本E721系電車|E721系]] - 仙台車両センター所属
** [[JR東日本HB-E210系気動車|HB-E210系]] - [[小牛田運輸区|仙台車両センター小牛田派出所]]所属
*** 仙石東北ラインでの運行のほか、仙台駅 - [[小牛田駅]]間の送り込み運用が2往復ある。
* [[仙台空港アクセス線]]普通・快速
** [[JR東日本E721系電車|E721系]] - 仙台車両センター所属
** [[JR東日本E721系電車|SAT721系]] - [[仙台空港鉄道]]所属
* [[仙石東北ライン]]快速・特別快速
** [[JR東日本HB-E210系気動車|HB-E210系]] - 仙台車両センター小牛田派出所所属
* その他の路線からの直通
** [[JR東日本キハE130系気動車|キハE130系]] - [[水郡線統括センター]]所属
*** [[水郡線]]との直通運転列車として[[安積永盛駅]] - [[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]間で運用。
** [[JR東日本E721系電車#阿武隈急行AB900系|AB900系]] - [[阿武隈急行]]所属
** [[阿武隈急行8100系電車|8100系]] - 阿武隈急行所属
*** [[阿武隈急行線]]との直通運転列車として福島駅 - 仙台駅間で運用。
=== 一ノ関駅 - 盛岡駅間 ===
* 普通列車
** [[JR東日本701系電車|701系]] - [[盛岡車両センター]]所属
** [[JR東日本キハ100系気動車|キハ100系]] - [[一ノ関運輸区|盛岡車両センター一ノ関派出所]]所属(一ノ関駅 - 北上駅間)
*** [[北上線]]用車両の一ノ関派出所への送り込みを兼ねる。
** キハ100系 - [[盛岡車両センター]]所属(日詰駅 - 盛岡駅間)
*** 朝に4.5往復設定されている日詰駅 - 盛岡駅間の区間列車のうち、3.5往復でキハ110系が使用され、盛岡駅7:40発の日詰行き上り列車は[[花輪線]][[鹿角花輪駅]]からの直通列車である。
* 他路線からの直通
** [[JR東日本キハ100系気動車|キハ110系]] - 盛岡車両センター所属
*** [[釜石線]]との直通運転列車として[[花巻駅]] - 盛岡駅間で運用。
** [[JR東日本701系電車|IGR7000系]] - [[IGRいわて銀河鉄道]]所属
*** [[いわて銀河鉄道線]]との直通運転列車として[[北上駅]] - 盛岡駅間で運用。
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ファイル:JRE Series-E231 U541.jpg|E231系近郊タイプ
Series-E233-3000-E11.jpg|E233系
ファイル:Series-E131-600 TN10.jpg|E131系600番台
Tōhoku Main Line kuroiso station E531.jpg|E531系
Kuroiso station kiha 110.jpg|キハ110系
E721-1000 P4-13.jpg|E721系
JR EAST 701-1000 sendai color.JPG|701系(仙台地区)
|701系(盛岡地区)
</gallery>
=== 貨物列車 ===
* 交直流[[電気機関車]] - 全区間を通して運用
** [[JR貨物EH500形電気機関車|EH500形]]
** [[国鉄EF81形電気機関車|EF81形]] - 一部列車で運用
** [[国鉄ED75形電気機関車|ED75形]] - 一部列車で運用
* 直流電気機関車 - 黒磯駅以南の直流区間(宇都宮線区間)で運用
** [[国鉄EF65形電気機関車|EF65形]]
** [[国鉄EF66形電気機関車|EF66形]]
** [[JR貨物EF210形電気機関車|EF210形]]
** [[JR貨物EH200形電気機関車|EH200形]] - [[高崎線]]直通列車で運用
* [[ディーゼル機関車]]
** [[JR貨物DD200形ディーゼル機関車|DD200形]] - 石巻線直通列車などで運用
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EH500 freight train.JPG|EH500形
DD200-901.jpg|DD200形
</gallery>
== 歴史 ==
=== 概略 ===
東北本線の建設計画は、[[明治]]初期に東京以北の[[鉄道]]敷設を主張する[[高島嘉右衛門]]の意を受けた[[右大臣]][[岩倉具視]]が、当時イギリス留学中の[[蜂須賀茂韶]]および[[鍋島直大]]に諮り、[[1871年]](明治5年)に「東京より奥州青森に至る鉄道」と「東京より越後新潟に至る鉄道」の必要性が政府に提言されたことに始まる。翌年にはこれに賛同した[[徳川慶勝]]ら[[華族]]による鉄道建設運動が始まり、国家予算に頼らない私設鉄道建設の機運高まる[[1880年]](明治14年)、華族のみならず[[士族]]、[[平民]]にわたる人々の賛同を得て、以下のような全国への鉄道を建設することを目的とする、日本初の[[私鉄]]「[[日本鉄道]]会社」が設立された<ref name="yashu-tetsudo" />。
# [[東京都|東京]] - [[高崎市|高崎]]間の鉄道と、この区間から分岐して[[陸奥国|奥州]][[青森市|青森]]に至る鉄道
# 高崎より[[中山道]]を経て敦賀に至り、東西両京を連絡する鉄道
# 中山道から分岐し[[新潟市|新潟]]を経て[[出羽国|羽州]]に至る鉄道
# [[九州]][[大分県|豊前]][[大里 (北九州市)|大里]] - [[小倉区|小倉]] - [[長崎市|長崎]]間の鉄道と、この区間から分岐し[[熊本県|肥後]]に至る鉄道
この第一番目の計画の背景として、[[明治新政府]]は[[北海道]]では[[1869年]](明治2年)に[[開拓使]]を設置して[[開拓]]を進め、[[東北地方]]では[[1878年]](明治11年)の[[1878年の土木7大プロジェクト|土木7大プロジェクト]]などで開発を推し進めており、それに必要な資材を輸送するために早急な鉄道建設が必要と考えていたことや、東北の物産を関東に運搬しさらに[[横浜港]]に接続する鉄道が望まれていたこと等が挙げられている。実際にはこの計画は上野駅 - 前橋駅(内藤分停車場)間と大宮駅 - 青森駅間の線路として建設、実現化された。当初、これらの路線は東京 - 高崎間が第一区線、第一区線の途上駅 - 宇都宮 - 白河間が第二区線、白河 - 仙台間が第三区線、仙台 - 盛岡間が第四区線、盛岡 - 青森間が第五区線とされ、この順番で建設が進められた。
第一区線はもともと京浜線(新橋 - 横浜間の鉄道)の間にある品川から山手を経て赤羽、川口と経る経路が計画されたが、起伏地の多いこの区間の建設には技術的に時間がかかることが想定されたため、まずは上野を起点とし赤羽に至る経路で建設することとなった<ref name="yashu-tetsudo" />。[[1883年]](明治16年)[[7月28日]]、日本初の「民営鉄道」として[[上野駅]] - [[熊谷駅]]間が開業した。開業時の開設駅は上野駅(・[[王子駅]])・[[浦和駅]](・[[上尾駅]]・[[鴻巣駅]]・熊谷駅)で、現在は中距離列車の停車しない王子駅も含まれていた一方、大宮には駅が設置されなかった。翌[[1884年]](明治17年)に高崎駅、[[前橋駅]]まで延長され、第一区線は全通した。高崎まで開通した同年[[6月25日]]には、[[明治天皇]]臨席のもと上野駅で開通式が行われ、この際に明治天皇は上野 - 高崎間を往復乗車した。
一方で、第二区線の敷設経路についてもいくつかの案(熊谷、大宮、岩槻分岐案)が提示されていた。当時、現[[栃木県]]域の実業家等は[[養蚕業]]および[[製糸業]]の中心地である[[両毛]]地区(現在の[[桐生市]]・[[足利市]]・[[佐野市]]付近)を経由して第二区線を建設することを求めて日本鉄道会社に出資し、また政府も養蚕・製糸業を[[殖産業]]に位置づけていたため、これを経る熊谷分岐案が最有力と見られていた。一方、もともと第一区線と第二 - 五区線は東京から個別の線路とすべきとの考えを持っていた当時の鉄道局長[[井上勝]]は、政府諮問に対し、第一区線を最短経路の赤羽 - 浦和 - 岩槻と敷き、第二区線は岩槻で分岐する岩槻分岐案を答申した[[アメリカ合衆国|アメリカ]]人鉄道技師クロフォードの意見、また第一区線を赤羽 - 浦和 - 大宮と敷き、第二区線は大宮で分岐する大宮分岐案を答申した[[イギリス]]人鉄道技術者ボイルの意見も含め、「足利方面には支線敷設が妥当」とする上申書を[[工部卿]]・[[佐々木高行]]に提出、[[宇都宮市|宇都宮]]以北への最短ルートである大宮分岐案または岩槻分岐案が残り、最終的には井上勝の判断によって、平坦地を通り建設費用も格段に安く[[大日本帝国陸軍|日本陸軍]]も支持していた大宮分岐案が採用された。この決定により、上野駅 - 前橋駅間の日本鉄道第一区線の大宮に[[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]が開設され、この大宮駅を分岐点として第二区線が建設されることとなった<ref name="yashu-tetsudo" />。
第二区線の建設は急ピッチで進められ、まず、[[1885年]](明治18年)7月に大宮駅 - [[宇都宮駅]]間の営業が開始され、途中には[[蓮田駅|蓮田]]・[[久喜駅|久喜]]・[[栗橋駅|栗橋]]・[[古河駅|古河]]・[[小山駅|小山]]・[[石橋駅 (栃木県)|石橋]]の各駅(停車場)が設置された。当時[[利根川]]の架橋が完了しておらず、この区間には渡船が運行され、栗橋駅 - 古河駅間の現在の利根川畔には中田仮停車場が設けられて利根川鉄橋の開通まで運用された。開通式は上野駅と宇都宮駅で行われ、当日は[[宮内卿]][[伊藤博文]]、鉄道局長井上勝、東京府知事[[渡辺洪基]]が上野駅 - 宇都宮駅間を往復し、栃木県知事[[樺山資雄 (官僚)|樺山資雄]]は一行を中田仮停車場にて出迎えた<ref name="yashu-tetsudo" />。また利根川鉄橋の開通時には[[明治天皇]]が上野駅 - 栗橋駅間を往復して利根川架橋を賞賛した。
以後、第二区線の残り区間および第三・第四・第五区線は引き続き段階的に那須、郡山、塩竈、一関、盛岡、青森へと延伸されていった。第三区線の北半分の区間においては、[[1882年]](明治15年)[[11月30日]]に[[福島市|福島]]から[[仙台区]](現・[[仙台市]])を経て[[石巻湾]]([[仙台湾]])の[[野蒜築港]]に至る経路で[[測量]]が認可された<ref name="jpn29">[http://d-arch.ide.go.jp/je_archive/society/wp_unu_jpn29.html 殖産興業政策と野蒜築港]([[日本貿易振興機構]][[アジア経済研究所]])</ref>。しかし、野蒜築港が[[1884年]](明治17年)[[9月15日]]の[[台風]]で損壊して機能不全に陥ったため、[[1886年]](明治19年)より[[松島湾]](仙台湾)の[[塩釜港]]で建設資材の陸揚げが開始された<ref name="jpn29"/>。このため第三区線の北半分の区間は、仙台駅を過ぎて塩竈駅(後の[[塩釜線]][[塩釜埠頭駅]]。現在の[[塩釜駅]]とは異なる)まで至る経路で[[1887年]](明治20年)12月に開通した。盛岡駅までの第四区線は、野蒜築港の挫折を受けて[[野蒜村|野蒜]]を経由しない経路になったため、仙台駅 - 塩竈駅間の途中にある[[岩切駅]]から分岐して[[松島丘陵]]を越えて北上する経路で建設された。盛岡駅 - 青森駅間の第五区線も[[1891年]](明治24年)9月に開通して上野駅 - 青森駅間全通となった(直通は1日1往復。片道約26時間半。運賃下等4円54銭)。
当線の上野駅 - 青森駅間の営業距離は[[新橋駅|新橋]]から東海道本線を経て[[山陽鉄道]](現・[[西日本旅客鉄道|JR]][[山陽本線]])[[岡山駅]]を過ぎた辺りまでとほぼ等しいが、山陽鉄道が[[倉敷駅|倉敷]]まで開業したのが当線開通と同年の4月であったことを踏まえると、東京から北と西にほぼ等しい速度で鉄道が敷設されていったことが分かる。
[[1900年]](明治33年)に[[大和田建樹]]が作詞した『[[鉄道唱歌]]』第3集奥州・磐城線編では、東北本線と[[常磐線]]の開通を以下のように祝って歌っている<ref>{{Cite wikisource|title=鉄道唱歌/奥州・磐城篇|author=[[大和田建樹]]|wslanguage=ja}} 2023年10月23日閲覧.</ref>。
: 40番「''勇む笛の音いそぐ人 汽車は着きけり青森に むかしは陸路廿日(はつか)道 今は鉄道一昼夜''」
: 63番「''むかしは鬼の住家とて 人のおそれし陸奥(みちのく)の はてまでゆきて時の間に かえる事こそめでたけれ''」
: 64番「''いわえ人々鉄道の ひらけし時に逢える身を 上野の山もひびくまで 鉄道唱歌の声立てて''」
当時、当線は日本鉄道奥州線と言われており、現在の東北本線の名称となったのは日本鉄道が国有化された後の[[1909年]](明治42年)のことである<ref name="yashu-tetsudo" />。
また、当線の東京近郊区間には上野駅 - 大宮駅間を中心に三等車のみの近距離区間列車が複数設定され、現在の[[京浜東北線]](東北本線[[電車線・列車線|電車線]])が[[赤羽駅]]以南区間で運行開始されるまで、首都圏近距離区間輸送も担っていた<ref>[[宮脇俊三]]著 『時刻表でたどる鉄道史』(JTB発行)</ref>。この京浜東北線開業後の[[1929年]]([[昭和]]4年)6月、[[日暮里駅]]から北東に分岐し[[貝塚操車場]]まで伸びていた[[回送線]]を赤羽駅まで延伸したうえで貝塚操車場を廃止、同所に[[尾久駅]]を設けて列車線とすることで、鶯谷駅・田端駅・王子駅を経由していた中・長距離列車と近距離電車線を相互に独立した形で運行させることが可能となり、同年[[6月20日]]より尾久駅経由の運輸が開始された<ref name="teisya" />。
[[第二次世界大戦]]中は戦時体制で運行本数は極限まで減らされたが、戦後は[[連合国軍最高司令官総司令部|GHQ]]の意図によって東京駅 - 上野駅間に東北本線の中・長距離列車が乗り入れ、[[青函連絡船]]・[[函館本線]]・[[室蘭本線]]等と一体化した東京 - 北海道間旅客輸送も行われた。さらに[[高度経済成長]]に伴う鉄道の高速化事業に乗り、当線も[[鉄道の電化|電化]]・[[複線|複線化]]が進み、東京から宇都宮駅を経て栃木県の観光地(日光・那須方面)間を結ぶ中距離[[優等列車]]が当時最新型の[[国鉄157系電車|157系「日光型」]]を使用して運行されたほか、当線の全線電化・複線化が完了した[[1968年]](昭和43年)10月には「[[ヨンサントオ]]」と通称される白紙[[ダイヤ改正]]が実施され、これ以降東北本線にも[[国鉄485系電車|485系]]電車や[[国鉄583系電車|583系]]電車・[[国鉄455系電車|455系]]電車・[[国鉄165系電車|165系]]電車を用いた特急・急行列車が大増発された。
東北新幹線開業後は、長距離優等列車は新幹線経由で運行されることとなり、線路容量に余裕が生じた在来線では中距離[[普通列車]]が増発された。また、[[津軽海峡]]海底部に建設された[[青函トンネル]]の開通後は当線を経由して東京と北海道を結ぶ寝台特急列車や貨物列車が設定されるようになるという変化も起きた。[[1990年]]([[平成]]2年)[[3月10日]]には、上野駅 - (日暮里駅) - 尾久駅 - 赤羽駅 - 黒磯駅間に「'''宇都宮線'''」の愛称が制定され、鉄道利用者がこの区間を「東北本線」や「東北線」と呼ぶことは少なくなった。
[[2002年]](平成14年)[[12月1日]]に東北新幹線 [[盛岡駅]] - [[八戸駅]]間が開業した際、当線の[[盛岡駅]] - [[目時駅]]間は[[IGRいわて銀河鉄道]]に、目時駅 - 八戸駅間は[[青い森鉄道]](施設保有は[[青森県]])に経営移管され、当線の本線は東京駅 - 盛岡駅間と八戸駅 - 青森駅間の2つに分かれることとなった。その後、[[2010年]](平成22年)[[12月4日]]に東北新幹線 八戸駅 - [[新青森駅]]間が開業して全通し、当線の八戸駅 - 青森駅間は青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管された。以降は、本線の正式な区間としては東京駅 - 盛岡駅間となり、一般的に「東北本線」の名称が用いられるのは黒磯駅 - 盛岡駅間となっている。
=== 年表 ===
==== 日本鉄道 ====
* [[1883年]]([[明治]]16年)[[7月28日]]:日本鉄道第一区の[[上野駅|上野]] - [[熊谷駅|熊谷]]間開通、上野駅・[[王子駅]]・[[浦和駅]]・[[上尾駅]]・[[鴻巣駅]]・熊谷駅開業。このうち上野 - 大宮駅(この時点では未開業)間が現在の東北本線に相当する。
** 同年内に王子 - 浦和間に(貨)川口駅開業。
* [[1884年]](明治17年)
** [[9月23日]]:川口駅旅客営業開始。
** [[10月6日]]:川口駅旅客営業廃止。
* [[1885年]](明治18年)
** [[3月1日]]:[[赤羽駅]]開業。(貨)川口駅廃止。
** [[3月16日]]:[[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]]開業。
** [[7月16日]]:大宮 - [[栗橋駅|栗橋]]間および[[中田仮駅|中田仮]] - [[宇都宮駅|宇都宮]]間開通。[[蓮田駅]]・[[久喜駅]]・[[栗橋駅]]・中田仮駅・[[古河駅]]・[[小山駅]]・[[石橋駅 (栃木県)|石橋駅]]・宇都宮駅開業。橋脚が完成していない[[利根川]]は[[鉄道連絡船]]で連絡していた。
* [[1886年]](明治19年)
**[[6月17日]]:栗橋 - 中田仮間の[[利根川橋梁 (東北本線)|利根川橋梁]]が完成、同区間が開通し、上野 - 宇都宮間全通。中田仮駅を[[中田信号所]]に変更。
** [[10月1日]]:宇都宮 - 那須(現・[[西那須野駅|西那須野]])間開通、[[矢板駅]]・那須駅開業。このときの宇都宮 - 矢板間は、現・東北新幹線に近い経路であった。
** [[11月1日]]:宇都宮 - 矢板間に[[長久保駅]]開業。
** [[12月1日]]:那須 - [[黒磯駅|黒磯]]間開通、黒磯駅開業。
* [[1887年]](明治20年)
** 7月16日:黒磯 - [[郡山駅 (福島県)|郡山]]間開通、[[豊原駅]]・[[白河駅]]・[[矢吹駅]]・[[須賀川駅]]・郡山駅開業。
** [[12月15日]]:郡山 - 塩竈(後の[[塩釜線]][[塩釜埠頭駅|塩釜港]])間開通、[[本宮駅 (福島県)|本宮駅]]・[[二本松駅]]・[[松川駅]]・[[福島駅 (福島県)|福島駅]]・[[桑折駅]]・[[白石駅 (宮城県)|白石駅]]・[[大河原駅 (宮城県)|大河原駅]]・[[岩沼駅]]・[[仙台駅]]・塩竈駅開業。
* [[1888年]](明治21年)[[10月11日]]:増田駅(現・[[名取駅]])・[[岩切駅]]開業。
* [[1890年]](明治23年)
** [[4月16日]]:岩切 - [[一ノ関駅|一ノ関]]間開通(山線経由)、(旧)松島駅・[[小牛田駅]]・[[瀬峰駅]]・[[石越駅]]・[[花泉駅]]・一ノ関駅開業。
** [[9月8日]]:同月7日の大雨の影響で白石 - 大河原間で線路が破損し運転を取りやめる<ref>[{{NDLDC|2945414/5}} 鉄道庁彙報「列車運転停止」『官報』(第2161号)明治23年9月10日](国立国会図書館デジタルコレクション)</ref>。
** [[10月20日]]:白石 - 大河原間の線路の復旧作業が終わり、運転を再開する<ref>[{{NDLDC|2945447/4}} 鉄道庁彙報「鉄道線路旅客乗換廃止」『官報』(第2194号)明治23年10月21日](国立国会図書館デジタルコレクション)</ref>。
** 11月1日:一ノ関 - [[盛岡駅|盛岡]]間、貨物線[[秋葉原駅|秋葉原]] - 上野間開通、秋葉原駅・[[前沢駅]]・[[水沢駅]]・黒沢尻駅(現・[[北上駅]])・[[花巻駅]]・[[日詰駅]]・盛岡駅開業。
* [[1891年]](明治24年)
** [[1月12日]]:[[越河駅]]・[[槻木駅]]開業。
** [[5月1日]]:那須駅を西那須野駅に改称。
** [[9月1日]]:[[古田駅]]・[[黒田原駅]]開業。盛岡 - [[青森駅|青森]]間が開通し、上野 - 青森間全通。[[好摩駅]]・沼宮内駅(現・[[いわて沼宮内駅]])・中山駅(現・[[奥中山高原駅]])・[[小鳥谷駅]]・三ノ戸駅(現・[[三戸駅]])・尻内駅(現・[[八戸駅]])・沼崎駅(現・[[上北町駅]])・[[野辺地駅]]・[[小湊駅]]・浅虫駅(現・[[浅虫温泉駅]])・青森駅開業。
** [[12月20日]]:福岡駅(現・[[二戸駅]])・[[下田駅]]開業。
* [[1892年]](明治25年)
** 3月1日:[[鹿島台駅]]開業。
** 10月20日:王子 - 浦和間に(貨)川口駅開業。上野 - 赤羽間、川口 - 大宮間複線化。
* [[1893年]](明治26年)
** [[2月15日]]:[[石鳥谷駅]]・一ノ戸駅(現・[[一戸駅]])開業。
** [[3月25日]]:[[小金井駅]]開業。
** [[5月]]:野辺地駅付近に日本初の[[防雪林]]を植林。
** 7月16日:[[蕨駅]]・[[野内駅]]・[[浦町駅]]開業。
* [[1894年]](明治27年)
** [[1月4日]]:[[利府駅]]・[[新田駅 (宮城県)|新田駅]]・[[乙供駅]]・[[狩場沢駅]]開業。
** [[4月1日]]:[[間々田駅]]・古間木駅(現・[[三沢駅 (青森県)|三沢駅]])開業。
* [[1895年]](明治28年)
** 4月1日:長岡駅(現・[[伊達駅]])開業。
** [[7月6日]]:[[雀宮駅]]開業。
* [[1896年]](明治29年)
** [[2月21日]]:[[長町駅]]開業。
** [[2月25日]]:[[泉崎駅]]開業。
** 4月1日:[[田端駅]]開業。荒川橋梁が複線化され、上野 - 大宮間の複線化完成。
** [[4月9日]]:王子 - 蕨間の(貨)川口駅廃止。
* [[1897年]](明治30年)
** 2月25日:宇都宮 - 矢板間経路変更。当時、同区間では[[西鬼怒川]]、[[鬼怒川|東鬼怒川]](現在の鬼怒川本水路)の2本の鬼怒川を渡っており、夏季の鬼怒川の大水に対する橋脚や護岸の補修費および時間がかさみ問題化したため、その下流部の東西鬼怒川が合流し流路帯が狭くなる地点を渡る現在の経路に切り替えることとなったもの。新線上に[[岡本駅 (栃木県)|岡本駅]]、[[氏家駅]]開業。旧線上の古田駅、長久保駅廃止。[[野崎駅 (栃木県)|野崎駅]]開業。
** [[6月1日]]:[[日和田駅]]開業。
** [[6月5日]]:[[片岡駅]]開業。
** [[7月1日]]:[[金ケ崎駅]]・[[剣吉駅]]開業。
* [[1898年]](明治31年)
** [[1月11日]]:川口駅(現・[[岩手川口駅]])開業。
** [[5月28日]]:[[平泉駅]]開業。
** 9月1日:[[矢幅駅]]開業。
** [[11月24日]]:東那須野駅(現・[[那須塩原駅]])開業。
* [[1899年]](明治32年)
** [[10月7日]]:矢板 - 野崎間で[[箒川鉄橋列車転落事故]]が発生。
** [[10月21日]]:[[宝積寺駅]]開業。
* [[1900年]](明治33年)[[9月5日]]:[[藤田駅]]開業。
* [[1904年]](明治37年)[[12月31日]]:中山 - 小鳥谷間に小繋給水所開設。
* [[1905年]](明治38年)
** 4月1日:[[日暮里駅]]開業。
** 7月1日:野内 - 浦町間に(貨)練兵場駅開業。
** [[11月11日]]:練兵場駅廃止。
* [[1906年]](明治39年)
** [[1月21日]]:[[滝沢駅]]開業。
** 4月1日:上野 - 日暮里間複々線化。
** 4月16日:田端 - 王子間に田端北部信号所、赤羽 - 蕨間に金山信号所、浦和 - 大宮間に大原信号所開設。田端北部信号所は廃止日不明。
** [[10月]]:日暮里 - 田端間3線化。
==== 鉄道院 - 運輸通信省 ====
* [[1906年]]([[明治]]39年)[[11月1日]]:日本鉄道が国有化。
* [[1907年]](明治40年)11月1日:一ノ戸駅を一戸駅に、三ノ戸駅を三戸駅に改称。
* [[1908年]](明治41年)
** [[5月1日]]:大宮 - 蓮田間に砂信号所、蓮田 - 久喜間に白岡信号所開設。
** [[9月30日]]:大宮 - 蓮田間複線化。
** [[11月6日]]:蓮田 - 久喜間、古河 - 間々田間複線化。
** [[11月10日]]:久喜 - 栗橋間複線化。
** [[11月20日]]:中田信号所 - 古河間複線化。
** [[12月25日]]:[[松山町駅]]・[[田尻駅]]開業。
* [[1909年]](明治42年)
** [[8月1日]]:間々田 - 小山間複線化。
** [[9月21日]]:小繋給水所を駅に変更して[[小繋駅]]開業。
** [[10月12日]]:[[国鉄・JR線路名称一覧|国有鉄道線路名称]]制定。秋葉原 - 上野 - 青森間を'''東北本線'''、岩切 - 塩竈間を'''[[塩釜線|塩竈線]]'''<!--(1956年塩釜線と改称)-->とする。
** [[10月18日]]:笹川駅(現・[[安積永盛駅]])・[[金谷川駅]]開業、仙台 - 岩切間に苦竹信号所開設。
** [[11月25日]]:金田一駅(現・[[金田一温泉駅]])開業。
** [[12月16日]]:上野 - 田端間が直流電化。上野 - 日暮里間電車線1線増設し5線化、日暮里 - 田端間電車線1線増設し複々線化。
* [[1910年]](明治43年)
** [[2月11日]]:白岡信号所を駅に変更して[[白岡駅]]開業。
** [[9月10日]]:川口町駅(現・[[川口駅]])開業。赤羽 - 川口町間の金山信号所廃止。
** [[11月15日]]:[[千曳駅]]開業。
* [[1911年]](明治44年)
** [[6月25日]]:[[鏡石駅]]開業。
** [[12月19日]]:[[北白川駅]]開業。
* [[1912年]](明治45年/[[大正]]元年)
** [[7月11日]]:[[鶯谷駅]]開業。鶯谷 - 日暮里間電車線複線化し6線化。
** 11月1日:大原信号所を駅に変更して[[与野駅]]開業。
* [[1913年]](大正2年)
** [[3月20日]]:利府 - (旧)松島間に赤沼信号所開設。
** [[4月]]:小山 - 宇都宮間複線化。
* [[1914年]](大正3年)
** 3月20日:上野 - 鶯谷間の電車線複線化し、6線化。
** 6月25日:黒磯 - 黒田原間に高久信号所開設。
** [[12月1日]]:長岡駅を伊達駅に改称。
* [[1915年]](大正4年)
** [[1月5日]]:[[仙北町駅]]開業。
** [[9月11日]]:中山駅を奥中山駅に改称。
* [[1916年]](大正5年)
** [[10月1日]]:金谷川 - 福島間に永井川信号所開設。
** [[11月29日]]:下田 - 古間木(現・三沢)間で[[日本の鉄道事故 (1949年以前)#東北線列車正面衝突事故|正面衝突事故]]発生。20名死亡。
* [[1917年]](大正6年)
** [[2月20日]]:[[白坂駅]]開業。
** 7月11日:[[安達駅]]開業。
** 9月11日:本宮 - 二本松間に杉田信号所開設。
* [[1918年]](大正7年)
** [[5月15日]]:蕨 - 浦和間に小谷場信号所開設。
** [[8月16日]]:(旧)松島 - 鹿島台間に幡谷信号所開設。
** 11月1日:[[厨川駅]]開業。越河 - 白石間に中目信号所、沼宮内 - 奥中山間に御堂信号所開設。
* [[1919年]](大正8年)
** [[3月1日]]:中央本線の一部として[[東京駅|東京]] - [[神田駅 (東京都)|神田]]間開業。直流電化。神田駅開業。
** [[4月5日]]:黒沢尻(現・北上) - 花巻間に村崎野信号所開設。
** 10月12日:[[久田野駅]]開業。
* [[1920年]](大正9年)
** [[2月15日]]:仙台 - 苦竹信号所間複線化。
** [[3月10日]]:黒磯 - 黒田原間経路変更。黒田原駅移転。
** [[4月23日]]:苦竹信号所 - 岩切間複線化。
** [[10月10日]]:白坂 - 白河間経路変更。白河駅移転。
** 11月1日:黒田原 - 白坂間経路変更。豊原駅移転。
** [[12月2日]]:氏家 - 片岡間に蒲須坂信号所開設。
* [[1921年]](大正10年)
** 4月5日:日和田 - 本宮間に五百川信号所開設。
** [[6月1日]]:福岡駅を北福岡駅に改称。
** 10月1日:蕨 - 浦和間の小谷場信号所廃止。
* [[1922年]](大正11年)
** [[3月5日]]:栗橋 - 中田信号所間複線化。
** [[4月1日]]:信号所を信号場に改称。
** [[5月20日]]:金ケ崎 - 黒沢尻間に三ヶ尻信号場開設。
** [[6月5日]]:藤田 - 越河間に貝田信号場開設。
** [[7月15日]]:花巻 - 石鳥谷間に二枚橋信号場開設。
** [[8月15日]]:下田 - 古間木間に木ノ下信号場開設。
** 11月10日:狩場沢 - 小湊間に清水川信号場開設。
** [[12月5日]]:長町 - 仙台間複線化。
* [[1923年]](大正12年)
** 2月11日:蒲須坂信号場を駅に変更して[[蒲須坂駅]]開業。
** [[8月10日]]:[[北高岩駅]]開業。
** [[9月1日]]:岩沼 - 増田間複線化。
** [[10月15日]]:瀬上駅(現・[[東福島駅]])開業。
** 12月1日:増田 - 長町間複線化。
* [[1924年]](大正13年)
** [[1月15日]]:[[浪打駅]]開業。前沢 - 水沢間に折居信号場開設。
** 9月10日:陸前中田駅(現・[[南仙台駅]])開業。
** [[10月16日]]:花泉 - 一ノ関間経路変更。[[有壁駅]]開業。
** [[12月20日]]:金田一 - 三戸間に目時信号場開設。
* [[1925年]](大正14年)
** 4月1日:豊原駅を下野豊原駅に改称。
** 11月1日:神田 - 秋葉原間開業、秋葉原 - 上野間3線化、神田 - 上野間直流電化・旅客営業開始。[[御徒町駅]]開業。東北本線の起点を東京駅に変更。
* [[1926年]](大正15年/[[昭和]]元年)
** 10月10日:日暮里駅から分岐する貝塚操車場を開設。
** [[10月25日]]:浦町 - 青森間複線化。浦町 - 青森間に青森操車場開設。
** [[11月5日]]:尻内 - 下田間に轟信号場開設。
* [[1927年]](昭和2年)
** [[6月10日]]:久喜 - 栗橋間に桜田信号場開設。
** [[11月]]:上野 - 日暮里間に回送線を1線増設し7線化。
** 12月20日:貨物支線 王子 - [[須賀駅|須賀]]間、王子 - 下十条(現・[[北王子駅|北王子]])間開業。田端 - 王子間に貨物線を1線増設し3線化。
* [[1928年]](昭和3年)
** [[2月1日]]:田端 - 赤羽間が直流電化。田端 - 王子間に電車線を2線増設し5線化、王子 - 赤羽間に電車線を2線増設し複々線化。
** [[4月1日]]:東京 - 上野間に列車線が複線・直流電化で開通。本来の起点に列車線が到達する。
** [[4月8日]]:[[山ノ目駅]]開業。
** 11月25日:折居信号場を駅に変更して[[陸中折居駅]]開業。
* [[1929年]](昭和4年)
** [[2月25日]]:[[船岡駅 (宮城県)|船岡駅]]開業。
** [[6月20日]]:日暮里 - [[尾久駅|尾久]] - 赤羽間が複線で開通、貝塚操車場を廃止し同所に尾久駅開業。王子 - 赤羽間に貨物線を2線増設し6線化。
** [[12月15日]]:赤羽 - 蕨間に貨物線を2線増設し複々線化。
* [[1931年]](昭和6年)
** [[4月10日]]:上野 - 日暮里間の回送線を複線化し8線化。日暮里 - 尾久間に回送線を2線増設し複々線化。
** 7月15日:貨物支線下十条駅を北王子駅に改称。
** 8月1日:下十条駅(現・[[東十条駅]])開業。
** [[10月30日]]:笹川駅を安積永盛駅に改称。
** 12月1日:蕨 - 与野間に貨物線を2線増設し複々線化。
* [[1932年]](昭和7年)
** 5月1日:大宮 - 蓮田間の砂信号場、久喜 - 栗橋間の桜田信号場、栗橋 - 古河間の中田信号場廃止。
** 7月15日:与野 - 大宮間に貨物線を2線増設し複々線化。
** [[7月25日]]:苦竹信号所を駅に変更して[[東仙台駅]]開業。
** 9月1日:赤羽 - 大宮間直流電化。
** 11月20日:二枚橋信号場を駅に変更して二枚橋駅(現・[[花巻空港駅]])開業。
** [[12月26日]]:幡谷信号場を駅に変更して[[品井沼駅]]開業。
* [[1933年]](昭和8年)
** 1月15日:[[諏訪ノ平駅]]開業。
** [[7月1日]]:[[上中里駅]]開業。
** 8月15日:行人塚駅・三百人町駅・小田原東丁駅・塩竈線 多賀城前駅(現・[[陸前山王駅]])開業。
* [[1934年]](昭和9年)
** 2月1日:川口駅を岩手川口駅に改称。
** 2月15日:川口町駅を川口駅に改称。
** 6月1日:尻内 - 古間木(現・三沢)間でガソリンカーを運転開始<ref name="nep10">[{{NDLDC|1114644/103}} 『鉄道省年報. 昭和10年度』](国立国会図書館デジタルコレクション)</ref>。
** 12月1日:福島 - 松川間でガソリンカーを運転開始<ref name="nep10"/>。
* [[1936年]](昭和11年)
** 6月20日:清水川信号場を駅に変更して[[清水川駅]]開業。
** [[7月10日]]:木ノ下信号場を駅に変更して[[向山駅]]開業。
** 9月1日:[[北浦和駅]]開業。
* [[1937年]](昭和12年)2月1日:三ヶ尻信号場を駅に変更して[[六原駅]]開業。
* [[1939年]](昭和14年)10月1日:[[西平内駅]]開業。
* [[1943年]](昭和18年)
** 3月1日:有壁 - 一ノ関間に真柴信号場開設。
** [[7月20日]]:瀬峰 - 新田間に梅ケ沢信号場開設。
** 10月1日:滝沢 - 好摩間に渋民信号場、奥中山 - 小繋間に西岳信号場開設。
* [[1944年]](昭和19年)
** 2月1日:石越 - 花泉間に油島信号場開設。
** 5月1日:塩竈線 多賀城前駅を陸前山王駅に改称。
** [[6月15日]]:貨物支線 浪打 - [[堤川駅 (青森県)|堤川]]間開業<ref>[{{NDLDC|2961726/2}} 「運輸通信省告示第284号」『官報』1944年6月15日](国立国会図書館デジタルコレクション)</ref>。
** 8月1日:古間木 - 沼崎間に小川原信号場開設。
** 10月1日:花泉 - 有壁間に清水原信号場開設。
** [[10月11日]]:轟信号場を駅に変更して[[陸奥市川駅]]開業。白坂 - 白河間に磐城西郷信号場、日詰 - 矢幅間に古館信号場、矢幅 - 仙北町間に中通信号場、厨川 - 滝沢間に長根信号場、御堂信号場 - 奥中山間に吉谷地信号場、小繋 - 小鳥谷間に滝見信号場開設。
** [[11月11日]]:行人塚駅、三百人町駅、小田原東丁駅廃止。
** 11月15日:陸前山王 - 品井沼間開業(海線・当初は貨物営業のみ)。塩竈線 岩切 - 陸前山王間を複線化し、東北本線に編入。新松島信号場、北塩釜信号場開設。
** [[12月]]:新田 - 石越間に畑岡信号場開設。
* [[1945年]](昭和20年)8月15日:平泉 - 前沢間に[[衣川信号場]]開設。
* [[1946年]](昭和21年)[[10月20日]]:貨物支線の浪打 - 堤川間休止<ref>[{{NDLDC|2962443/11}} 「運輸省告示第260号」『官報』1946年10月19日](国立国会図書館デジタルコレクション)<!-- 告示では「廃止」ではなく「休止」--></ref>。
* [[1947年]](昭和22年)9月15日:[[カスリーン台風]]による豪雨で各地に被害。栗橋駅 - 古河駅間で利根川の増水、蒲須坂駅 - 野崎駅で四か所が冠水、仙台駅 - 岩切駅間で道床流失および浸水、利府駅 - 赤沼駅間で道床流失、松山町駅付近浸水、小牛田駅付近で道床流失、瀬峰駅 - 梅ヶ沢駅間で土砂崩壊、平泉付近で[[衣川 (岩手県)|衣川]]堤防決壊による冠水など被害甚大<ref group="新聞">鉄道各線に大被害『[[朝日新聞]]』昭和22年(1947年)9月17日、4版、1面</ref>。
* [[1948年]](昭和23年)
** [[4月24日]]:野内駅近くで野内川鉄橋で23両編成の貨物列車が脱線。機関車と貨車20両が川に転落して乗員2人死亡、1人重傷、<ref>{{Cite book |和書 |editor=日外アソシエーツ編集部編 |title=日本災害史事典 1868-2009 |publisher=日外アソシエーツ |year=2010 |page=69 |isbn=9784816922749}}</ref>。
** 8月1日:下野豊原駅を豊原駅に改称。
** 10月1日:目時信号場を駅に変更して[[目時駅]]開業。
** 12月15日:五百川信号場を駅に変更して[[五百川駅]]開業。
** 12月19日:杉田信号場を駅に変更して[[杉田駅 (福島県)|杉田駅]]開業。
* [[1949年]](昭和24年)3月1日:古館信号場を駅に変更して[[古館駅]]開業。
==== 日本国有鉄道 ====
* [[1949年]]([[昭和]]24年)
** [[8月17日]]:松川 - 金谷川間で、上り列車が突如脱線転覆。乗員など3名死亡。現在も原因は「謎」とされ、『[[松川事件]]』と呼ばれている。
** [[9月15日]]:御堂信号場 - 奥中山間の吉谷地信号場廃止。
* [[1950年]](昭和25年)
** [[3月25日]]:栗橋 - 古河間に中田仮信号場開設。
** [[7月14日]]:瀬峰駅構内で急行貨物列車が[[安全側線]]に進入して脱線転覆。機関助手が負傷<ref group="新聞">「また貨物列車転覆 機関士の過失か」『[[日本経済新聞]]』昭和25年7月15日3面</ref>。
** [[9月1日]]:中通信号場を駅に変更して[[岩手飯岡駅]]開業。
** [[10月1日]]:利府 - (旧)松島間の赤沼信号場、新田 - 石越間の畑岡信号場廃止。
** [[11月1日]]:村崎野信号場を駅に変更して[[村崎野駅]]開業。
** [[12月1日]]:渋民信号場を駅に変更して[[渋民駅]]開業。
** [[12月14日]]:清水原信号所構内で青森駅発上野駅行の急行二〇二列車が安全側線に進入して脱線転覆。重軽傷者37人<ref group="新聞">「急行列車が脱線 東北線で重軽傷三十七名」『日本経済新聞』昭和25年12月15日3面</ref>。
* [[1951年]](昭和26年)
** [[4月1日]]:村崎野 - 花巻間に飯豊信号場開設。
** [[12月4日]]:黒沢尻 - 村崎野間複線化。
* [[1952年]](昭和27年)
** [[6月10日]]:貝田信号場を駅に変更して[[貝田駅]]開業。
** [[9月26日]]:栗橋 - 古河間の中田仮信号場廃止。
** [[11月5日]]:村崎野 - 花巻間複線化。
** [[11月16日]]:村崎野 - 花巻間の飯豊信号場廃止。
* [[1953年]](昭和28年)
** [[3月2日]]:梅ケ沢信号場を駅に変更して[[梅ケ沢駅]]開業。
** 6月10日:小川原信号場を駅に変更して[[小川原駅]]開業。
* [[1954年]](昭和29年)
** [[4月15日]]:東京 - 上野間に回送線を2線増設し、東京 - 上野間が複々線化<!--秋葉原 - 上野の一番東側の線路は上野東京ライン工事以前に接続されたことがなく、また1975年以降は上野駅構内扱いであるため、この区間が5線であったことはない-->。
** [[7月1日]]:[[油島駅]]開業。
** 9月1日:[[西川口駅]]開業。
** [[9月28日]]:小牛田 - 瀬峰間複線化。
** [[11月10日]]:黒沢尻駅を北上駅に改称。
* [[1955年]](昭和30年)
** 7月1日:清水原信号場を駅に変更して[[清水原駅]]開業。
** 9月1日:新田 - 石越間複線化。
* [[1956年]](昭和31年)
** [[7月9日]]:陸前山王 - 品井沼間(海線)を旅客列車の主要ルートに変更。[[塩釜駅]]開業。新松島信号場を駅に変更して新松島駅(現・[[松島駅]])開業。
** [[10月2日]]:水沢 - 金ケ崎間複線化。
** [[10月8日]]:御堂信号場 - 奥中山間複線化。
** [[10月22日]]:品井沼 - 鹿島台間複線化<ref group="新聞">{{Cite news |和書|title=10月22日開業に内定 |newspaper=[[交通新聞]] |publisher=交通協力会 |date=1956-09-15 |page=1 }}</ref>。
** [[11月19日]]:東京 - 田端間に電車線2線を増設し、東京 - 上野間が6線化、上野 - 日暮里間が10線化、日暮里 - 田端間が6線化。
* [[1957年]](昭和32年)
** 4月1日:下十条駅を東十条駅に改称。
** [[9月27日]]:鹿島台 - 小牛田間複線化<ref name="交通1957" group="新聞">{{Cite news |和書|title=複線工事二つが完成 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通協力会 |date=1957-09-06 |page=1 }}</ref>。
** 9月28日:有壁 - 一ノ関間複線化{{R|group="新聞"|交通1957}}。真柴信号場廃止。
** 10月1日:乙供 - 千曳間に石文信号場開設。
* [[1958年]](昭和33年)
** [[4月14日]]:大宮 - 宇都宮間直流電化。
** [[9月4日]]:金ケ崎 - 六原間複線化。
** [[9月12日]]:前沢 - 水沢間複線化。
** [[9月24日]]:瀬峰 - 梅ケ沢間複線化。
** [[9月25日]]:六原 - 北上間、梅ケ沢 - 新田間複線化。
** [[12月15日]]:宇都宮 - 宝積寺間直流電化。
* [[1959年]](昭和34年)
** [[4月7日]]:磐城西郷信号場を駅に変更して磐城西郷駅(現・[[新白河駅]])開業。
** [[5月22日]]:宝積寺 - 黒磯間直流電化。
** 7月1日:黒磯 - 白河間交流電化。
** 10月1日:沼崎駅を上北町駅に改称。
** [[12月12日]]:宇都宮 - 岡本間複線化。
* [[1960年]](昭和35年)
** [[3月1日]]:白河 - 福島間交流電化。
** 10月1日:鏡石 - 須賀川間複線化。貨物支線 長町 - 東仙台間開業。
** [[10月20日]]:片岡 - 矢板間複線化。
** [[10月31日]]:西那須野 - 東那須野間複線化。
** 11月1日:盛岡 - 厨川間に青山信号場開設。
** [[11月22日]]:安積永盛 - 郡山間複線化。
* [[1961年]](昭和36年)
** [[2月17日]]:大宮操車場、田端操車場を駅に変更して(貨)大宮操駅、(貨)田端操駅開業。
** 3月1日:福島 - 仙台間交流電化。
** [[3月20日]]:古間木駅を三沢駅に改称。
** [[4月3日]]:永井川信号場 - 福島間複線化。
** [[4月5日]]:金谷川 - 永井川信号場間複線化。
** 4月15日:御堂信号場を駅に変更して[[御堂駅]]開業。
** [[6月1日]]:貨物支線 宮城野(現・[[仙台貨物ターミナル駅|仙台貨物ターミナル]]) - [[仙台市場駅|仙台市場]]間開業。宮城野駅・仙台市場駅開業。
** 7月1日:[[南浦和駅]]開業。
** [[7月15日]]:郡山 - 日和田間複線化。
** [[8月15日]]:[[苫米地駅]]開業。
** 12月15日:岡本 - 宝積寺間複線化。
** [[12月20日]]:[[東白石駅]]開業。
* [[1962年]](昭和37年)
** [[1月31日]]:東那須野 - 黒磯間複線化。
** [[3月19日]]:宝積寺 - 氏家間複線化。
** 4月5日:永井川信号場を駅に変更して[[南福島駅]]開業。
** [[4月11日]]:陸前山王 - 塩釜間複線化。
** 4月15日:塩釜 - 新松島間複線化。北塩竈信号場廃止。
** [[4月20日]]:(旧)松島 - 品井沼間(山線)廃止。新松島 - 品井沼間複線化。
** [[6月7日]]:野崎 - 西那須野間複線化。
** 7月1日:利府 - 松島(旧)間廃止。新松島駅を松島駅に改称。[[愛宕駅 (宮城県)|愛宕駅]]開業。
** [[7月26日]]:花巻 - 二枚橋間複線化。
** 9月26日:本宮 - 杉田間複線化。
** 10月20日:須賀川 - 安積永盛間複線化。
** [[11月30日]]:白河 - 久田野間複線化。
** [[12月7日]]:五百川 - 本宮間複線化。
** [[12月10日]]:石越 - 油島間複線化。北福岡 - 金田一間に斗米信号場開設。
* [[1963年]](昭和38年)
** [[2月5日]]:矢吹 - 鏡石間複線化。
** [[2月16日]]:[[野木駅]]開業。
** [[3月5日]]:清水原 - 有壁間複線化。
** [[3月8日]]:泉崎 - 矢吹間複線化。
** 3月20日:花泉 - 清水原間複線化。
** 3月25日:久田野 - 泉崎間複線化。
** [[5月25日]]:増田駅を名取駅に、陸前中田駅を南仙台駅に改称。
** [[8月10日]]:油島 - 花泉間複線化。
** [[8月21日]]:二枚橋 - 石鳥谷間複線化。
** [[9月20日]]:山ノ目 - 平泉間複線化。
** [[9月23日]]:磐城西郷 - 白河間複線化。
** 9月24日:仙北町 - 盛岡間複線化。
** 9月26日:日和田 - 五百川間複線化。
** 9月27日:石鳥谷 - 日詰間複線化。
** 9月28日:白坂 - 磐城西郷間複線化。
** 12月10日:一ノ関 - 山ノ目間複線化。
* [[1964年]](昭和39年)
** [[2月3日]]:二本松 - 安達間複線化。
** [[3月14日]]:豊原 - 白坂間複線化。
** [[3月17日]]:杉田 - 二本松間複線化。
** 3月20日:[[東大宮駅]]開業。
** [[5月20日]]:岩手飯岡 - 仙北町間複線化。
** [[5月29日]]:日詰 - 古館間複線化。
** [[6月5日]]:古館 - 矢幅間複線化。
** [[6月20日]]:氏家 - 蒲須坂間複線化。
** [[6月30日]]:矢幅 - 岩手飯岡間複線化。
** [[7月20日]]:高久信号場 - 黒田原間複線化。
** [[8月31日]]:黒磯 - 高久信号場間複線化。
** 9月1日:高久信号場を駅に変更して[[高久駅]]開業。
** [[9月3日]]:蒲須坂 - 片岡間複線化。
** 9月15日:黒田原 - 豊原間複線化。
** [[9月19日]]:越河 - 中目信号場間複線化。
** [[9月22日]]:松川 - 金谷川間複線化。
** 9月25日:矢板 - 野崎間複線化。
** 9月28日:安達 - 松川間複線化。
** [[12月8日]]:盛岡 - 青山信号場間複線化。
* [[1965年]](昭和40年)
** 6月30日:尻内 - 陸奥市川間複線化。
** [[7月29日]]:槻木 - 岩沼間複線化。
** [[8月4日]]:青山信号場 - 厨川間複線化。青山信号場廃止。
** [[9月21日]]:渋民 - 好摩間複線化。
** 9月22日:藤田 - 貝田間複線化。
** 9月24日:北白川 - 大河原間複線化。
** 9月25日:一戸 - 鳥越信号場間複線化。鳥越信号場開設。
** 9月27日:小繋 - 滝見信号場間複線化。
** 9月28日:福島 - 瀬上間複線化。
** [[9月29日]]:西平内 - 土屋信号場間複線化。土屋信号場開設。
** 10月1日:仙台 - 盛岡間、長町 - 宮城野 - 東仙台間交流電化。
** [[12月14日]]:西岳信号場 - 小繋間複線化。
* [[1966年]](昭和41年)
** [[3月21日]]:平泉 - 前沢間複線化。衣川信号場廃止。
** [[7月27日]]:浅虫 - 野内間、集中豪雨により土砂崩れ多数発生。長期運転見合わせ。[[8月22日]]復旧。
** [[7月30日]]:大河原 - 船岡間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線大河原・船岡間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=[[鉄道公報]] |publisher=[[日本国有鉄道]]総裁室文書課 |date=1966-08-01 |page=4 }}</ref>。
** 9月20日:東京起点642.910km地点(北高岩 - 尻内間) - 尻内間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線東京起点642K910M・尻内間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1966-09-19 |page=4 }}</ref>。
** 9月22日:石文信号場 - 千曳間、東京起点694.970km地点(千曳 - 野辺地間) - 野辺地間複線化。
** 9月24日:土屋信号場 - 浅虫間複線化。土屋信号場廃止。
** 9月26日:奥中山 - 西岳信号場間複線化。西岳信号場廃止<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線奥中山・西岳(信)間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1966-09-26 |page=4 }}</ref>。
** 9月27日:梅内信号場 - 三戸間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線梅内(信)・三戸間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1966-09-26 |page=4 }}</ref>。梅内信号場開設。
** 9月28日:中目信号場 - 東白石間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線中の目・東白石間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1966-09-26 |page=4 }}</ref>。中目信号場廃止。
** 10月1日:斗米信号場を駅に変更して[[斗米駅]]開業。
* [[1967年]](昭和42年)
** [[2月27日]]:貝田 - 越河間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線貝田・越河間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-02-27 |page=3 }}</ref>。
** [[7月25日]]:滝見信号場 - 小鳥谷間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線滝見信号場・小鳥谷間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-07-25 |page=5 }}</ref>。滝見信号場廃止。
** 7月30日:三沢 - 姉沼信号場間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線三沢・姉沼間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-07-29 |page=4 }}</ref>。姉沼信号場開設。
** [[8月12日]]:東白石 - 北白川間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線東白石・北白川間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-08-12 |page=2 }}</ref>。
** [[8月29日]]:桑折 - 藤田間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線桑折・藤田間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-08-28 |page=3 }}</ref>。
** [[9月13日]]:伊達 - 桑折間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線伊達・桑折間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-12 |page=3 }}</ref>。
** 9月15日:岩手川口 - 沼宮内間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線岩手川口・間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-14 |page=2 }}</ref>。滝沢駅移転。
** 9月25日:三沢 - 向山間の複線工事現場で、隣接する使用中の本線を巻き込み路盤が崩壊。通りかかった急行貨物列車の11両が脱線転覆した。同区間の不通が続いたため、優等列車については花輪線、北上線を利用した迂回運転が行われた<ref group="新聞">「貨車11両が脱線転覆 長雨で路盤にアナ」『朝日新聞』昭和42年9月25日夕刊、3版、11面</ref>。
** 9月26日:船岡 - 槻木間複線化<ref name="公報5411">{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線瀬上・伊達間及び船岡・槻木間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-26 |page=8 }}</ref>。
** 9月27日:東京起点597.031km地点(小鳥谷 - 一戸間) - 一戸間間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線k小鳥谷・一戸間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-26 |page=8 }}</ref>。
** 9月28日:瀬上 - 伊達間複線化{{R|公報5411}}。
** 9月29日:滝沢 - 渋民間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線滝沢・渋民間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-21 |page=3 }}</ref>。
** 10月1日:与野 - 大宮間に電車線を2線増設し6線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線与野・大宮間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-09-30 |page=16 }}</ref><ref group="新聞">{{Cite news |和書|title=与野-大宮間の工事完成 東北線 赤羽-大宮間三線化 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通協力会 |date=1967-09-30 |page=1 }}</ref>。
** 12月14日:金田一 - 目時間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線金田一・目時間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-12-13 |page=4 }}</ref>。目時駅移転。
** [[12月16日]]:浅虫 - 野内間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線浅虫・野内間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1967-12-13 |page=4 }}</ref>。
* [[1968年]](昭和43年)
** [[4月25日]]:厨川 - 滝沢間複線化。長根信号場廃止。
** [[4月28日]]:三戸 - 諏訪ノ平間複線化。
** [[5月16日]]:剣吉 - 苫米地間複線化。なお、同日9時48分頃に発生した[[十勝沖地震 (1968年)|十勝沖地震]]により、大きな被害が発生。[[5月27日|27日]]には復旧したが、ダイヤがほぼ正常に戻ったのは、全線複線化完成後の[[8月6日]]だった。この間、[[特別急行列車|特急]]「[[はつかり (列車)|はつかり]]」は[[花輪線]]に、急行列車は[[北上線]]にそれぞれ迂回する措置が採られた<ref>『青森駅ものがたり 鉄道100年記念』の159頁より。これに詳細な内容が記述されている。</ref>。
** 5月20日:北高岩 - 東京起点642.910 km地点(北高岩 - 尻内間)複線化。
** [[6月4日]]:沼宮内 - 御堂間複線化。
** [[6月9日]]:清水川 - 小湊間複線化。
** [[6月11日]]:鳥越信号場 - 北福岡間複線化。鳥越信号場廃止。
** [[6月17日]]:好摩 - 岩手川口間複線化。
** [[6月21日]]:北福岡 - 金田一間複線化。
** [[7月2日]]:小湊 - 西平内間複線化。
** [[7月8日]]:野辺地 - 清水川間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線野辺地・清水川間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1968-07-06 |page=1 }}</ref>。
** [[7月10日]]:苫米地 - 北高岩間複線化。
** [[7月12日]]:小鳥谷 - 一戸間複線化。
** 7月15日:諏訪ノ平 - 剣吉間複線化。
** 7月20日:目時 - 梅内信号場間複線化。梅内信号場廃止。
** [[7月21日]]:野内 - 青森間経路変更。新線上に[[東青森駅]]開業。旧線上の浪打駅、浦町駅廃止。
** [[7月23日]]:上北町 - 乙供間複線化。
** 7月29日:下田 - 三沢間複線化。
** [[7月31日]]:陸奥市川 - 下田間複線化。
** [[8月3日]]:姉沼信号場 - 上北町間複線化。姉沼信号場廃止。
** [[8月5日]]:乙供 - 石文信号場間複線化、(新)千曳 - 東京起点694.970 km地点(千曳 - 野辺地間)間を複線の新線に切替え、東京 - 青森間全線複線化完成。千曳駅移転。石文信号場廃止。なお、旧線の千曳([[西千曳駅|西千曳]]と改称) - 野辺地間は[[南部縦貫鉄道線|南部縦貫鉄道]]に貸与し、同鉄道の起点は(旧)千曳駅から野辺地駅へ変更となった。
** 8月22日:盛岡 - 青森間が交流電化。東京 - 青森間全線電化完成。
** 9月25日:赤羽 - 与野間に電車線を2線増設し6線化<ref group="新聞">{{Cite news |和書|title=25日レール締結式 赤羽-大宮間 三複線化が完成 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通協力会 |date=1968-09-21 |page=2 }}</ref>。これに伴い、埼玉県内の川口 - 大宮間で完全立体交差化が完成し、同区間の全踏切を除去<ref group="†">[[さいたま車両センター]]出入口に設置されている京浜東北線南行を横断する[[私道]]上の踏切を除く。</ref>。
** 10月1日:[[ヨンサントオ|ダイヤ改正(通称「ヨンサントオ」)]]が実施され、本線の全線(東京 - 青森間)の最高速度が<!--従来の100 km/hから-->120 km/hに引き上げ。優等列車の到達時間が大幅に短縮された。
* [[1969年]](昭和44年)[[7月19日]]:3時59分、松島 - 塩釜間で、一ノ関発長町行貨物6650列車(現車25両、牽引機ED75 132)が脱線。
* [[1970年]](昭和45年)12月1日:北尻内信号場を駅に変更して[[八戸貨物駅]]開業。
* [[1971年]](昭和46年)
** 3月1日:貨物支線 王子 - 須賀間廃止。
** 4月1日:尻内駅を八戸駅に改称。
** 4月20日:[[西日暮里駅]]開業。
** 12月1日:(貨)[[宇都宮貨物ターミナル駅]]開業。
* [[1972年]](昭和47年)[[12月18日]]: 貨物支線 長町 - 宮城野間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線長町・宮城野間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1972-12-16 |page=4 }}</ref>。
* [[1973年]](昭和48年)
** [[1月16日]]:貨物支線 宮城野 - 東仙台間複線化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線宮城野・東京起点353k490m間増設線路の使用開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1973-01-10 |page=5 }}</ref>。
** 4月1日:東京電車特定区間を東京近郊区間に改め、当線では東京 - 大宮間から東京 - 小山間に拡大。
* [[1974年]](昭和49年)
** 7月1日:貨物支線 宮城野 - 仙台市場間廃止。
** 7月20日:(貨)[[盛岡貨物ターミナル駅]]開業。
* [[1975年]](昭和50年)1月31日:秋葉原 - 田端操間の貨物営業廃止。
* [[1976年]](昭和51年)[[8月2日]]:盛岡 - 青森間[[列車集中制御装置|CTC]]化。
* [[1977年]](昭和52年)3月1日:郡山操車場を駅に変更して(貨)[[郡山貨物ターミナル駅]]開業。
* [[1978年]](昭和53年)
** 5月12日:古河 - 栗橋間で上り特急ひばり4号が脱線。重軽傷者8人。温度が上昇してロングレールがゆがんだことが原因(ロングレールによる同種の事故は国内初)<ref group="新聞">気温急上昇 レール膨張 特急通貨ぐにゃり「ロング」では初のケース『朝日新聞』1978年(昭和53年)5月13日朝刊、13版、23面</ref>。
** 6月1日:瀬上駅を東福島駅に改称。
** [[7月]]:石越 - 盛岡間CTC化。
** 8月3日:仙台地区に通勤用[[国鉄417系電車|417系]]交直流電車が初登場。仙台 - 白石間に1日1往復の運転開始。
** 10月2日:岩切 - 利府間が交流電化<ref>{{Cite news |和書|title=通報 ●東北本線岩切・利府間営業列車の電気運転開始について(運転局) |newspaper=鉄道公報 |publisher=日本国有鉄道総裁室文書課 |date=1978-10-02 |page=8 }}</ref>。[[北上操車場]]開業。
* [[1981年]](昭和56年)4月15日:(貨)東鷲宮駅開業。
* [[1982年]](昭和57年)
** 4月1日:[[新利府駅]]開業。
** [[6月23日]]:[[東鷲宮駅]]旅客営業開始。東那須野駅を那須塩原駅に、磐城西郷駅を新白河駅に改称。
* [[1983年]](昭和58年)
** [[4月27日]]:[[自治医大駅]]開業。
** 10月1日:[[土呂駅]]開業。
* [[1984年]](昭和59年)
** [[3月24日]]:古河駅付近高架化。
** 12月1日:白河 - 石越間、岩切 - 利府間CTC化。
* [[1985年]](昭和60年)
** [[4月22日]]:[[館腰駅]]開業。
** [[9月30日]]:赤羽 - [[武蔵浦和駅|武蔵浦和]] - 大宮間([[埼京線]])が開通し、[[北赤羽駅]]・[[浮間舟渡駅]]・[[戸田公園駅]]・[[戸田駅 (埼玉県)|戸田駅]]・[[北戸田駅]]・武蔵浦和駅・[[中浦和駅]]・[[南与野駅]]・[[与野本町駅]]・[[北与野駅]]開業。
* [[1986年]](昭和61年)11月1日:北上操車場廃止。浅虫駅を浅虫温泉駅に改称。[[矢田前駅]]・[[小柳駅 (青森県)|小柳駅]]開業。
* [[1987年]](昭和62年)
** [[2月1日]]:北福岡駅を二戸駅に、金田一駅を金田一温泉駅に改称。
** [[2月26日]] [[新白岡駅]]開業。
==== 民営化以降 ====
* [[1987年]]([[昭和]]62年)[[4月1日]]:国鉄分割民営化により、東日本旅客鉄道が承継。貨物支線 田端操 - 北王子間のみ日本貨物鉄道が承継。
* [[1988年]](昭和63年)
**[[3月13日]]:黒磯以南の普通列車において、[[新宿駅]]・[[池袋駅]]発着列車の運行を開始(浦和駅は通過)。二枚橋駅を花巻空港駅に改称。
** [[8月29日]]:六原 - 北上間を走行中の貨物列車が、大雨による路盤流出のため、機関車などが脱線・横転。運転見合わせとなる。
* [[1989年]]([[平成]]元年)5月20日:上野 - 尾久間に[[自動列車停止装置#ATS-P形(デジタル伝送パターン形)|ATS-P]]を導入<ref group="新聞">{{Cite news |title=ATS-P 東京圏中心に導入 工事急ピッチ JR東日本 |newspaper=[[交通新聞]] |publisher=交通新聞社 |date=1990-07-16 |page=3 }}</ref>。
* [[1990年]](平成2年)[[3月10日]]:上野 - (日暮里) - 尾久 - 赤羽 - 黒磯間で'''[[宇都宮線]]'''の愛称を使用開始。
* [[1993年]](平成5年)[[10月3日]]:尾久 - 蓮田間にATS-Pを導入<ref>{{Cite book|和書 |date=1994-07-01 |title=JR気動車客車編成表 '94年版 |chapter=JR年表 |page=186 |publisher=ジェー・アール・アール |ISBN=4-88283-115-5}}</ref>。
* [[1995年]](平成7年)12月1日:黒磯 - 郡山間の一部列車でワンマン化<ref name=JRR1996>{{Cite book|和書 |date=1996-07-01 |title=JR気動車客車編成表 '96年版 |chapter=JR年表 |page=183 |publisher=ジェー・アール・アール |ISBN=4-88283-117-1}}</ref>。
* [[1996年]](平成8年)
** [[3月22日]]:花泉 - 岩手川口間で新[[自動進路制御装置|PRC]]、CTC使用開始{{R|JRR1996}}<ref group="新聞">{{cite news |和書|title=東北線花泉-岩手川口間 PRC使用開始 JR盛岡支社 |newspaper=交通新聞 |date=1996-03-29 |publisher=交通新聞社 |page=1 }}</ref>。
** [[3月30日]]:盛岡 - 沼宮内(現:いわて沼宮内)間の一部列車でワンマン化{{R|JRR1996}}<ref group="新聞">{{cite news |和書|title=盛岡-沼宮内 一部ワンマン化 JR盛岡支社 |newspaper=交通新聞 |date=1996-02-01 |publisher=交通新聞社 |page=1 }}</ref>。
* [[1998年]](平成10年)
** [[3月14日]]:[[紫波中央駅]]開業<ref name=JRR1998>{{Cite book|和書 |date=1998-07-01 |title=JR気動車客車編成表 '98年版 |chapter=JR年表 |page=183 |publisher=ジェー・アール・アール |ISBN=4-88283-119-8}}</ref>。郡山 - 藤田間でワンマン化{{R|JRR1998}}。
** 3月17日:沼宮内 - 青森間で新PRC、CTC使用開始{{R|JRR1998}}<ref group="新聞">{{Cite news |title=東北線沼宮内-青森間も JR盛岡支社 17日から使用 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-03-02 |page=1 }}</ref>。
** [[4月26日]]:赤羽駅付近の高架化完成<ref name="交通980513" group="新聞">{{Cite news |title=赤羽駅付近 高架化事業が大詰め 東北客貨線複線に 今秋めど |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-05-13 |page=1 }}</ref>。同駅付近の「[[開かずの踏切]]」が全廃される{{R|交通980513|group="新聞"}}。
** [[8月27日]]:[[平成10年台風第4号|台風4号]]による集中豪雨で、黒田原 - 豊原間で約100mに渡って路盤が流失<ref name="交通980901" group="新聞">{{Cite news |title=東北、上越線 復旧に1ヶ月 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-09-01 |page=1 }}</ref>。黒磯駅 - 郡山駅間で運転を見合わせ<ref group="新聞">{{Cite news |title=黒磯-郡山間で運転見合わせ |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-08-28 |page=3 }}</ref>。
** [[8月28日]]:不通区間が矢板駅 - 松川駅に拡大<ref group="新聞">{{Cite news |title=11線区で運転見合わせ JR東日本管内 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-08-31 |page=3 }}</ref>。
** 8月31日:不通区間が蒲須坂駅 - 盛岡駅間に拡大{{R|group="新聞"|交通980901}}。
** 9月1日:蒲須坂駅 - 黒磯駅、白石駅 - 小牛田駅間、 一ノ関駅 - 盛岡駅間が運転を再開<ref group="新聞">{{Cite news |title=山形新幹線が運転再開 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-09-02 |page=1 }}</ref><ref group="新聞">“山形新幹線、3日ぶり復旧” [[東京新聞]] ([[中日新聞東京本社]]): p10. (1998年9月1日 夕刊)</ref>。
** [[9月2日]]:小牛田駅 - 一ノ関駅間が運転を再開<ref group="新聞">{{Cite news |title=JR東日本が豪雨の被災状況 会社発足後最大の被害 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-09-03 |page=1 }}</ref>。
** 9月3日:新白河駅 - 松川駅間、福島駅 - 白石駅間が運転を再開<ref group="新聞">{{Cite news |title=JR東日本の不通区間と復旧見込み |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-09-04 |page=1 }}</ref>。
** 9月10日:松川駅 - 福島駅間が運転を再開<ref group="新聞">{{Cite news |title=松川-福島間あす運転再開 JR東北線 |newspaper=交通新聞 |publisher=交通新聞社 |date=1998-09-09 |page=3 }}</ref>。
** [[9月25日]]:午後3時50分ごろの上り一番列車より黒磯駅 - 新白河駅が運転を再開<ref group="新聞">“29日ぶり 晴れて 運転再開 豪雨被害のJR東北線” [[東京新聞]] ([[中日新聞東京本社]]): p1. (1998年9月26日 朝刊)</ref>。
* [[1999年]](平成11年)
** [[6月1日]]:東京近郊区間を小山までから宇都宮まで拡大。
** [[7月1日]]:黒磯 - 石越間で新PRC、CTC使用開始。
* [[2000年]](平成12年)
** 3月11日:八戸 - 青森間の最高速度を従来の120 km/hから130 km/hに引き上げ<ref name="jreast-press-19991207">{{Cite press release|和書|url=https://www.jreast.co.jp/press/1999_2/19991207/index.html|title=東北線特急「スーパーはつかり」営業開始|publisher=東日本旅客鉄道|date=1999-12-17|accessdate=2023-08-14}}</ref>。優等列車の所要時間が10分短縮された。
** 4月1日:[[さいたま新都心駅]]開業(貨物線にはホームがないため、新宿駅・池袋駅発着の列車は通過)。
* [[2001年]](平成13年)
** [[9月29日]]:[[国府多賀城駅]]開業。
** [[11月18日]]:東京 - 宇都宮間の各駅(京浜東北線・埼京線含む)でICカード乗車券「[[Suica]]」サービス開始。
** [[12月1日]]:'''[[湘南新宿ライン]]'''の名称で、新宿駅経由で宇都宮線と[[横須賀線]]との直通運転開始<ref group="報道" name="jreast2001" />。
* [[2002年]](平成14年)12月1日:[[東北新幹線]]八戸延伸に伴い、盛岡 - 目時間を第三セクターの[[IGRいわて銀河鉄道]]に、目時 - 八戸間を第三セクターの[[青い森鉄道]](施設保有は[[青森県]])に経営移管。東北本線の営業キロは631.3 km(支線含まず)となり、[[山陰本線]]に次ぎ日本の在来線で2番目に長い路線となる。
* [[2003年]](平成15年):白石 - 小牛田間、岩切 - 利府間でICカード乗車券「Suica」サービス開始。
* [[2004年]](平成16年)
** [[10月16日]]:東京近郊区間およびICカード乗車券「Suica」首都圏エリアを宇都宮までから黒磯まで拡大。
** [[12月19日]]:宇都宮線 上野 - 古河間で[[東京圏輸送管理システム|ATOS]]使用開始。
** この年、浦和駅の高架化工事開始。
* [[2005年]](平成17年)10月16日:野木 - 那須塩原間でATOS使用開始。
* [[2006年]](平成18年)[[9月18日]]:長町駅付近2.5 km([[名取川]]から[[広瀬川 (宮城県)|広瀬川]]まで)を高架化。
* [[2007年]](平成19年)[[3月18日]]:[[仙台空港鉄道仙台空港線|仙台空港線]]との相互直通運転開始。[[太子堂駅]]開業。
* [[2009年]](平成21年)
** 3月14日:矢吹 - 白石間でICカード乗車券「Suica」サービス開始。
** [[11月27日]]:新幹線開業後の経営移管を前提とした八戸 - 青森間の鉄道事業廃止届を国土交通省に提出<ref group="報道" name="jreast20091127">{{PDFlink|[http://www.jreast.co.jp/press/2009/20091112.pdf 鉄道事業の一部廃止の届出について]}} - JR東日本プレスリリース、2009年11月27日。</ref>。
* [[2010年]](平成22年)[[12月4日]]:東北新幹線新青森延伸に伴い、八戸 - 青森間を第三セクターの青い森鉄道(施設保有は青森県)に経営移管。東北本線の営業キロは535.3 km(支線含まず)の路線となり、山陰本線、[[東海道本線]]に次ぎ日本の在来線で3番目に長い路線となる。
* [[2011年]](平成23年)
** [[3月11日]]:[[東北地方太平洋沖地震]]の発生により全線にわたり不通。仙台空港線との相互直通運転が休止。
** [[3月12日]]:田端操駅を田端信号場駅<!-- 信号場ではなく「田端信号場」という名の駅 -->に、宮城野駅を仙台貨物ターミナル駅に改称。東京 - 宇都宮間が運転再開。
** [[3月15日]]:花巻 - 盛岡間が運転再開。
** [[3月16日]]:宇都宮 - 黒磯間が運転再開。
** [[3月17日]]:北上 - 花巻間が運転再開。
** [[3月20日]]:一ノ関 - 北上間が運転再開。
** [[3月29日]]:郡山 - 本宮間が運転再開。
** [[3月31日]]:仙台 - 岩切間が運転再開。
** [[4月2日]]:安積永盛 - 郡山間、名取 - 仙台間が運転再開。
** [[4月3日]]:岩沼 - 名取間が運転再開。
** [[4月5日]]:本宮 - 福島間、岩切 - 松島間、岩切 - 利府間が運転再開。
** [[4月6日]]:花泉 - 一ノ関間が運転再開。
** [[4月7日]]:福島 - 岩沼間が運転再開。同日の夜遅くに発生した[[宮城県沖地震 (2011年)|東北地方太平洋沖地震の余震]]の影響により、黒磯以北が再度不通となる。
** [[4月9日]]:安積永盛 - 本宮間、北上 - 盛岡間が運転再開。
** [[4月10日]]:本宮 - 福島間が運転再開。
** [[4月11日]]:水沢 - 北上間が運転再開。
** [[4月12日]]:福島 - 仙台間が運転再開。
** [[4月15日]]:一ノ関 - 水沢間が運転再開。
** [[4月17日]]:黒磯 - 安積永盛間、長町 - 仙台貨物ターミナル間が運転再開。
** [[4月21日]]:仙台 - 一ノ関間、仙台貨物ターミナル - 東仙台間、岩切 - 利府間が運転再開し全線で運転再開。
** [[7月23日]]:仙台空港線との相互直通運転が再開。
** [[9月21日]]:[[平成23年台風第15号|台風15号]]が上陸する。白石 - 仙台間が大きな被害を受け、運休。
** 9月25日:白石 - 仙台間で朝夕の列車の運転が再開。
** [[9月27日]]:白石 - 仙台間で日中の列車の運転が再開。
** [[10月1日]]:仙台空港線 仙台空港駅までの相互直通運転を再開。
* [[2013年]](平成25年)3月16日:浦和駅の高架化工事完了。湘南新宿ラインが浦和駅への停車を開始。
* [[2014年]](平成26年)
** 4月1日:矢吹 - 平泉間と岩切 - 利府間が新設の仙台近郊区間となり、一ノ関駅と平泉駅でICカード乗車券「Suica」サービス開始。
** 7月1日:日本貨物鉄道の貨物支線 田端信号場 - 北王子間が廃止<ref group="報道">{{PDFlink|[http://www.jrfreight.co.jp/common/pdf/news/20140312-04.pdf 東北線 田端信号場〜北王子間の列車運行終了について]}}</ref>。
* [[2015年]](平成27年)
** 3月14日:'''[[上野東京ライン]]'''の名称で、上野駅・東京駅経由で宇都宮線と[[東海道線 (JR東日本)|東海道線]]との直通運転開始<ref group="報道" name="jreast20141219" />。松島 - 高城町間に仙石線・東北本線接続線の営業キロ(0.3 km)を運賃計算上で新設<ref group="報道">{{PDFlink|[http://jr-sendai.com/upload-images/2015/01/ishinomaki_senseki.pdf 石巻線および仙石線の全線運転再開と仙石東北ライン開業に伴う営業キロの変更及び運賃の適用等について]}} 東日本旅客鉄道 仙台支社(2015年1月29日)</ref>。
** [[5月30日]]:松島 - [[高城町駅|高城町]]間(仙石線・東北本線接続線)開業。'''[[仙石東北ライン]]'''の名称で、同支線経由で東北本線と仙石線との直通運転開始。
* [[2016年]](平成28年)10月1日:東京電車特定区間で[[駅ナンバリング]]を設定。路線記号は、東京 - (日暮里) - 尾久 - 赤羽 - 大宮間(宇都宮線)が「JU」、東京 - 田端間(山手線)が「JY」、東京 - 大宮間(京浜東北線)が「JK」、東京 - 神田間(中央線快速電車)が「JC」、上野 - 日暮里間(常磐線快速電車)が「JJ」、赤羽 - 大宮間(貨物線)が「JS」、赤羽 - 武蔵浦和 - 大宮間(埼京線)が「JA」。
* [[2017年]](平成29年)
** [[10月14日]]:黒磯駅の電力設備改良工事の進捗に伴い、黒磯 - 新白河間に[[JR東日本E531系電車|E531系交直流電車]]・[[JR東日本キハ100系気動車|キハ110系気動車]]を導入し、黒磯 - 郡山間の輸送体系を変更<ref group="報道">{{PDFlink|[http://jr-sendai.com/upload-images/2017/07/20170707.pdf 2017年10月ダイヤ改正について]}} 東日本旅客鉄道 仙台支社(2017年7月7日)</ref>。
** [[10月23日]]:宇都宮線 久喜 - 東鷲宮間で架線の碍子が腐食し、同日に通過した[[平成29年台風第21号|台風21号]]による間引き運転と併せ、白岡 - 古河間で24日まで約2日間運転を見合わせた<ref>[http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171025/k10011197051000.html JR宇都宮線の架線トラブル 絶縁体が腐食し漏電]</ref>。
* [[2018年]](平成30年)[[1月1日]] - [[1月3日]]:早朝の那須塩原駅 - 新白河駅間の列車、深夜の矢板駅 - 白河駅間の列車(1日・2日のみ)を運休し、黒磯駅構内を完全直流化。同駅盛岡方に[[デッドセクション]]を設け、地上切替から車上切替に変更<ref group="報道">{{Cite press release|和書|url=http://www.jreast.co.jp/press/2017/omiya/20171124_o01.pdf|title=東北本線黒磯駅電気設備改良切換工事に伴う列車運休及びバス代行輸送計画についてのお知らせ|accessdate=2018-01-13|date=2017-11-24|format=PDF|publisher=東日本旅客鉄道|archiveurl=https://web.archive.org/web/20180103054517/http://www.jreast.co.jp/press/2017/omiya/20171124_o01.pdf|archivedate=2018-01-03}}</ref>。
* [[2019年]]([[令和]]元年)[[10月12日]]:[[令和元年東日本台風|台風19号]]の影響により、以下の区間で被害を受ける。
** 矢板 - 野崎間の箒川橋りょうおよび西那須野 - 那須塩原間の蛇尾川橋りょうで、護床工が変状<ref group="報道">{{Cite press release|和書|url=https://www.jreast.co.jp/press/2019/omiya/20200213_o01.pdf|title=台風19号による河川橋りょう災害復旧工事について|format=PDF|publisher=東日本旅客鉄道大宮支社|date=2020-02-13|accessdate=2020-04-25|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200425075852/https://www.jreast.co.jp/press/2019/omiya/20200213_o01.pdf|archivedate=2020-04-25}}</ref>
** 安積永盛駅 - 須賀川間で盛土・バラスト流出<ref group="報道" name="press/202004242">{{Cite press release|和書|url=https://jr-sendai.com/upload-images/2020/04/202004242.pdf|title=降雨等に対する防災対策工事および台風19号による被災箇所の復旧状況について|format=PDF|publisher=東日本旅客鉄道仙台支社|date=2020-04-24|accessdate=2020-04-25|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200425075357/http://jr-sendai.com/upload-images/2020/04/202004242.pdf|archivedate=2020-04-25}}</ref>
** 瀬峰 - 梅ケ沢間で土砂流入<ref group="報道" name="press/202004242" />
* [[2020年]](令和2年)3月14日:黒磯 - 新白河間(一部白河まで)の列車をE531系電車5両編成でのワンマン運転に統一し<ref group="報道">{{PDFlink|[https://jr-sendai.com/upload-images/2019/12/201912131.pdf 2020年3月ダイヤ改正について]}} 東日本旅客鉄道 仙台支社(2019年12月13日)</ref>、キハ110系気動車は同年3月13日の運用をもって撤退。
* [[2023年]](令和5年)
** 5月27日:北上 - 盛岡間でICカード「Suica」の利用が可能となる<ref group="報道" name="press20221212">{{Cite press release|title=2023年5月27日(土)北東北3エリアで Suica がデビューします!|publisher=東日本旅客鉄道盛岡支社・秋田支社|date=2022-12-12|url=https://www.jreast.co.jp/press/2022/morioka/20221212_mr01.pdf|format=PDF|language=日本語|和書|accessdate=2022-12-17}}</ref>。
** [[10月19日]]:黒磯駅でATOSの使用を開始。
=== 優等列車の沿革 ===
* [[東北本線優等列車沿革]]の項を参照。
== 駅一覧 ==
(貨)は貨物専用駅。それ以外の駅で◆・◇・■を付した駅は貨物取扱駅を表す(◇は定期貨物列車の発着なし、■は[[オフレールステーション]])
=== 現存区間 ===
==== 東京駅 - 黒磯駅間 ====
[[ファイル:TohokuLineTokyoArea201503.svg|200px|right|東京口における路線図]]
ここではこの区間に存在する全駅の駅名と主要な駅(主に支線・他路線の分岐点や運行上の拠点駅)のキロ程のみを記す。各駅のキロ程・停車駅・接続路線・所在地などの詳細については各運転系統記事([[上野東京ライン#駅一覧|上野東京ライン]]・[[宇都宮線#駅一覧|宇都宮線]]・[[高崎線#駅一覧|高崎線]]・[[湘南新宿ライン#駅一覧|湘南新宿ライン]]・[[埼京線#駅一覧|埼京線]]・[[京浜東北線#駅一覧|京浜東北線]]・[[山手線#駅一覧|山手線]])を参照。なお田端信号場駅 - 大宮駅間の貨物施設に関しては[[東北貨物線]]を参照。
() 内は起点からの営業キロ
; 本線
: [[東京駅]] (0.0 km) - [[神田駅 (東京都)|神田駅]] (1.3 km) - [[秋葉原駅]] (2.0 km) - [[御徒町駅]] - [[上野駅]] (3.6 km) - [[鶯谷駅]] - [[日暮里駅]] (5.8 km) - [[西日暮里駅]] - [[田端駅]]・[[田端信号場駅]] (7.1 km) - [[上中里駅]] - [[王子駅]] - [[東十条駅]] - [[赤羽駅]] (13.2 km) - [[川口駅]] - [[西川口駅]] - [[蕨駅]] - [[南浦和駅]] (22.5 km) - [[浦和駅]] - [[北浦和駅]] - [[与野駅]] - [[さいたま新都心駅]] - ([[大宮操車場]]) - [[大宮駅 (埼玉県)|大宮駅]] (30.3 km) - [[土呂駅]] - [[東大宮駅]] - [[蓮田駅]] - [[白岡駅]] - [[新白岡駅]] - [[久喜駅]] (48.9 km)- [[東鷲宮駅]]◇ - [[栗橋駅]] - [[古河駅]] - [[野木駅]] - [[間々田駅]] - [[小山駅]]◇ (80.6 km) - [[小金井駅]] - [[自治医大駅]] - [[石橋駅 (栃木県)|石橋駅]] - (貨)[[宇都宮貨物ターミナル駅]] - [[雀宮駅]] - [[宇都宮駅]]◇ (109.5 km) - [[岡本駅 (栃木県)|岡本駅]] - [[宝積寺駅]]◇ (121.2 km) - [[氏家駅]] - [[蒲須坂駅]] - [[片岡駅]] - [[矢板駅]]■ - [[野崎駅 (栃木県)|野崎駅]] - [[西那須野駅]] - [[那須塩原駅]] - [[黒磯駅]] (163.3 km)
; 支線(尾久経由)
: 日暮里駅 (0.0 km) - [[尾久駅]] (2.6 km) - 赤羽駅 (7.6 km)
; 支線(武蔵浦和経由・埼京線)
: 赤羽駅 (0.0 km) - [[北赤羽駅]] - [[浮間舟渡駅]] - [[戸田公園駅]] - [[戸田駅 (埼玉県)|戸田駅]] - [[北戸田駅]] - [[武蔵浦和駅]] (10.6 km) - [[中浦和駅]] - [[南与野駅]] - [[与野本町駅]] - [[北与野駅]] - 大宮駅 (18.0 km)
==== 黒磯駅 - 一ノ関駅間 ====
* {{JR特定都区市内|仙}}:[[特定都区市内]]制度における「仙台市内」の駅
* 累計営業キロは東京駅からの距離
* 停車駅
** 普通…すべての旅客駅に停車
** 快速…●:全列車停車、▲:一部の列車が停車、|:全列車通過、∥:ホームを経由しない
*** 仙台空港線直通の快速および、仙石東北ラインの快速列車の詳細は路線記事をそれぞれ参照
{|class="wikitable" rules="all"
|-
!rowspan="2" style="width:1em; line-height:1.2em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|{{縦書き|電化方式|height=5em}}
!rowspan="2" style="width:8em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|駅名
!colspan="2"|営業キロ
!colspan="2"|快速
!rowspan="2" style="border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|接続路線・備考
!rowspan="2" colspan="3" style="border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|所在地
|-
!style="width:2.5em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|駅間
!style="width:3em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|累計
!style="width:1em; border-bottom:3px solid mediumseagreen; font-size:70%;"|{{縦書き|[[仙台空港アクセス線]]|height=10em}}
!style="width:1em; border-bottom:3px solid mediumseagreen; background:#fee; font-size:90%;"|{{縦書き|[[仙石東北ライン]]|height=8em}}
|-
|style="text-align:center; width:1em; line-height:1em; background:#99ccff;"|{{縦書き|'''[[直流電化|直流]]'''|height=2.5em}}
|[[黒磯駅]]
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|163.3
|
|
|[[東日本旅客鉄道]]:東北本線({{Color|#f68b1e|■}}[[宇都宮線]] [[宇都宮駅|宇都宮]]方面)
|style="text-align:center; width:1em;" rowspan="4"|{{縦書き|[[栃木県]]|height=4em}}
|colspan="2"|[[那須塩原市]]
|-
|rowspan="66" style="text-align:center; width:1em; background:#ffbbcc; letter-spacing:2em;"|{{縦書き|'''[[交流電化|交流]]'''|height=8em}}
|[[高久駅]]
|style="text-align:right;"|4.0
|style="text-align:right;"|167.3
|
|
|
|colspan="2" rowspan="3"|[[那須郡]]<br>[[那須町]]
|-
|[[黒田原駅]]
|style="text-align:right;"|4.2
|style="text-align:right;"|171.5
|
|
|
|-
|[[豊原駅]]
|style="text-align:right;"|5.2
|style="text-align:right;"|176.7
|
|
|
|-
|[[白坂駅]]
|style="text-align:right;"|5.3
|style="text-align:right;"|182.0
|
|
|
|style="text-align:center; width:1em; line-height:5;" rowspan="27"|{{縦書き|[[福島県]]|height=4em}}
|colspan="2"|[[白河市]]
|-
|[[新白河駅]]◇
|style="text-align:right;"|3.4
|style="text-align:right;"|185.4
|
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] [[東北新幹線]]
|colspan="2"|[[西白河郡]]<br>[[西郷村]]
|-
|[[白河駅]]
|style="text-align:right;"|2.8
|style="text-align:right;"|188.2
|
|
|
|colspan="2" rowspan="2"|白河市
|-
|[[久田野駅]]
|style="text-align:right;"|4.7
|style="text-align:right;"|192.9
|
|
|
|-
|[[泉崎駅]]
|style="text-align:right;"|4.5
|style="text-align:right;"|197.4
|
|
|
|style="text-align:center; width:1em;" rowspan="2"|{{縦書き|西白河郡|height=4.5em}}
|[[泉崎村]]
|-
|[[矢吹駅]]
|style="text-align:right;"|6.0
|style="text-align:right;"|203.4
|
|
|
|[[矢吹町]]
|-
|[[鏡石駅]]
|style="text-align:right;"|5.4
|style="text-align:right;"|208.8
|
|
|
|colspan="2"|[[岩瀬郡]]<br>[[鏡石町]]
|-
|[[須賀川駅]]
|style="text-align:right;"|6.3
|style="text-align:right;"|215.1
|
|
|
|colspan="2"|[[須賀川市]]
|-
|[[安積永盛駅]]◇
|style="text-align:right;"|6.7
|style="text-align:right;"|221.8
|
|
|東日本旅客鉄道:{{Color|#368c44|■}}[[水郡線]]<ref group="*">水郡線の路線の終点は安積永盛駅だが、列車はすべて郡山駅へ乗り入れる。</ref>
|colspan="2" rowspan="4"|[[郡山市]]
|-
|style="width:7em;"|(貨)[[郡山貨物ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|1.6
|style="text-align:right;"|223.4
|
|
|
|-
|[[郡山駅 (福島県)|郡山駅]]◆
|style="text-align:right;"|3.3
|style="text-align:right;"|226.7
|
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|mediumvioletred|■}}[[磐越東線]]・{{Color|#cb7b35|■}}[[磐越西線]]
|-
|[[日和田駅]]
|style="text-align:right;"|5.7
|style="text-align:right;"|232.4
|
|
|
|-
|[[五百川駅]]
|style="text-align:right;"|4.5
|style="text-align:right;"|236.9
|
|
|
|colspan="2" rowspan="2"|[[本宮市]]
|-
|[[本宮駅 (福島県)|本宮駅]]
|style="text-align:right;"|3.8
|style="text-align:right;"|240.7
|
|
|
|-
|[[杉田駅 (福島県)|杉田駅]]
|style="text-align:right;"|5.9
|style="text-align:right;"|246.6
|
|
|
|colspan="2" rowspan="3"|[[二本松市]]
|-
|[[二本松駅]]
|style="text-align:right;"|3.7
|style="text-align:right;"|250.3
|
|
|
|-
|[[安達駅]]
|style="text-align:right;"|4.2
|style="text-align:right;"|254.5
|
|
|
|-
|[[松川駅]]◇
|style="text-align:right;"|5.0
|style="text-align:right;"|259.5
|
|
|
|colspan="2" rowspan="6"|[[福島市]]
|-
|[[金谷川駅]]
|style="text-align:right;"|4.5
|style="text-align:right;"|264.0
|
|
|
|-
|[[南福島駅]]
|style="text-align:right;"|5.4
|style="text-align:right;"|269.4
|
|
|
|-
|[[福島駅 (福島県)|福島駅]]
|style="text-align:right;"|3.4
|style="text-align:right;"|272.8
|
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|#ee7b28|■}}[[山形新幹線]]・{{Color|#ee7b28|■}}[[奥羽本線]]([[山形線]])<br/>[[阿武隈急行]]:[[阿武隈急行線]]<br/>[[福島交通]]:[[福島交通飯坂線|飯坂線]]
|-
|[[矢野目信号場]]
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|277.4
|
|
|(阿武隈急行線との施設上での分岐点)
|-
|[[東福島駅]]■
|style="text-align:right;"|6.0
|style="text-align:right;"|278.8
|
|
|
|-
|[[伊達駅]]
|style="text-align:right;"|3.1
|style="text-align:right;"|281.9
|
|
|
|colspan="2"|[[伊達市 (福島県)|伊達市]]
|-
|[[桑折駅]]
|style="text-align:right;"|4.0
|style="text-align:right;"|285.9
|
|
|
|style="text-align:center; width:1em;" rowspan="3"|{{縦書き|[[伊達郡]]|height=3.5em}}
|[[桑折町]]
|-
|[[藤田駅]]
|style="text-align:right;"|3.4
|style="text-align:right;"|289.3
|
|
|
|rowspan="2"|[[国見町]]
|-
|[[貝田駅]]
|style="text-align:right;"|5.6
|style="text-align:right;"|294.9
|
|
|
|-
|[[越河駅]]
|style="text-align:right;"|3.7
|style="text-align:right;"|298.6
|
|
|
|style="text-align:center; width:1em; line-height:5;" rowspan="31"|{{縦書き|[[宮城県]]|height=4em}}
|colspan="2" rowspan="4"|[[白石市]]
|-
|[[白石駅 (宮城県)|白石駅]]
|style="text-align:right;"|8.2
|style="text-align:right;"|306.8
|rowspan="8" style="width:1em; text-align:center; vertical-align:bottom;" |{{縦書き|仙台空港線直通|height=8em}}
|
|
|-
|[[東白石駅]]
|style="text-align:right;"|4.2
|style="text-align:right;"|311.0
<!-- | -->
|
|
|-
|[[北白川駅]]
|style="text-align:right;"|4.3
|style="text-align:right;"|315.3
<!-- | -->
|
|
|-
|[[大河原駅 (宮城県)|大河原駅]]
|style="text-align:right;"|4.8
|style="text-align:right;"|320.1
<!-- | -->
|
|
|style="text-align:center; width:1em;" rowspan="3"|{{縦書き|[[柴田郡]]|height=3.5em}}
|style="white-space:nowrap;"|[[大河原町]]
|-
|[[船岡駅 (宮城県)|船岡駅]]
|style="text-align:right;"|3.0
|style="text-align:right;"|323.1
<!-- | -->
|
|
|rowspan="2"|[[柴田町]]
|-
|[[槻木駅]]
|style="text-align:right;"|4.6
|style="text-align:right;"|327.7
<!-- | -->
|
|阿武隈急行:阿武隈急行線<ref group="*">一部列車は仙台駅まで乗り入れる。</ref>
|-
|[[岩沼駅]]◆
|style="text-align:right;"|6.5
|style="text-align:right;"|334.2
<!-- | -->
|
|東日本旅客鉄道:{{Color|#3333ff|■}}[[常磐線]]<ref group="*">常磐線の路線の終点は岩沼駅だが、旅客列車はすべて仙台駅まで乗り入れ、一部[[利府駅]]まで直通する。</ref>
|colspan="2"|[[岩沼市]]
|-
|[[館腰駅]]
|style="text-align:right;"|3.7
|style="text-align:right;"|337.9
<!-- | -->
|
|
|colspan="2" rowspan="2"|[[名取市]]
|-
|[[名取駅]]◇
|style="text-align:right;"|3.5
|style="text-align:right;"|341.4
|style="text-align:center;"|●
|
|[[仙台空港鉄道]]:{{Color|#2A5CAA|■}}[[仙台空港鉄道仙台空港線|仙台空港線]]([[仙台空港アクセス線]]<ref group="*">仙台空港アクセス線の列車はすべて仙台駅発着である。</ref>)
|-
|[[南仙台駅]] {{JR特定都区市内|仙}}
|style="text-align:right;"|2.7
|style="text-align:right;"|344.1
|style="text-align:center;"||
|
|
|style="text-align:center; width:1em; line-height:2;" rowspan="7"|{{縦書き|[[仙台市]]|height=4em}}
|rowspan="3"|[[太白区]]
|-
|[[太子堂駅]] {{JR特定都区市内|仙}}
|style="text-align:right;"|2.2
|style="text-align:right;"|346.3
|style="text-align:center;"||
|
|
|-
|[[長町駅]] {{JR特定都区市内|仙}}
|style="text-align:right;"|1.0
|style="text-align:right;"|347.3
|style="text-align:center;"||
|
|[[仙台市地下鉄]]:{{Color|#317C66|■}}[[仙台市地下鉄南北線|南北線]] (N15)<br />東日本旅客鉄道:東北本線貨物支線([[#支線|宮城野貨物線]])
|-
|[[仙台駅]] {{JR特定都区市内|仙}}
|style="text-align:right;"|4.5
|style="text-align:right;"|351.8
|style="text-align:center;"|●
|style="text-align:center; background:#fee;"|●
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|#72bc4a|■}}[[仙山線]]・{{Color|#00aaee|■}}[[仙石線]]<br/>仙台市地下鉄:{{Color|#317C66|■}}南北線 (N10)・{{Color|#00B1DD|■}}[[仙台市地下鉄東西線|東西線]] (T07)
|[[青葉区 (仙台市)|青葉区]]
|-
|[[東仙台駅]] {{JR特定都区市内|仙}}
|style="text-align:right;"|4.0
|style="text-align:right;"|355.8
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|▲
|東日本旅客鉄道:東北本線貨物支線(宮城野貨物線)
|rowspan="3"|[[宮城野区]]
|-
|[[東仙台信号場]]
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|357.5
|
|style="text-align:center; background:#fee;"||
|
|-
|[[岩切駅]] {{JR特定都区市内|仙}}◇
|style="text-align:right;"|4.1
|style="text-align:right;"|359.9
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|▲
|東日本旅客鉄道:{{Color|mediumseagreen|■}}東北本線支線([[利府線]])<ref group="*">昼を除き仙台方面へ乗り入れる。</ref>
|-
|[[陸前山王駅]]
|style="text-align:right;"|2.3
|style="text-align:right;"|362.2
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|▲
|[[仙台臨海鉄道]]:[[仙台臨海鉄道臨海本線|臨海本線]](貨物線)
|colspan="2" rowspan="2"|[[多賀城市]]
|-
|[[国府多賀城駅]]
|style="text-align:right;"|1.3
|style="text-align:right;"|363.5
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|▲
|
|-
|[[塩釜駅]]
|style="text-align:right;"|1.7
|style="text-align:right;"|365.2
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|●
|東日本旅客鉄道:{{Color|mediumseagreen|■}}{{Color|#00aaee|■}}[[仙石東北ライン]](高城町・石巻方面)
|colspan="2"|[[塩竈市]]
|-
|[[松島駅]]
|style="text-align:right;"|10.0
|style="text-align:right;"|375.2
|
|style="text-align:center; background:#fee;"|∥
|東日本旅客鉄道:東北本線(仙石線・東北本線接続線)<br>(仙石東北ラインの列車が分岐する駅だが停車しない)
|colspan="2" rowspan="3"|[[宮城郡]]<br>[[松島町]]
|-
|[[愛宕駅 (宮城県)|愛宕駅]]
|style="text-align:right;"|2.0
|style="text-align:right;"|377.2
|
|rowspan="15" style="width:1em; text-align:center; vertical-align:top;" |{{縦書き|仙石線直通|height=6em}}
|
|-
|[[品井沼駅]]
|style="text-align:right;"|4.4
|style="text-align:right;"|381.6
|
|
|-
|[[鹿島台駅]]
|style="text-align:right;"|5.0
|style="text-align:right;"|386.6
|
|
|colspan="2" rowspan="2"|[[大崎市]]
|-
|[[松山町駅]]
|style="text-align:right;"|4.9
|style="text-align:right;"|391.5
|
|
|-
|[[小牛田駅]]
|style="text-align:right;"|3.5
|style="text-align:right;"|395.0
|
|東日本旅客鉄道:{{Color|#ed77a4|■}}[[石巻線]]・{{Color|#3b459b|■}}[[気仙沼線]]<ref group="*">気仙沼線の路線の起点は石巻線[[前谷地駅]]だが、列車は多くが小牛田駅へ乗り入れている。</ref>・{{Color|#999999|■}}[[陸羽東線]]
|colspan="2"|[[遠田郡]]<br>[[美里町 (宮城県)|美里町]]
|-
|[[田尻駅]]
|style="text-align:right;"|6.1
|style="text-align:right;"|401.1
|
|
|colspan="2"|大崎市
|-
|[[瀬峰駅]]
|style="text-align:right;"|6.7
|style="text-align:right;"|407.8
|
|
|colspan="2"|[[栗原市]]
|-
|[[梅ケ沢駅]]
|style="text-align:right;"|3.7
|style="text-align:right;"|411.5
|
|
|colspan="2" rowspan="3"|[[登米市]]
|-
|[[新田駅 (宮城県)|新田駅]]
|style="text-align:right;"|4.7
|style="text-align:right;"|416.2
|
|
|-
|[[石越駅]]
|style="text-align:right;"|7.3
|style="text-align:right;"|423.5
|
|
|-
|[[油島駅]]
|style="text-align:right;"|3.5
|style="text-align:right;"|427.0
|
|
|rowspan="3" colspan="3"|[[岩手県]]<br>[[一関市]]
|-
|[[花泉駅]]
|style="text-align:right;"|4.2
|style="text-align:right;"|431.2
|
|
|-
|[[清水原駅]]
|style="text-align:right;"|3.2
|style="text-align:right;"|434.4
|
|
|-
|[[有壁駅]]
|style="text-align:right;"|3.4
|style="text-align:right;"|437.8
|
|
|colspan="3"|宮城県<br>栗原市
|-
|[[一ノ関駅]]◇
|style="text-align:right;"|7.3
|style="text-align:right;"|445.1
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|mediumseagreen|■}}東北本線(盛岡方面)・{{Color|#f18e44|■}}[[大船渡線]]
|colspan="3"|岩手県<br>一関市
|}
{{Reflist|group="*"}}
* 2022年度の時点で、JR東日本自社による乗車人員集計<ref name="各駅の乗車人員">{{Cite_web |url=https://www.jreast.co.jp/passenger/ |title=各駅の乗車人員 |publisher=東日本旅客鉄道 |accessdate=2023-10-10}}</ref> の除外対象となる駅(完全な無人駅。年度途中に無人となった駅を含む)は、高久駅・豊原駅・白坂駅・久田野駅・泉崎駅・日和田駅・五百川駅・杉田駅・貝田駅・越河駅・東白石駅・北白川駅・陸前山王駅・愛宕駅・田尻駅・梅ケ沢駅・新田駅・油島駅・花泉駅・清水原駅・有壁駅である。
* 次の市区町村も通るが、駅はない。
** 福島県[[安達郡]][[大玉村]](本宮駅 - 杉田駅間)
** 宮城県仙台市[[若林区]](長町駅 - 仙台駅間)
** 宮城県[[宮城郡]][[利府町]](塩釜駅 - 松島駅間)
** 宮城県[[栗原市]](新田駅 - 石越駅間)
* 郡山貨物ターミナル - 郡山間に郡山南駅(仮称)設置計画がある<ref>{{PDFlink|[http://www.city.koriyama.fukushima.jp/www/contents/1170230575420/html/common/other/4897ecd0726.pdf (仮称)東北本線郡山南駅設置事業]}}(郡山市「平成17年度 行政評価結果表」)</ref>。
==== 一ノ関駅 - 盛岡駅間 ====
* 全区間交流電化
* 累計営業キロは東京駅からの距離
* 停車駅
** 普通…すべての旅客駅に停車
** 快速=快速「[[はまゆり (列車)|はまゆり]]」…●:全列車停車、○:53・54号のみ停車、|:全列車通過
*** 全列車釜石線釜石駅発着。釜石線内の停車駅は[[釜石線#駅一覧|路線記事]]または列車記事を参照
* この区間は全駅[[岩手県]]内に所在
{|class="wikitable" rules="all"
|-
!rowspan="2" style="width:7em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|駅名
!colspan="2"|営業キロ
!rowspan="2" style=" border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|{{縦書き|快速}}
!rowspan="2" style=" border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|接続路線・備考
!rowspan="2" colspan="2" style=" border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|所在地
|-
!style="width:2.5em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|駅間
!style="width:3em; border-bottom:3px solid mediumseagreen;"|累計
|-
|[[一ノ関駅]]◇
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|445.1
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] [[東北新幹線]]・{{Color|mediumseagreen|■}}東北本線(仙台方面)・{{Color|#f18e44|■}}[[大船渡線]]
|rowspan="2" colspan="2"|[[一関市]]
|-
|[[山ノ目駅]]
|style="text-align:right;"|2.9
|style="text-align:right;"|448.0
|
|
|-
|[[平泉駅]]
|style="text-align:right;"|4.3
|style="text-align:right;"|452.3
|
|
|colspan="2"|[[西磐井郡]]<br>[[平泉町]]
|-
|[[前沢駅]]
|style="text-align:right;"|7.6
|style="text-align:right;"|459.9
|
|
|rowspan="3" colspan="2"|[[奥州市]]
|-
|[[陸中折居駅]]
|style="text-align:right;"|5.2
|style="text-align:right;"|465.1
|
|
|-
|[[水沢駅]]◆
|style="text-align:right;"|5.0
|style="text-align:right;"|470.1
|
|
|-
|[[金ケ崎駅]]
|style="text-align:right;"|7.6
|style="text-align:right;"|477.7
|
|
|rowspan="2" colspan="2"|[[胆沢郡]]<br>[[金ケ崎町]]
|-
|[[六原駅]]■
|style="text-align:right;"|3.4
|style="text-align:right;"|481.1
|
|
|-
|[[北上駅]]◇
|style="text-align:right;"|6.4
|style="text-align:right;"|487.5
|
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|#851a72|■}}[[北上線]]
|rowspan="2" colspan="2"|[[北上市]]
|-
|[[村崎野駅]]
|style="text-align:right;"|4.7
|style="text-align:right;"|492.2
|
|
|-
|[[花巻駅]]
|style="text-align:right;"|7.8
|style="text-align:right;"|500.0
|style="text-align:center;"|●
|東日本旅客鉄道:{{Color|#0073bf|■}}[[釜石線]]([[盛岡駅]]まで直通あり)
|rowspan="3" colspan="2"|[[花巻市]]
|-
|[[花巻空港駅]]◇
|style="text-align:right;"|5.7
|style="text-align:right;"|505.7
|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[石鳥谷駅]]
|style="text-align:right;"|5.7
|style="text-align:right;"|511.4
|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[日詰駅]]
|style="text-align:right;"|5.4
|style="text-align:right;"|516.8
|style="text-align:center;"|○
|
|style="text-align:center; width:1em;" rowspan="4"|{{縦書き|[[紫波郡]]|height=3.5em}}
|rowspan="3" style="white-space:nowrap;"|[[紫波町]]
|-
|[[紫波中央駅]]
|style="text-align:right;"|1.8
|style="text-align:right;"|518.6
|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[古館駅]]
|style="text-align:right;"|2.9
|style="text-align:right;"|521.5
|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[矢幅駅]]
|style="text-align:right;"|3.6
|style="text-align:right;"|525.1
|style="text-align:center;"|●
|
|[[矢巾町]]
|-
|style="width:7em;"|(貨)[[盛岡貨物ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|3.7
|style="text-align:right;"|528.8
|style="text-align:center;"||
|
|rowspan="4" colspan="2"|[[盛岡市]]
|-
|[[岩手飯岡駅]]
|style="text-align:right;"|0.8
|style="text-align:right;"|529.6
|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[仙北町駅]]
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|style="text-align:center;"|○
|
|-
|[[盛岡駅]]
|style="text-align:right;"|1.8
|style="text-align:right;"|535.3
|style="text-align:center;"|●
|東日本旅客鉄道:[[File:Shinkansen jre.svg|15px|■]] 東北新幹線・{{Color|#ed4399|■}}[[秋田新幹線]]・{{Color|#9d72b0|■}}[[田沢湖線]]・{{Color|#cd7a1e|■}}[[山田線]]・{{Color|#aa1e30|■}}[[花輪線]]<ref group="†">正式な起点は好摩駅だが、列車はすべていわて銀河鉄道線経由で盛岡駅へ乗り入れる。</ref><br />[[IGRいわて銀河鉄道]]:{{Color|#03459a|■}}[[いわて銀河鉄道線]]
|}
* 2022年度の時点で、JR東日本自社による乗車人員集計<ref name="各駅の乗車人員"/> の除外対象となる駅(完全な無人駅)は、山ノ目駅・陸中折居駅・六原駅である。
* 村崎野 - 花巻間に新駅設置の要望がある<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.iwanichi.co.jp/2019/09/04/364302/|title=新駅設置へ検討 北上市長 利用促進協で具体化|website=Iwanichi Online |publisher=岩手日日新聞社 |date=2019-09-04 |accessdate=2021-09-02 }}</ref>。
==== 支線 ====
() 内は起点からの営業キロ
; [[利府線]]
: 岩切駅 (0.0) - [[新利府駅]] (2.5) - [[利府駅]] (4.2)
:* 全区間交流電化・単線
; [[仙石東北ライン|仙石線・東北本線接続線]](2015年3月14日営業キロの新設・5月30日開業)
: 松島駅 (0.0) - [[高城町駅]] (0.3)
:* 非電化区間・単線
:* 松島駅には仙石線・東北本線接続線のホームが設けられないため、本線との乗換駅は仙台寄りの隣の駅である塩釜駅となる。
{|class="wikitable" rules="all"
|+ style="text-align:left;"|'''宮城野貨物線'''
|-
!rowspan="2" style="width:14em;"|駅名<!-- (貨)[[仙台貨物ターミナル駅]]が改行なしで表示される幅で -->
!colspan="2"|営業キロ
!rowspan="2"|接続路線
!rowspan="2" colspan="2"|所在地
|-
!style="width:2.5em;"|駅間
!style="width:2.5em;"|累計
|-
|[[長町駅]]
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|0.0
|東日本旅客鉄道:東北本線(本線)
|[[太白区]]
|-
|(貨)[[仙台貨物ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|3.8
|style="text-align:right;"|3.8
|
|rowspan="2" style="white-space:nowrap;"|[[宮城野区]]
|-
|[[東仙台駅]]
|style="text-align:right;"|2.8
|style="text-align:right;"|6.6
|東日本旅客鉄道:東北本線(本線)
|}
* この区間は全駅[[宮城県]][[仙台市]]内に所在。
* 仙台駅で夜間工事が行われた際(特に[[東北新幹線]]工事の行われた1970年代後半が中心であった)、「はくつる」・「ゆうづる」・「北斗星」・「カシオペア」・「八甲田」といった仙台駅を深夜に発着、または通過する夜行列車が同駅を避けてこの貨物線を経由して運転を行ったことがある。このとき、仙台停車が必要とされた列車は、長町駅に停車していた。
=== 廃止区間 ===
; 1897年廃止区間
: [[宇都宮駅]] - [[古田駅]] - [[長久保駅]] - [[矢板駅]]
; 1946年休止区間(貨物支線)
: [[浪打駅]] - [[堤川駅 (青森県)|堤川駅]]
; 1962年廃止区間
: [[利府駅]] - [[赤沼信号場]] - (旧)松島駅 - [[品井沼駅]]
; 1968年廃止区間
: [[野内駅]] - [[浪打駅]] - [[浦町駅]] - [[青森駅]]
; 1971年廃止区間(貨物支線)
: [[王子駅]] - [[須賀駅 (東京都)|須賀駅]]
; 1974年廃止区間(貨物支線)
: [[仙台貨物ターミナル駅|宮城野駅]] - 仙台市場駅
; 2014年廃止区間(貨物支線、[[北王子線]])
: 田端信号場駅 - [[北王子駅]]
==== 経営移管区間 ====
* 新幹線延伸によって第三セクターに移管された区間。盛岡駅 - 目時駅間が[[IGRいわて銀河鉄道]]、目時駅 - 青森駅間は[[青い森鉄道]](運行)・[[青森県]](保有)へ移管されている。設置駅・駅名は移管前日時点のもの。
* () 内の数値は盛岡駅 - 八戸駅間の経営分離以前に使用されていた東京駅からの営業キロ(主要駅と会社[[境界駅]]のみ記載)
* この区間の現状の詳細については「[[いわて銀河鉄道線]]」「[[青い森鉄道線]]」を参照
; 2002年12月1日移管区間
: [[盛岡駅]] (535.3) - [[厨川駅]] - [[滝沢駅]] - [[渋民駅]] - [[好摩駅]] (556.6) - [[岩手川口駅]] - [[いわて沼宮内駅|沼宮内駅]](現在のいわて沼宮内駅)(567.3) - [[御堂駅]] - [[奥中山高原駅|奥中山駅]](現在の奥中山高原駅) - [[小繋駅]] - [[小鳥谷駅]] - [[一戸駅]] - [[二戸駅]] (606.1) - [[斗米駅]] - [[金田一温泉駅]] - [[目時駅]] (617.3) - [[三戸駅]] (622.8) - [[諏訪ノ平駅]] - [[剣吉駅]] - [[苫米地駅]] - [[北高岩駅]] - [[八戸駅]] (643.2)
; 2010年12月4日移管区間
: 八戸駅 (643.2) - (貨)[[八戸貨物駅]] - [[陸奥市川駅]] - [[下田駅]] - [[向山駅]] - [[三沢駅 (青森県)|三沢駅]] (664.2) - [[小川原駅]] - [[上北町駅]] - [[乙供駅]] - [[千曳駅]] - [[野辺地駅]] (694.6) - [[狩場沢駅]] - [[清水川駅]] - [[小湊駅]] - [[西平内駅]] - [[浅虫温泉駅]] - [[野内駅]] - [[矢田前駅]] - [[小柳駅 (青森県)|小柳駅]] - [[東青森駅]] - [[青森信号場]] - [[青森駅]] (739.2)
=== 廃駅 ===
[[#廃止区間|廃止区間]]にあったものを除く。
*行人塚駅:1944年11月11日廃止、長町 - 三百人町間
*三百人町駅:1944年11月11日廃止、行人塚 - 仙台間
*小田原東丁駅:1944年11月11日廃止、仙台 - 東仙台間
=== 廃止信号場 ===
[[#廃止区間|廃止区間]]にあったもの、駅に変更されたものを除く。
*[[田端北部信号所]]:廃止日不明(大正年間?)、田端 - 上中里間
*[[小谷場信号所]]:1921年10月1日廃止、蕨 - 南浦和間
*[[砂信号場]]:1932年5月1日廃止、土呂 - 東大宮間
*[[桜田信号場]]:1932年5月1日廃止、東鷲宮 - 栗橋間
*中田信号場(1):1932年5月1日廃止、栗橋 - 古河間
*中田信号場(2):1952年9月26日廃止、栗橋 - 古河間
*蛇尾川信号場:廃止日不明、西那須野 - 東那須野(現:那須塩原)間
*黒川信号場:1920年11月5日廃止、黒田原 - 豊原間
*中目信号場:1966年9月28日廃止、越河 - 白石間
*津田仮信号場:1911年12月19日廃止、白石 - 大河原間
*北塩釜信号場:1962年4月15日廃止、塩釜 - 松島間
*谷地中信号場:1948年7月1日廃止、小牛田 - 田尻間
*畑岡信号場:1950年10月1日廃止、新田 - 石越間
*真柴信号場:1957年9月28日廃止、有壁 - 一ノ関間
*[[衣川信号場]]:1966年4月21日廃止、平泉 - 前沢間
*[[北上操車場|北上信号場]]:(旧)北上操車場、1987年1月廃止、六原 - 北上間
*飯豊信号場:1952年11月16日廃止、村崎野 - 花巻間
*[[長根信号場]]:1968年4月26日廃止、厨川 - 巣子間
*吉谷地信号場:1949年9月15日廃止、御堂 - 奥中山(現:奥中山高原)間
*[[西岳信号場]]:1966年9月26日廃止、奥中山(現:奥中山高原) - 小繋間
*[[滝見信号場]]:1967年7月25日廃止、小繋 - 小鳥谷間
*[[鳥越信号場 (東北本線)|鳥越信号場]]:1968年6月11日廃止、一戸 - 北福岡(現:二戸)間
*梅内信号場:1968年7月20日廃止、目時 - 三戸間
*姉沼信号場:1968年8月3日廃止、小川原 - 上北町間
*石文信号場:1968年8月5日廃止、乙供 - 千曳間
*土屋信号場:1966年9月24日廃止、西平内 - 浅虫(現:浅虫温泉)間
=== 過去の接続路線 ===
{{Main2|東京 - 黒磯間|宇都宮線#過去の接続路線}}
*白河駅:[[白棚線]](元白棚鉄道)
*郡山駅:[[三春馬車鉄道]]
*松川駅:[[川俣線]]
*福島駅:[[福島交通飯坂東線]]
*伊達駅:福島交通飯坂東線
*大河原駅:[[仙南温泉軌道]]
*槻木駅:[[角田軌道]]
*名取駅:[[増東軌道]]
*長町駅:[[秋保電気鉄道|仙南交通]](元[[秋保電気鉄道]])、[[仙台市交通局]]([[仙台市電]])
*仙台駅:仙台市交通局(仙台市電)
*陸前山王駅:[[塩釜線]]
*(旧)松島駅:[[松島電車]]
*松山町駅:[[松山人車軌道]]
*小牛田駅:[[古川馬車鉄道]]
*瀬峰駅:[[仙北鉄道|宮城バス]](元[[仙北鉄道]])登米線・仙北鉄道築館線
*石越駅:[[くりはら田園鉄道線]] - 2007年4月1日廃止
*水沢駅:胆江軌道
*花巻駅:[[岩手県交通|岩手中央バス]](元[[花巻電鉄]])花巻温泉線・花巻電鉄鉛線
IGR転換区間
*好摩駅:[[花輪線]]
青い森鉄道転換区間
*八戸駅(南部鉄道営業当時は尻内駅):[[八戸線]]・[[南部鉄道]]
*三沢駅:[[十和田観光電鉄線]]
*千曳駅(のち、野辺地駅):[[南部縦貫鉄道線]]
*野辺地駅 :[[大湊線]]
<!-- 仙石線との連絡線設置や相互乗り入れの件は、記事上方の運行形態節の「白石駅 - 小牛田駅間」の節に記述。-->
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="†"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
==== 報道発表資料 ====
{{Reflist|group="報道"|2}}
==== 新聞記事 ====
{{Reflist|group="新聞"}}
== 参考文献 ==
; 経路図における参考文献
:*[[今尾恵介]]監修『[[日本鉄道旅行地図帳]] - 全線・全駅・全廃線』2 東北、[[新潮社]]、2006年。{{ISBN2|978-4-10-790020-3}}。
:* 今尾恵介編著『新・鉄道廃線跡を歩く 2 -南東北・関東編』[[JTBパブリッシング]]、2010年。{{ISBN2|978-4-533-07859-0}}。
:* [[川島令三]]編著『東北ライン - 全線・全駅・全配線』5 福島エリア、[[講談社]]、2014年。{{ISBN2|978-4-06-295172-2}}。
== 関連項目 ==
{{Commons|Category:Tōhoku Main Line}}
* [[日本の鉄道路線一覧]]
* [[過去の鉄道に関する日本一の一覧]]
* [[東北新幹線]]
* [[日本鉄道]]
* [[東北本線優等列車沿革]]
* [[IGRいわて銀河鉄道]]
* [[青い森鉄道]]
* [[井沢八郎]]
* [[国道4号]]
* [[東北自動車道]]
== 外部リンク ==
* [https://www.jreast-timetable.jp/cgi-bin/st_search.cgi?rosen=51&token=&50on= 時刻表 検索結果:JR東日本]
* {{Kotobank}}
{{東日本旅客鉄道の鉄道路線}}
{{東京近郊区間}}
{{仙台近郊区間}}
{{東日本旅客鉄道東京支社}}
{{東日本旅客鉄道大宮支社}}
{{東日本旅客鉄道仙台支社}}
{{東日本旅客鉄道盛岡支社}}
{{デフォルトソート:とうほくほん}}
[[Category:東北本線|*]]
[[Category:関東地方の鉄道路線]]
[[Category:東北地方の鉄道路線]]
[[Category:日本鉄道|路とうほくほん]]
[[Category:日本国有鉄道の鉄道路線]]
[[Category:東日本旅客鉄道の鉄道路線]]
[[Category:東京都の交通]]
[[Category:埼玉県の交通]]
[[Category:茨城県の交通]]
[[Category:栃木県の交通]]
[[Category:福島県の交通]]
[[Category:宮城県の交通]]
[[Category:岩手県の交通]]
[[Category:青森県の交通史]]
[[Category:部分廃止路線]]
[[Category:仙台湾]] | 2003-04-27T10:14:07Z | 2023-12-31T17:07:56Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E5%8C%97%E6%9C%AC%E7%B7%9A |
7,363 | ビタミン | ビタミン(ヴィタミン、ヸタミン; 英語: vitamin)は、生物の生存・生育に微量に必要な栄養素のうち、その生物の体内で十分な量を合成できない炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の総称である(なお栄養素のうち無機物はミネラルである)。
生物種によってビタミンとして働く物質は異なる。たとえばアスコルビン酸はヒトにはビタミン(ビタミンC)だが、多くの生物にはビタミンではない。ヒトのビタミンは13種が認められている。
ビタミンは機能で分類され、物質名ではない。たとえばビタミンAはレチナール、レチノールなどからなる。
ビタミンはほとんどの場合、生体内で十分量合成することができないので、主に食料から摂取される(一部は腸内細菌から供給される)。ビタミンが不足すると、疾病や成長障害が起こりうる(ビタミン欠乏症)。日本では厚生労働省が日本人の食事摂取基準によって各ビタミンの指標を定めており、摂取不足の回避を目的とする3種類の指標と、過剰摂取による健康障害の回避を目的とする指標、および生活習慣病の予防を目的とする指標から構成されている。
アスコルビン酸(いわゆるビタミンC)は、コラーゲンの生成などの水素運搬体を必要とする多くの代謝経路に必須で、動物の生存に欠かせない生理活性物質である。ほとんどの哺乳類にとって体内で合成されて必要をまかなう物質であり、ビタミンではない。しかしヒトを含む多くの霊長類やモルモットのような一部の哺乳類では、これを合成する代謝経路を持っておらず、体外から食物としての摂取が生存上必須となっており、ビタミンに定義される。
またカロテノイド(いわゆるビタミンA)は、全ての生物の細胞内の代謝経路において重要な役割を果たす。たいていの生物、すなわち古細菌とほとんどの細菌、多くの真核生物(原生生物、植物、菌類)は、自らの代謝経路において合成することによってカロテノイドを自給しており、それらにとってはビタミンではない。しかし全ての後生動物はこの代謝経路を喪失しており、他の生物を捕食することによって摂取しなければならず、カロテノイドはビタミンである。
ビタミンは生体内において酵素がその活性を発揮するために必要な補酵素として機能するものとそうでないものに大別される。補酵素として生体内で働くものは主にビタミンB群として知られるものである。補酵素として機能しないものはビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKである。補酵素であるかないかに関わらずビタミンは生体にとって必要不可欠な物質であり、ビタミン欠乏症に陥るとビタミンB群を補酵素として利用する酵素が関与する代謝系の機能不全症状が現れたり、ビタミンAが光を感知する物質の前駆体であるため夜盲症になったりする。
ヒトのビタミンの一覧を挙げる。ビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分類される。
ビタミンは通常の食事を取っていれば必要量が摂取できる。単調な食事や特殊な環境下での生活により、ビタミン不足による障害が発生するが、長い間それは単なる病気と見られていた。
ビタミン発見の発端は、兵士が壊血病や脚気に集団で罹り、当時の軍医らがこれらの病気の撲滅を狙って研究したことから始まる。現在ではこれらの病気はビタミン不足による障害だと知られている。
1734年、J・G・H・クラマーは壊血病に罹るのはほとんど下級の兵卒であり、士官らは罹らないことに気づいた。士官らは頻繁に果物や野菜を食べており、下級の兵卒らは単調な食事であることから、壊血病を防ぐために果物や野菜を取ることを勧めた。また、ジェームズ・リンドは 1747年、イギリス海軍で壊血病患者をいくつかのグループに分け異なる食事を与える実験を行った。その結果、オレンジやレモンの柑橘系果物が壊血病に有効であることを発見した。しかしこれらの発見は黙殺され、結局壊血病は 1797年にイギリス海軍において反乱が起き(スピットヘッドとノアの反乱)、その要求の一つにレモンジュースが入り、それが受け入れられるまでイギリス海軍を悩ませた(ただし、イギリス海軍本部は安価なライムを代用した)。
日本でも日本海軍の水兵に脚気が蔓延し悩まされた。軍医大監だった高木兼寛は、士官は脚気に冒されず、かつ単調な食事をしていないことに気づいた(脚気の原因のタンパク質の不足説と米よりタンパク質を多く含む麦飯優秀説を提唱)。そこで 1884年、白米に大麦を加え、肉やエバミルクを加えるなど食事の中身を若干イギリス風にした。これにより脚気自体はなくなった。しかし、高木はビタミンの存在に気づかず、単にタンパク質が増えたためと考えた。
1896年には、クリスティアーン・エイクマンが滞在先のインドネシアで米ヌカの中に脚気に効く有効成分があると考えた。
物質としてビタミンを初めて抽出、発見したのは鈴木梅太郎であった。彼は1910年、米の糠からオリザニンを抽出し論文を発表した。ところが日本語で発表したため世界に広まらなかった。1911年には、カジミール・フンクがエイクマンにより示唆された米ヌカの有効成分を抽出することに成功した。1912年、彼は自分が抽出した成分の中にアミンの性質があったため、「生命のアミン」と言う意味で "vitamine" と名付けた。このとき発見されたのは、ともにビタミンB1(チアミン)である。
1913年エルマー・ヴァーナー・マッカラム(英語版)は、バターまたは卵黄の脂肪の中にネズミの成長に不可欠な成分があることを発見し、翌年(1914年)その成分の抽出に成功した。マッカラムの抽出した成分は、フンクが抽出した成分と明らかに異なるため、前者を「油溶性A」、後者を「水溶性B」と名付けた。
1920年ジャック・セシル・ドラモンド(英語版)が柑橘系果物の中の壊血病を予防する成分の抽出に成功した。「生存に不可欠な微量成分」=「ビタミン (vitamine)」の名称は、既に日常的に使用されていたが、これら新発見の成分は明らかにアミン (amine) の化合物ではなかった。そこでドラモンドは、ビタミンの発音はそのままで若干スペルを変更すること (vitamin) を提案し、発見した壊血病を予防する成分を「ビタミンC」と命名した。同時に、前段の「油溶性A」および「水溶性B」もそれぞれ「ビタミンA」、「ビタミンB」と命名されることとなった。以降、vitaminの綴りが定着していくことになる。
その後、生命に必要な成分はいくつか見つかり、その都度、正式な化学構造が判明し適切な名前を付けるまでの仮称として、D, E, F, ... と順に名付けられた(ビタミン K を除く)。また、ビタミンBに関しては、非常に似た性質を持つグループがあることが分かり、ビタミンB群として、B1, B2, B3, ... と順に名付けられた。
さらにその後、ビタミンFなど、いくつかのビタミンは間違いであることや、ビタミンHなど、B群であることが判明し消滅した。その後、各ビタミンの構造が明らかになり、適切な名称が付けられたが、ビタミンB12(シアノコバラミン)やビタミンC(アスコルビン酸)など、ビタミンの方が知名度が高いものもある。また、化学構造の解読が早かったり、解読の結果B群に属することが明らかになった結果、仮称(「ビタミン~」)が一般的でないビタミンも存在する(葉酸(ビタミンMもしくはビタミンB9)、ナイアシン(ビタミンB3)など)。
2003年にはピロロキノリンキノン (PQQ) が半世紀ぶりに新しいビタミンとして発表されたが、その後ビタミンとははっきりとはいえないとされた。
2023年、マルチビタミンのサプリメントと高齢者の認知能力の向上との間に、明確な因果関係があることを示す研究が発表された。
ビタミンの定義に当てはまらないが、ビタミンと似た作用のある物質をビタミン様物質と呼ぶことがある。
ビタミン様物質のなかには、歴史的には誤ってビタミンと考えられたもの、あるいは定義の変更によりビタミンとされなくなったものも含まれる。 一例:
以下には過去に誤ってビタミンと考えられた物質を挙げるが、俗にビタミン様物質と呼ばれているものはこれらに限らず、ビタミン様物質とすら呼ぶべきでない物質や同定できない物質も含まれている。
ビタミン、ビタミン様物質の他、ポリフェノール、不飽和脂肪酸などの生体機能の調節作用のある化合物の総称として、バイオファクターと呼ぶことがある。 日本ビタミン学会では、カロテノイド、ポリフェノール、不飽和脂肪酸、ユビキノン、ビオプテリン、活性リン脂質、ピロロキノリンキノン、カルニチン、α-リポ酸などをバイオファクターとして挙げている。 | [
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"text": "ビタミンは生体内において酵素がその活性を発揮するために必要な補酵素として機能するものとそうでないものに大別される。補酵素として生体内で働くものは主にビタミンB群として知られるものである。補酵素として機能しないものはビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKである。補酵素であるかないかに関わらずビタミンは生体にとって必要不可欠な物質であり、ビタミン欠乏症に陥るとビタミンB群を補酵素として利用する酵素が関与する代謝系の機能不全症状が現れたり、ビタミンAが光を感知する物質の前駆体であるため夜盲症になったりする。",
"title": "機能"
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"text": "ヒトのビタミンの一覧を挙げる。ビタミンは脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンに分類される。",
"title": "ビタミンの一覧"
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"text": "ビタミンは通常の食事を取っていれば必要量が摂取できる。単調な食事や特殊な環境下での生活により、ビタミン不足による障害が発生するが、長い間それは単なる病気と見られていた。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "ビタミン発見の発端は、兵士が壊血病や脚気に集団で罹り、当時の軍医らがこれらの病気の撲滅を狙って研究したことから始まる。現在ではこれらの病気はビタミン不足による障害だと知られている。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "1734年、J・G・H・クラマーは壊血病に罹るのはほとんど下級の兵卒であり、士官らは罹らないことに気づいた。士官らは頻繁に果物や野菜を食べており、下級の兵卒らは単調な食事であることから、壊血病を防ぐために果物や野菜を取ることを勧めた。また、ジェームズ・リンドは 1747年、イギリス海軍で壊血病患者をいくつかのグループに分け異なる食事を与える実験を行った。その結果、オレンジやレモンの柑橘系果物が壊血病に有効であることを発見した。しかしこれらの発見は黙殺され、結局壊血病は 1797年にイギリス海軍において反乱が起き(スピットヘッドとノアの反乱)、その要求の一つにレモンジュースが入り、それが受け入れられるまでイギリス海軍を悩ませた(ただし、イギリス海軍本部は安価なライムを代用した)。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "日本でも日本海軍の水兵に脚気が蔓延し悩まされた。軍医大監だった高木兼寛は、士官は脚気に冒されず、かつ単調な食事をしていないことに気づいた(脚気の原因のタンパク質の不足説と米よりタンパク質を多く含む麦飯優秀説を提唱)。そこで 1884年、白米に大麦を加え、肉やエバミルクを加えるなど食事の中身を若干イギリス風にした。これにより脚気自体はなくなった。しかし、高木はビタミンの存在に気づかず、単にタンパク質が増えたためと考えた。",
"title": "発見の歴史"
},
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"text": "1896年には、クリスティアーン・エイクマンが滞在先のインドネシアで米ヌカの中に脚気に効く有効成分があると考えた。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "物質としてビタミンを初めて抽出、発見したのは鈴木梅太郎であった。彼は1910年、米の糠からオリザニンを抽出し論文を発表した。ところが日本語で発表したため世界に広まらなかった。1911年には、カジミール・フンクがエイクマンにより示唆された米ヌカの有効成分を抽出することに成功した。1912年、彼は自分が抽出した成分の中にアミンの性質があったため、「生命のアミン」と言う意味で \"vitamine\" と名付けた。このとき発見されたのは、ともにビタミンB1(チアミン)である。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "1913年エルマー・ヴァーナー・マッカラム(英語版)は、バターまたは卵黄の脂肪の中にネズミの成長に不可欠な成分があることを発見し、翌年(1914年)その成分の抽出に成功した。マッカラムの抽出した成分は、フンクが抽出した成分と明らかに異なるため、前者を「油溶性A」、後者を「水溶性B」と名付けた。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "1920年ジャック・セシル・ドラモンド(英語版)が柑橘系果物の中の壊血病を予防する成分の抽出に成功した。「生存に不可欠な微量成分」=「ビタミン (vitamine)」の名称は、既に日常的に使用されていたが、これら新発見の成分は明らかにアミン (amine) の化合物ではなかった。そこでドラモンドは、ビタミンの発音はそのままで若干スペルを変更すること (vitamin) を提案し、発見した壊血病を予防する成分を「ビタミンC」と命名した。同時に、前段の「油溶性A」および「水溶性B」もそれぞれ「ビタミンA」、「ビタミンB」と命名されることとなった。以降、vitaminの綴りが定着していくことになる。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "その後、生命に必要な成分はいくつか見つかり、その都度、正式な化学構造が判明し適切な名前を付けるまでの仮称として、D, E, F, ... と順に名付けられた(ビタミン K を除く)。また、ビタミンBに関しては、非常に似た性質を持つグループがあることが分かり、ビタミンB群として、B1, B2, B3, ... と順に名付けられた。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "さらにその後、ビタミンFなど、いくつかのビタミンは間違いであることや、ビタミンHなど、B群であることが判明し消滅した。その後、各ビタミンの構造が明らかになり、適切な名称が付けられたが、ビタミンB12(シアノコバラミン)やビタミンC(アスコルビン酸)など、ビタミンの方が知名度が高いものもある。また、化学構造の解読が早かったり、解読の結果B群に属することが明らかになった結果、仮称(「ビタミン~」)が一般的でないビタミンも存在する(葉酸(ビタミンMもしくはビタミンB9)、ナイアシン(ビタミンB3)など)。",
"title": "発見の歴史"
},
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"text": "2003年にはピロロキノリンキノン (PQQ) が半世紀ぶりに新しいビタミンとして発表されたが、その後ビタミンとははっきりとはいえないとされた。",
"title": "発見の歴史"
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"text": "2023年、マルチビタミンのサプリメントと高齢者の認知能力の向上との間に、明確な因果関係があることを示す研究が発表された。",
"title": "発見の歴史"
},
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"text": "ビタミンの定義に当てはまらないが、ビタミンと似た作用のある物質をビタミン様物質と呼ぶことがある。",
"title": "ビタミン様物質"
},
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"text": "ビタミン様物質のなかには、歴史的には誤ってビタミンと考えられたもの、あるいは定義の変更によりビタミンとされなくなったものも含まれる。 一例:",
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"text": "以下には過去に誤ってビタミンと考えられた物質を挙げるが、俗にビタミン様物質と呼ばれているものはこれらに限らず、ビタミン様物質とすら呼ぶべきでない物質や同定できない物質も含まれている。",
"title": "ビタミン様物質"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "ビタミン、ビタミン様物質の他、ポリフェノール、不飽和脂肪酸などの生体機能の調節作用のある化合物の総称として、バイオファクターと呼ぶことがある。 日本ビタミン学会では、カロテノイド、ポリフェノール、不飽和脂肪酸、ユビキノン、ビオプテリン、活性リン脂質、ピロロキノリンキノン、カルニチン、α-リポ酸などをバイオファクターとして挙げている。",
"title": "バイオファクター"
}
] | ビタミンは、生物の生存・生育に微量に必要な栄養素のうち、その生物の体内で十分な量を合成できない炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の総称である(なお栄養素のうち無機物はミネラルである)。 生物種によってビタミンとして働く物質は異なる。たとえばアスコルビン酸はヒトにはビタミン(ビタミンC)だが、多くの生物にはビタミンではない。ヒトのビタミンは13種が認められている。 ビタミンは機能で分類され、物質名ではない。たとえばビタミンAはレチナール、レチノールなどからなる。 ビタミンはほとんどの場合、生体内で十分量合成することができないので、主に食料から摂取される(一部は腸内細菌から供給される)。ビタミンが不足すると、疾病や成長障害が起こりうる(ビタミン欠乏症)。日本では厚生労働省が日本人の食事摂取基準によって各ビタミンの指標を定めており、摂取不足の回避を目的とする3種類の指標と、過剰摂取による健康障害の回避を目的とする指標、および生活習慣病の予防を目的とする指標から構成されている。 | {{出典の明記|date=2023-07}}
{{Otheruses||漫画作品|ビタミン (漫画)}}
'''ビタミン'''(ヴィタミン、ヸタミン; {{Lang-en|vitamin}}<ref group="注釈">[[アメリカ英語|US]]:{{ipa|ˈvaɪtəmɪn}}, [[イギリス英語|UK]]: {{ipa|ˈvɪtəmɪn}}, [[オーストラリア英語|AU]]: {{ipa|ˈvɑetəmən}}。</ref>)は、[[生物]]の生存・生育に微量に必要な[[栄養素]]のうち、その生物の体内で十分な量を合成できない[[炭水化物]]・[[タンパク質]]・[[脂質]]以外の[[有機化合物]]の総称である(なお栄養素のうち[[無機物]]は[[ミネラル]]である)。
生物種によってビタミンとして働く物質は異なる。たとえば[[アスコルビン酸]]は[[ヒト]]にはビタミン([[ビタミンC]])だが、多くの生物にはビタミンではない。ヒトのビタミンは13種が認められている。
ビタミンは機能で分類され、物質名ではない。たとえば[[ビタミンA]]はレチナール、レチノールなどからなる。
ビタミンはほとんどの場合、生体内で十分量合成することができないので、主に[[食料]]から摂取される(一部は腸内細菌から供給される)。ビタミンが不足すると、疾病や成長障害が起こりうる([[ビタミン欠乏症]])。日本では[[厚生労働省]]が[[日本人の食事摂取基準]]によって各ビタミンの指標を定めており、摂取不足の回避を目的とする3種類の指標と、過剰摂取による健康障害の回避を目的とする指標、および生活習慣病の予防を目的とする指標から構成されている。
== 例 ==
[[アスコルビン酸]](いわゆる[[ビタミンC]])は、[[コラーゲン]]の生成などの[[水素]]運搬体を必要とする多くの代謝経路に必須で、動物の生存に欠かせない生理活性物質である。ほとんどの[[哺乳類]]にとって体内で合成されて必要をまかなう物質であり、ビタミンではない。しかし[[ヒト]]を含む多くの[[霊長類]]や[[テンジクネズミ|モルモット]]のような一部の哺乳類では、これを合成する代謝経路を持っておらず、体外から食物としての摂取が生存上必須となっており、ビタミンに定義される。
また[[カロテノイド]](いわゆる[[ビタミンA]])は、全ての生物の細胞内の代謝経路において重要な役割を果たす。たいていの生物、すなわち[[古細菌]]とほとんどの[[細菌]]、多くの[[真核生物]]([[原生生物]]、[[植物]]、[[菌類]])は、自らの代謝経路において合成することによってカロテノイドを自給しており、それらにとってはビタミンではない。しかし全ての[[後生動物]]はこの代謝経路を喪失しており、他の生物を捕食することによって摂取しなければならず、カロテノイドはビタミンである。
== 機能 ==
ビタミンは生体内において[[酵素]]がその活性を発揮するために必要な[[補酵素]]として機能するものとそうでないものに大別される。補酵素として生体内で働くものは主に[[ビタミンB群]]として知られるものである。補酵素として機能しないものは[[ビタミンA]]、[[ビタミンC]]、[[ビタミンD]]、[[ビタミンE]]および[[ビタミンK]]である。補酵素であるかないかに関わらずビタミンは生体にとって必要不可欠な物質であり、[[ビタミン欠乏症]]に陥ると[[ビタミンB群]]を[[補酵素]]として利用する酵素が関与する[[代謝]]系の機能不全症状が現れたり、[[ビタミンA]]が光を感知する物質の[[前駆体]]であるため[[夜盲症]]になったりする<ref>{{Cite book|title=ストライヤー生化学(第8版)|date=2018年8月28日|publisher=東京化学同人}}</ref>。
== ビタミンの一覧 ==
[[ヒト]]のビタミンの一覧を挙げる。ビタミンは[[脂溶性ビタミン]]と[[水溶性ビタミン]]に分類される。
=== 脂溶性ビタミン ===
*[[ビタミンA]]: [[レチノール]]、β-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチンなど
*[[ビタミンD]]: [[エルゴカルシフェロール]]、[[コレカルシフェロール]]
*[[ビタミンE]]: [[トコフェロール]]、[[トコトリエノール]]
*[[ビタミンK]]: [[フィロキノン]]、[[メナキノン]]の2つの[[ナフトキノン]]誘導体
=== 水溶性ビタミン ===
*[[ビタミンB群]]
**ビタミンB<sub>1</sub>: [[チアミン]]
**ビタミンB<sub>2</sub>: [[リボフラビン]]。ビタミンGともいう。
**ビタミンB<sub>3</sub>: [[ナイアシン]]。ビタミンPPともいう。
**ビタミンB<sub>5</sub>: [[パントテン酸]]
**[[ビタミンB6|ビタミンB<sub>6</sub>]]: [[ピリドキサール]]、[[ピリドキサミン]]、[[ピリドキシン]]
**ビタミンB<sub>7</sub>: [[ビオチン]]。ビタミンBw、ビタミンHともいう。
**ビタミンB<sub>9</sub>: [[葉酸]]。ビタミンBc、ビタミンMともいう。
**ビタミンB<sub>12</sub>: [[シアノコバラミン]]、[[メチルコバラミン]]、[[ヒドロキソコバラミン]]
*[[ビタミンC]]: [[アスコルビン酸]]
== 発見の歴史 ==
ビタミンは通常の食事を取っていれば必要量が摂取できる。単調な食事や特殊な環境下での生活により、ビタミン不足による障害が発生するが、長い間それは単なる病気と見られていた。
ビタミン発見の発端は、兵士が[[壊血病]]や[[脚気]]に集団で罹り、当時の軍医らがこれらの病気の撲滅を狙って研究したことから始まる。現在ではこれらの病気はビタミン不足による障害だと知られている。
[[1734年]]、J・G・H・クラマーは壊血病に罹るのはほとんど下級の兵卒であり、士官らは罹らないことに気づいた。士官らは頻繁に果物や野菜を食べており、下級の兵卒らは単調な食事であることから、壊血病を防ぐために果物や野菜を取ることを勧めた。また、[[ジェームズ・リンド]]は [[1747年]]、[[イギリス海軍]]で壊血病患者をいくつかのグループに分け異なる食事を与える実験を行った。その結果、[[オレンジ]]や[[レモン]]の[[柑橘類|柑橘系果物]]が壊血病に有効であることを発見した。しかしこれらの発見は黙殺され、結局壊血病は [[1797年]]にイギリス海軍において反乱が起き([[スピットヘッドとノアの反乱]])、その要求の一つにレモンジュースが入り、それが受け入れられるまでイギリス海軍を悩ませた(ただし、イギリス海軍本部は安価な[[ライム]]を代用した)。
日本でも日本海軍の水兵に脚気が蔓延し悩まされた。軍医大監だった[[高木兼寛]]は、士官は脚気に冒されず、かつ単調な食事をしていないことに気づいた(脚気の原因のタンパク質の不足説と米よりタンパク質を多く含む麦飯優秀説を提唱)。そこで [[1884年]]、[[白米]]に[[大麦]]を加え、肉や[[無糖練乳|エバミルク]]を加えるなど食事の中身を若干イギリス風にした。これにより脚気自体はなくなった。しかし、高木はビタミンの存在に気づかず、単にタンパク質が増えたためと考えた。
[[1896年]]には、[[クリスティアーン・エイクマン]]が滞在先の[[インドネシア]]で米ヌカの中に脚気に効く有効成分があると考えた。
物質としてビタミンを初めて抽出、発見したのは[[鈴木梅太郎]]であった。彼は[[1910年]]、米の糠から[[チアミン|オリザニン]]を抽出し論文を発表した。ところが日本語で発表したため世界に広まらなかった。[[1911年]]には、[[カジミール・フンク]]がエイクマンにより示唆された米ヌカの有効成分を抽出することに成功した。[[1912年]]、彼は自分が抽出した成分の中に[[アミン]]の性質があったため、「生命のアミン」と言う意味で "vitamine" と名付けた。このとき発見されたのは、ともにビタミンB{{sub|1}}(チアミン)である。
[[1913年]]{{仮リンク|エルマー・ヴァーナー・マッカラム|en|Elmer McCollum}}は、[[バター]]または卵黄の脂肪の中にネズミの成長に不可欠な成分があることを発見し、翌年([[1914年]])その成分の抽出に成功した。マッカラムの抽出した成分は、フンクが抽出した成分と明らかに異なるため、前者を「油溶性A」、後者を「水溶性B」と名付けた。
[[1920年]]{{仮リンク|ジャック・セシル・ドラモンド|en|Jack Drummond}}が柑橘系果物の中の壊血病を予防する成分の抽出に成功した。「生存に不可欠な微量成分」=「ビタミン (vitamine)」の名称は、既に日常的に使用されていたが、これら新発見の成分は明らかにアミン (amine) の化合物ではなかった。そこでドラモンドは、ビタミンの発音はそのままで若干スペルを変更すること (vitamin) を提案し、発見した壊血病を予防する成分を「ビタミンC」と命名した。同時に、前段の「油溶性A」および「水溶性B」もそれぞれ「ビタミンA」、「ビタミンB」と命名されることとなった。以降、vitaminの綴りが定着していくことになる。
その後、生命に必要な成分はいくつか見つかり、その都度、正式な[[化学構造]]が判明し適切な名前を付けるまでの仮称として、D, E, F, … と順に名付けられた(ビタミン K を除く)。また、ビタミンBに関しては、非常に似た性質を持つグループがあることが分かり、ビタミンB群として、B{{sub|1}}, B{{sub|2}}, B{{sub|3}}, … と順に名付けられた。
さらにその後、ビタミンFなど、いくつかのビタミンは間違いであることや、ビタミンHなど、B群であることが判明し消滅した。その後、各ビタミンの構造が明らかになり、適切な名称が付けられたが、ビタミンB{{sub|12}}(シアノコバラミン)やビタミンC(アスコルビン酸)など、ビタミンの方が知名度が高いものもある。また、化学構造の解読が早かったり、解読の結果B群に属することが明らかになった結果、仮称(「ビタミン~」)が一般的でないビタミンも存在する(葉酸(ビタミンMもしくはビタミンB{{sub|9}})、ナイアシン(ビタミンB{{sub|3}})など)。
2003年には[[ピロロキノリンキノン]] (PQQ) が半世紀ぶりに新しいビタミンとして発表されたが<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2003/20030424_1/20030424_1.pdf |title= 半世紀ぶりの新種ビタミン PQQ(ピロロキノリンキノン) |publisher= [[独立行政法人]] [[理化学研究所]] |date= 2003-04-24 |accessdate= 2022-04-19 |archiveurl= https://web.archive.org/web/20160617081056/http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2003/20030424_1/20030424_1.pdf |archivedate= 2016-06-17 }}</ref>、その後ビタミンとははっきりとはいえないとされた<ref>{{Cite journal |author=Rucker, R.; Storms, D.; Sheets, A.; Tchaparian, E.; Fascetti, A. |title=Biochemistry: is pyrroloquinoline quinone a vitamin? |journal=Nature |year=2005 |volume=433 |issue=7025 |pages=E10-1; discussion E11-2 |url=https://www.nature.com/articles/nature03323 |id=PMID 15689994}}</ref>。
2023年、マルチビタミンのサプリメントと高齢者の認知能力の向上との間に、明確な因果関係があることを示す研究が発表された<ref>{{Cite web |title=Will a multivitamin help my brain? |url=https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/will-a-multivitamin-help-my-brain |website=Harvard Health |date=2023-09-01 |access-date=2023-08-18 |language=en}}</ref>。
== ビタミン様物質 ==
ビタミンの定義に当てはまらないが、ビタミンと似た作用のある物質を'''ビタミン様物質'''と呼ぶことがある<ref>{{Hfnet|183|ビタミンの呼び方}}</ref>。
ビタミン様物質のなかには、歴史的には誤ってビタミンと考えられたもの、あるいは定義の変更によりビタミンとされなくなったものも含まれる。
<br>一例:
*生物から[[抽出]]して得られた[[混合物]]をそのままビタミンとしたり、他の研究者と独立に命名を行ったりしたために、他のビタミンと重複しているもの(ビタミンB<sub>10</sub>など)
*正確な化学構造、化学物質名が不明なもの([[パンガミン酸]]など)
*体内でも合成されるため必須ではないもの(ヒト以外のある種の生物にとっては必須だが、ヒトには必須でないものを含む)([[オロト酸]]、[[カルニチン]]など)
*炭水化物・タンパク質・脂質のいずれかに分類されるためビタミンの定義から外れるもの(ビタミンFなど)
*必要摂取量が多すぎるため通常はビタミンとして扱わないもの([[コリン (栄養素)|コリン]]など)
*薬理作用はあるが必須ではないもの([[塩化メチルメチオニンスルホニウム]]など)
*実際には何の働きもないもの、むしろ害になるもの([[アミグダリン]]など)
以下には過去に誤ってビタミンと考えられた物質を挙げるが、俗にビタミン様物質と呼ばれているものはこれらに限らず、ビタミン様物質とすら呼ぶべきでない物質や同定できない物質も含まれている。
*ビタミンB<sub>4</sub>: [[アデニン]]
*ビタミンB<sub>8</sub>: エルガデニル酸(Ergadenylic acid、[[アデニル酸]])
*ビタミンB<sub>10</sub>: [[葉酸]]はじめ各種ビタミンB群の混合物。ビタミンRともいった。
*ビタミンB<sub>11</sub>: [[葉酸]]類似化合物。ビタミンSともいった。
*ビタミンB<sub>13</sub>: [[オロト酸]]
*ビタミンB<sub>14</sub>: [[葉酸]]または[[リポ酸]]などの混合物。
*ビタミンB<sub>15</sub>: [[パンガミン酸]]([[ジメチルグリシン]]や[[トリメチルグリシン]]などの誘導体とされる)
*ビタミンB<sub>16</sub>: [[ジメチルグリシン]]
*ビタミンB<sub>17</sub>: [[アミグダリン]]
*ビタミンB<sub>H</sub>: [[イノシトール]]
*ビタミンB<sub>P</sub>: [[コリン (栄養素)|コリン]]
*ビタミンB<sub>T</sub>: [[カルニチン]]
*ビタミンB<sub>X</sub>: [[パラアミノ安息香酸]]([[葉酸]]の部分構造、別名:PABA)
*ビタミンF: [[リノール酸]]などの[[必須脂肪酸]]
*ビタミンI: [[米糠]]の抽出物。かつてはビタミンB<sub>7</sub>とも呼ばれた。
*ビタミンJ: [[カテコール]]、[[フラビン]]または[[コリン (栄養素)|コリン]]
*ビタミンL<sub>1</sub>: [[アントラニル酸]]
*ビタミンL<sub>2</sub>: [[アデニルチオメチルペントース]]
*ビタミンN: [[チオクト酸]]([[α-リポ酸]])
*ビタミンO: [[カルニチン]]
*ビタミンP<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.health.ne.jp/glossary/detail?id=106054 |title=ビタミンP |access-date=2023年10月6日 |publisher=シミックソリューションズ株式会社}}</ref>: [[クエルセチン]]、[[ヘスペリジン]]、[[ルチン]]、[[エリオシトリン]]などの[[フラボノイド]]
*ビタミンQ: [[ユビキノン]]
*ビタミンS: [[サリチル酸]](上記のビタミンB<sub>11</sub>とは全く別の物質)
*ビタミンT: [[テゴチン]]
*ビタミンU: [[S-メチルメチオニン|塩化メチルメチオニンスルホニウム]](キャベジンとも呼ばれる)
*ビタミンV: [[ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド]]
== バイオファクター ==
ビタミン、ビタミン様物質の他、ポリフェノール、不飽和脂肪酸などの生体機能の調節作用のある化合物の総称として、バイオファクターと呼ぶことがある。
日本ビタミン学会では、[[カロテノイド]]、[[ポリフェノール]]、[[不飽和脂肪酸]]、[[ユビキノン]]、[[ビオプテリン]]、活性リン脂質、[[ピロロキノリンキノン]]、[[カルニチン]]、[[α-リポ酸]]などをバイオファクターとして挙げている<ref>{{Cite book|title=ビタミン・バイオファクター総合事典|url=https://www.worldcat.org/oclc/1259490457|isbn=978-4-254-10292-5|oclc=1259490457|others=Nihon Bitamin Gakkai, 日本ビタミン学会}}</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
*[[野菜]]/[[果物]]
*[[ビタミン欠乏症]]、[[ビタミン過剰症]]、[[ビタミン依存症]]
*[[栄養ドリンク]]([[ドリンク剤]])
*[[サプリメント]]
*[[筒井康隆]] - ビタミンの発見史が題材の、虚実入り混じった同名の短編小説がある。(『デマ 実験小説集』、『国境線は遠かった』、『筒井康隆全集9』等に収録)
== 外部リンク ==
{{Commons&cat}}
{{Wiktionary|ビタミン|Vitamin|vitamin}}
* {{Hfnet|178|ビタミンについて}}
* {{Wayback |url=https://hfnet.nibiohn.go.jp/contents/detail183.html |title=ビタミンの呼び方 - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所) |date=20180911114314 }}
* [https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html 日本人の食事摂取基準] ([[厚生労働省]])
* [[糸川嘉則]]、『代替医療としての「ビタミン・ミネラル」』, 日本補完代替医療学会誌 Vol.1 (2004) No.1 P41-52, {{doi|10.1625/jcam.1.41}}
{{ビタミン}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:ひたみん}}
[[Category:ビタミン|*]]
[[Category:有機化合物]]
[[Category:必須栄養素]]
[[Category:鈴木梅太郎]] | 2003-04-27T11:13:48Z | 2023-10-24T07:10:56Z | false | false | false | [
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"Template:Cite web"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%93%E3%82%BF%E3%83%9F%E3%83%B3 |
7,364 | フェルマー数 | フェルマー数(フェルマーすう、英: Fermat number)とは、2 + 1(n は非負整数)で表される自然数のことである。n 番目のフェルマー数はしばしば Fn と記される。
その名の由来であるピエール・ド・フェルマーは、この式の n に非負整数を代入したとき常に素数を生成すると主張(予測)したが、1732年にレオンハルト・オイラーが n = 5 の場合に素数でないことを示し、フェルマーの主張は誤りと確認された。素数であるフェルマー数はフェルマー素数と呼ばれる。
実際にフェルマー数の値の最初の方をいくつか計算してみると、
が得られる。
F4 = 65537 までは、257 未満の既知である全ての素数で割りきれないことを確かめることで、容易に素数であることを確認できる。
しかし F5 以降は(17世紀当時の計算技術から見ると)相当に巨大な数であると同時に小さな素因数を含んでいないことが、フェルマーを幻惑し反証の発見にはオイラーを待つこととなった要因の一つである。
フェルマー数は次の漸化式を満たす:
フェルマー数は全て奇数であるから、4番目の式から、どの2つのフェルマー数も互いに素であると分かる。
フェルマー数は、例えば次の合同式を満たす。
2 + 1 (m ≥ 2) の形の素数はフェルマー数である。一般に、a + 1 (a ≥ 2) が素数ならば、a は偶数で m は 2 の累乗となる。実際、a + 1 は奇数だから a すなわち a は偶数である。また、m が 1 より大きい奇数 k で割れるならば a + 1 で割れる。
このことから、2 + 1 (m ≥ 2) が素数ならば、m = 2 を満たす自然数 n が存在する。つまり 2 + 1 = Fn である。
フェルマー数 Fn (n ≥ 2) の素因数は k · 2 + 1 (k ≥ 3) の形をしている(エドゥアール・リュカにより証明)。フェルマー数はどの2つも互いに素なので、任意の n に対して k · 2 + 1 (k = 1, 2, ...) の形の素数が無数に存在することが導かれる。また実際に 3 · 2 + 1 が Fn を割り切る例が存在する。
フェルマー数 Fn の最大素因数を P(Fn) とすると
が成り立つ (Grytczuk, Luca and Wojtowicz, 2001)。
全てのフェルマー数の素因数全体の集合を S とする。Golomb (1955) は S の元の逆数和が収束するか否かという問題を提出したが、Krizek, Luca, Somer (2002) は S の元で x より小さいものの個数は
となることを示し、この問題を肯定的に解決した。
2 ≡ −1 (mod Fm) より、2 の Fm を法とする位数は 2 で、これは Fm − 1 の約数である。すなわち、フェルマー数は 2 を底とする擬素数である。また、フェルマー数の積
も擬素数である (Cipolla, 1904)。
フェルマー数は累乗数にはならず、また、完全数または友愛数にはならず (Luca, 2000a)、二項係数 nCk (n ≥ 2k ≥ 2) の値にもならない (Luca, 2000b)。
Golomb (1963) は、フェルマー数の逆数和は無理数であることを示した。なお、ポール・エルデシュと Straus はさらに一般的な結果を得ている。
フェルマー数はまた、正多角形の定規とコンパスによる作図の問題とも関係がある。ガウスは、正 n 角形が作図可能になる必要十分条件を求めたが、それは「n が 2 の冪であるか、異なるフェルマー素数の積と 2 の冪の積であるとき」というものである。
フェルマー数の性質については、Krizek, Luca, Somer (2001) が詳しい。
素数であるフェルマー数をフェルマー素数という。具体的には、既知の範囲において次の5つがある:
F4 までは素数なので、フェルマーは、全てのフェルマー数はフェルマー素数であると予想したが、1732年にレオンハルト・オイラーが5番目のフェルマー数は次のように分解できることを示し、反例が与えられた。
オイラーは、フェルマー数 Fn の因数は k·2 + 1 の形となることを証明した。これにより n = 5 の場合には、F5 の因数は 64k + 1 の形をとる。このことを利用して、オイラーは因数 641 = 10 × 64 + 1 を見つけたのである。その後、上記「フェルマー数の素因数」の記述の通り、エドゥアール・リュカにより k·2 + 1 の形のものに限られることが示された。
また、定規とコンパスによる作図問題の1つである、正多角形は(定規とコンパスのみで)作図できるかという問題において、正 n 角形が作図可能であるのは、n を素因数分解したときに奇数因子が全てフェルマー素数であり、なおかつそれらが相異なる場合のみであることがガウスにより証明されている。
現在 F5 以降のフェルマー数で素数であるものが存在するかどうかは知られていない。また、フェルマー素数やフェルマー合成数が無限にあるかどうかも知られていない。フェルマー数の最大素因数についてはA070592を、最小素因数についてはA093179を参照。
フェルマー数の素数性、素因数分解に関する情報は外部リンクに挙げたサイトが詳しい。
ペピン・テストはフランスの数学者テオフィル・ペピン(en:Théophile_Pépin)によって名付けられたフェルマー数に対する素数判定法である。
Fn = 2 + 1 (n ≥ 1) で {Fn}を定義すると、
基数は3以外の数値として以下を取ることを可能とする。
フェルマー数は平方因子を持たないと予想されているが、未だに解決されていない。
m = 20, 24 に対して Fm は合成数であることが知られているが、その素因数は1つも知られていない。k を1つ決めた時に k·2 + 1 が Fm を割り切る現象が無数に起こるかどうかも知られていない。
フェルマー数を表すにはいくつか等価な表記がある。 | [
{
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"text": "フェルマー数(フェルマーすう、英: Fermat number)とは、2 + 1(n は非負整数)で表される自然数のことである。n 番目のフェルマー数はしばしば Fn と記される。",
"title": null
},
{
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"text": "その名の由来であるピエール・ド・フェルマーは、この式の n に非負整数を代入したとき常に素数を生成すると主張(予測)したが、1732年にレオンハルト・オイラーが n = 5 の場合に素数でないことを示し、フェルマーの主張は誤りと確認された。素数であるフェルマー数はフェルマー素数と呼ばれる。",
"title": "概要"
},
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"text": "実際にフェルマー数の値の最初の方をいくつか計算してみると、",
"title": "概要"
},
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"text": "が得られる。",
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"text": "F4 = 65537 までは、257 未満の既知である全ての素数で割りきれないことを確かめることで、容易に素数であることを確認できる。",
"title": "概要"
},
{
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"text": "しかし F5 以降は(17世紀当時の計算技術から見ると)相当に巨大な数であると同時に小さな素因数を含んでいないことが、フェルマーを幻惑し反証の発見にはオイラーを待つこととなった要因の一つである。",
"title": "概要"
},
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"text": "フェルマー数は次の漸化式を満たす:",
"title": "性質"
},
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"text": "フェルマー数は全て奇数であるから、4番目の式から、どの2つのフェルマー数も互いに素であると分かる。",
"title": "性質"
},
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"text": "フェルマー数は、例えば次の合同式を満たす。",
"title": "性質"
},
{
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"text": "2 + 1 (m ≥ 2) の形の素数はフェルマー数である。一般に、a + 1 (a ≥ 2) が素数ならば、a は偶数で m は 2 の累乗となる。実際、a + 1 は奇数だから a すなわち a は偶数である。また、m が 1 より大きい奇数 k で割れるならば a + 1 で割れる。",
"title": "性質"
},
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"text": "このことから、2 + 1 (m ≥ 2) が素数ならば、m = 2 を満たす自然数 n が存在する。つまり 2 + 1 = Fn である。",
"title": "性質"
},
{
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"text": "フェルマー数 Fn (n ≥ 2) の素因数は k · 2 + 1 (k ≥ 3) の形をしている(エドゥアール・リュカにより証明)。フェルマー数はどの2つも互いに素なので、任意の n に対して k · 2 + 1 (k = 1, 2, ...) の形の素数が無数に存在することが導かれる。また実際に 3 · 2 + 1 が Fn を割り切る例が存在する。",
"title": "性質"
},
{
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"text": "フェルマー数 Fn の最大素因数を P(Fn) とすると",
"title": "性質"
},
{
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"text": "が成り立つ (Grytczuk, Luca and Wojtowicz, 2001)。",
"title": "性質"
},
{
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"tag": "p",
"text": "全てのフェルマー数の素因数全体の集合を S とする。Golomb (1955) は S の元の逆数和が収束するか否かという問題を提出したが、Krizek, Luca, Somer (2002) は S の元で x より小さいものの個数は",
"title": "性質"
},
{
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"text": "となることを示し、この問題を肯定的に解決した。",
"title": "性質"
},
{
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"text": "2 ≡ −1 (mod Fm) より、2 の Fm を法とする位数は 2 で、これは Fm − 1 の約数である。すなわち、フェルマー数は 2 を底とする擬素数である。また、フェルマー数の積",
"title": "性質"
},
{
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"tag": "p",
"text": "も擬素数である (Cipolla, 1904)。",
"title": "性質"
},
{
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"tag": "p",
"text": "フェルマー数は累乗数にはならず、また、完全数または友愛数にはならず (Luca, 2000a)、二項係数 nCk (n ≥ 2k ≥ 2) の値にもならない (Luca, 2000b)。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "Golomb (1963) は、フェルマー数の逆数和は無理数であることを示した。なお、ポール・エルデシュと Straus はさらに一般的な結果を得ている。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 20,
"tag": "p",
"text": "フェルマー数はまた、正多角形の定規とコンパスによる作図の問題とも関係がある。ガウスは、正 n 角形が作図可能になる必要十分条件を求めたが、それは「n が 2 の冪であるか、異なるフェルマー素数の積と 2 の冪の積であるとき」というものである。",
"title": "性質"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "フェルマー数の性質については、Krizek, Luca, Somer (2001) が詳しい。",
"title": "性質"
},
{
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"tag": "p",
"text": "素数であるフェルマー数をフェルマー素数という。具体的には、既知の範囲において次の5つがある:",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "F4 までは素数なので、フェルマーは、全てのフェルマー数はフェルマー素数であると予想したが、1732年にレオンハルト・オイラーが5番目のフェルマー数は次のように分解できることを示し、反例が与えられた。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "オイラーは、フェルマー数 Fn の因数は k·2 + 1 の形となることを証明した。これにより n = 5 の場合には、F5 の因数は 64k + 1 の形をとる。このことを利用して、オイラーは因数 641 = 10 × 64 + 1 を見つけたのである。その後、上記「フェルマー数の素因数」の記述の通り、エドゥアール・リュカにより k·2 + 1 の形のものに限られることが示された。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "また、定規とコンパスによる作図問題の1つである、正多角形は(定規とコンパスのみで)作図できるかという問題において、正 n 角形が作図可能であるのは、n を素因数分解したときに奇数因子が全てフェルマー素数であり、なおかつそれらが相異なる場合のみであることがガウスにより証明されている。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
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"text": "現在 F5 以降のフェルマー数で素数であるものが存在するかどうかは知られていない。また、フェルマー素数やフェルマー合成数が無限にあるかどうかも知られていない。フェルマー数の最大素因数についてはA070592を、最小素因数についてはA093179を参照。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
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"text": "フェルマー数の素数性、素因数分解に関する情報は外部リンクに挙げたサイトが詳しい。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
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"text": "ペピン・テストはフランスの数学者テオフィル・ペピン(en:Théophile_Pépin)によって名付けられたフェルマー数に対する素数判定法である。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "Fn = 2 + 1 (n ≥ 1) で {Fn}を定義すると、",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "基数は3以外の数値として以下を取ることを可能とする。",
"title": "フェルマー素数"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "フェルマー数は平方因子を持たないと予想されているが、未だに解決されていない。",
"title": "その他の未解決問題"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "m = 20, 24 に対して Fm は合成数であることが知られているが、その素因数は1つも知られていない。k を1つ決めた時に k·2 + 1 が Fm を割り切る現象が無数に起こるかどうかも知られていない。",
"title": "その他の未解決問題"
},
{
"paragraph_id": 33,
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"text": "フェルマー数を表すにはいくつか等価な表記がある。",
"title": "表記"
}
] | フェルマー数とは、22n + 1で表される自然数のことである。n 番目のフェルマー数はしばしば Fn と記される。 | <!--<math>F_n=2^{\,\!2^n}+1</math> 「\,\!」の挿入は、「できる限りHTML」モード使用時の不適切なHTML化に対する抜け道。2006年8月時点では「上付の上付」などの表示が崩れる。[[m:math]]参照。 (それは mediawiki が対応するべきことで、記事のほうで force PNG rendering する理由にはならないような……)-->
'''フェルマー数'''(フェルマーすう、{{lang-en-short|Fermat number}})とは、'''{{math|2{{sup|2{{sup|''n''}}}} + 1}}'''({{mvar|n}} は非負[[整数]])で表される[[自然数]]のことである。{{mvar|n}} 番目のフェルマー数はしばしば {{mvar|F{{sub|n}}}} と記される。
==概要==
その名の由来である[[ピエール・ド・フェルマー]]は、この式の {{mvar|n}} に非負整数を代入したとき常に[[素数]]を生成すると主張(予測)したが、[[1732年]]に[[レオンハルト・オイラー]]が {{math|''n'' {{=}} 5}} の場合に素数でないことを示し、フェルマーの主張は誤りと確認された<ref>オイラー博士の素敵な数式 ポール・J・ナーイン著 小山伸也訳 日本評論社 P43</ref>。素数であるフェルマー数は'''フェルマー素数'''と呼ばれる。
実際にフェルマー数の値の最初の方をいくつか計算してみると、
:{{math|''F''{{sub|0}} {{=}} 2{{sup|1}} + 1 {{=}} [[3]]}}
:{{math|''F''{{sub|1}} {{=}} 2{{sup|2}} + 1 {{=}} [[5]]}}
:{{math|''F''{{sub|2}} {{=}} 2{{sup|4}} + 1 {{=}} [[17]]}}
:{{math|''F''{{sub|3}} {{=}} 2{{sup|8}} + 1 {{=}} [[257]]}}
:{{math|''F''{{sub|4}} {{=}} 2{{sup|16}} + 1 {{=}} [[65537]]}}
:{{math|''F''{{sub|5}} {{=}} 2{{sup|32}} + 1 {{=}} [[4294967297]]}}
:{{math|''F''{{sub|6}} {{=}} 2{{sup|64}} + 1 {{=}} [[18446744073709551617]]}}
:{{math2|''F''{{sub|7}} {{=}} 2{{sup|128}} + 1 {{=}} 340282366920938463463374607431768211457}}
:{{math2|''F''{{sub|8}} {{=}} 2{{sup|256}} + 1 {{=}} 115792089237316195423570985008687907853269984665640564039457584007913129639937}}
が得られる。
{{math|''F''{{sub|4}} {{=}} 65537}} までは、{{math|257}} 未満の既知である全ての素数で割りきれないことを確かめることで、容易に素数であることを確認できる。
しかし {{math|''F''{{sub|5}}}} 以降は([[17世紀]]当時の計算技術から見ると)相当に巨大な数であると同時に小さな[[素因数]]を含んでいないことが、フェルマーを幻惑し反証の発見にはオイラーを待つこととなった要因の一つである。
== 性質 ==
=== 基本的性質 ===
フェルマー数は次の[[漸化式]]を満たす:
:{{math|''F{{sub|n}}'' {{=}} (''F''{{sub|''n''−1}} − 1){{sup|2}} + 1}}
:{{math|''F{{sub|n}}'' {{=}} ''F''{{sub|''n''−1}} + 2{{sup|2{{sup|''n''−1}}}}''F''{{sub|0}} ⋯ ''F''{{sub|''n''−2}}}}
:{{math|''F{{sub|n}}'' {{=}} ''F''{{sub|''n''−1}}{{sup|2}} − 2(''F''{{sub|''n''−2}} − 1){{sup|2}}}}
:{{math|''F{{sub|n}}'' {{=}} ''F''{{sub|0}} ⋯ ''F''{{sub|''n''−1}} + 2}}
フェルマー数は全て[[奇数]]であるから、4番目の式から、どの2つのフェルマー数も[[互いに素 (整数論)|互いに素]]であると分かる。
フェルマー数は、例えば次の[[整数の合同|合同式]]を満たす。
*{{math|''n'' ≥ 2}} ならば、{{math|''F{{sub|n}}'' ≡ 17 or 41 (mod 72)}}
*{{math|''n'' ≥ 2}} ならば、{{math|''F{{sub|n}}'' ≡ 17, 37, 57 or 97 (mod 100)}}
{{math|2{{sup|''m''}} + 1 (''m'' ≥ 2)}} の形の素数はフェルマー数である。一般に、{{math|''a{{sup|m}}'' + 1 (''a'' ≥ 2)}} が素数ならば、{{mvar|a}} は偶数で {{mvar|m}} は {{math|2}} の累乗となる。実際、{{math|''a{{sup|m}}'' + 1}} は奇数だから {{math|''a{{sup|m}}''}} すなわち {{mvar|a}} は偶数である。また、{{mvar|m}} が {{math|1}} より大きい奇数 {{mvar|k}} で割れるならば {{math|''a{{sup|m/k}}'' + 1}} で割れる。
このことから、{{math|2{{sup|''m''}} + 1 (''m'' ≥ 2)}} が素数ならば、{{math|''m'' {{=}} 2{{sup|''n''}}}} を満たす自然数 {{mvar|n}} が存在する。つまり {{math|2{{sup|''m''}} + 1 {{=}} ''F{{sub|n}}''}} である。
=== フェルマー数の素因数 ===
フェルマー数 {{mvar|F{{sub|n}}}} ({{math|''n'' ≥ 2}}) の素因数は {{math|''k'' · 2{{sup|''n'' + 2}} + 1}} ({{math|''k'' ≥ 3}}) の形をしている([[エドゥアール・リュカ]]により証明)。フェルマー数はどの2つも互いに素なので、任意の {{mvar|n}} に対して {{math|''k'' · 2{{sup|''n''}} + 1}} ({{math|''k'' {{=}} 1, 2, …)}} の形の素数が無数に存在することが導かれる。また実際に {{math|3 · 2{{sup|''n''+2}} + 1}} が {{mvar|F{{sub|n}}}} を割り切る例が存在する。
フェルマー数 {{mvar|F{{sub|n}}}} の最大素因数を {{math|''P''(''F{{sub|n}}'')}} とすると
:{{math|''P''(''F{{sub|n}}'') ≥ 2{{sup|''n''+2}}(4''n'' + 9) + 1}}
が成り立つ (Grytczuk, Luca and Wojtowicz, 2001)。
全てのフェルマー数の素因数全体の集合を {{mvar|S}} とする。Golomb (1955) は {{mvar|S}} の元の逆数和が収束するか否かという問題を提出したが、Krizek, Luca, Somer (2002) は {{mvar|S}} の元で {{mvar|x}} より小さいものの個数は
:{{math|''O''(''x''{{sup|1/2}}log ''x'')}}
となることを示し、この問題を肯定的に解決した。
=== その他の性質 ===
{{math|2{{sup|2{{sup|''m''}}}} ≡ −1 (mod {{mvar|F{{sub|m}}}})}} より、{{math|2}} の {{mvar|F{{sub|m}}}} を法とする[[位数]]は {{math|2{{sup|''m''+1}}}} で、これは {{math|''F{{sub|m}}'' − 1}} の約数である。すなわち、フェルマー数は {{math|2}} を底とする[[擬素数]]である。また、フェルマー数の積
:{{math|''F{{sub|m}}F{{sub|n}}''⋯''F{{sub|s}}'' (2{{sup|''s''}} > ''m'' > ''n'' > ⋯ > ''s'')}}
も擬素数である (Cipolla, 1904)。
フェルマー数は[[累乗数]]にはならず、また、[[完全数]]または[[友愛数]]にはならず (Luca, 2000a)、[[二項係数]] {{math|{{sub|''n''}}C{{sub|''k''}}}} ({{math|''n'' ≥ 2''k'' ≥ 2)}} の値にもならない (Luca, 2000b)。
Golomb (1963) は、フェルマー数の逆数和は[[無理数]]であることを示した。なお、[[ポール・エルデシュ]]と Straus はさらに一般的な結果を得ている。
フェルマー数はまた、正多角形の[[定規とコンパスによる作図]]の問題とも関係がある。[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]は、正 {{mvar|n}} 角形が作図可能になる必要十分条件を求めたが、それは「{{mvar|n}} が [[2の冪|{{math|2}} の冪]]であるか、異なるフェルマー素数の積と {{math|2}} の冪の積であるとき」というものである。
フェルマー数の性質については、Krizek, Luca, Somer (2001) が詳しい。
== フェルマー素数 ==
[[素数]]であるフェルマー数を'''フェルマー素数'''という。具体的には、既知の範囲において次の5つがある:
:[[3|{{math|3}}]], [[5|{{math|5}}]], [[17|{{math|17}}]], [[257|{{math|257}}]], [[65537|{{math|65537}}]] ({{OEIS|A019434}})
{{math|''F''{{sub|4}}}} までは素数なので、フェルマーは、全てのフェルマー数はフェルマー素数であると予想したが、1732年に[[レオンハルト・オイラー]]が5番目のフェルマー数は次のように分解できることを示し、[[反例]]が与えられた。
:{{math|''F''{{sub|5}} {{=}} 2{{sup|2{{sup|5}}}} + 1 {{=}} 4294967297 {{=}} 641 × 6700417}}
オイラーは、フェルマー数 {{mvar|F{{sub|n}}}} の因数は {{math|''k''·2{{sup|''n''+1}} + 1}} の形となることを証明した。これにより {{math|''n'' {{=}} 5}} の場合には、{{math|''F''{{sub|5}}}} の因数は {{math|64''k'' + 1}} の形をとる。このことを利用して、オイラーは因数 {{math|641 {{=}} 10 × 64 + 1}} を見つけたのである。その後、上記「フェルマー数の素因数」の記述の通り、[[エドゥアール・リュカ]]により {{math|''k''·2{{sup|''n''+2}} + 1}} の形のものに限られることが示された。
また、[[定規とコンパスによる作図]]問題の1つである、'''[[正多角形]]は(定規とコンパスのみで)作図できるか'''という問題において、正 {{mvar|n}} 角形が作図可能であるのは、{{mvar|n}} を[[素因数分解]]したときに奇数因子が全てフェルマー素数であり、なおかつそれらが相異なる場合のみであることが[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]により証明されている。
現在 {{math|''F''{{sub|5}}}} 以降のフェルマー数で素数であるものが存在するかどうかは知られていない。また、フェルマー素数やフェルマー合成数が無限にあるかどうかも知られていない。フェルマー数の[[素因数#最大素因数|最大素因数]]については{{OEIS2C|A070592}}を、[[素因数#最小素因数|最小素因数]]については{{OEIS2C|A093179}}を参照。
フェルマー数の素数性、素因数分解に関する情報は外部リンクに挙げたサイトが詳しい。
=== 素数判定法 ===
==== ペピン・テスト ====
ペピン・テストはフランスの数学者テオフィル・ペピン([[:en:Théophile_Pépin]])によって名付けられたフェルマー数に対する素数判定法である。
{{math|''F{{sub|n}}'' {{=}} ''2''{{sup|''2''{{sup|n}}}}}} + 1 {{math|(''n'' ≥ 1)}} で {{math|{''F{{sub|n}}''}}}を定義すると、
* <math>F_n \not \mid 3^{(F_n-1)/2} + 1</math> ならば、{{mvar|F{{sub|n}}}} は合成数である
* <math>F_n \mid 3^{(F_n-1)/2} + 1</math> ならば、{{mvar|F{{sub|n}}}} は素数である
基数は3以外の数値として以下を取ることを可能とする。
:{{math2|[[5|{{math|5}}]], [[6|{{math|6}}]], [[7|{{math|7}}]], [[10|{{math|10}}]], 12, 14, 20, 24, 27, 28, …}}({{OEIS|id=A129802}})
== その他の未解決問題 ==
フェルマー数は平方因子を持たないと予想されているが、未だに解決されていない<ref>Guy, Unsolved Problems in Number Theory, p.16. 金光滋による訳本でも p.16.</ref>。
{{math|''m'' {{=}} 20, 24}} に対して {{mvar|F{{sub|m}}}} は合成数であることが知られているが、その素因数は1つも知られていない。{{mvar|k}} を1つ決めた時に {{math|''k''·2{{sup|''m''+2}} + 1}} が {{mvar|F{{sub|m}}}} を割り切る現象が無数に起こるかどうかも知られていない。
== 表記 ==
フェルマー数を表すにはいくつか等価な表記がある。
:{|class="wikitable"
! 名称
! 表記
|-
| [[クヌースの矢印表記]]
| <math>2 \uparrow 2 \uparrow n + 1,~ \left(2 \uparrow\right)^2 n + 1</math><!--
|-
| バウアーズの配列表記
| <math>\lbrace a,b,3 \rbrace</math>
|-
| ハイパーE表記<ref>[https://sites.google.com/site/largenumbers/ One to Infinity: A Guide to the Finite]</ref>
| <math>E(a)1\#1\#n</math>-->
|}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist}}
== 参考文献 ==
*P. Erdos and E. G. Straus, On the irrationality of certain Ahmes series, ''J. Indian Math. Soc.(N. S.) '' 27(1963), 129--133.
*S. W. Golomb, On the sum of the reciprocals of the Fermat numbers and related irrationalities, ''Canad. J. Math.'' 15(1963), 475--478.
*A. Grytczuk, F. Luca and M. Wojtowicz(2001), Another note on the greatest prime factors of Fermat numbers, ''Southeast Asian Bull. Math.'' 25(2001), 111--115.
*Florian Luca(2000a), The anti-social Fermat number, ''Amer. Math. Monthly'' 107(2000), 171--173.
*Florian Luca(2000b), Fermar Numbers in the Pascal Triangle, ''Divulg. Math.'' 9(2001), 189--194, [http://www.maths.soton.ac.uk/EMIS/journals/DM/v92/art8.pdf].
*Michal Krizek, Florian Luca and Lawrence Somer(2001), ''17 Lectures on Fermat Numbers: From Number Theory to Geometry'', Springer, CMS Books 9, ISBN 0387953329.
*Michal Krizek, Florian Luca and Lawrence Somer(2002), On the convergence of series of reciprocals of primes related to the Fermat numbers, ''J. Number Theory'' 97(2002), 95--112.
*W. Sierpiński, Sue les nombres premiers de la forme {{math|''n''{{sup|''n''}} + 1}}, ''L'Enseign. Math.'' (2) 4(1958), 211--212.
*Richard K. Guy, Unsolved Problems in Number Theory, 3rd edition, Springer-Verlag, 2004.
== 関連項目 ==
{{ウィキプロジェクトリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics blue-p.svg|34px|Project:数学]]}}
{{ウィキポータルリンク|数学|[[画像:Nuvola apps edu mathematics-p.svg|34px|Portal:数学]]}}
*[[素数]]
*[[メルセンヌ数]]
*[[ピアポント素数]]
== 外部リンク ==
*{{高校数学の美しい物語|730|フェルマー数とその性質}}
*[http://www.prothsearch.com/fermat.html Fermat factoring status]
{{素数の分類}}
{{Normdaten}}
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[[Category:数論]]
[[Category:整数の類]]
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[[Category:数学に関する記事]]
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E6%95%B0 |
7,365 | メルセンヌ数 | メルセンヌ数(メルセンヌすう、英: Mersenne number)とは、2の冪よりも 1 小さい自然数、すなわち 2 − 1(n は自然数)の形の自然数のことである。これを Mn で表すことが多い。メルセンヌ数を小さい順に列挙すると
となる。メルセンヌ数は2進法表記で n 桁の 11⋯11、すなわちレピュニットとなる。
Mn = 2 − 1 が素数ならば n もまた素数であるが、逆は成立しない (M11 = 2047 = 23 × 89)。素数であるメルセンヌ数をメルセンヌ素数(メルセンヌそすう、英: Mersenne prime)という。なお、「メルセンヌ数」という語で、n が素数であるもののみを指したり、さらに狭義の意味でメルセンヌ素数を指す場合もある。
Mn が素数ならば n もまた素数であることは、次の式から分かる:
対偶命題「n が合成数ならば Mn は合成数である」が示される。また、この等式より、m | n のとき Mm | Mn である。一方、 p が素数でも Mp が素数とは限らない。最小の反例は p = 11 の場合であり、M11 = 2047 = 23 × 89 が成り立つ。
(奇)素数 p に対して Mp が素数であるかどうかは、リュカ-レーマー・テストによって判定できる (#素数判定法節を参照)。
Mp = 2 − 1 が素数ならば、2(2 − 1) は完全数である。この定理はすでに紀元前3世紀頃のユークリッド原論で証明されていた。したがって、完全数の探索はメルセンヌ素数の探索に終始された。
2(2 − 1) は明らかに偶数であるが、偶数の完全数でこの生成式から得られるもの以外はないのか2000年間にわたって未解決であったが、18世紀にオイラーによりこの形に限ることが証明された。
p を素数とする。
メルセンヌ素数(メルセンヌそすう、Mersenne prime)とは、素数であるメルセンヌ数のことである。
2022年2月現在知られている最大のメルセンヌ素数は、2018年12月に発見された、それまでに分かっている中で51番目のメルセンヌ素数 2 − 1 であり、十進法で表記したときの桁数は2486万2048桁に及ぶ。
メルセンヌ素数の探求は紀元前3世紀ごろに端を発する。古代エジプトの数学者エウクレイデスは『原論』の中で、「2 − 1 が素数ならば、2(2 − 1) は完全数である」ことを証明した。ここから、メルセンヌ素数の探索は完全数の探索にも繋がることとなる。
小さいメルセンヌ素数がいつから知られているかは定かではないが、少なくとも最初の4つの完全数はゲラサのニコマコスの『算術入門』ですでに言及されている。5番目から7番目の完全数は、13世紀イスラムの数学者イブン・ファッルース (fr:Ibn Fallus) が論文に記している。ヨーロッパでは、5番目の完全数が1456年と1461年の日付が付された古い写本に記されており、6番目と7番目のメルセンヌ素数および完全数も1603年にピエトロ・カタルディ(英: Pietro Cataldi)によって発見されている。
1644年、マラン・メルセンヌは「素数 p で 2 − 1 が素数になるのは、p ≦ 257 では p = 2, 3, 5, 7, 13, 17, 19, 31, 67, 127, 257 の11個の場合だけである」という予想を公表した。しかしメルセンヌ自身はその予想を証明することができず、しかもその予想の一部は誤っていた。
成果を見るのはメルセンヌが予想を公表してから128年後、1772年、オイラー(p = 31 では素数)。その次の成果はさらに104年後、1876年、リュカ(効率的な素数判定法リュカ・テスト(英語版)を考案、p = 67 では素数でない、p = 127 では素数)であった。その後リュカ・テストは改良が加えられ、メルセンヌが予想した範囲にない3個が付け加えられた(p = 61(1883年)、p = 89(1911年)、p = 107(1914年))。メルセンヌが予想した最後の数 p = 257 について決着がついたのは1922年のことであり、 p = 257 も合成数だった。
結局メルセンヌの11個の予想のうち2つは外れた。なおかつ、間に予想できなかった3つが含まれていたことを考えれば予想は正しかったとはいえないが、その後の歴史を見ても大きな原動力となり先駆的であったことに敬意を表し、素数であるメルセンヌ数をメルセンヌ素数という。
1903年10月、アメリカの数学者フランク・ネルソン・コールは実際の素因数分解を探し求め、ニューヨークで開かれたアメリカ数学会の会議で 193707721 × 761838257287 を黒板に計算し、M67 と一致することを証明した。この間一言もしゃべらず、席に戻った後、少し間を置いて拍手が沸き起こったと伝えられている。
1952年、ラファエル・M・ロビンソンが SWAC を利用して M521 から M2281 まで、5つのメルセンヌ素数を発見して以降、発見にはコンピュータが使用されており、コンピュータの進歩と共に新たなメルセンヌ素数が発見されつつある。
1996年、メルセンヌ素数を発見することを目的として作られた分散コンピューティングによるプロジェクト GIMPS が発足し、35番目のメルセンヌ素数 M1,398,269(1996年11月13日、Joel Armengaud)以来、GIMPSによるメルセンヌ素数の発見が続いている。
2008年8月23日、GIMPS は46番目の素数候補が、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の数学部のコンピュータによって発見されたと報じた。この素数は電子フロンティア財団が賞金を懸けた1000万桁以上の最初の素数となるため、GIMPS によって同校数学部に50,000ドル、慈善事業に25,000ドル、残りを前の6つのメルセンヌ素数の発見者へ分配することになった。
2008年9月6日、GIMPS は45番目の素数候補が、ドイツで発見されたと報じた。これは、GIMPS によって発見された中では、発見順序と桁数が逆転した初めてのケースである。
知られている素数の中で最大のものが1876年以降ほぼ一貫してメルセンヌ素数である理由は、この判定法にある。
p が (4j + 3) 型の素数のとき、S0 = 3, Sn = Sn−1 − 2 (n ≥ 1) で {Sn} を定義すると、
アルゴリズムは以下の擬似コードで表される。
p が奇素数のとき、S0 = 4, Sn = Sn−1 − 2 (n ≥ 1) で{Sn} を定義すると、
リュカ–レーマー・テストは二進計算機用のアルゴリズムに向いており、コンピュータによるメルセンヌ素数の発見には、この判定法が用いられてきた。例えば、2 ≡ 1 (mod Mp) より、A·2 + B ≡ A + B (mod Mp) が成り立つので、Mp で割る割り算の代わりに、二進法で p 桁のシフト演算と足し算だけで計算できる。
アルゴリズムは以下の擬似コードで表される。
2021年10月現在、メルセンヌ素数は51個まで知られている。ただし、メルセンヌ素数としての番号が確定しているものは48番目までであり、
における Mp がそうである。さらに49, 50, 51番目の候補として p = 74207281, 77232917, 82589933 が挙がっており、間に素数がないかどうか検証中である。
メルセンヌ素数は小さい順番から並べると
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== 基本的な性質 ==
{{mvar|M{{sub|n}}}} が素数ならば {{mvar|n}} もまた素数であることは、次の式から分かる<ref name="Tannaka1982" />{{sfn|中村|2008|p=81}}:
:{{math|2{{sup|''ab''}} − 1 {{=}} (2{{sup|''a''}} − 1)(1 + 2{{sup|''a''}} + 2{{sup|2''a''}} + ⋯ + 2{{sup|(''b''−1)''a''}}).}}
[[対偶 (論理学)|対偶]][[命題]]「{{mvar|n}} が合成数ならば {{mvar|M{{sub|n}}}} は合成数である」が示される。また、この等式より、{{math|''m'' {{!}} ''n''}} のとき {{math|''M''{{sub|''m''}} {{!}} ''M''{{sub|''n''}}}} である。一方、 {{mvar|p}} が素数でも {{mvar|M{{sub|p}}}} が素数とは限らない。最小の反例は {{Math|1=''p'' = 11}} の場合であり、{{math|''M''{{sub|11}} {{=}} 2047 {{=}} 23 × 89}} が成り立つ。
(奇)素数 {{Mvar|p}} に対して {{mvar|M{{sub|p}}}} が素数であるかどうかは、リュカ-レーマー・テストによって判定できる ([[#素数判定法]]節を参照)。
=== 完全数 ===
{{math|''M{{sub|p}}'' {{=}} 2{{sup|''p''}} − 1}} が素数ならば、{{math|2{{sup|''p''−1}}(2{{sup|''p''}} − 1)}} は[[完全数]]である<ref name="Tannaka1982" /><ref name="Wada1981pp59-61">{{Harvnb|和田|1981|pp=59-61}}</ref>。この定理はすでに[[紀元前3世紀]]頃の[[ユークリッド原論]]で証明されていた{{sfn|ユークリッド|1971|loc=第9巻、命題36|pp=225–226}}。したがって、完全数の探索はメルセンヌ素数の探索に終始された。
{{math|2{{sup|''p''−1}}(2{{sup|''p''}} − 1)}} は明らかに[[偶数]]であるが、偶数の完全数でこの生成式から得られるもの以外はないのか2000年間にわたって未解決であったが、[[18世紀]]に[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]によりこの形に限ることが証明された<ref name="Wada1981pp59-61" />。
=== メルセンヌ数の素因数 ===
{{mvar|p}} を素数とする。
*{{mvar|M{{sub|p}}}} の素因数は {{math|2''p''}} を法として {{math|1}} と合同{{sfn|和田|1981|p=192}}、かつ {{math|8}} を法として {{math|1}} または {{math|−1}} と合同である<ref name="Wada1981p193">{{Harvnb|和田|1981|p=193}}</ref>。
*{{math|''p'' ≡ 3 (mod 4)}} のとき、{{mvar|M{{sub|p}}}} が {{math|2''p'' + 1}} で割れることと、{{math|2''p'' + 1}} が素数であることは同値である<ref name="Wada1981p193" />。
*ある計算可能な正定数 {{Mvar|c}} が存在して、{{mvar|M{{sub|p}}}} の最大素因数を {{mvar|q}} について、{{math|''q'' ≥ ''cp'' log ''p''}} <ref>Theorem 1, {{Harvnb|Erdős|Shoray|1976}}</ref>。
== メルセンヌ素数 ==
'''メルセンヌ素数'''(メルセンヌそすう、Mersenne prime)とは、素数であるメルセンヌ数のことである。
2022年2月現在知られている最大のメルセンヌ素数は、[[2018年]][[12月]]に発見された、それまでに分かっている中で51番目のメルセンヌ素数 {{math|2{{sup|82589933}} − 1}} であり、[[十進法]]で表記したときの桁数は2486万2048桁に及ぶ<ref name=":2" group="GIMPS" />。
=== メルセンヌ素数の発見の歴史 ===
==== 古代~中世 ====
メルセンヌ素数の探求は[[紀元前3世紀]]ごろに端を発する。[[古代エジプト]]の数学者[[エウクレイデス]]は『[[ユークリッド原論|原論]]』の中で、「{{Math|2<sup>''n''</sup> − 1}} が素数ならば、{{Math|2<sup>''n'' − 1</sup>(2<sup>''n''</sup> − 1)}} は[[完全数]]である」ことを証明した{{Refn|『原論』 第9巻, 命題36. (pp. 225–226, {{Harvnb|ユークリッド|1971}})}}。ここから、メルセンヌ素数の探索は完全数の探索にも繋がることとなる{{Refn|{{Cite web|url=https://primes.utm.edu/mersenne/|title=Mersenne Primes: History, Theorems and Lists|accessdate=2022-02-22|website=[[Prime Pages|PrimePages]]|language=en|archiveurl=https://web.archive.org/web/20220221061758/https://primes.utm.edu/mersenne/|archivedate=2022-02-21}}|name=pp-mersenne}}{{Refn|{{Math|2<sup>''n'' − 1</sup> (2<sup>''n''</sup>− 1)}} は偶数であるため、この式は奇数の[[完全数]]について何も言及しない。また、偶数の完全数がこの形に限られることは18世紀に[[レオンハルト・オイラー]]が証明するまで未解決であった。|group=注釈}}。
小さいメルセンヌ素数がいつから知られているかは定かではないが、少なくとも最初の4つの完全数は[[ニコマコス|ゲラサのニコマコス]]の『[[算術入門]]』ですでに言及されている<ref>{{Cite web |url=https://math.dartmouth.edu/~jvoight/notes/perfelem.pdf |title=PERFECT NUMBERS: AN ELEMENTARY INTRODUCTION |accessdate=2022-02-21 |last=Voight |first=John |date=1998-05-31 |format=PDF |language=en |archiveurl=https://web.archive.org/web/20210628184809/https://math.dartmouth.edu/~jvoight/notes/perfelem.pdf |archivedate=2021-06-28}}</ref><ref>{{Cite book|洋書|title=Introduction to Arithmetic|year=1926|publisher=The Macmillan Company|pages=207–212|author=Nicomachus of Gerasa|ref={{Harvid|Nicomachus|1926}}|others=Martin Luther D'Ooge (trans)|url=https://archive.org/details/NicomachusIntroToArithmetic}}</ref>。5番目から7番目の完全数は、13世紀[[イスラム世界|イスラム]]の数学者イブン・ファッルース{{Enlink|Ibn Fallus|3=fr}}が論文に記している<ref name=":1">{{Cite web |title=Perfect numbers |url=https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/HistTopics/Perfect_numbers/ |website=[[マックチューター数学史アーカイブ|MacTutor History of Mathematics]] |accessdate=2022-02-22 |language=en |last=O'Conner |first=John |coauthors=[[エドマンド・F・ロバートソン|Edmund F. Robertson]] |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220111070352/https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/HistTopics/Perfect_numbers/ |archivedate=2022-01-11}}</ref>。ヨーロッパでは、5番目の完全数が1456年と1461年の日付が付された古い写本に記されて<ref>{{Cite book|洋書|title=History of the Theory of Numbers|year=1919|publisher=Carnegie Institution of Washington|page=6|last=Dickson|first=Leonard E.|author-link=レオナード・E・ディクソン|url=https://archive.org/details/historyoftheoryo01dick/page/n5/mode/2up|language=en|volume=1}}</ref><ref>{{Citation|洋書|title=Calendarium ecclesiasticum - BSB Clm 14908|author=Anonymous|year=1456|type=Anonymous Manuscript|url=https://iiif.biblissima.fr/collections/manifest/4dca8a1c8b0be3df1ce6954d8d1ba60590cd04cc|accessdate=2022-02-21}}</ref>おり、6番目と7番目のメルセンヌ素数および完全数も[[1603年]]に{{日本語版にない記事リンク|ピエトロ・カタルディ|en|Pietro Cataldi|short=on}}によって発見されている<ref name=":1" />。
==== メルセンヌの予想 ====
{| class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed floatright" style="text-align:center; font-size:small;"
|+ メルセンヌの予想の表: ''p'' ≦ 263
|-
!colspan="9"|
|-
|colspan="9" style="text-align: center;"|〇:''M{{sub|p}}''が素数の場合/×:''M{{sub|p}}''が合成数の場合<br /><span style="background-color:#00FFFF">水色が正解</span>、<span style="background-color:#FFC0CB">ピンク色が間違い</span>を示す<ref>{{OEIS|A000043}}</ref>。
|-
! ''p''
! 2 !! 3 !! 5 !! 7 !! 11 !! 13 !! 17 !! 19
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | 〇
|-
! ''p''
! 23 !! 29 !! 31 !! 37 !! 41 !! 43 !! 47 !! 53
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | ×
|-
! ''p''
! 59 !! 61 !! 67 !! 71 !! 73 !! 79 !! 83 !! 89
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#FFC0CB" | 〇 || style="background-color:#FFC0CB" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#FFC0CB" | 〇
|-
! ''p''
! 97 !! 101 !! 103 !! 107 !! 109 !! 113 !! 127 !! 131
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#FFC0CB" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | 〇 || style="background-color:#00FFFF" | ×
|-
! ''p''
! 137 !! 139 !! 149 !! 151 !! 157 !! 163 !! 167 !! 173
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | ×
|-
! ''p''
! 179 !! 181 !! 191 !! 193 !! 197 !! 199 !! 211 !! 223
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | ×
|-
! ''p''
! 227 !! 229 !! 233 !! 239 !! 241 !! 251 !! 257 !! 263
|-
| ''M{{sub|p}}''
| style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#00FFFF" | × || style="background-color:#FFC0CB" | × || style="background-color:#00FFFF" | ×
|}
[[1644年]]、[[マラン・メルセンヌ]]は「素数 {{mvar|p}} で {{math|2{{sup|''p''}} − 1}} が素数になるのは、{{math|''p'' ≦ 257}} では {{math|''p'' {{=}} 2, 3, 5, 7, 13, 17, 19, 31, 67, 127, 257}} の11個の場合だけである」という予想を公表した<ref name=":1" /><ref>{{Cite book|洋書|title=Cogitata Physico Mathematica|year=1644|publisher=Antonii Bertier|last=Mersenne|first=Marin|author-link=マラン・メルセンヌ|language=la|doi=10.3931/e-rara-11036|location=Paris}}</ref>。しかしメルセンヌ自身はその予想を証明することができず、しかもその予想の一部は誤っていた。
成果を見るのはメルセンヌが予想を公表してから128年後、[[1772年]]、[[レオンハルト・オイラー|オイラー]]({{math|''p'' {{=}} 31}} では素数)<ref name="Tannaka1982" />{{sfn|和田|1981|p=51}}。その次の成果はさらに104年後、[[1876年]]、[[エドゥアール・リュカ|リュカ]](効率的な[[#素数判定法|素数判定法]]{{ill2|リュカ・テスト|en|Lucas primality test}}を考案、{{math|''p'' {{=}} 67}} では素数でない、{{math|''p'' {{=}} 127}} では素数<ref name="Tannaka1982" />{{sfn|中村|2008|pp=83f}})であった。その後リュカ・テストは改良が加えられ、メルセンヌが予想した範囲にない3個が付け加えられた({{math|''p'' {{=}} 61}}([[1883年]])、{{math|''p'' {{=}} 89}}([[1911年]])、{{math|''p'' {{=}} 107}}([[1914年]]))。メルセンヌが予想した最後の数 {{math|''p'' {{=}} 257}} について決着がついたのは[[1922年]]のことであり、 {{math|''p'' {{=}} 257}} も合成数だった<ref name="Tannaka1982">{{Harvnb|淡中|1982|pp=65–67}}.</ref>{{sfn|中村|2008|p=80}}。
結局メルセンヌの11個の予想のうち2つは外れた。なおかつ、間に予想できなかった3つが含まれていたことを考えれば予想は正しかったとはいえないが、その後の歴史を見ても大きな原動力となり先駆的であったことに敬意を表し、素数であるメルセンヌ数を'''メルセンヌ素数'''という{{要出典|date=2022年2月}}。
[[1903年]][[10月]]、アメリカの数学者[[フランク・ネルソン・コール]]は実際の素因数分解を探し求め、[[ニューヨーク]]で開かれた[[アメリカ数学会]]の会議で {{math|193707721 × 761838257287}} を黒板に計算し、{{math|''M''{{sub|67}}}} と一致することを証明した。この間一言もしゃべらず、席に戻った後、少し間を置いて拍手が沸き起こったと伝えられている{{sfn|中村|2008|p=87}}。
[[1952年]]、[[ラファエル・M・ロビンソン]]が [[Standards Western Automatic Computer|SWAC]] を利用して {{math|''M''{{sub|521}}}} から {{math|''M''{{sub|2281}}}} まで、5つのメルセンヌ素数を発見<ref name="Tannaka1982" />して以降、発見には[[コンピュータ]]が使用されており、コンピュータの進歩と共に新たなメルセンヌ素数が発見されつつある。
==== GIMPSによる発見 ====
[[1996年]]、メルセンヌ素数を発見することを目的として作られた[[分散コンピューティング]]によるプロジェクト [[GIMPS]] が発足し、35番目のメルセンヌ素数 {{math|''M''{{sub|1,398,269}}}}(1996年[[11月13日]]、Joel Armengaud<ref name=":0" group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 35th Mersenne Prime, 2<sup>1,398,269</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=1996-11-23|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M1398269|language=en}}</ref>)以来、GIMPSによるメルセンヌ素数の発見が続いている。
[[2008年]][[8月23日]]、GIMPS は46番目の素数候補が、[[カリフォルニア大学ロサンゼルス校]]の数学部のコンピュータによって発見されたと報じた{{要出典|date=2022年2月}}。この素数は[[電子フロンティア財団]]が賞金を懸けた1000万桁以上の最初の素数となるため、GIMPS によって同校数学部に50,000[[ドル]]、慈善事業に25,000ドル、残りを前の6つのメルセンヌ素数の発見者へ分配することになった<ref name=":1" group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 45th and 46th Mersenne Primes, 2<sup>43,112,609</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=2008-09-15|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M43112609|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>。
2008年[[9月6日]]、GIMPS は45番目の素数候補が、ドイツで発見されたと報じた{{要出典|date=2022年2月}}。これは、GIMPS によって発見された中では、発見順序と桁数が逆転した初めてのケースである。
=== 素数判定法 ===
知られている素数の中で最大のものが1876年以降ほぼ一貫してメルセンヌ素数である理由は、この判定法にある{{要出典|date=2022年2月}}。
==== リュカ・テスト ====
{{mvar|p}} が {{math|(4''j'' + 3)}} 型の素数のとき、{{math|''S''{{sub|0}} {{=}} 3}}, {{math|''S{{sub|n}}'' {{=}} ''S''{{sub|''n''−1}}{{sup|2}} − 2}} {{math|(''n'' ≥ 1)}} で {{math|{''S{{sub|n}}''} }}を定義すると、
* <math>M_p \not \mid S_k \ (0\leqq k\leqq p-2)</math> ならば、{{mvar|M{{sub|p}}}} は合成数である
* <math>M_p \mid S_{p-2}</math> ならば、{{mvar|M{{sub|p}}}} は素数である{{sfn|中村|2008|pp=82–84}}{{sfn|Lucas|1878}}{{sfn|Lucas|1969}}
{{main2|証明|リュカ・テストの証明}}
===== アルゴリズム =====
アルゴリズムは以下の擬似コードで表される。
'''入力''': ''p'': {{math|(4''j'' + 3)}} 型の素数であるテスト対象の整数
'''出力''': ''PRIME'':素数の場合, ''COMPOSIT'':合成数の場合
'''Lucas_Test'''(''p''):
'''var''' s = 3
'''var''' MP = (1 << p) − 1
'''for''' n '''in''' '''range'''(2, p):
s = (s<sup>''2''</sup> − 2) % MP
'''if''' s == 0 '''then''':
'''return''' ''PRIME''
'''else''':
'''return''' ''COMPOSIT''
==== リュカ–レーマー・テスト ====
{{mvar|p}} が奇素数のとき、{{math|''S''{{sub|0}} {{=}} 4}}, {{math|''S{{sub|n}}'' {{=}} ''S''{{sub|''n''−1}}{{sup|2}} − 2}} {{math|(''n'' ≥ 1)}} で{{math|{''S{{sub|n}}''} }} を定義すると、
* <math>M_p \not \mid S_k \ (0\leqq k\leqq p-2)</math> ならば、{{mvar|M{{sub|p}}}} は合成数である
* <math>M_p \mid S_{p-2}</math> ならば、{{mvar|M{{sub|p}}}} は素数である{{sfn|中村|2008|pp=84f}}{{sfn|和田|1981|pp=50–52, 194–199}}{{sfn|和田|1999|loc=§5 リュカ・テスト}}
{{main2|証明|リュカ–レーマー・テストの証明}}
リュカ–レーマー・テストは[[二進法|二進]][[コンピュータ|計算機]]用の[[アルゴリズム]]に向いており、コンピュータによるメルセンヌ素数の発見には、この判定法が用いられてきた。例えば、{{math|2{{sup|''p''}} ≡ 1}} {{math|(mod ''M{{sub|p}}'')}} より、{{math|''A''·2{{sup|''p''}} + ''B'' ≡ ''A'' + ''B''}} {{math|(mod ''M{{sub|p}}'')}} が成り立つので、{{mvar|M{{sub|p}}}} で割る割り算の代わりに、二進法で {{mvar|p}} 桁の[[ビット演算#シフト|シフト演算]]と足し算だけで計算できる。
===== アルゴリズム =====
アルゴリズムは以下の擬似コードで表される。
'''入力''': ''p'':奇素数であるテスト対象の整数
'''出力''': ''PRIME'':素数の場合, ''COMPOSIT'':合成数の場合
'''Lucas_Lehmer_Test'''(''p''):
'''var''' s = 4
'''var''' MP = (1 << p) − 1
'''for''' n '''in''' '''range'''(2, p):
s = (s<sup>''2''</sup> − 2) % MP
'''if''' s == 0 '''then''':
'''return''' ''PRIME''
'''else''':
'''return''' ''COMPOSIT''
'''入力''': ''p'':奇素数であるテスト対象の整数
'''出力''': ''PRIME'':素数の場合, ''COMPOSIT'':合成数の場合
'''Lucas_Lehmer_Test_FAST'''(''p''):
'''var''' s = 4
'''var''' m = 2<sup>''p''</sup> − 1
'''for''' n '''in''' '''range'''(2, p):
'''var''' s2 = s × s
s = (s2 & m) + (s2 >> p)
'''if''' s >= m '''then'''
s = s − m
s = s − 2
'''if''' s == 0 '''then'''
'''return''' ''PRIME''
'''else'''
'''return''' ''COMPOSIT''
=== メルセンヌ素数の一覧 ===
2021年10月現在、メルセンヌ素数は51個まで知られている。ただし、メルセンヌ素数としての番号が確定しているものは48番目までであり、
:{{math2|''p'' {{=}} [[2]], [[3]], [[5]], [[7]], [[13]], [[17]], [[19]], [[31]], [[61]], [[89]], [[107]], [[127]], [[521]], [[607]], 1279, 2203, 2281, 3217, 4253, 4423, 9689, 9941, 11213, 19937, 21701, 23209, 44497, 86243, 110503, 132049, 216091, 756839, 859433, 1257787, 1398269, 2976221, 3021377, 6972593, 13466917, 20996011, 24036583, 25964951, 30402457, 32582657, 37156667, 42643801, 43112609, 57885161}}({{OEIS|A000043}})
における {{mvar|M{{sub|p}}}} がそうである。さらに49, 50, 51番目の候補として {{math|''p'' {{=}} 74207281, 77232917, 82589933}} が挙がっており、間に素数がないかどうか検証中である。
メルセンヌ素数は小さい順番から並べると
{{数列|indent=1|oeis=A000668|short=1|stop=0|3|7|31|127|8191|131071|524287|2147483647}}
となる。
{| class="wikitable"
!#
!{{mvar|p}}
!{{mvar|M{{sub|p}}}} の<br>桁数
!発見日
!発見者
|-
| style="text-align:right" |1
| style="text-align:right" |2
| style="text-align:right" |1
|紀元前500年?<ref name="isthe" />
|
|-
| style="text-align:right" |2
| style="text-align:right" |3
| style="text-align:right" |1
|紀元前500年?<ref name="isthe" />
|
|-
| style="text-align:right" |3
| style="text-align:right" |5
| style="text-align:right" |2
|紀元前275年?<ref name="isthe" />
|
|-
| style="text-align:right" |4
| style="text-align:right" |7
| style="text-align:right" |3
|紀元前275年?<ref name="isthe" />
|
|-
| style="text-align:right" |5
| style="text-align:right" |13
| style="text-align:right" |4
|1456年{{Refn|name=pp-mersenne}}
|不明{{Refn|name=pp-mersenne}}
|-
| style="text-align:right" |6
| style="text-align:right" |17
| style="text-align:right" |6
|1603年<ref name=":1" />
|{{仮リンク|ピエトロ・カタルディ|en|Pietro Cataldi}}
|-
| style="text-align:right" |7
| style="text-align:right" |19
| style="text-align:right" |6
|1603年<ref name=":1" />
|ピエトロ・カタルディ
|-
| style="text-align:right" |8
| style="text-align:right" |31
| style="text-align:right" |10
|1772年
|[[レオンハルト・オイラー]]
|-
| style="text-align:right" |9
| style="text-align:right" |61
| style="text-align:right" |19
|1883年
|{{仮リンク|イヴァン・パヴシン|en|Ivan Mikheevich Pervushin}}
|-
| style="text-align:right" |10
| style="text-align:right" |89
| style="text-align:right" |27
|1911年
|{{仮リンク|R・E・パワーズ|en|R. E. Powers}}
|-
| style="text-align:right" |11
| style="text-align:right" |107
| style="text-align:right" |33
|1914年
|R・E・パワーズ<ref>The Prime Pages, [http://primes.utm.edu/notes/fauquem.html M{{sub|107}}: Fauquembergue or Powers?].</ref>
|-
| style="text-align:right" |12
| style="text-align:right" |127
| style="text-align:right" |39
|1876年
|[[エドゥアール・リュカ]]
|-
| style="text-align:right" |13
| style="text-align:right" |521
| style="text-align:right" |157
|1952年1月30日
|{{仮リンク|ラファエル・M・ロビンソン|en|Raphael M. Robinson}}, 使用:[[Standards Western Automatic Computer|SWAC]]
|-
| style="text-align:right" |14
| style="text-align:right" |607
| style="text-align:right" |183
|1952年1月30日
|ラファエル・M・ロビンソン
|-
| style="text-align:right" |15
| style="text-align:right" |1,279
| style="text-align:right" |386
|1952年6月25日
|ラファエル・M・ロビンソン
|-
| style="text-align:right" |16
| style="text-align:right" |2,203
| style="text-align:right" |664
|1952年10月7日
|ラファエル・M・ロビンソン
|-
| style="text-align:right" |17
| style="text-align:right" |2,281
| style="text-align:right" |687
|1952年10月9日
|ラファエル・M・ロビンソン
|-
| style="text-align:right" |18
| style="text-align:right" |3,217
| style="text-align:right" |969
|1957年9月8日
|[[ハンス・リーゼル]], 使用:[[BESK]]
|-
| style="text-align:right" |19
| style="text-align:right" |4,253
| style="text-align:right" |1,281
|1961年11月3日
|[[アレクサンダー・フルウィッツ]], 使用:[[IBM 7090]]
|-
| style="text-align:right" |20
| style="text-align:right" |4,423
| style="text-align:right" |1,332
|1961年11月3日
|アレクサンダー・フルウィッツ
|-
| style="text-align:right" |21
| style="text-align:right" |9,689
| style="text-align:right" |2,917
|1963年5月11日
|[[ドナルド・ギリース]], 使用:[[ILLIAC II]]
|-
| style="text-align:right" |22
| style="text-align:right" |9,941
| style="text-align:right" |2,993
|1963年5月16日
|ドナルド・ギリース
|-
| style="text-align:right" |23
| style="text-align:right" |11,213
| style="text-align:right" |3,376
|1963年6月2日
|ドナルド・ギリース
|-
| style="text-align:right" |24
| style="text-align:right" |19,937
| style="text-align:right" |6,002
|1971年3月4日
|{{仮リンク|ブライアント・タッカーマン|en|Bryant Tuckerman}}, 使用:[[IBM 360]]/91
|-
| style="text-align:right" |25
| style="text-align:right" |21,701
| style="text-align:right" |6,533
|1978年10月30日
|{{仮リンク|ランドン・カート・ノル|en|Landon Curt Noll}} & [[ローラ・ニッケル]], 使用:[[CDC Cyber]] 174
|-
| style="text-align:right" |26
| style="text-align:right" |23,209
| style="text-align:right" |6,987
|1979年2月9日
|ランドン・カート・ノル
|-
| style="text-align:right" |27
| style="text-align:right" |44,497
| style="text-align:right" |13,395
|1979年4月8日
|[[ハリー・ネルソン]] & {{仮リンク|デイヴィッド・スローウィンスキー|en|David Slowinski}}
|-
| style="text-align:right" |28
| style="text-align:right" |86,243
| style="text-align:right" |25,962
|1982年9月25日
|デイヴィッド・スローウィンスキー
|-
| style="text-align:right" |29
| style="text-align:right" |110,503
| style="text-align:right" |33,265
|1988年1月28日
|[[ウォルター・コルキット]] & [[ルーク・ウェルシュ]]
|-
| style="text-align:right" |30
| style="text-align:right" |132,049
| style="text-align:right" |39,751
|1983年9月19日<ref name="isthe">[[Landon Curt Noll]], [http://www.isthe.com/chongo/tech/math/prime/mersenne.html#largest Mersenne Prime Digits and Names].</ref>
|デイヴィッド・スローウィンスキー
|-
| style="text-align:right" |31
| style="text-align:right" |216,091
| style="text-align:right" |65,050
|1985年9月1日<ref name="isthe" />
|デイヴィッド・スローウィンスキー
|-
| style="text-align:right" |32
| style="text-align:right" |756,839
| style="text-align:right" |227,832
|1992年2月19日
|デイヴィッド・スローウィンスキー & {{仮リンク|ポール・ゲイジ|en|Paul Gage}} 使用:[[Harwell Lab]] [[Cray-2]]<ref>The Prime Pages, [http://primes.utm.edu/notes/756839.html The finding of the 32''nd'' Mersenne].</ref>
|-
| style="text-align:right" |33
| style="text-align:right" |859,433
| style="text-align:right" |258,716
|1994年1月4日<ref>Chris Caldwell, [http://www.math.unicaen.fr/~reyssat/largest.html The Largest Known Primes].</ref>
|デイヴィッド・スローウィンスキー & ポール・ゲイジ
|-
| style="text-align:right" |34
| style="text-align:right" |1,257,787
| style="text-align:right" |378,632
|1996年9月3日
|デイヴィッド・スローウィンスキー & ポール・ゲイジ<ref>The Prime Pages, [http://primes.utm.edu/notes/1257787.html A Prime of Record Size! 2{{sup|1257787}} − 1].</ref>
|-
| style="text-align:right" |35
| style="text-align:right" |1,398,269
| style="text-align:right" |420,921
|1996年11月13日
|[[GIMPS]] / Joel Armengaud<ref name=":0" group="GIMPS" />
|-
| style="text-align:right" |36
| style="text-align:right" |2,976,221
| style="text-align:right" |895,932
|1997年8月24日
|GIMPS / Gordon Spence<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 36th Mersenne Prime, 2<sup>2,976,221</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=1997-09-01|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M2976221|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |37
| style="text-align:right" |3,021,377
| style="text-align:right" |909,526
|1998年1月27日
|GIMPS / Roland Clarkson<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 37th Mersenne Prime, 2<sup>3,021,377</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=1998-02-02|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M3021377|language=en}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |38
| style="text-align:right" |6,972,593
| style="text-align:right" |2,098,960
|1999年6月1日
|GIMPS / Nayan Hajratwala<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 38th Mersenne Prime 2<sup>6,972,593</sup>-1 is now the Largest Known Prime. Stakes Claim to $50,000 EFF Award|publisher=GIMPS|date=1999-06-30|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M6972593|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |39
| style="text-align:right" |13,466,917
| style="text-align:right" |4,053,946
|2001年11月14日
|GIMPS / Michael Cameron<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 39th Mersenne Prime, 2<sup>13,466,917</sup>-1 is now the Largest Known Prime. Researchers Discover Largest Multi-Million-Digit Prime Using Entropia Distributed Computing Grid.|publisher=GIMPS|date=2001-12-06|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M13466917|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |40
| style="text-align:right" |20,996,011
| style="text-align:right" |6,320,430
|2003年11月17日
|GIMPS / Michael Shafer<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 40th Mersenne Prime, 2<sup>20,996,011</sup>-1 is now the Largest Known Prime. Mersenne Project Discovers Largest Known Prime Number on World-Wide Volunteer Computer Grid|publisher=GIMPS|date=2003-12-02|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M20996011|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |41
| style="text-align:right" |24,036,583
| style="text-align:right" |7,235,733
|2004年5月15日
|GIMPS / Josh Findley<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 41st Mersenne Prime, 2<sup>24,036,583</sup>-1 is now the Largest Known Prime. Project Leaders Believe $100,000 Award Within Reach|publisher=GIMPS|date=2004-05-28|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M24036583|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |42
| style="text-align:right" |25,964,951
| style="text-align:right" |7,816,230
|2005年2月18日
|GIMPS / Martin Nowak et al.<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 42nd Mersenne Prime, 2<sup>25,964,951</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=2005-02-27|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M25964951|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |43
| style="text-align:right" |30,402,457
| style="text-align:right" |9,152,052
|2005年12月15日
|GIMPS / {{仮リンク|カーティス・クーパー|en|Curtis Cooper (mathematician)}}, Steven Boone<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 43rd Mersenne Prime, 2<sup>30,402,457</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=2005-12-24|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M30402457|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |44
| style="text-align:right" |32,582,657
| style="text-align:right" |9,808,358
|2006年9月4日
|GIMPS / カーティス・クーパー, Steven Boone<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 44th Mersenne Prime, 2<sup>32,582,657</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=2006-09-11|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M32582657|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |45
| style="text-align:right" |37,156,667
| style="text-align:right" |11,185,272
|2008年9月6日
|GIMPS / Hans-Michael Elvenich<ref name=":1" group="GIMPS" />
|-
| style="text-align:right" |46
| style="text-align:right" |42,643,801
| style="text-align:right" |12,837,064
|2009年4月12日
|GIMPS / Odd Magnar Strindmo
|-
| style="text-align:right" |47
| style="text-align:right" |43,112,609
| style="text-align:right" |12,978,189
|2008年8月23日
|GIMPS / エドソン・スミス<ref name=":1" group="GIMPS" />
|-
| style="text-align:right" |48
| style="text-align:right" |57,885,161
| style="text-align:right" |17,425,170
|2013年1月25日
|GIMPS / カーティス・クーパー<ref>{{cite news
|title = 「これまでで最大の素数」を発見
|author = CASEY JOHNSTON
|newspaper = [[WIRED (雑誌)|WIRED]]
|publisher = WIRED.jp
|date = 2013-02-07
|url = http://wired.jp/2013/02/07/volunteer-discovers-a-new-17-million-digit-prime-number/
|accessdate = 2013-02-10
}}</ref><ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers 48th Mersenne Prime, 2<sup>57,885,161</sup>-1 is now the Largest Known Prime.|publisher=GIMPS|date=2013-02-05|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M57885161|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |{{Refn|49番目以降はメルセンヌ素数としての順番が確定していない。|name=*|group=*}}
| style="text-align:right" |74,207,281
| style="text-align:right" |22,338,618
|2016年1月7日
|GIMPS / カーティス・クーパー<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Project Discovers Largest Known Prime Number: 2<sup>74,207,281</sup>-1|publisher=GIMPS|date=2016-01-19|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M74207281|language=en|accessdate=2022-03-30}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |{{Refn|name=*|group=*}}
| style="text-align:right" |77,232,917
| style="text-align:right" |23,249,425
|2017年12月26日
|GIMPS / Jonathan Pace<ref group="GIMPS">{{Cite press release|title=GIMPS Project Discovers Largest Known Prime Number: 2<sup>77,232,917</sup>-1|publisher=GIMPS|date=2018-01-03|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M77232917|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|-
| style="text-align:right" |{{Refn|name=*|group=*}}
| style="text-align:right" |82,589,933
| style="text-align:right" |24,862,048
|2018年12月7日
|GIMPS / Patrick Laroche<ref group="GIMPS" name=":2">{{Cite press release|title=GIMPS Discovers Largest Known Prime Number: 2<sup>82,589,933</sup>-1|publisher=GIMPS|date=2018-12-21|url=https://www.mersenne.org/primes/?press=M82589933|language=en|accessdate=2022-02-19}}</ref>
|}
{{Reflist|group=*}}
== 未解決問題 ==
*メルセンヌ素数は無数に存在するか?
*素数 {{mvar|p}} に対して {{mvar|M{{sub|p}}}} が合成数であるとき、これを'''メルセンヌ合成数'''と呼ぶことにして、それは無数に存在するか?
*平方因子を持つメルセンヌ数 {{mvar|M{{sub|p}}}}({{mvar|p}} は素数)が存在するか?
*{{mvar|n}} を奇数とするとき、次の3つの条件のうち2つが満たされれば、残りの1つも満足されると予想されており、{{math|''n'' < 10{{sup|5}}}} に対してこの予想は正しいと確認されている<ref>P. T. Bateman, J. L. Selfridge, S. S. Wagstaff Jr., "The new Mersenne conjecture", American Mathematical Monthly, 96 (1989), 125–128.</ref>。
#{{mvar|M{{sub|n}}}} が素数
#{{math|''n'' {{=}} 2{{sup|''k''}} ± 1}} または {{math|4{{sup|''k''}} ± 3}}
#{{math|(2{{sup|''n''}} + 1)/3}} が素数
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|30em}}
=== GIMPS ===
<references group="GIMPS" responsive="" />
== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書
|author = [[淡中忠郎]]
|editor = 数学セミナー編集部編
|date = 1982-09-30
|title = 数の世界
|chapter = メルセンヌ数物語
|series = 数学セミナー増刊 数学セミナー・リーディングス
|publisher = 日本評論社
|pages = 65-67
|ref = {{Harvid|淡中|1982}}
}}
*{{Cite book|和書
|author = 中村滋
|authorlink = 中村滋 (数学者)
|date = 2002-09-30
|title = フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス) フィボナッチ数、リュカ数、黄金分割
|publisher = [[日本評論社]]
|isbn = 4-535-78281-4
|ref = {{Harvid|中村|2002}}
}}
**{{Cite book|和書
|author = 中村滋
|date = 2008-01-25
|title = フィボナッチ数の小宇宙(ミクロコスモス) フィボナッチ数、リュカ数、黄金分割
|edition = 改訂版
|publisher = [[日本評論社]]
|isbn = 978-4-535-78492-5
|ref = {{Harvid|中村|2008}}
}}
*{{Cite book|和書
|editor=[[日本数学会]] 編
|date=1985-12-10
|title=岩波 数学辞典
|edition=第3版
|publisher=岩波書店
|isbn=978-4-00-080016-7
|ref={{Harvid|日本数学会|1985}}
}}
**{{Cite book|和書
|editor=日本数学会 編
|date=2007-03-15
|title=岩波 数学辞典
|edition=第4版
|publisher=岩波書店
|isbn=978-4-00-080309-0
|ref={{Harvid|日本数学会|2007}}
}}
*{{Cite book|和書
|author = 一松信
|authorlink = 一松信
|date = 2007-01-10
|title = 数のエッセイ
|series = ちくま学芸文庫
|publisher = 筑摩書店
|isbn = 978-4-480-09041-6
|ref = {{Harvid|一松|2007}}
}}
*{{Cite book|和書
|author = ユークリッド
|editor = [[ヨハン・ルードウィッヒ・ハイベア|ハイベア]]・[[ハインリッヒ・メンゲ|メンゲ]]編
|others = [[中村幸四郎]]・[[寺阪英孝]]・[[伊東俊太郎]]・[[池田美恵]]訳・解説
|title = ユークリッド原論
|publisher = [[共立出版]]
|ref = {{Harvid|ユークリッド|1971}}
}} - 全13巻の最初の邦訳。
**(ハードカバー)1971年7月。ISBN 4-320-01072-8
**(縮刷版)1996年6月。ISBN 4-320-01513-4
**(追補版)2011年5月。ISBN 978-4-320-01965-2
*{{Cite book|和書
|author = 和田秀男
|authorlink = 和田秀男
|date = 1981-07-10
|title = 数の世界 整数論への道
|series = 科学ライブラリー
|publisher = 岩波書店
|isbn = 4-00-005500-3
|ref = {{Harvid|和田|1981}}
}} - 前編は1次式の整数論、後編は2次式の整数論。
*{{Cite book|和書
|author = 和田秀男
|origdate = 1987-10-20
|date = 1999-04
|title = コンピュータと素因子分解
|edition = 改訂版
|publisher = 遊星社(発行)星雲社(発売)
|id = ISBN 4-7952-6858-4 ISBN 4-7952-6889-4
|ref = {{Harvid|和田|1999}}
}}
*{{Citation
|first = Edouard
|last = Lucas
|authorlink = エドゥアール・リュカ
|title = Théorie des Fonctions Numériques Simplement Périodiques
|journal = American Journal of Mathematics
|volume = 1
|issue = 2
|year = 1878
|language = French
|publisher = Johns Hopkins University Press
|pages = pp. 184-240 et 289-321
|id = {{doi|10.2307/2369308}}
|url = http://edouardlucas.free.fr/oeuvres/Theorie_des_fonctions_simplement_periodiques.pdf
|format = PDF
}}
**(前半の英訳){{Citation
|first = Edouard
|last = Lucas
|others = Translated by Sidney Kravitz
|year = 1969
|title = The Theory of Simply Periodic Numerical Functions
|publisher = Fibonacci Association
|language = English
|page = 77
|url = http://www.fq.math.ca/simply-periodic.html
|format = PDF
}}
*{{Cite journal|last=Erdős|first=P.|author-link=ポール・エルデシュ|last2=Shorey|first2=T.|year=1976|title=On the greatest prime factor of <math>2^p-1</math> for a prime p and other expressions|journal=Acta Arithmetica|volume=30|issue=3|pages=257–265|ref=harv|DOI=10.4064/aa-30-3-257-265|ISSN=0065-1036|authorlink2=:en:Tarlok Nath Shorey}}
== 関連項目 ==
*[[二重メルセンヌ数]]
*[[完全数]]
*[[巨大な素数の一覧]]
*[[ハノイの塔]] - メルセンヌ素数 {{math|2{{sup|127}} − 1}} を発見した[[エドゥアール・リュカ|リュカ]]によって考案されたパズル。解に必要な最短手数とその二進数表記は密接な関係がある。
*[[フェルマー数]]
*[[マラン・メルセンヌ]]
*[[メルセンヌ・ツイスタ]] - メルセンヌ素数を用いた擬似乱数発生アルゴリズム。
*[[メルセンヌ予想]]
*[[レピュニット]]
*[[GIMPS]]
== 外部リンク ==
*{{Kotobank|メルセンヌ数|2=世界大百科事典 第2版}}
*{{PDFlink|[http://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/buturi/hisenkei/nakamula/miya.pdf リュカテストによるメルセンヌ素数の発見法]}}
*{{MathWorld|urlname=MersenneNumber|title=Mersenne number}}
*{{MathWorld|urlname=MersennePrime|title=Mersenne prime}}
*[http://primes.utm.edu/mersenne/ Mersenne Primes: History, Theorems and Lists]{{En icon}}
*[http://primes.utm.edu/largest.html The Largest Known Primes]{{En icon}}
*[http://www.mersenne.org/ GIMPS]{{En icon}}
*[https://science.srad.jp/story/19/01/05/1917244/ 米フロリダ州の男性、わずか4回の試行で51番目のメルセンヌ素数を発見 | スラド サイエンス]
*[https://science.srad.jp/story/18/01/08/1656207/ 「史上最大の素数」約2年ぶりに更新、50番目のメルセンヌ素数で桁数は2324万9425桁 | スラド サイエンス]
*[https://science.srad.jp/story/16/01/24/1826238/ 史上最大、2,233万8,618桁の素数が発見される | スラド サイエンス]
*[https://science.srad.jp/story/08/09/01/0425236/ 45個目のメルセンヌ素数発見か | スラド サイエンス]
*[https://srad.jp/story/06/01/05/0423204/ 43個目のメルセンヌ素数が発見される | スラド]
*[https://srad.jp/story/03/12/03/224237/ 史上最大のメルセンヌ素数発見 | スラド]:40個目
{{素数の分類}}
{{DEFAULTSORT:めるせんぬすう}}
[[Category:数論]]
[[Category:整数の類]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:素数]]
[[Category:数学のエポニム]] | 2003-04-27T12:09:10Z | 2023-12-17T13:23:48Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%AB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%8C%E6%95%B0 |
7,366 | 液体 | 液体(えきたい、英: liquid)は、物質の状態(固体・液体・気体)の一つである。気体と同様に流動的で、容器に合わせて形を変える。液体は気体に比して圧縮性が小さい。気体とは異なり、容器全体に広がることはなく、ほぼ一定の密度を保つ。液体特有の性質として表面張力があり、それによって「濡れ」という現象が起きる。
液体の密度は一般に固体のそれに近く、気体よりもはるかに高い密度を持つ。そこで液体と固体をまとめて「凝集系」などとも呼ぶ。一方で液体と気体は流動性を共有しているため、それらをあわせて流体と呼ぶ。
液体は、固体と気体と並んで物質の三態の一つである。物質内の原子あるいは分子の結合する力が熱振動(格子振動)よりも弱くなった状態であり、構成する粒子が互いの位置関係を拘束しないために自由に移動することができ、いわゆる流体の状態となる。このような状態を物質が液相であるという。
臨界圧力以下ならば、物質ごとに決まった温度で固体から液体へ構造相転移(一次相転移)する。この固体から液体への転移温度が融点である。また、一定の圧力のまま更に温度を上げると分子の振動が強まって分子間の距離が大きくなり、(過熱が起きない場合)ある定まった温度で飽和蒸気圧がその圧力に達し、液体内部から気体が発生する。この時の転移温度が、沸点である。逆に温度を下げれば、気体→(液化)→液体→(凝固)→固体となる。過冷却が起きない限り、凝固点は融点と等しい。但し、融点、沸点は、圧力など外的条件の影響により変化する。
液体状態では、原子、分子は比較的自由かつランダムに動き回っている(ブラウン運動)。
周期表において常温、常圧で単体が液体である元素は、水銀と臭素のみである。常温よりやや高い温度が融点となっている(融点が25度~100度)元素として、フランシウム、セシウム、ガリウム、ルビジウム、リン、カリウム、ナトリウムがある。常温で液体の合金としてガリンスタンなどがある。
純物質で常温常圧で液体のものとして、水、エタノール、各種有機溶媒がある。液体の水は化学と生物学においてきわめて重要である。生きるために水溶液環境で行われる蛋白質の化学反応を用いる生命にとっても液体の水が必須だといわれ、地球外生命体の探索において氷や水蒸気しかない星は除外される。
日常において重要な液体として、家庭用漂白剤のような水溶液、鉱油やガソリンのような複数の物質の混合物、ヴィネグレットソースやマヨネーズのようなエマルジョン、血液などの懸濁液、塗料や乳のようなコロイドがある。
多くの気体は冷却によって液化でき、液体酸素、液体窒素、液体水素、液体ヘリウムなどの液体を作ることができる。常圧では液化できない気体もあり、例えば二酸化炭素は5.1気圧以上でないと液化できない。
古典的な物質の三態では分類できない物質もある。例えば固体と液体の特性をあわせ持つ物質として液晶があり、表示装置に使われているだけでなく、生体膜も多くが液晶である。
液体には様々な用途があり、潤滑剤、溶媒、冷却剤(または冷媒)などに使われている。油圧システムでは液体を使って動力を伝達する。
トライボロジーでは、液体の潤滑剤としての特性を研究する。油などの潤滑剤は、対象装置の運用温度範囲における粘度と流動特性を考慮して選択する。潤滑油はエンジン、トランスミッション、金属加工、液圧システムなどに使われている。航空機の揚力発生等、流体機械の広い範囲でその特性が応用されている。
他の液体や固体を溶かす溶媒には様々な液体が使われている。溶媒には塗料、コーキング材、接着剤など様々な用途がある。ナフサやアセトンは部品や機械に付いた油・油脂・タールなどを洗浄するのによく使われる。界面活性剤は石鹸や洗剤によく見られる。アルコールなどの溶媒は殺菌剤としてもよく使われる。また、化粧品、インク、液体色素レーザーでも使われている。食品加工でもよく使っており、植物油の抽出などの工程で使われている。
液体は気体に比べて熱伝導率が高く、また流動性があるため、機械部品の余分な熱を奪うという用途に適している。ラジエターのような熱交換器に液体を通して熱を除去したり、液体を蒸発させて気化熱を奪うことで冷却することもある。エンジンの冷却には水やグリコールが冷却剤として使われている。原子炉の冷却剤としては、水の他にナトリウムやビスマスといった液体金属も使われている。ロケットの燃焼室を冷却するのに液体推進剤を使ったフィルム冷却が行われている。機械加工では摩擦熱などの余分な熱が加工対象と道具の両方を劣化させるため、水や油を使って冷却する。人間の場合も、汗を蒸発させることで余分な熱を除去している。空調の分野では、水などの液体を使ってある場所から別の場所へ熱を移動させる。
液体は流体であるが、気体と比較すると圧縮性が非常に小さい。これを固体の容器に閉じこめた場合、気体の場合とはやや異なったものが出来る。柔らかい容器に入った液体は、体積は変わらないが変形はするため、気体の場合よりはしっかりとした手応えの衝撃吸収素材となる。ウォーターベッドはこれを利用している。また、内部の容積が変わらないような素材で出来た管に液体を閉じこめた場合、パスカルの原理に従って片方からかかった圧力がもう片方へ直接に伝わる。油圧系はこれを利用している。ポンプや水車のような装置は古代から液体の動きを仕事に変換するのに使われてきた。油圧系ではポンプで油に圧力をかけて押し出し、その力を圧力モーターで動力に変換する。油圧系には様々な用途があり、ブレーキ、トランスミッション、建設機械、航空機の制御系などに使われている。液圧式プレス機械は様々な加工や修理に使われている。
液体は計測装置にも使われることがある。温度計は液体の熱膨張と流動性を利用することが多く、水銀などが使われている。マノメーターは液体の重さを使って圧力を測定する。
液体は気体と同様に流体としての特性を示す。液体は容器に合わせて形状を変化させ、水密な容器ならばかけられた圧力が容器内の全ての表面に均等にかかる。分子が引力を及ぼしあっている状態なので、体積は固体とさほど変わらず、気体のように圧力で大きく変化することはない。気体と異なり、複数の液体がすぐに混ざり合うわけではなく、容器内全体に広がることもなく、それ自身の表面(水面)を形成する。このような特性を応用して油圧(液圧)システムが生まれた。
液体の量は一般に体積あるいは容積で計測される。単位としてはSI単位の立方メートル (m) やその分量単位である1立方デシメートル、すなわち1リットル (1 dm = 1 L = 0.001 m)、立方センチメートル、すなわちミリリットル (1 cm = 1 mL = 0.001 L = 10 m) などがある。
液体の体積は温度と圧力によって決まる。一般に熱すると膨張し、冷却すると収縮する。ただし、0 °C から 4 °C の間の水は例外である。
重力下では、液体は容器および液体内のあらゆるものに圧力をかける。この圧力は全ての方向に加わり、深くなるにつれて増加する。液体が一様な重力場にあるとき、深さ z における圧力 p は次のようになる。
ここで、
である。なお、この式では表面(水面)での圧力をゼロと仮定しており、表面張力の効果を無視している。
液体に沈められた物体には、浮力(アルキメデスの原理)が働く。浮力は他の流体でも見られるが、密度の高い液体で最も強く働く。
液体の圧縮性は小さい。例えば、水の密度は圧力が100バールのオーダー(水面下 1 km の圧力)にならないと目に見える変化をしない。流体力学では液体を非圧縮性のものとして扱うことが多く、特に非圧縮性流体の研究ではそのように扱う。
液体表面(水面)は一種の弾性膜のように振る舞い、表面張力が見られ、滴や泡が形成される。表面張力によって生じる現象としては他に毛細管現象、濡れ、表面張力波などがある。
せん断応力や延伸応力に対して液体が示す抵抗の度合いを粘度で表す。
液体は非混和性を示すことがある。混ぜることができない液体の組み合わせとしては油と水があり、サラダドレッシングで日常的に見かける。逆に混ぜることが可能な組み合わせとしては水とアルコールがある。混合した液体は蒸留によって分離することが可能な場合が多い。
沸点未満の温度では、どんな液相の物体も平衡状態になるまで蒸発する。平衡状態に達すると液体の蒸発と気体の凝縮が同じ速度で起きるようになる。したがって、蒸発した気体を継続的に取り去ると液体は最終的には全て蒸発してしまう。沸点に達すると液体はさらに急速に蒸発するようになる。沸点に達した液体は沸騰するのが普通だが、条件によっては過熱状態になる。
凝固点以下の温度では、液体は凝固し固体となる。蒸発と凝縮の場合とは異なり、常圧下では平衡状態にはならない。過冷却がおきない限り、液体は最終的には完全に固体となる。ただし常圧でない場合は必ずしもそうではなく、例えば水と氷を密閉された圧力容器に入れると、固相と液相が混在した平衡状態となることもある。
液体では、原子は結晶格子を形成しておらず、いかなる長距離秩序も存在しない。そのためX線回折や中性子回折でブラッグピークが現れない。通常条件下では回折パターンは点対称になるが、これは液体の等方性を示している。中心から径方向に見てみると、回折強度は滑らかに振動している。これはプローブ(光子や中性子)の波長 λ とブラッグ角度 θ で与えられる波数 q = (4π/λ)sin θ の関数である静的構造因子 S(q) で説明される。S(q) の振動は液体の近傍の原子間の相関関係を表している。
それらの相関関係のより直観的な指標として動径分布関数 g(r) があり、これは基本的には S(q) のフーリエ変換である。これはある時点の液体内の二体相関の空間的平均を表している。g(r) はある中心点から距離 r までの球の体積内にある粒子数の平均から計算によって決定される。与えられた半径における原子の平均密度は次の式で表される。
ここで、n(r) は距離 r における幅 Δr に存在する原子の平均個数、ρ は平均原子密度である。
g(r) は、回折実験とコンピュータシミュレーションの比較手段となっている。原子間ペアポテンシャル関数と組み合わせて使い、乱雑系の内部エネルギー、ギブスの自由エネルギー、エントロピー、エンタルピーといったマクロな熱力学的パラメータを計算することもできる。
g と r の対応を示した典型的なグラフには次のような重要な特徴がある。
単純液体の動径分布の実験的検証はX線散乱などの手法を用いる。構造的干渉は半径 r の範囲内のピークに限られる。したがって、X線の干渉の条件が満たされたときだけ振幅の減衰したピークが現れる。結果として結晶面に対応したX線回折パターンに似た明暗の帯が周期的に配された結果が得られる。
一般に液体と固体の基本的違いとして、固体がせん断応力に対して弾性的抵抗を示すのに対して、液体はそうではないという点が挙げられる。したがって液体の分子運動は縦波(フォノン)に分解でき、横波は非常に秩序立った結晶質の固体でのみ現れる。すなわち、単純液体はせん断応力という形で加えられた力に耐えることができず、力学的にそれに降伏し巨視的には塑性変形(粘性流)を起こす。さらに言えば、固体はせん断応力に対して局所的に変形するだけで全体の形が保たれるのに対して、液体はナビエ-ストークス方程式で表される粘性流となって大きく変形・流動する。この点が固体と液体の力学的な違いとされている。
しかし連続性についての観測によれば、横波は必ずしも固体のみで伝わるわけではなく、液体でも伝わると結論付けられる。通常の液体での実験でこの結論が確認できないのは、現代の音響学や光学の技法(超音波やレーザー)で得られる振動周期に対して液体中での横波の減衰が極めて素早く起きるためである。そのような条件下では、液体での横波は急激に減衰する。
それらの結論の検証には、単原子分子の液体やガラスの分子動力学法のコンピュータシミュレーションが使われ、短い波長では液体が横波を伝播できることが確認された。この粘弾性の振る舞いは波数が増加するにつれて液体の剛性が重要な要素になるという事実と結びついている。
高周波の横波と縦波の減衰機構は、粘性の液体や重合体やガラスを考慮していた。その後、広範囲の時間的・空間的スケールで観測される構造緩和スペクトルを使って粘性液体のガラス転移を解釈する新たな成果が生まれた。動的光散乱法(または光子相関法)を使った実験では、10秒という短い時間における分子の動きを研究できる。これは、周波数の範囲を 10 Hz かそれ以上に拡張したのと等価である。
したがって、横音響フォノン(横波)と硬化あるいはガラス化の開始には密接な関係があることがわかる。硬化が観測される波長の増大を考慮すると、その現象の周波数への依存性が明らかになる。
液体の熱運動を弾性波の重ね合わせで表すという方法は Brillouin が最初に導入した。したがって凝集系の原子の動きは定常波のフーリエ級数で表され、それらは物理的には様々な方向や波長の原子の振動(密度のゆらぎ)の縦波や横波の重ね合わせと解釈できる。音波の伝播という意味では、縦波すなわち粗密波の速度は物質の体積弾性係数に制限される。密度ρと体積弾性係数 K の比の平方根、すなわち√(K /ρ)は、縦フォノンの伝播速度と等しい。横波の場合密度は一定なので、伝播速度は剛性率によって制限される。
密度と剛性率 G の比の平方根は、横フォノンの速度に等しい。従って、波動の速度は次のようになる:
ここでρは、粒子密度または比体積の逆数である。
E.N. Andrade は、液体における構造変換(無拡散変態)の機構を研究した。彼は固体と液体の分子間力は極めて近いとし、リンデマンの融解則を引用した。それは、単純固体における固有振動の原子振動周波数の正確な値を求めることに成功している。リンデマンは原子の振動の振幅が原子間距離のある割合に達したときに融解が始まるとした。
したがって液体と固体の基本的な違いは分子間力の大きさではなく、分子の振動の振幅だということになる。液相では分子の振動は極めて大きく、分子同士が衝突することも珍しくない。結果として、固体では固定されていた「平衡位置」が液体ではゆっくりと変化していき一定しない。分子の振動周波数は液体と固体で同じである。
Frenkel はまた、硬い弾性ネットワークにおける原子の静的平衡位置について熱運動の力学を考慮した。結晶の硬さは、原子が不変の平衡位置を占めているために熱運動が小振幅の振動にしかならないことによる。一方、液体では原子が恒久的な平衡位置を占めることはないため流動性が生じる。原子または分子の振動周期が適用された外力の時間的尺度にくらべて大きいとき、弾性変形が起きる。逆に振動周期が小さい場合、不可逆な塑性変形が起きる。
融点付近の単純液体および固体の高周波力学の研究において、振動周波数がゼロとなる条件を「熱力学的極限」 (υ → 0) と呼ぶ。融点付近での非弾性光散乱の研究では、十分に高い周波数の振動スペクトルは液体と固体で識別可能な差異が全く見られない。つまり、十分に短くかつ小さい範囲では、融解が起きても物質の力学においては断続的な変化が全く起きない。周波数が低いほど、液体と固体の振る舞いの差異は大きくなる。
固体における原子/分子の拡散(または粒子変位)のメカニズムは、液体における粘性流と凝固の機構と密接に関連している。液体中の分子間の「自由空間」を使った粘度の説明は、常温で液相となる分子同士の「会合」が見られる液体を説明するために修正されてきた。様々な分子が集まって分子会合を形成するとき、それまで分子が自由に動き回っていたある範囲の空間を半ば固体のような系で取り囲む。したがって冷却されると分子の多くが「会合」し、粘度が増す。
粘度は有限の圧縮率を持つ液体では体積の関数とみなすこともでき、同様の議論は粘度への圧力の効果を説明するのにも使える。したがって、圧力増加に伴って粘度も上昇することが予測される。さらに体積は熱によって膨張するが、同時に圧力を増加して体積を一定に保てば、粘度は一定となる。
原子が平衡状態から非平衡状態に遷移するのにかかる平均時間を緩和時間と呼び、マクスウェルの気体分子運動論で最初に言及された。最も単純化した単原子分子の液体の場合、構造緩和 (structural relaxation) とは、液体に圧力がかかってより高密度でコンパクトな分子配置になる場合、あるいは逆に圧力が弱まって低密度な分子配置に変化する場合といった局所構造の秩序の度合いが変化することを指す。相互配向の転位と再配分に関わるため、体積(あるいは圧力)が変化し始めてから局所構造が変化するまで一般に遅れが存在する。そういったプロセスには一定の賦活エネルギーが必要であり、有限の速度でしか進行しない。過冷却液体がガラス転移点付近で不可逆な塑性変形による粘性の緩和を起こすのもこれが原因である。
地球は太陽系において表面に液体の水を湛えた唯一の惑星であり、これがプレートテクトニクスや大気中の二酸化炭素濃度調整、そして生命の存在を許容する特徴づけを行っている。このように、液体の水が惑星表面に存在可能な恒星からの距離領域をハビタブルゾーンと言う。
火星の北半球にかつて液体の水が大量に存在したか否か、そしてどのような理由で現在の姿になったのは議論が分かれるところである。マーズ・エクスプロレーション・ローバーによる探査で見つかった扇状地状地形などから、火星には少なくとも地殻上に広く水が溜まった箇所が1つは存在することを突き止めたが、この規模については未だ分かっていない。金星表面からは河川跡のようなチャネル地形が発見されているが、これは粘度が低い液体の溶岩流が流れた跡である。木星中心にある岩石質の中心部にはまわりに広大な液体の大洋がある可能性を、ハーバード大学教授のカール・セーガンが示唆した。その体積は地球の海の620倍と試算した。
マントルと分離している充分な量の水やメタンなどの液体は、衛星であるタイタン、エウロパ、カリスト、ガニメデ等にも地下に存在すると考えられる。同様に、イオにはマグマの海があると考えられる。液体の水が存在する決め手にはなっていないが、土星の衛星エンケラドゥスには間欠泉が見つかっている。その他の氷状衛星や太陽系外縁天体も内部に液体か、現在は氷結しているが過去には液体であった水を持っていた可能性がある。
太陽系外惑星では、グリーゼ581cがハビタブルゾーンにあると判明した。しかしながら、もし温室効果が過剰ならば、表面に液体の水を維持する以上の気温にある可能性は捨てられない。逆にグリーゼ581dは温室効果によって表面が液体の水を持ちうる温度まで引き上げられている可能性もある。系外惑星オリシスも、その大気が水蒸気を含んでいるかが議論となっている。グリーゼ436bは、「高温の氷」が存在すると考えられている。これらの惑星は液体の水を保持するには高温過ぎるが、そこに水の分子が存在するとすれば、他に適当な温度の惑星が発見される可能性がある。
惑星内部にも液体状の構造が存在する可能性が示唆される。地震波による測定から、地球半径の約半分程度の大きさを持つ核は、外側に液体の外核を持つことが分かった。これは溶融した鉄・ニッケル・硫黄が混ざり合った高密度の流体であり、地磁気を発生させる原動力(ダイナモ効果)となっている。同じ地球型惑星の中では、水星からも磁場が観測されており、これは逆に水星内部にも液体の核が存在する可能性が指摘されている。木星型惑星惑星の内部では、高い圧力によって金属水素が液体状になっていると考えられる。天王星型惑星も内部にアンモニアやメタンが高温・高圧の環境下で凝縮液体となっており、これらの対流が惑星磁場を発生させる元となっている。 | [
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"text": "液体(えきたい、英: liquid)は、物質の状態(固体・液体・気体)の一つである。気体と同様に流動的で、容器に合わせて形を変える。液体は気体に比して圧縮性が小さい。気体とは異なり、容器全体に広がることはなく、ほぼ一定の密度を保つ。液体特有の性質として表面張力があり、それによって「濡れ」という現象が起きる。",
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"text": "液体の密度は一般に固体のそれに近く、気体よりもはるかに高い密度を持つ。そこで液体と固体をまとめて「凝集系」などとも呼ぶ。一方で液体と気体は流動性を共有しているため、それらをあわせて流体と呼ぶ。",
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"text": "液体は、固体と気体と並んで物質の三態の一つである。物質内の原子あるいは分子の結合する力が熱振動(格子振動)よりも弱くなった状態であり、構成する粒子が互いの位置関係を拘束しないために自由に移動することができ、いわゆる流体の状態となる。このような状態を物質が液相であるという。",
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"text": "臨界圧力以下ならば、物質ごとに決まった温度で固体から液体へ構造相転移(一次相転移)する。この固体から液体への転移温度が融点である。また、一定の圧力のまま更に温度を上げると分子の振動が強まって分子間の距離が大きくなり、(過熱が起きない場合)ある定まった温度で飽和蒸気圧がその圧力に達し、液体内部から気体が発生する。この時の転移温度が、沸点である。逆に温度を下げれば、気体→(液化)→液体→(凝固)→固体となる。過冷却が起きない限り、凝固点は融点と等しい。但し、融点、沸点は、圧力など外的条件の影響により変化する。",
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"title": "状態変化"
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"text": "周期表において常温、常圧で単体が液体である元素は、水銀と臭素のみである。常温よりやや高い温度が融点となっている(融点が25度~100度)元素として、フランシウム、セシウム、ガリウム、ルビジウム、リン、カリウム、ナトリウムがある。常温で液体の合金としてガリンスタンなどがある。",
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"text": "純物質で常温常圧で液体のものとして、水、エタノール、各種有機溶媒がある。液体の水は化学と生物学においてきわめて重要である。生きるために水溶液環境で行われる蛋白質の化学反応を用いる生命にとっても液体の水が必須だといわれ、地球外生命体の探索において氷や水蒸気しかない星は除外される。",
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"text": "日常において重要な液体として、家庭用漂白剤のような水溶液、鉱油やガソリンのような複数の物質の混合物、ヴィネグレットソースやマヨネーズのようなエマルジョン、血液などの懸濁液、塗料や乳のようなコロイドがある。",
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"text": "多くの気体は冷却によって液化でき、液体酸素、液体窒素、液体水素、液体ヘリウムなどの液体を作ることができる。常圧では液化できない気体もあり、例えば二酸化炭素は5.1気圧以上でないと液化できない。",
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"text": "古典的な物質の三態では分類できない物質もある。例えば固体と液体の特性をあわせ持つ物質として液晶があり、表示装置に使われているだけでなく、生体膜も多くが液晶である。",
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"text": "液体には様々な用途があり、潤滑剤、溶媒、冷却剤(または冷媒)などに使われている。油圧システムでは液体を使って動力を伝達する。",
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"text": "トライボロジーでは、液体の潤滑剤としての特性を研究する。油などの潤滑剤は、対象装置の運用温度範囲における粘度と流動特性を考慮して選択する。潤滑油はエンジン、トランスミッション、金属加工、液圧システムなどに使われている。航空機の揚力発生等、流体機械の広い範囲でその特性が応用されている。",
"title": "利用"
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"text": "他の液体や固体を溶かす溶媒には様々な液体が使われている。溶媒には塗料、コーキング材、接着剤など様々な用途がある。ナフサやアセトンは部品や機械に付いた油・油脂・タールなどを洗浄するのによく使われる。界面活性剤は石鹸や洗剤によく見られる。アルコールなどの溶媒は殺菌剤としてもよく使われる。また、化粧品、インク、液体色素レーザーでも使われている。食品加工でもよく使っており、植物油の抽出などの工程で使われている。",
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"text": "液体は気体に比べて熱伝導率が高く、また流動性があるため、機械部品の余分な熱を奪うという用途に適している。ラジエターのような熱交換器に液体を通して熱を除去したり、液体を蒸発させて気化熱を奪うことで冷却することもある。エンジンの冷却には水やグリコールが冷却剤として使われている。原子炉の冷却剤としては、水の他にナトリウムやビスマスといった液体金属も使われている。ロケットの燃焼室を冷却するのに液体推進剤を使ったフィルム冷却が行われている。機械加工では摩擦熱などの余分な熱が加工対象と道具の両方を劣化させるため、水や油を使って冷却する。人間の場合も、汗を蒸発させることで余分な熱を除去している。空調の分野では、水などの液体を使ってある場所から別の場所へ熱を移動させる。",
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"text": "液体は流体であるが、気体と比較すると圧縮性が非常に小さい。これを固体の容器に閉じこめた場合、気体の場合とはやや異なったものが出来る。柔らかい容器に入った液体は、体積は変わらないが変形はするため、気体の場合よりはしっかりとした手応えの衝撃吸収素材となる。ウォーターベッドはこれを利用している。また、内部の容積が変わらないような素材で出来た管に液体を閉じこめた場合、パスカルの原理に従って片方からかかった圧力がもう片方へ直接に伝わる。油圧系はこれを利用している。ポンプや水車のような装置は古代から液体の動きを仕事に変換するのに使われてきた。油圧系ではポンプで油に圧力をかけて押し出し、その力を圧力モーターで動力に変換する。油圧系には様々な用途があり、ブレーキ、トランスミッション、建設機械、航空機の制御系などに使われている。液圧式プレス機械は様々な加工や修理に使われている。",
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"text": "液体は計測装置にも使われることがある。温度計は液体の熱膨張と流動性を利用することが多く、水銀などが使われている。マノメーターは液体の重さを使って圧力を測定する。",
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"text": "液体は気体と同様に流体としての特性を示す。液体は容器に合わせて形状を変化させ、水密な容器ならばかけられた圧力が容器内の全ての表面に均等にかかる。分子が引力を及ぼしあっている状態なので、体積は固体とさほど変わらず、気体のように圧力で大きく変化することはない。気体と異なり、複数の液体がすぐに混ざり合うわけではなく、容器内全体に広がることもなく、それ自身の表面(水面)を形成する。このような特性を応用して油圧(液圧)システムが生まれた。",
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"text": "g と r の対応を示した典型的なグラフには次のような重要な特徴がある。",
"title": "構造"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "単純液体の動径分布の実験的検証はX線散乱などの手法を用いる。構造的干渉は半径 r の範囲内のピークに限られる。したがって、X線の干渉の条件が満たされたときだけ振幅の減衰したピークが現れる。結果として結晶面に対応したX線回折パターンに似た明暗の帯が周期的に配された結果が得られる。",
"title": "構造"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "一般に液体と固体の基本的違いとして、固体がせん断応力に対して弾性的抵抗を示すのに対して、液体はそうではないという点が挙げられる。したがって液体の分子運動は縦波(フォノン)に分解でき、横波は非常に秩序立った結晶質の固体でのみ現れる。すなわち、単純液体はせん断応力という形で加えられた力に耐えることができず、力学的にそれに降伏し巨視的には塑性変形(粘性流)を起こす。さらに言えば、固体はせん断応力に対して局所的に変形するだけで全体の形が保たれるのに対して、液体はナビエ-ストークス方程式で表される粘性流となって大きく変形・流動する。この点が固体と液体の力学的な違いとされている。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "しかし連続性についての観測によれば、横波は必ずしも固体のみで伝わるわけではなく、液体でも伝わると結論付けられる。通常の液体での実験でこの結論が確認できないのは、現代の音響学や光学の技法(超音波やレーザー)で得られる振動周期に対して液体中での横波の減衰が極めて素早く起きるためである。そのような条件下では、液体での横波は急激に減衰する。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "それらの結論の検証には、単原子分子の液体やガラスの分子動力学法のコンピュータシミュレーションが使われ、短い波長では液体が横波を伝播できることが確認された。この粘弾性の振る舞いは波数が増加するにつれて液体の剛性が重要な要素になるという事実と結びついている。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "高周波の横波と縦波の減衰機構は、粘性の液体や重合体やガラスを考慮していた。その後、広範囲の時間的・空間的スケールで観測される構造緩和スペクトルを使って粘性液体のガラス転移を解釈する新たな成果が生まれた。動的光散乱法(または光子相関法)を使った実験では、10秒という短い時間における分子の動きを研究できる。これは、周波数の範囲を 10 Hz かそれ以上に拡張したのと等価である。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "したがって、横音響フォノン(横波)と硬化あるいはガラス化の開始には密接な関係があることがわかる。硬化が観測される波長の増大を考慮すると、その現象の周波数への依存性が明らかになる。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "液体の熱運動を弾性波の重ね合わせで表すという方法は Brillouin が最初に導入した。したがって凝集系の原子の動きは定常波のフーリエ級数で表され、それらは物理的には様々な方向や波長の原子の振動(密度のゆらぎ)の縦波や横波の重ね合わせと解釈できる。音波の伝播という意味では、縦波すなわち粗密波の速度は物質の体積弾性係数に制限される。密度ρと体積弾性係数 K の比の平方根、すなわち√(K /ρ)は、縦フォノンの伝播速度と等しい。横波の場合密度は一定なので、伝播速度は剛性率によって制限される。",
"title": "力学"
},
{
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"tag": "p",
"text": "密度と剛性率 G の比の平方根は、横フォノンの速度に等しい。従って、波動の速度は次のようになる:",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "ここでρは、粒子密度または比体積の逆数である。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "E.N. Andrade は、液体における構造変換(無拡散変態)の機構を研究した。彼は固体と液体の分子間力は極めて近いとし、リンデマンの融解則を引用した。それは、単純固体における固有振動の原子振動周波数の正確な値を求めることに成功している。リンデマンは原子の振動の振幅が原子間距離のある割合に達したときに融解が始まるとした。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "したがって液体と固体の基本的な違いは分子間力の大きさではなく、分子の振動の振幅だということになる。液相では分子の振動は極めて大きく、分子同士が衝突することも珍しくない。結果として、固体では固定されていた「平衡位置」が液体ではゆっくりと変化していき一定しない。分子の振動周波数は液体と固体で同じである。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "Frenkel はまた、硬い弾性ネットワークにおける原子の静的平衡位置について熱運動の力学を考慮した。結晶の硬さは、原子が不変の平衡位置を占めているために熱運動が小振幅の振動にしかならないことによる。一方、液体では原子が恒久的な平衡位置を占めることはないため流動性が生じる。原子または分子の振動周期が適用された外力の時間的尺度にくらべて大きいとき、弾性変形が起きる。逆に振動周期が小さい場合、不可逆な塑性変形が起きる。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "融点付近の単純液体および固体の高周波力学の研究において、振動周波数がゼロとなる条件を「熱力学的極限」 (υ → 0) と呼ぶ。融点付近での非弾性光散乱の研究では、十分に高い周波数の振動スペクトルは液体と固体で識別可能な差異が全く見られない。つまり、十分に短くかつ小さい範囲では、融解が起きても物質の力学においては断続的な変化が全く起きない。周波数が低いほど、液体と固体の振る舞いの差異は大きくなる。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "固体における原子/分子の拡散(または粒子変位)のメカニズムは、液体における粘性流と凝固の機構と密接に関連している。液体中の分子間の「自由空間」を使った粘度の説明は、常温で液相となる分子同士の「会合」が見られる液体を説明するために修正されてきた。様々な分子が集まって分子会合を形成するとき、それまで分子が自由に動き回っていたある範囲の空間を半ば固体のような系で取り囲む。したがって冷却されると分子の多くが「会合」し、粘度が増す。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "粘度は有限の圧縮率を持つ液体では体積の関数とみなすこともでき、同様の議論は粘度への圧力の効果を説明するのにも使える。したがって、圧力増加に伴って粘度も上昇することが予測される。さらに体積は熱によって膨張するが、同時に圧力を増加して体積を一定に保てば、粘度は一定となる。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "原子が平衡状態から非平衡状態に遷移するのにかかる平均時間を緩和時間と呼び、マクスウェルの気体分子運動論で最初に言及された。最も単純化した単原子分子の液体の場合、構造緩和 (structural relaxation) とは、液体に圧力がかかってより高密度でコンパクトな分子配置になる場合、あるいは逆に圧力が弱まって低密度な分子配置に変化する場合といった局所構造の秩序の度合いが変化することを指す。相互配向の転位と再配分に関わるため、体積(あるいは圧力)が変化し始めてから局所構造が変化するまで一般に遅れが存在する。そういったプロセスには一定の賦活エネルギーが必要であり、有限の速度でしか進行しない。過冷却液体がガラス転移点付近で不可逆な塑性変形による粘性の緩和を起こすのもこれが原因である。",
"title": "力学"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "地球は太陽系において表面に液体の水を湛えた唯一の惑星であり、これがプレートテクトニクスや大気中の二酸化炭素濃度調整、そして生命の存在を許容する特徴づけを行っている。このように、液体の水が惑星表面に存在可能な恒星からの距離領域をハビタブルゾーンと言う。",
"title": "天体中の液体"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "火星の北半球にかつて液体の水が大量に存在したか否か、そしてどのような理由で現在の姿になったのは議論が分かれるところである。マーズ・エクスプロレーション・ローバーによる探査で見つかった扇状地状地形などから、火星には少なくとも地殻上に広く水が溜まった箇所が1つは存在することを突き止めたが、この規模については未だ分かっていない。金星表面からは河川跡のようなチャネル地形が発見されているが、これは粘度が低い液体の溶岩流が流れた跡である。木星中心にある岩石質の中心部にはまわりに広大な液体の大洋がある可能性を、ハーバード大学教授のカール・セーガンが示唆した。その体積は地球の海の620倍と試算した。",
"title": "天体中の液体"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "マントルと分離している充分な量の水やメタンなどの液体は、衛星であるタイタン、エウロパ、カリスト、ガニメデ等にも地下に存在すると考えられる。同様に、イオにはマグマの海があると考えられる。液体の水が存在する決め手にはなっていないが、土星の衛星エンケラドゥスには間欠泉が見つかっている。その他の氷状衛星や太陽系外縁天体も内部に液体か、現在は氷結しているが過去には液体であった水を持っていた可能性がある。",
"title": "天体中の液体"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "太陽系外惑星では、グリーゼ581cがハビタブルゾーンにあると判明した。しかしながら、もし温室効果が過剰ならば、表面に液体の水を維持する以上の気温にある可能性は捨てられない。逆にグリーゼ581dは温室効果によって表面が液体の水を持ちうる温度まで引き上げられている可能性もある。系外惑星オリシスも、その大気が水蒸気を含んでいるかが議論となっている。グリーゼ436bは、「高温の氷」が存在すると考えられている。これらの惑星は液体の水を保持するには高温過ぎるが、そこに水の分子が存在するとすれば、他に適当な温度の惑星が発見される可能性がある。",
"title": "天体中の液体"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "惑星内部にも液体状の構造が存在する可能性が示唆される。地震波による測定から、地球半径の約半分程度の大きさを持つ核は、外側に液体の外核を持つことが分かった。これは溶融した鉄・ニッケル・硫黄が混ざり合った高密度の流体であり、地磁気を発生させる原動力(ダイナモ効果)となっている。同じ地球型惑星の中では、水星からも磁場が観測されており、これは逆に水星内部にも液体の核が存在する可能性が指摘されている。木星型惑星惑星の内部では、高い圧力によって金属水素が液体状になっていると考えられる。天王星型惑星も内部にアンモニアやメタンが高温・高圧の環境下で凝縮液体となっており、これらの対流が惑星磁場を発生させる元となっている。",
"title": "天体中の液体"
}
] | 液体は、物質の状態(固体・液体・気体)の一つである。気体と同様に流動的で、容器に合わせて形を変える。液体は気体に比して圧縮性が小さい。気体とは異なり、容器全体に広がることはなく、ほぼ一定の密度を保つ。液体特有の性質として表面張力があり、それによって「濡れ」という現象が起きる。 液体の密度は一般に固体のそれに近く、気体よりもはるかに高い密度を持つ。そこで液体と固体をまとめて「凝集系」などとも呼ぶ。一方で液体と気体は流動性を共有しているため、それらをあわせて流体と呼ぶ。 | [[ファイル:Water drop 001.jpg|thumb|液体の[[滴]]は表面積が最小になるよう球形になる。これは、液体の[[表面張力]]によるものである]]
'''液体'''(えきたい、{{lang-en-short|liquid}})は、[[物質の状態]]([[固体]]・液体・[[気体]])の一つである。気体と同様に流動的で、容器に合わせて形を変える。液体は気体に比して[[圧縮率|圧縮性]]が小さい。気体とは異なり、容器全体に広がることはなく、ほぼ一定の[[密度]]を保つ。液体特有の性質として[[表面張力]]があり、それによって「[[濡れ]]」という現象が起きる。
液体の密度は一般に固体のそれに近く、気体よりもはるかに高い密度を持つ。そこで液体と固体をまとめて「[[物性物理学|凝集系]]」などとも呼ぶ。一方で液体と気体は流動性を共有しているため、それらをあわせて[[流体]]と呼ぶ。
== 状態変化 ==
液体は、[[固体]]と[[気体]]と並んで[[物質の状態|物質の三態]]の一つである。物質内の[[原子]]あるいは[[分子]]の[[化学結合|結合]]する力が[[熱振動]]([[格子振動]])よりも弱くなった状態であり、構成する粒子が互いの位置関係を拘束しないために自由に移動することができ、いわゆる[[流体]]の状態となる。このような状態を物質が'''液相'''であるという。
[[臨界点|臨界]][[圧力]]以下ならば、物質ごとに決まった[[温度]]で[[固体]]から液体へ[[構造相転移]](一次相転移)する。この固体から液体への転移温度が[[融点]]である。また、一定の圧力のまま更に温度を上げると分子の振動が強まって分子間の距離が大きくなり、([[過熱 (相転移)|過熱]]が起きない場合)ある定まった温度で飽和[[蒸気]]圧がその圧力に達し、液体内部から[[気体]]が発生する。この時の転移温度が、[[沸点]]である。逆に温度を下げれば、気体→(液化)→液体→(凝固)→固体となる。[[過冷却]]が起きない限り、[[凝固点]]は融点と等しい。但し、融点、沸点は、圧力など外的条件の影響により変化する。
液体状態では、原子、分子は比較的自由かつ[[ランダム]]に動き回っている([[ブラウン運動]])。
== 液体の物質 ==
[[周期表]]において[[常温]]、[[常圧]]で[[単体]]が液体である[[元素]]は、[[水銀]]と[[臭素]]のみである。常温よりやや高い温度が融点となっている(融点が25度~100度)元素として、[[フランシウム]]、[[セシウム]]、[[ガリウム]]、[[ルビジウム]]、[[リン]]、[[カリウム]]、[[ナトリウム]]がある<ref>Theodore Gray, The Elements: A Visual Exploration of Every Known Atom in the Universe New York: Workman Publishing, 2009 p.127 ISBN 1579128149</ref>。常温で液体の[[合金]]として[[ガリンスタン]]などがある。
[[純物質]]で常温常圧で液体のものとして、[[水]]、[[エタノール]]、各種[[有機溶媒]]がある。液体の水は化学と生物学においてきわめて重要である。生きるために水溶液環境で行われる[[蛋白質]]の[[化学反応]]を用いる[[生命]]にとっても液体の水が必須だといわれ、地球外生命体の探索において氷や水蒸気しかない星は除外される<ref group="注">{{cite book|和書|title=空想自然科学入門|chapter=第一部 生物学 4.われわれの知らないようなやつ|pages=69-87|author=アイザック・アシモフ|authorlink=アイザック・アシモフ|translator=小尾信彌、山高昭|publisher=ハヤカワ文庫|edition=18刷|origdate=1978|year=1995|isbn=4-15-050021-5}} ただしアシモフは、この定義は「われわれの知っている生命」すなわち地球の生命体が対象であるという。同項でアシモフは異なる温度や圧力下での生命に関する思考実験を行い、高温から低温にわたり[[フッ化物|フッ化]][[珪素]]・[[硫黄]]・[[水]]・[[アンモニア]]・[[メタン]]・[[水素]]という物質がそれぞれ生命活動の環境になりうると言うが、それらは各温度域で液体であることを前提に置いている。</ref>。
日常において重要な液体として、家庭用[[漂白剤]]のような水[[溶液]]、[[鉱油]]や[[ガソリン]]のような複数の物質の[[混合物]]、[[ヴィネグレットソース]]や[[マヨネーズ]]のような[[エマルジョン]]、[[血液]]などの[[懸濁液]]、[[塗料]]や[[乳]]のような[[コロイド]]がある。
多くの気体は冷却によって[[液化]]でき、[[液体酸素]]、[[液体窒素]]、[[液体水素]]、[[液体ヘリウム]]などの液体を作ることができる。常圧では液化できない気体もあり、例えば[[二酸化炭素]]は5.1[[標準気圧|気圧]]以上でないと液化できない。
古典的な物質の三態では分類できない物質もある。例えば固体と液体の特性をあわせ持つ物質として[[液晶]]があり、表示装置に使われているだけでなく、[[生体膜]]も多くが液晶である。
== 利用 ==
液体には様々な用途があり、[[潤滑剤]]、[[溶媒]]、[[冷却材|冷却剤]](または[[冷媒]])などに使われている。[[油圧]]システムでは液体を使って動力を伝達する。
[[トライボロジー]]では、液体の潤滑剤としての特性を研究する。[[油]]などの潤滑剤は、対象装置の運用温度範囲における[[粘度]]と流動特性を考慮して選択する。潤滑油は[[エンジン]]、[[トランスミッション]]、[[金属加工]]、液圧システムなどに使われている<ref>Theo Mang, Wilfried Dressel [https://books.google.co.jp/books?id=UTdfxf2rkNcC&redir_esc=y&hl=ja ''Lubricants and lubrication''], Wiley-VCH 2007 ISBN 3527314970</ref>。航空機の揚力発生等、流体機械の広い範囲でその特性が応用されている。
他の液体や固体を溶かす溶媒には様々な液体が使われている。溶媒には[[塗料]]、[[コーキング]]材、[[接着剤]]など様々な用途がある。[[ナフサ]]や[[アセトン]]は部品や機械に付いた油・油脂・タールなどを洗浄するのによく使われる。[[界面活性剤]]は[[石鹸]]や[[洗剤]]によく見られる。[[アルコール]]などの溶媒は[[殺菌剤 (医薬品)|殺菌剤]]としてもよく使われる。また、[[化粧品]]、[[インク]]、液体[[色素レーザー]]でも使われている。食品加工でもよく使っており、[[植物油]]の抽出などの工程で使われている<ref>George Wypych [https://books.google.co.jp/books?id=NzhUTvUkpDQC&pg=PA847&redir_esc=y&hl=ja ’’Handbook of solvents’’] William Andrew Publishing 2001 pp. 847-881 ISBN 1895198240</ref>。
液体は気体に比べて[[熱伝導率]]が高く、また流動性があるため、機械部品の余分な熱を奪うという用途に適している。[[ラジエター]]のような[[熱交換器]]に液体を通して熱を除去したり、液体を[[蒸発]]させて[[気化熱]]を奪うことで冷却することもある<ref>N. B. Vargaftik ''Handbook of thermal conductivity of liquids and gases'' CRC Press 1994 ISBN 0849393450</ref>。[[エンジン]]の冷却には水や[[グリコール]]が冷却剤として使われている<ref>Jack Erjavec [https://books.google.co.jp/books?id=U4TBoJB2zgsC&pg=PA309&redir_esc=y&hl=ja ''Automotive technology: a systems approach''] Delmar Learning 2000 p. 309 ISBN 1401848311</ref>。[[原子炉]]の冷却剤としては、水の他に[[ナトリウム]]や[[ビスマス]]といった液体金属も使われている<ref>Gerald Wendt ''The prospects of nuclear power and technology'' D. Van Nostrand Company 1957 p. 266</ref>。[[ロケット]]の燃焼室を冷却するのに[[プロペラント|液体推進剤]]を使ったフィルム冷却が行われている<ref>''Modern engineering for design of liquid-propellant rocket engines'' by Dieter K. Huzel, David H. Huang – American Institute of Aeronautics and Astronautics 1992 p. 99 ISBN 1563470136</ref>。[[機械加工]]では摩擦熱などの余分な熱が加工対象と道具の両方を劣化させるため、水や油を使って冷却する。人間の場合も、[[汗]]を蒸発させることで余分な熱を除去している。[[空気調和|空調]]の分野では、水などの液体を使ってある場所から別の場所へ熱を移動させる<ref>Thomas E Mull ''HVAC principles and applications manual'' McGraw-Hill 1997 ISBN 007044451X</ref>。
液体は流体であるが、気体と比較すると[[圧縮率|圧縮性]]が非常に小さい。これを固体の容器に閉じこめた場合、気体の場合とはやや異なったものが出来る。柔らかい容器に入った液体は、体積は変わらないが変形はするため、気体の場合よりはしっかりとした手応えの衝撃吸収素材となる。ウォーターベッドはこれを利用している。また、内部の容積が変わらないような素材で出来た[[管]]に液体を閉じこめた場合、[[パスカルの原理]]に従って片方からかかった圧力がもう片方へ直接に伝わる。[[油圧]]系はこれを利用している。[[ポンプ]]や[[水車]]のような装置は古代から液体の動きを[[仕事 (物理学)|仕事]]に変換するのに使われてきた。油圧系では[[ポンプ]]で[[油]]に圧力をかけて押し出し、その力を[[圧力モーター]]で動力に変換する。油圧系には様々な用途があり、[[ブレーキ]]、[[トランスミッション]]、[[建設機械]]、[[航空機]]の制御系などに使われている。液圧式[[プレス機械]]は様々な加工や修理に使われている<ref>R. Keith Mobley [https://books.google.co.jp/books?id=8DyLdlfJzoMC&pg=PA1&redir_esc=y&hl=ja ''Fluid power dynamics''] Butterworth-Heinemann 2000 p. vii ISBN 0750671742</ref>。
液体は計測装置にも使われることがある。[[温度計]]は液体の[[熱膨張率|熱膨張]]と流動性を利用することが多く、[[水銀]]などが使われている。[[圧力測定#液柱|マノメーター]]は液体の重さを使って圧力を測定する<ref>Bela G. Liptak [https://books.google.co.jp/books?id=pPMursVsxlMC&pg=PA807&redir_esc=y&hl=ja ''Instrument engineers’ handbook: process control''] CRC Press 1999 p. 807 ISBN 0849310814</ref>。
== 性質 ==
液体は気体と同様に流体としての特性を示す。液体は容器に合わせて形状を変化させ、水密な容器ならばかけられた圧力が容器内の全ての表面に均等にかかる。分子が引力を及ぼしあっている状態なので、体積は固体とさほど変わらず、気体のように圧力で大きく変化することはない。気体と異なり、複数の液体がすぐに混ざり合うわけではなく、容器内全体に広がることもなく、それ自身の表面(水面)を形成する。このような特性を応用して[[油圧]](液圧)システムが生まれた。
[[ファイル:2006-01-14 Surface waves.jpg|thumb|[[水]]の[[表面波]]]]
液体の量は一般に[[体積]]あるいは容積で計測される。単位としては[[国際単位系|SI単位]]の[[立方メートル]] (m<sup>3</sup>) やその分量単位である1立方デシメートル、すなわち1[[リットル]] (1 dm<sup>3</sup> = 1 L = 0.001 m<sup>3</sup>)、[[立方センチメートル]]、すなわちミリリットル (1 cm<sup>3</sup> = 1 mL = 0.001 L = 10<sup>−6</sup> m<sup>3</sup>) などがある。
液体の体積は[[温度]]と[[圧力]]によって決まる。一般に熱すると膨張し、冷却すると収縮する。ただし、0 {{℃}} から 4 {{℃}} の間の[[水]]は例外である。
[[重力場|重力下]]では、液体は容器および液体内のあらゆるものに[[圧力]]をかける。この圧力は全ての方向に加わり、深くなるにつれて増加する。液体が一様な重力場にあるとき、深さ ''z'' における圧力 ''p'' は次のようになる。
:''p'' = ''ρgz''
ここで、
* ''ρ'' は液体の[[密度]](定数と仮定)
* ''g'' は[[重力加速度]]
である。なお、この式では表面(水面)での圧力をゼロと仮定しており、[[表面張力]]の効果を無視している。
液体に沈められた物体には、[[浮力]]([[アルキメデスの原理]])が働く。浮力は他の流体でも見られるが、密度の高い液体で最も強く働く。
液体の[[圧縮率|圧縮性]]は小さい。例えば、水の[[密度]]は圧力が100[[バール (単位)|バール]]のオーダー(水面下 1 km の圧力)にならないと目に見える変化をしない。[[流体力学]]では液体を[[非圧縮性]]のものとして扱うことが多く、特に[[非圧縮性流体]]の研究ではそのように扱う。
液体表面(水面)は一種の弾性膜のように振る舞い、[[表面張力]]が見られ、[[滴]]や[[泡]]が形成される。[[表面張力]]によって生じる現象としては他に[[毛細管現象]]、[[濡れ]]、[[表面張力波]]などがある。
せん断応力や延伸応力に対して液体が示す抵抗の度合いを[[粘度]]で表す。
液体は[[非混和性]]を示すことがある。混ぜることができない液体の組み合わせとしては油と水があり、[[サラダドレッシング]]で日常的に見かける。逆に混ぜることが可能な組み合わせとしては水とアルコールがある。混合した液体は[[蒸留]]によって分離することが可能な場合が多い。
== 相転移 ==
[[ファイル:Phase-diag2.svg|thumb|300px|典型的な[[相図]]。緑の線は圧力による[[融点]]の変化を表す。青い線は圧力による[[沸点]]の変化を示す。赤い線は[[昇華 (化学)|昇華]]の起きる温度と圧力の組み合わせを示している]]
[[沸点]]未満の温度では、どんな液相の物体も平衡状態になるまで蒸発する。平衡状態に達すると液体の蒸発と気体の凝縮が同じ速度で起きるようになる。したがって、蒸発した気体を継続的に取り去ると液体は最終的には全て蒸発してしまう。[[沸点]]に達すると液体はさらに急速に蒸発するようになる。沸点に達した液体は[[沸騰]]するのが普通だが、条件によっては[[過熱 (相転移)|過熱]]状態になる。
[[凝固点]]以下の温度では、液体は[[凝固]]し固体となる。蒸発と凝縮の場合とは異なり、常圧下では平衡状態にはならない。[[過冷却]]がおきない限り、液体は最終的には完全に固体となる。ただし常圧でない場合は必ずしもそうではなく、例えば水と氷を密閉された圧力容器に入れると、固相と液相が混在した平衡状態となることもある。
== 構造 ==
[[ファイル:Teilchenmodell Flüssigkeit.svg|thumb|left|200px|古典的な単原子分子の液体の構造。原子は多数の原子に囲まれているが、原子間の距離の秩序は存在しない]]
液体では、原子は結晶格子を形成しておらず、いかなる[[長距離秩序]]も存在しない。そのため[[X線回折]]や[[中性子回折法|中性子回折]]で[[ブラッグ曲線|ブラッグピーク]]が現れない。通常条件下では回折パターンは点対称になるが、これは液体の[[等方性媒質|等方性]]を示している。中心から径方向に見てみると、回折強度は滑らかに振動している。これはプローブ(光子や中性子)の波長 ''λ'' と[[ブラッグの法則|ブラッグ角度]] ''θ'' で与えられる波数 ''q'' = (4π/''λ'')sin ''θ'' の関数である[[構造定数 (バンド計算)|静的構造因子]] ''S''(''q'') で説明される。''S''(''q'') の振動は液体の近傍の原子間の相関関係を表している。
それらの相関関係のより直観的な指標として[[動径分布関数]] ''g''(''r'') があり、これは基本的には ''S''(''q'') の[[フーリエ変換]]である。これはある時点の液体内の二体相関の空間的平均を表している。''g''(''r'') はある中心点から距離 ''r'' までの球の体積内にある粒子数の平均から計算によって決定される。与えられた半径における原子の平均密度は次の式で表される。
:<math>g(r) = \frac{n(r)}{\rho 4\pi r^2 \Delta r}</math>
ここで、''n''(''r'') は距離 ''r'' における幅 Δ''r'' に存在する原子の平均個数、''ρ'' は平均原子密度である<ref>McQuarrie, D.A., ''Statistical Mechanics'' (Harper Collins, 1976)</ref>。
''g''(''r'') は、回折実験とコンピュータシミュレーションの比較手段となっている。原子間ペアポテンシャル関数と組み合わせて使い、乱雑系の内部エネルギー、ギブスの自由エネルギー、エントロピー、エンタルピーといったマクロな熱力学的パラメータを計算することもできる。
[[ファイル:Lennard-Jones Radial Distribution Function.svg|thumb|300px|[[レナード-ジョーンズ・ポテンシャル|レナード-ジョーンズのモデル流体]]の動径分布関数]]
''g'' と ''r'' の対応を示した典型的なグラフには次のような重要な特徴がある。
# 距離が短い部分(r が小さい)では、''g''(''r'') = 0 である。つまり原子自体に大きさがあるため、ある程度以上に原子同士が近づくことができないことを示している。
# ピークがいくつか現れるが、距離が離れるとピークも小さくなっていく。このピークは原子が互いに近接する原子に取り囲まれていることを示す。距離が離れると1に漸近していくが、これはその液体の平均密度に対応している。
# 距離が離れるに従ってピークが徐々に小さくなるのは、中心の粒子から見た秩序の減少を示している。これは、液体やガラスに見られる「短距離秩序」を表している。
単純液体の動径分布の実験的検証はX線散乱などの手法を用いる。構造的干渉は半径 r の範囲内のピークに限られる。したがって、X線の[[干渉 (物理学)|干渉]]の条件が満たされたときだけ振幅の減衰したピークが現れる。結果として結晶面に対応したX線回折パターンに似た明暗の帯が周期的に配された結果が得られる<ref>Berry, R.S. and Rice, S.A., ''Physical Chemistry'', App.23A: ''X-Ray Scattering in Liquids: Determination of the Structure of a Liquid'' (Oxford University Press, 2000)</ref>。
== 力学 ==
=== 弾性波 ===
一般に液体と固体の基本的違いとして、固体が[[せん断応力]]に対して弾性的抵抗を示すのに対して、液体はそうではないという点が挙げられる。したがって液体の[[気体分子運動論|分子運動]]は[[縦波と横波|縦波]]([[フォノン]])に分解でき、[[縦波と横波|横波]]は非常に秩序立った結晶質の固体でのみ現れる。すなわち、単純液体は[[せん断応力]]という形で加えられた力に耐えることができず、力学的にそれに降伏し巨視的には[[塑性]]変形([[粘性]]流)を起こす。さらに言えば、[[固体]]は[[せん断応力]]に対して局所的に変形するだけで全体の形が保たれるのに対して、液体は[[ナビエ-ストークス方程式]]で表される粘性流となって大きく変形・流動する。この点が固体と液体の力学的な違いとされている<ref>Born, M., The Stability of Crystal Lattices, Proc. Camb. Phil. Soc., Vol. 36, p.160, (1940) doi=10.1017/S0305004100017138; Thermodynamics of Crystals and Melting, J. Chem. Phys., Vol. 7, p. 591 (1939) doi=10.1063/1.1750497; A General Kinetic Theory of Liquids, University Press (1949)</ref>。
しかし連続性についての観測によれば、横波は必ずしも固体のみで伝わるわけではなく、液体でも伝わると結論付けられる。通常の液体での実験でこの結論が確認できないのは、現代の[[音響学]]や[[光学]]の技法([[超音波]]や[[レーザー]])で得られる振動[[周期]]に対して液体中での横波の[[減衰]]が極めて素早く起きるためである。そのような条件下では、液体での横波は急激に減衰する。
それらの結論の検証には、[[単原子分子]]の液体や[[ガラス]]の[[分子動力学法]]のコンピュータシミュレーションが使われ、短い[[波長]]では液体が横波を伝播できることが確認された。この[[粘弾性]]の振る舞いは[[波数]]が増加するにつれて液体の[[剛性]]が重要な要素になるという事実と結びついている<ref>{{cite journal |author=C.A. Angell, J.H.R. Clarke, I.V. Woodcock |title=Interaction Potentials and Glass Formation: A Survey of Computer Experiments |journal=Adv. Chem. Phys. |volume=48 |page=397 |year=1981 |doi=10.1002/9780470142684.ch5}}</ref><ref>{{cite journal |author=C.A. Angell |title=The Glass Transition: Comparison of Computer Simulation and Laboratory Studies |journal=Trans. N.Y. Acad. Sci. |volume=371 |page=136 |year=1981 |doi=10.1111/j.1749-6632.1981.tb55657.x}}</ref><ref>{{cite journal |author=D. Frenkel, J.P. McTague |title=Computer Simulations of Freezing and Supercooled Liquids |journal=Ann. Rev. Phys. Chem. |volume=31 |page=491 |year=1980 |doi=10.1146/annurev.pc.31.100180.002423}}</ref><ref>Levesque, D. et al., ''Computer "Experiments" on Classical Fluids'', Phys. Rev. A, Vol. 2, p. 2514 (1970); Phys. Rev. A, Vol. 7, p. 1690 (1973); Phys. Rev. B, Vol. 20, p. 1077 (1979)</ref><ref>{{cite journal |author=G. Jacucci, I.R McDonald |title=Shear waves in liquid metals |journal=Molec. Phys. |volume=39 |page=515 |year=1980 |doi=10.1080/00268978000100411}}</ref><ref>{{cite journal |author=M.H. Cohen and G.S. Grest |title=Liquid-glass transition: Dependence of the glass transition on heating and cooling rates |journal=Phys. Rev. B |volume=21 |page=4113 |year=1980 |doi=10.1103/PhysRevB.21.4113}}</ref><ref>{{cite journal |author=G.S. Grest, S.R. Nagel, A. Rahman |title=Longitudinal and Transverse Excitations in a Glass |journal=Phys. Rev. Lett. |volume=49 |page=1271 |year=1980 |doi=10.1103/PhysRevLett.49.1271}}</ref>。
[[高周波]]の横波と縦波の減衰機構は、粘性の液体や[[重合体]]やガラスを考慮していた<ref>Mason, W.P., et al., ''Mechanical Properties of Long Chain Molecule Liquids at Ultrasonic Frequencies'', Phys. Rev., Vol. 73, p. 1074 (1948); ''Measurement of Shear Elasticity and Viscosity of Liquids by Means of Ultrasonic Shear Waves'', J. Acoust. Soc. Amer., Vol. 21, p. 58 (1949)</ref>。その後、広範囲の時間的・空間的スケールで観測される[[構造緩和スペクトル]]を使って粘性液体の[[ガラス転移]]を解釈する新たな成果が生まれた。[[動的光散乱法]](または光子相関法)を使った実験では、10<sup>−11</sup>秒という短い時間における分子の動きを研究できる。これは、周波数の範囲を 10<sup>9</sup> Hz かそれ以上に拡張したのと等価である<ref>Litovitz, T.A., et al., ''Ultrasonic Spectroscopy in Liquids'', J. Acoust. Soc. Amer., Vol. 431, p. 681 (1959); ''Ultrasonic Relaxation and Its Relation to Structure in Viscous Liquids'', Vol. 26, p. 566 (1954); ''Mean Free Path and Ultrasonic Vibrational Relaxation in Liquids'', J. Acoust. Soc. Amer., Vol. 32, p. 928 (1960); ''On the Relation of the Intensity of Scattered Light to the Viscoelastic Properties of Liquids and Glasses'', Vol. 41, p. 1601 (1967); Montrose, C.J., et al., B''rillouin Scattering and Relaxation in Liquids'', Vol. 43, p. 117 (1968); Lamacchia, B.T., ''Brillouin Scattering in Viscoelastic Liquids'', Dissertation Abstracts International, Vol. 27-09, p. 3218 (1967)</ref><ref>{{cite journal |author=I.L. Fabelinskii |title=''Molecular Scattering of Light in Liquids'' |journal=Uspekhi Fizicheskikh Nauk |volume=63 |page=355 |year=1957}}</ref>。
したがって、横音響[[フォノン]](横波)と硬化あるいはガラス化の開始には密接な関係があることがわかる。硬化が観測される波長の増大を考慮すると、その現象の周波数への依存性が明らかになる。
液体の熱運動を[[弾性波]]の[[重ね合わせの原理|重ね合わせ]]で表すという方法は Brillouin が最初に導入した。したがって凝集系の原子の動きは[[定常波]]の[[フーリエ級数]]で表され、それらは物理的には様々な方向や波長の原子の振動(密度のゆらぎ)の縦波や横波の重ね合わせと解釈できる。音波の伝播という意味では、縦波すなわち粗密波の速度は物質の[[体積弾性係数]]に制限される。[[密度]]ρと体積弾性係数 ''K'' の比の平方根、すなわち√(''K'' /ρ)は、縦フォノンの伝播速度と等しい。横波の場合[[密度]]は一定なので、伝播速度は剛性率によって制限される<ref>{{cite journal |author=L. Brillouin |title=Diffusion de la lumière et des rayons X par un corps transparent homogène; influence de l'agitation thermique |journal=Annales de Physique |volume=17 |page=88 |year=1922 |doi=}}</ref>。
密度と剛性率 ''G'' の比の平方根は、横フォノンの[[速度]]に等しい。従って、波動の速度は次のようになる{{要出典|date=2012年9月}}:
:<math>V_\text{long}=\sqrt{K/\rho}</math>
:<math>V_\text{trans}=\sqrt{G/\rho}</math>
<!-- 2012年6月5日 (火) 20:56時点でこの式は下記のようでしたが、弾性波の速度としてはおかしいので書き直しました。出典はないのでどなたか確認をお願いします。
:<math>V_{long}=\rho \sqrt{K}</math>
:<math>V_{trans}=\rho \sqrt{G}</math>
-->
ここでρは、粒子密度または[[比体積]]の逆数である。
=== 分子振動 ===
[[:en:Edward Andrade|E.N. Andrade]] は、液体における構造変換([[マルテンサイト変態|無拡散変態]])の機構を研究した。彼は固体と液体の分子間力は極めて近いとし、リンデマンの[[融解]]則を引用した。それは、単純固体における[[固有振動]]の原子振動[[周波数]]の正確な値を求めることに成功している。リンデマンは原子の振動の[[振幅]]が原子間距離のある割合に達したときに融解が始まるとした<ref name="Andrade1934">{{cite journal |author=E.N. Andrade |title=Theory of viscosity of liquids |journal=Phil. Mag. |volume=17 |page=497, 698 |year=1934 |doi=}}</ref><ref>{{cite journal|author=C. Lindemann|title=Kinetic theory of melting|journal=Phys. Zeitschr.|volume=11 |page=609|year=1911|doi=}}</ref>。
したがって液体と固体の基本的な違いは分子間力の大きさではなく、分子の振動の[[振幅]]だということになる。液相では分子の振動は極めて大きく、分子同士が衝突することも珍しくない。結果として、固体では固定されていた「平衡位置」が液体ではゆっくりと変化していき一定しない。分子の振動周波数は液体と固体で同じである。
Frenkel はまた、硬い弾性ネットワークにおける原子の静的平衡位置について熱運動の力学を考慮した。結晶の硬さは、原子が不変の平衡位置を占めているために熱運動が小振幅の振動にしかならないことによる。一方、液体では原子が恒久的な平衡位置を占めることはないため流動性が生じる。原子または分子の振動周期が適用された外力の時間的尺度にくらべて大きいとき、弾性変形が起きる。逆に振動周期が小さい場合、不可逆な塑性変形が起きる<ref>Frenkel, J., ''Kinetic Theory of Liquids'', Translated from Russian (Oxford University Press, 1946)</ref>。
融点付近の単純液体および固体の高周波力学の研究において、振動周波数がゼロとなる条件を「熱力学的極限」 (υ → 0) と呼ぶ。融点付近での非弾性光散乱の研究では、十分に高い周波数の振動スペクトルは液体と固体で識別可能な差異が全く見られない。つまり、十分に短くかつ小さい範囲では、融解が起きても物質の力学においては断続的な変化が全く起きない。周波数が低いほど、液体と固体の振る舞いの差異は大きくなる<ref>Fleury, P.A., ''Central-Peak Dynamics at the Ferroelectric Transition in Lead Germanate'', Phys. Rev. Lett., Vol. 37, p. 1088 (1976); in '''Anharmonic Lattices, Structural Transitions and Melting''', Ed. T. Riste (Noordhoff, 1974); in '''Light Scattering Near Phase Transitions''', Eds. H.Z. Cummins, A. P. Levanyuk (North-Holland, 1983)</ref>。
=== 会合 ===
固体における原子/分子の[[拡散]](または粒子変位)のメカニズムは、液体における粘性流と凝固の機構と密接に関連している。液体中の分子間の「自由空間」を使った[[粘度]]の説明は<ref name="Macleod1923">{{cite journal|author=D.B. Macleod|title=On a relation between the viscosity of a liquid and its coefficient of expansion|journal=Trans. Farad. Soc.|volume=19 |page=6|year=1923|doi=10.1039/tf9231900006}}</ref>、常温で液相となる分子同士の「会合」が見られる液体を説明するために修正されてきた。様々な分子が集まって分子会合を形成するとき、それまで分子が自由に動き回っていたある範囲の空間を半ば固体のような系で取り囲む。したがって冷却されると分子の多くが「会合」し、粘度が増す<ref name="Stewart1930">{{cite journal|author=G.W Stewart|title=The Cybotactic (Molecular Group) Condition in Liquids; the Association of Molecules|journal=Phys. Rev.|volume=35 |page=726|year=1930|doi=10.1103/PhysRev.35.726}}</ref>。
粘度は有限の[[圧縮率]]を持つ液体では体積の関数とみなすこともでき、同様の議論は粘度への[[圧力]]の効果を説明するのにも使える。したがって、圧力増加に伴って粘度も上昇することが予測される。さらに体積は熱によって膨張するが、同時に圧力を増加して体積を一定に保てば、粘度は一定となる。
=== 構造緩和 ===
原子が平衡状態から非平衡状態に遷移するのにかかる平均時間を[[緩和時間]]と呼び、マクスウェルの気体分子運動論で最初に言及された。最も単純化した単原子分子の液体の場合、構造緩和 (structural relaxation) とは、液体に圧力がかかってより高密度でコンパクトな分子配置になる場合、あるいは逆に圧力が弱まって低密度な分子配置に変化する場合といった局所構造の秩序の度合いが変化することを指す。相互配向の転位と再配分に関わるため、体積(あるいは圧力)が変化し始めてから局所構造が変化するまで一般に遅れが存在する。そういったプロセスには一定の賦活エネルギーが必要であり、有限の速度でしか進行しない。過冷却液体が[[ガラス転移点]]付近で不可逆な塑性変形による粘性の緩和を起こすのもこれが原因である<ref>Scherer, G.W., Relaxation in Glass and Composites, Krieger, 1992 ISBN 0471819913</ref><ref>{{cite journal |author=Mason, W.P., et al. |title=Mechanical Properties of Long Chain Molecule Liquids at Ultrasonic Frequencies |journal=Phys. Rev. |volume=73 |page=1074|year=1948 |doi=10.1103/PhysRev.73.1074}}</ref><ref>{{cite journal |author=Montrose, C.J., et al. |title=Brillouin Scattering and Relaxation in Liquids |journal=J. Acoust. Soc. Am. |volume=43 |page=117 |year=1968 |doi=10.1121/1.1910741}}<br/>
{{cite journal|author=Litovits, T.A.|title=Ultrasonic Spectroscopy in Liquids|journal=J. Acoust. Soc. Am. |volume=31|page=681|year=1959}}<br/>
{{cite journal|title=Ultrasonic Relaxation and Its Relation to Structure in Viscous Liquids|journal=J. Acoust. Soc. Am.|volume=26|page=566|year=1954}}{{cite journal |author=Candau, S., et al. |title=Brillouin Scattering in Viscoelastic Liquids |journal=J. Acoust. Soc. Am. |volume=41 |page=1601 |year=1967 |doi=10.1121/1.2143675}}<br/>
{{cite journal|author=Pinnow, D. et al.|title=On the Relation of the Intensity of Scattered Light to the Viscoelastic Properties of Liquids and Glasses|journal=J. Acoust. Soc. Am.|volume=41|page=1601|year=1967|doi=10.1121/1.2143676}}</ref>。
== 天体中の液体 ==
[[地球]]は[[太陽系]]において表面に液体の水を湛えた唯一の[[惑星]]であり、これが[[プレートテクトニクス]]や[[大気]]中の[[二酸化炭素]]濃度調整、そして生命の存在を許容する特徴づけを行っている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~keikei/enlighten/earth.html|title=惑星としての地球|author=倉本圭|publisher=[[北海道大学]]理学部地球惑星科学課|accessdate=2012-02-18}}</ref>。このように、液体の水が惑星表面に存在可能な[[恒星]]からの距離領域を[[ハビタブルゾーン]]と言う<ref>{{Cite web|和書|url= https://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000217.html |title=アストロ・トピックス (217) 太陽系外で発見されたハビタブルゾーンに位置する惑星|publisher=[[国立天文台]] |accessdate=2012-02-18}}</ref>。
[[火星]]の北半球にかつて液体の水が大量に存在したか否か、そしてどのような理由で現在の姿になったのは議論が分かれるところである。[[マーズ・エクスプロレーション・ローバー]]による探査で見つかった[[扇状地]]状地形などから、火星には少なくとも[[地殻]]上に広く水が溜まった箇所が1つは存在することを突き止めたが、この規模については未だ分かっていない<ref>{{Cite journal|和書|author=ジム・ベル/[[コーネル大学]] |year=2009|title=別冊日経サイエンス no.167 見えてきた太陽系の起源と進化|chapter=火星の海の歴史|pages=64-73|isbn=978-4-532-51167-8|publisher=日経サイエンス社}}</ref>。[[金星]]表面からは河川跡のようなチャネル地形が発見されているが、これは粘度が低い液体の[[溶岩流]]が流れた跡である<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.eps.s.u-tokyo.ac.jp/res-edu/space/miyamoto.html|title=研究・プロジェクト紹介|author=宮本英昭|publisher=[[東京大学]]大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻|accessdate=2012-02-18}}</ref>。[[木星]]中心にある[[岩石]]質の中心部にはまわりに広大な液体の[[大洋]]がある可能性を、[[ハーバード大学]]教授の[[カール・セーガン]]が示唆した。その[[体積]]は地球の海の620倍と試算した<ref>{{Cite book|和書|author=アイザック・アシモフ|authorlink=アイザック・アシモフ|year=1963|title=空想自然科学入門|chapter=16.もちろん木星だとも|pages=294-310|publisher=[[早川書房]]|edition=第一八刷|isbn=4-15-050021-5 }}</ref>。
[[マントル]]と分離している充分な量の水や[[メタン]]などの液体は、[[衛星]]である[[タイタン (衛星)|タイタン]]、[[エウロパ (衛星)|エウロパ]]、[[カリスト (衛星)|カリスト]]、[[ガニメデ (衛星)|ガニメデ]]等にも地下に存在すると考えられる<ref name=Hussman2006>Hussmann, H.; Sohl, Frank; Spohn, Tilman (November 2006). "Subsurface oceans and deep interiors of medium-sized outer planet satellites and large trans-neptunian objects". Icarus 185 (1): 258–273. </ref>。同様に、[[イオ (衛星)|イオ]]には[[マグマ]]の海があると考えられる。液体の水が存在する決め手にはなっていないが、[[土星]]の衛星[[エンケラドゥス (衛星)|エンケラドゥス]]には[[間欠泉]]が見つかっている。その他の氷状衛星や[[太陽系外縁天体]]も内部に液体か、現在は氷結しているが過去には液体であった水を持っていた可能性がある<ref name=Hussman2006/>。
[[太陽系外惑星]]では、[[グリーゼ581c]]がハビタブルゾーンにあると判明した。しかしながら、もし[[温室効果]]が過剰ならば、表面に液体の水を維持する以上の[[気温]]にある可能性は捨てられない。逆に[[グリーゼ581d]]は温室効果によって表面が液体の水を持ちうる温度まで引き上げられている可能性もある<ref>{{cite web|url=http://www.eso.org/public/news/eso0915/|title=Lightest exoplanet yet discovered | publisher=European Southern Observatory|language=英語 |accessdate=2012-01-20}}</ref>。系外惑星[[オシリス (惑星)|オリシス]]も、その大気が水蒸気を含んでいるかが議論となっている。[[グリーゼ436b]]は、「高温の氷」が存在すると考えられている<ref>{{cite journal | url =http://www.aanda.org/articles/aa/pdf/2007/35/aa7799-07.pdf | title=Detection of transits of the nearby hot Neptune GJ 436 b | author=M. Gillon ''et al.'' | journal=[[:en:Astronomy and Astrophysics|Astronomy and Astrophysics]] | volume=472 2 |year=2007| page=L13-L16 |format=PDF}}</ref>。これらの惑星は液体の水を保持するには高温過ぎるが、そこに水の分子が存在するとすれば、他に適当な温度の惑星が発見される可能性がある<ref>{{cite web|url=http://uk.reuters.com/article/2007/05/16/science-space-planet-dc-idUKN1621607620070516|title=Hot "ice" may cover recently discovered planet| publisher=Reuters|language=英語 |accessdate=2012-01-20}}</ref>。
惑星内部にも液体状の構造が存在する可能性が示唆される。[[地震波]]による測定から、地球半径の約半分程度の大きさを持つ[[核 (天体)#地球|核]]は、外側に液体の外核を持つことが分かった。これは溶融した[[鉄]]・[[ニッケル]]・[[硫黄]]が混ざり合った高[[密度]]の[[流体]]であり、[[地磁気]]を発生させる原動力([[ダイナモ効果]])となっている<ref>{{Cite web|和書|url= http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/stern-j/dynamos2_j.htm|title=地磁気の起源|author=David P. Stern|publisher=[[京都大学]]大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター |accessdate=2012-02-18}}</ref>。同じ[[地球型惑星]]の中では、[[水星]]からも[[磁場]]が観測されており、これは逆に水星内部にも液体の核が存在する可能性が指摘されている<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~keikei/study.html|title=研究|author=倉本圭|publisher=[[北海道大学]]理学部地球惑星科学課|accessdate=2012-02-18}}</ref>。[[木星型惑星]]惑星の内部では、高い圧力によって[[金属水素]]が液体状になっていると考えられる<ref>{{Cite web|和書|url= http://www.fukuoka-edu.ac.jp/~kanamitu/study/tnp/tnpjp/nineplan/jupiter.htm|title=木星|author=ビル・アーネット|translator=久島昌弘|publisher=[[福岡教育大学]] |accessdate=2012-02-18}}</ref>。天王星型惑星も内部にアンモニアやメタンが高温・高圧の環境下で[[凝縮]]液体となっており、これらの対流が惑星磁場を発生させる元となっている<ref>{{Cite web|和書|url= https://www.wakusei.jp/book/pp/2011/2011-1/2011-1-036.pdf|format=PDF|title=高強度レーザー衝撃圧縮を用いたメガバール領域における水の状態方程式計測|author=木村友亮ら|publisher=日本惑星科学会誌 Vol.20, No.1, 2011 |accessdate=2012-02-18}}</ref>。
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 関連項目 ==
{{Wiktionary|液体}}
* [[融液]] - [[溶液]]
* [[相]] - [[固体]] - [[気体]] - [[蒸気]]
* [[相転移]] - [[凝固点]] - [[融点]] - [[沸点]] - [[臨界点]] - [[昇華 (化学)|昇華]] - [[三重点]]
* [[融解熱]] - [[気化熱]]
* [[化学]] - [[物理学]] - [[物性物理]] - [[流体力学]]
* [[滴]]
* [[非圧縮性]]
== 外部リンク ==
* {{Kotobank}}
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[[Category:液体|*]]
[[Category:物質の相]]
[[Category:相転移]]
[[Category:流体力学]]
[[Category:体積]] | 2003-04-27T12:18:58Z | 2023-11-27T06:50:36Z | false | false | false | [
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7,367 | 印象派 | 印象派(いんしょうは)または印象主義(いんしょうしゅぎ)は、19世紀後半のフランスに発した絵画を中心とした芸術運動であり、当時のパリで連続して開催することで、1870年代から1880年代には突出した存在になった。この運動の名前はクロード・モネの作品『印象・日の出』に由来する。この絵がパリの風刺新聞『ル・シャリヴァリ(フランス語版)』で批評家ルイ・ルロワの槍玉に挙げられ、皮肉交じりに展覧会の名前として記事の中で取り上げられたことがきっかけとなり、「印象派」という新語が生まれた。
印象派の絵画の特徴としては、小さく薄い場合であっても目に見える筆のストローク、戸外制作、空間と時間による光の質の変化の正確な描写、描く対象の日常性、人間の知覚や体験に欠かせない要素としての動きの包摂、斬新な描画アングルなどがあげられる。
印象派は登場当初、この時代には王侯貴族に代わって芸術家たちのパトロン役になっていた国家(芸術アカデミー)に評価されず、印象派展も人気がなく絵も売れなかったが、次第に金融家、百貨店主、銀行家、医師、歌手などに市場が広がり、さらにはアメリカ合衆国市場に販路が開けたことで大衆に受け入れられていった。ビジュアルアートにおける印象派の発展によって、ほかの芸術分野でもこれを模倣する様式が生まれ、印象主義音楽や印象主義文学(英語版) として知られるようになった。
フランスでは17世紀以来、新古典派の影響下にあるアカデミーが美術に関する行政・教育を支配し、その公募展(官展)であるサロンが画家の登竜門として確立していた。アカデミーでは、古代ローマの美術を手本にして歴史や神話、聖書を描いた「歴史画」を高く評価し、その他の絵は低俗とされた。筆跡を残さず光沢のある画面に理想美を描く画法がアカデミーの規範となった。しかし19世紀になると、その規範に従わない若い画家たちが次々に現れ始めた。
これらの画家たちが印象派の先駆けとなった。
初期の印象派の画家たちはその当時の急進派であり、アカデミー絵画のルールを無視した。彼らはウジェーヌ・ドラクロワとJ.M.W.ターナーのような画家たちに影響され、線や輪郭を描くのでなく、絵筆で自由に絵の具をのせて絵を描いた。また当時の実生活の風景を描き、ときには戸外でも描いた。それまでは静物画や肖像画はもちろん、風景画でさえもアトリエで描かれていた(例外はカナレットであり、彼は屋外でカメラ・オブスクラを使って描いたらしい)。
印象派は戸外で制作することで、瞬間的な日の光だけでなく、それが変化していく様子もとらえられることを見つけた。さらに、細部ではなく全体的な視覚的効果を狙って、(従来のように滑らかさや陰影にこだわらず)混色と原色の絵の具による短い断続的なストロークを並べて、あざやかな色彩をそれが振動しているかのように変化させた。
印象派がフランスに現れた時代、イタリアのマッキアイオーリグループやアメリカ合衆国のウィンスロー・ホーマーなど、多くの画家たちが戸外制作を試み始めていた。しかし印象派は、そのスタイルに独特の技法を持ち込んだ。賛同者によれば観察の仕方が変わったのであり、そのスタイルは瞬間と動きとのアート、自然なポーズと構図のアート、色彩を明るく変化させて表現される光の効果のアートである。
批評家や権威者が新しいスタイルを認めなくても、最初は敵対的であった人々までもがだんだんに、印象派は新鮮でオリジナルなモノの見方をしていると思い始めた。細部の輪郭を見るのではなく対象自体を見る感覚を取り戻し、さまざまな技法と表現を創意工夫することで、印象派は新印象派、ポスト印象派、フォービズム、キュビズムの先駆けになった。
19世紀中頃は、皇帝ナポレオン3世がパリを改造する一方で、戦争に突き進むなど変化の多い時代であったが、フランスの美術界は芸術アカデミーが支配していた。アカデミーは伝統的なフランス絵画のスタンダードを継承していた。 歴史的な題材や宗教的なテーマ、肖像画が価値あるものとされ、風景画や静物画は軽んじられた。アカデミーは、慎重に仕上げられていて間近で見てもリアルな絵画を好んだ。 このような絵画は、アーティストの手描き跡が見えないように、細心にブレンドされた正確なストロークで描かれていた。 色彩は抑えられ、金のワニスを施すことでさらにトーンダウンされた。 これに対して印象派が使った化学絵の具の色彩は、もっと明るく鮮やかであった。
アカデミーには、その審査員が作品を選ぶ展覧会であるサロン・ド・パリがあった。ここに作品が展示されたアーティストには賞が与えられ、注文が集まり、名声が高まった。審査員の選考基準はアカデミーの価値判断を表わすが、それはジャン=レオン・ジェロームやアレクサンドル・カバネルの作品で代表されていた。
1860年代の初めに4人の画家、クロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、アルフレッド・シスレー、フレデリック・バジールは、彼らが学んでいたアカデミー美術家のシャルル・グレールのもとで出会った。彼らは歴史的または神話的な情景よりも、風景やその当時の生活を描きたいという共通の興味があることを知った。この世紀の半ばには次第にポピュラーとなったことだが、彼らは田舎に出掛けて戸外で絵を描いた。しかし、一般に行われていたように、スケッチを描いておいて後でアトリエで注意深く作品を完成させるのが目的ではなかった。自然の陽光の中で、19世紀の初めから使えるようになった鮮明な化学合成の顔料を大胆に使うことで彼らは、ギュスターヴ・クールベの写実主義やバルビゾン派よりも軽く明るいやり方で絵を描き始めた。彼らはパリのクリシー通りのカフェ・ゲルボワにたむろした。そこでは若い画家たちの尊敬を集めていた先輩のエドゥアール・マネが議論をリードした。すぐにカミーユ・ピサロ、ポール・セザンヌ、アルマン・ギヨマンもこれに加わった。
1860年代を通じて、サロンの審査会はモネとその友人の作品の約半分を落選とした。従来の様式を順守するアーティストには、この判定は好評であった。1863年にサロンの審査会は、マネの『草上の昼食』を落選とした。その主たる理由は、ピクニックで2人の着衣の男性とともにいる裸の女性を描いたことである。サロンは歴史的寓話的な絵画ではヌードを受け入れていたが、現代の設定でリアルなヌードを描いたことでマネを非難した。 審査会は厳しい言葉でマネの絵画を落選としたので、彼の支持者は唖然となった。この年の異常に多い数の落選作品は、フランスのアーティストを動揺させた。
1863年の落選作品を観たナポレオン3世は、人々が自分で作品を判断できるようにすると宣言し、落選展が組織された。 多くの見物客は冷やかし半分にやって来たが、それでも新しい傾向のアートの存在に対する関心が巻き起こり、落選展には通常のサロンよりも多くの見物客が訪れた。
再度の落選展を求めるアーティストたちの請願は、1867年、そして1872年にも拒否された。 1873年の後半に、モネ、ルノワール、ピサロ、シスレー、セザンヌ、ベルト・モリゾ、 エドガー・ドガなどは「画家、彫刻家、版画家等の芸術家の共同出資会社」(Société anonyme des artistes peintres, sculpteurs et graveurs)を組織し、自分たちの作品の独自の展覧会を企画した。この会社のメンバーには、サロンへの出展を拒否することが期待された。会社はその最初の展覧会に、他の進歩的アーティストもたくさん招き入れた。その中には、年長のウジェーヌ・ブーダンもいた。数年前に彼の作品を見て、モネは戸外制作に踏み切ったのである。マネや、モネたちに影響を与えた画家であるヨハン・ヨンキントは、出展を見合わせた。合計30人の芸術家が、1874年4月に写真家ナダールのスタジオで開かれた最初の展覧会に出展した。展覧会は、後に第1回印象派展と呼ばれるようになる。当時この展覧会は社会に全く受け入れられず、批判的な反応がいろいろあった。なかでもモネとセザンヌは、いちばん激しい攻撃を受けた。評論家で喜劇作家のルイ・ルロワは風刺新聞「ル・シャリヴァリ(フランス語版)」に酷評を書いた。その中ではモネの絵の『印象・日の出』というタイトルにかこつけて、この画家たちを「印象派」と呼んだので、このグループはこの名で知られるようになった。嘲笑の意味も含めて「印象派の展覧会」とタイトルをつけた記事で、ルロワはモネの絵画はせいぜいスケッチであり、完成した作品とは言えないと断じた。見物客どうしの会話のかたちを借りて、ルロワはこう書いている。
ところが、「印象派」という言葉は人々からは好感をもって迎えられ、アーティストたち自身もこの言葉を受け入れた。スタイルや気性は異なるアーティスト同士も、独立と反抗の精神でまず合流したのである。彼らのメンバーはときどき入れ替わったが、1874年から1886年まで一緒に全8回の展覧会を開いた。自由で気ままな筆使いの印象派のスタイルは、モダンライフの同義語になった。
モネとシスレー、モリゾ、ピサロは、一貫して自由気まま、日光、色彩のアートを追求し、「最も純粋な」印象派と評価された。ドガは、色彩よりも描画が優先と信じ、戸外での制作活動にはそれほど価値を見出さなかったので、これらにかなり否定的であった。セザンヌは初期の印象派展には出展したが、1877年の第3回を最後に印象派から離れ、画風も印象派とは異なる独自のものへと変化していった。ルノワールは1880年代に一時的に印象派から離れ、その後は印象派の考え方に完全に賛同することはなかった。エドゥアール・マネは印象派内部では指導者と期待されており、他のメンバーから印象派展への出展を要請されていたが、色として黒を自由に使うということは止めず、印象派展に出展することは一度もなかった。彼はサロンに出品し続け、『スペインの歌手』は1861年には第2位のメダルを獲得した。他の画家たちには「(世間の評価がそこで決まる)サロンこそが真の戦場だ」と説いた。
第4回印象派展が開かれた1879年頃から、グループの中心である画家の中で、(1870年に普仏戦争で亡くなったバジールを除いて)セザンヌ、さらにはルノワール、シスレー、モネのように、サロンに出展するために、グループ展に出展するのをやめる動きが出てきた。グループ内部にも意見の不一致が生じた。例えばアルマン・ギヨマンの会員資格について、ピサロとセザンヌはこれを擁護したが、モネとドガは彼には資格がないと反対した。ドガは1879年の展覧会にメアリー・カサットを招待したが、 同時に、初期の印象派展に出展していたリュドヴィック=ナポレオン・ルピックや、主にサロンに出展していたジャン=フランソワ・ラファエリなど、印象派とは画風がやや異なる写実主義者も加えたいと主張した。これに対してモネは1880年、印象派を「絵の良し悪しは抜きにして先着順でドアを開けている」と非難した。グループは1886年に新印象派のジョルジュ・スーラとポール・シニャックを招待する件で分裂した。この回には象徴派のオディロン・ルドンなど、印象派の活動とは無縁な画家も出展した。結果的に印象派展はこの回が最後となった。全部で8回の印象派展に欠かさず出展したのはピサロだけである。
個々のアーティストが印象派展で金銭的に報いられることはほとんどなかったが、作品は次第に人々に受容され支持されるようになった。これについては、作品を人々の眼に触れさせ、ロンドンやニューヨークで展覧会を開くなどした仲買人のポール・デュラン=リュエルが大きく貢献した。1899年にシスレーは貧困のうちに亡くなったが、ルノワールは1879年にサロンで大成功を収めた。モネは1880年代、ピサロは1890年代初期には、経済的に安定した生活を送れるようになった。この時までには印象派の絵画技法は、だいぶ薄められた形ではあったが、サロンでも当たり前になったのである。
印象派絵画の大きな特徴は、光の動き、変化の質感をいかに絵画で表現するかに重きを置いていることである。時にはある瞬間の変化を強調して表現することもあった。それまでの絵画と比べて絵全体が明るく、色彩に富んでいる。また当時主流だった写実主義などの細かいタッチと異なり、荒々しい筆致が多く、絵画中に明確な線が見られないことも大きな特徴である。また、それまでの画家たちが主にアトリエの中で絵を描いていたのとは対照的に、好んで屋外に出かけて絵を描いた。
印象派への道を準備したフランスの画家には、ロマン主義の色彩主義者ウジェーヌ・ドラクロワ、写実主義の指導者ギュスターヴ・クールベ、バルビゾン派のテオドール・ルソーがいる。 さらに印象派は、印象派と似たスタイルで自然を学び、年若の画家に先輩として助言したジャン=バティスト・カミーユ・コローやウジェーヌ・ブーダンの作品からも多くを学んでいる。
数多くの技法や制作スタイルが、印象派の革新的スタイルに貢献した。これらの技法はそれ以前の画家たちも用いており、フランス・ハルス、ディエゴ・ベラスケス、ピーテル・パウル・ルーベンス、ジョン・コンスタブル、J.M.W ターナーの作品でははっきり見て取れるが、これを全部まとめ一貫して使ったのは印象派が最初である。その技法は以下のとおりである。
このスタイルの開発には新しい技術が役立っている。印象派は、19世紀半ばの細いチューブ入りの絵の具の出現を活用している。これにより画家は、戸外でも室内でものびのびと制作できるようになった。それ以前は画家それぞれが、顔料の粉を作って亜麻仁油に混ぜて絵の具をつくり、動物の膀胱に保存していた。
19世紀になってたくさんの鮮やかな化学合成顔料が販売されるようになった。これにはコバルトブルー、ヴィリジアン、カドミウムイエロー、ウルトラマリンブルーなどがあり、印象派以前の1840年代に既に使われていた。印象派の絵画では、さらに1860年代に新しく販売されるようになったセルリアンブルーとともに、これらの顔料をどんどん使用した。
印象派の絵画スタイルは、段々に明るくなっていった。1860年代には、モネとルノアールはまだ昔ながらの赤茶色またはグレイの下地のキャンバスに描くこともあった。1870年代にはモネとルノアール、ピサロは、通常は明るいグレイまたはベージュ色の下地に描くことを選び、下地は完成した絵ではミドルトーンのはたらきをした。1880年代までには何人かの印象派画家は、白または灰白色の下地を好むようになり、下地の色が完成作品において大きな役割を占めることはなくなった。
ヤン・ステーンのような17世紀のオランダの画家に顕著であるが、印象派以前の画家たちも日常生活的な題材に力を入れていた。しかし、彼らの構図は旧来のもので、メインの題材(主題)に鑑賞者の注意が集まるように構図をアレンジした。印象派は主題と背景の境目を緩やかにしたので、しばしば印象派の絵には、大きな現実の一部を偶然に切りとったかのようなスナップショットに似た効果がある。写真が広がり始め、カメラが携帯可能になった。写真は気取りのない率直な態度で、ありのままの現実をとらえるようになった。写真に影響されて、印象派の画家たちは風景の光の中だけでなく、人々の日常生活の瞬間の動きを表現するようになった。
写真は現実を写し取るための画家のスキルの価値を低下させた。印象派の発展は、写真が突きつけた難題に対する画家たちのリアクションとも考えられる。「本物そっくりのイメージを効率的かつ忠実に生み出す」という点では、肖像画と風景画は不十分だし真実性にも欠けると思われた。
それにもかかわらず、写真のおかげで画家たちは他の芸術的表現手段を追求し始めた。現実を模写することを写真と張り合うのでなく、画家たちは「画像を構想した主観性そのもの、写真に模写した主観性そのものをアートの様式に取り込むよって、彼らが写真よりうまくできる一つのこと」にフォーカスしたのである。印象派は、正確な再現を生み出すのではなく、彼らにそう見える自然を表現することを追求した。これにより画家は「自分の嗜好と良心とに課される暗黙の責務」を担って、彼らの目に移るものを主観的に描くことが可能になった。
画家たちは写真にはない絵の具の特性、例えば色彩をフルに活用した。「写真に対して、主観というオルタナティブを自覚的に提出したのは、印象派が最初であった。」
もう一つ大きな影響を与えたのは、もともとは輸入品の包み紙としてフランスに入ってきた日本の浮世絵(ジャポニズム)である。浮世絵の技法は、印象派の「スナップショット」アングルと斬新な構図に大きく貢献した。モネの『サン・タドレスのテラス』(Terrasse à Sainte-Adresse、1867年)はその例であって、大胆な色の塊りと強い斜線のある構図は浮世絵の影響である。美術史家新関公子は、印象派とジャポニズムの関係について「印象派はゲーテの色彩論(1810年)に端を発する19世紀の色彩学理論を基礎に、自然を自己の感覚に写るままに表現しようとする芸術運動であって、浮世絵が印象派を生んだわけではない。彼らにとって、浮世絵をいかに深く読み取って自分たちの芸術の方法に組み入れるかは、反アカデミズム戦略の一つだった。ジャポニズムは印象派にとって「浮世絵的方法礼讃」なのである」と記している。
エドガー・ドガは熱心な写真家かつ浮世絵の収集家であった。彼の『ダンス教室』(1874年)は、その非対称な構図に写真と浮世絵の両方からの影響が見られる。ダンサーたちは無防備で不恰好な姿勢であり、右下の4分の1は何もない床の空間である。彼はまた『14歳の小さな踊り子』のように、ダンサーの彫刻も残している。
各回の展覧会の参加者などは次のとおりである。
以下の表は主な印象派の画家の一覧である。印象派展出品回の項目が空白になっているのは、その画家が一度も印象派展に出品しなかったことを示す。文献によって印象派の画家の分類が異なっているため、印象派と時期が前後している写実主義、バルビゾン派、ポスト印象派、新印象派の項目も参照されたい。また、印象派の名称は人口に膾炙しているため、現代でもギィ・デサップなど印象派の名を冠される画家が存在する。
画集
概説 | [
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"text": "印象派(いんしょうは)または印象主義(いんしょうしゅぎ)は、19世紀後半のフランスに発した絵画を中心とした芸術運動であり、当時のパリで連続して開催することで、1870年代から1880年代には突出した存在になった。この運動の名前はクロード・モネの作品『印象・日の出』に由来する。この絵がパリの風刺新聞『ル・シャリヴァリ(フランス語版)』で批評家ルイ・ルロワの槍玉に挙げられ、皮肉交じりに展覧会の名前として記事の中で取り上げられたことがきっかけとなり、「印象派」という新語が生まれた。",
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"text": "印象派は登場当初、この時代には王侯貴族に代わって芸術家たちのパトロン役になっていた国家(芸術アカデミー)に評価されず、印象派展も人気がなく絵も売れなかったが、次第に金融家、百貨店主、銀行家、医師、歌手などに市場が広がり、さらにはアメリカ合衆国市場に販路が開けたことで大衆に受け入れられていった。ビジュアルアートにおける印象派の発展によって、ほかの芸術分野でもこれを模倣する様式が生まれ、印象主義音楽や印象主義文学(英語版) として知られるようになった。",
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"text": "フランスでは17世紀以来、新古典派の影響下にあるアカデミーが美術に関する行政・教育を支配し、その公募展(官展)であるサロンが画家の登竜門として確立していた。アカデミーでは、古代ローマの美術を手本にして歴史や神話、聖書を描いた「歴史画」を高く評価し、その他の絵は低俗とされた。筆跡を残さず光沢のある画面に理想美を描く画法がアカデミーの規範となった。しかし19世紀になると、その規範に従わない若い画家たちが次々に現れ始めた。",
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"text": "これらの画家たちが印象派の先駆けとなった。",
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"text": "初期の印象派の画家たちはその当時の急進派であり、アカデミー絵画のルールを無視した。彼らはウジェーヌ・ドラクロワとJ.M.W.ターナーのような画家たちに影響され、線や輪郭を描くのでなく、絵筆で自由に絵の具をのせて絵を描いた。また当時の実生活の風景を描き、ときには戸外でも描いた。それまでは静物画や肖像画はもちろん、風景画でさえもアトリエで描かれていた(例外はカナレットであり、彼は屋外でカメラ・オブスクラを使って描いたらしい)。",
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"text": "印象派は戸外で制作することで、瞬間的な日の光だけでなく、それが変化していく様子もとらえられることを見つけた。さらに、細部ではなく全体的な視覚的効果を狙って、(従来のように滑らかさや陰影にこだわらず)混色と原色の絵の具による短い断続的なストロークを並べて、あざやかな色彩をそれが振動しているかのように変化させた。",
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"text": "印象派がフランスに現れた時代、イタリアのマッキアイオーリグループやアメリカ合衆国のウィンスロー・ホーマーなど、多くの画家たちが戸外制作を試み始めていた。しかし印象派は、そのスタイルに独特の技法を持ち込んだ。賛同者によれば観察の仕方が変わったのであり、そのスタイルは瞬間と動きとのアート、自然なポーズと構図のアート、色彩を明るく変化させて表現される光の効果のアートである。",
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"text": "批評家や権威者が新しいスタイルを認めなくても、最初は敵対的であった人々までもがだんだんに、印象派は新鮮でオリジナルなモノの見方をしていると思い始めた。細部の輪郭を見るのではなく対象自体を見る感覚を取り戻し、さまざまな技法と表現を創意工夫することで、印象派は新印象派、ポスト印象派、フォービズム、キュビズムの先駆けになった。",
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"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "ヤン・ステーンのような17世紀のオランダの画家に顕著であるが、印象派以前の画家たちも日常生活的な題材に力を入れていた。しかし、彼らの構図は旧来のもので、メインの題材(主題)に鑑賞者の注意が集まるように構図をアレンジした。印象派は主題と背景の境目を緩やかにしたので、しばしば印象派の絵には、大きな現実の一部を偶然に切りとったかのようなスナップショットに似た効果がある。写真が広がり始め、カメラが携帯可能になった。写真は気取りのない率直な態度で、ありのままの現実をとらえるようになった。写真に影響されて、印象派の画家たちは風景の光の中だけでなく、人々の日常生活の瞬間の動きを表現するようになった。",
"title": "題材と構図"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "写真は現実を写し取るための画家のスキルの価値を低下させた。印象派の発展は、写真が突きつけた難題に対する画家たちのリアクションとも考えられる。「本物そっくりのイメージを効率的かつ忠実に生み出す」という点では、肖像画と風景画は不十分だし真実性にも欠けると思われた。",
"title": "題材と構図"
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"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "それにもかかわらず、写真のおかげで画家たちは他の芸術的表現手段を追求し始めた。現実を模写することを写真と張り合うのでなく、画家たちは「画像を構想した主観性そのもの、写真に模写した主観性そのものをアートの様式に取り込むよって、彼らが写真よりうまくできる一つのこと」にフォーカスしたのである。印象派は、正確な再現を生み出すのではなく、彼らにそう見える自然を表現することを追求した。これにより画家は「自分の嗜好と良心とに課される暗黙の責務」を担って、彼らの目に移るものを主観的に描くことが可能になった。",
"title": "題材と構図"
},
{
"paragraph_id": 28,
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"text": "画家たちは写真にはない絵の具の特性、例えば色彩をフルに活用した。「写真に対して、主観というオルタナティブを自覚的に提出したのは、印象派が最初であった。」",
"title": "題材と構図"
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{
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"text": "もう一つ大きな影響を与えたのは、もともとは輸入品の包み紙としてフランスに入ってきた日本の浮世絵(ジャポニズム)である。浮世絵の技法は、印象派の「スナップショット」アングルと斬新な構図に大きく貢献した。モネの『サン・タドレスのテラス』(Terrasse à Sainte-Adresse、1867年)はその例であって、大胆な色の塊りと強い斜線のある構図は浮世絵の影響である。美術史家新関公子は、印象派とジャポニズムの関係について「印象派はゲーテの色彩論(1810年)に端を発する19世紀の色彩学理論を基礎に、自然を自己の感覚に写るままに表現しようとする芸術運動であって、浮世絵が印象派を生んだわけではない。彼らにとって、浮世絵をいかに深く読み取って自分たちの芸術の方法に組み入れるかは、反アカデミズム戦略の一つだった。ジャポニズムは印象派にとって「浮世絵的方法礼讃」なのである」と記している。",
"title": "題材と構図"
},
{
"paragraph_id": 30,
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"text": "エドガー・ドガは熱心な写真家かつ浮世絵の収集家であった。彼の『ダンス教室』(1874年)は、その非対称な構図に写真と浮世絵の両方からの影響が見られる。ダンサーたちは無防備で不恰好な姿勢であり、右下の4分の1は何もない床の空間である。彼はまた『14歳の小さな踊り子』のように、ダンサーの彫刻も残している。",
"title": "題材と構図"
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"text": "各回の展覧会の参加者などは次のとおりである。",
"title": "各展覧会の概要"
},
{
"paragraph_id": 32,
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"text": "以下の表は主な印象派の画家の一覧である。印象派展出品回の項目が空白になっているのは、その画家が一度も印象派展に出品しなかったことを示す。文献によって印象派の画家の分類が異なっているため、印象派と時期が前後している写実主義、バルビゾン派、ポスト印象派、新印象派の項目も参照されたい。また、印象派の名称は人口に膾炙しているため、現代でもギィ・デサップなど印象派の名を冠される画家が存在する。",
"title": "画家の一覧"
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"text": "画集",
"title": "関連文献(日本語)"
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"text": "概説",
"title": "関連文献(日本語)"
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] | 印象派(いんしょうは)または印象主義(いんしょうしゅぎ)は、19世紀後半のフランスに発した絵画を中心とした芸術運動であり、当時のパリで連続して開催することで、1870年代から1880年代には突出した存在になった。この運動の名前はクロード・モネの作品『印象・日の出』に由来する。この絵がパリの風刺新聞『ル・シャリヴァリ』で批評家ルイ・ルロワの槍玉に挙げられ、皮肉交じりに展覧会の名前として記事の中で取り上げられたことがきっかけとなり、「印象派」という新語が生まれた。 印象派の絵画の特徴としては、小さく薄い場合であっても目に見える筆のストローク、戸外制作、空間と時間による光の質の変化の正確な描写、描く対象の日常性、人間の知覚や体験に欠かせない要素としての動きの包摂、斬新な描画アングルなどがあげられる。 印象派は登場当初、この時代には王侯貴族に代わって芸術家たちのパトロン役になっていた国家(芸術アカデミー)に評価されず、印象派展も人気がなく絵も売れなかったが、次第に金融家、百貨店主、銀行家、医師、歌手などに市場が広がり、さらにはアメリカ合衆国市場に販路が開けたことで大衆に受け入れられていった。ビジュアルアートにおける印象派の発展によって、ほかの芸術分野でもこれを模倣する様式が生まれ、印象主義音楽や印象主義文学 として知られるようになった。 | {{otheruses}}
<!--{{複数の問題
| 出典の明記 = 2013年9月
| 出典の明記 = 2013年9月
| 独自研究 = 2013年9月
}}
-->
[[ファイル:Monet_-_Impression,_Sunrise.jpg|thumb|350px|[[クロード・モネ|モネ]]『[[印象・日の出]]』]]
'''印象派'''(いんしょうは)または'''印象主義'''(いんしょうしゅぎ)は、[[19世紀]]後半の[[フランス]]に発した[[絵画]]を中心とした{{仮リンク|芸術運動|en|Art movement}}であり、当時の[[パリ]]で連続して開催することで、1870年代から1880年代には突出した存在になった。この運動の名前は[[クロード・モネ]]の作品『[[印象・日の出]]』に由来する。この絵がパリの風刺新聞『{{仮リンク|ル・シャリヴァリ|fr|Le Charivari}}』で批評家[[ルイ・ルロワ]]の槍玉に挙げられ、皮肉交じりに展覧会の名前として記事の中で取り上げられたことがきっかけとなり、「印象派」という新語が生まれた<ref>シルヴィ・パタン; 村上伸子訳 『モネ-印象派の誕生』 (1版) 創元社、2010年、42頁。ISBN 978-4-422-21127-5</ref>。
印象派の絵画の特徴としては、小さく薄い場合であっても目に見える筆のストローク、[[戸外制作]]、空間と時間による光の質の変化の正確な描写、描く対象の日常性、人間の知覚や体験に欠かせない要素としての動きの包摂、斬新な描画アングルなどがあげられる。
印象派は登場当初、この時代には王侯貴族に代わって芸術家たちの[[パトロン]]役になっていた国家([[芸術アカデミー]])に評価されず、印象派展も人気がなく絵も売れなかったが、次第に金融家、百貨店主、銀行家、医師、歌手などに市場が広がり、さらには[[アメリカ合衆国]]市場に販路が開けたことで大衆に受け入れられていった<ref>{{cite|和書|author=海野 弘|title=パトロン物語-アートとマネーの不可思議な関係|publisher=角川書店|date=2002-06-10|edition=初|ISBN=4-04-704087-8|pages=62-71}}</ref>。[[ビジュアルアート]]における印象派の発展によって、ほかの芸術分野でもこれを模倣する様式が生まれ、[[印象主義音楽]]や{{仮リンク|印象主義文学|en|Impressionism (literature)}} として知られるようになった。
[[ファイル:Zvijezda.jpg|thumb|right|200px|[[エドガー・ドガ|ドガ]]『舞台の踊り子』(1878年、[[オルセー美術館]])]]
<!--== 時代背景 ==-->
<!--=== 肖像画と写実主義 ===-->
<!--19世紀頃のヨーロッパでは[[肖像画]]を描くことが一つの[[ステイタス]]であった。また静物画も部屋を彩るアイテムとして必要であった。肖像画では、対象を正確に描写することが重要で、[[遠近法]]などの技法が工夫された。肖像画は大きな需要があったため産業として確立し、学校も多く設立され、技術さえ学べればそこそこの絵が描けるようになっていた。肖像画と言っても顔だけではなく、服装や背景の調度品なども、対象人物の地位を表すものとして重要だった。そのため、それらの物を正確に描く技術も発達した。これらの人物や物を正確に描く絵画のことを[[写実主義]]という。また、当時、写実主義を中心とした保守的な画家は[[アカデミズム]]と呼ばれていた。
-->
<!--=== バルビゾン派 ===-->
<!--[[ファイル:Jean-François Millet (II) 002.jpg|thumb|left|200px|[[ジャン=フランソワ・ミレー|ミレー]]『[[落穂拾い]]』([[1857年]]、[[オルセー美術館]])[[バルビゾン派]]の作品]]
画材道具の発達に伴って、屋外で絵を描くことが可能になった。しかし屋外は部屋の中と違って、日差しが刻々と傾き、天候が変化したりするので、室内のように同じ条件下でゆっくり絵を描くというわけには行かない。細部を省略し、すばやく絵を描く技法が生まれた。この頃の屋外を多く描いた画家たちは「1830年派」(のち[[バルビゾン派]])などと呼ばれる。
-->
<!--=== 写真の発明 ===-->
<!--
絵具が発達し、絵画の教育システムが確立し、絵画が産業化していく一方で、1827年に[[写真]]が発明される。写真は瞬く間に改良されて、肖像写真として利用されるようになる。正確に描写するだけなら、絵画より写真の方がはるかに正確で安価で納期が早い。写真が普及し始めると画家たちが職にあぶれるようになった。また、瞬間をとらえた写真の映像は、当時の人々にとって全く新しい視覚であり、新たな[[インスピレーション]]を画家たちに与えることになった。
-->
<!--=== エドゥアール・マネ ===-->
<!--[[ファイル:Edouard Manet 024.jpg|thumb|right|200px|マネ『[[草上の昼食]]』1862-63、[[オルセー美術館]]]]
1860年代、[[エドゥアール・マネ]]が一般の女性をそのまま裸婦として描いた作品を発表した。当時の裸婦像は神話や聖書のエピソードとして描くのが普通で、マネの裸婦の絵画は激しい反発を受ける。
-->
<!--=== ジャポニスム ===-->
<!--多くの画家が表現方法を模索する中、[[1867年]][[パリ万国博覧会 (1867年)|パリ万国博覧会]]が行われる。これには日本の[[幕府]]、[[薩摩藩]]、[[佐賀藩]]が万博に出展し、日本の工芸品の珍奇な表現方法が大いに人気を集めた。次の[[1878年]][[パリ万国博覧会 (1878年)|パリ万博]]のときには既に[[ジャポニスム]]は一大ムーブメントになっていた。日本画の自由な平面構成による空間表現や、浮世絵の鮮やかな色使いは当時の画家に強烈なインスピレーションを与えた。そして何よりも、絵画は写実的でなければならない、とする制約から画家たちを開放させる大きな後押しとなった。
-->
== 前史 ==
[[File:Eugène Delacroix - La liberté guidant le peuple.jpg|thumb|right|220px|ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』(1831年、ルーブル・ランス)]]
フランスでは17世紀以来、[[新古典主義|新古典派]]の影響下にある[[芸術アカデミー|アカデミー]]が美術に関する行政・教育を支配し、その公募展(官展)である[[サロン・ド・パリ|サロン]]が画家の登竜門として確立していた。アカデミーでは、[[古代ローマ]]の美術を手本にして歴史や神話、聖書を描いた「[[歴史画]]」を高く評価し、その他の絵は低俗とされた。筆跡を残さず光沢のある画面に理想美を描く画法がアカデミーの規範となった{{Sfn|島田紀夫|2004|p=22-25}}。しかし19世紀になると、その規範に従わない若い画家たちが次々に現れ始めた。
*'''[[ロマン主義]]'''の画家たちは遠いはるかな過去の歴史ではなく、鋭い感受性をもって同時代の出来事に情熱的に感情移入した。[[テオドール・ジェリコー]]の『[[メデューズ号の筏]]』(1819年)は、この難破事件から受けた大きな衝撃をばねにして描かれた<ref>{{Cite web|和書| url=http://www.salvastyle.com/menu_romantic/gericault_meduse.html|accessdate=2014-11-02|date=2008-03-17|title=テオドール・ジェリコー-メデュース号の筏-(画像・壁紙)}}</ref>。[[ウジェーヌ・ドラクロワ]]の『[[民衆を導く自由の女神]]』は、1830年の[[フランス7月革命|7月革命]]をその直後に描き、絵の中では作者自身ともされる[[シルクハット]]の男性が銃を携えている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.louvre.fr/jp/oeuvre-notices/%E3%80%8A7%E6%9C%8828%E6%97%A5%EF%BC%8D%E6%B0%91%E8%A1%86%E3%82%92%E5%B0%8E%E3%81%8F%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%AE%E5%A5%B3%E7%A5%9E%E3%80%8B|title=≪7月28日-民衆を導く自由の女神≫|accessdate=2014-11-02}}</ref>。どちらも、静かで伝統的な理想美を追求する新古典派にはない制作態度である。絵画技法としては、色彩の多様性やスピード感、正面性にとらわれない自由な視角が特徴である{{Sfn|島田紀夫|2004|p=27}}。
[[File:Eugène Boudin 011.jpg|thumb|right|220px|[[ウジェーヌ・ブーダン]]『トルヴィルの浜辺』(1868年、個人蔵)]]
*'''[[写実主義]]'''<ref group="注釈">広義の写実主義は西洋美術の伝統であり、アカデミーや新古典派も見えるとおりに描きながら理想的な形へ整えていく写実描写を実践している。ここで言及しているのは、そのような理想化は一切しないで、ありのままに捉えようとする運動としての19世紀の写実主義(レアリスム)のこと。</ref>の画家たちも、やはり新古典派のような歴史画ではなく、同時代の社会のありのままの現実を描こうとした。[[ギュスターヴ・クールベ]]の『{{仮リンク|石割人夫|en|The Stone Breakers}}』、[[ジャン・フランソワ・ミレー]]の『[[種まく人 (絵画)|種まく人]]』や『[[晩鐘 (絵画)|晩鐘]]』『[[落穂拾い (絵画)|落穂拾い]]』、[[オノレ・ドーミエ]]の『{{仮リンク|三等客車 (絵画)|label=三等客車|en|The Third-Class Carriage}}』は、現実に生活している労働者や農民、自然の姿を忠実に描こうとした{{Sfn|「美術検定」実行委員会|2008|p=67}}。新古典派同様の暗い画面であるが、クールベはへらを使った力強いタッチ(筆触)で描いた{{Sfn|島田紀夫|2004|p=80}}。
*'''[[バルビゾン派]]'''の画家たちは都会にはない自然の美しさに魅せられ、1820年ごろから{{仮リンク|フォンテーヌブローの森|fr|Forêt de Fontainebleau}}で風景画に専念した。[[バルビゾン]]派という呼称は、彼らの多くが滞在した村の名前に由来する。代表的な画家に、[[カミーユ・コロー]]、[[テオドール・ルソー]]などがいる。ミレーも晩年には彼らに合流した。彼らは戸外でスケッチをしてアトリエで完成させたが、のちの印象派の画家たちは[[戸外制作]]ですべてを仕上げた{{Sfn|「美術検定」実行委員会|2008|p=68}}。また1860年代には、バルビゾン派の流れを汲むコロー、[[シャルル=フランソワ・ドービニー]]、[[ウジェーヌ・ブーダン]]、[[ヨハン・ヨンキント]]などが風景のよいセーヌ河口[[オンフルール]]の{{仮リンク|サン・シメオン農場|fr|Ferme Saint-Siméon}}に集まるようになり、印象派に直結する海辺や港の風景画を描いた{{Sfn|島田紀夫|2004|p=26-27}}。
これらの画家たちが印象派の先駆けとなった。
== 概要 ==
[[File:Pierre-Auguste Renoir, Le Moulin de la Galette.jpg|thumb|right|[[ピエール=オーギュスト・ルノワール]]『[[ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会|ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏場]]』(1876年、[[オルセー美術館]])]]
初期の印象派の画家たちはその当時の急進派であり、[[芸術アカデミー#サロン|アカデミー]]絵画のルールを無視した。彼らは[[ウジェーヌ・ドラクロワ]]と[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|J.M.W.ターナー]]のような画家たちに影響され、線や輪郭を描くのでなく、絵筆で自由に絵の具をのせて絵を描いた。また当時の実生活の風景を描き、ときには戸外でも描いた。それまでは[[静物画]]や[[肖像画]]はもちろん、[[風景画]]でさえもアトリエで描かれていた(例外は[[カナレット]]であり、彼は屋外で[[カメラ・オブスクラ]]を使って描いたらしい)。
印象派は戸外で制作することで、瞬間的な日の光だけでなく、それが変化していく様子もとらえられることを見つけた。さらに、細部ではなく全体的な視覚的効果を狙って、(従来のように滑らかさや陰影にこだわらず)混色と原色の絵の具による短い断続的なストロークを並べて、あざやかな色彩をそれが振動しているかのように変化させた。
印象派がフランスに現れた時代、[[イタリア]]の[[マッキアイオーリ]]グループやアメリカ合衆国の[[ウィンスロー・ホーマー]]など、多くの画家たちが[[戸外制作]]を試み始めていた。しかし印象派は、そのスタイルに独特の技法を持ち込んだ。賛同者によれば観察の仕方が変わったのであり、そのスタイルは瞬間と動きとのアート、自然なポーズと構図のアート、色彩を明るく変化させて表現される光の効果のアートである。
批評家や権威者が新しいスタイルを認めなくても、最初は敵対的であった人々までもがだんだんに、印象派は新鮮でオリジナルなモノの見方をしていると思い始めた。細部の輪郭を見るのではなく対象自体を見る感覚を取り戻し、さまざまな技法と表現を創意工夫することで、印象派は[[新印象派]]、[[ポスト印象派]]、[[フォービズム]]、[[キュビズム]]の先駆けになった。
== 形成 ==
19世紀中頃は、皇帝[[ナポレオン3世]]がパリを改造する一方で、戦争に突き進むなど変化の多い時代であったが、フランスの美術界は[[芸術アカデミー]]が支配していた。アカデミーは伝統的なフランス絵画のスタンダードを継承していた。 歴史的な題材や宗教的なテーマ、肖像画が価値あるものとされ、風景画や静物画は軽んじられた。アカデミーは、慎重に仕上げられていて間近で見てもリアルな絵画を好んだ。 このような絵画は、アーティストの手描き跡が見えないように、細心にブレンドされた正確なストロークで描かれていた<ref>Nathalia Brodskaya, Impressionism, Parkstone International, 2014, pp. 13-14</ref>。 色彩は抑えられ、金の[[ワニス]]を施すことでさらにトーンダウンされた。 これに対して印象派が使った化学絵の具の色彩は、もっと明るく鮮やかであった<ref name="The Met">[http://www.metmuseum.org/toah/hd/imml/hd_imml.htm Samu, Margaret. "Impressionism: Art and Modernity". In Heilbrunn Timeline of Art History. New York: The Metropolitan Museum of Art, 2000 (October 2004)]</ref>。
アカデミーには、その審査員が作品を選ぶ[[展覧会]]である[[サロン・ド・パリ]]があった。ここに作品が展示されたアーティストには賞が与えられ、注文が集まり、名声が高まった。審査員の選考基準はアカデミーの価値判断を表わすが、それは[[ジャン=レオン・ジェローム]]や[[アレクサンドル・カバネル]]の作品で代表されていた。
[[File:Frédéric Bazille - Bazille's Studio - Google Art Project.jpg|thumb|333px|[[フレデリック・バジール]]『バジールのアトリエ、ラ・コンダミンヌ通り』(1870年、[[オルセー美術館]])
左から右へ座っているのがルノワール、階段に立つ[[エミール・ゾラ]]、マネとモネ(帽子着用)、中央の背の高い人物がバジール、ピアノに向かっているのは音楽家の{{仮リンク|エドモン・メートル|fr|Edmond_Maître}}<ref>[The Art Book, 1994 Phaidon Press, page 33, ISBN 91-0-056859-7 http://uk.phaidon.com/store/art/the-art-book-mini-format-9780714836256/]</ref>]]
1860年代の初めに4人の画家、[[クロード・モネ]]、[[ピエール=オーギュスト・ルノワール]]、[[アルフレッド・シスレー]]、[[フレデリック・バジール]]は、彼らが学んでいたアカデミー美術家の[[シャルル・グレール]]のもとで出会った。彼らは歴史的または神話的な情景よりも、風景やその当時の生活を描きたいという共通の興味があることを知った。この世紀の半ばには次第にポピュラーとなったことだが、彼らは田舎に出掛けて戸外で絵を描いた。しかし、一般に行われていたように、スケッチを描いておいて後でアトリエで注意深く作品を完成させるのが目的ではなかった<ref>Bomford et al. 1990, pp. 21–27</ref>。自然の陽光の中で、19世紀の初めから使えるようになった鮮明な化学合成の顔料を大胆に使うことで彼らは、[[ギュスターヴ・クールベ]]の[[写実主義]]や[[バルビゾン派]]よりも軽く明るいやり方で絵を描き始めた。彼らはパリのクリシー通りの[[カフェ・ゲルボワ]]にたむろした。そこでは若い画家たちの尊敬を集めていた先輩の[[エドゥアール・マネ]]が議論をリードした。すぐに[[カミーユ・ピサロ]]、[[ポール・セザンヌ]]、[[アルマン・ギヨマン]]もこれに加わった<ref>Greenspan, Taube G. "Armand Guillaumin", ''Grove Art Online. Oxford Art Online'', Oxford University Press</ref>。
[[File:Edouard Manet - Luncheon on the Grass - Google Art Project.jpg|thumb|[[エドゥアール・マネ]]『[[草上の昼食]]』(1863年)]]
1860年代を通じて、サロンの審査会はモネとその友人の作品の約半分を落選とした。従来の様式を順守するアーティストには、この判定は好評であった<ref>Seiberling, Grace, "Impressionism", ''Grove Art Online. Oxford Art Online'', Oxford University Press</ref>。1863年にサロンの審査会は、マネの『[[草上の昼食]]』を落選とした。その主たる理由は、ピクニックで2人の着衣の男性とともにいる裸の女性を描いたことである。サロンは歴史的寓話的な絵画ではヌードを受け入れていたが、現代の設定でリアルなヌードを描いたことでマネを非難した<ref>Denvir (1990), p.133</ref>。 審査会は厳しい言葉でマネの絵画を落選としたので、彼の支持者は唖然となった。この年の異常に多い数の落選作品は、フランスのアーティストを動揺させた。
1863年の落選作品を観たナポレオン3世は、人々が自分で作品を判断できるようにすると宣言し、[[落選展]]が組織された。 多くの見物客は冷やかし半分にやって来たが、それでも新しい傾向のアートの存在に対する関心が巻き起こり、落選展には通常のサロンよりも多くの見物客が訪れた<ref>Denvir (1990), p.194</ref>。
[[File:Alfred Sisley 001.jpg|thumb|left|[[アルフレッド・シスレー]]『サン・マルタン運河の眺め』(1870年、[[オルセー美術館]])]]
再度の落選展を求めるアーティストたちの請願は、1867年、そして1872年にも拒否された。 1873年の後半に、モネ、ルノワール、ピサロ、シスレー、セザンヌ、[[ベルト・モリゾ]]、 [[エドガー・ドガ]]などは「[[画家、彫刻家、版画家等の芸術家の共同出資会社]]」([[:fr:Société_anonyme_des_artistes_peintres,_sculpteurs_et_graveurs|''Société anonyme des artistes peintres, sculpteurs et graveurs'']])を組織し、自分たちの作品の独自の展覧会を企画した<ref>Bomford et al. 1990, p. 209</ref>。この会社のメンバーには、サロンへの出展を拒否することが期待された。会社はその最初の展覧会に、他の進歩的アーティストもたくさん招き入れた。その中には、年長の[[ウジェーヌ・ブーダン]]もいた。数年前に彼の作品を見て、モネは戸外制作に踏み切ったのである<ref>Denvir (1990), p.32</ref>。マネや、モネたちに影響を与えた画家である[[ヨハン・ヨンキント]]は、出展を見合わせた。合計30人の芸術家が、1874年4月に写真家[[ナダール]]のスタジオで開かれた最初の展覧会に出展した。展覧会は、後に[[第1回印象派展]]と呼ばれるようになる。当時この展覧会は社会に全く受け入れられず、批判的な反応がいろいろあった。なかでもモネとセザンヌは、いちばん激しい攻撃を受けた。評論家で喜劇作家の[[ルイ・ルロワ]]は風刺新聞「{{仮リンク|ル・シャリヴァリ|fr|Le Charivari}}」に酷評を書いた。その中ではモネの絵の『[[印象・日の出]]』というタイトルにかこつけて、この画家たちを「印象派」と呼んだので、このグループはこの名で知られるようになった。嘲笑の意味も含めて「[[s:印象派の展覧会|印象派の展覧会]]」とタイトルをつけた記事で、ルロワはモネの絵画はせいぜいスケッチであり、完成した作品とは言えないと断じた。見物客どうしの会話のかたちを借りて、ルロワはこう書いている。
{{quotation|''印象かぁー。確かにわしもそう思った。わしも印象を受けたんだから。つまり、その印象が描かれているというわけだなぁー。だが、何という放漫、何といういい加減さだ! この海の絵よりも作りかけの壁紙の方が、まだよく出来ている位だ''<ref>Rewald (1973), p. 323</ref>。}}
[[File:Claude Monet - Woman with a Parasol - Madame Monet and Her Son - Google Art Project.jpg|thumb|upright|[[クロード・モネ]], 『'''[[散歩、日傘をさす女性]]'''』(1875年、[[ナショナル・ギャラリー (ワシントン)]])]]
ところが、「印象派」という言葉は人々からは好感をもって迎えられ、アーティストたち自身もこの言葉を受け入れた<ref>クリストフ・ハインリヒ; ABC Enterprises Inc. (Mikiko Inoue)訳 『モネ』 TASCHEN、2006年、32頁。ISBN 978-4-88783-012-7</ref>。スタイルや気性は異なるアーティスト同士も、独立と反抗の精神でまず合流したのである。彼らのメンバーはときどき入れ替わったが、1874年から1886年まで一緒に全8回の展覧会を開いた。自由で気ままな筆使いの印象派のスタイルは、モダンライフの同義語になった<ref name="The Met" />。
モネとシスレー、モリゾ、ピサロは、一貫して自由気まま、日光、色彩のアートを追求し、「最も純粋な」印象派と評価された。ドガは、色彩よりも描画が優先と信じ、戸外での制作活動にはそれほど価値を見出さなかったので、これらにかなり否定的であった<ref>Gordon; Forge (1988), pp. 11–12</ref>。セザンヌは初期の印象派展には出展したが、1877年の第3回を最後に印象派から離れ、画風も印象派とは異なる独自のものへと変化していった。ルノワールは1880年代に一時的に印象派から離れ、その後は印象派の考え方に完全に賛同することはなかった。エドゥアール・マネは印象派内部では指導者と期待されており<ref>Distel et al. (1974), p. 127</ref>、他のメンバーから印象派展への出展を要請されていたが、色として黒を自由に使うということは止めず、印象派展に出展することは一度もなかった。彼はサロンに出品し続け、『スペインの歌手』は1861年には第2位のメダルを獲得した。他の画家たちには「(世間の評価がそこで決まる)サロンこそが真の戦場だ」と説いた<ref>Richardson (1976), p. 3</ref>。
[[File:Camille Pissarro - Boulevard Montmartre - Eremitage.jpg|thumb|left|[[カミーユ・ピサロ]]『モンマルトル通り』(1897年、[[エルミタージュ美術館]])]]
第4回印象派展が開かれた1879年頃から、グループの中心である画家の中で、(1870年に[[普仏戦争]]で亡くなったバジールを除いて)セザンヌ、さらにはルノワール、シスレー、モネのように、サロンに出展するために、グループ展に出展するのをやめる動きが出てきた。グループ内部にも意見の不一致が生じた。例えば[[アルマン・ギヨマン]]の会員資格について、ピサロとセザンヌはこれを擁護したが、モネとドガは彼には資格がないと反対した<ref>Denvir (1990), p. 105</ref>。ドガは1879年の展覧会に[[メアリー・カサット]]を招待したが、 同時に、初期の印象派展に出展していた[[リュドヴィック=ナポレオン・ルピック]]や、主にサロンに出展していた[[ジャン=フランソワ・ラファエリ]]など、印象派とは画風がやや異なる写実主義者も加えたいと主張した。これに対してモネは1880年、印象派を「絵の良し悪しは抜きにして先着順でドアを開けている」と非難した<ref>Rewald (1973), p. 603</ref>。グループは1886年に[[新印象派]]の[[ジョルジュ・スーラ]]と[[ポール・シニャック]]を招待する件で分裂した。この回には[[象徴主義|象徴派]]の[[オディロン・ルドン]]など、印象派の活動とは無縁な画家も出展した。結果的に印象派展はこの回が最後となった。全部で8回の印象派展に欠かさず出展したのはピサロだけである。
個々のアーティストが印象派展で金銭的に報いられることはほとんどなかったが、作品は次第に人々に受容され支持されるようになった。これについては、作品を人々の眼に触れさせ、[[ロンドン]]や[[ニューヨーク]]で展覧会を開くなどした仲買人の[[ポール・デュラン=リュエル]]が大きく貢献した。1899年にシスレーは貧困のうちに亡くなったが、ルノワールは1879年にサロンで大成功を収めた。モネは1880年代、ピサロは1890年代初期には、経済的に安定した生活を送れるようになった。この時までには印象派の絵画技法は、だいぶ薄められた形ではあったが、サロンでも当たり前になったのである<ref>Rewald (1973), pp. 475–476</ref>。
== 技法 ==
[[File:Cassatt Mary At the Theater 1879.jpg|thumb|upright|[[メアリー・カサット]]『桟敷席にて座って肘をつくリディア』(1879年)]]
印象派絵画の大きな特徴は、光の動き、変化の質感をいかに絵画で表現するかに重きを置いていることである。時にはある瞬間の変化を強調して表現することもあった。それまでの絵画と比べて絵全体が明るく、色彩に富んでいる。また当時主流だった写実主義などの細かいタッチと異なり、荒々しい筆致が多く、絵画中に明確な線が見られないことも大きな特徴である。また、それまでの画家たちが主にアトリエの中で絵を描いていたのとは対照的に、好んで屋外に出かけて絵を描いた。
印象派への道を準備したフランスの画家には、[[ロマン主義]]の色彩主義者[[ウジェーヌ・ドラクロワ]]、写実主義の指導者[[ギュスターヴ・クールベ]]、バルビゾン派の[[テオドール・ルソー]]がいる。 さらに印象派は、印象派と似たスタイルで自然を学び、年若の画家に先輩として助言した[[ジャン=バティスト・カミーユ・コロー]]や[[ウジェーヌ・ブーダン]]の作品からも多くを学んでいる。
数多くの技法や制作スタイルが、印象派の革新的スタイルに貢献した。これらの技法はそれ以前の画家たちも用いており、[[フランス・ハルス]]、[[ディエゴ・ベラスケス]]、[[ピーテル・パウル・ルーベンス]]、[[ジョン・コンスタブル]]、[[ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー|J.M.W ターナー]]の作品でははっきり見て取れるが、これを全部まとめ一貫して使ったのは印象派が最初である。その技法は以下のとおりである。
* 短くて厚いストロークで主題の細部ではなくエッセンスを素早く捉える。絵には{{仮リンク|インパスト|en|impasto}}が使われた。
* 色彩はできるだけ混色を避けて並べていく。[[同時対比]]の原理により見る人に色をより生き生きと見せる
* 灰色や暗い色は[[補色]]を混ぜて作る。純粋印象派は黒を塗ることを避ける。
* 前に塗った色が乾かないうちに次の色を塗る{{仮リンク|ウェットオンウェット|en|Wet-on-wet}}でエッジをソフトにして色を混ぜる。
* 印象派の絵は、それまでの画家が注意深く使っていた透明な薄いフィルム(グレーズ)を使わない。印象派の絵には基本的に光沢がない。
* 以前の画家はは暗い灰色や濃い色の下地をよく用いたが、印象派は白または明るい色の下地に描く。
* 自然光の役割を強調する。対象から対象への色彩の反映に注意を払う。画家はしばしば{{enlink|Effets de soir|p=off|s=off}}(夕暮の光と影の効果)を追求するため夕方に制作をした。
* [[戸外制作]]した絵では、空の青が表面に反映しているかのように陰影をくっきりと描き、新鮮な感覚を与えている。
[[File:Guillaumin SoleilCouchantAIvry.jpg|thumb|[[アルマン・ギヨマン]]『イブリーの落陽』(1873年、[[オルセー美術館]])]]
このスタイルの開発には新しい技術が役立っている。印象派は、19世紀半ばの細いチューブ入りの絵の具の出現を活用している。これにより画家は、戸外でも室内でものびのびと制作できるようになった<ref>Bomford et al. 1990, pp. 39–41.</ref>。それ以前は画家それぞれが、顔料の粉を作って[[亜麻仁油]]に混ぜて絵の具をつくり、動物の[[膀胱]]に保存していた<ref>[http://www.phillipscollection.org/docs/education/lbp-kit_4.pdf Renoir and the Impressionist Process] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20110105173433/http://phillipscollection.org/docs/education/lbp-kit_4.pdf |date=2011年1月5日 }}. ''The Phillips Collection'', retrieved May 21, 2011</ref>。
19世紀になってたくさんの鮮やかな化学合成顔料が販売されるようになった。これには[[コバルトブルー]]、[[ヴィリジアン]]、[[カドミウムイエロー]]、[[ウルトラマリン|ウルトラマリンブルー]]などがあり、印象派以前の1840年代に既に使われていた<ref name="Wallert_159"/>。印象派の絵画では、さらに1860年代に新しく販売されるようになった[[セルリアンブルー]]とともに、これらの顔料をどんどん使用した<ref name="Wallert_159">Wallert, Arie; Hermens, Erma; Peek, Marja (1995). [https://books.google.co.jp/books?id=pdFOAgAAQBAJ&pg=PA159&dq=&redir_esc=y&hl=ja ''Historical painting techniques, materials, and studio practice: preprints of a symposium, University of Leiden, the Netherlands, 26-29 June, 1995'']. [Marina Del Rey, Calif.]: Getty Conservation Institute. p. 159. ISBN 0-89236-322-3.</ref>。
印象派の絵画スタイルは、段々に明るくなっていった。1860年代には、モネとルノアールはまだ昔ながらの赤茶色またはグレイの下地のキャンバスに描くこともあった<ref name="Hill_177">Stoner, Joyce Hill; Rushfield, Rebecca Anne (2012). [https://books.google.co.jp/books?id=1msM3h9mbaoC&pg=PA177&dq=&redir_esc=y&hl=ja ''The conservation of easel paintings''. London: Routledge. p. 177]. ISBN 1-136-00041-0.</ref>。1870年代にはモネとルノアール、ピサロは、通常は明るいグレイまたはベージュ色の下地に描くことを選び、下地は完成した絵ではミドルトーンのはたらきをした<ref name="Hill_177"/>。1880年代までには何人かの印象派画家は、白または灰白色の下地を好むようになり、下地の色が完成作品において大きな役割を占めることはなくなった<ref>Stoner, Joyce Hill; Rushfield, Rebecca Anne (2012). [https://books.google.co.jp/books?id=1msM3h9mbaoC&pg=PA178&dq=&redir_esc=y&hl=ja ''The conservation of easel paintings''. London: Routledge. p. 178]. ISBN 1-136-00041-0.</ref>。
== 題材と構図 ==
[[File:Hay Harvest at Éragny, 1901, Camille Pissarro.jpg|thumb|left|[[カミーユ・ピサロ]]『エラニーでの干し草の刈り入れ』([[:fr:Fenaison_à_Éragny|''Fenaison à Éragny'']]、1901年、[[カナダ国立美術館]])]]
[[ヤン・ステーン]]のような[[オランダ黄金時代の絵画|17世紀のオランダの画家]]に顕著であるが、印象派以前の画家たちも日常生活的な題材に力を入れていた。しかし、彼らの[[構図]]は旧来のもので、メインの題材(主題)に鑑賞者の注意が集まるように構図をアレンジした。印象派は主題と背景の境目を緩やかにしたので、しばしば印象派の絵には、大きな現実の一部を偶然に切りとったかのようなスナップショットに似た効果がある<ref>Rosenblum (1989), p. 228</ref>。写真が広がり始め、カメラが携帯可能になった。写真は気取りのない率直な態度で、ありのままの現実をとらえるようになった。写真に影響されて、印象派の画家たちは風景の光の中だけでなく、人々の日常生活の瞬間の動きを表現するようになった。
[[File:Berthe Morisot Reading.jpg|thumb|left|[[ベルト・モリゾ]]『読書』(1873年、[[クリーブランド美術館]])]]
[[Image:Claude Monet - Jardin à Sainte-Adresse.jpg|thumb|right|[[クロード・モネ]]『サン・タドレスのテラス』(1867年、[[メトロポリタン美術館]]<ref>[http://www.metmuseum.org/Collections/search-the-collections/437133?rpp=20&pg=1&ao=on&ft=Claude+Monet&pos=1 Metropolitan Museum of Art]</ref>)
日本の浮世絵の影響が見られる作品。]]
写真は現実を写し取るための画家のスキルの価値を低下させた。印象派の発展は、写真が突きつけた難題に対する画家たちのリアクションとも考えられる。「本物そっくりのイメージを効率的かつ忠実に生み出す」という点では、[[肖像画]]と[[風景画]]は不十分だし真実性にも欠けると思われた<ref name = "impressionism757"/>。
それにもかかわらず、写真のおかげで画家たちは他の芸術的表現手段を追求し始めた。現実を模写することを写真と張り合うのでなく、画家たちは「画像を構想した主観性そのもの、写真に模写した主観性そのものをアートの様式に取り込むよって、彼らが写真よりうまくできる一つのこと」<ref name = "impressionism757"/>にフォーカスしたのである。印象派は、正確な再現を生み出すのではなく、彼らにそう見える自然を表現することを追求した。これにより画家は「自分の嗜好と良心とに課される暗黙の責務」を担って、彼らの目に移るものを主観的に描くことが可能になった<ref name="impressionism758">Sontag, Susan (1977) On Photography, Penguin, London</ref>。
画家たちは写真にはない絵の具の特性、例えば色彩をフルに活用した。「写真に対して、主観というオルタナティブを自覚的に提出したのは、印象派が最初であった<ref name="impressionism757">Levinson, Paul (1997) ''The Soft Edge; a Natural History and Future of the Information Revolution'', Routledge, London and New York</ref>。」
もう一つ大きな影響を与えたのは、もともとは輸入品の包み紙としてフランスに入ってきた日本の[[浮世絵]]([[ジャポニズム]])である。浮世絵の技法は、印象派の「スナップショット」アングルと斬新な構図に大きく貢献した。モネの『サン・タドレスのテラス』([[:fr:Terrasse_à_Sainte-Adresse|''Terrasse à Sainte-Adresse'']]、1867年)はその例であって、大胆な色の塊りと強い斜線のある構図は浮世絵の影響である<ref>[https://books.google.co.jp/books?id=kLEpf5a49V0C&pg=PA433&dq=Terrasse+%C3%A0+Sainte-Adresse+japanese+prints&hl=en&sa=X&ei=dwnPUtm_GKnNsQTV-4KIDA&redir_esc=y#v=onepage&q=Terrasse%20%C3%A0%20Sainte-Adresse%20japanese%20prints&f=false Gary Tinterow, Origins of Impressionism, Metropolitan Museum of Art,1994, page 433]</ref>。美術史家[[新関公子]]は、印象派とジャポニズムの関係について「印象派は[[ゲーテ]]の色彩論(1810年)に端を発する19世紀の色彩学理論を基礎に、自然を自己の感覚に写るままに表現しようとする芸術運動であって、浮世絵が印象派を生んだわけではない。彼らにとって、浮世絵をいかに深く読み取って自分たちの芸術の方法に組み入れるかは、反アカデミズム戦略の一つだった。ジャポニズムは印象派にとって「浮世絵的方法礼讃」なのである」と記している<ref>新関公子「幕末から明治初期の西洋体験」(東京美術学校物語 西洋と日本の出会いと葛藤―2)岩波書店『図書』2023年2月、42‐47頁、引用は47頁。</ref>。
[[エドガー・ドガ]]は熱心な写真家かつ浮世絵の収集家であった<ref>Baumann; Karabelnik, et al. (1994), p. 112.</ref>。彼の『ダンス教室』(1874年)は、その非対称な構図に写真と浮世絵の両方からの影響が見られる。ダンサーたちは無防備で不恰好な姿勢であり、右下の4分の1は何もない床の空間である。彼はまた『[[14歳の小さな踊り子]]』のように、ダンサーの彫刻も残している。
== 各展覧会の概要 ==
各回の展覧会の参加者などは次のとおりである<ref>新関 (2000: 74-78)。</ref>。
{| class="wikitable"
!回数
!会期
!会場
!参加者
|-
|[[第1回印象派展|第1回展]](画家、彫刻家、版画家などの美術家による共同出資会社第1回展) || 1874年4月15日 - 5月15日 || キャプシーヌ大通り、[[ナダール]]写真館 || [[ザカリー・アストリュク]]、{{仮リンク|アントワーヌ・フェルディナン・アタンデュ|fr|Antoine Ferdinand Attendu}}、{{仮リンク|エドゥアール・ベリアール|fr|Édouard Béliard}}、[[ウジェーヌ・ブーダン|ブーダン]]、[[フェリックス・ブラックモン]]、[[エドゥアール・ブランドン]]、{{仮リンク|ピエール・イジドール・ビュロー|fr|Pierre Isidore Bureau}}、[[アドルフ=フェリックス・カルス]]、[[ポール・セザンヌ|セザンヌ]]、[[ギュスターヴ=アンリ・コラン]]、ルイ・ドブラ、[[エドガー・ドガ|ドガ]]、[[アルマン・ギヨマン]]、[[ルイ・ラトゥーシュ]]、[[リュドヴィック=ナポレオン・ルピック]]、[[スタニスラス・レピーヌ]]、{{仮リンク|レオポルド・ルヴェール|es|Léopold Levert}}、アルフレッド・メイエル、オーギュスト・ド・モラン、[[クロード・モネ|モネ]]、[[ベルト・モリゾ]]、{{仮リンク|エミリアン・ミュロ・デュリヴァージュ|fr|Émilien Mulot Durivage}}、[[ジュゼッペ・デ・ニッティス]]、[[オーギュスト・オッタン]]、L・A・オッタン、[[カミーユ・ピサロ|ピサロ]]、[[ピエール=オーギュスト・ルノワール|ルノワール]]、[[レオン=ポール=ジョゼフ・ロベール]]、[[アンリ・ルアール]]、[[アルフレッド・シスレー|シスレー]](30名)
|-
|第2回展 || 1876年4月11日 - 5月9日 || ル・ペルティエ通り、[[ポール・デュラン=リュエル|デュラン=リュエル]]画廊 || [[フレデリック・バジール|バジール]](故人)、ベリアール、ブノー、カルス、[[ギュスターヴ・カイユボット|カイユボット]]、ドガ、[[マルスラン・デブータン]]、フランソワ、[[アルフォンス・ルグロ|ルグロ]]、ルヴェール、ルピック、J・B・ミレー([[ジャン=フランソワ・ミレー]]の息子)、モネ、ベルト・モリゾ、L・A・オッタン、ピサロ、ルノワール、ルアール、シスレー、[[シャルル・ティヨ]](20名)
|-
|第3回展 || 1877年4月4日 - 30日 || ル・ペルティエ通り || カイユボット、カルス、セザンヌ、{{仮リンク|フレデリック・コルデー|fr|Frédéric Samuel Cordey}}、ドガ、ギヨマン、ジャック・フランソワ(ある女性画家の偽名)、[[フラン=ラミ]]、ルヴェール、[[ギュスターヴ・モロー|モロー]]、モネ、ベルト・モリゾ、[[ルドヴィック・ピエト]]、ピサロ、ルノワール、ルアール、シスレー、ティヨ(18名)
|-
|第4回展(アンデパンダン、レアリスト、印象派の美術家たちグループによる第4回展) || 1879年4月10日 - 5月11日 || オペラ座通り || [[ポール・ゴーギャン|ゴーギャン]]<ref group="注釈">ゴーギャンは、出展したが、カタログ作成には間に合わず記載されていない。新関 (2000: 75)。</ref>、フェリックス・ブラックモン、[[マリー・ブラックモン]]、カイユボット、カルス、[[メアリー・カサット]]、[[ジャン=ルイ・フォラン|フォラン]]、ルプール、モネ<ref group="注釈">モネは、出展を希望しなかったので、カイユボットが借り集めて出展した。新関 (2000: 75-76)。</ref>、ピエト、ピサロ、ルアール、[[アンリ・ソム]]、ティヨ、[[フェデリコ・ザンドメーネギ|ザンドメーネギ]](16名)
|-
|第5回展(アンデパンダンの美術家たちグループによる第5回展) || 1880年4月10日 - 30日 || ピラミッド通り || フェリックス・ブラックモン、カイユボット、ドガ、フォラン、ゴーギャン、ギヨマン、ルブール、ルヴェール、ピサロ、[[ジャン=フランソワ・ラファエリ|ラファエリ]]、ルアール、ティヨ、ウジェーヌ・ヴィダル、[[ヴィクトール・ヴィニョン|ヴィニョン]]、ザンドメーネギ、マリー・ブラックモン、メアリー・カサット、ベルト・モリゾ(18名<ref group="注釈">マリー・ブラックモン、メアリー・カサット、ベルト・モリゾの女性3名はポスターへの名前掲載を拒否したのでポスター上は15名。新関 (2000: 76)。</ref>)
|-
|第6回展 || 1881年4月2日 - 5月1日 || キャプシーヌ大通り、ナダール写真館別館 || メアリー・カサット、ドガ、フォラン、ゴーギャン、ギヨマン、ベルト・モリゾ、ピサロ、ラファエリ、ルアール、ティヨ、ウジェーヌ・ヴィダル、ヴィニョン、ザンドメーネギ(13名)
|-
|第7回展 || 1882年3月1日 - ? || サン・トノレ通り || カイユボット、ゴーギャン、ギヨマン、モネ、ベルト・モリゾ、ピサロ、シスレー、ルノワール、ヴィニョン(9名)
|-
|第8回展 || 1886年5月15日 - 6月15日 || ラフィット通り || マリー・ブラックモン、メアリー・カサット、ドガ、フォラン、ゴーギャン、ギヨマン、ベルト・モリゾ、ピサロ、[[リュシアン・ピサロ]]([[カミーユ・ピサロ]]の息子)、[[オディロン・ルドン|ルドン]]、ルアール、[[エミール・シェフネッケル|シェフネッケル]]、[[ジョルジュ・スーラ|スーラ]]、[[ポール・シニャック|シニャック]]、ティヨ、ヴィニョン、ザンドメーネギ(17名)
|}
== 画家の一覧 ==
以下の表は主な印象派の画家の一覧である。印象派展出品回の項目が空白になっているのは、その画家が一度も印象派展に出品しなかったことを示す。文献によって印象派の画家の分類が異なっているため、印象派と時期が前後している[[写実主義]]、[[バルビゾン派]]、[[ポスト印象派]]、[[新印象派]]の項目も参照されたい。また、印象派の名称は人口に膾炙しているため、現代でも[[ギィ・デサップ]]など印象派の名を冠される画家が存在する。
{| class="wikitable"
|-align=center bgcolor=#cccccc
!画家
!生年
!没年
!印象派展<br>出品回
!備考
|-
| [[カミーユ・ピサロ]] || [[1830年]] || [[1903年]] || 1 - 8(全回) || 印象主義から離れ点描技法を用いていた時期があるため、新印象派の画家とされることもある。
|-
| [[エドガー・ドガ]] || [[1834年]] || [[1917年]] || 1 - 6、8 || 他の印象派の画家とは異なり、古典的手法を重視していた。
|-
| [[アルフレッド・シスレー]] || [[1839年]] || [[1899年]] || 1 - 3、7 ||
|-
| [[ポール・セザンヌ]] || [[1839年]] || [[1906年]] || 1、3 || [[ポスト印象派]]の画家とされることも多い。
|-
| [[クロード・モネ]] || [[1840年]] || [[1926年]] || 1 - 4、7 ||
|-
| [[ベルト・モリゾ]] || [[1841年]] || [[1895年]] || 1 - 3、5 - 8 ||
|-
| [[ピエール=オーギュスト・ルノワール]] || [[1841年]] || [[1919年]] || 1 - 3、7 || 稀にポスト印象派の画家とされることがある。
|-
| [[アルマン・ギヨマン]] || [[1841年]] || [[1927年]] || 1、3、5 - 8 ||
|-
| [[メアリー・カサット]] || [[1844年]] || [[1926年]] || 4 - 6、8 ||
|-
| [[ギュスターヴ・カイユボット]] || [[1848年]] || [[1894年]] || 2 - 5、7 ||
|-
| [[エヴァ・ゴンザレス]] || [[1849年]] || [[1883年]] || ||
|}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 参考文献 ==
{{refbegin|30em}}
* {{Cite book |和書 |author=新関公子 |title=セザンヌとゾラ――その芸術と友情 |publisher=ブリュッケ |year=2000 |isbn= 4-7952-1679-7}}
* {{Cite |和書|author = 島田紀夫 |title = 印象派美術館 |date = 2004 |edition = 初 |publisher = 小学館 |isbn = 4-09-699707-2}}
* {{Cite |和書|author=「美術検定」実行委員会 |title=西洋・日本美術史の基本 |series=美術検定 公式テキスト|publisher=美術出版社|date=2008-08-15|isbn=978-4-568-24023-8}}
*Baumann, Felix Andreas, Marianne Karabelnik-Matta, Jean Sutherland Boggs, and Tobia Bezzola (1994). ''Degas Portraits''. London: Merrell Holberton. ISBN 1-85894-014-1
*Bomford, David, Jo Kirby, John Leighton, Ashok Roy, and Raymond White (1990). ''Impressionism''. London: National Gallery. ISBN 0-300-05035-6
*Denvir, Bernard (1990). ''The Thames and Hudson Encyclopaedia of Impressionism''. London: Thames and Hudson. ISBN 0-500-20239-7
*Distel, Anne, Michel Hoog, and Charles S. Moffett (1974). ''[http://libmma.contentdm.oclc.org/cdm/compoundobject/collection/p15324coll10/id/78705/rec/222 Impressionism; a centenary exhibition, the Metropolitan Museum of Art, December 12, 1974-February 10, 1975]''. New York: Metropolitan Museum of Art. ISBN 0-8709-9097-7
*Gordon, Robert; Forge, Andrew (1988). ''Degas''. New York: Harry N. Abrams. ISBN 0-8109-1142-6
*Gowing, Lawrence, with Adriani, Götz; Krumrine, Mary Louise; Lewis, Mary Tompkins; Patin, Sylvie; Rewald, John (1988). ''Cézanne: The Early Years 1859-1872''. New York: Harry N. Abrams.
*Jensen, Robert (1994). ''Marketing modernism in fin-de-siècle Europe''. Princeton, N.J.: Princeton University Press. ISBN 0-691-03333-1.
*Moskowitz, Ira; Sérullaz, Maurice (1962). ''French Impressionists: A Selection of Drawings of the French 19th Century''. Boston and Toronto: Little, Brown and Company. ISBN 0-316-58560-2
*Rewald, John (1973). ''The History of Impressionism'' (4th, Revised Ed.). New York: The Museum of Modern Art. ISBN 0-87070-360-9
** ジョン・リウォルド 『印象派の歴史』三浦篤・坂上桂子訳、角川書店、2004年/角川ソフィア文庫(上下)、2019年
*Richardson, John (1976). ''Manet'' (3rd Ed.). Oxford: Phaidon Press Ltd. ISBN 0-7148-1743-0
*Rosenblum, Robert (1989). ''Paintings in the Musée d'Orsay''. New York: Stewart, Tabori & Chang. ISBN 1-55670-099-7
*Moffett, Charles S. (1986). "The New Painting, Impressionism 1874-1886". Geneva: Richard Burton SA.
{{refend}}
== 関連文献(日本語) ==
;画集
* 池上忠治編『印象派時代 世界美術大全集西洋編 22』小学館、1993年。高階秀爾ほか監修
* 池上忠治編『後期印象派時代 世界美術大全集西洋編 23』小学館、1993年。高階秀爾ほか監修
* 島田紀夫『西洋絵画の巨匠 1 モネ』小学館、2006年
* 圀府寺司『西洋絵画の巨匠 2 ゴッホ』小学館、2006年
* 賀川恭子『西洋絵画の巨匠 4 ルノワール』小学館、2006年
* 坂上桂子『西洋絵画の巨匠 6 モリゾ』小学館、2006年
* ジャン・クレイ『印象派』高階秀爾監訳、中央公論社、1987年
* フランソワーズ・カシャンほか『バーンズ・コレクション 印象派の宝庫』天野知香ほか訳、講談社、1993年
* マーク・パウエル=ジョーンズほか『印象派の絵画』六人部昭典訳、西村書店〈アート・ライブラリー〉、2001年
;概説
* 吉川節子『印象派の誕生 マネとモネ』中央公論新社〈中公新書〉、2010年
* 高階秀爾『近代絵画史 (上) ロマン主義、印象派、ゴッホ』中央公論新社〈中公新書 カラー版〉、2017年。増訂版
* 尾関幸・陳岡めぐみ・三浦篤『西洋美術の歴史7 19世紀 近代美術の誕生、ロマン派から印象派へ』中央公論新社、2017年
* 島田紀夫『印象派の挑戦 モネ、ルノワール、ドガたちの友情と闘い』小学館、2009年
* 島田紀夫『印象派と日本人 「日の出」は世界を照らしたか』平凡社、2019年
* 木村泰司『印象派という革命』集英社、2012年/ちくま文庫、2018年
* マリナ・フェレッティ『印象派』武藤剛史訳、白水社〈文庫クセジュ〉、2008年
* モーリス・セリュラス『印象派』平岡昇・丸山尚一訳、白水社〈文庫クセジュ〉、新版1992年
* セルジュ・フォーシュロー編 『印象派絵画と文豪たち』作田清・加藤雅郁訳、作品社、2004年
* 三浦篤・中村誠監修 『印象派とその時代 モネからセザンヌへ』美術出版社、2003年
* ジェームズ・H・ルービン『西洋名画の読み方5 印象派』内藤憲吾ほか訳、創元社、2016年
* ジェームズ・H・ルービン『印象派 岩波世界の美術』太田泰人訳、岩波書店、2002年
* バーナード・デンバー編『印象派全史 1863〜今日まで 巨匠たちの素顔と作品』池上忠治監訳、日本経済新聞出版社、1994年
* バーナード・デンバー編『素顔の印象派』末永照和訳、美術出版社、1991年
;エッセイ集など
* 井出洋一郎『印象派の名画はなぜこんなに面白いのか』中経出版〈中経の文庫〉、2012年
* 島田紀夫監修『すぐわかる画家別 印象派絵画の見かた』東京美術、2007年
* 三浦篤『名画に隠された「二重の謎」 印象派が「事件」だった時代』小学館ビジュアル新書、2012年
* 島田紀夫『セーヌで生まれた印象派の名画』小学館ビジュアル新書、2011年
* 中野京子『印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ』NHK出版新書、2011年
* 森実与子『モネとセザンヌ 光と色彩に輝く印象派の画家たち』新人物往来社 ビジュアル選書、2012年
* 杉全美帆子『イラストで読む印象派の画家たち』河出書房新社、2013年
* 西岡文彦『謎解き印象派』河出文庫、2016年
* 赤瀬川原平『印象派の水辺』講談社、新装版2014年
* 『原田マハの印象派物語』新潮社<とんぼの本>、2019年
== 関連項目 ==
{{commonscat|Impressionist paintings}}
*[[浮世絵]]
*[[ジャポニスム]]
*[[印象主義音楽]]
*[[世紀末芸術]]
*[[象徴主義]]
*[[オルセー美術館]]
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7,368 | 液体酸素 | 液体酸素(えきたいさんそ)とは、液化した酸素のこと。酸素の沸点は−183°C、凝固点は−219°Cである。製鉄や医療現場の酸素源やロケットの酸化剤として利用され、LOX (Liquid OXygen)、LO2のように略称される。有機化合物に触れると爆発的に反応することがある。
液体酸素は淡い青色を呈する液体である。重量は1141キログラム/立方メートルであり水よりやや重い。常磁性を持ち、強い磁石(強い磁場)に引き寄せられる。
断熱膨張(ジュール=トムソン効果)により液化した空気から分留される。液体窒素の沸点 (77K) は酸素 (90K) より低いため、液体空気から酸素を容易に濃縮できる。化学実験でしばしば用いられる、デュワー瓶に液体窒素を満たした冷却トラップを大気に開放したまま放置すると、液体酸素がたまる。液体酸素は強い酸化作用を持ち、接触した有機物を速やかに酸化する。このため液体水素、ケロシンなどと組み合わせてロケットエンジンの推進剤として用いられている。またその固体である固体酸素は状況下によって非常に様々な性質に変化する。 また一部の販売されている液体酸素には合成臭気成分であるジメチルスルフィドが添加されている。もし使用者が臭気を感じれば酸素が環境に漏れ出している可能性がある。
大きな病院では従来のような酸素ボンベによる供給では無く、館内に敷設した酸素配管を通して、大きな液体酸素タンクから気化させた酸素を配給している。個別のボンベを準備せずに済み、大量購入によるコスト削減の他、ボンベの残量を気にする必要が無くなるなどの利点があるが、設備の設置、維持・管理にコストがかかる。
転炉法が開発された当初、それは転炉の底から空気を吹き上げるというものだった。現在では上から酸素を吹きこむ方式に変わっている。融けた銑鉄に酸素を吹き込む事で不純物を焼き飛ばし、鉄の純度を高める。製鉄所では大量の酸素が消費されるため、工場内に酸素製造設備が設置される。
ロケットエンジンは原理上、大気中の酸素を燃焼(酸化)に利用せず、ケロシンなどの狭義の燃料に加えて、酸素、過酸化水素、四酸化二窒素、硝酸といった酸化剤のうちいずれかをあらかじめロケットに積載する。このうち酸素は常温常圧状態に戻った際の毒性が低いこともあり、弾道ロケットの黎明期から現代に至るまで広く利用され、液体酸素の形で積載される。
液体酸素を用いた初期のロケットには以下のものがある。
また現在でも、アメリカのスペースシャトルやロシアのソユーズ、日本のH-IIロケットなどに広く使われている。一般には燃料にケロシンか液体水素が使われる。 | [
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'''液体酸素'''(えきたいさんそ)とは、[[液化]]した[[酸素]]のこと。酸素の[[沸点]]は−183℃、凝固点は−219℃である。[[製鉄]]や医療現場の酸素源や[[ロケット]]の[[酸化剤]]として利用され、LOX ('''L'''iquid '''OX'''ygen)、LO<sub>2</sub>のように略称される。有機化合物に触れると爆発的に反応することがある。
== 製法と性質 ==
[[File:Paramagnetism of Liquid Oxygen.webm|thumb|120px|液体酸素を磁力で捕捉する実験動画(英語)]]
液体酸素は淡い青色を呈する液体である。[[重量]]は1141キログラム/立方メートルであり[[水]]よりやや重い。[[常磁性]]を持ち、強い磁石(強い[[磁場]])に引き寄せられる。
[[断熱膨張]]([[ジュール=トムソン効果]])により液化した[[空気]]から[[分留]]される。[[液体窒素]]の沸点 (77[[ケルビン|K]]) は酸素 (90K) より低いため、液体空気から酸素を容易に濃縮できる。化学実験でしばしば用いられる、[[デュワー瓶]]に液体窒素を満たした冷却トラップを大気に開放したまま放置すると、液体酸素がたまる。液体酸素は強い酸化作用を持ち、接触した[[有機物]]を速やかに[[酸化]]する。このため[[液体水素]]、[[ケロシン]]などと組み合わせて[[ロケットエンジンの推進剤]]として用いられている。またその固体である[[固体酸素]]は状況下によって非常に様々な性質に変化する。
また一部の販売されている液体酸素には合成臭気成分である[[ジメチルスルフィド]]が添加されている。もし使用者が臭気を感じれば酸素が環境に漏れ出している可能性がある。
== 用途 ==
=== 医療現場での酸素源 ===
[[File:Topping up the liquid oxygen tanks at the Borders General Hospital - geograph.org.uk - 868858.jpg|thumb|180px|病院の液体酸素タンクに[[タンクローリー]]から液体酸素を補給する光景([[スコットランド]]、2008年)]]
大きな[[病院]]では従来のような酸素ボンベによる供給では無く、館内に敷設した酸素配管を通して、大きな液体酸素タンクから気化させた酸素を配給している。個別の[[ボンベ]]を準備せずに済み、大量購入によるコスト削減の他、ボンベの残量を気にする必要が無くなるなどの利点があるが、設備の設置、維持・管理にコストがかかる。
=== 製鉄現場での酸素源 ===
[[転炉|転炉法]]が開発された当初、それは[[製鉄所#製鋼|転炉]]の底から空気を吹き上げるというものだった。現在では上から酸素を吹きこむ方式に変わっている。融けた[[銑鉄]]に酸素を吹き込む事で不純物を焼き飛ばし、[[鉄]]の純度を高める。[[製鉄所]]では大量の酸素が消費されるため、工場内に酸素製造設備が設置される。
=== ロケットの推進剤 ===
[[File:Liquid Oxygen (LOX) ball at the CCAFS SLC-40.jpg|thumb|180px|ロケット発射場の液体酸素タンク([[ケープカナベラル空軍基地]]、2012年)]]
[[ロケットエンジン]]は原理上、[[空気|大気]]中の酸素を[[燃焼]]([[酸化]])に利用せず、[[ケロシン]]などの狭義の燃料に加えて、酸素、[[過酸化水素]]、[[四酸化二窒素]]、[[硝酸]]といった[[酸化剤]]のうちいずれかをあらかじめロケットに積載する。このうち酸素は常温常圧状態に戻った際の[[毒]]性が低いこともあり、弾道ロケットの黎明期から現代に至るまで広く利用され、液体酸素の形で積載される。
液体酸素を用いた初期のロケットには以下のものがある。
; V2/A4
: [[ナチス・ドイツ]]が開発した世界最初の[[弾道ミサイル]]である[[V2ロケット]]は、燃料として[[水]]・[[エタノール]]混合物と液体酸素を用いていた。この方式はV2/A4の設計を拡大する事でミサイルを開発していた[[ソビエト連邦|旧ソ連]]のその後のミサイル・ロケットでも多く採用されている。V2は野戦機動が考慮されており、ロケット運搬車、断熱タンクを備えた液体酸素運搬車、アルコール運搬車、電源車、指揮車など約30台の支援車両によって戦場を移動し、発射地点で4~6時間の準備で発射することができた。
; R-7
: 旧ソ連が開発し、配備した世界最初の[[大陸間弾道弾]](ICBM)である[[R-7 (ロケット)|R-7(SS-6 Sapwood)]]は、燃料としてケロシンと液体酸素を用いたRD-108エンジンとRD-107ストラップオンブースターを備えていた。R-7は人工衛星打ち上げロケット[[ボストーク (ロケット)|ボストーク]]に転用され、歴史に残る輝かしい業績を上げた。その後改良を加えつつ現在も[[ソユーズ]]のエンジンとして運用されている。
; レッドストーン
: [[PGM-11 (ミサイル)|SSM-A-14/PGM-11 レッドストーン]]は、[[ヴェルナー・フォン・ブラウン|フォン・ブラウン]]が[[アメリカ合衆国|アメリカ]]で最初に作り上げたロケットで、[[アメリカ軍|米軍]]に最初に配備された弾道ミサイルとなった。A4の流れを汲むA-7エンジンは燃料として水・エタノール混合物と液体酸素を用いた。
; アトラス
: アメリカで最初に配備されたICBMである[[アトラス (ミサイル)|SM-65/CGM-16/HGM-16 アトラス]]は、燃料としてケロシンと液体酸素を用いるXLR-105-5エンジンに二本のLR-101-NA7ブースターエンジンが取り付けられていた。
<!--「旧日本海軍の[[酸素魚雷]]にも使用された。」九三式酸素魚雷で使用されていたのは気室に圧搾充填された酸素であって、それは気体であります。なのでこの部分コメント化-->
また現在でも、アメリカの[[スペースシャトル]]やロシアの[[ソユーズ]]、日本の[[H-IIロケット]]などに広く使われている。一般には燃料に[[ケロシン]]か[[液体水素]]が使われる。
=== 爆薬 ===
;[[液体酸素爆薬]]
:液体酸素と炭素粉末を混合して作られた代用爆薬の一種で現在では使用されていない。
== 関連項目 ==
{{commonscat|Liquid oxygen}}
* [[物性物理]]
* [[固体酸素]]
*[[液体水素]]
*[[液体窒素]]
*[[三重項酸素]]
{{デフォルトソート:えきたいさんそ}}
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%B2%E4%BD%93%E9%85%B8%E7%B4%A0 |
7,369 | 酸素 | 酸素(さんそ、英: oxygen、羅: oxygenium、仏: oxygène、独: Sauerstoff)は、原子番号8の元素である。元素記号はO。原子量は16.00。第16族元素、第2周期元素のひとつ。
スウェーデンの化学者、カール・ヴィルヘルム・シェーレが1771年に初めて見つけた。しかし、これはすぐに公にされず、その後1774年にジョゼフ・プリーストリーがそれとは独立して見つけたあとに広く知られるようになった。そのため、化学史上の発見者はプリーストリーとされている。
酸素は発見当初、「酸を生む物」と誤解された。これは、アントワーヌ・ラヴォアジエが前述のように誤解して、ギリシャ語のoxys(酸)とgenen(生む)を合わせ、「仏: oxygène」と名付けたことに由来する。英語でも「oxygen(オキシジェン)」といい、日本語でもこれらを宇田川榕菴が直訳して「酸素」と呼んだ。
一方、中国語圏では「酸」という字を用いず、「氧」(中国語読み:ヤン、ピンイン:yǎng、日本語読み:よう)という字をあて、氧や氧氣(ようき)という。韓国では日本語と中国語の名称が混用されたが、日本語の名称が定着した。(ハングル表記:산소、韓国語読み:サンソ)
電気陰性度が大きいため反応性に富み、ほかのほとんどの元素と化合物(特に酸化物)を作る。標準状態では2個の酸素原子が二重結合した無味無臭無色透明の二原子分子である酸素分子O2として存在する。
約90 Kで液体、約54 Kで青みがかった固体となる。ダイヤモンドアンビルセルなどで100万気圧を超えた高圧下では金属光沢を持ち、125万気圧、0.6 Kでは超伝導金属となる。
また、助燃性がある。
酸素は、フッ素に次いで2番目に電気陰性度が大きいため酸化力が強く、ほとんどの元素と発熱反応を起こして化合物を作る。1962年以降には希ガスであるキセノンも、酸素と化合して三酸化キセノン(XeO3)などの化合物を作ることがわかった。
宇宙では水素、ヘリウムに次いで3番目に多くの質量を占め、ケイ素量を10としたときの比率は2.38×10である。
地球地殻においては最大を占める元素(質量の46.60 %、体積の93.77 %)であり、石英の成分であるSiO2が地殻の大部分を構成している。気体の酸素分子は大気の体積の20.95 %、質量で23 %を占める。
地球外でも酸素は多く存在している。おもな存在形態である氷は地球のほか、惑星や、彗星、小惑星などにも見られる。火星においては、大気組成の95 %を二酸化炭素が占めるほか、二酸化炭素(ドライアイス)やごく少量の水が氷として両極の氷床(氷冠)に存在している。星が生まれる元となる分子雲では、一酸化炭素が分子の中で2番目に存在量の多い分子である。酸素の起源は恒星核におけるヘリウムの核融合であり、酸素のスペクトルが検出される恒星も存在している。
酸素分子(英: dioxygen、化学式: O 2 {\displaystyle {\ce {O2}}} は、常温常圧では無色無臭で助燃性をもつ気体として存在する。分子量32.00、沸点−183 °C(90 K)、融点−218.9 °C(54.3 K)。水100 gに溶解する量は0 °Cで6.945 mg、25 °Cで3.931 mg、50 °Cで2.657 mg。液体酸素は淡青色を示し、比重は1.14である。基底状態の三重項状態では不対電子を持つため常磁性体である。また活性酸素の一種で反磁性である励起状態の一重項酸素も存在する。
標準状態において一般の酸素は、2つの酸素原子が縮退した三重項の電子配置で化学結合した分子構造(三重項酸素分子)を持つ無色無臭の気体である。この結合次数は2であり、一般に二重結合、または1個の2電子結合と2個の3電子結合と表記される。三重項酸素分子とは電子の全スピン量子数が1となる状態で、具体的には2つの不対電子が酸素分子に2つあるπ反結合性軌道をひとつずつ占め、しかも同じ向きのスピンを取っている。このとき、酸素分子のエネルギーは基底状態にある。また、酸素分子の二重結合は反結合軌道にも電子が存在するため、結合軌道のみで電子を充足させる三重結合の窒素よりも安定さは下がり、また、2つの電子が対を作らずビラジカルとして存在するため、結果として酸素分子は窒素分子よりも少ないエネルギーでほかの物質と反応しやすくなる。
通常の三重項酸素分子は常磁性を持つ。これは、不対電子のスピン磁気モーメント(スピンの向きが同じ電子がπ*反結合性軌道に入る)とふたつの酸素分子間に働く交換相互作用による。液体酸素は磁石に吸いつけられ、実験では磁極間で自重を支えるに充分強い橋を作るほどである。
これに対し、外部から高エネルギーが加わり不対電子のひとつがスピンを逆方向へ変え、全スピン量子数が0となった酸素を一重項酸素といい、有機化合物との反応性が高い。自然界で一重項酸素は、光合成の過程で水から作られたり、対流圏で短波長の光によってオゾンの分解から発生したり、または免疫システムの中で活性酸素の原料として用いられたりする。
熱力学的に反応性が高く不安定な分子ではあるが、地球上では初期には光合成を行う嫌気性菌により、のちの時代には植物の光合成によって年間約10トン供給され続けているため多量に存在する。酸素呼吸を行う生物によって消費される。実際、生命が発生する以前の原始大気では酸素分子はほとんど存在せず、二酸化炭素などほかの原子と結合した状態であった。現在の大気中の酸素分子はそのほぼすべてが光合成由来だと考えられている。逆に、ほかの天体の大気中に遊離酸素の存在が確認されれば、生命の存在する間接的証拠となると考えられている。
酸素は、呼吸をする生物によっては必須であるが、同時に有害でもある。呼吸の過程や光反応などで生じる活性酸素は、DNAなどの生体構成分子を酸化して変性させる。純酸素の長時間吸引は生体にとって有害である。未熟児網膜症の原因になったり、60 %以上の高濃度酸素を12時間以上吸引すると、肺の充血などがみられ、最悪の場合、失明や死亡する危険性がある。
25 °Cで標準気圧下では、淡水は1 L中に酸素を6.04 mL含んでいるが、海水では1 Lあたり4.95 mLしか含んでいない。5 °Cでの溶解度は、淡水では9.0 mL/L、海水では 7.2 mL/Lまで増加している。
液体酸素は液体空気を分留して得られ、強い酸化剤である。液体空気を放置すると、沸点の低い窒素が先に蒸発するため、酸素分子が濃縮される。1 Lの液化酸素が気化すると約800 Lの酸素ガスになる。
酸素は紫外線や無声放電などによってオゾン O 3 {\displaystyle {\ce {O3}}} へと変換される。また、酸素分子のイオンとしてスーパーオキシドアニオン O 2 − {\displaystyle {\ce {O2^-}}} とジオキシゲニル O 2 + {\displaystyle {\ce {O2^+}}} が知られている。
自然界において遊離酸素は、光合成によって水が光分解されることで生じ、海洋中の緑藻類やシアノバクテリアが地球大気中の酸素70 %を、残りは陸上の植物が作り出している。
簡易な光合成の反応式は以下の通りである。
光分解による酸素発生は葉緑体のチラコイド膜中で起こる。光をエネルギーとするこの作用は多くの段階を経て、ATP を光リン酸化(photophosphorylation)させるプロトンの濃度勾配を起こす。この際、水を酸化することで酸素ガスが発生し、大気中に放出される。
酸素ガスは好気性生物が呼吸を行い、ミトコンドリアで酸化的リン酸化反応を経てATPを発生させるために使われる。酸素呼吸の反応は本質的に光合成の逆である。
脊椎動物では酸素ガスは肺の膜を通して血液中に拡散し赤血球中のヘモグロビンと結びつき、その色を紫がかった赤から明るい赤へ変える。ほかの動物ではヘモシアニン(軟体動物や節足動物の一種など)やヘムエリスリン(クモやロブスターなど)が使われる例もある。1 Lの血液が溶かせる酸素ガスは200 mLである。
超酸化物イオンや過酸化水素などの活性酸素は、酸素呼吸を行う生体にとって非常に危険な副産物であり、ミトコンドリアを取り込んだ真核生物は、進化の過程でデオキシリボ核酸を酸素から保護するために核膜を獲得した。その一方で、高等生物は免疫系で細菌を破壊するために過酸化物を用いている。また、植物が病原体に抵抗して起こす過敏感反応(hypersensitive response)でも、活性酸素は重要な役割を果たす。
成人が消費する酸素は、1分あたり約250 mLであり、これは約0.36 gに相当する。ここから計算すると、人類全体が1年間に消費する量は13億トンに相当する。
なお、酸素を利用しない呼吸の形態を嫌気呼吸という。最初の地球に酸素が存在しなかったことから、これが最初の呼吸のあり方と考えられる。これは好気呼吸の経路にも、解糖系という形態で残っている。酸素を全く使わずに生活する微生物も存在し、そのような微生物は、酸素の存在下では死滅する(嫌気性生物)。初期の微生物にとっても、酸素は有毒物質であった。
地球誕生初期の原始大気に含まれていた硫酸や塩酸は、原始海洋中で地殻中の金属イオンで中和され、原始大気は高温高圧の二酸化炭素や水蒸気、窒素が主成分だったと考えられる。これは海洋に溶けこんだ硫酸を除いて現在の金星の大気と似ていたとする説がある。この原始大気中には分圧で示されるほどの酸素は存在せず、熱や光で分解して発生するわずかな遊離酸素は一酸化炭素や地殻に露出した還元金属の酸化で消費され、分圧の高い二酸化炭素が海洋中に溶存していた。これを材料に30億年前ごろに光合成を獲得したシアノバクテリアが現れて酸素が作られ始めたとされているが、近年の遺伝子解析の結果から、進化の過程で光合成機能を失う細菌もいたことをうかがわせる結果が出ており、初期の光合成による大気への酸素供給は必ずしも安定にはできていなかった可能性が指摘されている。シアノバクテリアが大規模に存在して安定した酸素供給ができていた確実な証拠となるストロマトライトの最古の化石は、現在までに約27億年前のものが見つかっている。こうした安定した光合成は、同時期に大規模な大陸変動によって生じた浅瀬のような環境で可能になったと考えられている。
大気中の酸素分圧は24億5000年前ごろから高くなっていったと推定されており、このことは、海水中の2価の溶解鉄と化合して生じた酸化鉄を起源とする縞状鉄鉱床の形成時期と一致している。こうして酸素の大量発生(英語版)が起こった期間、ほかの元素と結合していない多くの遊離酸素が海中や大気中に溢れることとなり、また海洋中の二酸化炭素の消費に伴って大気中の二酸化炭素も減少した。これが、嫌気性生物を酸化して死滅させ、全球凍結に至るほどまで気温が急激に下がったために、シアノバクテリアを含む全生物相の深刻な大量絶滅も引き起こされたと考えられている(ヒューロニアン氷期)。氷期からの回復までに海洋中の酸素濃度は一時的に下がったとされる。しかし、生き延びた単細胞生物の中で、酸素を用いる効率的な細胞呼吸と、酸素により自らを酸化させない抗酸化物質を獲得した好気性生物はより多くのATPを作り出せるようになり、その後の地球に新たな生物圏を形成した。この光合成と酸素呼吸は真核生物、さらに多細胞生物への進化をもたらし、これが植物や動物などの生物多様性を生むに至る第一歩となった。
酸素の消費源であった海洋中の溶存鉄が尽きると次第に酸素ガスが海洋から大気に溢れ始め、約17億年前には大気中の酸素含有比率は10 %に達した。酸素の比率が逆転したのは7–8億年前と考えられる。
5億4000万年前のカンブリア紀が始まったころからは、大気中の酸素比率は15–30 %の間で推移した。それは石炭紀の終わりにあたる3億年前ごろには最大35 %まで達し、昆虫や両生類の大型化に作用した可能性がある。石炭紀には木材のリグニンを分解できる菌類が十分に進化しておらず、森林の繁栄により大量の炭素が石炭として固定化され、ペルム紀初期の大気中の酸素濃度は35 %に達したといわれる。また、植物が繁栄したことで大量の二酸化炭素が吸収され、その多くが大気中に還元されずに石炭化していったため、またしても大気中の二酸化炭素濃度が激減した。これがその後の寒冷化と氷河の発達、ひいては氷河時代の一因とされる。その後、寒冷化による植物の炭素固定能の減退、およびリグニンの分解能を獲得した菌類が増えたことなどから、ジュラ紀後期の2億年前には酸素濃度は12 %まで低下した。ジュラ紀後期から白亜紀を通じて酸素濃度は次第に増加した。現在の酸素濃度は21 %である。人類は年間70億トンの化石燃料を使用するにあたり酸素を消費し続けているが、これによる大気中の酸素比率に与える影響は微々たるものである。
一方、太陽の進化により、約10億年後を境に大気中の酸素濃度は急激に低下し、酸素呼吸を行う多細胞生物の生存は困難になるとする予測がある。
燃焼と空気の間には何らかの関係があるのでは、と行われたもっとも古い実験のひとつは、紀元前2世紀の古代ギリシアのビザンチウムのフィロンが著した『プネウマティカ(Pneumatica)』に記録されている。器に据えた蝋燭を灯してガラスの壷を上から被せ、壷の口が漬かるまで器に水を満たす。すると、壷の中へ水が吸い上がる様子を観察することができた。フィロンは、壷の中の空気が「四大元素の火」に変換され、これが壷のガラス壁を透過して逃げたと考えた。それから遥か時代が下った中世のルネサンス期に、レオナルド・ダ・ヴィンチはフィロンの実験に考察を加え、燃焼や呼吸を通じて空気が一部消費されると考えた。
17世紀後半にロバート・ボイルは、燃焼には空気が必要不可欠であることを立証した。これをジョン・メーヨーは、必要なものは彼が「硝気精(spiritus nitroaereus、nitroaereus)」と名づけた空気の構成要素だという説を提唱した。メイヨーの実験はフィロンと同じように水で封じた逆さの容器にそれぞれ蝋燭とマウスを入れ、どちらも水位が14分の1程度上昇したことを確認した。これから、メイヨーは燃焼と呼吸のいずれでも硝気精が消費されるとの確証を得た。またメイヨーは、アンチモンを加熱すると質量が増えることも確認し、これは金属に硝気精が結合したためと考えた。呼吸については、硝気精は肺の中で空気から取り出されて血液に受け渡され、動物の体温や筋肉の動きを生み出す反応に使われると考察し、1668年に発表した。
17世紀から18世紀にかけて、酸素はロバート・フック、オーレ・ボッシュ(英語版)、ミハイル・ロモノーソフ、ピエール・バイエンらが実験で作り出していたが、いずれもがそれを元素とは認識しなかった。そこには、フロギストン説と呼ばれる燃焼と腐食に関する広く知られた学説が影響を及ぼしていた。
1667年にドイツの錬金術師ヨハン・ベッヒャーが発案し、1731年までにゲオルク・シュタールが理論構築したフロギストン説は、可燃物とは燃素(フロギストン)とほかの物質の2つが結合した状態にあり、燃焼が起こると燃素が遊離し、残りの物質もしくは石灰が残るというものだった。この説では、木材や石炭などは燃素の含有率が高く、鉄など不燃性のものはほとんど含まないと考えられた。空気の効果は無視され、わずかに行われた実証試験でも可燃物を燃やすと軽くなるという点から確かに何かが失われているという考察がされたに過ぎず、発生ガスへ意識が向けられることはなかった。このフロギストン説が否定される契機は、金属を空気中で燃やすと重量が増すという報告だった。
酸素は1771年、スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレが酸化水銀(II)とさまざまな硝酸塩混合物を加熱する過程で発見した。シェーレはこの気体を「火素(fire air)」と名づけ1775年に論文を作成したが、出版社の都合で発表されたのは1777年となった。
シェーレが発見を知らしめるのに手間取っていた1774年8月1日、イギリスのジョゼフ・プリーストリーはガラス管に入れた酸化水銀(II)に日光を照射して得たガスに「脱フロギストン空気(dephlogisticated air)」と命名した。彼はこのガスの中では蝋燭がより明るく燃え、マウスが活発かつ長寿になることを確かめた。さらに自分でこのガスを吸い、「吸い込んだときには普通の空気と大差ないと思ったが、少し後になると呼吸が軽く楽になった」と書き残した。1775年、プリーストリーは新聞紙上にこの発見を発表し、2冊目の著作 Experiments and Observations on Different Kinds of Airでも論述した。このように、彼の発表がシェーレよりも先に行われたため、酸素発見者はプリーストリーということになった。
フランスの高名な化学者アントワーヌ・ラヴォアジエは、のちに自分が新元素を発見していたと主張したが、1774年10月にラヴォアジエはプリーストリーの訪問を受け、ガス発生手段など実験の概要を耳にしている。また、それに先立つ9月30日、プリーストリーは前もって新発見したガスの説明を記した書簡をラヴォアジエに送っているが、ラヴォアジエはこれを受け取っていないと主張した。なおプリーストリーの死後、彼の私物の中から書簡の写しが見つかっている。
ラヴォアジエは、厳密な物質量確認を伴う酸化の実験を通じて、燃焼の実態を正しく説明することに貢献した。彼はフロギストン説を否定し、プリーストリーらが発見したガスが元素のひとつであると立証するため、1774年以来行われた実験の追試に乗り出した。
ラヴォアジエは、スズと空気を密閉した容器を加熱しても全体の重さに変化がないことを観測し、開封すると外気が流れ込むことから空気の一部が減少していると確認し、またスズが重くなっていることも計測した。そして、この流入空気質量とスズの質量増分が同じであることを確認した。1777年、彼はこの実験結果などをまとめた書籍『Sur la combustion en général』を発表した。この中でラヴォアジエは、空気は燃焼と呼吸に深く関わるvital airと、これらに関与しないazote(古希: ζωτον、「生気のない」の意)」の2種類のガスが混合したものと証明した。azoteはのちに窒素とされた。
1777年、ラヴォアジエは「vital air」に、古代ギリシア語ὀξύς(oxys、味覚の酸味を由来とする「鋭い」の意)と -γενής(-genēs、生み出す者を由来とする「製作者」の意)を合成したフランス語「oxygène」という命名を施した。これは、彼が酸素こそすべての酸性の源泉だという誤解を持っていたためこれらの単語が選択されたものだった。のちに、酸性の根本となる元素は水素であることが判明したが、そのころには単語がすでに定着していたため変更はできなかった。
イギリス科学界は、同国人のプリーストリーが分離に成功したガスにこの名称を用いることに反対だったが、1791年に詩人でもあるエラズマス・ダーウィン(チャールズ・ダーウィンの祖父)が出版した有名な書籍『植物の園』(The Botanic Garden)の中で、このガスを称賛する詩『oxygen』を載せたため、すでに一般に広まっていたこともあり、「oxygen」の単語は英語に組み込まれてしまった。
ジョン・ドルトンの原子論では、当初すべての元素は「単元素」であり、原子比も単純なものであるという仮定があり、水は水素と酸素が1対1のHOというみなしの元で酸素の原子量を8と判断していた。これは1805年にジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックとアレクサンダー・フォン・フンボルトによって原子比が1対2に改められ、1811年にアメデオ・アヴォガドロがアボガドロの法則に則って水の正しい構成を解釈した。
19世紀には空気の構成も判明してきた。1877年にスイスのラウル・ピクテ(英語版)とフランスのルイ・ポール・カイユテが相次いで酸素の液体化に成功したと発表し、安定状態での液体酸素はヤギェウォ大学のジグムント・ヴルブレフスキとカロル・オルシェフスキ(英語版)が初めて得た。
1891年にはイギリスのジェイムズ・デュワーが研究で用いるに充分な液体酸素の製法を見つけ、1895年にはドイツのカール・フォン・リンデとイギリスのウィリアム・ハンプソンがそれぞれ液化分留による商業ベースに乗る量産法を確立した。この酸素を工業的に用いる例として、1901年にはアセチレンと圧縮酸素を用いた溶接法のデモンスチレーションが行われた。
実験室的には過酸化水素を触媒で分解することで得られる。触媒としては二酸化マンガンまたは、カタラーゼおよびそれらを含むレバーやジャガイモなどが利用できる。
そのほか、水の電気分解(英語版)でも得られる。純粋な水は電気を通さないため少量の水酸化ナトリウムを加える。酸素は陽極で発生し、陰極では水素が発生する。
工業的には空気の分留で得られる。空気を圧縮冷却し、沸点の差を利用して窒素やアルゴンなどほかの成分と分けられる。酸素が圧縮充填されるボンベの規格は各国さまざまであり、容器の色はISOでは白、アメリカ合衆国では緑、日本では黒(特に高純度品は表面積の半分を超えない範囲で水色も加えられる)と定められる。日本では内部圧力が14.7 MPaと定められている。液体充填されている容器は断熱構造をしており、圧力は1 MPa以下(およそ700 kPa)程度、色は地金(ステンレスやアルミ合金の場合)か灰色に黒の帯を配したものである。ただし工業的にはほとんど液体酸素をタンクローリーで1回あたり9–10トンが輸送され、低温液化ガス貯槽(コールドエバポレーター)で受け入れされる。
酸素ガスの2004年度日本国内生産量は10422238000 m、工業消費量は4093787000 m、液化酸素の2004年度日本国内生産量は855476000 m、工業消費量は68215000 mである。
酸素は電気陰性度が高く、ほとんどあらゆる元素と化学結合する。多くの有機化合物は構成元素として酸素を含み、無機化合物の酸素化合物は酸化物として多方面で利用されている。
地球上でのおもな同素体は酸素分子O2であり、その結合長は121 pm、結合エネルギーは498 kJ/molである。酸素分子は生物の複雑な細胞呼吸に使われている。
三酸素(O3)はオゾンとしてよく知られる非常に反応性の大きい単体の気体で、吸入すると肺組織を破壊する。オゾンは高層大気において、酸素分子が紫外線によって分裂した酸素原子と別の酸素分子が結合することによって生成している。オゾンは紫外領域を強く吸収するため、高層大気にあるオゾン層は地球を放射線から保護するシールドとして機能している。地表近くでもオゾンは生成しているが、これは自動車の排気ガスなどとして生成されている大気汚染物質である。
準安定状態分子である四酸素(O4)が2001年に発見されたが、これは固体酸素の6種の相のうちの1種として存在が仮定されていた。2006年にこの相が証明され、O2を20 GPaに加圧することで合成されたが、実際には菱面体晶のO8クラスターであった。このクラスターはO2やO3よりも強力な酸化剤であるため、ロケットの推進剤としての用途が考えられている。1990年には、固体酸素に96 GPa以上の圧力を与えると金属状態となることが分かり、1998年にはこの相を超低温条件に置くことにより超伝導となることが発見された。
酸素には安定同位体としてO、O、Oの3種類が知られるが、天然存在比はOが99.7 %以上を占めている。また、放射性同位体も作られている。
かつては酸素を16として原子量を定義していたが、物理学ではOの原子量を16としたのに対して、化学においては安定核種の平均原子量を16と置く定義の差があったことから、酸素の同位体の存在が判明して以降混乱が起こり、1961年に炭素12を基準とするように置き換えられた。
酸素ガスは高い分圧状態で痙攣症状などの酸素中毒を引き起こす場合がある。これは通常、大気の2.5倍の酸素分圧に相当する50 kPa以上であるときに起こる。そこで、標準気圧30 kPaの医療用酸素マスクは、酸素ガス比率を30 %に定めている。かつて未熟児用保育器の中は高い比率の酸素を含んだガスが使われていたが、視神経に悪影響を与える可能性が指摘されてからは用いられなくなった。
宇宙飛行などにおいて、アポロ計画では火災事故以前の初期段階で、また最新の宇宙服などにて比較的低圧で封じるため純酸素ガスが使用された。最新の宇宙服では、服内を0.3気圧程度まで減圧した純酸素で満たし、血液中の酸素分圧が上昇しない方法が取られている。
肺や中枢神経系に及ぼす酸素中毒は、深い水深へのスクーバダイビング(ディープダイビング)や送気式潜水でも起こる可能性がある。酸素分圧60 kPa以上の空気を長い時間呼吸していることは、恒久的な肺線維症に至ることがある。これがさらに高い160 kPa以上となると、ダイバーにとって致命的になる痙攣につながることもありうる。深刻な酸素中毒は、酸素比率21 %の空気を用いながら66 m以上潜水することで起こるが、同様のことは比率100 %の空気ならばわずか6 mの潜水で起こる。
高濃度酸素と可燃物が混在している状況で、そこに何らかの火種があれば火災や爆発で激しい燃焼が引き起こされる。酸素は空気より重いため、地下室のような場所に滞留しやすい、また、無色で無臭かつ無害であるため、酸素が充満していることに気付くことは難しい。高濃度酸素の環境下では、酸素の支燃性により、金属等の、通常は容易には燃えないような物から火が出る危険性がある他、可燃物はさらに燃えやすくなる。
過去の事例としては、酸素が充満したタンクの内部でグラインダーを使用中に、飛び散った火花が作業服に引火して燃え上がり、作業員が焼死した事故がある。高気圧酸素治療を行う際には、発火物の持ち込みが禁止されるほか、静電気による火花を防ぐため、木綿100%の下着を着用する必要がある。
燃焼発生の危険は、酸素が酸化電位の高い物質、たとえば過酸化物や塩素酸塩、硝酸塩や過塩素酸塩、クロム酸塩などと混在している場合も高い。
現在、地球の大気中における酸素濃度は約20.9490 %であるが、年平均4ppmずつ減少している(1999年から2005年の平均値)という調査結果がある。一方で、大気中の二酸化炭素濃度は年平均2ppmずつ増加しており、酸素濃度の減少もこれに関連して化石燃料の燃焼などがおもな原因になっていると思われる。また、二酸化炭素濃度の増加量と酸素濃度の減少量の差は、二酸化炭素が海面で多く吸収されている(陸上の約2倍)ことや、化石燃料燃焼時に二酸化炭素排出量より酸素消費量の方が1.4倍多いことなどに起因する。大気中酸素濃度の1年間を通した変動では、陸上における光合成量が呼吸量を上回る北半球の夏季には増加しており、冬季には減少している。
もっとも、大気中の二酸化炭素濃度は2016年で約0.041 %(407ppm)ほどであり、約21 %の酸素とは、元々の大気中濃度が全く異なっている。年平均4ppmの酸素減少は、1万年間で4 %程度の濃度減少である。 | [
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"text": "酸素(さんそ、英: oxygen、羅: oxygenium、仏: oxygène、独: Sauerstoff)は、原子番号8の元素である。元素記号はO。原子量は16.00。第16族元素、第2周期元素のひとつ。",
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"text": "スウェーデンの化学者、カール・ヴィルヘルム・シェーレが1771年に初めて見つけた。しかし、これはすぐに公にされず、その後1774年にジョゼフ・プリーストリーがそれとは独立して見つけたあとに広く知られるようになった。そのため、化学史上の発見者はプリーストリーとされている。",
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"text": "酸素は発見当初、「酸を生む物」と誤解された。これは、アントワーヌ・ラヴォアジエが前述のように誤解して、ギリシャ語のoxys(酸)とgenen(生む)を合わせ、「仏: oxygène」と名付けたことに由来する。英語でも「oxygen(オキシジェン)」といい、日本語でもこれらを宇田川榕菴が直訳して「酸素」と呼んだ。",
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"text": "一方、中国語圏では「酸」という字を用いず、「氧」(中国語読み:ヤン、ピンイン:yǎng、日本語読み:よう)という字をあて、氧や氧氣(ようき)という。韓国では日本語と中国語の名称が混用されたが、日本語の名称が定着した。(ハングル表記:산소、韓国語読み:サンソ)",
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"text": "電気陰性度が大きいため反応性に富み、ほかのほとんどの元素と化合物(特に酸化物)を作る。標準状態では2個の酸素原子が二重結合した無味無臭無色透明の二原子分子である酸素分子O2として存在する。",
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"text": "約90 Kで液体、約54 Kで青みがかった固体となる。ダイヤモンドアンビルセルなどで100万気圧を超えた高圧下では金属光沢を持ち、125万気圧、0.6 Kでは超伝導金属となる。",
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"text": "酸素は、フッ素に次いで2番目に電気陰性度が大きいため酸化力が強く、ほとんどの元素と発熱反応を起こして化合物を作る。1962年以降には希ガスであるキセノンも、酸素と化合して三酸化キセノン(XeO3)などの化合物を作ることがわかった。",
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"text": "宇宙では水素、ヘリウムに次いで3番目に多くの質量を占め、ケイ素量を10としたときの比率は2.38×10である。",
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"text": "地球地殻においては最大を占める元素(質量の46.60 %、体積の93.77 %)であり、石英の成分であるSiO2が地殻の大部分を構成している。気体の酸素分子は大気の体積の20.95 %、質量で23 %を占める。",
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"text": "地球外でも酸素は多く存在している。おもな存在形態である氷は地球のほか、惑星や、彗星、小惑星などにも見られる。火星においては、大気組成の95 %を二酸化炭素が占めるほか、二酸化炭素(ドライアイス)やごく少量の水が氷として両極の氷床(氷冠)に存在している。星が生まれる元となる分子雲では、一酸化炭素が分子の中で2番目に存在量の多い分子である。酸素の起源は恒星核におけるヘリウムの核融合であり、酸素のスペクトルが検出される恒星も存在している。",
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"text": "酸素分子(英: dioxygen、化学式: O 2 {\\displaystyle {\\ce {O2}}} は、常温常圧では無色無臭で助燃性をもつ気体として存在する。分子量32.00、沸点−183 °C(90 K)、融点−218.9 °C(54.3 K)。水100 gに溶解する量は0 °Cで6.945 mg、25 °Cで3.931 mg、50 °Cで2.657 mg。液体酸素は淡青色を示し、比重は1.14である。基底状態の三重項状態では不対電子を持つため常磁性体である。また活性酸素の一種で反磁性である励起状態の一重項酸素も存在する。",
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"text": "標準状態において一般の酸素は、2つの酸素原子が縮退した三重項の電子配置で化学結合した分子構造(三重項酸素分子)を持つ無色無臭の気体である。この結合次数は2であり、一般に二重結合、または1個の2電子結合と2個の3電子結合と表記される。三重項酸素分子とは電子の全スピン量子数が1となる状態で、具体的には2つの不対電子が酸素分子に2つあるπ反結合性軌道をひとつずつ占め、しかも同じ向きのスピンを取っている。このとき、酸素分子のエネルギーは基底状態にある。また、酸素分子の二重結合は反結合軌道にも電子が存在するため、結合軌道のみで電子を充足させる三重結合の窒素よりも安定さは下がり、また、2つの電子が対を作らずビラジカルとして存在するため、結果として酸素分子は窒素分子よりも少ないエネルギーでほかの物質と反応しやすくなる。",
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"text": "通常の三重項酸素分子は常磁性を持つ。これは、不対電子のスピン磁気モーメント(スピンの向きが同じ電子がπ*反結合性軌道に入る)とふたつの酸素分子間に働く交換相互作用による。液体酸素は磁石に吸いつけられ、実験では磁極間で自重を支えるに充分強い橋を作るほどである。",
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"text": "これに対し、外部から高エネルギーが加わり不対電子のひとつがスピンを逆方向へ変え、全スピン量子数が0となった酸素を一重項酸素といい、有機化合物との反応性が高い。自然界で一重項酸素は、光合成の過程で水から作られたり、対流圏で短波長の光によってオゾンの分解から発生したり、または免疫システムの中で活性酸素の原料として用いられたりする。",
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"text": "熱力学的に反応性が高く不安定な分子ではあるが、地球上では初期には光合成を行う嫌気性菌により、のちの時代には植物の光合成によって年間約10トン供給され続けているため多量に存在する。酸素呼吸を行う生物によって消費される。実際、生命が発生する以前の原始大気では酸素分子はほとんど存在せず、二酸化炭素などほかの原子と結合した状態であった。現在の大気中の酸素分子はそのほぼすべてが光合成由来だと考えられている。逆に、ほかの天体の大気中に遊離酸素の存在が確認されれば、生命の存在する間接的証拠となると考えられている。",
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"text": "酸素は、呼吸をする生物によっては必須であるが、同時に有害でもある。呼吸の過程や光反応などで生じる活性酸素は、DNAなどの生体構成分子を酸化して変性させる。純酸素の長時間吸引は生体にとって有害である。未熟児網膜症の原因になったり、60 %以上の高濃度酸素を12時間以上吸引すると、肺の充血などがみられ、最悪の場合、失明や死亡する危険性がある。",
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"text": "25 °Cで標準気圧下では、淡水は1 L中に酸素を6.04 mL含んでいるが、海水では1 Lあたり4.95 mLしか含んでいない。5 °Cでの溶解度は、淡水では9.0 mL/L、海水では 7.2 mL/Lまで増加している。",
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"text": "液体酸素は液体空気を分留して得られ、強い酸化剤である。液体空気を放置すると、沸点の低い窒素が先に蒸発するため、酸素分子が濃縮される。1 Lの液化酸素が気化すると約800 Lの酸素ガスになる。",
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"text": "酸素は紫外線や無声放電などによってオゾン O 3 {\\displaystyle {\\ce {O3}}} へと変換される。また、酸素分子のイオンとしてスーパーオキシドアニオン O 2 − {\\displaystyle {\\ce {O2^-}}} とジオキシゲニル O 2 + {\\displaystyle {\\ce {O2^+}}} が知られている。",
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"text": "自然界において遊離酸素は、光合成によって水が光分解されることで生じ、海洋中の緑藻類やシアノバクテリアが地球大気中の酸素70 %を、残りは陸上の植物が作り出している。",
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"text": "簡易な光合成の反応式は以下の通りである。",
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"text": "光分解による酸素発生は葉緑体のチラコイド膜中で起こる。光をエネルギーとするこの作用は多くの段階を経て、ATP を光リン酸化(photophosphorylation)させるプロトンの濃度勾配を起こす。この際、水を酸化することで酸素ガスが発生し、大気中に放出される。",
"title": "生物学的役割"
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"text": "酸素ガスは好気性生物が呼吸を行い、ミトコンドリアで酸化的リン酸化反応を経てATPを発生させるために使われる。酸素呼吸の反応は本質的に光合成の逆である。",
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"text": "脊椎動物では酸素ガスは肺の膜を通して血液中に拡散し赤血球中のヘモグロビンと結びつき、その色を紫がかった赤から明るい赤へ変える。ほかの動物ではヘモシアニン(軟体動物や節足動物の一種など)やヘムエリスリン(クモやロブスターなど)が使われる例もある。1 Lの血液が溶かせる酸素ガスは200 mLである。",
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"text": "超酸化物イオンや過酸化水素などの活性酸素は、酸素呼吸を行う生体にとって非常に危険な副産物であり、ミトコンドリアを取り込んだ真核生物は、進化の過程でデオキシリボ核酸を酸素から保護するために核膜を獲得した。その一方で、高等生物は免疫系で細菌を破壊するために過酸化物を用いている。また、植物が病原体に抵抗して起こす過敏感反応(hypersensitive response)でも、活性酸素は重要な役割を果たす。",
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"text": "成人が消費する酸素は、1分あたり約250 mLであり、これは約0.36 gに相当する。ここから計算すると、人類全体が1年間に消費する量は13億トンに相当する。",
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"text": "なお、酸素を利用しない呼吸の形態を嫌気呼吸という。最初の地球に酸素が存在しなかったことから、これが最初の呼吸のあり方と考えられる。これは好気呼吸の経路にも、解糖系という形態で残っている。酸素を全く使わずに生活する微生物も存在し、そのような微生物は、酸素の存在下では死滅する(嫌気性生物)。初期の微生物にとっても、酸素は有毒物質であった。",
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"text": "地球誕生初期の原始大気に含まれていた硫酸や塩酸は、原始海洋中で地殻中の金属イオンで中和され、原始大気は高温高圧の二酸化炭素や水蒸気、窒素が主成分だったと考えられる。これは海洋に溶けこんだ硫酸を除いて現在の金星の大気と似ていたとする説がある。この原始大気中には分圧で示されるほどの酸素は存在せず、熱や光で分解して発生するわずかな遊離酸素は一酸化炭素や地殻に露出した還元金属の酸化で消費され、分圧の高い二酸化炭素が海洋中に溶存していた。これを材料に30億年前ごろに光合成を獲得したシアノバクテリアが現れて酸素が作られ始めたとされているが、近年の遺伝子解析の結果から、進化の過程で光合成機能を失う細菌もいたことをうかがわせる結果が出ており、初期の光合成による大気への酸素供給は必ずしも安定にはできていなかった可能性が指摘されている。シアノバクテリアが大規模に存在して安定した酸素供給ができていた確実な証拠となるストロマトライトの最古の化石は、現在までに約27億年前のものが見つかっている。こうした安定した光合成は、同時期に大規模な大陸変動によって生じた浅瀬のような環境で可能になったと考えられている。",
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"text": "大気中の酸素分圧は24億5000年前ごろから高くなっていったと推定されており、このことは、海水中の2価の溶解鉄と化合して生じた酸化鉄を起源とする縞状鉄鉱床の形成時期と一致している。こうして酸素の大量発生(英語版)が起こった期間、ほかの元素と結合していない多くの遊離酸素が海中や大気中に溢れることとなり、また海洋中の二酸化炭素の消費に伴って大気中の二酸化炭素も減少した。これが、嫌気性生物を酸化して死滅させ、全球凍結に至るほどまで気温が急激に下がったために、シアノバクテリアを含む全生物相の深刻な大量絶滅も引き起こされたと考えられている(ヒューロニアン氷期)。氷期からの回復までに海洋中の酸素濃度は一時的に下がったとされる。しかし、生き延びた単細胞生物の中で、酸素を用いる効率的な細胞呼吸と、酸素により自らを酸化させない抗酸化物質を獲得した好気性生物はより多くのATPを作り出せるようになり、その後の地球に新たな生物圏を形成した。この光合成と酸素呼吸は真核生物、さらに多細胞生物への進化をもたらし、これが植物や動物などの生物多様性を生むに至る第一歩となった。",
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"text": "酸素の消費源であった海洋中の溶存鉄が尽きると次第に酸素ガスが海洋から大気に溢れ始め、約17億年前には大気中の酸素含有比率は10 %に達した。酸素の比率が逆転したのは7–8億年前と考えられる。",
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"paragraph_id": 31,
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"text": "5億4000万年前のカンブリア紀が始まったころからは、大気中の酸素比率は15–30 %の間で推移した。それは石炭紀の終わりにあたる3億年前ごろには最大35 %まで達し、昆虫や両生類の大型化に作用した可能性がある。石炭紀には木材のリグニンを分解できる菌類が十分に進化しておらず、森林の繁栄により大量の炭素が石炭として固定化され、ペルム紀初期の大気中の酸素濃度は35 %に達したといわれる。また、植物が繁栄したことで大量の二酸化炭素が吸収され、その多くが大気中に還元されずに石炭化していったため、またしても大気中の二酸化炭素濃度が激減した。これがその後の寒冷化と氷河の発達、ひいては氷河時代の一因とされる。その後、寒冷化による植物の炭素固定能の減退、およびリグニンの分解能を獲得した菌類が増えたことなどから、ジュラ紀後期の2億年前には酸素濃度は12 %まで低下した。ジュラ紀後期から白亜紀を通じて酸素濃度は次第に増加した。現在の酸素濃度は21 %である。人類は年間70億トンの化石燃料を使用するにあたり酸素を消費し続けているが、これによる大気中の酸素比率に与える影響は微々たるものである。",
"title": "生物学的役割"
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"text": "一方、太陽の進化により、約10億年後を境に大気中の酸素濃度は急激に低下し、酸素呼吸を行う多細胞生物の生存は困難になるとする予測がある。",
"title": "生物学的役割"
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"paragraph_id": 33,
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"text": "燃焼と空気の間には何らかの関係があるのでは、と行われたもっとも古い実験のひとつは、紀元前2世紀の古代ギリシアのビザンチウムのフィロンが著した『プネウマティカ(Pneumatica)』に記録されている。器に据えた蝋燭を灯してガラスの壷を上から被せ、壷の口が漬かるまで器に水を満たす。すると、壷の中へ水が吸い上がる様子を観察することができた。フィロンは、壷の中の空気が「四大元素の火」に変換され、これが壷のガラス壁を透過して逃げたと考えた。それから遥か時代が下った中世のルネサンス期に、レオナルド・ダ・ヴィンチはフィロンの実験に考察を加え、燃焼や呼吸を通じて空気が一部消費されると考えた。",
"title": "歴史"
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"text": "17世紀後半にロバート・ボイルは、燃焼には空気が必要不可欠であることを立証した。これをジョン・メーヨーは、必要なものは彼が「硝気精(spiritus nitroaereus、nitroaereus)」と名づけた空気の構成要素だという説を提唱した。メイヨーの実験はフィロンと同じように水で封じた逆さの容器にそれぞれ蝋燭とマウスを入れ、どちらも水位が14分の1程度上昇したことを確認した。これから、メイヨーは燃焼と呼吸のいずれでも硝気精が消費されるとの確証を得た。またメイヨーは、アンチモンを加熱すると質量が増えることも確認し、これは金属に硝気精が結合したためと考えた。呼吸については、硝気精は肺の中で空気から取り出されて血液に受け渡され、動物の体温や筋肉の動きを生み出す反応に使われると考察し、1668年に発表した。",
"title": "歴史"
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"text": "17世紀から18世紀にかけて、酸素はロバート・フック、オーレ・ボッシュ(英語版)、ミハイル・ロモノーソフ、ピエール・バイエンらが実験で作り出していたが、いずれもがそれを元素とは認識しなかった。そこには、フロギストン説と呼ばれる燃焼と腐食に関する広く知られた学説が影響を及ぼしていた。",
"title": "歴史"
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"text": "1667年にドイツの錬金術師ヨハン・ベッヒャーが発案し、1731年までにゲオルク・シュタールが理論構築したフロギストン説は、可燃物とは燃素(フロギストン)とほかの物質の2つが結合した状態にあり、燃焼が起こると燃素が遊離し、残りの物質もしくは石灰が残るというものだった。この説では、木材や石炭などは燃素の含有率が高く、鉄など不燃性のものはほとんど含まないと考えられた。空気の効果は無視され、わずかに行われた実証試験でも可燃物を燃やすと軽くなるという点から確かに何かが失われているという考察がされたに過ぎず、発生ガスへ意識が向けられることはなかった。このフロギストン説が否定される契機は、金属を空気中で燃やすと重量が増すという報告だった。",
"title": "歴史"
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"text": "酸素は1771年、スウェーデンのカール・ヴィルヘルム・シェーレが酸化水銀(II)とさまざまな硝酸塩混合物を加熱する過程で発見した。シェーレはこの気体を「火素(fire air)」と名づけ1775年に論文を作成したが、出版社の都合で発表されたのは1777年となった。",
"title": "歴史"
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"text": "シェーレが発見を知らしめるのに手間取っていた1774年8月1日、イギリスのジョゼフ・プリーストリーはガラス管に入れた酸化水銀(II)に日光を照射して得たガスに「脱フロギストン空気(dephlogisticated air)」と命名した。彼はこのガスの中では蝋燭がより明るく燃え、マウスが活発かつ長寿になることを確かめた。さらに自分でこのガスを吸い、「吸い込んだときには普通の空気と大差ないと思ったが、少し後になると呼吸が軽く楽になった」と書き残した。1775年、プリーストリーは新聞紙上にこの発見を発表し、2冊目の著作 Experiments and Observations on Different Kinds of Airでも論述した。このように、彼の発表がシェーレよりも先に行われたため、酸素発見者はプリーストリーということになった。",
"title": "歴史"
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"text": "フランスの高名な化学者アントワーヌ・ラヴォアジエは、のちに自分が新元素を発見していたと主張したが、1774年10月にラヴォアジエはプリーストリーの訪問を受け、ガス発生手段など実験の概要を耳にしている。また、それに先立つ9月30日、プリーストリーは前もって新発見したガスの説明を記した書簡をラヴォアジエに送っているが、ラヴォアジエはこれを受け取っていないと主張した。なおプリーストリーの死後、彼の私物の中から書簡の写しが見つかっている。",
"title": "歴史"
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{
"paragraph_id": 40,
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"text": "ラヴォアジエは、厳密な物質量確認を伴う酸化の実験を通じて、燃焼の実態を正しく説明することに貢献した。彼はフロギストン説を否定し、プリーストリーらが発見したガスが元素のひとつであると立証するため、1774年以来行われた実験の追試に乗り出した。",
"title": "歴史"
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"text": "ラヴォアジエは、スズと空気を密閉した容器を加熱しても全体の重さに変化がないことを観測し、開封すると外気が流れ込むことから空気の一部が減少していると確認し、またスズが重くなっていることも計測した。そして、この流入空気質量とスズの質量増分が同じであることを確認した。1777年、彼はこの実験結果などをまとめた書籍『Sur la combustion en général』を発表した。この中でラヴォアジエは、空気は燃焼と呼吸に深く関わるvital airと、これらに関与しないazote(古希: ζωτον、「生気のない」の意)」の2種類のガスが混合したものと証明した。azoteはのちに窒素とされた。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 42,
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"text": "1777年、ラヴォアジエは「vital air」に、古代ギリシア語ὀξύς(oxys、味覚の酸味を由来とする「鋭い」の意)と -γενής(-genēs、生み出す者を由来とする「製作者」の意)を合成したフランス語「oxygène」という命名を施した。これは、彼が酸素こそすべての酸性の源泉だという誤解を持っていたためこれらの単語が選択されたものだった。のちに、酸性の根本となる元素は水素であることが判明したが、そのころには単語がすでに定着していたため変更はできなかった。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 43,
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"text": "イギリス科学界は、同国人のプリーストリーが分離に成功したガスにこの名称を用いることに反対だったが、1791年に詩人でもあるエラズマス・ダーウィン(チャールズ・ダーウィンの祖父)が出版した有名な書籍『植物の園』(The Botanic Garden)の中で、このガスを称賛する詩『oxygen』を載せたため、すでに一般に広まっていたこともあり、「oxygen」の単語は英語に組み込まれてしまった。",
"title": "歴史"
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"text": "ジョン・ドルトンの原子論では、当初すべての元素は「単元素」であり、原子比も単純なものであるという仮定があり、水は水素と酸素が1対1のHOというみなしの元で酸素の原子量を8と判断していた。これは1805年にジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックとアレクサンダー・フォン・フンボルトによって原子比が1対2に改められ、1811年にアメデオ・アヴォガドロがアボガドロの法則に則って水の正しい構成を解釈した。",
"title": "歴史"
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"text": "19世紀には空気の構成も判明してきた。1877年にスイスのラウル・ピクテ(英語版)とフランスのルイ・ポール・カイユテが相次いで酸素の液体化に成功したと発表し、安定状態での液体酸素はヤギェウォ大学のジグムント・ヴルブレフスキとカロル・オルシェフスキ(英語版)が初めて得た。",
"title": "歴史"
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{
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"text": "1891年にはイギリスのジェイムズ・デュワーが研究で用いるに充分な液体酸素の製法を見つけ、1895年にはドイツのカール・フォン・リンデとイギリスのウィリアム・ハンプソンがそれぞれ液化分留による商業ベースに乗る量産法を確立した。この酸素を工業的に用いる例として、1901年にはアセチレンと圧縮酸素を用いた溶接法のデモンスチレーションが行われた。",
"title": "歴史"
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{
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"text": "実験室的には過酸化水素を触媒で分解することで得られる。触媒としては二酸化マンガンまたは、カタラーゼおよびそれらを含むレバーやジャガイモなどが利用できる。",
"title": "製造"
},
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"tag": "p",
"text": "そのほか、水の電気分解(英語版)でも得られる。純粋な水は電気を通さないため少量の水酸化ナトリウムを加える。酸素は陽極で発生し、陰極では水素が発生する。",
"title": "製造"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "工業的には空気の分留で得られる。空気を圧縮冷却し、沸点の差を利用して窒素やアルゴンなどほかの成分と分けられる。酸素が圧縮充填されるボンベの規格は各国さまざまであり、容器の色はISOでは白、アメリカ合衆国では緑、日本では黒(特に高純度品は表面積の半分を超えない範囲で水色も加えられる)と定められる。日本では内部圧力が14.7 MPaと定められている。液体充填されている容器は断熱構造をしており、圧力は1 MPa以下(およそ700 kPa)程度、色は地金(ステンレスやアルミ合金の場合)か灰色に黒の帯を配したものである。ただし工業的にはほとんど液体酸素をタンクローリーで1回あたり9–10トンが輸送され、低温液化ガス貯槽(コールドエバポレーター)で受け入れされる。",
"title": "製造"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "酸素ガスの2004年度日本国内生産量は10422238000 m、工業消費量は4093787000 m、液化酸素の2004年度日本国内生産量は855476000 m、工業消費量は68215000 mである。",
"title": "用途"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "酸素は電気陰性度が高く、ほとんどあらゆる元素と化学結合する。多くの有機化合物は構成元素として酸素を含み、無機化合物の酸素化合物は酸化物として多方面で利用されている。",
"title": "化合物"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "地球上でのおもな同素体は酸素分子O2であり、その結合長は121 pm、結合エネルギーは498 kJ/molである。酸素分子は生物の複雑な細胞呼吸に使われている。",
"title": "同素体"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "三酸素(O3)はオゾンとしてよく知られる非常に反応性の大きい単体の気体で、吸入すると肺組織を破壊する。オゾンは高層大気において、酸素分子が紫外線によって分裂した酸素原子と別の酸素分子が結合することによって生成している。オゾンは紫外領域を強く吸収するため、高層大気にあるオゾン層は地球を放射線から保護するシールドとして機能している。地表近くでもオゾンは生成しているが、これは自動車の排気ガスなどとして生成されている大気汚染物質である。",
"title": "同素体"
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{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "準安定状態分子である四酸素(O4)が2001年に発見されたが、これは固体酸素の6種の相のうちの1種として存在が仮定されていた。2006年にこの相が証明され、O2を20 GPaに加圧することで合成されたが、実際には菱面体晶のO8クラスターであった。このクラスターはO2やO3よりも強力な酸化剤であるため、ロケットの推進剤としての用途が考えられている。1990年には、固体酸素に96 GPa以上の圧力を与えると金属状態となることが分かり、1998年にはこの相を超低温条件に置くことにより超伝導となることが発見された。",
"title": "同素体"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "酸素には安定同位体としてO、O、Oの3種類が知られるが、天然存在比はOが99.7 %以上を占めている。また、放射性同位体も作られている。",
"title": "同位体"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "かつては酸素を16として原子量を定義していたが、物理学ではOの原子量を16としたのに対して、化学においては安定核種の平均原子量を16と置く定義の差があったことから、酸素の同位体の存在が判明して以降混乱が起こり、1961年に炭素12を基準とするように置き換えられた。",
"title": "同位体"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "酸素ガスは高い分圧状態で痙攣症状などの酸素中毒を引き起こす場合がある。これは通常、大気の2.5倍の酸素分圧に相当する50 kPa以上であるときに起こる。そこで、標準気圧30 kPaの医療用酸素マスクは、酸素ガス比率を30 %に定めている。かつて未熟児用保育器の中は高い比率の酸素を含んだガスが使われていたが、視神経に悪影響を与える可能性が指摘されてからは用いられなくなった。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "宇宙飛行などにおいて、アポロ計画では火災事故以前の初期段階で、また最新の宇宙服などにて比較的低圧で封じるため純酸素ガスが使用された。最新の宇宙服では、服内を0.3気圧程度まで減圧した純酸素で満たし、血液中の酸素分圧が上昇しない方法が取られている。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "肺や中枢神経系に及ぼす酸素中毒は、深い水深へのスクーバダイビング(ディープダイビング)や送気式潜水でも起こる可能性がある。酸素分圧60 kPa以上の空気を長い時間呼吸していることは、恒久的な肺線維症に至ることがある。これがさらに高い160 kPa以上となると、ダイバーにとって致命的になる痙攣につながることもありうる。深刻な酸素中毒は、酸素比率21 %の空気を用いながら66 m以上潜水することで起こるが、同様のことは比率100 %の空気ならばわずか6 mの潜水で起こる。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "高濃度酸素と可燃物が混在している状況で、そこに何らかの火種があれば火災や爆発で激しい燃焼が引き起こされる。酸素は空気より重いため、地下室のような場所に滞留しやすい、また、無色で無臭かつ無害であるため、酸素が充満していることに気付くことは難しい。高濃度酸素の環境下では、酸素の支燃性により、金属等の、通常は容易には燃えないような物から火が出る危険性がある他、可燃物はさらに燃えやすくなる。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "過去の事例としては、酸素が充満したタンクの内部でグラインダーを使用中に、飛び散った火花が作業服に引火して燃え上がり、作業員が焼死した事故がある。高気圧酸素治療を行う際には、発火物の持ち込みが禁止されるほか、静電気による火花を防ぐため、木綿100%の下着を着用する必要がある。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "燃焼発生の危険は、酸素が酸化電位の高い物質、たとえば過酸化物や塩素酸塩、硝酸塩や過塩素酸塩、クロム酸塩などと混在している場合も高い。",
"title": "安全と注意"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "現在、地球の大気中における酸素濃度は約20.9490 %であるが、年平均4ppmずつ減少している(1999年から2005年の平均値)という調査結果がある。一方で、大気中の二酸化炭素濃度は年平均2ppmずつ増加しており、酸素濃度の減少もこれに関連して化石燃料の燃焼などがおもな原因になっていると思われる。また、二酸化炭素濃度の増加量と酸素濃度の減少量の差は、二酸化炭素が海面で多く吸収されている(陸上の約2倍)ことや、化石燃料燃焼時に二酸化炭素排出量より酸素消費量の方が1.4倍多いことなどに起因する。大気中酸素濃度の1年間を通した変動では、陸上における光合成量が呼吸量を上回る北半球の夏季には増加しており、冬季には減少している。",
"title": "大気中酸素濃度の減少"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "もっとも、大気中の二酸化炭素濃度は2016年で約0.041 %(407ppm)ほどであり、約21 %の酸素とは、元々の大気中濃度が全く異なっている。年平均4ppmの酸素減少は、1万年間で4 %程度の濃度減少である。",
"title": "大気中酸素濃度の減少"
}
] | 酸素は、原子番号8の元素である。元素記号はO。原子量は16.00。第16族元素、第2周期元素のひとつ。 | {{redirect|Oxygen|タイのテレビドラマ|Oxygen (タイのテレビドラマ)}}
{{Elementbox
|name=oxygen
|japanese name=酸素
|number=8
|symbol=O
|pronounce={{IPAc-en|ˈ|ɒ|k|s|ɨ|dʒ|ɨ|n}} {{respell|OK|si-jin}}<!--no need for US vs. UK. they're the same thing.-->
|left=[[窒素]]
|right=[[フッ素]]
|above=-
|below=[[硫黄|S]]
|series=非金属
|series 2=[[カルコゲン]]
|group=16
|period=2
|block=p
|series color=
|phase color=
|appearance=無色の気体<ref name="sakurai64">[[#桜井|桜井 (1997)]]、64頁。</ref>(液体は淡青色)
|image name=Liquid oxygen in a beaker 4.jpg
|image alt=
|image size=150px
|image name comment=沸騰している[[液体酸素]](酸素の沸点は{{abbr|1 atm|気圧101.325 kPa}}で約−183 {{℃}} (−297 {{°F}}))。
|image name 2=Oxygen spectre.jpg
|image name 2 comment=酸素のスペクトル線
|atomic mass=15.9994
|atomic mass 2=3
|atomic mass comment=
|electron configuration=1s{{sup|2}} 2s{{sup|2}} 2p{{sup|4}}
|electrons per shell=2, 6
|color=無色<ref name="sakurai64" />
|phase=気体
|phase comment=
|density gplstp=1.429<ref name="Newton96">[[#ニュートン|玉尾、桜井、福山 (2010)]]、96-97頁。</ref>
|density=
|density gpcm3nrt 2=
|density gpcm3mp=
|density gpcm3bp=1.141
|melting point K=54.8<ref name="sakurai64" />
|melting point C=−218.8<ref name="sakurai64" /><ref name="Newton96" />
|melting point F=−361.82
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|boiling point C=−182.96<ref name="Newton96" />
|boiling point F=−297.31
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|heat fusion=(O{{sub|2}}) 0.444
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|crystal structure=cubic
|japanese crystal structure=[[立方晶系]]
|oxidation states=2, 1, −1, '''−2'''
|oxidation states comment=
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|covalent radius=[[1 E-11 m|66 ± 2]]
|Van der Waals radius=[[1 E-10 m|152]]
|magnetic ordering=[[反磁性]]
|electrical resistivity=
|electrical resistivity at 0=
|electrical resistivity at 20=
|thermal conductivity=26.58 × 10{{sup|−3}}
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|Young's modulus=
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|Vickers hardness=
|Brinell hardness=
|CAS number=7782-44-7<ref name="kagaku">{{Cite book|和書|year=1996|title=12996の化学商品|publisher=[[化学工業日報]]|pages=233-234|chapter=水素|isbn=4-87326-204-6}}</ref>
|isotopes=
{{Elementbox_isotopes_stable | mn=[[酸素16|16]] | sym=O | na=99.76% | n=8}}
{{Elementbox_isotopes_stable | mn={{link-en|酸素17|Oxygen-17|17}} | sym=O | na=0.039% | n=9}}
{{Elementbox_isotopes_stable | mn=[[酸素18|18]] | sym=O | na=0.201% | n=10}}
|isotopes comment=
}}
'''酸素'''(さんそ、{{lang-en-short|oxygen}}、{{lang-la-short|oxygenium}}、{{lang-fr-short|oxygène}}、{{lang-de-short|Sauerstoff}})は、[[原子番号]]8の[[元素]]である。[[元素記号]]は'''O'''。[[原子量]]は16.00。[[第16族元素]]、[[第2周期元素]]のひとつ。
==名称==
[[Image:UtagawaYoan.jpg|thumb|200px|宇田川榕庵]]
[[スウェーデン]]の化学者、[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]が[[1771年]]に初めて見つけた<ref name="sakurai64" />。しかし、これはすぐに公にされず、その後[[1774年]]に[[ジョゼフ・プリーストリー]]がそれとは独立して見つけたあとに広く知られるようになった<ref name="sakurai64-65">[[#桜井|桜井 (1997)]]、64-65頁。</ref>。そのため、化学史上の発見者はプリーストリーとされている<ref name="sakurai65">[[#桜井|桜井 (1997)]]、65頁。</ref>。
酸素は発見当初、「[[酸]]を生む物」と誤解された。これは、[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]が前述のように誤解して、[[ギリシャ語]]の''oxys''([[酸]])と''genen''(生む)を合わせ、「{{lang-fr-short|'''oxygène'''}}」と名付けた<ref name="sakurai64" />ことに由来する。英語でも「'''oxygen'''(オキシジェン)」<!--、蘭語でも「'''zuurstof'''(ズールストッフ)」-->といい、日本語でもこれらを[[宇田川榕菴]]が直訳して「'''酸素'''」と呼んだ。
一方、中国語圏では「酸」という字を用いず、「'''氧'''」(中国語読み:ヤン、[[ピンイン]]:yǎng、日本語読み:よう)という字をあて、'''氧'''や'''氧氣'''(ようき)という。韓国では日本語と中国語の名称が混用されたが、日本語の名称が定着した。(ハングル表記:'''산소'''、韓国語読み:サンソ)
== 性質 ==
[[電気陰性度]]が大きいため反応性に富み、ほかのほとんどの元素と[[化合物]](特に[[酸化物]])を作る。[[標準状態]]では2個の酸素原子が[[二重結合]]した無味無臭無色透明の[[二原子分子]]である酸素分子'''O{{sub|2}}'''として存在する。
=== 物理的性質 ===
約90 [[ケルビン|K]]で液体、約54 Kで青みがかった固体となる。[[ダイヤモンドアンビルセル]]などで100万気圧を超えた高圧下では金属光沢を持ち、125万気圧、0.6 Kでは[[超伝導体|超伝導金属]]となる。
また、助燃性がある。
=== 化学的性質 ===
酸素は、[[フッ素]]に次いで2番目に[[電気陰性度]]が大きい<ref name="sakurai33">[[#桜井|桜井 (1997)]]、33頁。</ref>ため[[酸化力]]が強く、ほとんどの元素と[[発熱反応]]を起こして[[化合物]]を作る<ref name="Lee241">[[#リー|リー (1982)]]、241頁。</ref>。1962年以降には[[希ガス]]である[[キセノン]]も、酸素と化合して[[三酸化キセノン]](XeO{{sub|3}})などの化合物を作ることがわかった<ref name="Lee292">[[#リー|リー (1982)]]、292頁。</ref>。
== 分布 ==
[[宇宙]]では[[水素]]、[[ヘリウム]]に次いで3番目に多くの質量を占め<ref name="NBB297">[[#Emsley|Emsley (2001)]].</ref>、ケイ素量を10{{sup|6}}としたときの比率は{{val|2.38|e=7}}である<ref name="NewtonTable">[[#ニュートン|玉尾、桜井、福山 (2010)]]、付録周期表。</ref>。
地球地殻においては最大を占める元素(質量の46.60 %、体積の93.77 %)であり{{efn2|質量においては[[ケイ素]]が次点であり、地殻の27.72 %を占める(ケイ素の[[イオン半径]]は酸素の3分の1以下であるため、体積は地殻の0.86 %である){{sfn|酒井|2003|pp=48-49}}。}}、[[石英]]の成分である[[二酸化ケイ素|SiO{{sub|2}}]]が地殻の大部分を構成している{{sfn|酒井|2003|pp=48-49}}{{efn2|地殻の[[造岩鉱物]]の92 %はSiO{{sub|4}}の四面体を結晶構造の基本単位とする[[珪酸塩鉱物]]である{{sfn|酒井|2003|pp=48-49}}。}}。気体の酸素分子は[[大気]]の体積の20.95 %<ref name="ECE500">[[#Cook|Cook & Lauer (1968)]].</ref>、質量で23 %を占める<ref name="sakurai64" />。
地球外でも酸素は多く存在している。おもな存在形態である[[氷]]は地球のほか、[[惑星]]や、[[彗星]]、[[小惑星]]などにも見られる{{要出典|date=2021年3月}}。[[火星]]においては、[[火星の大気|大気]]組成の95 %を[[二酸化炭素]]が占める{{efn2|酸素分子は0.1–0.3 %、水は0.03 %{{sfn|酒井|2003|p=5}}。}}ほか、二酸化炭素([[ドライアイス]])やごく少量の[[水]]が[[氷]]として両極の[[氷床]](氷冠)に存在している{{sfn|酒井|2003|pp=5 & 17}}。星が生まれる元となる[[分子雲]]では、[[一酸化炭素]]が分子の中で2番目に存在量の多い分子である。酸素の起源は恒星核における[[ヘリウム]]の核融合であり、酸素のスペクトルが検出される恒星も存在している{{要出典|date=2021年3月}}。
== 酸素分子 ==
=== 物理的性質 ===
酸素分子({{lang-en-short|dioxygen}}、[[化学式]]:<chem>O2</chem>は、常温常圧では無色無臭で助燃性をもつ[[気体]]として存在する。[[分子量]]32.00、[[沸点]]−183 °C(90 K)、[[融点]]−218.9 °C(54.3 K)。水100 gに溶解する量は0 °Cで6.945 mg、25 °Cで3.931 mg、50 °Cで2.657 mg<ref name="kagaku" />。[[液体酸素]]は淡青色を示し、比重は1.14である<ref name="kagaku" />。[[基底状態]]の三重項状態では[[不対電子]]を持つため[[常磁性|常磁性体]]である。また[[活性酸素]]の一種で[[反磁性]]である[[励起状態]]の[[一重項酸素]]も存在する。
=== 構造 ===
[[ファイル:8 oxygen (O) Bohr model.png|thumb|酸素の原子模型図。原子の手が8つある]][[標準状態]]において一般の<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/scicafe/report20080314.html|title=βカロチンの活性酸素消去能力を測る|publisher = [[名古屋大学]]|accessdate =2010-05-28}}</ref>酸素は、2つの酸素原子が縮退した[[三重項]]の電子配置で[[化学結合]]した分子構造([[三重項酸素]]分子)を持つ無色無臭の気体である。この[[結合次数]]は2であり、一般に[[二重結合]]<ref>{{cite web|url=http://chemed.chem.purdue.edu/genchem/topicreview/bp/ch8/mo.html#bond|title=Molecular Orbital Theory|publisher = Purdue University|accessdate =2008-01-28}}</ref>、または1個の2電子結合と2個の3電子結合と表記される<ref name="pauling">{{cite book |title=The nature of the chemical bond and the structure of molecules and crystals : an introduction to modern structural chemistry |author=Pauling, L. |year=1960 |publisher=Cornell University Press |location=Ithaca|edition=3rd}}</ref>。三重項酸素分子とは電子の全スピン量子数が1となる状態で、具体的には2つの[[不対電子]]が酸素分子に2つあるπ{{sup|*}}[[反結合性軌道]]<ref>{{Cite web|和書|url=http://mole.rc.kyushu-u.ac.jp/~fuchita/ChemicalBonding/12th/Note12.pdf|format=PDF|language=日本語|title=第15章 分子の形成と性質|author=淵田吉男 |publisher=[[九州大学]]高等教育総合開発研究センター|accessdate=2010-05-28}}</ref>をひとつずつ占め、しかも同じ向きのスピンを取っている<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E4%B8%89%E9%87%8D%E9%A0%85%E9%85%B8%E7%B4%A0|language=日本語|title=薬学用語解説【三重項酸素】|author= |publisher=財団法人日本薬学会|accessdate=2010-05-28}}</ref>。このとき、酸素分子のエネルギーは基底状態にある<ref name="BiochemOnline">{{cite web|title = Biochemistry Online|url = http://employees.csbsju.edu/hjakubowski/classes/ch331/bcintro/default.html| chapterurl=http://employees.csbsju.edu/hjakubowski/classes/ch331/oxphos/oldioxygenchem.html |chapter=Chapter 8: Oxidation-Phosphorylation, the Chemistry of Di-Oxygen|first=Henry|last=Jakubowski|accessdate=2008-01-28|publisher=Saint John's University}}</ref>。また、酸素分子の二重結合は反結合軌道にも電子が存在するため、結合軌道のみで電子を充足させる三重結合の[[窒素]]よりも安定さは下がり、また、2つの電子が対を作らず[[ビラジカル]]として存在するため、結果として酸素分子は窒素分子よりも少ないエネルギーでほかの物質と反応しやすくなる<ref name="BiochemOnline"/><ref>{{Cite web|和書|url=http://www.sugalab.mp.es.osaka-u.ac.jp/~sekiyama/PES1/kaisetu2_1.html|language=日本語|title=物性物理超入門編 電子とイオン結合と共有結合|author=関山明 |publisher=[[大阪大学]]大学院基礎工学研究科|accessdate=2010-05-28}}</ref>。
通常の三重項酸素分子は[[常磁性]]を持つ。これは、不対電子のスピン磁気モーメント(スピンの向きが同じ電子がπ*反結合性軌道に入る<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nuee.nagoya-u.ac.jp/labs/nakazatolab/nakazato/LsseeA1.pdf|format=PDF|language=日本語|title=第1回演習問題|author=中里和郎|publisher=[[名古屋大学]]大学院工学研究科|accessdate=2010-05-28}}</ref>)とふたつの酸素分子間に働く[[交換相互作用]]による<ref name="NBB303"/>。液体酸素は磁石に吸いつけられ、実験では磁極間で自重を支えるに充分強い橋を作るほどである<ref>{{cite web|url = http://genchem.chem.wisc.edu/demonstrations/Gen_Chem_Pages/0809bondingpage/liquid_oxygen.htm|title = Demonstration of a bridge of liquid oxygen supported against its own weight between the poles of a powerful magnet|publisher = University of Wisconsin-Madison Chemistry Department Demonstration lab| accessdate = 2007-12-15}}</ref><ref>Oxygen's paramagnetism can be used analytically in paramagnetic oxygen gas analysers that determine the purity of gaseous oxygen. ({{cite web|url = http://www.servomex.com/oxygen_gas_analyser.html|title = Company literature of Oxygen analyzers (triplet)|publisher = Servomex|accessdate = 2007-12-15}})</ref>。
これに対し、外部から高エネルギーが加わり不対電子のひとつがスピンを逆方向へ変え<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nsc.nagoya-cu.ac.jp/~watanabe/activeo.html |language=日本語|title=活性酸素|author=渡邉準 |publisher=[[名古屋大学]]システム自然科学研究科|accessdate=2010-05-28}}</ref>、全スピン量子数が0となった酸素を[[一重項酸素]]といい、[[有機化合物]]との反応性が高い。自然界で一重項酸素は、光合成の過程で水から作られたり<ref>{{cite journal|first=Anja|last=Krieger-Liszkay |accessdate=2007-12-16|journal=Journal of Experimental Botanics|year=2005|volume=56|publisher=Oxford Journals|pages=337-46|published=2004-10-13|title=Singlet oxygen production in photosynthesis|doi=10.1093/jxb/erh237|pmid=15310815|issue=411}}</ref>、[[対流圏]]で短波長の光によって[[オゾン]]の分解から発生したり<ref name="harrison">{{cite book|last=Harrison |first=Roy M.|year=1990|title=Pollution: Causes, Effects & Control|edition=2nd |location=Cambridge|publisher=[[王立化学会|Royal Society of Chemistry]]|isbn=0-85186-283-7}}</ref>、または免疫システムの中で[[活性酸素]]の原料として用いられたりする<ref name="immune-ozone">{{cite journal|journal=Science|title=Evidence for Antibody-Catalyzed Ozone Formation in Bacterial Killing and Inflammation|year=2002|volume=298|issue=5601|pages=2195-2219|doi=10.1126/science.1077642|author=Wentworth, Paul Jr. ''et al.''|pmid=12434011}}</ref>。
=== その他の特徴 ===
[[熱力学]]的に反応性が高く不安定な分子ではあるが、地球上では初期には[[光合成]]を行う[[嫌気性生物|嫌気性菌]]により、のちの時代には[[植物]]の光合成によって年間約10{{sup|11}}トン<ref name="sakurai65" />供給され続けているため多量に存在する。[[酸素呼吸]]を行う生物によって消費される。実際、生命が発生する以前の原始大気では酸素分子はほとんど存在せず、二酸化炭素などほかの原子と結合した状態であった。現在の大気中の酸素分子はそのほぼすべてが光合成由来だと考えられている<ref name="Chikyu">{{Cite book|和書|author=A・オレイニコフ|year=1978|edition=第一刷|title=地球時計|chapter=I. 地球進化を探る 3.地球大気の形成|pages=21-35|publisher=[[講談社]] |isbn=}}</ref>{{#tag:ref|原初の地球大気にも、水蒸気が光分解されて発生するメカニズムが指摘されており、ごく微量ながら酸素ガスが存在した可能性はあるが、ほとんどはすぐ酸化反応で消費されるか、オゾンへ変化したものと思われ、いずれにしろ考慮に足る量ではなかった<ref>オレイニコフ (1978)、31頁。</ref>。|group="注"}}。逆に、ほかの天体の大気中に遊離酸素の存在が確認されれば、生命の存在する間接的証拠となると考えられている。
酸素は、[[呼吸]]をする生物によっては必須であるが、同時に有害でもある<ref name="mito19-21">[[#瀬名ら|瀬名、太田 (2000)]]、19-21頁。</ref>。呼吸の過程や光反応などで生じる[[活性酸素]]は、[[デオキシリボ核酸|DNA]]などの生体構成分子を[[酸化]]して変性させる<ref name="mito31-35">[[#瀬名ら|瀬名、太田 (2000)]]、31-35頁。</ref>。純酸素の長時間吸引は生体にとって有害である。[[未熟児網膜症]]の原因になったり、60 %以上の高濃度酸素を12時間以上吸引すると、[[肺]]の充血などがみられ、最悪の場合、失明や死亡する危険性がある。
25 °Cで[[標準気圧]]下では、淡水は1 [[リットル|L]]中に酸素を6.04 mL含んでいるが、[[海水]]では1 Lあたり4.95 mLしか含んでいない<ref>{{cite book|title = The Physiology of Fishes |first=David Hudson |last=Evans |coauthors=Claiborne, James B.|pages=88|year=2006|publisher=CRC Press|isbn=0-8493-2022-4}}</ref>。5 °Cでの溶解度は、淡水では9.0 mL/L、海水では 7.2 mL/Lまで増加している。
液体酸素は液体空気を分留して得られ、強い酸化剤である<ref name="kagaku" />。液体空気を放置すると、沸点の低い窒素が先に蒸発するため、酸素分子が濃縮される<ref name="kagaku" />。1 Lの液化酸素が気化すると約800 Lの酸素ガスになる。
酸素は[[紫外線]]や[[無声放電]]などによって[[オゾン]] <chem>O3</chem>へと変換される。また、酸素分子のイオンとして[[スーパーオキシドアニオン]] <chem>O2^-</chem>と[[ジオキシゲニル]] <chem>O2^+</chem>が知られている。
== 生物学的役割 ==
=== 光合成と呼吸 ===
[[ファイル:Simple photosynthesis overview-ja.svg|thumb|光合成は水を分解し、酸素を放出して水素を二酸化炭素と反応させて糖類を得る過程である]]
自然界において遊離酸素は、[[光合成]]によって水が[[光分解]]されることで生じ、海洋中の[[緑藻]]類や[[シアノバクテリア]]が地球大気中の酸素70 %を、残りは陸上の植物が作り出している<ref>{{cite book|url=https://books.google.co.jp/books?id=g6RfkqCUQyQC&pg=PA147&redir_esc=y&hl=ja|title=Plants: the potentials for extracting protein, medicines, and other useful chemicals (workshop proceedings)|year=1983|month=September|chapter=Marine Plants: A Unique and Unexplored Resource|last=Fenical|first=William|page=147|isbn=1428923977|publisher=DIANE Publishing}}</ref>。
簡易な光合成の反応式は以下の通りである<ref>{{cite book|last=Brown|first=Theodore L. |coauthors=LeMay, Burslen|title=Chemistry: The Central Science|isbn=0130484504|page=958|year=2003|publisher=Prentice Hall/Pearson Education}}</ref>。
:<chem>6CO2 + 6H2O +</chem> [[光子]] <chem> -> C6H12O6 + 6O2</chem> (二酸化炭素+水+日光 → グルコース+酸素)
光分解による酸素発生は[[葉緑体]]の[[チラコイド|チラコイド膜]]中で起こる。光をエネルギーとするこの作用は多くの段階を経て、[[アデノシン三リン酸|ATP]] を[[光リン酸化]]([[:en:photophosphorylation|photophosphorylation]])させる[[水素イオン|プロトン]]の濃度勾配を起こす<ref name="Raven">[[#Reference-idRaven2005|Raven (2005)]], pp. 115-127.</ref>。この際、水を酸化することで酸素ガスが発生し、大気中に放出される<ref>Raven 2005</ref>。
酸素ガスは[[好気性生物]]が[[呼吸]]を行い、[[ミトコンドリア]]で[[酸化的リン酸化]]反応を経てATPを発生させるために使われる。酸素呼吸の反応は本質的に光合成の逆である。
: <chem>C6H12O6 + 6O2 -> 6CO2 + 6H2O + </chem><math>2880\,\mathrm{kJ\, mol^{-1}}</math>
[[脊椎動物]]では酸素ガスは肺の膜を通して[[血液]]中に拡散し[[赤血球]]中の[[ヘモグロビン]]と結びつき、その色を紫がかった赤から明るい赤へ変える<ref name="sakurai68">[[#桜井|桜井 (1997)]]、68頁。</ref><ref name="GuideElem48">{{cite book|title=Guide to the Elements|edition=revised |first=Albert|last=Stwertka|publisher=Oxford University Press|year=1998|isbn=0-19-508083-1|pages=48-49}}</ref>。ほかの動物では[[ヘモシアニン]]([[軟体動物]]や[[節足動物]]の一種など)や[[ヘムエリスリン]]([[クモ]]や[[ロブスター]]など)が使われる例もある<ref name="NBB298"/>。1 Lの血液が溶かせる酸素ガスは200 mLである<ref name="NBB298">[[#Reference-idEmsley2001|Emsley (2001)]], p. 298.</ref>。
[[超酸化物イオン]]や[[過酸化水素]]などの[[活性酸素]]は、酸素呼吸を行う生体にとって非常に危険な副産物であり<ref name="sakurai68" /><ref name="NBB298"/>、[[ミトコンドリア]]を取り込んだ[[真核生物]]は、進化の過程で[[デオキシリボ核酸]]を酸素から保護するために[[核膜]]を獲得した<ref name="mito31-35" />。その一方で、高等生物は[[免疫系]]で[[細菌]]を破壊するために[[過酸化物]]を用いている<ref name="sakurai68" /><ref name="mito71-74">[[#瀬名ら|瀬名らp.71-74 2.危険なエネルギープラント ミトコンドリアの姿と働き 酸素と活性酸素]]</ref>。また、植物が病原体に抵抗して起こす[[過敏感反応]]([[:en:hypersensitive response|hypersensitive response]])でも、活性酸素は重要な役割を果たす<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.agr.niigata-u.ac.jp/study_report/report/60-02/91_95.pdf|format=PDF|title=植物病原菌の防御反応の誘導機構|publisher=[[新潟大学]]農学部|author=古市尚高|accessdate=2010-05-14}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=2005&number=5004&file=glxJMfrEsiMHymYJQTzRoQ== |format=PDF|title=植物における活性酸素の役割とその誘導|publisher=[[文部科学省]]委託研究開発事業|author=吉岡博文・山溝千尋|accessdate=2010-05-14}}</ref>。
成人が消費する酸素は、1分あたり約250 mLであり<ref>{{Cite web|和書|title=東邦大学医学部 「呼吸器系」ユニット講義録8|url=http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/physi1/respi/respi8/respi8.html|accessdate=2012-07-01}}</ref>、これは約0.36 gに相当する。ここから計算すると、人類全体が1年間に消費する量は13億トンに相当する<ref group="注">(0.36 g/分/人) × (60秒/時) × (24時/日) × (365日/年) × (70億人)/{{gaps|1|000|000}} = 13.2億トン</ref>。
なお、酸素を利用しない呼吸の形態を[[嫌気呼吸]]という。最初の地球に酸素が存在しなかったことから、これが最初の呼吸のあり方と考えられる。これは好気呼吸の経路にも、[[解糖系]]という形態で残っている。酸素を全く使わずに生活する微生物も存在し、そのような微生物は、酸素の存在下では死滅する([[嫌気性生物]])。初期の微生物にとっても、酸素は有毒物質であった。
=== 大気成分中の酸素形成 ===
[[ファイル:Oxygenation-atm.svg|thumb|300px|地球大気における酸素含有量の変遷。<span style="color:darkred">赤線</span>は推定の上限値、<span style="color:green">緑線</span>は下限値を示す。1. 酸素が作られない期間 2. 酸素生成が始まるが海水や海底岩石に吸収される 3. 海洋から酸素ガスが放出されるが地表への吸収やオゾン層形成のため消費される期間 4, 5. 酸素吸収が飽和し大気中に溜まる]]
[[ファイル:Sauerstoffgehalt-1000mj2.png|thumb|300px|過去10億年の大気中の酸素濃度の変化]]
地球誕生初期の原始大気に含まれていた硫酸や塩酸は、原始海洋中で地殻中の金属イオンで中和され、原始大気は高温高圧の二酸化炭素や水蒸気、窒素が主成分だったと考えられる。これは海洋に溶けこんだ硫酸を除いて現在の[[金星]]の大気と似ていたとする説がある。この原始大気中には分圧で示されるほどの酸素は存在せず、熱や光で分解して発生するわずかな遊離酸素は一酸化炭素や地殻に露出した還元金属の酸化で消費され、分圧の高い二酸化炭素が海洋中に溶存していた。これを材料に30億年前ごろに[[光合成]]を獲得した[[シアノバクテリア]]が現れて酸素が作られ始めた<ref name="Chikyu" />とされているが、近年の遺伝子解析の結果から、進化の過程で光合成機能を失う細菌もいたことをうかがわせる結果が出ており、初期の光合成による大気への酸素供給は必ずしも安定にはできていなかった可能性が指摘されている。シアノバクテリアが大規模に存在して安定した酸素供給ができていた確実な証拠となる[[ストロマトライト]]の最古の化石は、現在までに約27億年前のものが見つかっている。こうした安定した光合成は、同時期に大規模な[[大陸]]変動によって生じた浅瀬のような環境で可能になったと考えられている<ref name="mito19-21" />。
大気中の酸素分圧は24億5000年前ごろから高くなっていったと推定されており、このことは、海水中の2価の溶解鉄と化合して生じた酸化鉄を起源とする[[縞状鉄鉱床]]の形成時期と一致している。こうして{{仮リンク|酸素の大量発生|en|oxygen catastrophe}}が起こった期間、ほかの元素と結合していない多くの遊離酸素が海中や大気中に溢れることとなり、また海洋中の二酸化炭素の消費に伴って大気中の二酸化炭素も減少した。これが、[[嫌気性生物]]を酸化して死滅させ、[[全球凍結]]に至るほどまで気温が急激に下がったために、シアノバクテリアを含む全生物相の深刻な[[大量絶滅]]も引き起こされたと考えられている([[ヒューロニアン氷期]])。氷期からの回復までに海洋中の酸素濃度は一時的に下がったとされる。しかし、生き延びた[[単細胞生物]]の中で、酸素を用いる効率的な[[細胞呼吸]]と、酸素により自らを酸化させない[[抗酸化物質]]を獲得した[[好気性生物]]はより多くのATPを作り出せるようになり、その後の地球に新たな[[生物圏]]を形成した<ref name="Freeman">{{cite book|last = Freeman| first = Scott|title = Biological Science, 2nd|publisher = Prentice Hall |year=2005|location = Upper Saddle River|pages = 214, 586|isbn = 0-13-140941-7}}</ref>。この光合成と酸素呼吸は[[真核生物]]、さらに[[多細胞生物]]への進化をもたらし、これが植物や動物などの[[生物多様性]]を生むに至る第一歩となった。
酸素の消費源であった海洋中の溶存鉄が尽きると次第に酸素ガスが海洋から大気に溢れ始め、約17億年前には大気中の酸素含有比率は10 %に達した<ref name="Campbell">{{cite book|last = Campbell|first = Neil A.|coauthors = Reece, Jane B.|title = Biology|edition=7th|publisher = Pearson - Benjamin Cummings |year=2005|location = San Francisco|pages = 522-523|isbn = 0-8053-7171-0}}</ref>。酸素の比率が逆転したのは7–8億年前と考えられる<ref name="Chikyu" />。
5億4000万年前の[[カンブリア紀]]が始まったころからは、大気中の酸素比率は15–30 %の間で推移した<ref name="Chikyu"/>。それは[[石炭紀]]の終わりにあたる3億年前ごろには最大35 %まで達し<ref name="Chikyu"/>、昆虫や両生類の大型化に作用した可能性がある<ref name="Chikyu"/>。石炭紀には木材の[[リグニン]]を分解できる[[菌類]]が十分に進化しておらず、森林の繁栄により大量の炭素が[[石炭]]として固定化され、[[ペルム紀]]初期の[[地球の大気|大気]]中の酸素濃度は35 %に達したといわれる。また、植物が繁栄したことで大量の[[二酸化炭素]]が吸収され、その多くが大気中に還元されずに石炭化していったため、またしても大気中の二酸化炭素濃度が激減した。これがその後の寒冷化と氷河の発達、ひいては[[氷河時代]]の一因とされる。その後、寒冷化による植物の炭素固定能の減退、およびリグニンの分解能を獲得した菌類が増えたことなどから、[[ジュラ紀]]後期の2億年前には酸素濃度は12 %まで低下した。ジュラ紀後期から[[白亜紀]]を通じて酸素濃度は次第に増加した<ref name="ha">長谷川政美、「系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史」p102ほか、2014年10月25日、ベレ出版、ISBN 978-4-86064-410-9</ref>。現在の酸素濃度は21 %である。人類は年間70億トンの[[化石燃料]]を使用するにあたり酸素を消費し続けているが、これによる大気中の酸素比率に与える影響は微々たるものである<ref name="NBB303"/>。
一方、太陽の進化により、約10億年後を境に大気中の酸素濃度は急激に低下し、酸素呼吸を行う多細胞生物の生存は困難になるとする予測がある<ref>[https://www.toho-u.ac.jp/press/2020_index/20210302-1122.html 酸素に富む地球環境の持続期間は約10億年] [[東邦大学]]</ref>。
== 歴史 ==
=== 初期の実験 ===
[[ファイル:Philos experiment of the burning candle.PNG|thumb|120px|right|フィロンの実験は後の研究者たちに影響を与えた]]
[[燃焼]]と空気の間には何らかの関係があるのでは、と行われたもっとも古い実験のひとつは、紀元前2世紀の[[古代ギリシア]]の[[ビザンチウムのフィロン]]が著した『プネウマティカ(Pneumatica)』に記録されている。器に据えた[[蝋燭]]を灯してガラスの壷を上から被せ、壷の口が漬かるまで器に水を満たす。すると、壷の中へ水が吸い上がる様子を観察することができた<ref>{{cite book|title = Story of Human Error|first = Joseph |last = Jastrow|url=https://books.google.co.jp/books?id=tRUO45YfCHwC&pg=PA171&lpg=PA171&redir_esc=y&hl=ja|page= 171 |year = 1936|publisher = Ayer Publishing|isbn = 0836905687}}</ref>。フィロンは、壷の中の空気が「[[四大元素]]の火」に変換され、これが壷のガラス壁を透過して逃げたと考えた。それから遥か時代が下った中世の[[ルネサンス]]期に、[[レオナルド・ダ・ヴィンチ]]はフィロンの実験に考察を加え、燃焼や[[呼吸]]を通じて空気が一部消費されると考えた<ref name="ECE499">[[#Cook|Cook & Lauer (1968)]], p. 499.</ref>。
17世紀後半に[[ロバート・ボイル]]は、燃焼には空気が必要不可欠であることを立証した。これを[[ジョン・メーヨー]]は、必要なものは彼が「硝気精<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tamabi.ac.jp/idd/shiro/air/discovery/discovery.html|title=空気の発見|author=高橋士郎|publisher=[[多摩美術大学]]|accessdate=2010-05-28}}</ref>(spiritus nitroaereus、nitroaereus)」と名づけた空気の構成要素だという説を提唱した<ref name="EB1911">{{cite book|title=Encyclopaedia Britannica|chapter=John Mayow|edition=11th|year=1911|url=http://www.1911encyclopedia.org/John_Mayow|accessdate=2007-12-16|author=''Britannica'' contributors}}</ref>。メイヨーの実験はフィロンと同じように水で封じた逆さの容器にそれぞれ蝋燭とマウスを入れ、どちらも水位が14分の1程度上昇したことを確認した<ref name="WoC">{{cite book|title=World of Chemistry|chapter=John Mayow|year=2005|publisher=Thomson Gale|url=http://www.bookrags.com/John_Mayow|accessdate=2007-12-16|author=''World of Chemistry'' contributors}}</ref>。これから、メイヨーは燃焼と呼吸のいずれでも硝気精が消費されるとの確証を得た。またメイヨーは、[[アンチモン]]を加熱すると質量が増えることも確認し、これは金属に硝気精が結合したためと考えた<ref name="EB1911"/>。呼吸については、硝気精は[[肺]]の中で空気から取り出されて血液に受け渡され、動物の体温や筋肉の動きを生み出す反応に使われると考察し<ref name="EB1911"/>、1668年に発表した<ref name="WoC"/>。
=== フロギストン説 ===
[[ファイル:Georg Ernst Stahl.png|thumb|160px|right|[[ゲオルク・シュタール]]はフロギストン説の構築と普及に寄与した]]
{{Main|フロギストン説}}
17世紀から18世紀にかけて、酸素は[[ロバート・フック]]、{{仮リンク|オーレ・ボッシュ|en|Ole Borch}}、[[ミハイル・ロモノーソフ]]、ピエール・バイエンらが実験で作り出していたが、いずれもがそれを元素とは認識しなかった<ref name="NBB299">[[#Reference-idEmsley2001|Emsley (2001)]], p. 299.</ref>。そこには、[[フロギストン説]]と呼ばれる燃焼と腐食に関する広く知られた学説が影響を及ぼしていた。
1667年に[[ドイツ]]の[[錬金術]]師[[ヨハン・ベッヒャー]]が発案し、1731年までに[[ゲオルク・シュタール]]が理論構築したフロギストン説<ref name="morris">{{cite book| title = The last sorcerers: The path from alchemy to the periodic table| last = Morris| first = Richard| year = 2003|publisher = Joseph Henry Press|location = Washington, D.C.|isbn = 0309089050}}</ref>は、可燃物とは燃素(フロギストン)とほかの物質の2つが結合した状態にあり、燃焼が起こると燃素が遊離し、残りの物質もしくは[[石灰]]が残るというものだった<ref name="ECE499"/>。この説では、木材や石炭などは燃素の含有率が高く、鉄など不燃性のものはほとんど含まないと考えられた。空気の効果は無視され、わずかに行われた実証試験でも可燃物を燃やすと軽くなるという点から確かに何かが失われているという考察がされたに過ぎず<ref name="ECE499"/>、発生ガスへ意識が向けられることはなかった。このフロギストン説が否定される契機は、金属を空気中で燃やすと重量が増すという報告だった。
=== 発見 ===
[[ファイル:Carl Wilhelm Scheele from Familj-Journalen1874.png|thumb|160px|left|[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]。惜しくも酸素発見者の栄誉を逃した]]
酸素は[[1771年]]<ref name="Newton96" />、[[スウェーデン]]の[[カール・ヴィルヘルム・シェーレ]]が[[酸化水銀(II)]]とさまざまな[[硝酸塩]]混合物を加熱する過程で発見した<ref name="ECE500"/><ref name="ECE499"/>。シェーレはこの気体を「火素(fire air)」と名づけ1775年に論文を作成したが、出版社の都合で<ref name="Newton96" />発表されたのは1777年となった<ref name="NBB300">[[#Reference-idEmsley2001|Emsley (2001)]], p. 300.</ref>。
[[ファイル:PriestleyFuseli.jpg|thumb|160px|right|[[ジョゼフ・プリーストリー]]。一般的には彼が酸素の発見者とされる]]
シェーレが発見を知らしめるのに手間取っていた[[1774年]][[8月1日]]、[[イギリス]]の[[ジョゼフ・プリーストリー]]はガラス管に入れた酸化水銀(II)に[[日光]]を照射して得たガスに「脱フロギストン空気(dephlogisticated air)」と命名した<ref name="ECE500"/>。彼はこのガスの中では蝋燭がより明るく燃え、マウスが活発かつ長寿になることを確かめた。さらに自分でこのガスを吸い、「吸い込んだときには普通の空気と大差ないと思ったが、少し後になると呼吸が軽く楽になった」と書き残した<ref name="NBB299"/>。1775年、プリーストリーは新聞紙上にこの発見を発表し、2冊目の著作 ''[[:en:Experiments and Observations on Different Kinds of Air|Experiments and Observations on Different Kinds of Air]]''でも論述した<ref name="ECE499"/>。このように、彼の発表がシェーレよりも先に行われたため、酸素発見者はプリーストリーということになった。
[[フランス]]の高名な化学者[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]は、のちに自分が新元素を発見していたと主張したが、1774年10月にラヴォアジエはプリーストリーの訪問を受け、ガス発生手段など実験の概要を耳にしている。また、それに先立つ9月30日、プリーストリーは前もって新発見したガスの説明を記した書簡をラヴォアジエに送っているが、ラヴォアジエはこれを受け取っていないと主張した。なおプリーストリーの死後、彼の私物の中から書簡の写しが見つかっている<ref name="NBB300"/>。
=== ラヴォアジエの功罪 ===
[[ファイル:Antoine lavoisier.jpg|thumb|160px|left|[[アントワーヌ・ラヴォアジエ]]。旧来の[[フロギストン説]]を葬り去った]]
ラヴォアジエは、厳密な物質量確認を伴う[[酸化]]の実験を通じて、燃焼の実態を正しく説明することに貢献した<ref name="ECE500"/>。彼は[[フロギストン説]]を否定し、プリーストリーらが発見したガスが元素のひとつであると立証するため、1774年以来行われた実験の追試に乗り出した。
ラヴォアジエは、[[スズ]]と空気を密閉した容器を加熱しても全体の重さに変化がないことを観測し<ref name="ECE500"/>、開封すると外気が流れ込むことから空気の一部が減少していると確認し、またスズが重くなっていることも計測した。そして、この流入空気質量とスズの質量増分が同じであることを確認した。1777年、彼はこの実験結果などをまとめた書籍『''Sur la combustion en général''』を発表した<ref name="ECE500"/>。この中でラヴォアジエは、空気は燃焼と呼吸に深く関わる''vital air''と、これらに関与しない''azote''({{lang-grc-short|ζωτον}}、「生気のない」の意)」の2種類のガスが混合したものと証明した。''azote''はのちに[[窒素]]とされた<ref name="ECE500"/>。
1777年、ラヴォアジエは「vital air」に、古代ギリシア語{{Polytonic|ὀξύς}}(oxys、味覚の酸味を由来とする「鋭い」の意)と {{Polytonic|-γενής}}(-genēs、生み出す者を由来とする「製作者」の意)を合成したフランス語「oxygène」という命名を施した<ref name="sakurai65" />。これは、彼が酸素こそすべての[[酸性]]の源泉だという誤解を持っていたためこれらの単語が選択されたものだった<ref name="mellor">{{cite book|last=Parks|first=G. D.|coauthors=Mellor, J. W.|year=1939|title=Mellor's Modern Inorganic Chemistry|edition=6th |publisher=Longmans, Green and Co|location=London}}</ref>。のちに、酸性の根本となる元素は水素であることが判明したが、そのころには単語がすでに定着していたため変更はできなかった。
イギリス科学界は、同国人のプリーストリーが分離に成功したガスにこの名称を用いることに反対だったが、1791年に[[詩人]]でもある[[エラズマス・ダーウィン]]([[チャールズ・ダーウィン]]の祖父)が出版した有名な書籍『植物の園』(''The Botanic Garden'')の中で、このガスを称賛する詩『''oxygen''』を載せたため、すでに一般に広まっていたこともあり、「oxygen」の単語は英語に組み込まれてしまった<ref name="NBB300"/>。
=== 量産・工業化 ===
[[ジョン・ドルトン]]の[[原子論]]では、当初すべての元素は「単元素」であり、原子比も単純なものであるという仮定があり、水は水素と酸素が1対1のHOというみなしの元で酸素の原子量を8と判断していた<ref>{{cite web| title = The Interactive Textbook of PFP96 |chapter= Do We Take Atoms for Granted?|chapterurl=http://www.physics.upenn.edu/courses/gladney/mathphys/subsubsection1_1_3_2.html |url=http://www.physics.upenn.edu/courses/gladney/mathphys/Contents.html |first=Dennis |last=DeTurck |coauthors=Gladney, Larry and Pietrovito, Anthony| publisher=University of Pennsylvania|year=1997|accessdate=2008-01-28}}</ref>。これは1805年に[[ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック]]と[[アレクサンダー・フォン・フンボルト]]によって原子比が1対2に改められ、1811年に[[アメデオ・アヴォガドロ]]がアボガドロの法則に則って水の正しい構成を解釈した<ref>{{cite book|title=A Treatise on Chemistry|first=Henry Enfield |last=Roscoe |coauthors=Schorlemmer, Carl|pages=38|year=1883|publisher=D. Appleton and Co.}}</ref>。
19世紀には空気の構成も判明してきた。1877年に[[スイス]]の{{仮リンク|ラウル・ピクテ|en|Raoul Pictet}}<ref name="BES707">{{cite book|title=Biographical Encyclopedia of Scientists|last=Daintith|first=John|year=1994|publisher=CRC Press|isbn=0750302879|page=707}}</ref>とフランスの[[ルイ・ポール・カイユテ]]<ref name="BES707"/>が相次いで酸素の液体化に成功したと発表し、安定状態での液体酸素は[[ヤギェウォ大学]]の[[ジグムント・ヴルブレフスキ]]と{{仮リンク|カロル・オルシェフスキ|en|Karol Olszewski}}が初めて得た<ref>[http://www.poland.gov.pl/Karol,Olszewski,and,Zygmunt,Wroblewski:,condensation,of,oxygen,and,nitrogen,1987.html Poland - Culture, Science and Media. Condensation of oxygen and nitrogen]. Retrieved on 2008-10-04.</ref>。
1891年にはイギリスの[[ジェイムズ・デュワー]]が研究で用いるに充分な液体酸素の製法を見つけ<ref name="NBB303">[[#Reference-idEmsley2001|Emsley (2001)]], p. 303.</ref>、1895年には[[ドイツ]]の[[カール・フォン・リンデ]]とイギリスのウィリアム・ハンプソンがそれぞれ液化分留による商業ベースに乗る量産法を確立した<ref name="HPAM">{{cite book|title=How Products are Made|chapter=Oxygen|publisher=The Gale Group, Inc|year=2002|url=http://www.answers.com/topic/oxygen|accessdate=2007-12-16|author=''How Products are Made'' contributors}}</ref>。この酸素を工業的に用いる例として、1901年には[[アセチレン]]と圧縮酸素を用いた[[溶接]]法のデモンスチレーションが行われた<ref name="HPAM"/>。
== 製造 ==
実験室的には[[過酸化水素]]を触媒で分解することで得られる<ref name="sakurai65" />。触媒としては[[二酸化マンガン]]または、[[カタラーゼ]]およびそれらを含む[[レバー (食材)|レバー]]や[[ジャガイモ]]などが利用できる。
: <chem>2H2O2 -> 2H2O + O2</chem>
そのほか、[[水]]の{{仮リンク|水の電気分解|en|Electrolysis of water|label=電気分解}}でも得られる。純粋な水は[[電気]]を通さないため少量の[[水酸化ナトリウム]]を加える。酸素は[[陽極]]で発生し、[[陰極]]では[[水素]]が発生する。
: <chem>2H2O -> 2H2 + O2</chem>
[[ファイル:Oxygen cylinders for MRI room.jpg|200px|thumb|right|日本の規格に基づき黒色に塗られた酸素ボンベ([[核磁気共鳴画像法|MRI]]用)]]
工業的には空気の[[分留]]で得られる。空気を圧縮冷却し、沸点の差を利用して窒素やアルゴンなどほかの成分と分けられる<ref name="kagaku" />。酸素が圧縮充填されるボンベの規格は各国さまざまであり、容器の色は[[国際標準化機構|ISO]]では白、アメリカ合衆国では緑、日本では黒(特に高純度品は表面積の半分を超えない範囲で水色も加えられる)と定められる。日本では内部圧力が14.7 MPaと定められている<ref name="kagaku" />。液体充填されている容器は断熱構造をしており、圧力は1 MPa以下(およそ700 kPa)程度、色は地金(ステンレスやアルミ合金の場合)か灰色に黒の帯を配したものである。ただし工業的にはほとんど液体酸素を[[タンクローリー]]で1回あたり9–10トンが輸送され、低温液化ガス貯槽(コールドエバポレーター)で受け入れされる<ref name="kagaku" />。
== 用途 ==
; 酸化剤
: [[化学工業]]などではもっとも安価な[[酸化剤]]として多用される。
; 吸入用
: 呼吸に不可欠な元素であるため、[[医療]]分野での酸素吸入に使われている<ref name="taiyonissan">{{Cite web|和書|url=http://www.tn-sanso.co.jp/jp/business/gas_o2.html|title=大陽日酸:事業紹介:酸素O2|publisher=[[大陽日酸]]|accessdate=2010-07-11}}</ref>。また傷病人に限らず、空気中の酸素濃度が低い場所での呼吸を助けるために、[[飛行機]]や[[青海チベット鉄道]]などの酸素放出装置や、高山に登るときなどのボンベの中身にも使われている。ほかに[[テクニカルダイビング]]において、減圧用ガスとして用いられる。
; 助燃剤
: ガス[[溶接]]や[[鉄鋼]]の製造工程で助燃剤として使用されている<ref name="taiyonissan"/>。[[アセチレン]]を酸素とともに吹き出して得られる酸素アセチレン炎は{{val|3000|-|4000|u=degC}}もの高温が得られ、鉄材の溶接や切断に利用されている。特に[[液体酸素]]は[[ロケットエンジンの推進剤]]の酸化剤として用いられている。
酸素ガスの2004年度日本国内生産量は{{val|10422238000|u=m3}}、工業消費量は{{val|4093787000|u=m3}}、液化酸素の2004年度日本国内生産量は{{val|855476000|u=m3}}、工業消費量は{{val|68215000|u=m3}}である<ref>[http://www.meti.go.jp/statistics/data/h2d4k00j.html 日本国 経済産業省・化学工業統計月報]</ref>。
== 化合物 ==
{{See also|Category:酸素の化合物}}
酸素は[[電気陰性度]]が高く、ほとんどあらゆる元素と[[化学結合]]する。多くの[[有機化合物]]は構成元素として酸素を含み、[[無機化合物]]の酸素化合物は[[酸化物]]として多方面で利用されている。
== 同素体 ==
[[ファイル:Ozone-montage.png|thumb|upright|[[オゾン]]はおもに[[大気]]中に含まれる希有な気体である]]
地球上でのおもな同素体は酸素分子O{{sub|2}}であり、その[[結合長]]は121 pm、[[結合エネルギー]]は498 kJ/molである<ref>{{cite web|last=Chieh|first=Chung|title=Bond Lengths and Energies|url=http://www.science.uwaterloo.ca/~cchieh/cact/c120/bondel.html|publisher= University of Waterloo|accessdate=2007-12-16}}</ref>。酸素分子は生物の複雑な[[細胞呼吸]]に使われている。
'''三酸素'''(O{{sub|3}})は[[オゾン]]としてよく知られる非常に反応性の大きい[[単体]]の気体で、吸入すると肺組織を破壊する<ref name="sakurai66">[[#桜井|桜井 (1997)]]、66頁。</ref><ref name="GuideElem48"/>。オゾンは高層大気において、酸素分子が[[紫外線]]によって分裂した酸素原子と別の酸素分子が結合することによって生成している<ref name="mellor"/>。オゾンは紫外領域を強く吸収するため、高層大気にある[[オゾン層]]は地球を[[放射線]]から保護するシールドとして機能している<ref name="GuideElem48"/><ref name="sakurai67">[[#桜井|桜井 (1997)]]、67頁。</ref>。地表近くでもオゾンは生成しているが、これは自動車の排気ガスなどとして生成されている[[大気汚染]]物質である<ref name="GuideElem49">Stwertka, Albert (1998). Guide to the Elements (Revised ed.). Oxford University Press, p.49. ISBN 0-19-508083-1.</ref>。
[[準安定状態]]分子である[[四酸素]](O{{sub|4}})が[[2001年]]に発見されたが<ref name="o4">Cacace, Fulvio; Giulia de Petris, and Anna Troiani (2001). "Experimental Detection of Tetraoxygen". ''[[アンゲヴァンテ・ケミー|Angewandte Chemie International Edition]]'' '''40''' (21): 4062-65. [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]:[https://doi.org/10.1002%2F1521-3773%2820011105%2940%3A21%3C4062%3A%3AAID-ANIE4062%3E3.0.CO%3B2-X 10.1002/1521-3773(20011105)40:21<4062::AID-ANIE4062>3.0.CO;2-X.]</ref><ref name="newform">Ball, Phillip (2001-09-16). "[http://www.nature.com/news/2001/011122/pf/011122-3_pf.html New form of oxygen found]". Nature News. Retrieved 2008-01-09.</ref>、これは[[固体酸素]]の6種の相のうちの1種として存在が仮定されていた。2006年にこの相が証明され、O{{sub|2}}を20 GPaに加圧することで合成されたが、実際には[[菱面体晶]]のO{{sub|8}}クラスターであった<ref>Lundegaard, Lars F.; Weck, Gunnar; McMahon, Malcolm I.; Desgreniers, Serge and Loubeyre, Paul (2006). "[http://www.nature.com/nature/journal/v443/n7108/abs/nature05174.html Observation of an O8 molecular lattice in the phase of solid oxygen]". ''Nature'' '''443''': 201-04. [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]:[https://doi.org/10.1038%2Fnature05174 10.1038/nature05174]. Retrieved 2008-01-10., 201-04</ref>。このクラスターはO{{sub|2}}やO{{sub|3}}よりも強力な[[酸化剤]]であるため、ロケットの推進剤としての用途が考えられている<ref name="o4"/><ref name="newform"/>。1990年には、固体酸素に96 GPa以上の圧力を与えると金属状態となることが分かり<ref>Desgreniers, S; Vohra, Y. K. & Ruoff, A. L. (1990). "Optical response of very high density solid oxygen to 132 GPa". ''J. Phys. Chem.'' '''94''': 1117-22. [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]:[http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/j100366a020 10.1021/j100366a020.]</ref>、1998年にはこの相を超低温条件に置くことにより超伝導となることが発見された<ref>Shimizu, K.; Suhara, K., Ikumo, M., Eremets, M. I. & Amaya, K. (1998). "Superconductivity in oxygen". ''Nature'' '''393''': 767-69. [[デジタルオブジェクト識別子|doi]]:[https://doi.org/10.1038%2F31656 10.1038/31656.]</ref>。
== 同位体 ==
{{Main|酸素の同位体}}
酸素には[[安定同位体]]として[[酸素16|{{sup|16}}O]]、{{sup|17}}O、{{sup|18}}Oの3種類が知られるが、[[天然存在比]]は{{sup|16}}Oが99.7 %以上を占めている。また、[[放射性同位体]]も作られている。
かつては酸素を16として[[原子量]]を定義していたが、物理学では{{sup|16}}Oの原子量を16としたのに対して、化学においては安定核種の平均原子量を16と置く定義の差があったことから、酸素の同位体の存在が判明して以降混乱が起こり、1961年に[[炭素12]]を基準とするように置き換えられた。{{-}}
== 安全と注意 ==
[[ファイル:Scuba-diving.jpg|thumb|酸素中毒は通常よりも高い気圧の酸素を肺が吸い込んだ時に起こりやすい。深度への[[スクーバダイビング]](ディープダイビング)などで起こる可能性がある]]
=== 酸素中毒 ===
{{Main|酸素中毒}}
酸素ガスは高い[[分圧]]状態で痙攣症状などの[[酸素中毒]]を引き起こす場合がある<ref name="Acott">{{cite journal |last=Acott |first=C. |title=Oxygen toxicity: A brief history of oxygen in diving |journal=South Pacific Underwater Medicine Society journal |volume=29 |issue=3 |year=1999 |issn=0813-1988 |oclc=16986801 |url=http://archive.rubicon-foundation.org/6014 |accessdate=2008-09-21}}</ref><ref name="ECE511">[[#Cook|Cook & Lauer (1968)]], p. 511.</ref>。これは通常、大気の2.5倍の[[酸素分圧]]に相当する50 kPa以上であるときに起こる。そこで、標準気圧30 kPaの医療用酸素マスクは、酸素ガス比率を30 %に定めている<ref name="NBB299"/>。かつて[[未熟児]]用保育器の中は高い比率の酸素を含んだガスが使われていたが、視神経に悪影響を与える可能性が指摘されてからは用いられなくなった<ref name="NBB299"/><ref name="pmid9603802">{{cite journal |author=Drack AV |title=Preventing blindness in premature infants |journal=N. Engl. J. Med. |volume=338 |issue=22 |pages=1620-1 |year=1998 |pmid=9603802 |doi= 10.1056/NEJM199805283382210}}</ref>。
宇宙飛行などにおいて、[[アポロ計画]]では火災事故以前の初期段階で<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.jbo-info.jp/news/jbo-2005-01.html|title=2005年 代表選抜試験で出題された問題とその解説|author= |publisher=国際生物学オリンピック日本委員会|accessdate=2010-05-28}}</ref>、また最新の[[宇宙服]]などにて比較的低圧で封じるため純酸素ガスが使用された<ref name="pmid11541018">{{cite journal |author=Morgenthaler, G. W.; Fester, D. A.; Cooley, C. G. |title=As assessment of habitat pressure, oxygen fraction, and EVA suit design for space operations |journal=Acta Astronaut |volume=32 |issue=1 |pages=39-49 |year=1994|pmid=11541018 |doi= 10.1016/0094-5765(94)90146-5}}</ref><ref>{{cite web|last = Wade|first = Mark|year = 2007|url = http://www.astronautix.com/craftfam/spasuits.htm|title = Space Suits|publisher = Encyclopedia Astronautica |accessdate=2007-12-16}}</ref>。最新の宇宙服では、服内を0.3気圧程度まで減圧した純酸素で満たし、血液中の酸素分圧が上昇しない方法が取られている<ref>{{Cite web|和書|url=http://airex.tksc.jaxa.jp/pl/dr/AA0028876004/en|title=船外活動技術における生命維持技術の検討|author=鳥居啓之(川崎重工業)|publisher=[[宇宙航空研究開発機構]]|accessdate=2010-05-28}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://iss.jaxa.jp/iss/kibo/develop_status_01_2.html|title=宇宙服と船外活動|author= |publisher=宇宙航空研究開発機構|accessdate=2010-05-28}}</ref>。
肺や[[中枢神経系]]に及ぼす酸素中毒は、深い水深への[[スクーバダイビング]](ディープダイビング)や[[送気式潜水]]でも起こる可能性がある<ref name="NBB299"/><ref name="Acott"/>。酸素分圧60 kPa以上の空気を長い時間呼吸していることは、恒久的な[[肺線維症]]に至ることがある<ref name="BMJ">{{cite journal |author=Wilmshurst, P. |title=Diving and oxygen |journal=BMJ |volume=317 |issue=7164 |pages=996-999 |year=1998 |pmid=9765173 |pmc=1114047}}</ref>。これがさらに高い160 kPa以上となると、ダイバーにとって致命的になる痙攣につながることもありうる。深刻な酸素中毒は、酸素比率21 %の空気を用いながら66 m以上潜水することで起こるが、同様のことは比率100 %の空気ならばわずか6 mの潜水で起こる<ref name="BMJ"/><ref name="Donald">{{cite book|author=Donald, Kenneth W.|title=Oxygen and the Diver|isbn=1854211765|year=1992|publisher=SPA in conjunction with K. Donald|location=England}}</ref><ref name="Donald1">{{cite journal|author=Donald, Kenneth W.|title=Oxygen Poisoning in Man: Part I|journal=British Medical Journal|volume=1 |issue=4506 |pages=667-672 |year=1947 |pmc=2053251 |doi=10.1136/bmj.1.4506.667}}</ref><ref name="Donald2">{{cite journal |author=Donald, K. W. |title=Oxygen Poisoning in Man: Part II |journal=British Medical Journal |volume=1 |pages=712-717 |year=1947 |pmc=2053400|issue=4507 |doi=10.1136/bmj.1.4507.712}}</ref>。
[[ファイル:Apollo 1 fire.jpg|thumb|right|[[アポロ1号]]実験中に発生した火災現場の写真。当時は[[純酸素]]が使われていた]]
=== 過剰酸素中の激しい燃焼・爆発 ===
高濃度酸素と[[可燃物]]が混在している状況で、そこに何らかの火種があれば[[火災]]や[[爆発]]で激しい燃焼が引き起こされる<ref name="astm-tpt">{{cite conference|editor=Werley, Barry L.|year=1991|title=Fire Hazards in Oxygen Systems|booktitle=ASTM Technical Professional training|publisher=[[ASTM International]] Subcommittee G-4.05|location=Philadelphia}}</ref>。酸素は空気より重いため、地下室のような場所に滞留しやすい、また、無色で無臭かつ無害であるため、酸素が充満していることに気付くことは難しい。高濃度酸素の環境下では、酸素の支燃性により、金属等の、通常は容易には燃えないような物から火が出る危険性がある他、可燃物はさらに燃えやすくなる<ref name=":0">{{Cite journal|和書|publisher=安全工学会 |title=過剰酸素中の火災・爆発 |url=https://doi.org/10.18943/safety.37.2_122 |author=駒宮功額 |journal=安全工学 |volume=37 |issue=2 |pages=122-127 |year=1998 |doi=10.18943/safety.37.2_122}}</ref>。
過去の事例としては、酸素が充満したタンクの内部で[[グラインダー]]を使用中に、飛び散った火花が[[作業服]]に引火して燃え上がり、作業員が[[焼死]]した事故がある<ref name=":0" />。[[高気圧酸素治療]]を行う際には、発火物の持ち込みが禁止されるほか、[[静電気]]による火花を防ぐため、[[木綿]]100%の[[下着]]を着用する必要がある。
燃焼発生の危険は、酸素が酸化電位の高い物質、たとえば[[過酸化物]]や[[塩素酸塩]]、[[硝酸塩]]や[[過塩素酸塩]]、[[クロム酸塩]]などと混在している場合も高い。
== 大気中酸素濃度の減少 ==
現在、地球の[[大気]]中における酸素濃度は約20.9490 %であるが、年平均4ppmずつ減少している(1999年から2005年の平均値)という調査結果がある<ref>[https://www.nies.go.jp/whatsnew/2008/20080123/20080123.html 大気中酸素濃度の減少量から二酸化炭素の陸域生物圏吸収量の推定に成功]([[国立環境研究所]])</ref>。一方で、大気中の[[二酸化炭素]]濃度は年平均2ppmずつ増加しており、酸素濃度の減少もこれに関連して[[化石燃料]]の燃焼などがおもな原因になっていると思われる。また、二酸化炭素濃度の増加量と酸素濃度の減少量の差は、二酸化炭素が[[海面]]で多く吸収されている(陸上の約2倍)ことや、化石燃料燃焼時に二酸化炭素排出量より酸素消費量の方が1.4倍多いことなどに起因する。大気中酸素濃度の1年間を通した変動では、陸上における[[光合成]]量が[[呼吸]]量を上回る[[北半球]]の[[夏季]]には増加しており、[[冬季]]には減少している。
もっとも、大気中の二酸化炭素濃度は2016年で約0.041 %(407ppm)ほどであり、約21 %の酸素とは、元々の大気中濃度が全く異なっている。年平均4ppmの酸素減少は、1万年間で4 %程度の濃度減少である。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|25em}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|date=1998年(初版1997年)|title=元素111の新知識|edition=第6刷|publisher=[[講談社]]|author=桜井弘 |isbn=4-06-257192-7|ref=桜井}}
* {{Cite book|和書|date=2005年(初版1982年)|title=リー 無機化学|author=J・D・リー|others=浜口博、菅野等(訳)|edition=第1版第22刷|publisher=[[東京化学同人]]|isbn=4-8079-0185-0|ref=リー}}
* {{Cite book|和書|author=瀬名秀明、太田成男|date=2000年|title=ミトコンドリアと生きる|publisher=[[角川書店]]|edition=第一刷|isbn=4-04-704006-1|ref=瀬名ら}}
* {{cite book|和書|last=酒井|first=治孝|title=地球学入門 ― 惑星地球と大気・海洋のシステム|publisher=[[東海大学出版会]]|edition=第1版第1刷|date=2003-03-31|isbn=4-486-01615-7|ref=harv|year=2003}}
* {{Cite book|和書|author1=玉尾皓平|authorlink1=玉尾皓平|author2=桜井弘|author3=福山秀敏(監修)|year=2010|title=完全図解周期表|series=[[ニュートン (雑誌)|ニュートン]]別冊|edition=第2版|publisher=[[ニュートンプレス]]|isbn=978-4-315-51876-4|ref=ニュートン}}
* {{cite book|author=Cook, Gerhard A.; Lauer, Carol M.|year=1968|chapter=Oxygen|editor=Hampel, Clifford A|title=The Encyclopedia of the Chemical Elements|location=New York|publisher=Reinhold Book Corporation|pages=499-512|LCCN=68-29938|ref=Cook}}.
* {{cite book|ref=Reference-idEmsley2001 |title=Nature's Building Blocks: An A-Z Guide to the Elements|last=Emsley|first=John|publisher=Oxford University Press|year=2001|location=Oxford, England, UK|isbn=0198503407|chapter=Oxygen|pages=297-304}}
* {{cite book|ref=Reference-idRaven2005 |last=Raven|first=Peter H.|coauthors=Ray F. Evert, Susan E. Eichhorn|title=Biology of Plants, 7th Edition|publisher=W.H. Freeman and Company|year=2005|location = New York|pages=115-127|isbn = 0-7167-1007-2}}
== 関連項目 ==
{{Wiktionary|酸素}}
{{Commons|Oxygen}}
* [[酸素欠乏症]]
* [[酸素濃縮器]]
* [[酸素濃度計]]
* [[酸素バー]]
* [[酸素魚雷]]
== 外部リンク ==
* {{ICSC|0138}}
* {{Kotobank}}
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%85%B8%E7%B4%A0 |
7,370 | 液体水素 | 液体水素(えきたいすいそ)とは、液化した水素のこと。沸点は-252.6°Cで融点は-259.2°Cである(重水素では、沸点-249.4°C)。水素の液化は、1896年にイギリスのジェイムズ・デュワーが初めて成功した。
ロケットエンジンの推進剤として利用され、LH2(Liquid H2)と略称される。液体水素を燃料、液体酸素を酸化剤としたロケットエンジンは実用化された化学推進ロケットとしては最も高い比推力を誇る。液体水素は非常に軽い液体で、その密度は70.8 キログラム/立方メートル(20Kの時)と重量エネルギー密度が最も大きい。したがってロケット燃料としては最も効率的である。
近年ではJAXAや旧ソ連諸国の航空宇宙企業を中心として、石油の代替として液体水素を燃料とする旅客機の研究が進められている。液体水素燃料を用いた旅客機は(液体水素の製造過程はともかく)旅客機の飛行中には二酸化炭素を排出せず環境負荷が低いとされている。
JAXAなどが研究を進めるマッハ5クラスの超音速輸送機に搭載するためのエンジンとして、液体水素を燃料とするターボジェットエンジンに高温となった空気を燃料の液体水素で冷却する機構を追加した『予冷ターボジェットエンジン(Precooled jet engine)』の研究が行われている。
前述のとおり極めて大きな燃料タンクが必要となるほか、飛行中の蒸発、極低温燃料の取り扱い、燃料供給体制の構築など解決すべき課題は多い。
水素分子は、それぞれの原子核(プロトン)の核スピンの配向により、オルト(ortho)とパラ(para)の2種類の異性体が存在する。
常温以上では、オルト水素とパラ水素の存在比はおよそ3:1であるが、低温になるほどパラ水素の存在比が増し、絶対零度付近ではほぼ100パーセントパラ水素となる。オルト水素からパラ水素への変化は523kJ/kgの発熱反応であり、蒸発潜熱446kJ/kgより多い。また反応には数日かかるため、数日保管しておくと反応熱で液化水素が気化してしまう。これを水素のボイル・オフ問題という。これを防止するには触媒を用いて発熱反応を済ませておくと良い。オルト‐パラ変換を起こす触媒は、活性炭や鉄などの金属の一部、常磁性物質またはイオンなどがある。
パラ水素をオルト水素に戻すには、1週間近く常温で放置するか、触媒を用いるか、800°C 近くに加熱するとよい。 | [
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'''液体水素'''(えきたいすいそ)とは、液化した[[水素]]のこと。[[沸点]]は-252.6℃で[[融点]]は-259.2℃である([[重水素]]では、沸点-249.4℃)。水素の液化は、[[1896年]]に[[イギリス]]の[[ジェイムズ・デュワー]]が初めて成功した。
== 液体水素の用途 ==
=== ロケット燃料 ===
[[ロケットエンジンの推進剤]]として利用され、LH<sub>2</sub>(Liquid H<sub>2</sub>)と略称される。液体水素を燃料、[[液体酸素]]を[[酸化剤]]とした[[ロケットエンジン]]は実用化された化学推進ロケットとしては最も高い[[比推力]]を誇る。液体水素は非常に軽い液体で、その[[密度]]は70.8 キログラム/立方メートル(20[[ケルビン|K]]の時)と重量エネルギー密度が最も大きい。したがってロケット燃料としては最も効率的である。
=== 代替エネルギーとしての水素燃料 ===
: 現在、水素は、天然ガスや石油を原料に安価に大量生産されている。水素が化石燃料から生産されている以上、その水素を使う燃料電池は、[[代替エネルギー]]ではあっても[[再生可能エネルギー]]ではない。水を[[電気分解]]して得る方法もあるが、その電気の大部分は火力発電や原子力発電で賄われている。(なお、電気分解による大量生産は価格面の問題が大きく実現していない。)液体水素は[[代替エネルギー]]の[[水素燃料]]として以下の用途での使用が期待される。
==== 燃料電池 ====
:水素は[[酸素]]と結びつくことでエネルギーと[[水]]が生まれる。水の[[電気分解]]の逆反応である。[[燃料電池]]は、この反応を利用して電気を生み出す装置である。非常に高価であり部品に消耗品が多い。なお、反応温度が100℃を超えるため、水は、[[水蒸気]]として排出される。
: 現在の家庭用等の燃料電池は[[天然ガス]]から[[水蒸気改質]]により水素を取り出し、それを利用する。
: 一方で、自動車等ではガスボンベ等に詰めた水素を直接利用する燃料電池が実用化されている。
: 炭化水素から直接水素を取り出すタイプの燃料電池は携帯型の電子機器の電源としても期待されているが実用化に至っていない。
==== 内燃機関燃料 ====
: 化石燃料を原料にして作った水素を燃料として[[ガソリンエンジン]]同様に[[ピストン]][[シリンダー]]内で酸素と反応させて動力を得る[[水素燃料エンジン]]の構想があり、[[水素自動車]]が実用化されている。[[内燃機関]]では排気中に[[窒素酸化物]]や[[過酸化水素]]の有害物質が生まれるので、これらを除去しなければならない。また、ガソリンエンジンに比べると出力が低い問題がある。
==== 航空燃料 ====
近年では[[JAXA]]や[[ソビエト連邦|旧ソ連]]諸国の航空宇宙企業を中心として、石油の代替として液体水素を燃料とする[[旅客機]]の研究が進められている。液体水素燃料を用いた旅客機は(液体水素の製造過程はともかく)旅客機の飛行中には[[二酸化炭素]]を排出せず環境負荷が低いとされている。
[[JAXA]]などが研究を進めるマッハ5クラスの[[超音速輸送機]]に搭載するためのエンジンとして、液体水素を燃料とする[[ターボジェットエンジン]]に高温となった空気を燃料の液体水素で冷却する機構を追加した『予冷ターボジェットエンジン([[:en:Precooled jet engine|Precooled jet engine]])』の研究が行われている<ref>[http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kono-tsue_lab/jp/contents/research/pctj.html 津江・中谷研究室研究紹介予冷ターボジェットエンジン]</ref><ref>[https://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/hst/ 極超音速旅客機技術 | 航空新分野創造プログラム(Sky Frontier) | JAXA航空技術部門]</ref>。
前述のとおり極めて大きな燃料タンクが必要となるほか、飛行中の蒸発、極低温燃料の取り扱い、燃料供給体制の構築など解決すべき課題は多い。
== 水素燃料の課題 ==
; 原料
: 現在大量生産される水素の原料は[[天然ガス]]及び[[石油]]である。現状では水素は化石燃料が形を変えたものである。水からの製造には[[アルミニウム]]同様安価で大量の電力が必要である。
; 製造
: 水素はもっとも軽い元素であり、地上において水素単体の形ではほとんど存在していない。このため、エネルギー資源として水素を直接採取・利用することはできず、必要な量はすべて水素化合物からエネルギーを使って取り出さなければならない。最も身近な水素化合物は水である。水を電気分解することで技術的には容易に水素が得られるが、電気分解に消費される電気エネルギーは得られた水素を反応させて再び得られる電気エネルギーより大きいために差し引きでは損となる。[[エタノール]]や石油精製品から水素を取り出す方法もあるが、その手間とコストを考えれば、そのままエタノールや石油精製品を燃料として使用するほうが経済的である。いまのところ水素は[[天然ガス]]と水より触媒を介する[[水蒸気改質]]で作り出されている。
; 保管
: 水素原子や水素分子は非常に小さいことから、金属の内部に浸透して劣化させる[[水素脆化]]を引き起こす。そのためステンレスなどの一般的な金属容器では長期保管が困難である。そこで、水素脆化が起きない材料、水素を吸蔵する[[水素吸蔵合金]]、高圧水素用の[[炭素繊維強化プラスチック|CFRP]]ボンベ、冷却して液化水素として運搬・保管する方法などに関する研究開発が進んでいる。
; 可燃性
: 水素そのものは酸素がなければ燃焼しないため、純度の高い単体の状態では発火しにくいが、酸素との混合気体では容易に発火する。そのため、可燃性という観点では[[ガソリン]]と同様に危険である。燃料を改質して生成した水素を利用する場合、その燃料に関しても十分な安全対策が必要とされる。
; 流通
: 製造・流通・消費の各ステージでまったく新たな設備が必要とされる。水素燃料対応の自動車への燃料供給のため、2023年6月時点では、日本全国で170箇所の水素ステーションが運用されている<ref>[https://toyota.jp/mirai/station/index.html 水素ステーション一覧|トヨタ自動車WEBサイト]</ref>。これらの水素ステーションには、ガス燃料から水素ステーション内で水素を製造する方式と、製油所や化学工場等で製造された水素を輸送して水素ステーションで供給する方式の2種類がある<ref>[http://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/index.html 次世代自動車振興センター 水素ステーション整備状況]</ref>。
== オルト水素とパラ水素 ==
水素分子は、それぞれの[[原子核]]([[陽子|プロトン]])の[[核スピン]]の配向により、オルト(ortho)とパラ(para)の2種類の異性体が存在する{{sfn|Lee|1982|pp=119-123|loc=3. 元素の一般的性質: 水素}}。
常温以上では、オルト水素とパラ水素の存在比はおよそ3:1であるが、低温になるほどパラ水素の存在比が増し、[[絶対零度]]付近ではほぼ100パーセントパラ水素となる{{sfn|Lee|1982|pp=119-123|loc=3. 元素の一般的性質: 水素}}<ref>{{Cite web|和書|title=オルト水素、パラ水素とは?液化水素プラントの設計で知っておくべき物性について |url=https://yuruyuru-plantengineer.com/ortho-para-hydrogen-property-consideration/ |website=yuruyuru-plantengineer.com |access-date=2023-02-28}}</ref>。オルト水素からパラ水素への変化は523kJ/kgの発熱反応であり、蒸発潜熱446kJ/kgより多い。<ref>{{Cite web|和書|title=用語解説 パラ水素とオルソ水素 |url=https://rdreview.jaea.go.jp/review_jp/kaisetsu/545.html |website=rdreview.jaea.go.jp |access-date=2023-02-28}}</ref>また反応には数日かかるため、数日保管しておくと反応熱で液化水素が気化してしまう。これを水素のボイル・オフ問題という。<ref>{{Cite web|和書|title=〈研究例紹介〉液化水素用水素分子核スピン転換触媒の開発 |website=[[北海道大学大学院工学研究院・大学院工学院・工学部|北海道大学大学院工学研究院]]附属エネルギーマテリアル融合領域研究センター マルチスケール機能集積研究室 |url=https://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/LIFM/hydrogen.html |accessdate=2020-06-10 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20200610065903/https://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/LIFM/index.html |archivedate=2020-06-10 |deadlink=2021-04-17}}</ref>これを防止するには触媒を用いて発熱反応を済ませておくと良い。オルト‐パラ変換を起こす[[触媒]]は、[[活性炭]]や鉄などの金属の一部、常磁性物質またはイオンなどがある{{sfn|Lee|1982|pp=119-123|loc=3. 元素の一般的性質: 水素}}。
パラ水素をオルト水素に戻すには、1週間近く常温で放置するか、触媒を用いるか、800℃ 近くに加熱するとよい。<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=https://klchem.co.jp/blog/2011/05/post-1473.php |title=オルソ水素とパラ水素 |access-date=2023.02.28 |publisher=川口液化ケミカル株式会社}}</ref>
== 脚注 ==
{{Reflist}}
== 出典 ==
{{参照方法|date=2017年12月|section=1}}
* [http://www.f-suiso.jp/ 福岡水素エネルギー戦略会議] - 福岡水素エネルギー戦略会議
* [http://www.tgc.jp/news_070606.html 最新式の小型オンサイト水素製造設備による水素供給を開始] - 東京ガス
* [http://www.tokyo-gas.co.jp/techno/menu5/7_index_detail.html 商用水素ステーションの運用] - 東京ガス
* [http://www.kurimoto.co.jp/fc/fc02.htm 燃料電池製品の開発] - 株式会社栗本鐵工所 (リンク切れ)
* [http://www.f-suiso.jp/bunkakai/H23bunkakai/2nd/2nd/H23_2_6.pdf 水素吸蔵合金を用いた 水素貯蔵システム]
* [http://aerospacebiz.jaxa.jp/jp/case/spaceindustry/jp_industry/interview/005/p1.html 液体水素は宇宙用途から始まり現在は民間需要が急拡大しています] - JAXA産業連携センター インタビュー
* [https://aerospacebiz.jaxa.jp/partner/company/05/ わずか3人のオペレーターで1時間に6000ℓの液体水素を製造] - JAXA産業連携センター 現場ルポ
==関連項目==
*[[液体酸素]]
*[[液体窒素]]
*[[すいそ ふろんてぃあ]]:[[川崎重工業]]が作った世界初の液体水素運搬船。
{{水素エネルギー社会}}
{{DEFAULTSORT:えきたいすいそ}}
[[Category:水素]]
[[Category:水素技術]]
[[Category:水素貯蔵]]
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[[Category:産業用ガス]]
[[Category:燃料]]
[[Category:エネルギー貯蔵]]
[[Category:低温物理学]] | 2003-04-27T13:56:48Z | 2023-11-27T06:51:26Z | false | false | false | [
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"Template:水素エネルギー社会"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%B2%E4%BD%93%E6%B0%B4%E7%B4%A0 |
7,372 | ベクトル空間 | 数学、特に線型代数学におけるベクトル空間(ベクトルくうかん、英: vector space)、または、線型空間(せんけいくうかん、英: linear space)は、ベクトル(英: vector)と呼ばれる元からなる集まりの成す数学的構造である。
ベクトルには和(wikidata)が定義され、またスカラーと呼ばれる数による積(スカラー乗法)を行える。スカラーは実数とすることも多いが、複素数や有理数あるいは一般の体の元によるスカラー乗法を持つベクトル空間もある。ベクトルの和とスカラー乗法の演算は、「ベクトル空間の公理」と呼ばれる特定の条件(#定義節を参照)を満足するものでなければならない。ベクトル空間の一つの例は、力のような物理量を表現するのに用いられる幾何ベクトルの全体である(同じ種類の任意の二つの力は、加え合わせて力の合成と呼ばれる第三の力のベクトルを与える。また、力のベクトルを実数倍したものはまた別の力のベクトルを表す)。同じ調子で、平面や空間での変位を表すベクトルの全体もやはりベクトル空間を成す。
ベクトル空間は線型代数学における主題であり、ベクトル空間はその次元(大雑把にいえばその空間の独立な方向の数を決めるもの)によって特徴づけられる。ベクトル空間は、さらにノルムや内積などの追加の構造を持つこともあり、そのようなベクトル空間は解析学において主に函数をベクトルとする無限次元の函数空間の形で自然に生じてくる。解析学的な問題では、ベクトルの列が与えられたベクトルに収束するか否かを決定することもできなければならないが、これはベクトル空間に追加の構造を考えることで実現される。そのような空間のほとんどは適当な位相を備えており、それによって近さや連続性といったことを考えることができる。こういた位相線型空間、特にバナッハ空間やヒルベルト空間については、豊かな理論が存在する。
歴史的な視点では、ベクトル空間の概念の萌芽は17世紀の解析幾何学、行列論、連立一次方程式の理論、幾何ベクトルの概念などにまで遡れる。現代的な、より抽象的な取扱いが初めて定式化されるのは、19世紀後半、ペアノによるもので、それはユークリッド空間よりも一般の対象が範疇に含まれるものであったが、理論の大半は(直線や平面あるいはそれらの高次元での対応物といったような)古典的な幾何学的概念を拡張することに割かれていた。
今日では、ベクトル空間は数学のみならず科学や工学においても広く応用される。ベクトル空間は線型方程式系を扱うための適当な概念であり、例えば画像圧縮ルーチンで使われるフーリエ展開のための枠組みを提示したり、あるいは偏微分方程式の解法に用いることのできる環境を提供する。さらには、テンソルのような幾何学的および物理学的な対象を、抽象的に座標に依らない (英: coordinate-free) で扱う方法を与えてくれるので、そこからさらに線型化の手法を用いて、多様体の局所的性質を説明することもできるようになる。
ベクトル空間の概念は様々な方法で一般化され、幾何学や抽象代数学のより進んだ概念が導かれる。
ベクトル空間の概念について、特定の二つの場合を例にとって簡単に内容を説明する。
ベクトル空間の簡単な例は、一つの平面上の固定した点を始点とする矢印(有向線分)全ての成す集合で与えられる。これは物理学で力や速度などを記述するのにもつかわれる。そのような有向線分 v と w が与えられたとき、その二つの有向線分が張る平行四辺形にはその対角線にもう一つ、原点を始点とする有向線分が含まれる。この新しい有向線分を、二つの有向線分の和 v + w と呼ぶ。もう一つの演算は有向線分を伸び縮み(スケーリング)させるもので、任意の正の実数 a が与えられたとき、v と向きは同じで長さだけを a の分だけ拡大 (英: dilate) または縮小 (英: shrink) した有向線分を、v の a-倍 av と言う。a が負のときは av を今度は逆方向に伸び縮みさせることで同様に定める。
いくつか実際に図示すれば、例えば a = 2 のとき、得られるベクトル aw は w と同方向で長さが w の二倍のベクトル (下図、右の赤) であり、この 2w は和 w + w とも等しい。さらに (−1)v = −v は v と同じ長さで向きだけが v と逆になる (下図、右の青)。
もう一つ重要な例は、実数 x, y の対によって与えられる(x と y の対は並べる順番が重要であり、そのような対を順序対という)。この対を (x, y) と書く。そのような対ふたつの和および実数倍は
および
で定義される。
集合 V が、その上の二項演算 + と、体 F の V への作用 ◦ をもち、これらが任意の u, v, w ∈ V; a, b ∈ Fに関して次の公理系を満たすとき、三組 (V, +, ◦) は「体 F 上のベクトル空間」と定義される。
ベクトル空間の要素はそれぞれ次のように呼ばれる。
導入節では始点を固定した有向平面線分の全体や実数の順序対の全体の成す集合をベクトル空間の例として挙げたが、これらはともに実数体(実数全体からなる体)上のベクトル空間である。公理系はこのようなベクトルの性質を一般化したものである。実際、二番目の例で二つの順序対の和は、和をとる順番に依らず
を満たす。有向線分の例でも v + w = w + v となることは、和を定義する平行四辺形が和の順番に依存しないことから言える。他の公理も同様の方法で満たすことがどちらの例についてもいえる。故に、特定の種類のベクトルが持つ具体的な特質というものは無視して、この定義によって、先の二つあるいはもっとほかの例もひっくるめて、ベクトル空間という一つの概念として扱うのである。
ベクトル空間は係数体の種類に基づき次のように呼ばれる:
体というのは本質的に、四則演算が自由にできる数の集合である。例えば有理数の全体 Q もまた体を成す。
平面やより高次の空間におけるベクトルには、直観的に、近さや角度や距離という概念が存在する。しかし、一般的なベクトル空間においてはそれらの概念は不要であり、実際、そういうものが存在しないベクトル空間もある。これらの概念は、一般的なベクトル空間に追加的に定義される構造である (#付加構造を備えたベクトル空間)。
ベクトルの加法やスカラー乗法は(二項演算の定義によって)閉性と呼ばれる性質を満たすものとなる(つまり V の各元 u, v および F の各元 a に対して u + v および av が必ず V に属する)。これをベクトル空間の公理に独立した条件として加えている文献もある。
抽象代数学の言葉で言えば、先の公理系の最初の四つは「ベクトルの全体が加法に関してアーベル群を成す」という条件にまとめられる。残りの条件は「この群が F 上の加群となる」という条件にまとめられる。あるいはこれを「体 F からベクトル全体の成す群の自己準同型環への環準同型 f が存在すること」と言い換えることもできる。この場合スカラー乗法は av ≔ (f(a))(v) で定められる。
ベクトル空間の公理系から直接的に分かることがいくつかある。それらのうちのいくつかは初等群論をベクトル全体の成す加法群に適用することで得られる。例えば V の零ベクトル 0 や各元 v に加法逆元 −v が一意に存在することなどはそれである。その方法で得られない性質は分配法則から来るもので、例えば av = 0 ⇔ a = 0 または v = 0 などがそうである。
ベクトル空間は、平面や空間に座標系を導入することを通じて、アフィン空間から生じる。1636年ごろ、ルネ・デカルトとピエール・ド・フェルマーは、二変数の方程式の解と平面曲線上の点とを等化して、解析幾何学を発見した。座標を用いない幾何学的な解に到達するために、ベルナルド・ボルツァーノは1804年に、点同士および点と直線の間の演算を導入した。これはベクトルの前身となる概念である。ボルツァーノの研究はアウグスト・フェルディナント・メビウスが1827年に提唱した重心座標系(英語版) (英: barycentric coordinates) の概念を用いて構築されたものであった。ベクトルの定義の基礎となったのは、ジュスト・ベラヴィティス(英語版)の双点 (英: bipoint) の概念で、これは一方の端点を始点、他方の端点を終点とする有向線分である。ベクトルは、ジャン=ロベール・アルガン(英語版)とウィリアム・ローワン・ハミルトンにより複素数の表現として見直され、後の四元数や双四元数(英語版)の概念へと繋がっていく。これらの数はそれぞれ R, R, R の元であり、これらに対する線型結合を用いた取扱いは、1867年のエドモンド・ラゲール(彼は線型方程式系も定義した)まで遡れる。
1857年にアーサー・ケイリーは、線型写像とよく馴染み記述を簡素化できる、行列記法を導入した。同じ頃、ヘルマン・グラスマンはメビウスの「重心計算」(英: the barycentric calculus) を研究していて、算法を伴う抽象的対象の成す集合を構想していた。グラスマンの研究には、線型独立性や次元あるいはスカラー積などの概念が含まれている。実際、グラスマンは1844年に、考案した乗法を以ってベクトル空間の枠組みを推し進め、今日では「多元環」と呼ばれる概念に到達している。ジュゼッペ・ペアノはベクトル空間と線型写像の現代的な定義を与えた最初の人で、それは1888年のことである。
ベクトル空間の重要な発展がアンリ・ルベーグによる函数空間の構成によって起こり、後の1920年ごろにステファン・バナフとダフィット・ヒルベルトによって定式化された。その当時、代数学と新しい研究分野であった函数解析学とが相互に影響し始め、 p-乗可積分函数の空間 L やヒルベルト空間などの重要な概念が生み出されることとなる。そうして無限次元の場合をも含むベクトル空間の概念は堅く確立されたものとなり、多くの数学分野において用いられ始めた。
体 F 上のベクトル空間のもっとも簡単な例は体 F 自身(に、その標準的な加法と乗法を考えたもの)である。これはふつう F と書かれる数ベクトル空間 (英: coordinate space ) の n = 1 の場合である。この数ベクトル空間の元は n-組(長さ n の数列):
で、各 ai が F の元であるようなものである。 F = R かつ n = 2 の場合が上記の#導入節で論じたものとなる。
複素数全体の成す集合 C, つまり実数 x, y を用いて x + iy の形に表すことができる数(ただし、 i = − 1 {\textstyle i={\sqrt {-1}}} は虚数単位)の全体は、x, y, a, b, c は何れも実数であるものとして、通常の和 (x + iy) + (a + ib) = (x + a) + i(y + b) と実数倍 c(x + iy) = (cx) + i(cy) によって、実数体上のベクトル空間になる(ベクトル空間の公理は複素数の算術が同じ規則を満足するという事実から従う)。
実は、この複素数体の例は本質的には(つまり、同型の意味で)導入節に挙げた実数の順序対の成すベクトル空間の例と同じものである。即ち、複素数 x + iy を複素数平面 において順序対 (x, y) を表すものと考えると、複素数体における和とスカラーとの積の規則が、先の例のそれらに対応することが理解される。
より一般に、代数学および代数的数論における体の拡大は、ベクトル空間の例の一類を与える。即ち、体 F を部分体として含む体 E は、E における加法と F の元の E における乗法とに関して F-ベクトル空間になる。例えば、複素数体は R 上のベクトル空間であり、拡大体 Q ( 5 ) {\textstyle \mathbf {Q} ({\sqrt {5}})} は Q 上のベクトル空間である。特に数論的に意味のある例は、有理数体 Q に一つの代数的複素数 α を添加する拡大(代数体)Q(α) である(Q(α) は Q と α とを含む最小の体になる)。
任意の一つの集合 Ω から体 F への函数全体もまた、よくある点ごとの和とスカラー倍によって、ベクトル空間を成す。即ち、二つの函数 f, g の和 (f + g) は
で定義される函数であり、スカラー倍も同様である。そのような函数空間は多くの幾何学的状況で生じる。例えば Ω が実数直線 R やその区間あるいは R の他の部分集合などのときである。位相空間論や解析学における多くの概念、例えば連続性、可積分性や可微分性などは、線型性に関してよく振る舞う。即ち、そのような性質を満たす函数の加算やスカラー倍もまた同じ性質を持つ。従って、そのような函数全体の成す集合もまたそれぞれベクトル空間を成す。これら函数空間は、函数解析学の方法を用いてかなり詳しく調べられている(#付加構造を備えたベクトル空間節を参照)。代数学的な制約からもベクトル空間を得ることができる。ベクトル空間 F[x] は多項式函数
(ただし各係数 r0, ..., rn は F の元)の全体によって与えられる。
斉次線型方程式系はベクトル空間と近しい関係にある。例えば方程式系
の解の全体は、任意の a に対して a, b = a/2, c = −5a/2 の三つ組として与えられる。これらの三つ組の成分ごとの加算とスカラー倍はやはり同じ比を持つ三つの変数の組であるから、これも解となり、解の全体はベクトル空間を成す。行列を使えば上記の複数の線型方程式を簡略化して一つのベクトル方程式、つまり
にすることができる。ここで A は与えられた方程式の係数を含む行列、x はベクトル (a, b, c) であり、Ax は行列の積を、0 = (0, 0) は零ベクトルをそれぞれ意味する。同様の文脈で、斉次の線型微分方程式の解の全体もまたベクトル空間を成す。例えば、
を解けば、a, b を任意の定数として f(x) = ae + bxe が得られる。ただし e は自然指数函数である。
ベクトル空間はいくつかのクラスに分類できる。
基底は簡明な方法でベクトル空間の構造を明らかにする。基底とは、適当な添字集合で添字付けられたベクトルの(有限または無限)集合 B = {vi}i ∈ I であって、それが全体空間を張るもののうちで極小となるものを言う。この条件は、任意のベクトル v が、基底元の有限線型結合
(ak がスカラーで vik が基底 B の元 (k = 1, ..., n))として表されることを意味し、また極小性は B が線型独立性を持つようにするためのものである。ここでベクトルの集合が線型独立であるというのは、その何れの元も残りの元の線型結合として表されることがないときに言い、これはまた方程式
が満たされるのが、全てのスカラー a1, ..., an が零に等しい場合に限ると言っても同じことである。基底の線型独立性は、V の任意のベクトルが基底ベクトルによる表示(そのような表示ができることは基底が全体空間 V を張ることから保証されている)が一意であることを保証する。このことは、基底ベクトルを R における基本ベクトル x, y, z や高次元の場合の同様の対象を一般化するものと見ることによって、ベクトル空間の観点での座標付けとして述べることができる。
基本ベクトル e1 = (1, 0, ..., 0), e2 = (0, 1, 0, ..., 0), ..., en = (0, 0, ..., 0, 1) は F の標準基底と呼ばれる基底を成す。これは任意のベクトル (x1, x2, ..., xn) がこれらのベクトルの線型結合として一意的に
と表されることによる。
任意のベクトル空間が基底を持つことが、ツォルンの補題から従う。従って、ツェルメロ・フレンケル集合論の公理が与えられていれば、任意のベクトル空間における基底の存在性は選択公理と同値になる。また選択公理よりも弱い超フィルター補題(英語版)から、与えられた一つのベクトル空間 V において任意の基底が同じ数の元(あるいは濃度)を持つことが示され(ベクトル空間の次元定理(英語版))、その濃度をベクトル空間 V の次元 dim V と呼ぶ。有限個のベクトルで張られる空間の場合であれば、上記の主張は集合論的な基礎付けを抜きにしても示せる。
数ベクトル空間 F は、すでに示した基底によってその次元が n であることがわかる。#函数空間節で述べた多項式環 F[x] の次元は可算無限(基底の一つは 1, x, x, ... で与えられる)であり、ある(有界または非有界な)区間上の函数全体の成す空間など、もっと一般の函数空間の次元は当然無限大になる。現れる係数に対して適当な正則性条件を課すものとして、斉次常微分方程式の解空間の次元はその方程式の階数に等しい。例えば、式(1)の解空間は e と xe で生成され、これら二つの函数は R 上線型独立であるから、この空間の次元は 2 で、方程式の階数 2 と一致する。
有理数体 Q 上の拡大体 Q(α) の次元は α に依存して決まる。α が有理数係数の代数方程式
を満足する、すなわち α が代数的数であるとき、次元は有限である。より正確には、その次元は α を根に持つ最小多項式の次数に等しい。例えば、複素数体 C は実二次元のベクトル空間で、1 と虚数単位 i で生成される。後者は二次の方程式 i + 1 = 0 を満足するから、このことからも C が二次元 R-ベクトル空間であることが言える(また、任意の体がそうだが、C 自身の上のベクトル空間として C は一次元である)。 他方、α が代数的でないならば、Q(α) の Q 上の次元は無限大である。例えば α = π とすれば、π を根とする代数方程式は存在しない(別な言い方をすれば、π は超越的である)。
二つのベクトル空間の間の関係性は線型写像あるいは線型変換によって表すことができる。これは、ベクトル空間の構造を反映した写像、即ち任意の x, y ∈ V と任意の a ∈ F に対して
を満たすという意味で和とスカラーとの積を保つものである。
同型写像とは、線型写像 f: V → W で逆写像 g: W → V, 即ち合成写像 (f ◦ g): W → W および (g ◦ f): V → V がともに恒等写像となるものが存在するものを言う。同じことだが、f は一対一(単射)かつ上への(全射)線型写像である。V と W の間に同型写像が存在するとき、これらは互いに同型であるという。このとき、V において成り立つ任意の関係式が f を通じて W における関係式に写され、また逆も g を通じて行えるという意味で、これら本質的に同じベクトル空間と見做すことができる。
例えば、「平面上の有向線分(矢印)」の成すベクトル空間と「数の順序対」の成すベクトル空間は同型である。つまり、ある(固定された)座標系の原点を始点とする平面上の有向線分は、図に示すように、線分の x-成分と y-成分を考えることにより、順序対として表すことができる。逆に順序対 (x, y) が与えられてとき、x だけ右に(x が負のときは |x| だけ左に)行って、かつ y だけ上に(y が負のときは |y| だけ下に)行く有向線分として v が得られる。
固定されたベクトル空間の間の線型写像 V → W の全体は、それ自体が線型空間を成し、HomF(V, W) や L(V, W) などで表される。V から係数体 F への線型写像全体の成す空間は、V の双対空間 V と呼ばれる。自然な単射 V → V を通じて、任意のベクトル空間はその二重双対へ埋め込むことができる。この写像が同型となるのは空間が有限次元のときであり、かつその時に限る。
V の基底を一つ選ぶと、V の任意の元は基底ベクトルの線型結合として一意的に表されるから、線型写像 f: V → W は基底ベクトルの行き先を決めることで完全に決定される。 dim V = dim W ならば、V と W の基底を固定するとき、その間の一対一対応から V の各基底元を W の対応する基底元へ写すような線型写像が生じるが、これは定義により同型写像となる。従って、二つのベクトル空間が同型となるのは、それらの次元が一致するときであり、逆もまた成り立つ。これは、別な言い方をすれば、任意のベクトル空間はその次元により(同型を除いて)「完全に分類されている」ということである。特に任意の n-次元 F-ベクトル空間 V は F に同型である。しかし、「標準的」あるいはあらかじめ用意された同型というものは存在しない。実際の同型 φ: F → V は、F の標準基底を V に φ で写すことにより、V を選ぶことと等価である。適当な基底を選ぶ自由度があることは、無限次元の場合の文脈で特に有効である(後述)。
行列 (英: matrix ) は線型写像の情報を記述するのに有効な概念である。行列は、図のように、スカラーの矩形配列として書かれる。任意の m × n 行列 A は F から F への線型写像を
として生じる(∑ は総和を表す)。これはまた行列 A と座標ベクトル x との行列の積を用いて
と書くこともできる。さらに言えば、V と W の基底を選ぶことで、任意の線型写像 f: V → W は同様の方法で行列によって一意的に表される。
正方行列 A の行列式 det (A) は、A に対応する線型写像が同型か否かを測るスカラーである(同型となるには、行列式の値が 0 でないことが必要かつ十分である)。n × n 実行列に対応する R の線型変換が向きを保つには、その行列式が正となることが必要十分である。
自己準同型写像、即ち線型写像 f: V → V は、この場合ベクトル v とその f による像 f(v) とを比較することができるから、特に重要である。
任意の零でないベクトル v が、スカラー λ に対して λv = f(v) を満足するとき、これを f の固有値 (英: eigenvalue ) λ に属する固有ベクトル (英: eigenvector ) という。 同じことだが、固有ベクトル v は差 f − λ · Id の核の元である(ここで Id は恒等写像 V → V)。V が有限次元ならば、これは行列式を使って言い換えることができる。つまり、f が固有値 λ を持つことは
となることと同値である。行列式の定義を書き下すことにより、この式の左辺は λ を変数とする多項式と見ることができて、これを f の固有多項式と呼ぶ。 係数体 F がこの多項式の根を含む程度に大きい(F = C のように、F が代数閉体ならばこの条件は自動的に満たされる)ならば任意の線型写像は少なくとも一つの固有ベクトルを持つ。
ベクトル空間 V は固有基底(英語版)(固有ベクトルからなる基底)を持つかもしれないし持たないかもしれないが、それがどちらであるかは写像のジョルダン標準形によって制御される。f の特定の固有値 λ に属する固有ベクトル全体の成す集合は、固有値 λ(と f)に対応する固有空間と呼ばれるベクトル空間を成す。無限次元の場合の対応する主張であるスペクトル定理に達するには、函数解析学の道具立てが必要である。
上記具体例に加えて、与えられたベクトル空間から別のベクトル空間を得る標準的な線型代数学的構成がいくつか存在する。それらは以下に述べる定義に加えて普遍性と呼ばれる、線型空間 X を X から他の任意の線型空間への線型写像によって特定することができるという性質によっても特徴づけられる。
ベクトル空間 V の空でない部分集合 W が加法とスカラー乗法の下で閉じている(従ってまた、V の零ベクトルを含む)ならば、V の部分空間であるという。V の部分空間は、それ自体が(同じ体上の)ベクトル空間を成す。ベクトルからなる集合 S に対して、それを含む部分空間すべての交わりは S の張る空間と言い、集合 S を含む最小の V の部分空間を成す。属する元の言葉で言えば、S の張る空間は S の元の線型結合全体の成す部分空間である。
部分空間に相対する概念として、商空間がある。任意の部分空間 W ⊂ V に対して、(「V を W で割った」)商空間 V/W は以下のように定義される。 まず集合として V/W は、v を V の任意のベクトルとして v + W = {v + w | w ∈ W} なる形の集合全てからなる。その二つの元 v1 + W および v2 + W の和は (v1 + v2) + W で、またスカラー倍の積は a(v + W) = (av) + W で与えられる。 この定義の鍵は v1 + W = v2 + W となる必要十分条件が v1 と v2 との差が W に入ることである。この方法で商空間は、部分空間 W に含まれる情報を「忘却」したものとなる。
線型写像 f: V → W の核 ker(f) は W の零ベクトル 0 へ写されるベクトル v からなる。核および像 im(f) = {f(v) | v ∈ V} はともにそれぞれ V および W の部分空間である。核と像の存在は(固定した体 F)上のベクトル空間の圏がアーベル圏(つまり、数学的対象とそれらの間の構造を保つ写像の集まり、即ち圏、であってアーベル群の圏と非常によく似た振る舞いをするもの)を成すことの要件の一部である。これにより、第一同型定理(線型代数学的な言い方をすれば階数退化次数定理)
や第二、第三の同型定理が群論における相当の定理と同様な仕方できちんと定式化と証明をすることができる。
重要な例は、適当に固定した行列 A に対する線型写像 x ↦ Ax の核である。この写像の核は Ax = 0 を満たすベクトル x 全体の成す部分空間であり、これは A に属する斉次線型方程式系の解空間に他ならない。この考え方は線型微分方程式
(各係数 ai も x の函数)に対しても拡張できる。対応する線型写像
は函数 f の導函数が(例えば f′′(x) のような項が現れないという意味で)線型に現れている。微分は線型である(即ち (f + g)′ = f′ + g′ および定数 c について (cf)′ = cf′ が成り立つ)から、上記作用素の値も線型である(線型微分作用素と言う)。特に、この微分方程式 D(f) = 0 の解の全体は(R または C 上の)ベクトル空間となる。
I {\textstyle I} で添字付けられたベクトル空間の族 V i {\textstyle V_{i}} の直積 ∏ i ∈ I V i {\textstyle \prod _{i\in I}V_{i}} とは、順序組 ( v i ) i ∈ I = ( v 1 , v 2 , ... ) ( v i ∈ V i ) {\textstyle ({\boldsymbol {v}}_{i})_{i\in I}=({\boldsymbol {v}}_{1},{\boldsymbol {v}}_{2},\dotsc )\quad ({\boldsymbol {v}}_{i}\in V_{i})} 全体の成す集合に、加法とスカラー乗法を成分ごとの演算によって定めたものである。 この構成の変種として、直和 ⨁ i ∈ I V i {\textstyle \bigoplus _{i\in I}V_{i}} (あるいは余積 ∐ i ∈ I V i {\textstyle \coprod _{i\in I}V_{i}} )は先の順序組において有限個の例外を除く全ての成分が零ベクトルであるようなものだけを許して得られるものである。添字集合 I {\textstyle I} が有限ならばこの二つの構成は一致するが、そうでないならば違うものを与える。
同じ体 F 上の二つのベクトル空間 V と W のテンソル積 (英: tensor product ) V ⊗F W あるいは単に V ⊗ W は、線型写像を多変数にするような概念の拡張を扱う多重線型代数における中心的な概念のひとつである。写像 g: V × W → X; (v, w) ↦ g(v, w) が双線型写像であるとは、g が両変数 v, w の何れについても線型であることを言う。これはつまり、w を固定したとき写像 v ↦ g(v, w) が線型であり、かつ v を固定した時も同様であることを意味する。
テンソル積は以下のような意味で、双線型写像を普遍的に受け入れる特別のベクトル空間である。それはテンソルと呼ばれる記号の(形式的な)有限和
の全体からなる線型空間で、これらの元は a をスカラーとして
なる規則で縛られている。
これらの規則は、写像 f: V × W → V ⊗ W; (v, w) ↦ v ⊗ w が双線型となることを保証するものである。テンソル積の普遍性とは
というものである。テンソル積の普遍性は対象を、その対象からの、あるいはその対象への写像によって間接的に定義するという(進んだ抽象代数学ではよく用いられる)手法の一例である。
線型代数学の観点からは、任意のベクトル空間が(同型を除いて)その次元によって特徴づけられるという意味で、ベクトル空間については完全に分かっている。しかしベクトル空間というものは「本質的に」、函数列が別の函数に収束するか否かという(解析学では重要な)問題について取り扱う枠組みを提供していないし、同様に加法演算が有限項の和のみを許す線型代数学では無限級数を扱うのには適当でない。従って、函数解析学ではベクトル空間に更なる構造を考える必要が求められる。ほとんど同様に、付加的な情報を持つベクトル空間が有効に働く部分を抽象的に見つけだすことで、公理的取扱いからベクトル空間の持つ代数学的に本質的な特徴を浮き彫りにすることができる。
付加構造の一つの例は、順序関係 ≤ で、これによりベクトルの比較が行えるようになる。例えば、実 n-次元空間 R は、ベクトルを成分ごとに比較することで順序づけることができる。また、ルベーグ積分は函数を二つの正値函数の差
として(f は f の正部分で f は負部分)表すことができることに依拠しているから、順序線型空間(英語版)(例えばリース空間)はルベーグ積分において基本的である。
ベクトルの「測度」は、ベクトルの長さを測るノルムや、ベクトルの間の角を測る内積を決めることによって与えられる。ノルムが定義されたベクトル空間をノルム空間とよび、ノルムを |v| のように表す。内積が定義されたベクトル空間を内積空間と呼び、 内積は⟨v, w⟩ のように表す。内積空間は付随するノルム
を持つ。
数ベクトル空間 F は標準内積
を備えている。これは R においてよくある二つのベクトル x, y の成す角 θ の概念を余弦定理
によって反映するものである。これにより、x · y = 0 を満たす二つのベクトル x, y は互いに直交すると言われる。この標準内積の重要な変形版として、ミンコフスキー空間 R = R はローレンツ積
を備える。標準内積との大きな違いは、ローレンツ積が正定値でないこと、つまり ⟨x|x⟩ は負の値を取り得る(例えば x = (0,0,0,1) のとき)ことである。(三つの空間的な座標とは異なり、時間に対応する)第四の座標を考えることは特殊相対論の数学的取扱いにおいて有効である。
収束性の問題は、ベクトル空間 V に両立する位相(近さを記述することを可能にする構造)を入れることによって扱われる。。 ここでいう「両立」とは、加法とスカラー乗法がともに連続写像となるという意味で、大雑把に言えば、x, y ∈ V と a ∈ F が限られた範囲の中にあれば、x + y と ax も限られた範囲に留まるということである。スカラーについてこの議論がきちんと意味を持つようにするためには、この文脈において体 F にも位相が定められていなければならない。よく用いられるのが実数体や複素数体である。
このような位相線型空間ではベクトル項級数を考えることができて、V の元からなる列 (fi)i ∈ N の無限和
とは、対応する有限部分和の極限を表すものである。例えば fi が、ある(実または複素)函数空間に属する函数であるとすると、この場合の級数は函数項級数と呼ばれる。函数項級数の収束の様態(英語版)は、函数空間に課された位相に依存する。そのような様態の中でも各点収束と一様収束の二つは特に際立った例である。
ある種の無限級数の極限の存在を保証する方法の一つは、考える空間を任意のコーシー列が収束するようなものに限って考えることである。そのようなベクトル空間は完備であるという。大まかに言えば、ベクトル空間が完備というのは必要な極限をすべて含むということである。例えば単位区間 [0, 1] 上の多項式函数全体の成すベクトル空間に一様収束位相を入れたものは完備でない。これは [0, 1] 上の任意の連続函数が、多項式函数列で一様に近似することができるというヴァイアシュトラスの近似定理による。対照的に、区間 [0, 1] 上の連続函数全体の成す空間に同じ位相を入れたものは完備になる。ノルムからは、ベクトル列 vn が v に収束する必要十分条件を
で定めることによって、空間に位相が入る。バナッハ空間およびヒルベルト空間は、それぞれノルムおよび内積から定まる位相に関して完備な位相空間である。函数解析学で重要になるそれらの研究は、有限次元位相線型空間上のノルムはどれも同じ収束性の概念を定めるから、無限次元ベクトル空間に焦点があてられる。図は R 上の 1 ノルムと ∞ ノルムとの同値性を示すものである。単位「球体」は互いに他に囲まれているから、列が 1 ノルムに関して 0 に収束することと、その列が ∞ ノルムに関して収束することとが同値になる。しかし無限次元空間の場合には、一般には互いに同値でないような位相が存在しおり、そのことが位相線型空間の研究を、付加構造を持たない純代数的なベクトル空間の理論よりも豊かなものとしているのである。
概念的な観点では、位相線型空間に関する全ての概念は位相とうまく合うものでなければならない。例えば、位相線型空間の間の線型写像(あるいは線型汎函数)V → W は連続であるものと仮定される。特に、(位相的)双対空間 V は連続汎函数 V → R (or C) からなるものとする。基礎を成すハーン・バナッハの定理は、適当な位相線型空間を連続汎函数によって部分空間に分けることに関係するものである。
バナフの導入したバナッハ空間とは、完備ノルム空間のことである。一つの例として、 l p {\displaystyle \ell ^{p}} (1 ≤ p ≤ ∞) は、実数を成分とする無限次元ベクトル x = (x1, x2, ...) であって、p < ∞ に対して
または p = ∞ に対して
で定義される p-ノルムが有限となるようなもの全体の成すベクトル空間である。無限次元空間 l p {\displaystyle \ell ^{p}} の位相は、異なる p に対しては同値でない。例えばベクトルの列 xn = (2, 2, ..., 2, 0, 0, ...), つまり各項が最初の 2-個の成分が 2 で残りはすべて 0 となるような無限次元ベクトルとなるようなベクトル列は p = ∞ のときは零ベクトルに収束するが、p = 1 のときはそうならない。式にすれば
だが
である。
実数列よりも一般の函数 f : Ω → R は、上記の和のところをルベーグ積分に置き換えた
をノルムとして備えている。与えられた領域 Ω(例えば区間)上の |f| < ∞ を満足する可積分函数の空間に、このノルムを入れたものはルベーグ空間 L(Ω) と呼ばれる。ルベーグ空間は何れも完備になる(が、もし上記の積分をリーマン積分としたならば、空間は完備にならない。これがルベーグ積分論を考えることの正当性の一つとして挙げられる理由の一つである)。具体的に書けば、任意の可積分函数列 f1, f2, ... で |fn|p < ∞ となるものが、条件
を満足するならば、適当な函数 f(x) でベクトル空間 L(Ω) に属するものが存在して
を満たすようにすることができる。
函数自体だけでなくその導函数にも有界性条件を課すことでソボレフ空間の概念が導かれる。
完備な内積空間はヒルベルトに因んでヒルベルト空間 (英: Hilbert space) と呼ばれる。自乗可積分函数の空間 L(Ω) に
で定義される内積(ただし g(x) は g(x) の複素共軛とする)を入れたものは主要なヒルベルト空間の例である。
定義によりヒルベルト空間における任意のコーシー列は極限を持つから、逆に与えられた極限函数を近似するという適当な性質を持つ函数列 fn を求めることが重要になる。初期の解析学では、テイラー近似の形で可微分函数 f の多項式列による近似が確立された。ストーン=ヴァイアシュトラスの定理により、[a, b] 上の任意の連続函数は適当な多項式列によりいくらでも近く近似できる。三角函数を用いた同様の近似法は一般にフーリエ展開と呼ばれ、工学において広く応用される(#フーリエ解析節を参照)。より一般に、またより概念的に言えば、これらの定理は「基本函数族」とは何であるかということを端的に記述するものになっている。あるいは抽象ヒルベルト空間においてどのような基本ベクトル族が、ヒルベルト空間 H を位相的に生成するに十分であるかをいうものである。ここで、位相的に生成する(あるいは単に生成する)とは、それらの位相的線型包と呼ばれる、線型包の閉包(即ち、有限線型結合およびその極限)が、全体空間に一致することである。そのような函数の集合は H の基底(あるいはヒルベルト基底)と呼ばれ、基底の濃度はヒルベルト空間 H のヒルベルト次元と呼ばれる。これらの定理は適当な基底函数族が近似の目的で十分性を示すことのみならず、シュミットの直交化法を用いて互いに直交するベクトルの族からなる基底が得られることも意味している。そのような直交基底は、有限次元ユークリッド空間における座標軸をヒルベルト空間に対して一般化したものと考えることができる。
様々な微分方程式に対して、その解をヒルベルト空間の言葉で解釈することができる。例えば物理学や工学におけるかなり多くの分野でそのような方程式が導かれ、特定の物理的性質を持つ解が(しばしば直交する)基底函数族としてよく扱われる。物理学からの例として、量子力学における時間依存シュレーディンガー方程式は、その解が波動函数と呼ばれる偏微分方程式として、物理的性質の時間的な変化を記述する。。エネルギーやモーメントのような物理的性質に対する明確な値は、ある種の線型微分作用素の固有値とそれに属する固有状態と呼ばれる波動函数に対応する。スペクトル定理は、函数に作用する線型コンパクト作用素を、それらの固有値と固有函数を用いて分解することを述べるものである。
一般のベクトル空間は、ベクトルの間の乗法を持たない。二つのベクトルの乗法を定める双線型写像を付加的に備えたベクトル空間は、体上の多元環と言う。主な多元環は、何らかの幾何学的な対象の上の函数の空間から生じる。体に値をとる函数は、点ごとの乗法を持ち、それら函数の全体が多元環を成すのである。例えば、ストーン=ヴァイアシュトラスの定理は、バナッハ空間にも多元環にもなっているバナッハ環において成立する。
可換多元環は一変数または多変数の多項式環を使ってたくさん作れる。可換多元環の乗法は可換かつ結合的である。これらの環およびその剰余環は、それが代数幾何的対象上の函数の環となることから、代数幾何学の基礎を成している。
別の重要な例はリー環である。リー環の乗法(x, y の積を [x, y] と書く)は可換でも結合的でもないが、そうなることは制約条件
によって制限されている。リー環の例には、n-次正方行列全体の成すベクトル空間に、行列の交換子 [x, y] = xy − yx を積としたものや、R に交叉積を入れたものなどが含まれる。
テンソル代数 T(V) は任意のベクトル空間に積を導入して多元環を得るための形式的な方法である。T(V) はベクトル空間としては、単純テンソルあるいは分解可能型テンソルと呼ばれる記号
によって生成される(ただし、テンソルの階数(英語版) n は任意に動かすものとする)。乗法は二つのベクトル空間に対してテンソル積を定義するときとほとんど同じで、基底元についてはそれらの記号をテンソル積 ⊗ で結合することで与え、一般には加法に対する分配律を以って基底元に対する積を延長する。スカラー倍の積は ⊗ と可換であるものとする。こうして得られる T(V) においては、一般に v1 ⊗ v2 と v2 ⊗ v1 との間には何の関係も成立しない。この二つの元を強制的に等しいものと定めると対称代数 S(V) が、あるいは強制的に v1 ⊗ v2 = − v2 ⊗ v1 と置けば外積代数 ⋀ ( V ) {\textstyle \bigwedge (V)} がそれぞれ得られる。
基礎とする体 F を明示したい場合には、F-多元環あるいは F-代数という言葉がよく用いられる。
ベクトル空間の多様体に対する応用は様々な状況で生じてくる。つまり多様体上で定義され、ある体に値をとる函数を考えれば、そこにはベクトル空間が生じるのである。そのようなベクトル空間を考えれば、解析学や幾何学における問題を取り扱う枠組みが提供される。またそういったベクトル空間はフーリエ変換などにおいても利用される。ここで挙げた例は網羅的なものではなく、例えば最適化など、ほかにももっと多くの応用が存在する。ゲーム理論のミニマックス法は全てのプレイヤーが最適な試行を行うことができるならば一意的なペイが得られることを述べるもので、これはベクトル空間法を用いて証明できる。表現論は、よく分かっている線型代数学およびベクトル空間に関する内容を、群論など他の領域に実り豊かに引き写すものである。
シュヴァルツ超函数 (英: distribution) は、各「試験」函数(典型的には、コンパクト台を持つ無限回微分可能函数)に数を連続的な仕方で割り当てる線型写像をいう。即ち、シュヴァルツ超函数の空間は、試験函数の空間の(連続的)双対である。後者の空間には、試験函数 f それ自体のみならずその高階導函数までを考慮するような位相が入っている。シュヴァルツ超函数の典型的な例はある領域 Ω 上で試験函数 f を積分する作用素
である。Ω が一点集合{p}のとき、これは試験函数 f に点 p における値を割り当てるディラックのデルタ関数 δ を定める(δ(f) = f(p))。
シュヴァルツ超函数は微分方程式を解くための強力な道具である。微分は線型であるといったような、解析学の標準的な概念は、自然にシュヴァルツ超函数の空間へ延長することができるから、従って問題の方程式をシュヴァルツ超函数の空間へ引き写すことができて、しかもシュヴァルツ超函数の空間はもとの函数空間よりも大きいから、方程式を解くためにより柔軟な方法が利用できる(例えば、グリーン函数法)。
また、基本解は真の函数でなくシュヴァルツ超函数解(弱解)となるのがふつうであり、弱解から所期の境界条件を満たす方程式の真の解を求めるには、見つかった弱解が実際に真の函数となることを確かめればよく、証明できた場合にはそれがもとの方程式の真の解である(例えばリースの表現定理の帰結であるラックス・ミルグラムの定理が利用できる)。
周期函数をフーリエ級数を成す三角函数の和に分解することは物理学や工学においてよく用いられる手法である。台となるベクトル空間は、ふつうはヒルベルト空間 L(0, 2π) であり、函数族 sin mx および cos mx (m は整数) が正規直交基底を与える。L-函数 f のフーリエ展開は
である。係数 am, bm は f のフーリエ係数と呼ばれ、公式
で求められる。
物理学の言葉で言えば、函数は正弦波の重ね合せとして表され、その係数は函数の周波数スペクトルについての情報を与えるということになる。複素型のフーリエ級数も広く用いられる。 上記の具体的な公式は、より一般のポントリャーギン双対と呼ばれる双対性からの帰結である。加法群 R にこの双対性を適用すれば古典的なフーリエ変換が得られる。また物理学では逆格子に応用される。これは有限次元実線型空間に付加的なデータとして原子や結晶の位置を符号化した束を与えたものを基礎の群として双対性を適用したものである。
フーリエ級数は偏微分方程式の境界値問題を解くのにも利用される。1822年にフーリエが初めてこの方法を熱方程式を解くために用いた。フーリエ級数の離散版は標本化において、函数値が等間隔に並んだ有限個の点でしかわかっていないところで用いられる。この場合、フーリエ級数は有限項で、その値は全ての点で標本値に等しい。また、係数全体の成す集合は、与えられた標本列の離散フーリエ変換 (英: DFT : Discrete Fourier Transformation) と呼ばれる。この DFT は(レーダーや音声符号化や画像圧縮などに応用を持つ)デジタル信号処理の重要な道具の一つである。画像フォーマットJPEGは、近しい関係にある離散余弦変換の応用である。
高速フーリエ変換は離散フーリエ変換を高速に計算するアルゴリズムである。これはフーリエ係数の計算だけでなく、畳み込み定理を用いて、二つの有限列の畳み込みを計算するのにも利用できる。また、デジタルフィルタや、巨大な整数や多項式の高速な掛け算アルゴリズム(英語版)(ショーンハーゲ・ストラッセン法)にも応用できる。
曲面のある点における接平面は、自然に接点を原点と同一視したベクトル空間になる。接平面は接点における曲面の最適線型近似あるいは線型化である。三次元ユークリッド空間の場合でさえ、接平面の基底を指定する自然な方法は点綴的には存在せず、またそれゆえに接平面は、実数ベクトル空間というよりはむしろ抽象ベクトル空間として考えられる。接空間はより高次元の可微分多様体への一般化である。
リーマン多様体はその接空間が適当な内積を備えた多様体である。そこから得られるリーマン曲率テンソルは、それ一つでその多様体の全ての曲率を表すことができるもので、一般相対論では例えば時空の質量とエネルギー定数を記述するアインシュタイン曲率テンソルなどに応用がある。リー群の接空間は自然にリー環の構造を持ち、コンパクトリー群の分類に用いることができる。
ベクトル束は位相空間 X によって連続的に径数付けられたベクトル空間の族である。より明確に言えば、X 上のベクトル束とは、位相空間 E であって、連続写像
を持ち、X の各点 x においてファイバー V = π(x) がベクトル空間を成すようなものを言う。dim V = 1 ならば線束という。任意のベクトル空間 V に対し、射影 X × V → X は直積 X × V を「自明な」ベクトル束にする。X 上のベクトル束は、局所的にはある(固定された)ベクトル空間 V と X との直積でなければならない。つまり、X の各点 x に対して x の適当な近傍 U を選んで、π の π(U) への制限が自明束 U × V → U に同型となるようにすることができる。これらの局所自明性にもかかわらず、ベクトル束は巨視的には(台となる位相空間 X の形に依存して)「捻じれ」ているのである。つまり、ベクトル束は自明束 X × V (と大域的に同型)である必要はない。例えば、メビウスの帯は(円周を実数直線上の半開区間と同一視することによって)円周 S 上の線束と見做すことができるが、しかしこれは円筒 S × R とは異なる。後者は向き付け可能だが、前者はそうではない。
ある種のベクトル束の性質は、台となる位相空間についての情報を提供する。例えば、接空間の集まりからなる接束は可微分多様体の点によって径数付けられる。 円周 S の接束は、S 上に大域的な非零ベクトル場が存在するから、大域的に S × R に同型である。対照的に、毛玉の定理(英語版)により、二次元球面 S 上の接ベクトル場で至る所消えていない者は存在しない。K-理論は同じ位相空間上の全てのベクトル束の同型類について研究するものである。深い位相的かつ幾何学的な観察に加えて、この理論には実有限次元多元体の分類(そのようなものは R, C のほかは四元数体 H と八元数体 O しかない)というような純代数学的な帰結も存在する(フルヴィッツの定理(英語版)を参照)。
可微分多様多の余接束は、多様体の各点において接空間の双対である余接空間が対応するベクトル束である。余接束の切断は微分一次形式 (1-form) と呼ばれる。
ベクトル空間が体に対するものであるように、加群 (英: modules) の概念は環に対するものである。これはベクトル空間の公理において体 F とするところを環 R で置き換えることで得られる。加群の理論はベクトル空間のそれと比べて(環の元に必ずしも乗法逆元が存在しないことで)より複雑なものになっている。例えば加群は、Z-加群(つまりアーベル群)としての Z/2Z のように、必ずしも基底を持たない。基底を持つような加群(ベクトル空間もそう)は自由加群と呼ばれる。にも拘わらずベクトル空間は、係数環が体であるような加群として簡単に定義することができて、その元をベクトルと呼ぶ。可換環の代数幾何学的解釈は、それらのスペクトルを通じて、ベクトル束の代数的な対応物である局所自由加群の概念などを展開することを可能にする。
大雑把に言うと、アフィン空間 (英: affine space ) というのはベクトル空間からその原点をわからなくしたものである。より正確には、アフィン空間とは自由かつ推移的なベクトル空間の作用を備えた集合を言う。特にベクトル空間は、写像
を考えることによって、自身の上のアフィン空間となる。W をベクトル空間とするとき、W のアフィン部分空間とは、固定したベクトル x ∈ W によって線型部分空間 V を平行移動することによって得られるものを言う。この空間は x + V(V による W の剰余類)であり、v ∈ V に対する x + v の形のベクトル全てからなる。重要な例は、非斉次の線型方程式系
の解空間である。これは斉次の場合、つまり b = 0 の場合を一般化するものである。この解空間は、方程式の特殊解 x と、付随する斉次方程式の解空間(つまり A の核空間)V に対するアフィン部分空間 x + V である。
固定された有限次元ベクトル空間 V の一次元線型部分空間全体の成す集合は射影空間と呼ばれる。これは平行線が無限遠において交わるという概念の定式化に用いられる。グラスマン多様体(英語版)および旗多様体(en:flag variety)はそれぞれ、決まった次元 k の線型部分空間および旗(英語版)と呼ばれる線型部分空間の包含列を径数付けることによる、射影空間の概念の一般化である。
順序体(特に実数体)上で、凸解析の概念を考えることができる。最も基本的なものは、非負線型結合全体からなる錐、および和が 1 となる非負線型結合全体からなる凸集合である。凸集合はアフィン空間の公理と錐体の公理を組み合わせたものとして見ることができ、これは凸集合の標準空間である n-単体がアフィン超平面と象限との交わりであることを反映したものになっている。このような空間は特に線型計画問題において用いられる。
普遍代数学の言葉で言えば、ベクトル空間はベクトルの有限和に対応する係数の有限列全体の成す普遍ベクトル空間 K 上の代数であるが、一方アフィン空間はここでいう(和が 1 の有限列全体の成す)普遍アフィン超平面上の代数であり、また錐体は普遍象限上の代数、凸集合は普遍単体上の代数である。これは、「座標に対する(可能な)制限和」を用いて公理を幾何化したものである。
線型代数学における多くの概念は凸解析における対応する概念があって、基本的なものとしては基底や(凸包のような形での)生成概念など、また重要なものとしては(双対多角形、双対錐体、双対問題のような)双対性などが含まれる。しかし線型代数学において任意のベクトル空間やアフィン空間が標準空間に同型となるのとは異なり、任意の凸集合や錐体が単体や象限に同型となるわけではない。むしろ単体から多面体の上への写像が一般化された重心座標系(英語版)によって常に存在し、またその双対写像として多面体から(面の数と等しい次元の)象限の中への写像がスラック変数(英語版)によって存在するが、これらが同型となることは稀である(ほとんどの多面体は単体でも象限でもない)。 | [
{
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"text": "数学、特に線型代数学におけるベクトル空間(ベクトルくうかん、英: vector space)、または、線型空間(せんけいくうかん、英: linear space)は、ベクトル(英: vector)と呼ばれる元からなる集まりの成す数学的構造である。",
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"text": "ベクトルには和(wikidata)が定義され、またスカラーと呼ばれる数による積(スカラー乗法)を行える。スカラーは実数とすることも多いが、複素数や有理数あるいは一般の体の元によるスカラー乗法を持つベクトル空間もある。ベクトルの和とスカラー乗法の演算は、「ベクトル空間の公理」と呼ばれる特定の条件(#定義節を参照)を満足するものでなければならない。ベクトル空間の一つの例は、力のような物理量を表現するのに用いられる幾何ベクトルの全体である(同じ種類の任意の二つの力は、加え合わせて力の合成と呼ばれる第三の力のベクトルを与える。また、力のベクトルを実数倍したものはまた別の力のベクトルを表す)。同じ調子で、平面や空間での変位を表すベクトルの全体もやはりベクトル空間を成す。",
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"text": "ベクトル空間は線型代数学における主題であり、ベクトル空間はその次元(大雑把にいえばその空間の独立な方向の数を決めるもの)によって特徴づけられる。ベクトル空間は、さらにノルムや内積などの追加の構造を持つこともあり、そのようなベクトル空間は解析学において主に函数をベクトルとする無限次元の函数空間の形で自然に生じてくる。解析学的な問題では、ベクトルの列が与えられたベクトルに収束するか否かを決定することもできなければならないが、これはベクトル空間に追加の構造を考えることで実現される。そのような空間のほとんどは適当な位相を備えており、それによって近さや連続性といったことを考えることができる。こういた位相線型空間、特にバナッハ空間やヒルベルト空間については、豊かな理論が存在する。",
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"text": "歴史的な視点では、ベクトル空間の概念の萌芽は17世紀の解析幾何学、行列論、連立一次方程式の理論、幾何ベクトルの概念などにまで遡れる。現代的な、より抽象的な取扱いが初めて定式化されるのは、19世紀後半、ペアノによるもので、それはユークリッド空間よりも一般の対象が範疇に含まれるものであったが、理論の大半は(直線や平面あるいはそれらの高次元での対応物といったような)古典的な幾何学的概念を拡張することに割かれていた。",
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"text": "今日では、ベクトル空間は数学のみならず科学や工学においても広く応用される。ベクトル空間は線型方程式系を扱うための適当な概念であり、例えば画像圧縮ルーチンで使われるフーリエ展開のための枠組みを提示したり、あるいは偏微分方程式の解法に用いることのできる環境を提供する。さらには、テンソルのような幾何学的および物理学的な対象を、抽象的に座標に依らない (英: coordinate-free) で扱う方法を与えてくれるので、そこからさらに線型化の手法を用いて、多様体の局所的性質を説明することもできるようになる。",
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"text": "ベクトル空間の概念は様々な方法で一般化され、幾何学や抽象代数学のより進んだ概念が導かれる。",
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"text": "ベクトル空間の概念について、特定の二つの場合を例にとって簡単に内容を説明する。",
"title": "導入"
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"text": "ベクトル空間の簡単な例は、一つの平面上の固定した点を始点とする矢印(有向線分)全ての成す集合で与えられる。これは物理学で力や速度などを記述するのにもつかわれる。そのような有向線分 v と w が与えられたとき、その二つの有向線分が張る平行四辺形にはその対角線にもう一つ、原点を始点とする有向線分が含まれる。この新しい有向線分を、二つの有向線分の和 v + w と呼ぶ。もう一つの演算は有向線分を伸び縮み(スケーリング)させるもので、任意の正の実数 a が与えられたとき、v と向きは同じで長さだけを a の分だけ拡大 (英: dilate) または縮小 (英: shrink) した有向線分を、v の a-倍 av と言う。a が負のときは av を今度は逆方向に伸び縮みさせることで同様に定める。",
"title": "導入"
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"text": "いくつか実際に図示すれば、例えば a = 2 のとき、得られるベクトル aw は w と同方向で長さが w の二倍のベクトル (下図、右の赤) であり、この 2w は和 w + w とも等しい。さらに (−1)v = −v は v と同じ長さで向きだけが v と逆になる (下図、右の青)。",
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"text": "もう一つ重要な例は、実数 x, y の対によって与えられる(x と y の対は並べる順番が重要であり、そのような対を順序対という)。この対を (x, y) と書く。そのような対ふたつの和および実数倍は",
"title": "導入"
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{
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"text": "および",
"title": "導入"
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{
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"text": "で定義される。",
"title": "導入"
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"text": "集合 V が、その上の二項演算 + と、体 F の V への作用 ◦ をもち、これらが任意の u, v, w ∈ V; a, b ∈ Fに関して次の公理系を満たすとき、三組 (V, +, ◦) は「体 F 上のベクトル空間」と定義される。",
"title": "定義"
},
{
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"text": "ベクトル空間の要素はそれぞれ次のように呼ばれる。",
"title": "定義"
},
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"text": "導入節では始点を固定した有向平面線分の全体や実数の順序対の全体の成す集合をベクトル空間の例として挙げたが、これらはともに実数体(実数全体からなる体)上のベクトル空間である。公理系はこのようなベクトルの性質を一般化したものである。実際、二番目の例で二つの順序対の和は、和をとる順番に依らず",
"title": "定義"
},
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"text": "を満たす。有向線分の例でも v + w = w + v となることは、和を定義する平行四辺形が和の順番に依存しないことから言える。他の公理も同様の方法で満たすことがどちらの例についてもいえる。故に、特定の種類のベクトルが持つ具体的な特質というものは無視して、この定義によって、先の二つあるいはもっとほかの例もひっくるめて、ベクトル空間という一つの概念として扱うのである。",
"title": "定義"
},
{
"paragraph_id": 16,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間は係数体の種類に基づき次のように呼ばれる:",
"title": "定義"
},
{
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"text": "体というのは本質的に、四則演算が自由にできる数の集合である。例えば有理数の全体 Q もまた体を成す。",
"title": "定義"
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"text": "平面やより高次の空間におけるベクトルには、直観的に、近さや角度や距離という概念が存在する。しかし、一般的なベクトル空間においてはそれらの概念は不要であり、実際、そういうものが存在しないベクトル空間もある。これらの概念は、一般的なベクトル空間に追加的に定義される構造である (#付加構造を備えたベクトル空間)。",
"title": "定義"
},
{
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"tag": "p",
"text": "ベクトルの加法やスカラー乗法は(二項演算の定義によって)閉性と呼ばれる性質を満たすものとなる(つまり V の各元 u, v および F の各元 a に対して u + v および av が必ず V に属する)。これをベクトル空間の公理に独立した条件として加えている文献もある。",
"title": "定義"
},
{
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"text": "抽象代数学の言葉で言えば、先の公理系の最初の四つは「ベクトルの全体が加法に関してアーベル群を成す」という条件にまとめられる。残りの条件は「この群が F 上の加群となる」という条件にまとめられる。あるいはこれを「体 F からベクトル全体の成す群の自己準同型環への環準同型 f が存在すること」と言い換えることもできる。この場合スカラー乗法は av ≔ (f(a))(v) で定められる。",
"title": "定義"
},
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"text": "ベクトル空間の公理系から直接的に分かることがいくつかある。それらのうちのいくつかは初等群論をベクトル全体の成す加法群に適用することで得られる。例えば V の零ベクトル 0 や各元 v に加法逆元 −v が一意に存在することなどはそれである。その方法で得られない性質は分配法則から来るもので、例えば av = 0 ⇔ a = 0 または v = 0 などがそうである。",
"title": "定義"
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"text": "ベクトル空間は、平面や空間に座標系を導入することを通じて、アフィン空間から生じる。1636年ごろ、ルネ・デカルトとピエール・ド・フェルマーは、二変数の方程式の解と平面曲線上の点とを等化して、解析幾何学を発見した。座標を用いない幾何学的な解に到達するために、ベルナルド・ボルツァーノは1804年に、点同士および点と直線の間の演算を導入した。これはベクトルの前身となる概念である。ボルツァーノの研究はアウグスト・フェルディナント・メビウスが1827年に提唱した重心座標系(英語版) (英: barycentric coordinates) の概念を用いて構築されたものであった。ベクトルの定義の基礎となったのは、ジュスト・ベラヴィティス(英語版)の双点 (英: bipoint) の概念で、これは一方の端点を始点、他方の端点を終点とする有向線分である。ベクトルは、ジャン=ロベール・アルガン(英語版)とウィリアム・ローワン・ハミルトンにより複素数の表現として見直され、後の四元数や双四元数(英語版)の概念へと繋がっていく。これらの数はそれぞれ R, R, R の元であり、これらに対する線型結合を用いた取扱いは、1867年のエドモンド・ラゲール(彼は線型方程式系も定義した)まで遡れる。",
"title": "歴史"
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"text": "1857年にアーサー・ケイリーは、線型写像とよく馴染み記述を簡素化できる、行列記法を導入した。同じ頃、ヘルマン・グラスマンはメビウスの「重心計算」(英: the barycentric calculus) を研究していて、算法を伴う抽象的対象の成す集合を構想していた。グラスマンの研究には、線型独立性や次元あるいはスカラー積などの概念が含まれている。実際、グラスマンは1844年に、考案した乗法を以ってベクトル空間の枠組みを推し進め、今日では「多元環」と呼ばれる概念に到達している。ジュゼッペ・ペアノはベクトル空間と線型写像の現代的な定義を与えた最初の人で、それは1888年のことである。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 24,
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"text": "ベクトル空間の重要な発展がアンリ・ルベーグによる函数空間の構成によって起こり、後の1920年ごろにステファン・バナフとダフィット・ヒルベルトによって定式化された。その当時、代数学と新しい研究分野であった函数解析学とが相互に影響し始め、 p-乗可積分函数の空間 L やヒルベルト空間などの重要な概念が生み出されることとなる。そうして無限次元の場合をも含むベクトル空間の概念は堅く確立されたものとなり、多くの数学分野において用いられ始めた。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 25,
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"text": "体 F 上のベクトル空間のもっとも簡単な例は体 F 自身(に、その標準的な加法と乗法を考えたもの)である。これはふつう F と書かれる数ベクトル空間 (英: coordinate space ) の n = 1 の場合である。この数ベクトル空間の元は n-組(長さ n の数列):",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "で、各 ai が F の元であるようなものである。 F = R かつ n = 2 の場合が上記の#導入節で論じたものとなる。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "複素数全体の成す集合 C, つまり実数 x, y を用いて x + iy の形に表すことができる数(ただし、 i = − 1 {\\textstyle i={\\sqrt {-1}}} は虚数単位)の全体は、x, y, a, b, c は何れも実数であるものとして、通常の和 (x + iy) + (a + ib) = (x + a) + i(y + b) と実数倍 c(x + iy) = (cx) + i(cy) によって、実数体上のベクトル空間になる(ベクトル空間の公理は複素数の算術が同じ規則を満足するという事実から従う)。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "実は、この複素数体の例は本質的には(つまり、同型の意味で)導入節に挙げた実数の順序対の成すベクトル空間の例と同じものである。即ち、複素数 x + iy を複素数平面 において順序対 (x, y) を表すものと考えると、複素数体における和とスカラーとの積の規則が、先の例のそれらに対応することが理解される。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "より一般に、代数学および代数的数論における体の拡大は、ベクトル空間の例の一類を与える。即ち、体 F を部分体として含む体 E は、E における加法と F の元の E における乗法とに関して F-ベクトル空間になる。例えば、複素数体は R 上のベクトル空間であり、拡大体 Q ( 5 ) {\\textstyle \\mathbf {Q} ({\\sqrt {5}})} は Q 上のベクトル空間である。特に数論的に意味のある例は、有理数体 Q に一つの代数的複素数 α を添加する拡大(代数体)Q(α) である(Q(α) は Q と α とを含む最小の体になる)。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "任意の一つの集合 Ω から体 F への函数全体もまた、よくある点ごとの和とスカラー倍によって、ベクトル空間を成す。即ち、二つの函数 f, g の和 (f + g) は",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "で定義される函数であり、スカラー倍も同様である。そのような函数空間は多くの幾何学的状況で生じる。例えば Ω が実数直線 R やその区間あるいは R の他の部分集合などのときである。位相空間論や解析学における多くの概念、例えば連続性、可積分性や可微分性などは、線型性に関してよく振る舞う。即ち、そのような性質を満たす函数の加算やスカラー倍もまた同じ性質を持つ。従って、そのような函数全体の成す集合もまたそれぞれベクトル空間を成す。これら函数空間は、函数解析学の方法を用いてかなり詳しく調べられている(#付加構造を備えたベクトル空間節を参照)。代数学的な制約からもベクトル空間を得ることができる。ベクトル空間 F[x] は多項式函数",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "(ただし各係数 r0, ..., rn は F の元)の全体によって与えられる。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "斉次線型方程式系はベクトル空間と近しい関係にある。例えば方程式系",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "の解の全体は、任意の a に対して a, b = a/2, c = −5a/2 の三つ組として与えられる。これらの三つ組の成分ごとの加算とスカラー倍はやはり同じ比を持つ三つの変数の組であるから、これも解となり、解の全体はベクトル空間を成す。行列を使えば上記の複数の線型方程式を簡略化して一つのベクトル方程式、つまり",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "にすることができる。ここで A は与えられた方程式の係数を含む行列、x はベクトル (a, b, c) であり、Ax は行列の積を、0 = (0, 0) は零ベクトルをそれぞれ意味する。同様の文脈で、斉次の線型微分方程式の解の全体もまたベクトル空間を成す。例えば、",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "を解けば、a, b を任意の定数として f(x) = ae + bxe が得られる。ただし e は自然指数函数である。",
"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間はいくつかのクラスに分類できる。",
"title": "クラス"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "基底は簡明な方法でベクトル空間の構造を明らかにする。基底とは、適当な添字集合で添字付けられたベクトルの(有限または無限)集合 B = {vi}i ∈ I であって、それが全体空間を張るもののうちで極小となるものを言う。この条件は、任意のベクトル v が、基底元の有限線型結合",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "(ak がスカラーで vik が基底 B の元 (k = 1, ..., n))として表されることを意味し、また極小性は B が線型独立性を持つようにするためのものである。ここでベクトルの集合が線型独立であるというのは、その何れの元も残りの元の線型結合として表されることがないときに言い、これはまた方程式",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "が満たされるのが、全てのスカラー a1, ..., an が零に等しい場合に限ると言っても同じことである。基底の線型独立性は、V の任意のベクトルが基底ベクトルによる表示(そのような表示ができることは基底が全体空間 V を張ることから保証されている)が一意であることを保証する。このことは、基底ベクトルを R における基本ベクトル x, y, z や高次元の場合の同様の対象を一般化するものと見ることによって、ベクトル空間の観点での座標付けとして述べることができる。",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "基本ベクトル e1 = (1, 0, ..., 0), e2 = (0, 1, 0, ..., 0), ..., en = (0, 0, ..., 0, 1) は F の標準基底と呼ばれる基底を成す。これは任意のベクトル (x1, x2, ..., xn) がこれらのベクトルの線型結合として一意的に",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "と表されることによる。",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "任意のベクトル空間が基底を持つことが、ツォルンの補題から従う。従って、ツェルメロ・フレンケル集合論の公理が与えられていれば、任意のベクトル空間における基底の存在性は選択公理と同値になる。また選択公理よりも弱い超フィルター補題(英語版)から、与えられた一つのベクトル空間 V において任意の基底が同じ数の元(あるいは濃度)を持つことが示され(ベクトル空間の次元定理(英語版))、その濃度をベクトル空間 V の次元 dim V と呼ぶ。有限個のベクトルで張られる空間の場合であれば、上記の主張は集合論的な基礎付けを抜きにしても示せる。",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "数ベクトル空間 F は、すでに示した基底によってその次元が n であることがわかる。#函数空間節で述べた多項式環 F[x] の次元は可算無限(基底の一つは 1, x, x, ... で与えられる)であり、ある(有界または非有界な)区間上の函数全体の成す空間など、もっと一般の函数空間の次元は当然無限大になる。現れる係数に対して適当な正則性条件を課すものとして、斉次常微分方程式の解空間の次元はその方程式の階数に等しい。例えば、式(1)の解空間は e と xe で生成され、これら二つの函数は R 上線型独立であるから、この空間の次元は 2 で、方程式の階数 2 と一致する。",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "有理数体 Q 上の拡大体 Q(α) の次元は α に依存して決まる。α が有理数係数の代数方程式",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "を満足する、すなわち α が代数的数であるとき、次元は有限である。より正確には、その次元は α を根に持つ最小多項式の次数に等しい。例えば、複素数体 C は実二次元のベクトル空間で、1 と虚数単位 i で生成される。後者は二次の方程式 i + 1 = 0 を満足するから、このことからも C が二次元 R-ベクトル空間であることが言える(また、任意の体がそうだが、C 自身の上のベクトル空間として C は一次元である)。 他方、α が代数的でないならば、Q(α) の Q 上の次元は無限大である。例えば α = π とすれば、π を根とする代数方程式は存在しない(別な言い方をすれば、π は超越的である)。",
"title": "基底と次元"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "二つのベクトル空間の間の関係性は線型写像あるいは線型変換によって表すことができる。これは、ベクトル空間の構造を反映した写像、即ち任意の x, y ∈ V と任意の a ∈ F に対して",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "を満たすという意味で和とスカラーとの積を保つものである。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "同型写像とは、線型写像 f: V → W で逆写像 g: W → V, 即ち合成写像 (f ◦ g): W → W および (g ◦ f): V → V がともに恒等写像となるものが存在するものを言う。同じことだが、f は一対一(単射)かつ上への(全射)線型写像である。V と W の間に同型写像が存在するとき、これらは互いに同型であるという。このとき、V において成り立つ任意の関係式が f を通じて W における関係式に写され、また逆も g を通じて行えるという意味で、これら本質的に同じベクトル空間と見做すことができる。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "例えば、「平面上の有向線分(矢印)」の成すベクトル空間と「数の順序対」の成すベクトル空間は同型である。つまり、ある(固定された)座標系の原点を始点とする平面上の有向線分は、図に示すように、線分の x-成分と y-成分を考えることにより、順序対として表すことができる。逆に順序対 (x, y) が与えられてとき、x だけ右に(x が負のときは |x| だけ左に)行って、かつ y だけ上に(y が負のときは |y| だけ下に)行く有向線分として v が得られる。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "固定されたベクトル空間の間の線型写像 V → W の全体は、それ自体が線型空間を成し、HomF(V, W) や L(V, W) などで表される。V から係数体 F への線型写像全体の成す空間は、V の双対空間 V と呼ばれる。自然な単射 V → V を通じて、任意のベクトル空間はその二重双対へ埋め込むことができる。この写像が同型となるのは空間が有限次元のときであり、かつその時に限る。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "V の基底を一つ選ぶと、V の任意の元は基底ベクトルの線型結合として一意的に表されるから、線型写像 f: V → W は基底ベクトルの行き先を決めることで完全に決定される。 dim V = dim W ならば、V と W の基底を固定するとき、その間の一対一対応から V の各基底元を W の対応する基底元へ写すような線型写像が生じるが、これは定義により同型写像となる。従って、二つのベクトル空間が同型となるのは、それらの次元が一致するときであり、逆もまた成り立つ。これは、別な言い方をすれば、任意のベクトル空間はその次元により(同型を除いて)「完全に分類されている」ということである。特に任意の n-次元 F-ベクトル空間 V は F に同型である。しかし、「標準的」あるいはあらかじめ用意された同型というものは存在しない。実際の同型 φ: F → V は、F の標準基底を V に φ で写すことにより、V を選ぶことと等価である。適当な基底を選ぶ自由度があることは、無限次元の場合の文脈で特に有効である(後述)。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "行列 (英: matrix ) は線型写像の情報を記述するのに有効な概念である。行列は、図のように、スカラーの矩形配列として書かれる。任意の m × n 行列 A は F から F への線型写像を",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "として生じる(∑ は総和を表す)。これはまた行列 A と座標ベクトル x との行列の積を用いて",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "と書くこともできる。さらに言えば、V と W の基底を選ぶことで、任意の線型写像 f: V → W は同様の方法で行列によって一意的に表される。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "正方行列 A の行列式 det (A) は、A に対応する線型写像が同型か否かを測るスカラーである(同型となるには、行列式の値が 0 でないことが必要かつ十分である)。n × n 実行列に対応する R の線型変換が向きを保つには、その行列式が正となることが必要十分である。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "自己準同型写像、即ち線型写像 f: V → V は、この場合ベクトル v とその f による像 f(v) とを比較することができるから、特に重要である。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "任意の零でないベクトル v が、スカラー λ に対して λv = f(v) を満足するとき、これを f の固有値 (英: eigenvalue ) λ に属する固有ベクトル (英: eigenvector ) という。 同じことだが、固有ベクトル v は差 f − λ · Id の核の元である(ここで Id は恒等写像 V → V)。V が有限次元ならば、これは行列式を使って言い換えることができる。つまり、f が固有値 λ を持つことは",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "となることと同値である。行列式の定義を書き下すことにより、この式の左辺は λ を変数とする多項式と見ることができて、これを f の固有多項式と呼ぶ。 係数体 F がこの多項式の根を含む程度に大きい(F = C のように、F が代数閉体ならばこの条件は自動的に満たされる)ならば任意の線型写像は少なくとも一つの固有ベクトルを持つ。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間 V は固有基底(英語版)(固有ベクトルからなる基底)を持つかもしれないし持たないかもしれないが、それがどちらであるかは写像のジョルダン標準形によって制御される。f の特定の固有値 λ に属する固有ベクトル全体の成す集合は、固有値 λ(と f)に対応する固有空間と呼ばれるベクトル空間を成す。無限次元の場合の対応する主張であるスペクトル定理に達するには、函数解析学の道具立てが必要である。",
"title": "線型写像と行列"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "上記具体例に加えて、与えられたベクトル空間から別のベクトル空間を得る標準的な線型代数学的構成がいくつか存在する。それらは以下に述べる定義に加えて普遍性と呼ばれる、線型空間 X を X から他の任意の線型空間への線型写像によって特定することができるという性質によっても特徴づけられる。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間 V の空でない部分集合 W が加法とスカラー乗法の下で閉じている(従ってまた、V の零ベクトルを含む)ならば、V の部分空間であるという。V の部分空間は、それ自体が(同じ体上の)ベクトル空間を成す。ベクトルからなる集合 S に対して、それを含む部分空間すべての交わりは S の張る空間と言い、集合 S を含む最小の V の部分空間を成す。属する元の言葉で言えば、S の張る空間は S の元の線型結合全体の成す部分空間である。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "部分空間に相対する概念として、商空間がある。任意の部分空間 W ⊂ V に対して、(「V を W で割った」)商空間 V/W は以下のように定義される。 まず集合として V/W は、v を V の任意のベクトルとして v + W = {v + w | w ∈ W} なる形の集合全てからなる。その二つの元 v1 + W および v2 + W の和は (v1 + v2) + W で、またスカラー倍の積は a(v + W) = (av) + W で与えられる。 この定義の鍵は v1 + W = v2 + W となる必要十分条件が v1 と v2 との差が W に入ることである。この方法で商空間は、部分空間 W に含まれる情報を「忘却」したものとなる。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "線型写像 f: V → W の核 ker(f) は W の零ベクトル 0 へ写されるベクトル v からなる。核および像 im(f) = {f(v) | v ∈ V} はともにそれぞれ V および W の部分空間である。核と像の存在は(固定した体 F)上のベクトル空間の圏がアーベル圏(つまり、数学的対象とそれらの間の構造を保つ写像の集まり、即ち圏、であってアーベル群の圏と非常によく似た振る舞いをするもの)を成すことの要件の一部である。これにより、第一同型定理(線型代数学的な言い方をすれば階数退化次数定理)",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "や第二、第三の同型定理が群論における相当の定理と同様な仕方できちんと定式化と証明をすることができる。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "重要な例は、適当に固定した行列 A に対する線型写像 x ↦ Ax の核である。この写像の核は Ax = 0 を満たすベクトル x 全体の成す部分空間であり、これは A に属する斉次線型方程式系の解空間に他ならない。この考え方は線型微分方程式",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "(各係数 ai も x の函数)に対しても拡張できる。対応する線型写像",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "は函数 f の導函数が(例えば f′′(x) のような項が現れないという意味で)線型に現れている。微分は線型である(即ち (f + g)′ = f′ + g′ および定数 c について (cf)′ = cf′ が成り立つ)から、上記作用素の値も線型である(線型微分作用素と言う)。特に、この微分方程式 D(f) = 0 の解の全体は(R または C 上の)ベクトル空間となる。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "I {\\textstyle I} で添字付けられたベクトル空間の族 V i {\\textstyle V_{i}} の直積 ∏ i ∈ I V i {\\textstyle \\prod _{i\\in I}V_{i}} とは、順序組 ( v i ) i ∈ I = ( v 1 , v 2 , ... ) ( v i ∈ V i ) {\\textstyle ({\\boldsymbol {v}}_{i})_{i\\in I}=({\\boldsymbol {v}}_{1},{\\boldsymbol {v}}_{2},\\dotsc )\\quad ({\\boldsymbol {v}}_{i}\\in V_{i})} 全体の成す集合に、加法とスカラー乗法を成分ごとの演算によって定めたものである。 この構成の変種として、直和 ⨁ i ∈ I V i {\\textstyle \\bigoplus _{i\\in I}V_{i}} (あるいは余積 ∐ i ∈ I V i {\\textstyle \\coprod _{i\\in I}V_{i}} )は先の順序組において有限個の例外を除く全ての成分が零ベクトルであるようなものだけを許して得られるものである。添字集合 I {\\textstyle I} が有限ならばこの二つの構成は一致するが、そうでないならば違うものを与える。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "同じ体 F 上の二つのベクトル空間 V と W のテンソル積 (英: tensor product ) V ⊗F W あるいは単に V ⊗ W は、線型写像を多変数にするような概念の拡張を扱う多重線型代数における中心的な概念のひとつである。写像 g: V × W → X; (v, w) ↦ g(v, w) が双線型写像であるとは、g が両変数 v, w の何れについても線型であることを言う。これはつまり、w を固定したとき写像 v ↦ g(v, w) が線型であり、かつ v を固定した時も同様であることを意味する。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "テンソル積は以下のような意味で、双線型写像を普遍的に受け入れる特別のベクトル空間である。それはテンソルと呼ばれる記号の(形式的な)有限和",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "の全体からなる線型空間で、これらの元は a をスカラーとして",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "なる規則で縛られている。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "これらの規則は、写像 f: V × W → V ⊗ W; (v, w) ↦ v ⊗ w が双線型となることを保証するものである。テンソル積の普遍性とは",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "というものである。テンソル積の普遍性は対象を、その対象からの、あるいはその対象への写像によって間接的に定義するという(進んだ抽象代数学ではよく用いられる)手法の一例である。",
"title": "基本的な構成法"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "線型代数学の観点からは、任意のベクトル空間が(同型を除いて)その次元によって特徴づけられるという意味で、ベクトル空間については完全に分かっている。しかしベクトル空間というものは「本質的に」、函数列が別の函数に収束するか否かという(解析学では重要な)問題について取り扱う枠組みを提供していないし、同様に加法演算が有限項の和のみを許す線型代数学では無限級数を扱うのには適当でない。従って、函数解析学ではベクトル空間に更なる構造を考える必要が求められる。ほとんど同様に、付加的な情報を持つベクトル空間が有効に働く部分を抽象的に見つけだすことで、公理的取扱いからベクトル空間の持つ代数学的に本質的な特徴を浮き彫りにすることができる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "付加構造の一つの例は、順序関係 ≤ で、これによりベクトルの比較が行えるようになる。例えば、実 n-次元空間 R は、ベクトルを成分ごとに比較することで順序づけることができる。また、ルベーグ積分は函数を二つの正値函数の差",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 78,
"tag": "p",
"text": "として(f は f の正部分で f は負部分)表すことができることに依拠しているから、順序線型空間(英語版)(例えばリース空間)はルベーグ積分において基本的である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 79,
"tag": "p",
"text": "ベクトルの「測度」は、ベクトルの長さを測るノルムや、ベクトルの間の角を測る内積を決めることによって与えられる。ノルムが定義されたベクトル空間をノルム空間とよび、ノルムを |v| のように表す。内積が定義されたベクトル空間を内積空間と呼び、 内積は⟨v, w⟩ のように表す。内積空間は付随するノルム",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 80,
"tag": "p",
"text": "を持つ。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 81,
"tag": "p",
"text": "数ベクトル空間 F は標準内積",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 82,
"tag": "p",
"text": "を備えている。これは R においてよくある二つのベクトル x, y の成す角 θ の概念を余弦定理",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 83,
"tag": "p",
"text": "によって反映するものである。これにより、x · y = 0 を満たす二つのベクトル x, y は互いに直交すると言われる。この標準内積の重要な変形版として、ミンコフスキー空間 R = R はローレンツ積",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 84,
"tag": "p",
"text": "を備える。標準内積との大きな違いは、ローレンツ積が正定値でないこと、つまり ⟨x|x⟩ は負の値を取り得る(例えば x = (0,0,0,1) のとき)ことである。(三つの空間的な座標とは異なり、時間に対応する)第四の座標を考えることは特殊相対論の数学的取扱いにおいて有効である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 85,
"tag": "p",
"text": "収束性の問題は、ベクトル空間 V に両立する位相(近さを記述することを可能にする構造)を入れることによって扱われる。。 ここでいう「両立」とは、加法とスカラー乗法がともに連続写像となるという意味で、大雑把に言えば、x, y ∈ V と a ∈ F が限られた範囲の中にあれば、x + y と ax も限られた範囲に留まるということである。スカラーについてこの議論がきちんと意味を持つようにするためには、この文脈において体 F にも位相が定められていなければならない。よく用いられるのが実数体や複素数体である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 86,
"tag": "p",
"text": "このような位相線型空間ではベクトル項級数を考えることができて、V の元からなる列 (fi)i ∈ N の無限和",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 87,
"tag": "p",
"text": "とは、対応する有限部分和の極限を表すものである。例えば fi が、ある(実または複素)函数空間に属する函数であるとすると、この場合の級数は函数項級数と呼ばれる。函数項級数の収束の様態(英語版)は、函数空間に課された位相に依存する。そのような様態の中でも各点収束と一様収束の二つは特に際立った例である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 88,
"tag": "p",
"text": "ある種の無限級数の極限の存在を保証する方法の一つは、考える空間を任意のコーシー列が収束するようなものに限って考えることである。そのようなベクトル空間は完備であるという。大まかに言えば、ベクトル空間が完備というのは必要な極限をすべて含むということである。例えば単位区間 [0, 1] 上の多項式函数全体の成すベクトル空間に一様収束位相を入れたものは完備でない。これは [0, 1] 上の任意の連続函数が、多項式函数列で一様に近似することができるというヴァイアシュトラスの近似定理による。対照的に、区間 [0, 1] 上の連続函数全体の成す空間に同じ位相を入れたものは完備になる。ノルムからは、ベクトル列 vn が v に収束する必要十分条件を",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 89,
"tag": "p",
"text": "で定めることによって、空間に位相が入る。バナッハ空間およびヒルベルト空間は、それぞれノルムおよび内積から定まる位相に関して完備な位相空間である。函数解析学で重要になるそれらの研究は、有限次元位相線型空間上のノルムはどれも同じ収束性の概念を定めるから、無限次元ベクトル空間に焦点があてられる。図は R 上の 1 ノルムと ∞ ノルムとの同値性を示すものである。単位「球体」は互いに他に囲まれているから、列が 1 ノルムに関して 0 に収束することと、その列が ∞ ノルムに関して収束することとが同値になる。しかし無限次元空間の場合には、一般には互いに同値でないような位相が存在しおり、そのことが位相線型空間の研究を、付加構造を持たない純代数的なベクトル空間の理論よりも豊かなものとしているのである。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 90,
"tag": "p",
"text": "概念的な観点では、位相線型空間に関する全ての概念は位相とうまく合うものでなければならない。例えば、位相線型空間の間の線型写像(あるいは線型汎函数)V → W は連続であるものと仮定される。特に、(位相的)双対空間 V は連続汎函数 V → R (or C) からなるものとする。基礎を成すハーン・バナッハの定理は、適当な位相線型空間を連続汎函数によって部分空間に分けることに関係するものである。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 91,
"tag": "p",
"text": "バナフの導入したバナッハ空間とは、完備ノルム空間のことである。一つの例として、 l p {\\displaystyle \\ell ^{p}} (1 ≤ p ≤ ∞) は、実数を成分とする無限次元ベクトル x = (x1, x2, ...) であって、p < ∞ に対して",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 92,
"tag": "p",
"text": "または p = ∞ に対して",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 93,
"tag": "p",
"text": "で定義される p-ノルムが有限となるようなもの全体の成すベクトル空間である。無限次元空間 l p {\\displaystyle \\ell ^{p}} の位相は、異なる p に対しては同値でない。例えばベクトルの列 xn = (2, 2, ..., 2, 0, 0, ...), つまり各項が最初の 2-個の成分が 2 で残りはすべて 0 となるような無限次元ベクトルとなるようなベクトル列は p = ∞ のときは零ベクトルに収束するが、p = 1 のときはそうならない。式にすれば",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 94,
"tag": "p",
"text": "だが",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 95,
"tag": "p",
"text": "である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 96,
"tag": "p",
"text": "実数列よりも一般の函数 f : Ω → R は、上記の和のところをルベーグ積分に置き換えた",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 97,
"tag": "p",
"text": "をノルムとして備えている。与えられた領域 Ω(例えば区間)上の |f| < ∞ を満足する可積分函数の空間に、このノルムを入れたものはルベーグ空間 L(Ω) と呼ばれる。ルベーグ空間は何れも完備になる(が、もし上記の積分をリーマン積分としたならば、空間は完備にならない。これがルベーグ積分論を考えることの正当性の一つとして挙げられる理由の一つである)。具体的に書けば、任意の可積分函数列 f1, f2, ... で |fn|p < ∞ となるものが、条件",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 98,
"tag": "p",
"text": "を満足するならば、適当な函数 f(x) でベクトル空間 L(Ω) に属するものが存在して",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 99,
"tag": "p",
"text": "を満たすようにすることができる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 100,
"tag": "p",
"text": "函数自体だけでなくその導函数にも有界性条件を課すことでソボレフ空間の概念が導かれる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 101,
"tag": "p",
"text": "完備な内積空間はヒルベルトに因んでヒルベルト空間 (英: Hilbert space) と呼ばれる。自乗可積分函数の空間 L(Ω) に",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 102,
"tag": "p",
"text": "で定義される内積(ただし g(x) は g(x) の複素共軛とする)を入れたものは主要なヒルベルト空間の例である。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 103,
"tag": "p",
"text": "定義によりヒルベルト空間における任意のコーシー列は極限を持つから、逆に与えられた極限函数を近似するという適当な性質を持つ函数列 fn を求めることが重要になる。初期の解析学では、テイラー近似の形で可微分函数 f の多項式列による近似が確立された。ストーン=ヴァイアシュトラスの定理により、[a, b] 上の任意の連続函数は適当な多項式列によりいくらでも近く近似できる。三角函数を用いた同様の近似法は一般にフーリエ展開と呼ばれ、工学において広く応用される(#フーリエ解析節を参照)。より一般に、またより概念的に言えば、これらの定理は「基本函数族」とは何であるかということを端的に記述するものになっている。あるいは抽象ヒルベルト空間においてどのような基本ベクトル族が、ヒルベルト空間 H を位相的に生成するに十分であるかをいうものである。ここで、位相的に生成する(あるいは単に生成する)とは、それらの位相的線型包と呼ばれる、線型包の閉包(即ち、有限線型結合およびその極限)が、全体空間に一致することである。そのような函数の集合は H の基底(あるいはヒルベルト基底)と呼ばれ、基底の濃度はヒルベルト空間 H のヒルベルト次元と呼ばれる。これらの定理は適当な基底函数族が近似の目的で十分性を示すことのみならず、シュミットの直交化法を用いて互いに直交するベクトルの族からなる基底が得られることも意味している。そのような直交基底は、有限次元ユークリッド空間における座標軸をヒルベルト空間に対して一般化したものと考えることができる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 104,
"tag": "p",
"text": "様々な微分方程式に対して、その解をヒルベルト空間の言葉で解釈することができる。例えば物理学や工学におけるかなり多くの分野でそのような方程式が導かれ、特定の物理的性質を持つ解が(しばしば直交する)基底函数族としてよく扱われる。物理学からの例として、量子力学における時間依存シュレーディンガー方程式は、その解が波動函数と呼ばれる偏微分方程式として、物理的性質の時間的な変化を記述する。。エネルギーやモーメントのような物理的性質に対する明確な値は、ある種の線型微分作用素の固有値とそれに属する固有状態と呼ばれる波動函数に対応する。スペクトル定理は、函数に作用する線型コンパクト作用素を、それらの固有値と固有函数を用いて分解することを述べるものである。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 105,
"tag": "p",
"text": "一般のベクトル空間は、ベクトルの間の乗法を持たない。二つのベクトルの乗法を定める双線型写像を付加的に備えたベクトル空間は、体上の多元環と言う。主な多元環は、何らかの幾何学的な対象の上の函数の空間から生じる。体に値をとる函数は、点ごとの乗法を持ち、それら函数の全体が多元環を成すのである。例えば、ストーン=ヴァイアシュトラスの定理は、バナッハ空間にも多元環にもなっているバナッハ環において成立する。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 106,
"tag": "p",
"text": "可換多元環は一変数または多変数の多項式環を使ってたくさん作れる。可換多元環の乗法は可換かつ結合的である。これらの環およびその剰余環は、それが代数幾何的対象上の函数の環となることから、代数幾何学の基礎を成している。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 107,
"tag": "p",
"text": "別の重要な例はリー環である。リー環の乗法(x, y の積を [x, y] と書く)は可換でも結合的でもないが、そうなることは制約条件",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 108,
"tag": "p",
"text": "によって制限されている。リー環の例には、n-次正方行列全体の成すベクトル空間に、行列の交換子 [x, y] = xy − yx を積としたものや、R に交叉積を入れたものなどが含まれる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 109,
"tag": "p",
"text": "テンソル代数 T(V) は任意のベクトル空間に積を導入して多元環を得るための形式的な方法である。T(V) はベクトル空間としては、単純テンソルあるいは分解可能型テンソルと呼ばれる記号",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 110,
"tag": "p",
"text": "によって生成される(ただし、テンソルの階数(英語版) n は任意に動かすものとする)。乗法は二つのベクトル空間に対してテンソル積を定義するときとほとんど同じで、基底元についてはそれらの記号をテンソル積 ⊗ で結合することで与え、一般には加法に対する分配律を以って基底元に対する積を延長する。スカラー倍の積は ⊗ と可換であるものとする。こうして得られる T(V) においては、一般に v1 ⊗ v2 と v2 ⊗ v1 との間には何の関係も成立しない。この二つの元を強制的に等しいものと定めると対称代数 S(V) が、あるいは強制的に v1 ⊗ v2 = − v2 ⊗ v1 と置けば外積代数 ⋀ ( V ) {\\textstyle \\bigwedge (V)} がそれぞれ得られる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 111,
"tag": "p",
"text": "基礎とする体 F を明示したい場合には、F-多元環あるいは F-代数という言葉がよく用いられる。",
"title": "付加構造を備えたベクトル空間"
},
{
"paragraph_id": 112,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間の多様体に対する応用は様々な状況で生じてくる。つまり多様体上で定義され、ある体に値をとる函数を考えれば、そこにはベクトル空間が生じるのである。そのようなベクトル空間を考えれば、解析学や幾何学における問題を取り扱う枠組みが提供される。またそういったベクトル空間はフーリエ変換などにおいても利用される。ここで挙げた例は網羅的なものではなく、例えば最適化など、ほかにももっと多くの応用が存在する。ゲーム理論のミニマックス法は全てのプレイヤーが最適な試行を行うことができるならば一意的なペイが得られることを述べるもので、これはベクトル空間法を用いて証明できる。表現論は、よく分かっている線型代数学およびベクトル空間に関する内容を、群論など他の領域に実り豊かに引き写すものである。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 113,
"tag": "p",
"text": "シュヴァルツ超函数 (英: distribution) は、各「試験」函数(典型的には、コンパクト台を持つ無限回微分可能函数)に数を連続的な仕方で割り当てる線型写像をいう。即ち、シュヴァルツ超函数の空間は、試験函数の空間の(連続的)双対である。後者の空間には、試験函数 f それ自体のみならずその高階導函数までを考慮するような位相が入っている。シュヴァルツ超函数の典型的な例はある領域 Ω 上で試験函数 f を積分する作用素",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 114,
"tag": "p",
"text": "である。Ω が一点集合{p}のとき、これは試験函数 f に点 p における値を割り当てるディラックのデルタ関数 δ を定める(δ(f) = f(p))。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 115,
"tag": "p",
"text": "シュヴァルツ超函数は微分方程式を解くための強力な道具である。微分は線型であるといったような、解析学の標準的な概念は、自然にシュヴァルツ超函数の空間へ延長することができるから、従って問題の方程式をシュヴァルツ超函数の空間へ引き写すことができて、しかもシュヴァルツ超函数の空間はもとの函数空間よりも大きいから、方程式を解くためにより柔軟な方法が利用できる(例えば、グリーン函数法)。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 116,
"tag": "p",
"text": "また、基本解は真の函数でなくシュヴァルツ超函数解(弱解)となるのがふつうであり、弱解から所期の境界条件を満たす方程式の真の解を求めるには、見つかった弱解が実際に真の函数となることを確かめればよく、証明できた場合にはそれがもとの方程式の真の解である(例えばリースの表現定理の帰結であるラックス・ミルグラムの定理が利用できる)。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 117,
"tag": "p",
"text": "周期函数をフーリエ級数を成す三角函数の和に分解することは物理学や工学においてよく用いられる手法である。台となるベクトル空間は、ふつうはヒルベルト空間 L(0, 2π) であり、函数族 sin mx および cos mx (m は整数) が正規直交基底を与える。L-函数 f のフーリエ展開は",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 118,
"tag": "p",
"text": "である。係数 am, bm は f のフーリエ係数と呼ばれ、公式",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 119,
"tag": "p",
"text": "で求められる。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 120,
"tag": "p",
"text": "物理学の言葉で言えば、函数は正弦波の重ね合せとして表され、その係数は函数の周波数スペクトルについての情報を与えるということになる。複素型のフーリエ級数も広く用いられる。 上記の具体的な公式は、より一般のポントリャーギン双対と呼ばれる双対性からの帰結である。加法群 R にこの双対性を適用すれば古典的なフーリエ変換が得られる。また物理学では逆格子に応用される。これは有限次元実線型空間に付加的なデータとして原子や結晶の位置を符号化した束を与えたものを基礎の群として双対性を適用したものである。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 121,
"tag": "p",
"text": "フーリエ級数は偏微分方程式の境界値問題を解くのにも利用される。1822年にフーリエが初めてこの方法を熱方程式を解くために用いた。フーリエ級数の離散版は標本化において、函数値が等間隔に並んだ有限個の点でしかわかっていないところで用いられる。この場合、フーリエ級数は有限項で、その値は全ての点で標本値に等しい。また、係数全体の成す集合は、与えられた標本列の離散フーリエ変換 (英: DFT : Discrete Fourier Transformation) と呼ばれる。この DFT は(レーダーや音声符号化や画像圧縮などに応用を持つ)デジタル信号処理の重要な道具の一つである。画像フォーマットJPEGは、近しい関係にある離散余弦変換の応用である。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 122,
"tag": "p",
"text": "高速フーリエ変換は離散フーリエ変換を高速に計算するアルゴリズムである。これはフーリエ係数の計算だけでなく、畳み込み定理を用いて、二つの有限列の畳み込みを計算するのにも利用できる。また、デジタルフィルタや、巨大な整数や多項式の高速な掛け算アルゴリズム(英語版)(ショーンハーゲ・ストラッセン法)にも応用できる。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 123,
"tag": "p",
"text": "曲面のある点における接平面は、自然に接点を原点と同一視したベクトル空間になる。接平面は接点における曲面の最適線型近似あるいは線型化である。三次元ユークリッド空間の場合でさえ、接平面の基底を指定する自然な方法は点綴的には存在せず、またそれゆえに接平面は、実数ベクトル空間というよりはむしろ抽象ベクトル空間として考えられる。接空間はより高次元の可微分多様体への一般化である。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 124,
"tag": "p",
"text": "リーマン多様体はその接空間が適当な内積を備えた多様体である。そこから得られるリーマン曲率テンソルは、それ一つでその多様体の全ての曲率を表すことができるもので、一般相対論では例えば時空の質量とエネルギー定数を記述するアインシュタイン曲率テンソルなどに応用がある。リー群の接空間は自然にリー環の構造を持ち、コンパクトリー群の分類に用いることができる。",
"title": "応用"
},
{
"paragraph_id": 125,
"tag": "p",
"text": "ベクトル束は位相空間 X によって連続的に径数付けられたベクトル空間の族である。より明確に言えば、X 上のベクトル束とは、位相空間 E であって、連続写像",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 126,
"tag": "p",
"text": "を持ち、X の各点 x においてファイバー V = π(x) がベクトル空間を成すようなものを言う。dim V = 1 ならば線束という。任意のベクトル空間 V に対し、射影 X × V → X は直積 X × V を「自明な」ベクトル束にする。X 上のベクトル束は、局所的にはある(固定された)ベクトル空間 V と X との直積でなければならない。つまり、X の各点 x に対して x の適当な近傍 U を選んで、π の π(U) への制限が自明束 U × V → U に同型となるようにすることができる。これらの局所自明性にもかかわらず、ベクトル束は巨視的には(台となる位相空間 X の形に依存して)「捻じれ」ているのである。つまり、ベクトル束は自明束 X × V (と大域的に同型)である必要はない。例えば、メビウスの帯は(円周を実数直線上の半開区間と同一視することによって)円周 S 上の線束と見做すことができるが、しかしこれは円筒 S × R とは異なる。後者は向き付け可能だが、前者はそうではない。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 127,
"tag": "p",
"text": "ある種のベクトル束の性質は、台となる位相空間についての情報を提供する。例えば、接空間の集まりからなる接束は可微分多様体の点によって径数付けられる。 円周 S の接束は、S 上に大域的な非零ベクトル場が存在するから、大域的に S × R に同型である。対照的に、毛玉の定理(英語版)により、二次元球面 S 上の接ベクトル場で至る所消えていない者は存在しない。K-理論は同じ位相空間上の全てのベクトル束の同型類について研究するものである。深い位相的かつ幾何学的な観察に加えて、この理論には実有限次元多元体の分類(そのようなものは R, C のほかは四元数体 H と八元数体 O しかない)というような純代数学的な帰結も存在する(フルヴィッツの定理(英語版)を参照)。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 128,
"tag": "p",
"text": "可微分多様多の余接束は、多様体の各点において接空間の双対である余接空間が対応するベクトル束である。余接束の切断は微分一次形式 (1-form) と呼ばれる。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 129,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間が体に対するものであるように、加群 (英: modules) の概念は環に対するものである。これはベクトル空間の公理において体 F とするところを環 R で置き換えることで得られる。加群の理論はベクトル空間のそれと比べて(環の元に必ずしも乗法逆元が存在しないことで)より複雑なものになっている。例えば加群は、Z-加群(つまりアーベル群)としての Z/2Z のように、必ずしも基底を持たない。基底を持つような加群(ベクトル空間もそう)は自由加群と呼ばれる。にも拘わらずベクトル空間は、係数環が体であるような加群として簡単に定義することができて、その元をベクトルと呼ぶ。可換環の代数幾何学的解釈は、それらのスペクトルを通じて、ベクトル束の代数的な対応物である局所自由加群の概念などを展開することを可能にする。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 130,
"tag": "p",
"text": "大雑把に言うと、アフィン空間 (英: affine space ) というのはベクトル空間からその原点をわからなくしたものである。より正確には、アフィン空間とは自由かつ推移的なベクトル空間の作用を備えた集合を言う。特にベクトル空間は、写像",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 131,
"tag": "p",
"text": "を考えることによって、自身の上のアフィン空間となる。W をベクトル空間とするとき、W のアフィン部分空間とは、固定したベクトル x ∈ W によって線型部分空間 V を平行移動することによって得られるものを言う。この空間は x + V(V による W の剰余類)であり、v ∈ V に対する x + v の形のベクトル全てからなる。重要な例は、非斉次の線型方程式系",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 132,
"tag": "p",
"text": "の解空間である。これは斉次の場合、つまり b = 0 の場合を一般化するものである。この解空間は、方程式の特殊解 x と、付随する斉次方程式の解空間(つまり A の核空間)V に対するアフィン部分空間 x + V である。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 133,
"tag": "p",
"text": "固定された有限次元ベクトル空間 V の一次元線型部分空間全体の成す集合は射影空間と呼ばれる。これは平行線が無限遠において交わるという概念の定式化に用いられる。グラスマン多様体(英語版)および旗多様体(en:flag variety)はそれぞれ、決まった次元 k の線型部分空間および旗(英語版)と呼ばれる線型部分空間の包含列を径数付けることによる、射影空間の概念の一般化である。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 134,
"tag": "p",
"text": "順序体(特に実数体)上で、凸解析の概念を考えることができる。最も基本的なものは、非負線型結合全体からなる錐、および和が 1 となる非負線型結合全体からなる凸集合である。凸集合はアフィン空間の公理と錐体の公理を組み合わせたものとして見ることができ、これは凸集合の標準空間である n-単体がアフィン超平面と象限との交わりであることを反映したものになっている。このような空間は特に線型計画問題において用いられる。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 135,
"tag": "p",
"text": "普遍代数学の言葉で言えば、ベクトル空間はベクトルの有限和に対応する係数の有限列全体の成す普遍ベクトル空間 K 上の代数であるが、一方アフィン空間はここでいう(和が 1 の有限列全体の成す)普遍アフィン超平面上の代数であり、また錐体は普遍象限上の代数、凸集合は普遍単体上の代数である。これは、「座標に対する(可能な)制限和」を用いて公理を幾何化したものである。",
"title": "一般化"
},
{
"paragraph_id": 136,
"tag": "p",
"text": "線型代数学における多くの概念は凸解析における対応する概念があって、基本的なものとしては基底や(凸包のような形での)生成概念など、また重要なものとしては(双対多角形、双対錐体、双対問題のような)双対性などが含まれる。しかし線型代数学において任意のベクトル空間やアフィン空間が標準空間に同型となるのとは異なり、任意の凸集合や錐体が単体や象限に同型となるわけではない。むしろ単体から多面体の上への写像が一般化された重心座標系(英語版)によって常に存在し、またその双対写像として多面体から(面の数と等しい次元の)象限の中への写像がスラック変数(英語版)によって存在するが、これらが同型となることは稀である(ほとんどの多面体は単体でも象限でもない)。",
"title": "一般化"
}
] | 数学、特に線型代数学におけるベクトル空間、または、線型空間は、ベクトルと呼ばれる元からなる集まりの成す数学的構造である。 ベクトルには和が定義され、またスカラーと呼ばれる数による積(スカラー乗法)を行える。スカラーは実数とすることも多いが、複素数や有理数あるいは一般の体の元によるスカラー乗法を持つベクトル空間もある。ベクトルの和とスカラー乗法の演算は、「ベクトル空間の公理」と呼ばれる特定の条件(#定義節を参照)を満足するものでなければならない。ベクトル空間の一つの例は、力のような物理量を表現するのに用いられる幾何ベクトルの全体である(同じ種類の任意の二つの力は、加え合わせて力の合成と呼ばれる第三の力のベクトルを与える。また、力のベクトルを実数倍したものはまた別の力のベクトルを表す)。同じ調子で、平面や空間での変位を表すベクトルの全体もやはりベクトル空間を成す。 ベクトル空間は線型代数学における主題であり、ベクトル空間はその次元(大雑把にいえばその空間の独立な方向の数を決めるもの)によって特徴づけられる。ベクトル空間は、さらにノルムや内積などの追加の構造を持つこともあり、そのようなベクトル空間は解析学において主に函数をベクトルとする無限次元の函数空間の形で自然に生じてくる。解析学的な問題では、ベクトルの列が与えられたベクトルに収束するか否かを決定することもできなければならないが、これはベクトル空間に追加の構造を考えることで実現される。そのような空間のほとんどは適当な位相を備えており、それによって近さや連続性といったことを考えることができる。こういた位相線型空間、特にバナッハ空間やヒルベルト空間については、豊かな理論が存在する。 歴史的な視点では、ベクトル空間の概念の萌芽は17世紀の解析幾何学、行列論、連立一次方程式の理論、幾何ベクトルの概念などにまで遡れる。現代的な、より抽象的な取扱いが初めて定式化されるのは、19世紀後半、ペアノによるもので、それはユークリッド空間よりも一般の対象が範疇に含まれるものであったが、理論の大半は(直線や平面あるいはそれらの高次元での対応物といったような)古典的な幾何学的概念を拡張することに割かれていた。 今日では、ベクトル空間は数学のみならず科学や工学においても広く応用される。ベクトル空間は線型方程式系を扱うための適当な概念であり、例えば画像圧縮ルーチンで使われるフーリエ展開のための枠組みを提示したり、あるいは偏微分方程式の解法に用いることのできる環境を提供する。さらには、テンソルのような幾何学的および物理学的な対象を、抽象的に座標に依らない で扱う方法を与えてくれるので、そこからさらに線型化の手法を用いて、多様体の局所的性質を説明することもできるようになる。 ベクトル空間の概念は様々な方法で一般化され、幾何学や抽象代数学のより進んだ概念が導かれる。 | {{Wikibooks|線型代数学/線型空間|ベクトル空間}}
[[数学]]、特に[[線型代数学]]における'''ベクトル空間'''(ベクトルくうかん、{{lang-en-short|''vector space''}})、または、'''線型空間'''(せんけいくうかん、{{lang-en-short|''linear space''}})は、'''ベクトル'''({{lang-en-short|''vector''}})と呼ばれる元からなる集まりの成す[[数学的構造]]である。
ベクトルには{{仮リンク|ベクトルの加法|wikidata|Q55091432|label=和}}が定義され、また[[スカラー (数学)|スカラー]]と呼ばれる数による{{仮リンク|スカラー倍|en|scalar multiplication|label=積}}(スカラー乗法)を行える。スカラーは[[実数]]とすることも多いが、[[複素数]]や[[有理数]]あるいは一般の[[可換体|体]]の元によるスカラー乗法を持つベクトル空間もある。ベクトルの和とスカラー乗法の演算は、「ベクトル空間の[[公理]]」と呼ばれる特定の条件([[#定義]]節を参照)を満足するものでなければならない。ベクトル空間の一つの例は、[[力 (物理学)|力]]のような物理量を表現するのに用いられる[[幾何ベクトル]]の全体である(同じ種類の任意の二つの力は、加え合わせて力の合成と呼ばれる第三の力のベクトルを与える。また、力のベクトルを実数倍したものはまた別の力のベクトルを表す)。同じ調子で、平面や[[三次元空間|空間]]での変位を表すベクトルの全体もやはりベクトル空間を成す。
ベクトル空間は[[線型代数学]]における主題であり、ベクトル空間はその[[次元 (線型代数学)|次元]](大雑把にいえばその空間の独立な方向の数を決めるもの)によって特徴づけられる。ベクトル空間は、さらに[[ノルム]]や[[内積]]などの追加の構造を持つこともあり、そのようなベクトル空間は[[解析学]]において主に[[函数]]をベクトルとする無限次元の[[函数空間]]の形で自然に生じてくる。解析学的な問題では、ベクトルの[[列 (数学)|列]]が与えられたベクトルに[[列の極限|収束]]するか否かを決定することもできなければならないが、これはベクトル空間に追加の構造を考えることで実現される。そのような空間のほとんどは適当な[[位相空間|位相]]を備えており、それによって[[近傍 (位相空間論)|近さ]]や[[連続写像|連続性]]といったことを考えることができる。こういた[[位相線型空間]]、特に[[バナッハ空間]]や[[ヒルベルト空間]]については、豊かな理論が存在する。
歴史的な視点では、ベクトル空間の概念の萌芽は[[17世紀]]の[[解析幾何学]]、[[行列論]]、[[連立一次方程式]]の理論、[[幾何ベクトル]]の概念などにまで遡れる。現代的な、より抽象的な取扱いが初めて定式化されるのは、[[19世紀]]後半、[[ジュゼッペ・ペアノ|ペアノ]]によるもので、それはユークリッド空間よりも一般の対象が範疇に含まれるものであったが、理論の大半は([[直線]]や[[平面]]あるいはそれらの高次元での対応物といったような)古典的な幾何学的概念を拡張することに割かれていた。
今日では、ベクトル空間は数学のみならず[[科学]]や[[工学]]においても広く応用される。ベクトル空間は[[線型方程式系]]を扱うための適当な概念であり、例えば[[画像圧縮]]ルーチンで使われる[[フーリエ級数|フーリエ展開]]のための枠組みを提示したり、あるいは[[偏微分方程式]]の解法に用いることのできる環境を提供する。さらには、[[テンソル]]のような幾何学的および物理学的な対象を、抽象的に[[ベクトルの共変性と反変性|座標に依らない]] ({{lang-en-short|coordinate-free}}) で扱う方法を与えてくれるので、そこからさらに線型化の手法を用いて、[[多様体]]の局所的性質を説明することもできるようになる。
ベクトル空間の概念は様々な方法で一般化され、幾何学や[[抽象代数学]]のより進んだ概念が導かれる。
== 導入 ==
ベクトル空間の概念について、特定の二つの場合を例にとって簡単に内容を説明する。
=== 平面上の有向線分 ===
ベクトル空間の簡単な例は、一つの[[平面]]上の固定した点を始点とする[[矢印]]([[有向線分]])全ての成す集合で与えられる。これは物理学で[[力 (物理学)|力]]や[[速度]]などを記述するのにもつかわれる。そのような有向線分 {{mvar|'''v'''}} と {{mvar|'''w'''}} が与えられたとき、その二つの有向線分が張る[[平行四辺形]]にはその対角線にもう一つ、原点を始点とする有向線分が含まれる。この新しい有向線分を、二つの有向線分の'''和''' {{math|{{nowrap|'''''v''''' + '''''w'''''}}}} と呼ぶ。もう一つの演算は有向線分を伸び縮み([[スケール因子|スケーリング]])させるもので、任意の正の[[実数]] {{mvar|a}} が与えられたとき、{{mvar|'''v'''}} と向きは同じで長さだけを {{mvar|a}} の分だけ拡大 ({{lang-en-short|dilate}}) または縮小 ({{lang-en-short|shrink}}) した有向線分を、{{mvar|'''v'''}} の {{mvar|a}}-'''倍''' {{math|{{nowrap|''a'''v'''''}}}} と言う。{{mvar|a}} が負のときは {{math|{{nowrap|''a'''v'''''}}}} を今度は逆方向に伸び縮みさせることで同様に定める。
いくつか実際に図示すれば、例えば {{math|{{nowrap|1=''a'' = 2}}}} のとき、得られるベクトル {{math|{{nowrap|''a'''w'''''}}}} は {{mvar|'''w'''}} と同方向で長さが {{mvar|'''w'''}} の二倍のベクトル (下図、右の赤) であり、この {{math|2'''''w'''''}} は和 {{math|{{nowrap|'''''w''''' + '''''w'''''}}}} とも等しい。さらに {{math|{{nowrap|1=(−1)'''''v''''' = −'''''v'''''}}}} は {{mvar|'''v'''}} と同じ長さで向きだけが {{mvar|'''v'''}} と逆になる (下図、右の青)。
{| class="wikitable" style="text-align:center; margin:1em auto 1em auto;"
|-
|width=50%|[[File:Vector addition3.svg|180px|ベクトルの加法: ベクトル {{mvar|'''v'''}} (青) と {{mvar|'''w'''}} (赤) との和 {{math|'''''v''''' + '''''w'''''}} (黒) ]]
|width=50%|[[File:Scalar multiplication.svg|230px|スカラー乗法: {{math|−'''''v'''''}} および {{math|2'''''w'''''}} ]]
|}
=== 数の順序対 ===
もう一つ重要な例は、実数 {{math|''x'', ''y''}} の対によって与えられる({{mvar|x}} と {{mvar|y}} の対は並べる順番が重要であり、そのような対を[[順序対]]という)。この対を {{math|(''x'', ''y'')}} と書く。そのような対ふたつの和および実数倍は
:{{math|(''x''{{sub|1}}, ''y''{{sub|1}}) + (''x''{{sub|2}}, ''y''{{sub|2}}) {{=}} (''x''{{sub|1}} + ''x''{{sub|2}}, ''y''{{sub|1}} + ''y''{{sub|2}})}}
および
:{{math|''a'' (''x'', ''y'') {{=}} (''ax'', ''ay'')}}
で定義される。
== 定義 ==
集合 {{mvar|V}} が、その上の[[二項演算]] {{math|+}} と、体 {{mvar|F}} の {{mvar|V}} への[[二項演算#外部二項演算|作用]] {{math|◦}} をもち、これらが任意の {{math| {{nowrap|'''''u''''', '''''v''''', '''''w''''' ∈ ''V''; ''a'', ''b'' ∈ ''F''}}}}<ref group="nb">ここではベクトルをスカラーから区別するために、ベクトルは太字で表す。あるいは、特に物理学で、矢印を上に載せる記法も広く用いられる。「ベクトルを[[ラテン文字|ラテンアルファベット]]で表し、スカラーは[[ギリシア文字|グリークアルファベット]](ギリシャ文字)で表す」などの流儀や、場合によってはまったく文字種の区別をしないこともある。</ref>に関して次の公理系を満たすとき、三組 {{math|(''V'', +, ◦)}} は「'''[[可換体|体]] {{mvar|F}} 上のベクトル空間'''」と定義される{{Sfn|Roman|2005|p=27|loc=ch. 1}}<ref>“ベクトル空間とは、集合 {{mvar|V}} と次の公理 (A1)-(A4) と (M1)-(M4) を満たす写像 {{math|+: ''V'' × ''V'' → ''V''}}, {{math|◦: ''R'' × ''V'' → ''V''}} からなる三組 {{math|(''V'', +, ◦)}} である。” {{citation|和書|author=名古屋大学 |year=2014 |url=https://www.math.nagoya-u.ac.jp/~larsh/teaching/F2014_LA/lecture1.pdf |title=線形代数学 IⅠ 授業1: ベクトル空間}}</ref>。
{| class="wikitable" style="width:100%;"
|-
! 公理 !! 条件
|-
| 加法の[[結合法則|結合律]] || <math> \boldsymbol{u} + (\boldsymbol{v} + \boldsymbol{w}) = (\boldsymbol{u} + \boldsymbol{v}) + \boldsymbol{w} </math>
|- style="background:#F8F4FF;"
| 加法の[[交換法則|可換律]] || <math> \boldsymbol{u} + \boldsymbol{v} = \boldsymbol{v} + \boldsymbol{u} </math>
|-
| 加法[[単位元]]の存在 || [[零ベクトル]] <math> \boldsymbol{0} \in V </math> が存在して、任意の <math> \boldsymbol{v} \in V </math> に対して <math> \boldsymbol{v} + \boldsymbol{0} = \boldsymbol{v} </math> を満たす。
|- style="background:#F8F4FF;"
| 加法[[逆元]]の存在 || 任意のベクトル <math> \boldsymbol{v} \in V </math> に対し、その[[加法逆元]] <math> -\boldsymbol{v} \in V </math> が存在して、<math> \boldsymbol{v} + (- \boldsymbol{v}) = \boldsymbol{0} </math> となる。
|-
| 加法に対するスカラー乗法の[[分配法則|分配律]]|| <math> a(\boldsymbol{u} + \boldsymbol{v}) = a\boldsymbol{u} + a\boldsymbol{v} </math>
|- style="background:#F8F4FF;"
| 体の加法に対するスカラー乗法の分配律 || <math> (a + b) \boldsymbol{v} = a\boldsymbol{v} + b\boldsymbol{v} </math>
|-
| 体の乗法とスカラーの乗法の両立条件 || <math> a(b\boldsymbol{v}) = (ab) \boldsymbol{v} </math> <ref group=nb>この公理は演算の結合性を仮定するものではない。ここでは二種類の乗法、つまりスカラーの乗法 {{math|''b'''v'''''}} と体の乗法 {{mvar|ab}} との関係性を考えているからである。</ref>
|- style="background:#F8F4FF;"
| スカラーの乗法の単位元の存在 || <math> 1 \boldsymbol{v} = \boldsymbol{v} </math> (左辺の {{math|1}} は {{mvar|F}} の[[乗法単位元]])
|}
ベクトル空間の要素はそれぞれ次のように呼ばれる。
* [[可換体|体]] {{mvar|F}}: '''係数体''' ({{lang-en-short|coefficient field, scalar field}})
* {{mvar|V}} の元: '''ベクトル''' ({{lang-en-short|vector}})
* {{mvar|F}} の元: '''スカラー''' ({{lang-en-short|scalar}}) あるいは '''係数''' ({{lang-en-short|coefficient}})
* [[二項演算]] {{math|+: ''V'' × ''V'' → ''V''; ('''''v''''', '''''w''''') ↦ '''''v''''' + '''''w'''''}}: '''加法'''
* [[二項演算#外部二項演算|作用]] {{math|◦: ''F'' × ''V'' → ''V''; (''a'', '''''v''''') ↦ ''a'''v'''''}}: '''スカラー乗法'''
* 公理系: '''ベクトル空間の[[公理]]系'''
導入節では始点を固定した有向平面線分の全体や実数の順序対の全体の成す集合をベクトル空間の例として挙げたが、これらはともに実数体(実数全体からなる体)上のベクトル空間である。公理系はこのようなベクトルの性質を一般化したものである。実際、二番目の例で二つの順序対の和は、和をとる順番に依らず
:{{math|(''x''{{sub|'''''v'''''}}, ''y''{{sub|'''''v'''''}}) + (''x''{{sub|'''''w'''''}}, ''y''{{sub|'''''w'''''}}) {{=}} (''x''{{sub|'''''w'''''}}, ''y''{{sub|'''''w'''''}}) + (''x''{{sub|'''''v'''''}}, ''y''{{sub|'''''v'''''}})}}
を満たす。有向線分の例でも {{nowrap begin}}{{math|'''''v''''' + '''''w''''' {{=}} '''''w''''' + '''''v'''''}}{{nowrap end}} となることは、和を定義する平行四辺形が和の順番に依存しないことから言える。他の公理も同様の方法で満たすことがどちらの例についてもいえる。故に、特定の種類のベクトルが持つ具体的な特質というものは無視して、この定義によって、先の二つあるいはもっとほかの例もひっくるめて、ベクトル空間という一つの概念として扱うのである。
ベクトル空間は係数体の種類に基づき次のように呼ばれる:
* '''実ベクトル空間''' ({{lang-en-short|''real vector space''}}):[[実数]]体 {{mathbf|R}}
* '''複素ベクトル空間''' ({{lang-en-short|''complex vector space''}}):[[複素数]]体 {{mathbf|C}}
* '''{{mvar|F}}-ベクトル空間''' ({{lang-en-short|{{mvar|F}}''-vector space''}})、'''{{mvar|F}}上のベクトル空間''' ({{lang-en-short|''vector space over'' {{mvar|F}}}}):任意の[[可換体|体]] {{mvar|F}}
体というのは本質的に、[[四則演算]]が自由にできる数の集合である<ref group="nb">文献によっては(例えば {{Harvnb|Brown|1991}})[[スカラー (数学)|係数体]]を {{mathbf|R}} か {{mathbf|C}} に制限するものあるが、理論の大部分は変更なしに任意の体上で成り立つものである</ref>。例えば[[有理数]]の全体 {{mathbf|Q}} もまた体を成す。
平面やより高次の空間におけるベクトルには、直観的に、[[近傍 (位相空間論)|近さ]]や[[角度]]や[[距離]]という概念が存在する。しかし、一般的なベクトル空間においてはそれらの概念は不要であり、実際、そういうものが存在しないベクトル空間もある。これらの概念は、一般的なベクトル空間に追加的に定義される構造である ([[#付加構造を備えたベクトル空間]])。
=== 別な定式化と初等的な帰結 ===
ベクトルの加法やスカラー乗法は(二項演算の定義によって)[[閉性]]と呼ばれる性質を満たすものとなる(つまり {{mvar|V}} の各元 {{math|'''''u''''', '''''v'''''}} および {{mvar|F}} の各元 {{mvar|a}} に対して {{math|'''''u''''' + '''''v'''''}} および {{math|''a'''v'''''}} が必ず {{mvar|V}} に属する)。これをベクトル空間の公理に独立した条件として加えている文献もある{{Sfn|van der Waerden|1993|loc=Ch. 19}}。
[[抽象代数学]]の言葉で言えば、先の公理系の最初の四つは「ベクトルの全体が加法に関して[[アーベル群]]を成す」という条件にまとめられる。残りの条件は「この群が[[環上の加群| {{mvar|F}} 上の加群]]となる」という条件にまとめられる。あるいはこれを「体 {{mvar|F}} からベクトル全体の成す群の[[準同型|自己準同型環]]への[[準同型|環準同型]] {{mvar|f}} が存在すること」と言い換えることもできる。この場合スカラー乗法は {{math|''a'''v''''' ≔ (''f''(''a''))('''''v''''')}} で定められる<ref>{{Harvnb|Bourbaki|1998|loc=Section {{Rn|II}}.1.1}}. [[ニコラ・ブルバキ|ブルバキ]]は[[群準同型]] {{math|''f''(''a'')}} を「相似」({{lang-en-short|''[[:en:Homothetic transformation|homothety]]''}} ) と総称している。</ref>。
ベクトル空間の公理系から直接的に分かることがいくつかある。それらのうちのいくつかは[[群論|初等群論]]をベクトル全体の成す加法群に適用することで得られる。例えば {{mvar|V}} の零ベクトル {{math|'''0'''}} や各元 {{mvar|'''v'''}} に加法逆元 {{math|−'''''v'''''}} が一意に存在することなどはそれである。その方法で得られない性質は分配法則から来るもので、例えば {{math|''a'''v''''' {{=}} '''0''' ⇔ ''a'' {{=}} 0}} または {{math|'''''v''''' {{=}} '''0'''}} などがそうである。
== 歴史 ==
ベクトル空間は、平面や空間に[[座標]]系を導入することを通じて、[[アフィン空間]]から生じる。[[1636年]]ごろ、[[ルネ・デカルト]]と[[ピエール・ド・フェルマー]]は、二変数の方程式の解と平面[[曲線]]上の点とを等化して、[[解析幾何学]]を発見した{{Sfn|Bourbaki|1969|loc = ch. {{lang|fr|« Algèbre linéaire et algèbre multilinéaire »}}|pp=78–91}}。座標を用いない幾何学的な解に到達するために、[[ベルナルド・ボルツァーノ]]は[[1804年]]に、点同士および点と直線の間の演算を導入した。これはベクトルの前身となる概念である{{Sfn|Bolzano|1804}}。ボルツァーノの研究は[[アウグスト・フェルディナント・メビウス]]が[[1827年]]に提唱した{{仮リンク|重心座標系|en|Barycentric coordinate system}} ({{lang-en-short|barycentric coordinates}}) の概念を用いて構築されたものであった{{Sfn|Möbius|1827}}。ベクトルの定義の基礎となったのは、{{仮リンク|ジュスト・ベラヴィティス|en|Giusto Bellavitis}}の双点 ({{lang-en-short|bipoint}}) の概念で、これは一方の端点を始点、他方の端点を終点とする有向線分である。ベクトルは、{{仮リンク|ジャン=ロベール・アルガン|en|Jean-Robert Argand}}と[[ウィリアム・ローワン・ハミルトン]]により[[複素数]]の表現として見直され、後の[[四元数]]や{{仮リンク|双四元数|en|Biquaternion}}の概念へと繋がっていく{{Sfn|Hamilton|1853}}。これらの数はそれぞれ {{math|'''R'''{{sup|2}}, '''R'''{{sup|4}}, '''R'''{{sup|8}}}} の元であり、これらに対する[[線型結合]]を用いた取扱いは、[[1867年]]の[[エドモンド・ラゲール]](彼は[[線型方程式系]]も定義した)まで遡れる。
[[1857年]]に[[アーサー・ケイリー]]は、[[線型写像]]とよく馴染み記述を簡素化できる、[[行列|行列記法]]を導入した。同じ頃、[[ヘルマン・グラスマン]]はメビウスの「重心計算」({{lang-en-short|the barycentric calculus}}) を研究していて、算法を伴う抽象的対象の成す集合を構想していた{{Sfn|Grassmann|2000}}。グラスマンの研究には、[[線型独立]]性や[[次元 (線型代数学)|次元]]あるいは[[スカラー積]]などの概念が含まれている。実際、グラスマンは[[1844年]]に、考案した乗法を以ってベクトル空間の枠組みを推し進め、今日では「[[体上の多元環|多元環]]」と呼ばれる概念に到達している。[[ジュゼッペ・ペアノ]]はベクトル空間と線型写像の現代的な定義を与えた最初の人で、それは[[1888年]]のことである{{Sfn|Peano|1888|loc = ch. {{Rn|IX}}}}。
ベクトル空間の重要な発展が[[アンリ・ルベーグ]]による[[函数空間]]の構成によって起こり、後の[[1920年]]ごろに[[ステファン・バナフ]]と[[ダフィット・ヒルベルト]]によって定式化された{{Sfn|Banach|1922}}。その当時、[[代数学]]と新しい研究分野であった[[函数解析学]]とが相互に影響し始め、[[ルベーグ空間| {{mvar|p}}-乗可積分函数の空間 {{mvar|L{{sup|p}}}}]] や[[ヒルベルト空間]]などの重要な概念が生み出されることとなる<ref>{{Harvnb|Dorier|1995}}; {{Harvnb|Moore|1995}}</ref>。そうして無限次元の場合をも含むベクトル空間の概念は堅く確立されたものとなり、多くの数学分野において用いられ始めた。
== 例 ==
=== 数ベクトル空間 ===
体 {{mvar|F}} 上のベクトル空間のもっとも簡単な例は体 {{mvar|F}} 自身(に、その標準的な加法と乗法を考えたもの)である。これはふつう {{mvar|F{{sup|n}}}} と書かれる'''[[数ベクトル空間]]''' (''{{lang-en-short|coordinate space}}'' ) の {{math|''n'' {{=}} 1}} の場合である。この数ベクトル空間の元は[[タプル| {{mvar|n}}-組]](長さ {{mvar|n}} の数列):
: <math>(a_1, a_2, \dotsc , a_n) </math>
で、各 {{mvar|a{{sub|i}}}} が {{mvar|F}} の元であるようなものである{{Sfn|Lang|1987|loc = ch. {{Rn|I}}.1}}。
{{math|''F'' {{=}} '''R'''}} かつ {{math|''n'' {{=}} 2}} の場合が上記の[[#導入]]節で論じたものとなる。
=== 体の拡大 ===
[[複素数]]全体の成す集合 {{mathbf|C}}, つまり実数 {{math|''x'', ''y''}} を用いて {{math|''x'' + ''iy''}} の形に表すことができる数(ただし、<math display="inline"> i = \sqrt{-1} </math> は[[虚数単位]])の全体は、{{math|''x'', ''y'', ''a'', ''b'', ''c''}} は何れも実数であるものとして、通常の和 {{math|(''x'' + ''iy'') + (''a'' + ''ib'') {{=}} (''x'' + ''a'') + ''i''(''y'' + ''b'')}} と実数倍 {{math|''c''(''x'' + ''iy'') {{=}} (''cx'') + ''i''(''cy'')}} によって、実数体上のベクトル空間になる(ベクトル空間の公理は複素数の算術が同じ規則を満足するという事実から従う)。
実は、この複素数体の例は本質的には(つまり、同型の意味で)導入節に挙げた実数の順序対の成すベクトル空間の例と同じものである。即ち、複素数 {{math|''x'' + ''iy''}} を[[複素数平面]] において順序対 {{math|(''x'', ''y'')}} を表すものと考えると、複素数体における和とスカラーとの積の規則が、先の例のそれらに対応することが理解される。
より一般に、[[代数学]]および[[代数的数論]]における[[体の拡大]]は、ベクトル空間の例の一類を与える。即ち、体 {{mvar|F}} を[[部分体]]として含む体 {{mvar|E}} は、{{mathbf|E}} における加法と {{mvar|F}} の元の {{mvar|E}} における乗法とに関して {{mvar|F}}-ベクトル空間になる{{Sfn|Lang|2002|loc = ch. V.1}}。例えば、複素数体は {{mathbf|R}} 上のベクトル空間であり、拡大体 <math display="inline"> \mathbf{Q}(\sqrt{5}) </math> は {{mathbf|Q}} 上のベクトル空間である。特に[[数論]]的に意味のある例は、有理数体 {{mathbf|Q}} に一つの代数的複素数 {{mvar|α}} を添加する拡大([[代数体]]){{math|'''Q'''(''α'')}} である({{math|'''Q'''(''α'')}} は {{mathbf|Q}} と {{mvar|α}} とを含む最小の体になる)。
=== 函数空間 ===
任意の一つの集合 {{math|Ω}} から体 {{mvar|F}} への函数全体もまた、よくある点ごとの和とスカラー倍によって、ベクトル空間を成す。即ち、二つの函数 {{math|''f'', ''g''}} の和 {{math|(''f'' + ''g'')}} は
: <math> (f + g)(w) = f(w) + g(w) </math>
で定義される函数であり、スカラー倍も同様である。そのような[[函数空間]]は多くの幾何学的状況で生じる。例えば {{math|Ω}} が[[実数直線]] {{mathbf|R}} やその[[区間 (数学)|区間]]あるいは {{mathbf|R}} の他の[[部分集合]]などのときである。位相空間論や解析学における多くの概念、例えば[[連続写像|連続性]]、[[可積分性]]や[[可微分性]]などは、線型性に関してよく振る舞う。即ち、そのような性質を満たす函数の加算やスカラー倍もまた同じ性質を持つ<ref>例えば {{Harvnb|Lang|1993|loc = ch. {{rn|XII}}.3.|p= 335}}</ref>。従って、そのような函数全体の成す集合もまたそれぞれベクトル空間を成す。これら函数空間は、[[函数解析学]]の方法を用いてかなり詳しく調べられている([[#付加構造を備えたベクトル空間]]節を参照)。代数学的な制約からもベクトル空間を得ることができる。ベクトル空間[[多項式環| {{math|''F''{{bracket|''x''}}}}]] は[[多項式函数]]
: <math> f(x) = r_{0} + r_{1}x + \dotsb + r_{n-1}x^{n-1} + r_{n}x^{n} </math>
(ただし各[[係数]] {{math|''r''{{sub|0}}, ..., ''r{{sub|n}}''}} は {{mvar|F}} の元)の全体によって与えられる{{Sfn|Lang|1987|loc = ch. {{Rn|IX}}.1}}。
=== 線型方程式の解空間 ===
{{Main|線型方程式|線型微分方程式|線型方程式系}}
[[斉次線型方程式]]系はベクトル空間と近しい関係にある{{Sfn|Lang|1987|loc = ch. {{Rn|VI}}.3.}}。例えば方程式系
:{|
|-
| style="text-align:right;"|{{mvar|a}}
| {{math|+}}
| {{math|3''b''}}
| {{math|+}}
| style="text-align:right;"| {{mvar|c}}
| {{math|{{=}} 0}}
|-
| {{math|4''a''}}
| {{math|+}}
| {{math|2''b''}}
| {{math|+}}
| {{math|2''c''}}
| {{math|{{=}} 0}}
|}
の解の全体は、任意の {{mvar|a}} に対して {{math|''a'', ''b'' {{=}} ''a''/2, ''c'' {{=}} −5''a''/2}} の三つ組として与えられる。これらの三つ組の成分ごとの加算とスカラー倍はやはり同じ比を持つ三つの変数の組であるから、これも解となり、解の全体はベクトル空間を成す。[[行列 (数学)|行列]]を使えば上記の複数の線型方程式を簡略化して一つの[[ベクトル方程式]]、つまり
:<math> A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}, \quad A = \begin{bmatrix}
1 & 3 & 1 \\
4 & 2 & 2
\end{bmatrix}</math>
にすることができる。ここで {{mvar|A}} は与えられた方程式の係数を含む行列、{{mvar|'''x'''}} はベクトル {{math|{{nowrap|(''a'', ''b'', ''c'')}}}} であり、{{math|''A'''x'''''}} は[[行列の積]]を、{{math|'''0''' {{=}} (0, 0)}} は零ベクトルをそれぞれ意味する。同様の文脈で、斉次の線型微分方程式の解の全体もまたベクトル空間を成す。例えば、
{{NumBlk|:|<math> f''(x) + 2f'(x) + f(x) = 0 </math>|{{EquationRef|1}}}}
を解けば、{{math|''a'', ''b''}} を任意の定数として {{nowrap begin}}{{math|''f''(''x'') {{=}} ''ae''{{sup|−''x''}} + ''bxe''{{sup|−''x''}}}}{{nowrap end}} が得られる。ただし {{mvar|e{{sup|x}}}} は[[指数関数|自然指数函数]]である。
== クラス ==
ベクトル空間はいくつかのクラスに分類できる。
* '''有限次元ベクトル空間'''([[有限ベクトル空間]]): 有限個のベクトルの組で生成される、あるいは {{math|{{mset|'''0'''}}}} である、ベクトル空間<ref>“ベクトル空間 V が V の有限個のベクトルの組で生成されるか, または {{math|{{mset|'''0'''}}}} のとき, V は 有限次元 (又は有限生成) であるといい” {{citation|和書|author=東京工業大学|year=2013|url=http://www.ocw.titech.ac.jp/?q=201321151&sort=date|title=基底の存在と次元}}</ref>
* '''無限次元ベクトル空間''': 有限次元ベクトル空間の定義を満たさないベクトル空間<ref>“有限次元 ... そうでないとき 無限次元 であるという” {{citation|和書|author=東京工業大学|year=2013|url=http://www.ocw.titech.ac.jp/?q=201321151&sort=date|title=基底の存在と次元}}</ref>
== 基底と次元 ==
{{Main|基底 (線型代数学)|l1=基底|次元 (線型代数学)|l2=次元}}
[[File:Vector components and base change.svg|200px|thumb|right|{{math|'''R'''{{sup|2}}}} のベクトル {{mvar|'''v'''}} (青) を異なる基底によって表したもの: {{math|'''R'''{{sup|2}}}} の[[標準基底]]による {{math|'''''v''''' {{=}} ''x'''e'''''{{sub|1}} + ''y'''e'''''{{sub|2}}}} (黒) と別の[[斜交座標系|斜交基底]]による {{math|'''''v''''' {{=}} '''''f'''''{{sub|1}} + '''''f'''''{{sub|2}}}} (赤)]]
'''基底'''は簡明な方法でベクトル空間の構造を明らかにする。基底とは、適当な[[添字集合]]で添字付けられたベクトルの(有限または無限)集合 {{nowrap begin}}{{math|''B'' {{=}} {{(}}'''''v'''''{{sub|''i''}}{{)}}{{sub|''i'' ∈ ''I''}}}}{{nowrap end}} であって、それが全体空間を張るもののうちで極小となるものを言う。この条件は、任意のベクトル {{mvar|'''v'''}} が、基底元の有限[[線型結合]]
:<math> v = a_1 \boldsymbol{v}_{i_1} + a_2 \boldsymbol{v}_{i_2} + \dotsb + a_n \boldsymbol{v}_{i_n} </math>
({{mvar|a{{sub|k}}}} がスカラーで {{mvar|'''v'''{{sub|i{{sub|k}}}}}} が基底 {{mvar|B}} の元 {{nowrap begin}}{{math|(''k'' {{=}} 1, ..., ''n'')}}{{nowrap end}})として表されることを意味し、また極小性は {{mvar|B}} が'''[[線型独立]]性'''を持つようにするためのものである。ここでベクトルの集合が線型独立であるというのは、その何れの元も残りの元の線型結合として表されることがないときに言い、これはまた方程式
:<math> a_1 \boldsymbol{v}_{i_1} + a_2 \boldsymbol{v}_{i_2} + \dotsb + a_n \boldsymbol{v}_{i_n} = \boldsymbol{0} </math>
が満たされるのが、全てのスカラー {{math|''a''{{sub|1}}, ..., ''a{{sub|n}}''}} が零に等しい場合に限ると言っても同じことである。基底の線型独立性は、{{mvar|V}} の任意のベクトルが基底ベクトルによる表示(そのような表示ができることは基底が全体空間 {{mvar|V}} を張ることから保証されている)が一意であることを保証する{{Sfn|Lang|1987|loc = ch. {{Rn|II}}.2.|pp=47–48}}。このことは、基底ベクトルを {{math|'''R'''{{sup|3}}}} における基本ベクトル {{math|''x'', ''y'', ''z''}} や高次元の場合の同様の対象を一般化するものと見ることによって、ベクトル空間の観点での座標付けとして述べることができる。
[[基本ベクトル]] {{math|{{nowrap begin}}'''''e'''''{{sub|1}} {{=}} (1, 0, ..., 0){{nowrap end}}, {{nowrap begin}}'''''e'''''{{sub|2}} {{=}} (0, 1, 0, ..., 0){{nowrap end}}, ..., {{nowrap begin}}'''''e'''''{{sub|''n''}} {{=}} (0, 0, ..., 0, 1){{nowrap end}}}} は {{mvar|F{{sup|n}}}} の[[標準基底]]と呼ばれる基底を成す。これは任意のベクトル {{math|(''x''{{sub|1}}, ''x''{{sub|2}}, ..., ''x{{sub|n}}'')}} がこれらのベクトルの線型結合として一意的に
: <math> \begin{aligned} (x_1, x_2, \dotsc , x_n)
&= x_1(1, 0, \dotsc , 0) + x_2(0, 1, 0, \dotsc , 0) + \dotsb + x_n(0, \dotsc , 0, 1) \\
&= x_{1}\boldsymbol{e}_{1} + x_{2}\boldsymbol{e}_{2} + \dotsb + x_{n}\boldsymbol{e}_{n} \end{aligned} </math>
と表されることによる。
任意のベクトル空間が基底を持つことが、[[ツォルンの補題]]から従う{{Sfn|Roman|2005|loc=Theorem 1.9|p=43}}。従って、[[ツェルメロ・フレンケル集合論]]の公理が与えられていれば、任意のベクトル空間における基底の存在性は選択公理と同値になる{{Sfn|Blass|1984}}。また選択公理よりも弱い{{仮リンク|超フィルター補題|en|Ultrafilter lemma}}から、与えられた一つのベクトル空間 {{mvar|V}} において任意の基底が同じ数の元(あるいは[[濃度 (数学)|濃度]])を持つことが示され({{仮リンク|ベクトル空間の次元定理|en|Dimension theorem for vector spaces}}){{Sfn|Halpern|1966|pp=670–673}}、その濃度をベクトル空間 {{mvar|V}} の'''次元''' {{math|dim ''V''}} と呼ぶ。有限個のベクトルで張られる空間の場合であれば、上記の主張は集合論的な基礎付けを抜きにしても示せる{{Sfn|Artin|1991|loc=Theorem 3.3.13}}。
数ベクトル空間 {{mvar|F{{sup|n}}}} は、すでに示した基底によってその次元が {{mvar|n}} であることがわかる。[[#函数空間]]節で述べた多項式環 {{math|''F''{{bracket|''x''}}}} の次元は[[可算無限]](基底の一つは {{math|1, ''x'', ''x''{{sup|2}}, …}} で与えられる)であり、ある(有界または非有界な)区間上の函数全体の成す空間など、もっと一般の函数空間の次元は当然無限大になる<ref group=nb>例えば、(無数に存在する)区間の[[指示函数]]はどれも線型独立である。</ref>。現れる係数に対して適当な正則性条件を課すものとして、斉次[[常微分方程式]]の解空間の次元はその方程式の階数に等しい{{Sfn|Braun|1993|loc=Th. 3.4.5|p=291}}。例えば、式({{EquationNote|1}})の解空間は {{math|''e''{{sup|−''x''}}}} と {{math|''xe''{{sup|−''x''}}}} で生成され、これら二つの函数は {{mathbf|R}} 上線型独立であるから、この空間の次元は {{math|2}} で、方程式の階数 {{math|2}} と一致する。
有理数体 {{mathbf|Q}} 上の拡大体 {{math|'''Q'''(''α'')}} の次元は {{mvar|α}} に依存して決まる。{{mvar|α}} が有理数係数の[[代数方程式]]
:<math> q_{n}\alpha^{n} + q_{n-1}\alpha^{n-1} + \dotsb + q_0 = 0 </math>
を満足する、すなわち {{mvar|α}} が[[代数的数]]であるとき、次元は有限である。より正確には、その次元は {{mvar|α}} を根に持つ[[最小多項式 (体論)|最小多項式]]の次数に等しい{{Sfn|Stewart|1975|loc=Proposition 4.3|p=52}}。例えば、複素数体 {{mathbf|C}} は実二次元のベクトル空間で、{{math|1}} と[[虚数単位]] {{mvar|i}} で生成される。後者は二次の方程式 {{math|''i''{{sup|2}} + 1 {{=}} 0}} を満足するから、このことからも {{mathbf|C}} が二次元 {{mathbf|R}}-ベクトル空間であることが言える(また、任意の体がそうだが、{{mathbf|C}} 自身の上のベクトル空間として {{mathbf|C}} は一次元である)。
他方、{{mvar|α}} が代数的でないならば、{{math|'''Q'''(''α'')}} の {{mathbf|Q}} 上の次元は無限大である。例えば {{math|''α'' {{=}} [[円周率|''π'']]}} とすれば、{{pi}} を根とする代数方程式は存在しない(別な言い方をすれば、{{pi}} は[[超越数|超越的]]である){{Sfn|Stewart|1975|loc=Theorem 6.5|p=74}}。
== 線型写像と行列 ==
=== 線型写像 ===
{{Main|線型写像}}
二つのベクトル空間の間の関係性は'''線型写像'''あるいは'''線型変換'''によって表すことができる。これは、ベクトル空間の構造を反映した[[写像]]、即ち任意の {{math|'''''x''''', '''''y''''' ∈ ''V''}} と任意の {{math|''a'' ∈ ''F''}} に対して
:<math> f(\boldsymbol{x} + \boldsymbol{y}) = f(\boldsymbol{x}) + f(\boldsymbol{y}), \quad f(a\boldsymbol{x}) = af(\boldsymbol{x}) </math>
を満たすという意味で和とスカラーとの積を保つものである{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 2|p=45}}。
[[同型写像]]とは、線型写像 {{nowrap|{{math|''f'': ''V'' → ''W''}}}} で[[逆写像]] {{nowrap|{{math|''g'': ''W'' → ''V''}}}}, 即ち[[写像の合成|合成写像]] {{nowrap|{{math|(''f'' ◦ ''g''): ''W'' → ''W''}}}} および {{nowrap|{{math|(''g'' ◦ ''f''): ''V'' → ''V''}}}} がともに[[恒等写像]]となるものが存在するものを言う。同じことだが、{{mvar|f}} は一対一([[単射]])かつ上への([[全射]])線型写像である{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|IV}}.4, Corollary|p=106}}。{{mvar|V}} と {{mvar|W}} の間に同型写像が存在するとき、これらは互いに同型であるという。このとき、{{mvar|V}} において成り立つ任意の関係式が {{mvar|f}} を通じて {{mvar|W}} における関係式に写され、また逆も {{mvar|g}} を通じて行えるという意味で、これら本質的に同じベクトル空間と見做すことができる。
[[File:Vector components.svg|180px|right|thumb|矢印ベクトル {{mvar|'''v'''}} をその座標 {{mvar|x}} と {{mvar|y}} で記述することはベクトル空間の同型である]]
例えば、「平面上の有向線分(矢印)」の成すベクトル空間と「数の順序対」の成すベクトル空間は同型である。つまり、ある(固定された)[[座標系]]の[[原点 (数学)|原点]]を始点とする平面上の有向線分は、図に示すように、線分の {{mvar|x}}-成分と {{mvar|y}}-成分を考えることにより、順序対として表すことができる。逆に順序対 {{math|(''x'', ''y'')}} が与えられてとき、{{mvar|x}} だけ右に({{mvar|x}} が負のときは {{math|{{abs|''x''}}}} だけ左に)行って、かつ {{mvar|y}} だけ上に({{mvar|y}} が負のときは {{math|{{abs|''y''}}}} だけ下に)行く有向線分として {{mvar|'''v'''}} が得られる。
固定されたベクトル空間の間の線型写像 {{math|''V'' → ''W''}} の全体は、それ自体が線型空間を成し、{{math|Hom{{sub|''F''}}(''V, W'')}} や {{math|L(''V, W'')}} などで表される{{Sfn|Lang|1987|loc=Example {{Rn|IV}}.2.6}}。{{mvar|V}} から係数体 {{mvar|F}} への線型写像全体の成す空間は、{{mvar|V}} の'''[[双対空間]]''' {{math|''V''{{sup|∗}}}} と呼ばれる{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|VI}}.6}}。[[自然変換|自然な単射]] {{math|''V'' → ''V''{{sup|∗∗}}}} を通じて、任意のベクトル空間はその'''二重双対'''へ埋め込むことができる。この写像が同型となるのは空間が有限次元のときであり、かつその時に限る{{Sfn|Halmos|1974|p=28|loc=Ex. 9}}。
{{mvar|V}} の基底を一つ選ぶと、{{mvar|V}} の任意の元は基底ベクトルの線型結合として一意的に表されるから、線型写像 {{nowrap|{{math|''f'': ''V'' → ''W''}}}} は基底ベクトルの行き先を決めることで完全に決定される{{Sfn|Lang|1987|loc=Theorem {{Rn|IV}}.2.1|p=95}}。 {{nowrap begin}}{{math|dim ''V'' {{=}} dim ''W''}}{{nowrap end}} ならば、{{mvar|V}} と {{mvar|W}} の基底を固定するとき、その間の[[全単射|一対一対応]]から {{mvar|V}} の各基底元を {{mvar|W}} の対応する基底元へ写すような線型写像が生じるが、これは定義により同型写像となる{{Sfn|Roman|2005|loc=Th. 2.5, 2.6|p=49}}。従って、二つのベクトル空間が同型となるのは、それらの次元が一致するときであり、逆もまた成り立つ。これは、別な言い方をすれば、任意のベクトル空間はその次元により([[同型を除いて]])「完全に分類されている」ということである。特に任意の {{mvar|n}}-次元 {{mvar|F}}-ベクトル空間 {{mvar|V}} は {{mvar|F{{sup|n}}}} に同型である。しかし、「標準的」あるいはあらかじめ用意された同型というものは存在しない。実際の同型 {{nowrap|{{math|''φ'': ''F{{sup|n}}'' → ''V''}}}} は、{{mvar|F{{sup|n}}}} の標準基底を {{mvar|V}} に {{mvar|φ}} で写すことにより、{{mvar|V}} を選ぶことと等価である。適当な基底を選ぶ自由度があることは、無限次元の場合の文脈で特に有効である(後述)。
=== 行列 ===
[[Image:Matrix.svg|right|thumb|200px|典型的な行列]]
{{Main|行列|行列式}}
'''行列''' ({{lang-en-short|''matrix''}} ) は線型写像の情報を記述するのに有効な概念である{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|V}}.1}}。行列は、図のように、スカラーの矩形配列として書かれる。任意の {{math|''m'' × ''n''}} 行列 {{mvar|A}} は {{mvar|F{{sup|n}}''}} から {{mvar|F{{sup|m}}}} への線型写像を
:<math>\boldsymbol{x} = (x_1, x_2, \dotsc, x_n) \mapsto \biggl(\sum_{j=1}^n a_{1j}x_j, \sum_{j=1}^n a_{2j}x_j, \dotsc, \sum_{j=1}^n a_{mj}x_j \biggr)</math>
として生じる({{math|∑}} は[[総和]]を表す)。これはまた行列 {{mvar|A}} と座標ベクトル {{mvar|'''x'''}} との[[行列の積]]を用いて
:{{math|'''''x''''' ↦ ''A'''x'''''}}
と書くこともできる。さらに言えば、{{mvar|V}} と {{mvar|W}} の基底を選ぶことで、'''任意の'''線型写像 {{nowrap|{{math|''f'': ''V'' → ''W''}}}} は同様の方法で行列によって一意的に表される{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|V}}.3., Corollary|p=106}}。
[[Image:Determinant parallelepiped.svg|200px|right|thumb|この[[平行六面体]]の体積はベクトル {{math|'''''r'''''{{sub|1}}, '''''r'''''{{sub|2}}, '''''r'''''{{sub|3}}}} の成す {{math|3 × 3}} 行列の行列式の絶対値に一致する。]]
[[正方行列]] {{mvar|A}} の[[行列式]] {{math|det (''A'')}} は、{{mvar|A}} に対応する線型写像が同型か否かを測るスカラーである(同型となるには、行列式の値が {{math|0}} でないことが必要かつ十分である){{Sfn|Lang|1987|loc=Theorem {{Rn|VII}}.9.8|p=198}}。{{math|''n'' × ''n''}} 実行列に対応する {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} の線型変換が[[向き]]を保つには、その行列式が正となることが必要十分である。
=== 固有値・固有ベクトル ===
{{Main|固有値と固有ベクトル}}
[[自己準同型写像]]、即ち線型写像 {{nowrap|{{math|''f'': ''V'' → ''V''}}}} は、この場合ベクトル {{mvar|'''v'''}} とその {{mvar|f}} による像 {{math|''f''('''''v''''')}} とを比較することができるから、特に重要である。
任意の零でないベクトル {{mvar|'''v'''}} が、スカラー {{mvar|λ}} に対して {{nowrap begin}}{{math|''λ'''v''''' {{=}} ''f''('''''v''''')}}{{nowrap end}} を満足するとき、これを {{mvar|f}} の'''固有値''' ({{lang-en-short|''eigenvalue''}} ) {{mvar|λ}} に属する'''固有ベクトル''' ({{lang-en-short|''eigenvector''}} ) という<ref group=nb>この術語は、「自身の」とか「固有の」という意味の[[ドイツ語]] „[[:en:wikt:eigen|eigen]]“ に由来する。</ref>{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 8|pp=135–156}}。
同じことだが、固有ベクトル {{mvar|'''v'''}} は差 {{nowrap|{{math|''f'' − λ · Id}}}} の核の元である(ここで {{math|Id}} は[[恒等写像]] {{nowrap|{{math|''V'' → ''V''}}}})。{{mvar|V}} が有限次元ならば、これは行列式を使って言い換えることができる。つまり、{{mvar|f}} が固有値 {{mvar|λ}} を持つことは
: <math> \det(f - \lambda \cdot \operatorname{Id}) = 0 </math>
となることと同値である。行列式の定義を書き下すことにより、この式の左辺は {{mvar|λ}} を変数とする多項式と見ることができて、これを {{mvar|f}} の[[固有多項式]]と呼ぶ{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|IX}}.4}}。
係数体 {{mvar|F}} がこの多項式の根を含む程度に大きい({{math|''F'' {{=}} '''C'''}} のように、{{mvar|F}} が[[代数閉体]]ならばこの条件は自動的に満たされる)ならば任意の線型写像は少なくとも一つの固有ベクトルを持つ。
ベクトル空間 {{mvar|V}} は{{仮リンク|固有基底|en|Eigenvalues_and_eigenvectors#General definition}}(固有ベクトルからなる基底)を持つかもしれないし持たないかもしれないが、それがどちらであるかは写像の[[ジョルダン標準形]]によって制御される<ref group=nb>{{Harvnb|Roman|2005|loc=ch. 8|p=140}}. {{仮リンク|ジョルダン・シュバレー分解|en|Jordan–Chevalley decomposition}}も参照。</ref>。{{mvar|f}} の特定の固有値 {{mvar|λ}} に属する固有ベクトル全体の成す集合は、固有値 {{mvar|λ}}(と {{mvar|f}})に対応する'''固有空間'''と呼ばれるベクトル空間を成す。無限次元の場合の対応する主張である[[スペクトル定理]]に達するには、函数解析学の道具立てが必要である。
== 基本的な構成法 ==
上記具体例に加えて、与えられたベクトル空間から別のベクトル空間を得る標準的な線型代数学的構成がいくつか存在する。それらは以下に述べる定義に加えて[[普遍性]]と呼ばれる、線型空間 {{mvar|X}} を {{mvar|X}} から他の任意の線型空間への線型写像によって特定することができるという性質によっても特徴づけられる。
=== 部分空間と商空間 ===
{{Main|部分線型空間|商線型空間}}
[[File:Linear subspaces with shading.svg|thumb|250px|right|[[ユークリッド空間|{{math|'''R'''{{sup|3}}}}]] の[[原点 (数学)|原点]]を通る直線 (青細) は線型部分空間である。これは二つの[[平面]] (緑、黄) の交わりである。]]
ベクトル空間 {{mvar|V}} の空でない[[部分集合]] {{mvar|W}} が加法とスカラー乗法の下で閉じている(従ってまた、{{mvar|V}} の零ベクトルを含む)ならば、{{mvar|V}} の'''部分空間'''であるという{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 1|p=29}}。{{mvar|V}} の部分空間は、それ自体が(同じ体上の)ベクトル空間を成す。ベクトルからなる集合 {{mvar|S}} に対して、それを含む部分空間すべての交わりは {{mvar|S}} の[[線型包|張る空間]]と言い、集合 {{mvar|S}} を含む最小の {{mvar|V}} の部分空間を成す。属する元の言葉で言えば、{{mvar|S}} の張る空間は {{mvar|S}} の元の[[線型結合]]全体の成す部分空間である{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 1|p=35}}。
部分空間に相対する概念として、'''商空間'''がある{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 3|p=64}}。任意の部分空間 {{math|''W'' ⊂ ''V''}} に対して、(「{{mvar|V}} を {{mvar|W}} で[[違いを除いて|割った]]」)商空間 {{math|''V''/''W''}} は以下のように定義される。
まず集合として {{math|''V''/''W''}} は、{{mvar|'''v'''}} を {{mvar|V}} の任意のベクトルとして {{nowrap begin}}{{math|'''''v''''' + ''W'' {{=}} {{mset|'''''v''''' + '''''w''''' | '''''w''''' ∈ ''W''}}}}{{nowrap end}} なる形の集合全てからなる。その二つの元 {{math|'''''v'''''{{sub|1}} + ''W''}} および {{math|'''''v'''''{{sub|2}} + ''W''}} の和は {{nowrap|{{math|('''''v'''''{{sub|1}} + '''''v'''''{{sub|2}}) + ''W''}}}} で、またスカラー倍の積は {{nowrap begin}}{{math|''a''('''''v''''' + ''W'') {{=}} (''a'''v''''') + ''W''}}{{nowrap end}} で与えられる。
この定義の鍵は {{nowrap begin}}{{math|'''''v'''''{{sub|1}} + ''W'' {{=}} '''''v'''''{{sub|2}} + ''W''}}{{nowrap end}} となる[[必要十分条件]]が {{math|'''''v'''''{{sub|1}}}} と {{math|'''''v'''''{{sub|2}}}} との差が {{mvar|W}} に入ることである<ref group=nb>書籍によっては({{Harvnb|Roman|2005}}など)この[[同値関係]]から話を始めて、それを使って {{math|''V''/''W''}} の具体形を導き出す形をとるものもある</ref>。この方法で商空間は、部分空間 {{mvar|W}} に含まれる情報を「忘却」したものとなる。
線型写像 {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} の[[核 (代数学)|核]] {{math|ker(''f'')}} は {{mvar|W}} の零ベクトル {{math|'''0'''}} へ写されるベクトル {{mvar|'''v'''}} からなる{{Sfn|Lang|1987|loc=ch. {{Rn|IV.}}3.}}。核および[[像 (数学)|像]] {{math|im(''f'') {{=}} {{mset|''f''('''''v''''') | '''''v''''' ∈ ''V''}}}} はともにそれぞれ {{mvar|V}} および {{mvar|W}} の部分空間である{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 2|p=48}}。核と像の存在は(固定した体 {{mvar|F}})上の[[ベクトル空間の圏]]が[[アーベル圏]](つまり、数学的対象とそれらの間の構造を保つ写像の集まり、即ち[[圏 (数学)|圏]]、であって[[アーベル群の圏]]と非常によく似た振る舞いをするもの)を成すことの要件の一部である{{Sfn|Mac Lane|1998}}。これにより、[[第一同型定理]](線型代数学的な言い方をすれば[[階数退化次数定理]])
:<math> V / {\ker(f)} \cong \operatorname{im}(f) </math>
や第二、第三の同型定理が[[群論]]における相当の定理と同様な仕方できちんと定式化と証明をすることができる。
重要な例は、適当に固定した行列 {{mvar|A}} に対する線型写像 {{math|'''''x''''' ↦ ''A'''x'''''}} の核である。この写像の核は {{math|''A'''x''''' {{=}} 0}} を満たすベクトル {{mvar|'''x'''}} 全体の成す部分空間であり、これは {{mvar|A}} に属する斉次線型方程式系の解空間に他ならない。この考え方は線型微分方程式
:<math>a_0 f + a_1 \frac{d f}{d x} + a_2 \frac{d^2 f}{d x^2} + \cdots + a_n \frac{d^n f}{d x^n} = 0</math>
(各係数 {{mvar|a{{sub|i}}}} も {{mvar|x}} の函数)に対しても拡張できる。対応する線型写像
:<math>f \mapsto D(f) = \sum_{i=0}^n a_i \frac{d^i f}{d x^i}</math>
は函数 {{mvar|f}} の[[導函数]]が(例えば {{math|''f''′′(''x''){{sup|2}}}} のような項が現れないという意味で)線型に現れている。微分は線型である(即ち {{nowrap begin}}{{math|(''f'' + ''g'')′ {{=}} ''f''′ + ''g''′}}{{nowrap end}} および定数 {{mvar|c}} について {{nowrap begin}}{{math|(''cf'')′ {{=}} ''cf''′}}{{nowrap end}} が成り立つ)から、上記作用素の値も線型である(線型[[微分作用素]]と言う)。特に、この微分方程式 {{nowrap begin}}{{math|''D''(''f'') {{=}} 0}}{{nowrap end}} の解の全体は({{mathbf|R}} または {{mathbf|C}} 上の)ベクトル空間となる。
=== 直積と直和 ===
{{Main|直積線型空間|加群の直和}}
<math display="inline"> I </math> で[[添字集合|添字]]付けられたベクトル空間の族 <math display="inline"> V_i </math> の'''直積''' <math display="inline"> \prod_{i \in I} V_i </math>とは、[[順序組]] <math display="inline"> (\boldsymbol{v}_i)_{i \in I} = (\boldsymbol{v}_1, \boldsymbol{v}_2, \dotsc) \quad (\boldsymbol{v}_i \in V_i) </math> 全体の成す集合に、加法とスカラー乗法を成分ごとの演算によって定めたものである{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 1|pp=31–32}}。
この構成の変種として、'''直和''' <math display="inline"> \bigoplus_{i \in I} V_i </math>(あるいは[[余積]] <math display="inline"> \coprod _{i \in I} V_i </math>)は先の順序組において[[ほとんど (数学)|有限個の例外を除く全て]]の成分が零ベクトルであるようなものだけを許して得られるものである。添字集合 <math display="inline"> I </math> が有限ならばこの二つの構成は一致するが、そうでないならば違うものを与える。
=== テンソル積 ===
{{Main|ベクトル空間のテンソル積}}
同じ体 {{mvar|F}} 上の二つのベクトル空間 {{mvar|V}} と {{mvar|W}} の'''テンソル積''' ({{lang-en-short|''tensor product''}} ) {{math|''V'' ⊗{{sub|''F''}} ''W''}} あるいは単に {{math|''V'' ⊗ ''W''}} は、線型写像を多変数にするような概念の拡張を扱う[[多重線型代数]]における中心的な概念のひとつである。写像 {{nowrap|{{math|''g'': [[直積集合|''V'' × ''W'']] → ''X''; [[順序対|('''''v''''', '''''w''''')]] ↦ ''g''('''''v''''', '''''w''''')}}}} が[[双線型写像]]であるとは、{{mvar|g}} が両変数 {{math|'''''v''''', '''''w'''''}} の何れについても線型であることを言う。これはつまり、{{math|'''''w'''''}} を固定したとき写像 {{nowrap|{{math|'''''v''''' ↦ ''g''('''''v''''', '''''w''''')}}}} が線型であり、かつ {{math|'''''v'''''}} を固定した時も同様であることを意味する。
テンソル積は以下のような意味で、双線型写像を普遍的に受け入れる特別のベクトル空間である。それは[[テンソル]]と呼ばれる記号の(形式的な)有限和
:<math> \boldsymbol{v}_1 \otimes \boldsymbol{w}_1 + \boldsymbol{v}_2 \otimes \boldsymbol{w}_2 + \dotsb + \boldsymbol{v}_n \otimes \boldsymbol{w}_n </math>
の全体からなる線型空間で、これらの元は {{mvar|a}} をスカラーとして
:<math> a (\boldsymbol{v} \otimes \boldsymbol{w}) = (a\boldsymbol{v}) \otimes \boldsymbol{w} = \boldsymbol{v} \otimes (a\boldsymbol{w}) </math>
:<math> \boldsymbol{v}_1 + \boldsymbol{v}_2 \otimes \boldsymbol{w} = \boldsymbol{v}_1 \otimes \boldsymbol{w} + \boldsymbol{v}_2 \otimes \boldsymbol{w} </math>
:<math> \boldsymbol{v} \otimes (\boldsymbol{w}_1 + \boldsymbol{w}_2) = \boldsymbol{v} \otimes \boldsymbol{w}_1 + \boldsymbol{v} \otimes \boldsymbol{w}_2 </math>
なる規則で縛られている{{Sfn|Lang|2002|loc = ch. {{Rn|XVI}}.1}}。
[[Image:Universal property tensor product.png|right|thumb|200px|テンソル積の普遍性を表す[[可換図式]]]]
これらの規則は、写像 {{math|''f'': ''V'' × ''W'' → ''V'' ⊗ ''W''; ('''''v''''', '''''w''''') ↦ '''''v''''' ⊗ '''''w'''''}} が双線型となることを保証するものである。テンソル積の[[普遍性]]とは
: '''任意の'''ベクトル空間 {{mvar|X}} と'''任意の'''双線型写像 {{nowrap|{{math|''g'': ''V'' × ''W'' → ''X''}}}} が与えられたとき、写像 {{math|''u'': ''V'' ⊗ ''W'' → ''X''}} が一意的に存在して、上記の写像 {{mvar|f}} との[[写像の合成|合成]] {{math|''u'' ◦ ''f''}} が {{mvar|g}} に等しくなるようにすることができる ( {{math|''u''('''''v''''' ⊗ '''''w''''') {{=}} ''g''('''''v''''', '''''w''''')}} )<ref>{{Harvnb|Roman|2005|loc=Th. 14.3}}. [[米田の補題]]も参照。</ref>
というものである。テンソル積の普遍性は対象を、その対象からの、あるいはその対象への写像によって間接的に定義するという(進んだ抽象代数学ではよく用いられる)手法の一例である。
== 付加構造を備えたベクトル空間 ==
線型代数学の観点からは、任意のベクトル空間が([[同型を除いて]])その次元によって特徴づけられるという意味で、ベクトル空間については完全に分かっている。しかしベクトル空間というものは「本質的に」、函数列が別の函数に収束するか否かという(解析学では重要な)問題について取り扱う枠組みを提供していないし、同様に加法演算が有限項の和のみを許す線型代数学では[[無限級数]]を扱うのには適当でない。従って、[[函数解析学]]ではベクトル空間に更なる構造を考える必要が求められる。ほとんど同様に、付加的な情報を持つベクトル空間が有効に働く部分を抽象的に見つけだすことで、公理的取扱いからベクトル空間の持つ代数学的に本質的な特徴を浮き彫りにすることができる{{Citation needed|date=February 2009}}。
付加構造の一つの例は、[[順序関係]] {{math|≤}} で、これによりベクトルの比較が行えるようになる{{Sfn|Schaefer|Wolff|1999|pp=204–205}}。例えば、実 {{mvar|n}}-次元空間 {{math|'''R'''{{sup|''n''}}}} は、ベクトルを成分ごとに比較することで順序づけることができる。また、[[ルベーグ積分]]は函数を二つの正値函数の差
:<math>f = f^{+} - f^{-}</math>
として({{math|''f''{{sup|+}}}} は {{mvar|f}} の正部分で {{math|''f''{{sup|−}}}} は負部分)表すことができることに依拠しているから、{{仮リンク|順序線型空間|en|Ordered vector space}}(例えば[[リース空間]])は[[ルベーグ積分]]において基本的である{{Sfn|Bourbaki|2004|loc=ch. 2|p=48}}。
=== ノルム空間および内積空間 ===
{{Main|ノルム線型空間|内積空間}}
ベクトルの「測度」は、ベクトルの長さを測る[[ノルム]]や、ベクトルの間の角を測る[[内積]]を決めることによって与えられる。ノルムが定義されたベクトル空間を[[ノルム空間]]とよび、ノルムを {{math|{{abs|'''''v'''''}}}} のように表す。内積が定義されたベクトル空間を[[内積空間]]と呼び、 内積は{{math|⟨'''''v''''', '''''w'''''⟩}} のように表す。内積空間は付随するノルム
:<math>|\boldsymbol{v}| := \sqrt {\langle \boldsymbol{v}, \boldsymbol{v} \rangle}</math>
を持つ{{Sfn|Roman|2005|loc=ch. 9}}。
数ベクトル空間 {{mvar|F{{sup|n}}}} は[[点乗積|標準内積]]
:<math>\boldsymbol{x} \cdot \boldsymbol{y} = x_1 y_1 + \dotsb + x_n y_n</math>
を備えている。これは {{math|'''R'''{{sup|2}}}} においてよくある二つのベクトル {{math|'''''x''''', '''''y'''''}} の[[ベクトルのなす角|成す角]] {{mvar|θ}} の概念を[[余弦定理]]
:<math> \boldsymbol{x} \cdot \boldsymbol{y} = \mathopen{|} \boldsymbol{x} \mathclose{|} \mathopen{|} \boldsymbol{y} \mathclose{|} \cos(\theta) </math>
によって反映するものである。これにより、{{math|'''''x''''' · '''''y''''' {{=}} 0}} を満たす二つのベクトル {{math|'''''x''''', '''''y'''''}} は互いに[[直交]]すると言われる。この標準内積の重要な変形版として、[[ミンコフスキー空間]] {{math|'''R'''{{sup|4}} {{=}} '''R'''{{sup|3,1}}}} はローレンツ積
:<math> \lang \boldsymbol{x} \mid \boldsymbol{y} \rang = x_1 y_1 + x_2 y_2 + x_3 y_3 - x_4 y_4 </math>
を備える{{Sfn|Naber|2003|loc=ch. 1.2}}。標準内積との大きな違いは、ローレンツ積が[[正定値双線型形式|正定値]]でないこと、つまり {{math|⟨'''''x'''''{{!}}'''''x'''''⟩}} は負の値を取り得る(例えば {{math|'''''x''''' {{=}} (0,0,0,1)}} のとき)ことである。(三つの空間的な座標とは異なり、時間に対応する)第四の座標を考えることは[[特殊相対論]]の数学的取扱いにおいて有効である。
=== 位相線型空間 ===
{{Main|位相線型空間}}
収束性の問題は、ベクトル空間 {{mvar|V}} に両立する[[位相空間|位相]]([[近傍 (位相空間論)|近さ]]を記述することを可能にする構造)を入れることによって扱われる。{{Sfn|Treves|1967}}{{Sfn|Bourbaki|1987}}。 ここでいう「両立」とは、加法とスカラー乗法がともに[[連続写像]]となるという意味で、大雑把に言えば、{{math|'''''x''''', '''''y''''' ∈ ''V''}} と {{math|''a'' ∈ ''F''}} が限られた範囲の中にあれば、{{math|'''''x''''' + '''''y'''''}} と {{math|''a'''x'''''}} も限られた範囲に留まるということである<ref group=nb>この仮定からは、得られる位相が[[一様空間|一様構造]]を持つことが導かれる。{{Harvnb|Bourbaki|1989|loc = ch. {{Rn|II}}}}</ref>。スカラーについてこの議論がきちんと意味を持つようにするためには、この文脈において体 {{mvar|F}} にも位相が定められていなければならない。よく用いられるのが実数体や複素数体である。
このような'''位相線型空間'''ではベクトル項[[級数]]を考えることができて、{{mvar|V}} の元からなる列 {{math|(''f{{sub|i}}''){{sub|''i'' ∈ '''N'''}}}} の[[無限和]]
:<math>\sum_{i=0}^{\infty} f_i</math>
とは、対応する有限部分和の[[列の極限|極限]]を表すものである。例えば {{mvar|f{{sub|i}}}} が、ある(実または複素)[[函数空間]]に属する函数であるとすると、この場合の級数は[[函数項級数]]と呼ばれる。函数項級数の{{仮リンク|収束の様態|en|modes of convergence}}は、函数空間に課された位相に依存する。そのような様態の中でも[[各点収束]]と[[一様収束]]の二つは特に際立った例である。
[[Image:Vector norms2.svg|thumb|right|250px|{{math|'''R'''<sup>2</sup>}} の「[[単位球面]]」はノルム {{math|1}} の平面ベクトルからなる。図は、異なる[[Lpノルム| {{mvar|p}}-ノルム]]に関する単位球面を {{math|''p'' {{=}} 1, 2, ∞}} の場合に描いたもの。また大きな菱形は {{math|1}}-ノルムが {{math|{{sqrt|2}}}} に等しいような点を描いたものである。]]
ある種の無限級数の極限の存在を保証する方法の一つは、考える空間を任意の[[コーシー列]]が収束するようなものに限って考えることである。そのようなベクトル空間は[[完備距離空間|完備]]であるという。大まかに言えば、ベクトル空間が完備というのは必要な極限をすべて含むということである。例えば単位区間 {{closed-closed|0, 1}} 上の多項式函数全体の成すベクトル空間に[[一様収束位相]]を入れたものは完備でない。これは {{closed-closed|0, 1}} 上の任意の連続函数が、多項式函数列で一様に近似することができるという[[ワイエルシュトラスの近似定理|ヴァイアシュトラスの近似定理]]による{{Sfn|Kreyszig|1989|loc=§4.11-5}}。対照的に、区間 {{closed-closed|0, 1}} 上の連続函数全体の成す空間に同じ位相を入れたものは完備になる{{Sfn|Kreyszig|1989|loc=§1.5-5}}。ノルムからは、ベクトル列 {{mvar|'''v'''{{sub|n}}}} が {{mvar|'''v'''}} に収束する必要十分条件を
:<math> \lim_{n\to \infty} |\boldsymbol{v}_n - \boldsymbol{v}| = 0 </math>
で定めることによって、空間に位相が入る。バナッハ空間およびヒルベルト空間は、それぞれノルムおよび内積から定まる位相に関して完備な位相空間である。[[函数解析学]]で重要になるそれらの研究は、有限次元位相線型空間上のノルムはどれも同じ収束性の概念を定めるから、無限次元ベクトル空間に焦点があてられる{{Sfn|Choquet|1966|loc=Proposition {{Rn|III}}.7.2}}。図は {{math|'''R'''{{sup|2}}}} 上の {{math|1}} ノルムと {{math|∞}} ノルムとの同値性を示すものである。単位「球体」は互いに他に囲まれているから、列が {{math|1}} ノルムに関して {{math|0}} に収束することと、その列が {{math|∞}} ノルムに関して収束することとが同値になる。しかし無限次元空間の場合には、一般には互いに同値でないような位相が存在しおり、そのことが位相線型空間の研究を、付加構造を持たない純代数的なベクトル空間の理論よりも豊かなものとしているのである。
概念的な観点では、位相線型空間に関する全ての概念は位相とうまく合うものでなければならない。例えば、位相線型空間の間の線型写像(あるいは[[線型汎函数]]){{math|''V'' → ''W''}} は連続であるものと仮定される{{Sfn|Treves|1967|pp=34–36}}。特に、(位相的)双対空間 {{math|''V''{{sup|∗}}}} は連続汎函数 {{math|''V'' → '''R''' (or '''C''')}} からなるものとする。基礎を成す[[ハーン・バナッハの定理]]は、適当な位相線型空間を連続汎函数によって部分空間に分けることに関係するものである{{Sfn|Lang|1983|loc=Cor. 4.1.2|p=69}}。
==== バナッハ空間 ====
{{Main|バナッハ空間}}
[[ステファン・バナフ|バナフ]]の導入した'''バナッハ空間'''とは、完備ノルム空間のことである{{Sfn|Treves|1967|loc=ch. 11}}。一つの例として、<math> \ell^p </math> {{math|(1 ≤ ''p'' ≤ ∞)}} は、実数を成分とする無限次元ベクトル {{math|'''''x''''' {{=}} (''x''{{sub|1}}, ''x''{{sub|2}}, ...)}} であって、{{math|''p'' < ∞}} に対して
:<math> |\boldsymbol x|_p := \biggl(\sum_i |x_i|^p \biggr)^{1/p} </math>
または {{math|''p'' {{=}} ∞}} に対して
:<math> |\boldsymbol x|_\infty := \sup_i |x_i| </math>
で定義される[[Lpノルム| {{mvar|p}}-ノルム]]が有限となるようなもの全体の成すベクトル空間である。無限次元空間 <math> \ell^p </math> の位相は、異なる {{mvar|p}} に対しては同値でない。例えばベクトルの列 {{math|'''''x'''''{{sub|''n''}} {{=}} (2{{sup|−''n''}}, 2{{sup|−''n''}}, ..., 2{{sup|−''n''}}, 0, 0, ...)}}, つまり各項が最初の {{math|2{{sup|''n''}}}}-個の成分が {{math|2{{sup|−''n''}}}} で残りはすべて {{math|0}} となるような無限次元ベクトルとなるようなベクトル列は {{math|''p'' {{=}} ∞}} のときは[[零ベクトル]]に収束するが、{{math|''p'' {{=}} 1}} のときはそうならない。式にすれば
:<math>|x_n|_\infty = \sup (2^{-n}, 0) = 2^{-n} \to 0</math>
だが
: <math>|x_n|_1 = \sum_{i=1}^{2^n} 2^{-n} = 2^n \cdot 2^{-n} = 1</math>
である。
実数列よりも一般の函数 {{math|''f'' : Ω → '''R'''}} は、上記の和のところを[[ルベーグ積分]]に置き換えた
:<math>|f|_p := \left(\int_\Omega \bigl| f(x) \bigr|^p \, dx \right)^{1/p}</math>
をノルムとして備えている。与えられた[[領域 (解析学)|領域]] {{math|Ω}}(例えば区間)上の {{math|{{abs|''f''}}{{sup|''p''}} < ∞}} を満足する[[可積分函数]]の空間に、このノルムを入れたものは[[ルベーグ空間]] {{math|''L{{sup|p}}''(Ω)}} と呼ばれる<ref group=nb> {{math|{{abs|•}}{{sub|''p''}}}} に関する三角不等式は[[ミンコフスキーの不等式]]から得られる。技術的な理由から、この文脈では[[ほとんど (数学)|ほとんど至る所]]一致する函数は互いに同一視する。こうすれば上記の「ノルム」は[[半ノルム]]なだけでなく本当に[[ノルム]]を与える。</ref>。ルベーグ空間は何れも完備になる{{Sfn|Treves|1967|loc=Theorem 11.2|p=102}}(が、もし上記の積分を[[リーマン積分]]としたならば、空間は完備にならない。これがルベーグ積分論を考えることの正当性の一つとして挙げられる理由の一つである<ref group=nb>「{{math|''L''{{sup|2}}}} に属する多くの函数はルベーグ測度が有界でなく、古典的なリーマン積分では積分することができない。故にリーマン可積分函数の空間は {{math|''L''{{sup|2}}}}-ノルムに関して完備にならず、また それらに対する直交分解も適用できない。これはルベーグ積分の優位性を示すものである」{{Harvnb|Dudley|1989|loc=sect. 5.3|p=125}}</ref>)。具体的に書けば、任意の可積分函数列 {{nowrap|{{math|''f''{{sub|1}}, ''f''{{sub|2}}, ...}}}} で {{nowrap begin}}{{math|{{abs|''f''{{sub|''n''}}}}{{sub|''p''}} < ∞}}{{nowrap end}} となるものが、条件
:<math> \lim_{k,\ n \to \infty}\int_\Omega \bigl| f_{k}(x) - f_{n}(x) \bigr|^p \, dx = 0</math>
を満足するならば、適当な函数 {{math|''f''(''x'')}} でベクトル空間 {{math|''L<sup>p</sup>''(Ω)}} に属するものが存在して
:<math>\lim_{k \to \infty}\int_\Omega \bigl| f(x) - f_{k}(x) \bigr|^p \, dx = 0</math>
を満たすようにすることができる。
函数自体だけでなくその[[導函数]]にも有界性条件を課すことで[[ソボレフ空間]]の概念が導かれる{{Sfn|Evans|1998|loc = ch. 5}}。
{{-}}
==== ヒルベルト空間 ====
{{Main|ヒルベルト空間}}
[[Image:Periodic identity function.gif|right|thumb|400px|正弦函数 (<span style="color:#FF0000">赤</span>) の有限和によって、周期函数 (<span style="color:#0000FF">青</span>) を近似する様子を、初項から 5-項までの和を順に示すことによって示したもの。]]
[[完備距離空間|完備]]な[[内積空間]]は[[ダフィット・ヒルベルト|ヒルベルト]]に因んで'''ヒルベルト空間''' ({{lang-en-short|''Hilbert space''}}) と呼ばれる{{Sfn|Treves|1967|loc=ch. 12}}。自乗可積分函数の空間 {{math|''L''{{sup|2}}(Ω)}} に
:<math> \langle f, g \rangle = \int_\Omega f(x) \overline{g(x)}\,dx</math>
で定義される内積(ただし {{math|{{overline|''g''(''x'')}}}} は {{math|''g''(''x'')}} の[[複素共役|複素共軛]]とする){{Sfn|Dennery|Krzywicki| 1996|p=190}}<ref group=nb>{{math|''p'' ≠ 2}} のとき {{math|''L''{{sup|''p''}}(Ω)}} はヒルベルト空間でない。</ref>を入れたものは主要なヒルベルト空間の例である。
定義によりヒルベルト空間における任意のコーシー列は極限を持つから、逆に与えられた極限函数を近似するという適当な性質を持つ函数列 {{mvar|f{{sub|n}}}} を求めることが重要になる。初期の解析学では、[[テイラー近似]]の形で[[可微分関数|可微分函数]] {{mvar|f}} の多項式列による近似が確立された{{Sfn|Lang|1993|loc = Th. {{Rn|XIII}}.6|p=349}}。[[ストーン=ワイエルシュトラスの定理|ストーン=ヴァイアシュトラスの定理]]により、{{closed-closed|''a'', ''b''}} 上の任意の連続函数は適当な多項式列によりいくらでも近く近似できる{{Sfn|Lang|1993|loc = Th. {{Rn|III}}.1.1}}。[[三角函数]]を用いた同様の近似法は一般に[[フーリエ展開]]と呼ばれ、工学において広く応用される([[#フーリエ解析]]節を参照)。より一般に、またより概念的に言えば、これらの定理は「基本函数族」とは何であるかということを端的に記述するものになっている。あるいは抽象ヒルベルト空間においてどのような基本ベクトル族が、ヒルベルト空間 {{mvar|H}} を位相的に生成するに十分であるかをいうものである。ここで、位相的に生成する(あるいは単に生成する)とは、それらの位相的線型包と呼ばれる、線型包の[[閉包 (位相空間論)|閉包]](即ち、有限線型結合およびその極限)が、全体空間に一致することである。そのような函数の集合は {{mvar|H}} の'''基底'''(あるいはヒルベルト基底)と呼ばれ、基底の濃度はヒルベルト空間 {{mvar|H}} の[[ヒルベルト空間#ヒルベルト次元|ヒルベルト次元]]と呼ばれる<ref group=nb>ヒルベルト空間の基底というのは、既に述べた線型代数学的な意味での基底と同じものを意味しない。区別のためには、後者は[[ハメル基底]]と呼ばれる。</ref>。これらの定理は適当な基底函数族が近似の目的で十分性を示すことのみならず、[[グラム・シュミットの正規直交化法|シュミットの直交化法]]を用いて[[正規直交基底]]が得られることも意味している{{Sfn|Choquet|1966|loc = Lemma {{Rn|III}}.16.11}}。そのような直交基底は、有限次元[[ユークリッド空間]]における座標軸をヒルベルト空間に対して一般化したものと考えることができる。
様々な[[微分方程式]]に対して、その解をヒルベルト空間の言葉で解釈することができる。例えば物理学や工学におけるかなり多くの分野でそのような方程式が導かれ、特定の物理的性質を持つ解が(しばしば直交する)基底函数族としてよく扱われる{{Sfn|Kreyszig|1999|loc=Chapter 11}}。物理学からの例として、[[量子力学]]における時間依存[[シュレーディンガー方程式]]は、その解が[[波動関数|波動函数]]と呼ばれる[[偏微分方程式]]として、物理的性質の時間的な変化を記述する。{{Sfn|Griffiths|1995|loc=Chapter 1}}。エネルギーやモーメントのような物理的性質に対する明確な値は、ある種の線型[[微分作用素]]の[[固有値]]とそれに属する[[固有状態]]と呼ばれる波動函数に対応する。[[スペクトル定理]]は、函数に作用する線型[[コンパクト作用素]]を、それらの固有値と固有函数を用いて分解することを述べるものである{{Sfn|Lang|1993|loc =ch. {{Rn|XVII}}.3}}。
{{-}}
=== 体上の多元環 ===
{{Main|体上の多元環|リー環}}
[[Image:Rectangular hyperbola.svg|right|thumb|250px|方程式 {{nowrap begin}}{{math|''xy'' {{=}} 1}}{{nowrap end}} で与えられる[[双曲線]]。この双曲線上の函数の[[座標環]]は {{nowrap|{{math|'''R'''{{bracket|''x'', ''y''}} / (''xy'' − 1)}}}} で与えられ、{{math|'''R'''}} 上無限次元のベクトル空間になる。]]
一般のベクトル空間は、ベクトルの間の乗法を持たない。二つのベクトルの乗法を定める[[双線型写像]]を付加的に備えたベクトル空間は、'''体上の多元環'''と言う{{Sfn|Lang|2002|loc=ch. {{Rn|III}}.1|p=121}}。主な多元環は、何らかの幾何学的な対象の上の函数の空間から生じる。体に値をとる函数は、点ごとの乗法を持ち、それら函数の全体が多元環を成すのである。例えば、ストーン=ヴァイアシュトラスの定理は、バナッハ空間にも多元環にもなっている[[バナッハ環]]において成立する。
[[可換多元環]]は一変数または多変数の[[多項式環]]を使ってたくさん作れる。可換多元環の乗法は[[交換法則|可換]]かつ[[結合法則|結合的]]である。これらの環およびその[[剰余環]]は、それが[[座標環|代数幾何的対象上の函数の環]]となることから、[[代数幾何学]]の基礎を成している{{Sfn|Eisenbud|1995|loc=ch. 1.6}}。
別の重要な例は[[リー代数|リー環]]である。リー環の乗法({{math|''x'', ''y''}} の積を {{math|{{bracket|''x'', ''y''}}}} と書く)は可換でも結合的でもないが、そうなることは制約条件
* [[反対称性]]: {{math|{{bracket|''x'', ''y''}} {{=}} −{{bracket|''y'', ''x''}}}}
* [[ヤコビ恒等式|ヤコビの等式]]: {{nowrap|{{math|{{bracket|''x'', {{bracket|''y'', ''z''}}}} + {{bracket|''y'', {{bracket|''z'', ''x''}}}} + {{bracket|''z'', {{bracket|''x'', ''y''}}}} {{=}} 0}}}}{{Sfn|Varadarajan|1974}}
によって制限されている。リー環の例には、{{mvar|n}}-次正方行列全体の成すベクトル空間に、行列の[[交換子]] {{nowrap begin}}{{math|{{bracket|''x'', ''y''}} {{=}} ''xy'' − ''yx''}}{{nowrap end}} を積としたものや、{{math|'''R'''<sup>3</sup>}} に[[交叉積]]を入れたものなどが含まれる。
[[テンソル代数]] {{math|T(''V'')}} は任意のベクトル空間に積を導入して多元環を得るための形式的な方法である{{Sfn|Lang|2002|loc=ch. {{Rn|XVI}}.7}}。{{math|T(''V'')}} はベクトル空間としては、単純[[テンソル]]あるいは分解可能型テンソルと呼ばれる記号
:<math>\boldsymbol{v}_1 \otimes \boldsymbol{v}_2 \otimes \dotsb \otimes \boldsymbol{v}_n</math>
によって生成される(ただし、{{仮リンク|テンソル空間#テンソルの階数|label=テンソルの階数|en|Rank_of_a_tensor|preserve=1}} {{mvar|n}} は任意に動かすものとする)。乗法は二つのベクトル空間に対して[[テンソル積]]を定義するときとほとんど同じで、基底元についてはそれらの記号をテンソル積 {{math|⊗}} で結合することで与え、一般には加法に対する[[分配法則|分配律]]を以って基底元に対する積を延長する。スカラー倍の積は {{math|⊗}} と可換であるものとする。こうして得られる {{math|T(''V'')}} においては、一般に {{nowrap|{{math|'''''v'''''{{sub|1}} ⊗ '''''v'''''{{sub|2}}}}}} と {{nowrap|{{math|'''''v'''''{{sub|2}} ⊗ '''''v'''''{{sub|1}}}}}} との間には何の関係も成立しない。この二つの元を強制的に等しいものと定めると[[対称代数]] {{math|S(''V'')}} が、あるいは強制的に {{nowrap begin}}{{math|'''''v'''''{{sub|1}} ⊗ '''''v'''''{{sub|2}} {{=}} − '''''v'''''{{sub|2}} ⊗ '''''v'''''{{sub|1}}}}{{nowrap end}} と置けば[[外積代数]] <math display="inline"> \bigwedge (V) </math> がそれぞれ得られる{{Sfn|Lang|2002|loc=ch. {{Rn|XVI}}.8}}。
基礎とする体 {{mvar|F}} を明示したい場合には、{{mvar|F}}-多元環あるいは {{mvar|F}}-代数という言葉がよく用いられる。
== 応用 ==
ベクトル空間の多様体に対する応用は様々な状況で生じてくる。つまり多様体上で定義され、ある体に値をとる函数を考えれば、そこにはベクトル空間が生じるのである。そのようなベクトル空間を考えれば、解析学や幾何学における問題を取り扱う枠組みが提供される。またそういったベクトル空間はフーリエ変換などにおいても利用される。ここで挙げた例は網羅的なものではなく、例えば[[数理最適化|最適化]]など、ほかにももっと多くの応用が存在する。[[ゲーム理論]]の[[ミニマックス法]]は全てのプレイヤーが最適な試行を行うことができるならば一意的なペイが得られることを述べるもので、これはベクトル空間法を用いて証明できる{{Sfn|Luenberger|1997|loc=Section 7.13}}。[[表現論]]は、よく分かっている線型代数学およびベクトル空間に関する内容を、[[群論]]など他の領域に実り豊かに引き写すものである<ref>[[:en:representation theory|representation theory]] および[[群論]]を参照。</ref>。
=== シュヴァルツ超函数 ===
{{Main|シュヴァルツ超函数}}
'''シュヴァルツ超函数''' ({{lang-en-short|''distribution''}}) は、各[[試験函数|「試験」函数]](典型的には、[[コンパクト台]]を持つ[[無限回微分可能函数]])に数を連続的な仕方で割り当てる線型写像をいう。即ち、シュヴァルツ超函数の空間は、試験函数の空間の(連続的)双対である{{Sfn|Lang|1993|loc =Ch. {{Rn|XI}}.1}}。後者の空間には、試験函数 {{mvar|f}} それ自体のみならずその高階導函数までを考慮するような位相が入っている。シュヴァルツ超函数の典型的な例はある領域 {{math|Ω}} 上で試験函数 {{mvar|f}} を積分する作用素
:<math>I(f) = \int_\Omega f(x)\,dx</math>
である。{{math|Ω}} が一点集合{{math|{{mset|''p''}}}}のとき、これは試験函数 {{mvar|f}} に点 {{mvar|p}} における値を割り当てる[[ディラックのデルタ関数]] {{mvar|δ}} を定める({{math|''δ''(''f'') {{=}} ''f''(''p'')}})。
シュヴァルツ超函数は微分方程式を解くための強力な道具である。微分は線型であるといったような、解析学の標準的な概念は、自然にシュヴァルツ超函数の空間へ延長することができるから、従って問題の方程式をシュヴァルツ超函数の空間へ引き写すことができて、しかもシュヴァルツ超函数の空間はもとの函数空間よりも大きいから、方程式を解くためにより柔軟な方法が利用できる(例えば、[[グリーン函数]]法)。
また、基本解は真の函数でなくシュヴァルツ超函数解(弱解)となるのがふつうであり、弱解から所期の境界条件を満たす方程式の真の解を求めるには、見つかった弱解が実際に真の函数となることを確かめればよく、証明できた場合にはそれがもとの方程式の真の解である(例えば[[リースの表現定理]]の帰結である[[ラックス・ミルグラムの定理]]が利用できる){{Sfn|Evans|1998|loc =Th. 6.2.1}}。
=== フーリエ解析 ===
{{Main|フーリエ解析}}
[[Image:Heat eqn.gif|thumb|right|200px|熱方程式は、冷たい環境におかれた熱源の温度の低下のような、時間とともに散逸する物理的性質を記述したものである。(<span style="color:#AAAA00">黄色</span>は<span style="color:#FF0000">赤</span>よりも冷たい領域を表す)]]
[[周期函数]]を'''[[フーリエ級数]]'''を成す[[三角函数]]の和に分解することは物理学や工学においてよく用いられる手法である<ref group=nb>フーリエ級数は周期的だが、この手法は任意の区間上の {{math|''L''{{sup|2}}}}-函数に対して、函数を区間の外側へ周期的に延長することによって適用できる。{{Harvnb|Kreyszig|1988|p=601}}</ref>{{Sfn|Folland|1992|loc = p. 349 ''ff''}}。[[台集合|台]]となるベクトル空間は、ふつうは[[ヒルベルト空間]] {{math|''L''{{sup|2}}(0, 2π)}} であり、函数族 {{math|sin ''mx''}} および {{math|cos ''mx''}} ({{mvar|m}} は整数) が正規直交基底を与える{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|p=150}}。{{math|''L''{{sup|2}}}}-函数 {{mvar|f}} の[[フーリエ展開]]は
:<math>
\frac{a_0}{2} + \sum_{m=1}^{\infty} \bigl[ a_m\cos(mx)+b_m\sin(mx) \bigr]
</math>
である。係数 {{mvar|a{{sub|m}}, b{{sub|m}}}} は {{mvar|f}} の[[フーリエ係数]]と呼ばれ、公式
:<math>a_m = \frac{1}{\pi} \int_0^{2 \pi} f(t)\cos(mt)dt,\quad b_m = \frac{1}{\pi} \int_0^{2 \pi} f(t)\sin(mt)dt</math>
で求められる{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|loc=§4.5}}。
物理学の言葉で言えば、函数は[[正弦波]]の[[線型結合|重ね合せ]]として表され、その係数は函数の[[周波数スペクトル]]についての情報を与えるということになる{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|p=57}}。複素型のフーリエ級数も広く用いられる{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|loc=§4.5}}。
上記の具体的な公式は、より一般の[[ポントリャーギン双対]]と呼ばれる[[双対性]]からの帰結である{{Sfn|Loomis|1953|loc=Ch. {{Rn|VII}}}}。[[加法群]] {{mathbf|R}} にこの双対性を適用すれば古典的なフーリエ変換が得られる。また物理学では[[逆格子]]に応用される。これは有限次元実線型空間に付加的なデータとして[[原子]]や[[結晶]]の位置を符号化した[[束 (束論)|束]]を与えたものを基礎の群として双対性を適用したものである{{Sfn|Ashcroft |Mermin |1976|loc=Ch. 5}}。
フーリエ級数は[[偏微分方程式]]の[[境界値問題]]を解くのにも利用される{{Sfn|Kreyszig|1988|p=667}}。1822年に[[ジョゼフ・フーリエ|フーリエ]]が初めてこの方法を[[熱方程式]]を解くために用いた{{Sfn|Fourier|1822}}。フーリエ級数の離散版は[[標本化]]において、函数値が等間隔に並んだ有限個の点でしかわかっていないところで用いられる。この場合、フーリエ級数は有限項で、その値は全ての点で標本値に等しい{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|p=67}}。また、係数全体の成す集合は、与えられた標本列の[[離散フーリエ変換]] ({{lang-en-short|DFT : Discrete Fourier Transformation}}) と呼ばれる。この {{lang|en|DFT}} は([[レーダー]]や[[音声符号化]]や[[画像圧縮]]などに応用を持つ)[[デジタル信号処理]]の重要な道具の一つである{{Sfn|Ifeachor|Jervis|2002|pp=3–4, 11}}。画像フォーマット[[JPEG]]は、近しい関係にある[[離散コサイン変換|離散余弦変換]]の応用である{{Sfn|Wallace|1992}}。
[[高速フーリエ変換]]は離散フーリエ変換を高速に計算するアルゴリズムである{{Sfn|Ifeachor|Jervis|2002|p=132}}。これはフーリエ係数の計算だけでなく、[[畳み込み定理]]を用いて、二つの有限列の[[畳み込み]]を計算するのにも利用できる{{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|loc=§10.2}}。また、[[デジタルフィルタ]]や{{Sfn|Ifeachor|Jervis|2002|pp=307–310}}、巨大な整数や多項式の高速な{{仮リンク|掛け算アルゴリズム|en|Multiplication algorithm}}([[ショーンハーゲ・ストラッセン法]]){{Sfn|Gasquet|Witomski|1999|loc=§10.3}}{{Sfn|Schönhage|Strassen|1971}}にも応用できる。
=== 微分幾何学 ===
{{Main|接空間}}
[[Image:Image Tangent-plane.svg|right|thumb|200px|[[二次元球面]]のある点における接空間とは、この点で球面に接する無限平面である。]]
曲面のある点における接平面は、自然に接点を原点と同一視したベクトル空間になる。接平面は接点における曲面の最適[[線型近似]]あるいは[[線型化]]である<ref group=nb>これは {{harvnb|BSE-3|2001}} が言うには、接点 {{mvar|P}} を通る平面であって、曲面上の点 {{math|''P''{{sub|1}}}} とこの平面との距離が、曲面に沿って {{math|''P''{{sub|1}}}} を {{mvar|P}} に近づけた極限での {{math|''P''{{sub|1}}}} と {{mvar|P}} との距離よりも[[無限に小さい]]ようなものである。</ref>。三次元ユークリッド空間の場合でさえ、接平面の基底を指定する自然な方法は点綴的には存在せず、またそれゆえに接平面は、実数ベクトル空間というよりはむしろ抽象ベクトル空間として考えられる。'''[[接空間]]'''はより高次元の[[可微分多様体]]への一般化である{{Sfn|Spivak|1999|loc = ch. 3}}。
[[リーマン多様体]]はその接空間が[[リーマン計量|適当な内積]]を備えた多様体である<ref>{{Harvnb|Jost|2005}}. [[ローレンツ多様体]]も参照。</ref>。そこから得られる[[リーマン曲率テンソル]]は、それ一つでその多様体の全ての[[曲率]]を表すことができるもので、[[一般相対論]]では例えば[[時空]]の質量とエネルギー定数を記述する[[アインシュタインテンソル|アインシュタイン曲率テンソル]]などに応用がある{{Sfn|Misner|Thorne|Wheeler|1973|loc = ch. 1.8.7, p. 222 and ch. 2.13.5, p. 325}}{{Sfn|Jost|2005|loc = ch. 3.1}}。[[リー群]]の接空間は自然に[[リー代数|リー環]]の構造を持ち、[[コンパクトリー群]]の分類に用いることができる{{Sfn|Varadarajan|1974|loc = ch. 4.3, Theorem 4.3.27}}。
== 一般化 ==
=== ベクトル束 ===
{{Main|ベクトル束|接束}}
[[Image:Moebiusstrip.png|thumb|249px|right|メビウスの帯。これは局所的には {{nowrap|{{math|''U'' × '''R'''}}}} に[[同相]]である。]]
'''ベクトル束'''は[[位相空間]] {{mvar|X}} によって連続的に径数付けられたベクトル空間の族である{{Sfn|Spivak|1999|loc = ch. 3}}。より明確に言えば、{{mvar|X}} 上のベクトル束とは、位相空間 {{mvar|E}} であって、連続写像
: <math> \pi \colon E \to X </math>
を持ち、{{mvar|X}} の各点 {{mvar|x}} において[[ファイバー (数学)|ファイバー]] {{math|''V'' {{=}} ''π''{{sup|−1}}(''x'')}} がベクトル空間を成すようなものを言う。{{math|dim ''V'' {{=}} 1}} ならば[[線束]]という。任意のベクトル空間 {{mvar|V}} に対し、射影 {{math|''X'' × ''V'' → ''X''}} は直積 {{math|''X'' × ''V''}} を[[自明束|「自明な」ベクトル束]]にする。{{mvar|X}} 上のベクトル束は、[[局所的]]にはある(固定された)ベクトル空間 {{mvar|V}} と {{mvar|X}} との直積でなければならない。つまり、{{mvar|X}} の各点 {{mvar|x}} に対して {{mvar|x}} の適当な[[近傍 (位相空間論)|近傍]] {{mvar|U}} を選んで、{{mvar|π}} の {{math|''π''{{sup|−1}}(''U'')}} への制限が自明束 {{math|''U'' × ''V'' → ''U''}} に同型となるようにすることができる<ref group=nb>つまり、{{math|''π''{{sup|−1}}(''U'')}} から {{math|''V'' × ''U''}} への[[準同型]]で、その制限がファイバーの間の同型となるものが存在する。</ref>。これらの局所自明性にもかかわらず、ベクトル束は巨視的には(台となる位相空間 {{mvar|X}} の形に依存して)「捻じれ」ているのである。つまり、ベクトル束は自明束 {{nowrap|{{math|''X'' × ''V''}}}} (と大域的に同型)である必要はない。例えば、[[メビウスの帯]]は(円周を実数直線上の半開区間と同一視することによって)円周 {{math|''S''{{sup|1}}}} 上の線束と見做すことができるが、しかしこれは[[円筒]] {{math|''S''{{sup|1}} × '''R'''}} とは異なる。後者は[[向き付け可能多様体|向き付け可能]]だが、前者はそうではない{{Sfn|Kreyszig|1991|loc=§34|p=108}}。
ある種のベクトル束の性質は、台となる位相空間についての情報を提供する。例えば、[[接空間]]の集まりからなる[[接束]]は可微分多様体の点によって径数付けられる。
円周 {{math|''S''{{sup|1}}}} の接束は、{{math|''S''{{sup|1}}}} 上に大域的な非零[[ベクトル場]]が存在するから、大域的に {{math|''S''{{sup|1}} × '''R'''}} に同型である<ref group=nb> {{math|''S''{{sup|1}}}} の接束のような線束が自明となる必要十分条件は、至る所消えていない[[切断 (ファイバー束)|切断]]が存在することである({{Harvnb|Husemoller|1994|loc=Corollary 8.3}} を参照)。接束の切断というのは、[[ベクトル場]]に他ならない。</ref>。対照的に、{{仮リンク|毛玉の定理|en| Hairy ball theorem}}により、[[二次元球面]] {{math|''S''{{sup|2}}}} 上の接ベクトル場で至る所消えていない者は存在しない{{Sfn|Eisenberg|Guy|1979}}。[[K理論|{{mvar|K}}-理論]]は同じ位相空間上の全てのベクトル束の同型類について研究するものである{{Sfn|Atiyah|1989}}。深い位相的かつ幾何学的な観察に加えて、この理論には実有限次元[[多元体]]の分類(そのようなものは {{math|'''R''', '''C'''}} のほかは[[四元数]]体 {{mathbf|H}} と[[八元数]]体 {{mathbf|O}} しかない)というような純代数学的な帰結も存在する({{仮リンク|フルヴィッツの定理 (合成代数)|en|Hurwitz's theorem (composition algebras)|label=フルヴィッツの定理}}を参照)。
可微分多様多の[[余接束]]は、多様体の各点において接空間の双対である[[余接空間]]が対応するベクトル束である。余接束の切断は[[微分一次形式]] {{lang|en|({{math|1}}-form)}} と呼ばれる。
=== 加群 ===
{{Main|環上の加群}}
ベクトル空間が体に対するものであるように、'''加群''' (''{{lang-en-short|modules}}'') の概念は[[環 (数学)|環]]に対するものである。これはベクトル空間の公理において体 {{mvar|F}} とするところを環 {{mvar|R}} で置き換えることで得られる{{Sfn|Artin|1991|loc=ch. 12}}。加群の理論はベクトル空間のそれと比べて(環の元に必ずしも[[乗法逆元]]が存在しないことで)より複雑なものになっている。例えば加群は、{{mathbf|Z}}-加群(つまり[[アーベル群]])としての {{math|'''Z'''/2'''Z'''}} のように、必ずしも基底を持たない。基底を持つような加群(ベクトル空間もそう)は[[自由加群]]と呼ばれる。にも拘わらずベクトル空間は、係数環が[[可換体|体]]であるような加群として簡単に定義することができて、その元をベクトルと呼ぶ。可換環の代数幾何学的解釈は、それらの[[環のスペクトル|スペクトル]]を通じて、[[ベクトル束]]の代数的な対応物である[[射影加群|局所自由加群]]の概念などを展開することを可能にする。
=== アフィン空間および射影空間 ===
{{Main|アフィン空間|射影空間}}
[[Image:Affine subspace.svg|thumb|right|200px|{{math|'''R'''<sup>3</sup>}} 内の[[アフィン空間|アフィン平面]] (<span style="color:#2222DD">水色</span>): これは二次元の線型部分空間をベクトル {{math|'''''x'''''}} (<span style="color:#FF0000">赤</span>) でずらしたものである。]]
大雑把に言うと、'''アフィン空間''' ({{lang-en-short|''affine space''}} ) というのはベクトル空間からその原点をわからなくしたものである{{Sfn|Meyer|2000|loc=Example 5.13.5|p=436}}。より正確には、アフィン空間とは[[推移的群作用|自由かつ推移的な]]ベクトル空間の[[群作用|作用]]を備えた集合を言う。特にベクトル空間は、写像
:<math> V \times V \to V; (\boldsymbol{v}, \boldsymbol{a}) \mapsto \boldsymbol{a} + \boldsymbol{v} </math>
を考えることによって、自身の上のアフィン空間となる。{{mvar|W}} をベクトル空間とするとき、{{mvar|W}} のアフィン部分空間とは、固定したベクトル {{nowrap|{{math|'''''x''''' ∈ ''W''}}}} によって線型部分空間 {{mvar|V}} を平行移動することによって得られるものを言う。この空間は {{math|'''''x''''' + ''V''}}({{mvar|V}} による {{mvar|W}} の[[剰余類]])であり、{{nowrap|{{math|'''''v''''' ∈ ''V''}}}} に対する {{nowrap|{{math|'''''x''''' + '''''v'''''}}}} の形のベクトル全てからなる。重要な例は、非斉次の線型方程式系
:<math> A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} </math>
の解空間である。これは斉次の場合、つまり {{nowrap begin}}{{math|'''''b''''' {{=}} '''0'''}}{{nowrap end}} の場合を一般化するものである{{Sfn|Meyer|2000|loc=Exercise 5.13.15–17|p=442}}。この解空間は、方程式の特殊解 {{mvar|x}} と、付随する斉次方程式の解空間(つまり {{mvar|A}} の[[核空間]]){{mvar|V}} に対するアフィン部分空間 {{math|'''''x''''' + ''V''}} である。
固定された有限次元ベクトル空間 {{mvar|V}} の一次元線型部分空間全体の成す集合は'''射影空間'''と呼ばれる。これは[[平行線]]が無限遠において交わるという概念の定式化に用いられる{{Sfn|Coxeter|1987}}。{{仮リンク|グラスマン多様体|en| grassmannian}}および{{仮リンク|旗多様体|en|flag variety|preserve=1}}はそれぞれ、決まった次元 {{mvar|k}} の線型部分空間および{{仮リンク|旗 (線型代数学)|en|Flag (linear algebra)|label=旗}}と呼ばれる線型部分空間の包含列を径数付けることによる、射影空間の概念の一般化である。
=== 凸解析 ===
{{details|凸解析}}
[[File:2D-simplex.svg|thumb|{{mvar|n}}-次元単体は標準凸集合で、任意の多面体へ写り、また、標準 {{nowrap|{{math|(''n'' + 1)}}}}-次元アフィン超平面(標準アフィン空間)と標準 {{nowrap|{{math|(''n'' + 1)}}}}-次元象限(標準錐体)との交わりになっている。]]
[[順序体]](特に実数体)上で、[[凸解析]]の概念を考えることができる。最も基本的なものは、'''非負'''線型結合全体からなる[[凸錐|錐]]、および和が {{math|1}} となる非負線型結合全体からなる[[凸集合]]である。凸集合はアフィン空間の公理と錐体の公理を組み合わせたものとして見ることができ、これは凸集合の標準空間である {{mvar|n}}-[[単体 (数学)|単体]]が[[アフィン超平面]]と[[象限]]との交わりであることを反映したものになっている。このような空間は特に[[線型計画問題]]において用いられる。
[[普遍代数学]]の言葉で言えば、ベクトル空間はベクトルの有限和に対応する係数の有限列全体の成す普遍ベクトル空間 {{math|''K''{{sup|∞}}}} 上の代数であるが、一方アフィン空間はここでいう(和が {{math|1}} の有限列全体の成す)普遍アフィン超平面上の代数であり、また錐体は普遍象限上の代数、凸集合は普遍単体上の代数である。これは、「座標に対する(可能な)制限和」を用いて公理を幾何化したものである。
線型代数学における多くの概念は凸解析における対応する概念があって、基本的なものとしては基底や([[凸包]]のような形での)生成概念など、また重要なものとしては([[双対多面体|双対多角形]]、[[双対錐と極錐|双対錐体]]、[[双対問題]]のような)双対性などが含まれる。しかし線型代数学において任意のベクトル空間やアフィン空間が標準空間に同型となるのとは異なり、任意の凸集合や錐体が単体や象限に同型となるわけではない。むしろ単体から多面体の'''上へ'''の写像が{{仮リンク|一般化された重心座標系|en|Generalized_barycentric_coordinates}}によって常に存在し、またその双対写像として多面体から(面の数と等しい次元の)象限の中への写像が{{仮リンク|スラック変数|en|Slack variable}}によって存在するが、これらが同型となることは稀である(ほとんどの多面体は単体でも象限でもない)。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{reflist|group=nb}}
=== 出典 ===
{{reflist|colwidth=20em}}
== 参考文献 ==
=== 線型代数学に関するもの ===
* {{Citation | last1=Artin | first1=Michael | author1-link=ミハイル・アルティン | title=Algebra | publisher=[[:en:Prentice Hall|Prentice Hall]] | isbn=978-0-89871-510-1 | year=1991}}
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* {{Lang Algebra}}
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* {{it icon}} {{Citation | last1=Peano | first1=Giuseppe | author1-link=ジュゼッペ・ペアノ | title=Calcolo Geometrico secondo l'Ausdehnungslehre di H. Grassmann preceduto dalle Operazioni della Logica Deduttiva | year=1888 | location=Turin}}
=== 発展的話題に関するもの ===
* {{Citation | last1=Ashcroft | first1=Neil | last2=Mermin | first2=N. David | author2-link=:en:Mermin | title=Solid State Physics | publisher=Thomson Learning | location=Toronto | isbn=978-0-03-083993-1 | year=1976}}
* {{Citation | last1=Atiyah | first1=Michael Francis | author1-link=マイケル・アティヤ | title=K-theory | publisher=[[:en:Addison-Wesley|Addison-Wesley]] | edition=2nd | series=Advanced Book Classics | isbn=978-0-201-09394-0 | mr=1043170 | year=1989}}
* {{Citation | last1=Bourbaki | first1=Nicolas | author1-link=ニコラ・ブルバキ | title=Elements of Mathematics : Algebra I Chapters 1-3 | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | isbn=978-3-540-64243-5 | year=1998}}
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* {{Citation | last1=Eisenbud | first1=David | author1-link=:en:David Eisenbud | title=Commutative algebra | publisher=[[Springer-Verlag]] | location=Berlin, New York | series=Graduate Texts in Mathematics | id={{ISBN2|978-0-387-94268-1|978-0-387-94269-8}}| mr=1322960 | year=1995 | volume=150}}
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* {{Citation | last1=Luenberger | first1=David | title=Optimization by vector space methods | publisher=[[John Wiley & Sons]] | location=New York | isbn=978-0-471-18117-0 | year=1997}}
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* {{Citation | last1=Misner | first1=Charles W. | author1-link=チャールズ・マイスナー | last2=Thorne | first2=Kip | author2-link=:en:Kip Thorne | last3=Wheeler | first3=John Archibald | author3-link=:en:John Archibald Wheeler | title=[[:en:Gravitation (book)|Gravitation]] | publisher=W. H. Freeman | isbn=978-0-7167-0344-0 | year=1973}}
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* {{de icon}} {{Citation | last1=Schönhage | first1=A. | author1-link=:en:Arnold Schönhage | last2=Strassen | first2=Volker | author2-link=フォルカー・シュトラッセン | title=Schnelle Multiplikation großer Zahlen (Fast multiplication of big numbers) | url=http://www.springerlink.com/content/y251407745475773/fulltext.pdf | year=1971 | journal=Computing | issn=0010-485X | volume=7 | pages=281–292}}
* {{Citation | last1=Spivak | first1=Michael | author1-link=:en:Michael Spivak | title=A Comprehensive Introduction to Differential Geometry (Volume Two) | publisher=Publish or Perish | location=Houston, TX | year=1999}}
* {{Citation | last1=Stewart | first1=Ian | authorlink=イアン・スチュアート (数学者) | title=Galois Theory | year=1975 | publisher=[[:en:Chapman and Hall|Chapman and Hall]] | isbn=0-412-10800-3 | location=London | series=Chapman and Hall Mathematics Series }}
* {{Citation | last1=Varadarajan | first1=V. S. | title=Lie groups, Lie algebras, and their representations | publisher=[[:en:Prentice Hall|Prentice Hall]] | isbn=978-0-13-535732-3 | year=1974}}
* {{Citation | last1=Wallace | first1=G.K. | title=The JPEG still picture compression standard | date=Feb 1992 | journal=IEEE Transactions on Consumer Electronics | issn=0098-3063 | volume=38 | issue=1 | pages=xviii–xxxiv}}
* {{Weibel IHA}}
== 関連項目 ==
* [[線型代数学]]
* [[直交座標系]]
* [[空間ベクトル]] - 物理学におけるベクトル
* [[次数付き線型空間]]
* [[距離空間]]
* {{仮リンク|p-ベクトル|en|p-vector|label={{mvar|p}}-ベクトル}}([[外積代数]]の元)
* [[リース・フィッシャーの定理]]
* [[空間 (数学)]]
== 外部リンク ==
*{{Kotobank|ベクトル空間}}
* {{MathWorld|urlname=VectorSpace|title=Vector Space}}
* {{PlanetMath|urlname=VectorSpace|title=vector space}}
* [http://ocw.mit.edu/courses/mathematics/18-06-linear-algebra-spring-2010/video-lectures/lecture-9-independence-basis-and-dimension/ A lecture] about fundamental concepts related to vector spaces (given at [[MIT]])
* [https://code.google.com/archive/p/esla A graphical simulator] for the concepts of span, linear dependency, base and dimension
{{Linear algebra}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:へくとるくうかん}}
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:線型代数学]]
[[Category:代数的構造]]
[[Category:ベクトル空間|*]] | 2003-04-27T17:17:53Z | 2023-11-16T00:30:26Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB%E7%A9%BA%E9%96%93 |
7,373 | アーベル群 | 数学、とくに抽象代数学におけるアーベル群(アーベルぐん、英: abelian group)または可換群(かかんぐん、英: commutative group)は、群演算が可換な群、すなわちどの二つの元の積も掛ける順番に依らず定まる群を言う。名称は、ノルウェーの数学者ニールス・アーベルに因む。
アーベル群は環や体、環上の加群やベクトル空間といった抽象代数学の概念において、その基礎となる加法に関する群(加法群)としてしばしば生じる。任意の抽象アーベル群についても、しばしば加法的な記法(例えば群演算は "+" を用いて表され、逆元は負符号を元の前に付けることで表す)が用いられ、その場合に用語の濫用で「加法群」と呼ばれることがある。また任意のアーベル群は整数全体の成す環 Z 上の加群とみることができ、その意味でやはり用語の濫用だがアーベル群のことを「加群」と呼ぶこともある。
一般に可換群は非可換群(英語版)に比べて著しく容易であり、とくに有限アーベル群の構造は具さに知られているが、それでも無限アーベル群論はいまなお活発な研究領域である。
集合 G に二項演算("*" と書くことにする)が定義されていて、以下の条件
(ただし、a, b, c は G の任意の元)を全て満たすとき、G と演算 "*" の組 (G, *) をアーベル群という。考えている演算があきらかなときは省略して単に G をアーベル群と呼ぶ。
アーベル群ではしばしば演算子を "+" と記す。このとき単位元を零元と呼んで 0 などで表し、逆元も −a のように負符号を用いて表してマイナス元あるいは反数ともよぶ。また、a + (−b) は a − b と書かれ、a から b を引くという減法が定義される。このような記法を加法的な記法と呼び、対して先に述べたような通常の群でよく使われる記法を乗法的な記法ということがある。アーベル群の定義を加法的に記せば
のようになる。
自然数 n と加法的に書かれたアーベル群 G の元 x に対して、x の n-重累加(n 個の和)を nx = x + x + ⋯ + x とし、(−n)x = −(nx) と定めれば、これにより G は整数全体の成す可換環 Z 上の加群とすることができる。実は Z-加群の概念はアーベル群の概念と同じものと考えることができる。
(主イデアル整域たる Z 上の加群としての)アーベル群に関する諸定理は、しばしば任意の主イデアル整域上の加群に関する定理にまで一般化することができる。その典型が有限生成アーベル群の分類定理であり、これをPID上有限生成加群の構造定理の特別の場合とみることができる。有限生成アーベル群の場合、この定理によりそのような任意のアーベル群がねじれ群と自由アーベル群の直和に分解できることが保証される。そのときのねじれ群は、適当な素数 p に対する素冪位数巡回群 Z/pZ の形の群の有限個の直和であり、自由アーベル群は無限巡回群 Z の有限個のコピーの直和になっている。
アーベル群の間の二つの群準同型 f, g: G → H に対し、それらの和 f + g は (f + g) (x) = f(x) + g(x) (∀x ∈ G) で定義され、これもまた一つの群準同型を与える(これが準同型となるために H の可換性は必要である)。これにより、G から H への群準同型全体の成す集合 Hom(G, H) はそれ自身ひとつのアーベル群となる。
ベクトル空間の次元のようなものとして、任意のアーベル群は階数と呼ばれるものを持つ。整数の加法群 Z および有理数の加法群 Q は階数 1 であり、Q の任意の部分群についても同様である。
一般の群 G の中心 Z(G) は G の任意の元と交換する G の元全体の成す部分群であった。明らかに群 G が可換であるための必要十分条件は G が中心 Z(G) に一致することである。中心 Z(G) は必ず G の特性部分アーベル群となる。中心で割った剰余群 G/Z(G) が巡回群ならば G はアーベルである。
整数全体のなす加法群の法 n に関する剰余類の成す巡回群 Z/nZ は有限アーベル群のもっとも単純な例として挙げることができるが、逆に任意の有限アーベル群は適当な素数冪に対するこの形の有限巡回群の直和に同型であり、そのときそれら直和因子の位数は全体として一意に決定され、与えられた有限アーベル群の不変系 (complete system of invariants) と呼ばれる。有限アーベル群の自己同型群はその不変系によって直接的に記述することができる。有限アーベル群の理論はフロベニウスとシュティッケルベルガー(英語版)の1879年の論文に始まり、のちに整理され主イデアル整域上の有限生成加群にまで一般化されて、線型代数学の重要な章を成すものとなった(単因子論)。
素数位数の任意の群は巡回群に同型であり、ゆえにアーベル群である。また、位数が素数の平方であるような任意の群はアーベル群となる。実は任意の素数 p に対して位数 p の群は、同型を除いて Z/pZ と Z/pZ × Z/pZ のちょうど二種類しかない。
これは有限生成アーベル群の基本定理の特別の場合(階数 0 の場合)である。位数 mn の巡回群 Z/mnZ が Z/mZ と Z/nZ の直和に同型となるための必要十分条件は m と n が互いに素となることである(中国の剰余定理)。これにより任意の有限アーベル群 G が
なるかたちの直和に同型となることが従うが、位数 ki に関しては標準的に二種類:
の仮定のうちの何れかを課すことで一意に定まる。
もっとも単純な無限アーベル群は無限巡回群 Z である。任意の有限生成アーベル群 A は Z の適当な r 個のコピーと有限個の素冪位数巡回群の直和に分解可能なアーベル群との直和に同型である。この場合、分解は一意ではないけれども、上記の定数 r は一意に定まり(A の階数と呼ばれる)、分解に現れる素数冪は全体として有限巡回直和因子すべての位数を一意的に決定する。
これと対照に、一般の無限生成アーベル群の分類は完全とは程遠いものしか知られていないことを理解しなければならない。可除群(任意の自然数 n と a ∈ A に対し方程式 nx = a が常に解 x ∈ A を持つような群 A)は完全な特徴づけが知られている無限アーベル群の重要なクラスの一つである。任意の可除群は、有理数の加法群 Q といくつか適当な素数 p に対するプリューファー群 Qp/Zp を直和因子に持つ直和に同型で、それぞれの種類の直和因子の数は濃度の意味で一意に決定される。さらに言えば、可除群 A が何らかのアーベル群 G の部分群となるとき、A は G における直和補因子を持つ(すなわち、G の適当な部分群 C で G = A ⊕ C なるものがとれる)。したがって、可除群はアーベル群の圏における入射対象であり、逆に任意の入射アーベル群は可除である(ベーアの判定法(英語版))。非零可除部分群を持たないアーベル群は被約 (reduced) であるという。
対極的な性質を持つ無限アーベル群の重要な二つのクラスに、ねじれ群(英語版)とねじれのない群(英語版)がある。例えば、加法群の商 Q/Z はねじれアーベル群の、加法群 Q はねじれのないアーベル群のそれぞれ例になっている。
ねじれ群でもねじれのない群でもないアーベル群は混合群 (mixed group) という。アーベル群 A とその(最大)ねじれ部分群 T(A) に対して、剰余群 A/T(A) はねじれがない。しかし一般に、ねじれ部分群は A の直和因子とは限らない(つまり A は T(A) ⊕ A/T(A) に同型でない)から、混合群の理論はねじれ群とねじれのない群の理論を単純に合わせればよいという話にはならない。 | [
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"text": "ねじれ群でもねじれのない群でもないアーベル群は混合群 (mixed group) という。アーベル群 A とその(最大)ねじれ部分群 T(A) に対して、剰余群 A/T(A) はねじれがない。しかし一般に、ねじれ部分群は A の直和因子とは限らない(つまり A は T(A) ⊕ A/T(A) に同型でない)から、混合群の理論はねじれ群とねじれのない群の理論を単純に合わせればよいという話にはならない。",
"title": "無限アーベル群"
}
] | 数学、とくに抽象代数学におけるアーベル群または可換群は、群演算が可換な群、すなわちどの二つの元の積も掛ける順番に依らず定まる群を言う。名称は、ノルウェーの数学者ニールス・アーベルに因む。 アーベル群は環や体、環上の加群やベクトル空間といった抽象代数学の概念において、その基礎となる加法に関する群(加法群)としてしばしば生じる。任意の抽象アーベル群についても、しばしば加法的な記法が用いられ、その場合に用語の濫用で「加法群」と呼ばれることがある。また任意のアーベル群は整数全体の成す環 Z 上の加群とみることができ、その意味でやはり用語の濫用だがアーベル群のことを「加群」と呼ぶこともある。 一般に可換群は非可換群に比べて著しく容易であり、とくに有限アーベル群の構造は具さに知られているが、それでも無限アーベル群論はいまなお活発な研究領域である。 | {{出典の明記|date=2016年12月}}
{{Group theory sidebar|Basics}}
{{代数的構造}}
<!--{{Algebraic structures |Group}}-->
[[数学]]、とくに[[抽象代数学]]における'''アーベル群'''(アーベルぐん、{{lang-en-short|''abelian group''}}{{efn|[[エポニム|人名に由来する名称]]なので、通常は Abelian group と A を大文字にすべきところであるが、しばしばアーベル群は数学のあらゆるところに遍在するという意味を込めて "abelian" と記される。<ref>{{cite web|url=http://www.maa.org/devlin/devlin_04_04.html|archive-url=https://web.archive.org/web/20130701231658/http://www.maa.org/devlin/devlin_04_04.html |archive-date=1 July 2013|dead-url=yes|access-date=3 July 2016|title=Abel Prize Awarded: The Mathematicians' Nobel}}</ref>}})または'''可換群'''(かかんぐん、{{lang-en-short|''commutative group''}})は、[[二項演算|群演算]]が[[交換法則|可換]]な[[群 (数学)|群]]、すなわちどの二つの元の積も掛ける順番に依らず定まる群を言う。名称は、ノルウェーの数学者[[ニールス・アーベル]]に因む{{sfn|Jacobson|2009|p=41}}{{efn|命名者は[[カミーユ・ジョルダン]]であり「[[多項式]](の根)の対称性の群が可換であるならば、多項式の根が{{仮リンク|根号を用いて解ける|en|solvability by radicals|label=根号を用いて計算できる}}ことが導かれる」ことをアーベルが示したことを由来とする。<ref>{{cite book |last=Cox |first=David |date=2004 |title=Galois Theory |publisher=[[Wiley-Interscience]] |mr=2119052 }} {{google books quote|id=96P8lsAF7fcC|page=143|Section 6.5 Abelian Equations}}</ref>}}。
アーベル群は[[環 (数学)|環]]や[[体 (数学)|体]]、[[環上の加群]]や[[ベクトル空間]]といった抽象代数学の概念において、その基礎となる'''加法'''に関する群([[加法群]])としてしばしば生じる。任意の抽象アーベル群についても、しばしば'''加法的な記法'''(例えば群演算は "+" を用いて表され、逆元は負符号を元の前に付けることで表す)が用いられ、その場合に[[用語の濫用]]で「加法群」と呼ばれることがある。また任意のアーベル群は[[整数]]全体の成す環 {{math|'''Z'''}} 上の加群とみることができ、その意味でやはり用語の濫用だがアーベル群のことを「加群」と呼ぶこともある。
一般に可換群は{{仮リンク|非可換群|en|non-abelian group}}に比べて著しく容易であり、とくに有限アーベル群の構造は具さに知られているが、それでも無限アーベル群論はいまなお活発な研究領域である。
== 定義 ==
{{Group-like structures}}
{{seealso|加法群|乗法群}}
[[集合]] ''G'' に[[二項演算]]("*" と書くことにする)が定義されていて、以下の条件
# [[結合法則]]: <math>a * (b * c) = (a * b) * c</math>.
# [[単位元]]の存在:<math>\exists1;\ a * 1 = 1 * a = a</math>.
# [[逆元]]の存在: <math>\forall a, \exists a^{-1};\ a * a^{-1} = a^{-1} * a = 1</math>.
# [[交換法則]]: <math>a * b = b * a</math>.
(ただし、''a'', ''b'', ''c'' は ''G'' の任意の元)を全て満たすとき、''G'' と演算 "*" の組 (''G'', *) を'''アーベル群'''という。考えている演算があきらかなときは省略して単に ''G'' をアーベル群と呼ぶ。
アーベル群ではしばしば演算子を "+" と記す。このとき単位元を[[加法単位元|零元]]と呼んで 0 などで表し、逆元も −''a'' のように[[プラス記号とマイナス記号|負符号]]を用いて表して'''マイナス元'''あるいは'''反数'''ともよぶ。また、''a'' + (−''b'') は ''a'' − ''b'' と書かれ、''a'' から ''b'' を引くという[[減法]]が定義される。このような記法を'''加法的な記法'''と呼び、対して先に述べたような通常の群でよく使われる記法を'''乗法的な記法'''ということがある。アーベル群の定義を加法的に記せば
# 結合法則: <math>a + (b + c) = (a + b) + c</math>.
# [[加法単位元|零元]]の存在: <math>\exists 0;\ a + 0 = 0 + a = a</math>.
# マイナス元の存在: <math>\forall a, \exists -a;\ a + (-a) = (-a) + a = 0</math>.
# 交換法則: <math>a + b = b + a</math>.
のようになる。
== 例 ==
* [[整数]]の全体 '''Z'''、[[有理数]]の全体 '''Q'''、[[実数]]の全体 '''R'''、[[複素数]]の全体 '''C''' は全て通常の[[加法]]に関してアーベル群である。一方 [[自然数]]の全体 '''N''' は加法(の逆演算としての[[減法]])に関して閉じていないのでアーベル群ではない。
* 乗法に関し、有理数全体の集合 '''Q''' は 0 の逆元が無いので群にならないが、'''Q''' から 0 を除いた集合(これを慣習的に '''Q'''<sup>*</sup> と書く)で乗法を考えたものは群になり(乗法群と言われる)、これもアーベル群の例である。同様に、0 以外の実数全体 '''R'''<sup>*</sup> や 0 以外の複素数全体 '''C'''<sup>*</sup> も乗法に関してアーベル群となる。また例えば 0 以外の整数の全体 '''Z'''<sup>*</sup> は乗法に関して群にはならないが、その部分集合 {±1} は乗法に関するアーベル群である。
* [[楕円曲線]] ''y''<sup>2</sup> = ''x''<sup>3</sup> + ''ax'' + ''b'' の解集合には、加法を定義することができ、アーベル群になる。
== 性質 ==
[[自然数]] {{mvar|n}} と加法的に書かれたアーベル群 {{mvar|G}} の元 {{mvar|x}} に対して、{{mvar|x}} の {{mvar|n}}-重累加(''n'' 個の和)を {{math|1=''nx'' = ''x'' + ''x'' + ⋯ + ''x''}} とし、{{math|1=(−''n'')''x'' = −(''nx'')}} と定めれば、これにより、 {{mvar|G}} を "[[整数]]全体の成す[[可換環]] {{math|'''Z'''}} 上の[[環上の加群|加群]]" とみなすことができる。実は {{math|'''Z'''}}-加群の概念をアーベル群の概念と同じものと考えることができる。
([[主イデアル整域]]たる {{math|'''Z'''}} 上の加群としての)アーベル群に関する諸定理は、しばしば任意の主イデアル整域上の加群に関する定理にまで一般化することができる。その典型が[[有限生成アーベル群]]の分類定理であり、これを[[PID上有限生成加群の構造定理]]の特別の場合とみることができる。有限生成アーベル群の場合、この定理によりそのような任意のアーベル群が[[ねじれ群]]と[[自由アーベル群]]の[[群の直和|直和]]に分解できることが保証される。そのときのねじれ群は、適当な素数 {{mvar|p}} に対する素冪位数巡回群 {{math|'''Z'''/''p''<sup>k</sup>'''Z'''}} の形の群の有限個の直和であり、自由アーベル群は無限巡回群 {{math|'''Z'''}} の有限個のコピーの直和になっている。
アーベル群の間の二つの[[群準同型]] {{math|''f'', ''g'': ''G'' → ''H''}} に対し、それらの和 {{math|''f'' + ''g''}} は {{math|1=(''f'' + ''g'') (''x'') = ''f''(''x'') + ''g''(''x'') (∀''x'' ∈ ''G'')}} で定義され、これもまた一つの群準同型を与える(これが準同型となるために {{mvar|H}} の可換性は必要である)。これにより、{{mvar|G}} から {{mvar|H}} への群準同型全体の成す集合 {{math|Hom(''G'', ''H'')}} はそれ自身ひとつのアーベル群となる。
[[ベクトル空間]]の[[次元 (線型代数学)|次元]]のようなものとして、任意のアーベル群は[[アーベル群のランク|階数]]と呼ばれるものを持つ。整数の加法群 {{math|'''Z'''}} および[[有理数]]の加法群 {{math|'''Q'''}} は階数 {{math|1}} であり、{{math|'''Q'''}} の任意の部分群についても同様である。
一般の群 {{mvar|G}} の[[群の中心|中心]] {{math|''Z''(''G'')}} は {{mvar|G}} の任意の元と交換する {{mvar|G}} の元全体の成す部分群であった。明らかに群 {{mvar|G}} が可換であるための必要十分条件は {{mvar|G}} が中心 {{math|''Z''(''G'')}} に一致することである。中心 {{math|''Z''(''G'')}} は必ず {{mvar|G}} の[[特性部分群|特性]]部分アーベル群となる。中心で割った剰余群 {{math|''G''/''Z''(''G'')}} が[[巡回群]]ならば {{mvar|G}} はアーベルである<ref>Rose 2012, p. 48</ref>。
== 有限アーベル群 ==
{{main|有限アーベル群}}
整数全体のなす加法群の法 {{mvar|n}} に関する剰余類の成す巡回群 [[剰余類環|{{math|'''Z'''/{{mvar|n}}'''Z'''}}]] は有限アーベル群のもっとも単純な例として挙げることができるが、逆に任意の有限アーベル群は適当な素数冪に対するこの形の有限巡回群の直和に同型であり、そのときそれら直和因子の位数は全体として一意に決定され、与えられた有限アーベル群の'''不変系''' (complete system of invariants) と呼ばれる。有限アーベル群の[[自己同型群]]はその不変系によって直接的に記述することができる。有限アーベル群の理論は[[フェルディナント・ゲオルク・フロベニウス|フロベニウス]]と{{仮リンク|ルトヴィク・シュティッケルベルガー|en|Ludwig Stickelberger|label=シュティッケルベルガー}}の1879年の論文に始まり、のちに整理され主イデアル整域上の有限生成加群にまで一般化されて、[[線型代数学]]の重要な章を成すものとなった([[単因子]]論)。
素数位数の任意の群は巡回群に同型であり、ゆえにアーベル群である。また、位数が素数の平方であるような任意の群はアーベル群となる<ref>Rose 2012, p. 79</ref>。実は任意の素数 {{mvar|p}} に対して位数 {{math|''p''{{exp|2}}}} の群は、[[同型を除いて]] {{math|'''Z'''/{{mvar|p}}{{exp|2}}'''Z'''}} と {{math|'''Z'''/{{mvar|p}}'''Z''' × '''Z'''/{{mvar|p}}'''Z'''}} のちょうど二種類しかない。
; 有限アーベル群の基本定理
: 任意の有限アーベル群 {{mvar|G}} は[[素数|素]]冪位数の巡回群の[[群の直和|直和]]に表される。
これは[[有限生成アーベル群の基本定理]]の特別の場合(階数 {{math|0}} の場合)である。位数 {{mvar|mn}} の巡回群 {{math|'''Z'''/{{mvar|mn}}'''Z'''}} が {{math|'''Z'''/{{mvar|m}}'''Z'''}} と {{math|'''Z'''/{{mvar|n}}'''Z'''}} の直和に同型となるための必要十分条件は {{mvar|m}} と {{mvar|n}} が[[互いに素 (整数論)|互いに素]]となることである([[中国の剰余定理]])。これにより任意の有限アーベル群 {{mvar|G}} が
: <math>\bigoplus_{i=1}^{u} \mathbf{Z}/k_i\mathbf{Z}</math>
なるかたちの直和に同型となることが従うが、位数 {{mvar|k{{sub|i}}}} に関しては標準的に二種類:
* 各数 {{math|''k''<sub>1</sub>, …, ''k''<sub>''u''</sub>}} はそれぞれ適当な素数の冪である
* {{math|''k''<sub>1</sub>}} は {{math|''k''<sub>2</sub>}} を割り切り、{{math|''k''<sub>2</sub>}} は {{math|''k''<sub>3</sub>}} を割り切り、… {{math|''k''<sub>''u''−1</sub>}} は {{math|''k''<sub>''u''</sub>}} を割り切る
の仮定のうちの何れかを課すことで一意に定まる。
== 無限アーベル群 ==
もっとも単純な無限アーベル群は[[無限巡回群]] {{math|'''Z'''}} である。任意の[[有限生成アーベル群]] {{mvar|A}} は {{math|'''Z'''}} の適当な {{mvar|r}} 個のコピーと有限個の素冪位数[[巡回群]]の直和に分解可能なアーベル群との直和に同型である。この場合、分解は一意ではないけれども、上記の定数 {{mvar|r}} は一意に定まり({{mvar|A}} の[[アーベル群のランク|階数]]と呼ばれる)、分解に現れる素数冪は全体として有限巡回直和因子すべての位数を一意的に決定する。
これと対照に、一般の無限生成アーベル群の分類は完全とは程遠いものしか知られていないことを理解しなければならない。[[可除群]](任意の自然数 {{mvar|n}} と {{math|''a'' ∈ ''A''}} に対し方程式 {{math|1=''nx'' = ''a''}} が常に解 {{math|''x'' ∈ ''A''}} を持つような群 {{mvar|A}})は完全な特徴づけが知られている無限アーベル群の重要なクラスの一つである。任意の可除群は、有理数の加法群 {{math|'''Q'''}} といくつか適当な素数 {{mvar|p}} に対する[[プリューファー群]] {{math|'''Q'''<sub>''p''</sub>/'''Z'''<sub>''p''</sub>}} を直和因子に持つ直和に同型で、それぞれの種類の直和因子の数は濃度の意味で一意に決定される{{efn|For example, {{nowrap|'''Q'''/'''Z''' ≅ ∑<sub>''p''</sub> '''Q'''<sub>''p''</sub>/'''Z'''<sub>''p''</sub>}}.}}。さらに言えば、可除群 {{mvar|A}} が何らかのアーベル群 {{mvar|G}} の部分群となるとき、{{mvar|A}} は {{mvar|G}} における直和補因子を持つ(すなわち、{{mvar|G}} の適当な部分群 {{mvar|C}} で {{math|1=''G'' = ''A'' ⊕ ''C''}} なるものがとれる)。したがって、可除群はアーベル群の圏における[[入射加群|入射対象]]であり、逆に任意の入射アーベル群は可除である({{仮リンク|ベーアの判定法|en|Baer's criterion}})。非零可除部分群を持たないアーベル群は'''被約''' (''reduced'') であるという。
対極的な性質を持つ無限アーベル群の重要な二つのクラスに、{{仮リンク|ねじれアーベル群|en|Torsion abelian group|label=ねじれ群}}と{{仮リンク|ねじれのないアーベル群|label=ねじれのない群|en|Torsion-free abelian group}}がある。例えば、加法群の商 {{math|'''Q'''/'''Z'''}} はねじれアーベル群の、加法群 {{math|'''Q'''}} はねじれのないアーベル群のそれぞれ例になっている。
ねじれ群でもねじれのない群でもないアーベル群は混合群 (mixed group) という。アーベル群 {{mvar|A}} とその(最大)ねじれ部分群 {{math|''T''(''A'')}} に対して、剰余群 {{math|''A''/''T''(''A'')}} はねじれがない。しかし一般に、ねじれ部分群は {{mvar|A}} の直和因子とは限らない(つまり {{mvar|A}} は {{math|''T''(''A'') ⊕ ''A''/''T''(''A'')}} に同型でない)から、混合群の理論はねじれ群とねじれのない群の理論を単純に合わせればよいという話にはならない。
== 関連項目 ==
* [[アーベル群の圏]]
* [[アーベル圏]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
<references group="注釈"/>
=== 出典 ===
<references />
== 参考文献 ==
* {{Citation | last= Jacobson | first= Nathan | date= 2009| title= Basic Algebra I | edition= 2nd | publisher= [[Dover Publications]] | isbn= 978-0-486-47189-1}}
* {{cite book |last=Rose |first=John S. |date=2012 |title=A Course on Group Theory |publisher=Dover Publications |isbn=0-486-68194-7|ref=harv}} Unabridged and unaltered republication of a work first published by the [[Cambridge University Press]], [[Cambridge]], England, in 1978.
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:ああへるくん}}
[[Category:群論]]
[[Category:代数的構造]]
[[Category:ニールス・アーベル]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:アーベル群論|*]]
[[Category:数学のエポニム]] | 2003-04-27T17:43:37Z | 2023-10-10T11:18:47Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E7%BE%A4 |
7,374 | ニールス・アーベル | ニールス・ヘンリック・アーベル(Niels Henrik Abel ノルウェー語: [ˈɑ̀ːbl̩]、1802年8月5日 - 1829年4月6日)は、ノルウェーの数学者。
1818年に、数学教師ベルント・ミハエル・ホルンボエ(英語版)に出会ってから、数学に興味を抱くようになった。友人達とヨーロッパ中を回って長く遊学し、オーガスト・レオポルト・クレレ(英語版)と知遇を得て、クレレの雑誌に多数の研究論文を掲載した。ヤコビやルジャンドルはアーベルの業績を認めていたが、ガウスはアーベルの研究論文に不快感を示し、コーシーは彼の論文をまともに審査しないまま放置するなど、アーベルには正当な評価が与えられなかった。帰国後はクリスチャニア大学に臨時講師を勤めたが、病気(結核及び併発した肝機能障害)のために26歳で世を去った。
しかし、彼が当時世界最高レベルといわれた数学の総本山パリ科学アカデミーへ提出した「超越関数の中の非常に拡張されたものの一般的な性質に関する論文」こそ、のちに“青銅よりも永続する記念碑”と謳われ、後代の数学者に500年分の仕事を残してくれたとまで言われた不滅の大論文だった。
5次以上の代数方程式には、冪根 √ と四則演算だけで書けるような一般的な解の公式が存在しないことに、初めて正確な証明を与えた。この業績についてはアーベル以前にもパオロ・ルフィニの重要な貢献があるが、ルフィニによる証明は必ずしも完全ではなかったとされている。
アーベルが中心的に扱ったのは楕円関数とアーベル関数に関する研究である。アーベルはガウスの著作にある、レムニスケートの等分問題から楕円積分の逆関数の研究に取り組み、ガウスの研究(完璧主義のため、生前には公表されなかった)を独自に発見することになった。楕円関数論のアーベルの定理とは、楕円関数の極と零点に関する合同式である。研究上のライバルであったヤコビはアーベルの論文を目にして「私には批評もできない、大論文」と最大限の賛辞をおくったといわれる。ヤコビはアーベルの定理を利用してヤコビの逆問題を示して、その後の研究の目標を新たに与えることになる。
可換な群を指す「アーベル群」など数学用語にも名を残している。無限級数の収束に関するアーベルの定理も著名だが、他にも無限級数の一様収束を初めて注意したことで知られる。
その他にも、アーベル方程式、アーベル積分、アーベル関数、アーベル多様体、遠アーベル幾何学などアーベルの名を冠している数学用語は多い。
方程式が可解であるための条件を明らかにしたガロアとともに、若くして悲劇的な死をとげた19世紀の数学者として広く知られている。
死後の1830年には、フランス学士院数学部門大賞を受賞した。
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] | ニールス・ヘンリック・アーベルは、ノルウェーの数学者。 | [[Image:Niels Henrik Abel.jpg|thumb|right|180px|ニールス・アーベル]]
'''ニールス・ヘンリック・アーベル'''(Niels Henrik Abel {{IPA-no|ˈɑ̀ːbl̩|lang}}、[[1802年]][[8月5日]] - [[1829年]][[4月6日]])は、[[ノルウェー]]の[[数学者の一覧#1801年 - 1810年生まれの有名な数学者|数学者]]。
== 年表 ==
* [[1802年]][[8月5日]] - [[ノルウェー]]のフィンドー(Findö)の牧師の家に生まれる。
* [[1815年]]11月 - [[クリスチャニア大学]]のカテドラル・スクールに入学。
* [[1818年]] - 数学教師{{仮リンク|ホルンボエ|en|Bernt Michael Holmboe}}に影響され、数学に目覚める。
* [[1820年]] - 父{{仮リンク|セーレン・ゲオルク・アーベル|en|Søren Georg Abel}}死去。
* [[1821年]]7月 - カテドラル・スクール卒業。大学に入学。
* [[1822年]]6月 - 哲学候補資格が与えられる。
* [[1823年]] - 「積分についての論文」発表。
* [[1824年]] - 「5次の一般方程式の解法の不可能性を証明する代数方程式に関する論文」を自費出版。「振り子の運動における月の影響についての論文」発表。
* 1824年12月 - クリスティーヌと婚約。
* [[1825年]]9月-[[1826年]]2月 - [[ベルリン]]に留学。[[アウグスト・レオポルト・クレーレ]]と知り合う。
* 1826年7月-1826年12月 - [[パリ]]に留学。「パリ論文」を科学アカデミーに提出。
* [[1827年]]1月-1827年5月 - ベルリンに留学。
* 1827年[[5月20日]] - ノルウェーに帰国。
* 1827年[[9月20日]] - 「楕円関数に関する研究 第1部」発表。
* [[1828年]][[5月26日]] - 「楕円関数に関する研究 第2部」発表。
* 1828年[[5月27日]] - 「ある一般的な問題の解答」を「天文学報告」に送る。
* [[1829年]][[1月6日]] - 「[[超越関数]]の中の非常に拡張されたものの一般的な性質に関する論文」完成。
* 1829年[[4月6日]] - [[肺結核]]により死亡。
*[[1830年]] - [[パリ科学アカデミー]]が[[グランプリ]]を贈る。
== 業績 ==
[[1818年]]に、数学教師{{仮リンク|ベルント・ミハエル・ホルンボエ|en|Bernt Michael Holmboe}}に出会ってから、数学に興味を抱くようになった。友人達とヨーロッパ中を回って長く遊学し、{{仮リンク|オーガスト・レオポルト・クレレ|en|August Leopold Crelle}}と知遇を得て、[[クレレ誌|クレレの雑誌]]に多数の研究論文を掲載した。[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ|ヤコビ]]や[[アドリアン=マリ・ルジャンドル|ルジャンドル]]はアーベルの業績を認めていたが、[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]はアーベルの研究論文に不快感を示し、[[オーギュスタン=ルイ・コーシー|コーシー]]は彼の論文をまともに審査しないまま放置するなど、アーベルには正当な評価が与えられなかった。帰国後はクリスチャニア大学に臨時講師を勤めたが、病気([[結核]]及び併発した肝機能障害)のために26歳で世を去った。
しかし、彼が当時世界最高レベルといわれた数学の総本山パリ[[科学アカデミー (フランス)|科学アカデミー]]へ提出した「[[超越関数]]の中の非常に拡張されたものの一般的な性質に関する論文」こそ、のちに“青銅よりも永続する記念碑”と謳われ、後代の数学者に500年分の仕事を残してくれたとまで言われた不滅の大論文だった。
5次以上の代数方程式には、[[冪根]] <sup>n</sup>√ と[[四則演算]]だけで書けるような一般的な解の公式が存在しないことに、初めて正確な証明を与えた。この業績についてはアーベル以前にも[[パオロ・ルフィニ]]の重要な貢献があるが、ルフィニによる証明は必ずしも完全ではなかったとされている。
アーベルが中心的に扱ったのは[[楕円関数]]とアーベル関数に関する研究である。アーベルは[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]の著作にある、[[レムニスケート]]の等分問題から[[楕円積分]]の[[逆関数]]の研究に取り組み、ガウスの研究(完璧主義のため、生前には公表されなかった)を独自に発見することになった。楕円関数論のアーベルの定理とは、楕円関数の極と零点に関する合同式である。研究上のライバルであった[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ|ヤコビ]]はアーベルの論文を目にして「私には批評もできない、大論文」と最大限の賛辞をおくったといわれる。ヤコビはアーベルの定理を利用してヤコビの逆問題を示して、その後の研究の目標を新たに与えることになる。
[[可換]]な[[群論|群]]を指す「[[アーベル群]]」など数学用語にも名を残している。[[無限級数]]の収束に関するアーベルの定理も著名だが、他にも無限級数の一様収束を初めて注意したことで知られる。
その他にも、[[アーベル方程式]]、[[アーベル積分]]、[[アーベル関数]]、[[アーベル多様体]]、[[遠アーベル幾何学]]などアーベルの名を冠している数学用語は多い。
方程式が可解であるための条件を明らかにした[[エヴァリスト・ガロア|ガロア]]とともに、若くして悲劇的な死をとげた[[19世紀]]の数学者として広く知られている。
死後の[[1830年]]には、フランス学士院数学部門大賞を受賞した。
彼の名を冠する賞として、[[アーベル賞]]が[[2001年]]に創設された。またアーベルの肖像は長期にわたってノルウェーの500クローネ紙幣に描かれていた。
== 著書 ==
*{{Cite book|和書|author=アーベル|coauthors=[[エヴァリスト・ガロア|ガロア]]|others=[[守屋美賀雄]] 訳・解説|date=1975-04-20|title=群と代数方程式|series=現代数学の系譜 11|publisher=[[共立出版]]|isbn=4-320-01164-3|url=http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320011649|ref={{Harvid|アーベル|ガロア|1975}}}}
*{{Cite book|和書|author=アーベル|coauthors=ガロア|others=[[高瀬正仁]] 訳|date=1998-04-25|title=楕円関数論|series=数学史叢書|publisher=[[朝倉書店]]|isbn=4-254-11459-1|url=http://www.asakura.co.jp/books/isbn/978-4-254-11459-1/|ref={{Harvid|アーベル|ガロア|1998}}}}
== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=F.クライン|authorlink=フェリックス・クライン|others=[[石井省吾]]・[[渡辺弘]] 訳|year=1995|month=9|title=クライン:19世紀の数学|publisher=共立出版|isbn=4-641-06794-5|ref={{Harvid|クライン|石井|渡辺|1995}}}}
*{{Cite book|和書|author=高木貞治|authorlink=高木貞治|year=1995|month=8|title=近世数学史談|publisher=[[岩波書店]]|series=[[岩波文庫]] 青939-1|isbn=4-00-339391-0|ref={{Harvid|高木|1995}}}}
*{{Cite book|和書|author=高木貞治|year=1996|month=12|title=近世数学史談・数学雑談|publisher=[[共立出版]]|isbn=4-320-01551-7|ref={{Harvid|高木|1996}}}}
*{{Cite book|和書|editor=日本数学会|editor-link=日本数学会|year=2007|month=12|title=岩波数学辞典|edition=第4版|publisher=岩波書店|isbn=978-4-00-080309-0|ref={{Harvid|日本数学会|2007}}}}
*{{Cite book|和書|author=C.A.ビエルクネス|others=[[辻雄一]] 訳|year=1991|month=10|title=わが数学者アーベル その生涯と発見|publisher=現代数学社|isbn=4-7687-0305-4|ref={{Harvid|ビエルクネス|辻|1991}}}}
*{{Citation|last=Pesic|first=Peter|author-link=ピーター・ペジック|year=2004|date=February 27, 2004|title=Abel's Proof: An Essay on the Sources and Meaning of Mathematical Unsolvability|publisher=[[The MIT Press]]|edition=Paperback|isbn=0-262-66182-9}}
**{{Cite book|和書|author=ピーター・ペジック|authorlink=ピーター・ペジック|others=[[山下純一]] 訳|year=2005|month=3|title=アーベルの証明 「解けない方程式」を解く|publisher=[[日本評論社]]|isbn=4-535-78404-3|url=http://www.nippyo.co.jp/book/2540.html|ref={{Harvid|ペジック|山下|2005}}}} - 付録にアーベルの1824年の論文を収録。
*{{Cite book|和書|author=E.T.ベル|others=[[田中勇 (数学者)|田中勇]]・[[銀林浩]] 訳|year=2003|month=10|title=数学をつくった人びと 2|series=[[ハヤカワ文庫]] NF 284|publisher=[[早川書房]]|isbn=4-15-050284-6|ref={{Harvid|ベル|田中|銀林|2003}}}}
== 関連項目 ==
* [[楕円関数]]
* [[アーベル群]]
* [[アーベル-ルフィニの定理]]
* [[アーベル (クレーター)]]
== 脚注 ==
<references/>
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Niels Henrik Abel}}
* [https://www-history.mcs.st-andrews.ac.uk/Biographies/Abel.html Niels Henrik Abel] ''MacTutor History of Mathematics archive.''(英語)
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7,375 | ジャン=ピエール・セール | ジャン=ピエール・セール(フランス語: Jean-Pierre Serre, 1926年9月15日 - )は、フランスの数学者。ブルバキのメンバー。
1948年、パリ高等師範学校卒業。1951年にパリ第4大学パリ・ソルボンヌで博士号を取得。アンリ・カルタンに学び、はじめは複素解析や代数トポロジーを研究した。
28歳(最年少)でフィールズ賞を受賞。その後代数幾何学に傾倒していき、グロタンディークに多くの示唆を与え、SGA(英語版)4&5で作成された道具がヴェイユ予想に大きく貢献した。1956年にコレージュ・ド・フランス代数と幾何学講座教授就任。1994年にコレージュ・ド・フランス名誉教授。
業績として代数トポロジーにおけるスペクトル系列を発展させた(Leray(英語版)–Serreのスペクトル系列(英語版))。SerreのC理論による球面のホモトピー群の研究。GAGA (Géométrie Algébrique et Géométrie Analytique) で代数幾何において複素解析幾何学的手法を導入し、大きな成功を収めた。FAC (Faisceaux algébriques cohérents)を発表し、代数的連接層を構築。層の言葉とホモロジーを用いて代数幾何学、可換環論の書き直し、層係数コホモロジーを構成した。整数論における l 進表現論において、楕円曲線、L関数、モジュラー形式、アーベル多様体などに応用し多くの成果をあげた。p 進モジュラー形式の理論の構成、類体論への貢献、代数的K-理論への貢献。アーベル多様体に関するSerre–Tate理論。その他にリー群などにも業績がある。 | [
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'''ジャン=ピエール・セール'''({{lang-fr|Jean-Pierre Serre}}, [[1926年]][[9月15日]] - )は、[[フランス]]の[[数学者]]。[[ブルバキ]]のメンバー。
== 略歴 ==
[[1948年]]、[[パリ高等師範学校]]卒業。[[1951年]]に[[パリ第4大学|パリ第4大学パリ・ソルボンヌ]]で博士号を取得。[[アンリ・カルタン]]に学び、はじめは[[複素解析]]や[[代数的位相幾何学|代数トポロジー]]を研究した。
28歳(最年少)で[[フィールズ賞]]を受賞。その後[[代数幾何学]]に傾倒していき、[[グロタンディーク]]に多くの示唆を与え、{{仮リンク|SGA (数学)|label=SGA|en|Séminaire de Géométrie Algébrique du Bois Marie}}4&5で作成された道具が[[ヴェイユ予想]]に大きく貢献した。[[1956年]]に[[コレージュ・ド・フランス]]代数と幾何学講座教授就任。[[1994年]]にコレージュ・ド・フランス名誉教授。
業績として代数トポロジーにおける[[スペクトル系列]]を発展させた({{仮リンク|Lerayのスペクトル系列|en|Leray spectral sequence|label=Leray}}–{{仮リンク|Serreのスペクトル系列|en|Serre spectral sequence|label=Serreのスペクトル系列}})。SerreのC理論による[[球面]]の[[ホモトピー群]]の研究。[[代数幾何学と解析幾何学|GAGA]] (Géométrie Algébrique et Géométrie Analytique) で代数幾何において複素解析幾何学的手法を導入し、大きな成功を収めた。FAC (Faisceaux algébriques cohérents)を発表し、代数的[[連接層]]を構築。[[層 (数学)|層]]の言葉とホモロジーを用いて[[代数幾何学]]、[[可換環論]]の書き直し、[[層コホモロジー|層係数コホモロジー]]を構成した。[[整数論]]における {{mvar|l}} 進表現論において、[[楕円曲線]]、[[L関数]]、[[モジュラー形式]]、[[アーベル多様体]]などに応用し多くの成果をあげた。{{mvar|p}} 進モジュラー形式の理論の構成、[[類体論]]への貢献、[[代数的K-理論]]への貢献。アーベル多様体に関するSerre–Tate理論<ref>{{Cite web |url = https://web.archive.org/web/20201217090131/https://arxiv.org/pdf/1210.7459.pdf|title = The Work of John Tate|website = arxiv.org|publisher = arXiv|date = |accessdate = 2020-12-17}}</ref>。その他にリー群などにも業績がある。
==日本語訳著作==
*『数論講義』 [[岩波書店]]
*『ガロア理論特論』 [[トッパン]]
*『有限群の線型表現』 岩波書店
*『楕円曲線と<math>l</math>-進表現』 [[ピアソン・エデュケーション]]
==受賞歴==
*[[1954年]] - [[フィールズ賞]]
*[[1985年]] - [[バルザン賞]]
*[[1987年]] - {{仮リンク|CNRSゴールドメダル|en|CNRS Gold medal}}
*[[1995年]] - [[スティール賞]]
*[[2000年]] - [[ウルフ賞数学部門]]
*[[2003年]] - [[アーベル賞]]
== 脚注 ==
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{{Normdaten}}
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[[Category:20世紀の数学者|260915]]
[[Category:21世紀の数学者|-260915]]
[[Category:フランスの代数幾何学者]]
[[Category:フランスの数論学者]]
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[[Category:アメリカ数学会フェロー]]
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7,379 | サン・マイクロシステムズ | サン・マイクロシステムズ(英: Sun Microsystems)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに本社を置いていたコンピュータの製造・ソフトウェア開発・ITサービス企業である。2010年1月27日にオラクルにより吸収合併され、独立企業・法人としては消滅した。
サンの名前は、Stanford University Networkの頭文字 SUN から来ており、スタンフォード大学で校内のネットワーク用のワークステーションを独自に開発したアンディ・ベクトルシャイムが、スコット・マクネリ、ビノッド・コースラらとともに会社を創立したのが始まり。創立に際してカリフォルニア大学バークレー校でBSD UNIXを開発していたビル・ジョイを創立メンバーに招いた。創立した1982年から数年で世界企業へと成長した。以下、その中心的製品であった、Sunワークステーションについて少し述べる。
マイクロプロセッサには、当初は68000系を使っていた(これは同時代に他にも多数あらわれた「JAWS」と呼ばれるワークステーションと同様で、手堅い選択と言える)。後に自社開発のSPARCに切り換え、高い性能対価格比で他社製品に対し強い競争力を確保した。
やはり同時代の他の多くのワークステーションと同様に主要オペレーティングシステム (OS) としてUnix系を採用したが、サンは特にBSDに強いメーカとして、BSDの著名な開発者の一人であったビル・ジョイを特別待遇で雇ったことなどが知られる。そのSunOSは、後に、UNIX戦争でUNIX InternationalとしてAT&Tと共同したため「System Vベースに変更されたSolaris」というように市場向けには宣伝されたが、実際のところはOS添付のGUIなどを含めたシステム全体の商品名が「Solaris」で、そのベース部分はSunOSそのものである。psコマンドのオプションなどわかりやすい部分において、デフォルトではSystem V風に改修された動作をするが、実際の所はBSDであった(コマンドなどは両方が実際には用意されていて、PATHでそちらを先に指定するだけで切り換えられた)。SunOSもまた、Sunワークステーションの魅力であった。
自社の技術を公開したりライセンスしたりすることが多く、それ以前の(あるいは一部のメーカには今も蔓延る)閉鎖主義を打ち破った「オープンシステム」の旗手であった。
日本では富士通が提携メーカとして知られ、特にSPARCに関しては製造の請負のみならず、独自の拡張ISAとマイクロアーキテクチャによる製品までもを作っており、「京」のプロセッサコア等が著名である。
Javaはビル・ジョイを中心としたチームにより開発された。
2000年9月には、インテル系のCPUとLinuxの組合せのサーバを販売していたコバルトシステムを買収し、インテル系のCPUとLinuxを組み合わせたサーバが2001年からサンから販売された。2005年にはStorageTek (STK)、2008年1月にはMySQLの買収を発表した。
UNIX戦争に伴う各ベンダとの競合状態において、ビル・ジョイなどのUNIX神話に名を残したスーパーエンジニアの功績やいち早いインターネットに向けたサーバ群の取り組みによりアメリカ合衆国を中心とする世界市場において、1990年代前半、サンは一人勝ちの様相を呈した。
日本市場では富士通・東芝・CTCなどと提携し、通信系や企業基幹系に浸透しつつあったUNIX市場において、その価格性能比と知名度で進出した。その結果、日本市場では競合するHP・日本電気陣営や、IBM・日立陣営などと並び、有力な商用UNIX系ベンダーとなった。
90年代後半までの一人勝ちの状況以降、元々の企業規模がそれほど大きくなく、先進性で売り上げを上げるにも研究開発費の大規模な調達ができない点、 Javaなどの別技術への投資を集中した点などもあり、その後のUNIXによるエンタープライズ系への対応や処理速度改善において、幾つか決定的な後れを取ってしまう。
インテル製CPUの動作周波数の向上や開発資源への大規模な投資により高性能化したPCにUNIX陣営は追い込まれつつあった。特に、RISC陣営でもMIPSテクノロジーと同様に自社でのCPU製造を行わないサンは、急速な開発期間の短縮や新規テクノロジーの適用において、後れを取り始める。
その結果、UltraSPARC IIが主力であった頃、IBMやHP、DECといったRISC陣営の競合CPUと比較して、UltraSPARC IIが著しく遅く、他社のメインストリームサーバとの比較による受注の大量減少をさけるため、業界標準ベンチマークとなっていたTCPベンチマーク値の公開を取りやめている。
また、基本比較値として残さざるを得なかったSPECといった基本ベンチマークにおいても、インテルのXeonと比較された際に同等レベルを維持するのがやっとの状態にまで追い込まれていた。
UNIXのエンタープライズ分野においては、唯一対応の早かったサーバの仮想化技術の延長線上にある論理区分による同一筐体内複数パーティションの機能も、HPやIBMは1年もせずに同等以上の機能を提供してきたため、基幹系における導入シェアを大きく上げる要因にはならなかった。
これにより、大規模なエンタープライズ市場において、当初はHPに、近年はIBMに巻き返され、他商用UNIXとの横並び若しくはそれ以下となっている(詳しくは、CIRCUS・Solaris・論理ボリュームマネージャの項目を参照)。
また、オープンソースOSであるGNU/Linuxによるネットワーク系サーバの置き換え、および比較的安価な基幹用サーバの置き換え需要にさらされ、商用UNIXで最もダメージを受けたOSと評されており、火急の対処が必要とされていた。
一旦、後れを取ったCPUの高性能化やエンタープライズ分野への新たな訴求としてSolaris自体のオープンソース化が進められている。また、CPUに関しても、NiagaraというSPARC III相当のCoreを複数搭載したCPUが登場してきている。
この2点において、現状、次のように評価されている。
このような状況の上、新規CPUのUltraSPARC Vの開発を中止し、多くのエンジニアをレイオフしており、英語版WikipediaにおけるSUNの項目の記載にあるように、ITバブル崩壊後の動きにおいて非常に曖昧模糊とした状態と言える。この状態を抜け出すため、NECからSI・HPC分野のアライアンスを取り付け、富士通との関係もさらに深めようとしている。しかし、グリッドに対するスタンスの違いや汎用京速計算機など国内プロジェクトへの国産ベンダの方向性は明らかにサンと袂を分かつ方向に向けられており、多くの識者からは非常に厳しい見方をされている。
サンの革新性は、IT業界のビジネスモデルの変更を迫る内容も多いことから常に風当たりが強いが、多くの革新的エンドユーザーやITの本質を追究する研究者や技術者からは高い評価を受けており、IT業界において新たなテクノロジーの創作によりIT業界や市場や社会に大きな変革や影響をもたらした企業として認識されている。サンという企業自体のファンがいることも、他のITベンダーとは異なるところである。
2004年4月には長年の宿敵とされたマイクロソフトとの和解と提携を発表し、以後は相互運用性の向上を図っている 。更に2004年6月には富士通との提携を拡大し、次期SPARC/Solarisサーバの共同開発を発表した。今後のハードウェア開発は富士通、ソフトウェア開発はサンという役割分担とされる。
2009年3月18日にはIBMによるサンの買収が交渉中と報道されたが、2009年4月20日には、オラクルによる74億ドルでの買収が発表された。同年9月、オラクルはSPARCやSolarisについて「より一層の投資を確約」する広告を出した。当買収によるデータベース市場などへの独占禁止法上の調査が行われたが、米司法省は8月、欧州委員会は2010年1月21日に、当買収を承認し同月27日に買収が完了した。買収後、オラクルの完全子会社としてわずかの間存在したが、同年2月にオラクルの子会社であるオラクルUSA (Oracle USA, Inc.) と合併しオラクル・アメリカ (Oracle America, Inc.) となった。
そもそもサンは数あるITベンダーの中でも、多額の投資によって開発した先進的な技術を独占的に使用しようとするのではなく「業界全体の進歩のため」という理由で惜しげもなく公開してしまうという極めてオープンなスタンスを取っていた。また、オープンソース系のコミュニティに対する支援にも極めて積極的であり、そのような姿勢が多くの技術者から支持を受けていたことが同社の経営上の資産でもあった。しかしながらそれらの技術者たちは、比較的クローズドな戦略が目立つ合併先のオラクルに対して決していい印象を持っている者ばかりとは言えない。実際に、OSであるSolaris本体、パッチの有償化などの大きな方針転換が行われたことや、競合となったヒューレット・パッカード社のハイエンドサーバー向けのCPU、Itaniumに対する全てのソフトウェアの開発中止が発表されるなど、IT企業として決して非常識ではないものの、従来のサンではまず考えられないような戦略が次々と展開されていることから、従来からのファンの「サン離れ」が懸念される状況となっている。
また一方で、サンの強力なハードウェア上にそのアーキテクチャに高度にチューニングされたOracleデータベースをすでにインストールした状態で出荷されるデータベース専用ハードウェア、Exadata(英語版)シリーズが発表され、極めて好調な売り上げを記録しているなど、合併による相乗効果も着実に上がっており、市場関係者からはこの合併を高く評価する声も多い。
SunOSは、BSD版UNIXを基にしたもので、このBSD版UNIXのライセンスはGPLの基になったフリーソフトウェアライセンスであった。
当初のBSD UNIXはAT&Tのライセンスを必要としたが、独自のコードと実装を進め、その後のAT&Tとのライセンス交渉において、AT&TのUNIXライセンスに縛られないものとなった。その際にカリフォルニア大学バークレー校で拡張互換UNIX開発チームが書いたコードは、多くのUNIXの実装に影響を与えている。
この開発チームにて実装やソースのレビューとレベルチェックやリポジトリを管理していたのが、Cshの開発やUNIXの実装に大きな影響を与え、スーパーエンジニアとしても有名なビル・ジョイであった。
つまり、フリーソフトウェアを中心としたLinuxやGNUの思想は、サンの遺伝子を色濃く残したもので、サンとフリーソフトウェアの親和性の高さは、こういった歴史的な経緯から来ている。
また、NFSはサンにより作られたネットワーク・ファイルシステムの規格であるが、サンからNFSのライセンスを受けるとSunOSのソースコードが送られて来ていた。現在のLinuxなどで使われているNFSは独自のフリーな実装が使われている。
NISもサンにより開発され、アカウントなどの集中管理用として他社UNIXやLinuxにも採用されている。
Solarisのデスクトップ環境として 以前から利用していたCDEからGNUプロジェクトのフリーソフトウェアであるGNOMEに変更するなど、既存のオープンソースソフトウェアと連携した動きも多い。GNOMEの開発の中心にいる企業Ximianに出資していた。また、以前はLinuxに対して非協力的であったが、最近は自社製品にLinuxを搭載している。
OpenOffice.orgを、フリーソフトウェアかつコピーレフトのGNU LGPLで公開している。OpenOffice.orgは豊富な機能を持ったオフィススイートで、多くのプラットフォーム (OS) をサポートしオープンソース運動を加速している。サンはOpenOffice.orgの成果をもとに、ソース非公開の StarOffice(日本ではNECが既に商標をとっていたためStarSuite)を開発し販売している。なお、StarOfficeは教育機関などに向けての無料ライセンスもある。
OpenOffice.orgのベースとなったStarOfficeは当初、ドイツのソフトウェア会社StarDivisionで開発されていたソフトウェアで、サンは同社を買収した後すぐにオープンソースプロジェクトとして公開し注目を集めた。当初はSun業界基準使用許諾(SISSL)と呼ばれるサン独自のオープンソースライセンスとGNU LGPLとのデュアルライセンスであったが、2005年9月2日にSISSLを廃止し、GNU LGPLに一本化した。
Sun ONE - One : Open Network Environment
オラクルによる買収後、サンのMySQL創業者がスピンオフしてMariaDBを立ち上げたほか、OpenOffice.orgも開発者の一部が離脱してLibreOfficeを立ち上げるなど、プロジェクトの分裂が相次いでいる。その他Javaなど今後への懸念も報道されている。これに対してはオラクルも、2011年6月にOpenOffice.orgをApacheソフトウェア財団に寄贈するなど(現在のApache OpenOffice)、一部プロジェクトについてオープンソースコミュニティへの移管を行うことで、懸念解消に務めている。
サンはシンクライアントに早くから取り組んでおり、1996年ごろにJavaStation(2004年~2006年に販売されていたJava Workstationと全く異なる)を発売した。そして1999年からSun Rayシリーズを販売していたが、2013年に開発終了し、2017年にサポートを終了した。
Sun Rayシリーズでは、特筆すべきこととして、ICカードを抜き差しするだけで自分のデスクトップ環境が即座に表示される「ホットデスク」をサポートしていたことである。サンは2004年ごろから(日本法人も含めた)自社社内のほとんどの業務用端末がSun Rayになっているとのことであり、たとえば日本法人に勤務する人が国内のほかのオフィスや米国本社へ出張へ赴くときに席を予約しておき、出張先の席にあるSun Ray端末にICカードを差し込むだけでどこでも自分のデスクトップが表示されるのである。ある社員は(シリコンバレーから日本へのリモート接続であるにもかかわらず)あまりに快適に動作するので「本当に(自分のデスクトップ環境がおいてある)日本のサーバにつながっているのか?」と最初は混乱した旨を吐露している。
さらに2006年にはSun Rayサーバ経由でリモート デスクトップないしターミナル サービスが使えるWindowsとも接続可能になった。2007年1月には無線LANを搭載したノートPCタイプの「2N」を発売した。消費電力が通常のノートPCの半分だという。徐々にではあるが、Sun Rayは国防総省でも採用されるほどセキュリティが高いため自治体や大学などの教育機関や官公庁を中心に納入実績があった。
日本法人のサン・マイクロシステムズ株式会社は東京都世田谷区用賀4丁目10-1SBSビルに所在していた(現在は日本オラクル用賀オフィス)。日本法人も、2010年6月1日付で日本オラクル株式会社の兄弟会社である日本オラクルインフォメーションシステムズ株式会社(現日本オラクルインフォメーションシステムズ合同会社)に吸収合併され解散した。
F1では1995年から2005年にかけて、マクラーレンにテレメトリーシステムを供給していた。 | [
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"text": "サン・マイクロシステムズ(英: Sun Microsystems)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに本社を置いていたコンピュータの製造・ソフトウェア開発・ITサービス企業である。2010年1月27日にオラクルにより吸収合併され、独立企業・法人としては消滅した。",
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"text": "サンの名前は、Stanford University Networkの頭文字 SUN から来ており、スタンフォード大学で校内のネットワーク用のワークステーションを独自に開発したアンディ・ベクトルシャイムが、スコット・マクネリ、ビノッド・コースラらとともに会社を創立したのが始まり。創立に際してカリフォルニア大学バークレー校でBSD UNIXを開発していたビル・ジョイを創立メンバーに招いた。創立した1982年から数年で世界企業へと成長した。以下、その中心的製品であった、Sunワークステーションについて少し述べる。",
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"text": "マイクロプロセッサには、当初は68000系を使っていた(これは同時代に他にも多数あらわれた「JAWS」と呼ばれるワークステーションと同様で、手堅い選択と言える)。後に自社開発のSPARCに切り換え、高い性能対価格比で他社製品に対し強い競争力を確保した。",
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"text": "やはり同時代の他の多くのワークステーションと同様に主要オペレーティングシステム (OS) としてUnix系を採用したが、サンは特にBSDに強いメーカとして、BSDの著名な開発者の一人であったビル・ジョイを特別待遇で雇ったことなどが知られる。そのSunOSは、後に、UNIX戦争でUNIX InternationalとしてAT&Tと共同したため「System Vベースに変更されたSolaris」というように市場向けには宣伝されたが、実際のところはOS添付のGUIなどを含めたシステム全体の商品名が「Solaris」で、そのベース部分はSunOSそのものである。psコマンドのオプションなどわかりやすい部分において、デフォルトではSystem V風に改修された動作をするが、実際の所はBSDであった(コマンドなどは両方が実際には用意されていて、PATHでそちらを先に指定するだけで切り換えられた)。SunOSもまた、Sunワークステーションの魅力であった。",
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"text": "自社の技術を公開したりライセンスしたりすることが多く、それ以前の(あるいは一部のメーカには今も蔓延る)閉鎖主義を打ち破った「オープンシステム」の旗手であった。",
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"text": "日本では富士通が提携メーカとして知られ、特にSPARCに関しては製造の請負のみならず、独自の拡張ISAとマイクロアーキテクチャによる製品までもを作っており、「京」のプロセッサコア等が著名である。",
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"text": "Javaはビル・ジョイを中心としたチームにより開発された。",
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"text": "2000年9月には、インテル系のCPUとLinuxの組合せのサーバを販売していたコバルトシステムを買収し、インテル系のCPUとLinuxを組み合わせたサーバが2001年からサンから販売された。2005年にはStorageTek (STK)、2008年1月にはMySQLの買収を発表した。",
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"text": "UNIX戦争に伴う各ベンダとの競合状態において、ビル・ジョイなどのUNIX神話に名を残したスーパーエンジニアの功績やいち早いインターネットに向けたサーバ群の取り組みによりアメリカ合衆国を中心とする世界市場において、1990年代前半、サンは一人勝ちの様相を呈した。",
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"text": "日本市場では富士通・東芝・CTCなどと提携し、通信系や企業基幹系に浸透しつつあったUNIX市場において、その価格性能比と知名度で進出した。その結果、日本市場では競合するHP・日本電気陣営や、IBM・日立陣営などと並び、有力な商用UNIX系ベンダーとなった。",
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"text": "90年代後半までの一人勝ちの状況以降、元々の企業規模がそれほど大きくなく、先進性で売り上げを上げるにも研究開発費の大規模な調達ができない点、 Javaなどの別技術への投資を集中した点などもあり、その後のUNIXによるエンタープライズ系への対応や処理速度改善において、幾つか決定的な後れを取ってしまう。",
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"text": "インテル製CPUの動作周波数の向上や開発資源への大規模な投資により高性能化したPCにUNIX陣営は追い込まれつつあった。特に、RISC陣営でもMIPSテクノロジーと同様に自社でのCPU製造を行わないサンは、急速な開発期間の短縮や新規テクノロジーの適用において、後れを取り始める。",
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"text": "その結果、UltraSPARC IIが主力であった頃、IBMやHP、DECといったRISC陣営の競合CPUと比較して、UltraSPARC IIが著しく遅く、他社のメインストリームサーバとの比較による受注の大量減少をさけるため、業界標準ベンチマークとなっていたTCPベンチマーク値の公開を取りやめている。",
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"text": "また、基本比較値として残さざるを得なかったSPECといった基本ベンチマークにおいても、インテルのXeonと比較された際に同等レベルを維持するのがやっとの状態にまで追い込まれていた。",
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"text": "UNIXのエンタープライズ分野においては、唯一対応の早かったサーバの仮想化技術の延長線上にある論理区分による同一筐体内複数パーティションの機能も、HPやIBMは1年もせずに同等以上の機能を提供してきたため、基幹系における導入シェアを大きく上げる要因にはならなかった。",
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"text": "これにより、大規模なエンタープライズ市場において、当初はHPに、近年はIBMに巻き返され、他商用UNIXとの横並び若しくはそれ以下となっている(詳しくは、CIRCUS・Solaris・論理ボリュームマネージャの項目を参照)。",
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"text": "また、オープンソースOSであるGNU/Linuxによるネットワーク系サーバの置き換え、および比較的安価な基幹用サーバの置き換え需要にさらされ、商用UNIXで最もダメージを受けたOSと評されており、火急の対処が必要とされていた。",
"title": "歴史"
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"text": "一旦、後れを取ったCPUの高性能化やエンタープライズ分野への新たな訴求としてSolaris自体のオープンソース化が進められている。また、CPUに関しても、NiagaraというSPARC III相当のCoreを複数搭載したCPUが登場してきている。",
"title": "歴史"
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"text": "この2点において、現状、次のように評価されている。",
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"text": "このような状況の上、新規CPUのUltraSPARC Vの開発を中止し、多くのエンジニアをレイオフしており、英語版WikipediaにおけるSUNの項目の記載にあるように、ITバブル崩壊後の動きにおいて非常に曖昧模糊とした状態と言える。この状態を抜け出すため、NECからSI・HPC分野のアライアンスを取り付け、富士通との関係もさらに深めようとしている。しかし、グリッドに対するスタンスの違いや汎用京速計算機など国内プロジェクトへの国産ベンダの方向性は明らかにサンと袂を分かつ方向に向けられており、多くの識者からは非常に厳しい見方をされている。",
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"text": "サンの革新性は、IT業界のビジネスモデルの変更を迫る内容も多いことから常に風当たりが強いが、多くの革新的エンドユーザーやITの本質を追究する研究者や技術者からは高い評価を受けており、IT業界において新たなテクノロジーの創作によりIT業界や市場や社会に大きな変革や影響をもたらした企業として認識されている。サンという企業自体のファンがいることも、他のITベンダーとは異なるところである。",
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"text": "2004年4月には長年の宿敵とされたマイクロソフトとの和解と提携を発表し、以後は相互運用性の向上を図っている 。更に2004年6月には富士通との提携を拡大し、次期SPARC/Solarisサーバの共同開発を発表した。今後のハードウェア開発は富士通、ソフトウェア開発はサンという役割分担とされる。",
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"text": "2009年3月18日にはIBMによるサンの買収が交渉中と報道されたが、2009年4月20日には、オラクルによる74億ドルでの買収が発表された。同年9月、オラクルはSPARCやSolarisについて「より一層の投資を確約」する広告を出した。当買収によるデータベース市場などへの独占禁止法上の調査が行われたが、米司法省は8月、欧州委員会は2010年1月21日に、当買収を承認し同月27日に買収が完了した。買収後、オラクルの完全子会社としてわずかの間存在したが、同年2月にオラクルの子会社であるオラクルUSA (Oracle USA, Inc.) と合併しオラクル・アメリカ (Oracle America, Inc.) となった。",
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"text": "そもそもサンは数あるITベンダーの中でも、多額の投資によって開発した先進的な技術を独占的に使用しようとするのではなく「業界全体の進歩のため」という理由で惜しげもなく公開してしまうという極めてオープンなスタンスを取っていた。また、オープンソース系のコミュニティに対する支援にも極めて積極的であり、そのような姿勢が多くの技術者から支持を受けていたことが同社の経営上の資産でもあった。しかしながらそれらの技術者たちは、比較的クローズドな戦略が目立つ合併先のオラクルに対して決していい印象を持っている者ばかりとは言えない。実際に、OSであるSolaris本体、パッチの有償化などの大きな方針転換が行われたことや、競合となったヒューレット・パッカード社のハイエンドサーバー向けのCPU、Itaniumに対する全てのソフトウェアの開発中止が発表されるなど、IT企業として決して非常識ではないものの、従来のサンではまず考えられないような戦略が次々と展開されていることから、従来からのファンの「サン離れ」が懸念される状況となっている。",
"title": "歴史"
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"text": "また一方で、サンの強力なハードウェア上にそのアーキテクチャに高度にチューニングされたOracleデータベースをすでにインストールした状態で出荷されるデータベース専用ハードウェア、Exadata(英語版)シリーズが発表され、極めて好調な売り上げを記録しているなど、合併による相乗効果も着実に上がっており、市場関係者からはこの合併を高く評価する声も多い。",
"title": "歴史"
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"text": "SunOSは、BSD版UNIXを基にしたもので、このBSD版UNIXのライセンスはGPLの基になったフリーソフトウェアライセンスであった。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "当初のBSD UNIXはAT&Tのライセンスを必要としたが、独自のコードと実装を進め、その後のAT&Tとのライセンス交渉において、AT&TのUNIXライセンスに縛られないものとなった。その際にカリフォルニア大学バークレー校で拡張互換UNIX開発チームが書いたコードは、多くのUNIXの実装に影響を与えている。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "この開発チームにて実装やソースのレビューとレベルチェックやリポジトリを管理していたのが、Cshの開発やUNIXの実装に大きな影響を与え、スーパーエンジニアとしても有名なビル・ジョイであった。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "つまり、フリーソフトウェアを中心としたLinuxやGNUの思想は、サンの遺伝子を色濃く残したもので、サンとフリーソフトウェアの親和性の高さは、こういった歴史的な経緯から来ている。",
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"text": "また、NFSはサンにより作られたネットワーク・ファイルシステムの規格であるが、サンからNFSのライセンスを受けるとSunOSのソースコードが送られて来ていた。現在のLinuxなどで使われているNFSは独自のフリーな実装が使われている。",
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"text": "NISもサンにより開発され、アカウントなどの集中管理用として他社UNIXやLinuxにも採用されている。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "Solarisのデスクトップ環境として 以前から利用していたCDEからGNUプロジェクトのフリーソフトウェアであるGNOMEに変更するなど、既存のオープンソースソフトウェアと連携した動きも多い。GNOMEの開発の中心にいる企業Ximianに出資していた。また、以前はLinuxに対して非協力的であったが、最近は自社製品にLinuxを搭載している。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "OpenOffice.orgを、フリーソフトウェアかつコピーレフトのGNU LGPLで公開している。OpenOffice.orgは豊富な機能を持ったオフィススイートで、多くのプラットフォーム (OS) をサポートしオープンソース運動を加速している。サンはOpenOffice.orgの成果をもとに、ソース非公開の StarOffice(日本ではNECが既に商標をとっていたためStarSuite)を開発し販売している。なお、StarOfficeは教育機関などに向けての無料ライセンスもある。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "OpenOffice.orgのベースとなったStarOfficeは当初、ドイツのソフトウェア会社StarDivisionで開発されていたソフトウェアで、サンは同社を買収した後すぐにオープンソースプロジェクトとして公開し注目を集めた。当初はSun業界基準使用許諾(SISSL)と呼ばれるサン独自のオープンソースライセンスとGNU LGPLとのデュアルライセンスであったが、2005年9月2日にSISSLを廃止し、GNU LGPLに一本化した。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "Sun ONE - One : Open Network Environment",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "オラクルによる買収後、サンのMySQL創業者がスピンオフしてMariaDBを立ち上げたほか、OpenOffice.orgも開発者の一部が離脱してLibreOfficeを立ち上げるなど、プロジェクトの分裂が相次いでいる。その他Javaなど今後への懸念も報道されている。これに対してはオラクルも、2011年6月にOpenOffice.orgをApacheソフトウェア財団に寄贈するなど(現在のApache OpenOffice)、一部プロジェクトについてオープンソースコミュニティへの移管を行うことで、懸念解消に務めている。",
"title": "フリーソフトウェアとの関係"
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"text": "サンはシンクライアントに早くから取り組んでおり、1996年ごろにJavaStation(2004年~2006年に販売されていたJava Workstationと全く異なる)を発売した。そして1999年からSun Rayシリーズを販売していたが、2013年に開発終了し、2017年にサポートを終了した。",
"title": "シンクライアントベンダとして"
},
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"paragraph_id": 37,
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"text": "Sun Rayシリーズでは、特筆すべきこととして、ICカードを抜き差しするだけで自分のデスクトップ環境が即座に表示される「ホットデスク」をサポートしていたことである。サンは2004年ごろから(日本法人も含めた)自社社内のほとんどの業務用端末がSun Rayになっているとのことであり、たとえば日本法人に勤務する人が国内のほかのオフィスや米国本社へ出張へ赴くときに席を予約しておき、出張先の席にあるSun Ray端末にICカードを差し込むだけでどこでも自分のデスクトップが表示されるのである。ある社員は(シリコンバレーから日本へのリモート接続であるにもかかわらず)あまりに快適に動作するので「本当に(自分のデスクトップ環境がおいてある)日本のサーバにつながっているのか?」と最初は混乱した旨を吐露している。",
"title": "シンクライアントベンダとして"
},
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"text": "さらに2006年にはSun Rayサーバ経由でリモート デスクトップないしターミナル サービスが使えるWindowsとも接続可能になった。2007年1月には無線LANを搭載したノートPCタイプの「2N」を発売した。消費電力が通常のノートPCの半分だという。徐々にではあるが、Sun Rayは国防総省でも採用されるほどセキュリティが高いため自治体や大学などの教育機関や官公庁を中心に納入実績があった。",
"title": "シンクライアントベンダとして"
},
{
"paragraph_id": 39,
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"text": "日本法人のサン・マイクロシステムズ株式会社は東京都世田谷区用賀4丁目10-1SBSビルに所在していた(現在は日本オラクル用賀オフィス)。日本法人も、2010年6月1日付で日本オラクル株式会社の兄弟会社である日本オラクルインフォメーションシステムズ株式会社(現日本オラクルインフォメーションシステムズ合同会社)に吸収合併され解散した。",
"title": "日本法人"
},
{
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"text": "F1では1995年から2005年にかけて、マクラーレンにテレメトリーシステムを供給していた。",
"title": "F1"
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] | サン・マイクロシステムズは、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンタクララに本社を置いていたコンピュータの製造・ソフトウェア開発・ITサービス企業である。2010年1月27日にオラクルにより吸収合併され、独立企業・法人としては消滅した。 | {{出典の明記|date=2018年6月}}
{{基礎情報 会社
| 社名 = サン・マイクロシステムズ
| 英文社名 = Sun Microsystems
| ロゴ = [[File:Sun Microsystems logo.svg|200px]]
| 画像 = [[File:Wfm sun agnews.jpg|200px]]
| 画像説明 = サン・マイクロシステムズ本社
| 種類 =
| 国籍 ={{USA}}
| 本社所在地 = [[メンローパーク (カリフォルニア州)]]
| 設立 = 1982年2月24日
| 業種 =
| 外部リンク = https://www.oracle.com/sun/
| 特記事項 =
}}
'''サン・マイクロシステムズ'''({{lang-en-short|'''Sun Microsystems'''}}<!--、[[NASDAQ]]: [http://quotes.nasdaq.com/asp/SummaryQuote.asp?symbol=JAVA&selected=JAVA JAVA]-->)は、[[アメリカ合衆国]][[カリフォルニア州]][[サンタクララ (カリフォルニア州)|サンタクララ]]に本社を置いていた[[コンピュータ]]の製造・[[ソフトウェア]]開発・[[情報技術|IT]]サービス企業である。[[2010年]][[1月27日]]に[[オラクル (企業)|オラクル]]により吸収合併され、独立企業・法人としては消滅した。
==概要==
サンの名前は、Stanford University Networkの頭文字 SUN から来ており、[[スタンフォード大学]]で校内のネットワーク用の[[ワークステーション]]を独自に開発した[[アンディ・ベクトルシャイム]]が、[[スコット・マクネリ]]、[[ビノッド・コースラ]]らとともに会社を創立したのが始まり。創立に際して[[カリフォルニア大学バークレー校]]で[[Berkeley Software Distribution|BSD UNIX]]を開発していた[[ビル・ジョイ]]を創立メンバーに招いた。創立した1982年から数年で世界企業へと成長した。以下、その中心的製品であった、Sunワークステーションについて少し述べる。
[[マイクロプロセッサ]]には、当初は[[MC68000|68000]]系を使っていた(これは同時代に他にも多数あらわれた「JAWS」と呼ばれるワークステーションと同様で、手堅い選択と言える)。後に自社開発の[[SPARC]]に切り換え、高い性能対価格比で他社製品に対し強い競争力を確保した。
やはり同時代の他の多くのワークステーションと同様に主要[[オペレーティングシステム]] (OS) として[[Unix系]]を採用したが、サンは特に[[Berkeley Software Distribution|BSD]]に強いメーカとして、BSDの著名な開発者の一人であった[[ビル・ジョイ]]を特別待遇で雇ったことなどが知られる。その[[SunOS]]は、後に、[[UNIX戦争]]で[[UNIX International]]として[[AT&T]]と共同したため「[[UNIX System V|System V]]ベースに変更された[[Solaris]]」というように市場向けには宣伝されたが、実際のところはOS添付のGUIなどを含めたシステム全体の商品名が「Solaris」で、そのベース部分はSunOSそのものである。psコマンドのオプションなどわかりやすい部分において、デフォルトではSystem V風に改修された動作をするが、実際の所はBSDであった(コマンドなどは両方が実際には用意されていて、PATHでそちらを先に指定するだけで切り換えられた)。SunOSもまた、Sunワークステーションの魅力であった。
自社の技術を公開したりライセンスしたりすることが多く、それ以前の(あるいは一部のメーカには今も蔓延る)閉鎖主義を打ち破った「オープンシステム」の旗手であった。
日本では富士通が提携メーカとして知られ、特に[[SPARC]]に関しては製造の請負のみならず、独自の拡張ISAとマイクロアーキテクチャによる製品までもを作っており、「[[京 (スーパーコンピュータ)|京]]」のプロセッサコア等が著名である。
[[Java]]はビル・ジョイを中心としたチームにより開発された。
2000年9月には、[[インテル]]系のCPUと[[Linux]]の組合せのサーバを販売していたコバルトシステムを買収し、インテル系のCPUとLinuxを組み合わせたサーバが2001年からサンから販売された<ref>[https://atmarkit.itmedia.co.jp/news/200101/26/cobalt.html サンから、買収後初めてのCobalt Qubeが登場]</ref>。[[2005年]]には[[:en:Storage Technology Corporation|StorageTek]] (STK)、[[2008年]]1月には[[MySQL]]の買収を発表した<ref>[http://www-jp.mysql.com/news-and-events/sun-to-acquire-mysql.html 米国サンがMySQLとの買収合意を発表]</ref>。
== 歴史 ==
=== UNIXでの一人勝ちの状況 ===
[[UNIX戦争]]に伴う各ベンダとの競合状態において、[[ビル・ジョイ]]などの[[UNIX]]神話に名を残したスーパーエンジニアの功績やいち早い[[インターネット]]に向けた[[サーバ]]群の取り組みにより[[アメリカ合衆国]]を中心とする世界市場において、1990年代前半、サンは一人勝ちの様相を呈した。
日本市場では[[富士通]]・[[東芝]]・[[伊藤忠テクノソリューションズ|CTC]]などと提携し、通信系や企業基幹系に浸透しつつあったUNIX市場において、その価格性能比と知名度で進出した。その結果、日本市場では競合する[[ヒューレット・パッカード|HP]]・[[日本電気]]陣営や、[[IBM]]・[[日立製作所|日立]]陣営などと並び、有力な商用UNIX系ベンダーとなった。
=== 90年代末の市場の変化とサンの対応 ===
90年代後半までの一人勝ちの状況以降、元々の企業規模がそれほど大きくなく、先進性で売り上げを上げるにも研究開発費の大規模な調達ができない点、 Javaなどの別技術への投資を集中した点などもあり、その後のUNIXによるエンタープライズ系への対応や処理速度改善において、幾つか決定的な後れを取ってしまう。
=== CPU開発競争での後れ ===
[[インテル]]製CPUの動作周波数の向上や開発資源への大規模な投資により高性能化したPCにUNIX陣営は追い込まれつつあった。特に、RISC陣営でもMIPSテクノロジーと同様に自社でのCPU製造を行わないサンは、急速な開発期間の短縮や新規テクノロジーの適用において、後れを取り始める。
その結果、UltraSPARC IIが主力であった頃、IBMや[[ヒューレット・パッカード|HP]]、[[ディジタル・イクイップメント・コーポレーション|DEC]]といった[[RISC]]陣営の競合[[CPU]]と比較して、UltraSPARC IIが著しく遅く、他社のメインストリームサーバとの比較による受注の大量減少をさけるため、業界標準ベンチマークとなっていたTCPベンチマーク値の公開を取りやめている。
また、基本比較値として残さざるを得なかったSPECといった基本[[ベンチマーク]]においても、インテルの[[Xeon]]と比較された際に同等レベルを維持するのがやっとの状態にまで追い込まれていた。
=== エンタープライズ分野での足踏みとLinux対応 ===
UNIXのエンタープライズ分野においては、唯一対応の早かったサーバの仮想化技術の延長線上にある論理区分による同一筐体内複数パーティションの機能も、HPやIBMは1年もせずに同等以上の機能を提供してきたため、基幹系における導入シェアを大きく上げる要因にはならなかった。
これにより、大規模なエンタープライズ市場において、当初はHPに、近年はIBMに巻き返され、他商用UNIXとの横並び若しくはそれ以下となっている(詳しくは、[[CIRCUS (システム)|CIRCUS]]・[[Solaris]]・[[論理ボリュームマネージャ]]の項目を参照)。
また、[[オープンソース]]OSである[[GNU/Linux]]によるネットワーク系サーバの置き換え、および比較的安価な基幹用サーバの置き換え需要にさらされ、商用UNIXで最もダメージを受けたOSと評されており、火急の対処が必要とされていた。
=== 巻き返しと評価 ===
一旦、後れを取ったCPUの高性能化やエンタープライズ分野への新たな訴求としてSolaris自体のオープンソース化が進められている。また、CPUに関しても、NiagaraというSPARC III相当のCoreを複数搭載したCPUが登場してきている。
この2点において、現状、次のように評価されている。
*SolarisやJavaのオープンソース化が再度技術者を呼び戻しており、結果としてサーバ販売台数(サンの利益源泉)の増加に結びつき業績が回復し始めている。
*マルチコアCPUによる性能強化/消費電力低減といったITの環境問題へのアプローチはCPU業界全体へと波及、IT企業の社会的責任(CSR)を果たして行く方向性を示した。
このような状況の上、新規CPUのUltraSPARC Vの開発を中止し、多くのエンジニアをレイオフしており、[[w:Sun Microsystems|英語版WikipediaにおけるSUNの項目]]の記載にあるように、ITバブル崩壊後の動きにおいて非常に曖昧模糊とした状態と言える。この状態を抜け出すため、[[日本電気|NEC]]からSI・HPC分野のアライアンスを取り付け、[[富士通]]との関係もさらに深めようとしている。しかし、グリッドに対するスタンスの違いや[[汎用京速計算機]]など国内プロジェクトへの国産ベンダの方向性は明らかにサンと袂を分かつ方向に向けられており、多くの識者からは非常に厳しい見方をされている。
サンの革新性は、IT業界のビジネスモデルの変更を迫る内容も多いことから常に風当たりが強いが、多くの革新的エンドユーザーやITの本質を追究する研究者や技術者からは高い評価を受けており、IT業界において新たなテクノロジーの創作によりIT業界や市場や社会に大きな変革や影響をもたらした企業として認識されている。サンという企業自体のファンがいることも、他のITベンダーとは異なるところである。
[[2004年]]4月には長年の宿敵とされた[[マイクロソフト]]との和解と提携を発表し、以後は相互運用性の向上を図っている <ref>[http://www.microsoft.com/japan/presspass/detail.aspx?newsid=1887 マイクロソフトとサンが包括提携をし、係争の和解に合意]</ref>。更に[[2004年]]6月には[[富士通]]との提携を拡大し、次期SPARC/Solarisサーバの共同開発を発表した。今後のハードウェア開発は富士通、ソフトウェア開発はサンという役割分担とされる<ref>[http://pr.fujitsu.com/jp/news/2004/06/2.html 富士通とサンが提携関係を拡大]</ref>。
=== オラクルによる買収 ===
[[2009年]]3月18日には[[IBM]]によるサンの買収が交渉中と報道された<ref>[https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20090318/326861/?ST=kessan IBMがサンと買収交渉、米紙が報道]</ref><ref>[https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20090319/326931/ IBMがサン買収か、IT市場はどう変わる?]</ref>が、2009年4月20日には、[[オラクル (企業)|オラクル]]による74億ドルでの買収が発表された<ref>[https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0904/20/news110.html Oracle、Sunを買収]</ref><ref>[http://www.sun.com/third-party/global/oracle/ Sun and Oracle]</ref>。同年9月、オラクルは[[SPARC]]や[[Solaris]]について「より一層の投資を確約」する広告を出した<ref>[https://atmarkit.itmedia.co.jp/news/200909/11/oracle.html SPARC/Solarisへの投資継続を表明、オラクル]</ref>。当買収によるデータベース市場などへの[[独占禁止法]]上の調査が行われたが、[[アメリカ合衆国司法省|米司法省]]は8月、[[欧州委員会]]は[[2010年]]1月21日に、当買収を承認し<ref>[https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20100122/343648/ オラクルのサン買収を欧州委員会が承認]</ref>同月27日に買収が完了した<ref>[http://www.oracle.com/us/corporate/press/044428 Oracle Completes Acquisition of Sun]</ref>。買収後、オラクルの完全子会社としてわずかの間存在したが、同年2月にオラクルの子会社であるオラクルUSA (Oracle USA, Inc.) と合併しオラクル・アメリカ (Oracle America, Inc.) となった。
そもそもサンは数あるITベンダーの中でも、多額の投資によって開発した先進的な技術を独占的に使用しようとするのではなく「業界全体の進歩のため」という理由で惜しげもなく公開してしまうという極めてオープンなスタンスを取っていた。また、オープンソース系のコミュニティに対する支援にも極めて積極的であり、そのような姿勢が多くの技術者から支持を受けていたことが同社の経営上の資産でもあった。しかしながらそれらの技術者たちは、比較的クローズドな戦略が目立つ合併先のオラクルに対して決していい印象を持っている者ばかりとは言えない。実際に、[[オペレーティングシステム|OS]]である[[Solaris]]本体、パッチの有償化などの大きな方針転換が行われたことや、競合となった[[ヒューレット・パッカード]]社のハイエンドサーバー向けのCPU、[[Itanium]]に対する全てのソフトウェアの開発中止が発表される<ref>[http://www.computerworld.jp/news/trd/191104.html オラクル、Itaniumチップ対応ソフトウェア開発の中止を決定]</ref>など、IT企業として決して非常識ではないものの、従来のサンではまず考えられないような戦略が次々と展開されていることから、従来からのファンの「サン離れ」が懸念される状況となっている。
また一方で、サンの強力なハードウェア上にそのアーキテクチャに高度にチューニングされたOracleデータベースをすでにインストールした状態で出荷されるデータベース専用ハードウェア、{{仮リンク|Exadata|en|Oracle_Exadata}}シリーズが発表され、極めて好調な売り上げを記録しているなど、合併による相乗効果も着実に上がっており、市場関係者からはこの合併を高く評価する声も多い。
== フリーソフトウェアとの関係 ==
SunOSは、BSD版UNIXを基にしたもので、このBSD版UNIXのライセンスはGPLの基になった[[フリーソフトウェア]]ライセンスであった。
当初のBSD UNIXはAT&Tのライセンスを必要としたが、独自のコードと実装を進め、その後のAT&Tとのライセンス交渉において、AT&TのUNIXライセンスに縛られないものとなった。その際にカリフォルニア大学バークレー校で拡張互換UNIX開発チームが書いたコードは、多くのUNIXの実装に影響を与えている。
この開発チームにて実装やソースのレビューとレベルチェックやリポジトリを管理していたのが、Cshの開発やUNIXの実装に大きな影響を与え、スーパーエンジニアとしても有名なビル・ジョイであった。
つまり、フリーソフトウェアを中心としたLinuxや[[GNU]]の思想は、サンの遺伝子を色濃く残したもので、サンとフリーソフトウェアの親和性の高さは、こういった歴史的な経緯から来ている。
また、'''[[Network File System|NFS]]'''はサンにより作られたネットワーク・ファイルシステムの規格であるが、サンからNFSのライセンスを受けるとSunOSのソースコードが送られて来ていた。現在のLinuxなどで使われているNFSは独自のフリーな実装が使われている。
'''[[ネットワーク・インフォメーション・サービス|NIS]]'''もサンにより開発され、[[アカウント]]などの集中管理用として他社UNIXやLinuxにも採用されている。
Solarisのデスクトップ環境として 以前から利用していた[[Common Desktop Environment|CDE]]から[[GNUプロジェクト]]の[[フリーソフトウェア]]である[[GNOME]]に変更するなど、既存のオープンソースソフトウェアと連携した動きも多い。GNOMEの開発の中心にいる企業[[Ximian]]に出資していた。また、以前はLinuxに対して非協力的であったが、最近は自社製品にLinuxを搭載している。
'''[[OpenOffice.org]]'''を、[[フリーソフトウェア]]かつ[[コピーレフト]]の[[GNU Lesser General Public License|GNU LGPL]]で公開している。OpenOffice.orgは豊富な機能を持った[[オフィススイート]]で、多くのプラットフォーム (OS) をサポートし[[オープンソース]]運動を加速している。サンはOpenOffice.orgの成果をもとに、ソース非公開の '''[[StarOffice]]'''(日本では[[日本電気|NEC]]が既に商標をとっていたため[[StarSuite]])を開発し販売している。なお、StarOfficeは教育機関などに向けての無料ライセンスもある。
OpenOffice.orgのベースとなったStarOfficeは当初、ドイツのソフトウェア会社StarDivisionで開発されていたソフトウェアで、サンは同社を買収した後すぐにオープンソースプロジェクトとして公開し注目を集めた。当初はSun業界基準使用許諾(SISSL)と呼ばれるサン独自のオープンソースライセンスとGNU LGPLとのデュアルライセンスであったが、2005年9月2日にSISSLを廃止し、GNU LGPLに一本化した。
'''[[Sun ONE]]''' - One : Open Network Environment[http://wwws.sun.com/software/sunone/]
オラクルによる買収後、サンのMySQL創業者がスピンオフして[[MariaDB]]を立ち上げたほか<ref>[https://atmarkit.itmedia.co.jp/news/200905/14/mysql.html MySQLがフォークか、オープンアライアンスが誕生]</ref>、OpenOffice.orgも開発者の一部が離脱して[[LibreOffice]]を立ち上げるなど、プロジェクトの分裂が相次いでいる。その他Javaなど今後への懸念も報道されている<ref>[https://web.archive.org/web/20111127013954/http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0416&f=it_0416_002.shtml 【中国OSS】Javaはここ一年リーダー不在の状態]</ref>。これに対してはオラクルも、2011年6月にOpenOffice.orgを[[Apacheソフトウェア財団]]に寄贈するなど(現在の[[Apache OpenOffice]])、一部プロジェクトについてオープンソースコミュニティへの移管を行うことで、懸念解消に務めている。
==シンクライアントベンダとして==
サンは[[シンクライアント]]に早くから取り組んでおり、1996年ごろに[[:en:JavaStation|JavaStation]](2004年~2006年に販売されていたJava Workstationと全く異なる)を発売した。そして1999年<ref>{{Cite web|和書|title=COMDEX/Fall '99現地レポート |url=https://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/991118/comdex14.htm |website=pc.watch.impress.co.jp |access-date=2022-11-16}}</ref>からSun Rayシリーズを販売していたが、2013年に開発終了し<ref>{{Cite web|和書|title=米Oracle、Sun仮想化プロダクトの開発終了へ |url=https://news.mynavi.jp/techplus/article/20130716-a162/ |website=TECH+(テックプラス) |date=2013-07-16 |access-date=2022-11-16 |language=ja}}</ref>、2017年にサポートを終了した<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.oracle.com/jp/virtualization/technologies/vm/sun-ray-products.html |title=Sun Ray製品 |access-date=2022-11-16 |publisher=Oracle |quote=Sun Ray製品はすべて、生産が終了しています。}}</ref>。
Sun Rayシリーズでは、特筆すべきこととして、ICカードを抜き差しするだけで自分のデスクトップ環境が即座に表示される「ホットデスク」をサポートしていたことである。サンは2004年ごろから(日本法人も含めた)自社社内のほとんどの業務用端末がSun Rayになっているとのことであり、たとえば日本法人に勤務する人が国内のほかのオフィスや米国本社へ出張へ赴くときに席を予約しておき、出張先の席にあるSun Ray端末にICカードを差し込むだけでどこでも自分のデスクトップが表示されるのである。ある社員は(シリコンバレーから日本へのリモート接続であるにもかかわらず)あまりに快適に動作するので「本当に(自分のデスクトップ環境がおいてある)日本のサーバにつながっているのか?」と最初は混乱した旨を吐露している[http://blogs.sun.com/yappri/entry/sunray2]。
さらに2006年にはSun Rayサーバ経由でリモート デスクトップないし[[リモート デスクトップ サービス|ターミナル サービス]]が使えるWindowsとも接続可能になった<ref>{{Cite web|和書|title=シン・クライアント端末Sun RayでWindows操作が標準で可能に |url=https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20060517/238241/ |website=日経クロステック(xTECH) |access-date=2022-11-16 |language=ja |last=日経クロステック(xTECH)}}</ref>。2007年1月には[[無線LAN]]を搭載したノートPCタイプの「2N」を発売した。消費電力が通常のノートPCの半分だという。徐々にではあるが、Sun Rayは[[国防総省]]でも採用されるほどセキュリティが高いため自治体や大学などの教育機関や官公庁を中心に納入実績があった<ref>{{Cite web|和書|title=KKSブログ: 大阪大学、SunRayシンクライアントを事務用端末に採用 |url=https://www.kknews.co.jp/wb/archives/2007/04/sunray.html |website=www.kknews.co.jp |access-date=2022-11-16}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=阪大情報科学科、演習システムをOracle VDIに刷新--Sun Ray 2を100台導入 |url=https://japan.zdnet.com/article/35013465/ |website=ZDNet Japan |date=2012-01-26 |access-date=2022-11-16 |language=ja}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=1万人が利用するITシステムの利便性を向上するため、シンクライアントの刷新やインフラの強化を実現したい。 {{!}} NTTデータ カスタマサービス株式会社 |url=https://www.nttdatacs.co.jp/casestudy/02.html |website=www.nttdatacs.co.jp |access-date=2022-11-16}}</ref><ref>{{Cite web|和書|title=@IT Special: よりセキュアに、より環境に優しく、 ――シンクライアントSun Rayの実像 |url=https://atmarkit.itmedia.co.jp/ad/sun/0709sunray/sunray.html |website=atmarkit.itmedia.co.jp |access-date=2022-11-16}}</ref>。
== 日本法人 ==
[[File:Setagaya business square.jpg|thumb|“Sun”のロゴが付いたSBSビル([[2008年]])]]
日本法人の'''サン・マイクロシステムズ株式会社'''は[[東京都]][[世田谷区]][[用賀]]四丁目10番1号の[[世田谷ビジネススクエア|SBSビル]]に所在していた。日本法人も、[[2010年]]6月1日付で[[日本オラクル]]株式会社の兄弟会社である日本オラクルインフォメーションシステムズ株式会社([[2012年]]に[[合同会社]]に改組<ref>{{Cite web |和書 |title=Oracle Japan / オラクルについて / 沿革 |url=https://www.oracle.com/jp/corporate/history.html |website=Oracle |accessdate=2023-12-03}}</ref>)に統合された<ref>{{Cite web |和書 |title=サン製品取り扱い開始に関するお知らせ |url=https://www.oracle.com/a/ocom/docs/jp-investor-relations/newbusiness-sun-fix.pdf |format=PDF |author=日本オラクル株式会社 |website=Oracle |date=2010-06-02 |accessdate=2023-12-03}}</ref><!-- 日本オラクルインフォメーションシステムズを存続会社、サン・マイクロシステムズを消滅会社とする吸収合併なので、サン・マイクロシステムズは解散登記されているはず。-->。
== F1 ==
[[フォーミュラ1|F1]]では1995年から2005年にかけて、[[マクラーレン]]にテレメトリーシステムを供給していた。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
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== 外部リンク ==
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* [http://www.oracle.com/jp/sun/index.html オラクルとサン]
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[[Category:オラクルによる買収]]
[[Category:2010年の合併と買収]] | 2003-04-27T23:35:54Z | 2023-12-03T09:47:50Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E3%82%BA |
7,383 | 電磁波 | 電磁波(でんじは、英: electromagnetic wave)は、電場と磁場の変化を伝搬する波(波動)である。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱や屈折、反射、また回折や干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。電磁波の量子は光子である。電磁放射(英: electromagnetic radiation)とも呼ばれる。
日常生活で知られる光や電波などは電磁波の一種である(詳細は「種類」の項目を参照のこと)。
電磁波を説明する理論は、歴史的経緯や議論の側面によって光学、電磁気学、量子力学において統合的かつ整合的に扱われる。
電磁波は、その一種である光、特に可視光線について古くから研究されてきた。光の性質を研究する学問は、光学と呼ばれている。
光学とは別に、静電気(摩擦電気)や、磁石の磁力などの研究において、電場(電界)と磁場(磁界)という二つの場によって物理現象を記述することが試みられた。この学問を電磁気学といい、伝搬する電磁場の振動として電磁波の存在が知られるようになった。
量子力学は、古典的な電磁気学に反する現象が知られるようになり、電磁気学を修正する試みの中で構築された。これに伴い、電磁波の理論も量子力学、特に場の量子論(単に場の理論とも)によって記述されることになった。たとえば、自然放出や誘導放出などの電磁波の放出現象などは、量子力学的な粒子と場の相互作用によって説明される。
波を伝える媒体(媒質)が存在しない真空中でも電磁波は伝わる。電場と磁場の振動方向は互いに垂直に交わり、電磁波の進行方向もまた電磁場の振動方向に直交する。つまり、電磁波は横波である。基本的に電磁波は空間中を直進するが、物質が存在する空間では、吸収、屈折、散乱、回折、干渉、反射などの現象が起こる。また、重力場などの空間の歪みによって進行方向が曲がる(歪んだ空間に沿って直進する)。
媒質中を伝播する電磁波の速度は、真空中の光速度を物質の屈折率で割った速度になる。例えば、屈折率が 2.417 のダイヤモンドの中を伝播する可視光の速度は、真空中の光速度の約 41 % に低下する。ところで、電磁波が異なる屈折率の物質が接している境界を伝播するとき、その伝播速度が変化することによって屈折が起こる。これを利用したものにレンズがあり、メガネやカメラ、天体望遠鏡などに使われ、電子回路の複写などにも利用されている。 なお屈折率は電磁波の波長によって異なるため、屈折する角度も波長に依存する。これを分散と呼ぶ。虹が七色に見えるのは、太陽光が霧などの微小な水滴を通るとき、分散があるために、波長が長い赤色光と波長の短い紫色光が異なる角度に屈折するためである。
電磁波は、特にその波長によって物体との相互作用が異なる。そこで、波長帯ごとに電磁波は違う呼び方をされることがある。すなわち、波長の長い方から、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線(あるいはガンマ線)などと呼ばれる。我々の目で見えるのは可視光線のみだが、その範囲(波長 0.4–0.7 μm)は電磁波の中でも極めて狭い。可視光線の中では単色光の場合、赤、黄、緑、青、紫の順に波長が短くなる。そのため、ある基準よりも波長の長い電磁波を「赤い」、波長の短い電磁波を「青い」と表現することがある。
前述の通り、真空中では電磁波の速さは一定であるため、波長の長い電磁波は振動数が小さく、波長の短い電磁波は振動数が大きい。
電磁波には重ね合わせの原理が成り立ち、電磁波は線型性を持つことが知られる。線型性によって、電磁波を平面波、すなわち特定の振動方向と進行方向を持つ波の重ね合わせとして表現することができる。平面波はまた、同じ方向へ進む正弦波を用いて分解することができる。各々の正弦波は、波長、振幅、伝播方向、偏光、位相によって特徴付けられる。
ある電磁波を多くの正弦波の重ね合わせとみなしたとき、波長ごと、あるいは振動数ごとの成分の大きさの分布をスペクトルという。 例えば、理想的な白色光はすべての波長成分が一様に含まれている。逆に単色光は一つの波長成分だけを持つ。
1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルは、それまでに明らかにされていた、
という電磁場に関する四つの法則を統合することによって、マクスウェルの方程式を完成させた。これは電磁気学の基本原理である。電磁波は振動する電磁場であるため、マクスウェルの方程式によって電磁波も記述することができる。
マクスウェルの方程式は、電荷も電流もない空間では電場に対する波動方程式と磁場に対する波動方程式に帰着する。電磁場が波動方程式によって記述されるということは、電荷の運動に起因する電磁場の振動が波として空間を伝わるということである。マクスウェルの理論によって予想されたこの電磁波の存在は、1888年にハインリヒ・ヘルツによる実験で確認された。
また波動方程式から得られる真空中を伝播する電磁波の速さは一定である。そのため、相対性原理を仮定するならば、どのような慣性系についても、すなわち観測者がどのような方向と速度で動いていたとしても、観測される電磁波の速さは不変である。これを光速度不変の原理という。 その速さは真空中の光速に等しく 299792458 m/s(約 30万 km/s)である。光速度が不変であることは、有名なマイケルソン・モーリーの実験をはじめとして様々な実験により確かめられている。この真空中の光速は最も重要な物理定数の一つである。光速度不変の原理から、光速を用いて長さと時間の単位を定義することができる(メートル、秒の定義を参照)。
波動方程式の解として、電磁場が時間の関数と空間の関数の積で表されるような変数分離形のものを仮定すると、電磁場は調和振動子として記述されることが分かる。波動方程式の線型性から、このような変数分離形の解の線形結合もまた波動方程式を満たす解となるため、一般に電磁場は独立な調和振動子の集まりであると見なせる。
電場の波動方程式は、電磁誘導則の式について両辺の回転を取り:
∇ × ( ∇ × E → ) = − ∇ × ∂ B → ∂ t {\displaystyle \nabla \times (\nabla \times {\vec {E}})=-\nabla \times {\frac {\partial {\vec {B}}}{\partial t}}}
さらに電荷0および電流0の条件を加えることで導出可能である(誘電率や透磁率を変化させることで事実上同じ式に行き着く場合もあり、そのような場合には定数を異なる値にすることで同様に議論できる)。
前式の左辺は
∇ × ( ∇ × E → ) = ∇ ( ∇ ⋅ E → ) − ∇ 2 E → {\displaystyle \nabla \times (\nabla \times {\vec {E}})=\nabla (\nabla \cdot {\vec {E}})-\nabla ^{2}{\vec {E}}}
と変形できる。さらに電荷0すなわち ∇ ⋅ E → = 0 {\displaystyle \nabla \cdot {\vec {E}}=0} であるため − ∇ 2 E → {\displaystyle -\nabla ^{2}{\vec {E}}} が残る。
いっぽう、最初の式の右辺については、
− ∇ × ∂ B → ∂ t = − ∂ ∂ t ( ∇ × B → ) = − ∂ ∂ t ( μ 0 j → + 1 c 2 ∂ ∂ t E → ) {\displaystyle -\nabla \times {\frac {\partial {\vec {B}}}{\partial t}}=-{\frac {\partial }{\partial t}}(\nabla \times {\vec {B}})=-{\frac {\partial }{\partial t}}(\mu _{0}{\vec {j}}+{\frac {1}{c^{2}}}{\frac {\partial }{\partial t}}{\vec {E}})}
のように変形可能で、電流0すなわち j → = 0 {\displaystyle {\vec {j}}=0} により − 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 E → {\displaystyle -{\frac {1}{c^{2}}}{\frac {\partial ^{2}}{\partial t^{2}}}{\vec {E}}} が残る。
これらをまとめることで電場の波動方程式、
( 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 − ∇ 2 ) E → = 0 {\displaystyle \left({\frac {1}{c^{2}}}{\frac {\partial ^{2}}{\partial t^{2}}}-\nabla ^{2}\right){\vec {E}}=0}
が得られる(磁場に対しても同様の式が導出可能である)。
このような波動方程式の解は一般的に
E → ( x → , t ) = ∫ d k → E ~ → ( k → ) e i ( ω t − k → ⋅ x → ) {\displaystyle {\vec {E}}({\vec {x}},t)=\int d{\vec {k}}{\vec {\tilde {E}}}({\vec {k}})e^{i(\omega t-{\vec {k}}\cdot {\vec {x}})}}
のように構成される。
波数ベクトルを固定した各々の成分だけ考えれば、どれだけ遠方に伝播しようが全く減衰しないし、逆に強くなることもないことがわかる。また、この構成によって「調和振動子の集まりである」と言える。
電磁波は上述の議論により、物質がない場所では伝播はするが、もともと振動がない場合には発生しない。つまり、物質との相互作用として電荷や電流を組み込むことで電磁波が発生する。電磁波の発生機構を議論する場合、ポテンシャル形式の方が見通しが立ちやすいため、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを用いて4元形式で議論することが一般的である。4元形式で議論した場合、マクスウェル方程式はローレンツゲージを適用することで
( 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 − ∇ 2 ) A μ = j μ {\displaystyle \left({\frac {1}{c^{2}}}{\frac {\partial ^{2}}{\partial t^{2}}}-\nabla ^{2}\right)A^{\mu }=j^{\mu }}
が得られ、これに対する解として遅延グリーン関数を用いて解くことができる。しかし実際上はそれは難しいため、電荷・電流について多極展開することで多極モーメントからの放射を見たり、点電荷を加速度運動させる場合を考えて制動放射を計算する。
電磁場は調和振動子の集まりである。従って調和振動子を量子力学的に扱い、正準交換関係によって不確定性を導入すると、電磁場を量子化することができる。 調和振動子の持つエネルギーは、不確定性によって量子化し、エネルギー量子 hν の整数倍で表される飛び飛びの値だけを持つ。ここで ν は調和振動子の振動数であり、h = 6.62607015×10 J⋅s はプランク定数である。プランク定数 h は、マックス・プランクによる黒体輻射の研究から導入され、1900年のプランクの法則に関する論文の中で与えられた。
黒体輻射の振動数ごとのエネルギー分布を与えるプランクの公式は、ヴィーンの公式(ヴィーンの放射法則およびヴィーンの変位則参照)を手がかりにして、はじめは経験的に求められた。プランクの公式から導かれる帰結として、プランクはエネルギー量子仮説を提唱した。その理論的な根拠は、1905年に発表されたアルベルト・アインシュタインの光量子仮説によって与えられた。
電磁場の持つエネルギー密度は、マクスウェルの方程式から真空中では、電場の大きさと磁場の大きさの二乗和に比例する。 従って、電磁波のエネルギー密度は電磁波の振幅の二乗に比例する。 一方でアインシュタインの光量子仮説によれば、光子一つが持つエネルギーはエネルギー量子hν に等しい。電磁場のエネルギーはエネルギー量子 hν の整数倍として表されるため、光子の総数は電磁場のエネルギーに比例する。 そのため、電磁場の振幅はその振動数の平方根に比例し、また光子の個数密度の平方根にも比例する。
電磁波は波長によって様々な分類がされており、波長の長い方から電波・光・X線・ガンマ線などと呼ばれる。
なお、これらの境界は統一的に定められたものではない。学問分野・国ごとの法律・規格等によって多少の違いがある。
電磁波は波長によって様々な特徴を持つ。
最も波長の長い電波は、進行方向に多少の障害物があっても進行することができる。このため、通信や放送などの長距離の情報送信に使用されることが多い。テレビやラジオ、携帯電話などが代表的である。
電波よりも波長の短い光は、物質に吸収されて化学反応や発熱などの相互作用を生じることがある。この現象は眼が見える理由でもあるが、他に植物の光合成やリソグラフィーなどが該当する。
さらに波長が短いX線になると、光子の持つエネルギーが大きいため、分子に吸収されて熱振動に変わることはなく、物質を構成する電子などに直接作用する(分子の熱振動に比べて原子を構成する電子の励起エネルギーは大きい)。そのため比重の小さい物質ほどよく透過するようになる。この現象を利用することで、レントゲン写真やX線CTを撮影することができる。工業や自然科学の研究の場では、X線回折やX線光電子分光など物質の構造や元素の分析に用いられている。
X線やそれより短波長の領域は放射線の一種として扱われ、ガンマ線という呼ばれ方も使われる。X線とガンマ線の境は明確に定められてはいない。
X線よりさらに波長が短い領域になると、比重の重い物質で減衰は可能でも反射は困難となる。波長が1.2pm(10E-12m)程度より小さい領域では対生成を起こすようになる。
本項では「悪影響」に関して記述している。
紫外線などのエネルギーの大きな電磁波は、遺伝子に損傷を与えるため発癌性を持つ。X線・ガンマ線などの電離放射線については、年間許容被曝量が法律によって決められている。
低周波は、非電離放射線であるから遺伝子に直接影響を与えないと考えられている。
国際がん研究機関 (IARC) が2001年に行った発癌性評価では、送電線などから発生する低周波磁場には「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」 (Possibly carcinogenic to humans: Group 2B) と分類した。これは「ガソリンエンジン排ガス、鉛、ワラビ(食物)」などと同じレベルに当たる。なお、このレベルの分類に「コーヒー」も含まれていると誤解されることがあるが、国際がん研究機関がこのレベルに分類したのは、種々の植物に含まれる化学成分である「コーヒー酸」であって、飲料のコーヒーではない。
静的電磁界と超低周波電界については「ヒトに対して発がん性を分類できない」 (cannot be classified as to carcinogenicity in humans) と分類された。これは「カフェイン、水銀、お茶、コレステロール」などと同じレベルにあたる。
また、国立環境研究所 (NIES) が平成 9–11 年度に「超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究」を行った。
高強度のマイクロ波には、電子レンジと同様に熱を生じるため生体に影響を与える可能性がある。このため、携帯電話などの無線機器などでは、人体の電力比吸収率 (SAR: Specific Absorption Rate 単位は[Watt/kg])を用いた規定値が欧州の国際非電離放射線防護委員会(英語: International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)やアメリカ合衆国の連邦通信委員会などでは決められているほか、日本では国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) の電波防護ガイドラインに基づき、周波数 300 GHz (波長 1 mm)までの電波について、人体への影響を評価している。学会などでも比吸収率の計算(FDTD法)や人体を模した人体ファントムの組成の決定などが行われている。
電磁波の健康への影響は調査自体が非常に難しい。一例を挙げると、アメリカ合衆国で公的機関国立環境健康科学研究所(英語: National Institute of Environmental Health Sciences)で Research and Public Information Dissemination(RAPID: 調査および公共への情報頒布)計画という国家単位での電磁波の健康に対する影響の研究が行われた。国立環境健康科学研究所 (NIEHS) が作成したパンフレットでは、臨床研究、細胞を用いた実験室での研究、動物を使用した研究、疫学研究の各分野を組み合わせ検証した結果でないと全体像が見えないと解説されている。 1995年、電磁波問題に関する調査報告書をアメリカ物理学会が発表。「癌と送電線の電磁波に関係があるという憶測には、何ら科学的実証が見られない」と声明。
1996年、全米科学アカデミーは
という結論を出した。
1997年、アメリカ合衆国の国立癌研究所 (NCI) は 7 年間の疫学調査の結果から「小児急性リンパ芽球性白血病と磁場との関係は検知するにも懸念するにも微弱」であると発表。この調査の過程で、白血病患者の家庭と送電線の近隣での居住、双方に全く関係が見られなかった事が判明。これにより「関係がある」とされてきた統計学的分析結果は全てエラーデータとなり、1979年に疫学者ナンシー・ワートハイマーとエド・リーパーが作成した論文「小児白血病と送電線の磁場には関係がある (Electrical Wiring Configurations and Childhood Cancer)」の主張が完全な間違いであることが証明される。NCI の調査結果は医学専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載。
アメリカ合衆国科学技術政策局は、それまでの送電線騒動の研究に費やされた予算を、送電線の移転、不動産価値の下落を含め 250 億ドル超と概算した。
1999年、カナダの五つの州において調査された結果が発表され上述の NCI の結果と酷似した結論が出される。
疫学調査の正確性に対し疑問が投げかけられることもたびたびある。日本では、2003年に衆議院議員の長妻昭によって、国立環境研究所が行った「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」が国会で取り上げられた。長妻はこの研究報告の電気毛布等の小児白血病・脳腫瘍発症への影響に関するデータについて触れ、15 歳以下の小児の電気毛布等の使用に関する健康リスク評価および電磁波の影響に対する評価の正当性に疑問を呈した。この研究について政府は「交絡要因除去のための調査データであり電気毛布使用に対する健康リスク評価は直接行っていない」とし、調査そのものの正当性に関する指摘に対しては「優れた研究ではなかった、との評価がなされたところである」と回答している。電磁波そのものの影響については「子供部屋の平均磁界強度が 0.4 μT 以上の場合のみ健康リスクが上昇すること等が示唆されているが、本研究の結果が一般化できるとは判断できない」と回答している。
現在のエレクトロニクス機器(電子機器)は、低電圧の信号を高インピーダンスで扱うことが普通であるため、環境中に強い電磁波が存在すると誤動作を生じやすい。その機器が誤動作を生じやすいか生じ難いかを測る指標としてイミュニティ (Immunity) がある。特に携帯電話からは比較的強い電磁波が発せられるため、航空機や医療機器などへの影響が多数報告されている。
航空機に関しては、携帯電話、携帯型ゲーム機などの電磁波の影響による運行計器の誤作動が多数報告され、その中には大惨事になりかねない事態を引き起こした例もあったため、まず各航空会社で規制が行われるようになった。2004年には改正航空法によって禁止される機器が定められた。2007年3月に同法は改正され、携帯電話、パソコン、携帯情報端末など電波を発する状態にあるものは常時使用禁止、電波を発しない状態のものでも離着陸時使用禁止とし、携帯音楽プレーヤー、デジタルカメラ、テレビ、ラジオなども離着陸時使用禁止と定められた。
ゲーム機に関しては、「ニンテンドーDS」や「PlayStation Portable (PSP)」といった無線LAN内蔵の製品が存在しており機内での使用も増えているにもかかわらず、それらが2004年の改正航空法および航空法施行規則では「離着陸時のみ作動させてはならない電子機器」として指定されてしまっていて仮に無線LANの電波を発射させていても法律上取り締まれないという危険な状態であったが、各航空会社が規制を行い、その後2007年の改正で解消された。
2007年3月「航空機内における安全阻害行為等に関する有識者懇談会」の報告書では次のような症状が報告されている。
原因と推測されているのは携帯電話が 6 割強と最も多い。次いでパソコンが 1 割強。「障害が発生したケースの約 9 割において、電子機器を使用する者の存在が確認されている」とされ、「障害発生時に電子機器の使用を控えるようアナウンスしたところ、約 5 割で障害が復旧した」と報告されている。
2014年、規制緩和と常時接続できる設備が整ったため飛行中でも携帯電話での通話、インターネット接続、他、電子機器の利用が順次解禁となった。
植込み型心臓ペースメーカーへ携帯電話から電磁波による影響があるのは、2018年の総務省調査では最大でも 1 センチメートル (cm) の距離までであった。この影響も、患者自身が携帯電話を離すことが可能で、影響から回復できるという調査結果になっている。ただし指針では15 cm以上離れることを推奨している。なお、2002年の総務省調査では影響があるのは11 cmであり、指針は22 cm以上であった。距離が異なっているのは、現在使用されていない第2世代移動通信方式での調査であることに一因がある。
日本の公正取引委員会は、電磁波によるネズミ撃退器について、効果が認められないとして排除命令を出したことがある。
アメリカ軍は、電磁波を利用した非致死性兵器の研究を行っている(詳細はアクティブ・ディナイアル・システムを参照)。 | [
{
"paragraph_id": 0,
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"text": "電磁波(でんじは、英: electromagnetic wave)は、電場と磁場の変化を伝搬する波(波動)である。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱や屈折、反射、また回折や干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。電磁波の量子は光子である。電磁放射(英: electromagnetic radiation)とも呼ばれる。",
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},
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"text": "日常生活で知られる光や電波などは電磁波の一種である(詳細は「種類」の項目を参照のこと)。",
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},
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"text": "電磁波を説明する理論は、歴史的経緯や議論の側面によって光学、電磁気学、量子力学において統合的かつ整合的に扱われる。",
"title": "理論"
},
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"text": "電磁波は、その一種である光、特に可視光線について古くから研究されてきた。光の性質を研究する学問は、光学と呼ばれている。",
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"text": "光学とは別に、静電気(摩擦電気)や、磁石の磁力などの研究において、電場(電界)と磁場(磁界)という二つの場によって物理現象を記述することが試みられた。この学問を電磁気学といい、伝搬する電磁場の振動として電磁波の存在が知られるようになった。",
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},
{
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"text": "量子力学は、古典的な電磁気学に反する現象が知られるようになり、電磁気学を修正する試みの中で構築された。これに伴い、電磁波の理論も量子力学、特に場の量子論(単に場の理論とも)によって記述されることになった。たとえば、自然放出や誘導放出などの電磁波の放出現象などは、量子力学的な粒子と場の相互作用によって説明される。",
"title": "理論"
},
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"text": "波を伝える媒体(媒質)が存在しない真空中でも電磁波は伝わる。電場と磁場の振動方向は互いに垂直に交わり、電磁波の進行方向もまた電磁場の振動方向に直交する。つまり、電磁波は横波である。基本的に電磁波は空間中を直進するが、物質が存在する空間では、吸収、屈折、散乱、回折、干渉、反射などの現象が起こる。また、重力場などの空間の歪みによって進行方向が曲がる(歪んだ空間に沿って直進する)。",
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"text": "媒質中を伝播する電磁波の速度は、真空中の光速度を物質の屈折率で割った速度になる。例えば、屈折率が 2.417 のダイヤモンドの中を伝播する可視光の速度は、真空中の光速度の約 41 % に低下する。ところで、電磁波が異なる屈折率の物質が接している境界を伝播するとき、その伝播速度が変化することによって屈折が起こる。これを利用したものにレンズがあり、メガネやカメラ、天体望遠鏡などに使われ、電子回路の複写などにも利用されている。 なお屈折率は電磁波の波長によって異なるため、屈折する角度も波長に依存する。これを分散と呼ぶ。虹が七色に見えるのは、太陽光が霧などの微小な水滴を通るとき、分散があるために、波長が長い赤色光と波長の短い紫色光が異なる角度に屈折するためである。",
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"text": "電磁波は、特にその波長によって物体との相互作用が異なる。そこで、波長帯ごとに電磁波は違う呼び方をされることがある。すなわち、波長の長い方から、電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線(あるいはガンマ線)などと呼ばれる。我々の目で見えるのは可視光線のみだが、その範囲(波長 0.4–0.7 μm)は電磁波の中でも極めて狭い。可視光線の中では単色光の場合、赤、黄、緑、青、紫の順に波長が短くなる。そのため、ある基準よりも波長の長い電磁波を「赤い」、波長の短い電磁波を「青い」と表現することがある。",
"title": "理論"
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{
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"text": "前述の通り、真空中では電磁波の速さは一定であるため、波長の長い電磁波は振動数が小さく、波長の短い電磁波は振動数が大きい。",
"title": "理論"
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"text": "電磁波には重ね合わせの原理が成り立ち、電磁波は線型性を持つことが知られる。線型性によって、電磁波を平面波、すなわち特定の振動方向と進行方向を持つ波の重ね合わせとして表現することができる。平面波はまた、同じ方向へ進む正弦波を用いて分解することができる。各々の正弦波は、波長、振幅、伝播方向、偏光、位相によって特徴付けられる。",
"title": "理論"
},
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"text": "ある電磁波を多くの正弦波の重ね合わせとみなしたとき、波長ごと、あるいは振動数ごとの成分の大きさの分布をスペクトルという。 例えば、理想的な白色光はすべての波長成分が一様に含まれている。逆に単色光は一つの波長成分だけを持つ。",
"title": "理論"
},
{
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"text": "1864年にジェームズ・クラーク・マクスウェルは、それまでに明らかにされていた、",
"title": "理論"
},
{
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"tag": "p",
"text": "という電磁場に関する四つの法則を統合することによって、マクスウェルの方程式を完成させた。これは電磁気学の基本原理である。電磁波は振動する電磁場であるため、マクスウェルの方程式によって電磁波も記述することができる。",
"title": "理論"
},
{
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"tag": "p",
"text": "マクスウェルの方程式は、電荷も電流もない空間では電場に対する波動方程式と磁場に対する波動方程式に帰着する。電磁場が波動方程式によって記述されるということは、電荷の運動に起因する電磁場の振動が波として空間を伝わるということである。マクスウェルの理論によって予想されたこの電磁波の存在は、1888年にハインリヒ・ヘルツによる実験で確認された。",
"title": "理論"
},
{
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"text": "また波動方程式から得られる真空中を伝播する電磁波の速さは一定である。そのため、相対性原理を仮定するならば、どのような慣性系についても、すなわち観測者がどのような方向と速度で動いていたとしても、観測される電磁波の速さは不変である。これを光速度不変の原理という。 その速さは真空中の光速に等しく 299792458 m/s(約 30万 km/s)である。光速度が不変であることは、有名なマイケルソン・モーリーの実験をはじめとして様々な実験により確かめられている。この真空中の光速は最も重要な物理定数の一つである。光速度不変の原理から、光速を用いて長さと時間の単位を定義することができる(メートル、秒の定義を参照)。",
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},
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"text": "波動方程式の解として、電磁場が時間の関数と空間の関数の積で表されるような変数分離形のものを仮定すると、電磁場は調和振動子として記述されることが分かる。波動方程式の線型性から、このような変数分離形の解の線形結合もまた波動方程式を満たす解となるため、一般に電磁場は独立な調和振動子の集まりであると見なせる。",
"title": "理論"
},
{
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"text": "電場の波動方程式は、電磁誘導則の式について両辺の回転を取り:",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 18,
"tag": "p",
"text": "∇ × ( ∇ × E → ) = − ∇ × ∂ B → ∂ t {\\displaystyle \\nabla \\times (\\nabla \\times {\\vec {E}})=-\\nabla \\times {\\frac {\\partial {\\vec {B}}}{\\partial t}}}",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "さらに電荷0および電流0の条件を加えることで導出可能である(誘電率や透磁率を変化させることで事実上同じ式に行き着く場合もあり、そのような場合には定数を異なる値にすることで同様に議論できる)。",
"title": "理論"
},
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"text": "前式の左辺は",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "∇ × ( ∇ × E → ) = ∇ ( ∇ ⋅ E → ) − ∇ 2 E → {\\displaystyle \\nabla \\times (\\nabla \\times {\\vec {E}})=\\nabla (\\nabla \\cdot {\\vec {E}})-\\nabla ^{2}{\\vec {E}}}",
"title": "理論"
},
{
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"tag": "p",
"text": "と変形できる。さらに電荷0すなわち ∇ ⋅ E → = 0 {\\displaystyle \\nabla \\cdot {\\vec {E}}=0} であるため − ∇ 2 E → {\\displaystyle -\\nabla ^{2}{\\vec {E}}} が残る。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 23,
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"text": "いっぽう、最初の式の右辺については、",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "− ∇ × ∂ B → ∂ t = − ∂ ∂ t ( ∇ × B → ) = − ∂ ∂ t ( μ 0 j → + 1 c 2 ∂ ∂ t E → ) {\\displaystyle -\\nabla \\times {\\frac {\\partial {\\vec {B}}}{\\partial t}}=-{\\frac {\\partial }{\\partial t}}(\\nabla \\times {\\vec {B}})=-{\\frac {\\partial }{\\partial t}}(\\mu _{0}{\\vec {j}}+{\\frac {1}{c^{2}}}{\\frac {\\partial }{\\partial t}}{\\vec {E}})}",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "のように変形可能で、電流0すなわち j → = 0 {\\displaystyle {\\vec {j}}=0} により − 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 E → {\\displaystyle -{\\frac {1}{c^{2}}}{\\frac {\\partial ^{2}}{\\partial t^{2}}}{\\vec {E}}} が残る。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "これらをまとめることで電場の波動方程式、",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "( 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 − ∇ 2 ) E → = 0 {\\displaystyle \\left({\\frac {1}{c^{2}}}{\\frac {\\partial ^{2}}{\\partial t^{2}}}-\\nabla ^{2}\\right){\\vec {E}}=0}",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "が得られる(磁場に対しても同様の式が導出可能である)。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "このような波動方程式の解は一般的に",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "E → ( x → , t ) = ∫ d k → E ~ → ( k → ) e i ( ω t − k → ⋅ x → ) {\\displaystyle {\\vec {E}}({\\vec {x}},t)=\\int d{\\vec {k}}{\\vec {\\tilde {E}}}({\\vec {k}})e^{i(\\omega t-{\\vec {k}}\\cdot {\\vec {x}})}}",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "のように構成される。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "波数ベクトルを固定した各々の成分だけ考えれば、どれだけ遠方に伝播しようが全く減衰しないし、逆に強くなることもないことがわかる。また、この構成によって「調和振動子の集まりである」と言える。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "電磁波は上述の議論により、物質がない場所では伝播はするが、もともと振動がない場合には発生しない。つまり、物質との相互作用として電荷や電流を組み込むことで電磁波が発生する。電磁波の発生機構を議論する場合、ポテンシャル形式の方が見通しが立ちやすいため、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを用いて4元形式で議論することが一般的である。4元形式で議論した場合、マクスウェル方程式はローレンツゲージを適用することで",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "( 1 c 2 ∂ 2 ∂ t 2 − ∇ 2 ) A μ = j μ {\\displaystyle \\left({\\frac {1}{c^{2}}}{\\frac {\\partial ^{2}}{\\partial t^{2}}}-\\nabla ^{2}\\right)A^{\\mu }=j^{\\mu }}",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "が得られ、これに対する解として遅延グリーン関数を用いて解くことができる。しかし実際上はそれは難しいため、電荷・電流について多極展開することで多極モーメントからの放射を見たり、点電荷を加速度運動させる場合を考えて制動放射を計算する。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "電磁場は調和振動子の集まりである。従って調和振動子を量子力学的に扱い、正準交換関係によって不確定性を導入すると、電磁場を量子化することができる。 調和振動子の持つエネルギーは、不確定性によって量子化し、エネルギー量子 hν の整数倍で表される飛び飛びの値だけを持つ。ここで ν は調和振動子の振動数であり、h = 6.62607015×10 J⋅s はプランク定数である。プランク定数 h は、マックス・プランクによる黒体輻射の研究から導入され、1900年のプランクの法則に関する論文の中で与えられた。",
"title": "理論"
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{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "黒体輻射の振動数ごとのエネルギー分布を与えるプランクの公式は、ヴィーンの公式(ヴィーンの放射法則およびヴィーンの変位則参照)を手がかりにして、はじめは経験的に求められた。プランクの公式から導かれる帰結として、プランクはエネルギー量子仮説を提唱した。その理論的な根拠は、1905年に発表されたアルベルト・アインシュタインの光量子仮説によって与えられた。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "電磁場の持つエネルギー密度は、マクスウェルの方程式から真空中では、電場の大きさと磁場の大きさの二乗和に比例する。 従って、電磁波のエネルギー密度は電磁波の振幅の二乗に比例する。 一方でアインシュタインの光量子仮説によれば、光子一つが持つエネルギーはエネルギー量子hν に等しい。電磁場のエネルギーはエネルギー量子 hν の整数倍として表されるため、光子の総数は電磁場のエネルギーに比例する。 そのため、電磁場の振幅はその振動数の平方根に比例し、また光子の個数密度の平方根にも比例する。",
"title": "理論"
},
{
"paragraph_id": 39,
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"text": "電磁波は波長によって様々な分類がされており、波長の長い方から電波・光・X線・ガンマ線などと呼ばれる。",
"title": "種類"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "なお、これらの境界は統一的に定められたものではない。学問分野・国ごとの法律・規格等によって多少の違いがある。",
"title": "種類"
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{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "電磁波は波長によって様々な特徴を持つ。",
"title": "特徴"
},
{
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"tag": "p",
"text": "最も波長の長い電波は、進行方向に多少の障害物があっても進行することができる。このため、通信や放送などの長距離の情報送信に使用されることが多い。テレビやラジオ、携帯電話などが代表的である。",
"title": "特徴"
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{
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"tag": "p",
"text": "電波よりも波長の短い光は、物質に吸収されて化学反応や発熱などの相互作用を生じることがある。この現象は眼が見える理由でもあるが、他に植物の光合成やリソグラフィーなどが該当する。",
"title": "特徴"
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{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "さらに波長が短いX線になると、光子の持つエネルギーが大きいため、分子に吸収されて熱振動に変わることはなく、物質を構成する電子などに直接作用する(分子の熱振動に比べて原子を構成する電子の励起エネルギーは大きい)。そのため比重の小さい物質ほどよく透過するようになる。この現象を利用することで、レントゲン写真やX線CTを撮影することができる。工業や自然科学の研究の場では、X線回折やX線光電子分光など物質の構造や元素の分析に用いられている。",
"title": "特徴"
},
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"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "X線やそれより短波長の領域は放射線の一種として扱われ、ガンマ線という呼ばれ方も使われる。X線とガンマ線の境は明確に定められてはいない。",
"title": "特徴"
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"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "X線よりさらに波長が短い領域になると、比重の重い物質で減衰は可能でも反射は困難となる。波長が1.2pm(10E-12m)程度より小さい領域では対生成を起こすようになる。",
"title": "特徴"
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"text": "本項では「悪影響」に関して記述している。",
"title": "影響"
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"text": "紫外線などのエネルギーの大きな電磁波は、遺伝子に損傷を与えるため発癌性を持つ。X線・ガンマ線などの電離放射線については、年間許容被曝量が法律によって決められている。",
"title": "影響"
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"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "低周波は、非電離放射線であるから遺伝子に直接影響を与えないと考えられている。",
"title": "影響"
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"paragraph_id": 50,
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"text": "国際がん研究機関 (IARC) が2001年に行った発癌性評価では、送電線などから発生する低周波磁場には「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」 (Possibly carcinogenic to humans: Group 2B) と分類した。これは「ガソリンエンジン排ガス、鉛、ワラビ(食物)」などと同じレベルに当たる。なお、このレベルの分類に「コーヒー」も含まれていると誤解されることがあるが、国際がん研究機関がこのレベルに分類したのは、種々の植物に含まれる化学成分である「コーヒー酸」であって、飲料のコーヒーではない。",
"title": "影響"
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"text": "静的電磁界と超低周波電界については「ヒトに対して発がん性を分類できない」 (cannot be classified as to carcinogenicity in humans) と分類された。これは「カフェイン、水銀、お茶、コレステロール」などと同じレベルにあたる。",
"title": "影響"
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"text": "また、国立環境研究所 (NIES) が平成 9–11 年度に「超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究」を行った。",
"title": "影響"
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"text": "高強度のマイクロ波には、電子レンジと同様に熱を生じるため生体に影響を与える可能性がある。このため、携帯電話などの無線機器などでは、人体の電力比吸収率 (SAR: Specific Absorption Rate 単位は[Watt/kg])を用いた規定値が欧州の国際非電離放射線防護委員会(英語: International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)やアメリカ合衆国の連邦通信委員会などでは決められているほか、日本では国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) の電波防護ガイドラインに基づき、周波数 300 GHz (波長 1 mm)までの電波について、人体への影響を評価している。学会などでも比吸収率の計算(FDTD法)や人体を模した人体ファントムの組成の決定などが行われている。",
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"text": "電磁波の健康への影響は調査自体が非常に難しい。一例を挙げると、アメリカ合衆国で公的機関国立環境健康科学研究所(英語: National Institute of Environmental Health Sciences)で Research and Public Information Dissemination(RAPID: 調査および公共への情報頒布)計画という国家単位での電磁波の健康に対する影響の研究が行われた。国立環境健康科学研究所 (NIEHS) が作成したパンフレットでは、臨床研究、細胞を用いた実験室での研究、動物を使用した研究、疫学研究の各分野を組み合わせ検証した結果でないと全体像が見えないと解説されている。 1995年、電磁波問題に関する調査報告書をアメリカ物理学会が発表。「癌と送電線の電磁波に関係があるという憶測には、何ら科学的実証が見られない」と声明。",
"title": "影響"
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"text": "1996年、全米科学アカデミーは",
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"text": "という結論を出した。",
"title": "影響"
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"text": "1997年、アメリカ合衆国の国立癌研究所 (NCI) は 7 年間の疫学調査の結果から「小児急性リンパ芽球性白血病と磁場との関係は検知するにも懸念するにも微弱」であると発表。この調査の過程で、白血病患者の家庭と送電線の近隣での居住、双方に全く関係が見られなかった事が判明。これにより「関係がある」とされてきた統計学的分析結果は全てエラーデータとなり、1979年に疫学者ナンシー・ワートハイマーとエド・リーパーが作成した論文「小児白血病と送電線の磁場には関係がある (Electrical Wiring Configurations and Childhood Cancer)」の主張が完全な間違いであることが証明される。NCI の調査結果は医学専門誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に掲載。",
"title": "影響"
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"text": "アメリカ合衆国科学技術政策局は、それまでの送電線騒動の研究に費やされた予算を、送電線の移転、不動産価値の下落を含め 250 億ドル超と概算した。",
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"text": "1999年、カナダの五つの州において調査された結果が発表され上述の NCI の結果と酷似した結論が出される。",
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"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "疫学調査の正確性に対し疑問が投げかけられることもたびたびある。日本では、2003年に衆議院議員の長妻昭によって、国立環境研究所が行った「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」が国会で取り上げられた。長妻はこの研究報告の電気毛布等の小児白血病・脳腫瘍発症への影響に関するデータについて触れ、15 歳以下の小児の電気毛布等の使用に関する健康リスク評価および電磁波の影響に対する評価の正当性に疑問を呈した。この研究について政府は「交絡要因除去のための調査データであり電気毛布使用に対する健康リスク評価は直接行っていない」とし、調査そのものの正当性に関する指摘に対しては「優れた研究ではなかった、との評価がなされたところである」と回答している。電磁波そのものの影響については「子供部屋の平均磁界強度が 0.4 μT 以上の場合のみ健康リスクが上昇すること等が示唆されているが、本研究の結果が一般化できるとは判断できない」と回答している。",
"title": "影響"
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"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "現在のエレクトロニクス機器(電子機器)は、低電圧の信号を高インピーダンスで扱うことが普通であるため、環境中に強い電磁波が存在すると誤動作を生じやすい。その機器が誤動作を生じやすいか生じ難いかを測る指標としてイミュニティ (Immunity) がある。特に携帯電話からは比較的強い電磁波が発せられるため、航空機や医療機器などへの影響が多数報告されている。",
"title": "影響"
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"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "航空機に関しては、携帯電話、携帯型ゲーム機などの電磁波の影響による運行計器の誤作動が多数報告され、その中には大惨事になりかねない事態を引き起こした例もあったため、まず各航空会社で規制が行われるようになった。2004年には改正航空法によって禁止される機器が定められた。2007年3月に同法は改正され、携帯電話、パソコン、携帯情報端末など電波を発する状態にあるものは常時使用禁止、電波を発しない状態のものでも離着陸時使用禁止とし、携帯音楽プレーヤー、デジタルカメラ、テレビ、ラジオなども離着陸時使用禁止と定められた。",
"title": "影響"
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"text": "ゲーム機に関しては、「ニンテンドーDS」や「PlayStation Portable (PSP)」といった無線LAN内蔵の製品が存在しており機内での使用も増えているにもかかわらず、それらが2004年の改正航空法および航空法施行規則では「離着陸時のみ作動させてはならない電子機器」として指定されてしまっていて仮に無線LANの電波を発射させていても法律上取り締まれないという危険な状態であったが、各航空会社が規制を行い、その後2007年の改正で解消された。",
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"text": "2007年3月「航空機内における安全阻害行為等に関する有識者懇談会」の報告書では次のような症状が報告されている。",
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"text": "原因と推測されているのは携帯電話が 6 割強と最も多い。次いでパソコンが 1 割強。「障害が発生したケースの約 9 割において、電子機器を使用する者の存在が確認されている」とされ、「障害発生時に電子機器の使用を控えるようアナウンスしたところ、約 5 割で障害が復旧した」と報告されている。",
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"paragraph_id": 66,
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"text": "2014年、規制緩和と常時接続できる設備が整ったため飛行中でも携帯電話での通話、インターネット接続、他、電子機器の利用が順次解禁となった。",
"title": "影響"
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"paragraph_id": 67,
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"text": "植込み型心臓ペースメーカーへ携帯電話から電磁波による影響があるのは、2018年の総務省調査では最大でも 1 センチメートル (cm) の距離までであった。この影響も、患者自身が携帯電話を離すことが可能で、影響から回復できるという調査結果になっている。ただし指針では15 cm以上離れることを推奨している。なお、2002年の総務省調査では影響があるのは11 cmであり、指針は22 cm以上であった。距離が異なっているのは、現在使用されていない第2世代移動通信方式での調査であることに一因がある。",
"title": "影響"
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"text": "日本の公正取引委員会は、電磁波によるネズミ撃退器について、効果が認められないとして排除命令を出したことがある。",
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"text": "アメリカ軍は、電磁波を利用した非致死性兵器の研究を行っている(詳細はアクティブ・ディナイアル・システムを参照)。",
"title": "影響"
}
] | 電磁波は、電場と磁場の変化を伝搬する波(波動)である。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱や屈折、反射、また回折や干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。電磁波の量子は光子である。電磁放射とも呼ばれる。 日常生活で知られる光や電波などは電磁波の一種である(詳細は「種類」の項目を参照のこと)。 | [[ファイル:Onde_electromagnetique.svg|サムネイル|350x350ピクセル|空間を伝わる電磁波。横軸は電磁波の進行方向を指す。縦軸は電場と磁場であり、磁場の軸は奥行き方向に倒して描かれている。図に示されるように、電磁波は[[横波]]として伝播する。]]
'''電磁波'''(でんじは、{{Lang-en-short|electromagnetic wave}})は、[[電場]]と[[磁場]]の変化を伝搬する波([[波動]])である。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、[[光散乱|散乱]]や[[屈折]]、[[反射 (物理学)|反射]]、また[[回折]]や[[干渉_(物理学)|干渉]]など、[[波長]]によって様々な波としての性質を示す一方で、[[微視的]]には粒子として個数を数えることができる。電磁波の[[量子]]は[[光子]]である。'''電磁放射'''({{Lang-en-short|[[:en:Electromagnetic_radiation|electromagnetic radiation]]}})とも呼ばれる。
日常生活で知られる[[光]]や[[電波]]などは電磁波の一種である(詳細は「種類」の項目を参照のこと)。
== 理論 ==
電磁波を説明する理論は、歴史的経緯や議論の側面によって[[光学]]、[[電磁気学]]、[[量子力学]]において統合的かつ整合的に扱われる。
電磁波は、その一種である[[光]]、特に[[可視光線]]について古くから研究されてきた。光の性質を研究する学問は、'''光学'''と呼ばれている。
光学とは別に、[[静電気]]([[摩擦帯電|摩擦電気]])や、[[磁石]]の[[磁力]]などの研究において、[[電場]](電界)と[[磁場]](磁界)という二つの[[場]]によって物理現象を記述することが試みられた。この学問を'''電磁気学'''といい、伝搬する[[電磁場]]の振動として電磁波の存在が知られるようになった。
'''量子力学'''は、古典的な電磁気学に反する現象が知られるようになり、電磁気学を修正する試みの中で構築された。これに伴い、電磁波の理論も量子力学、特に[[場の量子論]](単に'''場の理論'''とも)によって記述されることになった。たとえば、[[自然放出]]や[[誘導放出]]などの電磁波の放出現象などは、量子力学的な[[粒子]]と場の[[相互作用]]によって説明される。
=== 光学 ===
波を伝える[[伝送路|媒体]]([[媒質]])が存在しない[[真空]]中でも電磁波は伝わる。電場と磁場の振動方向は互いに[[垂直]]に交わり、電磁波の進行方向もまた電磁場の振動方向に[[直交]]する。つまり、電磁波は[[縦波と横波|横波]]である。基本的に電磁波は[[空間]]中を直進するが、物質が存在する空間では、[[吸光|吸収]]、[[屈折]]、[[光散乱|散乱]]、[[回折]]、[[干渉_(物理学)|干渉]]、[[反射 (物理学)|反射]]などの現象が起こる。また、[[重力場]]などの空間の歪みによって進行方向が曲がる(歪んだ空間に沿って直進する)。
'''媒質中を伝播する電磁波'''の速度は、真空中の光速度を物質の[[屈折率]]で割った速度になる。例えば、屈折率が 2.417 の[[ダイヤモンド]]の中を伝播する可視光の速度は、真空中の光速度の約 41 % に低下する。ところで、電磁波が異なる屈折率の物質が接している境界を伝播するとき、その伝播速度が変化することによって[[屈折]]が起こる。これを利用したものに[[レンズ]]があり、[[メガネ]]や[[カメラ]]、[[天体望遠鏡]]などに使われ、[[電子回路]]の複写などにも利用されている。
なお屈折率は電磁波の波長によって異なるため、屈折する角度も波長に依存する。これを[[分散 (光学)|分散]]と呼ぶ。[[虹]]が七色に見えるのは、[[太陽光]]が[[霧]]などの微小な水滴を通るとき、分散があるために、波長が長い赤色光と波長の短い紫色光が異なる角度に屈折するためである。
電磁波は、特にその[[波長]]によって物体との相互作用が異なる。そこで、波長帯ごとに電磁波は違う呼び方をされることがある。すなわち、波長の長い方から、[[電波]]、[[赤外線]]、[[可視光線]]、[[紫外線]]、[[X線]](あるいは[[ガンマ線]])などと呼ばれる。我々の目で見えるのは可視光線のみだが、その範囲(波長 0.4–0.7 [[マイクロメートル|μm]])は電磁波の中でも極めて狭い。可視光線の中では[[単色光]]の場合、[[赤]]、[[黄色|黄]]、[[緑]]、[[青]]、[[紫]]の順に波長が短くなる。そのため、ある基準よりも波長の長い電磁波を「赤い」、波長の短い電磁波を「青い」と表現することがある。
前述の通り、[[真空]]中では電磁波の速さは一定であるため、波長の長い電磁波は振動数が小さく、波長の短い電磁波は振動数が大きい。
電磁波には[[線型方程式#重ね合わせの原理|重ね合わせの原理]]が成り立ち、電磁波は[[線型性]]を持つことが知られる。線型性によって、電磁波を[[平面波]]、すなわち特定の振動方向と進行方向を持つ波の重ね合わせとして表現することができる。平面波はまた、同じ方向へ進む[[正弦波]]を用いて分解することができる。各々の正弦波は、[[波長]]、[[振幅]]、[[波数#波数ベクトル|伝播方向]]、[[偏光]]、[[位相]]によって特徴付けられる。
ある電磁波を多くの正弦波の重ね合わせとみなしたとき、波長ごと、あるいは振動数ごとの成分の大きさの分布を[[スペクトル]]という。
例えば、理想的な[[白色光]]はすべての波長成分が一様に含まれている。逆に単色光は一つの波長成分だけを持つ。
=== 電磁気学 ===
[[1864年]]に[[ジェームズ・クラーク・マクスウェル]]は、それまでに明らかにされていた、
# [[ファラデーの電磁誘導の法則]]
# [[アンペールの法則|アンペール=マクスウェルの法則]]
# [[電場]]に関する[[ガウスの法則]]
# [[磁場]]に関する[[ガウスの法則 (磁場)|ガウスの法則]]
という[[電磁場]]に関する四つの法則を統合することによって、'''[[マクスウェルの方程式]]'''を完成させた。これは[[電磁気学]]の基本原理である。電磁波は振動する電磁場であるため、マクスウェルの方程式によって電磁波も記述することができる。
マクスウェルの方程式は、[[電荷]]も[[電流]]もない空間では電場に対する[[波動方程式]]と磁場に対する波動方程式に帰着する。電磁場が波動方程式によって記述されるということは、電荷の運動に起因する電磁場の振動が波として空間を伝わるということである。マクスウェルの理論によって予想されたこの電磁波の存在は、[[1888年]]に[[ハインリヒ・ヘルツ]]による実験で確認された。
また波動方程式から得られる'''真空中を伝播する電磁波'''の速さは一定である。そのため、[[相対性原理]]を仮定するならば、どのような[[慣性系]]についても、すなわち観測者がどのような方向と速度で動いていたとしても、観測される電磁波の速さは不変である。これを[[光速度不変の原理]]という。
その速さは[[光速|真空中の光速]]に等しく {{val|299792458|u=m/s}}(約 30万 km/s)である。光速度が不変であることは、有名な[[マイケルソン・モーリーの実験]]をはじめとして様々な実験により確かめられている。この'''真空中の光速'''は最も重要な[[物理定数]]の一つである。光速度不変の原理から、光速を用いて[[長さ]]と[[時間]]の[[単位]]を定義することができる([[メートル]]、[[秒]]の定義を参照)。
波動方程式の[[解]]として、電磁場が[[時間]]の[[関数 (数学)|関数]]と[[空間]]の関数の積で表されるような[[変数分離#偏微分方程式|変数分離形]]のものを仮定すると、電磁場は[[調和振動子]]として記述されることが分かる。波動方程式の[[線型性]]から、このような変数分離形の解の[[線形結合]]もまた波動方程式を満たす解となるため、一般に電磁場は独立な調和振動子の集まりであると見なせる。
==== 電場および磁場の波動方程式の導出 ====
電場の波動方程式は、電磁誘導則の式について両辺の回転を取り:
<math>\nabla \times (\nabla \times \vec{E}) = -\nabla\times\frac{\partial\vec{B}}{\partial t}</math>
さらに電荷0および電流0の条件を加えることで導出可能である(誘電率や透磁率を変化させることで事実上同じ式に行き着く場合もあり、そのような場合には定数を異なる値にすることで同様に議論できる)。
前式の左辺は
<math>\nabla \times (\nabla \times \vec{E}) =\nabla(\nabla\cdot\vec{E})-\nabla^{2}\vec{E}</math>
と変形できる。さらに電荷0すなわち <math>\nabla\cdot\vec{E}=0</math> であるため <math>-\nabla^{2}\vec{E}</math> が残る。
いっぽう、最初の式の右辺については、
<math>-\nabla\times\frac{\partial\vec{B}}{\partial t}=-\frac{\partial}{\partial t}(\nabla\times\vec{B})=-\frac{\partial}{\partial t}(\mu_{0}\vec{j}+\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial}{\partial t}\vec{E})</math>
のように変形可能で、電流0すなわち <math>\vec{j}=0</math> により <math>-\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}}\vec{E}</math> が残る。
これらをまとめることで電場の波動方程式、
<math>\left(\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}}-\nabla^{2}\right)\vec{E}=0</math>
が得られる(磁場に対しても同様の式が導出可能である)。
このような波動方程式の解は一般的に
<math>\vec{E}(\vec{x},t)=\int d\vec{k} \vec{\tilde{E}}(\vec{k})e^{i(\omega t-\vec{k}\cdot\vec{x})}</math>
のように構成される。
波数ベクトルを固定した各々の成分だけ考えれば、どれだけ遠方に伝播しようが全く減衰しないし、逆に強くなることもないことがわかる。また、この構成によって「調和振動子の集まりである」と言える。
==== 電磁波の発生機構 ====
電磁波は上述の議論により、物質がない場所では伝播はするが、もともと振動がない場合には発生しない。つまり、物質との相互作用として電荷や電流を組み込むことで電磁波が発生する。電磁波の発生機構を議論する場合、ポテンシャル形式の方が見通しが立ちやすいため、ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを用いて4元形式で議論することが一般的である。4元形式で議論した場合、マクスウェル方程式はローレンツゲージを適用することで
<math>\left(\frac{1}{c^{2}}\frac{\partial^{2}}{\partial t^{2}}-\nabla^{2}\right) A^{\mu} = j^{\mu}</math>
が得られ、これに対する解として遅延グリーン関数を用いて解くことができる。しかし実際上はそれは難しいため、電荷・電流について多極展開することで多極モーメントからの放射を見たり、点電荷を加速度運動させる場合を考えて[[制動放射]]を計算する。
=== 量子力学 ===
電磁場は調和振動子の集まりである。従って調和振動子を[[量子力学]]的に扱い、[[正準交換関係]]によって[[不確定性原理|不確定性]]を導入すると、電磁場を[[正準量子化|量子化]]することができる。
調和振動子の持つ[[エネルギー]]は、不確定性によって量子化し、エネルギー量子 ''h''ν の整数倍で表される飛び飛びの値だけを持つ。ここで ν は調和振動子の[[振動数]]であり、''h'' = {{val|6.62607015|e=-34|u=J.s}} は[[プランク定数]]である。プランク定数 ''h'' は、[[マックス・プランク]]による[[黒体|黒体輻射]]の研究から導入され、[[1900年]]の[[プランクの法則]]に関する論文の中で与えられた<ref>Max Planck, ''Zur Theorie des Gesetzes der Energieverteilung im Normalspektrum'', Deutschen Physikalischen Gesellschaft Verhandlungen '''2''', 1900, pp. 237–245. [http://www.christoph.mettenheim.de/planck-energieverteilung.pdf pdf].</ref><ref>Max Planck, ''On the Law of Distribution of Energy in the Normal Spectrum'' , Annalen der Physik, volume '''309''', issue 3, pp. 553-563, 1901. [http://people.isy.liu.se/jalar/kurser/QF/references/Planck1901.pdf pdf]. ''Ueber das Gesetz der Energieverteilung im Norrnalspectrum'' の英訳版。</ref>。
黒体輻射の振動数ごとのエネルギー分布を与えるプランクの公式は、'''ヴィーンの公式'''([[ヴィーンの放射法則]]および[[ウィーンの変位則|ヴィーンの変位則]]参照)を手がかりにして、はじめは経験的に求められた。プランクの公式から導かれる帰結として、プランクは'''エネルギー量子仮説'''を提唱した。その理論的な根拠は、[[1905年]]に発表された[[アルベルト・アインシュタイン]]の[[光子#歴史的発展|光量子仮説]]によって与えられた<ref>Albert Einstein, ''Über einen die Erzeugung und Verwandlung des Lichtes betreffenden heurischen Gesichtspunkt'' , Annalen der Physik Band '''17''', pp. 132–148. [http://www.zbp.univie.ac.at/dokumente/einstein1.pdf pdf].</ref><ref>A. B. Arons and M. B. Peppard (Translators), Albert Einstein (Author), ''Concerning an Heuristic Point of View Toward the Emission and Transformation of Light'' , American Journal of Physics, volume '''33''', number 5, pp. 367-374, May 1965. [http://www.informationphilosopher.com/solutions/scientists/einstein/AJP_1905_photon.pdf pdf]. 1905年の光量子仮説に関する論文の英訳版。</ref>。
電磁場の持つ[[エネルギー・運動量密度|エネルギー密度]]は、マクスウェルの方程式から真空中では、電場の大きさと磁場の大きさの二乗和に[[比例]]する。
従って、電磁波のエネルギー密度は電磁波の振幅の二乗に比例する。
一方でアインシュタインの光量子仮説によれば、光子一つが持つエネルギーはエネルギー量子''h''ν に等しい。電磁場のエネルギーはエネルギー量子 ''h''ν の整数倍として表されるため、光子の総数は電磁場のエネルギーに比例する。
そのため、電磁場の振幅はその振動数の[[平方根]]に比例し、また光子の個数密度の平方根にも比例する。
== 種類 ==
{{see also|周波数の比較|電波の周波数による分類}}
[[ファイル:Spectre.svg|thumb|電磁波は[[波長]]によって呼び名・用途が異なる。]]
電磁波は波長によって様々な分類がされており、波長の長い方から[[電波]]・[[光]]・[[X線]]・[[ガンマ線]]などと呼ばれる。
;電波
:波長が 100 [[マイクロメートル|μm]] 以上(周波数が 3 [[テラヘルツ|THz]] 以下)の電磁波すべてを指し、さらに波長域によって[[低周波]]・[[超長波]]・[[長波]]・[[中波]]・[[短波]]・[[超短波]]・[[マイクロ波]]と細分化される。
;光
:波長が 1 [[ミリメートル|mm]] から 2 [[ナノメートル|nm]] 程度のものを指し、波長域によって[[赤外線]]・[[可視光線]]・[[紫外線]]に分けられている。
;X線、ガンマ線
:元々はX線は電子励起(及び制動放射等の電子由来の機構)から発生する電磁波、ガンマ線は核内励起から発生する電磁波というように発生機構によって区分けされているものであるが、大雑把に波長が 10 nm 以下のものをX線、さらに短い 10 [[ピコメートル|pm]] 以下のものをガンマ線と呼ぶことも多い。はるかに短くなると、波長ではなく光子エネルギーで表すことが多く、人間が生成できる最大が1 GeVオーダー、観測上最大がガンマ線バーストによる1兆eVと言われる。
:{| class="wikitable" style="text-align:right"
|+波長による電磁波の分類<ref group="注">数値 A の前に付く[[不等号]] "< A" は「A より小さい」、"> A" は「A より大きい」領域を表す。
また "A–B" と[[ダッシュ_(記号)|ダッシュ]]の両辺に数値 A, B がある場合、「A から B の間」の領域を表す。
10<sup>''n''</sup> は 10 の ''n'' 乗を表す。たとえば 10<sup>3</sup> は 10 × 10 × 10 = 1000 と同じ数であり、10<sup>−3</sup> は <sup>1</sup>/<sub>10</sub> × <sup>1</sup>/<sub>10</sub> × <sup>1</sup>/<sub>10</sub> = <sup>1</sup>/<sub>1000</sub> = 0.001 と同じ数である。</ref>
! 分類 !! 波長/nm !! 周波数(振動数)/THz !! 光子のエネルギー/[[電子ボルト|eV]]<ref group="注">1 eV はおおよそ 1.6 × 10<sup>−19</sup> J に相当する。したがってプランク定数を eV/THz 単位で表せばおよそ ''h'' = 4.1 × 10<sup>−3</sup> eV/THz である。たとえば振動数 3000 THz(波長約 100 nm)の光子のエネルギーは 3000 × 4.1 × 10<sup>−3</sup> eV = 12.3 eV となる。これは[[ボーアの原子模型#イオン化エネルギー|水素原子の第一イオン化エネルギー]] 13.6 eV と同程度の大きさである。</ref>
|-
! [[ガンマ線]]
| < 0.01
|| > 3 × 10<sup>7</sup>
|| > 1 × 10<sup>5</sup>
|-
! [[X線]]
| 0.01 – 10
|| 3 × 10<sup>7</sup> – 3 × 10<sup>4</sup>
|| 1 × 10<sup>5</sup> – 100
|-
! [[紫外線]]
| 10 – 380
|| 3 × 10<sup>4</sup> – 800
|| 100 – 3
|-
! [[可視光線]]
| 380 – 760
|| 800 – 400
|| 3 – 1.6
|-
! [[赤外線]]
| 760 – 1 × 10<sup>6</sup>
|| 400 – 0.3
|| 1.6 – 1 × 10<sup>−3</sup>
|-
! [[電波]]
| > 1 × 10<sup>5</sup>
|| < 3
|| < 0.01
|-
! [[マイクロ波]]
| 1 × 10<sup>5</sup> – 1 × 10<sup>9</sup>
|| 3 – 3 × 10<sup>−4</sup>
|| 0.01 – 1 × 10<sup>−6</sup>
|-
! [[超短波]]
| 1 × 10<sup>9</sup> – 1 × 10<sup>10</sup>
|| 3 × 10<sup>−4</sup> – 3 × 10<sup>−5</sup>
|| 1 × 10<sup>−6</sup> – 1 × 10<sup>−7</sup>
|-
! [[短波]]
| 1 × 10<sup>10</sup> – 1 × 10<sup>11</sup>
|| 3 × 10<sup>−5</sup> – 3 × 10<sup>−6</sup>
|| 1 × 10<sup>−7</sup> – 1 × 10<sup>−8</sup>
|-
! [[中波]]
| 1 × 10<sup>11</sup> – 1 × 10<sup>12</sup>
|| 3 × 10<sup>−6</sup> – 3 × 10<sup>−7</sup>
|| 1 × 10<sup>−8</sup> – 1 × 10<sup>−9</sup>
|-
! [[長波]]
| 1 × 10<sup>12</sup> – 1 × 10<sup>13</sup>
|| 3 × 10<sup>−7</sup> – 3 × 10<sup>−8</sup>
|| 1 × 10<sup>−9</sup> – 1 × 10<sup>−10</sup>
|-
! [[超長波]]
| 1 × 10<sup>13</sup> – 1 × 10<sup>14</sup>
|| 3 × 10<sup>−8</sup> – 3 × 10<sup>−9</sup>
|| 1 × 10<sup>−10</sup> – 1 × 10<sup>−11</sup>
|-
! [[極超長波]]
| 1 × 10<sup>14</sup> – 1 × 10<sup>17</sup>
|| 3 × 10<sup>−9</sup> – 3 × 10<sup>−12</sup>
|| 1 × 10<sup>−11</sup> – 1 × 10<sup>−14</sup>
|}
なお、これらの境界は統一的に定められたものではない。学問分野・国ごとの法律・規格等によって多少の違いがある。
== 特徴 ==
電磁波は[[波長]]によって様々な特徴を持つ。
最も波長の長い[[電波]]は、進行方向に多少の障害物があっても進行することができる。このため、[[通信]]や[[放送]]などの長距離の情報送信に使用されることが多い。[[テレビ]]や[[ラジオ]]、[[携帯電話]]などが代表的である。
電波よりも波長の短い[[光]]は、[[物質]]に吸収されて[[化学反応]]や[[発熱反応|発熱]]などの[[相互作用]]を生じることがある。この現象は[[目|眼]]が見える理由でもあるが、他に植物の[[光合成]]や[[リソグラフィー]]などが該当する。
さらに波長が短い[[X線]]になると、[[光子]]の持つ[[エネルギー]]が大きいため、[[分子]]に吸収されて[[熱振動]]に変わることはなく、物質を構成する[[電子]]などに直接作用する(分子の熱振動に比べて[[原子]]を構成する電子の[[励起状態|励起]]エネルギーは大きい)。そのため[[比重]]の小さい物質ほどよく透過するようになる。この現象を利用することで、[[X線写真|レントゲン写真]]や[[コンピュータ断層撮影|X線CT]]を撮影することができる。工業や[[自然科学]]の研究の場では、[[X線回折]]や[[X線光電子分光]]など物質の構造や元素の分析に用いられている。
X線やそれより短波長の領域は放射線の一種として扱われ、[[ガンマ線]]という呼ばれ方も使われる。X線とガンマ線の境は明確に定められてはいない。
X線よりさらに波長が短い領域になると、比重の重い物質で減衰は可能でも反射は困難となる。波長が1.2pm(10E-12m)程度より小さい領域では[[対生成]]を起こすようになる。
== 影響 ==
本項では「悪影響」に関して記述している。
=== 動物(ヒトを含む)への影響 ===
[[ファイル:TRIFIELD METER.jpg|thumb|right|家庭用簡易電磁波測定器(TriField Meter Model TF100XE)]]
紫外線などのエネルギーの大きな電磁波は、[[遺伝子]]に損傷を与えるため[[発癌性]]を持つ。[[X線]]・[[ガンマ線]]などの電離[[放射線]]については、年間許容被曝量が法律によって決められている。
==== 低周波 ====
低周波は、[[非電離放射線]]であるから遺伝子に直接には影響を与えないと考えられている<ref>飯島 純夫、[https://www.med.yamanashi.ac.jp/ymj/pdf/nl/20140612110404_264.pdf 電磁場が染色体に及ぼす影響]、山梨医大誌 14 (1),1 - 5,1999。</ref>。
[[国際がん研究機関]] (IARC) が[[2001年]]に行った[[発癌性]]評価では、送電線などから発生する低周波磁場には「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」 (Possibly carcinogenic to humans: [[IARC発がん性リスク一覧#Group2B|Group 2B]]) と分類した<ref>WHOファクトシートNo.263,"電磁界と公衆衛生:「超低周波電磁界とがん」", 2001年10月 {{PDFlink|[https://web.archive.org/web/20060630003842/http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/elfcancer_263.pdf]}}</ref>。これは「ガソリンエンジン排ガス、鉛、ワラビ(食物)」などと同じレベルに当たる。なお、このレベルの分類に「コーヒー」も含まれていると誤解されることがあるが、国際がん研究機関がこのレベルに分類したのは、種々の植物に含まれる化学成分の「[[コーヒー酸]]」であって、飲料のコーヒーではない。
静的電磁界と超低周波電界については「ヒトに対して発がん性を分類できない」 (cannot be classified as to carcinogenicity in humans) と分類された。これは「カフェイン、水銀、お茶、コレステロール」などと同じレベルにあたる。
また、[[国立環境研究所]] (NIES) が平成 9–11 年度に「超低周波電磁界による健康リスクの評価に関する研究」<ref name=NIESsr35>https://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/setsumei/sr-035-2001b.html</ref>を行った。
==== マイクロ波 ====
高強度の[[マイクロ波]]には、[[電子レンジ]]と同様に熱を生じるため生体に影響を与える可能性がある。このため、携帯電話などの無線機器などでは、人体の電力[[比吸収率]] (SAR: Specific Absorption Rate 単位は[[[ワット (単位)|Watt]]/[[キログラム|kg]]])を用いた規定値が[[欧州連合|欧州]]の{{日本語版にない記事リンク|国際非電離放射線防護委員会|en|International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection}}や[[アメリカ合衆国]]の[[連邦通信委員会]]などでは決められている<ref>国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP), "時間変化する電界、磁界及び電磁界による曝露を制限するためのガイドライン(300 GHz まで)", 1998年4月[https://www.icnirp.org/cms/upload/publications/ICNIRPemfgdljap.pdf]</ref>ほか、日本では国際非電離放射線防護委員会 (ICNIRP) の電波防護ガイドラインに基づき、周波数 300 [[ギガヘルツ|GHz]] (波長 1 mm)までの電波について、人体への影響を評価している<ref>総務省 電波利用ホームページ 電波環境の保護[https://www.tele.soumu.go.jp/j/ele/index.htm]</ref>。学会などでも比吸収率の計算([[FDTD法]])や人体を模した[[人体ファントム]]の組成の決定などが行われている。
==== 調査 ====
電磁波の健康への影響は調査自体が非常に難しい。一例を挙げると、[[アメリカ合衆国]]で公的機関{{日本語版にない記事リンク|国立環境健康科学研究所|en|National Institute of Environmental Health Sciences}}で Research and Public Information Dissemination(RAPID: 調査および公共への情報頒布)計画という国家単位での電磁波の健康に対する影響の研究が行われた。国立環境健康科学研究所 (NIEHS) が作成したパンフレットでは、[[臨床]]研究、細胞を用いた実験室での研究、動物を使用した研究、[[疫学]]研究の各分野を組み合わせ検証した結果でないと全体像が見えないと解説されている。
<!--ここから-->
[[1995年]]、電磁波問題に関する調査報告書をアメリカ物理学会が発表。「癌と送電線の電磁波に関係があるという憶測には、何ら科学的実証が見られない」と声明。
<!--ここまで「わたしたちはなぜ科学にだまされるのか」ロバート・L・パーク(主婦の友社)ISBN 4072289213 -->
[[1996年]]、全米科学アカデミーは
#「細胞、組織そして生物(ヒトを含む)への商用周波電磁界の影響に関して公表されている研究の総合評価に基づき、現在の主要な証拠は、これらの電磁界への曝露が人の健康への障害となることを示していないと結論する。」
#「特に、居住環境での電磁界の曝露が、ガン、神経や行動への有害な影響、あるいは生殖・成長への影響を生じさせることを示す決定的で一貫した証拠は何もない。」
という結論を出した<ref>関西電力,"電磁界に対する専門機関の見解"[https://www.kansai-td.co.jp/corporate/energy/electromagnetic-wave/specialty/opinion/]</ref><ref>National Research Council,"Possible Health Effects of Exposure to Residential Electric and Magnetic Fields"(1997)[http://www.nap.edu/openbook.php?isbn=0309054478]</ref>。
<!--ここから-->
[[1997年]]、アメリカ合衆国の[[アメリカ国立がん研究所|国立癌研究所]] (NCI) は 7 年間の[[疫学]]調査の結果から「小児急性リンパ芽球性白血病と磁場との関係は検知するにも懸念するにも微弱」であると発表。この調査の過程で、白血病患者の家庭と送電線の近隣での居住、双方に全く関係が見られなかった事が判明。これにより「関係がある」とされてきた統計学的分析結果は全てエラーデータとなり、[[1979年]]に疫学者ナンシー・ワートハイマー<ref group="注">Nancy Wertheimer. 標準的な[[ドイツ語]]ではヴェアトハイマー、ヴェルトハイマーなどに近い。</ref>とエド・リーパー<ref group="注">Ed Leeper</ref>が作成した論文「小児白血病と送電線の磁場には関係がある (Electrical Wiring Configurations and Childhood Cancer)」<ref>Nancy Wertheimer, Ed Leeper, ''Electrical Wiring Configurations and Childhood Cancer'' , American Journal of Epidemiology, Volume '''109''', issue 3, pp. 273–284, 1979. [http://aje.oxfordjournals.org/content/109/3/273.abstract 要旨]。</ref>の主張が完全な間違いであることが証明される。NCI の調査結果は医学専門誌『[[ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン]]』に掲載<ref>Martha S. Linet, Elizabeth E. Hatch, Ruth A. Kleinerman, Leslie L. Robison, William T. Kaune, Dana R. Friedman, Richard K. Severson, Carol M. Haines, Charleen T. Hartsock, Shelly Niwa, Sholom Wacholder, and Robert E. Tarone, [http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199707033370101 ''Residential Exposure to Magnetic Fields and Acute Lymphoblastic Leukemia in Children''] , New England Journal of Medicine Vol. '''337''' No. 1, 3 July 1997.</ref>。
[[アメリカ合衆国科学技術政策局]]は、それまでの送電線騒動の研究に費やされた予算を、送電線の移転、不動産価値の下落を含め 250 億ドル超と概算した。
[[1999年]]、カナダの五つの州において調査された結果が発表され上述の NCI の結果と酷似した結論が出される。
<!--ここまで「わたしたちはなぜ科学にだまされるのか」ロバート・L・パーク(主婦の友社)ISBN 4072289213 -->
[[疫学調査]]の正確性に対し疑問が投げかけられることもたびたびある。日本では、[[2003年]]に[[衆議院]]議員の[[長妻昭]]によって、[[国立環境研究所]]が行った「生活環境中電磁界による小児の健康リスク評価に関する研究」<ref name=NIESsr35 />が国会で取り上げられた<ref>[[長妻昭]], "電気毛布等の小児白血病・脳腫瘍発症への影響に関する質問主意書", 衆議院第156回国会 質問第126号, 平成15年7月11日提出 [https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/A156126.htm]、[https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b156126.htm それへの政府回答]</ref>。長妻はこの研究報告の電気毛布等の小児白血病・脳腫瘍発症への影響に関するデータについて触れ、15 歳以下の小児の電気毛布等の使用に関する健康リスク評価および電磁波の影響に対する評価の正当性に疑問を呈した。この研究について政府は「交絡要因除去のための調査データであり電気毛布使用に対する健康リスク評価は直接行っていない」とし、調査そのものの正当性に関する指摘に対しては「優れた研究ではなかった、との評価がなされたところである」と回答している。電磁波そのものの影響については「子供部屋の平均磁界強度が 0.4 μT 以上の場合のみ健康リスクが上昇すること等が示唆されているが、本研究の結果が一般化できるとは判断できない」と回答している。
;世界保健機関 (WHO) による2007年時点での公式見解
:[[2007年]]6月に公表された、[[世界保健機関]]の公式見解を示す{{PDFlink|[https://web.archive.org/web/20080215234402/http://www.who.int/peh-emf/publications/facts/fs322_ELF_fields_jp_final.pdf ファクトシート322]}}では、短期的影響に関しては「高レベル(100 [[磁場の比較|μT]] よりも遙かに高い)での急性曝露による生物学的影響は確立されており、これは認知されている生物物理学的なメカニズムによって説明されています。」と評価された。一方、潜在的な長期的影響に関しては「小児[[白血病]]」と「小児白血病以外のその他の健康への悪影響」に分けて評価されており、小児白血病に関しては「全体として、小児白血病に関する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではありません」と評価され、その他の影響に関しては[[極超長波|超低周波]]磁界([[:en:Extremely_low_frequency|Extremely Low Frequency]] Magnetic Field, ELF 磁界)曝露とこれら全ての健康影響との関連性を支持する科学的証拠は、小児白血病についての証拠よりもさらに弱いと結論付けている。いくつかの実例(すなわち心臓血管系疾患や乳がん)については、「ELF 磁界はこれらの疾病を誘発しないということが、証拠によって示唆されています」と評価された。
;世界保健機関による2011年時点での公式見解
:2011年5月31日、WHO(世界保健機関)のIARC([[国際がん研究機関]])は、携帯電話の電磁波と発がん性の関連について、限定的ながら「可能性がある」とする分析結果を発表した<ref name="asahi_com_20110602">''携帯電話の電磁波「発がんの可能性も」 WHOが分析''<!--元記事URL: http://www.asahi.com/science/update/0601/TKY201106010707.html {{リンク切れ|date=2012年10月}}--> [https://megalodon.jp/2011-0806-2323-28/www.asahi.com/science/update/0601/TKY201106010707.html ウェブ魚拓]</ref>。[[携帯電話]]を耳にあてて長時間通話を続けると「脳などの[[癌]]を発症する危険性が上がる可能性がある ([[IARC発がん性リスク一覧#Group2B|Group 2B]])」とし、癌を発症する危険性を上げないための予防策としては、マイク付[[イヤホン]]を使用することを挙げた<ref name="asahi_com_20110602" />。
:作業部会のジョナサン・サメット (Jonathan Samet) 委員長は「[[神経膠腫]](しんけいこうしゅ=[[グリオーマ]] = 脳の[[癌|がん]]の一種)や、耳の[[聴神経]]腫瘍になる危険性を高めることを示す限定的な[[証拠]]がある」とした。なお、IARC 幹部は、文字の[[メール]]を打つ形での携帯電話の使用<ref group="注">耳から離し、頭蓋骨から離した状態で、手で操作して使用すること。</ref>は、発がん性との関連はないと説明した<ref name="asahi_com_20110602" />。
:なお、IARC は論文を多数検討した上で「根拠はまだ限定的である。さらなる研究が必要」とも述べた<ref name="asahi_com_20110602" />。asahi.com の大岩ゆり記者は「それでも IARC がこのような決定をしたのは、少しでも健康に害を及ぼす可能性があるものは早めに注意喚起する、という WHO の[[予防]]原則からだ」と解説した<ref name="asahi_com_20110602" />。
=== 機械への影響 ===
現在の[[電子工学|エレクトロニクス]]機器([[電子機器]])は、低[[電圧]]の信号を高[[インピーダンス]]で扱うことが普通であるため、環境中に強い電磁波が存在すると誤動作を生じやすい。その機器が誤動作を生じやすいか生じ難いかを測る指標として[[イミュニティ]] (Immunity) がある。特に携帯電話からは比較的強い電磁波が発せられるため、[[航空機]]や[[医療機器]]などへの影響が多数報告されている。
==== 日本における航空機への影響と対策 ====
[[航空機]]に関しては、[[携帯電話]]、[[携帯型ゲーム]]機などの電磁波の影響による運行計器の誤作動が多数報告され、その中には大惨事になりかねない事態を引き起こした例もあったため、まず各航空会社で規制が行われるようになった。[[2004年]]には改正[[航空法]]によって禁止される機器が定められた。[[2007年]]3月に同法は改正され、携帯電話、[[パソコン]]、[[携帯情報端末]]など電波を発する状態にあるものは常時使用禁止、電波を発しない状態のものでも離着陸時使用禁止とし、[[携帯音楽プレーヤー]]、[[デジタルカメラ]]、[[テレビ]]、[[ラジオ]]なども離着陸時使用禁止と定められた。
ゲーム機に関しては、「[[ニンテンドーDS]]」や「[[PlayStation Portable]] (PSP)」といった無線LAN内蔵の製品が存在しており機内での使用も増えているにもかかわらず、それらが2004年の改正航空法および航空法施行規則では「離着陸時のみ作動させてはならない電子機器」として指定されてしまっていて仮に無線LANの電波を発射させていても法律上取り締まれないという危険な状態であったが、各航空会社が規制を行い、その後2007年の改正で解消された。
2007年3月「航空機内における安全阻害行為等に関する有識者懇談会」の報告書では次のような症状が報告されている。
# 無線にノイズが発生
# 衝突防止装置が誤作動し、回避指示が出た
# 自動操縦で上昇している時に突然横方向に25度傾いた
# 自動操縦装置で水平飛行中、高度が設定値から 400 [[フィート|ft]] (122 m) ずれた
# 着陸時に[[自動操縦装置]]の表示が大きくズレて元に戻らなくなった
原因と推測されているのは携帯電話が 6 割強と最も多い。次いでパソコンが 1 割強。「障害が発生したケースの約 9 割において、電子機器を使用する者の存在が確認されている」とされ、「障害発生時に電子機器の使用を控えるようアナウンスしたところ、約 5 割で障害が復旧した」と報告されている。
2014年、規制緩和と常時接続できる設備が整ったため飛行中でも携帯電話での通話、インターネット接続、他、電子機器の利用が順次解禁となった<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXMZO76431820R00C14A9000000/ 機内でも病院でも スマホ利用、進む規制緩和]日本経済新聞 2014年9月 </ref>。
==== 日本における医療機器への影響と対策 ====
植込み型心臓ペースメーカーへ[[携帯電話]]から電磁波による影響があるのは、2018年<!--平成30年-->の[[総務省]]調査では最大でも 1 [[センチメートル]] (cm) の距離までであった<ref>総務省「[https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/h29.pdf#page=33 電波の植込み型医療機器及び在宅医療機器等への影響に関する調査等」報告書] 平成30年3月</ref>。この影響も、患者自身が携帯電話を離すことが可能で、影響から回復できるという調査結果になっている。ただし指針では15 cm以上離れることを推奨している<ref>各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器等へ及ぼす影響を防止するための指針 平成30年7月 [https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/guide.pdf#page=3]</ref>。なお、2002年<!--平成14年-->の総務省調査では影響があるのは11 cmであり、指針は22 cm以上であった<ref>総務省報道資料, "電波の医用機器等への影響に関する調査結果", 平成14年7月2日 [https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/13.htm]</ref>。距離が異なっているのは、現在使用されていない第2世代移動通信方式での調査であることに一因がある。
=== その他 ===
日本の[[公正取引委員会]]は、'''電磁波'''による[[ネズミ]]撃退器について、効果が認められないとして排除命令を出したことがある<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h11/11kakuron00002-3-1.html
|publisher=[[公正取引委員会]]
|work=[https://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h11/11top00001.html 平成11年度 公正取引委員会年次報告]
|title=(無題)
|date=2010-03-31
|accessdate=2011-10-15}}</ref>。
[[アメリカ軍]]は、電磁波を利用した非致死性[[兵器]]の研究を行っている''(詳細は[[アクティブ・ディナイアル・システム]]を参照)''。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
* [[分光法]]
* [[逆2乗の法則]]
* [[電波障害]]
* [[電磁波過敏症]]
* [[電磁シールド]]
* [[電磁スペクトル]]
== 外部リンク ==
* {{Kotobank}}
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7,385 | 住居侵入罪 | 住居侵入罪(じゅうきょしんにゅうざい)は、刑法130条前段に規定される罪。同条後段には不退去罪が規定されている。
住居侵入罪は、正当な理由がないのに、人の住居など(『人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船』)に侵入した場合に成立する。法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金である。未遂も処罰される。
保護法益や構成要件の解釈をめぐって争いが多い。構成要件該当性や違法性を認定するにあたっては、住居権者の意思や侵害者(とされる者)の行為態様の考慮、さらに両者の基本的人権の比較考量などをするべきか、するとしてもどのようにすべきかが問題になる。例えば、窃盗目的で開店中のデパートに玄関から入店することが建造物侵入にあたるかといった場面で問題となる。
在日米軍の施設に侵入した場合は刑特法により処罰される。
なお、かつては皇居等侵入罪の規定が刑法131条に存在した(天皇皇族に対する行為の重罰規定)が、1947年に削除され、現在は住居侵入罪で処断される。
住居侵入罪の保護法益については、これを居住権とする説と、住居の事実上の平穏であるとする説とがある。
ここでいう「居住権」の内容は、様々である。戦前の判例は家制度を前提とし、家長に帰属する住居権を保護法益とする立場に立っていた。これを旧住居権説と言うが、戦後この見解は廃れた。その後、学説では住居の平穏が保護法益であるとの立場(平穏説)が有力化した。また、住居権の内容を『他人を住居に立ち入らせるかどうかの自由(許諾権)』と再構成した上で住居権を保護法益と解する学説(新住居権説)も主張された。
戦後の下級審裁判例では平穏説に親和的な判決が多数出現し、最高裁判決においても、傍論ではあるが平穏説に立つことを明言し、あるいは、平穏説に立つと見られるものが現れた(最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。しかし、「侵入」の意義に関して、これを「他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう」とした最高裁判決(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)が登場して以来、判例は新住居権説に立っていると理解されている。
住居侵入罪によって結果的にプライバシーが保護されることはあるが、プライバシー侵害を理由として処罰されるわけではない。保護法益あるいは「侵入」の意義を検討するに際してプライバシーに言及する学説も多いが、プライバシーを住居侵入罪の保護法益と考えているわけではない。
「どこへ」侵入することが住居侵入罪となるのかが、「客体」の問題である。住居侵入罪の客体、すなわち、本罪において侵入が禁止される場所として刑法130条に規定されているのは、「人の住居」のほか、人の看守する「邸宅」、「建造物」、又は「艦船」である。このうち、「住居」と「邸宅」に何が含まれるのかについて特に争いがある。
「住居」は、人が起臥寝食(きがしんしょく)のために日常的に使用する場所と定義される。これに対し、人が日常生活を営むために使用する場所であれば「住居」と言ってよいとする反対説もある。両者の対立は、会社の事務所、大学の研究室、店舗などが「住居」に含まれるか否かという形で具体化する。前者の立場に拠ればこれらは「住居」ではないことになるが、「建造物」には該当するため、刑法130条違反が成立しなくなるわけではない。
「住居」と言えるかどうかがしばしば問題となるものとして、マンションの共用部分(階段、通路等)がある。マンションの各個室が「住居」であることについて異論は見られない。共用部分については、これを「住居」と見る見解と、「邸宅」に含まれるに過ぎないとする見解とがある。もし共用部分を「邸宅」に過ぎないとするのであれば、「人の看守する」共用部分への侵入のみが住居侵入罪を構成することとなる。裁判例は、「住居」ではなく「邸宅」であるとする傾向にある。ただし、学説においては「住居」の共用部分は「住居」に含めるべきとの立場もあり、また、下級審裁判例の中にも「住居」とするものが少なくない。いずれにせよ、誰でも出入りできる共用部分であるからと言って、直ちに住居侵入罪が成立しないとされているわけではない。
判例 平成20年4月11日にマンションの共用部分については「住居」ではなく「人の看守する邸宅」であるという立場をとったので、「住居」は基本的に専有部分のみをさすものと考えられる。
なお、「人の」住居となっていることから、他人の住居への侵入のみが本罪を構成する。その他人が不法占拠者であっても構わないとされる。また、賃料を滞納していたり行方不明になっている賃借人の住居に大家が入って裁判所の執行手続によらず荷物を引き払ったりする行為も住居侵入罪に該当するとされている。
「人の看守する邸宅、建造物」への侵入も住居侵入罪を構成する。
「人の看守する」とは、人による事実上の管理・支配を意味する(最判昭和59年12月18日刑集38巻12号3026頁)。
「邸宅」とは、人が現に住んでいない空き家等を指す。また、季節的に使用される別荘等であって人が住んでいない期間についてもこれに該当する。
なお、住居に付属した敷地(庭など)への侵入も住居侵入罪となる。また、住居に付属した敷地は、住居に接続して障壁等で囲まれている囲繞地(いにょうち)であると認められる場合には、住居の一部として扱われ、そこへの侵入が住居侵入罪を構成する(最大判昭和25年9月27日刑集4巻9号1783頁。囲繞地の定義につき、最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。そのため、建物に侵入していなくても壁を乗り越えて中庭等へ侵入した時点で、住居侵入罪の既遂となる(未遂にとどまるのではない)。
また、マンションの共用部分も邸宅に該当する(最判平成20年4月11日)。
刑法130条にいう「艦船」とは、人が居住し得る程度の大きさのある艦艇(軍艦)および国や民間が所有する船舶のことを言う。公園の池などにあるボートやカヌーは「艦船」ではないといえる。
以上の住居、邸宅、建造物または艦船に該当しない駐車場、空き地や田畑に入ったり、自動車、鉄道車両の内側に入っても、住居侵入罪は成立しない(但し、踏み荒らしや汚損があれば器物損壊罪、正当な理由による退去措置に反すれば鉄道営業法違反、業務妨害罪等、立入禁止の表示があれば軽犯罪法第1条第32号違反に問われうる。)
住居、邸宅または建造物に付属しこれを囲む土地(「囲繞地」)については諸説あるが、判例は「建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる」(中略)(囲障は)「外部との交通を阻止し得る程度の構造を有するものである」(中略)「本来建物固有の敷地と認め得るものかどうか、また、囲障設備が仮設的構造(中略)かどうかは問わない」として、仮設の金網柵を動かして引き倒しその内側の囲繞地に侵入する行為につき、当該囲繞地は「建造物侵入罪の客体にあたる」とした。
このように多数通説および判例は、「まさに右部分への侵入によって建造物自体への侵入若しくはこれに準ずる程度に建造物利用の平穏が害され又は脅かされることからこれを保護しようとする趣旨」とする「平穏説」を取っている。
また、東京高裁1993年(平成5年)7月7日判決においては、「建物の付属地として門塀を設けるなどして外部との交通を制限し、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所に故なく侵入すれば建造物侵入罪が成立」とし、「囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の付属地として、建物利用のために供されるものであることがしめされれば足り」るとし、囲障の瑕疵(鎖錠の有無、門扉開閉の有無)に関わらず犯罪が成立するとした。
以上の事から、建物等の囲繞地であって、ブロックや塀、竹垣等によって門塀を備えたものは勿論のこと、敷地境界において鎖一本や、ロードコーン・コーンバー等により簡易に囲障を備えているものであっても、建造物侵入罪の客体となる。門扉が開放されている、囲障に隙間があって通過可能と言った事等は適用除外の理由にならず、すなわち当該囲繞地につき侵入を阻止する意思表示があり、それを敢えて不法に踰越すれば、犯罪が成立するとしたものである。
人が外出や旅行等で一時的または長期的に住居を離れている場合も当然本罪の客体となる。また別荘や二次的住宅(占有者の都合により不定期、一時的に起臥寝食に利用するもの)等については、たとえ人が住んでいない時季や期間等であっても、看守されている邸宅であるから本罪の客体となる。
廃屋同然の遺棄、放棄された住居(「邸宅」)や建造物に侵入し、かつそこに居座ったような場合は、軽犯罪法第1条第1号の適用が検討される。ただし、災害等の理由により当該住居から避難している場合は、住居が居住可能な状態でありさえすればたとえ放棄状態であったとしても、住居を遺棄、放棄している訳ではなく単に住居が占有者の占有離脱の状態にあるに留まるから、本罪の成立を妨げない。
その他の建造物、艦船についても、本罪は人が看守している事を要件としているから、(長期的に)人が看守していないこれらのものの「内側」に居座った場合には、軽犯罪法第1条第1号が適用される。なお、同法の条項は「艦船」ではなく「船舶」としているから、住居侵入罪が想定する「艦船」よりも小さな舟艇の内側に潜んでいた場合も同法の適用がある。
軽犯罪法第1条第1号は「内」側としている事から、人が住んでおらず看守されていない建造物等の囲繞地には適用がないものと考えられるが、同法同条第32号の適用の余地はある。
どのような立入りを「侵入」とするのか、住居侵入罪の保護法益とも関係して、見解が対立している。
まず、住居権者・管理者の意思に反する立入りを「侵入」であるとする立場(意思侵害説)がある。これは通常、住居侵入罪の保護法益を住居権と解する立場からの帰結であると言われる。他方、住居の平穏を害する立入りが「侵入」であるとする立場(平穏侵害説)があり、これは住居侵入罪の保護法益を住居の平穏と解する立場からの帰結であるとされている。
両説の違いが生じる典型事例は、住居の住人(住居権者)又は建造物等の管理者が立入りを禁止している場合に、平穏を害さないよう静かに立ち入ったときである。管理者等の意思に反した立ち入りをもって「侵入」と解する立場によれば、住居侵入罪が成立しうる。他方、平穏を害するような立入りをもって「侵入」とする立場によれば、こうした立入り行為は「侵入」といえず、住居侵入罪は成立しないことになる。
判例は、住居権者等の意思に反する立入りをもって「侵入」と解している(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)。このことをもって判例は、住居侵入罪の保護法益を住居権と考える立場に立っているとされている。
最高裁判決が「侵入」を肯定した事例には以下がある。
住居侵入罪は未遂も処罰される(刑法132条)。例えば、他人の家の塀を乗り越えようとした時点で住居侵入罪の未遂である。ただし、塀に上った時点で未遂ではなく既遂である。
たとえ立入り行為が「侵入」ではないなどとして住居侵入罪の成立が否定されたとしても、管理者等から退去するよう要求されてこれに応じない場合には不退去罪が成立する。住居侵入罪と不退去罪とどちらの犯罪成立要件とも満たす場合には、住居侵入罪のみを成立させるのが判例の立場である。
例えば窃盗目的で人の家に忍び込んだ場合には、窃盗罪と住居侵入罪の2罪が成立し、両罪は手段と目的の関係にあるといえるため牽連犯(刑法54条1項後段)となり、科刑上一罪として最も重い罪の法定刑の範囲で処罰される。窃盗罪のほかにも、強盗罪、放火罪、強姦罪、殺人罪などが牽連犯の関係にあるとされる。
立川反戦ビラ配布事件や葛飾政党ビラ配布事件など、政治団体や政党の活動の一環としてビラやチラシの配布を行うために、住民の了解なく、もしくは住民から立入らないよう求められている部外者が住居(共用部分)に立ち入る行為が住居侵入罪となるかどうかが争われる事例が生じている。
そこでは、まず、物理的には常時誰でも立ち入ることができる場所に立ち入ったに過ぎず、住居侵入罪の客体である「住居」等への侵入に該当しないのではないか、という議論がなされている。
弁護士の伊藤真は、防衛省官舎へのビラ配布は20年以上にわたって行なわれてきたものの、立川反戦ビラ配布事件以前に問題とされたことは一度もないことや、営利目的のビラを無断で郵便受けに入れることが問題にされることはまずないことから、「立川反戦ビラ配布事件での逮捕、起訴は、配布した人物とビラの内容を理由に行われたものである」と指摘し、「刑法よりも表現の自由を保障する憲法の方が上位にあるため、刑法が憲法上の価値とぶつかるときには、一定限度で犯罪にすることを差し控えなければならない」と主張している。
裁判例でも有罪とするものと無罪とするものとが混在しており、それぞれの理由も異なっている。なお、2008年4月11日、最高裁判所第2小法廷は立川反戦ビラ配布事件について住居侵入罪の成立を認めるとともに、管理権者の意思に反する行為であり、住民の私生活の平穏を害する行為であるとして日本国憲法第21条第1項に反しないとした。
弁護士の小倉秀夫は「刑法上処罰規定がない盗撮を事実上処罰するために住居侵入罪を活用するのは裏技的だと思う」と述べている。 | [
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"text": "住居侵入罪(じゅうきょしんにゅうざい)は、刑法130条前段に規定される罪。同条後段には不退去罪が規定されている。",
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"text": "住居侵入罪は、正当な理由がないのに、人の住居など(『人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船』)に侵入した場合に成立する。法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金である。未遂も処罰される。",
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"text": "保護法益や構成要件の解釈をめぐって争いが多い。構成要件該当性や違法性を認定するにあたっては、住居権者の意思や侵害者(とされる者)の行為態様の考慮、さらに両者の基本的人権の比較考量などをするべきか、するとしてもどのようにすべきかが問題になる。例えば、窃盗目的で開店中のデパートに玄関から入店することが建造物侵入にあたるかといった場面で問題となる。",
"title": "概説"
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"text": "在日米軍の施設に侵入した場合は刑特法により処罰される。",
"title": "概説"
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"text": "なお、かつては皇居等侵入罪の規定が刑法131条に存在した(天皇皇族に対する行為の重罰規定)が、1947年に削除され、現在は住居侵入罪で処断される。",
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"text": "住居侵入罪の保護法益については、これを居住権とする説と、住居の事実上の平穏であるとする説とがある。",
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"text": "ここでいう「居住権」の内容は、様々である。戦前の判例は家制度を前提とし、家長に帰属する住居権を保護法益とする立場に立っていた。これを旧住居権説と言うが、戦後この見解は廃れた。その後、学説では住居の平穏が保護法益であるとの立場(平穏説)が有力化した。また、住居権の内容を『他人を住居に立ち入らせるかどうかの自由(許諾権)』と再構成した上で住居権を保護法益と解する学説(新住居権説)も主張された。",
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"text": "戦後の下級審裁判例では平穏説に親和的な判決が多数出現し、最高裁判決においても、傍論ではあるが平穏説に立つことを明言し、あるいは、平穏説に立つと見られるものが現れた(最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。しかし、「侵入」の意義に関して、これを「他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう」とした最高裁判決(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)が登場して以来、判例は新住居権説に立っていると理解されている。",
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"text": "住居侵入罪によって結果的にプライバシーが保護されることはあるが、プライバシー侵害を理由として処罰されるわけではない。保護法益あるいは「侵入」の意義を検討するに際してプライバシーに言及する学説も多いが、プライバシーを住居侵入罪の保護法益と考えているわけではない。",
"title": "保護法益"
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"text": "「どこへ」侵入することが住居侵入罪となるのかが、「客体」の問題である。住居侵入罪の客体、すなわち、本罪において侵入が禁止される場所として刑法130条に規定されているのは、「人の住居」のほか、人の看守する「邸宅」、「建造物」、又は「艦船」である。このうち、「住居」と「邸宅」に何が含まれるのかについて特に争いがある。",
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"text": "「住居」は、人が起臥寝食(きがしんしょく)のために日常的に使用する場所と定義される。これに対し、人が日常生活を営むために使用する場所であれば「住居」と言ってよいとする反対説もある。両者の対立は、会社の事務所、大学の研究室、店舗などが「住居」に含まれるか否かという形で具体化する。前者の立場に拠ればこれらは「住居」ではないことになるが、「建造物」には該当するため、刑法130条違反が成立しなくなるわけではない。",
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"text": "「住居」と言えるかどうかがしばしば問題となるものとして、マンションの共用部分(階段、通路等)がある。マンションの各個室が「住居」であることについて異論は見られない。共用部分については、これを「住居」と見る見解と、「邸宅」に含まれるに過ぎないとする見解とがある。もし共用部分を「邸宅」に過ぎないとするのであれば、「人の看守する」共用部分への侵入のみが住居侵入罪を構成することとなる。裁判例は、「住居」ではなく「邸宅」であるとする傾向にある。ただし、学説においては「住居」の共用部分は「住居」に含めるべきとの立場もあり、また、下級審裁判例の中にも「住居」とするものが少なくない。いずれにせよ、誰でも出入りできる共用部分であるからと言って、直ちに住居侵入罪が成立しないとされているわけではない。",
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"text": "判例 平成20年4月11日にマンションの共用部分については「住居」ではなく「人の看守する邸宅」であるという立場をとったので、「住居」は基本的に専有部分のみをさすものと考えられる。",
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"text": "なお、「人の」住居となっていることから、他人の住居への侵入のみが本罪を構成する。その他人が不法占拠者であっても構わないとされる。また、賃料を滞納していたり行方不明になっている賃借人の住居に大家が入って裁判所の執行手続によらず荷物を引き払ったりする行為も住居侵入罪に該当するとされている。",
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"text": "「人の看守する邸宅、建造物」への侵入も住居侵入罪を構成する。",
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"text": "「人の看守する」とは、人による事実上の管理・支配を意味する(最判昭和59年12月18日刑集38巻12号3026頁)。",
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"text": "「邸宅」とは、人が現に住んでいない空き家等を指す。また、季節的に使用される別荘等であって人が住んでいない期間についてもこれに該当する。",
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"text": "なお、住居に付属した敷地(庭など)への侵入も住居侵入罪となる。また、住居に付属した敷地は、住居に接続して障壁等で囲まれている囲繞地(いにょうち)であると認められる場合には、住居の一部として扱われ、そこへの侵入が住居侵入罪を構成する(最大判昭和25年9月27日刑集4巻9号1783頁。囲繞地の定義につき、最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。そのため、建物に侵入していなくても壁を乗り越えて中庭等へ侵入した時点で、住居侵入罪の既遂となる(未遂にとどまるのではない)。",
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"text": "また、マンションの共用部分も邸宅に該当する(最判平成20年4月11日)。",
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"text": "刑法130条にいう「艦船」とは、人が居住し得る程度の大きさのある艦艇(軍艦)および国や民間が所有する船舶のことを言う。公園の池などにあるボートやカヌーは「艦船」ではないといえる。",
"title": "客体"
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"text": "以上の住居、邸宅、建造物または艦船に該当しない駐車場、空き地や田畑に入ったり、自動車、鉄道車両の内側に入っても、住居侵入罪は成立しない(但し、踏み荒らしや汚損があれば器物損壊罪、正当な理由による退去措置に反すれば鉄道営業法違反、業務妨害罪等、立入禁止の表示があれば軽犯罪法第1条第32号違反に問われうる。)",
"title": "客体"
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"text": "住居、邸宅または建造物に付属しこれを囲む土地(「囲繞地」)については諸説あるが、判例は「建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる」(中略)(囲障は)「外部との交通を阻止し得る程度の構造を有するものである」(中略)「本来建物固有の敷地と認め得るものかどうか、また、囲障設備が仮設的構造(中略)かどうかは問わない」として、仮設の金網柵を動かして引き倒しその内側の囲繞地に侵入する行為につき、当該囲繞地は「建造物侵入罪の客体にあたる」とした。",
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"text": "このように多数通説および判例は、「まさに右部分への侵入によって建造物自体への侵入若しくはこれに準ずる程度に建造物利用の平穏が害され又は脅かされることからこれを保護しようとする趣旨」とする「平穏説」を取っている。",
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"text": "また、東京高裁1993年(平成5年)7月7日判決においては、「建物の付属地として門塀を設けるなどして外部との交通を制限し、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所に故なく侵入すれば建造物侵入罪が成立」とし、「囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の付属地として、建物利用のために供されるものであることがしめされれば足り」るとし、囲障の瑕疵(鎖錠の有無、門扉開閉の有無)に関わらず犯罪が成立するとした。",
"title": "客体"
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"text": "以上の事から、建物等の囲繞地であって、ブロックや塀、竹垣等によって門塀を備えたものは勿論のこと、敷地境界において鎖一本や、ロードコーン・コーンバー等により簡易に囲障を備えているものであっても、建造物侵入罪の客体となる。門扉が開放されている、囲障に隙間があって通過可能と言った事等は適用除外の理由にならず、すなわち当該囲繞地につき侵入を阻止する意思表示があり、それを敢えて不法に踰越すれば、犯罪が成立するとしたものである。",
"title": "客体"
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"text": "人が外出や旅行等で一時的または長期的に住居を離れている場合も当然本罪の客体となる。また別荘や二次的住宅(占有者の都合により不定期、一時的に起臥寝食に利用するもの)等については、たとえ人が住んでいない時季や期間等であっても、看守されている邸宅であるから本罪の客体となる。",
"title": "客体"
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"text": "廃屋同然の遺棄、放棄された住居(「邸宅」)や建造物に侵入し、かつそこに居座ったような場合は、軽犯罪法第1条第1号の適用が検討される。ただし、災害等の理由により当該住居から避難している場合は、住居が居住可能な状態でありさえすればたとえ放棄状態であったとしても、住居を遺棄、放棄している訳ではなく単に住居が占有者の占有離脱の状態にあるに留まるから、本罪の成立を妨げない。",
"title": "客体"
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"text": "その他の建造物、艦船についても、本罪は人が看守している事を要件としているから、(長期的に)人が看守していないこれらのものの「内側」に居座った場合には、軽犯罪法第1条第1号が適用される。なお、同法の条項は「艦船」ではなく「船舶」としているから、住居侵入罪が想定する「艦船」よりも小さな舟艇の内側に潜んでいた場合も同法の適用がある。",
"title": "客体"
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"text": "軽犯罪法第1条第1号は「内」側としている事から、人が住んでおらず看守されていない建造物等の囲繞地には適用がないものと考えられるが、同法同条第32号の適用の余地はある。",
"title": "客体"
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"text": "どのような立入りを「侵入」とするのか、住居侵入罪の保護法益とも関係して、見解が対立している。",
"title": "「侵入」の意義"
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"text": "まず、住居権者・管理者の意思に反する立入りを「侵入」であるとする立場(意思侵害説)がある。これは通常、住居侵入罪の保護法益を住居権と解する立場からの帰結であると言われる。他方、住居の平穏を害する立入りが「侵入」であるとする立場(平穏侵害説)があり、これは住居侵入罪の保護法益を住居の平穏と解する立場からの帰結であるとされている。",
"title": "「侵入」の意義"
},
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"text": "両説の違いが生じる典型事例は、住居の住人(住居権者)又は建造物等の管理者が立入りを禁止している場合に、平穏を害さないよう静かに立ち入ったときである。管理者等の意思に反した立ち入りをもって「侵入」と解する立場によれば、住居侵入罪が成立しうる。他方、平穏を害するような立入りをもって「侵入」とする立場によれば、こうした立入り行為は「侵入」といえず、住居侵入罪は成立しないことになる。",
"title": "「侵入」の意義"
},
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"paragraph_id": 32,
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"text": "判例は、住居権者等の意思に反する立入りをもって「侵入」と解している(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)。このことをもって判例は、住居侵入罪の保護法益を住居権と考える立場に立っているとされている。",
"title": "「侵入」の意義"
},
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"text": "最高裁判決が「侵入」を肯定した事例には以下がある。",
"title": "「侵入」の意義"
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"text": "住居侵入罪は未遂も処罰される(刑法132条)。例えば、他人の家の塀を乗り越えようとした時点で住居侵入罪の未遂である。ただし、塀に上った時点で未遂ではなく既遂である。",
"title": "未遂処罰"
},
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"text": "たとえ立入り行為が「侵入」ではないなどとして住居侵入罪の成立が否定されたとしても、管理者等から退去するよう要求されてこれに応じない場合には不退去罪が成立する。住居侵入罪と不退去罪とどちらの犯罪成立要件とも満たす場合には、住居侵入罪のみを成立させるのが判例の立場である。",
"title": "不退去罪との関係"
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"text": "例えば窃盗目的で人の家に忍び込んだ場合には、窃盗罪と住居侵入罪の2罪が成立し、両罪は手段と目的の関係にあるといえるため牽連犯(刑法54条1項後段)となり、科刑上一罪として最も重い罪の法定刑の範囲で処罰される。窃盗罪のほかにも、強盗罪、放火罪、強姦罪、殺人罪などが牽連犯の関係にあるとされる。",
"title": "他の犯罪との関係"
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"text": "立川反戦ビラ配布事件や葛飾政党ビラ配布事件など、政治団体や政党の活動の一環としてビラやチラシの配布を行うために、住民の了解なく、もしくは住民から立入らないよう求められている部外者が住居(共用部分)に立ち入る行為が住居侵入罪となるかどうかが争われる事例が生じている。",
"title": "表現の自由との関係"
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"text": "そこでは、まず、物理的には常時誰でも立ち入ることができる場所に立ち入ったに過ぎず、住居侵入罪の客体である「住居」等への侵入に該当しないのではないか、という議論がなされている。",
"title": "表現の自由との関係"
},
{
"paragraph_id": 39,
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"text": "弁護士の伊藤真は、防衛省官舎へのビラ配布は20年以上にわたって行なわれてきたものの、立川反戦ビラ配布事件以前に問題とされたことは一度もないことや、営利目的のビラを無断で郵便受けに入れることが問題にされることはまずないことから、「立川反戦ビラ配布事件での逮捕、起訴は、配布した人物とビラの内容を理由に行われたものである」と指摘し、「刑法よりも表現の自由を保障する憲法の方が上位にあるため、刑法が憲法上の価値とぶつかるときには、一定限度で犯罪にすることを差し控えなければならない」と主張している。",
"title": "表現の自由との関係"
},
{
"paragraph_id": 40,
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"text": "裁判例でも有罪とするものと無罪とするものとが混在しており、それぞれの理由も異なっている。なお、2008年4月11日、最高裁判所第2小法廷は立川反戦ビラ配布事件について住居侵入罪の成立を認めるとともに、管理権者の意思に反する行為であり、住民の私生活の平穏を害する行為であるとして日本国憲法第21条第1項に反しないとした。",
"title": "表現の自由との関係"
},
{
"paragraph_id": 41,
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"text": "弁護士の小倉秀夫は「刑法上処罰規定がない盗撮を事実上処罰するために住居侵入罪を活用するのは裏技的だと思う」と述べている。",
"title": "批判"
}
] | 住居侵入罪(じゅうきょしんにゅうざい)は、刑法130条前段に規定される罪。同条後段には不退去罪が規定されている。 | {{Redirect|不法侵入|1992年公開のアメリカ映画|不法侵入 (映画)|2023年公開の[[ずっと真夜中でいいのに。]]の楽曲|不法侵入 (ずっと真夜中でいいのに。の曲)}}
{{Redirect|家宅侵入|戯曲|{{仮リンク|家宅侵入 (戯曲)|fi|Murtovarkaus (näytelmä)}}}}
{{日本の犯罪
| 罪名 = 住居侵入罪
| 法律・条文 = 刑法130条
| 保護法益 = 居住権(争いあり)
| 主体 = 人
| 客体 = 他人の住宅、他人の監守する邸宅、建造物、艦船
| 実行行為 = 侵入
| 主観 = 故意犯
| 結果 = 挙動犯、侵害犯
| 実行の着手 = 侵入行為を開始した時点
| 既遂時期 = 侵入した時点
| 法定刑 = 3年以下の懲役または10万円以下の罰金
| 未遂・予備 = 未遂罪(132条)
|}}
{{日本の刑法}}
{{ウィキプロジェクトリンク|刑法 (犯罪)}}
'''住居侵入罪'''(じゅうきょしんにゅうざい)は、[[b:刑法第130条|刑法130条]]前段に規定される罪。同条後段には[[不退去罪]]が規定されている。
== 概説 ==
住居侵入罪は、正当な理由がないのに、人の'''住居'''など(『人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船』)に'''侵入'''した場合に成立する。[[法定刑]]は3年以下の[[懲役]]または10万円以下の[[罰金]]である。[[未遂]]も処罰される。
保護法益や[[構成要件]]の解釈をめぐって争いが多い。構成要件該当性や[[違法性]]を認定するにあたっては、住居権者の意思や侵害者(とされる者)の行為態様の考慮、さらに両者の基本的人権の比較考量などをするべきか、するとしてもどのようにすべきかが問題になる。例えば、[[窃盗]]目的で開店中のデパートに玄関から入店することが建造物侵入にあたるかといった場面で問題となる。
[[在日米軍]]の施設に侵入した場合は[[日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法|刑特法]]により処罰される。
なお、かつては'''皇居等侵入罪'''の規定が刑法131条に存在した(天皇皇族に対する行為の重罰規定)が、[[1947年]]に削除され、現在は住居侵入罪で処断される。
== 保護法益 ==
住居侵入罪の保護法益については、これを居住権とする説と、住居の事実上の平穏であるとする説とがある。
ここでいう「居住権」の内容は、様々である。戦前の判例は家制度を前提とし、家長に帰属する住居権を保護法益とする立場に立っていた。これを旧住居権説と言うが、戦後この見解は廃れた。その後、学説では住居の平穏が保護法益であるとの立場(平穏説)が有力化した。また、住居権の内容を『他人を住居に立ち入らせるかどうかの自由(許諾権)』と再構成した上で住居権を保護法益と解する学説(新住居権説)も主張された。
戦後の下級審裁判例では平穏説に親和的な判決が多数出現し、最高裁判決においても、傍論ではあるが平穏説に立つことを明言し、あるいは、平穏説に立つと見られるものが現れた(最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。しかし、「侵入」の意義に関して、これを「他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいう」とした最高裁判決(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)が登場して以来、判例は新住居権説に立っていると理解されている。
住居侵入罪によって結果的に[[プライバシー]]が保護されることはあるが、プライバシー侵害を理由として処罰されるわけではない。保護法益あるいは「侵入」の意義を検討するに際してプライバシーに言及する学説も多いが、プライバシーを住居侵入罪の保護法益と考えているわけではない。
== 客体 ==
「どこへ」侵入することが住居侵入罪となるのかが、「客体」の問題である。住居侵入罪の客体、すなわち、本罪において侵入が禁止される場所として刑法130条に規定されているのは、「人の住居」のほか、人の看守する「邸宅」、「建造物」、又は「艦船」である。このうち、「住居」と「邸宅」に何が含まれるのかについて特に争いがある。
=== 人の住居 ===
{{出典の明記|date=2023年3月|section=1}}
「住居」は、人が起臥寝食(きがしんしょく)のために日常的に使用する場所と定義される。これに対し、人が日常生活を営むために使用する場所であれば「住居」と言ってよいとする反対説もある。両者の対立は、会社の事務所、大学の研究室、店舗などが「住居」に含まれるか否かという形で具体化する。前者の立場に拠ればこれらは「住居」ではないことになるが、「建造物」には該当するため、刑法130条違反が成立しなくなるわけではない。
「住居」と言えるかどうかがしばしば問題となるものとして、[[マンション]]の共用部分(階段、通路等)がある。マンションの各個室が「住居」であることについて異論は見られない。共用部分については、これを「住居」と見る見解と、「邸宅」に含まれるに過ぎないとする見解とがある。もし共用部分を「邸宅」に過ぎないとするのであれば、「人の看守する」共用部分への侵入のみが住居侵入罪を構成することとなる。裁判例は、「住居」ではなく「邸宅」であるとする傾向にある。ただし、学説においては「住居」の共用部分は「住居」に含めるべきとの立場もあり、また、下級審裁判例の中にも「住居」とするものが少なくない。いずれにせよ、誰でも出入りできる共用部分であるからと言って、直ちに住居侵入罪が成立しないとされているわけではない。
判例 平成20年4月11日にマンションの共用部分については「住居」ではなく「人の看守する邸宅」であるという立場をとったので、「住居」は基本的に専有部分のみをさすものと考えられる。
なお、「人の」住居となっていることから、他人の住居への侵入のみが本罪を構成する。その他人が不法占拠者であっても構わないとされる。また、賃料を滞納していたり[[行方不明]]になっている賃借人の住居に[[不動産賃貸業|大家]]が入って裁判所の執行手続によらず荷物を引き払ったりする行為も住居侵入罪に該当するとされている。
=== 邸宅・建造物 ===
「人の看守する邸宅、建造物」への侵入も住居侵入罪を構成する。
「人の看守する」とは、人による事実上の管理・支配を意味する(最判昭和59年12月18日刑集38巻12号3026頁)。
「邸宅」とは、人が現に住んでいない空き家等を指す。また、季節的に使用される別荘等であって人が住んでいない期間についてもこれに該当する。
なお、住居に付属した敷地(庭など)への侵入も住居侵入罪となる。また、住居に付属した敷地は、住居に接続して障壁等で囲まれている[[囲繞地]](いにょうち)であると認められる場合には、住居の一部として扱われ、そこへの侵入が住居侵入罪を構成する(最大判昭和25年9月27日刑集4巻9号1783頁。囲繞地の定義につき、最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁)。そのため、建物に侵入していなくても壁を乗り越えて中庭等へ侵入した時点で、住居侵入罪の既遂となる(未遂にとどまるのではない)。
また、マンションの共用部分も邸宅に該当する(最判平成20年4月11日)。
=== 艦船 ===
刑法130条にいう「[[艦船]]」とは、人が居住し得る程度の大きさのある艦艇<ref group="注釈">[[海上自衛隊]]や外国軍が運用する船舶。日本標準商品分類で分類番号504に該当する。</ref>([[軍艦]])および国や民間が所有する[[船舶]]のことを言う。公園の池などにある[[ボート]]や[[カヌー]]は「艦船」ではないといえる<ref group="注釈">乗り込むために無断で係留施設や保管場所に立ち入った場合は施設への侵入となる。</ref>。
===囲繞地===
以上の住居、邸宅、建造物または艦船に該当しない駐車場<ref group="注釈">住居、邸宅または建造物に附属しないものに限る。なお、建造物の外観を備えた立体駐車場はそれ自体が建造物に当たる。</ref>、空き地や田畑に入ったり、自動車、鉄道車両の内側に入っても、住居侵入罪は成立しない<ref group="注釈">鉄道用地構内(公衆立ち入り禁止場所)については、直ちに[[鉄道営業法]]第37条違反の罪が成立する。</ref>(但し、踏み荒らしや汚損があれば[[器物損壊罪]]、正当な理由による退去措置に反すれば[[鉄道営業法]]違反、[[業務妨害罪]]等、立入禁止の表示があれば[[軽犯罪法]]第1条第32号違反に問われうる<ref group="注釈">本罪の客体とならない、住宅、邸宅や建造物を備えない土地について(適用には)立入禁止の表示が必要となる。本罪の客体となる住居等や囲繞地の場合は、(本罪の成立に)別段立入禁止の表示を必要としない。</ref>。)
住居、邸宅または建造物に付属しこれを囲む土地(「囲繞地」)については諸説あるが、判例は「建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の附属地として、建物利用のために供されるものであることが明示されれば足りる」(中略)(囲障は)「外部との交通を阻止し得る程度の構造を有するものである」(中略)「本来建物固有の敷地と認め得るものかどうか、また、囲障設備が仮設的構造(中略)かどうかは問わない」として、仮設の金網柵を動かして引き倒しその内側の囲繞地に侵入する行為につき、当該囲繞地は「建造物侵入罪の客体にあたる」とした<ref>1976年(昭和51年)3月4日最高裁判所第一小法廷決判決(事件番号昭和49(あ)736 )</ref>。
このように多数通説および判例は、「まさに右部分への侵入によって建造物自体への侵入若しくはこれに準ずる程度に建造物利用の平穏が害され又は脅かされることからこれを保護しようとする趣旨」とする「平穏説」を取っている。
また、東京高裁1993年(平成5年)7月7日判決においては、「建物の付属地として門塀を設けるなどして外部との交通を制限し、外来者がみだりに出入りすることを禁止している場所に故なく侵入すれば建造物侵入罪が成立」とし、「囲繞地であるためには、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、建物の付属地として、建物利用のために供されるものであることがしめされれば足り」るとし、囲障の瑕疵(鎖錠の有無、門扉開閉の有無)に関わらず犯罪が成立するとした。
以上の事から、建物等の囲繞地であって、ブロックや塀、竹垣等によって門塀を備えたものは勿論のこと、敷地境界において鎖一本や、[[ロードコーン]]・コーンバー等により簡易に囲障を備えているものであっても、建造物侵入罪の客体となる。門扉が開放されている、囲障に隙間があって通過可能と言った事等は適用除外の理由にならず、すなわち当該囲繞地につき侵入を阻止する意思表示があり、それを敢えて不法に踰越すれば、犯罪が成立するとしたものである。
=== その他 ===
人が外出や旅行等で一時的または長期的に住居を離れている場合も当然本罪の客体となる。また別荘や二次的住宅(占有者の都合により不定期、一時的に起臥寝食に利用するもの)等については、たとえ人が住んでいない時季や期間等であっても、看守されている邸宅であるから本罪の客体となる。
廃屋同然の遺棄、放棄された住居(「邸宅」)や建造物に侵入し、かつそこに<ref group="注釈">一時的、長期的を問わず。</ref>居座ったような場合は、[[軽犯罪法]]第1条第1号の適用が検討される。ただし、災害等の理由により当該住居から避難している場合は、住居が居住可能な状態でありさえすればたとえ放棄状態であったとしても、住居を遺棄、放棄している訳ではなく単に住居が占有者の占有離脱の状態にあるに留まるから、本罪の成立を妨げない。
その他の建造物、艦船についても、本罪は人が看守している事を要件としているから、(長期的に)人が看守していないこれらのものの「内側」に居座った場合には、[[軽犯罪法]]第1条第1号が適用される。なお、同法の条項は「艦船」ではなく「船舶」としているから、住居侵入罪が想定する「艦船」よりも小さな舟艇の内側に潜んでいた場合も同法の適用がある。
[[軽犯罪法]]第1条第1号は「内」側としている事から、人が住んでおらず看守されていない建造物等の囲繞地には適用がないものと考えられるが、同法同条第32号の適用の余地はある。
== 「侵入」の意義 ==
=== 意思侵害説と平穏侵害説 ===
どのような立入りを「侵入」とするのか、住居侵入罪の保護法益とも関係して、見解が対立している。
まず、住居権者・管理者の意思に反する立入りを「侵入」であるとする立場(意思侵害説)がある。これは通常、住居侵入罪の保護法益を住居権と解する立場からの帰結であると言われる。他方、住居の平穏を害する立入りが「侵入」であるとする立場(平穏侵害説)があり、これは住居侵入罪の保護法益を住居の平穏と解する立場からの帰結であるとされている。
両説の違いが生じる典型事例は、住居の住人(住居権者)又は建造物等の管理者が立入りを禁止している場合に、平穏を害さないよう静かに立ち入ったときである。管理者等の意思に反した立ち入りをもって「侵入」と解する立場によれば、住居侵入罪が成立しうる。他方、平穏を害するような立入りをもって「侵入」とする立場によれば、こうした立入り行為は「侵入」といえず、住居侵入罪は成立しないことになる。
判例は、住居権者等の意思に反する立入りをもって「侵入」と解している(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)。このことをもって判例は、住居侵入罪の保護法益を住居権と考える立場に立っているとされている。
最高裁判決が「侵入」を肯定した事例には以下がある。
* 全逓信労働組合が郵便局内へ立ち入り、ビラ1000枚を貼付した事例(昭和48年4月18日)
* 税務署庁舎内にセメント袋に入れた人糞を投げ込むため、夜間に、人が自由に通行できる税務署構内へ立ち入った事例(昭和31年12月5日)
* 強盗の目的を隠しつつ「今晩は」と声をかけ家人が「おはいり」と応じた後に住居へ立ち入った事例(昭和24年7月22日)
*ATM利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、営業中の銀行支店出張所(無人)へ立ち入った事例(平成19年7月2日)
*自衛隊の宿舎に反戦ビラを新聞受けに入れるために、宿舎の敷地及び1階出入口から各戸玄関前まで立ち入った行為(平成20年4月11日)
== 未遂処罰 ==
住居侵入罪は[[未遂]]も処罰される(刑法132条)。例えば、他人の家の塀を乗り越えようとした時点で住居侵入罪の未遂である。ただし、塀に上った時点で未遂ではなく既遂である<ref>{{cite news|title=塀の上は建物にあたる? 最高裁、「建造物の一部」と初判断 |url=http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/090715/trl0907152056016-n1.htm |publisher=[[産経新聞]] |accessdate=2009年7月17日 |date=2009年7月16日}}{{リンク切れ|date=2020年3月}}</ref><ref>[https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=37832 最一小決平成21年7月13日](警察署の高さ約2.4mの塀の上部に上がった行為について建造物侵入罪の既遂が成立するとされた事例)。</ref>。
== 不退去罪との関係 ==
たとえ立入り行為が「侵入」ではないなどとして住居侵入罪の成立が否定されたとしても、管理者等から退去するよう要求されてこれに応じない場合には[[不退去罪]]が成立する。住居侵入罪と不退去罪とどちらの犯罪成立要件とも満たす場合には、住居侵入罪のみを成立させるのが判例の立場である。
== 他の犯罪との関係 ==
例えば窃盗目的で人の家に忍び込んだ場合には、[[窃盗罪]]と住居侵入罪の2罪が成立し、両罪は手段と目的の関係にあるといえるため[[牽連犯]](刑法54条1項後段)となり、[[科刑上一罪]]として最も重い罪の法定刑の範囲で処罰される。窃盗罪のほかにも、[[強盗罪]]、[[放火罪]]、[[強姦罪]]、[[殺人罪 (日本)|殺人罪]]などが牽連犯の関係にあるとされる。
== 表現の自由との関係 ==
[[立川反戦ビラ配布事件]]や[[葛飾政党ビラ配布事件]]など、[[政治団体]]や政党の活動の一環としてビラやチラシの配布を行うために、住民の了解なく、もしくは住民から立入らないよう求められている部外者が住居(共用部分)に立ち入る行為が住居侵入罪となるかどうかが争われる事例が生じている。
そこでは、まず、物理的には常時誰でも立ち入ることができる場所に立ち入ったに過ぎず、住居侵入罪の客体である「住居」等への侵入に該当しないのではないか、という議論がなされている{{誰2|date=2012年12月}}。
[[弁護士]]の[[伊藤真 (弁護士)|伊藤真]]は、[[防衛省]][[官舎]]へのビラ配布は20年以上にわたって行なわれてきたものの、立川反戦ビラ配布事件以前に問題とされたことは一度もないことや、営利目的のビラを無断で郵便受けに入れることが問題にされることはまずないことから、「立川反戦ビラ配布事件での逮捕、起訴は、配布した人物とビラの内容を理由に行われたものである」と指摘し、「刑法よりも[[表現の自由]]を保障する[[日本国憲法|憲法]]の方が上位にあるため、刑法が憲法上の価値とぶつかるときには、一定限度で犯罪にすることを差し控えなければならない」と主張している<ref name="伊藤真">[http://www.magazine9.jp/juku/004/index.html 『伊藤真のけんぽう手習い塾』第4回「表現の自由が侵されるとき」] [[マガジン9]]</ref>。
裁判例でも有罪とするものと無罪とするものとが混在しており、それぞれの理由も異なっている。なお、2008年4月11日、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]第2[[小法廷]]は立川反戦ビラ配布事件について住居侵入罪の成立を認めるとともに、管理権者の意思に反する行為であり、住民の私生活の平穏を害する行為であるとして[[日本国憲法第21条]]第1項に反しないとした。
== 批判 ==
<!--{{独自研究範囲|date=2013年5月|刑事法では、憲法の[[罪刑法定主義]]により犯罪とされる行為の内容及びそれに対して科される刑罰を予め明確に規定しておかなければならないとされているが、本罪の運用では立入の目的や管理者の感情により恣意的、不意打的に犯罪者とみなされる恐れがある}}。--><!--独自研究(媒体などで未だ発表されたことがないもの)的な記述にならないよう、「罪刑法定主義との関係上問題である」と指摘している文献や人物を明記してください。「恣意的、不意打的に犯罪者とみなされる恐れがある」というのが投稿者の意見に過ぎないなら独自研究に該当します。--><!--{{独自研究範囲|date=2013年6月|また、[[準用・類推適用|類推適用の禁止]]に抵触する恐れもある。例えば、自身の勤務先に盗撮機器を設置し女性の着替えを盗撮しようとした場合、盗撮目的の侵入として本罪で逮捕される事がある。これは、本来猥褻目的盗撮やのぞき見を直接規制する法律([[迷惑防止条例]]、[[軽犯罪法]]第一条第二十三号)で対処すべき行為を、そのような法律を適用できないケースで本罪を用いて類推適用しているとも解釈できる}}。--><!--独自研究(媒体などで未だ発表されたことがないもの)的な記述にならないよう、「類推適用の禁止に抵触する恐れがある」と指摘している文献や人物を明記してください。「類推適用の禁止に抵触する恐れがある」「類推適用しているとも解釈できる」というのが投稿者の意見に過ぎないなら独自研究に該当します。-->弁護士の小倉秀夫は「刑法上処罰規定がない[[盗撮]]を事実上処罰するために住居侵入罪を活用するのは裏技的だと思う」と述べている<ref>[https://web.archive.org/web/20160107003739/http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/bb5bd26b38c4f08835bef85210c58ede 共用スペースと住居侵入罪]</ref>。
== 関連項目 ==
{{Wikibooks|刑法各論}}
* [[軽犯罪法]]第1条1号および32号
* [[不退去罪]]
* [[無断駐車]]
* [[特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律]]
* [[ピッキング行為]]
* [[ピンポンダッシュ]]
* [[所有権]]
* [[囲繞地通行権]]
* [[相隣関係]]
* [[営業の自由]]
* [[表現の自由]]
* [[立川反戦ビラ配布事件]]
* [[葛飾政党ビラ配布事件]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
<references/>
{{日本の刑法犯罪}}
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[[Category:日本の犯罪類型]]
[[Category:暴力を伴う犯罪]] | null | 2023-05-20T05:35:52Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%8F%E5%B1%85%E4%BE%B5%E5%85%A5%E7%BD%AA |
7,386 | 不退去罪 | 不退去罪(ふたいきょざい)は、刑法に規定された犯罪類型の一つであり、退去の要求を受けたにもかかわらず人の住居等から退去しないことを内容とする。真正不作為犯である。刑法130条後段に規定されており、同条は前段で住居侵入罪も規定している。
他人の住居、建造物、艦船に、適法に又は過失によって立ち入ったのち、要求を受けたにもかかわらず退去しなかった場合に成立する。ただし、退去を要求されたからといって即座に不退去罪の既遂となるわけではなく、所持品を整理して持つとか、衣類を着用して靴を履くなど退去に要する合理的な時間を超えて故意に退去しなかった場合に成立する。また、住人や管理人が退去してほしいと思っていても、明示的な退去要求がなければ本罪は成立しない。
不退去罪に該当する例として、住人に拒否された後の債権の取り立て、営業や布教の継続、店員から退去要求を受けた後の当該店舗への滞在継続などが挙げられる。
不退去罪にも未遂処罰規定が存在し、これは、退去要求後、退去に要する合理的な時間を経過前に突き出された場合などがあげられるが、その行為に当罰性はないとされる。
法定刑は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金である。
住居侵入罪に当たる行為により侵入した後、要求を受けて、なお立ち去らなかった場合には住居侵入罪のみが成立し、不退去行為はこれに吸収される。
退去の要求をうけたにもかかわらず居座っている者に対して、食糧を供給するなどし、その者の居座りを助けた場合には、不退去罪は継続犯であるから、同罪の共犯となる。 | [
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] | 不退去罪(ふたいきょざい)は、刑法に規定された犯罪類型の一つであり、退去の要求を受けたにもかかわらず人の住居等から退去しないことを内容とする。真正不作為犯である。刑法130条後段に規定されており、同条は前段で住居侵入罪も規定している。 | {{脚注の不足|date=2022年8月}}
{{日本の犯罪
| 罪名 = 不退去罪
| 法律・条文 = 刑法130条後段
| 保護法益 = 住居権(争いあり)
| 主体 = 人
| 客体 = 他人の住宅、他人の監守する邸宅、建造物、艦船
| 実行行為 = 不退去
| 主観 = 故意犯
| 結果 = 挙動犯、侵害犯
| 実行の着手 = 退去の要求を受けた時点
| 既遂時期 = 退去に必要な合理的な時間が経過した時点
| 法定刑 = 3年以下の懲役又は10万円以下の罰金
| 未遂・予備 = 未遂罪(132条)
|}}
{{日本の刑法}}
'''不退去罪'''(ふたいきょざい)は、[[刑法 (日本)|刑法]]に規定された犯罪類型の一つであり、退去の要求を受けたにもかかわらず人の住居等から退去しないことを内容とする。[[不作為犯|真正不作為犯]]である。[[b:刑法第130条|刑法130条]]後段に規定されており、同条は前段で[[住居侵入罪]]も規定している。
== 概説 ==
他人の住居、建造物、艦船に、適法に又は過失によって立ち入ったのち、要求を受けたにもかかわらず退去しなかった場合に成立する。ただし、退去を要求されたからといって即座に不退去罪の既遂となるわけではなく、所持品を整理して持つとか、衣類を着用して靴を履くなど退去に要する合理的な時間を超えて故意に退去しなかった場合に成立する。また、住人や管理人が退去してほしいと思っていても、明示的な退去要求がなければ本罪は成立しない。
不退去罪に該当する例として、住人に拒否された後の債権の取り立て、営業や布教の継続、店員から退去要求を受けた後の当該店舗への滞在継続などが挙げられる。
不退去罪にも未遂処罰規定が存在し、これは、退去要求後、退去に要する合理的な時間を経過前に突き出された場合などがあげられるが、その行為に当罰性はないとされる<ref>大谷實『新版 刑法講義各論[追補版]』(成文堂、2002年)参照。この場合、「退去義務が生じていない予備の段階」であると解すべきだとする。</ref>。
[[法定刑]]は、3年以下の[[懲役]]または10万円以下の[[罰金]]である。
住居侵入罪に当たる行為により侵入した後、要求を受けて、なお立ち去らなかった場合には住居侵入罪のみが成立し、不退去行為はこれに吸収される<ref>[https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51356 最高裁決定 昭和31年8月22日]</ref>。
退去の要求をうけたにもかかわらず居座っている者に対して、食糧を供給するなどし、その者の居座りを助けた場合には、不退去罪は[[継続犯]]であるから、同罪の[[共犯]]となる。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 出典 ===
<references />
== 参考文献 ==
* [[辰巳法律研究所]] 『現代刑法各論』ISBN 4887275366
* [[西田典之]] 『刑法各論(法律学講座双書)第四版 』 [[弘文堂]](2007年)
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{{日本の刑法犯罪}}
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[[Category:日本の犯罪類型]] | 2003-04-28T02:59:34Z | 2023-09-07T06:05:50Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E9%80%80%E5%8E%BB%E7%BD%AA |
7,387 | 次元解析 | 次元解析(じげんかいせき、英: dimensional analysis)とは、物理量における、長さ、質量、時間、電荷などの次元から、複数の物理量の間の関係を予測することである。
物理的な関係を表す数式においては、両辺や各項の次元が一致しなくてはならない。この規則を逆に利用すると、既知の量を組み合わせ、求めたい未知の物理量の次元に一致するように式を立てれば、それは正しい関係式になっている可能性が高い。
次元解析を用いると、一般解を得ることが困難な(ときには不可能な)現象に対して、物理量間の関係を推測することができる。また、ミスの防止にも役立つ。
数式の左右両辺の各項の次元が等しい式は次元的に健全または次元的に斉一(homogeneous)であると呼ばれる。物理法則に基いて理論的に導かれる理論式は次元的に健全であり、次元的に健全な式のみ物理では意味があると考える。すなわち物理現象を支配する物理方程式の各項の次元は次元的に健全でなければならない。この原理を次元一致の原理(principle of dimensional consistency)という。
物理量Q がn 個の物理量xi によって決定されるとき、それらの関係を表す式
が次元的に健全であるということは、次のように変形できることを意味する。
ここで [ X i ] {\displaystyle [X_{i}]} は物理量 x i {\displaystyle x_{i}} の単位または次元、*付きの変数は無次元量を意味する。
バッキンガムのπ定理(Buckingham Π theorem)とは、数理物理学の分野において、次元解析の基礎となる理論である。大雑把に言うと、物理的な関係式が物理変数をn 個含み、それらの変数がk 種類の独立な基本単位を持つならば、その式は元の物理変数で構成されるp = n - k 個の無次元パラメータを含む式と等価であるという定理である。この定理により、与えられた物理変数から、たとえ関係式の形が不明であっても無次元パラメータを求めることができる。物理量を無次元量で書き直せば、式の次元の一致・不一致をチェックする必要がなくなり、解析が簡単になる。ただし、無次元パラメータの選び方は一意ではない。バッキンガムのΠ定理は無次元パラメータを求める方法を与えるだけであり、物理的に意味のあるものを選ぶわけではない。
2つの物理的な系の無次元パラメータが一致するとき、それらの系は相似であるという(大きさのみが異なる三角形を相似と呼ぶのと同様である)。これらの系は数学的には等価であるため、解析をするために便利な(実験などがしやすい)系を選ぶことができる。
より正確に表現すると、無次元パラメータの個数p は次元行列M の退化次数 null M に等しく、k はその階数 rank M に等しい。物理的に異なる系に対して、無次元パラメータが等しくなるなら、それらの系は数学的に等価である。
次のような物理的な関係式があるとする:
ここでq1, ..., qn はn 個の物理変数であり、k 種類の独立な基本単位で表されている。このとき、上式は次の数学的に等価な式に書き換えることができる:
ここでπ1, ..., πp はq1, ..., qn で構成されるp = n - k 個の 無次元パラメータである:
ここで指数ai は有理数である(適当にべき乗すれば常に整数としてよい)。
前提として、与えられた基本単位は有理数体上のベクトル空間(物理次元ベクトル空間と呼ぶ)の基底であり、物理単位の積はベクトルの和で表され、べき乗はスカラー倍を表すとする。有次元の物理変数を必要な基本単位の指数の組で表す(現れない基本単位に対しては指数はゼロとする)。例えば、重力加速度g は L T − 2 {\displaystyle {\mathsf {LT}}^{-2}} (長さ÷時間)の次元を持つ。したがってこれは基底(長さ,時間)に関してベクトル(1, -2)で表される。
物理的単位を物理的関係式の両辺で一致させることは、物理次元ベクトル空間で線形従属性を課すこととみなすことができる。
有次元の物理変数n 個で表される系を考える。基本単位はk 種類とする。次元行列 M ∈ R を(i , j )成分がj 番目の物理変数のi 番目の基本単位の指数である行列とする。例えば
は物理変数 q1, q2, ..., qn の次元行列である。
無次元量は単位のべきが全てゼロとなる(すなわち次元がない)組み合わせであり、次元行列の零空間に相当する。無次元変数は有次元変数間の単位の線型結合である。
階数・退化次数公式により、k 個の(必要な)次元を持つn 個のベクトルから成る系は関係のp (= n - k )-次元空間を満足する。任意の基底の選択はp 個の無次元数の要素を持つ。
無次元変数は(分母を払うことで)いつも有次元変数の整数の組み合わせになるように取られる。不自然な有次元数の選択が数学的にはある。いくつかの無次元変数の選択は物理的により意味があり、理想的に使われるものがある。
例としてばねにつないだ物体の振動運動について考える。水平面上に質量 m の物体をおき、垂直に立った壁と物体との間をばね定数 k のばねで結ぶ。ばねの自然長の状態から物体を x だけずらし、静かに手を離すと物体は振動運動を始める。このときの振動の周期(1振動にかかる時間)T を与える式を推測する。水平面との摩擦や空気抵抗は考えない。
式に含まれるであろう定数は、物体の質量 m、ばね定数 k、初期変位 x の3つである。長さの次元を L {\displaystyle {\mathsf {L}}} 、質量の次元を M {\displaystyle {\mathsf {M}}} 、時間の次元を T {\displaystyle {\mathsf {T}}} とすれば、それぞれの定数および周期 T の次元は [ m ] = M , [ k ] = M T − 2 , [ x ] = L , [ T ] = T {\displaystyle [m]={\mathsf {M}},[k]={\mathsf {MT}}^{-2},[x]={\mathsf {L}},[T]={\mathsf {T}}} である。この中で長さの次元 L {\displaystyle {\mathsf {L}}} を含んでいるのは初期変位 x のみなので、式に含めることができない。なぜなら式の左辺と右辺では次元が一致しなくてはならず、初期変位を含めるならば両辺に同じだけかける必要があり、それならば無くても同じだからである。
次元が T {\displaystyle {\mathsf {T}}} になるように m と k を組み合わせる方法は一つしかない。結果次の式が求まる。
比例係数 A は無次元量の定数で次元解析から求めることはできない。この運動の運動方程式を直接解くと周期は
となり、A = 2π のもとで両者は見事に一致している(固有振動も参照)。このように簡単な問題ならば次元を考えるだけで見通しが立つ。式の次元が合うことは必須の要請であるので、式の間違いをチェックする場合にも使える。
バッキンガムのΠ定理にしたがって考えると、物理量が m, k, x および T の4つで、次元が M , T , L {\displaystyle {\mathsf {M}},{\mathsf {T}},{\mathsf {L}}} の3種類なので、次元行列は
となる(便宜的に列が m, k, x, T 、行が M , T , L {\displaystyle {\mathsf {M}},{\mathsf {T}},{\mathsf {L}}} に対応していることを明記しているが、本来の次元行列には含まれない)。null M = 1 から、1個の無次元量があることが分かる。関係式はすなわちこの無次元量が定数ということである。
ばねにつながれた物体が、速度に比例した大きさの抵抗(粘性抵抗力)を受けながら一次元運動することを考える。運動方程式は以下である
式に現れる定数は、物体の質量 m、粘性抵抗の比例係数 c、ばね定数 k の3つで、それぞれの次元は [ m ] = M , [ c ] = M T − 1 , [ k ] = [ M T − 2 ] {\displaystyle [m]={\mathsf {M}},[c]={\mathsf {MT}}^{-1},[k]=[{\mathsf {MT}}^{-2}]} である。
この運動では、特徴的な時間尺度 (characteristic time scale) が2つ存在する。即ち、
の2つの時間が現象を特徴づけており、時間尺度の競合が起こる。つまり τ と 1/ω の大きさのバランスによって運動の様子が変わることが予想される。
Π定理からは、物理量が m, c, k の3つで次元が M , T {\displaystyle {\mathsf {M}},{\mathsf {T}}} の2種類である(調和振動のときと同じ理由によって初期変位は入れなくても良い)から、次元行列が
となる。したがって1つの無次元量でこの現象を特徴づけられることがわかる。この無次元量には通常、減衰比と呼ばれる
が用いられ、実際に運動方程式を解析的に解くと、ζ < 1 のとき減衰振動、ζ = 1 のとき臨界減衰、ζ > 1 のとき過減衰となり、運動が定性的にも変化する。
ポンプ、送風機や発電用水車などのターボ機械は内部流れが複雑であるため、その挙動を表すナビエ-ストークス方程式を直接解くことができない。しかしその運転状態は以下の条件を与えるとおおよそ決まることが分かっている:
このとき、次の未知量を推測する:
この場合は物理量は6つ、次元が3種類である。
次元が一致するように各変数のべきを調整すると、(変数が多いので一意ではないが)以下のように関係式を推測できる:
ここで、A, B, α, β は次元解析から求めることはできないが、条件で考慮していない流体の粘度や機械の各部寸法バランスなどに依存する無次元量である。
この場合の次元行列は
であるため無次元数は null M = 3つ存在する。よく用いられるのはそれぞれ流量係数、圧力係数、出力係数と呼ばれる以下の3つである:
無次元の関係式 f, g で表すと
となる。
原子構造を古典物理学が説明できないということも次元解析から理解できる。
水素原子は電子がクーロン力で惑星のように陽子に束縛されている。その軌道の半径 a ( [ a ] = L {\displaystyle [a]={\mathsf {L}}} )は、
で表されると考えられる。ここで、 M {\displaystyle {\mathsf {M}}} は質量、 L {\displaystyle {\mathsf {L}}} は長さ、 T {\displaystyle {\mathsf {T}}} は時間、 I {\displaystyle {\mathsf {I}}} は電流の次元を表す。ところが、これらの量をどう組み合わせても、長さの次元 L {\displaystyle {\mathsf {L}}} を持った量を構成することができない。すなわち、水素原子は一定の大きさをとることができない。そこでニールス・ボーアは、このようなミクロの世界では次元が M L 2 T − 1 {\displaystyle {\mathsf {ML}}^{2}{\mathsf {T}}^{-1}} のプランク定数 h が関係していると考えた。以上の4つの物理量を組み合わせて長さの次元を持つ量を作ると、
が導かれる。これはボーア半径の π 倍である。
以上の次元解析的議論により、ボーアは h が必須であることを確信した。
次元解析を行う際に用いる次元は国際単位系の基本単位に対応する7つの次元に限る必要はなく、扱う問題に応じて独立した次元を選ぶことができる。たとえば加速度のない流れでは質量、長さ、時間に加えて力を独立次元とみなすことでより厳密な情報が得られるというブリッジマン(1921)に由来する方法がある。
また長さの次元 L {\displaystyle {\mathsf {L}}} に対して、3方向 (x , y , z) を区別して次元解析してもよい。この方法はHuntley(1955)に由来し、方向性次元解析(vectorial dimensional analysisまたはCosta(1971)によって指向解析 (directional analysis)と呼ばれる。重力や境界層など、特別な方向をもつ物理現象に対しては方向性次元解析が有効になる場合がある。
例として、流れの中に、流れに平行に置かれた平板が受ける抗力の問題を考える。抗力 F、平板の面積 S、流速 u、流体の密度 ρ、粘性 μ、平板前縁から流れに沿って測った距離を x とする。独立次元として M L T {\displaystyle {\mathsf {MLT}}} を用いる通常の次元解析では2つの無次元数:抗力係数 f とレイノルズ数 Re
が得られるが、これらの間に成り立つ関係式の具体形は分からない。しかし平板に平行な2方向 x, y の長さの次元 L {\displaystyle {\mathsf {L}}} と、平板に直交する z 方向の長さの次元 L z {\displaystyle {\mathsf {L}}_{z}} を独立と考えることによって、層流の場合には
という、より詳細な関係式を得ることができる。
また、Moran(1967)によって群論的方法との関連も論じられている。 | [
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"text": "次元解析(じげんかいせき、英: dimensional analysis)とは、物理量における、長さ、質量、時間、電荷などの次元から、複数の物理量の間の関係を予測することである。",
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"text": "物理的な関係を表す数式においては、両辺や各項の次元が一致しなくてはならない。この規則を逆に利用すると、既知の量を組み合わせ、求めたい未知の物理量の次元に一致するように式を立てれば、それは正しい関係式になっている可能性が高い。",
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"text": "次元解析を用いると、一般解を得ることが困難な(ときには不可能な)現象に対して、物理量間の関係を推測することができる。また、ミスの防止にも役立つ。",
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"text": "数式の左右両辺の各項の次元が等しい式は次元的に健全または次元的に斉一(homogeneous)であると呼ばれる。物理法則に基いて理論的に導かれる理論式は次元的に健全であり、次元的に健全な式のみ物理では意味があると考える。すなわち物理現象を支配する物理方程式の各項の次元は次元的に健全でなければならない。この原理を次元一致の原理(principle of dimensional consistency)という。",
"title": "次元一致の原理"
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"text": "物理量Q がn 個の物理量xi によって決定されるとき、それらの関係を表す式",
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"text": "が次元的に健全であるということは、次のように変形できることを意味する。",
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"text": "ここで [ X i ] {\\displaystyle [X_{i}]} は物理量 x i {\\displaystyle x_{i}} の単位または次元、*付きの変数は無次元量を意味する。",
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"text": "バッキンガムのπ定理(Buckingham Π theorem)とは、数理物理学の分野において、次元解析の基礎となる理論である。大雑把に言うと、物理的な関係式が物理変数をn 個含み、それらの変数がk 種類の独立な基本単位を持つならば、その式は元の物理変数で構成されるp = n - k 個の無次元パラメータを含む式と等価であるという定理である。この定理により、与えられた物理変数から、たとえ関係式の形が不明であっても無次元パラメータを求めることができる。物理量を無次元量で書き直せば、式の次元の一致・不一致をチェックする必要がなくなり、解析が簡単になる。ただし、無次元パラメータの選び方は一意ではない。バッキンガムのΠ定理は無次元パラメータを求める方法を与えるだけであり、物理的に意味のあるものを選ぶわけではない。",
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"text": "2つの物理的な系の無次元パラメータが一致するとき、それらの系は相似であるという(大きさのみが異なる三角形を相似と呼ぶのと同様である)。これらの系は数学的には等価であるため、解析をするために便利な(実験などがしやすい)系を選ぶことができる。",
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"text": "より正確に表現すると、無次元パラメータの個数p は次元行列M の退化次数 null M に等しく、k はその階数 rank M に等しい。物理的に異なる系に対して、無次元パラメータが等しくなるなら、それらの系は数学的に等価である。",
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"text": "ここでq1, ..., qn はn 個の物理変数であり、k 種類の独立な基本単位で表されている。このとき、上式は次の数学的に等価な式に書き換えることができる:",
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"text": "ここでπ1, ..., πp はq1, ..., qn で構成されるp = n - k 個の 無次元パラメータである:",
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"text": "ここで指数ai は有理数である(適当にべき乗すれば常に整数としてよい)。",
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"text": "前提として、与えられた基本単位は有理数体上のベクトル空間(物理次元ベクトル空間と呼ぶ)の基底であり、物理単位の積はベクトルの和で表され、べき乗はスカラー倍を表すとする。有次元の物理変数を必要な基本単位の指数の組で表す(現れない基本単位に対しては指数はゼロとする)。例えば、重力加速度g は L T − 2 {\\displaystyle {\\mathsf {LT}}^{-2}} (長さ÷時間)の次元を持つ。したがってこれは基底(長さ,時間)に関してベクトル(1, -2)で表される。",
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"text": "物理的単位を物理的関係式の両辺で一致させることは、物理次元ベクトル空間で線形従属性を課すこととみなすことができる。",
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"text": "有次元の物理変数n 個で表される系を考える。基本単位はk 種類とする。次元行列 M ∈ R を(i , j )成分がj 番目の物理変数のi 番目の基本単位の指数である行列とする。例えば",
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"text": "無次元量は単位のべきが全てゼロとなる(すなわち次元がない)組み合わせであり、次元行列の零空間に相当する。無次元変数は有次元変数間の単位の線型結合である。",
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"text": "階数・退化次数公式により、k 個の(必要な)次元を持つn 個のベクトルから成る系は関係のp (= n - k )-次元空間を満足する。任意の基底の選択はp 個の無次元数の要素を持つ。",
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"text": "無次元変数は(分母を払うことで)いつも有次元変数の整数の組み合わせになるように取られる。不自然な有次元数の選択が数学的にはある。いくつかの無次元変数の選択は物理的により意味があり、理想的に使われるものがある。",
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"text": "例としてばねにつないだ物体の振動運動について考える。水平面上に質量 m の物体をおき、垂直に立った壁と物体との間をばね定数 k のばねで結ぶ。ばねの自然長の状態から物体を x だけずらし、静かに手を離すと物体は振動運動を始める。このときの振動の周期(1振動にかかる時間)T を与える式を推測する。水平面との摩擦や空気抵抗は考えない。",
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},
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"text": "式に含まれるであろう定数は、物体の質量 m、ばね定数 k、初期変位 x の3つである。長さの次元を L {\\displaystyle {\\mathsf {L}}} 、質量の次元を M {\\displaystyle {\\mathsf {M}}} 、時間の次元を T {\\displaystyle {\\mathsf {T}}} とすれば、それぞれの定数および周期 T の次元は [ m ] = M , [ k ] = M T − 2 , [ x ] = L , [ T ] = T {\\displaystyle [m]={\\mathsf {M}},[k]={\\mathsf {MT}}^{-2},[x]={\\mathsf {L}},[T]={\\mathsf {T}}} である。この中で長さの次元 L {\\displaystyle {\\mathsf {L}}} を含んでいるのは初期変位 x のみなので、式に含めることができない。なぜなら式の左辺と右辺では次元が一致しなくてはならず、初期変位を含めるならば両辺に同じだけかける必要があり、それならば無くても同じだからである。",
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"text": "次元が T {\\displaystyle {\\mathsf {T}}} になるように m と k を組み合わせる方法は一つしかない。結果次の式が求まる。",
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"text": "比例係数 A は無次元量の定数で次元解析から求めることはできない。この運動の運動方程式を直接解くと周期は",
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"text": "となり、A = 2π のもとで両者は見事に一致している(固有振動も参照)。このように簡単な問題ならば次元を考えるだけで見通しが立つ。式の次元が合うことは必須の要請であるので、式の間違いをチェックする場合にも使える。",
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"text": "バッキンガムのΠ定理にしたがって考えると、物理量が m, k, x および T の4つで、次元が M , T , L {\\displaystyle {\\mathsf {M}},{\\mathsf {T}},{\\mathsf {L}}} の3種類なので、次元行列は",
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"text": "となる(便宜的に列が m, k, x, T 、行が M , T , L {\\displaystyle {\\mathsf {M}},{\\mathsf {T}},{\\mathsf {L}}} に対応していることを明記しているが、本来の次元行列には含まれない)。null M = 1 から、1個の無次元量があることが分かる。関係式はすなわちこの無次元量が定数ということである。",
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"text": "ばねにつながれた物体が、速度に比例した大きさの抵抗(粘性抵抗力)を受けながら一次元運動することを考える。運動方程式は以下である",
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"text": "式に現れる定数は、物体の質量 m、粘性抵抗の比例係数 c、ばね定数 k の3つで、それぞれの次元は [ m ] = M , [ c ] = M T − 1 , [ k ] = [ M T − 2 ] {\\displaystyle [m]={\\mathsf {M}},[c]={\\mathsf {MT}}^{-1},[k]=[{\\mathsf {MT}}^{-2}]} である。",
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},
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"text": "この運動では、特徴的な時間尺度 (characteristic time scale) が2つ存在する。即ち、",
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"text": "の2つの時間が現象を特徴づけており、時間尺度の競合が起こる。つまり τ と 1/ω の大きさのバランスによって運動の様子が変わることが予想される。",
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"text": "Π定理からは、物理量が m, c, k の3つで次元が M , T {\\displaystyle {\\mathsf {M}},{\\mathsf {T}}} の2種類である(調和振動のときと同じ理由によって初期変位は入れなくても良い)から、次元行列が",
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},
{
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"text": "となる。したがって1つの無次元量でこの現象を特徴づけられることがわかる。この無次元量には通常、減衰比と呼ばれる",
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"text": "が用いられ、実際に運動方程式を解析的に解くと、ζ < 1 のとき減衰振動、ζ = 1 のとき臨界減衰、ζ > 1 のとき過減衰となり、運動が定性的にも変化する。",
"title": "例"
},
{
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"text": "ポンプ、送風機や発電用水車などのターボ機械は内部流れが複雑であるため、その挙動を表すナビエ-ストークス方程式を直接解くことができない。しかしその運転状態は以下の条件を与えるとおおよそ決まることが分かっている:",
"title": "例"
},
{
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"text": "このとき、次の未知量を推測する:",
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"text": "この場合は物理量は6つ、次元が3種類である。",
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"text": "この場合の次元行列は",
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"text": "であるため無次元数は null M = 3つ存在する。よく用いられるのはそれぞれ流量係数、圧力係数、出力係数と呼ばれる以下の3つである:",
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"text": "原子構造を古典物理学が説明できないということも次元解析から理解できる。",
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"text": "水素原子は電子がクーロン力で惑星のように陽子に束縛されている。その軌道の半径 a ( [ a ] = L {\\displaystyle [a]={\\mathsf {L}}} )は、",
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"title": "例"
},
{
"paragraph_id": 47,
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"text": "が導かれる。これはボーア半径の π 倍である。",
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"text": "以上の次元解析的議論により、ボーアは h が必須であることを確信した。",
"title": "例"
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"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "次元解析を行う際に用いる次元は国際単位系の基本単位に対応する7つの次元に限る必要はなく、扱う問題に応じて独立した次元を選ぶことができる。たとえば加速度のない流れでは質量、長さ、時間に加えて力を独立次元とみなすことでより厳密な情報が得られるというブリッジマン(1921)に由来する方法がある。",
"title": "拡張"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "また長さの次元 L {\\displaystyle {\\mathsf {L}}} に対して、3方向 (x , y , z) を区別して次元解析してもよい。この方法はHuntley(1955)に由来し、方向性次元解析(vectorial dimensional analysisまたはCosta(1971)によって指向解析 (directional analysis)と呼ばれる。重力や境界層など、特別な方向をもつ物理現象に対しては方向性次元解析が有効になる場合がある。",
"title": "拡張"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "例として、流れの中に、流れに平行に置かれた平板が受ける抗力の問題を考える。抗力 F、平板の面積 S、流速 u、流体の密度 ρ、粘性 μ、平板前縁から流れに沿って測った距離を x とする。独立次元として M L T {\\displaystyle {\\mathsf {MLT}}} を用いる通常の次元解析では2つの無次元数:抗力係数 f とレイノルズ数 Re",
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"text": "が得られるが、これらの間に成り立つ関係式の具体形は分からない。しかし平板に平行な2方向 x, y の長さの次元 L {\\displaystyle {\\mathsf {L}}} と、平板に直交する z 方向の長さの次元 L z {\\displaystyle {\\mathsf {L}}_{z}} を独立と考えることによって、層流の場合には",
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"text": "という、より詳細な関係式を得ることができる。",
"title": "拡張"
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"text": "また、Moran(1967)によって群論的方法との関連も論じられている。",
"title": "拡張"
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] | 次元解析とは、物理量における、長さ、質量、時間、電荷などの次元から、複数の物理量の間の関係を予測することである。 物理的な関係を表す数式においては、両辺や各項の次元が一致しなくてはならない。この規則を逆に利用すると、既知の量を組み合わせ、求めたい未知の物理量の次元に一致するように式を立てれば、それは正しい関係式になっている可能性が高い。 次元解析を用いると、一般解を得ることが困難な(ときには不可能な)現象に対して、物理量間の関係を推測することができる。また、ミスの防止にも役立つ。 | '''次元解析'''(じげんかいせき、{{lang-en-short|dimensional analysis}})とは、[[物理量]]における、[[長さ]]、[[質量]]、[[時間]]、[[電荷]]などの[[量の次元|次元]]から、複数の物理量の間の関係を予測することである。
物理的な関係を表す[[数式]]においては、両辺や各項の次元が一致しなくてはならない。この規則を逆に利用すると、既知の量を組み合わせ、求めたい未知の物理量の次元に一致するように式を立てれば、それは正しい関係式になっている可能性が高い。
次元解析を用いると、一般解を得ることが困難な(ときには不可能な)現象に対して、物理量間の関係を推測することができる。また、ミスの防止にも役立つ。
== 次元一致の原理 ==
数式の左右両辺の各項の次元が等しい式は'''次元的に健全'''<ref>{{cite|和書 |editor=[[化学工学会]] |title=化学工学 |edition=3 |publisher=槇書店 |year=2006 |isbn=4-8375-0690-9 |page=6}}</ref>または'''次元的に斉一'''({{en|homogeneous}})<ref>{{cite|和書 |author=大野克嗣 |title=非線形な世界 |publisher=東京大学出版会 |year=2009 |isbn=978-4-13-063352-9}}</ref>であると呼ばれる。物理法則に基いて理論的に導かれる理論式は次元的に健全であり、次元的に健全な式のみ物理では意味があると考える。すなわち物理現象を支配する物理方程式の各項の次元は次元的に健全でなければならない。この原理を'''次元一致の原理'''({{en |principle of dimensional consistency}})という<ref>{{cite|和書 |author=五十嵐保 |author2=杉山均 |title=流体工学と伝熱工学のための次元解析活用法 |publisher=共立出版 |year=2013 |isbn=978-4-320-07189-6 |page=6}}</ref>。
=== 数学的表現 ===
物理量''Q'' が''n'' 個の物理量''x<sub>i</sub>'' によって決定されるとき、それらの関係を表す式
:<math>Q=F(x_1,\dots,x_n)</math>
が次元的に健全であるということは、次のように変形できることを意味する<ref>{{cite journal|和書 |url=https://nagaokaut.repo.nii.ac.jp/record/579/files/K16_14.pdf |author=白樫正高 |title=次元解析再考 |journal=長岡技術科学大学研究報告 |volume=16 |pages=93-95|year=1994|hdl=10649/479|access-date=2023-08-13}}</ref>。
:<math>F(x_1,\dots,x_n) = \prod_i [X_i]^{a_i} \times F^*(x_1^*,\dots,x_n^*)</math>
ここで<math>[X_i]</math>は物理量<math>x_i</math>の単位または次元、*付きの変数は無次元量を意味する。
== バッキンガムのπ定理 ==
'''バッキンガムのπ定理'''([[:en:Buckingham_π_theorem|Buckingham Π theorem]])とは、[[数理物理学]]の分野において、次元解析の基礎となる理論である。大雑把に言うと、物理的な関係式が[[物理量|物理変数]]を''n'' 個含み、それらの変数が''k'' 種類の独立な[[基本単位]]を持つならば、その式は元の物理変数で構成される''p'' = ''n'' - ''k'' 個の[[無次元量|無次元パラメータ]]を含む式と等価であるという定理である。この定理により、与えられた物理変数から、たとえ関係式の形が不明であっても無次元パラメータを求めることができる。物理量を無次元量で書き直せば、式の次元の一致・不一致をチェックする必要がなくなり、解析が簡単になる。ただし、無次元パラメータの選び方は一意ではない。バッキンガムのΠ定理は無次元パラメータを求める方法を与えるだけであり、物理的に意味のあるものを選ぶわけではない。
2つの物理的な系の無次元パラメータが一致するとき、それらの系は'''[[相似]]'''であるという(大きさのみが異なる三角形を相似と呼ぶのと同様である)。これらの系は数学的には等価であるため、解析をするために便利な(実験などがしやすい)系を選ぶことができる。
より正確に表現すると、無次元パラメータの個数''p'' は次元行列''M'' の[[行列の階数#線型写像の階数|退化次数]] null ''M'' に等しく、''k'' はその[[行列の階数|階数]] rank ''M'' に等しい。物理的に異なる系に対して、無次元パラメータが等しくなるなら、それらの系は数学的に等価である。
=== 定式化 ===
次のような物理的な関係式があるとする:
: <math>f(q_1, q_2, \dots, q_n) = 0</math>
ここで''q''<sub>1</sub>, ..., ''q<sub>n</sub>'' は''n'' 個の物理変数であり、''k'' 種類の独立な基本単位で表されている。このとき、上式は次の数学的に等価な式に書き換えることができる:
: <math>F(\pi_1, \pi_2, \dots, \pi_p) = 0</math>
ここでπ<sub>1</sub>, ..., π<sub>''p''</sub> は''q''<sub>1</sub>, ..., ''q<sub>n</sub>'' で構成される''p'' = ''n'' - ''k'' 個の 無次元パラメータである:
: <math>\pi_i = q_1^{a_1} \, q_2^{a_2} \cdots q_n^{a_n}, \quad i=1,\dots,p</math>
ここで指数''a<sub>i</sub>'' は[[有理数]]である(適当に[[べき乗]]すれば常に[[整数]]としてよい)。
=== 証明 ===
{{節スタブ}}
==== 概要 ====
前提として、与えられた基本単位は[[有理数]]体上の[[ベクトル空間]](物理次元ベクトル空間と呼ぶ)の[[基底 (線型代数学)|基底]]であり、物理単位の積はベクトルの和で表され、べき乗はスカラー倍を表すとする。有次元の物理変数を必要な基本単位の指数の組で表す(現れない基本単位に対しては指数はゼロとする)。例えば、[[重力加速度]]''g'' は<math>\mathsf{L T}^{-2}</math>(長さ÷時間<sup>2</sup>)の[[量の次元|次元]]を持つ。したがってこれは基底(長さ,時間)に関してベクトル(1, -2)で表される。
物理的単位を物理的関係式の両辺で一致させることは、物理次元ベクトル空間で[[線形従属]]性を課すこととみなすことができる。
==== 正式な証明 ====
有次元の物理変数''n'' 個で表される系を考える。基本単位は''k'' 種類とする。'''次元行列''' ''M'' ∈ R<sup>''k''×''n''</sup> を(''i'' , ''j'' )成分が''j'' 番目の物理変数の''i'' 番目の基本単位の指数である行列とする。例えば
: <math>M = \begin{pmatrix} a_1 \\ \vdots \\ a_n \end{pmatrix}</math>
は物理変数 {{math|''q''{{sub|1}}{{sup|''a''{{sub|1}}}}, ''q''{{sub|2}}{{sup|''a''{{sub|2}}}}, …, ''q{{sub|n}}{{sup|a{{sub|n}}}}''}} の次元行列である。
無次元量は単位のべきが全てゼロとなる(すなわち次元がない)組み合わせであり、次元行列の[[零空間]]に相当する。無次元変数は有次元変数間の単位の[[線型結合]]である。
[[行列の階数#線型写像の階数|階数・退化次数公式]]により、''k'' 個の(必要な)次元を持つ''n'' 個のベクトルから成る系は関係の''p'' (= ''n'' - ''k'' )-次元空間を満足する。任意の基底の選択は''p'' 個の無次元数の要素を持つ。
無次元変数は(分母を払うことで)いつも有次元変数の整数の組み合わせになるように取られる。不自然な有次元数の選択が数学的にはある。いくつかの無次元変数の選択は物理的により意味があり、理想的に使われるものがある。
== 例 ==
=== 調和振動 ===
例としてばねにつないだ物体の[[振動運動]]について考える。[[水平面]]上に質量 {{math|''m''}} の物体をおき、垂直に立った壁と物体との間を[[ばね定数]] {{math|''k''}} の[[ばね]]で結ぶ。ばねの自然長の状態から物体を {{math|''x''}} だけずらし、静かに手を離すと物体は振動運動を始める。このときの振動の[[周期]](1振動にかかる時間){{math|''T''}} を与える式を推測する。水平面との摩擦や空気抵抗は考えない。
式に含まれるであろう定数は、物体の質量 {{math|''m''}}、ばね定数 {{math|''k''}}、初期変位 {{math|''x''}} の3つである。長さの次元を<math>\mathsf{L}</math>、質量の[[量の次元|次元]]を<math>\mathsf{M}</math>、時間の次元を<math>\mathsf{T}</math>とすれば、それぞれの定数および周期 {{math|''T''}} の次元は<math>[m]=\mathsf{M}, [k]=\mathsf{M T}^{-2}, [x]=\mathsf{L}, [T]=\mathsf{T}</math>である。この中で長さの次元<math>\mathsf{L}</math>を含んでいるのは初期変位 {{math|''x''}} のみなので、式に含めることができない。なぜなら式の左辺と右辺では次元が一致しなくてはならず、初期変位を含めるならば両辺に同じだけかける必要があり、それならば無くても同じだからである。
次元が<math>\mathsf{T}</math>になるように {{math|''m''}} と {{math|''k''}} を組み合わせる方法は一つしかない。結果次の式が求まる。
: <math>T = A \sqrt{\frac{m}{k}}</math>
比例係数 {{math|''A''}} は[[無次元量]]の定数で次元解析から求めることはできない。この運動の[[運動方程式]]を直接解くと周期は
: <math>T=2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}</math>
となり、{{math|''A'' {{=}} 2π}} のもとで両者は見事に一致している([[固有振動]]も参照)。このように簡単な問題ならば次元を考えるだけで見通しが立つ。式の次元が合うことは必須の要請であるので、式の間違いをチェックする場合にも使える。
バッキンガムのΠ定理にしたがって考えると、物理量が {{math|''m'', ''k'', ''x''}} および {{math|''T''}} の4つで、次元が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}, \mathsf{L}</math>の3種類なので、次元行列は
: <math>M = \begin{pmatrix} \cdot&m&k&x&T \\ \mathsf{M} & 1 & 1 & 0 & 0 \\ \mathsf{T} & 0 & -2 & 0 & 1 \\ \mathsf{L} & 0 & 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}</math>
となる(便宜的に列が {{math|''m'', ''k'', ''x'', ''T''}} 、行が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}, \mathsf{L}</math>に対応していることを明記しているが、本来の次元行列には含まれない<!--この表記法は無出典の独自研究ですが、説明のためやむを得ず書いています-->)。{{math|null ''M'' {{=}} 1}} から、1個の無次元量があることが分かる。関係式はすなわちこの無次元量が定数ということである。
: <math>\frac{T}{\sqrt{m/k}} = A (=2\pi)</math>
=== 減衰振動 ===
[[ばね]]につながれた物体が、速度に比例した大きさの抵抗(粘性抵抗力)を受けながら一次元運動することを考える。[[運動方程式]]は以下である<ref>{{Cite book|和書 |author = 山本鎮男 |coauthors = 曽根彰・芦野隆一・守本晃 |title = ダイナミカルシステムの数理 基礎 |year = 1999 |publisher = 共立出版 |isbn = 978-4-320-08125-3 |page = 242}}</ref>{{main|減衰振動}}
: <math> m \ddot{x} = -c \dot{x} - k x </math>
式に現れる定数は、物体の[[質量]] {{math|''m''}}、[[粘性係数|粘性抵抗の比例係数]] {{math|''c''}}、[[ばね定数]] {{math|''k''}} の3つで、それぞれの次元は<math>[m]=\mathsf{M}, [c]=\mathsf{M T}^{-1}, [k]=[\mathsf{M T}^{-2}]</math>である。
この運動では、'''特徴的な時間尺度''' (characteristic time scale) が2つ存在する。即ち、
* 減衰時間:<math> \tau = \frac{m}{c}</math>
* 固有周期:<math> \frac{1}{\omega} = \sqrt{\frac{m}{k}}</math>
の2つの時間が現象を特徴づけており、時間尺度の競合が起こる。つまり {{math|τ}} と {{math|1/ω}} の大きさのバランスによって運動の様子が変わることが予想される。
Π定理からは、物理量が {{math|''m'', ''c'', ''k''}} の3つで次元が<math>\mathsf{M}, \mathsf{T}</math>の2種類である(調和振動のときと同じ理由によって初期変位は入れなくても良い)から、次元行列が
: <math>M = \begin{pmatrix} \cdot & m & c & k \\ \mathsf{M} & 1 & 1 & 1 \\ \mathsf{T} & 0 & -1 & -2 \end{pmatrix}</math>
となる。したがって1つの無次元量でこの現象を特徴づけられることがわかる。この無次元量には通常、減衰比と呼ばれる
:<math>\zeta=1/2\tau\omega=c/2\sqrt{mk}</math>
が用いられ、実際に運動方程式を[[解析解|解析的に解く]]と、{{math|ζ < 1}} のとき減衰振動、{{math|ζ {{=}} 1}} のとき臨界減衰、{{math|ζ > 1}} のとき過減衰となり、運動が[[定性的]]にも変化する。
=== 流体機械 ===
[[ポンプ]]、[[送風機]]や[[発電用水車]]などの[[ターボ機械]]は内部流れが複雑であるため、その挙動を表す[[ナビエ-ストークス方程式]]を直接解くことができない。しかしその運転状態は以下の条件を与えるとおおよそ決まることが分かっている:
* 作動流体の[[密度]] {{math|ρ}} (次元は<math>[\rho]=\mathsf{M L}^{-3}</math>)
* 機械の大きさ {{math|''D''}} (<math>[D]=\mathsf{L}</math>)
* [[回転速度]] {{math|''N''}} (<math>[N]=\mathsf{T^{-1}}</math>)
* [[流量]] {{math|''Q''}} (<math>[Q]=\mathsf{L}^3 \mathsf{T}^{-1}</math>)
このとき、次の未知量を推測する:
* [[圧力]] {{math|''P''}} (<math>[P]=\mathsf{M L}^{-1} \mathsf{T}^{-2}</math>)
* [[動力|出力]] {{math|''L''}} (<math>[L]=\mathsf{M L}^2 \mathsf{T}^{-3}</math>)
この場合は物理量は6つ、次元が3種類である。
次元が一致するように各変数のべきを調整すると、(変数が多いので一意ではないが)以下のように関係式を推測できる:
:<math>P = A \rho N^2 D^2 \left(\frac{Q}{ND^3}\right)^\alpha</math>
:<math>L = B \rho N^3 D^5 \left(\frac{Q}{ND^3}\right)^\beta</math>
ここで、{{math|''A'', ''B'', α, β}} は次元解析から求めることはできないが、条件で考慮していない流体の[[粘度]]や機械の各部寸法バランスなどに依存する無次元量である。
この場合の次元行列は
: <math>M = \begin{pmatrix} \cdot&\rho&D&N&Q&P&L \\ \mathsf{M}&1&0&0&0&1&1 \\ \mathsf{T}&0&0&-1&-1&-2&-3 \\ \mathsf{L}&-3&1&0&3&-1&2 \end{pmatrix}</math>
であるため無次元数は {{math|null ''M'' {{=}} }}3つ存在する。よく用いられるのはそれぞれ流量係数、圧力係数、出力係数と呼ばれる以下の3つである:
: <math>\phi=\frac{Q}{ND^3},\quad\psi=\frac{P}{\rho N^2 D^2},\quad\tau=\frac{L}{\rho N^3 D^5}</math>
無次元の関係式 {{math|''f'', ''g''}} で表すと
:<math>\psi = f(\phi),\quad\tau = g(\phi)</math>
となる。
=== 原子構造 ===
原子構造を[[古典物理学]]が説明できないということも次元解析から理解できる<ref>{{Cite book|和書 |author = 大野克嗣 |coauthors = |title = 非線形な世界 |year = 2009 |publisher = 東京大学出版会 |isbn = 978-4-13-063352-9 |page = 165}}</ref>。
[[水素原子]]は[[電子]]が[[クーロン力]]で惑星のように[[陽子]]に束縛されている。その軌道の半径 {{math|''a''}} (<math>[a]=\mathsf{L}</math>)は、
* 電子の質量''m'' (次元は<math>[m]=\mathsf{M}</math>)
* [[電気素量]]''e'' (<math>[e]=\mathsf{TI}</math>)
* [[真空の誘電率]]ε{{sub|0}} (<math>[\varepsilon_0]=\mathsf{M}^{-1} \mathsf{L}^{-3} \mathsf{T}^4 \mathsf{I}^2</math>)
で表されると考えられる。ここで、<math>\mathsf{M}</math> は質量、<math>\mathsf{L}</math> は長さ、<math>\mathsf{T}</math> は時間、<math>\mathsf{I}</math> は[[電流]]の次元を表す。ところが、これらの量をどう組み合わせても、長さの次元 <math>\mathsf{L}</math> を持った量を構成することができない。すなわち、水素原子は一定の大きさをとることができない。そこで[[ニールス・ボーア]]は、このようなミクロの世界では次元が <math>\mathsf{M L}^2 \mathsf{T}^{-1}</math> の[[プランク定数]] ''h'' が関係していると考えた。以上の4つの物理量を組み合わせて長さの次元を持つ量を作ると、
: <math>a = \frac{\epsilon_0 h^2}{m e^2}</math>
が導かれる。これは[[ボーア半径]]の {{math|π}} 倍である。
以上の次元解析的議論により、ボーアは {{math|''h''}} が必須であることを確信した。
== 拡張 ==
次元解析を行う際に用いる次元は[[国際単位系#SI基本単位|国際単位系の基本単位]]に対応する7つの次元に限る必要はなく、扱う問題に応じて独立した次元を選ぶことができる<ref name=hirose>{{Cite journal |和書|author=広瀬勉 |authorlink= |title=次元解析への一視点-次元定数を媒介として- |date=1978 |journal=化学工学論文集 |volume=4 |issue=4 |naid= |pages=331-336 |ref= |url=https://doi.org/10.1252/kakoronbunshu.4.331 |doi=10.1252/kakoronbunshu.4.331 |publisher=化学工学会 }}</ref>。たとえば加速度のない流れでは質量、長さ、時間に加えて力を独立次元とみなすことでより厳密な情報が得られるというブリッジマン(1921)に由来する方法がある。
また長さの次元 <math>\mathsf{L}</math> に対して、3方向 {{math|(''x'' , ''y'' , ''z'')}} を区別して次元解析してもよい。この方法はHuntley(1955)に由来し<ref name=hirose/>、'''方向性次元解析'''({{en|vectorial dimensional analysis}}<ref>{{cite|和書 |author=五十嵐保 |author2=杉山均 |title=流体工学と伝熱工学のための次元解析活用法 |publisher=共立出版 |year=2013 |isbn=978-4-320-07189-6 |page=104}}</ref>またはCosta(1971)によって'''指向解析''' (directional analysis)<ref name=hirose/>と呼ばれる。[[重力]]や[[境界層]]など、特別な方向をもつ物理現象に対しては方向性次元解析が有効になる場合がある。
例として、流れの中に、流れに平行に置かれた平板が受ける抗力の問題を考える<ref name=hirose/>。抗力 {{math|''F''}}、平板の面積 {{math|''S''}}、流速 {{math|''u''}}、流体の密度 {{math|ρ}}、粘性 {{math|μ}}、平板前縁から流れに沿って測った距離を {{math|''x''}} とする。独立次元として<math>\mathsf{MLT}</math>を用いる通常の次元解析では2つの無次元数:抗力係数 {{math|''f''}} とレイノルズ数 {{math|''Re''}}
:<math>f = \frac{F}{S\rho u^2},\quad Re = \frac{xu\rho}{\mu}</math>
が得られるが、これらの間に成り立つ関係式の具体形は分からない。しかし平板に平行な2方向 {{math|''x'', ''y''}} の長さの次元<math>\mathsf{L}</math>と、平板に直交する {{math|''z''}} 方向の長さの次元<math>\mathsf{L}_z</math>を独立と考えることによって、層流の場合には
:<math>f Re^{1/2}=\text{const.}</math>
という、より詳細な関係式を得ることができる。
また、Moran(1967)によって[[群論]]的方法との関連も論じられている<ref name=hirose/>。
== 脚注 ==
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
* [[量の次元]]
* [[単位]]
* [[自然単位系]]
* [[量方程式]]
* {{仮リンク|レイリー・リアボウチンスキーのパラドックス|sv|Rayleigh–Riabouchinskys paradox}}
* [[スケール因子]]
== 外部リンク ==
* [http://www.math.ntnu.no/~hanche/notes/buckingham/buckingham-a5.pdf Buckingham's pi-theorem]
{{Physics-stub}}
{{authority control}}
{{DEFAULTSORT:しけんかいせき}}
[[Category:次元解析|*]]
[[Category:物理学]]
[[Category:無次元数]] | 2003-04-28T03:03:28Z | 2023-08-13T09:05:31Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A1%E5%85%83%E8%A7%A3%E6%9E%90 |
7,388 | 反例 | 反例(はんれい、英: counterexample)とは、ある主張について、それが成立しない例のことである。したがって、成立しない主張を指すものではない。つまり、論理式 x P(x) が成り立たないことを証明するために導入される、¬P(a) を満たすような a のことである。
反例が存在する場合、x ¬P(x) が成立し、これが元の論理式の否定になるため、x P(x) は成り立たない。 | [
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] | 反例(はんれい、英: counterexample)とは、ある主張について、それが成立しない例のことである。したがって、成立しない主張を指すものではない。つまり、論理式 ∀x P(x) が成り立たないことを証明するために導入される、¬P(a) を満たすような a のことである。 反例が存在する場合、∃x ¬P(x) が成立し、これが元の論理式の否定になるため、∀x P(x) は成り立たない。 | {{Wiktionary}}
'''反例'''(はんれい、{{lang-en-short|counterexample}})とは、ある主張について、それが成立しない例のことである。したがって、成立しない主張を指すものではない。つまり、[[論理式 (数学)|論理式]] <sup>∀</sup>''x'' P(''x'') が成り立たないことを証明するために導入される、¬P(''a'') を満たすような ''a'' のことである。
反例が存在する場合、<sup>∃</sup>''x'' ¬P(''x'') が成立し、これが元の論理式の[[否定]]になるため、<sup>∀</sup>''x'' P(''x'') は成り立たない。<ref>{{ cite book | series = LIBRAIRIE LAROUSSE | title = DICTIONNAIRE DES MATHÉMATIQUES MODERNES | author = Lucien Chambbadal | year = 1969 }} <br />
日本語版:{{ cite book |translator1 = 彌永昌吉 | translator2 = 岩崎宏次郎 | translator3 = 吉崎敬夫 | publisher = 平凡社 | title = ラルース現代数学百科 | date = 1977-09-01 | page = 275 }} </ref>
== 脚注または引用文献 ==
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* 数学の様々な分野での幾つかの反例を挙げている:{{cite book | author1 = 岡部恒治 | author2 = 白井古希男 | author3 = [[一松信]] | author4 = [[和田秀男]] | title = 反例からみた数学 | edition = 改定増補 | publisher = [[星雲社]]| date = 1989-10-20 | isbn = 4-7952-6862-2 }}
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E4%BE%8B |
7,389 | ベガ (曖昧さ回避) | ベガ、ヴェガ、ヴェーガ (Vega)
スペイン語圏に多い姓。現代のスペイン語にはbとvの発音の区別は失われているためカタカナ転写は「ベガ」が多いものの、英語圏で活躍する人物にはvの英語発音を反映して「ヴェガ」と表記することがある。 | [
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"text": "ベガ、ヴェガ、ヴェーガ (Vega)",
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}
] | ベガ、ヴェガ、ヴェーガ (Vega) | '''ベガ'''、'''ヴェガ'''、'''ヴェーガ''' ('''Vega''')
== 天文 ==
* [[ベガ]](ヴェガ) - [[こと座]]α星([[おりひめ]]、織女)の固有名。
== 地名 ==
* [[ヴェーガ]](ヴェガ) - [[ノルウェー]]の都市。'''ヴェーガ群島'''として[[世界遺産]]に登録されている。
* [[ラ・ベガ州]] - [[ドミニカ共和国]]の州。
* [[ヴェガ島]] - [[南極半島]]の北東に位置する島。
== 社名・ブランド名 ==
* [[ヴェガ・フィルム]] -スイスの映画製作会社。
* [[ベガエンタテイメント]] - 日本のアニメ制作会社。
* [[シチズン時計]]の腕時計ブランドの1つ。
* [[花王製品一覧#その他|カーマイペットベガ]] - [[花王]]の自動車用洗剤。「水を使わず簡単きれい」をキャッチコピーに、吹き付けて拭き上げるだけで[[蝋|ワックス]]効果が得られることを売りにしていた。
* ファセル・ヴェガ - かつて存在した[[フランス]]自動車メーカーの[[ファセル]]のブランド。
* [[ベガ (テレビ)|WEGA]] - かつて[[ソニー]]が販売していた[[テレビ]]のブランド名。
* VEGA - [[大韓民国|韓国]]の[[携帯電話]]メーカー・[[パンテック&キュリテル]]が販売するSKYブランドの[[スマートフォン]]に代々付けられている名称。
* [[PTL21|VEGA PTL21]] - 上記のVEGA同様、韓国の携帯電話メーカー・パンテック&キュリテルが製造する[[au (携帯電話)|au]]([[KDDI]]・[[沖縄セルラー電話|OCT]][[連合]])向けスマートフォンの製品名。
* [[Radeon RX Vegaシリーズ]] - [[アドバンスト・マイクロ・デバイセズ]]の[[ビデオチップ]]のブランド。
== ロケット・航空機 ==
* [[ヴェガロケット]] - [[欧州宇宙機関]]の低軌道用人工衛星打ち上げロケット。
* [[ベガ計画]] - ソ連による[[金星]]・[[ハレー彗星]]探査計画。[[ベガ1号]]と[[ベガ2号]]が1984年に打ち上げられた。[[ハレー艦隊#ソビエト連邦]]を参照。
* [[ロッキード ベガ]] - [[ロッキード]]の民間用飛行機。
* [[日本航空]](JAL)の[[ボーイング777]]-200型[[スタージェット (旅客機)|スタージェット]]2号機のかつての愛称。
== 船舶 ==
* [[ヴェガ号]] - 航海家[[アドルフ・エリク・ノルデンショルド|ノルデンショルド]]が北東航路の航海に世界で初めて成功した[[蒸気船]]。
* [[べが (初代)]]・[[べが (2代)]] - [[東日本フェリー]]、[[川崎近海汽船]]が2013年まで運航した[[フェリー]]。
== 実在の人物 ==
[[スペイン語]]圏に多い姓。現代のスペイン語にはbとvの発音の区別は失われているためカタカナ転写は「ベガ」が多いものの、英語圏で活躍する人物にはvの英語発音を反映して「ヴェガ」と表記することがある。
* [[アレクサ・ヴェガ]] - [[アメリカ合衆国|アメリカ]]の[[映画]][[俳優]]。父は[[コロンビア人]]。
* [[インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベーガ]] - [[メスティソ]]の[[歴史家]]、文筆家。
* [[ウラジミール・ヴェガ]] - チリ出身の俳優、映画監督、ミュージシャン。
* [[スザンヌ・ヴェガ]] - アメリカの[[シンガーソングライター]]。Vegaという姓は、[[プエルトリコ]]系の継父に由来する。
* [[マービン・ベガ]] - コロンビアの野球選手。
* [[ロペ・デ・ベガ]] - [[スペイン]]の[[劇作家]]、[[詩人]]。
* サン・ファン・デ・ラ・ベガ - メキシコの人物。同名の町で行われる「メガ・ボンバー祭り」の起源となった反乱の中心人物。
* [[VEGA]] - [[香港]]の男女4人で構成されている[[ボーカル]]グループ。
* VEGA - [[吉本興業]]に所属する[[お笑いコンビ]]『黒蟻』の[[漫才#ボケとツッコミ|ツッコミ]]担当。[[黒蟻]]を参照のこと。
== 架空の人物 ==
* ドン・ディエゴ・デ・ラ・ベガ - [[怪傑ゾロ]]として知られるヒーローの本名。
* [[対戦型格闘ゲーム]]『[[ストリートファイター (ゲーム)|ストリートファイター]]』シリーズの登場人物。
** [[ベガ (ストリートファイター)]] - 軍服を着た[[シャドルー]]の[[総帥]]。
** Vega(日本では[[バルログ (ストリートファイター)]]) - [[スペイン人]]の闘士。
* [[幻魔大戦シリーズ|『幻魔大戦』シリーズ]]に登場する[[サイボーグ]]戦士。
* 映画『[[パルプ・フィクション]]』の主人公。
* テレビアニメ『[[GEAR戦士電童]]』の登場人物。
* 織姫ベガ - 漫画『[[虹色仮面]]』に登場する[[探偵]]。
* ベガ - [[NINTENDO64]]用ソフト『[[爆ボンバーマン]]』に登場する飛行機型メカ。
== その他 ==
* [[ベガ (競走馬)]] - 1993年の[[桜花賞]]、[[優駿牝馬]](オークス)の[[牝馬]]クラシック2冠を制した[[競走馬]]。
* ヴェガ - [[電撃G'sマガジン]]の[[読者参加企画]]『[[お嬢様特急]]』に登場する超豪華特急列車。
* ベガ - [[桑田佳祐]]の楽曲。アルバム『[[MUSICMAN (桑田佳祐のアルバム)|MUSICMAN]]』に収録。
* {{仮リンク|ベガ部隊 (ウクライナ国家親衛隊)|label=ベガ部隊|uk|Загін спецпризначення «Вега Захід»}} - [[ウクライナ国家親衛隊]]の特殊部隊。
{{Aimai}}
{{デフォルトソート:へか}}
[[Category:スペイン語の姓]] | 2003-04-28T03:41:49Z | 2023-11-12T08:45:56Z | true | false | false | [
"Template:仮リンク",
"Template:Aimai"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%82%AC_(%E6%9B%96%E6%98%A7%E3%81%95%E5%9B%9E%E9%81%BF) |
7,390 | Jakarta EE | Jakarta EEは、Javaで実装されたアプリケーションサーバの標準規格及びそのAPIを定めたもの。Java Platform, Standard Edition (Java SE) の拡張機能の形で提供される。旧名はJava Platform, Enterprise Edition (Java EE) 。
1999年に初版である1.2が発表された。主に小規模〜大規模サーバーシステムの標準仕様として、動的HTTPサーバ機能、自動トランザクション管理機能、データベース接続機能、メッセージング機能、各種通信プロトコル機能がAPIとして定められている。大規模システムにおける多層システムの構築も想定されており、XAプロトコルを用いた分散トランザクションにも対応している。
過去のリリースに伴い名称が変化しており、2017年現在のバージョンはJava Platform, Enterprise Edition 8 (Java EE 8) と命名されているが、Java EE 5より過去のバージョンはJava 2 Platform, Enterprise Edition (J2EE) と命名されていた。
Java EE自体は仕様であるため、各社・各組織がライセンスを受け実装している。オープンソースのものからプロプライエタリなもの、無償のものや有償のものなど選択肢が多い。
Java EEの権利はサン・マイクロシステムズを買収したオラクルが保有してきたが、同社は2017年にJava EEをEclipse Foundationに寄贈してオープンソース化をすることを発表。Java EEの商標については引き続きオラクルが保有するため、Java EE 9以後はJakarta EEの名で開発が進められる事が発表された。
Jakarta EEは1999年の登場以後、数年おきに新しいバージョンが策定されている。
Jakarta EE APIは Java SE APIを元に機能拡張された様々な技術を包含している。
Servletパッケージでは、主にHTTPリクエストのためのAPIが定義されている。またJavaServer Pages (JSP) に関するAPIも含まれる。
WebSocketパッケージでは、WebSocketの通信に関するAPIが定義されている。
Facesパッケージでは、 Java Server Faces (JSF) に関するAPIが定義されている。JSFはコンポーネントによるUI構築技術である。
ELパッケージでは、Java EEのEL式に関するクラスとインターフェースが定義されている。EL式はJSPやJSFを作成するWebアプリケーション開発者のためにデザインされた簡単な構文である。主にJSFにおいてコンポーネントに管理beanを結びつけるために用いられるが、仕様自体は独立しており、それ以外の部分でも使用可能である。
Injectパッケージでは、Contexts and Dependency Injection (CDI) APIのためのインジェクションアノテーションが定義されている。CDIは依存性の注入 (DI) に関する仕様である。
Contextパッケージでは、Contexts and Dependency Injection (CDI) APIのためのコンテキストアノテーションとインタフェースが定義されている。
Enterprise JavaBeans (EJB) パッケージでは、EJBコンテナがサポートするトランザクション処理 (JTA)、RPC(RMIまたはRMI-IIOP)、並行性制御、依存性の注入 (DI)、ビジネスオブジェクトのためのアクセス制御といった軽量APIが定義されている。またこのパッケージは、エンタープライズBeanとそのクライアント間、エンタープライズBeanとEJBコンテナ間の取り決めを定義したクラスとインタフェースも含む。
Validationパッケージでは、Bean Validation APIのためのアノテーションとインタフェースが定義されている。Bean Validationはbean(例えばJPAのモデルクラス)に対する統一されたバリデーション(値の検証)手法を提供する。Java EEの各要素では、JPAが永続化層におけるバリデーションに、JSFがビュー層におけるバリデーションにまた関与する。
Persistenceパッケージには、永続化プロバイダと管理クラス、それにJava Persistence API (JPA) クライアントの間の取り決めを定義したクラスとインタフェースが含まれている。
Transactionパッケージでは、Java EEのトランザクション処理を担うJava Transaction API (JTA) のインタフェースとアノテーションを含むAPIが定義されている。これらのAPIは低レベルAPIが抽象化されたものであり、通常のアプリケーション開発者がJava EEを用いて開発する場合は、EJBのより高レベルのトランザクション管理を用いたり、このAPIのアノテーションとCDIの管理Beanとを組み合わせて使用することが想定されている。
Messageパッケージでは、Java Authentication SPI (JASPIC) のインタフェースやクラスを含むAPIが定義されている。JASPICはセキュアなJava EEアプリケーションを構築するための仕様である。
Concurrentパッケージでは、Java EEプラットフォーム標準の管理されたスレッドプールと連携する、並行処理に関するインタフェースが定義されている。
JMSパッケージでは、Java Message Service (JMS) APIが定義されている。JMSはJavaプログラムにエンタープライズメッセージの生成、送信、受信、読込のための手法を提供する。
BatchのAPIパッケージでは、Java EEのバッチ処理のためのAPIが定義されている。バッチ処理APIは、大容量のデータを扱う長時間に亘るバックグラウンドタスクや、定期的に実行されるタスクのための手法を提供する。
Resourceパッケージでは、Java EE Connector Architecture(英語版) (JCA) APIが定義されている。JCAはEnterprise application integration (EAI) の一部であるアプリケーションサーバーや企業情報システム (EIS) の相互接続を実現するための技術である。このAPIはベンダーのための低レベルAPIであり、通常のアプリケーション開発者をターゲットとしてはいない。
Jakarta EEの機能を用いたアプリケーションを動作させるには、Jakarta EEの仕様を実装した実行環境やライブラリが必要である。Jakarta EE SDKには、Jakarta EEに準拠したオープンソースのアプリケーションサーバであるGlassFish Open Source Editionが同梱されている。GlassFish 5.0はJava EE 8の参照実装である。NetBeansやEclipseといったJava開発ツールの多くもJakarta EEに対応している。
以下に、Jakarta EE (Java EE) に準拠した主なアプリケーションサーバを示す。表のバージョン番号は、該当するJakarta EE (Java EE) 仕様に対応したバージョンを表している。
以下に、Java EE 7の様々な技術を組み合わせて作成した、ユーザーの登録を行うWeb入力画面のサンプルを示す。
Jakarta EEには、サーブレットにJSP、またJSFとFaceletsといった、Web UIを作ることが可能ないくつかの技術が存在する。以下はJSFとFaceletsを用いた例である。コード上では明示されていないが、入力コンポーネントでは入力値の検証にBean Validationを使用している。
JJakarta EEでは、ビューの処理の実装にバッキングBean(画面の背後で処理するBean、管理Beanとも)と呼ばれる仕組みを用いる。以下はCDIとEJBを用いたバッキングBeanの例である。
Jakarta EEでは、ビジネスロジックの実装のためにEJBが用意されている。データの永続化ではJDBCやJPAが使用できる。以下はEJBとJPAを用いたData Access Object (DAO) の例である。コード上では明示されていないが、EJBではトランザクション管理にJTAが使用される。
Jakarta EEでは、エンティティ/モデルクラスのためにJPAが用意されており、またバリデーション(値の検証)ではBean Validationが使用できる。以下は両者を用いた例である。 | [
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"text": "1999年に初版である1.2が発表された。主に小規模〜大規模サーバーシステムの標準仕様として、動的HTTPサーバ機能、自動トランザクション管理機能、データベース接続機能、メッセージング機能、各種通信プロトコル機能がAPIとして定められている。大規模システムにおける多層システムの構築も想定されており、XAプロトコルを用いた分散トランザクションにも対応している。",
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"text": "Java EEの権利はサン・マイクロシステムズを買収したオラクルが保有してきたが、同社は2017年にJava EEをEclipse Foundationに寄贈してオープンソース化をすることを発表。Java EEの商標については引き続きオラクルが保有するため、Java EE 9以後はJakarta EEの名で開発が進められる事が発表された。",
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"text": "Jakarta EEは1999年の登場以後、数年おきに新しいバージョンが策定されている。",
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"text": "Jakarta EE APIは Java SE APIを元に機能拡張された様々な技術を包含している。",
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"text": "Servletパッケージでは、主にHTTPリクエストのためのAPIが定義されている。またJavaServer Pages (JSP) に関するAPIも含まれる。",
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"text": "Facesパッケージでは、 Java Server Faces (JSF) に関するAPIが定義されている。JSFはコンポーネントによるUI構築技術である。",
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"text": "ELパッケージでは、Java EEのEL式に関するクラスとインターフェースが定義されている。EL式はJSPやJSFを作成するWebアプリケーション開発者のためにデザインされた簡単な構文である。主にJSFにおいてコンポーネントに管理beanを結びつけるために用いられるが、仕様自体は独立しており、それ以外の部分でも使用可能である。",
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"text": "Injectパッケージでは、Contexts and Dependency Injection (CDI) APIのためのインジェクションアノテーションが定義されている。CDIは依存性の注入 (DI) に関する仕様である。",
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"text": "Validationパッケージでは、Bean Validation APIのためのアノテーションとインタフェースが定義されている。Bean Validationはbean(例えばJPAのモデルクラス)に対する統一されたバリデーション(値の検証)手法を提供する。Java EEの各要素では、JPAが永続化層におけるバリデーションに、JSFがビュー層におけるバリデーションにまた関与する。",
"title": "主なAPI"
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"text": "Persistenceパッケージには、永続化プロバイダと管理クラス、それにJava Persistence API (JPA) クライアントの間の取り決めを定義したクラスとインタフェースが含まれている。",
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"text": "Transactionパッケージでは、Java EEのトランザクション処理を担うJava Transaction API (JTA) のインタフェースとアノテーションを含むAPIが定義されている。これらのAPIは低レベルAPIが抽象化されたものであり、通常のアプリケーション開発者がJava EEを用いて開発する場合は、EJBのより高レベルのトランザクション管理を用いたり、このAPIのアノテーションとCDIの管理Beanとを組み合わせて使用することが想定されている。",
"title": "主なAPI"
},
{
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"text": "Messageパッケージでは、Java Authentication SPI (JASPIC) のインタフェースやクラスを含むAPIが定義されている。JASPICはセキュアなJava EEアプリケーションを構築するための仕様である。",
"title": "主なAPI"
},
{
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"text": "Concurrentパッケージでは、Java EEプラットフォーム標準の管理されたスレッドプールと連携する、並行処理に関するインタフェースが定義されている。",
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},
{
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"text": "JMSパッケージでは、Java Message Service (JMS) APIが定義されている。JMSはJavaプログラムにエンタープライズメッセージの生成、送信、受信、読込のための手法を提供する。",
"title": "主なAPI"
},
{
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"text": "BatchのAPIパッケージでは、Java EEのバッチ処理のためのAPIが定義されている。バッチ処理APIは、大容量のデータを扱う長時間に亘るバックグラウンドタスクや、定期的に実行されるタスクのための手法を提供する。",
"title": "主なAPI"
},
{
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"text": "Resourceパッケージでは、Java EE Connector Architecture(英語版) (JCA) APIが定義されている。JCAはEnterprise application integration (EAI) の一部であるアプリケーションサーバーや企業情報システム (EIS) の相互接続を実現するための技術である。このAPIはベンダーのための低レベルAPIであり、通常のアプリケーション開発者をターゲットとしてはいない。",
"title": "主なAPI"
},
{
"paragraph_id": 22,
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"text": "Jakarta EEの機能を用いたアプリケーションを動作させるには、Jakarta EEの仕様を実装した実行環境やライブラリが必要である。Jakarta EE SDKには、Jakarta EEに準拠したオープンソースのアプリケーションサーバであるGlassFish Open Source Editionが同梱されている。GlassFish 5.0はJava EE 8の参照実装である。NetBeansやEclipseといったJava開発ツールの多くもJakarta EEに対応している。",
"title": "Jakarta EEの実装"
},
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"text": "以下に、Jakarta EE (Java EE) に準拠した主なアプリケーションサーバを示す。表のバージョン番号は、該当するJakarta EE (Java EE) 仕様に対応したバージョンを表している。",
"title": "Jakarta EEの実装"
},
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"text": "以下に、Java EE 7の様々な技術を組み合わせて作成した、ユーザーの登録を行うWeb入力画面のサンプルを示す。",
"title": "例"
},
{
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"text": "Jakarta EEには、サーブレットにJSP、またJSFとFaceletsといった、Web UIを作ることが可能ないくつかの技術が存在する。以下はJSFとFaceletsを用いた例である。コード上では明示されていないが、入力コンポーネントでは入力値の検証にBean Validationを使用している。",
"title": "例"
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"text": "JJakarta EEでは、ビューの処理の実装にバッキングBean(画面の背後で処理するBean、管理Beanとも)と呼ばれる仕組みを用いる。以下はCDIとEJBを用いたバッキングBeanの例である。",
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},
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"text": "Jakarta EEでは、ビジネスロジックの実装のためにEJBが用意されている。データの永続化ではJDBCやJPAが使用できる。以下はEJBとJPAを用いたData Access Object (DAO) の例である。コード上では明示されていないが、EJBではトランザクション管理にJTAが使用される。",
"title": "例"
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"text": "Jakarta EEでは、エンティティ/モデルクラスのためにJPAが用意されており、またバリデーション(値の検証)ではBean Validationが使用できる。以下は両者を用いた例である。",
"title": "例"
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] | Jakarta EEは、Javaで実装されたアプリケーションサーバの標準規格及びそのAPIを定めたもの。Java Platform, Standard Edition の拡張機能の形で提供される。旧名はJava Platform, Enterprise Edition。 | {{Java platforms}}
'''Jakarta EE'''は、[[Java]]で実装されたアプリケーションサーバの標準規格及びそのAPIを定めたもの。[[Java Platform, Standard Edition]] (Java SE) の拡張機能の形で提供される。旧名は'''Java Platform, Enterprise Edition''' ('''Java EE''') 。
== 概要 ==
[[ファイル:Java Platforms.PNG|thumb|300px|[[Javaプラットフォーム]]におけるJava EE(現・Jakarta EE)の位置づけ。Java EEは[[Java Platform, Standard Edition|Java SE]]の拡張機能として位置づけられた。]]
[[1999年]]に初版である1.2が発表された。主に小規模〜大規模サーバーシステムの標準仕様として、動的HTTPサーバ機能、自動トランザクション管理機能、データベース接続機能、メッセージング機能、各種通信プロトコル機能がAPIとして定められている。大規模システムにおける[[多層アーキテクチャ|多層システム]]の構築も想定されており、XAプロトコルを用いた分散トランザクションにも対応している。
過去のリリースに伴い名称が変化しており、[[2017年]]現在のバージョンはJava Platform, Enterprise Edition 8 (Java EE 8) と命名されているが、Java EE 5より過去のバージョンはJava 2 Platform, Enterprise Edition (J2EE) と命名されていた。
Java EE自体は仕様であるため、各社・各組織がライセンスを受け実装している。[[オープンソース]]のものから[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]なもの、無償のものや有償のものなど選択肢が多い。
Java EEの権利は[[サン・マイクロシステムズ]]を買収した[[オラクル (企業)|オラクル]]が保有してきたが、同社は2017年にJava EEを[[Eclipse Foundation]]に寄贈してオープンソース化をすることを発表。Java EEの商標については引き続きオラクルが保有するため、Java EE 9以後は'''Jakarta EE'''の名で開発が進められる事が発表された<ref>{{Cite web|和書|url=https://mag.osdn.jp/18/02/28/160000|title=Eclipse Foundationに移管する「Java EE」、新名称は「Jakarta EE」に|publisher=[[OSDN]]|date=2018-02-28|accessdate=2018-03-06}}</ref>。
== 歴史 ==
Jakarta EEは[[1999年]]の登場以後、数年おきに新しいバージョンが策定されている。
; Java 2 Platform, Enterprise Edition 1.2
: 最初のJ2EEの仕様。サン・マイクロシステムズが開発をし、[[1999年]]12月12日にリリースされた。1.2当初は以下のような技術から構成されていた。
: [[Java Database Connectivity|JDBC]] 2.0, [[Java Naming and Directory Interface|JNDI]] 1.2, [[RMI-IIOP]] 1.0, [[Java Servlet|Servlet]] 2.2, [[JavaServer Pages|JSP]] 1.1, [[Enterprise JavaBeans|EJB]] 1.1, [[Java Message Service|JMS]] 1.0, [[Java Transaction API|JTA]] 1.0, {{仮リンク|JavaMail|en|JavaMail}} 1.1, {{仮リンク|JavaBeans Activation Framework|en|JavaBeans Activation Framework|label=JAF}} 1.0
; Java 2 Platform, Enterprise Edition 1.3
: JSR 58 として[[2001年]]9月24日にリリースされた。仕様検討は、[[Java Community Process]]の元で行われた。[[ベータ版]]が2001年4月にサンによってリリースされている。1.3では新たにJSPの標準カスタムタグライブラリである[[JavaServer Pages#JSTL|JSTL]]や、[[Java API for XML Processing|JAXP]], {{仮リンク|Java EE Connector Architecture|en|Java EE Connector Architecture|label=J2CA}}, {{仮リンク|Java Authentication and Authorization Service|en|Java Authentication and Authorization Service|label=JAAS}}といった技術が追加された。またEJBが2.0へと更新され、JNDIは[[Java Platform, Standard Edition|J2SE]]への移行により取り除かれた。
; Java 2 Platform, Enterprise Edition 1.4
: JSR 151として[[2003年]]11月24日にリリースされた。[[ベータ版]]は[[2002年]]12月にSunによってリリースされている。SOAPによるWebサービスを実現するJAXP, JAXR, JAX-RPCが導入された他は、小改良に留まっている。
; Java Platform, Enterprise Edition 5
: JSR 244として[[2006年]]5月11日にリリースされた。5からは名称・バージョン体系が改められており、またJ2SE 5.0で導入された[[アノテーション]]を使った仕組みが導入されるなど、仕様自体も大きく変更された。中でもEJBは[[依存性の注入|DI]]や[[Plain Old Java Object|POJO]]の概念を取り入れ仕様を全面的に見直した3.0へと更新されており、さらにEJBから派生する形で永続化フレームワークである[[Java Persistence API|JPA]]も追加されている。また、新たに[[Webアプリケーションフレームワーク]]である[[JavaServer Faces|JSF]]が採用された。
; Java Platform, Enterprise Edition 6
: JSR 316として[[2009年]]12月10日にリリースされた。6では新たにDIを実現するCDIや、バリデーションを提供する[[Bean Validation]]といった技術が追加されている。また、[[JavaServer Faces|JSF]]が2.0となり大幅に仕様が変更となっている。
; Java Platform, Enterprise Edition 7
: JSR 342として[[2013年]]5月28日にリリースされた。7ではJSFが2.2となりCDIに準拠した上で[[HTML5]]にも対応した。[[WebSocket]]や[[バッチ処理]]に関する仕様が追加されている。Java EE 7は以下のような技術から構成されている。
: [[WebSocket]], [[JavaScript Object Notation|JSON]] Processing, [[Java Servlet|Servlet]] 3.1, [[JavaServer Faces|JSF]] 2.2, [[JavaServer Pages#EL式|EL]] 3.0, [[JavaServer Pages|JSP]] 2.3, [[JavaServer Pages#JSTL|JSTL]] 1.2, [[バッチ処理|Batch Applications]], Concurrency Utilities, CDI 1.1, [[依存性の注入|DI]] 1.0, [[Bean Validation]] 1.1, [[Enterprise JavaBeans|EJB]] 3.2, Interceptors 1.2, {{仮リンク|Java EE Connector Architecture|en|Java EE Connector Architecture|label=JCA}} 1.7, [[Java Persistence API|JPA]] 2.1, {{仮リンク|Common Annotations|en|JSR 250}} 1.2, [[Java Message Service|JMS]] 2.0, [[Java Transaction API|JTA]] 1.2, {{仮リンク|JavaMail|en|JavaMail}} 1.5, [[JAX-RS]] 2.0, Enterprise Web Services 1.3, {{仮リンク|Java API for XML Web Services|en|Java API for XML Web Services|label=JAX-WS}} 2.2, {{仮リンク|Web Services Metadata for Java|en|Web Services Metadata for Java|label=Web Services Metadata}}, [[JAX-RPC]] 1.1, {{仮リンク|Java API for XML Messaging|en|Java API for XML Messaging|label=JAXM}} 1.3, {{仮リンク|Java API for XML Registries|en|Java API for XML Registries|label=JAXR}} 1.0, JASPIC 1.1, Java ACC 1.5, Java EE Application Deployment 1.2, {{仮リンク|J2EE Management|en|J2EE Management}} 1.1, Debugging Support for Other Languages 1.0, [[Java Architecture for XML Binding|JAXB]] 2.2, [[Java API for XML Processing|JAXP]] 1.3, [[Java Database Connectivity|JDBC]] 4.0, [[Java Management Extensions|JMX]] 2.0, {{仮リンク|JavaBeans Activation Framework|en|JavaBeans Activation Framework|label=JAF}} 1.1, [[Streaming API for XML|StAX]]
; Java Platform, Enterprise Edition 8
: JSR 366として[[2017年]]9月21日にリリースされた。8ではServletが[[HTTP/2]]をサポートした4.0に更新されている。全体としては7の小改良に留まっているものの、JSF 2.3によるHTML処理が大きく改良されている。
== 主なAPI ==
Jakarta EE APIは Java SE APIを元に機能拡張された様々な技術を包含している。
* [https://javaee.github.io/javaee-spec/javadocs/ Java EE 8 Specification APIs]
* [http://docs.oracle.com/javaee/7/api Java EE 7 Specification APIs]
* [http://docs.oracle.com/javaee/6/api Java EE 6 API Specification]
=== {{Javadoc:EE|package=javax.servlet.*|javax/servlet}} ===
[[Java Servlet|Servlet]][[パッケージ (Java)|パッケージ]]では、主に[[Hypertext Transfer Protocol|HTTP]]リクエストのためのAPIが定義されている。また[[JavaServer Pages]] (JSP) に関するAPIも含まれる。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.websocket.*|javax/websocket}} ===
WebSocketパッケージでは、[[WebSocket]]の通信に関するAPIが定義されている。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.faces.*|javax/faces}} ===
Facesパッケージでは、 [[Java Server Faces]] (JSF) に関するAPIが定義されている。JSFはコンポーネントによるUI構築技術である。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.el.*|javax/el}} ===
ELパッケージでは、Java EEの[[JavaServer Pages#EL式|EL式]]に関する[[クラス (コンピュータ)|クラス]]と[[インタフェース (情報技術)|インターフェース]]が定義されている。EL式はJSPやJSFを作成するWebアプリケーション開発者のためにデザインされた簡単な構文である。主にJSFにおいてコンポーネントに管理beanを結びつけるために用いられるが、仕様自体は独立しており、それ以外の部分でも使用可能である。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.enterprise.inject.*|javax/enterprise/inject}} ===
Injectパッケージでは、[http://jcp.org/en/jsr/detail?id=299 Contexts and Dependency Injection] (CDI) APIのためのインジェクション[[アノテーション]]が定義されている。CDIは[[依存性の注入]] (DI) に関する仕様である。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.enterprise.context.*|javax/enterprise/context}} ===
Contextパッケージでは、Contexts and Dependency Injection (CDI) APIのためのコンテキストアノテーションとインタフェースが定義されている。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.ejb.*|javax/ejb}} ===
[[Enterprise JavaBeans]] (EJB) パッケージでは、EJBコンテナがサポートする[[トランザクション処理]] (JTA)、[[遠隔手続き呼出し|RPC]]([[Java Remote Method Invocation|RMI]]または[[RMI-IIOP]])、[[並行性制御]]、[[依存性の注入]] (DI)、ビジネスオブジェクトのための[[アクセス制御]]といった軽量APIが定義されている。またこのパッケージは、エンタープライズBeanとそのクライアント間、エンタープライズBeanとEJBコンテナ間の取り決めを定義したクラスとインタフェースも含む。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.validation.*|javax/validation}} ===
Validationパッケージでは、[[Bean Validation]] APIのためのアノテーションとインタフェースが定義されている。Bean Validationはbean(例えばJPAのモデルクラス)に対する統一されたバリデーション(値の検証)手法を提供する。Java EEの各要素では、[[Java Persistence API|JPA]]が永続化層におけるバリデーションに、[[JavaServer Faces|JSF]]がビュー層におけるバリデーションにまた関与する。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.persistence.*|javax/persistence}} ===
Persistenceパッケージには、永続化プロバイダと管理クラス、それに[[Java Persistence API]] (JPA) クライアントの間の取り決めを定義したクラスとインタフェースが含まれている。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.transaction.*|javax/transaction}} ===
Transactionパッケージでは、Java EEの[[トランザクション処理]]を担う[[Java Transaction API]] (JTA) のインタフェースとアノテーションを含むAPIが定義されている。これらのAPIは低レベルAPIが抽象化されたものであり、通常のアプリケーション開発者がJava EEを用いて開発する場合は、EJBのより高レベルのトランザクション管理を用いたり、このAPIのアノテーションとCDIの管理Beanとを組み合わせて使用することが想定されている。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.security.auth.message.*|javax/security/auth/message}} ===
Messageパッケージでは、Java Authentication SPI (JASPIC) のインタフェースやクラスを含むAPIが定義されている。JASPICはセキュアなJava EEアプリケーションを構築するための仕様である。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.enterprise.concurrent.*|javax/enterprise/concurrent}} ===
Concurrentパッケージでは、Java EEプラットフォーム標準の管理されたスレッドプールと連携する、並行処理に関するインタフェースが定義されている。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.jms.*|javax/jms}} ===
JMSパッケージでは、[[Java Message Service]] (JMS) APIが定義されている。JMSはJavaプログラムにエンタープライズメッセージの生成、送信、受信、読込のための手法を提供する。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.batch.api.*|javax/batch/api}} ===
BatchのAPIパッケージでは、Java EEの[[バッチ処理]]のためのAPIが定義されている。バッチ処理APIは、大容量のデータを扱う長時間に亘るバックグラウンドタスクや、定期的に実行されるタスクのための手法を提供する。
=== {{Javadoc:EE|package=javax.resource.*|javax/resource}} ===
Resourceパッケージでは、{{仮リンク|Java EE Connector Architecture|en|Java EE Connector Architecture}} (JCA) APIが定義されている。JCAは[[Enterprise application integration]] (EAI) の一部であるアプリケーションサーバーや企業情報システム (EIS) の相互接続を実現するための技術である。このAPIはベンダーのための低レベルAPIであり、通常のアプリケーション開発者をターゲットとしてはいない。
== Jakarta EEの実装 ==
Jakarta EEの機能を用いた[[アプリケーションソフトウェア|アプリケーション]]を動作させるには、Jakarta EEの仕様を実装した実行環境や[[ライブラリ]]が必要である。Jakarta EE SDKには、Jakarta EEに準拠した[[オープンソース]]の[[アプリケーションサーバ]]である[[GlassFish|GlassFish Open Source Edition]]が同梱されている。GlassFish 5.0はJava EE 8の[[リファレンス実装|参照実装]]である。[[NetBeans]]や[[Eclipse (統合開発環境)|Eclipse]]といったJava開発ツールの多くもJakarta EEに対応している。
以下に、Jakarta EE (Java EE) に準拠した主なアプリケーションサーバを示す。表のバージョン番号は、該当するJakarta EE (Java EE) 仕様に対応したバージョンを表している。
{| class="wikitable sortable" style="width: 100%; text-align: center; font-size: smaller; table-layout: fixed;"
|-
![[アプリケーションサーバ]]
!Java EE 8準拠
!Java EE 7準拠
!Java EE 6準拠<br /> (Full Profile)
!Java EE 6準拠<br /> (Web Profile)
!Java EE 5準拠
!J2EE 1.4準拠
![[ライセンス]]
|-
| [[GlassFish]] server Open Source Edition
| {{Yes}} v5.x
| {{Yes}} v4.x <ref>http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/community/testedconfiguration-glassfish4-0-1957654.html</ref>
| {{Yes}} v3.x <ref name="glassfishopensourcecomptable">https://glassfish.dev.java.net/public/comparing_v2_and_v3.html</ref>
| {{Yes}} v3.x Web Profile
| {{Yes}} v2.1.x<ref name="glassfishopensourcecomptable" />
|
| {{Free|[[Common Development and Distribution License|CDDL]], [[GNU General Public License|GPL]]}}
|-
|[https://www.payara.fish/ Payara Server]
| {{Yes}} v5.x
| {{Yes}} 4.x
|
|
|
|
| {{Free|[[Common Development and Distribution License|CDDL]], [[GNU General Public License|GPL]]}}
|-
| Oracle GlassFish Server
|
|
| {{Yes}} v3<ref name="javaee6compatlist">{{Cite web|url=http://java.sun.com/javaee/overview/compatibility.jsp |title=Java EE Compatibility |publisher=Java.sun.com |date=2010-09-07 |accessdate=2012-07-18}}</ref>
|
| {{Yes}} [[GlassFish|Sun Java System Application Server]] v9.0
| {{Yes}} [[GlassFish|Sun Java System Application Server]] v8.2
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}<br />(OSS版を元とする)
|-
| {{仮リンク|Oracle WebLogic Server|en|Oracle WebLogic Server}}
|
| {{Yes}} v12.2.x
| {{Yes}} v12.1.x<ref>http://wcc.on24.com/event/37/57/27/rt/1/documents/player_docanchr_3/weblogic12c_launch_tech_webinar_v8.pdf</ref>
|
| {{Yes}} v10.3.5.0
| {{Yes}} v9
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| [[JBoss|WildFly]]
|{{Yes}} v14.x<ref>http://wildfly.org/news/2018/08/30/WildFly14-Final-Released/</ref>
| {{Yes}} v12,x, v11.x, v10.x, v9.x, v8.x<ref>wildfly.org/about/#compliant</ref><ref>https://issues.jboss.org/browse/WFLY-469</ref><ref>http://lists.jboss.org/pipermail/wildfly-dev/2013-May/000062.html</ref>, v7.1<ref>{{Cite web|url=http://planet.jboss.org/post/jboss_as_7_1_0_final_thunder_released_java_ee_6_full_profile_certified |title=JBoss AS 7.1.0.Final "Thunder" released - Java EE 6 Full Profile certified! | My Wiki | Planet JBoss Community |publisher=Planet.jboss.org |date=2012-02-17 |accessdate=2012-07-18}}</ref>
| {{Yes}} v6.0 [http://www.jboss.org/jbossas], v7.0 [http://www.jboss.org/as7]
|
| {{Yes}} v5.1<ref>[http://java.sun.com/javaee/overview/compatibility.jsp Java EE Compatibility]</ref><ref>[http://sacha.labourey.com/2008/09/15/jboss-as-is-now-ee5-certified/ JBoss AS is now EE5 certified]</ref>
| {{Yes}} v4.x
| {{Free|[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]}}
|-
| [[JBoss|JBoss Enterprise Application Platform]]
| {{yes}} v7.2 <ref name="redhat.com">{{cite web|url=https://middlewareblog.redhat.com/2019/01/22/red-hat-jboss-enterprise-application-platform-7-2-availability/|title=Red Hat JBoss Enterprise Application Platform 7.2 Availability|accessdate=2019-04-30}}</ref>
| {{Yes}} v7.0
| {{Yes}} v6.0 <ref>{{Cite web|author=Business Wire |url=http://www.businesswire.com/news/home/20120620005266/en/Red-Hat-Launches-JBoss-Enterprise-Application-Platform |title=Red Hat Launches JBoss Enterprise Application Platform 6 to Help Enterprises Move Application Development and Deployment to the Cloud |publisher=Business Wire |date=2012-06-20 |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}} v5
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| {{Free|[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]}}<br />(WildFlyの商用版)
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| [[WebSphere Application Server|IBM WebSphere Application Server]]
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| {{Yes}} v8<ref>{{Cite web|url=http://www.ibm.com/developerworks/websphere/techjournal/1106_alcott/1106_alcott.html |title=What's new in WebSphere Application Server V8 |publisher=Ibm.com |date= |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}} v7
| {{Yes}}
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| [https://openliberty.io/ Open Liberty]
| {{yes}} v18.0.0.2<ref name=":0">{{cite web|url=http://www-01.ibm.com/common/ssi/ShowDoc.wss?docURL=/common/ssi/rep_ca/4/897/ENUS218-354/index.html&lang=en&request_locale=en|title=IBM WebSphere Application Server Liberty delivers the first production-ready, Java EE 8-compatible application server and broadens support for Spring Boot applications|website=IBM|accessdate=12 July 2018}}</ref>
| {{yes}} v18.x, v17.x, IBM WAS Liberty v8.5.5.6 <ref>http://oracle.com/technetwork/java/javaee/overview/waslibertyprofile8556-2587134.html</ref><ref>https://developer.ibm.com/wasdev/blog/2015/06/25/java-ee-7-has-landed-in-was-liberty</ref>
| {{Yes}} IBM WAS Liberty v8.5.5 <ref>http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/community/ibm-javaee6-web-tested-configs-1961333.html</ref>
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| {{Free|[[Eclipse Public License]]}}
|-
| [[WebSphere Application Server|IBM WebSphere Application Server Community Edition]]
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| {{Yes}} v3.0<ref>{{Citation|title=[[:en:IBM_WebSphere_Application_Server_Community_Edition|IBM WebSphere Application Server Community Edition - Wikipedia, the free encyclopedia]] |publisher=En.wikipedia.org |date= |accessdate=2012-07-18}}</ref>{{出典無効|date=2017年9月|title=ウィキペディア自身及びウィキペディアの転載サイト}}
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| {{Yes}} v2.1
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| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
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| [[Apache Geronimo]]
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| {{Yes}} v3.0 [http://geronimo.apache.org/]<ref>{{Cite web|url=http://www.h-online.com/open/news/item/Apache-Geronimo-fully-certified-for-Java-EE-6-1378384.html |archiveurl=https://web.archive.org/web/20120420064218/http://www.h-online.com/open/news/item/Apache-Geronimo-fully-certified-for-Java-EE-6-1378384.html|archivedate=20 April 2012|title=Apache Geronimo fully certified for Java EE 6 - The H Open: News and Features |publisher=H-online.com |date=2011-11-14 |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}} v2.0
| {{Yes}} v1.0
| {{Free|[[Apache License|Apache License 2.0]]}}
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| [[TmaxSoft]] JEUS
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| {{Yes}} v8 <ref>http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/community/tmax-jeus-8-tested-configuration-1995477.html</ref><ref>http://tmaxsoft.com/product/jeus/certification</ref><ref>https://blogs.oracle.com/theaquarium/entry/tmaxsoft_jeus_8_now_java</ref>
| {{Yes}} v7<ref>{{Cite web|url=http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/tmax-javaee6-141684.html |title=Tested Configurations, Java EE 6 - TMAX JEUS 7 |publisher=Oracle.com |date=2010-09-07 |accessdate=2012-07-18}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://us.tmaxsoft.com/jsp/product/detailcontents.jsp?psCd=00PD04&menuCd=00PDMSJE |title=Java EE6 Web Application Server, WAS Software |publisher=Us.tmaxsoft.com |date= |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}} v6
| {{Yes}} v5
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
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| [[富士通]] [[Interstage|Interstage Application Server]]<ref>[http://www.fujitsu.com/global/services/software/windows-azure Fujitsu Interstage Application Server powered by Windows Azure]</ref>
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| {{Yes}} v1<ref>{{Cite web|url=http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/community/default-452835.html |title=Tested Configurations, Java EE6 - Fujitsu Interstage |publisher=Oracle.com |date=2010-09-07 |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}}
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| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| [[日本電気|NEC]] [[WebOTX]]
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| {{Yes}} v10<ref>https://www.oracle.com/java/technologies/necjavaee7.html</ref>
| {{Yes}} v9<ref>http://www.oracle.com/technetwork/java/javaee/community/nec-webotx-v9x-certification-2002719.html</ref>
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| {{Yes}} v8
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| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| {{仮リンク|Caucho Technology|en|Caucho Technology|label=Caucho}} {{仮リンク|Resin Server|en|Resin Server}}
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| {{Yes}} v4.0.<ref>http://www.caucho.com/articles/Caucho_Web%20Profile%20JavaEE6_whitepaper_byRR.pdf</ref>
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| {{Yes}}
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| {{仮リンク|Apache TomEE|en|Apache TomEE}}<ref>{{Cite web|url=http://openejb.apache.org/3.0/apache-tomee.html |title=Apache TomEE |publisher=Openejb.apache.org |date= |accessdate=2012-07-18}}</ref><ref>{{Cite web|url=http://www.marketwatch.com/story/the-apache-software-foundation-announces-apache-tomee-certified-as-java-ee-6-web-profile-compatible-2011-10-04 |title=MarketWatch.com |publisher=MarketWatch.com |date= |accessdate=2012-07-18}}</ref>
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| {{Yes}}
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| {{Free|[[Apache License|Apache License 2.0]]}}
|-
| [[OW2 Consortium|OW2]] [[JOnAS]]
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| {{Yes}} v5.3 rc1 <ref>http://jonas.ow2.org/xwiki/bin/view/Blog/JOnAS+530+RC1+released</ref>
| {{Yes}}
| {{Yes}}
| {{Free|[[GNU Lesser General Public License|LGPL]]}}
|-
| [[SAP NetWeaver]]
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| {{Yes}} v2.x <ref>https://blogs.oracle.com/theaquarium/entry/sap_netweaver_cloud_java_ee</ref>
| {{Yes}}
| {{Yes}}
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| {{仮リンク|Oracle Application Server|en|Oracle Application Server|label=Oracle Containers for Java EE}}
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| {{Yes}}
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| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| [[Oracle iPlanet Web Server]]
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| {{Yes}} Sun Java System Web Server
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| {{仮リンク|Oracle Application Server|en|Oracle Application Server|label=Oracle Application Server 10g}}
|
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| {{Yes}}
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|-
| [[Sybase]] Enterprise Application Server <ref>[http://www.sybase.com/products/modelingdevelopment/easerver EAServer]</ref>
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| {{Yes}}
| {{Nonfree|[[プロプライエタリソフトウェア|プロプライエタリ]]}}
|}
== 例 ==
以下に、Java EE 7の様々な技術を組み合わせて作成した、ユーザーの登録を行うWeb入力画面のサンプルを示す。
Jakarta EEには、[[Java Servlet|サーブレット]]に[[JavaServer Pages|JSP]]、また[[JavaServer Faces|JSF]]と[[JavaServer Faces#Facelets|Facelets]]といった、Web UIを作ることが可能ないくつかの技術が存在する。以下はJSFとFaceletsを用いた例である。コード上では明示されていないが、入力コンポーネントでは入力値の検証に[[Bean Validation]]を使用している。
<syntaxhighlight lang="xml">
<html xmlns="http://www.w3.org/1999/xhtml"
xmlns:h="http://xmlns.jcp.org/jsf/html" xmlns:f="http://xmlns.jcp.org/jsf/core">
<f:metadata>
<f:viewParam name="user_id" value="#{userEdit.user}" converter="#{userConvertor}" />
</f:metadata>
<h:body>
<h:messages />
<h:form>
<h:panelGrid columns="2">
<h:outputLabel for="firstName" value="First name" />
<h:inputText id="firstName" value="#{userEdit.user.firstName}" label="First name" />
<h:outputLabel for="lastName" value="Last name" />
<h:inputText id="lastName" value="#{userEdit.user.lastName}" label="Last name" />
<h:commandButton action="#{userEdit.saveUser}" value="Save" />
</h:panelGrid>
</h:form>
</h:body>
</html>
</syntaxhighlight>
=== バッキングBeanの例 ===
JJakarta EEでは、ビューの処理の実装にバッキングBean(画面の背後で処理するBean、管理Beanとも)と呼ばれる仕組みを用いる。以下はCDIと[[Enterprise JavaBeans|EJB]]を用いたバッキングBeanの例である。
<syntaxhighlight lang="java">
@Named
@ViewScoped
public class UserEdit {
private User user;
@Inject
private UserDAO userDAO;
public String saveUser() {
userDAO.save(this.user);
addFlashMessage("User " + this.user.getId() + " saved");
return "users.xhtml?faces-redirect=true";
}
public void setUser(User user) {
this.user = user;
}
public User getUser() {
return user;
}
}
</syntaxhighlight>
=== DAOの例 ===
Jakarta EEでは、[[ビジネスロジック]]の実装のために[[Enterprise JavaBeans|EJB]]が用意されている。データの永続化では[[Java Database Connectivity|JDBC]]や[[Java Persistence API|JPA]]が使用できる。以下はEJBとJPAを用いた[[Data Access Object]] (DAO) の例である。コード上では明示されていないが、EJBではトランザクション管理に[[Java Transaction API|JTA]]が使用される。
<syntaxhighlight lang="java">
@Stateless
public class UserDAO {
@PersistenceContext
private EntityManager entityManager;
public void save(User user) {
entityManager.persist(user);
}
public void update(User user) {
entityManager.merge(user);
}
public List<User> getAll() {
return entityManager.createNamedQuery("User.getAll", User.class)
.getResultList();
}
}
</syntaxhighlight>
=== エンティティの例 ===
Jakarta EEでは、[[エンティティ]]/モデルクラスのために[[Java Persistence API|JPA]]が用意されており、またバリデーション(値の検証)では[[Bean Validation]]が使用できる。以下は両者を用いた例である。
<syntaxhighlight lang="java">
@Entity
public class User {
@Id
@GeneratedValue(strategy = IDENTITY)
private Integer id;
@Size(min = 2, message="First name too short")
private String firstName;
@Size(min = 2, message="Last name too short")
private String lastName;
public Integer getId() {
return id;
}
public void setId(Integer id) {
this.id = id;
}
public String getFirstName() {
return firstName;
}
public void setFirstName(String firstName) {
this.firstName = firstName;
}
public String getLastName() {
return lastName;
}
public void setLastName(String lastName) {
this.lastName = lastName;
}
}
</syntaxhighlight>
== 脚注 ==
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
{{Wikibooks|Java|Java}}
{{Commonscat|Jakarta EE}}
* [[Java]] 、[[Java#エディション]](Java SE、Java EE、Java MEなど)、[[Java#バージョン履歴]](JDK 1.0からJ2SE 1.2、Java SE 8、Java SE 9など)
* [[Java Platform, Standard Edition]] (Java SE) - Java の汎用的なエディション
* [[Java Platform, Micro Edition]] (Java ME) - Java の[[組み込みシステム]]向けエディション
* [[EAR]] - Jakarta EEアプリーケーションのパッケージ形式
== 外部リンク ==
* [https://jakarta.ee/ Jakarta EE]
* [http://www.oracle.com/technetwork/jp/java/javaee/overview/ Oracle - Java EE]
{{Java}}
[[Category:Java]]
[[Category:ウェブアプリケーション]]
[[Category:Javaプラットフォーム]]
[[Category:Java enterprise platform]]
[[Category:Java specification requests]]
[[Category:Eclipse Foundation]] | 2003-04-28T04:51:35Z | 2023-09-27T07:40:59Z | false | false | false | [
"Template:Java platforms",
"Template:仮リンク",
"Template:Free",
"Template:出典無効",
"Template:Java",
"Template:Citation",
"Template:Wikibooks",
"Template:Commonscat",
"Template:Javadoc:EE",
"Template:Yes",
"Template:Nonfree",
"Template:Reflist",
"Template:Cite web"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/Jakarta_EE |
7,391 | 乳 | 乳汁(にゅうじゅう、ちしる、ちちしる)とは、乳(ちち、にゅう)、ミルク(英: milk)とも言われる、動物のうち哺乳類が乳幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液である。特に母乳(ぼにゅう)と呼ぶ場合は、ヒトの女性が出す乳汁を指すのが慣例である。誕生後の哺乳類が他の食物を摂取できるようになるまでの間、子供の成長に見合った栄養を獲得できる最初の源となる。
一般の食物は、本来は生体組織や種子などである。それに対しミルクは食糧として作られる唯一の天然物である。
ミルクは、分泌作用を持つ外分泌腺の一種である乳腺から引き出されている。この事から、授乳機構とは、原始的には卵の湿度を維持する役目が発達したものと考えられる。この仮説は、カモノハシ目(卵生哺乳類)の生態を根拠に立てられた。授乳の根本目的は、栄養摂取もしくは免疫による防御であったという考えが受け入れられている。そしてこの分泌物は、進化を遂げる時間の中で、その量を増やし、複雑な栄養素を含むようになった。
最初に授乳されるミルク(初乳)には、母体から赤ん坊へ与えられる抗体が含まれ、以後のさまざまな病気にかかる危険性を低める効果がある。また、ウサギの母乳から、子供を乳首に吸いつけさせるフェロモン (2-methylbut-2-enal, 2MB2) が発見された報告もある。生乳が含んでいる栄養成分は動物の種によって差異があるが、主に飽和脂肪酸・タンパク質・カルシウムそしてビタミンCを含む。牛乳は水素イオン指数 (pH) 6.4 - 6.8 を示す弱酸性である。
ウシの種が提供するミルクは、多くの栄養素を含む重要な食品である。2011年、世界中では、1億3189万頭の乳牛が飼育され、4億4467万トンの牛乳が生産された。国別ではインドが生産および消費のいずれも1位であり、ミルクの輸出入は行われていない。ニュージーランド、EU加盟15ヶ国、オーストラリアがミルクや乳製品の3大輸出国である。一方で輸入は中華人民共和国、メキシコ、日本が上位3位までに入る。ミルクは特に発展途上国において、栄養供給と食糧の安全保障の確立に貢献する重要な食品である。家畜の改良、酪農技術、およびミルクの品質は、貧困問題や世界的な食糧問題の解決に、大きく役立つものとも考えられている。
単語「乳」または「ミルク」は、色や食感が似ている動物由来ではない飲料を表す際にも使われる。豆乳 (soy milk) 、粥 (rice milk) 、アーモンドミルクやココナッツミルクなどがこれに該当する。また、植物に切れ目等の傷を入れた際に滲み出る樹液等,白色(または,橙黄色等も含む)液汁も「乳」(英: latex)と言う。
また、哺乳類以外でもこどもに与える栄養物を分泌する例はある。ハト目の親が若鳥に与えるため分泌する液体も素嚢乳 (crop milk) と呼ばれ、哺乳類のミルクとの共通性も見られる。熱帯魚として知られるディスカスは雌雄で子育てするが、その際に体表から分泌物を出し、これを子供が食べる。これは「ディスカスのミルク」といわれる。クモ類のヒメグモ科の幾つかのものは幼生に口から分泌物を出して与え、「スパイダーミルク」と呼ばれる。
ミルクを消費する方法には、大きく2種類がある。ひとつは幼い哺乳類が授乳される自然な状態であり、もうひとつは人類が他の動物から得たミルクを加工して食品とする場合である。
ほとんど全ての哺乳類では、ミルクは赤ん坊に母乳栄養を与えるために直接または一時的に貯めた状態のものを飲ませる。その中で人間は、幼年期を過ぎてもミルクを消費する数少ない例外に当る。ミルクを常飲するグループの中には、ウシだけでなく家畜化した有蹄類の乳を利用する地域もある。インドは牛乳だけでなく水牛の乳の生産や消費も世界一である。
乳糖は、ミルクの他にレンギョウの花やわずかな熱帯性低木の中だけに含まれるもので、これを消化するために必要な酵素であるラクターゼの数は出生後に小腸の中で最も高くなるが、ミルクを恒常的に飲まなくなるにつれ徐々に減退する。人がヤギの生乳を乳児に与える事があるが、ここには危険が潜んでいる事が知られている。水電解質平衡異常、代謝性アシドーシス、巨赤芽球性貧血や数々のアレルギー反応などである。
牛乳を元に様々な乳製品が作られている。脂肪を集めて得られたクリームからは生クリームやバター、逆に脂肪を取り除いた脱脂乳からは脱脂粉乳やスキムミルクなどが出来る。牛乳を濃縮したコンデンスミルク、発酵させたヨーグルト、凝固・発酵させたナチュラルチーズ.それに加熱などのプロセスを経て作られるプロセスチーズなどである。
西洋諸国では、牛乳が産業レベルの規模で生産され、各種のミルクの中で最も多く消費されている。商業的な酪農では自動搾乳機(英語版)が導入されており、先進国ではほとんどの牛乳を供給している。そこでは、牛乳生産に注力するためホルスタインのような乳牛が選択的に飼育される。アメリカ合衆国の乳牛のうち90%、イギリスの80%がホルスタインである。飼われる他の乳牛種には、エアシャー種(英語版)、ブラウン・スイス種(英語版)、ガンジー種、ジャージー種、デイリー・ショートホーン種などがある。
ウシ以外でも、人類は多様な動物を家畜化し、そのミルクを利用している。例えば、ラクダ、ロバ、ヤギ、ウマ、トナカイ、羊、水牛、ヤクなどである。ロシアやスウェーデンではヘラジカの乳も利用している。
全米バイソン協会によると、アメリカバイソン(アメリカンバッファローとも呼ばれる)のミルクは商業的な取引こそ行われていないが、ヨーロッパ人の北米移住や1970‐1980年に行われたビーファロ種(英語版)の商業的交雑以降、乳牛の品種改良のために行われる交配に利用されることが多い。
ミルクの最大生産国はインド、次いでアメリカに、ドイツとパキスタンが続く。
発展途上国の経済成長と、ミルクおよび乳製品の販売促進が相まって、近年これらの国におけるミルク全体の消費量は伸長している。それに伴い、成長市場をターゲットにした酪農系多国籍企業の投資も活発になっている。このような潮流にもかかわらず、多くの国でミルク生産事業体は依然として小規模なままに止まり、それのみの収入に頼っていられない状態にある。
以下の表は水牛のミルク生産量を国別に示す。
人類が他の動物の乳を定常的に飲むようになったのは、ユーラシアでは新石器革命期に家畜を飼い始めたこともしくは農業の革新が契機となった。この新たな食糧確保は、紀元前9000-7000年頃の西南アジアや、前3500-3000年頃のアメリカ州でもそれぞれ独立して発生した。ウシ・ヒツジ・ヤギといった重要な動物の家畜化は西南アジアで始まったが、それ以降、野生のオーロックスを飼いならす例は世界中の様々な時と場所で起こった。当初、動物の家畜化は肉を得るために行われたが、考古学者アンドリュー・シェラット(英語版)が提唱した考えによると、酪農は、家畜から体毛を得たり労働をさせたりする行為の進展とともに、二次産物革命(英語版)よりももっと後の前4000年頃に形作られたという。ただし、近年の発見はシェラットの説に反する。先史時代の土器に残る液体の痕跡を分析した結果、西南アジアにて酪農は初期農業段階で既に行われていたと判明し、その時期は前7000年頃と推定された。
西南アジア発祥の酪農は、紀元前7000年頃からヨーロッパに伝わり、前4000年以降にブリテン諸島やスカンディナヴィア半島まで伝播した。南アジアには前7000-5500年頃に伝わった。搾乳を始めたのは中央ヨーロッパブリテン諸島の農民たちと考えられる。牧畜や遊牧のような耕作よりも家畜に大きく依存する経済活動は、農業主体のヨーロッパ人集団がカスピ海近郊のステップ地帯に移動した紀元前4世紀頃に発達し、後にユーラシア大陸のステップ気候域に広まった。アフリカのヒツジやヤギは西南アジアから持ち込まれたものだが、ウシは前7000-6000年頃に独自に飼いならしたものと考えられる。ラクダの家畜化は紀元前4世紀の中央アラビアで興り、北アフリカやアラビア半島では酪農の対象となった。
1863年、フランスの化学者ルイ・パスツールは乳飲料や食品の中に潜む有毒なバクテリアを殺菌する低温殺菌法(パスチャライゼーション)を発明した。1884年、ニューヨーク在住のアメリカ人医師ヘンリー・サッチャーが、撥水紙のフタを持つ初のガラス製牛乳瓶「Thatcher's Common Sense Milk Jar」を発明した。後の1932年に、ビクター・W・ファリスの発明によるプラスチックコーティングされた紙パックが採用され普及した。
ミルクは、球状の脂肪が水を基調とした炭水化物やタンパク質およびミネラルが含まれた液体の中に分散したエマルジョンまたはコロイド溶液である。含まれる成分は、これを口にする新生児の初期発育を助けるためのエネルギー源(脂質、乳糖、タンパク質)、非必須アミノ酸を生合成するためにタンパク質から供給される物質(必須アミノ酸とその仲間)、必須脂肪酸、ビタミン、無機元素、そして水である。
ミルクの分析は19世紀後半から始まり、近年の分析技術向上によって微量の活性物質も発見されているが、未だ全容を掴むには至っていない。中には、β-ラクトグロブリンのように生物学的に含まれている理由が見つかっていないものもある。
乳脂肪は膜で包まれた脂肪球の形で分泌される。それぞれの脂肪球はほとんどがトリアシルグリセロールであり、これをリン脂質やタンパク質などを成分とする複合膜が覆う。これらは乳化された状態にあり、各球が引っ付き合わないよう保ちつつ、ミルクの液体部分に含まれる各種の酵素と反応する事を防ぐ。97-98%がトリアシルグリセロールであるが、ジアシルグリセロールやモノアシルグリセロール、遊離コレステロールやコレステロールエステル、遊離脂肪酸、リン脂質もそれぞれ少量ながら含まれている。タンパク質や炭水化物とは異なりミルクに含まれる脂肪の構成は、発生の起源や授乳方法によって異なり、とくに動物の種族によっても差異が大きい。
構造の特徴として、脂肪球の大きさにはばらつきがあり、小さいもので直径0.2μm、大きいものでは15-20μmに達するものもある。この直径の差異は、動物の種だけでなく特定の個体が分泌した時によっても生じる可能性がある。均質化をしていない牛乳の脂肪球の平均直径は2-4μmであり、均質化を施すとこれが0.4μm前後まで小さくなる。親油性のビタミンであるA・D・E・Kは、必須脂肪酸であるリノール酸などに親和した形で乳脂肪部分の中に含まれる。
通常、牛乳は1リットル当り30-35グラム程度のタンパク質を含み、その約80%はカゼインミセルである。
カゼインミセルは、液状のミルク中に存在する最大の構造物であり、表層に界面活性剤ミセルと近かよったナノメートル大のリン酸カルシウム微細粒子を持つ、数千というタンパク質分子の集まりである。それぞれのカゼインミセルは、直径40-600nmのコロイド粒子である。カゼイン状タンパク質は αs1-, αs2-, β-, κ- の4タイプに分類できる。ミルク中に含まれるタンパク質のうち、重量比で76-86%を占めるカゼイン状タンパク質や、水に不溶のリン酸カルシウムのほとんどはミセルの中に捕らわれている。
ミセルの精密な構造に関して複数の理論が提唱されているが、最も外側の層はk-カゼイン(英語版)のみで構成され、周囲の流体に突き出ているという考えは共通している。このk-カゼイン分子は負の電荷を帯びているためにミセル同士は電気的に反発し合い、通常ならばそれぞれが離れた状態を維持し、水を主成分とする液体の中でコロイド状懸濁液となる。構造モデルの一つは「サブミセルモデル」と呼ばれ、小さなサブミセルが寄せ集まってミセルを作っているという考えである。これによると、ミセルの内側にはk-カゼイン含有量が少ないサブミセルがあり、これをk-カゼインに豊むサブミセルが覆いつつ、これらの間にリン酸カルシウムが存在する構造を持つ。他に提唱される「ナノクラスターモデル」では、中心にリン酸カルシウムの小さな集合体があり、その周囲に紐状のカゼインが付着している構造を取るという考えであり、この場合サブミセルは作られていない。
ミルクにはカゼイン以外にも、β-ラクトグロブリン(β-Lg)、乳糖合成に関与するα-ラクトアルブミン(α-La)、免疫グロブリン(IgG)、血清アルブミン(BSA)、ラクトフェリン(Lf)などそれぞれの機能を持つ多種多様なタンパク質が含まれている。これらはカゼインよりも水溶性が高いため、大きな構造には纏まらない。カードをつくるとカゼインが凝乳側に集まるのに対し、これらのタンパク質は乳清(ホエイ)側に残る。そのため乳漿蛋白(ホエイプロテイン)とも呼ばれる。乳漿蛋白は重量比でミルク中のタンパク質の20%を占める。代表的な乳漿蛋白はラクトグロブリン(英語版)である。
ミネラルや塩は、様々な種類のものがミルクの中ではアニオンやカチオンの形態を取り存在している。これらはカルシウム、リン酸塩、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、クエン酸塩そして塩素などが含まれ、5-40ナノメートルに凝集している。塩はカゼイン、特にリン酸カルシウムと強い相互作用を起こす。これは時に、リン酸カルシウムへの過剰な結合を引き起こす場合がある。その他、ミルクは良質なビタミン供給源となり、ビタミンA、B1、B2、B12、K、パントテン酸などは全てミルクに含まれる。
複数の測定にて、タンパク質を捉えるリン酸カルシウムはCa9(PO4)6の構造を持っている事が示された。しかし一方で、この物質は鉱物のブルシャイト CaHPO4 -2H2O 的な構造を持つという主張もある。
ミルクは、ラクトース(乳糖)、グルコース、ガラクトース、その他のオリゴ糖など複数の炭水化物を含む。グルコースとガラクトースの2つの単糖が合成したラクトースはミルクに甘みを与え、カロリーの約40%を占める。ウシ属のミルクには平均4.8%の無水ラクトースが含まれ、脱脂粉乳の固形分のうち50%に相当する。ラクトースの含有率はミルクの種類によって異なり、他の炭水化物は強く結合してラクトースの状態でミルクの中に存在する
その他、未精製の牛乳には白血球や乳腺細胞、様々なバクテリアや大量の活性酵素が含まれている。
脂肪球とそれよりも小さなカゼインミセルは、いずれも光を乱反射させる充分な大きさがあり、このためにミルクは白く見える。中には脂肪球が黄色 - オレンジ色のカロテンを含む場合があり、このため例えばガンジー種やジャージー種などのミルクをグラスに注ぐと、黄金色またはクリームのような色調が見られる。乳清部分のリボフラビンはやや緑がかっており、脱脂粉乳やホエーで確認できる場合もある。また、脱脂粉乳は粒子が小さなカゼインミセルのみが光を散乱させるため、赤色よりも青色の波長をより散乱させる傾向があり、薄青い色に見える。
ミルクの成分構成は、動物の種によって大きく異なる。例えばタンパク質の種類や、タンパク・脂肪・糖質の割合、ビタミンやミネラルの比率、乳脂肪滴の大きさ、カードの濃度など、違いは様々な要因において見られる。例えば、
このような成分構成は、種、個体、授乳期のどのタイミングかによっても変わる。以下、乳牛の種による差異を示す。
これら4種の牛乳に含まれるタンパク質は3.3-3.9%、ラクトースは4.7-4.9%である。
ミルクの脂肪率は、酪農家が家畜に与える飼料の構成によっても左右される。また、乳腺炎に感染するとミルクの脂肪含有率は低下する。
飲用したミルクから人体が吸収するカルシウムの量に関しては、さまざまな見解がある。乳製品から得られるカルシウムは、ホウレンソウのような高いカルシウム-キレート物質を持つ野菜よりも、生物学的利用能が高い。その一方で、ケールやブロッコリーなどシュウ酸塩をあまり含まないアブラナ属の野菜と比較すると、得られるカルシウムの生物学的利用能は同等以下である。
近年の評価では、ミルクの摂取には筋肉の成長を促進する効果があり、運動後の筋肉を回復させる事にも有効とする示唆がなされている。
ミルクに含まれる二糖であるラクトースは、小腸で吸収するためには酵素のラクターゼによって構成をガラクトースとグルコースに分解されなければならない。しかし、すべての哺乳動物は乳離れの後にラクターゼの分泌が減衰する。その結果、多くの人間は成長後にラクトースを適切に消化できなくなる。ただしこれも人それぞれであり、ほとんどラクトースを消化できない人もいれば、ある程度は可能な者、さらにミルクや乳製品中に含まれるかなりの比率を問題無く吸収できる者もいる。人のラクターゼ分泌を制御する遺伝子はC/T-13910 である。
世界の5%程度の人々はラクトースを満足に消化できない乳糖不耐症を示す事が知られ、この傾向はアフリカやアジア系の人々の中でより顕著である。アメリカ人の3000-5000万が乳糖不耐症であると考えられており、その中にはネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカ人の75%、アジア系アメリカ人の90%が含まれる。乳糖不耐症は北ヨーロッパ人にはあまり見られず、その他ではサハラ砂漠のトゥレグ族、西アフリカ・サヘル地域遊牧民のフラーニ、スーダンのベジャやカバビッシュ、ウガンダからルワンダ地域のツチ族などが知られる。他にも、北インドの人々も同様である。
古代ギリシア神話では女神ヘーラーがヘーラクレースを引き離した際に溢れた乳が天の川(ミルキーウェイ)になったという。
聖書にもミルクを意図した言葉があり、カナンの地イスラエルを「乳と蜜が流れる地」と表現している。乳は蜜と並び「よきもの」の象徴である。コーランの「蜜蜂」には乳について述べた箇所があり、乳は家畜の中で飼料と血液の中間から生じ、人間に与えられる美味な飲み物だと言う (16-The Honeybee, 66)。伝統的に、ラマダーン明けには一杯のミルクと乾燥ナツメヤシの実を口にする。仏教では釈迦の説話に、断食修行後に口にした牛乳の美味が悟りを導いたとあり、牛乳から作られる醍醐を「仏の最上の経法」を指す用語に用いている。ヒンドゥー教で行われる灌頂では、崇拝する神の像を聖水やミルク又はヨーグルトなどで清める儀式が行われる。
人間の文化において乳 (milk) がいかに重要かという事は、数々の言語表現に使われることで説明できる。例えば、「the milk of human kindness」(人間的な思いやり)という用例がある。一方で、「他人を利用する」(to milk someone) という慣用句もある。
様々な意味のスラングでも用いられる。17世紀初頭には、精液や膣液の意味がつけられ、転じて自慰行為を指すようにもなった。19世紀には変性アルコールを水に混ぜて作られた安物の酒の名に使われた。他に、詐取する、騙す、他人に送られた電報を盗聴する、そして虚弱な者や腰抜けという意味もある。1930年代のオーストラリアでは、自動車の吸気ガスを指して使われもした。 | [
{
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"text": "乳汁(にゅうじゅう、ちしる、ちちしる)とは、乳(ちち、にゅう)、ミルク(英: milk)とも言われる、動物のうち哺乳類が乳幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液である。特に母乳(ぼにゅう)と呼ぶ場合は、ヒトの女性が出す乳汁を指すのが慣例である。誕生後の哺乳類が他の食物を摂取できるようになるまでの間、子供の成長に見合った栄養を獲得できる最初の源となる。",
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"text": "一般の食物は、本来は生体組織や種子などである。それに対しミルクは食糧として作られる唯一の天然物である。",
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"text": "ミルクは、分泌作用を持つ外分泌腺の一種である乳腺から引き出されている。この事から、授乳機構とは、原始的には卵の湿度を維持する役目が発達したものと考えられる。この仮説は、カモノハシ目(卵生哺乳類)の生態を根拠に立てられた。授乳の根本目的は、栄養摂取もしくは免疫による防御であったという考えが受け入れられている。そしてこの分泌物は、進化を遂げる時間の中で、その量を増やし、複雑な栄養素を含むようになった。",
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"text": "最初に授乳されるミルク(初乳)には、母体から赤ん坊へ与えられる抗体が含まれ、以後のさまざまな病気にかかる危険性を低める効果がある。また、ウサギの母乳から、子供を乳首に吸いつけさせるフェロモン (2-methylbut-2-enal, 2MB2) が発見された報告もある。生乳が含んでいる栄養成分は動物の種によって差異があるが、主に飽和脂肪酸・タンパク質・カルシウムそしてビタミンCを含む。牛乳は水素イオン指数 (pH) 6.4 - 6.8 を示す弱酸性である。",
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"text": "ウシの種が提供するミルクは、多くの栄養素を含む重要な食品である。2011年、世界中では、1億3189万頭の乳牛が飼育され、4億4467万トンの牛乳が生産された。国別ではインドが生産および消費のいずれも1位であり、ミルクの輸出入は行われていない。ニュージーランド、EU加盟15ヶ国、オーストラリアがミルクや乳製品の3大輸出国である。一方で輸入は中華人民共和国、メキシコ、日本が上位3位までに入る。ミルクは特に発展途上国において、栄養供給と食糧の安全保障の確立に貢献する重要な食品である。家畜の改良、酪農技術、およびミルクの品質は、貧困問題や世界的な食糧問題の解決に、大きく役立つものとも考えられている。",
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"text": "単語「乳」または「ミルク」は、色や食感が似ている動物由来ではない飲料を表す際にも使われる。豆乳 (soy milk) 、粥 (rice milk) 、アーモンドミルクやココナッツミルクなどがこれに該当する。また、植物に切れ目等の傷を入れた際に滲み出る樹液等,白色(または,橙黄色等も含む)液汁も「乳」(英: latex)と言う。",
"title": "概要"
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"text": "また、哺乳類以外でもこどもに与える栄養物を分泌する例はある。ハト目の親が若鳥に与えるため分泌する液体も素嚢乳 (crop milk) と呼ばれ、哺乳類のミルクとの共通性も見られる。熱帯魚として知られるディスカスは雌雄で子育てするが、その際に体表から分泌物を出し、これを子供が食べる。これは「ディスカスのミルク」といわれる。クモ類のヒメグモ科の幾つかのものは幼生に口から分泌物を出して与え、「スパイダーミルク」と呼ばれる。",
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"text": "ミルクを消費する方法には、大きく2種類がある。ひとつは幼い哺乳類が授乳される自然な状態であり、もうひとつは人類が他の動物から得たミルクを加工して食品とする場合である。",
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"text": "ほとんど全ての哺乳類では、ミルクは赤ん坊に母乳栄養を与えるために直接または一時的に貯めた状態のものを飲ませる。その中で人間は、幼年期を過ぎてもミルクを消費する数少ない例外に当る。ミルクを常飲するグループの中には、ウシだけでなく家畜化した有蹄類の乳を利用する地域もある。インドは牛乳だけでなく水牛の乳の生産や消費も世界一である。",
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"text": "乳糖は、ミルクの他にレンギョウの花やわずかな熱帯性低木の中だけに含まれるもので、これを消化するために必要な酵素であるラクターゼの数は出生後に小腸の中で最も高くなるが、ミルクを恒常的に飲まなくなるにつれ徐々に減退する。人がヤギの生乳を乳児に与える事があるが、ここには危険が潜んでいる事が知られている。水電解質平衡異常、代謝性アシドーシス、巨赤芽球性貧血や数々のアレルギー反応などである。",
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"text": "牛乳を元に様々な乳製品が作られている。脂肪を集めて得られたクリームからは生クリームやバター、逆に脂肪を取り除いた脱脂乳からは脱脂粉乳やスキムミルクなどが出来る。牛乳を濃縮したコンデンスミルク、発酵させたヨーグルト、凝固・発酵させたナチュラルチーズ.それに加熱などのプロセスを経て作られるプロセスチーズなどである。",
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"text": "西洋諸国では、牛乳が産業レベルの規模で生産され、各種のミルクの中で最も多く消費されている。商業的な酪農では自動搾乳機(英語版)が導入されており、先進国ではほとんどの牛乳を供給している。そこでは、牛乳生産に注力するためホルスタインのような乳牛が選択的に飼育される。アメリカ合衆国の乳牛のうち90%、イギリスの80%がホルスタインである。飼われる他の乳牛種には、エアシャー種(英語版)、ブラウン・スイス種(英語版)、ガンジー種、ジャージー種、デイリー・ショートホーン種などがある。",
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"text": "ウシ以外でも、人類は多様な動物を家畜化し、そのミルクを利用している。例えば、ラクダ、ロバ、ヤギ、ウマ、トナカイ、羊、水牛、ヤクなどである。ロシアやスウェーデンではヘラジカの乳も利用している。",
"title": "供給"
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"text": "全米バイソン協会によると、アメリカバイソン(アメリカンバッファローとも呼ばれる)のミルクは商業的な取引こそ行われていないが、ヨーロッパ人の北米移住や1970‐1980年に行われたビーファロ種(英語版)の商業的交雑以降、乳牛の品種改良のために行われる交配に利用されることが多い。",
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"text": "ミルクの最大生産国はインド、次いでアメリカに、ドイツとパキスタンが続く。",
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"text": "発展途上国の経済成長と、ミルクおよび乳製品の販売促進が相まって、近年これらの国におけるミルク全体の消費量は伸長している。それに伴い、成長市場をターゲットにした酪農系多国籍企業の投資も活発になっている。このような潮流にもかかわらず、多くの国でミルク生産事業体は依然として小規模なままに止まり、それのみの収入に頼っていられない状態にある。",
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"text": "以下の表は水牛のミルク生産量を国別に示す。",
"title": "供給"
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"text": "人類が他の動物の乳を定常的に飲むようになったのは、ユーラシアでは新石器革命期に家畜を飼い始めたこともしくは農業の革新が契機となった。この新たな食糧確保は、紀元前9000-7000年頃の西南アジアや、前3500-3000年頃のアメリカ州でもそれぞれ独立して発生した。ウシ・ヒツジ・ヤギといった重要な動物の家畜化は西南アジアで始まったが、それ以降、野生のオーロックスを飼いならす例は世界中の様々な時と場所で起こった。当初、動物の家畜化は肉を得るために行われたが、考古学者アンドリュー・シェラット(英語版)が提唱した考えによると、酪農は、家畜から体毛を得たり労働をさせたりする行為の進展とともに、二次産物革命(英語版)よりももっと後の前4000年頃に形作られたという。ただし、近年の発見はシェラットの説に反する。先史時代の土器に残る液体の痕跡を分析した結果、西南アジアにて酪農は初期農業段階で既に行われていたと判明し、その時期は前7000年頃と推定された。",
"title": "歴史"
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"text": "西南アジア発祥の酪農は、紀元前7000年頃からヨーロッパに伝わり、前4000年以降にブリテン諸島やスカンディナヴィア半島まで伝播した。南アジアには前7000-5500年頃に伝わった。搾乳を始めたのは中央ヨーロッパブリテン諸島の農民たちと考えられる。牧畜や遊牧のような耕作よりも家畜に大きく依存する経済活動は、農業主体のヨーロッパ人集団がカスピ海近郊のステップ地帯に移動した紀元前4世紀頃に発達し、後にユーラシア大陸のステップ気候域に広まった。アフリカのヒツジやヤギは西南アジアから持ち込まれたものだが、ウシは前7000-6000年頃に独自に飼いならしたものと考えられる。ラクダの家畜化は紀元前4世紀の中央アラビアで興り、北アフリカやアラビア半島では酪農の対象となった。",
"title": "歴史"
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"text": "1863年、フランスの化学者ルイ・パスツールは乳飲料や食品の中に潜む有毒なバクテリアを殺菌する低温殺菌法(パスチャライゼーション)を発明した。1884年、ニューヨーク在住のアメリカ人医師ヘンリー・サッチャーが、撥水紙のフタを持つ初のガラス製牛乳瓶「Thatcher's Common Sense Milk Jar」を発明した。後の1932年に、ビクター・W・ファリスの発明によるプラスチックコーティングされた紙パックが採用され普及した。",
"title": "歴史"
},
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"text": "ミルクは、球状の脂肪が水を基調とした炭水化物やタンパク質およびミネラルが含まれた液体の中に分散したエマルジョンまたはコロイド溶液である。含まれる成分は、これを口にする新生児の初期発育を助けるためのエネルギー源(脂質、乳糖、タンパク質)、非必須アミノ酸を生合成するためにタンパク質から供給される物質(必須アミノ酸とその仲間)、必須脂肪酸、ビタミン、無機元素、そして水である。",
"title": "物理的・化学的性質"
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"text": "ミルクの分析は19世紀後半から始まり、近年の分析技術向上によって微量の活性物質も発見されているが、未だ全容を掴むには至っていない。中には、β-ラクトグロブリンのように生物学的に含まれている理由が見つかっていないものもある。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"text": "乳脂肪は膜で包まれた脂肪球の形で分泌される。それぞれの脂肪球はほとんどがトリアシルグリセロールであり、これをリン脂質やタンパク質などを成分とする複合膜が覆う。これらは乳化された状態にあり、各球が引っ付き合わないよう保ちつつ、ミルクの液体部分に含まれる各種の酵素と反応する事を防ぐ。97-98%がトリアシルグリセロールであるが、ジアシルグリセロールやモノアシルグリセロール、遊離コレステロールやコレステロールエステル、遊離脂肪酸、リン脂質もそれぞれ少量ながら含まれている。タンパク質や炭水化物とは異なりミルクに含まれる脂肪の構成は、発生の起源や授乳方法によって異なり、とくに動物の種族によっても差異が大きい。",
"title": "物理的・化学的性質"
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"text": "構造の特徴として、脂肪球の大きさにはばらつきがあり、小さいもので直径0.2μm、大きいものでは15-20μmに達するものもある。この直径の差異は、動物の種だけでなく特定の個体が分泌した時によっても生じる可能性がある。均質化をしていない牛乳の脂肪球の平均直径は2-4μmであり、均質化を施すとこれが0.4μm前後まで小さくなる。親油性のビタミンであるA・D・E・Kは、必須脂肪酸であるリノール酸などに親和した形で乳脂肪部分の中に含まれる。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"text": "通常、牛乳は1リットル当り30-35グラム程度のタンパク質を含み、その約80%はカゼインミセルである。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"paragraph_id": 25,
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"text": "カゼインミセルは、液状のミルク中に存在する最大の構造物であり、表層に界面活性剤ミセルと近かよったナノメートル大のリン酸カルシウム微細粒子を持つ、数千というタンパク質分子の集まりである。それぞれのカゼインミセルは、直径40-600nmのコロイド粒子である。カゼイン状タンパク質は αs1-, αs2-, β-, κ- の4タイプに分類できる。ミルク中に含まれるタンパク質のうち、重量比で76-86%を占めるカゼイン状タンパク質や、水に不溶のリン酸カルシウムのほとんどはミセルの中に捕らわれている。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
{
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"text": "ミセルの精密な構造に関して複数の理論が提唱されているが、最も外側の層はk-カゼイン(英語版)のみで構成され、周囲の流体に突き出ているという考えは共通している。このk-カゼイン分子は負の電荷を帯びているためにミセル同士は電気的に反発し合い、通常ならばそれぞれが離れた状態を維持し、水を主成分とする液体の中でコロイド状懸濁液となる。構造モデルの一つは「サブミセルモデル」と呼ばれ、小さなサブミセルが寄せ集まってミセルを作っているという考えである。これによると、ミセルの内側にはk-カゼイン含有量が少ないサブミセルがあり、これをk-カゼインに豊むサブミセルが覆いつつ、これらの間にリン酸カルシウムが存在する構造を持つ。他に提唱される「ナノクラスターモデル」では、中心にリン酸カルシウムの小さな集合体があり、その周囲に紐状のカゼインが付着している構造を取るという考えであり、この場合サブミセルは作られていない。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"paragraph_id": 27,
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"text": "ミルクにはカゼイン以外にも、β-ラクトグロブリン(β-Lg)、乳糖合成に関与するα-ラクトアルブミン(α-La)、免疫グロブリン(IgG)、血清アルブミン(BSA)、ラクトフェリン(Lf)などそれぞれの機能を持つ多種多様なタンパク質が含まれている。これらはカゼインよりも水溶性が高いため、大きな構造には纏まらない。カードをつくるとカゼインが凝乳側に集まるのに対し、これらのタンパク質は乳清(ホエイ)側に残る。そのため乳漿蛋白(ホエイプロテイン)とも呼ばれる。乳漿蛋白は重量比でミルク中のタンパク質の20%を占める。代表的な乳漿蛋白はラクトグロブリン(英語版)である。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"text": "ミネラルや塩は、様々な種類のものがミルクの中ではアニオンやカチオンの形態を取り存在している。これらはカルシウム、リン酸塩、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、クエン酸塩そして塩素などが含まれ、5-40ナノメートルに凝集している。塩はカゼイン、特にリン酸カルシウムと強い相互作用を起こす。これは時に、リン酸カルシウムへの過剰な結合を引き起こす場合がある。その他、ミルクは良質なビタミン供給源となり、ビタミンA、B1、B2、B12、K、パントテン酸などは全てミルクに含まれる。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
{
"paragraph_id": 29,
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"text": "複数の測定にて、タンパク質を捉えるリン酸カルシウムはCa9(PO4)6の構造を持っている事が示された。しかし一方で、この物質は鉱物のブルシャイト CaHPO4 -2H2O 的な構造を持つという主張もある。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"text": "ミルクは、ラクトース(乳糖)、グルコース、ガラクトース、その他のオリゴ糖など複数の炭水化物を含む。グルコースとガラクトースの2つの単糖が合成したラクトースはミルクに甘みを与え、カロリーの約40%を占める。ウシ属のミルクには平均4.8%の無水ラクトースが含まれ、脱脂粉乳の固形分のうち50%に相当する。ラクトースの含有率はミルクの種類によって異なり、他の炭水化物は強く結合してラクトースの状態でミルクの中に存在する",
"title": "物理的・化学的性質"
},
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"paragraph_id": 31,
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"text": "その他、未精製の牛乳には白血球や乳腺細胞、様々なバクテリアや大量の活性酵素が含まれている。",
"title": "物理的・化学的性質"
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"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "脂肪球とそれよりも小さなカゼインミセルは、いずれも光を乱反射させる充分な大きさがあり、このためにミルクは白く見える。中には脂肪球が黄色 - オレンジ色のカロテンを含む場合があり、このため例えばガンジー種やジャージー種などのミルクをグラスに注ぐと、黄金色またはクリームのような色調が見られる。乳清部分のリボフラビンはやや緑がかっており、脱脂粉乳やホエーで確認できる場合もある。また、脱脂粉乳は粒子が小さなカゼインミセルのみが光を散乱させるため、赤色よりも青色の波長をより散乱させる傾向があり、薄青い色に見える。",
"title": "物理的・化学的性質"
},
{
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"text": "ミルクの成分構成は、動物の種によって大きく異なる。例えばタンパク質の種類や、タンパク・脂肪・糖質の割合、ビタミンやミネラルの比率、乳脂肪滴の大きさ、カードの濃度など、違いは様々な要因において見られる。例えば、",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "このような成分構成は、種、個体、授乳期のどのタイミングかによっても変わる。以下、乳牛の種による差異を示す。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "これら4種の牛乳に含まれるタンパク質は3.3-3.9%、ラクトースは4.7-4.9%である。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "ミルクの脂肪率は、酪農家が家畜に与える飼料の構成によっても左右される。また、乳腺炎に感染するとミルクの脂肪含有率は低下する。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 37,
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"text": "飲用したミルクから人体が吸収するカルシウムの量に関しては、さまざまな見解がある。乳製品から得られるカルシウムは、ホウレンソウのような高いカルシウム-キレート物質を持つ野菜よりも、生物学的利用能が高い。その一方で、ケールやブロッコリーなどシュウ酸塩をあまり含まないアブラナ属の野菜と比較すると、得られるカルシウムの生物学的利用能は同等以下である。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "近年の評価では、ミルクの摂取には筋肉の成長を促進する効果があり、運動後の筋肉を回復させる事にも有効とする示唆がなされている。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "ミルクに含まれる二糖であるラクトースは、小腸で吸収するためには酵素のラクターゼによって構成をガラクトースとグルコースに分解されなければならない。しかし、すべての哺乳動物は乳離れの後にラクターゼの分泌が減衰する。その結果、多くの人間は成長後にラクトースを適切に消化できなくなる。ただしこれも人それぞれであり、ほとんどラクトースを消化できない人もいれば、ある程度は可能な者、さらにミルクや乳製品中に含まれるかなりの比率を問題無く吸収できる者もいる。人のラクターゼ分泌を制御する遺伝子はC/T-13910 である。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
{
"paragraph_id": 40,
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"text": "世界の5%程度の人々はラクトースを満足に消化できない乳糖不耐症を示す事が知られ、この傾向はアフリカやアジア系の人々の中でより顕著である。アメリカ人の3000-5000万が乳糖不耐症であると考えられており、その中にはネイティブ・アメリカンやアフリカ系アメリカ人の75%、アジア系アメリカ人の90%が含まれる。乳糖不耐症は北ヨーロッパ人にはあまり見られず、その他ではサハラ砂漠のトゥレグ族、西アフリカ・サヘル地域遊牧民のフラーニ、スーダンのベジャやカバビッシュ、ウガンダからルワンダ地域のツチ族などが知られる。他にも、北インドの人々も同様である。",
"title": "栄養と健康への効果"
},
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"text": "古代ギリシア神話では女神ヘーラーがヘーラクレースを引き離した際に溢れた乳が天の川(ミルキーウェイ)になったという。",
"title": "言語や文化への影響"
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{
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"text": "聖書にもミルクを意図した言葉があり、カナンの地イスラエルを「乳と蜜が流れる地」と表現している。乳は蜜と並び「よきもの」の象徴である。コーランの「蜜蜂」には乳について述べた箇所があり、乳は家畜の中で飼料と血液の中間から生じ、人間に与えられる美味な飲み物だと言う (16-The Honeybee, 66)。伝統的に、ラマダーン明けには一杯のミルクと乾燥ナツメヤシの実を口にする。仏教では釈迦の説話に、断食修行後に口にした牛乳の美味が悟りを導いたとあり、牛乳から作られる醍醐を「仏の最上の経法」を指す用語に用いている。ヒンドゥー教で行われる灌頂では、崇拝する神の像を聖水やミルク又はヨーグルトなどで清める儀式が行われる。",
"title": "言語や文化への影響"
},
{
"paragraph_id": 43,
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"text": "人間の文化において乳 (milk) がいかに重要かという事は、数々の言語表現に使われることで説明できる。例えば、「the milk of human kindness」(人間的な思いやり)という用例がある。一方で、「他人を利用する」(to milk someone) という慣用句もある。",
"title": "言語や文化への影響"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "様々な意味のスラングでも用いられる。17世紀初頭には、精液や膣液の意味がつけられ、転じて自慰行為を指すようにもなった。19世紀には変性アルコールを水に混ぜて作られた安物の酒の名に使われた。他に、詐取する、騙す、他人に送られた電報を盗聴する、そして虚弱な者や腰抜けという意味もある。1930年代のオーストラリアでは、自動車の吸気ガスを指して使われもした。",
"title": "言語や文化への影響"
}
] | 乳汁(にゅうじゅう、ちしる、ちちしる)とは、乳(ちち、にゅう)、ミルクとも言われる、動物のうち哺乳類が乳幼児に栄養を与えて育てるために母体が作りだす分泌液である。特に母乳(ぼにゅう)と呼ぶ場合は、ヒトの女性が出す乳汁を指すのが慣例である。誕生後の哺乳類が他の食物を摂取できるようになるまでの間、子供の成長に見合った栄養を獲得できる最初の源となる。 | {{Otheruses}}
[[File:Human Breastmilk - Foremilk and Hindmilk.png|thumb|人間の母乳をサンプルとした、初乳(右)と後期乳(左)の比較。]]
[[File:Milk.jpg|thumb|[[パスチャライゼーション]]で処理された[[牛乳]]。]]
'''乳汁'''(にゅうじゅう、ちしる、ちちしる)とは、'''乳'''(ちち、にゅう)、'''ミルク'''({{lang-en-short|milk}})とも言われる、[[動物]]のうち[[哺乳類]]が[[乳幼児]]に栄養を与えて育てるために母体が作りだす[[分泌液]]である。特に'''[[母乳]]'''(ぼにゅう)と呼ぶ場合は、[[ヒト]]の[[女性]]が出す乳汁を指すのが慣例である。[[誕生]]後の哺乳類が他の[[食物]]を摂取できるようになるまでの間、[[子供]]の成長に見合った[[栄養]]を獲得できる最初の源となる<ref name=pub>{{Cite web|和書|title=牛乳、乳製品の知識|publisher=社団法人日本酪農乳業協会|url= http://www.j-milk.jp/publicities/8d863s0000063ng7-att/8d863s0000063nl9.pdf |format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。
== 概要 ==
[[File:Woman breastfeeding an infant.jpg|thumb|母親からの乳を飲む人間の乳児。]]
[[File:Goat kid feeding on mothers milk.jpg|thumb|子[[ヤギ]]が母乳を飲む様子。]]
[[File:Holstein cows large.jpg|thumb|[[ホルスタイン]]。今日、工業化された酪農業において広く飼育される種。]]
一般の[[食物]]は、本来は[[生体]][[組織 (生物学)|組織]]や[[種子]]などである。それに対しミルクは食糧として作られる唯一の[[天然物]]である<ref>{{Cite web|和書|title=ミルク科学研究室 |author=増田哲也|publisher=[[日本大学]]、生物資源科学部、動物資源科学科|url= http://hp.brs.nihon-u.ac.jp/~asr/milk.html |accessdate=2012-05-30}}・ただし、後述のように少数ながら類似例はある。</ref>。
ミルクは、分泌作用を持つ[[外分泌腺]]の一種である乳腺から引き出されている<ref name="Oftedal 2002 225–252">{{cite journal |last=Oftedal |first=Olav T. |title=The mammary gland and its origin during synapsid evolution|journal=Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia |volume=7 |issue=3 |pages=225–252 |year=2002 |doi=10.1023/A:1022896515287 |pmid=12751889}}</ref>。この事から、[[授乳]]機構とは、原始的には[[卵]]の[[湿度]]を維持する役目が発達したものと考えられる。この仮説は、[[カモノハシ目]](卵生哺乳類)の生態を根拠に立てられた<ref name="Oftedal 2002 225–252"/><ref>{{cite journal |last1=Oftedal |first1=Olav T. |title=The origin of lactation as a water source for parchment-shelled eggs |journal=Journal of Mammary Gland Biology and Neoplasia |volume=7 |issue=3 |pages=253–66 |year=2002 |pmid=12751890 |doi=10.1023/A:1022848632125}}</ref><ref>{{cite web2 |df=ja |url=http://nationalzoo.si.edu/ConservationAndScience/SpotlightOnScience/oftedalolav20030714.cfm |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090414083919/http://nationalzoo.si.edu/ConservationAndScience/SpotlightOnScience/oftedalolav20030714.cfm |archivedate=2009年4月14日 |title=Lactating on Eggs |publisher=Nationalzoo.si.edu |date=2003-07-14 |accessdate=2009-03-08 |url-status=dead}}</ref>。授乳の根本目的は、栄養摂取<ref>{{Cite journal|author=Lefèvre C.M., Sharp J.A., Nicholas K.R.|title=Evolution of lactation: ancient origin and extreme adaptations of the lactation system|pmid=20565255|journal=Annual Review of Genomics and Human Genetics|issue=11|pages=219–238|year=2010|volume=11|doi=10.1146/annurev-genom-082509-141806}}</ref>もしくは[[免疫]]による防御<ref>{{Cite journal|author= Vorbach C., Capecchi M.R., Penninger J.M.|title=Evolution of the mammary gland from the innate immune system?|journal=Bioessays|volume=28|pages=606–616|year=2006|pmid=16700061|doi=10.1002/bies.20423|issue= 6}}</ref><ref>{{cite journal|title=Evolution of the mammary gland defense system and the ontogeny of the immune system |author=Goldman, Armond S |journal=Journal of mammary gland biology and neoplasia |volume=7 |issue=3 |pages=277-289 |year=2002 |publisher=Springer |doi=10.1023/A:1022852700266 |url=https://doi.org/10.1023/A:1022852700266}}</ref>であったという考えが受け入れられている。そしてこの分泌物は、進化を遂げる時間の中で、その量を増やし、複雑な栄養素を含むようになった<ref name="Oftedal 2002 225–252"/>。
最初に授乳されるミルク([[初乳]])には、[[母親|母体]]から赤ん坊へ与えられる[[抗体]]が含まれ、以後のさまざまな[[病気]]にかかる危険性を低める効果がある<ref>{{Cite web|和書|title=特別演習 基礎薬学|author=荒牧弘範|publisher=[[第一薬科大学]]分子生命化学教室|url= http://square.umin.ac.jp/haramaki/yakudai/meneki/042507.pdf|format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。また、[[ウサギ]]の母乳から、子供を乳首に吸いつけさせる[[フェロモン]] (2-methylbut-2-enal, 2MB2) が発見された報告もある<ref>{{Cite web|和書|title=6. 赤ん坊が乳を吸う|author=五嶋良郎|publisher=[[横浜市立大学]]分子生命化学教室|url= http://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~pharmac/04goshima/6goshima_milk.html|accessdate=2012-05-30}}</ref>。[[生乳]]が含んでいる栄養成分は動物の[[種 (分類学)|種]]によって差異があるが、主に[[飽和脂肪酸]]・[[タンパク質]]・[[カルシウム]]そして[[ビタミンC]]を含む。牛乳は[[水素イオン指数]] (pH) 6.4 - 6.8 を示す[[弱酸性]]である<ref>{{cite journal|author=William H. Bowen and Ruth A. Lawrence|title=Comparison of the Cariogenicity of Cola, Honey, Cattle Milk, Human Milk, and Sucrose|doi=10.1542/peds.2004-2462|year=2005|journal=Pediatrics|volume=116|issue=4|pages=921–6|pmid=16199702}}</ref><ref>{{cite web|title= Soil pH: What it Means |publisher= SUNY College of Environmental Science and Forestry. www.esf.edu.|url= http://www.esf.edu/pubprog/brochure/soilph/soilph.htm |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
[[ウシ]]の[[種 (分類学)|種]]が提供するミルクは、多くの栄養素を含む重要な食品である<ref name=pub />。2011年、世界中では、1億3189万頭の[[乳牛]]が飼育され、4億4467万トンの牛乳が生産された<ref>USDA「World Markets and Trade」 (In selected countries)</ref>。国別では[[インド]]が生産および消費のいずれも1位であり、ミルクの輸出入は行われていない。[[ニュージーランド]]、[[欧州連合|EU]]加盟15ヶ国、[[オーストラリア]]がミルクや乳製品の3大輸出国である。一方で輸入は[[中華人民共和国]]、[[メキシコ]]、[[日本]]が上位3位までに入る。ミルクは特に発展途上国において、栄養供給と食糧の安全保障の確立に貢献する重要な食品である。[[家畜]]の改良、酪農技術、およびミルクの品質は、貧困問題や世界的な食糧問題の解決に、大きく役立つものとも考えられている<ref>{{cite web|title=Status and Prospects for Smallholder Milk Production: A Global Perspective|publisher=Food and Agriculture Organization of the United Nations|year=2010|author=Hemme and Otte|url=http://www.fao.org/docrep/012/i1522e/i1522e00.pdf |format=PDF|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
=== 母乳以外のミルク ===
単語「乳」または「ミルク」は、色や食感が似ている動物由来ではない飲料を表す際にも使われる。[[豆乳]] (soy milk) 、[[粥]] (rice milk) 、[[アーモンドミルク]]や[[ココナッツミルク]]などがこれに該当する。また、[[植物]]に切れ目等の傷を入れた際に滲み出る樹液等,白色(または,橙黄色等も含む)液汁も「乳」({{lang-en-short|latex}})と言う<ref name=KouJi1246>{{Cite book|和書|year=1989|title=日本語大辞典|edition=第一刷|publisher=講談社|pages=1246|chapter=【乳】|isbn=4-06-121057-2}}</ref>。
また、哺乳類以外でもこどもに与える栄養物を分泌する例はある。[[ハト目]]の親が若鳥に与えるため分泌する液体も[[素嚢乳]] (crop milk) と呼ばれ、哺乳類のミルクとの共通性も見られる<ref>{{Cite book|last=Gussekloo|first=S.W.S.|editor-last=Bels|editor-first=V|title=Feeding in Domestic Vertebrates: From Structure to Behaviour|year=2006|publisher=CABI Publishing|isbn=978-1-84593-063-9|page=22|chapter=Chapter 2: Feeding Structures in Birds|quote=A remarkable adaptation can be found in the crop of pigeons. During the breeding season the crop produces a yellow-white fat-rich secretion known as crop milk that is used to feed the nestlings. … The crop milk resembles strongly the milk produced by mammals, except for the fact that carbohydrates and calcium are missing in crop milk.}}</ref>。[[熱帯魚]]として知られる[[ディスカス]]は雌雄で子育てするが、その際に体表から分泌物を出し、これを子供が食べる。これは「ディスカスのミルク」といわれる。[[クモ]]類の[[ヒメグモ科]]の幾つかのものは幼生に口から分泌物を出して与え、「スパイダーミルク」と呼ばれる。
== 需要 ==
ミルクを消費する方法には、大きく2種類がある。ひとつは幼い哺乳類が授乳される自然な状態であり、もうひとつは人類が他の動物から得たミルクを加工して食品とする場合である。
=== 授乳 ===
ほとんど全ての哺乳類では、ミルクは[[赤ちゃん|赤ん坊]]に[[母乳栄養]]を与えるために直接または一時的に貯めた状態のものを飲ませる<ref name=pub />。その中で人間は、幼年期を過ぎてもミルクを消費する数少ない例外に当る。ミルクを常飲するグループの中には、ウシだけでなく[[家畜化]]した[[有蹄類]]の乳を利用する地域もある<ref name=GB>{{Cite news2|df=ja|url=http://www.theglobeandmail.com/servlet/ArticleNews/TPStory/LAC/20040626/MOOSE26/TPEntertainment/Style|date=26 June 2004|accessdate=2007-08-27|title=Moose milk makes for unusual cheese|publisher=The Globe and Mail|archiveurl=https://web.archive.org/web/20070930035220/http://www.theglobeandmail.com/servlet/ArticleNews/TPStory/LAC/20040626/MOOSE26/TPEntertainment/Style|archivedate=2007-09-30|url-status=dead}}</ref>。インドは牛乳だけでなく水牛の乳の生産や消費も世界一である<ref>{{cite web|url=http://www.indiadairy.com/ind_world_number_one_milk_producer.html |title=World's No 1 Milk Producer |publisher=Indiadairy.com |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
乳糖は、ミルクの他に[[レンギョウ]]の花やわずかな熱帯性低木の中だけに含まれるもので、これを消化するために必要な[[酵素]]である[[ラクターゼ]]の数は出生後に[[小腸]]の中で最も高くなるが、ミルクを恒常的に飲まなくなるにつれ徐々に減退する<ref name="On Food and Cooking">{{Cite book|last = McGee|first = Harold |title = On Food and Cooking: The Science and Lore of the Kitchen|origyear = 1984|year=2004|publisher =Scribner|edition=2nd |location = New York|isbn = 978-0-684-80001-1|url=https://books.google.co.jp/books?id=bKVCtH4AjwgC&lpg=PP1&pg=PA7&redir_esc=y&hl=ja|pages = 7–67|chapter = Milk and Dairy Products}}</ref>。人がヤギの生乳を乳児に与える事があるが、ここには危険が潜んでいる事が知られている。水電解質平衡異常、[[代謝性アシドーシス]]、[[巨赤芽球性貧血]]や数々の[[アレルギー]]反応などである<ref>{{Cite journal| author = Basnet, S.; Schneider, M.; Gazit, A.; Mander, G.; Doctor, A.|title = Fresh Goat's Milk for Infants: Myths and Realities—A Review|journal = Pediatrics|volume = 125|issue = 4 |date = April 2010| pages = e973–977|doi = 10.1542/peds.2009-1906|pmid = 20231186}}</ref>。
=== 乳製品 ===
牛乳を元に様々な[[乳製品]]が作られている。脂肪を集めて得られたクリームからは[[生クリーム]]や[[バター]]、逆に脂肪を取り除いた脱脂乳からは[[脱脂粉乳]]や[[スキムミルク]]などが出来る。牛乳を[[濃縮]]した[[コンデンスミルク]]、[[発酵]]させた[[ヨーグルト]]、[[凝固]]・発酵させた[[ナチュラルチーズ]].それに[[加熱]]などのプロセスを経て作られる[[プロセスチーズ]]などである<ref>{{Cite web|和書|title=牧場おしごと探検隊‐牛乳は栄養満点の飲みもの|publisher=[[酪農学園大学]]|url= http://www.rakuno.ac.jp/rakuno/08_eiyo.html |accessdate=2012-05-30}}</ref>。
=== 消費量 ===
{| class="sortable wikitable"
|+牛乳および牛乳製品の一人当たり消費量、上位10ヶ国<br />(2006年)<ref name="intro">{{cite web|last=Goff|first=Douglas|title=Introduction to Dairy Science and Technology: Milk History, Consumption, Production, and Composition |url=http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/intro.html|work=Dairy Science and Technology|publisher=University of Guelph|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2010}}</ref>
|-
! 国!! ミルク([[リットル|L]]) !! チーズ([[キログラム|kg]]) !! バター(kg)
|-
| {{FIN}} || 183.9 || 19.1 || 5.3
|-
| {{SWE}} || 145.5 || 18.5 || 1.0
|-
| {{IRL}} || 129.8 || 10.5 || 2.9
|-
| {{NED}} || 122.9 || 20.4 || 3.3
|-
| {{NOR}} || 116.7 || 16.0 || 4.3
|-
| {{ESP}} || 119.1 || 9.6 || 1.0
|-
| {{SUI}} || 112.5 || 22.2 || 5.6
|-
| {{GBR}} || 111.2 || 12.2 || 3.7
|-
| {{AUS}} || 106.3 || 11.7 || 3.7
|-
| {{CAN}} || 94.7 || 12.2 || 3.3
|}
== 供給 ==
西洋諸国では、牛乳が産業レベルの規模で生産され、各種のミルクの中で最も多く消費されている。商業的な酪農では{{仮リンク|自動搾乳機|en|automatic milking}}が導入されており、先進国ではほとんどの牛乳を供給している。そこでは、牛乳生産に注力するためホルスタインのような[[乳牛]]が選択的に飼育される。アメリカ合衆国の乳牛のうち90%、イギリスの80%がホルスタインである<ref name="On Food and Cooking"/>。飼われる他の乳牛種には、{{仮リンク|エアシャー種|en|Ayrshire cattle}}、{{仮リンク|ブラウン・スイス種|en|Brown Swiss}}、{{仮リンク|ガンジー種|en|Guernsey cattle}}、[[ジャージー種]]、[[ショートホーン|デイリー・ショートホーン種]]などがある<ref name=pub />。
[[File:Goat in melking stall 20050429-593.jpg|thumb|ヤギの乳からはチーズなどの酪農製品がつくられる。]]
=== 牛以外からの供給 ===
ウシ以外でも、人類は多様な動物を家畜化し、そのミルクを利用している。例えば、[[ラクダ]]、[[ロバ]]、[[ヤギ]]、[[ウマ]]、[[トナカイ]]、[[羊]]、[[水牛]]、[[ヤク]]などである。[[ロシア]]や[[スウェーデン]]では[[ヘラジカ]]の乳も利用している<ref name=GB />。
全米バイソン協会によると、[[アメリカバイソン]](アメリカンバッファローとも呼ばれる)のミルクは商業的な取引こそ行われていないが<ref>{{cite web|url=http://www.bisoncentral.com/index.php?c=63&d=73&a=1022&w=2&r=Y|title=About Bison: Frequently Asked Questions|publisher=National Bison Association|language=英語|accessdate=2012-05-30}}{{リンク切れ|date=2017年9月 |bot=InternetArchiveBot }}</ref>、ヨーロッパ人の北米移住や<ref>{{Cite book|last=Allen|first=Joel Asaph|title=History of the American Bison: bison americanus|editor=Elliott Coues, Secretary of the Survey|publisher=Department of the Interior, United States Geological Survey, Government Printing Office|location=Washington, DC|date=June 1877|series=extracted from the 9th Annual Report of the United States Geological Survey (1875)|pages=585–586|chapter=Part II., Chapter 4. Domestication of the Buffalo|oclc=991639|url=https://books.google.co.jp/books?id=oj04AAAAMAAJ&pg=PA585&redir_esc=y&hl=ja|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>1970‐1980年に行われた{{仮リンク|ビーファロ種|en|Beefalo}}の商業的交雑<ref>{{Cite journal|date=March/April 1981|title=The Basics of Beefalo Raising|journal=Mother Earth News|first=George |last=O'Connor |publisher=Ogden Publications|issue=68|url=http://www.motherearthnews.com/Sustainable-Farming/1981-03-01/The-Basics-of-Beefalo-Raising.aspx|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>以降、乳牛の品種改良のために行われる交配に利用されることが多い。
=== 生産国 ===
[[File:MilkMaid.JPG|thumb|right|upright|ウシの乳搾りをする少女。]]
ミルクの最大生産国はインド、次いでアメリカ<ref>{{cite web|url= http://www.fao.org/docrep/009/j7927e/j7927e09.htm |title= International dairy product prices are turning down: how far, how fast?|publisher= FAO Food outlook No.1, June 2006. www.fao.org |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>に、ドイツとパキスタンが続く。
発展途上国の経済成長と、ミルクおよび乳製品の販売促進が相まって、近年これらの国におけるミルク全体の消費量は伸長している。それに伴い、成長市場をターゲットにした酪農系多国籍企業の投資も活発になっている。このような潮流にもかかわらず、多くの国でミルク生産事業体は依然として小規模なままに止まり、それのみの収入に頼っていられない状態にある<ref>{{cite web|url= ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/011/i0521e/i0521e00.pdf |format=PDF|title=Milk for Health and Wealth |author= J. Henriksen |publisher= FAO Diversification Booklet Series 6, Rome |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
以下の表は水牛のミルク生産量を国別に示す。
{| class="wikitable"
|+水牛のミルク生産上位10ヶ国(2007年)<ref>{{cite web|url= http://faostat.fao.org/site/569/DesktopDefault.aspx?PageID=567#ancor |title= Livestock Production statistics |publisher= FAOSTAT, Food And Agricultural Organization of the United Nations. faostat.fao.org |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>
!国
!生産量(トン)
!付記
|-
| {{IND}} || 59,210,000|| 非公式なデータを含む
|-
| {{PAK}} || 20,372,000|| 公式発表
|-
| {{PRC}} || 2,900,000
| rowspan="2"|[[国際連合食糧農業機関|FAO]]調べ
|-
| {{EGY}} || 2,300,000
|-
| {{NEP}} || 958,603||公式発表
|-
| {{IRN}} || 241,500
| FAO調べ
|-
| {{BIR}} || 220,462||公式発表
|-
| {{ITA}} || 200,000
| rowspan="2"| FAO調べ
|-
| {{VNM}} || 32,000
|-
| {{TUR}} || 30,375||公式発表
|- style="background:#ccc;"
||{{noflag}}世界
| 86,574,539
| 公式発表
|}
== 歴史 ==
人類が他の動物の乳を定常的に飲むようになったのは、ユーラシアでは[[新石器革命]]期に家畜を飼い始めたこともしくは[[農業]]の革新が契機となった。この新たな食糧確保は、紀元前9000-7000年頃の[[西南アジア]]や<ref>{{cite book|last=Bellwood|first=Peter|title=First Farmers: the origins of agricultural societies|year=2005|publisher=Blackwell Publushing|location=Malden, MA|isbn=978-0-631-20566-1|pages=44–68|chapter=The Beginnings of Agriculture in Southwest Asia}}</ref>、前3500-3000年頃の[[アメリカ州]]<ref>{{cite book|last=Bellwood|first=Peter|title=First Farmers: the origins of agricultural societies|year=2005|publisher=Blackwell Publushing|location=Malden, MA|isbn=978-0-631-20566-1|pages=146–179|chapter=Early Agriculture in the Americas}}</ref>でもそれぞれ独立して発生した。ウシ・ヒツジ・ヤギといった重要な動物の家畜化は西南アジアで始まったが<ref name=pub />、それ以降、野生の[[オーロックス]]を飼いならす例は世界中の様々な時と場所で起こった<ref>{{cite journal|last1=Beja-Pereira|first1=A.|last2=Caramelli|first2=D.|last3=Lalueza-Fox|first3=C.|last4=Vernesi|first4=C.|last5=Ferrand|first5=N.|last6=Casoli|first6=A.|last7=Goyache|first7=F.|last8=Royo|first8=L. J.|last9=Conti|first9=S.|last10=Lari|first10=M.|last11=Martini|first11=A.|last12=Ouragh|first12=L.|last13=Magid|first13=A.|last14=Atash|first14=A.|last15=Zsolnai|first15=A.|last16=Boscato|first16=P.|last17=Triantaphylidis|first17=C.|last18=Ploumi|first18=K.|last19=Sineo|first19=L.|last20=Mallegni|first20=F.|last21=Taberlet|first21=P.|last22=Erhardt|first22=G.|last23=Sampietro|first23=L.|last24=Bertranpetit|first24=J.|last25=Barbujani|first25=G.|last26=Luikart|first26=G.|last27=Bertorelle|first27=G.|title=The origin of European cattle: Evidence from modern and ancient DNA|journal=Proceedings of the National Academy of Sciences|volume=103|issue=21|year=2006|pages=8113–8118|issn=0027-8424|doi=10.1073/pnas.0509210103}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Jin|first1=Dong-Yan|last2=Folgiero|first2=Valentina|last3=Avetrani|first3=Paolo|last4=Bon|first4=Giulia|last5=Di Carlo|first5=Selene E.|last6=Fabi|first6=Alessandra|last7=Nisticò|first7=Cecilia|last8=Vici|first8=Patrizia|last9=Melucci|first9=Elisa|last10=Buglioni|first10=Simonetta|last11=Perracchio|first11=Letizia|last12=Sperduti|first12=Isabella|last13=Rosanò|first13=Laura|last14=Sacchi|first14=Ada|last15=Mottolese|first15=Marcella|last16=Falcioni|first16=Rita|title=Induction of ErbB-3 Expression by α6β4 Integrin Contributes to Tamoxifen Resistance in ERβ1-Negative Breast Carcinomas|journal=PLoS ONE|volume=3|issue=2|year=2008|pages=e1592|issn=1932-6203|doi=10.1371/journal.pone.0001592}}</ref>。当初、動物の家畜化は[[肉]]を得るために行われたが、考古学者{{仮リンク|アンドリュー・シェラット|en|Andrew Sherratt}}が提唱した考えによると、酪農は、家畜から体毛を得たり労働をさせたりする行為の進展とともに、{{仮リンク|二次産物革命|en|secondary products revolution}}よりももっと後の前4000年頃に形作られたという<ref>{{cite book|last=Sherratt|first=Andrew|title=Pattern of the Past: Studies in honour of David Clarke|year=1981|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|isbn=0-521-22763-1|pages=261–305|editor1-last=Hodder|editor1-first=I.|editor2-last=Isaac|editor2-first=G.|editor3-last=Hammond|editor3-first=N.|chapter=Plough and pastoralism: aspects of the secondary products revolution}}</ref>。ただし、近年の発見はシェラットの説に反する。[[先史時代]]の[[土器]]に残る液体の痕跡を分析した結果、西南アジアにて酪農は初期農業段階で既に行われていたと判明し、その時期は前7000年頃と推定された<ref>{{Cite journal|title=Was milk a “secondary product” in the Old World Neolithisation process? Its role in the domestication of cattle, sheep and goats |author=Jean-Denis Vigne |author2=Daniel Helmer |journal=Anthropozoologica |volume=42 |issue=2 |pages=9-40 |year=2007 |publisher=Muséum national d'Histoire naturelle |url=https://habricentral.org/resources/6615}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Evershed|first1=Richard P.|last2=Payne|first2=Sebastian|last3=Sherratt|first3=Andrew G.|last4=Copley|first4=Mark S.|last5=Coolidge|first5=Jennifer|last6=Urem-Kotsu|first6=Duska|last7=Kotsakis|first7=Kostas|last8=Özdoğan|first8=Mehmet|last9=Özdoğan|first9=Aslý E.|last10=Nieuwenhuyse|first10=Olivier|last11=Akkermans|first11=Peter M. M. G.|last12=Bailey|first12=Douglass|last13=Andeescu|first13=Radian-Romus|last14=Campbell|first14=Stuart|last15=Farid|first15=Shahina|last16=Hodder|first16=Ian|last17=Yalman|first17=Nurcan|last18=Özbaşaran|first18=Mihriban|last19=Bıçakcı|first19=Erhan|last20=Garfinkel|first20=Yossef|last21=Levy|first21=Thomas|last22=Burton|first22=Margie M.|title=Earliest date for milk use in the Near East and southeastern Europe linked to cattle herding|journal=Nature|volume=455|issue=7212|year=2008|pages=528–531|issn=0028-0836|doi=10.1038/nature07180}}</ref>。
西南アジア発祥の酪農は、紀元前7000年頃からヨーロッパに伝わり、前4000年以降に[[ブリテン諸島]]や[[スカンディナヴィア半島]]まで伝播した<ref>{{cite book|last=Price|first=T. D.|title=Europe's First Farmers|year=2000|publisher=Cambridge University Press|location=Cambridge|isbn=0-521-66203-6|pages=1–18|editor=T. D. Price|chapter=Europe's first farmers: an introduction}}</ref>。[[南アジア]]には前7000-5500年頃に伝わった<ref>{{cite book|last=Meadow|first=R. H.|title=The origins and spread of agriculture and pastoralism in Eurasia|year=1996|publisher=UCL Press|location=London|isbn=1-85728-538-7|pages=390–412|editor=D. R. Harris|chapter=The origins and spread of agriculture and pastoralism in northwestern South Asia}}</ref>。搾乳を始めたのは中央ヨーロッパ<ref>{{cite journal|last=Craig|first=Oliver E.|coauthors=John Chapman, Carl Heron, Laura H. Willis, László Bartosiewicz, Gillian Taylor, Alasdair Whittle and Matthew Collins|title=Did the first farmers of central and eastern Europe produce dairy foods?|journal=Antiquity|year=2005|volume=79|issue=306|pages=882–894|url=http://antiquity.ac.uk/ant/079/ant0790882.htm}}</ref>ブリテン諸島<ref>{{cite journal|last1=Copley|first1=M.S.|last2=Berstan|first2=R.|last3=Mukherjee|first3=A.J.|last4=Dudd|first4=S.N.|last5=Straker|first5=V.|last6=Payne|first6=S.|last7=Evershed|first7=R.P.|title=Dairying in antiquity. III. Evidence from absorbed lipid residues dating to the British Neolithic|journal=Journal of Archaeological Science|volume=32|issue=4|year=2005|pages=523–546|issn=03054403|doi=10.1016/j.jas.2004.08.006}}</ref>の農民たちと考えられる。[[牧畜]]や[[遊牧]]のような耕作よりも家畜に大きく依存する経済活動は、農業主体のヨーロッパ人集団が[[カスピ海]]近郊の[[ステップ (植生)|ステップ]]地帯に移動した紀元前4世紀頃に発達し、後に[[ユーラシア大陸]]のステップ気候域に広まった<ref>{{cite book|last=Anthony|first=D. W.|title=[[馬・車輪・言語|The Horse, the Wheel, and Language]]|year=2007|publisher=Princeton University Press|location=Princeton, NJ|isbn=978-0-691-05887-0}}</ref>。アフリカのヒツジやヤギは西南アジアから持ち込まれたものだが、ウシは前7000-6000年頃に独自に飼いならしたものと考えられる<ref>{{cite book|last=Gifford-Gonzalez|first=D.|title=African archaeology: a critical introduction|year=2004|publisher=Blackwell Publishing|location=Malden, MA|isbn=978-1-4051-0155-4|pages=187–224|editor=A. B. Stahl|chapter=Pastoralism and its Consequences}}</ref>。ラクダの家畜化は紀元前4世紀の中央[[アラビア]]で興り、北アフリカや[[アラビア半島]]では酪農の対象となった<ref>{{cite journal |vauthors=Peters J |title=[The dromedary: ancestry, history of domestication and medical treatment in early historic times] |language=German |journal=Tierarztl Prax Ausg G Grosstiere Nutztiere |volume=25 |issue=6 |pages=559–65 |date=November 1997 |pmid=9451759 |doi= |url=}}</ref>。
1863年、[[フランス]]の化学者[[ルイ・パスツール]]は乳飲料や食品の中に潜む有毒な[[バクテリア]]を殺菌する低温殺菌法([[パスチャライゼーション]])を発明した<ref name="milk history">{{cite web|url= http://inventors.about.com/od/mstartinventions/a/milk.htm |title= The History Of Milk |publisher=[[About.com]]|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。1884年、ニューヨーク在住のアメリカ人医師ヘンリー・サッチャーが、撥水紙のフタを持つ初の[[ガラス]]製[[牛乳瓶]]「Thatcher's Common Sense Milk Jar」を発明した<ref name="milk history"/>。後の1932年に、ビクター・W・ファリスの発明による[[プラスチック]]コーティングされた[[紙]]パックが採用され普及した<ref name="milk history"/>。
== 物理的・化学的性質 ==
ミルクは、球状の[[脂肪]]が水を基調とした[[炭水化物]]や[[タンパク質]]およびミネラルが含まれた液体の中に分散した[[エマルジョン]]または[[コロイド]]溶液である<ref>Rolf Jost "Milk and Dairy Products" Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, Weinheim, 2002. {{DOI|10.1002/14356007.a16_589.pub3}}</ref>。含まれる成分は、これを口にする新生児の初期発育を助けるためのエネルギー源(脂質、乳糖、タンパク質)、非必須アミノ酸を生合成するためにタンパク質から供給される物質([[必須アミノ酸]]とその仲間)、必須脂肪酸、ビタミン、無機元素、そして水である<ref name="autogenerated5" />。
ミルクの分析は19世紀後半から始まり、近年の分析技術向上によって微量の活性物質も発見されているが、未だ全容を掴むには至っていない。中には、β-ラクトグロブリンのように生物学的に含まれている理由が見つかっていないものもある<ref name=Nougei>{{Cite web|和書|title=酪農王国 北海道の牛乳の科学|publisher=日本農芸化学界北海道支部・網走大会・サブセッション、[[北海道大学]]農学部|url= http://www.agr.hokudai.ac.jp/jsbba/history/pdf/H10/H1911s.pdf |format=PDF |accessdate=2012-05-30}}</ref>。
[[File:TriglycerideDairyButter.png|thumb|400px|乳脂肪は、[[ミリスチン酸]]・[[パルミチン酸]]・[[オレイン酸]]などの脂肪酸からつくられる[[トリアシルグリセロール]](脂肪)である。]]
=== 脂質 ===
{{main|乳脂肪}}
乳脂肪は膜で包まれた脂肪球の形で分泌される<ref name="autogenerated1995">Fox, P.F. Advanced Dairy Chemistry: Vol 2 Lipids. 2nd Ed. Chapman and Hall: New york, 1995.</ref>。それぞれの脂肪球はほとんどが[[トリアシルグリセロール]]であり、これを[[リン脂質]]やタンパク質などを成分とする複合膜が覆う。これらは[[乳化]]された状態にあり、各球が引っ付き合わないよう保ちつつ、ミルクの液体部分に含まれる各種の酵素と反応する事を防ぐ。97-98%がトリアシルグリセロールであるが、[[ジアシルグリセロール]]や[[モノアシルグリセロール]]、遊離コレステロールやコレステロールエステル、遊離脂肪酸、リン脂質もそれぞれ少量ながら含まれている。タンパク質や炭水化物とは異なりミルクに含まれる脂肪の構成は、発生の起源や授乳方法によって異なり、とくに動物の種族によっても差異が大きい<ref name="autogenerated1995"/>。
構造の特徴として、脂肪球の大きさにはばらつきがあり、小さいもので直径0.2[[マイクロメートル|μm]]、大きいものでは15-20μmに達するものもある。この直径の差異は、動物の種だけでなく特定の個体が分泌した時によっても生じる可能性がある。均質化をしていない牛乳の脂肪球の平均直径は2-4μmであり、均質化を施すとこれが0.4μm前後まで小さくなる<ref name="autogenerated1995"/>。[[親油性]]の[[ビタミン]]である[[ビタミンA|A]]・[[ビタミンD|D]]・[[ビタミンE|E]]・[[ビタミンK|K]]は、必須脂肪酸である[[リノール酸]]などに親和した形で乳脂肪部分の中に含まれる<ref name="On Food and Cooking"/>。
=== タンパク質 ===
通常、牛乳は1リットル当り30-35グラム程度のタンパク質を含み、その約80%は[[カゼイン]][[ミセル]]である。
==== カゼイン ====
カゼインミセルは、液状のミルク中に存在する最大の構造物であり、表層に[[界面活性剤]]ミセルと近かよった[[ナノメートル]]大の[[リン酸カルシウム]]微細粒子を持つ、数千というタンパク質分子の集まりである。それぞれのカゼインミセルは、直径40-600nmのコロイド粒子である<ref name=Shinpi>{{Cite web|和書|title=基調講演 「ミルクの神秘」|author=堂迫俊一|publisher=雪印メグミルク株式会社酪農総合研究所|url= http://rakusouken.net/topic/017_2_1.html |accessdate=2012-05-30}}</ref>。カゼイン状タンパク質は αs1-, αs2-, β-, κ- の4タイプに分類できる<ref name=Shinpi />。ミルク中に含まれるタンパク質のうち、重量比で76-86%を占めるカゼイン状タンパク質<ref name="autogenerated5">Fox, P. F. Advanced Dairy Chemistry, Vol. 3: Lactose, Water, Salts and Vitamins. 2nd ed. Chapman and Hall: New York, 1995.</ref>や、水に不溶のリン酸カルシウムのほとんどはミセルの中に捕らわれている<ref name=Shinpi />。
ミセルの精密な構造に関して複数の理論が提唱されているが、最も外側の層は{{仮リンク|k-カゼイン|en|k-casein}}のみで構成され、周囲の流体に突き出ているという考えは共通している。このk-カゼイン分子は負の[[電荷]]を帯びているためにミセル同士は電気的に反発し合い、通常ならばそれぞれが離れた状態を維持し、水を主成分とする液体の中でコロイド状[[懸濁液]]となる<ref name="On Food and Cooking"/><ref name="chem">{{cite web|last=Goff|first=Douglas|title=Dairy Chemistry and Physics
|url=http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/chem.html|work=Dairy Science and Technology|publisher=University of Guelph|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2010}}</ref>。構造モデルの一つは「サブミセルモデル」と呼ばれ、小さなサブミセルが寄せ集まってミセルを作っているという考えである。これによると、ミセルの内側にはk-カゼイン含有量が少ないサブミセルがあり、これをk-カゼインに豊むサブミセルが覆いつつ、これらの間にリン酸カルシウムが存在する構造を持つ<ref name=Shinpi />。他に提唱される「ナノクラスターモデル」では、中心にリン酸カルシウムの小さな集合体があり、その周囲に紐状のカゼインが付着している構造を取るという考えであり、この場合サブミセルは作られていない<ref name=Shinpi />。
ミルクにはカゼイン以外にも、[[β-ラクトグロブリン]](β-Lg)、乳糖合成に関与する[[α-ラクトアルブミン]](α-La)、[[免疫グロブリン]](IgG)、[[血清アルブミン]](BSA)、[[ラクトフェリン]](Lf)などそれぞれの機能を持つ多種多様なタンパク質が含まれている<ref name=Shinpi />。これらはカゼインよりも水溶性が高いため、大きな構造には纏まらない。[[カード (食品)|カード]]をつくるとカゼインが凝乳側に集まるのに対し、これらのタンパク質は[[乳清]](ホエイ)側に残る。そのため乳漿蛋白(ホエイプロテイン)とも呼ばれる。乳漿蛋白は重量比でミルク中のタンパク質の20%を占める。代表的な乳漿蛋白は{{仮リンク|ラクトグロブリン|en|Lactoglobulin}}である<ref name="On Food and Cooking"/>。
=== ミネラル・塩・ビタミン ===
ミネラルや[[塩 (化学)|塩]]は、様々な種類のものがミルクの中では[[アニオン]]や[[カチオン]]の形態を取り存在している。これらは[[カルシウム]]、リン酸塩、[[マグネシウム]]、[[ナトリウム]]、[[カリウム]]、クエン酸塩そして[[塩素]]などが含まれ、5-40ナノメートルに凝集している。塩はカゼイン、特にリン酸カルシウムと強い相互作用を起こす。これは時に、リン酸カルシウムへの過剰な結合を引き起こす場合がある<ref name="autogenerated5"/>。その他、ミルクは良質なビタミン供給源となり、ビタミンA、B1、B2、B12、K、[[パントテン酸]]などは全てミルクに含まれる<ref name=pub />。
複数の測定にて、タンパク質を捉えるリン酸カルシウムはCa9(PO4)6の構造を持っている事が示された。しかし一方で、この物質は鉱物の[[ブルシャイト]] CaHPO4 -2H2O 的な構造を持つという主張もある<ref>{{cite web| title= chemistry and physics
|url= http://www.foodsci.uoguelph.ca/dairyedu/chem.html |publisher= Foodsci.uoguelph.ca.|language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
=== 炭水化物と他の含有物質 ===
[[File:Hydrolysis of lactose.svg|thumb|[[ラクトース]]分子(左)が[[ガラクトース]](1)と[[グルコース]](2)に分解される簡略図。]]
ミルクは、[[ラクトース]](乳糖)、[[グルコース]]、[[ガラクトース]]、その他の[[オリゴ糖]]など複数の[[炭水化物]]を含む。グルコースとガラクトースの2つの[[単糖]]が合成したラクトースはミルクに甘みを与え、カロリーの約40%を占める。ウシ属のミルクには平均4.8%の無水ラクトースが含まれ、[[脱脂粉乳]]の固形分のうち50%に相当する。ラクトースの含有率はミルクの種類によって異なり、他の炭水化物は強く結合してラクトースの状態でミルクの中に存在する<ref name="autogenerated5"/>
その他、未精製の牛乳には[[白血球]]や乳腺細胞、様々な[[バクテリア]]や大量の活性酵素が含まれている<ref name="On Food and Cooking"/>。
=== 外見 ===
脂肪球とそれよりも小さなカゼインミセルは、いずれも光を乱反射させる充分な大きさがあり、このためにミルクは白く見える<ref name=Nougei />。中には脂肪球が黄色 - オレンジ色のカロテンを含む場合があり、このため例えばガンジー種やジャージー種などのミルクをグラスに注ぐと、黄金色またはクリームのような色調が見られる。乳清部分の[[リボフラビン]]はやや緑がかっており、脱脂粉乳やホエーで確認できる場合もある<ref name="On Food and Cooking"/>。また、脱脂粉乳は粒子が小さなカゼインミセルのみが光を散乱させるため、赤色よりも青色の波長をより散乱させる傾向があり、薄青い色に見える<ref name="chem"/>。
== 栄養と健康への効果 ==
ミルクの成分構成は、動物の種によって大きく異なる。例えばタンパク質の種類や、タンパク・脂肪・糖質の割合、ビタミンやミネラルの比率、乳脂肪[[滴]]の大きさ、[[カード (食品)|カード]]の濃度など、違いは様々な要因において見られる<ref name="intro"/>。例えば、
*人間の乳の平均的組成は、タンパク質1.1%、脂質3.5%、糖質7.2%、ミネラル0.2%。100グラム当り65kカロリー。この成分構成は馬乳も近い<ref name=pub />。糖質含有比は哺乳動物中で最も高く、これは脳の発達速度の早さに関係する<ref name=pub />。
*牛乳の平均的組成は、タンパク質3.3%、脂質3.8%、糖質4.8%、ミネラル0.7%。100グラム当り67kカロリー<ref name=pub />。牛乳の成分含有量は、哺乳類の乳の中で中間的な値を取る<ref name=pub />。人間の乳よりもタンパク質やミネラルに富む理由は、ウシの成長速度が人間よりも早いためである<ref name=pub />。
*ロバやウマの乳は含有脂肪分が低く、逆に[[鰭脚類]]や[[クジラ]]の乳は高脂肪で含有率は50%を越える<ref>{{cite web|url=http://www.havemilk.com/article.asp?id=1485#contentbyspecies |title=Milk From Cows and Other Animals, web page by Washington Dairy Products Commission |publisher=Havemilk.com |language=英語|accessdate=2012-05-30}}</ref><ref>{{cite encyclopedia|df=ja|title=Whale|url=http://encarta.msn.com/encyclopedia_761565254_3/Whale.html|publisher=Encarta|archiveurl=https://web.archive.org/web/20091028232724/http://encarta.msn.com/encyclopedia_761565254_3/Whale.html|archivedate=2009-10-28|url-status=dead}}</ref>。
*乳糖の割合は、[[カンガルー]]で7.6%、[[ネコ]]で4.8%、[[イヌ]]で3.1%、[[クジラ]]で1.3%、[[ウサギ]]で0.9%などバラツキが見られる<ref>八木 直樹 『食品の科学と新技術』 p.103 日本出版制作センター 1992年2月15日発行</ref>。
{| class="wikitable"
|+ ミルクの成分分析(100[[グラム|g]]当り<ref>{{cite web2 |title=Milk analysis |publisher=North Wales Buffalo |url=http://www.northwalesbuffalo.co.uk/milk_analysis.htm |archiveurl=https://web.archive.org/web/20070929071651/http://www.northwalesbuffalo.co.uk/milk_analysis.htm |archivedate=2007-09-29 |language=en |accessdate=2012-05-31 |url-status=dead}} (Citing McCane, Widdowson, Scherz, Kloos, International Laboratory Services.)</ref><ref>[http://www.ars.usda.gov/nutrientdata USDA National Nutrient Database for Standard Reference]. Ars.usda.gov. Retrieved on 2011-11-24.</ref>。
|-
! 成分
! 単位
! [[ウシ]]
! [[ヤギ]]
! [[ヒツジ]]
! [[水牛]]
|-
| 水分
| g
| 87.8
| 88.9
| 83.0
| 81.1
|-
| タンパク質
| g
| 3.2
| 3.1
| 5.4
| 4.5
|-
| 脂肪
| g
| 3.9
| 3.5
| 6.0
| 8.0
|-
| 炭水化物
| g
| 4.8
| 4.4
| 5.1
| 4.9
|-
| カロリー
| kcal
| 66
| 60
| 95
| 110
|-
| エネルギー
| kJ
| 275
| 253
| 396
| 463
|-
| 糖質(乳糖)
| g
| 4.8
| 4.4
| 5.1
| 4.9
|-
| コレステロール
| mg
| 14
| 10
| 11
| 8
|-
| カルシウム
| mg
| 120
| 100
| 170
| 195
|-
| 飽和脂肪酸
| g
| 2.4
| 2.3
| 3.8
| 4.2
|-
| モノ不飽和脂肪酸
| g
| 1.1
| 0.8
| 1.5
| 1.7
|-
| ポリ不飽和脂肪酸
| g
| 0.1
| 0.1
| 0.3
| 0.2
|}
このような成分構成は、種、個体、授乳期のどのタイミングかによっても変わる。以下、乳牛の種による差異を示す。
{| class="wikitable"
|+ミルク中の脂肪含有比
!乳牛の種
!%(近似値)
|-
|ジャージー種
|5.2
|-
|[[コブウシ]]
|4.7
|-
|ブラウン・スイス種
|4.0
|-
|ホルスタイン種
|3.6
|}
これら4種の牛乳に含まれるタンパク質は3.3-3.9%、ラクトースは4.7-4.9%である<ref name="On Food and Cooking"/>。
ミルクの脂肪率は、酪農家が家畜に与える飼料の構成によっても左右される。また、乳腺炎に感染するとミルクの脂肪含有率は低下する<ref>{{Cite book|url=https://books.google.co.jp/books?id=qJgdAEhQvnMC&pg=PA226&redir_esc=y&hl=ja|title=Designing Foods: Animal Product Options in the Marketplace |publisher=National Academies Press|year= 1988|isbn=978-0-309-03795-2}}</ref>。
飲用したミルクから人体が吸収するカルシウムの量に関しては、さまざまな見解がある<ref>{{cite journal|pmid=9224182|title=Milk, dietary calcium, and bone fractures in women: a 12-year prospective study|year=1997|last1=Feskanich|first1=D|last2=Willett|first2=WC|last3=Stampfer|first3=MJ|last4=Colditz|first4=GA|volume=87|issue=6|pages=992–7|pmc=1380936|doi=10.2105/AJPH.87.6.992|journal=American journal of public health}}</ref>。乳製品から得られるカルシウムは、[[ホウレンソウ]]のような高いカルシウム-[[キレート]]物質を持つ[[野菜]]よりも、[[生物学的利用能]]が高い<ref>Brody T. Calcium and phosphate. In: Nutritional biochemistry. 2nd ed. Boston: Academic Press, 1999:761–94</ref>。その一方で、[[ケール]]や[[ブロッコリー]]など[[シュウ酸]]塩をあまり含まない[[アブラナ属]]の野菜と比較すると、得られるカルシウムの生物学的利用能は同等以下である<ref>{{cite journal |first1=Robert P. |last1=Heaney |first2=Connie M. |last2=Weaver |title=Calcium absorption from kale |pmid=2321572 |year=1990 |pages=656–7 |issue=4 |volume=51 |journal=The American journal of clinical nutrition}}</ref><ref>{{cite web|title=Calcium and Milk: What's Best for Your Bones and Health?|url=http://www.hsph.harvard.edu/nutritionsource/what-should-you-eat/calcium-full-story/index.html|work=The Nutrition Source|publisher=Harvard School of Public Health|language=英語|accessdate=2012-05-30|year=2011}}</ref>。
=== 医学的な研究 ===
近年の評価では、ミルクの摂取には筋肉の成長を促進する効果があり<ref>{{Cite journal|author=Roy BD |title=Milk: the new sports drink? A Review |journal=J Int Soc Sports Nutr |volume=5 |page=15 |year=2008 |pmid=18831752 |pmc=2569005 |doi=10.1186/1550-2783-5-15}}</ref>、運動後の筋肉を回復させる事にも有効とする示唆がなされている<ref>{{Cite journal|author=Ferguson-Stegall L, McCleave E, Doerner PG, Ding Z, Dessard B, Kammer L, Wang B, Liu Y, Ivy JL|title=Effects of Chocolate Milk Supplementation on Recovery from Cycling Exercise and Subsequent Time Trial Performance |journal=International Journal of Exercise Science: Conference Abstract Submissions |volume=2 |issue= 2|article=25 |year=2010 |url=http://digitalcommons.wku.edu/ijesab/vol2/iss2/25}}</ref>。
=== 乳糖不耐症 ===
{{Main|乳糖不耐症}}
ミルクに含まれる[[二糖]]であるラクトースは、[[小腸]]で吸収するためには酵素のラクターゼによって構成をガラクトースとグルコースに分解されなければならない。しかし、すべての哺乳動物は乳離れの後にラクターゼの分泌が減衰する。その結果、多くの人間は成長後にラクトースを適切に消化できなくなる。ただしこれも人それぞれであり、ほとんどラクトースを消化できない人もいれば、ある程度は可能な者、さらにミルクや乳製品中に含まれるかなりの比率を問題無く吸収できる者もいる。人のラクターゼ分泌を制御する遺伝子はC/T-13910 である<ref name="Babu, J. 2009">Babu, J. et al "Frequency of lactose malabsorption among healthy southern and northern Indian populations", American Journal of Clinical Nutrition, doi 10.3945/ajcn.2009.27946</ref>。
世界の5%程度の人々はラクトースを満足に消化できない乳糖不耐症を示す事が知られ、この傾向はアフリカやアジア系の人々の中でより顕著である<ref name="Biochemistry">{{Cite book|last = Champe|first = Pamela|title = Lippincott's Illustrated Reviews: Biochemistry, 4th ed.|year = 2008|publisher = Lippincott Williams & Wilkins|location = Baltimore|isbn = 978-0-7817-6960-0|page = 88|chapter = Introduction to Carbohydrates}}</ref>。アメリカ人の3000-5000万が乳糖不耐症であると考えられており、その中には[[ネイティブ・アメリカン]]や[[アフリカ系アメリカ人]]の75%、[[アジア系アメリカ人]]の90%が含まれる。乳糖不耐症は北ヨーロッパ人にはあまり見られず<ref>{{cite web| url=http://www.umm.edu/digest/lactose.htm|title= Digestive Disorders – Lactose Intolerance|author = University of Maryland Medical Center|accessdate = 2009-05-03}}</ref>、その他ではサハラ砂漠のトゥレグ族、西アフリカ・サヘル地域遊牧民のフラーニ、スーダンのベジャやカバビッシュ、ウガンダからルワンダ地域の[[ツチ族]]などが知られる<ref>Patterson, K. D. [http://www.cambridge.org/us/books/kiple/lactose.htm "Lactose Tolerance"], The Cambridge World History of Food, Kiple, K.F. (Ed.) Cambridge University Press, 2000</ref>。他にも、北インドの人々も同様である<ref name="Babu, J. 2009"/>。
== 言語や文化への影響 ==
[[File:From_Abhisheka_To_Panchamrutha.jpg|thumb|ヒンドゥー教の[[灌頂]]の儀式。インド、[[カルナータカ州]]。]]
古代[[ギリシア神話]]では[[女神]][[ヘーラー]]が[[ヘーラクレース]]を引き離した際に溢れた乳が[[天の川]](ミルキーウェイ)になったという<ref>{{cite book |ref=harv |last1=Waller |first1=W. H. |last2=Hodge |first2=P. W. |pages=91|year=2003 |title=Galaxies and the Cosmic Frontier |publisher=[[ハーバード大学]]出版局 |isbn=0674010795}}</ref>。
[[聖書]]にもミルクを意図した言葉があり、カナンの地[[イスラエル]]を「乳と蜜が流れる地」と表現している。乳は蜜と並び「よきもの」の象徴である<ref>{{Cite journal|和書|author=菅淑江, 田中由紀子 |title=蜂蜜考(Ⅰ) -人々と自然との調和- |journal=中国短期大学紀要 |ISSN=0914-1227 |publisher=中国短期大学 |year=1998 |month=jun |volume=29 |pages=1-14 |naid=120006588218 |url=http://id.nii.ac.jp/1640/00000582/}}</ref>。[[コーラン]]の「[[蜜蜂 (クルアーン)|蜜蜂]]」には乳について述べた箇所があり、乳は家畜の中で飼料と血液の中間から生じ、人間に与えられる美味な飲み物だと言う (16-The Honeybee, 66)。伝統的に、[[ラマダーン]]明けには一杯のミルクと乾燥ナツメヤシの実を口にする。仏教では[[釈迦]]の説話に、断食修行後に口にした牛乳の美味が悟りを導いたとあり、牛乳から作られる[[醍醐]]を「仏の最上の経法」を指す用語に用いている<ref name=pub />。[[ヒンドゥー教]]で行われる[[灌頂]]では、崇拝する神の像を聖水やミルク又はヨーグルトなどで清める儀式が行われる<ref>{{Cite web|和書|title=月刊みんぱく2005年9月号 |publisher=国立民族学博物館 |url= http://www.minpaku.ac.jp/museum/showcase/bookbite/gekkan/200509txt|accessdate=2012-05-30}}</ref>。
人間の文化において乳 (milk) がいかに重要かという事は、数々の言語表現に使われることで説明できる。例えば、「the milk of human kindness」(人間的な思いやり)という用例がある。一方で、「他人を利用する」(to milk someone) という慣用句もある。
様々な意味の[[スラング]]でも用いられる。17世紀初頭には、[[精液]]や[[膣液]]の意味がつけられ、転じて[[自慰]]行為を指すようにもなった。19世紀には変性アルコールを水に混ぜて作られた安物の[[酒]]の名に使われた。他に、詐取する、騙す、他人に送られた電報を[[盗聴]]する、そして虚弱な者や腰抜けという意味もある。1930年代のオーストラリアでは、自動車の吸気ガスを指して使われもした<ref>{{Cite book|url=https://books.google.co.jp/books?id=5GpLcC4a5fAC&pg=PA943&redir_esc=y&hl=ja|author=Jonathon Green|title=Cassell's Dictionary of Slang |publisher=Weidenfeld & Nicholson|isbn=978-0-304-36636-1|year=2005}}</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
<!--=== 注釈 ===
{{Notelist}}-->
=== 脚注 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
*{{Cite book| author=McGee, Harold |title=On Food and Cooking |edition=2nd|location=New York|publisher=Scribner|year=2004|isbn=978-0-684-80001-1}}
== 関連項目 ==
{{Sisterlinks|commons=Milk}}
* [[代用乳]]
* [[羊乳]]
* [[馬乳]]
* [[豚乳]]
* {{ill2|ラクダ乳|en|Camel milk}}
* [[ヤギ乳]]
* [[ヘラジカ乳]]
== 外部リンク ==
* {{Curlie|Business/Food_and_Related_Products/Dairy/Milk|Milk}}
* [https://www.carnamah.com.au/milk-cream-butter Virtual Museum Exhibit on Milk, Cream & Butter]
* {{Kotobank}}
{{乳}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:ちち}}
[[category:乳|*]]
[[Category:分泌液]]
[[Category:哺乳類の雌]] | 2003-04-28T05:22:32Z | 2023-11-27T04:56:27Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B3 |
7,392 | 根室市 | 根室市(ねむろし)は、北海道東部(道東地方)にある市。根室振興局の振興局所在地。北海道本島最東端の自治体かつ、日本の市で最も東に位置する。
北海道本島の最東端、西から145°21'から146°11'、北緯43°09'から43°38'の間で、東西に70 km、南北に10 km、東西に細長く太平洋に突き出た根室半島の全域と、半島の付け根辺り、北方領土の歯舞群島を市域とし、日本の主要都市の中でもっとも北方領土に近い都市である。根室半島の太平洋沖合約3 kmにユルリ島・モユルリ島がある。
根室市章は、1925年(大正14年)2月13日に根室町章として制定されたものを市制施行後も継承して用いている。6つのカタカナのロを円形に配した「ムロ」の中心に「ネ」を据えて「ネムロ」(根室)を示し、「光り輝く未来への発展」を表現するために赤色で描かれる。6つのロを外周に置き「ムロ」を表す点は、室蘭市章と共通している。
概ね低平な隆起海食台地で、山岳及び大きな河川はなく、市の中心部は透遠な高原の一部であるため、地形の高低があり、街路は緩やかな坂道が多く北東に紅煙岬が突出し、その西方海面に弁天島が横たわり、自然の港門となって根室港を形取っている。
陸地はほとんど平坦で牧畜に適し、半島の東端納沙布岬は周辺に暗礁が多くあり、加えて濃霧が深く航海上の難所として知られ納沙布岬灯台が設置されており、一方、太平洋側には大小の島が点在し、南東に突出した港の入江にはそれぞれ歯舞、花咲、落石(おちいし)の各港があり重要な漁港としての役割を果たし、冬季間の氷結もなく、沿岸、沖合漁業の根拠地として根室港と表裏をなしている。
更に、内陸部の厚床、和田地区は、大部分が平坦な平原で最高背部で150m、丘陵に小川が入り交じって大きな河川はなく、わずかにオンネベツ川、別当賀川を最大にホロニタイ川の小河川があるに過ぎない。
地域の大部分が千島火山系摩周岳に由来する火山噴出物が堆積して形成された風積火山性土で、土性は一般に泥炭土を除き火山灰性土壌である。
夏は涼しく真夏日日数及び夏日日数が少ない。冬は根室半島という立地上の影響から道東の中では最も温暖であるなど年較差、日較差共に小さく、海洋性気候の特色が強い。春から夏にかけて海霧が発生しやすく、秋から冬にかけては晴天が続く。北海道の中では雪は少なく、過去最深積雪も115cm(2014年3月21日)と1m強である。過去最高気温は34.0°C(2019年5月26日)で2015年8月5日には次点となる33.6°Cを観測した一方、過去最低気温は-22.9°C(1931年2月18日)で1978年2月17日に-22.1°Cを観測して以来、-20度以下は一度も観測されていない。古くから観測が行われていて都市化の影響が少ない地点として、日本の平均気温の算出地点の一つに使われている。
消滅集落 2015年国勢調査によれば、以下の集落は調査時点で人口0人の消滅集落となっている。
戸長から町長までは特記なき場合『根室・千島歴史人名事典』による。
市議会
警察署
交番
駐在所
本部
消防署
分遣署
主な病院
主な郵便局
姉妹都市
姉妹都市
農業 主に酪農。厚床地区に多い。 水産業
農協・漁協
拠点を置く主な企業
物流
商業施設
※釧路信用組合は根室市を営業エリアに含めているものの、支店は2022年3月(令和4年)現在でも未進出。
道立
市立
市立
市立
テレビ
ラジオ放送局
市内に空港は存在しない。中標津町にある中標津空港が最寄りである。なお、就航する航空会社や空港ターミナルビル運営会社では「根室中標津空港」の名称を用いている。
北海道旅客鉄道(JR北海道釧路支社)
北海道旅客鉄道(JR北海道釧路支社)
根室拓殖鉄道
納沙布岬初日詣(1月)、ニムオロ冬の祭典(2月)、おちいし・味祭り(6月)、港まつり(7月)、金刀比羅神社例大祭(8月)、かに祭り(9月)、さんま祭り(9月)
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] | 根室市(ねむろし)は、北海道東部(道東地方)にある市。根室振興局の振興局所在地。北海道本島最東端の自治体かつ、日本の市で最も東に位置する。 | {{日本の市
| 画像 = CapeNosappu.jpg
| 画像の説明 = [[納沙布岬]]<br />{{Maplink2|zoom=9|frame=yes|plain=no|frame-align=center|frame-width=280|frame-height=200|stroke-width=0|type=point|marker=town-hall|text=市庁舎位置}}
| 市旗 = [[ファイル:Flag of Nemuro, Hokkaido.svg|100px|根室市旗]]
| 市旗の説明 = 根室[[市町村旗|市旗]]<br />[[1968年]][[8月1日]]制定
| 市章 = [[ファイル:Emblem of Nemuro, Hokkaido.svg|75px|根室市章]]
| 市章の説明 = 根室[[市町村章|市章]]<br />[[1925年]][[2月13日]]制定
| 自治体名 = 根室市
| 都道府県 = 北海道
| 支庁 = [[根室振興局]]
| コード = 01223-8
| 隣接自治体 = [[野付郡]][[別海町]]、[[厚岸郡]][[浜中町]]、[[国後郡]][[泊村 (北海道根室振興局)|泊村]]、[[色丹郡]][[色丹村]]
| 木 = [[チシマザクラ|千島桜]]
| 花 = [[ユキワリコザクラ]]
| シンボル名 = 他のシンボル
| 鳥など = 市の鳥:[[ハクチョウ|白鳥]]<br />市のスポーツ:[[卓球]]
| 郵便番号 = 087-8711
| 所在地 = 根室市常盤町2丁目27<br />{{Coord|format=dms|type:adm3rd_region:JP-01|display=inline,title}}<br />[[File:Nemuro city01.JPG|Nemuro_city01|270px]]
| 外部リンク = {{Official website}}
| 位置画像 = {{基礎自治体位置図|01|223|image_hokkaido=日本地域区画地図補助 01660.svg|image=基礎自治体位置図 01223.svg}}
| 特記事項 = 面積は歯舞群島 (99.94[[平方キロメートル|km<sup>2</sup>]])の面積を含み、風蓮湖(57.74km<sup>2</sup>、境界未定)の面積を含んでいない。
}}
'''根室市'''(ねむろし)は、[[北海道]]東部([[道東|道東地方]])にある[[市]]。[[根室振興局]]の振興局所在地。[[北海道 (島)|北海道本島]]最東端の自治体かつ、[[日本]]の[[市]]で最も東に位置する。
== 概要 ==
[[北海道 (島)|北海道本島]]の最東端、西から145°21'から146°11'、北緯43°09'から43°38'の間で、東西に70 [[キロメートル|km]]、南北に10 km、東西に細長く[[太平洋]]に突き出た[[根室半島]]の全域と、半島の付け根辺り、[[北方地域|北方領土]]の[[歯舞群島]]を市域とし、日本の主要都市の中でもっとも北方領土に近い都市である。根室半島の太平洋沖合約3 kmに[[ユルリ島]]・[[モユルリ島]]がある。
=== 市章 ===
根室市章は、1925年(大正14年)2月13日に根室町章として制定されたものを市制施行後も継承して用いている<ref name=about>[https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/shinitsuite/aboutnemuroshi/2664.html 市民憲章・市の花、木、鳥、スポーツ・市章] - 根室市、2023年8月16日閲覧。</ref>。6つのカタカナのロを円形に配した「ムロ」の中心に「ネ」を据えて「ネムロ」(根室)を示し、「光り輝く未来への発展」を表現するために赤色で描かれる<ref name=about/>。6つのロを外周に置き「ムロ」を表す点は、[[室蘭市#市章|室蘭市章]]と共通している。
== 地理 ==
=== 地形 ===
概ね低平な隆起海食台地で、山岳及び大きな[[河川]]はなく、市の中心部は透遠な高原の一部であるため、地形の高低があり、街路は緩やかな坂道が多く北東に紅煙岬が突出し、その西方海面に[[弁天島 (根室市)|弁天島]]が横たわり、自然の港門となって[[根室港]]を形取っている。
陸地はほとんど平坦で牧畜に適し、半島の東端[[納沙布岬]]は周辺に[[暗礁]]が多くあり、加えて濃霧が深く航海上の難所として知られ[[納沙布岬灯台]]が設置されており、一方、太平洋側には大小の島が点在し、南東に突出した港の入江にはそれぞれ[[歯舞漁港|歯舞]]、花咲、落石(おちいし)の各港があり重要な漁港としての役割を果たし、冬季間の氷結もなく、沿岸、[[沖合漁業]]の根拠地として[[根室港]]と表裏をなしている。
更に、内陸部の厚床、[[和田]]地区は、大部分が平坦な平原で最高背部で150m、[[丘陵]]に小川が入り交じって大きな河川はなく、わずかにオンネベツ川、別当賀川を最大にホロニタイ川の小河川があるに過ぎない。
=== 地質 ===
地域の大部分が千島火山系摩周岳に由来する火山噴出物が堆積して形成された風積火山性土で、土性は一般に泥炭土を除き火山灰性土壌である。
=== 気候 ===
夏は涼しく[[真夏日]]日数及び[[夏日]]日数が少ない。冬は[[根室半島]]という立地上の影響から[[道東]]の中では最も温暖であるなど[[年較差]]、[[日較差]]共に小さく、[[海洋性気候]]の特色が強い。春から夏にかけて[[海霧]]が発生しやすく、秋から冬にかけては晴天が続く<ref>[http://www.nemuro.pref.hokkaido.lg.jp/ts/tss/iju/kikou.htm 根室地域の気候](リンク切れ)</ref>。北海道の中では雪は少なく、過去最深積雪も115cm([[2014年]]3月21日)と1m強である。過去最高気温は34.0℃([[2019年]]5月26日)で[[2015年]]8月5日には次点となる33.6℃を観測した一方、過去最低気温は-22.9℃([[1931年]]2月18日)で[[1978年]]2月17日に-22.1℃を観測して以来、-20度以下は一度も観測されていない。古くから観測が行われていて都市化の影響が少ない地点として、日本の平均気温の算出地点の一つに使われている。
{{Weather box
|location = 根室市弥栄町(根室特別地域気象観測所、標高25m)
|metric first = yes
|single line = yes
|Jan record high C = 10.3
|Feb record high C = 9.5
|Mar record high C = 14.7
|Apr record high C = 23.3
|May record high C = 34.0
|Jun record high C = 32.1
|Jul record high C = 33.1
|Aug record high C = 33.6
|Sep record high C = 29.5
|Oct record high C = 24.2
|Nov record high C = 19.2
|Dec record high C = 13.4
|year record high C = 34.0
|Jan high C = -0.9
|Feb high C = -1.2
|Mar high C = 2.2
|Apr high C = 7.4
|May high C = 11.9
|Jun high C = 14.9
|Jul high C = 18.7
|Aug high C = 20.9
|Sep high C = 19.4
|Oct high C = 14.7
|Nov high C = 8.6
|Dec high C = 2.1
|year high C = 9.9
|Jan mean C = -3.4
|Feb mean C = -3.8
|Mar mean C = -0.8
|Apr mean C = 3.5
|May mean C = 7.7
|Jun mean C = 10.9
|Jul mean C = 14.9
|Aug mean C = 17.4
|Sep mean C = 16.2
|Oct mean C = 11.6
|Nov mean C = 5.6
|Dec mean C = -0.5
|year mean C = 6.6
|Jan low C = -6.5
|Feb low C = -7.1
|Mar low C = -3.7
|Apr low C = 0.5
|May low C = 4.5
|Jun low C = 8.1
|Jul low C = 12.1
|Aug low C = 14.8
|Sep low C = 13.6
|Oct low C = 8.5
|Nov low C = 2.3
|Dec low C = -3.6
|year low C = 3.6
|Jan record low C = -22.7
|Feb record low C = -22.9
|Mar record low C = -21.1
|Apr record low C = -13.4
|May record low C = -6.7
|Jun record low C = -4.9
|Jul record low C = 0.4
|Aug record low C = 6.3
|Sep record low C = 1.7
|Oct record low C = -3.3
|Nov record low C = -10.6
|Dec record low C = -15.1
|year record low C = -22.9
|Jan precipitation mm = 30.6
|Feb precipitation mm = 23.5
|Mar precipitation mm = 47.0
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|May precipitation mm = 96.2
|Jun precipitation mm = 103.0
|Jul precipitation mm = 115.1
|Aug precipitation mm = 132.3
|Sep precipitation mm = 160.0
|Oct precipitation mm = 126.1
|Nov precipitation mm = 83.2
|Dec precipitation mm = 59.0
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|Jan snow cm = 43
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|Sep snow cm = 0
|Oct snow cm = 0
|Nov snow cm = 2
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|year snow cm = 159
|Jan humidity = 71
|Feb humidity = 72
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|Jul humidity = 91
|Aug humidity = 89
|Sep humidity = 84
|Oct humidity = 76
|Nov humidity = 70
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|year humidity = 79
|unit precipitation days = 0.5 mm
|Jan precipitation days = 9.7
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|Apr precipitation days = 10.6
|May precipitation days = 11.3
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|year snow days = 105.3
|Jan sun = 154.4
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|Nov sun = 148.2
|Dec sun = 151.8
|year sun = 1846.7
|source = [[気象庁]] (平均値:1991年-2020年、極値:1879年-現在)<ref>
{{Cite web|和書
| url = https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/nml_sfc_ym.php?prec_no=18&block_no=47420&year=&month=&day=&view=
| title = 平年値ダウンロード
| accessdate = 2023-09
| publisher = 気象庁}}
</ref><ref>
{{Cite web|和書
| url = https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/rank_s.php?prec_no=18&block_no=47420&year=&month=&day=&view=
| title = 観測史上1〜10位の値(年間を通じての値)
| accessdate = 2023-09
| publisher = 気象庁}}
</ref>
}}
<!--Infobox ends-->{{Weather box|location=納沙布(1991年 - 2020年)|single line=Y|metric first=Y|Jan record high C=7.5|Feb record high C=7.0|Mar record high C=13.1|Apr record high C=23.0|May record high C=31.6|Jun record high C=31.0|Jul record high C=33.3|Aug record high C=33.5|Sep record high C=29.7|Oct record high C=23.7|Nov record high C=17.9|Dec record high C=12.4|year record high C=33.5|Jan high C=-0.7|Feb high C=-1.2|Mar high C=1.8|Apr high C=6.7|May high C=10.9|Jun high C=13.8|Jul high C=17.8|Aug high C=20.4|Sep high C=19.4|Oct high C=14.8|Nov high C=8.9|Dec high C=2.4|year high C=9.6|Jan mean C=-3.0|Feb mean C=-3.7|Mar mean C=-1.0|Apr mean C=3.0|May mean C=6.8|Jun mean C=10.1|Jul mean C=14.0|Aug mean C=16.8|Sep mean C=16.0|Oct mean C=11.7|Nov mean C=5.8|Dec mean C=-0.2|year mean C=6.3|Jan low C=-5.9|Feb low C=-6.7|Mar low C=-4.0|Apr low C=-0.1|May low C=3.8|Jun low C=7.3|Jul low C=11.3|Aug low C=14.2|Sep low C=13.2|Oct low C=8.4|Nov low C=2.4|Dec low C=-3.3|year low C=3.4|Jan record low C=-16.4|Feb record low C=-19.6|Mar record low C=-18.1|Apr record low C=-7.9|May record low C=-4.0|Jun record low C=1.3|Jul record low C=3.8|Aug record low C=7.0|Sep record low C=4.9|Oct record low C=-0.4|Nov record low C=-7.3|Dec record low C=-13.0|year record low C=-19.6|Jan precipitation mm=18.9|Feb precipitation mm=14.6|Mar precipitation mm=37.4|Apr precipitation mm=53.9|May precipitation mm=82.9|Jun precipitation mm=93.6|Jul precipitation mm=107.7|Aug precipitation mm=116.3|Sep precipitation mm=130.6|Oct precipitation mm=103.3|Nov precipitation mm=75.2|Dec precipitation mm=49.2|year precipitation mm=889.1|unit precipitation days=1.0 mm|Jan precipitation days=5.6|Feb precipitation days=4.3|Mar precipitation days=6.5|Apr precipitation days=7.8|May precipitation days=9.7|Jun precipitation days=8.9|Jul precipitation days=9.8|Aug precipitation days=10.3|Sep precipitation days=10.1|Oct precipitation days=9.3|Nov precipitation days=9.6|Dec precipitation days=7.9|year precipitation days=99.7|Jan sun=150.2|Feb sun=169.9|Mar sun=202.2|Apr sun=190.2|May sun=169.0|Jun sun=134.3|Jul sun=116.8|Aug sun=129.0|Sep sun=153.2|Oct sun=168.9|Nov sun=145.9|Dec sun=145.0|year sun=1875.2|source 1=[https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php Japan Meteorological Agency ]|source 2=[[気象庁]]<ref>{{Cite web|和書|url=
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=18&block_no=1056&year=&month=&day=&view= |title=納沙布 過去の気象データ検索 |accessdate=2023-09-22 |publisher=気象庁}}</ref>}}{{Weather box|location=厚床(1991年 - 2020年)|single line=Y|metric first=Y|Jan record high C=7.6|Feb record high C=9.0|Mar record high C=16.2|Apr record high C=23.0|May record high C=34.2|Jun record high C=31.8|Jul record high C=33.3|Aug record high C=34.9|Sep record high C=30.2|Oct record high C=24.7|Nov record high C=20.0|Dec record high C=12.7|year record high C=34.9|Jan high C=-1.1|Feb high C=-1.0|Mar high C=2.6|Apr high C=8.3|May high C=13.3|Jun high C=16.3|Jul high C=20.0|Aug high C=21.9|Sep high C=20.0|Oct high C=15.1|Nov high C=8.6|Dec high C=1.7|year high C=10.5|Jan mean C=-6.0|Feb mean C=-5.8|Mar mean C=-1.7|Apr mean C=3.3|May mean C=7.9|Jun mean C=11.5|Jul mean C=15.4|Aug mean C=17.5|Sep mean C=15.4|Oct mean C=9.9|Nov mean C=3.6|Dec mean C=-3.1|year mean C=5.6|Jan low C=-11.8|Feb low C=-11.9|Mar low C=-6.7|Apr low C=-1.4|May low C=3.1|Jun low C=7.6|Jul low C=12.0|Aug low C=14.0|Sep low C=10.9|Oct low C=4.3|Nov low C=-2.0|Dec low C=-8.6|year low C=0.8|Jan record low C=-25.7|Feb record low C=-27.6|Mar record low C=-25.2|Apr record low C=-11.5|May record low C=-5.7|Jun record low C=-2.6|Jul record low C=1.8|Aug record low C=3.6|Sep record low C=-0.7|Oct record low C=-7.1|Nov record low C=-14.2|Dec record low C=-22.1|year record low C=-27.6|Jan precipitation mm=37.2|Feb precipitation mm=27.7|Mar precipitation mm=57.8|Apr precipitation mm=78.8|May precipitation mm=110.2|Jun precipitation mm=117.1|Jul precipitation mm=124.7|Aug precipitation mm=142.6|Sep precipitation mm=172.9|Oct precipitation mm=137.0|Nov precipitation mm=85.3|Dec precipitation mm=67.5|year precipitation mm=1158.8|unit precipitation days=1.0 mm|Jan precipitation days=6.9|Feb precipitation days=5.6|Mar precipitation days=8.2|Apr precipitation days=9.5|May precipitation days=10.7|Jun precipitation days=9.6|Jul precipitation days=10.3|Aug precipitation days=11.4|Sep precipitation days=11.3|Oct precipitation days=9.6|Nov precipitation days=9.4|Dec precipitation days=8.6|year precipitation days=111.1|Jan sun=164.0|Feb sun=163.5|Mar sun=180.9|Apr sun=163.2|May sun=158.4|Jun sun=127.3|Jul sun=108.3|Aug sun=117.7|Sep sun=142.0|Oct sun=162.4|Nov sun=149.3|Dec sun=154.7|year sun=1794.1|source 1=[https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php Japan Meteorological Agency ]|source 2=[[気象庁]]<ref>{{Cite web|和書|url=
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=18&block_no=1196&year=&month=&day=&view= |title=厚床 過去の気象データ検索 |accessdate=2023-09-22 |publisher=気象庁}}</ref>|Dec snow cm=65|Nov snow cm=8|Sep snow cm=0|Oct snow cm=0|Aug snow cm=0|Jul snow cm=0|Jun snow cm=0|May snow cm=3|Apr snow cm=28|Mar snow cm=76|Feb snow cm=77|Jan snow cm=85|year snow cm=344}}{{Weather box
|location = 根室(根室測候所・1961 - 1990年平均)
|metric first = Yes
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|Jan high C = -1.7
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|source 1 = 理科年表
|date=February 2013
}}
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|
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!'''平均気温の推移°C'''
|-
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|y1Title=平均気温°C|colors=#696969}}
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{| class="wikitable mw-collapsible mw-collapsed" style="width:40em; background-color:#fff"
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|-
!'''平均最高気温'''<ref group="注">以下の数値は資料不足値の為未記載「1917(9.9)」</ref>
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|
{{Graph:Chart|width=400|height=100|legend=凡例|type=line|x=
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|-
!'''各階級の日数'''<ref group="注">以下の数値は資料不足値の為未記載「1917(<0℃最低116,≧25℃(最低)0,<0℃最高42,≧25℃(最高)1,,≧30℃(最高)0,≧35℃(最高)0」</ref>
|-
|
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|-
!'''平均湿度の推移'''
|-
|
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|y1Title=平均湿度|colors=#66cdaa}}
|}
|-
| 出典:気象庁<ref name="kishou01">{{Cite web|和書|url=https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/annually_s.php?prec_no=18&block_no=47420&year=&month=&day=&view=a2 |title=過去の気象データ |publisher=[[気象庁]] |accessdate=2023-01-02}}</ref>
|}
=== 地域 ===
==== 住宅団地 ====
* 道営住宅花咲団地
* 道営住宅パークタウン明治
* 道営住宅であえ〜る明治
=== 人口 ===
{{人口統計|code=01223|name=根室市|image=Population distribution of Nemuro, Hokkaido, Japan.svg}}
'''消滅集落'''
2015年国勢調査によれば、以下の集落は調査時点で人口0人の[[消滅集落]]となっている<ref name="kokusei2015-01-a">{{Cite report |author=総務省統計局統計調査部国勢統計課 |authorlink=<!--http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka.htm--> |date=2017-01-27 |title=平成27年国勢調査小地域集計01北海道《年齢(5歳階級),男女別人口,総年齢及び平均年齢(外国人-特掲)-町丁・字等》 |url=https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files/data?fileid=000007841019&rcount=1 |publisher=総務省 |format=CSV |accessdate=2017-05-20 |quote= }}※条町区分地の一部に0人の地域がある場合でも他の同一区分地で人口がある場合は除いた。</ref>。
* 根室市 - 春国岱、弁天島、ユルリ島、モユルリ島、根室港、花咲港
== 歴史 ==
[[File:Nemuro city center area Aerial photograph.2019.jpg|300px|thumb|根室市中心部周辺の空中写真。2019年9月3日撮影の31枚を合成作成。<br />{{国土航空写真}}。]]
[[ファイル:東根室駅から南西方向を望む.jpg|thumb|300px|東根室駅のプラットホーム上から南西方向を撮影した画像(2019)]]
=== 有史来 ===
* [[寛政]]2年([[1790年]])に[[松前藩]]の[[場所請負制#運上屋|運上所]]がノッカマップ(現:根室市牧の内)から根室に移ったのが、集落の起源となった。根室は「子モロ」(子はネの[[変体仮名]])「根諸」などと書き、河口に流木が寄り集まる小川からとられたという。また、[[アイヌ語]]のニムオロ(木の繁るところ)からとられたという説もある。根室の前に運上所があったノッカマップは、前年の[[クナシリ・メナシの戦い]]の首謀者が処刑された場所であった。そのせいでアイヌに嫌われたノッカマップを避けたのが、移転の理由であったという。寛政11年([[1799年]])に東蝦夷地が[[天領]]になると、根室の運上所は根室会所と改められた。
* [[文政]]4年([[1821年]])には[[松前藩]]領に復した。
* [[安政]]2年([[1855年]])再び天領となった際、[[仙台藩]]が出張[[陣屋]]を築き警固を行った。
* [[明治]]2年([[1869年]])8月、[[北海道 (令制)|北海道11ヶ国86郡]]が制定され、今の根室市に相当する地域は[[根室国]]に含まれ[[花咲郡]]と[[根室郡]]が置かれた。
* 明治2年(1869年)10月に[[開拓使]]の根室出張所が置かれ、明治3年6月[[東京府]]に編入され同年10月19日付けで根室国3郡の東京府管轄を廃止する。明治4年([[1871年]])5月に根室出張開拓支庁と改称、明治5年([[1872年]])9月から根室支庁と改称した。これら官庁は東北海道の行政を統括する役目を持っていた。[[1882年]](明治15年)から[[1886年]](明治19年)までは、根室県の県庁所在地であった。[[1886年]](明治19年)1月に北海道庁が設置されると、根室県は廃止され、12月まで一時的に根室支庁が置かれた。[[1897年]](明治30年)に、今までのものよりずっと狭い根室支庁が置かれると、その所在地となって今日に至る。
* 明治初めの根室は北海道東部最大の町であった。周辺の海域で働く漁業労働者の一時的な滞在地で、人口の季節変動が大きかった。[[1877年]](明治10年)に[[漁場持制]]が廃止され、少数商人の支配がなくなると、根室に永住する人も増え、商店が並ぶようになった。
[[ファイル:Nemuro after the 1945 air raid.JPG|thumb|[[1945年]]([[昭和]]20年)、北海道空襲直後の根室市]]
* 戦前戦後は国内有数の水産都市として発展した。[[太平洋戦争]]末期の1945年(昭和20年)には[[アメリカ軍]]による軍事攻撃があり、同年[[7月14日]]の[[北海道空襲]]の際には死者369人を出した。根室市内の大半が焼失し壊滅的被害を受けたが戦後になり復興した。[[1957年]](昭和32年)に[[根室郡]][[和田村 (北海道)|和田村]]と合併し市制を施行、[[1959年]](昭和34年)に[[花咲郡]][[歯舞村]]を編入合併した。
=== 年表(明治以後) ===
* 明治2年([[1869年]])9月、開拓使の松本判官が属僚とともに移住民130人を率いて来住し、開拓使役所を根室に置く。和田地区が根室開拓使役所の管轄となる。
* [[1880年]](明治13年) - [[戸長役場]]が置かれる。
* [[1892年]](明治25年) - [[清隆寺]]開く。
* [[1931年]] (昭和6年)[[8月24日]] - [[チャールズ・リンドバーグ|リンドバーグ]]夫妻が北太平洋を飛行機で横断し根室に到着した。
* [[1957年]](昭和32年)[[8月1日]] - 根室郡[[根室町]]・[[和田村 (北海道)|和田村]]が[[日本の市町村の廃置分合#新設合併|新設合併]]し、'''根室市'''が発足。
* [[1959年]](昭和34年)[[4月1日]] - [[花咲郡]][[歯舞村]]を[[日本の市町村の廃置分合#編入|編入]]する。
* [[1968年]](昭和43年) - 開基100年記念事業を実施する。
== 政治 ==
=== 行政 ===
[[ファイル:北海道 根室支庁 (15864832449).jpg|thumb|250px|北海道根室支庁(現:根室振興局)]]
* 市長:[[石垣雅敏]](2018年9月29日就任、1期目)
====歴代首長====
戸長から町長までは特記なき場合『根室・千島歴史人名事典』による{{sfn|根室・千島歴史人名事典編集委員会|2002|loc=366-367頁|ref=nemuro-chishima}}。
{| class="wikitable"
!代!!氏名!!就任!!退任!!備考
|-
! colspan="5" | 根室戸長
|-
|1||蛯子源之助||1872年6月3日(明治5年4月28日)||||
|-
|2||三浦嘉蔵||1875年(明治8年)||||
|-
|3||不詳||||||
|-
! colspan="5" | 根室町長(官選)
|-
|||山本里介||1900年(明治33年)7月1日||1900年(明治33年)7月||事務取扱
|-
|||安達健三郎||1900年(明治33年)7月||1900年(明治33年)10月10日||事務取扱
|-
|1||山本里介||1900年(明治33年)10月10日||1903年(明治36年)11月4日||
|-
|2||深尾龍三||1903年(明治36年)11月26日||1907年(明治40年)2月24日||
|-
|3||小野戒三||1907年(明治40年)10月31日||1911年(明治44年)10月30日||
|-
|4||坂牛祐直||1912年(明治45年)5月18日||1921年(大正10年)10月20日||
|-
|5||本橋貞七||1922年(大正11年)2月6日||1930年(昭和5年)2月5日||
|-
|6||安藤石典||1930年(昭和5年)8月1日||1936年(昭和11年)7月25日||
|-
|7||松尾豊次||1936年(昭和11年)9月7日||1940年(昭和15年)9月6日||
|-
|8||林利博||1940年(昭和15年)10月27日||1943年(昭和18年)3月19日||
|-
|9||安藤石典||1943年(昭和18年)6月12日||1946年(昭和21年)11月7日||
|-
! colspan="5" | 根室町長(公選)
|-
|10||岸田利雄||1947年(昭和22年)4月7日||1951年(昭和26年)4月24日||
|-
|11||富樫正神||1951年(昭和26年)5月8日||1957年(昭和32年)7月31日||
|-
! colspan="5" | 根室市長(公選)
|-
| 初代 || 西村久雄 || 1957年9月16日 || 1964年9月5日
|-
| 2代 || [[横田俊夫]] || 1964年10月4日 || 1974年9月1日
|-
| 3代 || 寺嶋伊弉雄 || 1974年9月30日 || 1986年9月28日
|-
| 4代 || 大矢快治 || 1986年9月29日 || 1998年9月28日
|-
| 5代 || [[藤原弘]] || 1998年9月29日 || 2006年9月28日
|-
| 6代 || [[長谷川俊輔 (政治家)|長谷川俊輔]] || 2006年9月29日 || 2018年9月28日
|-
| 7代 || [[石垣雅敏]] || 2018年9月29日 || 現職
|}
*北方領土の事務について
: [[1983年]](昭和58年)[[4月1日]]に施行された「[[北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律]]([[昭和57年]]法律第85号)」により、[[北方地域|北方領土]]に関する戸籍事務等を根室市が管掌している。これは、同法第11条の「指名した者」が根室市長とされている為である(北方領土問題等の解決の促進のための特別措置に関する法律に基づく告示(昭和58年3月1日法務省告示第63号、昭和58年4月1日法務省・自治省告示第1号))。その期間は、北方領土が返還された日の属する年度の[[3月31日]]までとなっている<ref>{{Cite web|和書|date= |url= https://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/kankei.html|title= 内閣府北方対策本部関係法令等|format= |accessdate= 2021-05-22}}</ref>。
=== 議会 ===
==== 市議会 ====
{{main|根室市議会}}
'''市議会'''
* 定数:18人(次回任期より16<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/kakuka/gikai/nemuroshigi/shigikaitoha/3534.html|title=市議会について|accessdate=2021年8月30日|publisher=根室市}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://go2senkyo.com/local/senkyo/20963|title=根室市議会議員選挙|accessdate=2021年8月30日|publisher=選挙ドットコム}}</ref>)
* 任期満了日:[[2021年]](令和3年)[[9月14日]]
== 国家機関 ==
=== 厚生労働省 ===
* [[北海道労働局]]根室公共職業安定所(ハローワーク根室)
* 小樽検疫所花咲出張所
=== 国土交通省 ===
* [[北海道開発局]]釧路開発建設部根室港湾事務所、根室道路事務所
* [[海上保安庁]][[第一管区海上保安本部]]根室海上保安部
=== 財務省 ===
* [[函館税関]]根室税関支署
* [[国税庁]][[札幌国税局]]根室税務署
=== 農林水産省 ===
* [[林野庁]][[北海道森林管理局]]根釧東部森林管理署落石森林事務所、厚床森林事務所
=== 防衛省 ===
* [[自衛隊]]帯広地方協力本部根室地域事務所
* [[航空自衛隊]][[根室分屯基地]](第26警戒隊)
=== 法務省 ===
* 釧路地方法務局根室支局
* [[出入国在留管理庁]][[札幌出入国在留管理局]]釧路港出張所根室分室
* [[釧路地方検察庁]]根室支部、[[根室区検察庁]]
=== 裁判所 ===
* [[釧路地方裁判所]]根室支部
* [[釧路家庭裁判所]]根室支部
* [[根室簡易裁判所]]
== 施設 ==
=== 警察 ===
'''警察署'''
* [[根室警察署|北海道釧路方面根室警察署]]
'''交番'''
* 駅前交番(根室市光和2-7)
* 桜橋交番(根室市弥生2-4)
* 明治交番(根室市明治2-16-2)
'''駐在所'''
* 厚床駐在所(根室市厚床1-36)
* 落石駐在所(根室市落石東392)
* 納沙布駐在所(根室市納沙布33)
* 花咲駐在所(根室市花咲港164-3)
* 歯舞駐在所(根室市歯舞4-40-1)
=== 消防 ===
'''本部'''
* [[根室市消防本部]]
'''消防署'''
* 根室市消防署
'''分遣署'''
* 花咲港(花咲港366-5)
* 厚床(厚床1-37、38)
* 歯舞(歯舞4-40)
=== 医療 ===
'''主な病院'''
* 公立病院
** [[市立根室病院]]
=== 郵便局 ===
'''主な郵便局'''
* [[根室郵便局]](本町)(集配局)
* 厚床郵便局(厚床)(集配局)
* 歯舞郵便局(歯舞)
* 落石郵便局(落石東)
* 根室西浜郵便局(西浜町)
* 根室大正郵便局(大正町)
* [[珸瑤瑁郵便局|珸瑤瑁(ごようまい)郵便局]](珸瑤瑁) - '''日本最東端の郵便局'''
* 根室港郵便局(千島町)
* 根室有磯郵便局(有磯町)
* 根室平内郵便局(平内町)
* 花咲郵便局(花咲港)
* 根室曙簡易郵便局(曙町)
* 光洋簡易郵便局(光洋町)
* 和田簡易郵便局(西和田)
* 温根沼(おんねとう)簡易郵便局(温根沼)
== 対外関係 ==
=== 姉妹都市・姉妹都市 ===
==== 海外 ====
'''姉妹都市'''
* {{Flagicon|USA}} [[シトカ|シトカ市]]([[アメリカ合衆国]] [[アラスカ州]])
** [[1975年]]([[昭和]]50年)[[12月19日]] [[姉妹都市]]提携。
* {{Flagicon|RUS}} [[セベロクリリスク|セベロクリリスク市]]([[ロシア連邦]] [[サハリン州]])
** [[1994年]]([[平成]]6年)[[1月27日]] 姉妹都市提携。
==== 国内 ====
'''姉妹都市'''
* {{Flagicon|富山県}} [[黒部市]]([[中部地方]] [[富山県]])
** [[1976年]](昭和51年)[[10月19日]] 姉妹都市提携。
== 経済 ==
[[ファイル:Daichi mirai shinkin.JPG|thumb|200px|大地みらい信用金庫本店]]
=== 第一次産業 ===
'''農業'''
主に[[酪農]]。厚床地区に多い。
'''水産業'''
'''農協・漁協'''
* [[道東あさひ農業協同組合]](JA道東あさひ)根室支所
* 根室漁業協同組合
* 落石漁業協同組合
* 根室湾中部漁業協同組合
* 歯舞漁業協同組合
* [[北海道農業共済組合]](NOSAI北海道)根室家畜診療所
=== 第二次産業 ===
'''拠点を置く主な企業'''
* [[明治 (企業)|明治]]<ref>2020年6月閉鎖。西春別工場(別海町)に集約。</ref>根室工場
* [[碓氷勝三郎商店]]
* [[花咲風力発電所]]([[クリーンエナジーファクトリー]])
=== 第三次産業 ===
'''物流'''
* [[ヤマト運輸]]:道東主管支店
** 根室東センター・根室西センター(両センターは同一建物内に所在し、電話番号も共通となっており、市内の担当エリアを二分している)
* [[佐川急便]]:根室営業所(発送する荷物の持ち込みや営業所での荷物受け取りが可能だが、集荷受付などの電話対応は中標津営業所が行う)
'''商業施設'''
* [[イオン北海道]]([[イオングループ]])
** [[イオン根室店]]
=== 金融機関 ===
*[[大地みらい信用金庫]] 本店 あけぼの支店 駅前支店 歯舞支店
*[[北洋銀行]] 根室支店
*[[北海道銀行]] 根室支店
※[[釧路信用組合]]は根室市を営業エリアに含めているものの、支店は[[2022年]][[3月]](令和4年)現在でも未進出。
== 教育 ==
[[ファイル:Nemuro HighSchool.JPG|thumb|200px|北海道根室高等学校]]
=== 高等学校 ===
'''道立'''
* [[北海道根室高等学校]]
* [[北海道根室西高等学校]](2019年3月閉校)
=== 義務教育学校 ===
'''市立'''
* [[根室市立歯舞学園]]([[2013年]][[4月]]に共和小・華岬小・[[根室市立珸瑤瑁小学校|珸瑤瑁小]]・温根元小・歯舞中の五校が統合)<ref>[http://www.city.nemuro.hokkaido.jp/dcitynd.nsf/image/25dae48719786549492570c7000cc32e/$FILE/jyunbi1.pdf はぼまい(歯舞地区小学校統合・小中併置校開校準備委員会総務部会)]</ref>、2020年に義務教育学校化。
=== 中学校 ===
'''市立'''
* 根室市立光洋中学校
* 根室市立柏陵中学校
* 根室市立落石中学校
* 根室市立啓雲中学校
=== 小学校 ===
'''市立'''
* 根室市立北斗小学校
* [[根室市立花咲小学校]]
* [[根室市立花咲港小学校]]
* 根室市立落石小学校
* 根室市立成央小学校
=== 小中学校 ===
* [[根室市立海星小中学校]](和田小・幌茂尻小・和田中の三校が統合)
* 根室市立厚床小中学校
== 情報・通信 ==
[[ファイル:Nemuro Shinbunsha.jpg|thumb|200px|根室新聞]]
=== マスメディア ===
==== 新聞・通信 ====
* [[根室新聞]]
* [[釧路新聞|釧路新聞社]]根室支社
* [[北海道新聞社]]根室支局
==== 放送局 ====
'''テレビ'''
* [[NHK釧路放送局]]根室支局
'''ラジオ放送局'''
* [[ねむろ市民ラジオ]](FMねむろ)
==== 中継局 ====
* [[根室中継局]]
== 交通 ==
[[ファイル:JR Nemuro-Main-Line Nemuro Station building.jpg|thumb|250px|根室駅]]
=== 空港 ===
市内に空港は存在しない。[[中標津町]]にある[[中標津空港]]が最寄りである。なお、就航する航空会社や空港ターミナルビル運営会社では「根室中標津空港」の名称を用いている。
=== 鉄道 ===
'''[[北海道旅客鉄道]]([[北海道旅客鉄道釧路支社|JR北海道釧路支社]])'''
* [[根室本線]](花咲線):[[厚床駅]] - [[別当賀駅]] - [[落石駅]] - [[昆布盛駅]] - [[西和田駅]] - [[東根室駅]] - [[根室駅]]
** かつては[[花咲駅]](2016年3月26日まで、西和田駅 - 東根室駅間)、[[初田牛駅]](2019年3月16日まで、厚床駅 - 別当賀駅間)が存在したが、いずれもダイヤ改正にあわせ廃止された<ref>{{Cite press release|和書|url=https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2015/151218-2.pdf|title=平成28年3月ダイヤ改正について|format=PDF|publisher=北海道旅客鉄道|date=2015-12-18|accessdate=2021-01-06|archiveurl=https://web.archive.org/web/20151219125248/https://www.jrhokkaido.co.jp/press/2015/151218-2.pdf|archivedate=2015-12-19}}</ref><ref>{{Cite press release|和書|url=https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20181214_KO_H31Kaisei.pdf|title=2019年3月ダイヤ改正について|format=PDF|publisher=北海道旅客鉄道|date=2018-12-14|accessdate=2021-01-06|archiveurl=https://web.archive.org/web/20181214160232/https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20181214_KO_H31Kaisei.pdf|archivedate=2018-12-14}}</ref>。
==== 廃止された鉄道路線 ====
'''[[北海道旅客鉄道]]([[北海道旅客鉄道釧路支社|JR北海道釧路支社]])'''
* [[標津線]]([[1989年]](平成元年)廃止)。
'''[[根室拓殖鉄道]]'''
* [[1959年]](昭和34年)廃止。廃止されるまでの間、日本最東端の鉄道であった。
=== バス ===
* [[根室交通]] - 市内一般路線を運行するほか、以下の都市間バスを他社と共同運行する<ref>[https://www.nemurokotsu.com/intercity-bus/ 都市間バス] - 根室交通</ref>。
{| class="wikitable" style="font-size:90%; clear:both"
!愛称名
!運行会社
!運行区間
!昼/夜行
|-
|オーロラ号
|[[根室交通]]<br />[[北都交通 (北海道)|北都交通]]
|[[札幌市]]([[バスセンター前駅#大通バスセンター|大通BC]]ほか) - '''根室市(厚床駅前・根室駅前BT)'''
|夜行
|-
|(愛称名なし)
|根室交通<br />[[くしろバス]]
|[[釧路市]](くしろバス本社・[[釧路駅]]前・[[イオン釧路店]]ほか) - '''根室市(厚床駅前・[[道の駅スワン44ねむろ]]・[[温根沼]]・根室市街地・根室駅前BTほか)'''
|昼行
|}
=== タクシー ===
* 中央ハイヤー
* 根室ハイヤー
* ホクトタクシー
=== 道路 ===
[[ファイル:Road traffic sign with Russian, Nemuro, Hokkaido, Japan.jpg|thumb|200px|ロシア語が併記された道路標識]]
==== 高速道路 ====
* [[根室道路]]([[2020年]]([[令和]]2年)[[3月22日]]開通)
==== 国道 ====
* [[国道44号]](根釧道路)
* [[国道243号]]
==== 道道 ====
* [[北海道道8号根室中標津線]]
* [[北海道道35号根室半島線]]
* [[北海道道142号根室浜中釧路線]]
* [[北海道道310号花咲港線]]
* [[北海道道312号根室停車場線]]
* [[北海道道313号根室港線]]
* [[北海道道780号花咲港温根沼線]]
* [[北海道道953号別当賀酪陽線]]
* [[北海道道988号貰人姉別原野線]]
* [[北海道道989号豊里歯舞線]]
* [[北海道道1064号友知牧之内線]]
* [[北海道道1123号落石港線]]
* [[北海道道1127号初田牛厚床線]]
==== 道の駅 ====
* [[道の駅スワン44ねむろ|スワン44ねむろ]]
==== その他 ====
* [[イギリスの通行権|フットパス]]
** [[根室フットパス]]
=== 港湾 ===
* [[根室港]]([[重要港湾]])
== 観光 ==
[[ファイル:Nemurohanto chashiatogun onnemotochashi.jpg|thumb|200px|根室半島チャシ跡群]]
[[ファイル:Sunset at Shunkunitai.jpg|thumb|200px|夕刻の春国岱]]
=== 文化財 ===
==== 登録有形文化財 ====
* 根室市明治公園第一サイロ
* 根室市明治公園第二サイロ
* 根室市明治公園第三サイロ
==== 史跡 ====
* [[西月ヶ岡遺跡]]
* [[根室半島チャシ跡群]]
==== 天然記念物 ====
* [[根室車石]]
* 落石岬のサカイツツジ自生地
==== その他 ====
* 和田屯田兵村の被服庫 - 北海道指定有形文化財、和田屯田記念館
* 初田牛20遺跡出土の土偶及び墓坑出土遺物 - 北海道指定有形文化財、根室市歴史と自然の資料館
* ユルリ・モユルリ島海鳥繁殖地 - 北海道指定天然記念物
==== 根室市指定文化財 ====
* 俄羅斯舩之圖及びワシレイラフロウ之圖、穂香竪穴群出土の動物意匠付土器など有形文化財4件
* アイヌ生活用具 - 根室市歴史と自然の資料館蔵
* 珸瑤瑁獅子神楽 - 珸瑶瑁獅子神楽保存会
* [[クナシリ・メナシの戦い|寛政の蜂起]]和人殉難墓碑 - 納沙布岬
* 和田屯田兵碑
* ミズナラの風衝林
=== 観光スポット ===
* 白鳥飛来で知られる[[風蓮湖]]、[[春国岱]]。
* 最東端の[[納沙布岬]]。
* 北海道三大秘岬の一つである[[落石岬]]。
* 護国山[[清隆寺]](境内の[[チシマザクラ]]。[[北海道三十三観音霊場]]22番札所)
== 文化・名物 ==
=== 祭事・催事 ===
納沙布岬初日詣(1月)、ニムオロ冬の祭典(2月)、[http://www.ochiishi.or.jp/index.html おちいし・味祭り](6月)、港まつり(7月)、[[金刀比羅神社 (根室市)|金刀比羅神社]]例大祭(8月)、かに祭り(9月)、さんま祭り(9月)
=== 名物 ===
[[ファイル:Escalope2.jpg|thumb|200px|エスカロップ]]
* [[根室さんまロール寿司]]
* [[花咲がにラーメン]]
* [[エスカロップ]]
* [[スタミナライス]]
* オリエンタルライス
* ビドックライス
=== 特産品 ===
* [[ハナサキガニ]]
* [[サンマ]]等水産物
* 水産加工品
* [[エスカロップ]]
* [[碓氷勝三郎商店|北の勝]]([[日本酒]])
* [[オランダせんべい (粉菓)|オランダせんべい]]
== 出身・関連著名人 ==
* [[アンチエイジ徳泉]]([[ものまね芸人]])
* [[飯田三郎]]([[作曲家]])
* [[石橋美希]]([[岩手めんこいテレビ]]アナウンサー)
* [[遠藤淑子]]([[漫画家]])
* [[太田捺]]([[近代五種競技]]選手)
* [[金子哲俊]]([[北海道テレビ放送]]元アナウンサー、現同局社員)
* [[神田たけ志]]([[漫画家]])
* [[木幡陽]]([[東京大学]][[名誉教授]]・[[生化学]])
* [[サイクロンZ (お笑い)|サイクロンZ]]([[お笑い芸人]])
* [[富山睦浩]]([[サツドラホールディングス]]創業者・会長)
* [[三遊亭金八]]([[落語家]])
* [[川村八郎]]([[実業家]] [[マックス (機械メーカー)|マックス]]社長)
* [[柴田平美]]([[北海道文化放送]]アナウンサー)
<!--* [[椎谷宏一]](パティシエ)--><!--記事未作成-->
* [[すまけい]]([[俳優]])
* [[貴ノ山英二]](元[[大相撲]][[力士]]・[[二子山部屋]]所属)
* [[中鉢悟]](春日亮二)(事業家・システムオペレータ)
* [[七星 (女子プロレスラー)|七星]](プロレスラー・[[プロレスリング・SECRET BASE]])
* [[西岡りき]]([[イラストレーター]])
* [[日野まり]]([[声優]])
* [[福島聡司]]([[映画プロデューサー]])
* [[松井雄吉]]([[実業家]] 松井ビル社長)
* [[宮尾俊太郎]]([[バレエダンサー]]、[[俳優]])
* [[桃野陽介]]([[モノブライト]] ボーカル・ギター)
* [[山縣勇三郎]](炭鉱王)
* [[柳瀬尚紀]]([[英文学者]]・[[翻訳家]])
* [[柳田藤吉]](実業家・貴族院議員)
* [[乱橋幸仁]](元[[プロ野球選手]])
* [[ロブバード]]ロックグループ([[1980年]]にカップヌードルのCMイメージソング「ボーンフリー・スピリット」がヒット)
* [[若天狼啓介]](元[[大相撲]][[力士]]・[[間垣部屋]]所属)
=== ゆかりのある人物 ===
* [[大坂なおみ]](大阪府):プロテニス選手。母親が根室市出身で、母方の祖父は根室漁協組合長<ref>[https://mainichi.jp/articles/20180330/ddl/k01/050/042000c 大坂なおみ選手の祖父で根室漁協組合長・鉄夫さん、ツアー優勝「強くなったね」 /北海道] (毎日新聞 2018年3月30日)</ref>。
== 根室市を舞台とした作品 ==
=== 映画 ===
* [[ゴジラ2000 ミレニアム]]
=== ドラマ ===
* [[北の国から]] - [[フジテレビジョン|フジテレビ]]制作。'95秘密([[1995年]](平成7年)[[6月]]放送)と、'98時代([[1998年]](平成10年)[[7月]]放送)で、市内落石地区の診療所にヒロインが勤務するという設定で登場。
* [[大地の子]] - [[日本放送協会|NHK]]制作。1995年放送。第一部「父二人」に登場する敗戦時の旧[[満州]]のシーンは、市内の森林地帯で撮影が行われた。
* [[南極大陸 (テレビドラマ)|南極大陸]] - [[TBSテレビ|TBS]]制作。2011年放送。『TBS開局60周年記念[[日曜劇場]]』と銘打たれたこのドラマは、[[南極大陸]]のシーンのほぼ全編を根室市内で収録した。
=== 小説 ===
* [[馳星周]]「雪月夜」(2000年10月)
=== 漫画 ===
* 1974年から[[週刊少年サンデー]]に連載された「[[男組]]」(原作・[[雁屋哲]]、作画・[[池上遼一]])に、[[軍艦島]]という根室沖に実在しない島が舞台のエピソードが掲載されている。
== 注釈 ==
{{Reflist|group="注"}}
== 出典 ==
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Citation|和書|author = 根室・千島歴史人名事典編集委員会 編|authorlink = |translator = |title = 根室・千島歴史人名事典|publisher = 根室・千島歴史人名事典刊行会|series = |volume = |edition = |date = 2002|pages = |url = |doi = |id = |isbn = |ncid = |ref = nemuro-chishima}}
== 関連項目 ==
* [[槍昔]]
* [[奥山かずお]]
== 外部リンク ==
{{Commonscat}}
; 行政
:* {{Official website|name=根室市公式サイト/朝日にいちばん近い街}} 公式ウェブサイト
; 観光
:* [https://www.nemuro-kankou.com 朝日にいちばん近い街 - 根室市観光協会]
:* {{Googlemap|根室市}}
{{北海道の市と郡}}
{{根室支庁の自治体}}
{{北方領土における日本側の行政区分}}
{{根室市の町・字}}
{{典拠管理}}
{{デフォルトソート:ねむろし}}
[[Category:根室市|*]]
[[Category:北海道の市町村]]
[[Category:根室管内]]
[[Category:日本の港町]]
[[Category:1957年設置の日本の市町村]] | 2003-04-28T06:28:43Z | 2023-12-27T13:36:58Z | false | false | false | [
"Template:人口統計",
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"Template:日本の市"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B9%E5%AE%A4%E5%B8%82 |
7,394 | プロテスタント |
プロテスタント(英: Protestant)は、宗教改革運動を始めとして、カトリック教会(または西方教会)から分離し、特に広義の福音主義を理念とするキリスト教諸教派を指す。日本ではカトリック教会(旧教)に対し、「新教」(しんきょう)ともいう。この諸教派はナザレのイエスをキリスト(救い主)として信じる宗教である。イエス・キリストが、神の国の福音を説き、罪ある人間を救済するために自ら十字架にかけられ、復活したものと信じる。「父なる神」と「その子キリスト」と「聖霊」を唯一の神(三位一体・至聖三者)として信仰する。
ローマ・カトリック教会や正教会のような全世界的な単一組織は存在せず、聖書解釈の多様さを尊重することから数多の教派が存在し、ニカイア信条のギリシャ語原文から逸脱しない諸教派が一般的に「プロテスタント諸派」と呼ばれる。主な教派として、ルーテル教会、改革派教会、聖公会、バプテスト教会、メソジスト教会、セブンスデー・アドベンチスト教会、ホーリネス教会、ペンテコステ教会などがある。
プロテスタントという総称は、その担い手達がカトリック教会に抗議(羅: prōtestārī、プローテスターリー)したことに由来する。「プロテスタント」は該当する諸教派の総称であって、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織は存在しない。中世における諸教派の形成時、国教化されたカトリック教会は宗教の自由を認めなかったため、教皇中心主義に抗議し内部分裂したプロテスタント諸教派に対しても、異端としての対応を取ることとなった。そのため、多くの教派は、カトリック教会の対応に対して抗争や戦争の手段を用いて、新たな体制的教会を構築した。 また、新たな正統の基準を確立したプロテスタント諸教会は、その公的な信仰の基準に反するものを異端視した。
教義の中心である使徒信条は、母体となったカトリック教会とほぼ同じに設定されている。それに加えて独自の原則として三大原理も設定されている。 異教や異端であるかどうかの判別の基準としては、聖書全体を神よりの霊感を受けて書かれた神の言葉として受け止めることを前提として、三位一体の教義が確立していること、イエスの復活信仰が確立していること、ナザレのイエスの死を通しての贖罪信仰が確立していること、主イエスが旧約のキリストであるとの信仰が確立していること等が規定されている。
1517年以降、マルティン・ルターらによりカトリック教会の改革を求める宗教改革運動が起こされた。
1524年、ドイツ農民の不満を背景に、急進派トマス・ミュンツァー率いる武装農民が蜂起し、これに対してルター派の諸侯らが激しく衝突、多くの犠牲が生じたいわゆるドイツ農民戦争が勃発した。1529年にルター派の諸侯や都市が神聖ローマ帝国皇帝カール5世に対して宗教改革を求める「抗議書(Protestatio, プロテスタティオ)」を送った。そのためこの派は「抗議者(プロテスタント)」と呼ばれるようになった。
ルターらは洗礼と聖餐以外の教会の諸秘跡を排し、聖書に立ち返る福音主義を唱え始め、また西方教会では、それまでほとんどラテン語でのみ行われていた典礼や聖書をドイツ語化するなど、著しい改革を行った。このため次第にルター派は北ドイツからドイツ全体へ広まり、その信者は増加していった。ルターは信仰義認という教理を提唱した者としてよく知られている。ルター派の特に信仰義認は、カトリック教会のトリエント公会議などにより排斥された。その結果として別個の教派を築くこととなった。
宗教抗争は政治権力抗争とも絡み、ドイツ地域の内乱状態は30年間続いた。内乱終結のアウクスブルクの和議(1555年)により、プロテスタントもカトリック教会と同様に信教の自由の地位を保証されることとなる。ルター派は北方に広まり、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーで国教となった。
当時の欧州大陸はスペイン領であったネーデルラント17州のアントワープが経済・貿易の中心地となっていたが、1566年にはフランドル( 現在のベネルクス3国及びフランス北部)でもプロテスタントの宗教改革が始まり、ネーデルラントのスペイン・ハプスブルク家からの独立を求める八十年戦争及びこれに伴う三十年戦争が戦われた。
スイスの宗教改革運動は、ドイツ改革とほぼ同時期に起こっていた。カトリック司祭のフルドリッヒ・ツヴィングリは「聖書のみ」、「信仰のみ」という教理を展開し、彼の弟子たちから幼児洗礼を否定し再洗礼を認めるアナバプテスト派が生じ、後に改革派教会からも排斥されることになる(ウェストミンスター教会会議)。また、ツヴィングリは、聖餐論においてルター派と対立することになる。
内乱状態の後を受けて、ジャン・カルヴァンが登場し、彼はツヴィングリを受け継いでスイスにおける宗教改革の指導者となる。カルヴァンは新しい教会の組織制度として長老制を提唱した。大陸におけるカルヴァン派の教会が改革派教会と呼ばれ、ジョン・ノックスのスコットランドを経由した英国系のカルヴァン派の教会が長老派教会(その後アメリカへと進出)と呼ばれる。カルヴァンは二重予定説を提唱し、カルヴァン派で受け継がれ、カルヴァン主義とも呼ばれる。予定説も、ルター派と同じくトリエント公会議で排斥の対象となる。カルヴァン派は、混乱から社会を救うため、宗教と政治、教会と国家を明確に機能区分することを提唱する。また一般市民の信仰生活に対して、世俗職業を天職(神の召命)とみなして励むこと、生活は質素で禁欲的であること等を説き、これが勃興期の資本主義の精神と適合したといわれる。カルヴァン主義は、西方のフランス・オランダ・イギリス・アメリカへ広がった。後に、オランダ改革派から、このカルヴァン主義からの思想が非聖書的であると唱え、カルヴァン主義の予定説に反対し、ヤーコブス・アルミニウスとその後継者によってレモンストラント派(アルミニウス派)が現れる。1610年、改革派はドルト会議にて、アルミニウス派を異端として排斥する。このアルミニウス派の思想は、後にメノナイト派、ジェネラル・バプテスト派(普遍救済主義のバプテスト)、メソジストのウェスレー派などに継承されることになる。なお現在、各教団の神学の基本思想としてカルヴァンかアルミニウスかの2極に分かれる傾向がある。
16世紀末頃、英国国教会の内部において、ピューリタンと呼ばれる改革派教会の方向へ改革を求める人々が現れた。イングランドのカルヴァン主義は、ジョン・ノックスのスコットランドの影響を受けていたが、更にこの改革運動を急進的にし、国教会から非合法に教会を建てようとする者らが現れた。彼らは分離派と呼ばれる。ピューリタンおよび分離派は、国教会の特に監督制に反対し会衆制を主張した。分離派は、国教会から分離せずに内部から教会改革を志すピューリタンに対しても、偽りの教会に属するとして相互聖餐を拒否していた。英国の分離派の思想は、ロバート・ブラウン に始まったとされる。これがやがて、ジェネラル・バプテスト派の母教会の牧師ジョン・スマイス(John Smyth) に受け継がれる。スマイスはジェネラル・バプテスト派の創始者トマス・ヘルウィス (Thomas Helwys) に恩師として影響を与えた。ただし、当時ウォーターランド派メノナイトとの合併を考えていたスマイスが、ヘルウィスに対して具体的にどれだけの影響を与えたかは、教理史的議論の決着がなされていない。またパテキュラー・バプテスト派は、元英国国教会司祭であったヘンリー・ジェイコブ牧師により発足した非分離派会衆主義教会から、より分離派的教会を求めて離脱した者ら数十名が、再洗礼を行って教会を新設したことにはじまったとされる。
17世紀は大航海時代の終盤であったが、オランダの商人は1609年に北アメリカを発見して植民地を造営しはじめ、同年に江戸とも交易を始めた。江戸においては政治的事情により布教は行われずに蘭学が広められることとなったが、英蘭戦争も生じる中でイギリスやオランダはアジア圏のゴアやマカオ、香港やバタヴィアや香料諸島において、それまで支配的だったスペインやポルトガルなどカトリックの勢力を排するに至った。
18世紀、英国のオックスフォード大学内でジョン・ウェスレー、ジョージ・ホウィットフィールドが指導するグループから始まった運動が、英国全土にメソジストという名で広がるようになった。そして、この運動はアメリカに渡り第一次大覚醒に至ったが、独立戦争が始まる際に一部英国に帰国することとなった。1784年アメリカに残ったメソジスト宣教師らを監督教会として認める25箇条のメソジスト憲章が定められる。1845年、米国のパティキュラー・バプテスト派は、奴隷問題と国外伝道政策に関する見解の相違で北部バプテスト同盟(現在の米国バプテスト同盟)と南部バプテスト連盟とに分裂する。この頃、米国メソジスト教会にも同様の分裂が起こるが、やがて分裂は終結する。19世紀後期のアメリカのメソジスト系統からホーリネス派が起こり、これを基盤にペンテコステ派が起こる。さらにペンテコステ派によるペンテコステ運動は他教派におよび、聖霊派として知られている。また、カリスマ派はペンテコステ派から起こるが、WCCに加盟したことにより、エキュメニズムに反対するペンテコステ派から排斥される。
同じく18世紀、アメリカで再臨待望運動が起こり、この運動に参加する信徒は再臨派(アドベンティスト派)と呼ばれた。
19世紀に入り再臨運動がさらに活発化すると幾つもの再臨派系教派がここから分裂、組織化した。その中でもエレン・ホワイトらが活発に活動し、日曜ではなく、イエスが当時守っていた日が土曜日であった事実と、旧約律法通りでもある土曜を礼拝日とするSDA(セブンスデー・アドベンチスト教会)が出現した。この教会は、プロテスタントに分類されるとする見解とキリスト教系の新宗教に分類される見解との両方が存在する。
フリードリヒ・シュライエルマッハーから始まる近代神学、自由主義神学、聖書高等批評学のプロテスタント教会への浸透に対抗して、英国の福音主義同盟は1846年、9カ条からなる福音主義信仰の基準を告白した。また20世紀初頭に英米においてキリスト教根本主義運動が起こった。20世紀半ばの1948年に自由主義プロテスタントとローマ・カトリックを中心としたエキュメニカル運動の組織世界教会協議会が成立したが、それに対して福音主義同盟を創立会員として1951年に世界福音同盟が結成された。第二次大戦後に台頭した福音派はエキュメニカル運動に対し、1974年、ローザンヌ世界伝道会議を開催し、ローザンヌ誓約が発表された。また福音派は新福音主義とも呼ばれ、福音伝道と宗教改革の福音主義を強調する。福音派は個人の伝道活動の実践、ビリー・グラハムの大規模な伝道活動などにより教勢を拡大し、学的にもウェストミンスター神学校、フラー神学大学、ホィートン・カレッジ、クリスチャニティ・トゥディなどにより大きな影響力を与えるようになった。
2013年現在、世界に約23億人のキリスト教の信者がいてプロテスタント諸派の信者は約5億人。
イングルハート・ウェルゼル文化地図でプロテスタントヨーロッパに分類される北欧諸国(スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド)、オランダ、ドイツ、スイスは、歴史、文化、社会の面で多くの共通点を持っている。個人の自由、個人主義、民主主義、世俗的で合理的な社会秩序を重視することが特徴で、伝統、宗教、国家への忠誠心よりも明らかに上位に位置する近似的な民族集団と位置づけられているのである。エストニアもプロテスタントヨーロッパに分類されるが、イングルハート・ウェルゼル文化地図では、むしろカトリックヨーロッパの範疇に位置づけられる。
キリスト教徒が人口の過半数を占める国で、プロテスタントが他のキリスト教諸宗派より多い国は、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、エストニア、イギリス、ケニア、ガーナ、ナイジェリア、リベリア、シエラレオネ、マラウイ、コンゴ共和国、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア、エスワティニ、南アフリカ共和国、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、トンガ、ソロモン諸島、バヌアツ、アメリカ合衆国、ジャマイカなどとなっている。ただし、宗教改革発祥の地であるドイツはカトリックとほぼ拮抗した状況となっている。中国は人口に占めるキリスト教徒の割合は5%程度だが、絶対数で見れば多く、そのうちプロテスタントが8割以上を占める。キリスト教徒人口の割合が3割と、アジアの中では比較的高い韓国は、うち6割以上がプロテスタントとなっている。日本のキリスト教徒は、半数近くの約90万人がプロテスタントとされている。
多くの教派で共有できる基本信条として、ニカイア信条、ニカイア・コンスタンティノポリス信条、カルケドン信条、使徒信条などがあげられる。
プロテスタントは福音派とエキュメニカル派に二分しているとされている。
福音派の聖書観は、十全霊感である。
エキュメニカル派のプロテスタントの聖書観は二つに大別される。
自由主義神学に立つ教派・グループなど、リベラル派においては、何かを異端とみなすこと自身が不寛容であり、キリスト教に異端はいないとする思想もある。
「異端」を定義する基準は、多くの教派で共有できる、ニカイア信条、ニカイア・コンスタンティノポリス信条、カルケドン信条、使徒信条など基本信条からの逸脱である。
「プロテスタント」は諸教派の総体であって、プロテスタント全体の代表者や指導者のような存在(カトリック教会における教皇や正教会における総主教)や、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織はない。また、各教派の成立自体も初代統一プロテスタントからの分離・離脱から生じ、複数に別れたといったものではなく、最初期のプロテスタントであるアナバプテスト、ルター派、カルヴァン派、ツヴィングリ派などは互いの影響は受けつつも、それぞれ全く別個に成立したもので、最初から統一されたプロテスタントは存在しなかった。それ故、前出の聖公会などをはじめ、「プロテスタントなのか、そうでないのか」が曖昧で線引きの難しい教派・教団が生まれる結果にもなっている。それぞれの成立については本項の系統の節を参照。
対して、カトリック教会はそれに属するすべての教会が中央であるローマ教皇庁(バチカン)に結び付いている。正教会は基本的には国や地域ごとに教団は複数に分かれているものの、同じ教義・奉神礼を共有し、相互にフル・コミュニオン関係を維持する連合体として存在しており、イスタンブールのコンスタンディヌーポリ総主教庁を全地総主教庁と呼ぶなど、名誉的にではあるが全正教会の筆頭・総本山的扱いとしている。そういった意味では、カトリックや正教会と同じような意味・用法での「プロテスタント」という名の教派は存在しないのである。
「プロテスタント」の語は66巻の聖書を共有するキリスト教について使われており、同じ正典を用いる人々の分派を教派(ディノミネーション)とし、違う正典を用いる分派は宗派(セクト)として区別されることがある。
プロテスタントは同じ教派でも宗教法人としての教団は更に分かれていることも多い。例えば、同じルーテル教会としての教派と自己規定していても、「○○ルーテル教団」「△△ルーテル〜教会」「○○ルター派××教団」といった法人が分かれているケースもあり、さらに法人が別なだけでなく交流すらないケースもある。これは移民や宣教によって成立母体が異なる場合や、教義の解釈によって分裂が起こることに起因する。逆のパターンとしては日本基督教団などのように、異なる教派同士が一つの超教派教団 に所属している場合もある。
また、ルーテル教会には修道院制度が僅かながら存在するが、他のプロテスタント諸派には修道院制度が存在しないなど、プロテスタント諸派の間には小さくない差異がある。
20世紀に起こった、プロテスタントを中心とするキリスト教の教会一致運動のこと。
Cuius regio, eius religio(領主の信仰が、汝の信仰)の原理は、欧州の外では通用せず、アジア地域などにおいて敬虔主義が伝道の原動力になった。国教会から独立した教会は自由教会(フリーチャーチ)と呼ばれている。
複数のプロテスタント教派が共同で合同教会を作る動きが特に20世紀になって盛んになっている。 カナダ合同教会、 北インド教会(Church of North India)、南インド教会(Church of South India)、中国基督教協会などである。
プロテスタントは主にカトリック教会から分離した教派、さらにそこから分離した教派を指す。正教会をはじめとした東方教会から分離した教派を指すことはない(古儀式派などはプロテスタントとは呼ばれない)。
聖公会(英国国教会)は、カトリック教会から分かれてプロテスタントの教義から影響を受ける一方で、カトリック教会の信条・聖職制度・典礼等を引き継いでいるという経緯がある。そのため、聖公会をプロテスタントに分類する見解もあり、聖公会も自身を「宗教改革の結果生まれた教会としては、プロテスタントに属している」と規定している。一方で、カトリックの伝統も受け継いでいることから「中道の教会」「橋渡しの教会」とも位置づけている。英国王室では、王位継承者でプロテスタント信仰を持っている者、正教の信仰を持っている者は王位継承後、スコットランド国教会にも帰属しなければならないとしており、この場合聖公会はプロテスタントに含まれると考えられる。
カトリックから分離した教派であっても、上述のようにプロテスタントと自認している聖公会をそのように呼ぶか否かは、各教団・信徒個人で意見が分かれる。また同じくカトリックから分離した教派である復古カトリック教会は、プロテスタントを自認する聖公会とはフル・コミュニオンの関係にありながら、カトリックを自称しておりプロテスタントには含まれないとされる。このように、プロテスタントなのかそれ以外なのか線引きの難しい教派や教団も見られる。
非常に稀な例ではあるが、プロテスタントの流れでありながら正教会の奉神礼を採用しているエヴァンジェリカル・オーソドックス教会という教派も存在する。これは元々福音派系プロテスタントであった教派が結果的に正教会の奉神礼を採用したのであり、源流は正教会ではなくカトリック分離組の流れ(福音派経由)のプロテスタントである。なお、この教派の多くの教会は最終的にどこかしらの地域の正教会に合流しており、独自のプロテスタント教派としては現在では数を減らしている。
社会学などで研究、議論の対象となるヨーロッパの近代化は、特にその初期において、プロテスタント革命によって強力な後押しを得たものだとする見解がある。
その最も有名な説はマックス・ヴェーバーによる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に展開されたもので、清教徒など禁欲主義的なピューリタニズムが支配的な国家において、労働者が合理的に効率性、生産性向上を追求する傾向を持っていたことが指摘されている。ヴェーバーによれば、プロテスタントの教義上、すなわち自らに与えられた職業を天職と捉えるルターの思想と、それに加えてカルヴァンによる予定の教理(二重予定説)によって、貧困は神による永遠の滅びの予兆である反面、現世における成功は神の加護の証であるとされたことから、プロテスタント信者、特に禁欲的ピューリタニストは、自分が滅びに定められたかも知れないという怖れから逃れるために、自らの仕事に一心不乱に(ヴェーバーはここで「痙攣しながら」というドイツ語を用いている)打ち込むことで、自分が神に救われる者のひとりである証を確認しようとしたという心理があるという。なお、社会心理学者のエーリヒ・フロムも、『自由からの逃走』の第3章「宗教改革時代の自由」において、ウェーバーの説を援用しながら、そのような心理が権威主義的なものであることを分析し、ファシズムと同様の権威主義的な要素が古プロテスタンティズムに既に内包されていたとする見解を示している。
また、ダニエル・ベルは『資本主義の文化矛盾』で、このような合理主義の精神が、芸術におけるモダニズムの運動と共に、近代社会のあり方を規定した主要因であったとする。また、1960年代以降、消費社会と結びついたモダニズムの影響力が拡大し、プロテスタンティズムに由来する近代の合理主義を脅かしているとも診断する。このような合理主義のため、経済平和研究所のデータを使って客観的に算出した積極的平和指数では、バルト三国のエストニアを除き、イングルハート・ウェルツェル文化地図でプロテスタントヨーロッパに分類される国:北欧諸国(スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド)、スイス、オランダ、ドイツ、そして限りなくプロテスタントヨーロッパに近いオーストラリア、ニュージーランドは日本とともに上位13カ国に入っていることが分かる。
プロテスタントと近代の関わりについてはもうひとつ、異なる側面を扱った説があり、やはり広く知られている。教会に赴いて他の教徒と一緒に説教を聞いたり、賛美歌を歌うことによって信仰を実践していたカトリックに対して、プロテスタントは当初、個々人が聖書を読むことを重視した。集団で行う儀式に比べて読書は個人中心の行動であるため、一部の論者はこれを近代社会に特有な個人主義と結び付けて考える。 | [
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"text": "キリスト教徒が人口の過半数を占める国で、プロテスタントが他のキリスト教諸宗派より多い国は、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、アイスランド、エストニア、イギリス、ケニア、ガーナ、ナイジェリア、リベリア、シエラレオネ、マラウイ、コンゴ共和国、ザンビア、ジンバブエ、ボツワナ、ナミビア、エスワティニ、南アフリカ共和国、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィジー、トンガ、ソロモン諸島、バヌアツ、アメリカ合衆国、ジャマイカなどとなっている。ただし、宗教改革発祥の地であるドイツはカトリックとほぼ拮抗した状況となっている。中国は人口に占めるキリスト教徒の割合は5%程度だが、絶対数で見れば多く、そのうちプロテスタントが8割以上を占める。キリスト教徒人口の割合が3割と、アジアの中では比較的高い韓国は、うち6割以上がプロテスタントとなっている。日本のキリスト教徒は、半数近くの約90万人がプロテスタントとされている。",
"title": "信者数"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "多くの教派で共有できる基本信条として、ニカイア信条、ニカイア・コンスタンティノポリス信条、カルケドン信条、使徒信条などがあげられる。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 22,
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"text": "プロテスタントは福音派とエキュメニカル派に二分しているとされている。",
"title": "教義"
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{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "福音派の聖書観は、十全霊感である。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "エキュメニカル派のプロテスタントの聖書観は二つに大別される。",
"title": "教義"
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{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "自由主義神学に立つ教派・グループなど、リベラル派においては、何かを異端とみなすこと自身が不寛容であり、キリスト教に異端はいないとする思想もある。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "「異端」を定義する基準は、多くの教派で共有できる、ニカイア信条、ニカイア・コンスタンティノポリス信条、カルケドン信条、使徒信条など基本信条からの逸脱である。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "「プロテスタント」は諸教派の総体であって、プロテスタント全体の代表者や指導者のような存在(カトリック教会における教皇や正教会における総主教)や、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織はない。また、各教派の成立自体も初代統一プロテスタントからの分離・離脱から生じ、複数に別れたといったものではなく、最初期のプロテスタントであるアナバプテスト、ルター派、カルヴァン派、ツヴィングリ派などは互いの影響は受けつつも、それぞれ全く別個に成立したもので、最初から統一されたプロテスタントは存在しなかった。それ故、前出の聖公会などをはじめ、「プロテスタントなのか、そうでないのか」が曖昧で線引きの難しい教派・教団が生まれる結果にもなっている。それぞれの成立については本項の系統の節を参照。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "対して、カトリック教会はそれに属するすべての教会が中央であるローマ教皇庁(バチカン)に結び付いている。正教会は基本的には国や地域ごとに教団は複数に分かれているものの、同じ教義・奉神礼を共有し、相互にフル・コミュニオン関係を維持する連合体として存在しており、イスタンブールのコンスタンディヌーポリ総主教庁を全地総主教庁と呼ぶなど、名誉的にではあるが全正教会の筆頭・総本山的扱いとしている。そういった意味では、カトリックや正教会と同じような意味・用法での「プロテスタント」という名の教派は存在しないのである。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "「プロテスタント」の語は66巻の聖書を共有するキリスト教について使われており、同じ正典を用いる人々の分派を教派(ディノミネーション)とし、違う正典を用いる分派は宗派(セクト)として区別されることがある。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "プロテスタントは同じ教派でも宗教法人としての教団は更に分かれていることも多い。例えば、同じルーテル教会としての教派と自己規定していても、「○○ルーテル教団」「△△ルーテル〜教会」「○○ルター派××教団」といった法人が分かれているケースもあり、さらに法人が別なだけでなく交流すらないケースもある。これは移民や宣教によって成立母体が異なる場合や、教義の解釈によって分裂が起こることに起因する。逆のパターンとしては日本基督教団などのように、異なる教派同士が一つの超教派教団 に所属している場合もある。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "また、ルーテル教会には修道院制度が僅かながら存在するが、他のプロテスタント諸派には修道院制度が存在しないなど、プロテスタント諸派の間には小さくない差異がある。",
"title": "教義"
},
{
"paragraph_id": 32,
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"text": "20世紀に起こった、プロテスタントを中心とするキリスト教の教会一致運動のこと。",
"title": "活動"
},
{
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"tag": "p",
"text": "Cuius regio, eius religio(領主の信仰が、汝の信仰)の原理は、欧州の外では通用せず、アジア地域などにおいて敬虔主義が伝道の原動力になった。国教会から独立した教会は自由教会(フリーチャーチ)と呼ばれている。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 34,
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"text": "複数のプロテスタント教派が共同で合同教会を作る動きが特に20世紀になって盛んになっている。 カナダ合同教会、 北インド教会(Church of North India)、南インド教会(Church of South India)、中国基督教協会などである。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 35,
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"text": "プロテスタントは主にカトリック教会から分離した教派、さらにそこから分離した教派を指す。正教会をはじめとした東方教会から分離した教派を指すことはない(古儀式派などはプロテスタントとは呼ばれない)。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 36,
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"text": "聖公会(英国国教会)は、カトリック教会から分かれてプロテスタントの教義から影響を受ける一方で、カトリック教会の信条・聖職制度・典礼等を引き継いでいるという経緯がある。そのため、聖公会をプロテスタントに分類する見解もあり、聖公会も自身を「宗教改革の結果生まれた教会としては、プロテスタントに属している」と規定している。一方で、カトリックの伝統も受け継いでいることから「中道の教会」「橋渡しの教会」とも位置づけている。英国王室では、王位継承者でプロテスタント信仰を持っている者、正教の信仰を持っている者は王位継承後、スコットランド国教会にも帰属しなければならないとしており、この場合聖公会はプロテスタントに含まれると考えられる。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "カトリックから分離した教派であっても、上述のようにプロテスタントと自認している聖公会をそのように呼ぶか否かは、各教団・信徒個人で意見が分かれる。また同じくカトリックから分離した教派である復古カトリック教会は、プロテスタントを自認する聖公会とはフル・コミュニオンの関係にありながら、カトリックを自称しておりプロテスタントには含まれないとされる。このように、プロテスタントなのかそれ以外なのか線引きの難しい教派や教団も見られる。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "非常に稀な例ではあるが、プロテスタントの流れでありながら正教会の奉神礼を採用しているエヴァンジェリカル・オーソドックス教会という教派も存在する。これは元々福音派系プロテスタントであった教派が結果的に正教会の奉神礼を採用したのであり、源流は正教会ではなくカトリック分離組の流れ(福音派経由)のプロテスタントである。なお、この教派の多くの教会は最終的にどこかしらの地域の正教会に合流しており、独自のプロテスタント教派としては現在では数を減らしている。",
"title": "活動"
},
{
"paragraph_id": 39,
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"text": "社会学などで研究、議論の対象となるヨーロッパの近代化は、特にその初期において、プロテスタント革命によって強力な後押しを得たものだとする見解がある。",
"title": "社会学における見解"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "その最も有名な説はマックス・ヴェーバーによる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に展開されたもので、清教徒など禁欲主義的なピューリタニズムが支配的な国家において、労働者が合理的に効率性、生産性向上を追求する傾向を持っていたことが指摘されている。ヴェーバーによれば、プロテスタントの教義上、すなわち自らに与えられた職業を天職と捉えるルターの思想と、それに加えてカルヴァンによる予定の教理(二重予定説)によって、貧困は神による永遠の滅びの予兆である反面、現世における成功は神の加護の証であるとされたことから、プロテスタント信者、特に禁欲的ピューリタニストは、自分が滅びに定められたかも知れないという怖れから逃れるために、自らの仕事に一心不乱に(ヴェーバーはここで「痙攣しながら」というドイツ語を用いている)打ち込むことで、自分が神に救われる者のひとりである証を確認しようとしたという心理があるという。なお、社会心理学者のエーリヒ・フロムも、『自由からの逃走』の第3章「宗教改革時代の自由」において、ウェーバーの説を援用しながら、そのような心理が権威主義的なものであることを分析し、ファシズムと同様の権威主義的な要素が古プロテスタンティズムに既に内包されていたとする見解を示している。",
"title": "社会学における見解"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "また、ダニエル・ベルは『資本主義の文化矛盾』で、このような合理主義の精神が、芸術におけるモダニズムの運動と共に、近代社会のあり方を規定した主要因であったとする。また、1960年代以降、消費社会と結びついたモダニズムの影響力が拡大し、プロテスタンティズムに由来する近代の合理主義を脅かしているとも診断する。このような合理主義のため、経済平和研究所のデータを使って客観的に算出した積極的平和指数では、バルト三国のエストニアを除き、イングルハート・ウェルツェル文化地図でプロテスタントヨーロッパに分類される国:北欧諸国(スウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、アイスランド)、スイス、オランダ、ドイツ、そして限りなくプロテスタントヨーロッパに近いオーストラリア、ニュージーランドは日本とともに上位13カ国に入っていることが分かる。",
"title": "社会学における見解"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "プロテスタントと近代の関わりについてはもうひとつ、異なる側面を扱った説があり、やはり広く知られている。教会に赴いて他の教徒と一緒に説教を聞いたり、賛美歌を歌うことによって信仰を実践していたカトリックに対して、プロテスタントは当初、個々人が聖書を読むことを重視した。集団で行う儀式に比べて読書は個人中心の行動であるため、一部の論者はこれを近代社会に特有な個人主義と結び付けて考える。",
"title": "社会学における見解"
}
] | プロテスタントは、宗教改革運動を始めとして、カトリック教会(または西方教会)から分離し、特に広義の福音主義を理念とするキリスト教諸教派を指す。日本ではカトリック教会(旧教)に対し、「新教」(しんきょう)ともいう。この諸教派はナザレのイエスをキリスト(救い主)として信じる宗教である。イエス・キリストが、神の国の福音を説き、罪ある人間を救済するために自ら十字架にかけられ、復活したものと信じる。「父なる神」と「その子キリスト」と「聖霊」を唯一の神(三位一体・至聖三者)として信仰する。 ローマ・カトリック教会や正教会のような全世界的な単一組織は存在せず、聖書解釈の多様さを尊重することから数多の教派が存在し、ニカイア信条のギリシャ語原文から逸脱しない諸教派が一般的に「プロテスタント諸派」と呼ばれる。主な教派として、ルーテル教会、改革派教会、聖公会、バプテスト教会、メソジスト教会、セブンスデー・アドベンチスト教会、ホーリネス教会、ペンテコステ教会などがある。 | {{pp-vandalism|small=yes}}
{{キリスト教}}
{{プロテスタント}}
{{読み仮名_ruby不使用|'''プロテスタント'''|{{lang-en-short|Protestant}}}}は、[[宗教改革]]運動を始めとして、[[カトリック教会]](または[[西方教会]])から分離し、特に広義の[[福音主義]]を理念とする[[キリスト教]][[キリスト教諸教派の一覧|諸教派]]を指す。日本ではカトリック教会(旧教{{efn|ただしカトリック教会自身は「旧教」を自称したことはなく、カトリック教会ではまったく使われない呼称である。}})に対し、「'''新教'''」(しんきょう)ともいう。この諸教派は[[ナザレのイエス]]を[[キリスト]](救い主)として信じる宗教<ref name="shukyogaku146">「キリスト教」『宗教学辞典』[[東京大学出版会]]、1973年、146頁。</ref><ref name="daiji714">「キリスト教」『[[大辞泉]]』増補・新装版、[[小学館]]、1998年、第一版、714頁。「[https://kotobank.jp/word/%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88%E6%95%99-53666#E3.83.87.E3.82.B8.E3.82.BF.E3.83.AB.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.B3.89 キリスト教]」デジタル大辞泉、小学館、[[コトバンク]]。</ref>である。イエス・キリストが、神の国の福音を説き、罪ある人間を救済するために自ら十字架にかけられ、復活したものと信じる<ref name="daiji714" />。「[[父なる神]]」<ref>「御父」(おんちち〈[[新共同訳聖書]]『[[ヨハネによる福音書]]』3:35〉)。</ref>と「その子キリスト」<ref>「御子」(みこ〈新共同訳聖書『ヨハネによる福音書』3:35〉)、「子なる神」。</ref>と「[[聖霊]]」を唯一の神(三位一体・至聖三者)として信仰する。
[[ローマ・カトリック教会]]や[[正教会]]のような全世界的な単一組織は存在せず、聖書解釈の多様さを尊重することから数多の教派が存在し、[[ニカイア信条]]のギリシャ語原文から逸脱しない諸教派が一般的に「プロテスタント諸派」と呼ばれる。主な教派として、[[ルーテル教会]]、[[改革派教会]]、[[聖公会]]、[[バプテスト教会]]、[[メソジスト教会]]、[[セブンスデー・アドベンチスト教会]]、[[ホーリネス教会]]、[[ペンテコステ教会]]などがある。
==概要==
プロテスタントという総称は、その担い手達がカトリック教会に抗議({{lang-la-short|''prōtestārī''}}、プローテスターリー)したことに由来する<ref>[http://dictionary.reference.com/browse/protestant protestant] (Dictionary.com)</ref>。「プロテスタント」は該当する諸教派の総称であって、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織は存在しない。中世における諸教派の形成時、[[国教]]化されたカトリック教会は宗教の自由を認めなかったため、[[教皇]]中心主義に抗議し内部[[セクト|分裂]]したプロテスタント諸教派に対しても、[[異端#キリスト教における異端|異端]]としての対応を取ることとなった。そのため、多くの教派は、カトリック教会の対応に対して抗争や戦争の手段を用いて、新たな[[レジーム|体制]]的教会を構築した。
また、新たな正統の基準を確立したプロテスタント諸教会は、その公的な信仰の基準に反するものを異端視した<ref>岩波キリスト教辞典P90 異端の項目 木塚隆志</ref>{{efn|こうした分派発足のいきさつがあるため、ナザレのイエスの説いた普遍的な教条の表明と、抗争や戦争の指針とを共存しうる教派も生まれた。}}。
[[教義]]の中心である使徒信条は、母体となったカトリック教会とほぼ同じに設定されている。それに加えて独自の原則として三大原理{{efn|神の前で義とされるのは[[行為]]や[[祭礼]]ではなく「[[信仰]]のみ」、聖書は神の言葉であり、信仰生活は聖書の啓示をよりどころとする「聖書のみ」、洗礼を受けた信者はすべて祭司であるとする「万人祭司」がある。(岩波キリスト教辞典P994 プロテスタンティズムの項目 川中子義勝)}}も設定されている。
異教や異端であるかどうかの判別の基準としては、[[聖書]]全体を神よりの[[霊感]]を受けて書かれた神の言葉として受け止めることを前提として、[[三位一体]]の教義が確立していること、イエスの復活信仰が確立していること、ナザレのイエスの死を通しての贖罪信仰が確立していること、主イエスが[[旧約聖書|旧約]]のキリストであるとの信仰が確立していること等が規定されている。
== 歴史 ==
[[1517年]]以降、[[マルティン・ルター]]らにより[[カトリック教会]]の改革を求める宗教改革運動が起こされた。
[[1524年]]、ドイツ農民の不満を背景に、急進派[[トマス・ミュンツァー]]率いる武装農民が蜂起し、これに対してルター派の諸侯らが激しく衝突、多くの犠牲が生じたいわゆる[[ドイツ農民戦争]]が勃発した。[[1529年]]にルター派の諸侯や都市が[[神聖ローマ帝国]]皇帝[[カール5世 (神聖ローマ皇帝)|カール5世]]に対して宗教改革を求める「'''抗議書'''(Protestatio, プロテスタティオ)」を送った。そのためこの派は「'''抗議者'''(プロテスタント)」と呼ばれるようになった。
ルターらは[[洗礼]]と[[聖餐]]以外の教会の諸[[秘跡]]を排し、[[聖書]]に立ち返る[[福音主義]]を唱え始め、また西方教会では、それまでほとんど[[ラテン語]]でのみ行われていた[[典礼]]や[[聖書]]を[[ドイツ語]]化するなど、著しい改革を行った。このため次第にルター派は北ドイツから[[ドイツ]]全体へ広まり、その信者は増加していった。ルターは[[信仰義認]]という教理を提唱した者としてよく知られている。ルター派の特に信仰義認は、[[カトリック教会]]の[[トリエント公会議]]などにより排斥された。その結果として別個の教派を築くこととなった。
宗教抗争は政治権力抗争とも絡み、ドイツ地域の内乱状態は30年間続いた。内乱終結の[[アウクスブルクの和議]]([[1555年]])により、プロテスタントもカトリック教会と同様に信教の自由の地位を保証されることとなる。ルター派は北方に広まり、[[デンマーク]]・[[スウェーデン]]・[[ノルウェー]]で国教となった。
当時の[[欧州大陸]]はスペイン領であった[[ネーデルラント]][[ネーデルラント17州|17州]]の[[アントワープ証券取引所|アントワープ]]が経済・貿易の中心地となっていたが、1566年には[[フランドル]]( 現在の[[ベネルクス]]3国及び[[フランス]]北部)でも[[オランダの宗教改革#改革派の暴動|プロテスタントの宗教改革]]が始まり、ネーデルラントの[[スペイン・ハプスブルク家]]からの独立を求める[[八十年戦争]]及びこれに伴う[[三十年戦争]]が戦われた{{efn|のち、1648年の[[ヴェストファーレン条約]]及びこれに伴う{{仮リンク|ミュンスター条約|en|Peace_of_Münster|preserve=1}}により、[[南ネーデルラント]]以外の北部7州は[[ネーデルラント連邦共和国]]として成立し、また[[スイス]]も独立した。}}。
[[スイス]]の宗教改革運動は、ドイツ改革とほぼ同時期に起こっていた。カトリック司祭の[[フルドリッヒ・ツヴィングリ]]は「聖書のみ」、「信仰のみ」という教理を展開し、彼の弟子たちから[[幼児洗礼]]を否定し再洗礼を認める[[アナバプテスト|アナバプテスト派]]が生じ、後に[[改革派教会]]からも排斥されることになる([[ウェストミンスター教会会議]])。また、ツヴィングリは、[[聖餐論]]においてルター派と対立することになる。
内乱状態の後を受けて、[[ジャン・カルヴァン]]が登場し、彼はツヴィングリを受け継いでスイスにおける宗教改革の指導者となる。カルヴァンは新しい教会の組織制度として[[長老制]]を提唱した。大陸におけるカルヴァン派の教会が[[改革派教会]]と呼ばれ、[[ジョン・ノックス]]の[[スコットランド]]を経由した英国系のカルヴァン派の教会が[[長老派教会]](その後アメリカへと進出)と呼ばれる。カルヴァンは二重予定説を提唱し、カルヴァン派で受け継がれ、[[カルヴァン主義]]とも呼ばれる。予定説も、ルター派と同じくトリエント公会議で排斥の対象となる。カルヴァン派は、混乱から社会を救うため、[[宗教]]と[[政治]]、[[教会 (キリスト教)|教会]]と[[国家]]を明確に機能区分することを提唱する。また一般市民の信仰生活に対して、世俗職業を[[召命|天職]](神の[[召命]])とみなして励むこと、生活は質素で禁欲的であること等を説き、これが勃興期の[[資本主義]]の精神と適合したといわれる。[[カルヴァン主義]]は、西方の[[フランス]]・[[オランダ]]・[[イギリス]]・[[アメリカ合衆国|アメリカ]]へ広がった。後に、[[オランダ改革派]]から、このカルヴァン主義からの思想が非聖書的であると唱え、カルヴァン主義の予定説に反対し、[[ヤーコブス・アルミニウス]]とその後継者によってレモンストラント派([[アルミニウス主義|アルミニウス派]])が現れる。[[1610年]]、[[改革派]]はドルト会議にて、アルミニウス派を異端として排斥する。このアルミニウス派の思想は、後に[[メノナイト派]]、[[ジェネラル・バプテスト派]]([[普遍救済主義]]の[[バプテスト]])、[[メソジスト]]のウェスレー派などに継承されることになる。なお現在、各教団の神学の基本思想としてカルヴァンかアルミニウスかの2極に分かれる傾向がある。
[[16世紀]]末頃、[[イングランド国教会|英国国教会]]の内部において、[[ピューリタン]]と呼ばれる[[改革派教会]]の方向へ改革を求める人々が現れた。イングランドのカルヴァン主義は、ジョン・ノックスのスコットランドの影響を受けていたが、更にこの改革運動を急進的にし、国教会から非合法に教会を建てようとする者らが現れた。彼らは分離派と呼ばれる。ピューリタンおよび分離派は、国教会の特に[[監督制]]に反対し[[会衆制]]を主張した。分離派は、国教会から分離せずに内部から教会改革を志すピューリタンに対しても、偽りの教会に属するとして[[相互聖餐]]を拒否していた。英国の分離派の思想は、[[ロバート・ブラウン (宗教家)|ロバート・ブラウン]] に始まったとされる。これがやがて、[[ジェネラル・バプテスト派]]の母教会の牧師[[ジョン・スマイス]](John Smyth) に受け継がれる。スマイスはジェネラル・バプテスト派の創始者トマス・ヘルウィス (Thomas Helwys) に恩師として影響を与えた。ただし、当時ウォーターランド派メノナイトとの合併を考えていたスマイスが、ヘルウィスに対して具体的にどれだけの影響を与えたかは、教理史的議論の決着がなされていない。またパテキュラー・バプテスト派は、元英国国教会司祭であったヘンリー・ジェイコブ牧師により発足した非分離派会衆主義教会から、より分離派的教会を求めて離脱した者ら数十名が、再洗礼を行って[[教会 (キリスト教)|教会]]を新設したことにはじまったとされる。
17世紀は[[大航海時代#ヨーロッパ北部諸国によるアジア・北アメリカの探検|大航海時代]]の終盤であったが、オランダの[[オランダ東インド会社|商人]]は1609年に[[ニューアムステルダム|北アメリカ]]を発見して[[植民地]]を造営しはじめ、同年に[[江戸]]とも交易を始めた。江戸においては[[禁教令|政治的事情]]により布教は行われずに[[蘭学]]が広められることとなったが、[[英蘭戦争]]も生じる中でイギリスや[[オランダ黄金時代|オランダ]]はアジア圏の[[ゴア]]や[[マカオ]]、[[香港]]や[[バタヴィア]]や[[香料諸島]]において、それまで支配的だったスペインやポルトガルなど[[カトリック]]の勢力を排するに至った。
[[18世紀]]、英国の[[オックスフォード大学]]内で[[ジョン・ウェスレー]]、[[ジョージ・ホウィットフィールド]]が指導するグループから始まった運動が、英国全土に[[メソジスト]]という名で広がるようになった。そして、この運動はアメリカに渡り[[第一次大覚醒]]に至ったが、独立戦争が始まる際に一部英国に帰国することとなった。[[1784年]]アメリカに残ったメソジスト宣教師らを監督教会として認める25箇条のメソジスト憲章が定められる。[[1845年]]、米国の[[パティキュラー・バプテスト]]派は、奴隷問題と国外伝道政策に関する見解の相違で[[北部バプテスト同盟]](現在の[[米国バプテスト同盟]])と[[南部バプテスト連盟]]とに分裂する。この頃、米国メソジスト教会にも同様の分裂が起こるが、やがて分裂は終結する。[[19世紀]]後期のアメリカのメソジスト系統からホーリネス派が起こり、これを基盤にペンテコステ派が起こる。さらにペンテコステ派によるペンテコステ運動は他教派におよび、聖霊派として知られている。また、[[カリスマ運動|カリスマ派]]はペンテコステ派から起こるが、[[世界教会協議会|WCC]]に加盟したことにより、エキュメニズムに反対するペンテコステ派から排斥される。
同じく[[18世紀]]、アメリカで[[再臨待望運動]]が起こり、この運動に参加する信徒は再臨派(アドベンティスト派)と呼ばれた。
[[19世紀]]に入り再臨運動がさらに活発化すると幾つもの再臨派系教派がここから分裂、組織化した。その中でも[[エレン・ホワイト]]らが活発に活動し、日曜ではなく、イエスが当時守っていた日が[[土曜日]]であった事実と、旧約律法通りでもある土曜を礼拝日とするSDA([[セブンスデー・アドベンチスト教会]])が出現した。この教会は、プロテスタントに分類されるとする見解と[[キリスト教系の新宗教]]に分類される見解との両方が存在する<ref name="cult">[[井門富二夫]]『カルトの諸相 キリスト教の場合』[[岩波書店]][[1997年]]</ref><ref name="rekisi">『異端の歴史』[[教文館]][[1997年]]</ref><ref name="melton">{{cite book|author=[[:en:J. Gordon Melton|J.G.メルトン]] |title=Encyclopedic Handbook of Cults in America|publisher=Garland|year=1992}}</ref>。
[[フリードリヒ・シュライアマハー|フリードリヒ・シュライエルマッハー]]から始まる近代神学、[[自由主義神学]]、[[聖書高等批評学]]のプロテスタント教会への浸透に対抗して、英国の[[福音主義同盟]]は[[1846年]]、9カ条からなる福音主義信仰の基準を告白した。また20世紀初頭に英米において[[キリスト教根本主義]]運動が起こった。20世紀半ばの[[1948年]]に自由主義プロテスタントとローマ・カトリックを中心とした[[エキュメニズム|エキュメニカル運動]]の組織[[世界教会協議会]]が成立したが、それに対して[[福音主義同盟]]を創立会員として[[1951年]]に[[世界福音同盟]]が結成された。第二次大戦後に台頭した[[福音派]]はエキュメニカル運動に対し、[[1974年]]、[[ローザンヌ世界伝道会議]]を開催し、[[ローザンヌ誓約]]が発表された。また福音派は[[新福音主義]]とも呼ばれ、[[福音伝道]]と宗教改革の福音主義を強調する。福音派は個人の伝道活動の実践、[[ビリー・グラハム]]の大規模な伝道活動などにより教勢を拡大し、学的にも[[ウェストミンスター神学校]]、[[フラー神学大学]]、[[ホィートン・カレッジ]]、[[クリスチャニティ・トゥディ]]などにより大きな影響力を与えるようになった<ref>宇田進『現代福音主義神学』いのちのことば社</ref><ref>マクグラス『キリスト教の将来』教文館</ref><ref>古屋安雄『激動するアメリカ教会』ヨルダン社</ref>。
== 組織 ==
=== 諸教派一覧 ===
*ルター派教会([[ルーテル教会]]{{efn|「ルーテル」はルターの[[舞台ドイツ語]]読み}})
**[[ルター派世界連盟]]
**[[ドイツ合同福音ルター派教会]]
**[[フィンランド福音ルター派教会]]
**[[アメリカ福音ルター派教会]]
**ルター派教会ミズーリ・シノッド ([[w:Lutheran Church - Missouri Synod|Lutheran Church - Missouri Synod]])
**[[日本福音ルーテル教会]]
**[[日本ルーテル教団]]
**[[ラース・レーヴィ・レスターディウス|レスターディウス派]]
*[[改革派教会]] ([[w:Reformed churches|Reformed churches]])
**[[フルドリッヒ・ツヴィングリ|ツヴィングリ派]]
**[[カルヴァン主義|カルヴァン派]]
***[[長老派教会]]
***[[会衆派教会]]
****[[オランダ改革派教会]]
*[[根本的宗教改革]](宗教改革急進派)
**[[アナバプテスト]]
***[[アーミッシュ]](アマン派)
***[[ブレザレン教会]]
***[[フッター派]](フッタライト)
***[[メノナイト]]
****アフリカ独立教会 ([[w:African Independent Churches|African Independent Churches]], AICs)
**[[バプテスト]]
***ジェネラル・バプテスト (General Baptists)
***パティキュラー・バプテスト (Particular Baptists)
****セブンスデー・バプテスト (Seventh-day Baptists)
****[[米国バプテスト同盟]](旧称 北部バプテスト同盟)
*****[[日本バプテスト同盟]]
*****[[日本基督教団新生会]]
****[[南部バプテスト連盟]]
*****[[日本バプテスト連盟]]
*[[アングリカン・コミュニオン]](聖公会系)
**[[イングランド国教会]](英国国教会)
***[[カナダ聖公会]]
**[[ウェールズ聖公会]]
**[[アイルランド聖公会]]
**[[スコットランド聖公会]]
***[[米国聖公会]]
**[[日本聖公会]]<!--日本聖公会は地域によって伝道した教会が異なる(イングランド聖公会、アメリカ聖公会、カナダ聖公会)ので、特定の聖公会の下位に置くのは困難です。-->
**[[メソジスト]]
***[[救世軍]]
***[[ジョン・ウェスレー|ウェスレー派]]
****[[日本美普教会]] ([[w:Methodist Protestant|Methodist Protestant]])
<!--****アフリカ・メソジスト ([[w:African Methodist|African Methodist]]) リンク先が存在しないのでとりあえずコメントアウト。-->
*****ユナイテッド・メソジスト ([[w:United Methodist|United Methodist]])
*****[[メソジスト監督教会]]
******([[w:A.M.E. Church|A.M.E. Church]])
******([[w:A.U.M.P. Church|A.U.M.P. Church]])
******([[w:U.A.M.E. Church|U.A.M.E. Church]])
*****[[ホーリネス教会]]
******[[イムマヌエル綜合伝道団]]
******[[ペンテコステ派]]
*******[[アッセンブリーズ・オブ・ゴッド]]
********[[汝矣島純福音教会|純福音派]](韓国)
*[[単立教会]]系及び[[合同教会]]系
**[[日本福音キリスト教会連合]]
**[[日本キリスト合同教会]]
*その他の教派
**[[セブンスデー・アドベンチスト教会|セブンスデー・アドベンチスト]]
**[[クエーカー]](キリスト友会)
**クリスチャン・アンド・ミッショナリー・アライアンス
***[[日本アライアンス教団]]
**[[カベナント教会]]
**[[無教会主義]]
**[[ユニテリアン]]、[[ユニテリアン・ユニヴァーサリズム]]
**[[普及福音教会]]
**[[新教会]](新エルサレム教会、[[スヴェーデンボリ]]派)
**[[エヴァンジェリカル・オーソドックス教会]]
**メトロポリタン・コミュニティー・チャーチ
== 信者数 ==
2013年現在、世界に約23億人のキリスト教の信者がいてプロテスタント諸派の信者は約5億人<ref>詳しくは[[キリスト教#信徒数]]を参照</ref>。
=== イングルハート-ウェルゼル文化地図 ===
[[イングルハート-ウェルゼル文化地図|イングルハート・ウェルゼル文化地図]]でプロテスタントヨーロッパに分類される[[北欧諸国]]([[スウェーデン]]、[[デンマーク]]、[[フィンランド]]、[[ノルウェー]]、[[アイスランド]])、[[オランダ]]、[[ドイツ]]、[[スイス]]は、[[歴史]]、[[文化]]、[[社会]]の面で多くの共通点を持っている。個人の[[自由主義|自由]]、[[個人主義]]、[[民主主義]]、[[世俗主義|世俗的]]で[[合理主義|合理的]]な社会秩序を重視することが特徴で、伝統、宗教、国家への忠誠心よりも明らかに上位に位置する近似的な民族集団と位置づけられているのである。エストニアもプロテスタントヨーロッパに分類されるが、イングルハート・ウェルゼル文化地図では、むしろカトリックヨーロッパの範疇に位置づけられる<ref name=":022"/><ref name=":2" /><ref name=":3" /><ref name=":0" />。
=== 信徒分布 ===
[[キリスト教徒]]が人口の過半数を占める国で、プロテスタントが他のキリスト教諸宗派より多い国は、[[ドイツ]]、[[スウェーデン]]、[[フィンランド]]、[[ノルウェー]]、[[デンマーク]]、[[アイスランド]]、[[エストニア]]、[[イギリス]]、[[ケニア]]、[[ガーナ]]、[[ナイジェリア]]、[[リベリア]]、[[シエラレオネ]]、[[マラウイ]]、[[コンゴ共和国]]、[[ザンビア]]、[[ジンバブエ]]、[[ボツワナ]]、[[ナミビア]]、[[エスワティニ]]、[[南アフリカ共和国]]、[[オーストラリア]]、[[ニュージーランド]]、[[パプアニューギニア]]、[[フィジー]]、[[トンガ]]、[[ソロモン諸島]]、[[バヌアツ]]、[[アメリカ合衆国]]、[[ジャマイカ]]などとなっている。ただし、宗教改革発祥の地である[[ドイツ]]はカトリックとほぼ拮抗した状況となっている<ref name=a>[[ピュー研究所]][https://web.archive.org/web/20131101114257/http://www.pewforum.org/files/2011/12/Christianity-fullreport-web.pdf 『世界のキリスト教徒』](英語版)。2011年。</ref>。[[中華人民共和国|中国]]は人口に占めるキリスト教徒の割合は5%程度だが、絶対数で見れば多く、そのうちプロテスタントが8割以上を占める。キリスト教徒人口の割合が3割と、アジアの中では比較的高い[[大韓民国|韓国]]は、うち6割以上がプロテスタントとなっている。日本のキリスト教徒は、半数近くの約90万人がプロテスタントとされている<ref name=a/>。
== 教義 ==
多くの教派で共有できる'''[[基本信条]]'''として、[[ニカイア信条]]、[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条]]、[[カルケドン信条]]、[[使徒信条]]などがあげられる。
=== 福音派とエキュメニカル派の相違 ===
プロテスタントは[[福音派]]と[[エキュメニズム|エキュメニカル派]]に二分しているとされている<ref>[[宇田進]]『福音主義キリスト教と福音派』</ref><ref>[[尾山令仁]]『クリスチャンの和解と一致』地引網出版</ref><ref>[[共立基督教研究所]]『宣教ハンドブック』</ref><ref>[[日本福音同盟]]『日本の福音派』</ref><ref>[[ピーター・バイヤーハウス]] 『宣教のめざす道-エキュメニカルと福音派の間-』[[いのちのことば社]]</ref>。
福音派の聖書観は、十全霊感である。
エキュメニカル派のプロテスタントの聖書観は二つに大別される。
*新正統主義は部分霊感である。
*リベラル派は否定霊感である。
=== 異端はいないとする教派===
[[自由主義神学]]に立つ教派・グループなど、[[リベラル派]]においては、何かを[[異端]]とみなすこと自身が不寛容であり、キリスト教に異端はいないとする思想もある。
=== プロテスタント諸派の異端規定 ===
「異端」を定義する基準は、多くの教派で共有できる、ニカイア信条、ニカイア・コンスタンティノポリス信条、カルケドン信条、使徒信条など基本信条からの逸脱である。
=== 他教派との相違 ===
「プロテスタント」は諸教派の総体であって、プロテスタント全体の代表者や指導者のような存在([[カトリック教会]]における[[教皇]]や[[正教会]]における[[総主教]])や、プロテスタント全体を統括するような教団連合組織はない{{efn|各教派、教団ごとの代表者、代表理事などの経営・運営上のトップは殆どの場合存在する}}。また、各教派の成立自体も初代統一プロテスタントからの分離・離脱から生じ、複数に別れたといったものではなく、最初期のプロテスタントである[[アナバプテスト]]、[[ルーテル教会|ルター派]]、[[カルヴァン派]]、[[ツヴィングリ派]]などは互いの影響は受けつつも、それぞれ全く別個に成立したもので、最初から統一されたプロテスタントは存在しなかった。それ故、前出の[[聖公会]]などをはじめ、「プロテスタントなのか、そうでないのか」が曖昧で線引きの難しい教派・教団が生まれる結果にもなっている。それぞれの成立については本項の系統の節を参照。
対して、カトリック教会はそれに属するすべての教会が中央である[[ローマ教皇庁]]([[バチカン]])に結び付いている。[[正教会]]は基本的には国や地域ごとに教団は複数に分かれているものの、同じ教義・[[奉神礼]]を共有し、相互に[[フル・コミュニオン]]関係を維持する連合体として存在しており、[[イスタンブール]]の[[コンスタンティノープル総主教庁|コンスタンディヌーポリ総主教庁]]を全地総主教庁と呼ぶなど、名誉的にではあるが全正教会の筆頭・総本山的扱いとしている{{efn|ローマ教皇庁のような、全教会政治の最高権限を有しているわけではない。}}。そういった意味では、カトリックや正教会と同じような意味・用法での「プロテスタント」という名の教派は存在しないのである。
「プロテスタント」の語は66巻の[[聖書]]を共有するキリスト教について使われており、同じ正典を用いる人々の分派を教派(ディノミネーション)とし、違う正典{{efn|この場合の違いは、[[旧約聖書]]に関して、カトリック側が[[七十人訳聖書]]に準拠した[[ラテン語]]訳聖書に依るのに対して、プロテスタント側が[[ユダヤ戦争]]後に正典化された[[ヘブライ語聖書]]を底本とするだけの違いで、前者に含まれる一部の文書が正典化されたヘブライ語聖書から外された[[第二正典]]を旧約聖書に含むか含まないかの違いである。}}を用いる分派は[[宗派]]{{efn|ただし、[[日本語]]の[[宗派]]の語は元来仏教用語であって、キリスト教系で使用する機会は滅多にない。}}(セクト)として区別されることがある<ref>[[尾山令仁]]『聖書の教理』[[羊群社]]</ref>。
プロテスタントは同じ教派でも[[宗教法人#単位宗教法人と包括宗教法人|宗教法人]]としての教団は更に分かれていることも多い。例えば、同じ[[ルーテル教会]]としての教派と自己規定していても、「○○ルーテル教団」「△△ルーテル〜教会」「○○ルター派××教団」といった法人が分かれているケースもあり、さらに法人が別なだけでなく交流すらないケースもある。これは移民や宣教によって成立母体が異なる場合や、教義の解釈によって分裂が起こることに起因する。逆のパターンとしては[[日本基督教団]]などのように、異なる教派同士が一つの超教派教団{{efn|[[日本基督教団]]は日本の政治的事情により結成された超教派ではあるが、戦後の再編で[[福音派]]とされる系統の教会は所属していない[[メインライン・プロテスタント]]の教団であると認識されている。}} に所属している場合もある。
また、[[ルーテル教会]]には[[修道院]]制度が僅かながら存在するが、他のプロテスタント諸派には修道院制度が存在しないなど、プロテスタント諸派の間には小さくない差異がある。
== 活動 ==
=== [[エキュメニカル運動]] ===
[[20世紀]]に起こった、プロテスタントを中心とするキリスト教の教会一致運動のこと。
=== 国教会と自由教会 ===
Cuius regio, eius religio(領主の信仰が、汝の信仰)の原理は、欧州の外では通用せず、アジア地域などにおいて[[敬虔主義]]が伝道の原動力になった<ref>[[渡辺信夫]]『アジア伝道史』[[いのちのことば社]]</ref>。[[国教会]]から独立した教会は[[自由教会]](フリーチャーチ)と呼ばれている<ref>[[日本伝道会議]]『日本開国とプロテスタント宣教150年』2009年</ref><ref>トマス・ブラウン『スコットランドにおける教会と国家』すぐ書房</ref><ref>ケアンズ『基督教全史』[[聖書図書刊行会]]</ref>。
=== 合同教会 ===
複数のプロテスタント教派が共同で[[合同教会]]を作る動きが特に[[20世紀]]になって盛んになっている。 <ref>[http://www.united-church.ca/ja/welcome カナダ合同教会に歓迎!]</ref><ref>[https://www.oikoumene.org/en/church-families/united-and-uniting-churches 合同教会について] (英語)</ref>[[カナダ合同教会]]、 [[北インド教会]]([[:en:Church of North India|Church of North India]])、[[南インド教会]]([[:en:Church of South India|Church of South India]])、[[中国基督教協会]]などである。
=== 系統 ===
プロテスタントは主にカトリック教会から分離した教派、さらにそこから分離した教派を指す。[[正教会]]をはじめとした[[東方教会]]から分離した教派を指すことはない([[古儀式派]]などはプロテスタントとは呼ばれない)。
[[聖公会]]([[イングランド国教会|英国国教会]])は、カトリック教会から分かれてプロテスタントの教義から影響を受ける一方で、カトリック教会の信条・聖職制度・[[典礼]]等を引き継いでいるという経緯がある。そのため、聖公会をプロテスタントに[[分類]]する見解もあり、聖公会も自身を「宗教改革の結果生まれた教会としては、プロテスタントに属している」と規定している。一方で、カトリックの伝統も受け継いでいることから「中道の教会」「橋渡しの教会」とも位置づけている<ref>[http://www.nskk.org/osaka/seikoukai1.html 日本聖公会大阪教区]</ref>。[[イギリス王室|英国王室]]では、王位継承者でプロテスタント信仰を持っている者、正教の信仰を持っている者は王位継承後、[[スコットランド国教会]]にも帰属しなければならないとしており、この場合聖公会はプロテスタントに含まれると考えられる。
カトリックから分離した教派であっても、上述のようにプロテスタントと自認している聖公会をそのように呼ぶか否かは、各教団・信徒個人で意見が分かれる。また同じくカトリックから分離した教派である[[復古カトリック教会]]は、プロテスタントを自認する聖公会とは[[フル・コミュニオン]]の関係にありながら、カトリックを自称しておりプロテスタントには含まれないとされる。このように、プロテスタントなのかそれ以外なのか線引きの難しい教派や教団も見られる。
非常に稀な例ではあるが、プロテスタントの流れでありながら正教会の奉神礼を採用している[[エヴァンジェリカル・オーソドックス教会]]という教派も存在する。これは元々福音派系プロテスタントであった教派が結果的に正教会の奉神礼を採用したのであり、源流は正教会ではなくカトリック分離組の流れ([[福音派]]経由)のプロテスタントである。なお、この教派の多くの教会は最終的にどこかしらの地域の正教会に合流しており、独自のプロテスタント教派としては現在では数を減らしている。
==== 系統概略図 ====
[[File:ChristianityBranches-2ja.svg|thumb|650px|center|[[キリスト教諸教派の一覧|キリスト教諸教派]]全体からみた系統概略。更に細かい分類方法と経緯がある。]]
[[File:Protestantbranches ja.svg|thumb|650px|center|[[聖公会]]、プロテスタント、[[アナバプテスト]]について上図より詳しい系統図であるが、これもあくまで大まかな流れであり、さらに細かい分類方法・経緯がある。]]
==社会学における見解==
=== プロテスタンティズムと近代社会 ===
社会学などで研究、議論の対象となるヨーロッパの近代化は、特にその初期において、プロテスタント革命によって強力な後押しを得たものだとする見解がある。
その最も有名な説は[[マックス・ヴェーバー]]による『[[プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神]]』に展開されたもので、[[清教徒]]など禁欲主義的なピューリタニズムが支配的な国家において、[[労働者]]が合理的に[[効率性]]、[[生産性]][[発展|向上]]を追求する傾向を持っていたことが指摘されている。ヴェーバーによれば、プロテスタントの教義上、すなわち自らに与えられた職業を[[天職]]と捉えるルターの思想と、それに加えてカルヴァンによる予定の教理(二重予定説)によって、貧困は神による永遠の滅びの[[予兆]]である反面、[[現世]]における成功は神の加護の証であるとされたことから、プロテスタント信者、特に禁欲的ピューリタニストは、自分が滅びに定められたかも知れないという怖れから逃れるために、自らの仕事に一心不乱に(ヴェーバーはここで「痙攣しながら」というドイツ語を用いている<ref>[[折原浩]]『ヴェーバー学のすすめ』[[未来社]]、2003年</ref>)打ち込むことで、自分が神に救われる者のひとりである[[証 (キリスト教)|証]]を[[認識|確認]]しようとしたという[[心理]]があるという。なお、社会心理学者の[[エーリヒ・フロム]]も、『自由からの逃走』の第3章「宗教改革時代の自由」において、ウェーバーの説を援用しながら、そのような心理が権威主義的なものであることを分析し、ファシズムと同様の権威主義的な要素が古プロテスタンティズムに既に内包されていたとする見解を示している。
また、[[ダニエル・ベル]]は『[[資本主義]]の[[文化 (代表的なトピック)|文化]]矛盾』で、このような[[合理主義]]の精神が、芸術におけるモダニズムの運動と共に、[[近代社会]]のあり方を[[定義|規定]]した主要因であったとする。また、[[1960年]]代以降、[[消費]]社会と結びついたモダニズムの[[シンパ|影響]]力が拡大し、プロテスタンティズムに由来する近代の[[合理主義]]を脅かしているとも診断する。このような合理主義のため、[[経済平和研究所]]のデータを使って客観的に算出した[[世界平和度指数#積極的平和指数|積極的平和指数]]では、バルト三国のエストニアを除き、[[イングルハート-ウェルゼル文化地図|イングルハート・ウェルツェル文化地図]]でプロテスタントヨーロッパに分類される国:[[北欧諸国]]([[スウェーデン]]、[[デンマーク]]、[[フィンランド]]、[[ノルウェー]]、[[アイスランド]])、[[スイス]]、[[オランダ]]、[[ドイツ]]、そして限りなくプロテスタントヨーロッパに近いオーストラリア、ニュージーランドは日本とともに上位13カ国に入っていることが分かる<ref name=":022">{{Cite web |title=WVS Database |url=https://www.worldvaluessurvey.org/WVSContents.jsp?CMSID=findings&CMSID=findings |website=www.worldvaluessurvey.org |accessdate=2022-03-19}}</ref><ref name=":12">{{Cite web |url=https://www.visionofhumanity.org/wp-content/uploads/2022/02/PPR-2022-web-1.pdf |title=POSITIVE PEACE REPORT Analysing the factors that build, predict and sustain peace. |accessdate=2022-01-31}}</ref>。
プロテスタントと近代の関わりについてはもうひとつ、異なる側面を扱った説があり、やはり広く知られている。教会に赴いて他の教徒と一緒に説教を聞いたり、[[賛美歌]]を歌うことによって信仰を実践していたカトリックに対して、プロテスタントは当初、個々人が聖書を読むことを重視した。集団で行う儀式に比べて読書は個人中心の行動であるため、一部の論者はこれを近代社会に特有な[[個人主義]]と結び付けて考える<ref>ルイ・デュモン (1993)</ref>。
== プロテスタントが影響したとされる出来事 ==
* 1525年ドイツ農民戦争では、ルターの勧告に従った諸侯たちが農民を鎮圧し、10万人の農民が殺された。この詳細については[[ドイツ農民戦争]]を参照。
* 1562年ユグノー戦争は、フランスのカトリックとプロテスタントが40年近くにわたり戦った内戦である。この詳細については[[ユグノー戦争]]を参照。
* ヨーロッパ諸国によるアメリカ大陸への入植。この詳細については[[イギリスによるアメリカ大陸の植民地化]]、および、[[フランスによるアメリカ大陸の植民地化]]を参照。
* 八十年戦争におけるプロテスタントの反乱。この詳細については[[八十年戦争]]を参照。
* ドイツ三十年戦争。ボヘミア(ベーメン)におけるプロテスタントの反乱をきっかけに勃発した。この詳細については[[三十年戦争]]を参照。
* インディアン戦争。アメリカ合衆国における白人入植者によるインディアンの征服戦争の総称。この詳細については[[インディアン戦争]]を参照。
* フィリップ王戦争。1675年6月から翌年8月まで、ニューイングランドで白人入植者とインディアン諸部族との間で起きた戦争{{efn|これ以降ピューリタンと先住民は全面的に対立するようになる。岩波キリスト教辞典P1035}}。この詳細については[[フィリップ王戦争]]を参照。
* 太平天国の乱。1851年から1864年まで。[[科挙]]に3度失敗した[[洪秀全]]が[[清朝]]打倒を掲げて戦った反乱。この詳細については[[太平天国の乱]]を参照。
==プロテスタントで著名な人物==
*[[洪秀全]]
*[[新渡戸稲造]]
*[[内村鑑三]]
*[[マーティン・ルーサー・キング・ジュニア|マーティン・ルーサー・キング]]
*[[遠山参良]]
*[[李登輝]]
*[[新島襄]]
*[[三浦綾子]]
*[[横田滋]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{ページ番号|date=2019年9月}}
;注釈
{{notelist|2}}
;脚注
{{reflist|2|refs=
版<ref name=":022">{{Cite web |title=WVS Database |url=https://www.worldvaluessurvey.org/WVSContents.jsp?CMSID=findings&CMSID=findings |website=www.worldvaluessurvey.org |accessdate=2022-03-19}}</ref>
<ref name=":2">{{Cite web |title=WVS Database |url=https://www.worldvaluessurvey.org/WVSNewsShow.jsp?ID=428 |website=www.worldvaluessurvey.org |accessdate=2022-03-19}}</ref>
<ref name=":3">{{Cite web |title=WVS Database |url=https://www.worldvaluessurvey.org/wvs.jsp |website=www.worldvaluessurvey.org |accessdate=2022-03-19 |language=en}}</ref>
<ref name=":0">[WVS wave 7 (2017-2020): Haerpfer, C., Inglehart, R., Moreno, A., Welzel, C., Kizilova, K., Diez-Medrano J., M. Lagos, P. Norris, E. Ponarin & B. Puranen et al. (eds.). 2020. World Values Survey: Round Seven – Country-Pooled Datafile. Madrid, Spain & Vienna, Austria: JD Systems Institute & WVSA Secretariat.] {{doi|10.14281/18241.1}}</ref>
}}
== 参考文献 ==
*『個人主義論考 近代イデオロギーについての人類学的展望』 ルイ・デュモン著 渡辺公三・浅野房一訳 ISBN 4-905913-46-2 1993年
== 関連項目 ==
*[[ヘブライ語聖書]]
*[[キリスト教根本主義]]
*[[福音派]]
*[[セブンスデー・アドベンチスト教会]]
*[[敬虔主義]]
*[[フス派]](ボヘミア兄弟団、モラヴィア兄弟団)
*[[ヴァルド派]](ヴァルド派)
*[[日本基督教団]]
*[[教団新生会]]
*[[日本イエス・キリスト教団]]
*[[イエス之御霊教会]]
*[[キリスト教主義学校]](ミッションスクール)
**[[ミッション系大学#プロテスタント]]
*[[ユーリィ・ダルマティン]]
*[[日本福音同盟]]
*[[日本のプロテスタント教派一覧]]
*[[日本のプロテスタント人名一覧]]
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[[Category:聖書]]
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7,395 | 正教会 | 正教会(せいきょうかい、ギリシア語: Ορθόδοξη Εκκλησία、ロシア語: Православие、英語: Orthodox Church)は、ギリシャ正教もしくは東方正教会(とうほうせいきょうかい、Eastern Orthodox Church)とも呼ばれる、キリスト教の教会(教派)の一つ。
日本語の「正教」、英語名の"Orthodox"(オーソドックス)は、「正しい讃美」「正しい教え」を意味するギリシャ語のオルソドクシア "ορθοδοξία" に由来する。正教会は使徒継承を自認し、自身の歴史を1世紀の初代教会にさかのぼるとしている。
なお「東方教会」が正教会を指している場合もある。
例外はあるものの、正教会の組織は国名もしくは地域名を冠した組織を各地に形成するのが基本である。コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁、ロシア正教会、セルビア正教会、ルーマニア正教会、ブルガリア正教会、グルジア正教会、ギリシャ正教会、日本正教会などは個別の組織名であって教会全体の名ではない。いずれの地域別の教会組織も、正教として同じ信仰を有している。教会全体の名はあくまで正教会であり、「ロシア正教に改宗」「ルーマニア正教に改宗」といった表現は誤りである。
なお、アルメニア使徒教会(アルメニア正教会)、シリア正教会、コプト正教会、エチオピア正教会なども同じく「正教会」を名乗りその正統性を自覚しているが、上に述べたギリシャ正教とも呼ばれる正教会とは4世紀頃に分離した別の系統に属する。英語ではこれらの教会は"Oriental Orthodox Church"とも呼ばれる。詳細は非カルケドン派正教会を参照。
東方正教会は、一国家(一民族)、一教会を原則としているが、ウクライナ正教会に関しては1686年からロシア正教会の管轄下にあった。
正教会とは、東方教会のうち、七つの全地公会議を承認し、ふつう、古代総主教庁のうちローマを除いた4総主教庁、すなわち(ギリシャ正教系の)コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁とキノニア(コミュニオン)関係にある諸教会をいう。
成立期において地中海の沿岸東半分の地域を主な基盤とし、東ローマ帝国の国教として発展したことから「東方正教会」の名もあるが、今日ではギリシャ、東欧において優勢であるのみならず、世界の大陸すべてに信徒が分布する。また、中東にも初代教会から継承される少なくない正教徒のコミュニティが存在する。
他教会(教派)との関係については、「正教会と他の諸教会が『分裂』した」のではなく、「正教会から他の諸教会が離れて行った」と正教会は捉えている(西方教会には逆の観方ないし別の観方がある)。
20世紀に、正教会が盛んな地域である東欧に成立した共産主義政権の弾圧を受けて大きな人的・物的・精神的被害を受けたが、共産主義政権の崩壊後に各地の正教会は復興しつつある。
日本には亜使徒の称号で後に列聖されたニコライによりロシア正教会から伝道され、日本正教会が成立している。日本正教会では、イエス・キリストを中世ギリシャ語・ロシア語由来の読み方でイイスス・ハリストスと転写したり、"Άγιο Πνεύμα"(アギオ・プネヴマ、聖霊)を聖神と訳したりするなど、用語上、日本の慣例的な表記と異なる点がある。以下、この記事では日本ハリストス正教会で使われている用語を断りなく用いる場合がある。こうした用語については日本正教会の聖書・祈祷書等にみられる独自の翻訳・用語体系を参照。
正教会は上記4つの古代総主教庁(コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁)のほか、独立正教会、自治正教会の数々で構成されている。
基本的に総主教達は平等である。
各独立正教会・自治正教会の首座主教(総主教・府主教・大主教のいずれかがその任にあたる)は「同格者中の第一人者」として、他の主教達に比べて若干の特権を持って居る。しかし首座主教といえども、他の主教達・主教会議の同意が無ければ独断では行動できない(聖使徒規則34条)。
各独立教会・各自治教会には統括する首座主教が居るが、それぞれの教会組織・首座主教に歴史的な尊敬の度合いの違いはあっても権威の優劣は存在しない。カトリック教会におけるローマ教皇をトップとするような組織構成をとらず、各地域の独立教会・自治教会が、正教信仰と使徒時代以来の教会の姿を分かち合って緩やかに結びつき、正教会としての一致を保っている。
各教会が区別されながら一つに一致しているのは、「区別と一致」である至聖三者(三位一体の神)の姿が教会に映し出されているものと理解される。こうした教会の現状は、歴史上、教会共同体が拡大するにつれ、母体となる母教会から子教会が生まれ出るというプロセスを経て形成された。「母教会」「子教会」「姉妹教会」という表現が使われる。
独立正教会や自治正教会の中には、正教会に複数ある総主教庁からの承認が一部のみにとどまっているものがある。たとえばエストニア使徒正教会やウクライナ正教会は、コンスタンティノープル総主教庁からは自治正教会/独立正教会として承認されているが、モスクワ総主教庁からは承認を得られていない。逆に日本正教会はモスクワ総主教庁からは自治正教会として承認されているが、コンスタンティノープル総主教庁からは自治正教会としては承認を得られていない。ただしこれらの場合、論点になるのは当該教会の地位についてであって、お互いに正教会としては承認し合い、交流も行われている(例:日本正教会の他正教会との交流)。
また、20世紀末からアンティオキア総主教庁およびロシア正教会に自主管理教会という教会組織の種別が設けられている。
これらのほかに、マケドニア正教会、モンテネグロ正教会など、上記の正教会の組織からは承認されていない教会組織がある。これらの教会との交流をどのようにするかについては、それぞれの正教会組織において個別に判断されており、全世界の正教会に共通する統一見解は無い。
正教会は、イイスス・ハリストス(イエス・キリストの中世ギリシア語および教会スラヴ語読み)の十字架刑による死と復活の証人とされる使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のあり方を唯一正しく受け継いでいると自認している。正教会は、神の啓示を信仰の基盤とし、連綿と受け継がれてきた神による啓示に基づく信仰と教えを、聖伝と呼び、聖伝を伝えていくにあたっては、聖神(聖霊)の導きがあるとする。また正教会においては、キリスト教は復活の福音に他ならないとされる。
正教会における聖伝の本質は、教会を形成していく人々の生きた体験の記憶である。聖書・聖師父の著書・全地公会議の規定・奉神礼(祈祷書・イコン・聖歌なども含む)等は個々別々な現れであり、これらの構成要素を集積しても聖伝全体とはならない。なお正教会において聖書は、聖伝の中核であり、使徒らが残した最も公的な啓示と捉えられている。
正教会においては、信仰は神の存在を認めることにとどまらず、神の慈愛に自らを委ねることであり、行いを伴う信仰が本来の意味における人間の完成を実現し、周囲を明るく照らすものであるとされる。信仰を自分のものとするかしないかは、その人自身の自覚と努力する意志によるとされる。
教会に属する全てのものは機密的で神秘的なものとされる。特に聖体機密は「機密の機密」ないし「教会の機密」と呼ばれ、教会生活の中心と理解される。
正教会が信じている内容を簡単かつ適切な言葉で表していると位置づけられるのが、日本正教会では単に信経(しんけい)と呼ばれるニケヤ・コンスタンチノープル信経である。
「正教はハリストスの復活のいのちそのもの」「いのちは言葉では伝わらないこと」から、正教について言葉で説明し尽くすことは出来ないことが強調される。
西方教会では、第二バチカン公会議以降、斎の義務がゆるやかになったが、正教会では今でも食物制限を伴う「斎」が教義上重要な位置を保ち、信者の生活の習慣となっている。
斎は主に食物摂取の規定に言及されるが、斎の期間は他の遊興なども控え、行いを慎み、祈りを増やし、学びの機会を積極的に設け、ハリストス・教会のための働きを増すことが勧められている。「断食」という言葉で斎を限定する事は避けられる傾向がある。
斎についてのキリスト教文書の最古の規定は19世紀にコンスタンティノープル総主教庁図書室で発見された1世紀の文書『ディダケー』(十二使徒の教え)である。斎の習慣は旧約時代から継承されたものであり、古代からごく最近に至るまで、東西を問わず守られていた。
斎は祭と表裏一体をなす。大きな祭には必ず厳格な斎がその前に義務付けられる。正教徒の生活は斎と祭によってリズムをつけられているといえる。
斎の規定は食品を以下のように分類する。
斎は程度に応じてこれらの食品を禁止または許可するものである。 もっとも厳格な斎は、肉、魚、乾酪、酒、オリーブ油を禁食するものである。明示的に禁止されているのはぶどう酒であるが、他の酒類も避けるのが通例である。これに対して、オリーブ油以外を避けなければいけないかどうかは、論者により分かれる。
最も厳格な斎は次の時になされる。
これに対して、祭および他の定められた時節には、斎が解かれる。
また大斎中の主日には酒とオリーブ油、生神女福音祭が大斎期間にある場合には加えて魚が許される。
なお一般信徒の間では斎の際にも魚食は許される事が多い。上記の斎規定はあくまで標準的な修道院のものであり、一般信徒に対してはこれらに比べて比較的緩やかな斎が勧められるのが常である。しかしどの程度の斎・食物規定が信徒に勧められるかは地域・教区によって差があり、一概には言えない。
もっとも期間の長い斎は大斎である。土日を除く8週間、合計四十日が最も厳しい斎に充てられる。詳細は大斎の項を参照。
これに対して短い斎は、水・金曜日および定められた祭の前の一日の斎である。領聖前の禁食を斎とみなすならば、半日に満たない斎期間もあるといえる。
これらの中間に
などの比較的長期にわたる斎がある。
コンスタンティノープル総主教は全地総主教とのタイトルを保持し、「対等な者達(主教達)における第一人者」(First among Equals)と呼ばれ敬意を表されるが、総主教達は基本的に全て平等である。
正教を国教とする国家としてはギリシャ(ギリシャ正教会)、フィンランド(フィンランド正教会)、キプロス(キプロス正教会)が挙げられる。ロシアにおいてはロシア正教会が最大多数を占めるが、国教とは定められていない。
東方正教会という別称は、西方教会(ローマ・カトリック、聖公会、プロテスタントほか)に対置される語である。両者は11世紀頃に分立した。東方教会という名称は多く西方で使われる語であり、正教会自身は、たんに「正教」ないし「正教会」の語を好んで用いる。これは「正教」が「正しい教え」であるため、それ以上の限定を必要としないという発想に基づいているほか、現在は正教会の伝道範囲が東方に限定されていないという現状も反映されている半面、日本語では東方正教との区別がつきにくくなるというプラクティカルな問題もある(英語では"eastern"と"oriental"ではっきり区別される)。また自称としては「正教徒」が多く使われる。
英語ではギリシャで発祥した教会という意味で Greek Orthodox Church ともいい、これにあわせて日本では正教会を指してギリシャ正教と呼ぶことも多い。これはギリシア語圏に正教会の中心があったことから誤用とはいいがたく、日本ハリストス正教会関係者のなかにも、ギリシャ正教の語を用いる者がいる。なおギリシャ正教会と呼ぶこともあるが、これは近代に設置された、ギリシャ共和国を主として管轄するギリシャ正教会(ギリシャ共和国の正教会)(Church of Greece) を指す名称でもある。
「ロシア正教」が教派名として使われる事がままあるがこれは誤りである。「ロシア正教」は教派名ではなく組織名であり、その教義は他の正教会組織であるグルジア正教会、ブルガリア正教会、セルビア正教会、ギリシャ正教会、ルーマニア正教会、日本正教会などと完全に同様である。また、グルジア正教会は5世紀、ブルガリア正教会は10世紀、セルビア正教会は13世紀に独立正教会として承認されているが(ただしいずれも後代、一時的に地位喪失の期間があった)、ロシア正教会は独立正教会としての地位を母教会から承認されたのは16世紀に入ってからであり、相対的には新しい組織であるという点に鑑みても、「ロシア正教」は教派の別名として用いるのは適切でない。
正教会と頻繁に比較される別教派としてローマ・カトリック教会があるが、「オーソドクス」(正しい讃美)と「カトリック」(普遍)は元来、対立概念ではなく、違う文脈から教会の性質を述べるものである(後述)。正教会もまた信経にある通りに、「一つの聖にして『公なる』(カトリケー)使徒の教会」であることを任じており、教会の普遍性(カトリコス)を深く自覚しているが、自教会の名称としては「オーソドクス」を名乗っている。
正教会における教会論(教会とは何か)においては、教会はハリストス(キリスト)の体であり、至聖三者(三位一体の神)の像であると理解され、教会の首(かしら)はハリストスであるとされる。
正教会は信経において「聖にして公なる使徒の教会」とされる。
教会は聖なるハリストスの体であり、至聖三者(三位一体の神)の像であり、聖なる神との交わりの中にあるため、聖であると理解される。
「公なる」(カトリック、ギリシア語: καθολικός カソリコス, 英語: Catholic)については、地理的な広がりといった外的なものとしてのみ理解されるべきではなく(地理的に拡大する以前から教会は「公なる」ものであったと理解される)、質的な面からも理解されなければならない。「公なる教会」は正教において、充分であり、完全であり、全てを包括し、欠落が無いことを意味する。
「使徒の」については、正教会が自教会を、使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のありかたを、唯一正しく受け継いできた教会であるとすることを意味する。また、「ハリストス(キリスト)の体(聖体血)を中心にした奉神礼共同体」としても自教会を捉え、ビザンティン時代に現在のかたちがほぼ確立した奉神礼(礼拝)には、ハリストスと使徒達によって行われた礼拝のかたちと霊性が保たれているとする。
パンとブドウ酒をハリストス(キリスト)の体と血として食べる感謝の祭儀(聖体礼儀)は、正教会においてキリスト教の伝統の神髄とされる。教会共同体の中心にはこの感謝の祭儀(聖体礼儀)があるとし、この「聖体血を食べる」ことを通じて、信者がハリストス・神と一つとなり、互いが一つとなり、ハリストスが集めた「新たなる神の民の集い・教会」が確かめられるとする。
正教会における聖職者は神品(しんぴん)という。
教会という共同体が拡大するにつれて使徒達が自身に代わるものとして共同体の中心に置いた者は主教であり、現代の正教会にみられる主教はこれの継承者であり、主教達のまとめ役として総主教、府主教、大主教がいる。
主教の輔佐役として司祭・輔祭がいる。司祭は主教区に属する管轄区において奉神礼を司祷し、説教、相談等の職務にあたる。輔祭は聖体礼儀や教会の他の職務に際し、また他の教会における働きに際し、主教・司祭の輔佐を行う。輔祭、司祭、主教の順に叙聖されていくが、司祭と輔祭は輔祭叙聖前であれば妻帯できる(主教は修道士から選ばれるため独身である)。
正教会において、聖伝(ギリシア語: Ιερά Παράδοση, ロシア語: Священное Предание, ルーマニア語: Sfânta Tradiție, 英語: Holy Tradition)とは神の民(すなわち正教会、正教徒)の生活そのものである。聖イウスチン・ポポヴィッチは、聖伝について「ハリストス(キリスト)にあっての生活=至聖三者(三位一体の神)にあっての生活、ハリストスにあっての成長=至聖三者にあっての成長」とまとめている。
聖伝は継続し、教会が聖神(せいしん、聖霊)の導きを受けて生き続けるゆえに、成長し、発展する。セルゲイ・ブルガーコフによれば、「聖伝は今も以前より小さくなることなく恒に続き、私たちは聖伝の中に生き、聖伝を実行する。」。
聖伝の内容には、具体的には聖書、聖使徒・衆聖人・致命者・聖師父達によるの著述や教え及び行動、奉神礼、初代教会の伝承、全地公会議の確認事項などが挙げられるが、聖伝は全てがこれらの具体的な諸事物に還元できるものではない。聖伝は単なる伝達事項や情報を超えている。聖伝は神について私たちに教え神の知識を教えるが、実際に聖伝の生活に入るとはどのような事なのかを理解するのには、神との交わり(キノニア)の直接的体験が必要であるとされる。
聖大ワシリイ(バシレイオス)による上記の記述は、教会の聖伝について真の「実存的な」面を示している。正教会において聖伝は、固定された教義でもなければ、画一的な奉神礼の実践でもない。確かに聖伝には教理や奉神礼の定式が含まれるが、それらを超えて教会の日常生活を通して体験される、イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)の恩寵と、神父(かみちち・父なる神)の仁愛、聖神(せいしん・聖霊)の交親(交わり・キノニア)(コリンフ後書13:13)を通しての神の民の変容があるとされる。
教会にある全てのものが聖伝とされるわけではない。神の国とは本質的には関係がなく、一部の地域でのみ習慣的に行われているものもある。教会の中にあるものが聖伝かそうでないかは、「使徒時代に遡るものか(聖書に基礎づけられているか)」「全ての教会に受け入れられ聖師父によって教えられているか」などによって判断される。なお、全ての聖師父による著述が同等の権威を有するわけではなく、特に重要と判断されるものとそうでないものとがある。 | [
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"text": "正教会(せいきょうかい、ギリシア語: Ορθόδοξη Εκκλησία、ロシア語: Православие、英語: Orthodox Church)は、ギリシャ正教もしくは東方正教会(とうほうせいきょうかい、Eastern Orthodox Church)とも呼ばれる、キリスト教の教会(教派)の一つ。",
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"text": "日本語の「正教」、英語名の\"Orthodox\"(オーソドックス)は、「正しい讃美」「正しい教え」を意味するギリシャ語のオルソドクシア \"ορθοδοξία\" に由来する。正教会は使徒継承を自認し、自身の歴史を1世紀の初代教会にさかのぼるとしている。",
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"text": "なお「東方教会」が正教会を指している場合もある。",
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"text": "例外はあるものの、正教会の組織は国名もしくは地域名を冠した組織を各地に形成するのが基本である。コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁、ロシア正教会、セルビア正教会、ルーマニア正教会、ブルガリア正教会、グルジア正教会、ギリシャ正教会、日本正教会などは個別の組織名であって教会全体の名ではない。いずれの地域別の教会組織も、正教として同じ信仰を有している。教会全体の名はあくまで正教会であり、「ロシア正教に改宗」「ルーマニア正教に改宗」といった表現は誤りである。",
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"text": "なお、アルメニア使徒教会(アルメニア正教会)、シリア正教会、コプト正教会、エチオピア正教会なども同じく「正教会」を名乗りその正統性を自覚しているが、上に述べたギリシャ正教とも呼ばれる正教会とは4世紀頃に分離した別の系統に属する。英語ではこれらの教会は\"Oriental Orthodox Church\"とも呼ばれる。詳細は非カルケドン派正教会を参照。",
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"text": "東方正教会は、一国家(一民族)、一教会を原則としているが、ウクライナ正教会に関しては1686年からロシア正教会の管轄下にあった。",
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"text": "正教会とは、東方教会のうち、七つの全地公会議を承認し、ふつう、古代総主教庁のうちローマを除いた4総主教庁、すなわち(ギリシャ正教系の)コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁とキノニア(コミュニオン)関係にある諸教会をいう。",
"title": "概要"
},
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"text": "成立期において地中海の沿岸東半分の地域を主な基盤とし、東ローマ帝国の国教として発展したことから「東方正教会」の名もあるが、今日ではギリシャ、東欧において優勢であるのみならず、世界の大陸すべてに信徒が分布する。また、中東にも初代教会から継承される少なくない正教徒のコミュニティが存在する。",
"title": "沿革・分布"
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"text": "他教会(教派)との関係については、「正教会と他の諸教会が『分裂』した」のではなく、「正教会から他の諸教会が離れて行った」と正教会は捉えている(西方教会には逆の観方ないし別の観方がある)。",
"title": "沿革・分布"
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"text": "20世紀に、正教会が盛んな地域である東欧に成立した共産主義政権の弾圧を受けて大きな人的・物的・精神的被害を受けたが、共産主義政権の崩壊後に各地の正教会は復興しつつある。",
"title": "沿革・分布"
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"text": "日本には亜使徒の称号で後に列聖されたニコライによりロシア正教会から伝道され、日本正教会が成立している。日本正教会では、イエス・キリストを中世ギリシャ語・ロシア語由来の読み方でイイスス・ハリストスと転写したり、\"Άγιο Πνεύμα\"(アギオ・プネヴマ、聖霊)を聖神と訳したりするなど、用語上、日本の慣例的な表記と異なる点がある。以下、この記事では日本ハリストス正教会で使われている用語を断りなく用いる場合がある。こうした用語については日本正教会の聖書・祈祷書等にみられる独自の翻訳・用語体系を参照。",
"title": "沿革・分布"
},
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"text": "正教会は上記4つの古代総主教庁(コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁)のほか、独立正教会、自治正教会の数々で構成されている。",
"title": "教会"
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"text": "基本的に総主教達は平等である。",
"title": "教会"
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"text": "各独立正教会・自治正教会の首座主教(総主教・府主教・大主教のいずれかがその任にあたる)は「同格者中の第一人者」として、他の主教達に比べて若干の特権を持って居る。しかし首座主教といえども、他の主教達・主教会議の同意が無ければ独断では行動できない(聖使徒規則34条)。",
"title": "教会"
},
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"text": "各独立教会・各自治教会には統括する首座主教が居るが、それぞれの教会組織・首座主教に歴史的な尊敬の度合いの違いはあっても権威の優劣は存在しない。カトリック教会におけるローマ教皇をトップとするような組織構成をとらず、各地域の独立教会・自治教会が、正教信仰と使徒時代以来の教会の姿を分かち合って緩やかに結びつき、正教会としての一致を保っている。",
"title": "教会"
},
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"text": "各教会が区別されながら一つに一致しているのは、「区別と一致」である至聖三者(三位一体の神)の姿が教会に映し出されているものと理解される。こうした教会の現状は、歴史上、教会共同体が拡大するにつれ、母体となる母教会から子教会が生まれ出るというプロセスを経て形成された。「母教会」「子教会」「姉妹教会」という表現が使われる。",
"title": "教会"
},
{
"paragraph_id": 16,
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"text": "独立正教会や自治正教会の中には、正教会に複数ある総主教庁からの承認が一部のみにとどまっているものがある。たとえばエストニア使徒正教会やウクライナ正教会は、コンスタンティノープル総主教庁からは自治正教会/独立正教会として承認されているが、モスクワ総主教庁からは承認を得られていない。逆に日本正教会はモスクワ総主教庁からは自治正教会として承認されているが、コンスタンティノープル総主教庁からは自治正教会としては承認を得られていない。ただしこれらの場合、論点になるのは当該教会の地位についてであって、お互いに正教会としては承認し合い、交流も行われている(例:日本正教会の他正教会との交流)。",
"title": "教会"
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"text": "また、20世紀末からアンティオキア総主教庁およびロシア正教会に自主管理教会という教会組織の種別が設けられている。",
"title": "教会"
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"text": "これらのほかに、マケドニア正教会、モンテネグロ正教会など、上記の正教会の組織からは承認されていない教会組織がある。これらの教会との交流をどのようにするかについては、それぞれの正教会組織において個別に判断されており、全世界の正教会に共通する統一見解は無い。",
"title": "教会"
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"text": "",
"title": "教会"
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"text": "正教会は、イイスス・ハリストス(イエス・キリストの中世ギリシア語および教会スラヴ語読み)の十字架刑による死と復活の証人とされる使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のあり方を唯一正しく受け継いでいると自認している。正教会は、神の啓示を信仰の基盤とし、連綿と受け継がれてきた神による啓示に基づく信仰と教えを、聖伝と呼び、聖伝を伝えていくにあたっては、聖神(聖霊)の導きがあるとする。また正教会においては、キリスト教は復活の福音に他ならないとされる。",
"title": "教義"
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"text": "正教会における聖伝の本質は、教会を形成していく人々の生きた体験の記憶である。聖書・聖師父の著書・全地公会議の規定・奉神礼(祈祷書・イコン・聖歌なども含む)等は個々別々な現れであり、これらの構成要素を集積しても聖伝全体とはならない。なお正教会において聖書は、聖伝の中核であり、使徒らが残した最も公的な啓示と捉えられている。",
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"text": "正教会においては、信仰は神の存在を認めることにとどまらず、神の慈愛に自らを委ねることであり、行いを伴う信仰が本来の意味における人間の完成を実現し、周囲を明るく照らすものであるとされる。信仰を自分のものとするかしないかは、その人自身の自覚と努力する意志によるとされる。",
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"text": "教会に属する全てのものは機密的で神秘的なものとされる。特に聖体機密は「機密の機密」ないし「教会の機密」と呼ばれ、教会生活の中心と理解される。",
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"text": "西方教会では、第二バチカン公会議以降、斎の義務がゆるやかになったが、正教会では今でも食物制限を伴う「斎」が教義上重要な位置を保ち、信者の生活の習慣となっている。",
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"text": "教会は聖なるハリストスの体であり、至聖三者(三位一体の神)の像であり、聖なる神との交わりの中にあるため、聖であると理解される。",
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"text": "「公なる」(カトリック、ギリシア語: καθολικός カソリコス, 英語: Catholic)については、地理的な広がりといった外的なものとしてのみ理解されるべきではなく(地理的に拡大する以前から教会は「公なる」ものであったと理解される)、質的な面からも理解されなければならない。「公なる教会」は正教において、充分であり、完全であり、全てを包括し、欠落が無いことを意味する。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "「使徒の」については、正教会が自教会を、使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のありかたを、唯一正しく受け継いできた教会であるとすることを意味する。また、「ハリストス(キリスト)の体(聖体血)を中心にした奉神礼共同体」としても自教会を捉え、ビザンティン時代に現在のかたちがほぼ確立した奉神礼(礼拝)には、ハリストスと使徒達によって行われた礼拝のかたちと霊性が保たれているとする。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "パンとブドウ酒をハリストス(キリスト)の体と血として食べる感謝の祭儀(聖体礼儀)は、正教会においてキリスト教の伝統の神髄とされる。教会共同体の中心にはこの感謝の祭儀(聖体礼儀)があるとし、この「聖体血を食べる」ことを通じて、信者がハリストス・神と一つとなり、互いが一つとなり、ハリストスが集めた「新たなる神の民の集い・教会」が確かめられるとする。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "正教会における聖職者は神品(しんぴん)という。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "教会という共同体が拡大するにつれて使徒達が自身に代わるものとして共同体の中心に置いた者は主教であり、現代の正教会にみられる主教はこれの継承者であり、主教達のまとめ役として総主教、府主教、大主教がいる。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "主教の輔佐役として司祭・輔祭がいる。司祭は主教区に属する管轄区において奉神礼を司祷し、説教、相談等の職務にあたる。輔祭は聖体礼儀や教会の他の職務に際し、また他の教会における働きに際し、主教・司祭の輔佐を行う。輔祭、司祭、主教の順に叙聖されていくが、司祭と輔祭は輔祭叙聖前であれば妻帯できる(主教は修道士から選ばれるため独身である)。",
"title": "教会とは何か(教会論・聖職者)"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "正教会において、聖伝(ギリシア語: Ιερά Παράδοση, ロシア語: Священное Предание, ルーマニア語: Sfânta Tradiție, 英語: Holy Tradition)とは神の民(すなわち正教会、正教徒)の生活そのものである。聖イウスチン・ポポヴィッチは、聖伝について「ハリストス(キリスト)にあっての生活=至聖三者(三位一体の神)にあっての生活、ハリストスにあっての成長=至聖三者にあっての成長」とまとめている。",
"title": "聖伝"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "聖伝は継続し、教会が聖神(せいしん、聖霊)の導きを受けて生き続けるゆえに、成長し、発展する。セルゲイ・ブルガーコフによれば、「聖伝は今も以前より小さくなることなく恒に続き、私たちは聖伝の中に生き、聖伝を実行する。」。",
"title": "聖伝"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "聖伝の内容には、具体的には聖書、聖使徒・衆聖人・致命者・聖師父達によるの著述や教え及び行動、奉神礼、初代教会の伝承、全地公会議の確認事項などが挙げられるが、聖伝は全てがこれらの具体的な諸事物に還元できるものではない。聖伝は単なる伝達事項や情報を超えている。聖伝は神について私たちに教え神の知識を教えるが、実際に聖伝の生活に入るとはどのような事なのかを理解するのには、神との交わり(キノニア)の直接的体験が必要であるとされる。",
"title": "聖伝"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "聖大ワシリイ(バシレイオス)による上記の記述は、教会の聖伝について真の「実存的な」面を示している。正教会において聖伝は、固定された教義でもなければ、画一的な奉神礼の実践でもない。確かに聖伝には教理や奉神礼の定式が含まれるが、それらを超えて教会の日常生活を通して体験される、イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)の恩寵と、神父(かみちち・父なる神)の仁愛、聖神(せいしん・聖霊)の交親(交わり・キノニア)(コリンフ後書13:13)を通しての神の民の変容があるとされる。",
"title": "聖伝"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "教会にある全てのものが聖伝とされるわけではない。神の国とは本質的には関係がなく、一部の地域でのみ習慣的に行われているものもある。教会の中にあるものが聖伝かそうでないかは、「使徒時代に遡るものか(聖書に基礎づけられているか)」「全ての教会に受け入れられ聖師父によって教えられているか」などによって判断される。なお、全ての聖師父による著述が同等の権威を有するわけではなく、特に重要と判断されるものとそうでないものとがある。",
"title": "聖伝"
}
] | 正教会は、ギリシャ正教もしくは東方正教会とも呼ばれる、キリスト教の教会(教派)の一つ。 日本語の「正教」、英語名の"Orthodox"(オーソドックス)は、「正しい讃美」「正しい教え」を意味するギリシャ語のオルソドクシア "ορθοδοξία" に由来する。正教会は使徒継承を自認し、自身の歴史を1世紀の初代教会にさかのぼるとしている。 なお「東方教会」が正教会を指している場合もある。 例外はあるものの、正教会の組織は国名もしくは地域名を冠した組織を各地に形成するのが基本である。コンスタンティノープル総主教庁、アレクサンドリア総主教庁、アンティオキア総主教庁、エルサレム総主教庁、ロシア正教会、セルビア正教会、ルーマニア正教会、ブルガリア正教会、グルジア正教会、ギリシャ正教会、日本正教会などは個別の組織名であって教会全体の名ではない。いずれの地域別の教会組織も、正教として同じ信仰を有している。教会全体の名はあくまで正教会であり、「ロシア正教に改宗」「ルーマニア正教に改宗」といった表現は誤りである。 なお、アルメニア使徒教会(アルメニア正教会)、シリア正教会、コプト正教会、エチオピア正教会なども同じく「正教会」を名乗りその正統性を自覚しているが、上に述べたギリシャ正教とも呼ばれる正教会とは4世紀頃に分離した別の系統に属する。英語ではこれらの教会は"Oriental Orthodox Church"とも呼ばれる。詳細は非カルケドン派正教会を参照。 東方正教会は、一国家(一民族)、一教会を原則としているが、ウクライナ正教会に関しては1686年からロシア正教会の管轄下にあった。 | {{Otheruseslist|'''[[ギリシャ正教]]'''とも呼ばれ、[[グルジア正教会]]・[[日本ハリストス正教会|日本正教会]]・[[ブルガリア正教会]]・[[ルーマニア正教会]]・[[ロシア正教会]]等を含む'''正教会'''|'''非カルケドン派'''とも呼ばれる[[アルメニア使徒教会]]、[[エチオピア正教会]]、[[コプト正教会]]、[[シリア正教会]]等|非カルケドン派正教会}}
{{Pathnav|キリスト教|東方教会|frame=1}}
[[ファイル:Angelsatmamre-trinity-rublev-1410.jpg|thumb|right|200px|[[アンドレイ・ルブリョフ|聖アンドレイ・ルブリョフ]]による[[イコン]]『[[至聖三者 (ルブリョフによるイコン)|至聖三者]]』。[[至聖三者]]([[三位一体]]の神)そのものは描けないが、至聖三者を象徴する三天使を描いたイコンであるとされる<ref>[http://www.sutv.zaq.ne.jp/osaka-orthodox/icon/shiseisansha.htm 至聖三者(三位一体)のイコン] - [http://www.sutv.zaq.ne.jp/osaka-orthodox/ 大阪ハリストス正教会]のページ</ref>。正教会において、教会は「[[キリスト|ハリストス(キリスト)]]の体」として、また至聖三者の像(イメージ)として、両面から理解される<ref>[[エフェソの信徒への手紙|エフェス書]] 1:23を根拠とする。[http://lib.eparhia-saratov.ru/books/11l/lossky/mystic/10.html {{lang|ru|Глава IX. Два аспекта Церкви - Очерк мистического богословия Восточной Церкви - Владимир Лосский}}]([[ウラジーミル・ロースキイ]])</ref><ref name="名前なし-1">[http://www.orthodoxjapan.jp/tebiki/shinkou05.html 信仰-教会:日本正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref><ref name="Dragas">[http://orthodoxinfo.com/general/dragas.aspx Orthodox Ecclesiology in Outline] by [http://orthodoxwiki.org/George_Dragas Fr. George Dragas]</ref>。教会とは何かを考えるのにあたり、正教では至聖三者についての言及は避けられない<ref>[http://www.oodegr.com/oode/dogmat1/ST2c.htm {{lang|el|Γ. Η Τριαδολογική βάση της Εκκλησιολογίας}}] {{el icon}} [http://www.oodegr.com/english/dogmatiki1/F2c.htm C. The Trinitarian basis of Ecclesiology] {{en icon}} ([http://www.oodegr.com/oode/dogmat1/perieh.htm {{lang|el|Σημειώσεις από τις παραδόσεις τού καθηγητού Ι. Δ. Ζηζιούλα}}]より)</ref>。]]
[[File:Monroe County - All Saints Orthodox Church - divine liturgy - P1040498.JPG|thumb|right|220px|[[アメリカ合衆国]]の正教会での[[聖体礼儀]]。[[聖体機密]]はその重要性から[[機密 (正教会)|機密]]の中の機密と呼ばれる<ref name="houshinrei2">トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』14頁・17頁、西日本主教区(日本正教会)</ref><ref name="OCASacraments">[http://oca.org/orthodoxy/the-orthodox-faith/worship/the-sacraments/the-sacraments OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - The Sacraments]</ref><ref name="OCAEucharist">[http://oca.org/orthodoxy/the-orthodox-faith/worship/the-sacraments/holy-eucharist OCA - The Orthodox Faith - Volume II - Worship - The Sacraments - Holy Eucharist]</ref>。]]
[[Image:Cruz ortodoxa.png|thumb|right|125px|[[八端十字架]]。[[スラヴ]]系の正教会でよく使われる十字。この十字のみならず、[[ギリシャ十字]]や[[ラテン十字]]などの他の十字も正教会で使われる。]]
'''正教会'''(せいきょうかい、{{lang-el|Ορθόδοξη Εκκλησία}}、{{lang-ru|Православие}}、{{lang-en|Orthodox Church}})は、'''[[ギリシャ正教]]'''<ref name="OCJtop">[http://www.orthodoxjapan.jp/ 日本正教会|ハリストス正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref>もしくは'''東方正教会'''<ref name="seikyoukaitowa">[http://www.orthodoxjapan.jp/seikyoukai.html 正教会とは:日本正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref>(とうほうせいきょうかい、{{lang|en|Eastern Orthodox Church}})とも呼ばれる、[[キリスト教]]の教会([[キリスト教諸教派の一覧|教派]])の一つ。
[[日本語]]の「'''正教'''」、英語名の"{{lang|en|Orthodox}}"(オーソドックス)は、「正しい讃美」「正しい教え」を意味する[[ギリシア語|ギリシャ語]]のオルソドクシア "{{lang|el|ορθοδοξία}}" に由来する<ref name="OCJtop" />。正教会は[[使徒継承]]を自認し、自身の歴史を[[1世紀]]の[[初代教会]]にさかのぼるとしている<ref name="tebiki8.11.">『正教会の手引き』8頁 - 11頁</ref>。
なお「[[東方教会]]」が正教会を指している場合もある<ref name="OCJtop" />。
例外はあるものの、正教会の組織は国名もしくは地域名を冠した組織を各地に形成するのが基本である。[[コンスタンティノープル総主教庁]]、[[アレクサンドリア総主教庁]]、[[アンティオキア総主教庁]]、[[エルサレム総主教庁]]、[[ロシア正教会]]、[[セルビア正教会]]、[[ルーマニア正教会]]、[[ブルガリア正教会]]、[[グルジア正教会]]、[[ギリシャ正教会]]、[[日本ハリストス正教会|日本正教会]]などは個別の組織名であって教会全体の名ではない。いずれの地域別の教会組織も、正教として同じ信仰を有している<ref>[http://oca.org/questions/namerica/greek-orthodox-and-russian-orthodox OCA - Q&A - Greek Orthodox and Russian Orthodox] - [http://oca.org/ Orthodox Church in America]のページ。{{en icon}}</ref>。教会全体の名はあくまで'''正教会'''であり、「[[ロシア]]正教に改宗」「[[ルーマニア]]正教に改宗」といった表現は誤りである<ref name="nikolaido">[http://www.geocities.jp/ynicojp2/what-nikolaido.html#2 正教会(ギリシャ正教:東方正教会)・ニコライ堂について よくある質問]</ref>。
なお、[[アルメニア使徒教会]](アルメニア正教会)、[[シリア正教会]]、[[コプト正教会]]、[[エチオピア正教会]]なども同じく「正教会」を名乗りその正統性を自覚しているが、上に述べたギリシャ正教とも呼ばれる正教会とは4世紀頃に分離した別の系統に属する。英語ではこれらの教会は{{lang|en|"Oriental Orthodox Church"}}とも呼ばれる。詳細は[[非カルケドン派正教会]]を参照。
東方正教会は、一国家(一民族)、一教会を原則としているが、ウクライナ正教会に関しては1686年からロシア正教会の管轄下にあった{{要出典|date=2023年7月}}<ref>This is not true. For example, the Russian Orthodox Church had been a metropolitanate of the Patriarchate of Constantinople for a few centuries since its establishment in 988. Eventually she received independence (autocephaly) in 1589, and it is very important to note that this independence was received in a strict accordance with the Orthodox Canon Law, which is essential for all Canonical Churches. It clearly states the difference between an autocephaly and schism. Please see [[:ru:Автокефалия_Русской_церкви|Autocephaly of the Russian Church]] for reference.</ref>。
== 概要 ==
=== 正教会を指す対象 ===
'''正教会'''とは、[[東方教会]]のうち、七つの[[全地公会議]]を承認し、ふつう、古代総主教庁のうちローマを除いた4総主教庁、すなわち([[ギリシャ正教]]系の)[[コンスタンティノープル総主教庁]]、[[アレクサンドリア総主教庁]]、[[アンティオキア総主教庁]]、[[エルサレム総主教庁]]と[[コミュニオン|キノニア(コミュニオン)]]関係にある諸教会をいう<ref name="blackwell169">"The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity" Wiley-Blackwell; New edition (2001/12/5), p169 - p170, ISBN 9780631232032</ref>。
== 沿革・分布 ==
[[File:Eastern Orthodoxy by country.png|right|thumb|450px|国別:[[正教徒]]の分布状況
{{legend|#000055|主要宗教となっている地域 (75%以上が正教徒)}}
{{legend|#0000aa|主要宗教となっている地域 (50% – 75%)}}
{{legend|#0000ff|少数派であるが重要な割合 (20% – 50%)}}
{{legend|#5555ff|少数派であるが重要な割合 (5% – 20%)}}
{{legend|#aaaaff|少数派 (1% – 5%)}}
{{legend|#b4c8ff|1%以下の少数派であるが[[独立正教会]]の地位を得ているもの}}
]]
成立期において[[地中海]]の沿岸東半分の地域を主な基盤とし、[[東ローマ帝国]]の[[国教]]として発展したことから「東方正教会」の名もあるが、今日では[[ギリシャ]]、[[東ヨーロッパ|東欧]]において優勢であるのみならず、世界の大陸すべてに信徒が分布する{{efn2|name="SP"|[[南極大陸]]にも正教会がある。[[リラの聖イオアン聖堂]]を参照。[[南極圏]]に範囲を拡大すれば[[キングジョージ島]]に[[至聖三者聖堂 (南極)]]がある。}}。また、[[中東]]にも[[初代教会]]から継承される少なくない[[正教徒]]のコミュニティが存在する。
他[[キリスト教諸教派の一覧|教会(教派)]]との関係については、「正教会と他の諸教会が『分裂』した」のではなく、「正教会から他の諸教会が離れて行った」と正教会は捉えている<ref name="seikyoukaitowa" />([[西方教会]]には逆の観方ないし別の観方がある<ref>[http://www.newadvent.org/cathen/13535a.htm CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Eastern Schism]</ref>{{efn2|name="RC"|ローマ・カトリックの側に立った見解においては「最も古い[[カトリック教会|ローマ・カトリック教会]]([[西方教会]])から東方正教会が分離した」となる。正教側の見解はこれと異なっている。少なくとも歴史上、[[教皇|ローマ教皇]]が東方教会に対して西方教会に対するのと同じような権限を行使し得た史実は無い(逆に東方の[[総主教]]が西方に対して一方的権限を行使したことも無い)。平等な総主教達の中からローマ総主教(教皇)が東方から分かれて行った、というのが正教会における認識である。このように、[[東西教会]]のいずれも、自らこそを正統であると自認している。東西両教会は[[8世紀]]から[[13世紀]]にかけて長い時間を経て差異を深め分裂に至った。詳細は[[東西教会の分裂]]を参照。}})。
[[20世紀]]に、正教会が盛んな地域である東欧に成立した[[共産主義]][[政権]]の[[弾圧]]を受けて大きな人的・物的・精神的被害を受けたが、[[ソビエト連邦の崩壊|共産主義政権の崩壊]]後に各地の正教会は復興しつつある。
[[日本]]には[[亜使徒]]の称号で後に列聖された[[ニコライ (日本大主教)|ニコライ]]により[[ロシア正教会]]から伝道され、[[日本ハリストス正教会|日本正教会]]が成立している。日本正教会では、[[イエス・キリスト]]を[[中世ギリシア語|中世ギリシャ語]]・[[ロシア語]]由来の読み方で[[イイスス・ハリストス]]と転写したり、"{{lang|el|Άγιο Πνεύμα}}"(アギオ・プネヴマ、[[聖霊]])を[[アーメン|聖神]]と訳したりするなど、用語上、日本の慣例的な表記と異なる点がある。以下、この記事では[[日本ハリストス正教会]]で使われている用語を断りなく用いる場合がある。こうした用語については[[日本ハリストス正教会#聖書・祈祷書等にみられる独自の翻訳・用語体系|日本正教会の聖書・祈祷書等にみられる独自の翻訳・用語体系]]を参照。
== 歴史 ==
{{see|正教会の歴史}}
== 教会 ==
=== 全世界の組織 ===
==== 基本構成 ====
正教会は上記4つの古代総主教庁([[コンスタンティノープル総主教庁]]、[[アレクサンドリア総主教庁]]、[[アンティオキア総主教庁]]、[[エルサレム総主教庁]])のほか、[[独立正教会]]、[[自治正教会]]の数々で構成されている<ref name="blackwell169" />。
基本的に[[総主教]]達は平等である<ref name="taka94">高橋(1980) p94</ref>。
各[[独立正教会]]・[[自治正教会]]の[[首座主教]]([[総主教]]・[[府主教]]・[[大主教]]のいずれかがその任にあたる)は「同格者中の第一人者」として、他の主教達に比べて若干の特権を持って居る。しかし首座主教といえども、他の[[主教]]達・[[聖シノド|主教会議]]の同意が無ければ独断では行動できない(聖使徒規則34条)<ref>クレマン(1977) p104</ref>。
==== 独立教会・自治教会 ====
[[ファイル:Tokyo Resurrection Cathedral 201000.jpg|thumb|right|200px|[[ニコライ堂]]([[日本正教会]]の[[首座主教]]座大聖堂、[[東京都]][[千代田区]])]]
各独立教会・各自治教会には統括する[[首座主教]]が居るが、それぞれの教会組織・首座主教に歴史的な尊敬の度合いの違いはあっても権威の優劣は存在しない。[[カトリック教会]]における[[教皇|ローマ教皇]]をトップとするような組織構成をとらず、各地域の独立教会・自治教会が、正教信仰と[[使徒]]時代以来の教会の姿を分かち合って緩やかに結びつき、正教会としての一致を保っている<ref name="seikyoukaitowa" />。
各教会が区別されながら一つに一致しているのは、「区別と一致」である[[至聖三者]]([[三位一体]]の神)の姿が教会に映し出されているものと理解される<ref name="tebiki6.">『正教会の手引き』6頁</ref>。こうした教会の現状は、歴史上、教会共同体が拡大するにつれ、母体となる母教会から子教会が生まれ出るというプロセスを経て形成された。「母教会」「子教会」「姉妹教会」という表現が使われる<ref name="taka80">高橋(1980) p80 - p82</ref>。
[[独立正教会]]や[[自治正教会]]の中には、正教会に複数ある総主教庁からの承認が一部のみにとどまっているものがある。たとえば[[エストニア使徒正教会]]{{efn2|[[コンスタンティノープル総主教庁]]庇護下の自治正教会であるエストニア使徒正教会の他に、[[モスクワ総主教庁]]庇護下に[[自主管理教会]]としての[[エストニア正教会]]がある。}}や[[ウクライナ正教会 (2018年設立)|ウクライナ正教会]]{{efn2|[[2018年]]に[[ウクライナ正教会・キエフ総主教庁]]と[[ウクライナ独立正教会]]が合同して誕生した新生[[ウクライナ正教会 (2018年設立)|ウクライナ正教会]]が、[[コンスタンティノープル総主教庁]]から独立を承認され、[[2019年]]にコンスタンティノープル総主教庁から[[独立正教会]]としての承認を得た。}}は、[[コンスタンティノープル総主教庁]]からは自治正教会/[[独立正教会]]として承認されているが、[[モスクワ総主教庁]]からは承認を得られていない。逆に[[日本ハリストス正教会|日本正教会]]はモスクワ総主教庁からは自治正教会として承認されているが、コンスタンティノープル総主教庁からは自治正教会としては承認を得られていない<ref name="blackwell169" />。ただしこれらの場合、論点になるのは当該教会の地位についてであって、お互いに正教会としては承認し合い、交流も行われている(例:[[日本ハリストス正教会#1970年以降の他正教会との交流年表|日本正教会の他正教会との交流]])。
また、20世紀末から[[アンティオキア総主教庁]]および[[ロシア正教会]]に[[自主管理教会]]という教会組織の種別が設けられている。
これらのほかに、[[マケドニア正教会]]、[[モンテネグロ正教会]]など、上記の正教会の組織からは承認されていない教会組織がある。これらの教会との交流をどのようにするかについては、それぞれの正教会組織において個別に判断されており、全世界の正教会に共通する統一見解は無い。
{{Main|正教会の教会機構一覧}}
{{Orthodoxy}}
== 教義 ==
{{see also|キリスト教#教義}}
=== 信仰内容の概要 ===
[[File:Chora Anastasis2.jpg|thumb|330px|[[フレスコ画]][[イコン]]『[[復活 (キリスト教)|復活]]』。現在は[[カーリエ博物館]]となっている、ホーラ(コーラ)修道院の聖堂内、湾曲した天井に描かれている。主[[日本ハリストス正教会#歴史|ハリストス]](キリスト)が[[アダム]]と[[イヴ|エヴァ]]の手を取り、[[地獄 (キリスト教)|地獄]]から引き上げる情景を描いたもの。この[[キリストの地獄への降下|ハリストスの地獄降り]]のイコンが、正教会においては復活のイコンとして定着している<ref name="jiho20090407">[[府主教]][[主代郁夫|ダニイル主代郁夫]]『2009年 復活大祭』正教時報 2009年4月号、7頁</ref>。]]
正教会は、[[イイスス・ハリストス]](イエス・キリストの[[中世ギリシア語]]および[[教会スラヴ語]]読み)の[[十字架]]刑による死と[[復活 (キリスト教)|復活]]の証人とされる[[使徒]]達の信仰と、使徒達から始まった教会のあり方を唯一正しく受け継いでいると自認している。正教会は、神の啓示を信仰の基盤とし、連綿と受け継がれてきた神による啓示に基づく信仰と教えを、'''[[聖伝]]'''と呼び、聖伝を伝えていくにあたっては、[[聖霊|聖神(聖霊)]]の導きがあるとする<ref name="OCJoshie">[http://www.orthodoxjapan.jp/tebiki/oshie01.html 教え-聖伝:日本正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref>。また正教会においては、キリスト教は復活の福音に他ならないとされる<ref>[http://www.orthodox-jp.com/nagoya/thomas.htm ハリストス復活!実に復活!]([http://www.orthodox-jp.com/nagoya/ 名古屋ハリストス正教会]内のページ)</ref>。
正教会における聖伝の本質は、教会を形成していく人々の生きた体験の記憶である<ref name="youri1819">『正教要理』18頁 - 19頁、[[日本ハリストス正教会]]教団 昭和55年12月12日第1刷</ref>。[[聖書]]・[[聖師父]]の著書・[[全地公会議]]の規定・[[奉神礼]]([[祈祷書 (正教会)|祈祷書]]・[[イコン]]・[[聖歌]]なども含む)等は個々別々な現れであり、これらの構成要素を集積しても聖伝全体とはならない。なお正教会において[[聖書]]は、聖伝の中核であり、使徒らが残した最も公的な啓示と捉えられている<ref name="OCJoshie" /><ref>[http://www.antiochian.org/content/scripture-and-tradition Scripture and Tradition | Antiochian Orthodox Christian Archdiocese]</ref>{{efn2|name="seisho"|正教会においては「聖書は聖伝の中核」と捉える。これに対し、[[カトリック教会]]は「聖書と聖伝を同じく尊敬すべき」とする。[[プロテスタント]]には、聖書以外の伝承も重視する者もおり一概には言えないが、傾向として基本的には「[[聖書のみ]]」の姿勢をとる。}}。
正教会においては、信仰は神の存在を認めることにとどまらず、神の慈愛に自らを委ねることであり、行いを伴う信仰が本来の意味における人間の完成を実現し、周囲を明るく照らすものであるとされる。信仰を自分のものとするかしないかは、その人自身の自覚と努力する意志によるとされる<ref name="youri0205">『正教要理』2頁 - 5頁、[[日本ハリストス正教会]]教団 昭和55年12月12日第1刷</ref>{{efn2|name="ishi"|信仰について、「その人の意志による」とはしない教派もある。たとえば[[予定説]]の立場をとる者は「その人の意志による」といった文言・考えを認めない。}}。
教会に属する全てのものは[[機密 (正教会)|機密]]的で神秘的なものとされる。特に[[聖体機密]]は「機密の機密」ないし「教会の機密」と呼ばれ、教会生活の中心と理解される<ref name="houshinrei2" /><ref name="OCASacraments" /><ref name="OCAEucharist" />。
{{Main|機密 (正教会)}}
正教会が信じている内容を簡単かつ適切な言葉で表していると位置づけられるのが、[[日本正教会]]では単に信経(しんけい)と呼ばれる[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条|ニケヤ・コンスタンチノープル信経]]である<ref name="youri20">『正教要理』20頁、[[日本ハリストス正教会]]教団 昭和55年12月12日第1刷</ref>。
「正教はハリストスの[[復活 (キリスト教)|復活]]のいのちそのもの」「いのちは言葉では伝わらないこと」から、正教について言葉で説明し尽くすことは出来ないことが強調される<ref name="seikyoukaitowa" />。
{{See also|復活 (キリスト教)|聖伝|神の像と肖|共働}}
=== 斎(ものいみ)について ===
[[ファイル:Mary of egypt2.jpg|thumb|190px|[[エジプトのマリア|エジプトの聖マリア]]の[[イコン]]。[[17世紀]]に[[ロシア]]で描かれたもの。中心に祈りを奉げる[[エジプト]]の聖マリアの姿が描かれ、周囲にその生涯についての伝承内容が左上から順に描かれている。エジプトの聖マリアの伝承には斎についての教えが豊富に含まれ、大斎の第五[[主日]]はエジプトのマリアを記憶する。]]
西方教会では、[[第二バチカン公会議]]以降、斎の義務がゆるやかになったが、正教会では今でも食物制限を伴う「斎」が教義上重要な位置を保ち、信者の生活の習慣となっている。
斎は主に食物摂取の規定に言及されるが、斎の期間は他の遊興なども控え、行いを慎み、祈りを増やし、学びの機会を積極的に設け、ハリストス・教会のための働きを増すことが勧められている。「断食」という言葉で斎を限定する事は避けられる傾向がある。
斎についてのキリスト教文書の最古の規定は[[19世紀]]にコンスタンティノープル総主教庁図書室で発見された1世紀の文書『[[ディダケー]]』(十二使徒の教え)である。斎の習慣は[[旧約]]時代から継承されたものであり、古代からごく最近に至るまで、東西を問わず守られていた。
斎は祭と表裏一体をなす。大きな祭には必ず厳格な斎がその前に義務付けられる。正教徒の生活は斎と祭によってリズムをつけられているといえる。
==== 斎の種類 ====
斎の規定は食品を以下のように分類する。
* [[食肉|肉]]
* [[魚類|魚]]
* 乾酪類:[[鶏卵|卵]]およびすべての[[乳製品]]
* [[ぶどう酒]]と[[オリーブ油]]
* その他の食品
斎は程度に応じてこれらの[[食品]]を禁止または許可するものである。
もっとも厳格な斎は、肉、魚、乾酪、[[酒]]、オリーブ油を禁食するものである。明示的に禁止されているのはぶどう酒であるが、他の酒類も避けるのが通例である。これに対して、オリーブ油以外を避けなければいけないかどうかは、論者により分かれる。
最も厳格な斎は次の時になされる。
* 斎解禁時を除く、[[水曜日]]と[[金曜日]]
* 降誕祭前日
* [[神現祭]]前日
* [[大斎 (東方正教会)|大斎]]・復活祭前、[[赦罪の主日]]の晩課後より復活祭までの期間の[[平日]]。西方教会の[[四旬節]]に相当。ただし[[生神女福音祭]]のときを除く。
これに対して、祭および他の定められた時節には、斎が解かれる。
* [[光明週間]]([[復活大祭]]につづく週) この期間はむしろ斎が「禁止」されている。
* 税吏とファリセイの主日につづく週(不禁食週間)
* 降誕祭後の一定期間
また大斎中の主日には酒とオリーブ油、生神女福音祭が大斎期間にある場合には加えて魚が許される。
なお一般信徒の間では斎の際にも魚食は許される事が多い。上記の斎規定はあくまで標準的な修道院のものであり、一般信徒に対してはこれらに比べて比較的緩やかな斎が勧められるのが常である。しかしどの程度の斎・食物規定が信徒に勧められるかは地域・教区によって差があり、一概には言えない。
==== 斎の期間 ====
もっとも期間の長い斎は大斎である。[[土曜日|土]][[日曜日|日]]を除く8週間、合計四十日が最も厳しい斎に充てられる。詳細は[[大斎 (東方正教会)|大斎]]の項を参照。
これに対して短い斎は、水・金曜日および定められた祭の前の一日の斎である。領聖前の禁食を斎とみなすならば、半日に満たない斎期間もあるといえる。
これらの中間に
* 聖使徒の斎([[ペンテコステ|聖神降誕祭]]の8日後の月曜日から[[ペトル・パウェル祭]]の前日まで)<ref>{{Cite web|和書|title=カレンダー>2023年 斎の期間|publisher=日本ハリストス正教会教団 東京復活大聖堂公式サイト|url=https://nikolaido.org/2023fasting/|accessdate=2023-07-17}}</ref>
* [[生神女就寝祭]]の斎(生神女就寝祭まで)
* [[フィリポ|フィリップ]]の斎(使徒フィリップの記憶日から[[クリスマス|降誕祭]]まで)
などの比較的長期にわたる斎がある。
== 総主教 ==
[[コンスタンティノープル総主教]]は[[全地総主教]]とのタイトルを保持し、「対等な者達(主教達)における第一人者」(First among Equals)と呼ばれ敬意を表されるが<ref>[http://www.goarch.org/archdiocese/departments/religioused/resourcesforteachers/first_among_equals First among Equals; Greek Orthodox Archdiocese of America]</ref>、[[総主教]]達は基本的に全て平等である<ref name="taka94" /><ref name="Dragas" />。
{{Gallery
|title=正教会の[[総主教]]達(総主教同士は基本的に対等)
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|File:Ecumenical Patriarch Bartholomew 200902.jpg|[[コンスタンティノープル総主教]]<br/>[[ヴァルソロメオス1世 (コンスタンディヌーポリ総主教)|ヴァルソロメオス1世]]
|File:Patriarch Theodore II of Alexandria.jpg|[[アレクサンドリア総主教]]<br/>[[セオドロス2世 (アレクサンドリア総主教)|セオドロス2世]]
|File:Patriarch John X of Antioch and Konstantinos Tsiaras derivative.jpg|[[アンティオキア総主教]]<br/>[[イオアン10世 (アンティオキア総主教)|イオアン10世]]
|File:Patriarch Theophilos III of Jerusalem Senate of Poland 01.JPG|[[エルサレム総主教]]<br/>[[セオフィロス3世 (エルサレム総主教)|セオフィロス3世]]
|File:Patriarch Kirill I of Moscow 03.jpg|[[モスクワ総主教]]<br/>[[キリル1世 (モスクワ総主教)|キリル1世]]
|File:Ilia II.jpg|[[ジョージア (国)|グルジア]]総主教<br/>イリア2世
|File:Patriarch Daniel of Romania.jpg|[[ルーマニア]]総主教<br/>ダニエル
|File:Neophyte of Bulgaria.jpg|[[ブルガリア]]総主教<br/>ネオフィト
}}
== 正教を国教とする国家 ==
正教を[[国教]]とする国家としては[[ギリシャ]]([[ギリシャ正教会]])、[[フィンランド]]([[フィンランド正教会]])、[[キプロス]](キプロス正教会)が挙げられる。[[ロシア]]においては[[ロシア正教会]]が最大多数を占めるが、国教とは定められていない<ref>[http://orthodoxeurope.org/page/3/14.aspx Bases of the Social Concept of the Russian Orthodox Church]</ref><ref>[http://users.auth.gr/~pv/Politics%20in%20Orth.%20Christianity.htm Politics in Orthodox Christianity]</ref>。
== 名称・別称 ==
=== 東方正教会 ===
東方正教会という別称は、西方教会(ローマ・カトリック、[[聖公会]]、プロテスタントほか)に対置される語である。両者は[[11世紀]]頃に分立した。[[東方教会]]という名称は多く西方で使われる語であり、正教会自身は、たんに「正教」ないし「正教会」の語を好んで用いる{{efn2|11世紀頃には「神聖にして正統普遍なる使徒の東方教会」と称していたとする説もある<ref>尚樹啓太郎『ビザンツ帝国史』1999年 東海大学出版会 P522より</ref>。}}。これは「正教」が「正しい教え」であるため、それ以上の限定を必要としないという発想に基づいているほか、現在は正教会の伝道範囲が東方に限定されていないという現状も反映されている半面、日本語では東方正教との区別がつきにくくなるというプラクティカルな問題もある(英語では"eastern"と"oriental"ではっきり区別される)。また自称としては「[[正教徒]]」が多く使われる。
=== ギリシャ正教 ===
英語ではギリシャで発祥した教会という意味で {{lang|en|Greek Orthodox Church}} ともいい、これにあわせて日本では正教会を指して[[ギリシャ正教]]と呼ぶことも多い。これはギリシア語圏に正教会の中心があったことから誤用とはいいがたく、日本ハリストス正教会関係者のなかにも、ギリシャ正教の語を用いる者がいる<ref>[[高橋保行]]『ギリシャ正教』(講談社学術文庫)、1980年。ISBN 4-06-158500-2</ref>。なお[[ギリシャ正教会]]と呼ぶこともあるが、これは近代に設置された、[[ギリシャ|ギリシャ共和国]]を主として管轄する[[ギリシャ正教会]](ギリシャ共和国の正教会)({{lang|en|Church of Greece}}) を指す名称でもある。
{{See also|ギリシャ正教}}
=== その他 ===
「ロシア正教」が教派名として使われる事がままあるがこれは誤りである。「ロシア正教」は教派名ではなく組織名であり、その教義は他の正教会組織である[[グルジア正教会]]、[[ブルガリア正教会]]、[[セルビア正教会]]、[[ギリシャ正教会]]、[[ルーマニア正教会]]、[[日本正教会]]などと完全に同様である。また、[[グルジア正教会]]は[[5世紀]]、[[ブルガリア正教会]]は[[10世紀]]、[[セルビア正教会]]は[[13世紀]]に[[独立正教会]]として承認されているが(ただしいずれも後代、一時的に地位喪失の期間があった)、ロシア正教会は独立正教会としての地位を母教会から承認されたのは[[16世紀]]に入ってからであり、相対的には新しい組織であるという点に鑑みても、「ロシア正教」は教派の別名として用いるのは適切でない<ref name="nikolaido" />。
正教会と頻繁に比較される別教派として[[カトリック教会|ローマ・カトリック教会]]があるが、「オーソドクス」(正しい讃美)と「[[カトリック (概念)|カトリック]]」(普遍)は元来、対立概念ではなく、違う文脈から教会の性質を述べるものである([[#教会とは何か(教会論・聖職者)|後述]])。正教会もまた[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条|信経]]にある通りに、「一つの聖にして『公なる』(カトリケー)使徒の教会」であることを任じており、教会の普遍性(カトリコス)を深く自覚しているが、自教会の名称としては「オーソドクス」を名乗っている<ref name="名前なし-1"/>。
{{See also|ロシア正教会}}
== 教会とは何か(教会論・聖職者) ==
[[File:Orthodox clergy.jpg|right|thumb|220px|諸[[神品 (正教会の聖職)|神品]]による[[奉神礼]]の光景。[[イコノスタシス]]の向こう側の[[至聖所]]の[[宝座 (正教会)|宝座]]手前で水色の祭服を着用し、[[ミトラ (宝冠)|宝冠]]を被って奉事に当たっているのが[[主教]]。左手前に大きく写っている濃い緑色の祭服を着用した人物と、至聖所の奥に小さく写っている人物が[[司祭]]。白地に金色の刺繍を施された[[祭服]]を着ている二人が[[輔祭]]である。正教会では祭日ごとに祭服の色を統一して用いるのが一般的であり、このように諸神品が別々の色の祭服を用いるケースはそれほど多くは無い。また、祭服をこのように完装するのは写真撮影などの特別な場合を除いて奉神礼の場面に限られている。]]
=== 基本 ===
正教会における教会論(教会とは何か)においては、教会は[[イエス・キリスト|ハリストス(キリスト)]]の体であり、[[至聖三者|至聖三者(三位一体の神)]]の像であると理解され、教会の首(かしら)はハリストスであるとされる<ref name="Dragas" />。
=== 「聖にして公なる使徒の教会」 ===
正教会は[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条|信経]]において「聖にして公なる使徒の教会」とされる<ref name="VolumeI">[http://oca.org/orthodoxy/the-orthodox-faith/doctrine/the-symbol-of-faith/church OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - The Symbol of Faith - Church]</ref>。
教会は聖なるハリストスの体であり、[[至聖三者|至聖三者(三位一体の神)]]の像であり、聖なる神との交わりの中にあるため、聖であると理解される<ref name="VolumeI" />。
「公なる」([[カトリック (概念)|カトリック]]、{{lang-el|καθολικός}} <small>カソリコス</small>{{efn2|name="katholikos"|{{lang|el|καθολικός}}…「カソリコス」は現代ギリシャ語転写。古典ギリシャ語再建音では「カトリコス」。}}, {{lang-en|Catholic}})については、地理的な広がりといった外的なものとしてのみ理解されるべきではなく(地理的に拡大する以前から教会は「公なる」ものであったと理解される<ref name="VolumeI" />)、質的な面からも理解されなければならない<ref>[[パーヴェル・エフドキーモフ]]著、古谷 功訳『ロシア思想におけるキリスト』129頁 - 130頁(1983年12月 あかし書房)ISBN 4870138093 において[[アレクセイ・ホミャコーフ]]([[1804年]] - [[1860年]])の考察として記述</ref>。「公なる教会」は正教において、充分であり、完全であり、全てを包括し、欠落が無いことを意味する<ref name="VolumeI" />。
{{See|カトリック (概念)#正教会におけるカトリック(普遍)}}
「使徒の」については、正教会が自教会を、使徒達の信仰と、使徒達から始まった教会のありかたを、唯一正しく受け継いできた教会であるとすることを意味する<ref name="seikyoukaitowa" />。また、「[[イエス・キリスト|ハリストス(キリスト)]]の体(聖体血)を中心にした奉神礼共同体」としても自教会を捉え、ビザンティン時代に現在のかたちがほぼ確立した[[奉神礼|奉神礼(礼拝)]]には、ハリストスと[[使徒]]達によって行われた礼拝のかたちと霊性が保たれているとする<ref name="seikyoukaitowa" /><ref name="taka80" />。
=== 聖体礼儀 ===
[[パン]]と[[ワイン|ブドウ酒]]をハリストス(キリスト)の体と血として食べる感謝の祭儀([[聖体礼儀]])は、正教会においてキリスト教の伝統の神髄とされる。教会共同体の中心にはこの感謝の祭儀(聖体礼儀)があるとし<ref name="taka80" />、この「聖体血を食べる」ことを通じて、信者がハリストス・神と一つとなり、互いが一つとなり、ハリストスが集めた「新たなる神の民の集い・教会」が確かめられるとする<ref name="seikyoukaitowa" />。
=== 神品(聖職者) ===
正教会における聖職者は[[神品 (正教会の聖職)|神品(しんぴん)]]という<ref>[http://www.orthodoxjapan.jp/tebiki/katachi05.html かたち-聖職者と修道士:日本正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref>。
教会という共同体が拡大するにつれて使徒達が自身に代わるものとして共同体の中心に置いた者は[[主教]]であり、現代の正教会にみられる主教はこれの継承者であり、主教達のまとめ役として[[総主教]]、[[府主教]]、[[大主教]]がいる<ref name="taka80" /><ref name="taka82">高橋(1980) p82 - p84</ref>。
主教の輔佐役として[[司祭]]・[[輔祭]]がいる。司祭は主教区に属する管轄区において[[奉神礼]]を司祷し、説教、相談等の職務にあたる。輔祭は聖体礼儀や教会の他の職務に際し、また他の教会における働きに際し、主教・司祭の輔佐を行う。輔祭、司祭、主教の順に[[叙聖]]されていくが、司祭と輔祭は輔祭叙聖前であれば妻帯できる(主教は[[修道士]]から選ばれるため独身である)<ref>トマス・ホプコ著・イオアン小野貞治訳『正教入門シリーズ2 奉神礼』25頁、西日本主教区(日本正教会)</ref>。
{{Main|神品 (正教会の聖職)|教衆}}
== 聖伝 ==
正教会において、[[聖伝]]({{lang-el|Ιερά Παράδοση}}<ref name="elorwiki">[http://el.orthodoxwiki.org/%CE%99%CE%B5%CF%81%CE%AC_%CE%A0%CE%B1%CF%81%CE%AC%CE%B4%CE%BF%CF%83%CE%B7 {{lang|el|Ιερά Παράδοση}} - OrthodoxWiki]</ref>, {{lang-ru|Священное Предание}}, {{lang-ro|Sfânta Tradiție}}<ref>[http://ro.orthodoxwiki.org/Sf%C3%A2nta_Tradi%C5%A3ie Sfânta Tradiție - OrthodoxWiki]</ref>, {{lang-en|Holy Tradition}})とは神の民(すなわち'''正教会'''、[[正教徒]])の生活そのものである<ref name="OCAvolumeI">[http://oca.org/orthodoxy/the-orthodox-faith/doctrine/sources-of-christian-doctrine/tradition OCA - The Orthodox Faith - Volume I - Doctrine - Sources of Christian Doctrine - Tradition]</ref><ref name="zb-predanie">[http://www.zakonbozhiy.ru/Zakon_Bozhij/Chast_1_O_vere_i_zhizni_hristianskoj/SvJaschennoe_Predanie/ {{lang|ru|Священное Предание | 《Закон Божий》}}]</ref>。[[聖イウスチン・ポポヴィッチ]]は、聖伝について「[[イエス・キリスト|ハリストス(キリスト)]]にあっての生活=[[至聖三者]]([[三位一体]]の神)にあっての生活、ハリストスにあっての成長=至聖三者にあっての成長」とまとめている<ref>[http://archangelsbooks.com/articles/church/AttributesofChurch.asp The Attributes of the Church, by St. Justin Popovich - ArchangelsBooks.com]</ref>。
聖伝は継続し<ref name="OCAvolumeI" />、教会が[[聖霊|聖神(せいしん、聖霊)]]の導きを受けて生き続けるゆえに、成長し、発展する<ref name="OCJoshie" />。[[セルゲイ・ブルガーコフ]]によれば、「聖伝は今も以前より小さくなることなく恒に続き、私たちは聖伝の中に生き、聖伝を実行する。」<ref name="zb-predanie" />。
聖伝の内容には、具体的には[[聖書]]、[[使徒|聖使徒]]・衆聖人・[[致命者]]・[[聖師父]]達によるの著述や教え及び行動、[[奉神礼]]、初代教会の伝承、[[全地公会議]]の確認事項などが挙げられるが<ref>[http://www.goarch.org/ourfaith/ourfaith8032 Introduction: What Is The Greek Orthodox Church? Greek Orthodox Archdiocese of America]</ref>、聖伝は全てがこれらの具体的な諸事物に還元できるものではない。聖伝は単なる伝達事項や情報を超えている。聖伝は神について私たちに教え神の知識を教えるが、実際に聖伝の生活に入るとはどのような事なのかを理解するのには、神との[[キノニア|交わり(キノニア)]]の直接的体験が必要であるとされる<ref>[http://azbyka.ru/hristianstvo/svyaschennoe_predanie/ {{lang|ru|Священное Предание}}] ({{lang|ru|АЗБУКА ВЕРЫ}}、司祭:オリェグ・ダヴィデニコフ)</ref>。
[[ファイル:Basil-the-Great.jpg|thumb|right|170px|[[カイサリアのバシレイオス|聖大ワシリイ(バシレイオス)]]を画いた細密画([[15世紀]]・[[アトス山]])]]
{{Quotation|[[聖霊|聖神(せいしん・聖霊)]]によって与えられるものは、楽園の更新、天国への上昇、子たる身分の更新、神をあえて自分たちの父と呼ぶこと、[[イエス・キリスト|ハリストス(キリスト)]]の恩寵にあずかる者となり、光の子と呼ばれ、永遠の光栄にあずかること、一口に言って、この世においても、また来るべき世においても、ことごとく「満ち溢れる祝福」([[ローマの信徒への手紙|ロマ書15:29]])の中にあること…|[[カイサリアのバシレイオス|聖大ワシリイ(バシレイオス)]]|「聖大バシレイオスの『聖霊論』」山村敬訳、p109(南窓社 [[1996年]][[6月30日]]発行 ISBN 9784816501951)より、一部を正教会での用語に換えて引用}}
[[カイサリアのバシレイオス|聖大ワシリイ(バシレイオス)]]による上記の記述は、教会の聖伝について真の「実存的な」面を示している。正教会において聖伝は、固定された教義でもなければ、画一的な奉神礼の実践でもない。確かに聖伝には[[教理]]や奉神礼の定式が含まれるが、それらを超えて教会の日常生活を通して体験される、[[イエス・キリスト|イイスス・ハリストス(イエス・キリスト)]]の恩寵と、神父(かみちち・父なる神)の仁愛、[[聖霊|聖神(せいしん・聖霊)]]の[[キノニア|交親(交わり・キノニア)]]([[コリントの信徒への手紙二|コリンフ後書13:13]])を通しての神の民の変容があるとされる<ref name="GOAAtradition">[http://www.goarch.org/ourfaith/ourfaith7116 Tradition in the Orthodox Church; Greek Orthodox Archdiocese of America]</ref>。
教会にある全てのものが聖伝とされるわけではない。神の国とは本質的には関係がなく、一部の地域でのみ習慣的に行われているものもある。<ref name="OCJoshie" />教会の中にあるものが聖伝かそうでないかは、「使徒時代に遡るものか(聖書に基礎づけられているか)<ref name="OCJoshie" /><ref name="elorwiki" />」「全ての教会に受け入れられ聖師父によって教えられているか<ref name="elorwiki" />」などによって判断される。なお、全ての聖師父による著述が同等の権威を有するわけではなく、特に重要と判断されるものとそうでないものとがある<ref name="mariyaseishifu">[http://www.orthodoxjapan.jp/tebiki/oshie04.html 教え-生神女マリヤ、聖人、聖師父:日本正教会 The Orthodox Church in Japan]</ref>。
==分類==
{{正教会の分類}}
== 参考文献 ==
* [http://www.orthodoxjapan.jp/pdf/new-tebiki.pdf#search='%E6%AD%A3%E6%95%99%E4%BC%9A+%E5%A4%A9%E4%BD%BF+pdf' 『正教会の手引き』日本ハリストス正教会 全国宣教委員会 2004年11月]
** [http://www.orthodoxjapan.jp/tebiki/shinkou01.html 信仰-信経:日本正教会 The Orthodox Church in Japan](内容は上記『正教会の手引き』の改訂前のもの)
* 『正教要理』[[日本ハリストス正教会]]教団 昭和55年12月12日第1刷
* "The Blackwell Dictionary of Eastern Christianity" Wiley-Blackwell; New edition (2001/12/5) ISBN 9780631232032
* [[高橋保行]]『ギリシャ正教』(講談社学術文庫)、1980年。ISBN 4-06-158500-2
* [[オリヴィエ・クレマン]]『東方正教会』(クセジュ文庫)、冷牟田修二、白石治朗訳、白水社、1977年。ISBN 978-4-560-05607-3 (4-560-05607-2)
* [[イラリオン・アルフェエフ]]著、ニコライ高松光一訳『信仰の機密』[[ニコライ堂|東京復活大聖堂教会(ニコライ堂)]]、2004年。
* [[カリストス・ウェア]]論集1、水口優明・松島雄一訳『私たちはどのように救われるのか』日本ハリストス正教会教団、西日本主教教区
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|25em}}
== 関連項目 ==
* [[東方教会]]
* [[東方諸教会]]
* [[非カルケドン派正教会]]
* [[東方典礼カトリック教会]]
* [[西方奉神礼正教]]
* [[エヴァンジェリカル・オーソドックス教会]]
* [[日本正教会訳聖書]]
* [[神品 (正教会の聖職)]]
* [[教衆]]
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Eastern Orthodoxy}}
* [https://www.orthodoxjapan.jp/ 日本正教会|ハリストス正教会 The Orthodox Church in Japan] ([[日本ハリストス正教会]] 公式ウェブサイト)
* [http://nikolaido.jp/link.html 正教会関連リンク集]([[ニコライ堂]]公式サイト内のページ)
* [http://www.sutv.zaq.ne.jp/osaka-orthodox/yougoshuu.htm 正教会用語集]([http://www.sutv.zaq.ne.jp/osaka-orthodox/index.htm 大阪ハリストス正教会]内のページ)
* [http://www.orthodox-jp.com/pandane/cyril/index.html イコンの在る世界]
* [http://www.orthodox-jp.com/maria/index.html 東方正教会の聖歌]
* [http://orthodoxwiki.org/ OrthodoxWiki](英語ほか多言語)
* {{Kotobank|東方正教会}}
* [http://athos.world.coocan.jp/ 東方正教関係文献目録]
{{キリスト教 横}}
{{Orthodoxy}}
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[[Category:東方正教会|*]]
[[Category:東方教会|*せいきようかい]]
[[Category:キリスト教の教派分枝]] | 2003-04-28T07:06:32Z | 2023-11-26T05:58:16Z | false | false | false | [
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7,397 | 三相 | 三相 | [
{
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] | 三相 固相、液相、気相など物質の状態のこと。物質の状態#三態を参照。
電気工学で言う、三相交流のこと。
三相 (仏教) - 上座部仏教における「無常・苦・無我」の総称。 | '''三相'''
*[[固相]]、[[液相]]、[[気相]]など物質の状態のこと。[[物質の状態#三態]]を参照。
*[[電気工学]]で言う、[[三相交流]]のこと。
*[[三相 (仏教)]] - [[上座部仏教]]における「[[無常]]・[[苦 (仏教)|苦]]・[[無我]]」の総称。
{{aimai}}
{{デフォルトソート:さんそう}} | null | 2017-07-11T05:12:04Z | true | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%9B%B8 |
7,399 | 周辺機器 | 周辺機器(しゅうへんきき)またはペリフェラル(英:peripheral)とは、コンピュータやゲーム機などの電子製品の本体に対して、ケーブル等で接続して使用する機器(ハードウェア等)のこと。
何が周辺機器とされるかはその製品により、時代やメーカーやモデルにもよっても変わる。なお、本体と周辺機器と間でのデータ、制御信号、状態(ステータス)など相互のやり取りは転送と言われる。
パーソナルコンピュータの主な周辺機器には、外付けのキーボード、テンキー、マウス、プリンター、タイプライター、外付け補助記憶装置(ドライブ)などがある。周辺機器という呼称は外部に接続する製品を指すことが多く、コンピュータ内部に装着するものは「PCパーツ」などと呼ばれる。しかし、何が周辺機器であって、何がコンピュータ本体の一部であるかは、常に明確に決められる物ではない。
税法(特に法人税法及び固定資産税を定める地方税法)において、周辺機器はコンピュータ本体と一体として取り扱うことが原則となっており、この場合、対象物件の金額が大きくなるため、固定資産とされ損金は使用期間にわたって減価償却によることとなるが、本体と各周辺機器が各々独立のものと認定されれば、個々の金額が低くなるため、課税年度において損金処理できる可能性がある。企業側としては、税務上、後者が有利であるので、周辺機器を個別・単独の目的で購入したものと主張するが、税務当局側は、「本体がなければ機能しない」ことを理由に、一体性を認め固定資産とすることが一般的である。
ゲーム機は特殊な接続インターフェースを採用することが多いため、周辺機器のほとんどは特定のゲーム機本体専用に設計される。ゲームコントローラなど、特定のゲームソフトに特化して設計される場合もある。
電卓・電話・携帯電話・受信機・ファクシミリ・デジタルオーディオプレーヤー・ゲーム機・携帯型ゲーム・デジタル家電等の利便性を向上する周辺機器が多数販売され、大きな市場規模を形成している。機械ではない製品や、機能よりもファッション性を重視したものも多く、まとめて「アクセサリー」と呼ぶ場合が多い。汎用タイプの品を除けば特定の製品専用に設計され、とりわけAppleのiPod・iPhoneシリーズを対象にしたものは需要が高い。 | [
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] | 周辺機器(しゅうへんきき)またはペリフェラルとは、コンピュータやゲーム機などの電子製品の本体に対して、ケーブル等で接続して使用する機器(ハードウェア等)のこと。 何が周辺機器とされるかはその製品により、時代やメーカーやモデルにもよっても変わる。なお、本体と周辺機器と間でのデータ、制御信号、状態(ステータス)など相互のやり取りは転送と言われる。 | {{Redirect|ペリフェラル|アメリカ合衆国のドラマシリーズ|ペリフェラル -接続された未来-}}
'''周辺機器'''(しゅうへんきき)または'''ペリフェラル'''([[英語|英]]:peripheral)とは、[[コンピュータ]]や[[ゲーム機]]などの電子製品の本体に対して、ケーブル等で接続して使用する機器([[ハードウェア]]等)のこと。
何が周辺機器とされるかはその製品により、時代やメーカーやモデルにもよっても変わる。なお、本体と周辺機器と間での[[データ]]、[[制御]][[信号 (電気工学)|信号]]、状態(ステータス)など相互のやり取りは[[転送]]と言われる。
==パーソナルコンピュータの周辺機器==
{{main|パーソナルコンピュータ#周辺機器}}
[[パーソナルコンピュータ]]の主な周辺機器には、外付けの[[キーボード (コンピュータ)|キーボード]]、[[テンキー]]、[[マウス (コンピュータ)|マウス]]、[[プリンター]]、[[タイプライター]]、外付け補助記憶装置(ドライブ)などがある。周辺機器という呼称は外部に接続する製品を指すことが多く、コンピュータ内部に装着するものは「PCパーツ」などと呼ばれる。しかし、何が周辺機器であって、何がコンピュータ本体の一部であるかは、常に明確に決められる物ではない。
===主な周辺機器===
*[[補助記憶装置]]
*入力用
**[[入力機器]]
*出力用
**[[出力機器]]
***[[ディスプレイ (コンピュータ)|ディスプレイ]]
***[[プリンター]]
*その他
**[[コンピュータネットワーク|ネットワーク]]機器
**[[ケーブル]]類
===税法上の取り扱い===
[[税法]](特に[[法人税法]]及び[[固定資産税]]を定める[[地方税法]])において、周辺機器はコンピュータ本体と一体として取り扱うことが原則となっており、この場合、対象物件の金額が大きくなるため、[[固定資産]]とされ損金は使用期間にわたって[[減価償却]]によることとなるが、本体と各周辺機器が各々独立のものと認定されれば、個々の金額が低くなるため、課税年度において[[損金]]処理できる可能性がある。企業側としては、税務上、後者が有利であるので、周辺機器を個別・単独の目的で購入したものと主張するが、税務当局側は、「本体がなければ機能しない」ことを理由に、一体性を認め固定資産とすることが一般的である。
== コンピュータゲーム機の周辺機器 ==
[[ゲーム機]]は特殊な接続インターフェースを採用することが多いため、周辺機器のほとんどは特定のゲーム機本体専用に設計される。[[ゲームコントローラ]]など、特定の[[ゲームソフト]]に特化して設計される場合もある。
=== 主な周辺機器 ===
*[[ゲームコントローラ]] - [[ジョイスティック]]、[[ステアリングコントローラ]]、[[ガンコントローラ]]など、特定のジャンルを対象に様々な形態がある。
*[[メモリーカード]] - [[セーブ (コンピュータ)|セーブデータ]]の保存。ソフトの供給メディアが読み取り専用で、本体に内蔵記憶装置がないゲーム機で必要となる。
*[[オーディオ・ビジュアル|AV]]出力ケーブル - アナログ出力の場合は各ゲーム機専用のケーブルが必要。デジタル出力は[[HDMI]]で統一された。
{{main|Category:コンピュータゲームの周辺機器}}
== 携帯電話等の周辺機器 ==
[[電卓]]・[[電話]]・[[携帯電話]]・[[受信機]]・[[ファクシミリ]]・[[デジタルオーディオプレーヤー]]・[[ゲーム機]]・[[携帯型ゲーム]]・[[デジタル家庭電化製品|デジタル家電]]等の利便性を向上する周辺機器が多数販売され、大きな市場規模を形成している。機械ではない製品や、機能よりも[[ファッション]]性を重視したものも多く、まとめて「[[アクセサリー]]」と呼ぶ場合が多い。汎用タイプの品を除けば特定の製品専用に設計され、とりわけ[[Apple]]の[[iPod]]・[[iPhone]]シリーズを対象にしたものは需要が高い。
=== 主な周辺機器 ===
*充電用ケーブル
*モバイル[[二次電池|バッテリー]] - スマートフォンは内蔵バッテリーの持続時間が十分でない場合があり、それを補うため需要が急増した。
*[[モバイルWi-Fiルーター]]
*ポータブル[[ヘッドフォン]]、ヘッドフォン[[アンプ (音響機器)|アンプ]]、[[スピーカー]]等
*モバイル[[キーボード (コンピュータ)|キーボード]]
;機械ではないもの
* [[ストラップ]]
* [[画面保護シート]]
* [[スタイラス|タッチペン]]
* 保護ケース、ジャケット
* [[袋|ポーチ]]、カバー類
==関連項目==
* [[情報機器]]
* [[拡張カード]]
{{Computer-stub}}
{{コンピュータ科学}}
{{デフォルトソート:しゆうへんきき}}
[[Category:情報機器]]
[[Category:ハードウェア]] | null | 2023-05-17T22:31:37Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%91%A8%E8%BE%BA%E6%A9%9F%E5%99%A8 |
7,402 | 三相交流 | 三相交流(さんそうこうりゅう、英語: three-phase electric power)とは、起電力(電圧)の位相を120度( 2 π / 3 {\displaystyle 2\pi /3} [rad] )ずつずらした3組の交流のことである。多相システムの一種で、現代の電力系統において主流の送電方法である。回転磁界を容易に作れることから大型の電動機や他の大型の負荷でも使用される。電動機への応用にはドイツの電機メーカーAEGが最も寄与した。
三相交流による送電(三相三線式)は同条件で比較した場合、単相交流(単相二線式)よりも導体の使用量が少なくて済むため経済的である。三相システムはガリレオ・フェラリス、ミハイル・ドリヴォ=ドブロヴォルスキー、Jonas Wenströmとニコラ・テスラ達の働きによって1880年代末に発明された。
三相交流のうち、起電力(電圧)の大きさが等しく、位相が120度ずつずれているものを特に対称三相交流という。式で表すと次の通り。
瞬時値形式で書いた場合は次の通り。
対称三相交流であれば、三つの起電力の和は0になる。
瞬時値形式とベクトル形式は、形が違うだけで同じものを指し示している。そのためどちらか一方の形式において、証明すれば十分なのだが、ここではそれぞれの形式における証明方法を記載している。
三角関数の加法定理を用いる。
以上の計算により、三つの起電力の和が0になることが示された。
オイラーの公式を用いる。
以上の計算により、三つの起電力の和が0になることが示された。
対称三相交流であり、各起電力に接続されている負荷インピーダンスがたがいに等しい(平衡負荷)場合を考える。
このとき各負荷に流れる電流は
となる。( θ {\displaystyle \theta } は電圧と電流の位相差)各負荷に流れる電流の大きさが等しく、電流の位相が120°ずつ異なる回路を三相平衡交流という。
瞬時値形式で書いた場合は次の通り。
平衡三相交流であれば、三つの電流の和は0になる。
電圧・電流の大きさが一定でない、もしくは位相差が120°でない交流のことを三相不平衡交流という。各負荷のインピーダンスが等しくなかったり、短絡・地絡などの故障が起きたりした場合に三相不平衡交流となる。なおその回路のことを三相不平衡回路という。
三相不平衡回路の回路計算は複雑であるため、2つの対称三相交流と1つの単相交流に変換し対称交流回路と単相回路として扱う対称座標法(英語版、ドイツ語版、スペイン語版、フランス語版)と呼ばれる計算方法が用いられる。
三相交流によって電源と負荷を接続する場合、例えば図のように接続する。
これらの接続方式を順に、Y-Δ接続・Y-Y接続・Δ-Y接続・Δ-Δ接続と呼ぶ。
図のように電源と負荷を接続した場合を考える。(この接続方式をY-Y接続 という)電源は対称三相交流、負荷は同じインピーダンス(平衡負荷) とする。
このとき中性線に流れる電流は0になり、中性点間の導線を取り除くことができる。
上記回路(中性点を省略していない方)に重ねの理を適用する。電源が E a ̇ {\displaystyle {\dot {E_{a}}}} だけの回路における電流 I o ̇ {\displaystyle {\dot {I_{o}}}} を I o ̇ ′ {\displaystyle {\dot {I_{o}}}^{\prime }} 、 同様に電源が E b ̇ {\displaystyle {\dot {E_{b}}}} だけの電流を I o ̇ ′ ′ {\displaystyle {\dot {I_{o}}}^{\prime \prime }} 、 E c ̇ {\displaystyle {\dot {E_{c}}}} だけの電流を I o ̇ ′ ′ ′ {\displaystyle {\dot {I_{o}}}^{\prime \prime \prime }} とする。
すると次のような回路となるから、負荷インピーダンスを Z ̇ {\displaystyle {\dot {Z}}} とすると
と求めることができる。重ねの理より I o ̇ {\displaystyle {\dot {I_{o}}}} は
となる。ここで対称三相交流の性質で解説したように E a ̇ + E b ̇ + E c ̇ = 0 {\displaystyle {\dot {E_{a}}}+{\dot {E_{b}}}+{\dot {E_{c}}}=0} であるから
が成り立ち、中性点間の導線を取り除いても構わないことが分かる。
三相平衡回路の、伝送電力の瞬時値 p ( t ) {\displaystyle p(t)} は、常に
となる。ただし V {\displaystyle V} は各起電力の最大電圧値、 I {\displaystyle I} は各起電力に流れる最大電流値、 cos θ {\displaystyle \cos {\theta }} は力率である。
三相平衡回路の起電力の瞬時値・三相平衡回路に流れる電流の瞬時値は、次のように書ける。( θ {\displaystyle \theta } は電圧と電流の位相差)
これらの式を p ( t ) {\displaystyle p(t)} の定義式
に代入して計算を進める。途中の式変形で三角関数の積和公式を用いている。
ω ′ = 2 ω , θ ′ = θ − π / 2 {\displaystyle \omega ^{\prime }=2\omega ,\theta ^{\prime }=\theta -\pi /2} とおいた。右式第二項は0になる。よって p ( t ) {\displaystyle p(t)} は
となる。
電源の接続方法には、Y結線・Δ結線・V結線の三つがある。ここでは電源の結線方法しか述べていないが、負荷にもY結線・Δ結線が存在する。
負荷結線の、相電流・相電圧・線電流・線間電圧の定義は、電源と同じである。
Y結線(ワイけっせん, ほしがたけっせん, スターけっせん)は、三相各相をその一端の中性点で接続する結線。星形結線(ほしがたけっせん)、スター結線とも表記する。
各相間の電位差を線間電圧(せんかんでんあつ)といい、各相と大地間の電位差を相電圧(そうでんあつ)という。また、結線外の各相の電流を線電流(せんでんりゅう)といい、結線内の各相の電流を相電流(そうでんりゅう)という。
Y結線における、線間電圧と相電圧の関係は次の通り。
上の三つの関係を数式で表すと
となる。
Δ結線(デルタけっせん, さんかくけっせん)は、三相各相を相電圧が加わる向きに接続し閉回路とする結線。三角結線(さんかくけっせん)、デルタ結線とも表記する。
Δ結線における、線電流と相電流の関係は次の通り。
上の三つの関係を数式で表すと
となる。
Y結線とΔ結線の相電圧と相電流の差を利用し、かご形三相誘導電動機をY結線で始動し、途中でΔ結線に切り替えることによって始動電流を3分の1に抑えるスターデルタ始動法(Y-Δ始動法)が存在する。
V結線(ブイけっせん)は、Δ結線より三相のうち一相を除いた結線である。
取り除かれた電源の端子間には、Δ結線のときと同じ電圧が発生する。したがって、V結線であってもΔ結線と同じように三相交流は供給される。
ただし有効電力の値はΔ結線の 1 / 3 {\displaystyle 1/{\sqrt {3}}} 倍となり、線電流が同じであれば、V結線の相電流はΔ結線の相電流の 3 {\displaystyle {\sqrt {3}}} 倍となる。
V結線の回路図より
である。またΔ結線の回路図より
となる。 V c ̇ , E c ̇ {\displaystyle {\dot {V_{c}}},{\dot {E_{c}}}} 両式を比較すると V c ̇ = E c ̇ {\displaystyle {\dot {V_{c}}}={\dot {E_{c}}}} が成り立つ。
V結線における線電流と相電流、線間電圧と相電圧の関係は次の通り。
上の関係を数式で表すと次の通り。
Y結線・Δ結線における有効電力 P {\displaystyle P} は、線間電圧を V l {\displaystyle V_{l}} 、線電流を I l {\displaystyle I_{l}} 、力率を cos θ {\displaystyle \cos \theta } とすると、
で表される。V結線の有効電力 P v {\displaystyle P_{v}} は
となる。
Y結線・Δ結線における皮相電力 S {\displaystyle S} 、複素電力 S ̇ {\displaystyle {\dot {S}}} 、無効電力 Q {\displaystyle Q} は
である。
三相交流による送電は、単相交流によるものと比較し以下のような利点がある。
3、4が正しいことは明らかである。しかし1、2が本当に正しいかどうかは、すぐにはわからない。ここでは1、2となる理由について解説する。
下の表は電線1線あたりの送電電力を比較したものである。
三相三線式のほうが送電電力比率が大きいことが分かる。
次の手順で単相交流と三相交流の、電線の質量比較を行う。ただし同じ条件にするため、同一電力 P [ W ] {\displaystyle P[{\text{W}}]} ・同一線間電圧 E [ V ] {\displaystyle E[{\text{V}}]} ・同一力率 cos θ {\displaystyle \cos \theta } ・同一電力損失 P l [ W ] {\displaystyle P_{l}[{\text{W}}]} ・同一電線材料での比較とする。
また、電線の長さを l [ km ] {\displaystyle l[{\text{km}}]} とする。
単相二線式の線電流を I 1 [ A ] {\displaystyle I_{1}[{\text{A}}]} 、三相三線式の線電流を I 3 [ A ] {\displaystyle I_{3}[{\text{A}}]} とすれば
となるため、電流比は
となる。
単相二線式における一線あたりの抵抗を R 1 [ Ω ] {\displaystyle R_{1}[\Omega ]} 、三相三線式における一線あたりの抵抗を R 3 [ Ω ] {\displaystyle R_{3}[\Omega ]} とすると
となるから、抵抗比は
となる。
電線材料の体積抵抗率を ρ [ Ω ⋅ m ] {\displaystyle \rho [\Omega \cdot {\text{m}}]} とする。さらに単相二線式の場合の断面積を A 1 [ cm 2 ] {\displaystyle A_{1}[{\text{cm}}^{2}]} 、三相三線式の場合の断面積を A 3 [ cm 2 ] {\displaystyle A_{3}[{\text{cm}}^{2}]} とすれば
となり
となるから、断面積比は
となる。
電線材料の密度を σ [ kg / cm 3 ] {\displaystyle \sigma [{\text{kg}}/{\text{cm}}^{3}]} とする。単相二線式の全電線重量を W 1 [ kg ] {\displaystyle W_{1}[{\text{kg}}]} 、三相三線式の全電線質量を W 3 [ kg ] {\displaystyle W_{3}[{\text{kg}}]} とすると
となるから、重量比は
と求まる。同一条件の場合、三相三線式で送電したほうが単相二線式で送電するよりも、75%の電線重量で済むことが示された。
本来電灯は蛍光灯や白熱灯といった照明器具という意味で、動力は機械を動かす力という意味で使用される。
だが、本来の意味とは異なる意味でこれらの語句が使用されることがある。ここではその例を見ていく。
電柱に設置されている配電線のうち、三相交流を三相三線式200Vで送電している配電線を低圧動力線と呼ぶ。
一方、単相交流を単相三線式100V/200Vで送電している配電線を低圧電灯線と呼ぶ。
蛍光灯や白熱灯といった照明器具および単相100V・単相200Vで使用する電気機器以外の電気機器を動力という。
三相電源で使用されるエアコンやエレベータなどが動力にあたる。
また、三相電源のことを動力電源という。
電力会社の料金プランに電灯・動力の語句が使われることがある。
例えば北海道電力には従量電灯という料金プランが存在する。プランの適用対象は「照明器具および単相交流で動作する電気機器を使用する場合」となっている。
また東京電力には動力プランという料金プランが存在する。プランの適用対象は三相交流を使用する電気機器(例:大型エアコン)を使用する場合となっている。
JIS C4526-1 3.4.9全極遮断には、機器用スイッチは「単相交流機器及び直流機器にあっては,一つのスイッチ作用で実質的に同時に両方の電源電線を遮断すること,又は3以上の電源電線に接続された機器にあっては,接地された導体を除き1回のスイッチ作用で実質的に同時に全ての電源電線を遮断すること」と規定されている。従って、片切スイッチ及びスイッチング回路を使用した単相機器を、三相電源のR-Tに接続して使用することは技術基準に違反する。また電力会社との約款に違反するケースもある。
具体的な送電方式として、以下のような方法がある。 | [
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"text": "Y結線とΔ結線の相電圧と相電流の差を利用し、かご形三相誘導電動機をY結線で始動し、途中でΔ結線に切り替えることによって始動電流を3分の1に抑えるスターデルタ始動法(Y-Δ始動法)が存在する。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "V結線(ブイけっせん)は、Δ結線より三相のうち一相を除いた結線である。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "取り除かれた電源の端子間には、Δ結線のときと同じ電圧が発生する。したがって、V結線であってもΔ結線と同じように三相交流は供給される。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "ただし有効電力の値はΔ結線の 1 / 3 {\\displaystyle 1/{\\sqrt {3}}} 倍となり、線電流が同じであれば、V結線の相電流はΔ結線の相電流の 3 {\\displaystyle {\\sqrt {3}}} 倍となる。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "V結線の回路図より",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "である。またΔ結線の回路図より",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "となる。 V c ̇ , E c ̇ {\\displaystyle {\\dot {V_{c}}},{\\dot {E_{c}}}} 両式を比較すると V c ̇ = E c ̇ {\\displaystyle {\\dot {V_{c}}}={\\dot {E_{c}}}} が成り立つ。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "V結線における線電流と相電流、線間電圧と相電圧の関係は次の通り。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "上の関係を数式で表すと次の通り。",
"title": "結線方法"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "Y結線・Δ結線における有効電力 P {\\displaystyle P} は、線間電圧を V l {\\displaystyle V_{l}} 、線電流を I l {\\displaystyle I_{l}} 、力率を cos θ {\\displaystyle \\cos \\theta } とすると、",
"title": "三相交流電力"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "で表される。V結線の有効電力 P v {\\displaystyle P_{v}} は",
"title": "三相交流電力"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "となる。",
"title": "三相交流電力"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "Y結線・Δ結線における皮相電力 S {\\displaystyle S} 、複素電力 S ̇ {\\displaystyle {\\dot {S}}} 、無効電力 Q {\\displaystyle Q} は",
"title": "三相交流電力"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "である。",
"title": "三相交流電力"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "三相交流による送電は、単相交流によるものと比較し以下のような利点がある。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "3、4が正しいことは明らかである。しかし1、2が本当に正しいかどうかは、すぐにはわからない。ここでは1、2となる理由について解説する。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "下の表は電線1線あたりの送電電力を比較したものである。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "三相三線式のほうが送電電力比率が大きいことが分かる。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "次の手順で単相交流と三相交流の、電線の質量比較を行う。ただし同じ条件にするため、同一電力 P [ W ] {\\displaystyle P[{\\text{W}}]} ・同一線間電圧 E [ V ] {\\displaystyle E[{\\text{V}}]} ・同一力率 cos θ {\\displaystyle \\cos \\theta } ・同一電力損失 P l [ W ] {\\displaystyle P_{l}[{\\text{W}}]} ・同一電線材料での比較とする。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "また、電線の長さを l [ km ] {\\displaystyle l[{\\text{km}}]} とする。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "単相二線式の線電流を I 1 [ A ] {\\displaystyle I_{1}[{\\text{A}}]} 、三相三線式の線電流を I 3 [ A ] {\\displaystyle I_{3}[{\\text{A}}]} とすれば",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "となるため、電流比は",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "となる。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "単相二線式における一線あたりの抵抗を R 1 [ Ω ] {\\displaystyle R_{1}[\\Omega ]} 、三相三線式における一線あたりの抵抗を R 3 [ Ω ] {\\displaystyle R_{3}[\\Omega ]} とすると",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "となるから、抵抗比は",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "となる。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "電線材料の体積抵抗率を ρ [ Ω ⋅ m ] {\\displaystyle \\rho [\\Omega \\cdot {\\text{m}}]} とする。さらに単相二線式の場合の断面積を A 1 [ cm 2 ] {\\displaystyle A_{1}[{\\text{cm}}^{2}]} 、三相三線式の場合の断面積を A 3 [ cm 2 ] {\\displaystyle A_{3}[{\\text{cm}}^{2}]} とすれば",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "となり",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "となるから、断面積比は",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "となる。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "電線材料の密度を σ [ kg / cm 3 ] {\\displaystyle \\sigma [{\\text{kg}}/{\\text{cm}}^{3}]} とする。単相二線式の全電線重量を W 1 [ kg ] {\\displaystyle W_{1}[{\\text{kg}}]} 、三相三線式の全電線質量を W 3 [ kg ] {\\displaystyle W_{3}[{\\text{kg}}]} とすると",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "となるから、重量比は",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "と求まる。同一条件の場合、三相三線式で送電したほうが単相二線式で送電するよりも、75%の電線重量で済むことが示された。",
"title": "三相交流送電のメリット"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "本来電灯は蛍光灯や白熱灯といった照明器具という意味で、動力は機械を動かす力という意味で使用される。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 78,
"tag": "p",
"text": "だが、本来の意味とは異なる意味でこれらの語句が使用されることがある。ここではその例を見ていく。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 79,
"tag": "p",
"text": "電柱に設置されている配電線のうち、三相交流を三相三線式200Vで送電している配電線を低圧動力線と呼ぶ。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 80,
"tag": "p",
"text": "一方、単相交流を単相三線式100V/200Vで送電している配電線を低圧電灯線と呼ぶ。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 81,
"tag": "p",
"text": "蛍光灯や白熱灯といった照明器具および単相100V・単相200Vで使用する電気機器以外の電気機器を動力という。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 82,
"tag": "p",
"text": "三相電源で使用されるエアコンやエレベータなどが動力にあたる。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 83,
"tag": "p",
"text": "また、三相電源のことを動力電源という。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 84,
"tag": "p",
"text": "電力会社の料金プランに電灯・動力の語句が使われることがある。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 85,
"tag": "p",
"text": "例えば北海道電力には従量電灯という料金プランが存在する。プランの適用対象は「照明器具および単相交流で動作する電気機器を使用する場合」となっている。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 86,
"tag": "p",
"text": "また東京電力には動力プランという料金プランが存在する。プランの適用対象は三相交流を使用する電気機器(例:大型エアコン)を使用する場合となっている。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 87,
"tag": "p",
"text": "JIS C4526-1 3.4.9全極遮断には、機器用スイッチは「単相交流機器及び直流機器にあっては,一つのスイッチ作用で実質的に同時に両方の電源電線を遮断すること,又は3以上の電源電線に接続された機器にあっては,接地された導体を除き1回のスイッチ作用で実質的に同時に全ての電源電線を遮断すること」と規定されている。従って、片切スイッチ及びスイッチング回路を使用した単相機器を、三相電源のR-Tに接続して使用することは技術基準に違反する。また電力会社との約款に違反するケースもある。",
"title": "動力と電灯の使用例"
},
{
"paragraph_id": 88,
"tag": "p",
"text": "具体的な送電方式として、以下のような方法がある。",
"title": "送電方式"
}
] | 三相交流とは、起電力(電圧)の位相を120度ずつずらした3組の交流のことである。多相システムの一種で、現代の電力系統において主流の送電方法である。回転磁界を容易に作れることから大型の電動機や他の大型の負荷でも使用される。電動機への応用にはドイツの電機メーカーAEGが最も寄与した。 三相交流による送電(三相三線式)は同条件で比較した場合、単相交流(単相二線式)よりも導体の使用量が少なくて済むため経済的である。三相システムはガリレオ・フェラリス、ミハイル・ドリヴォ=ドブロヴォルスキー、Jonas Wenströmとニコラ・テスラ達の働きによって1880年代末に発明された。 | [[ファイル:3phase AC wave.gif|thumb|120px|三相交流の波形]]
'''三相交流'''(さんそうこうりゅう、{{lang-en|three-phase electric power}})とは、起電力(電圧)の位相を120度(<math>2 \pi / 3 </math> [rad] )ずつずらした3組の交流のことである<ref name="TepcoVideo">{{Cite web|和書|date= |url=https://www.youtube.com/watch?v=Jf5SHBO1mFw |title=5-2. 三相交流とは(電気の種類) |publisher=東京電力グループ |accessdate=2021-07-04}}動画の1分01秒から1分08秒に、三相交流の説明がある。</ref>。[[多相システム]]の一種で、現代の[[電力系統]]において主流の送電方法である<ref name="ThreePhasesOrigin">{{Cite journal|和書|title=三相交流ができるまで |url=https://doi.org/10.1541/ieejjournal.120.522 |author=山本充義, 山口貢 |journal=電気学会誌 |volume=120 |issue=8-9 |pages=522-525 |year=2000 |doi=10.1541/ieejjournal.120.522 |publisher=電気学会 |accessdate=2022-05-17}}</ref>。回転磁界を容易に作れることから大型の[[電動機]]<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=三相交流とは|架空送電線(がくうそうでんせん)の話|produced by 株式会社タワーライン・ソリューション |url=https://www.k-tls.co.jp/overhead-tml/ac3phase.html |website=www.k-tls.co.jp |access-date=2023-08-05}}</ref>や他の大型の負荷でも使用される。電動機への応用にはドイツの電機メーカー[[AEG]]が最も寄与した<ref name="ThreePhasesOrigin"/>。
三相交流による送電([[三相三線式]])は同条件で比較した場合、[[単相交流]]([[単相2線式|単相二線式]])よりも導体の使用量が少なくて済むため経済的である<ref name=":0" /><ref name="elecKindaiP28">『近代電気工学大講座12 近代送電工学1』p.28</ref>。三相システムは[[ガリレオ・フェラリス]]、[[ミハイル・ドリヴォ=ドブロヴォルスキー]]、[[:en:Jonas Wenström|Jonas Wenström]]と[[ニコラ・テスラ]]達の働きによって1880年代末に発明された<ref name="ThreePhasesOrigin"/>。
== 三相交流の種類 ==
=== 対称三相交流 ===
三相交流のうち、起電力(電圧)の大きさが等しく、位相が120度ずつずれているものを特に'''対称三相交流'''という。式で表すと次の通り<ref name="elecMorikitaP160">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.160</ref>。
:<math>\begin{align}
\dot{E_a} &= E\angle 0 =Ee^{j0}=E\\
\dot{E_b} &= E\angle -\frac{2\pi}{3} =Ee^{-j2\pi/3}\\
\dot{E_c} &= E\angle -\frac{4\pi}{3} =Ee^{-j4\pi/3}\\
\end{align}</math>
[[File:Vector diagram of three-phase AC voltage.png|thumb|三相交流電圧のベクトル図]]
瞬時値形式で書いた場合は次の通り<ref name="ElecKosenP111">『工専学生のための電気基礎』p.111</ref>。
:<math>
\begin{align}
e_a(t) &= E\sin(\omega t)\\
e_b(t) &= E\sin(\omega t-\frac{2}{3}\pi)\\
e_c(t) &= E\sin(\omega t-\frac{4}{3}\pi)\\
\end{align}
</math>
=== 対称三相交流の性質 ===
{{Anchors|対称三相交流の性質}}
対称三相交流であれば、三つの起電力の和は0になる<ref name="ElecKosenP112">『工専学生のための電気基礎』p.112</ref><ref name="elecMorikitaP162">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.162</ref>。
:<math>
\begin{align}
\dot{E_a}+\dot{E_b}+\dot{E_c}&=0\\
e_a(t)+e_b(t)+e_c(t)&=0\\
\end{align}
</math>
==== 証明(瞬時値形式) ====
瞬時値形式とベクトル形式は、形が違うだけで同じものを指し示している。そのためどちらか一方の形式において、証明すれば十分なのだが、ここではそれぞれの形式における証明方法を記載している。
三角関数の[[三角関数の公式の一覧#加法定理|加法定理]]を用いる。
:<math>
\begin{align}
e_a(t)+e_b(t)+e_c(t)&=E\left\{\sin \omega t+\sin \left(\omega t - \frac{2}{3}\pi\right)+ \sin\left(\omega t-\frac{4}{3}\pi\right)\right\}\\
&=E\left(\sin \omega t - \frac{1}{2}\sin \omega t - \frac{\sqrt{3}}{2}\cos \omega t - \frac{1}{2}\sin \omega t + \frac{\sqrt{3}}{2}\cos \omega t \right)\\
&= 0
\end{align}
</math>
以上の計算により、三つの起電力の和が0になることが示された<ref name="ElecKosenP112" />。
==== 証明(ベクトル形式) ====
[[オイラーの公式]]を用いる。
:<math>
\begin{align}
\dot{E_a}+\dot{E_b}+\dot{E_c}&=Ee^{j0}+Ee^{-j2\pi/3}+Ee^{-j4\pi/3}\\
&=Ee^{j\theta}\left(1+e^{-j2\pi/3}+e^{-j4\pi/3}\right)\\
&=Ee^{j\theta}\left(1+\cos \frac{2}{3}\pi - j\sin \frac{2}{3}\pi + \cos \frac{4}{3}\pi -j\sin \frac{4}{3}\pi \right)\\
&=Ee^{j\theta}\left(1-\frac{1}{2}-j\frac{\sqrt{3}}{2}-\frac{1}{2}+j\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\\
&=0\\
\end{align}
</math>
以上の計算により、三つの起電力の和が0になることが示された<ref name="elecMorikitaP162" />。
=== 平衡三相交流 ===
対称三相交流であり、各起電力に接続されている負荷インピーダンスがたがいに等しい('''平衡負荷''')場合を考える。
このとき各負荷に流れる電流は
:<math>\begin{align}
\dot{I_a} &= I\angle -\theta =Ie^{-j\theta}\\
\dot{I_b} &= I\angle -\left(\theta+\frac{2\pi}{3}\right) =Ie^{-j(\theta+2\pi/3)}\\
\dot{I_c} &= I\angle -\left(\theta+\frac{4\pi}{3}\right) =Ie^{-j(\theta+4\pi/3)}\\
\end{align}</math>
となる。(<math>\theta</math>は電圧と電流の位相差)各負荷に流れる電流の大きさが等しく、電流の位相が120°ずつ異なる回路を'''三相平衡交流'''という<ref name="elecMorikitaP160" />。
[[File:Vector diagram of three-phase AC current.png|thumb|三相交流電流のベクトル図]]
瞬時値形式で書いた場合は次の通り。
:<math>
\begin{align}
i_a(t) &= I\sin(\omega t-\theta)\\
i_b(t) &= I\sin(\omega t-\theta-\frac{2}{3}\pi)\\
i_c(t) &= I\sin(\omega t-\theta-\frac{4}{3}\pi)\\
\end{align}
</math>
平衡三相交流であれば、三つの電流の和は0になる<ref name="ElecKosenP119">『工専学生のための電気基礎』p.119</ref>。
:<math>
\begin{align}
\dot{I_a}+\dot{I_b}+\dot{I_c}&=0\\
i_a(t)+i_b(t)+i_c(t)&=0\\
\end{align}
</math>
=== 三相不平衡交流 ===
電圧・電流の大きさが一定でない、もしくは位相差が120°でない交流のことを'''三相不平衡交流'''という。各負荷のインピーダンスが等しくなかったり、[[短絡]]・[[地絡]]などの故障が起きたりした場合に三相不平衡交流となる。なおその回路のことを'''三相不平衡回路'''という<ref name="JEEAThreePhases">{{Cite web|和書|date= |url=https://jeea.or.jp/course/contents/01123/ |title=対称座標法とはどんな計算か |publisher=間邊 幸三郎|accessdate=2021-07-17}}</ref>。
三相不平衡回路の回路計算は複雑であるため、2つの対称三相交流と1つの単相交流に変換し対称交流回路と単相回路として扱う{{仮リンク|対称座標法|en|Symmetrical components|de|Symmetrische Komponenten|es|Teorema de Fortescue|fr|Transformation de Fortescue|nl|Symmetrische componenten|pl|Metoda składowych symetrycznych|pt|Componentes simétricas|fa|مؤلفههای متقارن|hi|सममित घटक|ru|Метод симметричных составляющих}}と呼ばれる計算方法が用いられる<ref name="JEEAThreePhases" />。
== 電源と負荷の接続方式 ==
三相交流によって電源と負荷を接続する場合、例えば図のように接続する。
<gallery>
ファイル:Y-Delta connection.png|Y-Δ接続
ファイル:Y-Y connection.png|Y-Y接続
ファイル:Delta-Y connection.png|Δ-Y接続
ファイル:Delta-Delta connection.png|Δ-Δ接続
</gallery>
これらの接続方式を順に、'''Y-Δ接続・Y-Y接続・Δ-Y接続・Δ-Δ接続'''と呼ぶ<ref name="elecMorikitaP161">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.161</ref>。
== 三相平衡回路の性質 ==
=== 中性線の省略 ===
[[File:Y-Y connection (with neutral wire).png|thumb|中性線ありのY-Y接続]]
[[File:Y-Y connection (without neutral wire).png|thumb|中性線を取り除いたY-Y接続]]
図のように電源と負荷を接続した場合を考える。(この接続方式を'''Y-Y接続'''<ref name="elecMorikitaP163">堀 浩雄『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.163</ref> という)電源は対称三相交流、負荷は同じインピーダンス('''平衡負荷''')<ref name="elecMorikitaP160" /> とする。
このとき中性線に流れる電流は'''0'''になり、中性点間の導線を取り除くことができる<ref name="elecMorikitaP163" />。
==== 導出 ====
上記回路(中性点を省略していない方)に[[重ね合わせの原理 (電気回路)|重ねの理]]を適用する。電源が<math>\dot{E_a}</math>だけの回路における電流<math>\dot{I_o}</math>を<math>\dot{I_o}^{\prime}</math>、
同様に電源が<math>\dot{E_b}</math>だけの電流を<math>\dot{I_o}^{\prime \prime}</math>、<math>\dot{E_c}</math>だけの電流を<math>\dot{I_o}^{\prime \prime \prime}</math>とする。
[[File:Superposition theorem(EaOnly).png|thumb|電源Eaのみの回路図(重ねの理)]]
[[File:Superposition theorem(EbOnly).png|thumb|電源Ebのみの回路図(重ねの理)]]
[[File:Superposition theorem(EcOnly).png|thumb|電源Ecのみの回路図(重ねの理)]]
すると次のような回路となるから、負荷インピーダンスを<math>\dot{Z}</math>とすると
:<math>
\begin{align}
\dot{I_o}^{\prime} &= \frac{\dot{E_a}}{\dot{Z}}\\
\dot{I_o}^{\prime \prime} &= \frac{\dot{E_b}}{\dot{Z}}\\
\dot{I_o}^{\prime \prime \prime} &= \frac{\dot{E_c}}{\dot{Z}}\\
\end{align}
</math>
と求めることができる。重ねの理より<math>\dot{I_o}</math>は
:<math>
\begin{align}
\dot{I_o} &= \dot{I_o}^{\prime}+\dot{I_o}^{\prime \prime}+\dot{I_o}^{\prime \prime \prime}\\
&=\frac{1}{\dot{Z}}(\dot{E_a}+\dot{E_b}+\dot{E_c})\\
\end{align}
</math>
となる。ここで[[#対称三相交流の性質|対称三相交流の性質]]で解説したように<math>\dot{E_a}+\dot{E_b}+\dot{E_c}=0</math>であるから
:<math>
\dot{I_o}=0
</math>
が成り立ち、中性点間の導線を取り除いても構わないことが分かる<ref name="elecMorikitaP162" />。
=== 伝送電力の瞬時値が一定 ===
三相平衡回路の、伝送電力の瞬時値<math>p(t)</math>は、常に
:<math>
p(t)=\frac{3}{2}VI\cos{\theta}
</math>
となる<ref name="PowerElecSubject">{{Cite web|和書|date= |url=https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2008/03/2008_electric_power_circuits08.pdf |title=電力回路第8回目 多相交流回路の基礎 |publisher= |accessdate=2021-07-17}}</ref>。ただし<math>V</math>は各起電力の最大電圧値、<math>I</math>は各起電力に流れる最大電流値、<math>\cos{\theta}</math>は力率である。
==== 導出 ====
三相平衡回路の起電力の瞬時値・三相平衡回路に流れる電流の瞬時値は、次のように書ける。(<math>\theta</math>は電圧と電流の位相差)
:<math>
\left\{
\begin{align}
v_a(t) &= V\sin(\omega t)\\
v_b(t) &= V\sin(\omega t-\frac{2}{3}\pi)\\
v_c(t) &= V\sin(\omega t-\frac{4}{3}\pi)\\
\end{align}
\right.</math>
:<math>
\left\{
\begin{align}
i_a(t) &= I\sin(\omega t + \theta)\\
i_b(t) &= I\sin(\omega t + \theta-\frac{2}{3}\pi)\\
i_c(t) &= I\sin(\omega t + \theta-\frac{4}{3}\pi)\\
\end{align}
\right.</math>
これらの式を<math>p(t)</math>の定義式
:<math>
p(t)=v_a(t)i_a(t)+v_b(t)i_b(t)+v_c(t)i_c(t)
</math>
に代入して計算を進める<ref name="PowerElecSubject" />。途中の式変形で[[三角関数の公式の一覧#和積公式と積和公式|三角関数の積和公式]]を用いている。
:<math>\begin{align}
p(t)&=v_a(t)i_a(t)+v_b(t)i_b(t)+v_c(t)i_c(t)\\
&=VI\left\{\sin(\omega t)\sin(\omega t+\theta)+\sin(\omega t -\frac{2\pi}{3})\sin(\omega t+\theta-\frac{2\pi}{3})+\sin(\omega t -\frac{4\pi}{3})\sin(\omega t+\theta-\frac{4\pi}{3})\right\}\\
&=\frac{1}{2}V\left\{\cos(-\theta)-\cos(2\omega t+\theta)+\cos(-\theta)-\cos(2\omega t+\theta-\frac{4\pi}{3})+cos(-\theta)-\cos(2\omega t+\theta-\frac{8\pi}{3})\right\}\\
&=\frac{3}{2}VI\cos \theta +\frac{1}{2}V\left\{I\sin(\omega^{\prime} t + \theta^{\prime}) + I\sin(\omega^{\prime} t + \theta^{\prime}-\frac{2}{3}\pi)+I\sin(\omega^{\prime} t + \theta^{\prime}-\frac{4}{3}\pi)\right\}
\end{align}</math>
<math>\omega^{\prime}=2\omega,\theta^{\prime}=\theta-\pi/2</math>とおいた。右式第二項は0になる。よって<math>p(t)</math>は
:<math>
p(t)=\frac{3}{2}VI\cos{\theta}
</math>
となる。
== 結線方法 ==
電源の接続方法には、'''Y結線'''・'''Δ結線'''・'''V結線'''の三つがある<ref name="elecMorikitaP161" /><ref name="ElecKosenP114-P119">『工専学生のための電気基礎』pp.114-119</ref>。ここでは電源の結線方法しか述べていないが、負荷にも'''Y結線'''・'''Δ結線'''が存在する。
負荷結線の、相電流・相電圧・線電流・線間電圧の定義は、電源と同じである<ref name="elecMorikitaP161" />。
=== Y結線 ===
[[File:Y connection figure.png|thumb|300px|三相交流におけるY結線図]]
'''Y結線'''(ワイけっせん, ほしがたけっせん, スターけっせん)は、三相各相をその一端の中性点で接続する結線<ref name=dennken>TAKE「[https://dennken3.web.fc2.com/koujisi/koujisi3_2.html 三相交流回路の基礎]」『電気主任技術者試験に挑戦』 2009年</ref>。'''星形結線'''(ほしがたけっせん)、'''スター結線'''とも表記する<ref name=tsato>佐藤智典「[http://homepage3.nifty.com/tsato/terms/star-connection.html Y 結線 / Δ 結線]」『電気製品の EMC/安全適合性 ―― 用語解説』 2008年4月27日</ref>。
各相間の電位差を'''線間電圧'''(せんかんでんあつ)といい、各相と大地間の電位差を'''相電圧'''(そうでんあつ)という。また、結線外の各相の電流を'''線電流'''(せんでんりゅう)といい、結線内の各相の電流を'''相電流'''(そうでんりゅう)という。
Y結線における、線間電圧と相電圧の関係は次の通り。
* 線間電圧の<u>大きさ</u>は、相電圧の<u>大きさ</u>の<math>\sqrt{3}</math>倍に等しい
* 線間電圧の位相は、線間電圧の正極性につながっている相電圧よりも30°進んでいる
* 線間電流は線電流に等しい
上の三つの関係を数式で表すと
:<math>\begin{align}
\dot{E}_{ab} &= \sqrt{3}\dot{E_a}\angle \frac{\pi}{6}\\
\dot{E}_{bc} &= \sqrt{3}\dot{E_b}\angle \frac{\pi}{6}\\
\dot{E}_{ca} &= \sqrt{3}\dot{E_c}\angle \frac{\pi}{6}\\
\dot{I}_{aa} &= \dot{I}_{a}\\
\dot{I}_{bb} &= \dot{I}_{b}\\
\dot{I}_{cc} &= \dot{I}_{c}\\
\end{align}</math>
となる<ref name="elecMorikitaP164">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.164</ref>。
=== Δ結線 ===
[[File:Delta connection figure.png|thumb|300px|三相交流におけるΔ結線図]]
'''Δ結線'''(デルタけっせん, さんかくけっせん)は、三相各相を相電圧が加わる向きに接続し閉回路とする結線。'''三角結線'''(さんかくけっせん)、'''デルタ結線'''とも表記する<ref name=tsato/>。
Δ結線における、線電流と相電流の関係は次の通り。
* 線電流の<u>大きさ</u>は、相電流の<u>大きさ</u>の<math>\sqrt{3}</math>倍に等しい
* 線電流の位相は、対応する相電流<ref group="注釈">対応する相電流とは、Δ結線のある一点から線電流が流れ出ているとき、その点に流れ込む相電流のことである。</ref>に対して30°遅れている
* 線間電圧は相電圧に等しい
上の三つの関係を数式で表すと
:<math>\begin{align}
\dot{I_a} &= \sqrt{3}\dot{I}_{ab}\angle -\frac{\pi}{6}\\
\dot{I_b} &= \sqrt{3}\dot{I}_{bc}\angle -\frac{\pi}{6}\\
\dot{I_c} &= \sqrt{3}\dot{I}_{ca}\angle -\frac{\pi}{6}\\
\dot{E}_{ab} &= \dot{E}_{a}\\
\dot{E}_{bc} &= \dot{E}_{b}\\
\dot{E}_{ca} &= \dot{E}_{c}\\
\end{align}</math>
となる<ref name="elecMorikitaP166">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.166</ref>。
Y結線とΔ結線の相電圧と相電流の差を利用し、[[かご形三相誘導電動機]]をY結線で始動し、途中でΔ結線に切り替えることによって始動電流を3分の1に抑える'''[[かご形三相誘導電動機#Y-Δ始動法|スターデルタ始動法]](Y-Δ始動法)'''が存在する<ref name="ElecKosenP127">『工専学生のための電気基礎』p.127</ref>。
=== V結線 ===
[[File:V connection figure.png|thumb|300px|三相交流におけるV結線図]]
'''V結線'''(ブイけっせん)は、Δ結線より三相のうち一相を除いた結線である。
=== Δ結線との関係 ===
取り除かれた電源の端子間には、Δ結線のときと同じ電圧が発生する<ref name="shipPower">{{Cite web|和書|date= |url=http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00448/contents/127.htm |title=通信講習用船舶電気装備技術講座(電気理論編・初級) |publisher=日本船舶電装協会 |accessdate=2021-07-17}}</ref>。したがって、V結線であってもΔ結線と同じように三相交流は供給される。
ただし有効電力の値はΔ結線の<math>1/\sqrt{3}</math>倍となり、線電流が同じであれば、V結線の相電流はΔ結線の相電流の<math>\sqrt{3}</math>倍となる<ref name="NipponZaidan">{{Cite web|和書|date= |url=http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00448/contents/128.htm |title=通信講習用船舶電気装備技術講座(電気理論編・初級) |publisher=日本船舶電装協会 |accessdate=2021-07-28}}</ref>。
==== 導出 ====
V結線の回路図より
:<math>\dot{V_c}=-(\dot{E_a}+\dot{E_b})</math>
である。またΔ結線の回路図より
:<math>\begin{align}
\dot{E_a}+\dot{E_b}+\dot{E_c}&=0\\
\dot{E_c} &= -(\dot{E_a}+\dot{E_b})\\
\end{align}</math>
となる。<math>\dot{V_c},\dot{E_c}</math>両式を比較すると<math>\dot{V_c}=\dot{E_c }</math>が成り立つ<ref name="shipPower" />。
=== 線間電圧と相電圧、線電流と相電流 ===
V結線における線電流と相電流、線間電圧と相電圧の関係は次の通り。
* 線間電流の<u>大きさ</u>は線電流の<u>大きさ</u>に等しい(位相は異なる場合がある)
* 線間電圧の位相と大きさは、相電圧の位相と大きさに等しい
上の関係を数式で表すと次の通り<ref name="ElecKosenP117-P118">『工専学生のための電気基礎』pp.117-118</ref>。
:<math>\begin{align}
\dot{I}_{ab} &= \dot{I}_{a}\\
\dot{I}_{bc} &= -\dot{I}_{c}\\
\dot{I}_{bc}-\dot{I}_{ab} &= \dot{I}_{b}\\
\dot{E}_{ab} &= \dot{E}_{a}\\
\dot{E}_{bc} &= \dot{E}_{b}\\
\dot{E}_{ca} &= \dot{V}_{c} = -(\dot{E_a}+\dot{E_b})\\
\end{align}</math>
== 三相交流電力 ==
=== 有効電力 ===
Y結線・Δ結線における[[有効電力]]<math>P</math>は、線間電圧を<math>V_l</math>、線電流を<math>I_l</math>、力率を<math>\cos \theta</math>
とすると、
:<math>P = \sqrt{3} \ V_l I_l \cos \theta</math>
で表される<ref name="elecMorikitaP171">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.171</ref>。V結線の有効電力<math>P_v</math>は
:<math>P_v = \ V_l I_l \cos \theta</math>
となる<ref name="ElecKosenP119" />。
=== 皮相電力・複素電力・無効電力 ===
Y結線・Δ結線における[[皮相電力]]<math>S</math>、[[複素電力]]<math>\dot{S}</math>、[[無効電力]]<math>Q</math>は
:<math>\begin{align}
S &= \sqrt{3}\ V_l I_l\\
\dot{S} &= \sqrt{3}\ V_l I_l e^{j\theta}\\
Q &= \sqrt{3} \ V_l I_l \sin \theta\\
\end{align}</math>
である<ref name="elecMorikitaP172">『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 p.172</ref>。
== 三相交流送電のメリット ==
三相交流による送電は、単相交流によるものと比較し以下のような利点がある。
# 電線一本あたりの送電電力が大きい。
# 同じ送電電力ならば、電線の質量を低減できる<ref>「[https://kotobank.jp/word/%E4%B8%89%E7%9B%B8%E4%BA%A4%E6%B5%81-70945 三相交流とは]」『[[百科事典マイペディア]]』 [[コトバンク]]、2010年5月</ref>。
# 三相交流から単相交流を取り出すことができる。
# 三相交流からは[[回転磁界]]を容易に得られる。([[かご形三相誘導電動機]])
3、4が正しいことは明らかである。しかし1、2が本当に正しいかどうかは、すぐにはわからない。ここでは1、2となる理由について解説する。
=== 電線1線あたりの送電電力の比較 ===
下の表は電線1線あたりの送電電力を比較したものである<ref group="注釈">単相二線式の、1線当たりの送電電力を100%としている。</ref><ref group="注釈">三相三線式の結線方法はY結線かΔ結線として計算している</ref><ref group="注釈">送電電力比率は力率を1として計算している</ref>。
{| class="wikitable"
! 送電方式 !! 送電電力[W] !! 1線あたりの送電電力[W] !! 送電電力比率[%]
|-
! 単相二線式
| <math>EI\cos \theta</math> || <math>\frac{EI}{2}\cos \theta</math> || 100
|-
! 三相三線式
| <math>\sqrt{3}EI\cos \theta</math> || <math>\frac{\sqrt{3}EI}{3}\cos \theta</math>|| 115
|-
|}
三相三線式のほうが送電電力比率が大きいことが分かる<ref name="elecKindaiP26">『近代電気工学大講座12 近代送電工学1』p.26</ref>。
=== 電線の質量の比較 ===
次の手順で単相交流と三相交流の、電線の質量比較を行う。ただし同じ条件にするため、同一電力<math>P[\text{W}]</math>・同一線間電圧<math>E[\text{V}]</math>・同一力率<math>\cos \theta</math>・同一電力損失<math>P_l[\text{W}]</math>・同一電線材料での比較とする。
また、電線の長さを<math>l[\text{km}]</math>とする。
# 単相交流と三相交流の電流比を求める
# 抵抗比を求める
# 電線の断面積比を求める
# 電線質量比を求める
==== 電流比 ====
単相二線式の線電流を<math>I_1[\text{A}]</math>、三相三線式の線電流を<math>I_3[\text{A}]</math>とすれば
:<math>
\begin{align}
I_1 &= \frac{P}{E\cos \theta}\\
I_3 &= \frac{P}{\sqrt{3}E\cos \theta}\\
\end{align}
</math>
となるため、電流比は
:<math>
\frac{I_3}{I_1}=\frac{\frac{P}{\sqrt{3}E\cos \theta}}{\frac{P}{E\cos \theta}}=\frac{1}{\sqrt{3}}
</math>
となる<ref name="elecKindaiP27">『近代電気工学大講座12 近代送電工学1』p.27</ref>。
==== 抵抗比 ====
単相二線式における一線あたりの抵抗を<math>R_1[\Omega]</math>、三相三線式における一線あたりの抵抗を<math>R_3[\Omega]</math>とすると
:<math>
P_l=2R_1{I_1}^2=3R_3{I_3}^2
</math>
となるから、抵抗比は
:<math>
\frac{R_3}{R_1}=\frac{2{I_1}^2}{2{I_3}^2}=\frac{2}{3}\times \frac{3}{1}=2
</math>
となる<ref name="elecKindaiP27" />。
==== 断面積比 ====
電線材料の体積抵抗率を<math>\rho[\Omega\cdot \text{m}]</math>とする。さらに単相二線式の場合の断面積を<math>A_1[{\text{cm}}^2]</math>、三相三線式の場合の断面積を<math>A_3[{\text{cm}}^2]</math>とすれば
:<math>
\begin{align}
R_1 &= \frac{\rho l}{A_1}\times 10^5\\
R_3 &= \frac{\rho l}{A_3}\times 10^5\\
\end{align}
</math>
となり
:<math>
\begin{align}
A_1 &= \frac{\rho l}{R_1}\times 10^5\\
A_3 &= \frac{\rho l}{R_3}\times 10^5\\
\end{align}
</math>
となるから、断面積比は
:<math>
\frac{A_3}{A_1}=\frac{\frac{\rho l}{R_3}\times 10^5
}{\frac{\rho l}{R_1}\times 10^5}=\frac{R_1}{R_3}=\frac{1}{2}
</math>
となる<ref name="elecKindaiP28" />。
==== 電線質量比 ====
電線材料の密度を<math>\sigma[\text{kg}/{\text{cm}}^3]</math>とする。単相二線式の全電線重量を<math>W_1[\text{kg}]</math>、三相三線式の全電線質量を<math>W_3[\text{kg}]</math>とすると
:<math>
\begin{align}
W_1 &= 2\sigma A_1 l\times 10^5\\
W_3 &= 3\sigma A_3 l\times 10^5\\
\end{align}
</math>
となるから、重量比は
:<math>
\frac{W_3}{W_1}=\frac{3\sigma A_3 l\times 10^5}{2\sigma A_1 l\times 10^5}=\frac{3A_3}{2A_1}=\frac{3}{2}\times \frac{1}{2}=\frac{3}{4}
</math>
と求まる<ref name="elecKindaiP28" />。同一条件の場合、三相三線式で送電したほうが単相二線式で送電するよりも、75%の電線重量で済むことが示された<ref name="elecKindaiP28" />。
== 相の呼び方 ==
[[画像:3 phase AC waveform.svg|thumb|三相交流の波形]]
{| class="wikitable" style="text-align:center;"
|-
! rowspan="2"|相順
! rowspan="2"|電源記号
! colspan="2"|[[変圧器]]端子
|-
!入力
!出力
|-
|第一相
|R
|U
|u
|-
|第二相
|S
|V
|v
|-
|第三相
|T
|W
|w
|-
|第四相
|N
|O
|o
|}
* A相、B相、C相という表記もある<ref name=":0" />
* [[三相4線式]]の場合、第四相は中性相、中相ともいう。
== 動力と電灯の使用例 ==
本来[[電灯]]は蛍光灯や白熱灯といった照明器具という意味<ref name="sanseiDictP1049">『新明解国語辞典 第七版』p.1049</ref>で、[[動力]]は機械を動かす力という意味で使用される<ref name="sanseiDictP1071">『新明解国語辞典 第七版』p.1071</ref>。
だが、本来の意味とは異なる意味でこれらの語句が使用されることがある。ここではその例を見ていく。
=== 配電線 ===
電柱に設置されている[[配電線]]のうち、三相交流を三相三線式200Vで送電している配電線を'''低圧動力線'''と呼ぶ。
一方、単相交流を単相三線式100V/200Vで送電している配電線を'''低圧電灯線'''と呼ぶ<ref name="JEIC">{{Cite web|和書|date= |url=https://www.jeic-emf.jp/explanation/1000.html |title=電気の流れ(配電線) |publisher=JEIC(電磁界情報センター) |accessdate=2021-07-17}}</ref>。
=== 動力と電源 ===
蛍光灯や白熱灯といった照明器具および単相100V・単相200Vで使用する電気機器以外の電気機器を'''動力'''という。
三相電源で使用されるエアコンやエレベータなどが動力にあたる<ref name="chubu">{{Cite web|和書|date= |url=https://www.energia.co.jp/elec/term.html |title=用語解説 |publisher=中部電力 |accessdate=2021-07-17}}</ref>。
また、三相電源のことを'''動力電源'''という<ref name="ThreePhasesPower">{{Cite web|和書|date= |url=https://electric-facilities.jp/denki4/denatsu.html |title=電圧の種類・単相電源と動力電源とは |publisher= |accessdate=2021-07-17}}</ref>。
=== 料金プラン ===
電力会社の料金プランに電灯・動力の語句が使われることがある。
例えば北海道電力には従量電灯という料金プランが存在する。プランの適用対象は「照明器具および<u>単相交流</u>で動作する電気機器を使用する場合」となっている<ref name="HEPCO">{{Cite web|和書|date= |url=https://www.hepco.co.jp/home/price/ratemenu/meterratelight.html |title=従量電灯 |publisher=北海道電力 |accessdate=2021-07-17}}</ref>。
また東京電力には動力プランという料金プランが存在する。プランの適用対象は<u>三相交流</u>を使用する電気機器(例:大型エアコン)を使用する場合となっている<ref name="TEPCO">{{Cite web|和書|date= |url=https://www.tepco.co.jp/jiyuuka/service-corporate/kanto/power/index-j.html |title=動力プラン |publisher=東京電力 |accessdate=2021-07-17}}</ref>。
=== 動力(三相電源)への単相負荷接続 ===
JIS C4526-1 3.4.9全極遮断<ref>https://kikakurui.com/c4/C4526-1-2013-01.html</ref>には、機器用スイッチは「単相交流機器及び直流機器にあっては,一つのスイッチ作用で実質的に同時に両方の電源電線を遮断すること,又は3以上の電源電線に接続された機器にあっては,接地された導体を除き1回のスイッチ作用で実質的に同時に全ての電源電線を遮断すること」と規定されている。従って、片切スイッチ及びスイッチング回路を使用した単相機器を、三相電源のR-Tに接続して使用することは技術基準に違反する。また電力会社との約款に違反するケースもある。
== 送電方式 ==
具体的な送電方式として、以下のような方法がある。
* [[三相3線式]]
** [[三相3線式#低圧三相3線式|低圧三相3線式]]
** [[三相3線式#高圧三相3線式|高圧三相3線式]]
** [[三相3線式#20kV/30kV級三相3線式|20kV/30kV級三相3線式]]
* [[三相4線式]]
** [[三相4線式#低圧三相4線式|低圧三相4線式]]
** [[三相4線式#11.4 kV Y結線特別高圧三相4線式|11.4kV Y結線特別高圧三相4線式]]
** [[電灯・動力共用三相4線式]]
*** [[電灯・動力共用三相4線式#電灯・動力共用YΔ三相4線式変圧器|電灯・動力共用YΔ三相4線式変圧器]]
*** [[電灯・動力共用三相4線式#異容量V結線三相4線式|異容量V結線三相4線式]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"|2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 参考文献 ==
* 堀 浩雄『例題で学ぶやさしい電気回路[交流編]』 森北出版、2015年 ISBN 9784627735422
* 埴野一郎 田村康男『近代電気工学大講座12 近代送電工学1』 電気書院、1969年
* 稲垣米一 大川善邦 若山伊三郎『工専学生のための電気基礎』 コロナ社、1984年
* 山田忠雄 柴田武『新明解国語辞典 第七版』 三省堂、2018年 ISBN 9784385131078
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.youtube.com/watch?v=Jf5SHBO1mFw |title=5-2. 三相交流とは(電気の種類) |publisher=東京電力グループ |accessdate=2021-07-04}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.energia.co.jp/elec/term.html |title=用語解説 |publisher=中部電力 |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.jeic-emf.jp/explanation/1000.html |title=電気の流れ(配電線) |publisher=JEIC(電磁界情報センター) |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.hepco.co.jp/home/price/ratemenu/meterratelight.html |title=従量電灯 |publisher=北海道電力 |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://electric-facilities.jp/denki4/denatsu.html |title=電圧の種類・単相電源と動力電源とは |publisher= |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.tepco.co.jp/jiyuuka/service-corporate/kanto/power/index-j.html |title=動力プラン |publisher=東京電力 |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://www.tepco.co.jp/ep/private/plan/agreement/pdf/20191001kantou_h003.pdf |title=動力プラン約款 |publisher=東京電力 |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/1996/00448/contents/127.htm |title=通信講習用船舶電気装備技術講座(電気理論編・初級) |publisher=日本船舶電装協会 |accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://jeea.or.jp/course/contents/01123/ |title=対称座標法とはどんな計算か |publisher=間邊 幸三郎|accessdate=2021-07-17}}
* {{Cite web|和書|date= |url=https://ocw.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2008/03/2008_electric_power_circuits08.pdf |title=電力回路第8回目 多相交流回路の基礎 |publisher= |accessdate=2021-07-17}}
== 関連項目 ==
* [[交流]]
* [[単相交流]]
* [[送電]]
* [[配電]]
* [[可変電圧可変周波数制御]]
{{電力供給}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:さんそうこうりゆう}}
[[Category:電気工学]]
[[Category:電気理論]]
[[Category:電力]]
[[Category:電気回路]]
[[Category:ニコラ・テスラ]] | 2003-04-28T10:30:30Z | 2023-11-11T08:02:06Z | false | false | false | [
"Template:Normdaten",
"Template:仮リンク",
"Template:Reflist",
"Template:Cite journal",
"Template:電力供給",
"Template:Lang-en",
"Template:Anchors",
"Template:脚注ヘルプ",
"Template:Cite web"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E7%9B%B8%E4%BA%A4%E6%B5%81 |
7,404 | インバータ | インバータ(英語: inverter)とは、直流または交流から周波数の異なる交流を発生させる(逆変換する)電源回路、またはその回路を持つ装置のことである。逆変換回路(ぎゃくへんかんかいろ)、逆変換装置(ぎゃくへんかんそうち)などとも呼ばれる。制御装置と組み合わせることなどにより、省エネルギー効果をもたらすことも可能なため、利用分野が拡大している。
インバータと逆の機能を持つ回路(装置)はコンバータ、または整流器(順変換器)とも言う。
回路は一般に半導体素子(電力用半導体素子)と受動素子とを組み合わせて構成される。回転変流機と比べ機械的要素が不要なため効率がよく、保守が容易である。波形の出力方法としてパルス変調が用いられる。
出力インピーダンスが小さく、電圧源として動作するものである。コンバータ回路の直流側に大容量のコンデンサが並列に接続されている。
出力インピーダンスが大きく、電流源として動作するものである。順変換回路の直流側に大容量のリアクトルが直列に接続されている。
初期の頃はロイヤー回路が使われていた。トランスを飽和させるブロッキング発振型で、決して性能は良いものではなかった。 現在でもこのブロッキング発振型のロイヤー回路は無機EL用の点灯回路として使われている。また、液晶のバックライト用蛍光管(冷陰極管)の点灯用としてはこれとよく似た構成のコレクタ共振型回路というものが使われている。両者はたびたび混同されるが動作原理は異なる。
DC-ACインバータ回路系のインバータ回路であるが、チョークコイル型を用いたLC共振型と共振トランスを利用して効率改善を図った共振型があり、インバータ回路分野ではかなり特殊なインバータである。インバータが特殊なのは負荷が放電管という負性抵抗特性を有する素子を駆動するため、負性抵抗に対処するための独自の工夫が必要だからである。 LC共振型は主に電流共振型回路を基本にしたものが多く、それに様々な工夫を加えている。主に蛍光灯などの熱陰極管点灯用途に適する。 一方、共振トランスを用いたインバータ回路は冷陰極管の点灯用途(冷陰極管インバーター)に用いられ、その用途はノートパソコン、液晶モニタ、液晶テレビのバックライト照明など幅広い。
初期の頃はロイヤー回路が使われていた。トランスを飽和させるブロッキング発振型で、決して性能は良いものではなかった。周波数は低く、数十Hz〜数kHzである。
現在はコレクタ共振型回路というものが多く使われ小型化されている。周波数は数十kHzである。
駆動周波数が低く、大電流大電力である。駆動対象は三相誘導電動機もしくは同期電動機がほとんどであり、スイッチング素子を各相2組ずつ用いた三相出力インバータが用いられる。直入れ始動と比べてインバータ方式では電動機の回転速度調整や出力トルクの調整が容易になることによって効率を大幅に改善することができる。省エネの観点からも、電動機では直入れ制御からの置き換えが推奨される。
回転磁界式の交流電動機では、電機子誘起起電力と周波数:回転数がほぼ比例するので、インバータにより誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を加えて定起動電流、定スベリ(定遅れ角)に制御する方式が開発されて、鉄道界ではそれをVVVFインバータ制御、VVVF制御(可変電圧可変周波数制御)と呼んで、1990年代以降の現在ではほとんどの新製車の動力方式となっている。
VVVFインバータのスイッチング素子として、低出力用はバイポーラトランジスタ、MOS-FET、大出力用はゲートターンオフサイリスタ(自己消弧型サイリスタ)や、より高速の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ (IGBT) が主として使用されている。さらに、IGBTよりオン時の抵抗が小さく消費電力が少なくなるSiCパワー半導体 (炭化ケイ素MOSFET)への置き換えが、2015年1月の小田急線の営業運転から、山手線のE235系車両、東海道新幹線N700Sの2020年の運行開始、へと進み出している。
速度0を含む任意電圧任意周波数の正弦波を生成する方式は基本的にPWM(パルス幅変調)方式に拠っているが、大容量素子の最大動作電圧が不足することから中間電圧を設定した「3レベルインバータ」も使われ、それに対しオン・オフ2値のPWMインバータを「2レベルインバータ」と呼ぶ。工場などでさらに大きな電動機を制御する場合「5レベルインバータ」などのさらにレベル数を増やしたものが使われることもある。
1990年代前半までは、大出力用にはゲートターンオフサイリスタ (GTO)、小出力用途にはパワーバイポーラトランジスタが主として使われていたが、1990年代後半以降は、よりオン抵抗が低く、高速駆動が可能な絶縁ゲートバイポーラトランジスタ (IGBT; 大出力用)やパワーMOSFET(小出力用)が製造されるようになったことから、これらの素子を使用するものがほとんどとなった。さらに、前項に記述したSiCパワー半導体へと置き換えが進んでいる。SiCパワー半導体の製造メーカーには三菱電機やロームなどがある。
厳密には、直流電力を交流電力に変換する装置あるいは装置の一部をインバータと呼ぶ。バッテリー電源の交流変換装置、直流電気鉄道のインバータ装置はこのタイプのインバータ装置である。一方、日本においては、相数・周波数・電圧等の異なる交流を得るために、商用電源の単相交流、三相交流を、一旦整流器で直流に変換してから、再度交流にするための、整流器 (コンバータ)と (厳密な意味での)インバータを組み合わせ、同一パッケージ内に収容した電力変換装置全体をインバータと呼ぶことも多い(産業用インバータなど)。
一口にインバータと言ってもインバータの応用範囲は幅広く、それぞれの分野におけるインバータ回路と他の用途におけるインバータ回路とはお互いに全く異なるものである。応用面を大きく分けると、モーター制御、DC-ACインバータ、DC-DCコンバータ、放電ランプ用安定器、その他となる。
インバータは固体回路素子のみから構成されるため、メンテナンスフリーの装置であるかのように誤解される場合もあるが、実際は、とりわけコンバータとインバータを組み合わせた装置においては、コンバータ部の平滑用電解コンデンサが経年劣化の避けられない有寿命部品であり、いずれは交換が必要になる。故障による長時間の停止が好ましくない用途では、予防保全として、電解コンデンサを5〜10年程度の間隔で定期的に交換することが好ましい。 また、電動機用などの比較的容量の大きいインバータは近年小型化が進み、素子をファンにより強制冷却していることが多い。そのため、ファンの交換も2〜4年の間隔で定期的に交換することが望ましい。
パルス幅変調(PWM)とパルス振幅変調(PAM)がある。 | [
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"text": "インバータ(英語: inverter)とは、直流または交流から周波数の異なる交流を発生させる(逆変換する)電源回路、またはその回路を持つ装置のことである。逆変換回路(ぎゃくへんかんかいろ)、逆変換装置(ぎゃくへんかんそうち)などとも呼ばれる。制御装置と組み合わせることなどにより、省エネルギー効果をもたらすことも可能なため、利用分野が拡大している。",
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"text": "回路は一般に半導体素子(電力用半導体素子)と受動素子とを組み合わせて構成される。回転変流機と比べ機械的要素が不要なため効率がよく、保守が容易である。波形の出力方法としてパルス変調が用いられる。",
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"text": "初期の頃はロイヤー回路が使われていた。トランスを飽和させるブロッキング発振型で、決して性能は良いものではなかった。 現在でもこのブロッキング発振型のロイヤー回路は無機EL用の点灯回路として使われている。また、液晶のバックライト用蛍光管(冷陰極管)の点灯用としてはこれとよく似た構成のコレクタ共振型回路というものが使われている。両者はたびたび混同されるが動作原理は異なる。",
"title": "電力変換系のインバータ回路"
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"text": "DC-ACインバータ回路系のインバータ回路であるが、チョークコイル型を用いたLC共振型と共振トランスを利用して効率改善を図った共振型があり、インバータ回路分野ではかなり特殊なインバータである。インバータが特殊なのは負荷が放電管という負性抵抗特性を有する素子を駆動するため、負性抵抗に対処するための独自の工夫が必要だからである。 LC共振型は主に電流共振型回路を基本にしたものが多く、それに様々な工夫を加えている。主に蛍光灯などの熱陰極管点灯用途に適する。 一方、共振トランスを用いたインバータ回路は冷陰極管の点灯用途(冷陰極管インバーター)に用いられ、その用途はノートパソコン、液晶モニタ、液晶テレビのバックライト照明など幅広い。",
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"text": "回転磁界式の交流電動機では、電機子誘起起電力と周波数:回転数がほぼ比例するので、インバータにより誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を加えて定起動電流、定スベリ(定遅れ角)に制御する方式が開発されて、鉄道界ではそれをVVVFインバータ制御、VVVF制御(可変電圧可変周波数制御)と呼んで、1990年代以降の現在ではほとんどの新製車の動力方式となっている。",
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"text": "速度0を含む任意電圧任意周波数の正弦波を生成する方式は基本的にPWM(パルス幅変調)方式に拠っているが、大容量素子の最大動作電圧が不足することから中間電圧を設定した「3レベルインバータ」も使われ、それに対しオン・オフ2値のPWMインバータを「2レベルインバータ」と呼ぶ。工場などでさらに大きな電動機を制御する場合「5レベルインバータ」などのさらにレベル数を増やしたものが使われることもある。",
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"text": "1990年代前半までは、大出力用にはゲートターンオフサイリスタ (GTO)、小出力用途にはパワーバイポーラトランジスタが主として使われていたが、1990年代後半以降は、よりオン抵抗が低く、高速駆動が可能な絶縁ゲートバイポーラトランジスタ (IGBT; 大出力用)やパワーMOSFET(小出力用)が製造されるようになったことから、これらの素子を使用するものがほとんどとなった。さらに、前項に記述したSiCパワー半導体へと置き換えが進んでいる。SiCパワー半導体の製造メーカーには三菱電機やロームなどがある。",
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"text": "厳密には、直流電力を交流電力に変換する装置あるいは装置の一部をインバータと呼ぶ。バッテリー電源の交流変換装置、直流電気鉄道のインバータ装置はこのタイプのインバータ装置である。一方、日本においては、相数・周波数・電圧等の異なる交流を得るために、商用電源の単相交流、三相交流を、一旦整流器で直流に変換してから、再度交流にするための、整流器 (コンバータ)と (厳密な意味での)インバータを組み合わせ、同一パッケージ内に収容した電力変換装置全体をインバータと呼ぶことも多い(産業用インバータなど)。",
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"text": "一口にインバータと言ってもインバータの応用範囲は幅広く、それぞれの分野におけるインバータ回路と他の用途におけるインバータ回路とはお互いに全く異なるものである。応用面を大きく分けると、モーター制御、DC-ACインバータ、DC-DCコンバータ、放電ランプ用安定器、その他となる。",
"title": "インバータの用途"
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"text": "インバータは固体回路素子のみから構成されるため、メンテナンスフリーの装置であるかのように誤解される場合もあるが、実際は、とりわけコンバータとインバータを組み合わせた装置においては、コンバータ部の平滑用電解コンデンサが経年劣化の避けられない有寿命部品であり、いずれは交換が必要になる。故障による長時間の停止が好ましくない用途では、予防保全として、電解コンデンサを5〜10年程度の間隔で定期的に交換することが好ましい。 また、電動機用などの比較的容量の大きいインバータは近年小型化が進み、素子をファンにより強制冷却していることが多い。そのため、ファンの交換も2〜4年の間隔で定期的に交換することが望ましい。",
"title": "インバータの保全"
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"text": "パルス幅変調(PWM)とパルス振幅変調(PAM)がある。",
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] | インバータとは、直流または交流から周波数の異なる交流を発生させる(逆変換する)電源回路、またはその回路を持つ装置のことである。逆変換回路(ぎゃくへんかんかいろ)、逆変換装置(ぎゃくへんかんそうち)などとも呼ばれる。制御装置と組み合わせることなどにより、省エネルギー効果をもたらすことも可能なため、利用分野が拡大している。 インバータと逆の機能を持つ回路(装置)はコンバータ、または整流器(順変換器)とも言う。 | {{Otheruses|交流電力を生成する電源回路|論理回路におけるNOT|NOTゲート}}
{{redirect|振動子|[[ライフゲーム]]用語|振動子 (ライフゲーム)}}
[[File:Müllberg Speyer - 2.JPG|thumb|自立型太陽光発電プラントのインバータ(ライン川沿いの[[シュパイアー]]にて)]]
'''インバータ'''({{lang-en|inverter}})とは、[[直流]]または[[交流]]から周波数の異なる交流を発生させる(逆変換する)[[電源回路]]、またはその回路を持つ装置のことである。'''逆変換回路'''(ぎゃくへんかんかいろ)、'''逆変換装置'''(ぎゃくへんかんそうち)などとも呼ばれる。[[制御装置]]と組み合わせることなどにより、[[省エネルギー]]効果をもたらすことも可能なため、利用分野が拡大している。
インバータと逆の機能を持つ回路(装置)はコンバータ、または[[整流器|整流器(順変換器)]]とも言う。
==回路方式==
回路は一般に[[半導体素子]]([[電力用半導体素子]])と[[受動素子]]とを組み合わせて構成される。[[回転変流機]]と比べ[[機械]]的要素が不要なため効率がよく、保守が容易である。波形の出力方法として[[パルス変調]]が用いられる。
=== 電圧形インバータ ===
出力[[インピーダンス]]が小さく、[[電圧源]]として動作するものである。[[コンバータ]]回路の直流側に大容量の[[コンデンサ]]が並列に接続されている。
=== 電流形インバータ ===
出力[[インピーダンス]]が大きく、[[電流源]]として動作するものである。[[整流器|順変換回路]]の直流側に大容量の[[リアクトル]]が直列に接続されている。
==電力変換系のインバータ回路==
===DC-ACインバータ回路系のインバータ回路===
[[Image:Royer Circuit1.gif|200px|thumb|ロイヤー回路]]
[[Image:Fluorescent Lamp Inverter.png|200px|thumb|電流共振型]]
[[Image:CCFL Inverter Circuit3.gif|200px|thumb|コレクタ共振型回路]]
初期の頃は[[ロイヤー回路]]が使われていた。トランスを飽和させるブロッキング発振型で、決して性能は良いものではなかった。
現在でもこのブロッキング発振型のロイヤー回路は無機[[エレクトロルミネセンス|EL]]用の点灯回路として使われている。また、液晶の[[バックライト]]用蛍光管([[冷陰極管]])の点灯用としてはこれとよく似た構成の[[コレクタ共振型回路]]というものが使われている。両者はたびたび混同されるが動作原理は異なる。
===蛍光管点灯用のインバータ回路===
DC-ACインバータ回路系のインバータ回路であるが、チョークコイル型を用いた[[共振回路|LC共振]]型と[[変圧器#共振変圧器|共振トランス]]を利用して効率改善を図った共振型があり、インバータ回路分野ではかなり特殊なインバータである。インバータが特殊なのは負荷が[[放電灯|放電管]]という[[負性抵抗]]特性を有する素子を駆動するため、負性抵抗に対処するための独自の工夫が必要だからである。
LC共振型は主に電流共振型回路を基本にしたものが多く、それに様々な工夫を加えている。主に[[蛍光灯]]などの[[熱陰極管]]点灯用途に適する。
一方、共振トランスを用いたインバータ回路は[[冷陰極管]]の点灯用途([[冷陰極管インバーター]])に用いられ、その用途はノートパソコン、[[液晶]]モニタ、[[液晶テレビ]]の[[バックライト]]照明など幅広い。
===DC-DCコンバータのインバータ回路===
[[Image:Royer Circuit.gif|200px|thumb|ロイヤー回路]]
[[Image:Collector Resonance Circuit.gif|200px|thumb|コレクタ共振型]]
初期の頃は[[ロイヤー回路]]が使われていた。トランスを飽和させるブロッキング発振型で、決して性能は良いものではなかった。周波数は低く、数十Hz{{~}}数kHzである。
現在は[[コレクタ共振型回路]]というものが多く使われ小型化されている。周波数は数十kHzである。
==モーター制御系のインバータ回路==
駆動周波数が低く、大電流大電力である。駆動対象は[[三相誘導電動機]]もしくは[[同期電動機]]がほとんどであり、スイッチング素子を各相2組ずつ用いた三相出力インバータが用いられる。直入れ始動と比べてインバータ方式では電動機の回転速度調整や出力[[トルク]]の調整が容易になることによって効率を大幅に改善することができる。省エネの観点からも、電動機では直入れ制御からの置き換えが推奨される。
[[ファイル:PWM VFD Diagram.png|thumb|right|200px|整流後の直流から三相交流を作り出す回路]]
回転磁界式の交流電動機では、電機子誘起起電力と周波数:回転数がほぼ比例するので、インバータにより誘起起電力+インピーダンス降下の電圧を加えて定起動電流、定スベリ(定遅れ角)に制御する方式が開発されて、鉄道界ではそれをVVVFインバータ制御、VVVF制御([[可変電圧可変周波数制御]])と呼んで、[[1990年代]]以降の現在ではほとんどの新製車の動力方式となっている。
<!-- [[PWM]]方式による電圧・周波数可変制御が行われるため、上記の電力変換系インバータ回路に用いられるようなアナログ制御は実質的に困難であり、[[マイクロプロセッサ]]を利用した演算部によりスイッチング素子を駆動するものが大部分である。-->
VVVFインバータのスイッチング素子として、低出力用は[[バイポーラトランジスタ]]、MOS-FET、大出力用は[[ゲートターンオフサイリスタ]]([[自己消弧素子|自己消弧]]型[[サイリスタ]])や、より高速の[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ|絶縁ゲートバイポーラトランジスタ (IGBT)]] が主として使用されている。さらに、IGBTよりオン時の抵抗が小さく消費電力が少なくなるSiCパワー半導体 (炭化ケイ素MOSFET)<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.nedo.go.jp/hyoukabu/articles/201706sic/|title=NEDOプロジェクト実用化ドキュメント|accessdate=2018-10-24|website=www.nedo.go.jp|publisher=|language=ja}}</ref>への置き換えが、2015年1月の小田急線の営業運転<ref>{{Citation|title=小田急1000形1066F(更新車) 2015年1月9日営業運転開始|last=Good チャンネル|date=2015-01-30|url=https://www.youtube.com/watch?v=ABEUhe603Us|accessdate=2018-10-24}}</ref>から、山手線の[[JR東日本E235系電車|E235系車両]]、東海道新幹線N700Sの2020年の運行開始<ref>{{Cite news|title=東海道新幹線の新型車両「N700S」はリニア時代の布石 (3/4)|url=https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1607/01/news032_3.html|accessdate=2018-10-24|language=ja|work=ITmedia ビジネスオンライン}}</ref>、へと進み出している。
速度0を含む任意電圧任意周波数の正弦波を生成する方式は基本的にPWM(パルス幅変調)方式に拠っているが、大容量素子の最大動作電圧が不足することから中間電圧を設定した「3レベルインバータ」も使われ、それに対しオン・オフ2値のPWMインバータを「2レベルインバータ」と呼ぶ。工場などでさらに大きな電動機を制御する場合「5レベルインバータ」などのさらにレベル数を増やしたものが使われることもある。
==制御用半導体素子==
[[1990年代]]前半までは、大出力用には[[ゲートターンオフサイリスタ]] (GTO)、小出力用途にはパワーバイポーラ[[トランジスタ]]が主として使われていたが、1990年代後半以降は、よりオン抵抗が低く、高速駆動が可能な[[絶縁ゲートバイポーラトランジスタ]] (IGBT; 大出力用)や[[パワーMOSFET]](小出力用)が製造されるようになったことから、これらの素子を使用するものがほとんどとなった。さらに、前項に記述したSiCパワー半導体へと置き換えが進んでいる。SiCパワー半導体の製造メーカーには三菱電機やロームなどがある。
== インバータ装置 ==
厳密には、直流電力を交流電力に変換する装置あるいは装置の一部をインバータと呼ぶ。バッテリー電源の交流変換装置、直流電気鉄道のインバータ装置はこのタイプのインバータ装置である。一方、日本においては、相数・周波数・電圧等の異なる交流を得るために、商用電源の単相交流、三相交流を、一旦[[整流器]]で直流に変換してから、再度交流にするための、整流器 (コンバータ)と (厳密な意味での)インバータを組み合わせ、同一パッケージ内に収容した電力変換装置全体をインバータと呼ぶことも多い(産業用インバータなど)。
== インバータの用途 ==
[[File:Meltec car power inverter SIV-300.jpg|thumb|車載インバータ<br />自動車の[[アクセサリーソケット]]や[[鉛蓄電池|カーバッテリー]]から得た直流12 Vを交流100 Vに変換する。]]
一口にインバータと言ってもインバータの応用範囲は幅広く、それぞれの分野におけるインバータ回路と他の用途におけるインバータ回路とはお互いに全く異なるものである。応用面を大きく分けると、モーター制御、DC-ACインバータ、DC-DCコンバータ、放電ランプ用安定器、その他となる。
* モーター制御
** インバータによる交流電動機([[誘導電動機]]・[[同期電動機]])の可変速・可変トルク制御 - [[可変電圧可変周波数制御]] (VVVF制御)
*** [[エレベーター|エレベータ]]、[[ポンプ]]、[[ファン]]、[[鉄道車両]]([[電車]]・[[電気機関車]])、[[電気自動車]]、[[エア・コンディショナー]]、[[冷蔵庫]]、[[洗濯機]]など
**従来直流電動機による可変速運転が行われていた用途 (エレベータ・鉄道車両など)では電動機のブラシレス化による省メンテナンス化、従来誘導電動機による定出力運転が行われていた用途では出力のきめ細やかな制御による省電力化や制御目標への追従性向上が実現された。
* 電源装置
** [[無停電電源装置]] (UPS)などの電力補償装置 - 一定周波数・電圧の交流を連続的に発生。[[静止形インバータ|静止型インバータ]] (SIV)とも
*** 工場などで使用される機機類、[[サーバ]]、[[パーソナルコンピュータ|パソコン]]などのバックアップ電源装置、自動車用12 V電源で家庭用100 V機器を使う車載用インバータ、[[太陽光発電]]における[[パワーコンディショナー]]など
* 放電灯安定器
**[[蛍光灯]]の高周波点灯
***[[照明]]器具、[[液晶ディスプレイ]]の[[バックライト]]に使用される[[冷陰極管]]の点灯用などがあるが、発光効率が良く電力節約ができ、かつ長寿命なLED照明が急速に普及しており、次第に消え去って行くと思われる。
* [[誘導加熱]]用高周波電力発生装置
** [[電磁調理器]]
* [[マグネトロン]]励起用高周波電力発生装置
** [[電子レンジ]]、[[レーダー]]
== インバータの保全 ==
インバータは固体回路素子のみから構成されるため、メンテナンスフリーの装置であるかのように誤解される場合もあるが、実際は、とりわけコンバータとインバータを組み合わせた装置においては、コンバータ部の平滑用[[コンデンサ#電解コンデンサ|電解コンデンサ]]が経年劣化の避けられない有寿命部品であり、いずれは交換が必要になる。故障による長時間の停止が好ましくない用途では、予防保全として、電解コンデンサを5〜10年程度の間隔で定期的に交換することが好ましい。
また、電動機用などの比較的容量の大きいインバータは近年小型化が進み、素子をファンにより強制冷却していることが多い。そのため、ファンの交換も2{{~}}4年の間隔で定期的に交換することが望ましい。
== インバータの制御方式 ==
[[パルス幅変調]](PWM)と[[パルス振幅変調]](PAM)がある。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
==関連項目==
*[[パワーエレクトロニクス]]
*[[チョッパ制御]]
*[[磁励音]]
*[[変圧器]]
== 外部リンク ==
*{{ wayback | date = 20030902034700 | url = http://wwwf2.mitsubishielectric.co.jp/fair/fa_basic/04/41.htm | title = インバータの役割り }}([[三菱電機]])
{{Normdaten}}
{{電動機}}
{{デフォルトソート:いんはあた}}
[[Category:電気回路]]
[[Category:電気工学]]
[[Category:電動機]]
[[Category:省エネルギー]]
[[Category:パワーエレクトロニクス]]
[[Category:電力変換|*]] | 2003-04-28T10:58:46Z | 2023-10-08T07:10:03Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%BF |
7,405 | 電動発電機 | 電動発電機(でんどうはつでんき、MG、Motor Generator)という言葉は、下記に示す2つの異なる機械を指す意味で使われる。
この項目ではそれぞれについて述べる。
なお、電動発電機は発電電動機(はつでんでんどうき)ともいう。
電動機と発電機とを同軸で直結した電動発電機は、電力の変換を目的とする電力機器である。 交流の周波数変換もしくは直流 - 交流の変換、あるいは直流の昇圧・降圧など、トランスでは変換できない電力変換で、かつ半導体素子ではその当時の技術的な限界から変換が難しかった時期によく使われた機器であるが、現在でも稼働している機器は多数存在する。主に変電所、工場、鉄道の電気車(電気機関車、電車)などで使われている機器である。なお、直流で電化された初期の電気鉄道の変電所などのように、大電流で交流から直流への変換を行う場合には、電動発電機より効率の高い「回転変流機」が用いられた。
変換元の電力を電動機に入力し、その回転運動を同軸上の発電機に伝達、発電し電気エネルギーに戻す。交流電力の周波数変換では交流電動機と交流発電機とで構成する。また、直流から交流を得るときは直流電動機と交流発電機とで、直流の電圧変換では直流電動機と直流発電機とで構成する。
変圧器が電圧の変換しかできないのに対し、電動発電機では機構上、電力で発電機を作動させて発電する形となるため、電動機と発電機の組み合わせ方によって電圧変換・周波数変換・直流 - 交流変換など様々な電力変換に対応できる点が特徴であり、構造も単純であるため古くから用いられてきた。
しかし電動発電機を利用した電力変換は効率が悪いため、半導体素子の進歩により、シリコン整流器、静止型周波数変換装置、インバータなど、用途にあわせた新しい電力変換方式が普及し、電動発電機はそれらに置き換えられている。
1980年代以前に製造された古い電気機関車や電車では、主制御器を駆動する電源として用いられ、旅客車では冷房装置や室内灯などのサービス電源装置としても広く使用されており、現役の装置も少なくない。
東海道新幹線では、全線60 Hz供給の為、東京電力から供給される50 Hzを60 Hzとして供給するための周波数変換変電所があり、そこでは数台の電動発電機(10極:12極 300 rpm)が稼働している。
従来の電動発電機は直流電動機を使用した方式であり、必然的にブラシ・整流子など磨耗部分があり、メンテナンスには手間を要するものであった。それに対し、1980年代からブラシを廃した電動発電機が開発された。特にこれをブラシレスMG、略してBLMGと呼び、区別するようになった。
BLMGは直流1,500 Vを電源にサイリスタインバータを用いて三相交流に変換し、三相交流により三相同期電動機を回転させて三相同期発電機で発電する方式である。同期電動機にはブラシがないため、直流電動機よりもメンテナンスが軽減されるものである。
しかし、依然として回転磨耗部分は残るため、根本的なメンテナンスフリーには至らず、1990年代に入ると静止形変換装置に代わられている。
電動発電機とは、電動機と発電機とが可逆であり兼用されるものを指す場合もある。
以下にその一例を示す。 | [
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"text": "電動機と発電機とを同軸で直結した電動発電機は、電力の変換を目的とする電力機器である。 交流の周波数変換もしくは直流 - 交流の変換、あるいは直流の昇圧・降圧など、トランスでは変換できない電力変換で、かつ半導体素子ではその当時の技術的な限界から変換が難しかった時期によく使われた機器であるが、現在でも稼働している機器は多数存在する。主に変電所、工場、鉄道の電気車(電気機関車、電車)などで使われている機器である。なお、直流で電化された初期の電気鉄道の変電所などのように、大電流で交流から直流への変換を行う場合には、電動発電機より効率の高い「回転変流機」が用いられた。",
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"text": "東海道新幹線では、全線60 Hz供給の為、東京電力から供給される50 Hzを60 Hzとして供給するための周波数変換変電所があり、そこでは数台の電動発電機(10極:12極 300 rpm)が稼働している。",
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] | 電動発電機という言葉は、下記に示す2つの異なる機械を指す意味で使われる。 電動機と発電機とを直結したもの(電動の発電機)
電動機と発電機とが可逆なもの(電動機にも発電機にもなるもの) この項目ではそれぞれについて述べる。 なお、電動発電機は発電電動機(はつでんでんどうき)ともいう。 | '''電動発電機'''(でんどうはつでんき、'''MG'''、''M''otor ''G''enerator)という言葉は、下記に示す2つの異なる機械を指す意味で使われる。
#[[#電動機と発電機とを直結した電動発電機|電動機と発電機とを直結したもの]](電動の発電機)
#[[#電動機と発電機とが可逆な電動発電機|電動機と発電機とが可逆なもの]](電動機にも発電機にもなるもの)
この項目ではそれぞれについて述べる。
なお、電動発電機は'''発電電動機'''(はつでんでんどうき)ともいう。
== 電動機と発電機とを直結した電動発電機 ==
[[File:Nagoya Municipal Subway 3000 series 001.JPG|thumb|220px|[[電車]]床下の電動発電機の例<br />[[名古屋市交通局3000形電車 (鉄道)|名古屋市営地下鉄3000形電車]]の複巻整流子式電動発電機]]
[[電動機]]と[[発電機]]とを同軸で直結した'''電動発電機'''は、[[電力]]の変換を目的とする[[電力機器]]である。
[[交流]]の[[周波数]]変換もしくは[[直流]] - 交流の変換、あるいは直流の昇圧・降圧など、[[変圧器|トランス]]では変換できない電力変換で、かつ[[半導体素子]]ではその当時の技術的な限界から変換が難しかった時期によく使われた機器であるが、現在でも稼働している機器は多数存在する。主に[[変電所]]、[[工場]]、鉄道の電気車([[電気機関車]]、[[電車]])などで使われている機器である。なお、[[直流電化|直流で電化]]された初期の[[電気鉄道]]の変電所などのように、大電流で交流から直流への変換を行う場合には、電動発電機より効率の高い「[[回転変流機]]」が用いられた。
変換元の[[電力]]を[[電動機]]に入力し、その回転運動を同軸上の[[発電機]]に伝達、[[発電]]し電気エネルギーに戻す。交流電力の周波数変換では[[交流電動機]]と[[交流発電機]]とで構成する。また、直流から交流を得るときは[[直流電動機]]と交流発電機とで、直流の電圧変換では直流電動機と直流発電機とで構成する。
[[変圧器]]が電圧の変換しかできないのに対し、電動発電機では機構上、電力で発電機を作動させて発電する形となるため、電動機と発電機の組み合わせ方によって電圧変換・周波数変換・直流 - 交流変換など様々な電力変換に対応できる点が特徴であり、構造も単純であるため古くから用いられてきた。
しかし電動発電機を利用した電力変換は効率が悪いため、[[半導体素子]]の進歩により、シリコン[[整流器]]、[[静止形インバータ|静止型周波数変換装置]]、[[インバータ]]など、用途にあわせた新しい電力変換方式が普及し、電動発電機はそれらに置き換えられている。
[[1980年代]]以前に製造された古い[[電気機関車]]や[[電車]]では、[[主制御器]]を駆動する電源として用いられ、[[旅客車]]では[[冷房]]装置や室内灯などのサービス電源装置としても広く使用されており、現役の装置も少なくない。
[[東海道新幹線]]では、全線60 Hz供給の為、[[東京電力]]から供給される50 Hzを60 Hzとして供給するための周波数変換変電所があり、そこでは数台の電動発電機(10極:12極 300 [[Rpm_(単位)|rpm]])が稼働している<ref>{{Cite web|和書|date=2014-11-27 |url=https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000024902.pdf |title=東海道新幹線 周波数変換装置の取り替えについて |publisher=[[東海旅客鉄道]] |format= |accessdate=2021-05-28}}</ref>。<!--最近新設、更新されたものは[[静止型周波数変換装置|SIV]]になっているとのこと。 いつから?-->
=== ブラシレスMG ===
[[File:JNR205-DM106-BLMG.jpg|thumb|220px|[[国鉄205系電車]]のブラシレスMG<br />同車ではMGは枕木方向に吊られている。]]
従来の電動発電機は直流電動機を使用した方式であり、必然的にブラシ・[[整流子]]など磨耗部分があり、メンテナンスには手間を要するものであった。それに対し、[[1980年代]]からブラシを廃した電動発電機が開発された。特にこれを'''ブラシレスMG'''、略して'''BLMG'''と呼び、区別するようになった。
BLMGは直流1,500 Vを電源に[[サイリスタ]]インバータを用いて三相交流に変換し、三相交流により[[同期電動機|三相同期電動機]]を回転させて三相同期発電機で発電する方式である。同期電動機にはブラシがないため、直流電動機よりもメンテナンスが軽減されるものである。
しかし、依然として回転磨耗部分は残るため、根本的なメンテナンスフリーには至らず、[[1990年代]]に入ると静止形変換装置に代わられている。
=== 代替となる機器 ===
* [[インバータ]]
** [[静止形インバータ|静止形インバータ (SIV)]]
* [[整流器]]
* [[回転変流機]]
{{-}}
== 電動機と発電機とが可逆な電動発電機 ==
'''電動発電機'''とは、電動機と発電機とが可逆であり兼用されるものを指す場合もある。
以下にその一例を示す。
; 無停電電源装置
: 電動発電機に、[[フライホイール]](はずみ車)と[[機関 (機械)|エンジン]]([[ディーゼルエンジン]]が一般的)を組み合わせ[[無停電電源装置]]として用いたもの。平常時はエンジンを切り離し、電動発電機に電力を入力しフライホイールを回転させておく。停電時にはエンジンが接続され、フライホイールの[[慣性]]([[トルク]])でエンジンを始動する。始動後はエンジンの動力で発電機を回し発電する。
; 揚水発電
: [[水力発電]]所の一種である[[揚水発電]]所では、電動発電機に[[発電用水車]]と[[ポンプ]]、もしくは発電用水車とポンプとが可逆なポンプ水車が直結されている。発電機として発電を行う一方、回転方向を逆に設定した上で電力を入力し電動機として揚水を行う。揚水発電所において電動発電機は、発電機としての運転が主体とされており、専ら'''発電電動機'''と呼ばれる。
; セルダイナモ
: 小型の[[内燃機関]]において、始動時には[[セルモーター]](スターターモーター)として動作し、始動後は[[ダイナモ]]として動作する部品。かつては小[[排気量]]の[[自動車]]や[[オートバイ]]に使用されたが、発電機が[[直流]]のダイナモから、より発電能力が高い[[交流]]の[[オルタネーター]]に取って替わられ、廃れた。現代の自動車やオートバイはセルモーターとオルタネーターを個別に装備している。
; [[ハイブリッドカー]]、[[電気自動車]]
: コンピュータで制御された電動発電機は、バッテリーからの電力を用いて走行し、また減速時には発電しバッテリーに電力を蓄える([[回生ブレーキ|回生減速]]する)ことでガソリンエンジンの苦手とする部分を補い、[[排出ガス]]を抑制し[[燃費]]を向上させる。
:; スターターゼネレーター
:: 重量に対する制限の厳しい[[ヘリコプター]]においては、始動用の[[セルモーター|スターター]]([[直流電動機]])と発電用のゼネレーター([[直流発電機]])が兼用されている。発電については[[オルタネーター]](交流発電機)を備える機種もある。
== 脚注 ==
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
* [[発電ブレーキ]]
* [[回生ブレーキ]]
* [[電気自動車]]
* [[ハイブリッドカー]]
== 外部リンク ==
* 日立製作所『日立評論』1975年11月号「{{PDFlink|[https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1975/11/1975_11_13.pdf 車両用ブラシレス サイリスタ電動発電機]}}」(鉄道車両用ブラシレスMGについて記載)
{{Normdaten}}
[[Category:発電機|てんとうはつてんき]]
[[Category:電動機|てんとうはつてんき]] | 2003-04-28T11:10:37Z | 2023-12-04T14:13:11Z | false | false | false | [
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"Template:Reflist",
"Template:Cite web",
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"Template:Normdaten"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%8B%95%E7%99%BA%E9%9B%BB%E6%A9%9F |
7,406 | 日本の地域別鉄道路線一覧 | 日本の地域別鉄道路線一覧(にほんのちいきべつてつどうろせんいちらん)では、50音順配列の日本の鉄道路線一覧を日本の地域別に一覧にしている。
解説:
日本は他国と海を隔てて大きく離れているため、日本国外と接続する路線はない。
北海道、本州、四国、九州のいずれかにまたがって走る路線。 | [
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] | 日本の地域別鉄道路線一覧(にほんのちいきべつてつどうろせんいちらん)では、50音順配列の日本の鉄道路線一覧を日本の地域別に一覧にしている。 解説: 本記事は、原則として旅客営業を行う路線を対象とし、貨物専用の路線は含まれない(ただし、リンク先の「○○の鉄道路線」には貨物線を含む。)。
「広域:」とは、その地域内の複数の部分にまたがる路線である。地域内で完結している。
「超広域:」とは、その地域と他の地域にまたがる路線である。
詳細は、その地域を含んだ親の地域の「広域」に同じ路線名を見つけることができる。 | '''日本の地域別鉄道路線一覧'''(にほんのちいきべつてつどうろせんいちらん)では、50音順配列の[[日本の鉄道路線一覧]]を[[日本の地域]]別に一覧にしている。
<!--編集注:表は未完成である。記入の際には50音順配列の[[日本の鉄道路線一覧]]にも書き込んでいただきたい。-->
解説:
* 本記事は、原則として旅客営業を行う路線を対象とし、[[貨物線|貨物専用の路線]]は含まれない(ただし、リンク先の「○○(地方)の鉄道路線」には貨物線を含む。)。
*「広域:」とは、その地域内の複数の部分にまたがる路線である。地域内で完結している。
*「超広域:」とは、その地域と他の地域にまたがる路線である。
**詳細は、その地域を含んだ親の地域の「広域」に同じ路線名を見つけることができる。
== 日本の超広域路線 ==
日本は他国と海を隔てて大きく離れているため、日本国外と接続する路線はない。
== 日本の広域路線 ==
[[北海道]]、[[本州]]、[[四国]]、[[九州]]のいずれかにまたがって走る路線。
*[[北海道新幹線]]([[北海道旅客鉄道|JR北海道]]) - [[新青森駅]](本州)から[[新函館北斗駅]](北海道)まで
**[[東北新幹線]]との直通列車もあり、[[東京駅]](関東地方-東京都)と新函館北斗駅を乗り換えなしで結ぶ。
*[[山陽新幹線]]([[西日本旅客鉄道|JR西日本]]) - [[新大阪駅]](本州)から[[博多駅]](九州)まで
**[[東海道新幹線]]との直通列車もあり、[[東京駅]](関東地方-東京都)と博多駅を乗り換えなしで結ぶ。
**[[九州新幹線]]との直通列車もあり、新大阪駅と[[鹿児島中央駅]](九州地方-鹿児島県)を乗り換えなしで結ぶ。
*[[海峡線]] (JR北海道) - [[中小国駅]](本州-東北地方)から[[木古内駅]](北海道)まで
**北海道新幹線開業に伴い定期旅客列車の運行はない。
*[[山陽本線]] (JR西日本、[[九州旅客鉄道|JR九州]]) - [[神戸駅 (兵庫県)|神戸駅]]から[[門司駅]]まで
*[[瀬戸大橋線]] (JR西日本、[[四国旅客鉄道|JR四国]]) - [[岡山駅]](本州-中国地方)から[[宇多津駅]]/[[坂出駅]](四国)まで
**岡山 - 茶屋町間は宇野線、茶屋町-児島間は[[本四備讃線]](JR西日本)、児島-宇多津/坂出間は本四備讃線(JR四国)であるが、一体の運転系統である。
== 北海道 ==
{{Main|北海道の鉄道路線}}
*超広域:
**[[北海道新幹線]](北海道 - 東北地方)
**[[海峡線]](北海道 - 東北地方)
*広域:
**[[函館本線]] - [[千歳線]] - [[石勝線]] - [[室蘭本線]] - [[根室本線]] (JR北海道)
**[[宗谷本線]] - [[石北本線]] - [[釧網本線]](JR北海道)
*[[石狩振興局]]
**[[札幌市]]
***[[札幌市営地下鉄南北線]] - [[札幌市営地下鉄東西線]] - [[札幌市営地下鉄東豊線]] ([[札幌市交通局]])
***[[札幌市電都心線]] - [[札幌市電一条線]] - [[札幌市電山鼻線]] - [[札幌市電山鼻西線]] ([[札幌市交通事業振興公社]])
**[[札沼線]]
*[[胆振総合振興局]]
**[[日高本線]]
*[[渡島総合振興局]]
**[[函館市]]
***[[函館市電本線]] - [[函館市電宝来・谷地頭線]] - [[函館市電大森線]] - [[函館市電湯の川線]] ([[函館市交通局]])
**[[道南いさりび鉄道線]]
*[[上川総合振興局]]
**[[富良野線]] (JR北海道)
*[[空知総合振興局]]
**[[留萌本線]]
== 本州 ==
*超広域:
**[[北海道新幹線]]([[東北地方]] - 北海道)(JR北海道)
**[[海峡線]](東北地方 - 北海道)(JR北海道)
**[[山陽新幹線]]([[近畿地方]] - [[中国地方]] - 九州)(JR西日本)
**[[山陽本線]](近畿地方 - 中国地方 - 九州)(JR西日本、JR九州)
**[[瀬戸大橋線]](中国地方 - 四国)(JR西日本、JR四国)
*広域:
**新幹線
***[[東北新幹線]] (JR東日本)
***[[上越新幹線]](JR東日本)
***[[北陸新幹線]] (JR東日本、JR西日本)
***[[東海道新幹線]] (JR東海)
***[[山陽新幹線]] (JR西日本)
**在来線
***[[東北本線]] [[東京駅]] - [[盛岡駅]] (東北地方) (JR東日本)
***[[常磐線]] [[日暮里駅]] - [[岩沼駅]] (東北地方) (JR東日本)
***[[羽越本線]](JR東日本)
***[[米坂線]] (JR東日本)
***[[只見線]] (JR東日本)
***[[磐越西線]] (JR東日本)
***[[上越線]] (JR東日本)
***[[中央本線]] (JR東日本、JR東海)
***[[東海道本線]] (JR東日本、JR東海、JR西日本)
****([[東海道線 (JR東日本)|東海道線]] (JR東日本):東京駅 - [[熱海駅]])
***[[御殿場線]] (JR東海)
***[[関西本線]] (JR東海)
***[[北陸本線]] (JR西日本)
***[[小浜線]] (JR西日本)
***[[山陰本線]](JR西日本)
***[[姫新線]](JR西日本)
***[[赤穂線]](JR西日本)
**私鉄線など
***[[野岩鉄道会津鬼怒川線]] ([[野岩鉄道]])
***[[近鉄大阪線]] ([[近畿日本鉄道]])
***[[智頭急行智頭線]]([[智頭急行]])
=== 東北地方 ===
{{Main|東北地方の鉄道路線}}
*超広域:
**[[東北新幹線]](JR東日本)
**[[東北本線]](JR東日本)
**[[常磐線]](JR東日本)
**[[羽越本線]](JR東日本)
**[[米坂線]] (JR東日本)
**[[只見線]] (JR東日本)
**[[磐越西線]] (JR東日本)
**[[野岩鉄道会津鬼怒川線]] (野岩鉄道)
*広域:
**[[奥羽本線]] - [[五能線]] - [[八戸線]] - [[花輪線]] - [[田沢湖線]] - [[北上線]] - [[仙山線]] - [[陸羽東線]] - [[大船渡線]](JR東日本)
**[[阿武隈急行線]]([[阿武隈急行]])
*[[青森県]]
**[[津軽線]] [[大湊線]](JR東日本)
**[[青い森鉄道線]] ([[青い森鉄道]])
**[[弘南鉄道大鰐線|大鰐線]] - [[弘南鉄道弘南線|弘南線]]([[弘南鉄道]])
**[[津軽鉄道線]]([[津軽鉄道]])
*[[秋田県]]
**[[男鹿線]](JR東日本)
**[[秋田内陸縦貫鉄道秋田内陸線]]([[秋田内陸縦貫鉄道]])
**[[由利高原鉄道鳥海山ろく線]]([[由利高原鉄道]])
*[[山形県]]
**[[陸羽西線]] [[左沢線]](JR東日本)
**[[山形鉄道フラワー長井線]]([[山形鉄道]])
*[[岩手県]]
**[[山田線]] - [[釜石線]](JR東日本)
**[[IGRいわて銀河鉄道線]]([[IGRいわて銀河鉄道]])
**[[三陸鉄道リアス線]]
*[[宮城県]]
**広域:
***[[仙石線]] - [[石巻線]] - [[気仙沼線]](JR東日本)
**[[仙台市]]
***[[仙台市地下鉄南北線]]([[仙台市交通局]])
***[[仙台市地下鉄東西線]](仙台市交通局)
**[[名取市]]
***[[仙台空港鉄道仙台空港線]]([[仙台空港鉄道]])
*[[福島県]]
**[[磐越東線]] (JR東日本)
**[[会津鉄道会津線]]([[会津鉄道]])
**[[福島交通飯坂線]]([[福島交通]])
=== 関東地方 ===
{{Main|関東地方の鉄道路線}}
*超広域:
**新幹線
***[[東北新幹線]] (JR東日本)
***[[上越新幹線]](JR東日本)
***[[北陸新幹線]](JR東日本、JR西日本)
***[[東海道新幹線]](JR東海)
**その他
***[[東海道本線]] (JR東日本)
***[[中央本線]] (JR東日本)
***[[御殿場線]](JR東海)
***[[野岩鉄道会津鬼怒川線|会津鬼怒川線]] (野岩鉄道)
*広域:
**[[総武本線]] - [[横須賀線]] - [[横浜線]] - [[南武線]] − [[武蔵野線]] - [[京葉線]]- [[八高線]] (JR東日本)
**[[川越線]] - [[埼京線]] - [[高崎線]] - [[両毛線]] - [[水戸線]] − [[鹿島線]] (JR東日本)
***([[京浜東北線]](通称)- [[中央・総武緩行線]](通称) (JR東日本))
**[[小田急小田原線]] - [[小田急多摩線]] ([[小田急電鉄]])
**[[京王線]] - [[京王相模原線]] - [[京王井の頭線]] ([[京王電鉄]])
**[[京成本線]] - [[京成成田空港線]] ([[京成電鉄]])
**[[京急本線]] ([[京浜急行電鉄]])
**[[西武新宿線]] - [[西武池袋線]] - [[西武山口線]] ([[西武鉄道]])
** [[東急東横線]] - [[東急田園都市線]] ([[東急電鉄]])
**[[東京メトロ東西線]] - [[東京メトロ有楽町線]] - [[東京メトロ副都心線]] ([[東京地下鉄]])
**[[東武伊勢崎線]] - [[東武佐野線]] - [[東武日光線]] - [[東武野田線]] - [[東武東上本線]] ([[東武鉄道]])
**[[埼玉高速鉄道線]] ([[埼玉高速鉄道]])
**[[首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス]] ([[首都圏新都市鉄道]])
**[[都営地下鉄新宿線]] ([[東京都交通局]])
**[[真岡鐵道真岡線]]([[真岡鐵道]])
**[[わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線]] ([[わたらせ渓谷鐵道]])
*[[東京都]]
**広域:
***[[青梅線]] - [[五日市線]] (JR東日本)
***[[西武拝島線]] - [[西武多摩湖線]] - [[西武国分寺線]] - [[西武西武園線]] - [[西武多摩川線]] (西武鉄道)
***[[多摩都市モノレール線]] ([[多摩都市モノレール]])
**[[東京都区部]]
***[[山手線]] (JR東日本)
***[[京王新線]] ([[京王電鉄]])
***[[京成押上線]] (京成電鉄)
***[[東急目黒線]] - [[東急池上線]] (東急電鉄)
***[[東京メトロ銀座線]] - [[東京メトロ丸ノ内線]] - [[東京メトロ日比谷線]] - [[東京メトロ千代田線]] - [[東京メトロ半蔵門線]] - [[東京メトロ南北線]] (東京地下鉄)
***[[都営地下鉄浅草線]] - [[都営地下鉄三田線]] - [[都営地下鉄大江戸線]] (東京都交通局)
***[[東京都交通局日暮里・舎人ライナー|日暮里・舎人ライナー]] (東京都交通局)
***[[都電荒川線]] (東京都交通局)
***[[東京モノレール羽田空港線]] ([[東京モノレール]])
***[[東京臨海高速鉄道りんかい線]] ([[東京臨海高速鉄道]]
***[[ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線]] ([[ゆりかもめ (企業)|ゆりかもめ]])
**[[大田区]]
***[[京急空港線]] (京浜急行電鉄)
***[[東急多摩川線]] (東急電鉄)
**[[世田谷区]]
***[[東急世田谷線]] (東急電鉄)
**[[練馬区]]
***[[西武豊島線]] - [[西武有楽町線]] (西武鉄道)
**[[葛飾区]]
***[[京成金町線]] (京成電鉄)
**[[足立区]]
***[[東武大師線]] (東武鉄道)
**[[府中市 (東京都)|府中市]]
***[[京王競馬場線]] (京王電鉄)
**[[日野市]]
***[[京王動物園線]] (京王電鉄)
**[[八王子市]]
***[[京王高尾線]] ([[京王電鉄]])
**[[東村山市]]
***[[西武西武園線]] (西武鉄道)
*[[神奈川県]]
**広域:
***[[根岸線]] - [[鶴見線]] - [[相模線]] (JR東日本)
***[[小田急江ノ島線]] ([[小田急電鉄]])
***[[京急久里浜線]] - [[京急逗子線]] (京浜急行電鉄)
***[[相鉄本線]] - [[相鉄いずみ野線]] (相模鉄道)
***[[箱根登山鉄道鉄道線]] ([[箱根登山鉄道]])
***[[伊豆箱根鉄道大雄山線]] ([[伊豆箱根鉄道]])
***[[江ノ島電鉄線|江ノ島電鉄]] ([[江ノ島電鉄|江ノ電]])
***[[湘南モノレール江の島線]] ([[湘南モノレール]])
***[[横浜市営地下鉄ブルーライン]] (1号線・3号線、[[横浜市交通局]])
**[[横浜市]]
***[[相鉄新横浜線]] (相模鉄道)
***[[東急新横浜線]] (東急電鉄)
***[[東急こどもの国線|横浜高速鉄道こどもの国線]] ([[横浜高速鉄道]])
***[[横浜高速鉄道みなとみらい線|横浜高速鉄道みなとみらい21線]] (横浜高速鉄道)
***[[横浜シーサイドライン金沢シーサイドライン|金沢シーサイドライン]] ([[横浜シーサイドライン]])
***[[横浜市営地下鉄グリーンライン]] (4号線、横浜市交通局)
**[[川崎市]]
***[[京急大師線]] (京浜急行電鉄)
*[[千葉県]]
**広域:
***[[内房線]] - [[外房線]] - [[東金線]] - [[成田線]] (JR東日本)
***[[京成千葉線]] (京成電鉄)
***[[京成千原線]] (京成電鉄)
***[[新京成電鉄新京成線]] ([[新京成電鉄]])
***[[いすみ鉄道いすみ線]] ([[いすみ鉄道]])
***[[小湊鉄道線]] ([[小湊鉄道]])
***[[芝山鉄道線]] ([[芝山鉄道]])
***[[東葉高速鉄道東葉高速線|東葉高速線]] ([[東葉高速鉄道]])
***[[流鉄流山線]] ([[流鉄]])
**[[千葉市]]
***[[千葉都市モノレール1号線]]([[千葉都市モノレール]])
***[[千葉都市モノレール2号線]](千葉都市モノレール)
**[[佐倉市]]
***[[山万ユーカリが丘線]]([[山万]])
**[[銚子市]]
***[[銚子電気鉄道線]] ([[銚子電気鉄道]])
**[[浦安市]]
***[[舞浜リゾートラインディズニーリゾートライン]]([[舞浜リゾートライン]])
**[[成田市]]
***[[京成東成田線]](京成電鉄)
*[[埼玉県]]
**広域:
***[[川越線]] (JR東日本)
***[[東武越生線]]
***[[秩父鉄道秩父本線]]
***[[西武狭山線]]
***[[西武秩父線]]
***[[埼玉新都市交通伊奈線]](ニューシャトル)([[埼玉新都市交通]])
*[[群馬県]]
**広域:
***[[吾妻線]] (JR東日本)
***[[東武桐生線]] - [[東武小泉線]] (東武鉄道)
***[[上信電鉄上信線|上信線]] ([[上信電鉄]])
***[[上毛電気鉄道上毛線|上毛線]] ([[上毛電気鉄道]])
*[[栃木県]]
**広域:
***[[日光線]] (JR東日本) - [[宇都宮駅]]から[[日光駅]]を結ぶ。
***[[烏山線]] (JR東日本) - [[宝積寺駅]]から[[烏山駅]]を結ぶ。
***[[東武宇都宮線]] - [[新栃木駅]]から[[東武宇都宮駅]]を結ぶ。
*** [[宇都宮ライトレール宇都宮芳賀ライトレール線|宇都宮芳賀ライトレール線]] ([[宇都宮ライトレール]]) - [[宇都宮駅#宇都宮ライトレール|宇都宮駅東口停留場]]から[[芳賀・高根沢工業団地停留場]]を結ぶ。
**[[日光市]]
***[[東武鬼怒川線]] - [[下今市駅]]から[[新藤原駅]]を結ぶ。
*[[茨城県]]
**広域:
***[[鹿島臨海鉄道大洗鹿島線]] ([[鹿島臨海鉄道]])
***[[関東鉄道常総線]] ([[関東鉄道]])
**[[龍ケ崎市]]
***[[関東鉄道竜ヶ崎線]] (関東鉄道)
**[[ひたちなか市]]
***[[ひたちなか海浜鉄道湊線]] ([[ひたちなか海浜鉄道]])
=== 中部地方 ===
{{Main|中部地方の鉄道路線}}
*超広域:
**新幹線
***[[上越新幹線]] (JR東日本)
***[[北陸新幹線]] (JR東日本、JR西日本)
***[[東海道新幹線]] (JR東海)
**その他
***[[羽越本線]] (JR東日本)
***[[米坂線]] (JR東日本)
***[[只見線]] (JR東日本)
***[[磐越西線]] (JR東日本)
***[[上越線]] (JR東日本)
***[[東海道本線]] (JR東日本、JR東海、JR西日本)
***[[御殿場線]] (JR東海)
***[[関西本線]] (JR東海)
***[[北陸本線]] (JR西日本)
***[[小浜線]] (JR西日本)
***[[近鉄大阪線]] ([[近畿日本鉄道]])
*広域:
**[[小海線]] (JR東日本)
**[[飯山線]] (JR東日本)
**[[中央本線]] (JR東日本、JR東海)
**[[大糸線]] (JR東日本、JR西日本)
**[[身延線]] (JR東海)
**[[飯田線]] (JR東海)
**[[高山本線]] (JR東海、JR西日本)
**[[しなの鉄道北しなの線]]([[しなの鉄道]])
**[[あいの風とやま鉄道線]]([[あいの風とやま鉄道]])
**[[近鉄名古屋線]] (近畿日本鉄道)
**[[名鉄名古屋本線]] ([[名古屋鉄道]])
**[[名鉄犬山線]] (名古屋鉄道)
**[[名鉄広見線]] (名古屋鉄道)
**[[養老鉄道養老線]] ([[養老鉄道]])
*[[新潟県]]
**広域:
***[[信越本線]] (JR東日本)
***[[白新線]] (JR東日本)
***[[越後線]] (JR東日本)
***[[弥彦線]] (JR東日本)
***[[北越急行ほくほく線]] ([[北越急行]])
***[[えちごトキめき鉄道妙高はねうまライン]]([[えちごトキめき鉄道]])
***[[えちごトキめき鉄道日本海ひすいライン]](えちごトキめき鉄道)
*[[山梨県]]
**広域:
***[[富士山麓電気鉄道富士急行線|富士山麓電気鉄道大月線]] ([[富士山麓電気鉄道]])
***[[富士山麓電気鉄道富士急行線|富士山麓電気鉄道河口湖線]] (富士山麓電気鉄道)
*[[長野県]]
**広域:
***[[篠ノ井線]] (JR東日本)
***[[しなの鉄道線]] (しなの鉄道)
***[[長野電鉄長野線]] ([[長野電鉄]])
**[[松本市]]
***[[アルピコ交通上高地線]] ([[アルピコ交通]])
**[[上田市]]
***[[上田電鉄別所線]] ([[上田電鉄]])
*[[富山県]]
**広域:
***[[城端線]](JR西日本)
***[[氷見線]](JR西日本)
***[[富山地方鉄道本線]] ([[富山地方鉄道]])
***[[富山地方鉄道立山線]] (富山地方鉄道)
***[[富山地方鉄道上滝線]] (富山地方鉄道)
***[[万葉線|万葉線高岡軌道線]] ([[万葉線 (企業)|万葉線]])
***[[万葉線|万葉線新湊港線]] (万葉線)
**[[富山市]]
***[[富山地方鉄道不二越線]] (富山地方鉄道)
***[[富山地方鉄道富山軌道線]]
****本線 (富山地方鉄道)
****支線 (富山地方鉄道)
****安野屋線 (富山地方鉄道)
****呉羽線 (富山地方鉄道)
****富山都心線 (富山地方鉄道)
****富山駅南北接続線 (富山地方鉄道)
***[[富山地方鉄道富山港線]] (富山地方鉄道)
**[[黒部市]]
***[[黒部峡谷鉄道本線]] ([[黒部峡谷鉄道]])
**[[立山町]]
***[[立山黒部貫光立山ケーブルカー|立山ケーブルカー]] ([[立山黒部貫光]])
***[[立山黒部貫光黒部ケーブルカー|黒部ケーブルカー]] (立山黒部貫光)
***[[立山黒部貫光無軌条電車線]] (立山黒部貫光)無軌条電車
*[[石川県]]
**広域:
***[[七尾線]]
***[[北陸鉄道石川線]] ([[北陸鉄道]])
***[[北陸鉄道浅野川線]] (北陸鉄道)
***[[のと鉄道七尾線]] ([[のと鉄道]])
***[[IRいしかわ鉄道線]]([[IRいしかわ鉄道]])
*[[福井県]]
**広域:
***[[越美北線]] (JR西日本)
***[[えちぜん鉄道勝山永平寺線]] ([[えちぜん鉄道]])
***[[えちぜん鉄道三国芦原線]] (えちぜん鉄道)
***[[福井鉄道福武線]] ([[福井鉄道]])
*[[岐阜県]]
**広域:
***[[太多線]] (JR東海)
***[[名鉄広見線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄各務原線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄竹鼻線]] (名古屋鉄道)
***[[明知鉄道明知線]] ([[明知鉄道]])
***[[樽見鉄道樽見線]] ([[樽見鉄道]])
***[[長良川鉄道越美南線]] ([[長良川鉄道]])
**[[羽島市]]
***[[名鉄羽島線]] (名古屋鉄道)
*[[静岡県]]
**広域:
***[[伊東線]] (JR東日本)
***[[伊豆急行線]] ([[伊豆急行]])
***[[伊豆箱根鉄道駿豆線]] ([[伊豆箱根鉄道]])
***[[大井川鐵道大井川本線]]([[大井川鐵道]])
***[[大井川鐵道井川線]] (大井川鐵道)
***[[天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線]] ([[天竜浜名湖鉄道]])
**[[函南町]]
***[[十国峠十国鋼索線]] (十国峠)
**[[富士市]]
***[[岳南電車岳南鉄道線|岳南鉄道線]] ([[岳南電車]])
**[[静岡市]]
***[[静岡鉄道静岡清水線]] ([[静岡鉄道]])
**[[浜松市]]
***[[遠州鉄道鉄道線]] ([[遠州鉄道]])
*[[愛知県]]
**広域:
***[[武豊線]] (JR東海)
***[[名鉄常滑線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄河和線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄西尾線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄三河線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄豊田線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄蒲郡線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄知多新線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄瀬戸線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄小牧線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄津島線]] (名古屋鉄道)
***[[名鉄尾西線]] (名古屋鉄道)
***[[豊橋鉄道渥美線]] ([[豊橋鉄道]])
***[[愛知環状鉄道線]] ([[愛知環状鉄道]])
***[[愛知高速交通東部丘陵線]] ([[愛知高速交通]])
***[[東海交通事業城北線]] ([[東海交通事業]])
***[[名古屋市営地下鉄鶴舞線]] (名古屋市交通局)
**[[豊橋市]]
***[[豊橋鉄道東田本線]] (豊橋鉄道)
**[[豊川市]]
***[[名鉄豊川線]] (名古屋鉄道)
**[[常滑市]]
***[[名鉄空港線]] (名古屋鉄道)
**[[名古屋市]]
***[[名鉄築港線]] (名古屋鉄道)
***[[名古屋ガイドウェイバスガイドウェイバス志段味線]] ([[名古屋ガイドウェイバス]])
***[[名古屋市営地下鉄東山線]] ([[名古屋市交通局]])
***[[名古屋市営地下鉄名城線]] (名古屋市交通局)
***[[名古屋市営地下鉄名港線]] (名古屋市交通局)
***[[名古屋市営地下鉄桜通線]] (名古屋市交通局)
***[[名古屋市営地下鉄上飯田線]] (名古屋市交通局)
***[[名古屋臨海高速鉄道あおなみ線|名古屋臨海高速鉄道西名古屋港線(あおなみ線)]] ([[名古屋臨海高速鉄道]])
=== 近畿地方 ===
{{Main|近畿地方の鉄道路線}}
*超広域:
**新幹線
***[[東海道新幹線]](JR東海)
***[[山陽新幹線]](JR西日本)
**その他
***[[東海道本線]](JR東海、JR西日本)
***[[関西本線]](JR東海、JR西日本)
***[[北陸本線]](JR西日本)
***[[山陰本線]](JR西日本)
***[[山陽本線]](JR西日本)
***[[姫新線]](JR西日本)
***[[赤穂線]](JR西日本)
***[[近鉄大阪線]](近畿日本鉄道)
***[[智頭急行智頭線]]([[智頭急行]])
*広域:
**[[紀勢本線]](JR東海、JR西日本)
**[[草津線]](JR西日本)
**[[奈良線]](JR西日本)
**[[片町線]](JR西日本)
**[[JR東西線]](JR西日本)
**[[和歌山線]](JR西日本)
**[[阪和線]](JR西日本)
**[[福知山線]](JR西日本)
**[[近鉄京都線]](近畿日本鉄道)
**[[近鉄奈良線]](近畿日本鉄道)
**[[近鉄けいはんな線]](近畿日本鉄道)
**[[近鉄南大阪線]](近畿日本鉄道)
**[[京阪本線]]([[京阪電気鉄道]])
**[[京阪京津線]](京阪電気鉄道)
**[[南海本線]]([[南海電気鉄道]])
**[[南海高野線]](南海電気鉄道)
**[[阪急神戸本線]]([[阪急電鉄]])
**[[阪急宝塚本線]](阪急電鉄)
**[[阪急京都本線]](阪急電鉄)
**[[阪神本線]]([[阪神電気鉄道]])
**[[阪神なんば線]](阪神電気鉄道)
**[[京都丹後鉄道宮豊線]]([[WILLER TRAINS]])
*[[三重県]]
**広域:
***[[参宮線]] (JR東海)
***[[名松線]] (JR東海)
***[[近鉄山田線]] (近畿日本鉄道)
***[[近鉄鳥羽線]] (近畿日本鉄道)
***[[近鉄志摩線]] (近畿日本鉄道)
***[[近鉄湯の山線]] (近畿日本鉄道)
***[[伊勢鉄道伊勢線]] ([[伊勢鉄道]])
***[[三岐鉄道三岐線]] ([[三岐鉄道]])
***[[三岐鉄道北勢線]] (三岐鉄道)
**[[四日市市]]
***[[四日市あすなろう鉄道内部線]] ([[四日市あすなろう鉄道]])
***[[四日市あすなろう鉄道八王子線]] (四日市あすなろう鉄道)
**[[鈴鹿市]]
***[[近鉄鈴鹿線]] (近畿日本鉄道)
**[[伊賀市]]
***[[伊賀鉄道伊賀線]] ([[伊賀鉄道]])
*[[滋賀県]]
**広域:
***[[湖西線]](JR西日本)
***[[近江鉄道本線]]([[近江鉄道]])
***[[近江鉄道多賀線]](近江鉄道)
***[[近江鉄道八日市線]](近江鉄道)
**[[大津市]]
***[[京阪石山坂本線]](京阪電気鉄道)
**[[甲賀市]]
***[[信楽高原鐵道信楽線]]([[信楽高原鐵道]])
*[[京都府]]
**広域:
***[[京阪宇治線]](京阪電気鉄道)
***[[京都丹後鉄道宮福線]](WILLER TRAINS)
***[[京都丹後鉄道宮舞線]](WILLER TRAINS)
***[[嵯峨野観光鉄道嵯峨野観光線]]([[嵯峨野観光鉄道]])
**[[京都市]]
***[[京阪鴨東線]](京阪電気鉄道)
***[[阪急嵐山線]](阪急電鉄)
***[[京都市営地下鉄烏丸線]]([[京都市交通局]])
***[[京都市営地下鉄東西線]](京都市交通局)
***[[叡山電鉄叡山本線]]([[叡山電鉄]])
***[[叡山電鉄鞍馬線]](叡山電鉄)
***[[京福電気鉄道嵐山本線]]([[京福電気鉄道]])
***[[京福電気鉄道北野線]](京福電気鉄道)
***[[京福電気鉄道鋼索線]](京福電気鉄道)
***[[鞍馬山鋼索鉄道]]([[鞍馬寺]])
**[[八幡市]]
***[[京阪鋼索線]](京阪電気鉄道)
*[[大阪府]]
**広域:
***[[おおさか東線]](JR西日本)
***[[関西空港線]](JR西日本)
***[[北大阪急行電鉄南北線]]([[北大阪急行電鉄]])
***[[泉北高速鉄道線]]([[泉北高速鉄道]])
***[[Osaka Metro御堂筋線]]([[大阪市高速電気軌道]])
***[[Osaka Metro谷町線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro中央線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro長堀鶴見緑地線]](大阪市高速電気軌道)
***[[京阪交野線]](京阪電気鉄道)
***[[阪急千里線]](阪急電鉄)
***[[阪急箕面線]](阪急電鉄)
***[[大阪モノレール本線|大阪モノレール線]]([[大阪モノレール]])
***[[大阪モノレール彩都線|大阪モノレール国際文化公園都市モノレール線]](大阪モノレール)
***[[阪堺電気軌道阪堺線]]([[阪堺電気軌道]])
***[[近鉄道明寺線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄長野線]](近畿日本鉄道)
**[[大阪市]]
***[[大阪環状線]](JR西日本)
***[[桜島線]](JR西日本)
***[[Osaka Metro四つ橋線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro千日前線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro堺筋線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro今里筋線]](大阪市高速電気軌道)
***[[Osaka Metro南港ポートタウン線]](大阪市高速電気軌道)
***[[京阪中之島線]](京阪電気鉄道)
***[[阪堺電気軌道上町線]](阪堺電気軌道)
**[[八尾市]]
***[[近鉄信貴線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄西信貴鋼索線]](近畿日本鉄道)
**[[高石市]]
***[[南海高師浜線]](南海電気鉄道)
**[[岬町]]
***[[南海多奈川線]](南海電気鉄道)
*[[兵庫県]]
**広域:
***[[加古川線]](JR西日本)
***[[播但線]](JR西日本)
***[[阪急伊丹線]](阪急電鉄)
***[[阪急今津線]](阪急電鉄)
***[[山陽電気鉄道本線]]([[山陽電気鉄道]])
***[[神戸電鉄三田線]]([[神戸電鉄]])
***[[神戸電鉄公園都市線]](神戸電鉄)
***[[神戸電鉄粟生線]](神戸電鉄)
***[[北条鉄道北条線]]([[北条鉄道]])
**[[西宮市]]
***[[阪急甲陽線]](阪急電鉄)
**[[神戸市]]
***[[神戸新交通六甲アイランド線]](神戸新交通)
***[[神戸新交通ポートアイランド線]](神戸新交通)
***[[神戸高速鉄道南北線]]([[神戸高速鉄道]])([[第三種鉄道事業者]])
***[[神戸高速鉄道東西線]](神戸高速鉄道)
***[[神戸市営地下鉄西神山手線]]([[神戸市交通局]])
***[[神戸市営地下鉄海岸線]](神戸市交通局)
***[[神戸市営地下鉄北神線]](神戸市交通局)
***[[神戸電鉄有馬線]](神戸電鉄)
*[[奈良県]]
**広域:
***[[桜井線]](JR西日本)
***[[和歌山線]](JR西日本)
***[[近鉄生駒線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄橿原線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄天理線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄田原本線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄御所線]](近畿日本鉄道)
***[[近鉄吉野線]](近畿日本鉄道)
***[[奈良生駒高速鉄道]](第三種鉄道事業者)
**[[生駒市]]
***[[近鉄生駒鋼索線]](近畿日本鉄道)
*[[和歌山県]]
**広域:
***[[和歌山電鐵貴志川線]]([[和歌山電鐵]])
**[[御坊市]]
***[[紀州鉄道線]]
=== 中国地方 ===
{{Main|中国地方の鉄道路線}}
*超広域:
**新幹線
***[[山陽新幹線]] (JR西日本)
***[[山陰本線]] (JR西日本)
***[[山陽本線]] (JR西日本、JR九州)
**その他
***[[姫新線]] (JR西日本)
***[[本四備讃線]] (JR西日本、JR四国)
***[[智頭急行智頭線]] (智頭急行)
*広域:
**[[伯備線]] (JR西日本)
**[[芸備線]] (JR西日本)
**[[山口線]] (JR西日本)
**[[因美線]] (JR西日本)
**[[木次線]] (JR西日本)
**[[井原鉄道井原線]]([[井原鉄道]])
*[[鳥取県]]
**広域:
***[[境線]] (JR西日本)
***[[若桜鉄道若桜線]] ([[若桜鉄道]])
*[[島根県]]
**広域:
***[[一畑電車大社線]] (一畑電車)
**[[出雲市]]
***[[一畑電車北松江線]] ([[一畑電車]])
*[[岡山県]]
**広域:
***[[津山線]] (JR西日本)
***[[吉備線]] (JR西日本)
***[[宇野線]] (JR西日本)
**[[岡山市]]
***[[岡山電気軌道東山本線]] ([[岡山電気軌道]])
***[[岡山電気軌道清輝橋線]] (岡山電気軌道)
**[[倉敷市]]
***[[水島臨海鉄道水島本線]] ([[水島臨海鉄道]])
*[[広島県]]
**広域:
***[[福塩線]] (JR西日本)
***[[呉線]] (JR西日本)
***[[広島電鉄宮島線]] (広島電鉄)
**[[広島市]]
***[[可部線]] (JR西日本)
***[[スカイレールサービス広島短距離交通瀬野線]] ([[スカイレールサービス]])
***[[広島高速交通広島新交通1号線]] ([[広島高速交通]])
***[[広島電鉄本線]] ([[広島電鉄]])
***[[広島電鉄宇品線]] (広島電鉄)
***[[広島電鉄江波線]] (広島電鉄)
***[[広島電鉄横川線]] (広島電鉄)
***[[広島電鉄皆実線]] (広島電鉄)
***[[広島電鉄白島線]] (広島電鉄)
*[[山口県]]
**広域:
***[[岩徳線]] (JR西日本)
***[[宇部線]] (JR西日本)
***[[小野田線]] (JR西日本)
***[[美祢線]] (JR西日本)
**[[岩国市]]
***[[錦川鉄道錦川清流線]] ([[錦川鉄道]])
== 四国 ==
{{Main|四国の鉄道路線}}
*超広域:
**[[本四備讃線]] (JR四国)
*広域:
**[[予讃線]](JR四国)
**[[土讃線]](JR四国)
**[[高徳線]](JR四国)
**[[予土線]](JR四国)
**[[阿佐海岸鉄道阿佐東線]]([[阿佐海岸鉄道]])
*[[徳島県]]
**広域:
***[[徳島線]](JR四国)
***[[牟岐線]](JR四国)
**[[鳴門市]]
***[[鳴門線]](JR四国)
*[[香川県]]
**広域:
***[[高松琴平電気鉄道琴平線|琴平線]]([[高松琴平電気鉄道]])
***[[高松琴平電気鉄道長尾線|長尾線]](高松琴平電気鉄道)
***[[高松琴平電気鉄道志度線|志度線]](高松琴平電気鉄道)
*[[愛媛県]]
**広域:
***[[内子線]](JR四国)
***[[伊予鉄道郡中線]]([[伊予鉄道]])
***[[伊予鉄道横河原線]](伊予鉄道)
**[[松山市]]
***[[伊予鉄道高浜線]](伊予鉄道)
***[[伊予鉄道花園線]](伊予鉄道)
***[[伊予鉄道城南線]](伊予鉄道)
***[[伊予鉄道城北線]](伊予鉄道)
***[[伊予鉄道大手町線]](伊予鉄道)
***[[伊予鉄道本町線]](伊予鉄道)
*[[高知県]]
**広域:
***[[土佐くろしお鉄道中村線|中村線]]([[土佐くろしお鉄道]])
***[[土佐くろしお鉄道宿毛線|宿毛線]](土佐くろしお鉄道)
***[[土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線|ごめん・なはり線]](土佐くろしお鉄道)
***[[とさでん交通後免線]]([[とさでん交通]])
***[[とさでん交通伊野線]](とさでん交通)
**[[高知市]]
***[[とさでん交通桟橋線]](とさでん交通)
== 九州・沖縄 ==
{{Main|九州の鉄道路線}}
*超広域:
**[[山陽新幹線]] ([[西日本旅客鉄道|JR西日本]])
**[[山陽本線]] (JR西日本、[[九州旅客鉄道|JR九州]])
*広域:
**新幹線
***[[九州新幹線]] (JR九州) - [[博多駅]]([[福岡県]]) から[[鹿児島中央駅]]([[鹿児島県]])まで
***[[長崎本線]](JR九州) - [[武雄温泉駅]]([[佐賀県]][[武雄市]])から、[[長崎駅]]([[長崎県]][[長崎市]])まで
**その他
***[[鹿児島本線]](JR九州) - [[門司港駅]](福岡県[[北九州市]])から[[八代駅]]([[熊本県]][[八代市]])までと[[川内駅 (鹿児島県)|川内駅]](鹿児島県[[薩摩川内市]])から[[鹿児島駅]](鹿児島県)まで
***[[日豊本線]] (JR九州) - [[小倉駅 (福岡県)|小倉駅]](福岡県[[北九州市]])から、[[大分駅]]([[大分県]][[大分市]])を経由して、鹿児島駅(鹿児島県[[鹿児島市]])まで
***[[長崎本線]](JR九州) - [[鳥栖駅]](佐賀県[[鳥栖市]])から[[佐賀駅]]を経由して、[[長崎駅]](長崎県[[長崎市]])まで
***[[佐世保線]] (JR九州) - [[江北駅 (佐賀県)|江北駅]](佐賀県[[江北町]])から[[佐世保駅]](長崎県[[佐世保市]])まで
***[[筑肥線]] (JR九州) - [[姪浜駅]](福岡県)から[[唐津駅]](佐賀県[[唐津市]])までと[[山本駅 (佐賀県)|山本駅]](佐賀県唐津市)から[[伊万里駅]](佐賀県[[伊万里市]])まで
***[[久大本線]](JR九州) - [[久留米駅]](福岡県[[久留米市]])から[[日田駅]]を経由して、大分駅(大分県大分市)まで
***[[豊肥本線]](JR九州) - [[熊本駅]](熊本県[[熊本市]])から[[阿蘇駅]]を経由して、大分駅(大分県大分市)まで
***[[日田彦山線]] (JR九州) - [[城野駅 (JR九州)|城野駅]](福岡県北九州市)から - [[夜明駅]](大分県[[日田市]])まで
***[[肥薩線]] (JR九州) - 八代駅(熊本県八代市)から - [[隼人駅]](鹿児島県[[霧島市]])まで
***[[吉都線]] (JR九州) - [[吉松駅]](鹿児島県[[湧水町]]) から- [[都城駅]]([[宮崎県]][[都城市]])まで
***[[日南線]] (JR九州) - [[南宮崎駅]](宮崎県[[宮崎市]])から - [[志布志駅]](鹿児島県[[志布志市]])まで
***[[甘木鉄道甘木線]] ([[甘木鉄道]]) - [[基山駅]](佐賀県[[基山町]])から - [[甘木駅]](福岡県[[朝倉市]])まで
***[[肥薩おれんじ鉄道線]]([[肥薩おれんじ鉄道]]) - 八代駅(熊本県八代市)から - [[川内駅 (鹿児島県)|川内駅]](鹿児島県薩摩川内市)まで
***[[松浦鉄道西九州線]] ([[松浦鉄道]]) - [[有田駅]](佐賀県[[有田町]])から - 佐世保駅(長崎県佐世保市)まで
*[[福岡県]]
**広域:
***[[博多南線]](JR西日本)
***[[西鉄天神大牟田線]]([[西日本鉄道]])
***[[西鉄太宰府線]](西日本鉄道)
***[[西鉄甘木線]](西日本鉄道)
***[[西鉄貝塚線]](西日本鉄道)
***[[平成筑豊鉄道田川線]]([[平成筑豊鉄道]])
***[[平成筑豊鉄道伊田線]](平成筑豊鉄道)
***[[平成筑豊鉄道糸田線]](平成筑豊鉄道)
***[[筑豊電気鉄道線]]([[筑豊電気鉄道]])
**[[福岡市]]
***[[福岡市地下鉄空港線]]([[福岡市交通局]])
***[[福岡市地下鉄箱崎線]](福岡市交通局)
***[[福岡市地下鉄七隈線]](福岡市交通局)
**[[北九州市]]
***[[北九州高速鉄道小倉線]]([[北九州高速鉄道]])
***[[平成筑豊鉄道門司港レトロ観光線]](平成筑豊鉄道)
***[[皿倉山ケーブルカー]]([[皿倉登山鉄道]])
*[[佐賀県]]
**広域:
***[[唐津線]](JR九州)
*[[長崎県]]
**広域:
***[[島原鉄道線]]([[島原鉄道]])
**[[長崎市]]
***[[長崎電気軌道本線]]([[長崎電気軌道]])
***[[長崎電気軌道赤迫支線]](長崎電気軌道)
***[[長崎電気軌道桜町支線]](長崎電気軌道)
***[[長崎電気軌道大浦支線]](長崎電気軌道)
***[[長崎電気軌道蛍茶屋支線]](長崎電気軌道)
*[[熊本県]]
**広域:
***[[三角線]](JR九州)
***[[熊本電気鉄道菊池線]]([[熊本電気鉄道]])
**[[熊本市]]
***[[熊本市電幹線]]([[熊本市交通局]])
***[[熊本市電上熊本線]](熊本市交通局)
***[[熊本市電水前寺線]](熊本市交通局)
***[[熊本市電健軍線]](熊本市交通局)
***[[熊本市電田崎線]](熊本市交通局)
***[[熊本電気鉄道藤崎線]](熊本電気鉄道)
**[[阿蘇郡]]
***[[南阿蘇鉄道高森線]]([[南阿蘇鉄道]])
*[[大分県]]
**[[別府市]]
***[[別府ラクテンチケーブル線]] ([[岡本製作所]])
*[[宮崎県]]
**[[宮崎市]]
***[[宮崎空港線]] (JR九州)
*[[鹿児島県]]
**広域:
***[[指宿枕崎線]] (JR九州)
**[[鹿児島市]]
***[[鹿児島市電第一期線]]([[鹿児島市交通局]])
***[[鹿児島市電第二期線]](鹿児島市交通局)
***[[鹿児島市電谷山線]](鹿児島市交通局)
***[[鹿児島市電唐湊線]](鹿児島市交通局)
*[[沖縄県]]
**広域:
***[[沖縄都市モノレール線]](ゆいレール):[[那覇空港駅]] - [[てだこ浦西駅]]
== 関連項目 ==
*[[日本の地理]]
*[[交通]]
*[[日本の交通]]
*[[日本の鉄道路線一覧]]
== 外部リンク ==
*[http://prospero.sakura.ne.jp/ 旅客鉄道一覧]
*[http://homepage1.nifty.com/tamtam/rail/index.html TAMTAMの鉄道雑学資料館]
*[http://subako.my.coocan.jp/sub/rail/rosen/ 小鳥の巣箱 鉄道・バス部門]
{{デフォルトソート:にほんのちいきへつてつとうろせんいちらん}}
[[Category:日本の鉄道路線 (地域別)|*いちらん]]
[[Category:日本の地域別鉄道路線一覧|*]]
[[Category:日本の地域|てつとうろせんいちらん]]
[[Category:日本の地理一覧|ちいきへつてつとうろせんいちらん]] | 2003-04-28T11:24:55Z | 2023-12-26T22:21:28Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%88%A5%E9%89%84%E9%81%93%E8%B7%AF%E7%B7%9A%E4%B8%80%E8%A6%A7 |
7,407 | ティートーノス | ティートーノス(古希: Τιθωνός, Tīthōnos, ラテン語: Tithonus)は、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してティトノスとも表記される。
イーリオス王ラーオメドーンの子で、プリアモス、ラムポス、クリュティオス、ヒケターオーン、ヘーシオネー、キラ、アステュオケーと兄弟。暁の女神エーオースの夫で、エーマティオーンとメムノーンの父。一説にアッサラコスと兄弟
ティートーノスは美男子で、エーオースから熱烈に愛されたことで有名。神話によるとエーオースは彼をさらってエチオピアに連れて行き、夫とした。ホメーロスは、エーオースがティートーノスと眠るベッドから、毎朝、夜明けをもたらすために起き上がると詠っている。このことからティートーノスはしばしばエーオースの夫と呼ばれ、エーオースもまたティートーノスの妻と呼ばれた。
シケリアのディオドーロスは、ティートーノスはエチオピアに遠征し、エーオースにメムノーンを生ませたと述べている。
『ホメーロス風讃歌』によると、エーオースはゼウスに願い、ティートーノスを不死にしてもらった。ところが不老にしてもらうのを忘れたため、若々しい間は女神からの愛を享受していたが、老いが深まるとともにエーオースの足は遠のいて行った。それでも館の中で神々の飲食物で世話をしていたが、身体を動かすことが出来なくなったとき、ティートーノスを奥深い部屋に移して扉を閉ざし、2度と近づかなかった。しかしティートーノスは今も生きていて、その声は扉の向こうから聞こえてくるという。別の話によると老いさらばえたティートーノスは最後には声だけの存在となり、エーオースによってセミの姿に変えられたとされる。
なお、子供のうちエーマティオーンはヘーラクレースに殺された。またメムノーンはトロイア戦争でエチオピア勢を率いて戦った英雄である。 | [
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] | ティートーノスは、ギリシア神話に登場する人物である。長母音を省略してティトノスとも表記される。 イーリオス王ラーオメドーンの子で、プリアモス、ラムポス、クリュティオス、ヒケターオーン、ヘーシオネー、キラ、アステュオケーと兄弟。暁の女神エーオースの夫で、エーマティオーンとメムノーンの父。一説にアッサラコスと兄弟 | [[File:Tithonos Eos Louvre G438 detail.jpg|thumb|300px|ティートーノスをさらわんとするエーオース。[[ルーブル美術館]]所蔵]]
'''ティートーノス'''({{lang-grc-short|'''Τιθωνός'''}}, {{ラテン翻字|el|Tīthōnos}}, {{lang-la|Tithonus}})は、[[ギリシア神話]]に登場する人物である。[[長母音]]を省略して'''ティトノス'''とも表記される。
[[イーリオス]]王[[ラーオメドーン]]の子で、[[プリアモス]]、[[ラムポス]]、[[クリュティオス]]、[[ヒケターオーン]]、[[ヘーシオネー]]、[[キラ (ギリシア神話)|キラ]]、[[アステュオケー]]と兄弟<ref>アポロドーロス、3巻12・3。</ref>。暁の女神[[エーオース]]の夫で、[[エーマティオーン]]と[[メムノーン]]の父<ref>ヘーシオドス『神統記』984行-985行。</ref><ref name=Ap_3_12_4>アポロドーロス、3巻12・4。</ref>。一説に[[アッサラコス]]と兄弟<ref>オウィディウス『祭暦』4巻943。</ref>
== 神話 ==
=== 女神との結婚 ===
ティートーノスは美男子で、エーオースから熱烈に愛されたことで有名<ref name=Hy_270>ヒュギーヌス、270話。</ref>。神話によるとエーオースは彼をさらって[[エチオピア]]に連れて行き、夫とした<ref name=Ap_3_12_4 />。[[ホメーロス]]は、エーオースがティートーノスと眠るベッドから、毎朝、夜明けをもたらすために起き上がると詠っている<ref>『イーリアス』11巻1行。</ref><ref>『オデュッセイア』5巻1行-2行。</ref>{{Refnest|group="注釈"|朝の訪れを表す定型句。オウィディウスも同様の詩句を残している<ref>『祭暦』1巻461行)。</ref>。}}。このことからティートーノスはしばしばエーオースの夫と呼ばれ<ref name=Hy_270 />、エーオースもまたティートーノスの妻と呼ばれた<ref>オウィディウス『祭暦』3巻403行。</ref>。
[[シケリアのディオドーロス]]は、ティートーノスはエチオピアに遠征し、エーオースにメムノーンを生ませたと述べている<ref>シケリアのディオドロス、4巻75・4。</ref>。
=== 悲劇的結末 ===
『[[ホメーロス風讃歌]]』によると、エーオースは[[ゼウス]]に願い、ティートーノスを'''不死'''にしてもらった。ところが'''不老'''にしてもらうのを忘れたため、若々しい間は女神からの愛を享受していたが、老いが深まるとともにエーオースの足は遠のいて行った。それでも館の中で神々の飲食物で世話をしていたが、身体を動かすことが出来なくなったとき、ティートーノスを奥深い部屋に移して扉を閉ざし、2度と近づかなかった。しかしティートーノスは今も生きていて、その声は扉の向こうから聞こえてくるという<ref>『ホメーロス風讃歌』第5歌「アプロディーテー讃歌」220行-238行。</ref>。別の話によると老いさらばえたティートーノスは最後には声だけの存在となり、エーオースによって[[セミ]]の姿に変えられたとされる<ref>『イーリアス』11巻1行への古註(カール・ケレーニイ『ギリシアの神話 英雄の時代』邦訳、p.248)。</ref>。
なお、子供のうちエーマティオーンは[[ヘーラクレース]]に殺された<ref>アポロドーロス、2巻5・11。</ref>。またメムノーンは[[トロイア戦争]]で[[エチオピア]]勢を率いて戦った英雄である<ref>アポロドーロス、摘要(E)5・3。</ref><ref>シケリアのディオドロス、2巻22・1-22・5。</ref>。
=== 系図 ===
{{メムノーンの系図}}
== その他のティートーノス ==
* [[ケパロス]]([[ヘルセー]]と[[ヘルメース]]の子)とエーオースの子で、[[パエトーン]]の父。彼は[[キプロス]]王[[キニュラース]]の祖とされる<ref>アポロドーロス、3巻14・3。</ref>。
== 脚注 ==
=== 注釈 ===
{{reflist|group="注釈"}}
=== 脚注 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
{{commonscat|Tithonus}}
* [[アポロドーロス]]『ギリシア神話』[[高津春繁]]訳、[[岩波文庫]](1953年)
* オウィディウス『祭暦』[[高橋宏幸 (古典学者)|高橋宏幸]]、[[国文社]](1994年)
* [[ヒュギーヌス]]『ギリシャ神話集』[[松田治]]・青山照男訳、[[講談社学術文庫]](2005年)
* [[ヘシオドス]]『[[神統記]]』[[廣川洋一]]訳、岩波文庫(1984年)
* [[ホメロス]]『イリアス(上・下)』[[松平千秋]]訳、岩波文庫(1992年)
* ホメーロス『ホメーロスの諸神讃歌』[[沓掛良彦]]訳、[[ちくま学芸文庫]](2004年)
* 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』[[岩波書店]](1960年)
* [[カール・ケレーニイ]]『ギリシアの神話 英雄の時代』[[植田兼義]]訳、[[中公文庫]](1985年)
== 関連項目 ==
* [[アンキーセース]]
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[[Category:ギリシア神話の人物]]
[[Category:トロイア人]]
[[Category:変身譚]] | null | 2022-03-04T06:23:47Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%8E%E3%82%B9 |
7,408 | 湘南市 | 湘南市(しょうなんし)は、神奈川県平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、高座郡寒川町、中郡大磯町、二宮町の6市町の合併構想により、新設が検討されていた人口約97万人(当時)の都市である。政令指定都市への移行を目指したが、合併まで至らなかった。
合併が実現していれば、神奈川県第3位の人口を有する都市となり、2010年4月に政令市に移行した相模原市よりも規模の大きい政令市が誕生し、また同一県内に4つの政令市(横浜市・川崎市・相模原市・湘南市)を擁した可能性もあった。
2002年1月に研究会が発足、会長には平塚市長(当時)の吉野稜威雄が就任し、2003年4月までに9回会合が開かれた。吉野市長は、政令指定都市になれば大きな権限によって独自の自治体運営ができることや、湘南を生かせることを示した。また今後少子高齢化が見込まれる中で小規模自治体の困難な存続よりも政令指定都市として県と同程度の権限を持って、考えたことを実際に実行できること、また、県を通さずに国と直接議論ができることのメリットを明らかにした。しかし、2003年4月27日の統一地方選挙において、平塚市長選では合併反対を訴えた元市議の大藏律子が推進派の現職を破って当選した。同じく茅ヶ崎市長に当選した服部信明も、登庁後の会見で合併に難色を示した。湘南市研究会メンバーで大磯町長の三沢龍夫も研究会存続の厳しさを語るなど実現は困難になり、2003年5月26日の会合で白紙とされ、研究会も解散された。
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{{複数の問題|独自研究=2012年1月|出典の明記=2012年1月}}
[[ファイル:ShonanArea.png|thumb|300px|赤い部分が湘南市への参加が想定されていた地域]]
'''湘南市'''(しょうなんし)は、[[神奈川県]][[平塚市]]、[[藤沢市]]、[[茅ヶ崎市]]、[[高座郡]][[寒川町]]、[[中郡]][[大磯町]]、[[二宮町]]の6市町の[[日本の市町村の廃置分合|合併]]構想により、新設が検討されていた人口約97万人(当時)の都市である。[[政令指定都市]]への移行を目指したが、合併まで至らなかった。
合併が実現していれば、神奈川県第3位の人口を有する都市となり、[[2010年]]4月に政令市に移行した[[相模原市]]よりも規模の大きい政令市が誕生し、また同一県内に4つの政令市([[横浜市]]・[[川崎市]]・相模原市・湘南市)を擁した可能性もあった。
[[2002年]]1月に研究会が発足、会長には平塚市長(当時)の[[吉野稜威雄]]が就任し、[[2003年]]4月までに9回会合が開かれた。吉野市長は、政令指定都市になれば大きな権限によって独自の自治体運営ができることや、湘南を生かせることを示した。また今後少子高齢化が見込まれる中で小規模自治体の困難な存続よりも政令指定都市として県と同程度の権限を持って、考えたことを実際に実行できること、また、県を通さずに国と直接議論ができることのメリットを明らかにした<ref>{{Cite web|和書|title=湘南市研究会「第8回研究会」|url=http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/shise/kekaku/koiki/kenkyukai/08.html|website=藤沢市|accessdate=2019-10-04|language=ja|last=藤沢市}}</ref>。しかし、2003年[[4月27日]]の[[第15回統一地方選挙|統一地方選挙]]において、平塚市長選では合併反対を訴えた元市議の[[大藏律子]]が推進派の現職を破って当選した。同じく茅ヶ崎市長に当選した[[服部信明]]も、登庁後の会見で合併に難色を示した。湘南市研究会メンバーで大磯町長の三沢龍夫も研究会存続の厳しさを語るなど実現は困難になり、2003年[[5月26日]]の会合で白紙とされ、研究会も解散された。
== 概要 ==
6市町の新設合併が実現した場合の人口等は、以下のようになる。
* 人口:{{formatnum:{{#expr:{{自治体人口/神奈川県|藤沢市}}+{{自治体人口/神奈川県|平塚市}}+{{自治体人口/神奈川県|茅ヶ崎市}}+{{自治体人口/神奈川県|寒川町}}+{{自治体人口/神奈川県|大磯町}}+{{自治体人口/神奈川県|二宮町}}}}}}人({{自治体人口/神奈川県|date}}推計人口合算値)
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* 人口密度:約{{formatnum:{{#expr:({{自治体人口/神奈川県|藤沢市}}+{{自治体人口/神奈川県|平塚市}}+{{自治体人口/神奈川県|茅ヶ崎市}}+{{自治体人口/神奈川県|寒川町}}+{{自治体人口/神奈川県|大磯町}}+{{自治体人口/神奈川県|二宮町}})/({{自治体面積/神奈川県|藤沢市}}+{{自治体面積/神奈川県|平塚市}}+{{自治体面積/神奈川県|茅ヶ崎市}}+{{自治体面積/神奈川県|寒川町}}+{{自治体面積/神奈川県|大磯町}}+{{自治体面積/神奈川県|二宮町}}) round -1}}}}人/km<sup>2</sup>(上記の人口と面積により算出)
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
* [https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/kikaku/shise/kekaku/koiki/kenkyukai/index.html 湘南市研究会] - 藤沢市
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[[Category:藤沢市の歴史]]
[[Category:茅ヶ崎市の歴史]]
[[Category:平塚市の歴史]]
[[Category:寒川町の歴史]]
[[Category:大磯町の歴史]]
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[[Category:中止された日本の自治体再編構想]] | 2003-04-28T14:00:39Z | 2023-11-27T15:01:53Z | false | false | false | [
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"Template:複数の問題",
"Template:自治体人口/神奈川県",
"Template:Reflist",
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B9%98%E5%8D%97%E5%B8%82 |
7,409 | 室温超伝導 | 室温超伝導(しつおんちょうでんどう、英: Room temperature superconductivity)は、超伝導になる転移温度がおよそ300K程度であること。
現在、超伝導を利用した技術はMRIなどの特殊な例に限られているが、室温超伝導が達成されれば冷却コストを掛けずに超伝導の持つメリットを享受することができるようになる。そのことから室温超伝導の実現は産業革命をも凌駕する影響を人類に与えると言われる。
室温超伝導体で電力損失が発生しない送電線を開発すれば、世界規模の電力システムの構築が可能になる。また、核融合炉の実用化にも有効でありエネルギー問題の解決も期待されている。
その他には、浮遊する車の実現、リニアモーターカーの世界的普及、超省エネの超高速コンピューター、高度に安全な体内埋め込みデバイス、小型で低価格の量子コンピューター、脳波を読み取るコミュニケーション・ツールなどが可能になる。
2020年10月、ロチェスター大学のランガ・ディアス博士らのグループが、光化学的に合成される炭素質水素化硫黄(英語: Carbonaceous sulfur hydride)の三元系で、267GPaの圧力下において、287.7K(15°C)で超伝導状態になることが報告されたが、2022年9月26日、Natureはデータや再現性に問題があるとして論文を撤回した。
2023年3月8日、同じくディアス博士らのグループが高圧下で水素化ルテチウムが294 K(21°C)で超伝導になったとする論文を再度Natureに発表し、追試が行われたが、理論的にも実験的にも否定的な見解が多かった。2023年6月9日、イリノイ大学シカゴ校のラッセル・ヘムリー教授のグループが追試に成功したという報告が、インターネット上の論文サーバである「arXiv」に報告された。 | [
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] | 室温超伝導は、超伝導になる転移温度がおよそ300K程度であること。 | '''室温超伝導'''(しつおんちょうでんどう、{{lang-en-short|Room temperature superconductivity}})は、[[超伝導]]になる[[転移温度]]がおよそ300[[ケルビン|K]]程度であること。
== 社会への影響 ==
現在、超伝導を利用した技術は[[MRI]]などの特殊な例に限られているが、室温超伝導が達成されれば冷却コストを掛けずに超伝導の持つメリットを享受することができるようになる。そのことから室温超伝導の実現は[[産業革命]]をも凌駕する影響を人類に与えると言われる<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=10-2 強結合超流動の量子渦構造を計算し、室温超伝導の世界を覗く |url=https://rdreview.jaea.go.jp/review_jp/2006/j2006_10_2.html |website=rdreview.jaea.go.jp |access-date=2022-06-22}}</ref>。
室温超伝導体で電力損失が発生しない送電線を開発すれば、世界規模の電力システムの構築が可能になる<ref name=":1">{{Cite web|和書|title=SPring-8が拓く室温超伝導の可能性 |url=http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_23/ |website=www.spring8.or.jp |access-date=2022-06-22 |language=ja}}</ref>。また、[[核融合炉]]の実用化にも有効でありエネルギー問題の解決も期待されている<ref name=":2">{{Cite web|和書|title=エネルギー錬金術は「超伝導+核融合」で:『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』最終回ガジェット解説 |url=https://www.gizmodo.jp/2020/11/fugou-keiji-bul-adollium-fusion-explained-html.html |website=www.gizmodo.jp |date=2020-11-12 |access-date=2022-06-22 |language=ja |first= |last=}}</ref>。
その他には、[[エアカー|浮遊する車]]の実現<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.smart.ecs.cst.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/2017/05/pdf_research_17.pdf |title=人類の夢!室温超伝導を実現する |access-date=2022-6-22}}</ref>、[[リニアモーターカー]]の世界的普及<ref name=":0" />、超省エネの超高速コンピューター<ref name=":1" />、高度に安全な体内埋め込みデバイス<ref name=":2" />、小型で低価格の[[量子コンピューター]]<ref>{{Cite web|和書|title=世界初、15°C「室温超伝導」達成 夢の新技術へ突破口 |url=https://www.technologyreview.jp/s/222136/room-temperature-superconductivity-has-been-achieved-for-the-first-time/ |website=MITテクノロジーレビュー |access-date=2022-06-22 |language=ja}}</ref>、[[ブレイン・マシン・インタフェース|脳波を読み取るコミュニケーション・ツール]]<ref>{{Cite web|和書|title=脳で直接コミュニケーションする未来へ、必要なブレイクスルーは何なのか聞いてきた。 |url=https://www.gizmodo.jp/2014/03/brain-machine-interface_ricoh2036.html |website=www.gizmodo.jp |date=2014-03-27 |access-date=2022-06-26 |first= |last=}}</ref>などが可能になる。
== 実現の試み ==
[[2020年]][[10月]]、ロチェスター大学のランガ・ディアス博士らのグループが、光化学的に合成される{{日本語版にない記事リンク|炭素質水素化硫黄|en|Carbonaceous sulfur hydride}}の三元系で、267GPaの圧力下において、287.7K(15℃)で超伝導状態になることが報告された<ref>{{Cite web|和書|date=2020-10-15 |url=https://www.natureasia.com/ja-jp/nature/pr-highlights/13478?utm_source=Twitter&utm_medium=Social&utm_campaign=NatureJapan |title=物理学:水素化物の室温超伝導 |publisher=Nature Japan |accessdate=2020-10-16}}</ref>が、2022年9月26日、Natureはデータや再現性に問題があるとして論文を撤回した。
2023年3月8日、同じくディアス博士らのグループが高圧下で水素化ルテチウムが294 K(21℃)で超伝導になったとする論文を再度Natureに発表し、追試が行われたが、理論的にも実験的にも否定的な見解が多かった。2023年6月9日、イリノイ大学シカゴ校のラッセル・ヘムリー教授のグループが追試に成功したという報告が、インターネット上の論文サーバである「[[arXiv]]」に報告された<ref>{{Cite web|和書|title=ついに実現、室温超伝導? それともまたも幻で終わるのか? 100年の歴史の転換点、いま超伝導研究で進行している出来事とは {{!}} JBpress (ジェイビープレス) |url=https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/75692 |website=JBpress(日本ビジネスプレス) |access-date=2023-06-25 |publisher=日本ビジネスプレスグループ |date=2023-06-22}}</ref><ref name=":arXiv20230609">N. P. Salke, A. C. Mark, M. Ahart, R. J. Hemley, 2023, "Evidence for Near Ambient Superconductivity in the Lu-N-H System," arXiv:2306.06301.</ref>。
=== その他の報告 ===
* ランタン水素化物 - 170GPa(170万気圧)の超高圧下において250K(-23℃)<ref name="nature20190523">{{Cite web|和書|title=室温に近い超伝導|url=https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v16/n8/%E5%AE%A4%E6%B8%A9%E3%81%AB%E8%BF%91%E3%81%84%E8%B6%85%E4%BC%9D%E5%B0%8E/99718|website=www.natureasia.com|accessdate=2020-03-13|publisher=|date=2019-05-23}}</ref>
* イットリウム・バリウム・銅の酸化物の単結晶 - イットリウム・バリウム・銅の酸化物の単結晶に、強力なレーザーを照射して0.2ピコ(ピコは1兆分の1)秒間<ref>{{Cite web|和書|date=2016-12-12 |url=http://www.nikkei.com/article/DGXMZO10417800X01C16A2000000/ |title=夢の室温超電導の予兆か 世界で新物質相次ぐ |publisher=日経BP |accessdate=2017-07-21}}</ref>
* [[LK-99]]
==脚注==
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
* [[物理学]]
* [[物性物理学]]
* [[超電導]]
* [[高温超伝導]] - 超伝導における高温とは、現在では[[液体窒素]]の沸点(-195.8℃ = 77K)以上を指す
== 外部リンク ==
*[https://www.yomiuri.co.jp/science/20201016-OYT1T50179/ 「超伝導」世界初の室温で実現…地球中心部級の260万気圧で達成 (読売新聞2020年10月16日記事)。]
*[https://www.nature.com/articles/s41586-020-2801-z Elliot Snider, et al.:"Room-temperature superconductivity in a carbonaceous sulfur hydride",Nature volume 586, pages373–377(2020).]
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[[Category:超伝導]] | 2003-04-28T14:02:57Z | 2023-11-18T22:36:47Z | false | false | false | [
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7,412 | トート・タロット | トート・タロット (Thoth Tarot) とは、イギリスのオカルティスト、アレイスター・クロウリーがデザインし、女流画家フリーダ・ハリス(英語版)が描いたタロットである。
フリーダ・ハリスからの要望により、1938年に制作を開始。当初は数か月間で完成させる予定だったが、膨大な時間を要し、5年間で完成させた。まず1944年に、クロウリーによるタロット解説書『トートの書(英語版)』の挿絵として発表される。しかしカードとしての出版は長らくかなわず、クロウリーの逝去から22年後の1969年になって、友人の手によりようやくカード化された。主な特徴として、やや大判のサイズと、複雑にして象徴的な絵柄が挙げられる。タロット愛好家からの評価は高い。しかし、クロウリーの死後に出版されているため、実際に彼自身が選んだ図柄が出版されているか不明である。近年では魔術師のカードが複数枚入ったセットも出版されている。その他のカードにおいても同様に、クロウリーの指示によってハリスの描いた、ラフではない絵が複数枚あることが知られている。
ウェイト版などと同じく、黄金の夜明け団の教義に基づいてはいるが、クロウリー独自の解釈も加わっており、かなり相違点がある。
大アルカナや小アルカナのカードの名称変更が多い。
名称変更された大アルカナは、
以上の6枚である。
小アルカナの方は人物札が、『騎士』 Knight、『女王』 Queen、『王子』 Prince、『王女』Princess(代表的なタロットでは王、女王、騎士、小姓)に、それぞれ変更されている。そのほか、大アルカナ、小アルカナとは別に、「獣の印」とよぱれる一筆書きの六芒星が描かれたカードが入る版もある。
また、ヘブライ文字に対応させた配列の仕方が黄金の夜明け団系のタロットとは異なっている。ウェイト版では、マルセイユ版などの伝統的なものと違い 、大アルカナの「正義」と「力」の番号を入れ替えることによってヘブライ文字順の配列になっていた。一方、トート・タロットでは、配列の順番はマルセイユ版と同じで、ヘブライ文字との対応だけが入れ替わっている。「ツァディは星ではない」という法の書の文言に基づき、「皇帝」と「星」のヘブライ文字対応も交換されている。この交換を黄道12宮に当てはめると、対称位置に二つのねじれができる形になる。
トートタロットでは一般的に呼称される大アルカナを『アテュ』と呼称し、小アルカナを『スモール・カード』と呼称している。スモール・カードの人物札は『コート・カード』と呼称しており、一般的なタロットと同じである。 | [
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] | トート・タロット とは、イギリスのオカルティスト、アレイスター・クロウリーがデザインし、女流画家フリーダ・ハリスが描いたタロットである。 | '''トート・タロット''' (Thoth Tarot) とは、[[イギリス]]の[[神秘学|オカルティスト]]、[[アレイスター・クロウリー]]がデザインし、女流画家{{仮リンク|フリーダ・ハリス|en|Frieda Harris}}が描いた[[タロット]]である。
== 歴史 ==
[[フリーダ・ハリス]]からの要望により、[[1938年]]に制作を開始。当初は数か月間で完成させる予定だったが、膨大な時間を要し、5年間で完成させた。まず[[1944年]]に、クロウリーによるタロット解説書『{{仮リンク|トートの書 (クロウリー)|label=トートの書|en|The Book of Thoth (Crowley)}}』の挿絵として発表される。しかしカードとしての出版は長らくかなわず、クロウリーの逝去から22年後の[[1969年]]になって、友人の手によりようやくカード化された。主な特徴として、やや大判のサイズと、複雑にして象徴的な絵柄が挙げられる。タロット愛好家からの評価は高い。しかし、クロウリーの死後に出版されているため、実際に彼自身が選んだ図柄が出版されているか不明である。近年では[[魔術師 (タロット)|魔術師]]のカードが複数枚入ったセットも出版されている。その他のカードにおいても同様に、クロウリーの指示によってハリスの描いた、ラフではない絵が複数枚あることが知られている。
== 他のタロットとの相違点 ==
[[ウェイト版タロット|ウェイト版]]などと同じく、[[黄金の夜明け団]]の教義に基づいてはいるが、クロウリー独自の解釈も加わっており、かなり相違点がある。
大アルカナや小アルカナのカードの名称変更が多い。
名称変更された大アルカナは、
*'''『正義』 <code>JUSTICE</code>''' が '''『調整』 <code>Adjustment</code>'''
*'''『運命の輪』 <code>WHEEL OF FORTUNE</code>''' が '''『運命』 <code>Fortune</code>'''
*'''『力』 <code>STRENGTH</code>''' が '''『欲望』 <code>Lust</code>'''
*'''『節制』 <code>TEMPERANCE</code>''' が '''『技』 <code>Art</code>'''
*'''『審判』 <code>JUDGEMENT</code>''' が '''『永劫』 <code>The Æon</code>'''
*'''『世界』 <code>THE WORLD</code>''' が '''『宇宙』 <code>The Universe</code>'''
以上の6枚である。
[[小アルカナ]]の方は人物札が、'''『騎士』 <code>Knight</code>'''、'''『女王』 <code>Queen</code>'''、'''『王子』 <code>Prince</code>'''、'''『王女』<code>Princess</code>'''(代表的なタロットでは王、女王、騎士、小姓)に、それぞれ変更されている。そのほか、大アルカナ、小アルカナとは別に、「獣の印」とよぱれる一筆書きの[[六芒星]]が描かれたカードが入る版もある。
また、ヘブライ文字に対応させた配列の仕方が[[黄金の夜明け団]]系のタロットとは異なっている。ウェイト版では、[[マルセイユ版タロット|マルセイユ版]]などの伝統的なものと違い 、[[大アルカナ]]の「[[正義 (タロット)|正義]]」と「[[力 (タロット)|力]]」の番号を入れ替えることによってヘブライ文字順の配列になっていた。一方、トート・タロットでは、配列の順番はマルセイユ版と同じで、ヘブライ文字との対応だけが入れ替わっている。「ツァディは星ではない」という[[法の書]]の文言に基づき、「皇帝」と「星」のヘブライ文字対応も交換されている。この交換を黄道12宮に当てはめると、対称位置に二つのねじれができる形になる。
== カードの概説 ==
トートタロットでは一般的に呼称される[[大アルカナ]]を『'''アテュ'''』と呼称し、[[小アルカナ]]を『'''スモール・カード'''』と呼称している。スモール・カードの人物札は『コート・カード』と呼称しており、一般的なタロットと同じである。
=== アテュ ===
*'''0 『愚者(The Fool)』'''
:
*'''I 『魔術師(The Magus)』'''
:裸の魔術師が描かれている。
*'''II 『女司祭(The Priestess)』'''
:
*'''III 『女帝(The Empress)』'''
:
*'''IV 『皇帝(The Emperor)』'''
:
*'''V 『神官(The Hierophant)』'''
:
*'''VI 『恋人(The Lovers)』'''
:
*'''VII 『戦車(The Chariot)』'''
:[[ウシ|牛]]・[[鷲]]・[[天使]]・[[ライオン]]の[[スフィンクス]]を従え、[[聖杯]]を抱え持つ御者の姿が描かれている。
*'''VIII 『調整(Adjustment)』'''
:
*'''IX 『隠者(The Hermit)』'''
:隠者が持つ[[ランプ (照明器具)|カンテラ]]が光輝いている。右下に[[ケルベロス]]、左下には[[精子]]が描かれている。
*'''X 『運命(Fortune)』'''
:「絶えず流動する宇宙」だとされる。
*'''XI 『欲望(Lust)』'''
:七つの顔を持つ獣に乗った女が描かれている。これは[[大淫婦バビロン|バビロン]]または[[ババロン]]とされている。
*'''XII 『吊られた男(The Hanged Man)』'''
:逆さに磔にされた男の姿が描かれている。
*'''XIII 『死神(Death)』'''
:[[死の舞踏]]を舞う漆黒の死神の姿が描かれている。
*'''XIV 『技(Art)』'''
:二つの顔を持つ[[錬金術師]]が、大釜の中に火と水を注ぎ混ぜ合わせている。
*'''XV 『悪魔(The Devil)』'''
:三つ目の山羊は[[バフォメット]](あるいは[[パーン (ギリシア神話)|パーン]])を表す。
*'''XVI 『塔(The Tower )』'''
:建物が炎などにより破壊されている。
*'''XVII 『星(The Star)』'''
:
*'''XVIII 『月(The Moon)』'''
:基本構成は従来のものと同じだが、二人の[[アヌビス]]が向かい合っている図が描かれている。
*'''XIX 『太陽(The Sun)』'''
:太陽の周りを[[黄道十二宮]]が取り囲んでいる図が描かれている。
*'''XX 『永劫(The Æon)』'''
:中央に[[ホルス]]が描かれている。
*'''XXI 『宇宙(The Universe)』'''
:
== 参考文献 ==
*アレイスター・クロウリー『トートの書』(1991年、[[国書刊行会]])ISBN 4-336-04647-6
== 外部リンク ==
*[https://web.archive.org/web/20090626102844/http://trionfi.com/0/s/ Tarot Museum]
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[[Category:タロットデッキ]]
[[Category:ヘルメス的カバラ]]
[[Category:魔術系タロット]]
[[Category:セレマ]]
[[Category:アレイスター・クロウリー]] | null | 2021-06-07T10:38:19Z | false | false | false | [
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7,414 | ミュルミドーン人 | ミュルミドーン人(ミュルミドーンじん、Myrmidon、 希:Μυρμιδών)は、ギリシア神話に登場する神話的民族である。複数形はミュルミドネス(Myrmidones, 希:Μυρμιδόνς)。ギリシア語の蟻(μύρμηξ, myrmex)に由来するとされる。アキレウスに率いられてトロイア戦争に参加した。
ゼウスはアイギーナを父のもとからさらい、当時オイノーネーと呼ばれていた島に連れて来て、アイアコスを生ませた。これ以降オイノーネー島はアイギーナ島と呼ばれるようになった。ゼウスはアイアコスがアイギーナ島に一人でいるのを哀れみ、蟻を人間に変えてあげた。彼らがミュルミドーン人である。
アイアコスの子にペーレウスとテラモーンが生まれた。彼らは成長した後、異母兄弟のポーコスを殺したため、ペーレウスはプティーアへ、テラモーンはサラミース島へ逃亡した。ペーレウスが逃げ出すときにミュルミドーン人をプティーアへ連れ出したため、ペーレウスの子アキレウスが、トロイア戦争にミュルミドーン人を率いていくことになったと思われる。
ミュルミドーン人については別説もある。ミュルミドーン王の母エウリュメドゥーサが、蟻に姿を変えたゼウスに誘惑されたという説、女神アテーナーが鋤を発明したとき、ミュルメクスという名のニュンペーが、発明したのは自分だと高言して罰を受け、蟻の姿に変えられたというものである。ゼウスが戦いのために蟻から生み出したのがミュルミドーンという戦士部族だという説もある。 | [
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] | ミュルミドーン人は、ギリシア神話に登場する神話的民族である。複数形はミュルミドネス。ギリシア語の蟻に由来するとされる。アキレウスに率いられてトロイア戦争に参加した。 ゼウスはアイギーナを父のもとからさらい、当時オイノーネーと呼ばれていた島に連れて来て、アイアコスを生ませた。これ以降オイノーネー島はアイギーナ島と呼ばれるようになった。ゼウスはアイアコスがアイギーナ島に一人でいるのを哀れみ、蟻を人間に変えてあげた。彼らがミュルミドーン人である。 アイアコスの子にペーレウスとテラモーンが生まれた。彼らは成長した後、異母兄弟のポーコスを殺したため、ペーレウスはプティーアへ、テラモーンはサラミース島へ逃亡した。ペーレウスが逃げ出すときにミュルミドーン人をプティーアへ連れ出したため、ペーレウスの子アキレウスが、トロイア戦争にミュルミドーン人を率いていくことになったと思われる。 | '''ミュルミドーン人'''(ミュルミドーンじん、'''Myrmidon'''、 [[ギリシア語|希]]:Μυρμιδών)は、[[ギリシア神話]]に登場する神話的[[民族]]である。複数形は'''ミュルミドネス'''('''Myrmidones''', 希:Μυρμιδόνς)。[[ギリシア語]]の[[アリ|蟻]](μύρμηξ, myrmex)に由来するとされる。[[アキレウス]]に率いられて[[トロイア戦争]]に参加した。
[[ゼウス]]は[[アイギーナ]]を父のもとからさらい、当時オイノーネーと呼ばれていた島に連れて来て、[[アイアコス]]を生ませた。これ以降オイノーネー島は[[アイギーナ島]]と呼ばれるようになった。ゼウスはアイアコスがアイギーナ島に一人でいるのを哀れみ、蟻を人間に変えてあげた。彼らがミュルミドーン人である。
アイアコスの子に[[ペーレウス]]と[[テラモーン]]が生まれた。彼らは成長した後、異母兄弟の[[ポーコス]]を殺したため、ペーレウスは[[プティーア]]へ、テラモーンは[[サラミース島]]へ逃亡した。ペーレウスが逃げ出すときにミュルミドーン人をプティーアへ連れ出したため、ペーレウスの子アキレウスが、トロイア戦争にミュルミドーン人を率いていくことになったと思われる。
== 別説 ==
ミュルミドーン人については別説もある。[[ミュルミドーン]]王の母エウリュメドゥーサが、蟻に姿を変えたゼウスに誘惑されたという説、女神[[アテーナー]]が鋤を発明したとき、ミュルメクスという名の[[ニュンペー]]が、発明したのは自分だと高言して罰を受け、蟻の姿に変えられたというものである。ゼウスが戦いのために蟻から生み出したのがミュルミドーンという戦士部族だという説もある。
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[[Category:ギリシア神話]]
[[Category:変身譚]]
[[Category:アキレウス]] | null | 2022-03-11T12:39:14Z | false | false | false | [
"Template:ギリシア神話"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%B3%E4%BA%BA |
7,415 | グリモワール | グリモワール(仏: grimoire、仏語発音: [ɡrimwar])とは、フランス語で魔術の書物を意味し、特にヨーロッパで流布した魔術書を指す。グリモワ、グリモアとも表記される。奥義書、魔導書(魔道書)、魔法書ともいう。類義語に黒本、黒書(black books)がある。
狭義では悪魔や精霊、天使などを呼び出して、願い事を叶えさせる手順、そのために必要な魔法円やペンタクルやシジルのデザインが記された書物を指すが、魔術を行う側の立場から書かれた悪魔学書、魔術や呪術などに関する知識、奥義を記した古文書、書物全般のことを指す場合もある。
『ソロモンの鍵』『ソロモンの小さな鍵』『黒い雌鶏』などが有名で、特に『大奥義書』の異本『赤竜』に加えられた、黒い雌鶏を使った召喚儀式に登場する「エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」(Eloim, Essaim, frugativi et appellavi)という呪文は、日本でも有名である。
グリモワールは主として中世後期から19世紀までヨーロッパで流布した魔術の手引書・指南書・便覧を指す。霊的存在の力を利用する「神霊魔術」(demonic magic)や「降霊術」(necromancy)に関するものが多く、儀式、呪文、護符、呪具の作成法、儀式魔術に関連する鬼神学の記述などを主な内容としている。また、種々雑多な“まじない”のレシピ集のようなものもグリモワールに分類される。グリモワールとそうでない魔術書を峻別する絶対基準はないが、ヘルメス主義やネオプラトニズムに基づく哲学的な魔術論や、錬金術や占星術、博物学的な自然魔術の知識の記述を主眼とした書物(アグリッパの『隠秘哲学』、ジョルダーノ・ブルーノの『魔術論』、デッラ・ポルタの『自然魔術』など)は通常グリモワールと呼ばれない。A・E・ウェイトは著書『黒魔術の書』の中で、グリモワールと黒魔術的でない魔術書を暗に区別し、『ホノリウスの誓いの書』はグリモワールではないとしている。
グリモワール(grimoire)という言葉の由来については「文法(書)」を意味するフランス語の grammaire から派生したとの説が有力である。フランスではかつて grammaire はラテン語で書かれた書物を指した。中世ヨーロッパで「文法」(grammatica)といえばラテン語の文法や教養を意味したが、一般の人々にとってラテン語は聖職者などの限られた人だけが読める“ちんぷんかんぷん”なものであった。民衆の中でしばしば「文法」と「魔法」が関連付けられたであろうことは、イギリスで grammar の異形 gramarye が「魔法」の意味で用いられたという事実からも窺知される。グリモワールという言葉が普及したであろう18世紀のフランスでは、民衆語で書かれた廉価本の出版が盛んで、その中には通俗的な魔法書も少なからずあった。そのような魔法書の大衆化傾向にあっても、依然としてラテン語で書かれた魔法書の写本も流布していた。フランス語では grimoire という言葉は「わけのわからない書物」「判読不能な文字」の比喩としても用いられる。
しばしば「グリモワールは中世のヨーロッパで書かれた」と言われるが、必ずしもそうではない。13世紀前半にはパリの司教、オーヴェルニュのギヨーム(英語版)が、1267年頃にはロジャー・ベーコンがこうした書物に言及しており、中世盛期後半の12-13世紀ごろには今日グリモワールと呼ばれているような書物がすでにあったことがわかる。しかし現存する写本や刊本の多くは17世紀以降のもので、中世に書かれたものは例外的である。『ソロモンの鍵』の現存する写本の多くは17-18世紀のものであり、『レメゲトン』の現存する最古の版は1641年のものである。現存するグリモワールの中には、中世を起源とする書物の近世における異本と考えられるものもあるが、権威付けのために「中世、あるいは古代に記された原典を現代語訳したもの」と自称している「近世・近代の産物」も多いと考えてよい。
キリスト教徒とイスラム教徒とユダヤ教徒の文化が共存していた12-13世紀のイベリア半島やシチリアでは、アラビア語の書物が盛んにラテン語に翻訳された。その中には、中世アラビアのヘレニズム的魔術を集成した『ガーヤト・アル=ハキーム』や、自然魔術的な内容を含む偽アリストテレスの『秘中の秘(英語版)』などもあった。中世ユダヤの魔術書『天使ラジエルの書』もこの時期にラテン語訳が作られている。こうしてもたらされた占星術や魔術の知識はヨーロッパのキリスト教徒に刺激を与え、キリスト教的要素をもつ新しい魔術書がヨーロッパで生み出されることとなった。ロジャー・ベーコンやアルベルトゥス・マグヌスといった中世の著述家の残した記述から、フランスやドイツで当時出回っていたさまざまな魔術書の名を知ることができる。12世紀のキリスト教を背景として13世紀頃までに生まれた中世キリスト教的な魔術のジャンル「アルス・ノトリア」については、50種類以上の写本が伝存している。
中世においては、こうした書物は主として聖職者や学者、学生など、ラテン語の読み書きができる多少なりとも教養のある人々に読まれ、写本の形で流布していた。これらの書物に記された儀式魔術は識字者による識字者のための魔術であり、民間に口承で伝えられる民衆魔術と対比される。そのことは、ヨーロッパ中世において儀式魔術の担い手の多くが聖職者であったことを意味する。儀式魔術は悪霊と交渉する異端的なものとしてトマス・アクイナスなどの神学者から非難されていたが、一部の聖職者は魔術に手を染めていた。たとえば12世紀のヘンリー2世の頃の学僧、ソールズベリーのジョン(英語版)は少年の頃、鏡を使った魔術を行う神父に霊視者の役をさせられたという。降霊術を行った廉で告発された聖職者の宗教裁判の記録は数多く残っており、その中には司教も含まれる。修道士、下級聖職者、小教区の司祭や助任司祭といった末端の聖職者は、神学には比較的無知であったかもしれないが、キリスト教の典礼に通じており、その知識を儀式魔術に転用することができた。中世宗教史の研究者リチャード・キークヘファーは、下位の聖職階級のひとつであった祓魔師に叙階されたことのある者の中には、道を外れて悪魔を呼び出そうとする者もいたのではないかと指摘している。冬の間だけ大学で学び、夏は流浪し、農民に魔術の力を吹聴してイカサマを働く貧乏放浪学生もいた。
魔女狩りの時代には大っぴらにグリモワールを作ったり所持することはできなかったが、異性の愛を得る、財宝を発見するなどの世俗的な目的の魔術は人々の間で需要があった。17世紀から18世紀は宝探しが盛んな時代であったが、隠された財宝は精霊や幽霊に守られているとの伝承があり、宝探しには魔術が有効と考えられていた。そのため一攫千金が狙えるグリモワールは高値で取引されたという。近代には一般民衆の識字率が上がり、種々のまじないを寄せ集めた通俗的な魔術本が出版されるようになった。かつては聖職者や大学人や宮廷人のものであった魔法書は、16世紀頃から医師、弁護士、軍人といった新興インテリ層にも広がり始め、さらには職人や商人といった一般の人々も所持する民衆的な書物となった。イングランドでカニングマンと呼ばれたような民間の占い師や治療師も、グリモワールに図示された護符などを利用するようになった。フランスでは17世紀から18世紀に行商人によって「青本」という民衆本が売りさばかれたが、その中には通俗的な魔術書の類も多かった。ドイツでは18世紀に一般民衆を対象とした「家父長のための書物」と呼ばれる実用書の出版が盛んになったが、その一環として魔術書も出回るようになった。しかし魔法書は自分で筆写したものでなければ力あるものとならないという考えも根強く、印刷されたものでない手書き写本の魔法書が多く用いられていた。
グリモワールという言葉が生まれるずっと前のものであるが、古代後期のヘレニズム文化に属するエジプトの魔術パピルス文書が多数見つかっており、それらはカール・プライゼンダンツによって「ギリシア語魔術文書」(Papyri Graecae Magicae、略称PGM)として集成された。
20世紀の英語圏では、幻想文学に触発されて新たなグリモワールが生み出された。ラブクラフトの小説に登場する架空の書物『ネクロノミコン』を実際に作り上げようと試みたり、『ネクロノミコン』に仮託した本がいくつか出版されている。その中で魔術書の体裁をとったものを以下に挙げる。 | [
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"text": "グリモワール(仏: grimoire、仏語発音: [ɡrimwar])とは、フランス語で魔術の書物を意味し、特にヨーロッパで流布した魔術書を指す。グリモワ、グリモアとも表記される。奥義書、魔導書(魔道書)、魔法書ともいう。類義語に黒本、黒書(black books)がある。",
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"title": "概要"
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"text": "グリモワールは主として中世後期から19世紀までヨーロッパで流布した魔術の手引書・指南書・便覧を指す。霊的存在の力を利用する「神霊魔術」(demonic magic)や「降霊術」(necromancy)に関するものが多く、儀式、呪文、護符、呪具の作成法、儀式魔術に関連する鬼神学の記述などを主な内容としている。また、種々雑多な“まじない”のレシピ集のようなものもグリモワールに分類される。グリモワールとそうでない魔術書を峻別する絶対基準はないが、ヘルメス主義やネオプラトニズムに基づく哲学的な魔術論や、錬金術や占星術、博物学的な自然魔術の知識の記述を主眼とした書物(アグリッパの『隠秘哲学』、ジョルダーノ・ブルーノの『魔術論』、デッラ・ポルタの『自然魔術』など)は通常グリモワールと呼ばれない。A・E・ウェイトは著書『黒魔術の書』の中で、グリモワールと黒魔術的でない魔術書を暗に区別し、『ホノリウスの誓いの書』はグリモワールではないとしている。",
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"text": "グリモワール(grimoire)という言葉の由来については「文法(書)」を意味するフランス語の grammaire から派生したとの説が有力である。フランスではかつて grammaire はラテン語で書かれた書物を指した。中世ヨーロッパで「文法」(grammatica)といえばラテン語の文法や教養を意味したが、一般の人々にとってラテン語は聖職者などの限られた人だけが読める“ちんぷんかんぷん”なものであった。民衆の中でしばしば「文法」と「魔法」が関連付けられたであろうことは、イギリスで grammar の異形 gramarye が「魔法」の意味で用いられたという事実からも窺知される。グリモワールという言葉が普及したであろう18世紀のフランスでは、民衆語で書かれた廉価本の出版が盛んで、その中には通俗的な魔法書も少なからずあった。そのような魔法書の大衆化傾向にあっても、依然としてラテン語で書かれた魔法書の写本も流布していた。フランス語では grimoire という言葉は「わけのわからない書物」「判読不能な文字」の比喩としても用いられる。",
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"text": "しばしば「グリモワールは中世のヨーロッパで書かれた」と言われるが、必ずしもそうではない。13世紀前半にはパリの司教、オーヴェルニュのギヨーム(英語版)が、1267年頃にはロジャー・ベーコンがこうした書物に言及しており、中世盛期後半の12-13世紀ごろには今日グリモワールと呼ばれているような書物がすでにあったことがわかる。しかし現存する写本や刊本の多くは17世紀以降のもので、中世に書かれたものは例外的である。『ソロモンの鍵』の現存する写本の多くは17-18世紀のものであり、『レメゲトン』の現存する最古の版は1641年のものである。現存するグリモワールの中には、中世を起源とする書物の近世における異本と考えられるものもあるが、権威付けのために「中世、あるいは古代に記された原典を現代語訳したもの」と自称している「近世・近代の産物」も多いと考えてよい。",
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"text": "キリスト教徒とイスラム教徒とユダヤ教徒の文化が共存していた12-13世紀のイベリア半島やシチリアでは、アラビア語の書物が盛んにラテン語に翻訳された。その中には、中世アラビアのヘレニズム的魔術を集成した『ガーヤト・アル=ハキーム』や、自然魔術的な内容を含む偽アリストテレスの『秘中の秘(英語版)』などもあった。中世ユダヤの魔術書『天使ラジエルの書』もこの時期にラテン語訳が作られている。こうしてもたらされた占星術や魔術の知識はヨーロッパのキリスト教徒に刺激を与え、キリスト教的要素をもつ新しい魔術書がヨーロッパで生み出されることとなった。ロジャー・ベーコンやアルベルトゥス・マグヌスといった中世の著述家の残した記述から、フランスやドイツで当時出回っていたさまざまな魔術書の名を知ることができる。12世紀のキリスト教を背景として13世紀頃までに生まれた中世キリスト教的な魔術のジャンル「アルス・ノトリア」については、50種類以上の写本が伝存している。",
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"text": "中世においては、こうした書物は主として聖職者や学者、学生など、ラテン語の読み書きができる多少なりとも教養のある人々に読まれ、写本の形で流布していた。これらの書物に記された儀式魔術は識字者による識字者のための魔術であり、民間に口承で伝えられる民衆魔術と対比される。そのことは、ヨーロッパ中世において儀式魔術の担い手の多くが聖職者であったことを意味する。儀式魔術は悪霊と交渉する異端的なものとしてトマス・アクイナスなどの神学者から非難されていたが、一部の聖職者は魔術に手を染めていた。たとえば12世紀のヘンリー2世の頃の学僧、ソールズベリーのジョン(英語版)は少年の頃、鏡を使った魔術を行う神父に霊視者の役をさせられたという。降霊術を行った廉で告発された聖職者の宗教裁判の記録は数多く残っており、その中には司教も含まれる。修道士、下級聖職者、小教区の司祭や助任司祭といった末端の聖職者は、神学には比較的無知であったかもしれないが、キリスト教の典礼に通じており、その知識を儀式魔術に転用することができた。中世宗教史の研究者リチャード・キークヘファーは、下位の聖職階級のひとつであった祓魔師に叙階されたことのある者の中には、道を外れて悪魔を呼び出そうとする者もいたのではないかと指摘している。冬の間だけ大学で学び、夏は流浪し、農民に魔術の力を吹聴してイカサマを働く貧乏放浪学生もいた。",
"title": "魔法書の歴史"
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"text": "魔女狩りの時代には大っぴらにグリモワールを作ったり所持することはできなかったが、異性の愛を得る、財宝を発見するなどの世俗的な目的の魔術は人々の間で需要があった。17世紀から18世紀は宝探しが盛んな時代であったが、隠された財宝は精霊や幽霊に守られているとの伝承があり、宝探しには魔術が有効と考えられていた。そのため一攫千金が狙えるグリモワールは高値で取引されたという。近代には一般民衆の識字率が上がり、種々のまじないを寄せ集めた通俗的な魔術本が出版されるようになった。かつては聖職者や大学人や宮廷人のものであった魔法書は、16世紀頃から医師、弁護士、軍人といった新興インテリ層にも広がり始め、さらには職人や商人といった一般の人々も所持する民衆的な書物となった。イングランドでカニングマンと呼ばれたような民間の占い師や治療師も、グリモワールに図示された護符などを利用するようになった。フランスでは17世紀から18世紀に行商人によって「青本」という民衆本が売りさばかれたが、その中には通俗的な魔術書の類も多かった。ドイツでは18世紀に一般民衆を対象とした「家父長のための書物」と呼ばれる実用書の出版が盛んになったが、その一環として魔術書も出回るようになった。しかし魔法書は自分で筆写したものでなければ力あるものとならないという考えも根強く、印刷されたものでない手書き写本の魔法書が多く用いられていた。",
"title": "魔法書の歴史"
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"text": "グリモワールという言葉が生まれるずっと前のものであるが、古代後期のヘレニズム文化に属するエジプトの魔術パピルス文書が多数見つかっており、それらはカール・プライゼンダンツによって「ギリシア語魔術文書」(Papyri Graecae Magicae、略称PGM)として集成された。",
"title": "古代の魔術文書と旧約偽典"
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"text": "20世紀の英語圏では、幻想文学に触発されて新たなグリモワールが生み出された。ラブクラフトの小説に登場する架空の書物『ネクロノミコン』を実際に作り上げようと試みたり、『ネクロノミコン』に仮託した本がいくつか出版されている。その中で魔術書の体裁をとったものを以下に挙げる。",
"title": "20世紀以降のグリモワール"
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] | グリモワールとは、フランス語で魔術の書物を意味し、特にヨーロッパで流布した魔術書を指す。グリモワ、グリモアとも表記される。奥義書、魔導書(魔道書)、魔法書ともいう。類義語に黒本、黒書がある。 | [[File:Talis02.png|frame|『黒い雌鶏』所載の[[護符]]]]
'''グリモワール'''({{lang-fr-short|grimoire}}、{{IPA-fr|ɡrimwar|short}}<ref name="新スタンダード仏和">『新スタンダード仏和辞典』 [[大修館書店]]</ref><ref>英語発音 {{IPA|ɡrɪmwáːr}}, {{IPA|ɡrìːmwaər}}, {{IPA|ɡrìːmwaː}}<br>『リーダーズ英和辞典第2版』(研究社)と『ジーニアス英和大辞典』(大修館書店)に拠る。</ref>)とは、[[フランス語]]で[[魔術]]の[[書物]]を意味し<ref name="新スタンダード仏和"/>、特に[[ヨーロッパ]]で流布した魔術書を指す。グリモワ、グリモアとも表記される。奥義書、魔導書(魔道書)、魔法書ともいう。類義語に黒本、黒書(black books)がある。
== 概要 ==
狭義では[[悪魔]]や[[精霊]]、[[天使]]などを呼び出して、願い事を叶えさせる手順、そのために必要な[[魔法円]]や[[ペンタクル]]や[[シジル (オカルト)|シジル]]のデザインが記された書物を指すが、魔術を行う側の立場から書かれた[[悪魔学]]書、魔術や[[呪術]]などに関する知識、奥義を記した[[古文書]]、書物全般のことを指す場合もある。
『[[ソロモンの大いなる鍵|ソロモンの鍵]]』『[[レメゲトン|ソロモンの小さな鍵]]』『黒い雌鶏』などが有名で、特に『[[大奥義書]]』の異本『赤竜』に加えられた、黒い雌鶏を使った召喚儀式に登場する「エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」(''Eloim, Essaim, frugativi et appellavi'')<ref name="BBM">{{Cite book |author=Waite, Authur Edward |title=The Book of Black Magic |publisher=Weiser Books |isbn=978-0877282075}}</ref><ref>版によっては ''Euphas, Metahîm, frugativi et appellavi.'' となっている。[http://www.sacred-texts.com/grim/bcm/bcm36.htm]参照。<br />イタリア語版の『大奥義書』には ''Eloim Essaim, frugatiot ed appallavi'' と記載されているものがある。''[http://www.esotericarchives.com/solomon/Il_Grand_Grimoire.pdf Il Grand Grimoire]'' (pdf) pp.65-66 参照。</ref><ref>[[澁澤龍彦]]の『黒魔術の手帖』では「エロヒムよ、エサイムよ、わが呼び声を聞け」という『黒い牝鶏』の呪文が紹介されている。<!--この『黒い牝鶏』について澁澤龍彦が参照した文献は不明。ご存知の方は加筆願います。--></ref>という呪文は、日本でも有名である。
== 概説 ==
グリモワールは主として[[中世]]後期から[[19世紀]]まで[[ヨーロッパ]]で流布した魔術の手引書・指南書・便覧を指す。霊的存在の力を利用する「神霊魔術」(demonic magic)や「[[降霊術]]」(necromancy)に関するものが多く、[[儀式]]、[[呪文]]、[[護符]]、呪具の作成法、儀式魔術に関連する[[悪魔学|鬼神学]]の記述などを主な内容としている。また、種々雑多な“まじない”の[[レシピ]]集のようなものもグリモワールに分類される。グリモワールとそうでない魔術書を峻別する絶対基準はないが、[[ヘルメス主義]]や[[ネオプラトニズム]]に基づく哲学的な魔術論や、[[錬金術]]や[[占星術]]、[[博物学]]的な自然魔術の知識の記述を主眼とした書物([[ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ|アグリッパ]]の『隠秘哲学』、[[ジョルダーノ・ブルーノ]]の『魔術論』、[[デッラ・ポルタ]]の『自然魔術』など)は通常グリモワールと呼ばれない。[[アーサー・エドワード・ウェイト|A・E・ウェイト]]は著書『黒魔術の書』の中で、グリモワールと黒魔術的でない魔術書を暗に区別し、『[[ホノリウスの誓いの書]]』はグリモワールではないとしている<ref name="BBM"/>。
グリモワール(grimoire)という言葉の由来については「文法(書)」を意味するフランス語の grammaire から派生したとの説が有力である。フランスではかつて grammaire はラテン語で書かれた書物を指した<ref>Davies (2009), p. 1.</ref>。中世ヨーロッパで「[[文法学|文法]]」(grammatica)といえば[[ラテン語]]の文法や教養を意味したが、一般の人々にとってラテン語は聖職者などの限られた人だけが読める“ちんぷんかんぷん”なものであった。民衆の中でしばしば「[[文法]]」と「[[魔法]]」が関連付けられたであろうことは、イギリスで grammar の異形 gramarye が「魔法」の意味で用いられたという事実からも窺知される。グリモワールという言葉が普及したであろう18世紀のフランスでは、民衆語で書かれた廉価本の出版が盛んで、その中には通俗的な魔法書も少なからずあった。そのような魔法書の大衆化傾向にあっても、依然としてラテン語で書かれた魔法書の写本も流布していた。フランス語では grimoire という言葉は「わけのわからない書物」「判読不能な文字」の比喩としても用いられる<ref name="新スタンダード仏和"/>。
しばしば「グリモワールは中世のヨーロッパで書かれた」と言われるが、必ずしもそうではない。13世紀前半には[[パリ]]の[[司教]]、{{仮リンク|オーヴェルニュのギヨーム|en|William of Auvergne (bishop)}}が、1267年頃には[[ロジャー・ベーコン]]がこうした書物に言及しており、中世盛期後半の12-13世紀ごろには今日グリモワールと呼ばれているような書物がすでにあったことがわかる<ref name="NC">[[ノーマン・コーン]] 『魔女狩りの社会史 ヨーロッパの内なる悪霊』 山本通訳、[[岩波書店]]</ref>。しかし現存する[[写本]]や刊本の多くは[[17世紀]]以降のもので、中世に書かれたものは例外的である。『ソロモンの鍵』の現存する写本の多くは17-18世紀のものであり、『レメゲトン』の現存する最古の版は1641年のものである<ref>{{Cite book |author=Skinner, Stephen & David Rankine |year=2008 |title=The Veritable Key of Solomon |publisher=Llewellyn |isbn=978-0738714530}}</ref>。現存するグリモワールの中には、中世を起源とする書物の近世における異本と考えられるものもあるが、権威付けのために「中世、あるいは古代に記された原典を現代語訳したもの」と自称している「近世・近代の産物」も多いと考えてよい。
== 魔法書の歴史 ==
[[キリスト教徒]]と[[ムスリム|イスラム教徒]]と[[ユダヤ教徒]]の文化が共存していた12-13世紀の[[イベリア半島]]や[[シチリア島|シチリア]]では、[[アラビア語]]の書物が盛んにラテン語に翻訳された。その中には、中世アラビアの[[ヘレニズム]]的魔術を集成した『[[ピカトリクス|ガーヤト・アル=ハキーム]]』や、自然魔術的な内容を含む偽[[アリストテレス]]の『{{仮リンク|秘中の秘|en|Secretum Secretorum}}』などもあった。中世ユダヤの魔術書『[[天使ラジエルの書]]』もこの時期にラテン語訳が作られている。こうしてもたらされた占星術や魔術の知識はヨーロッパのキリスト教徒に刺激を与え、キリスト教的要素をもつ新しい魔術書がヨーロッパで生み出されることとなった<ref>Page (2004), pp. 5-6.</ref>。ロジャー・ベーコンや[[アルベルトゥス・マグヌス]]といった中世の著述家の残した記述から、フランスやドイツで当時出回っていたさまざまな魔術書の名を知ることができる。12世紀のキリスト教を背景として13世紀頃までに生まれた中世キリスト教的な魔術のジャンル「アルス・ノトリア」については、50種類以上の写本が伝存している<ref>Page (2004), p. 39.</ref>。
中世においては、こうした書物は主として聖職者や学者、学生など、ラテン語の読み書きができる多少なりとも教養のある人々に読まれ、写本の形で流布していた。これらの書物に記された儀式魔術は識字者による識字者のための魔術であり、民間に[[口承]]で伝えられる民衆魔術と対比される。そのことは、ヨーロッパ中世において儀式魔術の担い手の多くが[[聖職者]]であったことを意味する。儀式魔術は悪霊と交渉する異端的なものとして[[トマス・アクイナス]]などの神学者から非難されていたが、一部の聖職者は魔術に手を染めていた。たとえば12世紀の[[ヘンリー2世 (イングランド王)|ヘンリー2世]]の頃の学僧、{{仮リンク|ソールズベリーのジョン|en|John of Salisbury}}は少年の頃、鏡を使った魔術を行う神父に霊視者の役をさせられたという<ref>度会好一 『魔女幻想』 中公新書</ref>。降霊術を行った廉で告発された聖職者の宗教裁判の記録は数多く残っており、その中には[[司教]]も含まれる<ref>ライナー・デッカー 『教皇と魔女』佐藤正樹・佐々木れい訳、法政大学出版局、2007年</ref>。[[修道士]]、下級聖職者、小教区の[[司祭]]や助任司祭といった末端の聖職者は、神学には比較的無知であったかもしれないが、キリスト教の典礼に通じており、その知識を儀式魔術に転用することができた<ref>Davies (2009), pp. 36-37.</ref>。中世宗教史の研究者リチャード・キークヘファーは、下位の聖職階級のひとつであった[[祓魔師]]に叙階されたことのある者の中には、道を外れて[[悪魔]]を呼び出そうとする者もいたのではないかと指摘している<ref>Kieckhefer, Richard. ''Magic in the Middle Ages''. Cambridge University Press, 2000, p. 153.</ref>。冬の間だけ大学で学び、夏は流浪し、農民に魔術の力を吹聴してイカサマを働く貧乏放浪学生もいた<ref>クルト・バッシュビッツ 『魔女と魔女裁判』 川端豊彦・坂井州二訳、[[法政大学出版局]]</ref>。
[[魔女狩り]]の時代には大っぴらにグリモワールを作ったり所持することはできなかったが、異性の愛を得る、財宝を発見するなどの世俗的な目的の魔術は人々の間で需要があった。17世紀から18世紀は宝探しが盛んな時代であったが、隠された財宝は[[精霊]]や[[幽霊]]に守られているとの伝承があり、宝探しには魔術が有効と考えられていた。そのため一攫千金が狙えるグリモワールは高値で取引されたという<ref>溝井裕一 『ファウスト伝説 悪魔と魔法の西洋文化史』 [[文理閣]]</ref>。近代には一般民衆の識字率が上がり、種々の[[まじない]]を寄せ集めた通俗的な魔術本が出版されるようになった。かつては聖職者や大学人や宮廷人のものであった魔法書は、16世紀頃から医師、弁護士、軍人といった新興インテリ層にも広がり始め<ref>Davies (2009), p. 63.</ref>、さらには職人や商人といった一般の人々も所持する民衆的な書物となった。イングランドで[[カニングフォーク|カニングマン]]と呼ばれたような民間の占い師や治療師も、グリモワールに図示された護符などを利用するようになった。フランスでは17世紀から18世紀に行商人によって「[[青本 (フランス)|青本]]」という民衆本が売りさばかれたが、その中には通俗的な魔術書の類も多かった<ref>上山安敏 『魔女とキリスト教』 [[講談社学術文庫]]</ref>。ドイツでは18世紀に一般民衆を対象とした「家父長のための書物」と呼ばれる実用書の出版が盛んになったが、その一環として魔術書も出回るようになった<ref>牟田和夫 『魔女裁判 魔術と民衆のドイツ史』 [[吉川弘文館]]</ref>。しかし魔法書は自分で筆写したものでなければ力あるものとならないという考えも根強く、印刷されたものでない手書き写本の魔法書が多く用いられていた。
== 古代の魔術文書と旧約偽典 ==
{{節スタブ|date=2013年10月}}
グリモワールという言葉が生まれるずっと前のものであるが、古代後期の[[ヘレニズム]]文化に属する[[アエギュプトゥス|エジプト]]の魔術[[パピルス]]文書が多数見つかっており、それらはカール・プライゼンダンツによって「ギリシア語魔術文書」(Papyri Graecae Magicae、略称PGM)として集成された。
;『[[ソロモンの遺訓]]』(''Testament of Solomon'')
:旧約偽典のひとつで、[[ソロモンの指輪]]が登場する最古の文献。
;『モーセ第八の書』(''The Eighth Book of Moses'')
:PGM ({{interlang|en|Papyri Graecae Magicae}})のひとつ。
== 中世起源のグリモワール ==
{{節スタブ|date=2013年10月}}
;『[[ホノリウスの誓いの書]]』(''The Sworn Book of Honorius'')
:ラテン語原題は ''Liber sacer'' (聖なる書)別名 ''Liber iuratus'' (誓書)。[[エウクレイデス]]の息子、[[テーバイ|テーベ]]のホノリウスによって書かれたと称する[[降霊術]]の手引書。古いものでは14世紀の2種類のラテン語写本が現存しており、その一つは[[ジョン・ディー]]の蔵書であった。オリジナルは13世紀前半に書かれたと推定される。
;『[[アルス・ノトリア]]』(''Ars Notoria''、「名高き術」または ''Ars Notaria''、「書記の術」)
:1300年から1600年までのさまざまな写本が残っている。[[天使]]が[[ソロモン]]に授けたという祈りの文句やラテン語で nota と呼ばれる図、清めの儀式などが記されている。[[リベラル・アーツ|自由学芸]]の知識の獲得、言語の速習、記憶力の強化、キリスト教的な幻視体験などを目的としている。14世紀にはモリニーの修道士ヨハネスによってアルス・ノトリアの改版というべき書物『聖処女マリアの幻視の書』が作られたが、異端的な書物としてパリで燃やされたことが記録に残っている<ref>{{Cite book |author=Claire Fanger, et al |title=Conjuring Spirits - Texts and Traditions of Medieval Ritual Magic |publisher=The Pennsylvania State University Press |isbn=0-271-02517-4 |pages=162-163}}</ref>。
;『精霊の職務の書』(''The Book of the offices of the spirits'')
:1260年代にロジャー・ベーコンが当時出回っていた偽ソロモン文書の一つに挙げているもの。現存しないため内容は不明だが、17世紀に出回ったグリモワール『レメゲトン』の第一部「ゴエティア」と同様に、[[悪霊]]を列挙し、それぞれの特徴と役割を記した書物と推測される<ref name="NC"/>。1508年に[[トリテミウス]]が同様の表題をもつ書物(''De Oficiis Spirituum'')に言及している。また、[[ヨーハン・ヴァイヤー]]の『悪霊の幻惑について』の補遺「[[悪魔の偽王国]]」(1577年)には『精霊の職務の書』(''Liber officiorum spirituum'')を参照したと記されている。「悪魔の偽王国」は儀式魔術に批判的とされる人物によって書かれたものだが、内容は「ゴエティア」と密接に関連しており、「ゴエティア」の異本とみなす向きもある。ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ所蔵の16世紀の写本 ''Livre des esperitz''<!--現代の標準的な綴りに直せば Livre des esprits つまり「精霊の書」と訳すべきか--> も同趣の書物である<ref>[http://medievales.revues.org/index1019.html]参照。</ref>。
;『アルマンダル』(Almandal)または『アルマンデル』(Almandel)
:ソロモンに帰せられる魔術書のひとつで、四方の天使の召喚を扱っている。13世紀に[[アルベルトゥス・マグヌス]]が言及しており、15世紀のドイツ語版とラテン語版が現存する。「アルマンダル」はアラビア語に由来し、「ソロモンのアルマデル」は銀の尖筆で神聖名やシジルを刻み込む蝋板を指す。
;『[[ピカトリクス]]』(''Picatrix'')
:
;『[[天使ラジエルの書]]』(''Sefer Raziel HaMalakh'')
:
== ルネサンス期から19世紀までのグリモワール ==
{{節スタブ|date=2013年10月}}
;『[[ソロモンの鍵]]』(''Clavicula Salomonis'')<ref>Clavicula は「小さな鍵」を意味するが、ここではたんに「鍵」と訳す。今日では『ソロモン王の小さな鍵』と言えば『レメゲトン』の方を指すことが多い。一方、マグレガー・マサース版『ソロモン王の鍵』は後に海賊版の出版者 L・W・デ・ローレンスによって『ソロモンの大いなる鍵』(''The Greater Key of Solomon'')というタイトルが付けられた。</ref>
:[[ソロモン]]に帰せられる魔術書の中でもイタリアやフランスで最も広く流布したもの。知られている最古のものは15世紀に書かれたギリシア語版であり、『ソロモンの魔術論』または『ヒュグロマンテイア』(水占術)と呼ばれている。その後ラテン語版とイタリア語版が作られた。ヘブライ語版から翻訳されたとも称されているが、17世紀より古いヘブライ語版の存在は確認されていない。17世紀から19世紀にかけて出回っていた「ソロモンの鍵」と称するさまざまなバージョンの写本は数知れない。今日よく知られている[[マグレガー・マサース]]編の『[[ソロモンの大いなる鍵|ソロモン王の鍵]]』(''The Key of Solomon the King''、1889年)は、[[大英博物館]]所蔵のフランス語とラテン語の複数の写本から悪魔的夾雑物を排して再構成したものである。
; 『[[レメゲトン]]』(''Lemegeton'')
:「ソロモンの小鍵」(Clavicula Salomonis)という副題の下に四種または五種の魔術書をまとめた、いわばソロモン魔術の選集。17世紀に出回ったとされ、[[大英図書館]]スローン文庫に17世紀の英語写本数点が保管されている(同ハーリー文庫には18世紀の写本がある)。構成は「ゴエティア」「テウルギア・ゴエティア」「パウロの術」「アルマデル(Almadel)の術」「アルス・ノトリア」となっている。
;「[[ゴエティア]]」(''Goetia'')
[[image:Goetia seal of solomon.svg|thumb|ソロモンの秘印(ゴエティア)]]
:『レメゲトン』の第一部で、ソロモン王が使役したという72の悪霊の説明を主な内容としている。各悪霊のシジルが収録されているのも大きな特徴である。<!--ゴエティアという言葉は魔術・妖術を意味するギリシア語ゴエーテイアに由来するが、アグリッパによれば「{{仮リンク|汚れた霊|en|Unclean spirit}}を介した業」と定義される。本書は『レメゲトン』を構成する他の書と異なり、『レメゲトン』編纂以前から単独で存在していたことを裏付ける記録はない。『レメゲトン』が出回る前の16世紀に、ヨーハン・ヴァイヤーによって「ゴエティア」と共通する点を多く持つ「悪魔の偽王国」が書かれており、[[アーサー・エドワード・ウェイト|A・E・ウェイト]]は「悪魔の偽王国」以前に、その典拠となった「ゴエティア」の原形があったに違いないと考察している。一方、ジョゼフ・ピーターソンは、[[レジナルド・スコット]]の『妖術の暴露』に収録された「悪魔の偽王国」の英訳の瑕疵や省略が「ゴエティア」でもそのまま踏襲されているように見受けられることを指摘しており、レジナルド・スコットの著作を読んだ者によって「ゴエティア」が作られたのかもしれない。-->「ゴエティア」は20世紀初頭に[[アレイスター・クロウリー]]によって『ソロモン王のゴエティアの書』(''The Book of Goetia of Solomon the King'')という題で出版された。これはマグレガー・マサースが大英博物館で転写したものが基になっており、英訳と称されているが実際には原本も英語で書かれている。
;『{{仮リンク|アルマデル奥義書|en|Grimoire of Armadel}}』(''The Grimoire of Armadel'')
:天使と悪魔を含む多数の精霊の[[シジル]]を収めた、17世紀のキリスト教的魔術書。パリの[[フランス国立図書館|アルスナル図書館]]所蔵のフランス語写本(MS 88、ラテン語原題 ''Liber Armadel'')を基にマグレガー・マサースが英訳したもので、訳者の死後60年以上経た1980年に出版された。Armadel が何を指すのか今となっては不明だが、当時の魔術において権威ある名前の一つであったようである。17世紀には魔術の種類にトリテミウスの術、パウロの術、ルルスの術などと並びアルマデル(Armadel)の術を挙げる者がおり、Armadel の名を冠する魔術書はいくつか存在する。その一つは[[大英図書館]]所蔵の『アルマデルによる真のソロモンの鍵』 で、フランス語版の『ソロモンの鍵』の一種である。なお、『レメゲトン』の第四部「ソロモンのアルマデル」の Almadel は上述の Almandel の異形であるが、Armadel の一字違いであり、日本語においては Armadel と混同されやすい。
[[image:Grimoire du Pape Honorius (allegedly 1760).jpg|thumb|『教皇ホノリウスの奥義書』 1760]]
;『隠秘哲学第四書』(''Fourth Book of Occult Philosophy'')
:『隠秘哲学』(第一書「自然魔術」、第二書「天界魔術」、第三書「儀礼魔術」)において自然魔術を論じた[[ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ|ネッテスハイムのハインリヒ・コルネリウス・アグリッパ]]は、儀式魔術について具体的な記述を残さなかったが、後にアグリッパの『隠秘哲学』の第四書と称する儀式魔術書が『遺作集』に収録された。これをアグリッパが悪霊と関わる儀式魔術を行っていた証拠と考える者もいたが、若い頃アグリッパの弟子であった医師[[ヨーハン・ヴァイヤー]]はこれを偽書と断言した。
;『{{仮リンク|アルバテル|en|Arbatel de magia veterum}}』(''Arbatel'')
:
;『[[術士アブラメリンの聖なる魔術の書|アブラメリンの書]]』(''The Book of Abramelin'')
:
;『[[大奥義書]]』(''Le Grand Grimoire'')
:
;『[[真正奥義書]]』(''Grimorium Verum'')
:
;『{{仮リンク|教皇ホノリウスの奥義書|en|The Grimoire of Pope Honorius}}』(''Le Grimoire du Pape Honorius'')
:
;『{{仮リンク|教皇レオの手引書|en|Grimoire of Pope Leo|label=教皇レオの手引書(エンキリディオン)}}』(''Enchiridion Leonis Papæ'' または ''L'Enchiridion du Papa Léon''){{Sfn|デイビーズ|2010|pp=152,165,etc}}
:
;『{{仮リンク|大アルベール|en|Grand Albert}}』(''Le Grand Albert'')
:
;『{{仮リンク|小アルベール|en|Petit Albert}}』(''Le Petit Albert'')
:
;『ネクロマンティア』(''Necromantia''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=64}}<ref>{{Cite web |url=http://searcharchives.bl.uk/IAMS_VU2:LSCOP_BL:IAMS040-002116274 |title=Sloane MS 3884 |publisher=[[大英図書館]] |accessdate=2022-06-16 }} - [[ハンス・スローン]]の写本コレクションの3884番に収められている。</ref>
:[[ロジャー・ベーコン]]に帰せられる魔術書。
;『ヘプタメロン』(''Heptameron''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=66}}
:[[アバノのピエトロ]]に帰せられる魔術書。[[魔法円]]の準備や[[天使]]の召還<!-- 出典の表記のママ -->について書かれている{{Sfn|デイビーズ|2010|p=66}}。[[マルグリット・ド・ナヴァル]]の同名の著作([[エプタメロン]])とは別の書物である。
;『ルキダリウス』(''Lucidarius'' または ''Lucidarium Artis Nigromantice''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=66}}<ref>「ルキダリウス」の表記は以下の文献にみられる:{{Cite book|和書|last=草野|first=巧|title=図解 魔導書|publisher=[[新紀元社]]|year=2011|isbn=978-4775308998}}</ref><ref>英語訳が存在する:{{Cite book|last=Peterson|first=Joseph H.|title=Elucidation of Necromancy — Lucidarium Artis Nigromantice, attributed to Peter of Abano: Including a new translation of his Heptameron or Elements of Magic |publisher=Ibis Press|year=2021|isbn=978-0-89254-199-7}}</ref>
:[[アバノのピエトロ]]に帰せられる魔術書。[[ジオマンシー|土占い]]に関する記述が含まれている{{Sfn|デイビーズ|2010|p=66}}。12世紀にドイツで書かれた同名の書物([[ルシダリウス]])およびその基となった[[ホノリウス・アウグストドゥネンシス]]の著作([[エルキダリウム]])とは別の書物である。
;『百王』(''Centum Regnum''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=90}}
:書名の人数については「四十三」(''The Forty-Three Kings of Spirits'')または「五十」となっている場合もある{{Sfn|デイビーズ|2010|p=90}}。
;『{{仮リンク|黒い雌鶏|en|Black Pullet}}』(''The Black Pullet''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=162}}
:
;『{{仮リンク|モーセ第六・第七の書|en|Sixth and Seventh Books of Moses}}』(''Sixth and Seventh Books of Moses''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=24}}
:
;『{{仮リンク|モーセの剣|en|The Sword of Moses}}』(''The Sword of Moses'' または ''Harba de-Mosha''){{Sfn|デイビーズ|2010|p=24}}
:
;『{{仮リンク|マアセ・メルカバ|en|Maaseh Merkabah}}』(''Ma'aseh Merkabah'')
:
;『[[ガルドラボーク]]』(''Galdrabok'')
:近世アイスランドの魔術書
;『自然魔術と非自然魔術』(''Magia Naturalis et Innaturalis'' または ''Faust's Höllenzwang'')<ref>{{Cite book |author=Dr Johannes Faust |translator=Nicolás Álvarez |title=Magia Naturalis et Innaturalis |year=2019 |isbn=1080998608 }}</ref><ref>{{Cite book |last=Scheible |first=Johann |title=Doktor Johannes Faust's Magia naturalis et innaturalis: oder, Dreifacher Höllenzwang, letztes Testament and Siegelkunst |location=Stuttgart |year=1849 |url=https://archive.org/details/doktorjohannesfa00sche/mode/2up }}</ref>{{Sfn|デイビーズ|2010|p=184}}
:[[ファウスト (伝説)|ファウスト]]に帰せられる魔術書。[[ジャンバッティスタ・デッラ・ポルタ]]の『自然魔術』とは別の書物である。
;『ヌクテメロン』(''Nuctemeron'')<ref>{{Cite book |last=Lévi |first=Eliphas |translator=Waite, Arthur Edward |title=Transcendental magic, its doctrine and ritual |location=London |publisher=G. Redway |year=1896 |pages=387ff |url=https://archive.org/details/transcendentalma00leviuoft/page/386/mode/2up }}</ref>
:[[エリファス・レヴィ]]『{{仮リンク|高等魔術の教理と祭儀|en|Dogme et Rituel de la Haute Magie}} 祭儀篇』に補遺として収録されていた魔術書(日本語訳版では省略されている)。[[テュアナのアポロニオス]]に帰されている。
== 20世紀以降のグリモワール ==
;『喚起魔術の実践』(''The Practice of Magical Evocation'')
:20世紀前半を生きた[[チェコ]]の手品師/オカルティスト、{{仮リンク|フランツ・バルドン|en|Franz Bardon}}が書いたとされる魔術書三部作のひとつ。
;『{{仮リンク|サタニック儀式|en|The Satanic Rituals}}』(''The Satanic Rituals'')
:[[アントン・ラヴェイ|アントン・ラヴィ]]の ''The Satanic Bible'' の姉妹作(1972年)。
;『結果の書』(''The Book of Results'')
:[[ケイオスマジック]]のオリジネイターである{{仮リンク|レイ・シャーウィン|en|Ray Sherwin}}の初期作(1978年)。シジル魔術によるソーサリーを提示した。
=== フィクション上の書物の派生物 ===
20世紀の英語圏では、[[幻想文学]]に触発されて新たなグリモワールが生み出された<ref>Davies (2009), p. 262.</ref>。[[ハワード・フィリップス・ラヴクラフト|ラブクラフト]]の小説に登場する架空の書物『[[ネクロノミコン]]』を実際に作り上げようと試みたり、『ネクロノミコン』に仮託した本がいくつか出版されている。その中で魔術書の体裁をとったものを以下に挙げる。
;『{{仮リンク|ネクロノミコン (サイモン)|label=ネクロノミコン|en|Simon Necronomicon}}』(''The Necronomicon'')
:ギリシア語版『ネクロノミコン』を英訳したという設定で1977年に出版された魔術書。サイモンという筆名の謎のオカルティストが序文を書いている。オーウェン・デイヴィースは、サイモンの『ネクロノミコン』は「よく練り上げられた作り事」であり、本書やその他のネクロノミコンは「魔術文献の見本としてはそれまでのものに劣らず立派なもの」<ref>日本語版『世界で最も危険な書物 - グリモワールの歴史』p.404では「魔術書としては何の価値もない本だった」と訳されている。原文は no less 'worthy' than their predecessors で、「先行するもの〔それ以前からある魔術文献〕と同じくらいの価値がある」の意、意訳すれば「それまでのものに劣らず、魔術文献たるに十分な出来栄え」となる。</ref>と評している<ref>Davies (2009), p. 268.</ref>。
;[[ネクロノミコン断章|『ネクロノミコン』断章]]
:ジョージ・ヘイが編集し[[コリン・ウィルソン]]が寄稿した ''The Necronomicon'' (1978)<ref>ジョージ・ヘイ 『魔道書ネクロノミコン』 大瀧啓裕訳、[[学習研究社]]</ref> に収録された、大英図書館所蔵の[[ジョン・ディー]]の暗号文書からロバート・ターナーが『ネクロノミコン』を再構成したというふれこみの偽書。ロバート・ターナーはデイヴィッド・エドワーズと共同で立法石団 (Order of The Cubic Stone) という魔術団体を創設した英国の実在のオカルティスト(2013年没)。アグリッパの著作を英訳した17世紀の医師ロバート・ターナーとは別人。
== グリモワールの日本語訳を収めた書籍 ==
* {{Cite book |和書 |author=K・フォン・プフェッテンバッハ |others=[[並木伸一郎]]訳 |title=封印された〈モーゼ書〉の秘密 |year=1998 |publisher=ロングセラーズ |isbn=4845405873}}(『モーゼの第六の書』、『同第七の書』 の日本語訳を収録)
* {{Cite book |和書 |author=アルベルトゥス・マグヌス|authorlink=アルベルトゥス・マグヌス |others=立木鷹志訳 |title=大アルベルトゥスの秘法 - 中世ヨーロッパの大魔術書 |year=1999 |publisher=[[河出書房新社]] |isbn=4309230555}}(18世紀フランスの廉価出版物『大アルベール』の日本語訳)
* {{Cite book |和書 |author=森正樹 |title=(偽)ジョン・ディーの「金星の小冊子」 - テクストの校訂と翻訳、そしてこのテクストの注釈のために必要なキリスト教カバラおよび後期アテナイ学派の新プラトン主義の研究 |year=2004 |publisher=リーベル出版 |isbn=4897986354}}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book |title= Grimoires: A History of Magic Books|last= Davies|first= Owen|author|year= 2009|publisher= Oxford University Press |isbn=9780199204519 |ref={{SfnRef|Davies|2009}} }}
** 日本語版:{{Cite book |和書 |author=オーウェン・デイビーズ |others=宇佐和通訳 |title=世界で最も危険な書物 - グリモワールの歴史 |year=2010 |publisher=[[柏書房]] |isbn=9784760138425 |ref={{SfnRef|デイビーズ|2010}} }}
* {{Cite book |author=Page, Sophie | year=2004 |title=Magic in Medieval Manuscripts |publisher=University of Toronto Press |isbn=0802037976}}
== 関連項目 ==
* [[クトゥルフ神話]] - [[ネクロノミコン]]を始めとする数多くのグリモワールが作品中に登場する(実在のものではない)。
* [[魔法教導書]]
== 外部リンク ==
{{commonscat|Grimoire}}
* {{Wayback|url=http://www7.ocn.ne.jp/~elfindog/archive.htm |title=O∴H∴西洋魔術博物館の「古文書保管室」 |date=20021214123005}}
* {{Wayback|url=http://www5e.biglobe.ne.jp/~occultyo/grimo.htm |title=グリモワールと通俗魔術 |date=20050227065940}}
* [http://blog.livedoor.jp/yoohashi4/archives/cat_1274244.html 大橋喜之訳 『アルバテル』]
* [http://blog.livedoor.jp/yoohashi4/archives/cat_50022784.html 大橋喜之訳 『ピカトリクス』抄]
* [http://www.sacred-texts.com/grim/ Internet Sacred Text Archives: Grimoires] {{en icon}}
* [http://www.esotericarchives.com/ Twilit Grotto: Archives of Western Esoterica] {{en icon}}
* [http://www.hermetic.com/browe-archive/classics.htm Classics of Magick] {{en icon}}
* [http://www.levity.com/alchemy/solomon.html Solomonic Manuscripts] (by Adam McLean) {{en icon}}
* [http://www.hermetics.org/library/Library_Grimoires.html Grimoires Library & E-Books] - 無料で見れる魔導書の電子書籍 {{en icon}}
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7,416 | トンネル効果 | トンネル効果(トンネルこうか、英: tunnelling effect)は、量子力学において、波動関数がポテンシャル障壁を超えて伝播する現象である。
20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった。トンネル効果は、ハイゼンベルクの不確定性原理と、物質における粒子と波動の二重性を用いて説明できる。
トンネル効果は、原子核崩壊や核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている。また、トンネルダイオード、量子コンピュータ、走査型トンネル顕微鏡、フラッシュメモリなどの装置において応用されているという意味でも重要である。
1901年、ロバート・フランシス・イアハートは、電極間の距離を測定することができるマイケルソン干渉計を用いて、非常に近接した電極間における気体の電気伝導性を研究していたところ、予想に反して大きな電流が流れることを発見した。1911年から1914年にかけて、当時大学院生であったフランツ・ロターは、イアハートの手法を応用して、電極間の距離を制御及び測定する方法について研究した。ロターは、感度の高い検流計を用いて、電極間を流れる電流を測定することにより、電極間の距離を測定する方法を発案した。1926年、ロターは 26 pA(ピコアンペア) の感度をもつ検流計を用いて、高真空の環境下において、近接させた電極間を流れる電流を計測した。
トンネル効果に係る理論は、放射能及び原子核物理学の研究によって発展した。フリードリッヒ・フントは1927年、二重井戸ポテンシャル(英語版)の基底状態の研究において、トンネル効果について初めて言及している。1928年、ジョージ・ガモフと、彼とは独立にロナルド・ガーニー(英語版)とエドワード・コンドン(英語版)により、アルファ崩壊の説明において、トンネル効果が応用された。彼らは、核ポテンシャルをモデル化したシュレーディンガー方程式を解き、粒子の半減期と、放出されるエネルギーとの関係式が、トンネル効果の起こる確率と直接関係していることを導いた。
マックス・ボルンは、ガモフのセミナーに参加した際に、トンネル効果が原子核物理学の範囲内に留まらず、もっと普遍的な現象であることに気付いた。その直後、両グループは、トンネル効果によって粒子が原子核に取り込まれることについて考察した。1957年までに、半導体の研究とトランジスタやダイオードの開発を通じて、電子のトンネル効果が広く認知されるようになった。江崎玲於奈、アイヴァー・ジェーバー、ブライアン・ジョゼフソンは超伝導性クーパー対のトンネル効果を予言し、1973年のノーベル物理学賞を受賞した。2016年、水の量子トンネリング(英語版)が発見された。
トンネル効果は、非常に微細な領域で発生する現象であるため、我々が直接知覚することはできない。また、古典力学では説明することができず、量子力学により取り扱う必要がある。
例えば、ポテンシャル障壁に向かっている粒子を、丘を転がり上がるボールに喩えて考えた時、古典力学においては、障壁を乗り越えるだけのエネルギーを粒子が持っていない限り、粒子は障壁の向う側には到達できない。つまり、丘を乗り越えるだけのエネルギーを持たないボールは、途中で止まり丘を転がり落ち戻っていく。別の喩えを用いれば、壁を貫通するだけのエネルギーを持たない銃弾は跳ね返されるか、壁の中で止まる。ところが、量子力学においては、ある確率で粒子は障壁を貫通する。この場合、「ボール」は環境からエネルギーを「借りて」丘を乗り越え、反射電子のエネルギーを高くすることによってそれを返済する。
このような違いは、量子力学における粒子と波動の二重性に起因する。この二重性により導かれるハイゼンベルクの不確定性原理によれば、粒子の位置と運動量は確定することができない。このことは、粒子はぼんやりとした雲のように存在している(存在確率に空間的な広がりがある)ことを意味しており、また、その確率が厳密に0(もしくは1)になるような解はない。したがって、障壁に粒子が衝突する時、障壁を挟んだ反対側には粒子の存在確率があり、障壁が薄ければ薄いほど、その存在確率は無視できないものとなる。
波動関数は系のすべての情報を持っている。系の波動関数を得るには、シュレーディンガー方程式(あるいはそれと等価な方程式)を解析的ないし数値的に解く必要がある。 通常、波動関数は位置の関数として表されるが、この場合、波動関数はある場所に粒子を見出す確率を与える(2乗絶対値が確率密度関数に対応する)。障壁を高くもしくは広くする極限をとれば、透過する確率は下がる。
矩形ポテンシャル障壁のような単純な模型においては解析解が存在するが、一般には解析解を得ることは難しい。 そのため、系に応じたいくつかの仮定の下で近似を行い、近似的な解析解または数値解を得る手法が研究されている。
例えばプランク定数が系の作用に比べて充分小さいと見なせる場合、シュレーディンガー方程式はハミルトン–ヤコビ方程式に帰着する。 WKB近似は、系がこのような準古典的振る舞いをすると仮定して近似解を求める手法である。
量子トンネルと同じ振舞いをしめし、量子トンネルにより正確に説明できる現象がいくつか存在する。例として、古典的な波動・粒子関連性やエバネッセント波カップリング(光へのマクスウェル方程式の適用)、音響学における弦に発生する波への非拡散波動方程式の適用などがある。エバネッセント波カップリングは近年にいたるまで、量子力学では単に「トンネリング」と呼ばれていたが、別の文脈でこう呼ばれるようになった。
これらの効果は矩形ポテンシャル障壁の場合と同じようにモデル化することができる。このような場合、波の伝播(英語版)が一様もしくはほぼ一様な媒質と、それとは伝播が異なるもうひとつの媒質が登場し、媒質B領域が一つ、媒質A領域が二つあるような形で説明できる。シュレーディンガー方程式を用いた矩形ポテンシャル障壁の解析は、媒質Aでは進行波解が得られ、媒質Bでは実指数関数解が得られるような別の効果に対しても有効である。
光学では、媒質Aは真空で媒質Bはガラスである。音響学では、たとえば媒質Aは流体、媒質Bは固体とおける。この両方で、媒質A領域では粒子の総エネルギーがポテンシャルエネルギーよりも大きく、媒質Bがポテンシャル障壁となっている。この場合、入射波と反射波、透過波が得られる。さらに多くの媒質および障壁を設けることもあり、障壁が非連続ではない場合もある。このような場合は近似が便利である。
スピン偏極共鳴トンネル効果はトンネル効果の一種である。2002年に産業技術総合研究所エレクトロニクス研究部門と科学技術振興事業団の研究チームによる単結晶ナノ構造電極を持つ新型TMR素子の開発過程において、室温でTMR素子の電極内部に量子井戸準位を生成すると磁気抵抗が巨大な振動を起こす現象、すなわちスピン偏極共鳴トンネル効果が発見された。室温で作動するスピントランジスタの実現が期待される。
量子トンネリングは障壁の厚さがおよそ 1–3 nm 以下の場合に起こるが、これはいくつかの重要な巨視的な物理現象の原因となっている。たとえば、VLSIにおいて電力損失および発熱の原因となり、ひいてはコンピュータチップのサイズダウン限界を定めている漏れ電流の原因は量子トンネリングである。
恒星内での核融合にとっても量子トンネルは重要である。恒星の核における温度と圧力をもってしても、クーロン障壁を乗り越えて熱核融合を引き起こすためには十分でない。しかし、量子トンネルのおかげでクーロン障壁を通り抜ける確率が存在する。この確率は非常に低いが、恒星に存在する原子核の数は莫大であり、数十億年にもわたって定常的に核融合が続くこととなる。ひいては、生物が限られたハビタブルゾーンの中で進化できるための前提条件となっている。
放射性崩壊とは不安定原子核が粒子とエネルギーを放出して安定な原子核へと変化する過程である。この過程は粒子が原子核内から外へトンネリングすることにより生じている(電子捕獲の場合は電子は外から内へトンネリングしている)。量子トンネルが初めて適用された例であり、初めての近似でもある。放射性崩壊は宇宙生物学上も重要である。ハビタブルゾーン外で日光の十分に届かない領域(たとえば深海底)で生物が長期間に渡って生存できる環境が放射性崩壊、ひいては量子トンネリングによって実現される可能性が指摘されている。
量子トンネル効果を考慮することにより、分子状水素や水(氷)、および生命の起源として重要なホルムアルデヒドなどの様々な分子が星間雲において宇宙化学的に合成されている理由を説明できる。
量子生物学において、無視できない量子効果の筆頭として量子トンネル効果が挙げられる。ここでは、電子トンネリングとプロトントンネリングの二つが重要となる。電子トンネリングは多くの生化学的酸化還元反応(光合成、細胞呼吸)および酵素反応のキーファクターであり、またプロトントンネリングはDNA自発変異におけるキーファクターである。
DNA自発変異は通常のDNA複製時において、特に重要なプロトンが確率の低い量子トンネリングを起こすことによって生じ、これを量子生物学では「プロトントンネリング」と呼ぶ。通常のDNA塩基対は水素結合で会合している。水素結合に沿って見ると、二重井戸ポテンシャル構造が生じており、片方がより深くもう片方が浅い非対称となっていると考えられている。このため、プロトンは通常深い方の井戸に収まっていると考えられる。変異が起こるためにはプロトンは浅い方の井戸にトンネル抜けする必要がある。このようなプロトンの通常位置からの移動は互変異性遷移と呼ばれる。このような状態でDNAの複製が始まった場合、DNA塩基対の会合則が乱され、変異が起こりうる。ペル=オロフ・レフディン(英語版)が初めて二重螺旋中における自発変異を取り扱うこの理論を構築した。その他の量子トンネル由来の変異が老化や癌化の原因であると考えられている。
電子の電界放出は半導体物理学や超伝導体物理学に関連する。これは電子がランダムに金属表面から飛び出すという点で熱電子放出と似ている。熱電子放出では互いに衝突しあう粒子がエネルギー障壁を越えるエネルギーを獲得して放出されるが、電界放出では強い電界をかけることによってエネルギー障壁が薄くなり、電子が原子状態からトンネル抜けすることによって電子の放出が起こる。したがって、電流は電界におおよそ指数関数的に依存する。フラッシュメモリーや真空管、電子顕微鏡などにおいて重要である。
非常に薄い不導体を二つの導体で挟み込むことによって単純な障壁を作ることができる。これをトンネル接合とよび、量子トンネルの研究に用いられる。ジョセフソン接合は超伝導と量子トンネルを利用するジョセフソン効果を起こすための構造である。これは電圧と磁場の精密計測、および多接合太陽電池(英語版)に応用できる。
ダイオードとは、電流を一方向にしか流さない半導体素子である。この素子はn型とp型の半導体の接合面に生じる空乏層に依存して動作している。半導体のドープ率を極めて高くすると、空乏層が量子トンネリングが生じるほど薄くなる。すると、順バイアスが小さい場合にはトンネリングによる電流が支配的となる。この電流はバイアス電圧がp型およびn型の伝導帯エネルギー準位が一致するような値のとき最大となる。バイアス電圧をさらに増していくと、伝導体がもはや一致しなくなり通常のダイオードと同様の動作を示すようになる。
トンネル電流は急速に低下するため、電圧が増すと電流が減るような電圧領域を持つトンネルダイオードを作成することが可能である。このような特異的特性は、電圧の変化の速さに量子トンネル確率の変化が追従できるような高速素子などにおいて応用されている。
共鳴トンネルダイオードは同じような結果を達成するが、量子トンネリングを全く異る方法で応用している。このダイオードは伝導体のエネルギー準位が高い薄膜を複数近接して配置することにより、特定の電圧で大きな電流が流れる共鳴電圧を持つ。このような配置により最低エネルギー準位が不連続に変化する量子ポテンシャル井戸が形成される。このエネルギー準位が電子のエネルギー準位よりも高い場合はトンネリングは起こらず、逆バイアスのかかったダイオードのように動作する。二つのエネルギー準位が一致したとき、電子は導線で繋がれたかのように流れる。電圧をさらに高くするとトンネリングが起こらなくなり、あるエネルギー準位からはまた通常のダイオードのように動作しはじめる。
ヨーロッパの研究プロジェクトにより、ゲート(チャネル)を熱注入ではなく量子トンネリングで制御することにより、ゲート電圧を ~1 ボルトから 0.2 ボルトに低減し、電力消費量を 100分の1以下に抑えた電界効果トランジスタが実証された。このトランジスタをVLSIチップ(英語版)にまでスケールアップすることができれば、集積回路の電力性能効率を大きく向上させることができる。
電気伝導におけるドルーデモデルは金属中の電子の伝導について優れた予言を行うが、電子の衝突時の性質について量子トンネルを考慮して改良することができる。自由電子波束が等間隔に並んだ長い障壁の列に遭遇すると、反射された波束と透過する波束が均一に干渉して透過率が100%となる場合がある。この理論によれば、正に帯電した原子核が完全な長方形格子を構成する場合、電子は金属中を自由電子のようにトンネリングし、極めて高い伝導度を示すこと、および金属中の不純物によりこれが大きく阻害されることが予言される。
ゲルト・ビーニッヒとハインリッヒ・ローラーにより発明された走査型トンネル顕微鏡 (STM) は、金属表面の個々の原子を判別できる画像を撮像できる。これは量子トンネル確率が位置に依存する性質を利用したものである。バイアス電圧を掛けたSTM針の針先が伝導体表面に近付くと、針から表面へと電子がトンネリングし、これを電流として計測することができる。この電流により、針と表面の距離を計測できる。圧電素子に印加する電圧を制御して、針が表面と一定距離を保つように伸び縮みさせることができる。圧電素子に印加した電圧の時間変化を記録すれば、表面の像を得ることができる。STMの精度は 0.001 nm、すなわち原子直径の 1% に及ぶ。
スピンゼロ粒子がトンネリングするとき、光速を超えて移動することがある。これは一見相対論的因果律に反しているように見えるが、波束の伝播を詳しく解析すると、相対性理論に反していないことがわかる。1998年、フランシス・E・ロー(英語版)はゼロ時間トンネリングについてのレビューを執筆した。フォノン、光子、電子のトンネル時間についてのより新しい実験データはギュンター・ニムツ(英語版)により発表されている。
以下の節では量子トンネルの数学的公式化について論じる。
一粒子・一次元の時間非依存シュレーディンガー方程式は以下のように書ける。
ここで ħ {\displaystyle \hbar } はディラック定数、m は粒子質量、x は粒子の動く方向に沿って測った位置、Ψ はシュレーディンガーの波動関数、V は粒子はポテンシャルエネルギー、E は x 方向に運動する粒子のエネルギー、M(x) は広く受け入れられている物理学的な名前はないが V(x) − E により定義される量である。
このシュレーディンガー方程式の解は M(x) が正か負かによって異る形式をとる。M(x) が定数で負のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。
この方程式の解は位相定数が +k または -k の進行波を表わす。一方、M(x) が定数で正のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。
この方程式の解はエバネッセント波を表わす。M(x) が位置によって変化する場合も、M(x) が負か正かによって同じ挙動の違いが生じる。したがって、M(x) の符号が媒質の性質を表わしている。M(x) が負ならば上で説明した媒質Aに相当し、正ならば媒質Bに相当する。したがって、M(x) が正の領域が M(x) が負の領域に挟まれている場合に障壁が形成され、エバネッセント波結合が生じうる。
M(x) が x によって変化する場合は数学的取扱が困難であるが、通常は実際の物理系に対応しない例外的な特殊例もいくつかある。教科書に載っているような半古典近似法に関連した議論は次節で述べる。完全で複雑な数学的取扱に関しては、Fröman & Fröman 1965を参照されたい。彼らの手法は教科書には載っていないが、定量的には小さな影響しかない補正である。
波動関数を以下のようにある関数の指数関数を取って表わすものとする。
Φ ′ ( x ) {\displaystyle \Phi '(x)} は実部と虚部に分けることができる。
上の第二式にこれを代入し、左辺の虚部が零となる必要があることを用いると、次を得る。
この方程式を半古典近似を用いて解くには、各関数を ħ {\displaystyle \hbar } の羃級数に展開する。この方程式の実部を満たすためには、羃級数が少なくとも ħ − 1 {\displaystyle \hbar ^{-1}} から始まる必要があることがわかる。古典極限の振舞いを良くするためにはプランク定数の次数はなるべく高い方がよいので、次のように置くこととする。
また、最低次の項については次のような拘束が課せられる。
ここで、二つの極端な場合について考察する。
どちらの場合でも、近似解の分子を見れば古典的折り返し点 E = V ( x ) {\displaystyle E=V(x)} 付近で破綻することが瞭然だろう。このポテンシャルの丘から遠いところでは、粒子は自由に振動する波と類似の振る舞いを示す。ポテンシャルの丘のふもとでは、粒子の振幅は指数関数的に変化する。これらの極限における振る舞いと折り返し点を考慮すると、大域解を得ることができる。
はじめに、古典的折り返し点を x1 とし、 2 m ħ 2 ( V ( x ) − E ) {\displaystyle {\frac {2m}{\hbar ^{2}}}\left(V(x)-E\right)} を x1 周りの羃級数で展開する。
この初項のみを採れば線形性が保証される。
この近似を用いると、x1 近傍について次の微分方程式を得る。
これはエアリー関数を用いて解くことができる。
この解を全ての古典的折り返し点について用いることで、上の極端な場合の解を繋ぐ大域解を得ることができる。古典的折り返し点の片側で2つの係数が与えられれば、逆側の2つの係数はこの局所解を用いてそれらを繋ぐことで決定することができる。
したがって、エアリー関数解は適切な極限の元で sin, cos 関数と指数関数に漸近する。 C , θ {\displaystyle C,\theta } , C + , C − {\displaystyle C_{+},C_{-}} の関係式は次のように得られる。
これらの係数が決まれば、大域解が得られる。したがって、一つのポテンシャル障壁をトンネリングする粒子の透過係数(英語版)は以下のように得られる。
ここで、x1, x2 はポテンシャル障壁にある二つの古典的折り返し点である。
矩形障壁の場合は、この式は次のように簡単化できる。 | [
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"text": "トンネル効果(トンネルこうか、英: tunnelling effect)は、量子力学において、波動関数がポテンシャル障壁を超えて伝播する現象である。",
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"text": "20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった。トンネル効果は、ハイゼンベルクの不確定性原理と、物質における粒子と波動の二重性を用いて説明できる。",
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},
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"text": "トンネル効果は、原子核崩壊や核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている。また、トンネルダイオード、量子コンピュータ、走査型トンネル顕微鏡、フラッシュメモリなどの装置において応用されているという意味でも重要である。",
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},
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"text": "1901年、ロバート・フランシス・イアハートは、電極間の距離を測定することができるマイケルソン干渉計を用いて、非常に近接した電極間における気体の電気伝導性を研究していたところ、予想に反して大きな電流が流れることを発見した。1911年から1914年にかけて、当時大学院生であったフランツ・ロターは、イアハートの手法を応用して、電極間の距離を制御及び測定する方法について研究した。ロターは、感度の高い検流計を用いて、電極間を流れる電流を測定することにより、電極間の距離を測定する方法を発案した。1926年、ロターは 26 pA(ピコアンペア) の感度をもつ検流計を用いて、高真空の環境下において、近接させた電極間を流れる電流を計測した。",
"title": "歴史"
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"text": "トンネル効果に係る理論は、放射能及び原子核物理学の研究によって発展した。フリードリッヒ・フントは1927年、二重井戸ポテンシャル(英語版)の基底状態の研究において、トンネル効果について初めて言及している。1928年、ジョージ・ガモフと、彼とは独立にロナルド・ガーニー(英語版)とエドワード・コンドン(英語版)により、アルファ崩壊の説明において、トンネル効果が応用された。彼らは、核ポテンシャルをモデル化したシュレーディンガー方程式を解き、粒子の半減期と、放出されるエネルギーとの関係式が、トンネル効果の起こる確率と直接関係していることを導いた。",
"title": "歴史"
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"text": "マックス・ボルンは、ガモフのセミナーに参加した際に、トンネル効果が原子核物理学の範囲内に留まらず、もっと普遍的な現象であることに気付いた。その直後、両グループは、トンネル効果によって粒子が原子核に取り込まれることについて考察した。1957年までに、半導体の研究とトランジスタやダイオードの開発を通じて、電子のトンネル効果が広く認知されるようになった。江崎玲於奈、アイヴァー・ジェーバー、ブライアン・ジョゼフソンは超伝導性クーパー対のトンネル効果を予言し、1973年のノーベル物理学賞を受賞した。2016年、水の量子トンネリング(英語版)が発見された。",
"title": "歴史"
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"text": "トンネル効果は、非常に微細な領域で発生する現象であるため、我々が直接知覚することはできない。また、古典力学では説明することができず、量子力学により取り扱う必要がある。",
"title": "基礎"
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"text": "例えば、ポテンシャル障壁に向かっている粒子を、丘を転がり上がるボールに喩えて考えた時、古典力学においては、障壁を乗り越えるだけのエネルギーを粒子が持っていない限り、粒子は障壁の向う側には到達できない。つまり、丘を乗り越えるだけのエネルギーを持たないボールは、途中で止まり丘を転がり落ち戻っていく。別の喩えを用いれば、壁を貫通するだけのエネルギーを持たない銃弾は跳ね返されるか、壁の中で止まる。ところが、量子力学においては、ある確率で粒子は障壁を貫通する。この場合、「ボール」は環境からエネルギーを「借りて」丘を乗り越え、反射電子のエネルギーを高くすることによってそれを返済する。",
"title": "基礎"
},
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"text": "このような違いは、量子力学における粒子と波動の二重性に起因する。この二重性により導かれるハイゼンベルクの不確定性原理によれば、粒子の位置と運動量は確定することができない。このことは、粒子はぼんやりとした雲のように存在している(存在確率に空間的な広がりがある)ことを意味しており、また、その確率が厳密に0(もしくは1)になるような解はない。したがって、障壁に粒子が衝突する時、障壁を挟んだ反対側には粒子の存在確率があり、障壁が薄ければ薄いほど、その存在確率は無視できないものとなる。",
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"text": "波動関数は系のすべての情報を持っている。系の波動関数を得るには、シュレーディンガー方程式(あるいはそれと等価な方程式)を解析的ないし数値的に解く必要がある。 通常、波動関数は位置の関数として表されるが、この場合、波動関数はある場所に粒子を見出す確率を与える(2乗絶対値が確率密度関数に対応する)。障壁を高くもしくは広くする極限をとれば、透過する確率は下がる。",
"title": "基礎"
},
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"text": "矩形ポテンシャル障壁のような単純な模型においては解析解が存在するが、一般には解析解を得ることは難しい。 そのため、系に応じたいくつかの仮定の下で近似を行い、近似的な解析解または数値解を得る手法が研究されている。",
"title": "基礎"
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"text": "例えばプランク定数が系の作用に比べて充分小さいと見なせる場合、シュレーディンガー方程式はハミルトン–ヤコビ方程式に帰着する。 WKB近似は、系がこのような準古典的振る舞いをすると仮定して近似解を求める手法である。",
"title": "基礎"
},
{
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"text": "量子トンネルと同じ振舞いをしめし、量子トンネルにより正確に説明できる現象がいくつか存在する。例として、古典的な波動・粒子関連性やエバネッセント波カップリング(光へのマクスウェル方程式の適用)、音響学における弦に発生する波への非拡散波動方程式の適用などがある。エバネッセント波カップリングは近年にいたるまで、量子力学では単に「トンネリング」と呼ばれていたが、別の文脈でこう呼ばれるようになった。",
"title": "関連する現象"
},
{
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"text": "これらの効果は矩形ポテンシャル障壁の場合と同じようにモデル化することができる。このような場合、波の伝播(英語版)が一様もしくはほぼ一様な媒質と、それとは伝播が異なるもうひとつの媒質が登場し、媒質B領域が一つ、媒質A領域が二つあるような形で説明できる。シュレーディンガー方程式を用いた矩形ポテンシャル障壁の解析は、媒質Aでは進行波解が得られ、媒質Bでは実指数関数解が得られるような別の効果に対しても有効である。",
"title": "関連する現象"
},
{
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"text": "光学では、媒質Aは真空で媒質Bはガラスである。音響学では、たとえば媒質Aは流体、媒質Bは固体とおける。この両方で、媒質A領域では粒子の総エネルギーがポテンシャルエネルギーよりも大きく、媒質Bがポテンシャル障壁となっている。この場合、入射波と反射波、透過波が得られる。さらに多くの媒質および障壁を設けることもあり、障壁が非連続ではない場合もある。このような場合は近似が便利である。",
"title": "関連する現象"
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"text": "スピン偏極共鳴トンネル効果はトンネル効果の一種である。2002年に産業技術総合研究所エレクトロニクス研究部門と科学技術振興事業団の研究チームによる単結晶ナノ構造電極を持つ新型TMR素子の開発過程において、室温でTMR素子の電極内部に量子井戸準位を生成すると磁気抵抗が巨大な振動を起こす現象、すなわちスピン偏極共鳴トンネル効果が発見された。室温で作動するスピントランジスタの実現が期待される。",
"title": "スピン偏極共鳴トンネル効果"
},
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"text": "量子トンネリングは障壁の厚さがおよそ 1–3 nm 以下の場合に起こるが、これはいくつかの重要な巨視的な物理現象の原因となっている。たとえば、VLSIにおいて電力損失および発熱の原因となり、ひいてはコンピュータチップのサイズダウン限界を定めている漏れ電流の原因は量子トンネリングである。",
"title": "応用"
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"text": "恒星内での核融合にとっても量子トンネルは重要である。恒星の核における温度と圧力をもってしても、クーロン障壁を乗り越えて熱核融合を引き起こすためには十分でない。しかし、量子トンネルのおかげでクーロン障壁を通り抜ける確率が存在する。この確率は非常に低いが、恒星に存在する原子核の数は莫大であり、数十億年にもわたって定常的に核融合が続くこととなる。ひいては、生物が限られたハビタブルゾーンの中で進化できるための前提条件となっている。",
"title": "応用"
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"text": "放射性崩壊とは不安定原子核が粒子とエネルギーを放出して安定な原子核へと変化する過程である。この過程は粒子が原子核内から外へトンネリングすることにより生じている(電子捕獲の場合は電子は外から内へトンネリングしている)。量子トンネルが初めて適用された例であり、初めての近似でもある。放射性崩壊は宇宙生物学上も重要である。ハビタブルゾーン外で日光の十分に届かない領域(たとえば深海底)で生物が長期間に渡って生存できる環境が放射性崩壊、ひいては量子トンネリングによって実現される可能性が指摘されている。",
"title": "応用"
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{
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"text": "量子トンネル効果を考慮することにより、分子状水素や水(氷)、および生命の起源として重要なホルムアルデヒドなどの様々な分子が星間雲において宇宙化学的に合成されている理由を説明できる。",
"title": "応用"
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"text": "量子生物学において、無視できない量子効果の筆頭として量子トンネル効果が挙げられる。ここでは、電子トンネリングとプロトントンネリングの二つが重要となる。電子トンネリングは多くの生化学的酸化還元反応(光合成、細胞呼吸)および酵素反応のキーファクターであり、またプロトントンネリングはDNA自発変異におけるキーファクターである。",
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"text": "DNA自発変異は通常のDNA複製時において、特に重要なプロトンが確率の低い量子トンネリングを起こすことによって生じ、これを量子生物学では「プロトントンネリング」と呼ぶ。通常のDNA塩基対は水素結合で会合している。水素結合に沿って見ると、二重井戸ポテンシャル構造が生じており、片方がより深くもう片方が浅い非対称となっていると考えられている。このため、プロトンは通常深い方の井戸に収まっていると考えられる。変異が起こるためにはプロトンは浅い方の井戸にトンネル抜けする必要がある。このようなプロトンの通常位置からの移動は互変異性遷移と呼ばれる。このような状態でDNAの複製が始まった場合、DNA塩基対の会合則が乱され、変異が起こりうる。ペル=オロフ・レフディン(英語版)が初めて二重螺旋中における自発変異を取り扱うこの理論を構築した。その他の量子トンネル由来の変異が老化や癌化の原因であると考えられている。",
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"text": "電子の電界放出は半導体物理学や超伝導体物理学に関連する。これは電子がランダムに金属表面から飛び出すという点で熱電子放出と似ている。熱電子放出では互いに衝突しあう粒子がエネルギー障壁を越えるエネルギーを獲得して放出されるが、電界放出では強い電界をかけることによってエネルギー障壁が薄くなり、電子が原子状態からトンネル抜けすることによって電子の放出が起こる。したがって、電流は電界におおよそ指数関数的に依存する。フラッシュメモリーや真空管、電子顕微鏡などにおいて重要である。",
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"text": "非常に薄い不導体を二つの導体で挟み込むことによって単純な障壁を作ることができる。これをトンネル接合とよび、量子トンネルの研究に用いられる。ジョセフソン接合は超伝導と量子トンネルを利用するジョセフソン効果を起こすための構造である。これは電圧と磁場の精密計測、および多接合太陽電池(英語版)に応用できる。",
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"text": "電気伝導におけるドルーデモデルは金属中の電子の伝導について優れた予言を行うが、電子の衝突時の性質について量子トンネルを考慮して改良することができる。自由電子波束が等間隔に並んだ長い障壁の列に遭遇すると、反射された波束と透過する波束が均一に干渉して透過率が100%となる場合がある。この理論によれば、正に帯電した原子核が完全な長方形格子を構成する場合、電子は金属中を自由電子のようにトンネリングし、極めて高い伝導度を示すこと、および金属中の不純物によりこれが大きく阻害されることが予言される。",
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"text": "ゲルト・ビーニッヒとハインリッヒ・ローラーにより発明された走査型トンネル顕微鏡 (STM) は、金属表面の個々の原子を判別できる画像を撮像できる。これは量子トンネル確率が位置に依存する性質を利用したものである。バイアス電圧を掛けたSTM針の針先が伝導体表面に近付くと、針から表面へと電子がトンネリングし、これを電流として計測することができる。この電流により、針と表面の距離を計測できる。圧電素子に印加する電圧を制御して、針が表面と一定距離を保つように伸び縮みさせることができる。圧電素子に印加した電圧の時間変化を記録すれば、表面の像を得ることができる。STMの精度は 0.001 nm、すなわち原子直径の 1% に及ぶ。",
"title": "応用"
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"text": "スピンゼロ粒子がトンネリングするとき、光速を超えて移動することがある。これは一見相対論的因果律に反しているように見えるが、波束の伝播を詳しく解析すると、相対性理論に反していないことがわかる。1998年、フランシス・E・ロー(英語版)はゼロ時間トンネリングについてのレビューを執筆した。フォノン、光子、電子のトンネル時間についてのより新しい実験データはギュンター・ニムツ(英語版)により発表されている。",
"title": "超光速"
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"text": "以下の節では量子トンネルの数学的公式化について論じる。",
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"text": "ここで ħ {\\displaystyle \\hbar } はディラック定数、m は粒子質量、x は粒子の動く方向に沿って測った位置、Ψ はシュレーディンガーの波動関数、V は粒子はポテンシャルエネルギー、E は x 方向に運動する粒子のエネルギー、M(x) は広く受け入れられている物理学的な名前はないが V(x) − E により定義される量である。",
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"text": "このシュレーディンガー方程式の解は M(x) が正か負かによって異る形式をとる。M(x) が定数で負のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
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"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "この方程式の解は位相定数が +k または -k の進行波を表わす。一方、M(x) が定数で正のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "この方程式の解はエバネッセント波を表わす。M(x) が位置によって変化する場合も、M(x) が負か正かによって同じ挙動の違いが生じる。したがって、M(x) の符号が媒質の性質を表わしている。M(x) が負ならば上で説明した媒質Aに相当し、正ならば媒質Bに相当する。したがって、M(x) が正の領域が M(x) が負の領域に挟まれている場合に障壁が形成され、エバネッセント波結合が生じうる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "M(x) が x によって変化する場合は数学的取扱が困難であるが、通常は実際の物理系に対応しない例外的な特殊例もいくつかある。教科書に載っているような半古典近似法に関連した議論は次節で述べる。完全で複雑な数学的取扱に関しては、Fröman & Fröman 1965を参照されたい。彼らの手法は教科書には載っていないが、定量的には小さな影響しかない補正である。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "波動関数を以下のようにある関数の指数関数を取って表わすものとする。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "Φ ′ ( x ) {\\displaystyle \\Phi '(x)} は実部と虚部に分けることができる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "上の第二式にこれを代入し、左辺の虚部が零となる必要があることを用いると、次を得る。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "この方程式を半古典近似を用いて解くには、各関数を ħ {\\displaystyle \\hbar } の羃級数に展開する。この方程式の実部を満たすためには、羃級数が少なくとも ħ − 1 {\\displaystyle \\hbar ^{-1}} から始まる必要があることがわかる。古典極限の振舞いを良くするためにはプランク定数の次数はなるべく高い方がよいので、次のように置くこととする。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "また、最低次の項については次のような拘束が課せられる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "ここで、二つの極端な場合について考察する。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "どちらの場合でも、近似解の分子を見れば古典的折り返し点 E = V ( x ) {\\displaystyle E=V(x)} 付近で破綻することが瞭然だろう。このポテンシャルの丘から遠いところでは、粒子は自由に振動する波と類似の振る舞いを示す。ポテンシャルの丘のふもとでは、粒子の振幅は指数関数的に変化する。これらの極限における振る舞いと折り返し点を考慮すると、大域解を得ることができる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "はじめに、古典的折り返し点を x1 とし、 2 m ħ 2 ( V ( x ) − E ) {\\displaystyle {\\frac {2m}{\\hbar ^{2}}}\\left(V(x)-E\\right)} を x1 周りの羃級数で展開する。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "この初項のみを採れば線形性が保証される。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "この近似を用いると、x1 近傍について次の微分方程式を得る。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
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"tag": "p",
"text": "これはエアリー関数を用いて解くことができる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "この解を全ての古典的折り返し点について用いることで、上の極端な場合の解を繋ぐ大域解を得ることができる。古典的折り返し点の片側で2つの係数が与えられれば、逆側の2つの係数はこの局所解を用いてそれらを繋ぐことで決定することができる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "したがって、エアリー関数解は適切な極限の元で sin, cos 関数と指数関数に漸近する。 C , θ {\\displaystyle C,\\theta } , C + , C − {\\displaystyle C_{+},C_{-}} の関係式は次のように得られる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "これらの係数が決まれば、大域解が得られる。したがって、一つのポテンシャル障壁をトンネリングする粒子の透過係数(英語版)は以下のように得られる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "ここで、x1, x2 はポテンシャル障壁にある二つの古典的折り返し点である。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "矩形障壁の場合は、この式は次のように簡単化できる。",
"title": "量子トンネルの数学的表現"
}
] | トンネル効果は、量子力学において、波動関数がポテンシャル障壁を超えて伝播する現象である。 20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった。トンネル効果は、ハイゼンベルクの不確定性原理と、物質における粒子と波動の二重性を用いて説明できる。 トンネル効果は、原子核崩壊や核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている。また、トンネルダイオード、量子コンピュータ、走査型トンネル顕微鏡、フラッシュメモリなどの装置において応用されているという意味でも重要である。 | {{Otheruses||写真の撮影技法|口径食}}
[[ファイル:TunnelEffektKling1.png|右|サムネイル|300x300ピクセル|矩形ポテンシャル障壁を越える量子トンネル。トンネル抜け前後で粒子のエネルギー(波長)は変わらないが確率振幅は減少する。]]'''トンネル効果'''(トンネルこうか、{{lang-en-short|tunnelling effect}})は、[[量子力学]]において、[[波動関数]]が[[ポテンシャル障壁]]を超えて[[伝播]]する[[現象]]である。
20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった<ref name="Razavy">{{Cite book|last=Razavy|first=Mohsen|title=Quantum Theory of Tunneling|year=2003|publisher=World Scientific|ISBN=9812564888|pages=4, 462}}</ref>。トンネル効果は、ハイゼンベルクの[[不確定性原理]]と、物質における[[粒子と波動の二重性]]を用いて説明できる。
トンネル効果は、[[原子核崩壊]]や[[核融合反応|核融合]]など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている<ref>{{Cite journal|last=Gurney|first=R. W.|last2=Condon|first2=E. U.|date=1929-02-01|title=Quantum Mechanics and Radioactive Disintegration|url=https://doi.org/10.1103/physrev.33.127|journal=Physical Review|volume=33|issue=2|pages=127–140|doi=10.1103/physrev.33.127|issn=0031-899X}}</ref><ref>{{Cite book|last=Serway|title=College Physics|edition=Eighth|year=2008|publisher=Brooks/Cole|ISBN=978-0-495-55475-2|volume=2|location=Belmont|last2=Vuille}}</ref>。また、[[トンネルダイオード]]<ref>{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=234}}</ref>、[[量子コンピュータ]]、[[走査型トンネル顕微鏡]]、[[フラッシュメモリ]]などの装置において応用されているという意味でも重要である。
== 歴史 ==
1901年、ロバート・フランシス・イアハートは、電極間の距離を測定することができる[[マイケルソン干渉計]]を用いて、非常に近接した電極間における気体の電気伝導性を研究していたところ、予想に反して大きな電流が流れることを発見した。1911年から1914年にかけて、当時大学院生であったフランツ・ロターは、イアハートの手法を応用して、電極間の距離を制御及び測定する方法について研究した。ロターは、感度の高い検流計を用いて、電極間を流れる電流を測定することにより、電極間の距離を測定する方法を発案した。1926年、ロターは {{val|26|ul=pA}}(ピコアンペア) の感度をもつ検流計を用いて、高真空の環境下において、近接させた電極間を流れる電流を計測した<ref>{{Cite web|url=https://www.researchgate.net/publication/294260678_The_STM_Scanning_Tunneling_Microscope_The_forgotten_contribution_of_Robert_Francis_Earhart_to_the_discovery_of_quantum_tunneling|title=The STM (Scanning Tunneling Microscope) [The forgotten contribution of Robert Francis Earhart to the discovery of quantum tunneling.]|author=Thomas Cuff|work=ResearchGate|doi=10.13140/RG.2.1.2987.7527|accessdate=2016-05-01}}</ref>。
トンネル効果に係る理論は、[[放射能]]及び[[原子核物理学]]の研究によって発展した。[[フリードリッヒ・フント]]は1927年、{{仮リンク|二重井戸ポテンシャル|en|Double-well potential}}の基底状態の研究において、トンネル効果について初めて言及している<ref name="Nimtz">{{Cite book|last=Nimtz|title=Zero Time Space|year=2008|publisher=Wiley-VCH|page=1|last2=Haibel}}</ref>。1928年、[[ジョージ・ガモフ]]と、彼とは独立に{{仮リンク|ロナルド・ガーニー|en|Ronald Wilfred Gurney}}と{{仮リンク|エドワード・コンドン|en|Edward Condon}}により、[[アルファ崩壊]]の説明において、トンネル効果が応用された<ref>{{Cite journal|last=Gurney|first=R. W.|year=1928|title=Quantum Mechanics and Radioactive Disintegration|journal=Nature|volume=122|issue=3073|pages=439|bibcode=1928Natur.122..439G|doi=10.1038/122439a0}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Gurney|first=R. W.|year=1929|title=Quantum Mechanics and Radioactive Disintegration|journal=Phys. Rev|volume=33|issue=2|pages=127–140|bibcode=1929PhRv...33..127G|doi=10.1103/PhysRev.33.127}}</ref><ref>{{Cite interview2|df=ja|last=Bethe|first=Hans|subject-link=ハンス・ベーテ|interviewer=Charles Weiner; Jagdish Mehra|title=Hans Bethe - Session I|url=https://www.aip.org/history-programs/niels-bohr-library/oral-histories/4504-1|work=Niels Bohr Library & Archives, American Institute of Physics, College Park, MD USA|place=Cornell University|date=27 October 1966|access-date=2016-05-01}}</ref><ref name="Nuc&RadChem">{{Cite book|last=Friedlander|first=Gerhart|title=Nuclear and Radiochemistry|edition=2nd|year=1964|publisher=John Wiley & Sons|ISBN=978-0-471-86255-0|pages=225–7|location=New York|last2=Kennedy|last3=Miller|first2=Joseph E.|first3=Julian Malcolm}}</ref>。彼らは、核ポテンシャルをモデル化した[[シュレーディンガー方程式]]を解き、粒子の[[半減期]]と、放出されるエネルギーとの関係式が、トンネル効果の起こる確率と直接関係していることを導いた。
[[マックス・ボルン]]は、ガモフのセミナーに参加した際に、トンネル効果が[[原子核物理学]]の範囲内に留まらず、もっと普遍的な現象であることに気付いた<ref name="Razavy">{{Cite book|last=Razavy|first=Mohsen|title=Quantum Theory of Tunneling|year=2003|publisher=World Scientific|ISBN=9812564888|pages=4, 462}}</ref>。その直後、両グループは、トンネル効果によって粒子が原子核に取り込まれることについて考察した。1957年までに、[[半導体]]の研究と[[トランジスタ]]や[[ダイオード]]の開発を通じて、電子のトンネル効果が広く認知されるようになった。[[江崎玲於奈]]、[[アイヴァー・ジェーバー]]、[[ブライアン・ジョゼフソン]]は[[超伝導]]性[[クーパー対]]のトンネル効果を予言し、1973年の[[ノーベル物理学賞]]を受賞した<ref name="Razavy">{{Cite book|last=Razavy|first=Mohsen|title=Quantum Theory of Tunneling|year=2003|publisher=World Scientific|ISBN=9812564888|pages=4, 462}}</ref>。2016年、{{仮リンク|水の量子トンネリング|en|Quantum tunneling of water}}が発見された<ref>{{Cite web|url=http://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.116.167802|title=Quantum Tunneling of Water in Beryl: A New State of the Water Molecule|accessdate=2016-04-23|date=2016-04-22|work=[[Physical Review Letters]]|doi=10.1103/PhysRevLett.116.167802}}</ref>。
== 基礎 ==
[[ファイル:Quantum tunnel effect and its application to the scanning tunneling microscope.ogv|右|サムネイル|トンネル効果とその[[走査型トンネル顕微鏡|STM]]への応用を図示したアニメーション]]
[[ファイル:EffetTunnel.gif|右|サムネイル|200x200ピクセル|電子[[波束]]がポテンシャル障壁とぶつかる様子。右側へ抜ける淡い点がトンネル抜けをした電子を表わす。]][[ファイル:Quantum Tunnelling animation.gif|右|サムネイル|300x300ピクセル|障壁を越える量子トンネル。原点 (x=0) に非常に高く狭いポテンシャル障壁が存在する。顕著なトンネル効果が見られる。]]
トンネル効果は、非常に微細な領域で発生する現象であるため、我々が直接知覚することはできない。また、[[古典力学]]では説明することができず、[[量子力学]]により取り扱う必要がある。
例えば、[[ポテンシャル障壁]]に向かっている粒子を、丘を転がり上がるボールに喩えて考えた時、古典力学においては、障壁を乗り越えるだけのエネルギーを粒子が持っていない限り、粒子は障壁の向う側には到達できない。つまり、丘を乗り越えるだけのエネルギーを持たないボールは、途中で止まり丘を転がり落ち戻っていく。別の喩えを用いれば、壁を貫通するだけのエネルギーを持たない銃弾は跳ね返されるか、壁の中で止まる。ところが、量子力学においては、ある確率で粒子は障壁を貫通する。この場合、「ボール」は環境からエネルギーを「借りて」丘を乗り越え、反射電子のエネルギーを高くすることによってそれを返済する<ref>{{Cite journal|last=Davies|first=P. C. W.|year=2005|title=Quantum tunneling time|url=http://www.quantum3000.narod.ru/papers/edu/quantum_tunelling.pdf|journal=American Journal of Physics|volume=73|pages=23|arxiv=quant-ph/0403010|bibcode=2005AmJPh..73...23D|doi=10.1119/1.1810153}}</ref>。
このような違いは、量子力学における[[粒子と波動の二重性]]に起因する。この二重性により導かれる[[ヴェルナー・ハイゼンベルク|ハイゼンベルク]]の[[不確定性原理]]によれば、粒子の位置と[[運動量]]は確定することができない<ref name="Nimtz">{{Cite book|last=Nimtz|title=Zero Time Space|year=2008|publisher=Wiley-VCH|page=1|last2=Haibel}}</ref>。このことは、粒子はぼんやりとした雲のように存在している(存在確率に空間的な広がりがある)ことを意味しており、また、その確率が厳密に0(もしくは1)になるような解はない。したがって、障壁に粒子が衝突する時、障壁を挟んだ反対側には粒子の存在確率があり、障壁が薄ければ薄いほど、その存在確率は無視できないものとなる。[[File:Wigner function for tunnelling.ogv|250px|thumb|量子トンネリングを[[相空間]]上に表現した図。<math>U(x)=8e^{-0.25 x^2}</math>([[原子単位]])で表わされるポテンシャル障壁をトンネル抜けする粒子の[[ウィグナー関数]]の時間発展を図示してある。実線は[[ハミルトニアン]]<math>H(x,p) = p^2 / 2 + U(x) </math>の[[等位集合|等値線]]を表わす。]]
=== トンネリング問題 ===
[[波動関数]]は[[系 (自然科学)|系]]のすべての情報を持っている<ref>Bjorken and Drell, "Relativistic Quantum Mechanics", page 2. </ref>。系の波動関数を得るには、[[シュレーディンガー方程式]](あるいはそれと等価な方程式)を解析的ないし数値的に解く必要がある。
通常、波動関数は位置の関数として表されるが、この場合、波動関数はある場所に粒子を見出す確率を与える(2乗[[絶対値]]が[[確率密度関数]]に対応する)。障壁を高くもしくは広くする極限をとれば、透過する確率は下がる。
矩形ポテンシャル障壁のような単純な模型においては解析解が存在するが、一般には解析解を得ることは難しい。
そのため、系に応じたいくつかの仮定の下で[[近似]]を行い、近似的な解析解または数値解を得る手法が研究されている。
例えば[[プランク定数]]が系の[[作用 (物理学)|作用]]に比べて充分小さいと見なせる場合、シュレーディンガー方程式は[[ハミルトン–ヤコビ方程式]]に帰着する。
[[WKB近似]]は、系がこのような'''準古典的'''振る舞いをすると仮定して近似解を求める手法である。
== 関連する現象 ==
量子トンネルと同じ振舞いをしめし、量子トンネルにより正確に説明できる現象がいくつか存在する。例として、古典的な波動・粒子関連性<ref>{{Cite journal2|df=ja|last=Eddi|first=A.|date=2009-06-16|title=Unpredictable Tunneling of a Classical Wave-Particle Association|url=http://stilton.tnw.utwente.nl/people/eddi/Papers/PhysRevLett_TUNNEL.pdf|journal=Physical Review Letters|volume=102|issue=24|accessdate=2016-05-01|format=PDF|bibcode=2009PhRvL.102x0401E|doi=10.1103/PhysRevLett.102.240401|archive-url=https://web.archive.org/web/20210417195213/http://stilton.tnw.utwente.nl/people/eddi/Papers/PhysRevLett_TUNNEL.pdf|archive-date=2021-04-17}}</ref>や[[エバネッセント場|エバネッセント波カップリング]]([[光]]への[[マクスウェルの方程式|マクスウェル方程式]]の適用)、[[音響学]]における[[波動|弦に発生する波]]への[[波動方程式|非拡散波動方程式]]の適用などがある。エバネッセント波カップリングは近年にいたるまで、量子力学では単に「トンネリング」と呼ばれていたが、別の文脈でこう呼ばれるようになった。
これらの効果は[[矩形ポテンシャル障壁]]の場合と同じようにモデル化することができる。このような場合、{{仮リンク|波の伝播|en|Wave propagation}}が一様もしくはほぼ一様な[[媒質]]と、それとは伝播が異なるもうひとつの媒質が登場し、媒質B領域が一つ、媒質A領域が二つあるような形で説明できる。シュレーディンガー方程式を用いた矩形ポテンシャル障壁の解析は、媒質Aでは[[波動|進行波]]解が得られ、媒質Bでは実[[指数関数]]解が得られるような別の効果に対しても有効である。
[[光学]]では、媒質Aは真空で媒質Bはガラスである。音響学では、たとえば媒質Aは流体、媒質Bは固体とおける。この両方で、媒質A領域では粒子の[[エネルギー|総エネルギー]]が[[位置エネルギー|ポテンシャルエネルギー]]よりも大きく、媒質Bがポテンシャル障壁となっている。この場合、入射波と反射波、透過波が得られる。さらに多くの媒質および障壁を設けることもあり、障壁が非連続ではない場合もある。このような場合は近似が便利である。
== スピン偏極共鳴トンネル効果 ==
スピン偏極共鳴トンネル効果はトンネル効果の一種である。2002年に[[産業技術総合研究所]]エレクトロニクス研究部門と[[科学技術振興事業団]]の研究チームによる単結晶ナノ構造電極を持つ新型TMR素子の開発過程において、室温で[[トンネル磁気抵抗効果|TMR素子]]の[[電極]]内部に[[量子井戸]]準位を生成すると[[磁気抵抗]]が巨大な振動を起こす現象、すなわちスピン偏極共鳴トンネル効果が発見された<ref name="MMS01">{{Cite web|和書|title=スピン偏極共鳴トンネル効果を発見 |publisher=[[産業技術総合研究所]] |date=2002-07-12 |url=https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2002/pr20020712/pr20020712.html |accessdate=2019-01-25}}</ref><ref>湯浅新治, 長浜太郎, 鈴木義茂、「[https://doi.org/10.11316/jpsgaiyo.57.2.3.0_349_1 7pWA-1 強磁性トンネル接合のスピン偏極共鳴トンネル効果(トンネル磁気抵抗・スピン注入磁化反転,領域3)]」 『日本物理学会講演概要集』 57.2. 3, {{doi|10.11316/jpsgaiyo.57.2.3.0_349_1}}, 一般社団法人 日本物理学会, 2002.</ref><ref>湯浅新治, 長浜太郎, 鈴木義茂 ほか、「[https://doi.org/10.11316/butsuri1946.58.38 磁気トンネル接合の TMR 効果と共鳴トンネル効果 (最近の研究から)]」 『日本物理学会誌』 2003年 58巻 1号 p.38-42, {{doi|10.11316/butsuri1946.58.38}}</ref><ref>Yuasa, S., T. Nagahama, and Y. Suzuki. "[https://www.researchgate.net/profile/Taro_Nagahama/publication/11263346_Spin-Polarized_Resonant_Tunneling_in_Magnetic_Tunnel_Junctions/links/551c07580cf2909047b9a083/Spin-Polarized-Resonant-Tunneling-in-Magnetic-Tunnel-Junctions.pdf Spin-Polarized Resonant Tunneling in Magnetic Tunnel Junctions.]"Science 297 (2002): 234-237.</ref>。室温で作動する[[スピントランジスタ]]の実現が期待される。
== 応用 ==
量子トンネリングは障壁の厚さがおよそ {{val|1|-|3|ul=nm}} 以下の場合に起こる<ref>{{Cite book|last=Lerner|title=Encyclopedia of Physics|edition=2nd|year=1991|publisher=VCH|ISBN=0-89573-752-3|page=1308|location=New York|last2=Trigg}}</ref>が、これはいくつかの重要な巨視的な物理現象の原因となっている。たとえば、[[集積回路|VLSI]]において電力損失および発熱の原因となり、ひいてはコンピュータチップのサイズダウン限界を定めている漏れ電流の原因は量子トンネリングである<ref>{{Cite web|url=http://psi.phys.wits.ac.za/teaching/Connell/phys284/2005/lecture-02/lecture_02/node13.html|title=Applications of tunneling|author=Simon Connell|date=2006-02-21 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110723161704/http://psi.phys.wits.ac.za/teaching/Connell/phys284/2005/lecture-02/lecture_02/node13.html|archivedate=2011-07-23|accessdate=2018-4-15}}</ref>。
=== 恒星内での核融合 ===
恒星内での核融合にとっても量子トンネルは重要である。恒星の核における温度と圧力をもってしても、[[クーロン障壁]]を乗り越えて熱核融合を引き起こすためには十分でない。しかし、量子トンネルのおかげでクーロン障壁を通り抜ける確率が存在する。この確率は非常に低いが、恒星に存在する原子核の数は莫大であり、数十億年にもわたって定常的に核融合が続くこととなる。ひいては、[[生物]]が限られた[[ハビタブルゾーン]]の中で[[進化]]できるための前提条件となっている<ref name="Trixler2013">{{Cite journal|last=Trixler|first=F|date=2013|title=Quantum tunnelling to the origin and evolution of life.|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3768233/pdf/COC-17-1758.pdf|journal=Current Organic Chemistry|volume=17|issue=16|pages=1758-1770|doi=10.2174/13852728113179990083}}</ref>。
=== 放射性崩壊 ===
放射性崩壊とは不安定原子核が粒子とエネルギーを放出して安定な原子核へと変化する過程である。この過程は粒子が原子核内から外へトンネリングすることにより生じている([[電子捕獲]]の場合は電子は外から内へトンネリングしている)。量子トンネルが初めて適用された例であり、初めての近似でもある。放射性崩壊は[[宇宙生物学]]上も重要である。ハビタブルゾーン外で日光の十分に届かない領域(たとえば[[大洋|深海底]])で生物が長期間に渡って生存できる環境が放射性崩壊、ひいては量子トンネリングによって実現される可能性が指摘されている<ref name="Trixler2013">{{Cite journal|last=Trixler|first=F|date=2013|title=Quantum tunnelling to the origin and evolution of life.|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3768233/pdf/COC-17-1758.pdf|journal=Current Organic Chemistry|volume=17|issue=16|pages=1758-1770|doi=10.2174/13852728113179990083}}</ref>。
=== 星間雲における宇宙化学 ===
量子トンネル効果を考慮することにより、[[水素|分子状水素]]や[[水]]([[氷]])、および[[生命の起源]]として重要な[[ホルムアルデヒド]]などの様々な分子が[[星間雲]]において宇宙化学的に合成されている理由を説明できる<ref name="Trixler2013">{{Cite journal|last=Trixler|first=F|date=2013|title=Quantum tunnelling to the origin and evolution of life.|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3768233/pdf/COC-17-1758.pdf|journal=Current Organic Chemistry|volume=17|issue=16|pages=1758-1770|doi=10.2174/13852728113179990083}}</ref>。
=== 量子生物学 ===
[[量子生物学]]において、無視できない量子効果の筆頭として量子トンネル効果が挙げられる。ここでは、電子トンネリングとプロトントンネリングの二つが重要となる。電子トンネリングは多くの生化学的酸化還元反応([[光合成]]、[[細胞呼吸]])および[[酵素反応]]のキーファクターであり、またプロトントンネリングはDNA自発変異におけるキーファクターである<ref name="Trixler2013">{{Cite journal|last=Trixler|first=F|date=2013|title=Quantum tunnelling to the origin and evolution of life.|url=https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3768233/pdf/COC-17-1758.pdf|journal=Current Organic Chemistry|volume=17|issue=16|pages=1758-1770|doi=10.2174/13852728113179990083}}</ref>。
DNA自発変異は通常の[[DNA複製]]時において、特に重要なプロトンが確率の低い量子トンネリングを起こすことによって生じ、これを量子生物学では「プロトントンネリング」と呼ぶ<ref>{{Cite book|last=Matta|first=Cherif F.|title=Quantum Biochemistry: Electronic Structure and Biological Activity|url=https://books.google.com/books?id=a4JhVFaUOjgC|year=2014|publisher=Wiley-VCH|ISBN=978-3-527-62922-0|location=Weinheim}}</ref>。通常のDNA塩基対は水素結合で会合している。水素結合に沿って見ると、二重井戸ポテンシャル構造が生じており、片方がより深くもう片方が浅い非対称となっていると考えられている。このため、プロトンは通常深い方の井戸に収まっていると考えられる。変異が起こるためにはプロトンは浅い方の井戸にトンネル抜けする必要がある。このようなプロトンの通常位置からの移動は[[互変異性]]遷移と呼ばれる。このような状態でDNAの複製が始まった場合、DNA塩基対の会合則が乱され、変異が起こりうる<ref>{{Cite book|last=Majumdar|first=Rabi|title=Quantum Mechanics: In Physics and Chemistry with Applications to Bioloty|url=https://books.google.com/books?id=IJDvyNVeBiYC|year=2011|publisher=PHI Learning|ISBN=9788120343047|location=Newi}}</ref>。{{仮リンク|ペル=オロフ・レフディン|en|Per-Olov Löwdin}}が初めて二重螺旋中における自発変異を取り扱うこの理論を構築した。その他の量子トンネル由来の変異が[[老化]]や[[癌]]化の原因であると考えられている<ref>{{Cite journal|last=Cooper|first=WG|date=June 1993|title=Roles of Evolution, Quantum Mechanics and Point Mutations in Origins of Cancer|journal=Cancer Biochemistry Biophysics|volume=13|issue=3|pages=147–70|pmid=8111728}}</ref>。
=== 電界放出 ===
[[電子]]の[[電界放出]]は[[半導体]]物理学や[[超伝導]]体物理学に関連する。これは電子がランダムに金属表面から飛び出すという点で[[エジソン効果|熱電子放出]]と似ている。熱電子放出では互いに衝突しあう粒子がエネルギー障壁を越えるエネルギーを獲得して放出されるが、電界放出では強い電界をかけることによってエネルギー障壁が薄くなり、電子が原子状態からトンネル抜けすることによって電子の放出が起こる。したがって、電流は電界におおよそ指数関数的に依存する<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>。[[フラッシュメモリ|フラッシュメモリー]]や[[真空管]]、[[電子顕微鏡]]などにおいて重要である。
=== トンネル接合 ===
非常に薄い不導体を二つの導体で挟み込むことによって単純な障壁を作ることができる。これをトンネル接合とよび、量子トンネルの研究に用いられる<ref>{{Cite book|last=Lerner|title=Encyclopedia of Physics|edition=2nd|year=1991|publisher=VCH|ISBN=0-89573-752-3|pages=1308–1309|location=New York|last2=Trigg}}</ref>。[[ジョセフソン効果|ジョセフソン接合]]は超伝導と量子トンネルを利用する[[ジョセフソン効果]]を起こすための構造である。これは[[電圧]]と[[磁場]]の精密計測<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>、および{{仮リンク|多接合太陽電池|en|Multijunction solar cell}}に応用できる。
[[ファイル:Rtd seq v3.gif|右|サムネイル|400x400ピクセル|ポテンシャル障壁の量子トンネルに基く[[共鳴トンネルダイオード]]の動作原理。]]
=== トンネルダイオード ===
[[ダイオード]]とは、電流を一方向にしか流さない[[半導体素子]]である。この素子は[[N型半導体|n型]]と[[p型]]の半導体の接合面に生じる[[空乏層]]に依存して動作している。半導体のドープ率を極めて高くすると、空乏層が量子トンネリングが生じるほど薄くなる。すると、順バイアスが小さい場合にはトンネリングによる電流が支配的となる。この電流は[[バイアス電圧]]がp型およびn型の[[伝導帯]]エネルギー準位が一致するような値のとき最大となる。バイアス電圧をさらに増していくと、伝導体がもはや一致しなくなり通常のダイオードと同様の動作を示すようになる<ref name="Krane">{{Cite book|last=Krane|first=Kenneth|title=Modern Physics|year=1983|publisher=John Wiley and Sons|ISBN=0-471-07963-4|page=423|location=New York}}</ref>。
トンネル電流は急速に低下するため、電圧が増すと電流が減るような電圧領域を持つトンネルダイオードを作成することが可能である。このような特異的特性は、電圧の変化の速さに量子トンネル確率の変化が追従できるような高速素子などにおいて応用されている<ref name="Krane">{{Cite book|last=Krane|first=Kenneth|title=Modern Physics|year=1983|publisher=John Wiley and Sons|ISBN=0-471-07963-4|page=423|location=New York}}</ref>。
[[共鳴トンネルダイオード]]は同じような結果を達成するが、量子トンネリングを全く異る方法で応用している。このダイオードは伝導体のエネルギー準位が高い薄膜を複数近接して配置することにより、特定の電圧で大きな電流が流れる共鳴電圧を持つ。このような配置により最低[[エネルギー準位]]が不連続に変化する量子[[井戸型ポテンシャル|ポテンシャル井戸]]が形成される。このエネルギー準位が電子のエネルギー準位よりも高い場合はトンネリングは起こらず、逆バイアスのかかったダイオードのように動作する。二つのエネルギー準位が一致したとき、電子は導線で繋がれたかのように流れる。電圧をさらに高くするとトンネリングが起こらなくなり、あるエネルギー準位からはまた通常のダイオードのように動作しはじめる<ref name="Knight">{{Cite book|last=Knight|first=R. D.|title=Physics for Scientists and Engineers: With Modern Physics|year=2004|publisher=Pearson Education|ISBN=0-321-22369-1|page=1311}}</ref>。
=== トンネル電界効果トランジスタ ===
ヨーロッパの研究プロジェクトにより、ゲート(チャネル)を熱注入ではなく量子トンネリングで制御することにより、ゲート電圧を ~1 ボルトから 0.2 ボルトに低減し、電力消費量を 100分の1以下に抑えた電界効果トランジスタが実証された。このトランジスタを{{仮リンク|VLSIチップ|en|Vlsi}}にまでスケールアップすることができれば、[[集積回路]]の電力性能効率を大きく向上させることができる<ref>{{Cite journal|last=Ionescu|first=Adrian M.|year=2011|title=Tunnel field-effect transistors as energy-efficient electronic switches|journal=[[Nature (journal)|Nature]]|volume=479|issue=7373|pages=329–337|bibcode=2011Natur.479..329I|doi=10.1038/nature10679|pmid=22094693}}</ref>。
=== 量子伝導 ===
[[電気抵抗率|電気伝導]]における[[ドルーデモデル]]は金属中の電子の伝導について優れた予言を行うが、電子の衝突時の性質について量子トンネルを考慮して改良することができる<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>。自由電子波束が等間隔に並んだ長い障壁の列に遭遇すると、反射された波束と透過する波束が均一に干渉して透過率が100%となる場合がある。この理論によれば、正に帯電した原子核が完全な長方形格子を構成する場合、電子は金属中を自由電子のようにトンネリングし、極めて高い[[電気抵抗|伝導度]]を示すこと、および金属中の不純物によりこれが大きく阻害されることが予言される<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>。
=== 走査型トンネル顕微鏡 ===
[[ゲルト・ビーニッヒ]]と[[ハインリッヒ・ローラー]]により発明された走査型トンネル顕微鏡 (STM) は、金属表面の個々の原子を判別できる画像を撮像できる<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>。これは量子トンネル確率が位置に依存する性質を利用したものである。バイアス電圧を掛けたSTM針の針先が伝導体表面に近付くと、針から表面へと電子がトンネリングし、これを電流として計測することができる。この電流により、針と表面の距離を計測できる。[[圧電素子]]に印加する電圧を制御して、針が表面と一定距離を保つように伸び縮みさせることができる。圧電素子に印加した電圧の時間変化を記録すれば、表面の像を得ることができる<ref name="Taylor">{{Cite book|last=Taylor|first=J.|title=Modern Physics for Scientists and Engineers|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805715-X|page=479}}</ref>。STMの精度は 0.001 nm、すなわち原子直径の 1% に及ぶ<ref name="Knight">{{Cite book|last=Knight|first=R. D.|title=Physics for Scientists and Engineers: With Modern Physics|year=2004|publisher=Pearson Education|ISBN=0-321-22369-1|page=1311}}</ref>。
== 超光速 ==
スピンゼロ粒子がトンネリングするとき、[[光速]]を超えて移動することがある<ref name="Razavy">{{Cite book|last=Razavy|first=Mohsen|title=Quantum Theory of Tunneling|year=2003|publisher=World Scientific|ISBN=9812564888|pages=4, 462}}</ref>。これは一見相対論的[[因果律]]に反しているように見えるが、波束の伝播を詳しく解析すると、相対性理論に反していないことがわかる。1998年、{{仮リンク|フランシス・E・ロー|en|Francis E. Low|redirect=1}}はゼロ時間トンネリングについてのレビューを執筆した<ref>{{Cite journal|last=Low|first=F. E.|year=1998|title=Comments on apparent superluminal propagation|journal=[[Annalen der Physik|Ann. Phys.]]|volume=7|issue=7–8|pages=660–661|bibcode=1998AnP...510..660L|doi=10.1002/(SICI)1521-3889(199812)7:7/8<660::AID-ANDP660>3.0.CO;2-0}}</ref>。[[フォノン]]、[[光子]]、[[電子]]のトンネル時間についてのより新しい実験データは{{仮リンク|ギュンター・ニムツ|en|Günter Nimtz}}により発表されている<ref>{{Cite journal|last=Nimtz|first=G.|year=2011|title=Tunneling Confronts Special Relativity|journal=[[Foundations of Physics|Found. Phys.]]|volume=41|issue=7|pages=1193–1199|arxiv=1003.3944|bibcode=2011FoPh...41.1193N|doi=10.1007/s10701-011-9539-2}}</ref>。
== 量子トンネルの数学的表現 ==
以下の節では量子トンネルの数学的公式化について論じる。
=== シュレーディンガー方程式 ===
一粒子・一[[次元 (数学)|次元]]の[[シュレーディンガー方程式|時間非依存シュレーディンガー方程式]]は以下のように書ける。
: <math>-\frac{\hbar^2}{2m} \frac{\mathrm d^2}{\mathrm dx^2} \Psi(x) + V(x) \Psi(x) = E \Psi(x)</math>
: <math>\frac{d^2}{dx^2} \Psi(x) = \frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right) \Psi(x) \equiv \frac{2m}{\hbar^2} M(x) \Psi(x) ,</math>
ここで <math>\hbar </math> は[[ディラック定数]]、{{Mvar|m}} は粒子[[質量]]、{{Mvar|x}} は粒子の動く方向に沿って測った位置、{{Math|Ψ}} はシュレーディンガーの波動関数、{{Mvar|V}} は粒子は[[位置エネルギー|ポテンシャルエネルギー]]、{{Mvar|E}} は {{Mvar|x}} 方向に運動する粒子のエネルギー、{{Math|''M''(''x'')}} は広く受け入れられている物理学的な名前はないが {{Math|''V''(''x'') − ''E''}} により定義される量である。
このシュレーディンガー方程式の解は {{Math|''M''(''x'')}} が正か負かによって異る形式をとる。{{Math|''M''(''x'')}} が定数で負のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。
: <math>\frac{\mathrm d^2}{\mathrm dx^2} \Psi(x) = \frac{2m}{\hbar^2} M(x) \Psi(x) = -k^2 \Psi(x),\;\;\;\;\;\; \mathrm{where} \;\;\; k^2=- \frac{2m}{\hbar^2} M. </math>
この方程式の解は位相定数が +''k'' または -''k'' の進行波を表わす。一方、M(x) が定数で正のとき、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。
: <math>\frac{\mathrm d^2}{\mathrm dx^2} \Psi(x) = \frac{2m}{\hbar^2} M(x) \Psi(x) = {\kappa}^2 \Psi(x), \;\;\;\;\;\; \mathrm{where} \;\;\; {\kappa}^2= \frac{2m}{\hbar^2} M. </math>
この方程式の解は[[エバネッセント場|エバネッセント波]]を表わす。{{Math|''M''(''x'')}} が位置によって変化する場合も、{{Math|''M''(''x'')}} が負か正かによって同じ挙動の違いが生じる。したがって、{{Math|''M''(''x'')}} の符号が媒質の性質を表わしている。{{Math|''M''(''x'')}} が負ならば上で説明した媒質Aに相当し、正ならば媒質Bに相当する。したがって、{{Math|''M''(''x'')}} が正の領域が {{Math|''M''(''x'')}} が負の領域に挟まれている場合に障壁が形成され、エバネッセント波結合が生じうる。
{{Math|''M''(''x'')}} が {{Mvar|x}} によって変化する場合は数学的取扱が困難であるが、通常は実際の物理系に対応しない例外的な特殊例もいくつかある。教科書に載っているような半古典近似法に関連した議論は次節で述べる。完全で複雑な数学的取扱に関しては、{{Harvnb|Fröman|Fröman|1965|p=|pp=}}を参照されたい。彼らの手法は教科書には載っていないが、定量的には小さな影響しかない補正である。
=== WKB近似 ===
波動関数を以下のようにある関数の指数関数を取って表わすものとする。
: <math>\Psi(x) = e^{\Phi(x)}</math><math>\Phi''(x) + \Phi'(x)^2 = \frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right).</math>
<math>\Phi'(x)</math> は実部と虚部に分けることができる。
: <math>\Phi'(x) = A(x) + i B(x)</math> ここで、A(x) および B(x) は実値関数とする。
上の第二式にこれを代入し、左辺の虚部が零となる必要があることを用いると、次を得る。
: <math>A'(x) + A(x)^2 - B(x)^2 = \frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right)</math>.
この方程式を半古典近似を用いて解くには、各関数を <math>\hbar</math> の[[冪級数|羃級数]]に展開する。この方程式の実部を満たすためには、羃級数が少なくとも <math>\hbar^{-1}</math> から始まる必要があることがわかる。古典極限の振舞いを良くするためには[[プランク定数]]の次数はなるべく高い方がよいので、次のように置くこととする。
: <math>A(x) = \frac{1}{\hbar} \sum_{k=0}^\infty \hbar^k A_k(x)</math>
: <math>B(x) = \frac{1}{\hbar} \sum_{k=0}^\infty \hbar^k B_k(x)</math>
また、最低次の項については次のような拘束が課せられる。
: <math>A_0(x)^2 - B_0(x)^2 = 2m \left( V(x) - E \right)</math>
: <math>A_0(x) B_0(x) = 0</math>
ここで、二つの極端な場合について考察する。
;Case 1
:振幅の変化が位相に比べて遅い場合、<math>A_0(x) = 0</math> および
:: <math>B_0(x) = \pm \sqrt{ 2m \left( E - V(x) \right) }</math>
: は古典的運動に相当する。次の次数までの項を解くと、次を得る。
:: <math>\Psi(x) \approx C \frac{ e^{i \int dx \sqrt{\frac{2m}{\hbar^2} \left( E - V(x) \right)} + \theta} }{\sqrt[4]{\frac{2m}{\hbar^2} \left( E - V(x) \right)}}</math>
;Case 2
: 位相の変化が振幅に比べて遅い場合、<math>B_0(x) = 0</math> および
:: <math>A_0(x) = \pm \sqrt{ 2m \left( V(x) - E \right) }</math>
: はトンネリングに相当する。次の次数までの項を解くと、次を得る。
:: <math>\Psi(x) \approx \frac{ C_{+} e^{+\int dx \sqrt{\frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right)}} + C_{-} e^{-\int dx \sqrt{\frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right)}}}{\sqrt[4]{\frac{2m}{\hbar^2} \left( V(x) - E \right)}}</math>
どちらの場合でも、近似解の分子を見れば古典的折り返し点 <math>E = V(x)</math> 付近で破綻することが瞭然だろう。このポテンシャルの丘から遠いところでは、粒子は自由に振動する波と類似の振る舞いを示す。ポテンシャルの丘のふもとでは、粒子の振幅は指数関数的に変化する。これらの極限における振る舞いと折り返し点を考慮すると、大域解を得ることができる。
はじめに、古典的折り返し点を {{Math|''x''<sub>1</sub>}} とし、<math>\frac{2m}{\hbar^2}\left(V(x)-E\right)</math> を {{Math|''x''<sub>1</sub>}} 周りの羃級数で展開する。
: <math>\frac{2m}{\hbar^2}\left(V(x)-E\right) = v_1 (x - x_1) + v_2 (x - x_1)^2 + \cdots</math>
この初項のみを採れば線形性が保証される。
: <math>\frac{2m}{\hbar^2}\left(V(x)-E\right) = v_1 (x - x_1)</math>
この近似を用いると、{{Math|''x''<sub>1</sub>}} 近傍について次の[[微分方程式]]を得る。
: <math>\frac{\mathrm d^2}{\mathrm dx^2} \Psi(x) = v_1 (x - x_1) \Psi(x)</math>
これは[[エアリー関数]]を用いて解くことができる。
: <math>\Psi(x) = C_A Ai\left( \sqrt[3]{v_1} (x - x_1) \right) + C_B Bi\left( \sqrt[3]{v_1} (x - x_1) \right)</math>
この解を全ての古典的折り返し点について用いることで、上の極端な場合の解を繋ぐ大域解を得ることができる。古典的折り返し点の片側で2つの係数が与えられれば、逆側の2つの係数はこの局所解を用いてそれらを繋ぐことで決定することができる。
したがって、エアリー関数解は適切な極限の元で {{Math|sin, cos}} 関数と指数関数に漸近する。<math>C,\theta</math>, <math>C_{+},C_{-}</math> の関係式は次のように得られる。
: <math>C_{+} = \frac{1}{2} C \cos{\left(\theta - \frac{\pi}{4}\right)}</math>
: <math>C_{-} = - C \sin{\left(\theta - \frac{\pi}{4}\right)}</math>
これらの係数が決まれば、大域解が得られる。したがって、一つのポテンシャル障壁をトンネリングする粒子の{{仮リンク|透過係数|en|Transmission coefficient (physics)}}は以下のように得られる。
: <math>T(E) = e^{-2\int_{x_1}^{x_2} \mathrm{d}x \sqrt{\frac{2m}{\hbar^2} \left[ V(x) - E \right]}}</math>
ここで、{{Math|''x''<sub>1</sub>, ''x''<sub>2</sub>}} はポテンシャル障壁にある二つの古典的折り返し点である。
矩形障壁の場合は、この式は次のように簡単化できる。
: <math>T(E) = e^{-2\sqrt{\frac{2m}{\hbar^2}(V_0-E)}(x_2-x_1)} = \tilde V_0^{-(x_2-x_1)}</math>
== 出典 ==
{{Reflist|30em}}
== 関連文献 ==
* {{Cite book|ref=harv|last=Fröman|first=N.|title=JWKB Approximation: Contributions to the Theory|date=|year=1965|publisher=North-Holland|location=Amsterdam|last2=Fröman|first2=P.-O.}}
* {{Cite book|author=Razavy, Mohsen|title=Quantum Theory of Tunneling|year=2003|publisher=World Scientific|ISBN=981-238-019-1}}
* {{Cite book|author=Griffiths, David J.|title=Introduction to Quantum Mechanics|edition=2nd|year=2004|publisher=Prentice Hall|ISBN=0-13-805326-X}}
* {{Cite book|author=[[James Binney]] and Skinner, D.|title=The Physics of Quantum Mechanics: An Introduction|edition=3rd|year=2010|publisher=Cappella Archive|ISBN=1-902918-51-7}}
* {{Cite book|author=[[Liboff, Richard L.]]|title=Introductory Quantum Mechanics|year=2002|publisher=Addison-Wesley|ISBN=0-8053-8714-5}}
* {{Cite journal|last=Vilenkin|first=Alexander|year=2003|title=Particle creation in a tunneling universe|journal=[[Physical Review D]]|volume=68|issue=2|pages=023520|arxiv=gr-qc/0210034|bibcode=2003PhRvD..68b3520H|doi=10.1103/PhysRevD.68.023520}}
* {{Cite book|author=H.J.W. Müller-Kirsten|title=Introduction to Quantum Mechanics: Schrödinger Equation and Path Integral, 2nd ed.|year=2012|publisher=World Scientific|location=Singapore}}
== 関連項目 ==
{{columns-list|colwidth=30em|
* [[無声放電]]
* [[電界放出]]
* [[放射性崩壊]]
* [[ジョセフソン効果]]
* [[ダイオード]]
* [[トンネルダイオード]]
* {{仮リンク|プロトントンネリング|en|Proton tunneling}}
* {{仮リンク|超伝導トンネル接合|en|Superconducting tunnel junction}}
* {{仮リンク|トンネル接合|en|Tunnel junction|redirect=1}}
* {{仮リンク|量子クローニング|en|Quantum cloning}}
* {{仮リンク|ホルスタイン・ヘリング法|en|Holstein–Herring method}}
* [[巨視的トンネル効果]]
* [[ガイガー・ヌッタルの法則]]
* [[江崎玲於奈]] - 固体でのトンネル効果発見の功績により[[ノーベル物理学賞]]受賞
* [[アイヴァー・ジェーバー]] - [[超伝導体]]の間のトンネル効果発見の功績によりノーベル物理学賞受賞
}}
== 外部リンク ==
* [http://www.toutestquantique.fr/#tunnel Animation, applications and research linked to tunnel effect and other quantum phenomena] (Université Paris Sud)
* [https://molecularmodelingbasics.blogspot.com/2009/09/tunneling-and-stm.html Animated illustration of quantum tunnelling]
* [http://nanohub.org/resources/8799 Animated illustration of quantum tunnelling in a RTD device]
* {{Kotobank}}
{{量子力学}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:とんねるこうか}}
[[Category:素粒子物理学]]
[[Category:物理化学の現象]]
[[Category:量子力学]] | 2003-04-28T15:27:19Z | 2023-10-22T02:05:25Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB%E5%8A%B9%E6%9E%9C |
7,417 | 名誉毀損罪 |
名誉毀損罪()は、日本の刑法230条に規定される犯罪。人の名誉を毀損する行為を内容とする。なお、刑法上の名誉毀損罪を構成する場合に民法上の名誉毀損として不法行為になることも多い。民法上の名誉毀損については「名誉毀損」を参照。
公然とある人に関する事柄を摘示し、その人の名誉を毀損した場合に成立する(刑法230条1項)。法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金である。
毀損された名誉が死者のものである場合には、その摘示内容が客観的に虚偽のものでなければ処罰されない(刑法230条2項)。ただし、相手の死亡が名誉毀損をした後の場合には、通常の名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったことでは免責されない(刑法230条の2の適用が問題となる)。
本罪の保護法益たる「名誉」について、通説はこれを外部的名誉、すなわち社会に存在するその人の評価としての名誉(人が他人間において不利益な批判を受けない事実。人の社会上の地位または価値。)であるとする。
これに対して、同罪の名誉とは、名誉感情(自尊感情)であるとする説がある。この説によれば、法人、あるいは法人でない社団もしくは財団に対する名誉毀損罪は、論理的には成立し難いこととなる。
背徳または破廉恥な行為のある人、徳義または法律に違反した行為をなした者であっても、当然に名誉毀損罪の被害者となりうる(大判昭和8年9月6日刑集12巻1590頁)。
本罪の客体は「人の名誉」である。この場合の人とは、「自然人」「法人」「法人格の無い団体」などが含まれる(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。ただし、「アメリカ人」や「東京人」など、特定しきれない漠然とした集団については含まれない(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。
本罪の行為は人の名誉を公然と事実を摘示して毀損することである。
通説では、本罪は抽象的危険犯とされる。つまり、外部的名誉が現実に侵害されるまでは必要とされず、その危険が生じるだけで成立する。
事実の有無、真偽を問わない。ただし、公共の利害に関する事実を、専ら公益目的で摘示した結果、名誉を毀損するに至った場合には、その事実が真実であると証明できた場合は処罰されない(230条の2第1項、#真実性の証明による免責参照)。
「公然」とは、不特定または多数の者が認識し得る状態をいう。「認識しうる状態」で足り、実際に認識したことを要しない(大判明治45年6月27日刑録18輯927頁)。また、特定かつ少数に対する摘示であっても、それらの者がしゃべって伝播していく可能性が予見でき、伝播される事を期待して該当行為を行えば名誉毀損罪は成立する(伝播性の理論)。
「毀損」とは、事実を摘示して人の社会的評価が害される危険を生じさせることである。大審院によれば、現実に人の社会的評価が害されたことを要しない(大判昭和13年2月28日刑集17巻141頁)とされる(抽象的危険犯)。
名誉毀損罪は、人の名誉を毀損すべきことを認識しながら、公然事実を摘示することによって成立し、名誉を毀損しようという目的意思に出る必要はない(大判大正6年7月3日刑録23輯782頁)。
摘示される事実は、人の社会的評価を害するに足りる事実であることが要求されており、事実を摘示するための手段には特に制限がなく、その事実の内容の真偽を問わない(信用毀損罪の場合は虚偽の事実でなければならない)。つまり、たとえ真実の公表であっても、発言内容が真実であるというだけでは直ちには免責されず、後述する真実性の証明による免責の問題となる。また、公知の事実であるか非公知の事実であるかを問わない。「公然と事実を摘示」すれば成立する罪だからである(大判大正5年12月13日刑録22輯1822頁)。公知、非公知の差は情状の考慮事由となる。事実を摘示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示した場合は、侮辱罪の問題となる。
被害者の人物の批評のようなものであっても、刑法230条にいう事実の摘示であることを妨げない。また、うわさであっても、人の名誉を害すべき事実である以上、公然とこれを摘示した場合には名誉毀損罪が成立する(最決昭和43年1月18日刑集22巻1号7頁)。
被害者の氏名を明確に挙示しなかったとしても、その他の事情を総合して何人であるかを察知しうるものである限り、名誉毀損罪として処断するのを妨げない(最判昭和28年12月15日刑集7巻12号2436頁)。
刑法230条の2は、名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合に、真実性の証明による免責を認めている。これは、日本国憲法第21条の保障する表現の自由と人の名誉権の保護との調整を図るために設けられた規定である。
公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされる(230条の2第2項)。
公務員または公選の公務員の候補者に関する事実に関しては、公益を図る目的に出たものである、ということまでが擬制され、真実性の証明があれば罰せられない(230条の2第3項)。これは、原則として構成要件該当性・違法性・有責性のすべてについて検察官に証明責任を負わせる刑事訴訟法において、証明責任を被告人側に負わせている数少ない例外のひとつである(証明責任の転換。同様の例として刑法207条がある)。ただし、対象が公務員等であっても、公務員等としての資格に関しない事項については230条の2第3項の適用はない(昭和28年12月15日最高裁判所第三小法廷刑集 第7巻12号2436頁)。
真実性の証明の法的性質については、処罰阻却事由説と違法性阻却事由説との対立がある。処罰阻却事由説は、名誉毀損行為が行われれば犯罪が成立することを前提に、ただ、事実の公共性、目的の公益性、真実性の証明の三要件を満たした場合には、処罰がなされないだけであると解している。
これに対し違法性阻却事由説は、表現の自由の保障の観点からも、230条の2の要件を満たす場合には、行為自体が違法性を欠くと解しているが、そもそも違法性の有無が訴訟法上の証明の巧拙によって左右されることは妥当でないという批判がある。
両説の対立は、真実性の証明に失敗した場合に鮮明になる。すなわち、処罰阻却事由説からは、真実性の証明に失敗した以上いかなる場合でも処罰要件が満たされると考えられるが、違法性阻却事由説からは、真実性の錯誤が相当な理由に基く場合、犯罪が成立しない余地があると考えられる。もっとも、処罰阻却事由説も刑法230条の2ではなく刑法35条による違法性阻却の可能性を認める場合もあり、その考え方は学説により多岐に分かれる。
判例は当初、被告人の摘示した事実につき真実であることの証明がない以上、被告人において真実であると誤信していたとしても故意を阻却しないとしていたが、後に大法廷判決で判例を変更し、真実性を証明できなかった場合でも、この趣旨から、確実な資料・根拠に基づいて事実を真実と誤信した場合には故意を欠くため処罰されないとした(夕刊和歌山時事事件の最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)。すなわち、現在の判例は違法性阻却事由説であると解される。
一個の行為で人を非難する際、侮辱の言葉を交えて名誉を毀損した場合、侮辱の言葉は名誉毀損の態様をなすに過ぎず、名誉毀損罪の単純一罪である。
死者に対する名誉毀損は、その事実が(客観的に)虚偽のものである場合にのみ成立する(刑法230条2項)。
死者に対する名誉毀損罪の保護法益については、議論があり、4説挙げられている。(1)死者に対する社会的評価(追憶)という公共的法益。(2)遺族個人の名誉。(3)遺族が死者に対して抱いている尊敬の感情。(4)死者自身の名誉。通説は(4)である。
名誉毀損罪は親告罪であり、告訴がなければ、公訴を提起することができない(232条1項)。 | [
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"text": "名誉毀損罪()は、日本の刑法230条に規定される犯罪。人の名誉を毀損する行為を内容とする。なお、刑法上の名誉毀損罪を構成する場合に民法上の名誉毀損として不法行為になることも多い。民法上の名誉毀損については「名誉毀損」を参照。",
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"text": "毀損された名誉が死者のものである場合には、その摘示内容が客観的に虚偽のものでなければ処罰されない(刑法230条2項)。ただし、相手の死亡が名誉毀損をした後の場合には、通常の名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったことでは免責されない(刑法230条の2の適用が問題となる)。",
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"text": "本罪の保護法益たる「名誉」について、通説はこれを外部的名誉、すなわち社会に存在するその人の評価としての名誉(人が他人間において不利益な批判を受けない事実。人の社会上の地位または価値。)であるとする。",
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"text": "これに対して、同罪の名誉とは、名誉感情(自尊感情)であるとする説がある。この説によれば、法人、あるいは法人でない社団もしくは財団に対する名誉毀損罪は、論理的には成立し難いこととなる。",
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"text": "背徳または破廉恥な行為のある人、徳義または法律に違反した行為をなした者であっても、当然に名誉毀損罪の被害者となりうる(大判昭和8年9月6日刑集12巻1590頁)。",
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"text": "本罪の客体は「人の名誉」である。この場合の人とは、「自然人」「法人」「法人格の無い団体」などが含まれる(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。ただし、「アメリカ人」や「東京人」など、特定しきれない漠然とした集団については含まれない(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。",
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"text": "事実の有無、真偽を問わない。ただし、公共の利害に関する事実を、専ら公益目的で摘示した結果、名誉を毀損するに至った場合には、その事実が真実であると証明できた場合は処罰されない(230条の2第1項、#真実性の証明による免責参照)。",
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"text": "「公然」とは、不特定または多数の者が認識し得る状態をいう。「認識しうる状態」で足り、実際に認識したことを要しない(大判明治45年6月27日刑録18輯927頁)。また、特定かつ少数に対する摘示であっても、それらの者がしゃべって伝播していく可能性が予見でき、伝播される事を期待して該当行為を行えば名誉毀損罪は成立する(伝播性の理論)。",
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"text": "名誉毀損罪は、人の名誉を毀損すべきことを認識しながら、公然事実を摘示することによって成立し、名誉を毀損しようという目的意思に出る必要はない(大判大正6年7月3日刑録23輯782頁)。",
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"text": "摘示される事実は、人の社会的評価を害するに足りる事実であることが要求されており、事実を摘示するための手段には特に制限がなく、その事実の内容の真偽を問わない(信用毀損罪の場合は虚偽の事実でなければならない)。つまり、たとえ真実の公表であっても、発言内容が真実であるというだけでは直ちには免責されず、後述する真実性の証明による免責の問題となる。また、公知の事実であるか非公知の事実であるかを問わない。「公然と事実を摘示」すれば成立する罪だからである(大判大正5年12月13日刑録22輯1822頁)。公知、非公知の差は情状の考慮事由となる。事実を摘示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示した場合は、侮辱罪の問題となる。",
"title": "名誉毀損罪(1項)"
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"text": "被害者の人物の批評のようなものであっても、刑法230条にいう事実の摘示であることを妨げない。また、うわさであっても、人の名誉を害すべき事実である以上、公然とこれを摘示した場合には名誉毀損罪が成立する(最決昭和43年1月18日刑集22巻1号7頁)。",
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"text": "被害者の氏名を明確に挙示しなかったとしても、その他の事情を総合して何人であるかを察知しうるものである限り、名誉毀損罪として処断するのを妨げない(最判昭和28年12月15日刑集7巻12号2436頁)。",
"title": "名誉毀損罪(1項)"
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"text": "刑法230条の2は、名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合に、真実性の証明による免責を認めている。これは、日本国憲法第21条の保障する表現の自由と人の名誉権の保護との調整を図るために設けられた規定である。",
"title": "名誉毀損罪(1項)"
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"text": "公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされる(230条の2第2項)。",
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"text": "公務員または公選の公務員の候補者に関する事実に関しては、公益を図る目的に出たものである、ということまでが擬制され、真実性の証明があれば罰せられない(230条の2第3項)。これは、原則として構成要件該当性・違法性・有責性のすべてについて検察官に証明責任を負わせる刑事訴訟法において、証明責任を被告人側に負わせている数少ない例外のひとつである(証明責任の転換。同様の例として刑法207条がある)。ただし、対象が公務員等であっても、公務員等としての資格に関しない事項については230条の2第3項の適用はない(昭和28年12月15日最高裁判所第三小法廷刑集 第7巻12号2436頁)。",
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"text": "真実性の証明の法的性質については、処罰阻却事由説と違法性阻却事由説との対立がある。処罰阻却事由説は、名誉毀損行為が行われれば犯罪が成立することを前提に、ただ、事実の公共性、目的の公益性、真実性の証明の三要件を満たした場合には、処罰がなされないだけであると解している。",
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"title": "名誉毀損罪(1項)"
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"text": "一個の行為で人を非難する際、侮辱の言葉を交えて名誉を毀損した場合、侮辱の言葉は名誉毀損の態様をなすに過ぎず、名誉毀損罪の単純一罪である。",
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"text": "死者に対する名誉毀損罪の保護法益については、議論があり、4説挙げられている。(1)死者に対する社会的評価(追憶)という公共的法益。(2)遺族個人の名誉。(3)遺族が死者に対して抱いている尊敬の感情。(4)死者自身の名誉。通説は(4)である。",
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"text": "名誉毀損罪は親告罪であり、告訴がなければ、公訴を提起することができない(232条1項)。",
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] | 名誉毀損罪は、日本の刑法230条に規定される犯罪。人の名誉を毀損する行為を内容とする。なお、刑法上の名誉毀損罪を構成する場合に民法上の名誉毀損として不法行為になることも多い。民法上の名誉毀損については「名誉毀損」を参照。 | {{pp-vandalism|small=yes}}
{{otheruses|日本の法令|名誉毀損の概要・全般|名誉毀損}}
{{WikipediaPage|名誉毀損|Wikipedia:名誉毀損}}
{{脚注の不足|date=2022年8月}}
{{law}}
{{日本の犯罪
| 罪名 = 名誉毀損罪
| 法律・条文 = 刑法230条
| 保護法益 = 人の名誉
| 主体 = 人
| 客体 = 人の名誉
| 実行行為 = 公然と事実を摘示して名誉を毀損
| 主観 = 故意犯
| 結果 = 挙動犯、抽象的危険犯
| 実行の着手 = -
| 既遂時期 = 社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせた時点
| 法定刑 = 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
| 未遂・予備 = なし
|}}
{{日本の刑法}}
{{ウィキプロジェクトリンク|刑法 (犯罪)}}
{{読み仮名|'''名誉毀損罪'''|めいよきそんざい}}は、[[日本]]の[[刑法 (日本)|刑法]][[b:刑法第230条|230条]]に規定される[[犯罪]]。人の名誉を毀損する行為を内容とする。なお、刑法上の名誉毀損罪を構成する場合に民法上の名誉毀損として[[不法行為]]になることも多い。[[民法 (日本)|民法]]上の名誉毀損については「[[名誉毀損]]」を参照。
== 概要 ==
公然とある人に関する事柄を摘示し、その人の名誉を毀損した場合に成立する(刑法230条1項)。[[法定刑]]は3年以下の[[懲役]]もしくは[[禁錮]]または50万円以下の[[罰金]]である。
毀損された名誉が死者のものである場合には、その摘示内容が客観的に虚偽のものでなければ処罰されない(刑法230条2項)。ただし、相手の死亡が名誉毀損をした後の場合には、通常の名誉毀損罪として扱われ、当該事実が虚偽でなかったことでは免責されない([[b:刑法第230条の2|刑法230条の2]]の適用が問題となる)。
== 名誉毀損罪(1項) ==
=== 保護法益 ===
本罪の保護法益たる「名誉」について、通説はこれを外部的名誉、すなわち社会に存在するその人の評価としての名誉(人が他人間において不利益な批判を受けない事実。人の社会上の地位または価値。)であるとする。
これに対して、同罪の名誉とは、名誉感情(自尊感情)であるとする説がある。この説によれば、法人、あるいは法人でない社団もしくは財団に対する名誉毀損罪は、論理的には成立し難いこととなる。
背徳または破廉恥な行為のある人、徳義または法律に違反した行為をなした者であっても、当然に名誉毀損罪の[[被害者]]となりうる(大判昭和8年9月6日刑集12巻1590頁)。
=== 客体 ===
本罪の客体は「人の名誉」である。この場合の人とは、「[[自然人]]」「[[法人]]」「法人格の無い団体」などが含まれる(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。ただし、「アメリカ人」や「東京人」など、特定しきれない漠然とした集団については含まれない(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)。
=== 行為 ===
本罪の行為は人の名誉を公然と事実を摘示して毀損することである。
通説では、本罪は[[抽象的危険犯]]とされる。つまり、外部的名誉が現実に侵害されるまでは必要とされず、その危険が生じるだけで成立する。
事実の有無、真偽を問わない。ただし、公共の利害に関する事実を、専ら公益目的で摘示した結果、名誉を毀損するに至った場合には、その事実が真実であると証明できた場合は処罰されない(230条の2第1項、[[#真実性の証明による免責]]参照)。
==== 公然 ====
「公然」とは、不特定または多数の者が認識し得る状態をいう。「認識しうる状態」で足り、実際に認識したことを要しない(大判明治45年6月27日刑録18輯927頁)。また、特定かつ少数に対する摘示であっても、それらの者がしゃべって伝播していく可能性が予見でき、伝播される事を期待して該当行為を行えば名誉毀損罪は成立する(伝播性の理論)。
==== 毀損 ====
「毀損」とは、事実を摘示して人の社会的評価が害される危険を生じさせることである。[[大審院]]によれば、現実に人の社会的評価が害されたことを要しない(大判昭和13年2月28日刑集17巻141頁)とされる([[抽象的危険犯]])。
名誉毀損罪は、人の名誉を毀損すべきことを認識しながら、公然事実を摘示することによって成立し、名誉を毀損しようという目的意思に出る必要はない(大判大正6年7月3日刑録23輯782頁)。
==== 事実の摘示 ====
摘示される事実は、人の社会的評価を害するに足りる事実であることが要求されており、事実を摘示するための手段には特に制限がなく、その事実の内容の真偽を問わない([[信用毀損罪]]の場合は虚偽の事実でなければならない)。つまり、たとえ真実の公表であっても、発言内容が真実であるというだけでは直ちには免責されず、後述する真実性の証明による免責の問題となる。また、公知の事実であるか非公知の事実であるかを問わない。「公然と事実を摘示」すれば成立する罪だからである(大判大正5年12月13日刑録22輯1822頁)。公知、非公知の差は情状の考慮事由となる。事実を摘示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示した場合は、[[侮辱罪]]の問題となる。
被害者の人物の批評のようなものであっても、刑法230条にいう事実の摘示であることを妨げない。また、うわさであっても、人の名誉を害すべき事実である以上、公然とこれを摘示した場合には名誉毀損罪が成立する(最決昭和43年1月18日刑集22巻1号7頁)。
被害者の氏名を明確に挙示しなかったとしても、その他の事情を総合して何人であるかを察知しうるものである限り、名誉毀損罪として処断するのを妨げない(最判昭和28年12月15日刑集7巻12号2436頁)。
=== 真実性の証明による免責 ===
刑法230条の2は、名誉毀損行為が公共の利害に関する事実に係るもので、専ら公益を図る目的であった場合に、真実性の証明による免責を認めている。これは、[[日本国憲法第21条]]の保障する[[表現の自由]]と人の[[名誉|名誉権]]の保護との調整を図るために設けられた規定である。
公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされる(230条の2第2項)。
[[日本の公務員|公務員]]または[[公選]]の[[公務員]]の候補者に関する事実に関しては、公益を図る目的に出たものである、ということまでが擬制され、真実性の証明があれば罰せられない(230条の2第3項)。これは、原則として[[構成要件該当性]]・[[違法性]]・[[責任|有責性]]のすべてについて検察官に[[証明責任]]を負わせる[[刑事訴訟法]]において、証明責任を被告人側に負わせている数少ない例外のひとつである(証明責任の転換。同様の例として刑法207条がある)。ただし、対象が公務員等であっても、公務員等としての資格に関しない事項については230条の2第3項の適用はない(昭和28年12月15日最高裁判所第三小法廷刑集 第7巻12号2436頁)。
真実性の証明の法的性質については、[[処罰阻却事由]]説と[[違法性阻却事由 (日本法)|違法性阻却事由]]説との対立がある。処罰阻却事由説は、名誉毀損行為が行われれば犯罪が成立することを前提に、ただ、事実の公共性、目的の公益性、真実性の証明の三要件を満たした場合には、処罰がなされないだけであると解している。
これに対し違法性阻却事由説は、[[表現の自由]]の保障の観点からも、230条の2の要件を満たす場合には、行為自体が違法性を欠くと解しているが、そもそも[[違法性]]の有無が訴訟法上の証明の巧拙によって左右されることは妥当でないという批判がある。
両説の対立は、真実性の証明に失敗した場合に鮮明になる。すなわち、処罰阻却事由説からは、真実性の証明に失敗した以上いかなる場合でも処罰要件が満たされると考えられるが、違法性阻却事由説からは、真実性の錯誤が相当な理由に基く場合、犯罪が成立しない余地があると考えられる。もっとも、処罰阻却事由説も刑法230条の2ではなく刑法35条による違法性阻却の可能性を認める場合もあり、その考え方は学説により多岐に分かれる。
判例は当初、被告人の摘示した事実につき真実であることの証明がない以上、被告人において真実であると誤信していたとしても故意を阻却しないとしていたが、後に大法廷判決で判例を変更し、真実性を証明できなかった場合でも、この趣旨から、確実な資料・根拠に基づいて事実を真実と誤信した場合には[[故意]]を欠くため処罰されないとした([[夕刊和歌山時事事件]]の最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)。すなわち、現在の判例は違法性阻却事由説であると解される。
=== 罪数 ===
一個の行為で人を非難する際、侮辱の言葉を交えて名誉を毀損した場合、侮辱の言葉は名誉毀損の態様をなすに過ぎず、名誉毀損罪の[[単純一罪]]である。
== 死者に対する名誉毀損罪(2項) ==
死者に対する名誉毀損は、その事実が(客観的に)虚偽のものである場合にのみ成立する(刑法230条2項)。
死者に対する名誉毀損罪の保護法益については、議論があり、4説挙げられている。(1)死者に対する社会的評価(追憶)という公共的法益。(2)遺族個人の名誉。(3)遺族が死者に対して抱いている尊敬の感情。(4)死者自身の名誉。通説は(4)である<ref>[[大塚仁]]『刑法概説(各論)』[改定増補版]p144 [[有斐閣]]、1992年</ref>。
== 親告罪 ==
名誉毀損罪は[[親告罪]]であり、[[告訴・告発|告訴]]がなければ、[[公訴]]を提起することができない([[b:刑法第232条|232条]]1項)。
==代表例==
* [[スマイリーキクチ中傷被害事件]] - ネット上に虚偽の情報から長期的な誹謗中傷が書き込まれた事件について
* 『[[石に泳ぐ魚]]』 - 「『新潮』に掲載された作品は、出版、出版物への掲載、放送、上演、戯曲、映画化等の一切の方法による公表をしてはならない。謝罪広告の掲載、改訂版の出版差し止め請求ほかの請求は棄却」<ref>[https://www.shinchosha.co.jp/shincho/200108/saiban.html 「石に泳ぐ魚」裁判経過報告] 新潮 2021年10月31日閲覧。</ref>
* 『[[事故のてんまつ]]』 - 死者の名誉棄損について。謝罪し絶版となった。
*『[[落日燃ゆ]]』 - 死者の名誉毀損について。遺族が耐え難い精神的苦痛を被ったとした裁判が行われ、遺族の名誉毀損は認められるものの、虚偽妄想であるという確たる証拠が見られなかったため棄却。
*[[丸正事件]] - 殺人事件の被告人弁護士が、殺人被害者の親族が事件の真犯人とする上告趣意補充書を記者会見で公開した行為等について、名誉毀損罪の違法性阻却事由に当たらないとされ有罪となった。
== 関連する犯罪・規則==
;[[侮辱罪]](231条)
:通説によれば侮辱罪は、事実を摘示しないで名誉を毀損した場合に成立するとされる。
;[[信用毀損罪]](233条)
:虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の財産的信用を毀損した場合に成立する。名誉毀損罪同様、[[抽象的危険犯]]である。
;[[著作権法]]
*第60条 著作者が存しなくなつた後における人格的利益の保護
*第115条 名誉回復等の措置
*第116条 著作者又は実演家の死後における人格的利益の保護のための措置
;[[放送法]]4条第1項
:公安及び善良な風俗を害しないこと。[[訂正放送]]。
;民法第723条
:名誉毀損における原状回復。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
*[[小野清一郎]]『刑法における名誉の保護(増補版)』有斐閣(1970年)
== 関連項目 ==
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7,418 | 環 (数学) | 数学における環(かん、英: ring)とは、台集合に「加法」(和)および「乗法」(積)と呼ばれる二種類の二項演算を備えた代数系のことである。
最もよく知られた環の例は、整数全体の成す集合に自然な加法と乗法を考えたものである(これは乗法が可換だから可換環の例でもある)。ただし、それが環と呼ばれるためには、環の公理として、加法は可換で、加法と乗法はともに結合的であって、乗法は加法の上に分配的で、各元は加法逆元をもち、加法単位元が存在すること、が全て要求される。したがって、台集合は加法の下「加法群」と呼ばれるアーベル群を成し、乗法の下「乗法半群」と呼ばれる半群であって、乗法は加法に対して分配的であり、またしばしば乗法単位元を持つ。なお、よく用いられる環の定義としていくつか流儀の異なるものが存在するが、それについては後述する。
環について研究する数学の分野は環論として知られる。環論学者が研究するのは、(整数環や多項式環などの)よく知られた数学的構造やもっと他の環論の公理を満たす多くの未だよく知られていない数学的構造のいずれにも共通する性質についてである。環という構造のもつ遍在性は、数学の様々な分野において同時多発的に行われた「代数化」の動きの中心原理として働くことになった。
また、環論は基本的な物理法則(の根底にある特殊相対性)や物質化学における対称現象の理解にも寄与する。
環の概念は、1880年代のデデキントに始まる、フェルマーの最終定理に対する証明の試みの中で形成されていった。他分野(主に数論)からの寄与もあって、環の概念は一般化されていき、1920年代のうちにエミー・ネーター、ヴォルフガング・クルルらによって確立される。活発に研究が行われている数学の分野としての現代的な環論では、独特の方法論で環を研究している。すなわち、環を調べるために様々な概念を導入して、環をより小さなよく分かっている断片に分解する(イデアルを使って剰余環を作り、単純環に帰着するなど)。こういった抽象的な性質に加えて、環論では可換環と非可換環を様々な点で分けて考える(前者は代数的数論や代数幾何学の範疇に属する)。特に豊かな理論が展開された特別な種類の可換環として、可換体があり、独自に体論と呼ばれる分野が形成されている。これに対応する非可換環の理論として、非可換可除環(斜体)が盛んに研究されている。なお、1980年代にアラン・コンヌによって非可換環と幾何学の間の奇妙な関連性が指摘されて以来、非可換幾何学が環論の分野として活発になってきている。
最もよく知られた環の例は整数全体の成す集合 Z に、通常の加法と乗法を考えたものである。すなわち Z は所謂「環の公理系」と呼ばれる種々の性質を満たす。
乗法が可換律を満たすから、整数の全体は可換環である。
環とは、集合 R とその上の二つの二項演算、加法 +: R × R → R および乗法 ∗: R × R → R の組 (R,+,∗) で、「環の公理系」と呼ばれる以下の条件を満たすものを言う(環の公理系にはいくつか異なる流儀があるが、それについては後で触れる)。
が成り立つものをいう。乗法演算の記号 ∗ は普通省略されて、a ∗ b は、ab と書かれる。
よく知られた整数全体の成す集合 Z, 有理数全体の成す集合 Q, 実数全体の成す集合 R あるいは複素数全体の成す集合は通常の加法と乗法に関してそれぞれ環を成す。また別な例として、同じサイズの正方行列全体の成す集合も行列の和と乗法に関して環を成す(この場合の環としての零元は零行列、単位元は単位行列で与えられる)。
(中身は実際には何でもよいから)一元集合 {0} に対して、演算を
で定めるとき、({0}, +, ×) が環の公理を満たすことはすぐに分かる(これを自明環という)。実際、任意の和も積もただ一つ 0 にしかならないので、加法や乗法が閉じていて分配律を満たすのは明らかであるし、零元も単位元もともに 0 であって、0 の加法逆元は 0 自身である。自明環は零環の自明な例になっている。
公理的な取り扱いにおいて、文献によってはしばしば異なる条件を公理として課すことがあるので、そのことに留意すべきである。環論の場合例えば、公理として「環の乗法単位元が加法単位元と異なる」という条件 1 ≠ 0 を課すことがある。これは特に「自明な環は環の一種とは考えない」と宣言することと同じである。
もっと重大な差異を生む流儀として、環には「乗法の単位元の存在を要求しない」というものがある。これを認めると、例えば偶数全体 2Z も通常の加法と乗法に関する環となると考えることができる(実際にこれは乗法単位元の存在以外の環の公理を全て満足する)。乗法単位元の存在以外の環の公理を満足する環は、しばしば擬環 (pseudo-ring) とも呼ばれ、あるいは多少おどけて(ring だけれども乗法単位元 i が無いからということで)"rng" と書かれることもある。これと対照的に、乗法単位元を持つことを強調する場合には、単位的環や単位環 (unital ring, unitary ring) あるいは単位元を持つ環 (ring with unity, ring with identity, rings with 1) などと呼ぶ。ただし、非単位的環を単位的環に埋め込むことは常にできる(単位元の添加)ということに注意。
他にも大きな違いを生む環の定義を採用する場合があり、例えば、環の公理から乗法の結合性を落として、非結合環あるいは分配環と呼ばれる環を考える場合がある。本項では特に指定の無い限りこのような環については扱わない。
集合 Z4 を数 0, 1, 2, 3 からなる集合とし、後に述べるような加法と乗法を定めるものとする(任意の整数 x に対して、それを 4 で割った余り x mod 4 の成す剰余類環)。
この Z4 がこれらの演算に関して環を成すことは簡単に確認できる(特に興味を引く点はない)。まずは、Z4 が加法に関して閉じていることは表を見れば(0, 1, 2, 3 以外の元は出てこないから)明らかである。Z4 における加法の結合性と可換性は整数全体の成す環 Z の性質から導かれる(可換性については、表の主対角線に対する対称性からも一見して直ちに分かる)。0 が零元となることも表から明らかである。任意の元 x のマイナス元が常に存在することも、それを整数と見ての (4 − x) mod 4 が所要のマイナス元であることから分かる(もちろん表を見ても確かめられる)。故に Z4 は加法の下でアーベル群になる。同様に Z4 が乗法に関して閉じていることも右側の表から分かり、Z4 における乗法の結合性は(可換性も)Z のそれから従い、1 が単位元を成すことも表を見れば直ちに確かめられる。故に Z4 は乗法の下モノイドを成す。Z4 において乗法が加法の上に分配的であることは、Z におけるそれから従う。まとめれば、確かに Z4 が与えられた演算に関して環を成すことが分かる。
環の加法や乗法に関する定義からの直接的な帰結として、環の様々な性質が導かれる。
特に、定義から (R, +) はアーベル群であるから、加法単位元の一意性や各元に対する加法逆元の一意性など群論の定理を適用して得られる性質はたくさんある。乗法についても同様にして単元に対する逆元の一意性などが示される。
しかし、環においては乗法と加法を組み合わせた様々な特徴的性質も存在する。例えば、
などが任意の環において示される。
以下、R は乗法について可換とは限らず、必ずしも単位元を持たないものとする。
R の部分集合 S が R における加法と乗法について環になっているとき、S は部分環であるという。ただし、R が単位的であるときは、S が(単位的環としての)部分環であるためには S が R における単位元を含むことを課す。
R の元で他のどの元との積も可換になっているものを集めた集合 Z(R) はRの中心と呼ばれる。Z(R) は R の可換な部分環になっている。
R の部分集合 I が加法について閉じていて、x ∈ R, y ∈ I ならば xy やyx が必ず I に入っているとき、I を両側イデアルという。(したがって両側イデアルは単位元を持つとは限らない環である。)イデアル I が与えられているとき、x − y ∈ I で R に同値関係を定義することができる。さらに同値類の間に自然な演算を定義できて、環になることが分かる。この環を R の I による剰余環といい、R/I と書く。
環準同型とは、環における乗法と加法に対して可換である写像である。単位的環 R1 から単位的環 R2 への(単位的環)準同型 f とは、
が成り立つ、R1 から R2 への写像のことをいう。ここで、1 は R1 の単位元、1' はR2 の単位元をそれぞれ表している。準同型 f が全単射であるとき、同型(写像)と呼び、R1 と R2 は同型であるという。準同型の核はイデアルになり、次の準同型定理が成り立つ;
A が単位的可換環で f(X) が A に係数を持つ一変数多項式であるとする。A を係数とする一変数多項式環 A[X] の、f(X) によって生成される単項イデアル (f) による商を R とすると、R から A への環準同型を考えるということは A における f の根を考えることと同値になる。
環の研究の源流は多項式や代数的整数の理論にあり、またさらに19世紀中頃に超複素数系が出現したことで解析学における体の傑出した価値は失われることとなった。
1880年代にデデキントが環の概念を導入し、1892年にヒルベルトが「数環」(Zahlring) という用語を造って「代数的数体の理論」(Die Theorie der algebraischen Zahlkörper, Jahresbericht der Deutschen Mathematiker Vereinigung, Vol. 4, 1897.) を発表した。ハーヴェイ・コーエンによれば、ヒルベルトは "circling directly back" と呼ばれる性質を満たす特定の環に対してこの用語を用いている。
環の公理論的定義を始めて与えたのは、フレンケルで、Journal für die reine und angewandte Mathematik (A. L. Crelle), vol. 145, 1914. におけるエッセイの中で述べている。1921年にはネーターが、彼女の記念碑的論文「環のイデアル論」において、可換環論の公理的基礎付けを初めて与えている。
環が与えられたとき、それを用いて新しい環を作り出す一般的な方法がいくつか存在する。
感覚的には環の剰余環は群の剰余群の概念の一般化である。より正確に、環 (R, +, · ) とその両側イデアル I が与えられたとき、剰余環あるいは商環 R/I とは、I による(台となる加法群 (R, +) に関する)剰余類全体の成す集合に
という演算を入れたものをいう。ただし、a, b は R の任意の元である。
(R, +R, ·R) を環とし、R 上の実質有限列(有限個の例外を除く全ての項が 0 となる無限列)の全体を
とおく。ただし、ここでは非負整数(特に 0 を含む)の意味で N を用いているものと約束する。S の演算 +S : S × S → S および ·S : S × S → S を、a = (ai)i∈N および b = (bi)i∈N を S の任意の元として、 a + S b = ( a i + R b i ) i ∈ N a ⋅ S b = ( ∑ j = 0 i a j ⋅ R b i − j ) i ∈ N {\displaystyle {\begin{aligned}a+_{S}b&=(a_{i}+_{R}b_{i})_{i\in \mathbb {N} }\\a\cdot _{S}b&={\Bigl (}\textstyle \sum \limits _{j=0}^{i}a_{j}\cdot _{R}b_{i-j}{\Bigr )}_{i\in \mathbb {N} }\end{aligned}}} と定めると、(S, +S, ·S) は環となる。これを環 R 上の多項式環と呼ぶ。
S の元 (0, 1, 0, 0, ...) を X とすれば、多項式環としての S は R[X] と書くのが通例である。これにより、S の元 f = (fi) は
と R に係数を持つ多項式の形に書ける。したがって S は R 上の X を不定元とする多項式全体に、標準的なやり方で加法と乗法を定義したものと見なすことができる。通常はこれを同一視して、ここでいう S を R[X] と書いて、R における演算も S における演算も特に識別のための符牒を省略する。
r を固定された自然数とし、(R, +R, ·R) を環として、 M r ( R ) = { ( f i j ) i , j : f i j ∈ R for every i , j ∈ { 1 , 2 , 3 , ... , r } } M_{r}(R)=\{{(f_{ij})}_{i,j}:f_{ij}\in R{\text{ for every }}i,j\in \{1,2,3,\dots ,r\}\} とおく。演算 +M : Mr(R) × Mr(R) → Mr(R) および ·M : Mr(R) × Mr(R) → Mr(R) を、任意の元 a = (aij)i,j, b = (bij)i,j に対して、 a + M b = ( a i j + R b i j ) i , j a ⋅ M b = ( ∑ k = 1 r a i k ⋅ R b k j ) i , j {\displaystyle {\begin{aligned}a+_{M}b&=(a_{ij}+_{R}b_{ij})_{i,j}\\a\cdot _{M}b&={\Bigl (}\textstyle \sum \limits _{k=1}^{r}a_{ik}\cdot _{R}b_{kj}{\Bigr )}_{i,j}\end{aligned}}} で定めると (Mr(R), +M, ·M) は環となる。これを R 上の r×r 行列環あるいは r次正方行列環という。
極めて様々な種類の数学的対象が、何らかの意味で付随する環を考えることによって詳しく調べられる。
任意の位相空間 X に対して、その整係数コホモロジー環
を対応させることができる。これは次数付き環になっている。ホモロジー群 H i ( X , Z ) {\displaystyle H_{i}(X,\mathbb {Z} )} も定義され(実際にはこちらの方が先に定まるのだが)、球面とトーラスのような点集合位相ではうまい具合に区別することが難しい位相空間の区別に非常に有効な道具として利用される。ホモロジー群からコホモロジー群が、ベクトル空間の双対と大まかに似たような方法で、定義される。普遍係数定理によって、各個の整係数ホモロジーを知ることと、各個の整係数コホモロジーを知ることとは等価であるが、コホモロジー群の優位性は自然な積を考えられるという点にある(これは k重線型形式と l重線型形式から点ごとの積によって (k+l)重線型形式が得られることの類似である)。
コホモロジーにおける環構造は、ファイバー束の特性類や多様体および代数多様体上の交叉理論あるいはシューベルト・カルキュラスなどの基礎付けを与えている。
任意の群に対して、そのバーンサイド環と呼ばれる環が対応して、その群の有限集合への様々な作用の仕方について記述するのに用いられる。バーンサイド環の加法群は、群の推移的作用を基底とする自由アーベル群で、その加法は作用の非交和で与えられる。故に基底を用いて作用を表示することは、作用をその推移成分の和に分解することになる。乗法に関しては表現環を用いれば容易に表示できる。すなわち、バーンサイド環の乗法は二つの置換加群の置換加群としてのテンソル積として定式化される。環構造により、ある作用から別の作用を引くといった形式的操作が可能になる。バーンサイド環は表現環の指数有限な部分環を含むから、係数を整数全体から有理数全体に拡張することにより、容易に一方から他方へ移ることができる。
任意の群環あるいはホップ代数に対して、その表現環(英語版)あるいはグリーン環が対応する。表現環の加法群は、直既約加群を基底とする自由加群で、加法は直和によって与えられる。したがって、加群を基底で表すことは加群を直既約分解することに対応する。乗法はテンソル積で与えられる。もとの群環やホップ代数が半単純ならば、表現環は指標理論でいうところの指標環にちょうどなっている。これは環構造を与えられたグロタンディーク群に他ならない。
任意の既約代数多様体には、その函数体が付随する。代数多様体の点には函数体に含まれる付値環が対応し、座標環を含む。代数幾何学の研究では環論的な言葉で幾何学的概念を調べるために可換多元環が非常によく用いられる。双有理幾何は函数体の部分環の間の写像について研究する分野である。
任意の単体的複体には、面環あるいはスタンレー-レイズナー環と呼ばれる環が付随している。この環には単体的複体の組合せ論的性質がたくさん反映されているので、これは特に代数的組合せ論において扱われる。特に、スタンレー-レイズナー環に関する代数幾何学は単体的多胞体の各次元の面の数を特徴付けるのに利用された。
いくつかの環(整域、体)のクラスについて、以下の包含関係がある。
体や整域は現代代数学において非常に重要である。
自然数 m が与えられたとき、m 元からなる集合には、一体いくつの異なる(必ずしも単位的でない)環構造が入るのかと考えるのは自然である。まず、位数 m が素数のときはたった二種類の環構造しかない(加法群は位数 m の巡回群に同型)。すなわち、一つは積がすべて潰れる零環であり、もう一つは有限体である。
有限群として見れば、分類の難しさは m の素因数分解の難しさに依存する(有限アーベル群の構造定理)。例えば、m が素数の平方ならば、位数 m の環はちょうど11種類存在する。一方、位数 m の「群」は二種類しかない(いずれも可換群)。
有限環論が有限アーベル群の理論よりも複雑なのは、任意の有限アーベル群に対してそれを加法群とする少なくとも二種類の互いに同型でない有限環が存在することによる(Z/mZ のいくつかの直和と零環)。一方、有限アーベル群を必要としない方法では有限環の方が簡単なこともある。例えば、有限単純群の分類は20世紀数学の大きなブレイクスルーの一つであり、その証明は雑誌の何千ページにも及ぶ長大なものであったが、他方で任意の有限単純環は必ず適当な位数 q の有限体上の n次正方行列環 Mn(Fq) に同型である。このことはジョセフ・ウェダーバーンが1905年と1907年に確立した2つの定理から従う。
定理の一つは、ウェダーバーンの小定理として知られる、任意の有限可除環は必ず可換であるというものである。ネイサン・ヤコブソンが後に可換性を保証する別な条件として
を発見している。特に、r = r を任意の r が満たすならば、その環はブール環と呼ばれる。環の可換性を保証するもっと一般の条件もいくつか知られている。
自然数 m に対する位数 m の環の総数はオンライン整数列大辞典の A027623 にリストされている。
結合的多元環は環であり、体 K 上のベクトル空間でもある。例えば、実数体 R 上の n次行列全体の成す集合は、実数倍と行列の加法に関して n次元の実ベクトル空間であり、行列の乗法を環の乗法として持つ。二次の実正方行列を考えるのが非自明だが基本的な例である。
リー環は非結合的かつ反交換的な乗法を持つ環で、ヤコビ恒等式を満足するものである。より細かく、リー環 L を加法に関してアーベル群で、さらに演算 [ , ] に対して以下を満たすものとして定義することができる。
ただし、x, y, z は L の任意の元である。リー環はその加法群がリー群となることは必要としない。任意のリー代数はリー環である。任意の結合環に対して括弧積を
で定めると、リー環が得られる。逆に任意のリー環に対して、普遍包絡環と呼ばれる結合環が対応する。
リー環は、ラザール対応を通じて有限p-群の研究に用いられる。p-群の低次の中心因子は有限アーベル p-群となるから、Z/pZ 上の加群である。低次の中心因子の直和には、括弧積を2つの剰余表現の交換子として定義することによって、リー環の構造が与えられる。このリー環構造は他の加群準同型によって豊穣化されるならば、p-冪写像によって制限リー環とよばれるリー環を対応させることができる。
リー環はさらに、p進整数環のような整数環上のリー代数を調べることによって、p進解析群やその自己準同型を定義するのにも利用される。リー型の有限群の定義はシュバレーによって与えられた。すなわち、複素数体上のリー環をその整数点に制限して、さらに p を法とする還元を行うことにより有限体上のリー環を得る。
位相空間 (X, T) が環構造 (X, +, · ) も持つものとする。このとき、(X, T, +, · ) が位相環であるとは、その環構造と位相構造が両立することをいう。すなわち、和と積をとる写像
がともに連続写像となる(ただし、X × X には積位相を入れるものとする)。したがって明らかに、任意の位相環は加法に関して位相群である。
環は加法に関しては交換法則が成り立つが、乗法に関しては可換性は要求されない。乗法に関しても交換法則が成り立つならば可換環という。すなわち、環 (R, +, · ) に対して、(R, +, · ) が可換環であるための必要十分条件は R の任意の元 a, b に対して a · b = b · a が成り立つことである。言い換えれば、可換環 (R, +, · ) は乗法に関して可換モノイドでなければならない。
環は整数全体とよく似た構造を示す代数系だが、一般の環を考えたのではその環論的性質は必ずしも近いものとはならない。整数に近い性質を持つ環として、環の任意のイデアルが単独の元で生成されるという性質を持つもの、すなわち主イデアル環を考えよう。
環 R が右主イデアル環 (PIR) であるとは、R の任意の右イデアルが
の形に表されることをいう。また主イデアル整域 (PID) とは整域でもある主イデアル環をいう。
環が主イデアル整域であるという条件は、環に対するほかの一般的な条件よりもいくぶん強い制約条件である。例えば、R が一意分解整域 (UFD) ならば R 上の多項式環も UFD となるが、R が主イデアル環の場合同様の主張は一般には正しくない。整数環 Z は主イデアル環の簡単な例だが、Z 上の多項式環は R = Z[X] は PIR でない(実際 I = 2R + XR は単項生成でない)。このような反例があるにもかかわらず、任意の体上の一変数多項式環は主イデアル整域となる(実はさらに強く、ユークリッド整域になる)。より一般に、一変数多項式環が PID となるための必要十分条件は、その多項式環が体上定義されていることである。
PIR 上の多項式環のことに加えて、主イデアル環は、可除性に関して有理整数環との関係を考えても、いろいろと興味深い性質を有することが分かる。つまり、主イデアル整域は可除性に関して整数環と同様に振舞うのである。例えば、任意の PID は UFD である、すなわち算術の基本定理の対応物が任意の PID で成立する。さらに言えば、ネーター環というのは任意のイデアルが有限生成となる環のことだから、主イデアル整域は明らかにネーター環である。PID においては既約元の概念と素元の概念が一致するという事実と、任意の PID がネーター環であるという事実とを合わせると、任意の PID が UFD となることが示せる。PID においては、任意の二元の最大公約元について延べることができる。すなわち、x, y が主イデアル整域 R の元であるとき、xR + yR = cR(左辺は再びイデアルとなるから、それを生成する元 c がある)とすれば、この c が x と y の GCD である。
体と PID との間にある重要な環のクラスとして、ユークリッド整域がある。特に、任意の体はユークリッド整域であり、任意のユークリッド整域は PID である。ユークリッド整域のイデアルは、そのイデアルに属する次数最小の元で生成される。しかし、任意の PID がユークリッド整域となるわけではない。よく用いられる反例として
が挙げられる。
一意分解整域 (UFD) の理論も環論では重要である。実質的に算術の基本定理の類似を満たす環が一意分解環ということになる。
環 R が一意分解整域であるとは
2番目の条件は R の「非自明」な元の既約元への分解を保証するものであり、3番目の条件によってそのような分解は「単元を掛ける違いを除いて」一意的である。一意性について、単元を掛けてもよいという弱い形を採用するのは、そうしないと有理整数環 Z が UFD とならないからというのが理由のひとつとしてある(単元を掛けてはいけないとすると (−2) = 2 = 4 は 4 の「相異なる」二つの分解を与えるが、−1 と 1 は Z の単元だから、二つの分解は同値になる)。ゆえに、整数環 Z が UFD となるというのは、自然数についての(本来の)算術の基本定理からの簡単な帰結である。
任意の環に対して素元および既約元を定義することはできるが、この二つの概念は一般には一致しない。しかし、整域において素元は必ず既約である。逆は、UFD については正しい。
一意分解整域と他の環のクラスとの関係としては、たとえば任意のネーター環は先ほどの条件の1番目と2番目を満足するが、一般には3番目の条件を満足しない。しかし、ネーター環において素元の全体と既約元の全体が集合として一致するならば、3番目の条件も成り立つ。特に主イデアル整域は UFD である。
環は非常に重要な数学的対象であるにもかかわらず、その理論の展開には様々な制約がある。例えば、環 R の元 a, b に対して、a が零元でなく ab = 0 が成り立つとしても、b は必ずしも零元でない。特に、ab = ac で a が零元でないということから、b = c を帰結することができない。このような事実の具体的な例としては、環 R 上の行列環を考えて、a を零行列ではない非正則行列とすればよい。しかし、環に対して更なる条件を課すことで、今の場合の問題は取り除くことができる。すなわち、考える環を整域(零因子を持たない非自明な可換環)に制限するのである。しかしこれでもなお、零元でない任意の元で割り算ができるかどうかは保証されないといったような問題は生じる。例えば整数環 Z は整域を成すが、整数 a を整数 b で割るというのは整数の範囲内では必ずしもできない(整数 2 で整数 3 は割り切れず環 Z からはみ出してしまう)。この問題を解決するには、零元以外の任意の元が逆元を持つ環を考える必要がある。すなわち、体とは、環であって、その零元を除く元の全体が乗法に関してアーベル群となるものである。特に体は割り算が自由にできることから整域となる(つまり零因子を持たない)。すなわち、体 F の元 a, b に対して、商 a/b は ab によって矛盾無く定まる。
環 (R, +, · ) が整域であるとは (R, +, · ) が可換環で、零因子を持たないことを言う。さらに環 (R, +, · ) が体 であるとは、零元でない元の全体が乗法に関してアーベル群を成すことを言う。
非可換環の研究は現代代数学(特に環論)の大きな部分を占める主題である。非可換環はしばしば可換環が持たない興味深い不変性を示す。例えば、非自明な真の左または右イデアルを持つけれども単純環である(つまり非自明で真の両側イデアルをもたない)非可換環が存在する(例えば体(より一般に単純環)上の2次以上の正方行列環)。このような例から、非可換環の研究においては直感的でない考え違いをする可能性について留意すべきであることが分かる。
ベクトル空間の理論を雛形にして、非可換環論における研究対象の特別な場合を考えよう。線型代数学においてベクトル空間の「スカラー」はある体(可換可除環)でなければならなかった。しかし加群の概念ではスカラーはある抽象環であることのみが課されるので、この場合、可換性も可除性も必要ではない。加群の理論は非可換環論において様々な応用があり、たとえば環上の加群を考えることで環自身の構造についての情報が得られることも多い。環のジャコブソン根基の概念はそのようなものの例である。実際これは、環上の左単純加群の左零化域全ての交わりに等しい(「左」を全部一斉に「右」に変えてもよい)。ジャコブソン根基がその環の左または右極大イデアル全体の交わりと見ることもできるという事実は、加群がどれほど環の内部的な構造を反映しているのかを示すものといえる。確認しておくと、可換か非可換かに関わらず任意の環において、すべての極大右イデアルの交わりは、すべての極大左イデアルの交わりに等しい。したがって、ジャコブソン根基は非可換環に対してうまく定義することができないように見える概念を捉えるものとも見ることができる。
非可換環は数学のいろいろな場面に現れるため、活発な研究領域を提供する。たとえば、体上の行列環は物理学に自然に現れるものであるにもかかわらず非可換である。あるいはもっと一般にアーベル群の自己準同型環はほとんどの場合非可換となる。
非可換環については非可換群同様にあまりよく理解されていない。例えば、任意の有限アーベル群は素数冪位数の巡回群の直和に分解されるが、非可換群にはそのような単純な構造は存在しない。それと同様に、可換環に対して存在する様々な不変量を非可換環に対して求めるのは困難である。例えば、冪零根基は環が可換であることを仮定しない限りイデアルであるとは限らない。具体的な例として、可除環上の n次全行列環の冪零元全体の成す集合は、可除環のとり方によらずイデアルにならない。従って、非可換環の研究において冪零根基を調べることはないが、冪零根基の非可換環上の対応物を定義することは可能で、それは可換の場合には冪零根基と一致する。
最もよく知られた非可換環の一つに、四元数全体の成す可除環が挙げられる。
任意の環はアーベル群の圏 Ab におけるモノイド対象である(Z-加群のテンソル積のもとでモノイド圏として考える)。環 R のアーベル群へのモノイド作用は単にR-加群である。簡単に言えば R-加群はベクトル空間の一般化である(体上のベクトル空間を考える代わりに、「環上のベクトル空間」とでもいうべきものを考えている)。
アーベル群 (A, +) とその自己準同型環 End(A) を考える。簡単に言えば End(A) は A 上の射の全体の成す集合であり、f と g が End(A) の元であるとき、それらの和と積は
で与えられる。+ の右辺における f(x) + g(x) は A における和であり、積は写像の合成である。これは任意のアーベル群に付随する環である。逆に、任意の環 (R, +, · ) が与えられるとき、乗法構造を忘れた (R, +) はアーベル群となる。さらに言えば、R の各元 r に対して、右または左から r を掛けるという操作が分配的であることは、それがアーベル群 (R, +) 上に群の準同型(圏 Ab における射)となるという意味になる。A = (R, +) とかくことにして、A の自己同型を考えれば、それは R における右または左からの乗法と「可換」である。言い換えれば EndR(A) を A 上の射全体の成す環とし、その元を m とすれば m(rx) = rm(x) という性質が成り立つ。これは R の任意の元 r に対して、r の右乗法による A の射が定まると見ることもできる。R の各元にこうして得られる A の射を対応させることで R から EndR(A) への写像が定まり、これは実は環の同型を与える。この意味で、任意の環はあるアーベル X-群の自己準同型環と見なすことができる(ここで X-群というのはX を作用域に持つ群の意味である。要するに、環の最も一般的な形は、あるアーベル X-群の自己準同型環であるということになる。 | [
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"text": "数学における環(かん、英: ring)とは、台集合に「加法」(和)および「乗法」(積)と呼ばれる二種類の二項演算を備えた代数系のことである。",
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{
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"text": "最もよく知られた環の例は、整数全体の成す集合に自然な加法と乗法を考えたものである(これは乗法が可換だから可換環の例でもある)。ただし、それが環と呼ばれるためには、環の公理として、加法は可換で、加法と乗法はともに結合的であって、乗法は加法の上に分配的で、各元は加法逆元をもち、加法単位元が存在すること、が全て要求される。したがって、台集合は加法の下「加法群」と呼ばれるアーベル群を成し、乗法の下「乗法半群」と呼ばれる半群であって、乗法は加法に対して分配的であり、またしばしば乗法単位元を持つ。なお、よく用いられる環の定義としていくつか流儀の異なるものが存在するが、それについては後述する。",
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"text": "環について研究する数学の分野は環論として知られる。環論学者が研究するのは、(整数環や多項式環などの)よく知られた数学的構造やもっと他の環論の公理を満たす多くの未だよく知られていない数学的構造のいずれにも共通する性質についてである。環という構造のもつ遍在性は、数学の様々な分野において同時多発的に行われた「代数化」の動きの中心原理として働くことになった。",
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"text": "また、環論は基本的な物理法則(の根底にある特殊相対性)や物質化学における対称現象の理解にも寄与する。",
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"text": "環の概念は、1880年代のデデキントに始まる、フェルマーの最終定理に対する証明の試みの中で形成されていった。他分野(主に数論)からの寄与もあって、環の概念は一般化されていき、1920年代のうちにエミー・ネーター、ヴォルフガング・クルルらによって確立される。活発に研究が行われている数学の分野としての現代的な環論では、独特の方法論で環を研究している。すなわち、環を調べるために様々な概念を導入して、環をより小さなよく分かっている断片に分解する(イデアルを使って剰余環を作り、単純環に帰着するなど)。こういった抽象的な性質に加えて、環論では可換環と非可換環を様々な点で分けて考える(前者は代数的数論や代数幾何学の範疇に属する)。特に豊かな理論が展開された特別な種類の可換環として、可換体があり、独自に体論と呼ばれる分野が形成されている。これに対応する非可換環の理論として、非可換可除環(斜体)が盛んに研究されている。なお、1980年代にアラン・コンヌによって非可換環と幾何学の間の奇妙な関連性が指摘されて以来、非可換幾何学が環論の分野として活発になってきている。",
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{
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"text": "最もよく知られた環の例は整数全体の成す集合 Z に、通常の加法と乗法を考えたものである。すなわち Z は所謂「環の公理系」と呼ばれる種々の性質を満たす。",
"title": "定義と導入"
},
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"text": "乗法が可換律を満たすから、整数の全体は可換環である。",
"title": "定義と導入"
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"text": "環とは、集合 R とその上の二つの二項演算、加法 +: R × R → R および乗法 ∗: R × R → R の組 (R,+,∗) で、「環の公理系」と呼ばれる以下の条件を満たすものを言う(環の公理系にはいくつか異なる流儀があるが、それについては後で触れる)。",
"title": "定義と導入"
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{
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"text": "が成り立つものをいう。乗法演算の記号 ∗ は普通省略されて、a ∗ b は、ab と書かれる。",
"title": "定義と導入"
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"text": "よく知られた整数全体の成す集合 Z, 有理数全体の成す集合 Q, 実数全体の成す集合 R あるいは複素数全体の成す集合は通常の加法と乗法に関してそれぞれ環を成す。また別な例として、同じサイズの正方行列全体の成す集合も行列の和と乗法に関して環を成す(この場合の環としての零元は零行列、単位元は単位行列で与えられる)。",
"title": "定義と導入"
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"text": "(中身は実際には何でもよいから)一元集合 {0} に対して、演算を",
"title": "定義と導入"
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"text": "で定めるとき、({0}, +, ×) が環の公理を満たすことはすぐに分かる(これを自明環という)。実際、任意の和も積もただ一つ 0 にしかならないので、加法や乗法が閉じていて分配律を満たすのは明らかであるし、零元も単位元もともに 0 であって、0 の加法逆元は 0 自身である。自明環は零環の自明な例になっている。",
"title": "定義と導入"
},
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"text": "公理的な取り扱いにおいて、文献によってはしばしば異なる条件を公理として課すことがあるので、そのことに留意すべきである。環論の場合例えば、公理として「環の乗法単位元が加法単位元と異なる」という条件 1 ≠ 0 を課すことがある。これは特に「自明な環は環の一種とは考えない」と宣言することと同じである。",
"title": "定義と導入"
},
{
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"text": "もっと重大な差異を生む流儀として、環には「乗法の単位元の存在を要求しない」というものがある。これを認めると、例えば偶数全体 2Z も通常の加法と乗法に関する環となると考えることができる(実際にこれは乗法単位元の存在以外の環の公理を全て満足する)。乗法単位元の存在以外の環の公理を満足する環は、しばしば擬環 (pseudo-ring) とも呼ばれ、あるいは多少おどけて(ring だけれども乗法単位元 i が無いからということで)\"rng\" と書かれることもある。これと対照的に、乗法単位元を持つことを強調する場合には、単位的環や単位環 (unital ring, unitary ring) あるいは単位元を持つ環 (ring with unity, ring with identity, rings with 1) などと呼ぶ。ただし、非単位的環を単位的環に埋め込むことは常にできる(単位元の添加)ということに注意。",
"title": "定義と導入"
},
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"text": "他にも大きな違いを生む環の定義を採用する場合があり、例えば、環の公理から乗法の結合性を落として、非結合環あるいは分配環と呼ばれる環を考える場合がある。本項では特に指定の無い限りこのような環については扱わない。",
"title": "定義と導入"
},
{
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"text": "集合 Z4 を数 0, 1, 2, 3 からなる集合とし、後に述べるような加法と乗法を定めるものとする(任意の整数 x に対して、それを 4 で割った余り x mod 4 の成す剰余類環)。",
"title": "定義と導入"
},
{
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"text": "この Z4 がこれらの演算に関して環を成すことは簡単に確認できる(特に興味を引く点はない)。まずは、Z4 が加法に関して閉じていることは表を見れば(0, 1, 2, 3 以外の元は出てこないから)明らかである。Z4 における加法の結合性と可換性は整数全体の成す環 Z の性質から導かれる(可換性については、表の主対角線に対する対称性からも一見して直ちに分かる)。0 が零元となることも表から明らかである。任意の元 x のマイナス元が常に存在することも、それを整数と見ての (4 − x) mod 4 が所要のマイナス元であることから分かる(もちろん表を見ても確かめられる)。故に Z4 は加法の下でアーベル群になる。同様に Z4 が乗法に関して閉じていることも右側の表から分かり、Z4 における乗法の結合性は(可換性も)Z のそれから従い、1 が単位元を成すことも表を見れば直ちに確かめられる。故に Z4 は乗法の下モノイドを成す。Z4 において乗法が加法の上に分配的であることは、Z におけるそれから従う。まとめれば、確かに Z4 が与えられた演算に関して環を成すことが分かる。",
"title": "定義と導入"
},
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"text": "環の加法や乗法に関する定義からの直接的な帰結として、環の様々な性質が導かれる。",
"title": "環の初等的性質"
},
{
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"text": "特に、定義から (R, +) はアーベル群であるから、加法単位元の一意性や各元に対する加法逆元の一意性など群論の定理を適用して得られる性質はたくさんある。乗法についても同様にして単元に対する逆元の一意性などが示される。",
"title": "環の初等的性質"
},
{
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"text": "しかし、環においては乗法と加法を組み合わせた様々な特徴的性質も存在する。例えば、",
"title": "環の初等的性質"
},
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"text": "などが任意の環において示される。",
"title": "環の初等的性質"
},
{
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"text": "以下、R は乗法について可換とは限らず、必ずしも単位元を持たないものとする。",
"title": "基本概念"
},
{
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"text": "R の部分集合 S が R における加法と乗法について環になっているとき、S は部分環であるという。ただし、R が単位的であるときは、S が(単位的環としての)部分環であるためには S が R における単位元を含むことを課す。",
"title": "基本概念"
},
{
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"text": "R の元で他のどの元との積も可換になっているものを集めた集合 Z(R) はRの中心と呼ばれる。Z(R) は R の可換な部分環になっている。",
"title": "基本概念"
},
{
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"text": "R の部分集合 I が加法について閉じていて、x ∈ R, y ∈ I ならば xy やyx が必ず I に入っているとき、I を両側イデアルという。(したがって両側イデアルは単位元を持つとは限らない環である。)イデアル I が与えられているとき、x − y ∈ I で R に同値関係を定義することができる。さらに同値類の間に自然な演算を定義できて、環になることが分かる。この環を R の I による剰余環といい、R/I と書く。",
"title": "基本概念"
},
{
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"text": "環準同型とは、環における乗法と加法に対して可換である写像である。単位的環 R1 から単位的環 R2 への(単位的環)準同型 f とは、",
"title": "基本概念"
},
{
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"tag": "p",
"text": "が成り立つ、R1 から R2 への写像のことをいう。ここで、1 は R1 の単位元、1' はR2 の単位元をそれぞれ表している。準同型 f が全単射であるとき、同型(写像)と呼び、R1 と R2 は同型であるという。準同型の核はイデアルになり、次の準同型定理が成り立つ;",
"title": "基本概念"
},
{
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"tag": "p",
"text": "A が単位的可換環で f(X) が A に係数を持つ一変数多項式であるとする。A を係数とする一変数多項式環 A[X] の、f(X) によって生成される単項イデアル (f) による商を R とすると、R から A への環準同型を考えるということは A における f の根を考えることと同値になる。",
"title": "基本概念"
},
{
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"text": "環の研究の源流は多項式や代数的整数の理論にあり、またさらに19世紀中頃に超複素数系が出現したことで解析学における体の傑出した価値は失われることとなった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 29,
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"text": "1880年代にデデキントが環の概念を導入し、1892年にヒルベルトが「数環」(Zahlring) という用語を造って「代数的数体の理論」(Die Theorie der algebraischen Zahlkörper, Jahresbericht der Deutschen Mathematiker Vereinigung, Vol. 4, 1897.) を発表した。ハーヴェイ・コーエンによれば、ヒルベルトは \"circling directly back\" と呼ばれる性質を満たす特定の環に対してこの用語を用いている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 30,
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"text": "環の公理論的定義を始めて与えたのは、フレンケルで、Journal für die reine und angewandte Mathematik (A. L. Crelle), vol. 145, 1914. におけるエッセイの中で述べている。1921年にはネーターが、彼女の記念碑的論文「環のイデアル論」において、可換環論の公理的基礎付けを初めて与えている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "環が与えられたとき、それを用いて新しい環を作り出す一般的な方法がいくつか存在する。",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "感覚的には環の剰余環は群の剰余群の概念の一般化である。より正確に、環 (R, +, · ) とその両側イデアル I が与えられたとき、剰余環あるいは商環 R/I とは、I による(台となる加法群 (R, +) に関する)剰余類全体の成す集合に",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "という演算を入れたものをいう。ただし、a, b は R の任意の元である。",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "(R, +R, ·R) を環とし、R 上の実質有限列(有限個の例外を除く全ての項が 0 となる無限列)の全体を",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "とおく。ただし、ここでは非負整数(特に 0 を含む)の意味で N を用いているものと約束する。S の演算 +S : S × S → S および ·S : S × S → S を、a = (ai)i∈N および b = (bi)i∈N を S の任意の元として、 a + S b = ( a i + R b i ) i ∈ N a ⋅ S b = ( ∑ j = 0 i a j ⋅ R b i − j ) i ∈ N {\\displaystyle {\\begin{aligned}a+_{S}b&=(a_{i}+_{R}b_{i})_{i\\in \\mathbb {N} }\\\\a\\cdot _{S}b&={\\Bigl (}\\textstyle \\sum \\limits _{j=0}^{i}a_{j}\\cdot _{R}b_{i-j}{\\Bigr )}_{i\\in \\mathbb {N} }\\end{aligned}}} と定めると、(S, +S, ·S) は環となる。これを環 R 上の多項式環と呼ぶ。",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "S の元 (0, 1, 0, 0, ...) を X とすれば、多項式環としての S は R[X] と書くのが通例である。これにより、S の元 f = (fi) は",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "と R に係数を持つ多項式の形に書ける。したがって S は R 上の X を不定元とする多項式全体に、標準的なやり方で加法と乗法を定義したものと見なすことができる。通常はこれを同一視して、ここでいう S を R[X] と書いて、R における演算も S における演算も特に識別のための符牒を省略する。",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "r を固定された自然数とし、(R, +R, ·R) を環として、 M r ( R ) = { ( f i j ) i , j : f i j ∈ R for every i , j ∈ { 1 , 2 , 3 , ... , r } } M_{r}(R)=\\{{(f_{ij})}_{i,j}:f_{ij}\\in R{\\text{ for every }}i,j\\in \\{1,2,3,\\dots ,r\\}\\} とおく。演算 +M : Mr(R) × Mr(R) → Mr(R) および ·M : Mr(R) × Mr(R) → Mr(R) を、任意の元 a = (aij)i,j, b = (bij)i,j に対して、 a + M b = ( a i j + R b i j ) i , j a ⋅ M b = ( ∑ k = 1 r a i k ⋅ R b k j ) i , j {\\displaystyle {\\begin{aligned}a+_{M}b&=(a_{ij}+_{R}b_{ij})_{i,j}\\\\a\\cdot _{M}b&={\\Bigl (}\\textstyle \\sum \\limits _{k=1}^{r}a_{ik}\\cdot _{R}b_{kj}{\\Bigr )}_{i,j}\\end{aligned}}} で定めると (Mr(R), +M, ·M) は環となる。これを R 上の r×r 行列環あるいは r次正方行列環という。",
"title": "環の構成法"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "極めて様々な種類の数学的対象が、何らかの意味で付随する環を考えることによって詳しく調べられる。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "任意の位相空間 X に対して、その整係数コホモロジー環",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "を対応させることができる。これは次数付き環になっている。ホモロジー群 H i ( X , Z ) {\\displaystyle H_{i}(X,\\mathbb {Z} )} も定義され(実際にはこちらの方が先に定まるのだが)、球面とトーラスのような点集合位相ではうまい具合に区別することが難しい位相空間の区別に非常に有効な道具として利用される。ホモロジー群からコホモロジー群が、ベクトル空間の双対と大まかに似たような方法で、定義される。普遍係数定理によって、各個の整係数ホモロジーを知ることと、各個の整係数コホモロジーを知ることとは等価であるが、コホモロジー群の優位性は自然な積を考えられるという点にある(これは k重線型形式と l重線型形式から点ごとの積によって (k+l)重線型形式が得られることの類似である)。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "コホモロジーにおける環構造は、ファイバー束の特性類や多様体および代数多様体上の交叉理論あるいはシューベルト・カルキュラスなどの基礎付けを与えている。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "任意の群に対して、そのバーンサイド環と呼ばれる環が対応して、その群の有限集合への様々な作用の仕方について記述するのに用いられる。バーンサイド環の加法群は、群の推移的作用を基底とする自由アーベル群で、その加法は作用の非交和で与えられる。故に基底を用いて作用を表示することは、作用をその推移成分の和に分解することになる。乗法に関しては表現環を用いれば容易に表示できる。すなわち、バーンサイド環の乗法は二つの置換加群の置換加群としてのテンソル積として定式化される。環構造により、ある作用から別の作用を引くといった形式的操作が可能になる。バーンサイド環は表現環の指数有限な部分環を含むから、係数を整数全体から有理数全体に拡張することにより、容易に一方から他方へ移ることができる。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "任意の群環あるいはホップ代数に対して、その表現環(英語版)あるいはグリーン環が対応する。表現環の加法群は、直既約加群を基底とする自由加群で、加法は直和によって与えられる。したがって、加群を基底で表すことは加群を直既約分解することに対応する。乗法はテンソル積で与えられる。もとの群環やホップ代数が半単純ならば、表現環は指標理論でいうところの指標環にちょうどなっている。これは環構造を与えられたグロタンディーク群に他ならない。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "任意の既約代数多様体には、その函数体が付随する。代数多様体の点には函数体に含まれる付値環が対応し、座標環を含む。代数幾何学の研究では環論的な言葉で幾何学的概念を調べるために可換多元環が非常によく用いられる。双有理幾何は函数体の部分環の間の写像について研究する分野である。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "任意の単体的複体には、面環あるいはスタンレー-レイズナー環と呼ばれる環が付随している。この環には単体的複体の組合せ論的性質がたくさん反映されているので、これは特に代数的組合せ論において扱われる。特に、スタンレー-レイズナー環に関する代数幾何学は単体的多胞体の各次元の面の数を特徴付けるのに利用された。",
"title": "環の遍在性"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "いくつかの環(整域、体)のクラスについて、以下の包含関係がある。",
"title": "環のクラス"
},
{
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"tag": "p",
"text": "体や整域は現代代数学において非常に重要である。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "自然数 m が与えられたとき、m 元からなる集合には、一体いくつの異なる(必ずしも単位的でない)環構造が入るのかと考えるのは自然である。まず、位数 m が素数のときはたった二種類の環構造しかない(加法群は位数 m の巡回群に同型)。すなわち、一つは積がすべて潰れる零環であり、もう一つは有限体である。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "有限群として見れば、分類の難しさは m の素因数分解の難しさに依存する(有限アーベル群の構造定理)。例えば、m が素数の平方ならば、位数 m の環はちょうど11種類存在する。一方、位数 m の「群」は二種類しかない(いずれも可換群)。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "有限環論が有限アーベル群の理論よりも複雑なのは、任意の有限アーベル群に対してそれを加法群とする少なくとも二種類の互いに同型でない有限環が存在することによる(Z/mZ のいくつかの直和と零環)。一方、有限アーベル群を必要としない方法では有限環の方が簡単なこともある。例えば、有限単純群の分類は20世紀数学の大きなブレイクスルーの一つであり、その証明は雑誌の何千ページにも及ぶ長大なものであったが、他方で任意の有限単純環は必ず適当な位数 q の有限体上の n次正方行列環 Mn(Fq) に同型である。このことはジョセフ・ウェダーバーンが1905年と1907年に確立した2つの定理から従う。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "定理の一つは、ウェダーバーンの小定理として知られる、任意の有限可除環は必ず可換であるというものである。ネイサン・ヤコブソンが後に可換性を保証する別な条件として",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "を発見している。特に、r = r を任意の r が満たすならば、その環はブール環と呼ばれる。環の可換性を保証するもっと一般の条件もいくつか知られている。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "自然数 m に対する位数 m の環の総数はオンライン整数列大辞典の A027623 にリストされている。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "結合的多元環は環であり、体 K 上のベクトル空間でもある。例えば、実数体 R 上の n次行列全体の成す集合は、実数倍と行列の加法に関して n次元の実ベクトル空間であり、行列の乗法を環の乗法として持つ。二次の実正方行列を考えるのが非自明だが基本的な例である。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "リー環は非結合的かつ反交換的な乗法を持つ環で、ヤコビ恒等式を満足するものである。より細かく、リー環 L を加法に関してアーベル群で、さらに演算 [ , ] に対して以下を満たすものとして定義することができる。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "ただし、x, y, z は L の任意の元である。リー環はその加法群がリー群となることは必要としない。任意のリー代数はリー環である。任意の結合環に対して括弧積を",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "で定めると、リー環が得られる。逆に任意のリー環に対して、普遍包絡環と呼ばれる結合環が対応する。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "リー環は、ラザール対応を通じて有限p-群の研究に用いられる。p-群の低次の中心因子は有限アーベル p-群となるから、Z/pZ 上の加群である。低次の中心因子の直和には、括弧積を2つの剰余表現の交換子として定義することによって、リー環の構造が与えられる。このリー環構造は他の加群準同型によって豊穣化されるならば、p-冪写像によって制限リー環とよばれるリー環を対応させることができる。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "リー環はさらに、p進整数環のような整数環上のリー代数を調べることによって、p進解析群やその自己準同型を定義するのにも利用される。リー型の有限群の定義はシュバレーによって与えられた。すなわち、複素数体上のリー環をその整数点に制限して、さらに p を法とする還元を行うことにより有限体上のリー環を得る。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "位相空間 (X, T) が環構造 (X, +, · ) も持つものとする。このとき、(X, T, +, · ) が位相環であるとは、その環構造と位相構造が両立することをいう。すなわち、和と積をとる写像",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "がともに連続写像となる(ただし、X × X には積位相を入れるものとする)。したがって明らかに、任意の位相環は加法に関して位相群である。",
"title": "環のクラス"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "環は加法に関しては交換法則が成り立つが、乗法に関しては可換性は要求されない。乗法に関しても交換法則が成り立つならば可換環という。すなわち、環 (R, +, · ) に対して、(R, +, · ) が可換環であるための必要十分条件は R の任意の元 a, b に対して a · b = b · a が成り立つことである。言い換えれば、可換環 (R, +, · ) は乗法に関して可換モノイドでなければならない。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "環は整数全体とよく似た構造を示す代数系だが、一般の環を考えたのではその環論的性質は必ずしも近いものとはならない。整数に近い性質を持つ環として、環の任意のイデアルが単独の元で生成されるという性質を持つもの、すなわち主イデアル環を考えよう。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "環 R が右主イデアル環 (PIR) であるとは、R の任意の右イデアルが",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "の形に表されることをいう。また主イデアル整域 (PID) とは整域でもある主イデアル環をいう。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "環が主イデアル整域であるという条件は、環に対するほかの一般的な条件よりもいくぶん強い制約条件である。例えば、R が一意分解整域 (UFD) ならば R 上の多項式環も UFD となるが、R が主イデアル環の場合同様の主張は一般には正しくない。整数環 Z は主イデアル環の簡単な例だが、Z 上の多項式環は R = Z[X] は PIR でない(実際 I = 2R + XR は単項生成でない)。このような反例があるにもかかわらず、任意の体上の一変数多項式環は主イデアル整域となる(実はさらに強く、ユークリッド整域になる)。より一般に、一変数多項式環が PID となるための必要十分条件は、その多項式環が体上定義されていることである。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "PIR 上の多項式環のことに加えて、主イデアル環は、可除性に関して有理整数環との関係を考えても、いろいろと興味深い性質を有することが分かる。つまり、主イデアル整域は可除性に関して整数環と同様に振舞うのである。例えば、任意の PID は UFD である、すなわち算術の基本定理の対応物が任意の PID で成立する。さらに言えば、ネーター環というのは任意のイデアルが有限生成となる環のことだから、主イデアル整域は明らかにネーター環である。PID においては既約元の概念と素元の概念が一致するという事実と、任意の PID がネーター環であるという事実とを合わせると、任意の PID が UFD となることが示せる。PID においては、任意の二元の最大公約元について延べることができる。すなわち、x, y が主イデアル整域 R の元であるとき、xR + yR = cR(左辺は再びイデアルとなるから、それを生成する元 c がある)とすれば、この c が x と y の GCD である。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "体と PID との間にある重要な環のクラスとして、ユークリッド整域がある。特に、任意の体はユークリッド整域であり、任意のユークリッド整域は PID である。ユークリッド整域のイデアルは、そのイデアルに属する次数最小の元で生成される。しかし、任意の PID がユークリッド整域となるわけではない。よく用いられる反例として",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "が挙げられる。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "一意分解整域 (UFD) の理論も環論では重要である。実質的に算術の基本定理の類似を満たす環が一意分解環ということになる。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "環 R が一意分解整域であるとは",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "2番目の条件は R の「非自明」な元の既約元への分解を保証するものであり、3番目の条件によってそのような分解は「単元を掛ける違いを除いて」一意的である。一意性について、単元を掛けてもよいという弱い形を採用するのは、そうしないと有理整数環 Z が UFD とならないからというのが理由のひとつとしてある(単元を掛けてはいけないとすると (−2) = 2 = 4 は 4 の「相異なる」二つの分解を与えるが、−1 と 1 は Z の単元だから、二つの分解は同値になる)。ゆえに、整数環 Z が UFD となるというのは、自然数についての(本来の)算術の基本定理からの簡単な帰結である。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "任意の環に対して素元および既約元を定義することはできるが、この二つの概念は一般には一致しない。しかし、整域において素元は必ず既約である。逆は、UFD については正しい。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "一意分解整域と他の環のクラスとの関係としては、たとえば任意のネーター環は先ほどの条件の1番目と2番目を満足するが、一般には3番目の条件を満足しない。しかし、ネーター環において素元の全体と既約元の全体が集合として一致するならば、3番目の条件も成り立つ。特に主イデアル整域は UFD である。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "環は非常に重要な数学的対象であるにもかかわらず、その理論の展開には様々な制約がある。例えば、環 R の元 a, b に対して、a が零元でなく ab = 0 が成り立つとしても、b は必ずしも零元でない。特に、ab = ac で a が零元でないということから、b = c を帰結することができない。このような事実の具体的な例としては、環 R 上の行列環を考えて、a を零行列ではない非正則行列とすればよい。しかし、環に対して更なる条件を課すことで、今の場合の問題は取り除くことができる。すなわち、考える環を整域(零因子を持たない非自明な可換環)に制限するのである。しかしこれでもなお、零元でない任意の元で割り算ができるかどうかは保証されないといったような問題は生じる。例えば整数環 Z は整域を成すが、整数 a を整数 b で割るというのは整数の範囲内では必ずしもできない(整数 2 で整数 3 は割り切れず環 Z からはみ出してしまう)。この問題を解決するには、零元以外の任意の元が逆元を持つ環を考える必要がある。すなわち、体とは、環であって、その零元を除く元の全体が乗法に関してアーベル群となるものである。特に体は割り算が自由にできることから整域となる(つまり零因子を持たない)。すなわち、体 F の元 a, b に対して、商 a/b は ab によって矛盾無く定まる。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "環 (R, +, · ) が整域であるとは (R, +, · ) が可換環で、零因子を持たないことを言う。さらに環 (R, +, · ) が体 であるとは、零元でない元の全体が乗法に関してアーベル群を成すことを言う。",
"title": "可換環"
},
{
"paragraph_id": 78,
"tag": "p",
"text": "非可換環の研究は現代代数学(特に環論)の大きな部分を占める主題である。非可換環はしばしば可換環が持たない興味深い不変性を示す。例えば、非自明な真の左または右イデアルを持つけれども単純環である(つまり非自明で真の両側イデアルをもたない)非可換環が存在する(例えば体(より一般に単純環)上の2次以上の正方行列環)。このような例から、非可換環の研究においては直感的でない考え違いをする可能性について留意すべきであることが分かる。",
"title": "非可換環"
},
{
"paragraph_id": 79,
"tag": "p",
"text": "ベクトル空間の理論を雛形にして、非可換環論における研究対象の特別な場合を考えよう。線型代数学においてベクトル空間の「スカラー」はある体(可換可除環)でなければならなかった。しかし加群の概念ではスカラーはある抽象環であることのみが課されるので、この場合、可換性も可除性も必要ではない。加群の理論は非可換環論において様々な応用があり、たとえば環上の加群を考えることで環自身の構造についての情報が得られることも多い。環のジャコブソン根基の概念はそのようなものの例である。実際これは、環上の左単純加群の左零化域全ての交わりに等しい(「左」を全部一斉に「右」に変えてもよい)。ジャコブソン根基がその環の左または右極大イデアル全体の交わりと見ることもできるという事実は、加群がどれほど環の内部的な構造を反映しているのかを示すものといえる。確認しておくと、可換か非可換かに関わらず任意の環において、すべての極大右イデアルの交わりは、すべての極大左イデアルの交わりに等しい。したがって、ジャコブソン根基は非可換環に対してうまく定義することができないように見える概念を捉えるものとも見ることができる。",
"title": "非可換環"
},
{
"paragraph_id": 80,
"tag": "p",
"text": "非可換環は数学のいろいろな場面に現れるため、活発な研究領域を提供する。たとえば、体上の行列環は物理学に自然に現れるものであるにもかかわらず非可換である。あるいはもっと一般にアーベル群の自己準同型環はほとんどの場合非可換となる。",
"title": "非可換環"
},
{
"paragraph_id": 81,
"tag": "p",
"text": "非可換環については非可換群同様にあまりよく理解されていない。例えば、任意の有限アーベル群は素数冪位数の巡回群の直和に分解されるが、非可換群にはそのような単純な構造は存在しない。それと同様に、可換環に対して存在する様々な不変量を非可換環に対して求めるのは困難である。例えば、冪零根基は環が可換であることを仮定しない限りイデアルであるとは限らない。具体的な例として、可除環上の n次全行列環の冪零元全体の成す集合は、可除環のとり方によらずイデアルにならない。従って、非可換環の研究において冪零根基を調べることはないが、冪零根基の非可換環上の対応物を定義することは可能で、それは可換の場合には冪零根基と一致する。",
"title": "非可換環"
},
{
"paragraph_id": 82,
"tag": "p",
"text": "最もよく知られた非可換環の一つに、四元数全体の成す可除環が挙げられる。",
"title": "非可換環"
},
{
"paragraph_id": 83,
"tag": "p",
"text": "任意の環はアーベル群の圏 Ab におけるモノイド対象である(Z-加群のテンソル積のもとでモノイド圏として考える)。環 R のアーベル群へのモノイド作用は単にR-加群である。簡単に言えば R-加群はベクトル空間の一般化である(体上のベクトル空間を考える代わりに、「環上のベクトル空間」とでもいうべきものを考えている)。",
"title": "圏論的記述"
},
{
"paragraph_id": 84,
"tag": "p",
"text": "アーベル群 (A, +) とその自己準同型環 End(A) を考える。簡単に言えば End(A) は A 上の射の全体の成す集合であり、f と g が End(A) の元であるとき、それらの和と積は",
"title": "圏論的記述"
},
{
"paragraph_id": 85,
"tag": "p",
"text": "で与えられる。+ の右辺における f(x) + g(x) は A における和であり、積は写像の合成である。これは任意のアーベル群に付随する環である。逆に、任意の環 (R, +, · ) が与えられるとき、乗法構造を忘れた (R, +) はアーベル群となる。さらに言えば、R の各元 r に対して、右または左から r を掛けるという操作が分配的であることは、それがアーベル群 (R, +) 上に群の準同型(圏 Ab における射)となるという意味になる。A = (R, +) とかくことにして、A の自己同型を考えれば、それは R における右または左からの乗法と「可換」である。言い換えれば EndR(A) を A 上の射全体の成す環とし、その元を m とすれば m(rx) = rm(x) という性質が成り立つ。これは R の任意の元 r に対して、r の右乗法による A の射が定まると見ることもできる。R の各元にこうして得られる A の射を対応させることで R から EndR(A) への写像が定まり、これは実は環の同型を与える。この意味で、任意の環はあるアーベル X-群の自己準同型環と見なすことができる(ここで X-群というのはX を作用域に持つ群の意味である。要するに、環の最も一般的な形は、あるアーベル X-群の自己準同型環であるということになる。",
"title": "圏論的記述"
}
] | 数学における環とは、台集合に「加法」(和)および「乗法」(積)と呼ばれる二種類の二項演算を備えた代数系のことである。 最もよく知られた環の例は、整数全体の成す集合に自然な加法と乗法を考えたものである(これは乗法が可換だから可換環の例でもある)。ただし、それが環と呼ばれるためには、環の公理として、加法は可換で、加法と乗法はともに結合的であって、乗法は加法の上に分配的で、各元は加法逆元をもち、加法単位元が存在すること、が全て要求される。したがって、台集合は加法の下「加法群」と呼ばれるアーベル群を成し、乗法の下「乗法半群」と呼ばれる半群であって、乗法は加法に対して分配的であり、またしばしば乗法単位元を持つ。なお、よく用いられる環の定義としていくつか流儀の異なるものが存在するが、それについては後述する。 環について研究する数学の分野は環論として知られる。環論学者が研究するのは、(整数環や多項式環などの)よく知られた数学的構造やもっと他の環論の公理を満たす多くの未だよく知られていない数学的構造のいずれにも共通する性質についてである。環という構造のもつ遍在性は、数学の様々な分野において同時多発的に行われた「代数化」の動きの中心原理として働くことになった。 また、環論は基本的な物理法則(の根底にある特殊相対性)や物質化学における対称現象の理解にも寄与する。 環の概念は、1880年代のデデキントに始まる、フェルマーの最終定理に対する証明の試みの中で形成されていった。他分野(主に数論)からの寄与もあって、環の概念は一般化されていき、1920年代のうちにエミー・ネーター、ヴォルフガング・クルルらによって確立される。活発に研究が行われている数学の分野としての現代的な環論では、独特の方法論で環を研究している。すなわち、環を調べるために様々な概念を導入して、環をより小さなよく分かっている断片に分解する(イデアルを使って剰余環を作り、単純環に帰着するなど)。こういった抽象的な性質に加えて、環論では可換環と非可換環を様々な点で分けて考える(前者は代数的数論や代数幾何学の範疇に属する)。特に豊かな理論が展開された特別な種類の可換環として、可換体があり、独自に体論と呼ばれる分野が形成されている。これに対応する非可換環の理論として、非可換可除環(斜体)が盛んに研究されている。なお、1980年代にアラン・コンヌによって非可換環と幾何学の間の奇妙な関連性が指摘されて以来、非可換幾何学が環論の分野として活発になってきている。 | {{Wikibooks|環論|環論}}
[[数学]]における'''環'''(かん、{{lang-en-short|''ring''}})とは、[[数学的構造|台集合]]に「'''加法'''」(和)および「'''乗法'''」(積)と呼ばれる二種類の[[二項演算]]を備えた[[代数系]]のことである。
最もよく知られた環の例は、[[整数]]全体の成す[[集合]]に自然な[[加法]]と[[乗法]]を考えたものである(これは乗法が可換だから[[可換環]]の例でもある)。ただし、それが環と呼ばれるためには、環の公理として、加法は[[交換法則|可換]]で、加法と乗法はともに[[結合法則|結合的]]であって、乗法は加法の上に分配的で、各元は[[加法逆元]]をもち、[[加法単位元]]が存在すること、が全て要求される。したがって、台集合は加法の下「'''加法群'''」と呼ばれる[[アーベル群]]を成し、乗法の下「'''乗法半群'''」と呼ばれる[[半群]]であって、乗法は加法に対して[[分配法則|分配的]]であり、またしばしば乗法単位元を持つ<ref group="注" name="existence_of_unity">乗法に関しては[[半群]]となることのみを課す(乗法単位元の存在を要求しない)こともある。[[#定義に関する注意]]を参照</ref>。なお、よく用いられる環の定義としていくつか流儀の異なるものが存在するが、それについては後述する。
環について研究する数学の分野は[[環論]]として知られる。環論学者が研究するのは、([[整数環]]や[[多項式環]]などの)よく知られた[[数学的構造]]やもっと他の環論の公理を満たす多くの未だよく知られていない数学的構造のいずれにも共通する性質についてである。環という構造のもつ遍在性は、数学の様々な分野において同時多発的に行われた「代数化」の動きの中心原理として働くことになった<ref>{{Harvard citations |last=Herstein |year=1964 |loc=§3, p.83 |nb=yes}}</ref>。
また、環論は基本的な[[物理法則]](の根底にある[[特殊相対性]])や[[物質化学]]における対称現象の理解にも寄与する。
環の概念は、1880年代の[[リヒャルト・デーデキント|デデキント]]に始まる、[[フェルマーの最終定理]]に対する証明の試みの中で形成されていった。他分野(主に[[数論]])からの寄与もあって、環の概念は一般化されていき、1920年代のうちに[[エミー・ネーター]]、[[ヴォルフガング・クルル]]らによって確立される<ref name="history"/>。活発に研究が行われている数学の分野としての現代的な環論では、独特の方法論で環を研究している。すなわち、環を調べるために[[環論の用語|様々な概念]]を導入して、環をより小さなよく分かっている断片に分解する([[イデアル (環論)|イデアル]]を使って[[剰余環]]を作り、[[単純環]]に帰着するなど)。こういった抽象的な性質に加えて、環論では[[可換環]]と[[非可換環]]を様々な点で分けて考える(前者は[[代数的数論]]や[[代数幾何学]]の範疇に属する)。特に豊かな理論が展開された特別な種類の可換環として、[[可換体]]があり、独自に[[体論]]と呼ばれる分野が形成されている。これに対応する非可換環の理論として、非可換[[可除環]](斜体)が盛んに研究されている。なお、1980年代に[[アラン・コンヌ]]によって非可換環と幾何学の間の奇妙な関連性が指摘されて以来、[[非可換幾何学]]が環論の分野として活発になってきている。
== 定義と導入 ==
=== 原型的な例 ===
最もよく知られた環の例は[[整数]]全体の成す集合 '''Z''' に、通常の[[加法]]と[[乗法]]を考えたものである。すなわち '''Z''' は所謂「環の公理系」と呼ばれる種々の性質を満たす。
{|class="wikitable" style="margin:1ex auto 1ex auto"
|+ 整数の集合における基本性質
! !! 加法 !! 乗法
|-
! 演算の[[閉性]]
| ''a'' + ''b'' は整数 || ''a'' × ''b'' は整数
|-
! [[結合法則|結合性]]
| ''a'' + (''b'' + ''c'') = (''a'' + ''b'') + ''c'' || ''a'' × (''b'' × ''c'') = (''a'' × ''b'') × ''c''
|-
! [[交換法則|可換性]]
| ''a'' + ''b'' = ''b'' + ''a'' || ''a'' × ''b'' = ''b'' × ''a''
|-
! [[中立元]]の存在性
| ''a'' + 0 = ''a'' ([[加法単位元|零元]])|| ''a'' × 1 = ''a'' ([[乗法単位元|単位元]])
|-
! [[反数]]の存在性
| ''a'' + (−''a'') = 0 ||
|-
|colspan="3"|
|-
! [[分配法則|分配性]]
| colspan="2" style="text-align:center"| ''a'' × (''b'' + ''c'') = (''a'' × ''b'') + (''a'' × ''c''), および (''a'' + ''b'')× ''c'' = ''a'' × ''c'' + ''b'' × ''c''
|}
乗法が可換律を満たすから、整数の全体は可換環である。
=== 厳密な定義 ===
'''環'''とは、集合 ''R'' とその上の二つの[[二項演算]]、加法 +: ''R'' × ''R'' → ''R'' および乗法 ∗: ''R'' × ''R'' → ''R'' の組 (''R'',+,∗) で、「環の公理系」と呼ばれる以下の条件を満たすものを言う<ref>{{Harvard citations |last=Herstein |year=1975 |loc=§2.1, p.27 |nb=yes}}</ref>(環の公理系にはいくつか異なる流儀があるが、それについては後で触れる)。
; 加法群:(''R'', +) は[[アーベル群]]である
:# 加法に関して閉じている:任意の ''a'', ''b'' ∈ ''R'' に対して ''a'' + ''b'' ∈ ''R'' が成り立つ<ref group="注" name="closedness">二項演算の定義に演算の閉性を含める場合も多く、その場合二項演算であるといった時点で閉性も出るから、特に断らないことも多い。</ref>。
:# 加法の[[結合法則|結合性]]:任意の ''a'', ''b'', ''c'' ∈ ''R'' に対して (''a'' + ''b'') + ''c'' = ''a'' + (''b'' + ''c'') が成り立つ。
:# [[加法単位元]](零元)の存在:如何なる ''a'' ∈ ''R'' に対しても共通して ''0'' + ''a'' = ''a'' + ''0'' = ''a'' を満たす 0 ∈ ''R'' が存在する。
:# 加法逆元(反元、[[マイナス元]])の存在:各 ''a'' ∈ ''R'' ごとに ''a'' + ''b'' = ''b'' + ''a'' = 0 を満たす ''b'' ∈ ''R'' が存在する。
:# 加法の[[交換法則|可換性]]:任意の ''a'', ''b'' ∈ ''R'' に対して ''a'' + ''b'' = ''b'' + ''a'' が成立する。
; 乗法半群:(''R'',∗) は[[モノイド]](あるいは[[半群]])である
:# 乗法に関して閉じている:任意の ''a'', ''b'' ∈ ''R'' に対して ''a'' ∗ ''b'' ∈ ''R'' が成り立つ<ref group="注" name="closedness" />。
:# 乗法の[[結合法則|結合性]]:任意の ''a'', ''b'', ''c'' ∈ ''R'' に対して (''a'' ∗ ''b'') ∗ ''c'' = ''a'' ∗ (''b'' ∗ ''c'') が成立する。
:# 乗法に関する[[単位元]]を持つ<ref group="注" name="existence_of_unity" />。
; [[分配法則|分配律]]:乗法は加法の上に分配的である
:# 左分配律:任意の ''a'', ''b'', ''c'' ∈ ''R'' に対して ''a'' ∗ (''b'' + ''c'') = (''a'' ∗ ''b'') + (''a'' ∗ ''c'') が成り立つ。
:# 右分配律:任意の ''a'', ''b'', ''c'' ∈ ''R'' に対して (''a'' + ''b'') ∗ ''c'' = (''a'' ∗ ''c'') + (''b'' ∗ ''c'') が成り立つ。
が成り立つものをいう。乗法演算の記号 ∗ は普通省略されて、''a'' ∗ ''b'' は、''ab'' と書かれる。
よく知られた整数全体の成す集合 '''Z''', 有理数全体の成す集合 '''Q''', 実数全体の成す集合 ''R'' あるいは複素数全体の成す集合は通常の加法と乗法に関してそれぞれ環を成す。また別な例として、同じサイズの正方行列全体の成す集合も行列の和と乗法に関して環を成す(この場合の環としての零元は[[零行列]]、単位元は[[単位行列]]で与えられる)。
=== 自明な例 ===
(中身は実際には何でもよいから)[[一元集合]] {0} に対して、演算を
: 0 + 0 = 0
: 0 × 0 = 0
で定めるとき、({0}, +, ×) が環の公理を満たすことはすぐに分かる(これを[[自明環]]という)。実際、任意の和も積もただ一つ 0 にしかならないので、加法や乗法が閉じていて分配律を満たすのは明らかであるし、零元も単位元もともに 0 であって、0 の加法逆元は 0 自身である。自明環は[[積零環|零環]]<ref group="注">自明環の意味で「零環」という語を用いることもあるが、零環は一般に「任意の積が 0 に潰れている(擬)環」の意味でも用いるので、ここでは明確化のために自明環を零環と呼ぶのは避けておく。</ref>の自明な例になっている。
=== 定義に関する注意 ===
公理的な取り扱いにおいて、文献によってはしばしば異なる条件を公理として課すことがあるので、そのことに留意すべきである。環論の場合例えば、公理として「環の乗法単位元が加法単位元と異なる」という条件 1 ≠ 0 を課すことがある。これは特に「[[自明な環]]は環の一種とは考えない」と宣言することと同じである。
もっと重大な差異を生む流儀として、環には「乗法の単位元の存在を要求しない」というものがある<ref>[[イズラエル・ネイサン・ヘルシュタイン|Herstein, I. N.]] ''Topics in Algebra'', Wiley; 2 edition (June 20, 1975), ISBN 0-471-01090-1.</ref><ref>{{Citation |title=Contemporary Abstract Algebra |author=Joseph Gallian |publisher=Houghton Mifflin |year=2004 |isbn=9780618514717 |accessdate=2008-04-13}}</ref><ref>{{Citation |title=The Theory of Rings |author=Neal H. McCoy |publisher=The MacMillian Company |year=1964 |page=161 |isbn=978-1124045559 |accessdate=2009-05-02}}</ref>。これを認めると、例えば偶数全体 2'''Z''' も通常の加法と乗法に関する環となると考えることができる(実際にこれは乗法単位元の存在以外の環の公理を全て満足する)。乗法単位元の存在以外の環の公理を満足する環は、しばしば[[擬環]] {{lang|en|(pseudo-ring)}} とも呼ばれ、あるいは多少おどけて(ring だけれども乗法単位元 ''i'' が無いからということで)"rng" と書かれることもある。これと対照的に、乗法単位元を持つことを強調する場合には、'''[[単位的環]]'''や'''単位環''' {{lang|en|(''unital ring'', ''unitary ring'')}} あるいは'''単位元を持つ環''' {{lang|en|(''ring with unity'', ''ring with identity'', ''rings with 1'')}} などと呼ぶ<ref>{{Citation |title=Introduction to Foundations of Mathematics|author = Raymond Louis Wilder |publisher=John Wiley and Sons |year=1965 |page=176 |accessdate=2008-12-21}}</ref>。ただし、非単位的環を単位的環に[[埋め込み (数学)|埋め込む]]ことは常にできる(単位元の添加)ということに注意。
他にも大きな違いを生む環の定義を採用する場合があり、例えば、環の公理から乗法の結合性を落として、[[非結合環]]あるいは分配環と呼ばれる環を考える場合がある。本項では特に指定の無い限りこのような環については扱わない。
=== 少しだけ非自明な例 ===
集合 '''Z'''{{sub|4}} を数 0, 1, 2, 3 からなる集合とし、後に述べるような加法と乗法を定めるものとする(任意の整数 ''x'' に対して、それを 4 で割った余り ''x'' [[合同算術|mod]] 4 の成す[[剰余類環]])。
* 任意の ''x'', ''y'' ∈ '''Z'''{{sub|4}} に対して ''x'' + ''y'' は、それを整数と見ての和の mod 4。したがって '''Z'''{{sub|4}} の加法構造は、下に掲げた表の左側のようになる。
* 任意の ''x'', ''y'' ∈ '''Z'''{{sub|4}} に対して ''x'' ⋅ ''y'' は、それを整数と見ての積の mod 4。したがって '''Z'''{{sub|4}} の乗法構造は、下に掲げた表の右側のようになる。
{|class="wikitable" style="text-align:center;float:right"
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この '''Z'''{{sub|4}} がこれらの演算に関して環を成すことは簡単に確認できる(特に興味を引く点はない)。まずは、'''Z'''{{sub|4}} が加法に関して閉じていることは表を見れば(0, 1, 2, 3 以外の元は出てこないから)明らかである。'''Z'''{{sub|4}} における加法の結合性と可換性は整数全体の成す環 '''Z''' の性質から導かれる(可換性については、表の主対角線に対する対称性からも一見して直ちに分かる)。0 が零元となることも表から明らかである。任意の元 ''x'' のマイナス元が常に存在することも、それを整数と見ての (4 − ''x'') mod 4 が所要のマイナス元であることから分かる(もちろん表を見ても確かめられる)。故に '''Z'''{{sub|4}} は加法の下で[[アーベル群]]になる。同様に '''Z'''{{sub|4}} が乗法に関して閉じていることも右側の表から分かり、'''Z'''{{sub|4}} における乗法の結合性は(可換性も)'''Z''' のそれから従い、1 が単位元を成すことも表を見れば直ちに確かめられる。故に '''Z'''{{sub|4}} は乗法の下[[モノイド]]を成す。'''Z'''{{sub|4}} において乗法が加法の上に分配的であることは、'''Z''' におけるそれから従う。まとめれば、確かに '''Z'''{{sub|4}} が与えられた演算に関して環を成すことが分かる。
; '''Z'''{{sub|4}} の環としての性質
:* 整数の乗法においては、二整数 ''x'', ''y'' の積が ''xy'' = 0 を満たすならば ''x'' = 0 または ''y'' = 0 が成り立つが、環 ('''Z'''{{sub|4}}, +, ⋅) では必ずしもそれは成立せず、例えば 2 ⋅ 2 = 0 が各[[因数]]が 0 ではないにもかかわらず成り立つ。一般に、環 (''R'', +, ⋅) の非零元 ''a'' が (''R'', +, ⋅) における'''[[零因子]]'''であるとは、''R'' の非零元 ''b'' で ''ab'' = 0 を満たすものが存在するときに言う。環 '''Z'''{{sub|4}} においては 2 が唯一の零因子である(なお、0 を零因子と扱うこともあることに注意)。
:* 零因子を持たない可換環は[[整域]]と呼ばれる([[#整域と体|後述]])。故に整数全体の成す環 '''Z''' は整域であり、一方 '''Z'''{{sub|4}} は整域ではない環である。
== 環の初等的性質 ==
環の加法や乗法に関する定義からの直接的な帰結として、環の様々な性質が導かれる。
特に、定義から (''R'', +) は[[アーベル群]]であるから、加法単位元の一意性や各元に対する加法逆元の一意性など[[群論]]の定理を適用して得られる性質はたくさんある。乗法についても同様にして[[単元 (代数学)|単元]]に対する逆元の一意性などが示される。
しかし、環においては乗法と加法を組み合わせた様々な特徴的性質も存在する。例えば、
* 任意の元 ''a'' について ''a''0 = 0''a'' = 0 が成り立つ。
* 単位的環において 1 = 0 ならば、その環にはたった一つの元しか含まれない。
* 乗法の単位元が存在するとき −''a'' = (−1)''a'' が成り立つ。
* (−''a'')(−''b'') = ''ab'' が成り立つ。
などが任意の環において示される。
== 例 ==
* 環論の歴史的な動機付けとなった例として[[整数]]や[[代数的整数]]のなす環があげられる。
* [[有理数]]全体の成す集合 '''Q'''、[[実数]]の全体の成す集合 '''R''' あるいは[[複素数]]の全体の成す集合 '''C''' はそれぞれ環をなす。実際、それらは[[可換体|体]]でもある。
* ''n'' を正の整数とするとき、''n'' を[[法 (数学)|法]]とする整数の集合 '''Z''' / ''n'''''Z''' は環である(この記法については、以下の剰余環を参照)。
* [[閉区間]] [''a'', ''b''] で定義されるすべての[[実数]]値[[連続関数]]のなす集合 ''C''[''a'', ''b''] は環(さらに実数体上の[[体上の多元環|多元環]] )をなす。演算は関数の各点での値ごとに関する加法と乗法で入れる。すなわち、[[関数 (数学)|関数]] ''f''(''x'') および ''g''(''x'') の和と積は、次のような値をとる関数として定義される。
** <math>(f+g)(x) = f(x) + g(x)</math>
** <math>(fg)(x) = f(x) g(x)</math>
* 係数をある環 ''R'' に持つ多変数の[[多項式]]全体の集合 ''R''[''x''{{sub|1}}, ''x''{{sub|2}}, …, ''x{{sub|n}}''] は環をなす。
* ''A'' を環、''n'' を自然数とするとき、''A'' に係数を持つ ''n'' 次の[[正方行列]]全体の集合 M{{sub|''n''}}''A''は(一般には非可換な)環をなす。
* ''G'' が[[アーベル群]]であるとき、''G'' の[[自己準同型]]全体のなす集合 End(''G'') は、加法を値ごとの和で、乗法を[[写像の合成]]によって定義することで(一般には非可換な)環をなす{{refnest|group="注"|逆に任意の環は適当なアーベル群の自己準同型環における部分環として実現できる{{sfn|Anderson|Fuller|1992|p={{google books quote|id=MALaBwAAQBAJ|page=21|21}}}}。これは[[群論]]における[[ケイリーの定理]]の環論的類似である。}}。
* ''S'' を集合とするとき、''S'' の[[冪集合]] ''P''(''S'') は次のようにして環になる (''A'', ''B'' ⊂ ''S''):
** <math>A + B = ( A \cup B ) - ( A \cap B )</math>
** <math>A * B = A \cap B</math>
: これは[[ブール代数]]の例である。
== 基本概念 ==
以下、''R'' は乗法について可換とは限らず、必ずしも単位元を持たないものとする。
=== 部分環 ===
''R'' の部分集合 ''S'' が ''R'' における加法と乗法について環になっているとき、''S'' は'''部分環'''であるという。ただし、''R'' が単位的であるときは、''S'' が(単位的環としての)部分環であるためには ''S'' が ''R'' における単位元を含むことを課す。
''R'' の元で他のどの元との積も可換になっているものを集めた集合 ''Z''(''R'') は''R''の[[環の中心|中心]]と呼ばれる。''Z''(''R'') は ''R'' の可換な部分環になっている。
=== イデアル ===
''R'' の部分集合 ''I'' が加法について閉じていて、''x'' ∈ ''R'', ''y'' ∈ ''I'' ならば ''xy'' や''yx'' が必ず ''I'' に入っているとき、''I'' を両側'''[[イデアル]]'''という。(したがって両側イデアルは単位元を持つとは限らない環である。)イデアル ''I'' が与えられているとき、''x'' − ''y'' ∈ ''I'' で ''R'' に[[同値関係]]を定義することができる。さらに同値類の間に自然な演算を定義できて、環になることが分かる。この環を ''R'' の ''I'' による'''剰余環'''といい、''R''/''I'' と書く。
=== 環の準同型 ===
環準同型とは、環における乗法と加法に対して可換である写像である。単位的環 ''R''{{sub|1}} から単位的環 ''R''{{sub|2}} への[[環準同型|(単位的環)準同型]] ''f'' とは、
# <math>f(a+b)=f(a)+f(b)</math>
# <math>f(ab)=f(a)f(b)</math>
# <math>f(1)=1'</math>
が成り立つ、''R''{{sub|1}} から ''R''{{sub|2}} への写像のことをいう。ここで、1 は ''R''{{sub|1}} の単位元、1' は''R''{{sub|2}} の単位元をそれぞれ表している。準同型 ''f'' が全単射であるとき、'''同型'''(写像)と呼び、''R''{{sub|1}} と ''R''{{sub|2}} は同型であるという。準同型の[[核 (代数学)|核]]はイデアルになり、次の[[準同型定理]]が成り立つ;
: ''R''{{sub|1}}/Ker ''f'' と Im ''f'' とは互いに同型である。
''A'' が単位的可換環で ''f''(''X'') が ''A'' に係数を持つ一変数多項式であるとする。''A'' を係数とする一変数多項式環 ''A''[''X''] の、''f''(''X'') によって生成される単項イデアル (''f'') による商を ''R'' とすると、''R'' から ''A'' への環準同型を考えるということは ''A'' における ''f'' の根を考えることと同値になる。
== 歴史 ==
{{main|環論#歴史}}
[[画像:Dedekind.jpeg|100px|thumb|環論の祖の一人、[[リヒャルト・デーデキント|デデキント]]の肖像]]
環の研究の源流は[[多項式]]や[[代数的整数]]の理論にあり、またさらに19世紀中頃に[[超複素数系]]が出現したことで[[解析学]]における[[可換体|体]]の傑出した価値は失われることとなった。
1880年代にデデキントが環の概念を導入し<ref name="history">[http://www-gap.dcs.st-and.ac.uk/~history/HistTopics/Ring_theory.html The development of Ring Theory]</ref>、1892年に[[ダフィット・ヒルベルト|ヒルベルト]]が「数環」{{lang|de|(Zahlring)}} という用語を造って「代数的数体の理論」(''Die Theorie der algebraischen Zahlkörper,'' Jahresbericht der Deutschen Mathematiker Vereinigung, Vol. 4, 1897.) を発表した。[[ハーヴェイ・コーエン]]によれば、ヒルベルトは "circling directly back" と呼ばれる性質を満たす特定の環に対してこの用語を用いている<ref>{{Citation |last=Cohn |first=Harvey |title=Advanced Number Theory |publisher=Dover Publications |location=New York |year=1980 |page=49 |isbn=9780486640235}}</ref>。
環の公理論的定義を始めて与えたのは、[[アドルフ・フレンケル|フレンケル]]で、''[[Journal für die reine und angewandte Mathematik]]'' (A. L. Crelle), vol. 145, 1914. におけるエッセイの中で述べている<ref name="history"/><ref>Jacobson (2009), p. 86, footnote 1.</ref>。1921年には[[エミー・ネーター|ネーター]]が、彼女の記念碑的論文「環のイデアル論」において、[[可換環論]]の公理的基礎付けを初めて与えている<ref name="history"/>。
== 環の構成法 ==
環が与えられたとき、それを用いて新しい環を作り出す一般的な方法がいくつか存在する。
=== 剰余環 ===
{{main|剰余環}}
感覚的には環の剰余環は群の[[剰余群]]の概念の一般化である。より正確に、環 (''R'', +, '''·''' ) とその[[イデアル (環論)|両側イデアル]] ''I'' が与えられたとき、'''剰余環'''あるいは'''商環''' ''R/I'' とは、''I'' による(台となる加法群 (''R'', +) に関する)[[剰余類]]全体の成す集合に
:(''a'' + ''I'') + (''b'' + ''I'') = (''a'' + ''b'') + ''I'',
:(''a'' + ''I'')(''b'' + ''I'') = (''ab'') + ''I''.
という演算を入れたものをいう。ただし、''a'', ''b'' は ''R'' の任意の元である。
=== 多項式環 ===
{{main|多項式環}}
(''R'', +{{sub|''R''}}, '''·'''{{sub|''R''}}) を環とし、''R'' 上の実質有限列([[ほとんど (数学)|有限個の例外を除く全て]]の項が 0 となる無限列)の全体を
<math display="block">
S = \{{(f_i)}_{i \in \mathbb{N}}: f_i \in R \text{ and } f_i = 0 \text{ for all but finitely many } i \in \mathbb{N}\}
</math>
とおく。ただし、ここでは[[非負整数]](特に 0 を含む)の意味で '''N''' を用いているものと約束する。''S'' の演算 +{{sub|S}} : ''S'' × ''S'' → ''S'' および '''·'''{{sub|S}} : ''S'' × ''S'' → ''S'' を、''a'' = (''a{{sub|i}}''){{sub|''i''∈'''N'''}} および ''b'' = (''b{{sub|i}}''){{sub|''i''∈'''N'''}} を ''S'' の任意の元として、
<math>\begin{align}
a +_S b &= (a_i +_R b_i)_{i \in \mathbb{N}}\\
a \cdot_S b &= \Bigl(\textstyle\sum\limits_{j=0}^i a_j \cdot_R b_{i-j}\Bigr)_{i \in \mathbb{N}}
\end{align}</math>
と定めると、(''S'', +{{sub|''S''}}, '''·'''{{sub|''S''}}) は環となる。これを環 ''R'' 上の'''多項式環'''と呼ぶ。
''S'' の元 (0, 1, 0, 0, …) を ''X'' とすれば、多項式環としての ''S'' は ''R''[''X''] と書くのが通例である。これにより、''S'' の元 ''f'' = (''f{{sub|i}}'') は
<math display="block">
f = \textstyle\sum\limits_{c \in C} f_c \cdot_S X^c,\quad C = \{i \in \mathbb{N}: f_i \neq 0\}
</math>
と ''R'' に係数を持つ多項式の形に書ける。したがって ''S'' は ''R'' 上の ''X'' を[[不定元]]とする多項式全体に、標準的なやり方で加法と乗法を定義したものと見なすことができる。通常はこれを同一視して、ここでいう ''S'' を ''R''[''X''] と書いて、''R'' における演算も ''S'' における演算も特に識別のための符牒を省略する。
=== 行列環 ===
{{main|行列環}}
''r'' を固定された自然数とし、(''R'', +{{sub|''R''}}, '''·'''{{sub|''R''}}) を環として、
<math display=:block">M_r (R) = \{{(f_{ij})}_{i,j}: f_{ij} \in R \text{ for every } i, j \in \{1, 2, 3, \dots, r\}\}</math>
とおく。演算 +{{sub|''M''}} : ''M''{{sub|''r''}}(''R'') × ''M{{sub|r}}''(''R'') → ''M{{sub|r}}''(''R'') および '''·'''{{sub|M}} : ''M{{sub|r}}''(''R'') × ''M{{sub|r}}''(''R'') → ''M{{sub|r}}''(''R'') を、任意の元 ''a'' = (''a{{sub|ij}}''){{sub|''i'',''j''}}, ''b'' = (''b{{sub|ij}}''){{sub|''i'',''j''}} に対して、
<math>\begin{align}
a +_M b &= (a_{ij} +_R b_{ij})_{i, j}\\
a \cdot_M b &= \Bigl(\textstyle\sum\limits_{k=1}^r a_{ik} \cdot_R b_{kj}\Bigr)_{i,j}
\end{align}</math>
で定めると (''M{{sub|r}}''(''R''), +{{sub|''M''}}, '''·'''{{sub|''M''}}) は環となる。これを ''R'' 上の ''r''×''r'' '''行列環'''あるいは ''r''次'''正方行列環'''という。
== 環の遍在性 ==
極めて様々な種類の[[数学的対象]]が、何らかの意味で[[函手|付随する環]]を考えることによって詳しく調べられる。
=== 位相空間のコホモロジー環 ===
任意の[[位相空間]] ''X'' に対して、その整係数[[コホモロジー環]]
:<math>H^*(X,\mathbb{Z}) = \bigoplus_{i=0}^{\infty} H^i(X,\mathbb{Z})</math>
を対応させることができる。これは[[次数付き環]]になっている。[[ホモロジー群]] <math>H_i(X,\mathbb{Z})</math> も定義され(実際にはこちらの方が先に定まるのだが)、[[球面]]と[[トーラス]]のような[[点集合位相]]ではうまい具合に区別することが難しい位相空間の区別に非常に有効な道具として利用される。ホモロジー群から[[コホモロジー群]]が、[[ベクトル空間]]の双対と大まかに似たような方法で、定義される。[[普遍係数定理]]によって、各個の整係数ホモロジーを知ることと、各個の整係数コホモロジーを知ることとは等価であるが、コホモロジー群の優位性は[[カップ積|自然な積]]を考えられるという点にある(これは ''k''[[重線型形式]]と ''l''重線型形式から点ごとの積によって (''k''+''l'')重線型形式が得られることの類似である)。
コホモロジーにおける環構造は、[[ファイバー束]]の[[特性類]]や多様体および代数多様体上の[[交叉理論]]あるいは[[シューベルト・カルキュラス]]などの基礎付けを与えている。
=== 群のバーンサイド環 ===
任意の[[群 (数学)|群]]に対して、その[[バーンサイド環]]と呼ばれる環が対応して、その群の[[有限集合]]への様々な[[群作用|作用]]の仕方について記述するのに用いられる。バーンサイド環の加法群は、群の推移的作用を基底とする[[自由アーベル群]]で、その加法は作用の非交和で与えられる。故に基底を用いて作用を表示することは、作用をその推移成分の和に分解することになる。乗法に関しては[[表現環]]を用いれば容易に表示できる。すなわち、バーンサイド環の乗法は二つの置換加群の置換加群としてのテンソル積として定式化される。環構造により、ある作用から別の作用を引くといった形式的操作が可能になる。バーンサイド環は表現環の指数有限な部分環を含むから、係数を整数全体から有理数全体に拡張することにより、容易に一方から他方へ移ることができる。
=== 群環の表現環 ===
任意の[[群環]]あるいは[[ホップ代数]]に対して、その{{ill2|表現環|en|Representation ring}}あるいはグリーン環が対応する。表現環の加法群は、直既約加群を基底とする自由加群で、加法は直和によって与えられる。したがって、加群を基底で表すことは加群を直既約分解することに対応する。乗法はテンソル積で与えられる。もとの群環やホップ代数が半単純ならば、表現環は[[指標理論]]でいうところの指標環にちょうどなっている。これは環構造を与えられた[[グロタンディーク群]]に他ならない。
=== 既約代数多様体の函数体 ===
任意の既約[[代数多様体]]には、その[[代数多様体の函数体|函数体]]が付随する。代数多様体の点には函数体に含まれる[[付値環]]が対応し、[[座標環]]を含む。[[代数幾何学]]の研究では環論的な言葉で幾何学的概念を調べるために[[可換多元環]]が非常によく用いられる。[[双有理幾何]]は函数体の部分環の間の写像について研究する分野である。
=== 単体的複体の面環 ===
任意の[[単体的複体]]には、面環あるいは[[スタンレー-レイズナー環]]と呼ばれる環が付随している。この環には単体的複体の組合せ論的性質がたくさん反映されているので、これは特に[[代数的組合せ論]]において扱われる。特に、スタンレー-レイズナー環に関する代数幾何学は[[単体的多胞体]]の各次元の面の数を特徴付けるのに利用された。
== 環のクラス ==
いくつかの環(整域、体)のクラスについて、以下の包含関係がある。
* '''[[可換環]]''' ⊃ '''[[整域]]''' ⊃ 半分解整域 ⊃ '''[[一意分解整域]]''' ⊃ '''[[主イデアル整域]]''' ⊃ '''[[ユークリッド整域]]''' ⊃ '''[[可換体|体]]'''
体や整域は現代代数学において非常に重要である。
=== 有限環 ===
{{main|{{ill2|有限環|en|finite ring}}}}
自然数 ''m'' が与えられたとき、''m'' 元からなる集合には、一体いくつの異なる(必ずしも単位的でない)環構造が入るのかと考えるのは自然である。まず、位数 ''m'' が素数のときはたった二種類の環構造しかない(加法群は位数 ''m'' の巡回群に同型)。すなわち、一つは積がすべて潰れる[[積零環|零環]]であり、もう一つは[[有限体]]である。
[[有限群]]として見れば、分類の難しさは ''m'' の素因数分解の難しさに依存する([[有限アーベル群の構造定理]])。例えば、''m'' が素数の平方ならば、位数 ''m'' の環はちょうど11種類存在する<ref>{{Citation |journal=Math. Mag. |volume=66 |year=1993 |title=Classification of finite rings of order {{math|''p''{{sup|2}}}} |first=Benjamin |last=Fine |pages=248-252 |doi=10.1080/0025570X.1993.11996133}}</ref>。一方、位数 ''m'' の「群」は二種類しかない(いずれも可換群)。
有限環論が有限アーベル群の理論よりも複雑なのは、任意の有限アーベル群に対してそれを加法群とする少なくとも二種類の互いに同型でない有限環が存在することによる('''Z'''/''m'''''Z''' のいくつかの直和と零環)。一方、有限アーベル群を必要としない方法では有限環の方が簡単なこともある。例えば、[[有限単純群の分類]]は20世紀数学の大きなブレイクスルーの一つであり、その証明は雑誌の何千ページにも及ぶ長大なものであったが、他方で任意の有限単純環は必ず適当な位数 ''q'' の有限体上の ''n''次正方行列環 ''M{{sub|n}}''('''F'''{{sub|''q''}}) に同型である。このことは[[ジョセフ・ウェダーバーン]]が1905年と1907年に確立した2つの定理から従う。
定理の一つは、[[ウェダーバーンの小定理]]として知られる、任意の有限[[可除環]]は必ず可換であるというものである。[[ネイサン・ヤコブソン]]が後に可換性を保証する別な条件として
: 「''R'' の任意の元 ''r'' に対し、整数 ''n'' (> 1) が存在して ''r{{sup|n}}'' = ''r'' を満たすならば ''R'' は可換である<ref>{{Harvard citations |last=Jacobson|year = 1945 |nb=yes}}</ref>」
を発見している。特に、''r''{{sup|2}} = ''r'' を任意の ''r'' が満たすならば、その環は[[ブール環]]と呼ばれる。環の可換性を保証するもっと一般の条件もいくつか知られている<ref>{{Harvard citations |last=Pinter-Lucke |year=2007 |nb=yes}}</ref>。
自然数 ''m'' に対する位数 ''m'' の環の総数は[[オンライン整数列大辞典]]の [http://www.research.att.com/~njas/sequences/A027623 A027623] にリストされている。
=== 結合多元環 ===
{{main|結合代数}}
'''[[結合的多元環]]'''は環であり、体 ''K'' 上の[[ベクトル空間]]でもある。例えば、実数体 '''R''' 上の ''n''次行列全体の成す集合は、実数倍と行列の加法に関して ''n''{{sup|2}}次元の実ベクトル空間であり、[[行列の乗法]]を環の乗法として持つ。二次の実正方行列を考えるのが非自明だが基本的な例である。
=== リー環 ===
{{main|リー代数|リー環}}
'''[[リー環]]'''は[[非結合環|非結合的]]かつ[[反交換法則|反交換的]]な乗法を持つ環で、[[ヤコビ恒等式]]を満足するものである。より細かく、リー環 ''L'' を加法に関して[[アーベル群]]で、さらに演算 [ , ] に対して以下を満たすものとして定義することができる。
; [[双線型形式|双線型性]]
: <math>[x+y,z] = [x,z]+[y,z],</math>
: <math>[z,x+y] = [z,x]+[z,y],</math>
; ヤコビ恒等式
: <math>[x,[y,z]]+[y,[z,x]]+[z,[x,y]] = 0</math>
; 複零性
: <math>[x,x]=0</math>
ただし、''x'', ''y'', ''z'' は ''L'' の任意の元である。リー環はその加法群が[[リー群]]となることは必要としない。任意の[[リー代数]]はリー環である。任意の結合環に対して括弧積を
<math display="block">[x,y] = xy-yx</math>
で定めると、リー環が得られる。逆に任意のリー環に対して、[[普遍包絡環]]と呼ばれる結合環が対応する。
リー環は、ラザール対応を通じて有限[[p群|''p''-群]]の研究に用いられる。''p''-群の低次の中心因子は有限アーベル ''p''-群となるから、'''Z'''/''p'''''Z''' 上の加群である。低次の中心因子の直和には、括弧積を2つの剰余表現の[[交換子]]として定義することによって、リー環の構造が与えられる。このリー環構造は他の加群準同型によって豊穣化されるならば、''p''-冪写像によって制限リー環とよばれるリー環を対応させることができる。
リー環はさらに、[[p進整数|''p''進整数環]]のような整数環上のリー代数を調べることによって、[[p進解析群|''p''進解析群]]やその自己準同型を定義するのにも利用される。リー型の有限群の定義はシュバレーによって与えられた。すなわち、複素数体上のリー環をその整数点に制限して、さらに ''p'' を法とする還元を行うことにより有限体上のリー環を得る。
=== 位相環 ===
{{main|位相環}}
[[位相空間]] (''X'', ''T'') が環構造 (''X'', +, '''·''' ) も持つものとする。このとき、(''X'', ''T'', +, '''·''' ) が[[位相環]]であるとは、その環構造と位相構造が両立することをいう。すなわち、和と積をとる写像
<math display="block">+ : X\times X \to X,</math>
<math display="block">\cdot : X\times X \to X</math>
がともに[[連続写像]]となる(ただし、''X'' × ''X'' には[[積位相]]を入れるものとする)。したがって明らかに、任意の位相環は加法に関して[[位相群]]である。
* 実数全体の成す集合 '''R''' は通常の環構造と位相に関して位相環である。
* 二つの位相環の直積は直積環の構造と積位相に関して位相環になる。
== 可換環 ==
{{main|可換環}}
環は加法に関しては交換法則が成り立つが、乗法に関しては可換性は要求されない。乗法に関しても交換法則が成り立つならば'''[[可換環]]'''という<ref group="注">文献によっては、可換性まで環の公理に含めて、単に環といえば可換環のことを指しているという場合がある。</ref>。すなわち、環 (''R'', +, '''·''' ) に対して、(''R'', +, '''·''' ) が可換環であるための必要十分条件は ''R'' の任意の元 ''a'', ''b'' に対して ''a'' '''·''' ''b'' = ''b'' '''·''' ''a'' が成り立つことである。言い換えれば、可換環 (''R'', +, '''·''' ) は乗法に関して[[可換モノイド]]でなければならない。
* 整数全体の成す集合は通常の加法と乗法に関して可換環を成す。
* 可換でない環の例は、''n'' > 1 として、非自明な体 ''K'' 上の ''n''次正方行列の成す環で与えられる。特に ''n'' = 2 で ''K'' = '''R''' のときを考えれば、<div style="margin:1ex 1em 1ex auto"><math>\begin{bmatrix}
1 &1 \\
0 &1
\end{bmatrix}\cdot\begin{bmatrix}
1 &1 \\
1 &0
\end{bmatrix}=\begin{bmatrix}
2 &1 \\
1 &0
\end{bmatrix}\ne\begin{bmatrix}
1 &2 \\
1 &1
\end{bmatrix}
=\begin{bmatrix}
1 &1 \\
1 &0
\end{bmatrix}\cdot\begin{bmatrix}
1 &1 \\
0 &1
\end{bmatrix}</math></div>ゆえに可換でないことが分かる。
=== 主イデアル環 ===
{{main|主イデアル整域|主イデアル環}}
環は整数全体とよく似た構造を示す代数系だが、一般の環を考えたのではその環論的性質は必ずしも近いものとはならない。整数に近い性質を持つ環として、環の任意のイデアルが単独の元で生成されるという性質を持つもの、すなわち主イデアル環を考えよう。
環 ''R'' が'''右主イデアル環''' (PIR) であるとは、''R'' の任意の右イデアルが
<math display="block">aR = \{ar \mid r\in R\}</math>
の形に表されることをいう。また'''主イデアル整域''' (PID) とは整域でもある主イデアル環をいう。
環が主イデアル整域であるという条件は、環に対するほかの一般的な条件よりもいくぶん強い制約条件である。例えば、''R'' が[[一意分解整域]] (UFD) ならば ''R'' 上の[[多項式環]]も UFD となるが、''R'' が主イデアル環の場合同様の主張は一般には正しくない。整数環 '''Z''' は主イデアル環の簡単な例だが、'''Z''' 上の多項式環は ''R'' = '''Z'''[''X''] は PIR でない(実際 ''I'' = 2''R'' + ''XR'' は単項生成でない)。このような反例があるにもかかわらず、任意の体上の一変数多項式環は主イデアル整域となる(実はさらに強く、[[ユークリッド整域]]になる)。より一般に、一変数多項式環が PID となるための必要十分条件は、その多項式環が体上定義されていることである。
PIR 上の多項式環のことに加えて、主イデアル環は、可除性に関して有理整数環との関係を考えても、いろいろと興味深い性質を有することが分かる。つまり、主イデアル整域は可除性に関して整数環と同様に振舞うのである。例えば、任意の PID は UFD である、すなわち[[算術の基本定理]]の対応物が任意の PID で成立する。さらに言えば、[[ネーター環]]というのは任意のイデアルが有限生成となる環のことだから、主イデアル整域は明らかにネーター環である。PID においては既約元の概念と素元の概念が一致するという事実と、任意の PID がネーター環であるという事実とを合わせると、任意の PID が UFD となることが示せる。PID においては、任意の二元の最大公約元について延べることができる。すなわち、''x'', ''y'' が主イデアル整域 ''R'' の元であるとき、''xR'' + ''yR'' = ''cR''(左辺は再びイデアルとなるから、それを生成する元 ''c'' がある)とすれば、この ''c'' が ''x'' と ''y'' の GCD である。
体と PID との間にある重要な環のクラスとして、ユークリッド整域がある。特に、任意の体はユークリッド整域であり、任意のユークリッド整域は PID である。ユークリッド整域のイデアルは、そのイデアルに属する次数最小の元で生成される。しかし、任意の PID がユークリッド整域となるわけではない。よく用いられる反例として
<math display="block">\mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{-19}}{2}\right]</math>
が挙げられる。
=== 一意分解整域 ===
{{main|一意分解環}}
一意分解整域 (UFD) の理論も環論では重要である。実質的に[[算術の基本定理]]の類似を満たす環が一意分解環ということになる。
環 ''R'' が'''一意分解整域'''であるとは
# ''R'' は整域である。
# ''R'' の零元でも[[単元 (代数学)|単元]]でもない元は、有限個の[[既約元]]の積に書ける。
# 各 ''a{{sub|i}}'' および ''b{{sub|j}}'' を ''R'' の既約元として<div style="margin:1ex 1em 1ex auto"><math>\textstyle\prod\limits_{i=1}^n a_i = \prod\limits_{j=1}^m b_j</math></div>と書けるならば ''n'' = ''m'' かつ、適当な番号の付け替えによって、''b{{sub|i}}'' = ''a{{sub|i}}u{{sub|i}}'' が全ての ''i'' について成立させることができる。ただし、''u{{sub|i}}'' は ''R'' の適当な単元である。
2番目の条件は ''R'' の「非自明」な元の既約元への分解を保証するものであり、3番目の条件によってそのような分解は「単元を掛ける[[違いを除いて]]」一意的である。一意性について、単元を掛けてもよいという弱い形を採用するのは、そうしないと有理整数環 '''Z''' が UFD とならないからというのが理由のひとつとしてある(単元を掛けてはいけないとすると (−2){{sup|2}} = 2{{sup|2}} = 4 は 4 の「相異なる」二つの分解を与えるが、−1 と 1 は '''Z''' の単元だから、二つの分解は同値になる)。ゆえに、整数環 '''Z''' が UFD となるというのは、自然数についての(本来の)[[算術の基本定理]]からの簡単な帰結である。
任意の環に対して[[素元]]および[[既約元]]を定義することはできるが、この二つの概念は一般には一致しない。しかし、整域において素元は必ず既約である。逆は、UFD については正しい。
一意分解整域と他の環のクラスとの関係としては、たとえば任意の[[ネーター環]]は先ほどの条件の1番目と2番目を満足するが、一般には3番目の条件を満足しない。しかし、ネーター環において素元の全体と既約元の全体が集合として一致するならば、3番目の条件も成り立つ。特に主イデアル整域は UFD である。
=== 整域と体 ===
{{Main|整域|可換体|l2=体}}
環は非常に重要な数学的対象であるにもかかわらず、その理論の展開には様々な制約がある。例えば、環 ''R'' の元 ''a'', ''b'' に対して、''a'' が零元でなく ''ab'' = 0 が成り立つとしても、''b'' は必ずしも零元でない。特に、''ab'' = ''ac'' で ''a'' が零元でないということから、''b'' = ''c'' を帰結することができない。このような事実の具体的な例としては、環 ''R'' 上の行列環を考えて、''a'' を零行列ではない[[非正則行列]]とすればよい。しかし、環に対して更なる条件を課すことで、今の場合の問題は取り除くことができる。すなわち、考える環を'''[[整域]]'''([[零因子]]を持たない非自明な[[可換環]])に制限するのである。しかしこれでもなお、零元でない任意の元で割り算ができるかどうかは保証されないといったような問題は生じる。例えば整数環 '''Z''' は整域を成すが、整数 ''a'' を整数 ''b'' で割るというのは整数の範囲内では必ずしもできない(整数 2 で整数 3 は割り切れず環 '''Z''' からはみ出してしまう)。この問題を解決するには、零元以外の任意の元が逆元を持つ環を考える必要がある。すなわち、'''[[可換体|体]]'''とは、環であって、その零元を除く元の全体が乗法に関して[[アーベル群]]となるものである。特に体は割り算が自由にできることから整域となる(つまり零因子を持たない)。すなわち、体 ''F'' の元 ''a'', ''b'' に対して、商 ''a''/''b'' は ''ab''{{sup|−1}} によって矛盾無く定まる。
環 (''R'', +, '''·''' ) が'''整域'''であるとは (''R'', +, '''·''' ) が可換環で、零因子を持たないことを言う。さらに環 (''R'', +, '''·''' ) が'''体''' であるとは、零元でない元の全体が乗法に関してアーベル群を成すことを言う。
: '''注意''': 環の零元が乗法逆元を持つことをも仮定するならば、その環はかならず[[自明な環]]となる。
* 整数全体の成す集合 '''Z''' は通常の加法と乗法に関して整域を成す。
* 任意の体は整域であり、任意の整域は可換環である。実は有限整域は必ず体を成す。
== 非可換環 ==
{{main|環論}}
[[非可換環]]の研究は[[現代代数学]](特に[[環論]])の大きな部分を占める主題である。非可換環はしばしば可換環が持たない興味深い不変性を示す。例えば、非自明な真の左または右イデアルを持つけれども[[単純環]]である(つまり非自明で真の両側イデアルをもたない)非可換環が存在する(例えば体(より一般に単純環)上の2次以上の正方行列環)。このような例から、非可換環の研究においては直感的でない考え違いをする可能性について留意すべきであることが分かる。
[[ベクトル空間]]の理論を雛形にして、非可換環論における研究対象の特別な場合を考えよう。[[線型代数学]]においてベクトル空間の「スカラー」はある体(可換[[可除環]])でなければならなかった。しかし[[環上の加群|加群]]の概念ではスカラーはある抽象環であることのみが課されるので、この場合、可換性も可除性も必要ではない。[[加群の理論]]は非可換環論において様々な応用があり、たとえば環上の加群を考えることで環自身の構造についての情報が得られることも多い。環の[[ジャコブソン根基]]の概念はそのようなものの例である。実際これは、環上の左[[単純加群]]の左[[零化域]]全ての交わりに等しい(「左」を全部一斉に「右」に変えてもよい)。ジャコブソン根基がその環の左または右極大イデアル全体の交わりと見ることもできるという事実は、加群がどれほど環の内部的な構造を反映しているのかを示すものといえる。確認しておくと、可換か非可換かに関わらず任意の環において、すべての極大右イデアルの交わりは、すべての極大左イデアルの交わりに等しい。したがって、ジャコブソン根基は非可換環に対してうまく定義することができないように見える概念を捉えるものとも見ることができる。
非可換環は数学のいろいろな場面に現れるため、活発な研究領域を提供する。たとえば、体上の行列環は[[物理学]]に自然に現れるものであるにもかかわらず非可換である。あるいはもっと一般にアーベル群の[[自己準同型環]]はほとんどの場合非可換となる。
非可換環については非可換群同様にあまりよく理解されていない。例えば、任意の有限[[アーベル群]]は素数冪位数の巡回群の直和に分解されるが、非可換群にはそのような単純な構造は存在しない。それと同様に、可換環に対して存在する様々な不変量を非可換環に対して求めるのは困難である。例えば、[[冪零根基]]は環が可換であることを仮定しない限りイデアルであるとは限らない。具体的な例として、可除環上の ''n''次全行列環の冪零元全体の成す集合は、可除環のとり方によらずイデアルにならない。従って、非可換環の研究において冪零根基を調べることはないが、冪零根基の非可換環上の対応物を定義することは可能で、それは可換の場合には冪零根基と一致する。
最もよく知られた非可換環の一つに、[[四元数]]全体の成す可除環が挙げられる。
== 圏論的記述 ==
任意の環は[[アーベル群の圏]] '''Ab''' における[[モノイド対象]]である([[アーベル群のテンソル積|'''Z'''-加群のテンソル積]]のもとで[[モノイド圏]]として考える)。環 ''R'' のアーベル群へのモノイド作用は単に[[環上の加群|''R''-加群]]である。簡単に言えば ''R''-加群は[[ベクトル空間]]の一般化である(体上のベクトル空間を考える代わりに、「環上のベクトル空間」とでもいうべきものを考えている)。
アーベル群 (''A'', +) とその[[自己準同型環]] End(''A'') を考える。簡単に言えば End(''A'') は ''A'' 上の射の全体の成す集合であり、''f'' と ''g'' が End(''A'') の元であるとき、それらの和と積は
<math display="block">(f+g)(x) = f(x)+g(x)</math>
<math display="block">(f\circ g)(x) = f(g(x))</math>
で与えられる。+ の右辺における ''f''(''x'') + ''g''(''x'') は ''A'' における和であり、積は写像の合成である。これは任意のアーベル群に付随する環である。逆に、任意の環 (''R'', +, '''·''' ) が与えられるとき、乗法構造を[[忘却函手|忘れた]] (''R'', +) はアーベル群となる。さらに言えば、''R'' の各元 ''r'' に対して、右または左から ''r'' を掛けるという操作が分配的であることは、それがアーベル群 (''R'', +) 上に群の準同型(圏 '''Ab''' における射)となるという意味になる。''A'' = (''R'', +) とかくことにして、''A'' の[[自己同型]]を考えれば、それは ''R'' における右または左からの乗法と「可換」である。言い換えれば End{{sub|''R''}}(''A'') を ''A'' 上の射全体の成す環とし、その元を ''m'' とすれば ''m''(''rx'') = ''rm''(''x'') という性質が成り立つ。これは ''R'' の任意の元 ''r'' に対して、''r'' の右乗法による ''A'' の射が定まると見ることもできる。''R'' の各元にこうして得られる ''A'' の射を対応させることで ''R'' から End{{sub|''R''}}(''A'') への写像が定まり、これは実は環の同型を与える。この意味で、任意の環はあるアーベル ''X''-群の自己準同型環と見なすことができる(ここで ''X''-群というのは[[作用を持つ群|''X'' を作用域に持つ群]]の意味である<ref>Jacobson (2009), p.162, Theorem 3.2.</ref>。要するに、環の最も一般的な形は、あるアーベル ''X''-群の自己準同型環であるということになる。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|3}}
== 関連文献 ==
=== 一般論についてのもの ===
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== 関連項目 ==
{{Col-begin}}
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* [[環論]]
* [[環の圏]]
* [[環上の多元環]]
* [[代数的構造]]
* [[中国の剰余定理]]
* [[半環]]
* [[環のスペクトル]]
{{Col-break}}
* 環のクラス
** [[ブール環]]
** [[可換環]]
** [[順序環]]
** [[ネーター環]]・[[アルティン環]]
** [[デデキント環]]
** [[ユークリッド整域]]
** [[ベズー整域]]
** [[GCD整域]]
** [[微分環]]
** [[可除環]]
** [[可換体]]
** [[整域]] (ID)
** [[局所環]]
** [[主イデアル環]] (PID)
** [[被約環]]
** [[正則環]]
** [[一意分解整域]] (UFD)
** [[付値環]]・[[離散付値環]]
** [[零環]]
{{Col-end}}
== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|1744|環の定義とその具体例}}
* {{高校数学の美しい物語|2510|環の基礎用語~準同型・部分環・イデアル~}}
{{Normdaten}}
{{Algebra}}
{{DEFAULTSORT:かん}}
[[Category:環論|*]]
[[Category:代数的構造]]
[[Category:抽象代数学]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-28T18:55:55Z | 2023-10-23T07:49:57Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0_(%E6%95%B0%E5%AD%A6) |
7,419 | 可換体 | 抽象代数学において可換体(かかんたい、仏: corps commutatif)あるいは単に体(たい、英: field)とは、零でない可換可除環、あるいは同じことだが非零元全体が乗法の下で可換群をなすような環のことである。そのようなものとして体は、適当なアーベル群の公理と分配則を満たすような加法、減法、乗法、除法の概念を備えた代数的構造である。最もよく使われる体は、実数体、複素数体、有理数体であるが、他にも有限体、関数の体、代数体、p 進数体、などがある。
任意の体は、線型代数の標準的かつ一般的な対象であるベクトル空間のスカラーとして使うことができる。(ガロワ理論を含む)体拡大の理論は、ある体に係数を持つ多項式の根に関係する。他の結果として、この理論により、古典的な問題である定規とコンパスを用いた角の三等分問題(英語版)や円積問題が不可能であることの証明や五次方程式が代数的に解けないというアーベル・ルフィニの定理の証明が得られる。現代数学において、体論は数論や代数幾何において必要不可欠な役割を果たしている。
代数的構造として、すべての体は環であるが、すべての環が体であるわけではない。最も重要な違いは、体は(ゼロ除算を除いて)除算ができるが、環は乗法逆元がなくてもよいということである。例えば、整数の全体は環をなすが、2x = 1 は整数において解を持たない。また、体における乗法演算は可換でなければならない。可換性を仮定しない除法の可能な環は可除環、斜体、あるいは体と呼ばれる。
環として、体は整域の特別なタイプとして分類でき、以下のようなクラスの包含の鎖がある。
体をアルファベットで表すときは、K (続いて L, M 等)を用いる慣例がある。これは体がドイツ語で "Körper" だからである。英語の "field" の頭文字をとって F が用いられることもある。F の次の文字 G は群と紛らわしいから、前の文字 E も用いられる。
体とは、以下の条件を満たす加法と乗法と呼ばれる 2 つの二項演算によって定まる代数的構造のことである。以下、台集合 K に加法 "+" と乗法 "×" が定められているとし、乗法の結果(積) a × b は ab と略記する。
また、この条件を満たす代数的構造を備えた代数系 (K, +, 0K, ×, 1K) あるいは省略して単に集合 K は「体を成す」という。零元のみからなる集合 {0} は 1 = 0 と見れば上記の条件を満たし、自明な体と呼ばれるが往々理論的な障害となるため通常は除外して考える。つまり、体の定義に通常は
なる条件を加える。
体 K が与えられたとき、その乗法構造を忘れて加法に関するアーベル群とみたときの代数系 (K, +) を体 K の加法群と呼ぶ。加法群を K や Ga(K) と記す場合もある。また乗法構造のみに注目して、0 を除く K の元の全体 K に乗法を与えて得られる代数系 (K, ×) は群であり、乗法群と呼ばれる。K の乗法群をしばしば K とも記し、Gm(K) と記されることもある。体 K の乗法群の任意の有限部分群は巡回群である。
体の元の濃度を位数といい、有限な位数を持つ体を有限体と呼び、そうでない体を無限体と呼ぶ。有限斜体は常に可換体である(ウェダバーンの小定理)。
n1 で単位元 1 を n 回足したものを表すとき、n1 = 0 となるような正の整数 n のうち最も小さなものをその体の標数という。ただし、そのような n が存在しないとき標数は 0 であると決める。体の標数は 0 または素数である。
体は 0 以外の元が全て可逆となる単位的環である。したがって、そのイデアルや部分環の概念を考えることができるが、体は自明でないイデアルを持たない(これを体は単純環であるという)。体の単位的環としての部分環がふたたび体をなすとき、部分体という。
体 K, L とその間の写像 f: K → L が与えられたとき、f が体の準同型であるとは、単位的環としての準同型であることをいう。つまり、体準同型 f は K の任意の元 a, b および、K, L それぞれの単位元 1K, 1L に対して
を全て満たす。また、その像 Im(f) = {f(x) | x ∈ K} は L の部分体となり、核 Ker(f) = {x ∈ K | f(x) = 0L} は K のイデアルとなるが、体が単純環であることと単位元が零元にうつることはないことから、体の準同型は必ず単射になる。したがって、体の準同型 f: K → L の像 Im(f) は K に体として同型である。これを中への同型とよび、さらに f が全射であるとき上への同型であるという。 | [
{
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"text": "抽象代数学において可換体(かかんたい、仏: corps commutatif)あるいは単に体(たい、英: field)とは、零でない可換可除環、あるいは同じことだが非零元全体が乗法の下で可換群をなすような環のことである。そのようなものとして体は、適当なアーベル群の公理と分配則を満たすような加法、減法、乗法、除法の概念を備えた代数的構造である。最もよく使われる体は、実数体、複素数体、有理数体であるが、他にも有限体、関数の体、代数体、p 進数体、などがある。",
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"text": "任意の体は、線型代数の標準的かつ一般的な対象であるベクトル空間のスカラーとして使うことができる。(ガロワ理論を含む)体拡大の理論は、ある体に係数を持つ多項式の根に関係する。他の結果として、この理論により、古典的な問題である定規とコンパスを用いた角の三等分問題(英語版)や円積問題が不可能であることの証明や五次方程式が代数的に解けないというアーベル・ルフィニの定理の証明が得られる。現代数学において、体論は数論や代数幾何において必要不可欠な役割を果たしている。",
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"text": "代数的構造として、すべての体は環であるが、すべての環が体であるわけではない。最も重要な違いは、体は(ゼロ除算を除いて)除算ができるが、環は乗法逆元がなくてもよいということである。例えば、整数の全体は環をなすが、2x = 1 は整数において解を持たない。また、体における乗法演算は可換でなければならない。可換性を仮定しない除法の可能な環は可除環、斜体、あるいは体と呼ばれる。",
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"text": "体とは、以下の条件を満たす加法と乗法と呼ばれる 2 つの二項演算によって定まる代数的構造のことである。以下、台集合 K に加法 \"+\" と乗法 \"×\" が定められているとし、乗法の結果(積) a × b は ab と略記する。",
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"text": "体 K が与えられたとき、その乗法構造を忘れて加法に関するアーベル群とみたときの代数系 (K, +) を体 K の加法群と呼ぶ。加法群を K や Ga(K) と記す場合もある。また乗法構造のみに注目して、0 を除く K の元の全体 K に乗法を与えて得られる代数系 (K, ×) は群であり、乗法群と呼ばれる。K の乗法群をしばしば K とも記し、Gm(K) と記されることもある。体 K の乗法群の任意の有限部分群は巡回群である。",
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"text": "体は 0 以外の元が全て可逆となる単位的環である。したがって、そのイデアルや部分環の概念を考えることができるが、体は自明でないイデアルを持たない(これを体は単純環であるという)。体の単位的環としての部分環がふたたび体をなすとき、部分体という。",
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"text": "体 K, L とその間の写像 f: K → L が与えられたとき、f が体の準同型であるとは、単位的環としての準同型であることをいう。つまり、体準同型 f は K の任意の元 a, b および、K, L それぞれの単位元 1K, 1L に対して",
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"text": "を全て満たす。また、その像 Im(f) = {f(x) | x ∈ K} は L の部分体となり、核 Ker(f) = {x ∈ K | f(x) = 0L} は K のイデアルとなるが、体が単純環であることと単位元が零元にうつることはないことから、体の準同型は必ず単射になる。したがって、体の準同型 f: K → L の像 Im(f) は K に体として同型である。これを中への同型とよび、さらに f が全射であるとき上への同型であるという。",
"title": "諸概念"
}
] | 抽象代数学において可換体あるいは単に体とは、零でない可換可除環、あるいは同じことだが非零元全体が乗法の下で可換群をなすような環のことである。そのようなものとして体は、適当なアーベル群の公理と分配則を満たすような加法、減法、乗法、除法の概念を備えた代数的構造である。最もよく使われる体は、実数体、複素数体、有理数体であるが、他にも有限体、関数の体、代数体、p 進数体、などがある。 任意の体は、線型代数の標準的かつ一般的な対象であるベクトル空間のスカラーとして使うことができる。(ガロワ理論を含む)体拡大の理論は、ある体に係数を持つ多項式の根に関係する。他の結果として、この理論により、古典的な問題である定規とコンパスを用いた角の三等分問題や円積問題が不可能であることの証明や五次方程式が代数的に解けないというアーベル・ルフィニの定理の証明が得られる。現代数学において、体論は数論や代数幾何において必要不可欠な役割を果たしている。 代数的構造として、すべての体は環であるが、すべての環が体であるわけではない。最も重要な違いは、体は(ゼロ除算を除いて)除算ができるが、環は乗法逆元がなくてもよいということである。例えば、整数の全体は環をなすが、2x = 1 は整数において解を持たない。また、体における乗法演算は可換でなければならない。可換性を仮定しない除法の可能な環は可除環、斜体、あるいは体と呼ばれる。 環として、体は整域の特別なタイプとして分類でき、以下のようなクラスの包含の鎖がある。 体をアルファベットで表すときは、K を用いる慣例がある。これは体がドイツ語で "Körper" だからである。英語の "field" の頭文字をとって F が用いられることもある。F の次の文字 G は群と紛らわしいから、前の文字 E も用いられる。 | {{出典の明記|date=2015年10月}}
[[抽象代数学]]において'''可換体'''(かかんたい、{{lang-fr-short|corps commutatif}})あるいは単に'''体'''(たい、{{lang-en-short|field}})<ref group="注" name="a">本記事において単に体と言った場合「可換」体を意味するものとする。</ref>とは、[[零環|零でない]][[可換環|可換]][[可除環]]、あるいは同じことだが非零元全体が乗法の下で[[可換群]]をなすような[[環 (数学)|環]]のことである。そのようなものとして体は、適当なアーベル群の公理と[[分配則]]を満たすような[[加法]]、[[減法]]、[[乗法]]、[[除法]]の概念を備えた[[代数的構造]]である。最もよく使われる体は、[[実数]]体、[[複素数]]体、[[有理数]]体であるが、他にも[[有限体]]、[[関数 (数学)|関数]]の体、[[代数体]]、[[p進数|''p'' 進数体]]、などがある。
任意の体は、[[線型代数]]の標準的かつ一般的な対象である[[ベクトル空間]]の[[スカラー (数学)|スカラー]]として使うことができる。([[ガロワ理論]]を含む)[[体拡大]]の理論は、ある体に[[係数]]を持つ[[多項式]]の[[多項式の根|根]]に関係する。他の結果として、この理論により、古典的な問題である[[定規とコンパスによる作図|定規とコンパスを用いた]]{{仮リンク|角の三等分問題|en|angle trisection|preserve=1}}や[[円積問題]]が不可能であることの証明や[[五次方程式]]が代数的に解けないという[[アーベル・ルフィニの定理]]の証明が得られる。現代数学において、体論は[[数論]]や[[代数幾何]]において必要不可欠な役割を果たしている。
代数的構造として、すべての体は[[環 (数学)|環]]であるが、すべての環が体であるわけではない。最も重要な違いは、体は([[ゼロ除算]]を除いて)除算ができるが、環は[[乗法逆元]]がなくてもよいということである。例えば、[[整数]]の全体は環をなすが、2''x'' = 1 は整数において解を持たない。また、体における乗法演算は[[可換]]でなければならない。可換性を仮定しない除法の可能な環は[[可除環]]、[[斜体 (数学)|斜体]]、あるいは'''体'''<ref group="注" name="a"/>と呼ばれる。
環として、体は[[整域]]の特別なタイプとして分類でき、以下のような[[クラス (集合論)|クラス]]の包含の鎖がある。
{{Commutative ring classes}}
体をアルファベットで表すときは、''K'' (続いて ''L'', ''M'' 等)を用いる慣例がある。これは体が[[ドイツ語]]で <span lang=de>"Körper"</span> だからである。[[英語]]の <span lang=en>"field"</span> の頭文字をとって ''F'' が用いられることもある。''F'' の次の文字 ''G'' は群と紛らわしいから、前の文字 ''E'' も用いられる。
== 定義 ==
{{see also|体 (数学)}}
'''体'''とは、以下の条件を満たす[[加法]]と[[乗法]]と呼ばれる 2 つの[[二項演算]]によって定まる[[代数的構造]]のことである。以下、[[台集合]] ''K'' に加法 "+" と乗法 "×" が定められているとし、乗法の結果(積) ''a'' × ''b'' は ''ab'' と略記する。
* ''K'' は加法に関して[[アーベル群]]である:
** ''a'', ''b'', ''c'' を ''K'' の任意の元とするとき、[[結合法則]] ''a'' + (''b'' + ''c'') = (''a'' + ''b'') + ''c'' が成り立つ。
** ''a'' + 0<sub>''K''</sub> = 0<sub>''K''</sub> + ''a'' = ''a'' が ''K'' の元 ''a'' の取り方に依らずに満たされる[[加法単位元|零元]]と呼ばれる特別な元 0<sub>''K''</sub> が存在する。
** ''a'' が ''K'' の元ならばそれに対して ''a'' + (−''a'') = (−''a'') + ''a'' = 0<sub>''K''</sub> を満たす、[[マイナス元]]と呼ばれる元 −''a'' が常に存在する。
** [[交換法則]]が成り立つ。つまり ''K'' のどんな元 ''a'', ''b'' についても、 ''a'' + ''b'' = ''b'' + ''a'' となる。
* ''K'' は乗法に関して[[モノイド]]であって、0 以外の元が[[可換群]]をなす:
** ''a'', ''b'', ''c'' を ''K'' の任意の元とするとき、結合法則 ''a''(''bc'') = (''ab'')''c'' が成り立つ。
** ''a''1<sub>''K''</sub> = 1<sub>''K''</sub>''a'' = ''a'' が ''K'' の零元 0<sub>''K''</sub> でない元 ''a'' の取り方に依らずに満たされる[[単位元]]と呼ばれる特別な元 1<sub>''K''</sub> が存在する。
** ''a'' が零元 0<sub>''K''</sub> でない ''K'' の元ならばそれに対して ''aa''<sup>−1</sup> = ''a''<sup>−1</sup>''a'' = 1<sub>''K''</sub> を満たす、[[逆元]]と呼ばれる元 ''a''<sup>−1</sup> が常に存在する。
** [[交換法則]]が成り立つ。つまり ''K'' の任意の非零元 ''a'', ''b'' に対し ''ab'' = ''ba'' が成り立つ。
* 乗法は加法に対して[[分配法則|分配的]]である: ''a'', ''b'', ''c'' を ''K'' の任意の元とするとき、''a''(''b'' + ''c'') = ''ab'' + ''ac'', (''a'' + ''b'')''c'' = ''ac'' + ''bc'' が成り立つ。
また、この条件を満たす代数的構造を備えた[[代数系]] (''K'', +, 0<sub>''K''</sub>, ×, 1<sub>''K''</sub>) あるいは省略して単に集合 ''K'' は「体を成す」という。零元のみからなる集合 {0} は 1 = 0 と見れば上記の条件を満たし、'''自明な体'''と呼ばれるが往々理論的な障害となるため通常は除外して考える。つまり、体の定義に通常は
* 1 ≠ 0, すなわち乗法は零元でない単位元を持つ。
なる条件を加える。
== 例 ==
{| style="margin: 1ex auto 1ex 1em; float: right;"
|+ {{math|'''F'''{{msub|2}} {{=}} {0,1} }}の演算表
|
{| class="wikitable"
|+ 加法
|-
! + !! 0 !! 1
|-
! 0
| 0 || 1
|-
! 1
| 1 || 0
|}
|
{| class="wikitable"
|+ 乗法
|-
! × !! 0 !! 1
|-
! 0
| 0 ||0
|-
! 1
| 0 || 1
|}
|}
*有理数の全体 '''Q''' は体である。
*[[実数]]の全体 '''R''' や[[複素数]]の全体 '''C''' も体である。
* {0, 1} に対し表のように演算を定義すると、これは{{仮リンク|二元体|en|GF(2)}}と呼ばれる体になり、'''F'''<sub>2</sub> などと表す。一見つまらない例であるようだが、この体は[[符号理論]]などに応用を持っている。
*より一般に、''p'' を[[素数]]とするとき、集合 {0, 1, ..., ''p'' − 1} に演算を定義して体にすることができる。この体を[[有限体]]と呼び、'''F'''<sub>''p'' </sub>, '''Z'''/''p'''''Z''' または GF(''p'') などと書く。
*体 ''k'' 上の[[有理関数]]の全体 ''k''(''x''<sub>1</sub>, ..., ''x''<sub>''n''</sub>) も体である。
*体 ''k'' 上の[[形式的冪級数|形式的ローラン級数]]の全体 ''k''((''x''<sub>1</sub>, ..., ''x''<sub>''n''</sub>)) も体である。
*[[代数的数]]の全体 {{overline|'''Q'''}} や代数的な実数の全体 {{overline|'''Q'''}} ∩ '''R''' も体である。
*素数 ''p'' に対して [[p進数|''p'' 進数]]の全体 '''Q'''{{sub|''p''}} も体である。
*[[定規とコンパスによる作図|定規とコンパスによって作図可能]]な複素数(作図可能数)の全体や実数(作図可能実数)の全体も体である。
{{-}}
== 諸概念 ==
{{see also|体論用語一覧}}
体 ''K'' が与えられたとき、その乗法構造を忘れて加法に関するアーベル群とみたときの代数系 (''K'', +) を体 ''K'' の'''加法群'''と呼ぶ。加法群を ''K''<sup>+</sup> や '''G'''<sub>a</sub>(''K'') と記す場合もある。また乗法構造のみに注目して、0 を除く ''K'' の元の全体 ''K''<sup>*</sup> に乗法を与えて得られる代数系 (''K''<sup>*</sup>, ×) は群であり、'''乗法群'''と呼ばれる。''K'' の乗法群をしばしば ''K''<sup>×</sup> とも記し、'''G'''<sub>m</sub>(''K'') と記されることもある。体 ''K'' の乗法群の任意の有限部分群は[[巡回群]]である。
体の元の[[濃度 (数学)|濃度]]を'''位数'''といい、有限な位数を持つ体を[[有限体]]と呼び、そうでない体を'''無限体'''と呼ぶ。有限斜体は常に可換体である([[ウェダバーンの小定理]])。
''n''1 で単位元 1 を ''n'' 回足したものを表すとき、''n''1 = 0 となるような正の整数 ''n'' のうち最も小さなものをその体の[[標数]]という。ただし、そのような ''n'' が存在しないとき標数は 0 であると決める。体の標数は 0 または素数である。
体は 0 以外の元が全て可逆となる[[単位的環]]である。したがって、その[[イデアル]]や部分環の概念を考えることができるが、体は自明でないイデアルを持たない(これを体は'''[[単純環]]'''であるという)。体の単位的環としての部分環がふたたび体をなすとき、[[体の拡大|部分体]]という。
体 ''K'', ''L'' とその間の写像 ''f'': ''K'' → ''L'' が与えられたとき、''f'' が'''体の準同型'''であるとは、単位的環としての[[準同型]]であることをいう。つまり、体準同型 ''f'' は ''K'' の任意の元 ''a'', ''b'' および、''K'', ''L'' それぞれの単位元 1<sub>''K''</sub>, 1<sub>''L''</sub> に対して
:<math>f(a + b) = f(a) + f(b)</math>
:<math>f(ab) = f(a)f(b)</math>
:<math>f(1_K) = 1_L</math>
を全て満たす。また、その像 Im(''f'') = {''f''(''x'') | ''x'' ∈ ''K''} は ''L'' の部分体となり、核 Ker(''f'') = {''x'' ∈ ''K'' | ''f''(''x'') = 0<sub>''L''</sub>} は ''K'' のイデアルとなるが、体が単純環であることと単位元が零元にうつることはないことから、体の[[準同型]]は必ず[[単射]]になる。したがって、体の準同型 ''f'': ''K'' → ''L'' の像 Im(''f'') は ''K'' に体として同型である。これを'''中への同型'''とよび、さらに ''f'' が[[全射]]であるとき'''上への同型'''であるという。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{reflist|group="注"}}
== 関連項目 ==
* [[環論]]
* [[ベクトル空間]]
* [[有限体]]
* [[標数]]
== 外部リンク ==
* {{MathWorld | urlname= Field | title= Field }}
* {{SpringerEOM | title=Field | id=Field&oldid=29756 | last=Kuz'min | first=L.V. }}
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{{DEFAULTSORT:かかんたい}}
[[Category:体論|*]]
[[Category:抽象代数学]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-28T19:41:11Z | 2023-10-02T01:13:31Z | false | false | false | [
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"Template:Abstract-algebra-stub",
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"Template:Commutative ring classes",
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"Template:Math",
"Template:Algebra",
"Template:Lang-en-short",
"Template:Overline",
"Template:Lang-fr-short",
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"Template:-",
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"Template:出典の明記"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AF%E6%8F%9B%E4%BD%93 |
7,423 | 一般相対性理論 | 一般相対性理論(いっぱんそうたいせいりろん、独: allgemeine Relativitätstheorie, 英: general theory of relativity)は、アルベルト・アインシュタインが1905年の特殊相対性理論に続いて、それを発展させ1915年から1916年にかけて発表した物理学の理論である。一般相対論(いっぱんそうたいろん、英: general relativity)とも呼ばれる。
一般相対性原理と一般共変性原理および等価原理を理論的な柱とし、リーマン幾何学を数学的土台として構築された古典論的な重力場の理論であり、ロシアの物理学者のレフ・ランダウは一般相対論について、現存する物理学の理論の中で最も美しい理論だと述べている。測地線の方程式とアインシュタイン方程式(重力場の方程式)が帰結である。時間と空間を結びつけるこの理論では、アイザック・ニュートンによって万有引力として説明された現象が、もはやニュートン力学的な意味での力ではなく、時空連続体の歪みとして説明される。
一般相対性理論では、次のことが予測される。
一般相対性理論は慣性力と重力を結び付ける等価原理のアイデアに基づいている。等価原理とは、簡単に言えば、外部を観測できない箱の中の観測者は、自らにかかる力が、箱が一様に加速されるために生じている慣性力なのか、箱の外部にある質量により生じている重力なのか、を区別することができないという主張である。
相対論によれば空間は時空連続体であり、一般相対性理論では、その時空連続体が均質でなく歪んだものになる。つまり、質量が時空間を歪ませることによって、重力が生じると考える。そうだとすれば、質量の周囲の時空間は歪んでいるために、光は直進せず、また時間の流れも影響を受ける。これが重力レンズや時間の遅れといった現象となって観測されることになる。また質量が移動する場合、その移動にそって時空間の歪みが移動・伝播していくために重力波が生じることも予測される。
アインシュタイン方程式から得られる時空は、ブラックホールの存在や膨張宇宙モデルなど、アインシュタイン自身さえそれらの解釈を拒むほどの驚くべき描像である。しかし、ブラックホールや初期宇宙の特異点の存在も理論として内包しており、特異点の発生は一般相対性理論そのものを破綻させてしまう。将来的には量子重力理論が完成することにより、この困難は解決されるものと期待されている。
1905年に特殊相対性理論を発表したアインシュタインは、特殊相対性理論を加速度運動を含めたものに拡張する理論の構築に取り掛かった。1907年に、アインシュタイン自身が「人生で最も幸福な考え (the happiest thought of my life)」と振り返る「重力によって生じる加速度は観測する座標系によって局所的にキャンセルすることができる」というアイディア(等価原理)を得る。 光の進み方と重力に関する論文を1911年に出版した後、1912年からは、重力場を時空の幾何学として取り扱う方法を模索した。このときにアインシュタインにリーマン幾何学の存在を教えたのが、数学者マルセル・グロスマンであった。ただし、このときグロスマンは、「物理学者が深入りする問題ではない」と助言したとも伝えられている。1915年-16年には、これらの考えが1組の微分方程式(アインシュタイン方程式)としてまとめられた。
この時期にアインシュタインが発表した一般相対性理論に関する論文は、以下の通り。
アインシュタイン方程式の発表後は、その方程式を解くことが研究の課題となった。
1916年にカール・シュヴァルツシルトが、アインシュタイン方程式を球対称・真空の条件のもとに解き、今日ブラックホールと呼ばれる時空を表すシュヴァルツシルト解を発見した。アインシュタイン自身は、自ら導いた方程式から、重力波の概念を提案したり、宇宙全体に適用すると動的な宇宙が得られてしまうことから、宇宙項を新たに方程式に加えるなどの提案を行っている。
1919年5月29日にアーサー・エディントンが皆既日食を利用して、一般相対性理論により予測された太陽近傍での光の曲がりを確認したことにより、理論の正しさが認められ、世間への認知が一気に広まった。
1922年には、宇宙膨張を示唆するフリードマン・ロバートソンモデルが提案されるが、アインシュタイン自身は、宇宙が定常であると信じていたので、現実的な宇宙の姿であるとは受け入れようとはしなかった。
しかし、1929年には、エドウィン・ハッブルが、遠方の銀河の赤方偏移より、宇宙が膨張していることを示し、これにより、一般相対性理論の予測する時空の描像が正しいことが判明した。後にアインシュタインは宇宙項の導入を取り下げ、「生涯最大の失敗だった (the biggest blunder in my career)」とジョージ・ガモフに語ったという。
1931年、スブラマニアン・チャンドラセカールは、白色矮星の質量に上限があることを理論的計算によって示した。今日、チャンドラセカール限界として知られる式は、万有引力定数 G、プランク定数 h、光速 c の3つの基本定数を含み、古典物理・量子物理双方の成果を集大成したものでもある。チャンドラセカールは、「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」の功績でノーベル物理学賞(1983年)を受賞した。
1939年、ロバート・オッペンハイマーとゲオルグ・ヴォルコフ (George Volkoff) は、中性子星形成のメカニズムを考察する過程で、重力崩壊現象が起きることを予測した。
その後しばらく、一般相対性理論は、「数学的産物」として実質的な物理研究の主流からは外れている。
重力波は果たして物理的な実体であるのかどうかという論争や、アインシュタイン方程式の厳密解の分類方法などの研究がしばらく続くが、1960年代のパルサーの発見やブラックホール候補天体の発見、そしてロイ・カーによる回転ブラックホール解(カー解)の発見を契機に、一般相対性理論は天文学の表舞台に登場する。同時期に、スティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズが特異点定理を発表し、数学的・物理的に進展を始めると共に、ジョン・ホイーラーらが、古典重力・量子重力双方に物理的な描像を次々と提出し始めた。ワームホール(1957年)やブラックホール(1967年)という名前を命名したのは、ホイーラーである。
1974年、ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスは、連星パルサー PSR B1913+16 を発見した。連星の自転周期とパルスの放射周期を精密に観測することによって、重力波 により、連星系からエネルギーが徐々に運び去られていることを示し、重力波の存在を間接的に証明した。この業績により、2人は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」としてノーベル物理学賞(1993年)を受賞した。
重力波の直接観測も試みられ続け、2016年に重力波検出器(レーザー干渉計)により、連星ブラックホールの合体イベントによる重力波を初めて直接検出したことが発表された。
また、宇宙論研究では、ビッグバン宇宙モデル(1947年)が有力とされているが、さらにその初期宇宙の膨張則を修正したインフレーション宇宙モデル(1981年)も正しいことが、2006年のWMAP衛星による宇宙背景輻射の観測により決定的になったと考える人も多い。最近は、高次元宇宙モデルが脚光を浴びているが、これらの宇宙モデルは、いずれも一般相対性理論を基礎にして議論される。
アインシュタイン以後、一般相対性理論以外の重力理論も、数多く提案されているが、現在までにほとんどが過去の観測結果を照合した上で棄却されている。実質的に対抗馬となるのは、カール・ブランスとロバート・H・ディッケによるブランス・ディッケ重力理論であるが、現在の観測では、ブランス・ディッケ理論のパラメーターは、ほとんど一般相対性理論に近づけなくてはならず、両者を区別することが難しいほどである。量子論と一般相対論の統一という物理学の試みは未だ進行中であるものの、一般相対性理論を積極的に否定する観測事実・実験事実は一つもない。他に提案されたどの重力理論よりも一般相対性理論は単純な形をしていることから、重力は一般相対性理論で記述される、と考えるのが現代の物理学である。
アインシュタイン方程式は微分方程式として与えられているため局所的な理論ではあるが、ちょうど電磁気学における局所的なマクスウェル方程式から大域的なクーロンの法則を導くことができるように、アインシュタイン方程式は静的なニュートンの万有引力の法則を包含している。万有引力の法則との主な違いは次の3点である。
ここで、3.は荷電粒子が加速運動することにより電磁波が放射されることと類似している。これは、万有引力の法則やクーロンの法則に、運動する対象の自己の重力や電荷の効果を取り入れていることに対応している。
後述するように、一般相対性理論における時空間は数学的には各点の接ベクトル空間にミンコフスキー計量をいれた4次元多様体(ローレンツ多様体)で、アインシュタイン方程式を満たすものである。
よって各点の接ベクトル空間は、特殊相対性理論に従うミンコフスキー空間であり、接ベクトル空間とは、数学的にはテイラー展開の一次の項に対応している。
これはすなわち、一般相対性理論の側からみた場合、特殊相対性理論とは時空間上に任意に固定された一点の近傍において、一般相対性理論を一次近似したものである事を意味している。なお、(宇宙項のない)アインシュタイン方程式に登場する各項(曲率やエネルギー・運動量テンソル)は、二次の微分に関わる項であり、一次近似である特殊相対性理論には登場しない。
逆に特殊相対性理論の側から一般相対性理論をみると、特殊相対性理論の数学的定式化であるミンコフスキー空間は、全ての点に同一のミンコフスキー計量をいれた平坦なローレンツ多様体である。
このローレンツ多様体上では曲率は全点でゼロであるので、この事実を(宇宙項のない)アインシュタイン方程式に代入すると、この空間ではエネルギー・運動量テンソルがゼロである事を意味する。
また、平坦なローレンツ多様体上では共変微分と通常の微分は一致するので、全ての線形座標でクリストッフェル記号は消えている。クリストッフェル記号は物理学的には重力に対応しているので、これはすなわち全ての線形座標で重力がゼロである事を意味する。
以上より特殊相対性理論とは、エネルギー・運動量テンソルの影響が無視できる程度に、すなわち宇宙全体に比べれば微小な領域における理論であり、空間の曲率も領域の微小さゆえに無視できる場合の理論であると言える。
量子論は一般相対性理論と同様に物理学の基本的な理論の1つであると考えられている。しかし、一般相対性理論と量子論を整合させた理論(量子重力理論)は未だに完成していない。現在、人類の知っているあらゆる物理法則は全て場の量子論および一般相対性理論のどちらかから導くことができる。そのため、その2つを導くことのできる量子重力理論はこの世の全てを説明できる万物の理論とも呼ばれている。
基本的に相対性理論で取り扱われる重力は、4つの基本相互作用のうち他の3つの力に比べて圧倒的に小さく、天体物理学や天文学で取り扱う天文現象のような巨視的なレベル以下の大きさでは無視できる。逆に、量子論効果は量子化学や量子力学、素粒子物理学で取り扱う分子や原子、クォークなどのような微視的なレベル以上の大きさでは無視できる。よって相対性理論を適用する場面と量子論を適用する場面は重ならないためほとんどの場合この両者を考慮する必要はない。しかし、ブラックホールやビッグバンなどの大質量かつ微視的なスケールの現象を説明するためにはこの両者を併用する必要があるが、相対論と量子論を従来用いられてきた摂動法を用いて統合しようとすると、両者の間に深刻な対立が生じてしまい、並立させることが出来ない。従来の量子論では摂動展開時に生じる紫外発散(英語版)を繰り込みによって解消しているが、重力にはこの手法が適用できないのである。
この2つの理論の対立を折衷する様々な意見やその立証が試みられているが、未だ決定的な理論は出てきていない。
一般に場の量子論においては平坦なミンコフスキー時空における粒子を扱うが、重力の効果を近似的(半古典的)に背景時空(曲がった時空)として導入することにより、場の量子論に曲がった時空の効果を近似的に取り入れた理論である。
重力子の影響を背景時空として近似しているため、強い重力場のもとでは時空を完全に量子化したような量子重力理論に修正されるべきである。欠点としては、時空が静的なものであるため完全には相対論的ではない。
ホーキング放射はこの理論のもとで予測された。
超弦理論は、従来の量子論では大きさを持たない点と仮定されている粒子を、長さを持つ「ひも」と仮定しなおすことにより紫外発散の問題を解消している。理論的な探求は進んでいるものの、実験的裏付けが非常に乏しく未だ仮説の域を脱していない。
一般相対性理論は、次の仮定を出発点にする。あくまでも仮定であり、これが基準点とするものではない。
一般相対性理論成立の歴史上、等価原理 (equivalence principle) はスタートポイントとして考えられたが、数学的に重要であるのは、一般相対性原理(一般共変性の仮定と局所座標系における特殊相対性理論の成立仮定)である。
一般相対性理論においては、重力のある空間を光が通過するとき光は曲がる(光のとる経路が伸びる)ことから、時空は、重力場を基本計量テンソルとする4次元のリーマン多様体として扱われる。可微分多様体 M がリーマン多様体であるとは、M 上の各点に基本計量テンソル gij(x) が与えられているものを言う。なお、局所座標系 (x, x, x, x) の四つの座標の内、x は適当な測定単位で測られた時間座標、x, x, x は空間座標とする。すなわち、x = ct, x = x, x = y, x = z であるとする。さらに、リーマン多様体上に定義されるテンソル概念に対して、上下に現れる同じ添字については常に和を取るというアインシュタインの縮約記法を用いる。
リーマン多様体を導入することで、一般共変性の仮定は、
ある自然の一般法則がある座標系で一つのテンソルの成分がすべてゼロになる形で書き表すことができるとき、すなわち、
とできるとき、その法則は一般共変性を持つ
というように、リーマン多様体上で定義されるテンソル概念の性質として定式化できるようになる。
リーマン幾何学によれば、リーマン多様体上の無限に近い2点間の距離 ds は
の平方で与えられる。この ds を4次元空間の無限に近い点に属する線素 (line element) の大きさと呼ぶが、これは、特殊相対性理論が成り立つような座標系においては、ミンコフスキーが指摘した4次元空間における不変量
と一致するものでなくてはならない。すなわち、適当な座標変換により、計量テンソル gij は、
行列形式で描けば、
となることが要請される。これはより一般的な表現として、有限で常に負の値をもつ基本計量テンソルの行列式 g = det(gij) に対する次の条件
という形で条件として求められる。
擬リーマン空間における測地線 (geodesic) は、通常の計量空間における定義と同様に、2点間の長さを最小にする曲線として定義される。曲線の長さは、
l ( γ ) = ∫ γ ± g μ ν d x μ d x ν = ∫ γ ± g μ ν d x μ d t d x ν d t d t {\displaystyle l(\gamma )=\int _{\gamma }{\sqrt {\pm g_{\mu \nu }dx^{\mu }dx^{\nu }}}=\int _{\gamma }{\sqrt {\pm g_{\mu \nu }{\frac {dx^{\mu }}{dt}}{\frac {dx^{\nu }}{dt}}}}\,dt}
で与えられる。ここでの積分は、曲線 γ(t) に沿うものとする。ルート内の符号の+は空間的な曲線に対して、負の符号は時間的な曲線に対して適用し、いずれの場合も長さが実数になるようにする。
この長さの極値をもたらす条件を導出すると、測地線の方程式が得られる。局所座標で表現すると、方程式は、
d 2 x μ d t 2 + Γ ν ρ μ d x ν d t d x ρ d t = 0 {\displaystyle {\frac {d^{2}x^{\mu }}{dt^{2}}}+\Gamma _{~\nu \rho }^{\mu }{\frac {dx^{\nu }}{dt}}{\frac {dx^{\rho }}{dt}}=0}
となる。ここで、x(t) は、曲線 γ(t) の座標であり、Γμ νρ は先に登場したクリストッフェル記号である。座標の常微分方程式として得られるこの式は、初期値と初速度を与えれば解を一意に決定する。この式は、曲がった時空における光・粒子の運動方程式である。
時空の曲率は、レヴィ・チヴィタ接続 ∇ が定義するリーマン曲率テンソル (Riemann tensor) R ρ σμν で表現される。局所座標表現では、次のように書ける。
R ρ σ μ ν = ∂ ∂ x μ Γ ρ ν σ − ∂ ∂ x ν Γ ρ μ σ + Γ ρ μ λ Γ λ ν σ − Γ ρ ν λ Γ λ μ σ {\displaystyle {R^{\rho }}_{\sigma \mu \nu }={\frac {\partial }{\partial x^{\mu }}}\Gamma ^{\rho }{}_{\nu \sigma }-{\frac {\partial }{\partial x^{\nu }}}\Gamma ^{\rho }{}_{\mu \sigma }+\Gamma ^{\rho }{}_{\mu \lambda }\Gamma ^{\lambda }{}_{\nu \sigma }-\Gamma ^{\rho }{}_{\nu \lambda }\Gamma ^{\lambda }{}_{\mu \sigma }}
物理的には、このリーマン曲率テンソルから、2成分を縮約したリッチテンソル (Ricci tensor) Rμν と、さらに添字を縮約したリッチスカラー曲率 (Ricci scalar) R
R μ ν = R ρ μ ρ ν {\displaystyle R_{\mu \nu }={R^{\rho }}_{\mu \rho \nu }}
R = g μ ν R μ ν {\displaystyle R_{}^{}=g^{\mu \nu }R_{\mu \nu }}
を考えればよく、さらにその組み合わせである、
G μ ν = R μ ν − 1 2 R g μ ν {\displaystyle G_{\mu \nu }=R_{\mu \nu }-{\frac {1}{2}}Rg_{\mu \nu }}
が物質分布で定まることをアインシュタインが見いだした。この最後の組み合わせ Gμν をアインシュタイン・テンソル (Einstein tensor) と呼ぶ。
一般相対性理論の基本方程式は、
G μ ν + Λ g μ ν = κ T μ ν {\displaystyle G_{\mu \nu }+\Lambda g_{\mu \nu }=\kappa T_{\mu \nu }}
と表され、アインシュタイン方程式と呼ばれる。ここで Gμν はアインシュタインテンソル、gμν は計量テンソル、Λ は宇宙項、Tμν はエネルギー・運動量テンソルである。非相対論的極限でニュートンの重力理論に収束することから、右辺の比例係数 κ (アインシュタインの定数)は、
κ = 8 π G c 4 {\displaystyle \kappa ={\frac {8\pi G}{c^{4}}}}
となる。G は万有引力定数、 c は光速である。4次元空間を考えれば、テンソルは対称なので、アインシュタイン方程式は、10本の方程式からなる。
アインシュタイン方程式の左辺は時空の曲率を表し、右辺は物質分布を表す。右辺の物質分布の項により時空が曲率を持ち、その曲率の影響で次の瞬間の物質分布が定まる、という構造である。真空の時空であれば、右辺をゼロとすればよい。例えば、重力以外の力を考えないと、次のようになる。
右辺のエネルギー運動量テンソルが増加の場合(アインシュタインの特殊相対論によるとエネルギーと質量は等価であるから、エネルギー運動量テンソルの増加は質量の増加を意味する)、左辺も増加しなければならない。これは時空の曲率が増加することを意味する。アインシュタインの解釈によると重力とは時空の湾曲によるものであったから、曲率の増加は重力の増大を表す。右辺のエネルギー運動量テンソルの増大は質量が増大する事を表し、この方程式によると、それは左辺の時空の曲率、つまり重力がさらに増大することを意味する。
すなわち、重力は非線形で、重力自身は自己増大してゆく。通常の恒星のモデルでは、核融合による、生じる光(電磁波)の輻射圧とガスによる圧力が、重力と釣り合うように恒星の半径が決まる。星が燃え尽きて支える力がなくなると、重力崩壊し、電子の縮退圧で支えられる白色矮星 か、中性子の縮退圧で支えられる中性子星、あるいは、ブラックホールになることが予測される。
アインシュタイン方程式の数学的な特徴は、次のような点にある。
アインシュタイン方程式自身に何ら近似することなく得られる解析解のことを厳密解という。良く知られている厳密解に、次のものがある。
現在でも、新しい解(解析解)を発見すれば、発見者の名前がつく。ただし、同じ物理的な時空であっても、異なる座標表現を用いて、異なる解のように表現されることがあるので、注意することが必要である。
自動車などの位置をリアルタイムに測定表示するカーナビゲーションシステムは、GNSSの代表といえるGPSなどを利用しており、GPS衛星などに搭載された原子時計に基づき生成される航法信号に依存している。
GPS衛星からの信号を受信する装置では、さまざまな要因による補正を行うが、GPS衛星の時計との同期に関するものとして、地表に対して高速で運動するGPS衛星の、特殊相対論効果による地表からみた時間の遅れ、および地球の重力場による地上の時間の遅れ、言い換えれば一般相対論効果による衛星の時計の進みが含まれる。
GPS衛星の軌道速度は秒速約4キロメートルと高速であるため、特殊相対論によって時間の進み方がわずかではあるが遅くなる。一方、GPS衛星の高度は約2万キロメートルで、地球の重力場の影響が小さいことから、一般相対論によって地上よりも時間の進み方が速くなる。このように特殊相対論と一般相対論で互いに逆の効果をもたらすことになる。この相対論的補正をせずに1日放置すると、位置情報が約11キロメートルもずれてしまうほどの時刻差になることから、相対論的補正はGPSシステムの運用に不可欠である。 | [
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"text": "一般相対性理論(いっぱんそうたいせいりろん、独: allgemeine Relativitätstheorie, 英: general theory of relativity)は、アルベルト・アインシュタインが1905年の特殊相対性理論に続いて、それを発展させ1915年から1916年にかけて発表した物理学の理論である。一般相対論(いっぱんそうたいろん、英: general relativity)とも呼ばれる。",
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"text": "一般相対性原理と一般共変性原理および等価原理を理論的な柱とし、リーマン幾何学を数学的土台として構築された古典論的な重力場の理論であり、ロシアの物理学者のレフ・ランダウは一般相対論について、現存する物理学の理論の中で最も美しい理論だと述べている。測地線の方程式とアインシュタイン方程式(重力場の方程式)が帰結である。時間と空間を結びつけるこの理論では、アイザック・ニュートンによって万有引力として説明された現象が、もはやニュートン力学的な意味での力ではなく、時空連続体の歪みとして説明される。",
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"text": "一般相対性理論は慣性力と重力を結び付ける等価原理のアイデアに基づいている。等価原理とは、簡単に言えば、外部を観測できない箱の中の観測者は、自らにかかる力が、箱が一様に加速されるために生じている慣性力なのか、箱の外部にある質量により生じている重力なのか、を区別することができないという主張である。",
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"text": "相対論によれば空間は時空連続体であり、一般相対性理論では、その時空連続体が均質でなく歪んだものになる。つまり、質量が時空間を歪ませることによって、重力が生じると考える。そうだとすれば、質量の周囲の時空間は歪んでいるために、光は直進せず、また時間の流れも影響を受ける。これが重力レンズや時間の遅れといった現象となって観測されることになる。また質量が移動する場合、その移動にそって時空間の歪みが移動・伝播していくために重力波が生じることも予測される。",
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"text": "アインシュタイン方程式から得られる時空は、ブラックホールの存在や膨張宇宙モデルなど、アインシュタイン自身さえそれらの解釈を拒むほどの驚くべき描像である。しかし、ブラックホールや初期宇宙の特異点の存在も理論として内包しており、特異点の発生は一般相対性理論そのものを破綻させてしまう。将来的には量子重力理論が完成することにより、この困難は解決されるものと期待されている。",
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"text": "1905年に特殊相対性理論を発表したアインシュタインは、特殊相対性理論を加速度運動を含めたものに拡張する理論の構築に取り掛かった。1907年に、アインシュタイン自身が「人生で最も幸福な考え (the happiest thought of my life)」と振り返る「重力によって生じる加速度は観測する座標系によって局所的にキャンセルすることができる」というアイディア(等価原理)を得る。 光の進み方と重力に関する論文を1911年に出版した後、1912年からは、重力場を時空の幾何学として取り扱う方法を模索した。このときにアインシュタインにリーマン幾何学の存在を教えたのが、数学者マルセル・グロスマンであった。ただし、このときグロスマンは、「物理学者が深入りする問題ではない」と助言したとも伝えられている。1915年-16年には、これらの考えが1組の微分方程式(アインシュタイン方程式)としてまとめられた。",
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"text": "この時期にアインシュタインが発表した一般相対性理論に関する論文は、以下の通り。",
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"text": "アインシュタイン方程式の発表後は、その方程式を解くことが研究の課題となった。",
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"text": "1916年にカール・シュヴァルツシルトが、アインシュタイン方程式を球対称・真空の条件のもとに解き、今日ブラックホールと呼ばれる時空を表すシュヴァルツシルト解を発見した。アインシュタイン自身は、自ら導いた方程式から、重力波の概念を提案したり、宇宙全体に適用すると動的な宇宙が得られてしまうことから、宇宙項を新たに方程式に加えるなどの提案を行っている。",
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"text": "1919年5月29日にアーサー・エディントンが皆既日食を利用して、一般相対性理論により予測された太陽近傍での光の曲がりを確認したことにより、理論の正しさが認められ、世間への認知が一気に広まった。",
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"text": "1922年には、宇宙膨張を示唆するフリードマン・ロバートソンモデルが提案されるが、アインシュタイン自身は、宇宙が定常であると信じていたので、現実的な宇宙の姿であるとは受け入れようとはしなかった。",
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"text": "しかし、1929年には、エドウィン・ハッブルが、遠方の銀河の赤方偏移より、宇宙が膨張していることを示し、これにより、一般相対性理論の予測する時空の描像が正しいことが判明した。後にアインシュタインは宇宙項の導入を取り下げ、「生涯最大の失敗だった (the biggest blunder in my career)」とジョージ・ガモフに語ったという。",
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"text": "1931年、スブラマニアン・チャンドラセカールは、白色矮星の質量に上限があることを理論的計算によって示した。今日、チャンドラセカール限界として知られる式は、万有引力定数 G、プランク定数 h、光速 c の3つの基本定数を含み、古典物理・量子物理双方の成果を集大成したものでもある。チャンドラセカールは、「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」の功績でノーベル物理学賞(1983年)を受賞した。",
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"text": "1939年、ロバート・オッペンハイマーとゲオルグ・ヴォルコフ (George Volkoff) は、中性子星形成のメカニズムを考察する過程で、重力崩壊現象が起きることを予測した。",
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"text": "重力波は果たして物理的な実体であるのかどうかという論争や、アインシュタイン方程式の厳密解の分類方法などの研究がしばらく続くが、1960年代のパルサーの発見やブラックホール候補天体の発見、そしてロイ・カーによる回転ブラックホール解(カー解)の発見を契機に、一般相対性理論は天文学の表舞台に登場する。同時期に、スティーヴン・ホーキングとロジャー・ペンローズが特異点定理を発表し、数学的・物理的に進展を始めると共に、ジョン・ホイーラーらが、古典重力・量子重力双方に物理的な描像を次々と提出し始めた。ワームホール(1957年)やブラックホール(1967年)という名前を命名したのは、ホイーラーである。",
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"text": "基本的に相対性理論で取り扱われる重力は、4つの基本相互作用のうち他の3つの力に比べて圧倒的に小さく、天体物理学や天文学で取り扱う天文現象のような巨視的なレベル以下の大きさでは無視できる。逆に、量子論効果は量子化学や量子力学、素粒子物理学で取り扱う分子や原子、クォークなどのような微視的なレベル以上の大きさでは無視できる。よって相対性理論を適用する場面と量子論を適用する場面は重ならないためほとんどの場合この両者を考慮する必要はない。しかし、ブラックホールやビッグバンなどの大質量かつ微視的なスケールの現象を説明するためにはこの両者を併用する必要があるが、相対論と量子論を従来用いられてきた摂動法を用いて統合しようとすると、両者の間に深刻な対立が生じてしまい、並立させることが出来ない。従来の量子論では摂動展開時に生じる紫外発散(英語版)を繰り込みによって解消しているが、重力にはこの手法が適用できないのである。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "この2つの理論の対立を折衷する様々な意見やその立証が試みられているが、未だ決定的な理論は出てきていない。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "一般に場の量子論においては平坦なミンコフスキー時空における粒子を扱うが、重力の効果を近似的(半古典的)に背景時空(曲がった時空)として導入することにより、場の量子論に曲がった時空の効果を近似的に取り入れた理論である。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "重力子の影響を背景時空として近似しているため、強い重力場のもとでは時空を完全に量子化したような量子重力理論に修正されるべきである。欠点としては、時空が静的なものであるため完全には相対論的ではない。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "ホーキング放射はこの理論のもとで予測された。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "超弦理論は、従来の量子論では大きさを持たない点と仮定されている粒子を、長さを持つ「ひも」と仮定しなおすことにより紫外発散の問題を解消している。理論的な探求は進んでいるものの、実験的裏付けが非常に乏しく未だ仮説の域を脱していない。",
"title": "物理学としての位置づけ"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "一般相対性理論は、次の仮定を出発点にする。あくまでも仮定であり、これが基準点とするものではない。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "一般相対性理論成立の歴史上、等価原理 (equivalence principle) はスタートポイントとして考えられたが、数学的に重要であるのは、一般相対性原理(一般共変性の仮定と局所座標系における特殊相対性理論の成立仮定)である。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "一般相対性理論においては、重力のある空間を光が通過するとき光は曲がる(光のとる経路が伸びる)ことから、時空は、重力場を基本計量テンソルとする4次元のリーマン多様体として扱われる。可微分多様体 M がリーマン多様体であるとは、M 上の各点に基本計量テンソル gij(x) が与えられているものを言う。なお、局所座標系 (x, x, x, x) の四つの座標の内、x は適当な測定単位で測られた時間座標、x, x, x は空間座標とする。すなわち、x = ct, x = x, x = y, x = z であるとする。さらに、リーマン多様体上に定義されるテンソル概念に対して、上下に現れる同じ添字については常に和を取るというアインシュタインの縮約記法を用いる。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "リーマン多様体を導入することで、一般共変性の仮定は、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "ある自然の一般法則がある座標系で一つのテンソルの成分がすべてゼロになる形で書き表すことができるとき、すなわち、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "とできるとき、その法則は一般共変性を持つ",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "というように、リーマン多様体上で定義されるテンソル概念の性質として定式化できるようになる。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "リーマン幾何学によれば、リーマン多様体上の無限に近い2点間の距離 ds は",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "の平方で与えられる。この ds を4次元空間の無限に近い点に属する線素 (line element) の大きさと呼ぶが、これは、特殊相対性理論が成り立つような座標系においては、ミンコフスキーが指摘した4次元空間における不変量",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "と一致するものでなくてはならない。すなわち、適当な座標変換により、計量テンソル gij は、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "行列形式で描けば、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "となることが要請される。これはより一般的な表現として、有限で常に負の値をもつ基本計量テンソルの行列式 g = det(gij) に対する次の条件",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "という形で条件として求められる。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "擬リーマン空間における測地線 (geodesic) は、通常の計量空間における定義と同様に、2点間の長さを最小にする曲線として定義される。曲線の長さは、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "l ( γ ) = ∫ γ ± g μ ν d x μ d x ν = ∫ γ ± g μ ν d x μ d t d x ν d t d t {\\displaystyle l(\\gamma )=\\int _{\\gamma }{\\sqrt {\\pm g_{\\mu \\nu }dx^{\\mu }dx^{\\nu }}}=\\int _{\\gamma }{\\sqrt {\\pm g_{\\mu \\nu }{\\frac {dx^{\\mu }}{dt}}{\\frac {dx^{\\nu }}{dt}}}}\\,dt}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "で与えられる。ここでの積分は、曲線 γ(t) に沿うものとする。ルート内の符号の+は空間的な曲線に対して、負の符号は時間的な曲線に対して適用し、いずれの場合も長さが実数になるようにする。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "この長さの極値をもたらす条件を導出すると、測地線の方程式が得られる。局所座標で表現すると、方程式は、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "d 2 x μ d t 2 + Γ ν ρ μ d x ν d t d x ρ d t = 0 {\\displaystyle {\\frac {d^{2}x^{\\mu }}{dt^{2}}}+\\Gamma _{~\\nu \\rho }^{\\mu }{\\frac {dx^{\\nu }}{dt}}{\\frac {dx^{\\rho }}{dt}}=0}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "となる。ここで、x(t) は、曲線 γ(t) の座標であり、Γμ νρ は先に登場したクリストッフェル記号である。座標の常微分方程式として得られるこの式は、初期値と初速度を与えれば解を一意に決定する。この式は、曲がった時空における光・粒子の運動方程式である。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "時空の曲率は、レヴィ・チヴィタ接続 ∇ が定義するリーマン曲率テンソル (Riemann tensor) R ρ σμν で表現される。局所座標表現では、次のように書ける。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "R ρ σ μ ν = ∂ ∂ x μ Γ ρ ν σ − ∂ ∂ x ν Γ ρ μ σ + Γ ρ μ λ Γ λ ν σ − Γ ρ ν λ Γ λ μ σ {\\displaystyle {R^{\\rho }}_{\\sigma \\mu \\nu }={\\frac {\\partial }{\\partial x^{\\mu }}}\\Gamma ^{\\rho }{}_{\\nu \\sigma }-{\\frac {\\partial }{\\partial x^{\\nu }}}\\Gamma ^{\\rho }{}_{\\mu \\sigma }+\\Gamma ^{\\rho }{}_{\\mu \\lambda }\\Gamma ^{\\lambda }{}_{\\nu \\sigma }-\\Gamma ^{\\rho }{}_{\\nu \\lambda }\\Gamma ^{\\lambda }{}_{\\mu \\sigma }}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "物理的には、このリーマン曲率テンソルから、2成分を縮約したリッチテンソル (Ricci tensor) Rμν と、さらに添字を縮約したリッチスカラー曲率 (Ricci scalar) R",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "R μ ν = R ρ μ ρ ν {\\displaystyle R_{\\mu \\nu }={R^{\\rho }}_{\\mu \\rho \\nu }}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "R = g μ ν R μ ν {\\displaystyle R_{}^{}=g^{\\mu \\nu }R_{\\mu \\nu }}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "を考えればよく、さらにその組み合わせである、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "G μ ν = R μ ν − 1 2 R g μ ν {\\displaystyle G_{\\mu \\nu }=R_{\\mu \\nu }-{\\frac {1}{2}}Rg_{\\mu \\nu }}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "が物質分布で定まることをアインシュタインが見いだした。この最後の組み合わせ Gμν をアインシュタイン・テンソル (Einstein tensor) と呼ぶ。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "一般相対性理論の基本方程式は、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "G μ ν + Λ g μ ν = κ T μ ν {\\displaystyle G_{\\mu \\nu }+\\Lambda g_{\\mu \\nu }=\\kappa T_{\\mu \\nu }}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "と表され、アインシュタイン方程式と呼ばれる。ここで Gμν はアインシュタインテンソル、gμν は計量テンソル、Λ は宇宙項、Tμν はエネルギー・運動量テンソルである。非相対論的極限でニュートンの重力理論に収束することから、右辺の比例係数 κ (アインシュタインの定数)は、",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "κ = 8 π G c 4 {\\displaystyle \\kappa ={\\frac {8\\pi G}{c^{4}}}}",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "となる。G は万有引力定数、 c は光速である。4次元空間を考えれば、テンソルは対称なので、アインシュタイン方程式は、10本の方程式からなる。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "アインシュタイン方程式の左辺は時空の曲率を表し、右辺は物質分布を表す。右辺の物質分布の項により時空が曲率を持ち、その曲率の影響で次の瞬間の物質分布が定まる、という構造である。真空の時空であれば、右辺をゼロとすればよい。例えば、重力以外の力を考えないと、次のようになる。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "右辺のエネルギー運動量テンソルが増加の場合(アインシュタインの特殊相対論によるとエネルギーと質量は等価であるから、エネルギー運動量テンソルの増加は質量の増加を意味する)、左辺も増加しなければならない。これは時空の曲率が増加することを意味する。アインシュタインの解釈によると重力とは時空の湾曲によるものであったから、曲率の増加は重力の増大を表す。右辺のエネルギー運動量テンソルの増大は質量が増大する事を表し、この方程式によると、それは左辺の時空の曲率、つまり重力がさらに増大することを意味する。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "すなわち、重力は非線形で、重力自身は自己増大してゆく。通常の恒星のモデルでは、核融合による、生じる光(電磁波)の輻射圧とガスによる圧力が、重力と釣り合うように恒星の半径が決まる。星が燃え尽きて支える力がなくなると、重力崩壊し、電子の縮退圧で支えられる白色矮星 か、中性子の縮退圧で支えられる中性子星、あるいは、ブラックホールになることが予測される。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "アインシュタイン方程式の数学的な特徴は、次のような点にある。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "アインシュタイン方程式自身に何ら近似することなく得られる解析解のことを厳密解という。良く知られている厳密解に、次のものがある。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "現在でも、新しい解(解析解)を発見すれば、発見者の名前がつく。ただし、同じ物理的な時空であっても、異なる座標表現を用いて、異なる解のように表現されることがあるので、注意することが必要である。",
"title": "一般相対性理論の内容"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "自動車などの位置をリアルタイムに測定表示するカーナビゲーションシステムは、GNSSの代表といえるGPSなどを利用しており、GPS衛星などに搭載された原子時計に基づき生成される航法信号に依存している。",
"title": "一般相対性理論の応用"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "GPS衛星からの信号を受信する装置では、さまざまな要因による補正を行うが、GPS衛星の時計との同期に関するものとして、地表に対して高速で運動するGPS衛星の、特殊相対論効果による地表からみた時間の遅れ、および地球の重力場による地上の時間の遅れ、言い換えれば一般相対論効果による衛星の時計の進みが含まれる。",
"title": "一般相対性理論の応用"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "GPS衛星の軌道速度は秒速約4キロメートルと高速であるため、特殊相対論によって時間の進み方がわずかではあるが遅くなる。一方、GPS衛星の高度は約2万キロメートルで、地球の重力場の影響が小さいことから、一般相対論によって地上よりも時間の進み方が速くなる。このように特殊相対論と一般相対論で互いに逆の効果をもたらすことになる。この相対論的補正をせずに1日放置すると、位置情報が約11キロメートルもずれてしまうほどの時刻差になることから、相対論的補正はGPSシステムの運用に不可欠である。",
"title": "一般相対性理論の応用"
}
] | 一般相対性理論は、アルベルト・アインシュタインが1905年の特殊相対性理論に続いて、それを発展させ1915年から1916年にかけて発表した物理学の理論である。一般相対論とも呼ばれる。 | {{Pathnav|[[物理学]]|[[相対性理論]]|frame=1}}
{{一般相対性理論}}
[[ファイル:Spacetime curvature.png|thumb|400px|質量(地球)が2次元で描いた格子模様の平面に落とし込まれた状態を描いた説明図。格子模様をゆがめている様子が視認できる。また、歪んでいる格子模様自体が重力と解釈できる。この説明図を一般人にも理解できるよう例えるなら、重い物がトランポリンに沈む状態と同じである。]]
'''一般相対性理論'''(いっぱんそうたいせいりろん、{{lang-de-short|allgemeine Relativitätstheorie}}, {{lang-en-short|general theory of relativity}})は、[[アルベルト・アインシュタイン]]が[[1905年]]の[[特殊相対性理論]]に続いて、それを発展させ[[1915年]]から[[1916年]]にかけて発表した[[物理学]]の理論である。'''一般相対論'''(いっぱんそうたいろん、{{lang-en-short|general relativity}})とも呼ばれる。
== 概要 ==
[[ファイル:Flamm.jpg|thumb|重力場の概念図。中心に近づくほど重力が大きい。]]
[[一般相対性原理]]と[[一般共変性原理]]および[[等価原理]]を理論的な柱とし、[[リーマン幾何学]]を[[数学]]的土台として構築された[[古典論]]的な[[重力場]]の理論であり、ロシアの物理学者の[[レフ・ランダウ]]は一般相対論について、現存する物理学の理論の中で最も美しい理論だと述べている<ref>[[#場の古典論|場の古典論]], p. 253.</ref>。[[測地線]]の[[方程式]]と[[アインシュタイン方程式]](重力場の方程式)が帰結である。時間と空間を結びつけるこの理論では、[[アイザック・ニュートン]]によって[[万有引力]]として説明された現象が、もはやニュートン力学的な意味での[[力 (物理学)|力]]ではなく、[[時空連続体]]の[[ゆがみ|歪み]]として説明される。
一般相対性理論では、次のことが予測される。
;[[重力レンズ|重力レンズ効果]]
:重力場中では光が曲がって進むこと。[[アーサー・エディントン]]は、[[1919年5月29日の日食]]で、[[太陽]]の近傍を通る星の光の曲がり方がニュートン力学で予想されるものの2倍であることを観測で確かめ、一般相対性理論が正しいことを示した。
;[[水星]]の[[近点・遠点|近日点]]の移動
:ニュートン力学だけでは、水星軌道のずれ([[近点移動|近日点移動]]の大きさ)の観測値の説明が不完全だったが、一般相対性理論が解決を与え、太陽の[[質量]]による時空連続体の歪みに原因があることを示した。
;[[重力波 (相対論)|重力波]]
:[[時空]]の歪み([[重力場]])の変動が伝播する現象。[[線型近似]]が有効な弱い重力波の伝播速度は[[光速]]である。アインシュタインによる予測の発表から100年目の[[2016年]]に、アメリカの[[LIGO]]により直接観測された。
;[[膨張宇宙]]
:時空は膨張または収縮し、定常にとどまることがないこと。[[ビッグバン]]宇宙を導く。
;[[ブラックホール]]
:限られた空間に大きな質量が集中すると、光さえ脱出できないブラックホールが形成される。
;[[重力]]による[[赤方偏移]]
:強い重力場から放出される光の波長は元の波長より引き延ばされる現象。
;[[時間の遅れ]]
:強い重力場中で測る時間の進み([[固有時|固有時間]])が、弱い重力場中で測る時間の進みより遅いこと。
一般相対性理論は慣性力と重力を結び付ける等価原理のアイデアに基づいている。等価原理とは、簡単に言えば、外部を観測できない箱の中の観測者は、自らにかかる力が、箱が一様に加速されるために生じている慣性力なのか、箱の外部にある質量により生じている重力なのか、を区別することができないという主張である。
相対論によれば空間は時空連続体であり、一般相対性理論では、その時空連続体が均質でなく歪んだものになる。つまり、質量が時空間を歪ませることによって、重力が生じると考える。そうだとすれば、質量の周囲の時空間は歪んでいるために、光は直進せず、また時間の流れも影響を受ける。これが重力レンズや時間の遅れといった現象となって観測されることになる。また質量が移動する場合、その移動にそって時空間の歪みが移動・伝播していくために重力波が生じることも予測される。
アインシュタイン方程式から得られる時空は、ブラックホールの存在や膨張宇宙モデルなど、アインシュタイン自身さえそれらの解釈を拒むほどの驚くべき描像である。しかし、ブラックホールや初期宇宙の[[特異点]]の存在も理論として内包しており、特異点の発生は一般相対性理論そのものを破綻させてしまう。将来的には[[量子重力理論]]が完成することにより、この困難は解決されるものと期待されている。
== 歴史 ==
=== 一般相対性理論が成立するまでの研究 ===
1905年に特殊相対性理論を発表したアインシュタインは、特殊相対性理論を加速度運動を含めたものに拡張する理論の構築に取り掛かった。1907年に、アインシュタイン自身が「人生で最も幸福な考え (the happiest thought of my life)」と振り返る「重力によって生じる加速度は観測する座標系によって局所的にキャンセルすることができる」というアイディア(等価原理<ref>[[#選集2|選集2]] [A2]一般相対性理論および重力論の草案 (1914), p.34</ref>)を得る。 光の進み方と重力に関する論文を1911年に出版した後、1912年からは、重力場を時空の幾何学として取り扱う方法を模索した。このときにアインシュタインに[[リーマン幾何学]]の存在を教えたのが、数学者[[マルセル・グロスマン]]であった。ただし、このときグロスマンは、「物理学者が深入りする問題ではない」と助言したとも伝えられている。1915年-16年には、これらの考えが1組の微分方程式([[アインシュタイン方程式]])としてまとめられた。
この時期にアインシュタインが発表した一般相対性理論に関する論文は、以下の通り。
*1911年 論文『光の伝播に対する重力の影響<ref group="注">原題:[[#einstein|''Über den Einfluß der Schwerkraft auf die Ausbreitung des Lichtes'']]</ref>』(Annalen der Physik, 35, 898-908)
*1914年 論文『一般相対性理論および重力論の草案<ref group="注">原題:''Entwurf einer verallgemeinerten Relativitätstheorie und einer Theorie der Gravitation''</ref>』(ZS. f. Math. u. Phys., 62, 225-261)
*1915年 論文『水星の近日点の移動に対する一般相対性理論による説明<ref group="注">原題:{{Cite journal|title=Erklärung der Perihelbewegung des Merkur aus der allgemeinen Relativitätstheorie|bibcode=1915SPAW.......831E|doi=10.1002/3527608958.ch4}}.</ref>』(S.B. Preuss. Akad. Wiss., 831-839)
*1916年 論文『一般相対性理論の基礎<ref group="注">原題:[[#einstein2|''Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie'']]</ref>』(Annalen der Physik (Germany), 49, 769-822)
*1916年 論文『ハミルトンの原理と一般相対性理論<ref group="注">原題:{{Cite journal|title=Hamiltonsches Prinzip und allgemeine Relativitätstheorie|bibcode=1916SPAW......1111E|doi=10.1002/3527608958.ch9}}</ref>』(S.B. Preuss. Akad. Wiss., 1111-1116)
=== 一般相対性理論の発表後 ===
アインシュタイン方程式の発表後は、その方程式を解くことが研究の課題となった。
1916年に[[カール・シュヴァルツシルト]]が、アインシュタイン方程式を球対称・真空の条件のもとに解き、今日[[ブラックホール]]と呼ばれる時空を表す[[シュヴァルツシルトの解|シュヴァルツシルト解]]を発見した。アインシュタイン自身は、自ら導いた方程式から、重力波の概念を提案したり、宇宙全体に適用すると動的な宇宙が得られてしまうことから、[[宇宙定数|宇宙項]]を新たに方程式に加えるなどの提案を行っている。
*1917年 論文『一般相対性理論についての宇宙論的考察』(S.B. Preuss. Akad. Wiss., 142-152)
*1918年 論文『重力波について』(S.B. Preuss. Akad. Wiss., 154-167)
[[ファイル:1919 eclipse positive.jpg|thumb|1919年5月29日の皆既日食の写真。アーサー・エディントンが撮影した。]]
1919年5月29日に[[アーサー・エディントン]]が[[皆既日食]]を利用して、一般相対性理論により予測された太陽近傍での光の曲がりを確認したことにより、理論の正しさが認められ、世間への認知が一気に広まった。
1922年には、宇宙膨張を示唆するフリードマン・ロバートソンモデルが提案されるが、アインシュタイン自身は、宇宙が定常であると信じていたので、現実的な宇宙の姿であるとは受け入れようとはしなかった。
しかし、1929年には、[[エドウィン・ハッブル]]が、遠方の銀河の[[赤方偏移]]より、宇宙が膨張していることを示し、これにより、一般相対性理論の予測する時空の描像が正しいことが判明した。後にアインシュタインは宇宙項の導入を取り下げ、「生涯最大の失敗だった (the biggest blunder in my career)」と[[ジョージ・ガモフ]]に語ったという。
1931年、[[スブラマニアン・チャンドラセカール]]は、[[白色矮星]]の質量に上限があることを理論的計算によって示した。今日、[[チャンドラセカール限界]]として知られる式は、[[万有引力定数]] {{mvar|G}}、[[プランク定数]] {{mvar|h}}、[[光速]] {{mvar|c}} の3つの基本定数を含み、古典物理・量子物理双方の成果を集大成したものでもある。チャンドラセカールは、「星の構造と進化にとって重要な物理的過程の理論的研究」の功績で[[ノーベル物理学賞]](1983年)を受賞した。
1939年、[[ロバート・オッペンハイマー]]とゲオルグ・ヴォルコフ{{enlink|George Volkoff}}<!-- ゲオルグの読み方は違うかも -->は、[[中性子星]]形成のメカニズムを考察する過程で、[[重力崩壊]]現象が起きることを予測した。
その後しばらく、一般相対性理論は、「数学的産物」として実質的な物理研究の主流からは外れている。
重力波は果たして物理的な実体であるのかどうかという論争や、アインシュタイン方程式の厳密解の分類方法などの研究がしばらく続くが、1960年代の[[パルサー]]の発見やブラックホール候補天体の発見、そして[[ロイ・カー]]による回転ブラックホール解([[カー解]])の発見を契機に、一般相対性理論は天文学の表舞台に登場する。同時期に、[[スティーヴン・ホーキング]]と[[ロジャー・ペンローズ]]が[[特異点定理]]を発表し、数学的・物理的に進展を始めると共に、[[ジョン・ホイーラー]]らが、古典重力・量子重力双方に物理的な描像を次々と提出し始めた。[[ワームホール]](1957年)や[[ブラックホール]](1967年)という名前を命名したのは、ホイーラーである。
1974年、[[ジョゼフ・テイラー]]と[[ラッセル・ハルス]]は、連星[[パルサー]] [[PSR B1913+16]] を発見した。連星の自転周期とパルスの放射周期を精密に観測することによって、[[重力波 (相対論)|重力波]] により、連星系からエネルギーが徐々に運び去られていることを示し、重力波の存在を間接的に証明した。この業績により、2人は「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」として[[ノーベル物理学賞]](1993年)を受賞した。
重力波の直接観測も試みられ続け、2016年に[[重力波検出器]]([[マイケルソン干渉計|レーザー干渉計]])により、連星ブラックホールの合体イベントによる重力波を[[重力波の初検出|初めて直接検出]]したことが発表された。
また、宇宙論研究では、[[ビッグバン]]宇宙モデル(1947年)が有力とされているが、さらにその初期宇宙の膨張則を修正した[[インフレーション宇宙]]モデル(1981年)も正しいことが、2006年の[[WMAP]]衛星による[[宇宙背景輻射]]の観測により決定的になったと考える人も多い。最近は、高次元宇宙モデルが脚光を浴びているが、これらの宇宙モデルは、いずれも一般相対性理論を基礎にして議論される。
アインシュタイン以後、一般相対性理論以外の重力理論も、数多く提案されているが、現在までにほとんどが過去の観測結果を照合した上で棄却されている。実質的に対抗馬となるのは、[[カール・ブランス]]と[[ロバート・H・ディッケ]]による[[ブランス・ディッケ重力理論]]であるが、現在の観測では、ブランス・ディッケ理論のパラメーターは、ほとんど一般相対性理論に近づけなくてはならず、両者を区別することが難しいほどである。量子論と一般相対論の統一という物理学の試みは未だ進行中であるものの、一般相対性理論を積極的に否定する観測事実・実験事実は一つもない。他に提案されたどの重力理論よりも一般相対性理論は単純な形をしていることから、重力は一般相対性理論で記述される、と考えるのが現代の物理学である。
== 物理学としての位置づけ ==
=== 万有引力の法則との関係 ===
[[アインシュタイン方程式]]は[[微分方程式]]として与えられているため局所的な理論ではあるが、ちょうど[[電磁気学]]における局所的な[[マクスウェルの方程式|マクスウェル方程式]]から大域的な[[クーロンの法則]]を導くことができるように、アインシュタイン方程式は静的なニュートンの[[万有引力|万有引力の法則]]を包含している。[[万有引力|万有引力の法則]]との主な違いは次の3点である。
#[[重力]]は瞬時に伝わるのではなく[[光]]と同じ速さ([[光速]])で伝わる。
#[[重力]]から重力が発生する(非線形相互作用)。
#[[質量]]を持つ物体の[[加速度|加速]]運動により[[重力波 (相対論)|重力波]]が放射される。
ここで、3.は[[荷電粒子]]が加速運動することにより[[電磁波]]が[[放射]]されることと類似している。これは、万有引力の法則や[[クーロンの法則]]に、運動する対象の自己の重力や[[電荷]]の効果を取り入れていることに対応している。
=== 特殊相対性理論との関係 ===
後述するように、一般相対性理論における時空間は数学的には各点の[[接ベクトル空間]]に[[ミンコフスキー空間|ミンコフスキー計量]]をいれた4次元[[多様体]]([[擬リーマン多様体#ローレンツ多様体|ローレンツ多様体]])で、[[アインシュタイン方程式]]を満たすものである。
よって各点の接ベクトル空間は、[[特殊相対性理論]]に従うミンコフスキー空間であり、接ベクトル空間とは、数学的には[[テイラー展開]]の一次の項に対応している。
これはすなわち、一般相対性理論の側からみた場合、特殊相対性理論とは時空間上に任意に固定された一点の近傍において、一般相対性理論を一次近似したものである事を意味している。なお、([[宇宙定数|宇宙項]]のない)アインシュタイン方程式に登場する各項([[曲率]]や[[エネルギー・運動量テンソル]])は、二次の微分に関わる項であり、一次近似である特殊相対性理論には登場しない。
逆に特殊相対性理論の側から一般相対性理論をみると、特殊相対性理論の数学的定式化であるミンコフスキー空間は、全ての点に同一のミンコフスキー計量をいれた平坦なローレンツ多様体である。
このローレンツ多様体上では[[曲率]]は全点でゼロであるので、この事実を(宇宙項のない)アインシュタイン方程式に代入すると、この空間では[[エネルギー・運動量テンソル]]がゼロである事を意味する。
また、平坦なローレンツ多様体上では[[レヴィ・チヴィタ接続#擬リーマン多様体のレヴィ-チヴィタ接続|共変微分]]と通常の微分は一致するので、全ての線形座標で[[クリストッフェル記号]]は消えている。クリストッフェル記号は物理学的には[[重力]]に対応しているので、これはすなわち全ての線形座標で重力がゼロである事を意味する。
以上より特殊相対性理論とは、エネルギー・運動量テンソルの影響が無視できる程度に、すなわち宇宙全体に比べれば微小な領域における理論であり、空間の曲率も領域の微小さゆえに無視できる場合の理論であると言える。
=== 量子力学との関係 ===
{{main|量子重力理論}}
[[量子論]]は一般相対性理論と同様に物理学の基本的な理論の1つであると考えられている。しかし、一般相対性理論と量子論を整合させた理論([[量子重力理論]])は未だに完成していない。現在、人類の知っているあらゆる物理法則は全て[[場の量子論]]および一般相対性理論のどちらかから導くことができる。そのため、その2つを導くことのできる量子重力理論はこの世の全てを説明できる[[万物の理論]]とも呼ばれている。
基本的に相対性理論で取り扱われる[[重力]]は、4つの[[基本相互作用]]のうち他の3つの力に比べて圧倒的に小さく、[[天体物理学]]や[[天文学]]で取り扱う[[天文現象]]のような[[巨視的]]なレベル以下の大きさでは無視できる。逆に、量子論効果は[[量子化学]]や[[量子力学]]、[[素粒子物理学]]で取り扱う[[分子]]や[[原子]]、[[クォーク]]などのような[[微視的]]なレベル以上の大きさでは無視できる。よって相対性理論を適用する場面と量子論を適用する場面は重ならないためほとんどの場合この両者を考慮する必要はない。しかし、[[ブラックホール]]や[[ビッグバン]]などの大質量かつ微視的なスケールの現象を説明するためにはこの両者を併用する必要があるが、相対論と量子論を従来用いられてきた[[摂動|摂動法]]を用いて統合しようとすると、両者の間に深刻な対立が生じてしまい、並立させることが出来ない。従来の量子論では摂動展開時に生じる{{仮リンク|紫外発散|en|Ultraviolet divergence}}を[[繰り込み]]によって解消しているが、重力にはこの手法が適用できないのである。
この2つの理論の対立を折衷する様々な意見やその立証が試みられているが、未だ決定的な理論は出てきていない。
====曲がった時空上の場の理論 (Quantum field theory in curved spacetime)====
一般に[[場の量子論]]においては平坦なミンコフスキー時空における粒子を扱うが、重力の効果を近似的(半古典的)に背景時空(曲がった時空)として導入することにより、場の量子論に曲がった時空の効果を近似的に取り入れた理論である。
重力子の影響を背景時空として近似しているため、強い重力場のもとでは時空を完全に量子化したような[[量子重力理論]]に修正されるべきである。欠点としては、時空が静的なものであるため完全には相対論的ではない。
[[ホーキング放射]]はこの理論のもとで予測された。
==== 超弦理論 ====
{{Main|超弦理論}}
[[超弦理論]]は、従来の量子論では大きさを持たない[[点 (数学)|点]]と仮定されている[[粒子]]を、長さを持つ「ひも」と仮定しなおすことにより紫外発散の問題を解消している。理論的な探求は進んでいるものの、実験的裏付けが非常に乏しく未だ[[仮説]]の域を脱していない。
== 一般相対性理論の内容 ==
一般相対性理論は、次の仮定を出発点にする。あくまでも仮定であり、これが基準点とするものではない。
;[[一般相対性原理]]
:物理学の法則は、任意の仕方で運動している座標系に関していつも成立する{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|p=100}}
:; 一般共変性の仮定
::自然の一般法則<ref group="注">一般共変性の仮定においては『自然の一般法則』であり『物理法則』ではない。</ref>は、すべての座標系に対して成り立つ、すなわち任意の座標系に対して(一般)共変な方程式で表されなくてはならない{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|p=104}}。
:; 局所座標系における特殊相対性理論の成立仮定
::無限に小さな4次元領域(4次元の[[擬リーマン多様体]]のある点における局所座標系または接空間)に対しては、座標を適当に選べば、特殊の意味での相対性理論が原則として成り立つ{{refnest|group="注"|重力場がある場合は、[[等価原理]]により、座標系の加速状態を適当に選ぶことで、特殊相対性理論が成り立つ座標系を取ることができる{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|pp=105-107}}。}}。時空のある点における基本計量テンソル {{math|''g''{{sub|i j}}}} は、その座標系に関する重力場を記述する{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|p=106}}。基本計量テンソルの行列式 {{Mvar|g}} は常に有限の負の値を持つ{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|p=117}}。
;測地線の仮定
:自由質点運動は測地線である
一般相対性理論成立の歴史上、[[等価原理]]{{enlink|equivalence principle}}はスタートポイントとして考えられたが、数学的に重要であるのは、一般相対性原理(一般共変性の仮定と局所座標系における特殊相対性理論の成立仮定)である。
=== 時空モデルとしてのリーマン多様体に求められる条件 ===
一般相対性理論においては、重力のある空間を光が通過するとき光は曲がる(光のとる経路が伸びる)ことから、時空は、重力場を基本計量テンソルとする4次元の[[リーマン多様体]]として扱われる<ref group="注">通常、数学でリーマン多様体というと[[ユークリッド空間]]をパッチワークのように張り合わせたものを指し、2点間の距離の2乗が非負の正定値[[計量テンソル|計量]]と呼ばれる空間である。それに対して、一般相対性理論が扱うのは、時間と空間の意味をもつ座標を含む[[ミンコフスキー空間]]を張り合わせたものであり、2点間の距離が虚数になり得る不定計量の空間である。このため、擬リーマン多様体{{enlink|pseudo-Riemannian manifold}}とも呼ばれる。</ref>。可微分多様体 M が[[リーマン多様体]]であるとは、M 上の各点に基本計量テンソル {{math|''g''{{sub|ij}}(''x'')}} が与えられているものを言う。なお、局所座標系 {{math|(''x''<sup>0</sup>, ''x''<sup>1</sup>, ''x''<sup>2</sup>, ''x''<sup>3</sup>)}} の四つの座標の内、{{math|''x''{{sup|0}}}} は適当な測定単位で測られた時間座標、{{math|''x''{{sup|1}}, ''x''{{sup|2}}, ''x''{{sup|3}}}} は空間座標とする。すなわち、{{math|''x''{{sup|0}} {{=}} ''ct'', ''x''{{sup|1}} {{=}} ''x'', ''x''{{sup|2}} {{=}} ''y'', ''x''{{sup|3}} {{=}} ''z''}} であるとする。さらに、リーマン多様体上に定義されるテンソル概念に対して、上下に現れる同じ添字については常に和を取るという[[アインシュタインの縮約記法]]を用いる。
;一般共変性の仮定
リーマン多様体を導入することで、'''一般共変性の仮定'''は、
{{Quotation|
ある自然の一般法則がある座標系で一つのテンソルの成分がすべてゼロになる形で書き表すことができるとき、すなわち、
:(テンソルの成分) = 0
とできるとき、その法則は一般共変性を持つ
}}
というように、リーマン多様体上で定義されるテンソル概念の性質として定式化できるようになる。
;局所座標系における特殊相対性理論の成立仮定
[[リーマン幾何学]]によれば、リーマン多様体上の無限に近い2点間の距離 ds は
:<math>ds^2=g_{i j}dx^idx^j</math>
の平方で与えられる。この ds を4次元空間の無限に近い点に属する'''線素'''{{enlink|line element}}の大きさと呼ぶ{{Sfnp|リーマン幾何とその応用|1971|p=105}}が、これは、特殊相対性理論が成り立つような座標系においては、[[ミンコフスキー]]が指摘した4次元空間における不変量
:<math>ds^2=c^2dt^2-dx^2-dy^2-dz^2</math>
と一致するものでなくてはならない。すなわち、適当な座標変換により、計量テンソル {{mvar|g{{sub|ij}}}} は、
:<math>g_{tt}=1,~g_{xx}=g_{yy}=g_{zz}=-1</math><ref group="注">これを[[ミンコフスキー計量]]{{enlink|Metric tensor (general relativity)|metric}}と呼ぶこともある。</ref>
行列形式で描けば、
:<math>\begin{pmatrix}1&0&0&0\\
0&-1&0&0\\
0&0&-1&0\\
0&0&0&-1\\\end{pmatrix}</math>
となることが要請される。これはより一般的な表現として、有限で常に負の値をもつ基本計量テンソルの行列式 {{math|''g'' {{=}} det(''g<sub>ij</sub>'')}} に対する次の条件
:<math>\sqrt{-g}=1</math>
という形で条件として求められる。
=== 測地線の方程式 ===
[[擬リーマン空間]]における[[測地線]]{{enlink|geodesic}}は、通常の計量空間における定義と同様に、2点間の長さを最小にする曲線として定義される。曲線の長さは、
{{Indent|<math>l(\gamma)=\int_\gamma\sqrt{\pm g_{\mu\nu}dx^\mu dx^\nu}=\int_\gamma\sqrt{\pm g_{\mu\nu}\frac{dx^\mu}{dt}\frac{dx^\nu}{dt}}\,dt</math>}}
で与えられる。ここでの積分は、曲線 {{math|''γ''(''t'')}} に沿うものとする。ルート内の符号の+は空間的な曲線に対して、負の符号は時間的な曲線に対して適用し、いずれの場合も長さが実数になるようにする。
この長さの極値をもたらす条件を導出すると、測地線の方程式が得られる。局所座標で表現すると、方程式は、
{{Indent|<math>\frac{d^2x^\mu}{dt^2}+\Gamma^{\mu}_{~\nu\rho}\frac{dx^\nu}{dt}\frac{dx^\rho}{dt}=0</math>}}
となる。ここで、{{math|''x''{{sup|''μ''}}(''t'')}} は、曲線 {{math|''γ''(''t'')}} の座標であり、{{math|Γ{{SubSup|| ''νρ''|''μ''}}}} は先に登場した[[クリストッフェル記号]]である。座標の常微分方程式として得られるこの式は、初期値と初速度を与えれば解を一意に決定する。この式は、曲がった時空における光・粒子の運動方程式である。
=== リーマンテンソル、アインシュタイン・テンソル ===
時空の曲率は、[[レヴィ・チヴィタ接続]] ∇ が定義する[[リーマン曲率テンソル]]{{enlink|Riemann curvature tensor|Riemann tensor}}{{math|{{SubSup|R| ''σμν''|''ρ''}}}} で表現される。局所座標表現では、次のように書ける。
{{Indent|<math>{R^\rho}_{\sigma\mu\nu}=\frac{\partial}{\partial x^\mu}\Gamma^\rho{}_{\nu\sigma}-\frac{\partial}{\partial x^\nu}\Gamma^\rho{}_{\mu\sigma}+\Gamma^\rho{}_{\mu\lambda}\Gamma^\lambda{}_{\nu\sigma}-\Gamma^\rho {}_{\nu\lambda}\Gamma^\lambda {}_{\mu\sigma}</math>}}
物理的には、このリーマン曲率テンソルから、2成分を縮約した[[リッチテンソル]]{{enlink|Ricci curvature|Ricci tensor}}{{mvar|R{{sub|μν}}}} と、さらに添字を縮約したリッチ[[スカラー曲率]]{{enlink|Scalar curvature|Ricci scalar}}{{mvar|R}}
{{Indent|<math>R_{\mu\nu}={R^\rho}_{\mu\rho\nu}</math>
<math>R_{}^{}=g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}</math>}}
を考えればよく、さらにその組み合わせである、
{{Indent|<math>G_{\mu\nu}=R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu\nu}</math>}}
が物質分布で定まることをアインシュタインが見いだした。この最後の組み合わせ {{mvar|G{{sub|μν}}}} を[[アインシュタインテンソル|アインシュタイン・テンソル]]{{enlink|Einstein tensor}}と呼ぶ。
=== アインシュタイン方程式とその特徴 ===
一般相対性理論の基本方程式は、
{{Indent|<math>G_{\mu\nu}+\Lambda g_{\mu\nu}=\kappa T_{\mu\nu}</math>}}
と表され、[[アインシュタイン方程式]]と呼ばれる。ここで {{mvar|G{{sub|μν}}}} はアインシュタインテンソル、{{mvar|g{{sub|μν}}}} は計量テンソル、{{math|Λ}} は[[宇宙定数|宇宙項]]、{{mvar|T{{sub|μν}}}} は[[エネルギー・運動量テンソル]]である。非相対論的極限でニュートンの重力理論に収束することから、右辺の比例係数 {{mvar|κ}} ([[アインシュタインの定数]])は、
{{Indent|<math>\kappa=\frac{8\pi G}{c^4}</math>}}
となる。{{mvar|G}} は[[万有引力定数]]、 {{mvar|c}} は[[光速]]である。4次元空間を考えれば、テンソルは対称なので、アインシュタイン方程式は、10本の方程式からなる。
アインシュタイン方程式の左辺は時空の曲率を表し、右辺は物質分布を表す。右辺の物質分布の項により時空が曲率を持ち、その曲率の影響で次の瞬間の物質分布が定まる、という構造である。真空の時空であれば、右辺をゼロとすればよい。例えば、重力以外の力を考えないと、次のようになる。
<blockquote>
右辺のエネルギー運動量テンソルが増加の場合(アインシュタインの特殊相対論によるとエネルギーと質量は等価であるから、エネルギー運動量テンソルの増加は質量の増加を意味する)、左辺も増加しなければならない。これは時空の曲率が増加することを意味する。アインシュタインの解釈によると重力とは時空の湾曲によるものであったから、曲率の増加は重力の増大を表す。右辺のエネルギー運動量テンソルの増大は質量が増大する事を表し、この方程式によると、それは左辺の時空の曲率、つまり重力がさらに増大することを意味する。
</blockquote>
すなわち、重力は非線形で、重力自身は自己増大してゆく。通常の[[恒星]]のモデルでは、[[核融合]]による、生じる[[光]]([[電磁波]])の輻射圧とガスによる圧力が、重力と釣り合うように恒星の半径が決まる。星が燃え尽きて支える力がなくなると、[[重力崩壊]]し、[[電子]]の[[縮退圧]]で支えられる[[白色矮星]] か、[[中性子]]の[[縮退圧]]で支えられる[[中性子星]]、あるいは、[[ブラックホール]]になることが予測される。
アインシュタイン方程式の数学的な特徴は、次のような点にある。
*[[座標変換]]に対し、[[共変的]]であるので、「時間座標1+空間座標3」のみではなく、「光の進行方向2+空間座標2」といった分解表現も可能である。
*非線形の2階の[[偏微分方程式]]([[楕円型偏微分方程式]]および[[双曲型偏微分方程式]])である。
*時空構造を論じていながら、時空全体の[[大域的構造]]や[[トポロジー]]を仮定しない。
*得られる解には、特異点が存在する([[特異点定理]])。
<!-- このように、物質密度などを表すエネルギー運動量テンソルと時空の湾曲とを関係付けていることが、アインシュタイン方程式の特徴であるといえる。 -->
=== アインシュタイン方程式の厳密解 ===
アインシュタイン方程式自身に何ら近似することなく得られる解析解のことを'''厳密解'''という。良く知られている厳密解に、次のものがある。
; [[シュヴァルツシルトの解|シュヴァルツシルト解]]
: [[カール・シュヴァルツシルト]]が1916年に発表した解。真空で球対称を仮定した解で、ブラックホールを表す最も単純な解。
; [[カー解]]
: [[ロイ・カー]]が1962年発表した解。真空で軸対称時空を仮定した解で、回転するブラックホールを表す最も単純な解。
; [[ドジッター解]]
: [[ウィレム・ド・ジッター]]が1917年に発表した解。真空で宇宙項がある場合の膨張宇宙解。[[ド・ジッター宇宙]]を表す。
; [[フリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量|フリードマン・ロバートソン・ウォーカー解]]
: [[アレクサンドル・フリードマン]]、[[ハワード・ロバートソン]]、[[アーサー・ウォーカー]]が1922年に発表した解。時空の球対称性を仮定し、物質分布を一様等方な流体近似した解で、ビッグバン膨張宇宙を表す解。
; [[ゲーデル解]]
: [[クルト・ゲーデル]]が1949年に発表した解。[[物質分布]]を規定する[[エネルギー・運動量テンソル]]を、回転する一様な[[ダスト粒子]]として仮定し、ゼロでない[[宇宙定数|宇宙項]]を仮定した解で、[[ゲーデルの回転宇宙]]を表す解。
現在でも、新しい解(解析解)を発見すれば、発見者の名前がつく。ただし、同じ物理的な時空であっても、異なる座標表現を用いて、異なる解のように表現されることがあるので、注意することが必要である。
== 一般相対性理論の応用 ==
=== GNSS ===
自動車などの位置をリアルタイムに測定表示する[[カーナビゲーション|カーナビゲーションシステム]]は、[[衛星測位システム|GNSS]]の代表といえる[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]などを利用しており、[[GPS衛星]]などに搭載された[[原子時計]]に基づき生成される航法信号に依存している。
GPS衛星からの信号を受信する装置では、さまざまな要因による補正を行うが、GPS衛星の時計との同期に関するものとして、地表に対して高速で運動するGPS衛星の、特殊相対論効果による地表からみた[[時間の遅れ]]、および地球の重力場による地上の時間の遅れ、言い換えれば一般相対論効果による衛星の時計の進みが含まれる<ref group="注">他に地球自転に起因する信号伝播に対する[[サニャック効果]]もある。</ref>。
GPS衛星の[[軌道速度]]は[[秒速]]約4[[キロメートル]]と高速であるため、特殊相対論によって時間の進み方がわずかではあるが遅くなる。一方、GPS衛星の高度は約2万キロメートルで、地球の重力場の影響が小さいことから、一般相対論によって地上よりも時間の進み方が速くなる。このように特殊相対論と一般相対論で互いに逆の効果をもたらすことになる。この相対論的補正をせずに1日放置すると、位置情報が約11キロメートルもずれてしまうほどの時刻差になることから、相対論的補正はGPSシステムの運用に不可欠である<ref>{{Cite journal|doi=10.1063/1.1485583|author=Neil Ashby|year=2002|month=May|title=Relativity and the Global Positioning System|journal=[[:en:Physics Today|Physics Today]]|publisher=[[米国物理学協会|American Institute of Physics]]|volume=55|issue=5|page=41}}</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
*{{Cite journal|author=A. Einstein|title=Über den Einfluß der Schwerkraft auf die Ausbreitung des Lichtes|url=http://www.itp.kit.edu/~sahlmann/pdfs/propagation%20of%20light.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|trans-title=光の伝播に対する重力の影響|journal=[[アナーレン・デア・フィジーク|Annalen der Physik]]|location=[[ライプツィヒ|Leipzig]]|volume=340|issue=10|pages=898-908|date=June 21, 1911|language=[[ドイツ語|German]]|issn=0003-3804|oclc=5854993|doi=10.1002/andp.19113401005|bibcode=1911AnP...340..898E|ref=einstein}}
*{{cite journal|author=A. Einstein|title=Die Grundlage der allgemeinen Relativitätstheorie|url=http://www.physik.uni-augsburg.de/annalen/history/einstein-papers/1916_49_769-822.pdf|format=[[Portable Document Format|PDF]]|trans-title=一般相対性理論の基礎|journal=[[アナーレン・デア・フィジーク|Annalen der Physik]]|location=[[ライプツィヒ|Leipzig]]|volume=354|issue=7|pages=769–822|date=March 20, 1916|language=[[ドイツ語|German]]|issn=0003-3804|oclc=5854993|doi=10.1002/andp.19163540702|bibcode=1916AnP...354..769E|ref=einstein2}}
*{{Cite book|和書|author=内山龍雄|authorlink=内山龍雄|date=1987-01-29|title=相対性理論|series=物理テキストシリーズ8|publisher=岩波書店|id={{全国書誌番号|87019979}}|isbn=4-00-007748-1|ncid=BN00639508|oclc=673778932|asin=4000077481|url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/1/0077480.html}}
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* {{cite book|和書|author=フィリップ・フランク|translator=矢野健太郎|title=評伝 アインシュタイン|year=2005|publisher=岩波書店|ref=評伝(2005)}}
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* {{cite book|和書|author=ア・グリゴリヤン|translator=小林 茂樹、今井 博|title=力学はいかに創られたか|year=1970|publisher=東京図書株式会社|ref=ア・グリゴリヤン(1970)}}
* {{cite book|和書|author=シュポルスキーほか|transkator=佐々木健ほか|title=アインシュタインと現代物理学|year=1958|publisher=東京図書株式会社|ref=現代物理学(1958)}}
== 関連文献 ==
*{{Cite book|和書|author=A.Einstein|others=[[湯川秀樹]]監修|editor=[[中村誠太郎]]・[[谷川安孝]]・[[井上健 (物理学者)|井上健]]訳・編|date=1971-03-01|title=アインシュタイン選集1――特殊相対性理論・量子論・ブラウン運動――|publisher=共立出版|id={{全国書誌番号|69018983}}|isbn=978-4-320-03019-0|ncid=BN00729724|oclc=834568557|asin=4320030192|url=http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320030190}}
*{{Cite book|和書|author=A.Einstein|others=湯川秀樹監修|editor=内山龍雄訳・編|date=1970-12-05|title=アインシュタイン選集2――一般相対性理論および統一場理論――|publisher=共立出版|id={{全国書誌番号|69018984}}|isbn=978-4-320-03020-6|ncid=BN00963834|oclc=834568671|asin=4320030206|url=http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320030206|ref=選集2}}
*{{Cite book|和書|author=A.Einstein|others=湯川秀樹監修|editor=中村誠太郎・井上健訳・編|date=1972-01-25|title=アインシュタイン選集3――アインシュタインとその思想――|publisher=共立出版|id={{全国書誌番号|69018985}}|isbn=978-4-320-03021-3|ncid=BN00729768|oclc=834568753|asin=4320030214|url=http://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320030213}}
*{{Cite book|和書|author=内山龍雄|authorlink=内山龍雄|date=1978-07-30|title=一般相対性理論|series=物理学選書15|publisher=裳華房|id={{全国書誌番号|78026559}}|isbn=978-4-7853-2315-8|ncid=BN00729054|oclc=873890979|asin=4785323159|url=http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2315-8.htm}}
*{{Cite book|和書|author=佐藤勝彦|authorlink=佐藤勝彦 (物理学者)|date=1996-12-18|title=相対性理論|series=岩波基礎物理シリーズ9|publisher=岩波書店|id={{全国書誌番号|97049882}}|isbn=4-00-007929-8|ncid=BN15591416|oclc=675345203|asin=4000079298|url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/8/0079290.html}}
*{{Cite book|和書|author=佐藤文隆|authorlink=佐藤文隆|coauthors=[[小玉英雄]]|date=2000-06-15|title=一般相対性理論|series=現代物理学叢書|publisher=岩波書店|id={{全国書誌番号|20086007}}|isbn=4-00-006742-7|ncid=BA47513104|oclc=54548828|asin=4000067427|url=http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/00/7/0067420.html}}
*{{Cite book|和書|author=W.Pauli|authorlink=ヴォルフガング・パウリ|translator=内山龍雄|date=2007-12-10|title=相対性理論|volume=上巻|series=ちくま学芸文庫|publisher=筑摩書房|id={{全国書誌番号|21355333}}|isbn=978-4-480-09119-2|ncid=BA84202329|oclc=675553164|asin=448009119X|url=http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480091192/}}
*{{Cite book|和書|author=W.Pauli|translator=内山龍雄|date=2007-12-10|title=相対性理論|volume=下巻|series=ちくま学芸文庫|publisher=筑摩書房|id={{全国書誌番号|21355334}}|isbn=978-4-480-09120-8|ncid=BA84202329|oclc=675553100|asin=4480091203|url=http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480091208/}}
*{{Cite book|和書|author=L.D. Landau|authorlink=レフ・ランダウ|coauthors=[[エフゲニー・リフシッツ|E.M. Lifshitz]]|translator=[[恒藤敏彦]]・[[広重徹]]|year=1978-10|title=場の古典論――電気力学、特殊および一般相対性理論|edition=原書第6版|series=[[理論物理学教程|ランダウ=リフシッツ理論物理学教程]] 第2巻|publisher=東京図書|id={{全国書誌番号|79000237}}|isbn=978-4-489-01161-0|ncid=BN00890297|oclc=841897028|asin=448901161X|url=http://www.tokyo-tosho.co.jp/kikan/04/kaisetu.html#k_01161|ref=場の古典論}}
*{{Cite book|last=W. Misner|first=Charles|coauthors=Thorne, Kip S.; Wheeler, John Archibald|date=September 15, 1973|title=Gravitation|series=Physics Series|publisher=W H Freeman & Co (Sd)|asin=0716703440|oclc=585119|ncid=BA00053088|isbn=0-7167-0344-0}}
*{{Cite book|last=Wald|first=Robert|date=June 15, 1984|title=General Relativity|publisher=Univ of Chicago Pr (Tx)|id={{ASIN|B004DL0OEO}} ([[Amazon Kindle|Kindle]])|asin=0226870332|oclc=10018614|ncid=BA00907886|isbn=0-226-87033-2}}
== 関連項目 ==
{{Wikibooks}}
*[[アインシュタイン方程式]] - [[エネルギー・運動量テンソル]]
*[[アルベルト・アインシュタイン]]
*[[宇宙論]] - [[ビッグバン]] - [[インフレーション宇宙]] - [[宇宙背景輻射]]
*[[シュヴァルツシルトの解]] - [[ライスナー・ノルドシュトロム解]] - [[カー解]] - [[カー・ニューマン解]] - [[フリードマン・ロバートソン・ウォーカー計量]] - [[ゲーデル解]]
*[[重力子]]
*[[重力相互作用]]
*[[重力波 (相対論)|重力波]]
*[[サニャック効果]]
*[[数値相対論]]
*[[相対性理論]] - [[特殊相対性理論]]
* [[リーマン幾何学]] - [[微分幾何学]]
*[[ブラックホール]] - [[シュヴァルツシルト・ブラックホール]] - [[カー・ブラックホール]]
*[[ポスト・ニュートン展開]] - [[PPN形式]]
* [[背景独立性]]
*[[量子重力理論]] - [[超弦理論]] - [[M理論]]
*[[ワームホール]]
*[[1919年5月29日の日食]]
== 外部リンク ==
* {{Kotobank|2=ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典}}
* {{Britannica|science|general-relativity|General relativity}}
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[[Category:一般相対性理論|*]]
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[[Category:アルベルト・アインシュタイン]]
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E8%88%AC%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E6%80%A7%E7%90%86%E8%AB%96 |
7,424 | 算術 | 算術 (さんじゅつ、英: arithmetic) は、数の概念や数の演算を扱い、その性質や計算規則、あるいは計算法などの論理的手続きを明らかにしようとする学問分野である。
「算術」という日本語としては、文明開化前後の「数学」(mathematics) いわゆる西洋数学の本格的な輸入以前は、今日において和算と呼ばれているような、当時の「日本の数学」全般を指していた。なおこの意味では、英語 arithmetic とは必ずしも対応しない場合もある。
また、算術および "Arithmetic" の語は、数論を指し示す場合もある。
加法 (addition)、減法 (subtraction)、乗法 (multiplication)、除法 (division) の4つの演算を、四則(しそく)あるいは四則演算(英: Four arithmetic operations)と称する。
歴史的には四則演算を表す記号として、様々な記号が用いられたが、現在標準的に用いられる記号は以下である。
ただし、コンピュータにおけるプログラミング言語では専ら
が用いられる。
このうち、加法と乗法は 0 を含む非負の整数の範囲で自由に行うことができるが、減法と除法には制約がある。非負整数の間の減法は、引く数が引かれる数より大きい場合を扱うことができない。また非負整数の除法は、適切な剰余を定義しない限り、割る数が割られる数の約数でない場合を扱うことができない。減法の場合は扱う数を負の数を含んだ整数全体に捉え直すことで制限を解消することができる。たとえば 1 − 2 は非負整数を与えないが、整数全体で演算を扱うなら、
と負の数を与えることができる。
除法については扱う数を有理数の範囲にすることで互いに素な整数の間でも演算を定義できる。たとえば −4 ÷ 3 は整数を与えないが、
のように有理数を与える(−4/3 のように表記された数を分数と呼ぶ)。従って、正負の有理数と 0 の数を扱うことで、自由な四則演算が可能になる。ただし、通常は除数を 0 とする除法は定義されない(ゼロ除算を参照)。
四則演算を特徴付ける性質には、交換法則・結合法則・分配法則などがあり、抽象代数学では四則演算が自由にできる集合のことを体という。有理数の全体、実数の全体、複素数の全体などは全て体である。
除法は乗法の逆の演算になっている; a × b = c かつ a ≠ 0, b ≠ 0, c ≠ 0 ならば、a = c/b = c ÷ b, b = c/a = c ÷ a が成り立つ。a × b = 1 となるような乗法の逆元 b を a の逆数といい、1/a と表す。つまり、以下のように表せる。
従って除法は除数の逆数に関する乗法に置き換えられる。
減法は加法の逆の演算になっている; a + b = c ならば a = c − b, b = c − a であるから、乗法 × が加法 + に、除法 ÷ が減法 − に置き代わっただけで、乗法と除法の場合と全く同じことが起こっている。つまり、減法は加法の逆の演算である。ここから自然に、a + b = 0 となるような加法の逆元 b を考えることに導かれる。a の逆元 b は −a と表される(これは a の反数と呼ばれる)。つまり次のような関係が常に成り立つ。
数 a が正ならば −a は負の数であり、a が負ならば −a は正の数となる。また、a が 0 なら −a もまた 0 となる。 従って正の数の減法は負の数の加法に、負の数の減法は正の数の加法に置き換えられる。
加法の逆元を与える演算子としての − と、2 数の間の減法を行う演算子としての − とでは、記号は同じだが行う操作と作用する項に違いがあるため、区別を要する場合には前者を単項のマイナス (unary minus operator)、後者を2項のマイナス (binary minus operator) と呼ぶ。
コンピュータの用語として、論理和や論理積など、ブール値やビットを扱う「論理演算」に対して、整数の加減乗除を扱う演算を「算術演算」と呼ぶ。
また、右シフト操作において、その操作で空くビットに、最上位ビットを複製して埋めるシフトを算術シフト、0 で埋めるシフトを論理シフトと言う。これは歴史的にそのように呼ばれているが、符号付き (signed) のシフトと、符号無し (unsigned) のシフト、と呼ぶのが理にかなっている(符号付数値表現#2の補数)。 | [
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] | 算術 は、数の概念や数の演算を扱い、その性質や計算規則、あるいは計算法などの論理的手続きを明らかにしようとする学問分野である。 | {{Otheruses|学問分野の算術|ディオファントスが著した数学書|算術 (書物)}}{{出典の明記| date = 2020年12月}}
{{Expand English|Arithmetic|date=2023-10}}
[[File:Tables generales aritmetique MG 2108.jpg|thumb|子供の算術書(Lausanne, 1835)]]
'''算術''' (さんじゅつ、{{lang-en-short|''arithmetic''}}) は、[[数]]の概念や数の[[演算]]を扱い、その性質や計算規則、あるいは計算法などの論理的手続きを明らかにしようとする学問分野である。
== 概要 ==
「算術」という日本語としては、文明開化前後の「[[数学]]」{{en|(mathematics)}} いわゆる西洋数学の本格的な輸入以前は、今日において[[和算]]と呼ばれているような、当時の「日本の数学」全般を指していた。なおこの意味では、英語 arithmetic とは必ずしも対応しない場合もある。
また、算術および {{en|"''Arithmetic''"}} の語は、[[数論]]を指し示す場合もある。
== 四則演算 ==
{{See also|:en:Elementary arithmetic}}
'''[[加法]]''' {{en|(addition)}}、'''[[減法]]''' {{en|(subtraction)}}、'''[[乗法]]''' {{en|(multiplication)}}、'''[[除法]]''' {{en|(division)}} の4つの演算を、'''四則'''(しそく)あるいは'''四則演算'''({{Lang-en-short|Four arithmetic operations}})と称する。
歴史的には四則演算を表す記号として、様々な記号が用いられたが、現在標準的に用いられる記号は以下である。
* 加法:'''{{color|#000|+}}'''
* 減法:'''{{color|#000|−}}'''
* 乗法:'''{{color|#000|×}}'''
* 除法:'''{{color|#000|÷}}'''
ただし、コンピュータにおける[[プログラミング言語]]では専ら
* 減法には<code>-</code>(U+002D)-マイナス記号 −(U+2212)ではなく[[ハイフンマイナス]]
* 乗法には<code>*</code>(U+002A)
* 除法には<code>/</code>(U+002F)
が用いられる。
このうち、加法と乗法は [[0]] を含む[[正の数と負の数|非負]]の[[整数]]の範囲で自由に行うことができるが、減法と除法には制約がある。非負整数の間の減法は、引く数が引かれる数より大きい場合を扱うことができない。また非負整数の除法は、適切な[[剰余]]を定義しない限り、割る数が割られる数の[[約数]]でない場合を扱うことができない。減法の場合は扱う数を負の数を含んだ[[整数]]全体に捉え直すことで制限を解消することができる。たとえば {{math|1 − 2}} は非負整数を与えないが、整数全体で演算を扱うなら、
:{{math|1 − 2 {{=}} −1}}
と負の数を与えることができる。
除法については扱う数を[[有理数]]の範囲にすることで[[互いに素 (整数論)|互いに素]]な整数の間でも演算を定義できる。たとえば {{math|−4 ÷ 3}} は整数を与えないが、
:{{math|−4 ÷ 3 {{=}} {{sfrac|−4|3}}}}
のように有理数を与える({{math|{{sfrac|−4|3}}}} のように表記された数を[[分数]]と呼ぶ)。従って、正負の有理数と 0 の数を扱うことで、自由な四則演算が可能になる。ただし、通常は除数を 0 とする除法は定義されない([[ゼロ除算]]を参照)。
四則演算を特徴付ける性質には、[[交換法則]]・[[結合法則]]・[[分配法則]]などがあり、抽象代数学では四則演算が自由にできる集合のことを[[可換体|体]]という。有理数の全体、[[実数]]の全体、[[複素数]]の全体などは全て体である。
除法は乗法の逆の演算になっている; {{math|''a'' × ''b'' {{=}} ''c''}} かつ {{math|''a'' ≠ 0}}, {{math|''b'' ≠ 0}}, {{math|''c'' ≠ 0}} ならば、{{math|''a'' {{=}} {{sfrac|''c''|''b''}} {{=}} ''c'' ÷ ''b'', ''b'' {{=}} {{sfrac|''c''|''a''}} {{=}} ''c'' ÷ ''a''}} が成り立つ。{{math|''a'' × ''b'' {{=}} 1}} となるような乗法の[[逆元]] {{mvar|b}} を {{mvar|a}} の'''[[逆数]]'''といい、{{math|{{sfrac|1|''a''}}}} と表す。つまり、以下のように表せる。
:{{math|''a'' × {{sfrac|1|''a''}} {{=}} {{sfrac|1|''a''}} × ''a'' {{=}} 1.}}
従って除法は除数の逆数に関する乗法に置き換えられる。
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減法は加法の逆の演算になっている; {{math|''a'' + ''b'' {{=}} ''c''}} ならば {{math|''a'' {{=}} ''c'' − ''b'', ''b'' {{=}} ''c'' − ''a''}} であるから、乗法 × が加法 + に、除法 ÷ が減法 − に置き代わっただけで、乗法と除法の場合と全く同じことが起こっている。つまり、減法は加法の逆の演算である。ここから自然に、{{math|''a'' + ''b'' {{=}} 0}} となるような[[反数|加法の逆元]] {{mvar|b}} を考えることに導かれる。{{mvar|a}} の逆元 {{mvar|b}} は {{math|−''a''}} と表される(これは {{mvar|a}} の'''反数'''と呼ばれる)。つまり次のような関係が常に成り立つ。
:{{math|''a'' + (−''a'') {{=}} (−''a'') + ''a'' {{=}} 0.}}
数 {{mvar|a}} が正ならば {{math|−''a''}} は負の数であり、{{mvar|a}} が負ならば {{math|−''a''}} は正の数となる。また、{{mvar|a}} が {{math|0}} なら {{math|−''a''}} もまた {{math|0}} となる。
従って正の数の減法は負の数の加法に、負の数の減法は正の数の加法に置き換えられる。
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加法の逆元を与える演算子としての − と、2 数の間の減法を行う演算子としての − とでは、記号は同じだが行う操作と作用する項に違いがあるため、区別を要する場合には前者を'''単項のマイナス''' {{en|(unary minus operator)}}、後者を'''2項のマイナス''' {{en|(binary minus operator)}} と呼ぶ。
== 算術演算 ==
[[コンピュータ]]の用語として、[[論理和]]や[[論理積]]など、ブール値やビットを扱う「[[論理演算]]」に対して、整数の加減乗除を扱う演算を「算術演算」と呼ぶ。
また、右シフト操作において、その操作で空くビットに、最上位ビットを複製して埋めるシフトを'''[[ビット演算#算術シフト|算術シフト]]'''、0 で埋めるシフトを'''[[ビット演算#論理シフト|論理シフト]]'''と言う。これは歴史的にそのように呼ばれているが、符号付き {{en|(signed)}} のシフトと、符号無し {{en|(unsigned)}} のシフト、と呼ぶのが理にかなっている([[符号付数値表現#2の補数]])。
== 関連項目 ==
{{div col}}
* [[算術の基本定理]]
* [[合同式]]
* [[素数]]
* [[数論]]
* [[可換体]]
* [[算法]]
* [[算術平均]]
* [[算術級数]]
*『[[算術の基礎]]』
* [[ビット演算]]
* [[和算]]
* [[演算子の優先順位]]
* [[逆元]]
* [[反数]]
* [[逆数]]
* [[単位元]]
* [[加法単位元]]
* {{仮リンク|四則演算|en|elementary arithmetic|preserve=1}}
* [[筆算]]
{{div col end}}
== 外部リンク ==
* {{コトバンク}}
{{数学|state=uncollapsed}}
{{二項演算}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:さんしゆつ}}
[[Category:算術|*]]
[[Category:代数学]]
[[Category:初等数学]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-28T20:20:02Z | 2023-12-26T14:33:35Z | false | false | false | [
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"Template:二項演算"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%97%E8%A1%93 |
7,425 | 代数的構造 | 数学において代数的構造(だいすうてきこうぞう、algebraic structure)とは、集合に定まっている算法(演算ともいう)や作用によって決まる構造のことである。代数的構造の概念は、数学全体を少数の概念のみを用いて見通しよく記述するためにブルバキによって導入された。 また、代数的構造を持つ集合は代数系(だいすうけい、algebraic system)であるといわれる。すなわち、代数系というのは、集合 A とそこでの算法(演算の規則)の族 R の組 (A, R) のことを指す。逆に、具体的なさまざまな代数系から、それらが共通してもつ原理的な性質を抽出して抽象化・公理化したものが、代数的構造と呼ばれるのである。 なお、分野(あるいは人)によっては代数系そのもの、あるいは代数系のもつ算法族のことを代数的構造とよぶこともあるようである。 後者は、代数系の代数構造とも呼ばれる。 現代では、代数学とは代数系を研究する学問のことであると捉えられている。
一般的な代数的構造は普遍代数という数学の分野で研究される。代数的構造はまた、ほかの構造に加えて定義されることもある。位相構造をもつ位相群、位相線型空間、リー群はそのような例である。
どの構造も、それぞれに固有の準同型(構造を保つ写像)の概念を持っている。このことを使って、それぞれの構造を満たすもの全体の圏を考えることができる。
代数系 (A, R) と (B, S) とは、それぞれの代数構造(算法族) R と S とが項数を込めて等しいか同一視できるとき、同類であるという(項数については算法の項参照)。 例えば群は、積だけを算法とする代数系とみなせば半群と同類であるが、各元にその逆元を対応させる写像も群の(単項の)算法に含めて考えると、半群とは同類ではない。 そして群をそのように半群と同類でない代数系として定義する方が、代数系の論としては正当で、理論上も便利なことがある(群論参照)。
また、環を加法と乗法を算法とする代数系とみなし、束を結びと交わりを算法とする代数系とみなせば、加法 x + y と結び x ∨ y 、乗法 x × y と交わり x ∧ y とを同一視することによって、この両者は同類の代数系となる。
しかし、環における加法・乗法と束における結び・交わりとは、異なる法則に従う。 例えば、環での加法・乗法は分配律 x × (y + z) = (x × y) + (x × z) に従うが、束での結び・交わりは必ずしも分配律 x ∧ (y ∨ z) = (x ∧ y) ∨ (x ∧ z) には従わない。 また、束での交わり・結びは冪等律 x ∧ x = x, x ∨ x = x に従うが、環での加法・乗法は冪等律 x × x = x, x + x = x に必ずしも従わない。
そこで、同類の代数系をさらに「それらの算法がどういう法則に従うか」によって分類して種に分けて、それぞれの種に属す代数系をまとめて抽象化して論ずるのが普通である。 歴史的には、半群・群・環・多元環・体・束などはそうやって出来た抽象概念である。
代数系についての基本概念には以下の2つがある。
代数学の一分科である線型代数学に例をとれば、線型空間が研究対象とする代数系に当たり、線型部分空間が部分系に当たり、線型写像が代数系間の準写に当たる。
代数系についての副次的概念には、生成系・直積(直和)・商・拡大・普遍性・表現などがある。
実数すべてから成る集合とそこでの四則(加減乗除の算法、すなわち足し算・引き算・掛け算・割り算)との組は、典型的な代数系である。 この例では、足し算・引き算・掛け算は任意の二つの数の組について実行可能であるが、割り算は、0での割り算ができないという意味で局所的(あるいは非全域的)である。 代数系の算法には一般には、こういうような局所的(あるいは非全域的)算法も含まれる。 たとえば行列の足し算・掛け算も、あらゆるサイズの行列から成る集合での算法とみなせば、局所的である。
こういう局所的算法を含む代数系の理論は複雑であるので、数学の分野では避けられる傾向がある。たとえば行列の足し算・掛け算も、数学者の間でさえ、上記のような意味での局所的算法と捉えて説明されることは稀である。また、上記の実数と四則とから成る代数系は体の典型であるが、体の概念も環の概念も、局所的算法である除法を用いないで説明するのが通例である。
一方で、数理論理学では、研究対象として形式言語を代数系の一種と捉えるが、形式言語における算法は局所的のものが一般的である。たとえば、述語論理学における形式言語である述語言語(論理式と項とから成る)では、論理記号 ∧, ∨, ¬, ⇒, ∀x, ∃x は論理式に対してのみ実行可能な局所算法を表し、関数記号や述語記号は、項のみに対して実行可能な局所算法を表すと解される。 また、推論規則も局所的算法と解される。たとえば三段論法は、二つの論理式 A と A ⇒ B とから第三の論理式 B を導き出す推論規則であるが、これは、第二の論理式が A ⇒ B という特別な形のときだけ実行可能な局所算法と解される。 | [
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"text": "数学において代数的構造(だいすうてきこうぞう、algebraic structure)とは、集合に定まっている算法(演算ともいう)や作用によって決まる構造のことである。代数的構造の概念は、数学全体を少数の概念のみを用いて見通しよく記述するためにブルバキによって導入された。 また、代数的構造を持つ集合は代数系(だいすうけい、algebraic system)であるといわれる。すなわち、代数系というのは、集合 A とそこでの算法(演算の規則)の族 R の組 (A, R) のことを指す。逆に、具体的なさまざまな代数系から、それらが共通してもつ原理的な性質を抽出して抽象化・公理化したものが、代数的構造と呼ばれるのである。 なお、分野(あるいは人)によっては代数系そのもの、あるいは代数系のもつ算法族のことを代数的構造とよぶこともあるようである。 後者は、代数系の代数構造とも呼ばれる。 現代では、代数学とは代数系を研究する学問のことであると捉えられている。",
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"text": "しかし、環における加法・乗法と束における結び・交わりとは、異なる法則に従う。 例えば、環での加法・乗法は分配律 x × (y + z) = (x × y) + (x × z) に従うが、束での結び・交わりは必ずしも分配律 x ∧ (y ∨ z) = (x ∧ y) ∨ (x ∧ z) には従わない。 また、束での交わり・結びは冪等律 x ∧ x = x, x ∨ x = x に従うが、環での加法・乗法は冪等律 x × x = x, x + x = x に必ずしも従わない。",
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"text": "そこで、同類の代数系をさらに「それらの算法がどういう法則に従うか」によって分類して種に分けて、それぞれの種に属す代数系をまとめて抽象化して論ずるのが普通である。 歴史的には、半群・群・環・多元環・体・束などはそうやって出来た抽象概念である。",
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"text": "代数系についての副次的概念には、生成系・直積(直和)・商・拡大・普遍性・表現などがある。",
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"text": "実数すべてから成る集合とそこでの四則(加減乗除の算法、すなわち足し算・引き算・掛け算・割り算)との組は、典型的な代数系である。 この例では、足し算・引き算・掛け算は任意の二つの数の組について実行可能であるが、割り算は、0での割り算ができないという意味で局所的(あるいは非全域的)である。 代数系の算法には一般には、こういうような局所的(あるいは非全域的)算法も含まれる。 たとえば行列の足し算・掛け算も、あらゆるサイズの行列から成る集合での算法とみなせば、局所的である。",
"title": "算法の全域性・局所性"
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"text": "こういう局所的算法を含む代数系の理論は複雑であるので、数学の分野では避けられる傾向がある。たとえば行列の足し算・掛け算も、数学者の間でさえ、上記のような意味での局所的算法と捉えて説明されることは稀である。また、上記の実数と四則とから成る代数系は体の典型であるが、体の概念も環の概念も、局所的算法である除法を用いないで説明するのが通例である。",
"title": "算法の全域性・局所性"
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"text": "一方で、数理論理学では、研究対象として形式言語を代数系の一種と捉えるが、形式言語における算法は局所的のものが一般的である。たとえば、述語論理学における形式言語である述語言語(論理式と項とから成る)では、論理記号 ∧, ∨, ¬, ⇒, ∀x, ∃x は論理式に対してのみ実行可能な局所算法を表し、関数記号や述語記号は、項のみに対して実行可能な局所算法を表すと解される。 また、推論規則も局所的算法と解される。たとえば三段論法は、二つの論理式 A と A ⇒ B とから第三の論理式 B を導き出す推論規則であるが、これは、第二の論理式が A ⇒ B という特別な形のときだけ実行可能な局所算法と解される。",
"title": "算法の全域性・局所性"
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] | 数学において代数的構造(だいすうてきこうぞう、algebraic structure)とは、集合に定まっている算法(演算ともいう)や作用によって決まる構造のことである。代数的構造の概念は、数学全体を少数の概念のみを用いて見通しよく記述するためにブルバキによって導入された。
また、代数的構造を持つ集合は代数系(だいすうけい、algebraic system)であるといわれる。すなわち、代数系というのは、集合 A とそこでの算法(演算の規則)の族 R の組 (A, R) のことを指す。逆に、具体的なさまざまな代数系から、それらが共通してもつ原理的な性質を抽出して抽象化・公理化したものが、代数的構造と呼ばれるのである。
なお、分野(あるいは人)によっては代数系そのもの、あるいは代数系のもつ算法族のことを代数的構造とよぶこともあるようである。 後者は、代数系の代数構造とも呼ばれる。
現代では、代数学とは代数系を研究する学問のことであると捉えられている。 | {{出典の明記|date=2015年9月}}
[[数学]]において'''代数的構造'''(だいすうてきこうぞう、<em lang="en">algebraic structure</em>)とは、[[集合]]に定まっている[[算法]](演算ともいう)や[[作用 (数学)|作用]]によって決まる[[数学的構造|構造]]のことである。代数的構造の概念は、数学全体を少数の概念のみを用いて見通しよく記述するために[[ニコラ・ブルバキ|ブルバキ]]によって導入された。
また、代数的構造を持つ集合は'''代数系'''(だいすうけい、<em lang="en">algebraic system</em>)であるといわれる。すなわち、代数系というのは、[[集合]] ''A'' とそこでの[[算法]](演算の規則)の族 ''R'' の組 (''A'', ''R'') のことを指す。逆に、具体的なさまざまな代数系から、それらが共通してもつ原理的な性質を抽出して抽象化・[[公理]]化したものが、代数的構造と呼ばれるのである。
なお、分野(あるいは人)によっては代数系そのもの、あるいは代数系のもつ算法族のことを'''代数的構造'''とよぶこともあるようである。 後者は、代数系の代数構造とも呼ばれる。
現代では、[[代数学]]とは代数系を研究する[[学問]]のことであると捉えられている。
{{代数的構造}}
== 代数的構造の例 ==
* 一つの演算によって決まる代数的構造<ref group="注">用語についてはいくつか表記ゆれが存在する。たとえば、マグマを'''亜群''' (groupoid) と呼ぶ流儀もあるが、[[圏論|別な意味]]で[[亜群]]と呼ばれる概念もあるので注意。半群 (semigroup) を準群と訳す流儀もある。通常 [[擬群|pseudogroup]] に充てる擬群という語を準群(quasigroup)の訳とする流儀もある。</ref>
** [[マグマ (数学)|マグマ]]: 一つの[[二項演算]]の定義された集合。
*** [[準群]]: ''a'' × ''x'' = ''b''、''y'' × ''a'' = ''b'' であるような ''x'' と ''y'' が一意に決まるマグマ
*** [[準群#ループ|ループ]]: [[単位元]] ''e'' を持つ準群。任意の元が左および右逆元を持つマグマとも言える。
*** [[半群]]: [[結合法則]]を満たすマグマ
*** [[モノイド]]: 単位元を持つ半群
*** [[群 (数学)|群]]: 任意の元が逆元を持つモノイド、もしくは結合法則を満たすループ
*** [[アーベル群]]: [[交換法則|可換]]な群
{| class="wikitable" style="text-align: center; margin: 1ex auto 1ex auto;"
! || 単位律 || 可逆律 || 結合律 || 消約律 || 可換律
|-
! 準群
| × || × || × || ○ || ×
|-
! ループ
| ○ || △{{efn2|左逆元および右逆元の存在は必ず存在するが、両者が一致して両側逆元となることは保証されない。}} || × || ○ || ×
|-
! 半群
| × || × || ○ || × || ×
|-
! モノイド
| ○ || × || ○ || × ||×
|-
! 群
| ○ || ○ || ○ || ○ || ×
|-
! アーベル群
| ○ || ○ || ○ || ○ ||○
|}
* 二つの演算によって決まる代数的構造
** [[環 (数学)|環]]: 加法に関してアーベル群であり、乗法に関して半群(またはモノイド)であり、[[分配法則]]を満たす。
** [[可換体|体]]: 0 でない元が乗法に関して群(またはアーベル群)をなす環
* 演算と作用によって決まる構造
** 環上の加群: 環の作用するアーベル群
** [[ベクトル空間]]: 体上の加群
*** [[算法]]や[[二項演算]]の項に記す通り、加群やベクトル空間などにいて環や体が与える外部的な作用も適当な方法で内部的な 1 項算法(単項算法)と捉えなおすことができるので、加群やベクトル空間やほかにも同様に作用域を持つ構造である多元環などが、群や環と同様のもの(多くの演算によって決まる構造)として統一的に論ずることもできる。
* さらに複雑なもの
** 代数([[多元環]]): 乗法の定義された加群やベクトル空間
** [[結合代数]]: 乗法が結合法則を満たす代数
** [[可換環論|可換代数]]: 乗法が可換な結合代数
** [[束 (束論)|束]]: 二つの演算が定義されている集合で、演算が[[冪等]]で可換で結合的で簡約律([[吸収律]])を満たすもの。これは順序的構造から定義することもできる。
一般的な代数的構造は[[普遍代数]]という数学の分野で研究される。代数的構造はまた、ほかの構造に加えて定義されることもある。[[位相空間|位相構造]]をもつ[[位相群]]、[[位相線型空間]]、[[リー群]]はそのような例である。
どの構造も、それぞれに固有の[[準同型]](構造を保つ写像)の概念を持っている。このことを使って、それぞれの構造を満たすもの全体の[[圏 (数学)|圏]]を考えることができる。
== 構造の類と種 ==
代数系 (''A'', ''R'') と (''B'', ''S'') とは、それぞれの代数構造(算法族) ''R'' と ''S'' とが項数を込めて等しいか同一視できるとき、同類であるという(項数については[[算法]]の項参照)。
例えば[[群 (数学)|群]]は、積だけを算法とする代数系とみなせば[[半群]]と同類であるが、各元にその逆元を対応させる写像も群の(単項の)算法に含めて考えると、半群とは同類ではない。
そして群をそのように半群と同類でない代数系として定義する方が、代数系の論としては正当で、理論上も便利なことがある([[群論]]参照)。
また、環を加法と乗法を算法とする代数系とみなし、[[束 (束論)|束]]を結びと交わりを算法とする代数系とみなせば、加法 ''x'' + ''y'' と結び ''x'' ∨ ''y'' 、乗法 ''x'' × ''y'' と交わり ''x'' ∧ ''y'' とを同一視することによって、この両者は同類の代数系となる。
しかし、環における加法・乗法と束における結び・交わりとは、異なる法則に従う。
例えば、環での加法・乗法は分配律 ''x'' × (''y'' + ''z'') = (''x'' × ''y'') + (''x'' × ''z'') に従うが、束での結び・交わりは必ずしも分配律 ''x'' ∧ (''y'' ∨ ''z'') = (''x'' ∧ ''y'') ∨ (''x'' ∧ ''z'') には従わない。
また、束での交わり・結びは冪等律 ''x'' ∧ ''x'' = x, ''x'' ∨ ''x'' = ''x'' に従うが、環での加法・乗法は冪等律 ''x'' × ''x'' = x, ''x'' + ''x'' = ''x'' に必ずしも従わない。
そこで、同類の代数系をさらに「それらの算法がどういう法則に従うか」によって分類して種に分けて、それぞれの種に属す代数系をまとめて抽象化して論ずるのが普通である。
歴史的には、半群・群・環・多元環・体・束などはそうやって出来た抽象概念である。
== 重要な概念 ==
代数系についての基本概念には以下の2つがある。
* 代数系の部分代数系(部分系): もとの代数系の[[部分集合]]で、もとの構造の[[制限 (数学)|制限]]を構造として伴うもの。
* 同種の代数系の間の[[準同型|準同型写像]](準写): [[定義域]]上の演算の後に写像した値と、写像した後に[[値域]]上の演算を行って得た値が一致する写像。
代数学の一分科である[[線型代数学]]に例をとれば、[[線型空間]]が研究対象とする代数系に当たり、[[線型部分空間]]が部分系に当たり、[[線型写像]]が代数系間の準写に当たる。
代数系についての副次的概念には、生成系・[[直積集合|直積]]([[直和]])・[[同値関係|商]]・拡大・普遍性・表現などがある。
== 算法の全域性・局所性 ==
実数すべてから成る集合とそこでの四則(加減乗除の算法、すなわち足し算・引き算・掛け算・割り算)との組は、典型的な代数系である。
この例では、足し算・引き算・掛け算は任意の二つの数の組について実行可能であるが、割り算は、0での割り算ができないという意味で''局所的''(あるいは''非全域的'')である。
代数系の算法には一般には、こういうような局所的(あるいは非全域的)算法も含まれる。
たとえば[[行列 (数学)|行列]]の足し算・掛け算も、あらゆるサイズの行列から成る集合での算法とみなせば、局所的である。
こういう局所的算法を含む代数系の理論は複雑であるので、数学の分野では避けられる傾向がある。たとえば行列の足し算・掛け算も、数学者の間でさえ、上記のような意味での局所的算法と捉えて説明されることは稀である。また、上記の実数と四則とから成る代数系は[[可換体|体]]の典型であるが、体の概念も環の概念も、局所的算法である除法を用いないで説明するのが通例である。
一方で、[[数理論理学]]では、研究対象として[[形式言語]]を代数系の一種と捉えるが、形式言語における算法は局所的のものが一般的である。たとえば、述語論理学における形式言語である述語言語(論理式と項とから成る)では、論理記号 ∧, ∨, ¬, ⇒, ∀''x'', ∃''x'' は論理式に対してのみ実行可能な局所算法を表し、関数記号や述語記号は、項のみに対して実行可能な局所算法を表すと解される。
また、推論規則も局所的算法と解される。たとえば三段論法は、二つの論理式 ''A'' と ''A'' ⇒ ''B'' とから第三の論理式 ''B'' を導き出す推論規則であるが、これは、第二の論理式が ''A'' ⇒ ''B'' という特別な形のときだけ実行可能な局所算法と解される。
== 注釈 ==
{{脚注ヘルプ}}
<references group="注" />
== 関連項目 ==
*[[圏論]]
*[[抽象代数学]]
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:たいすうてきこうそう}}
[[Category:代数的構造|*]]
[[Category:数学的構造]]
[[Category:抽象代数学]]
[[Category:構造]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-28T21:08:14Z | 2023-12-26T14:45:29Z | false | false | false | [
"Template:脚注ヘルプ",
"Template:Reflist",
"Template:Normdaten",
"Template:出典の明記",
"Template:代数的構造",
"Template:Efn2"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E6%95%B0%E7%9A%84%E6%A7%8B%E9%80%A0 |
7,426 | ギリシア神話の固有名詞一覧 | ギリシア神話の固有名詞一覧(ギリシアしんわのこゆうめいしいちらん)は、ギリシア神話に登場する神名・人名・地名などの一覧。
名称は、日本語で長音を省略して表記される場合もある。例えばアテーナーをアテナ、アポローンをアポロンのようにする場合がある。以下の一覧において、別表記には単純な長音の省略以外の表記を記す。
主役級の一部の神々を除き、多くの神の名は一般名詞の転用(一般名詞を神格化したもの)である。たとえば Μνημοσύνη 「ムネーモシュネー」、Νίκη 「ニーケー」、Νύξ 「ニュクス」、Χρόνος 「クロノス」はそれぞれ「記憶」「勝利」「夜」「時間」といった一般名詞にほかならない。
【 】内は、単純な長音の省略以外の別表記。
【 】内は、単純な長音の省略以外の別表記。
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] | ギリシア神話の固有名詞一覧(ギリシアしんわのこゆうめいしいちらん)は、ギリシア神話に登場する神名・人名・地名などの一覧。 名称は、日本語で長音を省略して表記される場合もある。例えばアテーナーをアテナ、アポローンをアポロンのようにする場合がある。以下の一覧において、別表記には単純な長音の省略以外の表記を記す。 | {{出典の明記|date=2023年4月}}
'''ギリシア神話の固有名詞一覧'''(ギリシアしんわのこゆうめいしいちらん)は、[[ギリシア神話]]に登場する[[神]]名・人名・地名などの一覧。
名称は、日本語で長音を省略して表記される場合もある。例えばアテーナーをアテナ、アポローンをアポロンのようにする場合がある。以下の一覧において、別表記には単純な長音の省略以外の表記を記す。[[画像:Greek myths.PNG|thumb|361x361px|原始の神々とティーターン神族の系譜]]
== 神 ==
{{see also|ギリシア神話の神々の系譜}}
主役級の一部の神々を除き、多くの神の名は一般名詞の転用(一般名詞を神格化したもの)である。たとえば {{lang|grc|Μνημοσύνη}} 「ムネーモシュネー」、{{lang|grc|Νίκη}} 「ニーケー」、{{lang|grc|Νύξ}} 「ニュクス」、{{lang|grc|Χρόνος}} 「クロノス」はそれぞれ「記憶」「勝利」「夜」「時間」といった一般名詞にほかならない。
=== オリュンポス十二神 ===
{| class="wikitable sortable"
!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!性
!概要
|-
|[[アテーナー]]
|アテーネー、アタナ、アテーナイエー
|{{lang|el|Ἀθηνᾶ}}
|Athēnā
|女神
|都市の守護、戦い、知恵、芸術等を司る。
|-
|[[アプロディーテー]]
|アフロディテ
|{{lang|el|Ἀφροδίτη}}
|Aphrodītē
|女神
|愛と美を司る。
|-
|[[アポローン]]
|
|{{lang|el|Ἀπόλλων}}
|Apollōn
|男神
|アルテミスの兄弟。芸術、光明を司る。
|-
|[[アルテミス]]
|
|{{lang|el|Ἄρτεμις}}
|Artemis
|女神
|アポローンの姉妹。狩猟、貞潔、豊穣を司る。
|-
|[[アレース]]
|
|{{lang|el|Ἄρης}}
|Arēs
|男神
|戦を司る。
|-
|[[ゼウス]]
|
|{{lang|el|Ζεύς}}
|Zeus
|男神
|オリュンポスの主神。全宇宙や天候を支配する天空神。
|-
|[[デーメーテール]]
|
|{{lang|el|Δημήτηρ}}
|Dēmētēr
|女神
|豊穣を司る。
|-
|[[ヘスティアー]]
|
|{{lang|el|Ἑστία}}
|Hestiā
|女神
|竈・炉を司る。
|-
|[[ヘーパイストス]]
|ヘファイストス
|{{lang|el|Ἥφαιστος}}
|Hēphaistos
|男神
|炎・鍛冶を司る。
|-
|[[ヘーラー]]
|ヘレ
|{{lang|el|Ἥρα}}
|Hērā
|女神
|ゼウスの妻。結婚、母性、貞節を司る。
|-
|[[ヘルメース]]
|
|{{lang|el|Ἑρμῆς}}
|Hermēs
|男神
|伝令神。旅人や商人の守護神。
|-
|[[ポセイドーン]]
|
|{{lang|el|Ποσειδῶν}}
|Poseidōn
|男神
|海と地震を司る。
|-
|[[ディオニューソス]]
|バッコス
|{{lang|el|Διόνυσος}}
|Dionȳsos
|男神
|ヘスティアーの代わりに十二神に数えられることがある。葡萄酒、豊穣、酩酊を司る。
|-
|[[ハーデース]]
|プルートーン
|{{lang|el|Ἅιδης}}
|Hādēs
|男神
|冥界の神であるため一般的には十二神には含まれない。
|-
|[[ペルセポネー]]
|ペルセフォネ、[[コレー]]
|{{lang|el|Περσεφόνη}}
|Persephonē
|女神
|ハーデースの妻。冥界の神であるため一般的には十二神に含まれない。
|}
=== その他の神々 ===
{| class="wikitable sortable"
!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!性
!概要
|-
|[[アイオーン]]
|
|{{lang|el|Αἰών}}
|Aiōn
|男神
|時間の神。
|-
|[[アイテール]]
|
|{{lang|el|Αἰθήρ}}
|Aithēr
|男神
|原初の天空神。高天の澄明な気。
|-
|[[アシアー]]
|
|{{lang|el|Ἀσία}}
|Asiā
|女神
|[[オーケアノス]]と[[テーテュース]]の娘。[[アジア]]の語源とされる。
|-
|[[アスクレーピオス]]
|
|{{lang|el|Ἀσκληπιός}}
|Asklēpios
|男神
|[[アポローン]]の息子。医神。
|-
|[[アステリアー]]
|
|{{lang|el|Ἀστερία}}
|Asteriā
|女神
|「星座」「星の女」の意味。[[レートー]]の姉妹、[[ヘカテー]]の母とされる。
|-
|[[アストライアー]]
|
|{{lang|el|Ἀστραία}}
|Astraiā
|女神
|「星乙女」の意味。正義の女神[[ディケー]]と同一視された。
|-
|[[アストライオス]]
|
|{{lang|el|Ἀστραῖος}}
|Astraios
|男神
|「星の男」の意味。風の神々の父。
|-
|[[アーテー]]
|
|{{lang|el|Ἄτη}}
|Ātē
|女神
|「破滅」の意味。狂気の神格化。
|-
|[[アトラース]]
|
|{{lang|el|Ἄτλας}}
|Atlās
|男神
|[[ティーターン]]。両腕と頭で天を支えているとされる。
|-
|[[アネモイ]]
|
|{{lang|el|Ἄνεμοι}}
|Anemoi
|男神
|風の神々。
|-
|[[アパイアー]]
|
|{{lang|el|Ἀφαία}}
|Aphaiā
|女神
|[[アルテミス]]等と同一視される。
|-
|[[アパテー]]
|
|{{lang|el|Ἀπάτη}}
|Apatē
|女神
|「欺瞞」「不実」等の意味。また、その神格化。
|-
|[[アムピトリーテー]]
|アンピトリテ、アンフィトリテ
|{{lang|el|Ἀμφιτρίτη}}
|Amphitrītē
|女神
|[[ポセイドーン]]の妻、海の女神。
|-
|[[アリスタイオス]]
|
|{{lang|el|Ἀρισταῖος}}
|Aristaios
|男神
|養蜂、チーズの製法等を発明したとされる。
|-
|[[アンテロース]]
|
|{{lang|el|Ἀντέρως}}
|Anterōs
|男神
|返愛の神。[[エロース]]の弟とされる。
|-
|[[イーアペトス]]
|
|{{lang|el|Ἰάπετος}}
|Īapetos
|男神
|[[ティーターン]]。[[プロメーテウス|プロメーテーウス]]、[[エピメーテウス]]兄弟等の父。
|-
|[[イーノー]]
|レウコテアー、レウコトエー
|{{lang|el|Ἰνώ}}
|Īnō
|女神
|[[ディオニューソス]]の叔母にあたる。人間であったが死後に女神とされた。
|-
|[[イーリス]]
|
|{{lang|el|Ἶρις}}
|Īris
|女神
|ティーターンの娘。伝令神。虹の神。
|-
|[[ウーラノス]]
|
|{{lang|el|Ουρανός}}
|Ouranos
|男神
|「天」の意味。原初の神々の王。[[ガイア]]の息子にして夫。
|-
|[[ウーレアー]]
|
|{{lang|el|Oὔρεα}}
|Oureā
|
|山の神々。[[ガイア]]の子で、十柱いるとされる。
|-
|[[エイデュイア]]
|
|{{lang|el|Εἰδυῖα}}
|Eidyia
|女神
|[[オーケアノス]]と[[テーテュース]]の娘。
|-
|[[エイレイテュイア]]
|
|{{lang|el|Εἰλείθυια}}
|Eileithyia
|女神
|結婚、出産の神。
|-
|[[エウリュノメー]]
|
|{{lang|el|Εὐρυνόμη}}
|Eurynomē
|女神
|[[オーケアノス]]と[[テーテュース]]の娘。
|-
|[[エウリュビアー]]
|
|{{lang|el|Εὐρυβία}}
|Eurybiā
|女神
|[[ガイア]]と[[ポントス (ギリシア神話)|ポントス]]の娘。
|-
|[[エーオース]]
|
|{{lang|el|Ἠώς}}
|Ēōs
|女神
|「暁」の神格化。
|-
|[[エニューオー]]
|
|{{lang|el|Ἐνυώ}}
|Enȳō
|女神
|「恐怖」の意味。戦いの神。
|-
|[[エピメーテウス]]
|
|{{lang|el|Ἐπιμηθεύς}}
|Epimētheus
|男神
|ティーターン。[[プロメーテウス]]の弟で、[[パンドーラー]]の夫。
|-
|[[エルピス (ギリシア神話)|エルピス]]
|
|{{lang|el|ἐλπίς}}
|Elpis
|女神
|希望の神。
|-
|[[エリス (ギリシア神話)|エリス]]
|
|{{lang|el|Ἔρις}}
|Eris
|女神
|不和と争いの神。
|-
|[[エリーニュス]]
|複数:エリーニュエス
|{{lang|el|Ἐρινύς}}
|Erīnys
|女神
|復讐の神々。[[アレークトー]]、[[ティーシポネー]]、[[メガイラ]]の三柱とされる。
|-
|[[エレボス]]
|
|{{lang|el|Ἔρεβος}}
|Erebos
|男神
|原初の神。「幽冥」の神格化。
|-
|[[エロース]]
|
|{{lang|el|Ἔρως}}
|Erōs
|男神
|恋心、性愛の神。原初の神、あるいは[[アプロディーテー]]の息子とされる。
|-
|[[オイジュス]]
|
|{{lang|el|Ὀϊζύς}}
|Oizys
|女神
|「苦悩」の神格化。
|-
|[[オーケアノス]]
|
|{{lang|el|Ωκεανός}}
|Ōkeanos
|男神
|ティーターン。海洋、外洋の神。
|-
|[[オネイロス]]
|複数:オネイロイ
|{{lang|el|Ὄνειρος}}
|Oneiros
|男神
|「夢」の神格化。
|-
|[[オピーオーン]]
|オピオネウス
|{{lang|el|Ὀφίων}}
|Ophīōn
|男神
|[[オリュンポス]]の原初の支配者とされる。
|-
|[[ガイア]]
|ゲー
|{{lang|el|Γαῖα}}
|Gaia
|女神
|「大地」の意味。、原初の[[大地母神]]。
|-
|[[カイロス]]
|
|{{lang|el|Καιρός}}
|Kairos
|男神
|「機会」「チャンス」の神格化。
|-
|[[カオス]]
|
|{{lang|el|Χάος}}
|Chaos
|男神
|「空隙」「混沌」の意味。原初の神。
|-
|[[カベイロス]]
|複数:カベイロイ
|{{lang|el|Καβειρώς}}
|Kábeirōs
|
|鍛冶、豊穣の神々。
|-
|[[カリス]]
|複数:カリテス
|{{lang|el|Χάρις}}
|Charis
|女神
|美と優雅を司る神々。
|-
|[[カリュプソー]]
|カリプソ
|{{lang|el|Καλυψώ}}
|Kalypsō
|女神
|海の女神。[[オーケアニス]]もしくは[[ネーレーイス]]の一柱とされる。
|-
|[[カローン]]
|
|{{lang|el|Χάρων}}
|Charōn
|男神
|冥府の河の渡し守。
|-
|[[キュクロープス]]
|サイクロプス
|{{lang|el|Κύκλωψ}}
|Kýklōps
|男神
|単眼の巨人。卓越した鍛冶の技術を持つ。
|-
|[[キルケー]]
|
|{{lang|el|Κίρκη}}
|Kirkē
|女神
|魔女([[ニュンペー]])であるが、元来は月、あるいは愛の女神であったとされる。
|-
|[[グライアイ]]
|単数:グライア
|{{lang|el|Γραῖαι}}
|Graiai
|女神
|[[ゴルゴーン]]の姉妹。[[ペムプレードー]]、[[エニューオー]]、[[デイノー]]の三柱とされる。
|-
|[[グラウコス#海神のグラウコス|グラウコス]]
|
|{{lang|el|Γλαῦκος}}
|Glaukos
|男神
|もとは漁師であったが、予言をする海の神になった。
|-
|[[クラトス]]
|
|{{lang|el|Κράτος}}
|Kratos
|男神
|強さや力の神格化。
|-
|[[クレイオス]]
|
|{{lang|el|Κρεῖος}}
|Kreios
|男神
|ティーターン。
|-
|[[クロノス]]
|
|{{lang|el|Κρόνος}}
|Kronos
|男神
|ティーターンの王。大地と農耕の神。
|-
|[[クロノス (時間の神)|クロノス]]
|
|{{lang|el|Χρόνος}}
|Chronos
|男神
|時間の神。
|-
|[[ケートー]]
|
|{{lang|el|Κητώ}}
|Kētō
|女神
|海の危険性や恐怖の神格化。
|-
|[[ゲーラス]]
|
|{{lang|el|Γῆρας}}
|Gēras
|男神
|「老年」を意味する。原初の神。
|-
|[[ケール (ギリシア神話)|ケール]]
|複数:ケーレス
|{{lang|el|Κήρ}}
|Kēr
|女神
|戦場で死をもたらす悪霊。
|-
|[[コイオス]]
|
|{{lang|el|Κοῖος}}
|Koios
|男神
|ティーターン。
|-
|[[ザグレウス]]
|
|{{lang|el|Ζαγρεύς}}
|Zagreus
|男神
|[[オルペウス教]]の少年神。
|-
|[[ステュクス]]
|
|{{lang|el|Στύξ}}
|Styx
|女神
|地下を流れているとされる大河、ステュクスの神格化。
|-
|[[セレーネー]]
|
|{{lang|el|Σελήνη}}
|Selēnē
|女神
|月の神。
|-
|[[ゼーロス]]
|
|{{lang|el|Ζῆλος}}
|Zēlos
|男神
|熱意、競争心等の神格化。
|-
|[[タウマース]]
|
|{{lang|el|Θαύμας}}
|Thaumās
|男神
|[[ガイア]]と[[ポントス (ギリシア神話)|ポントス]]の子。
|-
|[[タナトス]]
|
|{{lang|el|Θάνατος}}
|Thanatos
|男神
|「死」の神格化。
|-
|[[ダプネー]]
|ダフネ
|{{lang|el|Δάφνη}}
|Dáphnē
|女神
|「月桂樹」の意味。[[ニュンペー]]。
|-
|[[ダミアー]]
|
|{{lang|el|Δαμια}}
|Damiā
|女神
|繁栄、多産、豊穣の女神。
|-
|[[タラッサ]]
|
|{{lang|el|Θάλασσα}}
|Thalassa
|女神
|原初の神。「海」の神格化。
|-
|[[タルタロス]]
|
|{{lang|el|Τάρταρος}}
|Tartaros
|男神
|原初の神。「奈落」の神格化。
|-
|[[テイアー]]
|
|{{lang|el|Θεία}}
|Theiā
|女神
|ティーターン。
|-
|[[ディオーネー]]
|
|{{lang|el|Διώνη}}
|Diōnē
|女神
|ティーターン、もしくはアトラースの娘。
|-
|[[デイモス]]
|
|{{lang|el|Δεῖμος}}
|Deimos
|男神
|「恐怖」の神格化。
|-
|[[テーテュース]]
|
|{{lang|el|Τηθύς}}
|Tēthȳs
|女神
|ティーターン。
|-
|[[テティス]]
|
|{{lang|el|Θέτις}}
|Thetis
|女神
|[[ネーレーイス]]の一柱。[[アキレウス]]の母。
|-
|[[テミス]]
|
|{{lang|el|Θέμις}}
|Themis
|女神
|「掟」の神格化。
|-
|[[テューポーン]]
|
|{{lang|el|Τυφών}}
|Tȳphōn
|男神
|巨人。怪物ともされる。[[エキドナ]]との間に多くの怪物をもうける。
|-
|[[テュケー]]
|
|{{lang|el|Τύχη}}
|Tȳchē
|女神
|「運」を意味する。
|-
|[[デュスノミアー]]
|
|{{lang|el|Δυσνομία}}
|Dysnomiā
|女神
|不法の女神。
|-
|[[トリーアイ]]
|
|{{lang|el|Θριαι}}
|Thriai
|女神
|占いを司る三柱の[[ニュンペー]]。
|-
|[[トリートーン]]
|
|{{lang|el|Τρίτων}}
|Trītōn
|男神
|海の神。
|-
|[[ニーケー]]
|
|{{lang|el|Νίκη}}
|Nīkē
|女神
|勝利の女神。[[ステュクス]]の娘、[[アテーナー]]の随神。
|-
|[[ニュクス]]
|
|{{lang|el|Νύξ}}
|Nyx
|女神
|「夜」の神格化。
|-
|[[ネメシス]]
|
|{{lang|el|Νέμεσις}}
|Nemesis
|女神
|人間の傲慢([[ヒュブリス]])に対する神々の憤りの神格化。
|-
|[[ネーレウス (ギリシア神話の神)|ネーレウス]]
|
|{{lang|el|Νηρεύς}}
|Nēreus
|男神
|海の神。
|-
|[[パナケイア]]
|
|{{lang|el|Πανάκεια}}
|Panakeia
|女神
|癒しを司る女神。[[アスクレーピオス]]の娘。
|-
|[[ハルポクラテス|ハルポクラテース]]
|
|{{lang|el|Ἁρποκράτης}}
|Harpocratēs
|男神
|沈黙の神。[[エジプト神話]]の[[ホルス]]をギリシア化したもの。
|-
|[[ハルモニアー]]
|
|{{lang|el|Ἁρμονία}}
|Harmoniā
|女神
|調和の女神。
|-
|[[パーン (ギリシア神話)|パーン]]
|アイギパーン
|{{lang|el|Πάν}}
|Pān
|男神
|半獣の牧神。
|-
|[[パンタソス]]
|
|{{lang|el|Φαντασος}}
|Phantasos
|男神
|夢の神。
|-
|[[パンディーア]]
|
|{{lang|el|Πανδία}}
|Pandia
|女神
|[[ゼウス]]と[[セレーネー]]の娘。
|-
|[[ビアー]]
|
|{{lang|el|Βία}}
|Biā
|女神
|力、勇敢、暴力等の神格化。
|-
|[[ピーエリス]]
|
|{{lang|el|Πιερίς}}
|Pieris
|女神
|音楽と文芸の女神たち。[[ムーサ]]の別名ともされる。
|-
|[[ヒュギエイア]]
|
|{{lang|el|Ὑγίεια}}
|Hygieia
|女神
|健康、衛生を司る。[[アスクレーピオス]]の娘。
|-
|[[ヒュプノス]]
|
|{{lang|el|Ὕπνος}}
|Hypnos
|女神
|眠りの神。
|-
|[[ヒュペリーオーン]]
|ハイペリオン
|{{lang|el|Ὑπερίων}}
|Hyperīōn
|男神
|ティーターン。太陽神、光明神とされる。
|-
|[[ヒュメナイオス]]
|ヒュメーン
|{{lang|el|Ὑμέναιος}}
|Hymenaios
|男神
|結婚の祝祭の神。
|-
|[[ピリュラー]]
|
|{{lang|el|Φιλύρā}}
|Philyrā
|女神
|「菩提樹」の意味。[[ケイローン]]の母。
|-
|[[ピロテース]]
|
|{{lang|el|Φιλότης}}
|Philotēs
|女神
|愛欲の神格化。
|-
|[[プシューケー]]
|プシケ、サイキ
|{{lang|el|Ψυχή}}
|Psȳchē
|女神
|「心」「魂」の意味。元は人間であったが女神とされた。
|-
|[[プリアーポス]]
|
|{{lang|el|Πρίαπος}}
|Priāpos
|男神
|羊飼い、庭園、果樹園の守護神。
|-
|[[ブリトマルティス]]
|
|{{lang|el|Βριτόμαρτις}}
|Britomartis
|女神
|[[ミノア文明]]における山と狩猟の神。
|-
|[[プルートス]]
|
|{{lang|el|Πλοῦτος}}
|Ploūtos
|男神
|富、収穫の神。
|-
|[[プレーイオネー]]
|
|{{lang|el|Πληϊόνη}}
|Plēïonē
|女神
|[[プレイアデス]]の母。
|-
|[[プローテウス]]
|
|{{lang|el|Πρωτεύς}}
|Prōteus
|男神
|海の神。
|-
|[[プロメーテウス]]
|
|{{lang|el|Προμηθεύς}}
|Promētheús
|男神
|ティーターン。人間に火を与えた。
|-
|[[ヘカテー]]
|ヘカテイア
|{{lang|el|Ἑκάτη}}
|Hekátē
|女神
|冥界の女神。月を司るともされる。
|-
|[[ヘスペリス]]
|
|{{lang|el|Ἑσπερίς}}
|Hesperis
|女神
|黄昏の女神。
|-
|[[ヘスペロス]]
|
|{{lang|el|Ἓσπερος}}
|Hesperos
|男神
|宵の明星を司る。
|-
|[[ヘーベー]]
|
|{{lang|el|Ἥβη}}
|Hēbē
|女神
|「青春」の神格化。[[ヘーラー]]の娘で、[[ヘーラクレース]]の妻。
|-
|[[ペーメー]]
|
|{{lang|el|Φήμη}}
|Phēmē
|女神
|「噂」「名声」の神格化。
|-
|[[ヘーメラー]]
|
|{{lang|el|Ἡμέρα}}
|Hēmerā
|女神
|「昼」の神格化。
|-
|[[ヘーリオス]]
|
|{{lang|el|Ἥλιος}}
|Hēlios
|男神
|太陽の神。
|-
|[[ヘルマプロディートス]]
|
|{{lang|el|Ἑρμαφρόδιτος}}
|Hermaphrodītos
|両性
|[[ヘルメース]]と[[アプロディーテー]]の子で両性具有の神。
|-
|[[ポイベー]]
|
|{{lang|el|Φοίβη}}
|Phoibē
|女神
|ティーターン。光明神とされる。
|-
|[[ポースポロス]]
|ヘオースポロス
|{{lang|el|Φωσφόρος}}
|Phōsphoros
|男神
|暁の明星を司る。
|-
|[[ポタモイ]]
|
|{{lang|el|Ποταμοί}}
|Potamoi
|男神
|河の神々。
|-
|[[ポボス]]
|フォボス
|{{lang|el|Φόβος}}
|Phobos
|男神
|恐怖の神。
|-
|[[ホーラー]]
|複数:ホーライ
|{{lang|el|Ὥρα}}
|Hōra
|女神
|時間、季節、秩序を司る。三柱の姉妹とされるが名前は一定しない。
|-
|[[ポルキュース]]
|
|{{lang|el|Φόρκυς}}
|Phorkys
|男神
|[[ガイア]]と[[ポントス (ギリシア神話)|ポントス]]の子。
|-
|[[マイア]]
|
|{{lang|el|Μαῖα}}
|Maia
|女神
|[[ヘルメース]]の母。
|-
|[[ムネーモシュネー]]
|
|{{lang|el|Μνημοσύνη}}
|Mnēmosynē
|女神
|「記憶」の神格化。
|-
|[[メーティス]]
|
|{{lang|el|Μῆτις}}
|Mētis
|女神
|知性、知恵の女神。[[ゼウス]]の最初の妻。
|-
|[[モイラ (ギリシア神話)|モイラ]]
|複数:モイライ
|{{lang|el|Μοῖρα}}
|Moira
|女神
|運命を司る。[[クロートー]]、[[ラケシス]]、[[アトロポス]]の三柱とされる。
|-
|[[モーモス]]
|
|{{lang|el|Μῶμος}}
|Mōmos
|男神
|「非難」「皮肉」の神格化。
|-
|[[モルペウス]]
|モルフェウス、モルフェ
|{{lang|el|Μορφεύς}}
|Morpheus
|男神
|夢の神。
|-
|[[モロス (ギリシア神話)|モロス]]
|
|{{lang|el|Μόρος}}
|Moros
|男神
|死の運命を司る。
|-
|[[レアー]]
|レイアー
|{{lang|el|Ῥέα}}
|Rheā
|女神
|ティーターン。大地の女神。[[ゼウス]]ら兄弟の母。
|-
|[[レートー]]
|
|{{lang|el|Λητώ}}
|Lētō
|女神
|[[アポローン]]と[[アルテミス]]の母。
|}
== ニュンペー・その他の種族 ==
=== ニュンペー ===
{| class="wikitable sortable"
!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!概要
|-
|[[アルセイス]]
|複数:アルセイデス
|{{lang|el|Ἀλσηΐς}}
|Alseis
|森のニュンペー。
|-
|[[オーケアニス]]
|複数:オーケアニデス
|{{lang|el|Ὠκεανίς}}
|Ōkeanis
|海・泉・地下水の[[ニュンペー]]。[[オーケアノス]]の娘。
|-
|[[オレイアス]]
|複数:オレイアデス
|{{lang|el|Ορεας}}
|Oreas
|山のニュンペー。[[エーコー]]などが有名。
|-
|[[ドリュアス]]
|[[ハマドリュアス]]、ドライアド、ドリアード、複数:ドリュアデス
|{{lang|el|Δρυάς}}
|Dryas
|樹木のニュンペー。
|-
|[[ナーイアス]]
|複数:ナーイアデス
|{{lang|el|Ναιάς}}
|Nāïas
|泉・川のニュンペー。
|-
|[[ネーレーイス]]
|複数:ネーレーイデス
|{{lang|el|Νηρηΐς}}
|Nērēïs
|海のニュンペー。[[ネーレウス (ギリシア神話の神)|ネーレウス]]の娘。
|-
|[[ランパス]]
|複数:ランパデス
|{{lang|el|Λαμπάς}}
|Lampas
|冥界のニュンペー。
|}
=== その他の種族 ===
; [[ケンタウロス]]
: 半人半馬の種族。
* [[ケイローン]] - ケンタウロス族の賢者。[[ヘーラクレース]]や[[カストール]]に武術を教えた。
* [[ネッソス]] - ヘーラクレースの妻に手を出そうとしてヘーラクレースに殺害された。
* [[ポロス]] - ヘーラクレースが十二の功業の途中で出会い、彼を歓待した。
; その他の生物
* [[サテュロス]] - 半人半獣(下半身が山羊)の精霊。
** [[マルシュアース]] - アポローンと音楽で競い、敗北したサテュロス。
* [[シーレーノス]] - 半人半馬の種族。
* [[ヒッポカムポス]] - 上半身が馬、下半身が魚。[[ポセイドーン]]の馬車を引く海馬。
* [[ペーガソス]] - 翼をもつ馬。
== 人間 ==
{{see also|ギリシャ神話の英雄の系図|Category:ギリシア神話の人物}}
【 】内は、単純な長音の省略以外の別表記。
=== あ行 ===
; あ
* [[アイアコス]] - 冥界の裁判官の一人。
* [[小アイアース]] - ロクリスの民の王。[[トロイア戦争]]に参戦。
* [[大アイアース]] - [[サラミース島]]の王の子。トロイア戦争に参戦。[[ソポクレス]]の悲劇『[[アイアース (ソポクレス)|アイアース]]』の主人公。
* [[アイエーテース]] - [[コルキス]]の王。[[金羊毛]]の持ち主。
* [[アイオロス]] - [[テッサリア]]の王で[[アイオリス人]]の始祖。その孫も同名。
* [[アイゲウス]] - [[アテーナイ]]の王。[[テーセウス]]の父。[[エーゲ海]]の名前の由来。
* [[アイトーロス]] - アイトーリア地方の王。アイトーリアの名前の由来。
* [[アイネイアース]] - 【アイネアース、[[ラテン語|羅]]:アエネーアース】[[イリオス|トロイア]]王家の子孫、[[古代ローマ|ローマ]]建国の祖。[[ウェルギリウス]]の叙事詩『[[アエネーイス]]』の主人公。
* [[アウゲイアース]] - [[エーリス]]地方の王。[[アルゴナウタイ]]の一人。[[ヘーラクレース]]の十二の功業の5番目「アウゲイアースの家畜小屋掃除」でも言及される。
* [[アガメムノーン]] - [[ミュケーナイ]]王。トロイア戦争ではギリシア勢の総大将。悲劇『[[アガメムノーン (アイスキュロス)|アガメムノーン]]』の主人公。
* [[アキレウス]] - [[トロイア戦争]]に参戦。[[ホメーロス]]の叙事詩『[[イーリアス]]』の主人公。[[アキレス腱]]の語源。
* [[アクタイオーン]] - 女神[[アルテミス]]の沐浴を目撃して怒りを買い、鹿に変えられて自らの猟犬に殺害された。
* [[アステュアナクス]] - [[ヘクトール]]と[[アンドロマケー]]の子。トロイア戦争の際、幼子であったが、ギリシア勢により殺害された。
* [[アタランテー]] - アルゴナウタイの一人、優れた女狩人。[[カリュドーンの猪]]狩りでも言及される。
* [[アドーニス]] - 女神[[アプロディーテー]]と[[ペルセポネー]]に愛された美少年。死後、彼の流した血から[[アネモネ]]の花が咲いた。
* [[アドラーストス]] - [[アルゴス (ギリシャ)|アルゴス]]王。[[テーバイ攻めの七将]]の一人。
* [[アトレウス]] - ミュケーナイ王。アガメムノーンと[[メネラーオス]]の父。
* [[アムピアラーオス]] - 予言者。テーバイ攻めの七将の一人。アルゴナウタイにも加わったとされる。
* [[アムピトリュオーン]] - [[イーピクレース]]の父、[[ヘーラクレース]]にとっては義理の父。
* [[アラクネー]] - 機織りの技術が女神[[アテーナー]]を凌ぐと豪語したため怒りを買い、[[クモ]]に変えられた。
* [[アリアドネー]] - [[クレータ]]王女。[[テーセウス]]が迷宮から脱出する手助けをした。後に[[ディオニューソス]]の妻となる。
* [[アンティゴネー]] - [[テーバイ]]王[[オイディプース]]の娘。七将によるテーバイ攻めの際、兄の[[ポリュネイケース]]を埋葬しようとしたため、[[クレオーン]]により死刑とされる。ソポクレスの悲劇『[[アンティゴネ (ソポクレス)|アンティゴネー]]』および[[エウリピデス]]の悲劇『[[フェニキアの女たち]]』の主人公。
* [[アンドロメダー]] - [[エチオピア|アイティオピアー]]の王女。母の[[カッシオペイア]]が自身の美貌を女神にも勝ると豪語したために怒りを買い、怪物の生贄とされるところを[[ペルセウス]]に救われた。[[アンドロメダ座]]の由来。
; い
* [[イアーソーン]] - [[アルゴナウタイ]]の主導者。
* [[イーオー]] - [[ゼウス]]に愛されたが、[[ヘーラー]]に見つかりそうになった際に牝牛にされた。[[木星]]の[[衛星]]、[[イオ (衛星)|イオ]]の由来。
* [[イーカロス]] - 蝋で固めた鳥の羽により飛行できるようになったが、父[[ダイダロス]]の忠告を無視して太陽に近づきすぎたために落下死した。
* [[イオカステー]] - テーバイ王[[ラーイオス]]の妻。後に、息子と知らずに[[オイディプース]]と結婚し、4人の子供をもうける。
* [[イーピゲネイア]] - 【イーフィゲネイア】[[トロイア戦争]]の際、[[アルテミス]]の命で父[[アガメムノーン]]によって犠牲に捧げられる。エウリピデスの悲劇『[[アウリスのイーピゲネイア]]』『[[タウリケのイーピゲネイア]]』の題材。
; え
* [[エウローペー]] - 彼女を愛したゼウスは牡牛に姿を変えて誘惑し、近づいてきた彼女を乗せてクレータ島へ誘拐した。[[ヨーロッパ]]の語源。木星の衛星[[エウロパ (衛星)|エウロパ]]の由来。また、この時のゼウスは[[おうし座]]の由来。
* [[エーレクトラー]] - [[ミュケーナイ]]王[[アガメムノーン]]の娘。父を殺した母[[クリュタイムネーストラー]]とその情夫[[アイギストス]]を殺害する計画を、弟[[オレステース]]と共に立てた。心理学用語「[[エレクトラコンプレックス]]」の由来。
* [[エテオクレース]] - テーバイ王[[オイディプース]]の息子。兄弟の[[ポリュネイケース]]を国から追放し、王座を独占しようとしたが、[[テーバイ攻めの七将|七将によるテーバイ攻め]]の際にポリュネイケースと相打ちになり戦死した。
* [[エンデュミオーン]] - エーリス地方の王。女神[[セレーネー]]との悲恋で知られる。
; お
* [[オイディプース]] - 【[[ドイツ語|独]]:エディプス】[[テーバイ]]王。父と知らずに父を殺し、母と知らずに母と結婚した。ソポクレスの悲劇『[[オイディプス王]]』の主人公。心理学用語「[[エディプスコンプレックス]]」の由来。
* [[オデュッセウス]] - [[イタケー]]の王。[[トロイア戦争]]に参戦した。[[トロイアの木馬]]の考案者。ホメロスの叙事詩『[[オデュッセイア]]』の主人公。
* [[オーリーオーン]] - 【[[英語|英]]:オライオン】[[ポセイドーン]]の子とされる狩人。女神[[エーオース]]や[[アルテミス]]との恋愛で知られる。[[オリオン座]]の由来。
* [[オルペウス]] - 【オルフェウス、[[フランス語|仏]]:オルフェ】[[アルゴナウタイ]]の一人。[[オルペウス教]]の祖とされる吟遊詩人。妻[[エウリュディケー]]を取り戻すために冥界へ下り、生還した。彼の竪琴は[[こと座]]の由来。
* [[オレステース]] - [[ミュケーナイ]]王[[アガメムノーン]]の息子。父を殺した母[[クリュタイムネーストラー]]とその情夫[[アイギストス]]を殺害した事で[[ネメシス|復讐の女神]]に追われ、その後アテーナイの[[アレオパゴス会議|アレオパゴスの丘]]で神々の裁判を受ける。
=== か行===
* [[カストール]] - [[ディオスクーロイ]]の一人。弟とともに[[ふたご座]]、およびその恒星[[カストル (恒星)|カストル]]の由来となった。
* [[カッサンドラー]] - [[イリオス|トロイア]]の王女で予言者。アポローンに愛されたが彼の愛を拒絶したために彼女の予言を誰も信じないよう呪われる。[[カサンドラ症候群]]の由来。
* [[カッシオペイア]] - 【カッシオペー】[[エチオピア|アイティオピアー]]の王妃。自身の美しさを鼻にかけて神々の怒りを買い、娘を怪物([[ケートス]])の生贄にされる。[[カシオペヤ座]]の由来。
* [[カドモス]] - [[テーバイ]]の祖。
* [[ガニュメーデース]] - 【[[ラテン語|羅]]:ガニメデ】[[ゼウス]]に愛された美少年。オリュンポスの神々の給仕を務める。木星の衛星[[ガニメデ (衛星)|ガニメデ]]および[[みずがめ座]]の由来。また、彼を誘拐した際のゼウスは[[わし座]]の由来。
* [[カパネウス]] - [[テーバイ攻めの七将]]の一人。ゼウスの雷さえも自分を止められないと豪語して怒りを買い、雷に打たれて死亡した。
* [[カリストー]] - 処女神[[アルテミス]]の従者であったが、ゼウスに見初められ、交わって妊娠したことでアルテミスの怒りを買い、熊に変えられる。[[おおぐま座]]の由来。
* [[クリュタイムネーストラー]] - [[ミュケーナイ]]の王妃。夫[[アガメムノーン]]が娘の[[イーピゲネイア]]を犠牲に捧げたことを恨み、[[トロイア戦争]]から帰国したところを殺害する。それを恨まれて後に自身の子らに殺害される。
=== さ行 ===
* [[サルペードーン]] - [[リュキア]]の王。[[トロイア戦争]]にトロイア勢として参戦した。
* [[シーシュポス]] - 【シジフォス】[[コリントス]]の創建者。[[イストミア大祭]]の創始者。神々を欺いた罰で大岩を山の上まで永遠に持ち上げる罰を受ける。
* [[シノーペー]] - ゼウスに愛され、[[スィノプ|シノーペー]]の地に攫われた。木星の衛星[[シノーペ (衛星)|シノーペ]]の由来。
* [[スキュラ]] - 魔女[[キルケー]]によって怪物の姿に変えられた。
* [[セメレー]] - [[テーバイ]]の王女。[[ゼウス]]に愛され[[ディオニューソス]]を妊娠するが、[[ヘーラー]]の企みによって死亡する。
=== た行 ===
* [[ダイダロス]] - 大工、発明家。[[ミーノータウロス]]を幽閉するための[[迷宮]]などを作った。
* [[ダナエー]] - [[アルゴス (ギリシャ)|アルゴス]]の王女。ゼウスに愛されて[[ペルセウス]]を生んだ。
* [[タンタロス]] - 人間でありながらゼウスの親友であったが、神々を欺こうとして怒りを買い罰を受ける。
* [[ディオメーデース]] - [[ティーリュンス]]の領主。[[トロイア戦争]]に参戦し、女神である[[アプロディーテー]]にも傷を負わせた。
* [[デーイポボス]] - [[イリオス|トロイア]]の王子。トロイア戦争で[[パリス]]が死亡した際に[[ヘレネー]]を妻とする。
* [[テイレシアース]] - [[テーバイ]]の予言者。ソポクレスの悲劇『[[オイディプス王]]』やエウリピデスの悲劇『[[バッカイ]]』に登場する。
* [[デウカリオーン]] - [[プロメーテウス]]の子。デウカリオーンの大洪水で知られる。
* [[テーセウス]] - [[アテーナイ]]の王。[[ポセイドーン]]の子ともされる。
* [[テューデウス]] - [[テーバイ攻めの七将]]の一人。
* [[テラモーン]] - [[サラミース]]の王。[[アルゴナウタイ]]の一人。[[ヘーラクレース]]のトロイア攻略にも参加した。
* [[テーレマコス]] - [[オデュッセウス]]の子。トロイア戦争から帰国しない父を探して旅に出る。
=== な行 ===
* [[ナウシカアー]] - スケリア島の王女。ホメロスの叙事詩『[[オデュッセイア]]』に登場する。
* [[ナルキッソス]] - 水に映る自身の姿に恋をした美少年。[[ナルシスト]]の語源。
* [[ニオベー]]
* [[ネオプトレモス]] - [[アキレウス]]の子。父の死後[[トロイア戦争]]に参戦した。
* [[ネストール]] - [[ピュロス]]の王。[[トロイア戦争]]では戦士として戦うことはなかったが、指揮官として参戦した。
* [[ネーレウス (ギリシア神話の英雄)|ネーレウス]]
=== は行 ===
* [[パーシパエー]] - [[クレータ]]の王妃。神の怒りを買って牡牛に恋をし、[[ミーノータウロス]]を生んだ。
* [[パトロクロス]] - [[アキレウス]]の親友。[[トロイア戦争]]に参戦し、[[ヘクトール]]に討たれた。
* [[パリス]] - 【アレクサンドロス】[[イリオス|トロイア]]の王子。[[パリスの審判]]がトロイア戦争の発端となった。
* [[パンドーラー]] - 人類最初の女性とされる。
* [[ヒュアキントス]] - [[アポローン]]に愛された美少年。死後に[[ヒヤシンス]]になった。
* [[ピュグマリオーン]] - 【ピグマリオーン】[[キプロス島]]の王。心理学用語「[[ピグマリオン効果]]」、「[[ピグマリオンコンプレックス]]」の由来。
* [[ピロクテーテース]] - [[アルゴナウタイ]]の一人。トロイア戦争にも参戦した。
* [[プリアモス]] - 【ポダルケース】トロイア最後の王。
* [[ヘカベー]] - プリアモスの妃。エウリピデスの悲劇『[[ヘカベ (エウリピデス)|ヘカベー]]』の主人公。
* [[ヘクトール]] - トロイア王子。トロイア戦争の際の、トロイア勢の総大将。[[アキレウス]]に討たれた。
* [[ペーネロペー]] - 【ペーネロペイア】[[オデュッセウス]]の貞淑な妻。
* [[ヘーラクレース]] - ギリシア神話最大の英雄。ゼウスの子。[[ヘルクレス座]]の由来。
* [[ペルセウス]] - ゼウスの子。[[ゴルゴーン]]退治や[[アンドロメダー]]救出で知られる。
* [[ペーレウス]] - [[アルゴナウタイ]]の一人。[[アキレウス]]の父。
* [[ヘレネー]] - ギリシア一の美女。トロイア戦争の発端となる。エウリピデスの悲劇『[[ヘレネ (エウリピデス)|ヘレネー]]』の主人公。
* [[ベレロポーン]] - 【ベレロポンテース】[[コリントス]]の英雄。[[キマイラ]]退治などで知られる。
* [[ペロプス]] - [[ペロポネソス半島]]の名前の由来。
* [[ペンテシレイア]] - [[アマゾーン]]の女王。トロイア戦争ではトロイア勢として参加し、アキレウスに討たれた。
* [[ポリュデウケース]] - 【[[ラテン語|羅]]:ポルックス】[[ディオスクーロイ]]の一人。兄とともに[[ふたご座]]およびその恒星[[ポルックス (恒星)|カストル]]の由来となる。
* [[ポリュネイケース]] - [[オイディプース]]の子。[[テーバイ攻めの七将]]の一人で、[[エテオクレース]]と相討ちとなり戦死した。
=== ま行 ===
* [[ミダース]] - [[プリュギア]]王。触れるものがすべて金に変わる能力で知られる。<!--+移動必要--><!--自己言及-->
* [[ミーノース]] - [[クレータ]]の王。[[クノッソス]]の都を創建したとされる。
* [[メーデイア]] - 【メディア】[[コルキス]]の王女。魔術に長け、[[アルゴナウタイ]]の冒険を成功に導いた。エウリピデスの悲劇『[[メディア (ギリシア悲劇)|メーデイア]]』の主人公。
* [[メネラーオス]] - [[スパルタ]]の王。[[トロイア戦争]]の総大将[[アガメムノーン]]の弟で、[[ヘレネー]]の夫。
* [[メレアグロス]] - アルゴナウタイの一人。[[カリュドーンの猪]]狩りの中心人物。
=== ら行 ===
* [[ラーイオス]] - [[テーバイ]]王。自分の子供に殺害されるという予言を恐れて子を捨てるが、神託が実現して[[オイディプース]]に殺害される。
* [[ラーオメドーン]] - [[イリオス|トロイア]]の城壁の創建者。
* [[レーダー (ギリシア神話)|レーダー]] - [[スパルタ]]王[[テュンダレオース]]の妻。[[カストール]]、[[ポリュデウケース]]、[[ヘレネー]]、[[クリュタイムネーストラー]]の母。
== 異形の神・怪物 ==
【 】内は、単純な長音の省略以外の別表記。
; 巨人
: 総称
:* [[アローアダイ]] - 怪力の巨人。オリュンポスの神々に挑んで滅ぼされる。
:* [[ギガース]] - 【複数:ギガンテス】[[ガイア]]の子ら。[[ギガントマキアー]]で打倒される。
:* [[キュクロープス]] - 英語ではサイクロプス。単眼の巨人。
:** [[ポリュペーモス]] - ホメロスの叙事詩『[[オデュッセイア]]』に登場するキュクロープス。
:* [[ヘカトンケイル]] - 【複数:ヘカトンケイレス】50の頭と100の腕を持つ巨人。
:* [[ライストリューゴーン族]] - ホメロスの叙事『オデュッセイア』に登場する人食い種族。
: 個人名
:* [[アトラース]] - 世界の西の果てで天空を背負う。
:* [[アルゴス]] - 100の目を持つ巨人。
:* [[ゲーリュオーン]] - 三頭、または三頭三体の怪物。ヘーラクレースと戦い、敗れて殺害された。
:* [[テューポーン]] - ゼウスに比肩する強さを持つ巨人。
; その他
* [[エキドナ]] - 上半身は美女、下半身は蛇、背には翼がある。多くの怪物を生んだ。
* [[オルトロス]] - 双頭の犬。[[ゲーリュオーン]]の牛の番犬。
* [[キマイラ]] - 【[[英語|英]]:キメラ】[[ライオン]]の頭、[[ヤギ|山羊]]の胴、[[毒蛇]]の尻尾を持つ。
* [[グライアイ]] - 3姉妹の老婆で、1つしかない歯と目を三人で共有している。
* [[ケートス]] - 犬の頭に魚の下半身を持つ巨大な海獣。[[ペルセウス]]に退治された。
* [[ケルベロス]] - 3つの頭を持つ犬。冥界の番犬。
* [[ゴルゴーン]] - [[ステンノー]]、[[エウリュアレー]]、[[メドゥーサ]]の3姉妹。
* [[スキュラ]] - 上半身は美しい女性、下半身は魚、腰からは6つの犬の首と12本の犬の足が生えている。
* [[スピンクス]] - 【スフィンクス】獅子の身体、美しい女性の上半身に翼をもつ。
* [[セイレーン]] - 【[[フランス語|仏]]:シレーヌ】上半身が人間の女性、下半身が鳥、あるいは魚。美しい歌声で船乗りを惑わす。
* [[ネメアの獅子]] - 人や家畜を襲ったライオン。[[ヘーラクレース]]により退治された。
* [[ハルピュイア]] - 【[[英語|英]]:ハーピー】胸から上が人間の女性、翼と下半身が鳥。
* [[ヒュドラー]] - 【ヒドラ】9、あるいは100の首をもつ大蛇。[[ヘーラクレース]]により退治された。[[うみへび座]]の由来。
* [[ミーノータウロス]] - 牛頭人身の怪物。[[テーセウス]]に退治された。
* [[ラードーン]] - [[ヘスペリデス]]の園で黄金の林檎を守っていた、100の頭を持つ竜。ヘーラクレースに退治された。
* [[ラミアー]] - 体の一部が蛇の女性。もとは人間であった。
== 集団名・種族名 ==
他の節に記載のものは除く。
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!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!概要
|-
|[[アルゴナウタイ]]
|
|{{lang|el|Ἀργοναῦται}}
|Argonautai
|[[アルゴー船]]で航海をした英雄たちの総称。
|-
|[[オリュンポス十二神]]
|
|{{lang|el|Δωδεκάθεον}}
|Dōdekatheon
|ギリシア神話の中心となる神々。[[ゼウス]]など。
|-
|[[ティーターン]]
|[[英語|英]]:タイタン
|{{lang|el|Τιτάν}}
|Tītān
|[[オリュンポス十二神]]に先行する神々。[[クロノス]]など。
|}
== 地名 ==
* [[アテーナイ]]
* [[イーリオス]]【イーリオン、トローイア、トロイアー、トロイ、トロヤ】
* [[エーリュシオン]]【エリシオン】
* [[オリンポス山|オリュンポス山]]【オリンポス山】
* [[クレタ島|クレータ]]【クレーテー】
* [[カウカソス]]【コーカサス】
* [[コリントス]]【コリント】
* [[スパルタ]]【スパルテー】
* [[テーバイ]]【テーベ】
* [[ピュロス]]
* [[プティーア]]<!--+移動必要--><!--自己言及-->
* [[プリュギア]]
* [[ローマ]]
== 物品 ==
=== 道具・装身具 ===
{| class="wikitable sortable"
!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!概要
|-
|[[アイギス]]
|[[ラテン語|羅]]:アエジス、[[英語|英]]:イージス
|{{lang|el|Αιγίς}}
|Aigis
|アテーナーの武具。
|-
|[[ケーリュケイオン]]
|[[ラテン語|羅]]:カドゥケウス
|{{lang|el|κηρύκειον}}
|kērukeion
|ヘルメースの杖。
|-
|[[タラリア]]
|
|<!-- [[タラリア]]によるとラテン語に直接対応するギリシア語表記なし -->
|tālāria
|ヘルメースの有翼のサンダル。
|-
|[[テュルソス]]
|
|{{lang|el|θύρσος}}
|thyrsos
|ディオニューソスの杖。
|-
|[[ハルパー|ハルペー]]
|ハルパー ([[:en:wikt:ἅρπα|{{lang|el|ἅρπα}}]])
|{{lang|el|ἅρπη}}
|hárpē
|鎌状の剣。[[クロノス]]が[[ウーラノス]]を去勢する際や、[[ペルセウス]]が[[メドゥーサ]]の首を刈る際などに使用された。
|}
=== その他の物品 ===
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!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!概要
|-
|[[アダマント|アダマース]]
|[[英語|英]]:アダマント
|{{lang|el|ἀδάμας}}
|adámās
|[[ダイヤモンド]]あるいは[[鋼]]のような硬い物質。
|-
|[[アムブロシアー]]
|
|{{lang|el|ἀμβροσία}}
|ambrosia
|神々の食物。
|-
|[[アルゴー船]]
|
|{{lang|el|Ἀργώ}}
|Argo
|[[イアーソーン]]の冒険のために建造された巨大な船。
|-
|[[コルヌコピア|アマルテイアの角]]
|[[ラテン語|羅]]:コルヌー・コーピアエ、[[英語|英]]:コルヌコピア
|
|cornū cōpiae
|山羊[[アマルテイア]]の角。豊穣の象徴とされる。
|-
|[[トロイアの木馬]]
|
|{{lang|el|δούρειος ἵππος m}}
|doúreios híppos
|トロイア陥落の決定打となった装置。
|-
|[[ネクタール]]
|
|{{lang|el|νέκταρ}}
|néktar
|神々の飲物。
|-
|[[不和の林檎]]
|
|{{lang|el|μῆλον τῆς Ἔριδος}}
|mêlon tês Éridos
|[[トロイア戦争]]の発端となった林檎。「最も美しい女神へ」と書かれている。
|}
== 出来事 ==
{| class="wikitable sortable"
!名前
!別表記
!ギリシア語
!ラテン文字転写
!概要
|-
|[[ギガントマキアー]]
|
|{{lang|el|Γιγαντομαχία}}
|Gigantomakhia
|[[オリュンポス十二神|オリュンポスの神々]]と[[ギガース]]たちとの戦い。[[ティーターノマキアー]]の後に起きたとされる。
|-
|[[ティーターノマキアー]]
|
|{{lang|el|Τιτανομαχία}}
|Tītānomakhiā
|[[ゼウス]]率いる[[オリュンポス十二神|オリュンポスの神々]]と[[クロノス]]率いる[[ティーターン]]たちとの戦い。
|}
== 関連項目 ==
* [[オリュンポス十二神]]
* [[ギリシア神話の神々の系譜]]
* [[ギリシャ神話の英雄の系図]]
{{デフォルトソート:きりしあしんわのこゆうめいしいちらん}}
[[Category:ギリシア神話|*こゆうめいし]]
[[Category:神話・伝説の人物]]
[[Category:架空の人物の一覧]]
[[Category:宗教関連の一覧]]
[[Category:ヨーロッパ関連の一覧]] | null | 2023-04-05T09:06:14Z | false | false | false | [
"Template:出典の明記",
"Template:See also",
"Template:Lang"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%A5%9E%E8%A9%B1%E3%81%AE%E5%9B%BA%E6%9C%89%E5%90%8D%E8%A9%9E%E4%B8%80%E8%A6%A7 |
7,427 | 数学的構造 | 数学における構造(こうぞう、mathematical structure)とは、ブルバキによって全数学を統一的に少数の概念によって記述するために導入された概念である。集合に、あるいは圏の対象に構造を決めることで、その構造に対する準同型が構造を保つ写像として定義される。数学の扱う対象は、基本的には全て構造として表すことができる。
数学史において、現代的および革新的な新しい概念であるはずのものが、しかしその痕跡と言えるものが遡って古代においてすでに認められるというようなことはよくあることである。そのような事例として、17世紀にライプニッツとニュートンによって考え出された微分法および積分法は、素朴で未発達な形ではエウドクソスやアルキメデスが既に用いていた。このことは数学的構造の概念の発明にしてもそうであり、利用は最初の明示的な定式化に先行するのである。従って、数学史において構造の概念について定義して言及した最初のものを特定するのは容易であるが、そのような説明なしに用いた最初を特定するのは困難である。
合同算術において構造の概念はガウス Disquisitiones Arithmeticae (1801) の手法に実際に現れる。ガウスはユークリッド除法の剰余について、構造的な観点から研究を行った。これは群論の起源のひとつでもある。
ガロワ理論において、ガロワの対称性を用いた手法、ジョルダンの群論、クロネッカーの体論などの手法は本質的に構造的である。
線型代数学において構造の概念は二段階に現れる。ユークリッド幾何学における公理的手法は最終的に厳密な形で確立された(ヒルベルトの公理(英語版)参照)。その後、ベクトル空間の定式化にはグラスマンやペアノが取り組み、最終的にバナッハとブルバキによって形となった。
多様体の構造の概念はベルンハルト・リーマンの手法において現れた。
集合論的な定義: 構造種 (species of structure) とは、以下の四つからなる:
与えれられた基底(主および副基のすべて)から作られる、ある階梯の中の一つの集合 M を考えるとき、M の元に関する具体的な性質によって M の部分集合が定まるが、いくつか定められた性質に対するそのような部分集合たちの交わりを T とする。このとき、一つの元 τ ∈ T は与えられた基底集合に種 T の構造を定めるといい、τ ∈ T からの帰結として得られる任意の定理は種 T の構造の理論に属するという。
例えば、順序構造の主基集合とは、その元の対の間に順序関係の定義される(あるいはしようとする)集合をいう。位相構造ならば、位相を入れようとするあるいは入った集合である。ベクトル空間の主基集合はベクトルからなる集合であり、副基集合はある定まった体である。複素多様体は、多様体の点集合を主基集合とし、複素数体を副基集合に持つ。
同一の種 T に属する二つの構造 τ, υ ∈ T に対し、一方の構造 υ が T に公理を追加して与えられる部分集合 U に属するならば、U の構造 υ は T の構造 τ より豊か (richer) であるという(「強い」ともいう)。
例えば、全順序集合の構造は半順序集合の構造より豊かである。
同一の階梯の二つの部分集合をとり、そのそれぞれに属する種 T, T' が具体的に述べられた公理によって定義され、かつそれらの間の全単射 T ↔ T' が具体的に表されているものとする。このとき、対応する構造 (T ∋) τ ↔ τ' (∈ T') は、与えられた基底の上に同一の構造を定めるものと見なされ、種 T, T' のそれぞれを定義する公理系は互いに同等であるという。
例えば、位相構造が多くの同等な公理系により与えられ得ることを想起せよ。
— ブルバキ
例えば、実数は上の三つの構造をすべて持っている。すなわち、実数は全順序集合であり、体であり、また距離空間である。
— ブルバキ
例えば解析幾何学において座標を使った解法と 位置ベクトルを使った解法を比べてみると、後者のほうが同じ内容を表現するにも重複した記述を省略できる、しかし問題を解く手段であることには両者とも変りはない。構造の概念も表現や思考の節約に役立つ。
ガロア理論においては、単なる計算の洗練を超えた構造の概念により方程式論の難題であった5次方程式の解法のみならず幾何学の難問であった角の三等分問題や円積問題の解決にもつながった。
ブルバキの言う「数学者に豊かなインスピレーションを与える知識」とは異なった構造の類似において一方で成り立つ理論が他方でも成り立つのではないかという予想を構造の知見が容易にしていることを意味する。例えば、整数環と有限体上の1変数多項式環との間の構造の類似においてアンドレ・ヴェイユにより、リーマン予想に類似の問題が解かれた。リーマン予想に関してあえて大雑把にいえば、現在でもこの方向で研究が進められている。
しかし、或る構造の概念の適用が問題を解くにあたって見当違いのこともある。ポアンカレ予想はそれまで多くの研究者にとって役立つと思われていた位相幾何学で扱われる 位相多様体の概念によってでなく、より強い理論である―可微分多様体を扱う微分幾何学の範疇の問題として解かれた。 | [
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"text": "数学史において、現代的および革新的な新しい概念であるはずのものが、しかしその痕跡と言えるものが遡って古代においてすでに認められるというようなことはよくあることである。そのような事例として、17世紀にライプニッツとニュートンによって考え出された微分法および積分法は、素朴で未発達な形ではエウドクソスやアルキメデスが既に用いていた。このことは数学的構造の概念の発明にしてもそうであり、利用は最初の明示的な定式化に先行するのである。従って、数学史において構造の概念について定義して言及した最初のものを特定するのは容易であるが、そのような説明なしに用いた最初を特定するのは困難である。",
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"text": "合同算術において構造の概念はガウス Disquisitiones Arithmeticae (1801) の手法に実際に現れる。ガウスはユークリッド除法の剰余について、構造的な観点から研究を行った。これは群論の起源のひとつでもある。",
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"text": "ガロワ理論において、ガロワの対称性を用いた手法、ジョルダンの群論、クロネッカーの体論などの手法は本質的に構造的である。",
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"text": "線型代数学において構造の概念は二段階に現れる。ユークリッド幾何学における公理的手法は最終的に厳密な形で確立された(ヒルベルトの公理(英語版)参照)。その後、ベクトル空間の定式化にはグラスマンやペアノが取り組み、最終的にバナッハとブルバキによって形となった。",
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"text": "例えば、順序構造の主基集合とは、その元の対の間に順序関係の定義される(あるいはしようとする)集合をいう。位相構造ならば、位相を入れようとするあるいは入った集合である。ベクトル空間の主基集合はベクトルからなる集合であり、副基集合はある定まった体である。複素多様体は、多様体の点集合を主基集合とし、複素数体を副基集合に持つ。",
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"text": "同一の階梯の二つの部分集合をとり、そのそれぞれに属する種 T, T' が具体的に述べられた公理によって定義され、かつそれらの間の全単射 T ↔ T' が具体的に表されているものとする。このとき、対応する構造 (T ∋) τ ↔ τ' (∈ T') は、与えられた基底の上に同一の構造を定めるものと見なされ、種 T, T' のそれぞれを定義する公理系は互いに同等であるという。",
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"text": "例えば、位相構造が多くの同等な公理系により与えられ得ることを想起せよ。",
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"text": "例えば、実数は上の三つの構造をすべて持っている。すなわち、実数は全順序集合であり、体であり、また距離空間である。",
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"text": "例えば解析幾何学において座標を使った解法と 位置ベクトルを使った解法を比べてみると、後者のほうが同じ内容を表現するにも重複した記述を省略できる、しかし問題を解く手段であることには両者とも変りはない。構造の概念も表現や思考の節約に役立つ。",
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"text": "ガロア理論においては、単なる計算の洗練を超えた構造の概念により方程式論の難題であった5次方程式の解法のみならず幾何学の難問であった角の三等分問題や円積問題の解決にもつながった。",
"title": "意義または概念の有用性"
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"text": "ブルバキの言う「数学者に豊かなインスピレーションを与える知識」とは異なった構造の類似において一方で成り立つ理論が他方でも成り立つのではないかという予想を構造の知見が容易にしていることを意味する。例えば、整数環と有限体上の1変数多項式環との間の構造の類似においてアンドレ・ヴェイユにより、リーマン予想に類似の問題が解かれた。リーマン予想に関してあえて大雑把にいえば、現在でもこの方向で研究が進められている。",
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"text": "しかし、或る構造の概念の適用が問題を解くにあたって見当違いのこともある。ポアンカレ予想はそれまで多くの研究者にとって役立つと思われていた位相幾何学で扱われる 位相多様体の概念によってでなく、より強い理論である―可微分多様体を扱う微分幾何学の範疇の問題として解かれた。",
"title": "意義または概念の有用性"
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] | 数学における構造とは、ブルバキによって全数学を統一的に少数の概念によって記述するために導入された概念である。集合に、あるいは圏の対象に構造を決めることで、その構造に対する準同型が構造を保つ写像として定義される。数学の扱う対象は、基本的には全て構造として表すことができる。 | [[数学]]における'''構造'''(こうぞう、{{lang|en|mathematical ''structure''}})とは、[[ニコラ・ブルバキ|ブルバキ]]によって全数学を統一的に少数の概念によって記述するために導入された概念である。集合に、あるいは[[圏論|圏]]の対象に構造を決めることで、その構造に対する[[準同型]]が構造を保つ[[写像]]として定義される。数学の扱う対象は、基本的には全て構造として表すことができる。
== 構造における歴史 ==
=== ブルバキ以前 ===
[[数学史]]において、現代的および革新的な新しい概念であるはずのものが、しかしその痕跡と言えるものが遡って[[古代]]においてすでに認められるというようなことはよくあることである。そのような事例として、[[17世紀]]に[[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]と[[アイザック・ニュートン|ニュートン]]によって考え出された[[微分法]]および[[積分法]]は、素朴で未発達な形では[[エウドクソス]]や[[アルキメデス]]が既に用いていた。このことは数学的構造の概念の発明にしてもそうであり、利用は最初の明示的な定式化に先行するのである。従って、数学史において構造の概念について定義して言及した最初のものを特定するのは容易であるが、そのような説明なしに用いた最初を特定するのは困難である。
[[合同算術]]において構造の概念は[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]] ''[[Disquisitiones Arithmeticae]]'' (1801) の手法に実際に現れる。ガウスは[[ユークリッド除法]]の剰余について、構造的な観点から研究を行った。これは[[群論]]の起源のひとつでもある。
[[ガロワ理論]]において、[[エヴァリスト・ガロワ|ガロワ]]の対称性を用いた手法、[[カミーユ・ジョルダン|ジョルダン]]の群論、[[レオポルト・クロネッカー|クロネッカー]]の[[体論]]などの手法は本質的に構造的である。
[[線型代数学]]において構造の概念は二段階に現れる。[[ユークリッド幾何学]]における公理的手法は最終的に厳密な形で確立された({{仮リンク|ヒルベルトの公理|en|Hilbert's axioms}}参照)。その後、[[ベクトル空間]]の定式化には[[ヘルマン・グラスマン|グラスマン]]や[[ジュゼッペ・ペアノ|ペアノ]]が取り組み、最終的に[[ステファン・バナフ|バナッハ]]と[[ニコラ・ブルバキ|ブルバキ]]によって形となった。
[[多様体]]の構造の概念は[[ベルンハルト・リーマン]]の手法において現れた。
<!-- ブルバキ以降? -->
== 定義 ==
{{seealso|普遍代数学|型理論}}
=== 構造の種 ===
集合論的な定義{{sfn|ブルバキ|1969|loc=4章 構造}}: 構造種 (species of structure) とは、以下の四つからなる:
; 主基集合 (principal base set) または台集合 (underlying set)
: (何の構造も持たない) 単なる「はだか」の集合。複数あってもよいが基本的には一つ{{sfn|Suppes|1994|url={{google books|RFZLxAoWPOcC|page=155|text=principal|plainurl=yes}}|page=155}}。
; 副基集合 (auxiliary base set)
: (それ自身がすでに構造を持った) 補助的な集合。複数あってもよいし、無くてもよい{{sfn|Suppes|1994|url={{google books|RFZLxAoWPOcC|page=155|text=auxiliary|plainurl=yes}}|page=155}}。
; 代表的特性記述 (predicate)
: 「主基集合と副基集合から、[[直積集合|直積]]と[[べき集合]]をとることを繰り返して得られる集合(階梯{{sfn|ブルバキ|1968|loc=§8.1|p=49}}と呼ばれる)にある集合('''構造'''と呼ばれる)が含まれる」ということを表す[[論理式 (数学)|論理式]]。複数あってもよい。
; [[公理|公理系]]
: 構造が満たす[[論理式 (数学)|論理式]]。ただし''移行可能''であるという条件が付く。この条件は、準同型などを定義する際に必要になる。
与えれられた基底(主および副基のすべて)から作られる、ある階梯の中の一つの集合 {{mvar|M}} を考えるとき、{{mvar|M}} の元に関する具体的な性質によって {{mvar|M}} の部分集合が定まるが、いくつか定められた性質に対するそのような部分集合たちの[[交わり (集合論)|交わり]]を {{mvar|T}} とする。このとき、一つの元 {{math|''τ'' ∈ ''T''}} は与えられた基底集合に'''種 {{mvar|T}} の構造を定める'''といい、{{math|''τ'' ∈ ''T''}} からの帰結として得られる任意の定理は'''種 {{mvar|T}} の構造の理論に属する'''という{{sfn|ブルバキ|1968|loc=§8.2|p=49}}。
例えば、[[順序集合|順序構造]]の主基集合とは、その元の対の間に順序関係の定義される(あるいはしようとする)集合をいう。[[位相空間|位相構造]]ならば、位相を入れようとするあるいは入った集合である。[[ベクトル空間]]の主基集合はベクトルからなる集合であり、副基集合はある定まった[[可換体|体]]である。複素多様体は、多様体の点集合を主基集合とし、[[複素数|複素数体]]を副基集合に持つ。
=== 構造の比較 ===
同一の種 {{mvar|T}} に属する二つの構造 {{math|''τ'', ''υ'' ∈ ''T''}} に対し、一方の構造 {{mvar|υ}} が {{mvar|T}} に公理を追加して与えられる部分集合 {{mvar|U}} に属するならば、{{mvar|U}} の構造 {{mvar|υ}} は {{mvar|T}} の構造 {{mvar|τ}} '''より豊か''' (richer) であるという{{sfn|ブルバキ|1968|p=50|loc=§8.3}}(「強い」ともいう)。
例えば、[[全順序集合]]の構造は[[半順序集合]]の構造より豊かである。
=== 構造の同一性 ===
同一の階梯の二つの部分集合をとり、そのそれぞれに属する種 {{mvar|T, T{{'}}}} が具体的に述べられた公理によって定義され、かつそれらの間の全単射 {{math|''T'' ↔ ''T{{'}}''}} が具体的に表されているものとする。このとき、対応する構造 {{math|(''T'' ∋) ''τ'' ↔ ''τ{{'}}'' (∈ ''T{{'}}'')}} は、与えられた基底の上に同一の構造を定めるものと見なされ、種 {{mvar|T, T{{'}}}} のそれぞれを定義する公理系は互いに'''同等'''であるという{{sfn|ブルバキ|1968|p=50|loc=§8.4}}。
例えば、[[位相空間|位相構造]]が[[位相の特徴付け|多くの同等な公理系]]により与えられ得ることを想起せよ。
=== 理論の一意性と多意性 ===
{{quotation
|一つの集合の上の或る構造を定義する公理系が,それが任意の集合に対して述べられるにもかかわらず,それらの公理を満足する二つの構造で,それぞれ二つの相異なる集合 E と F の上に定義されたものを考えると,その構造が(もし存在すれば)必ず<u>同型</u>になるということが公理から結論される(このことから,特に,E と F が<u>対等</u>であることが導かれる),ということもあり得る.このような場合,これらの公理を満足する構造の理論は'''一意的'''であるという;そうでない場合は,'''多意的'''である,といわれる.
|ブルバキ{{sfn|ブルバキ|1968|p=51|loc=§8.7}}
}}
== 構造の例 ==
* [[順序的構造]]
* [[代数的構造]]
* [[位相的構造]]
例えば、実数は上の三つの構造{{efn|name="強さ"}}をすべて持っている。すなわち、実数は全順序集合であり、体であり、また距離空間である。
{{quotation
|自然数の理論,実数の理論,古典的ユークリッド幾何学などは一意的な理論である;順序集合の理論,群論,位相空間の理論などは多意的な理論である.多意的な理論の研究こそ,現代数学を古典的な数学と区別しているもっとも顕著な特徴なのである.
|ブルバキ{{sfn|ブルバキ|1968|p=51|loc=§8.7}}
}}
== 意義または概念の有用性 ==
例えば[[解析幾何学]]において[[座標]]を使った解法と[[空間ベクトル| 位置ベクトル]]を使った解法を比べてみると、後者のほうが同じ内容を表現するにも重複した記述を省略できる、しかし問題を解く手段であることには両者とも変りはない。構造の概念も表現や思考の節約に役立つ。
[[ガロア理論]]においては、単なる計算の洗練を超えた構造の概念により[[方程式論]]の難題であった5次方程式の解法のみならず幾何学の[[ 数学上の未解決問題 |難問]]であった[[角の三等分問題]]や[[円積問題]]の解決にもつながった。
ブルバキの言う「数学者に豊かなインスピレーションを与える知識」とは異なった構造の類似において一方で成り立つ理論が他方でも成り立つのではないかという予想を構造の知見が容易にしていることを意味する。例えば、[[整数環]]と[[有限体]]上の1変数[[多項式環]]との間の構造の類似において[[アンドレ・ヴェイユ]]により、[[リーマン予想]]に類似の問題が解かれた{{efn|詳しくは[[ヴェイユ予想]]を見よ。}}。リーマン予想に関してあえて大雑把にいえば、現在でもこの方向で研究が進められている。
しかし、或る構造の概念の適用が問題を解くにあたって見当違いのこともある。[[ポアンカレ予想]]はそれまで多くの研究者にとって役立つと思われていた[[位相幾何学]]で扱われる[[多様体#位相多様体| 位相多様体]]の概念によってでなく、より強い理論である―[[可微分多様体]]を扱う[[微分幾何学]]の範疇の問題として解かれた{{efn|name="強さ"|''強さ''(''弱さ'')による''数学的理論''の[[順序的構造#前順序・半順序・全順序| 順序づけ]]は半順序である。つまりそれらの互いの強さの比較を判定できない2つの理論が存在しうる。構造の例の節で挙げた構造を扱う三つの理論はどれも互いに強さを比べられない。}}。
== 構造とブルバキズムに対する批判 ==
* 一般的な枠組みから数学の記述を目指したにもかかわらず[[圏論]]を無視したこと。
* [[数学基礎論|基礎論]]に対する偏った扱い<ref>[[リヒャルト・デデキント]]([[渕野昌]]/訳・解説):数とは何かそして何であるべきか,[[筑摩書房]],2013年7月10日,p.313.</ref>。
* 過度の抽象性が引き起こした教育的配慮のなさ。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book | 和書 | last=ブルバキ | authorlink= ニコラ・ブルバキ | year= 1969 | title= 集合論 | volume= 3 | others= 田中尚夫・村田全訳 | series= [[数学原論]] | publisher= 東京図書}}
* {{Cite book | 和書 | last= ブルバキ | year= 1968 | title= 集合論 | volume= 要約 | others= 前原昭二訳 | series= 数学原論 | publisher= 東京図書}}
* {{citation | series= Patrick Suppes: Scientific Philosopher | volume= volume 2. | title=Philosophy of Physics, Theory Structure, and Measurement Theory | first1= Patrick | last1= Suppes | author1-link= パトリック・サップス | first2= P. | last2= Humphreys | editor= P. Humphreys | publisher= Springer Science & Business Media | year= 1994
| isbn= 9780792325536 | url= {{google books|RFZLxAoWPOcC|plainurl=yes}}}}
== 関連項目 ==
* [[構造#数学における構造]]
* [[構造主義]]
* [[数学的宇宙仮説]]
* {{仮リンク | 構造 (数理論理学)| en | Structure (mathematical logic)}}
== 外部リンク ==
* http://www.tau.ac.il/~corry/publications/articles/pdf/bourbaki-structures.pdf
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:すうかくてきこうそう}}
[[Category:数学的構造|* こうそう]]
[[Category:数学に関する記事|こうそう]]
[[Category:型理論]]
[[Category:構造]] | null | 2022-12-28T09:18:12Z | false | false | false | [
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"Template:Notelist"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%B0%E5%AD%A6%E7%9A%84%E6%A7%8B%E9%80%A0 |
7,429 | コイ | コイ(鯉、学名:Cyprinus carpio)は、コイ科に分類される魚の一種である。比較的流れが緩やかな川や池、沼、湖、用水路などにも広く生息する大型の淡水魚。
コイの語源は体が肥えていることまたは味が肥えていることに由来するという。別名はマゴイ、ノゴイ(後述のように体高の低いコイのグループがありノゴイはその呼称でもある)。
2亜種が存在する。
東アジア原産の3つ目の亜種C. c. haematopterus(Amur carp)は過去に認められていたが、近年の出典はこれをC. rubrofuscusの学名の下で別種として扱っている。純粋な型のヨーロッパのコイと様々なアジアの近縁種は、計数形質(英語版)によって分類できるが、それらは異種交配できる。ヨーロッパのコイはキンギョとも異種交配可能である。日本においてもコイフナ(英語版)と呼ばれる雑種が確認されている。
名称が似ているニゴイはコイ亜科ではなくカマツカ亜科であり同科異亜科の関係である。
コイは外見が同亜科異属のフナに似るが頭や目は体に対して小さい。吻はフナよりも長く伸出させることができる。また上顎後方及び口角に1対ずつ触覚や味覚を感知する口ひげがある。体長は約60センチメートルで、130センチメートル以上に達するものもある。飼育されたり養殖されてきた系統の個体は体高が高く、動きも遅いが、野生の個体は体高が低く細身な体つきで、動きもわりあい速い。雌雄を外観で判断することは難しいが、体は雌のほうが大きく逆に雄の方が頭が大きい、雄のほうが体がやや細くて胸鰭が大きく角張っているなどの特徴がある。また雌の胸鰭は丸型をしている。
食性は雑食性で水草、貝類、イトミミズなどを食べる。その他、昆虫類、甲殻類、他の魚の卵や小魚、米粒、トウモロコシ、芋、麩、パン、カステラ、うどん、カエルなど、口に入るものならたいていなんでも食べる。口に歯はないが、喉に咽頭歯という歯があり、これでタニシなどの硬い貝殻なども砕き割ってのみこむ。さらに口は開くと下を向き、湖底の餌をついばんで食べやすくなっている。なお、コイには胃がない。コイ科の特徴として、ウェーバー器官を持ち、音に敏感である。また髭には匂いや味を感じる器官が沢山集まっており、この感覚器を「味蕾」と呼ぶ。
産卵期は春から初夏にかけてで、この時期になると大きなコイが浅瀬に集まり、バシャバシャと水音を立てながら水草に産卵・放精をおこなう。一度の産卵数は20万-60万ほどもある。卵は直径約2ミリメートルで水草などに付着し、水温が20度あれば4-5日のうちに孵化する。稚魚はしばらく浅場で過ごすが、成長につれ深場に移動する。
寿命は15-20年。生命力は極めて強く、魚にしては長寿の部類で、まれに70年を超す個体もある。鱗の年輪から推定された最長命記録は、岐阜県東白川村で飼われていた「花子」と呼ばれる個体の226年だが、これは信憑性が疑問視されている。長寿であることのほか、汚れた水にも対応する環境適応能力が高く、しかも水から上げてしばらく水のないところで置いていても、他の魚に比べて長時間生きられるようである。低温にも強い。
川の中流や下流、池、湖などの淡水域に生息する。飼育されたコイは流れのある浅瀬でも泳ぎまわるが、野生のコイは流れのあまりない深みにひそんでおり、産卵期以外はあまり浅瀬に上がってこない。滝を登るということがよく言われるがこれは中国の神話伝説の類に由来する言い伝えであって、普通程度の大きさのコイが滝を登ることは通常は無い。コイはジャンプが下手であり、『モジリ』という水面下まで上がって反転する行動が一般にはジャンプと誤認されていることも多い。ただし小型のコイはまれに2メートル程度の高さまでジャンプすることがあり、この場合は滝を登ることがありうるものの、格別に「滝を登る」という習性がコイにあるわけではない。
漁師や釣り人などから、養殖され、放流もよく行われている体高の高いコイと、琵琶湖などの湖や四万十川のような大きな河川に見られる体高が低いコイの性質が、著しく異なることが古くから指摘されていた。後者は「ノゴイ」(野鯉)と呼ばれて前者の系統で野生繁殖しているものと区別されており、シーボルトなど従来よりこの相違に注目する研究者も多少はいた。21世紀になってコイヘルペスウイルスによる感染症の流行で捕獲しにくいノゴイの死体が多数得られたことから、これを用いて遺伝子解析した研究が2006年になって報告された。それによると、外来の体高の高いコイとノゴイは種レベルに相当する遺伝子の差があることが報告され、日本列島在来の別種として新種記載の必要性も指摘されている。
もともとはユーラシア大陸が自然分布域だったが、移植によって世界の温帯・亜熱帯域に広く分布している。日本でも全国的に分布。
日本のコイは大昔に中国から移入された(史前帰化動物)と考えられ、縄文時代の貝塚からも化石が発見されている。しかし、関東平野や琵琶湖に野生のコイが分布することや、古い地層から化石も発見されていることから、日本にももともと自然分布していたが中国からの移入がありそれが広まったとされる。シーボルトの『日本動物誌』においても、Cyprinus conirostris、Cyprinus melanotus、Cyprinus haematopterus の3種が紹介されているが、学術的にさほど注目もされず今日に至っている。 欧米でもドイツなどでは盛んに養殖され、食用の飼育品種も生み出されている。
コイは都市河川などで川をきれいにする目的で河川の環境保護の一環として放流される種でもある。しかし、コイの本来の生息域は大河川の下流域や大きな湖で、中小河川に放流されると他の魚の卵や稚魚を大量に捕食してしまうことがある。こうした放流について、地元の固有種との交雑が起こって何万年もかけて築かれてきた固有種の絶滅を懸念する(遺伝子汚染)声もあるが、当事者には全く意識されていないのが現状である。また、ニシキゴイの放流が原因と推測されるコイヘルペスウイルスによる感染症が地元のコイに蔓延し大量死する事件もある。
また、コイは底生生物や水生植物などを根こそぎ食べてしまうという影響もある。
同じことは飼養種でないコイについても言える。コイは体が大きくて見栄えがするため、「コイが棲めるほどきれいな水域」というきわめて安直な趣旨で自治体レベルで川やダムなどに放流されることが多い。しかしコイはもともとBOD値の高い湖沼や河川を好んで住処とする種で、低酸素環境に対する高い耐性がある。これは、生物界における一般的な基準からすると、他の生物の嫌う水質の悪い水域にしか生息できないことを意味する。実際、逆に水質がよい小川の堰の内部に放流したニシキゴイが餌の問題から大量に餓死する例も報告されており、「コイが棲める=きれいな水域」という図式は成立し得ないことがわかる。
市街地の汚れた河川を上から眺めれば、ボラと放流されたコイばかりが目につくということが多々ある。しかもコイは各種水生生物を貪欲に食べてしまうので、往々にして河川環境の単純化を招きかねない。生物多様性の観点からすれば、もともとコイがいない水域にコイを放流するのは有害ですらある。
日本では外来魚であるブラックバスの問題がたびたび引き合いに出されるが、上述したようなコイの放流はブラックバスの放流と同様の問題を抱えている。本種には低温に対する耐性や雑食性、さらに60センチメートルを超える大きさにまで育ち、大きくなると天敵がほとんどいなくなるといった特徴がある。こうした特徴はいずれも侵略的外来生物に共通するものであり、実際国際自然保護連合では、コイを世界の侵略的外来種ワースト100のうちの1種に数えている。
特にコイを食す習慣のない北アメリカでは、在来の水生生物を圧迫するまでに繁殖している。人為的放流を禁じている州もあるほどで、北アメリカ以外でも猛威を振るっている例が報告されている。アメリカ合衆国では、中国原産のコイであるハクレンとコクレンが五大湖周辺に進出しており、これが五大湖に流れ込んだ場合、五大湖固有の魚が駆逐される可能性が指摘されている。
野生種本来の分布域に生息する個体群は、河川の改修にともなう生態系の破壊や、他地方からの移入個体との交雑による遺伝子汚染による在来個体群の絶滅が危惧されており、2008年に国際自然保護連合により危急(Vulnerable)に指定されている。
コイは漁・養殖が共に盛んで、世界中の多くの地域で食べられている。
食材としての鯉は、福島県からの出荷量が最多で、鯉こく(血抜きをしない味噌仕立ての汁)、うま煮(切り身を砂糖醤油で甘辛く煮付けたもの)、甘露煮にする。稀に鱗を唐揚げし、スナック菓子のように食べることもある。また、洗いにして酢味噌や山葵醤油を付けて食べる例もある。しかし、生食や加熱不完全な調理状態の物を摂食すると、肝吸虫や有棘顎口虫 (Gnathostoma spinigerum) による寄生虫病を発症する可能性がある。捕獲した鯉は、調理に際しきれいな水を入れたバケツの中に半日-数日程入れて泥の臭いを抜く。さばくときは濡れた布巾等で目を塞ぐとおとなしくなる。
藍藻はゲオスミンや2-メチルイソボルネオールを作り、これが魚の皮膚や血合肉に濃縮される。このゲオスミンが、鯉やナマズなど水底に棲む淡水魚が持つ泥臭いにおいのもとでもある。ゲオスミンは酸性条件で分解するので、酢など酸性の調味料を調理に使えば泥臭さを抑えることができる。
海から離れた地域では古くから貴重な動物性タンパク源として重用され、将軍や天皇に出される正式な饗応料理や日常的にも慶事・祝事の席などでも利用されてきた。卵をもつ真子持ちのうま煮やあらいの切り身の見た目から雌のほうが重宝される。
かつてサケやブリの入手が困難であった内陸地域では、御節料理の食材などとして今日でも利用されている。山形県米沢市では米沢上杉藩政時代の9代藩主上杉治憲(鷹山)が1802年に相馬から鯉の稚魚を取り寄せ、冬期間のタンパク源などとして鯉を飼うことを奨励した。各家庭の裏にある台所排水用の小さな溜めで台所から出る米粒や野菜の切れ端を餌にして蓄養した。同様の条件で養蚕が盛んだった福島県郡山市では蚕の蛹が餌とされ、やがては生産量日本一にまで成長した。現在の養殖では、主に農業用の溜め池が利用されるほか、長野県佐久地域では稲作用水田も利用されている。食生活の変化から需要の減少と共に全国の生産額は年々減少し、1998年には3億6000万円ほどであったが2008年には1億5000万円余りまで減少している。
中華料理では、山東省に鯉1尾を丸ごとから揚げにして甘酢あんをかけた料理「糖醋鯉魚」(タンツウリイユィ)があり、日本でも代表的な宴会メニューの1つとなっている。
中国では年始の供え物や食べ物として川魚を用いることが多く、最もポピュラーな魚が鯉である。
鯉は中欧や東欧では、古くからよく食べられている。特にスラヴ人にとっては鯉は聖なる食材とされ、ウクライナ・ポーランド・チェコ・スロバキア・ドイツ・ベラルーシなどでは伝統的なクリスマス・イヴの夕食には欠かせないものである。東欧系ユダヤ教徒が安息日に食べる魚料理「ゲフィルテ・フィッシュ」の素材としても、鯉がよく用いられた。しかし北米では、鯉は水底でえさをあさるために泥臭いとして敬遠されており、釣り(遊漁)の対象魚とはされても食材として扱われることは極めてまれである。ヨーロッパでは、鏡鯉から食用に品種改良され家畜化された鱗のない鯉、革鯉(Leather carp)と呼ばれる鯉が使われる。
コイの胆嚢(苦玉)は苦く、解体時にこれをつぶすと身に苦味が回る。胆嚢にはコイ毒(毒性物質は胆汁酸の5-αチブリノールとスルフェノール)が含まれている場合があり、摂食により下痢や嘔吐、腎不全、肝機能障害、痙攣、麻痺、意識不明を引き起こすほか、まれに死亡例もある。その反面、視力低下やかすみ目などに効果があるとされ、鯉胆(りたん)という生薬名で錠剤にしたものが販売されている。
中国では、鯉が滝を登りきると龍になる登龍門という言い伝えがあり、古来尊ばれた。その概念が日本にも伝わり、江戸時代に武家では子弟の立身出世のため、武士の庭先で端午の節句(旧暦5月5日)あたりの梅雨期の雨の日に鯉を模したこいのぼりを飾る風習があった。明治に入って四民平等政策により武家身分が廃止され、こいのぼりは一般に普及した。現在では、グレゴリオ暦(新暦)5月5日に引き続き行なわれている。 また比喩的表現として、将来、有能・有名な政治家・芸術家・役者になるため最初に通るべき関門を登龍門と指して言うこともしばしばある。
『日本書紀』第七巻には、景行天皇が美濃(岐阜)に行幸した時、美女を見そめて求婚したが、彼女が恥じて隠れてしまったため、鯉を池に放して彼女が鯉を見に出てくるのを待った、という説話が出てくる。
日本では古くから女性が健康(体力作り)のために鯉を食したと言う伝説や伝承があり、妊婦が酸っぱい鯉を食べて健康になり、無事、安産できたと言う伝説もある。また、御産の後に鯉を食べると母乳がよく出ると言う伝承も見られる。こうした話は東西を問わず内陸地には多い伝承である。 | [
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"text": "コイ(鯉、学名:Cyprinus carpio)は、コイ科に分類される魚の一種である。比較的流れが緩やかな川や池、沼、湖、用水路などにも広く生息する大型の淡水魚。",
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"text": "コイの語源は体が肥えていることまたは味が肥えていることに由来するという。別名はマゴイ、ノゴイ(後述のように体高の低いコイのグループがありノゴイはその呼称でもある)。",
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"text": "2亜種が存在する。",
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"text": "東アジア原産の3つ目の亜種C. c. haematopterus(Amur carp)は過去に認められていたが、近年の出典はこれをC. rubrofuscusの学名の下で別種として扱っている。純粋な型のヨーロッパのコイと様々なアジアの近縁種は、計数形質(英語版)によって分類できるが、それらは異種交配できる。ヨーロッパのコイはキンギョとも異種交配可能である。日本においてもコイフナ(英語版)と呼ばれる雑種が確認されている。",
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"text": "名称が似ているニゴイはコイ亜科ではなくカマツカ亜科であり同科異亜科の関係である。",
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"text": "コイは外見が同亜科異属のフナに似るが頭や目は体に対して小さい。吻はフナよりも長く伸出させることができる。また上顎後方及び口角に1対ずつ触覚や味覚を感知する口ひげがある。体長は約60センチメートルで、130センチメートル以上に達するものもある。飼育されたり養殖されてきた系統の個体は体高が高く、動きも遅いが、野生の個体は体高が低く細身な体つきで、動きもわりあい速い。雌雄を外観で判断することは難しいが、体は雌のほうが大きく逆に雄の方が頭が大きい、雄のほうが体がやや細くて胸鰭が大きく角張っているなどの特徴がある。また雌の胸鰭は丸型をしている。",
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"text": "食性は雑食性で水草、貝類、イトミミズなどを食べる。その他、昆虫類、甲殻類、他の魚の卵や小魚、米粒、トウモロコシ、芋、麩、パン、カステラ、うどん、カエルなど、口に入るものならたいていなんでも食べる。口に歯はないが、喉に咽頭歯という歯があり、これでタニシなどの硬い貝殻なども砕き割ってのみこむ。さらに口は開くと下を向き、湖底の餌をついばんで食べやすくなっている。なお、コイには胃がない。コイ科の特徴として、ウェーバー器官を持ち、音に敏感である。また髭には匂いや味を感じる器官が沢山集まっており、この感覚器を「味蕾」と呼ぶ。",
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"text": "産卵期は春から初夏にかけてで、この時期になると大きなコイが浅瀬に集まり、バシャバシャと水音を立てながら水草に産卵・放精をおこなう。一度の産卵数は20万-60万ほどもある。卵は直径約2ミリメートルで水草などに付着し、水温が20度あれば4-5日のうちに孵化する。稚魚はしばらく浅場で過ごすが、成長につれ深場に移動する。",
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"text": "寿命は15-20年。生命力は極めて強く、魚にしては長寿の部類で、まれに70年を超す個体もある。鱗の年輪から推定された最長命記録は、岐阜県東白川村で飼われていた「花子」と呼ばれる個体の226年だが、これは信憑性が疑問視されている。長寿であることのほか、汚れた水にも対応する環境適応能力が高く、しかも水から上げてしばらく水のないところで置いていても、他の魚に比べて長時間生きられるようである。低温にも強い。",
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"text": "川の中流や下流、池、湖などの淡水域に生息する。飼育されたコイは流れのある浅瀬でも泳ぎまわるが、野生のコイは流れのあまりない深みにひそんでおり、産卵期以外はあまり浅瀬に上がってこない。滝を登るということがよく言われるがこれは中国の神話伝説の類に由来する言い伝えであって、普通程度の大きさのコイが滝を登ることは通常は無い。コイはジャンプが下手であり、『モジリ』という水面下まで上がって反転する行動が一般にはジャンプと誤認されていることも多い。ただし小型のコイはまれに2メートル程度の高さまでジャンプすることがあり、この場合は滝を登ることがありうるものの、格別に「滝を登る」という習性がコイにあるわけではない。",
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"text": "漁師や釣り人などから、養殖され、放流もよく行われている体高の高いコイと、琵琶湖などの湖や四万十川のような大きな河川に見られる体高が低いコイの性質が、著しく異なることが古くから指摘されていた。後者は「ノゴイ」(野鯉)と呼ばれて前者の系統で野生繁殖しているものと区別されており、シーボルトなど従来よりこの相違に注目する研究者も多少はいた。21世紀になってコイヘルペスウイルスによる感染症の流行で捕獲しにくいノゴイの死体が多数得られたことから、これを用いて遺伝子解析した研究が2006年になって報告された。それによると、外来の体高の高いコイとノゴイは種レベルに相当する遺伝子の差があることが報告され、日本列島在来の別種として新種記載の必要性も指摘されている。",
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"text": "もともとはユーラシア大陸が自然分布域だったが、移植によって世界の温帯・亜熱帯域に広く分布している。日本でも全国的に分布。",
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"text": "日本のコイは大昔に中国から移入された(史前帰化動物)と考えられ、縄文時代の貝塚からも化石が発見されている。しかし、関東平野や琵琶湖に野生のコイが分布することや、古い地層から化石も発見されていることから、日本にももともと自然分布していたが中国からの移入がありそれが広まったとされる。シーボルトの『日本動物誌』においても、Cyprinus conirostris、Cyprinus melanotus、Cyprinus haematopterus の3種が紹介されているが、学術的にさほど注目もされず今日に至っている。 欧米でもドイツなどでは盛んに養殖され、食用の飼育品種も生み出されている。",
"title": "生態"
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"text": "コイは都市河川などで川をきれいにする目的で河川の環境保護の一環として放流される種でもある。しかし、コイの本来の生息域は大河川の下流域や大きな湖で、中小河川に放流されると他の魚の卵や稚魚を大量に捕食してしまうことがある。こうした放流について、地元の固有種との交雑が起こって何万年もかけて築かれてきた固有種の絶滅を懸念する(遺伝子汚染)声もあるが、当事者には全く意識されていないのが現状である。また、ニシキゴイの放流が原因と推測されるコイヘルペスウイルスによる感染症が地元のコイに蔓延し大量死する事件もある。",
"title": "コイによる生態系の破壊問題"
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"text": "また、コイは底生生物や水生植物などを根こそぎ食べてしまうという影響もある。",
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"text": "同じことは飼養種でないコイについても言える。コイは体が大きくて見栄えがするため、「コイが棲めるほどきれいな水域」というきわめて安直な趣旨で自治体レベルで川やダムなどに放流されることが多い。しかしコイはもともとBOD値の高い湖沼や河川を好んで住処とする種で、低酸素環境に対する高い耐性がある。これは、生物界における一般的な基準からすると、他の生物の嫌う水質の悪い水域にしか生息できないことを意味する。実際、逆に水質がよい小川の堰の内部に放流したニシキゴイが餌の問題から大量に餓死する例も報告されており、「コイが棲める=きれいな水域」という図式は成立し得ないことがわかる。",
"title": "コイによる生態系の破壊問題"
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"text": "市街地の汚れた河川を上から眺めれば、ボラと放流されたコイばかりが目につくということが多々ある。しかもコイは各種水生生物を貪欲に食べてしまうので、往々にして河川環境の単純化を招きかねない。生物多様性の観点からすれば、もともとコイがいない水域にコイを放流するのは有害ですらある。",
"title": "コイによる生態系の破壊問題"
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"text": "日本では外来魚であるブラックバスの問題がたびたび引き合いに出されるが、上述したようなコイの放流はブラックバスの放流と同様の問題を抱えている。本種には低温に対する耐性や雑食性、さらに60センチメートルを超える大きさにまで育ち、大きくなると天敵がほとんどいなくなるといった特徴がある。こうした特徴はいずれも侵略的外来生物に共通するものであり、実際国際自然保護連合では、コイを世界の侵略的外来種ワースト100のうちの1種に数えている。",
"title": "コイによる生態系の破壊問題"
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"text": "特にコイを食す習慣のない北アメリカでは、在来の水生生物を圧迫するまでに繁殖している。人為的放流を禁じている州もあるほどで、北アメリカ以外でも猛威を振るっている例が報告されている。アメリカ合衆国では、中国原産のコイであるハクレンとコクレンが五大湖周辺に進出しており、これが五大湖に流れ込んだ場合、五大湖固有の魚が駆逐される可能性が指摘されている。",
"title": "コイによる生態系の破壊問題"
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"text": "野生種本来の分布域に生息する個体群は、河川の改修にともなう生態系の破壊や、他地方からの移入個体との交雑による遺伝子汚染による在来個体群の絶滅が危惧されており、2008年に国際自然保護連合により危急(Vulnerable)に指定されている。",
"title": "保全状態"
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"text": "コイは漁・養殖が共に盛んで、世界中の多くの地域で食べられている。",
"title": "文化"
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"text": "食材としての鯉は、福島県からの出荷量が最多で、鯉こく(血抜きをしない味噌仕立ての汁)、うま煮(切り身を砂糖醤油で甘辛く煮付けたもの)、甘露煮にする。稀に鱗を唐揚げし、スナック菓子のように食べることもある。また、洗いにして酢味噌や山葵醤油を付けて食べる例もある。しかし、生食や加熱不完全な調理状態の物を摂食すると、肝吸虫や有棘顎口虫 (Gnathostoma spinigerum) による寄生虫病を発症する可能性がある。捕獲した鯉は、調理に際しきれいな水を入れたバケツの中に半日-数日程入れて泥の臭いを抜く。さばくときは濡れた布巾等で目を塞ぐとおとなしくなる。",
"title": "文化"
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"text": "藍藻はゲオスミンや2-メチルイソボルネオールを作り、これが魚の皮膚や血合肉に濃縮される。このゲオスミンが、鯉やナマズなど水底に棲む淡水魚が持つ泥臭いにおいのもとでもある。ゲオスミンは酸性条件で分解するので、酢など酸性の調味料を調理に使えば泥臭さを抑えることができる。",
"title": "文化"
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"text": "海から離れた地域では古くから貴重な動物性タンパク源として重用され、将軍や天皇に出される正式な饗応料理や日常的にも慶事・祝事の席などでも利用されてきた。卵をもつ真子持ちのうま煮やあらいの切り身の見た目から雌のほうが重宝される。",
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"text": "かつてサケやブリの入手が困難であった内陸地域では、御節料理の食材などとして今日でも利用されている。山形県米沢市では米沢上杉藩政時代の9代藩主上杉治憲(鷹山)が1802年に相馬から鯉の稚魚を取り寄せ、冬期間のタンパク源などとして鯉を飼うことを奨励した。各家庭の裏にある台所排水用の小さな溜めで台所から出る米粒や野菜の切れ端を餌にして蓄養した。同様の条件で養蚕が盛んだった福島県郡山市では蚕の蛹が餌とされ、やがては生産量日本一にまで成長した。現在の養殖では、主に農業用の溜め池が利用されるほか、長野県佐久地域では稲作用水田も利用されている。食生活の変化から需要の減少と共に全国の生産額は年々減少し、1998年には3億6000万円ほどであったが2008年には1億5000万円余りまで減少している。",
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"text": "中華料理では、山東省に鯉1尾を丸ごとから揚げにして甘酢あんをかけた料理「糖醋鯉魚」(タンツウリイユィ)があり、日本でも代表的な宴会メニューの1つとなっている。",
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"text": "中国では年始の供え物や食べ物として川魚を用いることが多く、最もポピュラーな魚が鯉である。",
"title": "文化"
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"text": "鯉は中欧や東欧では、古くからよく食べられている。特にスラヴ人にとっては鯉は聖なる食材とされ、ウクライナ・ポーランド・チェコ・スロバキア・ドイツ・ベラルーシなどでは伝統的なクリスマス・イヴの夕食には欠かせないものである。東欧系ユダヤ教徒が安息日に食べる魚料理「ゲフィルテ・フィッシュ」の素材としても、鯉がよく用いられた。しかし北米では、鯉は水底でえさをあさるために泥臭いとして敬遠されており、釣り(遊漁)の対象魚とはされても食材として扱われることは極めてまれである。ヨーロッパでは、鏡鯉から食用に品種改良され家畜化された鱗のない鯉、革鯉(Leather carp)と呼ばれる鯉が使われる。",
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"text": "コイの胆嚢(苦玉)は苦く、解体時にこれをつぶすと身に苦味が回る。胆嚢にはコイ毒(毒性物質は胆汁酸の5-αチブリノールとスルフェノール)が含まれている場合があり、摂食により下痢や嘔吐、腎不全、肝機能障害、痙攣、麻痺、意識不明を引き起こすほか、まれに死亡例もある。その反面、視力低下やかすみ目などに効果があるとされ、鯉胆(りたん)という生薬名で錠剤にしたものが販売されている。",
"title": "文化"
},
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"text": "中国では、鯉が滝を登りきると龍になる登龍門という言い伝えがあり、古来尊ばれた。その概念が日本にも伝わり、江戸時代に武家では子弟の立身出世のため、武士の庭先で端午の節句(旧暦5月5日)あたりの梅雨期の雨の日に鯉を模したこいのぼりを飾る風習があった。明治に入って四民平等政策により武家身分が廃止され、こいのぼりは一般に普及した。現在では、グレゴリオ暦(新暦)5月5日に引き続き行なわれている。 また比喩的表現として、将来、有能・有名な政治家・芸術家・役者になるため最初に通るべき関門を登龍門と指して言うこともしばしばある。",
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"text": "『日本書紀』第七巻には、景行天皇が美濃(岐阜)に行幸した時、美女を見そめて求婚したが、彼女が恥じて隠れてしまったため、鯉を池に放して彼女が鯉を見に出てくるのを待った、という説話が出てくる。",
"title": "文化"
},
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"tag": "p",
"text": "日本では古くから女性が健康(体力作り)のために鯉を食したと言う伝説や伝承があり、妊婦が酸っぱい鯉を食べて健康になり、無事、安産できたと言う伝説もある。また、御産の後に鯉を食べると母乳がよく出ると言う伝承も見られる。こうした話は東西を問わず内陸地には多い伝承である。",
"title": "文化"
}
] | コイは、コイ科に分類される魚の一種である。比較的流れが緩やかな川や池、沼、湖、用水路などにも広く生息する大型の淡水魚。 コイの語源は体が肥えていることまたは味が肥えていることに由来するという。別名はマゴイ、ノゴイ(後述のように体高の低いコイのグループがありノゴイはその呼称でもある)。 | {{Redirect|鯉|[[あいみょん]]の楽曲|ハルノヒ}}
{{生物分類表
|名称 = コイ
|画像=[[ファイル:Cyprinus carpio 2008 G1 (cropped).jpg|250px]]
|画像キャプション = コイ(Cyprinus carpio)
|省略=条鰭綱
|目 = [[コイ目]] {{Sname||Cypriniformes}}
|科 = [[コイ科]] {{Sname||Cyprinidae}}
|属 = [[コイ属]] {{Snamei||Cyprinus}}
|種 = '''コイ''' ''C. carpio''
|学名 = ''Cyprinus carpio''<br/><small>{{AUY|Linnaeus|1758}}</small>
|和名 = コイ(鯉)
|英名 =
Eurasian carp<br>
European carp<br>
common carp
|status = VU
|status_ref =<ref name="IUCN">{{Cite iucn|author=Freyhof, J. & Kottelat, M.|year=2008|title=Cyprinus carpio|page=e.T6181A12559362|doi=10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T6181A12559362.en|accessdate=2023-10-12}}</ref>
|生息図=[[ファイル:Ccarpio range.png|250px]]
|生息図キャプション={{leftlegend|#4e9153| 自然分布}}
{{leftlegend|#d59124| 移入分布}}
}}
[[ファイル:Cyprinus carpio.jpeg|thumb|200px|コイ飼育型]]
[[ファイル:コイとソウギョ.jpg|thumb|200px|コイ飼育型とソウギョ(中央はニシキゴイ)]]
'''コイ'''('''鯉'''、[[学名]]:''Cyprinus carpio'')は、[[コイ科]]に分類される[[魚]]の一種である。比較的流れが緩やかな[[川]]や池、[[沼]]、[[湖]]、[[用水路]]などにも広く生息する大型の[[淡水魚]]。
コイの語源は体が肥えていることまたは味が肥えていることに由来するという<ref name="kanagawa" />。別名はマゴイ、ノゴイ(後述のように体高の低いコイのグループがありノゴイはその呼称でもある)<ref name="ibaraki">{{Cite web|和書|url=https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/naisuishi/gyogancho/documents/037_koi.pdf|title=コイ|publisher=茨城県|accessdate=2019-12-24}}</ref>。
==分類==
2亜種が存在する。
*''{{仮リンク|キプリヌス・カルピオ・カルピオ|en|Cyprinus carpio carpio|label=C. c. carpio}}''はヨーロッパの大半(特に[[ドナウ川]]と[[ヴォルガ川]])原産である<ref>{{Cite web |title=Cyprinus carpio summary page |url=https://fishbase.mnhn.fr/summary/1450 |website=FishBase |access-date=2023-10-19}}</ref><ref name="Genetica">Jian Feng Zhou, Qing Jiang Wu, Yu Zhen Ye & Jin Gou Tong (2003). Genetic divergence between ''Cyprinus carpio carpio'' and ''Cyprinus carpio haematopterus'' as assessed by mitochondrial DNA analysis, with emphasis on origin of European domestic carp [http://www.springerlink.com/content/h55671gg71450622/fulltext.pdf ''Genetica'' 119: 93–97]</ref>。
*''C. c. yilmaz'' (Deniz carp) は[[アナトリア半島|アナトリア]](特に[[チョルム]]周辺)原産である。
東アジア原産の3つ目の亜種''C. c. haematopterus''(Amur carp)は過去に認められていたが<ref name="Genetica" />、近年の出典はこれを[[キプリヌス・ルブロフスクス|''C. rubrofuscus'']]の学名の下で別種として扱っている<ref name="IUCN" /><ref name="Craig2015">Craig, J.F., eds. (2015). Freshwater Fisheries Ecology. p. 297. Wiley-Blackwell. {{ISBN2|978-1-118-39442-7}}.</ref>。純粋な型のヨーロッパのコイと様々なアジアの[[コイ属|近縁種]]は、{{仮リンク|計数形質|en|meristics}}によって分類できるが、それらは[[雑種|異種交配]]できる<ref name="IUCN" /><ref>Zhou, J., Wu, Q., Wang, Z. and Ye, Y. (2004). Molecular Phylogenetics of Three Subspecies of Common carp Cyprinus Carpio, based on sequence analysis of cytochrome b and control region of mtDNA. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research 42(4): 266–269.</ref>。ヨーロッパのコイは[[キンギョ]]とも異種交配可能である<ref>Taylor, J., R. Mahon. 1977. Hybridization of ''Cyprinus carpio'' and ''Carassius auratus'', the first two exotic species in the lower Laurentian Great Lakes. Environmental Biology Of Fishes 1(2):205-208.</ref><ref>[http://www.tnfish.org/PhotoGalleryFish_TWRA/FishPhotoGallery_TWRA/pages/HybridCommonCarpGoldfishMeltonHillNegus_jpg.htm Photo of goldfish x common carp hybrid] in Melton Hill Reservoir from the [[Tennessee Wildlife Resources Agency]]</ref>。日本においても{{仮リンク|コイフナ|en|Kollar carp}}と呼ばれる雑種が確認されている<ref>{{Cite web|和書|url=http://tayouseinet-ngt.sakura.ne.jp/wonder-nature/gyorui/gyorui-wonder.html |website=tayouseinet-ngt.sakura.ne.jp |access-date=2023-08-10 |title=The Wonder Nature 魚類 |publisher=生物多様性保全ネットワーク新潟}}</ref>。
名称が似ている[[ニゴイ]]はコイ亜科ではなくカマツカ亜科であり同科異亜科の関係である。
== 生態 ==
コイは外見が同亜科異属の[[フナ]]に似るが[[頭]]や[[目]]は体に対して小さい。吻はフナよりも長く伸出させることができる<ref name="kanagawa" /><ref name="ibaraki" />。また上顎後方及び口角に1対ずつ触覚や味覚を感知する口[[ひげ]]がある<ref name="kanagawa" /><ref name="ibaraki" />。体長は約60センチメートルで、130センチメートル以上に達するものもある<ref name="kanagawa" /><ref name="ibaraki" />。飼育されたり[[養殖]]されてきた系統の個体は体高が高く、動きも遅いが、野生の個体は体高が低く細身な体つきで、動きもわりあい速い。雌雄を外観で判断することは難しいが、体は雌のほうが大きく逆に雄の方が頭が大きい、雄のほうが体がやや細くて胸鰭が大きく角張っているなどの特徴がある<ref name="kanagawa" />。また雌の胸鰭は丸型をしている。
食性は雑食性で[[水草]]、[[貝類]]、[[イトミミズ]]などを食べる<ref name="ibaraki" />。その他、[[昆虫類]]、[[甲殻類]]、他の魚の卵や[[小魚]]、米粒、[[トウモロコシ]]、[[芋]]、[[麩]]、[[パン]]、[[カステラ]]、[[うどん]]、[[カエル]]など、口に入るものならたいていなんでも食べる。口に[[歯]]はないが、喉に咽頭歯という歯があり、これで[[タニシ]]などの硬い[[貝殻]]なども砕き割ってのみこむ<ref name="kanagawa" /><ref name="ibaraki" />。さらに口は開くと下を向き、湖底の餌をついばんで食べやすくなっている。なお、コイには[[胃]]がない。コイ科の特徴として、[[骨鰾上目#ウェーバー器官|ウェーバー器官]]を持ち、音に敏感である。また髭には匂いや味を感じる器官が沢山集まっており、この感覚器を「味蕾」と呼ぶ<ref>森秀人『わくわくチャレンジブックス-1 川づり』株式会社フレーベル館、1997年、22ページ、{{ISBN2|4-577-01818-7}}</ref>。
産卵期は[[春]]から初夏にかけてで、この時期になると大きなコイが浅瀬に集まり、バシャバシャと水音を立てながら[[水草]]に産卵・放精をおこなう。一度の産卵数は20万-60万ほどもある<ref name="kanagawa" />。卵は直径約2ミリメートルで水草などに付着し、水温が20度あれば4-5日のうちに[[孵化]]する<ref name="kanagawa" />。稚魚はしばらく浅場で過ごすが、成長につれ深場に移動する。
寿命は15-20年<ref name="kanagawa" />。生命力は極めて強く、魚にしては長寿の部類で、まれに100年を超す個体もある。[[鱗]]の年輪から推定された最長命記録は、[[岐阜県]][[東白川村]]で飼われていた「[[花子 (コイ)|花子]]」と呼ばれる個体の226年だが、これは信憑性が疑問視されている。長寿であることのほか、汚れた水にも対応する環境適応能力が高く、しかも水から上げてしばらく水のないところで置いていても、他の魚に比べて長時間生きられるようである。低温にも強い。
[[川]]の中流や下流、[[池]]、[[湖]]などの淡水域に生息する。飼育されたコイは流れのある[[浅瀬]]でも泳ぎまわるが、野生のコイは流れのあまりない深みにひそんでおり、産卵期以外はあまり浅瀬に上がってこない。[[滝]]を登るということがよく言われるがこれは[[中国]]の[[神話]][[伝説]]の類に由来する言い伝えであって、普通程度の大きさのコイが滝を登ることは通常は無い。コイはジャンプが下手であり、『モジリ』という水面下まで上がって反転する行動が一般にはジャンプと誤認されていることも多い。ただし小型のコイはまれに2メートル程度の高さまでジャンプすることがあり、この場合は滝を登ることがありうるものの、格別に「滝を登る」という習性がコイにあるわけではない。
{{Anchors|野ゴイ}}
=== ノゴイ ===
{{Main article|ノゴイ}}[[ファイル:Cyprinus carpio-2.JPG|サムネイル|ノゴイ(滋賀県立琵琶湖博物館の飼育個体)]]
漁師や釣り人などから、養殖され、放流もよく行われている体高の高いコイと、[[琵琶湖]]などの湖や[[四万十川]]のような大きな河川に見られる体高が低いコイの性質が、著しく異なることが古くから指摘されていた。後者は「ノゴイ」(野鯉)と呼ばれて前者の系統で野生繁殖しているものと区別されており、[[フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト|シーボルト]]など従来よりこの相違に注目する研究者も多少はいた。21世紀になって[[コイヘルペスウイルス]]による感染症の流行で捕獲しにくいノゴイの死体が多数得られたことから、これを用いて遺伝子解析した研究が[[2006年]]になって報告された<ref>{{Cite journal|和書 |author=馬渕浩司|coauthors=瀬能 宏・武島弘彦・中井克樹・西田 睦|year=2010-04-26 |title=琵琶湖におけるコイの日本在来mtDNAハプロタイプの分布 |journal=魚類学雑誌 |volume=57 |issue=1 |pages=1-12 |publisher=日本魚類学会 |naid=40017117020 |issn=00215090 |doi=10.11369/jji.57.1|ref=harv}}</ref>。それによると、外来の体高の高いコイとノゴイは種レベルに相当する遺伝子の差があることが報告され、日本列島在来の別種として新種記載の必要性も指摘されている<ref>馬渕浩司(2013年6月2日)「絶滅危機!日本のコイ」『[[サイエンスZERO]]』第427回。[[NHK教育テレビジョン]]。</ref>。
=== 分布 ===
==== コイ本来の分布 ====
もともとはユーラシア大陸が自然分布域だったが、移植によって世界の温帯・亜熱帯域に広く分布している<ref name="kanagawa">{{Cite web|和書|url=http://www.pref.kanagawa.jp/docs/a4y/images/koi.html|title=コイ|publisher=神奈川県|accessdate=2019-12-24}}</ref>。[[日本]]でも全国的に分布<ref name="kanagawa" />。
[[ファイル:Koi-alien-CT-scan-thumb-Q06638.jpg|代替文=コイ(大分県、飼育型)のCTスキャンモデル、外部リンク|サムネイル|コイ(大分県、飼育型)のCTスキャンモデル]]
日本のコイは大昔に[[中国]]から移入された(史前[[外来種|帰化動物]])と考えられ、縄文時代の貝塚からも化石が発見されている<ref name="kanagawa" />。しかし、[[関東平野]]や[[琵琶湖]]に野生のコイが分布することや、古い[[地層]]から[[化石]]も発見されていることから、日本にももともと自然分布していたが中国からの移入がありそれが広まったとされる<ref name="kanagawa" />。[[フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト|シーボルト]]の『日本動物誌』においても、''Cyprinus conirostris''、''Cyprinus melanotus''、''Cyprinus haematopterus'' の3種が紹介されているが<ref>シーボルト『[http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b02/pisces.html 日本動物誌魚類]』京都大学電子図書館。</ref>、学術的にさほど注目もされず今日に至っている。
欧米でもドイツなどでは盛んに養殖され、食用の飼育品種も生み出されている。
{{Anchors|錦鯉の放流と生態系の破壊問題}}
[[ファイル:Koi-Kitadaitojima-PC060343.jpg|代替文=北大東島の異様に細長いコイ|サムネイル|[[北大東島]]の異様に細長いコイ]]
== コイによる生態系の破壊問題 ==
[[ファイル:Koi-Nakatsu-X9198413.jpg|サムネイル|野生下のコイ、中津市。大陸からの外来系統と思われる。]]
コイは都市河川などで川をきれいにする目的で[[河川]]の[[環境保護]]の一環として放流される種でもある<ref name="kanagawa" />。しかし、コイの本来の生息域は大河川の下流域や大きな湖で、中小河川に放流されると他の魚の卵や稚魚を大量に捕食してしまうことがある<ref name="kanagawa" />。こうした放流について、地元の固有種との交雑が起こって何万年もかけて築かれてきた固有種の[[絶滅]]を懸念する([[遺伝子汚染]])声もあるが<ref name="kkgrg">{{Cite book|和書 |author=日本魚類学会自然保護委員会 |title=見えない脅威“国内外来魚” |date=2013-07-10 |publisher=東海大学出版会 |coauthors=向井貴彦・鬼倉徳雄・淀大我・瀬能宏|isbn=978-4-486-01980-0}}</ref>、当事者には全く意識されていないのが現状である{{efn2|同様の問題は[[メダカ]]や[[金魚]]や[[蛍]]に関してもいえることではある。}}。また、ニシキゴイの放流が原因と推測される[[コイヘルペスウイルス]]による感染症が地元のコイに蔓延し大量死する事件もある。
また、コイは底生生物や水生植物などを根こそぎ食べてしまうという影響もある<ref name="kanagawa" />。
同じことは飼養種でないコイについても言える。コイは体が大きくて見栄えがするため、「コイが棲めるほどきれいな水域」というきわめて安直な趣旨で[[地方公共団体|自治体]]レベルで[[川]]や[[ダム]]などに[[放流]]されることが多い。しかしコイはもともと[[生物化学的酸素要求量|BOD値]]の高い湖沼や河川を好んで住処とする種で、低酸素環境に対する高い耐性がある。これは、生物界における一般的な基準からすると、他の生物の嫌う水質の悪い水域にしか生息できないことを意味する。実際、逆に水質がよい小川の堰の内部に放流したニシキゴイが餌の問題から大量に[[餓死]]する例も報告されており<ref name="kkgrg" />、「コイが棲める=きれいな水域」という図式は成立し得ないことがわかる。
市街地の汚れた河川を上から眺めれば、[[ボラ]]と放流されたコイばかりが目につくということが多々ある。しかもコイは各種水生生物を貪欲に食べてしまうので、往々にして河川環境の単純化を招きかねない<ref name="kkgrg" />。[[生物多様性]]の観点からすれば、もともとコイがいない水域にコイを放流するのは有害ですらある。
日本では外来魚である[[ブラックバス]]の問題がたびたび引き合いに出されるが、上述したようなコイの放流はブラックバスの放流と同様の問題を抱えている。本種には低温に対する耐性や雑食性、さらに60センチメートルを超える大きさにまで育ち、大きくなると[[天敵]]がほとんどいなくなるといった特徴がある。こうした特徴はいずれも[[外来種|侵略的外来生物]]に共通するものであり、実際[[国際自然保護連合]]では、コイを[[世界の侵略的外来種ワースト100]]のうちの1種に数えている。
特にコイを食す習慣のない北アメリカでは、在来の水生生物を圧迫するまでに繁殖している。人為的放流を禁じている州もあるほどで、北アメリカ以外でも猛威を振るっている例が報告されている。[[アメリカ合衆国]]では、中国原産のコイである[[ハクレン]]と[[コクレン]]が[[五大湖]]周辺に進出しており、これが五大湖に流れ込んだ場合、五大湖固有の魚が駆逐される可能性が指摘されている<ref>{{Cite news
| url = http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date1&k=2012022800652
| title = 五大湖、コイから守れ=5州の訴え実らず-米
| publisher = 時事通信
| date = 2012-3-2
| accessdate = 2012-3-2
}}{{リンク切れ|url=http://www.jiji.com/jc/c?g=int_date1&k=2012022800652|date=April 2018}}</ref>。
== 保全状態 ==
[[File:Cyprinus carpio 1879.jpg|thumb|[[アレクサンダー・フランシス・ライドン]]によるコイ。]]
野生種本来の分布域に生息する[[個体群]]は、河川の改修にともなう[[生態系]]の破壊や、他地方からの移入個体との[[交雑]]による[[遺伝子汚染]]による在来個体群の絶滅が危惧されており、[[2008年]]に国際自然保護連合により'''危急'''(Vulnerable)に指定されている。
== 文化 ==
=== 食材 ===
{{hidden begin|border = #aaa solid 1px|titlestyle=text-align: center; |title=コイの栄養価の代表値|bg=#F0F2F5}}
{{栄養価 | name=コイ(生)| water =76.31 g| kJ =531| protein =17.83 g| fat =5.6 g| carbs =0 g| fiber =0 g| sugars =0 g| calcium_mg =41| iron_mg =1.24| magnesium_mg =29| phosphorus_mg =415| potassium_mg =333| sodium_mg =49| zinc_mg =1.48| manganese_mg =0.042| selenium_μg =12.6| vitC_mg =1.6| thiamin_mg =0.115| riboflavin_mg =0.055| niacin_mg =1.64| pantothenic_mg =0.75| vitB6_mg=0.19| folate_ug =15| choline_mg =65| vitB12_ug =1.53| vitA_ug =9| betacarotene_ug =0| lutein_ug =0| vitE_mg =0.63| vitD_iu =988| vitK_ug =0.1| satfat =1.083 g| monofat =2.328 g| polyfat =1.431 g| tryptophan =0.2 g| threonine =0.782 g| isoleucine =0.822 g| leucine =1.449 g| lysine =1.638 g| methionine =0.528 g| cystine =0.191 g| phenylalanine =0.696 g| tyrosine =0.602 g| valine =0.919 g| arginine =1.067 g| histidine =0.525 g| alanine =1.078 g| aspartic acid =1.826 g| glutamic acid =2.662 g| glycine =0.856 g| proline =0.631 g| serine =0.728 g| right=1 | source_usda=1 }}
{| class="wikitable" style="float:right; clear:right"
|+ コイ(100g中)の主な[[脂肪酸]]の種類<ref>[https://data.nal.usda.gov/dataset/usda-national-nutrient-database-standard-reference-legacy-release USDA National Nutrient Database]</ref>
|-
! 項目 !! 分量(g)
|-
| [[脂肪]] || 5.6
|-
| [[飽和脂肪酸]] || 1.083
|-
| [[不飽和脂肪酸|一価不飽和脂肪酸]] || 2.328
|-
| 16:1([[パルミトレイン酸]]) || 0.655
|-
| 18:1([[オレイン酸]]) || 1.15
|-
| 20:1 || 0.071
|-
| 22:1 || 0.402
|-
| [[多価不飽和脂肪酸]] || 1.431
|-
| 18:2([[リノール酸]]) || 0.517
|-
| 18:3([[α-リノレン酸]]) || 0.27
|-
| 18:4([[ステアリドン酸]]) || 0.058
|-
| 20:4(未同定) || 0.152
|-
| 20:5 n-3([[エイコサペンタエン酸]](EPA)) || 0.238
|-
| 22:5 n-3([[ドコサペンタエン酸]](DPA)) || 0.082
|-
| 22:6 n-3([[ドコサヘキサエン酸]](DHA)) || 0.114
|}
{{hidden end}}コイは漁・養殖が共に盛んで、世界中の多くの地域で食べられている。
==== 日本 ====
食材としての鯉は、福島県からの出荷量が最多<ref>[http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001069811 内水面養殖業収獲量 都道府県別・魚種別収獲量] 農林水産省{{リンク切れ|date=2018-12-24}}</ref>で、[[鯉こく]](血抜きをしない[[味噌]]仕立ての汁)、うま煮(切り身を砂糖醤油で甘辛く煮付けたもの)、[[甘露煮]]にする。稀に[[鱗]]を[[から揚げ|唐揚げ]]し、[[スナック菓子]]のように食べることもある。また、[[洗い]]にして酢味噌や山葵醤油を付けて食べる例もある。しかし、生食や加熱不完全な調理状態の物を摂食すると、[[肝吸虫]]<ref>[https://www.forth.go.jp/useful/attention/08.html こんなに怖い寄生虫] 厚生労働省検疫所</ref>や[[有棘顎口虫]] ({{snamei|Gnathostoma spinigerum}}) による[[寄生虫病]]を発症する可能性がある<ref>{{PDFlink|[https://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H22_31.pdf 口虫(1/11) ※平成 22 年度食品安全確保総合調査] 食品安全委員会}}</ref><ref>[[doi:10.11334/jibi1954.4.1_61|喉頭顎口虫症の1例]] 耳鼻と臨床 Vol.4 (1957-1958) No.1 p.61-64</ref>。捕獲した鯉は、調理に際しきれいな水を入れたバケツの中に半日-数日程入れて泥の臭いを抜く。さばくときは濡れた布巾等で目を塞ぐとおとなしくなる。
[[藍藻]]は[[ゲオスミン]]や2-メチルイソボルネオールを作り、これが[[魚]]の[[皮膚]]や[[血合肉]]に濃縮される。このゲオスミンが、鯉や[[ナマズ]]など水底に棲む淡水魚が持つ泥臭いにおいのもとでもある。ゲオスミンは[[酸性]]条件で分解するので、[[酢]]など酸性の[[調味料]]を[[調理]]に使えば泥臭さを抑えることができる。
海から離れた地域では古くから貴重な動物性タンパク源として重用され、[[将軍]]や[[天皇]]に出される正式な饗応料理や日常的にも慶事・祝事の席などでも利用されてきた<ref name="NAID.40016621269">中澤弥子、鈴木和江、小木曽加奈、吉岡由美、[http://id.nii.ac.jp/1118/00000151/ コイ刺身の食味と物性 : 佐久鯉と福島産鯉の比較] 長野県短期大学紀要 63 (2008): 25-31, NAID:40016621269</ref>。卵をもつ真子持ちのうま煮やあらいの切り身の見た目から雌のほうが重宝される<ref name="ibaraki" />。
かつて[[サケ]]や[[ブリ]]の入手が困難であった内陸地域では、[[御節料理]]の食材などとして今日でも利用されている。[[山形県]][[米沢市]]では米沢上杉藩政時代の9代藩主[[上杉治憲|上杉治憲(鷹山)]]が[[1802年]]に相馬から鯉の稚魚を取り寄せ、冬期間のタンパク源などとして鯉を飼うことを奨励した。各家庭の裏にある台所排水用の小さな溜めで台所から出る米粒や野菜の切れ端を餌にして蓄養した。同様の条件で[[養蚕業|養蚕]]が盛んだった[[福島県]][[郡山市]]では[[カイコ|蚕]]の[[蛹]]が餌とされ、やがては生産量日本一にまで成長した<ref>[https://www.city.koriyama.fukushima.jp/242000/nogyo/koi.html 産業・ビジネス・観光 > 農業・林業 > 農産物など > 郡山の鯉 [[郡山市]] ]</ref>。現在の養殖では、主に農業用の溜め池が利用されるほか、長野県[[佐久地域]]では稲作用水田も利用されている。食生活の変化から需要の減少<ref>[https://doi.org/10.3739/rikusui.74.1 【原著】霞ヶ浦における魚類および甲殻類の現存量の経年変化] 陸水学雑誌 Vol.74 (2013) No.1 P1-14</ref>と共に全国の生産額は年々減少し、[[1998年]]には3億6000万円ほどであったが[[2008年]]には1億5000万円余りまで減少している<ref>[https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?lid=000001069810&layout=datalist 年次別統計 (平成10年〜平成20年)/魚種別生産額 - 内水面養殖業 ] [[農林水産省]]</ref>。
==== 中華人民共和国 ====
[[中華料理]]では、山東省に鯉1尾を丸ごと[[から揚げ]]にして甘酢あんをかけた料理「糖醋鯉魚」(タンツウリイユィ)があり、日本でも代表的な宴会メニューの1つとなっている。
中国では年始の供え物や食べ物として川魚を用いることが多く、最もポピュラーな魚が鯉である<ref>{{Cite journal |和書|author = 鷲尾紀吉, 劉明 |url=http://id.nii.ac.jp/1471/00001450/ |title= 中国と日本の正月行事 |journal=中央学院大学人間・自然論叢 |issue=29 |pages=3-22 |date=2009 |publisher=中央学院大学 |accessdate=2019-10-21}}</ref>。
==== ヨーロッパ ====
鯉は[[中央ヨーロッパ|中欧]]や[[東ヨーロッパ|東欧]]では、古くからよく食べられている。特に[[スラヴ人]]にとっては鯉は聖なる食材とされ、[[ウクライナ]]・[[ポーランド]]・[[チェコ]]・[[スロバキア]]・[[ドイツ]]・[[ベラルーシ]]などでは伝統的な[[クリスマス・イヴ]]の夕食には欠かせないものである。[[アシュケナジム|東欧系ユダヤ教徒]]が[[安息日]]に食べる魚料理「[[ゲフィルテ・フィッシュ]]」の素材としても、鯉がよく用いられた。しかし[[アングロアメリカ|北米]]では、鯉は水底でえさをあさるために泥臭いとして敬遠されており、[[釣り]](遊漁)の対象魚とはされても食材として扱われることは極めてまれである。ヨーロッパでは、鏡鯉から食用に品種改良され[[家畜]]化された鱗のない鯉、革鯉(Leather carp)と呼ばれる鯉が使われる。
==== 食中毒 ====
コイの[[胆嚢]](苦玉)は苦く、解体時にこれをつぶすと身に苦味が回る。胆嚢には[[コイ毒]](毒性物質は[[胆汁酸]]の[[5-αチブリノール]]と[[スルフェノール]])が含まれている場合があり、摂食により[[下痢]]や[[嘔吐]]、[[腎不全]]、肝機能障害、[[痙攣]]、[[麻痺]]、意識不明を引き起こすほか、まれに死亡例もある<ref name="kobe">{{Cite web|和書|url=http://www.city.kobe.lg.jp/life/health/infection/trend/m/kg42_1.html|title=神戸市:特集 マリントキシン |publisher=神戸市 保健福祉局 予防衛生課 |accessdate=2018-12-24|archiveurl=https://web.archive.org/web/20160304113808/http://www.city.kobe.lg.jp/life/health/infection/trend/m/kg42_1.html |archivedate=2016-05-04}}</ref><ref>[https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_05.html 自然毒のリスクプロファイル:魚類:胆のう毒] 厚生労働省</ref>。その反面、視力低下やかすみ目などに効果があるとされ、'''鯉胆'''(りたん)という生薬名で錠剤にしたものが販売されている。
=== 釣り ===
{{see|野鯉釣り}}
=== 観賞魚・錦鯉 ===
{{main article|ニシキゴイ}}
=== 伝承 ===
[[ファイル:Yoshitoshi The Giant Carp.jpg|thumb|right|100px|[[月岡芳年]]画:『金太郎捕鯉魚』]]
中国では、鯉が滝を登りきると[[龍]]になる[[登龍門]]という言い伝えがあり、古来尊ばれた。その概念が日本にも伝わり、[[江戸時代]]に武家では子弟の立身出世のため、[[武士]]の庭先で[[端午]]の[[節句]]([[旧暦]][[5月5日 (旧暦)|5月5日]])あたりの[[梅雨]]期の[[雨]]の日に鯉を模した[[こいのぼり]]を飾る風習があった。[[明治]]に入って[[四民平等]]政策により武家身分が廃止され、こいのぼりは一般に普及した。現在では、[[グレゴリオ暦]]([[新暦]])[[5月5日]]に引き続き行なわれている。
また比喩的表現として、将来、有能・有名な政治家・芸術家・役者になるため最初に通るべき関門を登龍門と指して言うこともしばしばある。
『[[日本書紀]]』第七巻には、[[景行天皇]]が[[美濃国|美濃]]([[岐阜県|岐阜]])に[[行幸]]した時、美女を見そめて求婚したが、彼女が恥じて隠れてしまったため、鯉を池に放して彼女が鯉を見に出てくるのを待った、という説話が出てくる。
日本では古くから女性が健康(体力作り)のために鯉を食したと言う伝説や伝承があり、妊婦が[[酸っぱい]]鯉を食べて健康になり、無事、安産できたと言う伝説もある。また、御産の後に鯉を食べると[[母乳]]がよく出ると言う伝承も見られる。こうした話は東西を問わず内陸地には多い伝承である。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<!--
<ref name=fishbase>Fishbase: [http://www.fishbase.org/Summary/SpeciesSummary.php?id=1450 ''Cyprinus carpio'' Linnaeus, 1758]</ref>
-->
}}
== 関連項目 ==
* [[人面魚]]
* [[コイキング]]
* [[四大家魚|五大家魚]]
* [[広島東洋カープ]] - 球団名は[[広島城]]の異名・鯉城(りじょう)にちなむ。また、地元[[太田川]]は鯉の産地でもある。チーム自体が「鯉」と呼ばれる事もある。
* [[魚の一覧]]
* [[子持鯉の煮付]]
==外部リンク==
{{Sisterlinks|鯉
| b = no
| n = no
| v = no
| species = Cyprinus carpio
}}
* [https://www.nies.go.jp/biwakoi/koi.html 琵琶湖のコイ‐コイ目線のびわ湖映像アーカイブス] 国立環境研究所琵琶湖分室
* コイ(外来系統・飼育型)の3D/CTスキャンモデル:(アジア淡水魚・淡水生物データベース)
{{食肉}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:こい}}
[[Category:コイ亜科]]
[[Category:食用川魚]]
[[Category:淡水魚]]
[[Category:釣りの対象魚]]
[[Category:1758年に記載された魚類]]
[[Category:カール・リンネによって名付けられた分類群]] | 2003-04-28T23:29:39Z | 2023-10-29T23:22:53Z | false | false | false | [
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"Template:Main article"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A4 |
7,430 | 語族の一覧 | 語族の一覧(ごぞくのいちらん)は、世界の語族(孤立した言語を含む)の一覧である。
語族は諸言語に共通性を見出し、祖語があるのではとの意識が学究的動機に発展して成立した分類体型であり、比較言語学の方法によって同系統と証明された言語群の最上位のグループ名である。(その下位は語派、さらにその下位は語群。)
語族は、歴史学、民族学などにおいて民族集団の分類に用いられることが多く、それぞれの「~語族」に基づき「~人」、「~系民族」、「~族」などと表現される。
次節以降では自然言語の語族の一覧を掲載する。†は比較言語学の記号で、記号が付属している言語は現在の死語を意味する。自然言語以外はその他とし、リンク先等を参照のこと。
大語族仮説や提唱中の語族(系統関係未証明)の一覧。
従来は語族の下位語派とされるが、系統関係は無く独立した語族に分離すべきだとする説があるもの。
データ不足等の理由で他の言語との比較研究がほとんど行われておらず、分類されていない(所属語族が未決定)の言語を未分類言語という。未分類言語のほとんどは消滅したか、消滅の危機に瀕している。
異なる言語同士が接触し、意思疎通を目的として生まれた言語。
異なる言語同士が接触し、双方の特徴を保ったまま複雑に混合した言語。
手話は自然言語であるが、視覚言語でもある。また、聾教育の国際的伝播と、その後の国ごとの独自の発展の経緯によって、ある程度語彙に共通性をもつ語族を形成する。なお、手話にも人工言語が存在する。 | [
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"title": "提唱中の語族・大語族仮説"
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{
"paragraph_id": 6,
"tag": "p",
"text": "データ不足等の理由で他の言語との比較研究がほとんど行われておらず、分類されていない(所属語族が未決定)の言語を未分類言語という。未分類言語のほとんどは消滅したか、消滅の危機に瀕している。",
"title": "未分類言語"
},
{
"paragraph_id": 7,
"tag": "p",
"text": "異なる言語同士が接触し、意思疎通を目的として生まれた言語。",
"title": "その他の言語"
},
{
"paragraph_id": 8,
"tag": "p",
"text": "異なる言語同士が接触し、双方の特徴を保ったまま複雑に混合した言語。",
"title": "その他の言語"
},
{
"paragraph_id": 9,
"tag": "p",
"text": "手話は自然言語であるが、視覚言語でもある。また、聾教育の国際的伝播と、その後の国ごとの独自の発展の経緯によって、ある程度語彙に共通性をもつ語族を形成する。なお、手話にも人工言語が存在する。",
"title": "手話の語族"
}
] | 語族の一覧(ごぞくのいちらん)は、世界の語族(孤立した言語を含む)の一覧である。 | {{色}}
'''語族の一覧'''(ごぞくのいちらん)は、世界の[[語族]]([[孤立した言語]]<ref>所属言語が1語のみの語族</ref>を含む)の一覧である。
[[File:Human Language Families Map.PNG|thumb|700px]]
== 概要 ==
'''[[語族]]'''は諸言語に共通性を見出し、[[祖語]]があるのではとの意識が学究的動機に発展して成立した分類体型であり、[[比較方法|比較言語学の方法]]によって同系統と証明された言語群の最上位のグループ名である。(その下位は[[語派]]、さらにその下位は[[語群]]。)
語族は、[[歴史学]]、[[民族学]]などにおいて[[民族集団]]の分類に用いられることが多く、それぞれの「~語族」に基づき「'''~人'''」、「'''~系民族'''」、「'''~族'''」などと表現される<ref>しかしこれには言語以外の[[宗教]]など文化的側面や、地域や時間的経過、その他の要素による集団分類を適用できることから、通史的に適用できる概念ではないことには注意を要する。[[イタリック語派]]に属する人々を「イタリック人」と歴史的に呼ぶことはない(通史的には[[ローマ人]]と呼ばれる)。またここから派生した[[ラテン語]]のみを話す語族は現存せず[[ラテン人]]は使われない(その代わり分化や気質を表す[[ラテン系]]は使われる)。[[バチカン]]はラテン語を公用語としているがこれは[[公文書]]での使用に限られ、会話などでラテン語のみを使用するわけではない。</ref>。
次節以降では自然言語の[[語族]]の一覧を掲載する。†は比較言語学の記号で、記号が付属している言語は現在の[[死語 (言語)|死語]]を意味する。自然言語以外はその他とし、リンク先等を参照のこと。
<!-- 注)見出し名にリンクを貼らないでください -->
{{-}}
==語族の一覧==
===アフリカ===
{{See also|アフリカの言語}}
[[File:African language families.png|thumb|right|250px|アフリカの語族の分布]]
[[File:Hamito-Semitic_languages.jpg|thumb|right|300px|[[アフロ・アジア語族]]の分布。橙:[[セム語派]]、赤:[[ベルベル語派]]、水色:[[クシ語派]]、黄緑:[[オモ語派]]、濃い緑:[[チャド諸語]]]]
*[[コイサン諸語]]:かつては[[コイサン語族]]とされたが、現在は独立した語族の集合体(系統関係は未証明)とされる。[[吸着音]]などが特徴的。
**'''[[ジュー・ホアン語族]]'''
**'''[[ツウ語族]]'''
**'''[[コエ・クワディ語族]]'''
***[[コエ諸語]]
***[[クワディ語]]†
**'''[[サンダウェ語]]'''([[孤立した言語]])
**'''[[ハヅァ語]]'''(孤立した言語)
*'''[[ナイル・サハラ語族]]'''(所属言語には諸説あり、諸語族の集合体という説もある)
*'''[[ニジェール・コンゴ語族]]'''
**[[コルドファン語派]]
**[[マンデ語派]]
**[[大西洋・コンゴ諸語]]
*'''[[バンギメ語]]'''(孤立した言語)
*'''[[シャボ語]]'''(孤立した言語)
*'''[[ジャラー語]]'''(孤立した言語)
*'''[[ラール語]]'''(孤立した言語)
*'''[[アフロ・アジア語族]]'''
**[[オモ語派]]
**[[クシ語派]]
**[[エジプト語派]]
**[[チャド語派]]
**[[ベルベル語派]]
**[[セム語派]]:[[アラビア語]]、[[ヘブライ語]]など
===ユーラシア===
====西部====
[[File:Indo-European branches map.png|right|300px|thumb|印欧語族の分布(新大陸除く)]]
[[ファイル:Caucasus-ethnic ja.svg|250px|thumb|right|コーカサス諸語]]
*'''[[インド・ヨーロッパ語族]]'''([[ケントゥム語とサテム語]]という分類法もある)
** [[アナトリア語派]]†:[[ヒッタイト語]]†など
** [[トカラ語|トカラ語派]]†
** [[ヘレニック語派]]:[[ギリシャ語]]
** [[アルバニア語|アルバニア語派]]
** [[アルメニア語|アルメニア語派]]
** [[インド・イラン語派]]
*** [[インド語派]]:[[ヒンディー語]]、[[ベンガル語]]など
*** [[ヌーリスターン語派]]
*** [[イラン語群|イラン語派]]:[[ペルシャ語]]、[[タジク語]]
** [[バルト・スラヴ語派]]
*** [[バルト語派]]:[[リトアニア語]]、[[ラトビア語]]など
*** [[スラヴ語派]]:[[ロシア語]]、[[ポーランド語]]、[[セルビア語]]など
** [[ゲルマン語派]]:[[英語]]、[[ドイツ語]]、[[スウェーデン語]]など
** [[イタロ・ケルト語派]](仮説)
*** [[ケルト語派]]:[[アイルランド語]]など
*** [[イタリック語派]]:[[イタリア語]]、[[フランス語]]、[[スペイン語]]など
*[[コーカサス諸語]](互いの系統関係は無い。[[北西コーカサス語族]]と[[北東コーカサス語族]]で[[北コーカサス語族]]を成すという説がある。)
**'''[[カルトヴェリ語族]]''':[[グルジア語]]など
**'''[[北西コーカサス語族]]'''
**'''[[北東コーカサス語族]]'''
*'''[[バスク語]]'''(孤立した言語)
*'''[[エトルリア語]]'''†:[[ティルセニア語族]]を成すという説が有力。
*'''[[エラム語]]'''†(孤立した言語):[[ドラヴィダ語族]]との間に[[エラム・ドラヴィダ語族]]を成すという説がある。
*'''[[シュメール語]]'''†(孤立した言語)
*'''[[フルリ・ウラルトゥ語族]]'''†:[[フルリ語]]†と[[ウラルトゥ語]]†
====北部====
[[ファイル:Linguistic map of the Uralic languages.png|450px|right|thumb|ウラル語族、ユカギール語の分布]]
[[ファイル:Lenguas altaicas.png|サムネイル|320x320ピクセル|{{Legend|#00008B|チュルク語族}}
{{Legend|#32CD32|モンゴル語族}}
{{Legend|#FF0000|ツングース語族}}]]
*'''[[ウラル語族]]'''
**[[フィン・ウゴル語派]]:[[フィンランド語]]、[[エストニア語]]、[[ハンガリー語]]など
**[[サモエード語派]]:[[ネネツ語]]、[[ガナサン語]]など
*[[アルタイ諸語]]:かつては[[アルタイ語族]]を成すという見方が優勢であったが、現在では別々の語族とされる。
**'''[[チュルク語族]]''':[[トルコ語]]、[[ウズベク語]]、[[カザフ語]]、[[キルギス語]]、[[ウイグル語]]、[[サハ語]]など
**'''[[モンゴル語族]]''':[[モンゴル語]]、[[オイラト語]]、[[ブリヤート語]]など
**'''[[ツングース語族]]''':[[満州語]]、[[エベンキ語]]など
*[[古シベリア諸語|古アジア諸語]]:互いの系統関係は存在しない。諸語族の集合体の便宜的総称。
**'''[[エニセイ語族]]''':現存は[[ケット語]]のみ
**'''[[ニヴフ語]]'''(孤立した言語)
**'''[[ユカギール語族]]''':現存は2言語のみ。[[ウラル語族]]との同系説が有力。
**'''[[チュクチ・カムチャツカ語族]]'''
====東部====
[[File:Lenguas sino-tibetanas.png|300px|thumb|right|シナ・チベット語族の分布図(赤は[[シナ語派]]、緑は[[チベット・ビルマ語派]])]]
[[Image:Taikadai-en.svg|right|thumb|255px|クラ・ダイ語族の分布図]]
[[ファイル:Hmong-Mien-en.svg|right|thumb|250px|分布図 橙:モン語派、緑:ミエン語派]]
[[Image:Se asia lang map.png|250px|thumb|right|オーストロアジア語族の分布]]
*'''[[シナ・チベット語族]]'''
**[[シナ語派]]:[[中国語]]
**[[チベット・ビルマ語派]]:[[チベット語]]、[[ビルマ語]]など
*'''[[モン・ミエン語族]]'''
**[[モン語派]]
**[[ミエン語派]]
*'''[[オーストロアジア語族]]'''
**[[ベト・ムオン語派]]:[[ベトナム語]]など
**[[モン・クメール語派]]
**[[ムンダ語派]]
*'''[[クラ・ダイ語族]]'''
**{{仮リンク|リー語派|en|Hlai languages|label=黎語派}} (Hlai)
**{{仮リンク|カム・タイ語派|en|Kam-Tai languages}} :[[タイ語]]など
*'''[[朝鮮語族]]'''
*'''[[日琉語族]]'''
**[[日本語|本土語派]](日本語)
**[[琉球語派]](琉球語)
*'''[[アイヌ語|アイヌ語族]]'''
**[[北海道アイヌ語]]
**[[樺太アイヌ語]]†
**[[千島アイヌ語]]†
====南部====
[[Image:Dravidische Sprachen.png|250px|thumb|right|ドラヴィダ語族の分布]]
*'''[[ドラヴィダ語族]]''':[[タミル語]]など
*[[アンダマン諸語]](両語族の系統関係はない)
**'''[[大アンダマン語族]]'''
**'''[[オンガン語族]]'''
*'''[[ブルシャスキー語]]'''(孤立した言語)
*'''[[クスンダ語]]'''(孤立した言語)
*'''[[ニハリ語]]'''(孤立した言語)
===オセアニア===
[[File:Chronological dispersal of Austronesian people across the Pacific (per Benton et al, 2012, adapted from Bellwood, 2011).png|thumb|450px|right|オーストロネシア語族の分布]]
*'''[[オーストロネシア語族]]'''
**[[台湾諸語]]:[[台湾原住民]]の諸言語
**[[マレー・ポリネシア語派]]
***[[フィリピン諸語]]:[[タガログ語]]、[[セブアノ語]]など
***[[サマ・バジャウ諸語]]
***[[ボルネオ諸語]]
***[[中核マレー・ポリネシア語群]]:[[ハワイ語]]、[[サモア語]]、[[マオリ語]]など
[[File:NewGuineaSelonUsher.png|thumb|right|400px|パプア諸語の分布]]
*[[パプア諸語]]:互いの系統関係は立証されておらず、便宜的に括られる。
**'''[[トランス・ニューギニア語族]]''':ニューギニア諸語最大の語族
**'''[[セピク語族]]'''
**'''[[トリチェリ語族]]'''
** '''[[ラム・低地セピク語族]]''' ([[:en:Ramu-Lower Sepik languages]]) (40) (Foleyが最初に提案)
** '''[[拡大西パプア語族]]''' ([[:en:Extended West Papuan]]) (仮説的)
*** '''[[西パプア語族]]''' ([[:en:West Papuan languages]]) (27)
*** '''[[東バーズヘッド・センタニ語族]]''' ([[:en:East Bird's Head-Sentani languages]]) (9)
*** '''[[ヤワ語族]]''' ([[:en:Yawa languages]]) (1-2)
** '''[[南中央パプア語族]]'''(Trans-Fly–Bulaka River語族)([[:en:South-Central Papuan languages]]) (22) ※
** '''[[レイクス・プレイン語族]]''' ([[:en:Lakes Plain languages]]) (19) ※
** '''[[トル・クェルバ語族]]''' ([[:en:Tor-Kwerba languages]]) (17) ※
** '''[[ボーダー語族]]'''(タミ語族) ([[:en:Border languages (New Guinea)|Border languages]]) (15) ※
** '''[[メイ左岸・クォムタリ語族]]''' ([[:en:Left May-Kwomtari languages]]) (12) (問題あり)
** '''[[東チェンドラワシ語族]]'''(東ギールヴィンク語族) ([[:en:East Geelvink Bay languages]], East Cendrawasih languages) (10)
** '''[[南ブーゲンヴィル語族]]''' ([[:en:South Bougainville languages]]) (9)
** '''[[スコウ語族]]''' ([[:en:Skou languages]]) (8)
** '''[[バイニング語族]]'''(東ニューブリテン語族) ([[:en:Baining languages]], East New Britain languages) (8)
** '''[[ニンボラン語族]]''' ([[:en:Nimboran languages]]) (5) ※
** '''[[ユアト語族]]''' ([[:en:Yuat languages]]) (5) (以前はラム・セピク語族に分類されていた)
** '''[[マイラシ語族]]''' ([[:en:Mairasi languages]]) (4) ※
** '''[[東トランスフライ語族]]''' ([[:en:Eastern Trans-Fly languages]]) (4) (1つはオーストラリア トレス海峡諸島) ※
** '''[[北ブーゲンヴィル語族]]''' ([[:en:North Bougainville languages]]) (4)
** '''[[中央ソロモン語族]]''' ([[:en:Central Solomon languages]]) (4) - それぞれ[[孤立言語]]とする場合もある
** '''[[イェレ・西ニューブリテン語族]]''' ([[:en:Yele-West New Britain languages]]) (仮説的)
*** '''[[イェリ・ダニエ語]]'''(イェレ語) ([[:en:Yélî Dnye language|en:Yélî Dnye]], Yele) (孤立)
*** '''[[アネム語]]''' ([[:en:Anêm language|en:Anêm]]) (孤立)
*** '''[[アタ語]]'''(ペレアタ語、ワシ語) ([[:en:Ata language|en:Ata]], Pele-Ata, Wasi) (孤立)
** '''[[セナギ語族]]''' ([[:en:Senagi languages]]) (2) (おそらくセピク語族と関係あり) ※
** '''[[ピアウィ語族]]''' ([[:en:Piawi languages]]) (2) (おそらくラム・低地セピク語族に含まれる) ※
[[File:Australian language families.png|thumb|300px|オーストラリア諸語の語族
{{legend|#00A1E8|[[ニュルニュラン語族]]}}
{{legend|#98D9EA|{{仮リンク|ウォロラン語族|en|Worrorran languages}}}}
{{legend|#FFADC9|{{仮リンク|ブナバン語族|en|Bunuban languages}}}}
{{legend|#FF6666|{{仮リンク|ジェラガン語族|en|Jarrakan languages}}}}
{{legend|#6666ff|Mirndi<small>([[:en:Mirndi languages|英語版]])</small>}}
{{legend|#21B04B|{{仮リンク|デイリー語族|en|Daly languages}}(4語族からなる)}}
{{legend|#880015|Wagiman語<small>([[:en:Wagiman language|英語版]])</small>}}
{{legend|#FF7E26|Wardaman語<small>([[:en:Wardaman language|英語版]])</small>}}
{{legend|#B87956|{{仮リンク|ティウィ語|en|Tiwi language}}}}
{{legend|#C8BEE7|Darwin Region<small>([[:en:Darwin Region languages|英語版]])</small>}}
{{legend|#A248A3|{{仮リンク|イワイジャン語族|en|Iwaidjan languages}}}}
{{legend|#EFE4AF|Giimbiyu語†}}
{{legend|#FFC90E|Arnhem([[グンウィングアン語族]]を含む)<small>([[:en:Macro-Gunwinyguan languages|英語版]])</small>}}
{{legend|#B4E61C|Garawan<small>([[:en:Garawan languages|英語版]])</small> および Tangkic<small>([[:en:Tangkic languages|英語版]])</small>}}
{{legend|#FFF200|[[パマ・ニュンガン語族]]}}
]]
*[[オーストラリア諸語]]:互いの系統関係は立証されておらず、便宜的に括られる。
** '''{{仮リンク|ブナバン語族|en|Bunuban languages}}''' (Bunuban, Bunaban)
** '''{{仮リンク|デイリー語族|en|Daly languages}}''' (Daly) - {{仮リンク|デイリー川|en|Daly River, Northern Territory}}流域
** '''Darwin Region 語族'''<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Darwin Region languages|英語版]])</span> - [[ノーザンテリトリー]] [[ダーウィン (ノーザンテリトリー)|ダーウィン]]
** '''Garawan 語族'''<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Garawan languages|英語版]])</span>
** '''Giimbiyu 語'''†<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Giimbiyu language|英語版]])</span>(Mangerr)
** '''{{仮リンク|グンウィングアン語族|en|Macro-Gunwinyguan languages}}''' (Gunwinyguan, Arnhem) - ノーザンテリトリー [[アーネムランド]]
** '''{{仮リンク|イワイジャン語族|en|Iwaidjan languages}}''' (Iwaidjan, Yiwaidjan)
** '''Jarrakan 語族'''(ジェラガン語族、Djeragan)<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Jarrakan languages|英語版]])</span>
** '''Mirndi 語族''' (Mindi)<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Mirndi languages|英語版]])</span>
** '''Nyulnyulan 語族'''<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Nyulnyulan languages|英語版]])</span>
** '''[[パマ・ニュンガン語族]]''' - 約160言語 オーストラリア最大の語族
** '''Tangkic 語族'''<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Tangkic languages|英語版]])</span>
** '''{{仮リンク|ティウィ語|en|Tiwi language}}''' - [[ティウィ諸島]]
** '''Wagiman 語'''<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Wagiman language|英語版]])</span>
** '''Wardaman 語''' (Yangmanic)<span style="font-size: 0.77em;">([[:en:Wardaman language|英語版]])</span>
** '''{{仮リンク|ウォロラン語族|en|Worrorran languages}}''' (Worrorran, Wororan)
===アメリカ===
{{see also|アメリカ先住民諸語}}
[[Image:Langs N.Amer.png|thumb|500px|[[北アメリカ]]の先住民の言語の分布]]
* '''[[エスキモー・アレウト語族]]''' - [[北極海]]沿岸、[[アラスカ]]、[[アリューシャン列島]]
**[[アレウト語]]
**[[エスキモー諸語]]
* '''[[ナ・デネ語族]]''' - 北米西北部、[[ニューメキシコ州]]
**[[アサバスカ諸語]]:[[ナバホ語]]など
**[[イヤック語]]†
**[[トリンギット語]]
*'''[[ハイダ語]]''' ※[[エドワード・サピア|サピア]]はハイダ語をナ・デネ大語族に含めたが、その後の研究では[[孤立した言語]]とするのが定説となっている。
* {{仮リンク|アルゴンキン・ウォキャシ大語族|en|Algonquian–Wakashan languages}}(仮説)
** '''[[アルギック語族]]'''
*** [[アルゴンキン語派]](アルゴンキアン語族) - [[五大湖]]を中心に、北米東部の大部分
***[[ユロック語]]
** '''[[セイリッシュ語族]]'''
** '''{{仮リンク|チマクアン語族|en|Chimakuan languages}}'''
** '''{{仮リンク|ウォキャシ語族|en|Wakashan languages}}'''
** '''[[クーテナイ語]]'''
* {{仮リンク|マクロ・スー大語族|en|Macro-Siouan languages}} - [[アパラチア山脈]]及び北米中西部
**'''[[スー語族]]''' - [[グレートプレーンズ]]
**'''[[イロコイ語族]]'''
**'''{{仮リンク|カド語族|en|Caddoan languages}}'''
**'''{{仮リンク|ユチ語|en|Yuchi language}}'''
*{{仮リンク|湾岸大語族|en|Gulf languages}}
**'''[[マスコギ語族]]'''
* [[ホカ大語族]] - [[カリフォルニア半島]]、[[メキシコ湾]]に面した一部地域 ※マクロ・スー大語族と併せて[[ホカ・スー大語族]]とする場合もある。<ref name="sekainogengo">『講座言語 第6巻 世界の言語』北村甫編、青木晴夫ら共著([[大修館書店]])</ref>
**'''[[ワショ語]]'''
**'''{{仮リンク|キャロック語|en|Karuk language}}'''
**'''{{仮リンク|ポモ語族|en|Pomoan languages}}'''
**'''{{仮リンク|アチョマウィ語|en|Achumawi language}}'''
**'''[[ユマ語族]]'''
**'''[[セリ語]]'''
**'''{{仮リンク|ヒカケ語|en|Jicaquean languages}}'''
**'''[[テキストラテック語族]]'''
**'''{{仮リンク|トラパンカン語族|en|Supanecan languages}}''' ※[[オト・マンゲ語族|オト・マンゲ大語族]]に含める説もある
* '''{{仮リンク|ケレス語|en|Keresan languages}}''' ※ホカ・スー大語族に含める場合もある<ref name="sekainogengo"></ref>
[[Image:Map of the languages of Mexico.png|thumb|400px|[[メキシコ]]の先住民の言語の分布]]
* [[ペヌーティ諸語|ペヌート大語族]] - [[カリフォルニア州]]、[[メキシコ]]東部、[[グアテマラ]]、[[ベリーズ]]。南米大陸のいくつかの言語を含む説がある
** '''[[ツィムシアン語]]'''
** '''[[ヨクツ語族]]'''
** '''{{仮リンク|マイドゥ語族|en|Maiduan languages}}'''
** '''[[ミーウォク語族]]'''
** '''{{仮リンク|チヌーク語族|en|Chinookan languages}}'''
** '''{{仮リンク|サハプティアン語族|en|Sahaptian languages}}'''
** '''[[ミヘ・ソケ語族]]'''<ref name="sekainogengo"></ref> - [[ミヘー|ミヘ族]]、[[ソケ族]]
** '''{{仮リンク|トトナク語族|en|Totonacan languages}}'''<ref name="sekainogengo"></ref> ※ミヘ・ソケ語族と合わせて{{仮リンク|トトソケ語族|en|Totozoquean languages}}とする説もある
** '''[[マヤ語族]]'''<ref name="sekainogengo"></ref>
** '''{{仮リンク|チパヤ・ウル語族|en|Uru–Chipaya languages}}'''<ref name="sekainogengo"></ref> ※ペヌート大語族に含めない場合もある
** '''[[ワヴェ語]]'''<ref name="sekainogengo"></ref> ※[[オト・マンゲ語族|オト・マンゲ大語族]]に含める説もある
* {{仮リンク|アズテック・タノア語族|en|Aztec–Tanoan languages|label=アズテック・タノア大語族}} - [[ネバダ州]]、[[ユタ州]]、メキシコ西部
**'''[[ユト・アステカ語族]]''' - [[グレートベースン]]
**'''[[カイオワ・タノア語族]]'''
* '''[[タラスコ語]]''' - [[メキシコ]] [[ミチョアカン州]]
* [[オト・マンゲ語族|オト・マンゲ大語族]] - メキシコ中部
**'''{{仮リンク|チナンテク語族|en|Chinantecan languages}}'''
**'''{{仮リンク|オトミ語族|en|Oto-Pamean languages}}'''
**'''{{仮リンク|ミシテク語族|en|Mixtecan languages}}'''
**'''{{仮リンク|ポポロカ語族|en|Popolocan languages}}'''
**'''{{仮リンク|サポテク語族|en|Zapotecan languages}}'''
[[Image:SouthAmerican families 03.png|thumb|320px|[[南アメリカ]]の先住民の言語の分布]]
* {{仮リンク|マクロ・チブチャ大語族|en|Macro-Chibchan languages}} - [[ホンジュラス]]~[[パナマ地峡]]にかけて。南米大陸の一部の言語を含む
** '''{{仮リンク|チブチャ語族|en|Chibchan languages}}'''
** '''[[レンカ語]]''' - [[レンカ族]]。[[ホンジュラス]]、[[エルサルバドル]]
** '''[[シンカ語]]''' - [[グアテマラ]]
** '''{{仮リンク|チョコ語族|en|Choco languages}}''' - [[パナマ]]、[[コロンビア]]
** '''{{仮リンク|インター・アンディーン語族|en|Paezan languages}}''' (Paezan) - コロンビア
** '''{{仮リンク|ワイカ語族|en|Yanomaman languages}}''' - [[ベネズエラ]]、[[ブラジル]]
* [[アンデス・赤道大語族]] - [[アンデス山脈]]、[[アマゾン川]]流域など
** {{仮リンク|ケチュマラ大語族|en|Quechumaran languages}}
***'''[[ケチュア語族]]'''
***'''[[アイマラ語族]]'''
** '''[[チョン語族]]'''<ref name="sekainogengo"></ref> - [[アルゼンチン]] ※{{仮リンク|マクロ・パノア大語族|en|Macro-Panoan languages}}に含める場合もある
** '''[[アラワク語族]]'''
** '''{{仮リンク|ヒヴァロ語族|en|Jivaroan languages}}''' - [[ヒバロ族]]。[[エクアドル]]、ペルー
** '''{{仮リンク|トゥカノ語族|en|Tucanoan languages}}'''
** '''[[モヴィマ語]]''' - ボリビア
* {{仮リンク|ゲ・トゥピ・カリブ大語族|en|Je–Tupi–Carib languages}} - [[ギアナ]]地方、[[ブラジル]]南部、[[パラグアイ]]、[[アルゼンチン]]東部など
**{{仮リンク|マクロ・ゲ大語族|en|Macro-Jê languages}}
***'''{{仮リンク|ゲ語族|en|Jê languages}}'''
**'''[[トゥピ語族]]''' ※アンデス・赤道大語族に含める場合もある<ref name="sekainogengo"/>
**{{仮リンク|マクロ・パノア大語族|en|Macro-Panoan languages}}
***{{仮リンク|タカナ・パノ大語族|en|Pano-Tacanan languages}}
****'''{{仮リンク|パノ語族|en|Panoan languages}}'''
**'''[[カリブ語族]]'''
*'''[[ムーラ語]]''' - [[ブラジル]] [[アマゾナス州]]
* '''{{仮リンク|アラウカ語族|en|Araucanian languages}}''' - [[チリ]]、[[アルゼンチン]]
==提唱中の語族・大語族仮説==
[[大語族]]仮説や提唱中の語族(系統関係未証明)の一覧。
===全球的な大語族仮説===
;[[ボレア大語族]]
:[[セルゲイ・スタロスティン]]が主張する。アジア・ヨーロッパ・北方のアフリカの全言語と、[[アメリカ先住民諸語]]のいくつかあるいは全てを含む。ボレアとは[[北半球]]のことである。
;[[ノストラティック大語族]]
:[[ホルガー・ペデルセン]]が提唱、[[:en:Vladislav Illich-Svitych]]と[[:en:Aharon Dolgopolsky]]が現代の仮説に形作る。[[アフロ・アジア語族]]、[[南コーカサス語族]]、[[インド・ヨーロッパ語族]]、[[ウラル語族]]、[[ドラヴィダ語族]]、[[アルタイ語族]]、[[エスキモー・アレウト語族]]を含む。
;[[ユーラシア大語族]]
:[[ジョーゼフ・グリーンバーグ]]が主張する。[[エトルリア語]]、インド・ヨーロッパ語族、ウラル語族、[[ユカギル語]]、アルタイ語族、[[朝鮮語]]、[[日琉語族]]、[[アイヌ語]]、[[ニヴフ語]]、[[チュクチ・カムチャッカ語族]]、エスキモー・アレウト語族を含む。
;[[オーストリック大語族]]
:[[ヴィルヘルム・シュミット (民族学)|ヴィルヘルム・シュミット]]が主張した。[[オーストロアジア語族]]と[[オーストロネシア語族]]を含む。[[タイ・カダイ語族]]、[[ミャオ・ヤオ語族]]を含むこともある。
;[[東アジア大語族]]
:[[シナ・チベット語族]]、[[モン・ミエン語族]]、[[オーストロネシア語族]]、[[オーストロアジア語族]]、[[クラ・ダイ語族]]を含む。[[日琉語族]]、[[朝鮮語族]]を含む場合もある。
;[[デネ・コーカサス大語族]]
:[[:en:John Bengtson]]が主張する。[[シナ・チベット語族]]、[[ナ・デネ語族]]、[[エニセイ語族]]、[[バスク語]]、古典[[アキテーヌ地域圏|アキテーヌ]]諸語(語族)、[[北東コーカサス語族]]、[[北西コーカサス語族]]、[[ブルーシャスキー語]]を含む
;[[インド・太平洋大語族]]
:[[ジョセフ・グリーンバーグ]]が主張した。[[タスマニア語]]と大[[アンダマン諸語]]、[[ニューギニア諸語]]を含む。[[クスンダ語]]、[[ニハリ語]]を含むこともある。
;[[アメリンド大語族]]
:[[ナ・デネ語族]]、[[エスキモー・アレウト語族]]を除く[[アメリカ・インディアン諸語|アメリカ先住民の言語]]の言語を[[アメリンド大語族]]にまとめる。[[ジョセフ・グリーンバーグ]]が主張した。
===中規模の提唱中の語族===
;[[コイサン諸語|コイサン語族]]
:現在は独立した語族の集合体(系統関係は未証明)とされるが、互いの系統関係があるとの主張も引き続きある。
;[[デネ・エニセイ語族]]
:[[エドワード・ヴァイダ]]が発表。[[ナ・デネ語族]]と[[エニセイ語族]]から成る。
;[[ウラル・ユカギール語族]]
:[[ウラル語族]]と[[ユカギール語族]]を同系とする説。
;[[ウラル・シベリア語族]]
:[[ウラル語族]]、[[ユカギール語]]、[[チュクチ・カムチャツカ語族]]、[[エスキモー・アレウト語族]]を同系とする説。[[:en:Michael Fortescue|マイケル・ホーテスキュー]]によって最初に提案。
;[[チュクチ・カムチャツカ・アムール語族]]
:[[チュクチ・カムチャツカ語族]]と[[ニブフ語]]と同系とする説。
;[[ウラル・アルタイ語族]]
:古くは[[ウラル語族]]と[[アルタイ諸語]]が同系と想定されたが、現在、比較言語学的には否定されている。
;'''[[アルタイ諸語|アルタイ語族]]'''
:[[チュルク語族]]、[[モンゴル語族]]、[[ツングース語族]]を同系とする「アルタイ語族」は古くは広く常識であったが、現在は別々の語族とするのが主流。
;'''[[インド・ウラル語族]]'''
:[[インド・ヨーロッパ語族]]と[[ウラル語族]]を同系とする説。
;[[オーストロ・タイ語族]]
:[[オーストロネシア語族]]と[[クラ・ダイ語族]]を同系とする説。
;[[シナ・オーストロネシア語族]]
:[[シナ・チベット語族]]、[[オーストロネシア語族]]、[[クラ・ダイ語族]]を同系とする説。
;[[ティルセニア語族]]†
:[[エトルリア語]]†、[[ラエティア語]]†、[[レムニア語]]†などから成る。
;[[扶余語族]]†
:中国の史料に基づき[[高句麗語]]†、[[扶余語]]†、[[濊貊語]]†、[[沃沮語]]†、[[百済語]]†(支配層)などを同系とする説。
;[[エラム・ドラヴィダ語族]]
:[[エラム語]]†と[[ドラヴィダ語族]]を同系とする説。
;[[北コーカサス語族]]
:[[北東コーカサス語族]]と[[北西コーカサス語族]]を同系とする説。
;[[イベロ・コーカサス語族]]
:[[北東コーカサス語族]]、[[北西コーカサス語族]]、[[南コーカサス語族]]を同系とする説。
;[[ポンティック語族]]
:[[北西コーカサス語族]]と[[インド・ヨーロッパ語族]]を同系とする説。
;[[アラロディア語族]]
:[[北東コーカサス語族]]と[[フルリ・ウラルトゥ語族]]を同系とする説。
;[[バスク語族]]
:[[バスク語]]、[[アクイタニア語]]†から成る。[[イベリア語]]†などを含むこともある。
;[[パプア諸語]]の大語族
:パプア諸語に含まれる数十の語族を、6つ程度の大語族にまとめる。
;[[アメリカ先住民諸語]]の大語族
:アメリカ先住民の諸語族を、さらに上位の大語族にまとめる。[[#アメリカ]]を参照。
===独立語族とする説===
従来は語族の下位語派とされるが、系統関係は無く独立した語族に分離すべきだとする説があるもの。
;[[アルナーチャルの孤立した言語および独立語族|アルナーチャルの独立語族群]]
:[[アルナーチャル・プラデーシュ州]]で話される[[シナ・チベット語族]]に属すとされる諸語群が独立した語族であるとするもの。Blench (2011) により提唱。
;[[マンデ語族]]、[[イジョイド語族]]、[[ドゴン語族]]
:[[ニジェール・コンゴ語族]]の下位語派とされることが多いが、それぞれ独立した語族とする見解もある。
== 未分類言語 ==
データ不足等の理由で他の言語との比較研究がほとんど行われておらず、分類されていない(所属語族が未決定)の言語を未分類言語という。未分類言語のほとんどは[[死語 (言語)|消滅]]したか、[[危機に瀕する言語|消滅の危機]]に瀕している。
{{main|未分類言語}}
== その他の言語 ==
=== 接触言語 ===
====ピジン・クレオール言語====
異なる言語同士が接触し、意思疎通を目的として生まれた言語。
{{main|ピジン言語|クレオール言語}}
====混合言語====
異なる言語同士が接触し、双方の特徴を保ったまま複雑に混合した言語。
{{main|混合言語}}
=== 人工言語 ===
{{main|人工言語|人工言語一覧}}
== 手話の語族 ==
[[手話]]は自然言語であるが、[[視覚言語]]でもある。また、[[聾教育]]の国際的伝播と、その後の国ごとの独自の発展の経緯によって、ある程度語彙に共通性をもつ語族を形成する。なお、手話にも[[人工言語]]が存在する。
* [[日本手話語族]]
* [[イギリス手話語族]]
* [[フランス手話語族]]
* [[日本語対応手話]] - 日本語文法に則した手話。[[中途失聴者]]などが使用。日本手話とは文法が全く異なる人工言語。
* 他の手話や言語から隔絶した環境で生まれた手話
** [[ニカラグア手話]]
** [[アル=サイード・ベドウィン手話]]
** [[アダモロベ手話]]
* [[国際手話]] - 欧米の手話をベースとした人工言語。アジア・アフリカの手話者には習得が難しいとされる。
** 欧州統一手話 - 現在、ヨーロッパ経済圏を中心に自然発生的に生まれつつある手話。[[クレオール言語]]とも言える。
== 注釈 ==
<references />
== 関連項目 ==
{{Wiktionary|Wiktionary:言語グループ}}
* '''言語のグループの一覧'''
** [[言語の一覧]] - [[文字体系別の言語の一覧]]
** [[大語族]] - [[語族]] - [[語派]] - [[語群]] - [[言語]]
***[[諸語]]
***[[言語連合]]
** [[孤立した言語]]
** [[比較言語学]]
** [[人工言語一覧]]
***[[コンピュータ言語]] - [[プログラミング言語一覧]]
* [[公用語の一覧]] - [[各国の公用語の一覧]]
* [[母語話者の数が多い言語の一覧]] - [[消滅危機言語の一覧]]
{{世界の語族}}
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[[Category:文化地理学]] | null | 2023-03-11T22:03:01Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%AA%9E%E6%97%8F%E3%81%AE%E4%B8%80%E8%A6%A7 |
7,431 | 冪集合 | 冪集合(べきしゅうごう、英: power set)とは、数学において、与えられた集合から、その部分集合の全体として新たに作り出される集合のことである。べきは冪乗の冪(べき)と同じもので、冪集合と書くのが正確だが、一部分をとった略字として巾集合とも書かれる。
集合と呼ぶべき対象を公理的にかつ構成的に与える公理的集合論では、新たに作られた原体の冪集合もしくはそれに準ずる複数の冪集合が、それぞれの連続性に関わらず集合と呼ばれるべきもののうちにあることを公理の一つ(冪集合公理)としてしばしば提示する。
集合 S {\displaystyle S} の冪集合は、冪を表す power からとって、通常は
などのように記される。2 という表記は、一般に X が Y から X への写像全体の集合を表すことによる(後述)。
集合 S が与えられたとき、S のすべての部分集合からなる集合
を S の冪集合と呼ぶ。例えば
などとなる。空集合の冪集合は空集合を唯一つの元として持つ一元集合であり、空集合とは別のものである。
なおこの定義から明らかに
である。
冪集合は包含関係を順序として順序集合になる。冪集合を底となる集合、包含関係を順序とする順序集合 ( P ( S ) , ⊂ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\subset )} (ここでの ⊂ {\displaystyle \subset } は集合が一致する場合も含む)に順序同型な順序集合は単体様半順序集合 (simplex-like Poset) と呼ばれ、単体の一つの組合せ論的な特徴づけを与える(底となる P ( S ) {\displaystyle {\mathcal {P}}(S)} から空集合を抜いた順序集合を指すこともある)。また、冪集合 P ( S ) {\displaystyle {\mathcal {P}}(S)} に包含関係と逆の順序 ⊂ o p p {\displaystyle \subset ^{\mathrm {opp} }}
を与えた順序集合 ( P ( S ) , ⊂ o p p ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\subset ^{\mathrm {opp} })} は、もとの順序集合 ( P ( S ) , ⊂ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\subset )} に順序同型で、その対応は補集合をとる操作
によって与えられる。またこの対応で、集合の結びと交わりが互いに入れ替わる(双対性:ド・モルガンの法則)、対称差は不変(自己双対性)などを見て取ることができる。
順序集合 ( P ( S ) , ⊂ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\subset )} の部分集合である集合族
が与えられたとき、集合族の結びや交わりをとる操作
は、この集合族に対して包含関係による順序に関する上限と下限を与える。とくに、 S {\displaystyle S} の二つの部分集合 A , B {\displaystyle A,B} について
を考えることにより、組 ( P ( S ) , ∧ , ∨ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\land ,\lor )} は完備束となる。完備束の条件は空で無い部分集合族に対する上限・下限の存在を要求するものであるが、冪集合の束では集合族 M ⊂ P ( S ) {\displaystyle {\mathfrak {M}}\subset {\mathcal {P}}(S)} が空集合であるときにも
が冪集合 P ( S ) {\displaystyle {\mathcal {P}}(S)} の中に存在する。
冪集合に定義される様々な集合演算は、冪集合を代数系として取り扱う手段を与えてくれる。たとえば、集合の結び ∪ {\displaystyle \cup } や交わり ∩ {\displaystyle \cap } は交換可能で結合的な演算であるから、半群として冪集合を見ることができる。さらに、結びに関する中立元は空集合 ∅ {\displaystyle \emptyset } であり、全体集合 S {\displaystyle S} が交わりに関する中立元となるので、 ( P ( S ) , ∪ , ∅ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\cup ,\emptyset )} や ( P ( S ) , ∩ , S ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\cap ,S)} はモノイドである。また、対称差 Δ {\displaystyle \Delta } を与えられた演算とする代数系 ( P ( S ) , Δ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\Delta )} は、空集合を単位元とし、補集合を逆元にもつ群になる。
結び ∪ {\displaystyle \cup } と交わり ∩ {\displaystyle \cap } は互いに他に対して分配的であるので、 ( P ( S ) , ∪ , ∩ ) {\displaystyle ({\mathcal {P}}(S),\cup ,\cap )} に環の構造を見て取ることができる。とくに冪集合 P ( S ) {\displaystyle {\mathcal {P}}(S)} を、集合の結び、交わり、補集合をとる操作および結び・交わりそれぞれに関する中立元を備えた代数系
と考えたものはブール代数の例を与える。一方、事実として、任意の有限ブール代数は有限集合のべき集合が作るこのブール代数によって同型的に実現することができる。
S の部分集合 A とその指示関数 χ A {\displaystyle \chi _{A}} を対応づけることにより、冪集合 2 と S から {0, 1} への写像全体のなす集合 Map(S, {0, 1}) =: {0 ,1} が一対一に対応する。これは、S の元 a が部分集合 A に属するとき 1、属さないとき 0 をラベル付けすることで部分集合 A が特定できるということに対応する。したがって特に A の濃度 card(A) が有限の値 n であるとき冪集合 2 の濃度 card(2) は 2 = 2 に等しい。一般に、有限集合 E から有限集合 F への写像の総数は card(F) となり、このことは E から F への写像全体のなす集合を F と記す(無限集合の場合にも記号を流用する)ことの根拠の一つとなっている。そして、冪集合やその濃度の2の冪としての記法はこれの特別の場合にあたる。
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"title": "冪集合の濃度"
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"text": "冪集合の濃度は元の集合の濃度より常に大きい。有限集合のときにはこれは当たり前である。一般の場合は、カントールの対角線論法によって示される。",
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] | 冪集合とは、数学において、与えられた集合から、その部分集合の全体として新たに作り出される集合のことである。べきは冪乗の冪(べき)と同じもので、冪集合と書くのが正確だが、一部分をとった略字として巾集合とも書かれる。 集合と呼ぶべき対象を公理的にかつ構成的に与える公理的集合論では、新たに作られた原体の冪集合もしくはそれに準ずる複数の冪集合が、それぞれの連続性に関わらず集合と呼ばれるべきもののうちにあることを公理の一つ(冪集合公理)としてしばしば提示する。 | {{出典の明記|date=2016年1月}}
[[Image:Hasse diagram of powerset of 3.svg|300px|thumb|right|''S'' = {''x'', ''y'', ''z''} の冪集合 ''P''(''S'') = { ''Φ'', {''x''}, {''y''}, {''z''}, {''x'', ''y''}, {''y'', ''z''}, {''z'', ''x''}, {''x'', ''y'', ''z''} } の[[ハッセ図]]。要素数は 2<sup>3</sup> = 8 である。]]
'''冪集合'''(べきしゅうごう、{{lang-en-short|power set}})とは、[[数学]]において、与えられた[[集合]]から、その[[部分集合]]の全体として新たに作り出される集合のことである。'''べき'''は[[冪乗]]の冪(べき)と同じもので、'''冪集合'''と書くのが正確だが、一部分をとった略字として'''巾集合'''とも書かれる。
集合と呼ぶべき対象を公理的にかつ構成的に与える[[公理的集合論]]では、新たに作られた原体の冪集合もしくはそれに準ずる複数の冪集合が、それぞれの連続性に関わらず集合と呼ばれるべきもののうちにあることを公理の一つ([[冪集合公理]])としてしばしば提示する。
== 記法 ==
集合 <math>S</math> の冪集合は、冪を表す {{lang|en|power}} からとって、通常は
:<math>\mathfrak P(S),\ \mathcal P(S),\ \mathfrak{pow}(S),\ \mathrm{Power}(S),\ \Pi(S),\;\mathbb P(S)</math>, [[ヴァイエルシュトラスの楕円函数|℘]](''S''), 2<sup>''S''</sup>
などのように記される。2<sup>''S''</sup> という表記は、一般に ''X''<sup>''Y''</sup> が ''Y'' から ''X'' への[[写像]]全体の集合を表すことによる(後述)。
== 定義 ==
集合 ''S'' が与えられたとき、''S'' のすべての部分集合からなる集合
: <math>\mathfrak P(S) := \{A\colon\mbox{a set} \mid A \subseteq S\}</math>
を ''S'' の冪集合と呼ぶ。例えば
* <math>\mathfrak P(\varnothing) = \{\varnothing\}</math>
* <math>\mathfrak P(\{a\}) = \{\varnothing, \{a\}\}</math>
* <math>\mathfrak P(\{x,y\}) = \{\varnothing, \{x\}, \{y\}, \{x,y\}\}</math>
* <math>\mathfrak P(\{1,2,3\}) = \{\varnothing, \{1\}, \{2\}, \{3\}, \{1,2\}, \{1,3\}, \{2,3\}, \{1,2,3\}\}</math>
などとなる。[[空集合]]の冪集合は空集合を唯一つの元として持つ[[一元集合]]であり、空集合とは別のものである。
なおこの定義から明らかに
: <math>A \in \mathfrak{P}(S)\iff A \subset S</math>
である。
== 構造 ==
=== 包含関係による順序 ===
冪集合は[[包含関係]]を順序として[[順序集合]]になる。冪集合を底となる集合、包含関係を順序とする順序集合 <math>(\mathcal P(S), \subset)</math> (ここでの <math>\subset</math> は集合が一致する場合も含む)に[[順序集合#写像と順序|順序同型]]な順序集合は'''単体様半順序集合''' {{lang|en|(simplex-like Poset)}} と呼ばれ、[[単体 (数学)|単体]]の一つの組合せ論的な特徴づけを与える(底となる <math>\mathcal P(S)</math> から空集合を抜いた順序集合を指すこともある)。また、冪集合 <math>\mathcal P(S)</math> に包含関係と逆の順序 <math>\subset^{\mathrm{opp}}</math>
:<math>A \subset^{\mathrm{opp}} B \iff A \supset B</math>
を与えた順序集合 <math>(\mathcal P(S), \subset^{\mathrm{opp}})</math> は、もとの順序集合 <math>(\mathcal P(S), \subset)</math> に順序同型で、その対応は[[補集合]]をとる操作
:<math>(\mathcal P(S),\subset^{\mathrm{opp}}) \ni A \ \stackrel{\simeq}{\longmapsto}\ A^c = S\smallsetminus A \in (\mathcal P(S),\subset)</math>
によって与えられる。またこの対応で、集合の[[合併 (集合論)|結び]]と[[共通部分 (数学)|交わり]]が互いに入れ替わる(双対性:[[ド・モルガンの法則]])、[[対称差]]は不変(自己双対性)などを見て取ることができる。
順序集合 <math>(\mathcal P(S), \subset)</math> の部分集合である集合族
: <math>\mathfrak{M} \subset \mathcal P(S)</math>
が与えられたとき、集合族の[[合併 (集合論)|結び]]や[[共通部分 (数学)|交わり]]をとる操作
: <math>\sup(\mathfrak{M}) = \bigcup \mathfrak{M} = \bigcup_{m\in\mathfrak{M}}m,
\quad \inf(\mathfrak{M}) = \bigcap \mathfrak{M} = \bigcap_{m\in\mathfrak{M}}m</math>
は、この集合族に対して包含関係による順序に関する[[順序集合#上界、最大、極大、上限、上方集合|上限と下限]]を与える。とくに、<math>S</math> の二つの部分集合 <math>A, B</math> について
:<math>A\vee B := \sup\{A,B\} = A\cup B</math>
:<math>A\wedge B := \inf\{A,B\} = A\cap B</math>
を考えることにより、組 <math>(\mathcal P(S), \land, \lor)</math> は[[完備束]]となる。完備束の条件は空で無い部分集合族に対する上限・下限の存在を要求するものであるが、冪集合の束では集合族 <math>\mathfrak M \subset \mathcal P(S)</math> が空集合であるときにも
:<math>\sup(\varnothing) = \varnothing,\quad \inf(\varnothing) = S</math>
が冪集合 <math>\mathcal P(S)</math> の中に存在する。
=== 集合代数系 ===
: {{main|ブール代数|集合の代数学|有限加法族|集合環}}
冪集合に定義される様々な集合演算は、冪集合を[[代数系]]として取り扱う手段を与えてくれる。たとえば、集合の[[合併 (集合論)|結び]] <math>\cup</math> や[[共通部分 (数学)|交わり]] <math>\cap</math> は[[交換法則|交換可能]]で[[結合法則|結合的]]な演算であるから、[[半群]]として冪集合を見ることができる。さらに、結びに関する[[単位元|中立元]]は空集合 <math>\emptyset</math> であり、全体集合 <math>S</math> が交わりに関する中立元となるので、<math>(\mathcal P(S), \cup, \emptyset)</math> や <math>(\mathcal P(S), \cap, S)</math> は[[モノイド]]である。また、[[対称差]] <math>\Delta</math> を与えられた演算とする代数系 <math>(\mathcal P(S), \Delta)</math> は、空集合を単位元とし、[[補集合]]を逆元にもつ[[群 (数学)|群]]になる。
結び <math>\cup</math> と交わり <math>\cap</math> は互いに他に対して[[分配法則|分配的]]であるので、<math>(\mathcal P(S), \cup, \cap)</math> に[[環 (数学)|環]]の構造を見て取ることができる。とくに冪集合 <math>\mathcal P(S)</math> を、集合の結び、交わり、補集合をとる操作および結び・交わりそれぞれに関する中立元を備えた代数系
:<math>(P(S), \cap, \cup, ^\mathrm{c}, \varnothing, S)</math>
と考えたものは[[ブール代数]]の例を与える。一方、事実として、任意の有限ブール代数は[[有限集合]]のべき集合が作るこのブール代数によって同型的に実現することができる。
== 冪集合の濃度 ==
''S'' の部分集合 ''A'' とその[[指示関数]] <math>\chi_A</math> を対応づけることにより、冪集合 2<sup>''S''</sup> と ''S'' から {0, 1}<ref group="脚注">集合論の慣例で、自然数 2 を集合 {0,1} と同一視している。</ref>への写像全体のなす集合 Map(''S'', {0, 1}) =: {0 ,1}<sup>''S''</sup> が[[全単射|一対一に対応]]する。これは、''S'' の元 ''a'' が部分集合 ''A'' に属するとき 1、属さないとき 0 をラベル付けすることで部分集合 ''A'' が特定できるということに対応する。したがって特に ''A'' の[[濃度 (数学)|濃度]] card(''A'') が有限の値 ''n'' であるとき冪集合 2<sup>''A''</sup> の濃度 card(2<sup>''A''</sup>) は 2<sup>card(''A'')</sup> = 2<sup>''n''</sup> に等しい。一般に、有限集合 ''E'' から有限集合 ''F'' への写像の総数は card(''F'')<sup>card(''E'')</sup> となり、このことは ''E'' から ''F'' への[[写像全体のなす集合]]を ''F''<sup>''E''</sup> と記す(無限集合の場合にも記号を流用する)ことの根拠の一つとなっている。そして、冪集合やその濃度の[[2の冪]]としての記法はこれの特別の場合にあたる。
冪集合の濃度は元の集合の濃度より常に大きい([[カントールの定理]])。有限集合のときにはこれは自明である。一般の場合は、[[カントールの対角線論法]]によって示される。
==関連項目==
* [[集合]]
* [[族 (数学)]]
* [[ブール代数]]
* [[連続体濃度]]
* [[連続体仮説]]
== 脚注 ==
<references group="脚注" />
{{集合論}}
{{DEFAULTSORT:へきしゆうこう}}
[[Category:集合論]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T00:28:12Z | 2023-11-07T10:22:47Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AA%E9%9B%86%E5%90%88 |
7,432 | 将棋類の一覧 | 将棋類の一覧(しょうぎるいのいちらん)は、将棋に類する盤上遊戯の一覧である。
江戸時代までに考案され、現在はほとんど指されることがなくなった将棋を総称して「古将棋」と呼ぶ。
中国の象棋(シャンチー)を源流として、15世紀までに沖縄へ伝わった。木の枝を輪切りにした「タマ」と呼ばれる円形の駒(直径5 cm・厚さ2 cm程度)7種類16個と、40 - 50 cm四方の折り畳み式盤を使い対戦する。相手のタマを取っても持ち駒にできない、先手はブーサー(沖縄式じゃんけん)で決めるといった独特のルールがある。3人以上で戦う「クーフェー」という派生ゲームもある。太平洋戦争後は徐々に廃れ、21世紀には競技人口が高齢者を中心に数十人に減っていた。入門書『はじめての象棋』(編集工房東洋企画)が2011年刊行されるなど、近年は教室の開設、関連資料の収集・保存による再興の動きが出ている。
将棋(本将棋)と同じ盤・駒を用い、ルールが異なるゲームについては変則将棋参照。
また、明治時代に刊行された『世界遊戯法大全』にもすでにいくつかの遊戯が見られる。 | [
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] | 将棋類の一覧(しょうぎるいのいちらん)は、将棋に類する盤上遊戯の一覧である。 | '''将棋類の一覧'''(しょうぎるいのいちらん)は、[[将棋]]に類する[[盤上遊戯]]の一覧である。
== 伝統的な日本将棋 ==
=== 古将棋 ===
江戸時代までに考案され、現在はほとんど指されることがなくなった将棋を総称して「古将棋」と呼ぶ。
* 原将棋(8×8マス、あるいは 9×9マス) - 現在の[[本将棋]](下記参照)から[[飛車]]と[[角行]]を抜いた将棋。ただし8×8盤は不明。
* [[平安将棋]](8×8マス、9×8マス、あるいは 9×9マス)
* [[平安大将棋]](13×13マス)
* [[小将棋]](9×9マス。[[将棋|本将棋]]に醉象を加えた将棋)
** [[小将棋#朝倉象棋|朝倉象棋]](持ち駒の再利用ができる小将棋)
** [[小将棋|小象棋]](醉象・猛豹のある小将棋)
* [[中将棋]](12×12マス)
* [[大将棋]](15×15マス)
* [[天竺大将棋]](16×16マス)
* [[大大将棋]](17×17マス)
* [[摩訶大大将棋]](19×19マス)
* [[泰将棋]](25×25マス)
* [[大局将棋]](36×36マス) - 最大の将棋
* [[和将棋]](11×11マス) - 江戸時代に発案
* [[禽将棋]](7×7マス) - 江戸時代に発案
* [[広将棋]](19路×19路) - 碁盤と碁石を使う将棋。[[荻生徂徠]]が考案したとされる。
* 白溝戯 - 江戸時代に[[堀麦水]]が発案。
=== 古将棋が紹介されている書籍 ===
* [[象戯図式]]
* [[諸象戯図式]]
* [[象棋六種之図式]]
== 沖縄将棋(象棋=チュンジー) ==
{{Main|チュンジー}}
中国の象棋([[シャンチー]])を源流として、15世紀までに[[沖縄]]へ伝わった。木の[[枝]]を輪切りにした「タマ」と呼ばれる円形の駒(直径5 cm・厚さ2 cm程度)7種類16個と、40 - 50 cm四方の折り畳み式盤を使い対戦する。相手のタマを取っても持ち駒にできない、先手は[[ブーサー]]([[沖縄]]式[[じゃんけん]])で決めるといった独特のルールがある。3人以上で戦う「クーフェー」という派生ゲームもある。[[太平洋戦争]]後は徐々に廃れ、21世紀には競技人口が高齢者を中心に数十人に減っていた。入門書『はじめての象棋』(編集工房東洋企画)が2011年刊行されるなど、近年は教室の開設、関連資料の収集・保存による再興の動きが出ている<ref>{{Cite news|url=http://www.nikkei.com/article/DGKKZO14890470U7A400C1BC8000/|title=仲村顕/沖縄将棋再興への一手◇にぎやかに指す伝統の「チュンジー」、教室開き次代へ◇|work=|publisher=『[[日本経済新聞]]』朝刊文化面|date=2017年4月5日}}</ref>。
* クーフェー - 「わう・しい・さん・ちい・うま・ふわー」<ref>「沖縄の児童遊戯から見た中国文化との関連性について」徳植勉 (1999年)</ref>の6種の駒を手に隠し持ち、参加者が同時に出し合って見せ、最も強い駒を出した者が、出された場の全てを取る遊戯<ref>[[トランプ]]の「戦争」と同じ「トリック・テイキング」ルール(数字が大きいほうが強い。2はAより強く、3はジョーカーより上)</ref>。
== 現代の将棋とその変形 ==
将棋(本将棋)と同じ盤・駒を用い、ルールが異なるゲームについては[[変則将棋]]を参照。
* [[将棋]](本将棋)(9×9マス)
* [[どうぶつしょうぎ]](3×4マス)- 考案者は[[北尾まどか]]女流初段。[[幻冬舎エデュケーション]]で製品化<ref>[http://www.tokyo-np.co.jp/article/thatu/list/CK2009042802000061.html 『どうぶつしょうぎ』プロ棋士が考案]。</ref>。
* [[どうぶつしょうぎ#ごろごろどうぶつしょうぎ|ごろごろどうぶつしょうぎ]](5×6マス)- 北尾まどか女流初段監修。日本将棋連盟で、将棋の入門として広く遊ばれていた5656将棋がベースとされている。[[幻冬舎エデュケーション]]で製品化<ref>[http://www.kinokuniya.co.jp/store/Yokohama-Minatomirai-Store/20121029090000.html 『どうぶつしょうぎ』&『ごろごろどうぶつしょうぎ』教室開催! ]</ref>。
* [[どうぶつしょうぎ#おおきな森のどうぶつしょうぎ|おおきな森のどうぶつしょうぎ]](9×9マス)- 将棋の駒をどうぶつしょうぎ風にしたもの。ルールは本将棋と同じ。[[幻冬舎エデュケーション]]で製品化。
* [[J-Chess]](9×9マス)- 将棋の駒をキャラクター化したもの。ルールは本将棋と同じ。
* きょうりゅう将棋(9×9マス) - 元女流アマ名人の[[石内奈々絵]]が考案し、福井県の中山商事が製品化。福井の名物である[[恐竜]]をモチーフに、子どもに親しみやすいデザインにした。ルールは本将棋と同じ。
* [[アンパンマン]]はじめてしょうぎ(3×5マス)- 北尾まどか女流初段共同開発。どうぶつしょうぎよりも駒の数が少ない。入門将棋の位置づけだが、将棋と同じ動きをする駒はない。[[セガトイズ]]で製品化。
* [[5五将棋]](5×5マス) - ミニ・ショウギとも言われる。「[[ウルトラマン]]しょうぎ」、「[[仮面ライダー]]しょうぎ」などのキャラクターものとして[[宝島社]]から製品化されている。高橋和女流三段監修の「ドラえもん はじめての将棋」でもミニミニ将棋として製品化。
* [[五分摩訶将棋]](4×5マス) - マイクロ・ショウギとも言われる。駒の配置は5五将棋に似ているが、駒の成り方が通常と異なる。
* 摩訶小小将棋(4×5マス) - 大山康晴が考案と言われる「五分摩訶将棋」と似ているが、駒の成り方が中象棋以上の大型将棋(金将が成ると飛車など)に準ずる<ref>「[[近代将棋]]」1980年4月号([[越智信義]])</ref>。
* [[京都将棋]](5×5マス) - 一手ごとに駒を裏返す斬新なルールで知られる。[[幻冬舎エデュケーション]]で製品化。
* [[ジャドケンス将棋]](6×6マス) - 六々将棋とも言われる。盤の大きな5五将棋のようなもの。ポール・ジャドケンスが考案したとされるが、5五将棋を参考にした可能性が高い。
* [[鯨将棋]](6×6マス) - アメリカで考案された。駒に鯨類の名前がつけられている。
* [[槍将棋]](7×9マス) - オランダで考案された。駒は本将棋と同じだが、動き方が異なる。
* [[大砲将棋]](9×9マス) - アメリカで考案された。大砲を模した駒がある。
* [[川中島将棋]](9×10マス)- 明治時代中ごろに考案された将棋<ref>[[梅林勲]]・[[岡野伸]]共著改訂版 『世界の将棋・古代から現代まで』([[将棋天国社]])</ref>。シャンチーを日本流にアレンジしたもの。
* {{仮リンク|征清将棋|zh|征清將棋}}(117マス)- 明治27年の日清戦争時に発案された<ref>友柳子編(1894)『[{{NDLDC|861289}} 征清将棋 : 百戦百勝]』晩香楼 (国会図書館近代デジタルライブラリー)</ref>。
* {{仮リンク|鬼将棋|zh|鬼將棋}}(11×11マス) - 『陀羅鬼CG』という対戦型カードゲームを将棋風ボードゲームにしたもの。
* 関が原合戦将棋(9×9マス)- [[関ケ原町]]歴史民俗資料館<ref>[http://www.kanko-sekigahara.jp/kankou/kr1-7.htm 関ケ原古戦場:歴史民俗資料館:関ケ原町 観光ホームページ](2008年12月21日閲覧)</ref>で販売するもの<ref>[http://www.geocities.jp/jintosi/sub6-9.htm 関が原合戦将棋紹介]</ref>。基本的なルールは本将棋と同じだが、駒が成るときに違いがある。
* [[国際三人将棋]](六角形のマスで、一辺が7マス(計127マス)) - [[谷ヶ崎治助]]により、1933年(一説には1931年)に発表されたゲーム。一辺7マスのHEX(六角形)盤を用い、3人で行う<ref>[[梅林勲]]『世界の将棋・古代から現代まで』([[将棋天国社]]、1997年)255ページ、および[https://www.ne.jp/asahi/tetsu/toybox/kapitan/kp040.htm 国際三人将棋(カピタンリバイバル 40)](2008年12月30日閲覧)。発表年を『世界の将棋』では1931年、「カピタンリバイバル」では1933年としている。</ref>。
* [[四人将棋]](9×9マス) - [[島根県]][[平田市]](現・出雲市)の太田満保市長(当時)が発案。
** [[四神将棋]](15×15マス) - [[BSフジ]]で2016年12月27日から放送されている[[テレビ番組]]。
* 3三将棋(3×3マス):南雲夏彦が1980年に考案した3x3マスの盤を使う将棋<ref>現代将棋研究会機関誌『カピタン』(加藤徹・編集)の20号に、南雲自身が原稿を投稿し発表している。</ref>。
** 9マス将棋(3×3マス)<ref>「9マス将棋の本」青野照市(幻冬舎 2017/6/29発売)</ref>:南雲による考案の3三将棋を、[[青野照市]](当時:日本将棋連盟 理事)が商品化し<ref>基本となる初期配置は上記「3三将棋」と同一(左下に先手の玉、対角線となる右上に後手の王、持駒はともに銀と歩が一枚)。</ref>、幻冬舎から2016年8月に発売<ref>[https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1606/10/news088.html ねとらぼ「まさに最初からクライマックス プロ棋士考案の「9マス将棋」、スタッフと対局してみた」(2016年06月10日)]</ref>。
* 六面将棋(13×13マス)-小曽根によって著作考案された正六面体の駒と13×13マスの将棋盤で対局する将棋。六面全てを使用する六面将棋と、上下前後の4面で行う対局+左右の2面で行う対局をそれぞれ違う対局で行う六面将棋Lite(ライト)に大別される。特徴は対局に使用される駒が本将棋をベースに構成されており、1つの正六面体の駒で、本将棋+六面将棋(Lite含)+αの3種のルールの違う将棋が行える多目的将棋として特徴がある。
* [[京将棋]](10×10マス) - 京将棋連合の善勝寺によって著作考案された「京」<ref>京翔・京鳳・京凰が正式名称で「京翔」2枚か「京鳳・京凰」各1枚を用いる</ref>2枚と「銅将」<ref>伝統的な将棋にあるものと全く同じ</ref>2枚、「歩兵」2枚を追加して対局する将棋で、以下の6つの将棋も善勝寺による著作考案であり、金斗将棋・タキオン将棋以外の4つは本将棋と併せて対局するルールもある。
** [[京将棋#小京将棋|小京将棋]](9×9マス) - 桂馬を京に置き換えて対局する将棋。
** [[京将棋#将棋ペンタスロンと将棋30++|銅将棋]](9×9マス) - 銀将を銅将に置き換えて対局する将棋。
** [[京将棋#将棋ペンタスロンと将棋30++|山車将棋]](9×9マス) - 香車を山車に置き換えて対局する将棋。
** [[京将棋#将棋ペンタスロンと将棋30++|金翅将棋]](9×9マス) - 金将を金翅<ref>伝統的な将棋にあるものと異なる</ref>に置き換えて対局する将棋。<ref name=":0">金翅と金斗は伝統的な将棋の「右犬・左犬」「右車・左車」のように対になる駒である。
指し味は金翅と金斗で変わらないため、一般的には金翅を用いることが大半である。</ref>
** [[京将棋#金斗将棋|金斗将棋]](9×9マス) - 金将を金斗に置き換えて対局する将棋。<ref name=":0" />
** タキオン将棋(9×9マス) - 同じ段の3筋と7筋の間を相互に移動できる将棋である。歩兵のみ移動できない。(と金は移動できる)
* [[リアルタイムバトル将棋]] - 手番の概念がなくなり、好きな駒を好きなタイミングに移動できる。[[シルバースタージャパン]]よりダウンロード販売専用ソフトとして配信された。
* エクストリーム将棋 - 短期決戦化した将棋で、カードを引くことで決定される駒といびつな形の盤を使用し、複数回対局を行うもの<ref>{{Cite web|和書|url=https://nicobodo.com/archives/extreme-shogi.html|title=【ゲーム紹介】エクストリーム将棋|毎回マップと駒が変わり、いきなりクライマックスが楽しめる変則将棋!|website=ニコボド|date=2021-02-27|accessdate=2022-11-21}}</ref>。
== 日本以外の将棋類 ==
* [[チャトランガ]](古代インド)
* [[シャトランジ]]
* [[チェス]]
* [[シャンチー]](象棋 (Xiangqi) 、[[中国]])
** [[七国象棋]]
* [[チャンギ]]({{Lang|ko|장기}}({{lang|ko|將棋}})、[[朝鮮半島]])
* [[マークルック]]([[タイ王国]])
* [[オク・チャトラン]]([[カンボジア]])
* [[シャタル]]([[モンゴル]])
** [[ヒャーシャタル]]
* [[セヌテレジ]]([[エチオピア]])
* [[シットゥイン]]([[ミャンマー]])
* [[チャトル]]([[マレーシア]]・[[インドネシア]])
* マックフク([[ラオス]])
== 将棋の道具を使う異種の遊戯 ==
* [[二人零和有限確定完全情報ゲーム|ゼロサム]]系
** {{仮リンク|飛び将棋|zh|跳將棋|preserve=1}} - 歩だけを用いて、相手の陣地に攻め込んでいくゲーム。[[高橋和]]女流三段のデザインで、「ぴょんぴょん将棋」(3×9マス)としてポプラ社から発売。
** [[はさみ将棋]] - 歩だけを用いて、相手の駒をはさんでとっていくゲーム。高橋和女流三段のデザインで、 「スイスイはさみ将棋」(6×9マス)としてポプラ社から発売。高橋和女流三段監修の「[[ドラえもん]] はじめての将棋」でも製品化。
** 新将棋(8×5マス) - [[オセロ (ボードゲーム)|リバーシ]]のように交互に駒を置いて、置いた駒の利きにある駒をすべて敵味方逆転させ、玉将を2枚とも持った側が勝ちとなる。1枚どうしのときは味方の駒の枚数で勝敗を決める。第4回[[アスキーエンタテインメントソフトウェアコンテスト]]・パーソナルコンピュータ作品賞<ref>[http://www.enterbrain.co.jp/gamecon/no4/03..html 第4回Aコン 受賞作品紹介](2008年12月21日閲覧)。</ref>。
* [[すごろく]]系
** [[まわり将棋]] - 将棋の駒を用いた双六。高橋和女流三段監修の「ドラえもん はじめての将棋」で製品化。
* [[ごいた]] - 奥能登に伝わる伝統遊技。[[北尾まどか]]女流二段のデザインで、[[将棋ごいた]]としてカードゲーム化された。
* おはじき将棋 - 将棋の駒を指ではじいて、相手の駒を倒すゲーム。
** お城将棋 - 将棋の駒を指ではじいて、相手の陣を崩すゲーム。高橋和女流三段監修の「ドラえもん はじめての将棋」で製品化。
* [[積木]]系
** [[将棋崩し]]([[山くずし]]) - 一塊の山にした将棋の駒を交互にとっていくゲーム。高橋和女流三段監修の「ドラえもん はじめての将棋」で製品化。
** [[将棋倒し]] - ドミノ倒しの将棋バージョン。
** 積み将棋 - 一つの駒の上に順番に駒を置いていき、倒してしまうと負け<ref>[http://www.my-kaigo.com/pub/carers/otasuke/mukashi/cat/0090.html 昔遊び・折り紙・伝統芸術 > 積み将棋](2016年9月4日閲覧)</ref>。
また、明治時代に刊行された『[[世界遊戯法大全]]』にもすでにいくつかの遊戯が見られる<ref>『世界遊戯法大全』、明40、松浦、第二篇相対遊戯 第一章室内遊戯 第三節将棋の駒遊び</ref>。
== 遊び方 ==
* [[詰将棋]] - 将棋のルールを用いたパズル。対戦ゲームではない。
* 歩なし将棋 - 歩兵を使わない将棋。
* [[ペア将棋]]
* [[目隠し将棋]](脳内将棋)
* [[郵便将棋]]
* [[人間将棋]] - [[山形県]][[天童市]]の[[祭]]。
* [[盲人将棋]] - [[視覚障害者]]が指せるように、盤と駒を工夫した将棋。
* [[太閤将棋]] - 将棋の下手な[[太閤]]秀吉でも勝てるように工夫した駒の落とし方。
* 王手将棋 - [[王手]]をかけることが勝利条件の将棋。
== その他の将棋 ==
* [[軍人将棋]] - お互いに駒の種類の情報を隠して戦うゲーム。駒の衝突時には「より強い種類の駒」が勝つので、どちらの駒が強いか第三者が確認するのが特徴である。
* [[哲学飛将碁]] - [[チェッカー]]に似たゲーム。
* [[じゃんけんしょうぎ]](6×6マス)- [[Gakken|学研]]の「頭のよくなるゲームシリーズ」のひとつ。駒の形や動きは将棋と大きく異なる。
* ろっかくしょうぎ(6角形19マス)- 梅田龍一によって考案され、[[Gakken|学研]]の「頭の良くなるゲームシリーズ」として発売された[[ボードゲーム]]。駒の方向を変化できる点と、六角形の盤上で行う点が将棋と大きく異なる。
* サッカーしょうぎ(8×5マス)- 水沢 三太&二三八によって考案され、[[Gakken|学研]]の「頭のよくなるゲームシリーズ」として発売された[[ボードゲーム]]。駒の形や動きは将棋と大きく異なる。
* どうぶつサッカー(3×5マス)- しんどうこうすけが考案したボードゲーム。どうぶつしょうぎの藤田麻衣子がイラストデザインなので、見た目がどうぶつしょうぎに似ている。
* [[宇宙将棋]](9×9マスを9枚) - 垂直に重ねた9枚の将棋盤から構成される[[三次元]]将棋類。駒は垂直方向にも移動できる。
* ショーギウォーズ - 1984年バンダイから発売。将棋の駒がロボット型に変形する。1985年には同社より食品玩具として[https://www.bandai.co.jp/candy/products/1985/51008.html ショーギロボ]が発売された。同じく将棋の駒がロボットに変形するが変形機構は異なる。
* [https://www.bandaispirits.co.jp/products/detail.php?detail=3357918&grp_id=5325 棋神伝バトルコマンダー] - 2004年5月バンダイから発売。完成済みフィギュアをプラモデルの駒に乗せて戦う。自分の駒を別の自分の駒に移動させて重ね、2つの駒の移動範囲を合成するピースユナイトというルールが有る。[[コミックボンボン]]に[[津島直人]]作の同名漫画が4巻分連載された。コンピューターゲーム化の予定も有ったが中止された<ref>{{Cite web|和書|url=https://twitter.com/naototsushima/status/878367000405213184|title=津島直人|accessdate=令和2年11月17日|publisher=}}</ref>。
* ナヴィアドラップ (7×7マス) - 2004年8月14日バンダイから発売。フィギュアを駒とするボードゲーム。2005年にはウェブアニメも5本作られた。アメリカでのみ発売され日本発売の予定は中止された。
* [https://www.bandai.co.jp/catalog/search.php?freeword=%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%AE&freebutton=#result メタルショーギ](4×4マス) - 2010年3月20日バンダイから発売。召喚コストを考慮しながら盤面にダイキャストフィギュアを配置していく。同じマスで自軍と相手の駒がぶつかった場合、駒に割り振られているアタックポイントとダイスの目の合計値が高い方の駒の勝ち。エフェクトカードで特殊効果を追加できる。『[[ドラゴンボール改]]』のキャラクター商品。
* 二四棋(にしき) - 2006年12月しーの・トイから発売。DXと小伝の2種類が有る。2~4人対戦。将棋とスライドパズルを合わせ戦国時代を題材にしたボードゲーム。カードとサイコロを使う。
* [[ポケットモンスター (架空の生物)|ポケモン]] バトルチェス(7×6マス)- 2011年12月26日株式会社ポケモンから発売。ポケットモンスターのキャラクター商品。それぞれの駒にパワーが数字で表されており、バトル要素が取り入れられている。カードやサイコロを用いる。3×4、5×5の初心者向けボードもある。
* 将棋ボクシング - チェスボクシングに範を取り、[[早指し]]将棋と[[ボクシング]]を交互に行う。詳細は[[チェスボクシング]]参照。
* [[キングダム (アニメ)|キングダム]] 盤上大戦(8×6マス)- 2022年9月2日、株式会社ジーピーから発売。アニメ『キングダム』のキャラクター商品。どうぶつしょうぎ考案者の北尾まどかが共同開発。
== 架空の将棋類 ==
* "Jetan"(ジェッタン):チェスに似たゲーム。『火星のチェス人間』("The Chessmen of Mars" (1922年))に登場([[エドガー・ライス・バローズ]]の[[火星シリーズ]]第5巻。ルールも掲載)。
* ジップ・カァーン:[[吉岡平]]の小説『[[宇宙一の無責任男]]』シリーズに登場するゲーム。
* ヒュペリオン:[[篠原健太]]の漫画「[[SKETDANCE]]」に登場するボードゲーム。プレイ人数は二人だが十字形の盤を使用する。駒は「アブラシモビッチ(魔王)」、「ドドンドンドドン(重戦士)」など、奇抜なものが多い。駒の初期配置は特に決まっておらず、自分の陣地内ならば自由に配置できる。
* 軍儀(グンギ):[[冨樫義博]]の漫画『[[HUNTER×HUNTER]]』に登場するゲーム。9マス×9マスの盤上に「帥」「将」「馬」「槍」「兵」などの駒を配して対戦する。駒に駒を重ねることができ、三次元的な概念があるとされているが、詳しいルールは明らかになっていない。2022年にはこの軍儀を再現した商品が発売され、「入門編」「初級編」「中級編」「上級編」のレギュレーションが用意され、詳しいルールが定められた<ref>{{Cite news|title=【ハンター×ハンター】『軍儀(ぐんぎ)』最速試遊で原作がどこまで再現されているのかを検証! メルエムとコムギの対局が現実に!?|newspaper=ファミ通.com|date=2022-02-14|author=小林白菜|url=https://www.famitsu.com/news/202202/14250581.html|accessdate=2022-11-21}}</ref>。
* バルチャス:『[[牙狼-GARO-|牙狼《GARO》]]』に登場するゲーム。駒を取る際に思念を込めてイメージファイトを行い、勝った方が駒を取れる。
* マケドニア将棋(8×8マス) - 漫画[[ヒストリエ]]の劇中に登場。同7巻の限定版には盤駒およびルールブックが付属。
*プロスフェアー:内藤泰弘の漫画『[[血界戦線]]』に登場するゲーム。試合中に盤の数を増やす「戦域拡大」、全ての駒の属性を変化させる「宣誓」などのルールがあるうえに、ゲームの経過によって駒が進化していく。
* 会社将棋:[[秋本治]]の漫画『[[こちら葛飾区亀有公園前派出所]]』163巻「中将棋の巻」に登場。[[両津勘吉]]が制作。「社長」を王将とし、「美人秘書」、「[[キャバ嬢]]」、「[[愛人]]」、成ると「[[内部告発]]」として敵に寝返る「[[イエスマン]]」などの駒がある。他に発展型として「中小企業将棋」、「大会社将棋」や、駒に[[茨木政彦]]や[[鳥嶋和彦]]などの[[週刊少年ジャンプ]]編集部の面々の名を持つ将棋が登場する。
* [[三次元チェス]]:各種の[[サイエンス・フィクション]]に登場する。
* 将棋チェス:『[[賭博の巨人]]』。将棋の駒の上にチェスの駒を乗せて両方の移動範囲を合成できる。
== 脚注 ==
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=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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== 関連項目 ==
* [[変則チェス]] ([[:en:Chess variant]])
* [[変則将棋]]
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7,433 | 東京モノレール羽田空港線 | 東京モノレール羽田空港線(とうきょうモノレールはねだくうこうせん)は、東京都港区のモノレール浜松町駅から大田区の羽田空港第2ターミナル駅までを結ぶ、東京モノレールが運営するモノレール路線である。路線名に社名を含む。単に「東京モノレール」、「東京モノレール線」と呼称される場合もある。駅ナンバリングで使われる路線記号は、MO。
国土交通省監修の『鉄道要覧』においては羽田空港第2ターミナル駅が起点、モノレール浜松町駅が終点となっているが、案内および列車運行上は羽田空港第2ターミナル方面が下り、モノレール浜松町方面が上りとなっているため、本項でもそれに従い、モノレール浜松町駅を起点として記述する。
東京都心と東京国際空港(羽田空港)を結ぶアクセス路線として、モノレール浜松町 - 羽田空港第2ターミナル間を普通列車では約23分、空港直行列車である「空港快速」では約18分で結んでいる。
1964年秋の東京オリンピックの開催で、日本国内外からの羽田空港利用客の都心へのアクセスの改善を目的として建設され、10月10日の東京オリンピック開会式前の9月17日に開業した。
この路線は跨座式モノレールで、日本国内の現有路線では唯一アルヴェーグ式を採用しており、営業最高速度 80 km/h はモノレールとして国内最速である。ほとんどの部分が高架線だが、昭和島 - 整備場間(海老取川トンネル)、天空橋駅付近(羽田トンネル)と新整備場 - 羽田空港第2ターミナル間(羽田空港トンネル)は地下線となっている。なお、羽田空港の旅客ターミナルビル移転に伴う路線延長の際、構造上トンネルの断面積が大きくなるなどの理由で建設費がかさみ、運賃も値上がりした。1993年9月の羽田空港延伸前後の運賃を比較すると、一般の空港利用者は乗車距離が伸びたため、1991年末時点ではモノレール浜松町 - (旧)羽田間 (13.0 km)が300円だったものが、1994年8月時点でモノレール浜松町 - 羽田空港(現・羽田空港第1ターミナル)間 (16.9 km)が460円になった。ただし、初乗りは90円が110円に、同じ距離で例えばモノレール浜松町 - 羽田整備場(現・整備場)間11.8 kmについて比較すると300円が340円となっており、同距離では20円 - 40円の値上げにとどまっている。
車両は開業以来、日立製作所製造のものを使用している。かつては置き換えのペースが新造後13年程度と早かったが、京浜急行電鉄との競合状態となってから車両への投資は抑制気味である。
軌道は、運河の上に建設されている場所が多いため、橋脚にボートなどの船舶を繋留されてしまう場合があり、橋脚には「けい船禁止」の注意書きがある。道路橋などの上を走行する場合、橋脚あるいは跨線に「油が落ちることがあります」との注意書きがある。また、2011年2月4日に発生した変電所トラブルによる長時間の運行停止が発生した際に、運河の上に軌道があることで、この区間で列車が立ち往生した際に乗客を救出することが困難であるという問題点が浮き彫りとなった。さらに、同年3月11日の東日本大震災発生時には、津波が到達する危険があることから(東京湾一帯にも津波警報が発表されていた)警報が解除されるまで運河上の区間の安全確認ができず、運転再開まで長時間を要した。その後、対策として川崎重工業が開発したニッケル・水素蓄電池である「ギガセル」を変電所に設置し、停電時においても蓄電された電力で最寄駅まで運行することができるようにしている。
2018年4月1日現在
運営会社の東京モノレールは1959年(昭和34年)に大和観光株式会社として設立された。当初は新橋駅を起点として計画されており、大和観光から改称した日本高架電鉄は1961年(昭和36年)12月26日に羽田 - 新橋間の免許を取得しているが、用地確保の目処が立たず、やむなく浜松町駅をターミナルとしている。建設区間の短縮に伴い、浜松町 - 新橋間の免許を1966年(昭和41年)1月31日に失効させている。
また、1964年(昭和39年)の東京オリンピックに間に合わせるため、用地買収が不要な京浜運河の上に多くの区間が建設されるが、終夜の突貫工事が行われたため多大な工費がかかり、その後の経営の足かせとなった。
1964年(昭和39年)の開業当初は途中駅が全くなかったため、空港利用客以外の乗客がいなかった。また、国電の初乗りが20円、中型タクシーの初乗りが100円、週刊誌が50円だった当時にあって、運賃は片道250円・往復450円と高額だった。まだ旅客機利用や海外旅行が一般的でなかったこともあり、乗車率は20%台にとどまった。一時は利用者が1日当たり2,000人程度しかおらず、夜には一部区間で車内を消灯して夜景を楽しんでもらえるよう、デートコースとしていたこともあったという。
そこで、1966年(昭和41年)には40%という思い切った運賃の引き下げを行ったほか、乗客誘致策として空港見学客のための特別割引券を発行した。また、大井競馬場や当時存在していた大井オートレース場へのアクセスのための「大井競馬場前駅」、空港関係者のために「羽田整備場駅」と新駅を次々と設けたが、乗客は充分には増えず、経営に参画していた名古屋鉄道は早々に資本を引き上げて撤退、日立製作所は車両製造費などを回収できず、会社倒産の危機にさらされたこともあった。
抜本的な支援策として日立グループが新たに出資、1967年(昭和42年)に東京モノレールに日立運輸と西部日立運輸の2社が合併して「日立運輸東京モノレール株式会社」と社名を改め、会社再建にあたった。
その後、国際・国内空路の拡大と共に空港利用客は増加、首都高速道路の渋滞で路線バスやタクシーよりも速いとのイメージの定着から乗客は徐々に伸びていき、1970年代中頃には羽田空港へのアクセス路線として定着していった。経営も持ち直してきたこともあり、1981年には日立運輸100%出資で社名を「東京モノレール株式会社」として法人を分離、後にグループ内の日立物流(現・ロジスティード)へと経営が受け継がれた。
羽田空港が沖合へ展開していく事業が開始されると新ターミナルの建設も開始され、その際に東京モノレールは新ターミナルへのルートを考案した。旧・羽田駅から直進するルートや昭和島駅付近から短絡ルートを敷設する案も検討されていたが、結局、空港敷地の南側を経由するルートに決定した。
1998年(平成10年)、それまで空港の外れの位置までで直接空港内には乗り入れておらず、アクセス路線としてはほとんど機能していなかった京浜急行電鉄(京急)空港線が空港内に乗り入れてきた。さらに、京成電鉄や東京都交通局など5社局(当時)が相互乗り入れすることによって羽田空港と千葉県方面を結び、羽田 - 成田間の直通連絡特急(エアポート快特)の運転も開始した。そのため、浜松町でJR線と接続しているとはいえ広域で見た場合のネットワークにやや劣ることもあり、開通以降長らく続いてきた「羽田空港への唯一の軌道系公共交通機関」から一転、激しい競争にさらされることとなった。1997年(平成9年)に最高の6,500万人を達成した輸送人員が、京急乗り入れ後に3割減少した。
羽田発着の航空機の増加への対応や、京浜急行電鉄などとの競争のためには増発が必要になったが、ネックになったのは単線構造(頭端式ホーム2面1線)の浜松町駅で、改築が急務となった。東京モノレールや親会社の日立グループは大規模な投資が必要なため躊躇していたが、かねてから羽田空港アクセスに参入する意向を持っていた東日本旅客鉄道(JR東日本)と思惑が一致し、運営会社の日立物流は2001年(平成13年)に株式の70%を譲渡し、東京モノレールの経営権をJR東日本に移譲した。また、日立製作所はモノレールの生産・販売・サービスなどの旅客事業を発展させるため、株式の30%を取得している。
2002年(平成14年)に東京モノレールを子会社にしたJR東日本では次々と改善策を行った。まず、浜松町駅のJRコンコースから直接乗り換えができる(逆は不可→後に可能になる)新改札口「モノレール口」を設置し、京浜東北線の快速を浜松町駅に停車するようにした。また、ICカード乗車券「Suica」を導入し、東京モノレールは「モノレールSuica」を発行・運用開始し、すべての駅でSuicaを使用可能とした。さらに特別企画乗車券で「羽田空港駅から東京山手線内各駅への格安乗車券(モノレール&山手線内割引きっぷ)を発売」「ホリデー・パス(現:休日おでかけパス)を260円値上げし、東京臨海高速鉄道りんかい線と共に乗車できるよう変更」などの策を行った。
同年には全駅にホームドアを設置の上、ワンマン運転を当初予定より前倒しで開始し、2004年(平成16年)8月8日からは終日にわたって快速運転を開始した。同年12月1日には羽田空港第2旅客ターミナルの供用開始に伴い、羽田空港駅 - 羽田空港第2ビル駅(現:羽田空港第2ターミナル駅)が延伸開業し、同時に羽田空港駅が羽田空港第1ビル駅(現:羽田空港第1ターミナル駅)に改称された。
2007年(平成19年)3月18日には昭和島駅の待避線が完成して追い越し運転が可能となり、さらに空港アクセスの競争力強化が図られた。このダイヤ改正では「快速」を廃止して新たに「空港快速」と「区間快速」を運転開始し、速達性でも京急に対抗している。新しくできた2つの快速の英語表記は日本語表記の直訳ではなく、「空港快速」をHaneda Express、「区間快速」をRapidとしている。
羽田空港は、2010年(平成22年)10月31日に国際線の定期乗り入れを再開した。これに合わせて空港南側の環状八号線沿いに建設される新国際線ターミナル(現:第3ターミナル)に「羽田空港国際線ビル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が設置されることになり、同年4月11日より天空橋 - 新整備場間の軌道の一部が新ターミナル敷地内へ移設され、10月21日に駅が開業した。なお、同地には京急空港線にも新駅「羽田空港国際線ターミナル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が同日に設置された。
2014年(平成26年)9月には開業50周年を迎え、累計輸送人員は18億人に達した。
2023年現在、東京モノレール羽田空港線では、以下の4種別(定期3種別、臨時1種別)の列車が運行されている。日本国内のモノレールで通過駅を持つ定期列車を運行する路線は当線のみである。
2021年3月13日以降の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが4分間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・普通それぞれが10分ごととなっている。区間快速は上り初電1本のみとなる。
2021年3月12日以前の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが3分20秒間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・区間快速・普通それぞれが12分ごととなっていた。
なお、ゴールデンウィークや年末年始には、土休日ダイヤを基本にした特別ダイヤが組まれ、空港快速と普通の増発を行ない、空港快速をほぼ終日運転する。それに対して、区間快速の運転本数は日中1時間あたり3本(※2019年12月28日 - 2020年1月5日の期間は日中毎時1本のみ)となる。特別ダイヤを実施する際は、予め東京モノレールのホームページに掲載される。
現行の停車駅については、駅一覧を参照。
都心のターミナルである浜松町駅の整備計画が2009年6月に東京モノレールから国土交通省に報告された。開業から45年間そのままだった軌道1本(単線)構造の現在の駅施設をホーム2面・軌道2本(複線)に改良するというものである。概算事業費は約260億円で、地元協議から設計を経て工事が終了するまで約6年半と見込んでいる。これにより1時間当たりの最大運転本数を現在の18本から24本に増やす計画である。同時に後述の新橋延長に対応した構造となる。当初はJR線路の東側に移転することも検討されたが、コスト面などの理由で現在の場所にある駅の拡張にとどまった。なお、当初の移転先にはJR東日本の北口新駅舎が建設される計画がある。
そして、2012年10月、株式会社世界貿易センタービルディング、東京モノレール、JR東日本の3社は東京都に対して「浜松町二丁目4地区」の都市計画の提案を行ったことを発表した。これによると、交通結節機能の強化としてJR・モノレール駅改良、JR・モノレールと地下鉄をつなぐ縦動線(ステーションコア)の整備、バスターミナル、タクシープール、都市計画駐車場と荷捌き・自動二輪駐車場の整備などが計画されているが、モノレール軌道の複線化については具体的な記述はない。2013年2月6日の建設通信新聞によれば、JR東日本の2月社長定例会見で、世界貿易センターの建て替えを含む浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにした。「周辺の臨海部の開発によって駅利用者が増え、やや手狭になっている。利便性向上や駅の価値を高めるためにも、ぜひこの機会に両駅を新しいものに造り変えたい」と意欲を示した。同年4月の時点でボーリング調査が始まっている。2009年のモノレール駅拡張計画は世界貿易センターが存続していることが前提だったが、ビル本体が建て替えになったため、計画変更も余儀なくされている。
2002年1月、親会社のJR東日本が長期計画として、東京モノレールを浜松町(新駅)より新橋駅に延長する計画を発表、日本経済新聞に掲載された。路線の用地取得問題に関しては、JR線上空を使用することで目処がついている。ただし、途中のルートはおろか、新橋駅の設置場所や、途中駅を設けるかについては明らかにされていない。駅用地は、ゆりかもめ新橋駅付近などが候補に挙がっている。また新橋への延伸工事の着工は、羽田空港国際線ビル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)の建設と浜松町駅の拡張工事が完了してからになる予定である。
2010年9月には、新橋駅もしくは東京駅に延伸するため本格的な検討に入ったと、東京新聞が報じている。延伸が検討された理由は、浜松町駅に乗り入れている路線が限られており、JRと東京モノレールを利用して成田空港から羽田空港に移動すると乗り換えが2回必要であるため、競合する他の交通機関に劣ることである。東京駅に延伸した場合、成田エクスプレスと直接乗り換えが可能となり、新橋駅延伸でも同駅を成田エクスプレス停車駅に変更することで、いずれの場合も乗り換えが1回で済み、移動時間が短縮される。東京駅に延伸した場合、試算では1,000億円超かかり、新橋駅の場合では駅建設を除く費用は1/3に、工期も早ければ数年程度で完成できるとしている。
2013年2月、JR東日本の社長定例記者会見で、浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにしたが、モノレールの東京駅への延伸構想については、工期やコストなどの観点から、現時点での事業化は難しいとの考えを示した。しかし、引き続き検討を進めていきたいとしている。
一方で、2013年11月には、JR東日本が田町駅から営業休止中の東海道貨物線を活用して羽田空港へ向かう鉄道路線(羽田空港アクセス線)について整備の検討に入ったと報じられた。2014年8月、JR東日本が国土交通省交通政策審議会の東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会で明らかにした計画では、田町駅付近で東海道本線・上野東京ラインに乗り入れる「東山手ルート」、大井町駅付近でりんかい線・埼京線に乗り入れる「西山手ルート」、東京テレポート駅でりんかい線に乗り入れる「臨海部ルート」の3ルートを建設するとしている。
2014年1月の産経新聞インタビューによれば、JR東日本社長の冨田哲郎は「日本経済、東京という都市にとって、重要なルートになる」と述べている。また、冨田は競合することになる東京モノレールを新路線開業後も存続させる考えを示している。
これに対し東京モノレールは、進行する浜松町駅周辺の再開発に合わせてJR山手線や地下鉄大江戸線などとの乗り換えをよりスムーズにする他、2014年1月の毎日新聞インタビューで東京モノレール社長の中村弘之は、「将来的にはモノレールを東京駅まで延伸する夢」があり「24時間運行の可能性も見えてくる」と生き残りに向けた課題を述べている。
東京都心 - 羽田空港間の鉄道は1998年に京急が本格参入し、1日平均乗降客数はモノレールが約6万5,000人、京急が約8万2,000人と、京急が優勢となっている。ここにJR新線が実現すると三つ巴の激しい争奪戦が展開されることになる。
2015年3月14日の上野東京ライン開通では、宇都宮線・高崎線・常磐線が、東京モノレールの連絡駅である浜松町駅を通過して、京急の連絡駅である品川駅に乗り入れることから、羽田空港への鉄道アクセスについて、さらに京急が優位に立つことが見込まれている。さらに、2019年10月には京急が空港線の加算運賃を最大120円値下げし、普通運賃では京急と大差が付く形となった。一方、東京モノレールは定期運賃を引き下げることで、運行頻度と京急より安い定期運賃を武器に、空港関係者の通勤需要取り込みを図る戦略に出ている。 | [
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"text": "同年には全駅にホームドアを設置の上、ワンマン運転を当初予定より前倒しで開始し、2004年(平成16年)8月8日からは終日にわたって快速運転を開始した。同年12月1日には羽田空港第2旅客ターミナルの供用開始に伴い、羽田空港駅 - 羽田空港第2ビル駅(現:羽田空港第2ターミナル駅)が延伸開業し、同時に羽田空港駅が羽田空港第1ビル駅(現:羽田空港第1ターミナル駅)に改称された。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "2007年(平成19年)3月18日には昭和島駅の待避線が完成して追い越し運転が可能となり、さらに空港アクセスの競争力強化が図られた。このダイヤ改正では「快速」を廃止して新たに「空港快速」と「区間快速」を運転開始し、速達性でも京急に対抗している。新しくできた2つの快速の英語表記は日本語表記の直訳ではなく、「空港快速」をHaneda Express、「区間快速」をRapidとしている。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 20,
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"text": "羽田空港は、2010年(平成22年)10月31日に国際線の定期乗り入れを再開した。これに合わせて空港南側の環状八号線沿いに建設される新国際線ターミナル(現:第3ターミナル)に「羽田空港国際線ビル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が設置されることになり、同年4月11日より天空橋 - 新整備場間の軌道の一部が新ターミナル敷地内へ移設され、10月21日に駅が開業した。なお、同地には京急空港線にも新駅「羽田空港国際線ターミナル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が同日に設置された。",
"title": "歴史"
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"text": "2014年(平成26年)9月には開業50周年を迎え、累計輸送人員は18億人に達した。",
"title": "歴史"
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"text": "2023年現在、東京モノレール羽田空港線では、以下の4種別(定期3種別、臨時1種別)の列車が運行されている。日本国内のモノレールで通過駅を持つ定期列車を運行する路線は当線のみである。",
"title": "運行形態"
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"text": "2021年3月13日以降の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが4分間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・普通それぞれが10分ごととなっている。区間快速は上り初電1本のみとなる。",
"title": "運行形態"
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"text": "2021年3月12日以前の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが3分20秒間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・区間快速・普通それぞれが12分ごととなっていた。",
"title": "運行形態"
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"text": "なお、ゴールデンウィークや年末年始には、土休日ダイヤを基本にした特別ダイヤが組まれ、空港快速と普通の増発を行ない、空港快速をほぼ終日運転する。それに対して、区間快速の運転本数は日中1時間あたり3本(※2019年12月28日 - 2020年1月5日の期間は日中毎時1本のみ)となる。特別ダイヤを実施する際は、予め東京モノレールのホームページに掲載される。",
"title": "運行形態"
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"text": "現行の停車駅については、駅一覧を参照。",
"title": "運行形態"
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"text": "都心のターミナルである浜松町駅の整備計画が2009年6月に東京モノレールから国土交通省に報告された。開業から45年間そのままだった軌道1本(単線)構造の現在の駅施設をホーム2面・軌道2本(複線)に改良するというものである。概算事業費は約260億円で、地元協議から設計を経て工事が終了するまで約6年半と見込んでいる。これにより1時間当たりの最大運転本数を現在の18本から24本に増やす計画である。同時に後述の新橋延長に対応した構造となる。当初はJR線路の東側に移転することも検討されたが、コスト面などの理由で現在の場所にある駅の拡張にとどまった。なお、当初の移転先にはJR東日本の北口新駅舎が建設される計画がある。",
"title": "今後の予定"
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"text": "そして、2012年10月、株式会社世界貿易センタービルディング、東京モノレール、JR東日本の3社は東京都に対して「浜松町二丁目4地区」の都市計画の提案を行ったことを発表した。これによると、交通結節機能の強化としてJR・モノレール駅改良、JR・モノレールと地下鉄をつなぐ縦動線(ステーションコア)の整備、バスターミナル、タクシープール、都市計画駐車場と荷捌き・自動二輪駐車場の整備などが計画されているが、モノレール軌道の複線化については具体的な記述はない。2013年2月6日の建設通信新聞によれば、JR東日本の2月社長定例会見で、世界貿易センターの建て替えを含む浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにした。「周辺の臨海部の開発によって駅利用者が増え、やや手狭になっている。利便性向上や駅の価値を高めるためにも、ぜひこの機会に両駅を新しいものに造り変えたい」と意欲を示した。同年4月の時点でボーリング調査が始まっている。2009年のモノレール駅拡張計画は世界貿易センターが存続していることが前提だったが、ビル本体が建て替えになったため、計画変更も余儀なくされている。",
"title": "今後の予定"
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"text": "2002年1月、親会社のJR東日本が長期計画として、東京モノレールを浜松町(新駅)より新橋駅に延長する計画を発表、日本経済新聞に掲載された。路線の用地取得問題に関しては、JR線上空を使用することで目処がついている。ただし、途中のルートはおろか、新橋駅の設置場所や、途中駅を設けるかについては明らかにされていない。駅用地は、ゆりかもめ新橋駅付近などが候補に挙がっている。また新橋への延伸工事の着工は、羽田空港国際線ビル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)の建設と浜松町駅の拡張工事が完了してからになる予定である。",
"title": "今後の予定"
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"text": "2010年9月には、新橋駅もしくは東京駅に延伸するため本格的な検討に入ったと、東京新聞が報じている。延伸が検討された理由は、浜松町駅に乗り入れている路線が限られており、JRと東京モノレールを利用して成田空港から羽田空港に移動すると乗り換えが2回必要であるため、競合する他の交通機関に劣ることである。東京駅に延伸した場合、成田エクスプレスと直接乗り換えが可能となり、新橋駅延伸でも同駅を成田エクスプレス停車駅に変更することで、いずれの場合も乗り換えが1回で済み、移動時間が短縮される。東京駅に延伸した場合、試算では1,000億円超かかり、新橋駅の場合では駅建設を除く費用は1/3に、工期も早ければ数年程度で完成できるとしている。",
"title": "今後の予定"
},
{
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"tag": "p",
"text": "2013年2月、JR東日本の社長定例記者会見で、浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにしたが、モノレールの東京駅への延伸構想については、工期やコストなどの観点から、現時点での事業化は難しいとの考えを示した。しかし、引き続き検討を進めていきたいとしている。",
"title": "今後の予定"
},
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"paragraph_id": 32,
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"text": "一方で、2013年11月には、JR東日本が田町駅から営業休止中の東海道貨物線を活用して羽田空港へ向かう鉄道路線(羽田空港アクセス線)について整備の検討に入ったと報じられた。2014年8月、JR東日本が国土交通省交通政策審議会の東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会で明らかにした計画では、田町駅付近で東海道本線・上野東京ラインに乗り入れる「東山手ルート」、大井町駅付近でりんかい線・埼京線に乗り入れる「西山手ルート」、東京テレポート駅でりんかい線に乗り入れる「臨海部ルート」の3ルートを建設するとしている。",
"title": "今後の予定"
},
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"paragraph_id": 33,
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"text": "2014年1月の産経新聞インタビューによれば、JR東日本社長の冨田哲郎は「日本経済、東京という都市にとって、重要なルートになる」と述べている。また、冨田は競合することになる東京モノレールを新路線開業後も存続させる考えを示している。",
"title": "今後の予定"
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"text": "これに対し東京モノレールは、進行する浜松町駅周辺の再開発に合わせてJR山手線や地下鉄大江戸線などとの乗り換えをよりスムーズにする他、2014年1月の毎日新聞インタビューで東京モノレール社長の中村弘之は、「将来的にはモノレールを東京駅まで延伸する夢」があり「24時間運行の可能性も見えてくる」と生き残りに向けた課題を述べている。",
"title": "今後の予定"
},
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"paragraph_id": 35,
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"text": "東京都心 - 羽田空港間の鉄道は1998年に京急が本格参入し、1日平均乗降客数はモノレールが約6万5,000人、京急が約8万2,000人と、京急が優勢となっている。ここにJR新線が実現すると三つ巴の激しい争奪戦が展開されることになる。",
"title": "今後の予定"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "2015年3月14日の上野東京ライン開通では、宇都宮線・高崎線・常磐線が、東京モノレールの連絡駅である浜松町駅を通過して、京急の連絡駅である品川駅に乗り入れることから、羽田空港への鉄道アクセスについて、さらに京急が優位に立つことが見込まれている。さらに、2019年10月には京急が空港線の加算運賃を最大120円値下げし、普通運賃では京急と大差が付く形となった。一方、東京モノレールは定期運賃を引き下げることで、運行頻度と京急より安い定期運賃を武器に、空港関係者の通勤需要取り込みを図る戦略に出ている。",
"title": "今後の予定"
}
] | 東京モノレール羽田空港線(とうきょうモノレールはねだくうこうせん)は、東京都港区のモノレール浜松町駅から大田区の羽田空港第2ターミナル駅までを結ぶ、東京モノレールが運営するモノレール路線である。路線名に社名を含む。単に「東京モノレール」、「東京モノレール線」と呼称される場合もある。駅ナンバリングで使われる路線記号は、MO。 国土交通省監修の『鉄道要覧』においては羽田空港第2ターミナル駅が起点、モノレール浜松町駅が終点となっているが、案内および列車運行上は羽田空港第2ターミナル方面が下り、モノレール浜松町方面が上りとなっているため、本項でもそれに従い、モノレール浜松町駅を起点として記述する。 | {{画像提供依頼|駅ナンバリング導入後の路線図|date=2022年9月|cat=鉄道}}
{{Infobox 鉄道路線
| 路線名 = [[File:Tokyo monorail.svg|link=東京モノレール|60px]] 東京モノレール羽田空港線<ref name="youran">国土交通省鉄道局監修『鉄道要覧』平成28年度版、電気車研究会・鉄道図書刊行会、p.201</ref>
| 路線色 = #003686
| ロゴ = Tokyo Monorail Line symbol.svg
| ロゴサイズ = 40px
| 画像 = Tokyo-Monorail-10000-1000.jpg
| 画像サイズ = 300px
| 画像説明 = 羽田空港第3ターミナル駅 - 新整備場駅間
| 国 = {{JPN}}
| 所在地 = [[東京都]]
| 種類 = [[モノレール#アルヴェーグ式|跨座式モノレール(アルヴェーグ式)]]
| 起点 = [[浜松町駅|モノレール浜松町駅]]<!-- <ref name="startpoint" group="注釈">『[[鉄道要覧]]』上は羽田空港第2ターミナル駅が起点、モノレール浜松町駅が終点となっている。</ref> ←冒頭文に説明を組み入れた為コメントアウト-->
| 終点 = [[羽田空港第2ターミナル駅]]
| 駅数 = 11駅
| 路線記号 = MO
| 開業 = {{start date and age|1964|9|17}}
| 休止 =
| 廃止 =
| 所有者 = [[東京モノレール]]
| 運営者 = 東京モノレール
| 車両基地 =
| 使用車両 = [[東京モノレール10000形電車|10000形]]、[[東京モノレール2000形電車|2000形]]、[[東京モノレール1000形電車|1000形]](各6両編成)
| 路線構造 =
| 路線距離 = 17.8 [[キロメートル|km]]
| 線路数 = [[複線]]
| 電化方式 = [[直流電化|直流]]750 [[ボルト (単位)|V]](剛体複線式)
| 最大勾配 = 60 [[パーミル|‰]]<ref name="Nihon-Monorail125">日本モノレール協会『モノレール』No.125(2013年)pp.27 - 28。</ref>
| 最小曲線半径 = 120 m<ref name="Nihon-Monorail125"/>
| 閉塞方式 = [[車内信号]]閉塞式
| 保安装置 = [[自動列車制御装置|CS-ATC]]・[[自動列車運転装置|ATO]]
| 最高速度 = 80 [[キロメートル毎時|km/h]]<ref name="yamanote">杉崎行恭『山手線 ウグイス色の電車今昔50年』JTBパブリッシング、2013年 p.168</ref>
| 路線図 = {{画像募集中}}
}}
'''東京モノレール羽田空港線'''<ref name="youran" />(とうきょうモノレールはねだくうこうせん)は、[[東京都]][[港区 (東京都)|港区]]の[[浜松町駅|モノレール浜松町駅]]から[[大田区]]の[[羽田空港第2ターミナル駅]]までを結ぶ、[[東京モノレール]]が運営する[[モノレール]]路線である。路線名に社名を含む。単に「'''東京モノレール'''」、「'''東京モノレール線'''」と呼称される場合もある。[[駅ナンバリング]]で使われる路線記号は、'''MO'''。
[[国土交通省]]監修の『[[鉄道要覧]]』においては羽田空港第2ターミナル駅が起点、モノレール浜松町駅が終点となっているが、案内および列車運行上は羽田空港第2ターミナル方面が下り、モノレール浜松町方面が上りとなっているため、本項でもそれに従い、モノレール浜松町駅を起点として記述する。
== 概要 ==
{{東京モノレール羽田空港線路線図}}
東京[[都心]]と[[東京国際空港]](羽田空港)を結ぶ[[空港連絡鉄道|アクセス路線]]として、モノレール浜松町 - 羽田空港第2ターミナル間を普通列車では約23分、空港直行列車である「空港快速」では約18分で結んでいる。
[[1964年]]秋の[[1964年東京オリンピック|東京オリンピック]]の開催で、日本国内外からの羽田空港利用客の都心へのアクセスの改善を目的として建設され、[[10月10日]]の東京オリンピック開会式前の[[9月17日]]に開業した<ref name="asahi-np-2015-2-14">上沢博之(2015年2月14日). “東京五輪物語 浜松町-羽田モノレール開通 空港まで15分、突貫工事”. [[朝日新聞]](朝日新聞社)</ref>。
この路線は[[モノレール|跨座式モノレール]]で、日本国内の現有路線では唯一[[ALWEG|アルヴェーグ式]]を採用しており、営業最高速度 80 km/h はモノレールとして国内最速である。ほとんどの部分が高架線だが、昭和島 - 整備場間([[海老取川]]トンネル)、天空橋駅付近(羽田トンネル)と新整備場 - 羽田空港第2ターミナル間(羽田空港トンネル)は地下線となっている。なお、羽田空港の旅客[[空港ターミナルビル|ターミナルビル]]移転に伴う路線延長の際、構造上トンネルの断面積が大きくなるなどの理由で建設費がかさみ、運賃も値上がりした。[[1993年]]9月の羽田空港延伸前後の運賃を比較すると、一般の空港利用者は乗車距離が伸びたため、[[1991年]]末時点ではモノレール浜松町 - (旧)羽田間 (13.0 km)が300円だったものが、[[1994年]]8月時点でモノレール浜松町 - 羽田空港(現・羽田空港第1ターミナル)間 (16.9 km)が460円になった。ただし、初乗りは90円が110円に、同じ距離で例えばモノレール浜松町 - 羽田整備場(現・整備場)間11.8 kmについて比較すると300円が340円となっており、同距離では20円 - 40円の値上げにとどまっている<ref>運賃額は1991年末時点を『JTB時刻表』1993年3月号、1994年8月時点を同1994年9月号で確認。</ref>。
車両は開業以来、[[日立製作所]]製造のものを使用している。かつては置き換えのペースが新造後13年程度と早かったが、[[京浜急行電鉄]]との競合状態となってから車両への投資は抑制気味である。
軌道は、運河の上に建設されている場所が多いため、橋脚にボートなどの[[船舶]]を繋留されてしまう場合があり<ref group="注釈">初期には流された[[ヨット]]が引っ掛かって列車の運行に支障が出たこともあったという。</ref>、橋脚には「けい船禁止」の注意書きがある。道路橋などの上を走行する場合、橋脚あるいは跨線に「油が落ちることがあります」との注意書きがある。また、[[2011年]][[2月4日]]に発生した変電所トラブルによる長時間の運行停止が発生した際に、運河の上に軌道があることで、この区間で列車が立ち往生した際に乗客を救出することが困難であるという問題点が浮き彫りとなった。さらに、同年[[3月11日]]の[[東日本大震災]]発生時には、[[津波]]が到達する危険があることから([[東京湾]]一帯にも[[津波警報]]が発表されていた)警報が解除されるまで運河上の区間の安全確認ができず、運転再開まで長時間を要した。その後、対策として[[川崎重工業]]が開発した[[ニッケル・水素充電池|ニッケル・水素蓄電池]]である「ギガセル」を変電所に設置し、停電時においても蓄電された電力で最寄駅まで運行することができるようにしている<ref>{{Cite journal|和書 |journal = [[鉄道ジャーナル]] |date = 2012-8 |volume = 46 |issue = 8 |page = 150 |publisher = [[鉄道ジャーナル社]] }}</ref>。
[[ファイル:Mono-shibaura.jpg|thumb|none|200px|芝浦アイランド付近。橋脚に「けい船禁止」の注意書きがある。]]
=== 路線データ ===
2018年4月1日現在<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tokyo-monorail.co.jp/company/profile.html|title=東京モノレール:企業情報>会社概要|accessdate=2019-03-16|publisher=東京モノレール株式会社}}</ref>
* 管轄(事業種別):東京モノレール ([[第一種鉄道事業者]])
* 路線距離([[営業キロ]]):17.8 km(うち、海老取川トンネル・羽田トンネル・羽田空港トンネルの延長 4.2 kmはトンネル部<ref name="Nihon-Monorail125"/>)
* 方式:跨座式([[ALWEG|アルウェーグ式]])6両編成
* 駅数:11駅(起終点駅含む)
* 複線区間:全線(ただし、モノレール浜松町駅構内161 mは単線<ref name="Nihon-Monorail125"/>)
* 電化方式:直流750 V(剛体複線式)
* [[閉塞 (鉄道)|閉塞方式]]:車内信号閉塞式 (CS-ATC)
* 最高速度:80 km/h<ref name="yamanote" />
* [[表定速度]]:普通44.5 km/h・区間快速50.9 km/h・空港快速56.5 km/h
* 輸送力:
** ピーク(1時間片道):平日10,440人
** 終日:平日310,300人、土曜・休日294,060人
== 歴史 ==
運営会社の東京モノレールは1959年(昭和34年)に大和観光株式会社<ref group="注釈">その後の日立グループの再編によって、大和観光の法人格は日立物流(現・[[ロジスティード]])が継承したため、現在の東京モノレール社は法人としては2代目となる。</ref>として設立された。当初は[[新橋駅]]を起点として計画されており、大和観光から改称した日本高架電鉄は[[1961年]](昭和36年)[[12月26日]]に羽田 - 新橋間の免許を取得しているが、用地確保の目処が立たず、やむなく浜松町駅を[[ターミナル駅|ターミナル]]としている<ref>[https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=104113811X00519620831 参議院会議録情報 第041回国会 オリンピック東京大会準備促進特別委員会 第5号] 1962年8月31日</ref>。建設区間の短縮に伴い、浜松町 - 新橋間の免許を[[1966年]](昭和41年)[[1月31日]]に失効させている<ref>森口誠之『鉄道廃線跡を歩く 私鉄編』JTB、2001年 p.186)</ref>。
また、[[1964年東京オリンピック|1964年(昭和39年)の東京オリンピック]]に間に合わせるため、用地買収が不要な[[京浜運河]]の上に多くの区間が建設されるが、終夜の突貫工事が行われたため多大な工費がかかり、その後の経営の足かせとなった。
[[ファイル:Shuto Kosokudoro Route 1 -02.jpg|thumb|none|200px|京浜運河上に建設された東京モノレール羽田空港線と首都高速1号羽田線(2010年4月3日)]]<!-- 経路図を展開すると画像と衝突するのでnone指定。-->
1964年(昭和39年)の開業当初は途中駅が全くなかったため、空港利用客以外の乗客がいなかった。また、[[国電]]の初乗りが20円、[[日本のタクシー|中型タクシー]]の初乗りが100円、[[週刊誌]]が50円だった当時にあって、[[運賃]]は片道250円・往復450円と高額だった。まだ[[旅客機]]利用や[[海外旅行]]が一般的でなかったこともあり、乗車率は20%台にとどまった。一時は利用者が1日当たり2,000人程度しかおらず、夜には一部区間で車内を消灯して[[夜景]]を楽しんでもらえるよう、[[デート]]コースとしていたこともあったという<ref>2014年9月11日の[[東京新聞]]</ref>。
そこで、1966年(昭和41年)には40%という思い切った運賃の引き下げを行ったほか、乗客誘致策として空港見学客のための特別割引券を発行した。また、[[大井競馬場]]や当時存在していた[[大井オートレース場]]へのアクセスのための「大井競馬場前駅」、空港関係者のために「羽田整備場駅」と新駅を次々と設けたが、乗客は充分には増えず、経営に参画していた[[名古屋鉄道]]は早々に資本を引き上げて撤退、日立製作所は車両製造費などを回収できず、会社倒産の危機にさらされたこともあった。
抜本的な支援策として日立グループが新たに出資、[[1967年]](昭和42年)に東京モノレールに[[日立運輸]]と西部日立運輸の2社が合併して「日立運輸東京モノレール株式会社」と社名を改め、会社再建にあたった。
その後、国際・国内空路の拡大と共に空港利用客は増加、[[首都高速道路]]の渋滞で[[路線バス]]やタクシーよりも速いとのイメージの定着から乗客は徐々に伸びていき、[[1970年代]]中頃には羽田空港へのアクセス路線として定着していった。経営も持ち直してきたこともあり、[[1981年]]には日立運輸100%出資で社名を「東京モノレール株式会社」として法人を分離、後にグループ内の日立物流(現・[[ロジスティード]])へと経営が受け継がれた。
羽田空港が沖合へ展開していく事業が開始されると新ターミナルの建設も開始され、その際に東京モノレールは新ターミナルへのルートを考案した。旧・羽田駅から直進するルートや昭和島駅付近から短絡ルートを敷設する案も検討されていたが、結局、空港敷地の南側を経由するルートに決定した。
[[1998年]]([[平成]]10年)、それまで空港の外れの位置までで直接空港内には乗り入れておらず、アクセス路線としてはほとんど機能していなかった[[京浜急行電鉄]](京急)[[京急空港線|空港線]]が空港内に乗り入れてきた。さらに、[[京成電鉄]]や[[東京都交通局]]など5社局(当時)が[[直通運転|相互乗り入れ]]することによって羽田空港と[[千葉県]]方面を結び、羽田 - [[成田国際空港|成田]]間の直通連絡特急([[エアポート快特]])の運転も開始した。そのため、浜松町でJR線と接続しているとはいえ広域で見た場合のネットワークにやや劣ることもあり、開通以降長らく続いてきた「羽田空港への唯一の軌道系公共交通機関」から一転、激しい競争にさらされることとなった。[[1997年]](平成9年)に最高の6,500万人を達成した輸送人員が、京急乗り入れ後に3割減少した。
羽田発着の航空機の増加への対応や、京浜急行電鉄などとの競争のためには増発が必要になったが、ネックになったのは[[単線]]構造([[頭端式ホーム]]2面1線)の浜松町駅で、改築が急務となった。東京モノレールや親会社の日立グループは大規模な投資が必要なため躊躇していたが、かねてから羽田空港アクセスに参入する意向を持っていた[[東日本旅客鉄道]](JR東日本)と思惑が一致し、運営会社の日立物流は[[2001年]](平成13年)に株式の70%を譲渡し、東京モノレールの経営権をJR東日本に移譲した。また、日立製作所はモノレールの生産・販売・サービスなどの旅客事業を発展させるため、株式の30%を取得している。
[[2002年]](平成14年)に東京モノレールを子会社にしたJR東日本では次々と改善策を行った。まず、浜松町駅のJRコンコースから直接乗り換えができる(逆は不可→後に可能になる)新改札口「モノレール口」を設置し、[[京浜東北線]]の快速を浜松町駅に停車するようにした。また、ICカード乗車券「[[Suica]]」を導入し、東京モノレールは「モノレールSuica」を発行・運用開始し、すべての駅でSuicaを使用可能とした。さらに[[特別企画乗車券]]で「羽田空港駅から[[東京山手線内]]各駅への格安乗車券(モノレール&山手線内割引きっぷ)を発売」「[[ホリデー・パス]](現:休日おでかけパス)を260円値上げし、[[東京臨海高速鉄道りんかい線]]と共に乗車できるよう変更」などの策を行った。
同年には全駅に[[ホームドア]]を設置の上、[[ワンマン運転]]を当初予定より前倒しで開始し、[[2004年]](平成16年)[[8月8日]]からは終日にわたって[[快速列車|快速]]運転を開始した<ref name="JRC625">{{Cite journal|和書 |title=鉄道記録帳 |journal = RAIL FAN |date = 2004年11月号 |issue = 11 |volume = 51 |publisher = 鉄道友の会 |page = 26 }}</ref>。同年[[12月1日]]には[[東京国際空港#旅客ターミナル|羽田空港第2旅客ターミナル]]の供用開始に伴い、羽田空港駅 - 羽田空港第2ビル駅(現:羽田空港第2ターミナル駅)が延伸開業し、同時に羽田空港駅が羽田空港第1ビル駅(現:羽田空港第1ターミナル駅)に改称された<ref name="TokyoMonoRail20040716"/>。
[[2007年]](平成19年)[[3月18日]]には[[昭和島駅]]の[[待避線]]が完成して追い越し運転が可能となり、さらに空港アクセスの競争力強化が図られた<ref name="TokyoMonoRail200703"/>。このダイヤ改正では「快速」を廃止して新たに「空港快速」と「区間快速」を運転開始し、速達性でも京急に対抗している<ref name="TokyoMonoRail200703"/>。新しくできた2つの快速の英語表記は日本語表記の直訳ではなく、「空港快速」を'''Haneda Express'''、「区間快速」を'''Rapid'''としている。
[[ファイル:ConstructionSite Tokyo-Monorail NewStation.jpg|thumb|right|200px|羽田空港国際線ビル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)の工事現場]]<!-- 節の冒頭に画像を置くと経路図を展開した場合に衝突します。-->
羽田空港は、[[2010年]](平成22年)[[10月31日]]に国際線の定期乗り入れを再開した。これに合わせて空港南側の環状八号線沿いに建設される[[東京国際空港#旅客ターミナル|新国際線ターミナル(現:第3ターミナル)]]に「羽田空港国際線ビル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が設置されることになり、同年[[4月11日]]より天空橋 - 新整備場間の軌道の一部が新ターミナル敷地内へ移設され、[[10月21日]]に駅が開業した。なお、同地には京急空港線にも新駅「羽田空港国際線ターミナル駅」(現:羽田空港第3ターミナル駅)が同日に設置された。
[[2014年]](平成26年)9月には開業50周年を迎え、累計輸送人員は18億人に達した<ref>「モノレール50歳 羽田の足に試練」日本経済新聞2014年9月18日13面</ref>。
=== 年表 ===
* [[1962年]]([[昭和]]37年)
** 5月 - モノレール路線乗り入れを含む首都高速1号線海老取川トンネル(首都高速側の名称は[[羽田トンネル]])着工<ref name="50th"/>。
** 12月26日 - 日立製作所と羽田空港-浜松町間13.1 kmの基本請負契約を締結<ref name="50th">東京モノレール50年史(東京モノレール 2014年)</ref>。
* [[1963年]](昭和38年)5月1日 - 品川埠頭未竣工埋立地にて起工式開催<ref name="50th"/><ref>[{{NDLDC|3255827/1}} 網本克己「羽田線モノレール」『JREA』第7巻第8号、日本鉄道技術協会、1964年8月]</ref>。
* [[1964年]](昭和39年)
** 4月 - 車両搬入開始<ref name="50th"/>。
** 4月22日 - 京浜3区埋立地にて試運転開始<ref name="50th"/><ref>[{{NDLDC|2223528/1}} 「モノレール初の試運転」『修学旅行』第92号、日本修学旅行協会、1964年5月 22ページ]こちらでは4月20日となっている</ref>。
** 9月16日 - モノレール浜松町駅にて竣工・開通式開催<ref name="50th"/>。
** [[9月17日]] - '''東京モノレール羽田線'''モノレール浜松町駅 - (旧)羽田駅間開業。開業当時は途中駅なしで<ref name="asahi-np-2015-2-14" />、昭和島信号所・穴守信号所の2[[信号場|信号所]]を設置。穴守信号所 - (旧)羽田駅間及びモノレール浜松町駅ホーム部は単線、残りは複線<ref name="tokyomonorail1964">{{Cite journal|和書|title=開通迫る・東京モノレール|author=谷坤一郎|date=1964-07|publisher=電気車研究会|journal=鉄道ピクトリアル|number=159|page=30}}</ref>。
* [[1965年]](昭和40年)[[5月27日]] - 大井競馬場前駅開業<ref name="sone-koei30">{{Cite book|和書 |author=曽根悟(監修)|authorlink=曽根悟 |title=週刊 歴史でめぐる鉄道全路線 公営鉄道・私鉄 |editor=朝日新聞出版分冊百科編集部 |publisher=[[朝日新聞出版]] |series=週刊朝日百科 |volume=30号 モノレール・新交通システム・鋼索鉄道 |date=2011-10-16 |page=5 }}</ref>(当時は開催日の昼間時のみ営業の臨時駅)。
* [[1966年]](昭和41年)
** 1月 - 浜松町-新橋間の路線免許を返上<ref name="50th"/>。
** 4月 - 国鉄浜松町駅とモノレール浜松町駅間の連絡跨線橋完成<ref name="50th"/>(南口へ設置)。
* [[1967年]](昭和42年)
** [[3月20日]] - 羽田整備場駅(現・整備場駅)開業<ref name="sone-koei30"/>。
** [[6月1日]] - 大井競馬場前駅を通年営業の常設駅とする<ref name="DJ360">{{Cite journal|和書 |author=編集部 |title=東京モノレール50年のあゆみ |date=2014-03-15 |journal=[[鉄道ダイヤ情報]] |volume=43 |issue=5 |pages=10-17 |publisher=[[交通新聞社]]}}</ref>。
* [[1969年]](昭和44年)
** 5月 - [[東京モノレール500形電車|500形]]導入<ref name="monorail-history">[http://www.tokyo-monorail.co.jp/fun/history.html モノレールFUN モノレールヒストリー] - 東京モノレール</ref>。
** [[12月15日]] - 新平和島駅開業<ref name="sone-koei30"/>。
* [[1972年]](昭和47年)1月8日 - 新平和島駅を流通センター駅に改称<ref name="mono50th-178">{{Cite book |和書 |author=東京モノレール株式会社社史編纂委員会 |title=東京モノレール50年史 |publisher=東京モノレール株式会社 |date=2014-09 |ref=50th |page=178}}</ref>。
* [[1977年]](昭和52年)7月 - [[東京モノレール600形電車|600形]]導入<ref name="monorail-history" />。
* [[1980年]](昭和55年)
** 8月 - 羽田空港沖合展開事業に向け「羽田プロジェクト委員会」を設置。新ターミナルへの延伸案として、羽田駅から地下1.8 km直進し延伸するA案・流通センターから分岐し湾岸道路と並行し3.75 km延伸するB案・羽田トンネル入り口から分離し空港施設を迂回し一部高架とするC案の3案を計画、その後C案に決定<ref name="50th"/>。
* [[1982年]](昭和57年)7月15日 - [[東京モノレール600形電車|700形]]導入<ref name="50th"/>
* [[1983年]](昭和58年)7月15日 - 全列車6両運転化を開始<ref name="50th"/>。
* [[1985年]](昭和60年)
** [[2月7日]] - 昭和島信号所を格上げし、昭和島駅開業<ref name="sone-koei30"/>。
** 7月24日 - 羽田整備場駅 - 新東ターミナル駅間の路線延伸免許交付<ref name="50th"/>。
** 9月19日 - 沖合延伸線羽田整備場駅 - 新西ターミナル駅間一次分割工事施工認可<ref name="50th"/>。
* 1988年(昭和63年)
** 3月17日 - 沖合延伸線新西ターミナル駅 - 新東ターミナル駅間工事施工認可<ref name="50th"/>。
** 10月25日 - 羽田一丁目穴守橋付近にて延伸工事起工式開催<ref name="50th"/>。
* [[1989年]]([[平成]]元年)7月 - [[東京モノレール1000形電車|1000形]]導入<ref name="monorail-history" />。
* [[1992年]](平成4年)[[6月19日]] - 天王洲アイル駅開業<ref name="sone-koei30"/>。信号保安システムを[[自動列車停止装置|ATS]]から[[自動列車制御装置|ATC]]へ変更。
* [[1993年]](平成5年)
** [[9月26日]] - 羽田整備場駅 - (旧)羽田駅間 (1.2 km) がこの日の営業をもって廃止<ref>平成6年度『鉄道要覧』p.13</ref>。羽田整備場駅 - 穴守信号所間の地点(現在の空港施設第2綜合ビル西側)で線路切り替え。(旧)羽田駅15時24分発で営業を終了し、以降はバス代行輸送<ref name="tokyomonorail1993">{{Cite journal|和書|title=東京モノレール羽田新線の概要|author=村上温|date=1993-11|publisher=電気車研究会|journal=鉄道ピクトリアル|number=159|pages=66 - 72}}</ref>。
** [[9月27日]] - 羽田整備場駅を整備場駅に改称<ref name="sone-koei30"/>。[[東京国際空港#旅客ターミナル|羽田空港旅客ターミナル]]移転に伴い、整備場駅 - 羽田空港駅間 (5.1 km) 開業<ref name="sone-koei30"/>。(新)羽田駅、新整備場駅、羽田空港駅開業。穴守信号所廃止。羽田駅で京急空港線と連絡開始。
* [[1997年]](平成9年)[[8月7日]] - [[東京モノレール2000形電車|2000形]]導入<ref name="monorail-history" /><ref>{{Cite news |title=2000系デビュー 東京モノレール |newspaper=[[交通新聞]] |publisher=交通新聞社 |date=1997-08-11 |page=1 }}</ref>。この年に最高輸送人員6,500万人を達成。
* [[1998年]](平成10年)[[11月18日]] - 京急空港線の羽田空港駅延伸開業に伴い、羽田駅を天空橋駅に改称<ref name="sone-koei30"/>。
* [[2000年]](平成12年)9月 - 全駅への自動改札機導入完了<ref name="50th"/>。
* [[2002年]](平成14年)
** [[4月21日]] - モノレールSuicaを導入し、JR東日本と相互利用開始。
** [[8月20日]] - 全駅で[[ホームドア]]使用開始<ref>{{Cite journal|和書 |title=鉄道記録帳2002年8月 |journal = RAIL FAN |date = 2002年11月号 |issue = 11 |volume = 49 |publisher = 鉄道友の会 |page = 24 }}</ref>。
** [[9月28日]] - [[ワンマン運転]]開始<ref name="TokyoMonoRail200209">{{Cite web|和書|url=http:/www.tokyo-monorail.co.jp/topics/oneman.html|archiveurl=https://web.archive.org/web/20040219101859/http:/www.tokyo-monorail.co.jp/topics/oneman.html|title=東京モノレールのワンマン運転開始について|archivedate=2004-02-19|accessdate=2022-03-12|publisher=東京モノレール|language=日本語|deadlinkdate=2022年3月}}</ref><ref name="sone-koei30"/>。
** 11月 - 羽田空港駅-羽田空港第2ビル駅間工事計画変更認可取得、延伸工事着手。
* [[2003年]](平成15年)[[7月19日]] - JR浜松町駅構内とモノレール中央口改札口を結ぶ連絡跨線橋(モノレール口改札)完成。土曜・休日に「快速」を運行開始。
* [[2004年]](平成16年)
** [[4月1日]] - 「快速」を平日夜にも運行開始<ref name="TokyoMonoRail200403">[https://web.archive.org/web/20040606200808fw_/http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/20040309.html ダイヤ改正羽田空港発快速列車増発!](東京モノレールニュースリリース・インターネットアーカイブ・2004年時点の版)。</ref>。
** [[8月8日]] - 「快速」が終日運行となる<ref name="TokyoMonoRail200407">[https://web.archive.org/web/20040803140946fw_/http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/20040716.html ダイヤ改正快速列車大増発](東京モノレールニュースリリース・インターネットアーカイブ・2004年時点の版)</ref><ref name="JRC625"/>。
** [[12月1日]] - [[東京国際空港#旅客ターミナル|羽田空港第2ターミナルビル]]の供用開始に伴い、羽田空港駅 - 羽田空港第2ビル駅間が延伸開通<ref name="TokyoMonoRail20040716">[https://web.archive.org/web/20040812120738fw_/http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/20040716_2.html 羽田空港第2旅客ターミナルビルに直結!!東京モノレール「羽田空港駅第2ビル駅」の開業について](東京モノレールニュースリリース・インターネットアーカイブ・2004年時点の版)</ref><ref name="sone-koei30"/>。同時に羽田空港駅を羽田空港第1ビル駅に改称<ref name="TokyoMonoRail20040716"/><ref name="sone-koei30"/>。
* [[2006年]](平成18年)[[8月1日]] - [[スタンプラリー#JR東日本ポケモンスタンプラリー|JR東日本ポケモンスタンプラリー]]にあわせて「ポケモンモノレール」を20日まで運行<ref>{{Cite press release|和書|title=「JR東日本ポケモン・スタンプラリー2006」で、楽しい夏の思い出を作ろう!|publisher=東京モノレール|date=2006-07-28|url=http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/20060728.html|access-date=2022-09-24|archive-url=https://web.archive.org/web/20060805212028/http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/20060728.html|archive-date=2006-08-05}}</ref>。以後も運行<ref>{{Cite news|title=開業から40年越え「花電車」ふたたび 東京モノレール|newspaper=朝日新聞デジタル|date=2010-11-11|url=http://www.asahi.com/airtravel/TKY201011110152.html|publisher=朝日新聞社|quote=2006年からは「ポケモンモノレール」もデザインを毎年変えながら走らせ、|access-date=2022-09-24}}</ref>。
* [[2007年]](平成19年)
** [[3月18日]] - 昭和島駅待避線使用開始。「快速」を廃止し、「空港快速」と「区間快速」を運行開始<ref name="TokyoMonoRail200703"/>。
** 9月 - 羽田空港国際線ビル駅建設に向け鉄道施設変更認可を取得<ref name="50th"/>。
** 10月4日 - 羽田空港国際線ビル駅起工式開催<ref name="50th"/>。
* [[2010年]](平成22年)
** [[4月11日]] - 新駅建設工事に伴い、天空橋駅 - 新整備場駅間の経路を一部変更<ref name="press20100210">{{PDFlink|[http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press20100210_new_station.pdf 東京モノレール新駅の駅名決定及び新駅開業に伴う線路切替について]}} - 東京モノレール、2010年2月10日。</ref>。
** [[10月21日]] - 羽田空港国際線ビル駅が開業<ref name="press20100514">{{PDFlink|[http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20101021.pdf 「羽田空港国際線ビル駅」開業日の決定について]}} - 東京モノレール、2010年5月14日。</ref>。同時に路線名を'''東京モノレール羽田空港線'''に改称。同日より[[ジャパンレールパス]]での乗車が可能となる<ref>{{Cite web|url=http://www.japanrailpass.net/ja/ja001.html|title=Japan Rail Pass|publisher=JRグループ6社|accessdate=2015-02-28}}</ref>。
* [[2014年]](平成26年)[[7月18日]] - 2000形以来17年ぶりとなる新型車両[[東京モノレール10000形電車|10000形]]の営業運転開始<ref>{{Cite news|date=2014-07-18|url=https://web.archive.org/web/20150402123411/http://www.47news.jp/CN/201407/CN2014071801001463.html|title=東京モノレールに新型車両 17年ぶり、羽田で出発式|newspaper=47NEWS|publisher=共同通信社|accessdate=2015-02-28}}</ref>。
* [[2020年]]([[令和]]2年)
** [[3月14日]] - 空港ターミナル名称変更に伴い、以下のように駅名改称<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20191216.pdf|title=羽田空港にある3つの駅(羽田空港国際線ビル駅・羽田空港第1ビル駅・羽田空港第2ビル駅)の名称が変わります|date=2019-12-16|accessdate=2019-12-16|publisher=東京モノレール株式会社|format=PDF}}</ref>。
*** 羽田空港国際線ビル駅 → 羽田空港第3ターミナル駅
*** 羽田空港第2ビル駅 → 羽田空港第2ターミナル駅
*** 羽田空港第1ビル駅 → 羽田空港第1ターミナル駅
** 9月14日 - サンリオの[[リトルツインスターズ]](キキララ)のラッピング車両が運行開始<ref>{{Cite press release|和書|title=東京モノレール「キキ&ララ モノレール」運行開始!|publisher=東京モノレール|date=2020-09-04|url=http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20200904.pdf|format=PDF|access-date=2022-09-24}}</ref>。2021年11月29日に2本目を運行開始。
* [[2021年]](令和3年)[[3月13日]] - 「区間快速」が早朝の上り1本のみの設定となる。
* [[2022年]](令和4年)[[11月7日]] - 「区間快速」が平日9時台に下り1本設定。
== 運行形態 ==
=== 現行の列車種別 ===
2023年現在、東京モノレール羽田空港線では、以下の4種別(定期3種別、臨時1種別)の列車が運行されている。日本国内のモノレールで通過駅を持つ定期列車を運行する路線は当線のみである。
==== 定期の列車種別 ====
; {{Color|red|■}}空港快速 (Haneda Express)
: モノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ターミナル駅間を約18分で結ぶ最も速い種別。[[2007年]][[3月18日]]のダイヤ改正より、従来の快速に代わる形で臨時快速・区間快速とともに運行開始した<ref name="TokyoMonoRail200703">{{Cite web|和書|url=http:/www.tokyo-monorail.co.jp/news/20061222.html|archiveurl=https://web.archive.org/web/20070225130311/http:/www.tokyo-monorail.co.jp/news/20061222.html|title=東京モノレールダイヤ改正について|archivedate=2007-02-25|accessdate=2022-03-12|publisher=東京モノレール|language=日本語|deadlinkdate=2022年3月}}</ref>。停車駅はモノレール浜松町駅・羽田空港第3ターミナル駅・羽田空港第1ターミナル駅・羽田空港第2ターミナル駅の4駅のみで、浜松町と羽田空港を結ぶ役割に徹している。ほぼすべての列車が昭和島駅で普通列車を追い抜く。
: 大井競馬場で[[G1 (競馬)|GⅠ・JpnⅠ]]競走が行われる日に限り、レース終了時刻に合わせて一部の空港快速が[[大井競馬場前駅]]へ臨時停車をすることがある<ref>[https://twitter.com/tokyo_mono1964/status/1547166446844723200 【ジャパンダートダービー(7/13)開催に伴う臨時列車運転のお知らせ】] 東京モノレール公式Twitter</ref>。そのほか、年末年始・大型連休など利用客が多く見込まれる日に特別ダイヤを組んだり、臨時の空港快速を運転することがある。
; {{Color|orange|■}}区間快速 (Rapid)
: モノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ターミナル駅間を約21分で結ぶ種別。2007年3月18日のダイヤ改正より、従来の快速に代わる形で空港快速・臨時快速とともに運行開始した<ref name="TokyoMonoRail200703"/>。停車駅はモノレール浜松町駅・天王洲アイル駅・大井競馬場前駅・流通センター駅・羽田空港第3ターミナル駅・羽田空港第1ターミナル駅・羽田空港第2ターミナル駅の7駅。浜松町と羽田空港を結ぶ役割に加え、[[天王洲アイル]](および接続する[[東京臨海高速鉄道りんかい線|りんかい線]]を介して[[東京臨海副都心]]方面)や[[大井競馬場]]といった行楽スポットへの輸送も担っている。先行する普通列車を追い抜くことはなく、後続の空港快速に追い抜かれることもない。
: ただし、特別ダイヤで普通列車を追い抜いたことがある。2011年3月15日は平日(火曜日)であったが、[[東日本大震災による電力危機]]を理由とした[[東京電力]]の「[[輪番停電|計画停電]]」に伴い、土曜・休日ダイヤで運転された。その際に朝方の羽田空港方面行は天王洲アイル・流通センター両駅の降車客が多いことを考慮して空港快速が区間快速に変更されて運転された。これに伴い、本来なら普通列車を追い抜かない区間快速が昭和島駅で普通列車を追い抜くダイヤで運転された。
: 2021年3月ダイヤ改正での減便により、定期列車は羽田空港第2ターミナル5時11分発の上り初電のみとなっていたが、2022年11月7日のダイヤ改正により、平日9時台に下り1本が空港快速からの格下げにより復活した<ref>{{PDFlink|[https://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20221018.pdf 平日9時台に下り区間快速を運転 平日夜間帯に普通列車2本を増発]}} 2022年10月18日 東京モノレール</ref>。
; {{Color|green|■}}普通 (Local)
: モノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ターミナル駅間を約24分(昭和島駅で空港快速の通過待ちを行う場合は約26分)で結ぶ種別。すべての駅に停車する。日中はすべての列車が昭和島駅で空港快速の通過待ちを行う。日中の本数は少ないが、朝と平日の夕方[[ラッシュ時]]は空港快速や区間快速の本数が少ない分、普通列車の本数が多い。
: [[1992年]][[6月18日]]までは、昭和島駅を通過する普通列車も存在した。
: ほぼすべての列車がモノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ターミナル駅間を通しで運転するが、昭和島駅に[[車両基地|車庫]]がある関係で、早朝に流通センター発モノレール浜松町行、深夜にモノレール浜松町発昭和島行の区間運転列車が数本設定されている。
==== 臨時の列車種別 ====
; {{Color|blue|■}}臨時快速 (Special Rapid)
: モノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ターミナル駅間を約19分で結ぶ種別。2007年3月18日のダイヤ改正より、従来の快速に代わる形で空港快速・区間快速とともに運行開始した。停車駅はモノレール浜松町駅・(天王洲アイル駅)・(大井競馬場前駅)・(流通センター駅)・羽田空港第3ターミナル駅・羽田空港第1ターミナル駅・羽田空港第2ターミナル駅の5駅(括弧付きの駅には列車によりいずれか1駅に停車)。なお、2009年以前は羽田空港第1ターミナル駅を通過するタイプも存在した。定期ダイヤでは運転されないが、後述の「初日の出」が運転される場合や、沿線でイベントが開催される日に、その最寄駅に一部の空港快速が臨時停車する形で運転される場合がある。そのため、駅の案内表示では「空港快速」だが、車両行先表示や車内自動放送および[[車内案内表示装置|車内案内表示器]](LCD)は臨時快速運転に対応している。ただし、臨時快速表示に対応していない車両が充当される場合は空港快速表示で運転される。
:; 天王洲アイル駅停車タイプ「初日の出」
:: 毎年[[1月1日]]の早朝に羽田空港から初日の出フライト搭乗客、並びに展望デッキで[[初日の出]]を鑑賞する旅客を輸送する目的で運転される臨時列車。2007年1月1日運転分は快速扱い、2008年1月1日運転分以降は空港快速または臨時快速扱いで運転される。
:: 2007年1月1日運転分では下り3本・上り2本が運転されたが、全列車羽田空港第1ビル駅(現:羽田空港第1ターミナル駅)を通過していた。
:: 2009年1月1日運転分では上り1本のみ羽田空港第1ビル駅を通過していた。
:: 2020年1月1日運転分では3本(下り2本・上り1本)とも空港快速扱いでの運転になり<ref>{{PDFlink|[http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20191212.pdf 羽田空港初日の出フライト及び 初日の出鑑賞に便利な臨時列車を運転します]}} 2019年12月12日 東京モノレール</ref>、下り1本のみあった天王洲アイル駅停車列車は消滅している。
:: 2021年1月1日運転分では下り1本(空港快速扱い)のみの運転となった<ref>{{PDFlink|[http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/info_20201211.pdf 東京モノレールの年末年始の列車運転について]}} 2020年12月11日 東京モノレール</ref>。
:: 2022年1月1日運転分では下り2本(空港快速扱い)が運転された。
:: 2023年1月1日運転分では下り2本・上り1本(空港快速扱い)が運転された<ref>{{PDFlink|[https://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20221201.pdf 年末年始ダイヤについてのお知らせ 年末年始期間に羽田空港のご利用に合わせた臨時列車を運転]}} 2022年12月1日 東京モノレール</ref>。
:; 大井競馬場前駅停車タイプ
:: 大井競馬場でイベントが行われる日に限り、イベント開催時刻に合わせて、定期の空港快速が同駅に臨時停車する。
:; 流通センター駅停車タイプ
:: 東京流通センターでイベントが行われる日に限り、イベント開催時刻に合わせて、定期の空港快速が同駅に臨時停車する。
=== 過去の列車種別 ===
; {{Color|red|■}}快速 (Rapid)
: モノレール浜松町駅 - 羽田空港第2ビル駅(現:羽田空港第2ターミナル駅)間を約19分で結ぶ種別。[[2001年]][[12月8日]]運行開始。当初は上り終電1本(羽田空港駅〈現:羽田空港第1ターミナル駅〉23時50分発のモノレール浜松町駅行き)のみの運転で、途中駅無停車であった。
: [[2002年]][[7月13日]]から臨時列車として下り初電1本(モノレール浜松町駅5時00分発羽田空港駅行き)が運転された。
: [[2003年]][[7月19日]]から下りでも定期列車として運行されるようになった。
: [[2004年]][[4月1日]]から上り4本増発し計5本となった。
: 2004年[[8月8日]]から終日運行されるようになり、この時から途中停車駅に天王洲アイル駅が追加された。
: 当時は昭和島駅に待避設備がなかったため、先行の普通を追い越すことはなかった。同駅待避線完成に伴う2007年3月18日のダイヤ改正で、新設された空港快速・臨時快速・区間快速と入れ替わる形で廃止された。しかし、停車駅パターン自体は臨時快速として残された。
=== 運行パターン ===
2021年3月13日以降の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが4分間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・普通それぞれが10分ごととなっている。区間快速は上り初電1本のみとなる。
{|class="wikitable"
|+ 1時間あたりの運行パターン<br />(2021年3月13日以降)
|-
!colspan="2"|種別\駅名
! {{縦書き|モノレール浜松町駅}}
!…
! {{縦書き|羽田空港第2ターミナル駅}}
|-
!平日朝ラッシュ
|style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|普通
|colspan="3" style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|15本
|-
!rowspan="2"|日中
|style="text-align:center; background:#ffc0c0;"|空港快速
|colspan="3" style="text-align:center; background:#ffc0c0;"|6本
|-
|style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|普通
|colspan="3" style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|6本
|}
2021年3月12日以前の運転間隔は、平日朝ラッシュはピーク時は普通のみが3分20秒間隔。日中(平日・土休日とも)は空港快速・区間快速・普通それぞれが12分ごととなっていた。
{|class="wikitable"
|+ 1時間あたりの運行パターン<br />(2021年3月12日以前)
|-
!colspan="2"|種別\駅名
! {{縦書き|モノレール浜松町駅}}
!…
! {{縦書き|羽田空港第2ターミナル駅}}
|-
!平日朝ラッシュ
|style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|普通
|colspan="3" style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|18本
|-
!rowspan="3"|日中
|style="text-align:center; background:#ffc0c0;"|空港快速
|colspan="3" style="text-align:center; background:#ffc0c0;"|5本
|-
|style="text-align:center; background:#ffe0c0;"|区間快速
|colspan="3" style="text-align:center; background:#ffe0c0;"|5本
|-
|style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|普通
|colspan="3" style="text-align:center; background:#c0ffc0;"|5本
|}
なお、ゴールデンウィークや年末年始には、土休日ダイヤを基本にした特別ダイヤが組まれ、空港快速と普通の増発を行ない、空港快速をほぼ終日運転する。それに対して、区間快速の運転本数は日中1時間あたり3本(※2019年12月28日 - 2020年1月5日の期間は日中毎時1本のみ)となる<ref>{{PDFlink|[http://www.tokyo-monorail.co.jp/news/pdf/press_20191126.pdf 年末年始は特別ダイヤにて運行します 〜空港快速を増発して運行いたします〜]}} 2019年11月26日 東京モノレール株式会社</ref>。特別ダイヤを実施する際は、予め東京モノレールのホームページに掲載される。
=== 停車駅の変遷 ===
現行の停車駅については、[[#駅一覧|駅一覧]]を参照。
{| style="margin:1em 0; text-align:center; border:solid 1px #999; float:none; font-size:small;"
|-
|style="background-color:#eee; border-bottom:solid 3px #000080;"|東京モノレール羽田空港線停車駅の変遷
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|style="text-align:left;"| ●:停車 ▲:一部停車 ※:特定日のみ停車 ─:通過 ×・空白:未開業・廃止
|-
|
{| class="wikitable" style="text-align:center; "
|-
!rowspan="3" colspan="2" |
!colspan="12" |東京モノレール羽田空港線<br /><ref group="注" name="東京モノレール羽田空港線">2010年10月20日までは東京モノレール羽田線。</ref>
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!MO<br />01
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!MO<br />10
!MO<br />11
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!{{縦書き|[[浜松町駅|モノレール浜松町駅]]}}
!{{縦書き|[[天王洲アイル駅]]}}
!{{縦書き|[[大井競馬場前駅]]}}
!{{縦書き|[[流通センター駅]]}}<br /><ref group="注" name="流通センター駅">1972年1月7日までは新平和島駅。</ref>
!{{縦書き|[[昭和島駅]]}}<br /><ref group="注" name="昭和島駅">1985年2月6日までは昭和島信号所。</ref>
!{{縦書き|[[整備場駅]]}}<br /><ref group="注" name="整備場駅">1993年9月26日までは羽田整備場駅。</ref>
!{{縦書き|穴守[[信号場|信号所]]}}<br /><ref group="注" name="穴守信号所">複線・単線切り替え地点として運用。</ref>
!{{縦書き|[[天空橋駅]]}}<br /><ref group="注" name="天空橋駅">1998年11月17日までは羽田駅。1993年9月26日までは空港旧ターミナル直下(現:廃止)。</ref>
!{{縦書き|[[羽田空港第3ターミナル駅|羽田空港第3ターミナル駅]]|height=15em}}<br /><ref group="注" name="羽田空港第3ターミナル駅">2020年3月13日までは羽田空港国際線ビル駅。</ref>
!{{縦書き|[[新整備場駅]]}}
!{{縦書き|[[羽田空港第1ターミナル駅|羽田空港第1ターミナル駅]]|height=15em}}<br /><ref group="注" name="羽田空港第1ターミナル駅">2004年11月30日までは羽田空港駅、2020年3月13日までは羽田空港第1ビル駅。</ref>
!{{縦書き|[[羽田空港第2ターミナル駅|羽田空港第2ターミナル駅]]|height=15em}}<br /><ref group="注" name="羽田空港第2ターミナル駅">2020年3月13日までは羽田空港第2ビル駅。</ref>
|-
!1964年9月17日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!1965年5月17日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|※
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!1967年3月20日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|※
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|-
!1967年6月1日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!1969年12月5日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|-
!1985年2月7日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|▲
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!1992年6月19日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|─
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!1993年9月27日-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
|-
!rowspan="2"|2001年12月8日-
!style="text-align:center; background:#ffc0c0"|快速
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|
|-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|
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!rowspan="2"|2004年8月8日-
!style="text-align:center; background:#ffc0c0"|快速
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|
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!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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!rowspan="2"|2004年12月1日-
!style="text-align:center; background:#ffc0c0"|快速
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
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|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
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!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
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!rowspan="4"|2007年3月18日-
!style="text-align:center; background:#ffc0c0"|空港快速
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
|-
!style="text-align:center; background:#c0c0ff"|臨時快速
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|●
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|▲
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|×
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|×
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|▲
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|●
|-
!style="text-align:center; background:#ffe0c0"|区間快速
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
|-
!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|×
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!rowspan="4"|2010年10月21日-
!style="text-align:center; background:#ffc0c0"|空港快速
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|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|×
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|─
|style="text-align:center; background:#ffc0c0"|●
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!style="text-align:center; background:#c0c0ff"|臨時快速
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|●
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|▲
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|▲
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|▲
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
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|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|×
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|●
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|─
|style="text-align:center; background:#c0c0ff"|●
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!style="text-align:center; background:#ffe0c0"|区間快速
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|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
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|style="text-align:center; background:#ffe0c0"|●
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!style="text-align:center; background:#c0ffc0"|普通
|style="text-align:center; background:#c0ffc0"|●
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|colspan="14"|{{Reflist|group="注"}}
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|}
== 車両 ==
{{See|東京モノレール#車両}}
== 今後の予定 ==
=== 浜松町駅拡張 ===
[[ファイル:Hamamatsucho-track.JPG|thumb|right|200px| 中央の空き地が新駅建設計画もあった旧東海道貨物線線路跡]]
都心のターミナルである浜松町駅の整備計画が2009年6月に東京モノレールから国土交通省に報告された。開業から45年間そのままだった軌道1本(単線)構造の現在の駅施設をホーム2面・軌道2本(複線)に改良するというものである。概算事業費は約260億円で、地元協議から設計を経て工事が終了するまで約6年半と見込んでいる。これにより1時間当たりの最大運転本数を現在の18本から24本に増やす計画である。同時に後述の新橋延長に対応した構造となる。当初はJR線路の東側に移転することも検討されたが、コスト面などの理由で現在の場所にある駅の拡張にとどまった。なお、当初の移転先にはJR東日本の北口新駅舎が建設される計画がある。
そして、[[2012年]]10月、株式会社[[世界貿易センタービルディング]]、東京モノレール、JR東日本の3社は東京都に対して「浜松町二丁目4地区」の都市計画の提案を行ったことを発表した<ref>{{PDFlink|[http://www.jreast.co.jp/press/2012/20121006.pdf 「浜松町二丁目4地区」都市計画提案の提出について]}} - 東日本旅客鉄道、2012年10月18日。</ref>。これによると、交通結節機能の強化としてJR・モノレール駅改良、JR・モノレールと地下鉄をつなぐ縦動線(ステーションコア)の整備、バスターミナル、タクシープール、都市計画駐車場と荷捌き・自動二輪駐車場の整備などが計画されているが、モノレール軌道の複線化については具体的な記述はない。[[2013年]][[2月6日]]の[[建設通信新聞]]によれば、JR東日本の2月社長定例会見で、世界貿易センターの建て替えを含む浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにした。「周辺の臨海部の開発によって駅利用者が増え、やや手狭になっている。利便性向上や駅の価値を高めるためにも、ぜひこの機会に両駅を新しいものに造り変えたい」と意欲を示した。同年4月の時点でボーリング調査が始まっている。2009年のモノレール駅拡張計画は世界貿易センターが存続していることが前提だったが、ビル本体が建て替えになったため、計画変更も余儀なくされている。
{{-}}
=== 新橋・東京延伸計画 ===
2002年1月、親会社のJR東日本が長期計画として、東京モノレールを浜松町(新駅)より[[新橋駅]]に延長する計画を発表、[[日本経済新聞]]に掲載された。路線の用地取得問題に関しては、JR線上空を使用することで目処がついている。ただし、途中のルートはおろか、新橋駅の設置場所や、途中駅を設けるかについては明らかにされていない。駅用地は、[[ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線|ゆりかもめ]]新橋駅付近などが候補に挙がっている。また新橋への延伸工事の着工は、羽田空港国際線ビル駅(現:羽田空港第3ターミナル駅)の建設と浜松町駅の拡張工事が完了してからになる予定である<ref>出典:日本経済新聞 2002年1月18日</ref>。
2010年9月には、新橋駅もしくは[[東京駅]]に延伸するため本格的な検討に入ったと、[[東京新聞]]が報じている。延伸が検討された理由は、浜松町駅に乗り入れている路線が限られており、JRと東京モノレールを利用して成田空港から羽田空港に移動すると乗り換えが2回必要であるため、競合する他の交通機関に劣ることである。東京駅に延伸した場合、[[成田エクスプレス]]と直接乗り換えが可能となり、新橋駅延伸でも同駅を成田エクスプレス停車駅に変更することで、いずれの場合も乗り換えが1回で済み、移動時間が短縮される。東京駅に延伸した場合、試算では1,000億円超かかり、新橋駅の場合では駅建設を除く費用は1/3に、工期も早ければ数年程度で完成できるとしている<ref>{{cite news|title=東京モノレール 延伸計画 東京か 新橋か|newspaper=東京新聞朝刊第一面|date=2010-9-17|url=http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2010091702000049.html|accessdate=2013-02-10|archiveurl=https://web.archive.org/web/20100919040730/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2010091702000049.html|archivedate=2010年9月19日}}</ref><ref>{{cite news |title= 羽田‐成田間をもっと便利に モノレール延伸、新橋か東京か|newspaper= [[ジェイ・キャスト|J-CAST]]|date=2010-11-6 |url= https://www.j-cast.com/2010/11/06079905.html?p=all|accessdate=2013-02-10}}</ref>。
2013年2月、JR東日本の社長定例記者会見で、浜松町駅西口周辺開発に合わせて、JRとモノレールを対象とする駅全体の改築を計画していることを明らかにしたが、モノレールの東京駅への延伸構想については、工期やコストなどの観点から、現時点での事業化は難しいとの考えを示した。しかし、引き続き検討を進めていきたいとしている。
一方で、2013年11月には、JR東日本が[[田町駅]]から営業休止中の[[東海道貨物線]]を活用して羽田空港へ向かう鉄道路線([[羽田空港アクセス線]])について整備の検討に入ったと報じられた<ref>{{Cite web|和書|url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131109/t10015924461000.html|title=JR 都心と羽田結ぶ新路線整備検討|work=NHKニュース|date=2013-11-09|archiveurl=https://archive.is/20131108220929/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131109/t10015924461000.html|archivedate=2013年11月8日|deadlink=2016-04-10|accessadate=2016-04-09|deadlinkdate=2017年10月}}</ref>。2014年8月、JR東日本が国土交通省[[交通政策審議会]]の東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会で明らかにした計画では、田町駅付近で[[東海道本線]]・[[上野東京ライン]]に乗り入れる「東山手ルート」、[[大井町駅]]付近でりんかい線・[[埼京線]]に乗り入れる「西山手ルート」、[[東京テレポート駅]]でりんかい線に乗り入れる「臨海部ルート」の3ルートを建設するとしている<ref>{{Cite web|和書|url=http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/news/20140820/674069/ |title=羽田アクセス総取りか、JR新線3ルートの全貌(1/3)|author=大野雅人|work=日経コンストラクション|publisher=日経BP|date=2014-08-20|accessdate=2016-04-09}}</ref>。
2014年1月の[[産経新聞]]インタビューによれば、JR東日本社長の[[冨田哲郎]]は「日本経済、東京という都市にとって、重要なルートになる」と述べている<ref name="sankei20140110" />。また、冨田は競合することになる東京モノレールを新路線開業後も存続させる考えを示している<ref name="sankei20140110">[http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140110/biz14011008040002-n1.htm JR東が北関東と羽田空港を直結 冨田社長、新線乗り入れ構想表明] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20140925195124/http://sankei.jp.msn.com/economy/news/140110/biz14011008040002-n1.htm |date=2014年9月25日 }} - 産経新聞、2014年1月10日</ref>。
これに対し東京モノレールは、進行する浜松町駅周辺の再開発に合わせてJR山手線や地下鉄大江戸線などとの乗り換えをよりスムーズにする他、2014年1月の[[毎日新聞]]インタビューで東京モノレール社長の中村弘之は、「将来的にはモノレールを東京駅まで延伸する夢」があり「24時間運行の可能性も見えてくる」と生き残りに向けた課題を述べている<ref name="j-cast20140202" /><ref>[http://mainichi.jp/shimen/news/20140120ddm008020193000c.html インタビュー・最前線:東京モノレール・中村弘之社長] - 毎日新聞、2014年1月20日</ref>。
東京都心 - 羽田空港間の鉄道は1998年に京急が本格参入し、1日平均乗降客数はモノレールが約6万5,000人、京急が約8万2,000人と、京急が優勢となっている<ref name="j-cast20140202" />。ここにJR新線が実現すると三つ巴の激しい争奪戦が展開されることになる<ref name="j-cast20140202">{{cite news |title= 東京五輪で都心の鉄道新線計画が再始動 羽田アクセス改善、国、都、JR、私鉄が複数案 : J-CASTニュース|newspaper= J-CAST|date=2014-2-2 |url= https://www.j-cast.com/2014/02/02195123.html?p=all|accessdate=2014-5-9}}</ref>。
2015年[[3月14日]]の[[上野東京ライン]]開通では、[[宇都宮線]]・[[高崎線]]・[[常磐線]]が、東京モノレールの連絡駅である浜松町駅を通過して、京急の連絡駅である[[品川駅]]に乗り入れることから、羽田空港への鉄道アクセスについて、さらに京急が優位に立つことが見込まれている<ref name="toyokeizai-20150307">{{cite news | author = 大坂直樹 | url = http://toyokeizai.net/articles/-/62566?page=2 | title = 上野東京ライン、「漁夫の利」を得るのは? 3月14日開業!北関東と羽田が近くなる | newspaper = 東洋経済オンライン| date = 2015-3-7 | accessdate = 2015-5-6}}</ref>。さらに、[[2019年]]10月には京急が空港線の加算運賃を最大120円値下げし、普通運賃では京急と大差が付く形となった。一方、東京モノレールは定期運賃を引き下げることで、運行頻度と京急より安い定期運賃を武器に、空港関係者の通勤需要取り込みを図る戦略に出ている<ref>[https://trafficnews.jp/post/90207/2 京急値下げに東京モノレール対抗 激化する羽田空港アクセス競争、その勝者は?] 乗りものニュース(枝久保達也)、2019年10月8日</ref>。
=== その他 ===
* [[港区 (東京都)|港区]]の出した[https://www.city.minato.tokyo.jp/shiba-koushisetsu/kankyo-machi/t-machizukuri/index.html 「田町駅東口北地区の街づくりについて」]に対し、一部の住民からモノレール浜松町 - 天王洲アイル間([[田町駅]]・[[芝浦ふ頭駅]]からそれぞれ徒歩10分強)の埋め立て地([[芝浦アイランド]]付近)への新駅設置要望が出ている<ref>[http://enomotoshigeru.com/action/824.html 東京モノレール「芝浦アイランド駅」構想] 港区議会議員 榎本茂 ブログ、2018年12月4日</ref>。
== 駅一覧 ==
* 全駅[[東京都]]内に所在。
* ●:停車、|:通過。普通列車は省略(各駅に停車)。
* 列車待避可能駅は昭和島駅のみ。
* [[駅ナンバリング|駅番号]]は2016年10月より導入。
{| class="wikitable" rules="all"
|-
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:4em;"|駅番号
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:12em;"|駅名
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:2.5em;"|駅間<br />営業キロ
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:2.5em;"|通算<br />営業キロ
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:1em; background:#fd9;"|{{縦書き|区間快速}}
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:1em; background:#fcc;"|{{縦書き|空港快速}}
!style="border-bottom:solid 3px #003686; |接続路線・備考
!style="border-bottom:solid 3px #003686; width:4em;"|所在地
|-
!MO 01
|[[浜松町駅#東京モノレール(モノレール浜松町駅)|モノレール浜松町駅]]
|style="text-align:center;"|-
|style="text-align:right;"|0.0
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"|●
|[[東日本旅客鉄道]]:[[ファイル:JR_JY_line_symbol.svg|15px|JY]] [[山手線]]・[[ファイル:JR_JK_line_symbol.svg|15px|JK]] [[京浜東北線]]([[浜松町駅]]:JY 28・JK 23)<br/>[[都営地下鉄]]:[[ファイル:Toei Asakusa line symbol.svg|14px|A]] [[都営地下鉄浅草線|浅草線]]・[[ファイル:Toei Oedo line symbol.svg|14px|E]] [[都営地下鉄大江戸線|大江戸線]]([[大門駅 (東京都)|大門駅]]:A-09・E-20)
|[[港区 (東京都)|港区]]
|-
!MO 02
|[[天王洲アイル駅]]
|style="text-align:right;"|4.0
|style="text-align:right;"|4.0
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|[[東京臨海高速鉄道]]:[[ファイル:Rinkai_Line_symbol.svg|15px|R]] [[東京臨海高速鉄道りんかい線|りんかい線]] (R 05)
|rowspan="2"|[[品川区]]
|-
!MO 03
|[[大井競馬場前駅]]
|style="text-align:right;"|3.1
|style="text-align:right;"|7.1
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|
|-
!MO 04
|[[流通センター駅]]
|style="text-align:right;"|1.6
|style="text-align:right;"|8.7
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|
|rowspan="8"|[[大田区]]
|-
!MO 05
|[[昭和島駅]]
|style="text-align:right;"|1.2
|style="text-align:right;"|9.9
|style="text-align:center; background:#fd9;"||
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|
|-
!MO 06
|[[整備場駅]]
|style="text-align:right;"|1.9
|style="text-align:right;"|11.8
|style="text-align:center; background:#fd9;"||
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|
|-
!MO 07
|[[天空橋駅]]
|style="text-align:right;"|0.8
|style="text-align:right;"|12.6
|style="text-align:center; background:#fd9;"||
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|[[京浜急行電鉄]]:[[ファイル:Number prefix Keikyū.svg|14px|KK]] [[京急空港線|空港線]] (KK15)
|-
!MO 08
|[[羽田空港第3ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|1.4
|style="text-align:right;"|14.0
|style="text-align:center; background:#fd9; "|●
|style="text-align:center; background:#fcc; "|●
|京浜急行電鉄:[[ファイル:Number prefix Keikyū.svg|14px|KK]] 空港線 (KK16)
|-
!MO 09
|[[新整備場駅]]
|style="text-align:right;"|2.1
|style="text-align:right;"|16.1
|style="text-align:center; background:#fd9;"||
|style="text-align:center; background:#fcc;"||
|
|-
!MO 10
|[[羽田空港第1ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|0.8
|style="text-align:right;"|16.9
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"|●
|rowspan="2"|京浜急行電鉄:[[ファイル:Number prefix Keikyū.svg|14px|KK]] 空港線([[羽田空港第1・第2ターミナル駅]]:KK17)
|-
!MO 11
|[[羽田空港第2ターミナル駅]]
|style="text-align:right;"|0.9
|style="text-align:right;"|17.8
|style="text-align:center; background:#fd9;"|●
|style="text-align:center; background:#fcc;"|●
|}
* 羽田空港ターミナル内の3駅における京浜急行電鉄との[[連絡運輸]]は行っていない。
* 当路線の駅のホームにはプラットホーム番号が振られておらず、乗り場案内も「羽田空港方面」「浜松町方面」としか書かれていない。例外として次の4駅は異なった表記である。
** 昭和島駅は、1・2番線が羽田空港方面、3・4番線がモノレール浜松町方面となっている。
** 羽田空港第3ターミナル駅は、1番線が第1・第2ターミナル方面、2番線がモノレール浜松町方面となっている。
** 羽田空港第1ターミナル駅は、1番線が第3ターミナル・モノレール浜松町方面、2番線が第2ターミナル方面となっている。
** 羽田空港第2ターミナル駅は、1・2番線のみ「羽田空港(第1・第3)・流通センター・天王洲アイル・モノレール浜松町方面」の表記があり、臨時用ホームに案内表記はない。
=== 廃止された駅・信号所 ===
* 穴守信号所(モノレール浜松町駅から12.5 km地点)
** 1964年9月17日、複線・単線切り替え地点として運用開始。1993年9月27日、羽田駅(現:天空橋駅)の移設に伴い廃止。
== その他 ==
* 羽田空港の国際線・国内線カウンターでは、国際線と国内線の乗り継ぎ客を対象に乗継乗車票を配布している。これを利用すると羽田空港第3ターミナル - 羽田空港第1ターミナル・羽田空港第2ターミナル間を無料で乗車できる(新整備場駅では下車不可)。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
* [[日本の鉄道路線一覧]]
* [[空港連絡鉄道]]
* [[京急空港線]]
== 外部リンク ==
* [https://www.tokyo-monorail.co.jp/ 東京モノレール]
* [https://www.hitachihyoron.com/jp/pdf/1965/04/1965_04_16.pdf 羽田線モノレール土木工事] - 日立製作所「日立評論」1965年4月号
* [https://www.jrtt.go.jp/construction/achievement/tokyo-monorail.html 東京モノレール羽田線|これまでの整備実績] - 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
{{Commonscat|Tokyo Monorail}}
{{日本のモノレール}}
{{DEFAULTSORT:とうきようものれえるはねたくうこうせん}}
[[Category:関東地方の鉄道路線]]
[[Category:東京都の交通]]
[[Category:東京モノレール|路とうきようものれえるはねたくうこうせん]]
[[Category:日本のモノレール路線]]
[[Category:跨座式モノレール]]
[[Category:空港連絡鉄道]]
[[Category:東京国際空港のアクセス]] | 2003-04-29T00:56:17Z | 2023-12-27T05:09:51Z | false | false | false | [
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"Template:日本のモノレール",
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"Template:Infobox 鉄道路線",
"Template:東京モノレール羽田空港線路線図",
"Template:Cite news",
"Template:Cite press release",
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"Template:Reflist"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E3%83%A2%E3%83%8E%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%AB%E7%BE%BD%E7%94%B0%E7%A9%BA%E6%B8%AF%E7%B7%9A |
7,434 | YRP野比駅 | YRP野比駅(ワイアールピーのびえき)は、神奈川県横須賀市野比一丁目にある、京浜急行電鉄久里浜線の駅である。駅番号はKK68。関東地方の鉄道駅では唯一、駅名にアルファベットが使われている。
相対式ホーム2面2線を有する地上駅だが、改札口付近は高架構造となっている。改札口は駅の南寄り、ホーム下に1箇所設置されている。単線区間に属し、列車交換が可能である。
2021年(令和3年)度の1日平均乗降人員は13,451人であり、京急線全72駅中44位。
近年の1日平均乗降人員と乗車人員の推移は下記の通り。
京浜急行バスにより運行されている。平日朝夕の基幹路線であるYRP方面に加え、大矢部・新岩戸団地方面や横須賀市民病院への路線が設定されており、列車と乗り継ぐ利用者も多い。発着する路線の詳細は京浜急行バス久里浜営業所を参照。 1番乗り場から3番乗り場までは駅側、4番乗り場は道路の反対側に設置されている。 | [
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] | YRP野比駅(ワイアールピーのびえき)は、神奈川県横須賀市野比一丁目にある、京浜急行電鉄久里浜線の駅である。駅番号はKK68。関東地方の鉄道駅では唯一、駅名にアルファベットが使われている。 | {{駅情報
|社色 = #00bfff
|文字色 = white
|駅名 = YRP野比駅
|画像 = Keikyu YRP Nobi sta 004.jpg
|pxl = 300px
|画像説明 = YRP野比駅正面(2015年6月27日)
|地図 = {{Infobox mapframe|zoom=14|type=point|frame-width=300|marker=rail}}
|よみがな = わいあーるぴーのび
|ローマ字 = YRP Nobi
|前の駅 = KK67 [[京急久里浜駅|京急久里浜]]
|駅間A = 2.7
|駅間B = 1.3
|次の駅 = [[京急長沢駅|京急長沢]] KK69
|駅番号 = {{駅番号r|KK|68|#00bfff|4||#00386d}}
|電報略号 =
|所属事業者 = [[京浜急行電鉄]]
|所属路線 = {{color|#00bfff|■}}[[京急久里浜線|久里浜線]]
|キロ程 = 7.2 km([[堀ノ内駅|堀ノ内]]起点)<br />[[品川駅|品川]]から59.5
|起点駅 =
|所在地 = [[神奈川県]][[横須賀市]]野比一丁目9番1号
|緯度度 = 35 |緯度分 = 12 |緯度秒 = 43.6 |N(北緯)及びS(南緯) = N
|経度度 = 139 |経度分 = 41 |経度秒 = 6 |E(東経)及びW(西経) = E
|地図国コード = JP
|座標右上表示 = Yes
|駅構造 = [[高架駅]]
|ホーム = 2面2線
|開業年月日 = [[1963年]]([[昭和]]38年)[[11月1日]]
|乗降人員 = <ref group="京急" name="kr03" />13,451
|統計年度 = 2021年
|備考 = [[1998年]][[4月1日]]に「野比駅」から改称
}}
'''YRP野比駅'''(ワイアールピーのびえき)は、[[神奈川県]][[横須賀市]]野比一丁目にある、[[京浜急行電鉄]][[京急久里浜線|久里浜線]]の[[鉄道駅|駅]]である。[[駅ナンバリング|駅番号]]は'''KK68'''。関東地方の鉄道駅では唯一、駅名にアルファベットが使われている。
== 歴史 ==
* [[1963年]]([[昭和]]38年)[[11月1日]] - 久里浜線の終点・'''野比駅'''として開業。
* [[1966年]](昭和41年)[[3月27日]] - 久里浜線が[[津久井浜駅]]まで延伸し、途中駅になる。
* [[1998年]]([[平成]]10年)[[4月1日]] - [[横須賀リサーチパーク]]開園によりその英語略を付した'''YRP野比駅'''に改称し、同時に新駅舎供用開始<ref>{{Cite news |title=「YRP」って何? レアなアルファベット駅名、京急「YRP野比」 |newspaper=乗りものニュース |date=2017-11-25 |author=乗りものニュース編集部 |url=https://trafficnews.jp/post/79101/2 |accessdate=2019-09-14 |publisher=メディア・ヴァーグ }}</ref><ref>{{Cite news |title=変わる駅 地域を映す/研究拠点の玄関口に/駅名も「YRP」取り込む |newspaper=[[日本経済新聞]](朝刊) |publisher=[[日本経済新聞社]] |page=33(首都圏経済・東京) |date=2000-07-12}}</ref>。
* [[2019年]]([[令和]]元年)
**[[7月8日]] - 京急グループ120周年記念事業の一環としてアニメ放送20周年を迎える[[ONE PIECE (アニメ)|ワンピース]]と京浜急行電鉄とのコラボが実施され、同年9月16日までの期間限定で当駅名看板が「'''Yアールフィ野比〜駅'''」に変わる<ref>{{Cite web|和書|date=2019-07-01 |url=https://www.keikyu.co.jp/company/news/2019/20190701HP_19079AK.html |title=ニュースリリース アニメ『ワンピース』20周年×YOKOSUKA×KEIKYU120周年 京急“宴”線・横須賀市内全体でコラボ実施! 謎解きミッションラリーを開催! オリジナルグッズ・グルメも! |website=KEIKYU WEB |accessdate=2019-09-13 }}</ref>。京急電鉄によると腕が伸びる主人公[[モンキー・D・ルフィ|ルフィ]]の特徴を駅名に反映させたとのこと<ref>{{Cite news |title=「Yアールフィ野比~駅」ってどこ? 「ふざけっぱなし」で終わらない京急の駅名装飾 |newspaper=J-CASTトレンド |date=2019-05-29 |url=https://www.j-cast.com/trend/2019/05/29358693.html?p=all |accessdate=2019-09-14 |publisher=ジェイ・キャスト }}</ref>。
== 駅構造 ==
[[相対式ホーム]]2面2線を有する[[地上駅]]だが、[[改札|改札口]]付近は[[高架橋|高架]]構造となっている。改札口は駅の南寄り、ホーム下に1箇所設置されている。[[単線]]区間に属し、[[列車交換]]が可能である。
=== のりば ===
<!--ホームの実際の表記に合わせた-->
{|class="wikitable"
!番線!!路線!!方向!!行先
|-
!1
|rowspan="2"|[[File:Number prefix Keikyū.svg|15px|KK]] 久里浜線
|style="text-align:center"|下り
|[[三浦海岸駅|三浦海岸]]・[[三崎口駅|三崎口]]方面
|-
!2
|style="text-align:center"|上り
|[[横浜駅|横浜]]・[[品川駅|品川]]方面
|}
<gallery>
Keikyu_YRP-nobi_sta_001.jpg|駅北側(2008年5月)
YRP NOBI sta New kai.jpg|改札口(2020年5月)
Keikyu YRP Nobi Station platform 202307300446.jpg|ホーム(2023年7月)
</gallery>
== 利用状況 ==
[[2021年]](令和3年)度の1日平均[[乗降人員|'''乗降'''人員]]は'''13,451人'''であり<ref group="京急" name="kr03" />、京急線全72駅中44位。
近年の1日平均'''乗降'''人員と'''乗車'''人員の推移は下記の通り。
{|class="wikitable" style="text-align:right; font-size:85%;"
|+年度別1日平均乗降・乗車人員<ref>[https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/0830/data/t-k-syo/now.html 横須賀市統計書] - 横須賀市</ref>
|-
!年度
!1日平均<br />乗降人員<ref>[https://www.train-media.net/report.html レポート] - 関東交通広告協議会</ref>
!1日平均<br />乗車人員<ref>[https://www.pref.kanagawa.jp/docs/x6z/tc10/yoran.html 神奈川県県勢要覧] - 神奈川県</ref>
!出典
|-
|1995年(平成{{0}}7年)
|
|8,908
|<ref group="*">{{PDFlink|[http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/784899.pdf 線区別駅別乗車人員(1日平均)の推移]}} - 24ページ</ref>
|-
|1998年(平成10年)
|
|8,991
|<ref group="*">神奈川県県勢要覧(平成12年度)225ページ</ref>
|-
|1999年(平成11年)
|
|9,463
|<ref group="*" name="toukei2001">{{PDFlink|[http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/369557.pdf 神奈川県県勢要覧(平成13年度)]}} - 227ページ</ref>
|-
|2000年(平成12年)
|
|9,808
|<ref group="*" name="toukei2001" />
|-
|2001年(平成13年)
|
|9,926
|<ref group="*">{{PDFlink|[http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/369552.pdf 神奈川県県勢要覧(平成14年度)]}} - 225ページ</ref>
|-
|2002年(平成14年)
|20,962
|10,306
|<ref group="*">{{PDFlink|[http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/attachment/369547.pdf 神奈川県県勢要覧(平成15年度)]}} - 225ページ</ref>
|-
|2003年(平成15年)
|<ref>[http://www.train-media.net/report/0411/0411.html 関東交通広告協議会「平成15年度1日平均乗降人員・通過人員」]</ref>22,088
|10,770
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|2004年(平成16年)
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|2007年(平成19年)
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|2008年(平成20年)
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|2009年(平成21年)
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|2012年(平成24年)
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|2013年(平成25年)
|19,573
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|2014年(平成26年)
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|2016年(平成28年)
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|2017年(平成29年)
|18,937
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|-
|2018年(平成30年)
|18,677
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|-
|2019年(令和元年)
|18,536
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|-
|2020年(令和{{0}}2年)
|<ref group="京急" name="kr02">{{Cite web|和書|url=https://www.keikyu.co.jp/company/pdf/handbook2021-2022_P019-042.pdf|archiveurl=|title=京急グループ会社要覧 2021 - 2022|archivedate=|page=31|accessdate=2021-09-28|publisher=京浜急行電鉄|format=PDF|language=日本語}}</ref>13,242
|
|
|-
|2021年(令和{{0}}3年)
|<ref group="京急" name="kr03">{{Cite web|和書|url=https://www.keikyu.co.jp/company/pdf/handbook2022-2023_P018-033.pdf|archiveurl=|title=京急グループ会社要覧 2022 - 2023|archivedate=|page=28|accessdate=2023-08-05|publisher=京浜急行電鉄|format=PDF|language=日本語}}</ref>13,451
|
|
|}
== 駅周辺 ==
* [[横須賀リサーチパーク]]
* 横須賀野比郵便局
* 野比海岸
* [[港湾空港技術研究所]]野比実験場
* [[国立病院機構久里浜医療センター]]
* [[筑波大学附属久里浜特別支援学校]]
* [[国立特別支援教育総合研究所]]
* [[YRP野比駅前商店街]]
* [[野比温泉]](1989年開業、2022年12月25日閉館<ref>{{Cite web|和書|date= 2022-12-24|url=https://www.kanaloco.jp/news/life/article-958483.html|title=横須賀の2温泉、年内閉館 老朽化や燃料費高騰など重なり|publisher= 神奈川新聞|accessdate=2022-12-24}}</ref>)
* [[神奈川大学]]野比研修所
* [[よこすか葉山農業協同組合|JAよこすか葉山]]野比支店
* [[湘南信用金庫]]野比支店
* [[横須賀市立野比小学校]]
* [[横須賀市立野比東小学校]]
* [[横須賀市立粟田小学校]]
* [[横須賀市立野比中学校]]
* [[横須賀市立長沢中学校]]
* [[国道134号]]
* [[神奈川県道27号横須賀葉山線]]
* 通研通り
* 北下浦海岸通り
== バス路線 ==
[[京浜急行バス]]により運行されている。平日朝夕の基幹路線であるYRP方面に加え、大矢部・新岩戸団地方面や横須賀市民病院への路線が設定されており、列車と乗り継ぐ利用者も多い。発着する路線の詳細は[[京浜急行バス久里浜営業所]]を参照。
1番乗り場から3番乗り場までは駅側、4番乗り場は道路の反対側に設置されている。
{| class="wikitable" style="font-size:80%;"
|+
!乗り場
!系統
!経由
!行先
!備考
|-
! rowspan="2" |1
| rowspan="1" |野4
| rowspan="2" |YRP
|通信研究所
|土休日は朝夕のみ
|-
|野5
|光の丘2番
|
|-
! rowspan="4" |2
|野1
|浅間神社
|通信研究所
|平日のみ
|-
|野2
|浅間神社・通信研究所
|横須賀市民病院
|
|-
|久2
|粟田かめさん公園・ハイランド
|京急久里浜駅
|
|-
|久4
|尻摺坂上
|京急久里浜駅
|
|-
! rowspan="5" |3
|野3
|新岩戸・大矢部団地・衣笠城址
|衣笠十字路
|
|-
|北久13
|岩戸
|北久里浜駅
|
|-
|久13
|岩戸・北久里浜駅
|JR久里浜駅
|土休日は朝のみ
|-
|北久16
|新岩戸・大矢部団地
|北久里浜駅
|
|-
|久16
|新岩戸・大矢部団地・北久里浜駅
|JR久里浜駅
|平日夕夜・土休日日中のみ
|-
! rowspan="1" |4
|野8
|ヤマシンフィルタ前
|ニフコ
|平日朝のみ。それ以外の時間はチェーンで閉じられている。
|-
|}
== 隣の駅 ==
; 京浜急行電鉄
: [[File:Number prefix Keikyū.svg|15px|KK]] 久里浜線
:: {{Color|#049c5e|□}}「[[ウィング号 (京急)|モーニング・ウィング号]]」(上りのみ)
:::; 通過
:: {{Color|#049c5e|□}}「[[ウィング号 (京急)|イブニング・ウィング号]]」(下りのみ)・{{Color|#049c5e|■}}快特・{{Color|#e8334a|■}}特急
::: [[京急久里浜駅]] (KK67) - '''YRP野比駅 (KK68)''' - [[京急長沢駅]] (KK69)
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
;神奈川県県勢要覧
{{Reflist|group="*"|23em}}
;京急電鉄の1日平均乗降人員
{{Reflist|group="京急"|3}}
== 関連項目 ==
* [[日本の鉄道駅一覧]]
== 外部リンク ==
{{commonscat|YRP Nobi Station}}
* {{外部リンク/京浜急行電鉄駅|駅番号=KK68}}
* [http://yrpnobi.com/index.php YRP野比駅前商店街]
{{京急久里浜線}}
{{DEFAULTSORT:わいああるひいのひ}}
[[Category:横須賀市の鉄道駅]]
[[Category:日本の鉄道駅 わ|いああるひいのひ]]
[[Category:京浜急行電鉄の鉄道駅]]
[[Category:1963年開業の鉄道駅]]
[[Category:北下浦]] | 2003-04-29T01:09:11Z | 2023-10-03T00:03:51Z | false | false | false | [
"Template:外部リンク/京浜急行電鉄駅",
"Template:0",
"Template:Cite web",
"Template:脚注ヘルプ",
"Template:Reflist",
"Template:Cite news",
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"Template:Commonscat",
"Template:京急久里浜線",
"Template:駅情報",
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/YRP%E9%87%8E%E6%AF%94%E9%A7%85 |
7,437 | モーツァルトの楽曲一覧 | モーツァルトの楽曲一覧(モーツァルトのがっきょくいちらん)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの主な楽曲一覧。
注意事項:モーツァルトの時代には絶対音楽をジャンル別に分類し、作曲あるいは出版順に通し番号を与えるという発想・習慣はなかった。したがって、たとえば「交響曲第○番」であるとか「ピアノ・ソナタ第○番」などといった通し番号はモーツァルト自身が与えたものではなく、後世の者によって便宜上付けられたものである。なおモーツァルトの一部の作品は生前に出版され、作品番号が与えられた楽曲もあるが、こんにちではそうした作品番号はほとんど用いられていない。
作曲年順
詳しくはモーツァルトの管弦楽曲及びモーツァルトの舞曲を参照
詳しくはモーツァルトの協奏曲を参照
詳しくはモーツァルトの室内楽曲を参照
全てヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1の編成
詳しくはモーツァルトのヴァイオリンソナタを参照
詳しくはen:Church Sonatas (Mozart)を参照
詳しくはモーツァルトのピアノ曲を参照
詳しくはモーツァルトのピアノ曲を参照
詳細はモーツァルトの舞台作品を参照
詳しくはモーツァルトのミサ曲を参照
詳しくはモーツァルトの合唱作品・宗教作品を参照
詳しくはモーツァルトの歌曲を参照
詳しくはモーツァルトのコンサート・アリアを参照
詳しくはモーツァルトのカノン作品を参照
詳しくはモーツァルトのその他の作品を参照 | [
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] | モーツァルトの楽曲一覧(モーツァルトのがっきょくいちらん)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの主な楽曲一覧。 | '''モーツァルトの楽曲一覧'''(モーツァルトのがっきょくいちらん)は、[[ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト]]の主な楽曲一覧。
== ジャンル別一覧 ==
注意事項:モーツァルトの時代には[[絶対音楽]]をジャンル別に分類し、作曲あるいは出版順に通し番号を与えるという発想・習慣はなかった。したがって、たとえば「交響曲第○番」であるとか「ピアノ・ソナタ第○番」などといった通し番号はモーツァルト自身が与えたものではなく、後世の者によって便宜上付けられたものである。なおモーツァルトの一部の作品は生前に出版され、作品番号が与えられた楽曲もあるが、こんにちではそうした作品番号はほとんど用いられていない。
=== 交響曲 ===
{{See also|モーツァルトの交響曲}}
作曲年順
* 管弦楽曲の楽章 K. deest (交響曲かどうかは不明、断片、16小節のみ)
* [[交響曲第1番 (モーツァルト)|交響曲第1番]] 変ホ長調 K. 16 (1764/65)
* [[交響曲K.16a|交響曲 イ短調 K. 16a]]『オーデンセ』(1765? [[1983年]]に[[デンマーク]]の[[オーデンセ]]で再発見。偽作説が有力)
* [[交響曲第2番 (モーツァルト)|交響曲第2番]] 変ロ長調 K. 17(Anh.C 11.02) (偽作。[[管弦楽法|オーケストレーション]]未完成、[[レオポルト・モーツァルト]]の作品説あり)
* [[交響曲第3番 (モーツァルト)|交響曲第3番]] 変ホ長調 K. 18(Anh.A 51) (偽作。[[カール・フリードリヒ・アーベル|K.F.アーベル]]の作品)
* [[交響曲第4番 (モーツァルト)|交響曲第4番]] ニ長調 K. 19 (1765)
* [[交響曲K.19a|交響曲 ヘ長調 K. 19a]](1765 [[1981年]]に[[ミュンヘン]]で再発見)
* 交響曲 ハ長調 K. 19b (1765 散逸)
* [[交響曲第5番 (モーツァルト)|交響曲第5番]] 変ロ長調 K. 22 (1765)
* [[交響曲K.45a|交響曲 ト長調 K. 45a]]『旧ランバッハ』(1766)
* 交響曲 ヘ長調 K. 76(K<small>6</small>. 42a) (1767? 旧全集番号では第43番)
* [[交響曲第6番 (モーツァルト)|交響曲第6番]] ヘ長調 K. 43 (1767)
* [[交響曲第7番 (モーツァルト)|交響曲第7番]] ニ長調 K. 45 (1768)
* 交響曲 変ロ長調 K.214(K<small>6</small>. 45b) (1768? 旧全集番号では第55番)
* [[交響曲第8番 (モーツァルト)|交響曲第8番]] ニ長調 K. 48 (1768)
* 交響曲 ニ長調 K. 66c (1769 散逸)
* 交響曲 変ロ長調 K. 66d (1769 散逸)
* 交響曲 変ロ長調 K. 66e (1769 散逸)
* [[交響曲第9番 (モーツァルト)|交響曲第9番]] ハ長調 K. 73 (1769)
* 交響曲 ニ長調 K. 81(K<small>6</small>. 73l) (1770 旧全集番号では第44番)
* 交響曲 ニ長調 K. 95(K<small>6</small>. 73n) (1770 旧全集番号では第45番)
* 交響曲 ニ長調 K. 97(K<small>6</small>. 73m) (1770 旧全集番号では第47番)
* [[交響曲第10番 (モーツァルト)|交響曲第10番]] ト長調 K. 74 (1770)
* [[交響曲第11番 (モーツァルト)|交響曲第11番]] ニ長調 K. 84(K<small>6</small>. 73q) (1770)
* 交響曲 変ロ長調 K. 216(Anh.C 11.03) (1771? 偽作。旧全集番号では第54番)
* 交響曲 ヘ長調 K. 75 (1771 旧全集番号では第42番)
* 交響曲 ハ長調 K. 96(K<small>6</small>. 111b) (1771? 旧全集番号では第46番)
* [[交響曲第12番 (モーツァルト)|交響曲第12番]] ト長調 K. 110(K<small>6</small>. 75b) (1771)
* [[交響曲第13番 (モーツァルト)|交響曲第13番]] ヘ長調 K. 112 (1771)
* [[交響曲第14番 (モーツァルト)|交響曲第14番]] イ長調 K. 114 (1771)
* [[交響曲第15番 (モーツァルト)|交響曲第15番]] ト長調 K. 124 (1772)
* [[交響曲第16番 (モーツァルト)|交響曲第16番]] ハ長調 K. 128 (1772)
* [[交響曲第17番 (モーツァルト)|交響曲第17番]] ト長調 K. 129 (1772)
* [[交響曲第18番 (モーツァルト)|交響曲第18番]] ヘ長調 K. 130 (1772)
* [[交響曲第19番 (モーツァルト)|交響曲第19番]] 変ホ長調 K. 132 (1772)
* [[交響曲第20番 (モーツァルト)|交響曲第20番]] ニ長調 K. 133 (1772)
* [[交響曲第21番 (モーツァルト)|交響曲第21番]] イ長調 K. 134 (1772)
* [[交響曲第22番 (モーツァルト)|交響曲第22番]] ハ長調 K. 162 (1773)
* [[交響曲第23番 (モーツァルト)|交響曲第23番]] ニ長調 K. 181(K<small>6</small>. 162b) (1773)
* [[交響曲第24番 (モーツァルト)|交響曲第24番]] 変ロ長調 K. 182(K<small>6</small>. 173dA) (1773)
* [[交響曲第25番 (モーツァルト)|交響曲第25番]] ト短調 K. 183(K<small>6</small>. 173dB) (1773 K. 550と比較して「小ト短調」とも呼ばれる)
* [[交響曲第26番 (モーツァルト)|交響曲第26番]] 変ホ長調 K. 184(K<small>6</small>. 166a) (1773)
* [[交響曲第27番 (モーツァルト)|交響曲第27番]] ト長調 K. 199(K<small>6</small>. 161b) (1773)
* [[交響曲第28番 (モーツァルト)|交響曲第28番]] ハ長調 K. 200(K<small>6</small>. 189k) (1774)
* [[交響曲第29番 (モーツァルト)|交響曲第29番]] イ長調 K. 201(K<small>6</small>. 186a) (1774)
* [[交響曲第30番 (モーツァルト)|交響曲第30番]] ニ長調 K. 202(K<small>6</small>. 186b) (1774)
* [[交響曲第31番 (モーツァルト)|交響曲第31番]] ニ長調 K. 297(K<small>6</small>. 300a)『パリ』(1778 原典稿と改訂稿がある)
* [[交響曲第32番 (モーツァルト)|交響曲第32番]] ト長調 K. 318 (1779 何らかの序曲と考えられる)
* [[交響曲第33番 (モーツァルト)|交響曲第33番]] 変ロ長調 K. 319 (1779)
* [[交響曲第34番 (モーツァルト)|交響曲第34番]] ハ長調 K. 338 (1780)
* [[交響曲第35番 (モーツァルト)|交響曲第35番]] ニ長調 K. 385『ハフナー』(1782 セレナードからの改変曲)
* [[交響曲第36番 (モーツァルト)|交響曲第36番]] ハ長調 K. 425『リンツ』(1783)
* [[交響曲第37番 (モーツァルト)|交響曲第37番]] ト長調 K. 444(K<small>6</small>. 425a) (1783 第1楽章の序奏部のみモーツァルトの作であり、他は[[ミヒャエル・ハイドン]]の作品)
* [[交響曲第38番 (モーツァルト)|交響曲第38番]] ニ長調 K. 504『プラハ』(1786)
* [[交響曲第39番 (モーツァルト)|交響曲第39番]] 変ホ長調 K. 543 (1788)
* [[交響曲第40番 (モーツァルト)|交響曲第40番]] ト短調 K. 550 (1788 原典稿と改訂稿がある。K. 183と比較して「大ト短調」とも呼ばれる)
* [[交響曲第41番 (モーツァルト)|交響曲第41番]] ハ長調 K. 551『ジュピター』(1788)
=== 管弦楽曲 ===
''詳しくは[[モーツァルトの管弦楽曲]]及び[[モーツァルトの舞曲]]を参照''
==== セレナード ====
* セレナード第1番 ニ長調 K. 100 (K<small>6</small>. 62a) (1769 カッサシオン ニ長調 K. 62と同一。交響曲への編曲稿あり)
* セレナード第3番 ニ長調 K. 185 (K<small>6</small>. 167a) (1773) 「アントレッター」または「フィナールムジーク」
* セレナード第4番 ニ長調 K. 203 (K<small>6</small>. 189b) (1774 交響曲への編曲稿あり)
* [[セレナーデ第5番 (モーツァルト)|セレナード第5番]] ニ長調 K. 204 (K<small>6</small>. 213a) (1775 交響曲への編曲稿あり)
* [[セレナーデ第6番 (モーツァルト)|セレナード第6番]] ニ長調 K. 239『セレナータ・ノットゥルナ』(1776)
* セレナード第2番 ヘ長調 K. 101 (K<small>6</small>. 250a) (1776)
* [[セレナーデ第7番 (モーツァルト)|セレナード第7番]] ニ長調 K. 250 (K<small>6</small>. 248b)『ハフナー』(1776 交響曲への編曲稿あり)
* セレナード第8番 ニ長調 K. 286 (K<small>6</small>. 269a)『ノットゥルノ』(1776/77)
* [[セレナーデ第9番 (モーツァルト)|セレナード第9番]] ニ長調 K. 320『ポスト・ホルン』(1779 交響曲への編曲稿あり)
* [[グラン・パルティータ|セレナード第10番]] 変ロ長調 K. 361 (K<small>6</small>. 370a)『グラン・パルティータ』(1781/83-84?)
* [[管楽セレナード (モーツァルト)#セレナード 変ホ長調 K.375|セレナード第11番]] 変ホ長調 K. 375 (1781、改訂1782)
* [[管楽セレナード (モーツァルト)#セレナード第12番 ハ短調 K.388(384a)|セレナード第12番]] ハ短調 K. 388 (K<small>6</small>. 384a)『ナハトムジーク』(1782/83)
* [[アイネ・クライネ・ナハトムジーク|セレナード第13番]] ト長調 K. 525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』(1787 全5楽章。ただし第2楽章が散逸しているため4楽章形式で演奏される<ref>ただし他の作品からメヌエットを転用して5楽章制で演奏される場合もある。</ref>)
==== カッサシオン ====
* カッサシオン ニ長調 K. 62 (1769 セレナード第1番 ニ長調 K. 100と同一)
* カッサシオン ト長調 K. 63 (1769)
* カッサシオン 変ロ長調 K. 99(K<small>6</small>. 63a) (1769)
==== 行進曲 ====
* 様々な編成による行進曲 K. 41c (散逸)
* 行進曲 ニ長調 K. 62
* 行進曲 ニ長調 K. 290(K<small>6</small>. 167AB)
* 行進曲 ニ長調 K. 189(K<small>6</small>. 167b)
* 行進曲 ニ長調 K. 215(K<small>6</small>. 213b)
* 行進曲 ハ長調 K. 214
* 2つの行進曲 ニ長調 K. 335(K<small>6</small>. 320a)
* 行進曲 変ロ長調 K. 384b (断片)
* 3つの行進曲 K. 408
* 小行進曲 K. 544 (散逸)
==== メヌエット ====
* メヌエット K. 41d (散逸)
* 7つのメヌエット K. 61b
* 20のメヌエット K. 103 (一部トリオなし)
* 6つのメヌエット K. 104 (偽作)
* 6つのメヌエット K. 105 (偽作)
* メヌエット イ長調 K. 61g I (偽作)
* メヌエット イ長調 K. 61g II (偽作)
* メヌエット K. 61h (一部トリオなし)
* 16のメヌエット K. 176
* 3つのメヌエット K. 363
* メヌエット K. 409(K<small>6</small>. 383f) (交響曲第34番の第3楽章と考えられていたこともある)
* 5つのメヌエット K. 461(K<small>6</small>. 448a)
* 2つのメヌエットとコントルダンス K. 463(K<small>6</small>. 448c)
* 12のメヌエット K. 568
* 12のメヌエット K. 585
* 6つのメヌエット K. 599
* 4つのメヌエット K. 601
* 2つのメヌエット K. 604
==== ドイツ舞曲 ====
* 6つのドイツ舞曲 K. 509
* 6つのドイツ舞曲 K. 536
* 6つのドイツ舞曲 K. 567
* 6つのドイツ舞曲 K. 571
* 12のドイツ舞曲 K. 586
* 6つのドイツ舞曲 K. 600
* 4つのドイツ舞曲 K. 602
* [[3つのドイツ舞曲]] K. 605
* 6つのドイツ舞曲 K. 606『レントラー風』
* ドイツ舞曲 ハ長調 K. 611『ライアー弾き』
==== コントルダンス ====
* コントルダンス 変ロ長調 K. 123(K<small>6</small>. 73g)
* コントルダンス ニ長調 K. 534『雷雨』
* コントルダンス ハ長調 K. 535『戦闘』
* コントルダンス ハ長調 K. 587『英雄コーブルクの勝利』
* コントルダンス 変ホ長調 K. 607(K<small>6</small>. 605a)『婦人の勝利』
* コントルダンス ト長調 K. 610『意地の悪い娘たち』
* コントルダンス ニ長調 K. 565a (第2ヴァイオリンのみ現存)
==== その他 ====
* 『ガリマティアス・ムジクム』(『音楽のおしゃべり』) K. 32 (1766 交響曲への編曲稿あり)
* ナハトムジーク K. 41g (散逸)
* バレエ音楽『[[レ・プティ・リアン]]』K.Anh. 10(K<small>6</small>. 299b) (1778)
* [[フリーメイソンのための葬送音楽]] ハ短調 K. 477(K<small>6</small>. 479a) (1785)
* [[音楽の冗談]](ディヴェルティメント)ヘ長調 K. 522 (2[[ホルン|Hr]],2[[ヴァイオリン|Vn]],[[ヴィオラ|Va]],[[チェロ|Vc]]) (1787)
=== 協奏曲 ===
''詳しくは[[モーツァルトの協奏曲]]を参照''
==== 協奏交響曲、および複数種のソロによる協奏曲 ====
* [[オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲|フルート、オーボエ、ホルン、ファゴットのための協奏交響曲]] 変ホ長調 K.Anh. 9(K<small>6</small>. 297B) (1778 散逸)
* [[オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲|オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットのための協奏交響曲]] 変ホ長調 K. 297b(Anh.C 14.01) (偽作。作曲年代不詳、20世紀初頭に発見。K. 297Bからの編曲説あり)
* [[フルートとハープのための協奏曲 (モーツァルト)|フルートとハープのための協奏曲]] ハ長調 K. 299(K<small>6</small>. 297c) (1778)
* ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの協奏交響曲 イ長調 K. 320e (1779 未完成)
* [[ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲]] 変ホ長調 K. 364(K<small>6</small>. 320d) (1779)
* ピアノとヴァイオリンのための協奏曲 ニ長調 K.Anh. 56(K<small>6</small>. 315f) (1778 未完成)
==== ピアノ協奏曲 ====
* [[ピアノ協奏曲第1番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第1番]] ヘ長調 K. 37 (1767)
* [[ピアノ協奏曲第2番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第2番]] 変ロ長調 K. 39 (1767)
* [[ピアノ協奏曲第3番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第3番]] ニ長調 K. 40 (1767)
* [[ピアノ協奏曲第4番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第4番]] ト長調 K. 41 (1767)
: 第1番から第4番は、他人のピアノ([[クラヴィーア]])曲からの編曲
* [[3つのピアノ協奏曲 K.107]]
: [[ヨハン・クリスティアン・バッハ]]の『6つの[[ピアノソナタ|クラヴィーアソナタ]] 作品5』からの編曲
: 第1番 ニ長調 (1770)
: 第2番 ト長調 (1770)
: 第3番 変ホ長調 (1770)
* [[ピアノ協奏曲第5番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第5番]] ニ長調 K. 175 (1773)
* [[ピアノ協奏曲第6番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第6番]] 変ロ長調 K. 238 (1776)
* [[3台のピアノのための協奏曲 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第7番]] ヘ長調 K. 242『ロドロン』(1776 3台のピアノのための)
* [[ピアノ協奏曲第8番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第8番]] ハ長調 K. 246『リュッツォウ』(1776)
* [[ピアノ協奏曲第9番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第9番]] 変ホ長調 K. 271『ジュナミ』(1777)
* [[2台のピアノのための協奏曲 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第10番]] 変ホ長調 K. 365 (1779 2台のピアノのための)
* [[ピアノ協奏曲第11番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第11番]] ヘ長調 K. 413 (1782-83)
* [[ピアノ協奏曲第12番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第12番]] イ長調 K. 414 (1782)
* [[ピアノ協奏曲第13番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第13番]] ハ長調 K. 415 (1782-83)
* [[ピアノ協奏曲第14番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第14番]] 変ホ長調 K. 449 (1784)
* [[ピアノ協奏曲第15番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第15番]] 変ロ長調 K. 450 (1784)
* [[ピアノ協奏曲第16番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第16番]] ニ長調 K. 451 (1784)
* [[ピアノ協奏曲第17番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第17番]] ト長調 K. 453 (1784)
* [[ピアノ協奏曲第18番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第18番]] 変ロ長調 K. 456 (1784)
* [[ピアノ協奏曲第19番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第19番]] ヘ長調 K. 459『第2戴冠式』(1784)
* [[ピアノ協奏曲第20番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第20番]] ニ短調 K. 466 (1785)
* [[ピアノ協奏曲第21番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第21番]] ハ長調 K. 467 (1785)
* [[ピアノ協奏曲第22番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第22番]] 変ホ長調 K. 482 (1785)
* [[ピアノ協奏曲第23番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第23番]] イ長調 K. 488 (1786)
* [[ピアノ協奏曲第24番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第24番]] ハ短調 K. 491 (1786)
* [[ピアノ協奏曲第25番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第25番]] ハ長調 K. 503 (1786)
* [[ピアノ協奏曲第26番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第26番]] ニ長調 K. 537『戴冠式』(1788)
* [[ピアノ協奏曲第27番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第27番]] 変ロ長調 K. 595 (1791)
==== ヴァイオリン協奏曲 ====
* [[ヴァイオリン協奏曲第1番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第1番]] 変ロ長調 K. 207 (1775)
* [[ヴァイオリン協奏曲第2番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第2番]] ニ長調 K. 211 (1775)
* [[ヴァイオリン協奏曲第3番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第3番]] ト長調 K. 216『シュトラスブルク』 (1775)
* [[ヴァイオリン協奏曲第4番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第4番]] ニ長調 K. 218『軍隊』 (1775)
* [[ヴァイオリン協奏曲第5番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第5番]] イ長調 K. 219『トルコ風』(1775)
* ヴァイオリン協奏曲第6番 変ホ長調 K. 268(Anh.C 14.04) (1780頃 偽作 フリードリヒ・ヨハン・エックの作品と考えられる)
* [[ヴァイオリン協奏曲第7番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第7番]] ニ長調 K. 271a(K<small>6</small>. 271i)『コルプ』 (1777 偽作説が有力)
* 2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ ハ長調 K. 190(K<small>6</small>. 186E)
* [[ヴァイオリン協奏曲第5番 (モーツァルト)#ヴァイオリンと管弦楽のためのアダージョ ホ長調 K. 261|ヴァイオリンと管弦楽のためのアダージョ]] ホ長調 K. 261
* ロンド 変ロ長調 K. 269(K<small>6</small>. 261a) (1776)
* ロンド ハ長調 K. 373 (1781 フルート・ソロの稿(K.Anh. 18)あり)
* ヴァイオリン協奏曲のためのアンダンテ イ長調 K. 470 (1785 散逸)
* 2つの独奏ヴァイオリンを伴う管弦楽曲の楽章 K.Anh. 223c(Anh.A. 50) (断片)
==== その他のための協奏曲 ====
* チェロ協奏曲 ヘ長調 K. 206a(散逸) (1775)
* トランペット協奏曲 K. 47c (散逸) (1768?)
* [[ファゴット協奏曲 (モーツァルト)|ファゴット協奏曲]] 変ロ長調 K. 191(K<small>6</small>. 186e) (1774 バスーン協奏曲とも)
* [[フルート協奏曲第1番 (モーツァルト)|フルート協奏曲第1番]] ト長調 K. 313(K<small>6</small>. 285c) (1778)
* [[フルート協奏曲第2番 (モーツァルト)|フルート協奏曲第2番]] ニ長調 K. 314 (1778)
* [[オーボエ協奏曲 (モーツァルト)|オーボエ協奏曲]] ハ長調 K. 314(K<small>6</small>. 285d) (1778)
* [[ホルン協奏曲 (モーツァルト)|ホルン協奏曲第2番]] 変ホ長調 K. 417 (1783)
* [[ホルン協奏曲 (モーツァルト)|ホルン協奏曲第3番]] 変ホ長調 K. 447 (1783)
* [[ホルン協奏曲 (モーツァルト)|ホルン協奏曲第4番]] 変ホ長調 K. 495 (1786)
* [[ホルン協奏曲 (モーツァルト)|ホルン協奏曲第1番]] ニ長調 K. 412(K<small>6</small>. 386b)+K. 514 (1782 ロンド楽章は未完成。[[フランツ・クサーヴァー・ジュースマイヤー|ジュスマイヤー]]による補筆完成稿で知られる)
* [[バセットホルン]]協奏曲 ト長調 K.621b (1791) K.622の原曲、未完
* [[クラリネット協奏曲 (モーツァルト)|クラリネット協奏曲]] イ長調 K. 622 (1791)
* [[フルートと管弦楽のためのアンダンテ]] ハ長調 K. 315 (1778)
=== 室内楽曲 ===
''詳しくは[[モーツァルトの室内楽曲]]を参照''
==== 弦楽五重奏曲 ====
全てヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ1の編成
* 弦楽五重奏曲 変ロ長調 K. 46 (偽作)
* [[弦楽五重奏曲第1番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第1番]] 変ロ長調 K. 174 (1773)
* [[弦楽五重奏曲第2番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第2番]] ハ短調 K. 406(K<small>6</small>. 516b) (1787 [[管楽セレナード (モーツァルト)|管楽セレナードK. 388(K<small>6</small>. 384b)]]からの編曲)
* [[弦楽五重奏曲第3番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第3番]] ハ長調 K. 515 (1787)
* [[弦楽五重奏曲第4番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第4番]] ト短調 K. 516 (1787)
* [[弦楽五重奏曲第5番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第5番]] ニ長調 K. 593 (1790)
* [[弦楽五重奏曲第6番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第6番]] 変ホ長調 K. 614 (1791)
==== 弦楽四重奏曲 ====
* [[弦楽四重奏曲第1番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第1番]] ト長調 K. 80(K<small>6</small>. 73f)『ロディ』 (1770)
* 第2番から第7番は、作曲地の名前から「ミラノ四重奏曲」と通称される。
** [[弦楽四重奏曲第2番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第2番]] ニ長調 K. 155(K<small>6</small>. 134a) (1772)
** [[弦楽四重奏曲第3番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第3番]] ト長調 K. 156(K<small>6</small>. 134b) (1772、第2楽章改訂1773年)
** [[弦楽四重奏曲第4番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第4番]] ハ長調 K. 157 (1772-1773)
** [[弦楽四重奏曲第5番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第5番]] ヘ長調 K. 158 (1772-1773年)
** [[弦楽四重奏曲第6番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第6番]] 変ロ長調 K. 159 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第7番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第7番]] 変ホ長調 K. 160(K<small>6</small>. 159a) (1773)
* 第8番から第13番は、作曲地の名前から「ウィーン四重奏曲」と通称される。
** [[弦楽四重奏曲第8番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第8番]] ヘ長調 K. 168 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第9番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第9番]] イ長調 K. 169 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第10番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第10番]] ハ長調 K. 170 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第11番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第11番]] 変ホ長調 K. 171 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第12番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第12番]] 変ロ長調 K. 172 (1773)
** [[弦楽四重奏曲第13番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第13番]] ニ短調 K. 173 (1773)
* 第14番から第19番は、まとめて[[フランツ・ヨーゼフ・ハイドン|ハイドン]]に献呈されたため「[[ハイドン・セット]]」(または「ハイドン四重奏曲」)と通称される。
** [[弦楽四重奏曲第14番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第14番]] ト長調 K. 387『春』(1782)
** [[弦楽四重奏曲第15番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第15番]] ニ短調 K. 421(K<small>6</small>. 417b) (1783)
** [[弦楽四重奏曲第16番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第16番]] 変ホ長調 K. 428(K<small>6</small>. 421b) (1783)
** [[弦楽四重奏曲第17番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第17番]] 変ロ長調 K .458『狩』(1784)
** [[弦楽四重奏曲第18番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第18番]] イ長調 K. 464 (1785)
** [[弦楽四重奏曲第19番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第19番]] ハ長調 K. 465『不協和音』(1785)
*[[弦楽四重奏曲第20番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第20番]] ニ長調 K. 499『ホフマイスター』(1786)
* 第21番から第23番は、[[プロイセン王国|プロイセン(プロシア)]]王[[フリードリヒ・ヴィルヘルム2世 (プロイセン王)|フリードリヒ・ヴィルヘルム2世]]に献呈されたため「[[プロシャ王セット|プロシア王セット]]」(または「プロシア王四重奏曲」)と通称される。
** [[弦楽四重奏曲第21番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第21番]] ニ長調 K. 575 (1789)
** [[弦楽四重奏曲第22番_(モーツァルト)|弦楽四重奏曲第22番]] 変ロ長調 K. 589 (1790)
** [[弦楽四重奏曲第23番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第23番]] ヘ長調 K. 590 (1790)
==== 弦楽三重奏曲 ====
* 2つのヴァイオリンと低音楽器のためのアダージョとメヌエット 変ロ長調 K. 266 (K<small>6</small>. 271f) (1777)
==== 弦楽二重奏曲 ====
* [[ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲]]第1番 ト長調 K. 423 (1783)
* [[ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲]]第2番 変ロ長調 K. 424 (1783)
==== ピアノが入った室内楽曲 ====
* [[ピアノと管楽のための五重奏曲 (モーツァルト)|ピアノと管楽のための五重奏曲]] 変ホ長調 K. 452 (1784)
* [[ピアノ四重奏曲第1番 (モーツァルト)|ピアノ四重奏曲第1番]] ト短調 K. 478 (1785)
* [[ピアノ四重奏曲第2番 (モーツァルト)|ピアノ四重奏曲第2番]] 変ホ長調 K. 493 (1786)
* [[ピアノ三重奏曲第1番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第1番(ディヴェルティメント)]] 変ロ長調 K. 254 (1776)
* ピアノ三重奏曲 ニ短調 K. 442 (1783,90 断片、[[マクシミリアン・シュタードラー]]による補筆完成版あり)
* ピアノ三重奏曲 ト長調 K.Anh. 52 (K<small>6</small>. 495a) (1786 断片)
* [[ピアノ三重奏曲第2番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第2番]] ト長調 K. 496 (1786)
* ピアノ三重奏曲 変ロ長調 K.Anh. 51 (K<small>6</small>. 501a) (1786 断片)
* [[ピアノ三重奏曲第3番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第3番]] 変ロ長調 K. 502 (1786)
* [[ピアノ三重奏曲第4番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第4番]] ホ長調 K. 542 (1788)
* [[ピアノ三重奏曲第5番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第5番]] ハ長調 K. 548 (1788)
* [[ピアノ三重奏曲第6番 (モーツァルト)|ピアノ三重奏曲第6番]] ト長調 K. 564 (1788)
* [[ケーゲルシュタット・トリオ|ピアノ、クラリネット、ヴィオラのための三重奏曲]] 変ホ長調 K. 498『ケーゲルシュタット・トリオ』(1786)
==== 管楽器が入った室内楽曲 ====
* [[フルート四重奏曲 (モーツァルト)#第1番 ニ長調 K. 285|フルート四重奏曲第1番]] ニ長調 K. 285 (1777)
* [[フルート四重奏曲 (モーツァルト)#第2番 ト長調 K. 285a|フルート四重奏曲第2番]] ト長調 K. 285a (1778)
* [[フルート四重奏曲 (モーツァルト)#第3番 ハ長調 K. Anh. 171 (285b)|フルート四重奏曲第3番]] ハ長調 K.Anh. 171(K<small>6</small>. 285b) (1778)
* [[フルート四重奏曲 (モーツァルト)#第4番 イ長調 K. 298|フルート四重奏曲第4番]] イ長調 K. 298 (1788)
* [[オーボエ四重奏曲 (モーツァルト)|オーボエ四重奏曲]] ヘ長調 K. 370 (1782)
* [[オーボエ五重奏曲 (モーツァルト)|オーボエ五重奏曲]] ハ短調 K. 406 (1782)
* [[ホルン五重奏曲 (モーツァルト)|ホルン五重奏曲]] 変ホ長調 K. 407(K<small>6</small>. 386c) (1782)
* [[クラリネット五重奏曲 (モーツァルト)|クラリネット五重奏曲]] イ長調 K. 581 (1789)
* 2つの[[クラリネット]]と3つの[[バセットホルン]]のためのアダージョ 変ロ長調 K. 411(K<small>6</small>. 484a) (1785)
* [[アダージョとロンド (モーツァルト)|グラスハーモニカ、フルート、オーボエ、ヴィオラ、チェロのためのアダージョとロンド ハ短調]] K. 617 (1791)
* [[ファゴットとチェロのためのソナタ (モーツァルト)|バスーンとチェロのためのソナタ]] 変ロ長調 K. 292(K<small>6</small>. 196c) (1775)
* 2つの[[バセットホルン]]のための[[12の二重奏曲]] ハ長調 K. 487(K<small>6</small>. 496a) (1786)
==== ピアノとヴァイオリンのためのソナタ ====
''詳しくは[[モーツァルトのヴァイオリンソナタ]]を参照''
* 第1番から第4番は厳密には「ヴァイオリン声部付クラヴサン・ソナタ」
** ヴァイオリンソナタ第1番 ハ長調 K. 6 (1762-64)
** ヴァイオリンソナタ第2番 ニ長調 K. 7 (1763-64)
** ヴァイオリンソナタ第3番 変ロ長調 K. 8 (1763-64)
** ヴァイオリンソナタ第4番 ト長調 K. 9 (1764)
* 第5番から第10番は厳密には「ヴァイオリンまたはフルート声部付、チェロ助奏自由のクラヴサン・ソナタ」
** ヴァイオリンソナタ第5番 変ロ長調 K. 10 (1764)
** ヴァイオリンソナタ第6番 ト長調 K. 11 (1764)
** ヴァイオリンソナタ第7番 イ長調 K. 12 (1764)
** ヴァイオリンソナタ第8番 ヘ長調 K. 13 (1764)
** ヴァイオリンソナタ第9番 ハ長調 K. 14 (1764)
** ヴァイオリンソナタ第10番 変ロ長調 K. 15 (1764)
* 第11番から第16番、K. 46d、K. 46eは厳密には「ヴァイオリン声部付クラヴサン・ソナタ」
** ヴァイオリンソナタ第11番 変ホ長調 K. 26 (1766)
** ヴァイオリンソナタ第12番 ト長調 K. 27 (1766)
** ヴァイオリンソナタ第13番 ハ長調 K. 28 (1766)
** ヴァイオリンソナタ第14番 ニ長調 K. 29 (1766)
** ヴァイオリンソナタ第15番 ヘ長調 K. 30 (1766)
** ヴァイオリンソナタ第16番 変ロ長調 K. 31 (1766)
** ヴァイオリンソナタ ハ長調 K. 46d (1768)
** ヴァイオリンソナタ ヘ長調 K. 46e (1768)
** ヴァイオリンソナタ ヘ長調 K. 55(Anh.C 23.01) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ ハ長調 K. 56(Anh.C 23.02) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ ヘ長調 K. 57(Anh.C 23.03) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 K. 58(Anh.C 23.04) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ ハ短調 K. 59(Anh.C 23.05) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ ホ短調 K. 60(Anh.C 23.06) (偽作)
** ヴァイオリンソナタ イ長調 K. 61(Anh.C 23.07) (偽作 [[ヘルマン・フリードリヒ・ラウパッハ]]の作品)
* 第17番は厳密には「ヴァイオリン伴奏のクラヴィアのソナタ」
** [[ヴァイオリンソナタ第17番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第17番 ハ長調]] K. 296 (1778)
* 第18番から第23番は厳密には「ヴァイオリン伴奏のクラヴサンまたはピアノのソナタ」
** [[ヴァイオリンソナタ第18番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第18番]] ト長調 K. 301(K<small>6</small>. 293a) (1778)
** [[ヴァイオリンソナタ第19番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第19番]] 変ホ長調 K. 302(K<small>6</small>. 293b) (1778)
** [[ヴァイオリンソナタ第20番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第20番]] ハ長調 K. 303(K<small>6</small>. 293c) (1778)
** [[ヴァイオリンソナタ第21番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第21番]] ホ短調 K. 304(K<small>6</small>. 300c) (1778)
** [[ヴァイオリンソナタ第22番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第22番]] イ長調 K. 305(K<small>6</small>. 293d) (1778)
** [[ヴァイオリンソナタ第23番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第23番]] ニ長調 K. 306(K<small>6</small>. 300l) (1778)
** [[アレグロK.372|アレグロ]] 変ロ長調(旧・ヴァイオリンソナタ第31番) K. 372 (1781)
* フランスの歌『羊飼いの娘セリメーヌ』の主題による12の変奏曲 ト長調 K. 359(K<small>6</small>. 374a) (1781)
* 『ああ、私は恋人をなくした』(泉のほとりで)の主題による6つの変奏曲 ト短調 K. 360(K<small>6</small>. 374b) (1781)
* 第24番から第28番は厳密には「ヴァイオリン伴奏のクラヴィアのソナタ」
** [[ヴァイオリンソナタ第32番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第24番]](旧・第32番)<ref>かつては偽作であるK. 55からK. 61を含めた通し番号で呼ばれることもあったが、現在では偽作を除いた通し番号で呼ばれている(ただし、日本では依然として偽作を含めた通し番号で表記されることが多い)</ref>ヘ長調 K. 376(K<small>6</small>. 374d) (1781)
** [[ヴァイオリンソナタ第33番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第25番]](旧・第33番)ヘ長調 K. 377(K<small>6</small>. 374e) (1781)
** [[ヴァイオリンソナタ第34番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第26番]](旧・第34番)変ロ長調 K. 378(K<small>6</small>. 317d)(1779)
** [[ヴァイオリンソナタ第35番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第27番]](旧・第35番)ト長調 K. 379(K<small>6</small>. 373a) (1781)
** [[ヴァイオリンソナタ第36番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第28番]](旧・第36番)変ホ長調 K. 380(K<small>6</small>. 374f) (1781)
* 以下のK. 404までの3作はいずれも未完のヴァイオリンソナタ。
** [[ヴァイオリンソナタ第37番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第29番]](旧・第37番)イ長調 K. 402(K<small>6</small>. 385e) (1782)
** [[ヴァイオリンソナタ第38番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第30番]](旧・第38番)ハ長調 K. 403(K<small>6</small>. 385c) (1782)
** [[ヴァイオリンソナタ第39番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第31番]](旧・第39番)ハ長調 K. 404(K<small>6</small>. 385d) (1782)
* 最晩年の作品群は、従来の「ヴァイオリン伴奏付きのクラヴィアソナタ」から進歩してヴァイオリンがピアノとほぼ互角に渡り合うような作品になっている
** [[ヴァイオリンソナタ第40番 (モーツァルト)|ヴァイオリンソナタ第32番]](旧・第40番)変ロ長調 K. 454 (1784)
** ヴァイオリンソナタ第33番(旧・第41番)変ホ長調 K. 481 (1785)
** ヴァイオリンソナタ第35番(旧・第42番)イ長調 K. 526 (1787)
** ヴァイオリンソナタ第36番(旧・第43番)ヘ長調 K. 547 (1788)
==== 教会ソナタ ====
''詳しくは[[:en:Church Sonatas (Mozart)]]を参照''
* 教会ソナタ第1番 変ホ長調 K. 67(K<small>6</small>. 41h) (1767)
* 教会ソナタ第2番 変ロ長調 K. 68(K<small>6</small>. 41i) (1767)
* 教会ソナタ第3番 ニ長調 K. 69(K<small>6</small>. 41k) (1767)
* 教会ソナタ ニ長調 K. 124A(Anh. 65a) (1772 断片)
* 教会ソナタ K. 124c(Anh.C 16.01) (偽作。断片)
* 教会ソナタ第4番 ニ長調 K. 144(K<small>6</small>. 124a) (1772)
* 教会ソナタ第5番 ヘ長調 K. 145(K<small>6</small>. 124b) (1772)
* 教会ソナタ第6番 変ロ長調 K. 212 (1775)
* 教会ソナタ第7番 ヘ長調 K. 224(K<small>6</small>. 241a) (1776)
* 教会ソナタ第8番 イ長調 K. 225(K<small>6</small>. 241b) (1776)
* 教会ソナタ第9番 ト長調 K. 241 (1776)
* 教会ソナタ第10番 ヘ長調 K. 244 (1776)
* 教会ソナタ第11番 ニ長調 K. 245 (1776)
* 教会ソナタ第12番 ハ長調 K. 263 (1776)
* 教会ソナタ第13番 ト長調 K. 274(K<small>6</small>. 271d) (1777)
* 教会ソナタ第14番 ハ長調 K. 278(K<small>6</small>. 271e) (1777)
* 教会ソナタ第15番 ハ長調 K. 328(K<small>6</small>. 317c) (1779)
* 教会ソナタ第16番 ハ長調 K. 329(K<small>6</small>. 317a) (1779)
* 教会ソナタ第17番 ハ長調 K. 336(K<small>6</small>. 336d) (1780)
==== ディヴェルティメント ====
* [[ディヴェルティメント第1番 (モーツァルト)|ディヴェルティメント第1番]] 変ホ長調 K. 113 (1771)
* ディヴェルティメント第2番 ニ長調 K. 131 (1772)
* [[ディヴェルティメント K.136|ディヴェルティメント ニ長調]] K. 136(K<small>6</small>. 125a) (1772 [[弦楽四重奏]])
* [[ディヴェルティメント K.137|ディヴェルティメント 変ロ長調]] K. 137(K<small>6</small>. 125b) (1772 弦楽四重奏)
* [[ディヴェルティメント K.138|ディヴェルティメント ヘ長調]] K. 138(K<small>6</small>. 125c) (1772 弦楽四重奏)
* ディヴェルティメント第3番 変ホ長調 K. 166(K<small>6</small>. 159d) (1773)
* ディヴェルティメント第4番 変ロ長調 K. 186(K<small>6</small>. 159b) (1773)
* ディヴェルティメント第5番 ハ長調 K. 187(Anh.C 17.12) (1773 偽作。[[レオポルト・モーツァルト|L.モーツァルト]]が J.シュタアルツァー、[[クリストフ・ヴィリバルト・グルック|C.W.グルック]]の作品から編曲したもの)
* ディヴェルティメント第6番 ハ長調 K. 188(K<small>6</small>. 240b) (1776)
* [[ディヴェルティメント第7番 (モーツァルト)|ディヴェルティメント第7番]] ニ長調 K. 205(K<small>6</small>. 167A) (1773)
* ディヴェルティメント第8番 ヘ長調 K. 213 (1775)
* ディヴェルティメント第9番 変ロ長調 K. 240 (1776)
* ディヴェルティメント第10番 ヘ長調 K. 247 (1776)
* ディヴェルティメント第11番 ニ長調 K. 251『[[マリア・アンナ・モーツァルト|ナンネル]]七重奏曲』(1776)
* ディヴェルティメント第12番 変ホ長調 K. 252(K<small>6</small>. 240a) (1776)
* ディヴェルティメント第13番 ヘ長調 K. 253 (1776)
* ディヴェルティメント第14番 変ロ長調 K. 270 (1777)
* ディヴェルティメント第15番 変ロ長調 K. 287(K<small>6</small>. 271H) (1777)
* ディヴェルティメント第16番 変ホ長調 K. 289(K<small>6</small>. 271g) (1777 偽作説が有力)
* [[ディヴェルティメント第17番 (モーツァルト)|ディヴェルティメント第17番]] ニ長調 K. 334(K<small>6</small>. 320b) (1779)
* [[ディヴェルティメント K.563|弦楽三重奏のためのディヴェルティメント]] 変ホ長調 K. 563 (1788)
=== 器楽曲 ===
==== ピアノソナタ ====
* [[ピアノソナタ第1番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第1番]] ハ長調 K. 279(K<small>6</small>. 189d) (1775)
* [[ピアノソナタ第2番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第2番]] ヘ長調 K. 280(K<small>6</small>. 189e) (1775)
* [[ピアノソナタ第3番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第3番]] 変ロ長調 K. 281(K<small>6</small>. 189f) (1775)
* [[ピアノソナタ第4番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第4番]] 変ホ長調 K. 282(K<small>6</small>. 189g) (1775)
* [[ピアノソナタ第5番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第5番]] ト長調 K. 283(K<small>6</small>. 189h) (1775)
* [[ピアノソナタ第6番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第6番]] ニ長調 K. 284(K<small>6</small>. 205b)『デュルニッツ』 (1775)
* [[ピアノソナタ第7番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第7番]] ハ長調 K. 309(K<small>6</small>. 284b) (1777)
* [[ピアノソナタ第8番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第8番]] イ短調 K. 310(K<small>6</small>. 300d) (1778 新全集では第9番)
* [[ピアノソナタ第9番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第9番]] ニ長調 K. 311(K<small>6</small>. 284c) (1777 新全集では第8番)
* [[ピアノソナタ第10番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第10番]] ハ長調 K. 330(K<small>6</small>. 300h) (1783)
* [[ピアノソナタ第11番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第11番]] イ長調 K. 331(K<small>6</small>. 300i)『トルコ行進曲付き』(1783)
* [[ピアノソナタ第12番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第12番]] ヘ長調 K. 332(K<small>6</small>. 300k) (1783)
* [[ピアノソナタ第13番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第13番]] 変ロ長調 K. 333(K<small>6</small>.315c) (1783)
* [[ピアノソナタ第14番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第14番]] ハ短調 K. 457 (1784)
* [[ピアノソナタK.533/494|ピアノソナタ第15番]] ヘ長調 K. 533/494 (1788 旧全集では第18番)
* [[ピアノソナタK.545|ピアノソナタ第16番]] ハ長調 K. 545 (1788 旧全集では第15番)
* [[ピアノソナタK.570|ピアノソナタ第17番]] 変ロ長調 K. 570 (1789 旧全集では第16番)
* [[ピアノソナタK.576|ピアノソナタ第18番]] ニ長調 K. 576 (1789 旧全集では第17番)
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.19d|四手のためのピアノソナタ]] ハ長調 K. 19d
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ト長調 K.357 (497a)|四手のためのピアノソナタ]] ト長調 K. 357(K<small>6</small>. 497a)
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ 変ロ長調 K.358 (186c)|四手のためのピアノソナタ]] 変ロ長調 K. 358(K<small>6</small>. 186c)
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ニ長調 K.381 (123a)|四手のためのピアノソナタ]] ニ長調 K. 381(K<small>6</small>. 123a)
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ヘ長調 K.497|四手のためのピアノソナタ]] ヘ長調 K. 497
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.521|四手のためのピアノソナタ]] ハ長調 K. 521
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)|2台のピアノのためのソナタ]] ニ長調 K. 448(K<small>6</small>. 375a)
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ楽章 変ロ長調(断片)K.Anh. 42 (375b)|2台のピアノのためのソナタ楽章]] 変ロ長調(断片) K.Anh. 42(K<small>6</small>. 375b)
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ楽章ないしロンド・フィナーレ 変ロ長調(断片) K.Anh. 43 (375c)|2台のピアノのためのソナタ楽章またはロンド・フィナーレ]] 変ロ長調(断片) K.Anh. 43(K<small>6</small>. 375c)
==== ピアノのための変奏曲 ====
''詳しくは[[モーツァルトのピアノ曲]]を参照''
* ピアノ変奏曲 ハ長調 K. 21a(Anh. 206) (散逸、疑作説あり)
* C.E.グラーフのオランダ語歌曲『われは勝てり』による8つの変奏曲 ト長調 K. 24(Anh. 208)
* オランダ歌曲『[[オランダの国歌|ヴィレム・ヴァン・ナッサウ]]』による7つの変奏曲 ニ長調 K. 25
* アレグレットの主題による6つの変奏曲 K. 54(K<small>6</small>. 457b) (ヴァイオリン・ソナタ K. 547の終楽章の編曲)
* J.C.フィッシャーのメヌエットによる12の変奏曲 ハ長調 K. 179(K<small>6</small>. 189a)
* サリエリのオペラ『ヴェネツィアの定期市』のアリア「わが愛しのアドーネ」による6つの変奏曲 ト長調 K. 180(K<small>6</small>. 173a)
* [[N.ドゼードの「リゾンは森で眠っていた」による9つの変奏曲|N.ドゼードの『リゾンは森で眠っていた』の主題による9つの変奏曲]] ハ長調 K. 264(K<small>6</small>. 315b)
* [[きらきら星変奏曲|フランスの歌曲『ああ、お母さん、あなたに申しましょう』による12の変奏曲]] (きらきら星変奏曲) ハ長調 K. 265(K<small>6</small>. 300e)
* グレトリーのオペラ『サムニウム人の結婚』の行進曲の主題による8つの変奏曲 ヘ長調 K. 352(K<small>6</small>. 374a)
* 『美しいフランソワーズ』の主題による12の変奏曲 変ホ長調 K. 353(K<small>6</small>. 300f)
* ボーマルシェの『セビリアの理髪師』のロマンス「私はランドール」による12の変奏曲 変ホ長調 K. 354(K<small>6</small>. 299a)
* パイジェッロのオペラ『哲学者気取り、または星占いたち』の「主に幸いあれ」による6つの変奏曲 ヘ長調 K. 398(K<small>6</small>. 316e)
* グルックのジングシュピール『メッカの巡礼たち』のアリエッタ「愚民が思うには」による10の変奏曲 ト長調 K. 455
* サルティのオペラ『{{仮リンク|2人が争えば3人目が得をする|label=2人が争えば3人目が得をする(漁夫の利)|en|Fra i due litiganti il terzo gode}}』のミンゴーネのアリア「仔羊のように」による2つ(8つ)の変奏曲 イ長調 K. 460(K<small>6</small>. 454a)
* アレグレットの主題による12の変奏曲 変ロ長調 K .500
* J.P.デュポールのメヌエットの主題による9つ(6つ)の変奏曲 ニ長調 K. 573 (散逸)
* B.シャックの『馬鹿な庭師』のリート「女ほど素敵なものはない」の主題による8つの変奏曲 ヘ長調 K. 613
==== その他のピアノ曲 ====
''詳しくは[[モーツァルトのピアノ曲]]を参照''
* ナンネルの音楽帳
** アンダンテ ハ長調 K. 1a (1761)
** アレグロ ハ長調 K. 1b (1761)
** アレグロ ヘ長調 K. 1c
** メヌエット ヘ長調 K. 1d
** メヌエット ト長調 K. 1(K<small>6</small>. 1e)
** メヌエット ハ長調 K. 1(K<small>6</small>. 1f)
** メヌエット ヘ長調 K. 2
** アレグロ 変ロ長調 K. 3
** メヌエット ヘ長調 K. 4
** メヌエット ヘ長調 K. 5
** アレグロ ハ長調 K. 5a(K<small>6</small>. 9a)
** アンダンテ 変ロ長調 K. 5b(K<small>6</small>. 9b) (断片)
* ロンドン小曲集 K. 15 - 15ss (『ロンドンのスケッチブック』とも)
* クラヴィーア小品 ヘ長調 K. 33B
* フーガ K. 41e (散逸)
* モルト・アレグロ ト長調 K. 72a (断片)
* フーガの主題 ニ長調 K. 73w (断片)
* メヌエット ニ長調 K. 94(K<small>6</small>. 73h)
* フーガ 変ホ長調 K. 153(K<small>6</small>. 375f) (断片)
* ロンド K. 284f (散逸)
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのアレグロ ハ短調(断片) K.Anh. 44 (426a)|2台のピアノのためのアレグロ]] ハ短調 K.Anh. 44(K<small>6</small>. 426a) (断片)
* アレグロ ト短調 K. 312
* フーガ ト短調 K. 401
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのフーガ ハ短調 K.426|2台のピアノのためのフーガ]] ハ短調 K. 426
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのフーガ ト長調(断片) K.Anh. 45 (375d)|2台のピアノのためのフーガ]] ト長調 K.Anh. 45(K<small>6</small>. 375d) (断片)
* [[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調(断片) K.deest|2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ]] 変ホ長調 K. deest (断片)
* [[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#アンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501|アンダンテと5つの変奏曲]] ト長調 K. 501 (四手のための)
* [[幻想曲K.475|幻想曲 ハ短調 K. 475]] (ピアノソナタ第14番とともに演奏されることが多い)
* [[幻想曲K.397|幻想曲 ニ短調 K. 397]](K<small>6</small>. 385g) (最後の10小節は後から書き加えられたとされている)
* ロンド ニ長調 K. 485
* ロンド イ短調 K. 511
* マエストロ対位法氏の小葬送行進曲 ハ短調 K. 453a
* アダージョ ロ短調 K. 540
* 小さなジーグ K. 574
* [[バター付きパン]](バターを塗ったパン一切れ)K.Anh. 284n(Anh.C 27.09)
* 幻想即興曲 K.Anh.C 27.02 (偽作)
* クラヴィーア小品 変ロ長調 K. deest
* クラヴィーア小品 変ホ長調 K. deest (断片)
* フーガ ニ短調 K. deest (断片)
* 葬送行進曲 (消失)
* 習作 (偽作)
==== その他器楽曲 ====
* フルート独奏曲 K. 33a (散逸、通奏低音付きか)
* チェロ独奏曲 K. 33h (散逸、通奏低音付か)
* アレグロ ヘ長調 K. 484e (断片)
* ヴィオラ・ダ・ガンバ独奏曲 K. deest (散逸 通奏低音付きか)
==== 特殊楽器作品 ====
* [[自動オルガンのためのアダージョとアレグロ]] ヘ短調 K. 594 (1790)
* [[自動オルガンのための幻想曲 K.608|自動オルガンのためのアレグロとアンダンテ]](幻想曲)ヘ短調 K. 608 (1791)
* [[自動オルガンのためのアンダンテ K.616|自動オルガンのためのアンダンテ]] ヘ長調 K .616 (1791)
* グラス・ハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K. 356(K<small>6</small>. 617a) (1791)
=== オペラ ===
''詳細は[[モーツァルトの舞台作品]]を参照''
* 『[[第一戒律の責務]]』 K. 35 (1766-67)
* 『[[アポロとヒュアキントゥス]]』 K. 38 (1767)
* 『[[バスティアンとバスティエンヌ]]』 K. 50(K<small>6</small>. 46b) (1768)
* 『[[みてくれの馬鹿娘|みてくれの馬鹿娘(偽ののろま娘)]]』 K. 51(K<small>6</small>. 46a) (1768)
* 『[[ポントの王ミトリダーテ]]』 K. 87(K<small>6</small>. 74a) (1770)
* 『[[アルバのアスカニオ]]』 K. 111 (1771)
* 『[[シピオーネの夢|シピオーネ (スキピオ) の夢]]』 K.1 26 (1772)
* 『[[ルーチョ・シッラ]]』 K. 135 (1772)
* 『[[偽の女庭師]]』 K. 196 (1774-75)
* 『[[羊飼いの王様]]』 K. 208 (1775)
* 『[[ツァイーデ]]』 K. 344(K<small>6</small>. 336b) (1779-80 未完成)
* 『[[イドメネオ]]』 K. 366 (1780-81)
* 『[[後宮からの誘拐]]』 K. 384 (1781-82)
* 『[[カイロの鵞鳥]]』 K. 422 (1783 未完成)
* 『{{仮リンク|だまされた花婿|en|Lo sposo deluso}}』 K. 430(K<small>6</small>. 424a) (1783 未完成)
* 『[[劇場支配人]]』 K. 486 (1786)
* 『[[フィガロの結婚]]』 K. 492 (1785-86)
* 『[[ドン・ジョヴァンニ]]』 K. 527 (1787)
* 『[[コジ・ファン・トゥッテ]]』(『女はみなこうしたもの』) K. 588 (1789-90)
* 『[[魔笛]]』 K. 620 (1791)
* 『[[皇帝ティートの慈悲]]』 K. 621 (1791)
=== 声楽作品 ===
==== ミサ曲 ====
''詳しくは[[モーツァルトのミサ曲]]を参照''
* ミサ曲 ト長調 K. 49(K<small>6</small>.47d)
* ミサ曲 ニ短調 K. 65(K<small>6</small>.61a)
* ドミニクス・ミサ ハ長調 K. 66
* ミサ曲 ヘ長調 K. 116(K<small>6</small>. 90a) (偽作)
* [[孤児院ミサ (モーツァルト)|孤児院ミサ ハ短調 K. 139(K<small>6</small>. 47a)]]
* 小クレド・ミサ ヘ長調 K. 192(K<small>6</small>. 186f)
* [[雀ミサ]] ハ長調 K. 220(K<small>6</small>. 196b)
* [[戴冠ミサ]] ハ長調 K. 317
* [[大ミサ曲]] ハ短調 K. 427(K<small>6</small>. 417a) (未完成)
* [[レクイエム (モーツァルト)|レクイエム]] ニ短調 K. 626 (1791 未完成。ジュスマイヤーによる補筆完成稿で知られる。その後多数の補筆完成稿あり)
==== 合唱音楽・モテット ====
''詳しくは[[モーツァルトの合唱作品・宗教作品]]を参照''
* モテット『神はわれらの避け所』K. 20
* キリエ ヘ長調 K. 33
* カンタータ『聖墓の音楽』K. 42(K<small>6</small>. 35a)
* ミゼレーレ イ短調 K. 85(K<small>6</small>. 73s)
* アンティフォナ『クエリテ・プリムム・レーニュム・デイ(まず神の御国を求めよ)』K. 86(K<small>6</small>. 73v)
* キリエ ト長調 K. 89(73k)
* キリエ ニ短調 K. 90
* キリエ ニ長調 K. 91(K<small>6</small>. 186i) (未完成)
* 聖体の祝日のためのリタニア K. 125
* ディクシットとマニフィカト K. 193(K<small>6</small>. 186g)
* モテット『[[エクスルターテ・ユビラーテ]]』(踊れ、喜べ、汝幸なる魂よ) K. 165(K<small>6</small>. 158a)
* 主日のための盛儀晩課(ヴェスペレ)K. 321
* 証聖者の盛儀晩課(ヴェスペレ)K. 339
* カンタータ『悔悟するダヴィデ』K. 469
* モテット『[[アヴェ・ヴェルム・コルプス]]』K. 618
* 合唱曲『固く手を握りしめ』
* 合唱付き歌曲『今日こそ浸ろう、親愛なる兄弟よ』
* 合唱付き歌曲『新しい指導者である君たちよ』
==== 歌曲 ====
''詳しくは[[モーツァルトの歌曲]]を参照''
* 「ダフネよ、汝がバラ色の頬に」K. 52(K<small>6</small>. 46c)
* 「[[歓喜に寄す (モーツァルト)|歓喜に寄す]]」K. 53(K<small>6</small>. 47e)
* 「いかにわれ不幸になる」K. 147(K<small>6</small>. 125g)
* 「おお、聖なる絆よ」K. 148(K<small>6</small>. 125h)
* 「[[大らかな落ち着き]]」K. 149(K<small>6</small>. 125d)
* 「[[ひそかなる愛]]」K. 150(K<small>6</small>. 125e)
* 「[[低き身分にある喜び]]」K. 151(K<small>6</small>. 125f)
* カンツォネッタ「[[静けさはほほえみつつ]]」K. 152(K<small>6</small>. 210a)
* 「[[鳥よ、年ごとに]]」K. 307(K<small>6</small>. 284d)
* 「[[寂しく暗い森で]]」K. 308(K<small>6</small>. 295b)
* 「[[満足 K.349|満足]]」K. 349(K<small>6</small>. 367a)
* 「[[満足 K.473|満足]]」K. 473
* 子守歌 K. 350(Anh.C 8.48) (偽作 B.フリースの作品 「[[ねむれよい子よ庭や牧場に|モーツァルトの子守歌]]」として有名)
* 「おいで、愛しの[[ツィター]]よ」K. 351(K<small>6</small>. 367b)
* 「[[希望に寄す]]」K. 390(K<small>6</small>. 340c)
* 「[[孤独に寄す]]」K. 391(K<small>6</small>. 340b)
* 「[[すみれ (モーツァルト)|すみれ]]」("Das Veilchen")K. 476
* 「[[ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき]]」("Als Luise die Briefe ihres ungetreuen Liebhabers verbrannte")K. 520
* 「[[ラウラに寄せる夕べの想い]]」("Abendempfindung an Laura")K. 523
* 「[[別離の歌]]」K. 519
* 「[[クローエに]]」("An Chloe")K. 524
* 「[[春への憧れ]]」("Sehnsucht nach dem Frühling")K. 596
* 「[[魔法使い (モーツァルト)|魔法使い]]」("Der Zauberer")K. 472
* 「[[老婆]]」K. 517
* 「[[夢の姿]]」("Das Traumbild")K. 530
* 「[[紡ぎ娘]]」("Die Spinnerin")K. 531
* 「[[小さなフリードリヒの誕生日]]」K. 529
* 「[[戦いの門出に]]」K. 552
* ジブラルタル襲撃についての吟遊詩人の歌「おお、カルペよ、お前の足元に雷鳴が轟く」K.Anh. 25(K<small>6</small>. 386d) (スケッチのみ)
* 「親方の仕事は成し遂げられた」K. deest (散逸)
* 「死の行為」K. deest (散逸)
==== レチタティーヴォとアリア ====
''詳しくは[[モーツァルトのコンサート・アリア]]を参照''
* 「いまや義務のとき-かくも偉大なるジキスムントの功績は」K. 36(K<small>6</small>. 33i)
* 「夫婦のベレニーチェとヴォロジェーゾには-この日昇る陽よ」K. 70(K<small>6</small>. 61c)
* 「ああ、私はそれを知っていた-私の眼の前から去って/ああ、この波を越えていかないで下さい」K. 272
* 「[[レチタティーヴォとアリア K.316|テッサリアの民よ-不滅の神々よ、私は求めず]]」K. 316(K<small>6</small>. 300b)
* 「されどおお星々よ、汝彼らに何をなかせし-岸辺近く願ぬ」K. 368
* 「哀れな男よ!-息吹く微風」K.431(K<small>6</small>. 425b)
* 「私の麗しい恋人よ、さようなら-留まってください、いとしい人よ」K. 528
==== アリア ====
* 「[[行け、怒りにかられて]]」K. 21(K<small>6</small>. 19c)
* 「貞節を守ってください」K. 23
* 「不幸なのはあなたではありません」K. 73A(Anh. 2) (散逸)
* 「私は小心な恋人の愛など気にかけぬ」K. 74b
* 「願わくはいとしい人よ」K. 78(K<small>6</small>. 73b)
* 「もし勇気と希望が」K. 82(K<small>6</small>. 73o)
* 「わが悩みのすべてを」K. 83
* 「運命は恋するものに」K. 209
* 「砕け凍った歯が」K. 209a (断片)
* 「尊み崇みて」K. 210
* 「[[あなたは今忠実ね]]」K. 217
* 「素晴らしい愛の気持ちは」K. 382h(K<small>6</small>. 119)
* 「わが感謝を受けたまえ、やさしい保護者を」K. 383
* 「ああ明かしたまえ、おお神よ」K. 418
* 「いえいえ、あなたには無理なこと」K. 419
* 「[[偉大な魂と高貴な心]]」K. 578
* 「[[私は行く、だがどこへ]]」K. 583
* 「[[彼に眼を向けなさい]]」K. 584
* 「この美しい手と瞳のために」K. 612
* 「お前に別れを告げる、愛しい人よ、さようなら」K. 621a(Anh. 245)
* 「[[男たちはいつもつまみ食いしたがる]]」K. 433(K<small>6</small>. 416c) (未完)
* 「あの馬は」K. deest (散逸)
* 「いとしい人よ、もし私の苦しみが」 K. deest
* アリア K. deest (題名不明、散逸)
* 8曲ないしそれ以上のアリア? K. deest (声種不明 散逸)
==== カノン====
''詳しくは[[モーツァルトのカノン作品]]を参照''
* 4声のカノン イ長調 K. 73i
* 4つの謎のカノン K. 73r
* 人声のための習作カノン K. 73x
* 二重カノン『私たちの人生はあまりに短く』K. 228(K<small>6</small>. 515b)
*「彼女は死んだ」K. 229(K<small>6</small>. 382a)
*「ものみな幸せなり」K. 230(K<small>6</small>. 382b)
*「[[俺の尻をなめろ]]」K. 231(K<small>6</small>. 382c)
*「[[親愛なるフライシュテットラー君、親愛なるガウリマリ君]]」K. 232
*「酒ほど気分のいいものはない」(「俺の尻をなめろ」)K. 233(K<small>6</small>. 382d) (偽作)
*「飲んで食って身が保つ」K.234(K<small>6</small>. 382e) (偽作)
*「泡立つ酒がグラスに光るところ」K. 347(K<small>6</small>. 382f)
*「心優しく君を愛す」K. 348(K<small>6</small>. 382g) (疑作説が有力)
*「快活さと軽やかな気質は」K. 507
*「全ての友の健康を祝し」K. 508
* 3声のカノン K. 508A
* 14曲のカノン K. 508a+deest
*「アレルヤ」K. 553
*「アヴェ・マリア」K. 554
*「われは嘆き、悲しむ(私は涙にくれる)」K. 555
*「支度をせよ」K. 556
*「わが太陽は隠れたり」K. 557
*「プラーター公園に行こう、狩場へ行こう」K. 558
*「[[俺の尻をなめろ#1788年のカノン|マルスとイオニア人になるのは難しい]]」(「戦記を読むなんて俺にはとても」) K. 559
*「おお、お前、馬鹿なパイエルよ」K. 559a(K<small>6</small>. 560a)
*「おお、お前、馬鹿なマルティンよ」K. 560(K<small>6</small>. 560b)
*「[[お休み、お前はほんとのお馬鹿さん]]」K. 561
*「愛らしき、わが美しき偶像」K. 562
* 4声のカノン K. 562a (偽作 [[ミヒャエル・ハイドン|M.ハイドン]]の作品)
* カノンの習作 K. 562b
* 4声のカノン K. 562c(Anh. 191)
* 4声のカノン ヘ長調 K. deest
* 4声のカノン ト短調 K. deest(断片、10小節)
* カノン イ短調 K. deest(断片、6小節)
* カノン ハ長調 K. deest(断片、11小節)
* 「上方及び下方2度入りによる2つのカノン」K. deest
* 「この尻黒野郎」K.Anh. 6
* 「妹よ、愛の女神を信ずるな」K.Anh.C 10.02 (偽作)
* ピアノのためのカノン K.Anh.C 10.07 (偽作)
* 4声のカノン「アーメン」 (偽作)
* 「来たれ、わが愛しの人生」 (偽作)
* カノン ハ長調 (偽作 キルンベルガーの作品)
* 猫の歌 (偽作)
* シュテッフェル・ファディンガー (偽作)
* 5声のカノン「アーメン」 (偽作)
=== 編曲作品 ===
''詳しくは[[モーツァルトのその他の作品]]を参照''
* [[カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ|C.P.E.バッハ]]:オラトリオ『キリストの受難と復活』Wq.240のアリア「われ汝に従わん、変容されし英雄よ」のための管楽器声部 K. 537d
* ヘンデル:オラトリオ『[[エイシスとガラテア|アキスとガラテア]]』K. 566
* [[ヘンデル]]:オラトリオ『[[メサイア (ヘンデル)|メサイア]]』K. 572
* ヘンデル:『[[アレクサンダーの饗宴]]』K. 591
* ヘンデル:『[[聖セシリアの日のための頌歌 (ヘンデル)|聖セシリアの祝日への讃歌]]』K. 592
* C.カンナビヒのバレエ音楽のクラヴィーアないし室内楽用編曲 K. deest(散逸、または一部現存する?)
=== 習作、スケッチ ===
* 2声の逆行カノン ハ長調
* 3声の楽章習作
* バス習作
* 主題 ハ長調
* 8声の循環カノン
* 模倣的合唱曲の部分スケッチ
* 対位法スケッチ
* 音程表
* 2声の上2度カノン
* 2声の同度カノン
* オペラ『フィガロの結婚』序曲のスケッチ
* アレグレット
* ハ長調の音階
* 指の練習
* 声楽の楽章
* 数字バス付き主題
* 音程教材開始部
* 多声の部分スケッチ
* 8声のフガート ハ長調
* メヌエットの草稿
== ケッヘル番順一覧 ==
=== 1761年(5歳) ===
* K. 1a:クラヴィーアのためのアンダンテ ハ長調
* K. 1b:クラヴィーアのためのアレグロ ハ長調
* K. 1c:クラヴィーアのためのアレグロ ヘ長調
* K. 1d:クラヴィーアのためのメヌエット ヘ長調
* K. 1e:クラヴィーアのためのメヌエット ト長調
* K. 1f:クラヴィーアのためのメヌエット ハ長調
=== 1762年(6歳) ===
* K. 2:クラヴィーアのためのメヌエット ヘ長調
* K. 3:クラヴィーアのためのアレグロ 変ロ長調
* K. 4:クラヴィーアのためのメヌエット ヘ長調
* K. 5:クラヴィーアのためのメヌエット ヘ長調
=== 1764年(8歳) パリ、ロンドン===
* K .6:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調
* K. 7:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ニ長調
* K. 8:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調
* K. 9:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ト長調
* K. 10:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ 変ロ長調
* K. 11:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ ト長調
* K. 12:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ イ長調
* K. 13:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ ヘ長調
* K. 14:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ ハ長調
* K. 15:クラヴィーアとヴァイオリンとチェロのためのソナタ 変ロ長調
* K. 16:[[交響曲第1番 (モーツァルト)|交響曲第1番]] 変ホ長調
* K. 17:[[交響曲第2番 (モーツァルト)|交響曲第2番]] 変ロ長調(偽作)
=== 1765年(9歳) ロンドン、ハーヴ===
* K. 18:[[交響曲第3番 (モーツァルト)|交響曲第3番]] 変ホ長調(K.F.アーベルの交響曲の編曲)
* K. 19:[[交響曲第4番 (モーツァルト)|交響曲第4番]] ニ長調
* K. 19d:[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.19d|四手のためのピアノソナタ]] ハ長調
* K. 20:モテット
* K. 21:アリア『Va, dal furor portata』
* K. 22:[[交響曲第5番 (モーツァルト)|交響曲第5番]] 変ロ長調
=== 1766年(10歳) ===
* K. 23:アリア『Conservati fedele』
* K. 24:8つの変奏曲
* K. 25:7つの変奏曲
* K. 26:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ 変ホ長調
* K. 27:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ト長調
* K. 28:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ハ長調
* K. 29:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ニ長調
* K. 30:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ ヘ長調
* K. 31:クラヴィーアとヴァイオリンのためのソナタ 変ロ長調
* K. 32:『Galimathias Musicum』
* K. 33:キリエ
=== 1767年(11歳) ザルツブルク===
* K. 34:Offertory in C, "Scandi coeli limina"
* K. 35:オペラ『[[第一戒律の責務]]』
* K. 37:[[ピアノ協奏曲第1番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第1番 ヘ長調]] (ラウパッハとホーナウアーのソナタの編曲)
* K. 39:[[ピアノ協奏曲第2番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調]] (ラウパッハとショーベルトのソナタの編曲)
* K. 40:[[ピアノ協奏曲第3番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第3番 ニ長調]] (ホーナウアー、エッカルト、C.P.E.バッハのソナタの編曲)
* K. 41:[[ピアノ協奏曲第4番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第4番 ト長調]] (ホーナウアー、ラウパッハのソナタの編曲)
* K. 43:[[交響曲第6番 (モーツァルト)|交響曲 第6番 ヘ長調]]
=== 1768年(12歳) ザルツブルク、ウィーン===
* K. 45:交響曲第7番 ニ長調
* K. 48:交響曲第8番 ニ長調
* K. 51(46a):オペラ・セリア『ラ・フィンタ・センプリーチェ』
* K. 50(46b):ジングシュピール『バスティアンとバスティエンヌ』
=== 1769年(13歳) ===
* K. 73:交響曲第9番 ハ長調
* K. 141(66b):テ・デウム ハ長調
=== 1770年(14歳) ザルツブルク〜ローマ ===
* K. 73f:弦楽四重奏曲第1番 ト長調
* K. 74:交響曲第10番 ト長調
* K. 84(73q):交響曲第11番 ニ長調
* K. 87(74a):オペラ・セリア『ポントの王ミトリダーテ』
* K. 81:交響曲 ニ長調
=== 1771年(15歳) ザルツブルク〜イタリア各地 ===
* K. 74c(118):[[オラトリオ]]『解放されたベトゥーリア』([[ユディト|ユディト記]]に基づく)
* K. 75:交響曲 ヘ長調
* K. 110:交響曲第12番 ト長調
* K. 111:祝典劇『アルバのアスカニオ』
* K. 112:交響曲第13番 ヘ長調
* K. 114:交響曲第14番 イ長調
=== 1772年(16歳) ザルツブルク、ミラノ ===
* K. 381(123a):[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ニ長調 K.381 (123a)|四手のためのピアノソナタ]] ニ長調
* K. 155(134a)、156(134b)、157、158、159、160(159a):弦楽四重奏曲第2〜7番 『ミラノ四重奏曲』 (-1773年)
* K. 135:オペラ・セリア『ルーチョ・シッラ』
=== 1773年(17歳) ミラノ、ザルツブルク、ウィーン ===
* K. 165(158a):モテット『[[エクスルターテ・ユビラーテ]]』
* K. 184(161a):交響曲第26番 変ホ長調
* K. 199(161b):交響曲第27番 ト長調
* K. 207:ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調
* K. 168、169、170、171、172、173:弦楽四重奏曲第8〜13番 『ウィーン四重奏曲』
* K. 182(173dA):交響曲第24番 変ロ長調
* K. 183(173dB):[[交響曲第25番 (モーツァルト)|交響曲第25番]] ト短調
* K. 174:[[弦楽五重奏曲第1番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第1番]] 変ロ長調
* K. 175:ピアノ協奏曲第5番 ニ長調(モーツァルト初めてのオリジナルピアノ協奏曲)
=== 1774年(18歳) ザルツブルク ===
* K. 201(186a):交響曲第29番 イ長調
* K. 202(186b):交響曲第30番 ニ長調
* K. 200(186b):交響曲第28番 ハ長調
* K. 358(186c):[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ 変ロ長調 K.358 (186c)|四手のためのピアノソナタ]] 変ロ長調
=== 1775年(19歳) ミュンヘン、ザルツブルク ===
* K. 279(189d)、280(189e)、281(189f)、282(189g)、283(189h)、284(205b):ピアノソナタ第1〜6番
* K. 196:オペラ・ブッファ『[[偽の女庭師|偽りの女庭師]]』(『にせの花作り女』とも呼ばれる)
* K. 208:音楽劇『羊飼いの王』
* K. 211:ヴァイオリン協奏曲第2番 ニ長調
* K. 216:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調『シュトラスブルク』
* K. 218:ヴァイオリン協奏曲第4番 ニ長調『軍隊』
* K. 219:[[ヴァイオリン協奏曲第5番 (モーツァルト)|ヴァイオリン協奏曲第5番]] イ長調『トルコ風』
=== 1776年(20歳) ===
* K. 238:ピアノ協奏曲第6番 変ロ長調
* K. 239:セレナード第6番 ニ長調『セレナータ・ノットゥルナ』
* K. 242:ピアノ協奏曲第7番 ヘ長調(3台のピアノ用)
* K. 246:ピアノ協奏曲第8番 ハ長調『リュッツォウ』
* K. 250(248b):[[セレナーデ第7番 (モーツァルト)|セレナード第7番]] ハ長調『ハフナー』
=== 1777年(21歳) ザルツブルク、マンハイム===
* K. 271:[[ピアノ協奏曲第9番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第9番]] 変ホ長調『ジュノーム』
* K. 309(284b):[[ピアノソナタ第7番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第7番]] ハ長調
* K. 311(284c):[[ピアノソナタ第9番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第9番]] ニ長調
* K. 285:フルート四重奏曲第1番 ニ長調
* K. 285a:フルート四重奏曲第2番 ト長調
=== 1778年(22歳) パリ、マンハイム ===
* K. 313(285c):[[フルート協奏曲第1番 (モーツァルト)|フルート協奏曲第1番]] ト長調
* K. 314(285d):[[フルート協奏曲第2番 (モーツァルト)|フルート協奏曲第2番]] ニ長調(原曲:[[オーボエ協奏曲 (モーツァルト)|オーボエ協奏曲]]ハ長調)
* K. 299(297c):[[フルートとハープのための協奏曲 (モーツァルト)|フルートとハープのための協奏曲]] ハ長調
* K. 304(300c):ヴァイオリンソナタ第28番 ホ短調
* K. 297(300a):[[交響曲第31番 (モーツァルト)|交響曲第31番]] ニ長調『パリ』
* K. 310(300d):[[ピアノソナタ第8番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第8番]] イ短調
=== 1779年(23歳) ザルツブルク ===
* K. 365(316a):[[2台のピアノのための協奏曲 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第10番]] 変ホ長調(2台のピアノのための)
* K. 317:ミサ曲第14番 ハ長調『[[戴冠ミサ]]』
* K. 318:交響曲第32番 ト長調
* K. 319:交響曲第33番 変ロ長調
* K. 320:[[セレナーデ第9番 (モーツァルト)|セレナード第9番 ニ長調『ポストホルン』]]
* K. 364(320d):[[ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲]] 変ホ長調
* K. 321:主日のための盛儀晩課(ヴェスペレ) ハ長調
* K. 344(336b):オペラ『ツァイーデ』 (未完成、-1780年)
=== 1780年(24歳) ザルツブルク、ミュンヘン ===
* K. 338:交響曲第34番 ハ長調
* K. 339:証聖者の盛儀晩課(ヴェスペレ) ハ長調
=== 1781年(25歳) ミュンヘン、ウィーン ===
* K. 285b:フルート四重奏曲第3番 ハ長調 (旧来の説は1778年)
* K. 391(340b):歌曲『孤独に』
* K. 390(340c):歌曲『希望に』
* K. 366:オペラ・セリア『[[イドメネオ]]』
* K. 349(367a):歌曲『満足』(マルチン・ミラー詩)
* K. 351(367b):歌曲『いとしいツィターよ』
* K. 370(368b):[[オーボエ四重奏曲 (モーツァルト)|オーボエ四重奏曲 ヘ長調]]
* K. 361(370a):セレナード第10番 変ロ長調『[[グラン・パルティータ]]』 (旧来の説は1780-1781年、現在の説は1783-1784年)
* K. 375:[[管楽セレナード (モーツァルト)#セレナード 変ホ長調 K.375|セレナード第11番 変ホ長調]]
* K. deest:[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ 変ホ長調(断片) K.deest|2台のピアノのためのラルゲットとアレグロ]] 変ホ長調 (断片)
* K. 448(375a):[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448 (375a)|2台のピアノのためのソナタ]] ニ長調
=== 1782年(26歳) ウィーン ===
* K.Anh. 42(375b):[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ楽章 変ロ長調(断片)K.Anh. 42 (375b)|2台のピアノのためのソナタ楽章]] 変ロ長調 (断片)
* K.Anh. 43(375c):[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのソナタ楽章ないしロンド・フィナーレ 変ロ長調(断片) K.Anh. 43 (375c)|2台のピアノのためのソナタ楽章ないしロンド・フィナーレ]] 変ロ長調 (断片)
* K.Anh. 45(375d):[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのフーガ ト長調(断片) K.Anh. 45 (375d)|2台のピアノのためのフーガ]] ト長調 (断片)
* K. 384:ジングシュピール『[[後宮からの誘拐]]』
* K. 388(384a):[[管楽セレナード (モーツァルト)#セレナード第12番 ハ短調 K.388 (384a)|セレナード第12番]] ハ短調『ナハトムジーク』
* K. 385:[[交響曲第35番 (モーツァルト)|交響曲第35番]] ニ長調『ハフナー』 (原曲のセレナーデは1782年、交響曲の形では1783年)
* K. 414(385p):ピアノ協奏曲第12番 イ長調
* K. 405:5つの4声フーガ
* K. 407(386c):ホルン五重奏曲 変ホ長調
* K. 387:[[弦楽四重奏曲第14番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第14番]] ト長調 『春』([[ハイドン・セット]]第1番)
* K. 413(387a):ピアノ協奏曲第11番 ヘ長調
* K. 415(387b):ピアノ協奏曲第13番 ハ長調
* K. 427(417a):[[大ミサ曲]] ハ短調(未完) (-1783年)
* K. 231(382c):カノン『[[俺の尻をなめろ]]』
=== 1783年(27歳) ウィーン、ザルツブルク、リンツ ===
* K. 417:ホルン協奏曲第2番 変ホ長調
* K. 421(417b):[[弦楽四重奏曲第15番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第15番]] ニ短調(ハイドン・セット第2番)
* K. 428(421b):[[弦楽四重奏曲第16番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第16番]] 変ホ長調(ハイドン・セット第3番)
* K. 423:[[ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲]] ト長調
* K. 424:[[ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 (モーツァルト)|ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲]] 変ロ長調
* K. 330(300h):[[ピアノソナタ第10番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第10番]] ハ長調 (旧来の説は1778年、現在の説は早くても1780年、おそらく1783年にウィーンかザルツブルクで)
* K. 331(300i):[[ピアノソナタ第11番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第11番]] イ長調『トルコ行進曲付』 (同上)
* K. 332(300k):[[ピアノソナタ第12番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第12番]] ヘ長調 (同上)
* K. 333(315c):[[ピアノソナタ第13番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第13番]] 変ロ長調 (旧来の説は1778年、現在の説は1783年リンツで)
* K. 425:[[交響曲第36番 (モーツァルト)|交響曲第36番]] ハ長調『リンツ』
* K. 426:[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのフーガ ハ短調 K.426|2台のピアノのためのフーガ]] ハ短調
* K.Anh. 44(426a):[[2台のピアノのためのソナタ (モーツァルト)#2台のピアノのためのアレグロ ハ短調(断片) K.Anh. 44 (426a)|2台のピアノのためのアレグロ]] ハ短調 (断片)
=== 1784年(28歳) ウィーン ===
* K. 449:ピアノ協奏曲第14番 変ホ長調
* K. 450:ピアノ協奏曲第15番 変ロ長調
* K. 451:ピアノ協奏曲第16番 ニ長調
* K. 452:木管とピアノのための五重奏曲 変ホ長調
* K. 453:ピアノ協奏曲第17番 ト長調
* K. 456:ピアノ協奏曲第18番 変ロ長調
* K. 457:[[ピアノソナタ第14番 (モーツァルト)|ピアノソナタ第14番]] ハ短調
* K. 458:[[弦楽四重奏曲第17番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第17番]] 変ロ長調『狩』(ハイドン・セット第4番)
* K. 459:ピアノ協奏曲第19番 ヘ長調『第二戴冠式』
=== 1785年(29歳) ウィーン ===
* K. 464:[[弦楽四重奏曲第18番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第18番]] イ長調(ハイドン・セット第5番)
* K. 465:[[弦楽四重奏曲第19番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第19番]] ハ長調『不協和音』(ハイドン・セット第6番)
* K. 466:[[ピアノ協奏曲第20番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第20番]] ニ短調
* K. 467:[[ピアノ協奏曲第21番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第21番]] ハ長調
* K. 468:歌曲『結社員の旅』 変ロ長調
* K. 429(468a):カンタータ『宇宙の霊なる君』(未完成)
* K. 471:カンタータ『フリーメーソンの喜び』変ホ長調
* K. 472:歌曲『魔法使い』
* K. 473:歌曲『満足』(クリスティアン・ヴァイセ詩)
* K. 474:歌曲『偽りの世』
* K. 475:[[幻想曲K.475|幻想曲 ハ短調]] (K. 457と深い関係にあるピアノ曲)
* K. 475a:歌曲『孤独』
* K. 476:歌曲『[[すみれ (モーツァルト)|すみれ]]』(モーツァルト唯一の[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ|ゲーテ]]詩による歌曲)
* K. 477:[[フリーメーソンのための葬送音楽]] ハ短調
* K. 478:ピアノ四重奏曲第1番 ト短調
* K. 479:四重唱「せめておっしゃって、私がどんな過ちを犯したのか」
* K. 480:三重唱「やさしいマンディーナ」
* K. 434(480b):三重唱「ここにアマゾンたちの大王国のありかが」
* K. 482:[[ピアノ協奏曲第22番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第22番]] 変ホ長調
=== 1786年(30歳) ウィーン、プラハ ===
* K. 483:合唱付き歌曲『今日こそ浸ろう、親愛なる兄弟よ』変ロ長調
* K. 484:合唱付き歌曲『新しい指導者である君たちよ』ト長調
* K. 486:1幕の音楽付き喜劇『劇場支配人』
* K. 488:[[ピアノ協奏曲第23番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第23番]] イ長調
* K. 489:二重唱「私には言葉で言えません」
* K. 490:歌曲「もういいの、すべてを聞いてしまったの」
* K. 491:[[ピアノ協奏曲第24番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第24番]] ハ短調
* K. 492:オペラ・ブッファ『[[フィガロの結婚]]』
* K. 493:ピアノ四重奏曲第2番 変ホ長調
* K. 497:[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ヘ長調 K.497|四手のためのピアノソナタ]] ヘ長調
* K. 357(497a):[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ト長調 K.357 (497a)|四手のためのピアノソナタ]] ト長調
* K. 498:[[ケーゲルシュタット・トリオ|ピアノ、クラリネット、ヴィオラのための三重奏曲]] 変ホ長調(『[[ケーゲルシュタット・トリオ]]』)
* K. 499:[[弦楽四重奏曲第20番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第20番]] ニ長調『ホフマイスター』
* K. 501:[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#アンダンテと5つの変奏曲 ト長調 K.501|アンダンテと5つの変奏曲]] ト長調 (四手のための)
* K. 503:[[ピアノ協奏曲第25番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第25番]] ハ長調
* K. 504:[[交響曲第38番 (モーツァルト)|交響曲第38番]] ニ長調 『プラハ』
* K. 505:シェーナとロンド 「心配しなくともよいのです、愛する人よ」
* K. 506:歌曲『自由の歌』
* K. 298:[[フルート四重奏曲第4番 (モーツァルト)|フルート四重奏曲第4番]] イ長調
=== 1787年(31歳) ウィーン、プラハ ===
* K. 515:[[弦楽五重奏曲第3番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第3番]] ハ長調
* K. 516:[[弦楽五重奏曲第4番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第4番]] ト短調
* K. 406(516b):[[弦楽五重奏曲第2番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第2番]] ハ短調(セレナード ハ短調 K. 388(384a) の編曲)
* K. 517:歌曲『老婆』
* K. 518:歌曲『秘め事』
* K. 519:歌曲『別れの歌』
* K. 520:歌曲『[[ルイーゼが不実な恋人の手紙を焼いたとき]]』
* K. 521:[[四手のためのピアノソナタ (モーツァルト)#四手のためのピアノソナタ ハ長調 K.521|四手のためのピアノソナタ]] ハ長調
* K. 522:[[音楽の冗談]] ヘ長調
* K. 523:歌曲『ラウラに寄せる夕べの想い』
* K. 524:歌曲『クローエに』
* K. 525:セレナード第13番 ト長調 『[[アイネ・クライネ・ナハトムジーク]]』
* K. 526:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
* K. 527:オペラ・ブッファ『[[ドン・ジョヴァンニ]]』
* K. 528:レシタティーヴォとアリア「私の麗しき恋人よ、さようなら/留まってください、ああ愛しい人よ」
* K. 529:歌曲『小さなフリードリヒの誕生日』
* K. 530:歌曲『夢の姿』
* K. 531:歌曲『小さな糸紡ぎ娘』
=== 1788年(32歳) ウィーン ===
* K. 537:[[ピアノ協奏曲第26番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第26番]] ニ長調『戴冠式』
* K. 543:[[交響曲第39番 (モーツァルト)|交響曲第39番]] 変ホ長調
* K. 545:[[ピアノソナタK.545|ピアノソナタ第16(15)番]] ハ長調『初心者のための小ピアノソナタ』
* K. 546:アダージョとフーガ ハ短調
* K. 550:[[交響曲第40番 (モーツァルト)|交響曲第40番]] ト短調
* K. 551:[[交響曲第41番 (モーツァルト)|交響曲第41番]] ハ長調『ジュピター』
* K. 552:歌曲『皇帝のおことばに忠実に』
* K. 563:[[ディヴェルティメント K.563|ディヴェルティメント変ホ長調]]
=== 1789年(33歳) ウィーン ===
* K. 570:[[ピアノソナタK.570|ピアノソナタ第17(16)番]] 変ロ長調
* K. 576:[[ピアノソナタK.576|ピアノソナタ第18(17)番]] ニ長調
* K. 581:[[クラリネット五重奏曲 (モーツァルト)|クラリネット五重奏曲]] イ長調
=== 1790年(34歳) ウィーン ===
* K. 575:[[弦楽四重奏曲第21番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第21番]] ニ長調(プロシャ王第1番)
* K. 588:オペラ・ブッファ『[[コジ・ファン・トゥッテ]]』
* K. 589:[[弦楽四重奏曲第22番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第22番]] 変ロ長調(プロシャ王第2番)
* K. 590:[[弦楽四重奏曲第23番 (モーツァルト)|弦楽四重奏曲第23番]] ヘ長調(プロシャ王第3番)
* K. 593:[[弦楽五重奏曲第5番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第5番]] ニ長調
=== 1791年(35歳) ウィーン ===
* K. 595:[[ピアノ協奏曲第27番 (モーツァルト)|ピアノ協奏曲第27番]] 変ロ長調
* K. 596:歌曲『[[春への憧れ]]』(唱歌としても知られる)
* K. 597:歌曲『春のはじめに』
* K. 598:歌曲『子供の遊び』
* K. 614:[[弦楽五重奏曲第6番 (モーツァルト)|弦楽五重奏曲第6番]] 変ホ長調
* K. 615:[[3つのドイツ舞曲]](第3曲が「そりすべり」として知られる)
* K. 617:アダージョとロンド([[グラスハーモニカ]]、[[フルート]]、[[オーボエ]]、[[ヴィオラ]]、[[チェロ]])
* K. 356(617a):アダージョ([[グラスハーモニカ]]のための)
* K. 618:モテット『[[アヴェ・ヴェルム・コルプス]]』ニ長調
* K. 619:小カンタータ『[[無限なる宇宙の創造者を崇敬する汝らが|無限なる宇宙の創造者を崇敬する君達よ]]』
* K. 620:ジングシュピール『[[魔笛]]』
* K. 621:オペラ・セリア『[[皇帝ティートの慈悲]]』
* K. 622:[[クラリネット協奏曲 (モーツァルト)|クラリネット協奏曲]] イ長調
* K. 623:フリーメーソンのための小カンタータ『高らかに我らの喜びを』
* K. 623a:合唱曲『固く手を握りしめ』
* K. 626:[[レクイエム (モーツァルト)|レクイエム]] ニ短調(未完)
== 参考文献 ==
*『モーツァルト事典』 - [[東京書籍]]、[[1991年]]
*『作曲家別名曲解説ライブラリー14 モーツァルトII』 - [[音楽之友社]]、[[1994年]]
== 脚注 ==
<references />
== 外部リンク ==
* [http://www.marimo.or.jp/~chezy/mozart/hs/kn0.html ケッヘル番号からの検索]
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%88%E3%81%AE%E6%A5%BD%E6%9B%B2%E4%B8%80%E8%A6%A7 |
7,442 | 集合 | 集合(しゅうごう、英: set, 仏: ensemble, 独: Menge)とは数学における概念の1つで、大雑把に言えばいくつかの「もの」からなる「集まり」である。集合を構成する個々の「もの」のことを元 (げん、英: element; 要素) という。
集合は、集合論のみならず現代数学全体における最も基本的な概念の一つであり、現代数学のほとんどが集合と写像の言葉で書かれていると言ってよい。
慣例的に、ある種の集合が系 (けい、英: system) や族 (ぞく、英: family) などと呼ばれることもある。実際には、これらの呼び名に本質的な違いはないが細かなニュアンスの違いを含むと考えられている。たとえば、方程式系(「相互に連立する」方程式の集合)、集合族(「一定の規則に基づく」集合の集合)、加法族(「加法的な性質を持つ」集合族)など。
集合は「ものの集まり」である。集合の元(要素)として、集められる対象となる「もの」は、数、文字、記号などをはじめ、どんなものでも(当然、集合でも)構わない。
一方で、どんな「集まり」でも集合と呼んでよいわけではない。その「集まり」が集合と呼ばれるためには、対象が「その集まりの元であるかどうかが不確定要素なしに一意に決定できる」ように定義されていなければならない。
例えば、ジョーカーやコマーシャルカードを除いたトランプのスート全体 {♠(スペード), ♦(ダイヤ), ♣(クラブ), ♥(ハート)} やトランプの数字全体 {A, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, J, Q, K} は集合の例である(A,J,Q,Kは数字では無いが、多くのトランプゲームでは数字として解釈される。)。トランプはこれらの組
を符牒とする、4×13=52枚のカードであるが、これもまた集合の一例である。特に、トランプはスートの集合と数字の集合との直積集合と同一視でき、「52」はこの集合の濃度を表している。また、先のスートの集合、数字の集合の濃度はそれぞれ 4, 13 である。
個々の集合を表すには、しばしばラテン文字の大文字 A, B, ..., E, F, ..., M, N, ..., S, T, ..., X, Y, ... などを使う。集合の元はラテン小文字 a, ..., e, ..., m, ..., s, ..., x, ... とすることが多く、特に集合を表す大文字に対応する小文字を使う。
集合と元、集合と集合などの間には含んだり含まれたりといった素朴な関係を考えることができる。
帰属関係と包含関係は異なる概念であって、混同してはならない。例えば、X ⊂ Y ⊂ Z ならば必ず X ⊂ Z であるが、X ∈ Y ∈ Z からは X ∈ Z は必ずしも導かれない。また、x ∈ A ⊂ B ならば x ∈ B であるが、x ⊂ A ∈ B からは x ∈ B を帰結することは一般にはできない。
集合の記法には、おおまかに2通りの方法がある。論理的な概念として「外延と内包」というものがあるが、ほぼそれに相当するもので、その要素をすべて列挙するという方法と、その集合に含まれるのであれば必ず満たされ、含まれないのであれば必ず満たされない条件を明示するという方法である。
「外延」に相当する、すべて列挙する方法では、例えば、1, 3, 5, 7, 9 からなる集合は、
と表記する。
「内包」に相当する、属するために満たすべき条件を明示する方法では、例えば、10 未満の正の奇数全体の集合を、
と表記する。一般に、条件 P(x) があったとき、それをみたす対象だけを全て集めた集合を、
と表記する。ここでは x という変数を用いているが、{ y | P(y) } と書いても { a | P(a) } と書いても構わない。set-builder notation(en:Set-builder notation)やset comprehension、日本語では内包表記などとも言う。前述のようにそれぞれ、論理的な概念の外延と内包に由来するものであり日本語圏では数学分野でも今もそれらの語がよく使われているが、英語圏ではそれぞれの原語であるextensionとintensionはこの分野では今はあまり見なくなっている。
条件 P(x) は「x が X の元であって、さらに条件 Q(x) を満たす」というような形で与えられることが多いが、このとき定まる集合を {x | x ∈ X かつ Q(x)} のように書く代わりに、しばしば簡単に
などと略記する。集合 {x ∈ X | Q(x)} は X の部分集合となる。また、条件 P(x) が「条件 Q(y) を満たすようなある y を用いて x = f(y) と表すことができる」というような形のときは、集合 { x | P(x) } を
のように表すこともある。
要素を外延的に書きつくせないような集合、例えば自然数全体の集合を
のように書き表すこともあるが、"..." による省略部分は誤解を生じる余地があるため、このような記法はその省略された内容の意味が明らかである場合に限られる。
A, Bを任意の集合とするとき、もし任意の集合Xについて「XがAの要素であるならば、そのときに限りXはBの要素である」が成り立つならば、AとBは等しい、とする。すなわち、
である。
直感的な説明としては、たとえば、{1, 3, 5, 7, 9} と { x | x は 10 未満の正の奇数 } は異なる表現だが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合であるので、等しい集合だとする、ということである。
数学では、1 つも要素を持たないような集合も考える。外延性の原理によれば、このような集合はただ一つしか存在しないので、これを空集合 (英: empty set) といい ∅ で表す。∅ は任意の集合 A の部分集合である。なぜなら、任意の対象 x に対して x ∉ ∅ より x ∈ ∅ ⇒ x ∈ A は真だからである。空集合の他にも決まった記号によって表される集合がいくつかある。日常的には一個だけ要素を持つものは集合とは呼ばれないが、数学ではそれも集合と呼ぶ(英語のsetやフランス語のensembleも日常的な用語では空集合や一個だけの集合に対しては使われない。):
有限個の元からなる集合を有限集合 (ゆうげんしゅうごう、英: finite set) と呼び、集合 A の元の個数を #(A), |A|, card(A) などの記号で表すことが多い。有限集合でない集合を無限集合 (むげんしゅうごう、英: infinite set) という。無限集合に対しても「個数」の概念を広げて、濃度 (のうど、英: potency) 、または基数 (きすう、英: cardinal number, 英: cardinality) というものを考える。個数を数える代わりに、ある集合を使って、その元で別の集合をラベル付け (英: indexing; 添字付け) して、一対一の対応がとれるかどうかを調べるのである。そうすると有限集合の濃度はちょうど元の個数で決まるので、ちゃんと無限集合への「個数」の拡張となる概念が定まっていることが確認できる。
無限集合はどれも「無限個」の元を持っているわけだが、どの無限もみな同じというわけではなく、濃度の概念ではたくさんの無限を区別して扱うことになる。たとえば、自然数と有理数が同じ濃度を持つ、自然数と実数は真に異なる濃度を持つといったような事実は数学を学ぶ者にとってよく知られた内容である。同様の事実に、平面 R と数直線 R は同じ濃度を持ち、平面を覆いつくす平面充填曲線と呼ばれる不思議な平面曲線が何種類も存在することが述べられる。より次元の高い空間でも同様で、空間を埋め尽くす空間充填曲線が構築される。異なる次元をもつ空間が同じ濃度をもつというのは、次元や濃度が一方が他方を測るようなものではない異なる尺度であることを表しているのである。
いくつかの集合を扱い、その関係性について論じるとき、もともと考えていた集合たちから新しい集合を作って調べるというのは有効な手段の一つである。これらの操作は、集合に対する演算と見なすことによって、集合族に関するいくつかの代数系を提供する。それらの代数系を抽象代数系と見なせば、抽象代数学の一般論を適用することでまたいくつかの概念を提供することになる。
指示関数はこれらの集合演算を 0 と 1 からなる世界の代数的な演算に置き換える手段を与える。
もとの全体集合の中に演算結果を求めるのではなく、むしろ引数となる集合たちをもとに新しい集合を作り出すことを目的とする演算もある。
集合からなる族 A を考える。A が集合演算についていくつかの性質を満たすとき、それらには特別の名前が与えられることがある。 | [
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"text": "個々の集合を表すには、しばしばラテン文字の大文字 A, B, ..., E, F, ..., M, N, ..., S, T, ..., X, Y, ... などを使う。集合の元はラテン小文字 a, ..., e, ..., m, ..., s, ..., x, ... とすることが多く、特に集合を表す大文字に対応する小文字を使う。",
"title": "導入"
},
{
"paragraph_id": 8,
"tag": "p",
"text": "集合と元、集合と集合などの間には含んだり含まれたりといった素朴な関係を考えることができる。",
"title": "帰属と包含"
},
{
"paragraph_id": 9,
"tag": "p",
"text": "帰属関係と包含関係は異なる概念であって、混同してはならない。例えば、X ⊂ Y ⊂ Z ならば必ず X ⊂ Z であるが、X ∈ Y ∈ Z からは X ∈ Z は必ずしも導かれない。また、x ∈ A ⊂ B ならば x ∈ B であるが、x ⊂ A ∈ B からは x ∈ B を帰結することは一般にはできない。",
"title": "帰属と包含"
},
{
"paragraph_id": 10,
"tag": "p",
"text": "集合の記法には、おおまかに2通りの方法がある。論理的な概念として「外延と内包」というものがあるが、ほぼそれに相当するもので、その要素をすべて列挙するという方法と、その集合に含まれるのであれば必ず満たされ、含まれないのであれば必ず満たされない条件を明示するという方法である。",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 11,
"tag": "p",
"text": "「外延」に相当する、すべて列挙する方法では、例えば、1, 3, 5, 7, 9 からなる集合は、",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 12,
"tag": "p",
"text": "と表記する。",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 13,
"tag": "p",
"text": "「内包」に相当する、属するために満たすべき条件を明示する方法では、例えば、10 未満の正の奇数全体の集合を、",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 14,
"tag": "p",
"text": "と表記する。一般に、条件 P(x) があったとき、それをみたす対象だけを全て集めた集合を、",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 15,
"tag": "p",
"text": "と表記する。ここでは x という変数を用いているが、{ y | P(y) } と書いても { a | P(a) } と書いても構わない。set-builder notation(en:Set-builder notation)やset comprehension、日本語では内包表記などとも言う。前述のようにそれぞれ、論理的な概念の外延と内包に由来するものであり日本語圏では数学分野でも今もそれらの語がよく使われているが、英語圏ではそれぞれの原語であるextensionとintensionはこの分野では今はあまり見なくなっている。",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 16,
"tag": "p",
"text": "条件 P(x) は「x が X の元であって、さらに条件 Q(x) を満たす」というような形で与えられることが多いが、このとき定まる集合を {x | x ∈ X かつ Q(x)} のように書く代わりに、しばしば簡単に",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 17,
"tag": "p",
"text": "などと略記する。集合 {x ∈ X | Q(x)} は X の部分集合となる。また、条件 P(x) が「条件 Q(y) を満たすようなある y を用いて x = f(y) と表すことができる」というような形のときは、集合 { x | P(x) } を",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 18,
"tag": "p",
"text": "のように表すこともある。",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 19,
"tag": "p",
"text": "要素を外延的に書きつくせないような集合、例えば自然数全体の集合を",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 20,
"tag": "p",
"text": "のように書き表すこともあるが、\"...\" による省略部分は誤解を生じる余地があるため、このような記法はその省略された内容の意味が明らかである場合に限られる。",
"title": "記法"
},
{
"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "A, Bを任意の集合とするとき、もし任意の集合Xについて「XがAの要素であるならば、そのときに限りXはBの要素である」が成り立つならば、AとBは等しい、とする。すなわち、",
"title": "外延性の公理"
},
{
"paragraph_id": 22,
"tag": "p",
"text": "である。",
"title": "外延性の公理"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "直感的な説明としては、たとえば、{1, 3, 5, 7, 9} と { x | x は 10 未満の正の奇数 } は異なる表現だが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合であるので、等しい集合だとする、ということである。",
"title": "外延性の公理"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "数学では、1 つも要素を持たないような集合も考える。外延性の原理によれば、このような集合はただ一つしか存在しないので、これを空集合 (英: empty set) といい ∅ で表す。∅ は任意の集合 A の部分集合である。なぜなら、任意の対象 x に対して x ∉ ∅ より x ∈ ∅ ⇒ x ∈ A は真だからである。空集合の他にも決まった記号によって表される集合がいくつかある。日常的には一個だけ要素を持つものは集合とは呼ばれないが、数学ではそれも集合と呼ぶ(英語のsetやフランス語のensembleも日常的な用語では空集合や一個だけの集合に対しては使われない。):",
"title": "特別な集合"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "有限個の元からなる集合を有限集合 (ゆうげんしゅうごう、英: finite set) と呼び、集合 A の元の個数を #(A), |A|, card(A) などの記号で表すことが多い。有限集合でない集合を無限集合 (むげんしゅうごう、英: infinite set) という。無限集合に対しても「個数」の概念を広げて、濃度 (のうど、英: potency) 、または基数 (きすう、英: cardinal number, 英: cardinality) というものを考える。個数を数える代わりに、ある集合を使って、その元で別の集合をラベル付け (英: indexing; 添字付け) して、一対一の対応がとれるかどうかを調べるのである。そうすると有限集合の濃度はちょうど元の個数で決まるので、ちゃんと無限集合への「個数」の拡張となる概念が定まっていることが確認できる。",
"title": "濃度"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "無限集合はどれも「無限個」の元を持っているわけだが、どの無限もみな同じというわけではなく、濃度の概念ではたくさんの無限を区別して扱うことになる。たとえば、自然数と有理数が同じ濃度を持つ、自然数と実数は真に異なる濃度を持つといったような事実は数学を学ぶ者にとってよく知られた内容である。同様の事実に、平面 R と数直線 R は同じ濃度を持ち、平面を覆いつくす平面充填曲線と呼ばれる不思議な平面曲線が何種類も存在することが述べられる。より次元の高い空間でも同様で、空間を埋め尽くす空間充填曲線が構築される。異なる次元をもつ空間が同じ濃度をもつというのは、次元や濃度が一方が他方を測るようなものではない異なる尺度であることを表しているのである。",
"title": "濃度"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "いくつかの集合を扱い、その関係性について論じるとき、もともと考えていた集合たちから新しい集合を作って調べるというのは有効な手段の一つである。これらの操作は、集合に対する演算と見なすことによって、集合族に関するいくつかの代数系を提供する。それらの代数系を抽象代数系と見なせば、抽象代数学の一般論を適用することでまたいくつかの概念を提供することになる。",
"title": "集合の演算"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "指示関数はこれらの集合演算を 0 と 1 からなる世界の代数的な演算に置き換える手段を与える。",
"title": "集合の演算"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "もとの全体集合の中に演算結果を求めるのではなく、むしろ引数となる集合たちをもとに新しい集合を作り出すことを目的とする演算もある。",
"title": "集合の演算"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "集合からなる族 A を考える。A が集合演算についていくつかの性質を満たすとき、それらには特別の名前が与えられることがある。",
"title": "集合の演算"
}
] | 集合とは数学における概念の1つで、大雑把に言えばいくつかの「もの」からなる「集まり」である。集合を構成する個々の「もの」のことを元 という。 集合は、集合論のみならず現代数学全体における最も基本的な概念の一つであり、現代数学のほとんどが集合と写像の言葉で書かれていると言ってよい。 慣例的に、ある種の集合が系 や族 などと呼ばれることもある。実際には、これらの呼び名に本質的な違いはないが細かなニュアンスの違いを含むと考えられている。たとえば、方程式系(「相互に連立する」方程式の集合)、集合族(「一定の規則に基づく」集合の集合)、加法族(「加法的な性質を持つ」集合族)など。 | {{Otheruses|数学における集合|クルアーンのスーラ|集合 (クルアーン)}}
{{otheruses2||その他|wikt:集合|wikt:集まる}}
'''集合'''(しゅうごう、{{lang-en-short|''set''}}, {{lang-fr-short|''ensemble''}}, {{lang-de-short|''Menge''}})とは[[数学]]における概念の1つで、大雑把に言えばいくつかの「もの」からなる「集まり」である。集合を[[構成]]する個々の「もの」のことを'''[[元 (数学)|元]]''' (げん、{{Lang-en-short|''element''}}; '''要素''') という。
集合は、[[集合論]]のみならず現代数学全体における最も基本的な概念の一つであり、現代数学のほとんどが集合と[[写像]]の言葉で書かれていると言ってよい。
慣例的に、ある種の集合が'''系''' (けい、{{Lang-en-short|''system''}}) や[[族 (数学)|族]] (ぞく、{{Lang-en-short|''family''}}) などと呼ばれることもある。実際には、これらの呼び名に本質的な違いはないが細かなニュアンスの違いを含むと考えられている。たとえば、方程式系(「相互に連立する」方程式の集合)、[[集合族]](「一定の規則に基づく」集合の集合)、[[加法族]](「加法的な性質を持つ」集合族)など。
== 導入 ==
{{特殊文字|説明=[[トランプカード]]のマーク}}
'''集合'''は「ものの集まり」である<ref>{{Cite book|title=集合・位相入門|date=1968年6月10日|year=1986|publisher=岩波書店}}</ref>。集合の'''元'''(要素)として、集められる対象となる「もの」は、[[数]]、[[文字]]、[[記号]]などをはじめ、どんなものでも(当然、集合でも)構わない。
一方で、どんな「集まり」でも集合と呼んでよいわけではない。その「集まり」が集合と呼ばれるためには、対象が「その集まりの元であるかどうかが不確定要素なしに一意に決定できる」ように定義されていなければならない。
例えば、[[ジョーカー (トランプ)|ジョーカー]]やコマーシャルカードを除いた[[トランプ]]の[[スート]]全体 {♠([[スペード (シンボル)|スペード]]), ♦([[ダイヤ (シンボル)|ダイヤ]]), ♣([[クラブ (シンボル)|クラブ]]), ♥([[ハート (シンボル)|ハート]])} やトランプの[[数字]]全体
{A, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, J, Q, K} は集合の例である(A,J,Q,Kは数字では無いが、多くのトランプゲームでは数字として解釈される。)。トランプはこれらの組
: {(♠,A), ..., (♠,K), (♦,A), ..., (♦,K), (♣,A), ..., (♣,K), (♥,A), ..., (♥,K)}
を[[符牒]]とする、4×13=52枚の[[カード]]であるが、これもまた集合の一例である。特に、トランプはスートの集合と数字の集合との[[直積集合]]と同一視でき、「52」はこの集合の[[濃度 (数学)|濃度]]を表している。また、先のスートの集合、数字の集合の濃度はそれぞれ 4, 13 である。
{| style="margin:1ex auto 1ex auto;" class="wikitable"
|+ トランプの記号
|-
! !! [[エース (トランプ)|A]] !! 2 !! 3 !! 4 !! 5 !! 6 !! 7 !! 8 !! 9 !! 10 !! [[ジャック (トランプ)|J]] !! [[クイーン (トランプ)|Q]] !! [[キング (トランプ)|K]]
|-
! ♠
|| (♠,A) || (♠,2) || (♠,3) || (♠,4) || (♠,5) || (♠,6) || (♠,7) || (♠,8) || (♠,9) || (♠,10) || (♠,J) || (♠,Q) || (♠,K)
|-
! ♦
|| (♦,A) || (♦,2) || (♦,3) || (♦,4) || (♦,5) || (♦,6) || (♦,7) || (♦,8) || (♦,9) || (♦,10) || (♦,J) || (♦,Q) || (♦,K)
|-
! ♣
|| (♣,A) || (♣,2) || (♣,3) || (♣,4) || (♣,5) || (♣,6) || (♣,7) || (♣,8) || (♣,9) || (♣,10) || (♣,J) || (♣,Q) || (♣,K)
|-
! ♥
|| (♥,A) || (♥,2) || (♥,3) || (♥,4) || (♥,5) || (♥,6) || (♥,7) || (♥,8) || (♥,9) || (♥,10) || (♥,J) || (♥,Q) || (♥,K)
|}
個々の集合を表すには、しばしば[[ラテン文字]]の大文字 ''A'', ''B'', ..., ''E'', ''F'', ..., ''M'', ''N'', ..., ''S'', ''T'', ..., ''X'', ''Y'', ... などを使う<ref group="注釈">定数や変数に対する慣例を踏襲して ''A'', ''B'', ... や ''X'', ''Y'', ... が使われるほか、英語の {{lang|en|''set''}}, ドイツ語の {{lang|de|''Menge''}}, フランス語の {{lang|fr|''ensemble''}} の頭文字 ''S'', ''M'', ''E'' やその周辺の文字がよく使われる。</ref>。集合の元はラテン小文字 ''a'', ..., ''e'', ..., ''m'', ..., ''s'', ..., ''x'', ... とすることが多く<ref group="注釈">ラテンアルファベット以外にも[[ギリシャ文字]]を使うこともある。集合の集合を考えるときは、元である集合に大文字を使うことから、[[筆記体]] <math>\scriptstyle \mathcal{A,\ldots, E,\ldots, M,\ldots, S,\ldots, X,\ldots}</math>や[[ドイツ文字]] <math>\scriptstyle \mathfrak{A,\ldots, M,\ldots, X,\ldots}</math>で記したりする。このような入れ子構造は何重にも複雑な形で現われたり、同じものが違った見方をされたりするので、このような文字種の変更を行わないこともよくある。</ref>、特に集合を表す大文字に対応する小文字を使う。
== 帰属と包含 ==
{{main|部分集合|包含関係|元 (数学)|帰属関係}}
[[file:Venn_A_subset_B.svg|150px|thumb|right|包含関係: A は B の部分である。B は A の上にある。]]
集合と元、集合と集合などの間には含んだり含まれたりといった素朴な関係を考えることができる。
; 帰属関係: 対象 ''{{mvar|a}}'' が集合 ''{{mvar|A}}'' を構成するものの一つであるとき、「''{{mvar|a}}'' は集合 ''{{mvar|A}}'' に属す」「''{{mvar|a}}'' は集合 ''{{mvar|A}}'' の要素(あるいは元)である」「集合 ''{{mvar|A}}'' は ''{{mvar|a}}'' を要素として持つ」などといい、''{{mvar|a}}'' ∈ ''{{mvar|A}}'' あるいは ''{{mvar|A}}'' ∋ ''{{mvar|a}}'' と表す。
; 包含関係: 2 つの集合 ''{{mvar|A}}'', ''{{mvar|B}}'' について、''{{mvar|A}}'' に属する元がすべて ''{{mvar|B}}'' にも属するとき、すなわち ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|A}}'' ⇒ ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|B}}'' が ''{{mvar|x}}'' の取り方に依らずに成り立つとき、「''{{mvar|A}}'' は ''{{mvar|B}}'' の[[部分集合]]である」「''{{mvar|A}}'' は ''{{mvar|B}}'' に集合として含まれる」「''{{mvar|A}}'' は ''{{mvar|A}}'' を包含する」などといい、''{{mvar|A}}'' ⊂ ''{{mvar|B}}'' または ''{{mvar|A}}'' ⊆ ''{{mvar|B}}'' あるいは ''{{mvar|B}}'' ⊃ ''{{mvar|A}}'' または ''{{mvar|B}}'' ⊇ ''{{mvar|A}}'' と記す。
帰属関係と包含関係は異なる概念であって、混同してはならない。例えば、''{{mvar|X}}'' ⊂ ''{{mvar|Y}}'' ⊂ ''{{mvar|Z}}'' ならば必ず ''{{mvar|X}}'' ⊂ ''{{mvar|Z}}'' であるが、''{{mvar|X}}'' ∈ ''{{mvar|Y}}'' ∈ ''{{mvar|Z}}'' からは ''{{mvar|X}}'' ∈ ''{{mvar|Z}}'' は必ずしも導かれない。また、''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|A}}'' ⊂ ''{{mvar|B}}'' ならば ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|B}}'' であるが、''{{mvar|x}}'' ⊂ ''{{mvar|A}}'' ∈ ''{{mvar|B}}'' からは ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|B}}'' を帰結することは一般にはできない。
== 記法 ==
集合の記法には、おおまかに2通りの方法がある。論理的な概念として「[[内包と外延|外延と内包]]」というものがあるが、ほぼそれに相当するもので、その要素をすべて列挙するという方法と、その集合に含まれるのであれば必ず満たされ、含まれないのであれば必ず満たされない条件を明示するという方法である。
「外延」に相当する、すべて列挙する方法では、例えば、1, 3, 5, 7, 9 からなる集合は、
: <math>\{1, 3, 5, 7, 9\}</math>
と表記する。<!--集合の'''外延的記法''' ({{lang-en-short|''extensional definition''}}) と言う。--><!--definitionと「記法」は普通は対応させないと思う-->
「内包」に相当する、属するために満たすべき条件を明示する方法では、例えば、10 未満の正の[[奇数]]全体の集合を、
: { ''{{mvar|x}}'' | ''{{mvar|x}}'' は 10 未満の正の奇数 }
と表記する。一般に、条件 ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|x}}'') があったとき、それをみたす対象'''だけ'''を'''全て'''集めた集合を、
: <math>\{x \mid P(x)\}</math>
と表記する。<!--'''内包的記法''' ({{lang-en-short|''intensional definition''}}) と言う。--><!--definitionと「記法」は普通は対応させないと思う-->ここでは ''{{mvar|x}}'' という変数を用いているが、{ ''{{mvar|y}}'' | ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|y}}'') } と書いても { ''{{mvar|a}}'' | ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|a}}'') } と書いても構わない。set-builder notation([[:en:Set-builder notation]])やset comprehension、日本語では内包表記などとも言う。前述のようにそれぞれ、論理的な概念の外延と内包に由来するものであり日本語圏では数学分野でも今もそれらの語がよく使われているが、英語圏ではそれぞれの原語であるextensionとintensionはこの分野では今はあまり見なくなっている。
条件 ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|x}}'') は「''{{mvar|x}}'' が ''{{mvar|X}}'' の元であって、さらに条件 ''{{mvar|Q}}''(''{{mvar|x}}'') を満たす」というような形で与えられることが多い<ref group="注釈">「''{{mvar|x}}'' が ''{{mvar|X}}'' の元であって」というような断り書きをしない場合にも、実際には「普遍集合」 ({{Lang-en-short|''universal set'')}} あるいは「[[宇宙 (数学)|宇宙]]」 ({{Lang-en-short|''universe''}}) と呼ばれる、必要な議論を展開することができる程度に十分大きな集合を考え、集合と言えば必ずその普遍集合の部分集合だけを考えているといったようなことがしばしば行われる。条件 ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|x}}'') の形から ''{{mvar|x}}'' の属するべき集合 ''{{mvar|X}}'' がある程度限定される場合にも、断り書きはしばしば省略される。</ref>が、このとき定まる集合を {''{{mvar|x}}'' | ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|X}}'' かつ ''{{mvar|Q}}''(''{{mvar|x}}'')} のように書く代わりに、しばしば簡単に
: <math>\{x \in X \mid Q(x)\}</math>
などと略記する。集合 {''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|X}}'' | ''{{mvar|Q}}''(''{{mvar|x}}'')} は ''{{mvar|X}}'' の部分集合となる。また、条件 ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|x}}'') が「条件 ''{{mvar|Q}}''(''{{mvar|y}}'') を満たすようなある ''{{mvar|y}}'' を用いて ''{{mvar|x}}'' = ''{{mvar|f}}''(''{{mvar|y}}'') と表すことができる」というような形のときは、集合 { ''{{mvar|x}}'' | ''{{mvar|P}}''(''{{mvar|x}}'') } を
: <math>\{f(y) \mid Q(y)\}</math>
のように表すこともある。
要素を外延的に書きつくせないような集合、例えば自然数全体の集合を
: <math>\{0, 1, 2, 3, \dots \}</math>
のように書き表すこともあるが、"..." による省略部分は誤解を生じる余地があるため、このような記法はその省略された内容の意味が明らかである場合に限られる。
== 外延性の公理 ==
''{{mvar|A}}'', ''{{mvar|B}}''を任意の集合とするとき、もし任意の集合''{{mvar|X}}''について「''{{mvar|X}}''が{{mvar|A}}の[[元 (数学)|要素]]であるならば、そのときに限り{{mvar|X}}は{{mvar|B}}の要素である」が成り立つならば、{{mvar|A}}と{{mvar|B}}は等しい、とする。すなわち、
:<math>\forall A \, \forall B \, ( \forall X \, (X \in A \iff X \in B) \Rightarrow A = B)</math>
である。
{{see|外延性の公理}}
直感的な説明としては、たとえば、{1, 3, 5, 7, 9} と { ''{{mvar|x}}'' | ''{{mvar|x}}'' は 10 未満の正の奇数 } は異なる表現だが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合であるので、等しい集合だとする、ということである。<!--
{1, 3, 5, 7, 9} と { ''{{mvar|x}}'' | ''{{mvar|x}}'' は 10 未満の正の奇数 } は異なる表し方をされているが、どちらも自然数 1, 3, 5, 7, 9 を要素とする集合である。このように全く同じ要素からなる集合は等しいと考える。これを'''外延性の原理'''({{Lang-en-short|''principle of extensionality''}})と呼ぶ。外延性の原理を正確に書くと次のようになる:
: 任意の対象 ''{{mvar|x}}'' に対して ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|A}}'' ⇔ ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|B}}'' が成り立つならば、''{{mvar|A}}'' = ''{{mvar|B}}'' 。
外延性の原理より、
* { ''x'', ''y'' } = { ''y'', ''x'' }<ref name="ord-multi">集合 {''x'', ''y''} を ''x'' と ''y'' との順序を気にしない対という意味で'''非順序対''' ({{Lang-en-short|''unordered pair''}}) と呼ぶことがある。また、集合では {''x'', ''x''} = {''x''} だが、[[多重集合]]では {''x'', ''x''} ≠ {''x''} である(''x'' の重複度が左辺は 2 で右辺は 1)。</ref>,
* {(−1)<sup>1</sup>, (−1)<sup>2</sup>, (−1)<sup>3</sup>, ..., (−1)<sup>''n''</sup>} = {1, −1},
のようにそこに現れる元の順番を入れ替えたり、そこに含まれるのと同じ元をあらたに書き加えてももとの集合に等しい<ref name="ord-multi"></ref>。
{{要検証範囲|1=なお、外延性の原理の逆:
: ''A'' = ''B'' ならば、任意の対象 ''x'' に対して ''x'' ∈ ''A'' ⇔ ''x'' ∈ ''B''
は ''A'' = ''B'' の意味(''A'' と ''B'' が同一の対象を表す)から明らかに成り立つ。ここで、任意の対象 ''x'' に対して ''x'' ∈ ''A'' ⇔ ''x'' ∈ ''B'' が成り立つというのは、''A'' ⊆ ''B'' かつ ''B'' ⊆ ''A'' と同値であるから、
: ''A'' = ''B'' ⇔ ''A'' ⊆ ''B'' かつ ''B'' ⊆ ''A''
が成り立つ。|date=2012年2月}}
-->
== 特別な集合 ==
数学では、1 つも要素を持たないような集合も考える。外延性の原理によれば、このような集合はただ一つしか存在しないので、これを[[空集合]] ({{Lang-en-short|''empty set''}}) といい ∅ で表す。∅ は任意の集合 ''{{mvar|A}}'' の部分集合である。なぜなら、任意の対象 ''{{mvar|x}}'' に対して ''{{mvar|x}}'' ∉ ∅ より ''{{mvar|x}}'' ∈ ∅ ⇒ ''{{mvar|x}}'' ∈ ''{{mvar|A}}'' は真だからである。空集合の他にも決まった記号によって表される集合がいくつかある。日常的には一個だけ要素を持つものは集合とは呼ばれないが、数学ではそれも集合と呼ぶ(英語のsetやフランス語のensembleも日常的な用語では空集合や一個だけの集合に対しては使われない。):
* <math>\mathbb{N}</math> は[[自然数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{Z}</math> は[[整数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{Q}</math> は[[有理数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{R}</math> は[[実数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{C}</math> は[[複素数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{H}</math> は[[四元数]]全体の集合を表す。
* <math>\mathbb{U}</math> は[[グロタンディーク宇宙]]を表す。
== 濃度 ==
{{main|濃度 (数学)}}
有限個の元からなる集合を'''[[有限集合]]''' (ゆうげんしゅうごう、{{Lang-en-short|''finite set''}}) と呼び、集合 ''{{mvar|A}}'' の元の個数を #(''{{mvar|A}}''), |''{{mvar|A}}''|, card(''{{mvar|A}}'') などの記号で表すことが多い。有限集合でない集合を'''無限集合''' (むげんしゅうごう、{{Lang-en-short|''infinite set''}}) という。無限集合に対しても「個数」の概念を広げて、[[濃度 (数学)|濃度]] (のうど、{{Lang-en-short|''potency''}}) 、または'''[[基数]]''' (きすう、{{Lang-en-short|''cardinal number''}}, {{Lang-en-short|''cardinality''}}) というものを考える。[[数え上げ|個数を数える]]代わりに、ある集合を使って、その元で別の集合をラベル付け ({{Lang-en-short|''indexing''}}; 添字付け) して、[[全単射|一対一の対応]]がとれるかどうかを調べるのである。そうすると有限集合の濃度はちょうど元の個数で決まるので、ちゃんと無限集合への「個数」の拡張となる概念が定まっていることが確認できる。
無限集合はどれも「[[無限]]個」の元を持っているわけだが、どの無限もみな同じというわけではなく、濃度の概念ではたくさんの無限を区別して扱うことになる。たとえば、自然数と有理数が同じ濃度を持つ、自然数と実数は真に異なる濃度を持つといったような事実は数学を学ぶ者にとってよく知られた内容である。同様の事実に、平面 '''{{mvar|R}}'''<sup>2</sup> と数直線 '''{{mvar|R}}''' は同じ濃度を持ち、平面を覆いつくす'''平面充填曲線'''と呼ばれる不思議な平面曲線が何種類も存在することが述べられる。より[[次元]]の高い空間でも同様で、空間を埋め尽くす'''空間充填曲線'''が構築される。異なる次元をもつ空間が同じ濃度をもつというのは、次元や濃度が一方が他方を測るようなものではない異なる尺度であることを表しているのである。
== 集合の演算 ==
いくつかの集合を扱い、その関係性について論じるとき、もともと考えていた集合たちから新しい集合を作って調べるというのは有効な手段の一つである。これらの操作は、集合に対する[[演算]]と見なすことによって、[[集合族]]に関するいくつかの[[代数系]]を提供する。それらの代数系を抽象代数系と見なせば、抽象代数学の一般論を適用することでまたいくつかの概念を提供することになる。
=== 基本的な集合演算 ===
; 結び・合併・和: {{main|合併 (集合論)}} [[file:Venn0111.svg|150px|thumb|right|結びの模式図]]
: 二つの集合を「くっつけ」て一緒にしてしまうことで新しい集合を取り出すことができる。加法的な集合族の基本となる演算のひとつ。[[合併 (集合論)|和集合]]。
:: <math>A\cup B := \{x\mid x\in A \lor x\in B\}.</math>{{clear}}
; 交わり・交叉・積: {{main|交叉 (集合論)}} [[file:Venn0001.svg|150px|thumb|right|交わりの模式図]]
: 二つの集合の共通した部分を見つけることで、新しい集合を取り出すことができる。乗法的な集合族の基本となる演算。[[共通部分 (数学)|共通部分]]。
:: <math>A\cap B := \{x\mid x\in A\land x\in B\}.</math>{{clear}}
; 差・相対補: {{main|差集合}} [[file:Venn0100.svg|150px|thumb|right|差集合の模式図]]
: 二つの集合のうちの一方の集合について、それに帰属する元のうち、同時に他方にも含まれる元を取り除いて新しい集合を作ることができる。差は一方と他方の補集合との交わりであり、乗法的な演算である。
:: <math>A\smallsetminus B := \{x\mid x\in A \land x\notin B\}.</math>{{clear}}
; 補・絶対補: {{main|差集合}} [[file:Venn1010.svg|150px|thumb|right|補集合の模式図]]
: 全体集合(普遍集合)が与えられ、任意の集合は全体集合の部分集合であるという仮定のもとで、一つの集合の全体からの差。勝手な集合はその補集合と交わりを持たず、それらの和は全体集合に一致する。
:: <math>\complement A := \{x\mid x\notin A\}.</math>{{clear}}
; 対称差: {{main|対称差}} [[file:Venn0110.svg|150px|thumb|right|対称差の模式図]]
: 二つの集合の結びに帰属する元から、その交わりに属する元を取り除いて新しい集合を考えることができる。これは結びから交わりを引いた差である。結びと同様に加法的な演算。
:: <math>A\,\triangle\,B := (A\smallsetminus B)\cup(B\smallsetminus A).</math>{{clear}}
[[指示関数]]はこれらの集合演算を 0 と 1 からなる世界の代数的な演算に置き換える手段を与える。
: <math>A \harr \mathbf{1}_A(x):=\begin{cases}1&(x\in A)\\0&(x\notin A)\end{cases}.</math>
{{clear}}
=== その他の演算 ===
もとの全体集合の中に演算結果を求めるのではなく、むしろ引数となる集合たちをもとに新しい集合を作り出すことを目的とする演算もある。
; 冪: {{main|冪集合}} [[file:Hasse_diagram_of_powerset_of_3.svg|150px|thumb|right|三元集合の冪の模式図]]
: 与えられた集合に対して、その冪集合とは与えられた集合に包含される集合全体の集合である。ある集合の冪集合はその集合の部分集合からなる集合族のなかで最大のものであると言っても同じである。
:: <math>\mathcal{P}(X) := \{S\mid S\subseteq X\}. </math>{{clear}}
; 直積: {{main|直積集合}} [[file:2D Cartesian.svg|150px|thumb|right|直積の模式図]]
: 二つの集合に対し、それぞれに帰属する元の[[順序対|順序付けられた対]]を要素とする集合を作ることができる。
:: <math>X\times Y := \{(x,y)\mid x\in X\land y\in Y\}.</math>{{clear}}
; 直和・非交和: {{main|非交和}}
: 二つの集合の、交わりを持たない和。
; 配置集合・写像空間: {{main|配置集合}}
: ある集合から別の集合への[[写像]]を一つの元と見なすならば、その全体として新たな集合が見出される。直積集合は、順序数の各元に任意の集合を対応させる写像からなる配置集合と見ることもできる。
:: <math>Y^X := \{f\mid f\text{ is a mapping from }X\text{ to }Y \}.</math>
; 商: {{main|商集合}} [[file:Linalg partition.png|150px|thumb|right|集合の類別の模式図]]
: 集合に[[同値関係|類別]]を与えるとき、各類をその要素とする集合を考えることができる。
:: <math>X/{\sim} {}:= \{[x]\mid x\in X\}, \text{ where } [x] := \{y\in X\mid y\sim x\}.</math>{{clear}}
=== いくつかの集合族 ===
集合からなる族 {{math|'''A'''}} を考える。{{math|'''A'''}} が集合演算についていくつかの性質を満たすとき、それらには特別の名前が与えられることがある。
* {{math|'''A'''}} が(有限)交叉について閉じているとき {{仮リンク|π-系|en|pi-system}}であるといい、π-系が空集合を含むとき[[乗法族]]である<ref>例えば[http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~hora/Kakuritsu10-Memo.pdf 定義 2.1.]</ref>という<ref group="注釈">しばしば π-系と乗法族はこれと逆に扱われたり同義語の場合もある。例えば[http://www-an.acs.i.kyoto-u.ac.jp/~kigami/analysis1.pdf 定義 1.3.6.]や[http://link.springer.com/article/10.1023%2FA%3A1026102701631#page-1 ]は乗法族 (multiplicative class) に交叉について閉じていることのみを課している。</ref>([[ディンキン族]]も参照)。さらに可算交叉について閉じているとき [[δ-乗法族]]であるという。また、乗法族が包含関係を持つ任意の二つの集合に対し、一方から有限回の非交和を行って他方へ達する列を持つとき[[集合半環]]という。
* {{math|'''A'''}} が(有限)和と(有限)交叉について閉じているとき、集合の[[束 (束論)|束]]あるいは[[集合環|環]]という。{{math|'''A'''}} が空集合でなく(あるいは空集合を元として含み)、和と差について閉じている(あるいは同じことだが対称差と交叉について閉じている)場合に限って集合環と呼ぶ場合もある。さらに可算交叉について閉じていれば [[δ-集合環]]、可算和について閉じていれば [[σ-集合環]]という。また、これらが全体集合を含むならば[[集合代数|代数]]あるいは[[集合体|体]]という。δ-集合体は [[σ-集合体]]である。
* {{math|'''A'''}} が空集合を含み、(有限)和および補について閉じているとき加法族、特に[[有限加法族]]であるという。さらに可算和について閉じているならば[[完全加法族]]という。集合族 {{math|'''A'''}} が加法族であることは集合体であることと等価であり、同様に完全加法族は σ-集合体の別名である。
* [[単調族]]は包含関係に関する単調列の極限について閉じている集合族
* [[ディンキン族]](d-族、δ-族)は全体集合を含み、包含関係を持つ集合同士の差について閉じていて、可算増大列の極限について閉じている。[[ディンキン族|λ-系]]は全体集合を含み、補について閉じていて、可算非交和について閉じている。この二つは同じ概念を定める。
* [[層族]]はそれに属する任意の集合 {{mvar|A, B}} が {{math|''A'' ⊂ ''B''}} または {{math|''A'' ⊃ ''B''}} または {{math|''A'' ∩ ''B'' ≠ ∅}} の何れか一つのみを満たす。
* [[ブール環]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
===注釈===
{{Notelist}}
===出典===
<div class="references-small"><references /></div>
== 関連項目 ==
{{wiktionary}}
* [[写像]]
* [[集合論]] - [[素朴集合論]]/[[公理的集合論]]
* [[定義]] - 外延と内包
* [[セット (抽象データ型)]] - コンピュータ上での実装
== 外部リンク ==
* {{SpringerEOM|urlname=Set|title=Set}}
* {{MathWorld|urlname=Set|title=Set}}
* {{PlanetMath|urlname=Set|title=set}}
* {{nlab|urlname=set|title=Sets}}
{{集合論}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:しゆうこう}}
[[Category:集合論|*しゆうこう]]
[[Category:初等数学]]
[[Category:数学的対象]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T01:47:51Z | 2023-12-25T04:29:56Z | false | false | false | [
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"Template:仮リンク"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%90%88 |
7,444 | 零空間 | 数学、特に関数解析学において、線型作用素 A: V → W の零空間(ゼロくうかん、れいくうかん、英: null space)あるいは核空間(かくくうかん、英: kernel space)とは、
のことである。Ker(A) は N(A) や Nul(A) などとも書かれる。特に Ker は零空間が線型写像としての A の核 (英: kernel) に当たることを意味するのであるが、零空間という語を用いる文脈においては、核という言葉を熱核 (heat kernel) などの積分核に対して用いていることがほとんどであろうから注意されたい。
また、零空間という語をもちいる文脈においては、線型写像の像 (image) は値域 (range) と呼ばれ、線型作用素 A の値域は Ran(A) や R(A) と綴るのが通例のようである。
零空間は、ベクトル空間 V の部分空間である。さらに、 商空間 V/(Ker A) は、 A の像 R ( A ) := { y ∈ W ; ∃ x ∈ V s.t. y = A x } {\displaystyle R(A):=\{{\boldsymbol {y}}\in W;\ \exists \ {\boldsymbol {x}}\in V{\text{ s.t. }}{\boldsymbol {y}}=A{\boldsymbol {x}}\}} に同型である;特に次元について
が成り立つ。
Ker A = {0} であることと、線型写像 A が単射であることとは同値である。
もし、V と W が有限次元であり、基底が選ばれているならば、A は行列 M として表すことができて、 零空間は、線型連立方程式 Mx = 0 を解くことで計算できる。零空間の次元は、行列 M の列の数から階数 rank M を引くことで与えられ、それはまた行列 M の退化次数 (nullity) でもある。 | [
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] | 数学、特に関数解析学において、線型作用素 A: V → W の零空間(ゼロくうかん、れいくうかん、英: null space)あるいは核空間(かくくうかん、英: kernel space)とは、 のことである。Ker(A) は N(A) や Nul(A) などとも書かれる。特に Ker は零空間が線型写像としての A の核 (英: kernel) に当たることを意味するのであるが、零空間という語を用いる文脈においては、核という言葉を熱核 (heat kernel) などの積分核に対して用いていることがほとんどであろうから注意されたい。 また、零空間という語をもちいる文脈においては、線型写像の像 (image) は値域 (range) と呼ばれ、線型作用素 A の値域は Ran(A) や R(A) と綴るのが通例のようである。 零空間は、ベクトル空間 V の部分空間である。さらに、 商空間 V/(Ker A) は、 A の像 R ( A ) := { y ∈ W ; ∃ x ∈ V s.t. y = A x } に同型である;特に次元について が成り立つ。 Ker A = {0} であることと、線型写像 A が単射であることとは同値である。 もし、V と W が有限次元であり、基底が選ばれているならば、A は行列 M として表すことができて、 零空間は、線型連立方程式 Mx = 0 を解くことで計算できる。零空間の次元は、行列 M の列の数から階数 rank M を引くことで与えられ、それはまた行列 M の退化次数 (nullity) でもある。 | {{出典の明記|date=2023-05}}
[[数学]]、特に[[関数解析学]]において、[[線型写像|線型作用素]] ''A'': ''V'' → ''W'' の'''零空間'''(ゼロくうかん、れいくうかん、{{lang-en-short|null space}})あるいは'''核空間'''(かくくうかん、{{lang-en-short|kernel space}})とは、
:<math>\operatorname{Ker}(A):=\{ \boldsymbol{x} \in V; A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \}</math>
のことである。Ker(''A'') は ''N''(''A'') や Nul(''A'') などとも書かれる。特に Ker は零空間が[[線型写像]]としての ''A'' の[[核 (代数学)|核]] ({{lang-en-short|kernel}}) に当たることを意味するのであるが、零空間という語を用いる文脈においては、核という言葉を[[熱核]] ({{en|heat kernel}}) などの積分核に対して用いていることがほとんどであろうから注意されたい。
また、零空間という語をもちいる文脈においては、線型写像の像 ({{en|image}}) は値域 ({{en|range}}) と呼ばれ、線型作用素 ''A'' の値域は Ran(''A'') や ''R''(''A'') と綴るのが通例のようである。
零空間は、[[ベクトル空間]] ''V'' の[[部分線型空間|部分空間]]である。さらに、 [[商空間_(線型代数)|商空間]] ''V''/(Ker ''A'') は、 ''A'' の像 <math>R(A):=\{ \boldsymbol{y} \in W;\ \exists\ \boldsymbol{x} \in V \text{ s.t. } \boldsymbol{y}=A\boldsymbol{x} \}</math> に同型である;特に[[次元 (ベクトル空間)|次元]]について
:<math>\dim \operatorname{Ker}(A)=\dim V-\dim R(A)</math>
が成り立つ。
Ker ''A'' = {'''0'''} であることと、線型写像 ''A'' が[[単射]]であることとは同値である。
もし、''V'' と ''W'' が[[次元_(線型代数学)|有限次元]]であり、[[基底 (線型代数学)|基底]]が選ばれているならば、''A'' は[[行列 (数学)|行列]] '''''M''''' として表すことができて、 零空間は、[[線型方程式系|線型連立方程式]] '''''Mx''''' = '''0''' を解くことで計算できる。零空間の次元は、行列 '''''M''''' の列の数から[[行列の階数|階数]] rank '''''M''''' を引くことで与えられ、それはまた行列 '''''M''''' の[[行列の階数#線型写像の階数|退化次数]] ({{en|nullity}}) でもある。
== 関連項目 ==
* [[核 (代数学)]]
== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|1278|行列のカーネル(核)の性質と求め方}}
{{Linear-algebra-stub}}
{{線形代数}}
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[[Category:関数解析学]]
[[Category:数学に関する記事]]
[[Category:線型代数学]] | null | 2023-05-28T05:20:03Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%B6%E7%A9%BA%E9%96%93 |
7,447 | オフィスコンピュータ | オフィスコンピュータ(略称:オフコン)は、主に中小企業等での事務処理を行うために設計された、比較的小型のコンピュータ。主に日本のみで使われる呼称で、海外ではミニコンピュータ、ワークステーション、ミッドレンジコンピュータなどと呼ばれるコンピュータの一形態で、各メーカーによる独自設計が用いられていることが特徴である。
オフィスコンピュータはミニコンピュータ(ミニコン)とほぼ同クラスの機器であるが、ミニコンが主に科学技術計算(浮動小数点演算、通信・制御用、研究所や教育機関など)に利用されるのに対し、主に事務処理用(商用計算、10進数演算、帳票処理など)を想定した設計になっている。海外ではメインフレームなど大型機を持つメーカーを中心に、「スモール ビジネス コンピュータ」(Small Business Computer)、「ミッドレンジコンピュータ」(Midrange Computer)とも呼ばれる。
ミニコンピュータ同様に端末から操作される種類のコンピュータで、端末には高度な処理能力を必要とせず、文章や図表・印刷の体裁に至る機能までもを内部で処理して、端末の画面やプリンターへと出力する。特にオフィスコンピュータでは、伝票類の印刷や業務収支計算などのプログラムが用意されている。
日本では、1970年代後半から1990年代にかけて、中小企業の財務会計や給与計算、販売管理といった、全社的な業務処理システムや、大手企業の支社や支店、部門ごとの処理システムの構築用に多く導入され、全国の中小企業や工場の情報化に貢献した。日本でのオフィスコンピュータはメインフレームのような海外からの技術導入とは直接関係なく進化していった。また、日本独自の商習慣や日本語を扱う点などがシステムそのものの設計にも影響し、海外からの進出が困難だった市場でもある。設計は基本的に各メーカーの独自アーキテクチャである。
オフコンと呼ばれるコンピュータには、現在のサーバに相当するNEC S3100などのコンピュータから、クライアントやワークステーションに相当する富士通FACOM K-10やNEC N5200などのコンピュータまで存在する。市場の縮小の影響で、日立(1993年)、東芝(1996年)、NEC(2015年)などの大手メーカーが撤退した。現在の主なメーカーは日本IBM、三菱電機、富士通(ハードからは撤退)となっている。
現在の業務サーバに近い形で使用され、コンピュータネットワークを介して接続された端末からデータを入力したり、必要なデータを呼び出したりする。また入力機器は端末コンピュータに限らず、磁気カードリーダーやバーコードスキャナ、更にはキャッシュレジスターといった現在のPOSレジスターや、様々な計測機器の類いもネットワーク上に接続されて運用され、その中にはプリンターや、必要なら遠隔地のコンピュータや端末と接続するモデムなども含まれる。
外部から独立したネットワーク上で動作するこれらのシステムは、基本的に外部ネットワークとの接続を前提としていない。このため、専用の入力端末に専用のオペレーターが付くという形態で使用され、複数の端末と通信してデータのやり取りを行う。
設計としては、基本的にクローズドアーキテクチャ(専用設計=専用OSであることが多い)であり、専用の業務処理プログラム(多くは既製品パッケージソフトウェアをカスタマイズしたもの)を稼動させることを目的としている。すなわち、ある業務を行うための専用アプリケーションが動作する専用のコンピュータという構成のもので、ハードウェアとソフトウェアをセットにして納入され、その納入した業者が機器のメンテナンスからソフトウェア操作や運用方法をサポートする形態が多い。
このため、同機器が広く利用された時代に設立されたソフト会社には、これらオフィスコンピュータを構成・メンテナンスする業務が主であったため、「○○オフィスコンピュータ」という社名を使ったものが多い。
メーカー独自の仕様ではなく、業界の標準となっている仕様を用いることをオープン化という(オープンシステム参照)。この場合は、オープン標準のUnixだけでなく事実上標準OSとなっているWindowsも含まれる。
従来は各社独自仕様のハードウェア(CPUや筐体)とソフトウェア(OSなど)により構成されていたが、各社は1990年代以降はUNIXサーバやPCサーバで利用されるハードウェアに、オフコン用のOSを移植したものが増えている。例えば富士通のPRIMERGY 6000、日本電気 (NEC) のExpress5800/600、三菱電機のEntrance/CENTRAGEはx86系のCPUを搭載したPCサーバに独自OSを稼働させている。
旧来の端末は、受け取った画面データを表示したり、入力信号をデータ通信するだけの機能しか持たなかった。その一方、Windows系のパーソナルコンピュータ(主としてPC/AT互換機)の処理能力や記憶容量が向上し、受け取った数値データを必要な表に変換したり、接続されたプリンタやスキャナ等の接続機器からのデータを処理する能力も持ち合わせるようになり、これらのパソコンをLANでネットワーク化することで、かなりの業務処理が出来るようになった。また旧来のオフィスコンピュータは、いわゆる2000年問題を抱える事も多く、1999年までに多くのオフィスコンピュータがシステムの刷新を求められた。その結果、高価なオフィスコンピュータ(と複数の専用端末)は、システムの乗り換えによって汎用性のあるパーソナルコンピュータなどに代替され、徐々に使われなくなっていった。
しかしながら、オフィスコンピュータがクローズドアーキテクチャであったことから、長く蓄積された業務情報などの資産を全面的にWindows系OSなどへの環境に移行することはコスト的に困難である場合も多い。そのため、その過渡期的なものとして、オフィスコンピュータの端末としての機能をパソコン側の端末エミュレータに持たせる事で、双方の機能を共存させて連携・運用できるものもある。これらは、現在においても金融機関や病院などの一部オフィスで利用されている。また、仮想化技術によって、レガシーシステムとUNIXシステム、Windowsシステムなどのオープンシステムを一台のサーバにまとめられるようになった。
アメリカではトランジスタを使用したミニコンピュータからオフィスコンピュータにあたる Small Business Computer (SBC)が誕生したのに対して、日本では逆にオフィス向け小型コンピュータの方が先に進化した。このため、英語圏ではミニコンピュータにSBCが含まれるのに対して日本ではミニコンピュータとオフィスコンピュータが別のものとして存在することになった。
1959年、会計用機械を輸入販売していた日本事務器が電子会計機の国産化をNECに依頼した。NECは既に実績のあるパラメトロンを使用したNEAC 1201を開発し、1961年にリリースした。当時、日本事務機が唯一の販売代理店であった。これは好評をもって迎えられ、NECは1964年に後継機のNEAC 1210をリリースすることとなる。
NECの独擅場であったオフィス用小型コンピュータの市場だが、1965年、富士通がFACOM 230/10を投入。これは日本語COBOLを利用できるトランジスタ式コンピュータであった。また同年、日立製作所は独自OSのHITAC-8100を発売した。対するNECは1967年、ICを全面採用したNEAC 1240を発表。1968年には東芝 (TOSBAC-1500)、三菱電機 (MELCOM-81)、内田洋行 (USAC-300) などが製品を投入し、オフィスコンピュータ市場は一気に活況を呈することとなった。
1970年代には、販売管理、財務管理、人事給与など本格的な事務処理機能を備えたオフィスコンピュータが登場するようになった。特に1974年のNEAC システム100がオフコンの名を定着させた。
1980年代初頭はNEC、三菱電機、東芝の三強であったが、80年代後半にはNECと富士通の二強時代となった。さらに、1988年に日本IBMがAS/400の販売を開始し、三強の一角を形成するようになった。
1990年代前半にオフコン市場は全盛期を迎えたが、Windowsサーバの登場によりオープンシステムが事務用コンピュータ市場の主力となった。
独自OSやCPUよりもWindowsや汎用CPUに移行するオープン化の波によって、オフコン市場は縮小し、採算の取れなくなったメーカーの撤退が相次いだ。日立製作所は1993年に、東芝は1996年に新規モデルの製造を中止した。2000年の出荷台数は10170台が2015年にはその一割の1022台に落ち込んだ。2015年には、オフコン市場で富士通とトップシェアを争っていたNECが新規モデルの製造を中止した。2018年には、富士通がハードの製造から撤退し、クラウドでのオフコンサービスの提供に切り替えた。
2010年代でも、クラウド・システムやオープン系サーバ(WindowsやUnixサーバなど)とともに、クローズドなメインフレームやオフコンはその信頼性・安定性の高さから企業の基幹業務などに使用され続けている。 | [
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"text": "メーカー独自の仕様ではなく、業界の標準となっている仕様を用いることをオープン化という(オープンシステム参照)。この場合は、オープン標準のUnixだけでなく事実上標準OSとなっているWindowsも含まれる。",
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"text": "旧来の端末は、受け取った画面データを表示したり、入力信号をデータ通信するだけの機能しか持たなかった。その一方、Windows系のパーソナルコンピュータ(主としてPC/AT互換機)の処理能力や記憶容量が向上し、受け取った数値データを必要な表に変換したり、接続されたプリンタやスキャナ等の接続機器からのデータを処理する能力も持ち合わせるようになり、これらのパソコンをLANでネットワーク化することで、かなりの業務処理が出来るようになった。また旧来のオフィスコンピュータは、いわゆる2000年問題を抱える事も多く、1999年までに多くのオフィスコンピュータがシステムの刷新を求められた。その結果、高価なオフィスコンピュータ(と複数の専用端末)は、システムの乗り換えによって汎用性のあるパーソナルコンピュータなどに代替され、徐々に使われなくなっていった。",
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"text": "しかしながら、オフィスコンピュータがクローズドアーキテクチャであったことから、長く蓄積された業務情報などの資産を全面的にWindows系OSなどへの環境に移行することはコスト的に困難である場合も多い。そのため、その過渡期的なものとして、オフィスコンピュータの端末としての機能をパソコン側の端末エミュレータに持たせる事で、双方の機能を共存させて連携・運用できるものもある。これらは、現在においても金融機関や病院などの一部オフィスで利用されている。また、仮想化技術によって、レガシーシステムとUNIXシステム、Windowsシステムなどのオープンシステムを一台のサーバにまとめられるようになった。",
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"text": "1970年代には、販売管理、財務管理、人事給与など本格的な事務処理機能を備えたオフィスコンピュータが登場するようになった。特に1974年のNEAC システム100がオフコンの名を定着させた。",
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"text": "独自OSやCPUよりもWindowsや汎用CPUに移行するオープン化の波によって、オフコン市場は縮小し、採算の取れなくなったメーカーの撤退が相次いだ。日立製作所は1993年に、東芝は1996年に新規モデルの製造を中止した。2000年の出荷台数は10170台が2015年にはその一割の1022台に落ち込んだ。2015年には、オフコン市場で富士通とトップシェアを争っていたNECが新規モデルの製造を中止した。2018年には、富士通がハードの製造から撤退し、クラウドでのオフコンサービスの提供に切り替えた。",
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] | オフィスコンピュータは、主に中小企業等での事務処理を行うために設計された、比較的小型のコンピュータ。主に日本のみで使われる呼称で、海外ではミニコンピュータ、ワークステーション、ミッドレンジコンピュータなどと呼ばれるコンピュータの一形態で、各メーカーによる独自設計が用いられていることが特徴である。 | {{出典の明記|date=2021年10月}}
[[ファイル:Tosbac-1100d.jpg|サムネイル|初期のオフコン 東芝TOSBAC-1100D(1966年)]]
'''オフィスコンピュータ'''(略称:'''オフコン''')は、主に[[中小企業]]等での事務処理を行うために設計された、比較的小型の[[コンピュータ]]。主に[[日本]]のみで使われる呼称で、海外では[[ミニコンピュータ]]、[[ワークステーション]]、[[ミッドレンジコンピュータ]]などと呼ばれるコンピュータの一形態で、各メーカーによる独自設計が用いられていることが特徴である。
== 概要 ==
[[File:IBM AS-400 9406-720.jpg|thumb|IBM AS/400]]
オフィスコンピュータはミニコンピュータ(ミニコン)とほぼ同クラスの機器であるが、ミニコンが主に科学技術計算([[浮動小数点演算]]、[[通信]]・[[制御]]用、研究所や教育機関など)に利用されるのに対し、主に事務処理用(商用計算、10進数演算、帳票処理など)を想定した設計になっている。海外では[[メインフレーム]]など大型機を持つメーカーを中心に、「スモール ビジネス コンピュータ」(Small Business Computer)、「[[ミッドレンジコンピュータ]]」(Midrange Computer)とも呼ばれる。
ミニコンピュータ同様に[[端末]]から操作される種類のコンピュータで、端末には高度な処理能力を必要とせず、文章や図表・印刷の体裁に至る機能までもを内部で処理して、端末の画面やプリンターへと出力する。特にオフィスコンピュータでは、伝票類の印刷や業務収支計算などのプログラムが用意されている。
日本では、[[1970年代]]後半から[[1990年代]]にかけて、中小企業の[[財務]][[会計]]や[[給与]]計算、[[販売]]管理といった、全社的な業務処理システムや、大手企業の支社や支店、部門ごとの処理システムの構築用に多く導入され、全国の中小企業や工場の情報化に貢献した。日本でのオフィスコンピュータは[[メインフレーム]]のような海外からの技術導入とは直接関係なく進化していった。また、日本独自の商習慣や日本語を扱う点などがシステムそのものの設計にも影響し、海外からの進出が困難だった市場でもある。設計は基本的に各メーカーの独自アーキテクチャである。
オフコンと呼ばれるコンピュータには、現在の[[サーバ]]に相当するNEC [[S3100]]などのコンピュータから、[[クライアント (コンピュータ)|クライアント]]やワークステーションに相当する富士通[[FACOM K-10]]やNEC [[N5200]]などのコンピュータまで存在する。市場の縮小の影響で、[[日立製作所|日立]](1993年)、[[東芝]](1996年)、[[日本電気|NEC]](2015年)などの大手メーカーが撤退した。現在の主なメーカーは[[日本IBM]]、[[三菱電機]]、[[富士通]](ハードからは撤退)となっている。
;代表的なオフィスコンピュータ
* 富士通 : [[FACOM Kシリーズ]]、[[GRANPOWER]]6000(GP6000)シリーズ、[[PRIMERGY 6000]]、[[FACOM 9450]]、[[FMGシリーズ]](旧称[[FACOM Gシリーズ]])
* 日本電気 : [[N5200]]シリーズ、S3100シリーズ、S7100シリーズ、S100シリーズ、[[Express5800]]/600シリーズ
* [[IBM]] : [[AS/400|AS/400シリーズ]] → [[iSeries|eServer iSeries]] → [[System i]] → [[Power Systems]]
* [[日立製作所|日立]] : [[HITAC]]、L-30, L-50, L-70シリーズ、L-700シリーズ
* 三菱電機 : [[MELCOM|MELCOM80]]シリーズ、RX7000シリーズ、Entranceシリーズ、CENTRAGEシリーズ、CENTRAGE IIシリーズ
==運用形態==
現在の業務サーバに近い形で使用され、[[コンピュータネットワーク]]を介して接続された端末からデータを入力したり、必要なデータを呼び出したりする。また[[入力機器]]は端末コンピュータに限らず、[[磁気カードリーダー]]や[[バーコード]]スキャナ、更には[[キャッシュレジスター]]といった現在の[[POSレジスター]]や、様々な計測機器の類いもネットワーク上に接続されて運用され、その中には[[プリンター]]や、必要なら遠隔地のコンピュータや端末と接続する[[モデム]]なども含まれる。
外部から独立したネットワーク上で動作するこれらのシステムは、基本的に外部ネットワークとの接続を前提としていない。このため、専用の入力端末に専用のオペレーターが付くという形態で使用され、複数の端末と通信してデータのやり取りを行う。
== 構造・設計思想 ==
設計としては、基本的にクローズド[[コンピュータ・アーキテクチャ|アーキテクチャ]](専用設計=専用OSであることが多い)であり、専用の業務処理プログラム(多くは既製品[[パッケージソフトウェア]]をカスタマイズしたもの)を稼動させることを目的としている。すなわち、ある業務を行うための専用アプリケーションが動作する専用のコンピュータという構成のもので、ハードウェアとソフトウェアをセットにして納入され、その納入した業者が機器のメンテナンスからソフトウェア操作や運用方法をサポートする形態が多い。
このため、同機器が広く利用された時代に設立されたソフト会社には、これらオフィスコンピュータを構成・メンテナンスする業務が主であったため、「○○オフィスコンピュータ」という社名を使ったものが多い。
=== オープン化 ===
メーカー独自の仕様ではなく、業界の標準となっている仕様を用いることをオープン化という([[オープンシステム (コンピュータ)|オープンシステム]]参照)。この場合は、[[オープン標準]]の[[Unix]]だけでなく事実上標準OSとなっている[[Windows]]も含まれる。
従来は各社[[プロプライエタリ|独自仕様]]の[[ハードウェア]]([[CPU]]や[[筐体]])と[[ソフトウェア]]([[オペレーティングシステム|OS]]など)により構成されていたが、各社は[[1990年代]]以降は[[UNIX]]サーバや[[PCサーバ]]で利用されるハードウェアに、オフコン用のOSを移植したものが増えている。例えば[[富士通]]の[[PRIMERGY 6000]]、[[日本電気]] (NEC) の[[Express5800]]/600、[[三菱電機]]のEntrance/CENTRAGEは[[x86]]系の[[CPU]]を搭載した[[PCサーバ]]に独自OSを稼働させている。
旧来の端末は、受け取った画面データを表示したり、入力信号をデータ通信するだけの機能しか持たなかった。その一方、[[Microsoft Windows|Windows]]系の[[パーソナルコンピュータ]](主として[[PC/AT互換機]])の処理能力や記憶容量が向上し、受け取った数値データを必要な表に変換したり、接続されたプリンタや[[イメージスキャナ|スキャナ]]等の接続機器からのデータを処理する能力も持ち合わせるようになり、これらのパソコンを[[Local Area Network|LAN]]で[[コンピュータネットワーク|ネットワーク]]化することで、かなりの業務処理が出来るようになった。また旧来のオフィスコンピュータは、いわゆる[[2000年問題]]を抱える事も多く、[[1999年]]までに多くのオフィスコンピュータがシステムの刷新を求められた。その結果、高価なオフィスコンピュータ(と複数の専用端末)は、システムの乗り換えによって汎用性のあるパーソナルコンピュータなどに代替され、徐々に使われなくなっていった。
しかしながら、オフィスコンピュータがクローズドアーキテクチャであったことから、長く蓄積された業務情報などの資産を全面的にWindows系OSなどへの環境に移行することはコスト的に困難である場合も多い。そのため、その過渡期的なものとして、オフィスコンピュータの端末としての機能をパソコン側の[[端末エミュレータ]]に持たせる事で、双方の機能を共存させて連携・運用できるものもある。これらは、現在においても[[金融機関]]や[[病院]]などの一部オフィスで利用されている。また、[[仮想化]]技術によって、レガシーシステムとUNIXシステム、Windowsシステムなどのオープンシステムを一台のサーバにまとめられるようになった。
== 歴史 ==
[[アメリカ合衆国|アメリカ]]では[[トランジスタ]]を使用した[[ミニコンピュータ]]からオフィスコンピュータにあたる Small Business Computer (SBC)が誕生したのに対して、日本では逆にオフィス向け小型コンピュータの方が先に進化した。このため、[[英語]]圏ではミニコンピュータにSBCが含まれるのに対して日本ではミニコンピュータとオフィスコンピュータが別のものとして存在することになった。
[[1959年]]、会計用機械を輸入販売していた[[日本事務器]]が電子会計機の国産化をNECに依頼した。NECは既に実績のある[[パラメトロン]]を使用した[[NEAC|NEAC 1201]]を開発し、[[1961年]]にリリースした。当時、日本事務機が唯一の販売代理店であった。これは好評をもって迎えられ、NECは[[1964年]]に後継機のNEAC 1210をリリースすることとなる。
NECの独擅場であったオフィス用小型コンピュータの市場だが、[[1965年]]、富士通が[[FACOM|FACOM 230/10]]を投入。これは[[日本語]][[COBOL]]を利用できるトランジスタ式コンピュータであった。また同年、[[日立製作所]]は独自OSの[[HITAC|HITAC-8100]]を発売した。対するNECは[[1967年]]、[[集積回路|IC]]を全面採用したNEAC 1240を発表。[[1968年]]には[[東芝]] ([[TOSBAC|TOSBAC-1500]])、[[三菱電機]] ([[MELCOM|MELCOM-81]])、[[内田洋行]] (USAC-300) などが製品を投入し、オフィスコンピュータ市場は一気に活況を呈することとなった。
[[1970年代]]には、販売管理、財務管理、人事給与など本格的な事務処理機能を備えたオフィスコンピュータが登場するようになった。特に[[1974年]]のNEAC システム100がオフコンの名を定着させた。
[[1980年代]]初頭はNEC、三菱電機、東芝の三強であったが、80年代後半にはNECと富士通の二強時代となった<ref>[http://www.kogures.com/hitoshi/history/office-computer/index.html オフィスコンピュータの歴史]</ref>。さらに、[[1988年]]に日本IBMが[[AS/400]]の販売を開始し、三強の一角を形成するようになった<ref>[https://xtech.nikkei.com/it/atcl/column/16/121500301/121500001/?itp_leaf_index 撤退か継続か、判断分かれるオフコンベンダー]</ref>。
[[1990年代]]前半にオフコン市場は全盛期を迎えたが、[[Windows Server|Windowsサーバ]]の登場により[[オープンシステム (コンピュータ)|オープンシステム]]が事務用コンピュータ市場の主力となった。
独自OSやCPUよりもWindowsや汎用CPUに移行するオープン化の波によって、オフコン市場は縮小し、採算の取れなくなったメーカーの撤退が相次いだ。日立製作所は1993年に、東芝は1996年に新規モデルの製造を中止した。2000年の出荷台数は10170台が2015年にはその一割の1022台に落ち込んだ<ref>[https://xtech.nikkei.com/it/atcl/column/16/121500301/ オフコンの憂鬱]</ref>。<!--2005年、サーバの稼動台数ではPCサーバが73.9%(オフィスコンピュータは12.3%)と圧倒的だが、利用用途別シェアで基幹業務用途だと汎用機30.6%、オフィスコンピュータ36.2%となる<ref>[[日経BP社]]の日経ソリューションビジネス(2005/10/30号)の記事「基幹業務のプラットフォームは[[メインフレーム|汎用機]]とオフコンが依然7割近く」</ref>。-->2015年には、オフコン市場で富士通とトップシェアを争っていたNECが新規モデルの製造を中止した。2018年には、富士通がハードの製造から撤退し、クラウドでのオフコンサービスの提供に切り替えた<ref>[https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/020800017/042700050/ 富士通と日立は縮小もIBMは新型機、ハード戦略の違い鮮明]</ref>。
2010年代でも、[[クラウド・コンピューティング|クラウド・システム]]やオープン系サーバ(WindowsやUnixサーバなど)とともに、クローズドなメインフレームやオフコンはその信頼性・安定性の高さから企業の基幹業務などに使用され続けている。
== 脚注 ==
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{{Reflist}}
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== 関連項目 ==
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*[[レガシーマイグレーション]](オフコンマイグレーション)
*[[オフィス・オートメーション]]
{{Div col end}}
== 外部リンク ==
*[http://museum.ipsj.or.jp/computer/office/ 情報処理学会 コンピュータ博物館 オフィスコンピュータ]
*{{kotobank}}
*{{kotobank|office computer}}
*{{kotobank|オフィスコンピューター}}
*[https://www.offcom.jp/ オフコン練習帳] - NEC製オフコンについての情報
*[http://www.uchida.co.jp/solution/system/offcom/ 内田洋行 オフコン広場]
*[https://allabout.co.jp/gm/gc/296674/ オフコンシステムの移行 (All About)]
*日本IBMのオフコン
**[https://www.ibm.com/systems/jp-ja/power/software/i/index.html IBM System i - Japan]
*富士通・内田洋行のオフコン
**[http://primeserver.fujitsu.com/primergy6/ 富士通 オフコン PRIMERGY6000]
**[http://www.uchida.co.jp/jsyohin/usac/ 内田洋行 ビジネスサーバ USAC NetGLOBE9000III]
*NECのオフコン
**[http://www.express.nec.co.jp/pcserver/products/600/ NEC オフコン資産継承 Express5800/600]
*三菱電機・日本ユニシスのオフコン
**[http://www.mdit.co.jp/entrance-ds/ 三菱電機インフォメーションテクノロジー Entrance DS 1000]
**[http://www.mdit.co.jp/entrance-ds2/ 三菱電機インフォメーションテクノロジー Entrance DS2000V]
**[http://www.mdit.co.jp/centrage/ 三菱電機インフォメーションテクノロジー CENTRAGE]
**[http://www.mdit.co.jp/centrage2/ 三菱電機インフォメーションテクノロジー CENTRAGE II]
**[http://www.unisys.co.jp/rx7000/ 日本ユニシス RX7000 CENTRAGE シリーズ]
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[[Category:オフィスコンピュータ|*]]
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[[mk:Миникомпјутери]] | 2003-04-29T05:04:33Z | 2023-07-30T09:16:17Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF |
7,448 | ドライアイス | ドライアイス (英: dry ice) は、固体二酸化炭素 (CO2) の商品名である。生鮮食品の冷温保管・輸送などに用いられる。固形炭酸、固体炭酸とも言う。
商品としては形状から次に分けられる。
ブロック状の大きな塊のほうが、溶けにくく長時間にわたって利用することが可能であるが、利用する際にハンマーなどで小さく割って利用する必要がある。スノー・ペレットなどは、ブロックに比べて短時間ではあるが、より急速に冷やすことが可能である。
ドライアイスは以下のような工程で製造される。
日本でドライアイスを製造する企業8社は1979年以降、業界団体「ドライアイスメーカー会」(任意団体)を組織している。エア・ウォーター炭酸、日本液炭、昭和電工ガスプロダクツなどが大手である。
近年、日本では製油所や化学工場の閉鎖によって副産される二酸化炭素の量が減り、ドライアイスの生産量が減少しているため、供給不足となっている。2013年には不足分1万トン以上が大韓民国から輸入された。
ドライアイスの国内需要は年35万トン前後で、うち2万6000トン前後を輸入している。夏季(6月末〜旧盆)の需要が特に多く「45日ビジネス」とも言われる。電子商取引(インターネット通販)での生鮮食品の輸送量が増えるとともに、ドライアイスの消費量も増加傾向にある。
最初にドライアイスを観察したのは、1835年にフランスのアドリアン-ジャン-ピエール・ティロリエ (Adrien-Jean-Pierre Thilorier: 1790 – 1844) が行った実験で、自ら作成した装置で作った液化二酸化炭素を入れた容器を開けると、急速に気化して固体が残る現象が確認された。
1895年にはイギリスの化学者エルワシー (Elworthy) とヘンダーソン (Henderson) が炭酸ガス固化法の特許を取得し、冷凍用途での使用を提唱した。
1924年にアメリカ合衆国のトーマス・スレート (Thomas B. Slate) は販売のために特許を申請し、最初の商業生産者となった。 1925年にはアメリカ合衆国のドライアイス社 (DryIce Corporation) が「Dry ice」を商標登録した。現在は、この商標が一般名詞化して「dry ice」と呼ばれている。一方、イギリスのエア・リキードUK社 (Air Liquide UK Ltd.) は「Cardice」で商標登録を行った。
下記のいずれか、可能であれば複数を行うことで、ドライアイスを長持ちさせることが出来る。
#製造方法で述べたとおり、ドライアイスは圧縮された気体であり、昇華して気体になると体積は約750倍になる。当然ながら、ガラス瓶やペットボトルなどの容器で密閉保存してしまうと、容器内の圧力が急激に上昇してしまう。さらにその状態で、
などとなって、容器に衝撃が加わると、圧力に耐え切れない容器が破裂・爆発し、破片やキャップが飛び散り、非常に危険である。
実際に、炭酸水を作ろうとしてペットボトルやビン容器に飲料とドライアイスを入れて密閉した状態で容器を振るなどしたところ、容器が破裂してビンの破片やキャップなどが吹き飛び、腕や顔面に重傷を負ったという事故が相次いでおり、国民生活センターが注意喚起を行う事態に発展した。中には「破裂して吹き飛んだペットボトルのキャップが眼球に直撃してしまい失明」という事故も報告されている。 | [
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"text": "下記のいずれか、可能であれば複数を行うことで、ドライアイスを長持ちさせることが出来る。",
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"text": "#製造方法で述べたとおり、ドライアイスは圧縮された気体であり、昇華して気体になると体積は約750倍になる。当然ながら、ガラス瓶やペットボトルなどの容器で密閉保存してしまうと、容器内の圧力が急激に上昇してしまう。さらにその状態で、",
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"text": "などとなって、容器に衝撃が加わると、圧力に耐え切れない容器が破裂・爆発し、破片やキャップが飛び散り、非常に危険である。",
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] | ドライアイス (英: dry ice) は、固体二酸化炭素 (CO2) の商品名である。生鮮食品の冷温保管・輸送などに用いられる。固形炭酸、固体炭酸とも言う。 | [[ファイル:Trockeneis.jpg|thumb|250px|ドライアイス。常温常圧下では[[昇華 (化学)|昇華]]して直接気体の[[二酸化炭素]]になる。]]
[[ファイル:Carbon-dioxide-crystal-3D-vdW.png|thumb|250px|二酸化炭素の固体の分子構造模式図]]
[[ファイル:Dry ice in water.JPG|thumb|250px|ドライアイスは、[[水]]に入れると大量の白煙を発生する。]]
[[ファイル:Dry_Ice_Pellets_Subliming.jpg|thumb|250px|取り扱いが容易なペレット状のドライアイス。]]
'''ドライアイス''' ({{Lang-en-short|dry ice}}) は、固体[[二酸化炭素]] (CO<sub>2</sub>) の商品名である。生鮮食品の冷温保管・輸送などに用いられる。'''固形炭酸'''、'''固体炭酸'''とも言う。
== 物理的性質 ==
*ドライアイスは[[常圧]]環境下では[[液体]]とならず、直接[[気体]]に[[昇華_(化学)|昇華]]する。
* [[比重]]: 1.56
* 昇華温度: −78.5 ℃(1[[気圧]]において)<ref name=理化学辞典co2>{{Cite book|和書
|chapter=二酸化炭素
|title=岩波理化学辞典
|others=長倉三郎ほか
|publisher=岩波書店
|year=1999
|edition=第5版CD-ROM版
|isbn=4001301024
}}</ref>
* [[昇華潜熱]]: 573 [[キロジュール|kJ]]/kg (137 kcal/kg)(1気圧において)<ref name=理化学辞典co2 />
* 冷却能力は同容積の氷の約3.3倍となる<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.n-eco.co.jp/company/business/dryice/index.html#a_dcharacter|title=ドライアイスの性質|publisher=日本液炭|accessdate=2017-03-29}}</ref>。
*ドライアイスを[[空気]]中に置くと、空気中の[[水|水分]]が凍り、白煙が発生する。
== 種類 ==
商品としては形状から次に分けられる<ref>{{Cite web|和書|date=|url=http://www.sdk.co.jp/gaspro/products/dryice/dryice.html|title=ドライアイス 製品・商品情報|publisher=昭和電工ガスプロダクツ株式会社|language=日本語|accessdate=2017-03-29}}</ref>。
* スノー - 粉末状
* ペレット - 小粒
* ブロック - 塊
ブロック状の大きな塊のほうが、溶けにくく長時間にわたって利用することが可能であるが、利用する際に[[ハンマー]]などで小さく割って利用する必要がある。スノー・ペレットなどは、ブロックに比べて短時間ではあるが、より急速に冷やすことが可能である。
== 製造方法と日本での需給 ==
ドライアイスは以下のような工程で製造される<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.n-eco.co.jp/company/environment/index.html|title=環境対策・製造工程|publisher=日本液炭|accessdate=2017-03-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=http://www.sdk.co.jp/gaspro/dryice/process.html|title=炭酸ガスとドライアイスの製造工程|publisher=昭和電工ガスプロダクツ株式会社|accessdate=2017-03-29}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www.awci.co.jp/library/process.html|title=製造プロセス|publisher=エア・ウォーター炭酸株式会社|accessdate=2017-03-29}}</ref>。
#製油所の精製過程、[[アンモニア]] (NH<sub>3</sub>)の製造過程、[[ビール]]工場等の[[発酵]]過程などで出る、[[副産物]]としての気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を用意し、[[洗浄塔]]で精製する。
#その気体の二酸化炭素を、加圧圧縮した後に冷却して[[液化]]させる。
#その液体の二酸化炭素を急速に大気圧力にすると、[[気化熱]]が奪われることにより自身の[[温度]]が[[凝固点]]を下回る。このことを利用して[[粉末]]状の固体にする。
#その固体をプレス機で成形して製品にする。この方法で製造した場合、ドライアイスは細かい粉体(パウダースノー([[粉雪]])状態)で、圧縮しても固めることができない。したがって、ブロック状またはペレット状で市販されるドライアイスには固めるための[[水]] (H<sub>2</sub>O) が数[[パーセント]]添加されている<ref>[https://www.daiwaox.com/dryice/ ドライアイス] 大和酸素工業株式会社</ref><ref>[[左巻健男]]『面白くて眠れなくなる理科』文庫版 PHP研究所 53p</ref>。
日本でドライアイスを製造する企業8社は[[1979年]]以降、[[業界団体]]「ドライアイスメーカー会」([[権利能力なき社団|任意団体]])を組織している<ref>[http://www.dryicemaker.jp/index.html ドライアイスメーカー会](2018年6月17日閲覧)。</ref>。[[エア・ウォーター炭酸]]、[[日本液炭]]、[[昭和電工ガスプロダクツ]]などが大手である。
近年、日本では[[製油所]]や化学工場の閉鎖によって副産される二酸化炭素の量が減り、ドライアイスの生産量が減少しているため、供給不足となっている。[[2013年]]には不足分1万トン以上が[[大韓民国]]から輸入された<ref>化学工業日報社、「今夏も韓国産ドライアイス」『化学工業日報』2014年7月7日p1、東京、化学工業日報社</ref>。
ドライアイスの国内需要は年35万トン前後で、うち2万6000トン前後を輸入している。夏季(6月末{{~}}[[お盆|旧盆]])の需要が特に多く「45日ビジネス」とも言われる。[[電子商取引]]([[インターネット販売|インターネット通販]])での[[生鮮食品]]の輸送量が増えるとともに、ドライアイスの消費量も増加傾向にある<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31631980R10C18A6QM8000/ 「ドライアイス 冷や汗の夏/原料足りず品薄 輸入でコスト増/各社、値上げには動けず」]『日本経済新聞』朝刊2018年6月13日(マーケット商品面)2018年6月17日閲覧。</ref>。
== 歴史 ==
[[ファイル:Liquid carbon dioxide generator, Thilorier (1834).JPG|thumb|250px|ティロリエの液化二酸化炭素装置。]]
最初にドライアイスを観察したのは、[[1835年]]に[[フランス]]のアドリアン-ジャン-ピエール・ティロリエ ([[:en:Adrien-Jean-Pierre Thilorier|Adrien-Jean-Pierre Thilorier]]: 1790 – 1844) が行った実験で、自ら作成した装置で作った液化二酸化炭素を入れた容器を開けると、急速に気化して固体が残る現象が確認された。
[[1895年]]には[[イギリス]]の化学者エルワシー (Elworthy) とヘンダーソン (Henderson) が炭酸ガス固化法の[[特許]]を取得し、冷凍用途での使用を提唱した<ref>{{Cite web|和書|date=|url=http://www.sdk.co.jp/gaspro/dryice/history.html|title=炭酸ガスとドライアイスの歴史|publisher=昭和電工ガスプロダクツ株式会社|language=日本語|accessdate=2014-08-08}}</ref>。
[[1924年]]に[[アメリカ合衆国]]のトーマス・スレート (Thomas B. Slate) は販売のために特許を申請し、最初の商業生産者となった。
[[1925年]]にはアメリカ合衆国のドライアイス社 (DryIce Corporation) が「Dry ice」を[[商標]]登録した。現在は、この商標が[[名詞|一般名詞]]化して「dry ice」と呼ばれている。一方、イギリスのエア・リキードUK社 (Air Liquide UK Ltd.) は「Cardice」で[[商標登録]]を行った。
== 主な用途 ==
[[ファイル:Rubbermold.jpg|thumb|220x220px|タイヤの金型にドライアイス洗浄を行っている様子。]]
; 食品の保冷剤
: 温度が[[氷]]よりも低く、[[昇華 (化学)|昇華]]して気体となり、液化による濡れ等が生じない。このため扱いが比較的容易であり、[[冷凍食品]]・[[アイスクリーム]]・[[ケーキ]]等の[[食品]]を溶けないように、または腐らせないように輸送する時などの[[保冷剤]]として使われる。
; 舞台のスモーク効果
: 水中に入れることで、強い毒性や悪臭がない白煙を大量に発生させることができる。[[舞台]]などでの[[特殊効果]]では湯にドライアイスを投入した白煙がよく用いられる。よく[[二酸化炭素]]が気体になったものと思われがちだが、白煙は二酸化炭素ではない。ドライアイスを水などの液体中に入れた場合での白煙の正体は空気中の水分だという説や、ドライアイスに触れた液体が微小な固体粉末になったものという説などのいくつかの説があるが、詳しくは判明していない<ref>{{Cite web|和書|title=ドライアイスの煙は二酸化炭素ではない!?意外と知らないドライアイスの煙の正体は?|url=https://fundo.jp/284350|website=FUNDO|accessdate=2021-07-27|language=ja}}</ref>。水以外でも、[[酢酸]]、[[ベンゼン]]など、二酸化炭素の[[昇華点]]よりも[[融点]]が高く、[[粘性]]が十分小さい液体中に入れたときも白煙は発生する<ref>{{Cite journal|和書
|author = 松川利行
|year = 2008
|title = 水に投じたドライアイスで生じる白煙について―氷微粉末(固体)である証明
|journal = 研究紀要
|volume = 40
|issue =
|pages = 113-117頁
|publisher = [[日本理化学協会]]
|issn =
|doi =
|id =
|url = https://web.archive.org/web/20180108220910/http://www.page.sannet.ne.jp/matukawa/dryice.pdf
|format = PDF
}}</ref>。
; 遺体の保存
: [[人間]]や[[動物]]の[[遺体]]保存にも使われ、遺体と一緒にしたまま[[火葬]]しても有害ガスが出ないことから、根強い需要がある。
; 人工降雨・降雪技術
: 水資源の安定確保・枯渇対策を目的とした、[[人工降雨]]・降雪技術の確立のための研究も行われている<ref>[http://www.metsoc-hokkaido.jp/history/archives/pdf/kaki2008kubota.pdf 3.天気は変えられるか!?~人工降雨・降雪で水不足克服!?~] 日本気象協会北海道支社 </ref>。
<!-- 出典のない医療情報をコメントアウト(2017年3月)
; イボなどの切除治療
: 医療では[[イボ]]や[[胼胝]]の切除治療にも使われることがある。しかし、ドライアイスは保存しにくく、また確実な施術もしにくいため、[[液体窒素]]のほうが現在主流となっている。
-->
; 自動車の洗浄・エンジン冷却
: ドライアイスと[[圧縮機|コンプレッサー]]の圧縮空気を利用した「[[ドライアイス洗浄]]」が、[[有機溶媒]]などと比べて環境に良いとされ、[[自動車産業]]を中心に多く利用されてきている。
: また、F1など競技車両では走行直後の駐停車の際に、シリンダー形状のドライアイスを専用の筒に入れ送風機を組み合わせて強制的なエンジン冷却に利用されている。
; 混合物による寒剤
: [[有機溶媒]]とドライアイスとの[[混合物]]は[[寒剤]]とすることができる。たとえば、[[エタノール]]とドライアイスとでは -72 ℃、[[ジエチルエーテル]]とドライアイスとでは -77 ℃の[[低温]]が得られる<ref>{{Cite book|和書
|chapter=寒剤
|title=岩波理化学辞典
|others=長倉三郎ほか 編集
|publisher=岩波書店
|year=1999
|edition=第5版CD-ROM版
|isbn=4001301024
}}</ref>。
; ワクチンの輸送
: アフリカ大陸における[[ポリオワクチン]]や新型コロナワクチン([[新型コロナウイルス感染症 (2019年)|COVID-19]]:[[RNAワクチン]])の空輸に利用されている。
==取り扱い方法==
===一般家庭での利用===
*ドライアイスは食用を考慮して製造されていないため、[[飲料]]にドライアイスを入れて[[炭酸水]]を作ることは衛生上の観点からも避けた方がよい。
*食品を冷やす場合は間接的な冷却を行うのが好ましい。
===長持ちさせる方法===
下記のいずれか、可能であれば複数を行うことで、ドライアイスを長持ちさせることが出来る。
* ドライアイスを、新聞紙・[[タオル]]などで包む。
* 発泡スチロール製のボックスに入れて、空気を遮断して保管する。(ドライアイス専用ボックスだと極めて効果が高い)
* 発泡スチロール製のボックス内に、詰め物をしてスペースを作らないようにする。
* 密封型の[[ビニール袋]]に入れて、空気を遮断して保管する。(破裂を防ぐため、穴を一つあけること)
* 冷蔵庫の冷凍庫に入れて保管する。
* 暗所・冷所・風が通らない場所に置く。
* 砕かず、大きなブロック状のまま保存する。
*[[液体窒素]]の中に入れる。
== 危険性・取扱い上の注意点==
{{Seealso|en:Hypercapnia}}
===二酸化炭素中毒===
*ドライアイスは日常的に用いられるが、高[[濃度]](およそ7 - 8%以上)の二酸化炭素を吸入すると、たとえ[[酸素]]が大気中と同等程度含まれていても、二酸化炭素が[[呼吸中枢]]に[[毒性]]を示すために自発[[呼吸]]が停止し、[[窒息]]することがある。特に昇華して二酸化炭素の気体になった場合は足下に滞留しやすいため、窒息あるいは[[酸素欠乏症|酸欠]]による事故の危険がある。[[冷凍庫]]のような屋内や、[[自動車]]内で扱う際は、締め切らずに通気や換気を行う必要がある。たとえば 350 [[グラム|g]]のドライアイスを乗員室容積 2,000 [[リットル|L]]の密閉した車内に放置すると、1時間で車内の炭酸ガス濃度は約10%となり、[[中毒]]を起こして[[意識不明]]に陥る危険性がある<ref>{{Cite book|和書
|author = 船山信次
|title = [[図解雑学シリーズ|図解雑学]] 毒の科学
|year = 2003
|publisher = [[ナツメ社]]
|isbn = 4-8163-3287-1
|page = 189
}}</ref>。
*高い場所でドライアイスを扱った際、二酸化炭素が離れた低い場所に流れ込み、そこで酸欠を起こした事故もある。
*「使用を誤ると酸欠事故の恐れがある」「廃棄できず、昇華するのを待つ必要がある」「商品表面に二酸化炭素が浸透し、炭酸飲料のような刺激感を与えてしまう」「二酸化炭素は[[地球温暖化]]の原因物質という[[ネガティブキャンペーン|ネガティブイメージ]]がある」といった欠点のため、近年ではドライアイスに代わって、[[ポリアクリル酸ナトリウム]]などの[[高吸水性高分子]]と水を[[ポリ袋]]に詰めた蓄冷剤が普及してきている。特に冷蔵でよいケーキの持ち帰り用には大部分がこの蓄冷剤に取って代わられた。なお、食品に使われるドライアイスは[[アンモニア]]製造や[[ビール]]工場等の[[発酵]]過程で出る[[副産物]]を利用している。発酵の副産物として製造されたドライアイスの使用は大気中の二酸化炭素の純増にはならず、地球温暖化の原因物質ではない。
=== ペットボトル破裂事故 ===
[[#製造方法]]で述べたとおり、ドライアイスは'''圧縮された気体'''であり、昇華して気体になると体積は'''約750倍'''になる。当然ながら、ガラス瓶や[[ペットボトル]]などの容器で密閉保存してしまうと、容器内の圧力が急激に上昇してしまう。さらにその状態で、
* 容器が長時間にわたって放置される
* 容器を振る
* 容器を落とす
* 容器を床や壁などに叩きつける
* 容器を投げ飛ばす
などとなって、容器に衝撃が加わると、圧力に耐え切れない容器が破裂・爆発し、破片やキャップが飛び散り、非常に危険である。
実際に、[[炭酸水]]を作ろうとしてペットボトルやビン容器に飲料とドライアイスを入れて密閉した状態で容器を振るなどしたところ、容器が破裂してビンの破片やキャップなどが吹き飛び、腕や顔面に重傷を負ったという事故が相次いでおり、[[国民生活センター]]が注意喚起を行う事態に発展した。中には「破裂して吹き飛んだペットボトルのキャップが[[眼球]]に直撃してしまい[[失明]]」という事故も報告されている<ref>{{Cite web|和書
|author = [[国民生活センター]]
|date = 2007-09-05
|url = http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20070815_1.html
|title = ドライアイスを入れて密閉したペットボトルが破裂して大けが!!
|work = 発表情報
|publisher = <!-- ウェブサイトを設置している組織・団体・企業・官公庁など -->
|accessdate = 2012-01-12
}}</ref>。
===凍傷===
*直接手で触れると[[凍傷]]を起こす危険がある。
*直接口に含む行為は凍傷や二酸化炭素 (CO<sub>2</sub>) 中毒の恐れがあり危険である。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
<!-- == 参考文献 == {{Cite book}}、{{Cite journal}} -->
== 関連項目 ==
{{Wiktionary}}
{{Commonscat|Dry ice}}
* [[二酸化炭素]]
* [[保冷剤]]
== 外部リンク ==
* [http://www.dryicemaker.jp/about_dryice.html ドライアイスとは] - ドライアイスメーカー会
* {{Kotobank}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:とらいあいす}}
[[Category:二酸化炭素]]
[[Category:冷凍]]
[[Category:登録商標]]
[[Category:産業用ガス]]
[[fi:Hiilidioksidi#Kuivajää]]
[[fr:Dioxyde de carbone#Sous forme solide]] | 2003-04-29T05:19:51Z | 2023-11-06T05:00:44Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%B9 |
7,449 | Squeak | ■カテゴリ / ■テンプレート
Squeak(スクイーク)はSmalltalk環境のひとつで、ゼロックスが1980年当時の主要コンピュータメーカー(IBM、DEC、ヒューレット・パッカード、Apple Computer、Tektronix)にライセンス供与したSmalltalk-80の販売直前バージョン (v1) をベースに、Appleが自社のLisaおよびMacintosh用に開発したApple Smalltalkから派生したものである。なお、同環境に組み込まれた(Squeak Smalltalkで記述・構築されている)タイルスクリプティング言語・開発環境のSqueak Etoysも略して「Squeak」と呼称され混同されることが多いが、両者(Squeak SmalltalkとSqueak Etoys)はプログラミング言語およびその処理系としてはまったくの別物である。
1970年代のパロアルト研究所での俗に言う「ダイナブックプロジェクト」において、暫定Dynabook(Altoの同チームにおける呼び名)のオペレーティングシステム (OS) およびコンピュータ環境にあたるSmalltalkの開発にたずさわったメンバー、特にアイデアパーソンのアラン・ケイ、その実装者のダン・インガルスらが中心となり、当初Appleにおいて同プロジェクトは始動した。のちにウォルト・ディズニー・イマジニアリングを経て、アラン・ケイが設立したNPOであるViewpoints Research Institute(英語版)に活動の拠点を移し現在も開発が続けられている。
開発の契機となる1995年ごろにはまだライブラリが整っていなかったJavaや、すでにいくつか存在した商業ベースIDEとして認知、発展を遂げた当時のSmalltalkには求めにくかった、自由で高度な移植性と小さいフットプリント、高機能なマルチメディア処理用ライブラリを持つことを特徴とし、それを動作させるためのOSやプラットフォームに依存しない、ユーザーサイドプログラミングを強力にサポートするコンピュータ環境を目指してその開発はスタートした。
Squeakも他のSmalltalk環境同様、環境記述およびデータ記述言語、およびユーザースクリプティング言語としてSmalltalkを使用できるようになっている。また、非常に古い実装に基づいてはいるものの、Smalltalk環境が当初から備えていたクラスブラウザ、オブジェクトインスペクタ、テキストエディタ、デバッガなどを有機的に連動させるオブジェクト指向プログラミングのための機構は、ベースとなったApple Smalltalkからそのまま環境内に引き継がれ、利用可能な状態にある。
Squeakの仮想機械(Smalltalkバイトコードインタプリタ)はSmalltalkのサブセットで記述されており、それをC言語に変換するトランスレータを用いて生成される。この独特の仮想機械開発スタイルはSqueakに高い移植性をもたらしている。実際、Squeakは各種のUNIX、Windowsをはじめ、MS-DOS、BeOS、TRONなど、Palm OS以外のメジャーなプラットフォームに移植されており、めずらしいところでは、シャープのZaurus(旧Zaurus、もしくは最近のLinux Zaurus)で動作するSqueak仮想機械も存在する。移植性を重視した初期の同仮想機械は、他の商用SmalltalkやJavaなどで行なわれる動的コンパイル(JITコンパイル)を欠いていたが、Eliot Miranda氏が新たに手がけたCogVMと呼ばれる次世代仮想機械では同機構も取り入れられ従来より5-10倍の性能向上を果たしている。
Squeak環境にはSmalltalkとは別に、Squeak eToys(あるいは Etoy、SqueakToysなど)と呼ばれるプロトタイプベースオブジェクト指向プログラミング言語・環境に近い仕組みを持つ非開発者向けプログラミング環境(タイルスクリプトシステム、あるいは単にスクリプトシステムと呼称)が実装されている。Morph(モーフ)と呼ばれる可視化に適した機構を組み込んだオブジェクトに対し、その属性(動き、色、形、振る舞いなど)を変化させる手続きを、パネル状のパーツをドラッグ&ドロップで組み合わせで表現できる。
こうした特徴から同スクリプトシステムは、プログラミング未経験者のほかに、キーボードの扱いに馴れていない低年齢層ユーザーにも容易に扱うことができる。アラン・ケイの長年の共同研究者であるキム・ローズらは、この機構が低学年向けのコンピュータ・リテラシおよび自然科学教育に活用できることに早くから目を付け、米日独での教育機関との共同プロジェクトを立ち上げてその高い教育効果を示しつつある。
大島が中心となって実装したSqueakの多言語拡張に基づき、阿部、梅澤、林、山宮らによってSqueakおよびSqueak eToysの日本語化パッケージが作成された。多言語化拡張は正式版Squeakバージョン3.8以降、およびeToys用にカスタマイズされたSqueaklandバージョン2005以降に統合されており、ユーザーは正式版をダウンロードするだけで日本語を使用することができる。
Squeak(およびSmalltalk)環境においては、データもアプリケーションも、そして環境自体(つまりシステム)すら、すべてSmalltalk言語で記述されたオブジェクトで構成されているため、通常のコンピュータ環境でいうところのアプリケーションソフトという概念は希薄であるが、それでもそう呼ぶに相応しいオブジェクト群を見ることができる。
また、アプリケーションのような振る舞いをする大規模な機能性オブジェクト群とそれらを機能させるための最低限のオブジェクトを残して余計な部分を環境からそぎ落としてしまい、Smalltalk環境自体をまるでひとつのアプリケーションソフトであるかのように見せ、配布する形態をとることもある。Squeak公式サイトとは別に用意されたSqueaklandサイトで配布されているウェブブラウザプラグイン版のSqueakは、先のSqueak eToysに特化されたアプリケーションともいえる。
他に、Squeak環境により実現された代表的なアプリケーションと呼べるものとして有名なものにSwiki(英語版)がある。SwikiはSqueak版Wikiクローンというべきソフトの一つで、同じくSqueak上にSmalltalkで書かれたHTTPサーバ(Webアプリケーションサーバ)であるComanche上に構築されている。WikiクローンとしてのSwikiは、ファイルアップロード機能、無限差分の保持、静的HTMLの生成などの他に、独自のフォーマットルール、キャピタルワードを自動的にリンクにするWikiName(英語版)機構を持たないこと、ページ名の変更がページ作成後に可能なこと、ページソース記述にHTML表記の混在を許すことなど他のWikiとは一線を画す仕様を有する。
公式サイトである「Swiki Swiki」のダウンロードページより、Squeak eToysにおけるWebプラグイン版Squeakのように、Swikiに特化した仮想イメージと付随ファイルのアーカイブを得ることができる。日本語を扱うためには最低一箇所、修正を加えなければならないが、この仮想イメージを用いることでSmalltalk言語や環境に精通していなくとも、起動後、サーバスタートを意味するボタンを押すだけで手軽に運用を開始できる。
ただいずれも、Squeak環境としては前者はSqueak eToys、後者はSwikiに必要ないものを大幅に削除したサブセットに過ぎないので、Squeak eToysもしくはSwiki専用で、かつ、手を加えずあるがままの状態で使用するのでなければ、公式サイトより完全なSqueak環境を入手し(Swikiの場合、機能を拡張するためのパッケージをインストールした状態で)使用することが望ましい。 | [
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"text": "Squeakも他のSmalltalk環境同様、環境記述およびデータ記述言語、およびユーザースクリプティング言語としてSmalltalkを使用できるようになっている。また、非常に古い実装に基づいてはいるものの、Smalltalk環境が当初から備えていたクラスブラウザ、オブジェクトインスペクタ、テキストエディタ、デバッガなどを有機的に連動させるオブジェクト指向プログラミングのための機構は、ベースとなったApple Smalltalkからそのまま環境内に引き継がれ、利用可能な状態にある。",
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] | Squeak(スクイーク)はSmalltalk環境のひとつで、ゼロックスが1980年当時の主要コンピュータメーカーにライセンス供与したSmalltalk-80の販売直前バージョン (v1) をベースに、Appleが自社のLisaおよびMacintosh用に開発したApple Smalltalkから派生したものである。なお、同環境に組み込まれたタイルスクリプティング言語・開発環境のSqueak Etoysも略して「Squeak」と呼称され混同されることが多いが、両者はプログラミング言語およびその処理系としてはまったくの別物である。 | {{Infobox プログラミング言語
| name = Squeak
| logo = [[File:Squeak.svg|100px]]
| caption =
| file ext = [[ファイル:Squeak 3.9 + SmallDEVS.png|225px|Squeak 3.9]]
| paradigm = [[オブジェクト指向プログラミング]]
| released = {{Start date|1996}}
| designer = [[アラン・ケイ]]、[[ダン・インガルス]]、[[アデル・ゴールドバーグ]]
| developer = アラン・ケイ、Dan Ingalls、Ted Kaehler、Scott Wallace、John Maloney、Andreas Raab、Mike Rueger
| latest release version = 5.2b
| latest release date = {{Start date and age|2018|10|18}}<ref>{{Cite web|url=http://wiki.squeak.org/squeak/275 |title=Squeak Versions |accessdate=2019-11-15 |language=英語}}</ref>
| latest preview version =
| latest preview date = <!-- {{start date and age|YYYY|MM|DD}} -->
| typing = 強い[[動的型付け]]<ref>「型をもたない」との表現を好む人もいる。[http://web.cecs.pdx.edu/~harry/musings/SmalltalkOverview.html Smalltalk Overview]</ref>, [[ダック・タイピング]]
| implementations =
| dialects = [[Pharo]]、{{仮リンク|Croquet|en|Croquet Project}} <!-- not yet available -->
| influenced by = [[仮想機械]]、[[統合開発環境|開発環境]] [[Smalltalk]], [[LISP]], [[LOGO]]; [[Sketchpad]], [[Simula]]; [[Self]]
| influenced = [[Etoys]]、Croquet、[[Scratch (プログラミング言語)|Scratch]]
| programming language = Squeak, Croquet
| operating system = [[クロスプラットフォーム]] : [[Unix系]]、[[macOS]]、[[iOS]]、[[Microsoft Windows|Windows]]など
| license = [[MIT License]]、[[Apache License]]
| website = {{Official URL}}
| wikibooks =
}}
{{プログラミング言語|index=Squeak}}
'''Squeak'''('''スクイーク''')は[[Smalltalk]]環境のひとつで、[[ゼロックス]]が[[1980年]]当時の主要[[コンピュータ]]メーカー([[IBM]]、[[ディジタル・イクイップメント・コーポレーション|DEC]]、[[ヒューレット・パッカード]]、[[Apple|Apple Computer]]、[[テクトロニクス|Tektronix]])にライセンス供与した[[Smalltalk|Smalltalk-80]]の販売直前バージョン (v1) をベースに、Appleが自社の[[Lisa (コンピュータ)|Lisa]]および[[Macintosh]]用に開発したApple Smalltalkから派生したものである。なお、同環境に組み込まれた(Squeak Smalltalkで記述・構築されている)タイルスクリプティング言語・開発環境のSqueak [[Etoys]]も略して「Squeak」と呼称され混同されることが多いが、両者(Squeak SmalltalkとSqueak Etoys)はプログラミング言語およびその処理系としてはまったくの別物である。
== 開発の経緯 ==
[[1970年代]]の[[パロアルト研究所]]での俗に言う「[[ダイナブック]]プロジェクト」において、暫定Dynabook([[Alto]]の同チームにおける呼び名)の[[オペレーティングシステム]] (OS) およびコンピュータ環境にあたる[[Smalltalk]]の開発にたずさわったメンバー、特にアイデアパーソンの[[アラン・ケイ]]、その実装者のダン・インガルスらが中心となり、当初Appleにおいて同プロジェクトは始動した。のちに[[ウォルト・ディズニー・イマジニアリング]]を経て、アラン・ケイが設立した[[NPO]]である{{仮リンク|Viewpoints Research Institute|en|Viewpoints Research Institute}}に活動の拠点を移し現在も開発が続けられている。
開発の契機となる[[1995年]]ごろにはまだ[[ライブラリ]]が整っていなかった[[Java]]や、すでにいくつか存在した商業ベース[[統合開発環境|IDE]]として認知、発展を遂げた当時のSmalltalkには求めにくかった、自由で高度な移植性と小さいフットプリント、高機能な[[マルチメディア]]処理用ライブラリを持つことを特徴とし、それを動作させるためのOSや[[プラットフォーム (コンピューティング)|プラットフォーム]]に依存しない、ユーザーサイド[[プログラミング]]を強力にサポートするコンピュータ環境を目指してその開発はスタートした。
== 環境と言語 ==
Squeakも他のSmalltalk環境同様、環境記述および[[データ記述言語]]、およびユーザースクリプティング言語としてSmalltalkを使用できるようになっている。また、非常に古い実装に基づいてはいるものの、Smalltalk環境が当初から備えていたクラスブラウザ、オブジェクトインスペクタ、[[テキストエディタ]]、[[デバッガ]]などを有機的に連動させる[[オブジェクト指向]]プログラミングのための機構は、ベースとなったApple Smalltalkからそのまま環境内に引き継がれ、利用可能な状態にある。
Squeakの[[仮想機械]](Smalltalk[[バイトコード]][[インタプリタ]])はSmalltalkのサブセットで記述されており、それを[[C言語]]に変換するトランスレータを用いて生成される。この独特の仮想機械開発スタイルはSqueakに高い移植性をもたらしている。実際、Squeakは各種の[[UNIX]]、[[Microsoft Windows|Windows]]をはじめ、[[MS-DOS]]、[[BeOS]]、[[TRONプロジェクト|TRON]]など、[[Palm OS]]以外のメジャーなプラットフォームに移植されており、めずらしいところでは、[[シャープ]]の[[Zaurus]](旧Zaurus、もしくは最近の[[Linux]] Zaurus)で動作するSqueak仮想機械も存在する。移植性を重視した初期の同仮想機械は、他の商用SmalltalkやJavaなどで行なわれる[[ジャストインタイムコンパイル方式|動的コンパイル]](JITコンパイル)を欠いていたが、Eliot Miranda氏が新たに手がけたCogVMと呼ばれる次世代仮想機械では同機構も取り入れられ従来より5-10倍の性能向上を果たしている。
Squeak環境にはSmalltalkとは別に、Squeak [[Etoys|eToys]](あるいは Etoy、SqueakToysなど)と呼ばれる[[プロトタイプベース]][[オブジェクト指向]]プログラミング言語・環境に近い仕組みを持つ非開発者向けプログラミング環境(タイルスクリプトシステム、あるいは単にスクリプトシステムと呼称)が実装されている。Morph(モーフ)と呼ばれる[[可視化]]に適した機構を組み込んだオブジェクトに対し、その属性(動き、色、形、振る舞いなど)を変化させる手続きを、パネル状のパーツをドラッグ&ドロップで組み合わせで表現できる。
こうした特徴から同スクリプトシステムは、プログラミング未経験者のほかに、[[キーボード (コンピュータ)|キーボード]]の扱いに馴れていない低年齢層ユーザーにも容易に扱うことができる。アラン・ケイの長年の共同研究者であるキム・ローズらは、この機構が低学年向けのコンピュータ・リテラシおよび自然科学教育に活用できることに早くから目を付け、米日独での教育機関との共同プロジェクトを立ち上げてその高い教育効果を示しつつある。
== 多言語化と日本語対応 ==
大島が中心となって実装したSqueakの多言語拡張に基づき、阿部、梅澤、林、山宮らによってSqueakおよびSqueak eToysの[[日本語]]化パッケージが作成された。多言語化拡張は正式版Squeakバージョン3.8以降、およびeToys用にカスタマイズされたSqueaklandバージョン2005以降に統合されており、ユーザーは正式版をダウンロードするだけで日本語を使用することができる。
== アプリケーション ==
Squeak(およびSmalltalk)環境においては、データもアプリケーションも、そして環境自体(つまりシステム)すら、すべてSmalltalk言語で記述されたオブジェクトで構成されているため、通常のコンピュータ環境でいうところのアプリケーションソフトという概念は希薄であるが、それでもそう呼ぶに相応しいオブジェクト群を見ることができる。
* 開発者向け
** Browser クラスやメソッド定義を閲覧したり、編集・追加するためのソフト
** Inspector オブジェクトの属性を検査するためのソフト
** Debugger インタプリタの内部状態やその推移を検査するためのソフト
** Change Set クラスやメソッド定義に加えられた変更の履歴を管理するデータベース
** Method Finder 任意の文字列を含むメソッド名やその定義を呼び出すツール
** Processes プロセス閲覧・管理ツール
** Transcript 通常の開発環境における標準出力的役割りを担うソフト
* 一般向け
** Workspace [[WYSIWYG]]タイプの書き捨ての[[メモ帳]]
** GeeMail 文書と図版の共存が可能なメモ帳
** PaintBox ペイントツール
** Book カード型データベースおよびアクティブブック作成用のオーサリングツール
** Stack HyperCardライクなオーサリングツール
** File List ディレクトリ閲覧、テキストエディタ、gzip圧縮などの機能を持つファイラ
** Zip Tool zip圧縮およびその展開を行なうためのツール
** Scamper [[ウェブブラウザ]](ただし多言語化時においても日本語使用不可)
** Celeste メーラ(ただし多言語化時においても日本語使用不可)
** ThreadNavigator プレゼンツール
** Clock、Watch 時計
* 教育向け
** Squeak eToys タイルスクリプトシステム
** Nebraska ネットを介した複数ユーザーのデスクトップ共有のためのシステム
** Alice 3Dオブジェクトのオーサリングのためのシステム
* ゲーム
** Chess [[チェス]]ゲーム
** ChineseChecker
** Cipher 暗号解読ゲーム
** Crostic クロスワードゲーム
** [[フリーセル|FreeCell]] カードゲーム
** Mines マインスイーパー
** Same [[さめがめ]]
** Tetris [[テトリス]]
また、アプリケーションのような振る舞いをする大規模な機能性オブジェクト群とそれらを機能させるための最低限のオブジェクトを残して余計な部分を環境からそぎ落としてしまい、Smalltalk環境自体をまるでひとつのアプリケーションソフトであるかのように見せ、配布する形態をとることもある。Squeak公式サイトとは別に用意されたSqueaklandサイトで配布されているウェブブラウザプラグイン版のSqueakは、先のSqueak eToysに特化されたアプリケーションともいえる。
他に、Squeak環境により実現された代表的なアプリケーションと呼べるものとして有名なものに{{仮リンク|Swiki|en|Swiki}}がある。SwikiはSqueak版[[ウィキソフトウェア|Wikiクローン]]というべきソフトの一つで、同じくSqueak上にSmalltalkで書かれたHTTPサーバ(Webアプリケーションサーバ)である[[Comanche]]上に構築されている。WikiクローンとしてのSwikiは、ファイルアップロード機能、無限差分の保持、静的[[HyperText Markup Language|HTML]]の生成などの他に、独自のフォーマットルール、キャピタルワードを自動的にリンクにする{{仮リンク|WikiName|en|WikiName}}機構を持たないこと、ページ名の変更がページ作成後に可能なこと、ページソース記述にHTML表記の混在を許すことなど他の[[ウィキ|Wiki]]とは一線を画す仕様を有する。
公式サイトである「Swiki Swiki」のダウンロードページより、Squeak eToysにおけるWebプラグイン版Squeakのように、Swikiに特化した仮想イメージと付随ファイルのアーカイブを得ることができる。日本語を扱うためには最低一箇所、修正を加えなければならないが、この仮想イメージを用いることでSmalltalk言語や環境に精通していなくとも、起動後、サーバスタートを意味するボタンを押すだけで手軽に運用を開始できる。
ただいずれも、Squeak環境としては前者はSqueak eToys、後者はSwikiに必要ないものを大幅に削除したサブセットに過ぎないので、Squeak eToysもしくはSwiki専用で、かつ、手を加えずあるがままの状態で使用するのでなければ、公式サイトより完全なSqueak環境を入手し(Swikiの場合、機能を拡張するためのパッケージをインストールした状態で)使用することが望ましい。
== 注釈・出典 ==
{{Reflist}}
== 外部リンク ==
{{Commonscat}}
{{ウィキポータルリンク|FLOSS}}
* [https://squeak.org Squeak/Smalltalk] 公式ウェブサイト {{En icon}}
* [http://squeakland.org squeakland : home of squeak etoys] Squeak eToysフィールドワークのための公式サイト {{En icon}}
* [http://squeakland.jp ようこそ、スクイークランドへ!] 上記サイトの日本語版 最新日本語版Squeakイメージが配布されている{{Ja icon}}
* [https://wiki.squeak.org/swiki/ Swiki Swiki] Swiki公式サイト {{En icon}}
* {{Wayback |url=http://utopos.dyndns.info:8080/SqueakLearner/89 |title=Squeak3.6 m17n用macOS版VM |date=20071001011146}} 多言語化(日本語化)Squeakを[[macOS]]で使用するための情報ページ {{Ja icon}}
* [https://swikis.ddo.jp/abee/20 SqueakToys掲示板3] 日本語版Squeakで主に Squeak eToys を使用して制作された作品および情報交換のためのサイト {{Ja icon}}
{{Smalltalk}}
{{DEFAULTSORT:Squeak}}
[[Category:プログラミング言語]]
[[Category:ソフトウェア開発ツール]]
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[[Category:アラン・ケイ]] | null | 2023-04-26T16:18:19Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/Squeak |
7,450 | 核 (代数学) | 数学において、準同型の核(かく、英: kernel)とは、その準同型の単射からのずれの度合いを測る道具である。代数系における準同型の核が "自明" (trivial) であることとその準同型が単射であることとが同値となる。
考える構造により多少の差異はあるが、(圏論を使わない)集合と写像の言葉の範疇では概ね、基点 (base point) と呼ばれる特定の元を構造として持つ場合と持たない場合の二種に大別できる(ここでは、正確には基点のみからなる一元集合が圏論的な意味で零対象となるようなものを与える必要がある)。
A, B を同種の構造をもつ集合とし、f : A → B を構造を保つ準同型とする。このとき、準同型 f の核 Ker(f) は
で定義される A × A の部分集合である。したがって、Ker(f) は始域の集合 A における二項関係を定める。この関係は(構造と両立する)同値関係になる。核 Ker(f) が自明であるとは Ker(f) = Δ(A) なることをいう。ここで、Δ(A) は対角線集合 {(a, a) | a ∈ A} である。これは Ker(f) が定める A の二項関係は恒等関係 (equality) であるというのと同じことである。
(A, ∗A), (B, ∗B) を基点を持つ同種の構造をもつ集合とし、f : A → B, f(∗A) = ∗B を構造を保つ準同型とする。このとき、準同型 f の核 Ker(f) は終域 B の基点 ∗B の原像、つまり
で定義される始域 A の部分集合である。Ker(f) は A の基点 ∗A を常に含むが、逆にKer(f) が唯一つの元 ∗A のみからなる集合 {∗A} に一致するとき、核 Ker(f) は自明であるという。
基点を持つ多くの代数系では、構造は等質性をもち、それゆえに、この第二の定義による核は、第一の定義における核の定める同値関係と同じ関係を定義する。特に、核が第二の定義の意味で自明であれば第一の定義の意味でも自明であり、核が自明な準同型は単射となる。
このような意味で、第二の定義は第一の定義の特別な場合である、あるいは逆に第二の定義の一般化として第一の定義があるということができる。これらの定義は核について、
それぞれに扱いやすい特性を示している。
G, H を群とし、G, H の単位元をそれぞれ eG, eH とする。このとき、群を単位元を基点として持つ代数系とみなすことができて、群準同型 f: G → H に対して
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R, S を環とする。環は零元を基点に持つ代数系であり、0R, 0S をそれぞれ R, S の零元とすれば、環準同型 f: R → S の核は
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環を加法についてみれば可換群であるから、群準同型について述べたことは加法についてはそのまま通用する。したがって、f: R → S の核 Ker(f) が Ker(f) = {0R} を満たすことと f は単射であることとは同値である。
同様に、M, N を R-加群とすれば、それぞれの零元 0M, 0N を基点として、R-加群の準同型(R-線型写像)f: M → N に対し、
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S, T を半群とし、f: S → T を半群の準同型とすると f の核は
で与えられる。
準同型 h: S → T に対し、始域 S を核 Ker(h)(の定める同値関係)で割った集合 S/Ker(h) には自然に商構造が入る。これを Coim(h) と書いて、準同型 h の余像(よぞう、Coimage)と呼ぶ。
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] | 数学において、準同型の核とは、その準同型の単射からのずれの度合いを測る道具である。代数系における準同型の核が "自明" (trivial) であることとその準同型が単射であることとが同値となる。 | {{otheruses||群論|核 (群論)|その他|核 (数学)}}
{{出典の明記|date=2015年7月}}
[[数学]]において、[[準同型]]の'''核'''(かく、{{lang-en-short|kernel}})とは、その準同型の[[単射]]からのずれの度合いを測る道具である。代数系における準同型の核が "[[自明 (数学)|自明]]" (trivial) であることとその準同型が単射であることとが同値となる。
== 定義 ==
考える構造により多少の差異はあるが、(圏論を使わない)集合と写像の言葉の範疇では概ね、[[基点]] (base point) と呼ばれる特定の元を構造として持つ場合と持たない場合の二種に大別できる(ここでは、正確には基点のみからなる一元集合が圏論的な意味で零対象となるようなものを与える必要がある)。
=== 基点を持たない構造の場合 ===
''A'', ''B'' を同種の構造をもつ集合とし、''f'' : ''A'' → ''B'' を構造を保つ準同型とする。このとき、準同型 ''f'' の'''核''' Ker(''f'') は
:<math>\operatorname{Ker}f := \{(a_1,a_2) \in A \times A \mid f(a_1)=f(a_2)\}</math>
で定義される ''A'' × ''A'' の部分集合である。したがって、Ker(''f'') は始域の集合 ''A'' における[[二項関係]]を定める。この関係は(構造と両立する)[[同値関係]]になる。核 Ker(''f'') が'''自明'''であるとは Ker(''f'') = Δ(A) なることをいう。ここで、Δ(A) は[[対角線集合]] {(''a'', ''a'') | ''a'' ∈ ''A''} である。これは Ker(''f'') が定める ''A'' の二項関係は[[恒等関係]] (equality) であるというのと同じことである。
=== 基点を持つ構造の場合 ===
(''A'', ∗<sub>''A''</sub>), (''B'', ∗<sub>''B''</sub>) を基点を持つ同種の構造をもつ集合とし、''f'' : ''A'' → ''B'', ''f''(∗<sub>''A''</sub>) = ∗<sub>''B''</sub> を構造を保つ準同型とする。このとき、準同型 ''f'' の'''核''' Ker(''f'') は終域 ''B'' の基点 ∗<sub>''B''</sub> の[[原像]]、つまり
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で定義される始域 ''A'' の部分集合である。Ker(''f'') は ''A'' の基点 ∗<sub>''A''</sub> を常に含むが、逆にKer(''f'') が唯一つの元 ∗<sub>''A''</sub> のみからなる集合 {∗<sub>''A''</sub>} に一致するとき、核 Ker(''f'') は'''自明'''であるという。
=== 二つの定義の関係 ===
基点を持つ多くの代数系では、構造は[[等質性]]をもち、それゆえに、この第二の定義による核は、第一の定義における核の定める同値関係と同じ関係を定義する。特に、核が第二の定義の意味で自明であれば第一の定義の意味でも自明であり、核が自明な準同型は単射となる。
このような意味で、第二の定義は第一の定義の特別な場合である、あるいは逆に第二の定義の一般化として第一の定義があるということができる。これらの定義は核について、
* 第一の定義においては、それが同値関係を定めることと、
* 第二の定義においては、それが始域や終域におけると同様の構造をもつ集合であることが、
それぞれに扱いやすい特性を示している。
== 例 ==
=== 群の準同型 ===
''G'', ''H'' を[[群論|群]]とし、''G'', ''H'' の単位元をそれぞれ ''e''<sub>''G''</sub>, ''e''<sub>''H''</sub> とする。このとき、群を単位元を基点として持つ代数系とみなすことができて、群準同型 ''f'': ''G'' → ''H'' に対して
:<math>\operatorname{Ker}f = \{g \in G \mid f(g) = e_H\}</math>
となる。これは ''G'' の部分群、とくに正規部分群になることが確かめられる。
ここで、始域 ''G'' における関係を ''g''<sub>1</sub> ∼ ''g''<sub>2</sub> となるのは ''g''<sub>1</sub><sup>−1</sup>''g''<sub>2</sub> ∈ Ker(''f'') となるとき、かつそのときに限るものと定義する。これは Ker(''f'') が ''G'' の部分群ゆえ同値関係を与える。このとき、''g''<sub>1</sub><sup>−1</sup>''g''<sub>2</sub> ∈ Ker(''f'') と ''f''(''g''<sub>1</sub>)<sup>−1</sup>''f''(''g''<sub>2</sub>) = ''f''(''g''<sub>1</sub><sup>−1</sup>''g''<sub>2</sub>) = ''e''<sub>''H''</sub> とが同値ゆえに ''g''<sub>1</sub> ∼ ''g''<sub>2</sub> となるのは ''f''(''g''<sub>1</sub>) = ''f''(''g''<sub>2</sub>) となるとき、かつそのときに限ると言い換えることができ、結局この関係は ''G'' × ''G'' の部分集合
:<math>K := \{(g_1,g_2) \in G \times G \mid f(g_1) = f(g_2)\}</math>
の定める関係と同じものであることが確かめられる。また、Ker(''f'') = {''e''<sub>''G''</sub>} となる意味で自明であるならば、''g''<sub>1</sub> ∼ ''g''<sub>2</sub> は ''g''<sub>1</sub> = ''g''<sub>2</sub> と同値であるから、集合 ''K'' が定める関係としても自明である。
=== 環と加群の準同型 ===
''R'', ''S'' を[[環論|環]]とする。環は零元を基点に持つ代数系であり、0<sub>''R''</sub>, 0<sub>''S''</sub> をそれぞれ ''R'', ''S'' の零元とすれば、環準同型 ''f'': ''R'' → ''S'' の核は
:<math>\operatorname{Ker}f := \{r \in R \mid f(r) = 0_S\}</math>
となる。これは始域 ''R'' の部分環であり、さらに ''R'' の[[イデアル]]となる。
環を加法についてみれば可換群であるから、群準同型について述べたことは加法についてはそのまま通用する。したがって、''f'': ''R'' → ''S'' の核 Ker(''f'') が Ker(''f'') = {0<sub>''R''</sub>} を満たすことと ''f'' は単射であることとは同値である。
同様に、''M'', ''N'' を ''R''-加群とすれば、それぞれの零元 0<sub>''M''</sub>, 0<sub>''N''</sub> を基点として、''R''-加群の準同型(''R''-[[線型写像]])''f'': ''M'' → ''N'' に対し、
:<math>\operatorname{Ker}f := \{m \in M \mid f(m)=0_N\}</math>
が ''f'' の核となる。やはり Ker(''f'') は始域 ''M'' の 部分 ''R''-加群である。ここでも核が自明なこととその準同型が単射であることとが同値となる。なお、体上の加群である[[ベクトル空間]]の核については[[零空間]]も参照されたい。
=== 半群準同型 ===
''S'', ''T'' を[[半群]]とし、''f'': ''S'' → ''T'' を半群の準同型とすると ''f'' の核は
:<math>\operatorname{Ker}f :=\{(s_1, s_2)\in S\times S\mid f(s_1)=f(s_2)\}</math>
で与えられる。
== 準同型定理 ==
準同型 ''h'': ''S'' → ''T'' に対し、始域 ''S'' を核 Ker(''h'')(の定める同値関係)で割った集合 ''S''/Ker(''h'') には自然に商構造が入る。これを Coim(''h'') と書いて、準同型 ''h'' の'''[[余像]]'''(よぞう、''Coimage'')と呼ぶ。
準同型 ''h'': ''S'' → ''T'' の余像 Coim(''h'') は ''h'' の像 Im(''h'') = ''h''(''S'') と同型であるという命題を'''[[準同型定理]]'''という。''S'', ''T'' が群、環、環上の加群などのときには確かに準同型定理が成り立つ。
== 関連項目 ==
*[[零空間]]
*[[核 (圏論)]]
{{DEFAULTSORT:かく たいすうかく}}
[[Category:代数的構造]]
[[Category:数学に関する記事]] | null | 2022-03-30T15:09:49Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%B8_(%E4%BB%A3%E6%95%B0%E5%AD%A6) |
7,453 | 対角行列 | 数学、特に線型代数学において、対角行列(たいかくぎょうれつ、英: diagonal matrix)とは、正方行列であって、その対角成分((i, i)-要素)以外が零であるような行列のことである。
この対角行列は、クロネッカーのデルタを用いて (ci δij) と表現できる。また、しばしば
のようにも書かれる。
単位行列やスカラー行列は対角行列の特殊例である。
[ 1 0 0 2 ] {\displaystyle {\begin{bmatrix}1&0\\0&2\\\end{bmatrix}}}
[ 1 0 0 0 0 10 0 0 0 0 − 8 0 0 0 0 7 ] {\displaystyle {\begin{bmatrix}1&0&0&0\\0&10&0&0\\0&0&-8&0\\0&0&0&7\end{bmatrix}}}
三重対角行列(さんじゅうたいかくぎょうれつ、tridiagonal matrix)とは、主対角線とその上下に隣接する対角線にだけ非零の成分を持つ行列であり、疎行列の一種である。
数値解析においてしばしば三重対角行列を含む方程式が現れる。このような方程式はトーマスアルゴリズムあるいは三重対角行列アルゴリズム(英語版) (TDMA) と呼ばれる、計算量のオーダーがO (n) の解法を用いて解かれる。
与えられた行列を三重対角行列に変換する方法(三重対角化)には、ハウスホルダー変換やランチョス法が知られている。 | [
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] | 数学、特に線型代数学において、対角行列(たいかくぎょうれつ、英: diagonal matrix)とは、正方行列であって、その対角成分((i, i)-要素)以外が零であるような行列のことである。 この対角行列は、クロネッカーのデルタを用いて (ci δij) と表現できる。また、しばしば のようにも書かれる。 単位行列やスカラー行列は対角行列の特殊例である。 | [[数学]]、特に[[線型代数学]]において、'''対角行列'''(たいかくぎょうれつ、{{lang-en-short|diagonal matrix}})とは、[[正方行列]]であって、その対角成分({{math|(''i'', ''i'')}}-要素)以外が零であるような行列のことである。
:<math> \begin{bmatrix}
c_1 &&&0\\ & c_2 &&\\ && \ddots &\\ 0&&&c_n
\end{bmatrix}</math>
この対角行列は、[[クロネッカーのデルタ]]を用いて (''c''<sub>''i''</sub> δ<sub>''ij''</sub>) と表現できる。また、しばしば
: diag(''c''<sub>1</sub>, ''c''<sub>2</sub>, ..., ''c''<sub>''n''</sub>)
のようにも書かれる。
[[単位行列]]や[[スカラー行列]]は対角行列の特殊例である。
== 性質 ==
* 対角行列の[[行列式]]は、各対角成分の[[総乗]] Π''c''<sub>''i''</sub> に等しい。対角行列の行列式は、対角成分が等しい[[三角行列|上三角行列]]、[[三角行列|下三角行列]]の行列式とも等しくなる。
* 対角行列の[[転置行列]]は同一である。そのため対角行列は[[対称行列]]でもある。
* 対角行列の[[逆行列]]は対角成分の[[逆数]]を並べた対角行列である。
*:<math> \begin{bmatrix}
c_1 &&&0\\ & c_2 &&\\ && \ddots &\\ 0&&&c_n
\end{bmatrix}^{-1}
=
\begin{bmatrix}
c_1^{-1} &&&0\\ & c_2^{-1} &&\\ && \ddots &\\ 0&&&c_n^{-1}
\end{bmatrix}</math>
== 例 ==
<math>
\begin{bmatrix}
1 & 0 \\
0 & 2 \\
\end{bmatrix}
</math>
<math>
\begin{bmatrix}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & 10 & 0 & 0\\
0 & 0 & -8 & 0\\
0 & 0 & 0 & 7
\end{bmatrix}
</math>
== 三重対角行列 ==
'''三重対角行列'''(さんじゅうたいかくぎょうれつ、[[:en:Tridiagonal matrix|tridiagonal matrix]])とは、主対角線とその上下に隣接する対角線にだけ非零の成分を持つ行列であり<ref>{{cite|和書 |title=コンピュータによる流体力学 |author=Joel H. Ferziger |author2=Milovan Perić |translator=小林敏雄、谷口伸行、坪倉誠 |publisher=シュプリンガー・フェアラーク東京 |year=2003 |isbn=4-431-70842-1 |page=91}}</ref>、[[疎行列]]の一種である。
:<math>\begin{bmatrix}
{b_1} & {c_1} & { } & { } & { 0 } \\
{a_2} & {b_2} & {c_2} & { } & { } \\
{ } & {a_3} & {b_3} & \ddots & { } \\
{ } & { } & \ddots & \ddots & {c_{n-1}}\\
{ 0 } & { } & { } & {a_n} & {b_n}\\
\end{bmatrix}</math>
[[数値解析]]においてしばしば三重対角行列を含む方程式が現れる。このような方程式はトーマスアルゴリズムあるいは{{仮リンク|三重対角行列アルゴリズム|en|Tridiagonal matrix algorithm}} (TDMA) と呼ばれる、計算量のオーダーが''O'' (''n'') の解法を用いて解かれる。
与えられた行列を三重対角行列に変換する方法(三重対角化)には、[[ハウスホルダー変換]]や[[ランチョス法]]が知られている。
== 参考文献 ==
{{reflist}}
== 関連項目 ==
* [[対角化]]
* [[巡回行列]]
* [[特異値分解]]
{{DEFAULTSORT:たいかくきようれつ}}
[[Category:行列]]
[[Category:数学に関する記事]] | null | 2022-10-29T02:10:58Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E8%A7%92%E8%A1%8C%E5%88%97 |
7,455 | Emacs | Emacs(イーマックス、[ˈiːmæks])は、その拡張性を特徴としたテキストエディタのファミリーである。Emacsの中で最も広く使われている派生物であるGNU Emacsの作者、リチャード・ストールマンは、自身の声明において「たくさん模倣されたオリジナルのEMACSエディタの発明者 (inventor of the original much-imitated EMACS editor)」を自称し、GNU EmacsのマニュアルではEmacsを「the extensible, customizable, self-documenting, real-time display editor」(拡張およびカスタマイズが可能で、自己文書化を行い、リアルタイム表示を行うエディタ)であると説明している。最初のEmacs開発が1970年代中盤に開始されてから、その直系の子孫であるGNU Emacsが製作され、その開発が2023年現在も続いている。
Emacsはユーザインタフェースと10,000を超える組み込みコマンドを持ち、ユーザーは作業自動化のためにこれらのコマンドをマクロと組み合わせることができる。さらに深い拡張性を提供するLISPプログラミング言語の方言であるEmacs Lisp (ELispまたElispとも) はEmacs実装の主な特徴であり、Emacs Lispでユーザーや開発者はEmacs用の新しいコマンドやアプリケーションを書くことができる。Emacsの拡張機能として電子メール、ファイル、アウトライン、およびRSSフィードが書かれており、それ以外にもELIZA、ポン、ライフゲーム、ヘビゲーム、およびテトリスのクローンもある。ユーザーの中にはEmacs内部からテキスト編集だけでなくほとんど全ての作業を行うことができることに気づいた者もいる。
原典であるEMACSは1972年にCarl Mikkelson、デイビット・A・ムーン(英語版)、およびガイ・L・スティール・ジュニアらによりTECOエディタ用のEditor MACroSのセットとして書かれたものであり、TECOマクロエディタの概念に触発されている。
最も有名かつ最も移植されたEmacsは、ストールマンによってGNUプロジェクトのために作成されたGNU Emacsである。XEmacsは1991年にGNU Emacsからフォークされた派生物である。GNU EmacsとXEmacsは類似のLISP方言を使い、互いに互換性のある部分が大半である。
Emacsはvi (Vim) と並びUNIX文化における伝統的なエディタ戦争の主要な当事者である。Emacsは開発中であるオープンソースプロジェクトの中で最古のものである。
Emacsは1970年代のMIT人工知能研究所(MIT AI研)で産声をあげた。 AI研で使われていたPDP-6やPDP-10のオペレーティングシステムはIncompatible Timesharing System (ITS) であり、そのデフォルトエディタはTECOというラインエディタであった。TECOは現在の一般的なテキストエディタとは違い、追加・編集・表示用にそれぞれ別々のモードが存在していた。そのため文字を入力しても即座に反映されるわけではなく、代わりにTECOコマンド言語の i 文字を入力して入力モードに切り替えてから必要な文字を入力し、最後に ESC 文字を入力してエディタをコマンドモードに再度切り替える必要があり(上書きが可能なため、同様のテクニックが使われた)、しかも入力モードで編集中の文字は画面に表示されなかった。なお、この振る舞いは現在も使われているedやviと同じである。
リチャード・ストールマンは、1972年と1974年にスタンフォード人工知能研究所を訪れ、Fred Wrightにより書かれたその研究所の「E」エディタを目にした。Eの振る舞いは今のエディタの大半で使われている直感的なWYSIWYGであり、ストールマンはその機能に触発されてMITに戻った。 AI研ハッカーの一人であるCarl Mikkelsenは、利用者がキー操作するたびに画面表示を更新するControl-Rという表示・編集を組み合わせたモードをTECOに追加していた。ストールマンは、この更新が効率的に動くよう書き直し、任意のキー操作でTECOプログラムが動くように利用者が再定義できるマクロ機能をTECOの表示・編集モードに追加した。
EにはTECOに不足していたランダムアクセス編集機能が搭載されていた。TECOはPDP-1の紙テープを編集するために設計されたページシーケンシャルエディタであるため、一度に1つの紙テープしか編集することしかできず、さらに紙テープのファイルに存在するページの順に編集しなければならなかった。Eはディスク上のページランダムアクセスを可能にするため、ファイルを構造化するというアプローチを採用していたが、ストールマンはTECOを修正してさらに巨大なバッファを効率的に処理できるようにするというアプローチを採用し、ファイル全体を単一バッファとして読み込み、編集し、書き込めるようにファイル管理方法を変更した。現在ではほとんどのエディタがこのアプローチを用いている。
新しいバージョンのTECOはまたたく間にAI研で評判となり、マクロを意味する「MAC」や「MACS」が語尾に付いた名前のカスタム・マクロの巨大なコレクションが溜まった。さらにその2年後、どんどんばらばらになっていくキーボード・コマンド・セットを1つに統合するプロジェクトをガイ・スティールが引き受けた。ストールマンはスティールとハックしたある夜の後、新しいマクロ・セットの文書化や拡張の機能を含む実装を完成させた。こうしてできあがったシステムはEditing MACroSやE with MACroSを意味するEMACSと呼ばれることになる。ストールマンによると、Emacsとしたのは「当時ITSで<E>が略称に使われていなかったから」である。作り話であるHacker koanではケンブリッジの人気アイスクリーム店「Emack & Bolio's(英語版)」にちなんで名付けられたとしている。操作可能な最初のEMACSシステムは1976年後半に姿を現した。
ストールマンはEMACSの過度のカスタム化や事実上の分裂の危険に気づいたため、ある使用上の条件をつけた。彼は後に次のような文章を残している:
原典であるEmacsはTECO同様にPDP-10上だけで動作した。Emacsの振る舞いはTECOのそれとは大きく異なっていてTECOとは独立した別のエディタとみなせるようになり、さらにEmacsは急激にITS上の標準編集プログラムとなった。Mike McMahon(英語版)はEmacsをITSからTENEXやTOPS-20オペレーティングシステムに移植した。 初期のEmacsへの貢献者には、このほかKent Pitman(英語版)、Earl Killian、Eugene Ciccarelliらがいる。1979年までに、EmacsはMIT人工知能研究所やMITコンピュータ科学研究所で使われる主要エディタとなった。
その後、他のコンピュータシステム用に多くのEmacs風エディタが書かれた。これらにはMichael McMahonとDaniel Weinreb(英語版)らがLISPマシン用に書いた EINE(英語版) (Eine Is Not Emacs) とZWEI (Zwei Was Eine Initally)(なお、ZWEIはドイツ語で「2」の意味でもある。EINEが「1つの」(女性形)にあたるためのもじり。ストールマンの呼ぶEINEは「アイン」のように聞こえるが、ドイツ語の発音は「アイネ」に近い)、そしてOwen Theodore Andersonによって書かれたSINE (Sine Is Not Emacs) がある。WeinrebのEINEはLISPで書かれた最初のEmacsである。1978年にはハネウェルケンブリッジ情報システム研究所でBernard Greenberg(英語版)によりMultics Emacs(英語版)がほぼ全てをMultics MACLISPを用いて書かれ、その後Richard Soley(英語版)とBarry Margolinによりメンテナンスされた。GNU Emacsを含むEmacsのバージョンの多くは後に拡張言語としてLISPを採用することになる。UNIXで動作する最初のEmacs風エディタは、後にNeWSやJavaの開発で知られることになるジェームス・ゴスリングが1981年に書いたGosling Emacsであった。 これはCで書かれ、Mocklisp(英語版)というLISP風構文の拡張言語を使っていた。Mocklispにはシンボルもリストもなく、構文がLISP風なだけで本当のLISPではない。Gosling Emacsは、現在広く使われているフリーソフトウェアのGNU EmacsやMeadowとは異なりプロプライエタリソフトウェアであった。
1984年、リチャード・ストールマンはプロプライエタリソフトウェアであったGosling Emacsのフリーソフトウェアによる代替物を作るべく、GNU Emacsに取り組み始めた。当初GNU EmacsはGosling Emacsをベースとしていたが、ストールマンはMocklispインタプリタを本物のLISPインタプリタに入れ替えてしまい、ほぼすべてのコードが入れ替わった。GNU Emacsは揺籃期のGNUプロジェクトがリリースした最初のプログラムとなった。GNU EmacsはCで書かれており、Cで実装されたEmacs Lisp (ELisp) を拡張言語として提供する。最初に広く頒布されたGNU Emacsのバージョンは1985年に登場した15.34だった。初期のGNU Emacsのバージョン番号は1.x.xのように最初の桁にCコアのバージョンを表すよう採番されていたが、バージョン1.12が出た後にメジャー番号が変わりそうにないため先頭の1をなくすことにしたので、バージョン番号は1から13にスキップした。最初の公開リリースであるバージョン13は1985年3月に完成した。2014年9月にGNU emacs-develメーリングリストで、GNU Emacsにラピッドリリース戦略を採用し、将来的にバージョン番号をより迅速に増やしていくことが発表された。
GNU Emacsは後にUNIXへ移植され、Gosling Emacsよりも多くの機能を提供した。それらの機能の中で代表的な物は、拡張言語であるフル機能を持ったLISPである。それから瞬く間にGNU EmacsはGosling Emacsに取って代わりUNIXのEmacsエディタのデファクトスタンダードとなった。Markus Hess(英語版)は彼の1986 cracking spreeで、GNU Emacs電子メールサブシステムのセキュリティ上の弱点を悪用し、UNIXコンピュータ上でスーパーユーザーアクセス権を取得した。
Emacsは、チューリング完全な言語を小さい中央コアの頂点で起動する階層型アーキテクチャを使用する。ストックされたEmacs頒布の約3/4(24.4現在では1611kLOCのうち1266)がEmacs Lisp拡張言語で書かれており、一度Cによる中核部分(Emacs Lispインタプリタを実装し、24.4現在では247kLOCを占める)を移植すればEmacs Lispコードに実装された機能のセットは存在することになるので、Emacsを新しいプラットフォームに移植することはネイティブコードのみから成る同等のプロジェクトを移植するよりはるかに簡単である。Emacsの移植は理論上中核部のみを新しいプラットフォームへ移植すればよい。このため一度中核部が移植されれば、Cよりも高級な言語で実装された部分は最小限度の作業で済む。
GNU Emacsの開発は伽藍とバザールで伽藍式開発の例にあげられていたように、1999年まで比較的閉鎖的だったが、それ以降は公開された開発メーリングリストと匿名CVSアクセスを採用するようになった。GNU Emacsの開発は2008年までは単一のCVSトランクで行われていたが2009年末より分散型バージョン管理システムであるBazaarに切り替えられ、さらに2014年11月11日にGitへと移行した。
ストールマンは長らくGNU Emacsの主要な管理者を務めていたが、時代と共にその役目から退いていった。2008年から2015年まで管理はStephan MonnierとChong Yidongに引き継がれている。2015年にMITにおけるストールマンとの会合の後、John Wiegleyがメンテナとして指名された。2014年の時点で、GNU Emacsはその歴史を通じて579人によりコミットされてきた。
GNU Emacs のバージョンは 1985年のうちに 17 まであがったが、それ以降は更新は落ち着いた速度で行われている。
1991年初頭、GNU Emacs 19の初期α版をベースとしてJamie Zawinski(英語版)とLucid(英語版)社の人たちによりLucid Emacsが開発された。コードベースはすぐに2つに分割され、開発チームは単一プログラムとして併合しようとすることをあきらめた 。これはフォークしたフリーソフトウェアのうち初期の最も有名な例の1つである。Lucid EmacsはXEmacsと名前を変え、Emacsの中でGNU Emacsに次いで2番目に有名な派生となった。XEmacsの開発は2009年1月に最新の安定版であるバージョン21.4.22がリリースされてから遅くなっていき、その一方でGNU Emacsは以前はXEmacsにしかなかった機能の多くを実装していった。このため一部のユーザーはXEmacsの死を宣言するようになった。
XEmacsほど有名ではないGNU Emacsのフォークには以下のものがある:
過去においては、各Emacsプロジェクトの目的は肥大化したEmacsの小規模なバージョン作成であった。GNU Emacsは当初、当時のハイエンドであった32ビットフラットアドレス空間と少なくとも1MiBのRAMを搭載するコンピュータを想定していたが、1980年代ではそのようなコンピュータはハイエンドなワークステーションやミニコンピュータであったので、一般的なパーソナルコンピュータのハードウェアで動作するようより小規模に再実装する必要があった。近年では小規模なEmacsクローンはソフトウェアインストールディスクに収まるよう設計されている。
小規模バージョン作成以外のプロジェクトの目的は、Emacs Lisp以外のLISP方言やLISPとは全く異なるプログラミング言語によるEmacsの実装である。Emacsクローンを以下に示す。ただし現在その全てが管理されているわけではない:
Emacsは主にテキストエディタでありテキスト要素を操作するよう設計されているが、LaTeX、Ghostscript、ウェブブラウザといった外部のプログラムと通信することで、ワードプロセッサのように文書を整形したり印刷することができる。Emacsは語、文、そして段落といった異なるセマンティック要素や、関数のようなソースコードの構成要素を処理したり様々な色を付けるためのコマンドを提供する。さらにEmacsは編集コマンドのユーザー定義バッチ用にキーボードマクロも提供する。
GNU Emacsはリアルタイム表示エディタであるので、編集する度にその編集がオンスクリーンで表示される。これは現在のテキストエディタの標準的振る舞いであるが、EMACSは初期の段階でこの機能を実装していたため、viのように既存のテキストに新しい編集を挿入するために個別のコマンドを実行する必要がなかった。
viが編集のための基本的な機能のみを搭載していたのに対し、Emacsはインクリメンタルサーチ・無制限のアンドゥ・ヤンク(ペースト)用のスタック・複数のバッファ・バッファ上でシェルを実行・補完・言語ごとのモードなど、エディタとして考えられる限りの機能を詰め込んでいる。VimではEmacsと同等のことができるようになっているが、バッファの使い方はEmacsより控えめである。
文書への文字列挿入などの基本的な編集操作を含むEmacsの機能はほとんど全て、LISPの方言で書かれた関数で行える。GNU Emacsで使われるLISP方言はEmacs Lispとして知られている。Emacs Lisp層はCで書かれた基本的なサービスとプラットフォームを抽象化した概念の、安定したコアの頂点に位置している。LISP環境の変数と関数は、Emacsのリコンパイルや再起動をせずとも一時的に修正できる。
Emacsは追加属性を持つテキストを含んだバッファと呼ばれるデータ構造上で動作する。全てのバッファはその固有のポイント(カーソル位置)とマーク(ポイントと併せて、選択されたリージョンを区切るためのもう1つの位置)、(適用可能な場合)バッファが訪問しているファイル名、そして変数で編集や振る舞いを制御する現在のモードのセット(正確には1つの「主モード」と複数の「副モード」からなる)を保存している。対話的に実行可能なEmacs Lispコードをコマンドという。コマンドはキープレスなどのイベントにバインドでき、さらに名前でアクセスすることもできる。コマンドの中にはバッファから任意のEmacs Lispコードを評価するもの(例としてはeval-regionやeval-bufferなど)もある。
バッファはウィンドウ内に表示される。ウィンドウは端末画面やGUIウィンドウのタイリングされた部分である(その部分はEmacs用語でフレームと呼ばれ、複数のフレームが可能)。特に設定されていない場合、ウィンドウにはスクロールバー、行番号、一番上にあるヘッダ行(通常この行にはバッファタイトルやファイル名が表示される)、そして一番下にあるモード行(通常この行には現在のモードとバッファにおけるポイントの位置のリストが表示される)が含まれる。
同じバッファ上で複数ウィンドウを開くことができるため、例えば1つの長いテキストから異なるパートを見ることができる。さらに複数バッファで同じテキストを共有できるので、例えば言語が混在したファイルで異なる主モードを利用することができる。M-x <mode name>により必要に応じてモードを手動で変更することもできる。
ふつう最下行にあるミニバッファは、Emacsが情報を受け取る場所である。検索対象のテキストや読んだり保存したりするファイルの名前などの情報をミニバッファに入力する。一部の入力ではタブキーを用いて入力を補完することができる。ミニバッファは通常1行しかないが、ここでも通常のバッファと同じ移動・編集コマンドを使うことができる。
Emacsは、プログラマが単一インターフェースでコードを編集、コンパイル、デバッグするような統合開発環境 (IDE) としても使うことができる。
このような編集機能にとどまらず、Emacs LispはTCP/IP通信や外部プロセスの起動などの機能を持っており、テキストエディタとしては一般的でない機能も多くEmacs Lispで記述されている。これらの機能を利用した様々なアプリケーションソフトウェアが書かれてきた。Emacsはこれらのアプリケーションソフトウェアを動作させる実行環境となっている。外部プロセスとして、UNIXのプロセスを起動する場合、Emacs はプロセスのフロントエンドプロセッサとして動作する。例えば、LISP を Emacs から起動すると、閉じカッコ")"がキーボードから入力された時それに対応する開きカッコ"("をハイライトするようなマクロを組んでおくことで、カッコの確認をしながら入力が可能である。
ライブラリーは、インターネットで見付けることができる。 新しいライブラリーを投稿するためのUsenetニュースグループgnu.emacs.sourcesまである。一部のライブラリーは、最終的にEmacsに取り込まれて、「標準」ライブラリーとなる。
GNU Emacs 24では、パッケージマネージャが内蔵された。公式のパッケージアーカイブであるGNU ELPA(Emacs Lisp Package Archive)のほか、いくつかのアーカイブを扱うことができる。
Emacsには最初から各個別のコマンド、変数、内部関数の説明文字列を表示する、強力なhelpライブラリが付属していた。このため通常の機能や現在の状態の情報をユーザーに提供するので、Emacsは自己説明的だと評される。各関数には説明文字列が含まれていて、要求に応じてユーザーに表示される。その後関数に説明文字列をつける習慣は、LISP、Java、Perl、およびPythonといったさまざまなプログラミング言語に広まった。このヘルプシステムにより、ユーザーは組込みのライブラリや追加されたサードパーティーのライブラリのどちらからも各関数用の実際のヘルプコードを取得できる。
Emacsには組み込みのチュートリアルもある。編集ファイルを指定せずEmacsを起動すると、簡単な編集コマンドの実行方法とチュートリアルを呼出す方法についての説明が表示される。このチュートリアルはStuart Cracraftとストールマンによって作られたものである。
GNU Emacsには組込みの説明文字列のほかにも、ストールマンの執筆したGNU Emacs Manualの電子コピーがついており、組込みのInfoブラウザで閲覧することができる。電子版のほかに、3種のマニュアルがフリーソフトウェア財団から書籍のかたちで刊行されている。
XEmacsの場合、ソフトウェア本体と同時にGNU Emacs Manualからフォークした同様のマニュアルがある他、Bill Lewis、ストールマン、Dan Laliberte共著のEmacs Lisp Reference Manual、Robert Chassel著のProgramming in Emacs Lispも含まれている。
Emacs教会 (英語: Church of Emacs) とはEmacsユーザーによって作られたパロディ宗教(英語版)である。Emacs教会はviを「獣の数字」である(ローマ数字ではvi-vi-viは666を表すため)としているが、viのユーザーに反対しているわけではない。むしろプロプライエタリソフトウェアをアナテマと呼んでいる(「viのフリーソフトウェア版を使うことは罪というより苦行である」)。このパロディ宗教をサポートするためのEmacs教会のニュースグループとしてalt.religion.emacs,が存在する。Emacsユーザーの中には「よりよいものを真似る」ことを試みたとして、viの支持者は対抗としてviカルト (英語: Cult of vi) を作成した。
ストールマンは冗談で自身をEmacs教会の聖人 (英語: saint) であるSt IGNUciusとしている。
Emacsの修飾キーへの強い依存が反復性過労障害(英語版)となるというフォークロアはEmacs小指 (英語: Emacs pinky) と呼ばれる。
ユーザーは様々なアプローチでEmacs小指に対処してきた。ソフトウェア側の手段には以下のようなものがある:
ハードウェアによる解決法としては、修飾キーを親指で簡単に操作できるKinesis Contoured Keyboardや、手の平で押せるようキーボードの両側に対称的に手の平で押すことができる巨大な修飾キーを配置したMicrosoft Natural keyboard(英語版)がある。フットペダルも利用できる。
Emacsが開発されたスペースカデットキーボードは、スペースキーに隣接したコントロールキーが巨大で親指が届き易かった。
英語においてboxenやVAXenのように、emacsという単語の複数形をemacsenと綴ることもある。
EmacsのLispベースの設計の欠点は、Lispコードの読込み、解釈 に伴う性能への負荷である。 Emacsが最初に実装されたシステムでは大抵、競合するテキストエディタよりかなり遅かった。このことをジョークにした、頭文字による略語がEMACSになる文がいくつか存在する(このようなジョークは他にも存在し、例えばユーザー・インターフェースをネタにした (Escape Meta Alt Control Shift) などがある)。
ただし、最近のコンピュータは十分速くなり、以前言われていたほどEmacsを遅いと感じることはめったになくなった。実際、Emacsは最近のワードプロセッサよりも素速く立ち上がる。
さらに、GNU Emacs 23以降はEmacsをサーバープログラムとして立ち上げておくデーモンモードが追加された。この場合、Emacs本体はOS起動時に自動的に一度起動するだけなので、速度は問題にならない。 | [
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"text": "Emacs(イーマックス、[ˈiːmæks])は、その拡張性を特徴としたテキストエディタのファミリーである。Emacsの中で最も広く使われている派生物であるGNU Emacsの作者、リチャード・ストールマンは、自身の声明において「たくさん模倣されたオリジナルのEMACSエディタの発明者 (inventor of the original much-imitated EMACS editor)」を自称し、GNU EmacsのマニュアルではEmacsを「the extensible, customizable, self-documenting, real-time display editor」(拡張およびカスタマイズが可能で、自己文書化を行い、リアルタイム表示を行うエディタ)であると説明している。最初のEmacs開発が1970年代中盤に開始されてから、その直系の子孫であるGNU Emacsが製作され、その開発が2023年現在も続いている。",
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"text": "Emacsはユーザインタフェースと10,000を超える組み込みコマンドを持ち、ユーザーは作業自動化のためにこれらのコマンドをマクロと組み合わせることができる。さらに深い拡張性を提供するLISPプログラミング言語の方言であるEmacs Lisp (ELispまたElispとも) はEmacs実装の主な特徴であり、Emacs Lispでユーザーや開発者はEmacs用の新しいコマンドやアプリケーションを書くことができる。Emacsの拡張機能として電子メール、ファイル、アウトライン、およびRSSフィードが書かれており、それ以外にもELIZA、ポン、ライフゲーム、ヘビゲーム、およびテトリスのクローンもある。ユーザーの中にはEmacs内部からテキスト編集だけでなくほとんど全ての作業を行うことができることに気づいた者もいる。",
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"text": "原典であるEMACSは1972年にCarl Mikkelson、デイビット・A・ムーン(英語版)、およびガイ・L・スティール・ジュニアらによりTECOエディタ用のEditor MACroSのセットとして書かれたものであり、TECOマクロエディタの概念に触発されている。",
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"text": "最も有名かつ最も移植されたEmacsは、ストールマンによってGNUプロジェクトのために作成されたGNU Emacsである。XEmacsは1991年にGNU Emacsからフォークされた派生物である。GNU EmacsとXEmacsは類似のLISP方言を使い、互いに互換性のある部分が大半である。",
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"text": "Emacsはvi (Vim) と並びUNIX文化における伝統的なエディタ戦争の主要な当事者である。Emacsは開発中であるオープンソースプロジェクトの中で最古のものである。",
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"text": "Emacsは1970年代のMIT人工知能研究所(MIT AI研)で産声をあげた。 AI研で使われていたPDP-6やPDP-10のオペレーティングシステムはIncompatible Timesharing System (ITS) であり、そのデフォルトエディタはTECOというラインエディタであった。TECOは現在の一般的なテキストエディタとは違い、追加・編集・表示用にそれぞれ別々のモードが存在していた。そのため文字を入力しても即座に反映されるわけではなく、代わりにTECOコマンド言語の i 文字を入力して入力モードに切り替えてから必要な文字を入力し、最後に ESC 文字を入力してエディタをコマンドモードに再度切り替える必要があり(上書きが可能なため、同様のテクニックが使われた)、しかも入力モードで編集中の文字は画面に表示されなかった。なお、この振る舞いは現在も使われているedやviと同じである。",
"title": "歴史"
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"text": "リチャード・ストールマンは、1972年と1974年にスタンフォード人工知能研究所を訪れ、Fred Wrightにより書かれたその研究所の「E」エディタを目にした。Eの振る舞いは今のエディタの大半で使われている直感的なWYSIWYGであり、ストールマンはその機能に触発されてMITに戻った。 AI研ハッカーの一人であるCarl Mikkelsenは、利用者がキー操作するたびに画面表示を更新するControl-Rという表示・編集を組み合わせたモードをTECOに追加していた。ストールマンは、この更新が効率的に動くよう書き直し、任意のキー操作でTECOプログラムが動くように利用者が再定義できるマクロ機能をTECOの表示・編集モードに追加した。",
"title": "歴史"
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"text": "EにはTECOに不足していたランダムアクセス編集機能が搭載されていた。TECOはPDP-1の紙テープを編集するために設計されたページシーケンシャルエディタであるため、一度に1つの紙テープしか編集することしかできず、さらに紙テープのファイルに存在するページの順に編集しなければならなかった。Eはディスク上のページランダムアクセスを可能にするため、ファイルを構造化するというアプローチを採用していたが、ストールマンはTECOを修正してさらに巨大なバッファを効率的に処理できるようにするというアプローチを採用し、ファイル全体を単一バッファとして読み込み、編集し、書き込めるようにファイル管理方法を変更した。現在ではほとんどのエディタがこのアプローチを用いている。",
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"text": "新しいバージョンのTECOはまたたく間にAI研で評判となり、マクロを意味する「MAC」や「MACS」が語尾に付いた名前のカスタム・マクロの巨大なコレクションが溜まった。さらにその2年後、どんどんばらばらになっていくキーボード・コマンド・セットを1つに統合するプロジェクトをガイ・スティールが引き受けた。ストールマンはスティールとハックしたある夜の後、新しいマクロ・セットの文書化や拡張の機能を含む実装を完成させた。こうしてできあがったシステムはEditing MACroSやE with MACroSを意味するEMACSと呼ばれることになる。ストールマンによると、Emacsとしたのは「当時ITSで<E>が略称に使われていなかったから」である。作り話であるHacker koanではケンブリッジの人気アイスクリーム店「Emack & Bolio's(英語版)」にちなんで名付けられたとしている。操作可能な最初のEMACSシステムは1976年後半に姿を現した。",
"title": "歴史"
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"text": "ストールマンはEMACSの過度のカスタム化や事実上の分裂の危険に気づいたため、ある使用上の条件をつけた。彼は後に次のような文章を残している:",
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"text": "原典であるEmacsはTECO同様にPDP-10上だけで動作した。Emacsの振る舞いはTECOのそれとは大きく異なっていてTECOとは独立した別のエディタとみなせるようになり、さらにEmacsは急激にITS上の標準編集プログラムとなった。Mike McMahon(英語版)はEmacsをITSからTENEXやTOPS-20オペレーティングシステムに移植した。 初期のEmacsへの貢献者には、このほかKent Pitman(英語版)、Earl Killian、Eugene Ciccarelliらがいる。1979年までに、EmacsはMIT人工知能研究所やMITコンピュータ科学研究所で使われる主要エディタとなった。",
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"text": "その後、他のコンピュータシステム用に多くのEmacs風エディタが書かれた。これらにはMichael McMahonとDaniel Weinreb(英語版)らがLISPマシン用に書いた EINE(英語版) (Eine Is Not Emacs) とZWEI (Zwei Was Eine Initally)(なお、ZWEIはドイツ語で「2」の意味でもある。EINEが「1つの」(女性形)にあたるためのもじり。ストールマンの呼ぶEINEは「アイン」のように聞こえるが、ドイツ語の発音は「アイネ」に近い)、そしてOwen Theodore Andersonによって書かれたSINE (Sine Is Not Emacs) がある。WeinrebのEINEはLISPで書かれた最初のEmacsである。1978年にはハネウェルケンブリッジ情報システム研究所でBernard Greenberg(英語版)によりMultics Emacs(英語版)がほぼ全てをMultics MACLISPを用いて書かれ、その後Richard Soley(英語版)とBarry Margolinによりメンテナンスされた。GNU Emacsを含むEmacsのバージョンの多くは後に拡張言語としてLISPを採用することになる。UNIXで動作する最初のEmacs風エディタは、後にNeWSやJavaの開発で知られることになるジェームス・ゴスリングが1981年に書いたGosling Emacsであった。 これはCで書かれ、Mocklisp(英語版)というLISP風構文の拡張言語を使っていた。Mocklispにはシンボルもリストもなく、構文がLISP風なだけで本当のLISPではない。Gosling Emacsは、現在広く使われているフリーソフトウェアのGNU EmacsやMeadowとは異なりプロプライエタリソフトウェアであった。",
"title": "歴史"
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"text": "1984年、リチャード・ストールマンはプロプライエタリソフトウェアであったGosling Emacsのフリーソフトウェアによる代替物を作るべく、GNU Emacsに取り組み始めた。当初GNU EmacsはGosling Emacsをベースとしていたが、ストールマンはMocklispインタプリタを本物のLISPインタプリタに入れ替えてしまい、ほぼすべてのコードが入れ替わった。GNU Emacsは揺籃期のGNUプロジェクトがリリースした最初のプログラムとなった。GNU EmacsはCで書かれており、Cで実装されたEmacs Lisp (ELisp) を拡張言語として提供する。最初に広く頒布されたGNU Emacsのバージョンは1985年に登場した15.34だった。初期のGNU Emacsのバージョン番号は1.x.xのように最初の桁にCコアのバージョンを表すよう採番されていたが、バージョン1.12が出た後にメジャー番号が変わりそうにないため先頭の1をなくすことにしたので、バージョン番号は1から13にスキップした。最初の公開リリースであるバージョン13は1985年3月に完成した。2014年9月にGNU emacs-develメーリングリストで、GNU Emacsにラピッドリリース戦略を採用し、将来的にバージョン番号をより迅速に増やしていくことが発表された。",
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"text": "GNU Emacsは後にUNIXへ移植され、Gosling Emacsよりも多くの機能を提供した。それらの機能の中で代表的な物は、拡張言語であるフル機能を持ったLISPである。それから瞬く間にGNU EmacsはGosling Emacsに取って代わりUNIXのEmacsエディタのデファクトスタンダードとなった。Markus Hess(英語版)は彼の1986 cracking spreeで、GNU Emacs電子メールサブシステムのセキュリティ上の弱点を悪用し、UNIXコンピュータ上でスーパーユーザーアクセス権を取得した。",
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"text": "Emacsは、チューリング完全な言語を小さい中央コアの頂点で起動する階層型アーキテクチャを使用する。ストックされたEmacs頒布の約3/4(24.4現在では1611kLOCのうち1266)がEmacs Lisp拡張言語で書かれており、一度Cによる中核部分(Emacs Lispインタプリタを実装し、24.4現在では247kLOCを占める)を移植すればEmacs Lispコードに実装された機能のセットは存在することになるので、Emacsを新しいプラットフォームに移植することはネイティブコードのみから成る同等のプロジェクトを移植するよりはるかに簡単である。Emacsの移植は理論上中核部のみを新しいプラットフォームへ移植すればよい。このため一度中核部が移植されれば、Cよりも高級な言語で実装された部分は最小限度の作業で済む。",
"title": "歴史"
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"text": "GNU Emacsの開発は伽藍とバザールで伽藍式開発の例にあげられていたように、1999年まで比較的閉鎖的だったが、それ以降は公開された開発メーリングリストと匿名CVSアクセスを採用するようになった。GNU Emacsの開発は2008年までは単一のCVSトランクで行われていたが2009年末より分散型バージョン管理システムであるBazaarに切り替えられ、さらに2014年11月11日にGitへと移行した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 16,
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"text": "ストールマンは長らくGNU Emacsの主要な管理者を務めていたが、時代と共にその役目から退いていった。2008年から2015年まで管理はStephan MonnierとChong Yidongに引き継がれている。2015年にMITにおけるストールマンとの会合の後、John Wiegleyがメンテナとして指名された。2014年の時点で、GNU Emacsはその歴史を通じて579人によりコミットされてきた。",
"title": "歴史"
},
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"text": "GNU Emacs のバージョンは 1985年のうちに 17 まであがったが、それ以降は更新は落ち着いた速度で行われている。",
"title": "歴史"
},
{
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"text": "1991年初頭、GNU Emacs 19の初期α版をベースとしてJamie Zawinski(英語版)とLucid(英語版)社の人たちによりLucid Emacsが開発された。コードベースはすぐに2つに分割され、開発チームは単一プログラムとして併合しようとすることをあきらめた 。これはフォークしたフリーソフトウェアのうち初期の最も有名な例の1つである。Lucid EmacsはXEmacsと名前を変え、Emacsの中でGNU Emacsに次いで2番目に有名な派生となった。XEmacsの開発は2009年1月に最新の安定版であるバージョン21.4.22がリリースされてから遅くなっていき、その一方でGNU Emacsは以前はXEmacsにしかなかった機能の多くを実装していった。このため一部のユーザーはXEmacsの死を宣言するようになった。",
"title": "歴史"
},
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"paragraph_id": 19,
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"text": "XEmacsほど有名ではないGNU Emacsのフォークには以下のものがある:",
"title": "歴史"
},
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"paragraph_id": 20,
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"text": "過去においては、各Emacsプロジェクトの目的は肥大化したEmacsの小規模なバージョン作成であった。GNU Emacsは当初、当時のハイエンドであった32ビットフラットアドレス空間と少なくとも1MiBのRAMを搭載するコンピュータを想定していたが、1980年代ではそのようなコンピュータはハイエンドなワークステーションやミニコンピュータであったので、一般的なパーソナルコンピュータのハードウェアで動作するようより小規模に再実装する必要があった。近年では小規模なEmacsクローンはソフトウェアインストールディスクに収まるよう設計されている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 21,
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"text": "小規模バージョン作成以外のプロジェクトの目的は、Emacs Lisp以外のLISP方言やLISPとは全く異なるプログラミング言語によるEmacsの実装である。Emacsクローンを以下に示す。ただし現在その全てが管理されているわけではない:",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 22,
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"text": "Emacsは主にテキストエディタでありテキスト要素を操作するよう設計されているが、LaTeX、Ghostscript、ウェブブラウザといった外部のプログラムと通信することで、ワードプロセッサのように文書を整形したり印刷することができる。Emacsは語、文、そして段落といった異なるセマンティック要素や、関数のようなソースコードの構成要素を処理したり様々な色を付けるためのコマンドを提供する。さらにEmacsは編集コマンドのユーザー定義バッチ用にキーボードマクロも提供する。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "GNU Emacsはリアルタイム表示エディタであるので、編集する度にその編集がオンスクリーンで表示される。これは現在のテキストエディタの標準的振る舞いであるが、EMACSは初期の段階でこの機能を実装していたため、viのように既存のテキストに新しい編集を挿入するために個別のコマンドを実行する必要がなかった。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "viが編集のための基本的な機能のみを搭載していたのに対し、Emacsはインクリメンタルサーチ・無制限のアンドゥ・ヤンク(ペースト)用のスタック・複数のバッファ・バッファ上でシェルを実行・補完・言語ごとのモードなど、エディタとして考えられる限りの機能を詰め込んでいる。VimではEmacsと同等のことができるようになっているが、バッファの使い方はEmacsより控えめである。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "文書への文字列挿入などの基本的な編集操作を含むEmacsの機能はほとんど全て、LISPの方言で書かれた関数で行える。GNU Emacsで使われるLISP方言はEmacs Lispとして知られている。Emacs Lisp層はCで書かれた基本的なサービスとプラットフォームを抽象化した概念の、安定したコアの頂点に位置している。LISP環境の変数と関数は、Emacsのリコンパイルや再起動をせずとも一時的に修正できる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "Emacsは追加属性を持つテキストを含んだバッファと呼ばれるデータ構造上で動作する。全てのバッファはその固有のポイント(カーソル位置)とマーク(ポイントと併せて、選択されたリージョンを区切るためのもう1つの位置)、(適用可能な場合)バッファが訪問しているファイル名、そして変数で編集や振る舞いを制御する現在のモードのセット(正確には1つの「主モード」と複数の「副モード」からなる)を保存している。対話的に実行可能なEmacs Lispコードをコマンドという。コマンドはキープレスなどのイベントにバインドでき、さらに名前でアクセスすることもできる。コマンドの中にはバッファから任意のEmacs Lispコードを評価するもの(例としてはeval-regionやeval-bufferなど)もある。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "バッファはウィンドウ内に表示される。ウィンドウは端末画面やGUIウィンドウのタイリングされた部分である(その部分はEmacs用語でフレームと呼ばれ、複数のフレームが可能)。特に設定されていない場合、ウィンドウにはスクロールバー、行番号、一番上にあるヘッダ行(通常この行にはバッファタイトルやファイル名が表示される)、そして一番下にあるモード行(通常この行には現在のモードとバッファにおけるポイントの位置のリストが表示される)が含まれる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "同じバッファ上で複数ウィンドウを開くことができるため、例えば1つの長いテキストから異なるパートを見ることができる。さらに複数バッファで同じテキストを共有できるので、例えば言語が混在したファイルで異なる主モードを利用することができる。M-x <mode name>により必要に応じてモードを手動で変更することもできる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "ふつう最下行にあるミニバッファは、Emacsが情報を受け取る場所である。検索対象のテキストや読んだり保存したりするファイルの名前などの情報をミニバッファに入力する。一部の入力ではタブキーを用いて入力を補完することができる。ミニバッファは通常1行しかないが、ここでも通常のバッファと同じ移動・編集コマンドを使うことができる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "Emacsは、プログラマが単一インターフェースでコードを編集、コンパイル、デバッグするような統合開発環境 (IDE) としても使うことができる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "このような編集機能にとどまらず、Emacs LispはTCP/IP通信や外部プロセスの起動などの機能を持っており、テキストエディタとしては一般的でない機能も多くEmacs Lispで記述されている。これらの機能を利用した様々なアプリケーションソフトウェアが書かれてきた。Emacsはこれらのアプリケーションソフトウェアを動作させる実行環境となっている。外部プロセスとして、UNIXのプロセスを起動する場合、Emacs はプロセスのフロントエンドプロセッサとして動作する。例えば、LISP を Emacs から起動すると、閉じカッコ\")\"がキーボードから入力された時それに対応する開きカッコ\"(\"をハイライトするようなマクロを組んでおくことで、カッコの確認をしながら入力が可能である。",
"title": "機能"
},
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"text": "ライブラリーは、インターネットで見付けることができる。 新しいライブラリーを投稿するためのUsenetニュースグループgnu.emacs.sourcesまである。一部のライブラリーは、最終的にEmacsに取り込まれて、「標準」ライブラリーとなる。",
"title": "機能"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "GNU Emacs 24では、パッケージマネージャが内蔵された。公式のパッケージアーカイブであるGNU ELPA(Emacs Lisp Package Archive)のほか、いくつかのアーカイブを扱うことができる。",
"title": "機能"
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{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "Emacsには最初から各個別のコマンド、変数、内部関数の説明文字列を表示する、強力なhelpライブラリが付属していた。このため通常の機能や現在の状態の情報をユーザーに提供するので、Emacsは自己説明的だと評される。各関数には説明文字列が含まれていて、要求に応じてユーザーに表示される。その後関数に説明文字列をつける習慣は、LISP、Java、Perl、およびPythonといったさまざまなプログラミング言語に広まった。このヘルプシステムにより、ユーザーは組込みのライブラリや追加されたサードパーティーのライブラリのどちらからも各関数用の実際のヘルプコードを取得できる。",
"title": "機能"
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"text": "Emacsには組み込みのチュートリアルもある。編集ファイルを指定せずEmacsを起動すると、簡単な編集コマンドの実行方法とチュートリアルを呼出す方法についての説明が表示される。このチュートリアルはStuart Cracraftとストールマンによって作られたものである。",
"title": "機能"
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{
"paragraph_id": 36,
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"text": "GNU Emacsには組込みの説明文字列のほかにも、ストールマンの執筆したGNU Emacs Manualの電子コピーがついており、組込みのInfoブラウザで閲覧することができる。電子版のほかに、3種のマニュアルがフリーソフトウェア財団から書籍のかたちで刊行されている。",
"title": "機能"
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"paragraph_id": 37,
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"text": "XEmacsの場合、ソフトウェア本体と同時にGNU Emacs Manualからフォークした同様のマニュアルがある他、Bill Lewis、ストールマン、Dan Laliberte共著のEmacs Lisp Reference Manual、Robert Chassel著のProgramming in Emacs Lispも含まれている。",
"title": "機能"
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"paragraph_id": 38,
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"text": "Emacs教会 (英語: Church of Emacs) とはEmacsユーザーによって作られたパロディ宗教(英語版)である。Emacs教会はviを「獣の数字」である(ローマ数字ではvi-vi-viは666を表すため)としているが、viのユーザーに反対しているわけではない。むしろプロプライエタリソフトウェアをアナテマと呼んでいる(「viのフリーソフトウェア版を使うことは罪というより苦行である」)。このパロディ宗教をサポートするためのEmacs教会のニュースグループとしてalt.religion.emacs,が存在する。Emacsユーザーの中には「よりよいものを真似る」ことを試みたとして、viの支持者は対抗としてviカルト (英語: Cult of vi) を作成した。",
"title": "文化"
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"text": "ストールマンは冗談で自身をEmacs教会の聖人 (英語: saint) であるSt IGNUciusとしている。",
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"text": "Emacsの修飾キーへの強い依存が反復性過労障害(英語版)となるというフォークロアはEmacs小指 (英語: Emacs pinky) と呼ばれる。",
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"text": "ユーザーは様々なアプローチでEmacs小指に対処してきた。ソフトウェア側の手段には以下のようなものがある:",
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"text": "ハードウェアによる解決法としては、修飾キーを親指で簡単に操作できるKinesis Contoured Keyboardや、手の平で押せるようキーボードの両側に対称的に手の平で押すことができる巨大な修飾キーを配置したMicrosoft Natural keyboard(英語版)がある。フットペダルも利用できる。",
"title": "文化"
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"paragraph_id": 43,
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"text": "Emacsが開発されたスペースカデットキーボードは、スペースキーに隣接したコントロールキーが巨大で親指が届き易かった。",
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"text": "英語においてboxenやVAXenのように、emacsという単語の複数形をemacsenと綴ることもある。",
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"text": "EmacsのLispベースの設計の欠点は、Lispコードの読込み、解釈 に伴う性能への負荷である。 Emacsが最初に実装されたシステムでは大抵、競合するテキストエディタよりかなり遅かった。このことをジョークにした、頭文字による略語がEMACSになる文がいくつか存在する(このようなジョークは他にも存在し、例えばユーザー・インターフェースをネタにした (Escape Meta Alt Control Shift) などがある)。",
"title": "問題点"
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"text": "ただし、最近のコンピュータは十分速くなり、以前言われていたほどEmacsを遅いと感じることはめったになくなった。実際、Emacsは最近のワードプロセッサよりも素速く立ち上がる。",
"title": "問題点"
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{
"paragraph_id": 47,
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"text": "さらに、GNU Emacs 23以降はEmacsをサーバープログラムとして立ち上げておくデーモンモードが追加された。この場合、Emacs本体はOS起動時に自動的に一度起動するだけなので、速度は問題にならない。",
"title": "問題点"
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] | Emacs(イーマックス、)は、その拡張性を特徴としたテキストエディタのファミリーである。Emacsの中で最も広く使われている派生物であるGNU Emacsの作者、リチャード・ストールマンは、自身の声明において「たくさん模倣されたオリジナルのEMACSエディタの発明者」を自称し、GNU EmacsのマニュアルではEmacsを「the extensible, customizable, self-documenting, real-time display editor」(拡張およびカスタマイズが可能で、自己文書化を行い、リアルタイム表示を行うエディタ)であると説明している。最初のEmacs開発が1970年代中盤に開始されてから、その直系の子孫であるGNU Emacsが製作され、その開発が2023年現在も続いている。 Emacsはユーザインタフェースと10,000を超える組み込みコマンドを持ち、ユーザーは作業自動化のためにこれらのコマンドをマクロと組み合わせることができる。さらに深い拡張性を提供するLISPプログラミング言語の方言であるEmacs Lisp (ELispまたElispとも) はEmacs実装の主な特徴であり、Emacs Lispでユーザーや開発者はEmacs用の新しいコマンドやアプリケーションを書くことができる。Emacsの拡張機能として電子メール、ファイル、アウトライン、およびRSSフィードが書かれており、それ以外にもELIZA、ポン、ライフゲーム、ヘビゲーム、およびテトリスのクローンもある。ユーザーの中にはEmacs内部からテキスト編集だけでなくほとんど全ての作業を行うことができることに気づいた者もいる。 原典であるEMACSは1972年にCarl Mikkelson、デイビット・A・ムーン、およびガイ・L・スティール・ジュニアらによりTECOエディタ用のEditor MACroSのセットとして書かれたものであり、TECOマクロエディタの概念に触発されている。 最も有名かつ最も移植されたEmacsは、ストールマンによってGNUプロジェクトのために作成されたGNU Emacsである。XEmacsは1991年にGNU Emacsからフォークされた派生物である。GNU EmacsとXEmacsは類似のLISP方言を使い、互いに互換性のある部分が大半である。 Emacsはvi (Vim) と並びUNIX文化における伝統的なエディタ戦争の主要な当事者である。Emacsは開発中であるオープンソースプロジェクトの中で最古のものである。 | {{Otheruses|Emacsエディタ全般|GNUプロジェクトによるEmacs|GNU Emacs}}
{{infobox software
| name = Emacs
| logo =
| screenshot = [[Image:Emacs Dired buffers.png|300px]]
| caption = GNU Emacsにおける複数の[[Dired]]バッファの編集
| developer = {{仮リンク|デイビット・A・ムーン|en|David A. Moon}}、[[ガイ・スティール・ジュニア]]
| released = {{Start date and age|df=yes|1976}}<ref>{{cite web|url=https://www.emacswiki.org/emacs//EmacsReleaseDates|title=/EmacsReleaseDates|accessdate=2017-11-01}}</ref><ref name=jwz_timeline>
{{cite web|title=Emacs Timeline|url=http://www.jwz.org/doc/emacs-timeline.html|accessdate=11 August 2015 | last = Zawinski | first = Jamie | authorlink = Jamie Zawinski | work = | publisher = | date = 2005-06-21 |orig-year=1999 }}</ref>
| latest release version = <!-- Please don't place a version here, as this article is about all editors in the EMACS family. Instead, you may wish to update or add version information to specific software project articles. -->
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| operating system = [[Text Editor and Corrector|TECO]]、[[クロスプラットフォーム]]、[[Unix系]]
| programming language = [[LISP]], [[C言語|C]]
| genre = [[テキストエディタ]]
| license =
}}
'''Emacs'''(イーマックス、{{IPAc-en|ˈ|iː|m|æ|k|s}})は、その[[拡張性]]を特徴とした[[テキストエディタ]]のファミリーである<ref>{{cite web|title=A Tutorial Introduction to GNU Emacs|url=http://www2.lib.uchicago.edu/keith/tcl-course/emacs-tutorial.html|quote=For an editor to be called "emacs" the main requirement is that it be fully extensible with a real programming language, not just a macro language.|accessdate=2017-05-15}}</ref>。Emacsの中で最も広く使われている派生物であるGNU Emacs<ref>{{cite web|url=https://ebooks-it.org/1565924967-ebook.htm|title=GNU Emacs Pocket Reference|quote=GNU Emacs is the most popular and widespread of the Emacs family of editors.|accessdate=2017-11-01}}</ref>の作者、[[リチャード・ストールマン]]は、自身の声明<ref>{{cite web|title=最初の声明|url=https://www.gnu.org/gnu/initial-announcement.ja.html|publisher=FSF|accessdate=2023-09-27}}</ref><ref>{{cite web|title=Initial Announcement|url=https://www.gnu.org/gnu/initial-announcement.en.html|publisher=FSF|accessdate=2023-09-27}}</ref>において「たくさん模倣されたオリジナルのEMACSエディタの発明者 (inventor of the original much-imitated EMACS editor)」を自称し、GNU Emacsの[[マニュアル]]ではEmacsを「the extensible, customizable, self-documenting, real-time display editor」(拡張およびカスタマイズが可能で、自己文書化を行い、リアルタイム表示を行うエディタ)であると説明している<ref>{{cite web|title=GNU Emacs Manual|url=https://www.gnu.org/software/emacs/manual/html_node/emacs/index.html|work=GNU Emacs Manual|publisher=FSF|accessdate=24 November 2012}}</ref>。最初のEmacs開発が1970年代中盤に開始されてから、その直系の子孫であるGNU Emacsが製作され、その開発が{{as of|2023|lc=on}}も続いている。
Emacsは[[ユーザインタフェース]]と10,000を超える組み込みコマンドを持ち、ユーザーは作業自動化のためにこれらのコマンドを[[マクロ (コンピュータ用語)|マクロ]]と組み合わせることができる。さらに深い拡張性を提供する[[LISP]][[プログラミング言語]]の方言である[[Emacs Lisp]] (ELispまたElispとも) はEmacs実装の主な特徴であり、Emacs Lispでユーザーや開発者はEmacs用の新しいコマンドやアプリケーションを書くことができる。Emacsの拡張機能として[[Gnus|電子メール]]、[[Dired|ファイル]]、[[Orgmode|アウトライン]]、および[[RSS]]フィードが書かれており<ref>{{cite web|url=http://nullprogram.com/blog/2013/09/04/|title=Introducing Elfeed, an Emacs Web Feed Reader|accessdate=2016-06-12}}</ref>、それ以外にも[[ELIZA]]、[[ポン (ゲーム)|ポン]]、[[ライフゲーム]]、[[ヘビゲーム]]、および[[テトリス]]のクローンもある<ref>{{cite web|url=https://www.gnu.org/software/emacs/manual/html_node/emacs/Amusements.html|title=Amusements|quote=Finally, if you find yourself frustrated, try describing your problems to the famous psychotherapist Eliza. Just do M-x doctor.|accessdate=2017-11-01}}</ref>。ユーザーの中にはEmacs内部からテキスト編集だけでなくほとんど全ての作業を行うことができることに気づいた者もいる<ref>{{cite web|url=http://www.gnu.org/software/emacs/tour/|title=A Guided Tour of Emacs|quote=Some users find that they can do almost all of their work from within Emacs.|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
原典であるEMACSは[[1972年]]にCarl Mikkelson、{{仮リンク|デイビット・A・ムーン|en|David A. Moon}}、および[[ガイ・スティール・ジュニア|ガイ・L・スティール・ジュニア]]らにより[[Text Editor and Corrector|TECO]]エディタ用の''Editor MACroS''のセットとして書かれたものであり<ref name=jwz_timeline/><ref>{{cite book | url = http://www.multicians.org/mepap.html | title = Multics Emacs: The History, Design and Implementation | last = Greenberg | first = Bernard S. | year = 1979 | location = | publisher = |accessdate=2016-06-12}}</ref><ref>{{cite web |url=https://www.gnu.org/software/emacs/emacs-faq.html#Origin-of-the-term-Emacs | title = GNU Emacs FAQ |accessdate=2016-06-12}}</ref><ref name="MACSimizing TECO">{{cite web |url=http://www.codeartnow.com/hacker-art-1/macsimizing-teco | title = MACSimizing TECO | author = Adrienne G. Thompson|accessdate=2016-06-12}}</ref><ref group="注">他の共同制作者として[[リチャード・ストールマン]]がクレジットされることが多いが、{{仮リンク|ダニエル・ウェインレブ|en|Daniel Weinreb}}は「(TECOベースである)オリジナルのEmacsはガイ・L・スティール・ジュニアとデイビット・ムーンが開発・設計した。彼らがEmacsを動くようにした後で、MIT AI研における標準テキストエディタとして確立されていき、ストールマンがそのメンテナンスを引き継いだ」と記している。ムーン自身は「私が覚えている限り、それは全て真実だ。しかし公正を期して言えば、ストールマンがガイと私からEmacsを『解放した』後、ストールマンがEmacsを大幅に改善したと言わなければならない」と応えた。以下を参照 : {{citation|archive-url=https://web.archive.org/web/20090101103828/http://danweinreb.org/blog/rebuttal-to-stallmans-story-about-the-formation-of-symbolics-and-lmi|archive-date=January 1, 2009|url=http://danweinreb.org/blog/rebuttal-to-stallmans-story-about-the-formation-of-symbolics-and-lmi|first=ダニエル|last=ウェインレブ|authorlink=ダニエル・ウェインレブ|title= Rebuttal to Stallman’s Story About The Formation of Symbolics and LMI|work=Dan Weinreb's blog: software and innovation|date= November 11, 2007|deadurl=yes |df=}}</ref>、TECOマクロエディタの概念に触発されている<ref>{{cite web|url=http://www.xemacs.org/Documentation/21.5/html/internals_3.html |title=A history of Emacs |accessdate=2007-08-22 |date=2006-12-11 |work=XEmacs Internals Manual }}</ref>。
最も有名かつ最も移植されたEmacsは、ストールマンによって[[GNUプロジェクト]]のために作成された[[GNU Emacs]]である<ref>{{cite web |url=http://popcon.debian.org/main/editors/by_vote |title=Debian Popularity Contest |first=Bill |last=Allombert |publisher=Debian |work=Editors report |accessdate=22 November 2011}}</ref>。[[XEmacs]]は1991年にGNU Emacsから[[フォーク (ソフトウェア開発)|フォーク]]された派生物である。GNU EmacsとXEmacsは類似のLISP方言を使い、互いに互換性のある部分が大半である。
Emacsは[[vi]] ([[Vim]]) と並び[[UNIX]]文化における伝統的な[[エディタ戦争]]の主要な当事者である。Emacsは開発中であるオープンソースプロジェクトの中で最古のものである<ref>{{cite web|url=http://www.zdnet.com/article/the-10-oldest-significant-open-source-programs/|title=The 10 oldest, significant open-source programs|accessdate=2017-11-01}}</ref>。
== 歴史 ==
[[File:Colorsyntax.png|thumb|[[GNU Emacs]]における[[C言語|C]][[ソースコード]]の編集]]
[[File:Cpp in GNU emacs.png|thumb|[[GNU Emacs]]から[[C++]]コードを編集してコンパイル]]
[[File:Space-cadet.jpg|thumb|right|Emacsのインタフェースは[[シンボリックス]]の[[スペースカデットキーボード]]の設計の影響を受けた<ref name="isbn1-56592-152-6">{{cite book
|author1=Raymond, Eric S. |author2=Cameron, Debra |author3=Rosenblatt, Bill |title=Learning GNU Emacs, 2nd Edition
|publisher=O'Reilly
|location=Sebastopol, CA
|year=1996
|pages=408–409
|isbn=1-56592-152-6
|url=https://books.google.com/books?id=a_lea3-w-1kC&pg=PA408&dq=bucky+keyboard#PPA408,M1
}}</ref>。]]
Emacsは1970年代の[[MIT人工知能研究所]](MIT AI研)で産声をあげた。 AI研で使われていた[[PDP-6]]や[[PDP-10]]の[[オペレーティングシステム]]は[[Incompatible Timesharing System]] (ITS) であり、そのデフォルトエディタはTECOという[[ラインエディタ]]であった。TECOは現在の一般的なテキストエディタとは違い、追加・編集・表示用にそれぞれ別々のモードが存在していた。そのため文字を入力しても即座に反映されるわけではなく、代わりにTECOコマンド言語の <kbd>i</kbd> 文字を入力して入力モードに切り替えてから必要な文字を入力し、最後に <kbd>ESC</kbd> 文字を入力してエディタをコマンドモードに再度切り替える必要があり(上書きが可能なため、同様のテクニックが使われた)、しかも入力モードで編集中の文字は画面に表示されなかった。なお、この振る舞いは現在も使われている[[ed (テキストエディタ)|ed]]や[[vi]]と同じである。
リチャード・ストールマンは、1972年と1974年に[[スタンフォード人工知能研究所]]を訪れ、Fred Wrightにより書かれたその研究所の「E」エディタを目にした<ref>{{cite web | url = ftp://reports.stanford.edu/pub/cstr/reports/cs/tr/80/796/CS-TR-80-796.pdf | title = Essential E | author = Arthur Samuel | accessdate=2011-08-01 | date = March 1980 }}{{リンク切れ|date=September 2017 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=yes }}</ref>。Eの振る舞いは今のエディタの大半で使われている直感的な[[WYSIWYG]]であり、ストールマンはその機能に触発されてMITに戻った。 AI研[[ハッカー]]の一人であるCarl Mikkelsenは、利用者がキー操作するたびに画面表示を更新する<kbd>Control-R</kbd>という表示・編集を組み合わせたモードをTECOに追加していた。ストールマンは、この更新が効率的に動くよう書き直し、任意のキー操作でTECOプログラムが動くように利用者が再定義できる[[マクロ言語|マクロ]]機能をTECOの表示・編集モードに追加した<ref name="MACSimizing TECO"/>。
EにはTECOに不足していたランダムアクセス編集機能が搭載されていた。TECOは[[PDP-1]]の[[紙テープ]]を編集するために設計されたページシーケンシャルエディタであるため、一度に1つの紙テープしか編集することしかできず、さらに紙テープのファイルに存在するページの順に編集しなければならなかった。Eはディスク上のページランダムアクセスを可能にするため、ファイルを構造化するというアプローチを採用していたが、ストールマンはTECOを修正してさらに巨大なバッファを効率的に処理できるようにするというアプローチを採用し、ファイル全体を単一バッファとして読み込み、編集し、書き込めるようにファイル管理方法を変更した。現在ではほとんどのエディタがこのアプローチを用いている。
新しいバージョンのTECOはまたたく間にAI研で評判となり、マクロを意味する「MAC」や「MACS」が語尾に付いた名前のカスタム・マクロの巨大なコレクションが溜まった。さらにその2年後、どんどんばらばらになっていくキーボード・コマンド・セットを1つに統合するプロジェクトを[[ガイ・スティール]]が引き受けた<ref>{{cite web|url=http://archive09.linux.com/feature/19661|title=EMACS vs. vi: The endless geek 'holy war'|quote="EMACS as such actually started out as a standards project," emails Guy Steele|accessdate=2016-06-12}}</ref>。ストールマンはスティールとハックしたある夜の後、新しいマクロ・セットの文書化や拡張の機能を含む実装を完成させた<ref name="MACSimizing TECO"/>。こうしてできあがったシステムは''Editing MACroS''や''E with MACroS''を意味するEMACSと呼ばれることになる。ストールマンによると、Emacsとしたのは「当時ITSで<nowiki><E></nowiki>が略称に使われていなかったから」である<ref>{{cite news | last = Stallman | first = Richard M. | authorlink = リチャード・ストールマン | year = 1987 | title = The EMACS Full-Screen Editor | periodical = GARB | publisher = Lysator, Linköping University | issue = Maj 1987 | pages = 8–11 | url = http://www.lysator.liu.se/history/garb/txt/87-1-emacs.txt | accessdate = 2007-09-14 | postscript = . }}</ref>。作り話である[[ジャーゴンファイル|Hacker koan]]では[[ケンブリッジ (マサチューセッツ州)|ケンブリッジ]]の人気アイスクリーム店「{{仮リンク|Emack & Bolio's|en|Emack & Bolio's}}」にちなんで名付けられたとしている<ref>{{cite web |title=The Emac Bolio Name Koan |website=David G. Wiseman: Stories of Computer Folklore |date=1992-02-10 |last1=Reynolds |first1=Craig |editor1-last=Wiseman |editor1-first=David G. |url=http://www.csd.uwo.ca/staff/magi/personal/humour/Computer_Folklore/The%20Emac%20Bolio%20Name%20Koan.html |quote=A cocky novice once said to Stallman: 'I can guess why the editor is called Emacs, but why is the justifier called Bolio?'. Stallman replied forcefully, Names are but names, Emack & Bolio's is the name of a popular ice cream shop in Boston town. Neither of these men had anything to do with the software.' His question answered, yet unanswered, the novice turned to go, but Stallman called to him, 'Neither Emacs nor Bolio had anything to do with the ice cream shop, either.'|accessdate=2016-06-12}}{{リンク切れ|date=September 2017 |bot=InternetArchiveBot |fix-attempted=yes }}</ref>。操作可能な最初のEMACSシステムは1976年後半に姿を現した<ref name="519a">{{cite techreport | first=Richard | last=Stallman | title=EMACS: The Extensible, Customizable, Self-Documenting, Display Editor | number=AI Memo 519a | institution=MIT AI Lab | date=March 26, 1981 | url=https://hdl.handle.net/1721.1/5736 | accessdate = 2022-06-07 }}</ref>。
ストールマンはEMACSの過度のカスタム化や事実上の分裂の危険に気づいたため、ある使用上の条件をつけた{{要出典|date=2016年6月}}。彼は後に次のような文章を残している<ref name="519a" />:
:''「EMACSは、共同参加を基として頒布される。つまり改良点は全て、組み入れて頒布するために、私のところへ戻ってこなければならない」''
原典であるEmacsはTECO同様にPDP-10上だけで動作した。Emacsの振る舞いはTECOのそれとは大きく異なっていてTECOとは独立した別のエディタとみなせるようになり、さらにEmacsは急激にITS上の標準編集プログラムとなった。{{仮リンク|Mike McMahon|en|Mike McMahon (computer scientist)}}はEmacsをITSから[[TENEX]]や[[TOPS-20]]オペレーティングシステムに移植した。 初期のEmacsへの貢献者には、このほか{{仮リンク|Kent Pitman|en|Kent Pitman}}、Earl Killian、Eugene Ciccarelliらがいる。1979年までに、EmacsはMIT人工知能研究所やMITコンピュータ科学研究所で使われる主要エディタとなった<ref>{{cite news | url=http://pogue.blogs.nytimes.com/2007/08/29/be-careful-what-you-joke-about/ | title=email quoted in "Be Careful What You Joke About" | author=Leigh Klotz | work=The New York Times | date=2007-08-29 | accessdate=2010-05-01 }}</ref>。
=== その他の初期実装 ===
その後、他のコンピュータシステム用に多くのEmacs風エディタが書かれた。これらにはMichael McMahonと{{仮リンク|Daniel Weinreb|en|Daniel Weinreb}}らが[[LISPマシン]]用に書いた {{仮リンク|EINE|en|EINE and ZWEI}} (''Eine Is Not Emacs'') とZWEI (''Zwei Was Eine Initally'')<ref>{{cite web|url=http://steve-yegge.blogspot.be/2008/04/xemacs-is-dead-long-live-xemacs.html#c8187829185600860534|title=Comment by ZWEI's author Dan Weinreb|quote=I wrote the second Emacs ever: the Lisp machine implementation, whose spec was "do what Stallman's PDP-10 (original) Emacs does", and then progressed from there. There's just a whole LOT of it. It took me and Mike McMahon endless hours to implement so many commands to make ZWEI/Zmacs.|accessdate=2016-06-12}}</ref>(なお、ZWEIはドイツ語で「2」の意味でもある。EINEが「1つの」(女性形)にあたるためのもじり。ストールマンの呼ぶEINEは「アイン」のように聞こえるが、ドイツ語の発音は「アイネ」に近い)、そしてOwen Theodore Andersonによって書かれたSINE (''Sine Is Not Emacs'') がある。WeinrebのEINEはLISPで書かれた最初のEmacsである。1978年には[[ハネウェル]]ケンブリッジ情報システム研究所で{{仮リンク|Bernard Greenberg|en|Bernard Greenberg}}により{{仮リンク|Multics Emacs|en|Multics Emacs}}がほぼ全てを[[Maclisp|Multics MACLISP]]を用いて書かれ、その後{{仮リンク|Richard Soley|en|Richard Soley}}とBarry Margolinによりメンテナンスされた。GNU Emacsを含むEmacsのバージョンの多くは後に拡張言語としてLISPを採用することになる。UNIXで動作する最初のEmacs風エディタは、後に[[NeWS]]や[[Java]]の開発で知られることになる[[ジェームス・ゴスリング]]が1981年に書いた[[Gosling Emacs]]であった。 これは[[C言語|C]]で書かれ、{{仮リンク|Mocklisp|en|Mocklisp}}というLISP風構文の拡張言語を使っていた。Mocklispにはシンボルもリストもなく<ref>[http://www.gnu.org/philosophy/stallman-kth.ja.html RMS Lecture at KTH: Japanese]</ref>、構文がLISP風なだけで本当のLISPではない。Gosling Emacsは、現在広く使われている[[フリーソフトウェア]]の[[GNU Emacs]]や[[Meadow]]とは異なり[[プロプライエタリソフトウェア]]であった<ref>プロプライエタリソフトウェアとは、[[ソースコード]]が公開されていないソフトウェアで、プログラムを自由に配布や改変、逆コンパイルをすることができないものを指す用語である。</ref>。
=== GNU Emacs ===
{{main|GNU Emacs}}
[[File:Emacs-nw.png|thumb|テキスト[[端末]]で動く[[GNU Emacs]]]]
1984年、リチャード・ストールマンはプロプライエタリソフトウェアであったGosling Emacsのフリーソフトウェアによる代替物を作るべく、GNU Emacsに取り組み始めた。当初GNU EmacsはGosling Emacsをベースとしていたが、ストールマンはMocklisp[[インタプリタ]]を本物のLISPインタプリタに入れ替えてしまい、ほぼすべてのコードが入れ替わった。GNU Emacsは揺籃期のGNUプロジェクトがリリースした最初のプログラムとなった。GNU EmacsはCで書かれており、Cで実装されたEmacs Lisp (ELisp) を拡張言語として提供する。最初に広く頒布されたGNU Emacsのバージョンは1985年に登場した15.34だった。初期のGNU Emacsのバージョン番号は''1.x.x''のように最初の桁にCコアのバージョンを表すよう採番されていたが、バージョン1.12が出た後にメジャー番号が変わりそうにないため先頭の1をなくすことにしたので、バージョン番号は''1''から''13''にスキップした<ref>{{cite web|url=http://www.xemacs.org/Documentation/21.5/html/internals_3.html|title=A History of Emacs|accessdate=2016-06-12}}</ref>。最初の公開リリースであるバージョン13は1985年[[3月]]に完成した。[[2014年]][[9月]]にGNU emacs-develメーリングリストで、GNU Emacsに[[ラピッドリリース]]戦略を採用し、将来的にバージョン番号をより迅速に増やしていくことが発表された<ref>{{cite web|url=http://lists.gnu.org/archive/html/emacs-devel/2014-09/msg00872.html|title=emacs-devel msg 00872 (2014-09-29)|quote=In retrospect 24.3 should have been named 25.1 and 24.4 should have been named 26.1. The ''.N'' thingy should really be kept only for bug-fix releases and neither of 24.3, 24.4, nor the previously planned 24.5 are bug-fix releases.|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
GNU Emacsは後にUNIXへ移植され、Gosling Emacsよりも多くの機能を提供した。それらの機能の中で代表的な物は、拡張言語であるフル機能を持ったLISPである。それから瞬く間にGNU EmacsはGosling Emacsに取って代わりUNIXのEmacsエディタのデファクトスタンダードとなった。{{仮リンク|Markus Hess|en|Markus Hess}}は彼の1986 cracking spreeで、GNU Emacs電子メールサブシステムのセキュリティ上の弱点を悪用し、UNIXコンピュータ上で[[スーパーユーザー]]アクセス権を取得した<ref>{{cite journal | last=Stoll | first=Clifford | author-link=クリフォード・ストール | title=Stalking the wily hacker | year=1988 | journal=[[Communications of the ACM]] | volume=31 | issue=5 | pages=484?497 | doi=10.1145/42411.42412 | postscript=<!-- Bot inserted parameter. Either remove it; or change its value to "." for the cite to end in a ".", as necessary. -->{{inconsistent citations}} |accessdate=2016-06-12}}</ref>。
Emacsは、[[チューリング完全]]な言語を小さい中央コアの頂点で起動する階層型アーキテクチャを使用する。ストックされたEmacs頒布の約3/4(24.4現在では1611k[[LOC]]のうち1266)がEmacs Lisp拡張言語で書かれており[http://www.ohloh.net/p/emacs/analyses/latest/languages_summary]、一度Cによる中核部分(Emacs Lispインタプリタを実装し、24.4現在では247kLOCを占める)を移植すればEmacs Lispコードに実装された機能のセットは存在することになるので、Emacsを新しいプラットフォームに移植することはネイティブコードのみから成る同等のプロジェクトを移植するよりはるかに簡単である。Emacsの移植は理論上中核部のみを新しいプラットフォームへ移植すればよい。このため一度中核部が移植されれば、Cよりも高級な言語で実装された部分は最小限度の作業で済む。
GNU Emacsの開発は''[[伽藍とバザール]]''で''伽藍''式開発の例にあげられていたように、1999年まで比較的閉鎖的だったが、それ以降は公開された開発メーリングリストと匿名[[Concurrent Versions System|CVS]]アクセスを採用するようになった。GNU Emacsの開発は2008年までは単一のCVSトランクで行われていたが2009年末より分散型[[バージョン管理システム]]である[[Bazaar]]に切り替えられ、さらに2014年11月11日に[[Git]]へと移行した<ref>{{cite web|url=http://lists.gnu.org/archive/html/emacs-devel/2014-11/msg00681.html|title=New Git repository is up.|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
ストールマンは長らくGNU Emacsの主要な管理者を務めていたが、時代と共にその役目から退いていった。2008年から2015年まで管理はStephan MonnierとChong Yidongに引き継がれている<ref>{{cite web|url=http://lists.gnu.org/archive/html/emacs-devel/2008-02/msg02140.html|title=Re: Looking for a new Emacs maintainer or team|publisher=gnu.org Mailing List|accessdate=2008-02-23}}; see also [http://www.networkworld.com/community/node/25360 "Stallman on handing over GNU Emacs, its future and the importance of nomenclature"]</ref>。2015年にMITにおけるストールマンとの会合の後、John Wiegleyがメンテナとして指名された<ref>{{cite web|url=https://www.theregister.co.uk/2015/11/05/wiegley_new_emacs_maintainer/|title=Emacs gets new maintainer as Richard Stallman signs off|accessdate=2017-11-01}}</ref>。2014年の時点で、GNU Emacsはその歴史を通じて579人によりコミットされてきた<ref>{{cite web|url=http://esr.ibiblio.org/?p=5634|title=Ugliest…repository…conversion…ever|quote=twenty-nine years of continuous development by no fewer than 579 people|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
GNU Emacs のバージョンは 1985年のうちに 17 まであがったが、それ以降は更新は落ち着いた速度で行われている。
=== XEmacs ===
{{main|XEmacs}}
[[File:Xemacs-21.5.b29.png|thumb|[[GNU/Linux]]上の[[XEmacs]] 21.5]]
1991年初頭、GNU Emacs 19の初期α版をベースとして{{仮リンク|Jamie Zawinski|en|Jamie Zawinski}}と{{仮リンク|Lucid|en|Lucid Inc.}}社の人たちによりLucid Emacsが開発された。コードベースはすぐに2つに分割され、開発チームは単一プログラムとして併合しようとすることをあきらめた<ref>{{cite web | last = Stephen J. | first = Turnbull | title = XEmacs vs. GNU Emacs | url = http://www.xemacs.org/About/XEmacsVsGNUemacs.html | accessdate = 2012-10-02 }}</ref> 。これはフォークしたフリーソフトウェアのうち初期の最も有名な例の1つである。Lucid EmacsはXEmacsと名前を変え、Emacsの中でGNU Emacsに次いで2番目に有名な派生となった{{要出典|date=2016年6月}}。XEmacsの開発は2009年[[1月]]に最新の安定版であるバージョン21.4.22がリリースされてから遅くなっていき、その一方でGNU Emacsは以前はXEmacsにしかなかった機能の多くを実装していった。このため一部のユーザーはXEmacsの死を宣言するようになった<ref>{{cite web|url=http://steve-yegge.blogspot.com/2008/04/xemacs-is-dead-long-live-xemacs.html|title=XEmacs is Dead. Long Live XEmacs!|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
=== その他のGNU Emacsのフォーク ===
XEmacsほど有名ではないGNU Emacsのフォークには以下のものがある:
* [[Meadow]] - [[Microsoft Windows]]用の日本語バージョン<ref>[http://www.meadowy.org/meadow/pukiwiki-en/ FrontPage - Meadow Wiki]{{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20120216081734/http://www.meadowy.org/meadow/pukiwiki-en/ |date=2012-02-16 }}</ref>
* {{仮リンク|SXEmacs|en|SXEmacs}} - Steve YoungsによるXEmacsのフォーク<ref>{{cite web|url=http://www.sxemacs.org |title=SXEmacs Website |publisher=Sxemacs.org |date=2009-10-11 |accessdate=2009-11-08}}</ref>
* [[Aquamacs]] - GNU Emacsをベースとし、[[Macintosh]]ユーザインタフェースと統合することに焦点を当てている(Aquamacs 3.2はGNU Emacsバージョン24をベースとし、Aquamacs 3.3はGNU Emacsバージョン25をベースとしている)。
=== 様々なEmacsエディタ ===
[[File:OpenBSD mg Editor Ruby Goodbye World.png|thumb|[[Ruby_(代表的なトピック)|Ruby]]のソースコードを編集中の、[[OpenBSD]] 5.3のタイニーEmacs風エディタ''{{仮リンク|mg (エディタ)|label=mg|en|mg (editor)}}'']]
[[File:Screenshot-Zmacs.png|thumb|[[LISPマシン]]用のEmacsである{{仮リンク|Zmacs|en|Zmacs}}]]
過去においては、各Emacsプロジェクトの目的は肥大化したEmacsの小規模なバージョン作成であった。GNU Emacsは当初、当時のハイエンドであった[[32ビット]]フラットアドレス空間と少なくとも1[[メビバイト|MiB]]のRAMを搭載するコンピュータを想定していたが、1980年代ではそのようなコンピュータはハイエンドな[[ワークステーション]]や[[ミニコンピュータ]]であったので、一般的な[[パーソナルコンピュータ]]のハードウェアで動作するようより小規模に再実装する必要があった。近年では小規模なEmacsクローンはソフトウェアインストールディスクに収まるよう設計されている{{要出典|date=2016年6月}}。
小規模バージョン作成以外のプロジェクトの目的は、Emacs Lisp以外のLISP方言やLISPとは全く異なるプログラミング言語によるEmacsの実装である。Emacsクローンを以下に示す。ただし現在その全てが管理されているわけではない:
* [[MicroEMACS]] - Dave Conroyが初めに書き、後にDaniel Lawrenceが開発した、非常に可搬性のある実装である。[[リーナス・トーバルズ]]の使うエディタでもある<ref>http://www.stifflog.com/2006/10/16/stiff-asks-great-programmers-answer/</ref>。
* {{仮リンク|mg (エディタ)|label=mg|en|mg (editor)}} - 当初はMicroGNUEmacsといわれていたが後にmg2aといわれるようになった。MicroEMACSのパブリックドメインなフォークでありより密接にGNU Emacsを似ていることを意図された。[[OpenBSD]]では既定でインストールされる。また、[[macOS]]にプリインストールされていたEmacsは、[[2018年]]にリリースされた[[macOS Mojave|macOS Mojave (v10.14)]]の時点でさえ11年も前にリリースされたemacs22であったが、[[macOS Catalina|macOS Catalina (v10.15)]]よりmgに変更されている。
* NotGNU<ref>{{cite web|url=http://www.notgnu.org/ |title=NotGNU Emacs Editor (Author's Official Download Site) |publisher=Notgnu.org |date=2004-01-15 |accessdate=2009-11-08}}</ref> - Julie Melbinにより書かれた小さくて高速なプロプライエタリな[[フリーウェア]]。[[MS-DOS]]、Win16、Win32、[[Linux]]版がある。
* {{仮リンク|JOVE|en|JOVE}} (Jonathan's Own Version of Emacs) - Jonathan Payneによる[[Unix系]]システム用の非プログラマブルなEmacs実装である。
* {{仮リンク|MINCE|en|MINCE}} (MINCE Is Not Complete Emacs) - {{仮リンク|Mark of the Unicorn|en|Mark of the Unicorn}}製の[[CP/M]]用のバージョンで後にDOSにも移植された。MINCEはFinal Wordへと進化し、さらにFinal Wordは[[ボーランド]]の{{仮リンク|Sprint (ソフトウェア)|en|Sprint (word processor)}}となった。
* {{仮リンク|Perfect Writer|en|Perfect Writer}} - [[CP/M]]実装であり、[[Kaypro II]]およびKaypro IVの最初期のリリースに付属のデフォルトワードプロセッサであるcirca 1982を含んだMINCEが由来。後に[[WordStar]]の代替品としてKaypro 10に提供された。
* {{仮リンク|Freemacs|en|Freemacs}} - テキストマクロ拡張ベースの拡張言語を使う[[DOS (OS)|DOS]]バージョンであり、DOSの64[[キビバイト|KiB]]フラットメモリ限界に収まる。
* [[GNU Zile]] - Zileは''<u>Z</u>ile <u>I</u>s [[非可逆圧縮|<u>L</u>ossy]] <u>E</u>macs''の[[再帰的頭字語]]であった<ref>{{cite web|url=https://www.gnu.org/software/zile/ |title=Zile home page|accessdate=2016-06-20}}</ref>が、[[Lua]]で再度書き直されてZile Implements Lua Editorsとして拡張機能を提供する。新しいZileには未だにZemacsと呼ばれるLuaによるEmacs実装が含まれている。Ziと呼ばれるvi実装も含まれる。
* {{仮リンク|Zmacs|en|Zmacs}} - MIT LISPマシンとその子孫用で、ZetaLispで実装されている。
* {{仮リンク|Climacs|en|Climacs}} - Zmacsに影響された派生で、[[Common Lisp]]で実装されている。
* QEmacs - {{仮リンク|Fabrice Bellard|en|Fabrice Bellard}}による、何千MiBものサイズになる巨大なファイルを迅速に編集可能で[[UTF-8]]が使用可能な小規模エディタ<ref>{{cite web|url=http://bellard.org/qemacs/ |title=QEmacs Homepage |publisher=Fabrice.bellard.free.fr |date= |accessdate=2009-11-08}}</ref>。
* {{仮リンク|Epsilon|en|Epsilon (text editor)}} - Lugaru SoftwareによるEmacsクローン。リリースにはDOS、Windows、Linux、[[FreeBSD]]、[[macOS]]、および[[OS/2]]用のバージョンがバンドルされる。EpsilonはCの構文を持つLISPではない拡張言語を使用し、シングルタスクである[[MS-DOS]]において非常に高速な同時コマンドシェルバッファ実装を使っていた。
* PceEmacs - {{仮リンク|SWI-Prolog|en|SWI-Prolog}}用のEmacsベースエディタ。
* EmACT - 1986年のChristian JullienによるMicroEmacsのフォーク。EmACTのソースコードは[[ソースフォージ|SourceForge]]から利用できる<ref>{{cite web | url = http://sourceforge.net/projects/emact/ | title = EmACT on sourceforge | year = 1986 | author = Christian Jullien. | publisher = Christian Jullien | accessdate =31 December 2011}}</ref>。
* Amacs - EmacsのApple II ProDOSバージョン。{{仮リンク|Brian Fox|en|Brian Fox (computer programmer)}}により[[MOS 6502|6502]][[アセンブリ言語|アセンブラ]]で実装された<ref>{{cite web|url=http://www.mmnt.net/db/0/0/moscoso.org/pub/emulators/apple2/8bit/source|title=AMACS source|accessdate=2016-06-12}}</ref><ref>{{cite web|url=http://apple2.org.za/gswv/a2zine/GS.WorldView/v1999/Feb/A2.NET.GOODIES.2.99/A2Programmer%27s.Languages.txt|title=apple2.org|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
* [[Hemlock]] - 元々[[Spice Lisp]]で書かれていたが、後にCommon Lispとなった。[[CMU Common Lisp]]の一部。Zmacsに影響された。後に(Helixとして)Lucid Common Lisp、[[LispWorks]]および{{仮リンク|Clozure CL|en|Clozure CL}}プロジェクトによりフォークされた。Hemlockを提供することを狙いとした、Portable Hemlockプロジェクトも存在する。HemlockはいくつかのCommon Lisp実装で動作する。
=== Emacsエミュレーションを使うエディタ ===
* {{仮リンク|Yi (エディタ)|label=Yi|fr|YI (éditeur de texte)}} - [[Haskell]]で書かれHaskellで拡張可能なエディタで、Emacsのエミュレーションモードがある。
* {{仮リンク|Joe's Own Editor|en|Joe's Own Editor}} - <span style="font-family: monospace, monospace;">jmacs</span>と呼ばれるEmacsキーバインディングをエミュレートする。
* {{仮リンク|JED|en|JED (text editor)}} - Emacsのエミュレーションモードがある。
* [[Eclipse (統合開発環境)|Eclipse]] - Emacsキーバインディングのセットを提供する。
* [[IntelliJ IDEA]] - Emacsキーバインディングのセットを提供する。
* {{仮リンク|Epsilon|en|Epsilon (text editor)}} - Emacsエミュレーションをデフォルトとし、viモードをサポートする。
* {{仮リンク|Cocoa text system|en|Cocoa text system}} - Emacsと同じ用語を使用し、Emacs操作バインディングを多数理解する。これはネイティブユーザインタフェースが[[コントロールキー]]の代わりに(Superキーと等価な)[[コマンドキー]]を使うためである<ref>{{cite web|url=https://www.hcs.harvard.edu/~jrus/site/cocoa-text.html|title=Cocoa text system|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
* [[Sublime Text]] - SublemacsPro[[プラグイン]]によりEmacsの振る舞いをいくつか[[エミュレータ|エミュレート]]できる<ref>{{cite web|url=https://github.com/grundprinzip/sublemacspro|title=SublemacsPro plugin for Sublime Text|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
* [https://github.com/zbrad/emacskeys Visual Studio Emacs Keys] - [[Microsoft Visual Studio|Visual Studio]]ユーザーにEmacsキーキーバインディングのセットを提供する。
* [[GNU Readline]] - 標準的なEmacs操作のキーバインディングを理解する[[ラインエディタ]]で、viエミュレーションモードも存在する。
* {{仮リンク|GNOME Builder|en|GNOME Builder}} - Emacs用エミュレーションモードを搭載している。
== 機能 ==
Emacsは主に[[テキストエディタ]]でありテキスト要素を操作するよう設計されているが、[[LaTeX]]、[[Ghostscript]]、[[ウェブブラウザ]]といった外部のプログラムと通信することで、[[ワードプロセッサ]]のように文書を整形したり印刷することができる。Emacsは[[語]]、[[文]]、そして[[段落]]といった異なる[[プログラム意味論|セマンティック]]要素や、[[サブルーチン#関数|関数]]のような[[ソースコード]]の構成要素を処理したり[[シンタックスハイライト|様々な色を付ける]]ためのコマンドを提供する。さらにEmacsは編集コマンドのユーザー定義[[バッチ処理|バッチ]]用に''キーボードマクロ''も提供する。
GNU Emacsは''リアルタイム表示''エディタであるので、編集する度にその編集がオンスクリーンで表示される。これは現在のテキストエディタの標準的振る舞いであるが、EMACSは初期の段階でこの機能を実装していたため、viのように既存のテキストに新しい編集を挿入するために個別のコマンドを実行する必要がなかった。
viが編集のための基本的な機能のみを搭載していたのに対し、Emacsはインクリメンタルサーチ・無制限のアンドゥ・ヤンク(ペースト)用の[[スタック]]・複数のバッファ・バッファ上でシェルを実行・補完・言語ごとのモードなど、エディタとして考えられる限りの機能を詰め込んでいる。[[Vim]]ではEmacsと同等のことができるようになっているが、バッファの使い方はEmacsより控えめである。
=== 一般的アーキテクチャ ===
文書への文字列挿入などの基本的な編集操作を含むEmacsの機能はほとんど全て、[[LISP]]の方言で書かれた[[サブルーチン|関数]]で行える。GNU Emacsで使われるLISP方言はEmacs Lispとして知られている。Emacs Lisp層はCで書かれた基本的なサービスとプラットフォームを抽象化した概念の、安定したコアの頂点に位置している。LISP環境の[[変数 (プログラミング)|変数]]と[[サブルーチン|関数]]は、Emacsのリコンパイルや再起動をせずとも一時的に修正できる。
Emacsは追加属性を持つテキストを含んだ''バッファ''と呼ばれる[[データ構造]]上で動作する。全てのバッファはその固有の''ポイント''(カーソル位置)と''マーク''(ポイントと併せて、選択された''リージョン''を区切るためのもう1つの位置)、(適用可能な場合)バッファが''訪問''しているファイル名、そして変数で編集や振る舞いを制御する現在の''モード''のセット(正確には1つの「主モード」{{要説明|date=2017年11月}}と複数の「副モード」{{要説明|date=2017年11月}}からなる)を保存している。対話的に実行可能なEmacs Lispコードを''コマンド''という。コマンドはキープレスなどのイベントにバインドでき、さらに名前でアクセスすることもできる。コマンドの中にはバッファから任意のEmacs Lispコードを評価するもの(例としては<code>eval-region</code>や<code>eval-buffer</code>など)もある。
バッファは''ウィンドウ''内に表示される。ウィンドウは端末画面や[[グラフィカルユーザインタフェース|GUI]]ウィンドウのタイリングされた部分である(その部分はEmacs用語で''フレーム''と呼ばれ、複数のフレームが可能)。特に設定されていない場合、ウィンドウにはスクロールバー、行番号、一番上にある''ヘッダ行''(通常この行にはバッファタイトルやファイル名が表示される)、そして一番下にある''モード行''(通常この行には現在のモードとバッファにおけるポイントの位置のリストが表示される)が含まれる。
同じバッファ上で複数ウィンドウを開くことができるため、例えば1つの長いテキストから異なるパートを見ることができる。さらに複数バッファで同じテキストを共有できるので、例えば言語が混在したファイルで異なる主モードを利用することができる。<code>M-x <mode name></code>により必要に応じてモードを手動で変更することもできる。
ふつう最下行にある''ミニバッファ''は、Emacsが情報を受け取る場所である。検索対象のテキストや読んだり保存したりするファイルの名前などの情報をミニバッファに入力する。一部の入力ではタブキーを用いて入力を補完することができる。ミニバッファは通常1行しかないが、ここでも通常のバッファと同じ移動・編集コマンドを使うことができる。
=== カスタマイズ ===
* キーストロークをマクロに記録し、複雑な反復タスクを自動で再現できる。これは使用後に廃棄される各マクロにより[[アドホック]]ベースに行われることが多い。ただしマクロを保存したり、後で呼び出すこともできる。
* 起動時にEmacsは<code>~/.emacs</code>と名付けられたEmacs Lispスクリプト(近年のバージョンでは<code>~/.emacs.el</code>や<code>~/.emacs.d/init.el</code>でもよい<ref>{{cite web|url=https://www.gnu.org/software/emacs/manual/html_node/emacs/Init-File.html|title=Init file|accessdate=2016-06-20}}</ref>。Emacsは最初に見つけたスクリプトを実行し、それ以外のスクリプトは無視する)を実行する。個人的なカスタマイズファイルは任意の長さや組み合わせでよいが、通常は以下のものが含まれる:
** Emacsの振る舞いをカスタマイズするための、グローバル変数や関数呼び出しの設定。例としては<code>(set-default-coding-systems 'utf-8)</code>など。
** 標準的な[[ショートカットキー|キーバインディング]]を上書きしたり、ユーザーにとって便利なのにデフォルトでバインドされていないキーを持つコマンド用ショートカットを追加するためのキーバインディング。例 : <code>(global-set-key (kbd "C-x C-b") 'ibuffer)</code>
** Emacsの拡張の読み込み、有効化、および初期化(Emacsには多くの拡張が付属しているが、デフォルトでは極少数しか読み込まれない)。
** 指定された時間に任意のコードを実行する''イベントフック''の設定。例としてはバッファの保存後に自動でソースコードをリコンパイルする<code>after-save-hook</code>など。
** 任意の複数ファイル実行。通常は長すぎる設定ファイルを管理できるように均等な部分に分割するためのもの(これらの個人的スクリプト用の伝統的な場所は<code>~/.emacs.d/</code>と<code>~/elisp/</code>である)。
* 「カスタマイズ」拡張により、ユーザーは<code>~/.emacs</code>に変数を設定するよりもユーザーフレンドリーな方法で、Emacs内部からインタラクティブなカラースキームのような設定プロパティを設定できる。これは検索、説明やヘルプ文、複数選択の入力、デフォルトへのリバート、再起動を必要としない起動中のEmacsインスタンス修正や、他のプログラムにおける好みの機能と類似した他の機能を提供する。カスタマイズされた値は<code>~/.emacs</code>(または他の指定ファイル)に自動で保存される。
* ''テーマ''はフォントや色の選択に影響を与え、Emacs Lispファイルで定義されカスタマイズ拡張で選択される。
Emacsは、プログラマが単一インターフェースでコードを編集、[[コンパイル]]、[[デバッグ]]するような[[統合開発環境]] (IDE) としても使うことができる。
このような編集機能にとどまらず、Emacs Lispは[[インターネット・プロトコル・スイート|TCP/IP通信]]や外部[[プロセス]]の起動などの機能を持っており、テキストエディタとしては一般的でない機能も多くEmacs Lispで記述されている。これらの機能を利用した様々な[[アプリケーションソフトウェア]]が書かれてきた。Emacsはこれらのアプリケーションソフトウェアを動作させる実行環境となっている。外部プロセスとして、UNIXのプロセスを起動する場合、Emacs はプロセスのフロントエンドプロセッサとして動作する。例えば、LISP を Emacs から起動すると、閉じカッコ")"がキーボードから入力された時それに対応する開きカッコ"("をハイライトするようなマクロを組んでおくことで、カッコの確認をしながら入力が可能である<ref name="pro-unix">{{Cite book|和書
| author1 = 村井純
| author2 = 井上尚司
| author3 = 砂原秀樹
| title= プロフェッショナルUNIX
| year=1986
| date=1986-1-15
| page= 243
| publisher=[[アスキー (企業)|株式会社アスキー]]|isbn = 4-87148-184-0}}</ref>。
ライブラリーは、インターネットで見付けることができる。
新しいライブラリーを投稿するための[[ネットニュース|Usenet]][[ニュースグループ]][news://gnu.emacs.sources gnu.emacs.sources]まである。一部のライブラリーは、最終的にEmacsに取り込まれて、「標準」ライブラリーとなる。
GNU Emacs 24では、パッケージマネージャが内蔵された。公式のパッケージアーカイブであるGNU ELPA(Emacs Lisp Package Archive)<ref>https://elpa.gnu.org/packages/</ref>のほか、いくつかのアーカイブを扱うことができる。
=== 自己文書化 ===
Emacsには最初から各個別のコマンド、変数、内部関数の説明文字列を表示する、強力な''help''ライブラリが付属していた。このため通常の機能や現在の状態の情報をユーザーに提供するので、Emacsは''自己説明的''だと評される。各関数には説明文字列が含まれていて、要求に応じてユーザーに表示される。その後関数に説明文字列をつける習慣は、LISP、[[Java]]、[[Perl]]、および[[Python]]といったさまざまなプログラミング言語に広まった。このヘルプシステムにより、ユーザーは組込みの[[ライブラリ]]や追加された[[サードパーティー]]のライブラリのどちらからも各関数用の実際のヘルプコードを取得できる。
Emacsには組み込みの[[チュートリアル]]もある。編集ファイルを指定せずEmacsを起動すると、簡単な編集コマンドの実行方法とチュートリアルを呼出す方法についての説明が表示される。このチュートリアルはStuart Cracraftとストールマンによって作られたものである。
GNU Emacsには組込みの説明文字列のほかにも、ストールマンの執筆した''GNU Emacs Manual''の電子コピーがついており、組込みの[[Texinfo|Info]]ブラウザで閲覧することができる。電子版のほかに、3種のマニュアルが[[フリーソフトウェア財団]]から書籍のかたちで刊行されている。
XEmacsの場合、ソフトウェア本体と同時にGNU Emacs Manualからフォークした同様のマニュアルがある他、Bill Lewis、ストールマン、Dan Laliberte共著の''Emacs Lisp Reference Manual''、Robert Chassel著の''Programming in Emacs Lisp''も含まれている。
* [[texinfo]]はGNU Emacsの標準ドキュメントシステムであり、Emacsのマニュアルはtexinfoでドキュメント化されている。texinfoは[[TeX]]をベースにしたマークアップ言語を使って記述し、ハイパーテキスト的なブラウジング・検索が可能なオンラインドキュメント[[info]]として使用することも、TeXを経由して組版されたペーパドキュメントとしても利用することができる。
== 文化 ==
=== Emacs教会 ===
{{main|エディタ戦争}}
[[File:Richard Stallman - Preliminares 2013.jpg|thumb|upright|''Emacs教会''の聖人、[[聖イグヌチウス|St IGNUcius]]としてのリチャード・ストールマン]]
''Emacs教会'' ({{Lang-en|Church of Emacs}}) とはEmacsユーザーによって作られた{{仮リンク|パロディ宗教|en|parody religion}}である<ref>{{cite web|url=http://stallman.org/saint.html|title=Saint IGNUcius - Richard Stallman|publisher=|accessdate=29 January 2015}}</ref>。Emacs教会は[[vi]]を「[[獣の数字]]」である([[ローマ数字]]ではvi-vi-viは[[666]]を表すため)としているが、viのユーザーに反対しているわけではない。むしろ[[プロプライエタリソフトウェア]]を[[アナテマ]]と呼んでいる(「viのフリーソフトウェア版を使うことは罪というより苦行である<ref>{{cite web|url=http://linuxhelp.blogspot.com/2006/04/unabridged-selective-transcript-of.html|title=The unabridged selective transcript of Richard M Stallman's talk at the ANU|publisher=|accessdate=29 January 2015}}</ref>」)。このパロディ宗教をサポートするためのEmacs教会の[[ニュースグループ]]として<span style="font-family: monospace, monospace;">alt.religion.emacs</span>,<ref>[news:alt.religion.emacs alt.religion.emacs newsgroup]</ref>が存在する。Emacsユーザーの中には「よりよいものを真似る」ことを試みたとして、viの支持者は対抗として''viカルト'' ({{Lang-en|Cult of vi}}) を作成した。
ストールマンは冗談で自身をEmacs教会の聖人 ({{Lang-en|saint}}) である[[聖イグヌチウス|St IGNUcius]]としている<ref>[http://www.stallman.org/saint.html Saint IGNUcius - Richard Stallman<!-- Bot generated title -->]</ref>。
=== Emacs小指 ===
Emacsの[[修飾キー]]への強い依存が{{仮リンク|反復性過労障害|en|repetitive strain injury}}となるというフォークロアは''Emacs[[小指]]'' ({{Lang-en|Emacs pinky}}) と呼ばれる<ref name="Xahlee.org">{{cite web|url=http://xahlee.org/emacs/emacs_pinky.html |title=How To Avoid The Emacs Pinky Problem |publisher=Xahlee.org |date= |accessdate=2009-11-08}}</ref>。
ユーザーは様々なアプローチでEmacs小指に対処してきた。ソフトウェア側の手段には以下のようなものがある<ref>{{cite web|url=http://www.emacswiki.org/emacs/RepeatedStrainInjury|title=EmacsWiki: Repeated Strain Injury|publisher=|accessdate=29 January 2015}}</ref>:
* [[CapsLockキー]]をコントロールキーの代わりにするようにキーレイアウトをカスタマイズする<ref>{{cite web|url=http://www.emacswiki.org/emacs/MovingTheCtrlKey |title=Moving The Ctrl Key |publisher=EmacsWiki |accessdate=2009-11-08}}</ref>。類似のテクニックにはCapsLockキーを追加のコントロールキーに定義したり、コントロールキーとメタキーを代わりにする。このテクニックもEmacs小指に対して特に推奨されている。
* EmacsにXwritsや組み込みの<code>type-break-mode</code>といった、ユーザーに定期的に休息を取らせるようなソフトウェアを入れる。
* 最初に文字を尋ねてから、カーソルの動きに対応したアクセスキーでその文字が出現するようにする、<code>ace-jump-mode</code><ref>{{cite web|url=http://www.emacswiki.org/emacs/AceJump|title=EmacsWiki: Ace Jump|publisher=|accessdate=29 January 2015}}</ref>のようなパッケージや、類似の階層ナビゲーションを提供するelisp拡張を使う。
* 先進的なVimエミュレーション層の<code>evil-mode</code>。
* Vimのように修飾キーなしでEmacsコマンドを入力するためのモードによるアプローチを提供する<code>god-mode</code>。
* [[Spacemacs]]が提供するカスタマイズされたキーレイアウトの使用。<code>spacemacs</code>は制御シーケンス用の主要なキーとして[[スペースキー]]を使うプロジェクトであり、<code>evil-mode</code>と<code>god-mode</code>も二つとも重点的に組み込んでいる<ref>{{cite web|url=https://github.com/syl20bnr/spacemacs/ |title=Spacemacs |accessdate=2015-04-20}}</ref>。
* キーの組み合わせのキーシーケンスを変える{{仮リンク|スティッキーキー|en|Sticky keys}}の使用<ref>{{cite web|date= 2009-10-07 |author=BayleShanks |url=http://www.emacswiki.org/emacs/StickyModifiers |title=Sticky Modifiers |publisher=EmacsWiki |accessdate=2009-11-08}}</ref>。
* 基本的なテキスト編集や、さらに進んだ機能のためのEmacsスキーム用にviキーレイアウトを使えるようにする、Emacsの組み込み''<code>viper-mode</code>''の使用<ref>{{cite web|url=http://www.emacswiki.org/emacs/ViperMode |title=Viper Mode |publisher=EmacsWiki |accessdate=2009-11-08}}</ref>。
* スペースキーのようなより快適にアクセスできるキーへのもう1つの役割の付与。もう1つの役割を割り当てられたキーは、他のキーと組み合わせて押すことでコントロールキーとして機能する。[[エルゴノミクスキーボード]]や、日本語キーボードのようにスペースキーに隣接するより多くのキーを持つキーボードを使う。日本語キーボードは[[メタキー]]や[[シフトキー]]以外の修飾キーの親指操作が可能である<ref>{{cite web | url = https://gitlab.com/at-home-modifier/at-home-modifier-evdev/wikis/home| title = At Home Modifier by Evdev | accessdate = 2015-04-14}}</ref>。
* 制限されたキーバインディングの人間工学サブセットを使ったり、<code>M-x <command-name></code>をタイプして他の機能にアクセスする。M-x自体もリバウンドできる。
* 音声入力によるEmacs操作。
* Emacsと相互作用せずに毎日のタスクを行うために十分なElispを書く。
ハードウェアによる解決法としては、修飾キーを親指で簡単に操作できる[[Kinesis#Kinesis Contoured Keyboard|Kinesis Contoured Keyboard]]や、手の平で押せるようキーボードの両側に対称的に手の平で押すことができる巨大な修飾キーを配置した{{仮リンク|Microsoft Natural keyboard|en|Microsoft Natural keyboard}}がある<ref name="Xahlee.org"/>。フットペダルも利用できる。
Emacsが開発された[[スペースカデットキーボード]]は、スペースキーに隣接したコントロールキーが巨大で親指が届き易かった<ref>{{cite web|url=http://ergoemacs.org/emacs/emacs_kb_shortcuts_pain.html|title=Why Emacs's Keyboard Shortcuts are Painful|accessdate=2016-06-12}}</ref>。
=== 用語 ===
英語においてboxenや[[VAX]]enのように、''emacs''という単語の複数形を''emacsen''と綴ることもある<ref>{{cite web|url=http://www.catb.org/~esr/jargon/html/V/VAXen.html |title=VAXen |publisher=Catb.org |date= |accessdate=2009-11-08}}</ref>。
== 問題点 ==
{{独自研究|section=1|date=2011年5月}}
* viなどにくらべて起動が遅い。ただし、Emacsは立ちあげっぱなしにしておく使い方をすることが可能であり、長い起動時間は問題にならないという反論もある。
* Emacsではファイラもオプションの設定画面も通常のエディタ画面と同じ操作が可能であるという特徴があるが、ダイアログボックスなどを使ったGUIに慣れたユーザーにとって、このようなUIはなじみにくい。
* カスタマイズ可能な機能の数が極端に多く、何を設定したらいいのかわかりづらい。
* Emacs Lisp により拡張機能が作りやすいため、類似した機能を実現した多数の実装が乱立しやすい。
=== 起動の遅さ ===
EmacsのLispベースの設計の欠点は、Lispコードの読込み、[[インタプリタ|解釈]] に伴う性能への負荷である。
Emacsが最初に実装されたシステムでは大抵、競合するテキストエディタよりかなり遅かった。このことをジョークにした、頭文字による略語がEMACSになる文がいくつか存在する(このようなジョークは他にも存在し、例えばユーザー・インターフェースをネタにした (''Escape Meta Alt Control Shift'') などがある)。
* ''Eight Megabytes And Constantly Swapping''<ref>{{Cite book|和書
| author= GLYN MOODY 小山祐司監訳
| title= ソースコードの反逆
| year=2002
| date=2002-6-11
| page= 288
| publisher=[[アスキー (企業)|株式会社アスキー]]|isbn = }}</ref><ref>{{Cite web
| title=Some funny acronym expansions of Emacs
| url=https://www.gnu.org/fun/jokes/gnuemacs.acro.exp.en.html
| accessdate=7 Nov 2021
}}</ref>(8MBでちょくちょくスワップ - 8MBのメモリーが広かった時代の話)
* ''Emacs Makes A Computer Slow''(Emacsはコンピュータを遅くする)
* ''Eventually Mallocs All Computer Storage''(結局コンピュータの全記憶装置を[[malloc]]する)
* ''Eventually Makes All Computers Sick''(結局全コンピュータをビョーキにする)
ただし、最近のコンピュータは十分速くなり、以前言われていたほどEmacsを遅いと感じることはめったになくなった。実際、Emacsは最近のワードプロセッサよりも素速く立ち上がる。
さらに、GNU Emacs 23以降はEmacsをサーバープログラムとして立ち上げておく[[デーモン (ソフトウェア)|デーモン]]モードが追加された。この場合、Emacs本体はOS起動時に自動的に一度起動するだけなので、速度は問題にならない。
== 関連項目 ==
{{Portal|FLOSS}}
* {{仮リンク|テキストエディタの比較|en|Comparison of text editors}}
* [[Conkeror]]
* [[GNU TeXmacs]]
* [[テキストエディタの一覧]]
* [[UNIXユーティリティの一覧]]
* [[統合開発環境]]
== 注釈 ==
{{refbegin}}
* {{cite book | last = Ciccarelli | first = Eugene | authorlink = Eugene Ciccarelli | year = 1978 | title = An Introduction to the Emacs Editor | location = Cambridge, Massachusetts | publisher = MIT Artificial Intelligence Laboratory | id = AIM-447 }} [ftp://publications.ai.mit.edu/ai-publications/pdf/AIM-447.pdf PDF]
* {{cite book | last = Stallman | first = Richard M. | authorlink = リチャード・ストールマン | origyear = 1979| year = 1981 | title = EMACS: The Extensible, Customizable, Self-Documenting Display Editor | location = Cambridge Massachusetts | publisher = MIT Artificial Intelligence Laboratory | id = AIM-519A }} [ftp://publications.ai.mit.edu/ai-publications/pdf/AIM-519A.pdf PDF] [https://www.gnu.org/software/emacs/emacs-paper.html HTML]
* {{cite book | last = Stallman | first = Richard M. | authorlink = リチャード・ストールマン | year = 2002 | title = GNU Emacs Manual | edition = 15th | url = https://www.gnu.org/software/emacs/manual/ | publisher = GNU Press | isbn = 1-882114-85-X }}
* {{cite web | last = Stallman | first = Richard M. | authorlink = リチャード・ストールマン | title = My Lisp Experiences and the Development of GNU Emacs | url = https://www.gnu.org/gnu/rms-lisp.html | year = 2002 | accessdate = 2007-02-01 }}
* {{cite book | last = Chassel | first = Robert J. | authorlink = Robert J. Chassell | year = 2004 | url = https://www.gnu.org/software/emacs/emacs-lisp-intro/ | title = An Introduction to Programming in Emacs Lisp | publisher = GNU Press | isbn = 1-882114-56-6 }}
* {{cite book | last = Glickstein | first = Bob | date = April 1997 | title = Writing GNU Emacs Extensions | publisher = O'Reilly & Associates | isbn = 1-56592-261-1 }}
* {{cite book |author1=Cameron, Debra |author2=Elliott, James |author3=Loy, Marc |author4=Raymond, Eric |author5=Rosenblatt, Bill | date = December 2004 | title = Learning GNU Emacs, 3rd Edition | url = http://www.oreilly.com/catalog/gnu3/ | publisher = O'Reilly & Associates | isbn = 0-596-00648-9 }}
* {{cite book | last = Finseth | first = Craig A. | title = The Craft of Text Editing -or- Emacs for the Modern World | publisher = Springer-Verlag & Co | year = 1991 | location = | pages = | url = http://www.finseth.com/craft/ | doi = | isbn = 978-1-4116-8297-9 }}
* {{cite web | last = Thompson | first = Adrienne G. | title = MACSimizing TECO | url = http://www.codeartnow.com/hacker-art-1/macsimizing-teco | year = 2009 | accessdate = 2012-02-26 }}
{{refend}}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{reflist|30em}}
== 外部リンク ==
{{Wikiquote}}
{{Commons category}}
{{Wikibooks}}
* {{official website|https://www.gnu.org/software/emacs}}
* [http://directory.fsf.org/wiki/Emacs Reviewed entry] in the [[Free Software Directory]].
* [http://www.wikemacs.org/index.php Wikemacs]
* [http://www.emacswiki.org/ EmacsWiki]
* [http://texteditors.org/cgi-bin/wiki.pl?EmacsFamily EmacsFamily]
* [http://www.finseth.com/emacs.html List of Emacs implementations]
* [http://chrismennie.ca/EMACS-Conceptual-Architecture.pdf Architectural overview]
* [http://wenshanren.org/?p=418 Famous Emacs users]
* [http://www.slate.com/articles/technology/bitwise/2014/05/oldest_software_rivalry_emacs_and_vi_two_text_editors_used_by_programmers.single.html One of the Oldest Rivalries in Computing: Emacs vs Vi]
* [http://savannah.gnu.org/projects/emacs/ emacs] [[GNU Savannah]](サバンナ)
* [http://www.sociono.net/session-ida/short-bio.html 井田昌之]による[[ビット (曖昧さ回避)|BIT誌]]上の連載「Emacs解剖学」([[Internet Archive]]のキャッシュ)
** [https://web.archive.org/web/20041210205259/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/gnu_rms.html GNUの誕生]
** [https://web.archive.org/web/20041210210448/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/teco.html TecoとEmacs]
** [https://web.archive.org/web/20041125085658/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/emacs-and-keyboard.html Emacsとkeyboard]
** [https://web.archive.org/web/20041213185802/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/keyboard2.html (続)keyboard]
** [https://web.archive.org/web/20041211111627/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/gosling.html Gosling Emacs]
** [https://web.archive.org/web/20041125182250/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/multics-emacs.html Multics Emacs]
** [https://web.archive.org/web/20041216123818/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/source.html ソースで遊ぼう]
** [https://web.archive.org/web/20041211105551/http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~ida/books/completion.html 入力の補完]
* [http://www.emacswiki.org/emacs?interface=ja EmacsWiki] – Emacsの文書化や議論専用のコミュニティー・サイト
* [http://www.finseth.com/emacs.html Emacsの実装一覧(Emacs Implementation)]
{{テキストエディタ}}
{{DEFAULTSORT:Emacs}}
[[Category:テキストエディタ]]
[[Category:ファイル比較ツール]]
[[Category:統合開発環境]]
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[[Category:UNIXのソフトウェア]]
[[Category:1976年のソフトウェア]] | 2003-04-29T07:21:16Z | 2023-09-27T10:45:01Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/Emacs |
7,457 | 直交行列 | 直交行列(ちょっこうぎょうれつ, 英: orthogonal matrix)とは、転置行列と逆行列が等しくなる正方行列のこと。つまり n×n の行列 M の転置行列を M と表すときに、 MM = M M = E を満たすような M のこと。ただし、 E は n 次の単位行列であり、 E 自身も直交行列である。
有限次元実計量ベクトル空間の直交変換は、ある正規直交基底に関して実直交行列(成分が全て実数の直交行列)によって定まる線形変換である。ただし、直交変換とは(必ずしも有限次元でない)実計量ベクトル空間 V において内積を変えない(等長性をもつ)線形変換 f のことである。すなわち、 v, w を V の任意のベクトルとするときに、(f(v), f(w)) = (v, w) が成り立つ。ただし、(•, •) は内積を表す。
n 次正方行列 M の 転置行列 M が Mの逆行列になっているとき、すなわち M = M を満たすとき、M は直交行列であるという。
直交行列は内積を保つ線型変換としても定義できる。実計量ベクトル空間 V の任意のベクトル v, w に対し、内積を (v, w) = vw とする。v, w が行列 M により Mv, Mw に変換されたとき、内積は
となるので、行列 M が直交行列であるのは計量ベクトル空間 V の内積を変えないとき、かつそのときに限る。
直交行列は正則行列であり、直交行列は積や逆について閉じている。n 次直交行列全体の集合を n 次直交群といい、O(n) と書く。行列式の値が1となる直交行列全体の集合を特殊直交群といい、SO(n) と書く。
2次元ユークリッド空間において、原点を中心に角 θ の回転をあらわす2次直交行列は以下で表される。
2次の正方行列において、1行目と2行目を置換させる置換行列は以下で表される。
単位ベクトル u に直交する超平面についての鏡映を与える反射行列(ハウスホルダー行列)H は、以下の式で与えられ、直交行列となる(I は単位行列)。 | [
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] | 直交行列とは、転置行列と逆行列が等しくなる正方行列のこと。つまり n×n の行列 M の転置行列を MT と表すときに、 MTM = M MT = E を満たすような M のこと。ただし、 E は n 次の単位行列であり、 E 自身も直交行列である。 有限次元実計量ベクトル空間の直交変換は、ある正規直交基底に関して実直交行列(成分が全て実数の直交行列)によって定まる線形変換である。ただし、直交変換とは(必ずしも有限次元でない)実計量ベクトル空間 V において内積を変えない(等長性をもつ)線形変換 f のことである。すなわち、
v, w を V の任意のベクトルとするときに、(f, f) =
が成り立つ。ただし、(•, •) は内積を表す。 | {{Redirect|直交変換|直流・交流変換|インバータ}}
{{混同|直交配列}}
{{No footnotes|date=2023年9月}}
'''直交行列'''(ちょっこうぎょうれつ, {{Lang-en-short|orthogonal matrix}})とは、[[転置行列]]と[[逆行列]]が等しくなる[[正方行列]]のこと。つまり {{mvar|n}}×{{mvar|n}} の[[行列 (数学)|行列]] {{mvar|M}} の転置行列を {{mvar|M}}<sup>{{mvar|T}}</sup> と表すときに、 {{math|{{mvar|M}}<sup>{{mvar|T}}</sup>{{mvar|M}} {{=}} {{mvar|M}} {{mvar|M}}<sup>{{mvar|T}}</sup> {{=}} {{mvar|E}}}} を満たすような {{mvar|M}} のこと。ただし、 {{mvar|E}} は {{mvar|n}} 次の[[単位行列]]であり、 {{mvar|E}} 自身も直交行列である。
有限次元[[実数|実]][[計量ベクトル空間]]の直交変換は、ある[[正規直交基底]]に関して実直交行列(成分が全て実数の直交行列)によって定まる[[線形写像|線形変換]]である。ただし、'''直交変換'''とは(必ずしも有限次元でない)実[[計量ベクトル空間]] {{mvar|V}} において[[内積]]を変えない([[等長写像|等長性]]をもつ)線形変換 {{mvar|f}} のことである。すなわち、
{{mvar|'''v''', '''w'''}} を {{mvar|V}} の任意のベクトルとするときに、{{math|({{mvar|f}}({{mvar|'''v'''}}), {{mvar|f}}({{mvar|'''w'''}})) {{=}} ({{mvar|'''v''', '''w'''}})}}
が成り立つ。ただし、{{math|(•, •)}} は内積を表す。
==定義==
{{mvar|n}} 次正方行列 {{mvar|M}} の 転置行列 {{math|{{mvar|M}}<sup>{{mvar|T}}</sup>}} が {{mvar|M}}の[[逆行列]]になっているとき、すなわち {{math|{{mvar|M}}<sup>{{mvar|T}}</sup> {{=}} {{mvar|M}}<sup>-1</sup>}} を満たすとき、{{mvar|M}} は'''直交行列'''であるという。
直交行列は[[内積]]を保つ線型変換としても定義できる。実計量ベクトル空間 {{mvar|V}} の任意のベクトル {{mvar|'''v''', '''w'''}} に対し、内積を {{math|({{mvar|'''v''', '''w'''}}) {{=}} {{mvar|'''v'''<sup>{{mvar|T}}</sup>'''w'''}}}} とする。{{mvar|'''v''', '''w'''}} が行列 {{mvar|M}} により {{mvar|M'''v''', M'''w'''}} に変換されたとき、内積は
:<math> (Mv, Mw) = (Mv)^T Mw = v^T M^T M w = v^T w = (v, w) </math>
となるので、行列 {{mvar|M}} が直交行列であるのは計量ベクトル空間 {{mvar|V}} の内積を変えないとき、かつそのときに限る。
直交行列は[[正則行列]]であり、直交行列は[[行列の積|積]]や[[逆行列|逆]]について閉じている。{{mvar|n}} 次直交行列全体の集合を {{mvar|n}} 次[[直交群]]といい、{{mvar|O}}({{mvar|n}}) と書く。[[行列式]]の値が1となる直交行列全体の集合を[[特殊直交群]]といい、{{mvar|SO}}({{mvar|n}}) と書く。
==例==
===回転行列===
2次元[[ユークリッド空間]]において、原点を中心に角 {{mvar|θ}} の回転をあらわす2次直交行列は以下で表される。
:<math>\begin{pmatrix}
\cos\theta & -\sin\theta \\
\sin\theta & \cos\theta
\end{pmatrix}
</math>
===置換行列===
2次の正方行列において、1行目と2行目を置換させる置換行列は以下で表される。
:<math>\begin{pmatrix}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{pmatrix}
</math>
===反射行列===
[[単位ベクトル]] {{mvar|u}} に直交する[[超平面]]についての[[鏡映]]を与える反射行列([[ハウスホルダー変換|ハウスホルダー行列]]){{mvar|H}} は、以下の式で与えられ、直交行列となる({{mvar|I}} は[[単位行列]])。
:<math>H=I-2uu^\top</math>
==性質==
* 直交行列の行列式の値は ±1 である{{efn2|行列式の値 +1 あるいは −1 に応じて、直交行列を正格 proper あるいは変格 improper ということがある{{sfn|Weyl|1966|page=11}}。}}。実際、行列 {{mvar|A}} が直交行列なら[[行列式]]の性質から
::<math>
\det (A) ^2 = \det (A)\det (A^\intercal) = \det (A A^\intercal) = \det (E) = 1</math>
:となる。逆は必ずしも真ではない。
* [[ユニタリ行列]]である。従って対角化可能である。
* {{mvar|n}} 次行列 {{mvar|A}} を {{mvar|n}} 個の列ベクトル(行ベクトル)<math>v_1, v_2, ... , v_n</math> を並べたものとみなしたとき、直交行列の定義 {{mvar|AA}}<sup>{{mvar|T}}</sup>={{mvar|E}} は <math>v_1, v_2, ... , v_n</math> が[[正規直交基底]]になる条件と同値である。
* {{mvar|n}} 次の直交行列 {{mvar|A}} 、{{mvar|n}} 次の列ベクトル {{mvar|'''x'''}} が与えられた時、[[ノルム]]を ‖•‖ で表せば、 ‖{{mvar|A'''x'''}}‖ = ‖{{mvar|'''x'''}}‖ である。したがって {{mvar|A}} の対応する[[作用素ノルム]]は {{math|‖ ''A'' ‖ {{=}} 1}} である。
<!--
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}-->
==参考文献==
*{{Cite book|和書|title=線型代数入門|author=齋藤正彦|authorlink=齋藤正彦|publisher=東京大学出版会|series=基礎数学 1|year=1982|origyear=1966|isbn=978-4-13-062001-7|ref={{Harvid|齋藤|1982}}}}
*{{Cite book|和書|title=線型代数学|author=佐武一郎|authorlink=佐武一郎|publisher=裳華房|series=数学選書 1|year=1974|isbn=978-4-7853-1301-2|ref={{Harvid|佐武|1974}}}}
**{{Cite book|和書|title=線型代数学|author=佐武一郎|publisher=裳華房|series=数学選書 1|edition=新装版|year=2015|isbn=978-4-7853-1316-6|ref={{Harvid|佐武|2015}}}}
*{{citation|title=Computational Science and Engineering|first=Gilbert |last=Strang|publisher=Wellesley-Cambridge Press|year=2007|isbn=978-0-9614088-1-7}}
**{{Cite book|和書|title=ストラング:計算理工学|author=ギルバート・ストラング|others=今井桂子・岡本久 監訳幹事|publisher=近代科学社|series=世界標準MIT教科書|year=2017|isbn=978-4-7649-0423-1|ref={{Harvid|ストラング|2017}}|url={{Google books|OgCoDwAAQBAJ|ストラング:計算理工学|plainurl=yes}}}}
*{{Cite book|last=Weyl|first=Hermann|authorlink=ヘルマン・ワイル|title=The Classical Groups: Their Invariants and Representations|publisher=Princeton University Press|year=1966|isbn=0-691-07923-4|url={{google books|2twDDAAAQBAJ|plainurl=yes}}|ref=harv}}
==関連項目==
<!--項目の50音順-->
*[[回転行列]]: 直交行列
*[[カルタン・デュドネの定理]]: 直交変換は超平面による鏡映の合成である
*[[置換行列]]: 直交行列
*[[特異値分解]]: あらゆる行列を直交行列と特異値による対角行列へ分解 A = UΣV<sup>{{mvar|T}}</sup>
*[[ユニタリ行列]]: エルミート内積に関して上と類似の性質を持つ行列
*[[QR分解]]: 正方行列から直交行列を作る手法
== 注 ==
{{notelist2}}
== 出典 ==
{{reflist}}
== 外部リンク ==
*{{Kotobank|直交行列}}
*{{高校数学の美しい物語|1218|直交行列の5つの定義と性質の証明}}
*{{MathWorld|author=Rowland, Todd and Weisstein, Eric W.|title=Orthogonal Matrix|urlname=OrthogonalMatrix}}
=== 動画 ===
*{{YouTube|ZmaZFVYSDio|【線形代数#33】対称行列・直交行列}}
*{{YouTube|4GPviihyKlI|【線形代数#34】対称行列の直交行列による対角化}}
*{{YouTube|hhA6FUpZ02k|【線形代数#63】対称行列の対角化}}
{{線形代数}}
{{DEFAULTSORT:ちよつこうきようれつ}}
[[Category:行列|ちよつこうきようれつ]]
[[Category:数学に関する記事|ちよつこうきようれつ]] | 2003-04-29T07:40:41Z | 2023-12-27T12:49:32Z | false | false | false | [
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"Template:高校数学の美しい物語",
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B4%E4%BA%A4%E8%A1%8C%E5%88%97 |
7,458 | コンピュータ略語一覧 | コンピュータ略語一覧(コンピュータりゃくごいちらん)は、コンピュータの略語を一覧にしたものである。
A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T U V W X Y Z 数字
あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行 | [
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{{See also|情報・通信・コンピュータ一覧の一覧|コンピュータ用語一覧}}
__NOTOC__
== 目次 ==
[[#A|A]] [[#B|B]] [[#C|C]] [[#D|D]] [[#E|E]] [[#F|F]] [[#G|G]] [[#H|H]] [[#I|I]] [[#J|J]] [[#K|K]] [[#L|L]] [[#M|M]] [[#N|N]] [[#O|O]] [[#P|P]] [[#Q|Q]] [[#R|R]] [[#S|S]] [[#T|T]] [[#U|U]] [[#V|V]] [[#W|W]] [[#X|X]] [[#Y|Y]] [[#Z|Z]] [[#数字|数字]]
[[#あ行|あ行]] [[#か行|か行]] [[#さ行|さ行]] [[#た行|た行]] [[#な行|な行]]
[[#は行|は行]] [[#ま行|ま行]] [[#や行|や行]] [[#ら行|ら行]] [[#わ行|わ行]]
== A ==
* [[AAC]] Advanced Audio Coding
* AC-3 [[ドルビーデジタル]] (Audio Code Number 3)
* ACK Acknowledge
* ACL [[アクセス制御リスト]] (Access Control List)
* ACM [[Association for Computing Machinery]]
* ACPI [[Advanced Configuration and Power Interface]]
* [[ADSL]] 非対称デジタル加入者線 (Asymmetric Digital Subscriber Line)
* AE [[Adobe After Effects]]
* AES [[Advanced Encryption Standard]]
* AFS [[Andrew File System]]
* AGP [[Accelerated Graphics Port]]
*[[人工知能|AI]] artificial intelligence [[人工知能]]
* [[ACID (コンピュータ科学)|ACID]] Atomicity Consistenc Isolation Durability
* [[Ajax]] (Asynchronous JavaScript and XML)
* Alt Alternative
* AMD Advanced Micro Devices [[アドバンスト・マイクロ・デバイセズ]]
* AOSS [[AirStation One-Touch Secure System]]
* AP Access Point [[アクセスポイント]]
* APC Automatic Power Controller 大型コンピュータの電源制御
* API [[Application Programming Interface]]
* APM [[Advanced Power Management]]
* ARP [[Address Resolution Protocol]]
* AS [[自律システム]] (Autonomous System)
* [[ASCII]] American Standard Code for Information Interchange
* ASF [[Advanced Systems Format]]
* ASP [[Active Server Pages]]
* ASP [[アプリケーションサービスプロバイダ]] (Application Service Provider)
* ASPI [[Advanced SCSI Programming Interface]]
* AT [[PC/AT|The Personal Computer for Advanced Technologies]]
* AT Hayes社[[モデム]]のコマンド [[ヘイズATコマンド]]
* ATA [[Advanced Technology Attachment]]
* ATAPI Advanced Technology Attachment Packet Interface → [[Advanced Technology Attachment]]
* ATM [[Asynchronous Transfer Mode]]
* ATM [[現金自動預け払い機|Automated Teller Machine]]
* [[ATOK]] Advanced Technology Of Kana-Kanji Transfer
* AVI [[Audio Video Interleave]]
== B ==
* [[BASIC]] Beginners All purpose Symbolic Instruction Code
* BBS [[電子掲示板]] (Bulletin Board System)
* BCC [[電子メール#CcとBcc|Blind Carbon Copy]]
* BCC [[C言語#主なC言語処理系|Borland C Compiler]]
* BCD [[二進化十進表現]] (Binary Coded Decimal)
* BD [[Blu-ray Disc]]
* BD-R Blu-ray Disc Recordable
* BD-RE Blu-ray Disc Rewritable
* [[BDAV]] Blu-ray Disk Audio Visual
* [[BDMV]] Blu-ray Disk Movie
* BFD [[BFDライブラリ]]
* BGP [[通信プロトコル#第3層(ネットワーク層)のプロトコル|Border Gateway Protocol]]
* [[BIND]] Berkeley Internet Name Domain
* BIOS [[Basic Input/Output System]]
* [[BSC手順|BISYNC]] binary syncronous protcol
* [[CP/M#構成|BDOS]] Basic Disk Operation System
* BMP ビットマップ (Bitmap)→[[ビットマップ画像]]・[[Windows bitmap]]
* BMP [[Unicode|Basic Multilingual Plane]]
* BNF [[バッカス・ナウア記法]] Backus-Naur Form
* BOM [[エンディアン|Byte Order Mark]]
* BOT [[:w:en:Magnetic tape#Magnetic tape data storage|Beginning of Tape]] 磁気テープ装置媒体の銀色テープマーク
* bps [[ビット毎秒]] (Bits per second)
* BSD [[Berkeley Software Distribution]]
== C ==
* [[CAB]] Cabinet Archive
* [[CAD]] Computer Aided Design, Computer Accisted Drawing, Computer Accisted Drafting
* [[CAE]] Computer Aided Engineering
* [[CAI]]
* [[CAM]] Computer-aided manufacturing
* [[CAV]] Constant Angular Velocity
* CC [[C言語|C Compiler]]
* CC [[クリエイティブ・コモンズ]] (Creative Commons)
* CC [[コモンクライテリア]] (Common Criteria, ISO/IEC 15408)
* CCCD [[コピーコントロールCD]]
* [[ccTLD]] country code Top Level Domain
* CD [[コンパクトディスク]] (Compact Disc)
* CD Change Directory
* CD Cash Dispenser
* [[CD-i]] 対話的CD (Compact Disk Inteructive)
* [[CDMA]] Code Division Multiple Access
* [[CD-ROM]]
* CF [[コンパクトフラッシュ]] (Compact Flash)
* CG [[コンピュータグラフィックス]]
* CGI [[Common Gateway Interface]]
* CHAP [[Challenge-Handshake Authentication Protocol]]
* [[CISC]] Complex Instruction Set Computer
* [[CJK]] Chinese Japanese Korean (中国語・日本語・韓国語)
* CLR [[共通言語ランタイム]] (Common Language Runtime)
* [[CLV]] Constant Linear Velocity
* [[CMOS]] Complementary Metal Oxide Semiconductor
* COFF [[Common Object File Format]]
* COM [[Component Object Model]]
* CPL → [[BCPL]]
* CPP [[C言語|C Preprocessor]]
* CPP [[C++]]
* [[CPU]] 中央演算処理装置 (Central Processing Unit)
* CR Carriage Return(復帰) [[ASCII]]の一種
* CRAM [[Challenge-Response Authentication Mechanism]]
* [[巡回冗長検査|CRC]] Cyclic Redundancy Check エラーチェック方式の一つ
* [[顧客関係管理|CRM]] Customer Relationship Management
* [[CSMA/CA]] Carrier Sense Multiple Access/Collision Avoidance
* [[CSMA/CD]] Carrier Sence Multiple Access/Collision Detection
* CSS [[Cascading Style Sheets]]
* CSS [[Content Scramble System]]
* CSS [[クロスサイトスクリプティング]] (Cross-Site Scripting)
* [[CSRF]] Cross-Site Request Forgeries
* CSV [[Comma-Separated Values]](カンマ区切りテキスト) コンピュータデータの保存形式
* CUI [[キャラクターユーザインタフェース]] (Character User Interface)
* CVCF [[無停電電源装置|定電圧定周波数装置]] (Constant Voltage Constant Frequency)
* CVS [[Concurrent Versions System]]
== D ==
* [[DAT]] Digital Audio Tape
* DAFS ダイレクトアクセスファイルシステム([[:en:Direct Access File System]])
* DB [[データベース]] (Database)
* DBMS [[データベース管理システム]] (Database management system)
* DCOM [[Distributed COM]]
* DDB [[Device Dependent Bitmap]]
* DDoS 分散型サービス拒否 ([[DoS攻撃|Distributed Denial of Service]])
* DDR [[DDR SDRAM|Double Data Rate SDRAM]]
* DDT [[CP/M#トランジェントコマンド|Dynamic Debugging Tool]]
* DES データ暗号化標準 ([[Data Encryption Standard]])
* DFA [[決定性有限オートマトン]] (Deterministic Finite Automata)
* DHCP [[Dynamic Host Configuration Protocol]]
* DIB Device Independent Bitmap → [[Windowsビットマップ|BMP]]
* [[DIMM]] Dual In-line Memory Module
* [[ドイツ工業規格|DIN]] ドイツ工業規格 (Deutsches Institut für Normung)
* distro. [[Linuxディストリビューション]]
* DLL [[ダイナミックリンクライブラリ]] (Dynamic Link Library)
* DMA [[Direct Memory Access]]
* DMF [[DivX#DivX Media Format|DivX Media Format]]
* DNS [[Domain Name System]]
* DOM [[Document Object Model]]
* DOM [[Download Only Member]]
* [[DOS (OS)|DOS]] ディスク・オペレーティング・システム (Disk Operating System)
* DoS サービス拒否 ([[DoS攻撃|Denial of Service]])
* DPI dots per inch
* [[DPMI]] DOS Protected Mode Interface
* DRAM [[Dynamic Random Access Memory]]
* DSSSL 文書スタイル意味指定言語 ([[Document Style Semantics and Specification Language]])
* DSU 加入者回線終端装置 (Digital Service Unit)
* DTD 文書型宣言、DOCTYPE宣言 ([[Document Type Declaration]])
* DTD 文書型定義 ([[Document Type Definition]])
* DTE Data Terminal Equipment
* [[デスクトップミュージック|DTM]] Desktop Music
* [[DTP]] Desktop Publishing
* [[DVI (ファイルフォーマット)|DVI]] Device Independent
* [[Digital Visual Interface|DVI]] Digital Visual Interface
* [[DVD]] デジタル多目的ディスク (Digital Versatile Disc)
== E ==
* [[EBCDIC]] Extended Binary Coded Decimal Interchange Code
* [[誤り訂正符号|ECC]] Error Correcting Code
* ECMA Europian Computer Manufacturer Association(現[[Ecma International]])
* [[EDO]] Extended Data Out
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* EM64T Extended Memory 64-bit Technology → [[x64|Intel 64]]
* [[EMB]] eXtended Memory Block
* EMS [[Expanded Memory Specification]]
* EOF [[End Of File]]
* [[EOT]] End Of Tape, Ent of Text
* [[EPICアーキテクチャ|EPIC]] Explicitly Parallel Instruction Computing
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* [[ESC/P]] Epson Standard Code for Printers
* [[ESC/Page]] Epson Standard Code for Pageprinter
* [[ETX]] End of TeXt テキスト終了 通信で使われる制御文字
* EUC [[Extended Unix Code]](拡張UNIXコード)
* EUC End-User Computing
* [[ワークステーション#エンジニアリングワークステーション (EWS)|EWS]] Engineering Workstation
* EXT EXtended Filesystem ([[:en:Extended file system]])
* [[ext2]] Second EXtended Filesystem
* [[ext3]] Third EXtended Filesystem
* [[ext4]] Fourth EXtended Filesystem
* Exif [[Exchangeable Image File Format]]
== F ==
* FAT ファイルアロケーションテーブル ([[File Allocation Table]])
* FB-DIMM [[Fully Buffered DIMM]]
* FD [[フロッピーディスク]] (Floppy Disk)
* FDC {{仮リンク|フロッピーディスクコントローラ|en|Floppy-disk controller}} (Floppy Disk Controller)
* FDD フロッピーディスクドライブ (Floppy Disk Drive)
* FDL [[GNU Free Documentation License|(GNU) Free Documentation License]]
* [[FEP]] Front-End Processor
* [[FIFO]] First In First Out データストレージの書き込み読み出し方式の一(先入れ先出し)
* [[FLOPS]] Floating point number Operations Per Second
* FLV [[Flash Video]]
* FOAF [[Friend of a Friend]]
* FPS Frames Per Second [[フレームレート]]を表す単位
* FS [[ファイルシステム]] (Filesystem)
* FSF [[フリーソフトウェア財団]] (Free Software Foundation)
* FTP ファイル転送プロトコル ([[File Transfer Protocol]])
* [[FTTH]] Fiber To The Home
== G ==
* [[g11n]] globalization = i18n + l10n
* GC [[ガベージコレクタ]] (Garbage Collection)
* GCC [[GNUコンパイラコレクション]] (GNU Compiler Collection)
* GDI [[Graphics Device Interface]]
* GFDL [[GNU Free Documentation License]]
* GIF [[Graphics Interchange Format]]
* GM [[General MIDI]]
* [[GNOME]] GNU Network Object Model Environment
* [[GNU]] GNU's Not UNIX
* GPL [[GNU General Public License|(GNU) General Public License]]
* GPU [[Graphics Processing Unit]]
* [[GPRS]] General Packet Radio Service
* [[GNU GRUB|GRUB]] GRand Unified Bootloader
* [[GSM]] Global System for Mobile Communications
* GUI [[グラフィカルユーザインタフェース]] (Graphical User Interface)
== H ==
* HAL Hardware Abstraction Layer
* [[HAVi]] Home Audio/Video Interoperability
* [[HE-AAC]] High-Efficiency Advanced Audio Coding
* HD [[ハードディスク]] (Hard Disk)
* HDD [[ハードディスクドライブ]] (Hard Disk Drive)
* [[HD DVD]] High Definition DVD
* [[HDMI]] High-Definition Multimedia Interface
* HDML [[Handheld Device Markup Language]]
* [[デジタル加入者線|HDSL]] - High-bit-rate Digital Subscriber Line
* HEL Hardware Emulation Layer
* [[HFS]] Hierarchical File System
* [[HMA]] High Memory Area
* HP [[ヒューレット・パッカード]] (Hewlett-Packard)
* [[ホームページ|HP]] HomePage
* HPFS [[High Performance Filesystem]]
* HSDPA [[High-Speed Downlink Packet Access]]
* HSUPA [[High-Speed Uplink Packet Access]]
* HTML [[HyperText Markup Language]]
* HTTP [[Hypertext Transfer Protocol]]
* [[HTTPS]] Hypertext Transfer Protocol over Secure Socket Layer
* HTCPCP [[Hyper Text Coffee Pot Control Protocol]]
== I ==
* [[i18n]] 国際化 (internationalization)
* [[IBM]] International Business Machines
* ICMP [[Internet Control Message Protocol]]
* [[ICQ]] I Seek You
* IDE Integrated Drive Electronics → [[Advanced Technology Attachment]]
* IDE [[統合開発環境]] (Integrated Development Environment)
* IDN [[国際化ドメイン名]] (Internationalized Domain Name)
* IE [[Internet Explorer]]
* [[IEEE]](アイトリプルイー)米国電気電子学会 The Institute of Electrical and Electronics Engineers
* IETF [[Internet Engineering Task Force]]
* [[IIP]] Invisible IRC Project
* [[IIS]] Internet Information Server, Internet Information Services
* IMAP [[Internet Message Access Protocol]]
* IM [[インスタントメッセージ]] (Instant Messaging)
* IM [[インスタントメッセンジャー]] (Instant Messenger)
* [[IME]] Input Method Editor
* INT [[割り込み (コンピュータ)|割り込み]] (Interrupt)
* IoT [[モノのインターネット|Internet of Things]]
* IP インターネットプロトコル ([[Internet Protocol]])
* [[IPv6]] インターネットプロトコルバージョン6 (Internet Protocol Version 6)
* IPC [[プロセス間通信]] (InterProcess Communication)
* IPCP [[Internet Protocol Control Protocol]]
* IRC [[インターネット・リレー・チャット]] (Internet Relay Chat)
* [[IrDA]] 赤外線通信
* IRQ [[割り込み (コンピュータ)|割り込み]]要求 (Interrupt Request)
* ISA [[Industry Standard Architecture]]
* [[ISDN]] Integrated Services Digital Network
* ISP [[インターネット・サービス・プロバイダ]] (Internet Service Provider)
* ITIL [[Information Technology Infrastructure Library]]
* IX [[インターネットエクスチェンジ]] (Internet Exchange)
== J ==
* J2K [[JPEG 2000]]
* [[JDK]] [[Java Development Kit]]
* JE Japanese Extension
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* JEIDA 日本電子工業振興協会(Japanese Electronic Industry Development Association、現在のJEITA)
* [[JEITA]] [[電子情報技術産業協会]] (Japan Electronics and Information Technology Industries Association)
* [[JES]] Job Entry System [[実行ジョブ登録システム]]
* [[JFIF]] JPEG File Interchange Format
* JFS [[Journaled File System]]
* JIT [[Just In Time]] (⇒[[ジャストインタイムコンパイラ]])
* [[JPEG]] Joint Picture Expert Group (ISO/IEC JTC 1/SC 29/WG 1)
* JPG [[JPEG]] を3文字に縮めた綴り
* JRE Java実行環境 ([[Java Runtime Environment]])
* JSP [[JavaServer Pages]]
* [[JTAG]] [[Joint Test Action Group]] - 組織名であって規格の名称ではない
* [[JTRON]] Java [[TRONプロジェクト|TRON]]
* JVM [[Java仮想マシン]] (Java Virtual Machine)
== K ==
* [[KISS原則|KISS]] Keep It Simple Stupid
* [[KTM]] Kernel Transaction Manager
== L ==
* [[l10n]] 地域化 (localization)
* LAN [[Local Area Network]]
* LCP [[Link Control Protocol]]
* LDAP [[Lightweight Directory Access Protocol]]
* [[LDIF]] LDAP Data Interchange Format
* LF Line Feed (改行) [[ASCII]]の一種
* LGPL [[GNU Lesser General Public License|(GNU) Lesser General Public License]]
* [[LILO]] LInux LOader
* LL [[Lightweight Language]] (軽量言語)
* LO [[LibreOffice]]
* LSB Least Significant Bit [[最下位ビット]]
* [[LUN]] logical unit number (論理ユニット番号)
* LWO [[LightWave]] Object
== M ==
* M4A [[MPEG-4]] Audio
* M4V MPEG-4 Video
* Mac [[Macintosh]]
* MAN [[Metropolitan Area Network]]
* MBR [[マスターブートレコード]] (Master Boot Record)
* [[MCU]] Memory Control Unit
* MD [[ミニディスク]] (Mini Disc)
* MFC [[Microsoft Foundation Class]]
* [[MICR]] 磁気インク文字認識 (Magnetic Ink Character Recognition)
* [[MIDI]] Musical Instrument Digital Interface
* [[MIMD]] Multiple Instruction, Multiple Data stream
* MIME [[Multipurpose Internet Mail Extensions]]
* [[MIPS]] Million-Instrunctions Per Second
* MIPS Microprocessor without Interlocked Pipeline Stages [[MIPSアーキテクチャ]]
* [[MISD]] Multiple Instruction, Single Data stream
* MKA [[Matroska]] Audio
* MKS Matroska Subtitles
* MKV Matroska Video
* ML [[メーリングリスト]] (Mailing List)
* MML [[Music Macro Language]]
* MNG [[Multiple-image Network Graphics]]
* [[MO (記憶媒体)|MO]] マグネットオプティカル(光磁気ディスク) (Magneto Optical)
* [[MP1]] MPEG Audio Layer-1
* [[MP3#MPEG-1/2_Audio_Layer-2|MP2]] MPEG Audio Layer-2
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* MPA MPEG Audio
* [[MPC]] マルチメディアPC
* MPC [[Media Player Classic]]
* MPEG [[Moving Picture Experts Group]] (ISO/IEC JTC 1/SC29/WG11)
* [[MPU]] Micro Processing Unit → [[マイクロプロセッサ]]/[[CPU]]
* MSB Most Significant Bit [[最上位ビット]]
* MSP [[Management Services Provider]]
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* MX [[Mail Exchange]]
== N ==
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:Program Counter [[プログラム・カウンタ]]
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* PDA Personal Digital Assistant [[携帯情報端末]]
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* RARP [[Reverse address resolution protocol]]
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* [[RIMM]] Rambus Inline Memory Module
* [[Routing Information Protocol|RIP]] Routing Information Protcol
* [[RISC]] 縮小命令セットコンピュータ (Reduced Instruction Set Computer)
* [[Registered jack|RJ45]] Registered Jack type 45
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* ROM [[Read Only Memory]]
* ROM [[Read Only Member]]
* RPG Report Program Generator
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* [[RSS]] Rich Site Summary
* [[RSS]] Really Simple Syndication
* [[RTF]] [[Rich Text Format]]
== S ==
* SAN [[ストレージエリアネットワーク|Storage Area Network]]
* [[SASI]] Shugart Associates Standard Interface
* SAX [[Simple API for XML]]
* SCSI [[Small Computer System Interface]]
* [[SDL]] Simple DirectMedia Layer
* [[SDSL]] 対称デジタル加入者線 (Symmetric Digital Subscriber Line)
* S.E.C.C. (Single Edge Contact Cartridge) [[Pentium II]] / [[Pentium III|III]] プロセッサカートリッジ
* SEGV [[セグメンテーション違反]] (Segmentation Violation, Segmentation Fault)
* S.E.P.P. (Single Edge Processor Package) [[Celeron]] プロセッサパッケージのひとつ
* SGML [[Standard Generalized Markup Language]]
* [[SIGINT]] SIGnal INTerruput
* [[SIMD]] (Single Instruction Multiple Data)
* [[SIMM]] メモリ (Single Inline Memory Module)
* SIP [[Session Initiation Protocol]]
* [[SiP]] System In Package
* [[SiS]] (Silicon Integrated Systems Corp.) 企業
* [[SISD]] Single Instruction, Single Data stream
* [[SLI]] (Scalable Link Interface) [[NVIDIA]]のマルチ[[Graphics Processing Unit|GPU]]技術
* [[SMAF]] (Synthetic music Mobile Application Format) [[ヤマハ]]の携帯端末コンテンツ用ファイル形式
* SMF [[Standard MIDI File]]
* SMTP [[Simple Mail Transfer Protocol]]
* SNMP [[Simple Network Management Protocol]]
* [[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]] Social Networking Service
* SNTP [[Simple Network Time Protocol]]
* [[SOAP (プロトコル)|SOAP]]
* SOP [[Sub Operator Panel]] 大型コンピュータのオペレータ補助装置
* SOX [[Simple Outline XML]]
* [[SPARC]] (Scalable Processor ARChitecture)
* [[サービスパック|SP]] Service Pack
* SPE ([[Synergistic Processor Element]]) [[Cell Broadband Engine|Cell]]プロセッサ構成要素
* [[SQL]] 構造化問い合わせ言語 (Structured Query Language)
* SRAM [[Static Random Access Memory]]
* SSC [[System Service Controller]] 大型コンピュータのコントロール制御装置
* SSD [[ソリッドステートドライブ|Solid State Drive]]
* SSE [[ストリーミングSIMD拡張命令|Streaming SIMD Extensions]]
* SSP [[System Service Processor]] 大型コンピュータのシステム制御装置
* SSH [[Secure Shell]]
* SSL [[Secure Sockets Layer]]
* STL 標準テンプレートライブラリ ([[Standard Template Library]])
* STP [[ツイストペアケーブル|Shielded Twisted-pair]]
* [[STX]] Start of Text
* SVG [[Scalable Vector Graphics]]
* SWF Shockwave [[Macromedia Flash|Flash]]
== T ==
* TCP [[Transmission Control Protocol]]
* TIFF [[Tagged Image File Format]]
* TLD [[トップレベルドメイン]] (Top-Level Domain)
* TLS [[Transport Layer Security]]
* tm trademark ([[商標]])
* TM Translation Memory
* TMTOWTDI There's More Then One Way To Do It ([[Perl]]のモットー)
* [[Tor]] The Onion Router
* TSS [[タイムシェアリングシステム]] (Time Sharing System)
* [[TTL]] [[Time to live]]
* TTL [[Transistor-transistor logic]]
* TTY [[テレタイプ]] (TeleTYpe)
* TxF [[トランザクションNTFS]](Transactional NTFS)
== U ==
* UAC [[ユーザーアカウント制御|User Account Control]]
* UBE [[スパム (メール)|Unsolicited Bulk Email]]
* UCE [[スパム (メール)|Unsolicited Commercial Email]]
* UCS ISO/IEC 10646, [[ISO/IEC 10646|Universal multiple-octet coded Character Set]] (国際符号化文字集合)
* [[UDDI]] Universal Description, Discovery, and Integration
* UDP [[User Datagram Protocol]]
* UI [[ユーザインタフェース]] (User Interface)
* [[XMS#UMB|UMB]] Upper Memory Blocks
* [[UPnP]] Universal Plug and Play
* UPS [[無停電電源装置]] (Uninterruptible Power Supply)
* URI [[Uniform Resource Identifier]]
* URL [[Uniform Resource Locator]]
* URN [[Uniform Resource Name]]
* USB [[ユニバーサル・シリアル・バス]] (Universal Serial Bus)
* UTF UCS(Unicode) Transformation Format (⇒[[UTF-8]]、[[UTF-16]])
* UTP [[ツイストペアケーブル|Unshielded Twisted-pair]]
* UML [[統一モデリング言語]] (Unified Modeling Language)
== V ==
* VB [[Visual Basic]]
* [[VCPI]] Virtual Control Program Interface
* [[VDSL]] Very high-bit-rate Digital Subscriber Line
* [[VDT]] Video Display Terminal
* [[VESA]] Video Electronics Standards Association
* VLB [[VESA ローカルバス]]
* VM [[仮想記憶]] (Virtual Memory)
* VM 仮想機械 (Virtual Machine) →[[バーチャルマシン]]
* [[VoIP]] Voice over Internet Protocol
* VPN [[Virtual Private Network]]
* [[VRAM]] Video Random Access Memory
* [[VRML]] Virtual Reality Modeling Language
== W ==
* W3C [[World Wide Web Consortium]]
* WAF Web Application Firewall
* WAFS Wide Area File Service
* WAL Write-Ahead Logging
* WAN [[Wide Area Network]]
* WAP [[Wireless Application Protocol]]
* WMA [[Windows Media Audio]]
* WML [[Wireless Markup Language]]
* WMV [[Windows Media Video]]
* [[Wnn]] Watashino Namaeha Nakanodesu (私の名前は中野です)
* WSDL [[Web services description language]]
* WWW [[World Wide Web]]
* [[WYSIWYG]] What You See Is What You Get
== X ==
* X [[X Window System]]
* XAML [[Extensible Application Markup Language]]
* XHTML [[Extensible HyperText Markup Language]]
* XML 拡張可能なマーク付け言語 ([[Extensible Markup Language]])
* [[XMS]] eXtended Memory Specification
* XP [[エクストリーム・プログラミング]] (Extreme Programming)
* XSL 拡張可能スタイルシート言語 ([[Extensible Stylesheet Language]])
* XSLT [[XSL Transformations]]
* XSL-FO [[XSL Formating Objects]]
* XSS [[クロスサイトスクリプティング]] (Cross-Site Scripting)
== Y ==
* Y2K [[2000年問題]] (Year 2 [[国際単位系|Kilo]])
* [[yacc]] Yet Another Compiler-Compiler
* [[YAML]] YAML Ain't Markup Language
== Z ==
* ZIP データ圧縮形式 [[ZIP (ファイルフォーマット)]]
== 数字 ==
* [[フロッピーディスク|1S]] 片面単密度
* [[フロッピーディスク|2D]] 両面倍密度
* [[フロッピーディスク|2DD]] 両面倍密度倍トラック
* [[フロッピーディスク|2HD]] 両面高密度倍トラック
* [[フロッピーディスク|2HC]]
* [[7z]] [[7-ZIP]]
== あ行 ==
* [[アク禁]]:[[アクセス禁止]]
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* イラレ:[[Adobe Illustrator]]
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7,459 | キリストの墓 | キリストの墓(キリストのはか)は、キリスト教において、イエス・キリストが埋葬された後に復活したと信じられている墳墓。ここではそれ以外の、キリストの埋葬や遺骸に関する世界各地の諸説・伝承についてや創作も取り上げる。
一般にキリスト教徒に信じられているところでは、キリストの墓の場所はエルサレムの「聖墳墓教会」あるいは「園の墓」である。しかし、異説も存在する。
エルサレムにイエス・キリストの墓と信じられているところが2つある。 伝えられているところによれば、コンスタンティヌス1世の母ヘレナが326年ごろエルサレムを訪れ、当時はヴィーナス神殿となっていた地を比定した。 これを取り壊して建てられたのが、現在正教会、非カルケドン派、カトリック教会などが共同管理する聖墳墓教会である。 しかし、『ヘブライ人への手紙』(13:12)の記載などから、処刑場は城壁外にあったのではないかとの疑念が出され、聖公会などは旧城壁外にある「園の墓」(Garden Tomb)をそれと信じている。
このどちらにもキリストの遺骸は無い。ニカイア・コンスタンティノポリス信条に従えば、イエス・キリストは十字架上で死に、葬られるが復活し、40日後に天に昇ったとされる。したがって、いったん葬られた場所は存在するが、遺骸は地上には残されていない。その代わりになったともいえるが、カトリック教会では中世、キリストの聖遺物への崇敬が盛んに行われた。たとえば聖十字架とされる物質は早い時期から各地の教会で崇敬の対象となっていた。カトリック教会ではイエスの母マリアも死去することなく天にあげられたと信じられている。
仏教の開祖の釈迦の遺骨(仏舎利)も、直後8つの遺骨と灰と容器に別々に分割され、10の墓が作られた。その後それらは分割され、アジア各地に墓が作られ日本にもそれは存在する。それは墓とは呼ばれず仏舎利塔、ストゥーパ、多宝塔などと呼ばれる。ただし、全てを集めると象一頭分を優に上回り、蝋石などが仏舎利の代用とされている場合も多いようである。
イスラム教の開祖である預言者ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフは預言者のモスクがその霊廟となっている。
キリストの遺骸を祭る墓があるかもしれないと主張する人たちも居る。 他の宗教の場合と異り、キリスト教においては、キリストの遺骸は失われたのではなく、信仰上存在しないということをまず踏まえなければならない。
まったくキリスト教を信じない人は、イエス・キリストが人であったのならば、その遺骸は存在するだろうと考えるかもしれない。 しかし、それを祭る墓があるためには、イエス・キリストその人を信奉する人たちの存在を仮定しなければならない。
その墓があるためには、イエス・キリストを信奉するが、その肉体が天に上げられたのではないと信じる人が居なければならない。 これは正統的なキリスト教からすれば異端となる。 グノーシス主義的なもののひとつ、エビオン派の養子的キリスト論を、分かりやすい例として挙げる。 彼らによれば人間イエスと神性キリストを区別する。 人間イエスはナザレのヨセフとマリアの間に産まれた子であって、彼が洗礼者ヨハネから洗礼を受けたときに聖霊が降り、神の子イエス・キリストとなった。 また、十字架につけられるときにキリストの神性はイエスから離れた。十字架上で死んだのは人間イエスであって、キリストではない。
この考えに立てばキリストは一足先に天に昇っているから、人間イエスの遺骸は地上に残されているはずである。 しかしこの思想では、キリストが去ったあとの人間イエスの遺骸を信奉する意味も無くなるので、墓が存在する理由には多少無理がある。
イスラム教の『クルアーン』に登場するイーサー(イエス)は、十字架にはつけられておらず、つけられたのは身代りだとされている。 身代りの人物が誰であるかはいろいろだが、この話は16世紀までにはヨーロッパにも伝わっていた。 最近では、バーバラ・シーリング(またはスィーリング)が弟ヤコブが身代わりをしたという説を唱えている。
イエスが十字架で死なずに生き延びて、別の地で手厚く葬られたのならば、その墓があるかもしれない。
イエスが救われ身体を癒した後にユダヤの土地から抜け出し、「イスラエルのさまよえる子羊たち」を探すために、東に向かったと言う説がある。
この説の実証のひとつとして、インドのカシミール地方にイエス(ユス・アサフ)と書かれた墓が見つけられている。カシミールのユダヤ人はすべてイスラム教に改宗しているが、その墓を守る家族だけが改宗せぬことを許され現在もユダヤ教徒である。古い墓には、ユダヤの言葉であるヘブライ語での記述があり、記述によるとイエスは112歳(100歳以上)まで生きたとされる。
また、イエスと書かれた墓の近くにはモーセと書かれた墓もある。モーセがユダヤ民族の移動の際に失われた人々を探しに出たとされているが、たどり着いたのがカシミールと言うわけである。
イスラム教系新宗教アフマディーヤでも、イーサー(イエス)はインドを訪れたと説く。亡くなった場所もカシミールである。創始者であるミールザー・グラーム・アフマドはMasīh Hindustān Meiń(en:Jesus in India)という著書を残している。
フランスの作家、ジェラール・ド・セードは、南フランスの小さな村レンヌ=ル=シャトーに謎の財宝の秘密が隠されているとする一連の著作を発表した。 『アルカディアの牧人たち』と題するニコラ・プッサンの有名な絵がある。 この絵に描かれた風景と墓石にそっくりなものが、レンヌ=ル=シャトーの近くに存在した。 1970年代セードの著作以降、この地は財宝目当ての人間が引きも切らなかった。 中にはダイナマイトを持ち込むぶっそうな者もいたので、けっきょくこの墓石は持ち主が取り壊してしまった。
英国のテレビ作家ヘンリー・リンカーンらは、これを追って、BBCのテレビ番組で放映したほか、『レンヌ=ル=シャトーの謎』を著した。 墓石の碑文には「ET IN ARCADIA EGO」とある。 この碑文はプッサンに先行して1621-1623年のグェルチーノの絵にもあり、「われアルカディアにもあり」とか、いろいろに解釈されている(→ニコラ・プッサン)。 リンカーンらは、これはアナグラムであり、「I TEGO ARCANA DEI」(立ち去れ! 私は神の秘密を隠した)と読めるとした。 「神の秘密」としてリンカーンらは、イエスの血脈を想定し、シオン修道会がそれを守っているとするのだが、イエスの墓がある可能性も示した。
リチャード・アンドルーズとポール・シェレンバーガーもこれを追って、問題の絵はイエスの墓の位置を示しているとして、近くの山中にその位置を推定した。
この地域は古くキリスト教の異端カタリ派の拠点であったという歴史を持っている。 カタリ派は13世紀前半にアルビジョア十字軍によって壊滅させられているが、彼らがその秘密を残したのではないかというものである。
墓があるかは分からないが、コリン・ジョイス(『驚きの英国史』NHK出版新書 2012年pp.86-88)によれば、キリストがおじのアリマタヤのヨセフとともに島を訪れたという。そのために、島は神の祝福を受け、特別な国になることを義務づけられたという。1804年にウィリアム・ブレイクが書いた「エルサレム」という詩がこれを歌っている(ただし、疑問形を使っている)。
青森県三戸郡新郷村大字戸来にあるとされるイエス・キリストと弟・イスキリの墓でキリストの里公園として整備されている。
1934年(昭和9年)に十和田国立公園区域に編入漏れした戸来村の村長から村の視察と紹介を頼まれた日本画家の鳥谷幡山が村周辺を探索。1935年(昭和10年)8月初に、鳥谷幡山が1934年(昭和9年)10月に見つけた大石神のピラミッド 確認のため青森県戸来(へらい)村(現在は三戸郡新郷村大字戸来)を鳥谷とともに訪ねていた新宗教団体の教祖、竹内巨麿(たけうちきよまろ) は、2間〜3間の長方形の盛り土をみると立ち止まり、それが古文献を一人で調べた結果により、そこに統来訪神と書いた目標と前の野月の二ツ塚に「十来塚」と書くよう村長に話したという。
この後竹内巨麿は竹内文書に、「イスキリス・クリスマス。福の神。八戸太郎天空神。五色人へ遣わし文」にはじまる記述や「イスキリス・クリスマス」の遺言があるとし、イスキリス・クリスマスはゴルゴダの丘で処刑されず、弟のイスキリ を身代わりにして日本に渡来して死に、その墓が「十来塚」であるとする。このイスキリス・クリスマスがイエス・キリストであり「十来塚」が「イエス・キリストの墓」であるという。ただし、竹内文書は多くの研究者から偽書と断定されている。
この後「古代史書研究会」が来村、戸来村の村名は、ヘブライに由来するとした。 アメリカ在住の川守田英二が現地の伝承歌であるナニャドヤラがヤハゥエをたたえるヘブライ語の歌であるという書簡を戸来村に送った。
また鳥谷は日蓮行者で降霊術師の小松周海に招霊を依頼し、「キリストの妻の名はユミ子、娘が三人いる」との答えを得、その子孫が村の旧家の沢口家であるとした。その旧家に伝わる家紋は「桔梗紋」と言われる五角の形であり、ユダヤのシンボル六芒星である「ダビデの星」と酷似しているとしイスラエルの失われた十氏族やイエスとの関わりを指摘する説もある。 戸来村では子供の額に健康祈願などの意味合いを込めて墨で黒い十字を書く風習があったという
キリストの日本渡来を固く信じる山根キクが鳥谷の紹介で来村し、1937年出版の自著『光りは東方より : [史実]キリスト、釈迦、モーゼ、モセスは日本に来住し,日本で死んでゐる』の中で戸来村のキリストの墓を紹介する。翌1938年にニューヨークの新聞に戸来村のキリストの墓の写真と記事が掲載され、それを見て興味を持った仲木貞一が映画『日本におけるキリストの遺跡を探る』(1939年)を制作し広く知れ渡った。
東京大学の余郷嘉明助教授による世界34カ国にわたるヒトポリオーマウイルス分布調査によれば、コーカソイドに見られるEUタイプウイルスが秋田県で見つかっている。 これはコーカソイドの集団が秋田周辺にやってきた可能性を示すものである。(EUタイプは東北シベリアの先住民やツングース系に高頻度で検出されており、これらの民族との混血の結果と考えるのが妥当である。)ヘブライ人もコーカソイドであることから、これら遺伝情報調査結果は日ユ同祖論の傍証となっている。
ただし、全くの奇説であり、大多数の日本人はおろか、他国でも全く認められておらず。また、その根拠としているものも、学術的な論拠にもならない。竹内の来訪以前に、キリストやそれを彷彿とさせる貴人が戸来に逃れて来て死んだという伝承は現地になかった。「ナニャドヤラ」やそれに近い「ナニャトヤラ」も戸来固有ではなく、岩手県北部にかけて広く歌われていた。
1938年、山根キクは著作『光りは東方より』(釈迦、モーゼ、ヨセフ、キリストが修行のため来日したという)で十和田湖畔の十和利山(戸来岳)にキリストの墓があるとした。なお、前述の戸来村は十和利山(戸来岳)の山麓にあたる。
1968年、エルサレムの北ギヴアット・ハ・ミヴタルで、磔刑の痕のある人骨が発見された。
ユダヤ戦争前の1世紀ごろのものと見られる。片方の足には曲がった釘と、木片がくっついていた。
骨壷にはその名をイエホカナンと記されていた。3-4歳と見られる彼の息子と、他の一人の成人の骨もいっしょに入っていた。
実際にあったこの事件にヒントを得て、アメリカ合衆国の作家リチャード・ベン・サピアが、ミステリー小説 The Body を1983年に発表した。 小説の中でイスラエルで発見された遺骨にはアラム語で「ユダヤの王」と記された粘土板が掛かっていた。
これがイエス・キリストの遺骨とすれば、復活と昇天の教義が覆ることになると恐れたバチカン。それにイスラエルやソヴィエト連邦の政治的思惑とが錯綜し、物語は展開する。
人間イエスの秘密をバチカンが恐れ、陰謀が渦巻くという筋書きは、同じアメリカ合衆国の作家ダン・ブラウンによる『ダ・ヴィンチ・コード』にも影響を与えている。
The Body は、2000年にアメリカ合衆国とイスラエルの共同制作で映画化された。日本公開時の邦題は『抹殺者』。
小説の日本語訳は2002年に邦題『遺骨』(新谷寿美香[訳])として青山出版社から、2006年に『キリストの遺骸』上下巻が扶桑社ミステリー文庫として再出版された。
アメリカのダニエル・イースターマンの「墓の結社 Brotherhood of the tomb(二見書房 1992)」も、1968年の発見がヒントになっていると思われる。こちらは信仰の内容にはあまり踏み込んでおらず、カトリック教会の歴史の暗部とバチカン内部の権力闘争を描いている。
映画監督であるジェームズ・キャメロンとシムハ・ヤコブビッチが製作したドキュメンタリー映画 『キリストの棺』(The Lost Tomb of Jesus)では、1980年にアパート建設中であったエルサレムのタルピオットで発見された墓所を、イエスとその家族のものである可能性があるとしている。その内容は書籍化されており、日本語訳 も刊行されている。
このほかマイクル・コーディが、キリストの治癒能力の再現にまつわる小説『メサイア・コード』(旧邦題『イエスの遺伝子』)を発表している。 | [
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"text": "キリストの墓(キリストのはか)は、キリスト教において、イエス・キリストが埋葬された後に復活したと信じられている墳墓。ここではそれ以外の、キリストの埋葬や遺骸に関する世界各地の諸説・伝承についてや創作も取り上げる。",
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"text": "エルサレムにイエス・キリストの墓と信じられているところが2つある。 伝えられているところによれば、コンスタンティヌス1世の母ヘレナが326年ごろエルサレムを訪れ、当時はヴィーナス神殿となっていた地を比定した。 これを取り壊して建てられたのが、現在正教会、非カルケドン派、カトリック教会などが共同管理する聖墳墓教会である。 しかし、『ヘブライ人への手紙』(13:12)の記載などから、処刑場は城壁外にあったのではないかとの疑念が出され、聖公会などは旧城壁外にある「園の墓」(Garden Tomb)をそれと信じている。",
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"text": "このどちらにもキリストの遺骸は無い。ニカイア・コンスタンティノポリス信条に従えば、イエス・キリストは十字架上で死に、葬られるが復活し、40日後に天に昇ったとされる。したがって、いったん葬られた場所は存在するが、遺骸は地上には残されていない。その代わりになったともいえるが、カトリック教会では中世、キリストの聖遺物への崇敬が盛んに行われた。たとえば聖十字架とされる物質は早い時期から各地の教会で崇敬の対象となっていた。カトリック教会ではイエスの母マリアも死去することなく天にあげられたと信じられている。",
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"text": "仏教の開祖の釈迦の遺骨(仏舎利)も、直後8つの遺骨と灰と容器に別々に分割され、10の墓が作られた。その後それらは分割され、アジア各地に墓が作られ日本にもそれは存在する。それは墓とは呼ばれず仏舎利塔、ストゥーパ、多宝塔などと呼ばれる。ただし、全てを集めると象一頭分を優に上回り、蝋石などが仏舎利の代用とされている場合も多いようである。",
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"text": "キリストの遺骸を祭る墓があるかもしれないと主張する人たちも居る。 他の宗教の場合と異り、キリスト教においては、キリストの遺骸は失われたのではなく、信仰上存在しないということをまず踏まえなければならない。",
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"text": "その墓があるためには、イエス・キリストを信奉するが、その肉体が天に上げられたのではないと信じる人が居なければならない。 これは正統的なキリスト教からすれば異端となる。 グノーシス主義的なもののひとつ、エビオン派の養子的キリスト論を、分かりやすい例として挙げる。 彼らによれば人間イエスと神性キリストを区別する。 人間イエスはナザレのヨセフとマリアの間に産まれた子であって、彼が洗礼者ヨハネから洗礼を受けたときに聖霊が降り、神の子イエス・キリストとなった。 また、十字架につけられるときにキリストの神性はイエスから離れた。十字架上で死んだのは人間イエスであって、キリストではない。",
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"text": "この考えに立てばキリストは一足先に天に昇っているから、人間イエスの遺骸は地上に残されているはずである。 しかしこの思想では、キリストが去ったあとの人間イエスの遺骸を信奉する意味も無くなるので、墓が存在する理由には多少無理がある。",
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"text": "イスラム教の『クルアーン』に登場するイーサー(イエス)は、十字架にはつけられておらず、つけられたのは身代りだとされている。 身代りの人物が誰であるかはいろいろだが、この話は16世紀までにはヨーロッパにも伝わっていた。 最近では、バーバラ・シーリング(またはスィーリング)が弟ヤコブが身代わりをしたという説を唱えている。",
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"text": "イエスが十字架で死なずに生き延びて、別の地で手厚く葬られたのならば、その墓があるかもしれない。",
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"text": "イエスが救われ身体を癒した後にユダヤの土地から抜け出し、「イスラエルのさまよえる子羊たち」を探すために、東に向かったと言う説がある。",
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"text": "この説の実証のひとつとして、インドのカシミール地方にイエス(ユス・アサフ)と書かれた墓が見つけられている。カシミールのユダヤ人はすべてイスラム教に改宗しているが、その墓を守る家族だけが改宗せぬことを許され現在もユダヤ教徒である。古い墓には、ユダヤの言葉であるヘブライ語での記述があり、記述によるとイエスは112歳(100歳以上)まで生きたとされる。",
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"text": "また、イエスと書かれた墓の近くにはモーセと書かれた墓もある。モーセがユダヤ民族の移動の際に失われた人々を探しに出たとされているが、たどり着いたのがカシミールと言うわけである。",
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"text": "イスラム教系新宗教アフマディーヤでも、イーサー(イエス)はインドを訪れたと説く。亡くなった場所もカシミールである。創始者であるミールザー・グラーム・アフマドはMasīh Hindustān Meiń(en:Jesus in India)という著書を残している。",
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"text": "フランスの作家、ジェラール・ド・セードは、南フランスの小さな村レンヌ=ル=シャトーに謎の財宝の秘密が隠されているとする一連の著作を発表した。 『アルカディアの牧人たち』と題するニコラ・プッサンの有名な絵がある。 この絵に描かれた風景と墓石にそっくりなものが、レンヌ=ル=シャトーの近くに存在した。 1970年代セードの著作以降、この地は財宝目当ての人間が引きも切らなかった。 中にはダイナマイトを持ち込むぶっそうな者もいたので、けっきょくこの墓石は持ち主が取り壊してしまった。",
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] | キリストの墓(キリストのはか)は、キリスト教において、イエス・キリストが埋葬された後に復活したと信じられている墳墓。ここではそれ以外の、キリストの埋葬や遺骸に関する世界各地の諸説・伝承についてや創作も取り上げる。 一般にキリスト教徒に信じられているところでは、キリストの墓の場所はエルサレムの「聖墳墓教会」あるいは「園の墓」である。しかし、異説も存在する。 | '''キリストの墓'''(キリストのはか)は、[[キリスト教]]において、[[イエス・キリスト]]が埋葬された後に[[復活 (キリスト教)|復活]]したと信じられている墳墓。ここではそれ以外の、キリストの埋葬や遺骸に関する世界各地の諸説・伝承についてや創作も取り上げる。
一般に[[キリスト教徒]]に信じられているところでは、キリストの墓の場所は[[エルサレム]]の「[[聖墳墓教会]]」あるいは「[[園の墓]]」である。しかし、異説も存在する。
== キリストの遺骸 ==
[[エルサレム]]にイエス・キリストの墓と信じられているところが2つある。
伝えられているところによれば、[[コンスタンティヌス1世]]の母ヘレナが326年ごろエルサレムを訪れ、当時は[[ヴィーナス]]神殿となっていた地を比定した。 これを取り壊して建てられたのが、現在[[正教会]]、[[非カルケドン派]]、[[カトリック教会]]などが共同管理する[[聖墳墓教会]]である。
しかし、『[[ヘブライ人への手紙]]』(13:12)の記載などから、処刑場は城壁外にあったのではないかとの疑念が出され、[[聖公会]]などは旧城壁外にある「園の墓」([[w:Garden Tomb|Garden Tomb]])をそれと信じている。
このどちらにもキリストの遺骸は無い。[[ニカイア・コンスタンティノポリス信条]]に従えば、イエス・キリストは十字架上で死に、葬られるが[[復活 (キリスト教)|復活]]し、40日後に[[キリストの昇天|天に昇った]]とされる。したがって、いったん葬られた場所は存在するが、遺骸は地上には残されていない。その代わりになったともいえるが、カトリック教会では[[中世]]、キリストの[[聖遺物]]への崇敬が盛んに行われた。たとえば[[聖十字架]]とされる物質は早い時期から各地の教会で崇敬の対象となっていた。カトリック教会では[[イエスの母マリア]]も死去することなく[[聖母の被昇天|天にあげられた]]と信じられている。
=== (参考)釈迦の遺骸 ===
[[仏教]]の開祖の[[釈迦]]の遺骨([[仏舎利]])も、直後8つの遺骨と灰と容器に別々に分割され、10の墓が作られた。その後それらは分割され、アジア各地に墓が作られ日本にもそれは存在する。それは墓とは呼ばれず[[仏舎利塔]]、[[ストゥーパ]]、[[多宝塔]]などと呼ばれる。ただし、全てを集めると象一頭分を優に上回り、蝋石などが仏舎利の代用とされている場合も多いようである。
=== (参考)ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフの遺骸 ===
[[イスラム教]]の開祖である預言者[[ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフ]]は[[預言者のモスク]]がその霊廟となっている。
== キリスト教の立場からみた場合のキリストの墓が存在する可能性 ==
キリストの遺骸を祭る墓があるかもしれないと主張する人たちも居る。
他の宗教の場合と異り、キリスト教においては、キリストの遺骸は失われたのではなく、信仰上存在しないということをまず踏まえなければならない。
まったくキリスト教を信じない人は、イエス・キリストが人であったのならば、その遺骸は存在するだろうと考えるかもしれない。
しかし、それを祭る墓があるためには、イエス・キリストその人を信奉する人たちの存在を仮定しなければならない。
その墓があるためには、イエス・キリストを信奉するが、その肉体が天に上げられたのではないと信じる人が居なければならない。
これは正統的なキリスト教からすれば[[異端]]となる。
[[グノーシス主義]]的なもののひとつ、[[エビオン派]]の[[養子的キリスト論]]を、分かりやすい例として挙げる。
彼らによれば人間イエスと神性キリストを区別する。
人間イエスは[[ナザレのヨセフ]]と[[イエスの母マリア|マリア]]の間に産まれた子であって、彼が[[洗礼者ヨハネ]]から[[洗礼]]を受けたときに[[聖霊]]が降り、神の子イエス・キリストとなった。
また、十字架につけられるときにキリストの神性はイエスから離れた。十字架上で死んだのは人間イエスであって、キリストではない。
この考えに立てばキリストは一足先に天に昇っているから、人間イエスの遺骸は地上に残されているはずである。
しかしこの思想では、キリストが去ったあとの人間イエスの遺骸を信奉する意味も無くなるので、墓が存在する理由には多少無理がある。
[[イスラム教]]の『[[クルアーン]]』に登場するイーサー(イエス)は、十字架にはつけられておらず、つけられたのは身代りだとされている。
身代りの人物が誰であるかはいろいろだが、この話は[[16世紀]]までにはヨーロッパにも伝わっていた。
最近では、バーバラ・シーリング(またはスィーリング)が弟[[ヤコブ (イエスの兄弟)|ヤコブ]]が身代わりをしたという説を唱えている。
イエスが十字架で死なずに生き延びて、別の地で手厚く葬られたのならば、その墓があるかもしれない。
== キリストの墓についての諸説 ==
=== インド・カシミール ===
イエスが救われ身体を癒した後にユダヤの土地から抜け出し、「イスラエルのさまよえる子羊たち」を探すために、東に向かったと言う説がある。
この説の実証のひとつとして、[[インド]]の[[カシミール]]地方にイエス(ユス・アサフ)と書かれた墓が見つけられている。カシミールの[[ユダヤ人]]はすべて[[イスラム教]]に改宗しているが、その墓を守る家族だけが改宗せぬことを許され現在もユダヤ教徒である。古い墓には、ユダヤの言葉である[[ヘブライ語]]での記述があり、記述によるとイエスは112歳(100歳以上)まで生きたとされる。
また、イエスと書かれた墓の近くには[[モーセ]]と書かれた墓もある。モーセが[[ユダヤ人|ユダヤ民族]]の移動の際に失われた人々を探しに出たとされているが、たどり着いたのがカシミールと言うわけである。
イスラム教系新宗教[[アフマディーヤ]]でも、イーサー(イエス)はインドを訪れたと説く。亡くなった場所もカシミールである。創始者である[[ミールザー・グラーム・アフマド]]は''Masīh Hindustān Meiń''([[:en:Jesus in India (book)|en:Jesus in India]])という著書を残している。
=== 南フランス ===
[[Image:The shepherds of arcadia.jpg|thumb|240px|ニコラ・プッサンの絵([[17世紀]])]]
[[フランス]]の作家、ジェラール・ド・セードは、南フランスの小さな村レンヌ=ル=シャトーに謎の財宝の秘密が隠されているとする一連の著作を発表した。
『[[アルカディア]]の牧人たち』と題する[[ニコラ・プッサン]]の有名な絵がある。
この絵に描かれた風景と墓石にそっくりなものが、レンヌ=ル=シャトーの近くに存在した。
[[1970年代]]セードの著作以降、この地は財宝目当ての人間が引きも切らなかった。
中にはダイナマイトを持ち込むぶっそうな者もいたので、けっきょくこの墓石は持ち主が取り壊してしまった。
[[イギリス|英国]]のテレビ作家ヘンリー・リンカーンらは、これを追って、[[英国放送協会|BBC]]のテレビ番組で放映したほか、『[[レンヌ=ル=シャトーの謎]]』を著した。
墓石の碑文には「ET IN ARCADIA EGO」とある。
この碑文はプッサンに先行して1621-[[1623年]]のグェルチーノの絵にもあり、「われアルカディアにもあり」とか、いろいろに解釈されている(→[[ニコラ・プッサン]])。
リンカーンらは、これは[[アナグラム]]であり、「I TEGO ARCANA DEI」(立ち去れ! 私は神の秘密を隠した)と読めるとした。
「神の秘密」としてリンカーンらは、イエスの血脈を想定し、[[シオン修道会]]がそれを守っているとするのだが、イエスの墓がある可能性も示した。
リチャード・アンドルーズとポール・シェレンバーガーもこれを追って、問題の絵はイエスの墓の位置を示しているとして、近くの山中にその位置を推定した。<ref>東江一紀、向井和美訳『イエスの墓』<NHKブックス>[[1999年]]</ref>
この地域は古く[[キリスト教]]の[[異端]][[カタリ派]]の拠点であったという歴史を持っている。
カタリ派は[[13世紀]]前半に[[アルビジョア十字軍]]によって壊滅させられているが、彼らがその秘密を残したのではないかというものである。
=== イギリス ===
墓があるかは分からないが、[[コリン・ジョイス]](『驚きの英国史』[[NHK出版新書]] 2012年pp.86-88)によれば、キリストがおじの[[アリマタヤのヨセフ]]とともに島を訪れたという。そのために、島は神の祝福を受け、特別な国になることを義務づけられたという。[[1804年]]に[[ウィリアム・ブレイク]]が書いた「[[エルサレム (ブレイクの預言書)|エルサレム]]」という詩がこれを歌っている(ただし、疑問形を使っている)。
=== 日本 ===
==== 青森県戸来村 ====
[[File:Jesus^^39, Tomb - panoramio.jpg|thumb|青森県新郷村にあるキリストの墓。2003年12月撮影。]]
[[青森県]][[三戸郡]][[新郷村]]大字[[戸来村|戸来]]にあるとされるイエス・キリストと弟・イスキリの墓でキリストの里公園として整備されている。
1934年(昭和9年)に[[十和田国立公園]]区域に編入漏れした[[戸来村]]の村長から村の視察と紹介を頼まれた日本画家の鳥谷幡山が村周辺を探索<ref>[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1138083/6 神代史蹟たる靈山聖地發見の端緒]『十和田湖を中心に神代史蹟たる霊山聖地之発見と竹内古文献実証踏査に就て併せて猶太聖者イエスキリストの王国(アマツクニ)たる吾邦に渡来隠棲の事蹟を述ぶ』鳥谷幡山 著 (新古美術社, 1936)</ref>。1935年(昭和10年)8月初に、鳥谷幡山が1934年(昭和9年)10月に見つけた大石神のピラミッド [http://www.vill.shingo.aomori.jp/sight/sight_main/kankou/sight-pyra/] 確認のため[[青森県]][[戸来村|戸来(へらい)村]](現在は[[三戸郡]][[新郷村]]大字戸来)を鳥谷とともに訪ねていた新宗教団体の教祖、[[竹内巨麿]](たけうちきよまろ)<ref>竹内巨麿は自分を[[武内宿禰]]の孫・[[平群真鳥]]の子孫であるとされる竹内家の養子と語るが、第二次天津教弾圧事件裁判の検事によれば、巨麿は木挽き職と寡婦との間に生まれた私生児であるという。単身上京後、[[御嶽教]]に入信。布教師となり全国各地を行脚して、この間に[[新宗教]]のノウハウを知り、明治43年秋に天津(あまつ)教を創設、皇祖皇太神宮の神主になった。この新宗教の教祖という点について[[連合国軍最高司令官総司令部]](GHQ/SCAP)の宗教政策を担当していた東洋史学者[[ウィリアム・バンス|ウィリアム・K・ヴァンス]]の竹内に関する報告がある。</ref> は、2間〜3間の長方形の盛り土をみると立ち止まり、それが古文献を一人で調べた結果により、そこに統来訪神と書いた目標と前の野月の二ツ塚に「十来塚」と書くよう村長に話したという<ref>鳥谷幡山『十和田湖を中心に神代史蹟たる霊山聖地の発見と竹内古文献実証踏査に就て併せて猶太聖者イエスキリストの天国(アマツクニ)たる吾邦に渡来陰棲の事蹟を述ぶ』(新古美術社1936年(昭和11年))、『神代秘史史料集成・地の巻』[[八幡書店]] 復刻所収による</ref>。
この後竹内巨麿は[[竹内文書]]に、「イスキリス・クリスマス。福の神。八戸太郎天空神。[[五色人]]へ遣わし文」にはじまる記述や「イスキリス・クリスマス」の遺言があるとし、イスキリス・クリスマスは[[ゴルゴダの丘]]で処刑されず、弟のイスキリ<ref>イエスの兄弟については[[ヤコブ (イエスの兄弟)|ヤコブ]]ら数名が知られる(ただし、その位置づけについてはキリスト教の教派間で差がある)が、「イスキリ」という兄弟の名は伝わっていない。</ref> を身代わりにして日本に渡来して死に、その墓が「十来塚」であるとする。このイスキリス・クリスマスがイエス・キリストであり「十来塚」が「イエス・キリストの墓」であるという<ref>[http://www.marumarushingo.com/?tid=3&mode=f12 Christ lived in Japan?Histry and Legend of Shingo. まるまる新郷]</ref>。ただし、竹内文書は多くの研究者から[[偽書]]と断定されている。
この後「古代史書研究会」が来村、戸来村の村名は、ヘブライに由来するとした<ref name="ReferenceA">『歴史読本臨時増刊 世界 謎のユダヤ』[[新人物往来社]] 1987年3月 赤間剛「日ユ同祖論の陰謀」212ページから</ref>。
アメリカ在住の[[川守田英二]]が現地の伝承歌である[[ナニャドヤラ]]がヤハゥエをたたえる[[ヘブライ語]]の歌であるという書簡を戸来村に送った<ref name="ReferenceA"/>。
また鳥谷は[[日蓮]][[行者]]で[[降霊術]]師の小松周海に招霊を依頼し、「キリストの妻の名はユミ子、娘が三人いる」との答えを得、その子孫が村の旧家の沢口家であるとした<ref>『日本の偽書』藤田明、文春新書、2004, p65</ref>。その旧家に伝わる家紋は「[[桔梗紋]]」と言われる五角の形であり、ユダヤのシンボル[[六芒星]]である「[[ダビデの星]]」と酷似しているとし[[イスラエルの失われた十氏族]]やイエスとの関わりを指摘する説もある。
戸来村では子供の額に健康祈願などの意味合いを込めて墨で黒い十字を書く風習があったという<ref>{{Cite news|coauthors=森晋也|title=「キリスト」ラーメンは青森・新郷村! 住民、墓守る ■発端は茨城の古文書|newspaper=日本経済新聞|publisher=日本経済新聞社|date=2014-05-02|url=http://www.nikkei.com/article/DGXNASFB21030_V20C14A4000000/?df=2|accessdate=2015-07-04|archiveurl=|archivedate=}}</ref>
キリストの日本渡来を固く信じる[[山根キク]]が鳥谷の紹介で来村し、1937年出版の自著『光りは東方より : [史実]キリスト、釈迦、モーゼ、モセスは日本に来住し,日本で死んでゐる』の中で戸来村のキリストの墓を紹介する<ref>[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1108516/89 愈々キリストの墓へ]『光りは東方より : [史実]キリスト、釈迦、モーゼ、モセスは日本に来住し,日本で死んでゐる』山根菊子 著 (日本と世界社, 1937</ref>。翌1938年にニューヨークの新聞に戸来村のキリストの墓の写真と記事が掲載され、それを見て興味を持った[[仲木貞一]]が映画『日本におけるキリストの遺跡を探る』(1939年)を制作し広く知れ渡った<ref>[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1092270/6 突然外国の新聞記事]『キリストは何故日本に来たか? : その遺跡を探る』仲木貞一 著 (東亜文化協会, 1940)</ref><ref>[https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1092270/22 映画「日本におけるキリストの遺跡を探る」] 同『キリストは何故日本に来たか? : その遺跡を探る』</ref>。
東京大学の余郷嘉明助教授による世界34カ国にわたるヒトポリオーマウイルス分布調査によれば、コーカソイドに見られるEUタイプウイルスが秋田県で見つかっている<ref>『JCウイルス亜型の世界的分布』杉本智恵・北村雄一・海老原秀喜・郭鏡・田口文章・余郷嘉明</ref>。
これはコーカソイドの集団が秋田周辺にやってきた可能性を示すものである。(EUタイプは東北シベリアの先住民やツングース系に高頻度で検出されており、これらの民族との混血の結果と考えるのが妥当である。)ヘブライ人もコーカソイドであることから、これら遺伝情報調査結果は[[日ユ同祖論]]の傍証となっている。
ただし、全くの奇説であり、大多数の日本人はおろか、他国でも全く認められておらず。また、その根拠としているものも、学術的な論拠にもならない。竹内の来訪以前に、キリストやそれを彷彿とさせる貴人が戸来に逃れて来て死んだという伝承は現地になかった。「ナニャドヤラ」やそれに近い「ナニャトヤラ」も戸来固有ではなく、岩手県北部にかけて広く歌われていた<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.pref.iwate.jp/kenpoku/keiei/030941.html|title=北緯40°ナニャトヤラ連邦(八戸・久慈・二戸)三圏域連携|publisher=岩手県庁ホームページ|accessdate=2017年7月30日}}</ref>。
<gallery>
ファイル:The entrance to Christ Village Park.jpg|キリストの里公園入口
ファイル:Tomb of Jesus Christ and his brother in Shingo Village.jpg|墓の遠景。塚の上の向かって右の十字架はキリストの、左はイスキリの墓標。手前には日本語と英語による説明板がある。2018年8月11日撮影
ファイル:Tomb of Jesus Christ in Aomori prefecture.jpg|イスラエルから友好のために寄贈された記念石(白い部分)と日本語・英語による説明文。2018年8月11日撮影
ファイル:Tomb of Isukiri the younger brother of Jesus Christ.jpg|イスキリの墓。左の奥に見える教会のような建物は「キリストの里伝承館」。2018年8月11日撮影
ファイル:Stone monument at Christ Village Park.jpg|石碑
ファイル:Christ Village Tradition Hall at Christ Village Park.jpg|キリストの里伝承館
ファイル:Ema at Tomb of Christ in Japan.jpg|絵馬
ファイル:Ema Den(Pyramid shape) at Christ Village Park.jpg|ピラミッド形状の絵馬掛け
</gallery>
==== 十和田湖畔戸来岳 ====
1938年、[[山根キク]]は著作『光りは東方より』<ref>『宇宙考古学の原典』[[たま出版]] 1975年(昭和50年)に所収</ref>(釈迦、モーゼ、ヨセフ、キリストが修行のため来日したという)で[[十和田湖]]畔の[[十和利山]]([[戸来岳]]<ref>十和利山と戸来岳はどちらも[[東北百名山]]。両山は3kmほど離れている。</ref>)にキリストの墓があるとした<ref>『歴史読本臨時増刊 世界 謎のユダヤ』[[新人物往来社]] 1987年3月 赤間剛「日ユ同祖論の陰謀」213ページから</ref>。なお、前述の戸来村は十和利山(戸来岳)の山麓にあたる。
==キリストの遺骸をめぐる作品==
[[1968年]]、[[エルサレム]]の北ギヴアット・ハ・ミヴタルで、[[磔刑]]の痕のある人骨が発見された。
[[ユダヤ戦争]]前の[[1世紀]]ごろのものと見られる。片方の足には曲がった釘と、木片がくっついていた。
骨壷にはその名をイエホカナンと記されていた。3-4歳と見られる彼の息子と、他の一人の成人の骨もいっしょに入っていた。
実際にあったこの事件にヒントを得て、[[アメリカ合衆国]]の作家リチャード・ベン・サピアが、ミステリー小説 ''The Body'' を[[1983年]]に発表した。
小説の中で[[イスラエル]]で発見された遺骨には[[アラム語]]で「ユダヤの王」と記された粘土板が掛かっていた。
これがイエス・キリストの遺骨とすれば、[[復活 (キリスト教)|復活]]と[[キリストの昇天|昇天]]の教義が覆ることになると恐れた[[バチカン]]。それに[[イスラエル]]や[[ソヴィエト連邦]]の政治的思惑とが錯綜し、物語は展開する。
人間イエスの秘密を[[バチカン]]が恐れ、陰謀が渦巻くという筋書きは、同じアメリカ合衆国の作家ダン・ブラウンによる『[[ダ・ヴィンチ・コード]]』にも影響を与えている。
''The Body'' は、[[2000年]]にアメリカ合衆国とイスラエルの共同制作で映画化された。日本公開時の邦題は『抹殺者』。
小説の日本語訳は[[2002年]]に邦題『遺骨』([[新谷寿美香]][訳])として[[青山出版社]]から、[[2006年]]に『キリストの遺骸』上下巻が[[扶桑社]]ミステリー文庫として再出版された。
アメリカのダニエル・イースターマンの「墓の結社 Brotherhood of the tomb(二見書房 1992)」も、1968年の発見がヒントになっていると思われる。こちらは信仰の内容にはあまり踏み込んでおらず、[[カトリック教会]]の歴史の暗部とバチカン内部の権力闘争を描いている。
映画監督である[[ジェームズ・キャメロン]]と[[シムハ・ヤコブビッチ]]が製作したドキュメンタリー映画 『[[キリストの棺]]』(''[[:en:The Lost Tomb of Jesus|The Lost Tomb of Jesus]]'')では、1980年にアパート建設中であった[[エルサレム]]のタルピオットで発見された墓所を、イエスとその家族のものである可能性があるとしている。その内容は書籍化されており、日本語訳<ref>沢田博訳『キリストの棺 世界を震撼させた新発見の全貌』[[イースト・プレス]]、2007年(2009年に文庫化)</ref> も刊行されている。
このほかマイクル・コーディが、キリストの治癒能力の再現にまつわる小説『メサイア・コード』(旧邦題『イエスの[[遺伝子]]』)を発表している。
==脚注==
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== 関連項目 ==
* [[日ユ同祖論#日ユ同祖論に関連する説|日ユ同祖論に関連する説]]
* [[異文化コミュニケーション#日本とユダヤ|日本とユダヤ]]
* [[聖母マリア墳墓教会]]
* [[キリストの墓の前のマリアたち]]
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[[Category:イエス・キリストに関する聖遺物|はか]]
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7,462 | ISO 3166 | ISO 3166は、国際標準化機構 (ISO) が国名およびそれに準ずる区域、都道府県や州といった地域のために割り振った地理情報の符号化である。3部構成。 | [
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'''ISO 3166'''は、[[国際標準化機構]] (ISO) が国名およびそれに準ずる区域、[[都道府県]]や[[州]]といった地域のために割り振った[[地理情報]]の[[符号化]]である。3部構成。
== 内容 ==
* [[ISO 3166-1]]は、[[1974年]]に初めて公表された[[国名コード]]([[日本工業規格|JIS]]ではJIS X 0304の国名コード)
** [[ISO 3166-1 alpha-2]]は、ラテン文字2文字の国名コード
** [[ISO 3166-1 alpha-3]]は、3文字の国名コード
** [[ISO 3166-1 numeric]]は、3桁の数字によって定義された国コード
* [[ISO 3166-2]]は、[[都道府県]]や[[州]]といった、地域コード(JISではJIS X 0401の[[全国地方公共団体コード|都道府県コード]]などに対応)
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** [[ISO 3166-2#ISO 3166-2:2011-12-13|ISO 3166-2:2011-12-13]] Newsletter II-3
* [[ISO 3166-3]]は、現存しない国の名に対応したコード。1974年にISO 3166-1が公表されて以降、国・地域名の変更された地区については、現存しない国名・地域名に対応したコードが割り振られている。1999年に公表された。
== 関連項目 ==
* [[国名コード]]
* [[ISO 3166-1|ISO 3166-1(ISO国名コード一覧)]]
* [[ISO 639]]
* [[ISO 4217]]
* [[ISO 15924]]
* [[共通ロケールデータリポジトリ]]
== 脚注 ==
<references/>
== 外部リンク ==
以下のサイトは全て英語
* [[国際標準化機構]] 公式サイト
** [http://www.iso.org/iso/country_codes.htm Maintenance Agency for ISO 3166 country codes]
** [http://www.iso.org/iso/country_codes/background_on_iso_3166/you_and_iso_3166.htm You and ISO 3166]
** [http://www.iso.org/iso/country_codes/background_on_iso_3166/implementation_of_iso_3166-1.htm Implementation of ISO 3166-1]
** [http://www.iso.org/iso/english_country_names_and_code_elements English country names and code elements]
** [http://www.iso.org/iso/iso-3166-1_decoding_table ISO 3166-1 decoding table]
* [http://www.unc.edu/~rowlett/units/codes/country.htm Country Codes] -- 国コード
* [http://www.statoids.com/wab.html 国名コードを比較したサイト]
* [http://tools.ietf.org/html/bcp47 BCP 47] ''Tags for Identifying Languages'', [[Internet Engineering Task Force|IETF]], Best Current Practice
* [http://www.iana.org/assignments/language-subtag-registry Language Subtag Registry], [[Internet Assigned Numbers Authority|IANA]], Type: regionのsubtagの値にISO 3166を使用
* [http://www.w3.org/TR/i18n-html-tech-lang/ Internationalization Best Practices: Specifying Language in XHTML & HTML Content], [[World Wide Web Consortium|W3C]]
* [http://www.w3.org/International/articles/bcp47/ Understanding the New Language Tags], W3C
* [http://www.w3.org/International/articles/language-tags/ Language tags in HTML and XML], W3C
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7,465 | DoJaプロファイル | DoJaプロファイル(ドゥージャプロファイル)はNTTドコモグループの携帯電話(フィーチャーフォン)であるmovaシリーズ及びFOMAシリーズに搭載されるJava実行環境の仕様である。後継のStarプロファイル(スタープロファイル)も本項で記載する。DoJaは開発者向けの用語であり、エンドユーザー向けには「iアプリ」「iアプリDX」「メガiアプリ」などの名称となっている。
DoJaはサン・マイクロシステムズ (以下「サン」と略)のJavaプラットフォーム構想において、Java MEにおける、CLDC上の1プロファイルとして位置づけられる。
携帯電話は一般に大画面のディスプレイやマルチウィンドウシステム、マウスなどのポインティングデバイスを持たない上、ハードウェアスペック(CPUスピード、メモリ容量)がデスクトップ・サーバに比べて比較的貧弱であるなど、デスクトップのJava環境と比べて大きな差がある。そのため、DoJaのJava APIもJava SEと比べてかなりの違いがある。
ただ、Java MEのCLDCの仕様は、デスクトップのJava SEのサブセットであるが、マルチスレッド処理を含めて、本当のJavaプログラミングを行うことが可能である。ただし、DoJa 3.5まではCLDC 1.0のため、浮動小数点数処理がない、ファイナライザが動作しないなどの制約があった。
DoJaが動作する携帯電話上においては、ファイルシステムを持たず、データの保存には「スクラッチパッド」と呼ばれる領域を用いる。また、iアプリをダウンロードしたホストとのみ、ネットワーク通信を行うことができる。
DoJaでは、コンパイルしたJavaクラスファイル、および実行に必要な画像や音楽データを含めて、Jar形式でパッケージ化しておく。このように準備されたiアプリはHTTPあるいはHTTPS通信を通じて、携帯電話にダウンロードされ実行される。メモリースティックやSDカードなどの外部記憶媒体を使ってインストールする方法は公式に発表されていない。セキュリティに関しては厳しく、他のアプリとスクラッチパッド上のデータを共有したり、電話帳やメールデータにアクセスするには、iアプリDX仕様を使う必要がある。
尚、DoJaで実行するClassファイルは、パッケージする前に通常のコンパイルのほかに、preverifyというツールを使って前処理(事前検証)を行っておく必要がある。これはCLDCの制限(というより特徴)であり、実行時・ロード時のバイトコードベリファイの負荷を減らすために、あらかじめ型情報を調査し、その情報をJavaクラスファイル内に添付しておく必要があるためである。
CLDCは、組み込み向けの一般的な共通機能を絞り込んだAPI仕様を持っており、GUIなどを定義していない。Java MEの枠組みでは、それらはプロファイルで定義される。
DoJa APIにはiアプリ基本API、iアプリオプションAPI、iアプリ拡張APIの3種類がある。
iアプリオプションAPI及びiアプリ拡張APIについては、対応している携帯電話でないと実行できない。
DoJaにおいてUI処理には、com.nttdocomo.ui.*パッケージに含まれる独自のUIクラス群を使用する。入出力においては、CLDCのジェネリックIOフレームワークに基づき、ネットワーク入出力処理(HTTP, HTTPS)、スクラッチパッドアクセス処理、Jarリソースに含まれたデータの入力処理などを行うことができる。
DoJa 2.0 (504i, 2051, 2701, 2102V)以降は、待ち受け画面のように常に常駐して動作する「待ち受けiアプリ」の機能や赤外線通信機能が追加された。また、DoJaオプション機能としてゲーム向けの機能(スプライト、3Dのポリゴンなど)、カメラ機能などが定義された。
DoJa 3.0 (505i, 506i, 900i)では、ゲーム向け機能の一部が標準機能になった。また、「iアプリDX」として、携帯電話の電話帳にアクセスしたり、メールなどと連携できるような機能が追加された。これらのiアプリDX機能の詳細については一般には公開されていない(公式コンテンツプロバイダ向けにのみ提示されているものと思われる)。またオプション機能としてバーコードの読み取り機能、指紋認証機能などが追加されている。
DoJa 4.0では基本APIにマスコットカプセル4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能が追加され、またDoJa 2.0以降と同じくマスコットカプセル3.0を制御する拡張APIも削除されずに残された。つまり、マスコットカプセル3.0及び4.0が使用でき、それぞれの特徴として3.0は値として整数を使用するため高速で動作するが4.0は値として浮動小数点を使用するため3.0より描画が遅い。ただし、4.0LEではマスコットカプセル4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能は標準APIは使用することはできない。
DoJa 4.1では基本APIにセキュリティ機能(デジタル署名)およびSDカードを制御するAPIが追加された。
DoJa 5.0では基本APIにメモリ管理、GPS制御、オプションAPIにハードウェアを使用するOpenGL ES 1.0相当の3D描画、Bluetooth制御のAPIが追加された。
DoJa 5.1ではOpenGL ES 1.1対応。
Star 1.0では、ウィジェットアプリ(iWidget)機能、iアプリオンライン機能、iアプリコール機能、iアプリ-Flash連携機能などが追加になった。
Star 1.1では、タッチパネル対応など。
Star 1.5では、オーディオ出力先イベント、各種デバイス(コンパス・加速度センサ・歩数計など)対応。
Star 2.0では、内部ストレージへのアクセス、1ドット単位でのフォントサイズの指定、PNG対応、iアプリ自動起動、MyFACEからのiアプリ起動、マナーモード中の音声出力、HTTPで受信可能なレスポンスボディを1MBに拡大などが追加・変更になった。
※DoJa 1.0から3.5まではCLDC 1.0である。DoJa 4.0以降はCLDC 1.1であり浮動小数点が使用できる。
DoJaは携帯電話が新しいデバイスを装備することにそれに対応する制御APIとして拡張されてきた。携帯電話自身の性能もハードウェア技術の進歩により、503i登場当初に比べ飛躍的にその実行速度、容量(一回で送受できる通信量や、スクラッチパッドの容量)、画面サイズなどを増やしているため、登場当初と比較してはるかに高機能なアプリケーションを書くことができるようになって来ている。
特に、アプリケーションサイズの制約は当初10KB(Jar圧縮後(FOMAは30KB)、スクラッチパッド10KB)という極めて厳しいものであったが、DoJa 2.0以降は30KB(スクラッチパッド100KB(505i以降及びFOMAは200KB))まで拡張されている。DoJa 3.5以降は100KB(スクラッチパッド400KB)まで拡張された。ただし、DoJa 4.0LEはJARファイルが30KBまで、スクラッチパッドサイズが200KBまでに制限されている。DoJa 5.0ではプログラムとスクラッチパッドの境界がなくなり、あわせて1MBになった。Starプロファイル1.xは合計2MB。Starプロファイル2.xは合計10MB。
同様の携帯電話向けJava実行環境のプロファイルには、サン自身によるMIDPがあるが、開発時期の違いからか、NTTドコモグループ(以下「ドコモ」と略)の携帯電話には採用されるには至らなかった。
au、ソフトバンクモバイル、ウィルコムの携帯電話もJava実行環境を搭載しているが、いずれも世界中で広く採用されているMIDPを採用しており、DoJaとの互換性はない。厳密には、CLDCの範囲内では同様に動作するプログラムを作ることはできるかもしれないが、アプリケーションのパッケージングなどの方法も異なる。いずれにせよ、画面表示などの機能に互換性はないのでそのまま同じものが動作するという意味での互換性は無いといってよい。同じCLDCに基づくJava環境ではあるのでコードの一部もしくは多くを共通化できる可能性はある。
もうひとつ考える必要があるのは、機種間の互換性の問題である。DoJaはJava実行環境の仕様であるため、下位層としてのJava VMの実装やあるいはハードウェアに関して統一がなされていない。このことはJavaの思想からは正しいのだが、Javaアプリケーションの振る舞いに関して携帯電話各メーカ間の実装差異は決して小さくない。
特に商用コンテンツとしてiアプリを開発する場合、機種間の差異は深刻な問題である。版を重ねるにつれて仕様の詳細度も増し、実装差異は一般には解決されていく方向ではあるといえるものの、開発期間の短さや、次々と採用される新機能、新メーカーの参入、そして過去の機種との互換性などを考慮とすると今後とも非常に深刻な問題であるといえる。なお、auの携帯電話ではベースとなるクアルコム社製のアプリケーションプロセッサチップおよび採用されるJava VMが統一されているため、メーカ間互換性の問題は原理的にはおき得ない。
FOMA2008年秋冬モデル(X-0XA)のうち、iWdgt(iウィジェット)・iアプリオンライン対応機種については、新たにドコモとサン・マイクロシステムズによって共同開発されたStarプロファイルが定義された。ただし、DoJaとはAPIの互換性がないため、Star環境によって動作させるためには別途移植作業が必要となる。待ち受けiアプリなど、Starでは廃止される機能が存在する(iWdgtにて代替させる)。今後の仕様拡張はStarでのみ行われる予定。端末には当面の間はDoJa実行環境も並行して搭載される予定。
ドコモにより無料で提供されているDoJaエミュレータを使用してパーソナルコンピュータ上で開発し、携帯電話にダウンロードさせて実行するというクロスプラットフォームでの開発形態である。DoJaエミュレータは Forte (Sun ONE Studio)などとの連動機能や、フリーソフトウェアを使用し、Eclipseとの連携を行うことができる。 | [
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"text": "DoJaプロファイル(ドゥージャプロファイル)はNTTドコモグループの携帯電話(フィーチャーフォン)であるmovaシリーズ及びFOMAシリーズに搭載されるJava実行環境の仕様である。後継のStarプロファイル(スタープロファイル)も本項で記載する。DoJaは開発者向けの用語であり、エンドユーザー向けには「iアプリ」「iアプリDX」「メガiアプリ」などの名称となっている。",
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"text": "携帯電話は一般に大画面のディスプレイやマルチウィンドウシステム、マウスなどのポインティングデバイスを持たない上、ハードウェアスペック(CPUスピード、メモリ容量)がデスクトップ・サーバに比べて比較的貧弱であるなど、デスクトップのJava環境と比べて大きな差がある。そのため、DoJaのJava APIもJava SEと比べてかなりの違いがある。",
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"text": "DoJaが動作する携帯電話上においては、ファイルシステムを持たず、データの保存には「スクラッチパッド」と呼ばれる領域を用いる。また、iアプリをダウンロードしたホストとのみ、ネットワーク通信を行うことができる。",
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"text": "DoJaでは、コンパイルしたJavaクラスファイル、および実行に必要な画像や音楽データを含めて、Jar形式でパッケージ化しておく。このように準備されたiアプリはHTTPあるいはHTTPS通信を通じて、携帯電話にダウンロードされ実行される。メモリースティックやSDカードなどの外部記憶媒体を使ってインストールする方法は公式に発表されていない。セキュリティに関しては厳しく、他のアプリとスクラッチパッド上のデータを共有したり、電話帳やメールデータにアクセスするには、iアプリDX仕様を使う必要がある。",
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"text": "尚、DoJaで実行するClassファイルは、パッケージする前に通常のコンパイルのほかに、preverifyというツールを使って前処理(事前検証)を行っておく必要がある。これはCLDCの制限(というより特徴)であり、実行時・ロード時のバイトコードベリファイの負荷を減らすために、あらかじめ型情報を調査し、その情報をJavaクラスファイル内に添付しておく必要があるためである。",
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"text": "DoJaにおいてUI処理には、com.nttdocomo.ui.*パッケージに含まれる独自のUIクラス群を使用する。入出力においては、CLDCのジェネリックIOフレームワークに基づき、ネットワーク入出力処理(HTTP, HTTPS)、スクラッチパッドアクセス処理、Jarリソースに含まれたデータの入力処理などを行うことができる。",
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"text": "DoJa 2.0 (504i, 2051, 2701, 2102V)以降は、待ち受け画面のように常に常駐して動作する「待ち受けiアプリ」の機能や赤外線通信機能が追加された。また、DoJaオプション機能としてゲーム向けの機能(スプライト、3Dのポリゴンなど)、カメラ機能などが定義された。",
"title": "API"
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"text": "DoJa 3.0 (505i, 506i, 900i)では、ゲーム向け機能の一部が標準機能になった。また、「iアプリDX」として、携帯電話の電話帳にアクセスしたり、メールなどと連携できるような機能が追加された。これらのiアプリDX機能の詳細については一般には公開されていない(公式コンテンツプロバイダ向けにのみ提示されているものと思われる)。またオプション機能としてバーコードの読み取り機能、指紋認証機能などが追加されている。",
"title": "API"
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{
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"text": "DoJa 4.0では基本APIにマスコットカプセル4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能が追加され、またDoJa 2.0以降と同じくマスコットカプセル3.0を制御する拡張APIも削除されずに残された。つまり、マスコットカプセル3.0及び4.0が使用でき、それぞれの特徴として3.0は値として整数を使用するため高速で動作するが4.0は値として浮動小数点を使用するため3.0より描画が遅い。ただし、4.0LEではマスコットカプセル4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能は標準APIは使用することはできない。",
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"text": "DoJa 4.1では基本APIにセキュリティ機能(デジタル署名)およびSDカードを制御するAPIが追加された。",
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"text": "DoJa 5.0では基本APIにメモリ管理、GPS制御、オプションAPIにハードウェアを使用するOpenGL ES 1.0相当の3D描画、Bluetooth制御のAPIが追加された。",
"title": "API"
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"text": "DoJa 5.1ではOpenGL ES 1.1対応。",
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"text": "Star 1.0では、ウィジェットアプリ(iWidget)機能、iアプリオンライン機能、iアプリコール機能、iアプリ-Flash連携機能などが追加になった。",
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"text": "Star 1.1では、タッチパネル対応など。",
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"text": "Star 2.0では、内部ストレージへのアクセス、1ドット単位でのフォントサイズの指定、PNG対応、iアプリ自動起動、MyFACEからのiアプリ起動、マナーモード中の音声出力、HTTPで受信可能なレスポンスボディを1MBに拡大などが追加・変更になった。",
"title": "API"
},
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"text": "※DoJa 1.0から3.5まではCLDC 1.0である。DoJa 4.0以降はCLDC 1.1であり浮動小数点が使用できる。",
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"text": "DoJaは携帯電話が新しいデバイスを装備することにそれに対応する制御APIとして拡張されてきた。携帯電話自身の性能もハードウェア技術の進歩により、503i登場当初に比べ飛躍的にその実行速度、容量(一回で送受できる通信量や、スクラッチパッドの容量)、画面サイズなどを増やしているため、登場当初と比較してはるかに高機能なアプリケーションを書くことができるようになって来ている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 23,
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"text": "特に、アプリケーションサイズの制約は当初10KB(Jar圧縮後(FOMAは30KB)、スクラッチパッド10KB)という極めて厳しいものであったが、DoJa 2.0以降は30KB(スクラッチパッド100KB(505i以降及びFOMAは200KB))まで拡張されている。DoJa 3.5以降は100KB(スクラッチパッド400KB)まで拡張された。ただし、DoJa 4.0LEはJARファイルが30KBまで、スクラッチパッドサイズが200KBまでに制限されている。DoJa 5.0ではプログラムとスクラッチパッドの境界がなくなり、あわせて1MBになった。Starプロファイル1.xは合計2MB。Starプロファイル2.xは合計10MB。",
"title": "歴史"
},
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"text": "同様の携帯電話向けJava実行環境のプロファイルには、サン自身によるMIDPがあるが、開発時期の違いからか、NTTドコモグループ(以下「ドコモ」と略)の携帯電話には採用されるには至らなかった。",
"title": "互換性"
},
{
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"text": "au、ソフトバンクモバイル、ウィルコムの携帯電話もJava実行環境を搭載しているが、いずれも世界中で広く採用されているMIDPを採用しており、DoJaとの互換性はない。厳密には、CLDCの範囲内では同様に動作するプログラムを作ることはできるかもしれないが、アプリケーションのパッケージングなどの方法も異なる。いずれにせよ、画面表示などの機能に互換性はないのでそのまま同じものが動作するという意味での互換性は無いといってよい。同じCLDCに基づくJava環境ではあるのでコードの一部もしくは多くを共通化できる可能性はある。",
"title": "互換性"
},
{
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"tag": "p",
"text": "もうひとつ考える必要があるのは、機種間の互換性の問題である。DoJaはJava実行環境の仕様であるため、下位層としてのJava VMの実装やあるいはハードウェアに関して統一がなされていない。このことはJavaの思想からは正しいのだが、Javaアプリケーションの振る舞いに関して携帯電話各メーカ間の実装差異は決して小さくない。",
"title": "互換性"
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"tag": "p",
"text": "特に商用コンテンツとしてiアプリを開発する場合、機種間の差異は深刻な問題である。版を重ねるにつれて仕様の詳細度も増し、実装差異は一般には解決されていく方向ではあるといえるものの、開発期間の短さや、次々と採用される新機能、新メーカーの参入、そして過去の機種との互換性などを考慮とすると今後とも非常に深刻な問題であるといえる。なお、auの携帯電話ではベースとなるクアルコム社製のアプリケーションプロセッサチップおよび採用されるJava VMが統一されているため、メーカ間互換性の問題は原理的にはおき得ない。",
"title": "互換性"
},
{
"paragraph_id": 28,
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"text": "FOMA2008年秋冬モデル(X-0XA)のうち、iWdgt(iウィジェット)・iアプリオンライン対応機種については、新たにドコモとサン・マイクロシステムズによって共同開発されたStarプロファイルが定義された。ただし、DoJaとはAPIの互換性がないため、Star環境によって動作させるためには別途移植作業が必要となる。待ち受けiアプリなど、Starでは廃止される機能が存在する(iWdgtにて代替させる)。今後の仕様拡張はStarでのみ行われる予定。端末には当面の間はDoJa実行環境も並行して搭載される予定。",
"title": "Starプロファイル"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "ドコモにより無料で提供されているDoJaエミュレータを使用してパーソナルコンピュータ上で開発し、携帯電話にダウンロードさせて実行するというクロスプラットフォームでの開発形態である。DoJaエミュレータは Forte (Sun ONE Studio)などとの連動機能や、フリーソフトウェアを使用し、Eclipseとの連携を行うことができる。",
"title": "開発"
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] | DoJaプロファイル(ドゥージャプロファイル)はNTTドコモグループの携帯電話(フィーチャーフォン)であるmovaシリーズ及びFOMAシリーズに搭載されるJava実行環境の仕様である。後継のStarプロファイル(スタープロファイル)も本項で記載する。DoJaは開発者向けの用語であり、エンドユーザー向けには「iアプリ」「iアプリDX」「メガiアプリ」などの名称となっている。 | {{Pathnav|Java Platform, Micro Edition|frame=1}}
{{更新|date=2009年5月}}
'''DoJaプロファイル'''(ドゥージャプロファイル)は[[NTTドコモ]]グループの[[携帯電話]](フィーチャーフォン)である[[mova]]シリーズ及び[[FOMA]]シリーズに搭載される[[Java Runtime Environment|Java実行環境]]の仕様である。後継の'''Starプロファイル'''(スタープロファイル)も本項で記載する。DoJaは開発者向けの用語であり、エンドユーザー向けには「[[iアプリ]]」「iアプリDX」「メガiアプリ」などの名称となっている。
== 特徴 ==
DoJaは[[サン・マイクロシステムズ]] (以下「サン」と略)の[[Javaプラットフォーム]]構想において、[[Java Platform, Micro Edition|Java ME]]における、[[Connected Limited Device Configuration|CLDC]]上の1プロファイルとして位置づけられる。
携帯電話は一般に大画面の[[ディスプレイ (コンピュータ)|ディスプレイ]]や[[ウィンドウシステム|マルチウィンドウシステム]]、[[マウス (コンピュータ)|マウス]]などの[[ポインティングデバイス]]を持たない上、[[ハードウェア]]スペック([[CPU]]スピード、[[主記憶装置|メモリ]]容量)がデスクトップ・サーバに比べて比較的貧弱であるなど、デスクトップのJava環境と比べて大きな差がある。そのため、DoJaのJava APIも[[Java Platform, Standard Edition|Java SE]]と比べてかなりの違いがある。
ただ、Java MEのCLDCの仕様は、デスクトップのJava SEのサブセットであるが、[[スレッド (コンピュータ)|マルチスレッド]]処理を含めて、本当のJava[[プログラミング (コンピュータ)|プログラミング]]を行うことが可能である。ただし、DoJa 3.5まではCLDC 1.0のため、浮動小数点数処理がない、ファイナライザが動作しないなどの制約があった。
DoJaが動作する携帯電話上においては、[[ファイルシステム]]を持たず、データの保存には「スクラッチパッド」と呼ばれる領域を用いる。また、iアプリを[[ダウンロード]]したホストとのみ、ネットワーク通信を行うことができる。
== 実行形態 ==
DoJaでは、[[コンパイラ|コンパイル]]した[[Javaクラスファイル]]、および実行に必要な画像や音楽データを含めて、[[Jar]]形式でパッケージ化しておく。このように準備されたiアプリは[[Hypertext Transfer Protocol|HTTP]]あるいは[[HTTPS]]通信を通じて、携帯電話にダウンロードされ実行される。[[メモリースティック]]や[[SDメモリーカード|SDカード]]などの外部記憶媒体を使って[[インストール]]する方法は公式に発表されていない。[[コンピュータセキュリティ|セキュリティ]]に関しては厳しく、他のアプリとスクラッチパッド上のデータを共有したり、電話帳やメールデータにアクセスするには、[[iアプリDX]]仕様を使う必要がある。
尚、DoJaで実行するClassファイルは、パッケージする前に通常のコンパイルのほかに、preverifyというツールを使って前処理(事前検証)を行っておく必要がある。これはCLDCの制限(というより特徴)であり、実行時・ロード時のバイトコードベリファイの負荷を減らすために、あらかじめ型情報を調査し、その情報をJavaクラスファイル内に添付しておく必要があるためである。
== API ==
[[Connected Limited Device Configuration|CLDC]]は、組み込み向けの一般的な共通機能を絞り込んだ[[アプリケーションプログラミングインタフェース|API]]仕様を持っており、[[グラフィカルユーザインタフェース|GUI]]などを定義していない。Java MEの枠組みでは、それらはプロファイルで定義される。
DoJa APIにはiアプリ基本API、iアプリオプションAPI、iアプリ拡張APIの3種類がある。
*iアプリ基本APIとは共通仕様で、全機種が標準にあり、APIおよび動作が規定されている。
*iアプリオプションAPIとは共通仕様で、APIおよび動作が規定されているが端末ごとに搭載の有無はメーカーが決定している。
*iアプリ拡張APIとはメーカーが独自にAPIおよび動作を規定したもので、ソースレベルで他のメーカーと互換性がないことを考慮する必要がある。
iアプリオプションAPI及びiアプリ拡張APIについては、対応している携帯電話でないと実行できない。
DoJaにおいて[[ユーザインタフェース|UI]]処理には、com.nttdocomo.ui.*パッケージに含まれる独自のUIクラス群を使用する。入出力においては、CLDCのジェネリックIOフレームワークに基づき、ネットワーク入出力処理(HTTP, HTTPS)、スクラッチパッドアクセス処理、Jarリソースに含まれたデータの入力処理などを行うことができる。
DoJa 2.0 (504i, 2051, 2701, 2102V)以降は、待ち受け画面のように常に常駐して動作する「待ち受けiアプリ」の機能や[[IrDA|赤外線通信]]機能が追加された。また、DoJaオプション機能としてゲーム向けの機能([[スプライト (映像技術)|スプライト]]、[[3次元コンピュータグラフィックス|3D]]の[[ポリゴン]]など)、[[デジタルカメラ|カメラ]]機能などが定義された。
DoJa 3.0 (505i, 506i, 900i)では、ゲーム向け機能の一部が標準機能になった。また、「[[iアプリDX]]」として、携帯電話の電話帳にアクセスしたり、メールなどと連携できるような機能が追加された。これらのiアプリDX機能の詳細については一般には公開されていない(公式[[コンテンツプロバイダ]]向けにのみ提示されているものと思われる)。またオプション機能として[[バーコード]]の読み取り機能、[[指紋]]認証機能などが追加されている。
DoJa 4.0では基本APIに[[MascotCapsule|マスコットカプセル]]4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能が追加され、またDoJa 2.0以降と同じくマスコットカプセル3.0を制御する拡張APIも削除されずに残された。つまり、マスコットカプセル3.0及び4.0が使用でき、それぞれの特徴として3.0は値として整数を使用するため高速で動作するが4.0は値として浮動小数点を使用するため3.0より描画が遅い。ただし、4.0LEではマスコットカプセル4.0を制御する3Dグラフィックス描画機能と3Dサウンド制御機能は標準APIは使用することはできない。
DoJa 4.1では基本APIにセキュリティ機能(デジタル署名)およびSDカードを制御するAPIが追加された。
DoJa 5.0では基本APIにメモリ管理、[[グローバル・ポジショニング・システム|GPS]]制御、オプションAPIにハードウェアを使用するOpenGL ES 1.0相当の3D描画、[[Bluetooth]]制御のAPIが追加された。
DoJa 5.1ではOpenGL ES 1.1対応。
Star 1.0では、ウィジェットアプリ(iWidget)機能、iアプリオンライン機能、iアプリコール機能、iアプリ-Flash連携機能などが追加になった。
Star 1.1では、タッチパネル対応など。
Star 1.5では、オーディオ出力先イベント、各種デバイス(コンパス・加速度センサ・歩数計など)対応。
Star 2.0では、内部ストレージへのアクセス、1ドット単位でのフォントサイズの指定、PNG対応、iアプリ自動起動、MyFACEからのiアプリ起動、マナーモード中の音声出力、HTTPで受信可能なレスポンスボディを1MBに拡大などが追加・変更になった。
== 歴史 ==
*最初の版のDoJa 1.0仕様は、デジタルムーバ503i及び503iSシリーズ並びにFOMA2001、2002、2101Vシリーズに搭載。[[2001年]][[1月26日]]発売開始<ref>[https://www.itmedia.co.jp/mobile/0101/18/503i.html ドコモ,Java搭載iモード端末503i発表──1月26日発売]</ref>。
*DoJa 2.0仕様は、mova 504i及び504iSシリーズに搭載。
*DoJa 2.1仕様は、FOMA 2051、2701シリーズに搭載。
*DoJa 2.2仕様は、FOMA 2102Vシリーズに搭載。
*DoJa 3.0仕様は、mova 505i及び505iS、506iシリーズに搭載。
*DoJa 3.5仕様は、FOMA 900iシリーズに搭載。
*DoJa 4.0仕様は、FOMA 901iシリーズに搭載。
*DoJa 4.0LE仕様は、FOMA 700i、701i及び702iシリーズに搭載。
*DoJa 4.1仕様は、FOMA 902iシリーズに搭載。
*DoJa 5.0仕様は、FOMA 903i及び904iシリーズに搭載。
*DoJa 5.0LE仕様は、FOMA 703iシリーズに搭載。
*DoJa 5.1仕様は、FOMA 905iシリーズに搭載。
*Star プロファイル1.0は、2008年公開
*Star プロファイル1.1は、2009年公開
*Star プロファイル1.2は、2009年公開
*Star プロファイル1.3は、2010年公開
*Star プロファイル1.5は、2011年公開
*Star プロファイル2.0は、2011年公開
※DoJa 1.0から3.5まではCLDC 1.0である。DoJa 4.0以降はCLDC 1.1であり浮動小数点が使用できる。
DoJaは携帯電話が新しいデバイスを装備することにそれに対応する制御APIとして拡張されてきた。携帯電話自身の性能もハードウェア技術の進歩により、503i登場当初に比べ飛躍的にその実行速度、容量(一回で送受できる通信量や、スクラッチパッドの容量)、画面サイズなどを増やしているため、登場当初と比較してはるかに高機能なアプリケーションを書くことができるようになって来ている。
特に、アプリケーションサイズの制約は当初10KB(Jar圧縮後(FOMAは30KB)、スクラッチパッド10KB)という極めて厳しいものであったが、DoJa 2.0以降は30KB(スクラッチパッド100KB(505i以降及びFOMAは200KB))まで拡張されている。DoJa 3.5以降は100KB(スクラッチパッド400KB)まで拡張された。ただし、DoJa 4.0LEはJARファイルが30KBまで、スクラッチパッドサイズが200KBまでに制限されている。DoJa 5.0ではプログラムとスクラッチパッドの境界がなくなり、あわせて1MBになった。Starプロファイル1.xは合計2MB。Starプロファイル2.xは合計10MB。
== 互換性 ==
同様の携帯電話向けJava実行環境のプロファイルには、サン自身による[[Mobile Information Device Profile|MIDP]]があるが、開発時期の違いからか、NTTドコモグループ(以下「ドコモ」と略)の携帯電話には採用されるには至らなかった。
[[au (携帯電話)|au]]、[[ソフトバンクモバイル]]、[[ウィルコム]]の携帯電話もJava実行環境を搭載しているが、いずれも世界中で広く採用されているMIDPを採用しており、DoJaとの互換性はない。厳密には、CLDCの範囲内では同様に動作するプログラムを作ることはできるかもしれないが、アプリケーションのパッケージングなどの方法も異なる。いずれにせよ、画面表示などの機能に互換性はないのでそのまま同じものが動作するという意味での互換性は無いといってよい。同じCLDCに基づくJava環境ではあるのでコードの一部もしくは多くを共通化できる可能性はある。
もうひとつ考える必要があるのは、機種間の互換性の問題である。DoJaはJava実行環境の仕様であるため、下位層としての[[Java仮想マシン|Java VM]]の実装やあるいはハードウェアに関して統一がなされていない。このことはJavaの思想からは正しいのだが、[[Javaアプリケーション]]の振る舞いに関して携帯電話各メーカ間の実装差異は決して小さくない。
特に商用コンテンツとしてiアプリを開発する場合、機種間の差異は深刻な問題である。版を重ねるにつれて仕様の詳細度も増し、実装差異は一般には解決されていく方向ではあるといえるものの、開発期間の短さや、次々と採用される新機能、新メーカーの参入、そして過去の機種との互換性などを考慮とすると今後とも非常に深刻な問題であるといえる。なお、auの携帯電話ではベースとなる[[クアルコム]]社製のアプリケーションプロセッサチップおよび採用されるJava VMが統一されているため、メーカ間互換性の問題は原理的にはおき得ない。
==Starプロファイル==
FOMA2008年秋冬モデル(X-0XA)のうち、iWdgt([[iウィジェット]])・[[iアプリオンライン]]対応機種については、新たにドコモとサン・マイクロシステムズによって共同開発された[[Starプロファイル]]が定義された。ただし、DoJaとはAPIの互換性がないため、Star環境によって動作させるためには別途移植作業が必要となる。待ち受けiアプリなど、Starでは廃止される機能が存在する(iWdgtにて代替させる)。今後の仕様拡張はStarでのみ行われる予定。端末には当面の間はDoJa実行環境も並行して搭載される予定。
== 開発 ==
ドコモにより無料で提供されているDoJa[[エミュレータ]]を使用して[[パーソナルコンピュータ]]上で開発し、携帯電話にダウンロードさせて実行するという[[クロスプラットフォーム]]での開発形態である。DoJaエミュレータは Forte (Sun ONE Studio)などとの連動機能や、[[フリーソフトウェア]]を使用し、[[Eclipse (統合開発環境)|Eclipse]]との連携を行うことができる。
== 脚注 ==
<references />
== 外部リンク ==
{{Wikibooks|Java|Java}}
*[https://www.docomo.ne.jp/service/iappli/ iアプリ | サービス・機能 | NTTドコモ]
*[https://www.docomo.ne.jp/service/developer/make/content/iappli/ iアプリ | サービス・機能 | NTTドコモ] - 開発者向け情報
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7,467 | 正則行列 | 正則行列(せいそくぎょうれつ、英: regular matrix)、非特異行列(ひとくいぎょうれつ、英: non-singular matrix)あるいは可逆行列(かぎゃくぎょうれつ、英: invertible matrix)とは、行列の通常の積に関する逆元を持つ正方行列のことである。この逆元を、元の正方行列の逆行列という。例えば、複素数体上の二次正方行列
が正則行列であるのは ad − bc ≠ 0 が成立するとき、かつ、そのときに限る。このとき逆行列は
で与えられる。
ある体上の同じサイズの正則行列の全体は一般線型群と呼ばれる群を成す。多項式の根として定められる部分群は線形代数群あるいは行列群と呼ばれる代数群の一種で、その表現論が代数的整数論などに広い応用を持つ幾何学的対象である。
n 次単位行列を En や E で表す。 環の元を成分にもつ n 次正方行列 A に対して、
を満たす n 次正方行列 B が存在するとき、A は n 次正則行列、あるいは単に正則であるという。A が正則ならば上の性質を満たす B は一意に定まる。 これを A の逆行列(ぎゃくぎょうれつ、英: inverse matrix)と呼び、A と表す。
次の複素数体の元を成分にもつ行列 A, B を考える。
このとき AB = E = BA を満たすので、A は正則行列で、B は A の逆行列である。 一方、B に注目すれば B も正則行列で、A は B の逆行列である。
また次の行列 N は逆行列をもたないので、正則ではない。
体の元を成分にもつ n 次正方行列 A に対して次は同値である。
n 次正則行列 A、B について次が成り立つ。
行列の正則性は行列の基本変形を使って判定できる。 具体的な逆行列の計算には、基本変形を使って順に掃き出していく方法がよく使われる。 一方で、理論的には行列式を使ったクラメルの公式も重要である。 しかしこの方法は逆行列を数値計算するのには向かない。 | [
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"title": "判定法"
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] | 正則行列、非特異行列あるいは可逆行列とは、行列の通常の積に関する逆元を持つ正方行列のことである。この逆元を、元の正方行列の逆行列という。例えば、複素数体上の二次正方行列 が正則行列であるのは ad − bc ≠ 0 が成立するとき、かつ、そのときに限る。このとき逆行列は で与えられる。 ある体上の同じサイズの正則行列の全体は一般線型群と呼ばれる群を成す。多項式の根として定められる部分群は線形代数群あるいは行列群と呼ばれる代数群の一種で、その表現論が代数的整数論などに広い応用を持つ幾何学的対象である。 | '''正則行列'''(せいそくぎょうれつ、{{lang-en-short|regular matrix}})、'''非特異行列'''(ひとくいぎょうれつ、{{lang-en-short|non-singular matrix}})あるいは'''可逆行列'''(かぎゃくぎょうれつ、{{lang-en-short|invertible matrix}})とは、[[行列 (数学)|行列]]の通常の積に関する[[逆元]]を持つ[[正方行列]]のことである。この逆元を、元の正方行列の'''逆行列'''という。例えば、[[複素数]]体上の二次正方行列
:<math>A = \begin{bmatrix}
a & b \\
c & d
\end{bmatrix}</math>
が正則行列であるのは {{math|''ad'' − ''bc'' ≠ 0}} が成立するとき、かつ、そのときに限る。このとき逆行列は
:<math>A^{-1} = \frac{1}{ad - bc}\begin{bmatrix} d & -b \\ -c & a \end{bmatrix}</math>
で与えられる。
ある[[可換体|体]]上の同じサイズの正則行列の全体は[[一般線型群]]と呼ばれる[[群 (数学)|群]]を成す。[[多項式]]の根として定められる部分群は[[線形代数群]]あるいは行列群と呼ばれる[[代数群]]の一種で、その[[表現論]]が[[整数論|代数的整数論]]などに広い応用を持つ幾何学的対象である。
== 定義 ==
{{mvar|n}} 次[[単位行列]]を {{mvar|E{{sub|n}}}} や {{mvar|E}} で表す。
[[環 (数学)|環]]の元を成分にもつ {{mvar|n}} 次[[正方行列]] {{mvar|A}} に対して、
:<math>AB = E = BA</math>
を満たす {{mvar|n}} 次[[正方行列]] {{mvar|B}} が存在するとき、{{mvar|A}} は {{mvar|n}} 次'''正則行列'''、あるいは単に'''正則'''であるという<ref group="注釈">{{mvar|A}} が正方行列でなくとも正則性は次のように定義できる:
「{{mvar|m×n}} 行列 {{mvar|A}} に対して、{{math|''AB'' {{=}} ''E''{{sub|''m''}}}} かつ {{math|''BA'' {{=}} ''E''{{sub|''n''}}}} を満たす {{mvar|n×m}} 行列 {{mvar|B}} が存在するとき、 {{mvar|A}} を正則という」。
しかし、このとき
:<math>\max\{m,n\}=\max\{\operatorname{rank}E_m,\operatorname{rank}E_n\}=\max\{\operatorname{rank}AB,\operatorname{rank}BA\}\leq \operatorname{rank}A\leq\min\{m,n\}</math>
より {{math|''m'' {{=}} ''n''}} となるので、結局正則行列は正方行列なのである。</ref>。{{mvar|A}} が正則ならば上の性質を満たす {{mvar|B}} は一意に定まる。
これを {{mvar|A}} の'''逆行列'''(ぎゃくぎょうれつ、{{lang-en-short|inverse matrix}})と呼び、{{math|''A''{{sup|−1}}}} と表す{{Sfn|斎藤|1966|p=41}}。
== 例 ==
次の[[複素数]]体<ref group="注釈">この例の場合は体の[[標数]]が {{math|2}} でなければ何でもよい</ref>の元を成分にもつ行列 {{math2|''A'', ''B''}} を考える。
:<math>A = \begin{bmatrix}
1 &0 \\
0 &2
\end{bmatrix} \quad B = \begin{bmatrix}
1 &0 \\
0 &\frac{1}{2}
\end{bmatrix}</math>
このとき {{math|''AB'' {{=}} ''E'' {{=}} ''BA''}} を満たすので、{{mvar|A}} は正則行列で<ref group="注釈">ただし、この {{mvar|A}} は[[ユニモジュラ行列]]ではない</ref>、{{mvar|B}} は {{mvar|A}} の逆行列である。
一方、{{mvar|B}} に注目すれば {{mvar|B}} も正則行列で、{{mvar|A}} は {{mvar|B}} の逆行列である。
また次の行列 {{mvar|N}} は逆行列をもたないので、正則ではない。
:<math>N = \begin{bmatrix}
0 &1 \\
0 &0
\end{bmatrix}</math>
== 特徴づけ ==
[[可換体|体]]の元を成分にもつ {{mvar|n}} 次[[正方行列]] {{mvar|A}} に対して次は同値である。
{{div col|cols=2}}
* {{mvar|A}} は正則行列である
* {{math|''AB'' {{=}} ''E''}} となる {{mvar|n}} 次正方行列 {{mvar|B}} が存在する{{Sfn|斎藤|1966|p=48}}
* {{math|''BA'' {{=}} ''E''}} となる {{mvar|n}} 次正方行列 {{mvar|B}} が存在する{{Sfn|斎藤|1966|p=48}}
* {{mvar|A}} の[[行列の階数|階数]]は {{mvar|n}} である{{Sfn|斎藤|1966|p=52}}
* {{mvar|A}} は左[[行列の基本変形|基本変形]]のみによって単位行列に変形できる{{Sfn|斎藤|1966|p=52}}
* {{mvar|A}} は右基本変形のみによって単位行列に変形できる{{Sfn|斎藤|1966|p=52}}
* [[一次方程式]] {{math|''Ax'' {{=}} 0}} は自明な解しかもたない{{Sfn|斎藤|1966|p=60}}
* {{mvar|A}} の[[行列式]]は {{math|0}} ではない{{Sfn|斎藤|1966|p=85}}
* {{mvar|A}} の[[列ベクトル]]の[[族 (数学)|族]]<!-- 集合では無い -->は[[線型独立]]である
* {{mvar|A}} の[[行ベクトル]]の族は線型独立である
* {{mvar|A}} の[[固有値]]は、どれも {{math|0}} でない
{{div col end}}
== 性質 ==
{{mvar|n}} 次正則行列 {{mvar|A}}、{{mvar|B}} について次が成り立つ。
* {{math|{{!}}''A''<sup>−1</sup>{{!}} {{=}} {{!}}''A''{{!}}<sup>−1</sup>}}
* {{math|(''A''<sup>−1</sup>)<sup>−1</sup> {{=}} ''A''}}
* {{math|(''AB'')<sup>−1</sup> {{=}} ''B''<sup>−1</sup>''A''<sup>−1</sup>}}
* {{mvar|A}} の[[余因子行列]]を {{math|{{tilde|''A''}}}} とおくと {{math|''A''{{sup|−1}} {{=}} {{!}}''A''{{!}}{{sup|−1}} {{tilde|''A''}}}}
* {{mvar|n}} 次正方行列 {{mvar|N}} が[[冪零行列]]ならば {{math|''I'' − ''N''}} は正則で、逆行列は {{math|''I'' + ''N'' + … + ''N''<sup>''n'' − 1</sup>}} である{{Sfn|斎藤|1966|p=71}}
* {{mvar|A}} の[[転置行列|転置]] {{math|''A''{{sup|T}}}} も正則行列で {{math|(''A''{{sup|T}}){{sup|−1}} {{=}} (''A''{{sup|−1}}){{sup|T}}}}(これを {{math|''A''{{sup|−T}}}} と書くこともある)<ref name="Stewart">{{cite book
|title=Matrix Algorithms
|volume=1
|last=Stewart
|first=G. W.
|year=1998
|publisher=SIAM
|isbn=978-0-898714-14-2
|url={{google book|RfLOO2_VM04C|plainurl=yes}}
|page={{google books quote|id=RfLOO2_VM04C|page=38|38}}
}}</ref>
* {{mvar|A}} の[[エルミート共役]] {{math|''A''{{sup|H}}}} も正則行列で {{math|(''A''{{sup|H}}){{sup|−1}} {{=}} (''A''{{sup|−1}}){{sup|H}}}}(これを {{math|''A''{{sup|−H}}}} と書くこともある)<ref name="Stewart" />
== 判定法 ==
{{See also|ガウスの消去法}}
行列の正則性は[[行列の基本変形]]を使って判定できる{{Sfn|斎藤|1966|p=53}}。
具体的な逆行列の計算には、基本変形を使って順に掃き出していく方法がよく使われる。
一方で、理論的には[[行列式]]を使った[[クラメルの公式]]も重要である。
しかしこの方法は逆行列を数値計算するのには向かない{{Sfn|斎藤|1966|p=89}}<ref name="Yamamoto1">{{Cite book |和書 |author=山本哲朗 |title=数値解析入門 |edition=増訂版 |date=2003-06 |publisher=[[サイエンス社]] |series=サイエンスライブラリ 現代数学への入門 14 |ISBN=4-7819-1038-6}}</ref><ref group="注釈">[[数値解析]]・[[精度保証付き数値計算]]においては[[ニュートン法]]、Krawczyk法、[[大石進一|大石]]-Rump法などのように近似逆行列が必要となる場合が少なからずある。高次元行列の逆行列を求める手法として'''Schurの補元'''を用いる方法などが知られている。</ref>。
== 関連項目 ==
* [[線型代数学]]
* [[行列の階数]]
* [[ユニモジュラ行列]]
* [[リー群]]
* [[擬似逆行列]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書
|author=斎藤正彦|authorlink=斎藤正彦
|year = 1966
|title = [http://www.utp.or.jp/bd/4-13-062001-0.html 線型代数入門]
|edition = 初版
|publisher = 東京大学出版会
|isbn = 978-4-13-062001-7
|ref = harv
}}
{{線形代数}}
{{DEFAULTSORT:せいそくきようれつ}}
[[Category:線型代数学]]
[[Category:行列]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T09:24:37Z | 2023-09-04T19:05:41Z | false | false | false | [
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"Template:線形代数",
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"Template:Notelist"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E5%89%87%E8%A1%8C%E5%88%97 |
7,471 | 線型写像 | 数学の特に線型代数学における線型変換(せんけいへんかん、英: linear transformation、一次変換)あるいは線型写像(せんけいしゃぞう、英: linear mapping)は、ベクトルの加法とスカラー倍を保つ特別の写像である。特に任意の(零写像でない)線型写像は「直線を直線に移す」。
抽象代数学の言葉を用いれば、線型写像とは(体上の加群としての)ベクトル空間の構造を保つ準同型のことであり、また一つの固定された体上のベクトル空間の全体は線型写像を射とする圏を成す。
「線型変換」は線型写像とまったく同義と扱われる場合もあるが、始域と終域を同じくする線型写像(自己準同型)の意味で用いていることも少なくない。また函数解析学の分野では、(特に無限次元空間上の)線型写像のことを「線型作用素」(せんけいさようそ、英: linear operator)と呼ぶことも多い。スカラー値の線型写像はしばしば「線型汎函数」もしくは「一次形式」(いちじけいしき、英: linear form, one-form; 線型形式; 1-形式)とも呼ばれる。
V と W とを同じ体 F の上のベクトル空間とする。V から W への写像 f が、任意のベクトル x, y ∈ V と任意のスカラー c ∈ F に対し、
をともに満たすとき、f を F 上の線型写像 または簡単に F-線型写像という。考えているベクトル空間および線型写像がどの体上のものであるかが明らかなときには、省略して単に「 f は V から W への線型写像である」などということもある。
上記の二性質を合わせて線型性と呼び、また有限個のスカラー λi とベクトル vi に対して
のような形で言及することもある。
線型写像 f: V → W に対して
をそれぞれ、f の像 (image), 核 (kernel) という。これらはそれぞれの空間の線型部分空間であり、またこれらの次元
は f のそれぞれ階数 (rank), 退化次数 (nullity) と呼ばれ、有限次元のときには
なる等式を満足する(階数退化次数定理)。
は f の余核と呼ばれる。核および余核は線型写像 f のそれぞれ単射性および全射性からの「ずれ」を測るものと考えることができる。即ち、
線型写像 f ∈ HomF(V, W) が全単射であるとき、 f は V から W への F-線型同型写像あるいは F 上の同型、F-同型であるという。また、ベクトル空間 V, W の間に線型同型が存在するとき、V と W はベクトル空間として同型であるという。
線型写像がいくつか与えられたとき、それらから新たな線型写像を作り出す操作がいくつか存在する。
双線型写像 f: V × W → X が与えられたとき、テンソル積空間 V ⊗ W から X への線型写像 φ が
によって誘導される(テンソル積の普遍性)。
ベクトル空間 V から W への F-線型写像の全体の作る集合を
などで表す。この集合 L(V, W) は上記の和とスカラー倍によって、それ自身一つのベクトル空間になる。特に W ≔ F としたとき、つまりベクトル空間 V 上の線型汎函数の空間
は V の(代数的)双対空間と呼ばれる。特にまた
なる同型が成り立つ。
ベクトル空間 V から V 自身への F-線型写像 f を V における F 上の線型変換または F-自己準同型 (endomorphism) などという。V における F-線型変換全体の成す集合
は和と合成に関して V 上の F-自己準同型環と呼ばれる F 上の結合多元環の構造を持つ。V 上の線型変換 f: V → V が同型であるとき、線型変換 f を V 上の正則線型変換あるいは F-自己同型 (automorphism) という。V における正則 F-線型変換の全体の成す集合
や GL(V) などと表す。GL(V) は写像の合成を積として V 上の一般線型群と呼ばれる群を成す(単位元は恒等写像、逆元は逆写像で与えられる)。
成分を体 K にもつ m 行 n 列の行列をA とするとき、f(x) = Ax (x ∈ K) は数ベクトル空間 K から K への K-線型写像を定める。これとは逆に、V と W が有限次元のベクトル空間で、それぞれの空間の基底が選ばれているならば、各ベクトルをそれらの基底に関する成分表示と同一視できるから、V から W への任意の線型写像は行列として表すことができる。このことは、具体的な計算を可能にするという点で便利である。
V の基底を { v 1 , ⋯ , v n } {\displaystyle \{v_{1},\cdots ,v_{n}\}} 、 W の基底を { w 1 , ⋯ , w m } {\displaystyle \{w_{1},\cdots ,w_{m}\}} とおく。
Vの要素 ( a 1 v 1 + ⋯ + a n v n ) {\displaystyle (a_{1}v_{1}+\cdots +a_{n}v_{n})} の線型写像 f: V → W について、線形性の定義から
が成り立つ。各基底の行き先 f(vj) が分かれば、この写像は一つに決まる。このとき
となるスカラー aij を (i,j)-成分にもつ行列を Af とすれば、この写像は、
と書くことができる。基底の変換
を行うとき、P, Q は正則行列で (v′1, ..., v′n) = (v1, ..., vn)P, (w′1, ..., w′m) = (w1, ..., wm)Q であり、
が成立するから、表現行列は QAfP に置き換わる。
適当な基底を固定して各線型写像 f: V → W に対応する行列を Af と書けば、
が成り立つから、特に K 上のベクトル空間 V, W の K 上次元がそれぞれ n, m であるとき、
というベクトル空間の同型が成り立つ。また、合成に関しても
(右辺は行列の積)となるから、特に V = W のとき
は結合多元環の同型になる。これらの同型が成り立つことをもって、線型写像が行列によって表現されるという。
一般に無限次元のベクトル空間を扱うとき、空間には付加的な構造として位相が定められているのが普通であり、そのような空間では線型写像の連続性を考察することができる。有限次元空間上の線型写像は必ず連続であり、したがって不連続線型作用素の概念は特に無限次元の場合において意味を持つ。
バナッハ空間のようなノルム線型空間では、線型写像がノルムの定める距離に関して連続となることと、そのノルムに関して有界となることとが同値である。
ノルム空間 X 上の可微分函数全体の成す空間 C(X) に上限ノルムを入れて考えるとき、函数の微分は作用素として有界でない(つまり、0-値函数の微分が常に 0 であるにもかかわらず、値の十分小さい函数でも導函数の値が非常に大きくなるということが起こりうる)。また、可微分函数の微分は必ずしも微分可能ではないから、始域よりも終域のほうが大きく、故に函数の微分は連続にならない。 | [
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"text": "双線型写像 f: V × W → X が与えられたとき、テンソル積空間 V ⊗ W から X への線型写像 φ が",
"title": "線型写像の演算"
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"text": "によって誘導される(テンソル積の普遍性)。",
"title": "線型写像の演算"
},
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"text": "ベクトル空間 V から W への F-線型写像の全体の作る集合を",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "などで表す。この集合 L(V, W) は上記の和とスカラー倍によって、それ自身一つのベクトル空間になる。特に W ≔ F としたとき、つまりベクトル空間 V 上の線型汎函数の空間",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "は V の(代数的)双対空間と呼ばれる。特にまた",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "なる同型が成り立つ。",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "ベクトル空間 V から V 自身への F-線型写像 f を V における F 上の線型変換または F-自己準同型 (endomorphism) などという。V における F-線型変換全体の成す集合",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "は和と合成に関して V 上の F-自己準同型環と呼ばれる F 上の結合多元環の構造を持つ。V 上の線型変換 f: V → V が同型であるとき、線型変換 f を V 上の正則線型変換あるいは F-自己同型 (automorphism) という。V における正則 F-線型変換の全体の成す集合",
"title": "線型写像の空間"
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"text": "や GL(V) などと表す。GL(V) は写像の合成を積として V 上の一般線型群と呼ばれる群を成す(単位元は恒等写像、逆元は逆写像で与えられる)。",
"title": "線型写像の空間"
},
{
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"text": "成分を体 K にもつ m 行 n 列の行列をA とするとき、f(x) = Ax (x ∈ K) は数ベクトル空間 K から K への K-線型写像を定める。これとは逆に、V と W が有限次元のベクトル空間で、それぞれの空間の基底が選ばれているならば、各ベクトルをそれらの基底に関する成分表示と同一視できるから、V から W への任意の線型写像は行列として表すことができる。このことは、具体的な計算を可能にするという点で便利である。",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "V の基底を { v 1 , ⋯ , v n } {\\displaystyle \\{v_{1},\\cdots ,v_{n}\\}} 、 W の基底を { w 1 , ⋯ , w m } {\\displaystyle \\{w_{1},\\cdots ,w_{m}\\}} とおく。",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "Vの要素 ( a 1 v 1 + ⋯ + a n v n ) {\\displaystyle (a_{1}v_{1}+\\cdots +a_{n}v_{n})} の線型写像 f: V → W について、線形性の定義から",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "が成り立つ。各基底の行き先 f(vj) が分かれば、この写像は一つに決まる。このとき",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "となるスカラー aij を (i,j)-成分にもつ行列を Af とすれば、この写像は、",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "と書くことができる。基底の変換",
"title": "行列表現"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "を行うとき、P, Q は正則行列で (v′1, ..., v′n) = (v1, ..., vn)P, (w′1, ..., w′m) = (w1, ..., wm)Q であり、",
"title": "行列表現"
},
{
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"text": "が成立するから、表現行列は QAfP に置き換わる。",
"title": "行列表現"
},
{
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"tag": "p",
"text": "適当な基底を固定して各線型写像 f: V → W に対応する行列を Af と書けば、",
"title": "行列表現"
},
{
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"tag": "p",
"text": "が成り立つから、特に K 上のベクトル空間 V, W の K 上次元がそれぞれ n, m であるとき、",
"title": "行列表現"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "というベクトル空間の同型が成り立つ。また、合成に関しても",
"title": "行列表現"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "(右辺は行列の積)となるから、特に V = W のとき",
"title": "行列表現"
},
{
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"tag": "p",
"text": "は結合多元環の同型になる。これらの同型が成り立つことをもって、線型写像が行列によって表現されるという。",
"title": "行列表現"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "一般に無限次元のベクトル空間を扱うとき、空間には付加的な構造として位相が定められているのが普通であり、そのような空間では線型写像の連続性を考察することができる。有限次元空間上の線型写像は必ず連続であり、したがって不連続線型作用素の概念は特に無限次元の場合において意味を持つ。",
"title": "線型写像の連続性"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "バナッハ空間のようなノルム線型空間では、線型写像がノルムの定める距離に関して連続となることと、そのノルムに関して有界となることとが同値である。",
"title": "線型写像の連続性"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "ノルム空間 X 上の可微分函数全体の成す空間 C(X) に上限ノルムを入れて考えるとき、函数の微分は作用素として有界でない(つまり、0-値函数の微分が常に 0 であるにもかかわらず、値の十分小さい函数でも導函数の値が非常に大きくなるということが起こりうる)。また、可微分函数の微分は必ずしも微分可能ではないから、始域よりも終域のほうが大きく、故に函数の微分は連続にならない。",
"title": "線型写像の連続性"
}
] | 数学の特に線型代数学における線型変換あるいは線型写像は、ベクトルの加法とスカラー倍を保つ特別の写像である。特に任意の(零写像でない)線型写像は「直線を直線に移す」。 | {{Redirect|一次変換|一次分数変換|メビウス変換}}
{{出典の明記|date=2020年7月}}
[[数学]]の特に[[線型代数学]]における'''線型変換'''(せんけいへんかん、{{lang-en-short|''linear transformation''}}、'''一次変換''')あるいは'''線型写像'''(せんけいしゃぞう、{{lang-en-short|''linear mapping''}})は、ベクトルの加法とスカラー倍を保つ特別の[[写像]]である。特に任意の([[零写像]]でない)線型写像は「直線を直線に移す」。
==概要==
[[抽象代数学]]の言葉を用いれば、線型写像とは([[可換体|体]]上の[[環上の加群|加群]]としての)[[ベクトル空間]]の構造を保つ[[準同型]]のことであり、また一つの固定された体上のベクトル空間の全体は線型写像を[[射 (圏論)|射]]とする[[圏 (数学)|圏]]を成す。
「線型変換」は線型写像とまったく同義と扱われる場合もあるが、始域と終域を同じくする線型写像([[自己準同型]])の意味で用いていることも少なくない。また[[函数解析学]]の分野では、(特に無限次元空間上の)線型写像のことを「'''線型作用素'''」(せんけいさようそ、{{lang-en-short|''linear operator''}})と呼ぶことも多い。[[スカラー値函数|スカラー値]]の線型写像はしばしば「[[線型汎函数]]」もしくは「'''一次形式'''」(いちじけいしき、{{lang-en-short|''linear form'', one-form}}; 線型形式; [[1-形式]])とも呼ばれる{{efn|一次の微分形式([[一次微分形式]]もしくは微分一次形式; differential one-form)を単に「一次形式」または「1-形式」(one-form) と呼ぶこともある。これとの対照のため、本項に云う意味での一次形式を「代数一次形式」(albegraic one-form) と呼ぶ場合がある。}}。
{{main2|'''線形'''等の用字・表記の揺れについては[[線型性]]を}}
== 定義 ==
{{mvar|V}} と {{mvar|W}} とを同じ[[可換体|体]] {{mathbf|𝔽}} の上の[[ベクトル空間]]とする。{{mvar|V}} から {{mvar|W}} への[[写像]] {{mvar|f}} が、任意のベクトル {{math|'''x''', '''y''' ∈ ''V''}} と任意の[[スカラー (数学)|スカラー]] {{math|''c'' ∈ {{mathbf|𝔽}}}} に対し、
# [[加法的写像|'''加法性''']]: {{math|1=''f''('''x''' + '''y''') = ''f''('''x''') + ''f''('''y''')}},
# [[斉次函数|'''斉一次性''']]: {{math|1=''f''(''c'''''x''') = ''cf'' ('''x''')}}
をともに満たすとき{{efn|加法性から斉一次性が従うベクトル空間もあるが、一般にはそのようなことは期待できない。例えば、実数の全体 {{mathbf|ℝ}} は無限次元 {{mathbf|ℚ}}-線型空間とも一次元 {{mathbf|ℝ}}-線型空間とも見做すことができるが、{{mathbf|ℝ}} 上の加法的函数は必ず {{mathbf|ℚ}}-線型写像となり、しかし必ずしも {{mathbf|ℝ}}-線型でない(この場合はさらに[[連続函数|連続性]]を仮定すれば {{mathbf|ℝ}}-線型になる)ことが示される([[コーシーの函数方程式]]の項を参照)。つまり一般には「加法性」と「斉一次性」は独立した制約条件である。}}、{{mvar|f}} を {{mathbf|𝔽}} 上の'''線型写像''' または簡単に {{mathbf|𝔽}}-線型写像という。考えているベクトル空間および線型写像がどの体上のものであるかが明らかなときには、省略して単に「 {{mvar|f}} は {{mvar|V}} から {{mvar|W}} への線型写像である」などということもある{{efn|考えている係数体が何であるかは線型性にとって重要である。例えば、[[複素数]]全体の成す体 {{mathbf|ℂ}} は {{mathbf|ℂ}} 上一次元のベクトル空間であるとともに、{{mathbf|ℝ}} 上二次元のベクトル空間でもある。各複素数に対し、その[[複素共軛]]をとる操作は {{mathbf|ℂ}} 上の {{mathbf|ℝ}}-線型変換であるが、しかし {{mathbf|ℂ}}-線型ではない。}}。
上記の二性質を合わせて[[線型性]]と呼び、また有限個のスカラー {{mvar|λ{{sub|i}}}} とベクトル {{mvar|v{{sub|i}}}} に対して
: '''線型性''': <math>f\Big(\sum_{i=1}^r\lambda_iv_i\Bigr)=\sum_{i=1}^r\lambda_if(v_i)</math>
のような形で言及することもある。
== 例と反例 ==
* [[恒等写像]](値を変えない写像)および[[零写像]](全てを[[零ベクトル]]へ写す写像:0-値函数)は何れも線型である。
* 実函数 {{math|''f''(''x'') {{coloneqq}} ''ax''}} ({{mvar|a}} は定数) は線型である。
** 実函数 {{math|''f''(''x'') {{coloneqq}} ''x'' + 1}} は線型でない(が[[アフィン写像|アフィン]]にはなる)。線型変換は原点を変えない。
** 実函数 {{math|''f''(''x'') {{coloneqq}} ''x''<sup>2</sup>}} は線型でない。
* {{math|''m'' × ''n''}} 実[[行列 (数学)|行列]] {{mvar|A}} は[[列ベクトル]] {{math|''x'' ∈ {{mathbf|ℝ}}<sup>''n''</sup>}} を列ベクトル {{math|''Ax'' ∈ {{mathbf|ℝ}}<sup>''m''</sup>}} へ写す線型写像を定める。逆に、有限次元ベクトル空間の間の任意の線型写像は(それぞれの空間の基底を一つ固定するとき)行列で表現される。またこのとき、線型写像 {{mvar|f}} をその表現行列 {{mvar|A{{sub|f}}}} へ写す写像(行列表現)はそれ自身が線型写像になる([[#行列表現|後述]])。
* {{math|''M'' {{coloneqq}} M(''n'', {{mathbf|ℝ}})}} を {{mvar|n}} 次実[[正方行列]]の全体がなす {{math|''n''<sup>2</sup>}} 次元ベクトル空間とする。{{math|''x'' ∈ ''M''}} に対し、写像 {{math|ad ''x'': ''M'' → ''M''}} を {{math|ad''x''(''y'') {{coloneqq}} ''xy'' − ''yx''}} で定義すると、{{math|ad ''x''}} は線型写像である。さらに、{{mvar|M}} から {{math|End<sub>{{mathbf|ℝ}}</sub>(''M'')}} への写像 {{math|ad: x {{mapsto}} ad ''x''}} も線型である。
* {{mathbf|ℝ}} の適当な[[区間 (数学)]]上の[[定積分]]は、その区間上の実数値可積分函数の空間からの線型写像である。
** [[不定積分]](あるいは[[原始函数]])は、得られる函数が積分定数の分だけ無数に存在するため、線型写像とみなすことはそのままではできない。
* [[微分]]は可微分函数全体の成す空間から函数全体の成す空間への線型写像である。
* [[確率変数]] {{mvar|X}} の[[期待値]] {{math|𝔼{{bracket|''X''}}}} は <math display="block">\mathbb{E}[cX + a] = c\,\mathbb{E}[X] + a</math> を満たすから線型写像となるが、[[分散 (統計学)|分散]] {{math|𝕍{{bracket|''X''}}}} は {{math|1=𝕍{{bracket|''cX'' + ''a''}} = ''c''<sup>2</sup>𝕍{{bracket|''X''}}}} で斉一次性が成り立たないので線型でない。
== 核・像と全射性・単射性 ==
線型写像 {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} に対して
:<math>\operatorname{Im}(f)=f(V):=\{\ f(v) \in W\mid v \in V\ \} \subset W,</math>
:<math>\operatorname{Ker}(f) := \{v \in V\mid f(v)=0\ \} \subset V</math>
をそれぞれ、{{mvar|f}} の[[像 (数学)|像]] (image), [[零空間|核]] (kernel) という。これらはそれぞれの空間の[[線型部分空間]]であり、またこれらの次元
: <math>\text{rk}(f):=\dim\left(\operatorname{Im}(f)\right),\quad \operatorname{nul}(f):=\dim\left(\operatorname{Ker}(f)\right)</math>
は {{mvar|f}} のそれぞれ'''[[階数 (線型代数学)|階数]]''' (rank), '''退化次数''' (nullity) と呼ばれ、有限次元のときには
: <math>\dim (V) = \operatorname{rk}(f)+\operatorname{nul}(f)</math>
なる等式を満足する([[階数退化次数定理]])。
: <math>\operatorname{Coker}(f):= W/\operatorname{Im}(f)</math>
は {{mvar|f}} の[[余核]]と呼ばれる。核および余核は線型写像 {{mvar|f}} のそれぞれ[[単射性]]および[[全射性]]からの「ずれ」を測るものと考えることができる。即ち、
* {{mvar|f}} が単射であるための必要十分条件は {{math|1=Ker(''f'') = {{mset|0}}}} となることであり、
* {{mvar|f}} が全射であるための必要十分条件は {{math|1=Coker(''f'') = {{mset|0}}}} となることである。
線型写像 {{math|''f'' ∈ Hom<sub>{{mathbf|𝔽}}</sub>(''V'', ''W'')}} が[[全単射]]であるとき、 {{mvar|f}} は {{mvar|V}} から {{mvar|W}} への {{mathbf|𝔽}}-'''線型同型'''写像あるいは {{mathbf|𝔽}} 上の'''同型'''、{{mathbf|𝔽}}-同型であるという。また、ベクトル空間 {{mvar|V, W}} の間に線型同型が存在するとき、{{mvar|V}} と {{mvar|W}} はベクトル空間として同型であるという。
== 線型写像の演算 ==
線型写像がいくつか与えられたとき、それらから新たな線型写像を作り出す操作がいくつか存在する。
; 線型演算: 線型写像 {{math|''f'', ''f''<sub>1</sub>, ''f''<sub>2</sub>: ''V'' → ''W''}} および係数体の元 {{mvar|a}} に対して、スカラー倍 {{mvar|af}} および和 {{math|''f''<sub>1</sub> + ''f''<sub>2</sub>}} を
:: <math>(af)(v):=a(f(v)),\quad (f_1+f_2)(v):=f_1(v)+f_2(v)</math>
:で定めると、これらはまた {{mvar|V}} から {{mvar|W}} への線型写像を定める。
; 積: {{mvar|''f'': ''V'' → ''W''}} および {{math|''g'': ''W'' → ''X''}} が線型ならば、その[[写像の合成|合成]] {{math|''g'' ∘ ''f''}} は {{mvar|V}} から ''X'' への線型写像を定める。
; 反転: 線型写像 {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} が全単射(したがって同型)であるとき、[[逆写像]] {{math|''f''<sup>−1</sup>: ''W'' → ''V''}} もまた線型同型になる。
[[双線型写像]] {{math|''f'': ''V'' × ''W'' → ''X''}} が与えられたとき、[[テンソル積]]空間 {{math|''V'' ⊗ ''W''}} から {{mvar|X}} への線型写像 {{mvar|φ}} が
: <math>\varphi(v\otimes w) := f(v,w)\quad(v\in V,w\in W)</math>
によって誘導される(テンソル積の普遍性)。
== 線型写像の空間 ==
ベクトル空間 {{mvar|V}} から {{mvar|W}} への {{mathbf|𝔽}}-線型写像の全体の作る集合を
: <math>\operatorname{Hom}_\mathbb{F}(V,W)=\mathcal{L}(V,W):=\{f\colon V\to W\mid f\text{: linear}\}</math>
などで表す。この集合 {{math|{{mathcal|''L''}}(''V'', ''W'')}} は上記の和とスカラー倍によって、それ自身一つの[[ベクトル空間]]になる。特に {{math|''W'' {{coloneqq}} {{mathbf|𝔽}}}} としたとき、つまりベクトル空間 {{mvar|V}} 上の線型汎函数の空間
: <math>V^* := \mathcal{L}(V,F)</math>
は {{mvar|V}} の(代数的)[[双対空間]]と呼ばれる。特にまた
: <math>\mathcal{L}(V,W)\cong V^*\otimes W</math>
なる同型が成り立つ。
ベクトル空間 {{mvar|V}} から {{mvar|V}} 自身への {{mathbf|𝔽}}-線型写像 {{mvar|f}} を {{mvar|V}} における {{mathbf|𝔽}} 上の'''線型変換'''または '''{{mathbf|𝔽}}-[[自己準同型]]''' (endomorphism) などという。{{mvar|V}} における {{mathbf|𝔽}}-線型変換全体の成す集合
: <math>\operatorname{End}_F(V):=\mathcal{L}_F(V,V)</math>
は和と[[写像の合成|合成]]に関して {{mvar|V}} 上の {{mathbf|𝔽}}-[[自己準同型環]]と呼ばれる {{mathbf|𝔽}} 上の[[結合多元環]]の構造を持つ。{{mvar|V}} 上の線型変換 {{math|''f'': ''V'' → ''V''}} が同型であるとき、線型変換 {{mvar|f}} を {{mvar|V}} 上の'''正則線型変換'''あるいは '''{{mathbf|𝔽}}-[[自己同型]]''' (automorphism) という。{{mvar|V}} における正則 {{mathbf|𝔽}}-線型変換の全体の成す集合
: <math>\mathit{GL}_F(V) :=\left\{f\colon V\to V\mid f\text{: automorphism}\right\}</math>
や {{math|''GL''(''V'')}} などと表す。{{math|''GL''(''V'')}} は写像の合成を積として {{mvar|V}} 上の[[一般線型群]]と呼ばれる[[群 (数学)|群]]を成す([[単位元]]は[[恒等写像]]、[[逆元]]は[[逆写像]]で与えられる)。
== 行列表現 ==
{| class="wikitable" style="text-align:center; margin-left:1em; float:right;"
|+ {{mathbf|ℝ}}<sup>2</sup> における線形変換行列の例
|-
| 反時計回りの90[[度 (角度)|度]][[回転操作|回転]]
<math>\begin{bmatrix}0 & -1\\ 1 & 0\end{bmatrix}</math>
| 反時計回りの''θ''回転
<math>\begin{bmatrix}\cos(\theta) & -\sin(\theta)\\ \sin(\theta) & \cos(\theta)\end{bmatrix}</math>
|-
| ''x'' 軸に関する反転
<math>\begin{bmatrix}1 & 0\\ 0 & -1\end{bmatrix}</math>
| ''y'' 軸に関する反転
<math>\begin{bmatrix}-1 & 0\\ 0 & 1\end{bmatrix}</math>
|-
| すべての方向に長さ 2 倍
<math>\begin{bmatrix}2 & 0\\ 0 & 2\end{bmatrix}</math>
| squeeze 変換
<math>\begin{bmatrix}k & 0\\ 0 & 1/k\end{bmatrix}</math>
|-
| 水平方向に[[せん断|剪断]]
<math>\begin{bmatrix}1 & m\\ 0 & 1\end{bmatrix}</math>
| ''y'' 軸への[[射影]]
<math>\begin{bmatrix}0 & 0\\ 0 & 1\end{bmatrix}</math>
|}
成分を体 {{mathbf|𝕂}} にもつ {{mvar|m}} 行 {{mvar|n}} 列の行列を{{mvar|A}} とするとき、{{math|1=''f''('''x''') = ''A'''''x''' ('''x''' ∈ {{mathbf|𝕂}}<sup>''n''</sup>)}} は[[数ベクトル空間]] {{math|{{mathbf|𝕂}}<sup>''n''</sup>}} から {{math|{{mathbf|𝕂}}<sup>''m''</sup>}} への {{mathbf|𝕂}}-線型写像を定める。これとは逆に、{{mvar|V}} と {{mvar|W}} が有限[[次元]]のベクトル空間で、それぞれの空間の[[基底 (線型代数学)|基底]]が選ばれているならば、各ベクトルをそれらの基底に関する成分表示と同一視できるから、{{mvar|V}} から {{mvar|W}} への任意の線型写像は[[行列 (数学)|行列]]として表すことができる。このことは、具体的な計算を可能にするという点で便利である。
{{mvar|V}} の基底を <math>\{v_1,\cdots,v_n\}</math>、 {{mvar|W}} の基底を<math>\{w_1,\cdots,w_m\}</math>とおく。
{{mvar|V}}の要素<math>(a_1v_1+\cdots+a_nv_n)</math>の線型写像 {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} について、線形性の定義から
: <math>f(a_1v_1+\cdots+a_nv_n)=a_1f(v_1)+\cdots+a_nf(v_n)</math>
が成り立つ。各基底の行き先 {{math|''f''(''v''<sub>''j''</sub>)}} が分かれば、この写像は一つに決まる。このとき
: <math>f(v_j) = a_{1j}w_1+\cdots a_{mj}w_m</math>
となるスカラー {{mvar|a{{sub|ij}}}} を {{math|(''i'',''j'')}}-成分にもつ行列を {{mvar|A{{sub|f}}}} とすれば、この写像は、
: <math>f\Big((v_1,\ldots,v_n)\begin{bmatrix}a_1\\\vdots\\a_n\end{bmatrix}\Bigr)=
(w_1,\ldots,w_m)A_f\begin{bmatrix}a_1\\\vdots\\a_n\end{bmatrix}</math>
と書くことができる。基底の変換
: <math>
P\colon (v_1,\ldots,v_n)\mapsto (v_1',\ldots,v_n'),\quad
Q\colon (w_1,\ldots,w_m)\mapsto (w_1',\ldots,w_m')
</math>
を行うとき、{{mvar|P, Q}} は[[正則行列]]で {{math|1=(''v''′<sub>1</sub>, …, ''v''′<sub>''n''</sub>) = (''v''<sub>1</sub>, …, ''v''<sub>''n''</sub>)''P''}}, {{math|1=(''w''′<sub>1</sub>, …, ''w''′<sub>''m''</sub>) = (''w''<sub>1</sub>, …, ''w''<sub>''m''</sub>)''Q''}} であり、
: <math>\begin{align}
f\Big((v_1',\ldots,v_n')\begin{bmatrix}a_1'\\\vdots\\a_n'\end{bmatrix}\Bigr)
&=f\Big((v_1,\ldots,v_n)P\begin{bmatrix}a_1'\\\vdots\\a_n'\end{bmatrix}\Bigr)\\
&=(w_1,\ldots,w_m)A_fP\begin{bmatrix}a_1'\\\vdots\\a_n'\end{bmatrix}
=(w_1',\ldots,w_m')Q^{-1}A_fP\begin{bmatrix}a_1'\\\vdots\\a_n'\end{bmatrix}
\end{align}</math>
が成立するから、表現行列は {{math|''Q''<sup>−1</sup>A<sub>''f''</sub>''P''}} に置き換わる。
適当な基底を固定して各線型写像 {{math|''f'': ''V'' → ''W''}} に対応する行列を {{mvar|A{{sub|f}}}} と書けば、
: <math>A_{f_1+f_2}=A_{f_1}+A_{f_2},\quad A_{cf}=cA_f</math>
が成り立つから、特に {{mathbf|𝕂}} 上のベクトル空間 {{mvar|V, W}} の {{mathbf|𝕂}} 上次元がそれぞれ {{mvar|n, m}} であるとき、
:<math>{\rm Hom}_K(V,W) \cong {\rm Mat}(m,n;K)</math>
というベクトル空間の同型が成り立つ。また、合成に関しても
: <math>A_{g\circ f} = A_g A_f</math>
(右辺は[[行列の積]])となるから、特に {{math|1=''V'' = ''W''}} のとき
: <math>\operatorname{End}_K(V) \cong \operatorname{Mat}_n(K)</math>
は[[結合多元環]]の同型になる。これらの同型が成り立つことをもって、線型写像が行列によって[[表現 (数学)|表現]]されるという。
== 線型写像の連続性 ==
{{main|連続線型作用素}}
一般に無限次元のベクトル空間を扱うとき、空間には付加的な構造として[[位相空間|位相]]が定められているのが普通であり、そのような空間では線型写像の連続性を考察することができる。有限次元空間上の線型写像は必ず連続であり、したがって[[不連続線型作用素]]の概念は特に無限次元の場合において意味を持つ。
[[バナッハ空間]]のような[[ノルム線型空間]]では、線型写像がノルムの定める距離に関して連続となることと、そのノルムに関して[[有界作用素|有界]]となることとが同値である。
ノルム空間 {{mvar|X}} 上の[[可微分函数]]全体の成す空間 {{math|''C''<sup>1</sup>(''X'')}} に[[上限ノルム]]を入れて考えるとき、函数の微分は作用素として有界でない(つまり、{{math|0}}-値函数の微分が常に {{math|0}} であるにもかかわらず、値の十分小さい函数でも導函数の値が非常に大きくなるということが起こりうる)。また、可微分函数の微分は必ずしも微分可能ではないから、始域よりも終域のほうが大きく、故に函数の微分は連続にならない。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{notelist}}
== 参考文献 ==
{{参照方法|date=2016年2月}}
* {{cite book|和書|author=齋藤正彦|title=線型代数入門|series=基礎数学1|publisher=東京大学出版会|year=1966|isbn=978-4130620017}}
* {{cite book|和書|author=佐武一郎|title=線型代数学|series=数学選書1|publisher=裳華房|year=1974|isbn=978-4785313012}}
* {{Citation | last1=Halmos | first1=Paul R. | author1-link=ポール・ハルモス | title=Finite-dimensional vector spaces | publisher=[[シュプリンガー・フェアラーク|Springer-Verlag]] | location=New York | isbn=978-0-387-90093-3 | year=1974}}
* {{Citation | last1=Lang | first1=Serge | author1-link=サージ・ラング | title=Linear algebra | publisher=[[シュプリンガー・フェアラーク|Springer-Verlag]] | location=New York | isbn=978-0-387-96412-6 | year=1987}}
== 関連項目 ==
* [[反線型写像]]
* [[半線型写像]]
* [[半双線型形式|半双線型写像]]
* [[連続線型作用素]]
== 外部リンク ==
{{Wikibooks|線型代数学/線形写像}}
*{{MathWorld|title=Linear Transformation|urlname=LinearTransformation}}
*{{nlab|title=linear map|urlname=linear+map}}
*{{PlanetMath|title=linear transformation|urlname=lineartransformation}}
*{{ProofWiki|title=Definition:Linear Transformation|urlname=Definition:Linear_Transformation}}
*{{SpringerEOM|title=Linear transformation|urlname=Linear_transformation}}
{{Linear algebra}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:せんけいしやそう}}
[[Category:線型代数学]]
[[category:線型作用素|*]]
[[Category:変換 (数学)]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T09:39:56Z | 2023-10-14T20:53:54Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E5%86%99%E5%83%8F |
7,472 | 行列式 | 数学における行列式(ぎょうれつしき、英: determinant)とは、正方行列に対して定義される量で、歴史的には行列が表す一次方程式の可解性を判定する指標として導入された。幾何的には線型空間またはより一般の有限生成自由加群上の自己準同型に対して定義され、線型変換に対して線形空間の拡大率ということができる。行列の可逆性を判定する指標として線型代数学における最も重要な指標の一つと見なされている。
X を実2次正方行列
とするとき、これは
という平面上の線型変換を定めている。一方で、2つの平面ベクトル u = (u0, u1), v = (v0, v1) に対して、これらが張る平行四辺形の「向きも込めた」面積は
により指定されると考えることができる。このとき A(Xu, Xv) = (ad − bc)A(u, v) が成り立っているが、これは X の定める線型変換によって平面内の図形の面積が (ad − bc)-倍される、と解釈できる。
したがって、実2次正方行列 X に対して(上の記号の下で)det X ≔ ad − bc を対応させると、det(XY) = (det X)(det Y) であることや、det X > 0 であるとき X の定める変換は図形の向きを保ち、反対に det X < 0 であるとき図形の向きは反転させられることが分かる。det の乗法性から X が可逆ならば det X は逆数を持つ数であることが従うが、反対に X が退化した行列(つまり X の定める変換の像が一次元の部分空間)になる場合にはすべての図形の変換後の面積が 0 になることから det X = 0 となることがいえる。こうして、正方行列 X が正則であることと X の行列式が可逆であることは同値であることが分かる。
同様にして一般の次数のN次正方行列 X に対し、X の定める線型変換が超立体(N次図形)の超体積を何倍にしているかという符号付き拡大率を X の行列式として定義することができる。これは行列の成分を変数とする多項式の形でかけ、二次の場合と同様にこれは正則性など正方行列の重要な性質に対する指標を与えている。一次方程式系が与えられるとき、方程式の係数行列に対してその行列式の値を調べることにより、方程式系の根の状態をある程度知ることができる。特にクラメルの公式により、根が一組である線型方程式系の根の公式が行列式を用いて表示される。
K を可換環とし、E を階数 n の A 上の自由加群とする。E の n-次外冪 ⋀E は A 上階数1の自由加群である。E 上の K-線型写像 φ について、⋀E 上に引き起こされる K-準同型
は一意的に定まるある a ∈ A に関する定数倍写像と一致する。この a は φ の行列式 det φ と呼ばれる。
n 次正方行列 A の i 行 j 列成分を ai,j で表すと、A の行列式は、次の式で定義される:
ここで、
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n 次正方行列の行列式は n 次の斉次多項式で、項を n! 個持つ(ライプニッツの公式)。
正方行列 A の行列式は、|A| あるいは det(A) と表記される。行列の成分を明示する場合は
を単に
と書く。
K の標準基底を (e1, ..., en) とする。正方行列 X を表す列ベクトルを v1, ..., vn とすると、vj = Xej である。
であるが、ここで
である。ただし、vi の第 i 成分を v ji と表した)。これは K 上 ⋀X が (det X)-倍写像として作用していることを示している。
n-次外積の普遍性により、行列式とは、行列の各列のベクトルに関する n-重交代線型写像で単位行列には 1 を与えるものとして特徴づけられることが分かる。
n次行列に関する行列式は列に関して n重交代線型性をもつ。つまり、行列を (a1, a2, ..., an) のように列ベクトルの組の形に書くことにすれば
が成り立っている。例えば、線型性によって
が成立しており、さらに交代性によって
も成り立っている。特に、どれか二つの列が全く同一の成分を持つような行列の行列式は 0 である。
A の行列式と、A の転置行列の行列式は等しい。これによって、行列式が列に関してある性質を持てば、行に関しても同様の性質を持つことが分かる。つまり、上記の性質は全て行に対するものにも書き直せる。
二つの行列の積の行列式は、それぞれの行列式の積に等しい:A, B を n次正方行列とするとき、|A|⋅|B| = |AB| である。これより特に行列式が基底の取り替えによって不変であることが従う。
西洋で行列式が考えられるようになったのは16世紀であり、これは19世紀に導入された行列そのものよりも遥かに昔に導入されていたことになる。また、数を表の形に並べたものや、現在ガウス(・ジョルダン)消去法と呼ばれているアルゴリズムは最も古くには中国の数学者たちによって考えられていたことにも注意する必要がある。
楊輝(中国、1238年? - 1298年)は『詳解九章算術』で数字係数の二元連立一次方程式の解をクラメルの公式の形で、行列式的なものを含んだ形で与えている。また1545年にジェロラモ・カルダノは、著書 Ars Magna の中で同じく2×2の場合のクラメルの公式を与えている。この公式は regula de modo(ラテン語で「様態に関するの規則」の意味)と呼ばれている。彼らは「行列式」を定義したわけではないが、その概念の萌芽を見てとることができる。
高階の行列に関する行列式の定義はそれから百年ほどたって日本で和算の関孝和、田中由真、そしてドイツのライプニッツによりほとんど同時にかつ独立に与えられた。
関孝和は『解伏題之法』で行列式について述べている。本手稿のテーマは多変数の高次方程式から変数を消去して一変数の方程式に帰着することで、変数消去の一般的方法、つまり終結式の理論を提示している。本手稿では3次と4次に関しては行列式の正しい表示を与えているが、より高次の5次の場合はつねに0になってしまい、あきらかに間違っている。これが単純な誤記の類であるか否かは不明である。また、次節で述べるように、関西で活躍していた田中由真や井関知辰らの研究も同様の問題を考えており、類似の結果にたどり着いている。
これらの研究では、いずれも行列式は終結式を表すための手段にすぎず、行列式そのものを意味のある対象として捉えていたかについては異論がある。実際、それをあらわす用語すら提案されていない。また、日本が鎖国によって外界から遮断されていたこともあり、西洋数学に影響を与えることはなかった。
同じ時期にライプニッツは数多くの線型方程式系を研究していたが、その頃は行列記法がまだなかったので、彼は未知数の係数を、現在のような ai,j のかわりに ij のように添字の対によって表現していた。1678年に彼は3つの未知数に関する3つの方程式に興味を抱き、列に関する行列式の展開式を与えている。同じ年に彼は4次の行列式についても(符号の間違いを別にすれば)正しい式を与えている。ちなみにライプニッツはこの成果を公表しなかったので、50年後に彼とは独立に再発見されるまでこの成果は人々に認識されていなかった。
関孝和は、最初の手稿からやや後の『大成算成』(建部賢明、建部賢弘と共著、執筆は1683年〈天和3年〉 - 1710年〈宝永7年〉頃)で、第一列についての余因子展開を一般の場合について正しく与えている。また、田中由真は『算学紛解』(1690年(元禄3年)ごろ)で 5次までの行列式を、井関知辰は『算法発揮』(1690年(元禄3年)刊)で第一行についての余因子展開を一般の場合で与えている。ちなみに関や田中の著作は写本のみであるが、井関の著作は出版がなされている。
ヨーロッパにおいても、行列式の理論は日本の場合と同じく(一次ではなく)高次の代数方程式の変数消去の研究のために発展した。1748年にマクローリンの(死後に刊行された)代数学の著作において4つの未知数に関する4つの方程式の系の解が正しい形で述べられ、行列式の研究が再開されることになった。1750年にクラメルは(証明抜きで)N 個の変数に関する N 個の方程式からなる方程式の解を求める規則を定式化した。この行列式の計算方法は順列の符号に基づく繊細なものだった。
ベズー(1764年)やファンデルモント(1771年、ヴァンデルモンドの行列式の計算)などがそれに続き、1772年にはラプラスによって余因子展開の公式が確立された。さらに翌年にはラグランジュによって行列式と体積との関係が発見されている。
今日の determinant(決定するもの)に当たる言葉が初めて現れたのはガウスによる1801年の Disquisitiones Arithmeticae である。そこで彼は二次形式の判別式(今日的な意味での行列式の特別な例と見なせる)を用いている。彼はさらに行列式と積の関係についても後少しのところまでいっている。
現代的な意味での行列式という用語はコーシーによって初めて導入された。彼はそれまでに得られていた知識を統合し、1812年には積と行列式の関係を発表している(同じ年にビネも独立に証明をあたえていた)。コーシーは平行して準同型の簡約化についての基礎付けの研究も行っている。
1841年に「クレレ誌」で発表されたヤコビの3本の著作によって行列式の概念の重要性が確立された。ヤコビによって初めて行列式の計算の系統的なアルゴリズムが与えられ、またヤコビアンの概念によって写像の行列式も同様に考察できるようになった。行列の枠組みはケイリーとシルベスターによって導入された。ちなみにケイリーは逆行列の公式を確立させており、行列式の記号として縦棒を導入したのも彼である。
行列式の理論は様々な対称性を持つような行列についての行列式の研究や、線型微分方程式系のロンスキー行列式など数学の様々な分野に新たに行列式を持ち込むことが追究されている。
2次対称群 S 2 {\displaystyle {\mathfrak {S}}_{2}} は恒等置換 id (id(1) = 1, id(2) = 2) と互換 σ = (1, 2)(σ(1) = 2, σ(2) = 1)の 2 つの置換からなるので
| a 11 a 12 a 13 a 21 a 22 a 23 a 31 a 32 a 33 | = a 11 a 22 a 33 + a 12 a 23 a 31 + a 13 a 21 a 32 − a 13 a 22 a 31 − a 11 a 23 a 32 − a 12 a 21 a 33 {\displaystyle \displaystyle {\begin{vmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\end{vmatrix}}=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{11}a_{23}a_{32}-a_{12}a_{21}a_{33}} となる(第 1 項が id, 第 2 項が (1,2) に対応する項である)。
2 次あるいは 3 次の正方行列については、左上から右下へ向かう方向に「+」、右上から左下へ向かう方向に「-」の符号を付けて積を取りそれらの和を取ると行列式が求められる。これを「サラスの方法(英語版)」または「サラス展開」、「たすきがけの法」と言う。n 次正方行列に対して、サラスの方法で取り出せる項の数は高々 2n であり、一般には行列式の総項数 n! に比べてはるかに少ないため、4次以上の正方行列にはこの方法は使えない。
三角行列の行列式は、主対角成分の総乗をとることで求まる。三角行列の主対角成分には固有値が並ぶから、行列式の値は固有値の総乗である。このことは、基底の取替えによる行列の三角化可能性と行列式の乗法性によって、一般の正方行列に対しても正しい。つまり、与えられた行列の行列式の値は、その行列の固有値の総乗に等しい。
正方行列とは限らない一般の行列 A := (aij) に対して、その行と列からそれぞれ k 個選び、それらに属する成分からなる正方行列の行列式を考えることができる:
これを A から作られる小行列式(しょうぎょうれつしき、minor determinant)という。行列に対して、0 でない小行列式の最大次数は行列の階数に一致する。特に、同じ番号の行と列を選んで
の形に書かれる(対角線上にある)小行列式を主小行列式(しゅしょうぎょうれつしき、principal minor)と呼ぶ。
n次正方行列 A ≔ (aij) に対して、i 行または i 列を除いてできる小行列式に (−1) を乗じた
を (i, j)余因子(よいんし、英: cofactor)という。(係数 (−1) を含まない形で定義する場合もある。)
列(あるいは行)に関する線型性から、正方行列の行列式は、ある列(あるいはある行)の変数に関して斉 1 次である。A の行列式は j 列に関して
と展開される。また同様に i 行に関して
と展開される。(余因子の定め方によっては展開の符号が変わる。)
余因子は次数が 1 少ない行列式であるから、展開を繰り返すことで元の行列の行列式を小さなサイズの行列式の計算に帰着させることができる。基本変形に対する行列式の性質をうまく組み合わせると展開の効率を高めることができる。
n次正方行列 A ≔ (aij) に対し、(i, j)余因子を (j, i)成分に持つ行列
を A の余因子行列という。余因子行列については、余因子展開を逆に用いると
となることが確かめられる。ただし、En は n次単位行列である。またここから、A の行列式 det(A) が 0 でない場合には
は A の逆行列 A に一致する(クラメルの公式)。
なお、余因子行列としてここでの余因子行列の転置行列、すなわち (i, j)余因子を (i, j)成分に持つ行列 を採用する流儀もあるので、単に「余因子行列」といったときにはどちらの流儀であるか注意が必要である。
行列式の基本的な性質として以下が成り立つ。
行列 A の固有値を λi (i = 1, ..., n) と置くと、
となる。このことは、A を三角化すると、対角成分に固有値が並ぶこと、すなわち
の両辺の det を取ることで得られる。
正方行列 A の特異値を σi(A) (i = 1, ..., n) と置くと、
となる。このことは、特異値分解を用いて示される。
正方行列 An に関して行列式と固有値および特異値の間には次の関係が成り立つ。
正方行列の跡 (trace) とは、対角成分の総和である。それは固有値の総和に一致する。そのため、固有値の積である行列式とは指数関数 (exponential) を介してつながっている。 行列に対する指数関数は
と書けるが、A の固有値 λi とそれに属する固有ベクトル xi に対して、
となることより、exp(A) は固有値 exp(λi) とその固有ベクトル xi を持つことが分かる。よって、関係式
が成り立つ。
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"text": "ヨーロッパにおいても、行列式の理論は日本の場合と同じく(一次ではなく)高次の代数方程式の変数消去の研究のために発展した。1748年にマクローリンの(死後に刊行された)代数学の著作において4つの未知数に関する4つの方程式の系の解が正しい形で述べられ、行列式の研究が再開されることになった。1750年にクラメルは(証明抜きで)N 個の変数に関する N 個の方程式からなる方程式の解を求める規則を定式化した。この行列式の計算方法は順列の符号に基づく繊細なものだった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "ベズー(1764年)やファンデルモント(1771年、ヴァンデルモンドの行列式の計算)などがそれに続き、1772年にはラプラスによって余因子展開の公式が確立された。さらに翌年にはラグランジュによって行列式と体積との関係が発見されている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "今日の determinant(決定するもの)に当たる言葉が初めて現れたのはガウスによる1801年の Disquisitiones Arithmeticae である。そこで彼は二次形式の判別式(今日的な意味での行列式の特別な例と見なせる)を用いている。彼はさらに行列式と積の関係についても後少しのところまでいっている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "現代的な意味での行列式という用語はコーシーによって初めて導入された。彼はそれまでに得られていた知識を統合し、1812年には積と行列式の関係を発表している(同じ年にビネも独立に証明をあたえていた)。コーシーは平行して準同型の簡約化についての基礎付けの研究も行っている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "1841年に「クレレ誌」で発表されたヤコビの3本の著作によって行列式の概念の重要性が確立された。ヤコビによって初めて行列式の計算の系統的なアルゴリズムが与えられ、またヤコビアンの概念によって写像の行列式も同様に考察できるようになった。行列の枠組みはケイリーとシルベスターによって導入された。ちなみにケイリーは逆行列の公式を確立させており、行列式の記号として縦棒を導入したのも彼である。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "行列式の理論は様々な対称性を持つような行列についての行列式の研究や、線型微分方程式系のロンスキー行列式など数学の様々な分野に新たに行列式を持ち込むことが追究されている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "2次対称群 S 2 {\\displaystyle {\\mathfrak {S}}_{2}} は恒等置換 id (id(1) = 1, id(2) = 2) と互換 σ = (1, 2)(σ(1) = 2, σ(2) = 1)の 2 つの置換からなるので",
"title": "いくつかの行列式"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "| a 11 a 12 a 13 a 21 a 22 a 23 a 31 a 32 a 33 | = a 11 a 22 a 33 + a 12 a 23 a 31 + a 13 a 21 a 32 − a 13 a 22 a 31 − a 11 a 23 a 32 − a 12 a 21 a 33 {\\displaystyle \\displaystyle {\\begin{vmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\\\\a_{31}&a_{32}&a_{33}\\end{vmatrix}}=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{11}a_{23}a_{32}-a_{12}a_{21}a_{33}} となる(第 1 項が id, 第 2 項が (1,2) に対応する項である)。",
"title": "いくつかの行列式"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "2 次あるいは 3 次の正方行列については、左上から右下へ向かう方向に「+」、右上から左下へ向かう方向に「-」の符号を付けて積を取りそれらの和を取ると行列式が求められる。これを「サラスの方法(英語版)」または「サラス展開」、「たすきがけの法」と言う。n 次正方行列に対して、サラスの方法で取り出せる項の数は高々 2n であり、一般には行列式の総項数 n! に比べてはるかに少ないため、4次以上の正方行列にはこの方法は使えない。",
"title": "いくつかの行列式"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "三角行列の行列式は、主対角成分の総乗をとることで求まる。三角行列の主対角成分には固有値が並ぶから、行列式の値は固有値の総乗である。このことは、基底の取替えによる行列の三角化可能性と行列式の乗法性によって、一般の正方行列に対しても正しい。つまり、与えられた行列の行列式の値は、その行列の固有値の総乗に等しい。",
"title": "いくつかの行列式"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "正方行列とは限らない一般の行列 A := (aij) に対して、その行と列からそれぞれ k 個選び、それらに属する成分からなる正方行列の行列式を考えることができる:",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "これを A から作られる小行列式(しょうぎょうれつしき、minor determinant)という。行列に対して、0 でない小行列式の最大次数は行列の階数に一致する。特に、同じ番号の行と列を選んで",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "の形に書かれる(対角線上にある)小行列式を主小行列式(しゅしょうぎょうれつしき、principal minor)と呼ぶ。",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "n次正方行列 A ≔ (aij) に対して、i 行または i 列を除いてできる小行列式に (−1) を乗じた",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "を (i, j)余因子(よいんし、英: cofactor)という。(係数 (−1) を含まない形で定義する場合もある。)",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "列(あるいは行)に関する線型性から、正方行列の行列式は、ある列(あるいはある行)の変数に関して斉 1 次である。A の行列式は j 列に関して",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "と展開される。また同様に i 行に関して",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "と展開される。(余因子の定め方によっては展開の符号が変わる。)",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "余因子は次数が 1 少ない行列式であるから、展開を繰り返すことで元の行列の行列式を小さなサイズの行列式の計算に帰着させることができる。基本変形に対する行列式の性質をうまく組み合わせると展開の効率を高めることができる。",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "n次正方行列 A ≔ (aij) に対し、(i, j)余因子を (j, i)成分に持つ行列",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "を A の余因子行列という。余因子行列については、余因子展開を逆に用いると",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "となることが確かめられる。ただし、En は n次単位行列である。またここから、A の行列式 det(A) が 0 でない場合には",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "は A の逆行列 A に一致する(クラメルの公式)。",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "なお、余因子行列としてここでの余因子行列の転置行列、すなわち (i, j)余因子を (i, j)成分に持つ行列 を採用する流儀もあるので、単に「余因子行列」といったときにはどちらの流儀であるか注意が必要である。",
"title": "発展的な話題"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "行列式の基本的な性質として以下が成り立つ。",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "行列 A の固有値を λi (i = 1, ..., n) と置くと、",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "となる。このことは、A を三角化すると、対角成分に固有値が並ぶこと、すなわち",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "の両辺の det を取ることで得られる。",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "正方行列 A の特異値を σi(A) (i = 1, ..., n) と置くと、",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "となる。このことは、特異値分解を用いて示される。",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "正方行列 An に関して行列式と固有値および特異値の間には次の関係が成り立つ。",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "正方行列の跡 (trace) とは、対角成分の総和である。それは固有値の総和に一致する。そのため、固有値の積である行列式とは指数関数 (exponential) を介してつながっている。 行列に対する指数関数は",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "と書けるが、A の固有値 λi とそれに属する固有ベクトル xi に対して、",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "となることより、exp(A) は固有値 exp(λi) とその固有ベクトル xi を持つことが分かる。よって、関係式",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "が成り立つ。",
"title": "行列式の性質"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "行列式は多項式であり、微分が可能である。余因子展開の式から、A の行列式 det(A) の微分として次の関係が成り立つ。",
"title": "行列式の性質"
}
] | 数学における行列式とは、正方行列に対して定義される量で、歴史的には行列が表す一次方程式の可解性を判定する指標として導入された。幾何的には線型空間またはより一般の有限生成自由加群上の自己準同型に対して定義され、線型変換に対して線形空間の拡大率ということができる。行列の可逆性を判定する指標として線型代数学における最も重要な指標の一つと見なされている。 | {{出典の明記|date=2017-10}}
[[画像:Determinant parallelepiped.svg|200px|thumb|この[[平行六面体]]の[[体積]]は[[空間ベクトル|ベクトル]] {{math|''r''{{sub|1}}, ''r''{{sub|2}}, ''r''{{sub|3}}}} の成す {{math|3}} 次正方行列の行列式の[[絶対値]]に一致する。]]<!--空編集のためのダミーコメント 次の編集で削除ください-->
[[数学]]における'''行列式'''(ぎょうれつしき、{{Lang-en-short|determinant}})とは、[[正方行列]]に対して定義される量で、歴史的には行列が表す一次方程式の可解性を判定する指標として導入された。幾何的には[[ベクトル空間|線型空間]]またはより一般の[[有限生成加群|有限生成]][[自由加群]]上の[[自己準同型]]に対して定義され、[[線型写像|線型変換]]に対して線形空間の拡大率ということができる。行列の可逆性を判定する指標として[[線型代数学]]における最も重要な指標の一つと見なされている。
== 概要 ==
{{mvar|X}} を[[実2次正方行列]]
:<math>X=\begin{bmatrix}
a &b \\
c &d
\end{bmatrix}</math>
とするとき、これは
: <math> \begin{bmatrix} x \\ y \end{bmatrix} \mapsto \begin{bmatrix} ax + by \\ cx + dy \end{bmatrix}</math>
という平面上の線型変換を定めている。一方で、2つの平面ベクトル {{math|''u'' {{=}} (''u''{{sub|0}}, ''u''{{sub|1}})}}, {{math|''v'' {{=}} (''v''{{sub|0}}, ''v''{{sub|1}})}} に対して、これらが張る平行四辺形の「向きも込めた」面積は
: <math>A(u,v)=u_0 v_1 -u_1 v_0</math>
により指定されると考えることができる。このとき {{math|''A''(''Xu'', ''Xv'') {{=}} (''ad'' − ''bc'')''A''(''u'', ''v'')}} が成り立っているが、これは {{mvar|X}} の定める線型変換によって平面内の図形の面積が {{math|(''ad'' − ''bc'')}}-倍される、と解釈できる。
したがって、実2次正方行列 {{mvar|X}} に対して(上の記号の下で){{math|det ''X'' {{coloneqq}} ''ad'' − ''bc''}} を対応させると、{{math|det(''XY'') {{=}} (det ''X'')(det ''Y'')}} であることや、{{math|det ''X'' > 0}} であるとき {{mvar|X}} の定める変換は図形の向きを保ち、反対に {{math|det ''X'' < 0}} であるとき図形の向きは反転させられることが分かる。{{math|det}} の乗法性から {{mvar|X}} が可逆ならば {{math|det ''X''}} は逆数を持つ数であることが従うが、反対に {{mvar|X}} が退化した行列(つまり {{mvar|X}} の定める変換の像が一次元の部分空間)になる場合にはすべての図形の変換後の面積が {{math|0}} になることから {{math|det ''X'' {{=}} 0}} となることがいえる。こうして、正方行列 {{mvar|X}} が正則であることと {{mvar|X}} の行列式が可逆であることは同値であることが分かる。
同様にして一般の次数のN次[[正方行列]] {{mvar|X}} に対し、{{mvar|X}} の定める線型変換が超立体(N次図形)の超体積を何倍にしているかという符号付き拡大率を {{mvar|X}} の行列式として定義することができる。これは行列の成分を変数とする多項式の形でかけ、二次の場合と同様にこれは[[正則行列|正則性]]など正方行列の重要な性質に対する指標を与えている。[[線型方程式|一次方程式系]]が与えられるとき、方程式の係数行列に対してその行列式の値を調べることにより、方程式系の根の状態をある程度知ることができる。特に[[クラメルの公式]]により、[[方程式|根]]が一組である[[線型方程式系]]の根の公式が行列式を用いて表示される。
== 定義 ==
=== 抽象的な定義 ===
{{mvar|K}} を[[可換環]]とし、{{mvar|E}} を階数 {{mvar|n}} の {{mvar|A}} 上の[[自由加群]]とする。{{mvar|E}} の [[外積代数|{{mvar|n}}-次外冪]] {{math|⋀{{exp|''n''}}''E''}} は {{mvar|A}} 上階数1の自由加群である。{{mvar|E}} 上の {{mvar|K}}-[[線型写像]] {{mvar|ϕ}} について、{{math|⋀{{exp|''n''}}''E''}} 上に引き起こされる {{mvar|K}}-[[加群準同型|準同型]]
:<math display="block">{\textstyle \bigwedge^n}\phi \colon e_1 \wedge \dotsb \wedge e_n \mapsto \phi(e_1) \wedge \dotsb \wedge \phi(e_n)</math>
は一意的に定まるある {{math|{{mvar|a}} ∈ {{mvar|A}}}} に関する定数倍写像と一致する。この {{mvar|a}} は {{mvar|ϕ}} の行列式 {{math|det ''ϕ''}} と呼ばれる。
=== 明示的な定義 ===
{{main|行列式に対するライプニッツの明示公式}}
{{mvar|n}} 次正方行列 {{mvar|A}} の {{mvar|i}} 行 {{mvar|j}} 列成分を {{mvar|a{{sub|i,j}}}} で表すと、{{mvar|A}} の行列式は、次の式で定義される:
<!--: <math>\sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n}
\sgn(\sigma) x_{\sigma(1)1} x_{\sigma(2)2} \cdots x_{\sigma(n)n} = \sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n}
\sgn(\sigma) x_{1\sigma(1)} x_{2\sigma(2)} \cdots x_{n\sigma(n)}
</math>-->
:<math>\det A = \sum_{\sigma \in \operatorname{Aut}(n)} \biggl\{ ( \operatorname{sgn} \sigma ) \prod_{i=1}^n a_{i, \, \sigma (i)} \biggr\}</math>
ここで、
:{{math|Aut({{mvar|n}})}} は {{mvar|n}} 次[[対称群]]({{math|{{mset|1, …, ''n''}}}} の[[自己同型]]群)
:{{math|sgn}} は[[置換 (数学)|置換]]の[[符号 (数学)|符号]]
を表す。
{{mvar|n}} 次正方行列の行列式は {{mvar|n}} 次の[[斉次多項式]]で、項を {{math|{{mvar|n}}[[階乗|!]]}} 個持つ([[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]の公式)。
正方行列 {{mvar|A}} の行列式は、{{math|{{abs|''A''}}}} あるいは {{math|det(''A'')}} と表記される。行列の成分を明示する場合は
:<math display="block">\left| \begin{bmatrix}
a &b \\
c &d
\end{bmatrix} \right|</math>
を単に
:<math display="block">\begin{vmatrix}
a &b \\
c &d
\end{vmatrix}</math>
と書く。
=== 二つの定義の同値性 ===
{{mvar|K{{sup|n}}}} の標準基底を {{math2|(''e''{{sub|1}}, …, ''e{{sub|n}}'')}} とする。正方行列 {{mvar|X}} を表す列ベクトルを {{math2|''v''{{sub|1}}, …, ''v{{sub|n}}''}} とすると、{{math|''v{{sub|j}}'' {{=}} ''Xe{{sub|j}}''}} である。
: <math>({\textstyle\bigwedge^n}X)(e_1 \wedge \dotsb \wedge e_n) = v_1 \wedge \dotsb \wedge v_n</math>
であるが、ここで
: <math>v_1 \wedge \dotsb \wedge v_n = \biggl( \sum_{\sigma \in \mathfrak{S}_n} \sgn (\sigma) v_{\sigma(1)}^1 v_{\sigma(2)}^2 \dotsm v_{\sigma(n)}^n \biggr) e_1 \wedge \dotsb \wedge e_n</math>
である。ただし、{{mvar|v{{sub|i}}}} の第 {{mvar|i}} 成分を {{mvar|{{subsup|v|i|j}}}} と表した)。これは {{mvar|K{{sup|n}}}} 上 {{math|⋀{{sup|''n''}}''X''}} が ({{math|det ''X''}})-倍写像として作用していることを示している。
{{mvar|n}}-次外積の普遍性により、行列式とは、行列の各列のベクトルに関する {{mvar|n}}-重交代線型写像で単位行列には {{math|1}} を与えるものとして特徴づけられることが分かる。
== 複線型交代形式 ==
{{main|重線型交代形式}}
{{See also|重線型形式}}
{{mvar|n}}次行列に関する行列式は列に関して {{mvar|n}}重[[交代線型性]]をもつ{{Sfn|西田吾郎|2009|pp=64-65}}。つまり、行列を {{math|('''''a'''''{{sub|1}}, '''''a'''''{{sub|2}}, …, '''''a'''{{sub|n}}'')}} のように[[列ベクトル]]の組の形に書くことにすれば
: <math>\begin{align}
\left| \dotsc, (\boldsymbol{a}_i + \boldsymbol{a}'_i), \dotsc \right| &= \left| \dotsc,\boldsymbol{a}_i, \dotsc \right| + \left| \dotsc, \boldsymbol{a}'_i, \dotsc \right|, \\
\left| \dotsc, \lambda\boldsymbol{a}_i, \dotsc \right| &= \lambda \cdot \left| \dotsc,\boldsymbol{a}_i , \dotsc \right|, \\
\left| \dotsc, \boldsymbol{a}_i, \dotsc, \boldsymbol{a}_j, \dotsc \right| &= - \left| \dotsc,\boldsymbol{a}_j, \dotsc, \boldsymbol{a}_i, \dotsc \right|
\end{align}</math>
が成り立っている。例えば、線型性によって
: <math>\begin{vmatrix}
\lambda a_{11} + \mu a_{11}' &a_{12} &a_{13} \\
\lambda a_{21} + \mu a_{21}' &a_{22} &a_{23} \\
\lambda a_{31} + \mu a_{31}' &a_{32} &a_{33}
\end{vmatrix} \, =\, \lambda \, \begin{vmatrix}
a_{11} &a_{12} &a_{13} \\
a_{21} &a_{22} &a_{23} \\
a_{31} &a_{32} &a_{33}
\end{vmatrix} \, {}+{} \, \mu \, \begin{vmatrix}
a_{11}' &a_{12} &a_{13} \\
a_{21}' &a_{22} &a_{23} \\
a_{31}' &a_{32} &a_{33}
\end{vmatrix}</math>
が成立しており、さらに交代性によって
: <math>\begin{vmatrix}
a_{11} &a_{12} &a_{13} \\
a_{21} &a_{22} &a_{23} \\
a_{31} &a_{32} &a_{33}
\end{vmatrix} \, =\, -\, \begin{vmatrix}
a_{12} &a_{11} &a_{13} \\
a_{22} &a_{21} &a_{23} \\
a_{32} &a_{31} &a_{33}
\end{vmatrix}</math>
も成り立っている。特に、どれか二つの列が全く同一の成分を持つような行列の行列式は 0 である{{Sfn|西田吾郎|2009|p=63}}。
{{mvar|A}} の行列式と、{{mvar|A}} の[[転置行列]]の行列式は等しい{{Sfn|西田吾郎|2009|p=67}}。これによって、行列式が列に関してある性質を持てば、行に関しても同様の性質を持つことが分かる。つまり、'''上記の性質は全て行に対するものにも書き直せる'''。
二つの行列の積の行列式は、それぞれの行列式の積に等しい:{{math|''A'', ''B''}} を {{mvar|n}}次正方行列とするとき、{{math|{{abs|''A''}}⋅{{abs|''B''}} {{=}} {{abs|''AB''}}}} である。これより特に行列式が[[基底変換|基底の取り替え]]によって不変であることが従う。
== 歴史 ==
西洋で行列式が考えられるようになったのは[[16世紀]]であり、これは19世紀に導入された行列そのものよりも遥かに昔に導入されていたことになる。また、数を表の形に並べたものや、現在[[ガウスの消去法|ガウス(・ジョルダン)消去法]]と呼ばれているアルゴリズムは最も古くには中国の数学者たちによって考えられていたことにも注意する必要がある。
=== 行列式に関する最初期の計算 ===
[[楊輝]](中国、1238年? - 1298年)は『詳解九章算術』で数字係数の二元連立一次方程式の解をクラメルの公式の形で、行列式的なものを含んだ形で与えている。また1545年に[[ジェロラモ・カルダノ]]は、著書 {{lang|la|''[[アルス・マグナ (カルダーノの著書)|Ars Magna]]''}} の中で同じく{{math|2×2}}の場合のクラメルの公式を与えている。この公式<!-- 規則 -->は {{lang|la|''regula de modo''}}(ラテン語で「様態に関するの規則」の意味)と呼ばれている。彼らは「行列式」を定義したわけではないが、その概念の萌芽を見てとることができる。
===高階の行列に関する行列式===
[[ファイル:Seki Kowa Katsuyo Sampo Bernoulli numbers.png|サムネイル|237x237ピクセル|[[ベルヌーイ数]]や[[二項係数]]について書かれた[[関孝和]]による「括要算法」(1712年)]]
高階の行列に関する行列式の定義はそれから百年ほどたって日本で[[和算]]の[[関孝和]]、[[田中由真]]、そしてドイツの[[ゴットフリート・ライプニッツ|ライプニッツ]]によりほとんど同時にかつ独立に与えられた。
==== 関孝和ら和算家による発見 ====
関孝和は『'''解伏題之法'''』で行列式について述べている。本手稿のテーマは多変数の高次方程式から変数を消去して一変数の方程式に帰着することで、変数消去の一般的方法、つまり終結式の理論を提示している。本手稿では3次と4次に関しては行列式の正しい表示を与えているが、より高次の5次の場合はつねに0になってしまい、あきらかに間違っている。これが単純な誤記の類であるか否かは不明である。また、次節で述べるように、[[関西]]で活躍していた[[田中由真]]や[[井関知辰]]らの研究も同様の問題を考えており、類似の結果にたどり着いている。
これらの研究では、いずれも行列式は終結式を表すための手段にすぎず、行列式そのものを意味のある対象として捉えていたかについては異論がある。実際、それをあらわす用語すら提案されていない。また、日本が鎖国によって外界から遮断されていたこともあり、西洋数学に影響を与えることはなかった。
==== ライプニッツによる行列式の発見 ====
同じ時期にライプニッツは数多くの線型方程式系を研究していたが、その頃は行列記法がまだなかったので、彼は未知数の係数を、現在のような {{mvar|a{{sub|i,j}}}} のかわりに {{mvar|ij}} のように添字の対によって表現していた。1678年に彼は3つの未知数に関する3つの方程式に興味を抱き、列に関する行列式の展開式を与えている。同じ年に彼は4次の行列式についても(符号の間違いを別にすれば)正しい式を与えている。ちなみにライプニッツはこの成果を公表しなかったので、50年後に彼とは独立に再発見されるまでこの成果は人々に認識されていなかった。
=== 一般的な行列式 ===
関孝和は、最初の手稿からやや後の『[[大成算成]]』([[建部賢明]]、[[建部賢弘]]と共著、執筆は[[1683年]]〈天和3年〉 - [[1710年]]〈宝永7年〉頃)で、第一列についての余因子展開を一般の場合について正しく与えている。また、田中由真は『[[算学紛解]]』([[1690年]](元禄3年)ごろ)で 5次までの行列式を、井関知辰は『[[算法発揮]]』([[1690年]](元禄3年)刊)で第一行についての余因子展開を一般の場合で与えている。ちなみに関や田中の著作は写本のみであるが、井関の著作は出版がなされている。
ヨーロッパにおいても、行列式の理論は日本の場合と同じく(一次ではなく)高次の代数方程式の変数消去の研究のために発展した。1748年に[[コリン・マクローリン|マクローリン]]の(死後に刊行された)代数学の著作において4つの未知数に関する4つの方程式の系の解が正しい形で述べられ、行列式の研究が再開されることになった。1750年に[[ガブリエル・クラメール|クラメル]]は(証明抜きで){{mvar|N}} 個の変数に関する {{mvar|N}} 個の方程式からなる方程式の解を求める規則を定式化した。この行列式の計算方法は順列の符号に基づく繊細なものだった。
ベズー(1764年)やファンデルモント(1771年、[[ヴァンデルモンドの行列式]]の計算)などがそれに続き、1772年には[[ピエール=シモン・ラプラス|ラプラス]]によって余因子展開の公式が確立された。さらに翌年には[[ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ|ラグランジュ]]によって行列式と体積との関係が発見されている。
今日の {{lang|en|determinant}}(決定するもの)に当たる言葉が初めて現れたのは[[カール・フリードリヒ・ガウス|ガウス]]による1801年の {{lang|la|''[[Disquisitiones Arithmeticae]]''}} である。そこで彼は[[二次形式]]の判別式(今日的な意味での行列式の特別な例と見なせる)を用いている。彼はさらに行列式と積の関係についても後少しのところまでいっている。
=== 現代的な行列式の概念の確立 ===
現代的な意味での行列式という用語は[[オーギュスタン=ルイ・コーシー|コーシー]]によって初めて導入された<ref name="kurogi">{{Cite |和書 | author = 黒木哲徳 | title = なっとくする数学記号 | date = 2021 | pages = 151-154 | publisher = 講談社 | isbn = 9784065225509 | series = ブルーバックス | ref = harv }}</ref>。彼はそれまでに得られていた知識を統合し、1812年には積と行列式の関係を発表している(同じ年にビネも独立に証明をあたえていた)。コーシーは平行して準同型の簡約化についての基礎付けの研究も行っている。
1841年に「[[クレレ誌]]」で発表された[[カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ|ヤコビ]]の3本の著作によって行列式の概念の重要性が確立された。ヤコビによって初めて行列式の計算の系統的なアルゴリズムが与えられ、またヤコビアンの概念によって写像の行列式も同様に考察できるようになった。行列の枠組みは[[アーサー・ケイリー|ケイリー]]と[[ジェームス・ジョセフ・シルベスター|シルベスター]]によって導入された。ちなみにケイリーは逆行列の公式を確立させており、行列式の記号として縦棒を導入したのも彼である<ref name="kurogi"/>。
行列式の理論は様々な対称性を持つような行列についての行列式の研究や、線型微分方程式系の[[ロンスキー行列式]]など数学の様々な分野に新たに行列式を持ち込むことが追究されている。
== いくつかの行列式 ==
2次[[対称群]] <math display="inline">\mathfrak{S}_2</math> は恒等置換 {{math|id}} ({{math|id(1) {{=}} 1, id(2) {{=}} 2}}) と互換 {{math|''σ'' {{=}} (1, 2)}}({{math|''σ''(1) {{=}} 2, ''σ''(2) {{=}} 1}})の 2 つの置換からなるので
: <math>
\begin{vmatrix}
a_{1 1} & a_{1 2} \\
a_{2 1} & a_{2 2}
\end{vmatrix}=
a_{1 1} a_{2 2} - a_{2 1} a_{1 2}
</math>
<math>\begin{vmatrix}
a_{1 1} & a_{1 2} & a_{1 3} \\
a_{2 1} & a_{2 2} & a_{2 3} \\
a_{3 1} & a_{3 2} & a_{3 3}
\end{vmatrix} =
a_{1 1}a_{2 2}a_{3 3}
+ a_{1 2}a_{2 3}a_{3 1}
+ a_{1 3}a_{2 1}a_{3 2}
- a_{1 3}a_{2 2}a_{3 1}
- a_{1 1}a_{2 3}a_{3 2}
- a_{1 2}a_{2 1}a_{3 3}
</math>
となる(第 1 項が {{math|id}}, 第 2 項が {{math|(1, 2)}} に対応する項である)。
[[ファイル:Det (mod1).GIF|thumb|300px|サラスの方法]]
2 次あるいは 3 次の正方行列については、左上から右下へ向かう方向に「{{math|+}}」、右上から左下へ向かう方向に「{{math|−}}」の符号を付けて積を取りそれらの和を取ると行列式が求められる。これを「'''{{ill2|サラスの方法|en|Rule of Sarrus|preserve=1}}'''」または「'''サラス展開'''」、「'''たすきがけの法'''」と言う。{{mvar|n}} 次正方行列に対して、サラスの方法で取り出せる項の数は高々 {{math|2''n''}} であり、一般には行列式の総項数 {{math|''n''!}} に比べてはるかに少ないため、'''4次以上の正方行列にはこの方法は使えない'''。
[[三角行列]]の行列式は、主対角成分の総乗をとることで求まる。三角行列の主対角成分には[[固有値]]が並ぶから、行列式の値は固有値の総乗である。このことは、基底の取替えによる行列の三角化可能性と行列式の乗法性によって、一般の正方行列に対しても正しい。つまり、与えられた行列の行列式の値は、その行列の固有値の総乗に等しい。
== 発展的な話題 ==
=== 小行列式 ===
{{Main|小行列式}}
正方行列とは限らない一般の行列 {{math|''A'' ≔ (''a{{sub|ij}}'')}} に対して、その行と列からそれぞれ {{mvar|k}} 個選び、それらに属する成分からなる正方行列の行列式を考えることができる:
: <math>\begin{vmatrix}
a_{i_1 j_1} &a_{i_1 j_2} &\cdots &a_{i_1 j_k} \\
a_{i_2 j_1} &a_{i_2 j_2} &\cdots &a_{i_2 j_k} \\
\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\
a_{i_k j_1} &a_{i_k j_2} &\cdots &a_{i_k j_k}
\end{vmatrix}</math>
これを {{mvar|A}} から作られる'''小行列式'''(しょうぎょうれつしき、''{{Lang|en|minor determinant}}'')という。行列に対して、{{math|0}} でない小行列式の最大次数は[[行列の階数]]に一致する。特に、同じ番号の行と列を選んで
: <math>\begin{vmatrix}
a_{i_1 i_1} &a_{i_1 i_2} &\cdots &a_{i_1 i_k} \\
a_{i_2 i_1} &a_{i_2 i_2} &\cdots &a_{i_2 i_k} \\
\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\
a_{i_k i_1} &a_{i_k i_2} &\cdots &a_{i_k i_k}
\end{vmatrix}</math>
の形に書かれる(対角線上にある)小行列式を'''主小行列式'''(しゅしょうぎょうれつしき、''{{Lang|en|principal minor}}'')と呼ぶ。
=== 余因子展開 ===
{{main|余因子展開}}
{{mvar|n}}次正方行列 {{math|''A'' {{coloneqq}} (''a{{sub|ij}}'')}} に対して、{{mvar|i}} 行または {{mvar|i}} 列を除いてできる小行列式に {{math|(−1){{sup|''i''+''j''}}}} を乗じた
: <math>\Delta_{ij} = (-1)^{i+j} \begin{vmatrix}
a_{11} &\cdots &a_{1,j-1} &a_{1,j+1} &\cdots &a_{1n} \\
\vdots &\ddots &\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\
a_{i-1,1} &\cdots &a_{i-1,j-1} &a_{i-1,j+1} &\cdots &a_{i-1,n} \\
a_{i+1,1} &\cdots &a_{i+1,j-1} &a_{i+1,j+1} &\cdots &a_{i+1,n} \\
\vdots &\ddots &\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\
a_{n1} &\cdots &a_{n,j-1} &a_{n,j+1} &\cdots &a_{nn}
\end{vmatrix}</math>
を {{math|(''i'', ''j'')}}'''余因子'''(よいんし、{{lang-en-short|cofactor}})という。(係数 {{math|(−1){{sup|''i''+''j''}}}} を含まない形で定義する場合もある。)
列(あるいは行)に関する線型性から、正方行列の行列式は、ある列(あるいはある行)の変数に関して斉 1 次である。{{mvar|A}} の行列式は {{mvar|j}} 列に関して
: <math>\det(A) = \Delta_{1j} a_{1j} + \Delta_{2j} a_{2j} +\dotsb +\Delta_{nj} a_{nj}</math>
と展開される。また同様に {{mvar|i}} 行に関して
: <math>\det(A) = \Delta_{i1} a_{i1} + \Delta_{i2} a_{i2} +\dotsb +\Delta_{in} a_{in}</math>
と展開される。(余因子の定め方によっては展開の符号が変わる。)
余因子は次数が 1 少ない行列式であるから、展開を繰り返すことで元の行列の行列式を小さなサイズの行列式の計算に帰着させることができる。基本変形に対する行列式の性質をうまく組み合わせると展開の効率を高めることができる。
=== 余因子行列と逆行列 ===
{{mvar|n}}次正方行列 {{math|''A'' {{coloneqq}} (''a{{sub|ij}}'')}} に対し、{{math|(''i'', ''j'')}}余因子を {{math|(''j'', ''i'')}}成分に持つ行列
: <math>\tilde{A} := \begin{bmatrix}
\Delta_{11} & \Delta_{21} & \cdots & \Delta_{n1} \\
\Delta_{12} & \Delta_{22} & \cdots & \Delta_{n2} \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\
\Delta_{1n} & \Delta_{2n} & \cdots & \Delta_{nn}
\end{bmatrix}</math>
を {{mvar|A}} の'''[[余因子行列]]'''という。余因子行列については、余因子展開を逆に用いると
: <math>\tilde{A}A = A\tilde{A} = \det(A) E_n</math>
となることが確かめられる。ただし、{{mvar|E{{sub|n}}}} は {{mvar|n}}次[[単位行列]]である。またここから、{{mvar|A}} の行列式 {{math|det(''A'')}} が {{math|0}} でない場合には
: <math>\frac{1}{\det(A)}\tilde{A} = \begin{bmatrix}
\dfrac{\Delta_{11}}{\det(A)} &\dfrac{\Delta_{21}}{\det(A)} &\cdots &\dfrac{\Delta_{n1}}{\det(A)} \\
\dfrac{\Delta_{12}}{\det(A)} &\dfrac{\Delta_{22}}{\det(A)} &\cdots &\dfrac{\Delta_{n2}}{\det(A)} \\
\vdots &\vdots &\ddots &\vdots \\
\dfrac{\Delta_{1n}}{\det(A)} &\dfrac{\Delta_{2n}}{\det(A)} &\cdots &\dfrac{\Delta_{nn}}{\det(A)}
\end{bmatrix}</math>
は {{mvar|A}} の[[正則行列|逆行列]] {{math|''A''{{sup|−1}}}} に一致する('''[[クラメルの公式]]''')。
なお、余因子行列としてここでの余因子行列の転置行列、すなわち {{math|(''i'', ''j'')}}余因子を {{math|(''i'', ''j'')}}成分に持つ行列 を採用する流儀もあるので、単に「余因子行列」といったときにはどちらの流儀であるか注意が必要である。
==行列式の性質==
行列式の基本的な性質として以下が成り立つ。
: <math>\det(E) = 1</math>{{Sfn|西田吾郎|2009|p=65}}
: <math>\det(AB) = \det(A) \det(B)</math>{{Sfn|西田吾郎|2009|p=66}}
: <math>\det(A^{-1}) = \det(A)^{-1}</math>{{Sfn|西田吾郎|2009|pp=66-67}}
: <math>\det(A^T) = \det(A)</math>{{Sfn|西田吾郎|2009|p=67}}
: <math>\det(\overline{A}) = \overline{\det(A)}</math>
;転置の性質
:ある行列の転置行列の行列式の値はもとの行列式の値と変わらない。
;行列式の行または列の入れ替えの性質
:行列式の2つの行(または列)を入れ替えると、行列式の値は符号だけ変わる。
;定数倍の性質
:行列式の1つの行(または列)の各要素に一定の数cをかけた行列式の値は、もとの行列式の値のc倍になる。
;同じ行があるときの性質
:行列式の2つの行(または列)が行列式の一致する行列式なら、その行列式の値は0になる。
;行列式の和の性質
:行列式の1つの行(または列)の各要素が2つの数の和であるならば、その行(または列)を一方の数のみで置き換えた行列と、他方のみで置き換えた行列式との和になる。
;行列式の計算則
:行列式の1つの行(または列)の各要素に一定の数cをかけて他の行(または列)に加えても、行列式の値は変わらない。
;行列の積の行列式
:n次の正方行列A,Bに関して|AB|=|A||B|が成り立つ。
=== 固有値との関係 ===
行列 {{mvar|A}} の[[固有値]]を {{mvar|λ{{sub|i}}}} {{math|(''i'' {{=}} 1, …, ''n'')}} と置くと、
: <math>\det(A) = \prod_{k=1}^n \lambda_k</math>
となる。このことは、{{mvar|A}} を三角化すると、対角成分に固有値が並ぶこと、すなわち
: <math>P^{-1} A P=\begin{bmatrix}
\lambda_1 & & & &* \\
&\lambda_2 & & & \\
& &\ddots & & \\
& & & \lambda_{n-1} & \\
& & & &\lambda_n
\end{bmatrix}</math>
の両辺の {{math|det}} を取ることで得られる。
=== 特異値との関係 ===
正方行列 {{mvar|A}} の[[特異値]]を {{math|''σ{{sub|i}}''(''A'')}} ({{math|''i'' {{=}} 1, …, ''n''}}) と置くと、
: <math>\bigl| \det(A) \bigr| = \prod_{k=1}^n \sigma_{k}(A)</math>
となる。このことは、[[特異値分解]]を用いて示される。
{{math proof|<math>\begin{align}
\bigl| \det(A) \bigr| &= \bigl| \det(U \Sigma V) \bigr| \\
&= \bigl| \det(U) \det(\Sigma) \det(V) \bigr| \\
&= \bigl| \det(\Sigma) \bigr| \\
&= \prod_k \Sigma_{kk} \\
&= \prod_k \sigma_k(A)
\end{align}</math> (対角行列Σの対角成分は非負)}}
正方行列 {{mvar|A<sub>n</sub>}} に関して行列式と固有値および特異値の間には次の関係が成り立つ。
: <math>\bigl| \det(A_n) \bigr| = \prod_{k=1}^n \bigl| \lambda_k(A_n) \bigr| = \prod_{k=1}^n \sigma_k(A_n) </math>
=== 跡との関係 ===
正方行列の[[跡 (線型代数学)|跡]] {{lang|en|(trace)}} とは、対角成分の総和である。それは固有値の総和に一致する。そのため、固有値の積である行列式とは[[指数関数]] {{lang|en|(exponential)}} を介してつながっている。
行列に対する指数関数は
: <math>\exp(A) = \sum_{k=0}^\infty \frac{A^k}{k!}</math>
と書けるが、{{mvar|A}} の固有値 {{mvar|λ{{sub|i}}}} とそれに属する固有ベクトル {{mvar|'''x'''{{sub|i}}}} に対して、
: <math>\begin{align}
\boldsymbol{x}_i \exp(A) &= \boldsymbol{x}_i \sum_{k=0}^\infty \frac{A^k}{k!} \\
&= \boldsymbol{x}_i \sum_{k=0}^\infty \frac{\lambda_i^k}{k!} \\
&= \boldsymbol{x}_i \exp(\lambda_i)
\end{align}</math>
となることより、{{math|exp(''A'')}} は固有値 {{math|exp(''λ{{sub|i}}'')}} とその固有ベクトル {{mvar|'''x'''{{sub|i}}}} を持つことが分かる。よって、関係式
: <math>\det\exp(A) = \exp \operatorname{tr} (A)</math>
が成り立つ。
=== 微分 ===
行列式は多項式であり、微分が可能である。余因子展開の式から、{{mvar|A}} の行列式 {{math|det(''A'')}} の微分として次の関係が成り立つ。
: <math>\frac{\partial\det (A)}{\partial a_{ij}} =\Delta_{ij}</math>
: <math>\begin{align}
\mathrm{d}\det (A) &= \sum_{i,j=1}^n \Delta_{ij} \, \mathrm{d}a_{ij} \\
&= \operatorname{tr}(\tilde{A} \, \mathrm{d}A) \\
&= \det(A) \operatorname{tr} (A^{-1} \, \mathrm{d}A)
\end{align}</math>
== 関連項目 ==
{{wikibooks|線形代数学}}
* [[線型代数学]]
* [[ケイリー・ハミルトンの定理]]
* [[ヤコビアン]]
* [[シルベスター行列]]、[[終結式]]
* [[固有多項式]]
* [[ファンデルモンド行列#ファンデルモンドの行列式]]
* [[コーシー・ビネの公式]]
*[[パフィアン]]
*[[パーマネント (数学)|パーマネント]]
==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
{{参照方法|sction=1|date=2017-10}}
* {{Cite book|和書|author=ニコラ・ブルバキ|authorlink=ニコラ・ブルバキ|translator=銀林浩、清水達雄ほか|year=1968|title=代数|publisher=東京図書|location=東京}}
* [http://www-gap.dcs.st-and.ac.uk/~history/HistTopics/Matrices_and_determinants.html 行列と行列式の歴史に関する解説(英語)]
* [https://hdl.handle.net/2433/25865 後藤武史,小松彦三郎,17世紀日本と18-19世紀西洋の行列式、終結式及び判別式 (数学史の研究),数理解析研究所講究録]
* Vein, R., & Dale, P. (2006). Determinants and their applications in mathematical physics (Vol. 134). Springer Science & Business Media.
* {{Cite book|和書|author=西田吾郎|authorlink=西田吾郎|date=2009-06-22|title=線形代数学|publisher=京都大学学術出版会|isbn=978-4-87698-757-3|ref=harv}}
*数式処理のコンピューター(1)計算の完全機械化(未来技術)『日経産業新聞』1982年7月20日
*和算の大家、関孝和没後300年庶民も愛した数学再興目指し記念の催し『東京朝刊』2007年11月11日
*三宅敏恒『線形代数学-初歩からジョルダン標準形へ』培風館、2008年
*中神祥臣、柳井晴夫:「矩形行列の行列式」、丸善出版、ISBN 978-4-621-06508-2(2012年12月)。※ 正方ではない行列に対して行列式を一般化する理論のひとつについての解説。
== 外部リンク ==
*{{高校数学の美しい物語|947|行列式の3つの定義・性質・意味}}
*[https://w3e.kanazawa-it.ac.jp/math/category/gyouretu/senkeidaisu/gyouretusiki_no_seisitu/henkan-tex.cgi?target=/math/category/gyouretu/senkeidaisu/gyouretusiki_no_seisitu/gyouretusiki_index.html 行列式の性質、KIT金沢工業大学、2013年7月14日]
*[http://www.ic.daito.ac.jp/~tkadoda/math/2014matrix1212.pdf 行列と行列式、大東文化大学、2014年12月12日]
*{{Kotobank|行列式}}
*{{MathWorld|urlname=Determinant|title=Determinant}}
*{{nlab|urlname=determinant|title=determinant}}
*{{PlanetMath|urlname=Determinant|title=determinant}}
*{{ProofWiki|urlname=Definition:Determinant|title=Definition:Determinant}}
*{{SpringerEOM|urlname=Determinant|title=Determinant|author=Suprunenko, D.A.}}
{{線形代数}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:きようれつしき}}
[[Category:行列式|*]]
[[Category:行列]]
[[Category:斉次多項式]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T10:00:56Z | 2023-11-02T02:40:26Z | false | false | false | [
"Template:Math",
"Template:Wikibooks",
"Template:SpringerEOM",
"Template:ProofWiki",
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"Template:出典の明記",
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"Template:線形代数"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A1%8C%E5%88%97%E5%BC%8F |
7,473 | 冪零行列 | 冪零行列(べきれいぎょうれつ、べきぜろぎょうれつ、nilpotent matrix)とは、冪乗して零(零行列)となる正方行列のこと。すなわち、ある自然数 m に対して、
が成り立つ行列 M をいう。冪零行列は基底の与えられたベクトル空間に対して冪零変換を定める。
の形をした行列は冪零行列である。このような冪零行列全体の集合は、交換子積 X Y − Y X {\displaystyle XY-YX} によりリー代数(ハイゼンベルク群のリー代数)になる。
が成り立つので、N = O であれば I - tN は正則行列である。
E n {\displaystyle E_{n}} を n {\displaystyle n} 次の単位行列として、
と置いたとき、上の行列の幾つかの直和(行列をブロックとして対角線上に並べた区分行列のこと)
を冪零行列の標準形という。ここで n1, ... , nk は与えられた自然数 s に対して n1 + ... + nk = s を満たす自然数である。
標準化の対象になる s 次行列を M としたとき、ρ r = rank M - rank M と置けば、ni = p なる i の個数は全部で ρp - ρp+1 個ある。この ρi の値によって作られる冪零行列の標準形は、ni の順番を除いて一意的である。以下、ρiの値に基づく(s次の)標準形を N[ρ1, ..., ρs] と書く。また、M の次数を s とすれば、ρi の定義から直接に ∑ρi = s となるから、次数 s における相異なる標準形の個数は、整数 s を分割する方法の個数である。例えば、次数 4 における標準形は、
の 5 つである。この標準形は、それぞれ N[1,1,1,1], N[2,1,1,0], N[2,2,0,0], N[3,1,0,0], N[4,0,0,0] である。一般に N[1, ..., 1] = (Ns), N[s, 0, ..., 0] = O が成立する。
Nn は、冪乗に関して次のような性質を持つ。 | [
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'''冪零行列'''(べきれいぎょうれつ、べきぜろぎょうれつ、nilpotent matrix)とは、[[冪乗]]して零([[零行列]])となる[[正方行列]]のこと。すなわち、ある[[自然数]] ''m'' に対して、
: ''M''<sup> ''m''</sup> = ''O''
が成り立つ行列 ''M'' をいう。冪零行列は[[基底 (線型代数学)|基底]]の与えられた[[ベクトル空間]]に対して'''冪零変換'''を定める。
== 例 ==
* 零行列は冪零行列である。
* <math>A =
\begin{bmatrix}
-1 & 1 \\
-1 & 1
\end{bmatrix}, B = \begin{bmatrix}
0 & 1 & 1 \\
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix}
</math> はそれぞれ ''A''<sup>2</sup> = ''O'', ''B''<sup>3</sup> = ''O'' となる冪零行列である。
* より一般に実数 ''u'', ''t'' に対して <math>A =
u \begin{bmatrix}
-\sin t & 1 + \cos t \\
-1 + \cos t & \sin t
\end{bmatrix}</math> は ''A''<sup>2</sup> = ''O'' を満たす冪零行列である。
* 実数 ''a'', ''b'', ''c'' に対して、
:<math>\begin{bmatrix}
0 & a & b \\
0 & 0 & c \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix}</math>
の形をした行列は冪零行列である。このような冪零行列全体の集合は、交換子積 <math>X Y-Y X</math> により[[リー代数]]([[ハイゼンベルク群]]のリー代数)になる。
== 性質 ==
* 冪零行列の[[固有値]]は 0 のみである。逆に、固有値が全て 0 である行列は冪零行列である。
* 任意の冪零行列は[[正則行列]]でない。
* ''N'' が冪零行列なら、[[単位行列]] ''I'' に対し (''I''-''N'') は正則行列である。一般に、任意の[[スカラー (数学)|スカラー]] ''t'' に対して
:<math>I - (tN)^n = (I - tN) (I + tN + \cdots + (tN)^{n-1})</math>
が成り立つので、''N''<sup>''n''</sup> = ''O'' であれば ''I'' - ''tN'' は正則行列である。
== 標準化 ==
<math>E_n</math> を <math>n</math> 次の単位行列として、
:<math>N_1 = \begin{bmatrix}
0
\end{bmatrix} , N_2 = \begin{bmatrix}
0 & 1 \\
0 & 0
\end{bmatrix} , N_3 = \begin{bmatrix}
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0
\end{bmatrix} , \cdots , N_n =
\begin{bmatrix}
0 & E_{n-1} \\
0 & 0
\end{bmatrix}
</math>
と置いたとき、上の行列の幾つかの[[線型空間の直和|直和]](行列をブロックとして対角線上に並べた[[区分行列]]のこと)
:<math>
\begin{bmatrix}
N_{n_1} & \cdots & 0 \\ \vdots & \ddots & \vdots \\
0 & \cdots & N_{n_k}
\end{bmatrix}
</math>
を冪零行列の標準形という。ここで ''n''<sub>1</sub>, ... , ''n''<sub>''k''</sub> は与えられた自然数 ''s'' に対して ''n''<sub>1</sub> + ... + ''n''<sub>''k''</sub> = s を満たす自然数である。
標準化の対象になる ''s'' 次行列を ''M'' としたとき、ρ<sub> ''r''</sub> = rank ''M''<sup> ''r''-1</sup> - rank ''M''<sup> ''r''</sup> と置けば、''n''<sub>''i''</sub> = ''p'' なる ''i'' の個数は全部で ρ<sub>''p''</sub> - ρ<sub>''p''+1</sub> 個ある。この ρ<sub>''i''</sub> の値によって作られる冪零行列の標準形は、''n''<sub>''i''</sub> の順番を除いて一意的である。以下、ρ<sub>''i''</sub>の値に基づく(''s''次の)標準形を ''N''[ρ<sub>1</sub>, …, ρ<sub>''s''</sub>] と書く。また、''M'' の次数を ''s'' とすれば、ρ<sub>''i''</sub> の定義から直接に ∑ρ<sub>''i''</sub> = ''s'' となるから、次数 ''s'' における相異なる標準形の個数は、整数 ''s'' を[[整数分割|分割]]する方法の個数である。例えば、次数 4 における標準形は、
:<math>
\begin{bmatrix}
N_4
\end{bmatrix} ,
\begin{bmatrix}
N_3 & 0 \\
0 & N_1
\end{bmatrix} ,
\begin{bmatrix}
N_2 & 0 \\
0 & N_2
\end{bmatrix} ,
\begin{bmatrix}
N_2 & 0 & 0 \\
0 & N_1 & 0 \\
0 & 0 & N_1 \\
\end{bmatrix} ,
\begin{bmatrix}
N_1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & N_1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & N_1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & N_1
\end{bmatrix}
</math>
の 5 つである。この標準形は、それぞれ ''N''[1,1,1,1], ''N''[2,1,1,0], ''N''[2,2,0,0], ''N''[3,1,0,0], ''N''[4,0,0,0] である。一般に ''N''[1, ..., 1] = (N<sub>''s''</sub>), ''N''[''s'', 0, ..., 0] = ''O'' が成立する。
''N''<sub>''n''</sub> は、冪乗に関して次のような性質を持つ。
:<math>N_n^2 =
\begin{bmatrix}
0 & N_{n-1} \\
0 & 0
\end{bmatrix}
</math>
== 参考文献 ==
* 佐武一郎『線型代数学』[[裳華房]]、1974年 ISBN 978-4785313012、pp. 148 - 150、冪零行列の標準形について
== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=NilpotentMatrix|title=Nilpotent Matrix}}
{{Linear algebra}}
{{DEFAULTSORT:へきれいきようれつ}}
[[Category:行列]]
[[Category:数学に関する記事]] | null | 2022-11-19T13:58:57Z | false | false | false | [
"Template:出典の明記",
"Template:MathWorld",
"Template:Linear algebra"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AA%E9%9B%B6%E8%A1%8C%E5%88%97 |
7,474 | ユニタリ行列 | ユニタリ行列(ユニタリぎょうれつ、英: unitary matrix)は、次を満たす複素正方行列 U として定義される。
ここで、I は単位行列、U は行列 U の随伴行列 (U = U )。
なお、実数で構成される行列の随伴は単に転置であるため実ユニタリ行列は直交行列に等しく、直交行列を複素数体へ拡張したものがユニタリ行列とも言える。
以下の条件は、複素正方行列 U がユニタリ行列であることと同値である: | [
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"text": "なお、実数で構成される行列の随伴は単に転置であるため実ユニタリ行列は直交行列に等しく、直交行列を複素数体へ拡張したものがユニタリ行列とも言える。",
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"text": "以下の条件は、複素正方行列 U がユニタリ行列であることと同値である:",
"title": "同値条件"
}
] | ユニタリ行列は、次を満たす複素正方行列 U として定義される。 ここで、I は単位行列、U* は行列 U の随伴行列。 なお、実数で構成される行列の随伴は単に転置であるため実ユニタリ行列は直交行列に等しく、直交行列を複素数体へ拡張したものがユニタリ行列とも言える。 | '''ユニタリ行列'''(ユニタリぎょうれつ、{{lang-en-short|unitary matrix}})は、次を満たす[[複素数|複素]][[正方行列]] {{mvar|U}} として定義される。
:<math>U^* U = UU^* = I </math>
ここで、{{mvar|I}} は[[単位行列]]、{{mvar|U{{sup|*}}}} は行列 {{mvar|U}} の[[随伴行列]] ({{math2|''U{{sup|*}}'' {{=}} {{overline|''U'' }}{{sup|T}}}})。
なお、実数で構成される行列の随伴は単に転置である{{Sfn|西田吾郎|2009|p=133}}ため実ユニタリ行列は[[直交行列]]に等しく、直交行列を複素数体へ拡張したものがユニタリ行列とも言える。
== 性質 ==
* [[正方行列]]である。
* [[正規行列]]である。
* 任意のベクトル {{mvar|x}} に対しユニタリ行列による変換は[[等長写像|等長変換]] ({{en|isometry}}) である。{{math2|{{norm|''U'''''x'''}} {{=}} {{norm|'''x'''}}}}
* [[正則行列|正則]]であり、[[逆行列]]は {{math2|''U''{{sup|−1}} {{=}} ''U''{{sup|*}}}}
* 対角化可能([[正規行列]]であるから)
* [[固有値]]の絶対値は {{math|1}}。{{math|{{abs|''λ''}} {{=}} 1}}(つまり、すべての固有値は複素平面の単位円上に存在する)
:(証明){{math2|''U'''''x''' {{=}} ''λ'''''x'''}} なる {{mvar|λ}} が固有値。{{math2|{{norm|''U'''''x'''}}{{sup|2}} {{=}} {{abs|''λ''}}{{sup|2}}{{norm|'''x'''}}{{sup|2}}}} また {{math2|1={{norm|''U'''''x'''}}{{sup|2}} = (''U'''''x'''){{sup|*}}''U'''''x''' = '''x'''{{sup|*}}''U''{{sup|*}}''U'''''x''' = '''x'''{{sup|*}}''I'''''x''' = {{norm|'''x'''}}{{sup|2}}}}
* [[特異値]]は {{math|1}}。{{math|''σ{{sub|i}}'' (''U'') {{=}} 1}}
* [[行列式]]の絶対値は {{math|1}}。{{math2|{{abs|det(''U'')}} {{=}} 1}}
:(証明){{math2|1=1 = det(''I'') = det(''UU{{sup|*}}'') = det(''U'')det(''{{overline|U}}''{{sup|T}}) = det(''U'')det({{overline|''U''}}) = det(''U''){{overline|det(''U'')}} = {{abs|det(''U'')}}{{sup|2}}}}
* {{mvar|U}} は[[エルミート行列]] {{mvar|H}} を用いて {{math2|''U'' {{=}} ''e{{sup|iH}}''}} と記述できる。{{mvar|e}} は[[行列指数関数]]、{{mvar|i}} は[[虚数単位]]。
== 同値条件 ==
以下の条件は、複素正方行列 {{mvar|U}} がユニタリ行列であることと同値である:
# 行列 {{mvar|U}} は {{math2|''UU{{sup|*}}'' {{=}} ''I''}} を満たす{{Sfn|西田吾郎|2009|p=134}}
# 行列 {{mvar|U}} は {{math2|''U{{sup|*}}U'' {{=}} ''I''}} を満たす{{Sfn|西田吾郎|2009|p=134}}
# 行列 {{mvar|U}} は正則行列で {{math2|''U''{{sup|−1}} {{=}} ''U{{sup|*}}''}} を満たす
# 行列 {{mvar|U}} の列は正規直交基底である{{Sfn|西田吾郎|2009|p=134}}
# 行列 {{mvar|U}} の行は正規直交基底である{{Sfn|西田吾郎|2009|p=134}}
# 行列 {{mvar|U}} は[[等長写像]]である
# 行列 {{mvar|U}} は単位円上に固有値をもつ[[正規行列]]である
== 脚注 ==
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書
|author=西田吾郎
|authorlink=西田吾郎
|date=2009-06-22
|year=2009
|title=線形代数学
|publisher=京都大学学術出版会
|isbn=978-4-87698-757-3
|ref=harv}}
== 関連項目 ==
*[[ユニタリ変換]]
*[[ユニタリ群]]
*[[ユニタリ作用素]]
*[[特異値分解]] - 任意の行列をユニタリ行列と[[特異値]]を対角成分とする[[対角行列]]に分解。{{math2|''A'' {{=}} ''UΣV{{sup|*}}''}}.
*[[正規行列]]
*[[シュレーディンガー方程式]]
== 外部リンク ==
* {{高校数学の美しい物語|2617|ユニタリ行列の定義と性質の証明}}
{{線形代数}}
{{DEFAULTSORT:ゆにたりきようれつ}}
[[Category:行列|ゆにたり]]
[[Category:ユニタリ作用素]]
[[Category:数学に関する記事]] | 2003-04-29T10:18:42Z | 2023-08-03T15:59:32Z | false | false | false | [
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"Template:Reflist",
"Template:Math2",
"Template:Mvar",
"Template:En",
"Template:Math",
"Template:Cite book",
"Template:高校数学の美しい物語",
"Template:線形代数",
"Template:Lang-en-short"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%AA%E8%A1%8C%E5%88%97 |
7,479 | 随伴作用素 | 数学の特に函数解析学において、ヒルベルト空間上の各有界線型作用素は、対応する随伴作用素(ずいはんさようそ、英: adjoint operator)を持つ。作用素の随伴は正方行列の随伴行列の概念の無限次元の場合をも許すような一般化である。ヒルベルト空間上の作用素を「一般化された複素数」と考えれば、作用素の随伴は複素数に対する複素共軛の役割を果たすものである。
作用素 A の随伴は、シャルル・エルミートに因んでエルミート共軛 (Hermitian conjugate) とも呼ばれ、A あるいは A、また稀に A などで表される(“†” は特にブラケット記法とともに用いられる)。
H は内積 ⟨,⟩ を備えるヒルベルト空間とし、連続線型作用素 A: H → H(線型作用素に対して、連続性はそれが有界作用素であることと同値)を考えるとき、A の随伴作用素 A: H → H は、
を満たす線型作用素である。随伴作用素の存在と一意性はリースの表現定理から従う。
これは(標準複素内積に関して同様の性質をもつ)複素正方行列の随伴行列の一般化と見ることができる。
有界作用素のエルミート随伴は以下の性質を満たす:
加法性と半斉次性を合わせて反線型性(英語版)、逆転性と対合性は合わせて *-環としての対合性を表す。
A の作用素ノルムを
で定義するならば、
および、さらに
が成り立つ。この性質を満足するノルムは、自己随伴作用素の場合からの類推で、「最大値」のように振る舞うということができる。
ヒルベルト空間 H 上の有界線型作用素全体の成す集合は、随伴をとる操作と作用素ノルムに関して C 環の原型的な例である。
ヒルベルト空間 H 上の密定義作用素 A は、その定義域 D(A) が H において稠密で、かつその終域が H であるようなものを言う。 その随伴 A はその定義域 D(A)が
を満たす z ∈ H が存在するような y ∈ H 全体の成す集合で与えられ、かつ A(y) = z となるものとして定義される。
上記性質 1.–5. は(定義域と終域が適当な条件を満たせば)成立する。例えば最後の性質について、随伴作用素 (AB) は(A, B, AB が密定義作用素ならば)作用素BA の延長で与えられる。
作用素 A の像とその随伴 A の核との間の関係性は、
で与えられる(ここで上付き横棒は集合の閉包を表す。直交補空間も参照)。一つ目の式の証明は
で、二つの式は一つ目の式の両辺の直交補空間をとることでわかる。一般に、像は閉とは限らないが連続線型作用素の核は常に閉である。
有界作用素 A: H → H が自己随伴であるとは
あるいは同じことだが
を満たすことを言う。
適当な意味において、エルミート作用素は実数(自身とその複素共軛が等しい複素数)の役割を果たし、実ベクトル空間を成す。エルミート作用素は量子力学において観測可能量のモデルを提供する。エルミート作用素に関する詳細は自己随伴作用素の項を参照せよ。
反線型作用素(英語版)に対する随伴の定義は、複素共軛を相殺するために調整が必要である。ヒルベルト空間 H 上の反線型作用素 A の随伴は、反線型作用素 A: H → H で
を満たすものを言う(上付き横棒は複素共軛を意味する)。
等式
は形の上では圏論における随伴対を定義する性質と同じ形をしている。そしてこれは随伴函手の名の由来でもある。 | [
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"text": "あるいは同じことだが",
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"text": "を満たすことを言う。",
"title": "エルミート作用素"
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"text": "適当な意味において、エルミート作用素は実数(自身とその複素共軛が等しい複素数)の役割を果たし、実ベクトル空間を成す。エルミート作用素は量子力学において観測可能量のモデルを提供する。エルミート作用素に関する詳細は自己随伴作用素の項を参照せよ。",
"title": "エルミート作用素"
},
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"text": "反線型作用素(英語版)に対する随伴の定義は、複素共軛を相殺するために調整が必要である。ヒルベルト空間 H 上の反線型作用素 A の随伴は、反線型作用素 A: H → H で",
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},
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"text": "を満たすものを言う(上付き横棒は複素共軛を意味する)。",
"title": "反線型作用素の随伴"
},
{
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"text": "等式",
"title": "その他の随伴"
},
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"text": "は形の上では圏論における随伴対を定義する性質と同じ形をしている。そしてこれは随伴函手の名の由来でもある。",
"title": "その他の随伴"
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] | 数学の特に函数解析学において、ヒルベルト空間上の各有界線型作用素は、対応する随伴作用素を持つ。作用素の随伴は正方行列の随伴行列の概念の無限次元の場合をも許すような一般化である。ヒルベルト空間上の作用素を「一般化された複素数」と考えれば、作用素の随伴は複素数に対する複素共軛の役割を果たすものである。 作用素 A の随伴は、シャルル・エルミートに因んでエルミート共軛 とも呼ばれ、A* あるいは A†、また稀に A+ などで表される。 | [[数学]]の特に[[函数解析学]]において、[[ヒルベルト空間]]上の各[[有界線型作用素]]は、対応する'''随伴作用素'''(ずいはんさようそ、{{lang-en-short|''adjoint operator''}})を持つ。作用素の随伴は[[正方行列]]の[[随伴行列]]の概念の無限次元の場合をも許すような一般化である。ヒルベルト空間上の作用素を「一般化された複素数」と考えれば、作用素の随伴は複素数に対する[[複素共軛]]の役割を果たすものである。
作用素 {{math|''A''}} の随伴は、[[シャルル・エルミート]]に因んで'''エルミート共軛''' (''Hermitian conjugate'') とも呼ばれ、{{math|''A''<sup>*</sup>}} あるいは {{math|''A''<sup>†</sup>}}、また稀に {{math|''A''<sup>+</sup>}} などで表される([[短剣符|“†”]] は特に[[ブラケット記法]]とともに用いられる)。
== 有界作用素に対する定義 ==
{{math|''H''}} は[[内積]] {{math|⟨,⟩}} を備える[[ヒルベルト空間]]とし、[[連続線型作用素]] {{math|''A'': ''H'' → ''H''}}(線型作用素に対して、連続性はそれが[[有界作用素]]であることと同値)を考えるとき、{{math|''A''}} の随伴作用素 {{math|''A''<sup>∗</sup>: ''H'' → ''H''}} は、
: <math> \langle Ax , y \rangle = \langle x , A^* y \rangle \quad (\forall x,y\in H)</math>
を満たす線型作用素である。随伴作用素の存在と一意性は[[リースの表現定理]]から従う<ref name=rs186>{{harvnb|Reed|Simon|2003|pp=186–187}}; {{harvnb|Rudin|1991|loc=§12.9}}</ref>。
これは(標準複素内積に関して同様の性質をもつ)複素正方行列の随伴行列の一般化と見ることができる。
== 性質 ==
[[有界作用素]]のエルミート随伴は以下の性質を満たす<ref name=rs186 />:
# [[対合|対合性]]: {{math|1=''A''<sup>**</sup> = ''A''}}
# {{math|''A''}} が可逆ならば {{math|''A''<sup>*</sup>}} も可逆であり、かつ {{math|1=(''A''<sup>*</sup>)<sup>−1</sup> = (''A''<sup>−1</sup>)<sup>*</sup>}}
# [[加法的写像|加法性]]: {{math|1=(''A'' + ''B'')<sup>*</sup> = ''A''<sup>*</sup> + ''B''<sup>*</sup>}}
# 半斉次性: {{math|1=(λ''A'')<sup>*</sup> = {{overline|λ}}''A''<sup>*</sup>}}, ただし {{overline|λ}} は[[複素数]] {{math|λ}} の[[複素共軛]]
# [[逆転準同型|逆転性]]: {{math|1=(''AB'')<sup>*</sup> = ''B''<sup>*</sup>''A''<sup>*</sup>}}
加法性と半斉次性を合わせて{{仮リンク|反線型写像|label=反線型性|en|antilinear map}}、逆転性と対合性は合わせて [[*-環]]としての対合性を表す。
{{math|''A''}} の[[作用素ノルム]]を
:<math> \| A \|_\mathrm{op} := \sup \{ \|Ax \| : \| x \| \le 1 \} </math>
で定義するならば、
:<math> \| A^* \|_\mathrm{op} = \| A \|_\mathrm{op}</math><ref name=rs186 />
および、さらに
:<math> \| A^* A \|_\mathrm{op} = \| A \|_\mathrm{op}^2</math><ref name=rs186 />
が成り立つ。この性質を満足するノルムは、自己随伴作用素の場合からの類推で、「最大値」のように振る舞うということができる。
ヒルベルト空間 {{math|''H''}} 上の有界線型作用素全体の成す集合は、随伴をとる操作と作用素ノルムに関して [[C*-環|{{math|''C''<sup>*</sup>}} 環]]の原型的な例である。
== 密定義作用素の随伴 ==
ヒルベルト空間 {{math|''H''}} 上の[[密定義作用素]] {{math|''A''}} は、その[[定義域]] {{math|''D''(''A'')}} が {{math|''H''}} において稠密で、かつその[[終域]]が {{math|''H''}} であるようなものを言う<ref>詳細は[[非有界作用素]]を参照。</ref>。 その随伴 {{math|''A''<sup>*</sup>}} はその定義域 {{math|''D''(''A''<sup>*</sup>)}}が
: <math> \langle Ax , y \rangle = \langle x , z \rangle \quad (\forall x \in H)</math>
を満たす {{math|''z'' ∈ ''H''}} が存在するような {{math|''y'' ∈ ''H''}} 全体の成す集合で与えられ、かつ {{math|''A''<sup>*</sup>(''y'') {{=}} ''z''}} となるものとして定義される<ref>{{harvnb|Reed|Simon|2003|pp=252}}; {{harvnb|Rudin|1991|loc=§13.1}}</ref>。
上記性質 1.–5. は(定義域と終域が適当な条件を満たせば)成立する。例えば最後の性質について、随伴作用素 {{math|(''AB'')<sup>*</sup>}} は({{math|''A''}}, {{math|''B''}}, {{math|''AB''}} が密定義作用素ならば)作用素{{math|''B''<sup>*</sup>''A''<sup>*</sup>}} の延長で与えられる<ref>{{harvnb|Rudin|1991|loc=Thm 13.2}}</ref>。
作用素 {{math|''A''}} の[[像 (数学)|像]]とその随伴 {{math|''A''<sup>*</sup>}} の[[核 (代数学)|核]]との間の関係性は、
: <math>\begin{align}
& \ker A^* = (\operatorname{im}A)^{\bot}\\
& (\ker A^*)^\bot = \overline{\operatorname{im}A}
\end{align}</math>
で与えられる(ここで上付き横棒は集合の[[閉包 (位相空間論)|閉包]]を表す。[[直交補空間]]も参照)。一つ目の式の証明<ref>有界作用素の場合は {{harvnb|Rudin|1991|loc=Thm 12.10}} を見よ。</ref>は
:<math>\begin{align} A^* x = 0
&\iff \langle A^*x,y \rangle = 0 \quad (\forall y \in H) \\
&\iff \langle x,Ay \rangle = 0 \quad (\forall y \in H) \\
&\iff x \mathrel{\bot} \operatorname{im}A
\end{align}</math>
で、二つの式は一つ目の式の両辺の直交補空間をとることでわかる。一般に、像は閉とは限らないが連続線型作用素の核は常に閉である<ref>有界作用素の場合と同じ。</ref>。
== エルミート作用素 ==
[[有界作用素]] {{math|''A'': ''H'' → ''H''}} が[[自己随伴]]であるとは
: <math> A = A^{*}</math>
あるいは同じことだが
: <math> \lang Ax , y \rang = \lang x , A y \rang \quad (\forall x,y\in H)</math>
を満たすことを言う<ref>{{harvnb|Reed|Simon|2003|pp=187}}; {{harvnb|Rudin|1991|loc=§12.11}}</ref>。
適当な意味において、エルミート作用素は[[実数]](自身とその複素共軛が等しい複素数)の役割を果たし、実[[ベクトル空間]]を成す。エルミート作用素は[[量子力学]]において[[観測可能量]]のモデルを提供する。エルミート作用素に関する詳細は[[自己随伴作用素]]の項を参照せよ。
== 反線型作用素の随伴 ==
{{仮リンク|反線型作用素|en|Antilinear map}}に対する随伴の定義は、複素共軛を相殺するために調整が必要である。ヒルベルト空間 {{math|''H''}} 上の反線型作用素 {{math|''A''}} の随伴は、反線型作用素 {{math|''A''<sup>∗</sup>: ''H'' → ''H''}} で
: <math> \lang Ax , y \rang = \overline{\lang x , A^* y \rang} \quad (\forall x,y\in H)</math>
を満たすものを言う(上付き横棒は複素共軛を意味する)。
== その他の随伴 ==
等式
: <math> \lang Ax , y \rang = \lang x , A^* y \rang </math>
は形の上では[[圏論]]における[[随伴函手|随伴対]]を定義する性質と同じ形をしている。そしてこれは随伴函手の名の由来でもある。
== 関連項目 ==
* 数学的概念
** [[内積]]
** [[ヒルベルト空間]]
** [[エルミート作用素]]
** [[ノルム]]
** [[作用素ノルム]]
** [[転置写像]]
* 物理学への応用
** [[ブラケット記法]]
** [[演算子 (物理学)]]
** [[観測可能量]]
== 注釈 ==
{{reflist}}
== 参考文献 ==
* {{citation | first1 = Michael | last1 = Reed | first2 = Barry | last2 = Simon | title = Functional Analysis | publisher = Elsevier | year = 2003 | isbn = 981-4141-65-8 }}.
* {{citation | first1 = Walter | last1 = Rudin | title = Functional Analysis | publisher = McGraw-Hill | year = 1991 | edition = second | isbn = 0-07-054236-8 }}.
== 外部リンク ==
* {{MathWorld|urlname=Adjoint|title=Adjoint}}
* {{PlanetMath|urlname=Adjoint|title=adjoint}}
* {{ProofWiki|urlname=Definition:Adjoint|title=Definition:Adjoint}}
* {{SpringerEOM|urlname=Adjoint_operator|title=Adjoint operator|author= Sobolev, V.I.}}
{{Functional Analysis}}
{{DEFAULTSORT:すいはんさようそ}}
[[Category:作用素論]]
[[Category:数学に関する記事]] | null | 2022-03-25T02:20:53Z | false | false | false | [
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7,480 | ハイブリッド法 | ハイブリッド法(ハイブリッドほう、Hybrid method)は、電子状態計算で、非常に大きな系で精度の高いシミュレーションをするための手法の一つ。
精度が要求される部分(計算にとって核心の部分:数原子から数十原子程度の領域だけを考慮すればよい場合が多い)は精度の高い電子状態計算(通常は第一原理計算手法)を行い、その周りの数百~数万原子からなる領域は、分子動力学法や、タイトバインディング法による分子動力学法(TBMD)で解き、更にその周りのマクロな領域は、有限要素法などの連続体として扱う手法(マクロな手法)が担当するようにした方法が、ハイブリッド法である。各領域毎の手法間の接続を如何に上手に行うかが問題となる。
ハイブリッド法は、計算全体でみると第一原理とは言えなくなる。 | [
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'''ハイブリッド法'''(ハイブリッドほう、Hybrid method)は、[[電子状態計算]]で、非常に大きな系で精度の高いシミュレーションをするための手法の一つ。
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ハイブリッド法は、計算全体でみると[[第一原理]]とは言えなくなる。
== 関連項目 ==
*[[第一原理計算]]
*[[計算物理学]]
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[[Category:計算物理学]] | null | 2021-04-06T11:08:24Z | false | false | false | [
"Template:出典の明記"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%89%E6%B3%95 |
7,482 | ギリシア神話を題材とした文学作品一覧 | 以下の一覧はギリシア神話を題材とした文学作品のうち一部を列挙したものである。 | [
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] | 以下の一覧はギリシア神話を題材とした文学作品のうち一部を列挙したものである。 | 以下の'''一覧'''は'''[[ギリシア神話]]を題材とした文学作品'''のうち一部を列挙したものである。
== 現存する作品 ==
=== 古代ギリシア ===
==== 叙事詩 ====
* [[ホメーロス]]『[[イーリアス]]』([[紀元前8世紀]]中頃)
* ホメーロス『[[オデュッセイア]]』([[紀元前8世紀]]中頃)
* 偽ホメーロス『[[ホメーロス風讃歌]]』
* 偽ホメーロス『[[蛙鼠合戦]]』
* [[ヘーシオドス]]『[[神統記]]』([[紀元前700年]]頃)
* ヘーシオドス『[[仕事と日]](農と歴)』
* [[ロドスのアポローニオス]]『[[アルゴナウティカ]]』([[紀元前3世紀]])
* [[スミュルナのコイントス|クイントゥス]]『[[トロイア戦記]](ホメロスの続き)』([[4世紀]])
* トリピオドロス『トロイア落城』([[5世紀]])
* [[ノンノス]]『[[ディオニュソス譚]]』([[5世紀]])
==== 叙情詩 ====
* [[ピンダロス]] 『オリュンピア祝勝歌』
==== 悲劇 ====
* [[アイスキュロス]]『[[テーバイ攻めの七将]]』([[紀元前467年]])
* アイスキュロス『[[縛られたプロメテウス]]』
* アイスキュロス『[[救いを求める女たち]]』([[紀元前463年]]頃)
* アイスキュロス『[[オレステイア]]』三部作([[紀元前458年]]) - 『アガメムノン』『供養する女たち』『慈しみの女神たち』
* [[ソポクレス]]『[[アイアース (ソポクレス)|アイアース]]』
* ソポクレス『[[アンティゴネ (ソポクレス)|アンティゴネ]]』([[紀元前441年]]頃)
* ソポクレス『[[トラキスの女たち]]』
* ソポクレス『[[オイディプス王]]』([[紀元前429年]] - [[紀元前425年]]頃)
* ソポクレス『[[エレクトラ (ソポクレス)|エレクトラ]]』
* ソポクレス『[[ピロクテテス (ソポクレス)|フィロクテテス]]』([[紀元前409年]])
* ソポクレス『[[コロノスのオイディプス]]』([[紀元前401年]])
* [[エウリピデス]]『[[アルケスティス (ギリシア悲劇)|アルケスティス]]』([[紀元前438年]])
* エウリピデス『[[メディア (ギリシア悲劇)|メディア]]』([[紀元前431年]])
* エウリピデス『[[ヒッポリュトス (エウリピデス)|ヒッポリュトス]]』([[紀元前428年]])
* エウリピデス『[[トロイアの女]]』([[紀元前415年]])
* エウリピデス『[[ヘレネ (エウリピデス)|ヘレネ]]』([[紀元前412年]])
* エウリピデス『[[オレステス (エウリピデス)|オレステス]]』([[紀元前408年]])
* エウリピデス『[[ヘラクレスの子供たち|ヘラクレスの子ら]]』
* エウリピデス『[[アンドロマケ (エウリピデス)|アンドロマケ]]』
* エウリピデス『[[ヘカベ (エウリピデス)|ヘカベ]]』
* エウリピデス『[[救いを求める女たち (エウリピデス)|救いを求める女たち]]』
* エウリピデス『[[ヘラクレス (エウリピデス)|ヘラクレス]]』
* エウリピデス『[[イオン (エウリピデス)|イオン]]』
* エウリピデス『[[エレクトラ (エウリピデス)|エレクトラ]]』
* エウリピデス『[[タウリケのイフィゲネイア]]』
* エウリピデス『[[バッコスの信女]]』
* エウリピデス『[[アウリスのイフィゲネイア]]』
==== 小説 ====
==== 歴史書・専門書 ====
* [[プルタルコス]] 『[[英雄伝 (プルタルコス)|英雄伝]](対比列伝)』([[2世紀]])
* [[アポロドーロス|偽アポロドーロス]]『[[ビブリオテーケー]](ギリシア神話)』([[3世紀]]頃)
* 偽ディクテュス『[[トロイア戦争日誌]]』([[3世紀]]以前)
* ダレス『[[トロイア滅亡の歴史物語]]』
=== 古代ローマ ===
==== 叙事詩 ====
* [[オウィディウス]]『[[変身物語]](転身物語)』([[8年]]以前)
* [[<!---プブリウス・ウェルギリウス・マロ|-->ウェルギリウス]]『[[アエネイス]]』([[19年]])
* [[<!--プブリウス・パビニウス・スタティウス|-->スタティウス]]『[[テーバイド#テーバイド(スタティウス)|テーバイス]]』([[1世紀]])
==== 悲劇 ====
* [[セネカ]]『{{仮リンク|恋のパエドラ|en|Phaedra_(Seneca)}}(パエドラ)』([[1世紀]])
* セネカ『狂えるヘルクレス』
* セネカ『トロイアの女たち』
* セネカ『フェニキアの女たち』
* セネカ『{{仮リンク|メデイア_(セネカ)|en|Medea_(Seneca)|it|Medea_(Seneca)|label=メデイア}}』
* セネカ『オイディプス』
* セネカ『アガメムノン』
* セネカ『テュエステス』
* 偽?セネカ『オエタのヘラクレス』
==== 小説 ====
* [[アプレイウス]]『{{仮リンク|変容_(アプレイウス)|en|The_Golden_Ass|label=黄金のろば}}』([[2世紀]]後半)
=== 後代 ===
==== 詩 ====
* [[ブノア・ド・サント=モール]]『トロイ物語』([[1170年]]頃)
* [[ダンテ・アリギエーリ|ダンテ]]『[[神曲]]』([[1321年]]頃)
* [[ジェフリー・チョーサー|チョーサー]]『[[トロイラスとクリセイデ]]』([[1385年]]頃)
==== 悲劇 ====
* [[ウィリアム・シェイクスピア|シェイクスピア]]『トロイラスとクレシダ』([[1600年]]頃)
* [[ジャン・ラシーヌ|ラシーヌ]]『[[ラ・テバイード 又は 兄弟は敵同士]]』([[1664年]])
* ラシーヌ『[[アンドロマック]]』([[1667年]])
* ラシーヌ『[[イフィジェニー]]』([[1674年]])
* ラシーヌ『[[フェードル]]』([[1677年]]1月初演)
* [[フーゴ・フォン・ホーフマンスタール|ホーフマンスタール]]『[[エレクトラ (リヒャルト・シュトラウス)|エレクトラ]]』([[1903年]])
* ホーフマンスタール『アルケスティス』([[1916年]])
* [[ジャン・ジロドゥ|ジロドゥ]]『エレクトル』
* ジロドゥ『トロイ戦争は起こらなかっただろう』
* [[ジャン=ポール・サルトル|サルトル]]『トロイアの女たち』
* サルトル『蝿』([[1943年]])
* [[ジャン・コクトー|コクトー]]『アンティゴネ』([[1922年]])
* コクトー『オルフェ』([[1926年]])
* コクトー『オイディプース王』([[1937年]])
* コクトー『バッカス』([[1952年]])
* [[ジャン・アヌイ|アヌイ]]『メデエ』
* アヌイ『アンチゴーヌ』
* アヌイ『オレスト』
* [[ハイナー・ミュラー|ミュラー]]『メディアマテリアル』
* [[ベルトルト・ブレヒト|ブレヒト]]『ソポクレースのアンティゴネー』
* [[ジャック・リチャードソン|リチャードソン]]『放蕩息子』
==== 小説 ====
* [[ジェイムズ・ジョイス]] 『[[ユリシーズ]]』( [[1922年]])
== 散逸、或いは断片のみの作品 ==
=== 古代ギリシア ===
==== 叙事詩 ====
* [[叙事詩環]](叙事詩圏) - 『[[キュプリア]]』『[[アイティオピス]]』『[[小イーリアス]]』『[[イーリオスの陥落]]』『[[ノストイ]]』『[[テレゴネイア]]』
* [[テーバイ圏]] - 『[[オイディポデイア]]』『[[テーバイド]]』『[[エピゴノイ (叙事詩)|エピゴノイ]]』『[[アルクメオーニス]]』
* ヘーシオドス『女の歴史』
* [[コルトス]]『ヘレネー誘拐』([[紀元前5世紀]]末)
==== 詩 ====
* [[カリマコス|カルリマコス]]『アイティア』『讃歌』『ヘカレー』
==== 歴史書・専門書 ====
* [[アクーシラーオス]] 『系統誌』
* [[レロスのペレキュデース]]
==== 外部リンク ====
* ギリシア叙事詩断片集[http://changhykw.uijin.com/herasias.html]
{{ギリシア神話}}
{{DEFAULTSORT:きりしあしんわをたいさいとしたふんかくさくひんいちらん}}
[[Category:ギリシア神話を題材とした作品|*ふんかく]]
[[Category:テーマ別の作品一覧]] | null | 2018-10-01T08:55:38Z | false | false | false | [
"Template:仮リンク",
"Template:ギリシア神話"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%A5%9E%E8%A9%B1%E3%82%92%E9%A1%8C%E6%9D%90%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%9F%E6%96%87%E5%AD%A6%E4%BD%9C%E5%93%81%E4%B8%80%E8%A6%A7 |
7,483 | 気体 | 気体(きたい、英: gas)とは、物質の状態のひとつであり、一定の形と体積を持たず、自由に流動し圧力の増減で体積が容易に変化する状態のこと。 「ガス体」とも言う。
気体というのは、物質の集合状態のひとつであり、圧縮やズレに対する抵抗が小さく、膨張に対してはまったく抵抗を示すことなく無限に体積を大きくしようとし、体積も形も一定でない状態をこう呼んでいる。 気体は、物質の三態のひとつである。
純粋な気体を構成する粒子は、原子の場合(ネオンなどの希ガス)、同一種類の原子から構成される元素分子の場合(酸素など)、複数種類の原子から成る化合物分子の場合(二酸化炭素など)がある。混合気体は複数の純粋な気体が混じりあったものである。空気もそれ(混合気体)にあたる。
液体や固体との大きな違いは、気体を構成する粒子間の距離が大きい点である。気体粒子の相互作用は電場や重力場のある状態では無視できる程度であり、右図のようにそれぞれの粒子が一定の速度ベクトルを持つ。
気相は液相とプラズマ相の中間にあり、プラズマへと転移する温度が気体の存在する上限温度となる。極低温で存在する量子縮退気体が近年注目を集めている。高密度の原子気体を極低温に冷却したものは、ボース気体またはフェルミ気体と呼ばれる統計的振る舞いを示す。詳しくはボース=アインシュタイン凝縮を参照。
気体は液体とともに流体であるが、分子の熱運動が分子間力を上回っており、液体の状態と比べ、原子または分子がより自由に動ける。通常では固体や液体より粒子間の距離がはるかに大きく、そのため密度は最も小さくなる。また、圧力や温度による体積の変化が激しい。構成粒子間でのやりとりが少ないので、熱の伝導は低い。
気体状態では、粒子は自由かつランダムに動く熱運動をしている。また、それを構成する粒子間の引力(分子間力)は働かない。さらにその粒子の大きさ、質量共に気体の体積に比べてはるかに小さい。このために気体の状態では物質の種類を問わずに共通の性質が表れやすい。たとえば同一温度、同一気圧の下では、気体の種類を問わず同一体積中に含まれる分子数は一定である。これをアボガドロの法則という。気体分子の大きさと質量を存在しないものとした仮想の気体のモデルを理想気体といい、気体の基本的性質を示すために扱われる。
臨界温度以下の気相のことを蒸気と呼ぶ。臨界温度以下で気体を圧縮していくと液体へ相転移(一次転移)する。また、ある臨界圧力以下の圧力が物質の飽和蒸気圧と等しくなる点が沸点である。
我々は空気中で生活しているため、化学の分野など、気体を成分に分けて扱おうとすると、周囲の空気と混じってしまいやすいため、特別な工夫を必要とする。
流体なので形を定めることが出来ない。しかし、固体の容器に監禁することで利用する例もある。柔らかな素材に閉じこめれば、体積が弾性的に変形するので、衝撃吸収の可能な素材となる。また熱伝導度が低いため、断熱の効果もある。発泡スチロールでは多数の細かい泡のような形で気体を含んでおり、これらの性質を強く示す。
ほとんどの気体は人間の知覚では観察が難しいため、圧力・体積・温度といった物理的性質と粒子数(物質量)といった性質で表す。これら4つの特性を様々な気体の様々な条件下で計測したのが、ロバート・ボイル、ジャック・シャルル、ジョン・ドルトン、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック、アメデオ・アヴォガドロといった人々である。彼らの研究によって最終的にそれらの特性間の数学的関係が明らかとなり、理想気体の状態方程式となって結実した。
気体粒子は互いに十分離れているため、液体や固体ほど隣接する粒子に影響を及ぼしあうことはない。そのような相互作用(分子間力)は気体粒子の持つ電荷に由来する。同じ電荷は反発しあい、逆の電荷は引き付け合う。イオンでできた気体には恒久的な電荷があり、化合物の気体には極性共有結合がある。極性共有結合の場合、化合物全体としては中性であっても、分子内に電荷の集中する部分が生じる。分子間の共有結合には一時的な電荷もあり、それをファンデルワールス力と呼ぶ。このような分子間力の相互作用はそれぞれの気体を構成する物質の物理特性によって異なる。例えば、イオン結合の化合物と共有結合の化合物の「沸点」を比べるとその違いが明らかとなる。右の写真のようにただよう煙は、低圧の気体がどのように振る舞っているかという洞察を与えてくれる。
気体は他の状態の物質と比較すると、密度と粘度が極めて低い。気体の粒子の運動は圧力と温度に影響される。粒子間の距離と速度の変化は圧縮率で表される。その粒子の距離と速度は屈折率で表される気体の光学特性にも影響する。気体は容器全体に一様に分布するように拡散する。
気体を観察する場合、基準となる範囲や長さを指定するのが一般的である。基準となる代表長さが気体粒子の平均自由行程より十分に大きい場合(クヌーセン数が十分に小さい場合)、気体は連続体とみなされ巨視的観点から把握される。その場合、体積の面でも十分な量の気体粒子を標本化できる大きさでなければならない。このような大きさで統計的分析を行うことで、その範囲内のあらゆる気体粒子の平均的動き(すなわち、速度、温度、圧力)を観測できる。対照的に微視的、つまり粒子単位の観察を行う方法もある。
巨視的観点で観測される気体の性質には、気体粒子そのものに由来するもの(速度、圧力、温度)とそれらの環境によるもの(体積)がある。例えばロバート・ボイルは一時期、気体化学を研究していた。彼は気体の圧力と体積の関係について巨視的観点で実験を行った。その実験でJの字形の試験管のようなマノメーターを使い、その管の一端に一定粒子数で一定温度の不活性気体を入れ、さらに水銀を入れて密封した。そして、水銀の量を増やして気体にかかる圧力を増すと気体の体積が小さくなることを見出し、数学的には反比例の関係にあることを発見した。つまり、体積と圧力の積が常に一定になることをつきとめた。ボイルは様々な気体でこれが成り立つことを確かめ、ボイルの法則 (PV = 定数) が生まれた。
気体物性の分析に使用する様々な数学的ツールがある。理想流体についてはオイラー方程式があるが、極限条件の気体では数学的ツールもやや複雑化し、粘性の効果を完全に考慮したナビエ-ストークス方程式などが使われる。このような方程式は対象とする気体の特定の条件を満たすよう理想化されている。ボイルの実験装置は代数学を使って分析結果を得ることを可能にした。ボイルが結果を得られたのは、彼が扱っていた気体が比較的低圧で「理想」的な振る舞いをする状況だったからである。そういった理想的関係は、一般的な条件の計算には十分である。今日の最先端テクノロジーにおいては、気体が「理想」的な振る舞いをしない条件下での実験を可能とする各種装置も設計されている。統計学や多変量解析といった数学が、宇宙船の大気圏再突入のような複雑な状況の解を求めることを可能にしている。例えば、図にあるようにスペースシャトルの大気圏再突入の際の負荷が材料や構造の限界を超えていないことを確認する分析などがある。そのような状況では、気体は理想的には振る舞わない。
圧力を表す記号は "p " または "P " を使い、SI単位はパスカル (Pa=N/m) である。
気体が何らかの容器に入っているとき、気体の圧力は気体が容器表面に及ぼす単位面積当たりの平均的な力に等しい。その容積の中で気体粒子は直線的に運動していて、容器に衝突して力を及ぼしていると考えれば理解しやすい。その衝突の際に気体粒子から容器に与えられた力の分だけ粒子の運動量が変化する。古典力学では、運動量は質量と速度の積と定義されている。衝突に際して、粒子の速度の壁と垂直な成分だけが変化する。壁に平行な方向に進む粒子の運動量は変化しない。したがって、粒子の衝突によって容器表面にかかる力の平均は、気体粒子の衝突による線運動量の変化の平均に他ならない。より正確には、粒子が容器表面に衝突した際の力の垂直成分の合計を表面積で割った値が圧力となる。
温度を表す記号は "T " を使い、SI単位はケルビン (K)である。
気体粒子の速度は、その熱力学温度に比例する。右の動画は、風船内に捕らわれた気体粒子が極低温の窒素に触れることでその速度が遅くなり、風船が縮む様子を示している。任意の物理系の温度はその系(気体)を構成する粒子(原子、分子)の運動と関連している。統計力学では、温度とは粒子内に蓄えられた運動エネルギーの平均を示す測度である。このエネルギーを蓄える方法は、粒子自身の自由度(エネルギーモード)で表される。気体粒子が運動エネルギーを蓄えるのは、衝突によって直線運動、回転運動、振動といった運動エネルギーを得たときである(吸熱過程)。対照的に固体内の分子に熱を加えても振動モードでしかエネルギーを蓄えられず、直線運動や回転運動は結晶構造によって妨げられる。熱せられた気体粒子は粒子同士が一定の割合で衝突することで速度が広範囲に変化しうる。速度の範囲はマクスウェル分布で表される。なお、この分布を想定するということは、その系が熱力学的平衡付近の理想気体だと仮定していることを暗に示している。
比体積を表す記号は "v " を使い、SI単位はm/kg である。体積は記号 "V " で表され、SI単位はm である。
熱力学解析においては、示強属性と示量属性を扱うのが一般的である。気体の量に依存する属性(質量や体積)を示量属性、気体の量に依存しない属性を示強属性と呼ぶ。比体積は単位質量の気体が占める体積の比であり、あらゆる平衡系の気体にわたって同一であるため示強属性の例である。プロトアクチニウムの原子1000個がある温度と圧力で占める体積は、他の任意の原子1000個が同じ温度と圧力で占める体積と同じである。気体に比べて圧縮性のない固体の鉄を思い浮かべればわかりやすい。右の写真にあるような射出座席はロケットで推進するが、ロケットは質量を保持しつつ膨張するガスを噴射しており、この際に比体積が増加する。気体はそれを取り囲むどのような容器であっても全体を満たす性質があり、体積は示量属性である。
密度は記号 "ρ"(ロー)で表され、SI単位はkg/m である。これは、比体積の逆数である。
気体粒子は容器内を自由に動けるため、その質量は一般に密度によって特徴付けられる。密度は質量を体積で割った値である。気体の圧力または体積の一方を一定としたとき、密度は広範囲にわたって変化する。この密度の変化の度合いを圧縮率と呼ぶ。圧力や温度と同様、密度は気体の状態変数の1つであり、任意の過程における密度の変化は熱力学の法則に従う。静止気体においては、密度は容器全体で均一である。つまり密度はスカラー量であり、大きさはあるが方向のない単純な物理量である。気体分子運動論によれば、気体の質量が一定のとき密度は容器の大きさすなわち体積に反比例する。すなわち、質量が一定であれば密度の減少とともに体積が増大する。
極めて高倍率の顕微鏡で気体を観察できるとすれば、様々な粒子(分子、原子、イオン、電子など)が決まった形や塊を形成せずに無作為に動いている様子が観察できるだろう。そういった中性の気体粒子が運動の向きを変えるのは、別の粒子と衝突したときか容器の壁と衝突したときだけである。そういった衝突が完全に弾性的だと仮定すると、その気体は理想気体だということになる。このような粒子レベルの微視的観点は気体分子運動論で扱われる。
気体分子運動論は、気体の巨視的性質を分子構成と分子運動によって説明する。運動量と運動エネルギーの定義を出発点として、運動量保存の法則と立方体の幾何学的関係を使い、系の巨視的性質である温度と圧力を分子ごとの運動エネルギーという微視的属性に対応付ける。この理論によって温度と圧力という2つの属性の平均値が得られる。
この理論はまた、気体系が変化に対してどう反応するかを説明している。例えば、理論上完全に静止した気体が絶対零度から熱せられるとき、その内部エネルギー(温度)が増大する。気体を熱すると、その粒子が速度を増し、温度が上昇する。高温になると粒子速度が上がって単位時間あたりに容器内で発生する粒子の衝突が増える。単位時間あたりの容器表面での粒子衝突回数が増えると、それに比例して圧力も上昇する。
ブラウン運動は、流体内に浮遊する粒子の無作為運動を説明する数理モデルである。気体の拡散は気体分子運動論で説明することもできるし、素粒子物理学でも説明できる。
気体の個々の粒子(原子や分子)を観察するテクノロジーには今のところ限界があり、それらが実際にどのように動いているのかについて理論的計算でしか示せないが、その動きはブラウン運動とは異なる。ブラウン運動では気体分子が問題の粒子と何度も衝突することで頻繁に粒子の向きが変わる。この粒子は一般に原子数百万個から数十億個の大きさであるために衝突しやすく頻繁に向きを変えるのであって、気体分子そのものはそれほど頻繁に衝突しないと考えられる。
粒子間には引力と斥力が働いており、それが気体の力学に影響を及ぼす。物理化学ではこの力をファンデルワールス力と呼ぶ。この力は粘度や流量といった気体の物性を決定する重要な因子となる。ある条件下ではそれらの力を無視することで、実在気体を理想気体のように扱うことができる。そのような仮定の下では理想気体の状態方程式を使い、解に至る経路を大幅に単純化できる。
そういった気体の関係を正しく把握するには、気体分子運動論を再度考慮する必要がある。気体粒子が電荷や分子間力を持つとき、粒子同士の距離が近いほど互いに影響を及ぼしやすくなる(図のような水素結合もその一例である)。電荷がない場合、気体粒子間の距離が極めて近くなれば、粒子同士の衝突が避けられなくなる。気体粒子間の衝突が増大する別の場合として、体積が一定の気体を熱した場合があり、粒子の速度が高速になる。つまり理想気体の状態方程式は、圧縮によって極めて高圧になった状態や高温によってイオン化した状態では適切な結果を示せない。このとき除外された条件では、気体系内でのエネルギー伝達が発生することに注意が必要である。系内部におけるエネルギー伝達がないことは理想条件などと呼ばれ、その場合エネルギー伝達は系の境界でしか発生しない。実在気体は粒子間の衝突や分子間力を一部考慮する。粒子間の衝突が統計的に無視できる程度なら、理想気体の状態方程式の結果は妥当といえる。一方、気体を極限まで圧縮すると液体のように振る舞い、流体力学で扱うのが妥当となる。
気体の状態方程式は、気体の状態特性を大まかに表し予測するための数理モデルである。あらゆる気体のあらゆる条件下の振る舞いを正確に予測できる単一の状態方程式は今のところ存在しない。従って、特定の温度や圧力の範囲での気体のために多数の状態方程式が生み出されてきた。最もよく論じられている気体のモデルは「完全気体」、「理想気体」、「実在気体」である。これらのモデルは、与えられた熱力学系の分析を容易にするために、それぞれ固有の仮定群を有している。なお、完全気体よりも理想気体、理想気体よりも実在気体の方が対応可能な温度の範囲が広い。右の写真にあるライト兄弟の1903年の初飛行において、気体の状態方程式が設計に重要な役割を果たした。最近では、2009年に初飛行した太陽光発電飛行機ソーラー・インパルスや、商用機としては初めて複合材料を使ったボーイング787も設計に気体の状態方程式を活用している。
完全気体は、分子同士の距離が十分大きいため分子間力が無視でき、かつ分子同士の衝突は弾性的だと仮定したものである。完全気体の状態方程式では、記号 n はモルあたりの物質を構成する粒子数、すなわち物理量である。それ以外の記号は全て上述してきたものが使われる。この関係式は絶対温度と絶対圧力を使ったときのみ成り立つ。
気体定数 R は、単位が両者で異なる。化学の場合は n に対応した単位になっており、気体力学では密度 ρ に対応した単位になっている。
完全気体はさらに2種類に分類されるが、両者を区別しない教科書も多い。以下、その2つを簡単に説明する。
熱量的 (calorically) 完全気体は、温度の観点からは最も制限がきついモデルであり、比熱容量が一定という条件が加えられている(1000 K未満では多くの気体でほぼ成り立つ)。
ここで u は内部エネルギー、h はエンタルピー である。C は比熱容量であり、Cv は定積比熱、Cp は定圧比熱である。
温度の観点からは最も制限がきついが、制限内では十分正確な予測が可能である。軸流式圧縮機の挙動を Cp を可変として計算した場合と Cp を一定として計算した場合では、その差は非常に小さい。実際、軸流式圧縮機の動作では他の要因が支配的に働き、Cp が可変かどうかよりも最終的な計算結果に与える影響が大きい。それは例えば、圧縮機の先端の隙間の大きさ、境界層、磨耗による損失などである。
熱的 (thermally) 完全気体は、熱力学的平衡状態にあり、化学反応を起こしておらず(化学平衡)、次の式が成り立つと仮定したモデルである。
この式は比熱容量が温度によって変化したとしても成り立ちうる。さらにもう1つの条件として、内部エネルギー、エンタルピー、比熱容量は温度によってのみ変化する(温度の関数)と仮定する。
例えばタービンでは温度はそれほど急激に変動しないため、熱的完全気体モデルが十分活用可能である。比熱容量は変動するが温度に対応して変化するだけであり、分子同士の相互作用は考慮しない。
理想気体は完全気体を単純化したもので、圧縮率因子 Z が常に1であると仮定する。圧縮率因子を1と仮定することで理想気体の状態方程式が成り立つ。
この近似モデルは工学分野に適しているが、さらに大まかな解の範囲を知るためにもっと単純化したモデルを使うこともある。理想気体の近似モデルが有効な例として、ジェットエンジンの燃焼室の内部状態の計算がある。分子の解離や素反応による排出ガスの計算にも適用可能である。
実在気体は、以下のようなことを考慮することで気体の振る舞いをさらに広範囲にわたって説明するモデルである。
これらを考慮すると問題の解法が複雑化する。気体の密度が圧力に比例して大きくなると分子間力も気体の挙動に影響を与えるようになり、理想気体モデルでは妥当な結果が得られなくなる。内燃機関の温度の上限あたり(1300 K)では、複雑な燃料の分子が振動や回転の形で内部エネルギーを蓄え、その比熱容量は単純な二原子分子や希ガスのそれとは大きく異なる値になる。さらにその2倍の温度になると、電子の励起と気体粒子の解離が起きはじめ、粒子数が増えることで圧力にも影響が出る(気体からプラズマへの相転移)。最終的にあらゆる熱力学的過程は、ある確率分布に従った速度をもつ一様な気体として解釈される。非平衡状態を扱うということは、解を求められるような形で流れの場を扱うことを意味している。理想気体の法則を拡張しようとする最初の試みの1つは、状態方程式を pV = 定数 と変形し、n を比熱比 γ などに依存した変数としたことである。
多くの場合、実在気体モデルを使った分析は過大である。実在気体モデルが分析に役立った例としては、極めて高温高圧になるスペースシャトルの大気圏再突入や、1990年に噴火したリダウト山でのガス発生のシミュレーションなどがある。
ボイルの法則は気体の状態を表した最初の公式である。1662年、ロバート・ボイルは一端が閉じてあるJの字形の試験官を使った一連の実験を行った。一定量の空気を閉じてある短いほうの端に詰め、水銀で蓋をする。閉じ込めた気体の体積を注意深く計測し、さらに水銀を追加する。気体の圧力は水銀の両端の水位の差から計測できる。このような実験からボイルは「気体の体積は圧力と反比例する」と結論付けた。ボイルの実験装置の図には、ボイルが気体の研究に使った珍しい器具が描かれている。
1787年、フランスの物理学者で気球で知られるジャック・シャルルは、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、空気といった気体が80ケルビンの温度差で体積が等しく膨張することを発見した。
1802年、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックはより広範囲の実験を行って同様の結果を得、気体の体積と温度に正比例の関係があることを発表した。ゲイ=リュサックはシャルルの業績を引用し、その法則にシャルルの名を付けた。なお、その前年にジョン・ドルトンが分圧に関するドルトンの法則を発表している。
1811年、アメデオ・アボガドロは体積の等しい純粋な気体は同じ個数の粒子を含んでいることを発見した。その理論はしばらく受け入れられなかったが、1858年にイタリアの化学者スタニズラオ・カニッツァーロがアボガドロの理論を使って理想的でない例外状態を説明したことから受け入れられるようになっていった。アボガドロの法則の発見から約1世紀後、12グラムの C を構成する原子数 (6.022×10 mol) をアボガドロ定数と呼ぶようになった。この量の気体はある温度と圧力の下で22.40リットルの体積を占め、これをモル体積と呼ぶ。
1801年、ジョン・ドルトンは理想気体の分圧に関するドルトンの法則を発表した。すなわち、混合気体の圧力はそれを構成する個々の気体の圧力の総和だという法則である。n 種の気体があるとしたとき、この法則は次の式で表される。
右の図はドルトンが実験を記録する際に使った記号群を示している。ドルトンの論文には不活性の「弾性流体」(気体)の混合について次のような記述がある。
熱力学ではこの因子 (Z ) を使って理想気体の方程式を圧縮率を考慮した実在気体のそれに変換する。この因子は現実の比体積と理想気体の比体積の比で表される。「ファッジ係数」の一種ともされ、理想気体の法則を実際の設計などに応用できる範囲を広げる役目を持つ。通常(常温、常圧)、Z の値はほぼ1である。Z 線図は、極低温の範囲でのZ の変化を示したグラフである。
流体力学では、レイノルズ数は慣性力 (vsρ) と粘性力 (μ/L ) の比である。流体力学における重要な無次元数の1つであり、他の無次元数と組み合わせて使い、力学的類似性を決定する基準を提供する。そのため、設計の際の模型での結果と実物大の実際の条件との関係をレイノルズ数だけで表すことができる。また、流れの特性値としても使うことができる。
粘度は流れにくさを示す流体の物性の一つであり、せん断変形速度に依存する。液体はせん断力を加えられたとき常に流動するが、その速度に応じて抗力が生じる。気体は液体に比べて粘性が低く、粘性なしとして扱われることも少なくない。気体が全く粘度も持たないとすると翼の表面に固着することはなく、境界層は形成されない。デルタ翼の研究においてシュリーレン写真を使い、気体粒子が互いにくっつきあう現象があることが確認された。
流体力学において乱流とは、無秩序かつ確率的に変化する特性を持つ流れの状態である。乱流は運動量の拡散が小さく伝達量が大きく、流れの圧力や速度が時間や空間と共に急激に変化する。
気体粒子は気体中を移動する物体の表面にくっつく性質を持つ。そのような粒子の層を境界層と呼ぶ。物体表面に粒子がくっつくのは基本的には摩擦が原因である。すると、物体と境界層を合わせた部分が一緒に気体内を移動する形状を形成する。境界層を物体表面からはがすには、形状を変化させ流れの経路を完全に変えればよい。古典的例として、航空機の失速は境界層の剥離が原因である。右上のデルタ翼の写真では、右から左に気体が流れるのに伴って境界層が翼の先端に沿って厚くなっていく様子が見られる。
自由度が無限大に近づくにつれて、系は極めて多様性が高い「巨視的状態 (macrostate)」となる。例えば、冷凍した金属棒の表面の温度を観測し、サーモグラフィ映像で表面の温度分布を見てみればよい。ある時点の温度分布観測によって「微視的状態 (microstate)」が得られ、時間をおいて何度も温度分布を観測することで一連の微視的状態が得られる。この微視的状態の履歴から、それらを全て1つの分類に属する巨視的状態を選ぶことが可能である。
ある系でエネルギー伝達がなくなるとき、その状態を熱力学的平衡と呼ぶ。通常、この状態では系とその周辺は同じ温度となっていることを前提としており、熱の移動が起きない。さらに外部からの力も釣り合いがとれており(体積が変化しない)、系内の全ての化学反応も完了している。温度、外力、化学反応というこれらの条件がどういう順番で成立するかは系によって様々である。氷を入れた容器を室温の中に置くと氷が融けきるのに数時間かかるが、半導体においてデバイスにかかる電源をON/OFFすることで発生する熱伝達は数ナノ秒のオーダーで変化するかもしれない。
ガス (gas) という言葉はヤン・ファン・ヘルモントが考案したもので、"chaos"(カオス) のオランダ語読みを改めて文字にしたものと見られている。 | [
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"text": "気体(きたい、英: gas)とは、物質の状態のひとつであり、一定の形と体積を持たず、自由に流動し圧力の増減で体積が容易に変化する状態のこと。 「ガス体」とも言う。",
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"text": "気体というのは、物質の集合状態のひとつであり、圧縮やズレに対する抵抗が小さく、膨張に対してはまったく抵抗を示すことなく無限に体積を大きくしようとし、体積も形も一定でない状態をこう呼んでいる。 気体は、物質の三態のひとつである。",
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"text": "純粋な気体を構成する粒子は、原子の場合(ネオンなどの希ガス)、同一種類の原子から構成される元素分子の場合(酸素など)、複数種類の原子から成る化合物分子の場合(二酸化炭素など)がある。混合気体は複数の純粋な気体が混じりあったものである。空気もそれ(混合気体)にあたる。",
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"text": "液体や固体との大きな違いは、気体を構成する粒子間の距離が大きい点である。気体粒子の相互作用は電場や重力場のある状態では無視できる程度であり、右図のようにそれぞれの粒子が一定の速度ベクトルを持つ。",
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"text": "気相は液相とプラズマ相の中間にあり、プラズマへと転移する温度が気体の存在する上限温度となる。極低温で存在する量子縮退気体が近年注目を集めている。高密度の原子気体を極低温に冷却したものは、ボース気体またはフェルミ気体と呼ばれる統計的振る舞いを示す。詳しくはボース=アインシュタイン凝縮を参照。",
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"text": "気体は液体とともに流体であるが、分子の熱運動が分子間力を上回っており、液体の状態と比べ、原子または分子がより自由に動ける。通常では固体や液体より粒子間の距離がはるかに大きく、そのため密度は最も小さくなる。また、圧力や温度による体積の変化が激しい。構成粒子間でのやりとりが少ないので、熱の伝導は低い。",
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"text": "気体状態では、粒子は自由かつランダムに動く熱運動をしている。また、それを構成する粒子間の引力(分子間力)は働かない。さらにその粒子の大きさ、質量共に気体の体積に比べてはるかに小さい。このために気体の状態では物質の種類を問わずに共通の性質が表れやすい。たとえば同一温度、同一気圧の下では、気体の種類を問わず同一体積中に含まれる分子数は一定である。これをアボガドロの法則という。気体分子の大きさと質量を存在しないものとした仮想の気体のモデルを理想気体といい、気体の基本的性質を示すために扱われる。",
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"text": "臨界温度以下の気相のことを蒸気と呼ぶ。臨界温度以下で気体を圧縮していくと液体へ相転移(一次転移)する。また、ある臨界圧力以下の圧力が物質の飽和蒸気圧と等しくなる点が沸点である。",
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"text": "我々は空気中で生活しているため、化学の分野など、気体を成分に分けて扱おうとすると、周囲の空気と混じってしまいやすいため、特別な工夫を必要とする。",
"title": "気体の単離"
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"text": "流体なので形を定めることが出来ない。しかし、固体の容器に監禁することで利用する例もある。柔らかな素材に閉じこめれば、体積が弾性的に変形するので、衝撃吸収の可能な素材となる。また熱伝導度が低いため、断熱の効果もある。発泡スチロールでは多数の細かい泡のような形で気体を含んでおり、これらの性質を強く示す。",
"title": "気体の単離"
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"text": "ほとんどの気体は人間の知覚では観察が難しいため、圧力・体積・温度といった物理的性質と粒子数(物質量)といった性質で表す。これら4つの特性を様々な気体の様々な条件下で計測したのが、ロバート・ボイル、ジャック・シャルル、ジョン・ドルトン、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック、アメデオ・アヴォガドロといった人々である。彼らの研究によって最終的にそれらの特性間の数学的関係が明らかとなり、理想気体の状態方程式となって結実した。",
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"text": "気体粒子は互いに十分離れているため、液体や固体ほど隣接する粒子に影響を及ぼしあうことはない。そのような相互作用(分子間力)は気体粒子の持つ電荷に由来する。同じ電荷は反発しあい、逆の電荷は引き付け合う。イオンでできた気体には恒久的な電荷があり、化合物の気体には極性共有結合がある。極性共有結合の場合、化合物全体としては中性であっても、分子内に電荷の集中する部分が生じる。分子間の共有結合には一時的な電荷もあり、それをファンデルワールス力と呼ぶ。このような分子間力の相互作用はそれぞれの気体を構成する物質の物理特性によって異なる。例えば、イオン結合の化合物と共有結合の化合物の「沸点」を比べるとその違いが明らかとなる。右の写真のようにただよう煙は、低圧の気体がどのように振る舞っているかという洞察を与えてくれる。",
"title": "物理的性質"
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"text": "気体は他の状態の物質と比較すると、密度と粘度が極めて低い。気体の粒子の運動は圧力と温度に影響される。粒子間の距離と速度の変化は圧縮率で表される。その粒子の距離と速度は屈折率で表される気体の光学特性にも影響する。気体は容器全体に一様に分布するように拡散する。",
"title": "物理的性質"
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"text": "気体を観察する場合、基準となる範囲や長さを指定するのが一般的である。基準となる代表長さが気体粒子の平均自由行程より十分に大きい場合(クヌーセン数が十分に小さい場合)、気体は連続体とみなされ巨視的観点から把握される。その場合、体積の面でも十分な量の気体粒子を標本化できる大きさでなければならない。このような大きさで統計的分析を行うことで、その範囲内のあらゆる気体粒子の平均的動き(すなわち、速度、温度、圧力)を観測できる。対照的に微視的、つまり粒子単位の観察を行う方法もある。",
"title": "巨視的性質"
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"text": "巨視的観点で観測される気体の性質には、気体粒子そのものに由来するもの(速度、圧力、温度)とそれらの環境によるもの(体積)がある。例えばロバート・ボイルは一時期、気体化学を研究していた。彼は気体の圧力と体積の関係について巨視的観点で実験を行った。その実験でJの字形の試験管のようなマノメーターを使い、その管の一端に一定粒子数で一定温度の不活性気体を入れ、さらに水銀を入れて密封した。そして、水銀の量を増やして気体にかかる圧力を増すと気体の体積が小さくなることを見出し、数学的には反比例の関係にあることを発見した。つまり、体積と圧力の積が常に一定になることをつきとめた。ボイルは様々な気体でこれが成り立つことを確かめ、ボイルの法則 (PV = 定数) が生まれた。",
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"text": "気体物性の分析に使用する様々な数学的ツールがある。理想流体についてはオイラー方程式があるが、極限条件の気体では数学的ツールもやや複雑化し、粘性の効果を完全に考慮したナビエ-ストークス方程式などが使われる。このような方程式は対象とする気体の特定の条件を満たすよう理想化されている。ボイルの実験装置は代数学を使って分析結果を得ることを可能にした。ボイルが結果を得られたのは、彼が扱っていた気体が比較的低圧で「理想」的な振る舞いをする状況だったからである。そういった理想的関係は、一般的な条件の計算には十分である。今日の最先端テクノロジーにおいては、気体が「理想」的な振る舞いをしない条件下での実験を可能とする各種装置も設計されている。統計学や多変量解析といった数学が、宇宙船の大気圏再突入のような複雑な状況の解を求めることを可能にしている。例えば、図にあるようにスペースシャトルの大気圏再突入の際の負荷が材料や構造の限界を超えていないことを確認する分析などがある。そのような状況では、気体は理想的には振る舞わない。",
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"text": "圧力を表す記号は \"p \" または \"P \" を使い、SI単位はパスカル (Pa=N/m) である。",
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"text": "気体が何らかの容器に入っているとき、気体の圧力は気体が容器表面に及ぼす単位面積当たりの平均的な力に等しい。その容積の中で気体粒子は直線的に運動していて、容器に衝突して力を及ぼしていると考えれば理解しやすい。その衝突の際に気体粒子から容器に与えられた力の分だけ粒子の運動量が変化する。古典力学では、運動量は質量と速度の積と定義されている。衝突に際して、粒子の速度の壁と垂直な成分だけが変化する。壁に平行な方向に進む粒子の運動量は変化しない。したがって、粒子の衝突によって容器表面にかかる力の平均は、気体粒子の衝突による線運動量の変化の平均に他ならない。より正確には、粒子が容器表面に衝突した際の力の垂直成分の合計を表面積で割った値が圧力となる。",
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"text": "温度を表す記号は \"T \" を使い、SI単位はケルビン (K)である。",
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"text": "気体粒子の速度は、その熱力学温度に比例する。右の動画は、風船内に捕らわれた気体粒子が極低温の窒素に触れることでその速度が遅くなり、風船が縮む様子を示している。任意の物理系の温度はその系(気体)を構成する粒子(原子、分子)の運動と関連している。統計力学では、温度とは粒子内に蓄えられた運動エネルギーの平均を示す測度である。このエネルギーを蓄える方法は、粒子自身の自由度(エネルギーモード)で表される。気体粒子が運動エネルギーを蓄えるのは、衝突によって直線運動、回転運動、振動といった運動エネルギーを得たときである(吸熱過程)。対照的に固体内の分子に熱を加えても振動モードでしかエネルギーを蓄えられず、直線運動や回転運動は結晶構造によって妨げられる。熱せられた気体粒子は粒子同士が一定の割合で衝突することで速度が広範囲に変化しうる。速度の範囲はマクスウェル分布で表される。なお、この分布を想定するということは、その系が熱力学的平衡付近の理想気体だと仮定していることを暗に示している。",
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"text": "比体積を表す記号は \"v \" を使い、SI単位はm/kg である。体積は記号 \"V \" で表され、SI単位はm である。",
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"text": "熱力学解析においては、示強属性と示量属性を扱うのが一般的である。気体の量に依存する属性(質量や体積)を示量属性、気体の量に依存しない属性を示強属性と呼ぶ。比体積は単位質量の気体が占める体積の比であり、あらゆる平衡系の気体にわたって同一であるため示強属性の例である。プロトアクチニウムの原子1000個がある温度と圧力で占める体積は、他の任意の原子1000個が同じ温度と圧力で占める体積と同じである。気体に比べて圧縮性のない固体の鉄を思い浮かべればわかりやすい。右の写真にあるような射出座席はロケットで推進するが、ロケットは質量を保持しつつ膨張するガスを噴射しており、この際に比体積が増加する。気体はそれを取り囲むどのような容器であっても全体を満たす性質があり、体積は示量属性である。",
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"text": "密度は記号 \"ρ\"(ロー)で表され、SI単位はkg/m である。これは、比体積の逆数である。",
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"text": "気体粒子は容器内を自由に動けるため、その質量は一般に密度によって特徴付けられる。密度は質量を体積で割った値である。気体の圧力または体積の一方を一定としたとき、密度は広範囲にわたって変化する。この密度の変化の度合いを圧縮率と呼ぶ。圧力や温度と同様、密度は気体の状態変数の1つであり、任意の過程における密度の変化は熱力学の法則に従う。静止気体においては、密度は容器全体で均一である。つまり密度はスカラー量であり、大きさはあるが方向のない単純な物理量である。気体分子運動論によれば、気体の質量が一定のとき密度は容器の大きさすなわち体積に反比例する。すなわち、質量が一定であれば密度の減少とともに体積が増大する。",
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"text": "粒子間には引力と斥力が働いており、それが気体の力学に影響を及ぼす。物理化学ではこの力をファンデルワールス力と呼ぶ。この力は粘度や流量といった気体の物性を決定する重要な因子となる。ある条件下ではそれらの力を無視することで、実在気体を理想気体のように扱うことができる。そのような仮定の下では理想気体の状態方程式を使い、解に至る経路を大幅に単純化できる。",
"title": "微視的性質"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "そういった気体の関係を正しく把握するには、気体分子運動論を再度考慮する必要がある。気体粒子が電荷や分子間力を持つとき、粒子同士の距離が近いほど互いに影響を及ぼしやすくなる(図のような水素結合もその一例である)。電荷がない場合、気体粒子間の距離が極めて近くなれば、粒子同士の衝突が避けられなくなる。気体粒子間の衝突が増大する別の場合として、体積が一定の気体を熱した場合があり、粒子の速度が高速になる。つまり理想気体の状態方程式は、圧縮によって極めて高圧になった状態や高温によってイオン化した状態では適切な結果を示せない。このとき除外された条件では、気体系内でのエネルギー伝達が発生することに注意が必要である。系内部におけるエネルギー伝達がないことは理想条件などと呼ばれ、その場合エネルギー伝達は系の境界でしか発生しない。実在気体は粒子間の衝突や分子間力を一部考慮する。粒子間の衝突が統計的に無視できる程度なら、理想気体の状態方程式の結果は妥当といえる。一方、気体を極限まで圧縮すると液体のように振る舞い、流体力学で扱うのが妥当となる。",
"title": "微視的性質"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "気体の状態方程式は、気体の状態特性を大まかに表し予測するための数理モデルである。あらゆる気体のあらゆる条件下の振る舞いを正確に予測できる単一の状態方程式は今のところ存在しない。従って、特定の温度や圧力の範囲での気体のために多数の状態方程式が生み出されてきた。最もよく論じられている気体のモデルは「完全気体」、「理想気体」、「実在気体」である。これらのモデルは、与えられた熱力学系の分析を容易にするために、それぞれ固有の仮定群を有している。なお、完全気体よりも理想気体、理想気体よりも実在気体の方が対応可能な温度の範囲が広い。右の写真にあるライト兄弟の1903年の初飛行において、気体の状態方程式が設計に重要な役割を果たした。最近では、2009年に初飛行した太陽光発電飛行機ソーラー・インパルスや、商用機としては初めて複合材料を使ったボーイング787も設計に気体の状態方程式を活用している。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "完全気体は、分子同士の距離が十分大きいため分子間力が無視でき、かつ分子同士の衝突は弾性的だと仮定したものである。完全気体の状態方程式では、記号 n はモルあたりの物質を構成する粒子数、すなわち物理量である。それ以外の記号は全て上述してきたものが使われる。この関係式は絶対温度と絶対圧力を使ったときのみ成り立つ。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "気体定数 R は、単位が両者で異なる。化学の場合は n に対応した単位になっており、気体力学では密度 ρ に対応した単位になっている。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "完全気体はさらに2種類に分類されるが、両者を区別しない教科書も多い。以下、その2つを簡単に説明する。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "熱量的 (calorically) 完全気体は、温度の観点からは最も制限がきついモデルであり、比熱容量が一定という条件が加えられている(1000 K未満では多くの気体でほぼ成り立つ)。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "ここで u は内部エネルギー、h はエンタルピー である。C は比熱容量であり、Cv は定積比熱、Cp は定圧比熱である。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "温度の観点からは最も制限がきついが、制限内では十分正確な予測が可能である。軸流式圧縮機の挙動を Cp を可変として計算した場合と Cp を一定として計算した場合では、その差は非常に小さい。実際、軸流式圧縮機の動作では他の要因が支配的に働き、Cp が可変かどうかよりも最終的な計算結果に与える影響が大きい。それは例えば、圧縮機の先端の隙間の大きさ、境界層、磨耗による損失などである。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "熱的 (thermally) 完全気体は、熱力学的平衡状態にあり、化学反応を起こしておらず(化学平衡)、次の式が成り立つと仮定したモデルである。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "この式は比熱容量が温度によって変化したとしても成り立ちうる。さらにもう1つの条件として、内部エネルギー、エンタルピー、比熱容量は温度によってのみ変化する(温度の関数)と仮定する。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "例えばタービンでは温度はそれほど急激に変動しないため、熱的完全気体モデルが十分活用可能である。比熱容量は変動するが温度に対応して変化するだけであり、分子同士の相互作用は考慮しない。",
"title": "単純化モデル"
},
{
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"tag": "p",
"text": "理想気体は完全気体を単純化したもので、圧縮率因子 Z が常に1であると仮定する。圧縮率因子を1と仮定することで理想気体の状態方程式が成り立つ。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "この近似モデルは工学分野に適しているが、さらに大まかな解の範囲を知るためにもっと単純化したモデルを使うこともある。理想気体の近似モデルが有効な例として、ジェットエンジンの燃焼室の内部状態の計算がある。分子の解離や素反応による排出ガスの計算にも適用可能である。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "実在気体は、以下のようなことを考慮することで気体の振る舞いをさらに広範囲にわたって説明するモデルである。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "これらを考慮すると問題の解法が複雑化する。気体の密度が圧力に比例して大きくなると分子間力も気体の挙動に影響を与えるようになり、理想気体モデルでは妥当な結果が得られなくなる。内燃機関の温度の上限あたり(1300 K)では、複雑な燃料の分子が振動や回転の形で内部エネルギーを蓄え、その比熱容量は単純な二原子分子や希ガスのそれとは大きく異なる値になる。さらにその2倍の温度になると、電子の励起と気体粒子の解離が起きはじめ、粒子数が増えることで圧力にも影響が出る(気体からプラズマへの相転移)。最終的にあらゆる熱力学的過程は、ある確率分布に従った速度をもつ一様な気体として解釈される。非平衡状態を扱うということは、解を求められるような形で流れの場を扱うことを意味している。理想気体の法則を拡張しようとする最初の試みの1つは、状態方程式を pV = 定数 と変形し、n を比熱比 γ などに依存した変数としたことである。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "多くの場合、実在気体モデルを使った分析は過大である。実在気体モデルが分析に役立った例としては、極めて高温高圧になるスペースシャトルの大気圏再突入や、1990年に噴火したリダウト山でのガス発生のシミュレーションなどがある。",
"title": "単純化モデル"
},
{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "ボイルの法則は気体の状態を表した最初の公式である。1662年、ロバート・ボイルは一端が閉じてあるJの字形の試験官を使った一連の実験を行った。一定量の空気を閉じてある短いほうの端に詰め、水銀で蓋をする。閉じ込めた気体の体積を注意深く計測し、さらに水銀を追加する。気体の圧力は水銀の両端の水位の差から計測できる。このような実験からボイルは「気体の体積は圧力と反比例する」と結論付けた。ボイルの実験装置の図には、ボイルが気体の研究に使った珍しい器具が描かれている。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "1787年、フランスの物理学者で気球で知られるジャック・シャルルは、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、空気といった気体が80ケルビンの温度差で体積が等しく膨張することを発見した。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "1802年、ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックはより広範囲の実験を行って同様の結果を得、気体の体積と温度に正比例の関係があることを発表した。ゲイ=リュサックはシャルルの業績を引用し、その法則にシャルルの名を付けた。なお、その前年にジョン・ドルトンが分圧に関するドルトンの法則を発表している。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "1811年、アメデオ・アボガドロは体積の等しい純粋な気体は同じ個数の粒子を含んでいることを発見した。その理論はしばらく受け入れられなかったが、1858年にイタリアの化学者スタニズラオ・カニッツァーロがアボガドロの理論を使って理想的でない例外状態を説明したことから受け入れられるようになっていった。アボガドロの法則の発見から約1世紀後、12グラムの C を構成する原子数 (6.022×10 mol) をアボガドロ定数と呼ぶようになった。この量の気体はある温度と圧力の下で22.40リットルの体積を占め、これをモル体積と呼ぶ。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "1801年、ジョン・ドルトンは理想気体の分圧に関するドルトンの法則を発表した。すなわち、混合気体の圧力はそれを構成する個々の気体の圧力の総和だという法則である。n 種の気体があるとしたとき、この法則は次の式で表される。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "右の図はドルトンが実験を記録する際に使った記号群を示している。ドルトンの論文には不活性の「弾性流体」(気体)の混合について次のような記述がある。",
"title": "気体の法則"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "熱力学ではこの因子 (Z ) を使って理想気体の方程式を圧縮率を考慮した実在気体のそれに変換する。この因子は現実の比体積と理想気体の比体積の比で表される。「ファッジ係数」の一種ともされ、理想気体の法則を実際の設計などに応用できる範囲を広げる役目を持つ。通常(常温、常圧)、Z の値はほぼ1である。Z 線図は、極低温の範囲でのZ の変化を示したグラフである。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "流体力学では、レイノルズ数は慣性力 (vsρ) と粘性力 (μ/L ) の比である。流体力学における重要な無次元数の1つであり、他の無次元数と組み合わせて使い、力学的類似性を決定する基準を提供する。そのため、設計の際の模型での結果と実物大の実際の条件との関係をレイノルズ数だけで表すことができる。また、流れの特性値としても使うことができる。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "粘度は流れにくさを示す流体の物性の一つであり、せん断変形速度に依存する。液体はせん断力を加えられたとき常に流動するが、その速度に応じて抗力が生じる。気体は液体に比べて粘性が低く、粘性なしとして扱われることも少なくない。気体が全く粘度も持たないとすると翼の表面に固着することはなく、境界層は形成されない。デルタ翼の研究においてシュリーレン写真を使い、気体粒子が互いにくっつきあう現象があることが確認された。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "流体力学において乱流とは、無秩序かつ確率的に変化する特性を持つ流れの状態である。乱流は運動量の拡散が小さく伝達量が大きく、流れの圧力や速度が時間や空間と共に急激に変化する。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "気体粒子は気体中を移動する物体の表面にくっつく性質を持つ。そのような粒子の層を境界層と呼ぶ。物体表面に粒子がくっつくのは基本的には摩擦が原因である。すると、物体と境界層を合わせた部分が一緒に気体内を移動する形状を形成する。境界層を物体表面からはがすには、形状を変化させ流れの経路を完全に変えればよい。古典的例として、航空機の失速は境界層の剥離が原因である。右上のデルタ翼の写真では、右から左に気体が流れるのに伴って境界層が翼の先端に沿って厚くなっていく様子が見られる。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "自由度が無限大に近づくにつれて、系は極めて多様性が高い「巨視的状態 (macrostate)」となる。例えば、冷凍した金属棒の表面の温度を観測し、サーモグラフィ映像で表面の温度分布を見てみればよい。ある時点の温度分布観測によって「微視的状態 (microstate)」が得られ、時間をおいて何度も温度分布を観測することで一連の微視的状態が得られる。この微視的状態の履歴から、それらを全て1つの分類に属する巨視的状態を選ぶことが可能である。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "ある系でエネルギー伝達がなくなるとき、その状態を熱力学的平衡と呼ぶ。通常、この状態では系とその周辺は同じ温度となっていることを前提としており、熱の移動が起きない。さらに外部からの力も釣り合いがとれており(体積が変化しない)、系内の全ての化学反応も完了している。温度、外力、化学反応というこれらの条件がどういう順番で成立するかは系によって様々である。氷を入れた容器を室温の中に置くと氷が融けきるのに数時間かかるが、半導体においてデバイスにかかる電源をON/OFFすることで発生する熱伝達は数ナノ秒のオーダーで変化するかもしれない。",
"title": "その他"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "ガス (gas) という言葉はヤン・ファン・ヘルモントが考案したもので、\"chaos\"(カオス) のオランダ語読みを改めて文字にしたものと見られている。",
"title": "語源"
}
] | 気体とは、物質の状態のひとつであり、一定の形と体積を持たず、自由に流動し圧力の増減で体積が容易に変化する状態のこと。
「ガス体」とも言う。 | '''気体'''(きたい、{{lang-en-short|gas}})とは、[[物質の状態]]のひとつであり<ref name="kojien6">岩波書店『広辞苑』 第6版 「気体」</ref>、一定の[[形]]と[[体積]]を持たず、自由に流動し[[圧力]]の増減で[[体積]]が容易に変化する状態のこと<ref name="kojien6" />。
「ガス体」とも言う<ref name="kojien6" />。
== 概要 ==
気体というのは、[[物質]]の集合状態のひとつであり<ref name="britani">ブリタニカ百科事典 【気体】</ref>、圧縮やズレに対する抵抗が小さく、膨張に対してはまったく抵抗を示すことなく無限に体積を大きくしようとし、体積も形も一定でない状態をこう呼んでいる<ref name="britani" />。
気体は、[[物質の状態|物質の三態]]のひとつである<ref>{{Harvnb|McPherson|Henderson|1917|pp=104–10}}</ref>。<!--{{要出典範囲|気相状態のものを指す。|date=2014年2月}}-->
<!--{{要出典範囲|物質は[[絶対零度]]付近では[[固体]]として存在するが、そこに熱を加えると[[融点]]で融解([[相転移]])して[[液体]]となり、[[沸点]]で気体となる。さらに熱を十分加えると[[プラズマ]]となり、気体内の[[電子]]が高エネルギー状態となって原子から離れた状態になる。|date=2014年2月}}-->純粋な気体を構成する粒子は、原子の場合([[ネオン]]などの[[第18族元素|希ガス]])、同一種類の原子から構成される[[元素]]分子の場合([[酸素]]など)、複数種類の原子から成る[[化合物]]分子の場合([[二酸化炭素]]など)がある{{要出典|date=2014年2月}}。[[混合気体]]は複数の純粋な気体が混じりあったものである。[[地球の大気|空気]]もそれ([[混合気体]])にあたる。
液体や固体との大きな違いは、気体を構成する粒子間の距離が大きい点である。<!--従って{{要出典範囲|気体は非常に希薄であり|date=2014年2月}}、{{要出典範囲|色のない気体は人間の目には見えない|date=2014年2月}}。-->気体粒子の相互作用は[[電場]]や[[重力場]]のある状態では無視できる程度であり、右図のようにそれぞれの[[粒子発見の年表|粒子]]が一定の[[速度]][[空間ベクトル|ベクトル]]を持つ。
[[気相]]は[[液相]]と[[プラズマ相]]の中間にあり<ref>American Chemical Society, Faraday Society, Chemical Society (Great Britain)'s ''The Journal of physical chemistry, Volume 11'' (Cornell – 1907), page 137.</ref>、プラズマへと転移する温度が気体の存在する上限温度となる。極低温で存在する[[量子縮退気体]]<ref>{{cite journal|journal=Physics|title=84Sr—just right for forming a Bose-Einstein condensate|author=Tanya Zelevinsky|url= http://physics.aps.org/articles/v2/94|volume= 2|page=94|year=2009}}</ref>が近年注目を集めている<ref>[http://www.sciencedaily.com/releases/2009/11/091104140812.htm Quantum Gas Microscope Offers Glimpse Of Quirky Ultracold Atoms] ScienceDaily 4 November 2009 - [[ボース=アインシュタイン凝縮]]についてのリンクを提供</ref>。高密度の原子気体を極低温に冷却したものは、[[ボース気体]]または[[フェルミ気体]]と呼ばれる統計的振る舞いを示す。詳しくは[[ボース=アインシュタイン凝縮]]を参照。
[[ファイル:Gas particle movement.svg|right|thumb|気相の粒子([[原子]]、[[分子]]、[[イオン]])は、[[電場]]などがない限り自由に運動する。]]
気体は[[液体]]とともに[[流体]]であるが、分子の熱運動が分子間力を上回っており、液体の状態と比べ、[[原子]]または[[分子]]がより自由に動ける。通常では[[固体]]や液体より粒子間の距離がはるかに大きく、そのため密度は最も小さくなる。また、圧力や温度による体積の変化が激しい。構成粒子間でのやりとりが少ないので、熱の伝導は低い。
気体状態では、粒子は自由かつ[[ランダム]]に動く[[熱運動]]をしている。また、それを構成する粒子間の引力([[分子間力]])は働かない。さらにその粒子の大きさ、質量共に気体の体積に比べてはるかに小さい。このために気体の状態では物質の種類を問わずに共通の性質が表れやすい。たとえば同一温度、同一気圧の下では、気体の種類を問わず同一体積中に含まれる分子数は一定である。これを[[アボガドロの法則]]という。気体分子の大きさと質量を存在しないものとした仮想の気体の[[モデル (自然科学)|モデル]]を[[理想気体]]といい、気体の基本的性質を示すために扱われる。
[[臨界点|臨界温度]]以下の気相のことを[[蒸気]]と呼ぶ。臨界温度以下で気体を圧縮していくと液体へ[[相転移]](一次転移)する。また、ある臨界圧力以下の[[圧力]]が物質の飽和蒸気圧と等しくなる点が[[沸点]]である。
== 気体の単離 ==
我々は[[空気]]中で生活しているため、化学の分野など、気体を成分に分けて扱おうとすると、周囲の空気と混じってしまいやすいため、特別な工夫を必要とする。
*'''[[水溶性]]で空気より軽い場合は、[[上方置換]]で集める。'''例: [[アンモニア]]
*'''[[水溶性]]で空気より重い場合は、[[下方置換]]で集める。'''例: [[二酸化硫黄]]、[[塩化水素]]、[[塩素]]、[[二酸化窒素]]
*'''[[非水溶性]]の場合は、[[水上置換]]で集める。 '''例: [[一酸化窒素]]、[[窒素]]、[[酸素]]、[[水素]]
=== 利用 ===
流体なので形を定めることが出来ない。しかし、固体の容器に監禁することで利用する例もある。柔らかな素材に閉じこめれば、体積が[[弾性]]的に変形するので、衝撃吸収の可能な素材となる。また熱伝導度が低いため、[[断熱]]の効果もある。[[発泡スチロール]]では多数の細かい泡のような形で気体を含んでおり、これらの性質を強く示す。
== 物理的性質 ==
[[ファイル:Purplesmoke.jpg|right|thumb|border|text-bottom|upright=1.1|[[煙]]が漂う様子から、周囲の気体の動きがある程度わかる。]]
ほとんどの気体は人間の知覚では観察が難しいため、[[圧力]]・体積・[[温度]]といった[[物性|物理的性質]]と粒子数([[物質量]])といった性質で表す。これら4つの特性を様々な気体の様々な条件下で計測したのが、[[ロバート・ボイル]]、[[ジャック・シャルル]]、[[ジョン・ドルトン]]、[[ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック]]、[[アメデオ・アヴォガドロ]]といった人々である。彼らの研究によって最終的にそれらの特性間の数学的関係が明らかとなり、[[理想気体の状態方程式]]となって結実した。
気体粒子は互いに十分離れているため、液体や固体ほど隣接する粒子に影響を及ぼしあうことはない。そのような相互作用([[分子間力]])は気体粒子の持つ[[電荷]]に由来する。同じ電荷は反発しあい、逆の電荷は引き付け合う。[[イオン]]でできた気体には恒久的な電荷があり、化合物の気体には[[極性分子|極性]]共有結合がある。極性共有結合の場合、化合物全体としては中性であっても、分子内に電荷の集中する部分が生じる。分子間の[[共有結合]]には一時的な電荷もあり、それを[[ファンデルワールス力]]と呼ぶ。このような分子間力の相互作用はそれぞれの気体を構成する物質の物理特性によって異なる{{efn|このような物理特性の例外として、[[マイケル・ファラデー]]は1833年、氷に電気伝導性がないことを発見した。詳しくは、John Tyndall's ''Faraday as a Discoverer'' (1868), p.45}}<ref>''The Journal of physical chemistry, Volume 11'' (Cornell – 1907) pp. 164–5.</ref>。例えば、イオン結合の化合物と共有結合の化合物の「[[沸点]]」を比べるとその違いが明らかとなる<ref>{{cite book|author=John S. Hutchinson|url= http://cnx.org/content/col10264/latest/|title=Concept Development Studies in Chemistry|year=2008|page=67}}</ref>。右の写真のようにただよう煙は、低圧の気体がどのように振る舞っているかという洞察を与えてくれる。
気体は他の状態の物質と比較すると、[[密度]]と[[粘度]]が極めて低い。気体の[[粒子]]の運動は[[圧力]]と[[温度]]に影響される。粒子間の距離と速度の変化は[[圧縮率]]で表される。その粒子の距離と速度は[[屈折率]]で表される気体の光学特性にも影響する。気体は容器全体に一様に分布するように[[拡散]]する。
== 巨視的性質 ==
[[ファイル:CFD Shuttle.jpg|thumb|right|スペースシャトルの大気圏突入のシミュレーション画像]]
気体を観察する場合、基準となる範囲や長さを指定するのが一般的である。基準となる代表長さが気体粒子の[[平均自由行程]]より十分に大きい場合([[クヌーセン数]]が十分に小さい場合)、気体は連続体とみなされ[[巨視的]]観点から把握される。その場合、体積の面でも十分な量の気体粒子を標本化できる大きさでなければならない。このような大きさで統計的分析を行うことで、その範囲内のあらゆる気体粒子の'''平均的'''動き(すなわち、速度、温度、圧力)を観測できる。対照的に[[微視的]]、つまり粒子単位の観察を行う方法もある。
巨視的観点で観測される気体の性質には、気体粒子そのものに由来するもの(速度、圧力、温度)とそれらの環境によるもの(体積)がある。例えば[[ロバート・ボイル]]は一時期、[[気体化学]]を研究していた。彼は気体の圧力と体積の関係について巨視的観点で実験を行った。その実験でJの字形の[[試験管]]のような[[圧力測定#液柱|マノメーター]]を使い、その管の一端に一定粒子数で一定温度の不活性気体を入れ、さらに[[水銀]]を入れて密封した。そして、水銀の量を増やして気体にかかる圧力を増すと気体の体積が小さくなることを見出し、数学的には[[反比例]]の関係にあることを発見した。つまり、体積と圧力の積が常に一定になることをつきとめた。ボイルは様々な気体でこれが成り立つことを確かめ、[[ボイルの法則]] (''PV'' = 定数) が生まれた。
気体物性の分析に使用する様々な数学的ツールがある。[[理想流体]]については[[オイラー方程式 (流体力学)|オイラー方程式]]があるが、極限条件の気体では数学的ツールもやや複雑化し、粘性の効果を完全に考慮した[[ナビエ-ストークス方程式]]などが使われる<ref>{{Harvnb|Anderson|1984|p=501}}</ref>。このような方程式は対象とする気体の特定の条件を満たすよう理想化されている。ボイルの実験装置は[[代数学]]を使って分析結果を得ることを可能にした。ボイルが結果を得られたのは、彼が扱っていた気体が比較的低圧で「理想」的な振る舞いをする状況だったからである。そういった理想的関係は、一般的な条件の計算には十分である。今日の最先端テクノロジーにおいては、気体が「理想」的な振る舞いをしない条件下での実験を可能とする各種装置も設計されている。[[統計学]]や[[多変量解析]]といった数学が、宇宙船の大気圏再突入のような複雑な状況の解を求めることを可能にしている。例えば、図にあるように[[スペースシャトル]]の大気圏再突入の際の負荷が材料や構造の限界を超えていないことを確認する分析などがある。そのような状況では、気体は理想的には振る舞わない。
=== 圧力 ===
{{Main|圧力}}
圧力を表す記号は '''"''p'' "''' または '''"''P'' "''' を使い、SI単位は[[パスカル (単位)|パスカル]] (Pa=N/m<sup>2</sup>) である。
気体が何らかの容器に入っているとき、気体の[[圧力]]は気体が容器表面に及ぼす単位面積当たりの平均的な力に等しい。その容積の中で気体粒子は直線的に運動していて、容器に衝突して力を及ぼしていると考えれば理解しやすい。その衝突の際に気体粒子から容器に与えられた力の分だけ粒子の[[運動量]]が変化する。[[古典力学]]では、運動量は質量と速度の積と定義されている<ref>{{cite book|pages=319–20|author=J. Clerk Maxwell|title=Theory of Heat|year=1904|isbn=0486417352|publisher=Dover Publications|location=Mineola}}</ref>。衝突に際して、粒子の速度の壁と垂直な成分だけが変化する。壁に平行な方向に進む粒子の運動量は変化しない。したがって、粒子の衝突によって容器表面にかかる力の平均は、気体粒子の衝突による[[運動量|線運動量]]の変化の平均に他ならない。より正確には、粒子が容器表面に衝突した際の力の垂直成分の合計を表面積で割った値が圧力となる。
=== 温度 ===
[[ファイル:Nitrogen.ogv|thumb|液体窒素に触れると風船がしぼむ様子(動画)]]
{{Main|熱力学温度}}
温度を表す記号は '''"''T'' "''' を使い、SI単位は[[ケルビン]] (K)である。
気体粒子の速度は、その[[熱力学温度]]に比例する。右の動画は、風船内に捕らわれた気体粒子が極低温の窒素に触れることでその速度が遅くなり、風船が縮む様子を示している。任意の[[系 (自然科学)|物理系]]の温度はその系(気体)を構成する粒子(原子、分子)の運動と関連している<ref>See pages 137–8 of Society (Cornell – 1907).</ref>。[[統計力学]]では、温度とは粒子内に蓄えられた運動エネルギーの平均を示す測度である。このエネルギーを蓄える方法は、粒子自身の[[自由度]]([[エネルギー準位#分子|エネルギーモード]])で表される。気体粒子が運動エネルギーを蓄えるのは、衝突によって直線運動、回転運動、振動といった運動エネルギーを得たときである([[吸熱反応|吸熱]]過程)。対照的に固体内の分子に熱を加えても振動モードでしかエネルギーを蓄えられず、直線運動や回転運動は結晶構造によって妨げられる。熱せられた気体粒子は粒子同士が一定の割合で衝突することで速度が広範囲に変化しうる。速度の範囲は[[マクスウェル分布]]で表される。なお、この分布を想定するということは、その系が[[熱力学的平衡]]付近の[[理想気体]]だと仮定していることを暗に示している。
=== 比体積 ===
[[ファイル:Convair B-58 Ejection Capsule standard seat ejection on Aug. 7, 1957 061101-F-1234P-013.jpg|right|thumb|膨張ガスは比体積の変化に関係する。]]
{{main|比体積}}
比体積を表す記号は '''"''v'' "''' を使い、SI単位はm<sup>3</sup>/kg である。体積は記号 '''"''V'' "''' で表され、SI単位はm<sup>3</sup> である。
[[熱力学]]解析においては、[[示量性と示強性|示強属性と示量属性]]を扱うのが一般的である。気体の量に依存する属性(質量や体積)を示量属性、気体の量に依存しない属性を示強属性と呼ぶ。'''比体積'''は単位質量の気体が占める体積の比であり、あらゆる平衡系の気体にわたって同一であるため示強属性の例である<ref>{{cite book|page=12|author=Kenneth Wark|title=Thermodynamics|edition=3|publisher=McGraw-Hill|year=1977|isbn=0-07-068280-1}}</ref>。[[プロトアクチニウム]]の原子1000個がある温度と圧力で占める体積は、他の任意の原子1000個が同じ温度と圧力で占める体積と同じである。気体に比べて[[圧縮率|圧縮性]]のない固体の[[鉄]]を思い浮かべればわかりやすい。右の写真にあるような[[射出座席]]はロケットで推進するが、ロケットは質量を保持しつつ膨張するガスを噴射しており、この際に比体積が増加する。気体はそれを取り囲むどのような容器であっても全体を満たす性質があり、体積は示量属性である。
=== 密度 ===
{{Main|密度}}
密度は記号 '''"ρ"'''(ロー)で表され、SI単位はkg/m<sup>3</sup> である。これは、比体積の[[逆数]]である。
気体粒子は容器内を自由に動けるため、その質量は一般に'''密度'''によって特徴付けられる。密度は質量を体積で割った値である。気体の圧力または体積の一方を一定としたとき、密度は広範囲にわたって変化する。この密度の変化の度合いを[[圧縮率]]と呼ぶ。圧力や温度と同様、密度は気体の状態変数の1つであり、任意の過程における密度の変化は熱力学の法則に従う。[[流体静力学|静止気体]]においては、密度は容器全体で均一である。つまり密度は[[スカラー (物理学)|スカラー]]量であり、大きさはあるが方向のない単純な物理量である。[[気体分子運動論]]によれば、気体の質量が一定のとき密度は容器の大きさすなわち体積に反比例する。すなわち、質量が一定であれば密度の減少とともに体積が増大する。
== 微視的性質 ==
極めて高倍率の顕微鏡で気体を観察できるとすれば、様々な粒子(分子、原子、イオン、電子など)が決まった形や塊を形成せずに無作為に動いている様子が観察できるだろう。そういった中性の気体粒子が運動の向きを変えるのは、別の粒子と衝突したときか容器の壁と衝突したときだけである。そういった衝突が完全に弾性的だと仮定すると、その気体は理想気体だということになる。このような粒子レベルの[[微視的]]観点は[[気体分子運動論]]で扱われる。
=== 気体分子運動論 ===
{{Main|気体分子運動論}}
'''気体分子運動論'''は、気体の巨視的性質を分子構成と分子運動によって説明する。[[運動量]]と[[運動エネルギー]]の定義を出発点として<ref>{{Harv|McPherson|Henderson|1917|pp=60–61}}</ref>、[[運動量保存の法則]]と立方体の幾何学的関係を使い、系の巨視的性質である温度と圧力を分子ごとの運動エネルギーという微視的属性に対応付ける。この理論によって温度と圧力という2つの属性の平均値が得られる。
この理論はまた、気体系が変化に対してどう反応するかを説明している。例えば、理論上完全に静止した気体が絶対零度から熱せられるとき、その[[内部エネルギー]](温度)が増大する。気体を熱すると、その粒子が速度を増し、温度が上昇する。高温になると粒子速度が上がって単位時間あたりに容器内で発生する粒子の衝突が増える。単位時間あたりの容器表面での粒子衝突回数が増えると、それに比例して圧力も上昇する。
=== ブラウン運動 ===
{{Main|ブラウン運動}}
ブラウン運動は、流体内に浮遊する粒子の無作為運動を説明する数理モデルである。気体の拡散は気体分子運動論で説明することもできるし、[[素粒子物理学]]でも説明できる。
気体の個々の粒子(原子や分子)を観察するテクノロジーには今のところ限界があり、それらが実際にどのように動いているのかについて理論的計算でしか示せないが、その動きはブラウン運動とは異なる。ブラウン運動では気体分子が問題の粒子と何度も衝突することで頻繁に粒子の向きが変わる。この粒子は一般に原子数百万個から数十億個の大きさであるために衝突しやすく頻繁に向きを変えるのであって、気体分子そのものはそれほど頻繁に衝突しないと考えられる。
=== 分子間力 ===
[[ファイル:3D model hydrogen bonds in water.svg|left|thumb|border|text-top|upright=0.8|気体が圧縮されると、このような分子間力がより強く働くようになる。]]
{{Main|ファンデルワールス力|分子間力}}
粒子間には[[引力と斥力]]が働いており、それが気体の力学に影響を及ぼす。[[物理化学]]ではこの力を[[ファンデルワールス力]]と呼ぶ。この力は[[粘度]]や[[流量]]といった気体の[[物性]]を決定する重要な因子となる。ある条件下ではそれらの力を無視することで、[[実在気体]]を[[理想気体]]のように扱うことができる。そのような仮定の下では[[理想気体の状態方程式]]を使い、解に至る経路を大幅に単純化できる。
そういった気体の関係を正しく把握するには、[[気体分子運動論]]を再度考慮する必要がある。気体粒子が電荷や[[分子間力]]を持つとき、粒子同士の距離が近いほど互いに影響を及ぼしやすくなる(図のような水素結合もその一例である)。電荷がない場合、気体粒子間の距離が極めて近くなれば、粒子同士の衝突が避けられなくなる。気体粒子間の衝突が増大する別の場合として、体積が一定の気体を熱した場合があり、粒子の速度が高速になる。つまり理想気体の状態方程式は、圧縮によって極めて高圧になった状態や高温によってイオン化した状態では適切な結果を示せない。このとき除外された条件では、気体系内でのエネルギー伝達が発生することに注意が必要である。系内部におけるエネルギー伝達がないことは理想条件などと呼ばれ、その場合エネルギー伝達は系の境界でしか発生しない。実在気体は粒子間の衝突や分子間力を一部考慮する。粒子間の衝突が統計的に無視できる程度なら、理想気体の状態方程式の結果は妥当といえる。一方、気体を極限まで圧縮すると[[液体]]のように振る舞い、[[流体力学]]で扱うのが妥当となる。
== 単純化モデル ==
{{Main|状態方程式 (熱力学)|理想気体}}
気体の状態方程式は、気体の状態特性を大まかに表し予測するための[[数理モデル]]である。あらゆる気体のあらゆる条件下の振る舞いを正確に予測できる単一の状態方程式は今のところ存在しない。従って、特定の温度や圧力の範囲での気体のために多数の状態方程式が生み出されてきた。最もよく論じられている気体のモデルは「完全気体」、「理想気体」、「実在気体」である。これらのモデルは、与えられた熱力学系の分析を容易にするために、それぞれ固有の仮定群を有している<ref>{{Harvnb|Anderson|1984|pp=289–291}}</ref>。なお、完全気体よりも理想気体、理想気体よりも実在気体の方が対応可能な温度の範囲が広い。右の写真にある[[ライト兄弟]]の1903年の初飛行において、気体の状態方程式が設計に重要な役割を果たした。最近では、2009年に初飛行した太陽光発電飛行機[[ソーラー・インパルス]]や、商用機としては初めて[[複合材料]]を使った[[ボーイング787]]も設計に気体の状態方程式を活用している。
[[ファイル:Wrightflyer.jpg|right|thumb|border|text-bottom|upright=1.2|[[ライト兄弟]]の初飛行]]
=== 完全気体 ===
'''完全気体'''は、分子同士の距離が十分大きいため分子間力が無視でき、かつ分子同士の衝突は弾性的だと仮定したものである。完全気体の状態方程式では、記号 ''n'' は[[モル]]あたりの物質を構成する粒子数、すなわち[[物理量]]である。それ以外の記号は全て上述してきたものが使われる。この関係式は絶対温度と絶対圧力を使ったときのみ成り立つ。
* '''化学の場合''': ''PV ''= ''nRT''
* '''気体力学の場合''': ''P'' = ρ''RT''
[[気体定数]] ''R'' は、単位が両者で異なる。化学の場合は ''n'' に対応した単位になっており、気体力学では密度 ρ に対応した単位になっている。
完全気体はさらに2種類に分類されるが、両者を区別しない教科書も多い。以下、その2つを簡単に説明する。
==== 熱量的完全 ====
熱量的 (calorically) 完全気体は、温度の観点からは最も制限がきついモデルであり<ref>{{Harvnb|Anderson|1984|p=291}}</ref>、[[比熱容量]]が一定という条件が加えられている(1000 K未満では多くの気体でほぼ成り立つ)。
:''u'' = ''C<sub>v</sub>T'', ''h'' = ''C<sub>p</sub>T''
ここで ''u'' は[[内部エネルギー]]、''h'' は[[エンタルピー]] である。''C'' は[[比熱容量]]であり、''C<sub>v</sub>'' は定積比熱、''C<sub>p</sub>'' は定圧比熱である。
温度の観点からは最も制限がきついが、制限内では十分正確な予測が可能である。[[軸流式圧縮機]]の挙動を ''C<sub>p</sub>'' を可変として計算した場合と ''C<sub>p</sub>'' を一定として計算した場合では、その差は非常に小さい。実際、軸流式圧縮機の動作では他の要因が支配的に働き、''C<sub>p</sub>'' が可変かどうかよりも最終的な計算結果に与える影響が大きい。それは例えば、圧縮機の先端の隙間の大きさ、境界層、磨耗による損失などである。
==== 熱的完全 ====
熱的 (thermally) 完全気体は、[[熱力学的平衡]]状態にあり、[[化学反応]]を起こしておらず([[化学平衡]])、次の式が成り立つと仮定したモデルである。
: ''C<sub>p</sub>'' – ''C<sub>v</sub>'' = ''R''
この式は比熱容量が温度によって変化したとしても成り立ちうる。さらにもう1つの条件として、[[内部エネルギー]]、[[エンタルピー]]、[[比熱容量]]は温度によってのみ変化する(温度の関数)と仮定する。
: ''u'' = ''u'' (''T'' ), ''h'' = ''h'' (''T'' ), ''du'' = ''C<sub>v</sub>dT'', ''dh'' = ''C<sub>p</sub>dT''
例えば[[タービン]]では温度はそれほど急激に変動しないため、熱的完全気体モデルが十分活用可能である。比熱容量は変動するが温度に対応して変化するだけであり、分子同士の相互作用は考慮しない{{efn|このときの温度の上限は 1500 K とされている。詳しくは{{Harv|John|1984|p=256}}}}。
=== 理想気体 ===
{{Main|理想気体}}
理想気体は完全気体を単純化したもので、[[圧縮率因子]] ''Z'' が常に1であると仮定する。圧縮率因子を1と仮定することで[[理想気体の状態方程式]]が成り立つ。
この近似モデルは工学分野に適しているが、さらに大まかな解の範囲を知るためにもっと単純化したモデルを使うこともある。理想気体の近似モデルが有効な例として、[[ジェットエンジン]]の燃焼室の内部状態の計算がある<ref>{{Harvnb|John|1984|p=205}}</ref>。分子の[[解離 (化学)|解離]]や[[素反応]]による[[排出ガス]]の計算にも適用可能である。
=== 実在気体 ===
[[ファイル:MountRedoubtEruption.jpg|thumb|1990年4月21日、[[アラスカ州|アラスカ]]の[[リダウト山 (アラスカ州)|リダウト山]]の噴火。実在気体が熱力学的平衡にないことを示す例。]]
{{Main|実在気体}}
実在気体は、以下のようなことを考慮することで気体の振る舞いをさらに広範囲にわたって説明するモデルである。
* [[圧縮率因子]] ''Z'' は 1 以外の値に変化しうる。
* [[比熱容量]]は温度によって変化する。
* ファンデルワールス力
* 非平衡熱力学的効果
* 様々な構成の分子の[[解離 (化学)|解離]]や[[素反応]]を考慮する。
これらを考慮すると問題の解法が複雑化する。気体の密度が圧力に比例して大きくなると分子間力も気体の挙動に影響を与えるようになり、理想気体モデルでは妥当な結果が得られなくなる。[[内燃機関]]の温度の上限あたり(1300 K)では、複雑な燃料の分子が振動や回転の形で内部エネルギーを蓄え、その比熱容量は単純な二原子分子や希ガスのそれとは大きく異なる値になる。さらにその2倍の温度になると、電子の励起と気体粒子の解離が起きはじめ、粒子数が増えることで圧力にも影響が出る(気体から[[プラズマ]]への相転移)<ref>{{Harvnb|John|1984|pp=247–56}}</ref>。最終的にあらゆる熱力学的過程は、ある確率分布に従った速度をもつ一様な気体として解釈される。非平衡状態を扱うということは、解を求められるような形で流れの場を扱うことを意味している。理想気体の法則を拡張しようとする最初の試みの1つは、状態方程式を ''pV <sup>n</sup> = 定数'' と変形し、''n'' を[[比熱比]] γ などに依存した変数としたことである。
多くの場合、実在気体モデルを使った分析は過大である。実在気体モデルが分析に役立った例としては、極めて高温高圧になる[[スペースシャトル]]の[[大気圏再突入]]や、1990年に噴火したリダウト山でのガス発生のシミュレーションなどがある。
== 気体の法則 ==
<!--(各法則が下で整理されているのでコメントアウト。)
気体についての法則は、それが[[理想気体]]であるか[[実在気体]]であるかによって分けられる。
* 理想気体
# [[ボイルの法則]]
温度一定ではある量の気体の体積(V)が圧力(P)に反比例する。
: <math>V \propto \frac{1}{P}</math>
: PV = 一定
ある温度でVに対してPをプロットすると等温曲線として示された双曲線が現れる。ボイルの法則は体積が変化する際の気体の圧力の予測あるいは逆の場合に使用される。PもVも[[状態量]]であるから圧力と体積の初期値をp<sub>1</sub>およびv<sub>1</sub>、最終値をP<sub>2</sub>およびV<sub>2</sub>とすると
<math>P_1V_1 = P_2V_2</math>
これは気体の物質量と温度が一定の場合に成り立つ。
# [[シャルルの法則]](ゲイリュサックの法則)
一定圧力下では、ある量の気体の体積は温度に比例する。1℃上昇するごとに、0℃のときの体積の<math>{1}/over{273.15}</math>ずつ体積が増加する。0℃、t【℃】のときの体積をそれぞれ<math>V_0, V</math>とすると
: <math>V = V_0 + \frac{V_0}{273.15}t = V_0 \cdot \frac{273.15+t}{273.15}</math>
ある圧力では、温度-体積のプロットは直線を与える。上式を見てわかるように、この直線を体積0まで延長すると、-273.15度で温度軸と交わることがわかる。圧力を変えれば、体積ー温度プロットについて別の直線を得るが、どの直線も体積0の温度軸との交点は'''まったく同じ'''-273.15度になる<ref>現実的には、気体はすべて低温では凝縮して液体になるため、限定された温度範囲でしか気体の体積を測定することができない</ref>。
この現象の重要性ゆえに、-273.15度は'''絶対零度'''と名づけられ、絶対温度を開始点とする温度の目盛である絶対温度目盛が設定された<ref>1848年にスコットランドの数学者、物理学者William Thomson</ref>。現在ではケルビン温度目盛といわれ、単位をK(ケルビン)とされる。1Kは'''大きさとしては'''1℃に等しい。ケルビン温度目盛とセルシウス目盛の唯一の違いが0点位置が移動していることである。二つの目盛の関係は次式のとおりである。
: <math>\frac{T}{K} = t+273.15</math>
二つの目盛を関係付ける項として、273.15の代わりに273を使うことが多い。慣習的に、絶対(ケルビン)温度を記述する場合にはTを、セルシウス温度を指す場合にはtを用いる。
絶対零度の理論的重要性は[[絶対零度]]のページで詳述するが、気体の法則の問題や熱力学の計算においては必ずセルシウス温度ではなく絶対温度を用いることが決められている。
一定圧力下では、ある量の気体の体積は絶対温度に正比例する。
: <math>V \propto T</math>
: <math>\tfrac{V}{T} = {}</math>一定 *1
シャルルの法則を別の形で表すと、一定体積下のある量の気体の圧力と温度との間を関係付けることができる。
: <math>P \propto T</math>
: <math>\tfrac{P}{T} = {}</math>一定 *2
*1および*2によって、次式のように、状態1および状態2の気体の体積ー温度と圧力ー温度の値を関係付けることができる。
: n,P = 一定のとき、<math>\tfrac{V_1}{T_1} = \tfrac{V_2}{T_2}</math>
: n,v = 一定のとき、<math>\tfrac{P_1}{T_1} = \tfrac{P_2}{T_2}</math>
-->
=== ボイルの法則 ===
[[ファイル:Boyle air pump.jpg|right|thumb|border|text-top|upright=0.9|ボイルの実験装置]]
{{Main|ボイルの法則}}
[[ボイルの法則]]は気体の状態を表した最初の公式である。1662年、[[ロバート・ボイル]]は一端が閉じてあるJの字形の試験官を使った一連の実験を行った。一定量の空気を閉じてある短いほうの端に詰め、[[水銀]]で蓋をする。閉じ込めた気体の[[体積]]を注意深く計測し、さらに水銀を追加する。気体の圧力は[[水銀]]の両端の水位の差から計測できる。このような実験からボイルは「気体の体積は圧力と反比例する」と結論付けた<ref>{{Harvnb|McPherson|Henderson|1917|pp=52–55}}</ref>。ボイルの実験装置の図には、ボイルが気体の研究に使った珍しい器具が描かれている。
=== シャルルの法則 ===
{{Main|シャルルの法則}}
1787年、フランスの物理学者で気球で知られる[[ジャック・シャルル]]は、[[酸素]]、[[窒素]]、[[水素]]、[[二酸化炭素]]、[[空気]]といった気体が80ケルビンの温度差で体積が等しく膨張することを発見した。
1802年、[[ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック]]はより広範囲の実験を行って同様の結果を得、気体の体積と温度に正比例の関係があることを発表した。ゲイ=リュサックはシャルルの業績を引用し、その法則にシャルルの名を付けた<ref>{{Harvnb|McPherson|Henderson|1917|pp=55–60}}</ref>。なお、その前年に[[ジョン・ドルトン]]が[[分圧]]に関する[[ドルトンの法則]]を発表している。
=== アボガドロの法則 ===
{{Main|アボガドロの法則}}
1811年、[[アメデオ・アボガドロ]]は体積の等しい純粋な気体は同じ個数の粒子を含んでいることを発見した。その理論はしばらく受け入れられなかったが、1858年にイタリアの化学者[[スタニズラオ・カニッツァーロ]]がアボガドロの理論を使って理想的でない例外状態を説明したことから受け入れられるようになっていった。[[アボガドロの法則]]の発見から約1世紀後、12グラムの <sup>12</sup>C を構成する原子数 (6.022×10<sup>23</sup> mol<sup>−1</sup>) を[[アボガドロ定数]]と呼ぶようになった。この量の気体はある温度と圧力の下で22.40リットルの体積を占め、これを[[モル体積]]と呼ぶ。
=== ドルトンの法則 ===
[[ファイル:Daltons symbols.gif|thumb|border|text-top|[[ジョン・ドルトン|ドルトン]]の記法]]
{{Main|ドルトンの法則}}
1801年、[[ジョン・ドルトン]]は理想気体の[[分圧]]に関する[[ドルトンの法則]]を発表した。すなわち、混合気体の圧力はそれを構成する個々の気体の圧力の総和だという法則である。''n'' 種の気体があるとしたとき、この法則は次の式で表される。
:''P''<sub>total</sub> = ''P''<sub>1</sub> + ''P''<sub>2</sub> + ... + ''P<sub>n</sub>''
右の図はドルトンが実験を記録する際に使った記号群を示している。ドルトンの論文には不活性の「弾性流体」(気体)の混合について次のような記述がある<ref>{{cite book|pages=72, 77–78|author=John P. Millington|title=John Dalton|year=1906}}</ref>。
* 液体とは異なり、重い気体であっても混合の際に下に溜まるということがない。
* 気体の粒子の違いは最終的な圧力に対して全く影響しない(個々の粒子の大きさや質量は無視できるかのように振る舞う)。
== その他 ==
=== 圧縮率 ===
[[ファイル:Compressibility Factor of Air 75-200 K.png|right|thumb|空気の圧縮率因子]]
{{Main|圧縮率因子}}
熱力学ではこの因子 (''Z'' ) を使って理想気体の方程式を圧縮率を考慮した実在気体のそれに変換する。この因子は現実の比体積と理想気体の比体積の比で表される。「ファッジ係数」の一種ともされ、理想気体の法則を実際の設計などに応用できる範囲を広げる役目を持つ。通常(常温、常圧)、''Z'' の値はほぼ1である。''Z'' 線図は、極低温の範囲での''Z'' の変化を示したグラフである。
=== レイノルズ数 ===
{{Main|レイノルズ数}}
流体力学では、レイノルズ数は慣性力 (''v<sub>s</sub>''ρ) と粘性力 (μ/''L'' ) の比である。流体力学における重要な無次元数の1つであり、他の無次元数と組み合わせて使い、力学的類似性を決定する基準を提供する。そのため、設計の際の模型での結果と実物大の実際の条件との関係をレイノルズ数だけで表すことができる。また、流れの特性値としても使うことができる。
=== 粘度 ===
[[ファイル:Schlierenfoto Mach 17 Delta - NASA.jpg|thumb|風洞でのデルタ翼の実験。翼の先端で気体が圧縮されることで屈折率が変化するため、このような影の形になる。]]
{{Main|粘度}}
粘度は流れにくさを示す流体の物性の一つであり、せん断変形速度に依存する。液体はせん断力を加えられたとき常に流動するが、その速度に応じて抗力が生じる。気体は液体に比べて粘性が低く、粘性なしとして扱われることも少なくない。気体が全く粘度も持たないとすると翼の表面に固着することはなく、[[境界層]]は形成されない。[[デルタ翼]]の研究において[[シュリーレン現象|シュリーレン写真]]を使い、気体粒子が互いにくっつきあう現象があることが確認された。
=== 乱流 ===
{{Main|乱流}}
流体力学において'''乱流'''とは、無秩序かつ確率的に変化する特性を持つ流れの状態である。乱流は運動量の拡散が小さく伝達量が大きく、流れの圧力や速度が時間や空間と共に急激に変化する。
=== 境界層 ===
{{Main|境界層}}
気体粒子は気体中を移動する物体の表面にくっつく性質を持つ。そのような粒子の層を'''境界層'''と呼ぶ。物体表面に粒子がくっつくのは基本的には摩擦が原因である。すると、物体と境界層を合わせた部分が一緒に気体内を移動する形状を形成する。境界層を物体表面からはがすには、形状を変化させ流れの経路を完全に変えればよい。古典的例として、航空機の[[失速]]は境界層の剥離が原因である。右上のデルタ翼の写真では、右から左に気体が流れるのに伴って境界層が翼の先端に沿って厚くなっていく様子が見られる。
=== 最大エントロピー原理 ===
{{Main|最大エントロピー原理}}
自由度が無限大に近づくにつれて、系は極めて多様性が高い「巨視的状態 (macrostate)」となる。例えば、冷凍した金属棒の表面の温度を観測し、サーモグラフィ映像で表面の温度分布を見てみればよい。ある時点の温度分布観測によって「微視的状態 (microstate)」が得られ、時間をおいて何度も温度分布を観測することで一連の微視的状態が得られる。この微視的状態の履歴から、それらを全て1つの分類に属する巨視的状態を選ぶことが可能である。
=== 熱力学的平衡 ===
{{Main|熱力学的平衡}}
ある系でエネルギー伝達がなくなるとき、その状態を[[熱力学的平衡]]と呼ぶ。通常、この状態では系とその周辺は同じ温度となっていることを前提としており、[[熱]]の移動が起きない。さらに外部からの力も釣り合いがとれており(体積が変化しない)、系内の全ての化学反応も完了している。[[温度]]、[[外力]]、[[化学反応]]というこれらの条件がどういう順番で成立するかは系によって様々である。氷を入れた容器を室温の中に置くと氷が融けきるのに数時間かかるが、半導体においてデバイスにかかる電源をON/OFFすることで発生する熱伝達は数ナノ秒のオーダーで変化するかもしれない。
== 語源 ==
ガス (gas) という言葉は[[ヤン・ファン・ヘルモント]]が考案したもので、"chaos"([[カオス]]) の[[オランダ語]]読みを改めて文字にしたものと見られている<ref>[http://www.etymonline.com/index.php?term=Gas Online Etymology Dictionary]</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2}}
== 参考文献 ==
* {{Citation |last=Anderson |first=John D. |title=Fundamentals of Aerodynamics |year=1984 |isbn=0070016569 |publisher=McGraw-Hill Higher Education}}
* {{Citation |last=John |first=James |title= Gas Dynamics|year=1984|publisher=Allyn and Bacon|isbn=0-205-08014-6}}
* {{Citation |last=McPherson |first=William |last2=Henderson |first2=William |title=An Elementary study of chemistry|year=1917}}
* Philip Hill and Carl Peterson. ''Mechanics and Thermodynamics of Propulsion: Second Edition'' Addison-Wesley, 1992. ISBN 0-201-14659-2
== 関連項目 ==
{{Wiktionary|気体}}
* [[理想気体]] - [[実在気体]] - [[状態方程式 (熱力学)|状態方程式]] - [[プラズマ]]
* [[理想気体の状態方程式]] - [[ボイルの法則]] - [[シャルルの法則]](ゲイ・リュサックの法則) - [[ボイル=シャルルの法則]]
* [[相]] - [[蒸気]] - [[液体]] - [[固体]]
* [[相転移]] - [[融点]] - [[沸点]] - [[臨界点]] - [[昇華 (化学)|昇華]]
* [[気化熱]] - [[融解熱]]
* [[ヘンリー・キャヴェンディッシュ]] - [[アントワーヌ・ラヴォアジエ]] - [[ジョゼフ・プリーストリー]] - [[ウィリアム・ラムゼー]]
* [[炎色反応]] - [[電気分解]]
* [[アルゴン]] - [[二酸化炭素]] - [[塩素]] - [[窒素]] - [[酸素]]
* [[大気圏]] - [[対流圏]] - [[気象]] - [[風]] - [[雲]] - [[雷]]
* [[鞴]] - [[凧]] - [[パラシュート]] - [[セーリング]] - [[風車]] - [[空気調和設備]] - [[風力原動機]] - [[タービン]] - [[照明]] - [[調理]]
* [[呼吸]] - [[肺]]
* [[悪臭]]
* [[火山ガス]]
== 外部リンク ==
{{commonscat|Gases}}
* National Aeronautics and Space Administration (NASA). [http://www.grc.nasa.gov/WWW/K-12/airplane/Animation/frglab.html Animated Gas Lab]. Accessed February, 2008.
* Georgia State University. [http://hyperphysics.phy-astr.gsu.edu/hbase/hframe.html HyperPhysics]. Accessed February, 2008.
* Antony Lewis [http://www.wordwebonline.com/en/GASEOUSSTATE WordWeb]. Accessed February, 2008.
* Northwestern Michigan College {{Wayback|url=http://www.nmc.edu/~bberthelsen/c9n03.htm |title=The Gaseous State|date=20030501182406}}. Accessed February, 2008.
* {{Kotobank}}
{{物質の状態}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:きたい}}
[[Category:気体|*]]
[[Category:物質の相]]
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[[Category:統計力学]]
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[[Category:元素番号|元素番号]]
--> | 2003-04-29T13:34:02Z | 2023-08-09T06:51:30Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%97%E4%BD%93 |
7,486 | ものみの塔 | ものみの塔(ものみのとう、英語 :The Watchtower)は、エホバの証人によって月に1回発行されている機関誌である。
「ものみの塔」は新世界訳聖書のイザヤ21章8節に由来している。現在の正式名称は『エホバの王国を告げ知らせる ものみの塔 (The Watchtower Announcing Jehovah's Kingdom)』と言う。本誌の目的は、宇宙の至高の支配者であるエホバ神を賛美し、近い将来に地上に確立される世界政府(神の王国)を宣伝することである。創刊当初から常にイエス・キリストの贖いを支持し続けて来た。
奇数月発行の一般用はエホバの証人の手により、広く一般に配布されている。一方月1回発行の研究版は、集会と呼ばれる信者の集まりでの討議のテキストとして使われる。研究版は原則的に一般には配布されない。
この出版物はチャールズ・テイズ・ラッセルにより1879年に創刊された。正式名称は当初『シオンのものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (Zion's Watch Tower and Herald of Christ's Presence)』であった。1909年に『ものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (The Watch Tower and Herald of Christ's Presence)』に改名された。1939年10月には『ものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (The Watchtower and Herald of Christ's Presence)』に、1940年3月には『エホバの御国を知らせる ものみの塔』へと改名され、1970年代から現在まで正式名称は『エホバの王国を告げ知らせる ものみの塔』である。
『ものみの塔』誌は(2017年2月1日号によると)平均印刷部数が6,165万部で、297言語で発行されている。このうち130以上の言語で同時発行されている。
この雑誌の各1日号はエホバの証人が配布している。彼らは配布活動を公共の奉仕だと考えている。彼らは、通常家から家の奉仕でこの雑誌を提供するが、公共の場所で人々に近づいたり、医師、教育関係者、政治家、知人に非公式に近づいて配布したりすることもある。『ものみの塔』誌は、読み物としてバスターミナルやコインランドリー等の、公共の場所に置かれていることもある。しかし、ただポストに投函したり、公共の場所に大量に放置したりしないよう、ものみの塔協会から勧められている。
一般向け「ものみの塔」は、2015年まで毎月発行されていたが、2016年から隔月刊となっている。
更に2017年の年次総会で2018年より4カ月に1回発行(年に3回)と決定された。(協会からの2017/10/7付けの英語圏会衆の長老および巡回監督宛の手紙に記載)
日本語では大文字版、点字版、オンラインMP3版、オンラインPDF版が入手可能である。
『ものみの塔』誌は、姉妹誌の『目ざめよ!』と共に、現在は無償で配布されている。雑誌の発行にかかる費用は自発的な寄付金を主たる財源としている。
かつては2冊150円だったが、1990年から「わたしたちは,多くの人のように神の言葉を売り歩く者ではなく,誠実さから出た者,そうです,神から遣わされた者として,神の見ておられるところで,キリストと共に語っているのです」。(コリント第二2章17節、新世界訳聖書)という使徒パウロの言葉に基づき無料となった。 | [
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] | ものみの塔は、エホバの証人によって月に1回発行されている機関誌である。 「ものみの塔」は新世界訳聖書のイザヤ21章8節に由来している。現在の正式名称は『エホバの王国を告げ知らせる ものみの塔』と言う。本誌の目的は、宇宙の至高の支配者であるエホバ神を賛美し、近い将来に地上に確立される世界政府(神の王国)を宣伝することである。創刊当初から常にイエス・キリストの贖いを支持し続けて来た。 奇数月発行の一般用はエホバの証人の手により、広く一般に配布されている。一方月1回発行の研究版は、集会と呼ばれる信者の集まりでの討議のテキストとして使われる。研究版は原則的に一般には配布されない。 | {{Otheruses|宗教誌|[[マウリッツ・エッシャー|エッシャー]]によるリトグラフ|物見の塔}}
{{複数の問題
|単一の出典 = 2014年11月
|一次資料=2014年11月
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{{Infobox magazine
| title = ものみの塔
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'''ものみの塔'''(ものみのとう、[[英語]] :''The Watchtower'')は、[[エホバの証人]]によって月に1回発行されている機関誌である。
「ものみの塔」は新世界訳聖書の[[イザヤ書|イザヤ]]21章8節に由来している。現在の正式名称は『エホバの王国を告げ知らせる ものみの塔 (''The Watchtower Announcing Jehovah's Kingdom'')』と言う。本誌の目的は、宇宙の至高の支配者である[[エホバ]]神を賛美し、近い将来に地上に確立される世界政府([[神の王国]])を宣伝することである。創刊当初から常に[[イエス・キリスト]]の贖いを支持し続けて来た。
奇数月発行の一般用はエホバの証人の手により、広く一般に配布されている。一方月1回発行の研究版は、集会と呼ばれる信者の集まりでの討議のテキストとして使われる。研究版は原則的に一般には配布されない。<ref>[[2013年]]1月より、一般頒布用は16ページになるが、研究版は32ページのままである。</ref>
== 歴史 ==
[[File:1907_Watchtower_cover.JPG|thumb|baseline|140px|1879年に[[チャールズ・テイズ・ラッセル|C・T・ラッセル]]が創刊した『シオンのものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (''Zion's Watch Tower and Herald of Christ's Presence'')』]]この出版物は[[チャールズ・テイズ・ラッセル]]により[[1879年]]に創刊された。正式名称は当初『シオンのものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (''Zion's Watch Tower and Herald of Christ's Presence'')』であった。[[1909年]]に『ものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (''The Watch Tower and Herald of Christ's Presence'')』に改名された。[[1939年]]10月には『ものみの塔およびキリストの臨在の告知者 (''The Watchtower and Herald of Christ's Presence'')』に、[[1940年]]3月には『エホバの御国を知らせる ものみの塔』へと改名され、[[1970年]]代から現在まで正式名称は『エホバの王国を告げ知らせる ものみの塔』である。
== 発行・配布 ==
『ものみの塔』誌は([[2017年]]2月1日号によると)平均印刷部数が6,165万部で、297言語で発行されている<ref>[https://download-a.akamaihd.net/files/media_magazines/62/wp_J_201703.pdf 「ものみの塔」2017年1月1日号PDF 2ページ](エホバの証人の公式サイト)</ref>。このうち130以上の言語で同時発行されている。
この雑誌の各1日号はエホバの証人が配布している。彼らは配布活動を公共の奉仕だと考えている。彼らは、通常家から家の奉仕でこの雑誌を提供するが、公共の場所で人々に近づいたり、医師、教育関係者、政治家、知人に非公式に近づいて配布したりすることもある。『ものみの塔』誌は、読み物としてバスターミナルやコインランドリー等の、公共の場所に置かれていることもある。しかし、ただポストに投函したり、公共の場所に大量に放置したりしないよう、ものみの塔協会から勧められている。
一般向け「ものみの塔」は、2015年まで毎月発行されていたが、2016年から隔月刊となっている。
更に2017年の年次総会で2018年より4カ月に1回発行(年に3回)と決定された。(協会からの2017/10/7付けの英語圏会衆の長老および巡回監督宛の手紙に記載)
== 雑誌の複製版 ==
日本語では大文字版、[[点字]]版、オンライン[[MP3]]版、オンライン[[PDF]]版が入手可能である。
== 料金 ==
『ものみの塔』誌は、姉妹誌の『[[目ざめよ!]]』と共に、現在は無償で配布されている。雑誌の発行にかかる費用は自発的な寄付金を主たる財源としている。
かつては2冊150円だったが、1990年から「わたしたちは,多くの人のように神の言葉を売り歩く者ではなく,誠実さから出た者,そうです,神から遣わされた者として,神の見ておられるところで,キリストと共に語っているのです」。([http://www.jw.org/ja/出版物/聖書/コリント第二/2#v-17 コリント第二2章17節]、[[新世界訳聖書]])という[[使徒]][[パウロ]]の言葉に基づき[[無料]]となった<ref>『わたしたちの王国宣教』 ものみの塔聖書冊子協会、1990年5月号、7-8頁。</ref>。<br />
== 脚注 ==
<references/>
== 外部リンク ==
*[https://www.jw.org/ja/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%AA%E3%83%BC/%E9%9B%91%E8%AA%8C/ 「ものみの塔」と「目ざめよ!」] エホバの証人
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[[Category:19世紀の雑誌]] | 2003-04-29T15:49:27Z | 2023-10-09T22:07:28Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%BF%E3%81%AE%E5%A1%94 |
7,488 | クリスチャン・サイエンス | クリスチャン・サイエンス(Christian Science または、The Church of Christ, Scientist)は1879年、メリー・ベーカー・エディによってアメリカマサチューセッツ州ボストン市に創設されたキリスト教系の新宗教。ニューソートの一派として扱われることもある。
エディはニューハンプシャー州ボウに生まれた。生まれつき神経性など体の不調のため病弱であったことから様々な民間療法を経験したが、ニューソートの創始者であるフィニアス・クインビーの暗示療法を経験したことが、その後の彼女の宗教面に於いて影響を受けることになる。その後、夫に先立たれるなどして不幸な出来事が続いた後、1866年に事故で負傷。その際、新約聖書に記されているイエスの癒やしの一つを考えるうちに回復に向かったということから、それに霊感を受けて彼女自身で聖書の研究会を立ち上げた。そして1875年に『Science and Health with Key to the Scriptures』(『科学と健康─付聖書の鍵』)を著し、全ての病気の原因は心的なものであり、人間の病気の本質は心の中の虚偽とか幻想から起るとし、それを取り除くためには神とつながる霊的理解によらねばならぬと唱えた。
1879年にクリスチャン・サイエンスを設立すると、マサチューセッツ州の、主として工場労働者を中心にこの運動を組織化、1892年、ボストンに母教会の第一科学者キリスト教会(The First Church of Christ, Scientist)が設立され、世界各地に支教会が数多く設けられた。日本では1907年(明治40年)にアメリカ人による礼拝が横浜で始まり、1920年(大正9年)に東京でも開始。1940年(昭和15年)に一旦解散したものの、戦後1946年(昭和21年)に京都で米兵による礼拝がグループとして再開、1947年(昭和22年)に東京の教会も再建された。
クリスチャン・サイエンスが急激に勢力を伸ばした19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカは、のちに「金ぴか時代」と呼ばれる、拝金主義に浮かれた世相だった。クリスチャン・サイエンスもまた時流に乗り、自身や子供に病気を持った上流家庭の婦人をターゲットにして貪欲に富を追求した。すべての物質を否定するはずのクリスチャン・サイエンスの教義と自己矛盾した態度は、カトリックとプロテスタントなど既成宗教から批難された。また、マーク・トウェインはクリスチャン・サイエンスを宗教団体とは見なさず、嫌悪を込めて「トラスト」と呼んだ。
クリスチャン・サイエンスは神学や哲学的要素よりも信仰療法に重きを置いた特異な宗派であり、その名前と異なり、宗教でもなければ科学でもないという批判がある。もともと「クリスチャン・サイエンス」という言葉は、エディの師であるクインビーが自らの治療法に付けた名前だが、「サイエンス」という名称はクインビーもしくはエディがそう呼んだだけのことであり、19世紀の科学的実証主義を楽観的に信じた一般人に訴求した言葉でしかない。 | [
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] | クリスチャン・サイエンスは1879年、メリー・ベーカー・エディによってアメリカマサチューセッツ州ボストン市に創設されたキリスト教系の新宗教。ニューソートの一派として扱われることもある。 | {{出典の明記|date=2018年9月}}
'''クリスチャン・サイエンス'''(Christian Science または、The Church of Christ, Scientist)は[[1879年]]、[[メリー・ベーカー・エディ]]によって[[アメリカ合衆国|アメリカ]][[マサチューセッツ州]][[ボストン (マサチューセッツ州)|ボストン市]]に創設された[[キリスト教]]系の[[新宗教]]。[[ニューソート]]の一派として扱われることもある。
[[Image:Christian Science Mother Church, Boston, Massachusetts.JPG|350px|thumb|[[ボストン (マサチューセッツ州)|ボストン]]にある第一科学者キリスト教会(The First Church of Christ, Scientist)]]
== 歴史 ==
エディは[[ニューハンプシャー州]]ボウに生まれた。生まれつき神経性など体の不調のため病弱であったことから様々な[[民間療法]]を経験したが、ニューソートの創始者である[[フィニアス・クインビー]]の[[暗示]]療法を経験したことが、その後の彼女の宗教面に於いて影響を受けることになる。その後、夫に先立たれるなどして不幸な出来事が続いた後、[[1866年]]に事故で負傷。その際、[[新約聖書]]に記されている[[イエス・キリスト|イエス]]の癒やしの一つを考えるうちに回復に向かったということから、それに霊感を受けて彼女自身で[[聖書]]の研究会を立ち上げた。そして[[1875年]]に『Science and Health with Key to the Scriptures』(『科学と健康─付聖書の鍵』)を著し、全ての病気の原因は心的なものであり、人間の病気の本質は心の中の虚偽とか幻想から起るとし、それを取り除くためには神とつながる霊的理解によらねばならぬと唱えた。
[[1879年]]にクリスチャン・サイエンスを設立すると、[[マサチューセッツ州]]の、主として工場労働者を中心にこの運動を組織化、[[1892年]]、ボストンに母教会の第一科学者キリスト教会(The First Church of Christ, Scientist)が設立され、世界各地に支教会が数多く設けられた。[[日本]]では[[1907年]](明治40年)にアメリカ人による礼拝が[[横浜市|横浜]]で始まり、[[1920年]](大正9年)に東京でも開始。[[1940年]](昭和15年)に一旦解散したものの、戦後[[1946年]](昭和21年)に京都で米兵による[[礼拝]]がグループとして再開、[[1947年]](昭和22年)に[[東京]]の教会も再建された。
== 教義と活動 ==
*[[ボストン]]に母教会、世界各地に支教会、小教会がある。
*アメリカでは、世界規模で発行されている新聞[[クリスチャン・サイエンス・モニター]]紙がこの教会から源をもつことで知られている。
*また、週刊/月刊で刊行物を発行しており、世界の各言語に翻訳されて発売されている。
*日本では、表参道のユニオンチャーチ裏、京都地下鉄鞍馬口そばに教会があり、日曜礼拝、水曜礼拝が行われ、読書室がある。
*聖書と健康と科学─付聖書の鍵(創始者の著書)を活動の指針としており、いわゆる牧師やシスターはいない。
*実証(肉体的、心理的な癒やし)のない教えではない。(師イエスの言葉と業を記念するために・・・原始キリスト教と、その失われた癒やしの要素を復帰させる・・)
*実証のために、実践士が世界各地にいる(クリスチャン・サイエンスの実践士は、祈りによる癒やしの仕事に全時間を捧げており、誰でもその助けを求めることができる)
;クリスチャン・サイエンスの要点(一般的な意味での教義に対する信念は持たない)
#真理を固く守る者として、わたしたちは聖書の霊感に満ちた言葉を、永遠の生命に導く十分な指針とします。
#わたしたちは、唯一至上で無限の神を認め、敬愛します。また、神の子、一つのキリスト、聖霊、すなわち神聖の慰め手、また、人が神の映像であり、似姿であることを認めます。
#わたしたちは、神による罪の許しは罪の破壊にあり、また悪を非実在として追い払う霊的理解にあることを認めます。ただし、罪の信念は、その信念が続くかぎり罰せられます。
#わたしたちは、イエスの贖罪が神聖の効力ある愛の証拠であって、その愛が道しるべであるキリスト・イエスを通して人が神と一体であることを展開してゆくことを認めます。また、人はキリストによって救われ、ガリラヤの預言者が、病人を癒やし、罪と死を克服した時に実証した真理・生命・愛によって救われることを認めます。
#わたしたちは、イエスの十字架上の受難と彼の復活が信仰を高めて、永遠の生命、すなわち魂・霊がすべてであり。物質が無であることを理解する助けとなったことを認めます。
#また、わたしたちは、絶えず目覚めており、キリスト・イエスのうちにあった心が、わたしたちの内にあるようにと祈り、そして他人にしてもらいたいことを他人にも行い、また恵み深く、正しく清くあるようにとおごそかに誓いをたてます。
;簡単なQ&A
*神とは何か?
:神は、生命、真理、愛である。真理は実在であり、誤りは非実在である。神の同意語であるもののみが、真の実質である。
*人とは何か?
:人は愛の理念であり、映像である。人は神の複合理念であり、正しい理念をすべて含んでいる。神の映像・似姿を反映するもののすべての総称。聖書は、人が神の映像、似姿に造られていると教えている。すべての実在性は神と神の創造の中にあって、調和があり永遠である。神の創造するものは善である。人間の心、あるいは体の不調和は、すべて幻想であって、実在性も本体もないのに、実在で本体性があるように見えるものである。神はどこにでも存在し、神から離れては何も現存せず、力を持たない。
==批判==
クリスチャン・サイエンスが急激に勢力を伸ばした19世紀後半から20世紀初頭にかけてのアメリカは、のちに「[[金ぴか時代]]」と呼ばれる、[[拝金主義]]に浮かれた世相だった。クリスチャン・サイエンスもまた時流に乗り、自身や子供に病気を持った上流家庭の婦人をターゲットにして貪欲に富を追求した{{sfn|有馬|2005|pp=137-145}}。すべての物質を否定するはずのクリスチャン・サイエンスの教義と自己矛盾した態度は、カトリックとプロテスタントなど既成宗教から批難された。また、[[マーク・トウェイン]]はクリスチャン・サイエンスを宗教団体とは見なさず、嫌悪を込めて「[[トラスト (企業形態)|トラスト]]」と呼んだ{{sfn|有馬|2005|pp=137-145}}。
クリスチャン・サイエンスは[[神学]]や哲学的要素よりも信仰療法に重きを置いた特異な宗派であり、その名前と異なり、[[宗教]]でもなければ[[科学]]でもないという批判がある{{sfn|有馬|2005|pp=137-145}}。もともと「クリスチャン・サイエンス」という言葉は、エディの師であるクインビーが自らの治療法に付けた名前だが、「サイエンス」という名称はクインビーもしくはエディがそう呼んだだけのことであり、19世紀の科学的[[実証主義]]を楽観的に信じた一般人に訴求した言葉でしかない{{sfn|有馬|2005|pp=137-145}}。
==脚注==
{{Reflist}}
== 参考文献 ==
* [[マーチン・A・ラーソン]] 『ニューソート―その系譜と現代的意義』 ISBN 4531080602
* [[シュテファン・ツヴァイク]]『精神による治療』 ISBN 4622000121
* [[マーク・トウェイン]] 『地球からの手紙』 ISBN 488202344X
* {{Cite book ja-jp|和書 |author = 有馬容子 |title = クラブが創った国 アメリカ |year = 2005 |chapter = 金ぴか時代のキリスト教 |series = 結社の世界史 |publisher = 山川出版社 |editor = [[綾部恒雄]] |isbn = 463444450X |ref = harv }}
== 外部リンク ==
* [http://christianscience.com// クリスチャンサイエンス公式サイト(英語)]
{{新宗教}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:くりすちやんさいえんす}}
[[Category:クリスチャン・サイエンス|*]]
[[Category:キリスト教非主流派]]
[[Category:疑似科学]]
[[Category:代替医療]]
[[Category:アメリカ合衆国のキリスト教系新宗教]] | 2003-04-29T15:53:46Z | 2023-10-21T09:30:20Z | false | false | false | [
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"Template:Cite book ja-jp"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9 |
7,492 | 別海町 | 別海町(べつかいちょう)は、北海道根室振興局管内の野付郡にある町。
北海道東端部に位置し、東は野付水道を挟んで北方領土を望む。面積は「町」としては日本で3番目に広く(1位は足寄郡足寄町、2位は紋別郡遠軽町でいずれも北海道内)、「市町村」としては道内6位(北方領土内の留別村を含む)。その広大な町域は大半が起伏のゆるやかな丘陵地帯で、原野を切り開いて造られた牧場が町域ほぼ全般に広がり、集落は別海(べつかい)、中西別(なかにしべつ)、中春別(なかしゅんべつ)、西春別(にししゅんべつ)、西春別駅前、上春別(かみしゅんべつ)、上風連(かみふうれん)、本別海(ほんべっかい)、尾岱沼(おだいとう)など町の全域に点在している。町役場は町域中央やや東寄りの別海市街に置かれているため、町の西部では標茶町の市街の方が近い地域がある。
南西部には防衛省陸上自衛隊別海駐屯地(航空自衛隊計根別飛行場)と矢臼別演習場が置かれる。その面積は17,192ha。沖縄県金武町県道104号線越えで行われていた砲撃訓練の移転を1997年(平成9年)から受け入れており、年に数回、アメリカ軍による大規模な射撃訓練が行われる。
ケッペンの気候区分によると、別海町は湿潤大陸性気候に属する。寒暖の差が大きく気温の年較差、日較差が大きい顕著な大陸性気候である。降雪量が多く、豪雪地帯に指定されている。冬季は-25°C前後の気温が観測されることが珍しくなく、寒さが厳しい。
1923年(大正12年)に旧別海村を含む6村が合併し現在の別海町域に相当する別海村が発足した際、当初役場が置かれていた現在の本別海地区から。アイヌ語の「ペッカイ(pet-kai)」(川の・折れ目)「ペッカイェ(pet-kaye)」(川・を折る)に由来するとされ、本別海地区で西別川が河口で曲がりくねる様子を表した名である。現在の別海地区は当初アイヌ語の「ヌウㇱペッ(nu-us-pet)」(豊漁の・川)に由来する「西別(にしべつ)」と称されていたが、役場移転後に改名している。
町名の読みについては古くから「べつかい」と「べっかい」が混在していたが、1971年(昭和46年)の町政施行を機に「べつかい」で統一された。公的な文書や放送各局では「べつかい」の読みが使われ、道路案内標識上のローマ字表記も「Betsukai」となっている。
しかし道道路線名中(例:北海道道123号別海厚岸線)や、かつて存在した標津線別海駅における読みは「べっかい」であり、地名においても、「別海」の発祥であった本別海地区の読みは「ほんべっかい」となっている。
このため読みはどちらが正しいか長期間にわたって議論になっていたが、2009年(平成21年)3月10日の町議会にて当時の町長が「べつかい」と「べっかい」の双方の読み方を認めると宣言し、町として公的表記を求められた場合は引き続き「べつかい」とするとしている。
最も開拓が早かったのは東部沿岸部で、主に漁業が行われていたが、明治30年代から内陸部への入植がはじまり、こちらでは畑作農業が中心におこなわれていた。開拓当初は沿岸の本別海地区(当時は「別海」と称した)に置かれていた役場も、内陸の入植者増加により、1933年(昭和8年)に別海地区(当時は「西別」と称した)に移転している。
昭和に入ると農業から酪農への転換が進み始めたが、土地の広大さゆえに開拓は遅れていた。そこで1956年(昭和31年)から世界銀行の融資を受け、根釧パイロットファーム方式が導入。機械による開拓がおこなわれ、1973年(昭和48年)には新酪農村の建設に着手、現在の広大な酪農地帯を形成した。
北海道警察釧路方面本部
根室北部消防事務組合(管轄:別海町、中標津町、標津町、羅臼町)
2022年(令和4年)3月時点の各地区の人口・世帯数。
増減率は2018年(平成31年)3月時点との比較。
2015年国勢調査によれば、以下の集落は調査時点で人口0人の消滅集落となっている。
平野部では酪農、本別海・尾岱沼等の沿岸部では漁業(サケ、コマイ、ホッキ、アサリ、ホタテ、ホッカイエビなど)が盛ん。 全国1位の生乳生産量で、年間生産量は43万トン。
道立
※以下は廃校
※以下は廃校
各学校の通学区域が広いため21台のスクールバスが運行されている。
別海町では概ね地域ごとに小学校と中学校が1校ずつ置かれるため、例えば上春別小の児童は全員上春別中に入学することになる。過去に中春別中のみ、中春別小・美原小・豊原小の3校からの入学であった。
2022年現在、人口1.4万人の町に16の小中学校が設置され、複式学級を持つ小学校は8校中4校である。一方1学年あたり2学級の学校は、別海中央小、別海中央中のみである。
郵便局
簡易郵便局
1933年(昭和8年)12月1日、鉄道省によって標津線が開業。
1949年(昭和24年)6月1日、日本国有鉄道へ継承。
1987年(昭和62年)4月1日、国鉄分割民営化により北海道旅客鉄道(JR北海道)へ継承。
1989年(平成元年)4月30日、標津線の廃止により、現在町内に鉄道路線はない。廃止以前、町内には以下の駅が設置されていた。
また、別海村時代には別海村営軌道が存在したが、1971年(昭和46年)に廃止された。
生乳生産量の高さを生かした「福祉牛乳給付事業」が行われており、一定の条件を満たす住民に対して牛乳の200mlパックを1週間ごとに5個、町より無料で給付している。給付される製品はべつかい乳業興社が供給している。 | [
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] | 別海町(べつかいちょう)は、北海道根室振興局管内の野付郡にある町。 | {{日本の町村
|自治体名=別海町
|旗=[[File:Flag of Betsukai, Hokkaido.svg|100px|border]]
|旗の説明=別海[[市町村旗|町旗]]<div style="font-size:smaller">[[1968年]][[6月25日]]制定
|紋章=[[ファイル:Emblem of Betsukai, Hokkaido.svg|80px]]
|紋章の説明=別海[[市町村章|町章]]<div style="font-size:smaller">1968年6月25日制定<ref>図典 日本の市町村章 p20</ref>
|画像=Todowara.jpg
|画像の説明=[[野付半島]]の[[トドワラ]]
|区分=町
|都道府県=北海道
|支庁=[[根室振興局]]
|郡=[[野付郡]]
|コード=01691-8
|隣接自治体=[[根室市]]、[[標津郡]][[標津町]]、[[中標津町]]、<br />[[厚岸郡]][[浜中町]]、[[厚岸町]]、[[川上郡]][[標茶町]]
|木=[[ナラ]]
|花=[[センダイハギ]]
|シンボル名=町の鳥
|鳥など=[[ハクチョウ]]
|郵便番号=086-0205
|所在地=野付郡別海町別海常盤町280番地<br />{{Coord|format=dms|type:adm3rd_region:JP-01|display=inline,title}}<br />[[ファイル:Betsukai town hall.JPG|250px |center]]
|外部リンク={{Official website}}
|位置画像={{基礎自治体位置図|01|691|image_hokkaido=日本地域区画地図補助 01660.svg|image=Betsukai in Hokkaido Prefecture Ja.svg|村の色分け=no}}
|特記事項=
}}
[[File:Lattice shelterbelt in Konsen plateau Japan.png|thumb|280px|画像中央より南が別海町域である]]
[[File:Withered Oak Trees in Notsuke peninsula.JPG|thumb|280px|野付半島のナラワラ]]
[[File:CAPE RYUJIN.JPG|thumb|280px|竜神埼原生花園]]
'''別海町'''(べつかいちょう)は、[[北海道]][[根室振興局]]管内の[[野付郡]]にある町。
== 概要 ==
北海道東端部に位置し、東は野付水道を挟んで[[北方地域|北方領土]]を望む。[[面積]]は「町」としては日本で3番目に広く(1位は[[足寄郡]][[足寄町]]、2位は[[紋別郡]][[遠軽町]]でいずれも北海道内)、「[[市町村]]」としては道内6位(北方領土内の[[留別村]]を含む)。その広大な町域は大半が起伏のゆるやかな丘陵地帯で、原野を切り開いて造られた牧場が町域ほぼ全般に広がり、集落は別海(べつかい<ref name=":1">{{Cite web|和書|url=https://www.post.japanpost.jp/cgi-zip/zipcode.php?pref=1&city=1016910&cmp=1|title=郵便番号検索 北海道 野付郡別海町|accessdate=2018-10-16|publisher=[[日本郵便]]|archiveurl=https://web.archive.org/web/20181016141718/https://www.post.japanpost.jp/cgi-zip/zipcode.php?pref=1&city=1016910&cmp=1|archivedate=2018-10-16}}</ref>)、中西別(なかにしべつ<ref name=":1" />)、中春別(なかしゅんべつ<ref name=":1" />)、西春別(にししゅんべつ<ref name=":1" />)、西春別駅前、上春別(かみしゅんべつ<ref name=":1" />)、[[上風連]](かみふうれん)、本別海(ほんべっかい<ref name=":1" />)、尾岱沼(おだいとう<ref name=":1" />)など町の全域に点在している。町役場は町域中央やや東寄りの別海市街に置かれているため、町の西部では[[標茶町]]の市街の方が近い地域がある。
南西部には[[防衛省]][[陸上自衛隊]][[別海駐屯地]]([[航空自衛隊]][[計根別飛行場]])と[[矢臼別演習場]]が置かれる。その面積は17,192ha。[[沖縄県]][[金武町]][[沖縄県道104号線|県道104号線]]越えで行われていた砲撃訓練の移転を[[1997年]](平成9年)から受け入れており、年に数回、[[アメリカ合衆国軍|アメリカ軍]]による大規模な射撃訓練が行われる。
=== 自然 ===
* '''山岳''':
* '''河川''':[[西別川]]、[[風蓮川]]
* '''湖沼''':[[風蓮湖]]
* '''半島''':[[野付半島]]
=== 隣接する自治体 ===
* [[根室振興局]]
** [[根室市]]
** [[標津郡]]:[[中標津町]]、[[標津町]]
* [[釧路総合振興局]]
** [[川上郡]]:[[標茶町]]
** [[厚岸郡]]:[[浜中町]]、[[厚岸町]]
== 気候 ==
ケッペンの気候区分によると、別海町は[[湿潤大陸性気候]]に属する。寒暖の差が大きく気温の年較差、日較差が大きい顕著な[[大陸性気候]]である。降雪量が多く、[[豪雪地帯]]に指定されている。冬季は-25℃前後の気温が観測されることが珍しくなく、寒さが厳しい。{{Weather box|location=別海(1991年 - 2020年)|single line=Y|metric first=Y|Jan record high C=8.4|Feb record high C=10.5|Mar record high C=17.0|Apr record high C=27.3|May record high C=36.6|Jun record high C=34.7|Jul record high C=35.1|Aug record high C=35.4|Sep record high C=31.9|Oct record high C=25.7|Nov record high C=21.0|Dec record high C=14.2|year record high C=36.6|Jan high C=-1.2|Feb high C=-0.9|Mar high C=3.0|Apr high C=9.3|May high C=14.9|Jun high C=17.8|Jul high C=21.2|Aug high C=22.8|Sep high C=20.7|Oct high C=15.5|Nov high C=8.7|Dec high C=1.6|year high C=11.1|Jan mean C=-6.7|Feb mean C=-6.5|Mar mean C=-1.9|Apr mean C=3.6|May mean C=8.7|Jun mean C=12.3|Jul mean C=16.2|Aug mean C=18.1|Sep mean C=15.4|Oct mean C=9.5|Nov mean C=2.9|Dec mean C=-3.8|year mean C=5.7|Jan low C=-13.6|Feb low C=-13.8|Mar low C=-7.7|Apr low C=-1.8|May low C=3.1|Jun low C=7.9|Jul low C=12.4|Aug low C=14.3|Sep low C=10.5|Oct low C=3.3|Nov low C=-3.2|Dec low C=-10.1|year low C=0.1|Jan record low C=-31.3|Feb record low C=-33.7|Mar record low C=-25.4|Apr record low C=-14.2|May record low C=-6.0|Jun record low C=-2.7|Jul record low C=1.8|Aug record low C=4.1|Sep record low C=-0.7|Oct record low C=-7.0|Nov record low C=-15.6|Dec record low C=-23.8|year record low C=-33.7|Jan precipitation mm=38.2|Feb precipitation mm=27.4|Mar precipitation mm=55.2|Apr precipitation mm=79.0|May precipitation mm=107.2|Jun precipitation mm=111.4|Jul precipitation mm=121.9|Aug precipitation mm=154.9|Sep precipitation mm=184.2|Oct precipitation mm=125.9|Nov precipitation mm=79.0|Dec precipitation mm=63.8|year precipitation mm=1148.0|unit precipitation days=1.0 mm|Jan precipitation days=6.4|Feb precipitation days=5.0|Mar precipitation days=7.8|Apr precipitation days=9.0|May precipitation days=10.7|Jun precipitation days=9.7|Jul precipitation days=11.1|Aug precipitation days=12.1|Sep precipitation days=11.6|Oct precipitation days=9.4|Nov precipitation days=8.7|Dec precipitation days=7.9|year precipitation days=109.4|Jan sun=146.3|Feb sun=150.4|Mar sun=181.3|Apr sun=163.6|May sun=165.8|Jun sun=132.0|Jul sun=108.6|Aug sun=117.4|Sep sun=138.2|Oct sun=158.0|Nov sun=148.7|Dec sun=143.7|year sun=1756.0|source 1=[https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php Japan Meteorological Agency ]|source 2=[[気象庁]]<ref>{{Cite web|和書|url=
https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=18&block_no=0088&year=&month=&day=&view= |title=別海 過去の気象データ検索 |accessdate=2023-03-28 |publisher=気象庁}}</ref>|Jan snow cm=84|Feb snow cm=72|Mar snow cm=75|Apr snow cm=26|May snow cm=1|Jun snow cm=0|Jul snow cm=0|Aug snow cm=0|Sep snow cm=0|Oct snow cm=0|Nov snow cm=11|Dec snow cm=66|year snow cm=330}}
== 町名の由来 ==
[[1923年]]([[大正]]12年)に旧別海村を含む6村が合併し現在の別海町域に相当する別海村が発足した際、当初役場が置かれていた現在の本別海地区から。[[アイヌ語]]の「ペッカイ(pet-kai)」(川の・折れ目)「ペッカイェ(pet-kaye)」(川・を折る)に由来するとされ<ref name=":0">{{Cite web|和書|url=http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/grp/111120P.pdf|title=アイヌ語地名リスト ヒラタ~ホロナ P111-120|accessdate=2018-10-16|date=2007|work=[http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ass/new_timeilist.htm アイヌ語地名リスト]|publisher=北海道 環境生活部 アイヌ政策推進室}}</ref><ref>{{Cite book|author=本多 貢|editor=児玉 芳明|title=北海道地名漢字解|url=https://www.worldcat.org/oclc/40491505|date=1995-01-25|year=|accessdate=2018-10-16|publisher=[[北海道新聞社]]|language=日本語|isbn=4893637606|page=82|location=札幌市|last2=|author2=|first2=|author3=|author4=|author5=|author6=|author7=|author8=|author9=|oclc=40491505}}</ref>、本別海地区で西別川が河口で曲がりくねる様子を表した名である<ref name=":0" />。現在の別海地区は当初アイヌ語の「ヌウㇱペッ(nu-us-pet)」(豊漁の・川)に由来する「西別(にしべつ)」と称されていたが<ref>{{Cite book|author=本多 貢|last2=|author9=|author8=|author7=|author6=|author5=|author4=|author3=|first2=|author2=|location=札幌市|editor=児玉 芳明|page=70|isbn=4893637606|language=日本語|publisher=[[北海道新聞社]]|accessdate=2018-10-16|year=|date=1995-01-25|url=https://www.worldcat.org/oclc/40491505|title=北海道地名漢字解|oclc=40491505}}</ref><ref>{{Cite book|和書|editor=札幌鉄道局編|title=駅名の起源|year=1939|publisher=北彊民族研究会|page=76|id={{NDLJP|1029473}}}}</ref><ref>{{Cite book|和書|editor=札幌鉄道局|title=駅名の起源|year=1939|publisher=北彊民族研究会|page=170|id={{NDLJP|1029473}}|date=}}</ref>、役場移転後に改名している。
町名の読みについては古くから「べ'''つ'''かい」と「べ'''っ'''かい」が混在していたが、[[1971年]](昭和46年)の町政施行を機に「べつかい」で統一された。公的な文書や放送各局では「べつかい」の読みが使われ、道路案内標識上のローマ字表記も「Betsukai」となっている。
しかし道道路線名中(例:[[北海道道123号別海厚岸線]])や、かつて存在した[[標津線]][[別海駅]]における読みは「べっかい」であり、地名においても、「別海」の発祥であった本別海地区の読みは「ほんべっかい」となっている<ref name=":1" />。
このため読みはどちらが正しいか長期間にわたって議論になっていたが、[[2009年]](平成21年)3月10日の町議会にて当時の町長が「べつかい」と「べっかい」の双方の読み方を認めると宣言し、町として公的表記を求められた場合は引き続き「べつかい」とするとしている<ref>北海道新聞 2009年3月11日</ref>。
== 歴史 ==
最も開拓が早かったのは東部沿岸部で、主に漁業が行われていたが、明治30年代から内陸部への入植がはじまり、こちらでは畑作農業が中心におこなわれていた。開拓当初は沿岸の本別海地区(当時は「別海」と称した)に置かれていた役場も、内陸の入植者増加により、[[1933年]](昭和8年)に別海地区(当時は「西別」と称した)に移転している。
昭和に入ると農業から[[酪農]]への転換が進み始めたが、土地の広大さゆえに開拓は遅れていた。そこで[[1956年]](昭和31年)から[[世界銀行]]の融資を受け、根釧[[酪農#日本の酪農|パイロットファーム]]方式が導入。機械による開拓がおこなわれ、[[1973年]](昭和48年)には新酪農村の建設に着手、現在の広大な酪農地帯を形成した。
=== 沿革 ===
* [[1879年]]([[明治]]12年)- 四村[[戸長役場]]設置。
* [[1906年]](明治39年)- 別海村に[[和田村 (北海道)|和田村]]の一部を編入。
* [[1910年]](明治43年)- [[奥行臼駅逓]]の開設。
* [[1923年]]([[大正]]12年)[[4月1日]] - [[野付郡]]別海村、[[野付村]]、[[平糸村]]、[[根室郡]][[西別村]]、[[走古潭村]]、[[厚別村]]の6村が合併、'''別海村'''。
* [[1933年]]([[昭和]]8年)- 村役場を本別海地区から西別地区(現・別海地区)に移転。
* [[1955年]](昭和30年)[[4月1日]] - [[中標津町]]に一部分割。
* [[1971年]](昭和46年)- 町制施行、'''別海町'''となる。
* [[1972年]](昭和47年)- 6大字を廃し、52町を置く<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.dodoshiryo-hokkaido.info/dodo/kokuji/1970s/k19770310.htm |title=1977年3月10日北海道告示 |publisher=道道資料北海道 |accessdate=2022-03-31}}</ref>。
** 別海村 → 本別海
** 野付村 →
** 平糸村 → 尾岱沼<ref>{{Cite web|和書|url=http://jlogos.com/docomosp/word.html?id=7001496 |title=尾岱沼 |publisher=JLogos |accessdate=2022-03-31}}</ref>
** 西別村 → 別海旭町、別海川上町、別海寿町、別海新栄町、別海鶴舞町、別海常盤町、別海西本町、別海緑町、別海宮舞町、別海
** 走古潭村 →走古丹
** 厚別村 → 奥行<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.dodoshiryo-hokkaido.info/column/no1-and-no2class-road.htm |title=1級道路と2級道路について |publisher=道道資料北海道 |accessdate=2022-03-31}}</ref>
* [[2011年]]([[平成]]23年)- [[道の駅おだいとう]]オープン。
== 姉妹都市・友好都市 ==
=== 海外 ===
* 姉妹都市
** {{flagicon|GER}} [[バッサブルク]] ([[ドイツ]]、[[バイエルン州]])
=== 国内 ===
* 友好都市
** [[大阪府]][[枚方市]]
* 友好都市サミット協議会
** [[大阪府]][[枚方市]]
** [[高知県]][[四万十市]]
** [[沖縄県]][[名護市]]
== 公的機関 ==
=== 警察 ===
'''[[北海道警察釧路方面本部]]'''
* [[中標津警察署]](管轄:別海町、中標津町、標津町、羅臼町)
** 別海駐在所
** 中春別駐在所
** 尾岱沼駐在所
** 西春別駅前駐在所
** 西春別駐在所
** 上春別駐在所
=== 消防 ===
'''[[根室北部消防事務組合]]'''(管轄:別海町、中標津町、標津町、羅臼町)
* 別海消防署
** 西春別支署
** 尾岱沼分遣所
=== 医療 ===
* 町立別海病院
** 西春別駅前診療所
** 尾岱沼診療所
== 地理 ==
=== 人口 ===
{{人口統計|code=01691|name=別海町|image=Population distribution of Betsukai, Hokkaido, Japan.svg}}
=== 各地区の人口・世帯数 ===
2022年(令和4年)3月時点の各地区の人口・世帯数<ref>{{Cite web|和書|url=https://betsukai.jp/resources/output/contents/file/release/4907/52450/R4.3jinkou.pdf |title=人口、世帯数統計表(令和4年3月31日) |access-date=2022-8-27 |publisher=別海町}}</ref>。
増減率は2018年(平成31年)3月時点との比較<ref>{{Cite web|和書|url=https://betsukai.jp/resources/output/contents/file/release/2903/32479/h31.3jinkou.pdf |title=人口、世帯数(平成31年3月31日) |access-date=2022-8-27 |publisher=別海町}}</ref>。
{| class="wikitable" style="text-align:center;"
!地区名
!男性
!女性
!人口 計
!増減
!世帯数
!増減
|-
|'''<small>別海</small>'''
|<small>2,971人</small>
|<small>3,019人</small>
|<small>5,990人</small>
|<small>-3.04%</small>
|<small>3,053世帯</small>
|<small>0.26%</small>
|-
|'''<small>中西別</small>'''
|<small>309人</small>
|<small>293人</small>
|<small>602人</small>
|<small>-4.89%</small>
|<small>264世帯</small>
|<small>3.12%</small>
|-
|'''<small>本別海</small>'''
|<small>117人</small>
|<small>111人</small>
|<small>228人</small>
|<small>-2.97%</small>
|<small>86世帯</small>
|<small>1.17%</small>
|-
|'''<small>中春別</small>'''
|<small>468人</small>
|<small>473人</small>
|<small>941人</small>
|<small>-0.63%</small>
|<small>413世帯</small>
|<small>4.29%</small>
|-
|'''<small>豊原</small>'''
|<small>136人</small>
|<small>130人</small>
|<small>266人</small>
|<small>-5.67%</small>
|<small>100世帯</small>
|<small>-4.76%</small>
|-
|'''<small>西春別</small>'''
|<small>737人</small>
|<small>515人</small>
|<small>1,252人</small>
|<small>-8.81%</small>
|<small>642世帯</small>
|<small>±0%</small>
|-
|'''<small>西春別駅前</small>'''
|<small>572人</small>
|<small>569人</small>
|<small>1,141人</small>
|<small>-6.24%</small>
|<small>611世帯</small>
|<small>-2.55%</small>
|-
|'''<small>上春別</small>'''
|<small>387人</small>
|<small>384人</small>
|<small>771人</small>
|<small>-4.34%</small>
|<small>343世帯</small>
|<small>7.52%</small>
|-
|'''<small>床丹</small>'''
|<small>131人</small>
|<small>118人</small>
|<small>249人</small>
|<small>-2.35%</small>
|<small>86世帯</small>
|<small>1.17%</small>
|-
|'''<small>尾岱沼</small>'''
|<small>653人</small>
|<small>696人</small>
|<small>1,349人</small>
|<small>-7.53%</small>
|<small>518世帯</small>
|<small>-2.07%</small>
|-
|'''<small>上風連</small>'''
|<small>198人</small>
|<small>183人</small>
|<small>381人</small>
|<small>-4.27%</small>
|<small>135世帯</small>
|<small>10.65%</small>
|-
|'''<small>その他</small>'''
|<small>588人</small>
|<small>553人</small>
|<small>1,141人</small>
|<small>-4.67%</small>
|<small>454世帯</small>
|<small>5.09%</small>
|-
! style="color:#fff; background:#696969" |<small>合計</small>
!<small>7,267人</small>
!<small>7,044人</small>
!<small>14,311人</small>
!<small>-4.46%</small>
!<small>6,705世帯</small>
!<small>0.93%</small>
|}
=== 消滅集落 ===
2015年国勢調査によれば、以下の集落は調査時点で人口0人の[[消滅集落]]となっている<ref name="kokusei2015-01-a">{{Cite report |和書 |author=総務省統計局統計調査部国勢統計課 |authorlink=総務省 |date=2017-01-27 |title=平成27年国勢調査小地域集計01北海道《年齢(5歳階級),男女別人口,総年齢及び平均年齢(外国人-特掲)-町丁・字等》 |url=https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files/data?fileid=000007841019&rcount=1 |publisher=総務省 |format=CSV |accessdate=2017-05-20 |quote= }}※条町区分地の一部に0人の地域がある場合でも他の同一区分地で人口がある場合は除いた。</ref>。
* 別海町 - 風蓮湖、野付
== 経済 ==
=== 産業 ===
平野部では[[酪農]]、本別海・尾岱沼等の沿岸部では漁業([[サケ]]、[[コマイ]]、[[ウバガイ|ホッキ]]、[[アサリ]]、[[ホタテガイ|ホタテ]]、[[ホッカイエビ]]など)が盛ん。
全国1位の生乳生産量で、年間生産量は43万トン。
=== 立地企業 ===
* 株式会社[[明治 (企業)|明治]](旧・[[明治乳業]]株式会社) 西春別工場
* [[森永乳業]]株式会社 別海工場
* [[雪印メグミルク]]株式会社(旧・[[雪印乳業]]株式会社) 別海工場
* 株式会社[[べつかい乳業興社]]
* [[雪印種苗]]株式会社別海工場
=== 農協・漁協 ===
* [[道東あさひ農業協同組合]](JA道東あさひ)
** 本所
** 別海支所
** 上春別支所
** 西春別支所
* [[中春別農業協同組合]](JA中春別)
* [[別海漁業協同組合]]
* [[野付漁業協同組合]]
* [[北海道農業共済組合]](NOSAI北海道)
** 根室南部支所
** 根室南部第1家畜診療所
** 根室南部第2家畜診療所
** 根室南部第3家畜診療所
** 根室北部支所
** 根室北部第1家畜診療所
** 根室北部第2家畜診療所
** 根室北部第3家畜診療所
<gallery>
ファイル:JA.Doutou-Asahi01.JPG|道東あさひ農業協同組合
</gallery>
=== 金融機関 ===
* [[大地みらい信用金庫]]別海支店
* [[大地みらい信用金庫]]西春別支店
== 教育 ==
=== 高等学校 ===
'''道立'''
* [[北海道別海高等学校]]
=== 中学校 ===
{{Col|*別海町立上春別中学校
*別海町立上西春別中学校
*別海町立上風連中学校
*別海町立中春別中学校|*別海町立中西別中学校
*別海町立西春別中学校
*別海町立野付中学校
*別海町立別海中央中学校}}'''※以下は廃校'''
{{Col|*別海村立大和中学校(1966年・別海中央中へ統合)
*別海村立南矢臼別中学校(1966年・上風連中へ統合)
*別海村立香川中学校(1967年・同上)
*別海村立開南中学校(同上)
*別海村立走古丹中学校(1967年・別海中へ統合)
*別海村立中春別中学校〈旧〉(1967年・中春別中〈新〉を新設統合)
*別海村立床丹第一中学校(同上)
*別海村立床丹第二中学校(同上)|*別海村立床丹中学校(1968年・別海中へ統合)
*別海村立恩根内中学校(1970年・上春別中と中西別中へ分割統合)
*別海町立本別中学校(1972年・統合により上西春別中本別校舎へ、1973年・実質統合)
*別海町立大成中学校(1972年・統合により上西春別中大成校舎へ、1973年・同上)
*別海町立泉川中学校(1974年・上西春別中へ統合)
*別海町立光進中学校(2008年・同上)
*別海町立別海中学校(2016年・別海中央中と野付中へ分割統合)}}
=== 小学校 ===
{{Col|*別海町立上春別小学校
*別海町立上西春別小学校
*別海町立上風連小学校
*別海町立中春別小学校|*別海町立中西別小学校
*別海町立西春別小学校
*別海町立野付小学校
*別海町立別海中央小学校}}'''※以下は廃校'''
{{Col|*別海村立新富小学校(1967年・西春別小へ統合)
*別海村立三股小学校(同上)
*別海村立昭和小学校(1969年・西別小へ統合)
*別海村立平糸小学校(1969年・西別小と中春別小へ分割統合)
*別海村立広野小学校(1969年・中春別小へ統合)
*別海村立朝日小学校(1970年・同上)
*別海村立黄金小学校(同上)
*別海村立春日小学校(同上)
*別海村立床丹小学校(1970年・別海小へ統合)
*別海村立走古丹小学校(同上)
*別海村立矢臼第二小学校(1971年・中西別小へ統合)|*別海村立上風連小学校〈旧〉(1971年・上風連小〈新〉を新設統合)
*別海村立開南小学校(同上)
*別海村立南矢臼別小学校(同上)
*別海村立香川小学校(同上)
*別海村立恩根内小学校(1971年・不明)
*別海町立北栄小学校(1972年・不明)
*別海町立新興小学校(1972年・西別小と中西別小へ分割統合)
*別海町立矢臼別小学校(1972年・西別小へ統合)
*別海町立高丘小学校(1973年・中西別小へ統合)
*別海町立拓進小学校(1973年・西春別小へ統合)|*別海町立泉川小学校(1974年・上西春別小へ統合)
*別海町立大和小学校(1975年・西別小と上風連小へ分割統合)
*別海町立富岡小学校(1976年・中春別小へ統合)
*別海町立菊水小学校(同上)
*別海町立本別小学校(1989年・上西春別小へ統合)
*別海町立大成小学校(1996年・同上)
*別海町立光進小学校(2008年・同上)
*別海町立美原小学校(2009年・中春別小へ統合)
*別海町立豊原小学校(同上)
*別海町立別海小学校(2016年・別海中央小と野付小へ分割統合)}}
各学校の通学区域が広いため21台のスクールバスが運行されている。
別海町では概ね地域ごとに小学校と中学校が1校ずつ置かれるため、例えば上春別小の児童は全員上春別中に入学することになる。過去に中春別中のみ、中春別小・美原小・豊原小の3校からの入学であった。
2022年現在、人口1.4万人の町に16の小中学校が設置され、複式学級を持つ小学校は8校中4校である。一方1学年あたり2学級の学校は、別海中央小、別海中央中のみである。
== 郵便 ==
'''[[郵便局]]'''
{{Col|*別海郵便局(集配局)
*中春別郵便局(集配局)
*中西別郵便局(集配局)
*西春別駅前郵便局(集配局)
*西春別郵便局|*上春別郵便局
*上風連郵便局
*本別海郵便局
*尾岱沼郵便局}}
'''[[簡易郵便局]]'''
* 豊原簡易郵便局
== 交通 ==
[[File:Dōdō423.JPG|thumb|280px|西春別市街]]
=== 航空 ===
* [[中標津空港|根室中標津空港]] ([[中標津町]])
=== 鉄道 ===
[[1933年]]([[昭和]]8年)12月1日、[[鉄道省]]によって[[標津線]]が開業。
[[1949年]](昭和24年)6月1日、[[日本国有鉄道]]へ継承。
[[1987年]](昭和62年)[[4月1日]]、[[国鉄分割民営化]]により[[北海道旅客鉄道]](JR北海道)へ継承。
[[1989年]]([[平成]]元年)[[4月30日]]、標津線の[[廃線|廃止]]により、現在町内に[[鉄道路線]]はない。廃止以前、町内には以下の駅が設置されていた。
* 標津線(本線):[[泉川駅]] - [[光進駅]] - [[西春別駅]] - [[上春別駅]]
* 標津線(厚床支線):[[春別駅]] - [[平糸駅]] - [[別海駅]] - [[奥行臼駅]]
また、別海村時代には[[別海村営軌道]]が存在したが、[[1971年]](昭和46年)に廃止された。
=== バス ===
* [[根室交通]] - 中標津空港連絡バス〔標津線(厚床〜中標津)代替〕
* [[阿寒バス]] - 標津線(標茶〜標津 及び 別海~中標津)代替、[[釧路駅]]〜羅臼、標津〜尾岱沼
* 根室交通・[[北都交通 (北海道)|北都交通]] - 札幌方面夜行バス「オーロラ号」
* 別海町営バス - [[北海道旅客鉄道厚岸自動車営業所|釧根線]]代替
=== 道路 ===
; [[一般国道]]
* [[国道243号]]
* [[国道244号]]
* [[国道272号]]
; [[都道府県道]]
* [[北海道道8号根室中標津線]]
* [[北海道道13号中標津標茶線]]
* [[北海道道123号別海厚岸線]]・[[北海道道449号別海浜中停車場線]]
* [[北海道道311号中西別計根別線]]
* [[北海道道362号西春別春別停車場線]]
* [[北海道道363号尾岱沼港春別停車場線]]
* [[北海道道364号本別海別海停車場線]]
* [[北海道道423号西春別停車場線]]
* [[北海道道475号風蓮湖公園線]]
* [[北海道道813号上風連大別線]]
* [[北海道道830号泉川西春別線]]
* [[北海道道831号上春別別海線]]
* [[北海道道928号上風連中西別線]]
* [[北海道道929号中春別床丹線]]
* [[北海道道930号上風連奥行線]]
* [[北海道道950号野付風蓮公園線]]
* [[北海道道951号泉川線]]
* [[北海道道957号大成西春別線]]
* [[北海道道994号中春別俵橋線]]
; [[道の駅]]
*[[道の駅おだいとう|おだいとう]]
== 名所・旧跡・観光スポット・祭事・催事 ==
[[File:Okuyukiusu ekitei.JPG|thumb|280px|奥行臼駅逓]]
=== 文化財 ===
==== 道指定有形文化財 ====
* [[奥行臼駅逓]]
==== 別海町指定文化財 ====
* 奥行臼駅
* 旧別海村営軌道風連線奥行臼停留所
* 加賀家文書 - 別海町郷土資料館附属施設加賀家文書館蔵
* ヤチカンバ群落地
* 西別開基の松 - 別海町役場庁舎前に移植
* 野付の千島桜 - 野付小学校前に移植
* 試作場の桜
* オクユキウスの大楢、山藤松
* 風連の楢林、開墾記念のスモモ
* 蝋山の松
* 本別海一本松
* 役場支所の柏
* 広野開拓六気の柏
* 上西春別小学校の柏
* 野付半島沖マンモスゾウ化石群 - 化石は別海町郷土資料館に収蔵
=== 観光 ===
* [[野付半島]]・[[打瀬船]]([[北海道遺産]])
* [[風蓮湖]]
* [[トドワラ]]
* 野付風蓮道立自然公園
* 別海町尾岱沼[[青少年旅行村]]
* [[尾岱沼温泉]]
=== 祭り ===
* 別海町尾岱沼潮干狩りフェスティバル(5月上旬 - 6月上旬)
* 尾岱沼えびまつり(6月最終日曜)
* 別海町産業祭(9月第3土・日曜)
* 西別川あきあじまつり(10月第2日曜)
=== 特産・地酒 ===
* [[ホッカイシマエビ]]、ホタテ、サケ(あきあじ)、コマイなどの海産物
* [[牛乳]]、[[バター]]、[[アイスクリーム]]などの乳製品
生乳生産量の高さを生かした「福祉牛乳給付事業」が行われており、一定の条件<ref>65歳以上、[[母子家庭]]及び[[生活保護]]世帯など。ただし1カ月以上受け取らない状態が続いた場合は対象者名簿から抹消される。</ref>を満たす住民に対して牛乳の200mlパックを1週間ごとに5個、町より無料で給付している[http://betsukai.jp/blog/0001/index.php?ID=499]。給付される製品は[[べつかい乳業興社]]が供給している。
=== 新・ご当地グルメ ===
* [[別海ジャンボ牛乳&別海ジャンボホタテバーガー]]
=== スポーツ ===
* 陸連の公認コース・公認大会[[別海町パイロットマラソン]]10月第一日曜日開催(以前は体育の日に行っていた)
== 出身の有名人 ==
* [[堤雄司]]([[円盤投]]選手、日本記録保持者)
* [[伊勢大貴]]([[俳優]]・[[歌手]])
* [[佐ノ藤清彦]](元[[大相撲]]力士・元[[十両]])
* [[楠瀬志保]](元[[スケート]]選手)
* [[徳井健太]](お笑い芸人・[[平成ノブシコブシ]])
* [[田村美香]]([[フリーアナウンサー]])
* [[川本紗矢]]([[タレント]]・元[[アイドル]]・元[[AKB48]])
* [[千葉雄泰]]([[芸術家]])
* [[河崎秋子]](作家)
* [[やまざき貴子]]([[漫画家]])
* [[行徒]]([[漫画家]])
* [[行徒妹]]([[漫画家]])
* [[アンチエイジ徳泉]]([[ものまね芸人]]、お笑い芸人)
* [[東条さかな]](イラストレーター)
* 目黒郁也([[ミュージシャン]]・[[ベーシスト]])
* A-2Sick([[ミュージシャン]]・[[GHOSTY BLOW]] Vocal)
* 中鉢優香([[ミュージシャン]]・[[ベーシスト]])
* [[柳家やなぎ]]([[落語家]])
* [[長谷部亮一]]([[経済学者]]・元[[小樽商科大学]]学長)
* 田中仁(数学者)
* [[西條勉]] ([[日本文学]]研究者)
* [[郷亜里砂]]([[スピードスケート]]選手)
* [[スモーキー永田]]([[自動車整備士]]、[[トップシークレット (企業)|トップシークレット]]社長)
* [[高田ぽる子]](お笑い芸人)
* [[森重航]](スピードスケート選手)
=== ゆかりのある人物 ===
* [[小六禮次郎]](作曲家)・[[倍賞千恵子]](女優) - 夫妻で町内に別荘を所有しており<ref>{{Cite web |title=STORY02 |url=http://www.grand-patissier.info/ToshiYoroizuka/story02-37.html |website=www.grand-patissier.info |access-date=2022-08-04}}</ref>、その縁から「別海讃歌」を制作<ref>{{Cite web|和書|title=別海讃歌 {{!}} 町の紹介 {{!}} 北海道別海町 |url=https://betsukai.jp/profile/praise/ |website=betsukai.jp |access-date=2022-08-04 |language=ja}}</ref>。
== 関連項目 ==
* [[野付郡]]
* [[日本の農業協同組合一覧]]
* [[日本の漁業協同組合一覧]]
* [[北海道高等学校一覧]]
* [[北海道中学校一覧]]
* [[北海道小学校一覧]]
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
== 外部リンク ==
{{Wikinews|北海道の別海町で41回目の「馬事競技大会」が開催される - 繋駕速歩競走や騎乗速歩競走も行われる|date = 2014年10月5日}}
{{Commonscat}}
* {{Official website|name=北海道・別海町}}
* [http://www.aurens.or.jp/hp/betsusyo/ 別海町商工会|観光情報、スタンプ会情報発信中]
* [http://www.betsukai.tv/regional/index.php べつかいテレビ|別海町ポータルサイトBTV]
* [http://ja-doutouasahi.or.jp/ 道東あさひ農業協同組合]
{{根室支庁の自治体}}
{{別海町の町・字}}
{{Normdaten}}
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[[Category:北海道の市町村]]
[[Category:根室管内]]
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"Template:脚注ヘルプ"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A5%E6%B5%B7%E7%94%BA |
7,494 | エディタ | エディタ(またはエディター、editor)は、コンピュータ上で各種のオブジェクトを編集するソフトウェア。単にエディタという場合、テキストエディタを指すことがある。 | [
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] | エディタ(またはエディター、editor)は、コンピュータ上で各種のオブジェクトを編集するソフトウェア。単にエディタという場合、テキストエディタを指すことがある。 | {{Otheruses|ソフトウェアの種類|出版などで編集を行う人|編集者}}
'''エディタ'''(または'''エディター'''、{{Lang|en|editor}})は、[[コンピュータ]]上で各種の[[オブジェクト]]を編集する[[ソフトウェア]]。単に'''エディタ'''という場合、[[テキストエディタ]]を指すことがある。
== エディタの種類 ==
* [[テキストエディタ]]
** スクリーンエディタ - テキストエディタを参照されたい。
** [[ラインエディタ]]
** [[ストリームエディタ]]
** [[HTMLエディタ]]
**[[ソースコードエディタ]]
* [[バイナリエディタ]]
* [[リンケージエディタ]]
* [[レジストリ|レジストリエディタ]]
* [[グラフィックエディタ]]
* [[サウンドエディタ]]
* [[分子エディタ]]
== 関連項目 ==
* [[エディタ戦争]]
{{デフォルトソート:えていた}}
[[Category:アプリケーションソフト|えていた]]
[[Category:コンピュータのユーザインタフェース|えていた]]
{{Computer-stub}} | null | 2020-05-23T23:59:43Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BF |
7,497 | キリスト | キリストは、ヘブライ語のメシア(מָשִׁיחַ)のギリシア語訳 Χριστος (Khristos クリストス、フリストス)からの、日本語における片仮名表記。基督、クリスト、クライスト、ハリストスとも表記される。
本項ではキリスト教における語彙「キリスト」の語義・意義について述べる。
ヘブライ語「メシア」での意味は「膏(あぶら)を注がれた(塗られた)者」「受膏者」。古代イスラエルにおいては、預言者、祭司、王などの就任に際して膏を塗る習慣があった。キリスト教においてキリスト(メシア)は、特にこの三つの職務(預言職・祭司職・王職)を併せ持つナザレのイエスを指す称号として用いられ、ナザレのイエスはイエス・キリストと呼ばれる。すなわちキリスト教ではナザレのイエスがキリストであると信じられている。イエス・キリストについては、同時代の大部分の人物よりも遥かに多くの確かな情報がある。
日本では「キリスト」の転写が最も一般的であるが、日本の正教会(日本ハリストス正教会)においては「ハリストス」が用いられる。
日本伝来当時は「キリシト」であったが、江戸時代後期から「キリスト」となった。中国イエズス会士によって音訳語「基利斯督」およびその略語「基督」がつくられ、日本においても明治初年から、「基督」が当て字として新教系の刊行物(片仮名表記「キリスト」を採用した邦訳聖書を除く)で用いられ、明治中期までには一般的表記法として確立した。
ギリシャ語"Χριστος"は古典再建音では「クリストス」となるが、中世から現代に至るまでのギリシャ語の読みでは「フリストス」である。これを受けてブルガリアやロシア等スラヴ語圏の多くで「フリストス」に類する発音がなされるようになり、日本正教会は正教会の一員としてこれら地域の音を継承・尊重して片仮名表記「ハリストス」を採用している。
ギリシャ正教会が多数派であるギリシアでは普通に個人名(クリストス)として命名される。これに対して、カトリック教会・聖公会・プロテスタントといった西方教会や、ギリシャ正教会と同じ正教会の一員ではあるがロシア正教会やその直系である日本正教会では、この名を洗礼名として用いることはまず行われない。 | [
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] | キリストは、ヘブライ語のメシア(מָשִׁיחַ)のギリシア語訳 Χριστος からの、日本語における片仮名表記。基督、クリスト、クライスト、ハリストスとも表記される。 本項ではキリスト教における語彙「キリスト」の語義・意義について述べる。 | {{Otheruseslist|[[キリスト教]]における概念・称号|歴史的な人物としてのナザレのイエス|ナザレのイエス|キリスト教の観点からみたイエス・キリスト|イエス・キリスト|[[ギリシャ語]]の人名|フリストス|その他の用法|キリスト (曖昧さ回避)}}
{{Jesus}}
'''キリスト'''は、[[ヘブライ語]]の[[メシア]]({{lang|he|מָשִׁיחַ}})の[[ギリシア語]]訳 {{lang|el|Χριστος}} (Khristos クリストス、フリストス{{efn2|「クリストス」…[[古典ギリシャ語]]からの転写。「フリストス」…[[中世]]以後の[[ギリシャ語]]の転写。}})からの、[[日本語]]における[[片仮名]]表記。'''基督'''、'''[[クリスト]]'''、'''クライスト'''([[英語]]:Christ)、'''[[正教会の奉神礼・用語体系#「ハリストス」|ハリストス]]'''とも表記される。
本項では[[キリスト教]]における語彙「キリスト」の語義・意義について述べる。
==概念==
[[ヘブライ語]]「[[メシア]]」での意味は「'''膏(あぶら)を注がれた(塗られた)者'''」「'''受膏者'''」。古代[[イスラエル]]においては、[[預言者]]、[[祭司]]、[[王]]などの就任に際して膏を塗る習慣があった。[[キリスト教]]においてキリスト(メシア)は、特にこの[[キリスト三職務|三つの職務]](預言職・祭司職・王職)を併せ持つ[[ナザレのイエス]]を指す称号として用いられ、ナザレのイエスは[[イエス・キリスト]]と呼ばれる<ref name="RCEJC">{{Cite web |url=http://www.newadvent.org/cathen/08374x.htm |website=CATHOLIC ENCYCLOPEDIA |title=The Name of Jesus Christ |publisher= |accessdate=2019-06-08}}</ref>。すなわち[[キリスト教]]では[[ナザレのイエス]]がキリストであると信じられている。イエス・キリストについては、同時代の大部分の人物よりも遥かに多くの確かな情報がある<ref>{{Cite web|和書|title=1.イエスについて実際には何が分かっているのですか?|url=http://opusdei.org/ja-jp/article/iesu-shitsumon-1/|accessdate=2018-05-28|language=ja |website=オプス・デイ |date=2016-09-28}}</ref>。
{{See also|イエス・キリスト}}
==転写・読みの違い==
[[日本]]では「'''キリスト'''」の転写が最も一般的であるが、日本の[[正教会]]([[日本ハリストス正教会]])においては「[[正教会の奉神礼・用語体系#「ハリストス」|ハリストス]]」が用いられる{{要出典|date=2018年9月}}。
日本伝来当時は「キリシト」であったが、江戸時代後期から「キリスト」となった。中国イエズス会士によって音訳語「基利斯督」およびその略語「基督」がつくられ、日本においても明治初年から、「'''基督'''」が当て字として新教系の刊行物(片仮名表記「キリスト」を採用した邦訳聖書を除く)で用いられ、明治中期までには一般的表記法として確立した。
===ハリストス===
ギリシャ語"{{lang|el|Χριστος}}"は古典再建音では「クリストス」となるが、中世から現代に至るまでのギリシャ語の読みでは「フリストス」である{{要出典|date=2018年9月}}。これを受けてブルガリアやロシア等[[スラヴ語]]圏の多くで「フリストス」に類する発音がなされるようになり、日本正教会は正教会の一員としてこれら地域の音を継承・尊重して片仮名表記「ハリストス」を採用している{{要出典|date=2018年9月}}。
==洗礼名としての「キリスト」==
[[ギリシャ正教会]]が多数派であるギリシアでは普通に個人名(クリストス)として命名される{{要出典|date=2018年9月}}。これに対して、[[カトリック教会]]・[[聖公会]]・[[プロテスタント]]といった[[西方教会]]や、ギリシャ正教会と同じ[[正教会]]の一員ではあるが[[ロシア正教会]]やその直系である[[日本ハリストス正教会|日本正教会]]では、この名を洗礼名として用いることはまず行われない{{要出典|date=2018年9月}}<ref group="注">ただし、[[スペイン語]]圏などでは、キリストではなくイエスに相当する[[ヘスス (曖昧さ回避)|ヘスス]](Jesus)という人名は多く使われている。</ref>。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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==参考文献==
<!-- 「参考文献」節には、本記事の出典として実際に使われている文献のみをご記入下さい。 -->
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*『[[岩波キリスト教辞典]]』岩波書店、2002年6月10日。{{ISBN2|4-00-080202-X}}。{{要ページ番号|date=2019-06-08}}
==関連項目==
{{Commonscat}}
{{Wiktionary}}
*[[教派別のキリスト教用語一覧]]
*[[キリスト教徒]]
*[[クリスチャン (人名)]]
*[[ハリストス正教会]]
*[[救世主ハリストス大聖堂]]
*[[全能者ハリストス]]
{{キリスト教 横}}
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[[Category:キリスト教用語]]
[[Category:キリスト教神学]]
[[fr:Christ#Religion]] | 2003-04-30T07:36:21Z | 2023-12-06T08:58:30Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88 |
7,498 | メシア | メシアは、ヘブライ語のマシアハ(מָשִׁיחַ māšîaḥ)に由来し、「(油を)注がれた者」の意。
出エジプト記には祭司が、サムエル記下には王が、その就任の際に油を塗られたことが書かれている。後にそれは理想的な統治をする為政者を意味するようになり、さらに神的な救済者を指すようになった。
メシアのギリシャ語訳がクリストス(Χριστός)で、「キリスト」はその日本語的表記である。キリスト教徒はナザレのイエスがそのメシアであると考えている。イエスをメシアとして認めた場合の呼称がイエス・キリストである。イスラム教徒もイエスをメシア(マスィーフ)と呼ぶが、キリスト教とは捉え方が異なっている。
ヘブライ語マシアハがギリシャ語にはいってメシアス(μεσσίας)となった。日本語のメシアはメシアスに由来する。メサイアは同じ語に由来する英語。
ヘブライ語におけるהמשיח(mashiach)という単語は、直訳すると「油をそそがれた」という意味をもち、誰かあるいは何かを聖油によって聖別することを指す。
メシアの語は旧約聖書のいたるところで見られ、ユダヤ人の王、ラビ、預言者、祭壇、無発酵パンなどの様々な人物や事物に対して用いられている。
対象はユダヤ人やユダヤ人社会に属するものであるとは限らず、イザヤ書では異教徒であるアケメネス朝のキュロス2世がメシアと呼ばれている。
メシアの到来を信ずることはユダヤ教の信仰の中で重要な部分をなし、たとえばマイモニデスによる13の信仰箇条の中にも含まれている。
各時代にメシアを称した者(保守派や、大多数の者からは「偽メシア」ということになる)は、当然ユダヤ教内部でも解釈が分かれ、分派を形成した。また、これに賛同したキリスト教徒・ムスリム(イスラム教徒)もいた。また、こちらも当然ながらユダヤ教からはイエスは偽メシアとして見られている。メシアニック・ジュダイズムのようにユダヤ教を自称し、ユダヤ教的様式の典礼を実践しつつイエスをメシアと認める教派も存在するが、彼ら自身を除いて主流派ユダヤ教やキリスト教両者側からもユダヤ教ではなくキリスト教の一派と認識されている事の方が多い。
イスラームでもユダヤ教、キリスト教からメシアの概念は継承されており、アラビア語で「マスィーフ」(مسيح masīḥ、油等を塗る意味の動詞の派生語)と呼ばれ、イエスのことを指す。イスラームにおいてはイエス自身は、預言者、かつ、預言者ムハンマドに先行する神(アッラーフ)の使徒、とされており、また神が派遣したメシアであることも認識されている。クルアーンの記述から「マスィーフ」(救済者、メシア)はダビデの子孫から出現するとされ、人々を苦難から救済しアッラーフ(神)の支配を確立する者としている。終末のときに神の代理人として出現し偽メシアを討伐するといい、これらもユダヤ教、キリスト教のメシア像から受継がれている。イスラームにおいて「マスィーフ」は人類の救世主であるのに対して、彼の前に人々の前へ現れるものを「マフディー」(「正しく導かれる者」の意味)と称する。彼はイエスとは異なりアブーハニーファーのことをさす。単に「アル=マスィーフ」(al-Masīḥ)、「マスィーフッラーフ」(مسيح اللّه Masīḥ Allāh;神のメシア)と呼ぶ場合、イエス自身を指す尊称である。
「イーサー」として彼を意味する、最後から2番目のメシアとしてクルアーンはイエスを位置づける。ノア、アブラハム、モーゼ、そしてムハンマドと共に、イスラームの伝統ではイエスは最も重要な預言者のひとりである が、キリスト教徒による理解とは異なり、ムスリムは彼を神ではなくひとりの預言者としてのみ理解する。人間的な形での預言はイスラームでは十分であり、キリスト教信仰でのイエスが行うものとしての神の真の力を意味しない。
クルアーンは、イーサーがマルヤムの息子(英:Son of Mariam、アラビア:Isa ibn Maryam)であり、イスラエルの子孫に送られたメシアそして預言者であることを明記している。イーサーの誕生がクルアーンの19章1-33節に、そしてイーサーがマルヤムの息子として4章171節に明示的に記されている。多くのムスリムはイーサーが天国に生きていることと、ヤウム・アル‐キヤーマ(英語版)(「復活の日」)の前にまもなく現れる者でありキリスト教信仰での反キリストと姿が似ている、マシーフッダジャール(英語版)(偽のメシア)を撃破するため地上に帰ってくるということを信じる。ダジャールを滅ぼしてからの、彼の最後の仕事はムスリムの主導者となることである。支持者たちによる分派と逸脱とが終わることで、イーサーは純粋なイスラームでの唯一の神(アッラーフ)の崇拝という共通の目的のもとにウンマを統一するだろう。主流派のムスリムはこのときにイーサーがキリスト教徒とユダヤ教徒の彼についての主張を追い払うであろうことを信じる。 | [
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] | メシアは、ヘブライ語のマシアハに由来し、「(油を)注がれた者」の意。 出エジプト記には祭司が、サムエル記下には王が、その就任の際に油を塗られたことが書かれている。後にそれは理想的な統治をする為政者を意味するようになり、さらに神的な救済者を指すようになった。 メシアのギリシャ語訳がクリストス(Χριστός)で、「キリスト」はその日本語的表記である。キリスト教徒はナザレのイエスがそのメシアであると考えている。イエスをメシアとして認めた場合の呼称がイエス・キリストである。イスラム教徒もイエスをメシア(マスィーフ)と呼ぶが、キリスト教とは捉え方が異なっている。 ヘブライ語マシアハがギリシャ語にはいってメシアス(μεσσίας)となった。日本語のメシアはメシアスに由来する。メサイアは同じ語に由来する英語。 | {{Otheruses}}
[[File:Samuel e david.jpg|thumb|[[サムエル]]に油を注がれる[[ダビデ]]。[[3世紀]]、[[ドゥラ・エウロポス]]の壁画]]
'''メシア'''は、[[ヘブライ語]]のマシアハ({{hebrew|מָשִׁיחַ}} {{transl|he|māšîaḥ}})に由来し、「(油<ref group="注釈">聖別に用いられる油は[[ナルド]]([[日本]]ではナード、またはスパイクナードと呼ばれる)のアロマであり、女郎花科のナルドスタキス・ジャターマンシーから抽出された香料(日本でもお香の材料に使われる)をオリーブ油に溶いたものとされる。1500年前に絶滅した「バルサム樹(バルサムの木)」から採取した「[[バルサム|バルサム油]]」とする説もある。</ref>を)注がれた者」の意。
[[出エジプト記]]には祭司が<ref>出エジプト記 28:41</ref>、[[サムエル記]]下には王が<ref>サムエル記下 2:4</ref>、その就任の際に油を塗られたことが書かれている。後にそれは理想的な統治をする為政者を意味するようになり、さらに神的な救済者を指すようになった。
ヘブライ語マシアハがギリシャ語にはいってメシアス({{lang|grc|μεσσίας}})となった。日本語のメシアはメシアスに由来する。[[メサイア]]は同じ語に由来する英語。
== 概説 ==
ヘブライ語における{{hebrew|המשיח}}(mashiach)という単語は、直訳すると「油をそそがれた」という意味をもち、誰かあるいは何かを聖油によって聖別することを指す。
メシアの語は旧約聖書のいたるところで見られ、[[ユダヤ人]]の王、[[ラビ]]、[[預言者]]、祭壇、無発酵[[パン]]などの様々な人物や事物に対して用いられている。
対象はユダヤ人やユダヤ人社会に属するものであるとは限らず、イザヤ書では異教徒である[[アケメネス朝]]の[[キュロス2世]]がメシアと呼ばれている<ref>"[http://jewishencyclopedia.com/articles/4828-cyrus#anchor7 Cyrus]". ''Jewish Encyclopedia'' (1906). "This prophet, Cyrus, through whom were to be redeemed His chosen people, whom he would glorify before all the world, was the promised Messiah, 'the shepherd of Yhwh' (xliv. 28, xlv. 1)."</ref>。
メシアの到来を信ずることは[[ユダヤ教]]の信仰の中で重要な部分をなし、たとえばマイモニデスによる13の信仰箇条の中にも含まれている。
各時代にメシアを称した者([[保守]]派や、大多数の者からは「偽メシア」ということになる)は、当然ユダヤ教内部でも解釈が分かれ、分派を形成した。また、これに賛同した[[キリスト教徒]]・[[ムスリム]](イスラム教徒)もいた。また、こちらも当然ながらユダヤ教からはイエスは偽メシアとして見られている。[[メシアニック・ジュダイズム]]のようにユダヤ教を自称し、ユダヤ教的様式の典礼を実践しつつイエスをメシアと認める教派も存在するが、彼ら自身を除いて主流派ユダヤ教やキリスト教両者側からもユダヤ教ではなくキリスト教の一派と認識されている事の方が多い。
=== キリスト教 ===
メシアの[[ギリシャ語]]訳がクリストス({{lang|el|Χριστός}})で、「[[キリスト]]」はその日本語的表記である<ref>[[ヨハネによる福音書]] 1:41</ref>。[[キリスト教徒]]は[[ナザレのイエス]]がそのメシアであると考えている。イエスをメシアとして認めた場合の呼称が[[イエス・キリスト]]である。[[ムスリム|イスラム教徒]]もイエスをメシア(マスィーフ)と呼ぶが、[[キリスト教]]とは捉え方が異なっている。
=== イスラーム ===
[[イスラム教|イスラーム]]でもユダヤ教、キリスト教からメシアの概念は継承されており、[[アラビア語]]で「マスィーフ」({{rtl-lang|ar|مسيح}} {{transl|ar|masīḥ}}、油等を塗る意味の動詞の派生語)と呼ばれ、イエスのことを指す。イスラームにおいてはイエス自身は、預言者、かつ、預言者[[ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフ|ムハンマド]]に先行する[[神]]([[アッラーフ]])の[[使徒]]、とされており、また神が派遣したメシアであることも認識されている。[[クルアーン]]の記述から「マスィーフ」(救済者、メシア)は[[ダビデ]]の子孫から出現するとされ、人々を苦難から救済し[[アッラーフ]](神)の支配を確立する者としている。[[終末]]のときに神の代理人として出現し偽メシアを討伐するといい、これらもユダヤ教、キリスト教のメシア像から受継がれている。イスラームにおいて「マスィーフ」は人類の救世主であるのに対して、彼の前に人々の前へ現れるものを「[[マフディー]]」(「正しく導かれる者」の意味)と称する。彼はイエスとは異なりアブーハニーファーのことをさす。単に「アル=マスィーフ」({{transl|ar|al-Masīḥ}})、「マスィーフッラーフ」({{rtl-lang|ar|مسيح اللّه}} {{transl|ar|Masīḥ Allāh}};神のメシア)と呼ぶ場合、イエス自身を指す尊称である。
「イーサー」として彼を意味する、最後から2番目の''メシア''としてクルアーンは[[イスラームにおけるイーサー|イエス]]を位置づける<ref name = "thesis">{{ cite web | last = Albert | first = Alexander | title = Orientating, Developing, and Promoting an Islamic Christology | url = http://digitalcommons.fiu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1226&context=etd | publisher = FIU Electronic Theses and Dissertations | accessdate = 1 May 2014 }}</ref>。ノア、アブラハム、モーゼ、そしてムハンマドと共に、イスラームの伝統ではイエスは最も重要な預言者のひとりである<ref group = "クルアーン" > 第33章7節 {{Cite web|和書| title = 部族連合| url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura33.html | accessdate = 2016-12-16 }} </ref><ref group = "クルアーン">第42章13-14節{{Cite web|和書| title = 相談 | url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura42.html | accessdate = 2016-12-16 }}</ref><ref group = "クルアーン">第57章26節 {{Cite web|和書| title = 鉄 | url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura57.html | accessdate = 2016-12-16 }}</ref> <ref name = "thesis"/>が、キリスト教徒による理解とは異なり、ムスリムは彼を神ではなくひとりの預言者としてのみ理解する。人間的な形での預言はイスラームでは十分であり、キリスト教信仰でのイエスが行うものとしての神の真の力を意味しない<ref>{{ cite book | last = Siddiqui | first = Mona | title = Christians, Muslims, and Jesus | year = 2013 | publisher = Yale University Press | page = 12}}</ref>。
クルアーンは、イーサーがマルヤムの息子(英:Son of Mariam、アラビア:''Isa ibn Maryam'')であり、イスラエルの子孫に送られたメシアそして預言者であることを明記している<ref group = "クルアーン">第3章45節{{Cite web|和書| title = イムラーン家 | url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura3.html | accessdate = 2016-12-16 }}</ref>。イーサーの誕生がクルアーンの19章1-33節<ref group = "クルアーン" >第19章1-33節{{Cite web|和書| title = マルヤム | url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura19.html | accessdate = 2016-12-16 }}</ref>に、そしてイーサーがマルヤムの息子として4章171節<ref group = "クルアーン" >第4章171節{{Cite web|和書| title = 婦人 | url = http://islaam.ninja-x.jp/quranjp/sura4.html | accessdate = 2016-12-16 }}</ref>に明示的に記されている。多くのムスリムはイーサーが天国に生きていることと、{{仮リンク|ヤウム・アル‐キヤーマ|en|Qiyamah|label=''ヤウム・アル‐キヤーマ''}}(「復活の日」)の前にまもなく現れる者でありキリスト教信仰での[[反キリスト]]と姿が似ている、{{仮リンク|マシーフッダジャール|en|Mashih ad-dajjal}}(偽のメシア)を撃破するため地上に帰ってくるということを信じる<ref name = MC_1>{{ cite web | url = http://muttaqun.com/dajjal.html | title = Muttaqun OnLine - Dajjal (The Anti - Christ): According to Quran and Aunnah | accessdate = 9 November 2012}}</ref>。ダジャールを滅ぼしてからの、彼の最後の仕事はムスリムの主導者となることである。支持者たちによる分派と逸脱とが終わることで、イーサーは純粋なイスラームでの唯一の神(アッラーフ)の崇拝という共通の目的のもとにウンマを統一するだろう。主流派のムスリムはこのときにイーサーがキリスト教徒とユダヤ教徒の彼についての主張を追い払うであろうことを信じる。
== ユダヤ教の文脈においてメシアを自称した者たち ==
*[[ナザレのイエス]] - [[キリスト教]]にとってのメシア/[[神]]/神の子([[イエス・キリスト]])、イスラム教にとっての[[預言者]]。分派を形成
*[[メナヘム (ガリラヤ)|ユダの子メナヘム]] - [[第1次ユダヤ戦争]]を指揮、父であるガリラヤ人ユダは[[熱心党]]の創始者
*[[バル・コクバ]] - [[第2次ユダヤ戦争]]を指揮し、エルサレムで2年半の間全イスラエルを統治
*クレタのモーセ
*スペインのセレヌス
*David Alroy
*アブラハム・アブラフィア
*ニッシム・ベン・アブラハム
*Moses Botarel of Cisneros
*アッシャー・レムライン Asher Lemmlein
*[[イサーク・ルリア]]
*[[シャブタイ・ツヴィ]] (サバタイ・ツヴィ)- 解釈が分かれ分派を形成
*アイゼンシュタットの[[モルデカイ・モキア]]
*[[ヤコブ・フランク]] - 解釈が分かれ分派を形成
*[[メナヘム・メンデル・シュネールソン]] - 現在、解釈が分かれている
== メシアを自称した者たち==
*[[出口王仁三郎]] - 自分を、再臨(再来)のキリストだと主張
*[[金百文]](キム・ベンムン) - 自分が再臨のキリストであると主張。[[文鮮明]]に影響を与える
*[[朴泰善]](パク・テソン) - [[1960年代]]に、キリストが雲に乗ってくると言って、多くの信徒を連れて閉鎖的な信仰村を作った。キリストが来ると予言した日には何も起こらず、信徒たちは離れて行った。自分こそが再臨のキリストであると主張
*[[文鮮明]] - [[1992年]]に公にメシアであると主張。[[2012年]]死去
*[[麻原彰晃]] - [[1991年]]に「キリスト宣言」を出して、自分だけが世界を救済することのできる「救世主・キリスト」であると主張
*[[又吉イエス]] - 日本の政治運動家。選挙演説などで再来のキリストと主張
==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
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=== クルアーンの原典からの出典情報 ===
{{Reflist | group = "クルアーン"}}
== 関連項目 ==
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*[[救世主]]
*[[w:List of messiah claimants|List of messiah claimants]]
*[[メサイアコンプレックス]]
{{Div col end}}
== 外部リンク ==
{{Wiktionary|メシア|משיח}}
*{{kotobank}}
*{{kotobank|メシア思想}}
*{{kotobank|メシアニズム}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:めしあ}}
[[Category:聖書]]
[[Category:キリスト論]]
[[Category:救済論]]
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%B7%E3%82%A2 |
7,499 | 事後強盗罪 | 事後強盗罪(じごごうとうざい)は、刑法238条によって規定される犯罪である。窃盗犯が、財物の取り返しを防ぐため、逮捕されることを免れるため、または、罪証隠滅のために、暴行・脅迫をすることを内容とする。強盗として処断される。
ドイツ刑法に、類似する犯罪類型として強盗的窃盗罪 ( Räuberischer Diebstahl ) が規定されている。
事後強盗罪がいかなる目的で規定されたかについては争いがある。本罪の意義、性格に関する学説の対立状況、および各節からの帰結は概ね以下のとおりである。
下級審ではあるが、本罪は真正身分犯であるとした判決が出ている(大阪高判昭和62年7月17日判時1253号141頁)。
「窃盗」は窃盗犯の共犯を含まないと考えられている。これに対しドイツの強盗的窃盗罪では解釈上含められ、強盗的窃盗罪の正犯となりうる。
判例・通説によれば本罪は目的犯であり、被害者が財物を取り返そうとし、又は加害者を逮捕しようとする行為の存否にかかわらず成立する(最判昭和22年11月29日刑集1巻1号40頁)。また、犯人が逮捕を免れなくても本罪は成立する(大判大正7年6月9日刑集11巻778頁)。
判例によれば、本罪の未遂・既遂は窃盗が未遂か既遂かによって決せられる(最判昭和24年7月9日刑集3巻8号1188頁)。すなわち、判例は本罪の「窃盗」には未遂犯も含まれるという見解に準拠している。 なお、ドイツの強盗的窃盗罪は、まず窃盗が既遂でなければ問題とされない。
窃盗犯が事後強盗罪を構成する暴行・脅迫行為をおこなった際に、事情を知りつつ加担した窃盗犯以外の者をいかに処断するか争いがある。 | [
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] | 事後強盗罪(じごごうとうざい)は、刑法238条によって規定される犯罪である。窃盗犯が、財物の取り返しを防ぐため、逮捕されることを免れるため、または、罪証隠滅のために、暴行・脅迫をすることを内容とする。強盗として処断される。 ドイツ刑法に、類似する犯罪類型として強盗的窃盗罪 が規定されている。 | {{日本の犯罪
| 罪名 = 事後強盗罪
| 法律・条文 = 刑法238条
| 保護法益 = 他人の身体・財物
| 主体 = 窃盗犯人
| 客体 = 人・財物
| 実行行為 = 暴行・脅迫
| 主観 = 故意犯・目的犯
| 結果 = 結果犯、侵害犯
| 実行の着手 = 逃走するために暴行または脅迫が行われた時点
| 既遂時期 = 財物の占有を取得した時点
| 法定刑 = 5年以上の有期懲役
| 未遂・予備 = 未遂罪(243条)・予備罪(237条)
|}}
{{日本の刑法}}
{{ウィキプロジェクトリンク|刑法 (犯罪)}}
'''事後強盗罪'''(じごごうとうざい)は、[[刑法 (日本)|刑法]]238条によって規定される犯罪である。[[窃盗犯]]が、財物の取り返しを防ぐため、[[逮捕]]されることを免れるため、または、罪証隠滅のために、[[暴行]]・脅迫をすることを内容とする。[[強盗]]として処断される。
[[ドイツ刑法]]に、類似する犯罪類型として[[強盗的窃盗罪]] ( [[:w:de:Räuberischer Diebstahl|Räuberischer Diebstahl]] ) が規定されている。
==事後強盗罪の意義・性格==
事後強盗罪がいかなる目的で規定されたかについては争いがある。本罪の意義、性格に関する学説の対立状況、および各節からの帰結は概ね以下のとおりである。
* 窃盗犯が逃亡する際に、被害物件を取り返そうとする者や自己を逮捕しようとする者に暴行・脅迫を加えることが多いため、人身保護の観点から強盗と同じと扱うのだとする説
** 本罪は[[身分犯|不真正身分犯]]である。
** 本罪の「窃盗」には未遂犯も含まれる。
** 本罪の[[実行行為]]は、所定目的での暴行・脅迫である。
* 事後強盗は実質的に暴行・脅迫を用いて財物を取得したと評価しえることから、強盗として扱うのだとする。
** 本罪は[[身分犯|真正身分犯]]であるとする説
*** 本罪の「窃盗」には未遂は含まれない。
*** 窃盗既遂犯が暴行・脅迫を加えたが奪還されてしまった場合には未遂となる。
** 本罪は[[身分犯]]ではないとする説
下級審ではあるが、本罪は真正身分犯であるとした判決が出ている(大阪高判昭和62年7月17日判時1253号141頁)。
「窃盗」は窃盗犯の[[共犯]]を含まないと考えられている。これに対しドイツの強盗的窃盗罪では解釈上含められ、強盗的窃盗罪の正犯となりうる。
== 主な解釈論 ==
=== 目的 ===
判例・通説によれば本罪は[[目的犯]]であり、被害者が財物を取り返そうとし、又は加害者を逮捕しようとする行為の存否にかかわらず成立する(最判昭和22年11月29日刑集1巻1号40頁)。また、犯人が逮捕を免れなくても本罪は成立する(大判大正7年6月9日刑集11巻778頁)。
=== 暴行・脅迫 ===
* 内容
** 本罪の暴行・脅迫は[[強盗罪]]と同じく、反抗を抑圧すべき程度のもので足りる(最狭義の暴行・脅迫、大判昭和年19年2月8日刑集23巻1頁)。
* 対象
** 暴行・脅迫の対象は、必ずしも窃盗の被害者に限られない。犯行を目撃して追跡してきた者に対する暴行でも本罪は成立する(大判昭和8年6月5日刑集12巻648頁)。
* 関連性
** 判例・通説によれば、窃盗と暴行・脅迫の間に関連性がなければ本罪は成立しない。距離的・時間的に関連性があるかどうかは、個々の事例ごとに判断されている。
** ドイツの強盗的窃盗罪では解釈上''場所的・時間的近接性'' ( ein enger örtlicher und zeitlicher Zusammenhang ) を要件とする。
=== 既遂時期 ===
判例によれば、本罪の未遂・既遂は窃盗が未遂か既遂かによって決せられる(最判昭和24年7月9日刑集3巻8号1188頁)。すなわち、判例は本罪の「窃盗」には未遂犯も含まれるという見解に準拠している。
なお、ドイツの強盗的窃盗罪は、まず窃盗が既遂でなければ問題とされない。
== 事後強盗罪と承継的共同正犯 ==
窃盗犯が事後強盗罪を構成する暴行・脅迫行為をおこなった際に、事情を知りつつ加担した窃盗犯以外の者をいかに処断するか争いがある。
== 参考文献 ==
{{Wikibooks|刑法各論}}
* [[前田雅英]] 『刑法各論講義-第3版』 [[東京大学出版会]]、1999年
* [[西田典之]] 『刑法各論(法律学講座双書)第四版 』 弘文堂(2007年)
{{日本の刑法犯罪}}
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[[Category:日本の犯罪類型]]
[[Category:強盗]]
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7,501 | アシュケナジム | アシュケナジム(アシュケナージム、Ashkenazim [ˌaʃkəˈnazim], אשכנזים)とは、ユダヤ系のディアスポラのうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々およびその子孫を指す。語源は創世記10章3節ならびに歴代誌上1章6節に登場するアシュケナズ(新共同訳や新改訳での表記。口語訳ではアシケナズと表記)である。単数形はアシュケナジ(アシュケナージ、Ashkenazi[ˌaʃkəˈnazi], אשכנזי)。 アシュケナージは、ヘブライ語でドイツを意味する。
アシュケナジムとセファルディムは、今日のユダヤ社会の二大勢力である。イスラエルでは一般に、前者が白人系ユダヤ人、後者がアジア人または南欧系及び中東系ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これはオスマン朝からイギリス委任統治期を経てイスラエル共和国建国後に至るユダヤ教の宗教行政において「オリエントのユダヤ教徒」(Yahudei ha-Mizrah)がセファルディムの主席ラビの管轄下に置かれていたことに起因する。しかし、それ以前の歴史や人種的にはっきりしたことは不詳で、現在も論争がたえない。
ディアスポラ後も、ユダヤ人のほとんどは地中海世界(のちのイスラム世界)に住んでいた。それに対し、アルプス以北におけるユダヤ人の起源ははっきりしない。7世紀に中央アジア西部のコーカサスからカスピ海北岸にいたハザール王国の住民とされ、ヨーロッパに西進し移住したわずかのコーカソイドの一派のユダヤ教徒の子孫だとする説、またはローマ時代イスラム世界から商人としてヨーロッパを訪れたとする説、イタリアからアルプスを越えてやって来たとする説などあるが、単一の起源ではないかもしれない(一部に、9世紀頃に民衆がユダヤ教に集団改宗した黒海北岸のハザール汗国の子孫だとする主張が見られる。しかしハザールの使用言語はテュルク諸語であった点など歴史的な状況を考えると色々無理があり学問的根拠に乏しく、まともな学説とは見做されていない)。いずれにせよ、8世紀から9世紀には北フランスにアシュケナジムらしきユダヤ人の記録が見える。まもなく彼らは、ドイツ中部のライン川(ライン地方)、ブリテンなどにも広がった。
彼らは当初は、ヨーロッパとイスラム世界とを結ぶ交易商人だったが、ヨーロッパ・イスラム間の直接交易が主流になったこと、ユダヤ人への迫害により長距離の旅が危険になったことから、定住商人へ、さらにはキリスト教徒が禁止されていた金融業へと移行した。「ユダヤ人高利貸」というステレオタイプはこのようなキリスト教社会でのユダヤ人の職業に由来し、これに対しイスラム社会のユダヤ人にはこのような傾向はなかった。
彼らは西欧にも定住したが、1290年にはイングランドから、1394年にはフランスからユダヤ人が追放された。15世紀になるとドイツ諸邦でも迫害されたりした。
追放された彼らの多くは東方へと移民した。まずはオーストリア、ボヘミア、モラヴィア、ポーランドなどの地域へ移住し、ポーランド王国は1264年に「カリシュの法令」を発布してユダヤ人の社会的権利を保護した。当時ドイツ人の東方植民時代で、国王による都市化促進政策の一環として、ユダヤ人もドイツ人と一緒に招聘された。ユダヤ人などもポーランドで(ドイツの)マクデブルク法により商業的に有利な優先的条件と権利を保護されていた為にユダヤ人にとり魅力があったため移民した。ユダヤ人は都市を築き、商業や銀行業を始め、彼らのビジネスや文学や進んだ技術や高い能力を認められ大公などの側近を勤めポーランド経済の柱となり、ポーランドで最初の硬貨発行(ヘブライ語が印刻)などに携わった)。ポーランドはユダヤ人にとって非常に住みやすい国となった。彼らはのちにポーランド・リトアニア共和国の全地域へと拡散した。ポーランド王国は当初彼らを、チュートン騎士団等ドイツ人勢力との結びつきが強いドイツ人移民に代わる専門職移民として歓迎した。彼らの中には、ポーランド・リトアニア共和国で成功し、金融業や商人、地主や貴族階級(シュラフタ)になった者、そしてヨーロッパに来て初めて農業を営んだ者もいたが、その点が西欧に住み続けたユダヤ人たちと異なる。
中世末期の欧州では、諸国の王がその時々の利得をはかって、ユダヤ人にしばしば保護を与えていた。これは予告なく撤回もされるものだった。アシュケナジム(東欧系ユダヤ人)のポーランド移住の初期における身分は、そのような政策の特徴をよく示している。ヴィースラ川の王国(ポーランド王国)にやってきたユダヤ人は、祖国で享受していたものと同等とされる特典をいくつか与えられた。
1264年にカリーシュのボレスワフ公が、マグデブルクの勅令を範として彼らに与えた身分は、その典型であり、後代に各地で模倣された。この制度のもと、ユダヤ人社会は、その宗教と「民族的出自」ゆえに、特殊な社会集団としてコミューン(ヘブライ語で「ケヒラ」)を組織し、内部自治を行うことが認められていた。ユダヤの人間と財産は君主の所有物(servi camerae)であるとされ、これを害するものは君主の財産を害するものと見なされた。
1334年、ポーランド王カジミエシュ三世により、この制度は王国全体に広められた。
1388年には、リトアニア王ヴィータウタスもそれに倣った。この移民誘致策に下心がないということはなく、「庇護民」を搾取するのは当たり前となっていた。それが高度に磨かれると「海綿しぼり法」が用いられる。表向きは、気前よく特典と保証をふるまって、他国で迫害されているユダヤ人を引き寄せる。彼らが十分に繁栄し、金を蓄えたころを見はからって、国外に追放し、財産と利権を取り上げる。またユダヤ人たちに、戻ってきて、剥奪された財産と特典を買い戻さないかと持ちかけた。
フランス革命による平等思想の啓蒙や、ポーランド分割による国境の消滅により、アシュケナジムの中にはふたたび西欧に戻ったり、新大陸へと移住したりするものも現れた。しかしその大多数は現在のポーランド、ベラルーシ、ウクライナ西部(ガリツィア)の三地域に居住した。
19世紀末から20世紀前後にロシア帝国のポグロムや反ユダヤ政策、ヨーロッパ諸国での反ユダヤ主義勃興により、ユダヤ人自身の国民国家を約束の地に建国することを求めるシオニズムの思想が生まれ、ポーランドやロシアなど東欧からオスマン帝国領のパレスチナに入植する人々が現れた。第一次世界大戦中、1917年のロシア革命でロシア帝国が崩壊した後に誕生したソビエト連邦では国家指導者のウラジーミル・レーニンの母方にユダヤ系がいた他、レフ・トロツキーを筆頭に多くの主要人物がユダヤ人だったため、その統治組織であるソビエト連邦共産党(ボリシェヴィキ)、およびその支配原理としてユダヤ人のカール・マルクスが作った共産主義(マルクス主義)は、欧州諸国やアメリカ合衆国などの各国政府や支配層・資本家にとって反共主義と反ユダヤ主義がまざった恐怖と憎悪の対象となった。一方、当のソビエト連邦では民族平等が唱えられて革命直後に反ユダヤ主義立法が撤廃されたが、レーニンの死後に独裁者となったヨシフ・スターリンはトロツキーやグリゴリー・ジノヴィエフなど多くのユダヤ系要人を粛清した。1928年にその原型が成立したユダヤ自治州は広大なシベリアの一角、アムール川沿いにユダヤ人の入植地や新たな故郷を作る政策だったが、1930年代後半にソ連国内で反ユダヤ主義が強まるとこの試みは事実上失敗した。
1933年にドイツではナチスのアドルフ・ヒトラーが首相に就任すると急速に反ユダヤ主義政策を実施し、多くのユダヤ系ドイツ人がアメリカ合衆国やイギリス委任統治領パレスチナに逃げるように移住していった。1939年、ドイツとソビエト連邦によるポーランド侵攻が起きてポーランドが占領され、ポーランドを含むヨーロッパのユダヤ系の人々はナチス・ドイツが引き起こしたホロコーストにより多くが死亡した。1945年に第二次世界大戦が終わると強制収容所から生存したユダヤ人は再び大規模移住を始め、今度はポーランドやソ連などからアメリカやパレスティナに向かい、後者はイスラエル建国に大きな役割を果たした。
第一次世界大戦後に独立を果たしたポーランド第二共和国は、ポーランド分割以前のポーランド国家同様、再び世界最大のユダヤ人人口を抱える独立国家となった。
ユダヤ系ポーランド人は、多くは商人となり時にその地域の富裕層になったりした。 ユダヤ人は靴屋や仕立て屋などになったり、医者(ポーランドの全医師の56%)、教師 (43%)、ジャーナリスト (22%) そして弁護士 (33%)であった。第二次世界大戦前までは、ユダヤ人の出版物も盛んに発行され、科学者や数学者、経済学者、文学家、などが貢献していた。(ノーベル賞受賞者、レオニード・ハーヴィッツ(経済学)、アイザック・バシェヴィス・シンガー(文学))
1921-1931年頃、ユダヤ人はよくポーランド人とは認知されず、ユダヤ人とポーランド人の関係は緊迫する結果となった。
1923年、ポーランドの全大学でユダヤ人生徒が、口腔医学で62.9%を占め、医学は34%、哲学 29.2%、 化学 22.1%、法律 22.1%(26% 1929年まで)となり反発の要因となった。殆どのユダヤ人は高学歴であったが、政府官僚の地位からは除外された。
反ユダヤ主義は、第二次世界大戦前の数年に頂点を迎えた。国内でユダヤ人商売のボイコット運動やコーシャー肉用の屠殺禁止運動など盛んになった。
1935年と1937年、反ユダヤ事件が起こりユダヤ人は37名死亡し、外傷者500名であった。
1936年、 私企業 80.3%はユダヤ人経営となった。
ドイツがポーランドに侵攻するまでの1939年、この運動はエスカレートし、ユダヤ人への敵意はポーランド人右派やカトリック教会などの旨意の中心となった。
第二次世界大戦の幕開けと共に、ユダヤ系132,000名がポーランド軍に従軍して戦った。ユダヤ系ポーランド人兵士の内、戦死32,216名、捕虜61,000名にのぼった。捕虜達は強制収容所へ送られ、そのほとんどが亡くなった。
ナチス・ドイツは、ヨーロッパ地域のユダヤ人の処遇について、1942年1月に開催されたヴァンゼー会議にて討議されたユダヤ人問題の最終的解決を以って、ユダヤ人に対するホロコースト(大量虐殺)を開始した。
ホロコーストにより、ポーランドに居住していた約600万人のユダヤ人のうち、半数の約300万人がドイツによって殺害された。これにより、現代のアシュケナジムは主にアメリカ合衆国かイスラエルに居住している。ポーランドのユダヤ人は、第二次世界大戦前後に正統派ユダヤ教徒のポーランド人の多くがイスラエルやアメリカ合衆国へ渡ったが、一方で非正統派ユダヤ教徒のポーランド人や、さらに世俗的なユダヤ系ポーランド人などがポーランドに残った。
1939年10月から1942年7月、ユダヤ人38万人が3.4km2のワルシャワ・ゲットーへ入れられた。その際に空き家となったユダヤ人住居は、戦後の住居として当局から非ユダヤ系ポーランド人達に与えられたが、強制収容所から生還したユダヤ人との間で不動産トラブルが頻発した。
1942年3月中旬-1943年11月初旬、ラインハルト作戦によりポーランド各地にヘウムノ強制収容所、ベウジェツ強制収容所、ソビボル強制収容所、トレブリンカ強制収容所、マイダネク強制収容所、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所が建設され、ゲットーを含めた各地域のユダヤ人達は続々と強制労働場(en:Forced labour under German rule during World War II)や強制収容所へ移送されていった。 ほとんどのシナゴーグは破壊された。
1943年2月、約1万人のビャウィストクのユダヤ人がトレブリンカ強制収容所へ移送された。移送中は食料や水の配給は一切なく、数百人の幼児、老人、病人などが衰弱して亡くなった。
1943年4月ー5月、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人は、トレブリンカ絶滅収容所へ移送され始め、ゲットー内の左翼シオニスト青年組織ユダヤ人戦闘組織によりワルシャワ・ゲットー蜂起が起こった。
1943年8月、ビャウィストク・ゲットー解体命令が出された。7600人がトレブリンカ絶滅収容所へ移送され、子供1200人はボヘミアのテレージエンシュタットへ移送後、アウシュヴィッツ=ビルケナウへ移送されて、そこで殺害された
1943年8月16日、ビャウィストク・ゲットーにてビャウィストク・ゲットー蜂起(英語版)が起こる。蜂起自体は何の効果もなく即座にドイツ軍に鎮圧されたが、2番目に大きな蜂起となった。
1942~1945年、ロンドンのポーランド亡命政府内に、ユダヤ人救済委員会の「ジェゴタ(en:Żegota)」は組織された。このメンバーには、後の外務大臣(1999-2001年)となるユダヤ人のヴワディスワフ・バルトシェフスキが含まれていた。
1944年、ワルシャワ蜂起が起こり、ユダヤ系ポーランド人約17,000人が国内軍 と共に戦うか、市内各所に隠れていた。蜂起の鎮圧後、参加者とみなされた者は即座に処刑され、隠れていた者は強制収容所へと連行された。
1945年1月17日、ワルシャワ蜂起により廃墟となったワルシャワ市内をソ連軍が占領した。続く1月27日には旧ポーランド領内に設置されていたアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所がソ連軍により解放され、ナチスによるユダヤ人虐殺の実態が徐々に明らかとなっていった。この日は2005年に国際連合でホロコースト犠牲者を想起する国際デーとして制定された。
第二次大戦終結直後から、様々な理由でユダヤ系ポーランド人はポーランドを離れた。ポーランドでの共産主義やホロコーストにより家族親族を多く失ったこと、またはポーランド人の反ユダヤ主義を避けたい等の理由があった。ポーランドは、ユダヤ人移民がイギリス委任統治領パレスチナへ自由に行ける東側諸国の唯一の国であった。
1944–46年、反ユダヤ運動が起こる。ポーランド人によって数百人から1500人のユダヤ人が殺害された。一方、1947年に新憲法を制定したポーランド国民統一臨時政府ではソ連の支援を受けた共産主義のポーランド統一労働者党が単一政党として実権を掌握したが、同年11月29日の国連総会におけるパレスチナ分割決議にはソ連やチェコスロバキアとともに賛成した。1948年5月14日、ポーランド出身の非共産系社会主義者だったダヴィド・ベン=グリオンを首相とするイスラエル国家が独立を宣言すると5月19日にはポーランドがこれを承認し、同年内にワルシャワへイスラエル大使館が設置されてユダヤ系住民の移住を支援した。
1958–59年、ヨシフ・スターリンの死後、既に1952年にポーランド人民共和国となっていたポーランドから5万人のユダヤ人がイスラエルに移民した。一方で人民共和国側に参加したのユダヤ系も多く、公安(Urząd Bezpieczeństwa、UB )・外交諜報の確立に関わったヤクブ・ベルマン(ポーランド語版)や共産主義経済体制を主導したヒラリー・ミンク(ポーランド語版)などがいる。
1967年、第三次中東戦争でアメリカの支援を受けたイスラエルが周辺のアラブ諸国に圧勝して支配地域を拡大すると、エジプトのナーセル政権を支援していたソ連に同調してポーランド政府はイスラエルとの国交を断絶、反シオニズムを装い反ユダヤ主義を拡散した。国家主導の反シオニズム運動は、ポーランド統一労働者党の政治当局や大学や学校の教師職からユダヤ人は排除された。
1967~1971年、政治経済や秘密警察の圧力により14,000人のユダヤ系ポーランド人は強制的に国外移住となりポーランド市民権は放棄となった。
1970年代半ば、第三次中東戦争後に東側諸国の中で初めてイスラエルとの外交修復を試みた。
1970年代末、ユダヤ人活動家は共産主義政権に対抗し、反共主義グループ「en:Workers' Defence Committee (KOR)」を創設した。これは、ポーランドと東欧で初めての主要な市民グループとなった。
1986年、イスラエルとの国交は部分的に回復した。
1989年、独立自主管理労組「連帯」を中心とした一連のポーランド民主化運動の結果、共産主義政権は崩壊し、9月7日に現在のポーランド共和国(ポーランド第三共和国)が成立した。この時点でユダヤ人居住者は 5,000–10,000人程しか残らなかった。ポーランド残留のユダヤ人は、世俗主義的なユダヤ教徒の家系であったことから、ある者は自然に、ある者は前述の政治闘争の結果自らのユダヤ系の出自を隠した。それまでに多くの者はカトリック教徒となっていたが、一部は無神論者や懐疑主義者もいた。
共産主義後、徐々に自らのユダヤ系の出自を公言したり、家族から聞き先祖の出自を表に出すようになっている。クラクフで毎年夏に開催されるヨーロッパ最大のユダヤ祭り「シャローム」は、内外から多くの観客や参加者が集まり盛大に催されている。
第三共和国成立直後の1989年11月、イスラエルのシモン・ペレス副首相がポーランドを訪問し、人民共和国時代からの国家元首だったヴォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領や連帯出身のタデウシュ・マゾヴィエツキ首相と会談した。1990年2月27日、イスラエルとポーランドの国交は回復した。1991年5月には連帯のリーダーだったポーランドのレフ・ヴァウェンサ大統領がイスラエルを訪問し、関係正常化は完成した。
ただし、その後もポーランド国内でのユダヤ人人口は減少を続けた。2015年、ピュー研究所による統計によるとポーランドはヨーロッパ6ヶ国の中で、ユダヤ人に対し「好意的でない」結果となった。ポーランドにおける歴史的ユダヤ人の人口推移(ポーランドでのユダヤ人口 % )
伝統的にセファルディムがユダヤ・スペイン語(ラディーノ語、ジュデズモ語とも)を話していたのに対し、アシュケナジムはイディッシュ語(ドイツ・ユダヤ語)を話していた。
なお、Ashkenazyという姓を名乗るユダヤ人の多くはセファルディムである。
いくつかの顕著な遺伝的特徴が見られるが、これはユダヤ人全体ではなくアシュケナジムに限った特徴であり、セファルディムには見られない。
まれな遺伝病であるテイ=サックス病とゴーシェ病の罹患率が高く、一般的ヨーロッパ人の約100倍に達する。また、ニーマン=ピック病(特にA型)の罹患率も高い。
高い知能を示す傾向がある。ノーベル賞など著名な科学賞の受賞者には人口比からは考えられないほどのアシュケナジムがいる が、おそらくこれも要因の一つとされる。
文化人類学者のグレゴリー・コクラン、ジェイソン・ハーディー、ヘンリー・ハーペンディングは、次のような仮説を提唱している。アシュケナジムは神経細胞に蓄えられているスフィンゴ脂質という物質が関与する病気に罹りやすい。スフィンゴ脂質が関与する病気には、テイ=サックス病、ニーマン=ピック病、ゴーシェ病などがある。通常、スフィンゴ脂質が多すぎると、死に至るか、少なくとも生殖不可能な深刻な病気に罹る。ただし、ホモ接合型でスフィンゴ脂質過剰遺伝子を二つ持っていると深刻な病気や死に至るが、ヘテロ接合型で一つだけだとスフィンゴ脂質の量は高いものの、致死的なレベルには至らない。スフィンゴ脂質のレベルが高いと、神経信号の伝達が容易になり、樹状突起の成長も促される。神経突起の枝分かれが多いほど、学習や一般的な知能にとっては好ましいという。 | [
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"text": "アシュケナジム(アシュケナージム、Ashkenazim [ˌaʃkəˈnazim], אשכנזים)とは、ユダヤ系のディアスポラのうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々およびその子孫を指す。語源は創世記10章3節ならびに歴代誌上1章6節に登場するアシュケナズ(新共同訳や新改訳での表記。口語訳ではアシケナズと表記)である。単数形はアシュケナジ(アシュケナージ、Ashkenazi[ˌaʃkəˈnazi], אשכנזי)。 アシュケナージは、ヘブライ語でドイツを意味する。",
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"text": "アシュケナジムとセファルディムは、今日のユダヤ社会の二大勢力である。イスラエルでは一般に、前者が白人系ユダヤ人、後者がアジア人または南欧系及び中東系ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これはオスマン朝からイギリス委任統治期を経てイスラエル共和国建国後に至るユダヤ教の宗教行政において「オリエントのユダヤ教徒」(Yahudei ha-Mizrah)がセファルディムの主席ラビの管轄下に置かれていたことに起因する。しかし、それ以前の歴史や人種的にはっきりしたことは不詳で、現在も論争がたえない。",
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"text": "ディアスポラ後も、ユダヤ人のほとんどは地中海世界(のちのイスラム世界)に住んでいた。それに対し、アルプス以北におけるユダヤ人の起源ははっきりしない。7世紀に中央アジア西部のコーカサスからカスピ海北岸にいたハザール王国の住民とされ、ヨーロッパに西進し移住したわずかのコーカソイドの一派のユダヤ教徒の子孫だとする説、またはローマ時代イスラム世界から商人としてヨーロッパを訪れたとする説、イタリアからアルプスを越えてやって来たとする説などあるが、単一の起源ではないかもしれない(一部に、9世紀頃に民衆がユダヤ教に集団改宗した黒海北岸のハザール汗国の子孫だとする主張が見られる。しかしハザールの使用言語はテュルク諸語であった点など歴史的な状況を考えると色々無理があり学問的根拠に乏しく、まともな学説とは見做されていない)。いずれにせよ、8世紀から9世紀には北フランスにアシュケナジムらしきユダヤ人の記録が見える。まもなく彼らは、ドイツ中部のライン川(ライン地方)、ブリテンなどにも広がった。",
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"text": "彼らは当初は、ヨーロッパとイスラム世界とを結ぶ交易商人だったが、ヨーロッパ・イスラム間の直接交易が主流になったこと、ユダヤ人への迫害により長距離の旅が危険になったことから、定住商人へ、さらにはキリスト教徒が禁止されていた金融業へと移行した。「ユダヤ人高利貸」というステレオタイプはこのようなキリスト教社会でのユダヤ人の職業に由来し、これに対しイスラム社会のユダヤ人にはこのような傾向はなかった。",
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"text": "彼らは西欧にも定住したが、1290年にはイングランドから、1394年にはフランスからユダヤ人が追放された。15世紀になるとドイツ諸邦でも迫害されたりした。",
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"text": "追放された彼らの多くは東方へと移民した。まずはオーストリア、ボヘミア、モラヴィア、ポーランドなどの地域へ移住し、ポーランド王国は1264年に「カリシュの法令」を発布してユダヤ人の社会的権利を保護した。当時ドイツ人の東方植民時代で、国王による都市化促進政策の一環として、ユダヤ人もドイツ人と一緒に招聘された。ユダヤ人などもポーランドで(ドイツの)マクデブルク法により商業的に有利な優先的条件と権利を保護されていた為にユダヤ人にとり魅力があったため移民した。ユダヤ人は都市を築き、商業や銀行業を始め、彼らのビジネスや文学や進んだ技術や高い能力を認められ大公などの側近を勤めポーランド経済の柱となり、ポーランドで最初の硬貨発行(ヘブライ語が印刻)などに携わった)。ポーランドはユダヤ人にとって非常に住みやすい国となった。彼らはのちにポーランド・リトアニア共和国の全地域へと拡散した。ポーランド王国は当初彼らを、チュートン騎士団等ドイツ人勢力との結びつきが強いドイツ人移民に代わる専門職移民として歓迎した。彼らの中には、ポーランド・リトアニア共和国で成功し、金融業や商人、地主や貴族階級(シュラフタ)になった者、そしてヨーロッパに来て初めて農業を営んだ者もいたが、その点が西欧に住み続けたユダヤ人たちと異なる。",
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"text": "中世末期の欧州では、諸国の王がその時々の利得をはかって、ユダヤ人にしばしば保護を与えていた。これは予告なく撤回もされるものだった。アシュケナジム(東欧系ユダヤ人)のポーランド移住の初期における身分は、そのような政策の特徴をよく示している。ヴィースラ川の王国(ポーランド王国)にやってきたユダヤ人は、祖国で享受していたものと同等とされる特典をいくつか与えられた。",
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"text": "1264年にカリーシュのボレスワフ公が、マグデブルクの勅令を範として彼らに与えた身分は、その典型であり、後代に各地で模倣された。この制度のもと、ユダヤ人社会は、その宗教と「民族的出自」ゆえに、特殊な社会集団としてコミューン(ヘブライ語で「ケヒラ」)を組織し、内部自治を行うことが認められていた。ユダヤの人間と財産は君主の所有物(servi camerae)であるとされ、これを害するものは君主の財産を害するものと見なされた。",
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"text": "1334年、ポーランド王カジミエシュ三世により、この制度は王国全体に広められた。",
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"text": "1388年には、リトアニア王ヴィータウタスもそれに倣った。この移民誘致策に下心がないということはなく、「庇護民」を搾取するのは当たり前となっていた。それが高度に磨かれると「海綿しぼり法」が用いられる。表向きは、気前よく特典と保証をふるまって、他国で迫害されているユダヤ人を引き寄せる。彼らが十分に繁栄し、金を蓄えたころを見はからって、国外に追放し、財産と利権を取り上げる。またユダヤ人たちに、戻ってきて、剥奪された財産と特典を買い戻さないかと持ちかけた。",
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"text": "1943年4月ー5月、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人は、トレブリンカ絶滅収容所へ移送され始め、ゲットー内の左翼シオニスト青年組織ユダヤ人戦闘組織によりワルシャワ・ゲットー蜂起が起こった。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "1943年8月、ビャウィストク・ゲットー解体命令が出された。7600人がトレブリンカ絶滅収容所へ移送され、子供1200人はボヘミアのテレージエンシュタットへ移送後、アウシュヴィッツ=ビルケナウへ移送されて、そこで殺害された",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "1943年8月16日、ビャウィストク・ゲットーにてビャウィストク・ゲットー蜂起(英語版)が起こる。蜂起自体は何の効果もなく即座にドイツ軍に鎮圧されたが、2番目に大きな蜂起となった。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1942~1945年、ロンドンのポーランド亡命政府内に、ユダヤ人救済委員会の「ジェゴタ(en:Żegota)」は組織された。このメンバーには、後の外務大臣(1999-2001年)となるユダヤ人のヴワディスワフ・バルトシェフスキが含まれていた。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1944年、ワルシャワ蜂起が起こり、ユダヤ系ポーランド人約17,000人が国内軍 と共に戦うか、市内各所に隠れていた。蜂起の鎮圧後、参加者とみなされた者は即座に処刑され、隠れていた者は強制収容所へと連行された。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1945年1月17日、ワルシャワ蜂起により廃墟となったワルシャワ市内をソ連軍が占領した。続く1月27日には旧ポーランド領内に設置されていたアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所がソ連軍により解放され、ナチスによるユダヤ人虐殺の実態が徐々に明らかとなっていった。この日は2005年に国際連合でホロコースト犠牲者を想起する国際デーとして制定された。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
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"text": "第二次大戦終結直後から、様々な理由でユダヤ系ポーランド人はポーランドを離れた。ポーランドでの共産主義やホロコーストにより家族親族を多く失ったこと、またはポーランド人の反ユダヤ主義を避けたい等の理由があった。ポーランドは、ユダヤ人移民がイギリス委任統治領パレスチナへ自由に行ける東側諸国の唯一の国であった。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1944–46年、反ユダヤ運動が起こる。ポーランド人によって数百人から1500人のユダヤ人が殺害された。一方、1947年に新憲法を制定したポーランド国民統一臨時政府ではソ連の支援を受けた共産主義のポーランド統一労働者党が単一政党として実権を掌握したが、同年11月29日の国連総会におけるパレスチナ分割決議にはソ連やチェコスロバキアとともに賛成した。1948年5月14日、ポーランド出身の非共産系社会主義者だったダヴィド・ベン=グリオンを首相とするイスラエル国家が独立を宣言すると5月19日にはポーランドがこれを承認し、同年内にワルシャワへイスラエル大使館が設置されてユダヤ系住民の移住を支援した。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1958–59年、ヨシフ・スターリンの死後、既に1952年にポーランド人民共和国となっていたポーランドから5万人のユダヤ人がイスラエルに移民した。一方で人民共和国側に参加したのユダヤ系も多く、公安(Urząd Bezpieczeństwa、UB )・外交諜報の確立に関わったヤクブ・ベルマン(ポーランド語版)や共産主義経済体制を主導したヒラリー・ミンク(ポーランド語版)などがいる。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1967年、第三次中東戦争でアメリカの支援を受けたイスラエルが周辺のアラブ諸国に圧勝して支配地域を拡大すると、エジプトのナーセル政権を支援していたソ連に同調してポーランド政府はイスラエルとの国交を断絶、反シオニズムを装い反ユダヤ主義を拡散した。国家主導の反シオニズム運動は、ポーランド統一労働者党の政治当局や大学や学校の教師職からユダヤ人は排除された。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
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"text": "1967~1971年、政治経済や秘密警察の圧力により14,000人のユダヤ系ポーランド人は強制的に国外移住となりポーランド市民権は放棄となった。",
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"text": "1970年代半ば、第三次中東戦争後に東側諸国の中で初めてイスラエルとの外交修復を試みた。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1970年代末、ユダヤ人活動家は共産主義政権に対抗し、反共主義グループ「en:Workers' Defence Committee (KOR)」を創設した。これは、ポーランドと東欧で初めての主要な市民グループとなった。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1986年、イスラエルとの国交は部分的に回復した。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "1989年、独立自主管理労組「連帯」を中心とした一連のポーランド民主化運動の結果、共産主義政権は崩壊し、9月7日に現在のポーランド共和国(ポーランド第三共和国)が成立した。この時点でユダヤ人居住者は 5,000–10,000人程しか残らなかった。ポーランド残留のユダヤ人は、世俗主義的なユダヤ教徒の家系であったことから、ある者は自然に、ある者は前述の政治闘争の結果自らのユダヤ系の出自を隠した。それまでに多くの者はカトリック教徒となっていたが、一部は無神論者や懐疑主義者もいた。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "共産主義後、徐々に自らのユダヤ系の出自を公言したり、家族から聞き先祖の出自を表に出すようになっている。クラクフで毎年夏に開催されるヨーロッパ最大のユダヤ祭り「シャローム」は、内外から多くの観客や参加者が集まり盛大に催されている。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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"text": "第三共和国成立直後の1989年11月、イスラエルのシモン・ペレス副首相がポーランドを訪問し、人民共和国時代からの国家元首だったヴォイチェフ・ヤルゼルスキ大統領や連帯出身のタデウシュ・マゾヴィエツキ首相と会談した。1990年2月27日、イスラエルとポーランドの国交は回復した。1991年5月には連帯のリーダーだったポーランドのレフ・ヴァウェンサ大統領がイスラエルを訪問し、関係正常化は完成した。",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
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"text": "ただし、その後もポーランド国内でのユダヤ人人口は減少を続けた。2015年、ピュー研究所による統計によるとポーランドはヨーロッパ6ヶ国の中で、ユダヤ人に対し「好意的でない」結果となった。ポーランドにおける歴史的ユダヤ人の人口推移(ポーランドでのユダヤ人口 % )",
"title": "ポーランドのユダヤ人"
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{
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"text": "伝統的にセファルディムがユダヤ・スペイン語(ラディーノ語、ジュデズモ語とも)を話していたのに対し、アシュケナジムはイディッシュ語(ドイツ・ユダヤ語)を話していた。",
"title": "文化"
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"text": "なお、Ashkenazyという姓を名乗るユダヤ人の多くはセファルディムである。",
"title": "文化"
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"text": "いくつかの顕著な遺伝的特徴が見られるが、これはユダヤ人全体ではなくアシュケナジムに限った特徴であり、セファルディムには見られない。",
"title": "特徴"
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{
"paragraph_id": 48,
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"text": "まれな遺伝病であるテイ=サックス病とゴーシェ病の罹患率が高く、一般的ヨーロッパ人の約100倍に達する。また、ニーマン=ピック病(特にA型)の罹患率も高い。",
"title": "特徴"
},
{
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"text": "高い知能を示す傾向がある。ノーベル賞など著名な科学賞の受賞者には人口比からは考えられないほどのアシュケナジムがいる が、おそらくこれも要因の一つとされる。",
"title": "特徴"
},
{
"paragraph_id": 50,
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"text": "文化人類学者のグレゴリー・コクラン、ジェイソン・ハーディー、ヘンリー・ハーペンディングは、次のような仮説を提唱している。アシュケナジムは神経細胞に蓄えられているスフィンゴ脂質という物質が関与する病気に罹りやすい。スフィンゴ脂質が関与する病気には、テイ=サックス病、ニーマン=ピック病、ゴーシェ病などがある。通常、スフィンゴ脂質が多すぎると、死に至るか、少なくとも生殖不可能な深刻な病気に罹る。ただし、ホモ接合型でスフィンゴ脂質過剰遺伝子を二つ持っていると深刻な病気や死に至るが、ヘテロ接合型で一つだけだとスフィンゴ脂質の量は高いものの、致死的なレベルには至らない。スフィンゴ脂質のレベルが高いと、神経信号の伝達が容易になり、樹状突起の成長も促される。神経突起の枝分かれが多いほど、学習や一般的な知能にとっては好ましいという。",
"title": "特徴"
}
] | アシュケナジムとは、ユダヤ系のディアスポラのうちドイツ語圏や東欧諸国などに定住した人々およびその子孫を指す。語源は創世記10章3節ならびに歴代誌上1章6節に登場するアシュケナズ(新共同訳や新改訳での表記。口語訳ではアシケナズと表記)である。単数形はアシュケナジ。
アシュケナージは、ヘブライ語でドイツを意味する。 アシュケナジムとセファルディムは、今日のユダヤ社会の二大勢力である。イスラエルでは一般に、前者が白人系ユダヤ人、後者がアジア人または南欧系及び中東系ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これはオスマン朝からイギリス委任統治期を経てイスラエル共和国建国後に至るユダヤ教の宗教行政において「オリエントのユダヤ教徒」がセファルディムの主席ラビの管轄下に置かれていたことに起因する。しかし、それ以前の歴史や人種的にはっきりしたことは不詳で、現在も論争がたえない。 | {{Jews and Judaism sidebar}}
[[File:Juden 1881.JPG|thumb|中央ヨーロッパのユダヤ人分布(1881年)]]
'''アシュケナジム'''('''アシュケナージム'''、'''Ashkenazim''' [ˌaʃkəˈnazim], אשכנזים)とは、[[ユダヤ人|ユダヤ系]]の[[ディアスポラ]]のうち[[ドイツ語圏]]や[[東ヨーロッパ|東欧諸国]]などに定住した人々およびその子孫を指す<ref>[http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/jn/3034/m1u/%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%B1%E3%83%8A%E3%82%B8%E3%83%A0/ アシュケナジム <nowiki>[Ashkenazim]</nowiki>の意味 国語辞典 - goo辞書]</ref>。語源は[[創世記]]10章3節ならびに[[歴代誌]]上1章6節に登場する[[アシュケナズ]]([[新共同訳]]や新改訳での表記。[[口語訳]]ではアシケナズと表記)である。単数形は'''アシュケナジ'''('''アシュケナージ'''、'''Ashkenazi'''[ˌaʃkəˈnazi], אשכנזי)。
[[アシュケナージ]]は、[[ヘブライ語]]で[[ドイツ]]を意味する。
アシュケナジムと[[セファルディム]]は、今日のユダヤ社会の二大勢力である。[[イスラエル]]では一般に、前者が[[白人|白人系]]ユダヤ人、後者が[[アジア系民族|アジア人]]または南欧系及び[[中東]]系ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これは[[オスマン帝国|オスマン朝]]から[[イギリス委任統治領パレスチナ|イギリス委任統治期]]を経てイスラエル共和国建国後に至る[[ユダヤ教]]の宗教行政において「[[オリエント]]のユダヤ教徒」(Yahudei ha-Mizrah)がセファルディムの主席ラビの管轄下に置かれていたことに起因する<ref>{{Cite web|和書
| url = http://www.tufs.ac.jp/21coe/area/insatsu/pmg_rpt_030219.html
| author = 臼杵陽
| authorlink = 臼杵陽
| title = スファラディーム・ミズラヒーム研究の最近の動向 ―雑誌『ペアミーム』を中心にして―
| publisher = [[東京外国語大学]]
| accessdate = 2018-1-22
}}</ref>。しかし、それ以前の歴史や人種的にはっきりしたことは不詳で、現在も論争がたえない。
== 歴史 ==
[[ディアスポラ]]後も、ユダヤ人のほとんどは[[地中海世界]](のちの[[イスラム世界]])に住んでいた。それに対し、[[アルプス山脈|アルプス]]以北におけるユダヤ人の起源ははっきりしない。[[7世紀]]に[[中央アジア]]西部の[[コーカサス]]から[[カスピ海]]北岸にいた[[ハザール#「アシュケナジム・ハザール起源説」について|ハザール王国]]の住民とされ、[[ヨーロッパ]]に西進し移住したわずかの[[コーカソイド]]の一派のユダヤ教徒の子孫だとする説、または[[ローマ帝国|ローマ時代]]イスラム世界から商人としてヨーロッパを訪れたとする説、[[イタリア]]からアルプスを越えてやって来たとする説などあるが、単一の起源ではないかもしれない(一部に、[[9世紀]]頃に民衆がユダヤ教に集団改宗した[[黒海]]北岸の[[ハザール汗国]]の子孫だとする主張が見られる。しかしハザールの使用言語は[[テュルク諸語]]であった点など歴史的な状況を考えると色々無理があり学問的根拠に乏しく、まともな学説とは見做されていない)。いずれにせよ、8世紀から9世紀には北[[フランス]]にアシュケナジムらしきユダヤ人の記録が見える。まもなく彼らは、[[ドイツ]]中部の[[ライン川]]([[ライン地方]])、[[グレートブリテン島|ブリテン]]などにも広がった。
彼らは当初は、ヨーロッパとイスラム世界とを結ぶ交易商人だったが、ヨーロッパ・イスラム間の直接交易が主流になったこと、ユダヤ人への迫害により長距離の旅が危険になったことから、定住商人へ、さらには[[キリスト教徒]]が禁止されていた[[金融]]業へと移行した。「ユダヤ人高利貸」という[[ステレオタイプ]]はこのようなキリスト教社会でのユダヤ人の職業に由来し、これに対しイスラム社会のユダヤ人にはこのような傾向はなかった。
彼らは[[西ヨーロッパ|西欧]]にも定住したが、[[1290年]]には[[イングランド]]から、[[1394年]]にはフランスからユダヤ人が追放された。15世紀になると[[ドイツ諸邦]]でも迫害されたりした。
追放された彼らの多くは東方へと[[移民]]した。まずは[[オーストリア]]、[[ボヘミア]]、[[モラヴィア]]、[[ポーランド]]などの地域へ移住し、[[ポーランド王国]]は1264年に「[[カリシュの法令]]」を発布してユダヤ人の社会的権利を保護した。当時ドイツ人の[[東方植民]]時代で、国王による都市化促進政策の一環として、ユダヤ人もドイツ人と一緒に招聘された。ユダヤ人などもポーランドで(ドイツの)[[マクデブルク法]]により商業的に有利な優先的条件と権利を保護されていた為にユダヤ人にとり魅力があったため移民した<ref>http://jewishhistorylectures.org/2013/12/05/origins-of-polish-jewry-this-week-in-jewish-history/</ref>。ユダヤ人は都市を築き、商業や銀行業を始め、彼らのビジネスや文学や進んだ技術や高い能力を認められ大公などの側近を勤めポーランド経済の柱となり、ポーランドで最初の[[硬貨]]発行(ヘブライ語が印刻)などに携わった<ref>The Polish Jews Heritage – Genealogy Research Photos Translation". polishjews.org. 2009. Retrieved September 30, 2015.</ref>)。ポーランドはユダヤ人にとって非常に住みやすい国となった。彼らはのちに[[ポーランド・リトアニア共和国]]の全地域へと拡散した。ポーランド王国は当初彼らを、[[チュートン騎士団]]等[[ドイツ人]]勢力との結びつきが強いドイツ人移民に代わる専門職移民として歓迎した。彼らの中には、ポーランド・リトアニア共和国で成功し、金融業や商人、[[地主]]や貴族階級([[シュラフタ]])になった者、そしてヨーロッパに来て初めて農業を営んだ者もいたが、その点が西欧に住み続けたユダヤ人たちと異なる。
[[中世]]末期の欧州では、諸国の王がその時々の利得をはかって、ユダヤ人にしばしば保護を与えていた。これは予告なく撤回もされるものだった。アシュケナジム(東欧系ユダヤ人)のポーランド移住の初期における身分は、そのような政策の特徴をよく示している。ヴィースラ川の王国([[ポーランド王国]])にやってきたユダヤ人は、祖国で享受していたものと同等とされる特典をいくつか与えられた<ref name="diplo.jp">http://www.diplo.jp/articles11/1101-2.html ル・モンド紙(2011年1月)</ref>。
[[1264年]]に[[カリーシュ]]の[[ボレスワフ・ポボジュヌィ|ボレスワフ公]]が、[[マグデブルク法|マグデブルク]]の勅令を範として彼らに与えた身分は、その典型であり、後代に各地で模倣された。この制度のもと、ユダヤ人社会は、その宗教と「民族的出自」ゆえに、特殊な社会集団としてコミューン(ヘブライ語で「ケヒラ」)を組織し、内部自治を行うことが認められていた。ユダヤの人間と財産は君主の所有物(servi camerae)であるとされ、これを害するものは君主の財産を害するものと見なされた<ref name="diplo.jp"/>。
[[1334年]]、[[カジミェシュ3世 (ポーランド王)|ポーランド王カジミエシュ三世]]により、この制度は王国全体に広められた<ref name="diplo.jp"/>。
[[1388年]]には、[[リトアニア]]王[[ヴィータウタス]]もそれに倣った。この移民誘致策に下心がないということはなく、「庇護民」を搾取するのは当たり前となっていた。それが高度に磨かれると「海綿しぼり法」が用いられる。表向きは、気前よく特典と保証をふるまって、他国で迫害されているユダヤ人を引き寄せる。彼らが十分に繁栄し、金を蓄えたころを見はからって、国外に追放し、財産と利権を取り上げる。またユダヤ人たちに、戻ってきて、剥奪された財産と特典を買い戻さないかと持ちかけた<ref name="diplo.jp"/>。
[[フランス革命]]による[[平等]]思想の[[啓蒙]]や、[[ポーランド分割]]による[[国境]]の消滅により、アシュケナジムの中にはふたたび西欧に戻ったり、[[新大陸]]へと移住したりするものも現れた。しかしその大多数は現在の[[ポーランド]]、[[ベラルーシ]]、[[ガリツィア|ウクライナ西部(ガリツィア)]]の三地域に居住した。
[[19世紀]]末から[[20世紀]]前後に[[ロシア帝国]]の[[ポグロム]]や反ユダヤ政策、ヨーロッパ諸国での[[反ユダヤ主義]]勃興により、ユダヤ人自身の[[国民国家]]を[[約束の地]]に建国することを求める[[シオニズム]]の思想が生まれ、ポーランドやロシアなど東欧から[[オスマン帝国]]領のパレスチナに入植する人々が現れた。[[第一次世界大戦]]中、[[1917年]]の[[ロシア革命]]でロシア帝国が崩壊した後に誕生した[[ソビエト連邦]]では国家指導者の[[ウラジーミル・レーニン]]の母方にユダヤ系がいた他<ref group="注釈">ただし、他にも多くの民族の血を引いていたレーニンは自身をロシア人とみなしていた。</ref>、[[レフ・トロツキー]]を筆頭に多くの主要人物がユダヤ人だったため、その統治組織である[[ソビエト連邦共産党]]([[ボリシェヴィキ]])、およびその支配原理としてユダヤ人の[[カール・マルクス]]が作った[[共産主義]](マルクス主義)は、欧州諸国や[[アメリカ合衆国]]などの各国政府や支配層・資本家にとって反共主義と反ユダヤ主義がまざった恐怖と憎悪の対象となった。一方、当のソビエト連邦では民族平等が唱えられて革命直後に反ユダヤ主義立法が撤廃されたが、レーニンの死後に独裁者となった[[ヨシフ・スターリン]]はトロツキーや[[グリゴリー・ジノヴィエフ]]など多くのユダヤ系要人を粛清した。1928年にその原型が成立した[[ユダヤ自治州]]は広大な[[シベリア]]の一角、[[アムール川]]沿いにユダヤ人の入植地や新たな故郷を作る政策だったが、1930年代後半にソ連国内で反ユダヤ主義が強まるとこの試みは事実上失敗した。
[[1933年]]にドイツでは[[国家社会主義ドイツ労働者党|ナチス]]のアドルフ・ヒトラーが首相に就任すると急速に反ユダヤ主義政策を実施し、多くの[[ユダヤ系ドイツ人]]がアメリカ合衆国や[[イギリス委任統治領パレスチナ]]に逃げるように移住していった。[[1939年]]、ドイツとソビエト連邦による[[ポーランド侵攻]]が起きてポーランドが占領され、ポーランドを含むヨーロッパのユダヤ系の人々はナチス・ドイツが引き起こした[[ホロコースト]]により多くが死亡した。1945年に[[第二次世界大戦]]が終わると強制収容所から生存したユダヤ人は再び大規模移住を始め、今度はポーランドやソ連などからアメリカやパレスティナに向かい、後者はイスラエル建国に大きな役割を果たした。
== ポーランドのユダヤ人 ==
=== 第二次世界大戦前 ===
[[第一次世界大戦]]後に独立を果たした[[ポーランド第二共和国]]は、[[ポーランド分割]]以前のポーランド国家同様、再び世界最大のユダヤ人人口を抱える独立国家となった。
ユダヤ系ポーランド人は、多くは商人となり時にその地域の[[富裕層]]になったりした<ref>Aleksander Hertz, Lucjan Dobroszycki The Jews in Polish culture, Northwestern University Press, 1988 ISBN 0-8101-0758-9</ref>。 ユダヤ人は靴屋や仕立て屋などになったり、[[医者]](ポーランドの全医師の56%)、教師 (43%)、[[ジャーナリスト]] (22%) そして[[弁護士]] (33%)であった<ref>Iwo Cyprian Pogonowski, Jews in Poland: A Documentary History, Hippocrene Books (1993), pp. 27–28.</ref>。[[第二次世界大戦]]前までは、ユダヤ人の出版物も盛んに発行され、[[科学者]]や[[数学者]]、[[経済学者]]、文学家、などが貢献していた。([[ノーベル賞受賞者]]、[[レオニード・ハーヴィッツ]](経済学)、[[アイザック・バシェヴィス・シンガー]](文学))
[[1921年|1921]]-[[1931年]]頃、ユダヤ人はよくポーランド人とは認知されず<ref>Sharman Kadish, Bolsheviks and British Jews: The Anglo-Jewish Community, Britain, and the Russian Revolution. Published by Routledge,</ref>、ユダヤ人とポーランド人の関係は緊迫する結果となった<ref>Ilya Prizel, National identity and foreign policy, Cambridge University Press 1998 ISBN 0-521-57697-0 p. 65.</ref>。
[[1923年]]、ポーランドの全大学でユダヤ人生徒が、[[口腔]]医学で62.9%を占め、[[医学]]は34%、哲学 29.2%、 [[化学]] 22.1%、[[法律]] 22.1%(26% 1929年まで)となり反発の要因となった<ref>Anna Jaskóła, University of Wrocław (2010). "Sytuacja prawna mniejszosci żydowskiej w Drugiej Rzeczypospolitej" [The legal status of the Jewish minority in the Second Republic] (PDF). Chapter 3: Szkolnictwo żydowskie (Wrocław: Wydział Prawa, Administracji i Ekonomii. Instytut Historii Państwa i Prawa (Faculty of Law, Administration and Economy)). pp. 65-66 (20/38 in PDF) – via direct download from BibliotekaCyfrowa.pl.</ref>。殆どのユダヤ人は高学歴であったが、政府[[官僚]]の地位からは除外された<ref>Joseph Marcus (1983), Social and Political History of the Jews in Poland, 1919–1939. Walter de Gruyter GmbH, Berlin. ISBN 9027932395.</ref>。
[[反ユダヤ主義]]は、第二次世界大戦前の数年に頂点を迎えた<ref>Mordecai Paldiel The path of the righteous: gentile rescuers of Jews during the Holocaust, KTAV Publishing House, 1993 ISBN 0-88125-376-6, p. 181</ref>。国内でユダヤ人商売のボイコット運動や[[コーシャー]]肉用の屠殺禁止運動など盛んになった<ref>Celia Stopnicka Heller. On the Edge of Destruction: Jews of Poland Between the Two World Wars. Wayne State University Press, 1993。https://books.google.co.jp/books?id=GmVt-O3AR34C&pg=PA107&redir_esc=y</ref>。
[[1935年]]と[[1937年]]、反ユダヤ事件が起こりユダヤ人は37名死亡し、外傷者500名であった<ref>The Routledge Atlas of the Holocaust by Martin Gilbert, p.21</ref>。
[[1936年]]、 [[企業|私企業]] 80.3%はユダヤ人経営となった<ref>Alice Teichova, Herbert Matis, Jaroslav Pátek (2000). Economic Change and the National Question in Twentieth-century Europe. Cambridge University Press. pp. 342–344. ISBN 978-0-521-63037-5.</ref>。
ドイツがポーランドに侵攻するまでの[[1939年]]、この運動はエスカレートし、ユダヤ人への敵意はポーランド人[[右翼|右派]]や[[カトリック教会]]などの旨意の中心となった<ref>Edward D. Wynot, Jr., 'A Necessary Cruelty': The Emergence of Official Anti-Semitism in Poland, 1936–39. American Historical Review, no. 4, October 19711035-1058.</ref>。
=== ホロコースト (ドイツ占領下) ===
{{main|ポーランドのユダヤ人歴史|[[:en:History of the Jews in Poland]]}}
第二次世界大戦の幕開けと共に、ユダヤ系132,000名がポーランド軍に従軍して戦った<ref>Shmuel Krakowski, The Fate of Jewish Prisoners of War in the September 1939 Campaign</ref>。<br />ユダヤ系ポーランド人[[兵士]]の内、戦死32,216名、捕虜61,000名にのぼった。捕虜達は強制収容所へ送られ、そのほとんどが亡くなった。
ナチス・ドイツは、[[ヨーロッパ]]地域のユダヤ人の処遇について、1942年1月に開催された[[ヴァンゼー会議]]にて討議された[[ユダヤ人問題の最終的解決]]を以って、ユダヤ人に対する[[ホロコースト]](大量虐殺)を開始した。
ホロコーストにより、ポーランドに居住していた約600万人のユダヤ人のうち、半数の約300万人がドイツによって殺害された。これにより、現代のアシュケナジムは主に[[アメリカ合衆国]]かイスラエルに居住している。ポーランドのユダヤ人は、第二次世界大戦前後に[[正統派 (ユダヤ教)|正統派ユダヤ教徒]]のポーランド人の多くが[[イスラエル]]やアメリカ合衆国へ渡ったが、一方で非正統派ユダヤ教徒のポーランド人や、さらに世俗的なユダヤ系ポーランド人などがポーランドに残った。
[[1939年]]10月から[[1942年]]7月、ユダヤ人38万人が3.4k㎡の[[ワルシャワ・ゲットー]]へ入れられた。その際に空き家となったユダヤ人住居は、戦後の住居として当局から非ユダヤ系ポーランド人達に与えられたが、強制収容所から生還したユダヤ人との間で不動産トラブルが頻発した。
[[1942年]]3月中旬-1943年11月初旬、[[ラインハルト作戦]]によりポーランド各地に[[ヘウムノ強制収容所]]、[[ベウジェツ強制収容所]]、[[ソビボル強制収容所]]、[[トレブリンカ強制収容所]]、[[マイダネク]]強制収容所、[[アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所]]が建設され、ゲットーを含めた各地域のユダヤ人達は続々と[[強制労働]]場([[:en:Forced labour under German rule during World War II]])や強制収容所へ移送されていった<ref>History of the Holocaust – An Introduction. Jewishvirtuallibrary.org (1943-04-19). Retrieved on 2010-08-22.</ref>。
ほとんどの[[シナゴーグ]]は破壊された<ref>Thomas C. Hubka, Resplendent Synagogue: Architecture and Worship in an Eighteenth-century Polish Community, UPNE, 2003, ISBN 1-58465-216-0, p. 57</ref>。
[[1943年]]2月、約1万人の[[ビャウィストク]]のユダヤ人が[[トレブリンカ強制収容所]]へ移送された。移送中は食料や水の配給は一切なく、数百人の幼児、老人、病人などが衰弱して亡くなった。
[[1943年]]4月ー5月、ワルシャワ・ゲットーのユダヤ人は、[[トレブリンカ絶滅収容所]]へ移送され始め、ゲットー内の[[左翼]][[シオニズム|シオニスト]]青年組織[[ユダヤ人戦闘組織]]により[[ワルシャワ・ゲットー蜂起]]が起こった。
[[1943年]]8月、[[ビャウィストク・ゲットー]]解体命令が出された。7600人がトレブリンカ絶滅収容所へ移送され、子供1200人は[[ボヘミア]]の[[テレージエンシュタット強制収容所|テレージエンシュタット]]へ移送後、アウシュヴィッツ=ビルケナウへ移送されて、そこで殺害された<ref>ヴォルフガング・ベンツ Wolfgang Benz著、中村浩平・中村仁訳、『ホロコーストを学びたい人のために』、2004年、柏書房、ISBN 978-4760124794、p67</ref>
[[1943年]]8月16日、ビャウィストク・ゲットーにて{{仮リンク|ビャウィストク・ゲットー蜂起|en|Białystok Ghetto Uprising}}が起こる。蜂起自体は何の効果もなく即座に[[ドイツ国防軍|ドイツ軍]]に鎮圧されたが、2番目に大きな蜂起となった。
[[1942年|1942]]~[[1945年]]、[[ロンドン]]の[[ポーランド亡命政府]]内に、ユダヤ人救済委員会の「[[ジェゴタ]]([[:en:Żegota]])」は組織された。このメンバーには、後の[[外務大臣]](1999-2001年)となるユダヤ人の[[ヴワディスワフ・バルトシェフスキ]]が含まれていた。
[[1944年]]、[[ワルシャワ蜂起]]が起こり、ユダヤ系ポーランド人約17,000人が[[国内軍 (ポーランド)|国内軍]] と共に戦うか、市内各所に隠れていた。蜂起の鎮圧後、参加者とみなされた者は即座に処刑され、隠れていた者は強制収容所へと連行された。
[[1945年]]1月17日、ワルシャワ蜂起により廃墟となった[[ワルシャワ]]市内を[[赤軍|ソ連軍]]が占領した。続く1月27日には旧ポーランド領内に設置されていた[[アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所]]がソ連軍により解放され、ナチスによるユダヤ人虐殺の実態が徐々に明らかとなっていった。この日は2005年に[[国際連合]]で[[ホロコースト犠牲者を想起する国際デー]]として制定された。
=== 共産主義の支配 (1945–1989) ===
第二次大戦終結直後から、様々な理由でユダヤ系ポーランド人はポーランドを離れた<ref>The Chief Rabbi's View on Jews and Poland – Michael Schudrich. Jcpa.org. Retrieved on 2010-08-22.</ref>。ポーランドでの[[共産主義]]やホロコーストにより家族親族を多く失ったこと、またはポーランド人の反ユダヤ主義を避けたい等の理由があった。ポーランドは、ユダヤ人移民が[[イギリス委任統治領パレスチナ]]へ自由に行ける[[東側諸国]]の唯一の国であった<ref>Devorah Hakohen, Immigrants in turmoil: mass immigration to Israel and its repercussions... Syracuse University Press, 2003 - 325 pages. Page 70. ISBN 0-8156-2969-9</ref>。
[[1944年|1944]]–46年、[[ソビエト占領下のポーランドにおける反ユダヤ運動|反ユダヤ運動]]が起こる。ポーランド人によって数百人から1500人のユダヤ人が殺害された<ref>Joshua D. Zimmerman 『Contested memories: Poles and Jews during the Holocaust and its aftermath』 Rutgers Univ Pr、2003年。ISBN 0813531586、p248</ref>。一方、1947年に新憲法を制定したポーランド国民統一臨時政府ではソ連の支援を受けた共産主義の[[ポーランド統一労働者党]]が単一政党として実権を掌握したが、同年11月29日の[[国際連合総会|国連総会]]における[[パレスチナ分割決議]]にはソ連や[[チェコスロバキア]]とともに賛成した。1948年5月14日、ポーランド出身の非共産系社会主義者だったダヴィド・ベン=グリオンを首相とするイスラエル国家が[[イスラエル独立宣言|独立を宣言]]すると5月19日にはポーランドがこれを承認し、同年内にワルシャワへイスラエル大使館が設置されてユダヤ系住民の移住を支援した。
[[1958年|1958]]–59年、[[ヨシフ・スターリン]]の死後、既に1952年に[[ポーランド人民共和国]]となっていたポーランドから5万人のユダヤ人がイスラエルに移民した<ref>The Virtual Jewish History Tour – Poland. Jewishvirtuallibrary.org. Retrieved on 2010-08-22.</ref>。一方で人民共和国側に参加したのユダヤ系も多く、公安(Urząd Bezpieczeństwa、UB )・外交諜報の確立に関わった{{仮リンク|ヤクブ・ベルマン|pl|Jakub Berman}}や[[計画経済|共産主義経済]]体制を主導した{{仮リンク|ヒラリー・ミンク|pl|Hilary Minc}}などがいる。
[[1967年]]、[[第三次中東戦争]]でアメリカの支援を受けたイスラエルが周辺のアラブ諸国に圧勝して支配地域を拡大すると、エジプトの[[ガマール・アブドゥル=ナーセル|ナーセル]]政権を支援していたソ連に同調してポーランド政府はイスラエルとの国交を断絶、{{要出典|範囲=反シオニズムを装い反ユダヤ主義を拡散した。国家主導の反シオニズム運動は、ポーランド統一労働者党の政治当局や大学や学校の教師職からユダヤ人は排除された|date=2021年7月}}。
[[1967年|1967]]~[[1971年]]、政治経済や[[秘密警察]]の圧力により14,000人のユダヤ系ポーランド人は強制的に国外移住となりポーランド市民権は放棄となった<ref>Albert Stankowski, Studia z historii Zydow w Polsce po 1945 roku, Warszawa 2000, pp. 139–145</ref>。
[[1970年代]]半ば、第三次中東戦争後に東側諸国の中で初めてイスラエルとの外交修復を試みた。
1970年代末、ユダヤ人活動家は共産主義政権に対抗し、[[反共主義]]グループ「[[:en:Workers' Defence Committee (KOR)]]」を創設した。これは、ポーランドと東欧で初めての主要な市民グループとなった。
[[1986年]]、イスラエルとの国交は部分的に回復した。
[[1989年]]、[[独立自主管理労働組合「連帯」|独立自主管理労組「連帯」]]を中心とした一連のポーランド民主化運動の結果、共産主義政権は崩壊し、9月7日に現在の[[ポーランド|ポーランド共和国]](ポーランド第三共和国)が成立した。この時点でユダヤ人居住者は 5,000–10,000人程しか残らなかった。ポーランド残留のユダヤ人は、世俗主義的なユダヤ教徒の家系であったことから、ある者は自然に、ある者は前述の政治闘争の結果自らのユダヤ系の出自を隠した。それまでに多くの者はカトリック教徒となっていたが、一部は[[無神論|無神論者]]や[[懐疑主義]]者もいた。
=== 1989年以降 ===
共産主義後、徐々に自らのユダヤ系の出自を公言したり、家族から聞き先祖の出自を表に出すようになっている。[[クラクフ]]で毎年夏に開催されるヨーロッパ最大のユダヤ祭り「シャローム」は、内外から多くの観客や参加者が集まり盛大に催されている。
第三共和国成立直後の1989年11月、イスラエルのシモン・ペレス副首相がポーランドを訪問し、人民共和国時代からの国家元首だった[[ヴォイチェフ・ヤルゼルスキ]]大統領や連帯出身の[[タデウシュ・マゾヴィエツキ]]首相と会談した。[[1990年]]2月27日、イスラエルとポーランドの国交は回復した<ref>http://www.nytimes.com/1990/02/28/world/poland-resumes-full-diplomatic-ties-with-israel.html</ref>。1991年5月には連帯のリーダーだったポーランドの[[レフ・ヴァウェンサ]]大統領がイスラエルを訪問し、関係正常化は完成した。
ただし、その後もポーランド国内でのユダヤ人人口は減少を続けた。[[2015年]]、[[ピュー研究所]]による統計によるとポーランドはヨーロッパ6ヶ国の中で、ユダヤ人に対し「好意的でない」結果となった<ref>Stokes, Bruce. "Faith in European Project Reviving". PEW research center. PEW research center. Retrieved 29 June 2015.</ref>。ポーランドにおける歴史的ユダヤ人の人口推移(ポーランドでのユダヤ人口 % ){{Demography|caption={{nobreak|Historical core Jewish population (using current borders) with Jews as a % of the total Polish population}}
| source = YIVO百科事典 & 北米ユダヤ人データバンク
| 1921 = 2,845,000.3 <br><small>(+14.2%)</small>
| 1939 = 3,250,000<ref name="YIVO-P&M">YIVO, [http://www.yivoencyclopedia.org/article.aspx/Population_and_Migration/Population_since_World_War_I Population since World War I] at the YIVO Encyclopedia of Jews in Eastern Europe.</ref><ref name="Berman2010">Berman Institute, [https://docs.google.com/viewer?a=v&q=cache:Rv2hLhme008J:www.jewishdatabank.org/Reports/World_Jewish_Population_2010.pdf+world+jewish+population+2010&hl=en&gl=us&pid=bl&srcid=ADGEEShFmlEo2XYeBjYVUGgz_STm8ZXvaFqIMHdpfxUC8uWpDuLqb9l7GvJbF2piXHqxgDaGkOY3jfCA_RkpUlKLSByoSQC3cLV-5LcpxgXggqUIYwzK9hdfmwVv4Sz0BdeFMxJ_-2To&sig=AHIEtbT5tVUek4PSi_N_5f0Dwe-11sBzMg World Jewish Population.] North American Jewish Data Bank. (See Table 1: Jewish Population by Country, 1920s-1930s; PDF file, direct download 52.4 KB)</ref> <br><small>('''100%''')<br>総人口の'''9.14%'''</small>
| 1945 = 100,000 <br><small>(−96.9%)<br>0.43%</small>
| 1946 = 230,000 <br><small>(+130.0%)<br>0.97%</small>
| 1951 = 70,000 <br><small>(−69.6%)<br>0.28%</small>
| 1960 = 31,000 <br><small>(−55.7%)<br>0.10%</small>
| 1970 = 9,000 <br><small>(−71.0%)<br>0.03%</small>
| 1980 = 5,000 <br><small>(−44.4%)<br>0.01%</small>
| 1990 = 3,800 <br><small>(−24.0%)<br>0.01%</small>
| 2000 = 3,500 <br><small>(−7.9%)<br>0.01%</small>
| 2010 = 3,200<ref name="Berman2010"/><br><small>(−8.6%)<br>0.01%</small>
}}
==文化==
伝統的に[[セファルディム]]が[[ユダヤ・スペイン語]]([[ラディーノ語]]、[[ジュデズモ語]]とも)を話していたのに対し、アシュケナジムは[[イディッシュ語]]([[ドイツ・ユダヤ語]])を話していた。
なお、Ashkenazyという姓を名乗るユダヤ人の多くはセファルディムである{{要出典|date=2023年3月}}。
==特徴==
{{要出典範囲|いくつかの顕著な遺伝的特徴が見られるが、これはユダヤ人全体ではなくアシュケナジムに限った特徴であり、セファルディムには見られない。|date=2013年4月}}
まれな[[遺伝病]]である[[テイ=サックス病]]と[[ゴーシェ病]]の罹患率が高く、一般的ヨーロッパ人の約100倍に達する。また、[[ニーマン・ピック病|ニーマン=ピック病]](特にA型)の罹患率も高い。
高い知能を示す傾向がある<ref>[[:en:Race and intelligence]]参照。</ref>。[[ノーベル賞]]など著名な科学賞の受賞者には人口比からは考えられないほどのアシュケナジムがいる<ref>{{cite web|title=JEWISH NOBEL PRIZE WINNERS|url=http://www.jinfo.org/Nobel_Prizes.html|website=Jinfo.org|accessdate=16 March 2016|quote=At least 194 Jews and people of half- or three-quarters-Jewish ancestry have been awarded the Nobel Prize, accounting for 22% of all individual recipients worldwide between 1901 and 2015, and constituting 36% of all US recipients during the same period. In the scientific research fields of Chemistry, Economics, Physics, and Physiology/Medicine, the corresponding world and US percentages are 26% and 38%, respectively. Among women laureates in the four research fields, the Jewish percentages (world and US) are 33% and 50%, respectively. Of organizations awarded the Nobel Peace Prize, 22% were founded principally by Jews or by people of half-Jewish descent. Since the turn of the century (i.e., since the year 2000), Jews have been awarded 25% of all Nobel Prizes and 28% of those in the scientific research fields.}}</ref><ref>{{cite news |first=Steven |last=Pinker |authorlink=Steven Pinker |title=The Lessons of the Ashkenazim: Groups and Genes |url=http://pinker.wjh.harvard.edu/articles/media/2006_06_17_thenewrepublic.html |work=The New Republic |date=17 June 2006 |accessdate=23 December 2007 |quote=Though never exceeding 3 percent of the American population, Jews account for 37 percent of the winners of the U.S. National Medal of Science, 25 percent of the American Nobel Prize winners in literature, 40 percent of the American Nobel Prize winners in science and economics, and so on.| archiveurl= https://web.archive.org/web/20080105135315/http://pinker.wjh.harvard.edu/articles/media/2006_06_17_thenewrepublic.html| archivedate= 5 January 2008 <!--DASHBot-->| deadurl= no}}</ref> が、おそらくこれも要因の一つとされる。
文化人類学者のグレゴリー・コクラン、ジェイソン・ハーディー、ヘンリー・ハーペンディングは、次のような仮説を提唱している。アシュケナジムは神経細胞に蓄えられている[[スフィンゴ脂質]]という物質が関与する病気に罹りやすい。スフィンゴ脂質が関与する病気には、[[テイ=サックス病]]、[[ニーマン・ピック病|ニーマン=ピック病]]、[[ゴーシェ病]]などがある。通常、スフィンゴ脂質が多すぎると、死に至るか、少なくとも生殖不可能な深刻な病気に罹る。ただし、ホモ接合型でスフィンゴ脂質過剰遺伝子を二つ持っていると深刻な病気や死に至るが、ヘテロ接合型で一つだけだとスフィンゴ脂質の量は高いものの、致死的なレベルには至らない。スフィンゴ脂質のレベルが高いと、神経信号の伝達が容易になり、[[樹状突起]]の成長も促される。神経突起の枝分かれが多いほど、学習や一般的な知能にとっては好ましいという。<ref>『頭のでき』 リチャード・E.ニスベット/著 水谷淳/訳 ダイヤモンド社 ISBN 978-4-478-00124-0 2010年3月</ref>
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{reflist|2}}
== 著名なアシュケナジムの人物 ==
{{Main|Category:ユダヤ系ドイツ人}}
{{Main|Category:ユダヤ系オーストリア人}}
* [[ハインリヒ・ハイネ]]
* [[セルゲイ・エイゼンシュテイン]]
* [[ジークムント・フロイト]]
* [[アルベルト・アインシュタイン]]
* [[テオドール・ヘルツル]]
* [[グスタフ・マーラー]]
* [[エミー・ネーター]]
* [[リーゼ・マイトナー]]
* [[フランツ・カフカ]]
* [[ゴルダ・メイア]]
* [[エーリッヒ・ケストナー]]
* [[ジョージ・ガーシュウィン]]
* [[ジョン・フォン・ノイマン]]
* [[レナード・バーンスタイン]]
* [[アンネ・フランク]]
* [[ウラディーミル・アシュケナージ]]
* [[リチャード・P・ファインマン]]
* [[カール・マルクス]]
* [[ヘンリー・キッシンジャー]]
* [[ピーター・ドラッカー]]
* [[カール・シュヴァルツシルト]]
* [[オットー・リリエンタール]]
* [[ハンナ・アーレント]]
* [[ヴァルター・ベンヤミン]]
* [[ヘルベルト・マルクーゼ]]
<!--* [[ニコラス・サルコジ]] ※サルコジはセファラディム-->
* [[ボブ・ディラン]]
* [[ビリー・ジョエル]]
* [[ニール・セダカ]]
* [[マーティ・フリードマン]]
== 関連項目 ==
* [[カイク]]
* [[ハザール]]
* [[ハスカラー]]
* [[イディッシュ語]]
* [[イディッシュ文化]]
* [[シュテットル]]
* [[ウラディーミル・アシュケナージ]]
* [[ステファン・アスケナーゼ]]
* [[ユダヤ人の歴史]]
* [[ユダヤ教]]
* [[ミズラヒム]]
* [[セファルディム]]
* [[イスラエル]]
{{ユダヤ人}}
{{Authority control}}
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[[Category:ユダヤ人]]
[[Category:アシュケナジ系ユダヤ人]]
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[[Category:ドイツの民族]]
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[[Category:ユネスコ記憶遺産]] | 2003-04-30T09:23:24Z | 2023-12-29T10:04:48Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%B1%E3%83%8A%E3%82%B8%E3%83%A0 |
7,504 | セファルディム | セファルディム(Sephardim, ספרדים)は、ディアスポラとなったユダヤ人の内、アシュケナジム以外のユダヤ人の総称。基本的にアラブ・アフリカ・アジアに住んでいたユダヤ人の子孫。このうち中東・アフリカ系をミズラヒムと区別にする場合もある。
言葉の由来は、スペインやポルトガルに居住していたラディノ語を話すユダヤ教徒。1452年にイベリア半島(スペイン・ポルトガル)から追放された以降は、トルコ、北アフリカなどオスマン帝国領土に定住した。セファルディーム、スファラディ(Sephardi, ספרדי)、スペイン系ユダヤ人などとも言う。語源はオバデヤ書(20節)に見える地名、セパラデ(Sepharad、西暦2世紀以降イベリアと同一視された)である。セファルディはセファルディムの単数形である。
セファルディムは、もうひとつの一大勢力であるアシュケナジムとともに、今日のユダヤ教徒社会の事実上の二大勢力であるとみなされている。イスラエルでは一般に、セファルディムがアジア人または中東系ユダヤ人、アシュケナジム(ヘブライ語でドイツを意味する)が白系ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これはオスマン朝からイギリス委任統治期を経てイスラエル共和国建国後に至るユダヤ教の宗教行政において「オリエントのユダヤ教徒」(Yahudei ha-Mizrah)がセファルディムの主席ラビの管轄下に置かれていたことに起因する。本来の語義から言うと、どちらも先祖はヨーロッパに定住したユダヤ人だが、人種的にはっきりしたところは不詳で、現在も論争がたえない。少なくとも当初は、地理的な区別に過ぎなかったとされている。
セファルディムは、中世にイベリア半島(スペイン、ポルトガル)に住んでいたユダヤ人の子孫を指す。1492年、イベリアに残る最後のイスラム政権を滅ぼしたスペインにおける大規模な排撃で、その多くが南ヨーロッパや中東、北アフリカなどのオスマン帝国の領域に移住し、少数ながら、オランダやイギリスにも移り、20世紀にいたる。セファルディムの言語は、ラディーノ語(別名:ユダヤ・スペイン語、ジュデズモ語)であり、アシュケナジムが話すイディッシュ語とは異なる。 | [
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[[ファイル:Aleppo-Jewish201914.jpg|サムネイル|[[オスマン帝国|オスマン朝]]時代の[[アレッポ]]で行われたセファルディムの結婚式(1914年)]]
'''セファルディム'''('''Sephardim''', ספרדים)は、[[ディアスポラ]]となった[[ユダヤ人]]の内、[[アシュケナジム]]以外のユダヤ人の総称。基本的にアラブ・アフリカ・アジアに住んでいたユダヤ人の子孫。このうち中東・アフリカ系を[[ミズラヒム]]と区別にする場合もある<ref name=":0">{{Cite web|和書|title=セファルディムとは? 意味や使い方 |url=https://kotobank.jp/word/%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A0-548747 |website=コトバンク |access-date=2023-07-26 |language=ja |first=百科事典マイペディア,デジタル大辞泉,世界大百科事典 |last=第2版,世界大百科事典内言及}}</ref>。
言葉の由来は、スペインやポルトガルに居住していた[[ラディーノ語|ラディノ語]]を話すユダヤ教徒。1452年にイベリア半島(スペイン・ポルトガル)から追放された以降は、[[トルコ]]、[[北アフリカ]]など[[オスマン帝国]]領土に定住した<ref name=":0" />。'''セファルディーム'''、'''スファラディ'''('''Sephardi''', ספרדי)、'''スペイン系ユダヤ人'''などとも言う。語源は[[オバデヤ書#地名の同定|オバデヤ書]](20節)に見える地名、[[セパラデ]]([[:en:Sepharad|Sepharad]]、西暦2世紀以降[[イベリア]]と同一視された)である<ref>"from Hebrew Sefarad, Spain"([http://www.britannica.com/EBchecked/topic/535030/Sephardi britannica.comのSephardiの項より])</ref>。'''セファルディ'''はセファルディムの単数形である。
== 概説 ==
セファルディムは、もうひとつの一大勢力である[[アシュケナジム]]とともに、今日のユダヤ教徒社会の事実上の二大勢力であるとみなされている。[[イスラエル]]では一般に、セファルディムが[[アジア人]]または[[中東]]系ユダヤ人、[[アシュケナジム]]([[ヘブライ語]]で[[ドイツ]]を意味する)が[[白人|白系]]ユダヤ人を指す語として大雑把に使われる場合があるが、これは[[オスマン帝国|オスマン朝]]から[[イギリス]]委任統治期を経てイスラエル共和国建国後に至る[[ユダヤ教]]の宗教行政において「オリエントのユダヤ教徒」(Yahudei ha-Mizrah)がセファルディムの主席[[ラビ]]の管轄下に置かれていたことに起因する<ref>[http://www.tufs.ac.jp/21coe/area/insatsu/pmg_rpt_030219.html 臼杵陽「スファラディーム・ミズラヒーム研究の最近の動向 -雑誌『ペアミーム』を中心にして-」]</ref>。本来の語義から言うと、どちらも先祖はヨーロッパに定住したユダヤ人だが、人種的にはっきりしたところは不詳で、現在も論争がたえない。少なくとも当初は、地理的な区別に過ぎなかったとされている{{要出典|date=2009年1月}}。
セファルディムは、中世に[[イベリア半島]](スペイン、ポルトガル)に住んでいたユダヤ人の子孫を指す<ref>"a member of the Jews, or their descendants, who lived in Spain and Portugal from the Middle Ages until their persecution and mass expulsion from those countries in the last decades of the 15th century".([http://www.britannica.com/EBchecked/topic/535030/Sephardi britannica.comのSephardiの項より])</ref>。[[1492年]]、イベリアに残る最後のイスラム政権を滅ぼしたスペインにおける大規模な排撃で、その多くが[[南ヨーロッパ]]や中東、[[北アフリカ]]などの[[オスマン帝国]]の領域に移住し、少数ながら、[[オランダ]]やイギリスにも移り、[[20世紀]]にいたる。セファルディムの言語は、[[ラディーノ語]](別名:ユダヤ・スペイン語、ジュデズモ語)であり、アシュケナジムが話す[[イディッシュ語]]とは異なる。[[画像:Ottoman_1683.png|frame|オスマン帝国の最大版図(1683年)]]
== 有名なセファルディムの人物・家系 ==
* [[アブラバネル]]姓 [[:en:Abravanel|Abravanel]] の人
** [[イサーク・アブラバネル]]
** [[モーリス・アブラヴァネル]]
* [[ヴァールブルク (家系)|ヴァールブルク家]] [[:en:Warburg (disambiguation)|Warburg]]
** [[アビ・ヴァールブルク]]
* [[イサーク・アルベニス]]
**[[セシリア・サルコジ|セシリア・マリア・サラ・イザベル・シガネール=アルベニス]](イサークの曾孫女、[[ニコラ・サルコジ|サルコジ]]の前妻)
* [[イヴァン・イリイチ]] (母方がセファルディム)
* [[バールーフ・デ・スピノザ]](エスピノーサ)
* エプシュタイン [[:en:Epstein|Epstein]] - [[1492年]]にスペインからドイツの[[エップシュタイン]]([[:de:Eppstein|Eppstein]])に移住した集団
* [[マーリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ]] - 作曲家。ただし Tedesco というのはドイツ人(アシュケナジム)という意味。
* [[ベンジャミン・カードーゾ]]
* [[ガブリエル・カーテリス]]
* [[エリアス・カネッティ]]
* [[ヨセフ・カロ]]
* [[ネーヴ・キャンベル]](母方の Neve 家がカトリックに改宗したアムステルダムのセファルディム)
* [[ギュンツブルク]] [[:en:Günzburg (surname)|Günzburg]] - ポルトガル系で、[[ギュンツブルク]]への移住者の家系。東へ移住した家系からは、帝政ロシアの大富豪一族が出ている
* [[ヴァル・キルマー]]
* [[ユリア・クリステヴァ]](キリスト教徒)
* [[オットー・クレンペラー]](父方アシュケナジム、母方セファルディム)
* [[イーディ・ゴーメ]]
* [[エドモン・ジャベス]]
* [[ニール・セダカ]] - トルコ系の移民
* [[ピーター・セラーズ]](祖母 Welcome Mendoza は著名なボクサー Daniel Mendoza を生んだメンドーザ家の出身)
* [[ベンジャミン・ディズレーリ]](イタリア系のイギリス人)
* [[ジャック・デリダ]](アルジェリア出身)
* [[エルザ・ランギーニ]](母方がアルジェリアのセファルディム)
* [[アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー]](母方の祖父がセファルディム、祖母はトルコ系のムスリム、父親はボヘミア系のカトリックで、ユダヤ教徒として育った)
* [[イツハク・ナヴォン]]
<!--
* [[ハインリヒ・ハイネ]] ※ハイネはアシュケナジム
-->
* [[バールーフ・ベナセラフ]](両親はモロッコ出身のユダヤ人)
* [[ベルナイス]]系の姓
** [[エドワード・バーネイズ]]
* [[ベンベニステ]] [[:en:Benveniste|Benveniste]], Benvenisti 系の姓
** [[エミール・バンヴェニスト]]
* [[カミーユ・ピサロ]]
* [[ハロルド・ピンター]](祖先はポルトガル系で本来の姓は Pinto)
* [[マレイ・ペライア]]
* [[ヘンリエッテ・ヘルツ]](祖先はポルトガル系で旧姓 de Lemos)
* [[シャブタイ・ベン・ツヴィ]]
<!--
* [[アンネ・フランク]](祖先は[[スペイン]]系) ※アンネは代表的なアシュケナジム
-->
* [[カール・エーミール・フランツォース]](フランスからポーランドに移住した家系)
* [[ショーン・ペン]]
* [[レズリー・ホア=ベリシャ]] [[:en:Leslie Hore-Belisha|Leslie Hore-Belisha]]
* [[ホルヘ・ルイス・ボルヘス]](末裔)
* [[ホロヴィッツ|ホロヴィッツ家]]
** [[ジョーゼフ・ホロヴィッツ]] - オーストリア出身のイギリスの音楽家。
** [[ヴラジーミル・ホロヴィッツ]] - ウクライナ出身のピアニスト。
** [[ロバート・ホロヴィッツ]] - アメリカの生物学者。
* [[モーゼス・マイモニデス]]
* [[ピエール・マンデス=フランス]]
* [[ジョルジュ・ムスタキ]]
* [[サム・メンデス]]
* [[モディリアーニ]]姓
** [[アメデオ・モディリアーニ]]
** [[フランコ・モディリアーニ]]
* [[シャウル・モファズ]]
* [[モーゼス・モンテフィオーレ]](イタリア系のイギリス人)
* [[エマ・ラザラス]]
* [[ラッパポルト]] Rappaport, Rappoport, Rapaport, Rapoport, Rapport, etc. - [[1776年]]から[[フランクフルト・アム・マイン]]の[[フランクフルト・ゲットー|ユダヤ人居住地]]に見える。「カラスのポルトガル人(Rabe Porto)」の変化で、[[カラス]]は[[ゲットー]]での紋章の図柄、といわれる。
* [[サルヴァドール・ルリア]]
* [[ダヴィド・レヴィ]]
* [[デイヴィッド・リカード]](オランダ経由でイギリスに移住したスペイン系ユダヤ人の家系)
* [[ローザ・ルクセンブルク]]
* [[フランクリン・ルーズベルト]]<small>(直接的にはオランダ系だが、Adolf Schmalix の "Are the Roosevelts Jewish?" によると母 Sarah Delano がセファルディム。</small>
* [[ピーター・ドラッカー]]([[オーストリア]]の[[ドイツ系ユダヤ人]]だが、先祖がオランダにいたセファルディムだった)
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}
== 関連項目 ==
* [[スペイン人の一覧]]、[[ポルトガル人の一覧]]、[[オランダ人の一覧]]
* [[スペイン異端審問]]、[[スペインの歴史]]
* [[コンベルソ]]
* [[マラーノ]]
* [[ユダヤ教]]
* [[イスラエル]]
== 外部リンク ==
* [http://www.tufs.ac.jp/21coe/area/insatsu/pmg_rpt_030219.html スファラディーム・ミズラヒーム研究の最近の動向 -雑誌『ペアミーム』を中心にして-]
{{ユダヤ人}}
{{Normdaten}}
{{DEFAULTSORT:せふあるていむ}}
[[Category:アルジェリアの民族]]
[[Category:イスラエルの民族]]
[[Category:イスラエルの宗教]]
[[Category:イタリアの民族]]
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[[Category:南欧]] | 2003-04-30T09:31:07Z | 2023-10-19T04:03:28Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%A0 |
7,506 | 鉄道撮影 | 鉄道撮影(てつどうさつえい)とは、鉄道を主題とした写真・動画の撮影をすることである。特に列車を専門にしている場合は列車撮影とも呼ぶ。また、鉄道趣味の中心として鉄道車両などの撮影を楽しむ鉄道ファンのことを、近年は撮り鉄(とりてつ)とも呼ぶ。
鉄道趣味としては最も古くから行われてきた基本的な形態の一つである。日本においては、明治時代に撮影された「岩崎・渡邊コレクション」が、当時の鉄道を克明に記録した資料として伝わっている。昭和初期に創刊された鉄道趣味雑誌も、写真撮影に主眼を置いていた。さらに趣味から進んで、書籍や新聞などのメディア媒体に使う鉄道写真を専門に撮影する鉄道写真家も存在する。
撮影対象は、鉄道車両、駅舎や橋梁などの構造物、風景写真としての鉄道撮影、沿線の生活や日常風景、鉄道関係者や利用者などの人物にわたるまで、多岐に及ぶ。撮影の目的や手法も多種多様である。 写真撮影の愛好家は、以前はフィルム式の一眼レフカメラを用いるのが代表的であったが、現在ではデジタルカメラを用いるのが一般的である。動画撮影にはビデオカメラを使用する。また高画質カメラ付きスマートフォンの普及に伴いスマートフォンでの写真・動画撮影も増えている。
撮影手法も様々で、駅近辺や駅構内で撮影する、あるいは同じ列車を追跡して何度も撮る(通称追っかけ)などの手法がある。
20世紀の社会主義国家の中には鉄道や施設を機密扱いし、鉄道撮影を禁止する法律を設けた国もあったが、冷戦が終結するにつれて規制は緩和された。しかし、21世紀に入ってもロシアのように治安維持を理由に鉄道撮影に制限を加えている国もある。また、2022年ロシアのウクライナ侵攻後のポーランドなど準戦時体制を敷く国家の中には、新たに鉄道撮影の禁止もしくは制限を加えようとする動きがある。
鉄道撮影は古くから存在し趣味として発展を遂げてきた一方で、特に近年になって一部の撮影者によって様々なトラブルが発生しているのも事実である。杉山淳一は、鉄道ファンの自浄作用は期待できないとした上で、違法行為や受忍限度を超える行為に対しては身柄を拘束し法的措置を講じるべきだと主張している。
マスメディアではこうしたトラブルが取り上げられることは多いが、鉄道趣味誌でも撮影マナーに対する注意喚起がページを割いてなされる場合もある。また、SNS上でも、「撮り鉄は犯罪者」「撮り鉄は反社会勢力」という過激な表現が出るようになった。
梅原淳は、昔は著名な鉄道愛好家が線路に降りたうえで撮影し、その写真が雑誌に掲載されることが多く、このため車両のみが映る写真がお手本と見なされたことも悪い影響を及ぼしていると評しており、鉄道趣味誌も人垣の中から撮影された写真を載せるなど、価値観の変化を創造する努力が必要であると指摘している。
その『鉄道ファン』誌では「マナーの問題はファンの自主性を最優先すべき」という方針から、トラブルに関する読者投稿を敢えて載せなかったことを明らかにしている。その後同誌は、後述する2010年の「あすか」の列車妨害事件に際しては、公式サイトで注意喚起の記事を掲載するとともに「マナーに関する特集を企画している」としたが、この特集は未だに出ていない。
一方『鉄道ダイヤ情報』などの撮影をメインとした雑誌では写真撮影に関する注意事項が必ず掲載されるようになったほか、JTB時刻表の2015年9月号の特集「いつまで会える!?国鉄色を撮りに行こう!」の記事中で撮影マナーに言及する、写真雑誌の『アサヒカメラ』で鉄道写真のマナーを考える特集が掲載されるなど、これらの問題が顕在化しつつある近年では変化が見られる。
川島令三は、マナーの悪さについて、撮り鉄や乗り鉄のマナーやイロハは顧問教諭や監督、先輩方から教わるのが通例だが、学校での鉄道や旅行関係の部活動廃止や縮小統合で、指導者や教える人が居なくなっていると自著で述べている。
運行中の車両に対し、走行中・停車中を問わず、フラッシュを焚いたり照明を使用して撮影することは運転の支障となり危険との理由で現在ではほとんどの鉄道事業者により禁止されている。東京メトロや東京都交通局などフラッシュ撮影禁止を明示している鉄道事業者も多い撮影にあたってのお願い 東京都交通局。「局施設でのロケ撮影にあたってのお願い」だが、文中に「駅ホーム上での照明器具等(フラッシュ・ライト)を用いた撮影は、乗務員への影響が大きいことから一切お断りさせていただきます。」とある。また、フラッシュ撮影は危険行為のため乗務員から注意を受けることがある 。
鉄道撮影者同士が撮影場所をめぐって大声で罵り合う行為がしばしば見られ、俗に「罵声大会」と呼ばれている。動画投稿サイトやSNSが普及し、そうした光景が動画で拡散されるようになった。危険な行為を注意した駅員に対して反抗的態度をとる、いわゆる「逆ギレ」する撮影者も存在しており、このような撮影者がいる場合は撮影者間でも注意がしづらくなるなど、自浄作用の発揮が難しい。
注意されたことを逆恨みして業務妨害を働いた事例も存在する。2023年1月には、走行中の横浜線や東海道線の車両ドアを合鍵で施錠した高校生2名が逮捕され、2023年7月には、走行中の埼京線のドアを施錠して運行を遅れさせたとして高校生3名が逮捕された。犯行動機はいずれも、撮り鉄行為を駅員や運転手に注意されたことに対する腹いせだと報じられている。
2006年には、東日本旅客鉄道新潟支社が、当時では異例ともいえる鉄道ファンへの注意喚起の案内を公式ウェブサイト上で2度にわたり公開したことがある。
2017年1月、京王電鉄は列車撮影時における禁止行為(フラッシュ撮影、三脚・脚立の使用、黄色線から出ての撮影など)を書いたポスターを駅に掲示した。他にも、駅構内や公式サイトで撮影に関する注意や禁止行為を明示する鉄道事業者が増えている。
2017年5月2日、TRAIN SUITE 四季島の運行開始列車が上野駅から発車する際、乗車口の13番線ホームは乗客と報道関係者以外立ち入らせず、その対角となる14番線には回送列車を留置させ、14番ホームからの撮影を遮蔽した。
2021年12月13日、四国旅客鉄道は、これまでのトラブル事例を踏まえた内容の、撮影マナーを啓発する文書を公式サイトで発表した。
鉄道事業者によっては、ファンの集中によるトラブルを避けるため、引退車両のラストランなどセレモニーイベントを実施しない例や、申し込みや抽選による限られた人数で撮影会や部品即売会のみを行う例もある。
鉄道撮影者の中には、列車に乗車せず、自家用車で沿線に出向き、撮影を行っている者も多く、鉄道会社にとって、鉄道撮影者は自社の収益アップにつながりにくい。また、公共インフラであり、通勤・通学利用が中心で、非鉄道ファンの利用客が大多数を占める鉄道業界において、鉄道ファンと非鉄道ファンとの間での対立によるトラブルを避けたいことからも、鉄道会社と鉄道撮影者との関係は一般的に良好とはいえない。
しかし、日本においては、沿線の少子高齢化や人口減少、モータリゼーションが進み、さらに新型コロナウイルス感染症での利用客減少が見られるようになった2020年代に入り、鉄道撮影者を自社の収益アップにつなげる動きもみられている。2021年11月には、鉄道撮影者向けのコンテンツとして、「JR東日本スタートアップ」と「ミーチュー」との協業で、「撮り鉄コミュニティ」と呼ばれるサービスを立ち上げた。クラウドファンディング形式での有料会員のメニューでは、「特別撮影会」という有料会員限定サービスを設け、JR東日本管理の下で列車撮影ができるようにしている。
撮影地について、鉄道撮影趣味者と土地所有者や沿線の住民・農家などの間でトラブル(撮影に支障する樹木を勝手に折るなど)が起き、その後立ち入りが制限されたことや、侵入者対策として鉄道事業者や土地所有者が大型の安全フェンスの設置などを行った結果、良好なアングルで車両が撮影できるいわゆる「撮影名所」が消滅した場所もある。一例として、東海道本線山崎駅近辺の「サントリーカーブ」、さくら夙川駅近辺の「夙川カーブ」、新疋田駅近辺の「鳩原ループ」などの撮影地が挙げられる。2021年には八王子市の中央本線小名路踏切近くで亡き夫が生前に植えた木を、2022年には伯備線沿線で大山をバックに走行車両を撮影するために、何者かが私有地の柿の木をチェーンソーで無断伐採した事例が発生している。また、木を無断伐採する事例だけではなくゴミのポイ捨てや撮影地周辺での違反駐車も問題となっている。
その一方で、鉄道事業者側が撮影者との共存共栄を図ろうと、鉄道撮影スペースの整備を図る例もある。IGRいわて銀河鉄道では櫻井寛の提案により、約100万円をかけて滝沢駅上りホーム先端に安全に鉄道撮影ができる専用スペース「TRAIN SPOTTER'S」が整備され、2017年(平成29年)10月14日より開放されるなど新たな動きもみられる。この滝沢駅の撮影専用スペースについて、櫻井は「おそらく日本初」としている。なお同日にえちごトキめき鉄道も撮影スペースを二本木駅に設置している。
親子連れのファンを鉄道撮影者たちは「パン人」(一般人)と呼び、「マナーが悪いパン人多数」とTwitterで訴える者もいる。
鉄道撮影者は、沿線の撮影地へ自家用車で出向くことも多いため、経済効果の面では、鉄道会社よりもカメラ・レンズメーカーや自動車メーカー、高速道路会社、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアといった駅ナカ施設外にある小売店など、鉄道会社以外にもたらされやすく、鉄道会社への経済効果は限定的といえる。
2021年12月20日には、Live News イット!が、いすみ鉄道沿線の私有地で不法侵入による列車撮影が行われていると報道した。しかし、番組の取材クルーから「鉄道敷地内で撮影していますね」と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明した。
ニコンイメージングジャパン、キヤノンマーケティングジャパン、富士フイルムなどの製造・販売各社も、撮影時の注意事項やしてはいけない行為などを公表している。タムロンは、2023年8月5日に、「鉄道博物館ナイトミュージアム撮影会&鉄道撮影マナー講座」を開催し、広田尚敬を講師に迎え「撮影マナーの7箇条」を説明した
2023年11月2日、福岡県警察鉄道警察隊は、撮り鉄への注意喚起の一環として、鉄道運行の妨害となる箇所の事例と、所属警察官が「周囲への妨害とならないように」撮影した鉄道写真の一例を、広報課のXアカウントに投稿した。その撮影者は鉄道警察隊係長の警部補で、自身も「撮り鉄」と認めるほどの鉄道写真愛好家であり、今回の投稿も警部補自身が企画したものだった。投稿した写真は通報現場付近の鉄道用地外から、あえて三脚を使わずに撮影したが、その写真に多くの反響があったことに、警部補は手応えを感じている。同年8月には、鉄道警察隊員が撮影した鉄道写真ギャラリーも開設されていた。 | [
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"text": "しかし、日本においては、沿線の少子高齢化や人口減少、モータリゼーションが進み、さらに新型コロナウイルス感染症での利用客減少が見られるようになった2020年代に入り、鉄道撮影者を自社の収益アップにつなげる動きもみられている。2021年11月には、鉄道撮影者向けのコンテンツとして、「JR東日本スタートアップ」と「ミーチュー」との協業で、「撮り鉄コミュニティ」と呼ばれるサービスを立ち上げた。クラウドファンディング形式での有料会員のメニューでは、「特別撮影会」という有料会員限定サービスを設け、JR東日本管理の下で列車撮影ができるようにしている。",
"title": "トラブル"
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"paragraph_id": 21,
"tag": "p",
"text": "撮影地について、鉄道撮影趣味者と土地所有者や沿線の住民・農家などの間でトラブル(撮影に支障する樹木を勝手に折るなど)が起き、その後立ち入りが制限されたことや、侵入者対策として鉄道事業者や土地所有者が大型の安全フェンスの設置などを行った結果、良好なアングルで車両が撮影できるいわゆる「撮影名所」が消滅した場所もある。一例として、東海道本線山崎駅近辺の「サントリーカーブ」、さくら夙川駅近辺の「夙川カーブ」、新疋田駅近辺の「鳩原ループ」などの撮影地が挙げられる。2021年には八王子市の中央本線小名路踏切近くで亡き夫が生前に植えた木を、2022年には伯備線沿線で大山をバックに走行車両を撮影するために、何者かが私有地の柿の木をチェーンソーで無断伐採した事例が発生している。また、木を無断伐採する事例だけではなくゴミのポイ捨てや撮影地周辺での違反駐車も問題となっている。",
"title": "トラブル"
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"text": "その一方で、鉄道事業者側が撮影者との共存共栄を図ろうと、鉄道撮影スペースの整備を図る例もある。IGRいわて銀河鉄道では櫻井寛の提案により、約100万円をかけて滝沢駅上りホーム先端に安全に鉄道撮影ができる専用スペース「TRAIN SPOTTER'S」が整備され、2017年(平成29年)10月14日より開放されるなど新たな動きもみられる。この滝沢駅の撮影専用スペースについて、櫻井は「おそらく日本初」としている。なお同日にえちごトキめき鉄道も撮影スペースを二本木駅に設置している。",
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"text": "親子連れのファンを鉄道撮影者たちは「パン人」(一般人)と呼び、「マナーが悪いパン人多数」とTwitterで訴える者もいる。",
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"text": "鉄道撮影者は、沿線の撮影地へ自家用車で出向くことも多いため、経済効果の面では、鉄道会社よりもカメラ・レンズメーカーや自動車メーカー、高速道路会社、ガソリンスタンド、コンビニエンスストアといった駅ナカ施設外にある小売店など、鉄道会社以外にもたらされやすく、鉄道会社への経済効果は限定的といえる。",
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"text": "2021年12月20日には、Live News イット!が、いすみ鉄道沿線の私有地で不法侵入による列車撮影が行われていると報道した。しかし、番組の取材クルーから「鉄道敷地内で撮影していますね」と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明した。",
"title": "トラブル"
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"text": "ニコンイメージングジャパン、キヤノンマーケティングジャパン、富士フイルムなどの製造・販売各社も、撮影時の注意事項やしてはいけない行為などを公表している。タムロンは、2023年8月5日に、「鉄道博物館ナイトミュージアム撮影会&鉄道撮影マナー講座」を開催し、広田尚敬を講師に迎え「撮影マナーの7箇条」を説明した",
"title": "トラブル"
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"text": "2023年11月2日、福岡県警察鉄道警察隊は、撮り鉄への注意喚起の一環として、鉄道運行の妨害となる箇所の事例と、所属警察官が「周囲への妨害とならないように」撮影した鉄道写真の一例を、広報課のXアカウントに投稿した。その撮影者は鉄道警察隊係長の警部補で、自身も「撮り鉄」と認めるほどの鉄道写真愛好家であり、今回の投稿も警部補自身が企画したものだった。投稿した写真は通報現場付近の鉄道用地外から、あえて三脚を使わずに撮影したが、その写真に多くの反響があったことに、警部補は手応えを感じている。同年8月には、鉄道警察隊員が撮影した鉄道写真ギャラリーも開設されていた。",
"title": "トラブル"
}
] | 鉄道撮影(てつどうさつえい)とは、鉄道を主題とした写真・動画の撮影をすることである。特に列車を専門にしている場合は列車撮影とも呼ぶ。また、鉄道趣味の中心として鉄道車両などの撮影を楽しむ鉄道ファンのことを、近年は撮り鉄(とりてつ)とも呼ぶ。 | {{pp-vandalism|small=yes}}
{{WikipediaPage|形式写真の撮り方|Wikipedia:百科事典向け写真撮影のガイド/鉄道車両の説明用}}
[[ファイル:Railfan at Tokyo station.jpg|thumb|right|250 px|[[ブルートレイン (日本)|ブルートレイン]]「[[富士 (列車)|富士]]・[[はやぶさ (列車)|はやぶさ]]」(左)の[[さよなら運転|ラストラン]]撮影に集まる人々]]
'''鉄道撮影'''(てつどうさつえい)とは、[[鉄道]]を主題とした[[写真]]・[[動画]]の[[撮影]]をすることである。特に[[列車]]を専門にしている場合は'''列車撮影'''とも呼ぶ。また、鉄道[[趣味]]の中心として[[鉄道車両]]などの撮影を楽しむ[[鉄道ファン]]のことを、近年は'''撮り鉄'''(とりてつ)とも呼ぶ<ref name="梅原淳_iRONNA">{{Cite web|和書|author=[[梅原淳]] |date=2016 |url= https://ironna.jp/article/3410 |title=写真のためなら手段を選ばない「撮り鉄」の恐るべき本性 |publisher=iRONNA([[産経新聞社]])|accessdate=2021-01-20|archiveurl=https://web.archive.org/web/20200618035159/https://ironna.jp/article/3410?p=4|archivedate=2020-06-18|deadlinkdate=2021-08-16}}。</ref>。
== 概要 ==
[[ファイル:Mt_Fuji_Tokaido_Shinkansen_&_Photographer.jpg|thumb|right|富士市で東海道新幹線と富士山を撮影している写真家。]]
[[ファイル:Railfantokyo.jpg|thumb|right|鉄道事業者主催のイベントで写真撮影を楽しむ[[鉄道ファン]]<br/>[[東京総合車両センター]]の一般公開にて]]
[[鉄道ファン|鉄道趣味]]としては最も古くから行われてきた基本的な形態の一つである。[[日本]]においては、[[明治]]時代に撮影された「[[岩崎輝弥|岩崎・渡邊コレクション]]」が、当時の鉄道を克明に記録した資料として伝わっている。[[昭和]]初期に創刊された鉄道趣味雑誌も、写真撮影に主眼を置いていた。さらに趣味から進んで、書籍や新聞などのメディア媒体に使う鉄道写真を専門に撮影する[[鉄道写真家]]も存在する。
撮影対象は、鉄道車両、[[鉄道駅|駅舎]]や[[橋|橋梁]]などの構造物、[[風景写真]]としての鉄道撮影、沿線の生活や日常風景、鉄道関係者や利用者などの人物にわたるまで、多岐に及ぶ。撮影の目的や手法も多種多様である。
写真撮影の愛好家は、以前は[[写真フィルム|フィルム]]式の[[一眼レフカメラ]]を用いるのが代表的であったが、現在では[[デジタルカメラ]]を用いるのが一般的である。動画撮影には[[ビデオカメラ]]を使用する。また高画質カメラ付き[[スマートフォン]]の普及に伴いスマートフォンでの写真・動画撮影も増えている。
{{See also|鉄道ファン|さよなら運転}}
撮影手法も様々で、駅近辺や駅構内で撮影する、あるいは同じ列車を追跡して何度も撮る(通称追っかけ)などの手法がある。
[[20世紀]]の[[社会主義]]国家の中には鉄道や施設を機密扱いし、鉄道撮影を禁止する法律を設けた国もあったが、[[冷戦]]が終結するにつれて規制は緩和された。しかし、21世紀に入っても[[ロシア]]のように治安維持を理由に鉄道撮影に制限を加えている国もある<ref>{{Cite web|和書|author=服部倫卓 |url=https://globe.asahi.com/article/11724099 |title=ロシア鉄道博物館で実感した日本との文化差 |publisher=朝日新聞GLOBE+ |date=2018-08-07 |accessdate=2023-08-30}}</ref>。また、[[2022年ロシアのウクライナ侵攻]]後の[[ポーランド]]など準戦時体制を敷く国家の中には、新たに鉄道撮影の禁止もしくは制限を加えようとする動きがある<ref>{{Cite web|和書|author=橋爪智之 |url=https://toyokeizai.net/articles/-/697904 |title=ポーランド「鉄道撮影禁止法」が巻き起こす波紋 軍事機密は重要だが社会主義時代の苦い記憶も |publisher=東洋経済オンライン |date=2023-08-30 |accessdate=2023-08-30}}</ref>。
{{節スタブ|1=歴史や撮影手法など|date=2020年12月}}
{{-}}
== 機材・道具 ==
<!-- 空白開けずに詰めるとマークアップの表示がおかしくなるのでひとつ空白開ける -->
{{複数の問題|出典の明記=2023年2月|独自研究=2023年2月|section=1}}
* [[カメラ]]
** [[2000年代]]に入ってからは[[デジタル一眼レフカメラ]]が普及し、現在ではフィルムカメラで撮影する人は稀である。近年では後述のスマートフォンでの撮影者と対比し、撮影者たちの間では、「一眼鉄」と呼ばれることもある。鉄道車両は動きの速い被写体であることから、[[手ぶれ]]の少なさや[[シャッター速度]]・[[ズームレンズ|ズーム]]倍率が要求され、鉄道撮影者の間では、高価な一眼レフカメラの需要が高い。鉄道撮影者はメーカーへの忠誠心の高い顧客であり、[[キヤノン]]や[[ニコン]]などの一眼レフカメラメーカーやズームレンズメーカーは、[[鉄道雑誌]]に[[広告]]を掲載したり、キヤノンが[[交友社]]の鉄道雑誌『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』との[[タイアップ]]で写真コンテスト「鉄道ファン・キヤノンフォトコンテスト」などを開催したりしている。
* [[三脚]]・[[脚立]]
** 三脚は夜間撮影のほか、[[望遠レンズ]]や複数のカメラを使用する場合に用いる。
** 脚立は高い位置から構えて撮影する場合に使用する。三脚と併用する場合も多いがJR・私鉄の駅構内では、三脚と共にほとんど使用禁止となっている。
** 近年は安全(軌道敷に落ちたら救助のために運行を止めなければならなくなる)のため、駅構内での三脚・脚立の使用を禁止している鉄道事業者がほとんどである。
* [[携帯電話]]・[[スマートフォン]]、[[パーソナルコンピュータ|パソコン]]・[[タブレット (コンピュータ)|タブレット]]端末
** 列車の運行情報や撮影地などの地図の確認、[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]等を活用した情報収集・発信に利用される。カメラの次に必須道具。特にカメラ付き端末は2000年以降の鉄道撮影に使われることが多くなった。近年では「スマホ鉄」と呼ばれることもある。一眼レフカメラやコンパクトデジタルカメラよりも軽量で、一人1台にまで普及した携帯電話やスマートフォンで気軽に撮影できるようになったことで、[[子ども]]や[[女性]]の撮影者も増えた。
* [[自撮り棒]]
** スマートフォンの普及とともに[[自撮り棒]]による撮影も増えている。駅構内[[プラットホーム]]では他の乗客への迷惑などの理由から自撮り棒の使用を禁止する[[鉄道事業者]]もある。詳細は「[[自撮り棒#危険性]]」を参照。
* [[鉄道雑誌]]・書籍
** 近年では鉄道写真の撮り方についてレクチャーした書物や、鉄道写真専門の撮影地ガイドも多く販売されている。
* ケース類
** カメラなど撮影機材を入れて持ち運ぶため「銀箱」(昭和時代の呼称)と呼ばれるアルミケースやソフトタイプ(強い生地で出来ている主に布製)バッグ、[[リュックサック]]など多種がある。
== トラブル ==
[[画像:Tori-tetsu 20051218.JPG|thumb|right|150 px|撮影地で目的の列車を待つ鉄道ファンたち]]
[[ファイル:撮り鉄によって破られたネットフェンスの修理後の状態.JPG|thumb|right|200 px|少しでも良い写真を撮ろうとするあまり、カメラレンズを入れるためにフェンスの編組を切り抜いてしまう者もいる。これは犯罪行為([[器物損壊罪]])にあたる。画像は補修後の状態。補修されている所の色が異なる。]]
鉄道撮影は古くから存在し趣味として発展を遂げてきた一方で、特に近年になって一部の撮影者によって様々なトラブルが発生しているのも事実である<ref name="梅原淳_iRONNA" /><ref>{{cite news |title=違法行為の撮り鉄、どう対処? |author= |newspaper=[[産経新聞|MSN産経ニュース]] |date=2013-03-22 |url=http://sankei.jp.msn.com/life/news/130322/trd13032207490003-n1.htm |accessdate=2013-03-22}}</ref>。[[杉山淳一]]は、鉄道ファンの自浄作用は期待できないとした上で、違法行為や受忍限度を超える行為に対しては身柄を拘束し法的措置を講じるべきだと主張している<ref>{{cite news |title=問題続発の「撮り鉄」--「違法行為には厳しく」「間接的には観光振興」 (1/2) |author= 磨井慎吾|newspaper=[[ITmedia|ITmediaニュース]] |date=2013-03-25 |url=http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1303/25/news037.html|accessdate=2013-03-29}}</ref>。
[[マスメディア]]ではこうしたトラブルが取り上げられることは多いが、鉄道趣味誌でも撮影マナーに対する注意喚起がページを割いてなされる場合もある。また、[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]上でも、「撮り鉄は犯罪者」「撮り鉄は反社会勢力」という過激な表現が出るようになった<ref>[https://www.tetsudo.com/column/332/ 迷惑行為はもうやめて 「撮り鉄」がいま考えるべきこと - 鉄道コム]</ref>。
[[梅原淳]]は、昔は著名な鉄道愛好家が線路に降りたうえで撮影し{{Refnest|group="注"|少なくとも1960年代までは、[[東京駅]]のような大ターミナルですら、ダイヤ改正に伴う出発式などの際線路に降りて撮影することが容認されていた<ref>花上嘉成(2016):波瀾万丈!東武鉄道マン記、p.4、交通新聞社</ref>。}}、その写真が雑誌に掲載されることが多く、このため車両のみが映る写真がお手本と見なされたことも悪い影響を及ぼしていると評しており、鉄道趣味誌も人垣の中から撮影された写真を載せるなど、[[価値観]]の変化を創造する努力が必要であると指摘している<ref>{{Cite news|title=なぜ「撮り鉄」は分散せず1カ所に密集?その根深い理由…解決には価値観の変更が必要|newspaper=Business Journal|date=2021-09-04|url=https://biz-journal.jp/2021/09/post_248200_3.html}}</ref>。
その『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』誌では「マナーの問題はファンの自主性を最優先すべき」という方針から、トラブルに関する読者投稿を敢えて載せなかったことを明らかにしている<ref>交友社『鉄道ファン』1986年6月号、p.145</ref>。その後同誌は、後述する2010年の「[[あすか (鉄道車両)|あすか]]」の列車妨害事件に際しては、公式サイトで注意喚起の記事を掲載するとともに「マナーに関する特集を企画している」とした<ref name="railf" />が、この特集は未だに出ていない。
一方『[[鉄道ダイヤ情報]]』などの撮影をメインとした雑誌では写真撮影に関する注意事項が必ず掲載されるようになったほか、[[時刻表#JTBパブリッシング発行|JTB時刻表]]の2015年9月号の特集「いつまで会える!?[[国鉄色]]を撮りに行こう!」の記事中で撮影マナーに言及する<ref>{{cite magazine | 和書 | title=日本の四季によく映える!国鉄色を楽しく撮るためのコツ | page=巻頭カラー5頁 | magazineJTB時刻表| author=[[佐々木実 (写真家)|佐々木実]] |volume=1076 | date=2015-09}}</ref>、写真雑誌の『[[アサヒカメラ]]』で鉄道写真のマナーを考える特集が掲載される<ref>[https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1801/17/news123.html アサヒカメラが「嫌われない撮り鉄になるために」を特集 この企画に込められた思いを聞いた] [[ねとらぼ]]、2018年1月17日。</ref>など、これらの問題が顕在化しつつある近年では変化が見られる。
[[川島令三]]は、マナーの悪さについて、撮り鉄や乗り鉄のマナーやイロハは顧問教諭や監督、先輩方から教わるのが通例だが、学校での鉄道や旅行関係の[[部活動]]廃止や縮小統合で、指導者や教える人が居なくなっていると自著{{要出典|date=2023-03}}で述べている。
=== 実例 ===
{{百科事典的でない|section=1|type=notnews|date=2023年1月}}
; [[1976年]]([[昭和]]51年)
:* 9月4日、[[動力近代化計画|無煙化]]の完了によって国鉄線から[[蒸気機関車]]が全て退役したばかりの同年、蒸気機関車牽引のイベント列車を撮ろうとし、周囲の注意を無視して線路に入った児童が列車に接触して死亡した<ref name="梅原淳_iRONNA" />。{{main|京阪100年号事故}}
; [[2008年]]([[平成]]20年)
:* 11月29日、神奈川県内の[[東海道本線]]で、同年度内の廃止が発表された「[[富士 (列車)|富士]]・[[はやぶさ (列車)|はやぶさ]]」を[[踏切]]内に侵入して撮影していた男が、倒れた[[三脚]]を起こそうとして[[貨物列車]]と接触、死亡した<ref>[https://www.sankei.com/article/20150121-QH53YZUQOJOSDCK4SLZ4DDPLDQ/5/ 【関西の議論】迫る「Xデー」、大阪駅に殺到する!?「葬式鉄」…豪華寝台特急3月ラストラン 一部の〝暴走〟どう食い止めるか] [[産経新聞]](産経WEST)、2015年1月21日、2019年12月19日閲覧。</ref><ref>{{Cite news|title=「撮り鉄」節度を 踏切侵入、はねられ死亡…目立つマナー違反 JR、対策に躍起 |newspaper=朝日新聞東京朝刊 |date=2009-03-14 |page=39}}</ref>。
; [[2010年]](平成22年)
:* 2月14日、[[あすか (鉄道車両)|あすか]]を撮影しようと鉄道敷地内に侵入する者がいたことが原因となり、安全確保のために多数の列車が運休になるなど多大な影響が出た。[[西日本旅客鉄道]](JR西日本)は警察に被害届を提出した<ref>[https://www.j-cast.com/2010/02/20060578.html?p=all 鉄道ファンの線路侵入 鉄道雑誌も「犯罪」と警告] [[J-CAST]]、2010年2月20日、2019年12月19日閲覧。</ref>。この件については鉄道雑誌『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』にも注意喚起の記事が掲載された<ref name=railf>[https://railf.jp/news/2010/02/17/120000.html 『鉄道ファン』編集部から読者のみなさまへお願いとお知らせ] [[交友社]]公式サイト「railf.jp」、2010年2月17日、2019年12月19日閲覧。</ref>。
:** [[ウィキニュース]] 2010年2月22日「[https://ja.wikinews.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%8A%E3%83%BC%E5%AE%88%E3%82%8C%E3%81%AC%E9%89%84%E9%81%93%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%81%8C%E5%88%97%E8%BB%8A%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%82%8B_%E7%9B%B8%E6%AC%A1%E3%81%90%E9%81%8B%E8%A1%8C%E5%A6%A8%E5%AE%B3 マナー守れぬ鉄道ファンが列車を止める 相次ぐ運行妨害]」も参照。
; [[2015年]](平成27年)
:* 12月20日、[[東海道本線]]の[[高槻駅]] - [[島本駅]]間の[[踏切]]内に三脚を置いて、[[国鉄117系電車|117系電車]]を撮影しようとした男が[[往来危険罪]]で[[現行犯|現行犯逮捕]]された<ref name="asahidot20181105"/>。
;2017年
:* 8月19日、電車を撮ろうとした男が[[北総鉄道]]の[[江戸川]]橋梁に無許可で[[マルチコプター|ドローン]]を近付け、ドローンは[[架線]]の[[電磁波]]の影響で制御不能となり、線路脇に墜落した<ref>2万ボルトが流れているので磁場も発生する。</ref>。男は12月6日、[[航空法]]違反容疑で[[松戸警察署]]によって[[千葉地方検察庁]]に[[書類送検]]された<ref name="asahidot20181105"/><ref>{{Cite news|title=ドローンで鉄橋に違法接近 「電車撮りたかった」 千葉県警が書類送検|url=http://www.sankei.com/affairs/news/171206/afr1712060049-n1.html|newspaper=産経ニュース|publisher=[[産業経済新聞社]]|date=2017-12-06|accessdate=2018-01-26}}</ref>。
:* 10月、[[大井川鐵道]]にて[[西武E31形電気機関車|E31形電気機関車]]のイベント開催に関連して、沿線の[[抜里駅]]付近の[[公道]]上に「場所取りをしています」という貼り紙がなされているのを発見した人物から情報提供を受け、同社が警察に通報したことを、大井川鐵道の公式[[Twitter]]アカウントが投稿した<ref>[https://twitter.com/daitetsuSL/status/920156184274964480 【撮影時の場所取り①】] {{Twitter|daitetsuSL|大井川鐵道株式会社【公式】}}、[https://archive.is/hgwNe アーカイブ]。2017年10月17日、2019年12月15日閲覧。</ref><ref>[https://twitter.com/daitetsuSL/status/920157440959827969 【撮影時の場所取り②】] {{Twitter|daitetsuSL|大井川鐵道株式会社【公式】}}、[https://archive.ph/S64gy アーカイブ]。2017年10月17日、2019年12月15日閲覧。</ref>。このような「公道での場所取り」は「[[道路交通法]]に違反する」という<ref>[https://www.bengo4.com/internet/n_6833/ 「撮り鉄」路上に脚立置き「場所取りしてます」「撤去厳禁」と張り紙…法的にアウト] [[弁護士ドットコム]]ニュース、2017年10月20日、2019年12月19日閲覧。</ref>。
; [[2018年]](平成30年)
:* 11月27日未明、[[貴船口駅]]付近にて、運行中の[[京福電気鉄道モト1000形電車|デト1000形貨車]]に向けて乗用車3台のハイビームにした[[前照灯]]を照明代わりに鉄道写真を撮ろうとしていた人物がいた<ref>[https://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20181130000184 撮影目的か、貨車に車3台がハイビーム 叡電「危険、やめて」] [[京都新聞]]、2018年11月30日{{リンク切れ|date=2019年12月}}。(2019年11月26日時点での[https://archive.is/YLAb0 アーカイブ])</ref><ref>[http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1811/29/news116.html 乗用車のハイビームを照明代わりに 叡山電鉄、撮り鉄の迷惑行為に異例のお願い「運転の妨害」語気強く] ねとらぼ、2018年11月29日、2019年12月19日閲覧。</ref>。[[叡山電鉄]]公式Twitterアカウントは「列車運行[[往来を妨害する罪|妨害]]になり大変危険なため絶対にやめてください」と投稿した<ref>[https://twitter.com/eizandensha/status/1067349842135998464 【列車を撮影される方へのお願い】] {{Twitter|eizandensha|叡山電車【公式】}}、[https://archive.ph/UJpWR アーカイブ]。2018年11月27日、2019年12月19日閲覧。</ref>。
;[[2021年]]
:* [[3月24日]]16時45分ごろ、[[中央本線]]の[[立川駅]] - [[日野駅 (東京都)|日野駅]]間の鉄橋付近にて、[[国鉄EF64形電気機関車|EF64形電気機関車]]が牽引する[[国鉄185系電車|185系電車]]の[[配給列車]]を撮影する目的で、一部の撮り鉄が別の営業列車が通過する直前に鉄道用地内に侵入し、乗客を乗せた列車を橋梁の上で[[非常ブレーキ|緊急停車]]させ中央本線は約30分止まった。[[東日本旅客鉄道八王子支社]]が警察に通報したほか、その場にいた他の撮り鉄による証拠動画もTwitter上で公開された。JRが絶対に止めるように呼び掛けた<ref>[https://www.bengo4.com/c_1009/n_12867/ 暴走する撮り鉄たち、線路立ち入りで電車26分ストップ…警察に通報したJR「告訴も」]</ref>ほか、[[高松琴平電気鉄道]]の公式Twitterアカウントも証拠動画を引用して警告した<ref>{{Twitter status|irucakoto|1374894448824381440}}</ref>。なお、JR東日本では、中央本線を走行する鉄道車両の[[操縦席|運転台]]に、2013年(平成25年)から事故検証用の[[ドライブレコーダー]]の搭載を始めていた<ref>[https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG13024_T10C13A7CR8000/ JR中央線にドライブレコーダー 運転台から録画]</ref>。2021年9月9日、警視庁は当日に鉄道用地内に入った男性2人を、鉄道営業法違反の疑いで書類送検した<ref>[https://www.fnn.jp/articles/-/236468 【独自】線路に立ち入ったマナー違反”撮り鉄”が踊り子号を止める 逃げまどう様子も 2人書類送検]</ref>。撮り鉄が侵入した動機について、[[FNNプライムオンライン]]は「高く売れるいい写真を撮りたかった」と伝えている。
:* 4月25日17:20頃、[[西川口駅]]で[[あしかが大藤まつり号]]を撮影しようと19歳会社員と中学生が口論になり会社員が中学生を投げ飛ばして重傷負わす事件が発生し逮捕された。この一部始終を撮影していた者に対しても「何撮ってるんだよ」と暴行していた<ref>https://www.asahi.com/sp/articles/ASP4X2STTP4XUTNB001.html</ref>
:*8月5日深夜、[[江ノ島電鉄]]の夜間試運転列車を撮影しようと撮り鉄が集まっていたところへ自転車に乗った外国人男性が通りかかり、カメラに向けてポーズを取りながら試運転列車と並走し、撮り鉄たちから罵声を浴びた。この様子は動画としてTwitterで拡散され、自転車の男性は「[[江ノ電自転車ニキ]]」と呼ばれて[[インターネット・ミーム|ネットミーム]]となった<ref>{{Cite web|和書|title=“江ノ電自転車ニキ”語った罵倒騒動のその後「撮り鉄の子が謝罪にきた」 {{!}} 女性自身 |url=https://jisin.jp/domestic/2053078/ |website=WEB女性自身 |date=2021-12-28 |accessdate=2023-07-29}}</ref>。
;2022年
:* 4月23日ごろ、[[東京メトロ副都心線]][[明治神宮前駅]]ホームにて、ホームに侵入しようとする電車を撮影しようとした撮り鉄1人が[[脚立]]を置いてその上に立ち、[[ホームドア]]を乗り越えるような撮影しようとしていた為、駅員に制止された。列車の到着に影響はなかったが、当事者の撮り鉄は駅員に激しく悪態をついており、駅員が「警察を呼ぶ」とも言っていた。この一連を撮影した動画が2022年8月29日に[[Twitter]]に投稿された。[[東京地下鉄]]広報部は取材に対し、この動画が明治神宮前駅で起きたことであると確認していて、警察は呼ばなかったこと、駅構内での撮影には安全に配慮し、駅員や警備員の指示に従ってほしい旨を書面で回答した<ref>[https://encount.press/archives/348216/ 「カスがよ!」撮り鉄が脚立持ち込み駅員に罵声 拡散した動画の詳細をメトロに聞いた]</ref>。
:* 8月15日夜9時頃、[[近鉄名古屋駅]]で、「車内灯消して前照灯付けて降車側のドアも開けて欲しい」と言う理由で[[非常通報装置]]を作動させ約2分の遅延を引き起こし、乗務員に「非常通報ボタンは写真撮影に使うものではない」と諭された<ref>[https://www.j-cast.com/2022/08/16443843.html 「これは緊急用です」通報ボタン押した「撮り鉄」に車掌注意 撮影のため照明点灯求める...近鉄車内で一体何が: J-CAST ニュース]</ref>。
:* 8月28日、[[広島電鉄]]において、撮り鉄の団体約30人が[[団体列車|貸切電車]]2両を予約。この団体は事前に「[[草津駅 (広島県)|草津駅]]で擦れ違わせてほしい」と同社に依頼していた。しかし28日の運行日に急遽「2人が草津駅で乗車する」と連絡があった。このため、電車は2人が乗車するまで走り出せなかった。さらに同駅で停車中に、多数の撮影者らが電車から降りて車両の撮影を開始。この影響で、通常は約1分で開く同駅構内の[[踏切]]が、約4分に亘って閉まった状態となり、地元住民らが足止めされる事態となった。同社では、これら一連の事態を「想定外」だったとして、謝罪文を公表した<ref>[https://www.fnn.jp/articles/-/411696 4分間踏切開かず 住民足止め…原因は“撮り鉄”の電車貸し切り 広島電鉄が謝罪] FNNプライムオンライン 2022年9月2日</ref>。
:* 9月2日午前1時10 - 45分ごろ、[[長岡天神駅]]にて、[[町田市]]在住の20歳の人物が、[[試運転]]列車を撮影しようと、19歳の鉄道撮影仲間と共に[[終電]]後の駅構内に侵入した。[[阪急電鉄]]は[[京都府警察]]に通報し、不法侵入した20歳の人物は、11月25日に[[向日町警察署]]に[[建造物侵入]]の疑いで逮捕された<ref>{{Cite news|url=https://www.sankei.com/article/20221125-TIAHL5RWGBI3DL3H5AWRBWTWAQ/|title=駅侵入容疑で撮り鉄を逮捕「試運転撮りたかった」 京都|newspaper=産経新聞|date=2022-11-25|accessdate=2022-11-28}}</ref><ref>{{Cite news|url=https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/927838|title=深夜の駅に侵入容疑「撮り鉄」を逮捕 「試運転中の列車を撮影した」|newspaper=京都新聞|date=2022-11-26|accessdate=2022-11-28}}</ref>。
:*10月8日 - [[南流山駅]]で線路内に三脚を落とした者が居て、[[非常停止ボタン]]が押された<ref> https://www.fnn.jp/articles/-/429264?display=full </ref>
=== フラッシュ撮影 ===
運行中の車両に対し、走行中・停車中を問わず、[[エレクトロニックフラッシュ|フラッシュ]]を焚いたり照明を使用して撮影することは運転の支障となり危険との理由で現在ではほとんどの鉄道事業者により禁止されている<ref>{{Cite book|和書|author=森由梨香|others=|date=2013年11月|title=鉄道写真の撮り方手帖|page=21|publisher=[[マイナビ]]|isbn=978-4-8399-4194-9}}</ref>。[[東京メトロ]]や[[東京都交通局]]などフラッシュ撮影禁止を明示している鉄道事業者も多い<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.tokyometro.jp/safety/attention/index.html#anc08|title=東京メトロからのお願い|accessdate=2018年12月23日}}</ref>[https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/other/shooting/pdf/index_guide.pdf 撮影にあたってのお願い] 東京都交通局。「局施設でのロケ撮影にあたってのお願い」だが、文中に「駅ホーム上での照明器具等(フラッシュ・ライト)を⽤いた撮影は、乗務員への影響が大きいことから⼀切お断りさせていただきます。」とある。また、フラッシュ撮影は危険行為のため乗務員から注意を受けることがある
<ref>[https://www.j-cast.com/2015/02/25228848.html フラッシュ撮影した客にメトロ運転士ブチ切れ 「すいませんじゃねーよ!」は暴言なのか] J-CAST、2015年2月25日</ref><ref name="zakzak">[https://web.archive.org/web/20101018040557/http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20101015/dms1010151225000-n1.htm 鉄オタまた“脱線”オレンジ電車引退でやりたい放題…] [[ZAKZAK]] 2010年10月15日。2010年10月15日閲覧。(2010年10月18日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])</ref>。
=== 罵声・注意への「逆ギレ」===
鉄道撮影者同士が撮影場所をめぐって大声で罵り合う行為がしばしば見られ、俗に「罵声大会」<ref>{{Cite web|和書|url=https://bunshun.jp/articles/-/44601?page=2 |title=「撮り鉄vs鉄道会社 仁義なき戦い」を見て思う鉄道ファンの“心の叫び” |page=2 |author=[[東香名子]] |date=2021-04-06 |website=[[文春オンライン]] |publisher=[[文藝春秋社]] |accessdate=2023-11-25}}</ref><ref name="AERAdot20210515">{{Cite journal|和書|author=野村昌二 |title=『いい写真』しか頭にない 撮り鉄がホームで罵声大会 |journal=[[AERA]] |date=2021-05-17 |page=30 |publisher=朝日新聞出版}}(当該記事のオンライン版:{{Cite web|和書|title=撮り鉄 ホームで「罵声大会」、注意されると「逆ギレ」も マナー崩壊の背景 |url=https://dot.asahi.com/articles/-/73047?page=1 |author=野村昌二 |date=2021-05-15 |website=[[AERA dot.]] |publisher=[[朝日新聞出版]] |page=1 |accessdate=2023-11-25}})</ref>と呼ばれている。[[動画投稿サイト]]や[[ソーシャル・ネットワーキング・サービス|SNS]]が普及し、そうした光景が動画で拡散されるようになった{{R|AERAdot20210515}}。危険な行為を注意した駅員に対して反抗的態度をとる、いわゆる「[[逆ギレ]]」する撮影者も存在しており{{R|AERAdot20210515}}、このような撮影者がいる場合は撮影者間でも注意がしづらくなるなど、自浄作用の発揮が難しい。
注意されたことを逆恨みして業務妨害を働いた事例も存在する。2023年1月には、走行中の横浜線や東海道線の車両ドアを合鍵で施錠した高校生2名が逮捕され<ref name="読売20230127">{{Cite news|和書 |url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20230127-OYT1T50047/ |title=『JRの人を困らせたかった』高校生2人、走行中の電車ドアを合鍵で施錠…入手経路調べる |newspaper=読売新聞 |date=2023-01-27 |accessdate=2023-10-24}}</ref>、2023年7月には、走行中の埼京線のドアを施錠して運行を遅れさせたとして高校生3名が逮捕された<ref name="読売20230729">{{Cite news|和書 |url=https://www.yomiuri.co.jp/national/20230729-OYT1T50318/ |title=『撮り鉄』高校生、走行中の埼京線のドアに鍵かけたか…『ハイビームで注意され頭にきた』 |newspaper=読売新聞 |date=2023-07-29 |accessdate=2023-10-24}}</ref>。犯行動機はいずれも、撮り鉄行為を駅員や運転手に注意されたことに対する腹いせだと報じられている{{R|読売20230127|読売20230729}}。
=== 鉄道事業者側の対策 ===
[[2006年]]には、[[東日本旅客鉄道新潟支社]]が、当時では異例ともいえる鉄道ファンへの注意喚起の案内を公式ウェブサイト上で2度にわたり公開したことがある<ref>[https://www.jreast.co.jp/niigata/top/2020.09.15onegai.pdf 「鉄道ファン」の皆様へお願い] JR東日本新潟支社</ref>。
[[2017年]][[1月]]、[[京王電鉄]]は列車撮影時における禁止行為(フラッシュ撮影、三脚・脚立の使用、黄色線から出ての撮影など)を書いたポスターを駅に掲示した<ref>[https://dot.asahi.com/articles/-/100354?page=1 「撮り鉄」にカメラを向けられた車掌のホンネは? 「事故になれば駅員の責任…」] 朝日新聞社「AERA dot.」2018年11月9日、2019年12月19日閲覧。</ref>。他にも、駅構内や公式サイトで撮影に関する注意や禁止行為を明示する鉄道事業者が増えている。
2017年[[5月2日]]、[[TRAIN SUITE 四季島]]の運行開始列車が[[上野駅]]から発車する際、乗車口の13番線ホームは乗客と報道関係者以外立ち入らせず、その対角となる14番線には[[回送列車]]を留置させ、14番ホームからの撮影を遮蔽した<ref>[https://getnews.jp/archives/1723835 高級寝台『四季島』一番列車発車! 上野駅での対応に“撮り鉄”から不満の声も……] [[ガジェット通信]]、2017年5月2日</ref>。
2021年12月13日、[[四国旅客鉄道]]は、これまでのトラブル事例を踏まえた内容の、撮影マナーを啓発する文書を公式サイトで発表した<ref>[https://news.careerconnection.jp/news/social/128662/ 撮り鉄への警告 JR四国、駅内で三脚や脚立の使用を「おやめください」とアナウンス]</ref><ref>[https://www.jr-shikoku.co.jp/emc_info/20211213_shooting_manners.pdf 撮影マナーに関わるご協力のお願いについて]</ref><ref>[https://www.jr-shikoku.co.jp/emc_info/shimonada_manner.pdf 下灘駅での危険行為の禁止とマナー啓発について]</ref>。
鉄道事業者によっては、ファンの集中によるトラブルを避けるため、引退車両のラストランなどセレモニーイベントを実施しない例や、申し込みや抽選による限られた人数で撮影会や部品即売会のみを行う例もある。
鉄道撮影者の中には、列車に乗車せず、[[自家用自動車|自家用車]]で沿線に出向き、撮影を行っている者も多く、鉄道会社にとって、鉄道撮影者は自社の収益アップにつながりにくい。また、[[公共]][[インフラストラクチャー|インフラ]]であり、[[通勤]]・[[通学]]利用が中心で、非鉄道ファンの利用客が大多数を占める鉄道業界において、鉄道ファンと非鉄道ファンとの間での対立によるトラブルを避けたいことからも、鉄道会社と鉄道撮影者との関係は一般的に良好とはいえない。{{要出典|date=2023年2月}}
しかし、日本においては、沿線の[[少子高齢化]]や[[人口減少社会|人口減少]]、[[モータリゼーション]]が進み、さらに[[新型コロナウイルス感染症]]での利用客減少が見られるようになった2020年代に入り、鉄道撮影者を自社の収益アップにつなげる動きもみられている。2021年11月には、鉄道撮影者向けのコンテンツとして、「JR東日本スタートアップ」と「ミーチュー」との[[協業]]で、「撮り鉄コミュニティ」と呼ばれるサービスを立ち上げた。[[クラウドファンディング]]形式での有料会員のメニューでは、「特別撮影会」という有料会員限定サービスを設け、JR東日本管理の下で列車撮影ができるようにしている<ref>[https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000034286.html5 撮り鉄の皆様へ告知です。JR東日本「撮り鉄コミュニティ」を11月10日に開始。コミュニティ限定企画に参加できる会員特典などを提供。JR東日本スタートアップ株式会社] [[PR TIMES]]、2021年11月10日]</ref><ref>[https://mechu.chat/join_/?id=525329468525329501525328722 Mechu JR東日本 撮り鉄コミュニティ]</ref>。
=== 撮影地の問題 ===
撮影地について、鉄道撮影趣味者と土地所有者や沿線の住民・農家などの間でトラブル(撮影に支障する樹木を勝手に折るなど)が起き、その後立ち入りが制限されたことや、侵入者対策として鉄道事業者や土地所有者が大型の[[柵|安全フェンス]]の設置などを行った結果、良好なアングルで車両が撮影できるいわゆる「撮影名所」が消滅した場所もある。一例として、[[東海道本線]][[山崎駅 (京都府)|山崎駅]]近辺の「[[山崎駅 (京都府)#概要|サントリーカーブ]]」<ref>{{Cite news|url=http://www.asahi.com/travel/rail/news/OSK200810070037.html |title=「関西一」のJR撮影地点 サントリーカーブにフェンス |publisher=朝日新聞DIGITAL |date =2008-10-11 |accessdate=2021-09-12}}</ref>、[[さくら夙川駅]]近辺の「[[鉄道撮影#撮影地の問題|夙川カーブ]]」、[[新疋田駅]]近辺の「[[新疋田駅#駅周辺|鳩原ループ]]」などの撮影地が挙げられる。2021年には[[八王子市]]の[[中央本線]]小名路踏切近くで亡き夫が生前に植えた木を<ref>[https://www.asahi.com/articles/ASP4G34FYP4DUTIL026.html 撮り鉄スポット、生け垣3本切られる 踏切近くの私有地]朝日新聞2021年4月14日</ref>、2022年には[[伯備線]]沿線で[[大山]]をバックに走行車両を撮影するために、何者かが[[私有地]]の柿の木を[[チェーンソー]]で無断伐採した事例<ref>[https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/121836 「うそでしょ、冗談でしょ…」私有地の木を勝手に切られる 迷惑撮り鉄が構図のために伐採か]山陰放送2022年8月11日</ref>が発生している。また、木を無断伐採する事例だけではなくゴミのポイ捨てや撮影地周辺での違反駐車も問題となっている。
その一方で、鉄道事業者側が撮影者との共存共栄を図ろうと、鉄道撮影スペースの整備を図る例もある。[[IGRいわて銀河鉄道]]では[[櫻井寛]]の提案により、約100万円をかけて[[滝沢駅]]上りホーム先端に安全に鉄道撮影ができる専用スペース「TRAIN SPOTTER'S」が整備され、[[2017年]](平成29年)[[10月14日]]より開放されるなど新たな動きもみられる<ref name="rf1801">櫻井寛「IGRいわて銀河鉄道 滝沢駅プラットホームに撮影スペース TRAIN SPOTTER'S誕生」 『[[鉄道ファン (雑誌)|鉄道ファン]]』2017年1月号(NO.681)、交友社、132-133頁。</ref>。この滝沢駅の撮影専用スペースについて、櫻井は「おそらく日本初」としている<ref name="rf1801" />。なお同日に[[えちごトキめき鉄道]]も撮影スペースを[[二本木駅]]に設置している<ref>[https://www.joetsu.ne.jp/23903 二本木駅に展望スペース“スイッチバック”を間近で!] 上越妙高タウン情報(2021年10月19日閲覧)</ref>。
=== 報道の影響 ===
親子連れのファンを鉄道撮影者たちは「パン人」(一般人)と呼び、「マナーが悪いパン人多数」とTwitterで訴える者もいる<ref>[https://www.dailyshincho.jp/article/2022/09061100/?all=1 連日のように報じられる“撮り鉄”によるトラブル SNSでマスコミに反論するのがトレンドに デイリー新潮][[新潮社]]、2022年9月6日、2022年11月28日閲覧</ref>。
鉄道撮影者は、沿線の撮影地へ自家用車で出向くことも多いため、[[経済効果]]の面では、鉄道会社よりもカメラ・レンズメーカーや[[自動車産業|自動車メーカー]]、[[NEXCO|高速道路会社]]、[[ガソリンスタンド]]、[[コンビニエンスストア]]といった[[駅ナカ]]施設外にある[[小売|小売店]]など、鉄道会社以外にもたらされやすく、鉄道会社への経済効果は限定的といえる<ref>[https://trafficnews.jp/post/36322/ 鉄道に乗らない「撮り鉄」の経済効果 恵 知仁(鉄道ライター)] [[乗りものニュース]]、2014年10月18日、2022年12月4日閲覧</ref>。
2021年[[12月20日]]には、[[Live News イット!]]が、[[いすみ鉄道]]沿線の私有地で[[不法侵入]]による列車撮影が行われていると報道した<ref>{{Cite news|url=https://www.fnn.jp/articles/-/287953|title=線路ギリギリ“撮り鉄”の危険行為!鉄道会社が注意喚起…私有地侵入、柵乗り越え、迷惑駐車も|newspaper=FNNプライムオンライン|date=2021-12-20|accessdate=2022-11-28}}</ref>。しかし、番組の取材クルーから「鉄道敷地内で撮影していますね」と声をかけられた男性が町役場で土地所有の状況を調べてみると、実際は公道の一種だと判明した<ref>[https://www.dailyshincho.jp/article/2022/09061100/?all=1l 連日のように報じられる“撮り鉄”によるトラブル SNSでマスコミに反論するのがトレンドに デイリー新潮][[新潮社]]、2022年10月18日、2022年11月28日閲覧</ref>。
===製造・販売の対策===
[[ニコン]]イメージングジャパン<ref>[https://www.nikon-image.com/enjoy/life/manners/train/index.html 守ってくれてありがとう「みんなの撮影マナー」 - 鉄道撮影のマナー | Enjoyニコン | ニコンイメージング]</ref>、[[キヤノンマーケティングジャパン]]<ref>[https://cweb.canon.jp/eos/eos-railways/manner/ 鉄道撮影を気持ちよく楽しむための7つのマナー | good manners, good photos. | EOS×鉄道開業150年-SPECIAL SITE-]</ref>、[[富士フイルム]]<ref>[https://sp-jp.fujifilm.com/photography-tips/shootingguide/train/index.html 鉄道写真を撮影してみませんか? | 富士フイルム]</ref>などの製造・販売各社も、撮影時の注意事項やしてはいけない行為などを公表している。[[タムロン]]は、2023年8月5日に、「[[鉄道博物館_(さいたま市)|鉄道博物館]]ナイトミュージアム撮影会&鉄道撮影マナー講座」を開催し、[[広田尚敬]]を講師に迎え「撮影マナーの7箇条」を説明した<ref>[https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/eventreport/1522200.html タムロンが開催した「鉄道撮影マナー講座」レポート]</ref>
=== 警察の対策 ===
2023年11月2日、[[福岡県警察]][[鉄道警察隊]]は、撮り鉄への注意喚起の一環として、鉄道運行の妨害となる箇所の事例と、所属警察官が「周囲への妨害とならないように」撮影した鉄道写真の一例を、広報課の[[X]]アカウントに投稿した<ref name="jiji231120"/><ref>{{twitter status2|fukkei_koho|1719994921426555182|date=2023-11-2|accessdate=2023-11-22}}</ref>。その撮影者は鉄道警察隊係長の警部補で、自身も「撮り鉄」と認めるほどの鉄道写真愛好家であり、今回の投稿も警部補自身が企画したものだった<ref name="jiji231120"/>。投稿した写真は通報現場付近の鉄道用地外から、あえて[[三脚]]を使わずに撮影したが、その写真に多くの反響があったことに、警部補は手応えを感じている<ref name="jiji231120">{{Cite web|和書|date=2023-11-20 |url=https://www.jiji.com/jc/article?k=2023112000116|title=「撮り鉄」警察官写真、SNSで反響 マナー順守呼び掛け、1万「いいね」―福岡 |website=jiji.com |publisher=株式会社時事通信社 |accessdate=2023-11-22}}</ref>。同年8月には、鉄道警察隊員が撮影した鉄道写真ギャラリーも開設されていた<ref name="jiji231120"/><ref>{{Cite web|和書|date= |url=https://www.police.pref.fukuoka.jp/tiiki/tekkei/tekkei-gallery/tekkei-gallery.html|title=福岡県警察 鉄警ギャラリー |website=福岡県警察鉄道警察隊 |publisher=福岡県警察本部 |accessdate=2023-11-22}}</ref>。
== 脚注 ==
{{reflist|refs=
<ref name="asahidot20181105">[https://dot.asahi.com/articles/-/100322 悪質な「撮り鉄」マナー 乗務員に向かってストロボ撮影、呆れたその言い訳とは?] [[朝日新聞社]]「[[AERA]] dot.」、2018年11月5日、2019年12月19日閲覧。</ref>
}}
<references group="注"/>
== 関連項目 ==
* [[鉄道ファン]]
* [[鉄道写真家]]
* [[鉄道旅行]]
* [[鉄道雑誌]]
* [[さよなら運転]]
* [[SLブーム]]
* [[ブルートレイン (日本)#ブルートレインブーム]]
* [[中井精也のてつたび]]([[NHK BSプレミアム]])
* [[鉄道ファンの一覧]]
{{写真}}
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[[Category:鉄道撮影|*]]
[[category:おたく]]
[[Category:テーマ別の写真]] | 2003-04-30T09:47:16Z | 2023-12-13T14:28:31Z | false | false | false | [
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] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E9%81%93%E6%92%AE%E5%BD%B1 |
7,509 | スピントロニクス | スピントロニクス(英: spintronics)とは、固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する分野のこと。 スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。マグネットエレクトロニクス(英: magnetoelectronics)とも呼ばれるが、スピントロニクスの呼称の方が一般的である。
これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合電荷の自由度のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなくスピンの自由度も利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。この分野における代表的な例としては1988年に発見された巨大磁気抵抗効果があり、現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている。
スピントロニクスは、半導体素子中でのスピンに依存した電子輸送現象が1980年代に発見されたことに端を発している。これには、ジョンソンとシルスビー(1985年)による強磁性金属から通常の金属へのスピン偏極電子注入の観測、およびアルベール・フェールら (1988) とペーター・グリューンベルクら(1988年)による巨大磁気抵抗の発見がある。スピントロニクスの起源は、さらに1970年代のメサルベイとテドロウによって先駆的に行われた強磁性体/超伝導体のトンネル効果の実験、およびジュリエーレによる磁気トンネル接合の初期の実験にまでさかのぼることができる。半導体のスピントロニクスへの利用は、ダッタとダース(1990年)による電界効果スピントランジスタの理論的な提唱が起源である。
2012年、IBMの科学者は1ナノ秒以上持続する同期した電子の永久スピン旋回を作り出した。これはそれまでの結果の30倍程度となり、現代のプロセッサのクロック周期よりも長く持続する。これは電子のスピンを情報処理に用いる研究に新たな道を開いた。
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] | スピントロニクスとは、固体中の電子が持つ電荷とスピンの両方を工学的に利用、応用する分野のこと。
スピンとエレクトロニクス(電子工学)から生まれた造語である。マグネットエレクトロニクスとも呼ばれるが、スピントロニクスの呼称の方が一般的である。 これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合電荷の自由度のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなくスピンの自由度も利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。この分野における代表的な例としては1988年に発見された巨大磁気抵抗効果があり、現在ハードディスクドライブのヘッドに使われている。 | '''スピントロニクス'''({{lang-en-short|spintronics}})とは、[[固体]]中の[[電子]]が持つ[[電荷]]と[[スピン角運動量|スピン]]の両方を工学的に利用、応用する分野のこと。
[[スピン角運動量|スピン]]とエレクトロニクス([[電子工学]])から生まれた造語である。'''マグネットエレクトロニクス'''({{lang-en-short|magnetoelectronics}})とも呼ばれるが、スピントロニクスの呼称の方が一般的である。
これまでのエレクトロニクスではほとんどの場合[[電荷]]の[[自由度]]のみが利用されてきたが、この分野においてはそれだけでなく[[スピン角運動量|スピン]]の自由度も利用しこれまでのエレクトロニクスでは実現できなかった機能や性能を持つデバイスが実現されている。この分野における代表的な例としては1988年に発見された[[巨大磁気抵抗効果]]があり、現在[[ハードディスクドライブ]]のヘッドに使われている。
== 歴史 ==
スピントロニクスは、[[半導体素子]]中でのスピンに依存した[[電子]][[輸送現象]]が1980年代に発見されたことに端を発している。これには、ジョンソンとシルスビー(1985年)<ref>{{cite journal|last1=Johnson|first1=Mark|last2=Silsbee|first2=R. H.|title=Interfacial charge-spin coupling: Injection and detection of spin magnetization in metals|journal=Physical Review Letters|volume=55|issue=17|year=1985|pages=1790–1793|issn=0031-9007|doi=10.1103/PhysRevLett.55.1790}}</ref>による[[強磁性体|強磁性金属]]から通常の[[金属]]への[[スピン偏極]][[電子]]注入<ref>{{lang-en-short|spin-polarized electron injection}}</ref>の観測、および[[アルベール・フェール]]ら (1988) <ref>{{cite journal|last1=Baibich|first1=M. N.|last2=Broto|first2=J. M.|last3=Fert|first3=A.|last4=Van Dau|first4=F. Nguyen|last5=Petroff|first5=F.|last6=Etienne|first6=P.|last7=Creuzet|first7=G.|last8=Friederich|first8=A.|last9=Chazelas|first9=J.|title=Giant Magnetoresistance of (001)Fe/(001)Cr Magnetic Superlattices|journal=Physical Review Letters|volume=61|issue=21|year=1988|pages=2472–2475|issn=0031-9007|doi=10.1103/PhysRevLett.61.2472}}</ref>と[[ペーター・グリューンベルク]]ら(1988年)<ref>{{cite journal|last1=Binasch|first1=G.|last2=Grünberg|first2=P.|last3=Saurenbach|first3=F.|last4=Zinn|first4=W.|title=Enhanced magnetoresistance in layered magnetic structures with antiferromagnetic interlayer exchange|journal=Physical Review B|volume=39|issue=7|year=1989|pages=4828–4830|issn=0163-1829|doi=10.1103/PhysRevB.39.4828}}</ref>による[[巨大磁気抵抗]]の発見がある。スピントロニクスの起源は、さらに1970年代のメサルベイとテドロウ<ref>[http://www.met.iitb.ac.in/~ramani/nvree724/refpapers/tedrowspinpolrevu.pdf PII: 0370-1573(94)90105-8<!-- Bot generated title -->]</ref>によって先駆的に行われた強磁性体/超伝導体の[[トンネル効果]]の実験、およびジュリエーレ<ref>{{cite journal|last1=Julliere|first1=M.|title=Tunneling between ferromagnetic films|journal=Physics Letters A|volume=54|issue=3|year=1975|pages=225–226|issn=03759601|doi=10.1016/0375-9601(75)90174-7}}</ref>による[[磁気トンネル接合]]の初期の実験にまでさかのぼることができる。半導体のスピントロニクスへの利用は、ダッタとダース(1990年)<ref>{{cite journal
| doi = 10.1063/1.102730
| author = S. Datta and B. Das
|title = Electronic analog of the electrooptic modulator
|journal = Applied Physics Letters
| volume = 56 | pages = 665–667 |year = 1990 |bibcode = 1990ApPhL..56..665D | issue = 7 }}</ref>による電界効果スピントランジスタの理論的な提唱が起源である。
2012年、[[IBM]]の科学者は1ナノ秒以上持続する同期した電子の永久スピン旋回<ref>{{lang-en-short|persistent spin helix}}</ref>を作り出した。これはそれまでの結果の30倍程度となり、現代の[[プロセッサ]]の[[クロック周波数|クロック周期]]よりも長く持続する。これは電子のスピンを情報処理に用いる研究に新たな道を開いた<ref>{{cite journal
|author=M. Walser, C. Reichl, W. Wegscheider, and G. Salis
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== デバイス ==
*電界効果スピントランジスタ
シリコンをチャネル材料として、電極からスピンを注入することでスピンの輸送を試みたり、磁性半導体をチャネル材料として、キャリアをスピン偏極させる手法が研究されている。
==関連項目==
*[[巨大磁気抵抗効果]]
*[[トンネル磁気抵抗効果]]
*[[磁性半導体]]
*[[希薄磁性半導体]]
*[[物性物理学]]
*[[磁気抵抗メモリ]]
== 脚注 ==
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7,510 | 化石燃料 | 化石燃料(かせきねんりょう、英: fossil fuel)は、地質時代にかけて堆積した動植物などの死骸が地中に堆積し、長い年月をかけて地圧・地熱などにより変成されてできた、化石となった有機物のうち、人間の経済活動で燃料として用いられる(または今後用いられることが検討されている)ものの総称である。
現在使われている主なものに、石炭、石油、天然ガスなどがある。また近年はメタンハイドレートや、シェールガス、LPガスなどの利用も検討され始めている。 上記はいずれも、かつて生物が自らの体内に蓄えた大古の炭素化合物・窒素酸化物・硫黄酸化物・太陽エネルギーなどを現代人が取り出して使っていると考えることができる。
これらの燃料は燃やすと二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) 、硫黄酸化物 (SO2) などを発生するが、これらが大気中に排出されることにより、地球温暖化や、大気汚染による酸性雨や呼吸器疾患など深刻な環境問題を引き起こす要因になっている。また、資源埋蔵量にも限りがあるため持続可能性からも問題視されている。
これらの環境問題が発生しにくい太陽光発電、風力発電、地熱発電 、バイオ燃料(バイオマス)などの再生可能エネルギーや新エネルギーの研究が進められて、主に西欧諸国やブラジルなどで使われはじめている。
40億年強前の大気は主に窒素・水蒸気・二酸化炭素・硫黄酸化物(火山ガス)などで形成されていたと考えられている。その中でも二酸化炭素については、当時は今より遙かに高濃度であったと推定されている(後に大気中の概ね 0.03% 程度まで低下、現在は概ね 0.04% になっている)。
生命の起源は少なくとも35億年前以前にさかのぼると考えられている。当初の生命は嫌気性生物が中心であったが、遅くとも24億年前までに光合成能力を持つシアノバクテリアが誕生し、地球環境が大きく変化した。シアノバクテリアは光合成によって太陽エネルギーを利用して大気中の二酸化炭素を同化(炭素固定)し、その副産物として酸素を排出する。大気中の酸素濃度の増加は大酸化イベント(Great Oxidation Event)として地層中に記録されている。シアノバクテリアが放出する酸素の増大に従い、まず大気圏内の二酸化炭素やメタンが消費され、温室効果が消失して24億年前にはヒューロニアン氷期とよばれる最初の全球凍結期に突入したと推測されている。22億年前にこの氷期は終結するが、この時期には海中でも鉄の酸化が活発となり、縞状鉄鉱床がさかんに生成された。この時期の酸素濃度はまだ現代と比べると低く(~1%)、新原生代(10-5億年前)になるまでこの傾向は続いた。19億年前までには真核生物が誕生した可能性があるが、真核生物が基礎生産の担い手として台頭するのは酸素濃度が現代とほぼ同程度になるエディアカラ紀以降のことであると考えられている。大気中の酸素の増加により嫌気性生物は海中深くなど特殊な環境を除いて大量に絶滅し、かわって酸素を利用する生物(好気性生物)が主流となった。また大気中の酸素は紫外線を遮断するオゾン層の出現をもたらし、生物の陸上への進出と発展をもたらした。
陸上に進出した樹木などの生物の死骸は堆積・加圧等され、石炭が形成された。特に古生代後半の石炭紀には陸上に大量の大型シダ植物が生い茂り、それが化石化することで大量の石炭が形成され、時代区分の名にまでなった。次いで、中生代末期の白亜紀には温暖な気候により海洋の生物量が増大し、同様の経過をたどって石油が形成された。ただしその後も石炭や石油の形成は続いており、石炭は第三紀までは盛んに生成された。日本に埋蔵されている石油も古第三紀に生み出されたものが主であり、石油はさらに新しく新第三紀の生成が主である。言い換えれば、かつて大気中に存在していた炭酸ガスと太陽エネルギーが、生物の働きによって長大な時間をかけて固定され、地中深くに封じ込められたものであると言える。現在でも大気中の二酸化炭素を有機化合物へと人工的に、かつ効率的に固定する方法は開発されておらず、人間、動物を含めた全ての従属栄養生物は、植物や藻類、シアノバクテリア(独立栄養生物)による光合成なくしては生命をつなぐことができないが、それは食糧ばかりでなくエネルギーでも、また地球上の様々な循環の仕組みを維持する上でも同様である。
化石燃料は世界各地で古くから知られており、一部では使用もされていたが、一般的な燃料としては木やそれから作られる炭などが主であった。しかし、イギリスにおいては16世紀後半ごろから、森林破壊によって燃料となる木材が不足し、その代替として比較的浅い場所に豊富に埋蔵されていた石炭が使用され始めた。当時は一般家庭の燃料のほかガラス製造などにも使用されたが、製鉄への使用は1709年のコークス使用による製鉄の成功を待たねばならなかった。イギリス国内における石炭の産出は18世紀を通じて激増していき、18世紀後半にジェームズ・ワットが蒸気機関の改良を行うと、さらに拍車がかかるようになった。
ワットの蒸気機関は従来の動力源にくらべ非常に強力なものであり、さらに小型化が可能で比較的可搬性が高かったことから、それ以前の動力の基本であった牛馬や人力、水車・風車などにかわって主な動力源となっていった。蒸気機関が稼働するためには大量の燃料を燃やして蒸気を絶えず供給する必要があり、そのため石炭の需要は大きく増大した。さらに蒸気機関の普及は世界各国における産業革命をもたらし、世界中でエネルギー使用料の激増とともに石炭が大量に使用される時代が幕を開けた。
しかし、石炭は安かったものの燃焼効率に優れず、常温で固体であるため輸送機器用の燃料としては使いにくく、また目に見えて黒い煤煙を吐くことも問題視され、先進国を中心に次第に需要が薄れてゆくこととなった。しかしながら単価の安さや各地に埋蔵されていることなどもあり、今なおアメリカ合衆国、中国、日本や途上国を中心に、発電所や高炉などで使われている。
19世紀後半に入ると、石油の使用が増大し始める。石油利用の歴史自体は古く、それまでも東欧などで比較的浅く埋蔵されていた石油が地域住民により灯油として使われていたが、それまでの主要な照明用油だった鯨油生産が1840年代以降頭打ちとなると、その代替として石油が注目されることとなった。1846年にはロシア帝国領だったバクーにおいて地中深くから石油を掘り出す油井が造られ、これに続いて世界各地で油田が開発された。掘削やボーリングの技術革新によって生産量は増大し、さらに石油精製技術の発達によって用途が多様化すると各地で原油が大量生産されるようになり、価格も下がって、まもなく石油は鯨油に替わる照明用油の主力となった。いったん燃料として使用されるようになると、使われる成分は常温で液体のため(気化しやすい成分については圧縮すると液化し LPG として使われる)使い勝手が良く、特に1870年代に内燃機関が開発され普及し始めると、その燃料として利用が急速に増大し、外燃機関でしか使用できない石炭に代わり世界のエネルギー供給の最も重要な部分を占めるようになった。この特性から石油は自動車や飛行機といった内燃機関を使用する輸送機器において特に重要なものとなっているが、このほかにも発電や、従来は薪や木炭などが主に使われていた暖房・給湯など、様々な用途の燃料として大量消費されるようになった。こうして1950年代以降世界のエネルギー供給の主流は急速に石炭から石油へと移行し、この変化はエネルギー革命と呼ばれるようになった。石油は世界を動かすまさしく根幹となり、石油を産出する産油国は経済的に大きな力を持つようになった。1973年には第四次中東戦争が勃発するが、このときアラブ石油輸出国機構が石油戦略を行い原油価格を大きく引き上げたことで世界経済が大混乱に陥ったいわゆるオイルショックは、このことを端的に示している。
しかし、石油資源は中東地域への偏在が大きいため、オイルショック以降は世界各地に存在する天然ガスも燃料として盛んに使用されるようになった。その後いったん原油価格は低迷したものの、21世紀に入り原油価格が急騰すると、シェールガスやシェールオイルといった、従来コスト高のため放置されていた化石燃料、いわゆる非在来型化石燃料の開発が始まった。さらに同時期、新たな燃料として海底に存在するメタンハイドレートの研究が盛んとなったが、採取の難しさや温室効果が高いことなどから実用化はなされていない。
化石燃料はいずれも燃焼時に大量の温室効果ガスを排出するが、種類別にみると褐炭の単位当たり排出量が極めて大きく、石炭や石油も多い一方で、天然ガスの排出量はやや少なくなっている。このため液化天然ガスの利用が21世紀に入り推進されている。
石油生産量は需要増に伴って増加傾向にあり、2016年には日量9215万バレルとなっている。2018年時点で石油生産が最も多い国家はアメリカ合衆国であり、次いでサウジアラビア、ロシアの順となり、この3ヶ国が日量1000万バレルを超えている。4位のカナダが520万バレルで、5位以下は500万バレルを下回っており、上位3ヶ国の生産がやや突出している。なお5位以下は、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、中華人民共和国、クウェート、ブラジルの順となっている。かつては長らくロシアとサウジアラビアが石油生産量トップの座を争っていたが、シェールオイル開発の発展に伴い2010年代に入るとアメリカの生産量が急伸し、2018年に世界最大の産油国となった。天然ガス生産は2016年に約3.6兆m3となっている。生産国としてはアメリカがトップで、ロシアの生産量も大きく、この2ヶ国が突出している。石炭生産量は2016年度には約73億トンであり、そのうち中華人民共和国が32億トンと40%以上を占めており、2位のアメリカの約7億トンの4倍以上となっている。なお、3位以下はインド、オーストラリア、インドネシア、ロシア、南アフリカ、ポーランド、カザフスタン、コロンビアの順となっている。
部門別に見ると、石油消費は運輸部門で圧倒的に大きく、同部門の総エネルギー消費の90%以上は石油によってまかなわれている。これは、自動車や飛行機、船舶などの燃料が石油によってほぼ占められていることによる。電気やエタノールなどによる代替燃料開発も進められているものの石油に取って代わることは困難であり、2040年度予測でもこの状況にそれほどの変化はないと考えられている。同じく石油が代替困難なもう一つの分野は石油化学工業部門であり、やはり同様に2040年度においても大半は石油を使用したままだと考えられている。天然ガスは産業部門と発電部門で主に用いられるが、需要の伸びは2010年代に入り減速している。石炭使用は2000年代に入り急伸したが、二酸化炭素排出が大きく環境への負荷が大きいことから先進国を中心に代替が進み、発展途上国での使用が中心になるとみられている。石炭は発電部門のほぼ50%を占めているほか、産業部門でも熱の供給や鉄鋼製造などにおいて広く使用されている。
化石燃料は有限であり、さらに世界経済の成長に伴って消費量が急増を続けていることから、1970年代より化石燃料の枯渇は問題として長く叫ばれ続けている。一方、探査の進展や採掘技術の進歩などによって可採埋蔵量は増加し続けており、そのため可採年数はほぼ変化していない。2016年時点で、石油の可採年数は50.6年、天然ガスの可採年数は52.5年、石炭は153年となっている。
化石燃料を使用する際、エネルギーを取り出した後に残る二酸化炭素 (CO2)や、不純物として含まれる窒素酸化物 (NOx)・硫黄酸化物 (SOx) などが、いずれも気体や粒子状物質として排出されるが、それらが大気中に放出されることにより、様々な環境問題を引き起こす要因となっている。
1940年代の北欧では、窒素肥料を施さずとも作物の育ちがよくなる現象が見られるようになった。当初は農家も「天の恵み」だと喜んでいたようだが、じきに湖や川から魚が姿を消し、千年雨に打たれても平気であった遺跡の石塀や、教会のブロンズ像などがボロボロになっていったという。
これらの現象が調査されるうち、雨水の変質に原因を見ることとなった。当地域では、通常よりも遙かに酸性度の高い、pH 4~5 もの酸性雨が降っていたことが明らかになったのである。スウェーデンの土壌科学者 S・オーデン (Svante Odén) 博士がその影響を広範囲に調べたところ、車や工場から排出された亜硫酸ガスや窒素酸化物が硫酸や硝酸に変化し、それが溶け込んで強酸性の雨や雪が降ったことを突きとめ、1967年に発表した。こうした酸性雨の生成過程としては、二酸化硫黄の場合、化石燃料に含まれる硫黄が酸素と反応して二酸化硫黄となったのち、大気中の水滴内において亜硫酸となり、さらに硫酸となる場合と、大気中において亜硫酸化し、さらに硫酸の微粒子となる場合がある。また窒素酸化物は空気を高温に加熱することによって一酸化窒素が生成され、これが硝酸に変化する。
現在では、一般に pH 5.6 以下で酸性雨と定義されている。酸性雨や酸性霧などによる酸性物質の降下は、森林破壊や土壌汚染の一因になっている。
化石燃料に含まれる硫黄酸化物は、気管支喘息の原因物質と考えられており、古くから燃料として石炭を消費していたイギリスでは特に18世紀以降、スモッグの発生が深刻化し、特に1952年の「ロンドンスモッグ」では4000人を超える死者を出した。日本でも、1950年代から1970年代にかけては工業地帯からの排煙が四日市ぜんそくをはじめ各地で深刻な公害を引き起こすこととなった。その1968年に大気汚染防止法が施行され、工場排煙については脱硫装置の設置が義務づけられるなどの対策が進んだことにより、日本国内の工場排煙に限っては新たな被害が発生しなくなっているが、開発途上国などではそのような規制が整備されていない地域も多くあり、同じ問題が各地で繰り返されている。
一方、1940年代以降、アメリカのロサンゼルスでは排気ガス中の窒素酸化物と太陽光が反応した光化学オキシダントによって光化学スモッグが発生するようになり、1960年代末からは日本においても発生が見られるようになった。かつて京浜工業地帯からの排煙により深刻な喘息公害に見舞われた川崎市では、以前は臨海部(公害病第一種指定地域、昭和63年度に解除)で喘息被害者が多かったものの、近頃では北部地域で「小児ぜん息医療費支給制度」適用者が急増するという現象が見られるようになった。
化石燃料を使う工場や火力発電所などからの排煙、内燃機関自動車や航空機など輸送用機器の排気中には必ず二酸化炭素が含まれるが、硫黄酸化物などより取り除くことが難しく、工場などにも除去義務は課されておらず、ほとんどが除去されずに大気中に放出されている。
二酸化炭素は現在の濃度であれば人体に直接害をなすものではないが(二酸化炭素#毒性を参照)、大気中に留まると温室効果ガスとして働き、太陽からもたらされるエネルギーを宇宙へ放出する循環経路に支障を来たす。1800年頃までは大気中の二酸化炭素濃度にほとんど変化がなかったものの、その後は増加傾向にあり、しかも加速度的に増加の度を深めている。これは経済成長や産業の発展による化石燃料の増加と軌を一にしている。この結果、20世紀中に気温を 1.7°C上昇させ地球温暖化問題の一因となっている。 太古の昔に原始生物が長時間かけて固定し地中深くへ閉じ込められた二酸化炭素を、現代人が100年あまりのうちに大気中に戻してしまったため、気温上昇幅もさることながら、急激すぎる変化の影響は想定することすら出来ていない。
二酸化炭素の回収・固定は技術的に困難なため、設備や運用方法の改善や効率化、エネルギー消費量の抑制などで対策が迫られている。
化石燃料の消費によって起こる大気汚染には、発生者・地域と被害者・地域が一致しないという問題もある。大気は地球全体でつながっているため汚染は広範に拡がり、しかも地形や気流などにより特定の地域に被害が集中しやすい。
たとえば前述の北欧での酸性雨も、工業地帯から遠く離れた農村部でまず被害が起こった。また国境を越えた酸性雨の被害も世界中で広く報告されている。
地球温暖化については、二酸化炭素の排出量は中緯度地域に偏重しているが(右グラフを参照)、真っ先に影響を受け深刻な事態が起こるのは、北極・南極などの極地や太平洋諸島などほとんど二酸化炭素を排出していない(つまり化石燃料の消費による利益を得ていない)地域と想定されている。このほか、低地の多いオランダや北極圏に位置する北欧諸国などでも大きな影響が想定されている。また政治的にも危機意識が共有されにくいという問題もある。
近年になりようやく問題を把握することのできた国際社会では、その影響の拡大を食い止め抑制するために1992年に気候変動枠組条約を締結、さらに1997年の京都議定書により化石燃料から出る廃棄物など温室効果ガスの排出量削減を約束することとなった。西欧諸国ではその目標に向けて行動しているものの、自国の経済発展が最優先と考える者たちのため、依然として対策が進まない実情がある。2015年にはパリ協定 (気候変動)が採択され、2016年には発効したことで、温室効果ガスの削減努力はさらに強化された。
化石燃料、特に石油のもう一つの問題点としては、地域的偏在が著しく価格の不安定性が高いことが挙げられる。原油の埋蔵は中東地域に偏在しており、2016年末時点では世界の確認埋蔵量の47.9%が中東地域となっている。同様に産出量も2016年度で34.5%を中東地域が占め、この地域が原油価格の鍵を握っている。しかし同地域は政治的に不安定であり、中東で政治不安や動乱が起こるたびに原油価格は高騰を見せてきた。
原油価格は1970年代から80年代初頭にかけての2度のオイルショックによって暴騰したのち急落し、1990年代までは1バレル20ドル台から30ドル台となっていたものの、2000年代に入ると高騰を続け、2008年には1バレル145ドルに達した。同年のリーマンショックによっていったん30ドル台にまで暴落したもののすぐに回復し、2011年には再び100ドルを超え、2014年まで高値安定の状態が続いたものの、生産過剰と産出調整の失敗によって2016年には大暴落し、一時20ドル台にまで落ち込んだ。その後はやや回復傾向を見せたものの、2020年の新型コロナウイルスの蔓延による世界経済の大減速によって原油価格は再び暴落し、同年5月にはニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX)のWTI先物原油価格において、史上初めてマイナス価格を記録した。これはこの取引の特殊性によるもので、イギリスのブレント原油価格は同日26ドル程度となっていたものの、暴落傾向は全世界的なものとなっていた。このように、原油価格は変動が激しく、世界経済の不安要因の一つとなっている。
天然ガス埋蔵量も中東が42.5%を占めるものの、生産は開発の進んでいるヨーロッパや北米が中心となっており、不安定性はやや低い。また石炭は全世界的に広く分布しており、資源供給の安定性そのものは化石燃料のうちで最も高い。
また、化石燃料は偏在が激しいため、資源に恵まれない国は輸入に頼る部分が大きくなる。日本は特にこの傾向が強く、2011年の東日本大震災とその後の政策によって原子力発電所の操業が大幅に縮小するとその傾向はさらに強まった。2015年時点で日本のエネルギー供給のうち化石燃料に頼る部分は93.6%にも達している。日本のエネルギー自給率は2016年でわずか8.3%にすぎないため、日本のエネルギー供給のほとんどは輸入に頼っていることとなる。さらに日本の原油輸入は中東地域が90%近くを占め、同地域の動乱の影響を非常に強く受けやすくなっている。このため、エネルギー自給率を高めるとともに化石燃料の輸入先を多元化し安定性を高めることが急務とされている。 | [
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"text": "化石燃料は世界各地で古くから知られており、一部では使用もされていたが、一般的な燃料としては木やそれから作られる炭などが主であった。しかし、イギリスにおいては16世紀後半ごろから、森林破壊によって燃料となる木材が不足し、その代替として比較的浅い場所に豊富に埋蔵されていた石炭が使用され始めた。当時は一般家庭の燃料のほかガラス製造などにも使用されたが、製鉄への使用は1709年のコークス使用による製鉄の成功を待たねばならなかった。イギリス国内における石炭の産出は18世紀を通じて激増していき、18世紀後半にジェームズ・ワットが蒸気機関の改良を行うと、さらに拍車がかかるようになった。",
"title": "経緯"
},
{
"paragraph_id": 8,
"tag": "p",
"text": "ワットの蒸気機関は従来の動力源にくらべ非常に強力なものであり、さらに小型化が可能で比較的可搬性が高かったことから、それ以前の動力の基本であった牛馬や人力、水車・風車などにかわって主な動力源となっていった。蒸気機関が稼働するためには大量の燃料を燃やして蒸気を絶えず供給する必要があり、そのため石炭の需要は大きく増大した。さらに蒸気機関の普及は世界各国における産業革命をもたらし、世界中でエネルギー使用料の激増とともに石炭が大量に使用される時代が幕を開けた。",
"title": "経緯"
},
{
"paragraph_id": 9,
"tag": "p",
"text": "しかし、石炭は安かったものの燃焼効率に優れず、常温で固体であるため輸送機器用の燃料としては使いにくく、また目に見えて黒い煤煙を吐くことも問題視され、先進国を中心に次第に需要が薄れてゆくこととなった。しかしながら単価の安さや各地に埋蔵されていることなどもあり、今なおアメリカ合衆国、中国、日本や途上国を中心に、発電所や高炉などで使われている。",
"title": "経緯"
},
{
"paragraph_id": 10,
"tag": "p",
"text": "19世紀後半に入ると、石油の使用が増大し始める。石油利用の歴史自体は古く、それまでも東欧などで比較的浅く埋蔵されていた石油が地域住民により灯油として使われていたが、それまでの主要な照明用油だった鯨油生産が1840年代以降頭打ちとなると、その代替として石油が注目されることとなった。1846年にはロシア帝国領だったバクーにおいて地中深くから石油を掘り出す油井が造られ、これに続いて世界各地で油田が開発された。掘削やボーリングの技術革新によって生産量は増大し、さらに石油精製技術の発達によって用途が多様化すると各地で原油が大量生産されるようになり、価格も下がって、まもなく石油は鯨油に替わる照明用油の主力となった。いったん燃料として使用されるようになると、使われる成分は常温で液体のため(気化しやすい成分については圧縮すると液化し LPG として使われる)使い勝手が良く、特に1870年代に内燃機関が開発され普及し始めると、その燃料として利用が急速に増大し、外燃機関でしか使用できない石炭に代わり世界のエネルギー供給の最も重要な部分を占めるようになった。この特性から石油は自動車や飛行機といった内燃機関を使用する輸送機器において特に重要なものとなっているが、このほかにも発電や、従来は薪や木炭などが主に使われていた暖房・給湯など、様々な用途の燃料として大量消費されるようになった。こうして1950年代以降世界のエネルギー供給の主流は急速に石炭から石油へと移行し、この変化はエネルギー革命と呼ばれるようになった。石油は世界を動かすまさしく根幹となり、石油を産出する産油国は経済的に大きな力を持つようになった。1973年には第四次中東戦争が勃発するが、このときアラブ石油輸出国機構が石油戦略を行い原油価格を大きく引き上げたことで世界経済が大混乱に陥ったいわゆるオイルショックは、このことを端的に示している。",
"title": "経緯"
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"tag": "p",
"text": "しかし、石油資源は中東地域への偏在が大きいため、オイルショック以降は世界各地に存在する天然ガスも燃料として盛んに使用されるようになった。その後いったん原油価格は低迷したものの、21世紀に入り原油価格が急騰すると、シェールガスやシェールオイルといった、従来コスト高のため放置されていた化石燃料、いわゆる非在来型化石燃料の開発が始まった。さらに同時期、新たな燃料として海底に存在するメタンハイドレートの研究が盛んとなったが、採取の難しさや温室効果が高いことなどから実用化はなされていない。",
"title": "経緯"
},
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"paragraph_id": 12,
"tag": "p",
"text": "化石燃料はいずれも燃焼時に大量の温室効果ガスを排出するが、種類別にみると褐炭の単位当たり排出量が極めて大きく、石炭や石油も多い一方で、天然ガスの排出量はやや少なくなっている。このため液化天然ガスの利用が21世紀に入り推進されている。",
"title": "経緯"
},
{
"paragraph_id": 13,
"tag": "p",
"text": "石油生産量は需要増に伴って増加傾向にあり、2016年には日量9215万バレルとなっている。2018年時点で石油生産が最も多い国家はアメリカ合衆国であり、次いでサウジアラビア、ロシアの順となり、この3ヶ国が日量1000万バレルを超えている。4位のカナダが520万バレルで、5位以下は500万バレルを下回っており、上位3ヶ国の生産がやや突出している。なお5位以下は、イラン、イラク、アラブ首長国連邦、中華人民共和国、クウェート、ブラジルの順となっている。かつては長らくロシアとサウジアラビアが石油生産量トップの座を争っていたが、シェールオイル開発の発展に伴い2010年代に入るとアメリカの生産量が急伸し、2018年に世界最大の産油国となった。天然ガス生産は2016年に約3.6兆m3となっている。生産国としてはアメリカがトップで、ロシアの生産量も大きく、この2ヶ国が突出している。石炭生産量は2016年度には約73億トンであり、そのうち中華人民共和国が32億トンと40%以上を占めており、2位のアメリカの約7億トンの4倍以上となっている。なお、3位以下はインド、オーストラリア、インドネシア、ロシア、南アフリカ、ポーランド、カザフスタン、コロンビアの順となっている。",
"title": "生産と消費"
},
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"text": "部門別に見ると、石油消費は運輸部門で圧倒的に大きく、同部門の総エネルギー消費の90%以上は石油によってまかなわれている。これは、自動車や飛行機、船舶などの燃料が石油によってほぼ占められていることによる。電気やエタノールなどによる代替燃料開発も進められているものの石油に取って代わることは困難であり、2040年度予測でもこの状況にそれほどの変化はないと考えられている。同じく石油が代替困難なもう一つの分野は石油化学工業部門であり、やはり同様に2040年度においても大半は石油を使用したままだと考えられている。天然ガスは産業部門と発電部門で主に用いられるが、需要の伸びは2010年代に入り減速している。石炭使用は2000年代に入り急伸したが、二酸化炭素排出が大きく環境への負荷が大きいことから先進国を中心に代替が進み、発展途上国での使用が中心になるとみられている。石炭は発電部門のほぼ50%を占めているほか、産業部門でも熱の供給や鉄鋼製造などにおいて広く使用されている。",
"title": "生産と消費"
},
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"paragraph_id": 15,
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"text": "化石燃料は有限であり、さらに世界経済の成長に伴って消費量が急増を続けていることから、1970年代より化石燃料の枯渇は問題として長く叫ばれ続けている。一方、探査の進展や採掘技術の進歩などによって可採埋蔵量は増加し続けており、そのため可採年数はほぼ変化していない。2016年時点で、石油の可採年数は50.6年、天然ガスの可採年数は52.5年、石炭は153年となっている。",
"title": "生産と消費"
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{
"paragraph_id": 16,
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"text": "化石燃料を使用する際、エネルギーを取り出した後に残る二酸化炭素 (CO2)や、不純物として含まれる窒素酸化物 (NOx)・硫黄酸化物 (SOx) などが、いずれも気体や粒子状物質として排出されるが、それらが大気中に放出されることにより、様々な環境問題を引き起こす要因となっている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
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{
"paragraph_id": 17,
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"text": "1940年代の北欧では、窒素肥料を施さずとも作物の育ちがよくなる現象が見られるようになった。当初は農家も「天の恵み」だと喜んでいたようだが、じきに湖や川から魚が姿を消し、千年雨に打たれても平気であった遺跡の石塀や、教会のブロンズ像などがボロボロになっていったという。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
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"text": "これらの現象が調査されるうち、雨水の変質に原因を見ることとなった。当地域では、通常よりも遙かに酸性度の高い、pH 4~5 もの酸性雨が降っていたことが明らかになったのである。スウェーデンの土壌科学者 S・オーデン (Svante Odén) 博士がその影響を広範囲に調べたところ、車や工場から排出された亜硫酸ガスや窒素酸化物が硫酸や硝酸に変化し、それが溶け込んで強酸性の雨や雪が降ったことを突きとめ、1967年に発表した。こうした酸性雨の生成過程としては、二酸化硫黄の場合、化石燃料に含まれる硫黄が酸素と反応して二酸化硫黄となったのち、大気中の水滴内において亜硫酸となり、さらに硫酸となる場合と、大気中において亜硫酸化し、さらに硫酸の微粒子となる場合がある。また窒素酸化物は空気を高温に加熱することによって一酸化窒素が生成され、これが硝酸に変化する。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
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"text": "現在では、一般に pH 5.6 以下で酸性雨と定義されている。酸性雨や酸性霧などによる酸性物質の降下は、森林破壊や土壌汚染の一因になっている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 20,
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"text": "化石燃料に含まれる硫黄酸化物は、気管支喘息の原因物質と考えられており、古くから燃料として石炭を消費していたイギリスでは特に18世紀以降、スモッグの発生が深刻化し、特に1952年の「ロンドンスモッグ」では4000人を超える死者を出した。日本でも、1950年代から1970年代にかけては工業地帯からの排煙が四日市ぜんそくをはじめ各地で深刻な公害を引き起こすこととなった。その1968年に大気汚染防止法が施行され、工場排煙については脱硫装置の設置が義務づけられるなどの対策が進んだことにより、日本国内の工場排煙に限っては新たな被害が発生しなくなっているが、開発途上国などではそのような規制が整備されていない地域も多くあり、同じ問題が各地で繰り返されている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
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{
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"text": "一方、1940年代以降、アメリカのロサンゼルスでは排気ガス中の窒素酸化物と太陽光が反応した光化学オキシダントによって光化学スモッグが発生するようになり、1960年代末からは日本においても発生が見られるようになった。かつて京浜工業地帯からの排煙により深刻な喘息公害に見舞われた川崎市では、以前は臨海部(公害病第一種指定地域、昭和63年度に解除)で喘息被害者が多かったものの、近頃では北部地域で「小児ぜん息医療費支給制度」適用者が急増するという現象が見られるようになった。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 22,
"tag": "p",
"text": "化石燃料を使う工場や火力発電所などからの排煙、内燃機関自動車や航空機など輸送用機器の排気中には必ず二酸化炭素が含まれるが、硫黄酸化物などより取り除くことが難しく、工場などにも除去義務は課されておらず、ほとんどが除去されずに大気中に放出されている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 23,
"tag": "p",
"text": "二酸化炭素は現在の濃度であれば人体に直接害をなすものではないが(二酸化炭素#毒性を参照)、大気中に留まると温室効果ガスとして働き、太陽からもたらされるエネルギーを宇宙へ放出する循環経路に支障を来たす。1800年頃までは大気中の二酸化炭素濃度にほとんど変化がなかったものの、その後は増加傾向にあり、しかも加速度的に増加の度を深めている。これは経済成長や産業の発展による化石燃料の増加と軌を一にしている。この結果、20世紀中に気温を 1.7°C上昇させ地球温暖化問題の一因となっている。 太古の昔に原始生物が長時間かけて固定し地中深くへ閉じ込められた二酸化炭素を、現代人が100年あまりのうちに大気中に戻してしまったため、気温上昇幅もさることながら、急激すぎる変化の影響は想定することすら出来ていない。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 24,
"tag": "p",
"text": "二酸化炭素の回収・固定は技術的に困難なため、設備や運用方法の改善や効率化、エネルギー消費量の抑制などで対策が迫られている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 25,
"tag": "p",
"text": "化石燃料の消費によって起こる大気汚染には、発生者・地域と被害者・地域が一致しないという問題もある。大気は地球全体でつながっているため汚染は広範に拡がり、しかも地形や気流などにより特定の地域に被害が集中しやすい。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 26,
"tag": "p",
"text": "たとえば前述の北欧での酸性雨も、工業地帯から遠く離れた農村部でまず被害が起こった。また国境を越えた酸性雨の被害も世界中で広く報告されている。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
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{
"paragraph_id": 27,
"tag": "p",
"text": "地球温暖化については、二酸化炭素の排出量は中緯度地域に偏重しているが(右グラフを参照)、真っ先に影響を受け深刻な事態が起こるのは、北極・南極などの極地や太平洋諸島などほとんど二酸化炭素を排出していない(つまり化石燃料の消費による利益を得ていない)地域と想定されている。このほか、低地の多いオランダや北極圏に位置する北欧諸国などでも大きな影響が想定されている。また政治的にも危機意識が共有されにくいという問題もある。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
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{
"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "近年になりようやく問題を把握することのできた国際社会では、その影響の拡大を食い止め抑制するために1992年に気候変動枠組条約を締結、さらに1997年の京都議定書により化石燃料から出る廃棄物など温室効果ガスの排出量削減を約束することとなった。西欧諸国ではその目標に向けて行動しているものの、自国の経済発展が最優先と考える者たちのため、依然として対策が進まない実情がある。2015年にはパリ協定 (気候変動)が採択され、2016年には発効したことで、温室効果ガスの削減努力はさらに強化された。",
"title": "化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "化石燃料、特に石油のもう一つの問題点としては、地域的偏在が著しく価格の不安定性が高いことが挙げられる。原油の埋蔵は中東地域に偏在しており、2016年末時点では世界の確認埋蔵量の47.9%が中東地域となっている。同様に産出量も2016年度で34.5%を中東地域が占め、この地域が原油価格の鍵を握っている。しかし同地域は政治的に不安定であり、中東で政治不安や動乱が起こるたびに原油価格は高騰を見せてきた。",
"title": "資源の偏在と価格変動"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "原油価格は1970年代から80年代初頭にかけての2度のオイルショックによって暴騰したのち急落し、1990年代までは1バレル20ドル台から30ドル台となっていたものの、2000年代に入ると高騰を続け、2008年には1バレル145ドルに達した。同年のリーマンショックによっていったん30ドル台にまで暴落したもののすぐに回復し、2011年には再び100ドルを超え、2014年まで高値安定の状態が続いたものの、生産過剰と産出調整の失敗によって2016年には大暴落し、一時20ドル台にまで落ち込んだ。その後はやや回復傾向を見せたものの、2020年の新型コロナウイルスの蔓延による世界経済の大減速によって原油価格は再び暴落し、同年5月にはニューヨーク・マーカンタイル取引所 (NYMEX)のWTI先物原油価格において、史上初めてマイナス価格を記録した。これはこの取引の特殊性によるもので、イギリスのブレント原油価格は同日26ドル程度となっていたものの、暴落傾向は全世界的なものとなっていた。このように、原油価格は変動が激しく、世界経済の不安要因の一つとなっている。",
"title": "資源の偏在と価格変動"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "天然ガス埋蔵量も中東が42.5%を占めるものの、生産は開発の進んでいるヨーロッパや北米が中心となっており、不安定性はやや低い。また石炭は全世界的に広く分布しており、資源供給の安定性そのものは化石燃料のうちで最も高い。",
"title": "資源の偏在と価格変動"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "また、化石燃料は偏在が激しいため、資源に恵まれない国は輸入に頼る部分が大きくなる。日本は特にこの傾向が強く、2011年の東日本大震災とその後の政策によって原子力発電所の操業が大幅に縮小するとその傾向はさらに強まった。2015年時点で日本のエネルギー供給のうち化石燃料に頼る部分は93.6%にも達している。日本のエネルギー自給率は2016年でわずか8.3%にすぎないため、日本のエネルギー供給のほとんどは輸入に頼っていることとなる。さらに日本の原油輸入は中東地域が90%近くを占め、同地域の動乱の影響を非常に強く受けやすくなっている。このため、エネルギー自給率を高めるとともに化石燃料の輸入先を多元化し安定性を高めることが急務とされている。",
"title": "資源の偏在と価格変動"
}
] | 化石燃料は、地質時代にかけて堆積した動植物などの死骸が地中に堆積し、長い年月をかけて地圧・地熱などにより変成されてできた、化石となった有機物のうち、人間の経済活動で燃料として用いられる(または今後用いられることが検討されている)ものの総称である。 | [[File:Colour of crude oils.jpg|thumb|世界各地で産出された原油のサンプル]]
'''化石燃料'''(かせきねんりょう、{{lang-en-short|fossil fuel}})は、[[地質時代]]にかけて堆積した[[動物|動]][[植物]]などの死骸が地中に堆積し、長い年月をかけて地圧・[[地熱]]などにより変成されてできた、[[化石]]となった[[有機物]]のうち、人間の経済活動で[[燃料]]として用いられる(または今後用いられることが検討されている)ものの総称である。
== 概要 ==
現在使われている主なものに、[[石炭]]、[[石油]]、[[天然ガス]]などがある。また近年は[[メタンハイドレート]]や、[[シェールガス]]、[[液化石油ガス|LPガス]]などの利用も検討され始めている。
上記はいずれも、かつて[[生物]]が自らの体内に蓄えた大古の[[炭素]]化合物・[[窒素酸化物]]・[[硫黄酸化物]]・[[太陽]]エネルギーなどを現代人が取り出して使っていると考えることができる。
これらの燃料は[[燃焼|燃やす]]と[[二酸化炭素]] (CO<sub>2</sub>) 、[[窒素酸化物]] (NO<sub>x</sub>) 、[[硫黄酸化物]] (SO<sub>2</sub>) などを発生するが、これらが[[大気]]中に排出されることにより、[[地球温暖化]]や、[[大気汚染]]による[[酸性雨]]や[[呼吸器疾患]]など深刻な[[環境問題]]を引き起こす要因になっている。また、資源埋蔵量にも[[枯渇性資源|限りがある]]ため[[持続可能性]]からも問題視されている。
これらの環境問題が発生しにくい[[太陽光発電]]、[[風力発電]]、[[地熱発電]] 、[[バイオ燃料]]([[バイオマス]])などの[[再生可能エネルギー]]や[[新エネルギー]]の研究が進められて、主に[[西ヨーロッパ|西欧]]諸国や[[ブラジル]]などで使われはじめている。
== 経緯 ==
=== 「化石燃料」の形成 ===
<ref>地球温暖化を考える、[[宇沢弘文]]、岩波新書、ISBN 4-00-430403-2。</ref>
<ref>空海とアインシュタイン、広瀬立成、PHP新書、ISBN 4-569-64782-0、p.157-「二十世紀のあやまち」。</ref>
40億年強前の[[大気]]は主に[[窒素]]・[[水]]蒸気・[[二酸化炭素]]・[[硫黄酸化物]]([[火山ガス]])などで形成されていたと考えられている。その中でも二酸化炭素については、当時は今より遙かに高濃度であったと推定されている(後に大気中の概ね 0.03[[パーセント|%]] 程度まで低下、現在は概ね 0.04% になっている)。
[[File:Plankton_collage.jpg|thumb|right|[[プランクトン]]<br />(写真は現代のもの)]]
生命の起源は少なくとも35億年前以前にさかのぼると考えられている<ref>「生命の起源はどこまでわかったか 深海と宇宙から迫る」p46-47 高井研編 岩波書店 2018年3月15日第1刷発行</ref>。当初の生命は[[嫌気性生物]]が中心であったが、遅くとも24億年前までに[[光合成]]能力を持つ[[シアノバクテリア]]が誕生し、地球環境が大きく変化した。シアノバクテリアは光合成によって[[太陽]]エネルギーを利用して大気中の二酸化炭素を[[同化 (生物学)|同化]]([[炭素固定]])し、その副産物として[[酸素]]を排出する。大気中の酸素濃度の増加は大酸化イベント([[:en:Great_Oxidation_Event|Great Oxidation Event]])として地層中に記録されている。シアノバクテリアが放出する酸素の増大に従い、まず大気圏内の二酸化炭素やメタンが消費され、[[温室効果]]が消失して24億年前には[[ヒューロニアン氷期]]とよばれる最初の[[スノーボールアース|全球凍結]]期に突入したと推測されている。22億年前にこの氷期は終結するが、この時期には海中でも鉄の酸化が活発となり、[[縞状鉄鉱床]]がさかんに生成された。この時期の酸素濃度はまだ現代と比べると低く(~1%)、[[新原生代]](10-5億年前)になるまでこの傾向は続いた。19億年前までには[[真核生物]]が誕生した可能性があるが<ref>「基礎地球科学 第2版」p145 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>、真核生物が[[基礎生産]]の担い手として台頭するのは酸素濃度が現代とほぼ同程度になる[[エディアカラン|エディアカラ紀]]以降のことであると考えられている<ref>{{Cite journal|last=Lyons|first=Timothy W.|last2=Reinhard|first2=Christopher T.|last3=Planavsky|first3=Noah J.|date=2014-02|title=The rise of oxygen in Earth’s early ocean and atmosphere|url=https://www.nature.com/articles/nature13068|journal=Nature|volume=506|issue=7488|pages=307–315|language=en|doi=10.1038/nature13068|issn=1476-4687}}</ref><ref>{{Cite journal|last=Brocks|first=Jochen J.|last2=Jarrett|first2=Amber J. M.|last3=Sirantoine|first3=Eva|last4=Hallmann|first4=Christian|last5=Hoshino|first5=Yosuke|last6=Liyanage|first6=Tharika|date=2017-08|title=The rise of algae in Cryogenian oceans and the emergence of animals|url=https://www.nature.com/articles/nature23457|journal=Nature|volume=548|issue=7669|pages=578–581|language=en|doi=10.1038/nature23457|issn=1476-4687}}</ref>。大気中の酸素の増加により[[嫌気性生物]]は海中深くなど特殊な環境を除いて大量に絶滅し、かわって酸素を利用する生物([[好気性生物]])が主流となった。また大気中の酸素は[[紫外線]]を遮断する[[オゾン層]]の出現をもたらし、生物の陸上への進出と発展をもたらした<ref>「人間のための一般生物学」p26 武村政春 裳華房 2010年3月10日第3版第1刷</ref>。
陸上に進出した[[樹木]]などの生物の死骸は堆積・加圧等され、石炭が形成された。特に[[古生代]]後半の[[石炭紀]]には陸上に大量の大型[[シダ植物]]が生い茂り、それが化石化することで大量の[[石炭]]が形成され<ref>「基礎地球科学 第2版」p150 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>、時代区分の名にまでなった。次いで、[[中生代]]末期の[[白亜紀]]には温暖な気候により海洋の生物量が増大し、同様の経過をたどって[[石油]]が形成された<ref>「基礎地球科学 第2版」p153 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>。ただしその後も石炭や石油の形成は続いており、石炭は第三紀までは盛んに生成された<ref name="名前なし-1">「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p54 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>。日本に埋蔵されている石油も[[古第三紀]]に生み出されたものが主であり、石油はさらに新しく新第三紀の生成が主である<ref>「基礎地球科学 第2版」p182 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>。言い換えれば、かつて大気中に存在していた炭酸ガスと太陽エネルギーが、生物の働きによって長大な時間をかけて固定され、地中深くに封じ込められたものであると言える<ref>「生命の意味 進化生態から見た教養の生物学」p33 桑村哲生 裳華房 2008年3月20日第8版発行</ref>。現在でも大気中の二酸化炭素を[[有機化合物]]へと人工的に、かつ効率的に[[炭素固定|固定]]する方法は開発されておらず、人間、動物を含めた全ての[[従属栄養生物]]は、[[植物]]や[[藻類]]、シアノバクテリア([[独立栄養生物]])による光合成なくしては生命をつなぐことができないが、それは食糧ばかりでなくエネルギーでも、また地球上の様々な循環の仕組みを維持する上でも同様である。
=== 産業革命 ===
[[ファイル:Coal.jpg|thumb|right|[[石炭]]]]
化石燃料は世界各地で古くから知られており、一部では使用もされていたが、一般的な燃料としては木やそれから作られる炭などが主であった。しかし、[[イギリス]]においては16世紀後半ごろから、[[森林破壊]]によって燃料となる木材が不足し、その代替として比較的浅い場所に豊富に埋蔵されていた石炭が使用され始めた。当時は一般家庭の燃料のほかガラス製造などにも使用されたが、製鉄への使用は1709年のコークス使用による製鉄の成功を待たねばならなかった<ref>「火と人間」p72 磯田浩 法政大学出版局 2004年4月20日初版第1刷</ref>。イギリス国内における石炭の産出は18世紀を通じて激増していき、[[18世紀]]後半に[[ジェームズ・ワット]]が[[蒸気機関]]の改良を行うと、さらに拍車がかかるようになった<ref>『ジョージ王朝時代のイギリス』 ジョルジュ・ミノワ著 手塚リリ子・手塚喬介訳 白水社文庫クセジュ 2004年10月10日発行 p.79</ref>。
ワットの蒸気機関は従来の動力源にくらべ非常に強力なものであり、さらに小型化が可能で比較的可搬性が高かったことから、それ以前の動力の基本であった[[ウシ|牛]][[ウマ|馬]]や人力、[[水車]]・[[風車]]などにかわって主な動力源となっていった<ref>「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p72 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷</ref>。蒸気機関が稼働するためには大量の[[燃料]]を燃やして[[蒸気]]を絶えず供給する必要があり、そのため石炭の需要は大きく増大した。さらに蒸気機関の普及は世界各国における[[産業革命]]をもたらし、世界中でエネルギー使用料の激増とともに石炭が大量に使用される時代が幕を開けた<ref>「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p28-32 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷</ref>。
しかし、石炭は安かったものの燃焼効率に優れず、[[常温]]で[[固体]]であるため輸送機器用の燃料としては使いにくく、また目に見えて黒い[[煤煙]]を吐くことも問題視され<ref name="名前なし-2">「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p52 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>、先進国を中心に次第に需要が薄れてゆくこととなった。しかしながら単価の安さや各地に埋蔵されていることなどもあり、今なお[[アメリカ合衆国]]、[[中国]]、[[日本]]や[[開発途上国|途上国]]を中心に、[[発電所]]や[[高炉]]などで使われている<ref>「地図とデータで見るエネルギーの世界ハンドブック」p69 ベルトラン・バレ、ベルナデット・メレンヌ=シュマケル著 蔵持不三也訳 原書房 2020年12月25日第1刷</ref>。
19世紀後半に入ると、石油の使用が増大し始める。石油利用の歴史自体は古く、それまでも[[東ヨーロッパ|東欧]]などで比較的浅く埋蔵されていた石油が地域住民により[[灯油]]として使われていたが、それまでの主要な照明用油だった[[鯨油]]生産が1840年代以降頭打ちとなると、その代替として石油が注目されることとなった。1846年には[[ロシア帝国]]領だった[[バクー]]において地中深くから石油を掘り出す[[油井]]が造られ、これに続いて世界各地で油田が開発された。掘削や[[ボーリング]]の技術革新によって生産量は増大し、さらに[[石油精製]]技術の発達によって用途が多様化すると各地で原油が[[大量生産]]されるようになり、価格も下がって、まもなく石油は鯨油に替わる照明用油の主力となった<ref>「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p107-115 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷</ref>。いったん燃料として使用されるようになると、使われる成分は[[常温]]で[[液体]]のため(気化しやすい成分については圧縮すると液化し [[液化石油ガス|LPG]] として使われる)使い勝手が良く、特に1870年代に[[内燃機関]]が開発され普及し始めると、その燃料として利用が急速に増大し、[[外燃機関]]でしか使用できない石炭に代わり世界のエネルギー供給の最も重要な部分を占めるようになった<ref>「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p74-75 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷</ref>。この特性から石油は[[自動車]]や[[飛行機]]といった内燃機関を使用する[[輸送機器]]において特に重要なものとなっているが<ref>「エネルギー資源の世界史 利用の起源から技術の進歩と人口・経済の拡大」p75 松島潤編著 一色出版 2019年4月20日初版第1刷</ref>、このほかにも[[発電]]や、従来は[[薪]]や[[木炭]]などが主に使われていた[[暖房]]・給湯など、様々な用途の燃料として大量消費されるようになった。こうして1950年代以降世界のエネルギー供給の主流は急速に石炭から石油へと移行し、この変化は[[エネルギー革命]]と呼ばれるようになった<ref>「【日本のエネルギー、150年の歴史③】エネルギー革命の時代。主役は石炭から石油へ交代し、原子力発電やLPガスも」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2018-05-24 2022年7月2日閲覧</ref>。石油は世界を動かすまさしく根幹となり、石油を産出する[[産油国]]は経済的に大きな力を持つようになった。[[1973年]]には[[第四次中東戦争]]が勃発するが、このとき[[アラブ石油輸出国機構]]が石油戦略を行い原油価格を大きく引き上げたことで世界経済が大混乱に陥ったいわゆる[[オイルショック]]は、このことを端的に示している<ref name="名前なし-3">「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p60 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>。
しかし、石油資源は中東地域への偏在が大きいため、オイルショック以降は世界各地に存在する[[天然ガス]]も燃料として盛んに使用されるようになった<ref>「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p62 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>。その後いったん原油価格は低迷したものの、21世紀に入り原油価格が急騰すると、[[シェールガス]]や[[シェールオイル]]といった、従来コスト高のため放置されていた化石燃料、いわゆる非在来型化石燃料の開発が始まった<ref>「トコトンやさしい非在来型化石燃料の本」(今日からモノ知りシリーズ)p12 藤田和男編著 高橋明久・藤岡晶司・出口剛太・木村健著 日刊工業新聞社 2013年12月25日初版第1刷発行</ref>。さらに同時期、新たな燃料として海底に存在する[[メタンハイドレート]]の研究が盛んとなったが、採取の難しさや温室効果が高いことなどから実用化はなされていない<ref>「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p66 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>。
化石燃料はいずれも燃焼時に大量の温室効果ガスを排出するが、種類別にみると[[褐炭]]の単位当たり排出量が極めて大きく、石炭や石油も多い一方で、天然ガスの排出量はやや少なくなっている<ref>「地図とデータで見るエネルギーの世界ハンドブック」p33 ベルトラン・バレ、ベルナデット・メレンヌ=シュマケル著 蔵持不三也訳 原書房 2020年12月25日第1刷</ref>。このため液化天然ガスの利用が21世紀に入り推進されている<ref>「2020-2021 日経キーワード」p152 日経HR編集部編著 日経HR社 2019年12月4日第1刷</ref>。
== 生産と消費 ==
石油生産量は需要増に伴って増加傾向にあり、2016年には日量9215万バレルとなっている。2018年時点で石油生産が最も多い国家は[[アメリカ合衆国]]であり、次いで[[サウジアラビア]]、[[ロシア]]の順となり、この3ヶ国が日量1000万バレルを超えている。4位の[[カナダ]]が520万バレルで、5位以下は500万バレルを下回っており、上位3ヶ国の生産がやや突出している。なお5位以下は、[[イラン]]、[[イラク]]、[[アラブ首長国連邦]]、[[中華人民共和国]]、[[クウェート]]、[[ブラジル]]の順となっている<ref>https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/crude_much.html 「1日あたりの原油の生産量の多い国」日本国外務省 2020年5月9日閲覧</ref>。かつては長らくロシアとサウジアラビアが石油生産量トップの座を争っていたが、シェールオイル開発の発展に伴い2010年代に入るとアメリカの生産量が急伸し、2018年に世界最大の産油国となった<ref>https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42961830X20C19A3000000/ 「米原油生産、45年ぶり世界首位 シェール増産効果」日本経済新聞 2019/3/27 2020年5月9日閲覧</ref>。天然ガス生産は2016年に約3.6兆m3となっている<ref name="名前なし-4">https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-2-2.html 「平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018) HTML版 第2部 エネルギー動向 / 第2章 国際エネルギー動向 / 第2節 一次エネルギーの動向」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2020年5月9日閲覧</ref>。生産国としてはアメリカがトップで、ロシアの生産量も大きく、この2ヶ国が突出している。石炭生産量は2016年度には約73億トンであり、そのうち中華人民共和国が32億トンと40%以上を占めており、2位のアメリカの約7億トンの4倍以上となっている。なお、3位以下は[[インド]]、[[オーストラリア]]、[[インドネシア]]、ロシア、[[南アフリカ]]、[[ポーランド]]、[[カザフスタン]]、[[コロンビア]]の順となっている<ref>https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/pdf/024_s03_02.pdf 「石炭マーケット研究会報告書(参考資料)」経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部 石炭課 平成30年4月 2020年5月9日閲覧</ref>。
部門別に見ると、石油消費は運輸部門で圧倒的に大きく、同部門の総エネルギー消費の90%以上は石油によってまかなわれている<ref>「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p33 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行</ref>。これは、自動車や飛行機、船舶などの燃料が石油によってほぼ占められていることによる。電気や[[エタノール]]などによる代替燃料開発も進められているものの石油に取って代わることは困難であり、2040年度予測でもこの状況にそれほどの変化はないと考えられている<ref name="名前なし-5">「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p8 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行</ref>。同じく石油が代替困難なもう一つの分野は[[石油化学工業]]部門であり、やはり同様に2040年度においても大半は石油を使用したままだと考えられている<ref name="名前なし-5"/>。天然ガスは産業部門と発電部門で主に用いられるが、需要の伸びは2010年代に入り減速している<ref>「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p9-10 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行</ref>。石炭使用は2000年代に入り急伸したが、二酸化炭素排出が大きく環境への負荷が大きいことから先進国を中心に代替が進み、発展途上国での使用が中心になるとみられている<ref>「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p11-12 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行</ref>。石炭は発電部門のほぼ50%を占めているほか、産業部門でも熱の供給や[[鉄鋼]]製造などにおいて広く使用されている<ref>「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p33-35 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行</ref>。
化石燃料は有限であり、さらに世界経済の成長に伴って消費量が急増を続けていることから、1970年代より化石燃料の枯渇は問題として長く叫ばれ続けている。一方、探査の進展や採掘技術の進歩などによって可採埋蔵量は増加し続けており、そのため可採年数はほぼ変化していない<ref name="名前なし-2"/>。2016年時点で、石油の可採年数は50.6年、天然ガスの可採年数は52.5年、石炭は153年となっている<ref name="名前なし-4"/>。
== 化石燃料の使用が引き起こす公害・環境問題 ==
{{Main|en:Fossil fuel phase-out}}
化石燃料を使用する際、エネルギーを取り出した後に残る'''[[二酸化炭素]]''' (CO<sub>2</sub>)や、[[不純物]]として含まれる'''[[窒素酸化物]]''' (NOx)・'''[[硫黄酸化物]]''' (SOx) などが、いずれも[[気体]]や[[粒子状物質]]として排出されるが、それらが[[大気]]中に放出されることにより、様々な[[環境問題]]を引き起こす要因となっている。
=== 酸性雨 ===
{{see|酸性雨}}
[[ファイル:Beech_tanzawa.JPG|thumb|160px|[[酸性雨]]の影響で枯れた[[丹沢山地]]の[[ブナ]]]]
<ref>地球環境報告、[[石弘之]]、岩波新書、1988年、ISBN 4-00-430033-9、p.213-。</ref>
<ref>[http://insilico.h.kobe-u.ac.jp/tanaka/lec2.pdf 自然環境科学3(神戸大学発達科学部 田中研究室)]</ref>
1940年代の[[北ヨーロッパ|北欧]]では、[[窒素]]肥料を施さずとも作物の育ちがよくなる現象が見られるようになった。当初は農家も「天の恵み」だと喜んでいたようだが、じきに湖や川から魚が姿を消し、千年雨に打たれても平気であった遺跡の石塀や、教会のブロンズ像などがボロボロになっていったという。
これらの現象が調査されるうち、[[雨]]水の変質に原因を見ることとなった。当地域では、通常よりも遙かに酸性度の高い、[[水素イオン指数|pH]] 4~5 もの'''酸性雨'''が降っていたことが明らかになったのである。[[スウェーデン]]の土壌科学者 S・オーデン (Svante Odén) 博士がその影響を広範囲に調べたところ、車や工場から排出された[[二酸化硫黄|亜硫酸ガス]]や[[窒素酸化物]]が[[硫酸]]や[[硝酸]]に変化し、それが溶け込んで強酸性の雨や[[雪]]が降ったことを突きとめ、[[1967年]]に発表した<ref>「地球環境論 緑の地球と共に生きる」p82 山田悦編著 電気書院 2014年4月10日第1版第1刷発行</ref>。こうした酸性雨の生成過程としては、二酸化硫黄の場合、化石燃料に含まれる[[硫黄]]が酸素と反応して二酸化硫黄となったのち、大気中の水滴内において亜硫酸となり、さらに硫酸となる場合と、大気中において亜硫酸化し、さらに硫酸の微粒子となる場合がある。また窒素酸化物は空気を高温に加熱することによって[[一酸化窒素]]が生成され、これが硝酸に変化する<ref>「地球環境の教科書10講」p90-91 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>。
現在では、一般に pH 5.6 以下で酸性雨と定義されている<ref>「トコトンやさしいエネルギーの本 第2版」(今日からモノ知りシリーズ)p44 山﨑耕造 日刊工業新聞社 2016年4月25日第2版第1刷</ref>。酸性雨や酸性霧などによる酸性物質の降下は、[[森林破壊]]や[[土壌汚染]]の一因になっている<ref>「地球環境の教科書10講」p91-93 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>。
{{右|
[[ファイル:AirPollutionSource.jpg|thumb|none|工場から排出される[[煤煙]]、途上国では特に深刻な問題を生じさせている。]]
[[ファイル:Air-pollution.JPG|thumb|none|内燃機関[[自動車]]の[[排気ガス]]による[[大気汚染]]、2005年8月。現在もなお続く深刻な環境問題のひとつである。]]
}}
化石燃料に含まれる[[硫黄酸化物]]は、[[気管支喘息]]の原因物質と考えられており、古くから燃料として石炭を消費していたイギリスでは特に18世紀以降、[[スモッグ]]の発生が深刻化し、特に1952年の「[[ロンドンスモッグ]]」では4000人を超える死者を出した<ref>「地球環境の教科書10講」p43-44 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>。日本でも、1950年代から1970年代にかけては工業地帯からの排煙が[[四日市ぜんそく]]をはじめ各地で深刻な公害を引き起こすこととなった。その1968年に[[大気汚染防止法]]が施行され、工場排煙については[[脱硫]]装置の設置が義務づけられるなどの対策が進んだことにより、日本国内の工場排煙に限っては新たな被害が発生しなくなっている<ref>「地球環境の教科書10講」p104 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>が、[[開発途上国]]などではそのような規制が整備されていない地域も多くあり、同じ問題が各地で繰り返されている。
一方、1940年代以降、アメリカの[[ロサンゼルス]]では排気ガス中の窒素酸化物と太陽光が反応した[[光化学オキシダント]]によって[[光化学スモッグ]]が発生するようになり、1960年代末からは日本においても発生が見られるようになった<ref>「地球環境の教科書10講」p44-45 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>。かつて[[京浜工業地帯]]からの排煙により深刻な喘息公害に見舞われた[[川崎市]]では、以前は臨海部([[公害病]]第一種指定地域、[[1988年|昭和63年]]度に解除)で喘息被害者が多かったものの、近頃では北部地域で「小児ぜん息医療費支給制度」適用者が急増するという現象が見られるようになった<ref>[http://www.city.kawasaki.jp/council/kouhousi/57/57_iken.html 議会かわさき第57号「ぜん息患者に対する医療費助成等に関する意見書」、2004年 2月]</ref>。
=== 地球温暖化 ===
{{see|地球温暖化}}
{{右|
[[ファイル:Eisb%C3%A4r_1996-07-23.jpg|thumb|none|[[ホッキョクグマ]]、温暖化により[[北極]]の氷が解けることで影響を受けている。]]
[[ファイル:Carbon_Emission_by_Region_ja.png|thumb|none|炭素ガス発生源とその量の推移。発生源とその影響を受けると想定される地域は必ずしも一致していないことや、後世に遺る長期的な問題であることが、当事者の危機意識を薄れさせている
<ref>空海とアインシュタイン p.166-「進む温暖化」。</ref>。]]}}
化石燃料を使う工場や[[火力発電所]]などからの排煙、内燃機関自動車や[[航空機]]など輸送用機器の排気中には必ず二酸化炭素が含まれるが、硫黄酸化物などより取り除くことが難しく、工場などにも除去義務は課されておらず、ほとんどが除去されずに大気中に放出されている。
二酸化炭素は現在の濃度であれば人体に直接害をなすものではないが([[二酸化炭素#毒性]]を参照)、大気中に留まると[[温室効果ガス]]として働き、太陽からもたらされるエネルギーを宇宙へ放出する循環経路に支障を来たす。1800年頃までは大気中の二酸化炭素濃度にほとんど変化がなかったものの、その後は増加傾向にあり、しかも加速度的に増加の度を深めている。これは経済成長や産業の発展による化石燃料の増加と軌を一にしている<ref>「基礎地球科学 第2版」p205-206 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>。この結果、20世紀中に気温を 1.7[[セルシウス度|℃]]上昇させ[[地球温暖化]]問題の一因となっている<ref>石油の終焉~生活が変わる、社会が変わる、国際関係が変わる~、ポール・ロバーツ・著、久保恵美子・訳、光文社、ISBN 4-334-96181-9。</ref>。
太古の昔に原始生物が長時間かけて固定し地中深くへ閉じ込められた二酸化炭素を、現代人が100年あまりのうちに大気中に戻してしまったため、気温上昇幅もさることながら、急激すぎる変化の影響は想定することすら出来ていない<ref>空海とアインシュタイン p.166-「進む温暖化」より。氷河期末期の気温上昇期には 1.7℃上昇するのに約5千年かかったところが、20世紀の 100年間で上昇したことを指摘している。</ref>。
二酸化炭素の回収・固定は技術的に困難なため、設備や運用方法の改善や効率化、エネルギー消費量の抑制などで対策が迫られている。
=== 拡散性・非帰属性 ===
化石燃料の消費によって起こる[[大気汚染]]には、発生者・地域と被害者・地域が一致しないという問題もある。[[大気]]は[[地球]]全体でつながっているため汚染は広範に拡がり、しかも地形や気流などにより特定の地域に被害が集中しやすい。
たとえば前述の北欧での酸性雨も、工業地帯から遠く離れた農村部でまず被害が起こった。また国境を越えた酸性雨の被害も世界中で広く報告されている<ref>「地球環境の教科書10講」p95 左巻健男・平山明彦・九里徳泰編著 東京書籍 2005年4月15日第1刷発行</ref>。
地球温暖化については、二酸化炭素の排出量は中緯度地域に偏重しているが(右グラフを参照)、真っ先に影響を受け深刻な事態が起こるのは、[[北極]]・[[南極]]などの極地や[[太平洋諸島]]などほとんど二酸化炭素を排出していない(つまり化石燃料の消費による利益を得ていない)地域と想定されている。このほか、低地の多い[[オランダ]]や[[北極圏]]に位置する[[北ヨーロッパ|北欧]]諸国などでも大きな影響が想定されている。また政治的にも危機意識が共有されにくいという問題もある。
近年になりようやく問題を把握することのできた国際社会では、その影響の拡大を食い止め抑制するために1992年に[[気候変動枠組条約]]を締結、さらに1997年の[[京都議定書]]により化石燃料から出る廃棄物など[[温室効果ガス]]の排出量削減を約束することとなった<ref>「基礎地球科学 第2版」p206 西村祐二郞編著 朝倉書店 2010年11月30日第2版第1刷</ref>。西欧諸国ではその目標に向けて行動しているものの、自国の経済発展が最優先と考える者たちのため、依然として対策が進まない実情がある。2015年には[[パリ協定 (気候変動)]]が採択され、2016年には発効したことで、温室効果ガスの削減努力はさらに強化された<ref>https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/html/hj18010101.html#n1_1_1 「平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況 第1部 第1章 第五次環境基本計画に至る持続可能な社会への潮流 第1節 持続可能な社会に向けたパラダイムシフト」日本国環境省 2020年5月9日閲覧</ref>。
== 資源の偏在と価格変動 ==
化石燃料、特に石油のもう一つの問題点としては、地域的偏在が著しく価格の不安定性が高いことが挙げられる。原油の埋蔵は中東地域に偏在しており、2016年末時点では世界の確認埋蔵量の47.9%が中東地域となっている<ref name="名前なし-6">https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-2-2.html 「平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018) HTML版 第2部 エネルギー動向 / 第2章 国際エネルギー動向 / 第2節 一次エネルギーの動向」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2020年5月8日閲覧</ref>。同様に産出量も2016年度で34.5%を中東地域が占め<ref name="名前なし-6"/>、この地域が原油価格の鍵を握っている。しかし同地域は政治的に不安定であり、中東で政治不安や動乱が起こるたびに原油価格は高騰を見せてきた<ref name="名前なし-3"/>。
原油価格は1970年代から80年代初頭にかけての2度のオイルショックによって暴騰したのち急落し、1990年代までは1バレル20ドル台から30ドル台となっていたものの、2000年代に入ると高騰を続け、2008年には1バレル145ドルに達した。同年のリーマンショックによっていったん30ドル台にまで暴落したもののすぐに回復し、2011年には再び100ドルを超え、2014年まで高値安定の状態が続いたものの、生産過剰と産出調整の失敗によって2016年には大暴落し、一時20ドル台にまで落ち込んだ<ref>https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2016html/1-1-1.html 「平成27年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2016) HTML版 第1部 エネルギーを巡る状況と主な対策 / 第1章 原油安時代におけるエネルギー安全保障への寄与 / 第1節 足下の原油価格下落の要因分析と今後の展望」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2020年5月9日閲覧</ref>。その後はやや回復傾向を見せたものの、2020年の[[新型コロナウイルス感染症 (2019年)|新型コロナウイルス]]の蔓延による世界経済の大減速によって原油価格は再び暴落し、同年5月には[[ニューヨーク・マーカンタイル取引所]] (NYMEX)の[[ウェスト・テキサス・インターミディエイト|WTI]]先物原油価格において、史上初めてマイナス価格を記録した。これはこの取引の特殊性によるもので、イギリスの[[ブレント原油]]価格は同日26ドル程度となっていたものの、暴落傾向は全世界的なものとなっていた<ref>https://www.bbc.com/japanese/52351592 「NY原油価格、史上初のマイナス 新型ウイルスで供給過剰」BBC 2020年04月21日 2020年5月9日閲覧</ref>。このように、原油価格は変動が激しく、世界経済の不安要因の一つとなっている。
天然ガス埋蔵量も中東が42.5%を占めるものの、生産は開発の進んでいるヨーロッパや北米が中心となっており<ref name="名前なし-6"/>、不安定性はやや低い。また石炭は全世界的に広く分布しており、資源供給の安定性そのものは化石燃料のうちで最も高い<ref name="名前なし-1"/>。
また、化石燃料は偏在が激しいため、資源に恵まれない国は輸入に頼る部分が大きくなる。日本は特にこの傾向が強く、2011年の東日本大震災とその後の政策によって原子力発電所の操業が大幅に縮小するとその傾向はさらに強まった。2015年時点で日本のエネルギー供給のうち化石燃料に頼る部分は93.6%にも達している<ref name="名前なし-7">https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-1-1.html 「平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018) HTML版 第2部 エネルギー動向 / 第1章 国内エネルギー動向 / 第1節 エネルギー需給の概要」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2020年5月8日閲覧</ref>。日本のエネルギー自給率は2016年でわずか8.3%にすぎないため<ref name="名前なし-7"/>、日本のエネルギー供給のほとんどは輸入に頼っていることとなる。さらに日本の原油輸入は中東地域が90%近くを占め、同地域の動乱の影響を非常に強く受けやすくなっている<ref>https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2018html/2-1-3.html 「平成29年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2018) HTML版 第2部 エネルギー動向 / 第1章 国内エネルギー動向 / 第3節 一次エネルギーの動向」日本国経済産業省資源エネルギー庁 2020年5月8日閲覧</ref>。このため、エネルギー自給率を高めるとともに化石燃料の輸入先を多元化し安定性を高めることが急務とされている。
== 脚注 ==
{{Reflist|2}}
== 関連項目 ==
*[[古生物]]
*[[産業革命]]、[[石炭]]、[[石油]]、[[発電]]、[[消費電力]]
*[[大気汚染]]、[[公害]]、[[呼吸器疾患]]、[[気管支喘息]]
*[[温室効果ガス]]、[[地球温暖化]]、[[気候変動枠組条約]]、[[京都議定書]]
*[[環境税]](炭素税)、[[外部性]]、[[市場の失敗]]
*[[新エネルギー]]
*[[宇宙船地球号|「宇宙船地球号」]] - 地球上の有限な資源の管理・用途に関する議論
*[[再生可能エネルギー]]
*[[コジェネレーション]]
*[[二酸化炭素固定]]
*[[炭化水素]]
*[[もったいない学会]]
== 外部リンク ==
*[https://www.env.go.jp/earth/cop6/ 気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)について(環境省)]
* {{Kotobank}}
{{公害}}
{{発電の種類}}
{{自動車の構成}}
{{Normdaten}}
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[[Category:化石燃料|*]] | 2003-04-30T11:12:38Z | 2023-10-15T06:19:22Z | false | false | false | [
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7,511 | ガラス | ガラス(蘭: glas、英: glass)または硝子(がらす、しょうし)という語は、物質のある状態を指す場合と特定の物質の種類を指す場合がある。古称として、玻璃(はり)、瑠璃(るり)ともいう。
語源的にはケイ酸塩ガラスの固体状態を他の物質が取っている場合をもガラスと呼ぶようになったものである。日本語のガラスの元になったオランダ語glasの発音は、英語のglass同様グラスに近いが(近いカタカナ表記は「フラス」。オランダ語のgはのどを震わせる発音。英語・ドイツ語とは異なる)、日本語化した時期が古いため、転訛して「ガラス」となった。日本語での「グラス」は多くの場合はコップの意味になる。
ガラスには多くの種類があるが、その多くは可視光線に対して透明であり、硬くて薬品にも侵されにくく、表面が滑らかで汚れを落としやすい。このような特性を利用して、窓ガラスや鏡、レンズ、食器(グラス)など市民生活及び産業分野において広く利用されている。近代以前でも装飾品や食器に広く利用されていた。また金属表面にガラス質の膜を作った「琺瑯(ほうろう)」も近代以前から知られてきた。
ガラスの表面に細かな凹凸を付けた磨りガラスや内部に細かな多数の空孔を持つ多孔質ガラスは、散乱のために不透明である。遷移金属や重金属の不純物を含むガラスは着色するものがあり、色ガラスと呼ばれる。
2002年(平成14年)の統計によれば日本だけでも建築用に3900億円、車両用に1700億円、生活用品に3000億円、電気製品等に8300億円分も出荷されている。
Rawsonによれば、無機物質は以下の3つに分類できる。
ガラスとアモルファスはほぼ同義のものとして捉えてよい場合が多いが、ガラス転移点が明確に存在しない場合をアモルファスと定義するような場合(分野)もある。ガラス転移とは主緩和の緩和時間が100s〜1000sの温度で起こる。
ガラスと同じ構造、すなわちガラス化する物質は珍しくない。ヒ素やイオウなどは単体でガラス化する。酸化物ではホウ酸 (B2O5)、リン酸 (P2O5) などが二酸化ケイ素の代わりに骨格となってガラスを形成する。ホウ酸塩ガラスは工業的に重要である。例えばパイレックスガラスは重量比で12%のホウ酸を含む。
溶融法は、固体の原料を高温で加熱することで溶かして液体状態にした後、冷却してガラスにする方法である。ただし液体状態から結晶化が起こらないような十分に速い速度で冷却しなければならない。溶融法はガラスの製法としては最も一般的なもので、大部分のガラスはこの方法によって合成されている。使用済みのガラス製品を破砕して原料(カレット)として再利用することもできる。
気相法は、固体を物理的に蒸発させて薄膜や微粒子を得るPVD法と、気体原料から化学反応によって薄膜や微粒子・バルクを得るCVD法に分類できる。
PVD法では、真空蒸着やスパッタリングが知られている。真空蒸着は、蒸着する物質を減圧下で加熱気化し、基板にコートする方法である。スパッタリングは減圧下で電極間で放電させ、放電によってイオン化されたガスとターゲットとの衝突によって叩きだされた物質を基板にコートする方法である。
CVD法により得られるバルク体のガラスで最も大量に製造されているのは、光ファイバー用シリコンガラスである。光ファイバーの製造法には、MCVD(modified CVD)法、OVD(outside vapor deposition)、VAD法(vapor-phase axial deposition method, 気相軸付け法)など様々な方法がある。VAD法では、気体のSiCl4を加熱基板上で反応させて酸化物を堆積し、焼結してガラス化する。
ゾル-ゲル法では、例えばテトラエトキシシラン (Si(OCH2CH3)4) などの金属アルコキシドを加水分解し縮重合させてゾルとし、水分を除いて生じたゲルを焼結してガラス化する。
ガラスは図に示すように原子の並びが不規則な非晶質である。結晶では固体の中の結晶界面で光が散乱したり方向により光学特性や力学特性が異なったりするが、ガラスは非晶質なので全体が均一で透明であり、特定方向にだけ割れやすいということもない。
ガラスそのものに着色する方法は、金属イオンや非金属イオン、コロイドなどを溶かしたガラスに添加することによって行う。添加物と発色する色の対応は以下の通り。
他にはフッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、リン酸カルシウムが乳白色。
密度は水の2倍半程度、2.4-2.6g/cmであるが、鉛を用いたフリントガラスでは同6.3に達する。金属ではアルミニウムが2.7、鉄が7.9であるから、フリントガラスは金属なみの密度であることになる。逆に金属元素を含まない石英ガラスは同2.2である。
引っ張り強さに関しては0.3-0.9×10Paである。これは鋼鉄の1/10ではあるが、ナイロンや革ベルト、木材と同程度である。
常温では電気抵抗はきわめて高く、絶縁に用いられることもある。内部抵抗率は10から10 Ωm、湿度50-60%時における表面抵抗率は10から10 Ω/m。これはゴムやセラミックスと同程度である。ただし、流動点に近い温度では電気抵抗がきわめて低くなる。
刃物として用いる場合、非晶質であるため理論上は刃の先端径を0にできる(金属などの結晶体はどうしても結晶の大きさ分の径が残ってしまう)ため、鋭利な刃を作ることが可能である。その刃先は研磨によってではなく割れた断面に生じるが、金属より弾性・靭性が乏しいためナイフ・包丁などといった一般的な実用刃物としてはあまり適さない(欠け・割れが生じやすい)。しかし生体組織を顕微鏡で観察する際、樹脂で固めた組織を薄くスライスするカッター(ミクロトーム)として用いられることがある。
化学的には、酸(フッ化水素など、一部のフッ素化合物を除く)には強いがSi-O-Si結合がOH(水酸基)により切断されH2SiO−3やNa2SiO−3として溶解するためアルカリに弱い。たとえばガラス瓶に濃厚な水酸化ナトリウムを入れて長期間おくと、徐々にガラス壁が侵されスリガラス状となる。
もともとは植物の灰の中の炭酸カリウムを砂の二酸化ケイ素と融解して得られたので、カリガラスが主体であった。灰を集めて炭酸カリウムを抽出するのに大変な労力を要したのでガラスは貴重なものであり、教会の窓、王侯貴族の食器ぐらいしか用いられたものはなかった。産業革命中期以降、炭酸ナトリウムから作るソーダ石灰ガラスが主流になった。炭酸ナトリウムはソルベー法により効率よく作られるようになったが、現在は天然品(トロナ)を材料に用いることもある。天然の炭酸ナトリウム産地としては米国ワイオミング州グリーン・リバーが一大産地であり、世界中の天然品需要の大半をまかなっている。埋蔵量は5万年分あるとされている。
ガラスの歴史は古く、紀元前4000年より前の古代メソポタミアで作られたガラスビーズが起源とされている。これは二酸化ケイ素(シリカ)の表面を融かして作製したもので、当時はガラスそれ自体を材料として用いていたのではなく、陶磁器などの製造と関連しながら用いられていたと考えられている。原料の砂に混じった金属不純物などのために不透明で青緑色に着色したものが多数出土している。
なお、黒曜石など天然ガラスの利用はさらに歴史をさかのぼる。黒曜石は火山から噴き出した溶岩がガラス状に固まったもので、石器時代から石包丁や矢じりとして利用されてきた。黒曜石は青銅器発明以前において最も鋭利な刃物を作ることのできる物質であったため、交易品として珍重され、産出地域から遠く離れた地域で出土することが珍しくない。青銅器が発明されなかった文明や、発明されても装飾品としての利用にとどまったメソアメリカ文明やインカ文明においては、黒曜石は刃物の材料として重要であり続け、黒曜石を挟んだ木剣や石槍が武装の中心であった。
古代ガラスは砂、珪石、ソーダ灰、石灰などの原料を摂氏1,200度以上の高温で溶融し、冷却・固化するというプロセスで製造されていた。ガラス製造には大量の燃料が必要なため、ガラス工房は森に置かれ、燃料を木に頼っていた。そのため、その森の木を燃やし尽くしたら次の森を探すというように、ガラス工房は各地の森を転々と移動していたのである。ガラス工場が定在するようになったのは石炭と石油が利用されるようになってからである。
エジプトや西アジアでは紀元前2000年代までに、一部の植物灰や天然炭酸ソーダとともにシリカを熱すると融点が下がることが明らかになり、これを利用して焼結ではなく溶融によるガラスの加工が可能になった。これが鋳造ガラスの始まりである。紀元前1550年ごろにはエジプトで粘土の型に流し込んで器を作るコア法によって最初のガラスの器が作られ、特にエジプトでは様々な技法の作品が作製され、西アジアへ製法が広まった。
新アッシリアのニムルドでは象嵌のガラス板数百点が出土している。年代の確実なものとしては、サルゴン2世(紀元前722年~紀元前705年)の銘入りの壷がある。アケメネス朝ペルシアでは、新アッシリアの技法を継承したガラス容器が作られた。紀元前4世紀から同1世紀のエジプトでは王家の要求によって高度な技法のガラスが作られ、ヘレニズム文化を代表する工芸品の一つとなった。
中国大陸では紀元前5世紀には鉛ガラスを主体とするガラス製品や印章が製作されていた。
エジプトのアレクサンドリアで、宙吹きと呼ばれる製造法が紀元前1世紀の後半に発明された。この技法は現代においても使用されるガラス器製造の基本技法であり、これによって安価なガラスが大量に生産され、食器や保存器として用いられるようになった。この技法はローマ帝国全域に伝わり、ローマガラスと呼ばれるガラス器が大量に生産され、東アジアにまでその一部は達している。この時期には板状のガラスが鋳造されるようになり、ごく一部の窓にガラスが使用されるようになった。また、ヘレニズム的な豪華なガラスも引き続き製造されていた。しかしローマ帝国の衰退とともにヨーロッパでの技法が停滞した。一方、東ローマ帝国の治める地中海東部やサーサーン朝ペルシャや中国大陸の北魏や南朝では引き続き高水準のガラスが製造されている。日本では福岡県の須玖五反田遺跡などで古代のガラス工房があったことが確認されている。
5世紀頃、シリアでクラウン法の原形となる板ガラス製造法が生み出された。これは一旦、手吹き法によりガラス球を造り、遠心力を加えて平板状にするもので、仕上がった円形の板を、適宜、望みの大きさや形に切り出すことができるメリットがあった。また、この技法によって凹凸はあるものの一応平板なガラスを製造することには成功した。
イスラム圏では8世紀にラスター彩色の技法が登場した。この技法は陶器にも用いられたが、ガラスに先に使われた。9世紀から11世紀の中東では、カット装飾が多用された。また、東ローマ帝国では盛んにステンドグラスが製造された。
8世紀頃から、西ヨーロッパでもガラスの製作が再開した。12世紀には教会にゴシック調のステンドグラスが備わるようになり、13世紀には不純物を除いた無色透明なガラスがドイツ南部やスイス、イタリア北部に伝来した。
良質の原料を輸入できたヴェネツィアのガラス技術は名声を高めたが、大火事の原因となった事と機密保持の観点から1291年にムラーノ島に職人が集中・隔離された。ここでは精巧なガラス作品が数世紀にわたって作られ、15世紀には酸化鉛と酸化マンガンの添加により屈折率の高いクリスタルガラスを完成させた。
操業休止期間の他国への出稼ぎなどによって技法はやがて各地に伝わり、16世紀には北ヨーロッパやスペインでも盛んにガラスが製造された。この頃、中央ドイツやボヘミアでもガラス工房が増えている。これは原料となる灰や燃料の薪が豊富であり、かつ河川沿いにあり都市への物流に好都合だったためである。
また、15世紀には西欧各地でさかんにステンドグラスが製造された。当時の平坦なガラスは吹いて作ったガラスを延べてアイロンがけすることで作られていた。
日本では8世紀から16世紀までガラス製造が衰退した。
1670年代に入ると、ドイツ・ボヘミア・イギリスの各地でも同時多発的に、無色透明なガラスの製法が完成した。これは精製した原料にチョークまたは酸化鉛を混ぜるものである。この手法によって厚手で透明なガラスが得られ、高度な装飾のカットやグレーヴィングが可能になり、重厚なバロックガラスやロココ様式のガラスが作られた。また、アメリカ合衆国ではヴァージニア州に来たヨーロッパからの移民がガラスの生産を始めた。産業的にはなかなか軌道に乗らなかったが、大規模な資本の投下が可能な18世紀末になると豊富な森林資源を背景に工場生産が行なわれるようになった。18世紀に入ると、フランスで板ガラスの鋳造法が開発され、また同時期に吹きガラス法を利用して大型の円筒を作り、それを切り開いて板ガラスを製造する方法が開発され、この2つの方法は20世紀初頭にいたるまで板ガラス製造の基本技術であり続けた。
日本では徳川吉宗の書物の輸入解禁によって、江戸切子などが作られた。
19世紀に入ると、原料供給や炉に大きな進歩が相次いで起き、ガラス工業の近代化が急速に進んだ。1791年には炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の大量生産法がフランスのニコラ・ルブランによって発明され、このルブラン法によって原料供給が大きく改善された。1861年にはベルギーのエルネスト・ソルベーによってより経済的なソルベー法が開発され、さらにソーダ灰の増産は進んだ。ガラスを溶かす窯にも大きな進歩が起きた。フリードリヒ・ジーメンスらが1856年に特許を取得した蓄熱式槽窯を用いた製法により、溶融ガラスの大量供給が可能となった(ジーメンス法)。この平炉法はガラス炉として成功し、以後の工業的ガラス製造の基本となったのち、改良を加え製鋼にも使用された。こうしたガラス供給の増大によって価格が低落し、また瓶や窓ガラス、さらには望遠鏡や顕微鏡といった光学用のガラスなどの用途・需要が急増したため、各国に大規模なガラス工場が相次いで建設されるようになった。1851年には世界初の万国博覧会であるロンドン万国博覧会が開催されるが、そのメイン会場として建設された水晶宮は鉄とガラスによって作られた巨大な建物であり、科学と産業の時代の象徴として注目を浴びた。
19世紀末から20世紀初頭にかけてのアール・ヌーヴォーはガラス工芸にも大きな影響を与え、エミール・ガレやルイス・カムフォート・ティファニーなどの優れたガラス工芸家が現れ多くの作品を残した。
1903年、板ガラス製造用の自動ガラス吹き機がアメリカで開発され、熟練工を必要としないことから各国に急速に普及したが、やがて機械による引上げ式にとってかわられた。1950年代、ピルキントンがフロートガラスの製造を開始した。このフロートガラスの開発によって、現在使用されている板ガラスの基本技術が完成し、安価で安定した質の板ガラスが大量生産されるようになった。
1970年にドイツ人のディスリッヒによって考案されたゾル-ゲル法が、ガラスの新しい製造法として登場した。これまでガラスを製造する方法は原料を摂氏2,000度前後の高温によって溶融する必要があったが、ゾル-ゲル法ではガラスの原料となる化合物や触媒を有機溶液に溶かし込んで、摂氏数十度の環境で加水分解と重合反応を経て、溶融状態を経由せずに直接ガラスを得る。実際は完成したゲルが気泡を含むため、最終的には摂氏1,000度程度に加熱して気泡を抜いてやる必要がある。この方法の発明によって、ガラスに限らず有機無機ハイブリッド材料の創製など、従来では考えられなかった用途が開かれてきている。
近年では摂氏10000度のプラズマを利用して原料を一瞬で溶かす方法が実用化に向けて開発中であるが、実用化には至っていない。
現在、ガラスは食器や構造材のみならず、電子機器、光通信など幅広い分野で生活に必要不可欠なものとなっている。
日本語ではガラスを使った以下のような比喩表現がある。なお、3.に関しては「ガラスの天井(グラス・シーリング)」が元来英語圏で提唱されており、彼の地でもこのような使われ方をしていることがわかる。 | [
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"tag": "p",
"text": "操業休止期間の他国への出稼ぎなどによって技法はやがて各地に伝わり、16世紀には北ヨーロッパやスペインでも盛んにガラスが製造された。この頃、中央ドイツやボヘミアでもガラス工房が増えている。これは原料となる灰や燃料の薪が豊富であり、かつ河川沿いにあり都市への物流に好都合だったためである。",
"title": "ガラスの歴史"
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"text": "また、15世紀には西欧各地でさかんにステンドグラスが製造された。当時の平坦なガラスは吹いて作ったガラスを延べてアイロンがけすることで作られていた。",
"title": "ガラスの歴史"
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"text": "日本では8世紀から16世紀までガラス製造が衰退した。",
"title": "ガラスの歴史"
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"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "1670年代に入ると、ドイツ・ボヘミア・イギリスの各地でも同時多発的に、無色透明なガラスの製法が完成した。これは精製した原料にチョークまたは酸化鉛を混ぜるものである。この手法によって厚手で透明なガラスが得られ、高度な装飾のカットやグレーヴィングが可能になり、重厚なバロックガラスやロココ様式のガラスが作られた。また、アメリカ合衆国ではヴァージニア州に来たヨーロッパからの移民がガラスの生産を始めた。産業的にはなかなか軌道に乗らなかったが、大規模な資本の投下が可能な18世紀末になると豊富な森林資源を背景に工場生産が行なわれるようになった。18世紀に入ると、フランスで板ガラスの鋳造法が開発され、また同時期に吹きガラス法を利用して大型の円筒を作り、それを切り開いて板ガラスを製造する方法が開発され、この2つの方法は20世紀初頭にいたるまで板ガラス製造の基本技術であり続けた。",
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"text": "日本では徳川吉宗の書物の輸入解禁によって、江戸切子などが作られた。",
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"text": "19世紀に入ると、原料供給や炉に大きな進歩が相次いで起き、ガラス工業の近代化が急速に進んだ。1791年には炭酸ナトリウム(ソーダ灰)の大量生産法がフランスのニコラ・ルブランによって発明され、このルブラン法によって原料供給が大きく改善された。1861年にはベルギーのエルネスト・ソルベーによってより経済的なソルベー法が開発され、さらにソーダ灰の増産は進んだ。ガラスを溶かす窯にも大きな進歩が起きた。フリードリヒ・ジーメンスらが1856年に特許を取得した蓄熱式槽窯を用いた製法により、溶融ガラスの大量供給が可能となった(ジーメンス法)。この平炉法はガラス炉として成功し、以後の工業的ガラス製造の基本となったのち、改良を加え製鋼にも使用された。こうしたガラス供給の増大によって価格が低落し、また瓶や窓ガラス、さらには望遠鏡や顕微鏡といった光学用のガラスなどの用途・需要が急増したため、各国に大規模なガラス工場が相次いで建設されるようになった。1851年には世界初の万国博覧会であるロンドン万国博覧会が開催されるが、そのメイン会場として建設された水晶宮は鉄とガラスによって作られた巨大な建物であり、科学と産業の時代の象徴として注目を浴びた。",
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"text": "19世紀末から20世紀初頭にかけてのアール・ヌーヴォーはガラス工芸にも大きな影響を与え、エミール・ガレやルイス・カムフォート・ティファニーなどの優れたガラス工芸家が現れ多くの作品を残した。",
"title": "ガラスの歴史"
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"text": "1903年、板ガラス製造用の自動ガラス吹き機がアメリカで開発され、熟練工を必要としないことから各国に急速に普及したが、やがて機械による引上げ式にとってかわられた。1950年代、ピルキントンがフロートガラスの製造を開始した。このフロートガラスの開発によって、現在使用されている板ガラスの基本技術が完成し、安価で安定した質の板ガラスが大量生産されるようになった。",
"title": "ガラスの歴史"
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"text": "1970年にドイツ人のディスリッヒによって考案されたゾル-ゲル法が、ガラスの新しい製造法として登場した。これまでガラスを製造する方法は原料を摂氏2,000度前後の高温によって溶融する必要があったが、ゾル-ゲル法ではガラスの原料となる化合物や触媒を有機溶液に溶かし込んで、摂氏数十度の環境で加水分解と重合反応を経て、溶融状態を経由せずに直接ガラスを得る。実際は完成したゲルが気泡を含むため、最終的には摂氏1,000度程度に加熱して気泡を抜いてやる必要がある。この方法の発明によって、ガラスに限らず有機無機ハイブリッド材料の創製など、従来では考えられなかった用途が開かれてきている。",
"title": "ガラスの歴史"
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"text": "近年では摂氏10000度のプラズマを利用して原料を一瞬で溶かす方法が実用化に向けて開発中であるが、実用化には至っていない。",
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"text": "現在、ガラスは食器や構造材のみならず、電子機器、光通信など幅広い分野で生活に必要不可欠なものとなっている。",
"title": "ガラスの歴史"
},
{
"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "日本語ではガラスを使った以下のような比喩表現がある。なお、3.に関しては「ガラスの天井(グラス・シーリング)」が元来英語圏で提唱されており、彼の地でもこのような使われ方をしていることがわかる。",
"title": "文化"
}
] | ガラスまたは硝子(がらす、しょうし)という語は、物質のある状態を指す場合と特定の物質の種類を指す場合がある。古称として、玻璃(はり)、瑠璃(るり)ともいう。 昇温によりガラス転移現象を示す非晶質固体。そのような固体となる物質。このような固体状態をガラス状態と言う。結晶と同程度の大きな剛性を持ち、粘性は極端に高い。非晶質でもゴム状態のように柔らかいものはガラスとは呼ばない。詳しくは「ガラス転移点」を参照のこと。
古代から知られてきたケイ酸塩を主成分とする硬く透明な物質。グラス、玻璃(はり)、硝子(しょうし)とも呼ばれる。「硝子」と書いて「ガラス」と読ませる事もよくある。化学的にはガラス状態となるケイ酸化合物(ケイ酸塩鉱物)である。他の化学成分を主成分とするガラスから区別したい場合はケイ酸ガラスまたはケイ酸塩ガラスと言う。いわゆる「普通のガラス」であるソーダ石灰ガラスのほか、ホウケイ酸ガラスや石英ガラスも含まれる。本項目ではこの物質について主に記述する。
ケイ酸塩以外を主成分とする、ガラス状態となる物質。ケイ酸ガラスと区別するために物質名を付けて○○ガラスと呼んだりガラス質物質と呼んだりする。アクリルガラス、カルコゲン化物ガラス、金属ガラス、有機ガラスなど。
板状のガラスは一般に板ガラスと呼ばれる。 語源的にはケイ酸塩ガラスの固体状態を他の物質が取っている場合をもガラスと呼ぶようになったものである。日本語のガラスの元になったオランダ語glasの発音は、英語のglass同様グラスに近いが(近いカタカナ表記は「フラス」。オランダ語のgはのどを震わせる発音。英語・ドイツ語とは異なる)、日本語化した時期が古いため、転訛して「ガラス」となった。日本語での「グラス」は多くの場合はコップの意味になる。 ガラスには多くの種類があるが、その多くは可視光線に対して透明であり、硬くて薬品にも侵されにくく、表面が滑らかで汚れを落としやすい。このような特性を利用して、窓ガラスや鏡、レンズ、食器(グラス)など市民生活及び産業分野において広く利用されている。近代以前でも装飾品や食器に広く利用されていた。また金属表面にガラス質の膜を作った「琺瑯(ほうろう)」も近代以前から知られてきた。 ガラスの表面に細かな凹凸を付けた磨りガラスや内部に細かな多数の空孔を持つ多孔質ガラスは、散乱のために不透明である。遷移金属や重金属の不純物を含むガラスは着色するものがあり、色ガラスと呼ばれる。 2002年(平成14年)の統計によれば日本だけでも建築用に3900億円、車両用に1700億円、生活用品に3000億円、電気製品等に8300億円分も出荷されている。 |
[[ファイル:ガラス細工8172048.jpg|thumb|240px|[[ガラス工芸]]]]
[[ファイル:Bristol.blue.glass.arp.750pix.jpg|right|250px|thumb|ガラスを素材として用いた工芸品(イギリス [[ブリストル]]産)([[:en:Bristol blue glass|en]])]]
[[ファイル:Housing design center harborland Kobe and Kobe Crystal tower.jpg|thumb|right|250px|建築物の外壁に用いられているガラス]]
'''ガラス'''({{lang-nl-short|glas}}、{{lang-en-short|glass}})または'''硝子'''(がらす、しょうし)という語は、物質のある状態を指す場合と特定の物質の種類を指す場合がある。古称として、玻璃(はり)、瑠璃(るり)ともいう<ref>[https://kotobank.jp/word/瑠璃-151134 瑠璃]コトバンク</ref>。
* 昇温により'''[[ガラス転移点|ガラス転移現象]]'''を示す[[アモルファス|非晶質]]固体<ref name="化学便覧応用化学編">日本化学会編「化学便覧応用化学編-第6版-第I分冊」丸善, 2002年(平成14年), 13.5 汎用ガラス・ほうろう</ref>。そのような固体となる物質。このような固体状態を'''ガラス状態'''と言う。[[結晶]]と同程度の大きな[[剛性]]を持ち、[[粘度|粘性]]は極端に高い。非晶質でも'''[[ゴム状態]]'''のように柔らかいものはガラスとは呼ばない。詳しくは「'''[[ガラス転移点]]'''」を参照のこと。
* 古代から知られてきた[[ケイ酸塩]]を主成分とする硬く透明な物質。'''グラス'''、'''[[wikt:玻璃|玻璃]]'''(はり)、'''[[wikt:硝子|硝子]]'''(しょうし)とも呼ばれる。「硝子」と書いて「ガラス」と読ませる事もよくある。化学的にはガラス状態となるケイ酸化合物(ケイ酸塩鉱物)である。他の化学成分を主成分とするガラスから区別したい場合はケイ酸ガラスまたはケイ酸塩ガラスと言う。いわゆる「普通のガラス」である[[ソーダ石灰ガラス]]のほか、[[ホウケイ酸ガラス]]や[[石英ガラス]]も含まれる。本項目ではこの物質について主に記述する。
* ケイ酸塩以外を主成分とする、ガラス状態となる物質。ケイ酸ガラスと区別するために物質名を付けて'''○○ガラス'''と呼んだり'''ガラス質物質'''と呼んだりする。[[アクリル樹脂|アクリルガラス]]、[[カルコゲン化物|カルコゲン化物ガラス]]、[[金属ガラス]]、[[有機ガラス]]など。
* 板状のガラスは一般に'''板ガラス'''と呼ばれる。
語源的にはケイ酸塩ガラスの固体状態を他の物質が取っている場合をもガラスと呼ぶようになったものである。日本語のガラスの元になったオランダ語[[:nl:Glas|glas]]の発音は、[[英語]]の[[:en:Glass|glass]]同様グラスに近いが(近いカタカナ表記は「フラス」。オランダ語の[[g]]は[[無声軟口蓋摩擦音|のどを震わせる発音]]。英語・ドイツ語とは異なる)、日本語化した時期が古いため、転訛して「ガラス」となった。日本語での「グラス」は多くの場合は[[コップ]]の意味になる。
ガラスには多くの種類があるが、その多くは[[可視光線]]に対して透明であり、硬くて薬品にも侵されにくく、表面が滑らかで汚れを落としやすい。このような特性を利用して、[[窓ガラス]]や[[鏡]]、[[レンズ]]、[[食器]](グラス)など市民生活及び産業分野において広く利用されている。近代以前でも装飾品や食器に広く利用されていた。また金属表面にガラス質の膜を作った「[[琺瑯]](ほうろう)」も近代以前から知られてきた<ref name="セラミックス43">{{PDFlink|[http://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/2008_09_06.pdf 「琺瑯(グラスライニング)」]}}『セラミックス』43(2008) No.9 P.762</ref><ref name="琺瑯の歴史について">濱田利平「[http://www.eco-union.jp/summary/booklet/vol43/index.html 琺瑯の歴史について]」『神鋼環境ソリューション労働組合-オープンハウスセミナー』Vol.43(2005/04/23)</ref>。
ガラスの表面に細かな凹凸を付けた[[磨りガラス]]や内部に細かな多数の空孔を持つ多孔質ガラスは、[[散乱]]のために不透明である。[[遷移元素|遷移金属]]や重金属の[[不純物]]を含むガラスは着色するものがあり、色ガラスと呼ばれる。
2002年(平成14年)の統計によれば日本だけでも建築用に3900億円、車両用に1700億円、生活用品に3000億円、電気製品等に8300億円分も出荷されている<ref name="ガラスの本">作咲済夫著 『ガラスの本』 日刊工業新聞 2004年(平成16年)7月30日 初版一刷 ISBN 4-526-05310-4</ref>。
== 組成・構造 ==
[[ファイル:SiO² Quartz.svg|thumb|240px|'''水晶([[二酸化ケイ素]]の結晶)の分子構造''' 結晶を形成している。ケイ素原子(赤丸)と酸素原子(水色丸)からなる。以下の3点のモデルでは二次元構造を示す。]]
[[ファイル:Silica.svg|thumb|240px|'''シリカガラス(アモルファス構造をとった二酸化ケイ素)''']]
[[ファイル:Kalk-Natron-Glas 2D.svg|thumb|240px|'''ガラスの分子構造例''' アモルファス構造をとった二酸化ケイ素が骨格となり、ナトリウム・イオン(薄緑色)、カルシウム・イオン(緑色)を含む。桃色はイオン化した酸素。アルミニウム原子(灰色)が安定剤として働いている。]]
;不規則網目構造説と微結晶説
:ガラスの構造については2つの説があり、現在でも論争がある。'''不規則網目構造説'''では原子配列が結晶のように規則的でなく、不規則になっているという説である。この説はZachariasenによって提唱され<ref>W. H. Zachariasen, 1932:J. Am. Chem. Soc., 54, 3841-3851</ref>、Warren<ref>B. E. Warrem, 1940, Chem. Rev., 35, 239-255.</ref>、Sun<ref>Kuan-Han Sun, 1947, J. Am. Ceram. Soc., 30, 277-281.</ref>を始め多数のガラス研究者によって支持され、現在に至っている。それに対し'''微結晶説'''は、ガラスは大きさ20Å以下の微結晶から成るとする説である。この説はRandallによって提唱され<ref>J. T. Randall, H. P. Rooksby, B. S. Cooper, 1930, J. Soc. Glass Tech., 14, 219T.</ref>、Porai-Koshitsによって修正されたもので<ref>E. A. Pporai-Koshits, 1959, Glastech. Ber., 32, 140-149.</ref>、ガラスの中で微結晶は非晶質のマトリックスによって繋がれているというものである。
;ガラス形成無機物の分類
:ガラスの原料は、多くの場合は酸化物であるか高温で酸化物となるものである。
Rawsonによれば、無機物質は以下の3つに分類できる<ref>H. Rawson, Inorganic Glass-Forming Systems. Academic Press, 1967.</ref>。
*単独でガラス化するもの(Conventional Glass Former, CGF)。
*: 例:[[二酸化ケイ素|{{chem|SiO|2}}]],[[酸化ホウ素|{{chem|B|2|O|3}}]],[[五酸化二リン|{{chem|P|2|O|5}}]],[[二酸化ゲルマニウム|{{chem|GeO|2}}]],[[フッ化ベリリウム|{{chem|BeF|2}}]],[[三硫化二ヒ素|{{chem|As|2|S|3}}]],{{chem|SiSe|2}},[[二硫化ゲルマニウム|{{chem|GeS|2}}]]
*単独でのガラス化は困難であるが多成分とすることによりガラス化するもの(Non-conventional Glass Former, NCGF)。
*: 例:[[酸化チタン(IV)|{{chem|TiO|2}}]],[[二酸化テルル|{{chem|TeO|2}}]],[[酸化アルミニウム|{{chem|Al|2|O|3}}]],{{chem|Bi|2|O|3}},[[五酸化バナジウム|{{chem|V|2|O|5}}]],[[五酸化アンチモン|{{chem|Sb|2|O|5}}]],[[一酸化鉛|PbO]],[[酸化銅(II)|CuO]],[[フッ化ジルコニウム|{{chem|ZrF|4}}]],[[フッ化アルミニウム|{{chem|AlF|3}}]],[[フッ化インジウム|{{chem|InF|3}}]],[[塩化亜鉛|{{chem|ZnCl|2}}]],[[臭化亜鉛|{{chem|ZnBr|2}}]]
*まったくガラス化しないもの(Modifier, MOD)。
*: 例:[[酸化リチウム|{{chem|Li|2|O}}]],[[酸化ナトリウム|{{chem|Na|2|O}}]],[[酸化カリウム|{{chem|K|2|O}}]],[[酸化マグネシウム|MgO]],[[酸化バリウム|BaO]],[[酸化カルシウム|CaO]],[[酸化ストロンチウム|SrO]],[[塩化リチウム|LiCl]],[[塩化バリウム|BaCl]],[[フッ化バリウム|{{chem|BaF|2}}]],[[フッ化ランタン|{{chem|LaF|3}}]]
ガラスと[[アモルファス]]はほぼ同義のものとして捉えてよい場合が多いが、[[ガラス転移点]]が明確に存在しない場合をアモルファスと定義するような場合(分野)もある。ガラス転移とは主緩和の緩和時間が100s〜1000sの温度で起こる。
ガラスと同じ構造、すなわちガラス化する物質は珍しくない。[[ヒ素]]や[[硫黄|イオウ]]などは単体でガラス化する。酸化物ではホウ酸 ({{chem|B|2|O|5}})、リン酸 ({{chem|P|2|O|5}}) などが二酸化ケイ素の代わりに骨格となってガラスを形成する。ホウ酸塩ガラスは工業的に重要である。例えばパイレックスガラスは重量比で12%のホウ酸を含む。
;Zachariasen則
{{main|Zachariasen則}}
:Zachariasenはガラスを形成するために満たすべき条件を提案した。
==ガラスの作り方==
[[File:Tsukiyono Vidro Park factory inside.jpg|thumb|ガラス工場の溶融窯]]
=== 溶融法 ===
溶融法は、固体の原料を高温で加熱することで溶かして[[液体]]状態にした後、冷却してガラスにする方法である。ただし液体状態から結晶化が起こらないような十分に速い速度で冷却しなければならない。溶融法はガラスの製法としては最も一般的なもので、大部分のガラスはこの方法によって合成されている。使用済みのガラス製品を破砕して原料([[カレット]])として再利用することもできる。
=== 気相法 ===
気相法は、固体を物理的に蒸発させて薄膜や微粒子を得る'''[[PVD法]]'''と、気体原料から化学反応によって薄膜や微粒子・バルクを得る'''[[CVD法]]'''に分類できる。
PVD法では、[[真空蒸着]]や[[スパッタリング]]が知られている。真空蒸着は、蒸着する物質を減圧下で加熱気化し、基板にコートする方法である。スパッタリングは減圧下で電極間で放電させ、放電によってイオン化されたガスとターゲットとの衝突によって叩きだされた物質を基板にコートする方法である。
CVD法により得られるバルク体のガラスで最も大量に製造されているのは、[[光ファイバー]]用シリコンガラスである。光ファイバーの製造法には、MCVD(modified CVD)法、OVD(outside vapor deposition)、VAD法(vapor-phase axial deposition method, 気相軸付け法)など様々な方法がある。VAD法では、気体のSiCl<sub>4</sub>を加熱基板上で反応させて酸化物を堆積し、焼結してガラス化する。
=== ゾル・ゲル法 ===
[[ゾル]]-[[ゲル]]法では、例えば[[オルトケイ酸テトラエチル|テトラエトキシシラン]] ({{chem|Si(OCH|2|CH|3|)|4}}) などの金属[[アルコキシド]]を加水分解し縮重合させてゾルとし、水分を除いて生じたゲルを焼結してガラス化する<ref name="化学便覧応用化学編">日本化学会編「化学便覧応用化学編-第6版-第I分冊」丸善, 2002年(平成14年), 13.5 汎用ガラス・ほうろう</ref><ref name="理化学辞典">長倉三郎、他(編)「岩波理化学辞典-第5版」岩波書店, 1998年(平成10年)2月</ref>。
ガラスは図に示すように[[原子]]の並びが不規則な非晶質である。[[結晶]]では固体の中の結晶[[界面]]で光が散乱したり方向により[[光学]]特性や[[力学]]特性が異なったりするが、ガラスは非晶質なので全体が均一で透明であり、特定方向にだけ割れやすいということもない。
== ガラスの加工 ==
{{節スタブ}}
=== 工業製品 ===
{{main|ガラス工業製品}}
=== 着色 ===
{{main|ガラスの着色}}
{{see also|[[:en:Dichroic glass]]|[[:en:Smoked glass]]}}
ガラスそのものに着色する方法は、[[金属イオン]]や非金属[[イオン]]、[[コロイド]]などを溶かしたガラスに添加することによって行う。添加物と発色する色の対応は以下の通り。
* [[酸化鉄(II)]] - 緑。[[ワインボトル]]によく使われる。ちなみに、[[ソーダ石灰ガラス]]は不純物の鉄化合物を除去しきれないため本来は緑色をしており、他の発色材を混ぜて透明に見せかけている事がほとんどである。
* [[硫黄]] - 茶色。[[塩化鉄]]と[[炭素]]([[還元剤]])を混ぜて使用する。[[ホウ素]]濃度が高い[[ホウケイ酸ガラス]]では青色になる。[[カルシウム]]と共に添加すると深い黄色になる。
* [[マンガン]] - 黒。ソーダ石灰ガラスの緑色を取り除く添加物である。但し、時間経過と共にマンガンは過マンガン酸ナトリウムへ変化するため退色する。
* [[過マンガン酸ナトリウム]] - 暗い紫。
* [[コバルト]](0.025 から 0.1%) - 深い青。[[炭酸カリウム]]と併用することが多い。[[コバルトガラス]]を参照。脱色のために非常に微量を添加することがある。
* [[銅]] - 化合物を使用して2から3%の添加率の場合は[[トルコ石]]色。純銅の場合は青や緑、暗い赤になる。
* [[ニッケル]] - 添加率によって青や[[菫色|ヴァイオレット]]、黒になる。コバルトと共に[[クリスタルガラス]]の脱色に使用することがある。
* [[クロム]] - 暗い緑色。添加率が高いと黒。
* [[硫化カドミウム]] - 黄色。
* [[硫セレン化カドミウム]] - 明るい赤からオレンジ。
* [[チタン]] - 黄色っぽい茶色。他の発色材の補助として使われる事が多い。
* [[ウラン]] - 黄色。[[紫外線]]を黄緑色に変換する。[[ウランガラス]]を参照。
* [[セリウム]] - 紫外線フィルターに使用。
* [[ネオジム]],[[ホルミウム]] - それぞれ固有の波長を吸収するため、[[紫外可視近赤外分光光度計|分光光度計]]の波長校正用光学フィルターに用いる。
* [[セレン]] - 赤。硫化カドミウムと共に添加した物は「セレニウムルビー」と呼ばれる鮮やかな赤になる。
* [[金]] - 明るい赤。赤の発色材としては最もよく用いられる。[[クリスタルガラス]]では[[スズ]]を添加して使用される。
* [[銀]] - 黄色から赤の間の色。化合物や温度によって変化する。[[:en:Photochromic lens|Photochromic lens]]や[[:en:Photosensitive glass|Photosensitive glass]]は銀を使っている。
* [[酸化スズ]] - [[アンチモン]]と[[砒素]]を含有する場合は乳白色([[:en:Milk glass]])。
他には[[フッ化カルシウム]]、[[フッ化ナトリウム]]、[[リン酸カルシウム]]が乳白色。
=== ガラスの成形技法 ===
{{main|ガラスの成形技法}}
* [[ミルフィオリ]] - [[金太郎飴]]のような模様をつけたガラス棒を切って並べて模様を作る技法
* [[コアガラス]](Core‐formed Glass) - ヘレニズム時代にみられる粘土などのコアをもとに完成後コアを出すことでガラス容器を作った。不透明で小型の物しか作れなかったため廃れた。
* {{仮リンク|ガラス切り|en|Glass cutter}}
* [[吹きガラス]]
* [[ガラスエングレービング]]、{{ill2|カットグラス (加工)|en|Cut glass|label=カットグラス}}
* {{ill2|エナメルド・ガラス|en|Enamelled glass}}
* [[ショット・ブラスト]](サンドブラスト)
* [[レーザー加工機]]
* {{ill2|ケイム・ガラスワーク|en|Came glasswork}}(鉛線細工、ステンドグラス)
== 物性 ==
;熱力学におけるガラス状態
:ガラスは液体状態を凍結したような状態(粘度が極端に高くなった状態とも言える)であり、それは[[準安定状態]]にあると言える。従って、ガラスは[[熱力学]]的には[[非平衡]]な状態であり、非常に長時間を経過するとガラスは安定状態である[[結晶]]化すると考えられるが、それに対しては異論もある。また、ガラスは[[過冷却]]およびガラス転移により粘度が非常に高くなった液体であるという捉え方もある。なお、例えば古い建物の窓ガラスは、それが理由で上部のガラスが下の方に垂れたような形になっているとされたこともあったが、計算によれば千年くらいではとてもそのような差は起きず、実際はガラスの製法によるもので、建設当初からそのような垂れた形になっていたことがわかった<ref>[http://www.nytimes.com/2008/07/29/science/29glass.html?_r=1 The Nature of Glass Remains Anything but Clear] The New York Times. JULY 29, 2008</ref>。また、同じくガラス化している約2000万年前の[[琥珀]]を用いた実験では、2000万年間の密度変化は2.1%にすぎず、数千万年の時間では分子構造がほとんど変化しない事が分かっている<ref>[http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7951/ ガラス特性の定説、覆る可能性] ナショナルジオグラフィック日本語版サイト</ref>。
;物理的性質
密度は水の2倍半程度、2.4-2.6g/cm<sup>3</sup>であるが、[[鉛]]を用いたフリントガラスでは同6.3に達する。金属では[[アルミニウム]]が2.7、[[鉄]]が7.9であるから、フリントガラスは金属なみの密度であることになる。逆に金属元素を含まない[[石英ガラス]]は同2.2である。
引っ張り強さに関しては0.3-0.9×10<sup>8</sup>Pa<ref>「理科年表第81冊」、P381 ISBN 978-4-621-07902-7</ref>である。これは鋼鉄の1/10ではあるが、[[ナイロン]]や革ベルト、木材と同程度である。
常温では[[電気抵抗]]はきわめて高く、絶縁に用いられることもある。内部抵抗率は10<sup>9</sup>から10<sup>16</sup> Ωm、湿度50-60%時における表面抵抗率は10<sup>10</sup>から10<sup>12</sup> Ω/m。これはゴムやセラミックスと同程度である。ただし、流動点に近い温度では電気抵抗がきわめて低くなる。
刃物として用いる場合、非晶質であるため理論上は刃の先端径を0にできる(金属などの結晶体はどうしても結晶の大きさ分の径が残ってしまう)ため、鋭利な刃を作ることが可能である。その刃先は研磨によってではなく割れた断面に生じるが、金属より[[弾性]]・[[靱性|靭性]]が乏しいためナイフ・包丁などといった一般的な実用刃物としてはあまり適さない(欠け・割れが生じやすい)。しかし生体組織を顕微鏡で観察する際、樹脂で固めた組織を薄くスライスするカッター([[ミクロトーム]])として用いられることがある。
;化学的性質
化学的には、[[酸]]([[フッ化水素]]など、一部のフッ素化合物を除く)には強いがSi-O-Si結合がOH([[水酸基]])により切断され{{chem|H|2|SiO|3|-}}や{{chem|Na|2|SiO|3|-}}として溶解するため[[塩基|アルカリ]]に弱い。たとえばガラス瓶に濃厚な[[水酸化ナトリウム]]を入れて長期間おくと、徐々にガラス壁が侵されスリガラス状となる。
== ガラスの歴史 ==
=== 概説 ===
{{see also|ガラス年表}}
もともとは植物の灰の中の炭酸カリウムを砂の二酸化ケイ素と融解して得られたので、[[カリガラス]]が主体であった。灰を集めて炭酸カリウムを抽出するのに大変な労力を要したのでガラスは貴重なものであり、教会の窓、王侯貴族の食器ぐらいしか用いられたものはなかった。[[産業革命]]中期以降、[[炭酸ナトリウム]]から作る[[ソーダ石灰ガラス]]が主流になった。炭酸ナトリウムは[[ソルベー法]]により効率よく作られるようになったが、現在は天然品([[トロナ]])を材料に用いることもある。天然の炭酸ナトリウム産地としては米国[[ワイオミング州]][[グリーン・リバー (ワイオミング州)|グリーン・リバー]]が一大産地であり、世界中の天然品需要の大半をまかなっている。埋蔵量は5万年分あるとされている。
=== ガラス製造の開始 ===
ガラスの歴史は古く、紀元前4000年より前の古代[[メソポタミア]]で作られたガラスビーズが起源とされている<ref name="new2">{{Cite book |和書 |author=ニューガラスフォーラム編 |year=2013 |title=ガラスの科学 |page=2 |publisher=日刊工業新聞社 }}</ref>。これは二酸化ケイ素(シリカ)の表面を融かして作製したもので、当時はガラスそれ自体を材料として用いていたのではなく、[[陶磁器]]などの製造と関連しながら用いられていたと考えられている。原料の砂に混じった金属不純物などのために不透明で青緑色に着色したものが多数出土している。
なお、黒曜石など天然ガラスの利用はさらに歴史をさかのぼる<ref name="new2" />。黒曜石は[[火山]]から噴き出した[[溶岩]]がガラス状に固まったもので、[[石器時代]]から石包丁や矢じりとして利用されてきた。黒曜石は[[青銅器]]発明以前において最も鋭利な刃物を作ることのできる物質であったため、交易品として珍重され、産出地域から遠く離れた地域で出土することが珍しくない。青銅器が発明されなかった文明や、発明されても装飾品としての利用にとどまった[[メソアメリカ文明]]や[[インカ文明]]においては、黒曜石は刃物の材料として重要であり続け、黒曜石を挟んだ木剣や石槍が武装の中心であった。
古代ガラスは砂、珪石、ソーダ灰、石灰などの原料を摂氏1,200度以上の高温で溶融し、冷却・固化するというプロセスで製造されていた。ガラス製造には大量の燃料が必要なため、ガラス工房は森に置かれ、燃料を木に頼っていた。そのため、その森の木を燃やし尽くしたら次の森を探すというように、ガラス工房は各地の森を転々と移動していたのである。ガラス工場が定在するようになったのは[[石炭]]と[[石油]]が利用されるようになってからである。
エジプトや西アジアでは紀元前2000年代までに、一部の植物[[灰]]や天然[[炭酸ナトリウム|炭酸ソーダ]]とともにシリカを熱すると融点が下がることが明らかになり、これを利用して[[焼結]]ではなく溶融によるガラスの加工が可能になった。これが鋳造ガラスの始まりである。[[紀元前1550年]]ごろにはエジプトで粘土の型に流し込んで器を作るコア法によって最初のガラスの器が作られ、特にエジプトでは様々な技法の作品が作製され、[[西アジア]]へ製法が広まった。
新アッシリアのニムルドでは象嵌のガラス板数百点が出土している。年代の確実なものとしては、サルゴン2世(紀元前722年~紀元前705年)の銘入りの壷がある。[[アケメネス朝]]ペルシアでは、新アッシリアの技法を継承したガラス容器が作られた。[[紀元前4世紀]]から[[紀元前1世紀|同1世紀]]のエジプトでは王家の要求によって高度な技法のガラスが作られ、[[ヘレニズム]]文化を代表する工芸品の一つとなった。
中国大陸では紀元前5世紀には鉛ガラスを主体とするガラス製品や印章が製作されていた。
=== 古代のガラス ===
[[ファイル:伝安閑陵古墳出土 ガラス碗.JPG|thumb|200px|right|{{center|古墳時代に日本に伝来した<br />西アジア製のガラス碗}}{{small|ササン朝のカットグラス、伝[[高屋築山古墳|安閑陵古墳]](大阪府羽曳野市)出土。国の[[重要文化財]]。[[東京国立博物館]]展示。}}]]
エジプトの[[アレクサンドリア]]で、'''[[吹きガラス|宙吹き]]'''と呼ばれる製造法が[[紀元前1世紀]]の後半に発明された。この技法は現代においても使用されるガラス器製造の基本技法であり、これによって安価なガラスが大量に生産され、食器や保存器として用いられるようになった。この技法はローマ帝国全域に伝わり、[[ローマガラス]]と呼ばれるガラス器が大量に生産され、東アジアにまでその一部は達している<ref>[https://doi.org/10.24517/00049024 漢代の遺跡から出土したガラス器をみることができる]</ref>。この時期には板状のガラスが鋳造されるようになり、ごく一部の窓にガラスが使用されるようになった<ref>[http://www.agc.com/kingdom/manu_process/history/ 「板ガラスの製造技術の歴史」内「古代ローマの鋳造法」] 旭硝子 2015年6月14日閲覧 {{リンク切れ|date=2019年9月}}</ref>。また、ヘレニズム的な豪華なガラスも引き続き製造されていた。しかし[[ローマ帝国]]の衰退とともに[[ヨーロッパ]]での技法が停滞した。一方、[[東ローマ帝国]]の治める地中海東部や[[サーサーン朝]][[ペルシア|ペルシャ]]や中国大陸の[[北魏]]や[[南朝_(中国)|南朝]]では引き続き高水準のガラスが製造されている<ref>[https://doi.org/10.24517/00069152 「東アジアで出土したガラス容器資料(三国~北魏並行期)」]</ref>。日本では福岡県の[[須玖五反田遺跡]]などで古代のガラス工房があったことが確認されている。
[[5世紀]]頃、[[シリア]]でクラウン法の原形となる板ガラス製造法が生み出された。これは一旦、手吹き法によりガラス球を造り、遠心力を加えて平板状にするもので、仕上がった円形の板を、適宜、望みの大きさや形に切り出すことができるメリットがあった。また、この技法によって凹凸はあるものの一応平板なガラスを製造することには成功した<ref>[http://www.agc.com/kingdom/manu_process/history/ 「板ガラスの製造技術の歴史」内「クラウン法」] 旭硝子 2015年6月14日閲覧 {{リンク切れ|date=2019年9月}}</ref>。
=== 中世のガラス ===
イスラム圏では8世紀にラスター彩色の技法が登場した。この技法は陶器にも用いられたが、ガラスに先に使われた。9世紀から11世紀の中東では、カット装飾が多用された。また、東ローマ帝国では盛んにステンドグラスが製造された。
[[8世紀]]頃から、[[西ヨーロッパ]]でもガラスの製作が再開した。[[12世紀]]には[[教会 (キリスト教)|教会]]に[[ゴシック様式|ゴシック調]]の[[ステンドグラス]]が備わるようになり、[[13世紀]]には不純物を除いた無色透明なガラスがドイツ南部やスイス、イタリア北部に伝来した。
良質の原料を輸入できた[[ヴェネツィア]]のガラス技術は名声を高めたが、大火事の原因となった事と機密保持の観点から[[1291年]]に[[ムラーノ]]島に職人が集中・隔離された。ここでは精巧なガラス作品が数世紀にわたって作られ、[[15世紀]]には酸化鉛と[[酸化マンガン(II)|酸化マンガン]]の添加により[[屈折率]]の高い[[クリスタル・ガラス|クリスタルガラス]]を完成させた。
操業休止期間の他国への出稼ぎなどによって技法はやがて各地に伝わり、[[16世紀]]には[[北ヨーロッパ]]や[[スペイン]]でも盛んにガラスが製造された。この頃、中央[[ドイツ]]や[[ボヘミア]]でもガラス工房が増えている。これは原料となる灰や燃料の薪が豊富であり、かつ[[川|河川]]沿いにあり都市への物流に好都合だったためである。
また、15世紀には西欧各地でさかんにステンドグラスが製造された。当時の平坦なガラスは吹いて作ったガラスを延べて[[アイロン]]がけすることで作られていた。
日本では8世紀から16世紀までガラス製造が衰退した<ref name="ガラスの本"/>。
=== 近世 ===
[[1670年代]]に入ると、ドイツ・ボヘミア・イギリスの各地でも同時多発的に、無色透明なガラスの製法が完成した。これは精製した原料に[[チョーク (岩石)|チョーク]]または酸化鉛を混ぜるものである。この手法によって厚手で透明なガラスが得られ、高度な装飾のカットやグレーヴィングが可能になり、重厚な[[バロック]]ガラスや[[ロココ]]様式のガラスが作られた。また、[[アメリカ合衆国]]では[[バージニア州|ヴァージニア州]]に来たヨーロッパからの移民がガラスの生産を始めた。産業的にはなかなか軌道に乗らなかったが、大規模な資本の投下が可能な[[18世紀]]末になると豊富な森林資源を背景に工場生産が行なわれるようになった。18世紀に入ると、フランスで板ガラスの鋳造法が開発され、また同時期に吹きガラス法を利用して大型の円筒を作り、それを切り開いて板ガラスを製造する方法が開発され、この2つの方法は20世紀初頭にいたるまで板ガラス製造の基本技術であり続けた<ref>黒川高明『ガラスの技術史』p227(アグネ技術センター, 2005年7月)</ref>。
日本では[[徳川吉宗]]の書物の輸入解禁によって、[[江戸切子]]などが作られた。
[[19世紀]]に入ると、原料供給や炉に大きな進歩が相次いで起き、ガラス工業の近代化が急速に進んだ。[[1791年]]には[[炭酸ナトリウム]](ソーダ灰)の大量生産法がフランスのニコラ・ルブランによって発明され、この[[ルブラン法]]によって原料供給が大きく改善された。[[1861年]]には[[ベルギー]]の[[エルネスト・ソルベー]]によってより経済的な[[ソルベー法]]が開発され、さらにソーダ灰の増産は進んだ。ガラスを溶かす窯にも大きな進歩が起きた。フリードリヒ・ジーメンスらが[[1856年]]に[[特許]]を取得した蓄熱式槽窯を用いた製法により、溶融ガラスの大量供給が可能となった(ジーメンス法)。この[[平炉]]法はガラス炉として成功し、以後の工業的ガラス製造の基本となったのち、改良を加え製[[鋼]]にも使用された<ref>中沢護人、「[https://hdl.handle.net/2261/31412 研究解説 :平炉法の発明の経過]」『生産研究』 1964年 16巻 9号 p.243-248 , {{ncid|AN00127075}}, 東京大学生産技術研究所</ref>。こうしたガラス供給の増大によって価格が低落し、また[[瓶]]や[[窓ガラス]]、さらには[[望遠鏡]]や[[顕微鏡]]といった[[光学]]用のガラスなどの用途・需要が急増したため、各国に大規模なガラス工場が相次いで建設されるようになった。[[1851年]]には世界初の[[万国博覧会]]である[[ロンドン万国博覧会 (1851年)|ロンドン万国博覧会]]が開催されるが、そのメイン会場として建設された[[水晶宮]]は鉄とガラスによって作られた巨大な建物であり、科学と産業の時代の象徴として注目を浴びた。
19世紀末から20世紀初頭にかけての[[アール・ヌーヴォー]]はガラス工芸にも大きな影響を与え、[[エミール・ガレ]]や[[ルイス・カムフォート・ティファニー]]などの優れたガラス工芸家が現れ多くの作品を残した。
=== 現代 ===
[[ファイル:Old Kishi-House Nishiwaki,Hyogo,Japan 旧来住家住宅(来住梅吉旧邸)DSCF9470.JPG|thumb|260px|right|1918年(大正7年)竣工の旧来住家住宅に使用されている[[板ガラス]]]]
1903年、板ガラス製造用の自動ガラス吹き機がアメリカで開発され、熟練工を必要としないことから各国に急速に普及したが、やがて機械による引上げ式にとってかわられた。1950年代、[[ピルキントン]]が[[フロートガラス]]の製造を開始した。このフロートガラスの開発によって、現在使用されている板ガラスの基本技術が完成し、安価で安定した質の板ガラスが大量生産されるようになった。
1970年にドイツ人のディスリッヒによって考案されたゾル-ゲル法が、ガラスの新しい製造法として登場した。これまでガラスを製造する方法は原料を摂氏2,000度前後の高温によって溶融する必要があったが、ゾル-ゲル法ではガラスの原料となる化合物や触媒を有機溶液に溶かし込んで、摂氏数十度の環境で加水分解と重合反応を経て、溶融状態を経由せずに直接ガラスを得る。実際は完成したゲルが気泡を含むため、最終的には摂氏1,000度程度に加熱して気泡を抜いてやる必要がある。この方法の発明によって、ガラスに限らず有機無機ハイブリッド材料の創製など、従来では考えられなかった用途が開かれてきている<ref name="ガラスの本"/>。
近年では摂氏10000度のプラズマを利用して原料を一瞬で溶かす方法が実用化に向けて開発中であるが<ref>酒本修、「[https://www.agc.com/innovation/library/pdf/59-10.pdf 革新的省エネルギーガラス溶解技術]」 Res. Reports Asahi Glass Co., Ltd., 59 (2009)</ref>、実用化には至っていない。
現在、ガラスは食器や構造材のみならず、[[電子機器]]、[[光通信]]など幅広い分野で生活に必要不可欠なものとなっている。
== ガラスの応用 ==
{{columns-list|3|
* [[食器]]
* [[窓ガラス]]
* [[レンズ]]
* [[鏡]]
* [[光ファイバー]]
* [[ブラウン管]]
* [[ハードディスクドライブ]]
* [[液晶ディスプレイ]]
* [[プラズマディスプレイ]]
* [[蛍光灯]]
* [[白熱電球]]
* [[砂時計]]
* [[ガラス棒]]
* [[ビー玉]]
* [[ビーズ]] - [[とんぼ玉]]
* [[美術品]]
*[[ガラス器具]]
* [[ガラスペン]]
* [[ぽぴん]]
* [[氷コップ]]
}}
== 様々なガラス ==
{{columns-list|3|
* [[ソーダ石灰ガラス]]
* [[ホウケイ酸ガラス]]
* [[カリガラス]]
* [[クリスタル・ガラス|クリスタルガラス]]
* [[光学ガラス]]
* [[石英ガラス]]
* [[偏光ガラス]]
* [[複層ガラス]](エコガラス)
* [[強化ガラス]]
* [[合わせガラス]]
* [[耐熱ガラス]]・[[ホウケイ酸ガラス|硼珪酸ガラス]]
* [[防弾ガラス]]
* [[ガラス繊維]]
* [[光触媒]]クリーニングガラス
* [[水ガラス]]
* [[ウランガラス]]
* [[アクリルガラス]]
* [[ダイクロガラス|ダイクロ]]
* [[ゴールドストーン (宝石)|ゴールドストーン・茶金石・砂金石・紫金石]]
}}
* ガラスセラミックス
* 低融点ガラス - [[ガラス転移点]]が摂氏600度以下程度のガラス。[[電子部品]]において[[絶縁 (電気)|絶縁]]、[[封止]]、[[接着]]等に広く用いられている。ホウケイ酸鉛系ガラスが多く用いられていたが、[[環境負荷]]低減のために鉛フリー品の開発も進められている。
* 金属ガラス - 金属ガラスは、他のアモルファス金属とは異なり、過冷却液体の状態で安定し、結晶化が始まる前に固体化が完了するため、鋳型による鋳造で製造できるので工業用途での利便性が高い。
* [[サフィレット]]
* 分相ガラス 特定のガラスにおいて複数のガラス材料を混ぜて熱処理することで得られる。
* 多孔質ガラス 上記の分相ガラスを酸で溶かすことによって多孔質のガラスを得る。表面をイオン交換樹脂で修飾する事で同位体の分離に利用したり、特定の酵素を担持することで[[バイオリアクター]]で使用される。また、燃料電池等のガス拡散電極としての用途もある。
* [[リキッドガラス]]または[[液体ガラス]]、ガラス塗料
* [[ハイブリッドガラス]]は、珪素化合物である[[シリコーン樹脂]]と[[シラノール]]化合物及び熱可塑性[[プラスチック]]を化学的に複数の官能基において架橋させたシリケート化合物であり、常温領域の120-180度で軟化させ急冷することで形成するガラス質複合体である。
* [[有機ガラス]](ゆうきガラス、organic glass)は、透明な[[プラスチック]]でできた「ガラス」である。
;天然ガラス
:自然界で溶融状態から急激に冷却した場合出来る。一例として[[黒曜石]]等がある。また、岩石にもガラス質の組織が含まれている場合がある。
* [[テクタイト]]、[[モルダバイト]] - 隕石によるもの
* [[火山ガラス]] - 火山によるもの
* [[閃電岩]] - 雷によるもの
* [[トリニタイト]] - 核実験[[トリニティ実験]]によるもの
==ガラス関係会社==
;主なガラス製造会社
* [[PPGインダストリーズ]](米国)
* [[コーニング (企業)|コーニング]](米国)
* [[サンゴバン]](フランス)
* [[ピルキントン]](英国)- フロート式板ガラスの製造法を発明した。
* [[住田光学ガラス]](日本)
*[[AGC]](日本)
* [[日本板硝子]](日本)- 前述のピルキントン社を買収した、日本最大の板ガラスメーカー。
* [[日本電気硝子]](日本)- [[NECグループ]]の[[FPD]]向けガラスメーカー。
* [[セントラル硝子]](日本)
* [[HOYA]](日本)- 光学ガラスメーカー。
* [[ハリオグラス]](日本)
* [[オハラ (ガラスメーカー)|オハラ]](日本)- 主に主要株主([[セイコーホールディングス|セイコー]]および[[キヤノン]])の製品に供給。
* [[近畿車輛]](日本)- [[近鉄グループ|近鉄系]]、主に強化ガラスが中心。公共・医療・福祉関連施設等に導入実績あり。
* [[日本山村硝子]](日本)- 飲料用向け中心のガラスボトルメーカー。
* [[石塚硝子]](日本)- 飲料・テーブルウェア向中心のガラス製品メーカー。
* [[ハルナグラス]](日本)- テーブルウェア向中心のガラス製品メーカー。
* [[岡本硝子]](日本)- 硝子反射鏡、フライアイレンズなどを製造するガラス製品メーカー。
* [[上越クリスタル硝子]](日本) - 花瓶・食器・照明など。[[上越クリスタル硝子|月夜野びーどろパーク]]を運営。
;ガラス工芸品・会社
* [[ヴェネツィアン・グラス]](イタリア)
* [[エッフェトレ・モレッティ]](イタリア)
* [[ボヘミアガラス]](チェコ)
* [[スワロフスキー]](オーストリア)
* [[オレフォス・グラスブリュック]](スウェーデン)
* [[イッタラ]](フィンランド)
* [[カガミクリスタル]](日本)
* [[江戸切子]](日本)
* [[薩摩切子]](日本)
* [[琉球ガラス]](日本)
* [[佐竹ガラス]](日本)
* [[喜南鈴硝子]](日本)
* [[北一硝子]](日本)
== 文化 ==
日本語ではガラスを使った以下のような[[修辞技法|比喩]]表現がある。なお、3.に関しては「ガラスの天井(グラス・シーリング)」が元来英語圏で提唱されており、彼の地でもこのような使われ方をしていることがわかる。
# ガラスの脆く壊れやすい性質から、わずかな負荷で破損・故障するもののたとえ。
#* 例:「[[ガラスの地球を救え]]」「ガラスの[[顎|あご]]」「[[ガラスの十代]]」「ガラスの脳」
# 透明であるためガラスの向こう側がよく見えることから、'''「内部の全てを包み隠さず開示する」'''ことのたとえ<ref>[https://kotobank.jp/word/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E5%BC%B5%E3%82%8A-467461 ガラス張り(ガラスバリ)とは] コトバンク</ref>。
#*例:「ガラス張りの[[行政]]」
# 透明であるためガラスそのものは見えにくいことから、'''「目には見えないが存在する」'''もののたとえ
#*例:「[[ガラスの天井]]」
== 出典 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|2}}
==参考文献==
* 『ガラス工学ハンドブック』 編集委員:[[安井至]]、[[小川晋永]]、[[国分可紀]]、[[近藤敬]]、[[寺井良平]]、[[山根正之]]、[[和田正道]] ([[朝倉書店]]、1999年7月) ISBN 4-254-25238-2
== 関連項目 ==
{{Sisterlinks}}
{{columns-list|2|
* [[スピングラス]]
* [[シーグラス]]
* [[ガラス固化体]]
* [[ガラス特性の計算]]
* {{ill2|ガラスの劣化|en|Glass disease}}
* {{ill2|ラピス・スペキュラリス|es|Lapis specularis|redirect=1}}
* {{ill2|ガラスのリサイクル|en|Glass recycling}}
* [[パート・ド・ヴェール]]
* {{ill2|Unguentarium|en|Unguentarium}}
* {{ill2|Wood's glass|en|Wood's glass}}
* [[飴ガラス]]
}}
== 外部リンク ==
* [http://www.glassman.or.jp/ 社団法人 日本硝子製品工業会] - 日本における硝子生産業者の業界団体
* [https://j-glass.org/ 日本ガラス工芸学会] - ガラスの研究・振興を目的とした研究者等の学術組織
* {{Kotobank}}
* [https://www.marianne.jp/histoiredeverre.htm ガラスの歴史] - [https://www.marianne.jp/ フランス語翻訳マリアンヌ]
{{物質の状態}}
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[[Category:ガラス|*]]
[[Category:アモルファス]]
[[Category:材料]]
[[Category:オランダ語由来の外来語]]
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7,512 | Ab initio | ab initio(ab initio:元はラテン語なのでイタリックでの表記が正式)は、いわゆる第一原理とほぼ同義の言葉。化学系でよく使われるが、物理学および生物学の分野でも使用される。
“アブイニショ”、“アブイニシォ”のように発音するが、この言葉にぴったりと対応する日本語は存在しない。元々はラテン語で、“最初から”、“初めから”という意味がある。 | [
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] | ab initioは、いわゆる第一原理とほぼ同義の言葉。化学系でよく使われるが、物理学および生物学の分野でも使用される。 “アブイニショ”、“アブイニシォ”のように発音するが、この言葉にぴったりと対応する日本語は存在しない。元々はラテン語で、“最初から”、“初めから”という意味がある。 | {{小文字|title=ab initio}}
'''ab initio'''(''ab initio'':元は[[ラテン語]]なのでイタリックでの表記が正式)は、いわゆる[[第一原理]]とほぼ同義の言葉。[[化学]]系でよく使われるが、[[物理学]]および[[生物学]]の分野でも使用される。
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== 参考文献 ==
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== 関連項目 ==
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* [[計算化学]]
** [[非経験的分子軌道法]]
* [[計算物理]]
** [[第一原理計算]]
== 外部リンク ==
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[[Category:ラテン語の成句]] | null | 2018-01-08T04:37:04Z | false | false | false | [
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7,513 | メサイア | メサイアまたはメサイヤは、messiah(英語)の日本語における音訳。
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] | メサイアまたはメサイヤは、messiah(英語)の日本語における音訳。 原義はメシア(マーシアハמשיחの慣用的カナ表記)、メシアまたは救世主を参照。 メサイア(Messiah ) - アレキサンダー・ポープ作のエクローグ。
メサイア (ヘンデル) - ヘンデル作曲のオラトリオ。
ストラディヴァリウスのうちの1挺に付けられた渾名。イギリスのアシュモレアン博物館に展示中。
メサイア - アニメ『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に登場する架空の軍事施設。コズミック・イラの施設#メサイアを参照。
VF-25 メサイア - アニメ『マクロスF』に登場する架空の可変戦闘機。
メサイア - プロレスラーのドラゴン・キッドが使うプロレス技。
メサイア - 特撮ドラマ『特命戦隊ゴーバスターズ』に登場する悪の組織「ヴァグラス」の首領。
メサイア - 映画『ディープ・インパクト』に登場する架空の宇宙船。
メサイヤ (ゲームブランド) - 株式会社エクストリームが保有するテレビゲームのブランド。かつては日本コンピュータシステムが保有していた。
メサイア・プロジェクト - 高殿円の小説『メサイア 警備局特別公安五係』を原作・原案とするメディアミックスプロジェクト。
メサイア (映画) - 日本の映画。
メサイア「漆黒ノ章」 - 日本の映画。
メサイア -深紅ノ章- - 日本の映画。
メサイア - コンピュータRPG『ペルソナ3 フェス』に登場するペルソナ。 | {{Commons|Category:Messiah}}
'''メサイア'''または'''メサイヤ'''は、[[:en:Messiah|messiah]](英語)の[[日本語]]における[[転写 (言語学)|音訳]]。
原義は'''メシア'''(マーシアハ[[:he:משיח|משיח]](ヘブライ語)の慣用的カナ表記)、'''[[メシア]]'''または'''[[救世主]]'''を参照。
* メサイア([[:en:Messiah (English poem)|Messiah (English poem)]]) - [[アレキサンダー・ポープ]]作の[[エクローグ]]。
* [[メサイア (ヘンデル)]] - [[ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル|ヘンデル]]作曲の[[オラトリオ]]。
* [[アントニオ・ストラディバリ|ストラディヴァリウス]]のうちの1挺に付けられた渾名。イギリスの[[アシュモレアン博物館]]に展示中。
* メサイア - アニメ『[[機動戦士ガンダムSEED DESTINY]]』に登場する架空の[[軍事基地|軍事施設]]。[[コズミック・イラの施設#メサイア]]を参照。
* [[VF-25 メサイア]] - アニメ『[[マクロスF]]』に登場する架空の[[可変戦闘機 (マクロスシリーズ)|可変戦闘機]]。
* メサイア - [[プロレスラー]]の[[ドラゴン・キッド]]が使う[[プロレス技]]。
* メサイア - 特撮ドラマ『[[特命戦隊ゴーバスターズ]]』に登場する悪の組織「ヴァグラス」の首領。
* メサイア - 映画『[[ディープ・インパクト (映画)|ディープ・インパクト]]』に登場する架空の[[宇宙船]]。
* [[メサイヤ (ゲームブランド)]] - 株式会社エクストリームが保有する[[テレビゲーム]]の[[ブランド]]。かつては[[日本コンピュータシステム]]が保有していた。
* [[メサイア・プロジェクト]] - [[高殿円]]の小説『メサイア 警備局特別公安五係』を原作・原案とするメディアミックスプロジェクト。
** [[メサイア (映画)]] - 日本の映画。
** [[メサイア「漆黒ノ章」]] - 日本の映画。
** [[メサイア -深紅ノ章-]] - 日本の映画。
* メサイア - コンピュータRPG『[[ペルソナ3#ペルソナ3 フェス|ペルソナ3 フェス]]』に登場する[[ペルソナシリーズ#ペルソナ|ペルソナ]]。
{{Aimai}}
{{DEFAULTSORT:めさいあ}}
[[Category:英語の語句]]
[[Category:同名の作品]] | null | 2023-03-17T15:20:38Z | true | false | false | [
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"Template:Aimai"
] | https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A2 |
7,515 | ミズラヒム | ミズラヒム(Mizrachim, ヘブライ語: מזרחים)とは、主に中東・カフカス以東に住むユダヤ人。主にスペイン語等を話すセファルディムに対し、伝統的なアラブ世界やイスラム教が多数派の社会のユダヤ人を言うことが多い。ミズラハ Mizrach とはヘブライ語で「東」の意。ミズラヒ Mizrachi は Mizrachim の単数形。 イスラエルで、アシュケナジムやセファルディム社会への反発から始まった用語で、便宜的傾向が強い。
アラブ世界のほか、クルド地方のユダヤ人、グルジア・ユダヤ人、山岳ユダヤ人、ベタ・イスラエル(エチオピアのユダヤ人・Falasha)、インドのユダヤ人、ブハラ・ユダヤ人、中国のユダヤ人(開封のユダヤ人)など、多くの集団を含むこともある。モズラヒムは系統を異にするが、多少のミンハーグの違いはあるが、セファルディムのユダヤ教 Sephardic Judaismであることが多い。 | [
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] | ミズラヒムとは、主に中東・カフカス以東に住むユダヤ人。主にスペイン語等を話すセファルディムに対し、伝統的なアラブ世界やイスラム教が多数派の社会のユダヤ人を言うことが多い。ミズラハ Mizrach とはヘブライ語で「東」の意。ミズラヒ Mizrachi は Mizrachim の単数形。
イスラエルで、アシュケナジムやセファルディム社会への反発から始まった用語で、便宜的傾向が強い。 アラブ世界のほか、クルド地方のユダヤ人、グルジア・ユダヤ人、山岳ユダヤ人、ベタ・イスラエル(エチオピアのユダヤ人・Falasha)、インドのユダヤ人、ブハラ・ユダヤ人、中国のユダヤ人(開封のユダヤ人)など、多くの集団を含むこともある。モズラヒムは系統を異にするが、多少のミンハーグの違いはあるが、セファルディムのユダヤ教 Sephardic Judaismであることが多い。 | {{Jews and Judaism sidebar}}
'''ミズラヒム'''(Mizrachim, {{Lang-he|מזרחים|}})とは、主に[[中東]]・[[カフカス]]以東に住む[[ユダヤ人]]。主に[[スペイン語]]等を話す[[セファルディム]]に対し、伝統的な[[アラブ世界]]や[[イスラム教]]が多数派の社会のユダヤ人を言うことが多い。ミズラハ Mizrach とは[[ヘブライ語]]で「東」の意。ミズラヒ Mizrachi は Mizrachim の単数形。
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<!--ミズラヒムは「[[アシュケナジム]]、[[セファルディム]]<small>(これらは全て、[[シナゴーグ]]や言語的な伝統による名称で、そういう名前の民族がいるわけではない)</small>に比べユダヤ人であるという意識が希薄であり、[[アラブ人]]や、その国籍国の国民であるという意識のほうが強い」といった主張がなされることもあるが、こういった主張は多分に政治的な[[反シオニズム]] [[:en:Anti-Zionism|Anti-Zionism]]([[反ユダヤ主義]])的主張と関連がある。反シオニストは、ユダヤ人は存在しないとか、シオニズムはヨーロッパで始まったとか、だから[[植民地]]主義<small>(この時点で既にヨーロッパとアラブ世界を切り離し、差別的視点で語っている)</small>であるとか、「アシュケナジムは白人である」とか<small>(血によってユダヤ人となるわけではない)</small>、[[ハザール]]人の末裔であるといった主張まで行い、[[反ユダヤ主義]]や、イスラエルの地に帰還したユダヤ人を狙った[[テロリズム]]を奨励し、平和条約締結の拒否とアラブ・ナショナリズムを正当化しようとする。
反ユダヤ主義者は、ユダヤ人はユダヤ教徒に過ぎないとか、「「シオニズムが始まる以前」は平和に共存していた」などと言い、ユダヤ教とユダヤ人の価値、1500年間ユダヤ教徒が[[イスラム教]]徒から受けた2級市民以下の地位、[[キリスト教]]徒から受けた悲惨な差別を無視する。
「ユダヤ人はユダヤ教徒に過ぎない」というのは[[ユダヤ教]]に無知な者や、反ユダヤ主義者の発言である。-->
==関連項目==
*[[アシュケナジム]]
*[[セファルディム]]
*[[ユダヤ人]]
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[[Category:ミズラヒのユダヤ人|*]]
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7,516 | 米 | 米(こめ)は、稲の果実である籾から外皮を取り去った粒状の穀物である。穀物の一種として米穀(べいこく)とも呼ぶ。食用とする場合、系統や品種の性質によっては調理法が異なるため注意が必要(イネの系統と米、および、種類を参照)。
日本では主食の一つであり、日本語では「稲」「米」「飯」といった、植物としての全体と実、収穫前と収穫後さらに調理前と後などにより使い分けられる多様な語彙がある。日本を含む東アジアおよび東南アジア、南アジア以外では一般的に主食として特別視することが希薄であり、こうした区別がない言語が多数ある。例えば英語圏では全てriceという同一の単語で扱われる(反対に、日本では「大麦」「小麦」「エン麦」などが余り区別されず「麦」という総称で言われる)。また、日本語で「飯」は食事全般も指すため、「朝御飯はパンを食べた」という表現も普通に使われる。
イネ科植物にはイネのほかにも、コムギ、オオムギ、トウモロコシなど、人間にとって重要な食用作物が含まれる。イネはトウモロコシ、コムギとともに世界三大穀物と呼ばれている。
イネ科イネ属の植物には22種が知られている。このうち野生イネが20種で栽培イネは2種のみである。栽培イネは大きくアジアイネ(アジア種、サティバ種、Oryza sativa L.)とアフリカイネ(アフリカ種、グラベリマ種、Oryza glaberrima Steud.)に分けられる。また、両者の種間雑種から育成されたネリカがある。
イネは狭義にはアジアイネ (Oryza sativa) を指す。アジアイネにはジャポニカ種とインディカ種の2つの系統があり、これらの両者の交雑によって生じた中間的な品種群が数多く存在する。アジアイネ(アジア種、サティバ種)の米は、ジャポニカ種(日本型米、ジャポニカ・タイプ)、インディカ種(インド型米、インディカ・タイプ)、そして、その中間のジャバニカ種(ジャワ型米、ジャバニカ・タイプ)に分類されている。それぞれの米には次のような特徴がある。
なお、日本型とインド型に分類した上で、このうちの日本型を温帯日本型と熱帯日本型(ジャバニカ種)として分類する場合もある。
日本においては、農産物規格規程に、品位の規格と、「産地品種銘柄」として都道府県毎に幾つかの稲の品種が予め定められている。玄米は、米穀検査で、品位の規格に合格すると、その品種と産地と産年の証明を受ける。輸入品は輸出国による証明を受ける。
日本国内での米の銘柄(品種)の包装への表示は、玄米及び精米品質表示基準に定められている。
証明を受けていない原料玄米については「未検査米」などと表示し、品種を表示できない。情報公開より偽装防止を優先しているともいえる。
主食である日本では、米の生産・販売に関する規制が緩和され、各地域が食味や栽培しやすさを改善した品種の開発と販売に力を入れる「ブランド米」競争が激しくなっている。日本の米品種は800を超える。
米は各種の観点から以下のように分類される。
なお、日本では農産物検査法による公示の『農産物規格規程』や、JAS法に基づいた告示の「玄米及び精米品質表示基準」に一定の定めがある。
水田で栽培するイネを水稲(すいとう)、耐旱性や耐病性が強く畑地で栽培するイネを陸稲(りくとう、おかぼ)という。水稲と陸稲は性質に違いがあるが、同じ種の連続的な変異と考えられている。
一般的に圃場の整備については水稲の方がコストがかかる一方で、面積当たりの収量が多く、連作障害が殆ど無いなどのメリットと、全国的に水田整備が行き渡ったことから、現在、日本の稲作では、ほとんどが水稲である。水稲の収穫量は798万6000tで陸稲の収穫量は2700t(2015年見込み)おおよそ水稲は陸稲の2957倍となっている。また、栽培面積においても水稲が99.9%以上を占めている。
日本では水稲と陸稲の区分は農産物規格規程においても規定されている。日本では水稲と陸稲は明確に区別されているが、他の国では明確には区別されていない(世界的に見ると水稲といっても灌漑稲、天水稲、深水稲、浮稲のように栽培の環境は大きく異なっている)。
米のぬか層を除いた中心部分(胚乳)のデンプンの性質(糯粳性)の違いにより、粳性のものを粳種あるいは粳米(うるちまい、うるごめ、あるいは単に粳〈うるち、うる〉)、糯性のものを糯種あるいは糯米(もちまい、もちごめ)に分けられる。
日本では玄米及び精米品質表示基準で、「うるち」と「もち」に分けられている。
アジアイネではジャポニカ種だけでなくインディカ種にも糯米が存在するが、アフリカイネについては糯性のものは知られていない。
日本では、餅以外の「ご飯」ではアミロースが少なく、粘りや甘みがある米の品種が好まれてきた。現代ではパラパラした食感に炊き上がる高アミロース米が開発されている(秋田県の「あきたぱらり」、福井県の「越のリゾット」など)。チャーハンやパエリアに向くほか、一般的にアミロース含有率が高いほど食後の血糖値上昇が緩やかになることなどが理由である。
なお、糯粳性のある植物としては、イネのほか、トウモロコシ、オオムギ、アワ、キビ、モロコシ、アマランサスなどがある。
米は軟質米と硬質米に分けられる。軟質米は食味の点で優れるが貯蔵性の点では劣る。
醸造用の酒造米(酒造用米、酒米)は飯用米と区分される。農産物規格規程には、「うるち」と「もち」に加えて醸造用が定められている。酒造が酒税法で規制されている為、個人用には売られていない。
米は新米と古米と区分される。「新米と古米」を参照。
黒米、赤米、緑米などを総称して有色米という。野生種に近い米である。古代から栽培していた品種あるいは古代の野生種の形質を残した品種の総称として古代米と呼ばれることもある。ブータンでは赤米の一種であるブータン赤米が主食として広く食されている。
また、米ではなく葉や茎、穂が緑以外の色(紫、黄、赤等)に染まる稲を指して有色米という場合もあるが、穂などが着色するからといって必ずしも玄米が着色するわけではない。例えば「紫の君」は玄米は黒米となるが葉色は緑である。そのような稲の活用事例として有名なものに青森県田舎館村が1993年より村おこしで、異なる稲を植え分けて絵を描く田んぼアートを行なっている。また、それらの品種をさらに改良した観賞用稲の開発が青森県や秋田県で行われている。
強い香りを持つ品種を香り米という。東南アジア、南アジア、西アジアなど、地域によっては香りの少ない品種よりも好まれる。インドのバスマティなどが有名。 日本でも北海道、宮城県、高知県、鳥取県、宮崎県など各地で独自に香り米を作っていて、生産は増加傾向にある。
年間生産量は7億5674万トンを超える(籾。以下いずれも農林水産省『海外統計情報』より、「FAOSTAT」の2020年統計)。米は小麦(年間生産量7億6092万トン)、トウモロコシ(年間生産量約11億6235万トン)とともに世界の三大穀物といわれる。1980年代の生産量は4億5000万トン前後であったため大幅に増産されていることが理解される。
生産量は増加基調だが、在庫量は需要の伸びを背景に2000年をピークに減少している。在庫率は2006年には20%を割り込んだ。米の9割近くはアジア圏で生産され、消費される。最大の生産国は中国で、インド、インドネシアが続く。
日本の農業において、米は最重要の農産物であり、農産物全体に占める生産額の割合は、2021年(令和元年)においても農業総産出額8兆8,938億円中1兆7,426億円と19.6%を占め、第2位である肉用牛の7,880億円を大きく引き離すなど単一の作目としては最大であり続けている。しかしながら、近年一貫してその比率を落とし、1960年代は50%前後だったものが、現況の割合にまで縮小している。生産額は、1984年(昭和59年)の3兆9,300億円(年間生産量約1180万トン)をピークとして、2014年(平成26年)には1兆4,343億円(年間生産量約844万トン)程度まで減少し、米、野菜(米、果物を除く耕種)、畜産物、果物の分類においては、2000年前後には畜産物に、2005年前後には野菜に抜かれ、日本の産業としての農業における地位は年々低下している。
米の貿易量は、増加傾向で推移している。主要な輸出国はインド、タイ、ベトナム、アメリカ合衆国、パキスタンで、この5カ国で世界の輸出総量の8割強を占める。一方、輸入国は中華人民共和国、ベナン、バングラデシュ、コートジボワール、イランなどで各国100万〜200万トンを輸入しているが、作況により取引量の増減が大きい。
日本に関しては、太平洋戦争後、米は農業政策の根幹であったため、昭和40年代(1965年 - 1974年)初頭に米の自給が実現できるようになって以降は原則として輸入がなされなかった。が、ウルグアイ・ラウンドにおいて、関税化を延期する代償としてコメにおいては他品目よりも厳しい輸入枠(ミニマム・アクセス)を受け入れ、1993年(平成5年)以降、年間77万トンの輸入を行っている。なお、年間3万トン程度の輸出も行っている。
米は他の穀物に比べ、生産量に対して貿易量は少ない(生産量の約7%、なお、小麦は約20%、トウモロコシは約12%が生産量に対する貿易量となっている)。これは、米は基礎食料として国内で消費される傾向が強いため、生産量に占める貿易量の割合が低くなっているためである。そのため、小麦やトウモロコシと異なり、国際的な商品先物取引の対象商品となっていない。国際取引指標は、タイ国貿易取引委員会 (BOT) の長粒種輸出価格。
なお日本国内では、2011年8月8日より東京穀物商品取引所と関西商品取引所で「コメ先物」として商品先物取引の試験上場が開始。2013年2月12日、名称を関西商品取引所から改名した「大阪堂島商品取引所」が、東京穀物商品取引所閉所に伴い、同所からコメ先物取引(東京コメ)を引き継いだ。なお、現物決済の標準品は、「東京コメ」については茨城県産、栃木県産および千葉県産コシヒカリ、「大阪コメ」は石川県産および福井県産のコシヒカリとなっていた。しかしながら、大阪堂島商品取引所は2021年8月6日、コメ先物取引の本上場への移行が、生産者の参加が大きくは増えておらず生産・流通を円滑にする観点から不十分との理由により農林水産省に認可されなかった旨を発表、すでに成立している取引が終わる2022年6月以降はコメ先物を扱えなくなった。
コメの取引は、生産者やJA、卸・小売業者らの間で行われる相対取引が中心で、広く開かれた市場がないため、公平・透明な価格形成が行われていないと指摘されている。今はJAグループが農家から集荷する際に支払う仮払金(「概算金」と呼ばれる)がコメ相場を左右しており、需要が減っても概算金が上がれば取引価格も値上がりするという消費者から見れば納得しにくい相場になっている。コメ先物の上場廃止で価格指標が消滅したが、大規模コメ農家やJA、コメ卸などは価格指標が必要との認識で一致している。このため、自民党が農林水産省に現物市場の創設を求めていた。農林水産省は、「米の現物市場検討会」を設置し、需給実態に合った価格指標を提供する現物市場の創設を検討している。2022年3月には、市場の制度設計の取りまとめが行われ、JAなど集荷業者と卸売業者の間の「大口取引」と生産者と卸売業者・実需者の間の「小口取引」の2本立てとする方針が示された。現物市場は買い手と売り手のマッチングの場となり、代表的な産地・品種・銘柄に関する高値帯(最も取引価格が高い価格帯)・中値帯(最も取引量が多い価格帯)・安値帯(中値未満で最も取引量が多い価格帯) 、およびこれらの価格帯に対応した取引量をリアルタイムで公表する。
農林水産省は、2022年11月25日に開かれた自民党の会合で、コメの現物市場を2023年秋にも開設できるようにする方針を示した。公益財団法人の「流通経済研究所」(東京都千代田区)が現物市場の開設・運営する意向を示しており、同研究所のマッチングシステム「アグリーチ」を使って農林水産物の生産者・卸売業者・実需者をマッチングすることを明らかにした。
11月29日の閣議後の記者会見で、野村哲郎農相は、現物市場の消費者への影響を問われ、「売る側と買う側の両者が入っているなかで検討されるので透明性・公平性があり、消費者にとって納得のいく価格に設定されるのではないか」と期待を語った。
農水省は、2023年3月24日に開かれた自民党の総合農林政策調査会・農林部会合同会議でコメの現物市場について報告し、水稲や野菜の栽培を手がける農業法人の「ぶった農産」(石川県野々市市)が新たに開設の意向を示したと発表した。「みらい米市場」を運営する流通経済研究所と「グリーンフードテックマーケット」を運営するぶった農産が、それぞれ具体的な事業運営方法や価格指標の公表方法を開示した。
米の生産(稲作)には病害虫の防除や稲の生長のため、殺菌剤、殺虫剤、除草剤など各種の農薬が使用される。農薬については玄米中への残留農薬の基準がある。
稲は、原産地である中国大陸の中南部から北部、南アジアに、そして日本へと伝わった。麦の一定面積あたり収穫量が1haあたり約3.5tであるのに対して、米は約5tと多く、他地域に比べてアジアの稲作地域での人口増大を可能にした。
稲作は日本においては、縄文時代後期から行われ始めたといわれる。これはプラント・オパールや、炭化した籾や米、縄文土器に残る痕跡などから分かる。大々的に水稲栽培が行われ始めたのは、縄文時代晩期から弥生時代早期にかけてで、各地に水田の遺構が存在する。
弥生期では一粒当たりから生産できる量は400粒ほどだったが(それでも麦が一粒当たり150 - 170粒の生産量であることを考えれば、高い生産量といえる)、品種改良や水田開発が進んだ現在では一粒当たり2千粒(約5倍)まで生産量が上がっている。
米は、食料として重要である一方で、比較的長期に保存ができるという特徴から、マダガスカルのメリナ人やタイにおけるサクディナー制など、米食文化においては経済的に特殊な意味を持ち、これは日本でも同様であった。
長らく租税(租・あるいは年貢)として、また、石高制に代表されるように、ある地域の領主や、あるいは単に家の勢力を示す指標としても使われた。貨幣経済が発達すると、それとの調和を図るべく、札差業が発達、米切手の発生や堂島米会所に代表される近代的商品取引システムの生成が見られ、江戸時代には政治経済の中心に米が置かれていた。そのため日本人の米に対する思い入れは強く、米は最も重要な食べ物とされ、主食とされてきた。天皇が新米を含む五穀を神に捧げて収穫に感謝する新嘗祭のように、神道など信仰や民俗・文化とも深い関りを持つ(節「#文化」で詳述)。
しかし、階級や貧富、地域などによって大きな違いがあり、戦後の高度経済成長以前は雑穀や芋などを実際の主食にしていた人たちも多く、関東地方の畑作地帯などでは麦が7割から8割の飯を常食としていた。現在は住宅地になっている東京の杉並区では大正時代から少しずつ野菜の栽培が増加し、都市近郊の野菜栽培農家に転換したが、それ以前は稗などの穀物を栽培し、日常食は稗と麦で米は少し入れるだけだった。その一方、明治の初め秋田県権令島義勇の政府への報告書のなかに、「県民は山間僻地でも白米を食している......」とあり、藩政時代から白米の飯を食べている地域もあった。秋田は日本有数の穀倉地帯であり、雑穀の生産が少ないこともあって、農民に雑穀を食べるよう強要した他の地域とは違い、為政者の締め付けが然程ではなかったことにもよる。隣の宮城県も仙台藩時代から米の生産が盛んで正月以外にも餅を食べる習慣があり餅料理が発達した一方、第二次世界大戦前には関兵精麦が米穀餌料の卸や精麦で多額の利益を得ているなど、麦の需要が多かった地域でもある。これは仙台藩が米を江戸への輸出用(換金作物)として扱い、庶民は嗜好品として捉えていた名残とされる。なお戦後も麦の需要減少は緩やかであったため、関兵精麦は余力を残したまま不動産業への転換に成功している。越後長岡藩の武士によるとされる、文化2年(1805年)刊行の『粒粒辛苦録』は、農民のきわめて厳しい食生活を描いている。これに対し、同じ越後長岡藩の庄屋大平家が天保6年(1835年)に著した『農家年中行事記』は、しばしば行事が催され食物や酒がふるまわれ、小作人を含めて自由に食を楽しんでいた様子が窺える。
最近、各地域に残された家文書の研究が進み、厳しい制限の下に雑穀を中心とした食生活を強いられた貧しい農民像が必ずしも実態を示すものではないとする説も現れた。農民側の記録を分析したところ近世の農民は、1日に4合程度の米を麦飯あるいは雑穀などとかて飯や雑炊にした食事を日常的に摂っていたという。
明治以降、日本は急激な人口増加と生活向上に伴って米の需要が高まったが、当時の日本国内の生産力はその需要に対応しきれず不足分を恒常的に輸入する一方で、米も通常の物資と同じく市場経済に基づき取引されており、相場商品・投機の対象として流通に不安を来すこともあり、しばしば社会問題となった(米騒動、特に1918年米騒動参照)。1921年(大正10年)米穀法が施行され政府備蓄米による価格統制や輸入米の関税統制が行われるようになった。また、1920年代には、植民地化した朝鮮半島において、農業近代化による米の増産計画(朝鮮産米増殖計画)が実施されるなどした。しかしながら、安定的供給までには至らず、1933年(昭和8年)米穀統制法、1936年(昭和11年)米穀自治管理法が施行され、米の生産・流通の統制が強化された。さらに、太平洋戦争開戦に向けての戦時体制整備の一環として、1939年(昭和14年)4月に米穀配給統制法が制定され、米の流通が政府により管理されるようになった。なお、同年9月には戦時の物資不足に鑑み興亜奉公日が設定され、日の丸弁当が奨励されたものの白米は禁止されず、この時点ではまだ米不足は酷くはなかった。だが12月には厳しさを増し米穀搗精等制限令が出され、七分搗き以上の白米を流通に付すことは禁止、1940年(昭和15年)の正月は餅すら白米は許されなかった。米不足は深刻となり、この年から中国や東南アジアからの輸入米(いわゆる外米)を国産米に混ぜて販売することが義務付けられた。
1940年6月1日以降は、米を筆頭に生活必需品10品目について配給切符制が導入。更に、日米開戦の2ヶ月後の1942年(昭和17年)2月には食糧管理法が制定され食糧管理制度が確立、米の流通は完全に政府が掌握するようになった。米だけでなく、魚介類や野菜・果物も配給制になり、国民の栄養状態は極度に悪化していった。こうした食糧難に対して、江戸時代のかてものの研究に帰って、食用野草や昆虫食など非常食の工夫が盛んに試みられた。一方米食の習慣がなかった地域や家庭では、配給制になったことで米を食べる機会を得て、そのことが戦後の食生活の変革の一因となったとする指摘もある。
1945年(昭和20年)に第二次世界大戦は終結。戦後の食糧難は深刻を極めたが、米は引き続き食糧管理法による政府の固定価格での買い上げだったため闇米が横行、闇米を拒否した東京地裁の判事山口良忠が餓死するという事件も起きている。米の生産拡大のための基盤整備事業が国内各地で行われ、肥料の投入や農業機械の導入、品種改良などによる生産技術の向上から生産量が増加したものの、少なくとも昭和30年代(1955年-1964年)までは、大半の日本人が米飯を常食とすることはできなかった。そのような中で、ガリオア・エロアの資金援助でメリケン粉が大量に輸入され、アメリカの小麦戦略により、学校給食はメリケン粉を使ったパンが供され、1952年(昭和27年)には栄養改善法が施行され慶應義塾大学医学部教授の林髞の著した『頭脳』(光文社、1958年)が評判となり、「米を食うと馬鹿になる」という説が流布され、頭脳パンなるものが出現するなどし、日本人の食事の欧風化が進行した。
米食悲願民族 といわれる日本人にとって、米を実際の主食とすることは有史以来の宿願であったが、昭和40年代(1965年-1974年)初頭には、ようやく米の自給が実現でき、名実ともに主食となった。しかし、その時既に戦勝国として日本を占領したアメリカ合衆国の小麦戦略は見事に成功をおさめ、学校のパン給食や厚生省が始めた栄養改善運動も手伝って、日本人の食事の欧風化が進行し、米離れに拍車がかかっていた。このため全国で米余り現象が起き、食糧管理法下におけるコメ政策は見直しを余儀なくされるようになり、1970年(昭和45年)以降は減反政策といわれる生産調整政策(新規の開田禁止、政府米買入限度の設定、転作奨励金の設定など)がとられた。その結果、水稲の作付け面積は 1969年(昭和44年)の 317万ヘクタールをピークに、1975年(昭和50年)には 272万ヘクタール、1985年(昭和60年)には 232万ヘクタールに減少、生産量も1967年(昭和42年)の 1426万トンをピークに、1975年(昭和50年)には 1309万トン、1985年(昭和60年)には 1161万トンに減少した。
生産は減少したものの、米離れに歯止めがかからず、政府備蓄米などに古米、古古米の不良在庫が多く発生。米の消費拡大のために、それまで主食はパンだけであった学校給食に米飯や米の加工品がとりいれられるようになったり、古米をアフリカなどの政府援助に使用したり、その他家畜の飼料にしたりして処分するなど、在庫調整に腐心するようになった。そのような状況の下、流通面においては、縁故米の拡大から自主流通米の承認などにより、食糧管理制度の逸脱を認めるようになった。しかしながら、根本的解決には至らなかったため、食管赤字は収束せず、生産者米価よりも消費者米価が安い逆ザヤだったため、歳入が不足し赤字(食管赤字)が拡大、1980年代には、国鉄、健康保険とともに、日本政府の巨額赤字を構成する「3K赤字」と呼ばれるようになり、行政改革における重要なテーマとなった。
供給においても、1983年(昭和58年)の不作時には、政府が放出しようとした1978年(昭和53年)度産の超古米に規定以上の臭素が検出され安全性に問題があるとされたため、翌1984年(昭和59年)に韓国から米15万トンの緊急輸入が行われたり、1993年(平成5年)の全国的な米の不作による平成の米騒動においては、タイなどから米の緊急輸入が行われるなどした。なお、米の消費量は、ピークの1962年(昭和37年)には、日本人一人あたり年間118.3キログラム消費していたものが、その後一本調子で減少、1990年代後半には、ひと頃の半分の60キログラム台に落ち込んだ。家計支出に占める米類の支払いの割合は、10%強だったものが 1.1 - 1.3% と 1⁄10 になり、米の地位低下が甚だしい。
一方で1993年(平成5年)、ウルグアイ・ラウンド農業合意により、米の義務的な輸入(ミニマム・アクセス)を課せられるようになり、食糧管理制度は本格的な見直しを迫られた。1995年(平成7年)、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律いわゆる食糧法)が施行され、これに伴い食糧管理法は廃止となり、政府の管理が緩められた。水稲の作付け面積と生産量に関しては、その後も減少し、1995年(平成7年)には作付け面積 211万ヘクタール、生産量 1072万トンに、2000年(平成12年)以降は、作付け面積 170万ヘクタール、生産量 900万トン程度となり、作付け面積は半減、生産量は60%程度を推移している。また、食糧法は、2004年(平成16年)に大幅に改正され、さらに政府の関与度を減らしている。
アジア米の原産地はインドアッサム地方から中国雲南省というものが有力な説であり、15000年前には長江中流域で稲作の形跡が見られるなど世界最古の稲作の歴史を有する。確実に稲作が行われていたとみなされる痕跡は、紀元前7500年頃 - 紀元前6100年頃の新石器時代彭頭山文化に属する彭頭山遺跡や八十壋遺跡において発見されている。日本の稲作もこの地域から伝わったものと考えられている。
伝統的な農業地理の理解では、秦嶺・淮河線以南が稲作地域とされており、水源と土地に恵まれた長江中下流域において盛んであり、ここで生産された米は、大運河などを通じて華北地域まで運ばれ食を担った。元々は、ジャポニカ種であったが、南宋の時代に、インドシナ半島からインディカ種の一種である占城稲が流入すると、旱害に強く早稲種で二期作が可能であるという理由から一気に普及しこの地域での主要なイネの種となった。この時代、「蘇熟すれば天下足る」「江浙熟すれば天下足る」(長江下流域; 蘇・江=ほぼ現在の江蘇省、浙=ほぼ現在の浙江省)と言われ、下って明清代には、稲作の中心が長江中流域である現在の湖南省・湖北省に移り、「湖広熟すれば天下足る」と言われ、国の穀倉として認識されたことがうかがえる。
一方で、秦嶺・淮河線以北は稲作不適地域と認識されていたが、1900年頃以降の日本の進出に伴い旧満州地域である中国東北部に寒冷に強いジャポニカ種を定着させ、その後の農業技術の発展から、この地域においても稲作が大々的に展開されている。
2000年代後半時点で世界最大の米生産・消費国である。生産は、約7割がインディカ種、約3割がジャポニカ種となっている。
インディカ種に比べジャポニカ種は手間がかかり高価であるが経済発展による所得向上からジャポニカ種の消費増加傾向のほか、地方都市間の人口移動による新たな消費層の発生などを背景に、中国の米消費量は増加傾向にある。一方で、1990年代後半に豊作だったことから作付け面積が減少、中国政府は2004年に援助政策に乗り出している。
中国政府は寒冷地への稲作拡大だけでなく、収量を増やすための栽培技術や品種改良にも力を入れている。中国工程院の袁隆平らのチームが開発したハイブリッド米(英語版)「湘両優900(超優千号)」は2017年、河北省の試験圃場で1ヘクタール当たり17.2トンと米としては世界最高の収量を記録した。これは日本の平均の3倍近い。翌2018年には18トン超と、記録を更新した。
一方で、2004年に韓国へ輸出された中国製蒸し米、揚げ菓子などからホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムが検出され、韓国政府が輸入を停止するなど、安全性の問題も発生している。(中国産食品の安全性)
アメリカ大陸で米が栽培されるようになったのは西洋人との接触以降のことであり、アメリカ合衆国における稲作の歴史はアジアに比べると短いが、2009年の生産量は1000万トンに達しており、うち440万トンが輸出されている。アメリカ国内での用途としてはそのまま使用するのが56%、加工用が18%、酒造用が12.2%、ペット用が12%などとなっている。
アメリカ合衆国における米の産地は南東部のルイジアナ州、ミズーリ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、テキサス州、フロリダ州、および南西部カリフォルニア州のサクラメント・バレーがある。
すでに17世紀はじめに今のバージニア州でイネの栽培が始まっていたが、1694年にマダガスカルから稲作がサウスカロライナ州にもたらされ、南部諸州に広まった。これらの土地で栽培されたのはバスマティライスやジャスミンライスに代表されるアミロースの多い長粒種のインディカ米だった。
一方カリフォルニアでは19世紀後半に鉱山や鉄道建設の労働者として中国や日本からの移民が増加して米の需要が発生したが、長粒種の栽培には成功しなかった。1908年にW.W. Mackieという土壌学者がサクラメント・バレーのビッグズで日本のイネの栽培にはじめて成功し、1912年にビッグズにはカリフォルニア米の試験場が作られた。カリフォルニア米はアメリカ合衆国の他の地域の米と異なり、短粒種または中粒種のジャポニカ米が大部分を占めている。カリフォルニアで公式に認められている品種は17種類があるが、中粒種のカルローズ、短粒種のコシヒカリとあきたこまちがもっとも成功している(アメリカ合衆国では米粒の長さが幅の2倍未満のものを短粒種、2倍以上4倍未満を中粒種、4倍以上を長粒種と定義している)。中でも1948年に開発されたカルローズはカリフォルニア米全体の85%以上を占める。一方、国府田敬三郎の農場では、カルローズ開発者のひとりであるヒューズ・ウィリアムズを雇用し、1950年代にカルローズを中東のイネと交配してKR55という品質の高い中粒種 (premium medium grain) を開発し、国宝ローズの名で販売した。同じ品種はJFC (JFC International) の「錦」にも使われている。
クリミアでは、コメが60万トン程度が生産された。
米は、世界中で食用されている。利用例は、以下の通り。
イネ科の植物の小穂の種子(穎果)をそのまま食用とはせずに、精製を行って食用とするのが基本である。米においても精製のプロセスを経て食用とし(一般にこの作業を調製という)、それらは一般に以下のとおり。穎果は1粒が小さく、それら1つ1つに調製を行う必要があるため、効率よく調製するための技術開発は太古から行われてきた。
イネ科の果実である穎果は厚い外皮(籾)に覆われており、脱穀によりまずこの籾殻を除去する。除去した米の場合は「玄米」と呼ばれ、胚乳(92%)、胚芽(3%)、果皮(5%)から成っている。麦に比べて吸水性が良いため、麦のように粉状にせずに粒米のまま食用にするが、さらに胚乳のデンプン質を加熱により糊化することで栄養価は高くなる。しかし、果皮によって加熱が不良になりやすいため果皮も除去する必要がある。玄米の表面を覆う糠層(ぬかそう、主として果皮と糊粉層)を取り去ることを精白(精米、搗精〈とうせい〉)という。糠層も胚芽も取り去った米を白米(精白米、精米)といい、糠を除去したものを精米や白米という。このとき糠と同時に胚芽も除かれてしまうため、栄養バランスは逆に悪くなる。
古くは丈夫な臼に玄米を入れ、上から杵で叩くようにして糠を取り除いていた。日本ではこの作業を「搗(つ)く」「舂(つ)く」、白米にすることを「毇(しら)ぐ」「研ぐ」と言い、得られた精米を「舂米(つきしね、しょうまい)」と言った。古代日本では朝廷や豪族が部民(専門の職業集団)として「舂米部(つきしねべ)」を置いていた。得られた精米の後の臼には糠とともに粒食に適さないさらに小さい米や割れた米、粉が残ったが、これらも水や他の食材と合わせて調理することで食用とした。日本ではいわゆる「搗き餅」とは異なる餅として独自の発展を遂げている。
精白などの加工による分類。玄米及び精米品質表示基準では、玄米、精米、胚芽精米に分けられている。
米の主成分はデンプンで、活動のエネルギー源となる栄養素である。少量ながらタンパク質も含まれており、胚芽やぬかにはビタミンB群やミネラル、食物繊維が含まれる。精白米よりも胚芽やぬか層を残した玄米のほうが栄養や食物繊維が豊富になり、食品成分表(可食部100 gあたり)によれば、カリウムは約3倍、カルシウムは約2倍、ビタミンB1・ビタミンB6は8 - 10倍、食物繊維は約4倍多く含まれる。ある程度冷やした場合は、レジスタントスターチによる整腸作用が働くようになる。
米は主に水分を加えて加熱調理する。東アジアでは一般に水だけで調理するが、マレーシア、インドネシアなどの東南アジアではココナッツミルクを加えることが多く、また、地中海地方など米が常食ではない地域では、肉や魚のストックやバター、スパイスなど水以外の何かを加えることが多い。広く主食用とされ飯にされるのは、粳米の白米であり、玄米や胚芽米の飯を主食とすることは、あまり多くない。調理するときに糠を砥ぎ落とすことを洗米という。短粒種の白米は、日本などでは、ぬかを洗い流した(洗米とか「米を研ぐ」という)のち、調理する。粳米は炊いて飯とし、糯米は蒸して強飯(こわいい)としたり、餅として供される。中国などでは、粳米を蒸す場合もある。インドでは多量の水でコメを煮て、概ね火が通ったところで余分な水を捨てて蒸し煮にする。
米を炊くことを炊飯(すいはん)、あるいは炊爨(すいさん)という。「蒸し飯」を、お強(おこわ)、あるいは強飯(こわいい)とも呼ぶ。これは、蒸した飯が炊いた飯よりも「こわい」(「硬い」の古い言い方)ことに由来する。 長粒種の粳米は、煮る(湯取)事が多い。
古くから、飯を乾燥させたものを「干し飯」(ほしいい)、あるいは「糒」(ほしい)といい、携帯保存食として用いた。現在では、この干し飯と同じ物をアルファ化米(加水加熱して糊化(アルファ化)させた米)といい、同じく携帯保存食や非常食などとして用いる。干し飯に似た食材は日本以外にも見られ、南アジアではポハやチウラと呼ばれる潰してから乾燥させた加工米も食されている。
飯として炊くときよりも多目の水を加えて、米を煮た料理を粥という。この時に加える水の量により、全粥(米1に対して水5から6)、七分粥、五分粥、三分粥(米1に対して水15から20)などと呼ばれる。また、粥から固形の米粒を除いた糊状の水を重湯(おもゆ)と呼び、病人食や乳児の離乳食に用いられる。
栄養分をそぎ落とさないように、胚芽部分を残した胚芽米や分搗き米、玄米をそのまま炊いて食べる場合もある。最近では発芽玄米も食べられている。胚芽部分には脚気を予防するビタミンB1が豊富に含まれる。
籾殻を取る前に、水に長くつけ、蒸し上げてから籾摺りをしたものを用いる地域もある。タイ、マレーシア、シンガポールなどの国のほか、日本では和歌山県などでこの習慣があった。干し飯のように、熱い湯や茶をかけて軟らかくすることができるほか、炒って食べる場合もある。
黒米や赤米は、白米に混ぜて炊くことが多い。研いだ白米に対して3〜10%程度(好みに合わせて分量を調節)を洗わないでそのまま入れて炊く。
餅(もち)については、「餅」の項目を参照。
米の調理には次のようなものが利用される(汎用加熱器具を除く): 甑、釜、鍋、電気炊飯器・ガス炊飯器、蒸篭。
東南アジアを中心として粉食も一般的で、ライスヌードル(麺類)としても広く食用にされる。
米をアルコール発酵させて日本酒をはじめとする醸造酒(ライスワイン)が広く作られている他、焼酎などの蒸留酒においても、単独又は他の原材料と混合したもろみとして原料となっている。
米を牛乳で煮込んだプディングは、東は南アジアから西は西ヨーロッパまで広く見られるデザートである。
例えばドイツでは(主食料理扱いだが)ミルヒライスといい、英語圏ではライスプディング、フランス語圏ではリオレ、スペイン語圏ではアロス・コン・レチェまたはアロス・デ・クレマと呼ばれる。インドにはキール、トルコにはストラッチと呼ばれるミルク・ライス・プディングがある。トルコのムハッレビは米粉と牛乳のプディングである。ブラン・マンジェも米粉で作ることがある。
東南アジアでは、米をマンゴー、ささげ、緑豆、里芋、スイートコーンなどと煮込んだ粥状のデザートがあり、ココナッツミルクをかけて食べる。ベトナムには、バインコムという、もち米の青い未熟米と緑豆餡から作る餅菓子がある。また、タイには、カオマオ・トードというバナナともち米の青い未熟米とココナッツを使った揚げ菓子があり、カオニャオ・マムアンという砂糖入りココナツミルクで炊いた(カットしたマンゴーも添えた)デザートもある。
日本には、餅米を蒸して搗いた餅菓子、白玉団子、ういろう(小麦粉、ワラビでんぷんで作った物もある)、ぼたもち、あくまき、きりせんしょ、ゆべしなどがある。軽羹のようにうるち米を米粉にして用いるものもある。
中国や朝鮮半島には、薬食のように餅米を蒸した菓子や芝麻球やシルトックなど上新粉や白玉粉から作る餅菓子がある。インドのモーダカは米粉の生地でココナッツと黒砂糖のフィリングを包んだ菓子である。
ロシアでは、一口大にカットしたキウイフルーツや苺やバナナを潰しご飯でロールし、練乳やココナッツパウダーやストロベリーソースでトッピングした巻き寿司風デザート「スイートロール」が人気を博しており、同国内の寿司業界にて普及が広まっている。
空手挌闘家アンディ・フグは生前、日本滞在中に自ら考案したストロベリーヨーグルト練り掻き混ぜ米飯(バナナをトッピング)をとても気に入り、頻繁に作っては喜んで食べていたというエピソードがある。
主にジャガイモやサツマイモ、小麦粉などを原材料として、米の形に成形した物。第二次世界大戦中の食糧難の日本で代用食として開発された。これらの材料を加熱して潰して小さな粒状にして、それを核として、表面にデンプンをまぶして蒸す工程を数回繰り返し、米状の大きさになったら、乾燥させて水分含有量を減らして保存可能にする。食べる時は普通に炊く。製法や形状は粒状のパスタである「クスクス」に類似している。
戦後の食糧難の時代には政府も生産を奨励したが、その後食糧事情が好転したこともあり、また、製造に非常に手間と時間がかかることと、食味の違い、すなわち所詮は代用食なため、昭和29年をピークに急速に姿を消し、本物の米が余っている現在の日本では作られていない。
現在食糧難の北朝鮮でも代用食として、トウモロコシやサツマイモやジャガイモから偽米が開発・製造されていると言われている。
こうした米不足による代用品とは異なり、ダイエットや炭水化物の摂取量を抑えるために、野菜やしらたき、おからなどを加工して米飯に近い食べ応えを得ようとする食品・料理が現代日本にある。
日本文化においては、単なる食糧品に止まらず、古神道や神道における稲作信仰に起因する霊的価値を有する穀物である。地鎮祭や上棟式、農林水産の職業的神事、また日本各地の祭りで、御神酒や塩などとならび供物として奉納される。天皇が五穀(中心となるものはコメ)の収穫を祝う新嘗祭(「勤労感謝の日」として国民の祝日となっている)は宮中における最も重要な祭祀であり、天皇即位後最初の新嘗祭である大嘗祭は、実質的な践祚の儀式と認識されている。
「米」の字を分解すると八十八とも読めることから、付会して八十八行程を経て作られる、八十八の神が宿る、また「八十八人の働きを経て、はじめて米は食卓にのぼるのであるから、食事のたび感謝反省しなくてはならない」など、道徳教育のための様々の訓話が構成された。
日本のみならず、東アジアにおいてはイネを精霊の宿る神聖な作物とみなし、これに不敬な行為を行うと食物より滋養は得られず、また田畑に蒔いても凶作を呼ぶと言い伝えられている。伏見稲荷大社では、秦の長者が餅を的にして矢を射たところ、餅が白い鳥となって飛び山峰にとまったため、彼が鳥をイネの精霊と気づいてそこに神社を建てこれを祭ったことが起源とされている。なお、異説では精霊を祭った秦の長者には不毛は訪れなかったが、ただ餅を射ただけの富裕者は天罰を受け没落したともいわれる。
米が貴重だった昔、黒瀧寺(徳島県)周辺には「米養生」という習慣があった。重病人の枕元で、生米を竹筒に入れて振った音を聞かせると治るという俗信である。
沖縄県では、お中元またはお歳暮に真空パックされたお米を親戚へ渡す風習がある。
古くはイネ科の植物の穀物について広く「米」という単語が用いられていた。古来、稲が生産されていなかった華北(漢字発祥の地)では、長くアワ(粟)に対して用いられていた。中国後漢の許慎が著した漢字の解説書『説文解字』において、「米...粟實也。象禾實之形」(禾=粟)と書かれ、米即ちアワの実であると解説されている。現在の中国語では、イネ科の植物にとどまらず、米粒のような形状をしたものも米と呼ぶ例が多い。例えば、「海米、蝦米」は干した剥きエビ、「茶米」は烏龍茶などの粒状の茶葉などを指す。
「米」という漢字自体は籾が四方に散った様子を描いた象形文字である。しかし、この字形から「八十八」と分解できると見立てて米寿などの言葉に利用されている。また、日本では水稲を作る際の手間の多さを「籾から育てて食べられる様にするまでに八十八の手間がかかる」とたとえられている。また、「八木」と分解することも可能であることから、「八木(はちぼく/はちもく)」が米の異称として用いられた。
『岩波 古語辞典』は、「うるしね」(「しね」は“稲”の意の古語)の項で、“米”を表す日本語「うる(ち)」(粳)、マレー語 'bəras',アミ語 'fərats'; 'vərats',古代ペルシア語 'vrīzi',古典ギリシャ語 'oryza',イタリア語 'riso',英語 'rice' などを、すべてサンスクリット 'vrīhih' にさかのぼるものとしている。
なお、新聞やテレビのニュースにおいては、米国(アメリカ)の略である「米(べい)」との混同を避けるため、「コメ」とカタカナで表記するのが一般的になっている。
神社や祝詞では、白米を和稲(にぎしね)。玄米を荒稲(あらしね)と呼ぶことがある。
大相撲の隠語で、お金のこと。相撲部屋において将来有望な力士を「米びつ」ともいう。 | [
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"text": "米(こめ)は、稲の果実である籾から外皮を取り去った粒状の穀物である。穀物の一種として米穀(べいこく)とも呼ぶ。食用とする場合、系統や品種の性質によっては調理法が異なるため注意が必要(イネの系統と米、および、種類を参照)。",
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"text": "日本では主食の一つであり、日本語では「稲」「米」「飯」といった、植物としての全体と実、収穫前と収穫後さらに調理前と後などにより使い分けられる多様な語彙がある。日本を含む東アジアおよび東南アジア、南アジア以外では一般的に主食として特別視することが希薄であり、こうした区別がない言語が多数ある。例えば英語圏では全てriceという同一の単語で扱われる(反対に、日本では「大麦」「小麦」「エン麦」などが余り区別されず「麦」という総称で言われる)。また、日本語で「飯」は食事全般も指すため、「朝御飯はパンを食べた」という表現も普通に使われる。",
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"text": "イネ科植物にはイネのほかにも、コムギ、オオムギ、トウモロコシなど、人間にとって重要な食用作物が含まれる。イネはトウモロコシ、コムギとともに世界三大穀物と呼ばれている。",
"title": "イネの系統と米"
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"text": "イネ科イネ属の植物には22種が知られている。このうち野生イネが20種で栽培イネは2種のみである。栽培イネは大きくアジアイネ(アジア種、サティバ種、Oryza sativa L.)とアフリカイネ(アフリカ種、グラベリマ種、Oryza glaberrima Steud.)に分けられる。また、両者の種間雑種から育成されたネリカがある。",
"title": "イネの系統と米"
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"text": "イネは狭義にはアジアイネ (Oryza sativa) を指す。アジアイネにはジャポニカ種とインディカ種の2つの系統があり、これらの両者の交雑によって生じた中間的な品種群が数多く存在する。アジアイネ(アジア種、サティバ種)の米は、ジャポニカ種(日本型米、ジャポニカ・タイプ)、インディカ種(インド型米、インディカ・タイプ)、そして、その中間のジャバニカ種(ジャワ型米、ジャバニカ・タイプ)に分類されている。それぞれの米には次のような特徴がある。",
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"text": "なお、日本型とインド型に分類した上で、このうちの日本型を温帯日本型と熱帯日本型(ジャバニカ種)として分類する場合もある。",
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"text": "日本においては、農産物規格規程に、品位の規格と、「産地品種銘柄」として都道府県毎に幾つかの稲の品種が予め定められている。玄米は、米穀検査で、品位の規格に合格すると、その品種と産地と産年の証明を受ける。輸入品は輸出国による証明を受ける。",
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"text": "日本国内での米の銘柄(品種)の包装への表示は、玄米及び精米品質表示基準に定められている。",
"title": "イネの系統と米"
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"text": "証明を受けていない原料玄米については「未検査米」などと表示し、品種を表示できない。情報公開より偽装防止を優先しているともいえる。",
"title": "イネの系統と米"
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"text": "主食である日本では、米の生産・販売に関する規制が緩和され、各地域が食味や栽培しやすさを改善した品種の開発と販売に力を入れる「ブランド米」競争が激しくなっている。日本の米品種は800を超える。",
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"text": "米は各種の観点から以下のように分類される。",
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"text": "なお、日本では農産物検査法による公示の『農産物規格規程』や、JAS法に基づいた告示の「玄米及び精米品質表示基準」に一定の定めがある。",
"title": "種類"
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"text": "水田で栽培するイネを水稲(すいとう)、耐旱性や耐病性が強く畑地で栽培するイネを陸稲(りくとう、おかぼ)という。水稲と陸稲は性質に違いがあるが、同じ種の連続的な変異と考えられている。",
"title": "種類"
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"text": "一般的に圃場の整備については水稲の方がコストがかかる一方で、面積当たりの収量が多く、連作障害が殆ど無いなどのメリットと、全国的に水田整備が行き渡ったことから、現在、日本の稲作では、ほとんどが水稲である。水稲の収穫量は798万6000tで陸稲の収穫量は2700t(2015年見込み)おおよそ水稲は陸稲の2957倍となっている。また、栽培面積においても水稲が99.9%以上を占めている。",
"title": "種類"
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"text": "日本では水稲と陸稲の区分は農産物規格規程においても規定されている。日本では水稲と陸稲は明確に区別されているが、他の国では明確には区別されていない(世界的に見ると水稲といっても灌漑稲、天水稲、深水稲、浮稲のように栽培の環境は大きく異なっている)。",
"title": "種類"
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"text": "米のぬか層を除いた中心部分(胚乳)のデンプンの性質(糯粳性)の違いにより、粳性のものを粳種あるいは粳米(うるちまい、うるごめ、あるいは単に粳〈うるち、うる〉)、糯性のものを糯種あるいは糯米(もちまい、もちごめ)に分けられる。",
"title": "種類"
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"text": "日本では玄米及び精米品質表示基準で、「うるち」と「もち」に分けられている。",
"title": "種類"
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"text": "アジアイネではジャポニカ種だけでなくインディカ種にも糯米が存在するが、アフリカイネについては糯性のものは知られていない。",
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"text": "日本では、餅以外の「ご飯」ではアミロースが少なく、粘りや甘みがある米の品種が好まれてきた。現代ではパラパラした食感に炊き上がる高アミロース米が開発されている(秋田県の「あきたぱらり」、福井県の「越のリゾット」など)。チャーハンやパエリアに向くほか、一般的にアミロース含有率が高いほど食後の血糖値上昇が緩やかになることなどが理由である。",
"title": "種類"
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"text": "なお、糯粳性のある植物としては、イネのほか、トウモロコシ、オオムギ、アワ、キビ、モロコシ、アマランサスなどがある。",
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"text": "米は軟質米と硬質米に分けられる。軟質米は食味の点で優れるが貯蔵性の点では劣る。",
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"text": "醸造用の酒造米(酒造用米、酒米)は飯用米と区分される。農産物規格規程には、「うるち」と「もち」に加えて醸造用が定められている。酒造が酒税法で規制されている為、個人用には売られていない。",
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"text": "米は新米と古米と区分される。「新米と古米」を参照。",
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"text": "黒米、赤米、緑米などを総称して有色米という。野生種に近い米である。古代から栽培していた品種あるいは古代の野生種の形質を残した品種の総称として古代米と呼ばれることもある。ブータンでは赤米の一種であるブータン赤米が主食として広く食されている。",
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"text": "また、米ではなく葉や茎、穂が緑以外の色(紫、黄、赤等)に染まる稲を指して有色米という場合もあるが、穂などが着色するからといって必ずしも玄米が着色するわけではない。例えば「紫の君」は玄米は黒米となるが葉色は緑である。そのような稲の活用事例として有名なものに青森県田舎館村が1993年より村おこしで、異なる稲を植え分けて絵を描く田んぼアートを行なっている。また、それらの品種をさらに改良した観賞用稲の開発が青森県や秋田県で行われている。",
"title": "種類"
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"text": "強い香りを持つ品種を香り米という。東南アジア、南アジア、西アジアなど、地域によっては香りの少ない品種よりも好まれる。インドのバスマティなどが有名。 日本でも北海道、宮城県、高知県、鳥取県、宮崎県など各地で独自に香り米を作っていて、生産は増加傾向にある。",
"title": "種類"
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"text": "年間生産量は7億5674万トンを超える(籾。以下いずれも農林水産省『海外統計情報』より、「FAOSTAT」の2020年統計)。米は小麦(年間生産量7億6092万トン)、トウモロコシ(年間生産量約11億6235万トン)とともに世界の三大穀物といわれる。1980年代の生産量は4億5000万トン前後であったため大幅に増産されていることが理解される。",
"title": "生産と流通"
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"tag": "p",
"text": "生産量は増加基調だが、在庫量は需要の伸びを背景に2000年をピークに減少している。在庫率は2006年には20%を割り込んだ。米の9割近くはアジア圏で生産され、消費される。最大の生産国は中国で、インド、インドネシアが続く。",
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"paragraph_id": 28,
"tag": "p",
"text": "日本の農業において、米は最重要の農産物であり、農産物全体に占める生産額の割合は、2021年(令和元年)においても農業総産出額8兆8,938億円中1兆7,426億円と19.6%を占め、第2位である肉用牛の7,880億円を大きく引き離すなど単一の作目としては最大であり続けている。しかしながら、近年一貫してその比率を落とし、1960年代は50%前後だったものが、現況の割合にまで縮小している。生産額は、1984年(昭和59年)の3兆9,300億円(年間生産量約1180万トン)をピークとして、2014年(平成26年)には1兆4,343億円(年間生産量約844万トン)程度まで減少し、米、野菜(米、果物を除く耕種)、畜産物、果物の分類においては、2000年前後には畜産物に、2005年前後には野菜に抜かれ、日本の産業としての農業における地位は年々低下している。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 29,
"tag": "p",
"text": "米の貿易量は、増加傾向で推移している。主要な輸出国はインド、タイ、ベトナム、アメリカ合衆国、パキスタンで、この5カ国で世界の輸出総量の8割強を占める。一方、輸入国は中華人民共和国、ベナン、バングラデシュ、コートジボワール、イランなどで各国100万〜200万トンを輸入しているが、作況により取引量の増減が大きい。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 30,
"tag": "p",
"text": "日本に関しては、太平洋戦争後、米は農業政策の根幹であったため、昭和40年代(1965年 - 1974年)初頭に米の自給が実現できるようになって以降は原則として輸入がなされなかった。が、ウルグアイ・ラウンドにおいて、関税化を延期する代償としてコメにおいては他品目よりも厳しい輸入枠(ミニマム・アクセス)を受け入れ、1993年(平成5年)以降、年間77万トンの輸入を行っている。なお、年間3万トン程度の輸出も行っている。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 31,
"tag": "p",
"text": "米は他の穀物に比べ、生産量に対して貿易量は少ない(生産量の約7%、なお、小麦は約20%、トウモロコシは約12%が生産量に対する貿易量となっている)。これは、米は基礎食料として国内で消費される傾向が強いため、生産量に占める貿易量の割合が低くなっているためである。そのため、小麦やトウモロコシと異なり、国際的な商品先物取引の対象商品となっていない。国際取引指標は、タイ国貿易取引委員会 (BOT) の長粒種輸出価格。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 32,
"tag": "p",
"text": "なお日本国内では、2011年8月8日より東京穀物商品取引所と関西商品取引所で「コメ先物」として商品先物取引の試験上場が開始。2013年2月12日、名称を関西商品取引所から改名した「大阪堂島商品取引所」が、東京穀物商品取引所閉所に伴い、同所からコメ先物取引(東京コメ)を引き継いだ。なお、現物決済の標準品は、「東京コメ」については茨城県産、栃木県産および千葉県産コシヒカリ、「大阪コメ」は石川県産および福井県産のコシヒカリとなっていた。しかしながら、大阪堂島商品取引所は2021年8月6日、コメ先物取引の本上場への移行が、生産者の参加が大きくは増えておらず生産・流通を円滑にする観点から不十分との理由により農林水産省に認可されなかった旨を発表、すでに成立している取引が終わる2022年6月以降はコメ先物を扱えなくなった。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 33,
"tag": "p",
"text": "コメの取引は、生産者やJA、卸・小売業者らの間で行われる相対取引が中心で、広く開かれた市場がないため、公平・透明な価格形成が行われていないと指摘されている。今はJAグループが農家から集荷する際に支払う仮払金(「概算金」と呼ばれる)がコメ相場を左右しており、需要が減っても概算金が上がれば取引価格も値上がりするという消費者から見れば納得しにくい相場になっている。コメ先物の上場廃止で価格指標が消滅したが、大規模コメ農家やJA、コメ卸などは価格指標が必要との認識で一致している。このため、自民党が農林水産省に現物市場の創設を求めていた。農林水産省は、「米の現物市場検討会」を設置し、需給実態に合った価格指標を提供する現物市場の創設を検討している。2022年3月には、市場の制度設計の取りまとめが行われ、JAなど集荷業者と卸売業者の間の「大口取引」と生産者と卸売業者・実需者の間の「小口取引」の2本立てとする方針が示された。現物市場は買い手と売り手のマッチングの場となり、代表的な産地・品種・銘柄に関する高値帯(最も取引価格が高い価格帯)・中値帯(最も取引量が多い価格帯)・安値帯(中値未満で最も取引量が多い価格帯) 、およびこれらの価格帯に対応した取引量をリアルタイムで公表する。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 34,
"tag": "p",
"text": "農林水産省は、2022年11月25日に開かれた自民党の会合で、コメの現物市場を2023年秋にも開設できるようにする方針を示した。公益財団法人の「流通経済研究所」(東京都千代田区)が現物市場の開設・運営する意向を示しており、同研究所のマッチングシステム「アグリーチ」を使って農林水産物の生産者・卸売業者・実需者をマッチングすることを明らかにした。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 35,
"tag": "p",
"text": "11月29日の閣議後の記者会見で、野村哲郎農相は、現物市場の消費者への影響を問われ、「売る側と買う側の両者が入っているなかで検討されるので透明性・公平性があり、消費者にとって納得のいく価格に設定されるのではないか」と期待を語った。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 36,
"tag": "p",
"text": "農水省は、2023年3月24日に開かれた自民党の総合農林政策調査会・農林部会合同会議でコメの現物市場について報告し、水稲や野菜の栽培を手がける農業法人の「ぶった農産」(石川県野々市市)が新たに開設の意向を示したと発表した。「みらい米市場」を運営する流通経済研究所と「グリーンフードテックマーケット」を運営するぶった農産が、それぞれ具体的な事業運営方法や価格指標の公表方法を開示した。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 37,
"tag": "p",
"text": "米の生産(稲作)には病害虫の防除や稲の生長のため、殺菌剤、殺虫剤、除草剤など各種の農薬が使用される。農薬については玄米中への残留農薬の基準がある。",
"title": "生産と流通"
},
{
"paragraph_id": 38,
"tag": "p",
"text": "稲は、原産地である中国大陸の中南部から北部、南アジアに、そして日本へと伝わった。麦の一定面積あたり収穫量が1haあたり約3.5tであるのに対して、米は約5tと多く、他地域に比べてアジアの稲作地域での人口増大を可能にした。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 39,
"tag": "p",
"text": "稲作は日本においては、縄文時代後期から行われ始めたといわれる。これはプラント・オパールや、炭化した籾や米、縄文土器に残る痕跡などから分かる。大々的に水稲栽培が行われ始めたのは、縄文時代晩期から弥生時代早期にかけてで、各地に水田の遺構が存在する。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 40,
"tag": "p",
"text": "弥生期では一粒当たりから生産できる量は400粒ほどだったが(それでも麦が一粒当たり150 - 170粒の生産量であることを考えれば、高い生産量といえる)、品種改良や水田開発が進んだ現在では一粒当たり2千粒(約5倍)まで生産量が上がっている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 41,
"tag": "p",
"text": "米は、食料として重要である一方で、比較的長期に保存ができるという特徴から、マダガスカルのメリナ人やタイにおけるサクディナー制など、米食文化においては経済的に特殊な意味を持ち、これは日本でも同様であった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 42,
"tag": "p",
"text": "長らく租税(租・あるいは年貢)として、また、石高制に代表されるように、ある地域の領主や、あるいは単に家の勢力を示す指標としても使われた。貨幣経済が発達すると、それとの調和を図るべく、札差業が発達、米切手の発生や堂島米会所に代表される近代的商品取引システムの生成が見られ、江戸時代には政治経済の中心に米が置かれていた。そのため日本人の米に対する思い入れは強く、米は最も重要な食べ物とされ、主食とされてきた。天皇が新米を含む五穀を神に捧げて収穫に感謝する新嘗祭のように、神道など信仰や民俗・文化とも深い関りを持つ(節「#文化」で詳述)。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 43,
"tag": "p",
"text": "しかし、階級や貧富、地域などによって大きな違いがあり、戦後の高度経済成長以前は雑穀や芋などを実際の主食にしていた人たちも多く、関東地方の畑作地帯などでは麦が7割から8割の飯を常食としていた。現在は住宅地になっている東京の杉並区では大正時代から少しずつ野菜の栽培が増加し、都市近郊の野菜栽培農家に転換したが、それ以前は稗などの穀物を栽培し、日常食は稗と麦で米は少し入れるだけだった。その一方、明治の初め秋田県権令島義勇の政府への報告書のなかに、「県民は山間僻地でも白米を食している......」とあり、藩政時代から白米の飯を食べている地域もあった。秋田は日本有数の穀倉地帯であり、雑穀の生産が少ないこともあって、農民に雑穀を食べるよう強要した他の地域とは違い、為政者の締め付けが然程ではなかったことにもよる。隣の宮城県も仙台藩時代から米の生産が盛んで正月以外にも餅を食べる習慣があり餅料理が発達した一方、第二次世界大戦前には関兵精麦が米穀餌料の卸や精麦で多額の利益を得ているなど、麦の需要が多かった地域でもある。これは仙台藩が米を江戸への輸出用(換金作物)として扱い、庶民は嗜好品として捉えていた名残とされる。なお戦後も麦の需要減少は緩やかであったため、関兵精麦は余力を残したまま不動産業への転換に成功している。越後長岡藩の武士によるとされる、文化2年(1805年)刊行の『粒粒辛苦録』は、農民のきわめて厳しい食生活を描いている。これに対し、同じ越後長岡藩の庄屋大平家が天保6年(1835年)に著した『農家年中行事記』は、しばしば行事が催され食物や酒がふるまわれ、小作人を含めて自由に食を楽しんでいた様子が窺える。",
"title": "歴史"
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"paragraph_id": 44,
"tag": "p",
"text": "最近、各地域に残された家文書の研究が進み、厳しい制限の下に雑穀を中心とした食生活を強いられた貧しい農民像が必ずしも実態を示すものではないとする説も現れた。農民側の記録を分析したところ近世の農民は、1日に4合程度の米を麦飯あるいは雑穀などとかて飯や雑炊にした食事を日常的に摂っていたという。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 45,
"tag": "p",
"text": "明治以降、日本は急激な人口増加と生活向上に伴って米の需要が高まったが、当時の日本国内の生産力はその需要に対応しきれず不足分を恒常的に輸入する一方で、米も通常の物資と同じく市場経済に基づき取引されており、相場商品・投機の対象として流通に不安を来すこともあり、しばしば社会問題となった(米騒動、特に1918年米騒動参照)。1921年(大正10年)米穀法が施行され政府備蓄米による価格統制や輸入米の関税統制が行われるようになった。また、1920年代には、植民地化した朝鮮半島において、農業近代化による米の増産計画(朝鮮産米増殖計画)が実施されるなどした。しかしながら、安定的供給までには至らず、1933年(昭和8年)米穀統制法、1936年(昭和11年)米穀自治管理法が施行され、米の生産・流通の統制が強化された。さらに、太平洋戦争開戦に向けての戦時体制整備の一環として、1939年(昭和14年)4月に米穀配給統制法が制定され、米の流通が政府により管理されるようになった。なお、同年9月には戦時の物資不足に鑑み興亜奉公日が設定され、日の丸弁当が奨励されたものの白米は禁止されず、この時点ではまだ米不足は酷くはなかった。だが12月には厳しさを増し米穀搗精等制限令が出され、七分搗き以上の白米を流通に付すことは禁止、1940年(昭和15年)の正月は餅すら白米は許されなかった。米不足は深刻となり、この年から中国や東南アジアからの輸入米(いわゆる外米)を国産米に混ぜて販売することが義務付けられた。",
"title": "歴史"
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{
"paragraph_id": 46,
"tag": "p",
"text": "1940年6月1日以降は、米を筆頭に生活必需品10品目について配給切符制が導入。更に、日米開戦の2ヶ月後の1942年(昭和17年)2月には食糧管理法が制定され食糧管理制度が確立、米の流通は完全に政府が掌握するようになった。米だけでなく、魚介類や野菜・果物も配給制になり、国民の栄養状態は極度に悪化していった。こうした食糧難に対して、江戸時代のかてものの研究に帰って、食用野草や昆虫食など非常食の工夫が盛んに試みられた。一方米食の習慣がなかった地域や家庭では、配給制になったことで米を食べる機会を得て、そのことが戦後の食生活の変革の一因となったとする指摘もある。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 47,
"tag": "p",
"text": "1945年(昭和20年)に第二次世界大戦は終結。戦後の食糧難は深刻を極めたが、米は引き続き食糧管理法による政府の固定価格での買い上げだったため闇米が横行、闇米を拒否した東京地裁の判事山口良忠が餓死するという事件も起きている。米の生産拡大のための基盤整備事業が国内各地で行われ、肥料の投入や農業機械の導入、品種改良などによる生産技術の向上から生産量が増加したものの、少なくとも昭和30年代(1955年-1964年)までは、大半の日本人が米飯を常食とすることはできなかった。そのような中で、ガリオア・エロアの資金援助でメリケン粉が大量に輸入され、アメリカの小麦戦略により、学校給食はメリケン粉を使ったパンが供され、1952年(昭和27年)には栄養改善法が施行され慶應義塾大学医学部教授の林髞の著した『頭脳』(光文社、1958年)が評判となり、「米を食うと馬鹿になる」という説が流布され、頭脳パンなるものが出現するなどし、日本人の食事の欧風化が進行した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 48,
"tag": "p",
"text": "米食悲願民族 といわれる日本人にとって、米を実際の主食とすることは有史以来の宿願であったが、昭和40年代(1965年-1974年)初頭には、ようやく米の自給が実現でき、名実ともに主食となった。しかし、その時既に戦勝国として日本を占領したアメリカ合衆国の小麦戦略は見事に成功をおさめ、学校のパン給食や厚生省が始めた栄養改善運動も手伝って、日本人の食事の欧風化が進行し、米離れに拍車がかかっていた。このため全国で米余り現象が起き、食糧管理法下におけるコメ政策は見直しを余儀なくされるようになり、1970年(昭和45年)以降は減反政策といわれる生産調整政策(新規の開田禁止、政府米買入限度の設定、転作奨励金の設定など)がとられた。その結果、水稲の作付け面積は 1969年(昭和44年)の 317万ヘクタールをピークに、1975年(昭和50年)には 272万ヘクタール、1985年(昭和60年)には 232万ヘクタールに減少、生産量も1967年(昭和42年)の 1426万トンをピークに、1975年(昭和50年)には 1309万トン、1985年(昭和60年)には 1161万トンに減少した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 49,
"tag": "p",
"text": "生産は減少したものの、米離れに歯止めがかからず、政府備蓄米などに古米、古古米の不良在庫が多く発生。米の消費拡大のために、それまで主食はパンだけであった学校給食に米飯や米の加工品がとりいれられるようになったり、古米をアフリカなどの政府援助に使用したり、その他家畜の飼料にしたりして処分するなど、在庫調整に腐心するようになった。そのような状況の下、流通面においては、縁故米の拡大から自主流通米の承認などにより、食糧管理制度の逸脱を認めるようになった。しかしながら、根本的解決には至らなかったため、食管赤字は収束せず、生産者米価よりも消費者米価が安い逆ザヤだったため、歳入が不足し赤字(食管赤字)が拡大、1980年代には、国鉄、健康保険とともに、日本政府の巨額赤字を構成する「3K赤字」と呼ばれるようになり、行政改革における重要なテーマとなった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 50,
"tag": "p",
"text": "供給においても、1983年(昭和58年)の不作時には、政府が放出しようとした1978年(昭和53年)度産の超古米に規定以上の臭素が検出され安全性に問題があるとされたため、翌1984年(昭和59年)に韓国から米15万トンの緊急輸入が行われたり、1993年(平成5年)の全国的な米の不作による平成の米騒動においては、タイなどから米の緊急輸入が行われるなどした。なお、米の消費量は、ピークの1962年(昭和37年)には、日本人一人あたり年間118.3キログラム消費していたものが、その後一本調子で減少、1990年代後半には、ひと頃の半分の60キログラム台に落ち込んだ。家計支出に占める米類の支払いの割合は、10%強だったものが 1.1 - 1.3% と 1⁄10 になり、米の地位低下が甚だしい。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 51,
"tag": "p",
"text": "一方で1993年(平成5年)、ウルグアイ・ラウンド農業合意により、米の義務的な輸入(ミニマム・アクセス)を課せられるようになり、食糧管理制度は本格的な見直しを迫られた。1995年(平成7年)、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律いわゆる食糧法)が施行され、これに伴い食糧管理法は廃止となり、政府の管理が緩められた。水稲の作付け面積と生産量に関しては、その後も減少し、1995年(平成7年)には作付け面積 211万ヘクタール、生産量 1072万トンに、2000年(平成12年)以降は、作付け面積 170万ヘクタール、生産量 900万トン程度となり、作付け面積は半減、生産量は60%程度を推移している。また、食糧法は、2004年(平成16年)に大幅に改正され、さらに政府の関与度を減らしている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 52,
"tag": "p",
"text": "アジア米の原産地はインドアッサム地方から中国雲南省というものが有力な説であり、15000年前には長江中流域で稲作の形跡が見られるなど世界最古の稲作の歴史を有する。確実に稲作が行われていたとみなされる痕跡は、紀元前7500年頃 - 紀元前6100年頃の新石器時代彭頭山文化に属する彭頭山遺跡や八十壋遺跡において発見されている。日本の稲作もこの地域から伝わったものと考えられている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 53,
"tag": "p",
"text": "伝統的な農業地理の理解では、秦嶺・淮河線以南が稲作地域とされており、水源と土地に恵まれた長江中下流域において盛んであり、ここで生産された米は、大運河などを通じて華北地域まで運ばれ食を担った。元々は、ジャポニカ種であったが、南宋の時代に、インドシナ半島からインディカ種の一種である占城稲が流入すると、旱害に強く早稲種で二期作が可能であるという理由から一気に普及しこの地域での主要なイネの種となった。この時代、「蘇熟すれば天下足る」「江浙熟すれば天下足る」(長江下流域; 蘇・江=ほぼ現在の江蘇省、浙=ほぼ現在の浙江省)と言われ、下って明清代には、稲作の中心が長江中流域である現在の湖南省・湖北省に移り、「湖広熟すれば天下足る」と言われ、国の穀倉として認識されたことがうかがえる。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 54,
"tag": "p",
"text": "一方で、秦嶺・淮河線以北は稲作不適地域と認識されていたが、1900年頃以降の日本の進出に伴い旧満州地域である中国東北部に寒冷に強いジャポニカ種を定着させ、その後の農業技術の発展から、この地域においても稲作が大々的に展開されている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 55,
"tag": "p",
"text": "2000年代後半時点で世界最大の米生産・消費国である。生産は、約7割がインディカ種、約3割がジャポニカ種となっている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 56,
"tag": "p",
"text": "インディカ種に比べジャポニカ種は手間がかかり高価であるが経済発展による所得向上からジャポニカ種の消費増加傾向のほか、地方都市間の人口移動による新たな消費層の発生などを背景に、中国の米消費量は増加傾向にある。一方で、1990年代後半に豊作だったことから作付け面積が減少、中国政府は2004年に援助政策に乗り出している。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 57,
"tag": "p",
"text": "中国政府は寒冷地への稲作拡大だけでなく、収量を増やすための栽培技術や品種改良にも力を入れている。中国工程院の袁隆平らのチームが開発したハイブリッド米(英語版)「湘両優900(超優千号)」は2017年、河北省の試験圃場で1ヘクタール当たり17.2トンと米としては世界最高の収量を記録した。これは日本の平均の3倍近い。翌2018年には18トン超と、記録を更新した。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 58,
"tag": "p",
"text": "一方で、2004年に韓国へ輸出された中国製蒸し米、揚げ菓子などからホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムが検出され、韓国政府が輸入を停止するなど、安全性の問題も発生している。(中国産食品の安全性)",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 59,
"tag": "p",
"text": "アメリカ大陸で米が栽培されるようになったのは西洋人との接触以降のことであり、アメリカ合衆国における稲作の歴史はアジアに比べると短いが、2009年の生産量は1000万トンに達しており、うち440万トンが輸出されている。アメリカ国内での用途としてはそのまま使用するのが56%、加工用が18%、酒造用が12.2%、ペット用が12%などとなっている。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 60,
"tag": "p",
"text": "アメリカ合衆国における米の産地は南東部のルイジアナ州、ミズーリ州、ミシシッピ州、アーカンソー州、テキサス州、フロリダ州、および南西部カリフォルニア州のサクラメント・バレーがある。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 61,
"tag": "p",
"text": "すでに17世紀はじめに今のバージニア州でイネの栽培が始まっていたが、1694年にマダガスカルから稲作がサウスカロライナ州にもたらされ、南部諸州に広まった。これらの土地で栽培されたのはバスマティライスやジャスミンライスに代表されるアミロースの多い長粒種のインディカ米だった。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 62,
"tag": "p",
"text": "一方カリフォルニアでは19世紀後半に鉱山や鉄道建設の労働者として中国や日本からの移民が増加して米の需要が発生したが、長粒種の栽培には成功しなかった。1908年にW.W. Mackieという土壌学者がサクラメント・バレーのビッグズで日本のイネの栽培にはじめて成功し、1912年にビッグズにはカリフォルニア米の試験場が作られた。カリフォルニア米はアメリカ合衆国の他の地域の米と異なり、短粒種または中粒種のジャポニカ米が大部分を占めている。カリフォルニアで公式に認められている品種は17種類があるが、中粒種のカルローズ、短粒種のコシヒカリとあきたこまちがもっとも成功している(アメリカ合衆国では米粒の長さが幅の2倍未満のものを短粒種、2倍以上4倍未満を中粒種、4倍以上を長粒種と定義している)。中でも1948年に開発されたカルローズはカリフォルニア米全体の85%以上を占める。一方、国府田敬三郎の農場では、カルローズ開発者のひとりであるヒューズ・ウィリアムズを雇用し、1950年代にカルローズを中東のイネと交配してKR55という品質の高い中粒種 (premium medium grain) を開発し、国宝ローズの名で販売した。同じ品種はJFC (JFC International) の「錦」にも使われている。",
"title": "歴史"
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{
"paragraph_id": 63,
"tag": "p",
"text": "クリミアでは、コメが60万トン程度が生産された。",
"title": "歴史"
},
{
"paragraph_id": 64,
"tag": "p",
"text": "米は、世界中で食用されている。利用例は、以下の通り。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 65,
"tag": "p",
"text": "イネ科の植物の小穂の種子(穎果)をそのまま食用とはせずに、精製を行って食用とするのが基本である。米においても精製のプロセスを経て食用とし(一般にこの作業を調製という)、それらは一般に以下のとおり。穎果は1粒が小さく、それら1つ1つに調製を行う必要があるため、効率よく調製するための技術開発は太古から行われてきた。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 66,
"tag": "p",
"text": "イネ科の果実である穎果は厚い外皮(籾)に覆われており、脱穀によりまずこの籾殻を除去する。除去した米の場合は「玄米」と呼ばれ、胚乳(92%)、胚芽(3%)、果皮(5%)から成っている。麦に比べて吸水性が良いため、麦のように粉状にせずに粒米のまま食用にするが、さらに胚乳のデンプン質を加熱により糊化することで栄養価は高くなる。しかし、果皮によって加熱が不良になりやすいため果皮も除去する必要がある。玄米の表面を覆う糠層(ぬかそう、主として果皮と糊粉層)を取り去ることを精白(精米、搗精〈とうせい〉)という。糠層も胚芽も取り去った米を白米(精白米、精米)といい、糠を除去したものを精米や白米という。このとき糠と同時に胚芽も除かれてしまうため、栄養バランスは逆に悪くなる。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 67,
"tag": "p",
"text": "古くは丈夫な臼に玄米を入れ、上から杵で叩くようにして糠を取り除いていた。日本ではこの作業を「搗(つ)く」「舂(つ)く」、白米にすることを「毇(しら)ぐ」「研ぐ」と言い、得られた精米を「舂米(つきしね、しょうまい)」と言った。古代日本では朝廷や豪族が部民(専門の職業集団)として「舂米部(つきしねべ)」を置いていた。得られた精米の後の臼には糠とともに粒食に適さないさらに小さい米や割れた米、粉が残ったが、これらも水や他の食材と合わせて調理することで食用とした。日本ではいわゆる「搗き餅」とは異なる餅として独自の発展を遂げている。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 68,
"tag": "p",
"text": "精白などの加工による分類。玄米及び精米品質表示基準では、玄米、精米、胚芽精米に分けられている。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 69,
"tag": "p",
"text": "米の主成分はデンプンで、活動のエネルギー源となる栄養素である。少量ながらタンパク質も含まれており、胚芽やぬかにはビタミンB群やミネラル、食物繊維が含まれる。精白米よりも胚芽やぬか層を残した玄米のほうが栄養や食物繊維が豊富になり、食品成分表(可食部100 gあたり)によれば、カリウムは約3倍、カルシウムは約2倍、ビタミンB1・ビタミンB6は8 - 10倍、食物繊維は約4倍多く含まれる。ある程度冷やした場合は、レジスタントスターチによる整腸作用が働くようになる。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 70,
"tag": "p",
"text": "米は主に水分を加えて加熱調理する。東アジアでは一般に水だけで調理するが、マレーシア、インドネシアなどの東南アジアではココナッツミルクを加えることが多く、また、地中海地方など米が常食ではない地域では、肉や魚のストックやバター、スパイスなど水以外の何かを加えることが多い。広く主食用とされ飯にされるのは、粳米の白米であり、玄米や胚芽米の飯を主食とすることは、あまり多くない。調理するときに糠を砥ぎ落とすことを洗米という。短粒種の白米は、日本などでは、ぬかを洗い流した(洗米とか「米を研ぐ」という)のち、調理する。粳米は炊いて飯とし、糯米は蒸して強飯(こわいい)としたり、餅として供される。中国などでは、粳米を蒸す場合もある。インドでは多量の水でコメを煮て、概ね火が通ったところで余分な水を捨てて蒸し煮にする。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 71,
"tag": "p",
"text": "米を炊くことを炊飯(すいはん)、あるいは炊爨(すいさん)という。「蒸し飯」を、お強(おこわ)、あるいは強飯(こわいい)とも呼ぶ。これは、蒸した飯が炊いた飯よりも「こわい」(「硬い」の古い言い方)ことに由来する。 長粒種の粳米は、煮る(湯取)事が多い。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 72,
"tag": "p",
"text": "古くから、飯を乾燥させたものを「干し飯」(ほしいい)、あるいは「糒」(ほしい)といい、携帯保存食として用いた。現在では、この干し飯と同じ物をアルファ化米(加水加熱して糊化(アルファ化)させた米)といい、同じく携帯保存食や非常食などとして用いる。干し飯に似た食材は日本以外にも見られ、南アジアではポハやチウラと呼ばれる潰してから乾燥させた加工米も食されている。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 73,
"tag": "p",
"text": "飯として炊くときよりも多目の水を加えて、米を煮た料理を粥という。この時に加える水の量により、全粥(米1に対して水5から6)、七分粥、五分粥、三分粥(米1に対して水15から20)などと呼ばれる。また、粥から固形の米粒を除いた糊状の水を重湯(おもゆ)と呼び、病人食や乳児の離乳食に用いられる。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 74,
"tag": "p",
"text": "栄養分をそぎ落とさないように、胚芽部分を残した胚芽米や分搗き米、玄米をそのまま炊いて食べる場合もある。最近では発芽玄米も食べられている。胚芽部分には脚気を予防するビタミンB1が豊富に含まれる。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 75,
"tag": "p",
"text": "籾殻を取る前に、水に長くつけ、蒸し上げてから籾摺りをしたものを用いる地域もある。タイ、マレーシア、シンガポールなどの国のほか、日本では和歌山県などでこの習慣があった。干し飯のように、熱い湯や茶をかけて軟らかくすることができるほか、炒って食べる場合もある。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 76,
"tag": "p",
"text": "黒米や赤米は、白米に混ぜて炊くことが多い。研いだ白米に対して3〜10%程度(好みに合わせて分量を調節)を洗わないでそのまま入れて炊く。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 77,
"tag": "p",
"text": "餅(もち)については、「餅」の項目を参照。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 78,
"tag": "p",
"text": "米の調理には次のようなものが利用される(汎用加熱器具を除く): 甑、釜、鍋、電気炊飯器・ガス炊飯器、蒸篭。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 79,
"tag": "p",
"text": "東南アジアを中心として粉食も一般的で、ライスヌードル(麺類)としても広く食用にされる。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 80,
"tag": "p",
"text": "米をアルコール発酵させて日本酒をはじめとする醸造酒(ライスワイン)が広く作られている他、焼酎などの蒸留酒においても、単独又は他の原材料と混合したもろみとして原料となっている。",
"title": "米の利用"
},
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"tag": "p",
"text": "米を牛乳で煮込んだプディングは、東は南アジアから西は西ヨーロッパまで広く見られるデザートである。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 82,
"tag": "p",
"text": "例えばドイツでは(主食料理扱いだが)ミルヒライスといい、英語圏ではライスプディング、フランス語圏ではリオレ、スペイン語圏ではアロス・コン・レチェまたはアロス・デ・クレマと呼ばれる。インドにはキール、トルコにはストラッチと呼ばれるミルク・ライス・プディングがある。トルコのムハッレビは米粉と牛乳のプディングである。ブラン・マンジェも米粉で作ることがある。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 83,
"tag": "p",
"text": "東南アジアでは、米をマンゴー、ささげ、緑豆、里芋、スイートコーンなどと煮込んだ粥状のデザートがあり、ココナッツミルクをかけて食べる。ベトナムには、バインコムという、もち米の青い未熟米と緑豆餡から作る餅菓子がある。また、タイには、カオマオ・トードというバナナともち米の青い未熟米とココナッツを使った揚げ菓子があり、カオニャオ・マムアンという砂糖入りココナツミルクで炊いた(カットしたマンゴーも添えた)デザートもある。",
"title": "米の利用"
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"paragraph_id": 84,
"tag": "p",
"text": "日本には、餅米を蒸して搗いた餅菓子、白玉団子、ういろう(小麦粉、ワラビでんぷんで作った物もある)、ぼたもち、あくまき、きりせんしょ、ゆべしなどがある。軽羹のようにうるち米を米粉にして用いるものもある。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 85,
"tag": "p",
"text": "中国や朝鮮半島には、薬食のように餅米を蒸した菓子や芝麻球やシルトックなど上新粉や白玉粉から作る餅菓子がある。インドのモーダカは米粉の生地でココナッツと黒砂糖のフィリングを包んだ菓子である。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 86,
"tag": "p",
"text": "ロシアでは、一口大にカットしたキウイフルーツや苺やバナナを潰しご飯でロールし、練乳やココナッツパウダーやストロベリーソースでトッピングした巻き寿司風デザート「スイートロール」が人気を博しており、同国内の寿司業界にて普及が広まっている。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 87,
"tag": "p",
"text": "空手挌闘家アンディ・フグは生前、日本滞在中に自ら考案したストロベリーヨーグルト練り掻き混ぜ米飯(バナナをトッピング)をとても気に入り、頻繁に作っては喜んで食べていたというエピソードがある。",
"title": "米の利用"
},
{
"paragraph_id": 88,
"tag": "p",
"text": "主にジャガイモやサツマイモ、小麦粉などを原材料として、米の形に成形した物。第二次世界大戦中の食糧難の日本で代用食として開発された。これらの材料を加熱して潰して小さな粒状にして、それを核として、表面にデンプンをまぶして蒸す工程を数回繰り返し、米状の大きさになったら、乾燥させて水分含有量を減らして保存可能にする。食べる時は普通に炊く。製法や形状は粒状のパスタである「クスクス」に類似している。",
"title": "偽米"
},
{
"paragraph_id": 89,
"tag": "p",
"text": "戦後の食糧難の時代には政府も生産を奨励したが、その後食糧事情が好転したこともあり、また、製造に非常に手間と時間がかかることと、食味の違い、すなわち所詮は代用食なため、昭和29年をピークに急速に姿を消し、本物の米が余っている現在の日本では作られていない。",
"title": "偽米"
},
{
"paragraph_id": 90,
"tag": "p",
"text": "現在食糧難の北朝鮮でも代用食として、トウモロコシやサツマイモやジャガイモから偽米が開発・製造されていると言われている。",
"title": "偽米"
},
{
"paragraph_id": 91,
"tag": "p",
"text": "こうした米不足による代用品とは異なり、ダイエットや炭水化物の摂取量を抑えるために、野菜やしらたき、おからなどを加工して米飯に近い食べ応えを得ようとする食品・料理が現代日本にある。",
"title": "偽米"
},
{
"paragraph_id": 92,
"tag": "p",
"text": "日本文化においては、単なる食糧品に止まらず、古神道や神道における稲作信仰に起因する霊的価値を有する穀物である。地鎮祭や上棟式、農林水産の職業的神事、また日本各地の祭りで、御神酒や塩などとならび供物として奉納される。天皇が五穀(中心となるものはコメ)の収穫を祝う新嘗祭(「勤労感謝の日」として国民の祝日となっている)は宮中における最も重要な祭祀であり、天皇即位後最初の新嘗祭である大嘗祭は、実質的な践祚の儀式と認識されている。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 93,
"tag": "p",
"text": "「米」の字を分解すると八十八とも読めることから、付会して八十八行程を経て作られる、八十八の神が宿る、また「八十八人の働きを経て、はじめて米は食卓にのぼるのであるから、食事のたび感謝反省しなくてはならない」など、道徳教育のための様々の訓話が構成された。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 94,
"tag": "p",
"text": "日本のみならず、東アジアにおいてはイネを精霊の宿る神聖な作物とみなし、これに不敬な行為を行うと食物より滋養は得られず、また田畑に蒔いても凶作を呼ぶと言い伝えられている。伏見稲荷大社では、秦の長者が餅を的にして矢を射たところ、餅が白い鳥となって飛び山峰にとまったため、彼が鳥をイネの精霊と気づいてそこに神社を建てこれを祭ったことが起源とされている。なお、異説では精霊を祭った秦の長者には不毛は訪れなかったが、ただ餅を射ただけの富裕者は天罰を受け没落したともいわれる。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 95,
"tag": "p",
"text": "米が貴重だった昔、黒瀧寺(徳島県)周辺には「米養生」という習慣があった。重病人の枕元で、生米を竹筒に入れて振った音を聞かせると治るという俗信である。",
"title": "文化"
},
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"paragraph_id": 96,
"tag": "p",
"text": "沖縄県では、お中元またはお歳暮に真空パックされたお米を親戚へ渡す風習がある。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 97,
"tag": "p",
"text": "古くはイネ科の植物の穀物について広く「米」という単語が用いられていた。古来、稲が生産されていなかった華北(漢字発祥の地)では、長くアワ(粟)に対して用いられていた。中国後漢の許慎が著した漢字の解説書『説文解字』において、「米...粟實也。象禾實之形」(禾=粟)と書かれ、米即ちアワの実であると解説されている。現在の中国語では、イネ科の植物にとどまらず、米粒のような形状をしたものも米と呼ぶ例が多い。例えば、「海米、蝦米」は干した剥きエビ、「茶米」は烏龍茶などの粒状の茶葉などを指す。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 98,
"tag": "p",
"text": "「米」という漢字自体は籾が四方に散った様子を描いた象形文字である。しかし、この字形から「八十八」と分解できると見立てて米寿などの言葉に利用されている。また、日本では水稲を作る際の手間の多さを「籾から育てて食べられる様にするまでに八十八の手間がかかる」とたとえられている。また、「八木」と分解することも可能であることから、「八木(はちぼく/はちもく)」が米の異称として用いられた。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 99,
"tag": "p",
"text": "『岩波 古語辞典』は、「うるしね」(「しね」は“稲”の意の古語)の項で、“米”を表す日本語「うる(ち)」(粳)、マレー語 'bəras',アミ語 'fərats'; 'vərats',古代ペルシア語 'vrīzi',古典ギリシャ語 'oryza',イタリア語 'riso',英語 'rice' などを、すべてサンスクリット 'vrīhih' にさかのぼるものとしている。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 100,
"tag": "p",
"text": "なお、新聞やテレビのニュースにおいては、米国(アメリカ)の略である「米(べい)」との混同を避けるため、「コメ」とカタカナで表記するのが一般的になっている。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 101,
"tag": "p",
"text": "神社や祝詞では、白米を和稲(にぎしね)。玄米を荒稲(あらしね)と呼ぶことがある。",
"title": "文化"
},
{
"paragraph_id": 102,
"tag": "p",
"text": "大相撲の隠語で、お金のこと。相撲部屋において将来有望な力士を「米びつ」ともいう。",
"title": "文化"
}
] | 米(こめ)は、稲の果実である籾から外皮を取り去った粒状の穀物である。穀物の一種として米穀(べいこく)とも呼ぶ。食用とする場合、系統や品種の性質によっては調理法が異なるため注意が必要(イネの系統と米、および、種類を参照)。 日本では主食の一つであり、日本語では「稲」「米」「飯」といった、植物としての全体と実、収穫前と収穫後さらに調理前と後などにより使い分けられる多様な語彙がある。日本を含む東アジアおよび東南アジア、南アジア以外では一般的に主食として特別視することが希薄であり、こうした区別がない言語が多数ある。例えば英語圏では全てriceという同一の単語で扱われる(反対に、日本では「大麦」「小麦」「エン麦」などが余り区別されず「麦」という総称で言われる)。また、日本語で「飯」は食事全般も指すため、「朝御飯はパンを食べた」という表現も普通に使われる。 | {{Otheruses}}
[[ファイル:Leiden University Library - Seikei Zusetsu vol. 15, page 022 - 両穂稲 - Oryza sativa L., 1804.jpg|サムネイル|江戸時代の農業百科事典『[[成形図説]]』のイラスト(1804年)|359x359ピクセル]]
'''米'''(こめ)は、[[イネ|稲]]の[[果実]]である[[籾]]から外皮を取り去った粒状の[[穀物]]である。穀物の一種として'''米穀'''(べいこく)とも呼ぶ。食用とする場合、系統や品種の性質によっては調理法が異なるため注意が必要(イネの系統と米、および、種類を参照)。
[[日本]]では[[主食]]の一つであり<ref>[https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0008/02.html 日本人はなぜお米を主食としているのですか。] 農林水産省(2020年12月20日閲覧)</ref>、[[日本語]]では「[[イネ|稲]]」「米」「[[飯]]」といった、[[植物]]としての全体と実、収穫前と収穫後さらに調理前と後などにより使い分けられる多様な語彙がある。日本を含む[[東アジア]]および[[東南アジア]]、[[南アジア]]以外では一般的に主食として特別視することが希薄であり、こうした区別がない言語が多数ある。例えば[[英語圏]]では全て{{Lang|en|rice}}という同一の単語で扱われる(反対に、日本では「大麦」「小麦」「エン麦」などが余り区別されず「麦」という総称で言われる)。また、日本語で「飯」は食事全般も指すため、「朝御飯はパンを食べた」という表現も普通に使われる。
[[ファイル:Hinohikari hulled.jpg|240px|thumb|短粒種の玄米]]
[[ファイル:US long grain rice.jpg|240px|thumb|成熟期の[[イネ]]([[インディカ米|長粒種]])]]
[[ファイル:Rice Animation.gif|thumb|240px|
{| class="wikitable"
!|| 形態 ||||||部位名
|-
|A || [[籾]] || || (1) ||[[籾殻]]
|-
|B || [[玄米]] || || (2) ||[[糠]]
|-
|C || 胚芽米 || || (3) ||残留糠
|-
|D || [[白米]] || || (4) ||[[胚芽]]
|-
|E || [[無洗米]] || || (5) ||[[胚乳]]
|}]]
== イネの系統と米 ==
[[ファイル:Rice diversity.jpg|thumb|[[国際稲研究所]](IRRI)による米の種子の収集|360x360ピクセル]]
[[イネ科]]植物にはイネのほかにも、[[コムギ]]、[[オオムギ]]、[[トウモロコシ]]など、人間にとって重要な食用作物が含まれる。イネはトウモロコシ、コムギとともに[[世界三大穀物]]と呼ばれている<ref name="saishin_p105">[[生物系特定産業技術研究支援センター|農業・生物系特定産業技術研究機構]]編『最新農業技術事典』([[農山漁村文化協会]]、2006年)p.105</ref>。
イネ科イネ属の植物には22種が知られている<ref name="saishin_p105"/>。このうち野生イネが20種で栽培イネは2種のみである<ref name="saishin_p105"/>。栽培イネは大きく'''アジアイネ'''(アジア種、サティバ種、''Oryza sativa'' L.)と'''[[アフリカイネ]]'''(アフリカ種、グラベリマ種、''Oryza glaberrima'' Steud.)に分けられる<ref name="saishin_p105"/><ref name="sakumotsu_p218">日本作物学会編『作物学用語事典』(農山漁村文化協会、2010年)p.218</ref><ref name="ryouri_p307">『料理食材大事典』([[主婦の友社]]、2006年)p.307</ref>。また、両者の[[種 (分類学)|種間]][[雑種]]から育成された[[ネリカ]]がある。
=== アジアイネと系統 ===
イネは狭義にはアジアイネ (''Oryza sativa'') を指す<ref name="sakumotsu_p218"/>。アジアイネにはジャポニカ種とインディカ種の2つの系統があり<ref name="sakumotsu_p218"/>、これらの両者の交雑によって生じた中間的な品種群が数多く存在する<ref name="sakumotsu_p218"/>。アジアイネ(アジア種、サティバ種)の米は、'''[[ジャポニカ米|ジャポニカ種]]'''(日本型米、ジャポニカ・タイプ)、'''[[インディカ種]]'''(インド型米、インディカ・タイプ)、そして、その中間の'''[[ジャバニカ種]]'''(ジャワ型米、ジャバニカ・タイプ)に分類されている<ref name="ryouri_p307"/><ref name="maruzen_p411">『丸善食品総合辞典』([[丸善]]、1998年)p.411</ref>。それぞれの米には次のような特徴がある。
; ジャポニカ種(日本型、短粒種、短粒米)
: 粒形は丸みがある円粒で、加熱時の粘弾性(粘り)が高い<ref name="saishin_p105"/><ref name="nihon_p11">杉田浩一編『日本食品大事典』(医歯薬出版、2008年)p.11</ref>。[[日本]]での生産は、ほぼ全量がジャポニカ種で、炊いたときに粘りともちもち感があるのが特徴{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。主な調理法は、炊くか蒸す。他種に比べ格段の耐寒冷特性を示し、日本の他では[[朝鮮半島]]や[[中国東北部]]で生産されている。
; インディカ種(インド型、長粒種、長粒米)
: 粒形は細長い長粒で、加熱時の粘弾性(粘り)は低い<ref name="nihon_p11"/>。「タイ米」ともよばれ、炊くとパラパラした米飯になる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。世界的にはジャポニカ種よりもインディカ種の生産量が多い。主な調理法は煮る([[飯#炊飯法|湯取]])。
: 日本のジャポニカ種は中国大陸江南から伝搬したと言う説が有力であるが、江南地域自体は、10世紀頃に[[インドシナ半島]]を経由して流入したインディカ種の一種である[[占城稲]]([[チャンパ王国|チャンパ]]米)が、[[旱害]]に強く、早稲種で[[二期作]]が容易などの理由から普及し、江南をはじめとした中国大陸南部はインディカ種の生産地域となっている。
; ジャバニカ種(ジャワ型、大粒種)
: 長さと幅ともに大きい大粒であり、粘りはインディカ種に近い。東南アジア島嶼部で主に生産されるほか、[[イタリア]]、[[ブラジル]]などでも生産される。
なお、日本型とインド型に分類した上で、このうちの日本型を[[温帯]]日本型と[[熱帯]]日本型(ジャバニカ種)として分類する場合もある<ref name="saishin_p105"/><ref name="nihon_p9">杉田浩一編『日本食品大事典』(医歯薬出版、2008年)p.9</ref>。
=== 品種・銘柄 ===
日本においては、'''農産物規格規程'''に、品位の[[規格]]と、「[[産地品種銘柄]]」として[[都道府県]]毎に幾つかの稲の品種が予め定められている。[[玄米]]は、[[米穀検査]]で、品位の規格に合格すると、その品種と産地と産年の証明を受ける。[[輸入品]]は[[輸出]]国による証明を受ける。
日本国内での[[米の銘柄]](品種)の包装への表示は、'''玄米及び精米品質表示基準'''に定められている。
* 原料玄米の産地、品種、産年が同一で証明を受けている単一銘柄米は、それらと、「使用割合100%」を表示''する''。
* ブレンド米は「複数原料米」などと表示し、原産国毎に使用割合を表示し(日本産は国内産と表示)、証明を受けている原料玄米について、使用割合の多い順に、産地、品種、産年、使用割合を表示''できる''。
証明を受けていない原料玄米については「未検査米」などと表示し、品種を表示できない。情報公開より偽装防止を優先しているともいえる。
主食である日本では、米の生産・販売に関する規制が緩和され、各地域が食味や栽培しやすさを改善した品種の開発と販売に力を入れる「ブランド米」競争が激しくなっている。日本の米品種は800を超える<ref>[https://www.sankei.com/article/20191219-EFCCFSVV7ZMA3BTVC6RL7H5TN4/ 銘柄800超 激化する「ブランド米」競争を勝ち抜くためには…][[産経新聞]]ニュース(2019年12月19日)2020年12月20日閲覧</ref>。
== 種類 ==
[[ファイル:Indonesian rice vendor.JPG|thumb|[[インドネシア]]の米屋に並ぶ多種多様のコメ|240x240ピクセル]]
米は各種の観点から以下のように分類される。
なお、日本では農産物検査法による公示の『農産物規格規程』や、[[日本農林規格等に関する法律|JAS法]]に基づいた告示の「玄米及び精米品質表示基準」<ref>{{PDFlink|[http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/quality_labelling_standard/pdf/0701kijun1.pdf 玄米及び精米品質表示基準(最終改正 平成23年7月1日消費者庁告示第 6号)]}}</ref>に一定の定めがある。
=== 水稲と陸稲 ===
[[水田]]で栽培するイネを'''水稲'''(すいとう)、耐旱性や耐病性が強く[[畑]]地で栽培するイネを'''[[陸稲]]'''(りくとう、おかぼ)という<ref name="maruzen_p411"/><ref name="nihon_p11"/>。水稲と陸稲は性質に違いがあるが、同じ種の連続的な変異と考えられている。
一般的に圃場の整備については水稲の方がコストがかかる一方で、面積当たりの収量が多く、[[連作障害]]が殆ど無い<ref>黒田治之「[https://doi.org/10.11402/cookeryscience1995.32.2_151 わが国果樹栽培技術の課題と展望]」『日本調理科学会誌』1999年 32巻 2号 p.151-160, {{DOI|10.11402/cookeryscience1995.32.2_151}}</ref>などのメリットと、全国的に水田整備が行き渡ったことから、現在、日本の[[稲作]]では、ほとんどが水稲である。水稲の収穫量は798万6000[[トン|t]]で陸稲の収穫量は2700t(2015年見込み)おおよそ水稲は陸稲の2957倍となっている。また、栽培面積においても水稲が99.9%以上を占めている。
日本では水稲と陸稲の区分は農産物規格規程においても規定されている。日本では水稲と陸稲は明確に区別されているが、他の国では明確には区別されていない<ref name="saishin_p105"/>(世界的に見ると水稲といっても[[灌漑]]稲、天水稲、深水稲、浮稲のように栽培の環境は大きく異なっている<ref name="sakumotsu_p220">日本作物学会編『作物学用語事典』(農山漁村文化協会、2010年)p.220</ref>)。
=== 粳米と糯米 ===
米のぬか層を除いた中心部分(胚乳)の[[デンプン]]の性質(糯粳性)の違いにより、[[粳|粳性]]のものを粳種あるいは粳米(うるちまい、うるごめ、あるいは単に粳〈うるち、うる〉)、[[糯|糯性]]のものを糯種あるいは[[もち米|糯米]](もちまい、もちごめ)に分けられる<ref name="maruzen_p411"/><ref name="nihon_p9"/>{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。
日本では玄米及び精米品質表示基準で、「うるち」と「もち」に分けられている。
; 粳米(うるちまい)
: デンプン分子が直鎖の[[アミロース]]約20%と分枝鎖の[[アミロペクチン]]約80%から成る米。もち米より粘り気が少ない<ref name="ryouri_p307"/>。粳米は通常の米飯に用いられる。販売で「うるち」を省略されることが認められていて、「もち」と断りが無ければ「うるち」である。団子などの材料とする上新粉は、粳米を粉末に加工したものである。
; [[糯米]](もちごめ)
: デンプンにアミロースを含まず、アミロペクチンだけが含まれる米<ref name="日経MJ20201213">パラパラのコメ あえて開発:福井や秋田で「高アミロース米」洋食に照準/「血糖値抑制」うたう『[[日経MJ]]』2020年12月13日(フード面)</ref><ref>平成18年11月 農林水産省総合食料局総務課発行資料より。</ref>。モチ性の品種のデンプンは調理時に強い[[粘性]]を生じるという特性を持つ<ref name="saishin_p1126">農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』(農山漁村文化協会、2006年)p.1126</ref>。透明感がない乳白色が特徴で、[[餅]]{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}や[[おこわ|強飯]]・赤飯に用いられる。[[白玉]]の材料とする白玉粉や[[和菓子]]の材料とする[[寒梅粉]]は、糯米を粉末に加工したものである。
アジアイネではジャポニカ種だけでなくインディカ種にも糯米が存在するが<ref name="ryouri_p307"/>、アフリカイネについては糯性のものは知られていない<ref name="sakumotsu_p218"/>。
日本では、餅以外の「ご飯」ではアミロースが少なく、粘りや甘みがある米の品種が好まれてきた。現代ではパラパラした[[食感]]に炊き上がる高アミロース米が開発されている([[秋田県]]の「あきたぱらり」、[[福井県]]の「[[越前|越]]の[[リゾット]]」など)。[[チャーハン]]や[[パエリア]]に向くほか、一般的にアミロース含有率が高いほど食後の[[血糖値]]上昇が緩やかになることなどが理由である<ref name="日経MJ20201213"/>。
なお、糯粳性のある植物としては、イネのほか、トウモロコシ、オオムギ、[[アワ]]、[[キビ]]、[[モロコシ]]、[[アマランサス]]などがある<ref name="saishin_p1525">農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』(農山漁村文化協会、2006年)p.1525年</ref>。
=== 軟質米と硬質米 ===
米は軟質米と硬質米に分けられる<ref name="nihon_p11"/>。軟質米は食味の点で優れるが貯蔵性の点では劣る<ref name="nihon_p11"/>。
=== 飯用米と酒造米 ===
醸造用の酒造米(酒造用米、[[酒米]])は飯用米と区分される<ref name="nihon_p11"/><ref name="nihon_p9"/>。農産物規格規程には、「うるち」と「もち」に加えて[[醸造]]用が定められている。[[酒造]]が[[酒税法]]で[[規制]]されている為、個人用には売られていない。
=== 新米と古米 ===
米は新米と古米と区分される<ref name="nihon_p11"/>。「[[新米と古米]]」を参照。
=== 有色米 ===
[[黒米]]、[[赤米]]、[[緑米]]などを総称して有色米という<ref name="ryouri_p307"/>。野生種に近い米である<ref name="ryouri_p307"/>。古代から栽培していた品種あるいは古代の野生種の形質を残した品種の総称として[[古代米]]と呼ばれることもある。[[ブータン]]では赤米の一種である[[ブータン赤米]]が主食として広く食されている。
また、米ではなく葉や茎、穂が緑以外の色(紫、黄、赤等)に染まる[[稲]]を指して有色米という場合もあるが、穂などが着色するからといって必ずしも玄米が着色するわけではない。例えば「紫の君」は玄米は黒米となるが葉色は緑である。そのような稲の活用事例として有名なものに[[青森県]][[田舎館村]]が1993年より[[村おこし]]で、異なる稲を植え分けて絵を描く[[田んぼアート]]を行なっている。また、それらの品種をさらに改良した観賞用稲の開発が[[青森県]]や[[秋田県]]で行われている。
* '''[[赤米]]'''(あかまい) - 日本の米のルーツといわれ、「古代米」ともいわれ、白米よりもビタミンが豊富{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。炊飯するときは、白米を少し混ぜて長めに浸水してから炊く{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。
* '''[[黒米]]'''(くろまい) - [[アントシアニン]]色素を含んでいるのが特徴で、白米よりもビタミンやミネラルが豊富{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。炊飯するときは、白米を少し混ぜて長めに浸水してから炊く{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。
=== 香り米 ===
強い香りを持つ品種を[[香り米]]という。東南アジア、南アジア、[[西アジア]]など、地域によっては香りの少ない品種よりも好まれる。[[インド]]の[[バスマティ]]などが有名。
日本でも[[北海道]]、[[宮城県]]、[[高知県]]、[[鳥取県]]、[[宮崎県]]など各地で独自に香り米を作っていて、生産は増加傾向にある。
== 生産と流通 ==
=== 米の生産 ===
{| class="wikitable" style="float:right; clear:left"
! colspan=2|米の生産高 トップ20ヶ国<br>(2017年、百万トン、[[国際連合食糧農業機関|FAO]]統計)<ref>{{Cite web |url=http://faostat.fao.org/site/339/default.aspx |title=Countries by commodity (Rice, paddy) |last=fao.org (FAOSTAT) |accessdate=2021-09-07}}</ref>
|-
| {{PRC}} || style="text-align:right"| 212.6
|-
| {{IND}} || style="text-align:right"| 168.5
|-
| {{IDN}} || style="text-align:right"| 81.1
|-
| {{BAN}} || style="text-align:right"| 54.1
|-
| {{VNM}} || style="text-align:right"| 42.8
|-
| {{THA}} || style="text-align:right"| 32.7
|-
| {{flag|Myanmar}}|| style="text-align:right" | 25.6
|-
| {{PHI}} || style="text-align:right"| 19.3
|-
| {{BRA}} || style="text-align:right"| 12.5
|-
| {{PAK}} || style="text-align:right"| 11.2
|-
| {{CAM}} || style="text-align:right"| 10.4
|-
| {{JPN}} || style="text-align:right"| 9.8
|-
| {{USA}} || style="text-align:right"| 8.1
|-
| {{NGR}} || style="text-align:right"| 6.6
|-
| {{KOR}} || style="text-align:right"| 5.3
|-
| {{NEP}} || style="text-align:right"| 5.2
|-
| {{EGY}} || style="text-align:right"| 5.0
|-
| {{LAO}} || style="text-align:right"| 4.0
|-
| {{MAD}} || style="text-align:right"| 3.6
|-
| {{SRI}} || style="text-align:right"| 2.4
|}
年間生産量は7億5674万トンを超える(籾。以下いずれも[[農林水産省]]『海外統計情報』より、「FAOSTAT」の2020年統計<ref>[http://www.toukei.maff.go.jp/world/index.html 農林水産省『海外統計情報』], [https://www.fao.org/faostat/en/#home FAOSTAT]</ref>)。米は[[コムギ|小麦]](年間生産量7億6092万トン)、[[トウモロコシ]](年間生産量約11億6235万トン)とともに世界の三大穀物といわれる。1980年代の生産量は4億5000万トン前後であったため大幅に増産されていることが理解される。
生産量は増加基調だが、在庫量は需要の伸びを背景に2000年をピークに減少している。在庫率は2006年には20%を割り込んだ<ref name="syoku">柴田明夫『食料争奪』[[日本経済新聞出版社]] 2007年</ref>。米の9割近くはアジア圏で生産され、消費される。最大の生産国は[[中国]]で、[[インド]]、[[インドネシア]]が続く。
[[ファイル:RiceYield.png|400px|thumb|left|世界の米の生産量(2000年)]]
{{-}}
==== 日本における生産状況 ====
日本の農業において、米は最重要の農産物であり、農産物全体に占める生産額の割合は、2021年(令和元年)においても農業総産出額8兆8,938億円中1兆7,426億円と19.6%を占め、第2位である肉用牛の7,880億円を大きく引き離す<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/seisan_shotoku/r1_zenkoku/index.html|title=令和元年 農業総産出額及び生産農業所得(全国)|publisher=農林水産省|date=2021-03-12|accessdate=2021-09-04}}</ref>など単一の作目としては最大であり続けている。しかしながら、近年一貫してその比率を落とし、1960年代は50%前後だったものが、現況の割合にまで縮小している。生産額は、1984年([[昭和]]59年)の3兆9,300億円(年間生産量約1180万トン)をピークとして、2014年(平成26年)には1兆4,343億円(年間生産量約844万トン)程度まで減少し<ref group="注釈">その後、価格の安定を受け生産額は、2018年(平成30年)には1兆7,416億円(年間生産量約778万トン)程度まで回復。</ref>、米、野菜(米、果物を除く耕種)、畜産物、果物の分類においては、2000年前後には畜産物に、2005年前後には野菜に抜かれ、日本の産業としての農業における地位は年々低下している<ref>農林水産省『[https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/nougyou_sansyutu/index.html 生産農業所得統計]』等</ref>。
{{-}}
=== 米の貿易 ===
{| class="wikitable" style="float:right; clear:left"
! colspan=4|米の輸出入 トップ10ヶ国<br>(2017年、百万トン、[[国際連合食糧農業機関|FAO]]統計)<ref>{{Cite web |url=http://www.fao.org/faostat/en/#rankings/countries_by_commodity_imports |title=Countries by commodity imports (Rice, paddy) |last=fao.org (FAOSTAT) |accessdate=2021-09-05}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://www.fao.org/faostat/en/#rankings/countries_by_commodity_exports |title=Countries by commodity exports (Rice, paddy) |last=fao.org (FAOSTAT) |accessdate=2021-09-05}}</ref>
|-
! colspan=2|輸出
! colspan=2|輸入
|-
| {{IND}} || style="text-align:right"| 12.0
| {{PRC}} || style="text-align:right"| 3.9
|-
| {{THA}} || style="text-align:right"| 11.6
| {{BEN}} || style="text-align:right"| 1.9
|-
| {{VNM}} || style="text-align:right"| 5.8
| {{BAN}} || style="text-align:right"| 1.6
|-
| {{USA}} || style="text-align:right"| 3.2
| {{CIV}} || style="text-align:right"| 1.3
|-
| {{PAK}} || style="text-align:right"| 3.9
| {{IRN}} || style="text-align:right"| 1.3
|-
| {{PRC}} || style="text-align:right"| 1.2
| {{SAU}} || style="text-align:right"| 1.2
|-
| {{MMR}} || style="text-align:right"| 1.1
| {{ZAF}} || style="text-align:right"| 1.1
|-
| {{URY}} || style="text-align:right"| 1.0
| {{PHL}} || style="text-align:right"| 0.9
|-
| {{ITA}} || style="text-align:right"| 0.7
| {{MEX}} || style="text-align:right"| 0.9
|-
| {{BRA}} || style="text-align:right"| 0.6
| {{IRQ}} || style="text-align:right"| 0.9
|}
米の[[貿易]]量は、増加傾向で推移している。主要な輸出国は[[インド]]、[[タイ王国|タイ]]、[[ベトナム]]、[[アメリカ合衆国]]、[[パキスタン]]で、この5カ国で世界の輸出総量の8割強を占める。一方、輸入国は[[中華人民共和国]]、[[ベナン]]、[[バングラデシュ]]、[[コートジボワール]]、[[イラン]]などで各国100万〜200万トンを輸入しているが、作況により取引量の増減が大きい。
日本に関しては、[[太平洋戦争]]後、米は農業政策の根幹であったため、昭和40年代(1965年 - 1974年)初頭に米の自給が実現できるようになって以降は原則として輸入がなされなかった。が、[[ウルグアイ・ラウンド]]において、[[関税]]化を延期する代償としてコメにおいては他品目よりも厳しい輸入枠([[ミニマム・アクセス]])を受け入れ、1993年(平成5年)以降、年間77万トンの輸入を行っている<ref>農林水産省『{{PDFlink|[http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/syokuryo/180727/attach/re_data3_part9.pdf 食料・農業・農村政策審議会食糧部会 資料(30年7月27日開催)]}}』</ref>。なお、年間3万トン程度の輸出も行っている<ref>農林水産省『[https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/soukatu/kome_yusyutu/kome_yusyutu.html 米の輸出について]』</ref>。
米は他の穀物に比べ、生産量に対して貿易量は少ない(生産量の約7%、なお、小麦は約20%、トウモロコシは約12%が生産量に対する貿易量となっている)。これは、米は基礎食料として国内で消費される傾向が強いため、生産量に占める貿易量の割合が低くなっているためである<ref name="syoku"/>。そのため、小麦やトウモロコシと異なり、国際的な[[商品先物取引]]の対象商品となっていない。[[国際取引指標]]は、タイ国貿易取引委員会 (BOT) の[[#アジアイネと系統|長粒種]]輸出価格。
なお日本国内では、2011年8月8日より[[東京穀物商品取引所]]と[[関西商品取引所]]で「コメ先物」として商品[[先物取引]]の試験上場が開始。2013年2月12日、名称を関西商品取引所から改名した「[[大阪堂島商品取引所]]」が、東京穀物商品取引所閉所に伴い、同所からコメ先物取引(東京コメ)を引き継いだ。なお、現物決済の標準品は、「東京コメ」については[[茨城県]]産、[[栃木県]]産および[[千葉県]]産[[コシヒカリ]]、「大阪コメ」は[[石川県]]産および[[福井県]]産のコシヒカリとなっていた。しかしながら、大阪堂島商品取引所は2021年8月6日、コメ先物取引の本上場への移行が、生産者の参加が大きくは増えておらず生産・流通を円滑にする観点から不十分との理由により農林水産省に認可されなかった旨を発表、すでに成立している取引が終わる2022年6月以降はコメ先物を扱えなくなった<ref>{{Cite news |和書|title=コメ先物が廃止へ 農水省、堂島商取の本上場認めず |newspaper=[[日本経済新聞]] |date=2021-08-06 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF05AKP0V00C21A8000000/ |accessdate=2021-09-04}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210806/k10013184921000.html |title=“姿消す”コメの先物取引 ~背後に何が? |publisher=[[NHK]] |date=2021-08-06 |accessdate=2021-09-04}}</ref>。
=== 日本でのコメ現物取引市場の構想 ===
コメの取引は、生産者やJA、卸・小売業者らの間で行われる相対取引が中心で、広く開かれた市場がないため、公平・透明な価格形成が行われていないと指摘されている<ref name=":6">{{Cite web|和書|title=コメ現物市場が来秋にも開設へ、農水省方針 求められる価格の透明性:朝日新聞デジタル |url=https://www.asahi.com/articles/ASQCT5G6YQCTULFA009.html?iref=ogimage_rek |website=朝日新聞デジタル |date=2022-11-25 |access-date=2023-02-17 |language=ja}}</ref>。今はJAグループが農家から集荷する際に支払う仮払金(「概算金」と呼ばれる)がコメ相場を左右しており、需要が減っても概算金が上がれば取引価格も値上がりするという消費者から見れば納得しにくい相場になっている<ref>{{Cite web|和書|title=コメ現物取引市場、23年秋開設案 「透明な米価」なるか |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB250OU0V21C22A1000000/ |website=日本経済新聞 |date=2022-11-25 |access-date=2023-02-17 |language=ja}}</ref><ref name=":16">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/shokusan/genbutsu_shijo/attach/pdf/index-30.pdf |title=米の現物市場について(報告)(令和5年3月) |access-date=2023-03-25 |publisher=農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部/農産局}}</ref>。コメ先物の上場廃止で価格指標が消滅したが、大規模コメ農家やJA、コメ卸などは価格指標が必要との認識で一致している<ref name=":16" />。このため、自民党が農林水産省に現物市場の創設を求めていた<ref name=":6" />。農林水産省は、「[https://www.maff.go.jp/j/shokusan/genbutsu_shijo/index.html 米の現物市場検討会]」を設置し、需給実態に合った価格指標を提供する現物市場の創設を検討している。2022年3月には、市場の制度設計の取りまとめが行われ、JAなど集荷業者と卸売業者の間の「大口取引」と生産者と卸売業者・実需者の間の「小口取引」の2本立てとする方針が示された<ref name=":6" />。現物市場は買い手と売り手の[[マッチング]]の場となり、代表的な産地・品種・銘柄に関する⾼値帯(最も取引価格が高い価格帯)・中値帯(最も取引量が多い価格帯)・安値帯(中値未満で最も取引量が多い価格帯) 、およびこれらの価格帯に対応した取引量をリアルタイムで公表する<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/shokusan/genbutsu_shijo/attach/pdf/index-27.pdf |title=米の現物市場 制度設計(令和4年3月取りまとめ) |access-date=2023-02-18 |publisher=農林水産省 大臣官房 新事業・食品産業部 商品取引グループ}}</ref><ref name=":7">{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/shokusan/genbutsu_shijo/attach/pdf/index-29.pdf |title=米の現物市場の検討状況について(経過報告)(令和4年11月) |access-date=2023-02-18 |publisher=農林水産省 ⼤⾂官房新事業・⾷品産業部/ 農産局}}</ref>。
農林水産省は、2022年11月25日に開かれた自民党の会合で、コメの現物市場を2023年秋にも開設できるようにする方針を示した<ref name=":6" /><ref name=":7" /><ref name=":8" />。[[公益財団法人]]の「[[流通経済研究所]]」([[東京都]][[千代田区]])が現物市場の開設・運営する意向を示しており、同研究所のマッチングシステム「アグリーチ」を使って農林⽔産物の⽣産者・卸売業者・実需者をマッチングすることを明らかにした<ref name=":6" /><ref name=":7" /><ref name=":8">{{Cite web|和書|title=コメ現物市場、東京の公益財団法人が開設意向 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB24AEL0U2A121C2000000/ |website=日本経済新聞 |date=2022-11-24 |access-date=2023-02-17 |language=ja}}</ref>。
11月29日の閣議後の記者会見で、[[野村哲郎]]農相は、現物市場の消費者への影響を問われ、「売る側と買う側の両者が入っているなかで検討されるので透明性・公平性があり、消費者にとって納得のいく価格に設定されるのではないか」と期待を語った<ref>{{Cite web|和書|title=コメ現物市場、23年秋開始へ農相「需要動向反映に期待」(写真=共同) |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2968Q0Z21C22A1000000/ |website=日本経済新聞 |date=2022-11-29 |access-date=2023-02-17 |language=ja}}</ref>。
農水省は、2023年3月24日に開かれた自民党の総合農林政策調査会・農林部会合同会議でコメの現物市場について報告し、水稲や野菜の栽培を手がける[[農業法人]]の「ぶった農産」([[石川県]][[野々市市]])が新たに開設の意向を示したと発表した<ref name=":16" /><ref name=":17">{{Cite web|和書|title=コメ現物2市場開設へ 23年秋、石川の農業法人も参入 - 日本経済新聞 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2356B0T20C23A3000000/ |website=www.nikkei.com |access-date=2023-03-25}}</ref>。「みらい米市場」を運営する流通経済研究所と「グリーンフードテックマーケット」を運営するぶった農産が、それぞれ具体的な事業運営⽅法や価格指標の公表方法を開⽰した<ref name=":16" /><ref name=":17" />。
=== その他 ===
米の生産(稲作)には病害虫の防除や稲の生長のため、殺菌剤、殺虫剤、除草剤など各種の[[農薬]]が使用される。農薬については玄米中への残留農薬の基準がある。
* プロクロラズ(殺菌剤)
* ヒドロキシィソキサゾール(殺菌剤)<ref>{{PDFlink|[https://web.archive.org/web/20120114100224/http://mitochon.gs.dna.affrc.go.jp:81/csdb/jc/jc43/43531.pdf ヒドロキシ-5-メチルィソキサゾールの作物の生育調節作用に関する研究]}}(2012年1月14日時点の[[インターネットアーカイブ|アーカイブ]])</ref><ref>小川正巳、太田保夫、[https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010081058 3-ヒドロキシ-5-メチルイソキサゾールの作物の生育調節作用に関する研究 第1報] Japanese Journal of Crop Science 42(4), 499-505, 1973-12-30, {{naid|110001727446}}</ref>
* フィプロニル(殺虫剤)
* ベンスルフロンメチル(殺菌剤)
* メフェナセット(除草剤)
* ベンタゾン(除草剤)
* ピロキロン(殺菌剤)
* ジノテフラン(殺虫剤)
* エトフェンプロックス(殺虫剤)
== 歴史 ==
稲は、原産地である中国大陸の中南部から北部、南アジアに、そして日本へと伝わった。[[ムギ|麦]]の一定面積あたり収穫量が1haあたり約3.5tであるのに対して、米は約5tと多く<ref>[https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kagaku/kokudo/03.html 関東農政局HP] </ref>、他地域に比べてアジアの稲作地域での人口増大を可能にした。
=== 日本 ===
[[ファイル:Hokusai01 nihonbashi.jpg|thumb|[[葛飾北斎]]『[[富嶽三十六景]]』に描かれる米の仲買人]]
[[ファイル:Hokusai09 waterwheel.jpg|thumb|葛飾北斎『富嶽三十六景』に描かれる水車の流れ水で米を研ぐ農夫]]
稲作は日本においては、[[縄文時代]]後期から行われ始めたといわれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。これは[[プラント・オパール]]や、[[炭化]]した[[籾]]や米、[[縄文土器]]に残る痕跡などから分かる。大々的に[[イネ|水稲]]栽培が行われ始めたのは、縄文時代晩期から[[弥生時代]]早期にかけてで、各地に[[田|水田]]の遺構が存在する。
弥生期では一粒当たりから生産できる量は400粒ほどだったが<!-- 後述書 p.21 -->(それでも麦が一粒当たり150 - 170粒の生産量であることを考えれば、高い生産量といえる<!-- 後述書 p.21 -->)、[[品種改良]]や水田開発が進んだ現在では一粒当たり2千粒(約5倍)まで生産量が上がっている<ref>[[原田信男]]『和食とはなにか 旨みの文化をさぐる』([[角川ソフィア文庫]]、2014年)p.21</ref>。
米は、食料として重要である一方で、比較的長期に保存ができるという特徴から、[[マダガスカル]]の[[メリナ人]]や[[タイ王国|タイ]]における[[サクディナー]]制など、米食文化においては経済的に特殊な意味を持ち、これは日本でも同様であった。
長らく[[租税]]([[租庸調|租]]・あるいは[[年貢]])として、また、[[石高制]]に代表されるように、ある地域の[[領主]]や、あるいは単に家の勢力を示す指標としても使われた。[[貨幣経済]]が発達すると、それとの調和を図るべく、[[札差]]業が発達、[[米切手]]の発生や[[堂島米会所]]に代表される近代的商品取引システムの生成が見られ、江戸時代には[[政治]][[経済]]の中心に米が置かれていた。そのため日本人の米に対する思い入れは強く、米は最も重要な食べ物とされ、主食とされてきた。[[天皇]]が新米を含む[[五穀]]を神に捧げて収穫に感謝する[[新嘗祭]]のように、[[神道]]など信仰や民俗・文化とも深い関りを持つ(節「[[#文化]]」で詳述)。
しかし、[[社会階級|階級]]や貧富、[[地域]]などによって大きな違いがあり、[[戦後]]の[[高度経済成長]]以前は[[雑穀]]や[[芋]]などを実際の主食にしていた人たちも多く、[[関東地方]]の畑作地帯などでは麦が7割から8割の飯を常食としていた<ref name="shi" />。現在は住宅地になっている[[東京]]の[[杉並区]]では[[大正]]時代から少しずつ[[野菜]]の栽培が増加し、都市近郊の野菜栽培農家に転換したが、それ以前は[[ヒエ|稗]]などの穀物を栽培し、日常食は稗と麦で米は少し入れるだけだった<ref name="zak" />。その一方、[[明治]]の初め[[秋田県]][[県令|権令]][[島義勇]]の政府への報告書のなかに、「県民は山間僻地でも白米を食している……」とあり、[[江戸時代|藩政時代]]から白米の飯を食べている地域もあった。秋田は日本有数の[[穀倉地帯]]であり、雑穀の生産が少ないこともあって、農民に雑穀を食べるよう強要した他の地域とは違い、[[為政者]]の締め付けが然程ではなかったことにもよる<ref name="zak">増田 昭子『雑穀の社会史』([[吉川弘文館]], 2001年, ISBN 4-642-07545-3)40, 46, 79頁</ref>。隣の[[宮城県]]も[[仙台藩]]時代から米の生産が盛んで正月以外にも[[餅]]を食べる習慣があり餅料理が発達した一方、第二次世界大戦前には[[関兵精麦]]が米穀餌料の卸や精麦で多額の利益を得ているなど、麦の需要が多かった地域でもある。これは仙台藩が米を江戸への輸出用([[商品作物|換金作物]])として扱い、庶民は嗜好品として捉えていた名残とされる。なお戦後も麦の需要減少は緩やかであったため、関兵精麦は余力を残したまま不動産業への転換に成功している。[[越後長岡藩]]の[[武士]]によるとされる、[[文化 (元号)|文化]]2年([[1805年]])刊行の『粒粒辛苦録』は、農民のきわめて厳しい食生活を描いている。これに対し、同じ越後長岡藩の[[庄屋]]大平家が[[天保]]6年([[1835年]])に著した『農家年中行事記』は、しばしば行事が催され食物や酒がふるまわれ、[[小作人]]を含めて自由に食を楽しんでいた様子が窺える。
最近、各地域に残された[[古文書|家文書]]の研究が進み、厳しい制限の下に雑穀を中心とした食生活を強いられた貧しい農民像が必ずしも実態を示すものではないとする説も現れた<ref>江原 絢子 他『日本食物史』(吉川弘文館, 2009年, ISBN 978-4-642-08023-1)188-190頁</ref>。農民側の記録を分析したところ近世の農民は、1日に4[[合]]程度の米を[[麦飯]]あるいは雑穀などと[[かて飯]]や[[雑炊]]にした食事を日常的に摂っていたという<ref>有薗正一郎『近世庶民の日常食:百姓は米を食べられなかったか』(海青社、2007年。ISBN 9784860992316)第2章</ref>。
明治以降、日本は急激な人口増加と生活向上に伴って米の需要が高まったが、当時の日本国内の生産力はその需要に対応しきれず不足分を恒常的に輸入する一方で、米も通常の物資と同じく[[市場経済]]に基づき取引されており、相場商品・[[投機]]の対象として流通に不安を来すこともあり、しばしば社会問題となった([[米騒動]]、特に[[1918年米騒動]]参照)。1921年(大正10年)[[米穀法]]が施行され政府備蓄米による価格統制や輸入米の関税統制が行われるようになった。また、1920年代には、[[日本統治時代の朝鮮|植民地化した朝鮮半島]]において、農業近代化による米の増産計画([[朝鮮産米増殖計画]])が実施されるなどした。しかしながら、安定的供給までには至らず、[[1933年]](昭和8年)[[米穀統制法]]、[[1936年]](昭和11年)[[米穀自治管理法]]が施行され、米の生産・流通の統制が強化された。さらに、[[太平洋戦争]]開戦に向けての[[戦時体制]]整備の一環として、[[1939年]](昭和14年)4月に[[米穀配給統制法]]が制定され、米の流通が政府により管理されるようになった。なお、同年9月には戦時の物資不足に鑑み[[興亜奉公日]]が設定され、[[日の丸弁当]]が奨励されたものの白米は禁止されず、この時点ではまだ[[節米運動|米不足]]は酷くはなかった。だが12月には厳しさを増し[[米穀搗精等制限令]]が出され、七分搗き以上の白米を流通に付すことは禁止、1940年(昭和15年)の[[正月]]は餅すら白米は許されなかった。米不足は深刻となり、この年から中国や東南アジアからの輸入米(いわゆる[[インディカ米|外米]])を国産米に混ぜて販売することが義務付けられた。
1940年[[6月1日]]以降は、米を筆頭に[[生活必需品]]10品目について[[配給 (物資)|配給]]切符制が導入<ref>香田徹也「昭和15年(1940年)林政・民有林」『日本近代林政年表 1867-2009』(日本林業調査会 2011年)p420 {{全国書誌番号|22018608}}</ref>。更に、[[真珠湾攻撃|日米開戦]]の2ヶ月後の1942年(昭和17年)2月には[[食糧管理法]]が制定され[[食糧管理制度]]が確立、米の流通は完全に政府が掌握するようになった<ref name="nih" />。米だけでなく、[[魚介類]]や野菜・[[果物]]も[[米穀配給通帳|配給制]]になり、国民の栄養状態は極度に悪化していった。こうした食糧難に対して、江戸時代の[[かてもの]]の研究に帰って、食用[[野草]]や[[昆虫食]]など[[非常食]]の工夫が盛んに試みられた<ref name="was" />。一方米食の習慣がなかった地域や家庭では、配給制になったことで米を食べる機会を得て、そのことが戦後の食生活の変革の一因となったとする指摘もある<ref name="nih">江原 絢子 他『日本食物史』(吉川弘文館, 2009年, ISBN 978-4-642-08023-1)265-284頁</ref>。
1945年(昭和20年)に[[第二次世界大戦]]は終結。戦後の食糧難は深刻を極めたが、米は引き続き食糧管理法による政府の固定価格での買い上げだったため[[闇米]]が横行、闇米を拒否した[[東京地方裁判所|東京地裁]]の[[判事]][[山口良忠]]が[[餓死#日本における餓死|餓死]]するという事件も起きている<ref name="was" />。米の生産拡大のための基盤整備事業が国内各地で行われ、[[肥料]]の投入や[[農業機械]]の導入、[[品種改良]]などによる生産技術の向上から生産量が増加したものの、少なくとも昭和30年代(1955年-1964年)までは、大半の日本人が米飯を常食とすることはできなかった<ref name="shi">新谷 尚紀 他『民俗小事典 食』(吉川弘文館、2013年、ISBN 978-4-642-08087-3)26-28頁</ref>。そのような中で、[[ガリオア資金|ガリオア]]・[[エロア資金|エロア]]の資金援助で[[小麦粉|メリケン粉]]が大量に[[輸入]]され、アメリカの[[小麦]]戦略により、[[日本の学校給食|学校給食]]は[[小麦粉|メリケン粉]]を使った[[パン]]が供され、1952年(昭和27年)には[[栄養改善法]]が施行され[[慶應義塾大学大学院医学研究科・医学部|慶應義塾大学医学部]]教授の[[木々高太郎|林髞]]の著した『頭脳』([[光文社]]、1958年)が評判となり、「米を食うと馬鹿になる」という説が流布され、[[頭脳パン]]なるものが出現するなどし、日本人の食事の欧風化が進行した<ref name="ame" />。
米食悲願民族<ref>渡部忠世『稲の大地』([[小学館]]、1993年、ISBN 4-09-626178-5)17-18頁</ref><ref>磯辺俊彦、[https://doi.org/10.9747/jars.17.2_43 池上甲一・岩崎正弥・原山浩介・藤原辰史「食の共同体―動員から連帯へ」『村落社会研究ジャーナル』2011年 17巻 2号 p.43-44, {{doi|10.9747/jars.17.2_43}}</ref> といわれる日本人にとって、米を実際の主食とすることは有史以来の宿願であったが、昭和40年代(1965年-1974年)初頭には、ようやく米の自給が実現でき、名実ともに主食となった。しかし、その時既に[[連合国軍占領下の日本|戦勝国として日本を占領したアメリカ合衆国]]の小麦戦略は見事に成功をおさめ<ref name="ame">[http://www.junkan.org/main/katsudo2/kyusyoku/americakomugi0307.txt 「アメリカ小麦戦略」と日本人の食生活]</ref>、学校のパン給食や[[厚生省]]が始めた[[栄養学#戦後|栄養改善運動]]も手伝って、日本人の食事の欧風化が進行し、米離れに拍車がかかっていた<ref name="was">原田 信男『和食と日本文化』(小学館、2005年、ISBN 4-09-387609-6)200,201,204頁</ref>。このため全国で米余り現象が起き、食糧管理法下におけるコメ政策は見直しを余儀なくされるようになり、1970年(昭和45年)以降は[[減反政策]]といわれる生産調整政策(新規の開田禁止、政府米買入限度の設定、転作奨励金の設定など)がとられた。その結果、水稲の作付け面積は 1969年(昭和44年)の 317万[[ヘクタール]]をピークに、1975年(昭和50年)には 272万ヘクタール、1985年(昭和60年)には 232万ヘクタールに減少、生産量も1967年(昭和42年)の 1426万トンをピークに、1975年(昭和50年)には 1309万トン、1985年(昭和60年)には 1161万トンに減少した。
生産は減少したものの、米離れに歯止めがかからず、政府[[備蓄米]]などに[[古米]]、[[古古米]]の不良在庫が多く発生。米の消費拡大のために、それまで主食はパンだけであった学校給食に米飯や米の加工品がとりいれられるようになったり、古米をアフリカなどの政府援助に使用したり、その他家畜の飼料にしたりして処分するなど、在庫調整に腐心するようになった。そのような状況の下、流通面においては、[[縁故米]]の拡大から[[自主流通米]]の承認などにより、食糧管理制度の逸脱を認めるようになった。しかしながら、根本的解決には至らなかったため、食管赤字は収束せず、生産者米価よりも消費者米価が安い逆ザヤだったため、歳入が不足し赤字(食管赤字)が拡大、1980年代には、[[日本国有鉄道|国鉄]]、[[健康保険]]とともに、日本政府の巨額赤字を構成する「[[3K|3K赤字]]」と呼ばれるようになり、[[行政改革]]における重要なテーマとなった。
供給においても、1983年(昭和58年)の不作時には、政府が放出しようとした1978年(昭和53年)度産の超古米に規定以上の[[臭素]]が検出され安全性に問題があるとされたため、翌1984年(昭和59年)に[[大韓民国|韓国]]から米15万トンの緊急輸入が行われたり、1993年(平成5年)の全国的な米の不作による[[1993年米騒動|平成の米騒動]]においては、[[タイ王国|タイ]]などから米の緊急輸入が行われるなどした。なお、米の消費量は、ピークの[[1962年]](昭和37年)には、日本人一人あたり年間118.3キログラム消費していたものが、その後一本調子で減少、1990年代後半には、ひと頃の半分の60キログラム台に落ち込んだ。家計支出に占める米類の支払いの割合は、10%強だったものが 1.1 - 1.3% と {{分数|1|10}} になり、米の地位低下が甚だしい<ref>藤岡 幹恭 他『農業と食料のしくみ』(日本実業出版社、2007年、ISBN 978-4-534-04286-6)126頁</ref>。
一方で1993年(平成5年)、[[ウルグアイ・ラウンド]]農業合意により、米の義務的な輸入([[ミニマム・アクセス]])を課せられるようになり、食糧管理制度は本格的な見直しを迫られた。1995年(平成7年)、[[主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律]]いわゆる食糧法)が施行され、これに伴い食糧管理法は廃止となり、政府の管理が緩められた。水稲の作付け面積と生産量に関しては、その後も減少し、1995年(平成7年)には作付け面積 211万ヘクタール、生産量 1072万トンに、2000年(平成12年)以降は、作付け面積 170万ヘクタール、生産量 900万トン程度となり、作付け面積は半減、生産量は60%程度を推移している。また、食糧法は、2004年(平成16年)に大幅に改正され、さらに政府の関与度を減らしている。
=== 中国 ===
アジア米の原産地はインド[[アッサム地方]]から中国[[雲南省]]というものが有力な説であり、15000年前には[[長江]]中流域で稲作の形跡が見られるなど世界最古の稲作の歴史を有する。確実に稲作が行われていたとみなされる痕跡は、[[紀元前7500年]]頃 - [[紀元前6100年]]頃の[[新石器時代]][[彭頭山文化]]に属する[[彭頭山遺跡]]や[[八十壋遺跡]]において発見されている。日本の稲作もこの地域から伝わったものと考えられている。
伝統的な農業地理の理解では、[[秦嶺・淮河線]]以南が稲作地域とされており、水源と土地に恵まれた長江中下流域において盛んであり、ここで生産された米は、[[大運河]]などを通じて[[華北|華北地域]]まで運ばれ食を担った。元々は、[[ジャポニカ種]]であったが、[[南宋]]の時代に、[[インドシナ半島]]から[[インディカ種]]の一種である[[占城稲]]が流入すると、[[旱害]]に強く[[早稲|早稲種]]で[[二期作]]が可能であるという理由から一気に普及しこの地域での主要なイネの種となった。この時代、「蘇熟すれば天下足る」「江浙熟すれば天下足る」(長江下流域; 蘇・江=ほぼ現在の[[江蘇省]]、浙=ほぼ現在の[[浙江省]])と言われ、下って[[明]][[清]]代には、稲作の中心が長江中流域である現在の[[湖南省]]・[[湖北省]]に移り{{efn|理由として、この地域の圃場開発が進んだこともあるが、江浙地域が[[綿花]]や[[養蚕]]用の[[桑]]など[[商品作物]]の栽培に転換したことも大きい。}}、「湖広熟すれば天下足る」と言われ、国の穀倉として認識されたことがうかがえる。
一方で、秦嶺・淮河線以北は稲作不適地域と認識されていたが、[[1900年]]頃以降の日本の進出に伴い旧満州地域である[[中国東北部]]に寒冷に強いジャポニカ種を定着させ、その後の農業技術の発展から、この地域においても稲作が大々的に展開されている。
2000年代後半時点で世界最大の米生産・消費国である。生産は、約7割が[[インディカ種]]、約3割が[[ジャポニカ種]]となっている<ref name="syoku"/>。
インディカ種に比べジャポニカ種は手間がかかり高価であるが経済発展による所得向上からジャポニカ種の消費増加傾向のほか、地方都市間の人口移動による新たな消費層の発生などを背景に、中国の米消費量は増加傾向にある<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/pdf/h25asia-china2.pdf |title=平成25年度海外農業・貿易事情調査分析事業 (アジア・大洋州)「中国のコメ生産・消費・輸出状況等(ジャポニカ米を中心に)」 |format=PDF |publisher=農林水産省 |date=2014-4 |accessdate=2021-04-17}}</ref>。一方で、1990年代後半に[[豊作]]だったことから作付け面積が減少、中国政府は2004年に援助政策に乗り出している<ref name="syoku"/>。
中国政府は寒冷地への稲作拡大だけでなく、収量を増やすための栽培技術や品種改良にも力を入れている。[[中国工程院]]の[[袁隆平]]らのチームが開発した{{仮リンク|ハイブリッド米|en|Hybrid rice}}「湘両優900(超優千号)」は2017年、[[河北省]]の試験圃場で1ヘクタール当たり17.2トンと米としては世界最高の収量を記録した<ref>「[http://j.people.com.cn/n3/2017/1016/c95952-9280230.html 中国のスーパーハイブリッド稲、生産量で世界新記録を樹立]」『[[人民日報]]』日本語版2017年10月16日(2018年2月10日閲覧)</ref>。これは日本の平均の3倍近い<ref>米寿直前の研究者、日本平均の3倍の多収米開発「爆食」中国、主食自給に希望の芽『[[日経ヴェリタス]]』2018年2月4日(アジア面)</ref><ref>日本の水稲10a当たり収量は、令和3年度で539kg。 {{Cite web|和書|url=https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/06.html |title=農業生産に関する統計(2) 米の生産量 |publisher=農林水産省 |accessdate=2022-07-03}}</ref>。翌2018年には18トン超と、記録を更新した<ref>【グローバルViews】中国コメ収量 日本の3倍/人口膨大、食料 輸入に頼れず『[[日経産業新聞]]』2018年12月4日(グローバル面)</ref>。
一方で、2004年に韓国へ輸出された中国製蒸し米、[[揚げ菓子]]などからホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムが検出され、韓国政府が輸入を停止するなど、安全性の問題も発生している。([[中国産食品の安全性]])
=== アメリカ合衆国 ===
{{seealso|en:Rice production in the United States}}
[[アメリカ大陸]]で米が栽培されるようになったのは西洋人との接触以降のことであり、[[アメリカ合衆国]]における稲作の歴史はアジアに比べると短いが、2009年の生産量は1000万トンに達しており、うち440万トンが輸出されている{{r|crc101|page=6}}。アメリカ国内での用途としてはそのまま使用するのが56%、加工用が18%、酒造用が12.2%、ペット用が12%などとなっている{{r|crc101|page=6}}。
アメリカ合衆国における米の産地は[[アメリカ合衆国南東部|南東部]]の[[ルイジアナ州]]、[[ミズーリ州]]、[[ミシシッピ州]]、[[アーカンソー州]]、[[テキサス州]]、[[フロリダ州]]、および[[アメリカ合衆国南西部|南西部]][[カリフォルニア州]]の[[サクラメント・バレー]]がある{{r|crc101|page=6}}。
すでに17世紀はじめに今の[[バージニア州]]でイネの栽培が始まっていたが、1694年に[[マダガスカル]]から稲作が[[サウスカロライナ州]]にもたらされ、南部諸州に広まった{{r|crc101|page=3}}。これらの土地で栽培されたのは[[バスマティ|バスマティライス]]や[[ジャスミン米|ジャスミンライス]]に代表されるアミロースの多い長粒種のインディカ米だった。
一方カリフォルニアでは19世紀後半に鉱山や鉄道建設の労働者として中国や日本からの移民が増加して米の需要が発生したが、長粒種の栽培には成功しなかった。1908年にW.W. Mackieという土壌学者がサクラメント・バレーのビッグズで日本のイネの栽培にはじめて成功し、1912年にビッグズにはカリフォルニア米の試験場が作られた{{r|crc101|page=3-4}}。カリフォルニア米はアメリカ合衆国の他の地域の米と異なり、短粒種または中粒種のジャポニカ米が大部分を占めている{{r|crc101|page=4}}。カリフォルニアで公式に認められている品種は17種類があるが、中粒種の[[カルローズ]]、短粒種の[[コシヒカリ]]と[[あきたこまち]]がもっとも成功している{{r|crc101|page=4}}(アメリカ合衆国では米粒の長さが幅の2倍未満のものを短粒種、2倍以上4倍未満を中粒種、4倍以上を長粒種と定義している{{r|crc101|page=50}})。中でも1948年に開発されたカルローズはカリフォルニア米全体の85%以上を占める{{r|crc101|page=17}}。一方、[[国府田敬三郎]]の農場では、カルローズ開発者のひとりであるヒューズ・ウィリアムズを雇用し、1950年代にカルローズを中東のイネと交配してKR55という品質の高い中粒種 (premium medium grain) を開発し、国宝ローズの名で販売した。同じ品種はJFC{{enlink|JFC International}}の「錦」にも使われている<ref>{{citation|url=https://www.kodafarms.com/heirloom-kokuho-rose/|title=Heirloom Kokuho Rose® Rice is NOT Generic, Commodity-grade Calrose|publisher=Koda Farms}}</ref>。
=== クリミア ===
クリミアでは、コメが60万トン程度が生産された<ref>{{cite news|url=https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25902|title=「欧州のパンかご」ウクライナ侵攻で日本の食料はどうなる|newspaper=|publisher=|date=2022-03-01|accessdate=2022-08-13}}</ref>。
== 米の利用 ==
[[ファイル:Bap (cooked rice) 2.jpg|200px|thumb|釜で炊いた米]]
[[File:Rice consumption.png|thumb|年間一人当たりコメ供給量(2019年)]]
米は、世界中で[[食用]]されている。利用例は、以下の通り。
* 食材として
** '''主食''' - [[アジア]]や[[アフリカ]]<ref name="20080514nikkeibo">「世界的なコメ危機の実態 背後に潜む問題点とは何か」『日経ビジネスオンライン』[[日経BP]]、2008年5月14日付配信</ref> など。日本でも、[[飯]]として食べられている。
** '''[[副食|主菜]]のつけあわせ''' - 欧米では、[[ジャガイモ]]や[[パスタ]]同様主菜のつけあわせとして利用される
** '''[[デザート]]''' - 欧米や[[東南アジア]]で、デザートとしても用いられる。利用例は、[[#デザート|以下]]を参照。
** '''[[茶]]''' - [[玄米茶]]として
* [[原料]]として
** [[日本酒|酒]]や[[餅]]、[[飴]]、[[菓子]]、[[味噌]]、[[醤油]]、[[酢]]など(日本)
** [[ライスワイン]](中国:[[黄酒]]・[[紹興酒]]、韓国:[[マッコリ]]など)、[[蒸留酒]]の原料(日本:[[焼酎]]・[[泡盛]]、韓国:[[ソジュ]]、タイ:[[メコン (酒類)|メコン]])
** [[米粉]]にして[[粉食]]
*** [[団子]]、[[煎餅]](日本)、[[トッポギ]](韓国)
*** [[ライスヌードル]]、[[ビーフン]]、[[ライスペーパー]]([[中華人民共和国|中国]]、[[ベトナム]]、[[タイ王国|タイ]]など)
*** 製粉技術の向上により、[[米粉パン|パン]]にしているケースも現れている(日本)
* その他
** [[糊]]として用いられる(日本)
** [[飼料]]としても用いられる。[[大豆]]や[[トウモロコシ]]など飼料として主に使用される他の作物に比べるとコストなどで見劣りしていたが、飼料用作物の価格高騰に伴い、米の飼料用需要が増加している
** [[おしろい]]として粉砕し粉状にしたものが用いられる(主に[[フランス]]・[[プロヴァンス]]地方)
=== 米の調製・調理・加工 ===
イネ科の植物の小穂の種子([[穎果]])をそのまま食用とはせずに、精製を行って食用とするのが基本である。米においても精製のプロセスを経て食用とし(一般にこの作業を[[調製]]という)、それらは一般に以下のとおり。穎果は1粒が小さく、それら1つ1つに調製を行う必要があるため、効率よく調製するための技術開発は太古から行われてきた。
# '''パーボイル''' - インド・パキスタンでは、香り米以外の米は収穫直後に水に浸け、煮るもしくは蒸して、再び乾燥させた後に脱穀する。
# '''[[脱穀]](だっこく)''' - 稲穂から[[籾]](もみ)をはずす。[[先進国]]の機械化農業では、[[コンバイン]]により[[稲刈り]]と同時に行われるのが主流。
# '''ふるい''' - 脱穀した籾、籾殻、稲藁などから籾を選別するために篩(ふるい)にかける。
# '''[[乾燥]]''' - 収穫されたばかりの籾は水分が多いので、保存性の為に[[乾燥]]する。銘柄などが表示できる証明米は、水分率の上限が定められている。質量取引なので過乾燥は金銭的に損になる。
# '''[[籾すり機|籾摺]](もみすり)''' - [[籾殻]]をむいて[[玄米]]とする。
# '''風選(ふうせん)''' - 籾から籾殻や[[#米に関わる語彙|粃(しいな)]]を取り除く。
# '''選別(せんべつ)''' - 玄米をふるいにかけ、標準以下の大きさの玄米(くず米)を除く。
# '''貯蔵''' - 保存性から玄米か籾で貯蔵される。日本では、籾で貯蔵する地域(鹿児島・宮崎など)と、玄米で貯蔵する地域がある。
# '''[[精米機|精白]](せいはく)''' - 玄米の糠層と胚芽を削り取り、白米(精白米)とする。この作業をすることを「精米」(せいまい)あるいは「搗精」(とうせい、「米を搗(つ)く」)ともいう。包装に「精米年月日」が記される。詳細は下記[[#精製]]を参照。
# '''精選(せいせん)''' - 精白後の米からさらに選別を行う。
==== 精製 ====
イネ科の果実である穎果は厚い外皮(籾)に覆われており、脱穀によりまずこの籾殻を除去する。除去した米の場合は「玄米」と呼ばれ、[[胚乳]](92%)、[[胚芽]](3%)、[[果皮]](5%)から成っている。麦に比べて吸水性が良いため、麦のように粉状にせずに粒米のまま食用にするが、さらに胚乳のデンプン質を加熱により[[糊化]]することで栄養価は高くなる{{efn|[[デンプン]]は[[糖類]]が結合した巨大分子でそのままでは栄養として吸収できない。水と一緒に加熱することで小さな[[糖]]に分解され、栄養として吸収されやすくなり、食感もよくなる。}}。しかし、果皮によって加熱が不良になりやすいため果皮も除去する必要がある。玄米の表面を覆う[[糠|糠層]](ぬかそう、主として果皮と糊粉層)を取り去ることを'''[[#米の調製・調理・加工|精白]]'''([[精米]]、搗精〈とうせい〉)という。糠層も胚芽も取り去った米を'''[[白米]]'''(精白米、精米)といい、糠を除去したものを精米や白米という。このとき糠と同時に胚芽も除かれてしまうため、栄養バランスは逆に悪くなる。
古くは丈夫な[[臼]]に玄米を入れ、上から[[杵]]で叩くようにして糠を取り除いていた。日本ではこの作業を「搗(つ)く」「舂(つ)く{{efn|「舂く」の字は「春」とは異なる。}}」、白米にすることを「毇(しら)ぐ」「研ぐ」と言い、得られた精米を「舂米(つきしね、しょうまい)」と言った。古代日本では朝廷や豪族が[[部民]](専門の職業集団)として「[[舂米部]](つきしねべ)」を置いていた。得られた精米の後の臼には糠とともに粒食に適さないさらに小さい米や割れた米、粉が残ったが、これらも水や他の食材と合わせて調理することで食用とした。日本ではいわゆる「搗き餅」とは異なる[[餅]]として独自の発展を遂げている<ref>{{Cite web|和書|url=https://kotobank.jp/word/%E9%A4%85-142450 |title=『日本大百科全書(ニッポニカ)』 - 「餅」|website=コトバンク|accessdate=2023年1月2日}}</ref>。
==== 加工による分類 ====
[[ファイル:kome.JPG|thumb|左から、白米、胚芽米、玄米]]
[[#米の調製・調理・加工|精白]]などの加工による分類。玄米及び精米品質表示基準では、玄米、精米、胚芽精米に分けられている。
; 玄米
:籾を籾摺りして、外皮の籾殻だけを取り除いた米で[[全粒穀物]]{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。下記の他の米の原料。[[糠]]層には発芽に必要な[[ビタミン]]類、[[脂肪]]分などを含んでおり栄養価が高い{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。糠層は[[胚乳]]部に比べ硬く、また脂肪分の影響で[[疎水性]]もあるため、白米用[[炊飯器]]で炊くと[[アルファ化米|アルファ化]]が不完全となり消化が悪く{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}、食感も悪くぼそぼそになる。圧力釜や玄米対応の炊飯器で炊くことで、消化が良く味わいが豊かになる。糠と胚芽には脂肪分が含まれるため、常温保存では精白米に比べ劣化しやすい。
; [[発芽玄米]]
:僅かに発芽させた玄米。[[スプラウト]]の一種と考えられ、玄米よりも栄養価が高い。また、玄米より消化、味ともに良く、白米用炊飯器で炊くのに比較的適している。他の加工米より高コストで高価。市販のものは発芽の進行を休眠させている物もある。
; 分搗き米
:玄米から糠層を一定の割合でとった精米。とった割合により3分搗き米、5分搗き米、7分搗き米という{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。栄養は玄米と胚芽米の間となるが、残留する糠層の量によって異なる。
; 胚芽精米(胚芽米)
:玄米から糠層のみを取り去って胚芽が残るように精白した米<ref>[http://www.eiyo.ac.jp/haigamai/ 五明紀春「胚芽米のすべて」][[女子栄養大学]]、2023年1月2日閲覧</ref>。一般には'''胚芽米'''と呼ばれる方が多い。白米同様に糠層が取り除かれて精白されており、胚芽だけが残っている。胚芽精米の品位基準によると、重量比で胚芽を80%以上を残したものとされており、この基準を満たしたものが「胚芽精米」と表示出来る。胚芽精米を調製するには、一般の家庭用[[精米機]]では現在ところ技術的に困難とされており、専用の大型精米機を使う必要がある。最近の家庭用精米機の中には、胚芽を多く残すための「胚芽モード」といった機能を備えたものが出回っているが、胚芽精米の品質基準を満たすことを保証しているわけではない。栄養は玄米と白米の中間程度。玄米より消化が良く、白米用[[炊飯器]]で炊ける。一般に白米より高価。
;[[白米]](精白米、精米)
:玄米を精白して糠層と胚芽を取り除いた米{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=145}}。日本で最も食べられている主食だが、胚乳のみの為栄養バランスが悪く副食が必須。日本では主に洗米してから炊いて米飯とする。そのため、一般に市販されている炊飯器は通常白米を主な対象としている。消化が良く、味が淡白で色々な料理に合わせやすい{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。精米後は、時間の経過とともに酸化が進むため、精米したてのものを食べるほうが食味が良い{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。
;[[無洗米]]
:精白した白米の表面に付着している糠の粉を取り去った精米。洗米すると栄養が溶け出すので、洗米が不要で節水にもなる。それにより白米よりは当然単価は高いものの、洗米時の水道代を考慮した場合の総合的なコストが白米より低くなる場合がある。
;早炊き米
:短時間で炊飯できるように米を加熱し、あらかじめ細胞壁を破壊しデンプンを糊化させておき、水を浸透し易くさせるために米粒の表面に亀裂を入れ、最終的に乾燥させたもの。
=== 栄養価 ===
米の主成分は[[デンプン]]で、活動のエネルギー源となる栄養素である{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。少量ながら[[タンパク質]]も含まれており、胚芽やぬかには[[ビタミンB群]]や[[ミネラル]]、[[食物繊維]]が含まれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。精白米よりも胚芽やぬか層を残した玄米のほうが栄養や食物繊維が豊富になり、食品成分表(可食部100 gあたり)によれば、[[カリウム]]は約3倍、[[カルシウム]]は約2倍、[[ビタミンB1]]・[[ビタミンB6]]は8 - 10倍、食物繊維は約4倍多く含まれる{{sfn|猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|2012|p=144}}。{{要出典範囲|date=2023年8月|ある程度冷やした場合は、[[レジスタントスターチ]]による整腸作用が働くようになる。}}
=== 調理 ===
米は主に水分を加えて加熱調理する。東アジアでは一般に水だけで調理するが、[[マレーシア]]、[[インドネシア]]などの[[東南アジア]]では[[ココナッツミルク]]を加えることが多く、また、[[地中海]]地方など米が常食ではない地域では、肉や魚の[[出汁|ストック]]や[[バター]]、[[香辛料|スパイス]]など水以外の何かを加えることが多い。<!--米一合に対して水一合で米を炊いたものを'''[[飯]]'''という。飯の状態にした米の粒を「お米」と呼ぶこともある。-->広く主食用とされ飯にされるのは、粳米の白米であり、玄米や胚芽米の飯を主食とすることは、あまり多くない。調理するときに糠を砥ぎ落とすことを[[洗米]]という。[[#アジアイネと系統|短粒種]]の白米は、日本などでは、[[糠|ぬか]]を洗い流した(洗米とか「米を研ぐ」という)のち、[[調理]]する。粳米は炊いて'''[[飯]]'''とし、糯米は蒸して'''[[強飯]]'''(こわいい)としたり、'''[[餅]]'''として供される。[[中国]]などでは、粳米を蒸す場合もある。インドでは多量の水でコメを煮て、概ね火が通ったところで余分な水を捨てて蒸し煮にする。
米を炊くことを'''炊飯'''(すいはん)、あるいは'''炊爨'''(すいさん)という。「蒸し飯」を、'''[[お強]]'''(おこわ)、あるいは'''強飯'''(こわいい)とも呼ぶ。これは、蒸した飯が炊いた飯よりも「こわい」(「硬い」の古い言い方)ことに由来する。
[[#アジアイネと系統|長粒種]]の粳米は、煮る([[飯#調理法|湯取]])事が多い。
古くから、飯を乾燥させたものを「干し飯」(ほしいい)、あるいは「糒」(ほしい)といい、携帯保存食として用いた。現在では、この干し飯と同じ物を[[アルファ化米]](加水加熱して糊化(アルファ化)させた米)といい、同じく携帯保存食や非常食などとして用いる。干し飯に似た食材は日本以外にも見られ、[[南アジア]]では[[ポハ]]やチウラと呼ばれる潰してから乾燥させた加工米も食されている。
飯として炊くときよりも多目の水を加えて、米を煮た料理を'''[[粥]]'''という。この時に加える水の量により、全粥(米1に対して水5から6)、七分粥、五分粥、三分粥(米1に対して水15から20)などと呼ばれる。また、粥から固形の米粒を除いた糊状の水を'''重湯'''(おもゆ)と呼び、病人食や乳児の離乳食に用いられる。
栄養分をそぎ落とさないように、[[胚芽]]部分を残した[[#加工による分類|胚芽米]]や[[#加工による分類|分搗き米]]、玄米をそのまま炊いて食べる場合もある。最近では[[発芽玄米]]も食べられている。胚芽部分には[[脚気]]を予防する[[ビタミン]]B1が豊富に含まれる。
籾殻を取る前に、水に長くつけ、蒸し上げてから籾摺りをしたものを用いる地域もある。[[タイ王国|タイ]]、[[マレーシア]]、[[シンガポール]]などの国のほか、日本では[[和歌山県]]などでこの習慣があった。干し飯のように、熱い湯や茶をかけて軟らかくすることができるほか、炒って食べる場合もある。
[[黒米]]や[[赤米]]は、白米に混ぜて炊くことが多い。研いだ白米に対して3〜10%程度(好みに合わせて分量を調節)を洗わないでそのまま入れて炊く。
餅(もち)については、「[[餅]]」の項目を参照。
==== 調理用具 ====
米の調理には次のようなものが利用される(汎用加熱器具を除く): [[甑]]、[[釜]]、[[鍋]]、[[炊飯器|電気炊飯器・ガス炊飯器]]、[[蒸篭]]。
=== 加工品 ===
[[東南アジア]]を中心として[[粉食]]も一般的で、'''[[ライスヌードル]]'''([[麺類]])としても広く食用にされる。
;[[上新粉]]
:うるちの精白米を粉末にしたもの。料理や[[団子]]や[[せんべい|煎餅]]などの[[和菓子]]や[[中華菓子]]などの原料となる。粒子が粗いため[[洋菓子]]には適さなかったが、最近では[[リ・ファリーヌ]]と呼ばれる、[[小麦粉]]並の細かさのものが製粉会社各社で開発されており、それらは洋菓子や[[パン]]などの材料に使用が可能である。米から作ったパン([[米粉パン]])の外見・食味は小麦粉から作ったものに劣らず、もちもちとした食感になる。
; [[白玉粉]]
:[[もち米]]を粉末にしたもの。水挽き粉砕をしているため、粒子が細かく滑らかな食感が特徴である。
; [[道明寺粉]]
:水に浸して蒸したもち米を干して粗めに挽いたもの。用途は上の2種類の粉に比べ幅が狭めである。主に[[上方]]([[近畿地方|近畿]])風[[桜餅]]の材料に使われる。
; [[アルファ化米|α化米]]
:加工米の一種。糒など。キャンプ・アウトドアや防災備蓄用として製品化され、常温水や湯を投入することで食することができ、5年もの長期間保存することができる。
; [[着香米]]
:[[竹]]のエキスなど、他の成分で人為的に[[香り]]をつけたもの
=== 酒造 ===
米を[[アルコール発酵]]させて[[日本酒]]をはじめとする[[醸造酒]]([[ライスワイン]])が広く作られている他、[[焼酎]]などの[[蒸留酒]]においても、単独又は他の原材料と混合した[[もろみ]]として原料となっている。
=== 米料理 ===
==== 各国の料理 ====
;{{JPN}}
:'''[[和食]]''' - [[おこわ]](強飯)、[[赤飯]]、[[姫飯]]、[[粥]]、[[重湯]]、[[雑炊]]、[[寿司]]、[[稲荷寿司]]、[[巻き寿司]]、[[赤寿司]]、[[酒寿司]]、[[おにぎり]]、[[茶漬け]]、[[炊き込みご飯]]、[[桜飯]]、[[そばめし]]、[[黄飯]]、[[鶏飯]]、[[菜飯]]、[[干葉飯]]、[[茶飯]]、[[丼物]]、[[釜飯]]、[[卵かけご飯]]、[[納豆]]かけご飯、[[餅]]、[[ちまき#日本|ちまき]]、[[あくまき|灰汁巻き]]、[[烏賊飯]]
:'''[[洋食]]''' - [[カレーライス]]、[[ハヤシライス]]、[[チキンライス]]、[[オムライス]]、[[ドリア]]、[[ピラフ]]、[[タコライス]]、[[トルコライス]]、[[ハントンライス]]、[[ボルガライス]]、[[シシリアンライス]]、[[エスカロップ]]、[[ライスバーガー]]、[[かつめし]]、[[えびめし]]
;{{CHN}}・{{HKG}}・{{Flagicon|Macau}} [[マカオ]]
:[[チャーハン]]、[[ビーフン]]、[[海南鶏飯]]、[[ちまき#中国大陸|ちまき]]、[[お焦げ]]料理
;{{KOR}}・{{PRK}}
:[[クッパ (料理)]]、[[ビビンバ]]、[[トック]]、[[トッポッキ]]、[[ポックムパプ|ポック{{small|ム}}パ{{small|プ}}]](炒飯)、[[キムパプ]]、[[サムゲタン]]
;{{TWN}}
:[[油飯]]、[[排骨飯]]、[[魯肉飯]]、[[筒仔米糕]]、[[飯糰]]、[[ちまき]]、[[雞肉飯]]、[[火雞肉飯]]、[[米血糕]]
;{{VIE}}
:[[フォー]]、[[ライスペーパー]](バインチャン)、[[生春巻き]](ゴイクオン)、[[ちまき#外部リンク|バインチュン]]
;{{THA}}
:[[パッタイ]]、[[カオニャオ]]、[[カーオパッ]](炒飯)、[[海南鶏飯|カオマンガイ]]、[[カオ・パット・サパロット]]、[[カオ・ニャオ・マムアン]]、[[パットガパオ|ガパオライス]]
;{{LAO}}
:[[カオソーイ]]
;{{MMR}}
:[[シャン・タミン・チン]]
;{{MAL}}
:[[ナシゴレン]]、[[ナシレマッ]]、[[海南鶏飯|ナシアヤム]]、[[ラクサ]]
;{{SIN}}
:[[海南鶏飯]]
;{{PHI}}
:[[パンシット・ログログ]]
;{{IDN}}
:[[ナシゴレン]]、[[ナシウドゥッ]]、[[ナシクニン]]、[[ブブル]]
;{{IND}}近辺
:[[プラーオー]]、[[ビリヤニ]]、[[キール (料理)|キール]]、[[ドーサ]]、[[イドリ]]
;{{PAK}}
:[[バルチ (料理)|バルティ]] - 形式としてはカレーライスのようなスタイルで出されることが多い
;{{BGD}}
:[[ダール・カレー]]
;{{NPL}}
:[[ダルバート]]、[[タルカリ]]
;{{UZB}}ならび[[中央アジア]]一帯
:[[プロフ]](ポロ)、[[パラオ (曖昧さ回避)|パラオ]](オシ)
;{{AFG}}
:[[チャラウ]]、[[ピラウ]]、[[カーブリー]]、[[バタ (料理)|バタ]]
;{{ARM}}
:[[ガパマ]] - 甘味を施してある料理で、主に[[慶事]]や[[祭日]]の時に作られる
;{{IRQ}}
:[[ムジャッダラ]] - この料理には[[豆]]類や[[脱穀]]した[[穀物]]が用いられるが、一般的にコメを使うことが多い
;{{IRN}}
:[[ベレンジ ドゥーディー]]、[[チェロウ]]、[[ポロウ]]、[[ゼレシュク・ボロウ]]
;{{SAU}}
:[[カブサ]]
;{{LBN}}
:[[マクルーベ]]
;{{TUR}}
:[[ピラフ|ピラヴ]]、[[ビベル・ドルマス]]
;{{GRC}}
:[[ドルマ|ドルマダキア]]
;{{ITA}}
:[[リゾット]]
;{{FRA}}
:[[サラド・ド・リ]] (Salade de Riz)
;{{ESP}}
:[[パエリア]]、[[アロス・コン・ポーヨ]]
;{{GBR}}
:[[ケジャリー|ケージャリー]]
;{{SEN}}
:[[チェブジェン]]
;{{GHA}}ならび[[西アフリカ]]一帯
:[[ジョロフライス]]
;{{EGY}}
:[[コシャリ]]、[[マハシ]]
;{{CAN}}
:[[ブリティッシュコロンビアロール]]
;{{USA}}
:[[ジャンバラヤ]]、[[ロコモコ]]、[[カリフォルニアロール]]
;{{CUB}}
:[[アロス・コングリ]]
;{{MEX}}
:[[アロス・ア・ラ・メヒカーナ]]
;{{BOL}}
:[[シルパンチョ]]
;{{BRA}}
:[[アホス・コン・フェイジャオン]](バイオン)、[[ピッキーライス]]
;{{PER}}
:[[アロス・コン・マリスコス]] 、[[セコ・デ・ポージョ]]
;{{PAN}}ならび[[中南米]]一帯
:[[アロス・コン・ポヨ]]
;{{BLZ}}
:[[ライス・アンド・ビーンズ]]
==== デザート ====
[[ファイル:Arros amb llet.jpg|150px|thumb|南米のアロス・コン・レチェ]]
[[ファイル:Rice pudding spoons.jpg|150px|thumb|アロス・コン・レチェ]]
[[ファイル:Kiribath.jpg|150px|thumb|[[スリランカ]]のキリバット]]
[[ファイル:Milchreis.jpg|150px|thumb|[[シナモン]]と砂糖を添えたミルヒライス]]
米を[[牛乳]]で煮込んだ'''[[プディング]]'''は、東は[[南アジア]]から西は[[西ヨーロッパ]]まで広く見られるデザートである。
例えば[[ドイツ]]では(主食料理扱いだが)[[ミルヒライス]]といい、英語圏では[[ライスプディング]]、フランス語圏では[[リオレ]]、[[スペイン語]]圏では[[アロス・コン・レチェ]]または[[メキシコ料理#デザート|アロス・デ・クレマ]]と呼ばれる。インドには[[キール (料理)|キール]]、[[トルコ]]には[[ストラッチ]]と呼ばれるミルク・ライス・プディングがある。トルコの[[ムハッレビ]]は[[米粉]]と牛乳のプディングである。[[ブラン・マンジェ]]も米粉で作ることがある。
[[東南アジア]]では、米を[[マンゴー]]、[[ササゲ|ささげ]]、[[リョクトウ|緑豆]]、[[里芋]]、[[トウモロコシ#品種分類|スイートコーン]]などと煮込んだ粥状のデザートがあり、[[ココナッツミルク]]をかけて食べる。ベトナムには、[[:en:Bánh cốm|バインコム]]という、もち米の青い未熟米と緑豆餡から作る餅菓子がある。また、タイには、[[:th:ข้าวเม่า|カオマオ]]・トードというバナナともち米の青い未熟米とココナッツを使った[[揚げ菓子]]があり、[[カオニャオ・マムアン]]という砂糖入りココナツミルクで炊いた(カットしたマンゴーも添えた)デザートもある。
日本には、餅米を蒸して搗いた餅菓子、白玉団子、[[外郎 (菓子)|ういろう]](小麦粉、[[ワラビ]][[でんぷん]]で作った物もある)、[[ぼたもち]]、[[あくまき]]、[[きりせんしょ]]、[[ゆべし#くるみゆべし|ゆべし]]などがある。[[軽羹]]のようにうるち米を[[米粉]]にして用いるものもある。
中国や朝鮮半島には、[[薬食]]のように餅米を蒸した菓子や[[芝麻球]]や[[トック#トックの種類|シルトック]]など上新粉や白玉粉から作る餅菓子がある。インドの[[モーダカ]]は米粉の生地で[[ココナッツ]]と[[黒砂糖]]のフィリングを包んだ菓子である。
[[ロシア]]では、一口大にカットした[[キウイフルーツ]]や[[苺]]や[[バナナ]]を潰しご飯でロールし、[[練乳]]や[[ココナッツパウダー]]やストロベリーソースでトッピングした[[巻き寿司]]風デザート「[[スイートロール]]」が人気を博しており、同国内の寿司業界にて普及が広まっている。
空手挌闘家[[アンディ・フグ]]は生前、日本滞在中に自ら考案したストロベリー[[ヨーグルト]]練り掻き混ぜ米飯([[バナナ]]をトッピング)をとても気に入り、頻繁に作っては喜んで食べていたというエピソードがある<ref>[http://ww2.tiki.ne.jp/~morim/syokuji.html#『アンディ・フグご飯』 調理再現HP]</ref>。
== 偽米 ==
{{main|人造米}}
主に[[ジャガイモ]]や[[サツマイモ]]、[[小麦粉]]などを原材料として、米の形に成形した物。第二次世界大戦中の[[食糧難]]の日本で[[代用食]]として開発された。これらの材料を加熱して潰して小さな粒状にして、それを核として、表面にデンプンをまぶして蒸す工程を数回繰り返し、米状の大きさになったら、乾燥させて水分含有量を減らして保存可能にする。食べる時は普通に炊く。製法や形状は粒状の[[パスタ]]である「[[クスクス]]」に類似している。
戦後の食糧難の時代には政府も生産を奨励したが、その後食糧事情が好転したこともあり、また、製造に非常に手間と時間がかかることと、食味の違い、すなわち所詮は代用食なため、昭和29年をピークに急速に姿を消し、本物の米が余っている現在の日本では作られていない。
現在食糧難の[[北朝鮮]]でも代用食として、[[トウモロコシ]]やサツマイモやジャガイモから偽米が開発・製造されていると言われている。
こうした米不足による代用品とは異なり、[[ダイエット]]や[[炭水化物]]の摂取量を抑えるために、野菜や[[しらたき]]、[[おから]]などを加工して米飯に近い食べ応えを得ようとする食品・料理が現代日本にある。{{main|[[飯#穀物の代用品による「飯」]]}}
== 文化 ==
=== 信仰・民俗 ===
日本文化においては、単なる食糧品に止まらず、[[古神道]]や[[神道]]における[[稲作信仰]]に起因する[[霊]]的価値を有する穀物である。[[地鎮祭]]や[[上棟式]]、[[農林水産]]の職業的[[神事]]、また日本各地の[[祭り]]で、[[御神酒]]や[[塩]]などとならび[[供物]]として[[奉納]]される。天皇が[[五穀]](中心となるものはコメ)の収穫を祝う'''[[新嘗祭]]'''(「[[勤労感謝の日]]」として[[国民の祝日]]となっている)は宮中における最も重要な祭祀であり、天皇即位後最初の新嘗祭である'''[[大嘗祭]]'''は、実質的な[[践祚]]の儀式と認識されている。
「米」の字を分解すると八十八とも読めることから、付会して八十八行程を経て作られる、八十八の[[神 (神道)|神]]が宿る、また「八十八人の働きを経て、はじめて米は食卓にのぼるのであるから、食事のたび感謝反省しなくてはならない」など、道徳教育のための様々の訓話が構成された。
日本のみならず、東アジアにおいてはイネを[[精霊]]の宿る神聖な作物とみなし、これに不敬な行為を行うと食物より滋養は得られず、また田畑に蒔いても凶作を呼ぶと言い伝えられている。[[伏見稲荷大社]]では、秦の長者が餅を的にして矢を射たところ、餅が白い鳥となって飛び山峰にとまったため、彼が鳥をイネの精霊と気づいてそこに神社を建てこれを祭ったことが起源とされている。なお、異説では精霊を祭った秦の長者には不毛は訪れなかったが、ただ餅を射ただけの富裕者は天罰を受け没落したともいわれる<ref>石毛直道『世界の食べもの 食の文化地理』([[講談社学術文庫]])p145</ref>。
米が貴重だった昔、[[黒瀧寺]]([[徳島県]])周辺には「米養生」という習慣があった。重病人の枕元で、生米を[[竹]][[筒]]に入れて振った音を聞かせると治るという俗信である<ref>[[渡辺昭五]]『日本人の秘境』(産報、1973年)115p</ref>。
=== 風習 ===
[[沖縄県]]では、お[[中元]]またはお[[歳暮]]に真空パックされたお米を親戚へ渡す風習がある。
=== 米に関する語 ===
古くはイネ科の植物の穀物について広く「米」という単語が用いられていた。古来、稲が生産されていなかった[[華北]]([[漢字]]発祥の地)では、長く[[アワ]](粟)に対して用いられていた。中国[[後漢]]の[[許慎]]が著した[[漢字]]の解説書『[[説文解字]]』において、「米…粟實也。象禾實之形」(禾=粟)と書かれ、米即ちアワの実であると解説されている。現在の中国語では、イネ科の植物にとどまらず、米粒のような形状をしたものも米と呼ぶ例が多い。例えば、「海米、蝦米」は干した剥き[[エビ]]、「茶米」は[[烏龍茶]]などの粒状の茶葉などを指す。
「米」という[[漢字]]自体は籾が四方に散った様子を描いた[[象形文字]]である。しかし、この字形から「八十八」と分解できると見立てて[[年齢#年齢とその呼称|米寿]]などの言葉に利用されている。また、日本では水稲を作る際の手間の多さを「籾から育てて食べられる様にするまでに八十八の手間がかかる」とたとえられている。また、「八木」と分解することも可能であることから、「八木(はちぼく/はちもく)」が米の異称として用いられた。
『岩波 古語辞典』は、「うるしね」(「しね」は“稲”の意の古語)の項で、“米”を表す日本語「うる(ち)」(粳)、[[マレー語]] 'bəras',[[アミ語]] 'fərats'; 'vərats',古代[[ペルシア語]] 'vrīzi',古典[[ギリシャ語]] 'oryza',[[イタリア語]] 'riso',英語 'rice' などを、すべて[[サンスクリット]] 'vrīhih' にさかのぼるものとしている。<!--しかし、「うるごめ/もちごめ」だけでなく、「うるあわ/もちあわ」(粟)・「うるきび/もちきび」([[黍]])もあることから、日本語の「うる」(水分多・粘り弱)と「もち」(水分少・粘り強)とは[[対義語]]で、「うる」は元来“米”そのものを指す語ではなかったと見られる。なお、「うる''ち''」は「も''ち''」に揃えて江戸時代に作られた語である。:独自研究の恐れあり。異説あり。要出典。粳の字源。-->
なお、新聞やテレビのニュースにおいては、米国(アメリカ)の略である「米(べい)」との混同を避けるため、「コメ」とカタカナで表記するのが一般的になっている。
=== 米に関わる語彙 ===
; 粃・秕(しいな)
: 稔実が不良で残る籾のこと。中身がなく軽いため、脱穀した籾を風に舞わせたり水に浸したりして選別する。
; 糴(テキ かいよね)/ 糶(チョウ うりよね)
:中国や日本で米の備蓄と価格安定を目的として政府などが過剰時には買い上げ、不足時に売り払った制度([[常平倉]]、[[義倉]]など)において、買い入れ備蓄することを「糴」、備蓄米を売り払うことを「糶」といった。
; [[舎利]](しゃり)
:[[サンスクリット]]で米を意味するシャーリ({{翻字併記|sa|शालि|śāli|n}})と、同じ[[仏教]]語として遺骨を意味するシャリーラ({{unicode|śarīra}}、身体。[[仏舎利]]を参照)がどちらも「舎利」と音写された結果、両者が混同されて「米は細かい骨に似ている事から舎利とも呼ばれる」と考えられるようになった。白米が珍しかった時代には、玄米と区別する意味で白米を銀シャリとも言った。現在では主に[[寿司屋]]の[[隠語]]で[[酢飯]]の事を指す。
;餉(かれい、げ)
:「かれいい」の転化。「糒」(ほしい)と同義。米を蒸すか炊いて飯にしたもの乾燥して保存食や携帯食にし、水に浸して食べた。朝餉(あさげ)、午餉(ひるげ)、夕餉(ゆうげ)はここからきたもの。
;糗(はったい)
:米を煎って粉にした食材。[[糖化反応|糖化]]して香りが立つため「香米」とも呼ばれる。米以外のイネ科の穀類から作られたものも糗と呼ばれ、[[はったい粉]]として知られる。
;粢(しとぎ)<ref>[https://kotobank.jp/word/%E7%B2%A2-522159 コトバンク『世界大百科事典 第2版』 -「粢」]</ref>
:米粉やもち米から作る、米を粉状にして水で練っただけの加熱しない餅のこと。地方によっては「しろもち」「からこ」「おはたき」「なまこ」などと呼ばれる。米を食する最も古い方法の1つだったとされ、後には常食の炊飯とは異なり[[神饌]]として奉じられた。
;糈(奠稲、供米、くましね)
:精米した舂米(つきしね)を神前に捧げるために洗い清めた米。そのまま奉じる場合は「粢」と同様に「しとぎ」と言った。「かしよね」「おくま」とも。
; [[こめかみ]]
:[[頭]]の両側の[[側頭骨]]ならび[[側頭筋]]の在る箇所。米を噛む時にこの部分が動くことからその名が付けられた。
; [[コメツキバッタ]]
: 米を搗く様な動作をする事が語源となった。転じてペコペコ頭を下げる様子も表す。
; [[コメツキムシ]]
:仰向けにすると、自ら跳ねて元に戻る能力があり、その動作が米を搗く動作に似ている事が名前の語源となっている。
神社や[[祝詞]]では、白米を和稲(にぎしね)。玄米を荒稲(あらしね)と呼ぶことがある<ref>『[[出雲大社]]教布教師養成講習会』(出雲大社教教務本庁 平成元年9月)全427頁中167頁</ref>。
=== 米に関する諺 ===
* 米[[俵]]一俵には7人の神様が乗っている。
* 米を一粒無駄にすると目が一つ潰れる。
* 年貢の納め時。
=== 派生した俗語 ===
[[大相撲]]の[[隠語]]で、[[貨幣|お金]]のこと。[[相撲部屋]]において将来有望な[[力士]]を「米びつ」ともいう。
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist}}
=== 出典 ===
{{Reflist|2|refs=
<ref name="crc101">{{citation|url=https://calrice.org/pdf/crc101guide_mw_06.pdf|title=California Rice 101|publisher=California Rice Commission|format=PDF}}</ref>
}}
== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author =猪股慶子監修 成美堂出版編集部編|title = かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典|date=2012-07-10|publisher = [[成美堂出版]]|isbn=978-4-415-30997-2|pages=144 - 145|ref=harv}}
* 原田信男『コメを選んだ日本の歴史 』([[文春新書]] 文藝春秋 外国の米作り ISBN 4166605054)
*『「米」で総合学習みんなで調べて育てて食べよう!〈2〉図解 米なんでも情報」』([[金の星社]])
* {{Cite |和書 |author=Harold McGee |translator=香西みどり |title=マギー キッチンサイエンス |year=2008 |publisher=共立出版 |isbn=9784320061606 |ref=harv}}
== 関連項目 ==
{{sisterlinks|commons=Rice|commonscat=Rice|d=Q5090}}
{{Div col}}
* [[イネ]]
* [[稲作]](水稲)
* [[田]]
* [[氣]]
* [[米相場]]
* [[炊飯器]]
* [[米粉]]
* [[黄変米]]
* [[事故米穀]] - [[事故米]]
* [[米価]]
* [[米穀通帳]]
* [[米価の変遷]]
* [[減反]]
* [[1993年米騒動]]
* [[石 (単位)]]
* [[俵 (単位)]]
* [[米寿]]
* [[生気論]]
* [[ブレンド米]]
* [[ワイルドライス]]
* [[結婚式|ライスシャワー]] - 結婚式で、新郎新婦に米をシャワーのようにかけて祝福すること。
* [[宇和米博物館]] - 米の[[博物館]]
* [[食糧管理法]]
* [[米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律]]
* [[食味官能試験]]
* [[カドミウム]] - 国産米1kg中のカドミウム量は平均して0.06 mg (=0.06 [[ppm]])。流通、販売の規制値は米(玄米および精米)0.4 mg/kg以下となっている。[[厚生労働省]] [https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/12/h1209-1c.html#05 「食品に含まれるカドミウム」に関するQ&A]
* {{仮リンク|Nutritious Rice for the World|en|Nutritious Rice for the World}} - 「[[栄養価]]の高い米を世界に」を標題とした[[World Community Grid]] において[[飢餓]]対策のための、高収穫・高栄養で耐病性に優れた米のタンパク質構造予測を行うプロジェクト。
* [[:en:List of rice varieties|List of rice varieties]] - 世界の様々な「米」の一覧(英文版)
* [[闇市]] - ヤミ米も販売された。
* [[脚気]]
* [[米部]] - 漢字の[[部首]]{{Div col end}}
* {{prefix}}
* {{intitle}}
== 外部リンク ==
* [https://www.komenet.jp/ 米穀安定供給確保支援機構:米ネット]
* {{Kotobank}}
{{アルコール飲料}}
{{穀物}}
{{料理}}
{{米料理}}
{{シリアル食品}}
{{Normdaten}}
{{デフォルトソート:こめ}}
[[Category:米|*]]
[[Category:穀物]]
[[Category:アジアの食文化]]
[[Category:生気論]]
[[Category:主食]]
[[Category:大相撲隠語]] | 2003-04-30T13:11:26Z | 2023-11-30T13:01:54Z | false | false | false | [
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